やよい「ひまわり」 (23)



P「誕生日に、引退!?」

やよい「はい」

P「……えっと、それはアイドルを辞めるって事、か?」

やよい「……はい」

P「……考えがあっての事、なんだとは思うが、理由を聞かせてもらっても良いか?」

やよい「……」

P「……」

やよい「……プロデューサー、覚えていますか?」

P「ん?」

やよい「昔、オーディションで失敗続きだった私に……」

やよい「私が、一番落ち込んでいる時に貴方がかけてくれた言葉を」




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P『ダメ、だったか』

やよい『はい……』

P『うん……よし! 今回の反省点を生かして、また次、がんばろう! な?』

やよい『…………』

P『やよい?』

やよい『……もうダメです、私、もう、アイドル出来ません』

P『……』

やよい『……』

P『やよい、そんな事はないさ、諦めずに前を向こう、な?』

やよい『解るんですっ!!』

P『……何が、だ?』

やよい『歌だって、ダンスだって、見た目だって、私は、私はっ!!』

P『…………』

やよい『周りの誰よりも下手で!! ……それが……どんなに…………みじめで……恥ずかしいか…………』

P『…………』

やよい『……私じゃ……私なんかじゃ…………もう、無理、です』


P『……確かに』


やよい『っ!!』

P『やよい、お前は歌が上手いわけでもない、ダンスだって上手くない、綺麗になるために己を磨いてきたわけでもない』

やよい『…………やっぱり、プロデューサーもそう思っていたんですね』

P『でもな? やよい』

やよい『やっぱり、私なんかじゃ……アイドルは……』

P『俺がお前をプロデュースするって決めたのは、お前の声や動きや見た目に惹かれたからなんかじゃない』

やよい『……え?』

P『やよい、はっきり言う、お前は、俺の一番のアイドルだ』




P『…………やよい、お前はひまわりに似ているんだ』


やよい『…………ひまわり?』


P『あぁ、夏の日差しの下、太陽に向かって顔を上げるひまわりに似ている』


やよい『……』


P『ひまわりってさ? 見ているだけで色々な感情をくれるんだよ』


P『日の光を浴びて、オレンジ色に輝く花を見て、元気になる』


P『夕方の、首を垂れている姿を見て、切なくなる』


P『葉が落ちて、それでも懸命に太陽に顔を上げている姿を見て、勇気をくれる』


P『やよい、俺はな? お前はファンの感情の、もっとも奥底にある部分を揺さぶる事の出来るアイドルだって思っている』


P『それは10年に一度の逸材である歌姫の声や』


P『一等の舞台で通用するキレのあるダンスや』


P『誰もが振り向かざるを得ない容姿なんかよりも』


P『もっと、ずっと尊い物だって、俺は思っているんだ』




やよい『プロデューサー……』


P『今のやよいは、太陽が出てなくて、下を向いているかもしれない、けどさ!』


P『昇らない太陽は無い、巡らない季節は無い、晴れの日は、絶対に来るんだ』


P『だからお願いだ、やよい』


P『俺を信じて、もう少しだけ、がんばってみないか?』


やよい『……信じて……良いんですか?』


P『もちろんだ』


やよい『これから、いっぱい、いっぱい迷惑かけちゃうかもですよ?』


P『いくらでもかけろ、大歓迎だ』


やよい『たくさん弱音だって吐きます、また諦めそうになりますよ!?』


P『その度に顔を上げるさ、お前はそう言う子だ』


やよい『なんで……っ!! なんでプロデューサーはそんなに私を!!』


P『言っただろう? お前は俺の、一番のアイドルだ』




やよい『プロ……デューサーァぁああああ』

P『よしよし、今日は全部出しちゃおうな、こんな日だってあるよ』

やよい『ふぇぇ、ふぇえええええええええん!!』

P『今日は美味いもんでも食いに行こう!! で、風呂に入ってたっぷり寝れば明日はきっと晴れるさ!!』

やよい『……グスッ、おごりですか?』

P『うっ!? ……あ、あぁ、もちろんだ!! それに今日はお前の誕生日だろ? な、なんでも食えよ』

やよい『はい…………はいっ!!』

P『よし!! そうと決まったら駅まで競争だ!!』

やよい『はい!! えへへ、負けませんよぉ!!』


警備員『そこの人達!! 局内では走らないでください!!』


P・やよい『あ!! す、すいません……』




――――


やよい「私、あの時のプロデューサーの言葉を信じてがんばってきました」

P「そう言えばあったなぁ、そんな事」

やよい「そんな事って!! すっごく!! すっごーーーーく!! がんばったんですよぉ!?」

P「あぁ、知っているよ、やよいのがんばりは、俺が一番良く知ってる」

やよい「……/// と、ともかく、すんごくがんばりました!!」

P「うん」

やよい「そうしたら、少しずつだけど、テレビのお仕事もらったり」

P「初めてのテレビの時のやよいは、ロボットみたいだったな」

やよい「歌番組にも出させてもらって」

P「生放送なのに転んじゃったんだよな」

やよい「一度だけだけど、オリコンで1位だってとりました」

P「その曲が入ってるアルバムあわせると2回だぞ」

やよい「おっきな所でライブだってしましたね」

P「スタッフ全員でやよいを取り囲んで円陣組んでるのを見たら、泣けてきちゃったよ」


やよい「…………プロデューサー?」


P「ん?」


やよい「私、いっぱい前を向いて、いっぱい進んできたつもりです」

P「あぁ、そうだな、お前はいつでも前を向いて、いつだって止まらず進んでいったよ」

やよい「そろそろ、枯れても良い頃かなーって思うんです」

P「でも…………それでも俺は、やよいに心を動かされたい人は、まだいっぱい居るって思うけどな」



やよい「ありがとうございます……でも」

P「意思は固いんだな?」

やよい「…………はい、高槻やよい、最後の最後まで、ひまわりらしくやれたって思います」

P「…………えっと、やよいの誕生日は3月の25日……まったく、あと3ヶ月くらいしかないじゃないか」

やよい「えへへ、ちょっと前から思っては居たんですけどね?」

P「せめて一年くらい時間くれよ!!」

やよい「ご、ごめんなさいですぅ……」

P「あぁ、揺れるなぁ、芸能界……んま、しょうがないか、せめて誕生日は思いっきり咲けよ? 舞台は何とかしてやるから」

やよい「私の誕生日、全然ひまわりの時期じゃないですけどね?」

P「言うようになったなぁ、コイツぅ!!」グリグリグリグリ

やよい「あはははは、やめて!! やめてください!! あはははは!!」




――――


やよい「皆さ~~ん!! ありがとうございます~!!!!」


ワーーーーーーーーーーーーー!!!!


やよい「自分が、こんな大きな舞台で、こんな大勢の人に囲まれてアイドルをやってこれた事が、今でも信じられません」


やよい「それも、応援してくれたファンの皆さん、協力してくれたスタッフ、関係者の皆さん……それと」


やよい「……」


やよい「……昔」


やよい「昔……ある人が、私にこんな事を言いました」


やよい「やよい、お前はひまわりに似ているんだ、って」


やよい「私、それを聞いた時は、この人何を言っているんだろうって思ったんです」


やよい「でも、必死にひまわりの事を私に話してくれているその人を見て」


やよい「私でも……私なんかでも、誰かに何かをあげる事が出来るならと」


やよい「がんばる事が出来ました」


やよい「…………」


やよい「……その話を聞いた日は私の誕生日でした」


やよい「ちょうど4年前の事です」


やよい「その人は私に少し豪華なご飯をご馳走してくれた後、帰り際にコレをくれました」


やよい「……見えますか? 小さいですよね」


やよい「そう、ひまわりの種です」




やよい「植えるには少し早いんです、でも、庭に植えてみました」


やよい「なかなか芽は出さなかったんです、でも暖かくなる時期に、やっと、小さな芽を出しました」


やよい「毎日、大切に育てました」


やよい「きっと、自分を重ねていたんだって、思います」


やよい「そして、日差しが暑いと感じるようになった頃、小さいけれど花を付けました」


やよい「その花は日に日に大きくなり、私の顔より大きな花になったんです」


やよい「毎朝、太陽に向かって顔を上げるその花を見て」


やよい「私は色々な感情をもらいました」




やよい「…………」


やよい「日の光を浴びて、オレンジ色に輝く花を見て、元気になりました」


やよい「夕方の、首を垂れている姿を見て、切なくなりました」


やよい「葉が落ちて、それでも懸命に太陽に顔を上げている姿を見て、勇気をもらいました」


やよい「…………」


やよい「皆さん」


やよい「私は、ひまわりのようでしたでしょうか?」


やよい「皆の心を動かせるような、アイドルでしたでしょうか?」


……


……


俺はやよいちゃんに勇気をもらったよ!!


私はやよいちゃんに元気をもらった!!


やよいちゃんを見て、頑張ろうって思った!!


懸命な姿を見て、憧れを抱いた!!


時には切なさももらった!!


たくさん、たくさん色々な物をもらった!!



やよい「……皆さん」


やよい「ありがとう……本当にありがとうございます……っっ!!」


やよい「その言葉で、今までの全部、良かったって思えますっ!!!!」




やよい「それでは、最後の歌です!!」


やよい「この日のためだけに、私が歌を書き、曲を作ってもらいました」


やよい「……聴いて下さい」


やよい「ひまわり」







P「…………」


P「……あぁ、もったいねぇ」


P「もったいねぇなぁ……ちくしょう」


P「オレンジ色の観客席」


P「その太陽に向かって、あんなにも綺麗に咲いてるのに」


P「…………本当に、もったいねぇなぁ」


P「でも、まぁ、やよいがそう思ったんなら、ここが最後なんだろうな…………」


P「それに……枯れても、ひまわりはまだ…………」




――――


P「お疲れ、やよい」

やよい「お疲れ様でした、プロデューサー!!」

P「どうだった? 最後のライブは」

やよい「最っっっっ高っっ!! でしたぁ!!」

P「そっか、うん、見ている俺も、最高だったよ」

やよい「……はいっ!!」


P「やよい」


やよい「はい」


P「今まで、がんばったな、本当にがんばった」


やよい「はいっ!!」


P「お前は最後の最後まで、俺の一番の……ひまわりだったよ」


やよい「……はいっ!! すごく、すっごく、すっごーーーーく!! うれしいです!!」


P「ありがとう、そしてお疲れ様、アイドル高槻やよい」


やよい「……こちらこそ、ありがとうございました! プロデューサー!!」ニッコリ




P「えっと……そういえば、誕生日だったな?」

やよい「えへへ、そういえばって、そのライブですよ?」

P「俺にとっては引退ライブって意味の方が強いわ、どんだけ関係者に謝ったと思ってんだ」

やよい「あ、え、えへへへへ……」

P「……これから、これ、必要になるだろ?」

やよい「あ!! ……こ、コレって……っ!!」

P「気づいていないとでも思ったか?」

やよい「……なんでも解っちゃうんですね? プロデューサーは」

P「まぁな……えと、これからも、よろしくな? やよい」

やよい「はい!! よろしくお願いします!! プロデュー…………先輩?」

P「ふはは、それはまだ早いって」

やよい「私、今度は一番の同僚って言われるように、頑張ります!!」

P「そしたら俺も負けてられないなぁ、よし、行くか!! ハリウッド!!」

やよい「ほえ?」




――――


「プロデューサー……私、もうダメです」

「ダメって思ってからが、アイドルは勝負だよ!!」

「え……でも……」

「ほら!! 前を向く!! 貴女を待っているファンはまだまだいっぱいいるんだから!!」

「ちょ、ちょっとくらい弱音を吐かせてくれても良いじゃないですかぁ……」

「えっとぉ、次の現場は……と」

「はぁ…………そういえばプロデューサー、前から気になってたんですけど、今時紙の手帳と万年筆なんですね?」

「ん? うん、なんていうか、タブレットとかじゃ頭に入らないんだよね、書いて覚えるってやつかなぁ? ……それに」

「それに?」

「このひまわり色の万年筆と手帳カバーは、特別大切な宝物だからね……」

「あ!! 解りましたよ!! 彼氏から貰った奴でしょ!?」

「ん……ん~~まだまだそう言う風には見てもらってないかな~~って」

「え? どう言う事です?」




ピロポン♪


「んっと? ……噂をすれば、だね」


「え? 誰からのメールですか?」


「私の大切な人から、誕生日プレゼント、だってさ」


「み!! 見せてください!! えっと? ……わぁ、すごい……一面ひまわり畑の写真ですね」


「うん、アメリカには物凄く大きなひまわり畑がたくさんあるんだって」


「アメリカ? プロデューサーひまわりに随分こだわりますけど、何か思い出でもあるんですか?」


「…………ひまわりはね? ひとつの種から生まれた花にたくさんの種が詰まっているの」


「あ、はい、私も小学生のとき」


「枯れて、そこから落ちた種は次のひまわりを増やすんだ…………」


「えっと、やよいプロデューサー?」


「だから、私はまだ頑張れるんだよ!!」


「な、何の話だかまったく解らないんですけどぉ!?」


「ほら!! さっさと次の現場に行くよ!!」


「なんで一人で元気になってんですかぁ!?」






やよい「プロデューサー? 陽に向かって顔を上げるひまわりは終わったけど」




やよい「私はまだまだ、ひまわりやってます」




やよい「ずっと見守って下さいね?」




やよい「だって、貴方は」




やよい「私の、太陽なんですから!!」





やよい、誕生日おめでとう!!



あ、終わりです。

書きたい物書きなぐった感はありますが、書いてて楽しかったです。

読んでいただき、ありがとうございました。


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