時雨「誰が為海原を駆ける」 (54)

乱暴な描写、ゲームの仕様を無視した描写あり
 ※場合によっては死人も
行き当たりばったりで長編予定
軍事あんま詳しくない

 以上ががありならどうぞ

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 暖かさを感じさせない灰色い通路の中を、靴と地面が擦れる微かな音だけが響く。

 気温は低くない。が、この空間に対しては『冷たい』という印象を覚える。
 冬の大地が見せる、自然の厳しさを感じさせるような冷たさでなく、もっと無機質で無感情な。
 何も持たないからこそ感じる冷たさ。

 ともすればこの空間は不届者を戒める懲罰房にも、これから僕を死へと誘う断頭台、その道のりにさえ思えた。

 先程僕が誕生した工廠からここまでというもの、ずっとそのような空間が続いている。
 工廠こそ数十人の男性からの笑顔に出迎えられたが、通路を歩く度にそのような顔ぶれは減っていき、ついにはこの建物が本来持つ不気味な圧迫感のみが残された。

 そんな圧迫感に包まれ、吐き出す吐息さえ押し込まれてしまいそうだ。

 ふと、先程の断頭台という言葉を思い返す。

 その表現は、あながち間違いではないのかも。
 これから僕が赴くのは、文字通り死地。
 その第一歩になるかも知れないからだ。

 そんな事を考えれながら歩を進めていると、遂にその時は訪れた。

 何度立ち止まろうと思ったか。
 だが、僕はそれどころか、ペースを落とすことさえしなかった。
 出来なかった。『歩け』と言われたから、歩かなければならないような気がして。心の最も深いところに直接命令されているような気がして。

 執務室と書かれた木製の扉の前に立つ。

 そこで僕は握りしめた拳が、汗でじっとりとしていることにようやく気が付いた。

 木製の扉を二度叩く。

『どうぞ、入りなさい』

 事前に連絡が行っていたのか、所属を聞かれるまでもなく部屋に招き入れられた。

「っ……失礼します」

 手が汗で滑らないよう気をつけながら、ドアノブを回した。

 

「ようこそ、我等が鎮守府へ」

 僅かな恐怖感と共に扉を開けた僕を出迎えたのは甲高い破裂音と、火薬の臭いだった。

「っ!?」

 突然の出来事に、僕の体は反射的に身を隠す。
 驚愕しながらも、先ずは身の安全を確認した。胴脚腕手頭。良かった、外傷はない。

 何故撃たれた?此処は敵に占拠されていたのか?
 それにしては工廠の様子は……異様だ。暢気にも程がある。不自然だ。


 ……不自然?
 思い、周囲の壁を見やる。
 弾痕は、無い。

 不自然だ。本当に撃たれたのか?
 恐る恐る、部屋の中を覗き込んだ。

「むぅ……お気に召さなかったかな」

「………迎撃されなかっただけマシだと思ってください」

 其処に居たのは敵ではなく、心底残念そうな顔をした男性と、頭を抱えて呆れた様子の女性だった。

 取り敢えず、中に入る。
 隙を晒さないよう、一歩一歩慎重に。
 中に居た二人の様子を伺うのも忘れずに。

「そ、そこまで警戒しなくてもいいんじゃないかな」

「……敵ですか?味方ですか?」

「参ったな……」

「当たり前でしょう……申し訳ありません、彼なりに歓迎しようとしたのです」

 火薬の匂いのする歓迎など、聞いたことがないが。

「提督さん、もう立ってるのつかれたっぽい…」

「ダメじゃない、こんな事で根を上げちゃ……くっ」

 その声で初めて、この部屋に後二人の少女が入室していることに気が付いた。
 長い金髪の少女と、肩にかかるぐらいの茶髪の少女。金髪の子はよく見ると、僕と同じ制服を着ているようだ。
 彼女も僕と同じ、新造の艦娘だろうか。 

「ああ、すまないな」

「全く、自分で掃除してくださいね…」

「……わかりました」


「………くすっ」

「…ん?」

「…あ」

 女性のはっとしたような顔と、男性の少し間抜けな顔がこちらを覗き込む。
 それは僕が笑いを零したからだという事に気が付いくのには、少し時間がかかった。

 こんな漫才のような風景を見せつけられては、警戒する気など起きないという物だ。といっても破顔までするのは、自分としても予想外ではあった。

「……おお!高翌雄君!私のクラッカーで新人歓迎作戦は成功したようだ!」

「成り行きでしょう……全く」

 先程までの浮かない顔とは打って変わって、嬉しそうな笑みを浮かべる。どうやら女性は高翌雄と言うようだった。

「……高雄?」

 聞き覚えがあった。高雄と言えば確か……

「ええ、そうです。高雄型重巡洋艦一番艦、高雄。あなた方と同じ艦娘です」

 そう言うと彼女は、優しくにっこりと笑う。
 それを見た僕は、少しばかり安堵した。

「えー…おほん、待たせてすまなかったな」

 男性は場を仕切り直すように咳込み、今度は背筋をのばし真面目な顔をして話し始めた。
 本当に、表情豊かな人だ。

「雷」

「はい!」

 元気よく返事をしたのは、茶髪の少女。
 その目に宿るのは期待か自信か。
 どちらにせよ、通路を歩くだけでも鬱屈とした感情に捕らわれていた僕には、縁のなさそうな物だ。

「そして……夕立、時雨」

 はっとした。
 その名前は、聞き覚えがあるなんてモノじゃない。

「夕立!?」
「時雨!?」

「うん、うん。姉妹艦同士、仲良くやるといい」

 満足そうに頷く男性をよそに、僕と夕立は再開を喜び合った。

「……なにこれ、私蚊帳の外?」

「はっはっは!雷よ、そうむくれるな。母港に行けば第六駆逐隊の面々と再開出来ることだろう」

「司令官!それは本当!?」

「本当だとも……はっはっは!」

「……司令、官?」

 そう言えば、さっき夕立も彼のことを提督さん、と呼んだか。
 と、いうことはこの男……

「ふん、時雨君には紹介がまだだったな」

「いかにも!私がこの鎮守府の………まぁ、司令とでも提督とでも、好きなように呼ぶといい」

 そう言うと提督は大きな胸を思い切り張った。心なしか自らの肉体をアピールしているようにも見える。

 ……なんというか、この鎮守府の提督は僕が思っていたよりずっと愉快な人物のようだ。

 僕は提督という存在に対して、もっと違うイメージを持っていた。

 例えばエリート然とした青年。

 きっと生真面目で、若さ故周りの助けを借りながらも立派に司令官を成し遂げてくれるのだろう。

 例えば荘厳な老兵。

 培われた経験と迫力、そして未だ衰えぬ眼光でもって隊を纏め上げ、やはり立派に司令官を成し遂げてくれるのだろう。

 では、この男は。

「そうだな……よし!私が直々に母港を案内することにしよう!」

「……仕事からは逃げられませんよ」

「うう、む……そうだな……」

 なんなんだろう。

 エリート、と言う感じはしない。
 かと言えば荘厳さを感じさせる訳でも無し、若くも老いてもいない。
 特に、威厳がない。
 彼が高雄さんから受けているのは助けなどではなく、ツッコミだ。夫婦漫才だ。
 これではただのちょっと面白い中年のおじさんだ。

「母港までは私が案内します。……すぐに戻ってきますよ」

「うむ、頼む……」

 僕は、僕達はこの先、大丈夫なのだろうか。

「……では、こちらですよ」

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