上条「なぁ。教えてくれよ。名前」一方「……忘れたっつってンだろ」(1000)


※一方さんは百合子(IF女子設定)
※上条さん×百合子(予定)
※通行止め(家族)
※御坂遺伝子&一方通行
※ミサカネットワークネタ

前スレ



【前スレまでのあらすじ】

・打ち止め「あの人にふさわしいのはやっぱりあのヒーローさんだよね!ってミサカはミサカは思いついてみたり!」

ピコーン

・打ち止めがMNW内で「あの人とヒーローさんをいいかんじにさせたいんだが」とスレ立て
 その際、一方通行が女であることを明かし、MNW内大混乱
 一方その頃、一方通行は上条さんと腕相撲をしていた(負けそうになったので頭突きをかます)

・番外通行止めは家族 的なイベントが色々あって今日も黄泉川家は平和です

・10032号が「上条は渡さない!」と一方通行に宣戦布告に来る
 ……が、それまで一方通行に避けられていたことへの怒りのビンタをかます
 その際泣きながらの一撃だったので、末永くMNW内でネタにされる

・上条さんはインデックスに聞いて一方通行が女だと知っているが、本人が隠しているなら知ってること言わない方が

いいよなぁと思っている

・一方通行、上条さん、10032号でスーパーに買い物へ
 その際、上条さんが一方通行の胸を鷲掴みにするが特に気にしない一方通行であった

・上条家で鍋大会が開催される
 その際、一方通行が家事全般ダメなことが判明し、上条さんに説教される(※一方通行は正座)
 なお、一方通行はその後足が痺れて動けなくなる

・インデックスと一方通行がチェスで遊び始める
 上条さんがオモチャのチェスボードを二人にプレゼントする

・インデックスが魔術師に襲撃される
 一方通行が辛くも撃退するが、インデックスは怪我を追い、チェスボードも壊れる

・一方通行は何故か上条さんと顔を合わせづらく思ってしまい、会話もそこそこに逃げ帰る

・上条さんが黄泉川家まで訪ねるが、一方通行は再び逃げ出す
 一人でビルの屋上にいた一方通行のところに、上条さんが現れる
 何で逃げるんだと詰め寄られ、
 「俺はオマエみてェなヒーローじゃねェンだよ…!」
 とか言いつつ飛んで逃げようとした一方通行を引き戻す上条さん
 「俺から逃げるな、一方通行!!」(キリッ

・打ち止めは、一方通行が上条さんによって少し変わったことに気付く
 すごく嬉しくて、ちょっと悔しい

・グループはそれぞれの事情で現状維持を望んでいるので、協力することに
 その際、結標が一方通行が女であることに気づき、ちょっかいを出しまくる

・魔術師のターゲットがインデックスから一方通行に移る
 チョロチョロうざい感じで襲撃されるので、あまり上条さん家に寄りつかなくなる

・たまたま上条さん家に来た時に怪我をしていた一方通行を心配する上条さん
 「オマエに関係ねェ」とバッサリされてマジギレ
 ナメられてると思った一方通行もマジギレ
 息苦しい10032号

・一方通行に連絡が取れなくなったので、上条さんが土御門に連絡を取る
 その際、一方通行が女だということをつい言ってしまって土御門(゚Д゚)ポカーン
 ちなみに収穫はなし

・打ち止めに協力してもらい、一方通行を追いかけ回す上条さん
 一方通行は上条さんが思い通りにならなくてイライラ
 イライラのあまり能力で攻撃してしまうが、無意識に当たらないように制御してしまい一方通行大混乱

・急に体調が悪くなった一方通行、魔術師にやられそうになったところを上条さんに助けられる
 「大丈夫か!?」と心配され、ものすごく意識が朦朧としていたので
 「無理…」とかフラフラ縋りついてしまったのであった

・一方通行は初潮でした ←イマココ




※このスレ的登場人物紹介※


【一方通行】

言わずと知れた学園都市最強。
男とか女とか細けェこたァいいンだよ、と思っている。
打ち止めのためなら死んでもいいとか考えてたけど、最近さすがにそれはダメかなと気づきはじめた。
上条さんのことは自分の中のどのカテゴリーに入れていいかわかんない。
ていうか入れるとこない。戸惑ってる。

【上条当麻】
上条さんマジヒーロー。
でも一方通行からヒーロー呼ばわりされるのは一線引かれてるみたいで嫌だなぁと思いました(作文)。
インデックスが大事。その辺、一方通行に共感してる。
一方通行が一人で戦ってるとか我慢ならないので、俺も一緒に戦うぜ!(キリッ キリッ キリッ

【打ち止め】
一方通行の小さな光。打ち止めマジ聖母。
一方通行のためなら死んでもいいとか思ってるけど、そんなの絶対ダメだととっくに気づいている。
最近一方通行に仲良しが増えて嬉しい。

【インデックス】
上条さんの大事な子。インデックスたんマジシスター。
一方通行とは完全記憶能力的なとことか共有できるし、チェスできて楽しいし大好き。ご飯くれたし。
最近上条さんちがにぎやかで嬉しい。

【番外個体】
一方通行が女だと知って最初は (゚Д゚) となったけど、別に男でも女でもどうでもよくなってきた。
別に一方通行のことなんてどうでもいいけど上条当麻のことは気に入らない。別に理由は無い。

【10032号】
御坂妹。
上条さんのことが大好きだけど、一方通行や打ち止めやインデックスやみんないる方が楽しいかもなぁと思い始めた。
番外個体とは仲が悪い。

【19090号】
天然。残念なミサカ。

【御坂美琴】
みさかは ちからを ためている!▼

【黄泉川&芳川】
一方通行の家族。お母さんでありお姉さん。

【土御門元春】
グループのリーダー的存在。土御門さんマジクール。
一方通行が女だと最近知ってビックリしたけど、まぁ男でも女でも最強は最強だにゃー。

【結標淡希】
一方通行の胸を鷲掴みにした人その2。
一方通行のことはJK仲間だと思ってる。恋バナとかショッピングとかしたい。

【海原(偽)】
エツァリ。
自分が近寄ると胸が痛いって一方通行さんが言ってたんですが困ります、自分には御坂さんという人が…。

そんなこんなで2スレ目である。
いやー、まだプロット半分くらいしか消化してない衝撃。
適当にお付き合いいただければ幸いです。

あ、前スレはちょっと最初見にくいとこもあるかもなので、まとめサイトさんのも貼っておきます。
なんだか見やすいようにしてくださってるようで、ありがとうございます。
http://matomeee.blog123.fc2.com/blog-entry-159.html

そんでは、このスレでもよろしくな!

スレ立乙ー
前スレもだけど >みさかは ちからを ためている!▼ でなんか笑ってしまう

おつ!楽しみにしてる
エツァ原wwwwwwwwww

おぉ、新スレになってた乙!
>>1の書くキャラはみんな暖かくて柔らかくて可愛いから好きなんだよな
さて、ちょっと進展した上百合にニヤニヤしながらまとめサイト読み返してくる!

こんばんはー
新スレでもしくよろお願いします!

今回は前スレでリクエストもらってた木原くんとロリ一方さんの話です。
そんでは投下します。










『とある少女と木原数多』



木原数多がその検体と関わったきっかけは、単なる偶然とも言えたし、必然でもあった。

検体の能力開発を行うことが出来る研究員なら誰でもよかった、という意味では偶然。

とんでもないことをやらかして、誰も引き受け手がいなかったから、たらい回しにされて最後に行き当たったらしい、という意味では必然。

木原は、能力開発の研究のためならそこそこの寛容さを発揮する。検体をくれるもんなら貰うまで。

今までにも扱い辛い「問題児」を送り込まれ、適当に開発して成果を上げていた。

「はぁ……。どうせロクでもねぇガキだろ」

ただし色々面倒くさい。

「まだわからないじゃないですか。何でか資料貰ってませんけど、素直でかわいい子かもしれませんよ?」

研究所の廊下をダラダラ歩きながら肩を竦める木原に、助手の研究員が苦笑する。

「バァカ。性格の話なんざしてねぇよ」

「は?」

どうせ、たいした理解力も演算能力も持ち合わせていないだろう、という意味合いだったが、説明してやるほど親切でもない。

実験動物の人格などどうでもいい。モルモットの嗜好は実験統計処理の際の参考にするだけだ。

数日前に回された助手はまだ若い男で、研究に夢や希望を持ち、そして未だ木原の人間性を理解していなかった。

見慣れた無機質な廊下を進み、連絡のあった部屋に入ると、隣の助手がビクリと竦んで後ずさる。


「あぁ…?」

木原は片眉だけを上げた。


小さな白い子供を、物々しく武装した二十人ほどの部隊が取り囲んでいる。


恐らくは暗部の者達。

警備員など及びもつかない学園都市の最新式火器を装備し、分厚い盾を持ち、ギリギリの緊迫感を発し、
ただ突っ立った、十歳にも満たないような子供を見据えている。

戦争の最前線がふさわしいような格好の彼らの顔に浮かぶのは、極度の緊張と確かな怯え。

対照的に、子供は野生動物のような無表情。

異様な光景に、助手が声もなく固まった。

「何だこのアホみてぇな騒ぎは。おい、ソレが検体か?」

だが木原は特に気にせず、ズカズカと子供に歩み寄る。無感情な赤茶色の目が、キロリと木原を見上げた。

一言で表現すれば、白い子供だ。

肌も白い。髪も白いが、よく見れば少しだけ黒髪が筋のように残っている。
白髪は生まれつきのものではないのだろう。

「お…おい!不用意に近寄るな、コレが先日どれくらいの被害を出したか…っ」

「一個大隊が完全に無力化されたんだぞ!?」

「何をやっても傷一つ付かない!触れもしない、正確なレベルの測定すら出来てないんだ!!」

武装している男達が口々に喚くのを木原は黙殺するが、助手は顔色を変えた。

「えっ…!?ま、まさか…一ヶ月前にほんの子供がウチの暗部を壊滅させたって…!!」

冷や汗を垂らして暗部と顔を見合わせる様子は、滑稽にしか思えない。


あの事件は報道こそされていないが、研究者の間じゃすでに有名だ。
タイミングを考えれば「始末におえない検体」がそれの「犯人」である可能性が高い、とすぐに予想がつく。

「迫撃砲も効かねぇんだったか。熱や衝撃に干渉できる能力か?」

「………」

白衣のポケットに手を突っ込んだまま子供を見下ろすが、小作りな顔は人形のように動かない。

「あーあー面倒くせぇなぁ。このパターンかよ…」

「………」

溜息をついて、ガリガリと頭を掻く。

木原は能力者を実験動物としか思っていないが、それは研究員として割と一般的な感覚だ。

感受性豊かな子供は人間としての尊厳を無視された扱いを受けると、時折このように心を閉ざしてしまう。

こんな年齢の子供がこの有様とは、一体どんな扱いをしたのかと感心する。

ただ、こうなると実験一つ行うにも苦労をするので、軽く舌打ちをした。

「まぁいいわ。とりあえずレベルの測定すんぞ」

腕を掴もうと手を伸ばすと、触れる直前でパチンと何かに弾かれた。

「へぇ……」

「………」

予想はしていたが、少し興味深げに目を細める。

見上げる赤茶色の大きな目。鉄錆のような色だと木原は思った。

唐突に、右隣に立っていた暗部の襟首を掴み、子供に向かって投げ飛ばす。

「はっ…!?が、ぐはッ!!」


暗部の男は、子供にぶつかる寸前で、勢いよく、かつ正確に跳ね返ってきた。
予想はしていたので半歩身をずらせば、そのまま壁に激突して崩れ落ちる。

助手が悲鳴をあげ、他の暗部が慌てて駆け寄るが、木原は振り返りもしない。

「ほぉ~、バリア…つーより、反射か?跳ね返る勢いがぶつかる力に比例してるみてぇだしなぁ」

砲撃を受けても、ということだったので、物理的な衝撃だけでなく熱や風も反射しているのだろう。

というところまで考えて、もしや紫外線も反射しているのかと思いつく。だからこの頭、目の色。
光の届かぬ洞窟内で生きる魚が真っ白いように、用を成さない色素が抜けているのだ。

異なるモノを同時に反射。確実に、複数の演算を並行して処理している。

初めて見るタイプの能力だ。

木原の中に、ゾワゾワと好奇心が湧き上がって来た。

「……いいねいいねぇ、最ッ高だねぇ!面白ぇ、気に入ったよお前!」

木原は、普通の子供なら逃げ出しそうな、悪辣な顔で笑った。

見下ろす白い子供の目が、微かに見開かれる。

「き、木原さん、本気ですか!?こんな触れもしないんじゃ、実験も何も…!!」

助手が及び腰で悲鳴を上げるのに、短い溜息で応じる。

「なぁにビビってんだよ、こんなガキに」

時々いるのだ、こういう研究者の風上にも置けないのが。

能力のことばかりに気を取られ、相手が十歳にも満たない子供だということを完全に忘れている。

だいたい、実験動物を怖がっていたら研究なんてできないだろう。死ねばいいのに。

「おい、クソガキ。これを見ろ」

白い子供の鼻先に、胸元から出したペンを近づける。


「………?」

相変わらず反応は薄いが、大きな目がペンのキャップを警戒するように睨み付けた。

それを確認し、同時に手元を操作すると、ピカッとライトが瞬く。

「……っ!」

ビクリと小さな身体が竦み、その瞬間、細い首の後ろに軽く手刀を落とした。

子供は、声もなく崩れ落ちる。

「え、えっ…!?な、何をしたんですか木原さん!?」

「別に。集中を乱しただけだ。衝撃やら何やら反射してるようだが、俺と目が合うってこたぁ可視光線は例外みてーだからな」

目の色素もかなり薄いようなので、強い光に怯むだろうという予想は当たっていたワケだ。

このように、能力者と言えど所詮は子供。いくらでもどうにでもなる、と木原は思っている。

「おい、測定室に運べ」

顎をしゃくって指示をするが、暗部は互いに顔を見合わせたまま、横たわる子供に近寄りもしない。

「はぁ………」

バカどもが。超能力は意志の力。気を失った状態ではほとんど発現しない。常識だろうに。

短く舌打ちし、説明する方が面倒だと感じた木原は、自分で子供の身体を小脇に抱えた。

随分軽い。










「……眠ってればかわいいものですねぇ」

研究所の奥深くにある、能力測定室。
一般にあるものと違い、レベル5の測定にも耐えうる特別な仕様のものだ。

木原が担いで来た子供を測定室の中に放り出して機材操作盤の前に戻ると、助手がしみじみ呟いた。

「はぁ?お前ロリコンかぁ?きめぇなオイ」

「ちちち違いますよ!!一般論ですってほら!見てくださいよかわいいじゃないですか!」

「何取り乱してんだきめぇ」

「だからちがっ…!違いますよ!?…って、え?ろり…ってことはこの子、女の子?」

「何性別気にしてんだきめぇ」

「木原さぁああん!!」

能力測定のために数値を設定していく木原の後ろで、助手が大げさに喚いた。

完璧に無視したまま、手元の書類をめくる。

すると後ろから「同期から『お前の上司、木原さんかぁ…』『あの木原さんかぁ…』『いやどの木原さんでもアレだけど』って言われたワケがようやくわかってきましたよ…」とかなんとかブツブツ聞こえてくる。

「……あ、それさっきもらったこの子の資料ですか?
やっと回ってきたなんて上層部も何をもったいぶってるんですかねぇ」

操作盤のディスプレイに、『推定能力レベルを入力してください』と表示される。

木原は迷わず『5』と入力した。

ただの勘だが、それは長年第一線の能力研究者としての積み重ねてきた経験によるものだ。

「返事くらいしてくれませんか!!!」

「うるせぇ黙れ殺すぞ」


「はい黙ります!」

この上なく本気であることが伝わったのか、助手は硬直して圧し黙った。

これぞ以心伝心だな、すばらしい。と木原は測定室の中の子供に目をやる。

『……ん…』

微かな呻き声を、優秀な集音マイクが拾った。

赤茶色の目がゆっくり開き、子供らしくもない落ち着いた動作で周囲を見渡す。

特殊素材で囲まれた小部屋の真ん中に座らされていることを確認し。

次に様々な色のコードが繋がれたヘルメットを見上げ、最後に分厚いガラス越しにこちらを見据えた。

「起きたか、ガキ。能力測定だ。さっさと始めろ」

「ちょ、ちょっと木原さん!いきなり言われてもわからないんじゃないですか?」

助手が咎めるような口調で上司を見る。

さっきはあんなにビビっていたクセに、もう情が移ったのか。
それとも「ただのガキ」という木原の言い分を本当に間に受けたのか。
これだから人間の感情は理解できない、と木原は眉を上げた。

「そんぐらいわかるだろ。『置き去り』のガキだ。
今までもその辺の研究所に収容されてたみてぇだしな」

「え…?で、でも、それならどうして急にあんな騒ぎが…。
研究所にいたんなら、そこで能力の把握くらいできてたんじゃ」

「『こうしたらどうなるかな』ってある日突然思いついたんだろ。
カエルのケツにストロー突っ込んで空気入れたらどうなるんだろう、みたいなもんだ」

「そ、そんな子供のイタズラじゃないんですから…」


「能力なんてモンは、子供みてぇな発想の飛躍が不可欠だ。
コイツはやればできると知っていたが、それまではやらなかっただけだろうよ」

ガラス越しに、希有な色味の子供を見下ろす。

赤茶色の目が、じっと木原を見上げていた。無感情だったそれには、少しだけ驚きの色がある。

どうしてお前がそれを知っている、と言っているように思えた。

「何だ、不思議かぁ?別に俺がお前を理解しているワケじゃねぇよ。
単なる統計の結果だ。俺はお前みてぇなガキの専門家だからな」

『………』

「わかったら早くやれ。いつまでもそこに居たくはねぇだろ」

『………やだ』

ふい、と小さな白い顔が横を向く。

初めて発した声は、子供らしく高く澄んで細かった。

「ああもう木原さん、だから言ったじゃないですか!怖がってますよあの子!」

助手が慌てたようにガラスに張り付く。

コイツ本当にロリコンなのかな。キモい。と木原はその後頭部を一瞥した。

「手間掛けさせんなよクソガキ。俺は気が長い方じゃねぇぞ」

『…で?あのピカッてやつなら、もうきかない』

赤錆のような目が、キロリと木原を睨んだ。


「いい度胸だな」

迷わず測定室内にスタングレネードを投擲する。

能力者が暴走・抵抗した時のための対抗手段として用意してあったものだ。

「ちょ、木原さ…っ!!」

爆音と閃光が炸裂し、対閃光ガラス越しにも溢れる光に、少々目を眇める。

「あんな子供相手に、突然ひどいじゃないですか!?」

「うっせぇな。死にゃしねぇんだからいいだろ」

測定室内の換気扇が徐々に煙りを吸い込んで、中の様子が明らかになる。

「お」

「えっ……!?」

木原は興味深げな、助手は驚愕の声をあげた。

気を失っているかと思われた子供は、先ほどと寸分違わぬ様子で佇んでいる。

「どうして、成人男性でもひとたまりもない威力ですよ!?」

『だから、きかないっていったでしょ』

ふん、と小さく鼻で笑う。

生意気なガキだ。だが、木原は目を輝かせた。

(さっきは効いた。そして会話は出来ている。つまり、必要量以上の音と光を瞬時に判断して、遮断しやがったんだ)

数ヶ月の訓練後ならいざ知らず、今の今だ。なんという応用力。

「状況に合わせて能力の発現が変わるってこたぁ、観測系も優れてんだろーな。恐らくは、繊細な調節が必要だし」

木原は研究者としての好奇心が刺激されて、声を上げて愉快そうに笑った。


唐突な笑い声に、助手はビクリと肩を震わせる。

「いいねぇ…。やるじゃねぇかお前!!面白ぇなぁ、いい拾いモンしたわー」

『………ヘンなの。オマエ、こわくないの?』

大きな赤茶の目が、訝しげに細められる。あまりに子供らしくない仕草。

子供らしくないのは、子供として扱われて来なかったからだと木原は知っていた。
だからどうという意見も持たなかったが。

「何で俺がお前みてぇなクソガキ怖がんねぇといけねーの?アホか」

『……だって…』

「まぁ何でもいいけどよ、さっさと測定終わらせねぇ?終わらないと出してやらねぇっつってんだろ」

『………ここからでるくらい、かんたんだけど』

「それで?」

『え…?』

適当に続きを促せば、白い子供は驚いたように目を見開く。

「それで、その後どうすんだ、お前」

『……………』

この研究所を破壊して逃げる、とでも調子に乗って話し出すようなら面倒だったが、悔しげに圧し黙る。

それを見て、木原はゆっくり頷いた。

「そうだ。どうしようもねぇ。仮にお前がここを破壊して逃げても、追っ手が来る。
その追っ手を倒しても、次の追っ手が来る。
その追っ手を倒しても、次の次の追っ手が来る。
次の次の次にはこの国の軍でも出て来るか?
最後には、世界中の軍隊がお前を追って来るかもな」


『…………』

「お前はそれでも、無傷でいられるかもしれない。
核弾頭だって跳ね返すことが出来るかもしれない。
でも、それで?その後お前はどうする?世界に一人っきりで」

『………っ』

小さな唇が噛み締められる。

木原は、自分の言葉がこの子供の予測を正確に突いたであろうことを確信した。

(マセたガキだ)

少し苦笑する。十歳にも満たない子供の思考ではない。

こういう結論を出したから、一ヶ月前の騒ぎの後、おとなしく暗部に従っていたのだ。

頭の良い怪物は、さぞや生き辛いだろう。木原の知ったことではなかったが。

「人間は社会の中でしか生きられない」

たった今脳内で「怪物」と表現した子供を、木原は「人間」だと断じた。
生物的にはそうカテゴライズされるのだから、抵抗はない。

「缶コーヒーひとつだって、人間社会の中に入っていなければ手に入れられない」

『…………』

「コーヒーの木育てて豆収穫してってとこからやりてぇか?
やりたくねぇよなぁ。俺だってまっぴらゴメンだ」

木原は備え付けの冷蔵庫から缶コーヒーを取り出して、プルタブを開けて一口飲む。

名前が書いてあったが、そんなことはどうでもいい。

「お前にとって幸いなことに、ここは学園都市。世界で一番能力者に理解がある街だ。
お前はここで生きるのが一番楽だと、もうわかってんだろ」


『………っ』

だから実験に協力しろと暗に示唆すると、それを正確に受け取った白い怪物は、悔しげに眉を顰めた。

「き、木原さん~……」

助手が子供と木原を見比べてオロオロしている。

鬱陶しい、殺そうかなぁ、と木原が少々考えていると、小さな音が響いた。


くー。きゅるる…。


測定室のスピーカーからだ。

中を見れば、白い子供が腹の辺りを両手で押さえている。
俯いた頬がみるみる赤く染まっていく。

一丁前に恥じらっているらしい。助手は微笑ましそうにガラスの前に歩み寄った。

「あ、そっか。お腹空いた?もう四時だもんねぇ」

『べ、べつに………』

木原は軽く頭を掻いて、作戦を決めた。

「おい、クソガキ。お前の好きな食い物は?」

『………』

「言わねーなら適当なサプリメントとマズい栄養ドリンクになるけどなぁ」

『………は、ハンバーグ…』

すると小さいが、しっかりした言葉が返ってくる。

「よし、じゃあ取引だ。お前が測定に協力すれば、今日の夕飯はハンバーグにしてやるよ」


『う………』

先ほどの無表情がウソのように、白い子供はきゅっと眉を寄せた。

幼いプライドと旺盛な食欲の間をさまよう様子は、その辺の子供と変わりない。

やっぱりガキは口先三寸と食い物で釣るに限るな、と木原は頷いた。





測定結果は、ブッちぎり文句なしのレベル5。

「す、すごいですね木原さん…!ウチの研究所にレベル5なんて!!」

助手が興奮した様子でまくし立てる。

自分の功績でもないのに何をハシャいでいるのか不可解だ。
だが、今やこの部屋には研究所中の人間が集まっていた。

測定結果をためすがめつしながら、何十もの目が室内の白い子供に向けられている。

『ハンバーグは?』

それをものともせず、赤茶色の目が木原をジッと見上げた。

「へいへい」

木原が手元を操作すると、カチャリと測定用ヘルメットのロックが外れる。

ヘルメットを重そうに外して放り出し、とてとてと分厚い壁の檻から歩み出て来た。

「おい、飯を用意してやれ」

木原が助手に指示を出し、測定結果を頭の中で反芻する。
一度見たものなら確認する必要は無かった。


(やっぱり能力的には『反射』になるか…けど多分それだけじゃねぇな。
あの観測力と演算能力もまだ計りきれてねぇし)

反射出来るものは光や音など様々のようだが、これからもっと能力の本質を掘り下げて計って行こう。

考えるだけでワクワクする。あの小さな頭に詰まった演算能力はどれほどのものなのか。

とりあえずこの研究所内で測定に使えそうな装置のリストアップから始めるか、
と足を踏み出しかけると、ついと白衣の裾が引っ張られた。

「……あ?なんだ、クソガキ」

振り返れば、小さな手が裾を握って、赤茶色の丸い目で木原を見上げている。

「ハンバーグ……」

「あー、だからソイツが用意するって」

顎をしゃくれば、助手がにっこり笑って子供に手を振る。

白い子供はそちらを一度見て、すぐに木原に視線を戻した。

「……オマエは?」

「はぁ?」

「オマエは…たべないの?」

「…………」

木原はマジマジと赤茶色の目を見下ろした。

丸い目は瞬き一つせず、こちらを見上げている。少し長い溜息をついた。

「俺は忙しいんだよ。なんでお前に付き合って飯食わなきゃなんねぇんだ?」

「え……」

「検体と飯なんか食う趣味ねぇし」


赤茶色の目が、二度瞬きした。木原はガリガリと頭を掻く。

「あのな…。俺にまともなこと期待すんな、鬱陶しい」

この年頃の子供は、たまに近しい研究者を親のように勘違いして懐くことがある。

特にこの子供のような『置き去り』には、その傾向が顕著だ。

木原はその恐ろしげな見た目と言動によりそんなことは今まで皆無だったのだが、面倒なことになる前に釘を指した。

「ま、親代わりなら、あいつがやってくれんじゃねぇ?」

面倒なことは適当に助手に押しつける。そのための助手だ。

所内電話で食堂に話を付け終わったらしき彼が、にこにこ歩み寄って来た。

「ハンバーグ、すぐ用意してくれるってさ。行こっか?えーと……名前、なんだっけ」

助手はざわざわと人で溢れ返った室内を掻き分け、子供の資料を手に戻ってくる。

「えっと、名前名前…あった、」

「あくせられーた」

今にも資料に記載された名前を呼ぼうとした助手を、高く澄んだ声が遮った。

「へ?」

きょとん、と助手が子供を見下ろす。

「あくせられーた、ってよンで」

「え?でも……」

「いい。そのなまえは、もォすてるから」

「捨てるって……」

助手は困ったように首を傾げる。


だが木原は『accelerator』と名乗った子供を目を細めて見下ろした。

accelerator……加速装置。

意味ありげな名称だ。

「おい、クソガキ。それはお前の能力名か?」

「そォ」

頷く赤茶色の目は固く、迷いを持たない。

「能力名で呼ばれることが、どういうことかわかってんのか」

それは、人格が能力とイコールで結びつけられるということ。

実験動物にも感情はある。木原がそれを加味しないだけで、あるということは知っている。

人としての感情を捨てる、というのにも等しい宣言だと、この子供は理解しているのか。

赤茶色の目は少しも動じないまま、木原を見上げている。

理解している、と小さな頭が頷いた。

「わかってる。いいンだ、もう……そォいうのは」

人としてのいろいろなものを、この子供は諦めようとしているのだろう。

それほどのものが、この薄っぺらい小さな身体に圧し掛かったのだろう。

その様子は想像に難くなかったが、木原は「そうか」と頷いた。

自分には関係のないことだ。研究結果にも、成果にも。

関係ない、そうだろう?と確認するように自問した。そうだ、とすぐに胸の内から答えが返る。

「木原さん、名前勝手に変えちゃうとか、いいんですか?
書庫とか混乱しませんかねぇ」


「別に構いやしねぇだろ。問題ありゃ上が勝手に書き加えるさ。
個体識別が出来ればどうでもいいわ俺。おいaccelerator、英単語でいいのかこれ」

「あー、えっと。こういう字」

白い子供が、小さな足でトン、と軽く床を叩く。

途端に凄まじい音と共に床に亀裂が入り、木原以外の全員が飛び上がった。

「え、ちょ、な、何ですかぁ…!?」

「だから、あくせられーた、こういう字だって」

亀裂は生き物のように壁に這いあがり、数秒でピタリと止まる。

レベル5の能力測定にも耐えうる特殊素材が簡単に割れ、ざわざわと不穏な空気が部屋を満たしていく。

そんな雰囲気などどこ吹く風で、子供は木原を見上げた。

「わかったァ?」

木原がちょうど正面にしていた壁に、大きく一筆書きにしたような亀裂が走っている。

それは漢字四文字。


『一 方 通 行』と。








そんなこんなで続きます。
木原くんと小さい一方さんのこと考えると夢ひろがりんぐ。
そんではまたそのうちに。

乙!!
「そォ」とか「わかったァ?」とか言っちゃうロリ一方さんが可愛すぎて死ぬる
でもこんな小さい子が自分で自分の名前を捨てるっていうのは痛ましいな

乙乙
タイトルを予期させるいい過去話だった
木原くンやっぱり好きだなぁ

乙ー
>『………は、ハンバーグ…』
悶え苦しんだ

乙!
かっわいいねぇ~惚れちゃいそうだぜロリセラレータ!

あの助手俺なんだ

ちょっと間が空いちゃってすんません
そんなわけで、木原くんとちっさい一方さんの話その2です













パソコンのディスプレイから目を離さないまま、コーヒーを取ろうと手を伸ばす。

するとその手が空を切り、木原は「あ?」と眉を寄せた。

「これ、いつも飲ンでるよね。おいしいのォ?」

チラリと見れば、赤茶色の丸い目がじぃっとこちらを見上げている。

その小さな白い手には、今まさに木原が取ろうとしたマグカップが握られていた。

「はぁ?いいから返せよクソガキ」

「やァだ。いいにおい、する」

机の端に掴まって爪先立ちになった子供は、片手のマグカップを傾けて、どうやら飲むつもりのようだ。

「おいガキ。そのまんま傾けてもコーヒー被るだけだぞ」

爪先立ちになって、ようやっと顎が机の端に乗っている状態。

机から手を離して普通に立って飲むのなら問題ないだろうが、どうやら一方通行にそのつもりはないようだ。

「ンー………?」

カップを傾けかけて、考え込むこと数秒。


「わかった。だいじょォぶ」

こくりと頷いて、どうやら方針が固まったようだ。

大きな目を閉じると、長い睫毛の色はもう完全に抜けていて、真っ白だった。

数秒して、ぶわっと室内に風が吹き荒れる。

「うわぁああ!?データ纏めてる途中だったのにぃい!!」

同じ部屋で作業をしていた助手の悲鳴が上がり、打ち出しをした書類が悠々と部屋を舞った。

「おいおい大ざっぱだなぁ一方通行?どーすんだよ、それで」

「うー…だいじょォぶだもン」

木原が鼻で笑えば、きゅうっと細い眉が寄せられる。

すると局地的な嵐は徐々に、ストローのような細長い竜巻に集約した。

「できた」

一方通行が竜巻に目をやると、蛇のようにスルスルと木原の机に近づいてくる。

ごく細いとはいえ竜巻は竜巻、柔らかな白い髪がふわふわと舞い上がった。

一方通行は手に持ったままだったコップを、勢い良く傾ける。

コーヒーは当然小さな白い顔に降り掛かるが、蛇の頭のような竜巻の端っこが、ちょいとそれを押し戻した。

するとコーヒーは風に押されてコップの底に戻る。零れそうになる度、風がコーヒーの滴を拾い上げた。

「へぇ~!器用だねぇ、あーちゃんは」

書類を拾い集め終わった助手が感心したように呟くが、木原はゆっくり目を細める。

(風の演算…。器用ってレベルじゃねぇぞ)


風を使う場合、炎や水と違い、それそのものを操るだけではなく、周りの気圧も計算しなければならない。

更に風を直径数センチの竜巻に集約し、同時にそれで不規則に飛び散る液体を拾い集める。

例えるなら、十メートル先の針穴に糸を投げて通すようなコントロール。常人には不可能。

能力名『一方通行』。木原にはまだその全貌が掴めていない。

(ああ楽しい楽しい、ワクワクするねぇ)

木原はニヤリと笑みを浮かべて、少しずつコーヒーを飲み進める白い子供を見下ろす。

すると赤茶色の目が瞬いて、

「にが」

えれ、と黒い液体を吐き出したので、とりあえず拳骨を落とした。

どうやらまだ、不意打ちには対応できない。

やたらビックリした顔で、ポカンと丸い目が見上げてくる。







レベル5『一方通行』が木原の所属する第八中央研究所に来てから、一ヶ月が経っていた。

超能力者、という存在がもたらす利益は巨額のものだ。

しかも一方通行の能力は『すべてのベクトルを操る』というあまりにも規格外のもののため、あらゆる研究者が目の色を変えていた。

だが今は木原がすべてを押さえつけ、一方通行の主任研究員の地位を確保している。

木原一族の名もたまには役に立つものだ。

「あら、あーちゃん。晩ご飯かな?」

「うン。木原くンが今日はもォいいって」

「そうかいそうかい、今日はあーちゃんの好きなハンバーグあるよ」

「え、ホントォ?」

通りかかった食堂の調理人員の女性の話に、一方通行は微かに目を輝かせる。

「今日ハンバーグだって、木原くン」

「おいクソガキ。『木原さん』だって何度言やわかりやがる」

「でもこないだ女の人がそォ呼ンでたじゃン」

「あーあーあの女の真似かよ…。ホントロクなことねぇなアイツが来ると」

「でも木原さん、芳川さんと仲良いですよね?」

「虫酸が走ること言うんじゃねぇ。殺すぞ」

軽く首を傾げる助手に、木原の心からの殺気が向けられた。

「すんません!死にたくありません!!」


「なァ木原くン。今日は夕飯どォするの?」

「はァ?俺?別に、テキトーにカロリーメイト的な」

木原は食事に興味がない。まともな食事は一週間に一度取れば多い方だ。

「ふゥン……」

「あ、あーちゃん!僕と、今日も僕と一緒に食べよ!ね!?」

少し気落ちしたように俯く白い子供を、助手が必死に覗き込んだ。

「ちょ、ちょっと木原さん!いい加減食事くらい一緒に取ってやってくださいよ!あーちゃんかわいそうじゃないですか!!」

「何があーちゃんだ気色悪ィ。家族ごっこなら一人でやれや」

助手がヒソヒソ叫んで来るので、木原は耳クソをほじくった。

「だから僕別にロリコンじゃありませんから!ていうか皆かわいいって言ってるじゃないですか!?
木原さんだけですよこの子にそんな冷たいの!」

最初こそ警戒心剥き出しの扱いづらい印象の子供だったが、今は落ち着き過ぎてる傾向があるとはいえ、それなりに普通の子供らしい面も見せる。

例えば、夕飯が好物だと知った時や、「内緒だよ」と菓子を貰った時は、少しだけ嬉しそうに笑う。

そういう食べ物関係にやたら素直なところは、いかにも「普通の子供」だった。

いつも人形のような小作りな顔がふわりと緩むと、木原以外の人間の顔も、釣られて緩んでしまうらしい。

最初は暗部に囲まれた白い子供にあれほど怯えていた助手は、今では完全に一方通行にメロメロだ。

どこで用意させたのやら白いワンピースまで着せてやり、似合う似合うと大騒ぎ。

一方通行自身もそれなりに助手には懐いているようだった。

もっともこの男の言の通りに、研究員も職員もこのレベル5に割と甘い。


それは能力による特別扱いでもあり、愛らしさによるものでもあり、というところだろうか。

だが一方通行が能力を開花させる前に在籍していた研究所の職員は、白い子供の様子にひどく驚いていた。

曰く、以前は話を聞いているのかいないのか、とにかく反応の薄い、笑わない子供だったと。

強い能力を持つ子供には、時折そういうタイプがいることを木原は知っていたので、それを聞いて納得した。
わざわざ説明はしてやらなかったが。

そういう子供は自らの持つ『自分だけの現実』と『他人と共有している現実』の区別が付きづらく、その境が曖昧なのだ。

だから他人に共感できない。話が食い違う。

火は熱い、水は冷たい、殴れば痛い、夏は暑く、冬は寒い。

他人にとって当たり前のことが、一方通行にとっては当たり前ではない。

それは子供に決定的とも言えるほどの孤独、疎外感をもたらすだろう。

皮肉なことに、その孤独と疎外が能力を強めることも珍しくはない。

ちなみにその職員の目的は偶然「発見」されたレベル5を取り返すことだったようだが、軽く説得しただけで諦めていただけたようだ。

やはり人間話せばわかると、木原は再確認した。

「ほんとっ木原さんはフリーダムっていうか…空気読まないっていうか…。協調性ないですよねぇ」

助手が深々とため息をついて、「ねーあーちゃん」と一方通行を見下ろす。赤い目は三度瞬きした。

「協調性なんざ研究者には必要ねぇよ」

「いやあるでしょ!?チームでやるプロジェクトも多いですし、人望ないと仕事来ないし!!」

「そりゃ凡人の話だろ。生憎俺は違うんでぇ~性格で仕事取らなくても大丈夫なんでぇ~」

「あー電話したい、オー人事オー人事」

「別にやめても構わねぇが、規程にある機密厳守は破るなよ。消されるぜ」


「…………っ、こ、怖いこと言わないでくださいよ…」

特に凄んだつもりもないが、助手の顔色がサッと青ざめる。

「何だ、破る予定でもあんのか」

「い、いえっ…!ありませんよ、ありませんけど…!!ほ、ほら、そういうの噂が大げさになってるだけかなって……」

「そう思っててもいいんじゃねぇの。本当に破る予定がないんならな」

「ないですって、もう!!あーこわ、ホントチンピラみたいですよね木原さんって」

「誰がチンピラだコラァ」

「木原くン、チンピラなの?三流あくやくっていみだよねェ」

「そうそう、あーちゃんは本当に賢いねぇ。チンピラ上司はほっといてご飯食べに行こう?」

「殺す」

「すいませんでしたぁ!反省してまーす!!」

助手は一方通行を連れ、走って逃げた。

「……アイツだんだん図太くなってきやがった」

最初はあれほどビビっていたのに、意外と順応性が高かったようだ。あと二回ムカついたら殺そう。

でもまぁどうでもいい、と自分の研究室を目指して足を踏み出しかけ、ついと裾を引っ張られる。

「あ?何してんだ、ガキ」


見下ろせば、助手と一緒に食堂に向かったはずの一方通行が、白衣の裾を掴んで見上げている。

「木原くン、どこいくの?」

「俺の研究室ですけどぉー。つか引っ張んなクソガキ」

構わず大股で歩き出せば、子供が小走りで付いてくる。

「一緒にいく」

「飯はどーすんだ、俺はまだ食わねぇぞ」

「もォちょっと後でいい」

とてとて、と軽い足音。いつまでも裾を離さないので、後ろに引っ張られて鬱陶しい。

(変なガキ)

木原は少し目を細めたが、歩幅は変えなかった。









「ねェ木原くン、これ何?」

「オイ勝手に漁るんじゃねぇよ殺すぞ」

木原が陣取っている研究室の一角。

山と積まれた機材の側でゴソゴソしていると思ったら、一方通行は薄いタブレット型の装置を引っ張り出して来た。

「ねェ、何?ゲーム?」

尋ねながらスイッチを入れて、答えが返る前に操作を始めている。


「勝手に弄んなっつってんだろクソガキがぁ…」

木原のコメカミに青筋が浮かぶが、仮に壊されたとしても痛くもないモノなので、放っておくことにした。

(ま、どうせすぐ投げ出すだろ)

一方通行が触っているのは、昔木原が上司命令で能力開発用に試作した装置だ。

見た目も中身もゲームに近いが、クリアしていけば劇的に演算の最適化が進み、能力の強化が図れる優れモノ。

それが何故こんなところに埋もれているのかというと、答えは簡単。

難しすぎたのだ。百人以上の能力者に試したが、誰一人最初の面すらクリア出来なかった。

結果お蔵入りとなったわけだ。まぁ無能ばかりだから仕方ない、と特に悔しいとも思わなかった。

自分に子供の理解に合わせて難易度を下げるなどという面倒くさいこと、出来るわけがないのだから。

タブレットを覗き込む黒髪混じりの白い頭を数秒間見下ろし、木原はPCのディスプレイに視線を戻した。


ピロリロロリーン。


不意に聞こえた電子音に、軽く瞠目する。

「……一方通行、お前」

記憶違いのはずがない。申し訳程度に華やかなその音は、一面クリア時のファンファーレ。

「ふゥン…?おもしろいね、コレ」

ディスプレイに次々現れる数式を解き、と画面を埋め尽くす光球を避けながら、一方通行は少し笑う。

子供らしくない不敵な笑顔は、難題に立ち向かう研究者の顔を彷彿とさせた。


「これ、木原くンがつくったンでしょォ?」

「……何でそう思う」

「いじわるだもン、問題が」

「あぁ?」

「でも、おもしろいよ。こンなのはじめて見る。ふつうの能力開発プログラムってすっごくつまンないし」

木原は二度目の軽い驚きに目を眇めた。これが能力開発用のプログラムだとすぐに気づくとは。

「三面クリアー。ね、これぜんぶでいくつあるの?」

「……六面。試作機だったしなぁ」

「へェ?すぐクリアしちゃえそォ」

「……いい度胸だクソガキ。いいぜぇ、吠え面かかせてやる、ぎゃははは!!」

即座にそのゲーム開発用アプリを立ち上げ、木原は声をあげて笑った。

このクソ生意気な子供を絶望させるようなものを作ってやる、と思えば腕が鳴る。

能力研究以外でやる気が出たのは久々のことだった。



「ちょっ!何二人で遊んでるんですか、ひどくないですか!?」

「遊んでねぇよバカか」

「これたのしい」

ハンバーグ定食を片手に持った助手が泣きながら飛び込んで来たのは、それから一時間後。

「もう、あーちゃん…お腹空いてないの?」

木原が即興で開発した七面。

瞬きもせずにディスプレイを凝視する一方通行を、助手は呆れたように見下ろす。

「ンー…。空いたけど…もォちょっと、あ!」

ちゅどーん。チャラッチャッタラララー。

安っぽい効果音が響き渡り、小さな顔が悔しげに歪んだ。

「うゥ~…!もォちょいだったのに!」

地団太を踏んで、すぐにゲームを再起動させる。

同時に、薄い腹からきゅるるる~と寂しげな音が鳴り、白い頬が微かに染まった。

「晩ご飯食べてからにしたら?冷めちゃうよ、ハンバーグ」

「う、うン……」

一方通行は渋々テーブルの前に座る。

元々仕事用の研究室にはテーブルなど無かったが、ここのところこの子供が入り浸るので、助手が勝手に用意させたものだ。


「…………」

ピコピコ、カタカタ、もぐもぐ、ぼたぼた。

「…あーちゃん、こぼれてるこぼれてる」

ゲームから目を離さずに食べようとするものだから、目測を外れたデミグラスソースが机や服に落ちる。

助手がおしぼりを取り出すのを横目に見ながら、木原は小馬鹿にしたように笑った。

「一方通行、お前集中しなきゃ反射できねぇんだなぁ。は、無能が」

「むっ、しょォがないじゃン。アレずっとやってると疲れるンだもン」

「何のための開発プログラムだバーカ。3ー2の演算式思い出してみろ」

「ンン…?……あ、そォかー」

赤茶色の目がくるりと瞬いた数秒後。

服を拭いていた助手の手がパチンと弾かれ、「わっ?」と驚いた声があがる。

ゲームから手を離さず、フォークも動かしながら。

「イチイチかんがえないで、決まった式おいとけばイイ?ってこと?」

「そういうことだ。反射のような演算はオートプログラムに最適だからな」

「へェー…。たしかに、そォだね」

「え、ちょっと今なにげにすごいことしませんでした?急に能力が強化されましたよね?」

助手は目を白黒させ、木原は愉快そうに笑った。

「そうだ。しかもコイツ、俺の作った能力開発プログラム全クリしやがった」


「え!?あの激ムズでプレイする側のこと微塵も考えてないクソゲーをですか!?」

「よぉし殺す」

「すいまっせーん!……はぁ、僕も全然出来なかったのに。さすがはレベル5…ってとこですかね」

浅く嘆息し、デミグラスソースでベタベタになった口の周りを拭いてやる。

一方通行はされるがままで、ディスプレイから視線を離さない。

「いろんな実験しても今までの記録総塗り変えですもんねぇ。副所長がご執心なのもわかりますよ」

「は、地位だけの無能がコイツ手に入れても持ち腐れがオチだろ」

「僕もそう思いますけど。あの人、まだ諦めてないでしょ?今日もあーちゃんにしつこく声掛けてたし」

「それ俺に言ってどーしろってんだ」

「……ここだけの話ですが、副所長の嫌な噂聞いたんです」

「噂ぁ?」

声音だけでこれほどどうでもいい、という雰囲気を出せるのもすごいなぁと助手は思いながら、真顔で頷いた。

「あの人……ロリコンらしいんですよ」

「…………」

木原は無言でPCに向き直る。

「無視しないでくださいよ木原さんん!!!」

「どぉーでもいいわぁー。お前の人生よりどぉーでもいいわぁー」

叫んだ後、助手は深々と嘆息した。

「あの人、他にも色々噂聞きますし…。研究費使い込んだとか、『外』のスパイだとか。
お金に困ってる人って何するかわかんないし、用心した方がいいんじゃないですか?」

「………だからさぁ」

木原の声が一段低くなる。それだけで滲む殺気に、助手の肩がビクリと震えた。

「何でイチイチ俺にそんなこと言うわけ?」

「……僕は、ただ。あーちゃんが心配で……」

「ンー?だいじょォぶ、もうずっと反射できるし」

ディスプレイからチラリと目をあげ、一方通行は得意げに笑う。

それを見て、助手は少し疲れたような安堵のような表情で頷いた。














「僕の人生どうでもいい代表!?いやいやいや、ホントらしいんですって!!
今までも検体の女の子に手を出して、発覚しそうになったら揉み消したって…」

「イイハナシダナー」

「よくねぇええ!!今日もあーちゃんに飴あげてましたしね!?あーちゃんも!
今日飴くれたオジサンには気をつけるんだよ!?」

「うン、あのアメからかったし」

「ああ、薄荷だったんだねぇ…。って違うから!気をつけるのは飴の味じゃないから!!」

大声で叫んだ後、助手は深々と嘆息した。

「あの人、他にも色々噂聞きますし…。研究費使い込んだとか、『外』のスパイだとか。
お金に困ってる人って何するかわかんないし、用心した方がいいんじゃないですか?」

「………だからさぁ」

木原の声が一段低くなる。それだけで滲む殺気に、助手の肩がビクリと震えた。

「何でイチイチ俺にそんなこと言うわけ?」

「……僕は、ただ。あーちゃんが心配で……」

「ンー?だいじょォぶ、もうずっと反射できるし」

ディスプレイからチラリと目をあげ、一方通行は得意げに笑う。

それを見て、助手は少し疲れたような安堵のような表情で頷いた。











最後の最後で間違えるとか\(^o^)/
思ったより長くなりましたが、次で木原くンの話は終わりです
それではまた
次はもうちょい早く来られると思います

乙ー
あーちゃん、甘いアメあげるからこっちおいで

こんにちは。
投下しに来ましたー。木原くんと小さい一方さんの話その3。












危惧が当たってしまったのは、それから四日後のことだった。


「あーちゃん?あーちゃーん…!おっかしいなぁ、どこ行ったんだろ」

助手は予定されていた所用をこなすため、一方通行を探していた。

ウッカリ迷子になることなどありえないあのレベル5は、けれど子供らしく気まぐれだ。

ひょいと居なくなってしまうけれど、第八中央研究所の敷地面積は広大で、人探しには毎度苦労させられる。

殺風景な廊下で誰かとすれ違う度にあの白い子供の行方を聞き、だんだんと北西の一角に近づいていた。

「え、あーちゃん?それならさっき副所長が一緒に……」

「ふ、副所長が?」

重そうな機材を抱えた同僚が、副所長の研究所を顎先で示す。

嫌な予感がした。木原は相手にしてくれなかったが、あの中年オヤジの一方通行を見る目は本当にヤバイ。

確かに、人形のような白い肌、丸い赤い目、薄く黒筋の入る白い髪、控えめに笑う一方通行は愛らしい。

だがあんな風に瞬きもせずに凝視しているのはいくらなんでもおかしいだろう。

本当に嫌な予感しかしない。

「あーちゃん!あーちゃん、いるの!?」

研究室のドアから声を掛ければ、ガタタッ、と激しい物音が聞こえた。


「副所長、失礼します、……っ!!!」


思い切って部屋の中に飛び込んで、絶句する。

「あーちゃん…っ!!」

「……ぐ…、ぅ…っ」

木原の研究室とそう変わらない、PC、機材、シンプルな部屋。

その中央には、ポカンと口を開けて座り込んだ一方通行と、呻き声をあげながら横たわる副所長。

「あ…あーちゃん、ひ、ひどいなぁ……」

副所長は拠れた白衣もズボンも脱ぎかけた有様で、くぐもった声が上げる。

よろりと身を起こしながら太い指を伸ばしたところで、

「何してんですかアンタは…ッ!!!」

「ッ!?お、お前は……!」

助手は絶叫して白い子供に駆け寄った。何があったのかは、火を見るより明らかだ。

「あーちゃん!あーちゃん、大丈夫!?」

「え、うあ……うン」

赤茶色の目が、怯えたようにこちらを見上げる。

怪我も服が乱された様子もないのを確認し、今更青ざめる副所長を睨み据えた。

「いや君、違うんだよこれは……」

「言い訳は所長にしてください!!行こう、あーちゃん!!!」

男は立ち上がって追いかけようとして、脱ぎかけたズボンが引っかかって転ぶ。

構わずに助手は一方通行の手を引いて研究室を出た。

一方通行は無言のまま、小走りで着いて来る。

間髪入れず配給の業務用電話で所長室に電話を入れ、仔細に報告を入れた。すぐに慌しい足音が近づいて来る。

同僚の研究者や警備員達がザワザワと押し寄せる中、助手は人波に逆らって通路を進んだ。






「……ねェ…、どこまで、行くの?」

控えめな声。

何度も声を掛けようとしてやめる気配は感じていて、けれど気付かないフリをしていた。

「…………」

助手は応えない。

広い広い第八中央研究所。

スパイ防止の意味合いもあって迷路のような通路を進み続け、すでに三十分が経過していた。

歩きながら業務用電話を投げ捨てる。カラカラと乾いた音を立て、廊下を転がった。

「ねェ、もォすぐ外だよ…?勝手に出たら、木原くンに怒られるよ……」

心細そうな声音だった。この動じない子がこんな声を出すなんて、余程ショックだったのか。

ズキリと胸が疼く。

「待って…、ねェ、待ってって」

助手は強く一方通行の手を握り締めた。小さな、柔らかい手だ。

あの圧倒的な力を生み出すとは、にわかには信じられない。

(だが、真実だ)

「外」と比して数十年先を行くと言われる学園都市の技術の結晶、超能力者。

いかにか弱く見えても、小さくてもかわいくても、一国の軍と戦って引けを取らない。

仮に他国と戦争になっても、超能力者が一人いればどうとでもなる、そういうあまりに規格外の存在。

故に、手入れればこれ以上ない、切り札となる。


バチン、と弾かれたような衝撃を、掌に感じた。


「あ………」

立ち止まって振り向けば、一方通行はひどく戸惑ったような。

先ほどよりもずっと傷ついたような顔でこちらを見上げていた。

「……ひどいな、あーちゃん。反射するなんて」

指の先までジン、と痺れる。それほど強く握り締めていたのかと、助手は少し苦笑した。きっと痛かっただろう。

「え…だって……外、行くの?木原くン、すごい怒るよ…?」

「ああ、怒るだろうね、あの人は。でも大丈夫、あの人が来るより前に逃げられる。今なら」

副所長の所業には強い怒りを感じたが、おかげで今この研究所の目はあの男の周辺に集中している。

監視カメラやゲートキーの操作は既に済んでおり、脱出には絶好のチャンスだった。

「逃げるって……どこに?」


「『外』。この学園都市の外だよ。あーちゃんはまだ行ったことがないんだよね」

「そと……」

「うん。世界は広いよ。この学園都市なんかほんの、ほんの一部だ」

「……外の、スパイだったの?」

「………」

一方通行は驚いているというよりも、むしろ寂しげだった。

科学の世界最先端、学園都市。そこは同時に、世界中の産業スパイが狙いを定める狩場でもある。

だが学園都市製のあらゆる技術を守る、鉄壁の監視網を突破することは不可能に近いと言われていた。

「……逃げきったひとなンか、見たことない」

「それでも、やるしかない。期限までに予定の場所に行かなきゃ、僕が消されるだけだから」

「………」

「行こう、あーちゃん。大丈夫、悪いようにはしない。僕が脳科学の技術者ってのは嘘じゃないから、
外での能力開発もきっと可能だよ」

口に出したのは心の底からの本音だった。

元々自分がスパイに選ばれたのは、学園都市の研究者として怪しまれない程度の実力があったからだ。

「……でも…」

学園都市の機密の塊でもある子供は、眉を下げて俯いた。足は動かない。

「あーちゃん。……酷なことを言うようだけど、木原さんは君のこと、実験動物だとしか思ってないよ」

一方通行が顔を上げる。赤茶色の丸い目が瞬くのに、助手は言い聞かせるように続けた。

「能力開発は身体への負担も大きい。でもあの人はそんなこと考慮してない。あーちゃんもわかってるだろ?」

「……でも、木原くンは…」

小さな足が、一歩後ずさる。助手から遠ざかり、研究所の奥へ。

「怖くないって。この力が、怖くないっていったンだ……」

「あーちゃん」

「ゲンコツとかされたの、はじめてで」


「あーちゃん…!」

助手は思わず、無理矢理腕を掴もうと手を伸ばした。途端、ゴギ、と嫌な音がして手首がおかしな方向に曲がる。

「ぐッ、ああああああ!」

「………っ」

激痛に押し出されるような悲鳴が漏れると、赤茶色の目が揺らいだ。

傷ついた色。傷つけた方も痛いのだと、大人なら当たり前に知っていることを、この子はどう感じているのか。

だが、このまま連れ出せない場合の自分の末路が頭を掠め、ぞわりと氷のような悪寒が走る。

粘ついた冷や汗が滲み、折れた手首を押さえたまま、一方通行ににじり寄った。

「ダメだ…っ!僕の仕事は、君が、超能力者である君が来てしまった時から、君を連れて行くことにされてしまったんだ!」

当初の任務は、この第八中央研究所で行われていた新兵器のデータを盗むこと。

木原一族が側にいることは計算外だったが、何とか可能だろうと思われた。

そこにこの規格外のレベル5だ。狙って近寄れるものではない。偶然に訪れた好機を逃すほど、上は優しくはなかった。

「君が来なければ、君が、そんな力を持っていなければ…ッ!!」

ひどいことを言っている、と助手は思う。

滑稽な責任転嫁だ。なんて情けない。

目の前の赤茶色は、風が強い日の湖面のようにゆらゆらと揺れている。

「そんな力さえ、なかったら……!」



パン、と乾いた音が響いた。



「……っ」

衝撃が胸元で弾け、よたよたと後ずさる。

踏ん張ろうとした足先が崩れ、膝をついた拍子に、ぼたぼたと赤いものがおちた。

「………き、はら、さ……」

なんとか目をやれば、苦虫を噛み潰したような顔の木原数多が佇んでいる。

「あーあーやーっぱスパイかよ。ったく上は何やってんだか」

埃でも払い退けたような気軽さで銃を手にしたまま、怠そうに歩み寄る。

「……あ、…あ」

一方通行は、おずおずと助手の方に足を踏み出した。じわり、と白い靴が赤く濡れる。

いっぱいに見開かれた赤茶色の目が、凍り付いたようにこちらを凝視していた。

「……あーちゃ……」

助手は、胸を押さえていた手をあげて、その白い頬を撫でた。べたり、と赤い跡がつく。

「あー、ちゃん……」

かわいいと、思っていたのだ。まるで妹が出来たみたいだと。

ごめんな、と言おうとしたけれど、もう声が出なかった。











「あーやべ、死んだ。情報取れねーや」

木原数多は、血の海に横たわる元助手の肩先を軽く蹴り上げ、面倒そうに溜息をついた。

「次から次へと、『外』もご苦労なこったな」

この男がスパイだということには、薄々気付いていた。

何故ならば、こいつからはこの街の研究者特有の屑の匂いがしない。人を人とも思わない、学園都市の研究者らしくない。

相手も気付かれているかもしれないということを感じていたらしく、時折ヘタクソな誘導を行っていたが、無駄なことだ。

泳がせていたのは、尻尾を出させて背後を掴めと指示されていたから。

「ま、今日拉致るつもりだったんなら周囲に何か痕跡でもあんだろ」

電話で適当に報告を済ませ、硬直したままの一方通行に「戻んぞ、ガキ」とだけ声を掛ける。

その瞬間だった。


ビキビキビキビキ、と小さな足を起点に、蜘蛛の巣のような亀裂が広がる。


「ぅあ……あ…いやだ……」

「おい、一方通行?」

「やだ…もォ……こンなの…っ!!」

罅割れた悲鳴と共に、風が爆発する。床の破片と嵐のような突風に、木原は反射的に腕を上げた。

「ァあ…あああ……」

見開かれた大きな目。虚ろに天井を見上げた赤錆色から、ボロボロと涙が溢れて零れ落ちる。

水滴は烈風に攫われ、すぐに砕けて消えた。蛍光灯が明滅する。

「チッ、落ち着けクソガキ!」

木原は舌打ちをした。

暗部の一部隊を壊滅させたところからのスタートだったので、まさかこの程度のことが堪えるとは思わなかったのだ。

日常的な付き合いがあった場合は、また別ということか。だからガキは面倒だ。

「ゥうう……いやだ…もォこンな力…!」

「!おい待て、一方通行……っ」

掠れた、血を吐くような声音。小さな両手が、頭を押し潰すように抱え込んだ。


「こンな力、もォいらない!!!」


ドォン、と足元全体が揺れる。


蜘蛛の巣のような亀裂は、縦横無尽に壁と床に広がっていく。遠くで阿鼻叫喚があがり、一気に混乱に陥った。

「一方通行!!ったく……ッ」

木原は忌々しげに眉を顰める。

能力者の能力否定。それは『自分だけの現実』を否定するということ。

しかし自分だけが認識できている現実は、否定しても確かに存在する。

持ち主に認められなかった現実は、結果としてコントロールを失い、暴走。

例えるなら、自分の撃った銃弾があちこちに跳ね返って自分も周りも破壊するような。

それが今の一方通行だった。

木原は飛んできたガラスやら何やらの破片を避けながら、壁に寄りかかる。

「あー、めんどくせぇ」

能力者の暴走は周囲に甚大な被害を与えるが、大概は精神的な疲労による演算力の低下で徐々に沈静化する。

燃料がなければ炎が燃え続けられないのと同じように、永遠に能力を吐き出し続けることなど出来ない。

それでも怪我や脳機能に軽度の損傷があることも多いから、倒れた後に回収する必要がある。

ここで様子を見ているしかない。まぁ能力発現の特徴を観察できる機会ではあるか。


「いらない……こンな力…、ゥあ、あア…ァあああああ!!!」


突如ぐわ、何かが爆発し、風と音の衝撃波が炸裂した。天井が吹き飛び、遠くで悲鳴があがる。

「何……!?」

木原は叩きつけられた壁から身を起こし、一方通行に駆け寄った。

普通は持って数分。そんなものはとっくに過ぎており、このタイミングで暴走が加速するのは異常だ。

「一方通行!おいクソガキ、正気に戻りやがれ!!」

超大型台風など軽く凌駕するような暴風の中、木原は天を仰ぐ子供の顔を覗き込む。

「ゥう…ああ……ァああ……!」

大きな目は見開かれたまま、ただ虚ろな穴のようだ。

瞳に自分の顔が映っているが、見えてはいない。見ようとしていないから。この世を、世界を、現実を。

「ゥうああ……」

ビキビキビキ、という何かに皹が入る音に、木原は瞠目する。

床や壁が割れた音ではない。それは、目の前の小さな身体から聞こえた。

力はいらない、とこの子供は言った。力とは能力、能力名『一方通行』。それは自分自身を指す。

(マズイ)

一方通行は力そのもの、自分自身壊そうとしている。



(崩壊する……!!)


ぞわ、と背筋が震えた。

初めて感じるような焦燥が突き上げ、心臓が耳元で鳴り響く。

この稀有な力。高い演算能力。底が見えない適応力。

それが失われてしまうというのか、いやそれだけはだめだ、


そう、それだけがダメだ。


「一方通行ァ!!」

木原は咄嗟に腕を振り上げ、一方通行の頬を殴り飛ばした。

「ァぐ……っ!?」

小さな身体は、ボールのように簡単に吹っ飛ぶ。

壁に叩きつけられ、ふらふらと上げた顔は真っ赤に腫れ上がっていた。暴風はやまない。

「あぁ~…?なんで反射してねぇんだお前は、バカが」

木原は座り込んだままの一方通行に歩み寄り、また腕を振り下ろした。何度も、何度も。

必死に腕で庇おうとするが、小さな細いそれでは敵うはずもなく。

「うァ、いッ…きは、らく…っ、いた、いたいよォ…っ!!!」

ゴギン、と勢い良く腕が折れた。

反射だ。

痛みとショックで、通常の能力使用が可能になったということ。

暴走状態は脱した。地鳴りも風も止まっている。

狙い通りの結果に、木原は顔色一つ変えないまま、浅く溜息を落とした。

それは安堵に似た色をしていたかもしれないが、気付かないフリをする。

「きはらくン……っ、うで…ふぇ…」

一方通行が、くしゃりと顔を歪める。

「ごめ……っ、うェ、ゥあああん……うェええーん…」

細い泣き声が、崩壊した通路に響いた。

腫れ上がった真っ赤な頬を押さえもせずに、ボロボロと大粒の涙を零す。

穴の空いた天井から射し込む日が、白い子供を白く照らしていた。

木原は目を眇めてそれを見下ろし、口を開く。



「一方通行。この世の全てはお前の敵だ」


「………っ!!」

一方通行が息を呑む。赤錆に似ていると思っていた目は、涙に濡れて輝石のようだ。

「この惨状を見ろ。これがお前だ。『一方通行』という力そのもの。これで、誰がお前のことを好きになる?」

白い頬に、大粒の涙が零れた。

「味方なんて一人もいねぇ。死にたくなけりゃ、一日中二十四時間、ずっと反射してるんだな」

「でも…ッ、反射してたら、まわりにいるひとが怪我するよ……」

「なら、人を近付けるな」

「!!!」

「泣くな。笑うな。触れるな。威嚇でもしてろ、野生の獣のようにな」

「………木原くンも…?」

「あぁ?」

「木原くンも、味方じゃ…ないの……?」

「当然だ」

木原は折れた腕をぶら下げ、冷然と頷いた。

ひどく遠くで研究者と暗部が騒いでいるが、決して近寄りはしない中、触れそうな距離で、決して触れはしないまま。





















第八中央研究所、第二十四実験室前。

「……という内容なのだけれど。いいかしら?もう一度説明した方がいい?」

「はァ?誰にいってンだよババァ。一度聞きゃじゅうぶンだろ、無能はしらねェがな」

細い肩を竦めて、白い超能力者は実験室に足を向けた。進路にいた研究者が、ビクリを道を空ける。

その後ろ姿からも、尋常じゃない威圧感が漂っていた。

「……しばらく見ない間に、随分雰囲気が変わったものね」

芳川桔梗は、実験室の中に設置された顕微鏡と繋がったモニターを確認しながら、ポツリと呟く。

初めて一方通行と顔を合わせたのは、半年ほど前。

ここにあの少女がやって来て、まださほど時間の経っていない頃のことだ。

あの時には、頭がよすぎて落ち着きすぎているきらいはあったが、好きな食べ物に顔を輝かせる、普通の女の子だった。

それが今は、アレだ。

元々は大きな目は眇められ、常にやぶ睨み。子供らしくなく顰められた眉、にこりともしない。

浮かべるのは歪んだ嘲笑くらいで、格好も以前は白いワンピースなど着ていたのに、今は少年のようなTシャツとジーパンだ。

「あの口調、キミの真似かしら。木原くん」

「………」

隣でAIM拡散力場をモニタリングしていた木原が、嫌そうに顔を顰める。

「ちょっとチンピラみたいだから、改めさせた方がいいんじゃない?」

「うるせぇな。どうでもいいだろ」

「どうでもよくはないと思うけれど……でも、そうね。今はあの方がいいかもしれないわね」

芳川は、顕微鏡を覗き込み、培養シャーレに手をかける一方通行を見ながら呟いた。

「普通の子供のように、情緒を発達させることが出来る環境ではないし」

今はもう真っ白い髪が、無機質な蛍光灯の下で輝く。

雪のようだと芳川は思った。

「あの子はああして他人を拒絶することで、自分の心と……人を、守っているのでしょうから」

「随分とわかったようなクチ聞いてくれるねぇ」

「五ヶ月前の事件、聞いているわ。あの子の能力が暴走したことも、スパイ一人が死亡したことも。……キミが腕を折ったこともね」

木原が舌打ちをする。芳川は微笑んだ。

「状況を聞けば、簡単に推測できることよ。……あんな、小さな子が。悲しいわね」

「はッ……だったら、そのかわいそうな子供をお前が助けてやりゃいいんじゃねぇの?お優しい芳川さんよぉ」

「………」

今度は芳川が沈黙し、木原がニヤリと嘲笑う。


「意地悪ね。私がそんなに優しくないこと、知っているクセに」

少し目を伏せるが、芳川の視線は確実にモニターを捉えている。

一方通行は指示通り、電子顕微鏡を覗きながら、培養気の中の細胞を操作していた。

「…すごい……。UTXなしにリジン27のメチル基を外すなんて……。ちょっと待って、ここリプレイして!」

後ろに控えていた研究員に指示し、リアルタイムモニター用とは違うディスプレイで再生させる。

「この作用が起こるってことは、使用禁止マークと他の機能を意味するマークと区別できる仕組みが…?」

芳川は素早く予測と仮説を立て、新たな指示を一方通行に与える。

あらゆるもののベクトルを操作する能力。それは、あらゆる実験に応用できる力。

仮説を即座に、何の設備もなく実行できる。今回のものは見た目は地味でも、その研究的・経済的な意義は計り知れない。

「一方通行!ちょっと一端仮説を練り直すから、三十分時間をちょうだい!」

『えェー…?次の実験入ってンだけどォ』

「木原くん、お願い!キミがこないだ欲しがってた分子シャペロンHsp90の生成データあげるから!」

「お、マジでぇ?いいぜ、取引成立」

木原が機嫌よく頷いて、実験室内の一方通行に声をかける。

「おい一方通行。三十分空いたから簡易実験だ。ほい開始」

『はァ?今か……ごほ、ゴホガハッ!!』

空調が強くなるような音の直後、一方通行が激しく咳き込む。

「ほらほらぁ、お前の反射用ホワイトリスト機能、ホントにまだまだだよなぁ?」

『クソ野郎、毒ガスかよ…ッ!!』

罵声とは裏腹に、冷静に白い睫毛が伏せられる。数秒で安堵したように息をつくが、すぐにギロリと目を剥いた。

『木原ァ…!』

「ぎゃははは、気付いたかぁ!?そうです~毒ガスは一種類じゃないんですぅ~!おらおらどんどん行くぜぇ!」

木原はひどく悪辣で楽しげな笑い声をあげながら、目まぐるしく手元を操作する。

モニターにはVXガス、マスタードガス、CNガス、ジフェニルシアノアルシン、様々な名称が表示されては入れ替わっていく。

傍目にはチンピラが悪行を尽くしているようにしか見えないが、視線は能力測定モニターを瞬きもせずに見据えていた。

持ち歩き用らしき簡易モニターに、カタカタと何らかの計算式を入力していく。


その目は爛々と輝き、喜色に満ち満ちていた。

(……楽しそうねぇ)

芳川は自分の計画書を手早く練り直しながら、木原を横目で眺める。

一目で、常軌を逸しているとわかる、研究者の顔。

そう、学園都市の研究者は皆こんな顔をしているが、木原数多は別格だ。

何を犠牲にしても自分の研究分野を極めるだろうと、浅い付き合いの芳川にも確信を持って言えるほど。

ただ、先ほどの自分もこんな表情をしていたのだろうと、簡単に想像がつく。

おぞましいものだ。哀れな境遇の子供を哀れみ、けれど決して行動に移すことはしない、卑怯者。

芳川は、自嘲気味に少しだけ笑った。

「あー、ったくふざけンじゃねェよ木原ァ!死ぬかとおもった!!」

ある程度をこなしたらしき一方通行が、鼻息荒く実験室から出て来る。

控えていた研究者は、ビクリと遠ざかった。

対照的に、木原は振り返ってせせら笑う。


「無能は死ね」

「有能だから死にませンけどォ?木原くンこそ死んでくれねェ?」

「調子乗んなよクソガキ」

木原は微笑んだままそっと優しく白い頭に触れ、そのまま耳を抓り上げた。

「いだだだだ!!」

「反射精度悪ぃなぁ。殴らねぇでもお前殺す方法なんざいくらでもありますよ~」

「ふっざけンな木原ァああ!!い、いた、いたいたた!!」

真っ赤な目が涙目になったところで、ようやく耳を離す。

「バーカ木原ァ!覚えてろよ!!」

一方通行は大声で叫ぶと、脱兎のごとく逃げ出した。掴まれないように能力で加速し、あっという間に研究室のドアにたどり着く。

「十分で戻れよぉー?戻らねぇと殺すからなぁ」

「うっせェバーーカ!チンピラ科学者ァー!」

閉まったドアの向こうから、わざわざ響きやすいよう拡張したらしき罵声が聞こえてきた。

「ったくあのクソガキ……」

「……仲良いのね」

芳川は、思わず吹き出した。

「はぁ!?」と睨まれるが、傍目から見れば反抗期の子供と父親のようだ。

直前にやっていたのが毒ガス実験で、どう贔屓目に考えても「親子」ではありえないのだが、この街の研究所にいる限りは、致し方ないことだろう。

仕方ない、と割り切れる自分も異常だと理解している。ただ、あの子はここで生きていくしかない。

(もっと時間が経てば……)

一方通行は、まだ他を拒絶し、自分を守るだけで精一杯。

けれど長じれば、他者を受け入れる強さを手に入れることが出来るかもしれない。

この冷酷悪辣な研究者も、多少変わり始めていることに気付いているのだろうか。

以前なら、その身を犠牲にして暴走を止めるなんてこと、考えられなかった。最初は耳を疑ったものだ。

もっとも本人は認めないだろうし、今はまだあやふやで、形になっていないだろう。

もう少し時間が経てば、それは温かなものに変わる気が、芳川にはしていた。

あの子に優しくすることが出来ない芳川にとって、それは救いのような予感だった。

(もう少し、この二人が一緒にいることが出来れば……)

















その日は突然やってきた。



「……特例能力者多重調整技術研究所だと?」

木原は、何のアポイントもなく押しかけた研究者に、胡乱げな目を向けた。

普通ならば不快そうにするか怯えるかするものなのに、三十代の何の特徴もないその男は、ごく平淡な顔で頷く。

六十五面まで開発されたゲームで遊んでいた一方通行が、手を止めて顔を上げた。

「そうです。レベル5『一方通行』の研究成果は我々も眼にしており、期待しています。今後は更に発展を促すべく、我々が」

「ふっざけんじゃ」

「統括理事会の決定です。あなたの意見は聞いていない」

行くぞ、一方通行、と男は黒い目を子供に向けた。

実験動物を見る目どころか、ただの機材を見るような色の目だった。

「………」

一方通行はゲーム機を置いて、黙って立ち上がった。

通常、検体の所属する研究所が変わるのは珍しいことではない。

それぞれの研究所で得意とされる分野は異なっているし、一方通行のような汎用性の高い能力は、どの研究所でも引っ張りだこだ。

けれど今までは木原がその手を押さえていた。それがまるで無視されたところを見ると、本当に統括理事会の決定なのだろう。

木原は操作していたPCで、ここ最近の稟議書を追っていく。

「………チッ」

あった。確かに、統括理事長の名で、レベル5『一方通行』の第八中央研究所から特例能力者多重調整技術研究所への移籍が決定されている。


「納得していただけましたか。では、私はこれで。来い、一方通行」

男は平淡な口調で確認し、無味乾燥な態度で背を向けた。

白い子供は無表情のまま、その背についてゆっくりと歩き出す。

こういう事態には慣れているのだろう。何の反論もなかった。

細い、小さな背が遠ざかっていく。

「………ッ」

木原は反射的にその背を呼び止めそうになり、慌てて声を呑んだ。

(……何しようとした、俺は。統括理事会に逆らっても、何のメリットもない)

謎に包まれた統括理事長、アレイスター・クロウリー。

あの窓のないビルから一歩も出ないまま、全てを把握していると言われており、その意に反して消息不明となった人間は数知れず。

木原が率いている「猟犬部隊」も当然アレイスターの傘下だ。あれに逆らえば、どうなるかよく理解している。

何より、この学園都市で研究を続けることが不可能になる。それだけは耐えられない。

だが。

(まだ、一方通行の能力を解明しきってねぇってのに…!!)

ギリリ、と奥歯を噛み締めた。

あの能力は便宜上『ベクトル操作』と呼んでいるが、本当にそれだけのものなのか?

確かにベクトルの操作は可能、間違ってはいない、けれどもっと何か計り知れないものが秘められている気がする。

研究者としての第六感、というと笑うしかないが、そうとしか表現できないのも事実。

一方通行の能力を解明できるとしたら、それは自分だけだ、という確信が木原にはあった。

(クソッ…!クソッタレがぁ!!)

更に歯を強く噛み締めた。血の味がする。

しかし、統括理事長の決定に逆らえば、命の保障はない。わかっている。理解している。


(……一方通行が、振り向いたら)


一度でも振り向いたら、連れ戻そう。何を犠牲にしても。

唐突にそう決めた理由は、わからなかった。わからないなど普段の自分ではありえなかったが、今はそれが正しいと思った。

あの小さな、何もかもを拒絶して純白になった頭が、一度でもこちらを振り向いたのなら。




一方通行は何度も振り向こうとした。

手の先が冷たい。呼吸が浅い。心臓がドクドクと脈打っている。

全力で背後の、木原数多の気配を探った。能力も使った。木原は、先ほどの姿勢から微動だにしていない。

(木原………)

特例能力者多重調整技術研究所。通称特力研。

その悪評は一方通行でも聞いている。行けば今までとは比較にならないほどおぞましい実験が待っているだろう。

だが、統括理事会という組織がこの学園都市でどれほどの権力を持っているか、一方通行は理解していた。

木原がその決定に逆らうことはないだろう、ということも。

木原くン、と口の中だけで呟いて、拳を握り締める。

初めてだった。

この能力を発現させた後、まっすぐにこちらを見るのも、目が合って恐怖で身体を竦ませないのも、躊躇わず普通に子供に対するように罵声を浴びせるのも。

木原がただ、自分を出来のいい実験動物だとしか思っていないということは、助手に言われるまでもなくわかっていた。

ただ人としての正常な感覚がおかしいから、一方通行に恐怖しないだけだということは。

それでも、初めてだったのだから。

別にあんなチンピラの側にいたいわけじゃない。そうじゃないと、ずっと思っていた。けれど。


(……木原くンが、一回でも俺を呼びとめたら)


そうしたら、こんな胸糞悪い色の目をした研究者なんて放って、あの悪人面のところに戻ろう。

一方通行は、唐突にそう決めた。

俺はお前の味方じゃない、とそう言った声が耳の奥に残っている。

味方じゃなくても、呼び止めてくれるなら、木原の側に戻る。

一度でも、あの底意地の悪い声が、呼び止めたなら。







一方通行が、一度でも振り向けば。

木原が、一度でも呼び止めたなら。


木原は、一方通行は、一心に待っていた。

研究室はそう広くはない。

出入り口のドアまでは、せいぜい十秒というところだろう。

木原は待っていた。

一方通行も待っていた。

特力研の研究者はそのドアに到着し、無造作にドアを開け、出て行く。

一方通行もその後に続いて、木原の研究室を後にする。

それで終わりだった。






(……は、所詮、あんなガキ、ただの実験動物だ……)

木原は閉まった無機質なドアから目を離せず、拳を握り締める。力を込めすぎた拳は、ブルブルと震えていた。

無理矢理ドアから視線を引き剥がせば、一方通行が机の上に残したゲームの端末が目に入る。

六十五面まで作った。あの子供一人だけのために。

どんなに難しくしようが頭を捻り、なんとかクリアしていく一方通行。

今度はどんな問題にしてやろうかと思うと、口元が意地悪くニヤニヤと緩んだものだ。

そんな研究者としては全くどうでもいい記憶ばかりが、目の裏を掠めていく。

「クソが……ッ!!」

木原は思い切り端末を払いのけた。壁に当たって、硬質な音と共に床に落ちる。ディスプレイには皹が入っていた。




(……は、しょせん、あんなチンピラ、ただのビビリだったンだ……)

見慣れた廊下が、滲んで見えた。無感情な研究者は、振り返りもしない。家畜を連行するように。

数度の瞬きで、普段通りクリアな視界に戻る。

『この世の全てはお前の敵だ』

木原が放り投げて寄越した真実。

あの恐怖という感情が欠落したような男ですら、自分を側に置くという選択はありえなかった。

本当は恐怖していたのかもしれない。損得勘定の結果だったのかもしれない。理由はどうでもいい。

あぁそうだ、そうなのだろう。わかっている。世界が敵に回るのは、自分がこうだから。傷つけることしかできないから。

当たり前のことだ。仕方のないことだ。

ならば、自分は『無敵』になろう。

一方通行は、決意した。

誰も近寄らない、楯突こうとも思わない、無敵の存在へ。








そうして木原数多は、一方通行は、胸の底から込み上げかけた感情を噛み潰し、飲み下し、無かったことにした。


とても器用に、ごく速やかに。
















というわけで、原作12巻に続いたのであった……という妄想。
木原くんと小さい一方さんの話はこれで終わりです。
新スレ早々薄暗い話ですんません。
そんなわけで>>40、安らかに眠ってくれ…。

リアルタイム更新キター!
1乙!
ちょっとすれ違い切なすぎて目からコーヒーが

乙!

これがボタンのかけちがいってやつなんだな


助手いいキャラしてたのに…切ねえな

レスありがとうございます!!
ちょっと質問あったのでお返ししておく

>>71
そんなわけでこの後木原くんの運命は12巻に続くわけです

>>72
それな…一方さんが何かそういうこと言ってたけど、あれは単なる挑発&罵倒…
という風に解釈してここの過去編では刺青で金髪だよ!
だって想像できなくね 黒髪で刺青なくて目つき悪い木原くんとか…はッ 建宮みたいなかんじ?ww

>>101
小さい一方通行はまだ反射が万全じゃなくて、常に全反射してたわけではなく、得意な角度とか
場所とかがあったので髪の色にもムラがあった…という設定があったんだが完全に入れ忘れてた☆
ということを今思い出しましたご指摘ありがとうございます
最後の方だと常に全反射するようになったので髪も真っ白になってるんだけれども
まぁそれでも茶髪の方が自然だったかもしれませんなー
白赤茶より白赤黒の方がなんか色的にかわいいから くらいに思っておいてくれると嬉しいです

>>101
一方さんの場合、単に色素が薄くなっていったんじゃなくて
メラニンが作られなくなったせいで白くなるパターン
ブリーチ剤を使うのとは根本から原理が違う
後天的に肌が白くなる病気の尋常性白斑なんかは、斑に肌に白い部分ができる
これと同じで、毛根や皮膚細胞のメラニンを作らなくなった部分から白くなって、
だんだん白の面積が増えていったんだと思う

白くなる途中で全身あちこち斑になってる間、見た目だけで気味悪い扱いされただろうな

ちょっともう上条さん呼んできてタイムスリップさせてこの二人にそげぶして待ってないで自分から手伸ばせよって説教してくれ

ま、まだなのか……俺をどこまで焦らすんだこの>>1は!!
慌てず急がず素早く続きを書き上げてくれることを全裸で待ち続けるッ!!

ちょっとお久しぶりですんません
投下しに来ましたー
>>107はきっと風邪をひいたことだろう、お大事に

















AM1:57 黄泉川家 一方通行の部屋


一方通行「…………」パチ 

一方通行「…あー……」ムクリ

一方通行「木原の夢とか……今更何だそりゃ。イミわかンね」ガリガリ

打ち止め「ん~……どしたの、あなた…ってミサカは……」ムニャムニャ

一方通行「また勝手に潜り込みやがってクソガキ…何でもねェよ、寝てろ」グシャグシャ

打ち止め「…うん……」スー

一方通行「………」ボー…

一方通行「………コンビニ行くか」スタ カツカツ パタン


打ち止め(カッ、ってミサカはミサカは目を開けて、ケータイを握り締めてみたり!!)ガシッ


















AM 2:08 ミサカネットワーク内


1.【今日のあの人】あの人がまた夜中に外に行っちゃった件(1)NEW!

2.生理痛やわらげる方法教え合おうぜ(329)

3.【(゚Д゚)!?】一方通行にJKの友達が出来たっぽい件(284)

4.今日の上条304(91)


         ・
         ・
         ・


【今日のあの人】あの人がまた夜中に外に行っちゃった件(94)



1 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 ねぇねぇ聞いてよ、またあの人が外行っちゃったよ
 ってミサカはミサカはソワソワしてみたり!
 夜中の二時だし、今日寒いのに……

2 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10310

 何しに行ったんだ?またコーヒーか?

3 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 アレだろ あのわからず屋のモヤシのことだから
 また変な夢でも見たんじゃね

4 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 10032号はよくわかってる!ってミサカはミサカは褒めてつかわす!
 そうなんだよ…あの人よく昔の夢見て、朝までジッと起きてるか、
 どっか行っちゃうんだよ……
 
 あの人はいつになったらぐっすり眠ることが出来るのかなぁ(´;ω;`)ウッ…


5 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 >>4 そんな夢見が悪いのか一方通行…
 おれもこないだ、食べる直前にクレープ落とす夢見て思い出すだけで(´;ω;`)ウッ…

6 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 おまいは本当に平穏な人生を歩んでいるな>>5

7 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

 まぁ 平和なことはいいことだよな
 一方通行、また俺らのこと殺す夢見ちゃったのか?

 今更恨んでる個体なんかほとんどいないと思うけどな

8 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 恨まれてるから辛いってわけでもないのかなって…>>7

 あ、でも、今日は違うみたい
 「キハラの夢見た」とかちょっとひとりごと言ってたよ
 ってミサカはミサカは思い出してみる

9 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14510

 !??!?!
 一方通行さんに男の影が!?!?!?(ガタガタッ

10 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12331

 何で男だってわかるんだよwwww

11 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka11229

 落ち着けwww>>9

12 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 あ、うん、男の人だと思うよ
 ってミサカはミサカは肯定してみる>>9

13 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14510

 ガタッ !! >>12

14 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

 ガタガタッ !! >>12


15 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:MisakaXXXXX

 何?何の話?

16 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 あ 隠れブラコンが来たお(^ω^)
 いや隠れシスコンか(^ω^)

17 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:MisakaXXXXX

 誰がシスコンだって?
 ケンカ売ってんなら買うけど?

18 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 ハハッ 別に売ってませんけど

19 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:MisakaXXXXX

 ムカつく>>18

20 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 ケンカはやめて!ってミサカはミサカは仲裁してみたり!!

 キハラって、9月30日事件の時にミサカのことを浚いに来た科学者の
 人だと思うんだけど……
 おぼろげにあの人が呼んでたの覚えてる

21 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19321

 げっ あれか、あの一方通行を素手でボコッたってヤツか

22 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka18201

 どんな超人だよ

23 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 こんな顔だったよ ってミサカはミサカは公表してみる
 http://www.misaloda/kihara-1.jpg

24 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 なんという悪人ヅラ>>23
 一方通行に勝るとも劣らずだな

25 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10891

 チンピラかwww
 金髪と刺青って、マジで研究者なの?ww

26 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka18201

 こ 怖っ
 こんなんに浚われたとか、大変だったな上位個体……

27 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 あの人が助けてくれたから全然平気だったよ!!
 ってミサカはミサカは元気よく万歳してみたり
 でもでもあの人きっとまた傷だらけになっちゃってたんだろうな…(´;ω;`)

 あとあの人は悪人ヅラじゃない!!
 ちょっと顔に力入れすぎなだけだもん!!!!>>25


28 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:MisakaXXXXX

 ん……?この顔どっかで…>>23

 あ、思い出した
 こいつ、昔あの人の能力開発担当してた科学者じゃん

29 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10398

 マジか>>28

30 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 あっ!確かにあの人もそういうこと言ってたかも!?
 ってミサカはミサカは、何で番外個体がそんなこと知ってるのか超疑問!!

31 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:MisakaXXXXX

 前にヨシカワに聞いた>>30
 ヨシカワも昔からあの人のこと知ってたらしいよ

32 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 そ、そうなんだ…初めて聞いた
 ってミサカはミサカは驚いてみたり

33 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 ヨシカワって絶対能力進化実験の時のあの人だよな
 前に久々に会ったけど、あの人も読めないよなー
 何考えてるかわからん

34 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13399

 最近会ったことあんの?>>33

35 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 ちょっと前に偶然?会った
 身体の調子とか色々聞かれた
 個人的な話とか初めてしたわ

36 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

 今俺らの調整ってリアルゲコ太先生がしてくれてんじゃん
 何で今更そんなこと聞くの?>>35

37 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 『私もあの子も気にしてるからよ』だって

38 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 あの子????誰??? >>37

39 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 全ッ然 わかんね 想像もつかんわ


40 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

 普通に一方通行だろ言わせんな恥ずかしい>>38

41 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 あっ そうかー(・∀・)
 心配してくれてるもんな一方通行

42 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 もう、10032号ってば照れ屋さんなんだから
 ってミサカはミサカは微笑ましく思ってみたり

 そんでヨシカワは何て?>>31

43 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:MisakaXXXXX

 いやだから、昔・・・十年近く前?
 木原数多ってのがあの人の能力開発担当してたんだってさ

44 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 何でそんな話になったの?
 ってミサカはミサカは根掘り葉掘り突っ込んでみたり

45 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:MisakaXXXXX

 しつこいなぁ
 だからこないだヨシカワの部屋の掃除してたら写真見つけて

46 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 写真って何!?!?あの人の!?!?
 ミサカ知らない!!!!!!

47 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:MisakaXXXXX

 あっ いや別にたいしたもんじゃ

 ってこら、勝手に人の部屋に入って来ないでよ!!
 ちょっ・・・!!


         ・
         ・
         ・
         ・


75 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

 もう20分くらい経ったか?
 戻って来ないな二人とも

76 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 幼女の猛攻パネェwwww

77 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

 ワロタわwww
 ホントに上位個体は一方通行のことになると必死だな

78 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14510

 俺は上位個体を応援してる
 末っ子はひとり占めズルイ!!

79 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

 幼女早くしろ
 すげー寒い


80 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

 お前は服を着ろ >>79

81 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 何で脱いでるのwwww>>79

82 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 あの人のレア写真取ったどーーーー!!!!!
 ってミサカはミサカは凱旋してみたり!!(キリッ キリッ

 http://www.misaloda/mini-accela1.jpg

83 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 え?





 え?>>82

84 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 かわいいな!!!

85 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17119

 え、これ小さい頃の一方通行?
 別人じゃんwwwかわいいなおいwwwww

86 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

 かわいいいいいいい!!!!!!!
 ちっさいあくせられーたんペロペロペロ
 目でっかいなー!!!
 ワンピースかわいい!!!!!

87 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 ちょうかわいいよね!!!!!
 ってミサカはミサカは大興奮なんだけど!!!!!

88 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:MisakaXXXXX

 ったく横暴なお姉ちゃんだよ
 せっかくだから

 before>>82

 after: http://www.misaloda/mini-accela2.jpg

 ちなみに>>82の半年後くらいな


89 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

 oh……

90 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13810

 どうしてこうなった>>88




 どうしてこうなった

91 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14102

 なんという劇的ビフォーアフター

92 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17199

 なんということでしょう!(※あの声で)

 愛くるしかった丸い目の大きさは半分に!常にやぶ睨みというかんじ!
 つるつるだった眉間には深く皺が刻まれて、幼いながらに迫力満点!
 控えに微笑んでいた口元は、いかにも底意地の悪そうな歪み方に…
 本人の人柄を十二分に伝えてきます!

93 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 やめろwwww>>92
 しっかし完全に今の原型出来上がってんなwwww>>88
 目付き悪www

94 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

 こんな短期間にこんだけ顔付きが変わるって…
 なんかあったのか?

95 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:MisakaXXXXX

 わかんない>>94
 ヨシカワは教えてくんなかったし
 でも「あの子に子供らしい生活は許されなかったのよ」って言ってた

96 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12001

 (´;ω;`)ブワッ…>>95
 色々あったんだな一方通行


97 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10281

 まぁミサカ達と違って十何年も生きてるわけだしなぁ……

98 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

 今度会ったらクレープ奢ってやるか

99 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 あの人はプライドが高いから、「俺を哀れむな」とかなんとか怒りそう!
 ってミサカはミサカは予想してみたり

 哀れむとかじゃないのにね

100 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

 相変わらずめんどくせぇ白モヤシだよ
 有無を言わさずクレープ口に突っ込んでやろうか?

101 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:MisakaXXXXX

 楽しそうwww
 あの人甘い物大嫌いだから、そんなことされたら吐いちゃうかも☆
 ミサカもやろうかな!

102 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

 フッ せめてクリームはコーヒークリームにしてやるか…

103 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 武士の情けってやつだな!>>102

104 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 違うと思うよ>>103

 あ、ねぇねぇ17600号、あの人見つかった?

105 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600

 こちらスネーク
 ターゲットは第七学区大通りをコンビニに向かって移動中

 あ!前方120メートル地点、上条当麻接近中!

106 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 ガタガタッ>>105

107 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:MisakaXXXXX

 は?なんでこんな時間に?
 ちょ、さては最終信号……!!







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AM2:18 第七学区 大通り 


一方通行「………」カツカツ

一方通行(妹達の夢ならともかく、木原の夢なンか見たことなかったンだがなァ)

一方通行(……そォいや、あンなこともあったか。すっかり忘れてたが)

一方通行「………」カツカツ



上条「あれ、一方通行?」



一方通行「………あァ?」クル

上条「よ、偶然だな。お前もコンビニ?」スタスタ

一方通行「………」ギロ

上条「何で睨むんだよ」

一方通行「こンな時間に、偶然もクソもあるか。ふざけンな」

上条「そー言われましても」

一方通行「クソガキにでも聞いたか?」

上条「」ギクリ

一方通行「はァ、ったくあのガキは……。オマエも真に受けてンじゃねェよ」

上条「いやー、でもさぁ、夜中に一人で出てったから心配なの!って言われたら上条さんとしてもさ」

一方通行「自分で直接俺に言やイイのに人に頼ろうって態度が気に食わねェ。帰ったらお仕置きだな」チッ

上条「え、何すんだ?おしりぺんぺんか?」

一方通行「……フーン、それいいな。それにするわ」ニヤ

上条「え」

上条(打ち止め、ごめん……)


上条「で、お前どこ行くの?」

一方通行「コンビニ」カツカツ

上条「俺も」スタスタ

一方通行「ついて来ンな」カツカツ

上条「俺も用事あんだって」スタスタ

一方通行「うっぜェ」カツカツ

上条「ひどくね?」スタスタ

一方通行「全然」カツカツ

上条「あ、そういや身体の具合、もう平気か?しんどいんだろ?」スタスタ

一方通行「……あ?」ピタ

上条(やべ!!初潮のこと、聞いてないってことにしてたんだった!!)アセッ

上条「あ、あー……貧血?って感じだったからさ、結局どうだったのかなって思って!!」

一方通行「……あァ…、……えー…アレは、だな」

上条「う、うん?」ジッ

一方通行(どォする、生理のことはなンかコイツには言いたくない、何か適当な病気を…)グルグル


一方通行「じ、持病の癪が……」


上条「えっ」


一方通行(何言ってンだ俺)

上条「じ、持病のシャク……?って時代劇とかよく見るやつ?」

一方通行「あ、ああ……」フイ

上条「…………」

一方通行「…………」

上条「そ、そうなのか…。お大事にな」

一方通行「……ああ」

一方通行(誤魔化せた、のか?)

上条(これで誤魔化せたと思ってんのかなぁ)

一方通行「……」チラ

上条「ん?なに?」

一方通行「別にィ」

一方通行(前から思ってたがこいつバカだな)

上条(前から思ってたけどコイツってちょっと天然だよな)














晩冬の夜に沈んだ街は、静かで暗く、冷え切っている。

一方通行は黙ったまま、並んで歩く上条をチラリと伺った。

「……ん、何だ?」

「インデックスはいいのかよ、一人で置いてきて」

「ああ、大丈夫だろ。今は魔術師の気配はないって言ってたし」

「ふゥン……」

そこで会話は途切れるが、気詰まりというわけでもない。

浅く息を落とせば、ふわりと白く染まる。コンビニまでは、あと少しだ。

「一方通行、……嫌な夢でも、見たか?」

「……ッ」

反射的に目をやった横顔は、穏やかだった。その声音も同じくで、過剰反応した自分に舌打ちする。

「あンのクソガキ……。プライバシーって概念を教え込まなきゃなンねェよォだな」

「だからそう言うなって。お前が打ち止めには隠し事ばっかするからだろ?」

「あのガキには関係ねェことだ」

「関係ねーってことはないんじゃねぇの?妹達のことだろ?」

「違ェよ」

「へー、違うのか。じゃ、何の夢?」

「……」

まんまと乗せられた、と一方通行は忸怩たる思いだったが、上条は特にしてやった顔でもない。

ただ単に普通に話しただけで、誘導尋問のつもりもなかったのだろう。そういう少年だ、上条当麻とは。

そこに思い至り、一人で気負っていた自分がアホらしくなって、浅い溜息をついて肩を竦めた。

「大したモンじゃねェよ」

「そのままじゃ眠れないような夢なんだろ?大したことあるじゃん」

「だァからコンビニ行きたかっただけだっつゥの。悪党ブッ殺して気にするタマか、この俺が」


「悪党?」

「金髪刺青の見た目も中身もチンピラみてェなオッサン。9月30日に打ち止め浚ったのがソイツ」

「あの時の……」

「自分の気分で人殺すのなンか何とも思ってねェよォなクソ野郎だ、木原は」

そう、木原数多は客観的に見て、悪党だろう。自分と同じように、ごく自然に他人を傷つける。

殺したことを後悔なんてしていない。打ち止めを傷つける者は善人だろうが悪人だろうが一切容赦しない。

あの時、木原と一方通行の間には憎悪と殺意しか存在しなかった。それは間違いなく事実だ。

「……それでも、悲しかったんだな」

「はァ?」

「そういう顔してるぜ、一方通行」

ハッ、と顔に手をやって、慌てて離す。今日は一体、何度乗せられれば気が済むというのか。

「誰がだ、バーカ」

「お前さぁ、あんま嘘つくの上手じゃねぇよ?」

「何が嘘だってンだよ」

「別に、いいんじゃねぇの。どんな悪党でも、殺したこと気にしてる方が普通だろ」

「気にしてなンかいねェ」

「そうか?」

「そォだ」

一方通行は、改めて確認するように頷いた。

気にしてなんかいなかった。あれから色々あったし、打ち止めの安全もなかなか確保出来なかったし、忘れていたと言ってもいい。

ただ、ふと思い出しただけだ。たった半年ほど、一緒に過ごしていた記憶を。

『この世のすべてはお前の敵だ』

初めてその事実を認識させたのが、木原数多だった。

あの時には、自分でも薄々気付いていた事実を突きつけられて、ただ衝撃を受け止めるだけで精一杯だった。

けれど、今なら。

あの頃から十年近くが経ち、木原と対峙した時から数ヶ月を経た今であるから。

思い返せば、暴走して崩壊しかけた自分を止めたのは、理由は何にせよ、確かにあの男で。

もしかしたら、常時反射していろとうるさかったのは、能力開発のためだけではなかったのではないか、と。


「今更だ………」

今更それを考えても、詮無いことだ。

少し震えた指先を握り締めて、一方通行は、微かに目を伏せた。

「今更なことなんてねぇよ。今になって気づかされることくらい、いくらでもあるだろ」

上条が力強く言って、まっすぐに一方通行を見据える。

「ウチの担任の先生が言ってたんだけどさぁ。学校卒業して何年もしてから、『あの時先生が言ってたことの意味が、今になって
わかりました』って言いに来てくれたりするんだってさ。そんなもんじゃねぇのか」

「そンな生温いもンじゃねェっつゥの」

どこまでも健全な例えに、呆れて肩を竦める。

「時間経たないとわかんねぇことくらい、誰にでもあるだろ」

ま、俺にはまだわかんねぇけど、と上条はおどけたように笑う。

「面白くねェぞ、それ」

「すいませんねぇ」

「………少しだけ…」

「ん?」

「昔、少しだけ、世話に……。そォだな、世話になってたことがあった。そンだけのことだ」

世話に、と口に出した時に、少し声が震えた。

ああ今更、自分で何もかもを為しておいて今更、ひどく滑稽に思える。

「そうか……」

「ああ」

頷いて、一方通行は空を見上げた。月のない夜だった。その分、星が輝いて見える。

しばらくは二人とも黙っていた。

居心地が悪いわけじゃない、むしろ、上条の案じるような気配が伝わってくる気がして、一方通行は呼吸を深くする。

「一方通行」

不意に上条が静かな声で囁き、目をやれば、相変わらず真っ直ぐにこちらを見据えていた。

「なぁ。教えてくれよ。名前」

「……忘れたっつってンだろ」


「嘘だろ?」

いつぞやの月夜と、同じやり取り。

一方通行はこちらの中を穿つような目に、少したじろぐように俯いた。

「……捨てたンだ。もォ、ねェンだよ」

ちょうど先ほど、そう決めた日のことを夢に見たばかりだった。

あれは、諦めた日。人として生きることを、諦めた日だ。

「捨てたって、消えたワケじゃねぇだろ。拾ってくればいい」

「簡単に言ってくれる……」

こともなげな上条の言葉に、一方通行は唇を噛み締めた。

あの頃と今。自分は、変わっただろうか。いや、本質は変わっていない。

ただ、目指した場所は変わった。もう、『無敵』を目指そうとは思わない。敵も味方も、誰もいない世界に行こうとは思わない。

今、一度諦めたものを、取り戻そうと足掻いている。

足掻く覚悟は決めた、だがそれはまだ遠い。

「じゃあ、覚えといてくれよ」

「何を……」

「俺が、お前の名前、教えてほしいってこと」

上条の表情も声音も視線も、ひどく真摯な色をしていた。

尋ねられたのは何度目なのか、最初の頃とは違う、特別な意味が重なっている気がした。

どういう意味かはわからないけれど、まったく無視してしまうことが出来ない自分のこともわからない。

「………」

どう返答していいか、らしくもなく戸惑う一方通行に、上条は明るく笑いかける。


「そんな困った顔すんなって。素直だなぁ、お前」

「はァ?」

自己評価と真逆のことを言われ、思わず目を剥いてしまう。

すると上条は軽く首を傾げ、じゃあ、と切り出した。

「もう一個だ。これからは、俺も一緒に戦うから。協力しようぜ、一方通行」

「………」

一方通行は、二度ゆっくりと瞬きした。

今度は戸惑わない。当然だ、これこそ一体何度言われたことやら。

だが、以前のように苛立ち焦燥も反発も、湧き上がることはない。

また、言われるだろうかと思っていた。予想はしていて、そして、返答も用意している。

「わかった」

端的に言って、一方通行は深く頷く。

「え、マジで!?ホントか!?」

すると上条の方が、驚いたように飛び上がって、ガシッと肩を掴まれる。

「わかったって言ったな、絶対だぞ!?」

「しつけェな、わかったっつってンだろ。つか触ンな!」

全力でもがいて、ようやく肩の手が外れる。一方通行は呆れたように溜息をついた。

「言っておくがな、俺は頭がいい方だ」

「うん、知ってるけど」

「だから……同じ失敗は繰り返さねェ」

「失敗?」

「どンなに頑張っても努力しても、ダメな時はダメだ。そンなもンだ。だがそれで納得するわけには行かねェからな」

今までは、どんな大怪我をしても危機に陥っても、結局は自分で何とかして来た。

だが、今回ばかりは、自分一人では間違いなく死んでいた。

生理で能力が本調子じゃなくなるなど想像したこともなかったが、同じように予想外の事態が起こらないとは言い切れない。

それで一方通行が死ねば、打ち止めはどうなる。

番外個体も妹達も、守らなければならない者達はどうなってしまうのか。

意地もプライドも信念も、それより優先されるようなモノでは断じてない。

そんな簡単で当たり前のことに、今更気付かされた。


「俺には敵が多い。たまたま手を組んだ相手に裏を掻かれることだって考えられるが……ま、オマエにそンな脳はねェし」

「ひっでぇの」

気付かせてくれた少年は、言葉とは裏腹に、ひどく嬉しげに笑った。

夏の太陽のような笑顔に、一方通行は少し目を細める。

「また、世話ンなったな……上条。助かった」

どうしても真っ直ぐに見ることが出来なくて、アスファルトをジッと睨む。

「気にすんなよ、一方通行。……俺さ、前にヒーローなんて呼ぶなって言ったと思うけど、お前が頼れる存在でいたい」

力強い声に促されるように顔を上げれば、上条はただひたすら真摯に見据えて来る。

「そんな存在がお前にとってはヒーローだって言うなら、やっぱり俺はお前のヒーローでいたいんだ」

「……は、くっせェの。よく真顔でンなこと言えンな、オマエ」

薄く苦笑を浮かべれば、上条は少し驚いた顔をしてから、心外そうに胸を張った。

「夜中のテンションだからな!朝になったらジタバタする準備はできてます!」

「夜中テンション恐ろしィわ」

「茶化すなって。それにさ…お前だって、インデックスや打ち止めや、俺のヒーローだぜ」

「……っ!」

何だろう。今、言葉にしがたいような衝撃を受けた。

ひどく心外ではあるが、ずっとずっと胸の奥で自分の対極にいると思っていた少年が、渡してくれた言葉。

胸の奥がジンと痺れて、指先が痛んだ。

「俺はお前のヒーローでいたい。だから、お前も俺の…俺達のヒーローでいてくれよ」

上条は星のように輝く真っ黒な目で、静かに囁いた。

「約束だ」

約束。契約でも取引でもない、ひどく甘ったるい響き。

それを握り締めたような日に焼けた拳を、真っ直ぐに差し出される。

一方通行はわずかに逡巡して、それでも同じように拳を差し出した。

「一緒に頑張ろうぜ、一方通行」

「……、…ああ」

ゴツン、と合わさった拳から、何かが胸の奥まで響き渡る。








そんなこんなで今日はここまででー。
またそのうち。次はもうちょい早めに来れるようにするよ!

こんばんワニ
投下しにきましたー







PM 4:30 第七学区 セブンスミスト内


ワイワイ ガヤガヤ
コレカワイイー キャッキャッ
イラッシャイマセー


結標「ねぇ見てみて一方通行、これかわいくない?」ヒョイ

一方通行「そォですねェ」

結標「うーんこっちのストールのがいいかな?」

一方通行「そォですねェ」

結標「白いふわふわの欲しいなって思ってたんだけど、見てみるとピンクもかわいいかも!」

一方通行「そォですねェ」

結標「ね、どっちのが似合う?」

一方通行「そォですねェ」

結標「……もう!ちゃんと見てよ!!」プンスカ!

一方通行「そォですねェ」

結標「こっち見る!!」グキッ

一方通行「いッて!何すンだクソアマ」

結標「あ、この白いのあなたの方が似合うんじゃない?あは、ウサギみたい」クルクル

一方通行「いらねェっつの……」ハァ

店員(カップルかな?美男美女だなぁ…。彼氏さん口悪いけど)ニコニコ





結標「もー、ちょっとは一緒に楽しみなさいよ。何であなた連れて来たと思ってるの?」

一方通行「……荷物持ち?」

結標「あはは!ないない!あなた絶対私より力ないもの!」ケラケラ

一方通行「ブッ殺されたいンですかァ?」イラッ

結標「ほらームスッとしないで。あなたがぶっ倒れてる間、誰が代わりに戦ったと思ってるの」

一方通行「…………」ムー

結標「お礼代わりにショッピングに付き合うくらい、どうってことないでしょ」

一方通行「…………まァ。構わねェが」フイ

結標「ま、結局戦ったの一回だけだけど…。しかも潰れかけの魔術結社の突撃ですぐに身元も割れたし、
   今まで攻めてきた奴らとは別物っぽいけどね」

一方通行「……確かなのか」

結標「土御門が言ってたことだし、そうなんじゃない?あいつ最高にうさんくさいけど、持ってくる情報は確かだもの」

一方通行「あー、うさンくせェよな。うさンくささがグラサン掛けてるってかンじだわ」

結標「ぶは、言えてる!いっつも腹筋出してるしね、あれ何アピール?今冬なんですけど」

一方通行「オマエにだけは言われたくねェだろォよアイツも」

結標「今は普通の服着てるじゃないのよ!!このシックなニットワンピとタイツ&ブーティが目に入らぬか!」フンス

一方通行「はいはい似合ってますよォ」

結標「え……そぉ?」テレッ

一方通行「何照れてンだ気色悪ィな」

結標「すぐ人のことキモがるのやめてくれない!?」

一方通行「キモいもンはキモいっつの。だいたい俺と買い物って、何のつもりだ」


結標「え、何のつもりって、こないだ行こうねって言ってたじゃない」

一方通行「了承した覚えはありませンけどォ?」

結標「ここまで来といて何言ってるのかしら。まぁいいじゃない、私もこういうの久しぶりなの」

一方通行「………」

結標「なんだかんだで忙しいし、最近あんまり仲良い子いないのよ。色々秘密にしなきゃいけないことも多いし」

一方通行「ふゥン……」

結標「あら、この帽子あの子に似合いそう!」ヒョイ

一方通行「ン?」

結標「あ、えーっとね……そうだ、ここに…」ゴソゴソ

結標「ほら、この写真の右端の子。かわいいでしょ?」スッ

一方通行「……オマエの昔の仲間か」

結標「うん。あ…そうそう、まだお礼ちゃんと言ってなかったわよね」

一方通行「礼?」

結標「この子達と私が解放されたの、あなたが上層部に掛け合ってくれたからなんでしょ」

一方通行「そンな上等なもンじゃねェがな」

結標「ありがと」

一方通行「……別に、ついでだ」フイ

結標「ついででも何でも、とても…助かったわ」

一方通行「あァそォ……」

結標「そうよ」コクン「……正直、意外だった」


結標「『グループ』は仲間って感じじゃなかったし、たまたま目的を同じくした者同士が協力してただけでしょ。
   あなたのことも実力は認めてたけど正直ちょっと怖かったし。あんまり一緒にいたいとは思ってなかった」

一方通行「だろォな」

結標「でもそんなの、あなただって一緒でしょ?」

一方通行「別に。何かやらかす気ならまたぶン殴るだけだって言ったろ」

結標「そうだったわね、ふふ。……なのに、私や他の奴らのこと、助けてくれた。どうして?」ジッ

一方通行「ついでだ、っつったろォが」

結標「それだけ?」

一方通行「学園都市のクソ共への嫌がらせもあるな」

結標「他には?」

一方通行「それだけだ」

結標「そう。……まぁ、今日のところはこれくらいで勘弁してあげる」ウフフ

一方通行「なンだオマエまで……」ハァ

結標「あら、他の子にも同じこと言われたの?是非話してみたいわね。テーマはツンデレで」キリッ

一方通行「イミわかンね」

結標「あ、ちょっと私この帽子とマフラー買ってくるわ。待ってて」

一方通行「もォ三月になるぞ?」

結標「ああ、この子寒がりでね、いっつも春先まで帽子とマフラー手放さないのよ。でも春に重い色だと気分出ないでしょ?
   だから毎年この時期に明るい色の帽子買ってあげてるの」

一方通行「過保護な母親かオマエは」

結標「あなたには言われたくないわよ!さっきから子供用のマフラーとか手袋とか買っちゃって!」

一方通行「土産ねェとうるせェンだよ」


結標「うっそー、ちょっと楽しそうな顔してたくせにぃ」

一方通行「してませンー」

結標「してましたぁ。……あっ、このパーカー、あの子に似合うかも!ほら、こっちの真ん中の子よ」

一方通行「男にピンクはねェだろ」

結標「もう、この子性格は男らしいけど服はサーモンピンクとか結構好きなのよ。わかってないわねぇ」

一方通行「そりゃわかンねェよ」

結標「ふふ、そうよね。………ねぇ一方通行」

一方通行「何だよ」

結標「この子達は……私が何をしてきたか、しているか、知らないわ」

一方通行「………」

結標「でも危ない橋を渡ってるってところはわかるみたい。会う度にすごく心配してくれる」

一方通行「……へェ」

結標「あの子達を守るためなら何でもするって決めてるわ。でも…時々思うのよ。私が何をしてるか知られたら、
   どう思われるんだろう、って」

一方通行「………」

結標「軽蔑するかしら?怒るかしら。それとも、悲しむかしら……」

一方通行「………」

結標「ねぇ、どう思う、一方通行?」

一方通行「そりゃわかンねェよ」

結標「ふふ、ミもフタもないわねぇ」

一方通行「話したこともねェ奴らのことなンかわかるか」

結標「……それもそうね」フゥ

一方通行「………ただ」

結標「ん?」

一方通行「俺は……あのガキに全てを知られて泣かれても、嫌われても、後悔はしねェ」

結標「後悔……」

一方通行「あれが無事なら他のことなンていい。オマエもそォ思え、なンて言うつもりはねェが」

結標「一方通行……」ポカーン

一方通行「……何だよそのアホ面は」

結標「いや…まさかそんな素直に元気付けてくれるなんて思ってもみなかったっていうか…?」


一方通行「げ、げンきづけ…?誰がだよバカですかァ?」

結標「前から思ってたけどあなたって割と押しに弱いわよね」

一方通行「はいィ?」

結標「好意を向けられるとムゲに出来ないタイプでしょ?」

一方通行「寝言は寝て言え」

結標「……ありがと、一方通行。ちょっと楽になったわ」ニコ

一方通行「……ふン」

結標「あー、なんかスッキリしたな!こういうこと話せる相手なんか今までいなかったから、新鮮よ」

一方通行「あァそォ」

結標「でもね、一方通行。一つだけ言っておくけど、あなたがその子の身体だけじゃなくて心も守りたいのなら、
   そういう考えは改めた方がいいんじゃないかしら」

一方通行「あ?」

結標「嫌われてもいいなんてあの子達に言われたら、私なら悲しくて死んじゃうわよ」

一方通行「………」

結標「私も同じように思うのに、他の人が言っているのを聞いたら、それはダメって思うのよ。変よね。
   私達はやってきたことの報いを受ける時がいずれ来るかもしれないけれど、それは……」

一方通行「オマエがよくて俺はダメってか。誰が納得すンだそれ」

結標「そうね。そうよね……」フフ

一方通行「……チッ」

結標「?」

一方通行「ンなことわかってンだよ………クソッタレ」
















PM 5:25 ミサカネットワーク内


1.セブンスミストでゲコ太のある店たのむ(62)

2.今日の上条314(312)

3.【一方通行(ロリ)ヤバイ】どうすればあの白モヤシを幼女の頃に戻せるか考えるスレ(123)

4.【ミサカによる】↑このスレの変態どもをどうにかするスレ【ミサカのための自治】(218)


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1.セブンスミストでゲコ太のある店たのむ(102)
         

82 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 はー、ゲコ太腹巻きかわいい!
 ってミサカははミサカは戦利品に大満足!!

83 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:MisakaXXXXX

 ないわー>腹巻き

84 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 むっ!おなか痛いのには腹巻きって多数決で出たでしょ!?
 ってミサカはミサカはこれであの人もぐっすり眠れることを期待してみたり!

 だいだい番外個体だってゲコ太ストラップ買ってたよね

85 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:MisakaXXXXX

 ちょっ、最終信号!!!


86 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

 まぁ、ゲコ太はいいものだよな

87 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 そんな顔してゲコ太好きとかウケるwwww
 俺みたくゲコ太の似合う可憐な顔になって出直せよww

88 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:MisakaXXXXX

 エブリタイムレイプ目に言われたくないんだけどぉ☆

89 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 よーし表出ろ(ガタッ

90 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:MisakaXXXXX

 そろそろ決着をつける時が来たみたいだよね(ガタッ

91 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600

 こちらスネーク
 上位個体に報告あり

 目標現在イーストスクエア二番街付近で買い物中
 上位個体の予想通り、女子高生らしき連れあり

 http://www.misaloda/accelarater-11232.jpg

92 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 あっ17600号、ありがとう!

93 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 ……誰だ?この女

94 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:MisakaXXXXX

 ミサカ知らないよこんな女!!!最終信号は!?

95 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 うーん…ってミサカはミサカは首を傾げてみたり

 多分、ムスジメさんってひとだと思うよってミサカはあの人からの情報を公開してみる!

96 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 美人だなー
 ダイエット方法とか聞きたい

97 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600

 なんか女物の服の前で口論?してる

 http://www.misaloda/accelarater-11233.jpg


99 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 いつも以上にしかめっ面に見えるけど>>97

100 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

 100!
 あーセロリたん100回ペロペロしたあbbb

101 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka18271

 空気嫁変態wwww

102 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 あの人は気を許してないとケンカなんかしないもん

103 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 それもそうだな…
 と、友達か?学校の同級生とか?

104 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12011

 友達イナイの代名詞だった一方通行に友達…だと…?

105 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:MisakaXXXXX

 ふ……ふーーーーん

106 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 ねぇねぇ、もっと近づいてよ17600号
 ってミサカはミサカは更なる情報を要求してみたり!

107 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600

 了解

108 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600






109 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13001

 どうしたwww>>108


110 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600

 すまん、ちょっと動揺した

 http://www.misaloda/accelarater-11234.jpg

111 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

 !!!!!!!!!>>110






 あの人が女の子みたい…だと……?

 ってミサカはミサカは光速で保存する!!!

112 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

 うおおおおおおおお!!!!!!!!>>110
 真っ白カーディガンと黒ショートパンツかわいいいいいい!!!!
 まっちろいスベスベふとももペロペロペロペロペロ

113 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12803

 ちょwwww何が起こったww>>110

114 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka15102

 >>110
>>110
>>110

115 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 ほっそいなぁ一方通行
 うらやましす

116 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600

         ,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
         (.___,,,... -ァァフ|          あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
          |i i|    }! }} //|
         |l、{   j} /,,ィ//|       『一方通行がいつもの服でJKっぽいのと口論してる
        i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ        思ったらいつのまにか服が女物に変わっていた』
        |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |
       /´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人        な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
     /'   ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ        おれも何が起こったのかわからなかった
    ,゙  / )ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉
     |/_/  ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ        頭がどうにかなりそうだった…
    // 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
   /'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐  \    イカサマだとか運だとか

   / //   广¨´  /'   /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ    そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
  ノ ' /  ノ:::::`ー-、___/::::://       ヽ  }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::...       イ  もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

 
117 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14510

 一方通行さんが女子の格好をしていると聞いて!!!
 うおおおおお!!!!!!!!!
 カッコイイすてきィイイイイイ!!!!!!!!

118 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19102

 !?!?!?!?!?>>110



119 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17661

 意外と似合うなwwww
 だがそのしかめっ面どうにかしろww

120 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka11023

 うおおおおお!?!?
 すごい違和感ある………………>>110

 いや違う これはそういうアレではなく

121 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka15291

 そりゃ能力使っただろうからイカサマでも運でもねぇだろwwwww>>116

122 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10537

 様式美くらい解せよ>>121

123 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12711

 なんだなんだ?Σ(゚Д゚;≡;゚д゚) ちょwwwwこれwww


         ・
         ・
         ・


995 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17110

 何の騒ぎだ
 あちこちにこのスレ貼られてんだが

 ってwww一方通行wwが女装wwww
 いや女だから女装じゃねぇけどww
 
996 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka11120

 今北産業

997 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

 一方通行がショートパンツ&ロングブーツ(黒)
 ロングカーデ(白)
 ハイネックニット(紫)>>110

998 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka11421

 !?!?!?!?!?!
 どういうことだってばよ



 どういうことだってばよ

999 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13110

 何が起こっているんです?

1000 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

 1000ならセロリたんのかわいさで世界が崩壊する




















PM 5:49 第七学区 セブンスミスト内 イーストモール二番街


一方通行「何しやがンだオマエェええ……」ゲンナリ

結標「あははは!やっぱ似合うじゃない!!だから言ったでしょ!」

店員「お似合いですお客様!」キリッ

一方通行「能力で無理矢理着替えさせるとか……追い剥ぎですかァ?」

結標「追い剥ぎってww何その時代劇みたいなwww」

一方通行「最近家で芳川が毎日ずーっと見てンだわ」

結標「あっ、ねぇこのポンチョとホットパンツもいいんじゃない?」ヒュンッ

一方通行「げっ」パッ

結標「やっだぁ、かわいい~!!」ケラケラ

一方通行「ふざけンなコラ」

結標「まぁまぁ、更衣室いらずのあわきん☆ショッピングに任せなさいよ」バチコーン☆

一方通行「」イラッ

店員「お似合いですぅ!お客様すっごく細いですから、何でもお似合いだと思いますよ!」フンス

結標「そうですよね、そう思いますよね?どれがいいと思います?」ワクワク


店員「うーん迷っちゃいますねぇ、でも今はやっぱりショートパンツがたくさん出てますし、
   こちらのお客様はとてもお足がおキレイなので、こういうツヤ感のあるお素材の……」キリッ

一方通行「……ヘクシッ」

一方通行「う~~…寒ッ…」ブルブルブル

結標「何今のかわいいくしゃみww」

一方通行「足がすっげスースーする…。服戻せクソアマ」

結標「えー、じゃーこっちの甘ロリ系ロングワンピは?」

一方通行「イヤだ。趣味じゃねェし」ツーン

結標「いいじゃない、ヒラヒラふわふわで!かわいいと思うんだけどなぁ」

一方通行「オマエなァ、冷静に俺の顔見ろよ。雰囲気合ってねェにもほどがあンだろ」

結標「何よつまんないわねぇ。そこはもっと恥じらったりしなさいよ」

一方通行「俺に何を求めてンだオマエは」

結標「男装女子にいろんなかわいい服を着せかえとかいいわよね!なんかこう、嬉し恥ずかし的な!
   初めての装いに戸惑いを隠せない的な!」キラキラ

一方通行「理解不能だわ……クシッ」ブルブル「あー無理。スースーする」

結標「仕方ないわねぇ、じゃあこのニットワンピどう?」ヒュンッ

一方通行「結局ミニスカじゃねェかァあああ!!!」プンスカ!!

結標「ちょっとおそろい気味☆」テヘペロ

一方通行「うっぜェ……早死にしろ…」クシュッ

結標「あら、あんまり怒らないのね」

一方通行「寒くて怒りが盛り上がらねェ……」

結標「ここ結構暖房効いてるじゃないの」


一方通行「アーー…何か、経験したことねェこのスースー感がな……つゥか何で女の服ってこンな丈短ェの?
      この寒いのにバカなの?死ぬの?」

結標「オシャレは我慢よ」キリッ

一方通行「女って大変だなァ……」トオイメ

結標「あなたも女でしょ!あなたまさか、寒いから男の子みたいな格好なわけじゃないわよね…?」

一方通行「ンなワケあるか」

結標「そうよね、レディースにもパンツとかあるし」ホッ

一方通行「……ま、昔の惰性みてェなもンだ」ボソッ

結標「え、何?聞こえなかった」

一方通行「……何でもねェよ。単に落ち着かねェの。いいから服返せ。着替えてくる」

結標「イヤよ、もうちょっと色んな服着なさいよ!!」ババーン

一方通行「えェーー……?」ドンビキ

結標「やっぱり服変わると印象も違うわよねぇ、それでちょっと目つき柔らかくしたら女の子にしか見えないわよ!
   細いし色白いし何でも、あ、こっちも着てみてよ!」キラキラ

一方通行「俺着せ替え人形じゃないンですけどォ…寒ィし……」ゲンナリ

結標「しょうがない子ね。じゃあこっちのクロップドパンツにしてあげるわよ。色はアイボリーかな、ブーツはショートにしてぇ……」

店員「お客様はユニセックスなファッションがお好みなのでしょうか?それではこちらのホワイトのカットソーとシャンプレー素材のトレンチコートはいかがです?」キリッ

結標「へー、きれいなネイビーね。いいんじゃない?それで」ヒュンッ

一方通行「……もォこれでいいわ。これくれ」ハァ

店員「お買い上げありがとうございます!タグお切りしましょうか?」キリッ

一方通行「どォも……」

結標「ふーん、適当に選んだけど似合ってるわよ。ねぇねぇ、髪の毛ハーフアップにしてもいい?」ワクワク

一方通行「もォ好きにしろよ……」グッタリ

結標「うわ、あなた髪すっごいサラサラね!何これ憎い…ッ!」サラサラ

一方通行「撫で回すな鬱陶しィ」チッ

結標「と言いつつされるがままなのであった。……できた!うんうん!!いいわよ!」マンゾクゲ

店員「お似合いです、お客様!!!」フンス

一方通行「そりゃどォもォ………」ハァー…














PM 6:21 第七学区 セブンスミスト内 フードコート


ザワザワ ガヤガヤ

ウオ アノフタリ、レベルタケーナ!
アノオネーサン、スタイルヨスギ…
アッチノシロイホウ マジコノミ フマレタイ
エ、アノヒト オトコノヒトデショ?
バカ、オンナダロ!
チガウワヨ、オトコノヒトヨー!



一方通行「あァー……疲れた」グッタリ

結標「体力ないわねあなた。はい、コーヒー」コトン

一方通行「ン……」ズズー

結標「それにしてもそういう格好だと、ホントに男か女かわからないわねぇ」クスクス

一方通行「勝手に着せ替えしといて文句言ってンじゃねェよ」

結標「文句じゃないわ、似合うって言ってるのに」

一方通行「あァそォ」ズズー

結標「ねぇねぇ、貰ってきた新作カタログ見よ?」ゴソゴソ

一方通行「いらね。いつも買ってるとこのが家にあるし」

結標「いつもって、そういやあの服ってどこで買って……あれ?あら?」ゴソゴソ


一方通行「どォした」

結標「あーー……。しまった。一個買い忘れ。しょうがないな、後で買いに行くか」

一方通行「あンだけ買っといてまだ買うのかよ…」

結標「自分のじゃないわよ。お世話になってる人がいるから、ちょっとしたお礼をね」

一方通行「礼?」

結標「うん。居候させてもらってるし、こないだも色々助けてもらったばっかりだし」

一方通行「助け……」

結標「感謝を形にして渡したいなって。そういうの常識でしょ?」

一方通行「常識…」ピク

結標「?何よ、どうかした?」

一方通行「…………」

結標「一方通行?」

一方通行「世話になったら……礼はするもンか」

結標「そりゃそうでしょ。言葉もとっても大事だけど、何かあげることで気持ちが伝わると思うわよ」

一方通行「…………」ウーン



結標「……あっ、わかった!お礼ってアレでしょ、噂の上条当麻くんにでしょ!?」ピカーン!!

一方通行「」ガタッ ゴトンッ…



店員「大丈夫ですよ、今代わりをお持ちしますね~」フキフキ サッサ

店員「お待たせしました、ごゆっくりどぉぞ~」コトン

一方通行「………どォも」


結標「図星?図星でしょ?こないだあなたが入院してたのと関係あるんでしょ?」ワクワクテカテカ

一方通行「オマエやっぱりテレパス能力もあンだろ?」ドンビキ

結標「いやね、ただの女の勘よ~」

結標(そうだったら面白いなって思っただけなんだけど、こんなに素直に白状するなんてねぇ)クスクス

結標「えーと、話を整理すると、あなたのこと助けたり胸触ったり追いかけ回したりしてる人ってことでいいの?好きなの?」キラキラ

一方通行「何だそのまとめ方……」

結標「え、私が聞いたの繋げるとこうなるんだもん。で、好きなの?」キラッキラッ

一方通行「別に」

結標「じゃあ嫌いなの?」

一方通行「……別に」フイ

結標「好きなんですねわかります!ねぇねぇ、それなら良い方法があるわよ!!」

一方通行「良い方法?」

結標「やっぱり女子が男子にお礼っていえば日本古来よりアレでしょ、『ありがと!』とか言いながらほっぺたにチュッ★みたいな!」キリッ

一方通行「ないわァ……」ドンビキ

結標「な、何よ、マンガとかでよくあるじゃないの!」

一方通行「そォなのか?俺フィクション見ねェし」

結標「えっ、全然?マンガも小説も?映画とかも?」

一方通行「ン。他人の妄想見て何が楽しいンだ?」??

結標「oh……」

一方通行「何アタマ抱えてンだよ」

結標「何でもないわ……。フィクションも悪くないと思うけれど」

一方通行「時間の無駄だろ」

結標「そんなことないって!いいじゃないのほっぺにチュッ★とか初々しいじゃないの!」カッ


一方通行「え、そこに戻ンの?」ドンビキ

結標「そこまで引くこと!?」ガビーン

一方通行「いやァ、自意識過剰じゃねェ?だいたいキスが他人への礼になるって認識自体、どンだけ自分に自信あンだよ」

結標「あなた意外とネガティブねぇ」

一方通行「ネガポジの問題か?そンなの、惚れてる女以外にされて嬉しいワケねェだろ」

結標「そして意外と乙女チックねぇ」

一方通行「誰がだクソ野郎」

結標「わかってないわね一方通行、私はかわいい(男の)子にされたら最高に嬉しいわよ!?」カッ!!

一方通行「オマエがされる方なのかよ!」

結標「正直されたい!!!」カカッ!!





上条「おー、一方通行?」





一方通行「」ガタッ ゴトンッ…

店員「大丈夫ですよ、今代わりをお持ちしますね~」フキフキ サッサ

店員「お待たせしました、ごゆっくりどぉぞ~」コトン

一方通行「………どォも」

上条「何こぼしてんだよ、大丈夫か?」スタスタ

一方通行「オマエはまァた偶然とか言いやがるつもりですかァ?」イラッ

上条「はは。打ち止めから『至急セブンスミストに来られたし!!』って十通くらいメール来てさ」



結標(ちょ、さてはこれがwww噂のww盛wりww上がって参りましたwwwww)ワクテカ!!



今日はここまでで。
あわきんとのショッピング編です。そんではまたそのうちに。

1の書く百合子達が好きです     


http://wktk.vip2ch.com/dl.php?f=vipper26645.jpg
杖ないとか下手とか他にも色々おかしいとことかあるけど
 まあ、応援ということで許してください……

投下しに来ました\(^o^)/

>>180
おおおお ありがとうございます!
ちょ ちゃんと>>156辺りの参考にしてくれたんだね感動した
ホントありがとう!












PM 6:42 第七学区 セブンスミスト内 フードコート


上条「打ち止めのメールには『あの人の滅多にない姿が見られるよ!!』ってあったんだけど、何かと思えば……」ジーーーッ

一方通行「……何か文句でもあンのかよ」

上条「いや…………」

上条(何かいつもと違うな…あ、髪型違うのか。髪型でずいぶん雰囲気変わるんだな)

上条(服も…男が着てても違和感ねぇやつだけど、女の子でもこういう格好の子っているし)

上条(つか、いつもの格好知ってると、女の子にしか見えないっつうか…)

上条(あ……足首見えてる。やっぱ、細いんだな……)カァッ

上条(あれ?なんか顔熱い。なんだこれ。赤くなったりしてねぇよな…?)

上条「………………珍しいかんじの服着てるな。買い物だったのか?」

一方通行「……何なンだよその間は。変か?」ジッ

上条「(ドキ!!)いや、全然!?よくお似合いですのことよ!?!?」

一方通行「……?」

一方通行(何だこの反応、どっかおかしいか?いや別にさっき鏡で見た時にはそれほど奇異でもなかったはずだが)


一方通行(似合わないから、というのが理由じゃないなら、こいつのこの微妙な面は何だ)

一方通行(あ)ハッ


結標『本当、その格好だと男にも女にも見えるわよね』


一方通行(もしかして、いや、まさか……気がついたのか、俺が)ギク

一方通行(落ち着け、そう簡単に人の先入観や思い込みは覆されるもンじゃねェ)

一方通行(そうそうバレは……。って、アレ?何で俺、こいつに女だってバレたくないンだっけ……)


一方通行「………………」

上条「………………」

結標(何かしらこの空気)ワクワク


結標「(コホン)一方通行、こちらお知り合い?」

一方通行「あ、あァ……。上条って言って、俺の……、」

一方通行(友達?いや違ェ、そンな柄じゃねェ。仲間?バカか、ますます柄じゃねェわ。知り合い……そォだ、それだ)

一方通行「知り合」

上条「どうも、上条当麻です。一方通行のヒーローです」キリッ

一方通行「」

結標「」

上条「……あれ?インデックスと打ち止めにはバカ受けだったんだけどな~」ハハハ

一方通行「どォいう判断だ………」ガクリ


上条「何も頭抱えなくてもよくね?あーすいません、初対面なのに変なこと言って」

一方通行「謝るようなこと最初から言うんじゃねェ死ね」

上条「ひどい!」

結標「……ふぅん。あなたが上条当麻くんか。思ったより普通っていうか……頭悪そうね」クス

結標(でも、どこかで見たことある気がするわね)??

上条「えっ、いやぁ……はは」(初対面で罵倒された!?)ガビーン

一方通行「おい結標」

結標「ん?」

一方通行「確かにコイツはバカだが、オマエに言われる筋合いはねェよ」ギロ

上条「………………」ポカン

結標「………………」ポカーン

一方通行「……ンだよ」チッ

結標(一方通行が…っ、あの一方通行が他人を悪く言われて怒ってる…だと……!!)ブルブル

上条(今のって、もしかして庇ってくれたのか?)

結標「あーしまった!」ダンッ!!

上条「」ビクッ

一方通行「」ビクッ

結標「動画撮っときゃよかった!こんなの土御門と海原に話しても信じてもらえるわけないし!!」ダンダン

一方通行「オマエはあのクソガキどもか!証拠撮ってまで人を笑いもンにすンじゃねェ!!」

結標「違うわよ、笑いモノじゃないわよ?あなたの色々な一面を皆で共有したいなって……」プッ

一方通行「それを笑いモノっつゥんだよ!」


上条「あのー、土御門のお知り合いですか?」オズオズ

結標「ああ、ごめんなさいね、失礼なことを言って。ちょっとこの人の反応見たかっただけなの」

上条「それは別に、本当のことですし」ハハ

結標「私は結標淡希。一方通行や土御門とは……」チラ

一方通行「あァ、いい。そいつは知ってる」

結標(へェ……)

結標「私と一方通行、土御門ともう一人で、以前は暗部の仕事をこなしていたのよ」

上条「え?」

結標「ま、正確には今は暗部じゃないんだけどね。……あら?今思い出したけれど、あなた前に救急車呼んでくれた人じゃない?」ハッ

上条「えっ、あ……!!そういや、あの時の顔面血塗れの!?あっ、すっ、すいません……」

一方通行「?」

結標「ふふ、いいのよ。その節はありがとう」ニコ

上条「いえ、全然……!でも、つまり『残骸』の運び屋だったってことは」

結標「ああ、心配しないで。もう『樹形図の設計者』を復活させようなんて気はサラサラないから。この人に文字通りブッ壊されちゃったし」クス

上条「一方通行に?」チラ

一方通行「おい結標、余計なこと言うな」

結標「ここまで話したんだから別に構わないでしょ。そ、あの時私と『残骸』を思い切り殴り飛ばしてくれちゃったのがこの人ってワケ」

上条「え、マジですか!?誰が『残骸』壊してくれたんだろって、すごい疑問だったんですけど!」

結標「知らなかったの?」

上条「知らなかったですよ!一方通行、何で言わなかったんだよ!?考えてみりゃあの容赦ない顔面パンチってお前っぽいけれども!」

一方通行「はァ?オマエもアレ追ってたなンて今知ったし」

結標(何……この言い草で一方通行が怒らない…だと)

上条「う……でも、でもさ、お前が御坂妹に連絡取ったりしてれば」

一方通行「何でそンなことしなきゃいけないンですかァ」

上条「だって俺は……、そしたらもっと早くお前と再会出来ただろ」

一方通行「は?」


上条「俺は、もっとお前と早く会えてたらよかったと思う」

一方通行「……な………ンで」

上条「わかんねぇけど。そう思ったんだよ、今」ニコ

結標(うワオ、熱烈!!)ワクテカ(うんうん確かに、これくらい行かないとこの色々自覚の足らない子には伝わらないわよねぇ)

一方通行「……意味わかンねェ」

結標(これくらい行っても伝わってないしねぇ)ウン

結標(ていうか上条くんもわかんないって何?www自覚ないの?wwウケるwwwさっき赤くなったじゃないww)ブルブル

結標(まぁ、まだハッキリした形になってないのかしら)

結標「……かわいいわね」クス

上条「え?一方通行ですか?」

一方通行「何言ってンだコラ」

結標「あなたたち二人が、よ」

上条「?」

一方通行「はァ……?」

結標「気にしないで、こっちの話」クスクス

一方通行「うっぜェ。もォいいだろ、俺は帰るぜ」ガタッ






「あーなたーー!やっと見つけたー!ってミサカはミサカは背中にダーイブ!!」ドシーン!!



一方通行「ぐはっ……」ヨロッ

上条「うわ、一方通行!」バッ ガシッ



フニ



上条「!!!!!!!」




打ち止め(あらら~っ、てミサカはミサカはまたしてもこの人の胸を鷲掴むヒーローさんを見上げてみる)

結標(ちょwwwモロにww)

結標(あー、前に触られたって言ってた時もこんなかんじだったのかしら?バカね、わからないわけないじゃないwwwっていうか上条くんの顔ww)


上条(うわああああああ!!!!!!!!!!!てのひらにやわらかいふにっとふにゃっと!!!!!)ドギャーーン!!


上条「ごっ……!!!」ハッ


上条(待て待て、待つんだ上条当麻!!ここで慌てて飛びのいたら一方通行が女だって俺が知ってること、こいつにバレちまう!!!)

上条(初潮ん時も隠したがってたし、やっぱバレたくないってことだよな、俺がずっと知ってたってわかったら傷ついちまうよな!?!?)

上条(そ……そうだ、前もちょっと心配なくらい全然怒らなかったし、ふ、普通に、普通に…っ!!!)


上条(普通ってなんだっけぇええええ!?!?!)ピシャーン!!


上条(ああやばい、手がやわらか、あれ俺おかしくね、頭割れそうでふにってしてあったか、いやいやいやいやうわああああ!!!)グルグル

結標(そろそろ離せよ)

打ち止め(ヒーローさん長考入っちゃってない?ってミサカはミサカはそろそろ離せよとツッコミたい)

結標(まぁどうせ一方通行は気にしないんだろうけど)

打ち止め(まぁ、どうせこの人は気にしないだろうけど、ってミサカはミサカは前回のことを思い出して内心溜息をついてみたり)








一方通行「何すンだっ……」ベチンッ





上条「えっ」

打ち止め「えっ」

結標「えっ」



一方通行「………あ…?」パチクリ



上条「(ハッ)あっ…!!ご、ごめん、な!!!」サッ

一方通行「あ……あァ…別に……」フイ

一方通行(アレ?何で今手が出たンだ……?)??

打ち止め(この人が怒った……だと…?ってミサカはミサカはネットワークに超速報を書き込んでみたり!!!)カッ

結標(つまり……どういうことだってばよ?)

一方通行「気安く触ンじゃねェ、って何度言えばわかりやがるこの三下がァ」

一方通行(……あァそォそォそれ、それだわ。うン、触られンの嫌いだし)ウン


上条「ご……ごめんなー…」バックンバックン

上条(ぅうううやべぇええ心臓が、まだ手に感触が残っ…!!ああごめんなさい、違うんだぁああ!!!)バックンバックン

打ち止め「ヒーローさん?ってミサカはミサカはじっと手を見るあなたに声をかけてみる」ポン

上条「ひゃい!?!?違いますよ!?」ビクーン

打ち止め「な、何が?ってミサカはミサカはビックリ仰天」

上条「な、な、な、なにって……」チラッ

一方通行「……っ」ピク

上条「い、いや、えーと……」

上条(その不審そうな顔ヤメテ違うんだ、わざとじゃなくて……っ、でも俺、こいつの胸、触っちゃったんだよな、こいつの…!!)カァアアアアア

上条(ぜ、全然ないように見えんのになんかすげぇやわ、やわらか、うぉおおおやめろぉお!感触思い出すのダメぇえええ!!!)バクバクバク

一方通行「おい」

上条「へぁ!?!?」ビクーンッ!!

一方通行「どォかしたのかよ」ジッ

上条「いやいやいやいや!?どうもしてませんのことよ!?!?」

上条(やば、やばい…っ顔見てんのに、どうしても視線が下がっ…あ、鎖骨細、じゃなくてぇええ!!!)ブワワワ

上条「あああそうそう!そう、インデックスに夕飯作らないとって思い出して!?」

一方通行「何で疑問形なンだ?」

上条(うわぁああ見るな!!!お、おまえの感触で頭はちきれそうな俺をそんなまっすぐ見ないでぇえええ!!!)

上条「いいいやほら、インデックスご飯やらないと噛み付くからすっげぇ痛ぇからさ、しょうがないていうか、あっせっかく会えたのにごめんな打ち止め!!」ワシワシ

打ち止め「う、うん??ってミサカはミサカは撫でられるがままに見上げてみたり」??

上条(あ、やばいつい触った方の手で撫でちまった、感触が消え……)

上条「って違ぇえええええ!!!」ブンブン


打ち止め「な、何が!?!?ってミサカはミサカは!?」ビクッ

上条「違うんだ、違うんだよぉおお俺はそんな卑怯者じゃねぇえええええんだよぉおおお!!!!」ダッ

打ち止め「あっ」

一方通行「おい!?」



チガウンダァアアアアアア……



打ち止め「行っちゃった……結局何が違うんだろう?ってミサカはミサカはすごい勢いで遠ざかる背中を見ながら首を傾げてみたり」??

一方通行「何だありゃ」??

結標「(プッ)青少年には色々あるんじゃないの」クスクス

打ち止め「あっそういえばこないだシスターさんとの夕飯の約束破って噛み付かれて、ものすごく痛かったって聞いたかも。思いだしてすっごい焦っちゃったのかな」

一方通行「あー、確かに今から用意してたら遅くなンだろォな」フム

打ち止め「約束破るような卑怯者じゃないって意味かも?ってミサカはミサカは予想してみる」

一方通行「ふゥン……ま、そンなところか」

結標「全然違うところだと思うけど」ボソッ

一方通行「何か言ったか?」

結標「いーえぇ~」

結標(前から思ってたけど一方通行ってちょっと天然入ってるわよね)





一方通行「ところでよォ……」ギロリ

打ち止め「えっ……?ってミサカはミサカは不穏な気配を察知してみる」

一方通行「人のプライバシーを勝手に他人に垂れ流すなって言ったよなァ…?」

打ち止め「ええ…とぉ…それはぁ…ってミサカは逃げ道を横目で探してみたり!!」キョロキョロ

一方通行「約束しただろォが」

打ち止め「うぅ……!!」

一方通行「約束守れない子にはお仕置きが待っていまァす」スッ

打ち止め「(ビクッ)きゃー!おしりペンペンはもうイヤー!ってミサカはミサカは涙目でおしりをガードしてみる!!」

一方通行「バァカ」ビシッ!!

打ち止め「あいたぁ!?ってミサカはミサカはまさかの特大チョップに…っ!!」

一方通行「アホ、こンな公衆の面前でそンなことするか。常識を考えろ」フン

打ち止め「うぅ……!約束破ったミサカのこと、そんなに気遣ってくれるなんて…っ」ブルブル



ゴメンナサァアアイ!!! ッテミサカハー!!
ウルセェゾ、クソガキ



結標(なるほどこのようにすれば幼い子に慕われるのね……)フムフム メモメモ












というかんじで次回に続くのであった。
また見てね\(^o^)/

前回のあらすじ

▼ かみじょう は おっぱいをもんだ

▼ あくせられーた は ようすをみている…

▼ かみじょう は にげだした!

というわけで投下します。



















PM 7:15 第七学区 セブンスミスト内 フードコート


ワイワイ ガヤガヤ


結標「ねぇ、そろそろ移動しない?モールの中って言ってもここ外だし、屋根もないし。ちょっと寒いのよね」

一方通行「あァ」

結標「向こうのレストラン街で夕飯食べない?」

打ち止め「ミサカはハンバーグ!!ってミサカはミサカは早速要望を表明してみたり!」

一方通行「構わねェが……おい、オマエちゃンと黄泉川に言って来たンだろうな?」

打ち止め「うん!ってミサカはミサカは勢いよく頷いてみる」コクン

一方通行「……つゥか、あンま一人でウロつくなっつってンだろ」

打ち止め「一人じゃないよ?ってミサカはミサカは途中まで番外個体が一緒だったことを教えてみたり」

一方通行「番外個体?どォしたンだよアイツは」


打ち止め「ん?『ミサカはあんなモヤシに会いたくて付いてきたんじゃないし』とか言ってどっか行っちゃった」

一方通行「しょォがねェな……。ちゃンと飯食うよォ言っとけ。アイツすぐ飯抜くからな」

結標「親御さんかwww」

打ち止め「『うるさいな!最終信号だけじゃなくてこのミサカにも親御さんぶるのやめてよね!』だって」

結標「反抗期の女子中学生みたいねぇ」

一方通行「うるせェぞ結標。おい打ち止め、オマエみてェなめンどくせェ娘持った覚えはありませン、って言っとけ」

打ち止め「なんかちょっとお下品な単語連発して怒ってるよ、ってミサカはミサカはオブラートに包んで報告!」

一方通行「よォし帰ってきたらデコピン」

結標「あ、ねぇ一方通行と……打ち止めちゃん?そこのイタリアンでいい?」

打ち止め「うん!ミサカは『打ち止め』だよ!ってミサカはミサカは礼儀正しく自己を紹介してみたり!」ニコ

結標「……ねぇ、あなた良く見たらその顔……」


10032号「ミサカはこのトマトとアンチョビのパスタが食べたいです、とミサカは意見表明します」


一方通行「うォ、なンだオマエ急に出て来ンんなよ」

打ち止め「あー、10032号だー!一緒にご飯食べる?ってミサカはミサカは誘ってみたり!」

10032号「まぁ上位個体がそれほどにしつこく誘うなら、それもやぶさかではありません。とミサカは肩を竦めます」


結標「み、御坂美琴……!?」ピクッ


10032号「お姉様をご存知なのですか?とミサカは初対面のJKに首を傾げます」

結標「お姉様……?ああ、そうか。あなた方が例の実験の『妹達』と言うわけね」ポム


打ち止め「その通り、ってミサカはミサカはすごく察しのいいあなたを驚いて見上げてみる。この人のお友達……?
      でいいの?」

結標「……ええ、そうよ。友達なの。自己紹介が遅れてごめんなさいね。結標淡希よ」ニコ

一方通行「おい。何でオマエが『妹達』のことを知ってやがる」ギロ

結標「私はあの『窓の無いビル』の案内人だったんだから、知っててもおかしくないでしょ」

一方通行「………」スッ

10032号「オイ邪魔だぞ白モヤシ、とミサカは幼女とミサカの前に立ちはだかる背中を困惑気味に眺めます」

結標「そんなに睨まないでよ、怖いわねぇ。心配しなくても元々この子達には何の害意もないわよ。私には関係ないもの」

一方通行「………」チッ

結標「無言で舌打ちは柄悪過ぎるから!……けど驚いたわ。あなた守りたい人を背中に庇うと、そんな顔するのね」クス

打ち止め「え、どれどれ?ってミサカはミサカは前に回りこんでみたり!!けど時既に遅し!?」タタタ

10032号「え、どれどれ?とミサカも追いますが、ええ、確かに普段通りの仏頂面ですね」??

一方通行「うるせェよクソガキども」

結標「それにしても、まさかあなたの守りたいものが『妹達』だったなんてねぇ……」フゥ

一方通行「何か文句でもあンのか」

結標「私には特にないけれど。……御坂美琴はこのことを知っているの?」

一方通行「!」ピク

打ち止め「む、ムスジメさん!ってミサカはミサカは慌てて裾を引っ張ってみる!!」グイグイ


10032号「……知るわけがありません、とミサカは無言の一方通行の代わりに真顔で答えます」

結標「やっぱりそうなの……。まぁ、いいわ。私には責める理由も義理もないし」

一方通行「………」

打ち止め「それなら何でそんなこと聞くの!?ってミサカはミサカは!」

結標「だってあの子、すごくいい子じゃない。だからちょっと心配になって」

一方通行「………」

結標「自分のクローンを助けるために、そして怪我をしてしまった後輩のために、すごく怒ってたもの。あんな風に他人の
   ために本気で怒ることが出来る子なんて、私にとっては結構新鮮だったの」クス

一方通行「……オマエ、アイツと…」

結標「ええ、戦ったわよ。ま、私は逃げちゃったけど、すごくまっすぐで強い目をしていたから、印象に残ってるわ」

一方通行「………」

打ち止め「………」

10032号「お姉様……。とミサカは小さく呟きます」

結標(あら?思った以上に重苦しい雰囲気……)アセッ

結標「あ、あ~~、ご飯食べよっか!」パン

一方通行「自分で話振っといて気マズそォにしてンじゃねェよ……」ハァ

打ち止め「……ご飯食べよ?ってミサカはミサカは、あなたの手を力一杯握ってみる…」ギュッ

一方通行「……ン」

結標(ず、随分萎れた顔するのねぇ……。あーでも軽率だったわ、失敗したー…)フゥ





打ち止め「ところで10032号、そのクレープどうするの?ってミサカはミサカは尋ねてみたり」

一方通行「あァ……?よく見りゃまだ口付けてもねェし。それ食うなら飯入らねェだろ」

10032号「ん、え?あー…こ、これはだな、とミサカはぶっちゃけいつ切り出そうかめっちゃ悩んでたことを押し隠します」

一方通行「隠せてねェから」

打ち止め「ここまで様式美、ってミサカはミサカはまとめてみる!」フンス

一方通行「ソレ買ったばっかだったか?店員に言や食後まで冷蔵庫にでも入れといてくれんじゃねェの」

10032号「い、いやー……そういうんじゃなくて」

一方通行「?そォいうって何が?」

10032号「だ、だからだなー…これはセブンスミストで有名なコーヒークリームのクレープで……」モジモジ

結標「あ!知ってる知ってる、ウェストスクエアにあるクレープ屋さんでしょ?あんまり甘すぎなくて男の人のファンも
   多いっていう!でも結構高いのよねー」

10032号「そ……それです、とミサカはオズオズ肯定します」

一方通行「でもオマエ、こないだ『甘さ控えめなんて邪道!生クリームとは甘くてなんぼ!』とか言ってなかったか?」

10032号「だからぁ……これはこのミサカのじゃなくて…」モジモジ

打ち止め「頑張れ、10032号!ってミサカはミサカは応援してみる!」


10032号「くっ……上位個体、キサマ、見ていたなァーッ!とミサカは上位個体の情報把握力に歯軋りします!」

一方通行「はァ?」

10032号「……ん!!」ズイ

一方通行「ン……?」

10032号「早く受け取れよ、とミサカはクレープを差し出した手をグイグイ突き出します!」グイグイ

一方通行「はァ……?」

打ち止め「10032号がそのクレープくれるんだって、ってミサカはミサカは下位個体をフォローしてみる!」クスクス

一方通行「……俺にか?」ジッ

10032号「そ、そうです、とミサカは若干目を逸らしながら何度も頷きます」コクコク

一方通行「………」

打ち止め「10032号、理由理由、ってミサカはミサカはすごい困惑顔のこの人のためにフォローしてみる!」ヒソヒソ

10032号「うっ、だ、だから…こないだ他のミサカ達と話しててな、たまにはお前にクレープでも奢ろう、って話に
     なってだな……とミサカは理路整然と説明します」

一方通行「???」

打ち止め「それを言うなら支離滅裂!ってミサカはミサカはツッコんでみたり」

10032号「うるさい幼女ですね、とミサカは不満げに見下ろしながら、もういいからさっさと受け取れや!」ズイ

一方通行「……高いンだろ、いいのか?」


10032号「ミサカだってバイトくらい出来るので余計な気を使ってんじゃねぇよ、とミサカはこれが初めてのバイト代で
     買ったものであることを説明しますっ……」

一方通行「………!」

打ち止め(おお!言った!ってミサカはミサカは拳を握り締めてみる!)グッ

結標(何このイイハナシダナーみたいなwww)プププ

10032号「早く受け取ってください、とミサカはそろそろ腕が痺れてきました!!」キッ

一方通行「……あァ」スッ

一方通行「………」ジーーーッ

結標(そんな親の仇を見るみたいな顔でクレープ睨まれてもwwww)

一方通行「………」ソワソワ スッ

打ち止め(おお、あの人が携帯電話を取り出し?カメラのレンズを向けてー…ってミサカはミサカは実況中継!)

一方通行(ハッ)「……コホン」シマイシマイ

打ち止め(しかし我に返って携帯電話をポケットに戻すのであった。作文)

10032号「いい加減食えよ、とミサカは半眼でツッコミます」

一方通行「あ、あァ……」パク モグモグ

10032号「ど、どうですか?とミサカは感想を求めますが……」

一方通行「甘い」


10032号「そりゃそうだろ!とミサカは当然すぎる反応に再度ツッコみます」ビシッ

一方通行「けど、ま……ちゃンとコーヒーの味と香りするし」チラ

一方通行「悪くないンじゃねェの」フ

10032号「……!」

打ち止め「おおー!ちょーーっとだけ口元が緩んでる!?ってミサカはミサカは超食いついてみたり!!」キラキラ

一方通行「うるさい」ペシッ

打ち止め「あいたっ」

結標(ワオ。珍しいもの見ちゃった)

一方通行「ふゥン……。コーヒークリームとビターチョコとバナナか。甘っ」モグモグ

10032号「………」ジーッ ソワソワ

打ち止め「………」ジーッ ソワソワ

一方通行「……何だオマエら、これ食いてェのか?」

10032号「い、いや?それお前にやったもんだしミサカはそんなに意地汚くないし?とミサカは」

打ち止め「食べたーい!ってミサカはミサカは両手を上げてみる!」ワーイ

10032号「ちょ、この裏切りの幼女が!!とミサカは上位個体に掴みかかります」キィー!!

打ち止め「わっ?何するの10032号~!」キャッキャッ パタパタ

一方通行「こンなとこで暴れンじゃねェぞコラァ」スッ

10032号「チョップか!?とミサカは完全な防御姿勢を……」

打ち止め「きゃ~♪」









騒がしい二人を捕まえるため、数秒間だけのつもりで電極のスイッチを入れた。

それが凄まじいまでの幸運の為せる業だったと気付いたのは、コンマ二秒後。


「……ッ!?」


癖で展開していた反射膜に触れたものを、咄嗟に中空に逸らした。

冬の夜空を、美しく火花を散らす光が、真っ直ぐに貫いていく。

一瞬にも満たない間だけ、ショッピングモール内が明るく輝いた。

「わっ……!?なになに!?ってミサカはミサカは尻餅をついちゃった!」

「これは……!とミサカは」

(雷撃の槍…!!)

一方通行は瞠目した。

学園都市の能力者で、『電力使い』自体は珍しくもない。だがこれほどの精度、威力を誇るとなると、ひどく限られる。

何より、覚えのある感覚だった。そこに籠められていたであろう憤怒が、反射膜など透けて、心臓を痺れさせる。

向かって右手に、ゆっくりと視線を向けた。

ある意味見慣れた制服の少女が、仁王立ちのまま、片手をこちらに翳している。

パリリ、と柔らかそうな茶色の前髪から、小さな稲妻が閃いた。

可憐な顔立ちをキツく歪め、例えば出会った時の番外個体の表情に似ていたかもしれないが、しかし根本的に違う。

無理に植えつけられた憎悪ではない、ごく真っ当な、十数年をまともに生きて来た人間の、当たり前の怒り。

ああ、ついに来たのか、と一方通行は思った。

胸の奥ですら形にしたことは出来なかった、諦観に似た恐怖。


「久しぶりね……。一方通行」


一方通行がこの世で一番守りたいものたちと同じ顔。

見慣れた色の目が、見慣れない怒りと憎悪に輝いている。

学園都市の第三位。御坂美琴。





▼ みさかみこと の ターン!


ということで次に続くのであった。

こんばんわに。
投下しにきましたー。














御坂美琴の視界は、怒りと、憎悪と、どうしようもないほどの困惑でゆらゆらと揺れていた。

(何で………?)

第七学区、セブンスミスト。

自分も後輩と一緒によく訪れる日常の空間に、ひどい非日常が居座っている。

レベル5第一位『一方通行』。学園都市の白い闇。

出会ったのは、夜だった。闇の中、悪夢のように白く浮き上がっていた。

こんな明るいショッピングとはあまりに相容れない存在だったはずなのに、『それ』はそこにいる。

(何で。何で?どうして)

クレープなんか食べていた。

一方通行も何か食べたりするんだ、とどうでもいいような驚きを感じていた。

ぐるぐる、ぐらぐら。地面が揺れている。

(どういうこと?何が起こってるの?)


『アイツに直接聞けばいい』


以前、もう三ヶ月ほど前になる。

上条当麻が言っていた。一方通行は、変わったと。

あの少年が嘘を付くはずがない。そんなことはわかっている。

だが、じゃあ、何がどう変わったのか。何を聞けばいいのか?

どうして逃げたのか、まず浮かんだはそれだった。


あの時、実験以来、初めて顔を合わせたのだ。

すぐ顔を背けられて表情はよくわからなかったが、そもそも顔を背ける?あの一方通行が?意味がわからない。

そのまま逃げるように飛んでいった。いや、逃げるようにではない。逃げた。明らかに、あれは逃亡だった。

意味不明。理解不能だ。

戦っても美琴が勝てる可能性すら見出だせなかった第一位が逃げる理由など、微塵も思いつかない。

ずっと悶々と考えていたら、いつの間にか三ヶ月近く経っている。

上条と顔を合わせる機会はあったし、世間話のついでに、何度も聞こうとした。けれど、聞けなかった。

今から思えば、怖かったからなのだろうと、ぼんやりと悟る。

怖い。一方通行は怖い。生まれて初めて死ぬかと思った。生まれて初めて、殺意を抱いた。

聞けば、また関わることになるかもしれない。それが……怖かった。

最初に出会った『妹達』9982号。

クローンなんて気持ちのいいものじゃないと思っていたのに、少しだけ接して、ただ世間知らずの普通の人間にしか思えなくて。

何も知らないクセにちょっと口が悪くて、でも素直なところもある。これからは例えば、「妹」のようなものに思えるかもしれないと。

そう考え始めた矢先に死んだ。殺された。

こんなことが一万回近く繰り返されていると知った時に、学園都市の本当の姿を理解したのだ。

その実験の当事者、『一方通行』。

美琴にとって一方通行は、この街の暗部が人の形を取ったもの。

学園都市の闇が人の形に凝縮されたようなその白い闇は、今にも輪郭を崩して、自分の身体を闇の奥に飲み込んでしまう気がしていた。

化け物であり、怪物であり、悪夢。

そして自分の無力さの象徴。自分と同じ人間だとは思っていなかった。


時々、あんな化け物現実にいたのか、とすら思う。上条が悪夢を消してくれたことは、もちろん現実だとわかっているけれど。

あの実験の後どうなったのかも知らなかった。知ろうともしなかった。悪夢は消えたのだから。

いや、本当は頭では、あれだって人間だと知っている。自分と『同じ』レベル5の超能力者だと。

けれど、関わりたくないと思ってしまう、どうしても。

だが、そんな風に臭い物に蓋をしてしまうような思考、自分らしくない。

そう気付かせてくれたのは、寮で同室の後輩だ。




『お姉様……最近、何か悩み事がおありですの?』

少し前、遠慮がちに、とてもとても心配そうに尋ねられた。

時々調子に乗って色々やらかすが、普段は優しくて正義感が強い自慢の後輩、白井黒子。

お姉様にふさわしい女になりますの、と頑張っている姿を見ていると、少し気恥ずかしくて、とても励まされる。

『んー?別に、そんなことないけど?』

何でもない風を装って笑ったつもりだったのに、黒子は寂しげに眉を下げた。

『また……何か、黒子には言えないような、危ないことをなさっているのですか?』

『だから、そんなことないって』

『お姉様。お姉様がお強いことも、お姉様にはお姉様のお考えがあることも存じておりますが、もう少しご自分のことを
大事にしてくださいまし』

『黒子……』

美琴は少し驚いた。自分はこの後輩にこんな顔をさせるような様子だったのだろうか。

『……ありがとね、黒子。私は大丈夫よ』

『それなら、いいのですけど。黒子に出来ることがあれば、何でも仰ってくださいましね』

美琴の言うことを少しも信じていない顔で、けれどそれ以上は突っ込まずに、真摯にそう言ってくれた。

それで、自分のことが情けなくなったのだ。

一体、何をウジウジ悩んでいるのか。こんなの、らしくない。少なくとも、『こうありたい』と願う自分の姿からは程遠い。

(わからないなら、訊くしかないのよ)

この胸の奥に深く根付く後悔と慙愧と、燻り続ける怒りに決着をつけるために。





(どうして私から逃げたの?一方通行)

わからない、理解不能だと散々悩んだけれど、ひとつだけ思い当たる理由がある。

まさか、そんなわけはない、と何度も否定して、否定しきれずにいる。

やっと思い切りをつけたのが数日前で、さてどうしよう、と買い物でもしながら考えるつもりだった。

こんなところで出くわすとは思いもしなかったけれど、好都合と言っても良い。



しかし、『妹達』と一方通行が一緒にいるのを見て、頭が真っ白になった。



(何で?なんで、どうして?何で……っ?)

時折会う10032号や打ち止めは元気そうだったから、きっとあんな化け物のことは忘れようとしているのだと思っていた。

そう思っていた、勝手に信じ込んでいた。

まさか、まさか、自分達をし尽くした一方通行と、当然のような顔で一緒にいるなんて、夢にも思わなかった。

まるで仲の良い兄弟のようにじゃれ合って、笑っていた。

(何が起こってるの?何があったの?何が)

わけがわからない。意味がわからない。

それに、隣にいるのは結標淡希。

『残骸』を盗み出し、『樹形図の設計者』を復活させようとしていたレベル4。

あの実験の再開を阻止するため、何より大事な後輩を傷つけられたことが許せず、戦った相手だ。

それがどうして一方通行と、『妹達』と一緒にいるのか。

もしや『残骸』を盗み出すように指示したのは一方通行なのか?

(まさか、実験を再開しようとしているの……!?)

そして、『妹達』もそれに協力しようとしているのではないか。

『妹達』は以前言っていた。自分達は実験のために生み出されたモノに過ぎないのだと。

上条当麻と、それから少しは自分の想いも通じて、今その考えは変わったと思っていた。

けれどもしかして、変わっていなかったのか?

今でも、実験の遂行のために死ぬことを当然だと思っているのだろうか?

『妹達』も一方通行に協力しているとすれば、そうとしか考えられない。


そんな素振り全然なかった。10032号には、つい数日前にも会ったばかりなのに。

『ゴーグルを改造して貰いました』と無表情ながらにも嬉しそうで、何もおかしなところはなかったと思うのに。

(何なのよ……。何が、どうなってるのよ……!!)

美琴の耳の中で、心臓が早鐘を打っている。踏みしめていたはずの地面が、グニャリと歪むような。

世界がまるごと自分を騙していたと、たった今気付かされたような。

混乱、困惑、怒り、失望、屈辱、そんなものがない交ぜになったもので視界がぼやけた。



一体、どれほどの間硬直していたのか。

一方通行が10032号に手を伸ばしているのを見て、突然、あの実験で犠牲になった血塗れの妹達の姿がフラッシュバックした。

気が付けば雷撃の槍を放っていて、もちろん反射されることはわかっていたから、全身で身構える。

だが、雷撃が美琴に跳ね返ってくることはなかった。

(………?)

ひどい違和感。

中空に逸らされたものに一瞬だけ目をやり、すぐに我に返って白い闇を睨み据える。



「久しぶりね……。一方通行」



ただそれだけ言って、あとは眦に力を入れる美琴を、一方通行は黙って見詰め返している。

血の色の目だ。あの時と何も変わっていない、狂った色の目だ。そのはずだ。











「……………」

長い間、沈黙がその場を支配していた。

一方通行は黙っている。結標も様子を伺うように口を開かない。

打ち止めと10032号は、ひどく不安そうに美琴と一方通行を交互に見比べる。

最初はざわめいたフードコート内の人々も、それ以上の動きはないと判断した様子で、元の賑やかさを取り戻していた。

「……久しぶりだな、オリジナル」

唐突に、ようやっと沈黙を破ったのは、そんな当たり前の挨拶。

「………」

自分で言ったことを返されただけなのに、ものすごく的外れなことを言われた気がして、思い切り顔を顰める。

当然だ。自分達の間に、懐かしむようなものなど、ひとかけらも存在しないのだから。

一方通行も同じように目を眇め、同じようなことを考えたのだろうと悟る。

奇妙な気分だった。一方通行の考えが、わずかでも想像できるなんて。

「……今、オマエと戦うつもりはねェ。その理由もないしな」

低めの、少し掠れた声音。こんな声だったっけ、と美琴はまた違和感を覚える。

ああ、そういえば、叫んでいるか狂ったように嘲笑しているかしている声しか聞いたことない。

「理由?そんなの、十分すぎるくらいあると思うけど」

美琴は固く拳を握った。

パリッ、と前髪から小さな稲妻が閃く。

「……復讐か?」

一方通行は静かに呟いた。

(復讐……?)


美琴は、放り投げられた言葉をためすがめつ眺める。

確かに、一方通行は『妹達』を殺した。9982号を殺した。許さない、絶対に。実際に殺意を抱いたこともある。

だが、一方通行に復讐したいのか、と問われれば、それには迷わず否と答える。

今まで色々な人間を見てきた。中には、大事な人のために手段を選ばない人も居て、気持ちは理解できた。

けれどその手段が間違っていたなら、その温かかった気持ちは違うものになってしまうのだ。

ヒトとしての道を違えれば、すべては歪んでしまう。

ほんの子供である美琴でも、いや子供だからこそ、復讐なんて道は選ばない。

「オマエの怒りは正当なものだが……今の俺は、オマエに殺されてやるワケにはいかねェンだよ」

だが一方通行は、沈黙を肯定と受け取ったらしい。

不意に背を向け、「行くぞ、打ち止め」と小さな少女の手を握る。

(!?)

怒りが正当って?また逃げようとして、いや、どうして打ち止めを連れていくのか、一瞬で様々な思いが沸騰して、反応が遅れる。

「待っ……!!!」



「待って、あなた。ってミサカはミサカは、あなたを見上げてみる」



けれど、打ち止めが静かに呟いて、握られた手をそうっと解く。白い細い手が、傍目にもわかるほど強張った。

「先に行ってて。ミサカは後から帰るから、ってミサカはミサカはお願いしてみたり」

「打ち止め……?」

振り向いて、少女を見下ろす。一方通行の顔が、置いて行かれた子供のように頼りなく歪んだ。

打ち止めはにこっ、と安心させるように優しく笑う。

「大丈夫。ミサカはちょっとお姉様にお話があるだけだから」

「………」

「すぐに帰るよ、ってミサカはミサカは約束する!」

「………」


一方通行は黙ったまま、一度だけ打ち止めの頭を撫でた。ひどく柔らかな、壊れ物を扱うような仕草。

それを見れば、あの化け物があの少女をどれほど大切に思っているのか、すぐにわかる。

だがそれは美琴にとって、実は宇宙人が存在したと判明するよりも、唐突で不可解過ぎるものだ。

「何……?なんなの、どういうこと?どういうことなの?」

何度も何度も湧き上がる困惑を、美琴はようやく口に出した。

ちら、と一方通行がこちらを一瞥し、すぐに目を背ける。

半瞬で、また飛んで逃げるつもりなのだと悟った。

「待ちなさい、一方通行!!」

「………」

ピタ、と打たれたように動きが止まる。

一応聞く耳は持っているようで、もう何度目かわからない違和感が胸を焼いた。

「どうして、私から逃げるの!?」

赤い色の目を見ると、本当は少し足が竦む。

だがそれをおくびにも出さず、美琴は真っ直ぐに顔を上げたまま問い質した。

「……見ていたい顔じゃねェだろ。互いにな」

「そういうこと言ってるんじゃないわよ!私には聞きたいことがあるんだから!!」

「聞きたいこと……?」

一方通行は訝しそうに目を眇めた。

(何でそこで不思議そうな反応するわけ!?!?)

何で逃げたのか、何で上条と知り合いなのか、何で打ち止めや10032号と仲が良さそうなのか。

不可解なことだらけ、いや不可解なことしかない。

だが何より優先すべき問いが、今の美琴の中にはあった。チラリと無言のままの結標を一瞥する。

「一方通行……まさかあなた、あの『絶対能力進化実験』を再開するつもりなんじゃないでしょうね!?」


腹の底から込み上げる怒りに呼応するように、バリバリ、と前髪から稲妻が閃く。

美琴にとっては決死の質問で、すでにめまぐるしく阻止するための方策を検討し始めている。

そんなことは許さない。何があっても、絶対に止めてみせる。

例え勝てる可能性がゼロに近いとしても、今度こそ。


「………………はァ?」


だが、帰ってきたのは、聞いたこともない間の抜けた声。

薄い唇はポカンと開かれ、夢にも思わなかったことを言われた、と顔全部に書いてある。

「何の話だ、そりゃ?」

「な、何の話って……!!」

決死の覚悟をしていたところに人生最大の肩透かしを食らい、美琴は美琴で絶句してしまった。

「あー……、いいわ、一方通行。多分それ、私がいるせいだから。そうよね、御坂さん」

そこにそれまで黙っていた結標が、溜息と共に口を挟む。

「先に言っておくけれど、誤解よ。一方通行はただの友達」

「はぁ?と、友達……?」

一方通行と。友達。友達?

深海魚と夫婦、とでも言われた方がしっくりくるような、あまりにそぐわない組み合わせの単語だ。

「『残骸』を盗んだ私と例の実験に関わった一方通行が一緒にいたから、誤解したんでしょ」

「……あァ、なるほど。そォいうことか」

二の句を告げない美琴を尻目に、結標は肩を竦めた。合点が行ったように一方通行も浅い溜息をつく。

それからゆっくり美琴に視線を戻した。赤い目の色。

「実験の再開なンて考えちゃいねェよ。俺も、コイツも、『妹達』も」

「ええ。だいたい私の『残骸』ぶっ壊してくれたのだってこの人だしね」

「は……?」


「チッ、余計なこと言ってンじゃねェ」

一方通行が舌打ちをすると、結標は「仕方ないわね」とでも言いたげな顔になった。

(何なの?私が知らないところで、今まで何があったの?)

一体どれだけ蚊帳の外だったのか、想像もつかない。

再び混乱に陥りかける心臓を、美琴は無理矢理引き戻した。

まだだ。今は、自分の疑問が解決することよりも、もっともっとずっと大事なことがあるのだから。

「一方通行」

「……何だ」

見慣れないしかめっ面を見る。一方通行は、こんな顔だっただろうか。

「実験の再開をするつもりはないって、本当なの?」

「ああ」

「……それを、信じろっていうの?」

声が低く据わる。腹の奥に燻り続けていた怒りは、今にも喉から逆流しそうだ。

「自分の都合だけで『妹達』を殺し続けてきたあんたを、信じられると思うの?」

美琴の前髪から、バリバリと稲妻が瞬く。いつ襲い掛かられてもいいように、一度も臨戦態勢を崩していない。

だがその警戒を切って捨てるように、一方通行は何の殺気も見せなかった。

「そォ思うのは当然だろォな。信じろなンて言うつもりはねェよ」

「………っ」

イラァッ、と以前から燻っていたものではない、たった今新たに燃え上がった苛立ちに、美琴は拳を握り締めた。

「何でそういう言い方するのよ!?他人事みたいに言わないで、何様のつもりなの!?」

叩きつけるように叫べば、一方通行は驚いたように目を見開いた。

「………」

そのまま、ただ呆然と美琴の顔を見詰める。


「お姉様」

不意に打ち止めが、白い怪物を庇うように前に進み出た。

小さな背に、一方通行を隠しきれるはずもない。

だがいつも無邪気で幼いはずの顔は、キッと引き締まっていて、急に大人びて見えた。

「打ち止め……?」

まるで自分と対峙するような立ち位置に、美琴はひどく戸惑う。

苛立ちが急激に萎んで、指先がズキリと痛んだ。

「何よ……どうして?私は、ただ……」

ただ、これ以上『妹達』に犠牲になってほしくないだけなのに。

(私は間違っているの……?)

何か、自分の知らないうちに色々なことがあったのだということはわかる。だが、知らないのだ。

その『知らないこと』の中に決定的な、黒を白に変えてしまうような、あまりに大きな何かがあったのだろうか。

じわじわと俯くと、常盤台の制服が目に入る。顔を上げれば、10032号が心配そうに歩み寄っていた。

「お姉様……。とミサカは…ミサカは」

いつも無表情な眉を少しだけ下げて、美琴を見詰めている。

「10032号……」

普段は少し腹黒くて意地悪なこの子らしくない表情に、身体の奥に芯が戻るような気がした。

「一方通行。先に行ってて、ってミサカはミサカは促してみる」

「!」

高くて澄んだ声に、美琴はハッと顔を上げる。

一方通行は惑うように打ち止めを見て、こちらを見た後、結局地を蹴った。


白い怪物は、夜空の闇に溶け込むようにして見えなくなる。


「一方通行ァ……ッ!!!」


美琴は火を吐くような叫びと共に足元に磁力を集めたが、走り寄って来た打ち止めに手を掴まれてしまう。

「打ち止め、離して!」

「ダメだよ、ってミサカはミサカはお姉様の手を握り締める」

打ち止めの手は強かった。振りほどけないくらいに、渾身の力、いや気持ちが込められていた。

「どうして……!?何でよ!!!皆、何なのよぉお……!!!」

美琴は何度も何度も胸を焼いた困惑を、戸惑いを、凝縮するように吐き出した。













数分後、美琴と打ち止め、10032号は、フードコート内のオープンカフェで一つのテーブルに付いていた。

結標淡希は、「私は外した方が良いわよね」と言って去っていった。

逃していいのか迷ったが、そんな様子を悟ったのか、携帯電話の番号を教えてくれたので、ひとまず納得する。

それよりも、もっともっと気に掛かることは山積みだったから。

「…………」

「…………」

「…………」

美琴の前にはカフェラテ。打ち止めの前にはココア。10032号の前にはミルクティー。

それだけなら、時々三人で会って遊ぶ時と同じメニュー。

美琴が打ち止めに会ったのは偶然だ。10032号と一緒に居たところに鉢合せ、「妹達の上位個体」と説明されていた。

素直で無邪気な打ち止めはかわいかったし、他の『妹達』のことも聞くことが出来たから、安心していた。

こんな顔をして、あんな怪物を背に庇う姿など、想像したこともなかったのに。

(打ち止め……)

いつもなら、打ち止めは美琴の隣に座る。

けれど今は、正面に座っていた。先ほどと同じように、対峙するかのように。

小さな少女は、まっすぐに美琴を見詰めている。


それに答えるように、ぐ、と胸を張って、口を開いた。

「……どういうことなの、打ち止め。話してくれるわよね」

しかし打ち止めは、小さく、けれどはっきり首を横に振る。

「それは出来ない、ってミサカはミサカは拒絶する」

「打ち止め……っ!?」

息を呑む美琴にも、目の前の少女は表情を変えない。

「それよりもお姉様。今日は学び舎の園でお買い物じゃなかったの?ってミサカはミサカは確認してみる」

「え……?あ、黒子が風紀委員の急用で帰っちゃったから、気分を変えてみようかなって…」

問われるままに話した後に、美琴は「まさか」と目を剥いた。

そういえばほんの少しだけ、おかしいと思っていたのだ。

打ち止めには、「守ってくれる人がいる」という話を聞いていた。

会ってみたいと思っていたし、打ち止めとずっと一緒にいるらしいのに、美琴が会う時は「たまたま」居合わせない。いや、必ず。

「打ち止め、あんたまさか、私を一方通行に会わせないために……」

「うん、ってミサカはミサカは、お姉様の推論を肯定してみたり」

「どうして!?」

「あの人は……お姉様に会うことを望んでいないから。ってミサカはミサカはハッキリ宣言する」

「………っ」

美琴は絶句した。

一方通行が美琴に会いたがっていない、ということにショックを受けたのではない。そんなのはこちらの台詞だ。

そんなことよりも、今の言葉は、打ち止めがいかに一方通行を最優先にしているか、それをあまりにわかりやすく表現していた。

仲良くしていたはずの素直な少女が、急に、ひどく遠くに行ってしまった気がする。

「お、お姉様、とミサカは我慢できずに口を挟みま……」

「個体識別番号10032。それ以上の発言を許可しない」

「っ!!……じょ、上位個体命令を受信…っ」

キロリ、と打ち止めの大きな目が10032号を見据え、高く澄んだ機械的な宣言と同時に、『下位個体』は硬直する。


「……ッ、…!!」

それでもぱくぱく、と必死に何かを言おうとするが、10032号の声は一言も音にならない。

異様な光景に、美琴は「妹達の上位個体」という役割の意味を、初めて理解した。

打ち止めは必死の形相の10032号に目もくれず、ココアを一口飲んで、再び美琴を見詰める。

「ごめんね、10032号。あの人は、お姉様に『今の状況』を知られるのを望んでいないから」

「状況、って……!どういうことなの!?」

「言えない。ごめんなさい、お姉様。ってミサカはミサカは、申し訳なく思ってる」

「謝らないでいい、理由を教えてよ!」

「……ごめんなさい」

「一方通行の命令なの!?アイツがアンタをそんな風に利用して……っ!!」

「違う。ってミサカはミサカは断固として否定する」

自分と同じ色のはずの茶色の目は、一度も見たことのない色をしていた。

例えば出会った頃の『妹達』のような、感情のないモノクロームの目。

「あの人はお姉様のこと口にしないように避けているから。これはミサカの勝手な判断だよ」

「どうして、そんなこと!」

「それも言えない。……でもミサカは、あの人の心を守りたい、ってミサカはミサカは呟いてみる……」

打ち止めは、そこにある何かを確かめるように、小さな手で胸元を握り締めた。

「ミサカはあの人が、とても大切だから」

「………っ!」

美琴の息が詰まる。

灰色にすら見えた打ち止めの目の奥には、いつの間にか星のような光が宿っていた。

テーブルの上に置かれたままのカフェラテが冷えていく。カップに添えた手が、わなわなと震えた。

「……アンタは…アンタは一方通行が何したか、何、したか…っ!!」

何をしたのか。一体何をしたか、わかっているのかと、美琴は口にすら出来ない激情を必死に抑える。

もしかしたら、幼さが故に理解できていないのかもしれない、と。

だが打ち止めは、ゆっくりと、美琴の幻想を押し潰すように頷いた。


「わかってる。あの人がミサカ達10031人を殺したこと、ミサカは決して許さない」

「だったら何でよ!!どうしてよぉ!!!」

バンッ、と迸る衝動のまま、テーブルに掌を打ち付ける。カップが大きく揺れて、カフェラテの雫が飛び散った。

10032号はその剣幕に肩を揺らすが、打ち止めはただひたむきに美琴を見詰めている。

「ミサカは……ミサカはあの人を許さないけど、それは『償いのために死んでほしい』って意味じゃない」

美琴はハッ、と瞠目した。

打ち止めの大きな目が、微かに潤んでいる。映りこんだ光が、ゆらりと揺れた。



「ミサカにとって『許さない』は、『ずっと見てるよ』って意味なの……『ずっと側で見てるよ』っていう、約束なの」



ってミサカはミサカは、このミサカにとっての「許さない」を解説してみる。

そう小さく続けて、『妹達』の司令塔は俯いた。

「…………」

理解できない、と美琴は返そうと思った。だが、震える小さな肩に、出そうとした言葉が喉に詰まる。

けれど打ち止めはすぐに顔を上げて、立ち上がった。

「もう行くね、ってミサカはミサカは決別を宣言してみたり」

「ま、待ちなさい!!そんなの絶対ダメよ!!!」

慌てて制止する美琴を尻目に、いつの間にか飲み終えていたカップ持って、打ち止めはゴミ箱に歩み寄る。

そして不思議そうに振り返った。

「どうして?ってミサカはミサカはお姉様を見上げてみたり」

「どうして!?だって私はあなた達の……お姉ちゃんでしょ!?」


美琴は反射的に叫んで、立ち上がる。思わず口から出た言葉に、自分自身が鼓舞された。

(そうだ、私は……!!)

自分は『姉』だ。妹の面倒を、しっかり見なければならないのだ、と。

けれど打ち止めは、人形のような仕草で首を傾げる。

「違うよ?ってミサカはミサカは、『オリジナル』の間違いを指摘する」

あまりに何の抑揚もない、冷たい声だった。

「ミサカはあなたの体細胞クローン。同一の男女から出生した血縁関係にあるわけじゃないよ」

「………っ!!」

ハッキリと。これほどハッキリ『妹達』から拒絶されたのは初めてで、美琴は硬直する。

「そもそも『姉』というけれど、あなたは本当に二万人のミサカ達を肉親だと思ってるの?ってミサカはミサカは純粋に疑問」

「そ、れは……」

「あなたが出会ったことのある『妹達』なんて、ミサカを含めてもほんの数人。残りの二万人近い『妹達』なんて、顔も見たことないのに。
人間ってそんなに優しいの?……そんなに、的外れな思い込みが出来るものなのかな」

「……………っ」

「ミサカとあの人のことは、あなたには関係のないことだよ」

美琴は、崖から突き落とされたような気がした。

瞬きもしない無感情な目の前で、愕然と立ち尽くす。

「……でも……だけど…っ」

小さく、掠れるような声を搾り出す。

確かに、確かに、本当に『妹達』を肉親だと思っているわけじゃない。父や母と同じ慕わしさや親しみを感じるわけじゃない。

けれど、他人じゃない。断じて、それは違う。

同じ細胞だから?同じ顔だから?そうかもしれない。けれど初めて9982号と会った時に感じたものは、例えば異母兄弟が出来たとか、
そんな感覚に近いのかもしれないと思っていた。

同じ両親から生まれたわけでも、同じ環境で育ったわけでもないけれど、確かに繋がりはあって、これから肉親になって行くような。

そんな風になれたらいいと。

(私だけだったの……?)


思っていたのは、自分だけだったのだろうかと、美琴は唇を噛み締めた。

じわじわと、少しずつ目を伏せる。何かを諦めていくように。


だが、そこに見慣れた常盤台の制服の後姿が映り込んだ。


「10032号……?」

御坂妹、と上条当麻に呼ばれる個体は、両腕を広げ、美琴を守ろうとするかのように、打ち止めの前に立ちはだかっていた。

いつも無表情なのが嘘のように、真っ赤になって、口をパクパクさせている。

「……個体識別番号10032の発言を許可する」

しばらくそれを観察していた打ち止めがポツリと呟いた途端、ぜはぁっ、と10032号は大きく息を吐き出した。

「……っ、お姉様にひどいこと言わないでください!!とミサカは強い強い怒りを露にします!!!」

開口一番、爆発するような大声で叫ぶ。

「確かに本当の『姉』じゃないかもしれない!でもお姉様は、ミサカ達にこの命を与えてくれました!!」

決して大きくない背中で全力で守るように、10032号は背一杯腕を広げている。

「単価十八万円の『モノ』だったミサカ達に、世界を与えてくれたのは間違いなくあの人と……お姉様です!とミサカは!!
ミサカ達の『人として』の始まりを胸に返します!!!」

「…………」

打ち止めは黙って下位個体の叫びを見据えている。

「それに、お姉様はロシアで10777号に会った時だって、当然みたいに受け入れてくれました!……お姉様は!!お姉様は
ミサカの、少なくともこのミサカには、自慢のお姉ちゃんだもん!!!」

渾身の力で押し出すように、10032号は潤んだ声を吐き出した。

その声は痛々しく震えてとても情が深く、この数ヶ月が確かにこの『妹』を『人』にしたのだ、と美琴は理解する。

熱いものが、喉奥から込み上げた。


「10032号……」

そんな風に思ってくれていたなんて知らなかった。会えばいつもからかってばかりで、ふざけてばかりで。でもとても楽しくて。

10032号にとってもそうだったのだろうかと、美琴は聞いたばかりの言葉を大切に胸に刻む。

「だいたい上位個体だってお姉様のこと、『本当にお姉ちゃんが出来たみたい』ってすごく喜んでたじゃないですか、とミサカは
上位個体の言動の矛盾を指摘します!」

「…う……っ」

今度は、打ち止めの方がギクリと身を強張らせる。

それで美琴は、初めて気が付いた。

きれいな色の暖かそうなスカートの裾を、小さな手が力一杯握り締めていることを。まるで、何かに耐えるように。

「それなのにお姉様を傷つけて、何がしたいのですか!?どうせ上位個体のことだからあの白モヤシのためなんでしょうが、
あなたが何かの傷を引き受けても、一方通行が余計に傷つくだけに決まってます!」

「……み…ミサカは……っ」

「自分がずっと守ってきた相手が傷ついて、あのネガティブモヤシがどう思うかくらい想像つくでしょう、とミサカは憤懣やる方ないです!」

「う……ぅう~…っ」

くしゃり、と張り詰めた糸が緩むように、打ち止めの顔が歪んだ。

ごく子供らしい、泣き出す寸前の顔に、美琴は思わず身を乗り出す。

「打ち止め……っ?」

「……こ、このミサカとあの人のことは、忘れてほしい、ってミサカはミサカは……っ!!

だがその前に、搾り出すように言い残して、打ち止めは脱兎のように走り去ってしまう。

「打ち止め、待って!」

当然のように後を追おうとするが、ガッシリと腕と肩を掴まれ、美琴は目を剥いた。

「10032号!?何するのよ!」

「す、すみませんお姉様、あのクソ幼女が…っ!とミサカは上位個体の命令で勝手に身体が動いていると弁解します!」

「ええ!?ちょ、ちょっとお~……!!」

能力で10032号を跳ね除けるわけにも行かず、戦闘用の個体を力ずくで引き剥がすことも出来ず、結局小さな少女を見失ってしまった。





「…………」

「……ごめんなさい、お姉様…。とミサカはションボリします…」

数分後。すっかり冷めてしまったカフェラテとミルクティーを前に、美琴と10032号はうな垂れていた。

「別にアンタが悪いんじゃないんでしょ」

大きく溜息をついて顔を上げると、自分と同じ顔がこちらを伺っている。

「……あの様子だと、アンタも事情を知っていそうね?」

打ち止めへの10032号の言葉には、聞き捨てならない部分がいくつもあった。

特に、一方通行が打ち止めを守ってきた、とか。

どうでもいいが、モヤシって一方通行のことだろうか。どうでもいいが、モヤシって。

あまりな急展開に飽和した頭でどうでもいいことを考えまわしながら、横目で10032号を見やる。

「う……ご、ごめんなさい…。禁則事項です、とミサカは所詮自分が下位個体であることを痛感します」

「でしょうね……」

いつの間にこれほど感情豊かになったのやら、『妹』は見るからに萎れた風情だ。

しゅーん、と萎んだ肩を見ていると、美琴は次第に、ふつふつと怒りが湧き上がってくるのを感じ始めた。

「何よ………」

『信じろなンて言うつもりはねェよ』とか。

打ち止めに「先に行って」と言われた時の、置き去りにされた子供のような顔とか。

『ミサカとあの人のことは、あなたには関係のないことだよ』とか。

胸が絞られるような、ひどく寂しそうな、泣き出しそうな顔とか。

『このミサカとあの人のことは、忘れてほしい』とか。

投げられた言葉や焼きついた表情を反芻しているうちに、ジリジリジリジリと腹の底が焦げ付いていく。。

「何よ何よ何よぉ………」

「お、お姉様?とミサカは恐る恐る声を掛けますが…」


「関係ないわけあるかァああああ!!!」


ビリビリ、ドカーーン、と稲妻が夜空に迸る。


当然周囲に被害が及ぶようなヘマはしていないが、「な、何だ!?」「ちょ、おいアレ第三位じゃね!?」と周囲がざわめいた。

「頭きた!ホンット、頭きた!何よアイツら、人を悪者みたいな顔で見ちゃってさぁ!!私が何したっての!?」

「!!あっ…ちょっとそれ、わかります!とミサカは先日の一方通行とのやり取りを思い返します!」

10032号が勢い込んで同意してくれて、美琴は目を見開く。

「えっ……アンタも?」

「そうです、とミサカは力強く頷きます。あの時はまるでこのミサカがいじめっ子のようで、まったく!まったくあの白モヤシは!」

「…………」

「わかります、お姉様!このミサカ、お力添えもやぶさかではないです、と宣言します!」

美琴は、一瞬怒りを忘れ、プリプリと怒る10032号をしばらく眺めていた。

(あの時、ね)

その様子はどう見ても怒っているというよりも、「拗ねている」という方が近いだろう。

(これが……)

他の『妹達』は知らない。けれど打ち止めと10032号は、一方通行を憎悪していない。それどころか。


『一方通行は、変わったよ』


幾度目か、上条当麻の言葉を手元に返す。

そんなことは……初めに、気付いていた。


見たこともない顔。聞いたこともない声。

何より、最初の雷撃が反射ではなく、『逸らされた』こと。

昔ならば、間違いなく正確に反射されていた。

変わったのだろう、確かに。

(変わった?変わったから、何なの?)

だが、事実は変わらない。

好き勝手に10031人の命を引き裂いた事実は変わらない。

9982号のことを胸に返せば、重く冷たいものが腹の底から込み上げる。

だから。

「だァ~~れが忘れるもんかっての!!」

美琴は冷たいカフェラテをゴクゴクと飲み干し、勢い良くカップを握りつぶして立ち上がる。

思い切りゴミ箱に投げつければ、ホールインワンだ。

「行くわよ、10032号!!一方通行と打ち止めの居場所、わかる!?」

「……っ!はい!と、ここぞという時に確保しておいたヤツのパンツを握り締め、ミサカも勢い良く立ち上がります!」

(パンツ!?)

「協力者の確保には憂いありません、とミサカは胸を張ってお姉様を見詰めます!」

半瞬首を傾げた美琴だが、まぁいいか、と流して力強く足を踏み出す。

勢い余った稲妻が、真っ黒の夜空へ鮮やかに散った。












▼ みさか は まじんのごとく きりかかった!

ということで次回に続くのであった。

横幅が五倍になるならむしろ五人になってくれよ

あけましておめでとうございまーす
いやはや前回からもうすごい間が空いてしまいましたが投下します















セブンスミストの一角、賑やかなインテリアショップが並んだ通りでは、人々が楽しげにさざめいている。

一方通行は煉瓦づくりの街路の端に佇み、フードコートへと続く道の奥を眺めていた。

ほどなく、人の波間から、小さな少女が走ってくる。

必死な顔、泣きそうな、それを全力を持って堪えている。

きれいな栗色が一方通行の顔を見て、くしゃりと箍が外れたように崩れた。

「一方通行……っ!」

両手を伸ばして駆け寄ってくる。傍目には、迷子になった妹が兄を見つけたようにでも、見えただろうか。

一方通行は少し屈んで、杖を持っていない方の手を伸ばした。

小さな光が、息を切らして駆け寄ってくる。止まることなんて考えていなかったのか、手が触れる寸前で躓いた。

「あっ……」

どん、と腹の辺りに頭突きをかまされて一瞬息が詰まるが、それを深々と吐き出す。


見れば、靴が片方脱げていた。拾ってやろうにも、腰にしがみつかれて身動きが出来ない。

小さな手は震えている。腹に顔を埋めたまま、顔を上げようとはしなかった。

一方通行は柔らかそうな茶色の髪に手を伸ばしかけ、しばらく躊躇ってから、静かに一度撫でる。

「……ねぇ、あなた。知ってた?」

「……何を」

「ミサカ、お姉ちゃんがいたんだよ。ってミサカはミサカは……」

くぐもった小さな声は途中で途切れて、ますます強くしがみ付かれた。

「そォか」

潤んだ色の音に、目を細める。

あの正義感の強い第三位と、どんな話をして来たのかはだいたい想像がつく。

すまねェな、と口にしようとして、言葉を飲み込む。それはこの大事な光の心を傷つけるのではないかと思った。

だが代わりにどんな言葉を渡せばいいのかわからない。

だから、もう一度だけ髪を撫でる。出来る限り優しく柔らかく。

この血塗れの手に、そんなことが果たして可能なのかと思いながら。













御坂美琴への感情は、例えば打ち止めを助けた直後なら、どうということもなかった。

実験の関係者だが、一方通行には関係ない。何かの感慨を覚える理由もない。

それが変化してきたのは、いつの頃からだっただろうか。

あの実験以来一度も顔を合わせていないから、変化したのは自分の方なのだろう。

木原に打ち止めを浚われ、垣根に黄泉川を傷つけられ、エイワスの存在に打ち止めを脅かされ、一方通行は知った。

大切を脅かす敵に、人が一体どういう感情を向けるものなのかを。

例えば木原が、垣根が現れたのなら、今度こそ粉々にする。エイワスなら、すべてを掛けてブチ殺す。

あの時、ただ一度手に入れた温かさを奪われようとした時には、世界全部が敵に思えた。

いや、元々世界は敵だったのだ。それは理不尽なものではなく、自分自身の性質が理由。正しく、因果応報。

少しの間遠くなっていたことを、嫌というほどに思い知らされたというだけのこと。

自分の感覚は普通とは遠いものだろうが、側にいた大切な者を奪われそうになった時の感情は、一般的な人間が感じるものと、
多分それほどの相違はないだろう。

つまり御坂美琴も、自分が奴らに向けたような重く冷たい敵意を、たった今も自分にも向けているのだ。

ふとそう気付いたきっかけは、少し前に、偶然顔を合わせた時。

以前はなかったような、経験したことのない落ち着かなさが込み上げた。

用も無いと背を向けたが、その理由は正確ではなかったと、しばらくして思い至ったのだ。

先ほど、御坂美琴も「どうして逃げるの!?」と怒鳴っていた。

そう、アレはまさに「逃げた」と表現するのが正確だろう。


(どうして、か)

一方通行は高層ビルの屋上から眼下を見下ろしていた。

冷たい強い風が髪を掻き乱す。

日は随分前に沈みきり、眼下にぶちまけられた青い光の洪水が、吐息を青白く照らした。

「寒いか」

杖を持っていない方の手を、打ち止めが両手で握っている。

まだ家に戻る気にはなれずにポツリと呟くと、小さな頭がふるふると横に振られた。

そして何かを訴えるように、力を抜いたままの手を握り締められる。温かかった。

自分にはそぐわない、と思い、だが、小さな手を握り返す。思ったよりもぎこちない仕草になった。

「どォしてこっちを見ねェンだ」

「……だって、あなたはミサカの顔を見たら、お、お姉様のこと思い出しちゃうでしょ?ってミサカはミサカは俯いたままでいる」

「…バカが……」

一方通行は浅い溜息をついた。ふわりと青白いもやが風に流されていく。

「顔上げろ」

「でも」

「打ち止め」

その名を呼ぶことは稀だ。それを誰よりもよく知っている少女は、オズオズと顔を上げた。

うるうると潤んだ目、唇を噛み締めたまま、ひどく不安そうにしている。いや、と言うよりも、心配そうに眉を下げて。

握り締められた小さな手も、握り返した手を時々嬉しげに見下ろす顔も、こんな怪物に寄り添おうとするこの子供の想いを伝えてくれる。

「……全然似てねェよ」


「え?ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」

「第三位。オマエには、全然似てねェ」

顔の作りが同じでも、似ていると思ったことは一度もない。

そう告げれば、打ち止めは不思議そうな、訝しげな表情になる。

「…あなたの気持ちは嬉しいけれど、そんなはずない。ってミサカはミサカは現実を受け止めていることを伝えてみたり。
 ミサカはお姉様のクローンなんだもの」

「表情」

「表情……?」

「表情が全然違う。第三位は俺をそンなツラで見ねェからな」

「そ、そんなってどんな?ってミサカはミサカはお顔をナデナデしてみる」

一方通行は説明しようと口を開きかけ、やめた。今それを話せば、自動的に御坂美琴のことに深く触れなければならない。

それは気が進まなかった。情けないことだと思い、けれど打ち止めの疑問には答えるべきだろうと夜空を見上げる。

「表情が違えば同じ顔には見えねェよ。それが人間ってもンだろ」

「人間……」

自らをクローンだと表現した直後に突きつけた言葉に、戸惑ったような声が返る。

「あなたはミサカがどんな存在か一番よくわかっているのに、そんな風に言うんだね。ってミサカはミサカは少し不思議に思う」

「悪いかよ」

「ううん……」

こういうの、嬉しいっていうのかな。

打ち止めは小さく呟いた。ひとりごとのようにも聞こえたし、一方通行に感謝を伝えているようにも思えた。


いつも素直で天真爛漫な少女が、考え込むように黙っている。そのらしくなさは、成長とも言えるのではないか。

まさに人間らしい。少なくとも自分よりは、よっぽど。

そう考えて、けれど今御坂美琴に何とも言えぬものを感じているところは、まるで人間のようだと気付いた。

つい先ほど思ったばかりだ、打ち止めを奪う敵への感情は、人らしいものだろうと。そしてこの諦観や恐怖に似た気まずさも。

そう、気まずいのだった。少し、いやかなり。

(気まずい……ねェ)

慣れない感情だ、と目を細める。妹達に感じている後ろめたさとは、また性質の異なるもの。

真っ当な人間なら、多分この程度の感情では済まない所業をした。普通は気まずいなんてものじゃないだろう。

ただ、以前にはなかった感情が生まれたのは確かだ。

化け物は持たないであろうこの重く締め付けるものを、ならば握り締めていようと思った。

高層ビルの屋上には、風の音だけが響いている。凍りつかせるように体温を奪っていく。

二人の他には、当然のように誰もいない。けれど、一方通行はひとりではなかった。

少し前には、ここにはひとりだけで来るのが当然だった場所なのだ。

ずっとずっと、静かなところだった。いつも風の音だけが響いていた。


「……近頃は千客万来だがなァ」


一方通行は観念したような溜息を吐きながら、ゆっくりと振り返る。


「見つけたわよ、一方通行」


パリパリ、と眩い火花が散り、柔らかそうな茶色の髪が風に靡く。

可憐な顔立ちの少女の後ろには、どこか戸惑ったような無表情の、同じ顔の少女。まるで双子だが、明らかに表情が違っている。

「お姉様!?ってミサカはミサカは驚愕して…ッ、な、何でここが!それに、20000号は何してたの、今日のお姉様の監視役は」

「あの変態は買収済みです、とミサカはその手段が非人道的だったことを押し隠しつつほくそ笑みます。
 変態がそこのモヤシのストーカーで助かったわ、一石二鳥で」

「えー!?20000号がこのミサカを騙したっていうの!?ってミサカはミサカは許さないんだから……!!」

「でも上位個体にも落ち度があるのでは?お姉様の微弱な電磁波、ミサカ達ならば近付けばわかりますから」

「ぅぐ……っ、ってミサカはミサカは確かにちょっと考え事をしていたり…」

「もォいいから黙ってろクソガキ共」

放っておけばいつまでもじゃれ続けるのを知っている一方通行は、呆れたようにストンと遮った。

一度目を伏せ、美琴の目を見る。我ながら少々ぎこちなく、意を決して、とでも表現するにふさわしい。

鋭い敵意を表すように帯電し続ける第三位は、よく見れば大きく肩で息をしていた。

ふと、この屋上にはまともな入り口が設置されていないことに気付く。作業用の簡易入り口はあるが、そこは閉じたままだ。

「……オマエ、まさか外壁を走って登って来たのか」

「!だ、だったら何だってのよ」

「そのまさかです、とミサカは一方通行の推察を肯定します。出入り口を探したり警備員を昏倒させる手間が省けるからと……」

はぁ、と深い溜息をつく。

「そこまでして、一体何の用だ」

守ると決めた少女達ではないが、あの顔は傷つけたくない。それでも。

一方通行は、覚悟を決めた。












「何の用、ですって?」

高ぶる感情に合わせ、夜空に細かな雷が散っていく。

美琴は覚悟を決めたかのように真っ直ぐこちらを見据える赤い目を、下っ腹に力を入れて睨み返した。

「聞くまでもないことだったか。……だが、言っただろう第三位」

目の前の細い白い身体からは、相変わらず何の殺気も感じられない。

だがその悪夢のように白い指を首元に近づけ、チョーカーの辺りに触れた。

「俺はオマエに殺されてやるワケにはいかねェンだよ」

カチ、という微かな音。

風にかき消されそうなそれは、しかしまるで闘いのゴングのように響いた。

「……待ちなさい!」

だが美琴は、反射的に雷撃を放ちそうになるのを、必死に抑え込む。

顔色を変えた打ち止めと10032号が視界に入っていたから、つい先ほど、やけに頼りない顔の第一位の顔を見ていたから、
やっと出来たことだった。

「私はアンタを殺しに来たんじゃない!勝手に勘違いしないで!」

「………?」

必死で叫ぶと、夜でも血のように浮き上がる赤い目が、ひどく訝しげに眇められる。

「じゃあ何をしに来た。『妹達』の復讐をしたいンだろ」


当然のような表情で言われて、カッと頭に血が昇り、美琴は叩きつけるように叫んだ。

「復讐ですって、何言ってるの!?バカにしないで、私はそんなことしない!!復讐なんてするわけないわ、当然でしょ!?」

いかに一方通行の所業が許せないものだったとしても、復讐のために殺すなど、思いつきさえしないこと。

以前殺意を抱いたことはあったが、それも実験を止めるために思い詰めた果てのことだ。

殺されたから、殺す。それに一体何の意味がある。

今までにそんな人々を見たこともあるが、美琴にはひどく悲しい姿にしか見えなかった。

「……オマエこそ何を言っている。殺せば、いつかは殺される。それこそが当然だろォが」

けれど一方通行は美琴の言葉を真正面から跳ね返す。何の気負いもなく、昨日の天気を話すような調子だった。

「そんなのが当然なワケないでしょ、何でそんな風に思うのよ!」

「何でも、何も。今まで実際に、それが当然だったからな」

アッサリと答えられ、美琴は打たれたように瞠目した。

(そうか、一方通行にとっては)

一方通行にとっては、それが当たり前のこと。殺せば、殺されるのが当たり前。殺人も復讐も当然の世界。

違うんだ、と唐突に理解する。

何もかも。生まれてから今までの人生が、美琴と目の前の第一位とは違い過ぎる。

理解するのもされるのも、ひどく難しいくらいには。

そこまで考えて、美琴は自分が何をしに来たのかを手元に返し、握り締める。

「一方通行。私はアンタを殺しに来たんじゃないわ」

「は……?」

決然と宣言すれば、眇められていた目が丸くなる。


意外と目が大きいんだな、と場違いなことを思った。怪訝そうな表情は、まるで人間のようだ。

第一位は美琴にとってずっと悪夢と失意の象徴で、同じ人間だとは思っていなかった。何か話そうなんて思っていなかった。

だが、あのツンツン頭が言っていたのだ。

直接、聞いてみろと。

そして、知らなかった顔を見た、知らなかった声を聞いた。もう、ただの怪物だとは思えない。

だからこそ、この焼け付く後悔と怒りに決着を付ける。

「私はアンタを殺そうとは思わない」

そう、殺しに来たんじゃない。あの実験が絶対に許せないから、実行者だった一方通行も許せないだけ。

一番許せないのは自分だ。原因を作ってしまった、実験を止められなかった、力不足の自分。

「殺しに来たんじゃないわ、一方通行」

自分にも確認をするように、もう一度ゆっくりと言い放つ。

「…………」

すると、白い顔が寄る辺ないように揺らいだ。ひどく不安げな、困ったような表情。

縋りつく枕を取り上げられた、幼い子供のような顔だと思った。

凍りつくような風は鳴り止まない。

ふら、とその風に煽られたように、華奢な身体が揺らいだ。



「えっ……!?あ、あなた大変、19090号が大変なの!ってミサカはミサカは空気を読まずに叫んでみる!!」



その時、打ち止めが大声で叫んで、ずっと握り締めていたままだった一方通行の腕に、再度しがみつく。


ハッ、と揺らいでいた赤い目が瞠目する。急に身体の芯が入ったように、しっかりと地を踏みしめた。

「何だ、どォした!」

「銃火器持ったスキルアウト十人に囲まれて大ピンチ!!ってミサカはミサカは下位個体の状況を実況中継してみたり!」

「は……はァ?スキルアウトだと?」

「ミサカ達は仮にも軍用クローンだぞ。スキルアウトくらいどうってことないだろ、とミサカは空気の読めないミサカにツッコミます」

「そ、それがいつも持ち歩いてる銃火器系、忘れたとか言ってる……ってミサカはミサカは肩を落としてみる」

「おィイイイイ!!間抜けか!!とミサカは」

「打ち止め、絶対座標!!」

「X=18737713、Y=2771361地点だよ!ってミサカはミサカは」

嵐のようなやり取りの後、一方通行は打ち止めの言葉の途中で地を蹴った。

ゴォッ、今までとは比較にならない、圧倒的な風量が逆巻く。

咄嗟に顔を庇った美琴が見上げるのと、背中から竜巻を生やした一方通行が放たれた矢のように宙を疾駆していくのが同時。

「一方通行、待ちなさいよ……ッ!!!」

思わず叫んでも、届くはずも無い。

白い細い後姿は、とっくに眼下のビル群の間に消えてかけている。

一片の迷いもない背中。

決して逞しくはないというのに、力強く見えるその背が、一瞬あのツンツン頭のものと重なって見える。

(な……、何考えてるの、私!!)

ありえない、しっかりしろ、と拳を握り締めて、そのまま弾かれたように地を蹴って走り出す。


「待てっつってんだろうがこの野郎ォオオオオ!!!」


ビルの端まで一気に走り抜け、空中に飛び出した。宝石をブチ撒けた、光の海に飛び込むような錯覚。

「お、お姉様!?ってミサカはミサカは!!」

「お姉様!!!!」

全力で放電すれば、学園都市の夜空に巨大な稲妻が閃く。

双眸をしっかりと見開き、遠くに小さく見える背を追った。

今度は逃がさない。絶対に。
















息を切らして、ようやく検討をつけた路地裏に入る。

「……ッ、はぁ、はぁ」

第十六学区の路地裏。美琴も必死で追いかけたが、空中を自由に飛べる一方通行と違い、
こちらはあっちのビルこっちのビルと、落下とビル壁への張り付きを利用して移動するので、どうしても時間が掛かってしまう。

結果として、追いついた時には、すべてが終わっていた。

「バカが!武器忘れたンならせめてこンな裏路地入ってンじゃねェよ!」

「うっ……す、すみません、とミサカは肩を落とします……」

「ったく……」

少しだけ表通りの明かりが差し込む、薄暗い路地。

あちこちに皹が入り、コンクリートが抉れ、数人の柄の悪そうな男達が呻いている。

黒光りする銃が散々に壊れて転がっていた。壊れているのか、ほんの時折のみ点灯する街灯が、無機質な光を投げかける。

そんな中、自分と同じ顔をしてゴーグルをつけた少女が、一方通行と向かい合ってうな垂れていた。


「何でこンなとこ一人で来た、19090号」

「お、おいしいと噂のクレープ屋さんがそっちのビルにですね……とミサカは頬を赤らめます」

「オマエも飽きねェな……」

一方通行がはァ、と呆れたような溜息を落とすと、19090号と呼ばれた少女はバツが悪そうにしながら、遠慮がちに一方通行の服の裾を掴む。

それは、普段怖がっている年上の兄弟に、いざという時には頼ってしまう内気な妹のような。

ひどく日常的で微笑ましい様子に思えて、美琴はひどい違和感と、目の前の現実とを見比べながら、ただただ二人を凝視していた。

壊れかけの街灯がフラッシュのように瞬いて、自分にとっての非日常が心に焼き付いていく。

「あの、一方通行。とミサカは服の裾を引っ張ります」

「なンだ」

「さっきの人達は、銃を持っていました。とミサカは壊れた銃を見ながら確認します」

「それがどォした」

「……ミサカは生まれて初めて銃を向けられましたが…。とても、怖かったです。と肩を震わせます」

一方通行は瞬きをして、潤んだ栗色の視界からスキルアウト達を隠すように身体をずらす。

それを見て、19090号は小さく頭を振った。

「い、今は怖くないので大丈夫です。ミサカが言いたいのは、……一方通行も怖かったのでしょうか、と」

赤い目が、少し驚いたように見開かれた。

それを不安そうに見詰め返し、19090号は強く一方通行の服の裾を握り締めた。くしゃくしゃと皺が寄る。

「ミサカ達は数え切れないほど、あなたに銃口を向けました。何回も何回も、銃弾を撃ちました。当たることはありませんでしたが…」

「…………」

「あなたも怖かったですか?とミサカはたった今気付いて、申し訳なく思います。ごめんなさい、一方通行」

眉を下げた少女が、小さく頭を揺らす。


その瞬間。一方通行は、打ちのめされたような表情で、美琴と同じ形の顔を見下ろした。

触れれば崩れ落ちそうな顔を見上げ、19090号は慌てたようにせわしなく身体を揺らす。

「あっ…!や、やっぱり怖かったんですね、とミサカはあなたの見たことのない顔に慌てます!」

「…………違ェよ」

すると一方通行は我に返ったように何度か瞬きし、トン、と間近にあるゴーグルにごく軽い手刀を落とした。

「この俺が銃なンか怖いワケあるかバァカ。第一、『オマエ』は俺に銃向けたことなンてねェだろ。謝られる筋合いはねェな」

「そう、でしょうか……とミサカは全然痛くないチョップを不思議に思います」

「そォだよ」

「でも、ミサカ達は」

「オマエらは個性を大事にすンだろ。それなら、自分がやったことと他人がやったことの区別くらいつけろ」

「……はい。とミサカは…。あれ、お姉様?」

19090号がふとこちらに顔を向け、「どうしてここに」と首を傾げる。

「……っ」

弾かれたように美琴を見た一方通行が、気まずそうに目を伏せた。

らしくもない、と思う。今の今までこちらの存在に気付かなかったのだろうか。それほど、あの『妹達』の一人を心配していのか。

そこにパタパタと足音を立てて、打ち止めと10032号が追いついてくる。

「あ、いた、ってミサカはミサカはあなたと19090号の無事を喜んで飛びついてみたり!」

「飛びつくなって何度言やァわかンだクソガキ!」

「オイこらお前、スキルアウトごときに遅れを取るとは何事だ、とミサカは長女らしく鹿爪らしい顔でお説教をします」

「うぅ、すみません…とミサカは肩を落とします」

一気に、ひどく賑やかになる。


自分と同じ顔の、けれど全然違う存在の少女達に囲まれた白い怪物は、何の違和感もなくそこに溶け込んでいた。

いつもこんな調子なのだろう、というのが容易に想像出来る。

押し潰されそうな違和感を抱えているのは、きっとこの場に自分ひとりだ、と美琴は唇を噛み締めた。

「おい、第三位」

不意に、一方通行が放り投げるように声を掛け、反射的に、キッと八つ当たりでもするように睨み付ける。

「何よ」

薄暗い路地に再び街灯が瞬いて、赤い目をチラチラと輝かせた。

「こンなところまで追いかけてきて、何の用だ。さっきも言ったが俺は」

「だから私はアンタを殺しに来たんじゃない!何回言わせるのよ!アンタを許せない理由と同じこと、私がするワケないでしょ!?」

「……なるほどな。俺と同じには成り下がらない、ってワケか」

再びカッとなって叫べば、一方通行は深々と、府に落ちたような溜息をついた。

こんな言い方で納得されるのも、その物言いもひどく気に入らなかったが、美琴はグッと堪えた。

話していて何て苛々するヤツ。絶対気が合わない。しかし今は、聞きたいことを聞くのが先だ。

「なら、何をしに来たってンだ」

すう、と息を吸う。真冬の冷たい空気が身体の奥に届いて、腹の底を落ち着かせてくれる。

改めて一方通行の目を見た。

ただの赤い目だ。不思議と、もう怖くはなかった。

「話しなさいよ」

「何を」

「私はアンタと『妹達』が仲良さげにしてるのが信じられないの」


あの実験の頃と、今。被験者であった第一位と、実験体であった『妹達』との関係が、まったく違うものに変化していることはわかる。

目の前で見たものを否定することはしない。それくらいの度量はある。

だがそれと納得することは全く別の問題だ。

「現状はわかったわよ、でも受け入れられないの!一体どうしてアンタが『妹達』を守るみたいなことしてんのよ!?」

「…………」

一方通行は打ち止めを見て、次に10032号を見る。すると二人が揃ってブンブン首を振った。

「み、ミサカは何も話してないよ!?ってミサカはミサカは濡れ衣が着せられる前に訴えてみたり!」

「このミサカだって話してません!そこの幼女が上位個体命令まで出して」

「ちょっ、10032号!余計なこと言わないでよ!ってミサカはミサカは拳を振り上げてみる!」

「言っておくけど何も聞いてないわよ。今日見たことだけ。詳しいことは、アンタの口から話してもらう」

口々に訴える妹達を遮り、美琴は一方通行を睨み据える。

もう帯電はしていない。

白い怪物にしか思えなかった第一位は、やけに人間臭い、嫌そうな顔になる。

「……オマエに話すことなンてねェよ」

「はぁ!?フザけないでよ、ないワケないでしょ、アンタと『妹達』との関係を変える出来事があった、それはわかってる!」

ダンッ、と苛立ちのあまり足を踏み鳴らすと、稲妻が路地に飛び散る。半瞬で街灯に這い上がった光が、焼け付くような音を立てた。

「それとも話したくないってこと!?なら、アンタが話したいかどうかなんて聞いてない。私が聞きたいっつってんのよ!」

その剣幕にも少し目を眇めただけで、一方通行はふいとそっぽを向いた。

「俺の言い訳でも聞きたいってのか」

まさかそんなわけはないだろう、と言いたげな言葉を、

「そうよ!!」


美琴は勢い良く肯定する。

夢にも思わない反応だったのか、一方通行の目が呆然と見開かれた。

「言い訳。言い訳って言ったわね?言い訳するってことは、悪いことしたって思ってるんでしょ!?『妹達』や私に後ろめたいんでしょ!」

だから逃げたんでしょう、と渾身の力で言葉をぶつければ、赤い目が見開かれたまま硬直する。

驚いた顔で固まった顔も細い身体も、全身で「図星です」と表現しているように見えた。

少し考えればわかることだ。そんな人間らしい理由、一方通行にふさわしくないと除外していただけ。何も難しいことじゃなかった。

「どうせアンタみたいなタイプは言い訳なんかカッコ悪いって思ってるんでしょうけどね、理由を聞けば私の気持ちの整理がつくの」

美琴はぎゅっと胸元を握り締める。

あの日からずっとこの心の奥に焼きついていた傷を、乗り越えるために。

心の一部が蹲ったままのあの日から、歩き出すために。

「アンタがどうか知らないけど、誰かにずっと怒ってるのって苦しいの。でも理由を聞けば、納得出来なくても決着が付くの。
前に進めるのよ。アンタが私に悪いって思ってんなら、私のために理由を話しなさいよ!!」

ひどく格好悪いことを言っている、と思いながら、それでも拳を握り締める。

ちょっと短気なところのある自分はつい直情的な行動をしてしまうが、先ほどの激情を越えれば、本当に聞きたいことが生まれた。

理由を聞きたい。ひどくシンプルなそれ。

あの化け物がどうして変わったのか。変わることが出来るのなら、どうしてあんな実験を引き受けたりしたのか。

何を考えていたのか、何を考えているのか。

自分に変な小細工は似合わない。だから美琴は、直球で、思うがままに知りたいことをぶつけた。

一方通行は、矢継ぎ早にぶつけられる言葉を前にして、ただ黙って佇んでいる。

妹達は、ただハラハラオロオロしているのが手に取るようにわかる様子で、美琴と一方通行を交互に見比べている。

「…………理由、ねェ…」

吐き捨てるつもりで失敗したような、ひどく戸惑ったような声音だった。


「そンなモン知りたかったのかよ。最初に思いっきり攻撃しといて」

「ぅぐ…っ!そ、それはアンタが10032号に何かしてるって思ったのよ、仕方ないでしょ!」

「ま、当然か。よくもまァわざわざ尋ねる気になったもンだ」

「……だってアイツが」

思わずボソリと零した言葉に、一方通行が「アイツ?」と不審そうに眉を寄せる。

美琴は慌てて言い繕おうとしたが思いなおし、少し俯いて口を開いた。

「アイツ……上条当麻。知ってるんでしょ。アイツが、アンタは変わったって。直接聞けって、言ってたから」

そう、それがこのところずっと美琴を惑わせ、そして今この対峙まで導いたきっかけ。

自分をあの悪夢から救い上げてくれたヒーローの言葉だったからこそ、ここまで悩んだのだ。

こんな化け物の話でごく自然に笑った少年の明るさを手元に返して顔を上げ、息を呑む。


一方通行は泣きそうな顔をしていた。


狂ったような嘲笑でもない、不機嫌そうなしかめっ面でもない、ただひどく頼りなげな。消えてしまいそうなほどに、儚げな。

唐突に、そういえば目の前の第一位が少女だったのだということを、美琴は思い出した。

上条が言っていたのだから、事実なのだろう。

「少女」という言葉から連想されるような可愛らしさや柔らかさは欠片も見当たらないから、すっかり忘れていたのに。

微かに震える真っ白い手が、ぐしゃりと顔の横の白い髪を掴む。華奢な手だった。

「………ッ」

何かを必死に堪えるような吐息が、静まり返った路地に落ちる。

「……あの…バカ、やろォが」

湿ったような掠れた声で、憎まれ口のつもりだったのだろうか。

薄い唇を噛み締め、一方通行は深く俯いた。


泣いたのかと思うと、ドキリと胸の奥が疼く。だってまさか、あの一方通行が、と美琴は複雑なものを持て余す。

妹達も同じ思いでいるのか、固唾を呑んで小さな白い頭を凝視する。

ややあって一方通行が顔を上げるが、赤い目は乾いたままだった。

たった今の表情が幻だったかのような、静かな色をしている。

「…………わかった」

「え?」

一瞬何の話かわからずに、美琴は上擦った声を上げる。

「オマエが望むなら、望むだけのことを話す。何が聞きたいンだ?」

まっすぐに見据えられたのは、初めてだったかもしれない。

改めて一方通行と睨み合う。ひとつ大きく深呼吸して、口を開いた。

「どうしてあんな実験に参加したのか。参加したのに、今はどうしてこの子達を守っているのか。アンタは今この子達をどう思ってるのか」

聞きたいことは、形にしてしまえば単純だ。

本音を言えば、あんなことをした一方通行に、『妹達』の側にいてほしくはない。

だが少なくとも打ち止めにとって、美琴の願いを聞き入れる可能性はほぼゼロに等しいのだろうと思う。

そして10032号を、今日会ったばかりの19090号をひどく戸惑わせ、困惑させるだろう。それは本意ではない。

だから変わらなければならないのは自分。誰よりも、自分のために。

「話なさい一方通行。納得することはないかもしれないけど、私はそれで前に進めるから」

眉間に力を入れて言い放つ。強い言葉は、自分への宣言でもある。


もう二度と、無様な姿を後輩にも妹にも、あの少年にも見せないための。

「…………へェ…」

一方通行は不思議なものを見るように、数回目を瞬いた。尖った色だった赤濁が、今は澄んでいるように見える。

「前に進める、か。まともな人間の発想ってのは、理解不能だな」

先ほど自分でクシャクシャにした髪を、何度か白い指先で撫で付ける。すぐにほどけて、さらりと冷たい風に靡いた。

「オマエらは……どォしてそンなに敵の言葉に耳を傾けようとする?」

(お前『ら』?)

唐突な複数形に美琴は首を傾げたが、それよりも皮肉でも嘲笑でもなく単に不思議そうな一方通行を訝しく思う。

「理由なんてないわよ。でも私は理解できないことするヤツがいたら、とりあえず理由くらい聞くことにしてんの」

「オマエには理由がねェのに、オマエは理由を聞くのかよ」

「そうよ。何か文句ある?」

「別にィ」

ふ、と目の前の薄い唇が緩む。

笑ったのか、と美琴が気付くのに数秒かかってしまった。

こんなヤツでも笑うのかと思い、その微かな笑顔らしきものがひどくあどけなく見えたことに、何故か悲しいようなものが込み上げる。

「俺は自分の敵に理由なンて聞こうとすら思えねェよ」

「……それはアンタが誰かを許したことも、誰かに許されたこともないからよ」

そう気付いたから。

断言すれば、不思議そうだった目の色が興味深そうに細められる。


「わかったよォなクチ聞いてくれる」

「違うの?だからアンタは誰にも話そうとしないし、話したところでわかってくれるだろうとも思わない。一人でカッコつけちゃってバカみたい」

「……ふゥン」

激怒するかと思ったのに、一方通行は少し考えるように首を傾げただけだった。

それから、拳を握り締め、並んでこちらを見守っていた『妹達』に向き直る。

「最初の二つの質問の答えには、少し時間をくれるか。他人に話したことなンかねェから、纏めるのに時間がかかる」

その声音からは、今までの固い緊張が抜けている気がした。

口先だけの誤魔化しには聞こえなかったから、美琴はゆっくりと頷く。そもそも誤魔化しなど、このプライドの高い第一位がするわけもない。

「準備が出来たら連絡する。けど、最後の質問にはすぐに答えられるぜ」

一方通行は、心配そうに、不思議そうに、戸惑ったように見上げるそれぞれの顔を見下ろした後、三人を纏めて抱き寄せた。

「わわっ!?ってミサカはミサカは急にぎゅってされてビックリしてみる!」

「???」

「な、何だよ、とミサカは居心地悪そうにモジモジします……」

細い腕は、一度は力を込めたくせに、今にも振り払われることに怯えるように震えている。

白い手が10032号と19090号の頭を自らの肩口に押し付け、恐る恐るの仕草で髪を梳いた。


「大事に、思ってる」

小さな小さな声で呟く。

「俺にそンな資格がなくても……」

薄汚い路地裏だった。表通りの喧騒もここには届かず、ただ光だけが時折気まぐれのように射して消えていく。

不意に、壊れてしまったと思っていた街灯が瞬いて、白い光を投げかけた。

ずっと点滅していたのに、今は何事もなかったかのように静かに三人の少女と白い怪物を照らしている。


「……………………か、った……」


悪かったと、言ったのだろうか。

怪物だった少女の声はひどく掠れて消え入りそうで、恐らくはあの三人にしか聞こえていまい。

10032号と19090号は肩口に顔を伏せたまま、じっとしている。

唯一俯いた顔を見上げている打ち止めは、ただ一心に一方通行を見詰めていた。瞬きもしないまま。

「……受け取りました、とミサカは顔を上げないまま呟きます」

ゴーグルに光る「10032」のロゴデザイン。

軽くなったというゴーグルを喜んでいた少女は、聞きなれた抑揚の薄い声を返す。

「受け取ったものをどうするかは、これから考えます。許してはいけない、と思ったのは、あの人とお姉様のためですから。
 だからこのミサカ自身がどうしたいのかを、これから考えようと思うのです。とミサカはこのミサカだけの決意を表明します」

「……じゃあ、ミサカも考えます。これはもしかして、共有しない方がいい記憶でしょうか。とミサカは一方通行に確認します」

「あァ……必要ねェよ。そのうち、……」

安っぽい蛍光灯が、無機質な光で照らし出す。

白い髪を、祈るような背を。












というかんじで次回に続くのであった
次はそこそこ早く来れるといいなー
また見てね!

こんばんは 投下しにきましたー
レスありがとうございます!久々だったのに、すごく嬉しいです。













雪が降ってきたような気がして、インデックスは窓を見上げた。

「……あくせられーた?」

ふわ、と舞い降りてきたのは、白い細い、チェス仲間。

ベランダの手摺に音もなく着地するので、インデックスは窓を開けた。凍るような風が吹き込んで、思わず肩を竦める。

今日は天気がよく、月もきれいだ。キンと音がしそうなほどに澄んだ空気。

「もう、あくせられーた。窓からはお行儀が悪いんだよ?ちゃんと玄関から来てくれなきゃ」

自分が初めてこの家にやって来た時のことは棚に上げ、鹿爪らしい顔で人差し指を立てる。

「あー……。次からそォする」

すると一方通行は浅く頷いてくれた。意外なことではない。一見柄が悪いが結構真面目なのだと、インデックスはもう知っている。

「……あのバカは?」

「とうま?さっきらすとおーだーに呼ばれて出て行って、まだ帰って来てないんだよ」

「そォか……」

いつまでも入って来ないから、インデックスはベランダに出る。サンダルを履いた足が冷たくて、小さく身震いした。

「あくせられーた……?」

手摺に立ったままの、細い白い影。


月の光が明るくて、今までは空を背にする一方通行の顔がよく見えていなかった。歩み寄って見上げて、少し瞠目する。

「あれ、どうしたの、その格好。とってもかわいいんだよ」

薄暗い中間近に見れば、髪も服もいつもと違う。少女がやるような、少年でもやるような結い上げ方。

白い髪と、ネイビーのコート。真っ白い肌と濃い色のコントラストがとてもきれいに見えて、インデックスは笑った。

本当に言おうとしたことを、飲み込んだまま。

「…………」

一方通行は黙っている。

いつも通りの、不機嫌そうな顔。

けれどどことなく、普段のような覇気というか、凄味が薄い。

(何かあったのかな)

何かあっても、ひとりで抱え込んでしまうところ。この白い人と上条は似ていると思う。

ひとりで抱え込んで、何とかしてしまう強さが、何よりも似ている。

けれどそれが、どれだけ自分達にもどかしさや寂しさを与えているか。

上条は、前に一方通行を追い掛け回して、少しだけ気付いたようだ。一方通行は気付くだろうか。
いや、上条と違い、気付いても黙殺するかもしれない。そういう潔さ、もしくは臆病な心を持っていると思う。

だが、インデックスはそれをひとつも口にしないまま、笑った。するとはるか頭上の白い顔は、少し眉を下げる。

あの上条当麻の帰りをただ待っていた自分の根性を舐めてはいけない、と内心で拳を握る。

上条に聞いた。自分は、一方通行にとって珍しい存在らしい。

超能力者の第一位。それがどんなものか想像は付きづらいけれど、上条は「お前とおんなじような立場だよ」と教えてくれた。

それで十分だった。

イギリス清教の魔道書図書館。今はその立場を辛いと思わない。
けれどあまりに特異な立場、その世界で周りがどういう態度を取るのかは容易く想像できた。


例えば、その世界と直接は関係ない小萌や姫神、風斬。打ち止めも10032号も番外個体も、そして一方通行も。

関係ないということは、一番大事というわけでは決してないけれど、時にとても気楽で。

自分にとって一方通行が特別大切な友達、というより何となく年の近い兄弟のような感覚でいるように。

一方通行も大事に思ってくれているのだろうかと思えば、くすぐったいような誇らしいようなものが胸をほかほかさせた。

「けど、ちょっと久しぶりかも。おなかは大丈夫?」

「……あァ」

上条に会いに来たと言っているが、自分の顔も見に来てくれたのだとわかっている。

そうでなければ、上条がいないとわかってくれた時点でさっさと立ち去るのが一方通行だ。
未だ留まってくれている時点で、インデックスのやりたいことは決まっていた。

「あくせられーた。ここ、寒いでしょ?中に入って待ってるといいかも」

窓を開け放つが、一方通行は手摺に立ったまま動かない。

「……俺はここでいい」

「えー?どうして?」

「いいンだ」

そのまま、ストンと手摺の上に腰を下ろす。ふわりと白い髪が揺れて、月の光に薄く輝く。

インデックスはそれをしばらく眺めて、「わかったんだよ」と頷いて急いで台所に走った。

手早く用意をして、また急いでベランダに戻る。

「はい」

「……コーヒー?」

「うん。あったかいよ」

「オマエのは紅茶か」

「うん。コーヒーも最近ちょっと飲んでてね、嫌いじゃないんだけど」

赤い目が、白いマグカップの黒いコーヒーを見下ろした。ふわふわと湯気が上がって、陶器のような頬を掠めていく。


「じゃあ、そっちがいい」

「紅茶?でも、あくせられーた前に嫌いだって言ってたんだよ?」

「……ダメか?」

細い眉が少しだけ下がって、残念そうな表情になる。インデックスは慌てて左手のティーカップを突き出した。

「べ、別にダメとは言ってないんだよ。はい!」

「ン」

白くて細い手がティーカップを受け取る。触れた指先は氷のようで、温まった陶器は熱過ぎはしないかと心配した。

繊細な鼻梁がカップに近づいて、白い睫毛が伏せられる。

「アールグレイか」

「そうだよ」

飲まないクセに種類を覚えてくれているのは、自分のためだろうか。

インデックスもマグカップを両手で持って、ふわふわに感じる湯気を鼻先に近付けた。香ばしい匂い。この匂いは好きだ。

手摺に座った不安定な姿勢のまま、一方通行は平気な顔でカップを傾ける。

細い頤。鋭く精緻な横顔を、じっと見守った。

「……どう、かな?」

「ン……悪くねェよ」

「そっかー、えへへー」

この意地っ張りな人の「悪くない」は「気に入った」だと、この家の住人はもう知っている。

インデックスは笑って、コーヒーを一口飲んだ。

「うん。これも悪くないんだよ」

「そォか」


一方通行の横に並び、手摺にもたれ掛かる。
素足のサンダルの底や、布地越しの背中から、染み入るように冷気が這い上がってくる。

「……オマエ、寒くねェのか」

「何言ってるのかな。寒いに決まってるんだよ」

唇を尖らせて、肩口を一方通行の腕に擦りつける。うりうりとしばらくやってから、納まりの良い場所に落ち着いた。

右半身が手摺に腰掛けたままの一方通行にピッタリ寄り添っている。体温の低い人だけれど、こうすれば多少は温かい。

「俺はいいから部屋戻ってろバカ」

「寒い場所で飲むコーヒーもオツなもんかも」

マグカップを持った両手が、ジンと温かい。

痺れるような痛痒さにちょっとだけ眉を顰めると、浅い溜息が頭の上に落ちた。

「e4」

「あァ……?」

「だから、ポーンをe4だってば。はい、あくせられーたの番」

コーヒーを一口飲んで見上げると、少し戸惑ったような赤い目が見下ろしている。

「はーやーくーー」

肩を細い腕にぐいぐい押し付けると、渋々としたような声が振ってくる。

「つゥかオマエが白かよ……e5」

「Nf3」

「Nc6」

「Bb5」

「f5」

チェスをするのは久しぶりの気がした。実際にそう日が経っているわけではないけれど、色々なことがあったから。

盤も駒もないチェスは、以前には当たり前だったのに、今は少し切ない。

「Bxc6」

「dxc6」

マグカップを傾けると、ティーカップも傾けられる。

ほぅ、と息を吐くと、白いもやがふわりと漂い、消える。


「Nxe5」

「Qd4」

「Qh5。チェック」

「g6」

もやが消える前に、隣から新しいもやが生まれて、それが繰り返されていく。

呟くような静かな声が、インデックスは好きだった。

いつだったか、上条が「お前と一方通行がチェスしてんの聞いてんの、好きだなー」とか笑っていたのを思い出す。

微かに紅茶を啜る音が聞こえる時だけそれが途切れて、すぐに続いていく。

「Nxg6」

「hxg6」

普段の一方通行の通り、なかなか攻撃的な手だ。

インデックスはマグカップを傾けて、コクリと熱い液体を流し込む。香ばしい匂いが鼻の奥に抜けた。
コーヒーもなかなかおいしいものだ。

「Qxg6。チェック」

「Kd8」

間髪入れずに二回目の王手が抜けられ、思わずクスクス笑った。楽しい。

でも勝負はこれからだとどんどん追い詰めるが、黒のキングはひょいひょいと逃げていく。

「Bf5」

「あっ」

不意に、黒のビショップが飛び込んできた。途端に形成が不利になり、慌てて自陣の守りを固める。

だが時既に遅し、クイーン、ビショップまでもが攻勢を掛け、一方通行は総攻撃の構えだ。

「むぅー……。Rxd3。チェック」

「Bxd3。チェック」

「あぅ」

何だかヘコんでいるようだが、結局。

一方通行の手はいつもの一方通行だった。

数分も経たず、インデックスは白旗を上げる。


「………負けたんだよ」

「勝った」

フン、と軽く鼻を鳴らすのを見上げると、口の端が僅かに釣りあがり、少し得意そうだ。

ティーカップを傾けて、最後まで飲み干してくれる。

自然と笑顔になって、訝しそうにされてしまった。

「ンだよ、負けたクセに」

「んー?あくせられーた、今日かわいい格好だなって思って」

「かわいい……?」

素直に感想を言えば、納得行かなさげに首を傾げられる。剥き出しの細い首は、ひどく寒そうだ。

「そォいうカンジじゃねェだろ、コレ」

「そうだね、確かに男の子が着てるっぽいかんじもあるかも。でも普段よりかわいい服だよー」

「そォかねェ」

「そうそう。それでその……えっとぉ、テレビに出て来る、最初の三分くらいでやられるかんじの」

「あァ?」

「あ、チンピラだね、うん。そのチンピラっぽいのやめて女の子らしくしたらいいかも」

「誰がチンピラだコラァ」

「いたっ」

ビシッ、と脳天にチョップが落とされる。それは打ち止めや10032号にするのと同じ仕草で、痛いのに痛くない。

声を上げて笑えば、ふわふわと白いもやが自分達を取り巻く。

「ほら、そういうの!あくせられーた、せっかくきれいな顔なんだし、もっと女の子っぽく話してみるといいんだよ」

「……?ンなことやって俺に何の得があンの?」

普段ちょっと意地悪をされる仕返しに、精一杯からかうように言ってやるが、ひどく不思議そうにされて言葉に詰まる。

「え……?得…?え、えっとぉ……」

ただ何となくの発言だったインデックスは、慌てて考え込んだ。


(得?得かぁ、えっと、えーと……かわいく見える…かも?っていうかそもそも女の子っぽいってどんなかんじなのかな?
あ、言葉使いとか?………。いやいや、あくせられーたが仮にあいさみたいな口調だったらすごい違和感かも)

苺のように赤い目が、じっとインデックスを見下ろす。ただ答えを待つ、少し子供のような無邪気な眼差し。

ゆっくり瞬きをする度に、長い白い睫毛が合わさった音が聞こえる気がする。答えを待っているのか、口を開かない。

普段は動じないし強くて頼りがいのある一方通行だが、たまにひどく素直だ。こういう時、案外とかわいいところもあると思う。

「ねぇ?」

「?」

つい同意を求めるように首を傾げると、一方通行も釣られたように首を傾げた。


(やっぱりかわいいかも)

インデックスは吹き出しそうになるのを我慢する。

こんな顔を誰にでも見せてくれるわけではないと知っているから、ちょっとだけ得意な気持ちにもなった。

しかしまぁ、これだけ待ってくれているのだから、きちんとした答えを返さねばなるまい、とインデックスは張り切って考える。

「うーん…?かわいくしてれば……好きな人?が?好きになってくれる?かも?」

「随分自信なさげですねェ」

意気込みとは裏腹の上がり気味の語尾に、一方通行は呆れたような溜息をついて肩を竦めた。

「だいたい、そンなことで惚れられて嬉しいもンか?」

「好きな人になら嬉しいんじゃないかな。たぶん?」

「それくらいで惚れるようなヤツなら、些細なことで他のヤツに気移りするだろォよ。くっだらねェ」

「……前から思ってたけどあくせられーたって結構乙女チックかも」

「はァ?」

全力で訝しげな声が降ってきて、インデックスは思わず吹き出す。

「だって、あくせられーたは自分だったら、飾ってないホントの自分を好きになってほしいってことでしょ?」


「何でそォなる」

「どう考えたってそうなるんだよ」

「わっかンね」

「そうだね。自分で話題にしておいて何だけど、私も恋愛のことはよくわからないんだよ」

一方通行の真似をして、軽く肩を竦める。

シスターとはいえ、インデックスもいわゆる年頃というヤツだ。しかし恋というのはよくわからない。

テレビでも本の中でも皆が恋愛ばかりしているが、正直なところよくわからなかった。

上条への気持ちはそれに似たものかもしれなかったけれど、もっと当たり前にいつも温かくて、力強いものだ。

皆がしているのなら良いものなのかも、と時々考えて、どんなものなのだろうと思う。

「ふゥン……」

「あ、全然興味ない『ふぅん』きた!隠したってわかるんだよ!」

「だって興味ねェもン」

しらっと呟かれて頬が膨れる。そもそも隠していなかった。
インデックスは腹立ちまぎれにコーヒーを飲み干す。いつの間にか冷えきって、随分冷たい。

「えー?でもでもやっぱりロマンチックで素敵だと思うんだよ。あくせられーたもそう思わない?」

「生憎と全く思いませンねェ」

「もーあくせられーたったら、それでも女の子なの!?」

「違うかもなァ」

「もー!!」

腕を組んで顎を逸らす白い姿は、しかし確かに高貴な少年のようにも、玲瓏たる少女のようにも見えるかもしれない。

けれどインデックスには、最初から少女のようにしか見えてないのだ。


そういえば、最初は上条も「あいつ女の子だと思うか?」と自信なさそうに訪ねてきたものだ。見る目がない。

そこまで思い返して、「あれっ」とギクリとしたものが込み上げる。

先日一方通行が倒れて少し入院していた時、その原因を上条が知ったことを、秘密にしておくように言われた。

『一方通行はさ、女の子だっていうの隠してるみたいなんだ。だから俺が知ってること、言わない方がいいと思って』

嘘をついてしまうことを後ろめたそうにしながら、気恥ずかしそうな顔で。

(あれ……?)

今更、本当に今更だが、「もしかして自分は言ってはいけないことを上条に言ったのだろうか」という恐れが沸き上がる。

何ということだ、と内心頭を抱える。インデックスだってもちろん、一方通行を傷つけたくはないのに。

ぎしぎしと胸が痛む。

「………………あくせられーた」

「ン?」

おっかなびっくり声を掛ける。時すでにかなり遅いが、潔く確かめねばなるまい。神に仕える身としては。

「あくせられーたって……女の子だってこと、周りに隠してるの……?」

「いや別に」

放り投げるような答えが、あっさり返ってくる。

「えっ…………」

それまでの重苦しいプレッシャーからひょいと解放され、間の抜けた声が出てしまった。

「別に隠すよォなことでもねェし。つかどォでもいいだろ、俺の性別なンか」

平坦な声は、本当にどうでもよさそうだ。感慨も感情も薄い。

インデックスは安堵のあまり、思わず深々と息を吐き出した。

「そっかー、じゃあとうまに言っても」

「ダメだ」

「えっ……?」


急に硬くなった声音に、弾かれたように顔を上げる。

すると自分でも驚いたような白い顔で、一方通行は取り繕うように舌打ちをした。

「あいつには言わなくていい」

「え……ど、どうして?」

「……それまで男だと思ってた奴が女だって知った場合の反応ってな、すげェ鬱陶しいンだわ。
 これ以上アレに付き合わされるのはゴメンだ」

苦虫を噛み潰したような表情は本当に嫌そうで、それは一見したところもっともらしい理由に思える。

「……それだけ?」

けれどインデックスは、先ほどの硬く頼りない声が気になって、一方通行の腕を引いた。

いつも揺るぎなくふてぶてしい口調が、聞いたことがないほどに揺らいでいたと思う。

「それだけだ。他に何がある」

「他に………」

白い横顔は、部屋の奥のドアを睨んでいた。

(そういえば、とうまに何の話なのかな)

上条のことを思い出しているのだろうか。

やぶ睨みだった目付きが、いつしか和らいでいく。雪が溶けていくように。

インデックスは、あの時に一方通行の寝顔を見詰めていた上条の日に焼けた横顔を、手元に返した。

『俺は…一方通行は、俺と同じ方向を向いてると思う。
 だからコイツとなら、同じ方向を見て、一緒に歩いて行ける気がするんだ』

似ているような気がした。そこにある情の形も。

(愛とか、恋とか)


ただマジマジと、目の前のあまり見たことの無い表情を見詰める。

自分にはまだよくわからないけれど、上条が渡そうとしているものを、一方通行が受け取ってくれればいいと思う。

それはどんな形でどんな色なのか。けれど、本当はそんなことはどうでもいいのかもしれない。

恋でも愛でも友情でも共感でも、何でもいいのかもしれない。

「…………」

インデックスは、上条が一方通行の性別を既に知っていることは、言わないでいようと決意した。

これは二人の問題だ。側で見ているだけで、二人の感情が揺らいでいるのがわかるから、下手に口を出すべきじゃない。

(こういう事情なら、主だってお許しくださると思うんだよ)

内心で軽く十字を切り、それにしてもと首を傾げる。

「恋とか、愛とか……?」

やっぱり、これが一般的にそう言われるものなのか、少し気になるのだった。
他人事だから、それとも上条と一方通行のことだからか、単なる好奇心か。

無意識に言葉に出すと、赤い目がチラとこちらを見て、やれやれと言いたげな溜息を吐かれる。

「しつけェぞ。……だいたい愛だの恋だの、そォいうのはまともな人間のやることだろ」

「……ッ!」

だから自分には関係ない、と言いたげな口調に、インデックスは思わず肩で体当たりをかます。

「いてっ、あ…」

不安定な姿勢のままだった細っこい身体が、ぐらりと揺れる。

「わわわわ!?あ、危ない!!」

慌てて一方通行の腰に思いっきりしがみつけば、バランスを崩しかけた身体がベランダの内側に落ちた。

「っ、と」

すとん、と綺麗に着地して、ドッと冷や汗が込み上げる。


「ご、ご、ごめんねあくせられーた……」

「別に。落ちたってどォってことねェし」

「そ、そういう問題じゃないかも!はー……ビッックリしたんだよ……」

インデックスは大事なチェス仲間がベランダから滑り落ちそうになった衝撃と、思い切り抱きついているのに振り払われない嬉しさと、
複雑な気持ちで更にぎゅうぎゅうしがみつく。

「おい、いい加減苦しいンだが」

「んー……やっぱりあくせられーたって細くて柔らかくて気持ちいいんだよ」

「はァ?」

「らすとおーだーが、『あの人は抱きつくと気持ちよくって、いい匂いがするんだよ!』ってすっごく自慢してたから」

「あのガキは……」

厚めの服越しにでも細い腰。冷たい空気に、微かな涼しい花のような匂いがして、すんすんと鼻を鳴らした。

「いい匂い」

「オマエはガキと同じ匂いがすンなァ」

「子供じゃないもん!」

反射的に文句を言うと、「その反論もガキと同じ」と笑みを含んだような声が降ってきた。

怒ったフリは長く続かず、インデックスはすぐにクスクス笑う。

吐いた息は白く、相変わらず凍り付くように寒い。けれど今は温かい。一方通行の体温は低いのに、不思議だと思った。

「……ねぇ、あくせられーた」


「何だ」

「愛とか恋とかは、まともじゃなくってもしていいものだと思うんだよ」

「そこはあのガキみたいには怒らねェンだな、オマエは」

『まともじゃないなんて言わないで!』と怒る打ち止めが目の裏に浮かび、インデックスは微笑ましく口元を緩める。

「あなたがそう思っているのなら、私は否定しないよ。だから、私が知ってるあくせられーたの優しさを、あなたも否定しないでほしいんだよ」

「…………」

気まずそうな沈黙が落ちてくる。苦虫を噛み潰したような顔をされた。

先ほどはつい怒ってしまったけれど、そういう風に思う気持ちはわからないでもない。
例えば自分が、上条に「私のせいでとうまは」と口走ってしまったように。

そこには意識的であれ無意識であれ、甘えがあると思う。恐らく一方通行は今それを意識してしまったのだろう。

インデックスにしてみれば、「どんと来いなんだよ!!」とでも言ったところなのだが。

一方通行の自己評価の低さ、その理由を自分は知らない。知る必要もない、一方通行が知ってほしい時が訪れない限り。

だからインデックスはただ待っている。

それが誰かの助けになると、上条が教えてくれた。

「……あのガキが見てたテレビで言ってたンだが」

不意に、しばらく考え込むように黙っていた口が開かれる。

「うん?」

「犬とか猫とかの小動物は、人が弱ってたら側に寄ってきて、ただひっついてるンだと」

「へぇー……?」

一方通行がどうして突然そんなことを言い出したのかわからず、首を傾げながら部屋の中を見る。

スフィンクスは先ほどから一貫してコタツに入って丸くなったままだ。

「私達が寒そうにしてるのに、コタツで丸くなってるスフィンクスは残念な猫ってことかな?でもどうしたの急に?」

「………さァな」

突然の残念猫の烙印に、何だとコラァとでも言いたげにコタツから尻尾がはみ出る。

インデックスはどうしてあの飼い猫の話になるのかと見上げるが、一方通行はただこちらを見下ろしていた。

眩しげな色の赤い目で、とてもきれいだった。





















「……あれ?一方通行…?」

上条がふと見上げた自分の部屋のベランダに、見慣れきった白い少女と、最近見慣れてきた白い少女が見える。

(どうしたんだろ。ま、ま、まさかさっきの件で……)

凍りつくほどに寒いというのに、背中にじわりと汗が滲む。

夕方前にセブンスミストで一方通行と会い、図らずしも、いや本当に絶対に故意ではないわけだが、その胸元に触れてしまった。

自分でもビックリするくらい焦ってしまって、結局は全力で逃げ出してしまい。

家に帰ってインデックスに何をしてきたの、とでも聞かれたら力の限り挙動不審になってしまいそうなので、今の今まで頭を冷やしていた。

とりあえず物理的に冷やそうと思い、寒風吹きすさぶ川縁でボケーッとしていた。

時々不意にあの薄いけれど柔らかな、あの真っ白な外見からは想像できないほど温かな、
自分の身体の部位にはありえない感触が蘇って頭を掻き毟ったりおもむろに叫び声を上げたりしながら色即是空。

夜になり、あまりにひどく冷えてきたので、ようやく帰途についたわけだ。あまり頭が冷えた気はしなかったが。

それにしても、家を出る前に早めの夕飯にしておいてよかった。そうでなければ帰宅早々出血沙汰だ。

「…………」

つい立ち止まって見上げていると、またしてもだんだん顔が熱くなってくる。身体は芯まで冷えているはずなのに、かっかと熱い。

(あー、やばい)

見慣れない格好だったこととか、いつもと髪型が違ったこととか、そういえば前に触った時には怒られなかったのに今回は怒られたとか、
色々なことが錯綜して、まったく落ち着かない。ウロウロ視線が惑う。

(改めて怒りに来たのか……?)

一度流したことに再度言及するのは一方通行らしくないと思うが、やっぱり女の子なのだから、こればっかりは当然なのかも。

怒られてちゃんと神妙な顔になれるか、少し心配になってくる。いや悪いとは思ってる、思っているのだけれど。

だがしかし、いやそうだ、もしかしたら今度こそ、自分が一方通行の性別を知ったと気付かれたのかもしれない。

上条はハッとして、遠くに見える白い頭を見詰める。微かに月の光に映えている。

ふと、今どんな顔をしているのだろうと考える。見てみたいと思った。

上条はパン、と自分の両頬を叩き、気合を入れる。

「よし!}

何であれ、一方通行の思いも拳もきちんと受け止めよう。

そう決意して、上条は駆け足で寮の入り口に向かった。













ちょっと短いですが今日はここまでで
つまりこの上条さんは、一方さんがドシリアス展開の間中ずっとおっぱいの感触と戦っていた残念な上条さんです

こんばんわんこ
ちょっと短くてすんませんが、投下します













勢いよくドアが開いたので、一方通行はわずかに肩を震わせた。

「た、ただいまー!」

駆け込んで来たのは予想通り見慣れ始めたツンツン頭。

インデックスは再度ぎゅっと一方通行の胸元を抱き締めて、何かを宥めるようにポンポンと背を叩いた。

「とうま、おかえりー!あくせられーた来てるんだよ。用事があるんだって」

「お、おう!下から見えた!」

白い少女は一目散に上条に駆け寄り、靴を脱ぐ間にも玄関先をうろうろしている。

インデックスの相手をしながら不自然に勢い込んだ相槌を打った屋主が、意を決したようにベランダに歩み寄ってきた。

「じゃあとうま、私はお風呂に入ってくるね」

「え?ああ、わかった……」

それまで纏わり着いていたのが、パッと切り替えるように離れて、風呂場の奥に消えていく。

「…………」

「…………」

その小さな背を二人並んで見送る。

部屋の中は急に静かになった。

上条はガリガリと頭を掻いて、らしくもない少々ぎこちない仕草で笑う。

「どうしたんだ、急に?ま、とりあえず中入れよ。寒いだろ、そこ」

らしくもない、と自然と思ったことに、一方通行は眉を寄せた。軽く頭を振って、「ここでいい」とにべもなく断る。

「何でだよ?寒いじゃん」


「……いいンだよ」

凍りつくような風が吹いて、髪を後ろから掻き乱していく。耳も首筋も手の先も、ひどく感覚が鈍い。

だから痛みも感じない。今なら、血が出ていても気付かない。

部屋に入れば温かい。かじかんだ指先はひどく痺れ、熱く痛むだろう。それは恐らく目眩を催すから避けたい。
言うほどのことでもない些細な理由を口に出すことは憚られ、一方通行は微かに俯いた。

窓のサッシを眺めていると、そこに足先が掛かる。「よいしょ」と軽い掛け声と共に、上条が座り込んだ。

一応靴下は履いているが、コンクリートの直に触れる足裏は恐らく凍るようだろう。

「インデックスといいオマエといい……。寒くねェのかよ」

「寒いに決まってんじゃん。何言ってんだ?」

あの白いシスターと同じ行動に少し呆れれば、同じように呆れた声音が返って来る。

「…………」

気遣われている、ということがわからないほど、鈍くはない。
もう、都合のいいもの悪いもの、すべてを反射することはやめたのだから。

「で、何か用か?」

自分とは違い健康そうに日に焼けた顔が、少しの緊張を孕んでこちらを見上げる。

「用なんか無くってももちろん歓迎すっけどさ。今日はそういうんじゃねぇだろ?」

「…………」

一方通行はらしくもなく逡巡した。どう切り出せばいいのか、と。

目的の情報をどう聞き出すかとか、そういう合理的な理由で迷うのとは違う。こういう戸惑いには慣れない。

上条を見下ろせば、相変わらず緊張気味の表情で、こちらが聞こうとしていることを悟っているのかと思う。


「……今日、第三位に会った」

「へぁ?」

途端に素っ頓狂な声が上がるので、一方通行は訝しげに片眉を上げる。

「第三位……知ってンだろ」

「あ、ああ。御坂のことだよな?なんだよ、話ってあいつのこと?」

「なンだよって何だ。他に何かあンのかよ」

「んん!?いや別に!?あー…そうかそうか、ふーん……」

「……?」

上条は拍子抜けをしたようなホッとしたような顔になり、何を考えまわしているのか数回頷いた。

「うんうん。えーとそれで、御坂が何だって?」

「…………」

前言撤回。コイツは、自分の言おうとすることを悟っているワケではない。だがそれも当然のことだ。

言わなければ伝わらない。当たり前のことを実感したのはつい最近のこと。

一方通行は意識をして深く息を吸い、口を開いた。

「オマエ。……あの第三位に、俺に会えとか、話をしろとか、言ったらしいな」

「え?あー……あーあーあー、言ったなぁそういや。結構前だったと思うけど」

真っ黒い目をぐるぐる回し、上条がようやく思い当たったように頷く。

この男にとっては、それくらいの、気の留めないような普通のことだったのだろうと思い知らされ、目を眇める。

「何のつもりだ」


「何が?」

「とぼけンな。アイツが俺に会って、何の意味がある」

「意味はあるんじゃねぇの?だってそうじゃなきゃ、御坂はずっとオマエのこと誤解したまんまじゃねぇか」

「誤解じゃねぇだろォが」

「誤解だろ?だってお前、今は妹達を大事にしてんじゃん」

「……………」

一方通行は黙り込んだ。見下ろした黒い目は、相変わらず真っ直ぐだ。いつもいつも。変わらずに。

「今がどォでも……過去は変わらねェ」

吐き捨てたつもりだったそれは、少し歪んでいる。

「逆だろ。過去は変わらねぇけど、今は変えて行ける」

上条は間髪入れずに拾って返し、笑った。

「そっか、今日話せたのか。よかったな、一方通行」

「何が…………」

「御坂、たまによくわかんねぇことでビリビリするけど、ちゃんと話そうとしてくれただろ?」

「出会い頭に攻撃されたけどな」

「げ、マジか!だ、大丈夫だったか!?」

「当然だ。俺を何だと思ってやがる」

「お、おう、そうか、そうだな。あー…御坂の奴、短気だったよなぁそういや」


「それも普通の反応だろ。お前が変なンだよ」

「そうかねぇ。……それで?御坂、何だって?」

一方通行は再び口を噤む。おかしい。今日は上手く話せない。御坂美琴にも、インデックスにも、この男にも。

だが、ここに来た目的を手元に戻し、下っ腹に力を入れて口を開く。

「理由が……理由が知りたいとよ。俺が実験に参加した理由、今妹達を守っている理由」

「へぇ。御坂らしいな。けど実験に参加した理由は俺も知りたい。俺にも教えてくれよ、一方通行」

上条はふと思いついたような、当然のような顔でこちらを見上げる。

変な気負いの篭もらない、軽くすら思える声音は、だが表現するのなら「真摯」とでも言えばいいのか。

思えば、以前から自分の中でそういう単語を当て嵌めて来たのだ。

辞書でしか知らなかった単語を、この少年に会って初めて理解した。

「オマエは…オマエらは、どォしてそンなに理由を知ろうとする」

「ん?お前ら、って……俺と御坂か?御坂のことはわかんねぇけど、でもそれが普通のことじゃねぇの」

「普通……?」

「だって俺はお前のこと知りたいし」

上条は至極真面目な表情で言い切った後、少し照れたように笑う。

「お前は?俺のこと知りたくない?」

「………」

答えを返そうとして、たった今、自分はそのためにここに来たのだということに思い当たる。


先ほどの質問に答えを貰うために来た。知りたいと思った、こいつなら答えてくれると……そう思った。

わからないから、推察も出来ないから、直接尋ねる。それは今までの自分にとっては、ひどくハードルの高いこと。
数ヶ月前なら思いつきすらしない、シンプルな人間らしさだった。

一方通行は拳を握り締める。心臓が痛かった。

「一方通行。俺はお前にも、俺のこと知ってほしいと思う」

上条は一度震える拳を見てから、真っ直ぐにこちらを見上げる。目が合って、反射的に逸らしそうになるのを全力で堪えた。

「話したい、なら……勝手に話せ」

「ん」

軽い調子で頷き、一度溜息を吐き出す。

白い靄を追うように空を見上げるので、一方通行も身体の向きを変え、窓ガラスを背にして僅かにもたれ掛かる。

同じように見上げれば、学園都市の光を映した青白い斑の夜空。それでも少しは星が輝いていた。

「俺さ……戦う理由なんて、ただ目の前にいる奴を助けたいからだって、言ったことあっただろ」

「あァ」

「それはホントなんだ。けど、ロシアで少し自覚して、最近やっぱりそうなんだろうなって受け入れたことがあって」

いつも呑気な声音は、ひっそりと静かだ。

「俺、記憶がないだろ?だからホントは、いつも不安なんだ。俺はここに居ていいのか。インデックスの側に居ていいのか。
 この場所はホントは俺の場所じゃないんじゃないか、いつか誰かが俺を追い出すんじゃないかって」

「……っ!」

一方通行は瞠目して、隣の横顔を見た。上条は辛そうという風でもない、穏やかな顔でただ空を見ている。

夜空を眺める時にすら、こいつの目は真っ直ぐなんだなと、頭の隅で思った。

「でもさ、誰かを助ける度に、インデックスは『やっぱりとうまは!』って怒ったり笑ったりするんだ。笑ってくれる奴も増えるし、
 怒ってくれる奴も増える。俺の…記憶を失う前の俺じゃない、今の俺を認めてくれる奴が」


「………」

「別に認めてくれてなくてもいい。俺に関わってたって、俺がわかる奴らが増えるなら、俺はそういうのさ、すっげぇ嬉しいんだ。
 自分でもビックリするくらい。俺は………」

真っ黒い視線は天から不意に、地に落ちる。

「俺に繋がる何かが欲しいだけなんだ、多分な。何でもいい。そしたら俺は、ここに居てもいいってことになるだろ?」

俯いた表情は影になって見えない。

「はは……情けねぇよな。あーあ、言っちまった」

掠れた笑い声は、誰がどう見ても無理をしていて、一方通行は慌てて窓ガラスから背を浮かした。

いつか上条に、「記憶喪失だろう」と言及したことがあった。

あの時には、それはもうこの男にとって「乗り越えた傷」なのかと思ったのだ。

けれどそんなわけはない。そんなわけは、なかった。

例えば自分があの実験の記憶を失ったとして、今と同じようにいられるか。
果たして、妹達を、打ち止めを、迷わずに守っていてもいいと思えるのか。打ち止めの笑顔をただ真っ直ぐに見詰め返せるのか。

能天気過ぎた自分の判断に、一方通行は歯噛みする。

「……、あ…」

声が喉奥で詰まる。うな垂れた顔はよく見えない。その背は見たことも無いほど丸く撓んでいる。

何かを言おうとした。何を?わからない、けれど何か言いたいと思った。

「……っ」


だが何も出て来ない。以前だって、相当的外れな間抜けなことを言って、それはそれは気まずかった。

こんな時に優しく人を慰めたり、元気付けたり、これほど自分が不得手なことはそうそうないというものだ。

何かを言おうとして口を開き、また閉じる。幾度か繰り返し、そうだ、インデックスを呼んで来ようかと思い至る。

あのシスターなら自分と違ってとても優しいから、このらしくない男を何とか出来るだろう。

だが半瞬後には「やっぱりダメだ」と翻す。

以前、上条は「俺のインデックスへの思いとお前の打ち止めへの気持ちは似てる」とか何とか、言っていた。

例えば自分なら、打ち止めに頼りない姿を見せるなど冗談ではない。それが虚勢だとバレているとしてもだ。

上条は言った、「一方通行に知ってほしい」と。

それなら、何とかするべきは自分だ。何とかしたいなら、自分が何とかしなければならない。不得意でも、苦手でも。

(何とか……何とか?)

何とかって、どうしたいんだろう。

ふと自問して、すぐに答えは出る。

いつものように顔を真っ直ぐに上げて、笑っていてほしい。
バカみたいに熱くて普通で賑やかで、力強い、そんな風であってほしい。

時折、そう思うことはあった。打ち止めや妹達に感じるものと似ている、だが似ているだけで同じものではないのかもしれない。

「…………」

一方通行は数秒もしないうちに目まぐるしく思いを巡らせ、じわりと冷や汗のようなものが滲む。

黒いツンツン頭は俯いたまま。


ふと、打ち止めにするように、そのツンツン頭に手を伸ばす。

そして我に返り、息を呑んで手を止めた。そのまま引き戻そうとして、やはり思いなおして再び恐る恐る手を伸ばす。

かじかんだ冷たい手。指先の感覚はとうに無い。

自分らしい冷たい掌は、驚かせてしまうだろうか。

そう思えば、触れる寸前でピタリと止まってしまう。

「……っ」

不健康な真っ白い指先は、微かに震えている。

(何やってンだ俺は……)

唇を強く噛み締めた。



「……撫でてくれねぇの?一方通行」



不意に声を掛けられて、反射的に手を引こうとする。

そこを、ぎゅっと力強く握り締められた。

「な、何す」

「すげぇ、百面相」

「!!!」

俯いたままの横顔。それでもその口元は少し微笑んでいて、横目で見ていたのか、焦燥と反動の怒りが込み上げる。


「オマエッ……」

「怒るなよ。お前のそういう素直なとこ、いいよな」

「誰の話してやがる」

「一方通行さんのことですよー?……お前さぁ、前に俺に言ってくれたこと、覚えてるか?」

上条は俯いたまま、こともなげな声音でただ、一方通行の指先を握り締めている。縋るように。

確かに存在したはずの怒りが、ほどけて消えていく。跡形も無く。

残ったのは戸惑いと、戻ってきた焦燥と、その焦燥を生み出す胸の奥の何か。

「俺が記憶喪失ってこと話した時……お前、俺と同じように、何を失ってもあの子達を守って行くことが、出来るのかもって。
 そう言ってくれただろ」

ひどく遠く思える、冬の夜を思い出す。あの記憶と同じ冬がまだ過ぎていないほどに、近い過去のことなのに。

遠く思えるのは、何かが変わってしまったからだろうか。

「俺は……あれ、すげぇ嬉しかった。お前が俺のこと見ててそう思ってくれたってわかって、ホントに………」

いつも力強いはずの語尾が、掠れて潤んで、揺らぐ。

代わりのように、指先を握る手に力が篭もった。じぃん、と凍っていた爪先が痛む。

冷たかったはずの上条の手は、火傷しそうに熱い。

一方通行はただ、何も出来ずに佇んでいる。

ぎこちなくその横顔から視線を外して、ようやく空を見上げた。

身体の中で荘厳な音楽がうるさく鳴り響くような、耳元で風が唸るような、ひどく落ち着くような、落ち着かないような。

ギシギシと胸の奥が軋む。掴み所の無い嵐が静かに燻る。


「……お前の手、あったかいな」

「……そンなワケ、ねェだろ」

「あったかいよ」

ただ指先が痛かった。

居てもたってもいられないほどに疼いて痛いから、それを紛らわすために指先に力を込める。

その手を握り返す形になってしまったのはたまたまのことで、だから更に強く握り返されて、驚いた。



















今日はここまでで
次はもうちょい進むといいなー

すんません…週末急用あって間に合いませんでした……
ホント悪かったすんません
今度から来れない時は一言くらい言いに来ます

そんなこんなで投下します






















暦上の春は近いのに、まだまだ寒い日が続いている。

日曜日の昼下がり、御坂美琴は第七学区の繁華街を10032号と二人でウロついていた。

天気は良く陽射しは温かいが、やはり空気はとても冷たい。

「お姉様、そこのクレープ屋さんの新商品奢ってください。とミサカはストレートにねだります」

「ホントにストレートね…ま、いいけどさ」

美琴はクレープの露店に歩み寄り、自分の分も合わせて二つ注文する。

元の場所に戻れば、10032号は缶を二つぶら下げて待っていた。

「お待たせー」

「ありがとうございます。ではミサカからはこれを。お姉様はカフェラテでよかったですよね?」

「ん、ありがと」


手袋越しの缶はほどよく暖かい。だが10032号が素手で缶を握り締めているのを見て、軽く首を傾げた。

「アンタそんな握り締めちゃって熱くないの?」

「それほどは。ミサカ達の感覚は通常の人間よりも鈍めに調節されているので。とミサカは懇切丁寧に説明します」

「え……」

「そんな顔をしないでください。それも今後、通常の人間と同じようなレベルに調整されると聞いています。
 とミサカは優しいお姉様にフォローします」

「…………」

美琴は今更ながらに、自分はコート、マフラー、手袋の重装備だというのに、妹は制服のブレザーのみという格好が気になった。

おもむろにマフラーを外し、問答無用でぐるぐると巻きつけてやる。

「わ、お姉様?だからミサカ寒くないですって、とミサカは困惑します」

「見てる方が寒いのよ。だいたい鈍いって言ったって、ちょっとは寒いわけでしょ?」

「それはまぁ……。確かに、温かいですね、とミサカは無邪気な笑顔を浮かべます」

「自分で言うんじゃないわよ」

にへ、と緩んだ10032号の笑顔は、言ってしまえばとてもぎこちない。

けれどそんなことはどうでもよくて、この子が笑いたいと思ったことが大事なのだと、美琴は満面の笑みを返した。




一方通行と会ってから、四日が過ぎていた。

あれから何かが劇的に変わったわけではない。けれど、美琴の中で確かに変化があった。

ふと物思いに沈むことが減った。あの夏の日を思い起こし、慌てて振り払うことがなくなった。

後輩にも、「お姉様、何か良いことがありましたの?」と嬉しそうに聞かれた。

今はまだ話せないけれど、いつかきっと話すことが出来ると思えるようになった。

ずっと自分の中に、触れられない場所があった。おっかなびっくり、考えることすら忌避していたものが。

けれど今、そこには傷があるだけだ。何も怖いものじゃなく、ただ後悔と挫折があっただけ。

妹達に会った時に、不自然に避けるような話題も、もう存在しない。

「ねぇ、ずっと聞きたかったんだけどさ。一方通行にやられた傷って、もう大丈夫なの?」

「今頃その話ですか?とっくの昔に完治してますよ。とミサカは不思議そうに首を傾げます」

「そう………」


ホッ、と胸を撫で下ろした。ずっと聞きたかったことを聞けて、重いものがするりと解けていく。

「そういえば一方通行にもちょっと前に同じこと聞かれましたね、とミサカは思い出しました」

「!!」

「相変わらずビビりながら聞いてましたけど、ハハッ。とミサカは白モヤシの顔を思い出して半笑いになります」

大げさに肩を竦める10032号の様子は、例えばわざと身内のことを悪く言うような、そんな印象だった。

もうわかっていたことだけれど、美琴はまた小さくない衝撃を受ける。

少し思案して、ややぎこちなく口を開いた。

「……ねぇ、アンタは。アンタ達は、一方通行のこと……どう思ってるの?」

「…………」

10032号はしばらくの間沈黙した。

それは言い淀んだというよりも、こちらを気遣ってのことだとその無表情な顔を見て悟る。

表情は相変わらず薄いけれど、チラチラとあからさまに様子を伺われれば、誰でもわかるというものだ。

「何?何か言い辛いこと?」

「えっ!?ど、どうしてわかったのですか、とミサカは、あわわわ」

「誰でもわかるっつーのよ。いいから話して、正直にね」

美琴は苦笑する。

表現は幼いが、あの無感情だった子が人の気持ちを気遣おうとするなんて、素直に嬉しい。

すると10032号は少しホッとしたように表情を緩めて、「そこに座りませんか」とベンチを示した。

クレープを持ったまま、並んで腰を下ろす。

休日の昼下がり。一番賑わう通りには、沢山の人々が行き交い、賑やかで楽しげなざわめきで満ちている。

美琴はイチゴチョコクレープを一口食べて、カフェラテを飲んだ。

「なかなかおいしいじゃない」

「そうでしょう、とミサカは得意げに頷きます。ミサカ達の中でも評判のクレープ屋さんなのです」

「へぇ。よく来るの?」

「ええ。19090号が好きなので一緒に来たり、あとは……一方通行…と」

「…………」


「……初めに言っておきますが、ミサカ達はお姉様と上条当麻に深く感謝しています。とミサカは慎重に前置きします」

「わかってるわ」

「ミサカ達は……あの実験が中断されて、ようやく感情らしきものが芽生えました。20001号である上位個体は一方通行に
 会った時に、『ミサカ達はあなたを許さない』と言いましたが、それは確かにミサカ達の総意でした」

「……まぁ、当然よね」

「そうでしょう。そうですよね?お姉様はきっとそう言うんじゃないかと、ミサカ達は思いました。だから、その結論に達したのです」

「……?どういうこと?」

「ミサカ達に命というものを教えてくれたお姉様と上条当麻なら、きっと一方通行を許さないだろう。
 だから、ミサカ達も許すべきじゃない。ミサカ達は、そういう風に思いました」

「!ちょっと、それって……」

美琴は驚いて隣の顔を見た。自分と同じ、けれど自分に似ているとは思えない、薄い表情。

規則正しくクレープを口に運びながら、10032号は淡々と呟く。

「元々ミサカ達には感情らしい感情はありませんでしたからね。
 実験で死ぬのが当然だと思ってましたし、今死にたくないと思っていても、過去にまで何かの思いを持つことは出来ませんでした。
 ミサカ達は、まだそれほど、人間らしくはなかった……」

急に、ひどく言い辛そうに小さな声で、ちらりとこちらを見る。

驚いた表情を隠すことは出来ずに、思わず声を荒げる。

「それって、一方通行を憎んでないってこと!?」

「いえ、そういうわけでは……そういうのが正しいだろう、という認識はありました。とミサカは慌てて付け加えます」

「に、認識って……」

美琴は愕然とする。

そういえばこの子達は人間じゃなかった。
クローンだったのだ、と思ったのはとても久々のことで、だが自分のそんな判断が許せずに強くかぶりを振る。

「お姉様……ガッカリしましたか?とミサカはオロオロします。み、ミサカ達は……」

ハッ、として、妹の顔を見る。

無表情ながらも、少し眉を下げた不安そうな表情。

この子達は自分のこんな反応をまさに恐れていたのだ、と気付いて、自分を叱咤する。

(しっかりしなさいよ、何してるの!?)

例え本当の姉じゃなかったとしても、何かしてあげたい、という気持ちはある。素直に慕ってくれているなら、なおさらのことだ。

美琴は下っ腹と眉間に力を入れて、真っ直ぐに自分と同じ顔を見詰め返した。

「いいの、気にしないで。正直に話してって、言ったでしょ?ガッカリなんてしてないわ」

「………。はい、とミサカは頷きます」


10032号は時々やはり気遣わしげにこちらを見ながら、淡々と説明してくれた。

最初はやはり、美琴と上条当麻への感謝が一番最初に立っていたから、彼らの気持ちを尊重したいと皆が思ったそうだ。

ならば、一方通行のことは許すべきじゃないだろう。

それが妹達の最初の結論だった。

けれど、「許すべきじゃない」という、他人よがりの結論は、どこか歪んでいて不自然なもの。

人間らしくいたい、と皆そう思っていたから、自分自身で一方通行への憎悪を持つように努力しようと。

けれど、率直言えば、自分達が惨殺される記憶を見ても、「コイツの顔すごいわー」ぐらいが関の山。
多少怖いとは思ったが、それは例えば、よく出来たホラー映画を見た時の気持ちと、それほど変わりはしなかった。

それがどれほどに人として歪なのか、知識だけは腐るほどあったから、よくわかっていた。

一時期には、「一方通行の悪行を羅列してみた」とか、「朝まで徹底討論【絶対能力進化実験】」とか。
妹達のネットワーク内でそういう掲示板が沢山立っていたそうだ。

そして時には、「なんか一方通行に腹立ってきた!」という個体も現れ、皆から賞賛を受けることもあった。

「そんなの……おかしいわよ」

「ええ、そうですね。とても不自然で、滑稽でした。とミサカは自分達の黒歴史を恥ずかしく思います」

思わず呟けば、10032号も気まずそうな溜息を落とす。

「誰かを怒ったり憎んだりするということには、とても強い感情エネルギーが必要なことなのですね。
 とミサカは実感した事実を確認します」

「……そうね…」

「その過程でわかったことは、ミサカ達はまだまだ『人間』にはほど遠いということ」

10032号は、どこか寂しそうに呟いた。

「…………」

美琴は何の言葉を発することも出来に俯く。

彼女達がまだ『人間』を完全には理解できないように、美琴にも彼女達のことを完全には理解できない。

例えば自分だったら、自分が何度も何度も殺される記憶があれば、気が狂いそうになるかもしれない。

でも彼女達は「自分」じゃないし、そしてそういう「普通の」感覚じゃない者達がどう思うかはわからない。

だが完全に理解しあうことが出来ないなど、人間同士でも当たり前のことだ。例えば美琴と一方通行が違いすぎたように。

ただ今わかるのは、この子が「お姉様と違う」ことを後ろめたく思っているということ。

ならば、自分の言わなければならないことはひとつだ。


「10032号。もう一度言うけど、私はアンタにガッカリもしてないし、怒ってもいないわ」

美琴はハッキリと断言して、10032号の目をまっすぐに見詰める。

すると、驚いたように無表情な目が見開かれた。

「お姉様……?とミサカは」

「皆が皆、同じことに同じように思うわけじゃないもの。私が知りたいのは、アンタ達……。
 そうね、この言い方良くなかったわ。『アンタ』がどう思ってるかってこと」

「………このミサカが…」

妹は、考え込むように一度視線を落とし、ふと気付いたようにミルクティーを一口飲んだ。

少しは伝わったのか、先ほどまでの緊張が少し解けているように見えた。

「そうですね。まぁそういう風にミサカ達が無駄な努力をしているうちに、とある出来事がありました。
 詳しくは言えませんが、『打ち止め』と呼ばれているミサカ20001号が一方通行と出会ったのです。
 そして、結果として今一方通行はミサカ達を守っている。一方通行がミサカをどう思っているのかも聞きました」

「…………」

「ミサカの予想で言えば、最後まで一方通行を許さないのは間違いなくあの上位個体だけでしょう、と断言します」

「えっ……!?」

美琴は驚いて、思わず声を上げる。

他の妹達のことはわからないが、打ち止めが一方通行を強く慕っていることは確かだ。
一方通行も打ち止めを一番大切にしているように見えたのに。

10032号は美琴の思いを肯定するように頷いて、先を続ける。

「何故ならば、他の個体は上位個体ほど、一方通行への思い入れが深くないからです」

「思い入れ?」

「言ったでしょう?怒ったり憎んだりすることには、とても感情エネルギーが必要だと。ずっと許さないでいるためには、
 ずっとあの白モヤシを心の真ん中に置いておかなければならないわけです。率直に言えば、ミサカ達にそんな義理はないですし」

「ぎ、義理って……」


ひどい違和感のある言葉に声を上擦らせれば、妹は軽く首を傾げて補足した。

「うーん、じゃなきゃ、優しさ?と言った方が正しいのかもしれません」

「どうしてそれが優しさになるのよ」

「一方通行は、ミサカ達に許してほしくなんかないようなのです。とミサカは懇切丁寧に補足します。
 それが何故なのか、ミサカにはまだよくわかりませんが、上位個体が以前そういう風に言っていましたから」

「……そう」

美琴の脳裏に、ひどく頼りなげな一方通行の顔が浮かぶ。

泣きそうな顔。怪物だと思っていた第一位の、思いもかけぬ表情が、10032号の言葉で腑に落ちる。

「お姉様には理解出来ますか?とミサカは不思議そうに尋ねます」

「さぁ……。私の予想が当たってるかわかんなけど、もし当たってるなら、随分人間らしいわよ」

例えば、自分で悪いことをしたと思っているのに、誰にも怒られなかったら、とてもとても居心地が悪い。

昔、母親が大事にしていた食器を割ってしまったことがある。
恐る恐る謝ったら、「美琴ちゃんは怪我しなかった?」と優しく確かめられて、大泣きしてしまった。

あの実験は、そんな些細な思い出とは比べ物にならないこと。

そういえば、一方通行は、あの夜19090号に謝られて、ひどく打ちのめされたような顔をしていた。

その理由が自分の思う通りなら、もう化け物と呼ぶことは出来ないだろう。
そしてそういう自虐のフリで逃げることも、もう許してやらない。

「そうですか。とミサカは、ミサカがいつか自分で理解出来る日が来ることを願います」

10032号は少しだけ寂しそうに呟いてから、「さきほどの話に戻しますが」と前置きして続ける。

「だから、上位個体が一方通行を許さないのは、一方通行のためだ、ということですよ。
 他のミサカ達は、一方通行のことだけにそんなにずっと構っていられない。
 そんなの知ったこっちゃない、一方通行なんてどうでもいい、という個体も多いのです。
 今のミサカ達の生活は、新鮮な刺激に満ちていますから」

「…………」

その言葉は、実は一方通行にとって何よりも冷たいものなのかもしれない、と美琴は思った。


例えどれほど残酷なことをしようが、どれほど命を懸けて必死に守ろうとしようが、どうでもいいと。

好きでもない。憎んでもいない。そんな風に、無関心でいられるということは。

美琴には、この妹達に決して共感出来ない。

けれど、それは悪じゃない。違うとと説いても意味のないものだろうとも思う。

そして、そんなことをしても妹達を傷つけるだけだと。

美琴はただ、自分と同じ横顔を見つめることしか出来ない。10032号は薄い表情のまま続ける。

「だいたい、ミサカ達だって殺る気満々、殺られる気満々で挑んだのに、あんまり被害者ぶるのもなー。
 カッコ悪いと思うのですよ」

「…被害者ぶるって……。アンタ達は間違いなく被害者でしょ!」

つい声を荒げてしまうのに、妹は軽く肩を竦める。小憎らしい仕草だ。

「そういう見方も出来ますね。ただ、加害者でもあります。とミサカは考えます」

「そんなこと」

「そんなことありますよ。先日、19090号だって一方通行に謝っていたではありませんか」

「………っ!!」

美琴は言葉に詰まるが、10032号はそれを見て、少しだけ笑った。

「ありがとうございます、お姉様。ミサカはお姉様を見ていると、人というものを理解出来る気持ちになります」

今までとは少し異なる、この晴れた空に似た顔で。

それに、と付け加える。

「多分あの人は、上条当麻は、例えばミサカ達が一方通行を憎むことが出来ない、と相談でもしたなら、きっとこう言います。
 『何でそんなの悩むんだ?誰かを憎まないでいられるなら、その方がいいに決まってるだろ』って」

不意に美琴の心に居座る少年の名前を出され、その表情が目の裏にも浮かぶかのようで、少し笑ってしまった。


同じ顔の妹も同じように思ったのだろう、顔を見合わせてまた少し笑う。

「お姉様もそう思いますか?とミサカは気が合ったことを嬉しく思います」

「そうね……」

長い溜息を吐き出した。重苦しくはない。

「そう、思うわ」

食べ忘れていたクレープを一口食べて空を見上げれば、クリームの優しい甘さが広がっていく。

キンと冷えた空気の中、温かなカフェラテはひどくおいしい。

「そして少し前、一方通行と上条当麻が出会いました。とミサカは決定的であった出来事を思い返します」

10032号は、最後のクレープの最後の一口を放り込み、もぐもぐ味わいながら話を続ける。

「あの人は全然一方通行を責めなかった。ただ、『変わったんだな』とだけ。
 ミサカ達の結論の一部は思い込みだということが判明して、ほとんど下火だった『一方通行を憎もうキャンペーン』はホントに無くなってしまいました。
 残ったのは、やはりあの実験のことだけは忘れないでいよう、という合意だけ」

「キャンペーンって」

「変ですか?あの頃の盛り上がりを、ミサカ達はこう呼んでいるのです。とミサカは自分達のネーミングセンスに自信を失くします」

「……変ね」

あまりの緊張感の無さに、美琴は呆れたように肩を竦めた。

だが、今までの話を聞く限りは、そう不自然でもないように思える。色々な意味で、この子達はまだそれほど人間らしくはない。

けれど、それが悪いとも、もう思わない。

そう、憎まないでいられるのなら、それが一番いい。あれはとても辛いもので、抱えたままでは決して幸せにはなれないから。

「あ、お姉様。でも、ミサカはこの前、少しわかった気がしました。とミサカはふと思い出します」


10032号がポム、と手を叩くので、美琴は顔を上げた。

「何を?」

「スキルアウトが19090号を傷つけようとしていたでしょう?このミサカは今、19090号と同じところで生活していてですね。
 それなりに交流もあるからでしょうか。手のかかる子ですが、昨日は自分でもビックリするくらい腹が立ちました」

思わず転がっているスキルアウトの頭を蹴飛ばしてしまったくらいです、と10032号は珍しく憤然と声を荒げる。

「例えば今、お姉様や上条当麻が傷つけられたら、すごく……ミサカはすごく怒ります」

それが一方通行でも。

小さな声で、少女は付け加える。

美琴には、それで十分だった。

「わかったわ」

立ち上がり、殻になった缶をゴミ箱に投げ入れる。能力なんか使ってないが、いつだってホールインワンだ。

「これちょっと、貸しなさいよ」

美琴はひょいとゴーグルを取り上げて、素早く自分の頭に装着した。確かに軽く、さすがにゴムの調節も丁度良い。

「あっ!?とミサカはスースーする頭に手をやります。お、お姉様!?」

見たことがないほとに焦って頭をバタバタさせる妹がおかしくて、いたずらっぽく笑う。

「ちょっとアンタ達の気分でも味わうことにするわ。そのうち返すから。じゃあね!」

一方通行が刻んだというロゴを確かめるように撫でて、美琴は駆け出した。

「お、お姉様!?ちょっ…あんたはあの幼女か!とミサカは……!」

背中を焦ったような声が追いかけて来るが、そのまま人ごみを塗って駆けて行く。

風は冷たく、空は青く、クレープの後味は優しい甘さだった。











































「よお。そのゴーグル……お前、あの人形どもの一人だな?」







ぎしぎしと、憎悪を音にしたような声だった。

美琴は弾かれたように立ち止まり、素早く後ろを振り向く。

いつの間にこんな路地裏に入り込んでいたのか。

風を切る感覚が気持ちよくて、ただ気分の赴くままに走っていたら、気がつけば周りには誰もいない。

「……誰!?」

警戒心も露に誰何の声を上げれば、表通りから背の高い人影がゆらりと歩み寄ってくる。

冷たい風に、長めの茶色い髪が揺れた。

「つーか、何番目か知らねぇが生きてるってこたぁ、マジで実験凍結されてんのかよ。第一位も腑抜けやがったなぁ」

カツカツと、靴音が響く。チンピラのような口調は軽いのに、声音は地を這うように歪んでいた。

(コイツ、実験のこと知ってる!?)

美琴の警戒心が一斉にレッドアラームを鳴らす。

絶対能力進化実験のことを知っているのは、上条などの例外を除けばごく一部のはず。

それなのに当然のように口にして、しかも凍結のことまで。

「あんた、何者なの!?」

美琴は目元と下っ腹に力を入れ、精一杯語気を鋭くする。バリバリ、と大きな火花が飛び散った。

そうしなければ、前方から溢れてくるドス黒いものに呑まれてしまいそうだったから。

「……あ?俺?」

だが目の前の男は、形のよい切れ長の目を、きょとんと見開いた。

明らかに警戒し、威嚇の雷すら瞬かせる美琴の前で、あまりにも無防備で場違いだ。

(こいつ……!)

その理由には想像がついた。

自身の能力への絶対の自信。美琴が何を仕掛けようが、対処出来るとごく当たり前のように確信しているのだ。

「そっかそっか、そりゃ知らねぇよな」

ごく普通の反応だからこそ、あまりにも異常。

以前にもこういうことがあった。

この感覚は知っている。


足先から深い崖があるような、踏み出せば二度とは戻れないと確信するような。

もう遠い昔に思える、学園都市最強と対峙した、あの瞬間と同じ感覚。

その名は恐怖。




「俺は垣根帝督ってんだ。よろしくな、オジョーチャン」




薄暗い路地に、輝く白が広がっていく。

「……翼………?」

白は美琴にとって、失意と絶望の色。

震える唇を噛み締める。

その傷はもう越えたはずだった。今の自分にとっては、もう何の意味も含まない色のはずだった。

「あのさぁ。第一位の居場所、もし知ってたら教えてくれねぇ?」

垣根帝督は笑った。

整った顔立ちなのに、背筋に凍るような戦慄が走る。

「…ッ、一方通行に何の用なのよ……!」

「お、知ってんの?ラッキー。なぁ、素直に答えてくれよ。せっかく実験が凍結されたんだし、お前も死にたくねぇだろ?」

美琴の精一杯の威嚇をまるで無かったようにいなして、嬉しげに声を弾ませる。

ありふれた焦げ茶の目が、見たこともない色に輝いていた。不吉という言葉に色を付けるなら、きっとこんな。

「……一方通行に、何の用だって聞いてるの!」

ぞわぞわと息苦しい悪寒を振り払い、美琴は語気を荒げた。

「ん?ああ、そんなの……」

低く笑う。垣根の周囲から、空気すら焦げて腐っていきそうな、深い。深い憎悪。

ごく普通の表情でも、笑っていても、常に美琴の心臓を圧迫していたのは、これだと直感的に悟った。

「決まってんじゃねぇか」

緩い微笑みを湛えていた薄い唇が、この世の裂け目のようにつり上がる。

この上なく楽しげに、ドス黒く憎々しげに。


「ブチ殺す」


白い悪夢が、美琴の前で再び大きく翼を広げていく。















今日はここまでで
そんじゃまた

すっかり遅くなってしまってすんませんでした
待っててくださった方、ありがとうありがとう
投下しますので読んでくれると嬉しいです

(前回までのあらすじ)
▼かきねが あらわれた!
▼あくせられーたが あらわれた!
▼みことは ようすをみている……





怪物に最も近い少女と少年が目線を合わせていたのは、恐らく数秒もない。

突如地響きを立ててアスファルトが割れ、津波のようにめくれあがって垣根を襲う。

「う、わわ……っ!」

美琴は思わず身構えるが、相変わらずこちらには小石の欠片さえ飛んで来ない。
一方通行は全く振り向こうとしないけれど、その背に庇われているのは明白で、場違いにもムッと顔をしかめる。

ちょっと、と声を掛けた時だった。

ギロリと血色の目が美琴を睨み据える。

「オマエはさっさと引っ込んでろ、この三下がァ!」

「きゃあっ……!?」

今までとは比較にならない突風が吹き荒れ、信じ難いことにふわりと身体が浮き上がる。

「えっ、な、な……」

耳元に強風の唸り。
空気の固まりに押し上げられ、ヘリで上昇でもしているかのように地面が、対峙する二人が異様な速度で遠ざかっていく。
五階建てのビルの屋上を見下ろし、第一位と第二位の人影が豆粒のような大きさになったところで、ようやく気づいた。

(……逃がされた?)

その瞬間、猛烈な怒りが腹の底から沸き上がる。

「あんまり舐めんじゃねぇぞコラァアアアアア!!!」

全力で放電し、下から上に押し上げる風に逆らって、ビルの屋上と自らの身体を強い磁力で引き寄せる。

この御坂美琴を、まるで無力な弱者のように戦場から遠ざけるなど。
いくら顔が同じだからと言って、自分は『妹達』ではない。
一方通行に守られる義理などないのだから。


「ぐ、っく……!」

飛行機から投げ出されてさえ、無事に着地した経験もある。
磁力のコントロールに自信はあったが、一方通行の風は強く、やけに念入りに美琴を上空に押し上げようとした。

その間にも、第一位と第二位の間では何かが爆発し、風が炸裂し、羽が閃く。

「しつっこいわねぇ、もう!!」

下っ腹に力を入れて磁力を高めれば、ようやく逆巻く風がふっと後方に抜けていく。

とりあえず手近なビルの屋上に着地した美琴は、軽く息をついて地上を見下ろした。

たった数分前までただの薄汚れた裏路地だった場所は、まるで激しい戦場のど真ん中のような有様だ。
アスファルトは吹き飛び、いくつものクレーターが生じ、路地に面していたいくつかの廃ビルは崩れかけている。

突き立って傾いだ鉄骨の天辺に、ふわりと細い足が舞い降りた。

不自然に揺らぐ風に髪を乱したまま、一方通行は大きな羽を広げて佇む垣根帝督を睥睨する。

学園都市のトップ2は、大気が熱を帯びるほどギラギラした目で互いを見据えていた。

「相変わらずムカつく目つきしてんなぁ、一方通行」

「オマエこそ相変わらずくッだらねェ手使いやがって、反吐が出るぜ」

「は、正義面すんなよ胸糞悪ィ。第三位まで守ってやるってか?お優しい第一位サマで」

「アイツは関係ねェだろ。イチイチ巻き込むなっつってンだよクソッタレ」

軽口のような応酬の間にも、緊張がキリキリと編み上げられていく。

「ふん、例の悪党の流儀ってヤツか?律儀なこったな」

「………」

だがふと、赤い目が少しだけ宙を見据え、殺気が微かに揺らいだ。

「……アレはただの言い訳だ」

「何?」

垣根が怪訝そうに目を眇める。


「流儀とかそンなご大層なもンじゃねェ。ただ守りたいから守る。それだけのことだ」

「はぁ?お前に御坂美琴を守る義理なんかねぇだろうが」

「……アイツは、あのクソガキどもの姉なンだとよ。理由なンざそれだけで十分だ」

遠くに見える横顔は、守ると言う割に嫌そうだ。

それはきっと自分への素直な一方通行の感情で、だからこそ美琴は変な風に胸が締め付けられる。
言葉で表現するなら、戸惑いがふさわしい。

(何よアイツ……)

バカじゃないの、と口の中だけで呟く。
こればかりは垣根帝督の言う通りで、美琴としても心外の一言だ。
複雑な思いに、ぎゅっとスカートの端を握り締めた。

「……で、オマエは」

一方通行の言葉に、垣根が瞠目する。

殺気と憎悪で破裂しそうだった空気が、微妙に揺らぐ。

「は?」

「オマエは、わざわざ何をしに来た。垣根」

「…………」

それまで饒舌だった垣根が押し黙る。
警戒を露わにしたというには、戸惑った色の表情。

つい今まで本気で対峙していた相手の心境が、美琴にはわかるような気がした。

『俺は自分の敵に理由をなンて聞こうとすら思わねェよ』

そう言っていたのはつい先日のこと。
気負いなく口にされていた一方通行の常識は、恐らく垣根にも当たり前のように共有されているものだろう。
彼らの常識とは真逆の言葉に、きっとどう反応していいかわからない。

「オマエはあの時俺がミンチにしてやったはずだ。
脳味噌分割されて能力を吐き出すための装置にされていたって聞いてるぜ」


「…………」

「それがそのザマだ。『上』にわざわざ蘇生されたってのか。目的は何だ?……俺に、何の用だ。垣根」

一方通行が、赤い目を細めた瞬間だった。

その小さな頭の真上で爆発が起こり、鉄骨の上から地面へと吹き飛ばされる。

「何を悠長にペラペラペラペラ……。バカにしてんのかよ」

垣根は訝しげな表情のまま軽く鼻で笑い、肩を竦めた。

「一方通行!!」

美琴は思わず叫び、慌てて地上に飛び降りた。
残ったアスファルトを砕き、細い身体が瓦礫に埋まっている。

焦って瓦礫を払いのけようとするよりも前に、がらがらと音を立て、一方通行が身を起こした。
後ずさった美琴を見上げ、赤い目が驚いたように、呆れたように見開かれる。

「オマエ……何してやがる」

「それはこっちの台詞よ!何ボーッとしてんの、あんなヤツの前で!反射は!?」

「うっせェなァ、めんどくせェンだよアイツの能力」

「おいおいまだ逃げてなかったのかよ御坂美琴。ったくどいつもこいつも、何のつもりだ」

垣根にまで呆れたように見据えられて、美琴の頭に血が上る。

「なっ……何よ!私は売られた喧嘩は買ってやる主義なの!だいたい一方通行、アンタこそ……何でさっき、垣根に、あんなこと」

「はァ?」

「……『敵に理由なんか聞かない』んじゃなかったの?」

八つ当たりのように話題転換のように先ほどの一方通行の言動に言及しかけ、少し口ごもる。

すると端の焦げた白髪をかき上げた第一位は、「何言ってンだコイツ」とでも言いたげな、怪訝そうな顔をした。


「オマエが言ったンだろォが。敵にも理由くらい訊くって」

「えっ……」

美琴は瞠目する。

「わ……私が言ってたから、自分もやってみようって、思ったの?」

自身の考えを曲げることなど全くない、唯我独尊の第一位。
そんな美琴のイメージとはまったくかけ離れた素直すぎる動機に、ポカンと口が開いてしまった。

それでようやく自分の行動の印象を察したのか、一方通行は苦虫を噛み潰したような表情になる。

「……何でもいいからオマエはさっさとどっか行けよ」

ぞんざいに手を振られ、美琴は我に返って慌てて目つきを鋭くした。

「お断りよ。私は『妹達』じゃない。アンタに守られるつもりはないわ」

眦に力を入れて白い顔を睨み据えると、聞こえよがしな舌打ちが返る。

「盗み聞きですかァ?趣味悪ィ」

「人聞きの悪いこと言わないでよ!」

「事実だろ。つゥか足手まといだっつってンですけどォ?空気読めや」

「空気読めとか、アンタにだけは言われたくない!」

「チッ、いいから帰れっつってンだよ!」

「イヤよ!」

「帰れ!!」

「イヤ!!」

「……………」

「……………」

真っ赤な目が剣呑に眇められる。
赤い槍にでもなって人を貫き殺しそうな視線にも、美琴は不敵に笑いかけてやった。


「何よ。そんなに睨んだって全然怖くないわよ」

そして、やはり、と思った。

澄んだような濁ったような、珍しい赤い色の目。だが、ただそれだけだ。
もう怖くはない。手足が震えることもない。

「私だって戦える。いくらアンタみたいなヤツでも、一人残して逃げるなんて寝覚めが悪いっての」

逃げない理由なんか、普段通りの美琴の信念だ。ごく当たり前の、自然な選択だった。

一方通行は少し驚いたような顔をしてから、再び鋭い舌打ちをする。

『……話のわからねェガキだな』

突然おかしな風に声が聞こえて、美琴は肩を揺らした。

「………え?」

『逃げねェならボケッとしてンじゃねェよ。レーダー使え』

耳元で囁かれているような小さな声。だが実際には声の主は二メートルほど手前に佇んでいる。

『おい、聞いてンのか第三位』

「あ……一方通行?」

『あァ』

よくよく見れば、薄い唇がごく微かに動いていた。
それでようやく、能力を使って音の指向性を操作し、囁き声が自分にだけ届くようにしているのだと気付く。

『いいか、声を出すな。口もあんま動かすな、読まれる。垣根に悟られたら対処されるからな』

「……ッ」

対処って、と口に出しかけてようやく声を飲み込む。


(声出さないと何も話せないじゃないのよ……!)

不満を込めて強く睨みつければ、小馬鹿にしたように鼻で笑われた。

『何だその顔は。声出さないで意志疎通、出来ないンだろォが。で、逃げる気もない。なら黙って従え無能』

ムカーッ、と下っ腹から熱い怒りが込み上げる。

(誰が無能よ……!!)

この学園都市の第三位、汎用性なら右に出るものなどほとんどいないと胸を張る「電気使い」を前にして、なんという言い草。

しかし目の間の性悪がごく僅かな「右に出るもの」であることは間違いなく、ギリギリを歯軋りをした。

『おい、あンま顔に出すンじゃねェ。レーダーだ、聞いてたか?電気使いなら電波くらい使えンだろ。反射波は俺にも当たるように調整しろ』

(電波……?)

それはもちろん使えるけれど、と思って、不意に閃く。

(あ、そうだ)

美琴は電波の周波数をある数値に変調し、一方通行に向けて発信する。
すると間髪入れず、またしても舌打ちが聞こえた。

『ンだよ、出来るンなら最初からやれ』

『な、何よ、気付いてたんなら教えてくれてもいいでしょ!?』

『うるせェ』

不満げな意を電波に乗せながらも、美琴は内心舌を巻いていた。

たった今のやり取りを説明するなら、電波の周波数変調を行い、音響情報を乗せて飛ばしただけ。
要するにごく単純なラジオと同じ原理だ。

しかし、意思疎通には相手が電波を受信し、音声信号を得ることが必須。
美琴は今の今まで、この世に自分以外にそれが可能な人間がいるとは思っていなかった。

送信自体は以前遊びで試したことがあり、美琴が電波を受信させたラジオから自分の声が流れてきた時には、ちょっと得意になったものだ。
後輩などはすごいすごいと大はしゃぎしていた。


当時は「誰かとテレパシーみたいなことできるかも」とワクワクしたけれど、結局同系統の電気使いでも、受信した電波を解析して、音響情報を意味として認識することは出来なかった。
実験に協力してくれた研究者も「すごいけど」と困ったように笑っていた。

『電波ジャックも出来るでしょうし、工業的にも軍事的にもすごい能力だけど。あなたの言うように誰か生身の人間と意思疎通することは、難しいでしょうね』

受信には美琴と同程度に電波の解析に優れている必要があり、この学園都市内に美琴以上の電気使いは存在しないのだから、と。

まさかあのワクワクを忘れた頃に、唯一可能な人間に出会うとは。
それがこの、美琴にとって悪夢そのものだった白い第一位だとは、夢にも思わなかった。

「……おいおい、いつまで見詰め合ってんだお前ら。いい加減戦うか逃げるか決めてくんねぇ?」

溜息混じりの垣根の声に、美琴はハッと我に返った。
確かに、垣根には自分達がただ睨み合っているように見えるだろう。

「……何よ、話つくまで待ってくれるって?さっきとはえらく態度が違うじゃないの」

「まぁさっきはついカッとなっちまってな。俺は元々格下には興味ねぇんだよ」

垣根が余裕ぶった態度で肩を竦める。

「誰が格下よ。まだ勝負はついてなかったでしょ」

剣呑な目つきで第二位を見やりながら、先ほどの一方通行の言葉通りにレーダーを展開する。
そして反射波を解析し、内心驚愕した。

『何よ……これ…!!』

半壊した路地を埋め尽くすように、球状の物体が無数に浮かんでいる。
目には見えないが、これが先ほどから爆発し続けているものの正体に違いない。

『垣根の能力は「未元物質」。この世に存在しない物質を作り出せるンだとよ。ま、コレは電波は反射する性質みてェだからまだマシだな』

『はぁ?この世に存在しない物質って何よ、反則じゃないそんなの!』

『うっせェな、俺の能力ほどじゃねェだろ、対応しやがれ』

『自分で言うな!』


『オイ周波数もっと上げろ。解像度低いンだよ』

『そんなこと言ったって、これ以上周波数上げたらノイズ多すぎてワケわかんなくなっちゃうわよ』

『俺の演算能力をオマエのと一緒にすンな。こっちでクラッターマップくれェ作ってやるから早くしろ』

『イチイチ腹立つわねアンタ……』

苛立ちを抑えながら周波数を上げると、一方通行を経由した反射波からは地面や壁などの不要な情報がきれいに除去されていた。
見た目に似合わず器用なヤツだ。

「……あーあーもういいわ、待ちくたびれた。お前らまとめてブッ殺す、いいな?」

ついに痺れを切らしたのか、不意に垣根は大きく羽を広げた。

それに呼応するように、不可視の球体が一斉に爆発する。

「……ッく!!」

美琴は咄嗟に『未元物質』とやらが少ない場所に飛び退り、爆風や細かい瓦礫から頭を庇う。
なんとかやり過ごせた、と思った途端、球体が一斉にこちらへ向かってきた。

(げっ)

「バカがッ……!!」

舌打ちと共に宙を滑空した一方通行が、美琴の腰を片手で掴んで肩に担ぎ上げ、そのまま飛び上がる。

「きゃあっ!?」

視界がぐるりと回って耳元に風が唸る音と爆音が重なり、それでも慌ててスカートの裾を押さえた。

「短パンってオマエ、色気ねェなァ」

「アンタにだけは言われたくない!!」


緊張感のないやり取りをしながら、美琴を抱えた一方通行は縦横無尽に路地を飛び回る。

レーダーを駆使したおかげで、飛んだ先で爆発物質にぶち当たるということもないが、これでは垣根に近づけない。

美琴は遠慮なく一方通行の背中の布地を掴み、身体を安定させながら雷撃を飛ばすが、なんなく羽に遮られてしまった。

「チッ!!」

「無駄使いすンな、その出力じゃ通じねェ!」

「うっさいわねわかったわよ!」

「おらおらどぉしたよ第一位!!」

哄笑と共に、巨大化した羽が横凪ぎに襲う。
一方通行は咄嗟に方向転換し、その背後にあったビルが豆腐のように切り裂かれた。

「うわっ、何よアレ」

地響きを立てて崩れゆく建物に、美琴はギョッとする。
業腹だが、先ほどは本当に手加減されていたようだ。でなければ、今頃あの有様だ。

爆発と大きな羽が交互に遅い、一方通行はそれを器用に避けていく。

「ね、ねぇ一方通行、今更だけどアンタもしかして、あれ反射出来ないの?」

一方通行の代名詞とも言える「反射」があれば、こんなに必死に逃げ回る必要はない。
けれどつい先ほども爆発で吹っ飛ばされていたし、垣根の能力を「めんどくせェ」と言っていた。
それはつまり、容易に反射出来ないということだろう。

まさかこの世に、あのツンツン頭以外で一方通行の反射を無効化出来る人間がいたとは驚きだ。
さすが腐っても第二位といったところか。

「…………」

すると一方通行は美琴の方は見ないまま、眉間にこれ以上ないくらい深く皺を寄せた。


「言っておくがな、出来ねェわけじゃねェ。アイツの能力で作られた『この世にない物質』をイチイチ解析して反射すンのがめんどくせェんだよ。
毎度毎度対処すンのアホらしいだろォが」

決して反射が出来ないワケじゃないと強調する一方通行は、得意科目でたまたまミスしたところを指摘された子供のようだ。

美琴はまた少し状況を忘れ、不本意そうな白い横顔を見詰める。

「……アンタも負け惜しみなんて言うのね」

「あァ!?」

ギロリと赤い目に睨み下ろされるが、美琴は鼻で笑ってやった。

「別に、そんな言い訳しなくってもいいわよ。あの子達と違って、私にカッコつける必要なんてないでしょ」

「誰がだクソッタレ」

「いいんじゃないの。見栄張りたい相手くらい、誰にでもいるもんだし」

美琴の脳裏に不意にツンツン頭の少年が過ぎって、一人で少しだけ頬を染める。
それを気味悪そうに見下ろして、一方通行は大きく高度を上げた。

「きゃあっ、何よ急に!!」

「うっせェ、黙ってろ三下!」

高度約五十メートル。ここまで上がれば爆発物質は存在しなかったが、すぐに追いかけるように無数の球体が上ってくる。

「逃げんじゃねぇよ一方通行ァアア!!」

真下からの吠え声と共に、バランスの良い長身が飛び上がる。

やはり飛べるのか、と思い、次の瞬間戦慄した。


(レーダーが……!!)

今の今まで無数に存在を認識出来ていた球状の物体が、美琴の電波圏内から次々と消えて行く。
ここで「垣根が爆発物質を消してくれたのか」と思うほど、おめでたい頭はしていなかった。

「は、顔色変わったぜ御坂美琴。おかしいと思ったら、そうか、オマエ電気使いだもんな。
 レーダーくらいお手のモンだよなぁ。音波さえ対処すりゃいいと思ってたら、俺としたことが迂闊だったぜ」

垣根はゆったりと輝くような白い翼を羽ばたかせながら、泰然と微笑んだ。

チッ、と頭の上から鋭い舌打ちが振ってくる。

「あの野郎、ステルス性能持たせやがったな」

「や、やっぱり……?」

美琴は周波数を限界まで上げるが、戻って来るのは地面や瓦礫、遠くの雲の反応くらいだ。

今まさに眼前で爆発したらと青ざめる美琴を他所に、一方通行は垣根を見据えてニヤリと唇を歪めた。
嫌な笑いだ。向けられてもいない美琴の背筋が、微かに粟立つ。

「どォでもいいが、垣根。オマエさァ……前より出力、落ちてやがるよなァ?」

美琴は(出力?)と内心首を傾げるが、そういえば先ほど垣根自身が言っていた気がする。

「…………」

垣根の笑みが消え、殺気が重苦しく青空に広がった。

それを意にも介さない素振りで、一方通行は軽く肩を竦める。

「色々と上に動きがあるってこたァ、こっちだって掴んでるンだぜ。オマエがそれと無関係だとは思えねェ。
 オマエもおかしいと思っただろ?脳味噌だけにされて能力を吐き出す装置そのものになってたのが、急に生身に戻されて」


軽い笑いと共に吐き捨てられる言葉に、垣根の怒りがビリビリと燃え上がるのを肌で感じる。

(脳味噌だけにして、能力を吐き出す装置って……)

美琴は正気を疑うような所業に、思わず眉を顰める。
この街の連中ならやりそうなことであるだけに、余計にひどく気分が悪かった。

不意に暗い茶色の目と視線が合う。途端に殺気が膨れ上がるのを感じた。

「はッ、まァまともな人間ならこンな顔もするだろォよ。そう怒るな垣根」

奇妙に柔らかな声。少し掠れた中音は、美琴の耳にも毒のように響いた。

「俺らの掴んだ情報じゃ、『ファイブオーバー』等の新兵器の開発は一通り終わったンだってよォ。
 で、オマエはおかしいと思わなかったか?出力も抑えられて、放り出されて」

「………何が言いたい、第一位」

ざわざわと、白い羽が不吉に波打つ。垣根の憎悪に呼応するように。


一方通行は軽く首を傾げて、いっそ優しげに笑った。

「わかってンだろ垣根帝督。俺がオマエを殺した時の黒い羽、どォして今出さねェかわかるか?
 ま、アレは俺の切り札でなァ……」

血のような赤い目が細められる。


「用 済 み の 捨 て 駒 に 見 せ る バ カ は い な い っ て こ っ た」


ぶわぁッ、と空を覆うように六枚羽が広がった。
一枚が百メートルは超えていそうなそれは、今までとは桁違いだ。
急に青空が凍りついた気がするのは、物理的に日差しを遮られたからではあるまい。

美琴は反射的に身体に力を入れる。

「……ッ一方通行……一方通行ァアアアアア!!!!」

憎悪そのものを音にしたような声、色にしたような目の色が、かつてない圧迫感を持って迫る。

一方通行は無言で表情を消し、美琴を慎重な仕草で抱えなおした。














前回と終わり方同じじゃねーか!
一回分を分けて投下したんでハンパなとこで終わってすんません

ではまたそのうちに
次はこんなに間が空いたりしないはずです

どうもどうも
投下しに来ました












垣根は少し前まで、自分の十数年の人生を振り返ると虚しい思いに捉われたものだった。

学園都市第二位。無能力者の学生が聞けば羨望に目を輝かせる、超能力者という存在。
だがその実態は、薬漬けの脳ミソで何とか生き延びる、死んだ目をした屑そのもの。

昔から、鏡を見るのが嫌いだった。
人から整っていると褒められることのある顔立ちは、余計に陰惨な印象を強めている気がした。

能力者のピラミッドを上がれば上がるほど、皆似たり寄ったりの雰囲気をしている。
人はそれぞれ生まれついての個性を持つと言うが、そんなものは環境が簡単に塗りつぶしてしまうのだろうと思う。
あるいは、「親」と呼ばれる人種が側にいれば、また違ったかもしれない。
昔はそう夢想することもあった。

強い能力を持つ者たちの多くと同じ、垣根も『置き去り』の子供だ。
物心ついた頃には、なんとなく怖がっていた気がする、暗い眼差しの能力者達。

一体いつから、自分がその筆頭になったのか。

仲の良かった友達が、新薬投与の結果、能力暴走で死んだ時かもしれない。
痛くて苦しい実験を、数十時間続けた時かもしれない。
実験で死に掛けたが、それも研究者達の想定通りだったと知った時かもしれない。
優しかった能力開発の担当者が、垣根のことを「所詮はモルモットだ、代わりはいくらでもいる」と言ったのを聞いた時かもしれない。
友達だと思った無能力者に、「化け物」と恐怖された時かもしれない。
学園都市に嫌気が差していた頃に出会い、「ここから逃がしてやる」と笑って連れ出してくれた人が、『外』のスパイだとわかった時かもしれない。
当のスパイを殺して逃げ出した後も、『外』では他のスパイに執拗に狙われ続けるのだと、理解した時かもしれない。

ああそうだ、あの時は必死だった。
五年前だったか、学園都市の外に出たのは初めてだったから。
心のどこかで、期待をしていたのだ。
ここではないどこか、例えば学園都市の『外』まで行けば、すべてから自由になれるのではないかと。
この深海のヘドロを吸っているような息苦しさから、解放されるのではないかと。


だがそんなものは、ただの虚しい夢だった。
外には結局、学園都市と同様に屑が隅々まで蔓延っていて、垣根をどこまでも追ってくる。

結局、学園都市に戻った。
街を囲む壁。外から守る盾なのか、内を閉じ込める檻なのか。
たった五メートルほどの、物理的には問題にもならない壁を見上げたあの時、垣根の目は死んだのかもしれない。

そしてすべては、『樹形図の設計者』によって予期されていたことだと、後から知った。

学園都市の高位能力者としては、ありふれた人生だった。
皆、垣根と似たり寄ったりの経験をしていて、身の上話でもすれば「あるある」と笑いが起こる。
笑い合った奴らも、すぐに死んでいく。能力の暴走で、薬の影響で、上の判断で。

ああ虚しい、と何度思ったことか。
自分をただの実験動物だとしか思っていない奴らの下で生きるのが、他と比較して最もマシだという、この滑稽な矛盾。
成長し、暗部としての任務をこなしながら、いつかは虫のように潰されて死ぬのだろうと思っていた。
それすら、『樹形図の設計者』の予想範囲内だろうと。

そんな折に聞いたのが、とある実験の失敗。
いつもいつも垣根の上を行く成果を叩き出していた第一位『一方通行』が、無能力者に敗北したのだという。
しかしそれより垣根の興味を引いたのは、『樹形図の設計者』によって計画された実験が、失敗したということ。
垣根が知る限り、『樹形図の設計者』が主幹となった計画や予想が違えたことなど一度としてない。

(本当に全てが予期されているわけではない……?)

諦念という重い岩で蓋をしていた思いが、ぞくりと鎌首をもたげた。

一度罅が入れば、その隙間からマグマのように噴き出すもの。
統括理事長アレイスターは『樹形図の設計者』によってこの世の事象すべてを把握しているのだと思っていたが、そうではないのかもしれない。
それならば、きっと機会はある。
上を、学園都市を、出し抜くチャンスが。

すべてをひっくり返すことが出来るかもしれない。

黒く暗く冷えていた蓋を砕いて噴き出したのは、希望という名の激しい怒りだ。
やりたくもない実験をやり、殺したくもない人を殺し、この屑を屑たらしめる日々の積み重ねを、どうして続けなければならない?
この俺が。
この垣根帝督が。


『樹形図の設計図』が何者かによって破壊されていたと知った時には、その怒りに拍車がかかった。
十数年分積み重なった怒りは、深く身体の内で燃え続けた。

まずアレイスターと直接交渉して奴を出し抜くためには、第一位の座が必要だと考えた。
能力者の頂点に立てば、そのチャンスを得ることが出来る。

手段を選ぶつもりはなかった。
既に屑には成り果てていて、今更善人ぶるなど滑稽の極みだろう。
だから騙し討ちもしたし、第一位が保護しているとかいう少女にも躊躇わず狙いを付けた。
第一位と対峙しても、垣根には勝てる自信があったからだ。
第一位、第二位と言ってもそれは純粋に戦闘能力だけで決められた順位ではない。
ひどく目立つ白髪と赤眼を見ても、恐れはなかった。

ただ、えも言われぬ気持ちの悪さが喉奥に這い上がったことを、鮮明に覚えている。

一方通行と面識はなかった。写真で目にしたことがある程度。
この街の高位能力者独特の尖った覇気も殺気も、腐った闇の匂いも、垣根と同じだった。
それは全くの予想通り。
一方通行も垣根とさほど変わらぬ人生を歩んできたのだろう。
ならば当然、同じような人間になる。今まで接して来た奴らと同様に、死んだような目の。
それなのに。

血色の目は、死んでなかった。

役にも立たないクローンの少女のために命を掛け、微塵の迷いも持っていない。
誇らしげに見えた。
自分は持っていない何か確かな、とても良いものを持っているように見えた。

俺はオマエとは違うと、言われた気がした。

オマエがクソ野郎なのは、オマエの境遇のせいじゃないだろう、と。


ムカつく顔してんなぁ、と言った記憶がある。
そう、あれは人生最悪のムカつきだった。

一度気付いてしまえば、気付かなかったことには出来ない。

似たような立場、似たような境遇、似たような人生、似たような雰囲気。
しかし一方通行と垣根帝督は、決定的に違う。

一体どういうことなのか。

それはもしかしたら、垣根が今とは違う在り方でいることも出来たのかもしれない、という最低の思いつき。

(俺がクソ野郎なのは、俺のせいだって?)

同時に、自分が自分の有様を周りの責任にしていたことに気付かされた。
俺がクソ野郎なのは、俺のせいじゃないと。
実験のせい、研究者のせい、育ちのせい、暗部のせい、学園都市のせい。

なんて醜悪なみっともなさ。

何が屈辱かというと、一方通行が垣根ににそんなことを言うつもりはないとわかり、それが一番の屈辱だった。
一方通行はそれほど垣根のことを気にしていない。
勝手に比較して、勝手に気付いて、勝手に憤っている。
あまりにも滑稽だった。


優しく微笑んだ警備員の女が、一方通行に手を差し伸べる。


俺にはあんな顔、誰も向けてくれなかったのに。


憤怒と屈辱で逆上した瞬間、視界に闇色が閃いた。

そして気付けば虫のように潰されていた。

何だよ結局予想通りじゃねぇか、と思ったことを覚えている。





それから気が付けば、脳味噌と臓器だけになっていた。

どういう調整をされたのか、ぼんやり意識はある。垣根は無意識下で能力を生成することは出来ない。
目も見えず、耳も聞こえず、痛くも痒くも暑くも寒くもなく、ただ宙に浮いたような感覚。

いや実際、浮いていた。培養液の中で。

気が狂わずに済んだのは、どうにも半覚醒のような状態から抜けきれなかったから、そして『未元物質』で周囲の様子を観測出来たから。
観測は得意分野ではないが、半径2、3メートル程度なら可能な範囲内。
どうやら学園都市の研究者達が自分の肉片を拾い集めたらしいと気付くまで、そう時間はかからなかった。
肉塊になった程度では、この街からは逃れられないのだ。

研究者達がその気になれば垣根の観測を遮断出来ただろうが、そこは許容している様子だった。
どうせ垣根には何も出来ない。
下手に遮断し、狂って演算が非効率化されることを恐れたからだろう。
どちらにせよ電気信号で指令を出されれば、逆らうことは出来なった。

『垣根帝督の出力ですが、生前の七十パーセント程度ですね』

数人いた研究者のうちの一人がそんな報告をしていたのは、いつだったか。
報告を受けた研究者達は訝るような反応をした。
今までの実験では、脳だけにしても出力が落ちることはなかったと。

『一方通行の黒翼顕現直前に、能力の最大出力を確認しています。
 その瞬間に瀕死状態にされたことによって、トラウマとなっているのでしょう。それが能力の強い行使を妨げているのです。
 無理にさせれば暴走する可能性が高いですね』

研究室には賑やかな爆笑と、呆れたような溜息とが広がった。
第二位も大したことはないな、と。

腹は立たなかった。
ただ黒々としたものに、全身が浸されていく気がした。
もっとも、その『全身』すらどこにも存在しなかったのだが。


宙に浮いたようなぼんやりした意識のまま、垣根は延々能力を吐き出し続けた。
垣根の能力を使ったモノが次々と作られていく。
演算結果を元に、新たな兵器が調整されていく。

工場の一部のようだ。
いや、すでに垣根は正しく「産業用機械」だった。
でなければ現在の垣根を見て人が抱く印象は、百パーセント「標本」だろう。


人ではない。

「化け物」ですら。










ある時何の前触れもなく、放り出された。

垣根は気が付けば、どことも知れぬ裏通りに佇んでいた。
いつの間に肉体再生されたのか、ご丁寧に垣根の好むブランドの服まで着せられていた。

最初に感じたのは、埃っぽい冷たい匂い。

何も考えられぬまま通りに踏み出せば、雑踏が身を包んだ。
歩き方を忘れていてもおかしくないと思ったが、何の違和感もなかった。
ただふわふわと、綿の上でも歩いているような気がした。

つい今しがたまで脳味噌だけでぷかぷか浮いていた自分を、誰も訝しがったりしていない。
時折頬を染めた少女が振り返って、ヒソヒソと隣の少女に囁くのが見えた。

垣根はただひたすらぼんやりと人波に任せて歩いていた。
何故解放されたのかは、まぁわかる。
垣根を「素材」とした研究計画は、秘匿されていたわけではない。
ある程度が達成されたのだろう。あとは一般機械で製造出来るような工法が確立されたのだ。
要するに、用済みというワケだった。

しかしそれなら普通に廃棄すればいいものを、何故わざわざ肉体を再生したのだろうか。
わからない。
というか、なんだかどうでもよかった。


行き交う人々を眺める。
皆楽しそうで、皆誰かと連れ立っている。
一人で歩いているのは自分だけのように見えた。

このまま歩いているうちに、空気に溶けて消えるのだろうかと思った。


ふと、何の変哲もない茶色の髪が視界を過ぎる。

意識を隅を引っ掻かれたような気持ちで振り返った。

常盤台の制服と、不似合いな軍用ゴーグル。

資料で見たことがある。あれは、「絶対能力進化実験」の。


一方通行の。


あの血色の目が脳裏に蘇った瞬間、ぐわっと一気に全身へと血が巡った気がした。
指先まで熱く震え、急激に肉体の感覚を取り戻す。
風穴でも空いていたかのようだった心臓が、ドクドクとうるさいほどに存在を主張した。

一方通行。そうだ、一方通行だ。

悪夢のような白髪、不吉な赤い目、ふてぶてしい顔の第一位。

この垣根帝督を人としての尊厳など根こそぎ奪われた在り様へと叩き落した、諸悪の根源。

自分と同じほどの屑の分際で、自分には決して得られないものを掴んだ身の程知らず。

思い知らせてやらなければならない、と思った。

お前の居場所など、この世のどこにもないのだと。


垣根は少し前まで、自分の十数年の人生を振り返ると虚しい思いに捉われたものだった。
今、そんなものをすべて焼き尽くすマグマが。
































一体何をやっているんだろう、と垣根は思った。

『無理に最大出力を出せば暴走する危険性が』

いつだったか観測した研究者の発言が、耳の奥で再生される。

一方通行の安い挑発を我慢出来なかったのは、この上なく図星だったから。

この第一位だけではなく先ほどは第三位にまで図星を指され、結局は逆上するなど。

(俺は、俺は……何を、何も)

羽がビキビキと巨大化していく。
元々能力行使時に勝手に出現してしまうが、今までに経験したことがないほど背骨が熱かった。

止めようとしても、天を覆いつくさんばかりに青空に広がっていく。

止まらない。止められない。

血液が逆流した気がした。こめかみがドクドクと脈打ち、目の前が明滅する。

「ぐッ……あ…!!」

まずい。本当に暴走しかけている。

『未元物質』はかなり細密なコントロールを必要とする類の能力だ。
集中力を欠いては、自分の身体すら爆破しかねない。

一方通行の狙いがまさにそれだということに考えが及び、歯軋りをする。


能力者の暴走など、第一位も子供の頃から腐るほど見て来ただろう。
暴走に促す方法もその結果も、当然熟知しているはずだ。

最も手っ取り早いのは、相手を逆上させること。

まんまと手に乗った自分に臍を噛みながら、なんとか、中空に浮遊させていた爆発物質を消し去る。

それを待っていたように烈風が吹き荒れ、地表から巻き上げられた砂埃が視界を遮った。

「やッすい手だなぁ第一位…!」

吐き捨てながらも舌打ちする。

第一位は音波で、第三位は電波で、周囲の観測には優れてる。
一方、垣根は周囲の観測はあまり得意ではない。

使い古されてはいるが有効な手。

垣根は勝手に発現しそうになる能力をギリギリで抑え、鎮静剤に似た物質を自身に投与しながら深呼吸を繰り返す。

六枚羽の肥大化はなんとか止まり、しかし不規則に明滅した。

自身の能力の暴走と、第一位と、第三位。
一度に相手にするには分が悪すぎたが、後には引けない。

引いたとしても、垣根には何も残らないのだから。





翼を羽ばたかせて砂埃を払おうとする。
しかし掴み所のない強風がまたすぐに視界を覆った。

埒が開かない。
垣根は舌打ちをして、肥大化した羽を動かそうとする。

常なら手足のように動く翼は、鈍い反応を返した。

頭が割れるように痛み、手足の先が痺れる。判断力の低下をまざまざと感じる。

「クソッ……!」

それでもなんとか、羽で全身を覆うようにする。
どこから来るかわからない今、防御に徹するしかない。
一方通行の攻撃は予想が付かないが、御坂美琴の超電磁砲程度ならこれでなんとかなる。

そう思った矢先、真正面の砂埃を切り裂き、見覚えのある青白い光が急襲した。

「……ッ」

第三位の必殺の一撃は全身を覆っていた羽に弾かれ、砂埃が晴れた先には一方通行に抱えられた御坂美琴の姿がある。

「効かねぇっつってんだろ!!」

垣根の吠え声に応えるように、羽が一方通行と美琴を切り裂いた。

やったのか、と思ったのは数瞬の間。

羽に裂かれたはずの身体からは血も内蔵も零れず、ただゆらりと揺らぎ、空気に溶けるように消え去った。

「な……っ!?」

息を呑み、そしてすぐに幻覚だったと気付く。

(電磁波……可視光、そうか…第三位……!)


御坂美琴は電気使い。電磁波の操作もお手のもの、当然その中には光も含まれる。
光、つまり可視光も自在に操れるのなら、垣根に幻覚を見せることも容易。

しまった、と気付いたのと同時に、羽を戻そうとする。

狙われるのなら今現在翼に守られていない右半身。
反射的に右側に目をやり、予想通り二撃の超電磁砲が瞬いた。

「……ッ!!」

咄嗟に『未元物質』で盾を作り、なんとか一撃を凌ぐ。
最初にフルパワーの超電磁砲を受けていたのが幸いした。どの程度の強度のものを生成するか決まっていれば、負担は軽い。

二撃目は空を切って後方に逸れる。

安堵の息を吐きかけたその時、不吉な白が視界を掠め、咄嗟に振り返った。

二撃目の先には、一見頼りない、細身の白い影。
その実この世の誰より強固な盾を持つ、第一位。

一方通行は動かない。
超電磁砲を痩身に受け、微かに目を細めて笑っただけだった。

(くそっ……!!)

予測を寸分違わず、白い光は白い身体に反射し、再度垣根を襲う。
『ベクトル操作』を受け、威力を途方もなく引き上げられた最強の一撃が。



眩しく晴れ渡った青空を、場違いな爆発が引き裂いた。



「ぐ……、……っ」

翼から、白い靄が漏れる。『未元物質』にもなりきれない、垣根の能力の切れ端だ。
かろうじて身体に傷はついていないが、羽はほぼ原型を留めない、無惨な有様だった。

ぐらり、とバランスを崩す。

間髪入れず、一方通行が肉薄した。
翼はない。遮ることができない。

「……オマエの出番はとっくに終わってンだよ、この三下がァ!!」

細い手の、華奢な握り拳。
それが自らの腹に叩き込まれた瞬間、垣根は血反吐を巻き散らして地表に落下する。

瓦礫になりかけたビルの壁面を突き破り、アスファルトを叩き割って、地面に激突した。

「……っぐ、く……」

残った翼の部分ででなんとか身を包んだが、それで精一杯。
どこが痛いのかわからないくらい全身で激痛が暴れるが、死んでないだけ僥倖だ。

クレーターのようになった剥き出しの地面に手をつき、垣根はなんとか身を起こそうとする。
地べたについた手が、笑えるほどにガクガク震えた。

「う、がはッ、ぐぅえ……ッ」

咳き込めば、胃液と血液がびちゃびちゃと冗談のように大きな水たまりを作る。

(肋骨と内蔵がイカれてやがる)

とりあえず右肩と左足の裂傷を粘着性のアクリル材質にした『未元物質』で覆い、麻酔と強心剤に似たものを体内に投与した。

「…く、はぁ……はぁ…っ」


感覚が少し茫洋とするにつれ、ようやく身体が起こせるほどに痛みが引いてくる。

吹き飛ばされてからどれくらい経ったのか。数分の気がしているけれど、数時間と言われても納得できる。

ようやく、一方通行はどうした、と気が回るようになる。
自らが守ろうとしている者に手を出されて見逃すほど、あの男は甘くない。

垣根はやっと顔を上げ、瞠目した。

「…………ッ」

最初は、やけに明るいと思った。

半壊以上の様相とはいえ、周り中を背の高いビルで囲まれた路地は、本来薄暗いはず。

カツ、と足音が響き、ひび割れたアスファルトに細い足が降り立つ。
不吉な白い影、一方通行。

その頭の上に浮かんでいるのは。

人工太陽とはよく言ったものだ、とどこか呆然と見上げる。

その白い頭の上に浮かんでいるのは、白い、様々な色にも明滅する光球。

資料で見たことがある。以前にも空気を圧縮して作り出したと。
気体を圧縮し温度を再現なく上げて行き、構成する中性分子を電離させ、結果としてイオンと電子だけで構成されてしまったもの。

高電離気体……プラズマ。


「すべて終わりにしてやるよ、垣根」


一方通行は静かに呟いた。その顔にはもう怒気も嘲笑もない。

垣根は白い光に縁取られる白い顔を、ただ見上げる。


最初から一方通行の狙いはこれだったのだ。
あの黒翼を見せるつもりはない。だが『未元物質』の耐久力も攻撃力も侮れない。
だからプラズマを作るための時間を稼いだ。

最初から、あの数万度の光で、垣根の細胞一つ残らず焼き尽くすために。

「終わりか……」

だが垣根は、どこか安堵したように呟く。

自分の声に少し驚き、起き上がろうとするのをやめ、その場にすとんと腰を下ろした。

すべて終わる。何もかも。

無為なあがきも、命を搾取するのもされるのも、怒りも、虚しさも。

それはほどほどに悪くないものに思えた。

「肉片でも残ってりゃ、あのクソどもは再生しちまうぜ?」

「バァカ、この俺がそンなヘマするか。……安心しな、細胞一つ残さず焼き尽くしてやる」

一方通行は微かに頬を緩めた。
毒も狂気もない顔は、優しい子供のようにあどけない。

そこには自分への、共感のようなものが見えた気がした。

自らの能力への、自負と嫌悪。学園都市への憎悪と諦念。

「あのクソどもが二度と、手ェ出せねェとこに連れてってやるよ」

そんなところがあるものかと、長い間思ってきた。
けれど言われてみれば確かに、「そこ」までは手を伸ばせない。

「ふぅん……。まぁ確かに、流石の奴らも地獄までは追っかけて来ねぇだろうな」


用済みだという烙印があっても、何かの変更があればゴミ捨て場からリサイクルする感覚で連れ戻される。
いくつも見て来た事例だが、手を伸ばせない場所もあるか。

垣根は、一方通行とプラズマを見上げる。白い、他の何もかもが見えなくなるほどに。

(終わりか)

何もかも終わり。
垣根は長く息を吐き出した。やはり、悪くない。

「お前との決着付けらんねぇのは、ちっと残念かもなぁ」

「ほざけ。二回ともオマエのボロ負けだろォが」

「色々イレギュラーあったからノーカンじゃね?」

「何がノーカンだ。……先に地獄に行って待ってろ。そっちでなら、いくらでも相手してやるよ」

一方通行が手を差し伸べるような仕草をする。

「心配すンな。多分、そンなに待たせねェさ」

すべてを焼き尽くす白い太陽が、垣根を包むために近づいてくる。

「それなら、寂しくねェだろ?」

白い手。垣根を一度殺し、二度目に殺す手だ。

けれどそれは、生まれて初めて差し伸べられた手にも思えた。

見たこともないほどに眩しく、温かな光のように思えた。

垣根は、自らも手を伸ばそうとして、腕が動かないことに苦笑する。
一方通行はそれを見て、わかっている、とでも言うように、微かに頷いた。

そしてようやく気付く。

最初から、一方通行への特別な憎悪なんてなかった。
他人のことなんか、どうでもよかった。
自分のことで、精一杯で。

確かに一度は一方通行に殺されたも同然だが、今までに似たようなことなどいくらでもあった。
大概は研究者達の実験の果てで、いちいち憎悪していたらキリがない。

誰かというよりも、この世の全てが腹立たしかっただけだ。

無為、その一言に尽きる垣根帝督の人生。

何も為さなかった、何も得られなかった、何も残すことはなかった。
そうしようとしたことはあったのかもしれないが、遠く塗り潰されてもう思い出せない。

自分に似ているように見えた一方通行に、八つ当たりをしただけで。

本当は、何かに怒りをぶつけたかっただけで。



この手の中に何もないということが、ただとても悲しくて、寂しかっただけだった。















「ダメぇええええええええ!!!!!」









絶叫と大きな雷鳴のようなものが響き渡り、垣根の目の前に華奢な少女が立ちはだかった。

「バッ……!!」

垣根はただ目を見開いただけだったが、一方通行は顔色を変える。

「……ッカ野郎がァあああああ!!!」

ゴッ、と烈風が吹き荒れ、白い光と雷と風が猛烈に交錯した。

「きゃあ……っ!」

細い悲鳴とは裏腹に、少女は一歩も動かない。

翻る茶色の髪と常盤台の制服に、ああ、第三位か、と垣根は遅まきながら思い出した。
自分で声を掛けておきながら、完全に存在を忘れていた。


風は数秒で収まり、雷もプラズマも消え去った空間は、それまでの轟音が嘘のように静まり返る。

はぁ、はぁ、という荒い息だけが薄暗さを取り戻した路地にわだかまる。

「…ッ死にてェのかこのクソ女!!あンまり舐めた真似してっとブッ殺すぞ!!!」

真っ青な顔をした一方通行が、美琴の胸倉を掴みあげる。
額にはびっしり冷や汗が浮かび、真っ白の指先はブルブルと震えていた。

よほど焦ったのだろうということは、誰の目にも明らかだ。

たった今顔色一つ変えずに人ひとりを焼き尽くそうとした人間とは思えぬ反応にか、美琴はポカンと口を開く。

「な……なんて顔してんのよ、アンタ」

「はァ!?」

「べ、別に私だって、何の考えもなかったワケじゃないし……。私は電気使いなのよ、プラズマの分解くらい何とかなるわよ。
 練習も、したし……」

確かに、プラズマは気体を構成する分子が電離し、陽イオンと電子に別れて自由に運動している状態。
それを逆に分子に結合させてやれば、プラズマとしての特性を失う。高位の電気使いにならそれも不可能ではないだろう。

「え……?…あ、……」

言われてそれにようやく思い当たったように、一方通行は赤い目を瞬いた。

気を取り直すように軽く咳払いをして、美琴の胸倉を突き放す。

「……とにかく、格下があンま出しゃばンじゃねェよ。身の程を知りやがれ」

冷たい声音に、気の強そうな第三位がムッとした気配。

「何よ偉そうに。目の前で人が殺されそうになってんだから、止めるのが当たり前でしょ」

「はァ?そいつはさっきまでオマエもついでに殺そうとしてたンだぜ?」


「相手が殺そうとして来たからって、私まで相手を殺す必要はないわ。アンタの非常識を押し付けないで」

「は、ご立派なことで。……その信念がいつかオマエを殺すぜ」

「私は死なないわ。仮に死ぬことがあっても、後悔はしない」

第一位と第三位が、至近距離で睨み合う。
互いにまっすぐに目を向け合い、まっすぐに思いをぶつけ合い。

垣根は目を細めた。

遠い。ひどく遠く思える。二メートルも離れていない二人との距離は、空の星より遠く見えた。

「一方通行……」

喉奥から押し出した声は、ひどく掠れている。

地の底から湧き出たような、我ながら恨みがましい声音だった。

「垣根……」

一方通行がハッと我に返ったように、美琴の腕を引っ張り、自らの後ろに庇う。
第三位は「ちょっと!」と怒鳴っていたが意に介した素振りもない。

「終わりにしてくれんじゃ、なかったのかよ……?」

「…………」

チラリと後ろを見て、一方通行は眉間に深々と皺を寄せた。
驚いたことに、困っているような顔だった。

「ちょっと、ダメだって言ってるじゃない!何よ垣根アンタ、急にヤケクソになるんじゃないわよ!」


「うるせぇな、黙れクソガキ。お前には聞いてねぇっつーの」

「誰がガキよ!?アンタ達だって私とそんなに変わんないでしょーが!」

ぎゃんぎゃん騒ぐ声に、垣根もじんわりと眉を顰める。

半壊した薄暗い路地は、垣根にも一方通行にも似合いだが、御坂美琴はひどく浮いている。
当然のように自信満々に言い放つ健全な空気に、目の前の第一位の殺気が揺れているのがわかる。

垣根は焦燥を覚えた。初めて得られるのかもしれないものを、今、奪われようとしている。

「一方通行」

すべてを終わらせるということ。

もう遠い昔に思える、「すべてを引っくり返す」と息巻いていた時に望んでいたのは、結局はそれと同じことだったのかもしれない。

もういい。もう、いい。もう、何もかもどうでもいいから、真っ白になりたい。

「一方通行……」

縋るような声音になってしまった自覚はある。
同時に咳き込んで、血液混じりの胃液がべちゃりと零れた。

「ちょ、……ちょっと、アンタ大丈夫?救急車呼ぶ?」

美琴が慌てて携帯電話を取り出す。

その表の人間特有の常識的な判断も、たった今まで戦っていた相手を本気で心配している表情も、垣根の神経をざりざりと引っ掻いた。

ひどく目障りだった。

「ホント、うぜぇなぁ……」

ざわりと、掻き消えていた殺気が喉奥からこみ上げてくる。

「垣根!!」


一方通行の声は、打つように厳しい。
美琴を庇い、垣根を制止する。
たった今まで向けられていた、静かな共感に満ちた声音とは全く違っている。

ぱりぱりと、ひび割れるような音が胸の奥から聞こえた。

「んだよ……終わらせてくれんじゃねぇの?」

一瞬の期待という温もりが、凍りついた身体を壊していく。

「後から俺んとこに来てくれんじゃねぇのかよ……」

地の底に這うような溜息が漏れる。
同時に、引いていた潮が一気に津波となって押し寄せるように、真っ黒い怒りが噴き出した。
失望とも屈辱ともつかぬものだった。


「じゃあいい。死んじまえよ一方通行」


ぐしゃぐしゃになっていた羽を再構成し、大きな片翼を広げ、横凪に払う。

完全に不意を突いた形。

一方通行が何か叫び、美琴をその細い腕の中に抱き込む。固く、守るように。
茶色い目が大きく見開かれ、稲妻が走る。

(死んじまえ、お前も、御坂美琴も)

守れなかったと絶望すればいい。あの世で嘆き悲しめばいい。
守っていた少女が死んでも一方通行とは違う場所に行くだろうから、二度と会えはしない。

(ざまぁみろだ)

嘲笑おうとしたのに、ひとつも笑いは出て来なかった。

ただ虚しく、悲しく、寂しく、矮小すぎる己に絶望し、だが止められない。
御坂美琴には何の罪もない、ただのとばっちりだ。
ひどく理不尽な死、けれど垣根の人生はずっとこんなことの繰り返しだった。

誰か、止められるもんなら止めて見せればいい。

誰か。


誰か。













「やめろ!!!!!」






場違いに力強い声が響いて、垣根は目を見開いた。

今までに一度も経験したことのない感覚の正体がわからず、ひどく戸惑う。

翼が動かない。
暴走をしてさえ意のままに動いていた翼が、ピクリとも。

「あ……?」

垣根はぼんやりと後ろを振り返った。

まず初めに目に入ったのは、真っ黒い目と、真っ黒いツンツン頭。
ごく平凡な、その辺にいそうな少年。

だがその平凡なはずの日に焼けた右手が、垣根の翼を掴んでいる。
鋼鉄も軽く切り裂き人体など一瞬で消し飛ばす羽を、素手で。掴んで。動かせない。

「はぁ……?」

聞いたこともないような間抜けな声が自分のものだと、気付くのに時間がかかった。

「一方通行、大丈夫か!?あ、あれ、御坂妹……っ?」

「なっ、な、何でアンタがここにいんのよ!!」

「じゃねぇ、御坂か!?何でって…一方通行に呼ばれて。っていうか、それはこっちが聞きたいことですよ!?」

どうやらこの闖入者と御坂美琴は知り合いらしい。
賑やかなやり取りに、黒く冷えた空気が緩んでいく。

一方通行はゆっくりこちらに向き直り、美琴から腕を離す。

そして赤い目が黒い目と数秒見詰め合って、緩く細められた。


「遅ぇんだよ……ヒーロー」









一方通行の仲間か、と垣根は我に返り、全力で飛びのく。

部分麻酔じゃ殺しきれない激痛が背筋を突き刺すが、なんとか歯を食いしばった。

「ぐ、……っ」

口の中が血の味で満ちて、ペッと吐き捨てた。鬱陶しい。
足が震えるのを、なんとか気力だけで支えて立ち上がる。ひび割れた壁に背を預けた。

(何だ?あいつは何だ?なんなんだ?)

翼に感覚などないのに、掴まれた寒気が頭から突き刺さるようだ。

意味がわからない。一方通行でさえ容易には反射出来ないはずなのに、いとも簡単に素手で。

「一方通行、怪我は?大丈夫か?」

「誰に聞いてンだ三下が。もうケリ着くとこだったっつの」

「そう言うなって。これでもお前に電話貰ってから、すげー急いだんですよ?」

「あァそォ」

どこか嬉しげな少年から、一方通行はフイと顔を背ける。その赤い目の先には、満身創痍の垣根。

「上条」

一方通行に促されるよりも前に、笑みを消した真っ黒い目が垣根を見据える。
ぞわ、と経験したことのないような感覚に肌が粟立った。

(何だコイツは……)


不吉な気配を感じる。動かしてもいない翼がざわざわと波打つ。

見た目は普通の高校生だ。だが普通の高校生がこの垣根帝督の翼を素手で掴めるわけはなく。

一方通行と並んで立つはずもない。

垣根はひどい違和感を覚えた。
何か違う。今までの一方通行と。

たった一人で高い塔の天辺にいるような、暴虐の王のような覇気。
誰といようが、例え二人で共同戦線を張ろうが、たった一人で戦う顔をしていた孤独の影。

一方通行が常に纏っていたそれらが、ひどく薄れている。
学園都市最強の怪物の隣に、当たり前の顔をして、誰かが立っている。

超能力者は基本的に一人で行動するものだ。
フォローが必要な場合は集団行動もするが、能力が強すぎて仲間がいても巻き込んでしまうことが多い。
結果、単独行動が一番効率的ということになる。

その超能力者の筆頭が、見たこともないような少年と並んでこちらに向かってくる。

上条と呼ばれた少年は、ひどく得体の知れない雰囲気を持っている。
裏の人間と言われても、表の人間と言われても、納得出来ない。

(なんなんだコイツは……!)

垣根はたった今あっさりと死を受け入れかけたのが嘘のように、残りの全力を振り絞って戦闘態勢に入った。

(ありえない。俺の羽を素手で、何かの間違いだ)

こみあげるような気色の悪さに、全身の毛が逆立つ。
こめかみがドクドク脈打つ音がする。

空間に『未元物質』をバラ巻く力は残っていない。残った片翼で決着をつけるしかない。


「あいつがお前の敵か?」

「あァ」

「わかった。……行くぞ一方通行!!」

「俺に指図すンじゃねェ!!」

赤い目と黒い目がギロリと、真っ直ぐにこちらを見える。

白い怪物と黒いアンノウンが並んで、こちらに歩んで来る。数歩目で駆け足になり。

今まで経験したことがないほどに凄まじい威圧感だった。今にもペシャンコに潰されそうだ。

垣根の眉間を脂汗が流れる。
歯を食い縛り、指先で壁に爪を立て、片翼を大きく広げた。

「……何なんだお前はぁああ!!!」

プレッシャーへの最後の抵抗のように、焦燥が吠え声になる。

瞬間、翼が破裂したように見えたかもしれない。
実際には、羽一枚一枚を矢のように、マシンガンのように放っただけのこと。

上条という得体の知れない少年は顔色一つ変えず、右手を顔の前に突き出し、羽を薙ぎ払った。

聞いたこともないような澄んだ音だけを残し、輝く白い羽が霧散する。

「は、はぁ……っ!?」

垣根は目を剥いて硬直した。

しかし数瞬後、一方通行の反射膜に触れた羽が方向を変え、上条の頬を横腹を切り裂く。

パッ、と小さな花火のように鮮血が散った。


「!!!」

一方通行はそれを見て打たれたように硬直し、

「この……ッ」

だがすぐにこちらに向き直り、グンとスピードを上げる。

垣根は反射的に、翼で一方通行を切り裂こうとした。

だが、隣に並んだ少年の日に焼けた右手が、あっさりと横殴りの翼を掴む。
二度目の驚愕が垣根を襲い、その半瞬後には間近に白い顔が迫っている。

「クソッタレが!!!!」

激怒に染まった顔。

流儀に反したからでもなく、守ると決めた者を傷つけたからでもなく、ただ単にカッとなったような、ある意味ひどく幼げな表情。

垣根はふと、自分もこういう顔で怒ったこともあったのかもしれない、と思った。

遠い遠い昔、一番初めの友達が、死んでしまった時。
垣根帝督が初めて遭遇した、恐ろしい理不尽。
大事な友達がいなくなって、腹立たしかった、悲しかった。
そんな風に思い、研究者に立ち向かったこともあった。

一方通行の顔を見てそんなことを思い出し、白い拳が右頬にめり込んだ直後、意識が途切れた。













今日はここまでで
垣根の頑張り編でした
また近いうちにー

こんばんわんこ
投下しにきました












「ブッ殺す!!!」

垣根が地面に激突するのを見届ける前に、一方通行は再度拳を振り上げた。

頭の芯が煮える。目の前が赤い。

何を考えるより前に、翼が消えた垣根の身体を両断するため、今度は先ほどよりも更に破壊力を加算する。

「一方通行、待て!」

しかし後ろから腕を掴まれ、例の澄んだような音と共に、込められた力が霧散した。

「ッ離せ…!ちょっと気ィ抜いたら……図に乗りやがってクソ野郎!!」

振り払おうと全身の力を振り絞るが、一方通行の手首を掴んだ腕はビクともしない。

「よく見ろ、もう気絶してる!殺す気か!?」

「殺す!!」

「殺すな!!!」

叩きつけるように怒鳴られ、一方通行はビクリと肩を竦めた。

「殺すな、一方通行!お前も、御坂も、俺も無事だ!生きてる!!」

力強い声、熱い掌。掴まれた右手首が熱い、温かい。

(生きてる……?)


雨が地面に染み込んで行くように、徐々に力が抜けていく。
一方通行は、ゆるゆると振り返った。

「……上条」

目の前には、見慣れはじめてしまった、真っ黒い目。
真っ黒いのに、太陽のように感じる眼差しが、相変わらずまっすぐにこちらを見据えていた。

頬がざっくりと切り裂かれている。
視線を下げれば、脇腹のシャツが裂け、真っ赤に染まっていた。

一方通行が反射した羽で、ついた傷。反射に失敗したせいで、流れた血。

急に、息が詰まった。

「だから……、だから言ったじゃねェか…ッ」

この身は『反射』の一方通行。
誰かが側にいれば、必ず傷つけてしまうのだと。

わかっていたことだ。だからあれほど拒絶した。
打ち止めのように「守りたい存在」とは違うけれど、決して傷つけたくなかったと、たった今気付かされる。

掠れた声に、しかし上条は照れたように頭を掻いた。

「あー。ごめんな、一方通行」

「は……?」

意味がわからずに目を瞬くと、小さな笑い声が返る。
自分に呆れたような声音なのに、ひどく軽やかに響いた。

「大丈夫って約束したのにな。けど考えてみたら俺もさ、誰かと協力して戦うとか、初めてだったわ」

「え」

思ってもみなかった言葉に、一方通行は驚く。


いつも誰かのために、誰かと共に戦っているのかと思っていた。
けれど確かに思い返してみれば、ふとすれ違った時、遭遇した時、上条はいつも一人だった。

たった一人で、誰かのために戦っていた。

「なんつーかさ……成り行きとかじゃなくて、誰かと一緒に戦いたいって思ったの、初めてなんだ。
 だから俺も慣れてないし、お前も慣れてないし。お互い初心者だから、最初はちょっと息合わなくてもしょうがねぇよ」 

「…………」

「な?俺とお前なら、すぐ慣れるって」

上条は何の不安も感じてない、とでも言うような、屈託のない顔で笑う。

一方通行は、ただ一心に目の前の『ヒーロー』を見詰めた。

「約束」をした。お互いのヒーローでいる、一緒に戦うと。
その不慣れな手触りの甘ったるいものを、そっと手元に返す。

掌に約束を握り締めて、一方通行はようよう唇を開いた。

「……ッ、垣根、の…」

自分でもあまり聞いたことのない、ふらふらした声音を、なんとか絞り出す。

「垣根の『未元物質』、は……解析、が…しづらい…」

「へ?ああ、そうなんだ?」

「ッから、反射が、うまく…、出来ない……」

「ふぅん。お前でも反射出来ねぇとかあるんだな。あ、こんくらい掠り傷だし、気にすん……」

「……ッ」

一方通行は無理矢理息をついて、上条の顎先に銃口を突きつけた。

「なぁ!?え、ちょ、あああくせられーたさん!?そんな怒んなって」


「うるせェ黙れ、右手を離しやがれ」

後ろで誰かの悲鳴が上がった気がするが、そんなことはどうでもいい。

「手?あ、ごめん痛かったか?」

上条は勘違いした様子で慌てて手を離すので、軽く舌打ちする。

「違ェよバカが。オマエが掴ンでたら能力使えねェだろォが」

だらだら景気良く流れる血を止めようと、一方通行は目の前の日に焼けた頬に手を伸ばした。

「あ……けど」

少し惑ったような表情に「動くな」とだけ返すが、数秒後にじわじわ目を眇める。
それを見て、上条は「やっぱり」と苦笑した。

「怪我治すとか、そういう異能の力は…俺には効かねぇんだ。魔術もダメだったけど、やっぱ超能力もか」

「右手に当たンなきゃいいンじゃねェのかよ」

「攻撃っつー形だったらそうなんだけどな。回復系とかダメみたいだ。やっぱ身体が右手に繋がってるせいかねぇ」

本人にとっては当たり前すぎる事実だからなのか、上条は飄々と肩を竦める。

「……チッ、バイタルサインも読めねェ」

ならばと体内の様子だけでも確認しようとしたのに、叶わない。
血が出ていて、傷ついていているのに、上条当麻の心拍数も呼吸数も血圧も体温も何も読めない。
臓器のチェックも、脳機能の確認も、何も。

「バイタルサイン?って脈とかだっけ…?そんなのもわかんの、お前」

「当然だ。打ち止めの時も常に確認して……」

ふと言葉が途切れる。


そうだ、エイワス顕現によって弱ってしまった打ち止めを連れてロシアに行った際にも、常にバイタルサインはチェックしていた。

打ち止めのひどく浅い呼吸、あまりに弱々しい声音や表情。見ているだけで胸が引き絞られるような。
けれど確かに小さな心臓は動いていたし、衰弱しているだけで体内に異常があるわけではないとわかっていたから、一方通行は冷静でいられたのだ。

だが目の前の少年に、同じことは出来ない。

「けどオマエのは……わかンねェ」

今は何でもなさそうに笑っていても、いつ意識を失って、そのまま二度と目を覚まさないことになるか、わからない。

「……わかンねェよ」

急に、ひどく寄る辺ない気持ちが込み上げた。

突然片足が奪われたような感覚。当たり前に出来たことが、何の前触れもなく不可能になる理不尽。

どうやって立っていればいいのか、わからない。


「俺はどうやって、オマエが生きてるのを、確かめればいいンだよ……?」


上条は不意を突かれたような顔する。少しこちらの顔を見詰めてから、笑った。

「何言ってんだよ。俺はこうして生きてるじゃんか」

「バカか?意識レベルは重要な指標だが、それだけで保証されるワケねェだろ」

「そう言われてもなぁ……。俺はインデックスがこっち見て笑ってくれたら、大丈夫だと思って来たけどな。
 それが普通だろ?」

「普通……」

そんなことで、「普通」は安心するのか。何も具体的な確認が出来ていないというのに。

思えば、自分はいつも大病院の最新鋭機器を以って相手を検査しているようなものだった。
確かに「普通」なら、そんなもの持ち歩けるわけがない。

そんなものがなくても、当たり前のように目の前の相手を信じる。何の証拠もなくとも。


一方通行は自らの脆弱さを思い知らされ、唇を噛み締めた。
銃を突きつけていた腕が、力なく降りていく。

「そ、そんな顔すんなよ。ほら、心臓だって動いてるだろ?な?」

上条は慌てた顔で言い募って、一方通行の手を取り、自分の胸の上に当てた。

「…………」

言われるまま、掌に神経を集中する。
厚手のジャケットを通しているせいか、ごく微かに鼓動が伝わる気がするが、よくわからない。

反射的に能力を行使して、ああ、使えないんだったと軽く舌打ちをする。

一方通行は手を退けてから、上条の胸に耳元を寄せた。

「あ、一方通行……っ?」

「黙ってろ、聞こえねェだろ」

耳を押し付ければ、集中するまでもなく力強い鼓動が身体の奥まで響いた。

片頬も、布地を握った手も、じわりと温かくなる。
どこか身体が浮いたような感覚があって、一方通行は微かに眉を寄せた。変な感じだ。

しばらくして、上条に少し体重をかけているせいだと気付く。

生まれてこの方、他人に寄り掛かったことなど物理的にも精神的にも一度もなかった。
慣れない感覚。気持ちが悪い。
ただ、ガマン出来なくもない。

「……?」

脈拍を測るために鼓動を数えていた一方通行は、どんどん高鳴っていく心臓に、今度はハッキリ眉をしかめる。

心拍数が増えているということは、何らかの要因で交感神経が優位になっているということ。
確かに、出血すれば血圧が下がり、脈拍は増加する。
当然脈拍を左右するのは外傷のみではないが、と顔を上げた。


「オイ、心拍数がかなり上がってる。他にもどこか痛むのか」

「へ、へ……?な、何が?別に、他は怪我とかねぇけど!?」

上条は、何故だか中途半端な位置に上げられていた両手をふらふらさせる。

「……?顔が赤いぞ」

「え?あー、ホントだ。顔熱いわ……なんだろ」

ぺたぺたと不思議そうに頬を触り、戸惑ったような顔が見下ろす。

一方通行は、あまり見たことのない類の表情を見上げた。

真っ黒い目に、自分の顔が映っている。
誰かの目に映った顔は、見慣れない色をしていた。耳の奥で、風が吹いている気がする。

「……何だって、自分のことだろォが」

「そうだけどさぁ……」

上条は顔を撫でていた手を、一方通行の肩に置いた。ごく自然に、だが置いた後でパッと放す。

「あ、ごめ」

ふと見れば、血が付いた頬を撫でた手で触れた肩に、赤い跡が付いている。

「別に、血なンか今更気にしねェよ」

「血?あー…いや、そうワケじゃなくて」




「じゃあどういうワケなんじゃぁああああああ!!!!」




不意に怒声が響き渡って、思い切り後ろに引っ張られる。

「……っ!?」

「いつまでイチャイチャしてんのよ!そんな場合か!!離れなさいよ!!」

見れば、美琴が顔を真っ赤にして目を吊り上げている。

今まで目にしてきた、義憤に溢れた激怒とは違う、なんだか拗ねたような顔に、一方通行は軽く首を傾げた。

「は?……あァ、心配しなくても今更コイツを殺しゃしねェよ」

そういえば、第三位にとっては、絶対能力進化実験の時に対峙した自分達の印象しかないだろう。

あの時から、随分遠くに来た。

心の奥の方で呟いてから、小さく肩を竦める。

「言っただろ、俺はもう実験をするつもりはねェし、こいつを殺しても何のメリットもねェ。
 つってもオマエは俺を信じられやしねェだろォが……」

「んなこたどうでもいいのよ!!」

「は?」

「くっつき過ぎだっつってんの!!!」

片腕をむんずと掴まれ、ずるずると後ろに引っ張られる。

(どうでもいい、だと……?)

思わずされるがままになりながら、一方通行はポカンと美琴の顔を見下ろす。
きらきら輝くような茶色の目が、「何だコラァ!」とでも言いたげにガンを飛ばしてきた。

以前セブンスミストで相対した時とは異なる雰囲気に、じんわりと戸惑いが滲む。


「おい御坂、何でそんなに怒ってんだ?こないだ一方通行とは話したんだろ?」

訝しそうな上条に、美琴はキッと視線をぶつける。

「話したけど、聞いてない!聞いてないわよ、聞いてないっつーのよこんなの!!」

あのシスターの子が一番危険って思ってたのに、などと腹立たしげにブツブツ呟く。

「シスターってインデックスか?危険って、アイツは攻撃的な魔術なんかほとンど使えねェぞ」

「そ…ッ、そういう話じゃないの!!」

「じゃあどういう話なんだ?」

どうも話が見えない。一方通行と同じように、上条も不思議そうに美琴を見ている。

二対の目に見下ろされ、しかし美琴は一歩も引かない迫力でギリリと交互に睨み返した。
何度か行ったり来たりして、最後にこちらの顔を貫かんばかりに睨み上げる。


「ま……負けないんだから…っ!!」


高らかに宣言され、一方通行は軽く鼻で笑った。

「は、オマエ俺に勝てるつもりでいるのかよ」

すると美琴は脳天から噴火でもしそうな顔で肩を怒らせる。

「なっ、ぬぁっ、何ですって!?わ、私だって!!」

「オマエの超電磁砲も何もかも、俺には効かねェって知ってンだろォが。
 だいたい、戦うつもりはないンじゃなかったのか?だがやるってンなら」

「……あ、ああ……。勝てるって、そういう……」


ガクリと怒っていた肩が落ちて、一方通行の頭の中は疑問符で一杯になった。

何だろう。何かひどく噛み合っていない気がする。

思わず上条を見ると、上条も不思議そうに美琴を見下ろしていて、こちらの視線に気付いて顔を上げる。
肩を竦めた仕草に、一方通行は浅い溜息をついた。

なんとも言えぬ微妙な、今まで経験したことのないような空気がわだかまる。

一方通行は一端空を見上げ、半壊したビルが目に入って、視線を下げた。

数歩先には、ボロボロになった垣根帝督が横たわっている。
あの怒鳴り声にもピクリともしなかったから、相当深く気を失っているのだろう。

一方通行の視線に気付いて、上条も垣根に目をやった。

「……そういえば一方通行、こいつって結局何者なんだ?魔術師って感じじゃなかったけど」

今更の質問に、そういえばコイツが第二位を知っているわけもなかったと、頷く。

一方通行の事実と予測を交えた説明をうんうんと聞き終えて、上条は首を捻った。

「んー…?それってつまり、敵じゃねぇってことか?」

「何でそォなる。確かに捨て駒にされた可能性が高いが、それとこれとは別問題だ。
 今までインデックスや俺を襲撃して来たやつらと、何か繋がりがある可能性も捨て切れねェ」

「え、だって超能力者だろ?魔術師じゃないんだし、関係ないんじゃねぇの」

「バカが、相変わらず能天気な野郎だな。このタイミングで偶然ってことがあるか。
 魔術師が科学側と手を組まないとも限らねェだろォが」

「あー、そうか。でもさぁ、やっぱりこいつ自身は関係ないじゃねぇかなぁ」

「何でだよ」

「だってさっき、こいつ……すげぇ悲しそうな顔、してただろ。ホントに敵だと思ってる奴に、そんな顔見せるかな」


上条は垣根に歩み寄り、よいしょ、と声を掛けて抱き起こした。
残ったビル壁に背を持たれかけさせてやり、傷の具合を見ている。

一方通行は舌打ちした。

「オマエはお人好し過ぎンだよ。コイツの個人的感情と立場はまた別モンだろォが」

「ああ、お前もやっぱり悲しそうだなって思った?」

言わんとしたこととは別の部分を拾われ、ぐっと言葉に詰まる。

「そうね。私も最初はすごい憎悪を感じたけど、さっきは……なんていうか、泣きそうな顔してたわよね」

いつも間にか後ろに佇んでいた美琴も、思わしげに頷く。

自分と相対した後の垣根帝督の状況は、概ね知っていた。
恐らく用済みになったから、突然蘇生されて捨て駒にされたのだろうことも。

であれば、今まで襲撃して来た魔術師側と学園都市側に、なんらかの繋がりがある可能性は高い。決して油断は出来ない。

しかし、「学園都市にありふれた悲劇」の中を生きて来たのだろう垣根の考えも自暴自棄も、少しわかるような気がしたことは確かだった。

脳や臓器だけにしてすら学園都市のために利用する、人としての尊厳などゴミのように無視する。
そんな扱いなど、きっと当たり前だった。学園都市とはそういうところだ。

「……学園都市には悲劇なンかありふれてる。コイツはそれに負けたってことだ」

「ありふれてるからって、見逃していい理由になんかならねぇよ」

上条は一方通行を振り返った。この男にとってはごく当たり前のことを言って、「一方通行」と促す。

何を求められているのかわかって、わかったこと自体にも溜息が漏れた。

「……上条。そいつは打ち止めを人質に使おうとしたし、黄泉川を殺しかけた。
 さっきも、そこの第三位を殺そうとしたンだぜ」

「でも結局、殺してないんだろ」


「俺とオマエが止めたからだ」

「なら、もし次があるなら、また俺も一緒に止める」

相変わらず真っ直ぐな黒い目は、少しも揺らがない。

一方通行は苦虫を噛み潰したような顔になる。
それを見て、上条は少し苦笑した。右手を伸ばし、垣根の右肩に触れる。

「そんなに言うなら、ほら、こうしとくからさ」

「…………」

上条なりの譲歩に、再度深々と溜息を吐き出して、垣根の側に歩み寄った。
膝をつき、日に焼けた手が乗せられているのとは反対側の左肩に触れる。

「あ、俺が触ってたらダメか?」

「オマエが触れてる部分以外は問題ない。……肋骨が三本折れて、臓器にもいくつか傷付いてやがンな。
 呼吸、脈拍、体温、血圧、それぞれ弱いがまァ死にはしねェよ」

「そうか……。よかった」

上条は安堵したように笑う。
これがこの男の性格だとわかっている。

こいつがこんな風だから、自分と一緒に戦うなどと、普通の人間なら理解できないであろうことを口にするのだ。

しかしわかっているからこそ、そのお人好しぶりに顔を顰めた。

「オマエ……。そンなンじゃいつか死ぬぜ」

「何でだよ、上条さんは死にませんよ」

「アンタね、すぐ人に死ぬ死ぬ言うんじゃないわよ」

「ホント、オマエら……」

上条といい美琴といい、どいつもこいつも人が好いにもほどがある。
常識的で正義感に溢れる人種は厄介だ。


そこまで考え、自分には関係ないはずの、自分に害をもたらさない行動を「厄介」と思ったことに違和感を覚える。

慣れぬそれを頭の片隅に追いやって、一方通行は何でもない顔で垣根を見下ろした。

深い裂傷は『未元物質』で覆われ、止血もそれなりに効果を為している。
一方通行は体内に溜まり掛けていた血液を小さな傷口から抜き出し、折れた骨を固定し、脳波に干渉し覚醒を促した。

「……ッ、う……」

垣根は低い声で呻き、瞼を重そうに持ち上げる。

ハッと弾かれたように頭を上げ、至近距離にある一方通行と上条、そして美琴の顔を見て、絶句した。

「……ッ!?」

「お、気が付いたか。さすが一方通行」

「ホントにチートよね」

「な…?何、だ……?」

垣根は自分の身体を見下ろし、一方通行の能力干渉を認めたのか、唖然と目を見開く。
ひどく戸惑った頼りなげな顔に、殺気も薄れるというものだ。

「何だ、一方通行…。何のつもりだ……?」

「別にどォいうつもりもねェよ。そこのバカがうるせェからな」

「バカバカひでぇよ一方通行。あ、垣根さん?ですよね。怪我大丈夫ですか?俺、上条当麻っていいます」

「オイ待てやコラ、何で俺は呼び捨てでこのクソに敬語なンだよ」

「え?だって年上っぽいしさ、なんとなく」


「アンタって意外と年上とか年下とかこだわるわね。体育会系なの?」

「いやー、そういうワケじゃないんだけど。初対面の年上相手ってやっぱ敬語使うもんだろ?」

「常識発揮すンならTPO選べや」

「っていうか、アンタの辞書にTPOなんて単語があったことが驚きだわ」

「ケンカ売ってンのかコラ」

「アンタこそ常時全方位にケンカ売ってんじゃないのよ、ふん」

「おいケンカすんなよー?」



「…………」



あまりに緊張感のないやり取りに、垣根が呆然としていることに気付き、一方通行は口を噤んだ。

気持ちはわからないでもない。

一方通行も上条と再会したばかりの頃に、打ち止めと上条があまりに緊張感のカケラもない会話をするものだから、随分毒気が抜かれたものだ。

目の前の他人が、自分を殺そうと襲い掛かってくることなど考えてもいない。
表の人間特有の無警戒な雰囲気は、殺気塗れの単一の空気に慣れきった身に、違和感だけを覚えさせる。

「……な、ん……だよ、お前ら……」

だから垣根がノロノロと右手を上げた時も、驚きはしなかった。

殺しかけた相手が自分を治療し、間近でくだらないやり取りをする事態が理解不能すぎて、限界に達したのだろう。

居心地の悪いものを払おうとするように、右の掌を一方通行に向ける。








上条と美琴は、警戒心を緩めない一方通行は当然避けるだろうと、動かなかった。

一方通行は、垣根が『未元物質』を生成出来てないことを知っているので、動かなかった。

垣根は、『未元物質』を生成出来ていないことに気付かず、そのまま一方通行の胸元に手を伸ばした。







ふに。








「ッ!!!!!!」

「えっ……」




「……………………………………………………………………………………」







世界が丸ごと凍りついたような沈黙が流れた。

一方通行はちょうど心臓の上に触れたままの垣根の手を見下ろす。
大方、例の爆発物質でも生成しようとしたのだろう。
違わず心臓を狙っている辺り、つくづく自分と同じような類の男だ。

そう思って見たが、第一位と似た気質のはずの第二位は、見たこともない間抜け面で固まっている。

(前言撤回だな。俺はこンな間抜け面しねェ)

どうでもいいことを考えている間に、垣根は空気の抜けたような声を漏らした。



「……はぁ………?…え………??」



一度引き掛けた手を、再度押し付ける。

ふに、と僅かながら柔らかな手応えを感じたであろう瞬間。




『……ッにしてんだゴルァアアアアアア!!!!』




上条と美琴のユニゾンが響き渡り、力強い右ストレートが垣根の脳天に食い込んだ。

「ぐはァッ!?」

第二位はしまらない声をあげ、アスファルトに顔面を激突させる。



その日。

第三位と無能力者が第二位を倒したことになったのだが、驚くべき下克上は誰にも知られていない。
















今日はここまでで
またそのうちにー

遅くなってすんません
投下しにきましたー






ふっと意識が浮き上がり、垣根が最初に感じたのは鈍い痛みだった。

(腹痛ぇ……)

反射で『未元物質』製の鎮痛剤のようなものを投与しながら、痛みの原因を思い出そうとする。

単なる腹痛ではなく、内蔵や骨に負傷している。
そんな傷を負うことなんか久しぶりだ、と思い至ったところで、白い怪物と黒いアンノウンの並び立つ姿

が脳裏に閃く。

「……ッ!!」

ハッ、と目を開けた。

「あ、起きた」

「いつまで寝てンだノンキな野郎だな」

「死に掛けてたんだから当たり前でしょ!」

視界に入ったのは、垣根とそう変わらない年頃の男女三人の顔と、白い天井。

軽く視線を流せば、白いカーテンと白い壁。自分が横たわる簡素なベッドと簡易チェストが一つずつの

、そう広くもない部屋だ。

「…………?」

状況がわからず、垣根は軽く眉を顰めた。

そもそも、垣根が目を覚ます時というのは、大概自分以外の全員が死んでいるか、実験後でガランと

した部屋に転がされているか。

他人が覗き込んでいるという構図は、ひどく見慣れない。


だが、つい今しがたあった気がして、ああそういえば一度意識を取り戻した、と思い出す。

同時に掌にありえない感触があったことまで蘇り、思わず白い顔を注視してしまった。

「なンだ、まだやる気かよ。今度こそ容赦しねェぜ?」

嘲笑とわずらわしさの混じった表情は、やはり垣根の知る攻撃的な第一位のままだ。
まともな人間なら身震いするような殺気に、傍らの第三位の顔が引き攣る。

しかし隣にいた少年は、何でもない風に軽く笑った。

「やっぱ手加減してたのか、一方通行。だよな、お前が本気で殴ってたらもっとスプラッタだよなー」

「……そりゃ、そうだな」

垣根もつい頷く。自分でもあまり聞いたことのない、掠れた声だ。

この垣根帝督が手心を加えられたなど普段なら激怒するところだが、今はどうしてかそれほど腹は立たなかった。

相槌を聞いて、健康的な表情の少年は慌てたようにこちらを向く。

「あ、すんませんスプラッタとか」

「いいさ、俺もそう思う。……で、ここはどこだ?」

「第七学区の病院です。俺がいっつも世話になってるとこで。垣根さん大怪我だったから」

「はぁ……」

白い天井も自分が横たわった白いベッドも独特の匂いや雰囲気も、そうだろうとは思っていたが、実際に聞いて気の抜けた相槌が漏れる。

「上条、だったか。何を考えてんだお前……。俺は一方通行を殺そうとしたんだぜ。お前、仲間なんだろ?」

どうせ病院に連れて行くことを主張したのはこの少年だろうと見当をつけ、訝しげに問い質す。

すると上条は困ったように眉を下げた。

「仲間ですよ。だけど……垣根さん、悲しそうな顔してたから」

「……この俺を憐れんだってのか」


反射のように目を眇めると、傍らから鋭い舌打ちが降ってくる。

「だから言っただろォが、上条。助けてやったからってこのクソ野郎が素直に感謝するワケねェって」

「感謝されたくて助けるんじゃねぇしなぁ……。あのままほっとくワケには行かねーだろ?」

「いいンだよそれで。コイツにはどンな監視が付いててもおかしくねェンだ」

「けどお前がこの一週間見てて、監視はなかったんだろ?土御門も心配すんなって言ってたし」

「あのクソグラサンの言うことなンか信用出来るか。何が隠密調査だまどろっこしいことばっかしやがって」

「あーあーそれで思い出した、俺こないだ土御門からすげー愚痴られたんだぜ?
 お前が垣根さんに関わってた研究所、腹いせに三つも潰すから。フォロー大変だったって」

「何でアイツがオマエに愚痴ンだよ」

「そっ……!そうよ!コイツのことはアンタには関係ないじゃない!」

何故だか、全く関係のなさそうな御坂美琴が、おもしろくなさそうに口を挟む。

「さぁ、知らねぇよ」

上条は肩を竦めた。ただ、それほど嫌そうにも見えない。

「けどあいつ、俺からお前に言っとけっつーんだもん」

「なら土御門に『後で殺す』っつっとけ」

「だから何で俺を介して言い合うんだよ!?」

垣根は、頭の上から降ってくる緊張感皆無の会話を、ポカンと口を開けたまま聞いていた。

傍若無人、唯我独尊の第一位に、これほど遠慮なくモノを言える人間がいるとは。
高位能力者の周りというものは、大概は怯えたイエスマンかイカれた研究者で埋め尽くされるというのに。

「……土御門ってのは『グループ』の土御門元春か」

何かを言おうとして、しかし何を言っていいのかわからなかったので、結局無難な疑問に落ち着く。


「『グループ』って何よ?バンドでもやってんのアンタ?」

「アホか。何でもねェよ、気にすンな」

「誰がアホよ。気にするなって言われたら気になって来るじゃない」

「あーあーあー鬱陶しいなオマエは。ホントあのクソガキどもの姉なだけあるわ」

「な……何よその言い方!いちいち腹立つわね!」

「うっせェ」

今度は美琴と喧々諤々言い合いを始める一方通行。今度は上条が「まぁまぁ」と宥めている。
そしてすぐにこちらを向いて、「うるさくてすいません」と苦笑した。

「おい、それ」

「それ?って、何です?」

「敬語。いらねぇよ、うぜぇ。そんな年変わらねぇし」

「あ……そうです…そうか?」

「あぁ……」

軽く呟いて、垣根は長々と溜息をついた。

説明されるでもなく、自分の状況は理解出来た。

上条によってこの病院に運び込まれた後、一週間ほど眠っていたらしい。
その間に第一位にふさわしく警戒心の強い一方通行が自分の身辺を探ったが、何も出て来なかったようだ。
土御門元春は確か『グループ』のリーダーで諜報役も兼ねていた。そいつの調べでも特に何も出て来ない。

「つまり、捨て駒は確定ってワケだな」

一方通行を見上げると、細い顎が浅く頷いた。


驚きも絶望も安堵もない。ただ今まで星の数ほど見て来た、使い捨ての能力者の末路を確認しただけだ。
役に立って死ねば重畳、生き残ったら機密防衛のために殺す。暗部では常識的な日常だった。

「始末屋が来そうなもんだが……一週間何も無しは聞いたことねぇな」

「俺の知る限りでもねェよ。だいたい一日、二日ってとこだ」

「だよな」

垣根をわざわざ蘇生してまで、奴らのやりたかったことは何なのか。
一方通行絡みである可能性が高そうだが、考えかけてやめる。今の自分にはどうでもいいことだ。

一方通行を見ると、その背には窓、晩冬の薄い青空。
逆光に縁取られた白い髪と肌が、微かに光を帯びている。

「一方通行。面倒にならねぇうちに、お前が殺すんでもいいけど?」

「…………」

赤い目が細められる。血色の奥には、一度だけ垣間見た共感の気配はない。
いつまでも生温い情を向けているほど、センチメンタルな性格ではないのだろう。

だが垣根はもう、すべてが面倒だった。

今更生き永らえるのも、そのうち出て来るであろう始末屋と戦うのも、何より学園都市の思惑に踊らされ続けるのが。

指の先までが冷たい。本当に心臓は動いているのか。
止まっているのかもしれない。ただ惰性で息をしているだけで。

だったら今消えてもいい。そう思ったが、一方通行は動かなかった。

しかし即答で断るのでもない、逡巡するような間が意外だった。

「待てよ。何で一方通行がお前を殺さなきゃならねぇんだ。そんな理由どこにもねぇだろ」

そこに、上条が固い声で割って入る。


それまでのどこか呑気で緊張感のなかった表情ではない、怒りを滲ませた顔。
真っ黒い目が射抜くように垣根を見据え、少し肩が強張る。

(……ホント、何だコイツ)

一方通行と並んで向かってきた時の色が、脳裏に過ぎった。
地獄の底を這いずった自分に、ぞわりと冷たい悪寒を覚えさせた黒い色。
雰囲気は明らかに表の人間なのに、裏の人間にも無いような威圧感を持っている。

けれど垣根は渦巻く疑問を押し込め、唇の端を上げた。

「一方通行が一番適任だからな。実力も、性質も」

「実力はわかるけど、性質ってどういうことだよ」

「邪魔になる可能性があれば、迷い無く俺を消せるって価値観。ゴミ掃除みてぇにな。お前らには無理だろ?」


「……勝手に決めつけんな!!」


突然怒鳴り声が響き渡り、垣根は瞠目した。

今までの十数年、誰かに怒鳴りつけられたことなどほとんどない。悲鳴ならいくらでもあるけれど。
だが目の前の少年は、何の躊躇もなくまっすぐに、垣根を睨み据えている。

「迷い無く消せるだァ!?一方通行は何の心も動かさずに人を殺せる奴じゃねぇよ!!
 何もわかってねぇクセに、コイツに重荷を負わせるな!!」

「…………」

垣根は呆気にとられて、底光りする黒い目を見上げた。

そしてふとその傍らを見れば、一方通行も目を丸くして隣の少年を眺めている。

驚いた猫のような顔は、今まで目にした、張り詰めたような殺気に歪んだ表情とは別人のようだ。
上条は一方通行の視線に気付かない様子で、瞬きもせずにこちらを睨み下ろす。

垣根はマジマジと上条を観察する。


(……庇ってるのか)

しばらくして、ようやく気付いた。

一方通行に自分を殺させたくなくて、止めようとしている。

今更自分一人殺さなかったからといって、何だというのか。
あの実験を経ているだけで、怪物の白い手は、見る影も無く血塗れだというのに。

(ま……人のこと言えねぇが)

今まで、どれだけ殺しただろうか。

記憶力には自信があるから、思い起こせば数えられる。
だが数えようとしたことすらない。数えるまでもないのだから。

けれど、初めて人に恨みの感情をぶつけられた時のことだけは、いやによく覚えていた。

暗部の仕事で殺した、『外』のスパイ。何の変哲も無い、いつも通りの殺人。

だが少し違っていたのは、数ヵ月後にやって来た殺し屋だ。

『外』の殺し屋。年端もいかぬ少女。
「お前を殺す」とわざわざ姿を現して宣言した彼女は、武器の持ち方すら覚束ない素人だった。

一体どういうツテを使ったのか、『外』の組織を使って垣根のところまで辿り着いたのだという。

素人がそこまで思いつめた理由は、復讐。

垣根が殺した『外』のスパイは、彼女の父親だった。

「お前を絶対に許さない」と見上げる少女の顔が、胸の底に焼き印のように刻まれた。

あどけない顔立ちが、火ぶくれしたように歪んでいた。人の顔がここまで捩れるのかと、単純に驚いた。
垣根が押さえ込んだ後も、彼女はひたすらに暴れた。地面を引っ掻き、爪が剥がれても。


憎悪。恨み。怒り。大切な存在を奪われたという事実が、一人の人間の表情をここまでのものにしてしまう。

それを為したのが自分だと。

思い知った時の、凍る泥水に沈んだような感覚。忘れられない。自らを屑だと自覚した瞬間だった。

殺した、傷つけた人数を数えるまでもない。

許されないことをしている、してきた。

誰も許してはくれない。きっと一生、死んでも。

「……そうだな。理由なら、あるぜ」

垣根は一方通行に視線を移した。

「俺は最終信号を浚おうとしたし、あの警備員の女を殺しかけた。十分じゃねぇの。
 実は生きていたなら、今度こそ俺を殺す。そうだろ?」

自分達より大分年上に見えた、強くて優しそうな女だった。
おおよそ暗部とは関わりのなさそうな、善良そうな。

一方通行などとは接点のなさそうな女だったが、間違いなくこの第一位の大切な人だろう。
それを傷つけ、無事でいられるはずもない。垣根が潰された直接の原因だ。

何の因果か生き残ったが、だからといって見逃すような奴じゃなかったはず。

「…………」

赤い目に濃い殺気が宿る。あの時のことを思い出したのだろうか。

白い指が首元のチョーカーに向かうのを、垣根はただ見詰めていた。

「待てよ、一方通行」

だがその真っ白い手を、日に焼けた手が握り締める。

「離せ、上条」

「嫌だ」

「望み通り殺してやるだけだ」

「お前がそんなことする理由なんてねぇだろ!」


「理由ならある……ッ!!」

病室に響き渡った声は、熱く掠れていた。

「黄泉川は!黄泉川は、俺なンかに関わるよォな奴じゃなかった!!俺に関わったせいで死に掛けた!
コイツが……ッ、コイツのせいで!殺す……。殺してやる……!」

赤い目がギラリと輝く。けれど垣根を見下ろす顔は、母親を傷つけられた子供のように頼りなかった。
垣根のせいで、と言いながら、自分に関わったせいで、と言及する。

上条は一瞬痛ましげに目を細め、だがすぐに力強い眼差しで口を開く。

「黄泉川先生が、そんなことで喜ぶと思うか?『さすが一方通行、よくやったじゃん!』なんて、褒めてくれると思うか?」

想像してみろよ、出来るか?

迷いの無い声音に、一方通行は虚を突かれた顔をする。そして少しして、緩く苦笑した。

「……は、陳腐な台詞だな」

「けど、大事なことだ。お前が垣根さんを殺すっていうなら、それは何のためだよ?
 黄泉川先生のためか?あの人は自分が怪我をしても、自分の選択の結果だって、笑う人だろ?」

「……。あのお人好しは……。まァ、俺がコイツを殺せば激怒どころじゃ済まねェだろォな……」

「なら、どうして殺すんだよ」

上条は間髪入れずに問い詰める。容赦なく、見ている方が息を詰めてしまう。

赤い目は、わずかにうろたえたように揺らいだ。

「……コイツは、打ち止めを…」

「打ち止めも同じだ」


苦し紛れのような言葉を、ブチリと断ち切る。

上条は一方通行の手を握り締めたまま、もう片方の手でその細い肩を掴んだ。

「なぁ、一方通行。よく考えろよ。あの人たちを言い訳にするな。今お前はどう思ってる?
 打ち止めでもない、黄泉川先生でもない、お前の気持ち。
 垣根さんを殺したいか?本当に……?」

「……………」

赤い目が、ふらふらと垣根を見つめた。

血のようだと思っていたそれは、見たことも無いような色に見えた。






一方通行は垣根を見下ろして、情けない顔してやがる、と思った。

先日対面した時の殺気と威圧感はどこへやら、ただ縋るように見上げる垣根。

許されるわけがない、という表情。

どうせ誰にも愛されない、というイジけた顔。

どこかで見たような顔だった。

(胸ックソ悪ィ……)

少し前。10032号に頬を張られた時の痛みを、手元に返す。

あの少女の前で、自分はこんな顔をしていたのではないだろうか。

あまりに情けない、覇気のない、怯えたような。

(そりゃビンタの一つもかましてやりたくなるわ)

殺す気も失せるような、死ぬほど無様な顔だった。

殺す気も、失せる。


「…………」

確かに垣根の言う通り、「また目の前に現れたなら、粉々にしてやる」と思っていた。ほんの最近まで。
それが当たり前だった。自分の世界の常識だった。

一方通行は、チラリと美琴の顔を見る。垣根が横たわるベッドを挟んだ、向かい側に佇んでいた。

美琴は一方通行の視線に気付き、訝しげに眉を顰め、反射のようにギッと睨まれた。

何故睨まれるのかわからなかったが、その視線に殺気が含まれて入ないことは、十分に理解出来る。
顔を合わせ、言葉を交わし、共に戦おうとする、御坂美琴という生き物。

ひどく不思議だ。上条と同じくらいに。

『アンタを殺しに来たんじゃないわ』

美琴は初めから、そう断言していた。

殺されたから、殺す。そういう一方通行の中の常識とは異なる世界を、美琴は示したのだった。

「一方通行」

促すように言われて、一方通行は視線を戻す。間近にある上条の目は、ただひたすらに真摯だ。

掴まれたままの手はひどく熱い。掴まれたままの肩は痛い。

けれどこういうのを、優しい声、というのだろうと思った。

聞いたことのある声音。打ち止めの、黄泉川の、芳川の、番外個体の、10032号の、インデックスの。

けれどその誰にも似ていない。

「…………」

一方通行は、再度垣根を見下ろした。

相変わらず、情けない顔をしていると思った。

ただ、それだけだ。


「………ッ」

急に息苦しくなって、握られたままの指先に力を入れる。すると上条がすぐに、ぎゅっと握り締めた。

薄く唇を開けて、無理に息を吐き出す。震えていた。

何をそんなに戸惑っているのかと思い、それも仕方のないことだとも思う。

変わることは怖い。やり方を変えることは怖い。何が待っているかわからないから。

しかし、上条から、美琴から受け取ったものを、手の中に握り締める。縋るように。

「…………もォ、いい」

思ったよりも小さな声になった。

だが違わず垣根の耳に届いたのだろう、切れ長の目が大きく見開かれる。

「……え…?」

「……もォいいっつってンだよ、俺は」

虚を突かれた表情に、舌打ちを落とす。

「身体動かせるようになったら、ウチに来い。あの警備員の女の名前は黄泉川愛穂。
 俺と一緒に住んでってから、詫び入れろ」

「………は?お、お前……俺を、あの人に……」
 


「会わせてやるっつってンだよ。言っておくが、余計な真似したら今度こそブッ殺す」

言い放った瞬間に、一方通行の身体の奥が、すっと軽くなった。

例えば、自覚がないままにずっと頭痛がしていて、直ってから「ああ、頭痛かったのか」とでも気付くような。

そういう感覚に似ていた。

「……はぁ………?」

自分のような人間が、守っている人に会わせる。

その意味を正しく理解したのだろう、垣根は口を開けたまま固まった。

たっぷり十秒も固まってから、ぎこちなく笑う。嘲笑しようとして、みっともなく失敗したような笑みだった。

「は……、バカじゃねぇの、第一位。お前ホント、甘っちょろく……」

吐き出しかけた悪態が、途中で揺らぐ。

垣根は少し慌てたように片手で目元を覆い、そのまま震える唇を噛み締めた。

「…………んだよ。俺は、こんなの……」

喉の奥に何かが詰まったような声。

指の隙間から、小さくて透明な雫が流れ落ちる。

一方通行も、上条も美琴も、黙ったまま静かに見下ろしていた。

冬の薄日が、白い病室に淡く射し込んでいる。







数分もしないうちに、垣根は目元から手を退けた。何事もなかったかのように、その瞳は乾いている。

「はぁ……。何だこれ、ビビった」

だが長い溜息を吐き出し、少し照れたように苦笑した。

その表情からは、暗い諦念の影が薄れている。

一方通行は、10032号が泣いた時のことを思い出した。
涙を流すという行為には、何かしら感情を落ち着かせる作用があるのかもしれない。

「泣くなよ、みっともねェ野郎だな」

「何だよー、しょうがねぇだろ。俺だってビックリしたっつーの」

横たわったまま器用に肩を竦める垣根に、上条が安堵したように笑った。

「垣根さん」

「ん?……ああ、わかったわかった。もう殺せとか言わねぇよ、悪かったな」

「いや、謝られるようなことじゃねぇんだけどさ」

一方通行は、ふと握られたままの手が気になって、振り払うように揺らした。
すると「あ、ごめんな。痛かったか」と慌てて離される。

熱すぎて汗ばんでいた手が、ひやりと冷えた。

「あー……しかし、どうすっかなぁ」

垣根はポツリと呟く。

「どうするって?何がよ」


不思議そうに美琴が首を傾げると、ヒラヒラと大きな手を揺らす。

「何がっつーか、何もないのがっつーか。……俺にはもう、何も無い」

軽い調子で吐き出された言葉に、消え入りそうなほどの寂寥が滲んでいる。

美琴は訝しげだが、一方通行には想像できるような気がした。

追っ手もない。実験もない。暗部もない。
数年前には喉から出そうなほどに望んでいた状況にあって、だが実際に置かれてみれば何をすればいいかわからない。

常に何か「すべきこと」が与えられてきた人生。本当に自分で』何かを掴み取ったことなど、あったのか。
ある意味楽だったのかもしれないそれから急に解放され、途方に暮れているのだろう。

自分にも覚えがある感覚だった。
ロシアから戻って、しばらくは落ち着かない気分になったものだ。

「何も無いって?あ、お金とか住むとことか……?お、俺んち、少しなら狭いけど……。
 あ、でも食い物は頑張らないとウチの暴食シスターが」

「あ?いや、金ならあるけどな……。そういうんじゃなくて、何つうか……これから何すりゃいいのか」

的外れな助け舟を出す上条に、垣根は一方通行の想像通りの言葉を吐く。

「へ……?何をすれば、いいのか?」

すると目を何度か瞬かせた上条は、パッと明るく笑った。

「そりゃ、何してもいいんじゃね?つまり垣根さん、もう自由ってことだろ?」

「………!」

垣根の目が微かに見開かれる。

一方通行も一緒に驚いて、だが美琴は「そりゃそうよね」と当然のように頷いていた。

「……自由、か」

自分と同じく、実験と暗部に塗り潰された日々を送ってきたのだろう第二位は、ポツリと呟く。

そういう考え方には、慣れないとでも言うように。


しばらく何かを考えるように自らの掌を見詰めて、それから上条を見上げて笑った。

「……お前みたいな奴、見たことねぇよ」

「えー?そうですか?平々凡々な高校生ですよ、上条さんは」

「ぬかせ。お前みたいな平凡がいてたまるかよ」

「そりゃァ同感だわ」

「確かにそうね」

「何だよみんなしてさぁ。超能力者に言われたくないんですけど?特に御坂なんて常盤台だし」

「え、常盤台が何だっていうのよ」

「お嬢様校じゃん。すごいよな」

「別に、普通でしょ?」

上条は美琴を雑談を始めたから、気付かなかっただろう。

垣根は小さく、「少し怖いよ、お前は」と呟いた。

一方通行の耳にだけ届いたそれに、内心で頷く。

あの打算と合理性と金と欲望をぐちゃぐちゃに固めたような、学園都市の深部ではなかったような、
あまりに純粋な色の情の形。

触れたことがなくて、慣れていなくて、ひどく戸惑う。

そして、少し怖い。









ちょっと短いですが今日はここまでで
またそのうちにー

遅くなってすんません
昨日の通行止め記念日にアップしようと思ってたのに気付いてたら寝てたぜ・・・















第七学区 とある病院 PM3:05


コンコン ガチャ

看護士「上条さん?先生からお話があるということですので、少々お時間よろしいですか」

上条「あ、はい。何だろ?ちょっと行ってくるわ。後よろしくな、一方通行」スタスタ

一方通行「ハイハイ」

垣根「……………」

美琴(何でコイツがよろしくされるのよ)イラッ

上条「あ、そうだ。今日、飯一緒に食うだろ?打ち止めウチに来てるし」

一方通行「あー……」

上条「最近お前あんま来ねぇからインデックスとか寂しがってんだぞー?」

一方通行「考えとく。イイから早く行け」シッシッ

上条「はは。じゃ、後でな」スタスタ カチャ パタン

一方通行「鬱陶しいヤツ」ハー…

美琴「………………」ジロジロ

垣根「………………」マジマジ

一方通行「……ンだよ?」ギロリ


垣根「その睨まれたら睨み返すお前の脊髄反射、絶対損してるぞ……」ハァ

一方通行「人聞きの悪いこと言うンじゃねェよ。別に反射じゃねェし、自分の意志でやってるし」

垣根「あーそうかい。ところでよ」

一方通行「あ?」



垣根「お前らデキてんの?」



一方通行「は?」

垣根「いやだから、お前と上条って」

美琴「はァああああ!?(ビキビキ)何言ってんのよアンタそんなことあるわけないでしょォおおお!?」ビリビリ

垣根「うお、何でお前がキレるんだよ」

美琴「切れてないわよ!全然切れてないわよ!!」ビリバリ

垣根「小力か。あー、知ってんのかと思ってたけど知らねぇのか、コイツ女」

一方通行「!」

美琴「ンなこたァあああ知ってんのよ!そういう問題じゃないの!!」ダンダン

一方通行「おい、待てよ第二位、第三位。何で俺が」

美琴「(ブチッ)アンタもねぇ!!いつまでも序列で呼ぶんじゃないわよシツレーな!
    私には御坂美琴って愛らしくて優雅な名前があるんですからね!?」ビリビリ

一方通行「お、おゥ……」(何故そこでキレる)

垣根「お、おぅ……」(何故そこでキレる)

一方通行(名前で呼べ、ね……)

一方通行「…………」

美琴「あ、それで思い出したわ。一方通行、アンタ本当の名前は?」

垣根「お前の切り替えの早さなんなの?」

美琴「立ち直りが早いのは美琴センセーの長所なの。で、ほら。早く教えなさいよ」


一方通行「……ねェよ」フン

美琴「はぁ?ないわけないでしょ」

垣根「…………」

一方通行「ねェもンはねェよ。大昔に捨てた。必要ねェからな」

美琴「な……何よ、それ。そんなわけ」

垣根「まぁなー。実験中は番号か通称能力名で呼ばれること多かったし、なくても何とかなるよな。
   死んでもだいたいナンバーで管理されてたし」ウンウン

美琴「え」

一方通行「余計なこと言うな垣根。俺が自分の意志で捨てた。そンだけのことだ」

美琴「……………」

一方通行「忘れろ。オマエには関わりのない世界の話だ」

美琴「……捨てたって。言っても、別に消えたわみけじゃないでしょ」

一方通行「!」

美琴「今から使ったって、いいんじゃない……。不便だし、私が」フイ

一方通行「…………はァ。ホント、お人好しの一般人ってのは……」

一方通行(あのバカと同じこと言いやがって)

一方通行「ったく、さぞかし気が合うだろォよ」

美琴「何の話よ」??

一方通行「オマエと上条。似たような考え方してっから」

美琴「えっ…………!?」カァアアッ

美琴「そ、そうかなぁ?そ、そーんなことないと思うけど!」テレテレ

垣根(あーそっか、なるほどなー。ふーん)ピーン

一方通行「何だオマエ、アイツに惚れてンの?」フーン

美琴「は、はァあああ!?そ、そそそ、そんッなことあるわけないでしょ!?」ボワッ


垣根(わかりやすいねぇ)クス

垣根「おい口に出して言ってやるなよ一方通行、デリカシーねぇな」

一方通行「何がデリカシーだ気持ち悪ィ」ペッ

垣根「お前なぁ。仮にも女なんだからそんくらい気にしとけよ」

一方通行「アーそれだそれ。オマエら何で俺が女だって知ってンだよ」

垣根「えっ」キョトン

美琴「えっ」キョトン

垣根「何でってお前……。俺、お前の胸触っちまったじゃん。
   言っておきますがそんなつもりはなかったから。俺は痴漢ではない」キリッ

一方通行「ふゥん………?」ジロ

垣根「や、本当ですよ?わざとじゃないよ?俺お前が女とか全然知らなかったよ?ホントだよ?」アセッ

一方通行「そォじゃねェよ。こンなあるンだかないンだかわかンねェ胸でよく判断出来たと思っただけだ」

垣根「はいィ?」ポカーン

美琴「アンタバカなの?わかんないわけないでしょーが」

一方通行「そォか?」

垣根「そうだよ!え、何、何言ってんのお前。男と女の胸の感触の区別、つかないワケねぇだろ!」

美琴「アンタもナニ堂々と宣言してんのよ変態!!」バチコーン!!

垣根「いってェ!!」

一方通行「上条はつかなかったぜ、区別」

垣根「えっ」

美琴「えっ」

一方通行「二回くれェ触ったけど」

垣根「えっ」

美琴「えっ」

一方通行「アイツ俺が女だって気づいてねェよ?」

垣根(いや気付いてるだろアレ)

美琴(いや気付いてるわよアレ)


一方通行「だからオマエらよく気付いたなってな」

垣根(いやーー絶対気付いてるわー絶対だわーーーー全未現物質賭けてもいいわーー)

美琴(っていうか私アイツから聞いたしね!?ってか二回!?二回って何!?)

垣根「いやいや、俺がお前の胸触った時、上条もすげー怒ってたじゃん」

一方通行「オマエが俺を殺そうとしてるって思っただけだろ」

垣根「あ、あー……つーかよ、何でお前は上条が気付いてねぇって思うワケ?」

一方通行「そりゃ、オマエ……。俺に何も言って来ねェし」

垣根「で?」

一方通行「あ?そンだけだが。気付いたら言うだろ、アイツは」

垣根「……知ってるけどお前に言ってないだけかもしんねぇじゃん」

一方通行「アイツはそンな器用なヤツじゃねェよ」フン

垣根(oh……何この全幅の信頼)

美琴「…………」ビリッ

一方通行「?」キョトン

一方通行「……まァいい。なら、……御坂は?」

美琴「へ?」キョトン

一方通行「オマエは何で俺が女だって知ってた」

美琴「え、えーと……」

美琴(あ、ヤバい。アイツから聞いたってことは言わない方がいい気がする。
    私のゴーストが囁く。絶対にここは誤魔化すべき、と……!)キリッ

美琴「バカじゃなければ、垣根さんの反応見たら察しが付くわよ。
    胸触って呆然としてるとか、他にそんなに理由ないでしょ」

美琴(うんうん、我ながらうまいわ)

一方通行「は、嘘だね」


美琴「何でよ」ムッ

一方通行「オマエは垣根と戦っている最中、俺が『色気がない』と言ったら『アンタにだけは言われたくない』と返した。
     これは俺が女だって知らないと出て来ない台詞だ」

美琴(そッ……そんなのよく覚えてるわねぇえええ……!)

垣根「お前って意外に細かいこと気にしてんだなー」フーン

一方通行「ついさっきの会話忘れる方がどォかしてる」

垣根「普通忘れると思うぞ。俺は覚えてるけど」チラ

美琴「…………」ダラダラ

美琴(その『お前もだろ』って目やめて!あー私のバカ、ついムキになって言い返すんじゃなかった!
   どうしよう、一方通行ものすごい疑いの眼差しになってる!そして垣根さんは明らかに面白がってる!)チクショウ

美琴「えーと、えーとね……」

美琴(くっ……!)

美琴「い……10032号に聞いて………」

一方通行「!」

美琴(あああごめんね10032号!!今度クレープ奢るからぁああ!!)

一方通行「ふゥン…………。何考えてやがるンだか」

美琴「な、なんか……今まで散々ロリコンってからかってたけど、それ使えなくなるんだよなーとか」

美琴(言いそうよねあの子なら)

一方通行「あのクソガキ……」ハァ

美琴(よし。何とか誤魔化せたわ。ギリギリの戦いだった……)フゥ

垣根「一万……?ああ、あのクローンどもか」

美琴「(ムッ)ちょっと、そういう言い方やめてよね。確かにあの子達はクローンだけど、私の妹みたいなものなんだから」

垣根「そりゃ悪かった」


美琴「な、何よ……やけに素直じゃない」

垣根「そうか?俺は元々素直で気のいいヤツだぜ。ま、もうお前らにケンカ売る必要ねぇし」

美琴「自分で素直とか言うホスト崩れ信用ならないわー」

一方通行「あー、ホスト崩れわかるわ」ウン

美琴「あ、アンタも思った?私も第一印象『うわっ何このやさぐれホスト崩れ』でさ」

一方通行「俺もだいたいそンなもンだな。顔が無駄に整ってるのがまた」

美琴「(プッ)ねー!このハンパなイケメン面がヤバイのよねー!」キャハハハ

垣根「ハンパって何だよ!?俺はまごうことなきイケメンだろうが!!」キリッ

一方通行「自分で言うな……」

美琴「わかったわ。垣根さんみたいなのを『残念なイケメン』って言うのね」ウン

垣根「俺のどこが残念なんだよ。残念さならお前らだって大概だと思いますけど!?」

美琴「ちょっと!私のどこが残念だって言うのよ失礼ね!?」ビリビリ

垣根「それだよ!そのすぐビリビリするとこだよ!!」

一方通行「あー、そりゃ正論だな。打ち止めだって怒っても漏電しねェってのにオマエときたら」ハァ

美琴「ぐっ……!ま、まぁ…でもちょっと気が緩んでる時だけだからねこんなの!普段は違うんだから!」

一方通行(気が緩んでるだァ……?)ポカーン

垣根「…………」

美琴「だ、だいたい、私の残念さなんてアンタの比じゃないんだからね一方通行!」

一方通行「あァン?」ギロ

美琴「ほらぁ!そのすぐ凄むとことか、女らしさのカケラもないとことか!」

一方通行「女らしさだァ?ンなもン必要ねェよ」ハッ

美琴「必要性の問題じゃないでしょー?それに、こことか」フニッ


一方通行「気安く触るな」

美琴(とか言いつつ無抵抗に触られてるのね……)

美琴「………勝った」

一方通行「はァ?」

美琴「勝った……初めて勝った!し、しかも、年上に…ッ!!」プルプル

垣根「いやー?胸のサイズのこと言ってんだったら、この発育不良を年上に含めるのはちょっと」

美琴「話に入って来ないでよ変態!!」バチコーン!!

垣根「いッてぇ!!」

美琴「ふ、くくく……。見なさい、私の勝ちよ一方通行!!」ドヤァ

一方通行「お、おゥ……そォだな」

美琴「(イラッ)ちょっと、何よその顔、疑ってんじゃないでしょうね?いいわ、アンタも触ってみなさいよ!」フンス

一方通行「はいィ?」

美琴「絶対私のが大きいんだから!ほらほら」

一方通行「いや、俺はいいわ……」

美琴「(ムッ)何よ、私がいいって言ってんだから触りなさいよ、ほらぁ!」グイッ

一方通行「ゥわ?や、やめろ」グイ

美琴「アンタ非力ねー」グイグイ

一方通行「やめろって、オマエこそ……俺に触れられてもいいのかよ?」

美琴「はァー?いいっつってんじゃないのよ、何聞いてたの」

一方通行「オマエは、…………」

美琴「……何てカオしてんのよ」

美琴(『一方通行はミサカ達に許してほしくなんかないようなのです』か……。10032号に聞いた時にはちょっと半信半疑だったけど。
   こんな怯えた子供みたいな顔されちゃね)

美琴「アンタさぁ。まさかとは思うけど、打ち止めに触る時もそんなカオしてるんじゃないでしょうね?」


一方通行「!」ハッ

美琴「まさか図星?」ハァ…

垣根「お前って意外と顔に出るな」

一方通行「うるせェな……」

美琴「10032号が言ってたわ。アンタを最後まで許さないのは間違いなく打ち止めだ、ってね。
   それがどういう意味か、アンタにはわかってるんじゃない?」

一方通行「…………」

美琴「アンタ自身がどう思ってるかなんてどうでもいい。あの子達を守るのも、せいぜい頑張りなさいよ。
   けど、あの子達が大事ならもっと『うまく』やって。打ち止めに重荷を負わせないで」

一方通行「……俺は」

美琴「そんなつもりない、なんて聞かないわよ。大事なのはあの子がどう思っているか。要するに、心配かけんなってことよ」グイ

一方通行「!」フニュ

美琴「ほら。触ったくらいじゃ、どうもなったりしないわよ」フン

一方通行「………。呼吸、脈拍、血圧、体温、共に異常なし」

美琴「誰がバイタルチェックしろって言ったの。しょーがないわねぇ」ハァ

一方通行「ガキは……体温が高ェな」

垣根「そこは素直に温かいって言っておけよ」ククッ

一方通行「うっせェよ……」ハァ

美琴(近くで見るとホントに肌白いなー。睫毛も白いし)ジー

一方通行「…………」ジー


一方通行「体内も異常ないし、顔色も髪ツヤもいい。健康体だな」

美琴「そりゃどうも。あったりまえでしょ」

一方通行「あのガキも……オマエのように成長出来るかな」ボソ

美琴「!」ハッ

一方通行「チッ……何でもねェ」(何口走ってンだ俺は)サッ

美琴「待ってよ。あの子達は、リアルゲコ太先生が治してくれてるんでしょ?大丈夫よね?」

一方通行(リアルゲコ太先生……?)

垣根(リアルゲコ太って何だ。人間?)

一方通行「当然調整は続けている。だがクローンの実証研究例自体が少ねェからな、誰にも保証は出来ねェさ」スタスタ

美琴「そんなの、アンタが保証しなきゃダメでしょ!!」

一方通行「あ?」

美琴「世界中の皆が危ないって言っても、アンタだけは絶対大丈夫って言わなきゃダメなんだから!!」ウルッ

一方通行「………言葉の問題かよ。バァーカ」フッ

美琴(あ、笑った!?)

垣根(笑うと全然印象変わるなぁ)

一方通行「俺帰るわ」カチッ ガラガラ

美琴「え、ちょっと!」

垣根「おいおい、上条が待ってろっつってたろ」


一方通行「テキトーにメールしとくし。じゃな」バッ


ゴォォオオッ



美琴「あーーー……ホントに行っちゃうとか…」

垣根「思い立ったら即行動だな」ヤレヤレ

美琴「もー。自分勝手なヤツ!」プリプリ

垣根「なぁ、美琴」

美琴「何よ。気安く名前呼ばないでよ」

垣根「じゃあ何て呼べばいいんだ。ミコっちゃん?ミコちん?ミコっち?」ン?

美琴「………美琴でいいわよ」ハァー…

垣根「お前はいいヤツだな、美琴。俺さぁ、同い年くらいのヤツとこんなフツーに話したの、初めてだ。楽しかったぜ」ニコ

美琴「……ふんだ」プイ
































高層マンションのベランダには、強い風が吹いている。

冬も終わりに近いとはいえ、夜が深まれば空気は刺すように冷たかった。

一方通行は窓に近寄り、軽くガラスを叩く。
すると小さな音を立てて鍵が外れるので、音をさせないよう静かに横にスライドさせた。

黄泉川家に戻るのは数日ぶりのことだ。最初に魔術師からの襲撃があって以来、たまに顔を出すのみに留めていた。
安全が確保されるまでは、本当にここに戻ることは躊躇われる。

明かりの消えたリビングには、まだ人の気配の名残があった。テーブルの上はきれいに片付けられている。
黄泉川がまた何かやらかしたのだろうか。

ふと、そこに一枚だけ紙切れが乗せられたままであることに気付く。
手に取れば、自分宛の伝言だった。ここにずっと置きっぱなしで、自分が帰れば目にするようにしてあったのだろう。

『こら、この不良娘!帰ってきたらちゃんとただいまって言うもんじゃん!』

黄泉川だろう。たまに顔を出さないこともないが、夜中に来て寝顔だけ見て去っていくことが多い自分に業を煮やしたらしい。

一方通行の胸の奥がふわりと温まる。言葉にするなら、安堵。現状、問題はなさそうだ。

一方通行は側にあったボールペンを手に取り、紙切れの余白に「ただいま」とだけ書き込んだ。

足音と気配を消したまま、そうっとリビングの奥に向かう。向かって右手が打ち止めの部屋だ。
音を立てないようにドアを開くが、小さめのベッドは空だった。


(いない……?)

今日は調整日ではないはずだ。一瞬ひどく焦るが、すぐに思いついて向かい合った部屋のドアを開ける。

ここは一方通行の部屋だ。ほぼ備え付けの家具がそのままの、素っ気無い内装。
最近は使っていなかったが、何もかもがそのまま。

いつもならきちんと整えられているベッドの上が、小さく膨らんでいた。

(このクソガキ)

安堵の溜息を口の中で噛み殺す。ビックリさせるんじゃない、心臓に悪い。

普段ならこのまま引き返すところだが、今日はなんとなく顔を見たかった。

『あの子に重荷を背負わせないで』

小さな光と同じ顔の、けれど全く似ているとは思えない少女が、強い目で言った。

健康的な身体や溌剌とした表情、少女らしい淡い思慕、物怖じしない眼差し。

似ていると感じたことはないけれど、あの子もこんな風に成長出来るだろうかと思ってしまった。
美琴に言った通り、クローンの研究例は少ない。長く生き延びた事例も。
学園都市内の研究は多くが秘匿されており、情報の入手も容易ではなかった。

学園都市の闇の思惑で生まれついた少女。
何も悪くないのに、何度も命の危機に晒され、それでも明るく笑っている。

『世界中の皆が危ないって言っても、アンタだけは絶対大丈夫って言わなきゃダメなんだから!!』

自分のことでもないのに必死に言い募る茶色い目に、胸の奥を貫かれた。

目つきは似ていない。けれど、そう、姉だというのだから。

(そォだな)

大丈夫にしなければならない。何があっても、自分が保証しなければならない。

決意を改めて胸に返し、すやすやと気持ちよさげな寝息を漏らす顔を見下ろした。

見れば、顔に髪がかかって少し邪魔そうだ。
ベッドの端に腰掛け、払ってやろうと指先を伸ばす。


すると、きゅっと小さな手に握られた。


「捕まえた。ってミサカはミサカはほくそ笑んでみたり!」


打ち止めの満面の笑顔が見上げていて、そこに眠気は少しも見当たらない。

一方通行は少しだけ苦笑した。

「狸寝入りばっかうまくなりやがって……」

「それはあなたがいっつもこっそりどっか行っちゃうからでしょ!ってミサカはミサカはぷんぷんしてみる!!」

「シー……。静かにしろ、夜中だ」

握られていない方の人差し指を、打ち止めの口元に近づける。

するとかぷりと指先に噛み付かれた。

「オイコラ、痛ェぞ」

「ひたくしてふんだから、ってヒハカはヒハカは」

鬱憤を晴らすようにガジガジと歯を立てた後に、一方通行の膝によじ登って来る。

「もー、今日だってシスターさんと待ってたのにあなた来ないし!ヒーローさんだって待ってたんだよ?
 ってミサカはミサカはメッてしてみる」

「行けねェってメールしといたし」

「でも待ってたの!気が変わるといいなって、ミサカはミサカは」

打ち止めの小さな身体がぎゅうぎゅう抱きついて来る。
相変わらず、冷えた身体には痛いほど温かかった。

この温かさは美琴のものとよく似ている。
それだけでこの小さな光の将来に少しだけ安堵した。何の根拠にもならないとわかっていても。


「あのね、今日はミサカ、シスターさんと一緒にカレー作ったんだよ。ってミサカはミサカは意気揚々と報告してみたり!」

「オマエとインデックスの料理とか不安しかねェな……」

「むっ、しつれいな。ヒーローさんが後ろでずっとウロウロしたり悲鳴上げたりしてたけど、大丈夫だったよ?」

「………」

さぞかし危なっかしかったのだろう、と光景が目の裏に浮かぶかのようだ。上条にはまた世話を掛けてしまった。

「ちょ…ちょーっとお芋の形は変かもだけど、おいしかったんだから。まだ残っててね、明日行けばあると思うの。
 ってミサカはミサカは、暗に明日一緒に食べに行こうって誘ってみるんだけど……」

上目遣いの大きな目が、期待と不安に揺れている。一方通行は乱れた柔らかな髪を整えてやりながら、しばらく逡巡した。

「……冷凍でもしとけ」

明日には行かない、というのと同様の返事に、愛らしい色が陰る。

まだ、この少女と一緒に堂々と街中を歩くのは不安だった。
断続的に、だが中途半端な形で繰り返される襲撃。繋がりも目的も不明。
グループで調査を進めているが、あまり結果は捗々しくない。
このタイミングでの垣根の登場も気にかかる。ヤツ自身にはもう危険はなさそうではあるが。

「じゃあ……今日は泊まって行けるんだよね?ってミサカはミサカは、返事はハイかイェスでしろって言ってみる」

ぎゅうぎゅうと、力いっぱいしがみつかれて、少し苦しい。温かい。
肩口にぐりぐり頭を押し付けられると、子供特有の甘ったるいような香りが鼻先を掠めた。

徐々に身体から力が抜けていく。今までは少しもなかった眠気が這い寄って来て、小さなあくびが出た。

(……明け方に出ればいいか)

了承の代わりにベッドの脇に杖を置き、打ち止めごと布団に入る。


「出て行く前に声掛けてね?ってミサカはミサカは、でもでも久しぶりですっごい嬉しいってウキウキしてみたり!」

「オマエぜってェ起きねェだろ」

「そんなことないもん!ってミサカはミサカは」

「だから静かにしろって……」

弾んだ声で話しながら、打ち止めはもぞもぞと布団の中で身じろぎした。
一方通行の手を握ってみたり、髪の毛をぐしゃぐしゃにしてみたり、頬を触ってみたり、胸元に顔を埋めてみたりと忙しい。

「落ち着きねェな、ったく」

「あなたがまた怪我とかしてないかチェックしてたの!ってミサカはミサカはいいにおいーってうきうきしてみる」

普通なら、側でこれほど騒がれれば目が冴えるどころの話ではない。
それなのに、湯たんぽのような体温に、だんだんと瞼が重くなる。
時折玄関の外の気配に意識が引き戻されるが、何事もないとわかればまた眠くなった。

「ほら、もう寝ろ。打ち止め」

「はーい。おやすみなさい、あなた」

「あァ……おやすみ」

打ち止めは胸元の布地を握り締め、一方通行の腕を枕にして丸くなる。

丸い後頭部を、ゆっくりと一度撫でた。

実験のことを思い出せば、相変わらず触れることを躊躇ってしまう。

ただ、それは打ち止めにも悟られていて、悟られれば悲しませてしまうのだ。

美琴の言う通り、この少女が大切なら、もっと「うまく」やらなければならない。
安心して、いつも笑っていられるように。

ただ、自分が以前と少し変わったことを、たった今噛み締める。

小さな光に出会ったばかりの頃は、打ち止めの前に立つと、少し緊張していた。触れる時にも、細心の注意を払った。
気をつけていないと、傷つけてしまうから。

けれど今、体温を側に感じるだけで、緊張が解けていく。

深い安堵。この家に、この少女に想うものは、どこかで一方通行が求めてやまなかったものなのだろう。

それを言葉で表現するなら、家族というのかもしれない。








ミサカネットワークにアップされた一方通行の寝顔を見て番外個体が部屋に駆け込み、結局黄泉川にも芳川にも見つかってしまうのは、これから数時間後のことだ。



















今日はここまでで
いっこヤマ越えた後なんでのんびりです

またそのうちにー

どうも遅くなってすんません!
投下しに来ましたー










PM 1:45 ミサカネットワーク内


1.【どうしよう】最近俺のお気に入りのベンチでイケメンがアンニュイしてる件(72)

2.【求む戦友】オレらVS白シスターpart3【チェス楽しい】(412)

3.【モヤシ行方不明】一方通行を見かけたらageるスレ(22)

4.今日の上条304(91)


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【どうしよう】最近俺のお気に入りのベンチでイケメンがアンニュイしてる件(94)


1 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 俺がいっつも使ってるベンチ、日当たりが良くて気に入ってるのに……
 
2 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10201

 イケメンと聞いて(ガラッ

3 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka18220

 お前面食いだっけ?www >2

4 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10201

 面食いじゃないけどイケメンは好きだよ
 彼氏とかにしなくても、見てるだけで癒されるだろうが

5 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 俺らにイケメンで癒されるような情緒が生まれたとか、
 お姉様が聞いたら感涙もんだな

6 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17291

 お姉さま………(ホロリ

7 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 お姉さまはいいからさー
 このミサカの問題を解決するの手伝ってよ!(プンスカ

8 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka11203

 未だかつてこれほどどうでもいい問題提起があっただろうか……

9 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12192

 クソスレ乙

10 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

 まぁそう言うなよ
 兄弟が困ってたら助けるもんだろ?

 どうした ベンチってお前がいつもボケーッと座ってる病院の中庭のやつか?

11 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 うわぁあああんお姉ちゃん!!

 うんそうそう、俺がいっつも日なたぼっこしてるやつ
 最近たまにあったかいしさ、イヌもいたら気持ちいんだよ?
 触らせてはくれないんだけどさー


12 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka18273

 入院患者か?いつからいんのよ
 つか写真うp

13 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 ほい
 http;//www.misaloda.com/ikemen-1.jpg

 たぶん入院してる人ー 服とかは違うけど
 見かけるの先週くらいからかな

14 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13602

 っちょwwwww マジイケメンwwwwワロス

15 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12012

 マジだwwwっうぇwwwwww

16 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka16911

 マジイケメンwwwwwマジアンニュイwwwww
 俯き加減なのがまたねwww

17 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 何で笑うのwwwwww >14-16

18 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

 お前も笑ってんじゃねーかww>17
 釣られんなwwwつかホストみたいwwwww

19 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 お前もじゃんww >18
 ミサカホスト見たことないよー?
 どんな?あっ雑誌とかに載ってるのは見た あんなん?


20 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

 マジか?十九学区とか行けばたまに見るじゃん

21 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 一方通行が行ったらダメだって…… >十九学区

22 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

 お父さんかwwwww
 まーたしかにあそこちょっと柄悪いの多いもんなww

23 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 こないだの一件以来、白モヤシの過保護に拍車掛かっとる

24 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 えっみんな言われてないの?何で俺だけ?

25 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 それはお前が残念なミサカだからだ!!(ババーン

26 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 ガガーーン!!

27 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

 おい話逸れてんぞ
 つか他のベンチに座ればいいじゃん >26

28 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 えー絶対やだ!あそこは俺の指定席だし!!

29 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 おまいは意外と我が強いよな……

30 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

 ワガママとも言う
 一方通行が甘やかすからこうなる


31 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 わっ、ワガママじゃねーし
 あの人だってあんなボーッとしてたら口の中に蠅が入るかもしれないじゃん
 心配じゃん

32 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12182

 ねーよwww

33 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 どういう心配だよwww

34 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 えっ…… 入るよね、たまに……

35 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

 …………………うん、そうだな
 たまにはそういうこともあるかもしれないな

36 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12718

 お前の優しさに全俺が泣いたwww >35

37 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 俺泣いてねぇしww笑ってるしwww
 お前はもう軍用クローンの看板返上しろよww >34

38 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 うぐぐぐ……
 い、いいもん!!
 俺が自分で「ここの席ミサカのだからどいて」って言うもん!

39 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

 おいやめろ

40 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 言いがかりだぞ
 俺ら顔が同じなんだからお前の評判下がったら俺らまで迷惑被るんだぞ

41 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 大丈夫だし!笑顔で声かけるし!

42 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

 そういう問題じゃねーよ!!

43 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 やめろ!早まるんじゃない!!

44 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14918

 クソどうでもいい


45 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka18211

 今日もスレは平和だな……

46 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090




47 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090


 あ



48 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 何だどうした

49 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

 イケメンビームで死んだんじゃねーの

50 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12019

 イケメンビームって何wwww
 エターナルフォースブリザードかww

51 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

 スネーク!スネェェーーーーーク!!!

52 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600

 こちらスネーク
 悪いが現在は別の作戦行動中だ

53 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka11029

 別って何だよー?また変態か?>>52

54 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600

 いや運営のやつ>>53

55 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12837

 あー…… 一方通行捜索か

56 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600

 イェス>>55
 悪いな 任務完了まで手が離せない
 なかなか見つからないんだよ


57 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

 それじゃ仕方ないな……
 了解 そっちの任務を続行してくれ>>56

58 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600

 何か困ってんならなるべく急ぐわ

59 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 気にすんな頑張れよーノシ

60 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

 しょーがねーなーもう……
 俺ちょうど病院いたから中庭に様子見に行くわ

61 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 いたんなら最初から行けやwww>>60
 ちょーどよかったわ、俺今上条んちでシスターとチェスしてたし

62 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

 めんどくせぇじゃんか
 マジめんどくせぇわ

63 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka11322

 それでも様子見に行く>>62
 ツンデレ乙

 あとチェス楽しそうだな>>61

64 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

 うっせーな
 なんかあったら寝覚め悪いだろうが

65 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577



66 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17661

 ?

67 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 どうしたwwww>>65

 ちょう楽しい>>63
 よかったらこのスレ来いよ
 つ【求む戦友】オレらVS白シスターpart3【チェス楽しい】

68 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

 ちょ え

 http://www.misaloda.jp/817163.jpg


69 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12817

 うぉええええ!?え、何、どうした!?
 え、これさっきのイケメンと19090号だよな!?

70 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 何でイケメンがあいつの胸に顔を埋めているのか

71 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12189

 へ 変態だーーー!!!!!!!

72 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka16678

 つか何で19090号はおとなしくしてんだよ!
 はり倒せ!!!

73 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

 硬直して動けないっぽ

74 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

 バカぁあああああ!!!!

75 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12810

 上条を呼べぇええええ!!!!!!

76 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka15618

 いやここはお姉さまをぉおおおお!!!!

77 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19182

 助けて一方通行ぁああああ!!!!




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PM 3:40 第七学区 とある病院 中庭



垣根(……はっ、考えごとしてるうちに寝ちまったか)ムニャ

垣根「……ん?なんか柔らか……」

19090号「…………………」ブルブル

垣根「……………えっ 美琴?」

19090号「…………………」ブルブルブル

垣根「……えっ………あの……」ダラダラ

垣根(あれっこのゴーグル、美琴じゃなくてクローン…じゃない妹の方か?
   俺なんでこの子の胸に顔埋めてたの……)ダラダラ

垣根「あの……あのね?俺ここで居眠りしちゃっててね?この体勢はアレ、ちょっとバランス崩しちゃったんだと思うのね?」

19090号「………………」ブルブルブル ジワッ

垣根「つまりわざとじゃなくてね!?全然わざとじゃなくてね!?!?ていうか初めまして、俺垣根帝督っていいます!」

19090号「このミサカはミサカ19090号といいますぅえええええええん!!」ブワッ

垣根「うわぁあああああごめん!!ごめんな!?」ブワワッ



――……ヒュゥウウウウ… ドカァアアアン!!!



一方通行「………………」ギロリ



垣根「ぅおおっ!?一方通行!?何急に飛んで来てんだよ!」ビクッ

19090号「……ぅえ、あ、一方通行…っ?ひっく、ぐすっ……っ!!」タタタタ ササッ

垣根「うっ、そんなそいつの後ろに隠れなくても……っ!ごめん、悪かったよ。な?」アセアセ

19090号「………ぅうっ…」ギュッ


一方通行「………状況を説明しろクソタラシ野郎殺すぞ」

垣根「いやいやいやいや誤解ですから!俺ちょっとここのベンチで居眠りしちゃってさ、気が付いたらちょっと体勢崩しちゃってたってただけで!」

一方通行「…………ふゥン?」

垣根「ホントです!嘘じゃねーし、悪気なかったし!あー……ホント、驚かせて悪かったって」ペコッ

19090号「………」グスッ

一方通行「だ、そォだが。ホントか?」チラッ

19090号「……ミ、ミサカが声を掛けようとしたら、急に倒れて来て、お、驚きましたが、そういうことなら…とミサカは納得します」グスッ

垣根「おー……ありがとな」ホッ

一方通行「……オマエも不用意に知らねェ奴に声掛けンな」ペシッ

19090号「いたっ。うー、気をつけます…とミサカは素直に反省します」

垣根「超過保護ー。父親か」ククッ

一方通行「っせーよ」チッ

19090号「ところで一方通行、とミサカは一方通行のコートの裾を握りしめたまま声を掛けます」

一方通行「ン?」

19090号「捕まえたー、とミサカはドヤ顔です」ドヤァ

一方通行「あ?」

垣根「どう見ても無表情」ブハッ

19090号「上位個体から捕獲命令が出ています。よってあなたを捕獲します。とミサカはミサカが残念なミサカでないことを主張します」

一方通行「はァ?」

19090号「今上位個体がこちらに向かっています。とミサカは状況を報告します」

一方通行「ンだと?……離せ、あのガキに捕まったら面倒だ」チッ

19090号「お断りです。とミサカはキリッと更に強く握りしめます」キリッ ギュッ

一方通行「おい……」

19090号「あなたがミサカの手を振り払ったり出来ないこと、もう皆知ってますよ。とミサカは指摘します」ニコ

一方通行「…………」チッ


垣根「お、何だちゃんと笑えんじゃん。そっちのがかわいいぜ?」

19090号「えっ……とミサカは少女マンガのようなことを素で言うホスト面に驚きます」

垣根「結構毒舌だな」クスクス

一方通行「おい口説いてンじゃねェぞそこのホスト面」イラッ

垣根「おー怖いお姉ちゃんですねぇ」

一方通行「ぶッ殺されてェのか」



打ち止め「でかした19090号――!!ってミサカはミサカは全力で走りこんで来てみたり!!」タタタタ

上条「おい大丈夫か19090号……っ、ってあれ、一方通行!?打ち止めも、垣根さんも!?」ダダダダ



一方通行「……ッ」ギクッ

19090号「振り払えない代表格が到着ですねー、とミサカはほくそ笑みます。ミサカ出来る子です」

一方通行「何で上条まで……」チッ

19090号「10032号があの人に連絡したみたいですね、とミサカは何だかんだ心配してくれた10032号のことを報告します」



打ち止め「ああーっ!あなたは!ってミサカはミサカは驚愕してみたり!!!」タタタタ



打ち止め「あなた!この人にひどいことした人でしょ!?ってミサカはミサカはこの人を背中に庇ってみる!!」バッ

垣根「へ……俺?」ポカーン

垣根(あ、そうか。最終信号も俺が死んだ時に居合わせてたか)

垣根「あー、あのな、お嬢ちゃん……」

打ち止め「近づかないで!!ってミサカはミサカは睨みつける!」キッ

垣根「!」ピクッ

打ち止め「二度とこの人を傷つけさせないんだから……!!」ブルブル

垣根「…………」

垣根(震えてる……。そうだな、そりゃ怖いか。当たり前だな)

一方通行「おい打ち止め」

打ち止め「あなたは黙ってて!」

一方通行「…………」


垣根(こんな小さい子にこんな顔をさせちまうこと、俺はしたんだな……)ズキ

上条「打ち止め、ちょっと待てよ」ポン

打ち止め「何?ってミサカはミサカは今余裕がないことを主張してみる」ギロリ

上条「どうしたんだよ、そんな顔して。垣根さんは一方通行にひどいことしたりしないぞ?」

打ち止め「……ッそんなはずない!!だってっ…!!」ギュッ

上条「打ち止め。一方通行のように、垣根さんだって変わったって思えないか」

打ち止め「……っ!だって、この人は、ミサカの一方通行を…ってミサカはミサカはションボリしてみたり…」

垣根「いいよ、上条。この子の反応は当然だろ。無理することない」

打ち止め「え……?ってミサカはミサカは驚いて見上げてみる」

垣根「あの時は悪かったな、お嬢ちゃん。俺はもう一方通行を殺そうとしたり、しねぇよ」スッ

打ち止め「……!」ビクッ

垣根「………」ピタ 

垣根(…ああ、そりゃ、俺が頭撫でようとしたら、ビビるか。バカだな俺。ホント、バカだ)

垣根「……ごめんな」フッ

打ち止め「………あ」

打ち止め(見たことある表情、ってミサカはミサカはポカンとしてみたり)

打ち止め(時々あの人がする顔に似てる。ミサカを撫でていいのか迷ってる時の顔。諦めたみたいな……。
     悲しそうな顔、ってミサカはミサカは)

垣根「じゃ、俺は病室に戻るわ」スッ

上条「垣根さん!」

垣根「ありがとな上条。庇ってくれて、嬉しかったぜ」フリフリ

打ち止め「………ッ」ギュッ

19090号「上位個体、とミサカは一方通行の服の裾を握りしめるあなたに声を掛けます」

打ち止め「…………」


19090号「そういえばあの人は、あなたがバックアップした記憶の中にいましたね。とミサカは今更ながら思い出します」

打ち止め「……第二位。垣根帝督。ってミサカはミサカはデータを照合してみたり」

19090号「そうでしたか。とミサカは意外な気持ちで首を傾げます」

打ち止め「意外って……?」

19090号「ミサカはさっきあの人と会ったばかりですが、そんなに悪い人には見えませんでしたよ」

打ち止め「え…?ってミサカはミサカは、目を見開いてみる」

19090号「ミサカの胸に触ってしまったのをビックリするような勢いで謝って、ミサカの笑顔をかわいいって言ってくれました」

打ち止め「そんなの……」

19090号「騙そうとしていたり、誤魔化そうとしていても、殺気があればわかります。ミサカは軍用クローンなのですから。
    とミサカは自分なりの矜持を示します」フンス

打ち止め「………」

打ち止め「……あなたは、どうして何も言わないの?ってミサカはミサカはあなたを見上げてみたり」

一方通行「俺が口を出すことじゃねェからな。オマエは垣根に戦いを挑むほどのバカでもねェし」

打ち止め「過保護なあなたらしくないね、ってミサカはミサカはちょっと笑ってみる」クスクス

一方通行「誰が過保護だ。ま、アイツはお前を浚おうとしたンだし、そこはフォローする気ねェよ」

打ち止め「わお、なんて素直!ってミサカはミサカはあなたのデレにビックリしてみたり!」ワオ

一方通行「うっせェガキ。バーカ」ピシッ 打ち止め「いたっ」

打ち止め「……そこは、って、そこ以外はフォローするの?ってミサカはミサカは言葉尻を捉えてみる」

一方通行「自分の感情の判断を、他人に委ねるな」

打ち止め「……ッ」ビクッ

一方通行「なンてな。そこのバカの受け売りだが……」

上条「おいおい一方通行さんよぉ、それって俺のことかな~?」

一方通行「他に誰がいンだ?」キョト

上条「そのキョトン顔やめて!確かにバカだけどね?上条さんお前に比べりゃバカだけどね?」

打ち止め「ヒーローさんが……、ってミサカはミサカは、あなたが受け売りなんて明日は雨ねって茶化してみる」

19090号「さっそくミサカネットワークに『あの一方通行が上条の言葉を受け売りしたぞ』とスレを立てたところ、
     レスがさっそく200を突破しました。とミサカは状況を報告します」

上条「?」スレ?レス?

一方通行「しょーがねェなァ……」ハァ

打ち止め「ねぇ、あなた」クイクイ


一方通行「ン?」

打ち止め「さっきね、垣根帝督がミサカのこと見てちょっと悲しそうに笑ったの」

一方通行「ふゥン……」

打ち止め「あなたが時々する顔に似てた、ってミサカはミサカは俯いてみる」

一方通行「…………」

打ち止め「垣根帝督は、あなたにひどいことをした人でしょ……?ってミサカはミサカは改めて確認してみたり」

一方通行「ひどいっつゥンなら俺の方だろォな。返り討ちにしただけとはいえ、アイツを一度殺したのは俺だ。
     オマエも見てただろ」

打ち止め「え……?あ、じゃあどうして垣根帝督は今」

一方通行「さァな。肉片を集めた研究者共に再生されたみてェだが」

打ち止め「再生……」

一方通行「アイツは第二位、俺は第一位。ま、何となく境遇は読めるところもある」

打ち止め「…………」

打ち止め(それは、あなたが垣根帝督を許してるってこと?ってミサカはミサカは心の中で問いかけてみたり)

打ち止め「あなたは……ミサカのさっきの態度、どう思ったの?ってミサカはミサカは確認してみる」

一方通行「別にどォとも」

打ち止め「えっ」

一方通行「オマエの態度なンかどォでもいいわ。好きにすればいい。俺はオマエを守るだけだ」

上条「どうしてそこで『気になるんなら素直に声をかけて来い』って言えねーのお前?」ハァ

一方通行「っせェなンなこと思ってねェよ」チッ

打ち止め「…………」ポカン

上条「打ち止め。俺も一方通行も、お前には素直に生きてほしいと思ってるよ。
   お前は前に一方通行を守るって言ってたけど、側で元気で笑ってくれだけで、十分に守られてるから」ニコ

19090号「見事なツンデレ翻訳ですね、とミサカは感心します」フムフム

一方通行「翻訳じゃねェ。勝手にこのバカが言ってるだけだ」

打ち止め「……でも否定はしないのね。ってミサカはミサカは微笑んでみる」ニコッ

一方通行「…………」フイ

打ち止め「……よぉーし!!ってミサカはミサカは奮起してみる!」フンス

打ち止め「カキネをここに呼んで来て悩みを聞いてあげるぞー!おー!!」オー

19090号「オー、とおもしろそうだからミサカも乗っかります」オー

一方通行「はァ?悩みってお前……」

上条「いいな、打ち止めの悩み相談室か?」ハハハ

打ち止め「そーと決まればレッツゴー!ゆくぞ19090号!ってミサカはミサカは駆け出してみる!」タタタタ

19090号「おー!とミサカはつられて駆け出します」タタタタ

一方通行「しょーがねェなァ……」スタスタ

上条「お前は相変わらず素直じゃないねぇ」スタスタ

一方通行「うっせェよ」チッ
















PM 4:32 第七学区 とある病院 中庭



垣根「えっと……で、俺はどーすりゃいいのかな?」

打ち止め「だから!ミサカにお悩みを相談してみてよってミサカはミサカは再度主張を繰り返してみたり!」

19090号「どうもうちの上位個体がすみません、とミサカは形ばかり謝罪してみます」

垣根「形ばかりなのかよ。つかさ、えぇー…?急にどったのお嬢ちゃん。俺に怒ってんじゃねぇの?」

打ち止め「うーん、そこは保留!」

垣根「え……」ポカン

打ち止め「あの人がミサカには素直に生きてほしいって言うから、ミサカは素直に気になったあなたに話を聞きたい」

垣根「…………なぁ、一方通行…」チラ

一方通行「あァ?」

垣根「どうにかしなくていいのか、この危なっかしい子……」

一方通行「まったくだな、ったくいつも一人でフラフラしやがって」ハァ

上条「確かに、そこは直した方がいいよな」

垣根「いやいや、現在進行形のこの事態をだね?」

19090号「ミサカ思いつきました!」ピコーン!!

垣根「え?」ビクッ

19090号「こんな時はキャッチボールです!とミサカはどこからともかくボールとグローブを取り出します」サッ

打ち止め「おお~、とミサカはミサカは感心したように頷いてみたり」ウン

19090号「悩める少年と父親がキャッチボールをしながら語り合う、というのがセオリーだそうです」

上条「昔のドラマみたいだなー」ハハハ

19090号「確かに再放送だったみたいですね。とミサカは昨日見たホームドラマを思い出します」

一方通行「昨日かよ。つかオマエがやってみてェだけだろ」

19090号「う……え、ダメでしたか?」シュン

垣根「(ギクッ)い、いやー?別に、やっても構わねぇけど俺は!な?」

一方通行「俺はやンねェ」フイ


打ち止め「ミサカやりたいー!ってミサカはミサカは元気よく手をあげてみたり!」

上条「ちょうどグローブも三つあるみたいだし、そっちの隅の方でやるなら邪魔にならないんじゃね?」

垣根「え、俺もやるの!?」

19090号「やりましょうよ、とミサカは逃がさないように掴みます」ガシッ

打ち止め「つかみまーす!ってミサカはミサカは捕まえてみたり!あなたはそこのベンチで見ててね!
     ってミサカはミサカは注文をつけてみる!」

一方通行「へェへェ」ストン

上条「俺も見てるなー」ストン






キャーキャー ソッチイッターッテミサカハミサカハ
オー ナイスボール
ミサカハ デキルコデス
エーイ!!ッテミサカハミサカハ
オオ?ウマイジャネェカ オジョーチャン



上条「…………」

一方通行「…………」

上条「……一方通行」

一方通行「ンだよ」

上条「ズル禁止ー」ギュッ

一方通行「!」パキーン



打ち止め「あれー!?急にボールが変になっちゃった!ってミサカはミサカは大暴投を追いかけてみる!」タタッ

垣根「いやー、変になったっつーか今まで変だったっつーか。さては一方通行……」ハァ

19090号「相変わらず幼女には甘いですねぇ、とミサカは肩を竦めながらグローブを構え直します」バッチコーイ



上条「打ち止めのためにならねぇだろ」ハァ

一方通行「う……」チッ

上条「お前ってたまーに言ってることとやってること違うよな」

一方通行「………」ブンブン

上条「ダメー。離しませーん」ギュッ

一方通行「何でだよバカ離せ死ね」

上条「お前さー、こないだ何で先に帰っちゃったの?」

一方通行「こないだって?」フン

上条「わかってるクセに訊くなよ。垣根さんを病院に運んだ後。一緒に夕飯食おうっつってただろ」ジロ

一方通行「了承した覚えはありませンけどォ」

上条「そんならあの時に断ればいいじゃねぇか。戻ったらお前いないし、俺すげぇがっかりしたんですけどぉ?」

一方通行「ゥぐ…………」

上条「インデックスにもメールしてたし、あいつもちょ~ガッカリしてたし」

一方通行「…………」

上条「そんな顔すんなって」クス

上条「別に怒ってるわけじゃねぇよ。ただ理由教えてほしいだけだ。なぁ。何でだ?」

一方通行「別に……理由なンかねェ。気分だ、気分」

上条「お前ってそんなに気分屋だっけ?」

一方通行「そォいうこともある。まァ」

上条「ふーん?」

一方通行「…………」

上条「…………」

一方通行(何で、か…。何でだろォな。御坂の顔を見て、打ち止めの様子を確かめたくなったってのはあるけど、
     ンなのは後でもよかった。ただ、あン時は、こいつにまた会うのが何か……)

一方通行(わかンねェな……)チラ

上条「ん?」ニコ

一方通行「っ」ビクッ

一方通行(ン?何だこれ、何で今ビビってンだおかしいだろ。危険はもォないってわかってンのに)??

上条「お前相変わらず手ぇ冷たいなぁ」

一方通行「いい加減離せよ……」

上条「お前が今日ウチに来るんなら離す」

一方通行「前向きに検討するから離せ」

上条「そんな政治家みたいな言い方してもダメでーす」

一方通行「あーもォうっぜェな……」














垣根は再び大きく逸れたボールを取りに、小走りに駆け出す。

「ごめんねー、ってミサカはミサカは何度も取りに行ってくれるカキネに謝ってみたり!」

白球を拾って振り返れば、打ち止めが笑顔で大きく手を振っていた。

それに手を上げて答えながら、先ほど視界に入った二人をちらりと横目に見る。

近くに寄ってきた19090号に、小さく声を掛けた。

「なぁ、19090号。あの二人って付き合ってんの?」

「えっ、何を言うんですかこのホスト面。とミサカは驚いて目を見開きます」

「……俺、そんなホストっぽいかなぁ」

ついカクリと力が抜けてしまう垣根を余所に、御坂美琴の妹の一人は顎に手を当てる。

「しかしまぁ、確かにいい雰囲気です。とミサカはひどくワクワクしてきました」

「なになにー?ってミサカはミサカは内緒話の二人に近寄って来てみる!」

打ち止めも駆け寄って来た。垣根の腰の辺りまでしかない少女を見下ろし、少し考える。

垣根は「ちょっと休憩しよーぜー」と聞えよがしに声を上げてから、三人して座り込んだ。
これで打ち止めの首が痛くなることもない。

「なぁなぁお嬢ちゃん。俺はさぁ、上条って一方通行に気があると思うんだけど」

「えっ、そうかなぁ!そうだったら嬉しいなってミサカはミサカは喜色満面!!」

「ミサカはちょっと複雑ですね。とミサカは考え込みます」

「そうなのか?美琴みたく、19090号も上条が好きなの?」

「このミサカはそんなでもありませんが、お姉様も他のたくさんの個体も、上条当麻を好きですから」

「あー、そうか」

確かに、好きな相手が他の子を好きなら、悲しいだろう。
ありふれてはいても、誰もその悲しみを軽んじることはできない。

同じ話題で美琴がひどく動揺していたことを思い出し、少し苦笑する。
片思いとか両思いとか、誰が誰を好きで、心配しているとか。ひどく他愛もない甘酸っぱい話題だ。
自分にはあまりに縁のないはずの。

「優しいんだな、19090号は」

自然と微笑むと、美琴と同じなのにあまり似ていないと思える顔が、呆れたように傾く。

「そういうところがホストみたいってんですよ。とミサカは溜息をつきます」

「マジか、解せぬ……俺ホストって見たこともねぇし」

「女タラシっぽいってことじゃないかな?ってミサカはミサカは的確な表現を試みたり!」


「誤解ですー。女の子には優しくしてあげるべきだろ?」

「ならあの人にも優しくしてあげてね!ってミサカはミサカは意気込んでみる!」

愛らしい顔がきらきら笑い、黒髪の少年と手を繋いだまま硬直する第一位を目で示す。

そういやあいつも女の子だった……と今の今の話題も忘れて、垣根は一方通行を眺めた。

殺気と暴力に満ちていたはずの、恐怖の代名詞。
少年だとしか思えていなかったのに、今目にすれば自然と少女にも見える。
華奢な肢体も真っ白い肌も髪も赤い目も、儚げにすら思えた。

その理由があの隣にいる一見平凡な少年なのだとすれば、たいしたものだと単純に感心する。

「まぁ確かにアイツも女かもしんねぇけど、女の子扱いしたら殺されそうなんですが……」

同じ相手に二回も殺されるのは御免被りたい。

そう願ったこともあるのに、すでにひどく遠い、終わった過去に思えることに、垣根は少し驚いた。

「えー、それでも女の子扱いしてよ、ってミサカはミサカはカキネに無茶ぶりしてみたり!」

「自分で無茶ぶり言ってるし。お前ら、自分で墓穴掘りながら会話すんの趣味なの?」

「個性と言ってほしいですね。とミサカは胸を張ります」

「あの人は自分が女の子だって自覚がほとんどないの。カキネの犠牲によって自覚されれば、
 ヒーローさんとの仲が進展するかも!ってミサカはミサカは期待してみる」

「俺犠牲になっちゃうの!?」

「まぁ気のない男に女子扱いされてもウザいだけですが…。とミサカはイチ女子の意見を述べます」

「ひどいなぁ、お前ら」

垣根は思わず笑った。遠慮のない物言いは美琴を思い出す。
性格は似ていないけれど、自分のことを恐れも媚びもしない態度はひどく新鮮だ。

「何嬉しそうにしてるんですか。マゾですか?とミサカは軽く引きます」

「19090号ってあの人とヒーローさん以外には強く出れるんだね。ってミサカはミサカは新たな発見をしてみる」

「そ、そんなことはありません。とミサカは内弁慶ならぬ外弁慶されたことが心外です」

「へぇ、普段は違うのか?」

「あの人の前でもヒーローさんの前でも借りて来た猫みたいだよ。他の妹達にもいつも面倒見られてるし」

「ちょっ、やめてください上位個体!とミサカはこのミサカのイメージが崩れることを恐れます!」

「面白いなぁ、お前ら」


くすくす笑いが止まらない。ここしばらくずっと一人でぼんやりしていたが、人と話すということは、これほどに
新鮮なものなのだろうか。

「まぁ19090号のイメージなんてどうでもいいのよ。ってミサカはミサカは話題を戻してみる。
 カキネはどうしてヒーローさんがあの人のこと好きだって思ったの?」

打ち止めが改めてこちらを見上げる。真剣な茶色い目には、この小さな子なりの想いが滲んでいた。

「そうだなぁ。一方通行を助けに飛んできたとことか、やけに必死だったとことか、あと表情とか言葉とかな。
 ん?全部じゃん。でもなんつーか、自覚してなさげだけど」

あの年頃の少年が恋心のようなものを自覚すれば、もう少し照れが見えるものだろう。
と言っても垣根自身に経験があるわけでも周りにサンプルがあったわけでもないので、あくまで一般常識の印象だが。

すると打ち止めは得たりとばかりに大きく頷く。

「そうなのよね、そうなのよ。まぁミサカとしては、あの人を大事にしてくれるんなら恋愛感情だろうが友情だろうが、
 何でもいいんだけど」

「何でもいいのかよオイ」

「でも一般的には、人にとって一番優先されるのは恋愛感情なんでしょう?ってミサカはミサカはインプットさてた情報を元に判断してみる」

垣根は、やけに大人びた表情の子供を見下ろす。

「それなら、やっぱりあの人に恋愛感情を持ってもらわなきゃ。ってミサカはミサカは決意を新たにする」

視線の先には一方通行。やけに切迫した表情は、どこか歪んでもいるような気がして、垣根はひとつ溜息を零した。

「んなの人に寄るんじゃねーの」

「え……?ってミサカはミサカは急に不安になってみたり」

「お前の大事な一方通行が、恋人できたからってお前のことないがしろにすると思うか?」

「…………」

「お嬢ちゃんが今言ってたのって、そういうことだぜ」

垣根は、ああそういえばこの子もクローンだったのだ、と思い出す。

十歳程度に見えても、まだ生まれて一年も経っていない、学習装置で無理矢理知識を流し込まれた存在。
少しくらい歪な判断をしてしまってもおかしいことじゃない。

もっとも、自分とそう大差があるとも思えなかったけれど。

「ミサカは、ただ……」


途方に暮れたようにこちらを見る打ち止めの頭に、ゆっくりと手を伸ばす。
振り払われることを恐れるような仕草になってしまったが、今度は振り払われはしなかった。

ぽんぽん、と軽く撫でる。つるつるした、柔らかな髪の手触り。

「大丈夫だ。お前はただ、一方通行が心配だっただけなんだろ?」

最初に対峙した時も、二度目に対峙した時にも、一方通行はただ己の守る者のために、身を削るようにして戦っていた。
そう遠くもない未来には、削られて無くなってしまうことを全く厭わないような。

生まれ落ちて初めて情のようなものを注いでくれた人を、失くすかもしれない。
そんな恐怖から逃れるために、この子は一方通行を守ってくれるものを求めているのだろう。

ただ、一方通行を案じる気持ちも紛れもない真実のはずだ。
例えば自分が一方通行を憎んでいながら、一方通行にだけは理解されていると思えた時のように、人は複雑な思いを同時に抱く。

「ミサカは…間違ってる?ひどい子かな?ダメな子かなぁ……。ってミサカはミサカは、俯いてみる」

「そんなことないさ。誰かが不幸になればいいって願ったわけじゃないだろ?」

「でも……でも、今考えてみたら、あの人を守ってくれるってことは、危険な目に会うってことだもの」

打ち止めの小さな手が、スカートの裾をギュッと握りしめる。どれほどの力を込めたのか、指の先が真っ白だった。

「ミサカは上条当麻に、何度も『あの人を守って』って言った。上条当麻も『任せろよ』って笑ってくれた。
 だけどミサカは、上条当麻が傷つくことを、全然考えてなかったの。ってすごく今更、気が付いてみる……」

泣きそうに歪んで、けれど必死に泣かないように我慢している顔に、胸が痛んだ。
19090号も、気遣わしげに小さな背中を撫でる。

「ミサカは上条当麻のことも好き。とっても優しいし、ミサカ達の恩人。あの人のことも、ミサカのことも助けてくれたの。
 上条当麻にも、幸せになってほしいって、思ってるのに」

「大丈夫だ。大丈夫だよ、『打ち止め』」

垣根は意識して、昔資料で目にした、一方通行の呼び名に合わせた。音は同じ、けれど意味合いは異なっているのだろう。
それを察したわけでもないだろうが、大きな目がこちらを向く。


まっすぐな目は、くすぐったかった。
一方通行が何を犠牲にしても守りたいと願った気持ちを、ほんの少しだけ理解出来た気がする。

「お前の気持ちは上条にも伝わってるし、第一あの上条と一方通行がそう簡単にやられるかって。
 俺だって第二位だけど、アイツらには勝てなかったし。あの二人が力を合わせたら誰も敵わねぇよ」

「でも……」

「うん、そうだな。なら、俺もアイツらを守るよ」

「え?」

ぱちぱち、と大きな目が驚いたように瞬く。

「上条は一方通行を守るし、俺は上条と一方通行を守る。お前も、お前の姉妹達も。そしたら俺のしたこと、許してくれるか?」

たった今思いついた、けれどごく自然に出てきた言葉だった。

すべてを失い、何の意味も理由もなく放り出され、けれどその後に結ばれた縁のようなもの。
それを守るのだと思えば、身体の中に光るような芯が生まれた。

もう一度、できる限り優しく頭を撫でて、精一杯優しく笑う。
自信はなかったけれど、打ち止めの顔が明るくなったのを見て、安堵した。

「ホントに?ってミサカはミサカは期待してみる」

「ホントにって垣根は垣根は約束してみる」

「じゃあ約束!ってミサカはミサカは小指を差し出してみたり!」

小さな小指が目の前に突き出され、垣根は頷いて自分の小指を差し出した。

ゆーびきーりげーんまーん、と知識だけで実際に歌ったことも耳にしたこともない歌を、高い声が紡いでいく。

(約束か)

契約でもない、取引でもない。甘ったるい夢見がちな響き。

ずっとぼんやりしていた世界の輪郭が、徐々に焦点を結んでくるような気がした。

一方通行のように、生きるよすがにするわけではない。その資格も権利もない。

ただ、今は、この約束があればまっすぐ立っていられる。

そう信じることが出来る自分に、自然と口元が微笑んだ。





今日はここまでで。
ではまたそのうちに。

どうもお久しぶりですー。
あけましておめでとうございます。今年もよろしくな!

待っていてくださった方、本当にありがとうございます。
投下します。













PM 5:48 第七学区 とある病院 中庭


打ち止め「はー……もうへとへと、ってミサカはミサカは」ヘロヘロ

19090号「キャッチボールなかなか燃えましたね!とミサカは熱い戦いを思い起こします!」フンス

垣根「こいつが急に来て、上条と一方通行まで引っ張り込むから悪い」チラッ

美琴「なっ、何よ!19090号が大変だって言うからわざわざ来てあげたってのに!!」

美琴(来たら何かふたりっきりで話してるし、なんか……なんかーって感じだし!油断も隙もないわ!)プンスカ

垣根「もはやキャッチボールじゃなくてドッヂボールみたいだったな」

上条「しかし一方通行、能力使わなくても上手いじゃん。ボール触んの初めてってマジ?」

一方通行「あンなの簡単な力加減だろ。どォってことねェよ」フン

美琴「相変わらずエラソーねアンタって奴は……」ハァ

垣根「謙虚な一方通行とかキメーだろ」ハハッ

上条「確かにな」ハハハ

一方通行「っせェなァ」チッ

打ち止め「うぅー、もうダメ……ってミサカはミサカは座り込んでみたり……」ペタリ

一方通行「おい地べたに座ンじゃねェよ汚ねェな」カチッ ヒョイ

打ち止め「わーい肩車!ってミサカはミサカはハシャいでみたり!」キャッキャッ

上条「おいおい、んなことで能力使うなよ。打ち止め、こっち来い」ヒョイッ

打ち止め「わっ!ってミサカはミサカは急におんぶに切り替わってビックリしてみる!」キャハハッ

一方通行「落としたら殺すぞ上条ォ」カチッ

上条「落としませーんって」ハハ

打ち止め「これは楽ちんである、苦しゅうない。ヒーロー号はっしーん!」

上条「はいはいお姫様。どこに行きましょうか?」

一方通行「…………」


打ち止め「え?えーっとえーっと……ってミサカはミサカは何も考えてなかった!」アワワ

19090号「汗かきましたし、お風呂にでも行きますか?とミサカは提案します。地下に大浴場がありますよ」

打ち止め「あ、そだね!19090号達に話聞いて、ミサカ入ってみたいなーって思ってたんだった!」

上条「へー、地下に大浴場なんかあんのか、この病院」

垣根「ああ、そういやあったな。リハビリとかにも使うんだってよ」

美琴「へぇ、いいわねぇ。寮にあるのと同じような感じかしら?」

上条「んじゃみんなで行くかー」

垣根「いいぜ」美琴「いいわよ」19090号「賛成です」

打ち止め「わーい!ってミサカはミサカはわくわくしてみる!ねぇあなたも……」

一方通行「…………」

打ち止め「一方通行?」

一方通行(……俺はいつの間に、上条に……他人にコイツを平気で触らせるようになったンだろう)ジッ

上条「一方通行?」

一方通行(触らせるどころか近づけることさえ許さなかったのに、俺は……)

上条「おーい、一方通行?どうしたんだよ、みんなで風呂行こうって……さ……」ハッ

美琴(あっ!!)垣根(あ)19090号(あらら)打ち止め(おおー)

一方通行「あー、いいぜ、別に」

上条「いいのぉ!?!?」ガビーン!!

垣根「はァ!?」19090号「はァあ!?」美琴「はァあァ~!?」

打ち止め「おおー……ってミサカはミサカはちょっとビックリしてみたり」

一方通行「なンでそンな驚くンだよ」キョトン

打ち止め「えっ……だってあなたが他の人とお風呂なんて無防備になるとこに行くの、驚くに決まってるよ?」

一方通行「あー……」ガリガリ


上条(いや、それもあるけどね!?でもそれより、それよりさぁ!!)

垣根(何考えてんだろコイツ)ハァ

美琴(えっ……?どういうこと?一方通行は男だってつもりなのよね?つまり…どういうことだってばよ?)

上条「つ、つ、つ、つつまり一方通行、お、俺と風呂に」カーーッ

美琴「一方通行アンタちょっとこっち来なさいよォ!!!」グイグイズカズカ

一方通行「あー?ンだよ」チッ スタスタ

垣根「おいおい美琴……」

美琴「ついて来ないでよ!こっちの話よ!」キー!!

垣根「ミコっちゃんコワーイ」ハハハ

上条「え……えーと……」ブツブツ

19090号「これは面白くなって来ました。とミサカは野次馬根性が騒ぎます」



美琴(よし、ここまで来れば、自販機の横で音もするし話し声向こうまで聞こえないわよね!)

美琴「アンタ一体何のつもりよ!」

一方通行「はァ?何がァ?」キョトン

美琴「何がァ?じゃないわよ!アンタ、アイツに男だって言ってんでしょ!?女湯に入ったら女だってバレるじゃないの!」

一方通行「男湯に入るに決まってンだろ」

美琴「は、はァああ~!?ま、まさかホントにそんな、ば、バカじゃないの!?結局女だってバレちゃうじゃない!」

一方通行「ん~……ま、平気だろ」

美琴「平気なわけあるかァああ!!」ムキー!!

一方通行「ンだようっせェなァ……。オマエにゃ関係ねェだろォが」

美琴「そっ……そんな言い方しないでよね。アンタが風呂入らないって、言えばいいだけのことじゃないの!」

一方通行「………俺だけ?」ボソッ


美琴「えっ」

一方通行「…………」

美琴「…………」

一方通行「…………」

美琴「…………ねぇ、まさかとは思うけど。みんなお風呂行くのに自分だけ行かないのが、ちょっと寂しかった……とか……」

一方通行「はッ、バカじゃねェの」フン

美琴「かわいくないわねぇ、そこは真っ赤になって『ち、違う!勘違いすンなよバカ!』とか言うとこでしょ」

一方通行「俺に何を求めてンだよオマエは」

美琴「かわいげ?」

一方通行「誠に残念ながら在庫切れですお客様ァ」

美琴「ぷ、あはっ、何言ってんのよ」ケラケラ(コイツも冗談とか言うのね)

一方通行「怒ったり笑ったり忙しい奴だな」

美琴「………ねぇ。どうしてそこまでして、アイツに女だってこと隠すの?」

一方通行「別に……面倒なだけだ。今まで男だって思ってた奴が女だってわかると、色々過剰反応されてウゼェンだよ」

美琴「そんなの最初だけでしょ。ずっと隠してる方がずっと面倒だと思うけど」

一方通行「…………」

美琴「アンタだってそれくらいの計算ついてるでしょ、当然。ねぇどうして?どうして知られたくないの、一方通行」

一方通行(どうして……?)

一方通行(そンなのは、面倒だから、ウゼェから……自明の理だ。それ以外に理由なンか)

美琴「はぁ……。なんて顔してんのよ」ヤレヤレ「別に責めてるワケじゃないっつーの」

一方通行「何の話だ」チッ

美琴「前から思ってけどアンタさー、たまに顔に出るわよ?慣れてないんでしょ、こういうの。
    敵とか研究者に詮索されるんじゃなくて、個人的なことを個人的な理由で話したこと、ホントーに少ないのね」

一方通行「うっせェなァ……」

美琴「ふふ、困るとすぐそれ。仕方ない奴ねぇ」クスッ「ま、いーけど。……負けないしね!!」ビリビリ

一方通行「はァ?俺に勝てる気でいンの」

美琴「それはもういいっつーの!!」






PM 5:48 第七学区 とある病院 1F廊下

19090号「お姉さま達、何を話しているのでしょう……。とミサカはめっちゃ気になります!」ソワソワ

打ち止め「ミサカも!ってミサカはミサカはワクワクしてみたり!!」ワクワク

19090号「ちょっとここは17600号を見習ってスニーキングミッションを試みるべきでは?とミサカは上位個体に提案します」

打ち止め「さんせー!ってミサカはミサカは早速開始してみる!」ヒソヒソ コソコソ

19090号「あっ、待ってください上位個体!」ヒソヒソ コソコソ

垣根「がんばれよー」フリフリ

打ち止め「カキネ、静かに!ってミサカはミサカはスパイ大作戦のBGMを所望する!」キリッ

垣根「静かにすんじゃねーのかよ」クスクス



垣根「上条さー」

上条「へ、え?何?」アセッ

垣根「まだ何も言ってねぇっつーの。キョドるなって」クククッ

上条「べ、別にキョドってねぇですけど!?」キョドキョド

垣根「今からその調子なら、マジで一方通行と一緒に風呂とかなったらお前死ぬんじゃね?」

上条「な、ななななな」カーーッ

垣根「ふぅん……。お前ってさ、やっぱアイツが女だって知ってんだな」

上条「へ?あ、いや、それは」ギクッ

垣根「安心しろよ。一方通行はお前が知ってるって思ってねぇみたいだぜ」

上条「そ、そっか……」ホッ

垣根「……何で知ってるって言わねーの?」

上条「一方通行が、何か知られたくないみたいなんで」

垣根「そんだけー?別に『騙したなァ!』とか怒って殺しにかかってきたりしねぇだろ」

上条「ぶは、んなこと心配してねぇよ。ただ、そうだな……ただ、一方通行が嫌がること、したくないなって」ニコ

垣根「お優しいこった。お前って一方通行に惚れてんじゃねーの?だったら、言った方がいいと思うけどねぇ」

上条「惚れ……?」キョトン「さぁ……。そうなのかなぁ。考えたことねーや」

垣根「オイオイオイオイ。それが青春真っ盛り男子高校生のセリフかよ。普通寝ても覚めても女のこと考えてるもんだろ」


上条「えっ、垣根さんも?」

垣根「俺フツーじゃねぇし?」フフン

上条「確かに」ウム

垣根「納得されると少し寂しい複雑な超能力者の心境を今実感している」キリッ

上条「そう言われてもなぁ。俺もあんまそんな女の子に必死になる暇なかったんだよな」ガリガリ

垣根「今までそうだったとしても、今からはちゃんと考えた方がいいと思うぜ?」

上条「え……」

垣根「お前だってわかってんだろ、上条。今日と同じ平穏が明日も続くとは限らない。
   お前は一方通行をどうしたい?考えろよ、後悔したくないならな」

上条「一方通行を……」

垣根「一度死んだヤツの進言だ、説得力抜群だろ?」バチコーン

上条「はは……」

上条(……俺はただ、一方通行を一人で戦わせたくないだけだ。アイツがたった一人で傷つくなんて耐えらんねぇ)

上条(理由なんてどうでもいいって、思ってたけど)









PM 6:08 第七学区 とある病院 B1F 大浴場前

ゾロゾロ ワイワイ
ミサカツカレターッテミサカハミサカハ
オフロタノシミネー

美琴「あれ、19090号はどうしたの?」

打ち止め「あ、いちおーお風呂使ってもいいか訊きに行ってくれたよ。ってミサカはミサカは報告してみたり」

美琴「そうなんだ?なんだか悪かったわね」

垣根「19090号は気が効くなー」

一方通行「……手ェ出すなよクソホスト」ギロリ

垣根「だからホストじゃねーし!信用ねぇなーもう……」

一方通行「あるワケねェだろンなもン」

上条「これから作ればいいじゃん、信用。な、垣根さん」

垣根「……!望むところだ」ニコッ

一方通行「調子こかせンじゃねェよ上条。コイツが初対面で19090号に何したか忘れたのか?」

垣根「うっ、いやそれはさぁ」ギクッ

美琴「えっ、なになに、垣根さんあの子に何したの?」ズイ

一方通行「コイツ、19090号の胸に触りやがりましたァ」

美琴「はァああああ!?は、はァああああ!?!?」ビリビリビリ

垣根「うわっ美琴ちがっ、誤解だ!つ、ついウッカリ居眠りしちゃってな!?そこに19090号が声掛けて来て、バランス崩して……ッ」

美琴「はいぃ?何よそのコイツみたいなラッキースケベは」ギロッ

上条「どうしてそこに上条さんが!?」

美琴「アンタいっつもそういう偶然で女の子に触ったり裸見たりパンツ見たりしてるそうじゃないのよ!!」

上条「え、えええ!!な、何で知っ、アワワワ」

打ち止め「10032号がシスターさんから聞いて、お姉さまにも報告してるみたい!ってミサカはミサカは補足説明してみたり!」ハイハイ

美琴「ホントなのね!?あ、アンタってヤツはァ~~……」ビリビリ


上条「わ、わざとじゃねぇよ?悪いことしたって思ってるし、ちゃんと謝ってるからな?」

一方通行「………ふゥン……」

上条「!!!!」ビクッ

上条「ちッ、違うからな!?ホントわざとじゃねぇから、絶対違うからな!!き、気を付けるし!!」

一方通行「……?別にワザとやったなンて思ってねェっつーの」

上条「あっ……そ、そう?そっか、そっかー……うん、ならよかった」ヘニャ

一方通行「…………」

美琴「…………」ジロジロ

一方通行「ンだよ……」チッ

美琴「べっつに!べっつにぃ~~~!!」ビリビリ

垣根「微笑ましいねぇ」クックッ

一方通行「何上から言ってンだこのセクハラ野郎19090号に近づくな」イラッ

垣根「しつけーな!?ちゃんと謝ったし、19090号にもちゃんと謝ったし!」

一方通行「つゥかよォ垣根、オマエそこまで至近距離に来られても呑気に寝こけてたのかよ」

垣根「あー…そういやそーだな。前なら考えらんなかったわー。この病院すげぇ平和だからな」ハァ…

一方通行「は、平和ボケか」

垣根「順応性高いって言えよ。危険もねーのに四六時中気ィ張ってても、自分も周りも疲れるだけだろ?」

一方通行「…………」チッ

垣根「何だ、心当たりあるって顔だな?まぁお前ってその辺不器用そうだもんなぁ」

一方通行「っせェな……」

上条「え、何だ?何のこと?」

打ち止め「…………」チラッ「あのねヒーローさん、この人は寝てる時でもね」

一方通行「打ち止め」

打ち止め「……っ」ビクッ

上条「何だよ一方通行、んな顔すんなよ。打ち止めがかわいそうだろ?」

一方通行「っせェよ、ウチのことに口出しすンな」


上条「いーや、するね。打ち止めはお前のことが心配で、俺に何か言いたいんだろ?なら俺は聞かなきゃなんねーし、聞きたい」

一方通行「オマエにはカンケーねェ」フイ

上条「(ムカッ)関係あるって何度言やわかんだよお前は!んなテキトーな言葉で俺を拒絶できると思うなよ!」キッ

一方通行「はァ……?調子くれてンじゃねェぞコラ……」イラァ

上条「調子に乗るとか乗らないとかそういう問題じゃねーだろ!」

一方通行「…………」ギリッ

上条「…………」キッ

垣根「どう見てもチンピラに因縁つけられる男子高校生が頑張ってる呈だけど、一応これラブコメ展開なのか?」ヒソヒソ

美琴「ラブコメじゃないわよ!ラブコメじゃないわよ!!」ヒソヒソ!!

打ち止め「ミサカ的にはめっちゃシリアスだよ。ってミサカはミサカは固唾を?んで見守ってみたり」ゴクリ



19090号「おーい。先生に訊いて来ましたー。今日はリハビリの予定もないし、私達なら使っても構わないそうです。
     ってあれ……?なんです、この雰囲気は。とミサカは首を傾げます」ハテナ



美琴「お、おー、わざわざありがとね!」

打ち止め「ちょっと19090号、空気読んでよね!?ってミサカはミサカは残念なミサカを嘆いてみたり!」キー!!

19090号「えぇ!?とミサカは突如としての残念なミサカ呼ばわりにショックを受けます」ガビーン

垣根「まぁまぁ、ちょっとタイミングがな。……だってよー、上条、一方通行。さっさと入らねぇ?」

上条「(ハッ)あ、ああ。ありがとな、19090号」

一方通行「…………」フン

上条「あ。じゃ、じゃ、じゃあ、入るか……」フイ

垣根「そっぽ向いてみても耳まで赤いぜ上条くーん?そんなんじゃバレちゃうぞー」ヒソヒソ

上条「うぐっ、し、深呼吸を……」スーハースーハー

垣根「くく、せいぜい頑張れや。おーい一方通行、行くぞー」スタスタ ガラガラガラ

一方通行「仕切ンじゃねーよバーカ」スタスタ ガラガラピシャリ

美琴「ほ、ホントに男湯に入ってっちゃったし……」ポカーン

19090号「あれ、何で一方通行は男湯に行ったんですか?痴女ですか?とミサカは首を傾げます」

打ち止め「むしろ複雑な乙女心だよ!ってミサカはミサカはあの人の名誉を守ってみたり!」

美琴「どーやってバレないようにするつもりかしらアイツ……」ヤレヤレ












 上条は先ほどから、耳元に心臓が移動してしまったような、ドクドクとうるさい音を持て余している。
 頬どころか手の先まで熱い。何だこれ、どうしよう。

 大浴場の脱衣所は、病院らしく何の変哲もない。
 清潔感のある木製の棚が中央に二つ並べられ、プラスチックの大きなカゴが無造作に置かれているだけだ。
 棚の高さはちょうど上条の肩辺り。奥行の広い棚には手前と奥と両方にカゴがあり、棚を挟んで向かい合うような格好で服の脱ぎ着をするようだった。
 カゴはすべて空で、今利用しているのは自分達だけのようだ。

「あ……」

 ボケっとしているうちに、正面に一方通行の白い顔が目に入る。
 細い指がコートのジッパーに掛かるのを見て、慌てて俯いた。
 一応、棚があるので目の前の少女……そう、少女なのだ、の肩から下は見えない。けれどそういう問題じゃない。

 頭が熱い。沸騰しそうだ。

「おーい上条。タオル忘れてんぞ」

 不意にがしっと肩を組まれて、目の前にタオルを差し出される。

「へ?あ、ど、どうも。ってタオルとかどこに、あ、そういやタオルないとダメだよな」

「入口に積んであったっつーの。つか言ってることグチャグチャだぞー、落ち着けよ」

 後半はボソボソと囁かれて、自分の状態に自覚があるだけに、口を噤むしかない。
 全身で一方通行の気配を気にしながら、同じように声を潜めて返す。やばい、衣擦れの音がする。

「むしろ垣根さんは何でそんな落ち着いてるんですか。コツ教えてください」

「はは、急に敬語になんなって。だってなーお前、一方通行だぞ?」

「そ、そうだよ、一方通行なんだよ……」

 何度か触ってしまった、一見とても力強く、けれど実際にはひどく細く柔らかな身体。
 女の子なんだ、と時折思い返す度、胸の奥が痺れるようになる。

「いやちげーって。お前は興味深々かもしんねぇけど、俺はなぁ、別に……」

 垣根は苦笑して、正面に向き直ろうとした。
 そこを慌てて頭を掴んで、無理矢理こちらに向き直らせる。

「イッテ!何すんだよ」

「み、み、み、見たらダメだろ!何考えてんだよ!」


 声を潜めながら叫ぶという我ながら器用なことをしながら、必死で垣根の視線をこちらに固定する。
 やたら整った顔が、仕方ないなとでも言いたげに苦笑した。

「お前ホントにテンパってんだな。アイツもういねーよ。もう風呂行ったんじゃね?早業だよな」

 えっ、とつい先ほど白い顔があった方に視線を戻すと、確かにそこには誰もいない。
 耳を澄ませば、シャワーの水音が聞こえてきた。

 一方通行が浴びてるんだと思えば、頬の熱が更に燃えるようだ。
 再度俯いた上条に、呆れたような溜息が降ってくる。

「他のヤツがアイツ見んの嫌なんだろ?」

「え、俺が嫌っていうか、一方通行がさ、だって」

「そういうの、独占欲って言うんじゃねーのか」

 こちらの言うことをまるで無視して、垣根は面白そうに笑った。
 いたずらっぽい笑顔は年相応に見えて、毒気を抜かれてしまう。

「ど、どくせんよく……?って、言われても」

 考えたことがないと、もう何度目かに呟く。
 漫画かドラマでしか聞いたことのないような単語には、戸惑いばかりが先に立った。

「何で垣根さんはそんなとこ気にするんだよ」

「んー?だって面白いじゃん、恋バナとか。新鮮?」

「面白がらないでくれよ……」

「いやいや面白いって。それにさー、一方通行がそういう、人間みてーなことしてんだったら……」

 不意に口を噤んだ垣根の、続きの言葉は想像できた。
 一方通行が人間のようなことをしているのであれば、自分もと、思えるような気がすると。
 そう言おうとしたのではないか。


「ヘンなこと言うなよ。一方通行は人間だし、垣根さんも同じに決まってんだろ」

 上条は強い口調で言い切った。
 垣根は一見、一方通行とは比べものにならないくらい人当たりが良い。気さくで、面倒見も良さそうだ。
 けれど時折、一方通行が少し前まで見せていたような、暗いような、諦めたような目をする。

 一方通行にあんな目をしてほしくはなかった。
 ふいといなくなってしまう色。もしかしたらそのまま二度と姿を現さないつもりじゃないかと感じてしまう色。

 ずっと気にしていて、だから今だって気付いた。
 何の変哲もないきれいな茶色の目が、血色の双眸と同じ色をしていたことを。
 手の届く場所にいる誰にも、こんな寂しい目はしてほしくない。

「……お前は優しいヤツだなぁ」

 垣根は驚いたような顔をした後に、ぐしゃぐしゃと上条の頭を掻き回した。

 


「……いいか、垣根さん?開けるぞ?なるべく見ないようにするんでいいよな?」

「へーへー」

 ようやっとの思いで服を脱ぎ、タオルで前を隠して大浴場に繋がるガラス戸の前に立つ。
 擦りガラスの向こうは見えないが、シャワーの水音が聞こえて来ていた。
 垣根と話して一旦は落ち着いていたはずの鼓動が、激しく脈打つ。

(うううう、何だ、どうしよう、み、見ちゃったら、いや見ないけど、でも見ちゃったら俺やばい絶対ヤバい)

 一方通行が浴びていると思わしきシャワーの音だけでどうにかなりそうなのに、実際目にしたら一体自分がどんな反応をしてしまうのか、想像するだけで恐ろしい。

「いいからはよ開けろっつーの」

 痺れを切らした垣根が後ろから手を伸ばして戸を開き、上条は危うく悲鳴をあげるところだった。

「ちょっ……垣根さん!」

 何も見ないように目を瞑るが、「何やってンだオマエら。遅ェぞ」ということもなげな声に、思わず目を開く。

「服脱ぐだけで何時間掛かってンだよ。女か」



 そりゃお前だろーが!ときっと垣根も心の中で叫んだことだろう。
 当の一方通行はもう身体を洗い終わったらしく、すでに大きな湯船に身を沈めていた。

 遠目で、肩から下は見えない。
 けれど真っ白な細い肩が剥き出しになっているだけで、心臓が爆発してしまいそうだ。

「お前もう身体とか洗ったの?素早すぎんだろ」

「頭も洗った」

「さてはカラスの行水タイプだな。もっと丁寧に洗えよ」

「は、オマエは女みてェに念入りに洗ってそォだな垣根くゥン」

「バッカ髪と肌がキレイな男はモテるんだぜー?」

 垣根は一方通行と普段通りのやり取りをしながら、「はー広い風呂もいいもんだな」などと暢気な感想を呟いている。

(垣根さんすごすぎる……)

 ここからは見えないとはいえ、全裸の女子を前にこの反応。
 もしかしてホモなんだろうか。言ってくれればいいのに。偏見はないつもりだ。

 上条は我ながらギクシャクとした動きで身体を頭を洗う。
 いつもより五倍は時間を掛けたつもりだったのに、あっと言う間に洗い終わってしまった。

(ど、ど、どうしよう……)

 風呂椅子に腰掛け、蛇口の下に置いた洗面器の底を睨み据えた。
 髪からの水滴に混じって、冷や汗がボタボタと膝に落ちてくる。
 死ぬほど願ったら洗面器に解決方法が浮かんで来ないだろうか。そういう魔術とかないかな?インデックス助けて。


「一方通行ぁ、湯加減どうだー?」

「まァ普通じゃねェの」

「お前って熱くても痩せ我慢して入ってそうだよな」

 垣根はスタスタと何の迷いもない足取りで湯船に近付いていく。
 そんなに近付いたら、もう、湯船の中の一方通行の身体が見えてしまうのではないか。
 真っ白い身体がお湯の中で揺らめくのを想像してしまい、上条は思わず立ち上がった。

「かっ、か、垣根さん!そ、そうだ、もう上がろう、そうしよう!」

「はァ?このクソ寒ィのに温まンねェであがったら風邪ひくぞ」

「意外と常識的なこと言う一方通行キモい…。………あ」

 目を回しそうなこちらを余所に、垣根が何かに気付いたような声を上げる。

「あーなるほどな。ふーん、考えたな一方通行」

「何のことだ」

「いやいや。さすが第一位ってね。おーい上条、いいからこっち来いよ。大丈夫だから」

「いいいや、ででででででも……」

 妙な笑いを浮かべた垣根が手招きするが、上条は硬直したまま前進も後退も出来ない。
 必死で目を逸らすが、あまりに洗面器ばかり見るのもおかしいとわかっている。

(垣根さんもう湯船入ってるし!てかあれ見えてるよな!?見えっ……)

 グラグラ目眩がするような動揺と焼け付くマグマのようなものがこみ上げ、「独占欲か」という垣根の言葉が脳内で木霊する。

「何だオマエ。さっきから様子がヘンだぞ」

 不審そうな一方通行に、このままでは怪しまれるとわかっていても、どうすればいいかわからない。

「あー……さっき聞いたんだけどさ。ちょっと前にイタリアで風呂にトラウマが出来たんだとよ。な?上条」

「えっ……?あ、そ、そう、そうなんだ!」


 一瞬戸惑うけれど、垣根のフォローなのだということに気づき、勢い込んで頷く。
 ありがとう垣根さん。ホモでも俺この友情忘れない。

「トラウマって何だよ」

「魔術師に風呂で罠かけられて死にかけたそうだぜ。災難だったなぁ上条」

「ふゥン……。そォいうことなら安心しろよ。この俺がいるンだ、罠なンかねェって保証してやる」

「あ、一方通行……」

 心なしか優しい声音に、上条は思わず一方通行の顔を見た。

「ほら、来いよ上条」

 来いよ。

 初めて見る、赤らんだ滑らかな頬。白い髪も睫毛も濡れていて、水滴が細い首筋を伝っていく。

 貴重な宝石のような赤い目が、まっすぐに上条を見ていた。

(来いって。一方通行が来いって、俺に……)

 ドクッ、ドクッ、と耳元で心臓が脈打つ。
 ただ風呂に入れと、促されているだけだということはわかっていた。
 けれど頭は勝手にどこか深く甘い意味に履き違えそうで、もうただふらふらと湯船に歩み寄る。

(やばい、見える、見えたら俺もう)

 とりあえず鼻血は出る間違いない。
 しかしそうすればお湯が赤くなって垣根にも見えなくなるのでは、それはそれでいいのでは。

 ぐらぐら回る視界のまま、意を決して湯船を覗き込み。


「えっ」

 我ながら間の抜けた声を漏らした。

「しろい」

 白い。目の前が、いや、風呂桶の中がすべて真っ白で、まさか一方通行が溶けてしまったのかとアホらしいことを考える。

「入浴剤でも入ってンじゃねェの。気が効いてンな」

「………は」

 見えない。そりゃもう水面に白い紙でも張ってあるかのように、湯の中は何も見えない。
 つまり、湯の中の一方通行の身体は全然見えなかった。

「はァあああ…………………」

 上条は倒れ込むように湯船に身を沈め、「おっと」と垣根が支えてくれる。
 そのまま耳元でヒソヒソと囁かれた。

「この白いお湯は一方通行の仕業だぜ。
 水に含まれるカルシウムやマグネシウムを塩素と結合させて、お湯を白くしてんだよ」

「へ……?」

「最初からそのつもりだったんだろうさ。アイツはアイツで必死だねぇ」

 クスクス笑う声に、全身から力が抜けてずるずると湯船にもたれ掛かる。

「な?言ったろ上条、大丈夫だってな」

「はァ~……………」

 もう何だか言葉もない。
 人生最大の肩透かしを食らった気分で湯船に沈みかけていると、ひょいと一方通行がこちらの顔を覗き込んだ。

「ンだよビビり過ぎだろ。らしくねェぞ上条」

「ぅぐ……っ」

 例え身体が見えずとも、濡れた髪も赤らんだ頬も、脳天を激しく揺さぶる。
 だいたいいくらお湯が白くても、近付けば少しだけお湯の中が見え、見え、意外と見えない!
 それでも思い切り身を引けば、後頭部が壁に激突した。

「イッて!」

「何やってンだよ……」

 呆れた風な溜息と共に、一方通行は湯船の反対側に寄り掛かる。
 

 そうすれば二メートルほど間隔が空いて、ようやく息をつくことが出来た。

「はー……。俺、誰かと風呂入んの初めてだわ。なかなか気に入った」

「そォか?」

「いーじゃん裸の付き合い。こんな広いと解放感あるしさ
ー」

 垣根が天井を見上げるので、上条も一方通行も釣られて見上げる。
 高い天井にはいくつか水滴がついていて、時折湯船に落ちてきた。
 湯気で煙った静かな広い空間に、ぴちょんとのどかな音が響く。

「まァ……悪くはないかもな」

 一方通行が呟いて、目元に掛かる髪を鬱陶しそうに両手でかき上げ、後ろに撫でつけて瞼を降ろす。
 普段はあまり見えない額や耳元がすべて露わになり、上条は目を奪われてしまった。

 滑らかな形の良い額も、細い鼻梁も、切れ長の目も、穏やかな表情をしていたなら、本当に整っているのだと気付かされる。

 細いうなじに濡れた髪が張り付いていて、ぞわりと甘痒い熱が背筋を這い降りた。
 目が離せない。目だけじゃなくて、例えば触れたなら、どんな手触りなのだろう。

「おーい、上条。顔!顔!」

「へ、えっ……?」

 垣根の声に慌てて顔を撫で回す。
 そんなに変な顔をしていただろうか。その可能性は非常に高いが。

「トラウマが限界っぽいなーお前。先に上がるか。一方通行はまだいる?」

「あァ、もォちょっとは」

「んじゃ、あんま遅くなんなよー。のぼせても介抱してやらねぇぜ?」

 確かにもう限界は限界だ。色々な意味で。
 上条は「じゃ、じゃあ」とだけ一方通行に言って風呂を出る。
 じゃあって何だよ、と自分でも思ったが、何か声を掛けずにはいられなかった。

 ガラス戸を開けて閉め、脱衣所まで戻ってから、へなへなと座り込む。

「はぁー………。死ぬかと思った」

 コメカミがドクドク脈打ったまま、破裂してしまいそうだ。
 この十数分で十年は寿命が縮んだ気がする。


「上条、お前すげぇ顔してたぞ」

「そ、そんなヘンな顔してた?」

「ヘンっつーか……食っちまいたそうな顔?」

「へ………」

 ぶわっと顔中が熱くなった。

「な、な、何言って」

「目は口ほどにモノを言うってなー」

「だ、だってそりゃ、目の前にあんな……、垣根さんはホモだから興味ねーかもしんねーけど!」

「はぁあああ!?何言ってんの!?何言っちゃってんのォおお!?」







 何やら脱衣所の方から賑やかな叫び声が聞こえて来る。
 耳を澄ませば聞き取れたかもしれないが、一方通行はあえてそうせずに湯船に顎先まで沈み込んだ。
 温かい。

 目を天井付近にやれば、湯気がもわもわとわだかまっている。
 それがふわふわと降りてきて、かざした手を包み込めば、なんとなくその輪郭がボヤケて見えた。

(これ使うまでもなかったな……)

 風呂にトラウマがあるとかいう上条はやたらと遅く入ってきて、早々にあがって行った。
 一応、湯気を不自然じゃない程度に操作して、性別が判別出来る部位を隠そうとしていたのだが。

「………」

 どうしてそこまでして隠す、とい美琴の言葉が脳裏に蘇った。
 別に深い理由なんかない。
 けれど確かに、こんな面倒でことをしてまで隠し通す必要があるのかと言われれば、明確な返答が出来なかった。

 理論で行動を説明出来ないなどと、この俺が。
 悔しいような少し泣きたくなるようなモヤモヤが込み上げて、ついに鼻の上まで湯に沈む。

 上条が自分を女だと知れば、知ったなら。

 今までと同じように、共に戦おうとするだろうか。
 肩を並べて、拳を突き出すだろうか。
 太陽みたいな顔で笑って、一緒に、と言うだろうか。

 変わってしまうかもしれない。

 一方通行は、湯の中で小さく丸くなった。

 温かいはずなのに、上条が今までと違う態度を取ることを想像しただけで、身体の芯がひやりと冷えるようだった。










今日はここまでで。
またそのうちに。
ちょっと忙しい時期なんで早くて来月末か、それ以降かなー
また見ていただけると嬉しいです。


「クソッ、土御門の奴……!何が寮は安全だ!」

 息を弾ませて走りながら、思わず悪態をつく。

 以前は闇咲に襲撃されたこともあったが、基本的に寮内は安全だった。
 土御門が監視の目を光らせてくれていたはずなのだ。

 いつも飄々とした友人兼隣人の顔を思い浮かべ、だからこれは、あの土御門にだって予想外のことだったのだと思う。
 魔術側と科学側の二重スパイという難しい立場で、いつだって涼しい顔の下、必死に考えて動いてくれているから。

 第七学区の路地裏を、人気の少ない方へ少ない方へ走る。

 最初の襲撃から、炎の塊が降ってくるという、言うなれば単調な攻撃。
 だがチリチリと産毛を焦がすような熱は圧倒的で、敵が相当な腕前であるということを知らしめる。

(けど、ステイルのが怖かっただろうな)

 ふと、すべての始まりだったのだろう戦いのこと思い返し、場違いに口が緩んだ。
 ステイルとの出会いは本人や土御門に聞いて知っている。

 だが自分自身の記憶にはない、最初の戦い。インデックスとの絆のきっかけ。

 必死に手元に返そうとしてもただの空白。何も知らない、わからない。

 それがずっと、怖かった。

 今にもここから追い出され、つい昨日まで側に居てくれた人達が誰もいないところに、一人放り出されるのではないかと。

 だが今、迷いはない。

 インデックスは、行くぞ、と声を掛ければ絶対に付いて来てくれる。
 自分を信じて、小さな身体で一生懸命に。


 出会ってから半年余り、色々なことがあって、ようやくそう思えるようになった。

 何より、あの一見力強く、けれどひどく儚くも思える白い髪、赤い目の少女が、側で見ていてくれるから。

 オマエは俺と同じだな、と言ってくれた声を、手元に返す。

 あの言葉が、凍えるようなベランダで不器用に頭を撫でようとしてくれた手が、どれだけ自分を温め、勇気づけてくれたか。

 あの最強は知らないだろう。

 学園都市の誰より強く、しかし時折誰よりも脆く柔らかな心を見せる。
 誰にでも見せるのではないと知っている。
 それがどれだけ、自分の心を。

「とうま!!」

 インデックスの叫び声で、沈み掛けた物思いから引き戻される。

 慌てて右手を一閃させ、魔術の炎を散らした。

(何やってんだ俺は……!)

 舌打ちをして、奥歯を噛み締める。

 腕の中にはインデックスがいるのだ。
 守ると決めた、大切な存在。
 あの最強にとっての小さな茶色い髪の女の子と同じ、亡くしては真っ直ぐに立てない、上条にとって世界の芯のような存在。

 インデックスを背中に守る戦いの最中に、一体何をボーッとしているのか。

 いつも戦闘に入れば目の前の敵しか頭になくなるのにこんなことは初めてで、じわじわと驚きが胸を満たしていく。

 今までに経験したことのないような、不思議な高揚だった。


「インデックス、こっち!」

 正面から飛んでくる火球を、左手の路地に飛び込んでかわした。
 腕に抱き込んだ少女が怪我を負っていないことを確認し、再び駆け出す。

 神経を研ぎ澄ませろ。
 この右手に宿る、『予兆』に反応するという力。
 もう使いこなせるはずだと、いつかどこかで誰かに聞いた。 

 意識するより前に、右手が動く。聞き慣れた音と共に、炎が砕けた。

「とうま、ルーン文字なんだよ」

 インデックスは唐突に、壁の一部を指さす。
 走りながらも釣られて視線をやるが、その時には後方遠くでイマイチ視認出来なかった。

 すぐに諦めて視線を下ろす。

「は?何だっけ、それ」

 わからないことはインデックスに聞けばいい。それで大概は何とかなる。

「もう、こないだも説明したでしょ!魔術を使うために刻む呪字で、割とポピュラーなものだよ。
 ステイルが使ってるのと同じものかも」

「へー」

 奇しくも先ほど思い返していた名前が出て来て、わけもなく感慨深い相槌が出た。
 すると碧眼がちらりとこちらを見て、すぐに正面に向き直る。

「さっきのは壁の傷に紛れるように刻んであったけど、私の目は誤魔化せない。
 あれは間違いなくルーン文字で、この炎の魔術の源なんだよ」



「で、どうすりゃいいんだ?文字に触ればいいのか?」

 ルーン文字とやらに籠められているのが魔力なら、上条が触れればそれで終わりだ。
 しかしインデックスは小さく頭を振った。

「それだけじゃダメかも。ルーン文字は数十個、場合によっては数千個が魔術的意味を成す集合体。
 一文字だけ無力化しても発動を止めることは出来ないんだよ。
 一度にまとめて無効化出来ればいいけど、さっきのは壁に刻んであったし、そう簡単には無理だね」

「おい……っつーことはさ」

 上条は先ほどの文字が壁にあらかじめ刻んであったということ、だがこの路地は自分達が「偶然」逃げ込んだはずの場所であることを思い出し、渋面になった。
 インデックスもひとつ頷く。

「だね。誘い出されてる。きっとここまでは敵の思惑通りに逃げ道を誘導されていて、この先には罠があるに違いないんだよ」

「マジかよ!」

「マジだよ」

 大きな碧眼が真っ直ぐに上条を見据える。

 罠なら引き返した方がいいだろうと後ろを振り向くが、路地の入口は燃え盛る炎に閉ざされていた。
 魔術的な作用のせいか壁のように高々と荒ぶる炎を、悠長に消している暇は無さそうだ。

 今まで振り返りはしなかったけれど、すべてこの調子だったのなら、どの道こちらに進むしかない。

「仮にステイルの『魔女狩りの王』クラスの魔術が仕込まれてるんだったら、それなりの大きな魔法陣が必要。
 この路地じゃちょっと狭すぎるかも。次に広めの場所があったらそこが怪しいんだよ」

「けどステイルって、ウチの寮の廊下で呼び出してなかったか?イノケンティウス。この通路と変わんないくらいの狭さだけど」

「とうま」

 インデックスの目が、驚いたように見開かれる。そこに微かな期待の色を見て、上条は申し訳なさげに苦笑した。


「ああ、えっと……ステイルにさ、聞いたんだ。……ごめんな」

 思い出したんじゃなくて、と言外に言えば、きれいな青緑色が揺れた。
 すぐに小さく笑う。「謝ることないよ」と上条に囁いた声は、ひどく優しかった。

 以前なら、ロシアに行く前なら、記憶にないことを悟られまいと必死に誤魔化しただろう。
 その度に、罪悪感と居心地の悪さを必死に飲み下していた。
 だが今は違う。インデックスとの始まりの記憶が手元にないのは、残念だけれど、ただそれだけだ。

「ステイルは天才なんだよ。普通のルーン文字は、同じ平面上に描かれなければ術が発動しない。
 でもステイルは床、壁、天井を一つの平面として扱うことが出来る。そんなの他に聞いたことがないんだよ」

「へー。すごいんだな、あいつ」

「現に今、大掛かりな魔術は発動してないでしょ。私の予想通りだと思っていいかも」

「このまま進んだらヤバいか?」

「多分ね。でも大きな魔術を発動させるには大きな魔力が必要だから、敢えて飛び込んで尻尾を掴む方法もあるよ」

 言った側から、薄暗い通路の先にポッカリと開けた場所が見えた。

 何のことはない、ビルの構造上の都合で出来た小さな空間。
 薄汚れた室外機やゴミが纏められた、普段ならば気にも止めないような。

「インデックス、あれ……!」

「間違いないんだよ、とうま!」


 魔術の気配を認めたのだろう、いつもは無邪気な碧眼が鋭く輝く。

 どうするの、といつものようにこちらを見詰める眼差しは、全幅の信頼に満ちていた。

 いつもなら、上条は死ぬ気で希望を探す。
 それほど良くもない回転を無理矢理上げて、自分の右手とインデックスの知識のみを手札に、何とか、何とか活路を見出す。

 自分しかいなかったから。
 インデックスには、上条しかいなかったから。


 今までは。


「大丈夫だ、インデックス」

 上条は笑って、ポケットから取り出したものを見せる。
 途端に、張り詰めていた碧眼が緩んだ。

 掌の中には、「通話中」と表示された携帯電話。

 先ほどからずっと繋げっぱなしだったことに、インデックスならすぐ気が付いただろう。

『いいから、そのまま進め』

 緊迫した場面にそぐわぬ落ち着いた、低い声。
 決して揺らがない、『最強』の。

 やり取りには数秒も掛かっていない。
 二人はスピードを緩めないまま、「罠」の空間に飛び込んだ。


 カッと真っ赤な炎が輝くのと、頭上からミサイルが落下したような衝撃が襲うのが、ほぼ同時。


 上条は思わず笑った。

 今や希望は探さずとも、この手の中にある。











 路地裏の一角に、閃光と爆音が炸裂した。

「……っ!!」

 インデックスは上条に抱き込まれたまま反射的に身を竦めるけれど、痛みなんか一欠片も感じない。
 ただ砂煙が視界一杯に広がって、何も見えなかった。だが恐れはない。
 
 狭い通路をほぼ真上に噴き上がった瓦礫が、遙か遠くにパラパラ落ちる音がする。

 1、2、3と癖で数をカウントしたところで、サァッと視界が晴れた。

 不自然で優しい風が、頬を撫でる。
 もういいぞ、と言われた気がして、インデックスはゆっくり背筋を延ばした。

 ほぼ同じタイミングで上条も身を起こし、何かを……誰かを探すように首を巡らせて、パッと嬉しそうに破顔する。
 釣られて笑ってしまいたくなるような、ひどく幸せそうな顔だった。


「一方通行!」


 アスファルトが吹き飛んで滅茶苦茶に穴の開いた地面、窓ガラスも割れて罅の入ったビル壁、爆撃されたような薄暗い路地に佇む白く細い姿。

 真っ白い髪も肌も、真っ赤な目もひどく眩しい。
 まるで光そのもののようだ、とインデックスはいつも思う。

 その強さも、上条と自分を一筋も傷つけなかった心遣いも、

「ありがとな、助かった」

 いとおしげにすら響く声に、少し気まずそうに眉を寄せる、恐がりな仕草も。






 上条がいつの間に一方通行に電話していたのか気付かなかったが、話そうとしたところに自分がルーン文字のことを切り出したらしい。

 そのまま通話を繋いでいれば状況をわかってくれるだろうと放置したら、期待以上の速度で駆けつけてくれた。

 インデックスが「罠」だと断じた空間では予想通り大魔術が発動したが、同時に上空から飛び込んで来た一方通行が全てを反射してしまったようだ。

「…………借りは、返したからな」

 上条から礼を渡され、散々視線をウロウロさせて挙げ句、仏頂面で低く返す。

「貸しとかねぇし。だから受け取りませーん」

「ンだと?」

「一緒に戦うっつったろ。俺がお前を助けるのも、お前が俺を助けるのも、当たり前のことだ」

「……じゃあ、何で」

「ん?」

「なら、礼も……いらねェだろ」

 珍しい揺らいだ声音で、言ってすぐに後悔したようにギュッと眉を寄せる。

 ふわふわした柔らかな戸惑いと、緩みそうな眉間を必死に堪えるような仕草に、インデックスは小さく笑った。
 ほぼ同じようなタイミングで、上条も声を上げて笑う。

「何言ってんだよ、それとこれは別だろ?」

「別って、何が」

「助かったし、お前が飛んできてくれて嬉しかったし」

「うん。私も、ありがとね、あくせられーた!」

 一方通行は再び渋面になる。
 数秒黙り込み、ふと白い指で携帯電話を耳元に当てた。


「土御門か」

 すると上条が「あ」と口を開き、一方通行はそれを見て再度手元を操作する。

『一方通行。大丈夫だ、今回の実行犯は捕らえた。
 魔力反応デカかったからな、バレバレだったよ』

「土御門!お前は大丈夫か!?」

 先ほどまで文句を言っていた友人の声に、上条は反射のように案じる言葉を掛ける。
 インデックスは、こういうところ大好きだなぁと思い、こっそりシャツの裾を握った。

『カミやんか!?おー、俺は大丈夫だ。悪かったな、今回のことは完全にこっちの失態だよ』

「こっちも大丈夫だし、気にすんなよ」

 上条はふとこちらに目をやり、笑って手を握ってくれる。
 インデックスは嬉しくなって、ギュムギュムと温かい手を握ったり離したりを繰り返した。

『気にするさ。有能な俺様の面目が丸潰れっていうかー』

「当然だ。何回失敗すりゃ気ィ済むンだよ無能」

『うッ、耳が痛いな……。まぁ、今回は返す言葉もないが』

「『今回も』の間違いだろ。もォいい、今日は俺がこいつら連れてくぞ」

『いいのか?なら任せた。けど、後で場所だけは教えてくれよ』

「っせェなわかってンよ」

『本当か?お前という奴は仕事外だといつも連絡が』

 ブチン、と忌々しげに通話を終了させ、一方通行は白い顔をこちらに向ける。

「行くぞ」

「ん……?どこに?」

「どこ行くの?」

 上条とインデックスは揃って首を傾げる。
 まったく同じような仕草になったのがおかしかったのか、少しだけ一方通行の口元が緩んだ。

 真冬のような雰囲気が解けて、柔らかな気配に自然と笑みが零れる。
 何笑ってるんだ、という顔が向けられたが、咎められはしなかった。


「俺の隠れ家。寮に戻ンのは危険だからな」

 上条の手を引っ張って一方通行の隣に並んで、白くて細い指をぎゅっと握りしめた。
 冷たい手。けれど、すぐに自分の温もりを移して暖まる。
 右手の上条の温もりが左手の一方通行に伝わったような気がして、ぽわぽわと胸の奥まで温かかった。

「隠れ家?急に行って迷惑じゃねぇか?寮に戻って無事な荷物だけでも……」

「アホが。むざむざ敵に見つかるようなことすンな」

 一方通行は一度だけチラリと手元を見下ろし、けれどそのままインデックスの好きにさせてくれた。

「急に行っても、当面の生活には困ンねェくれェの物資は揃えてある」

 狭い路地を、苦労して三人で並んで歩く。
 誰も文句は言わなかった。

「でも、全部お前に世話んなるのもなぁ……」

「はァ?」

 一方通行が訝しそうに赤い目を眇めるのに、インデックスはさもありなんと深く頷く。

「うーむ。とうまは意外とオトコの沽券に拘るタイプだからねー」

「はァ……?」

「だからー、お……人に生活の面倒全部見て貰うのは格好悪いってことかも」

 あっぶね!!女の子って言いかけちゃったよね!!!

 内心の冷や汗を押し隠してチラリと一方通行を見上げると、少年のような少女のような格好の人は、呆れた顔で鼻を鳴らした。


「は、バーカ。ンなこと言ってる場合かよ。いーから気にすンな」

「いやーでもなー。さすがに悪いだろ?」

「いーっつってンだろ鬱陶しィ。そンなに気になるンなら宿代替わりに炊事洗濯でもすりゃいい」

 ポンポンと頭上で言い合う様子を見て、特に変には思われていないようだと、ひっそり胸を撫で下ろす。

「え?自分で炊事洗濯くらいするに決まってるだろ」

「だァから俺の分も代わりにやれってことだよ」

「え………」

 ぎしっ、と上条が硬直する。

 インデックスと繋いだままだった温かな手も、あからさまに強張った。

「へ?あくせられーたの分って……あなたも一緒に住むの?」

 ビックリして白くて小さな顔を見上げると、「当然だろォが」と平坦な返事が降ってくる。

「土御門の監視を抜けて襲撃して来たンだ、どこに居ても安全とは言えねェ。
 先に狙われてンのは俺なら何とかなるかと思ってたが、そォも行かねェようだ。なら、一緒にいるのが一番安全だろ」

「え、あ、あー。あー……」

 滔々と説明する一方通行とは対照的に、上条は相槌のような呻き声のようなものを発して、半笑いのまま固まっている。
 頬は微かに赤いし、繋いだままの日に焼けた手には冷や汗が滲んで来ていた。

(とうま、テンパり過ぎなんだよ)

 思わず半眼のまま、ぎゅーっと力いっぱい右手を握り締めると、ようやくインデックスのヒーローは我に返ったようだ。


 わざとらしくとしか思えない咳払いを幾度か繰り返し、横目で隣の白い顔を伺う。

「一緒にいるのはいいんだけどさ……お前はいいのかよ。俺と……一緒に、住むんだぞ?」

 人に慣れない野生の狼のような、白い少女。
 その警戒心も不器用さも十分に理解しているであろう上条は、むしろ気遣うように眉を下げた。
 無理をさせているならかわいそうだと、そういう顔をしている。

(とうま……優しいのはステキだけど、そこは引いちゃダメなんだよ!!)

 間に挟まれて軽く眉を寄せるが、一応口は挟まないでおく。

「別に、構わない。今更オマエに、俺を殺すメリットなんざねェだろォしな」

「そーゆーこっちゃねーんだよ…………」

 怪訝そうにさらりと返され、上条は深々と溜息をついた。

 やたら疲れた風情をしているけど、一方通行の反応も無理はないとインデックスは思う。

 だってそもそも、上条は元々自分という「立派な少女」と同居しているのだ。
 ただでさえ色々と自覚が稀薄な一方通行なのに、上条が相手では「俺、女なのにコイツと同居して大丈夫かな?」などという発想に至るはずもない。

 でも、と一人で少し笑う。

「とうまと、あくせられーたと一緒かぁ。……すっごく楽しそうなんだよ!」

 狼は、群れで暮らす生き物だ。夫婦や家族の絆は、とても強い。
 そういうことだと思う。

「楽しんでる場合じゃねェンだぞクソガキ。自覚あンのかよ」

「あるに決まってるんだよ、私を誰だと思ってるのかな?
 でもね、追われてたって、明日死ぬかもしれなくたって、今日を楽しんじゃいけないって決まりはないんだから」

 満面の笑顔で見上げると、赤い目が驚いたように見開かれた。
 赤い、貴重な宝石のような色。いつも眇めているけれど、本当は大きな目をしている。

「あくせられーたと一緒にいていいの、久しぶりだね。
 とうまにもあくせられーたにもたくさん迷惑を掛けているのかもしれないけど、嬉しいって思うんだよ。ごめんね」

「……オマエが謝るこっちゃねェだろ」

 びしっ、と脳天に軽い手刀が落ちる。
 「いたっ」と反射的に言ってしまうけれど全然痛くない、一方通行のチョップは久しぶりだった。



「そーだぞインデックス。お前はなんも謝ることなんかしてねぇだろ?」

 今度はわしわしとちょっと乱暴な手つきで頭を撫でられた。
 左右から温かな手と、冷たい手が交互に触れて行って、「うん」とだけ相槌を打って、少し俯いた。

「だいたいなー、謝るくらいなら家事の一つでも覚えろー?……りょ、料理以外の」

 やけに慄いた口調で付け足された最後の言葉には解せないが、インデックスは二人の手を握ったまま、胸を張る。

「料理だって得意なんだよ!と、とうまが教えてくれれば」

「将来がメチャクチャ危ぶまれる台詞だな……」

 ビクッ、と全身が竦んでしまってから、「しまった」と我に返っても遅い。

 一方通行の言葉は普段通りの軽口で、大げさに反応する要素なんかどこにもなかったのに。

「インデックス?」

 案の定、上条が不思議そうにこちらを覗き込む。一方通行も少し不安げに見下ろしていた。

「あっ……」

 早く。早く何でもいいから言わなければ。早く、早く、笑顔で。
 そうしないと、変に思われる。

「あ、あはは!今すっごいビックリするくらいお腹減ってることに気付いちゃったかも!とうま、ごはん!!」

「もうちょっと我慢しろよ。今何もねぇよ」

 上条は納得したように笑ってくれた。
 助かった。相変わらず肝心なところで鈍いヒーローだ。

「…………インデックス?」

 だが、とインデックスはもう一人のヒーローの様子を伺う。
 一方通行は不安げな、探るような顔のままだ。そりゃそうだ、あれで誤魔化せるなど上条くらいだろう。
 しかも、自分の誤魔化し方は打ち止めと似ている。たった今自覚したが、もう遅い。

(どうしよう)

『将来』

 一方通行が、何気なく口にした単語。

 それは実は、インデックスにとっては恐怖の対象だった。

 イギリス清教『必要悪の教会』の秘匿、禁書目録。それが自分の存在を表す正確な単語。
 決してこんな極東の島国の片隅で、いつまでも安穏と暮らし続けられるはずがないと、わかっている。

 たった今上条の側に居られるのは、あくまでもただの成り行きと、いくつか掴み取った幸運の結果。

 それは例えば、イギリス清教最大主教の胸先三寸で、学園都市統括理事長のほんの気まぐれで、もしくはどこの陣営にも属さない第三者からのささいなきっかけで、脆く崩れ去るかもしれないのだった。

(とうまと、あとどれくらい一緒にいられるのかな)

 時折襲ってくる、ひどい焦燥。

 上条には知られてはいけない。知られれば、また苦労を掛けてしまう。

 インデックスのヒーローを、疑っているわけではないのだ。
 一緒にいたいと、とてもとても大切にしてくれる気持ちを、溢れるほどに注いでくれている。

 でも、いつまで?一年先はこのままだろうか。五年経ったら?十年先はきっととても難しい。

寝落ちしてしまったハハハ
あとでまたもうちょっと続き書きに来ます
重ね重ねご心配お掛けしてすいません
ちゃんと終わらせるから大丈夫

後でとか言ったな あれは嘘だ
はーすんません……
>>952の続き


 上条が打ち明けてくれた不安は、実はインデックスも密かに抱えるものと根元が同じだった。

 いつか、一緒に居られなくなるのではないか、そういう不安。

 ロシアで記憶がないと上条に聞いて、最初に思ったのは、そんなことはどうでもいい、ということ。
 口にも出したそれは何の偽りもない本心だった。
 出会ってから積み重ねた日々、手渡し手渡された思いこそが、一緒にいたい理由だったから。

 次に込み上げたのは、ただひたすらの感謝。
 上条は何も覚えていないのに、あんなに必死になってインデックスを守り続けてくれたのだから。

 そして最後にジワジワと湧いて来たのが、安堵だったのだ。

 上条も、いつまで二人でいられるのか、不安に思っていてくれた。
 インデックスと、同じように。

 実際のところ、上条があの『始まり』を覚えていたところで、二人の未来が保証されるワケではない。
 上条には何の義務も責任もないし、逆に何の権利もない。
 あれはもちろん、インデックスにとっても大切な大切な、人としての生の始まりに等しい出来事だけれど、
客観的に見れば単なるきっかけに過ぎないのだ。

 例えば、「お前達はいつまでそうしているつもりだ」と誰かに聞かれたなら、すぐさま脆さが露呈してしまうような。
 とてもとても曖昧な、上条と自分。

 これが恋人同士だったなら、話は単純だった。
 立場や境遇の違い、様々な困難を乗り越える、ありがちでわかりやすいラブロマンスだったはずだ。

 だが、自分達は恋人じゃない。
 そうなりたいとも互いに思っていないし、それはこの先も変わらないだろう。
 恋人ほどに不安定ではなく、友達よりも密度の濃い、この思いをどう表現すればいいのか。
 インデックスは長い間、密かに悩んでいた。

 けれど最近、その答えが出たような気がするのだ。

「インデックス?どォした」

 気遣わしげに見下ろす赤い目を、まっすぐに見上げる。
 きれいな色の目。
 大英帝国を動かす王族達にも負けない、気高くも聡明な眼差し。

 インデックスは一方通行と出会い、その大事な少女と並ぶ姿を見て、理解した。

 ああ、自分も上条と、こんな風にありたい、と。

 守られるだけかもしれないけれど、いつも笑って、帰って来る場所でありたい。
 一緒にいるのが当たり前で、ただひたすらに安心して、良く眠れて、明日への希望の糧となる。

 名前を付けるのなら、『家族』という関係。

 思えば上条は頼れる父のようであり、わがままを言える兄のようであり、時には守ってあげたくなる弟のようであった。
 インデックスにはとてもしっくり来たし、ずっと昔から探していた宝物を、やっと見つけたような気持ちになった。
 家族が欲しいと、想像ですら言葉にしたことはなかったけれど、心の奥底で憧れていたのだ。
 そう気付いたある冬の日の昼、少しだけ泣いた。

「何でもないんだよ。おなか空いたから、ご飯くれたらうれしいな!」

 インデックスはただ、心から満面の笑顔を浮かべた。

「さっきまで追っかけ回されてたってのに、お前はホント逞しいな~。
 言っとくけどそんな金ねぇぞ?」

 上条はしかつめらしい顔をして、けれど目が笑っている。
 いつもの会話、いつものやり取り。
 ああ、とうまと一緒にいるんだ、という安心感。


 家族、なんて。

 一方通行と打ち止めならともかく、そう年も変わらない、生きる世界も立場も違い過ぎる『禁書目録』と『幻想殺し』が。

 無理がある。
 いくらなんでも、無茶というものだ。

 将来、という自分達のような年頃の人間が何の気なしに口にする単語が、インデックスには怖い。

 いくら十万三千冊分の知識を持とうとも、未来のことはわからない。
 わからないということは、人類普遍の恐怖だ。

 けれど、これ以上何かを上条に求めるつもりはなかった。

 上条は、精一杯以上のことをしてくれている。
 溢れるほどの思いをくれる。大事に大事にされている。
 世界中探したって、自分ほどの幸せ者はそうはいない。

 ただ、何年か何十年か経って、この半年間だけを心の奥底に大事にしまって、生きていくのかもしれない。
 そういう覚悟だけを、ひっそり握りしめる。

「インデックス」

 静かな一方通行の声に、インデックスは少しだけ笑顔を強ばらせた。

「……ん?何かな、あくせられーた」

 失敗したなぁ、と思う。

 上条と違って、一方通行は聡い。
 いや好意のようなものには上条と同じく驚くほど鈍感だが、代わりに不安や怯えには敏感だった。

 いつも研ぎ済ませているからだろう、打ち止めのために。

「…………」

 じーっと赤い目が見下ろすので、インデックスは気合いを入れて笑顔を向ける。
 何か悟られただろうが、一方通行は心の奥に踏み入ることを躊躇う。
 こちらから話さなければ、敢えて触れて来ることはないだろう。
 いつもはとてももどかしく寂しい部分だけれど、今だけは助かったと。
 
 そんなことを思ってしまう自分がひどく厭わしい。とんだシスターもいたものだと恥ずかしくなる。
 もっと強くならなければならなかった。
 上条が全身全霊を掛けて守ってくれる姿に、恥じないような。

 ふと白い細い指が伸びて、頬を引っ張られた。

「ふみゅっ?ふぁにふうんらお!」

「ブッサイクな顔して笑ってンじゃねーよ」

「こら一方通行。インデックスも一応女の子なんだからそんな言い方ダメだろー?」

「ひひおーっへふぁんふぁんあお!!」

「すごい伸びるな……ガキだからか?ウチのガキもすげェ伸びるし」

「はは、インデックスってほっぺた柔らかいよな」

 不意に指が離されて、ぽよんと頬の肉が戻る。

「うーーッ……!あくせられーたのばか!!」



 ジンジン痛む頬を抑え、全身の毛を逆立てる勢いで抗議するが、いなすようにぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。
 子猫でもあしらうような仕草で、冷たい手の感触は意外と優しくて、憮然と黙り込む。
 すると上条もぽんぽんと背中を宥めるように叩き、顔が勝手に緩んでしまった。

「なァ、上条」

「んー?」

「オマエって『将来』どォすんの?」

 びくっ、とまた肩が震えてしまう。

 誤魔化せたと思ったタイミングの不意打ちに瞠目すれば、白い顔が意地悪そうに笑って見下ろしていた。
 「してやったり」とでも言いたげな表情に、茫然としてしまう。

(あくせられーた、どうして)

 一方通行は優しい。
 自己評価も客観的評価も知らない、自分には最初からずっと優しかった。
 意地悪だって他愛ないじゃれ合いで、本当にひどいことをされたことなんて一度もないし、想像すらできなかったのに。

「将来って?高校卒業した後とかのことか?」

 呑気な上条の言葉。
 聞き慣れた声に背筋が冷えて、インデックスはじわじわと俯いた。

「ンー、まァ」

「お前はどうするんだ?一方通行」

「はァ?質問に質問で返すなバァカ」

「いいじゃねーか、気になるんだもんよ」

「…………研究者」

 真っ直ぐで何の照れもない上条らしい言葉に、ものすごく嫌そうな声が、それでもぼそりと答えを返した。
 きっとあの整った顔を盛大に歪めているのだろう。

「へぇ。何の?」

「生物学、化学、医学系。臨床もやる」

「りんしょー、って何だっけ?」

「はァ……。内科とか外科とか、直接患者に対処して治療もするってこった」

「え、それってお医者さんってことか?すげーな、一方通行」

 率直に感心した上条の声音に後押しされて、インデックスはそうっと顔を上げた。

 一方通行は正面を見ている。迷いのない赤い目。
 繊細な作りの横顔が、路地に差し込む光に白く縁取られていた。

「別にすごかねェだろ。まだ何もしてねェし」

「決めてるってだけですげーよ。お前なら絶対すごい研究者になるだろうしな」

「当然だ」

 気負いのない、誇り高い眼差しだ。
 きっと随分前に決めていたのだろうと、思わせる。

「で、オマエは?」

 さっさと言え、と赤い目が上条を見る。鋭い目付きを何の気なしに受け止め、少し首を傾げた。

「俺?うん。そうだなぁ……」

 一方通行を見ていた黒い目が急にこちらを見下ろして、インデックスはもう少しで悲鳴をあげるところだ。

「インデックス、お前はどうなんだ?」

「……っ」

 曇りのない、大好きな笑顔を向けられ、足元に穴が空いた気がした。



 もしかして、上条は思ってしまったのだろうか。
 今のままでいるわけにはいかないとか、そういうとても常識的な、真っ当な現状認識をしてしまったのか。

 そんな。まだ、私はとうまと。あくせられーたと、みんなと。

 まだ、待ってほしい、もう少しだけ。

「わ、私は……」

 あんまり考えてないかな。お腹いっぱい食べられたらとりあえず満足かも!
 そんな風に誤魔化しを口に仕掛けて、唇を噛む。

 上条に嘘はつきたくない。一方通行にも。
 
 インデックスは修道服の裾を握り締めた。安全ピンの感触が掌に刺さる。

 いつだったか、随分前、上条に「新しい服買ってやろうか」と言われたことがあったと、手元に返す。
 断ったのは自分だ。シスターは質素倹約の生き物だから、とか、そんなお金があったらご飯、とか、返したけれど。

 手放したくなかった。この服は、自分と上条が出会った証。
 これを着ている限り、自分は上条の側に居てもいいような気がしていた。思い込みだとわかっていても。

(とうま)

 目の奥が熱く痛む。

 それでも、顔を上げて笑った。



「私は、イギリスで陛下を支えたいと思うんだよ」



 上条に嘘はつかない。

 たった今握り締めた覚悟に恥じぬよう、震えそうになる声を必死に堪えた。

 イギリス清教『必要悪の教会』所属、魔術師「Index-Librorum-Prohibitorum」。
 例え記憶がなかったとしても、インデックスは英国人だ。
 そう思えるようになったのは、以前英国での事件に関わり、女王エリザードの人柄に触れたことがきっかけだった。
 豪胆で鷹揚な人柄。大きな責務を負い、それでも国民のために邁進する姿を見て、感銘を受けない者などいないだろう。

 どうして自分ばかり、と思ったことがなかったとは言えない。
 けれど陛下を間近で見て、自分にしかできないことがあるのかもしれないと思えた。
 役に立ちたいと、思ったのだった。

「だから、だからね、とうま……」

 この選択は、上条との別れを意味する。

 けれど後悔はしないし、撤回もしない。
 インデックスが陛下を助けたいと思えたのは、上条の姿を見て来たからだ。
 誰かを助けるためにいつも必死で、「助けたいから助ける」と笑う上条が、インデックスにくれた沢山の大切の一つ。

(言っちゃった)

 今すぐ、ということはないだろう。
 何だかまたややこしいことになっていそうだし、科学側と魔術側の駆け引きやパワーバランスもある。
 しかしそう遠くない未来、確実に、イギリスに行く。いや、『戻る』。

 いつか、こんな時が来ると思っていた。予想より少し、早かったけれど。



 じわりと視界が滲む。だめだ、泣くな、と必死に喉奥にこみ上げる熱い塊を飲み下した。



「おー、やっぱそうか。英語の勉強続けといて正解だったなー俺」



 だが、嬉しそうなような能天気な声が降って来て、ぽかんと口を開けてしまう。

「…………へ?」

 思わず間の抜けた声を漏らし、ぱちぱちと何度も瞬きをする。

「半年くらい結構頑張ったからな、日常会話位はな、何とか。お前『必要悪の教会』所属なんだよな?
 やっぱイギリス行ってもそのまんまか?」

「へあ?あ、う、うん」

「『必要悪の教会』ってさー、無能力者でも雇ってくれんのかなぁ?」

「と、とうまは特別だし、えと、確か、スカウトされて来る部外者もいたかも」

「あ、そうなの?神裂とかステイルに頼めば何とかなりそうか?」

「え!?」

「ん?」

 どうしたインデックス、という顔で上条がこちらを見下ろす。

 インデックスは何度か口をパクパクさせ、しばらくしてようやく声を絞り出す。

「とうま……。わ、私と一緒に、イギリスに来てくれるつもりなの?」

 信じられない。そんな、そんな都合の良いこと。
 みっともなく掠れてしまって、「そりゃもちろん」と続けた上条が悲しげに表情を曇らせる。

「……もしかして、無理そうなのか?」

「ち、ちがう、そうじゃないんだよ、ただ、とうま、とうま……」

 唇が震えた。全身も震えていて、ぎゅっと上条の服の手を握り締める。
 いつもの通り、温かい手だ。

「とうま」

 この手と離れなくて済むのだろうかと思ったら、勝手に涙が零れた。

「う、うわ!?どどど、どうしたインデックス!!」

 ぎょっと飛び上がった上条が、泡を食ってオロオロする。
 繋いだままだった手を、小さな子にするようにゆらゆらさせて、頭を撫でられた。

「はァ……。オマエさ、今までそォいう先の話をインデックスに言ったこと、あったのかよ」

 黙って見ていた一方通行が、呆れた口調で目を眇める。
 インデックスは率直過ぎる指摘に焦ったが、何を言えばいいのかわからない。

「え?あー、そういやないかも。って、あ、インデックス……」

 急に申し訳なさげに頭を掻いて、上条はまたインデックスの頭を撫でた。

「ごめんな。もしかして、不安にさせてたのか」

「ち、違うんだよ!とうまは何も悪くないよ、とうまは」

「いや、俺が悪いだろ。気付かなくてごめん。そういえば、こういう話したことなかったなぁ……」


 静かに呟いて、足を止める。
 上条は一度一方通行の顔を見た後にインデックスに向き直って、表情を引き締めた。

 背の高いビルに挟まれた、狭くて暗い路地裏。それでも上から日が射し込んでいる。
 真っ黒な目は輝いて、きれいだった。

「インデックス。俺はお前を守りたいし、助けたいよ。いつでも笑顔でいられるように、すっと側にいる。約束だ」

「とうま」

 止まりかけていた涙が、一気に溢れて零れた。
 指先まで震えて、胸が痛いほどに熱い。

『私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?』

 出会った日、冗談のように口にした、縋るような本音。
 誰かに助けてほしかった、けれどそんな人が現れるはずはないと諦めていた。

 上条はついて来てくれるとは言わなかった。

 ただ、地獄から引き上げて、光に満ちた世界に連れて来てくれた。

 あの日のことを、覚えていないはずだ。
 だが上条はいつもいつも、インデックスを助けてくれる。

 誰よりも強くて頼りになる、優しいヒーローだ。

「とうま、とうま、あ、ありが、とう……っ、ふ、ぅぐ」

「うん」

 一生懸命手を握り返せば、また強く握り締められた。
 必死に涙を止めようとして、変な声が漏れる。目の前の顔が苦笑して、「泣くなよ」と涙を拭ってくれた。

「悪かった。もっと先の話くらい、しとけばよかったな」

「う、ううん、そんなことない、とうまはずっと私を大事にしてくれてたよ」

「でも不安だったんだろ?……ありがとな、一方通行」

 黙って見守ってくれるもう一人のヒーローに、優しい笑顔を向ける。

「は、オマエが鈍いののツケをインデックスが払うってのも変だしな」

 細い肩を竦めて皮肉げに言うけれど、声音に棘はない。

「それもだけどさ、お前と打ち止め見て、俺とインデックスもこんな風にいられたらなぁってずっと思ってたんだよ。
 あとさっきの話聞いて」

 インデックスは目を見開いた。上条も同じだったのだ。

「さっき?って将来がどォとかいうやつか」

「ああ。お前が研究者兼医者になるっての、打ち止めとか『妹達』のためだろ?」

「…………」

 迷いのない断言に、一方通行は苦虫を噛み潰したような顔で押し黙る。
 その辺のチンピラなら裸足で逃げ出しそうな表情にも、上条はひどく嬉しそうに笑った。

「俺もお前みたいに、将来はインデックスのために何かしようって思った。
 お前はいつも俺に勇気をくれるよ、一方通行」

 赤い目が揺らいで、一瞬泣き出しそうな顔になる。
 少し俯いてしまえば頼りない少女にしか見えなくて、インデックスは焦ってしまった。

「一方通行?」

 上条は不思議そうだ。

「……バカが。そンなもンは、こっちの……」

 微かに呟きかけた言葉を途中で断ち切って、一方通行は顔を上げた。
 既にいつもの涼しげな仏頂面で、「トロトロしてねェで行くぞ」とさっさと歩き出す。


「なぁ一方通行。俺達がイギリス行ったら、お前も来いよ」

 すぐにその背に並んだ上条が、ひょいとその白い顔を覗き込む。

「はァ?何で俺がンなアウェーに行かなきゃなンねェンだ」

「だってお前いないと寂しいじゃん。なぁ?インデックス」

「うん、すごく寂しい!!」

 にこにこしながら力いっぱい頷けば、素直な反応に弱い一方通行がじんわりと眉を顰める。

「アホ。俺は研究者になるって言っただろォが。学園都市に留まるのが一番に決まってンだろ」

「今は、だろ?確かに今はそうかもしれないけど、未来のことはわかんねぇじゃん。
 まーお前が会いに来てくれんならそれでもいいけどさ」

 未来のこと。
 そう、これは未来の話。

 インデックスはまた浮かびそうになった涙を、何度か瞬きして誤魔化した。
 上条と一方通行の間で、顔を真っ直ぐ上げて前を向く。

「何で俺がわざわざオマエに会いに行かなきゃなンねェンだよ」

「俺もインデックスもお前に会いたいからに決まってるだろ」

「ならオマエが来いクソボケ」

「行ってもいいのか?」

 パッと上条の顔が輝いて、一方通行が言葉に詰まる。
 インデックスは思わず吹き出して、クスクス笑った。

「とうまの勝ち!」

 路地の出口が近かった。光が射して、明るさが増していく。









今日はここまでで
つか前回この辺までやるつもりだったんで中途半端に短くてごめん

次スレ立てたらここに貼ります
また見に来てくれると嬉しい

次スレ立てました
次スレにもよかったら来てください

一方「だが上条、オマエには……『一方通行』と呼んでほしい」
一方「だが上条、オマエには……『一方通行』と呼んでほしい」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1371971870/)

残りは適当に埋めてくれると助かります
こないだのレールガンに出てきた一方通行イケメンかわい過ぎて死んだ

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