結標「私は結標淡希。記憶喪失です」 (841)



1スレ目
一方通行「バカみてェな三下を顔面パンチしたら記憶喪失になった」
2スレ目
結標「何でコイツと同じクラスなのよ!?」一方通行「それはコッチのセリフだ」
3スレ目
一方通行「もォ今年も終わりか」結標「何だかあっという間よね……」
4スレ目
結標「わ、私が……」一方通行「超能力者(レベル5)だとォ!?」
結標「わ、私が……」一方通行「超能力者(レベル5)だとォ!?」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1363437362/)

スレタイ通りあわきんが記憶喪失になってる、一方さんとあわきんコンビのラブコメ?です

※注意事項

>>1の勝手な想像で物語が進むので、設定改変・キャラ崩壊・ご都合主義しかない

新約11巻くらいまでで止まってる知識

基本台本形式

週一更新できるといいね


もうオワコンかもしれないけどシコシコやっていくわ





SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1625323149



風が吹き荒れる中、二人の能力者が相対していた。



一人は少年だった。

触れたら折れてしまいそうな華奢な体。
透き通るような白い肌を持ち、肩まで伸ばした髪の毛は、それに同調するよう黒をそのまま脱色させたような白色をしていた。
中性的な顔立ちからして、知らない人間が見れば白人の女性と見間違える人がいてもおかしくないだろう。
全体的に白で統一された容姿だが、瞳は真紅に輝いていて、彼の圧倒的存在感を助長させていた。


一人は少女だった。

腰まで伸びる長い赤髪を二つに束ねて背中に流している、歳相応の顔付き、体付きをした至って普通の少女、いや、至って普通と形容するのは間違えだと感じる。
彼女の右手には軍用懐中電灯という、その姿に似付かわしくない物が握られているからだ。
警棒を兼ねることが出来るそれは使い方によっては凶器にもなるようなもの。
そのような暴力を、まるで手に馴染んだシャーペンを気軽さに持っているかのように、手に持っているからなおさらである。


「――つーかよォ」


白い少年が呆れた様子で口を開いた。


「オマエみてェな格下がこの俺に楯突こォなンざ、本当に面白れェ話だよなァ? ホント馬鹿みてェなヤツだなオマエって女はよォ」


「…………ふふっ」


神経を逆撫でするような言葉を受けても少女は特に気にする様子もなく、不敵に笑う。


「そんなこと言っちゃってもいいのかしら? 今の貴方の置かれてる状況っていうのはお分かり?」


「あァ? 何言ってンだオマエ?」


「……やっぱり分かっていないようね。本当に理解できるような人なら、普通貴方みたいな口答え出来ないはずだもの」


一呼吸を置き、少女は勉強を楽観視する成績不振の生徒へ現実を告げる教師のような口調で語りかける。


「最初はお互いたくさんの仲間達がいたわ。もちろん貴方にも、一人一人が頼もしくて力になってくれるような仲間がいたわけよ。……でもその頼りになる貴方の仲間たちは次第に数が減っていった。一人減ってはまた一人、って具合にね」


手持ち無沙汰になったほうの手で、軍用懐中電灯を適当に触りながら少女は続ける。


「それに比べて私たちは誰一人欠けていないわ。当たり前よね。そういう風になることは、最初から誰もが分かっていたことなのだから。これはそういうものなんだって」


「…………」


少年は特に反論もすることなく少女の方へ顔を向けていた。


「……つまりは多勢に無勢、いや、そういうレベルを明らかに超えてる絶望的な状況……そうね。まさしく貴方は今絶体絶命の状況へ陥っているってわけ」


少女が言った多勢というのは嘘でも妄言でもない。たしかに彼女の周りにはたくさんの人影があった。
その人影は獲物を逃がすまいと少年を取り囲むようにと広がっている。
絶体絶命。彼女が言ったように少年は端から見ればそういう状況にある。




少女の言葉を聞いた少年は、周りの人影をぐるりと見渡した。
そして、


「…………ぎゃはっ」


笑った。泣くこともなく、驚くこともなく、怒ることもなければ絶望することなく。
少年はただ、不気味な笑みを浮かべて笑った。


「ったく、グダグダと何を話すつもりなのかと思ったがただの状況説明かよ、くっだらねェ」


少年は呆れながらため息をつき、続ける。


「たしかに俺は一人だ。仲間と言えるよォなヤツらがいたことも事実だ。オマエにはたくさんの仲間っつゥのがいるってのも現実だ。だけどよォ、違うンだよなァ……オマエは根本的な部分を間違ってンだよ」


「間違っている……? 一体どこを間違っているというのかしら?」


「その考え方だよ」


頭をクシャクシャと掻きながら少年は続ける。


「状況的に考えりゃオマエは有利な状況にあるだろォよ。誰が見てもそれは明白だ。これを見てどっちが勝つか賭けようぜ、って話になったら大穴狙いの馬鹿以外は全員オマエが勝つって方にベットするってぐれェ圧倒的な有利だ」


彼が言っていることはまさしくその通りだ。
例えるなら将棋で全ての駒が揃っている万全な状態と、王将以外の駒全て落とされた危機的な状態、パッと見てどちらが勝つでしょうと言われているようなものである。
大多数の人間は数が多い方が勝つと予想するだろう。それが将棋のルールを詳しく知らない人でもだ。
それくらい当然のことを彼は言っている。


「じゃあ有利、っつゥのは何だ? オマエらに勝ち筋が出てくるっつゥことか? 場の勢いってのがソッチに流れるっつゥことか? ……いや、もっと単純に言ってやる。オマエ自身が強くなるっつゥことか?」


「……そうね。流れってのは結構あると思うわよ。スポーツだってプロの世界もアマの世界も必ず流れがある方が勝つわ。格下が格上に勝ったって事例結構聞くけど、結局それは格下側に流れがあったに過ぎないわ」


「そォだな。オマエの言ってることは本当に間違ってねェ、至極真っ当なことだ。だからこそ違うンだよ」


首を左右に揺らしポキポキと音を鳴らしながら少年は指摘する。


「たとえ流れっつゥのが全部オマエ側にあるとして、オマエが人生の中で最高潮といえる場面で、最高の力を発揮できる最強の状態にあったとしてもよォ――」


少年の呆れた表情が一変し、口元を引き裂くような笑みを浮かべた。



「別にこの俺が弱くなったわけじゃねェだろォが!! どンな状況だろォと覆らないその根本的な部分をわかってねェンだよオマエはッ!!」



「…………そうね。貴方の言うとおりかもしれないわ」


少年の咆哮を受けて少女は肯定する、が。


「でも勝負ごとにはもしかしたら、ってことがあるのよ? 全部が全部、貴方の言うようになるとは思わないことね」


その瞳には敗北の色など一つも見えていなかった。


「チッ、くだらねェ。奇跡なンてモン崇拝したところで何も変わンねェってこと、この俺が分からせてやるよ」






両者が身構える。瞬間、音を上げながら吹き荒れていた風が止んだ。
まるで二人の威圧に怖気付いたかのように。
数秒間、両者の睨み合いが続いた。二人の口が一斉に開く。


「「…………勝つのは――」」


少年と少女の姿が一瞬にして消えた。




































一方通行・結標「「――俺(私)たちドロボウ(ケイサツ)だッ(よッ)!!」」









シュバッ! バッ! ドッ! ズァン!!


吹寄「……何ていうか、別格、よね?」

姫神「うん。私たちがあの二人に割って入るなんて。逆立ちしても無理」

青ピ「これもはやケイドロやないやろ。もうこれただのドラゴンボールやん。出たり消えたりまさしくヤムチャ視点ですやん」

土御門「なぁにカミやんなら余裕で付いていけるだろ。さぁカミやん、ゴー・トゥ・ヘル!」

上条「付いていけるかッ!! そもそも俺からしたらアレはヤムチャ視点どころじゃねえからな? 戦闘力5のおっさん視点だぞ舐めるな!」

青ピ「またまた謙遜しちゃってー、チャパ王クラスの力はあるんでしょー?」

上条「誰だよそれ!? つーか絶対そいつヤムチャより弱いポジションのキャラだろ!? 結局駄目じゃねーかよ!」

吹寄「ちょっとうるさいわよドロボウども!! 捕まったんだから円の中で大人しくしときなさい!!」

上条・土御門・青ピ「「「はーい」」」

姫神「……でも。青髪君が言ってることもよく分かる」

青ピ「おおっヒメやんの同意をいただいたっ!? これはアレですわ、ヒメやんルート確定のフラグが……!」

土御門「そのフラグ差す穴、すでにセメントか何かで埋め立てられてないかにゃ―?」

姫神「いつも通りの日常だったら。何てことないことで笑い合えるような。私たちと何も変わらない感じだけど。『能力有りケイドロ』みたいな『能力』が関わるだけで距離を感じるというか……別人みたく感じる」

上条「そうか? 別に何も変わらないと思うけど? 一方通行は一方通行、結標は結標だろ?」

吹寄「たしかにそうだけど、別人みたいってのは分かるわ。だって――」


一方通行「あはっ、ぎゃはっ! オイオイ遅せェ遅せェぞ格下ァ!? せっかくハンデで反射切ってやってンのによォ、そンなンじゃ百年経っても追い付きゃしねェぞォ!!」

結標「ぐっ、今に見てなさい……すぐに取っ捕まえてその格下呼ばわり辞めさせてやるわよ!!」


吹寄「二人とも、何というか楽しそうに笑ってる気がするわ。あたしたちと一緒のときとはまた別のベクトルの笑顔」

青ピ「まあアクセラちゃんに限っては同意や。能力使ってるときの笑顔はホント恐怖を覚えるわ」

上条「そりゃお前がいつも馬鹿やってアイツ怒らせてるからだろ」

吹寄「ま、だからと言って別に何かが変わるわけじゃないんだけどね」

姫神「そうだね。何も変わらない」

土御門「…………」

上条「どうした土御門? そんなシリアスな顔して?」

土御門「いや、別に何でもないんだぜい。てか何だよシリアスな表情って? そんなものこんな状況でするわけないにゃー」

青ピ「つっちーがシリアスぅ? あはははははっ、なにそれすごぉ似合わなさそうやなー!」

土御門「……よーし、あとでシリアスごっこしようか。タイトルは『突然の仲間の死』。もちろん死人役はお前だ青髪ピアス」

青ピ「ぎゃあああああああああああああっ!! 土御門君がシリアスな顔で手の骨パキポキ言わせとるぅー!? ヘルプカミやん!!」

上条「大人しく死人役になればいいんじゃないかな?」

青ピ「誰にでも手を差し伸べることに定評があるヒーローに見捨てられたっ!? 話が違うでカミやん!!」

上条「誰だよそんな評価してるヤツ」

吹寄「どうでもいいけどあんまり暴れるんじゃないわよ。今はケイドロ中だから」

姫神「と言っても。もうすぐ終わる時間」

土御門「さて、超能力者(レベル5)の第一位(首位)と第八位(最下位)が本気でやり合ったらどちらが勝つのか、って言っても考えるまでもないかにゃー」


―――
――





1.上条当麻補習回避大作戦


February Third Friday 15:40 ~帰りHR前休み時間~

-とある高校・一年七組教室-



ワイワイガヤガヤ



結標「――だーかーらー、あれは絶対に触れてたわよ! だから私の勝ちよ!」

一方通行「あァ? 何言ってンだオマエ? 指の神経ついにイカれちまったンじゃねェの?」

結標「いやたしかにあれはタッチ出来てたわよ! 未だに指に感覚が残ってるし……」

一方通行「一瞬でも俺を出し抜けられた喜びが大きすぎて、脳内で有りもしない感覚を勝手に生み出したってだけの話だろ」

結標「ぐ、ぐぬぬ……絶対、絶対触れてたわよ……」

一方通行「いつまでもよく分からねェ勝敗に拘りやがって。ガキかなンかなのかオマエは?」

吹寄「そこで気を使って勝利を譲ってあげないあなたも十分子供だと思うけど?」

一方通行「ハァ? 何言っちゃってくれてンですかねェこのアマは? アレはどォ考えたって俺の勝ちだろォが」

吹寄「ほらっ、やっぱり子供」

一方通行「……チッ、うぜェ」

姫神「拗ねてる……やっぱり子供?」

一方通行「子供じゃねェ!」

土御門「まあ別にいいんじゃないか? あれは正直どっちが勝ったって言ってもおかしくないくらいギリギリ限界の勝負だったぜい」

青ピ「せやなぁ、まさしく紙一重ってヤツやったな」

上条「たしかにな。実際の勝敗はどっちなのか分かんねえけど、最後はお前に届くか届かないかのところまで追い詰めたのは事実なんだ。そこだけは認めてやってもいいんじゃねえか?」

結標「上条君……」

青ピ「あっ、カミやんがまた一級建築士の力を遺憾なく発揮しようとしとる!」

吹寄「上条当麻……貴様……!」

上条「あれ? 何かよく分からない理不尽がそこにある気がするぞ!?」

一方通行「……いや、別に俺は別に結標の実力を認めてないわけじゃねェよ。俺の移動する位置を完璧に予測してそこに飛んできたわけだからな」

結標「そ、そうなんだ……ちゃ、ちゃんと認めてはくれてたのね……」

一方通行「だが俺が勝ったっつゥ事実は揺るぎ無ェけどな」

結標「……はぁ、わかったわよ。今回は貴方の勝ちよ。もともと触れたか触れてないかなんて曖昧なことをせずに腕を鷲掴みとかにしとけばよかった話だし」

青ピ「どちらが大人か子供かひと目で分かる瞬間やったな」

一方通行「今すぐ捻り潰してやるよオマエ」ニヤァ

青ピ「で、出たッ! アクセラちゃんのデススマイルや! ボクの寿命がマッハで縮んでいくぅ!!」


ガラララ


小萌「はいはーい! 皆さん帰りのホームルームを始めたいと思いますのでとっとと席に着いちゃってくださーい!」


青ピ「よっしゃ天使降臨や! アクセラちゃんに削られた寿命を一瞬でベホマズン!!」

上条「無駄にMP消費させてんじゃねえよ、ホイミでいいだろホイミで」

一方通行「チッ、うっとォしい……」




小萌「――ええと、来週から三学期の勉学を締めくくる期末考査が始まりますが、皆さんテスト勉強はバッチリ出来ているでしょうかー?」


<ナ、ナンダッテー!! <そ、そんな理不尽なことがあるっていうの!? <ああ神よ…… <ふっ、楽しい人生だったぜ……


結標「……あっ、そういえばそんなのあったわね。すっかり忘れてたわ」

一方通行「くだらねェ」

結標「クラスが阿鼻叫喚状態だけど貴方は相変わらず余裕そうね」

一方通行「そりゃそォだろ。俺はそンなどォでもイイテスト如きでうろたえるよォな馬鹿じゃねェよ」

結標「前の期末テストでひどい点数を取ってしまって、冬休みの半分を補習で過ごした一方通行様のセリフじゃないわよね?」

一方通行「そンな記憶、脳みそから刹那で消え去った」

結標「随分と都合のいい脳みそね……」

一方通行「つゥかよォ、まず心配すべきなのは俺じゃなくてアイツだろォがよ」

結標「アイツ……?」


上条「……完ッ……全ッに、わ・す・れ・て・た……!」ガクリ


結標「あっ……、そういえば上条君も補習メンバーの一人だったわね」

一方通行「補習レギュラー言われてるくらいだ。今回もあえなく撃沈して惨めな補習ライフを受けるンだろォな」

結標「……まあ、たしかにただでさえ短い春休みを根こそぎ持っていかれるわけだから惨めと言ったら惨めよね」


小萌「――そういうわけなので、皆さんしっかりテスト勉強をしてから本番に望んでくださいねー」

小萌「あ、あともちろん赤点なんて取ったら問答無用で補習ですからねー。というわけで春休み中の予定は空けといてくださいね上条ちゃん?」


上条「何か既に俺の補習確定してるみたいな口ぶりなんだけど!? まだ戦いは始まってすらいないのに!?」

土御門「そりゃカミやんはこの一年間全ての補習に参加した、不名誉な皆勤賞受賞候補者だからにゃー。もはや補習回避する未来のほうが考えられないぜい!」

青ピ「カミやんが補習を回避するとき、すなわちそれは学園都市が崩壊を起こすときやで!」

小萌「あっ、ちなみに今回のテストはどの教科の先生も難しめに作ると言ってましたので、土御門ちゃんや青髪ちゃん、その他諸々の皆さんも勉強頑張ってくださいねー」

青ピ「なっ、何やって……? 何でこんな時に限って本気出してんここの教師陣……? 人から休日を奪う気満々じゃないですかやだー!!」

土御門「糞ッ! 迂闊だった! 前回のテストがチョロかったから今回も余裕だと思っていたのに……! あの難易度の低さは年末だったからか!!」

上条「…………小萌先生ッ!!」

小萌「!? は、はい何ですか上条ちゃん!?」ビクッ

上条「いいぜ、テメェが俺の春休みが補習で潰れるなんて本当に思っているんなら……、ますはその幻想をぶち――」



ゴッ!!



上条「ころふぁっ!?」

吹寄「先生をテメェ呼ばわりしてるんじゃないわよ!! この馬鹿者がッ!!」

結標「……し、締まらないわね」

一方通行「つゥか、幻想じゃねェからあの右手じゃ壊せねェだろ……」


―――
――





同日 16:00

-とある高校・一年七組教室-



上条「――というわけで俺に勉強を教えて下さい!! 神様仏様第一位様ッ!!」



一方通行「ハァ? 何で俺がそンなことしなきゃいけねェンだよ? つゥか月詠に啖呵を切ろォとしたヤツのセリフとは思えねェよなァ」

上条「そこを何とか頼んます!! お願いしますよアクセラえもーん!!」

一方通行「ぶっ殺されてェのかオマエはァ!?」

上条「マジお願いッ!! このとおーり!!」ドゲザ

一方通行「何だこのヒーロー!? プライドの欠片もねェ!?」

結標「……別にいいじゃない。教えてあげれば?」

一方通行「面倒臭せェ。つゥか、コイツ端から自分のチカラで切り抜ける気ねェから気に入らねェ」

吹寄「たしかにアクセラの言うとおりにね。普段からきちんと勉強してたらこういう自体には普通陥らないもの」

姫神「自業自得。というやつ」

上条「……ようするに自分で勉強して切り抜けろ、と?」

青ピ「せやな」

土御門「そうだぜいカミやん。もしかしたらアクセラちゃんに教わるよりは自分で頑張ったほうが赤点回避率上がるかもしれないぜい」

一方通行「あァ? そりゃどォいう意味だ土御門クン?」ピキッ

土御門「アクセラちゃんの頭は理数系を全て百点を取るという素晴らしいものだけど、同時に文系の教科は悲惨な結果を生み出してしまう、残念なものでもあるんですたい」

一方通行「誰の頭が残念だってェ!?」ピキピキ

結標「まあまあ落ち着きなさいよ。現代文で残念な点数だったのは事実だからしょうがないじゃない」

一方通行「そンな記憶はまったくないンだけどよォ」

結標「そのセリフを言うたびに、どんどん残念になっていくような気がしてならないんだけど……」

土御門「ま、そういうわけで国語の能力が低いアクセラちゃんに教わるくらいなら、素直に教科書見てたほうが能率が上がるかもって話だにゃー。ようするに頼む相手を間違ってるって話」

青ピ「そうやでカミやん。大人しく成績優秀な女子連中に頼みぃ」

上条「……うーん、でも別にそんなお前らが言うようなヤツじゃねえけどな一方通行。前に冬休みの宿題見てもらったときもわかりやすく解説してくれたし……理数系限定だったけど」

一方通行「どちらにしろそれじゃ理数系しか点数取れねェじゃねェか」

吹寄「あっ、ついにあの黒歴史を認めた」

姫神「これも一種の成長?」

一方通行「成長もクソもねェよ。文系の科目は教えンのが面倒なだけだ」

青ピ「何言うとんアクセラちゃん。単に分からないから教えられなぎゃああああああああベクトル操作で髪引っ張るのやめ、禿げ、禿げちゃううううううううう!!」




一方通行「そォいうわけで他ァ当たるンだな。俺以外に適任者がいンだろ、このアホが言うみてェにそこの女三人」

吹寄「そんなこと言われてもこっちも勉強しなくちゃだし、上条当麻を全教科赤点回避出来るまで仕上げてたら自分の足を掬うわ」

姫神「手伝ってはあげたいけど。今回は私も少し余裕がない」

結標「私は別にいいわよ。最終調整なんて前日にぱぱっとやれば大丈夫だし」

吹寄「さ、さすがレベル5。言ってることはただの一夜漬けと意味は変わらないんだけど、余裕感のようなものを感じるわ……」

一方通行「じゃ、決まりだな。勉強はコイツに見てもらえ。よかったな、心強い先生が見つかって」

上条「お、おう。よろしく頼むよ結標」

結標「ええ、任せて。必ず補習回避させてあげるわ!」

青ピ「だったらせんせー! ボクも今回デッドゾーンなんで勉強教えてくらさーい!!」

土御門「にゃー! オレもオレもー!! このままじゃ貴重な休日を地獄のような補習で潰されてしまうんだぜい!!」

結標「え、えっと、さすがに三人同時はちょっとキツイかなー、何て」

吹寄「そうよ馬鹿ども。アンタたちはまだ上条の馬鹿よりはマシなんだから一人で何とかしなさい!」

青ピ「ええっー!? 何を言うとん吹寄さん! ボクらは三馬鹿、デルタフォースやで!!」

土御門「マシなんて言葉は通用しない! オレたちはクラスの最底辺、もはやそういうレベルじゃないんですたい!」

上条「さっきまで散々俺のことを補習レギュラーとか罵ってたくせに、こういう時だけ同レベル宣言かよ!」

結標「うーん、できればみんな補習は回避しては欲しいんだけど。うーん……はっ」ピコン

一方通行(何か知らねェが嫌な予感がする……)




結標「私にいい考えがあるわ――」




結標淡希。超能力者(レベル5)の第八位。能力名『座標移動(ムーブポイント)』。
彼女は5ヶ月以上前の思い出が無い、いわゆる記憶喪失だ。
思い出がない、その頭の中にすっぽりと開いた穴を埋めるために、彼女は思い出作り的なイベントには積極的に参加する『イベントならとりあえず参加しとこ脳』である。
それはクリスマスやバレンタインといった勝手に始まる受動的なイベントはもちろん、自分からイベントを起こして参加したりもする。
つまり――




結標「――どうせだからみんなで勉強会とかしてみない?」



一方通行(――面倒臭せェ女だっつゥことだよクソったれが)



―――
――





February Third Saturday 09:30

-第七学区・とあるファミレス-


一方通行「……ハァ、休日だっつゥのに、何でこの俺がこンなところに出張らなきゃいけねェンだよクソが」

結標「いいじゃない別に。どうせ家に居たって寝転んでるだけでしょ?」

一方通行「あァ? 俺がいつも寝てるだけで休日を過ごしてる思うなよ? 例えば缶コ――」

結標「缶コーヒーを堪能するでしょ? 毎日のように飲んでるのだから今日ぐらいいいじゃない」

一方通行「日頃の鍛錬ってモンは毎日続けるからこそ力がつく。だが一日でもそれを怠ると精度が下がっちまうンだよ」

結標「いつから缶コーヒーを飲むことが鍛錬になったのよ? 貴方はコーヒーソムリエでも目指すつもりかしら?」

一方通行「ケッ、何言ってンだオマエ? 缶コーヒーの飲み比べなンてしたところで、そンな大層なモンになれるわけねェだろォが」

結標「ムカつく! わざわざこっちが話合わせてやったのに、哀れみの目で見てきてるコイツすごくムカつく!」

一方通行「ハイハイ。……つゥかよォ、勉強会とかいうクソくだらねェ行事ってたしか10時からじゃなかったか?」

結標「うん、そうだけど」

一方通行「何で集合時間30分前だってのに俺らはここにいンだよ。オマエの時計だけ30分狂ってンのか?」

結標「ん? 何か問題でもあるかしら? 別に遅れてるわけじゃないからいいじゃない」

一方通行「そォいうことじゃねェンだよなァ。30分も早くここにいる意味を聞いてンだよ俺は」

結標「別に意味なんてないけど」

一方通行「……オマエ、30分あったら何が出来ると思う?」

結標「んーと、何だろ? ……いざ考えてみると思いつかないわね、何なのよ?」

一方通行「決まってンだろ、睡眠だ」

結標「えぇ……」

一方通行「何だその『コイツつまらね』みてェな目は?」

結標「いや、だってあまりに予想通りかつ別に30分使ってやることじゃないだろ、って答えが返ってきたから」

一方通行「オマエ分かってねェよ。睡眠時間30分延長することの重要さについてをよォ」

結標「知らないわよ……あっ、二人来たわ」

一方通行「あン?」


吹寄「おはよっ、早いわねお二人さん!」

姫神「おはよう。まさかもう来てるとは思わなかった」


結標「おはよっ二人とも。別に早くはないわ、さっき来たところよ」

一方通行「さっきっつっても、集合時間の30分前とかいうアホみてェな時間には来てたわけだけどな」

吹寄「時間に遅れないように心掛けるのはいいことよ」

一方通行「限度っつゥモンがあンだろォが」

姫神「別に。30分ぐらい許容範囲じゃ?」

一方通行「チッ、30分の重要性が分からねェのかオマエらは?」

吹寄「分からないことはないけど、別にそれとこれとは話は別じゃないかしら?」

姫神「起きる時間は基本的には毎日変わらない。だから関係ない」

結標「残念ね一方通行。ここに貴方の理解者はいなかったようね」




一方通行「チッ、くっだらねェ。オイ店員!」ギロッ


ウェイトレス「は、ハイっ!?」ビクッ


一方通行「コーヒー一つ。ドリンクバーのじゃねェぞ?」

ウェイトレス「か、かしこまりました!」スタター

結標「……何て顔して頼んでいるのよ?」

一方通行「あァ? 別に普通だろ」

吹寄「逃げるようにこの場を去っていったわね」

姫神「明らかにウェイトレスさんを睨みつけてた」

吹寄「……そういえば今回の主賓である馬鹿三人はまだ来てないようね」

一方通行「そりゃまだ集合時間来てねェからな」

吹寄「でも教えてもらうって立場なんだから、普通は早く来てそれなりに準備とかするんじゃないかしら?」

一方通行「そンなことするヤツらがテスト直前で泣き付くみたいな真似するかよ」

結標「まあ、待ってるのも何だし私たちだけでも先に始めちゃう?」

姫神「賛成。時間は有効活用しなくちゃいけない。時は金なりと言うし」

吹寄「じゃあ結標さん数学教えて! 今回証明とかあって結構難しくて」

結標「いいわよ。じゃあ教科書とかの簡単な問題から慣れていきましょ?」

一方通行「……あァ、眠っ」フワァ

姫神「アクセラ君」

一方通行「ンだよ?」

姫神「現代文とか勉強しとかなくてもいいの? 前回の結果からして。苦手な科目なんでしょ?」

結標「そうよ一方通行。また現代文のせいで補習なんて展開にしないためにも、きちんとやっときなさいよ」

一方通行「面倒臭せェ。今さら何やろォが待ってる結果は同じだ。だったら無理に知識詰め込む必要ねェだろ」

吹寄「ちょっとアクセラ! もしかして諦めるって言うつもり!?」

一方通行「ハァ? 諦めるゥ? 俺がかァ?」

吹寄「さっきの口ぶりからしてそうにしか聞こえなかったんだけど……」

一方通行「何言ってンだ吹寄? そもそも俺に諦めるっつゥ選択肢なンて存在しねェだろォが」

吹寄「えっ?」


一方通行「俺はそンな悪あがきしなくてもよォ、補習なンてモンに参加することはまずありえねェンだよ」


吹寄「…………」

姫神「…………」

結標「…………」

一方通行「?」



三人(ダメだコイツ。前回のテストから何一つ学んでない……!)





一方通行「ま、そォいうわけでオマエらは俺に気にせず勉強してろ」


ウェイトレス「――お、お待たせいたしました。特製コーヒーです」カチャリ


一方通行「ン」スッ

一方通行「…………」ズズズ

一方通行「あァ、コーヒーうめェ……」


結標「……そうだ。私たちも何か頼む?」

吹寄「とりあえずドリンクバーは絶対にいるわね。まだ食べ物って気分じゃないから食べ物はいいと思うけど」

姫神「うん。食べ物はお昼になってからでいい」

結標「了解。じゃあウェイトレスさんドリンクバー三つで」

青ピ「あっ、あとお姉さんのスマイル一つで」

ウェイトレス「……えっ?」

結標「…………」

姫神「…………」

一方通行「…………」ズズズ

青ピ「……ん? あれ? 何この空気?」



ズガシャッ!!



青ピ「ほげぇ!?」

吹寄「ど、どっから湧いてきたのこの馬鹿者ッ!!」

姫神「おはよう青髪君。相変わらず唐突に待ち合わせ場所に現れるね」

結標「もしかして青髪君って空間移動能力者(テレポーター)? それとも光学操作系の能力者かしら?」

青ピ「ボクは正真正銘ただの無能力者(レベル0)だす。そんな高度のことできないだす」

一方通行「喋ってねェと影が薄いだけじゃねェのか? あと、その気持悪りィ口調今すぐやめろ」

姫神「アクセラ君!!」

一方通行「ッ!? な、何だ? いきなり声を張り上げて」ビクッ

姫神「青髪君レベルで!! 影が薄いなんて!! 言っては!! 絶対に!! いけない!! 絶対にッ!!」

一方通行「お、おォ悪りィ」

吹寄「次からは普通に現れなさいよ? このアホ髪バカスが」

青ピ「ふふふっ、ここで『YES』と言ったらボクがボクじゃなくなるんやで? あとバカスのところをエロスにしてもらえると興――」



グリシャッ!!



結標「あっ、ウェイトレスさん。ドリンクバーもう一つ追加で」

ウェイトレス「は、はいかしこまりました」




同日 10:10


吹寄「さて、バカアホマヌケが来たからあと二人ね……ってもう集合時間過ぎてるじゃない!!」

青ピ「吹寄さん。もはや原型を留めてないんですけど」

一方通行「おそらく上条は、インデックスの昼メシとか作ってるだろォから時間には間に合わないな。隣人の土御門もそれに巻き込まれる可能性は高い」ズズズ

結標「別にご飯なんて作らなくてもここに連れてくればいいのに。ここにいる限り空腹に困ることはないと思うし」

姫神「結標さん。それは上条君には絶対に言ってはいけない。色々な意味で号泣すると思う」

青ピ「そういや姉さんら今なんの勉強してん? 数学?」

結標「そうそう。吹寄さんが証明が難しいって言うからね」

吹寄「どうせアンタも分からないでしょ? 結標さんの講義聞いたら?」

青ピ「ちょっと待ってや? 証明なんてテスト範囲にあったっけ?」

吹寄「はぁ……何というかテスト勉強以前の問題ね。まずはテスト範囲を確認するところから始めなさい!」

青ピ「せやな。戦いに勝つにはまずは敵を知ることが大事やしな。ええっと、テスト範囲テスト範囲……ってそんなもん持ってへんで!」

吹寄「……もう帰れば?」ジトー

姫神「一体今日は何をしにここに来たのか。まったくもって分からない」ジトー

青ピ「おっふっ、イイッ!! イイィッ!! 美少女たちの視線がボクに突き刺さるぅぅ!!」



ゴキリッ!!



青ピ「」バタリ

一方通行「うるせェ。俺の昼寝の邪魔をしてンじゃねェよクソゴミが。つゥかイイ加減この流れ飽き飽きしてンだよ」

結標「貴方も貴方で何でファミレスまで来て昼寝をしてるのかしら? というか今はどちらかと言ったら朝よ」

一方通行「来たくて来たわけじゃねェからな。することがねェならもォ、そりゃあ……寝るしかねェじゃねェか」

結標「大人しく苦手科目でも勉強しときなさいよ」

一方通行「俺に苦手科目なンて存在しねェ」

吹寄「……はぁ、何というか男連中は全員やる気を感じられないわね」

姫神「しょうがない。これだからいつもテストでいい結果が出ない」

一方通行「オイ姫神。俺をあの三下どもと一緒にすンじゃねェ」

姫神「学年平均40点強の現代文で10点。その教科だけ学年順位最下位を取った人がいるらしい」

一方通行「……さて、昼寝の続きでもすっか」ゴロン

結標「逃げたわね……というか店の椅子に寝転んでんじゃないわよ! 行儀が悪いでしょうが!」

一方通行「ハイハイわかったよ。いちいちうっせェヤツだな」ボソッ

結標「何?」

一方通行「何でもねェ」

吹寄「もう! 結標さん、やる気がない人は放っておいってあたしたちだけでやりましょ?」

結標「……そうね。じゃあまず証明の基本的なところから――」



上条「――って待てえぇい!!」ダッ





吹寄「……あら上条当麻。何しに来たの?」

上条「何しに、って勉強を教わりに来たに決まってんだろうが!! じゃねえとこの金無し上条さんがファミレスなんてところ来るわけねえだろ!!」

吹寄「あっ、そう。勉強をしに来たの、へえ……」

上条「つーか、もともと勉強を教えてくれって頼んだの俺なのに、何で『お前ここにいるのおかしくない?』的な目で見てきてんだよ!! おかしいだろ!!」

土御門「そりゃカミやんは遅刻しちまったからにゃー。時間に厳しい吹寄様にそんな目で見られてもおかしくない。かくいうオレもそういう目で見られてるんですたい!」

結標「……ところで上条くんたちはどうして遅れたの? やっぱりインデックスちゃん絡み?」

上条「そ、そうなんですよ結標さん。あんにゃろう俺の作った昼食を朝食と間違えて片っ端から食べていくという暴挙に出やがったんですよー」

土御門「それを横で漫画読みながら眺めてたから遅れました! オレは悪くないでーす!」

上条「ふざけんな土御門ッ!! 大体テメェが『目玉焼きって何となく朝食べるイメージ大きいんだぜい』とか言わなかったら、あの大量の卵料理を壊滅させられることはなかったんだぞ!!」

吹寄「それは貴様が昼食に目玉焼きを作るからいけないんでしょ? そもそもインデックスがちゃんと分かるように導いてあげれば済んだ話じゃない?」

上条「導く? あはは……それができれば苦労はないとですよ……うふふ」

土御門「……ところで」


青ピ「」

一方通行「Zzz……」


土御門「コイツラは一体ここで何をしているんだ? 徹夜明けか?」

吹寄「やる気のない馬鹿者どもの成れの果てよ」

上条「そうか。俺らがひどい扱いを受けてるのはコイツらのせいか」

姫神「遅刻した事実は変わらない」

結標「ま、まあこれで全員揃ったわけだし。今から数学やるけど二人はどうする?」

土御門「もちろん受講させていただくぜい! 数学なんてなにそれおいしいの状態だからにゃー!」

上条「聞くまでもねえだろ結標先生! 俺に完璧にこなせる教科なんて一つもないんだからな!」

吹寄「自分で言ってて悲しくならないわけ?」

上条「……言わないでくれ」

結標「それじゃあ始めるわよ。まずは教科書の189P開いて――」


青ピ「」

一方通行「Zzz……」


―――
――






同日 11:30


結標「――つまり、ここはこういう風に考えれば分かりやすいわ」

吹寄「へー、なるほどね。さすが結標さん、丁寧かつ分かりやすい解説」

姫神「うん。おかげで演習問題もスラスラ解ける」

土御門「やっぱりレベル5はパネェっすわ。もはや頭の出来が根本的に違うんだにゃー」

結標「いや、別にそんなことないわよ。普通よ普通」

姫神「この高い解説能力で普通。それなら有名予備校とかの講師は一体どんなレベルになるのか」

吹寄「そんなに謙遜しなくてもいいと思うわ。誇ってもいいんじゃない結標さん?」

結標「もう! そんなに褒めても何も出ないわよ!」テレ

土御門「オレたちは事実を言っているだけだぜい。ほら、あの補習レギュラーのカミやんさえもこの通り――」



上条「先生ッ!! 問1が……というか全部さっぱり分かりません!!」



土御門「――オラァ!!」ズゴッ

上条「ぐほっ!? な、何しやがるテメェ!!」

土御門「お前姉さんの話絶対聞いてないだろ? ここの問題はさっき言ってた条件を当てはめればそのまま解けるぞ?」

上条「えっ、この条件ってここで使うのか。へー、勉強になるなー」

吹寄「……何というか。もう補習受けたらいいんじゃないの?」

上条「えっ!? 何でいきなりそんな辛辣な言葉をかけられなければならないんでせうか!?」

姫神「たぶんこの調子ならあと一週間猶予があったとしても。赤点は免れないと思う」

土御門「諦めるんだ上条当麻。もう楽になればいいさ」

上条「勉強を始めて1時間でこんなにボロカス言われるとは絶対誰も思わないだろうな……」

吹寄「逆にその1時間本当に勉強したのか問い詰めたくなるほどひどいってことよ」

結標「ま、まあまだ時間はあるしじっくりやっていこ? ねっ、上条君?」

上条「め、女神がおる……! 敵しかいないこのファミレスに救いの女神様が微笑んでくださっておる……!」

結標「じゃあ、こっちの問題やってみて。さっき私が言ったことをそのまますれば解けると思うから」

上条「ええっと…………、な、何だったっけそれ?」

結標「……あ、あはは、じゃあもう一回説明するわね」

土御門「さすがの女神様もこれには苦笑い」

姫神「これはひどい」

吹寄「何となく結標さんの顔に後悔の色が見えてる気がする……じゃなくて見えてるわ」


青ピ「……う、うーん。……こ、ここはドコ? 私はダレ?」




姫神「……。唐突に何?」

吹寄「あれ? 青髪ピアスってここに来てたの?」

青ピ「何やこの扱いッ!? 首をゴキッ、とやられてさっきまで生と死をさまよってて奇跡的に復活したボクに贈られる言葉やないで!?」

土御門「カミやんの常軌を逸した馬鹿さ加減で呆れてるからにゃー。ここでお前みたいなヤツが来たらそうなるだろ?」

青ピ「来るも何も結構早い段階からここにおるんやけどなぁボク。キミらが来るよりよっぽど早く」

吹寄「どうでもいいけど勉強しに来たならさっさと教科書なり何なり広げなさいよ」

青ピ「あ、はい……というかちょっとええ?」

吹寄「何よ?」

青ピ「やけにボクだけ責められとるようやけど、そこの白髪はなんなん?」


一方通行「Zzz……」


青ピ「みんなで楽しくお勉強会しとるのに一人端っこで眠っとるやん!? 明らかにボクよりやる気ないって大々的にアピールしとるやん!?」

吹寄「……いや、だってアクセラは普通に頭いいし。ねえ?」

姫神「100点とか普通に取っちゃうくらい普通に頭はいい」

青ピ「えっ、何なんこの扱いの差? 差別やん差別。くっ、イケメンと三枚目ではこれほどの差が生まれてしまうのか……」

吹寄「はぁ? あなた三枚目を名乗れるほど面白いことしてたかしら?」

土御門「さすが吹寄っ! 容赦なく急所を抉っていくぅ!」

青ピ「てか、よくよく考えたらさっきの頭いい発言おかしくない!?」

姫神「えっ?」

青ピ「えっ? やないやろ、だって現文10点やろ10点? 真面目にやってそんな点数取れるんかって、頭にハテナマーク浮かべる10点。やばっ、思い出しただけで笑えてきた。10点ってぷぷっじゅ――」



一方通行「10点10点うるせェぞ、脳みそ10点野郎」ゴガッ



青ピ「ぎゃああああああああああっ!? 頭が割れりんぐぅぅぅぅ!?」ジタバタ

姫神「おはようアクセラ君」

吹寄「いつの間に起きてたの?」

一方通行「あァ? 今起きた……いや、起こされたっつゥのが正解か。アホがゴチャゴチャ騒いでやがったせいでな」

青ピ「ぐぉぉぉぉ、さ、さすがやでアクセラちゃんっ。勉強会中に寝るわ、人をストレス解消の道具にするわ、ホンマやりたい放題やな自分ん」

一方通行「ハァ? 勉強会つってもオマエらが勝手にやってるだけだろォが。あと別に俺はオマエをストレス解消の道具にしてるわけじゃねェよ。蚊を見かけたら叩き潰すことと同じことをしてるだけだ」

青ピ「ボクの存在ってそんな小さな羽虫と一緒なん!? 正直ショックやで!? というかこの勉強会ボクだけ扱い悪すぎやない!?」

土御門「気のせいだろ。いつもこんなもんだと思うぜい」

姫神「うん。至って普通の日常」

青ピ「これをいつも通りの日常と言えるキミらがボクは怖いでえ……」

吹寄「だったら少しは勉強をしようとする意思を見せなさいよ」




一方通行「……あン? そォいやもォそろそろ昼か」

土御門「おっ、本当だにゃー。ひとまず昼休憩と行こうぜい!」

青ピ「ぼ、ボクは何にもやってへんで……それなのにもう休憩の時間なんか……?」

吹寄「今まで休憩してたみたいなものだから、みんながご飯を食べてる横で問題集でも解いてたら?」

青ピ「せんせー! 気絶は休憩に入らないと思いまーす!」

一方通行「そォだな。あァ、店員さンコーヒーおかわり」スッ

青ピ「ちょっとー! 何かツッコンで!? 会話の流れ止まっちゃうからー!!」

吹寄「ついでに昼食でも頼んどきましょ。あたしこの『ふわとろオムライス』で」

姫神「『和風ハンバーグ定食』」

土御門「ふふふっ、ここはテストへ向けての願掛けとして『トンカツ定食』を注文させていただくぜい」

一方通行「テストってたしか明後日からじゃなかったか?」

土御門「細けえことは気にすんなだぜい。願いに時間なんて関係ないにゃー」

青ピ「……ふむ。ではボクは――」

吹寄「えっ、青髪ピアスは昼返上で勉強するんじゃなかったの?」

青ピ「何でや! 食べるに決まっとるやろ! 生命活動を再開するのにもカロリーは必要なんやぞ!」

一方通行「ただの気絶で何言ってンだコイツは?」

青ピ「日常生活でただの気絶とかいうこと自体おかしいんやけどな……」

姫神「結構な頻度で気絶してると思うから。ある意味日常じゃないかな?」

青ピ「イヤやそんな日常!!」

吹寄「あっ、結標さんと上条当麻も何か頼んだら? どうせ上条はライス(小)とか言い出しそうだけど」


結標「……ぐ、ぐぬぬぬ、だ、だったら次の問題はっ!?」

上条「おおっ、これか!? わかったぞ! これはこの公式を使うんだな!? そうなんだな!?」

結標「その公式は別の章のやつで使うやつよ……」


一方通行「……何やってンだよ結標先生。顔色悪りィぞ?」

結標「あ、ああ一方通行起きたのね? 大丈夫よ、ちょっと疲れちゃっただけだから……」

土御門「か、カミやんのあまりの馬鹿さに耐え切れずに……!?」

吹寄「くっ、やはりレベル5の手を持っても扱い切れないということなの!? これが幻想殺し(イマジンブレイカー)……!」

姫神「実質まだ二時間くらいしか経ってないけど。何かもう一日中勉強したみたいな感じになってる」

上条「い、いやあれだよあれ。俺だって必死に頑張ったよ、でも駄目だったんだ。俺の脳みそってのはどうも数学ってやつを受け付けてくれないらしい」

吹寄「何か全力を尽くしてヒロインを守ろうとしたけど、結局駄目だった自分のチカラの無さを悔やむヒーロー風に言ってるけど、要するに数学は嫌いだからできません、ってことよね?」

上条「はい」




姫神「補習決定の瞬間をこの目で見た」

青ピ「もうだめだぁ……おしまいだぁ」

土御門「もういい……! もう……休めっ………! 休め………っ! 姉さんっ!」

結標「……いいえ、そうはいかないわ。ここで私が倒れたら、上条君が……!」

上条「いや、土御門の言う通りだ結標。俺なんかのためにお前がそんな無茶する必要ねえんだよ」

一方通行「無茶させてる自覚があるなら、もっとまともに頭を働かせたらどォだ?」

上条「…………」スピー

一方通行「目ェ背けてンじゃねェよ。いろンなモンからよォ」

吹寄「と、とにかくお昼休憩にしましょ二人とも? 脳にブドウ糖を補給しなきゃ勉強も捗らないわ」

結標「そ、そうね。一度休憩をとってリフレッシュしないと頭も働かないわよね……あっ、そうか!」

青ピ「どうしたんやいきなり?」

結標「上条君、もしかして今日の朝ご飯食べてないんじゃないかしら!?」

上条「えっ、いや、食べたけど」

結標「そんなに多く食べられてないんじゃないかしら!?」

上条「ま、まあたしかに満足するほどは食べてないけど……」

結標「そうよ、そうよね! おそらく上条君は頭にブドウ糖が足りてなかったのよ! そうよ、だからあんなに……」ブツブツ

土御門「……おい、これ姉さん完全に病んでないかにゃー?」

青ピ「せ、せやな。何か目がヤンデレもののヒロインみたいな感じになっとるし」

姫神「上条君はもはやブドウ糖が足りてない。とかそんなレベルまで達してない。という現実を直視していない」

一方通行「つゥかよォ、そこの馬鹿二人さっさとメシ頼めよ。店員さンずっと放置されてて苦笑いしてンぞ」

ウェイトレス「あ、あはは大丈夫ですよ。ごゆっくりどうぞ」

結標「あっ、すみません。じゃあ私『シーザーサラダ』で」

上条「俺は……『ライス(小)』でお願いします」

結標「か・み・じょ・う・君!? そんなんじゃ全然足りないわよねぇ!? 定食とか頼みなさい定食とか!」

上条「ひっ、や、か、上条さんのお財布はそんな豪華なものを頼む余裕はないのことよ!?」

結標「じゃあ私がおごってあげるから!! 金銭面は貴方は何にも気にしなくていいのよ!? 勉強に必要な栄養分をここで摂取するのよ!! さあ!!」

上条「ひっ、ひぃぃぃ!?」ガクブル

土御門「ね、姉さんが完全にダークサイドに落ちてやがる! クソっ、このままじゃマズイぞ!」

一方通行「あン? 何か問題があンのか?」

青ピ「だってこのままじゃカミやん一人が昼食を奢られるっていうおいしい思いをするんやで!? 羨ましすぎるでホンマぁ!!」

吹寄「今気にすることは絶対そこじゃないでしょ! 結標さんのほうのことでしょ!?」

土御門「これを放置したら結標→カミやんという謎のヤンデレルートに突入してしまう! これは絶対に避けなければいけない状況だ!」

一方通行「馬鹿馬鹿しィ。訳分からねェこと言ってねェでさっさと注文を確定させろ。いつになったら俺はコーヒーが飲めンだよ」

姫神「アクセラ君」

一方通行「あン?」

姫神「ごー」

一方通行「ハァ?」

姫神「ごーとぅすとっぷ」ジー

一方通行「何で俺が……ハァ、わかったわかった。オーケーオーケーわかったよ」




上条「……あのー結標さん? 奢ってもらうのはありがたいのですが、そんなんじゃ上条さんのお馬鹿は治らないですのよ?」

結標「そんなことはないわ上条君。貴方はやればきっとできる人。だからそのためにたくさんの栄養分を脳みそに送らなきゃ……」

上条「何かその言い回しすごく怖いんですが……」

結標「さあ頼むのよ! 定食とかそういうガッツリしたものを頼むのよ! 頼みなさい! さあ! さあ!! さ――」



ビシッ!!



結標「あいたっ!? な、何よ!?」

一方通行「オマエは馬鹿ですかァ? もしかしなくても馬鹿なンですかァ? やっぱり馬鹿だったりするンですかァ?」

結標「なっ、そんな馬鹿馬鹿連呼するのはやめてちょうだい!」

一方通行「馬鹿を馬鹿っつって何が悪りィンだっつゥの。大体よォ、上条クンは傍から見ても分かるよォな貧乏野郎だが、満足に食いモンが食えてねェから脳が働いてなくて勉強が出来ねェヤツじゃねェってことぐれェわかンだろ」

上条「ぐはっ……! じ、事実だけど地味にダメージが……!」

一方通行「世の中には貧乏生活を強いられながらも、必死に努力して上へ上り詰めた有能がいくらでもいるンだよ」

一方通行「勉学にそンなブドウ糖とか栄養だとか関係ねェ。所詮は才能と努力。今まで努力を怠ってきた三下が、今さら腹一杯メシィ食って大量のブドウ糖を頭に送ったところで何一つ変わンねェンだよ」

結標「…………」

一方通行「オマエはもォ十分頑張った。だから休め結標。昼休みはメシ食って休む時間だ、勉強なンてモンわざわざ休み時間潰してまでやるモンじゃねェンだよ」

結標「……わかった。そうするわ」

一方通行「チッ、手間ァかけさせやがって」

結標「ありがとね。一方通行」ニコッ

土御門「おおっー!! 姉さんが元に戻ったぁ!!」

吹寄「さすがアクセラね。伊達に結標さんといつも一緒にいるわけじゃないわね」

一方通行「ンだそりゃ? それだけ聞くと俺がいつもコイツと一緒にいる見てェな言い方じゃねェか」

吹寄「だってそうじゃない。一緒の家に住んでるわけだし」

一方通行「チッ、うっとォしい」

青ピ「もうこれだけ聞くと、傍から見たら同棲してるカップルにしか見えないんだよなぁ……」

結標「なっ……!?」

一方通行「ハァ?」

青ピ「だって一緒に住んでてお互いのことがよくわかってるんやで? これはもうこいび――」



ガゴン!!



青ピ「とろばぁ!?」ガシャーン

土御門「あ、青髪ピアスううううううううううううううううううっ!?」




結標「わ、わわ、わ、私たちはべ、別にそんなんじゃないから!! 全ッ然、そんなじゃないから///」つ軍用懐中電灯


吹寄「お、落ち着いて結標さん!! みんな分かってるから、ただの馬鹿の妄言だから!!」

姫神「まあ。将来的にはうんぬん」

吹寄「ちょっと黙ってもらえるかしら姫神さん!?」

上条「…………」シクシク

土御門「で、カミやんは何で机に突っ伏して泣いてるんだにゃー?」

上条「……一方通行が、……真実という名の暴力を、……容赦なく振りかざしてくるからッ……!」グスン

土御門「メンタル弱っ!? いつもの並み居る敵を強引な説教で無理やり論破してきた鋼の心を持つヒーロー上条当麻は一体どこにいった!?」

上条「北極海に身を投げ出したい」

一方通行「……つゥかよォ」



ワイワイガヤガヤ



一方通行「早く注文終わらせろよ。いくら温和な店員さんでも、このままじゃ目からビームを出す戦うウェイトレスさンになっちまうぞ」


ウェイトレス「……いえいえごゆっくりぃ」ニコニコイライラ


吹寄「あっ、すみません! ええっと、頼んでないのはあと誰だっけ?」

姫神「たしか上条君」

上条「バリスティック・スライダーから身を投げ出したい」

土御門「面倒臭せえっ! カミやんが別のベクトルで面倒臭くなってやがるっ!」

吹寄「テスト週間という特殊な環境が上条当麻をここまで変えてしまったのね……いいわ、あたしがその腐った根性を叩き直して――」ボキボキ

姫神「待って吹寄さん。今の上条君がそんなの食らったら。真面目にひとたまりもないと思う」

一方通行「あァ面倒臭せェ。オイ三下ァ! オマエの今食いてェモンはなンだァ!? 『トンカツ定食』かァ!? 『焼き肉定食』かァ!? それとも『コーヒー定食』かァ!?」

吹寄「……『コーヒー定食』なんてあったっけ?」

結標「『コーヒー定食』=『コーヒー単品』。つまりいつもの一方通行のことよ」

姫神「なるほど」

上条「…………」

一方通行「どォなンだ? 答えてみろ三下ァ!!」

上条「…………ライス(小)」

土御門「結局そこに行き着くのかよ」


青ピ「」ピクピク


―――
――





同日 13:00


結標「――さて、結標先生華麗に大復活っ!! さあ、勉強を再開しましょ?」

土御門「はーい!」

吹寄「数学は大方確認できたし、別の教科とかがいいわね」

姫神「それなら英語とかがやりたい。今回は文法とかが結構ややこしい」

上条「そうだな。上条さんも英語は全然駄目だからな」

結標「上条君。貴方はまだ数学の範囲全部見てないでしょ? だからもうちょっと数学頑張ってみよ? ね?」

上条「いや、でもこれくらいやれば赤点ぐらいなら回避できんじゃねえかな?」

吹寄「だったら試しにこのテスト勉強用に配られたプリントをテスト代わりにやってみたら? 自分がどれくらいの実力か分かるでしょ」

上条「よし、いいぜ。やってやるよ」ペラッ

姫神「とりあえず半分取れたらいい方。六割取れば安全圏ってところ?」

土御門「そうだにゃー。ウチは赤点のラインは三割未満だからそれくらい取れればまあ安全ぜよ」

上条「…………」

吹寄「あれ? どうしたの? ペンが止まってるけど」

上条「……さ、さっぱりわからないんだけど」

土御門「ふんぬッ!!」ゴッ

上条「ぐばっ!? ま、またかよ土御門っ!?」

土御門「だーかーらー、キミは今まで何をしてきたのかにゃー? 後半にある応用問題ならともかく、0点殺しと呼ばれる問1すらさっぱりとかナメてるとしか思えないんだぜい」

上条「分からねえんだからしょうがねえだろうが!」

吹寄「しょうがなくないわよ馬鹿者ッ!! 結標さんがどんな想いで貴様に勉強を教えていたと思ってるのっ!? 自分の精神を崩壊させながら!」

結標「いや、別に精神崩壊なんてしてないわよ」

姫神「あれは軽く精神崩壊してた」

結標「……と、とにかく上条君。もう一回最初からやりましょ? 現文とかは無勉でもまだ点数取りやすいけど、数学とかは分かってないと本当に悲惨な結果になっちゃうから。そうならないためにも」

上条「お、おう。頑張るよ」

一方通行「…………ハァ」

結標「……何よそのため息は?」

一方通行「オマエ、何にも分かってねェな。こンな無駄な努力いつまでも続けても一向に状況は変わらねェよ」

吹寄「どういうこと?」

一方通行「今のまま結標がいくら丁寧に教えたところで、コイツは何一つ知識を得ることなくテスト当日を迎えちまうってことだよ」

結標「えっ?」




上条「ちょ、それは言い過ぎじゃないですかねー?」

一方通行「言い過ぎなわけあるか。三馬鹿の一人である土御門すら分かりやすいと言った結標の説明を聞いて、何一つ分からねェっつゥ言葉が出る時点オマエは終わりだろ」

上条「おうふっ」ガクッ

土御門「じゃあどうするんだにゃー? 他の人が教えるにしても結標以外の適任者がいないんだぜい」

吹寄「……そうね。正直結標さん以上に上手な説明、あたしにはとても無理よ」

姫神「同じく」

結標「……じゃあやっぱり私がやるしかないじゃない。よし、だったらもっと分かりやすい説明を考えて――」

一方通行「馬鹿。それが無駄な努力だっつってンだろ。大体適任者ならいるだろォが」

結標「適任者……? 一体誰よ。まさか小萌先生を呼ぶとか言うんじゃないわよね?」

一方通行「ンな面倒なことするわけねェだろォが。ここにいンだろォが、学園都市第一位の超能力者(レベル5)『一方通行(アクセラレータ)』。この俺が」ゴキッゴキッ

土御門「あ、アクセラちゃんだとっ!? 本気か!?」

一方通行「ああ」

吹寄「む、無理でしょ……だって現代文10点でしょ?」

姫神「とても人に勉強をうまく教えられるとは思えない」

一方通行「オマエら本当10点10点うるせェな。叩き潰すぞコラ」

結標「……でも貴方どうしていきなり? あんなに面倒臭そうにしてたのに」

一方通行「あァ? チッ、そンなの決まってンだろォが。意味のない茶番を見せ続けられるのがうっとォしいからだ」

姫神「意訳。『これ以上結標が苦しむ姿なンて見たくねェンだよ』。かっこいいよアクセラ君」

一方通行「姫神。ちょっと裏に来い。そのクソみてェな脳みそ頭蓋骨ごと吹き飛ばしてやるから」

姫神「断る」

土御門「でもさぁ、たしかに結標の姉さんがまた精神崩壊しても困るからアクセラにチェンジってのは分かるが、肝心のカミやんにうまく勉強をお前は教えられるのか? 姉さん以上に分かりやすく」

一方通行「無理だな」

吹寄「って駄目じゃないそれじゃ! よくそんなんで『これ以上結標が苦しむ姿なンて見たくねェンだよ』とか言えたわね」

一方通行「俺ァそンなセリフ一言足りとも発してねェぞ! それはそこの脳内バラ色野郎が勝手に言っただけだろォが!」

姫神「私は的確にアクセラ君の心情を言葉にした自信がある」

一方通行「チッ、勝手に言ってろ」

土御門「で、結局どうする気だアクセラ? 分かりやすく教えるのが無理なら、他に何か策があるんだろ?」

一方通行「……オマエら、冬休みに宿題が出てたのは覚えるよな? 結構な量のヤツ」

吹寄「長期休暇に宿題が出るのは当たり前なのだから、覚えてるのは当然でしょ?」

姫神「そういえばあれ。土御門君結局終わらせてなくて居残り勉強してたね」

土御門「にゃははっー、嫌なこと思い出させないでくれにゃー」

結標「あっ、でもその宿題、上条君は終わらせてたわよね? たしか貴方に手伝ってもらったって」




一方通行「そォだ。そこで勝手に絶望してる馬鹿は俺に宿題を『手伝って』もらうことによって終わらせた」


上条「…………」ゼツボーン


吹寄「ふん、どうせ上条当麻のことだから、難しいところはアクセラにやってもらって悠々と終わらせたに決まってるわ。だから、こんな馬鹿みたいな状況に陥ってるわけだし」

一方通行「いや、俺はアイツの宿題に一つも手を出してねェよ」

結標「えっ、どういうこと? 手伝ったんじゃなかったの?」

土御門「……まさか、そういうことか」

姫神「何か分かったの土御門君?」

土御門「昨日の放課後カミやんは最初誰に勉強を教えてくれと頼んだか覚えてるかにゃー?」

吹寄「ええっと、たしかアクセラでしょ? それがどうかしたの?」

土御門「頼んだ、ってことは一度教えてもらったことがあって、それが分かりやすかったってことじゃないかにゃー?」

姫神「そういえば。彼理数系限定なら分かりやすい教え方だとも言ってた」

吹寄「……まさか、いやそんなことありえないでしょ。いや、でも……」

土御門「そのまさかで合ってると思うぜい」

吹寄「アクセラ。あなたまさか上条当麻に勉強を教えて一人で宿題をこなさせた、ってことなの?」

一方通行「ご名答。アイツは俺の監視のもときっちり自分の力で宿題を終わらせた。これは事実だ」

結標「じゃ、じゃあやっぱり貴方は私より教え方がうまいんじゃないの? 私が教えても上条君には悪いけどこのざまなわけだし」

一方通行「それはありえねェよ。俺が丁寧に教えたところで、どォしても一人よがりな説明になっちまう。オマエみてェな相手に歩み寄るよォな説明俺には真似出来ねェ」

吹寄「じゃあどうやって……?」

一方通行「まァ見てろ。馬鹿に勉強を教えるのに最も必要なのは『豊富な知識』でも『猿でも分かるような丁寧な教え方』でもねェ――」




一方通行「――それはただの『恐怖』だ」ニヤリ






上条「…………」ゼツボボーン


一方通行「おら三下ァ! いつまで呆けてやがる、とっとと勉強の準備しやがれ!」

上条「はっ、いけねえいけねえ。ちゃんとテスト勉強しなきゃ」

一方通行「上条クゥン、悪りィが今から講師の交代のお知らせだ。どンな馬鹿にも手を差し伸べる救いの女神様から、勉強なンて教える気がさらさらねェクソったれにな」

上条「お、結局お前が教えてくれるのか。つーか、教える気ねえのかよ!」

一方通行「それはオマエ次第だ。で、オマエは俺に赤点回避の手助けをして欲しいのか? 欲しくないのか?」

上条「そりゃして欲しいに決まってんだろ。頼むよ先生」

一方通行「よォし、じゃあ上条クン、まずオマエのテスト勉強をする目的を確認だ。自分の口で言ってみろ」

上条「そりゃ決まってんだろ。テストで赤点をゼロにして素晴らしい春休みを迎えることだよ」

一方通行「イイねェ、実に人間味溢れる目的だ。だがよォ、それだけじゃ足ンねェンだよなァ」

上条「足りない? まさか俺に100点を取れ、とか無理難題押し付ける気じゃねえだろうな? そんなのどう頑張ってもできねえよ」

一方通行「あァ? 別にそンな100点なンてアホらしい点数必要ねェよ。極論を言えば、全教科オール30点で問題ねェ」

上条「だったら一体何が足りないって言うんだよ?」

一方通行「そンなの決まってンだろォが。優雅な春休みを過ごすために赤点を回避するなンて普通な目的じゃ、一生オマエは赤点地獄の中っつゥことだ」

上条「?」

一方通行「さて、と」スッ つ携帯電話

上条「携帯電話? 一体どこに電話してんだ?」



プルルルルルルピッ!



??『……も、もしもしっ! か、かみじゅ、かみじょうですっ!』


一方通行「オマエはいつになったら電話応対がうまくなるンだァ? インデックスさンよォ?」


禁書『ん? その声はあくせられーただね? どうしたの? とうまなら出掛けてるけど』

一方通行「知ってる。目の前にいるからな」

禁書『そうなんだ。じゃあ何でここに電話を掛けたのかな? もしかして私に用?』

一方通行「そりゃそォだろ。オマエに用がなかったら電話なンてかける意味がねェだろォが」

禁書『別に用がなくて電話してきてもいいよ。私は毎日ひまで退屈な留守番生活を送ってるからね。あっ、でもあんまり長電話し過ぎるととうまに怒られちゃうかも』

一方通行「そンな心配する必要ねェよ。オマエと暇つぶしに長電話することなンざ一生ねェだろォからな」

禁書『むぅ、一生ってありえないかも。そもそも人生ってのは長いんだから、これからあなたの考えが変わって私に何の用もなくても電話を――』

一方通行「ない」

禁書『ぐっ、即答しなくてもいいと思うんだけど……。で、結局何であくせられーたは電話をかけてきたのかな?』

一方通行「ああ、そォだ。オマエアレだ、来週の週末、そォだな。土曜日ぐらい暇か?」

禁書『さっき言った通り私は毎日ひまで退屈な留守番生活を送ってるから、もちろんその日もひまなんだよ』

一方通行「何つゥか、まるでニートとでも話してるよォな気分だ」

禁書『にーと? 何それ?』




一方通行「何でもねェよ。それじゃあその日、三下と一緒にメシでも食いに行こうぜ。店は高級ステーキ店とかでイイだろ」

禁書『えっ!? ごはん!? ステーキ!? お肉!? 行く行く絶対に行くんだよ!!』キーン

一方通行「チッ、いきなり声量上げてンじゃねェようるせェ。ま、なら決まりだ。詳しくはまた連絡するからそォいう予定があるってことだけ覚えとけ」

禁書『ふふん。完全記憶能力を持ってる私に覚えとけなんて言葉を言うなんて、かたはらだいげきつうなんだよ!』

一方通行「どこで覚えやがったそンなわけの分からねェ日本語……まァイイ。そォいうことだからな、じゃあ切るぞ?」

禁書『うん! すごく楽しみにしてるんだよ! またねあくせられーた』ピッ


一方通行「…………」

上条「……………」

一方通行「そォいうことだ上条クン」

上条「一応どういうことか聞いていいか?」

一方通行「来週の土曜日、俺とオマエとインデックスで高級ステーキ店に行く」

上条「勝手に決めんなよ! 俺にも予定っていうものが――」

一方通行「それなら問題ねェだろ。その日はオマエはバイトのシフト入ってねェから、どォせ予定もクソもない暇人だろ」

上条「何で関係者でもないのに俺のバイトのシフトの情報を知っているんでせうか?」

一方通行「関係者にリークしてもらえばその程度の情報いくらでも仕入れることができる」

上条「芳川さんか……」


一方通行「さァてゲームの時間だ上条ォ! もしオマエが全てのテストを赤点回避することが出来りゃ、その高級ステーキ店の代金は俺が持つ」

一方通行「だが、もし一つでも無様に赤点取って春の補習フルコースへ参加確定した場合は、オマエがその代金全部持て」


上条「ちょっと待て! 食欲の神インデックス様相手に少なかろう高かろうのステーキだぞ!? マジで洒落にならねえぞマジで!! おい!!」

一方通行「何をビビってンだ上条クゥン? 簡単なことだろ、テストで全部30点以上取りゃイインだ? そォすりゃオマエもただでステーキ食べ放題の天国を味わえるンだぜ」

上条「ぐっ、ち、ちなみにゲームの拒否権は?」

一方通行「そンなモンあるわけねェだろ。まあ、別に拒否してもイイが、その場合オマエ自身の口からインデックスの野郎にこの話はなくなった、ってことを伝えろ」

上条「そ、そんなっ! 間違いなく俺の頭蓋骨が粉砕するじゃねえか!!」

一方通行「前門の虎、後門の狼。いや、まだ前門の方は野良猫ぐれェだろォな。さて、オマエはクソネコと狼、どっちに挑むつもりだ?」

上条「くっ……いや待てよ?」ボソッ

上条(ここで赤点取っちまって奢るはめになっても、その日に何かしら急用を入れて逃げちまえば……?)

一方通行「あっ、言っとくが急用とか入れたところで日程が延長するだけだぞ? 純粋に逃走するってンなら、俺があらゆるベクトルを操ってオマエを追い詰める」

上条「Oh……」

一方通行「さて、10分間の暗記タイムだァ。数学の範囲の暗記項目を全部覚えろ。そのあとそれのテストだ」

上条「さ、10分っ!? 無茶言うんじゃねえ!! 絶対無理だろこれ!!」

一方通行「安心しろ。テストに出すモンは教科書に書いてる公式とかだけだ。何なら予めテスト問題を先に渡してやってもイイぜェ? ただオマエは覚えるだけだ。簡単だろ?」

上条「にしても10分って……それに何でテスト?」

一方通行「そンなの決まってンだろォが。オマエが覚えたかの確認に加えて、覚えてなかった場合の罰ゲームをするからだ」

上条「罰ゲーム? まさかステーキ奢る以外にも何かする気かよ!?」

一方通行「当たり前だろ。じゃねェとテストの意味がねェ。今回の罰ゲームはそォだな……もしテストで全問正解出来なきゃここのファミレスの代金全部オマエ持ちな?」




上条「いいっ!? 何で全問正解!? 赤点は三割取れればオッケーじゃなかったのかよ!?

一方通行「あン? 予め答えが分かってるテストだぞ? そンなモンで合格ラインを100点未満で設定するわけねェだろ」

上条「あのーすみません一方通行様。今日全然手持ちないんですが……?」

一方通行「知らねェよ。だったら下ろして来い。それ含めてないンだったら皿洗いでも何でもして払え」

上条「無茶苦茶だっ!!」

一方通行「だったら大人しく全部覚えるこった。そォすりゃオマエには何の被害も被らねェよ」

上条「……不幸だ。どうしてこうなった……」

一方通行「何が不幸だ。全部オマエが自分で引き起こした事態だろォが。俺に助けを求めたことを含めて、な」ニヤァ


結標「…………」ポカーン

吹寄「……本当に無茶苦茶ね」

一方通行「馬鹿に勉強をさせるためにはこれくらいやらなきゃいけねェっつゥことだ」

姫神「スパルタ教育は。あまり効果がないと思うけど」

一方通行「人間の脳みそは本来スーパーコンピュータ以上の処理能力を持ってンだよ。それを全部扱えるかどォかは別としてな」

一方通行「そンな素晴らしいモンを持ってるっつゥのにそこの三下は残念ながら一つもそれを使おうとしねェンだよ」

一方通行「だったら無理矢理にでもそれを使ってもらうしかねェじゃねェか。どンな手を使ってでもよォ……」

土御門「ふむ、つまりあれかにゃー? ピンチの状態に追い込みに追い込みまくって、バトル漫画の主人公みたく覚醒させてスーパーカミやんを生み出そうっつー魂胆って感じか?」

一方通行「ああ。ゴキブリは命の危険性感じ追い込まれると、脳みそを活性化させて空を飛べるよォになるらしい。ゴキブリに出来て人間に出来ねェわけがねェだろ」

結標「ちょ、ファミレスでその名前を言うのはやめなさいよ……」

姫神「でも。ヒトとGは違う。そんなにうまくいく?」

一方通行「あァ? まァ、そりゃ人によるだろォな。そンな全員が全員覚醒なンてしたら世の中超人だらけだ」

吹寄「だったら上条当麻もそうなる可能性高いじゃない。普段から勉学から目を背けてたのだからなおさらよ。そんな都合のいいヒーロー物展開起こるわけないわ」

一方通行「そォだな。たしかにリアルってのは残酷だ……だが、残念ながらアイツはヒーローなンだよ」

吹寄「えっ、それってどういう――」



上条「――さいんえーぶんのえーいこーるさいんびーぶんのびーいこーるさいんしーぶんのしーいこーるにあーる」ブツブツ



吹寄「なっ、何ですって!? あ、あの上条当麻が真面目に暗記に取り組んでいるっ!?」

土御門「授業開始の号令から1分後には既に意識が窓の外にあるあのカミやんがかっ!?」

姫神「信じられない。まさかこんな光景に。立ち会う日が来るなんて……!」

結標「ひどい言われようね……」



上条「――ひつようじょうけんとはものごとがなりたつためにひつようなじょうけんじゅうぶんじょうけとはものごとがなりたつためにじゅうぶんなじょうけん」ブツブツ



一方通行「人間には火事場の馬鹿力っつゥモンがある。本当に危機的な状況に陥った人間が潜在的に眠っている力を発揮する、ってヤツだがそれは別に筋力に限った話じゃねェ」

一方通行「危機的状況で本当に頭を使わないといけねェよォになったら、どンな馬鹿でも必死に脳みそ働かせるっつゥことだ」

結標「危機的状況……?」



上条「――インデックスと高級ステーキはマズイインデックスと高級ステーキはマズイインデックスと高級ステーキはマズイインデックスと高級ステーキはマズイインデックスと高級ステーキはマズイ」ブツブツ



結標「……ああ、たしかにこれは危機的状況ね」




一方通行「この方法で俺は一時的にだがコイツに知識を植え込ンで自力で宿題をさせた。俺の教え方が分かりやすいってほざいてたのはその影響で記憶が狂ったからだろォな」

姫神「ところでその宿題はきちんと出来てたの?」

一方通行「俺がひと通り見たところ中身の正解率はまァそこそこってところだったか。赤点なンてまず取らないだろォってレベルだ」

吹寄「……待って。だったら何で今上条当麻はこんな事態に陥ってるわけ? 冬休みのときにそれだけの勉強はしたってことなのに?」

一方通行「一時的にって言っただろ。生物ってのは使わねェところは次第に退化していってなくなるモンだ。普段からそンな知識を使わねェンだから忘れて退化すンだろ」

姫神「普段どれだけ真面目に授業に取り組んでないか。改めて分かる納得の説明」

土御門「カミやんェ……」

吹寄「あなたも大して変わらないでしょうが。ただマシってだけで」

一方通行「この要領で全教科の必要最低限の知識を身に付けさせる。そォすりゃ赤点回避なンざ余裕だろ」

結標「全教科って……それって貴方の大嫌いな現代文も含まれてるってことだけどいいの?」

一方通行「ああ」

結標「貴方が10点しかとれないのに?」

一方通行「オマエは本気で俺を怒らせたいらしいな」

土御門「でもアクセラちゃん、さっきのカミやんの発言からすると冬休みの宿題は理数系のヤツしか助けてなかったんだろ?」

一方通行「文系の問題に明確な答えなンざねェ。ウチの現文の教師のありがたい言葉だ。つまり、適当に書いときゃ別に問題ねェってことだよなァ?」ニヤリ

結標「駄目だこりゃ」

一方通行「まァそれは冗談だ。今回はさすがに宿題とはわけが違うからな、手始めに範囲内の暗記事項全部覚えさせる。それだけで1、20点取れンだろ」

吹寄「あと1、20点は?」

一方通行「教科書の内容をまるまる暗記させる。あと教師の板書もな」

結標「えっ、貴方ってノートとか取ってたの……? いつも寝ている様子だったから気付かなかったわ」

一方通行「いや取ってねェよ。ただ内容ぐらいは全部この頭に入ってる。それを俺自ら紙に書き出せば問題ねェ」

姫神「アクセラ君のチョーカーには。電極の他に睡眠学習装置でもついてるの……?」

吹寄「そういえばラジオに出たとき、半分寝てて半分起きてるから意識はあるとか何とか言ってったっけ?」

土御門「器用なヤツだにゃー」

一方通行「……ま、そォいうわけでコイツは無様に赤点を取って涙目で補習に行くことなンざねェよ。……ン?」

上条「つーか、これ絶対暗記無理だろ。10分どころか1時間あっても足りねえよ。クソ、ふこ――」ボソッ

一方通行「さて、腹も減ったところだし何か食いモンでも頼もォかなァ? 例えば一番高そォなこれとか」

上条「ッ!? さいんこさいんたんじぇんとさいんこさいんたんじぇんと」

一方通行「こォいう風に適度に『恐怖』で痛みつけてやれば、な?」ニヤァ


こうして一方通行の『恐怖という名のスパルタ教育』は日をまたぎ日曜日にも行われた。
徹底的に教育を受け、半ば廃人化した上条当麻(一方通行曰く『万全の状態』)はテスト当日を迎えるのだった。


結標「……よくよく考えたら、貴方もしかしてやる気満々だったんじゃないの? 暗記の確認用のテストまで用意してきてたし」

一方通行「気のせいだろ」ズズズ




青ピ「」ピクピク


―――
――





February Forth Friday 15:40 ~テスト結果発表日・帰りHR前休み時間~

-とある高校・一年七組教室-



ワイワイガヤガヤ



吹寄「……さて。おそらく今日のホームルームでひと通り全部のテストが返ってくるわね」

姫神「うん。あと残ってるのは化学と現文。どちらも私は自信がある」ニヤリ

青ピ「おおうっ神よっ!! 無勉のボクに赤点回避の点数をっ!!」

吹寄「今さら神様にすがってどうするのよ? というか無勉だったのあなた!?」

青ピ「だってぇー、ボクもぉー、結標先生の授業受けたかったのにぃー、いつの間にかお開きしてたんだもーん。もうやる気なくしてエロゲしかしてなかったわ」

姫神「……で。今のところの成果は?」

青ピ「今んところ赤点はギリギリ回避できとるでー! だから神様に祈ってるんやでっ!!」

吹寄「あっ、そう。そういえば肝心の上条当麻はどうなったのかしら?」

土御門「カミやんの結果は全部今日決まるんだぜい」

吹寄「どういうこと? もしかして今のところ全部回避してるっていうの?」

土御門「さあ? カミやんに聞いても『……今は戦争中だ。口を慎め土御門』って返されるだけだからにゃー。もちろんムカつくから一発ぶん殴っといたけど」

青ピ「何か知らんけどカミやんしばらく見ないウチにキャラ変わったよな。寡黙キャラというかクールキャラというか……中二病にでも発症したんやろか?」

姫神「それは大体アクセラ君のせい。青髪君はいなかったから知らないだろうけど」

青ピ「いなかったというか実際にはおったよな? 気絶してただけで普通にその場におったよな?」

吹寄「うーん、しかし気になるわね上条の途中経過。ちょっとあたしが脅したら教えてくれないかしら?」

土御門「吹寄ぇ、いつの間にお前はそんなジャイアンみたいなキャラになったんだにゃー」

吹寄「じょ、冗談よ! そんな馬鹿みたいな真似するわけないじゃない!」


一方通行「ま、でも例え脅したところでアイツは結果を言えねェよ」


青ピ「おっ、アクセラちゃんと姉さんおかえりー。身体測定(システムスキャン)やっと終わったんかいな」

結標「そうよ。はぁ、疲れたわ……頭痛い」

一方通行「つゥか、何でオマエそンなに疲れてンだよ? この程度の学校の測定なンかたかが知れてるだろ」

結標「何か知らないけど能力の限界ってやつを測られたわ。重さ、距離、正確性、他にも飛ばせるものの大きさとか……いつもより余計に演算したと思う」

一方通行「へっ、情けないヤツ。いつも手抜きして能力使ってるからこォなるンだよ。俺みてェに毎日全力で生きていけばこォはならなかっただろォな」

結標「似合わな過ぎて笑えないわよ、そのセリフ」

青ピ「……何という付いていけない会話。これが高位能力者……!」

土御門「お前がアホなだけだろ」

姫神「うん」

青ピ「ちょっと待って二人とも。冗談やで冗談、まさかあの程度でついていけないわけないやないかーい!」




吹寄「ところでアクセラ、さっきの結果を言えないってどういう意味よ?」

一方通行「あァ? ああ、実はアイツのテストだけ結果発表日にまとめて返却するよォ月詠に頼ンでンだ」

吹寄「どうしてそんな面倒なことを?」

一方通行「考査中に返された解答用紙が赤点だったとしよォ。そォしたら確実にアイツは萎えてやる気がなくなるだろォが。それを防ぐためにだ」

土御門「でもそれってあんまり関係なくないか? どっちにしろ赤点の時点で補習確定なわけだからにゃー」

一方通行「ああ。たしかにこりゃ綺麗事かもしンねェな。でも赤点の数を出来る限り減らせば、少しでも補習の時間が短くなるかもしれねェじゃねェか」

青ピ「……アクセラちゃん」

一方通行「あン? 何だよオマエ」

青ピ「いつからそんな他人のことを思いやる優しいレベル5になったんや……ボクは嬉しいでぇほんま」

一方通行「何言ってンだオマエ気持ち悪っ。死ねよ真面目に」

青ピ「ひどっ!? というかトーンがマジやん」

一方通行「死ね」

結標「そういえば一方通行? 貴方のテストのほうはどうなのよ? 上条君の先生やってたけどあの様子じゃほぼ無勉でしょ?」

一方通行「知らねェ」
 
結標「知らないって何よ? はぐらかしてるつもり?」

一方通行「ンなつもりじゃねェよ。何か知らねェが上条のテスト返却の件を伝えに行ったとき、どォやら月詠の野郎が勘違いしたらしくな。未だに俺の解答用紙も返ってきてねェ」

吹寄「へー、ある意味問題児二人の結果が今日一気に決まるってわけね」

一方通行「俺をあの三下と一緒にしてンじゃねェ」

結標「文系科目に関しては同じようなものじゃない。特に今日返ってくる現代文とか」

一方通行「俺がそンなモンで手こずるわけねェだろォが」

青ピ「おっ、それもしかしてフラ――」



ゴシャ!!



土御門「またか青髪ぃぃぃぃ!?」

吹寄「相変わらず懲りないわね」

姫神「形式美なのだから。これはもうしょうがない」



ガラララ



小萌「はーいみなさーん! ホームルームを始めますので席につきやがってくださーい!」








小萌「――というわけで今日は化学と現代文のテストを返しまーす! つ・ま・り、今回の期末テストの結果が今日分かってしまうということです!」



ワイワイガヤガヤ



吹寄「……よし! 今回のテストは乗り越えたわ!」化69点 現74点

姫神「今回は結標さんのおかげで数学も調子良かったし。上位はいただいた……!」化95点 現90点

土御門「よっしゃーっ!! これで補習回避ぃ!! 舞夏と甘いスプリングバケーション!!」化47点 現51点

青ピ「ありがとう神様!! やっぱり勝利の女神様はボクについてくれてたんやな!!」化34点 現39点

吹寄「神様に祈ったのか女神様に祈ったのかどっちかはっきりさせなさいよ。というか無勉で回避なんてすごくムカつくわね……」

結標「みんな、その調子だとうまくいったみたいね」化100点 現99点

青ピ「うわっ、化け物がおる」

土御門「姉さんこれで100点9つ目か……さすが超能力者(レベル5)っ!!」

姫神「やはり次元が違い過ぎる。私には上位なんて無理な話だった」

吹寄「いや、彼女だけおかしいだけだから。上位にはいけるでしょ……たぶん」

結標「自分の得点教えてあげただけで、まさか化け物とかおかしいとかって言われるとは……」


小萌「はいはーい! みなさん騒ぎたいのは分かるのですが一旦席に座ってくださーい!」



ワイワイガタガタ



小萌「えっと、これから本人たちの希望で上条ちゃんとアクセラちゃんのテストをまとめて返すのですよー」



<おおっーついに上条君たちの命運が決まるのね! <つーかコイツら冬休みの唯一の補習組じゃね? <どうせ補習だろ!



上条「…………」ゴクリ

一方通行「何ビビってンだ三下。オマエはやれるだけのことはやった、あとは胸を張って解答用紙を受け取りに行けばイイ」

上条「あ、一方通行……」

一方通行「まァ、一つでも赤点あったらステーキ奢りだけどな」

結標「さらにプレッシャー与えてどうするのよ」




小萌「じゃあまず上条ちゃんから取りに来てくださいー!」


上条「……は、はい」ガタッ



ざわざわざわざわ



上条(やれることは全部やった。あとは神頼み……いや違うッ!!)


小萌「はい、では上条ちゃんどうぞ!」スッ


上条(神様……、この世界(テスト)がテメェの思い通りの(上条当麻が補習から逃れられない)システムで動いているってんなら――)



上条「まずはその幻想をぶち殺す!!」バッ



現代文  53点
古 文  39点
数 学  32点
英 語  31点
化 学  49点
物 理  40点
世界史  42点
日本史  47点
公 民  49点
家庭科  60点
保健体育 45点


上条「……えっ」

吹寄「……う、嘘っ」

土御門「か、カミやんが……」

姫神「……赤点を」

青ピ「か、回避したっ!?」




上条「や、やったあああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」







<うおおおおおおおおやったな上条ぉ!! <まさか上条君が補習に出ない日が来るとはね…… <あれ? 俺ですら赤点取ってんだぜ……何で? <涙拭けよ



結標「……ふふふっ、さすが一方通行先生ね」

一方通行「チッ、当たり前だろォが。学園都市第一位が直々に指導してやったンだ、これで無様な結果だったら八つ裂きにしてたぞ」

結標「そうね。上条君すごく嬉しそう」

一方通行「そりゃそォだ。念願の補習回避に加えて俺の与え続けてきた『恐怖』を全部乗り越えたンだ。喜ばねェ方がおかしい」

結標「貴方……上条君にどれだけ罰ゲームを後付したのよ……?」


上条「っしゃーっ!! うっしゃーっ!! おぉうっしゃー!!」


小萌「上条ちゃん! 上条ちゃん!」

上条「ん? 何ですか先生、今俺は喜ぶので忙しいんですけど」

小萌「喜んでるところ悪いのですが、上条ちゃんは能力開発の単位が足りていませんのでどちらにしろ補習ですよー」

上条「…………………………………………ふぁ?」

土御門「なん……だと……?」

吹寄「くっ、そういえば忘れてたわ」

姫神「そんな……」

青ピ「け、結局こんなオチかーい!」


上条「……う、うそだろ先生……? 俺、俺赤点取ってないのに……」

小萌「…………」ニコニコ

上条「こんなのってねえよ……結局未来は変わらないって言うのかよ……、やっぱり俺じゃあ、幻想は殺せないってのかよ……」ガクッ


吹寄「上条当麻……」

姫神「上条君……」

土御門「カミやん……」

青ピ「カミやん……(あれ? 何この空気!? いつもなら『ぷげらwぷげらwざまぁwww』って感じなのにあれー?)」


結標「……残念ね。まさかあんな落とし穴があるなんて」

一方通行「そォか? どの辺りが残念なのか聞きたいね」

結標「ちょ、一方通行! さすがにそれは今言うべきセリフじゃないと思うんだけど!」

一方通行「いや、だってよォオマエ……上条の野郎はある意味補習を回避してンじゃねェか。ここは喜ぶべきだろォが」

結標「…………えっ」




小萌「……上条ちゃん」

上条「……はい」

小萌「上条ちゃんは今回のテスト、このテストの結果を見る限りよっぽど頑張って来たようですね」

上条「…………」

小萌「先生正直びっくりしましたよー。どうせまた赤点を取って補習をしなきゃいけないのか、なんて先生が絶対思ってはいけないことを思っちゃってたのですよ」

上条「…………」

小萌「だから先生は反省しなきゃいけません。そしてこれからは上条ちゃんはやればできる子ですって、ちゃんと上条ちゃんを信じていきます」

上条「…………」

小萌「そういうわけで上条ちゃん?」


小萌「春休み。ゆっくりのびのびと楽しんで、たくさんの思い出を作るのですよー!」


上条「………へっ? い、今何て……」

小萌「あっ、でもちゃんと宿題はやってくるのですよー? もしやって来なかったら先生本気で怒りますからねー」

上条「……ちょ、ちょっとわけ分からないんですけど先生? 俺って春休みに補習があるんじゃねえのか?」

小萌「はい、そうですー。ちゃんと補習もやりますよー」

上条「じゃあ先生は何でそんな思い出とか何とか……」

小萌「ふふふっ、上条ちゃん? 今回の補習は上条ちゃんの頑張りに免じてなんとなんと!? 自宅で能力開発のプリント10枚なのですよー!」

上条「……ってことは……?」

小萌「はい。上条ちゃんは休み中にわざわざ学校に来る必要はありませーん! あっ、でも来たいのだったら別に来てもいいですけどー」

上条「やっ、やった……」



上条「補習回避きたああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」



小萌「あっ、ちゃんと補習はありますよ! プリントですプリント! 回避できてませ――ふにゃっ?」

上条「ありがとうせんせええええええええええっ!! 俺担任が小萌先生で本当によかったよおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」ダキッ

小萌「ちょ、か、上条ちゃんこんなところでやめっ、というか私と上条ちゃんは教師と生徒であって……でも上条ちゃんが望むなら別に先生は///」



<おいあの野郎何勝手に小萌先生に抱きついてんだゴルァ!! <ぶち殺せ!! <アイツだけ事実上補習回避の上小萌先生とイチャつくなんて理不尽許されねぇ!!





結標「……知ってたの? このこと?」

一方通行「イイや、別に」

結標「じゃあ何で貴方さっき補習回避してるとか言ってたの?」

一方通行「あァ? そりゃ決まってンだろ。月詠の野郎がいかにも私は嘘ついてますよ、って顔でニコニコ笑ってやがったからだ」

結標「えっ、別にいつも通りの笑顔だったような気がしたけど……」

一方通行「俺は今まで嘘で塗れた世界を生きてきたンだ。あの程度の分かりやすい嘘は余裕で見抜ける」

結標「そ、そう……」

一方通行「今回は大方アレだろうな。『今まで私にかけてきた迷惑のお返しですよー』っつゥ感じで勿体ぶってあンな茶番始めたンだろ」

結標「……まあでも、何だかんだ言ってよかったわね。上条君はこれでちゃんと春休みがあるってわけだし」

一方通行「そォだな。ステーキも結局俺が奢るっつゥことになって万々歳だろォな」

結標「それじゃあまた春休みも、みんなで集まってわいわいできるってことよね? ね、一方通行?」ニコッ

一方通行「…………」


吹寄「上条当麻ァ!! たしかに赤点を取らずにテストを乗り越えたのは喜ばしいことでしょうね。でもいくら嬉しくてもやっていいことと悪いことがあるでしょうが馬鹿者がッ!!」

土御門「オーケーカミやん。今から貴様は一年七組の敵だ。恨むなら自分の常識のなさを恨むんだな」

青ピ「イエスロリータ!! ノータッチ!!」

小萌「青髪ちゃん! 先生は大人なのですよー! その、えっと、ろ、ロリとかじゃないのですよぉ……」

姫神「やはり上条君は。もしかして上条君は。そういう趣味の変態ッ……!」ジトー

上条「ぎゃあああああああああっ!! 死ぬっ!! 本気で死ぬっ!! 楽しい春休み送ることなく死ぬっ!! そしてその蔑む目はやめて姫神ぃぃぃ!!」


結標「ふふふっ」

一方通行「…………ハァ」


結標淡希は記憶喪失である。だから積極的にイベントに参加して思い出を積極的に作ってやる、そういう少女だ。
そんな彼女と対局の位置にいる少年一方通行からすると、正直イベントなんてものに巻き込まれるのは御免である。
だから一方通行は彼女の笑顔を見てこう呟いた。



一方通行「……面倒臭せェ」



――――――




~おまけ~


上条「……ふ、不幸だ」ガタリ

土御門「ふん、初の補習回避ではしゃぎたい気持ちは分かるが、それはきちんと常識を考えたはしゃぎ方をするべきだったな」ゴキゴキ

青ピ「せやで。いくらフラグ建築士のカミやんやからて痴漢行為が許されるほど世界は優しくないんや」バキバキ

吹寄「ふう、……ん? そういえばアクセラの点数って結局どうだったのかしら?」

一方通行「あン? 何で俺のテストの結果なンて知りてェンだ? もォ上条の赤点回避っつゥ物語の山場は終わっただろォが」

吹寄「いや、一応ね? どういう結果になったか気になるわけよ」

姫神「うん。私も気になる。非常に」

結標「はっ、そうよ。よくよく考えたらコイツが現文10点取ってたら春休み何も出来ないじゃない……!」ボソッ

一方通行「……何で俺なンかのテスト結果そンなに気にしてンのか知らねェが、見たいなら見せてやるよ。そンな面白いモンじゃねェけどよォ」スッ


現代文  100点
古 文  100点
数 学  100点
英 語  100点
化 学  100点
物 理  100点
世界史  100点
日本史  100点
公 民  100点
家庭科  100点
保健体育 100点


土御門「えっ」

青ピ「えっ」

吹寄「えっ」

姫神「えっ」

結標「えっ」

上条「」ピクピク

結標「う、嘘っ……だって現文10点の一方通行よ……? 何か0が一個多いんですけど……」

一方通行「チッ、オマエらはいつまでくだらねェ過去に囚われてやがンだァ? くだらねェ」

結標「い、一体どんなトリックを使ったっていうのっ!? 一体どんなチートを使ったっていうのっ!?」

一方通行「ったくよォ、俺は第一位の一方通行だぞ? たしかに最初のテストは残念な結果になっちまったがなァ、一度どンなモンかっつゥパターンはそれで確認できたンだよ」

一方通行「確認した、っつゥことはそれに応じた対策を講じりゃそれではい楽勝、ってことなンだよ。分かったかなァ三下どもォ」

結標「た、対策? あ、貴方いつの間にテスト勉強したのよ!? だって、だってずっと上条君に付きっ切りだったじゃない!」

一方通行「は? テスト勉強? 何言ってンだオマエ? だいたいテストっつゥのは今までの授業の復習だろォが。だったら真面目に授業聞いて内容覚えてりゃ何の問題ねェだろォが」

一同「…………」

一方通行「?」



一同「あ、当たり前のことを一番言われたくないヤツに言われたっ!?」



――――――


久々の[田島「チ○コ破裂するっ!」]だから脇汗びっしょびしょだわ


次回『年下たちの恐怖』

読んでる人いて草生えた
投下



2.年下たちの恐怖


February Forth Sunday 12:00

-黄泉川家・一方通行の部屋-


一方通行「Zzz……」



<ワハハハハハハッ!! <ッテミサカハミサカハ



一方通行「Zzz……あン? うるせェな……今何時だと思ってやがる」ムクリ

一方通行「…………」

一方通行「あァ、もォ昼か……」

一方通行「面倒臭せェが一旦起きるか。俺の体がカフェインを欲してやがる」ガチャリガチャリ


-黄泉川家・リビング-



ワイワイガヤガヤギャーギャーワーワー!!



一方通行「……つゥか何だァ? このうっとォしいくらいの騒がしさは?」

一方通行「たしかに今は昼メシ時だろォが、これは異常だろ。どンだけハッスルしてやがンだあのガキは」

一方通行「まァ、俺には関係ねェからどォでもイイがな」



ガラララッ



打ち止め「うおおりゃああっ!! このミートボールはミサカのものだぜっ! ってミサカはミサカは山賊魂を燃やしながら強奪を謀ってみたりっ!」バッ

円周「ふん、甘いよ打ち止めちゃん! 甘々だよ大甘だよ! この程度のスキルで山賊宣言するなんて『木原』を舐めすぎっ!」ガキン


一方通行「…………」


打ち止め「あっ、やっと起きたみたいだね。おはよー! ってミサカはミサカは時間帯に合わない挨拶をしてみたり」

円周「おはよう、そしてお邪魔しちゃってますアクセラお兄ちゃん」


一方通行「…………」



ガラララッ



一方通行「……寝よ」ガチャリガチャリ


円周「あっ、何も見なかったことにして部屋に帰ろうとしてる」

打ち止め「逃すなぁ、追えぇ!! ってミサカはミサカは命令口調しつつ結局自分で追いかけてみたり!」ダッ




-黄泉川家・食卓-


一方通行「……ハァ、何つゥか面倒臭せェ」ズズズ

打ち止め「人の顔見るなり面倒臭い発言はどうかと思うよ、ってミサカはミサカは至極真っ当な指摘をしてみたり」

円周「しょうがないよ打ち止めちゃん。アクセラお兄ちゃんはそーいう人だし」

一方通行「そォいう人、って評価されるほどオマエとそンな付き合いねェと思うンだけどよォ」

円周「そうかなあ? バレンタインのチョコを渡したりするくらいの仲だとは思ってたんだけど」

一方通行「それはオマエが一方的にそォ思ってるだけだろォが。つゥか、俺はオマエのプレゼント受け取った記憶ないンだが」

円周「あれー? そうだったっけー? あれれー?」

打ち止め「まああれはプレゼントというよりイタズラでしたからなー、ってミサカはミサカはポテトフライをかじりながら思い出してみる」モグモグ

一方通行「……その昼メシはコンビニか何かの弁当か。他のヤツらはどこにいった。そしてこのクソガキがここにいる理由はなんだ?」

打ち止め「ヨミカワはアンチスキルのお仕事で、ヨシカワはコンビニのバイト、アワキお姉ちゃんはお友達と遊びに行ってるよ、ってミサカはミサカは説明してみたり」

打ち止め「そしてミサカがここにいる理由、それはここに住んでるからとしか言い様がないのだ、ってミサカはミサカは胸を張って答えてみたり」エヘン

一方通行「オマエのことじゃねェよ。そっちの木原円周のことだ」

円周「えっ、クソガキって私のことだったの? まさか私までクソガキ扱いされてるとは思わなかったなあ」

打ち止め「というかあなたはいい加減二人称を分かりやすくしたほうがいいと思うよ。というわけでミサカのことはクソガキじゃなくちゃんとラストオーダーと呼ぶのだ!」ビシッ

一方通行「名前長いからクソガキでイイだろ」

打ち止め「わーいソッコー拒否されちまったぜ、ってミサカはミサカは自分の名前の長さを少しだけ恨んでみたり」

円周「ふーん、じゃあ私の名前はそこまで長くないから呼んでくれるってことだよね?」

一方通行「呼びづらいからクソガキでイイだろ」

円周「あれ? おっかしいなあ、私の名前は円周率みたいで呼びやすいってことに定評があるのに」

打ち止め「でもでもそれじゃあ駄目だと思う! 同じクソガキだったらこうやって二人でいると、呼ばれた瞬間二人同時に返事する事件が多発すると思うよ、ってミサカはミサカはこれからの展開を予想してみたり」

一方通行「だったらどっちか俺の前から立ち去れ。そォすりゃ問題ねェだろ」

円周「それは無理な提案だね。私たちは常に一緒にいる、いわば二人一つのような存在! これから私が白い服を着て打ち止めちゃんが黒い服を着て悪者をやっつけるような運命があるに違いないんだよ!」

打ち止め「おおっ! いいねえ、そういう展開結構燃えるところがあるかも、ってミサカはミサカはこれからの展開に少し期待をしてみたり!」

一方通行「アニメの見過ぎだクソガキども」




一方通行「……結局どォしてオマエはここにいるってンだよ? 木原の方のクソガキ」

円周「一応名前が区別つくように努力はしてくれるんだね。結局クソガキだけど」

打ち止め「さすがツンデレ界の第一位だねー、ってミサカはミサカはあなたの成長に感心してみたり」

一方通行「誰がツンデレ界の第一位だ。ぶっ殺すぞクソガキ」

円周「まあまあ定番の流れは置いといて、アクセラお兄ちゃんのために私がここにいる理由を『木原』的に説明してあげるとするよ」

一方通行「普通に説明しろよ面倒臭せェ」

円周「ふーん、だったら普通に説明するよ。今日は従犬部隊の社員全員出張に出ててね。私だけ仲間はずれにされたんだよ。以上」

一方通行「……つまり、アレかァ? 今お隣さンは誰一人いなくて閉め出されたオマエは行く当ても無いからここにいると?」

円周「そうそう、さすが第一位だね。理解力がまともで助かるよ」

一方通行「理解力なンてクソほども必要ねェ話だったよォな気がすンだが……」

円周「まあこまけぇこたぁいいんだよ! ってことで一つよろしく!」

一方通行「……ハァ、本当に面倒臭せェ」

打ち止め「ん? 何でそんな露骨に面倒臭いアピールするの? この殺伐とした家にエンシュウが遊びに来たんだよ? 喜ぶべきじゃないかな?」

一方通行「別に元から殺伐となンかしてねェだろ。つゥか、このクソガキが遊びに来たせいで、逆に俺がここを殺伐とした雰因気にするかもしンねェな」ピキピキ

円周「まあまあ落ち着いて。ほら、あったかいお茶でも飲んで」つ旦

一方通行「余計なお世話だッ。てか、人の家のモン勝手に使ってンじゃねェぞクソガキ」

円周「うーん、こんなにおいしいのになあ」ズズズ

一方通行(……クソが、出来損ないでもやっぱり『木原』か。人の癇を障りに障りまくってきやがる)ギロッ

円周「? いやあそんな熱烈な視線を向けられてしまうとこちらも困るっていうかー」テレッ

一方通行「『木原』、マジでうぜェ……」ピキピキ

打ち止め「ぎゃあああっ!? 何か知らないけどとてつもなくキレてるぅぅ!? ってミサカはミサカは今にも電極のスイッチを押してしまいそうなあなたを制止してみたり」

円周「能力に頼らなければ女の子一人どうにかできないなんて、まさしく滑稽ってやつだねー」

一方通行「クソガキィ! よォく聞けェ! トモダチはちゃンと選べェ! こンなゴミクズ間違っても選ンでンじゃねェぞゴルァ!!」

円周「ひどい言われようだねー」

打ち止め「むー、突然何なの? ちょっとそれは言いすぎだと思うよ、ってミサカはミサカは友達を馬鹿にするあなたに少し憤りを感じてみたり」

一方通行「あァ!?」ギロッ

打ち止め「ひっ、……え、エンシュウは親友だもん! ってミサカはミサカは徹底抗戦の姿勢を見せてみる」

一方通行「コイツが……、親友だとォ!?」

円周「そうだそうだー! 親友だぞー!」

一方通行「へェー、こンなにうっとォしいゴミクズ野郎だっつゥのにか?」ピキピキ

打ち止め「そ、そうだよ! どの辺りがゴミクズ野郎なのかさっぱり分からないけど、ってミサカはミサカは肯定してみる」

円周「そうだー! ゴミクズ野郎だゴミクズ野郎だ……あっ、間違えた、親友だ親友だぞお!」

一方通行「……あァーもォ面倒臭せェ。勝手にしろォ。俺ァもォ寝る」ガチャリガチャリ

円周「おっ、デレたよ打ち止めちゃん。やったね私たちの勝利だあ」

打ち止め「いや、単にもう面倒になっただけだと思うけど。まあいいやミサカたちの勝利だわっしょーい!!」

一方通行「くっだらねェ」ゴロン


―――
――





同日 14:30

-黄泉川家・リビング-


一方通行「Zzz……」


打ち止め「――ねえねえ、アクセラレータ! 起きてー! ってミサカはミサカは呼びかけながら揺すってみる!」ユサユサ


一方通行「Zzz……」


円周「アクセラお兄ちゃん! 朝だよー! 起きる時間だよー!」


一方通行「Zzz……」


打ち止め「うーん、やっぱり起きないねー、ってミサカはミサカは予想の範疇だけど少し残念がってみたり」

円周「おかしいなあ、時間的にレム睡眠のはずだから、すんなり起きるのだと思ったんだけど。もしかしていつも寝すぎて睡眠の周期が他の人とは異なるのかなあ?」

打ち止め「たしかにあの人はしょっちゅう昼寝してるからねー。たぶんあれだよね、昼寝し過ぎると夜眠れなくなるあれ! ってミサカはミサカは自信満々に発言してみたり」

円周「そういうのとは違うと思うけど。まあいいや、とりあえず違う方法で起こそう」

打ち止め「違う方法? ってミサカはミサカは繰り返してみる」

円周「うん。人を起こす方法は何も体を揺さぶったり大声で呼びかけるだけじゃないってことだよ」スッ

打ち止め「? スマホなんか出してどうするつもりなの? 大きい目覚まし音とか流したりするつもり?」

円周「違うよ。それじゃあ大声で呼びかけるのと何ら変わらないよ。私の場合はこうやって使うんだよ。……んっと、そうだなー」スイッスイッ

打ち止め「おおうっ、何という華麗な指さばき。まさしくスマートフォンだね、ってミサカはミサカはうまいこと言ってみたり」

円周「別にうまくも何ともないよ。……うん、そうだね。やっぱり安定の数多おじちゃんだよね」スイー

打ち止め「ん? 何でここでキハラの名前が出てくるの? ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」

円周「あっ、そうだ打ち止めちゃん。少し私から離れて身構えたほうがいいと思うよ?」

打ち止め「えっ、何で?」

円周「あなたにとってとても怖くて、気持ち悪くて、不快すぎるから、もしかしたら失禁とかしちゃうかもだからね」

打ち止め「失禁って何言ってるのえんしゅ――ッ!?」ゾクッ

円周「――うんうん、そうそうそうだよね数多おじさん。『木原』ならこういう雰囲気を自分で作り出さないといけないよね」ピーガガガ



ガタッ!!



一方通行「ッ!?」カチッ

円周「あっ、起きた起きた」




一方通行「……木原、……円周……?」

円周「そうだよー。みんなのアイドル円周ちゃんだよー」

一方通行「……オマエ、一体何をやりやがった……!」

円周「うん? 何ってあれだよあれ、アクセラお兄ちゃんがあまりにも起きないから打ち止めちゃんと一緒に起こしてたんだよ。ね、打ち止めちゃん?」


打ち止め「えんしゅうこわいえんしゅうこわいえんしゅうこわいえんしゅうこわい――」ガタガタブルブル


円周「あら、やっぱりこうなっちゃったか。だから離れててって言ったのに」

一方通行「クソガキに……打ち止めに何をやりやがったオマエェ!!」

円周「そんな中二病的なシリアス顔にならなくもいいのに。別にただ『木原』的に純粋な悪意ってやつを放ってみただけだよ。ポ◯モンで言うあくのはどうみたいなの。二割の確率でひるむよ」

一方通行「ふざけてンじゃねェぞォ木原円周ゥ!! やっぱりオマエは俺たちを狙うよォに言われた上からの刺客だったっつゥことかァ!!」

円周「私はそんなんじゃないし。もう、はいはいやめやめ。一旦落ち着こうよアクセラお兄ちゃん。誰もこんなシリアス展開期待してないよ。これがドラマとかならチャンネル変えられちゃうよ……あっ、そうだ」スッ



パンッ!!



打ち止め「!? な、何っ!?」ビクッ

円周「やっと正気に戻ったね。ちょっとこのアクセラお兄ちゃんどうにかしてよ。今にでも私の血流を操作して心臓爆破しそうで怖いよ」

一方通行「……ら、打ち止めァ」

打ち止め「わっ、何そのとてつもなく怖い顔ッ!? 何だか知らないけどミサカなら大丈夫だから落ち着いてっ! ってミサカはミサカはとりあえず電極のスイッチを切ることを懇願してみる!」

一方通行「あ、ああ」カチッ

打ち止め「一体何があったの? ちょっとミサカ何があったかイマイチ覚えてないんだけど、ってミサカはミサカは少し痴呆症を心配しながら尋ねてみる」

円周「いやー、その外見で痴呆症はないでしょー。ただちょっと私のイタズラでビクビク状態になってただけだよ」

打ち止め「……よく分からないけどあなたが怒ってたのってそれが原因? ってミサカはミサカは首を傾げてみる」

一方通行「チッ、ンなわけねェだろォが。ただそこの円周が調子に乗ってたからオシオキしてやろォと思っただけだ」

打ち止め「ふーん、まあ何にしてもありがとうね、アクセラレータ!」ニコッ

一方通行「ッ……くだらねェこと言ってンじゃねェよクソガキ」

円周「わあ、まさしくツ・ン・デ・レ・だ! いやあ、今まで何となくしか感じてなかったけどこれはもうツンデレ判定確定だね、うんうん」

一方通行「…………」カチッ




円周「……あれえ? アクセラお兄ちゃん何で唐突にまた電極のスイッチを押したの? 私には理解できないよ」

一方通行「とりあえずオマエが敵じゃないっつゥのは信じてやろう」

円周「ほんと? それは嬉しい限りだね。でもそんなにあっさり信じちゃってもいいのかなあ?」

一方通行「別に今さらエネミー宣言したところでオマエみてェなガキ怖くねェからな。ま、この話は置いといてオマエが敵じゃないとしても……」


一方通行「とりあえずオシオキは確定っつゥことだ」ニヤァ


円周「……うんうん、分かってるよ数多おじさん。『木原』はこういうときは逃走するにかぎ――」ダッ



ズガン!!



一方通行「チッ、くだらねェ」カチッ

円周「」プスプス

打ち止め「わー、すごく痛そう、ってミサカはミサカは小学生並みの感想を言ってみたり」

一方通行「見た目が小学生だから別にイイだろ。……つゥか、結局オマエらは何でこの俺の至福の昼寝タイムを邪魔しやがったンだ?」

打ち止め「え、えーと何だっけ、ってミサカはミサカは記憶を少しさかのぼってみたり」

一方通行「どォでもイイことなら俺は昼寝を再開させてもらうぞ」ゴロン

打ち止め「えっ、ちょっと待って! えーと、えーと」アセッ

円周「これだよ打ち止めちゃん。このチラシこのチラシ」ピラピラ

打ち止め「おおっ、これだ! ありがとエンシュウ! ってミサカはミサカは素直にお礼を言いつつチラシを受け取ってみたり」

一方通行「チッ、無駄に回復力は高けェな」

円周「それは私が『木原』だからだよ。えっへん!」

一方通行「未元物質(ダークマター)でも体に埋め込ンでンのか……」

打ち止め「これだよこれ! これを食べに行きたくてあなたを起こしたの! ってミサカはミサカはチラシを渡しながら上目遣いで頼み込んでみたり」

一方通行「あァ? 何々……『クレープハウスrablun』ってまたクレープかよ! このネタ前もやっただろォが!」

打ち止め「それなら話が早い。ミサカたちをそこに連れて行ってクレープをごちそうして欲しいのだ、ってミサカはミサカは率直にお願いしてみたり」

円周「私前々からこのクレープ屋さんに友達と行ってみたかったの。お願いアクセラお兄ちゃん」

一方通行「白々しい嘘ついてンじゃねェ。つゥか、何で俺が連れて行かなきゃいけねェンだ、オマエらだけで行って来い」

打ち止め「ええっー、だってミサカたちお金ないしー」

一方通行「ンなモン俺がいくらでも渡してやるよ」

円周「そもそもこんなか弱い女の子二人でそんなところまで行け、って言うのが鬼畜だよね」

一方通行「オマエは中学生だろォが! 今どき学園都市、しかも治安が一番まともな第七学区を一人で歩けないとか言う中学生なンているわけねェだろ!」




円周「別にアクセラお兄ちゃんがそれでいいならそれでいいんだけど。もしかしたら私たちだけで外に出たら、打ち止めちゃんを狙ったテロリストがいきなり強襲してくるかもしれないよ?」

一方通行「そンな都合よくテロリストが現れるわけねェよ」

円周「ほんとに?」

一方通行「ああ」

円周「ちゃんと前例があるのに?」

一方通行「あァ?」

円周「学園都市のトップシークレットの暗部組織『メンバー』。一応聞いてるんでしょ? 前、従犬部隊のオフィスが狙われたこと」

一方通行「…………」

円周「以前は数多おじさんたちがいたからよかったけど、さすがの私一人じゃ守り切る自信はないよ。私、一応『木原』だけどそんなに優秀じゃないから」ニヤリ

打ち止め(何の話をしてるんだろ? ってミサカはミサカは指を咥えながら会話する二人を眺めてみたり)キョトン

一方通行「チッ、分かったよ面倒臭せェ。連れて行ってやるっつゥのクソったれがッ」ガチャリガチャリ

打ち止め「えっ、ほんと!? わーい、久しぶりにスイーツが食べられるぜ、ってミサカはミサカは普段はプッツンプリンしか食べられない不満を今日ここで発散することを心に決めてみたり!」トテチテ

一方通行「この前散々クソ甘いチョコレート食べてたのに何の不満があるってンだ……」

打ち止め「チョコレートとクレープは別腹ってやつだよ、ってミサカはミサカは女子的な返答をしてみたり!」

一方通行「欲望に忠実な胃袋様だな、クソが」ガチャリガチャリ


円周「…………」

円周(……ふふっ、ほんとはあの程度の暗部組織私一人で余裕だけど、やっぱりこう言えばアクセラお兄ちゃんは動いてくれるね)

円周(さすが数多おじさん。アクセラお兄ちゃんのことをよーく分かってるねー)ピーガガガ


一方通行「オイ、クソガキィ! 来るならさっさとしろォ! ボケっと突っ立ってンじゃねェよ!」

打ち止め「早くー! エンシュウー! ってミサカはミサカは己の欲望のために急かしてみたり!」

円周「はあい! すぐに行くよー!」



ガタン



―――
――





同日 15:00

-第七学区・街頭-


一方通行「……あァ、クッソ。ふれあい広場遠すぎンだろ面倒臭せェ」ガチャリガチャリ

打ち止め「でも家からは徒歩15分位だったような気がするんだけど、ってミサカはミサカは前回クレープ屋さんへ行ったことを思い出してみたり」

円周「だらしないなあ。日頃の運動不足がこういうところで影響するってよく分かる模範になれるね」

一方通行「俺杖突きオマエら五体満足オッケー?」

打ち止め「そんなに面倒なら能力使えばいいのに。そしたらすぐに着くしミサカたちも楽しめるしでの一石二鳥だよ、ってミサカはミサカは四文字熟語を混じえて知的アピールをしてみたり」

一方通行「その程度の四文字熟語馬鹿でも使えるぞ。つゥか、そンなポンポン能力使えるかってンだ。いつどこで何があるか分からねェっつゥのによォ」

円周「テロリストの軍勢に襲われたりしたら大変だしね。アクセラお兄ちゃんなんて能力使用モードで30分経ったらただのサンドバックと化するし」

一方通行「オマエをサンドバックに見立ててブン殴りてェが、言ってること自体間違ってねェからなァ」

円周「そいつは危ない危ない。この前数多おじちゃんにもサンドバックにされそうだったからね。もしかしたら私はサンドバック回避能力に長けた『木原』かも」

一方通行「随分とくだらねェ能力だな。つゥか、ガキ相手に何やってンだあのオッサン」

打ち止め「ふふふっ、そりゃミサカたちのイタズラが常に絶えない職場だからね。キハラもサンドバックを殴りたくもなるよ。実際ミサカも結構ゲンコツ食らったし、ってミサカはミサカは頭をさすりながら思い出してみたり」

一方通行「木ィィ原クゥゥン!! ガキを手を上げるたァどォいうつもりだクソ野郎がァ!! スクラップ確定だゴミクズがッ!!」

打ち止め「もう落ち着いて! 別にそんな大したことじゃないから大丈夫だよ! ってミサカはミサカは相変わらずの過保護ぶりに呆れてみたり」

円周「いやあ、これはもうあれですなあ。過保護というよりろりこ――おっとアクセラお兄ちゃん冗談だよ冗談。やだなー冗談だから電極のランプの色を赤色にするのはやめよう」

一方通行「……何つゥかただでさえ歩いてて疲れるってのに、さらにクソガキ二人に囲まれたら10倍ぐらい疲れる気がすンだけど」

円周「それは気のせいだと思うよ。なんたって癒し系ヒロインの円周ちゃんが一緒にいるんだからね。毎ターンSP10%回復だよ」

一方通行「オマエが癒し系だったら、通学路とかでやけに吠えてくるクソ犬でさえ癒し系に思えてくるな」

打ち止め「おっと、元気系マスコットポジションのミサカも忘れてもらっては困るぜ、ってミサカはミサカは元気のないあなたに元気100倍的パワー込めた視線を送ってみたり」キラキラ

一方通行「やっべェ、やべェよ元気100倍光線。俺の気力をガンガン破壊していきやがる」

円周「…………何か物足りないなあ」

打ち止め「何が? ってミサカはミサカは唐突に話題を変えたエンシュウに問いかけてみたり」

円周「キャラ濃いメンバーで構築されたパーティーだけど、決定的に足りないものがあると思うんだ」

打ち止め「ふーん、それは?」

円周「おそらく『ツッコミ』ッ!! もともとアクセラお兄ちゃんがその役目を持っていたけど今じゃこのザマさ」

一方通行「誰がツッコミだ」

打ち止め「おおったしかに一理ある! 何となく感じてたこの感じはツッコミ不在の恐怖ということか、ってミサカはミサカは頷きながら納得してみたり」

一方通行「だったら結標でも呼ンでこい。アイツなら頼めば小さなボケからボケじゃないところまできっと全部ツッコンでくれるからよォ」

円周「だが残念。淡希お姉ちゃんは今お友達とショッピング中というリア充状態。私たちみたいな日陰ものとは縁のないところにいるから呼べないんだよねー」

一方通行「本当だよなァクソ。休みを有意義に過ごしやがって……、何が楽しくて日曜の休日にこンなクソガキどもの子守なンてしなきゃいけねェンだ」

打ち止め「またまたー。そんなこと言って本当は楽しいくせにこのこのー、ってミサカはミサカは肘で小突いてみたり」

一方通行「叩き潰されたくなかったらその俺の癇に障ることは一切やめろ」ギロッ

円周「と、言いつつも内心ウハウハ状態のアクセラお兄ちゃんなのでしあたたたたたたたたたたたたっ!! ふぉっぺたふぃっぱるのふぁめてえええ!」




一方通行「次減らず口叩いたらその邪魔臭せェ頬肉引き千切ンぞ」

円周「そんなことになったら、ほのぼのハートフル日常ストーリーから一転してC級スプラッター映画に早変わりだね」

一方通行「もしこれが本当にほのぼのハートフル日常ストーリーだったら、俺のイライラが止まらねェなンてことないンだよなァ……」

円周「うーん、でも最近はそういう感じの話が増えてきて食傷気味なんだよなあ……やっぱりこういうときはツッコミキャラを投入してキレのあるギャグ展開にっ!!」

一方通行「オマエが何を言ってンのか分かンねェが、とりあえずオマエが黙れば全部解決すンだろォなってことはよォく分かった」

円周「よし。だったら次にすれ違った人をこのパーティーのツッコミ役として抜擢しよう。そうすればマンネリ化を防げるね」

打ち止め「おおっ! あれだね桃太郎的な展開のあれだね! クレープをエサに仲間を増やしていく王道の展開だよね、ってミサカはミサカは古典的な物語を現代風に置き換えてみたり」

一方通行「オイ面倒ごとあまり増やしてンじゃねェぞクソガキども。大体クレープ買いに行くだけでマンネリとかわけ分からねェよ」

円周「マンネリだよ。私たちがおちょくってアクセラお兄ちゃんが殺すぞ的な一言で一蹴するパターンの繰り返し。こんな展開誰も望んでいないと思うよ」

一方通行「やっぱりオマエらが黙ればイイだけじゃねェか。よし黙れ。そォすりゃマンネリ解消みンな幸せハッピーエンドを迎えるわけだ」

打ち止め「ええっー! それじゃあミサカたちがつまんなーい! ってミサカはミサカは文句たれてみたり」

一方通行「だったら俺もつまンねェからオマエら大人しくしてくれ」

円周「おっ、そんなこと言ってる間に通行人A発見。まあ通行人というより行き倒れっぽいかも……まあいいや。早速クレープエサにツッコミ役として引き抜きだあ!」

一方通行「勝手なことしてンじゃねェぞクソガキィ! ……あァ? 行き倒れだと?」



禁書「……ううっ、おなか空いたんだよ」グッタリ



一方通行「」

打ち止め「あっ、あれはインデックスだ! おおーいインデックスー!! ってミサカはミサカは手を振りながら大声で呼びかけてみたり!」

禁書「……ん? あっ、らすとおーだー! それにあくせられーたまで! こんにち……うっ、空腹が……」

一方通行「……こンなところで何やってンだクソシスター。とっとと家に帰れ」

禁書「まさか出会ってすぐにそんな辛辣な言葉をかけられるとは思わなかったんだよ……」

円周「ヘイ彼女! 私たちと一緒にクレープでもどうだーい? 今ならクレープに加えてクレープもつくYO!」ピーガガガ

禁書「えっ、クレープ!? 行く行く行くんだよ!!」キラキラ

円周「というわけでYOUはツッコミ役ネ。それじゃトゥギャザーしようぜ!」

一方通行「オイ、コイツ今誰の人格データ使ってンだ? 見たことねェよこンな奇天烈キャラ。つゥか、いろいろ混ざってンだろこれ」

打ち止め「さあ? ミサカもこればかりは分からないなー、ってミサカはミサカは首を傾げてみる」

一方通行「オマエはこれの親友じゃなかったのかよ」


―――
――





同日 15:15

-第七学区・ふれあい広場-



ワイワイガヤガヤ



禁書「私の名前はインデックス、っていうんだよ。よろしくねえんしゅう」

円周「よろしくねーインデックスちゃん。では早速……いやあ、しかしアツはナツいねーインデックスちゃん」

禁書「アツ? ああ、おでんの厚揚げのことだね! おいしいよね厚揚げ! 汁がたっぷり染みてると最高かも」

打ち止め「クレープ屋の行列に並んでるときにおでんの話はどうなのかな、ってミサカはミサカは……いや、もしかしたらおでんとクレープがコラボするというびっくり仰天の展開への伏線なのかも!?」



キャッキャキャッキャ



一方通行「何でツッコミ要因補充してンのにボケが増えてンだよ! つゥか、何でまたよりによってこンな面倒なガキが一人増えてンだよふざけンなッ!」

円周「おっ、予想通りアクセラお兄ちゃんがちゃんとツッコミに回った。ふふふ、このためにわざわざボケを一人動員したんだよ」

禁書「ぼけ?」

打ち止め「さすがエンシュウだね。でもツッコミに回るインデックスとかも少し見てみたかったかも、ってミサカはミサカは新たな路線の開拓に努めてみたり」

禁書「つっこみ?」

一方通行「こンな話の流れがまるで汲み取れてねェヤツがツッコミなンて出来るわけねェだろォが」

禁書「むぅ、何かあくせられーた。私のことをそこはかとなく馬鹿にしてるね?」

一方通行「おォよく分かってンじゃねェか。オマエ話の流れ読めてるじゃねェか。やるじゃン」

禁書「えっ、ま、まあね。エッヘン!」

一方通行(困惑した表情のままでドヤ顔してやがる。器用なヤツ)

打ち止め「そういえばインデックスはどうして道端で倒れてたの? ってミサカはミサカは素朴な疑問で話題を転換させてみる」

禁書「うーん話せば長くなるんだけど――」

一方通行「三下。昼メシを作り忘れる痛恨のミス。新たな食料を求めてたびに出た暴食シスター、って感じのいつもの流れだろどォせ」

禁書「ふっ、甘いんだよあくせられーた!」

一方通行「あァ?」

禁書「私はお昼を食べたあと冷蔵庫を開けておやつがないことを早々に気付いたから外に出たんだよ。お昼がないからとかそんな安直じゃないんだよ」

一方通行「なぜ昼メシ食ったあとにおやつがないことに気付けるのか、俺にはどォしても理解が及ばねェよォだ」

円周「アクセラお兄ちゃんアクセラお兄ちゃん」

一方通行「ンだよ」

円周「展開がつまらないからテコ入れしたはいいけど、そしたらメインヒロインの私が空気になってきちゃった。どうしよ」

一方通行「誰がメインヒロインだって? 空気は空気らしく黙って隅っこにでもいろ」

打ち止め「うんうん分かるよエンシュウ。こういう濃いキャラが現れるとミサカたち常識人は一瞬で空気になっちゃうよね、ってミサカはミサカは頷きながら同意してみたり」

円周「だよね。常識人はツライよねー」

一方通行「常識人って言葉を一度辞書で引いてみろよクソガキども」





ワイワイガヤガヤ



円周「……うーん、しかしなかなか前に辿りつけないね。クレープってこんなに人気のあるスイーツだったの?」

禁書「お腹空いた……早くくれーぷが食べたいんだよ!」

一方通行「つゥか、オマエは昨日の昼散々分厚いステーキを、そのブラックホールみてェな口に放り込ンでたっつゥのにもォそンな戯言が言えンのかよ。普通は明日一日何にも食わなくてもイイって展開になるンだがな」

禁書「えっ、そうなの? 普通に生活してたから分からなかったんだよ。あっ、でも晩ご飯のおとうふがとても美味しく感じたんだよ!」

打ち止め「はっ、あまりに脂っこいものを食べ過ぎたからそういうあっさり系が余計においしく感じたんだね、ってミサカはミサカは的確な分析力を遺憾なく発揮してみたり」

一方通行「その前に何で晩メシ食ってンのかをツッコめよ」

円周「ちなみにどのくらいステーキ食べたの?」

禁書「いっぱい食べたんだよ!」

円周「わあー同年代の娘がその場の情景をまったく思い浮かべることが出来ない説明をするとは思わなかったよ」

禁書「?」

円周「というわけで解説要員のアクセラお兄ちゃん。はよ」

一方通行「利益が出てるはずなのにシェフが半泣きになるくらいは食いやがった」

円周「まったく情景を思い浮かべないけどすごいことはわかったよ。さすがアクセラお兄ちゃん!」

禁書「あくせられーた嘘はいけないんだよ。店員さんはちゃんと笑顔で見守っててくれてたよ」

一方通行「オマエから見たらそォ思うかもしれねェな。オマエから見たらな」

円周「ふむ。その小さな体の中の一体どこに大量の食料を詰め込める場所があるのか非常に気になるね。強力な胃酸を持っているのか、それとも一瞬で食べ物を原子力エネルギーに変換してるのか……」

打ち止め「エンシュウがヨシカワみたいなこと言ってる」

一方通行「及第点に達していなくても変態科学者一族の一員ってことか」

円周「ファイブオーバー・モデルケースインデックスとか作ってみようかな? クレージーゴンみたいなの。あっ、でもインデックスちゃんレベル5じゃないや」

一方通行「何を言ってるのかは分からねェが、こンな怪物をこれ以上増やそォとすンじゃねェ」

禁書「怪物はさすがに傷つくんだよ……ただ食べることが好きなだけなのに……」

一方通行「……さァて、いつになったらクレープ買えるかなァと」

禁書「ちょっと無視しないで欲しいんだよ! スルーされるのはつらいものがあるんだよ!」

円周「分かる。分かるよインデックスちゃん。渾身のネタをスルーされたときの虚しさったらないよね」

禁書「えっ、別に冗談とかで言ったわけじゃ……」

円周「いやあ、しかしアツはナツいねー」

禁書「? 厚焼き玉子は私は甘いより少ししょっぱいほうが好きなんだよ!」

円周「…………」

打ち止め「わおっ、華麗なスルーっぷり。というかスルーというよりは自分のネタとして変換しているっ!? ってミサカはミサカはあまりに高度なボケについていけないことを悔しく思ったりぃ!」

禁書「?」

一方通行「何やってンだこのクソガキども……」




一方通行「……しかし、真面目に全然店前にたどり着かねェな。たかが日曜日ってだけでこの多さは異常だろ。どンだけ甘いモンに飢えてンだ学園都市のヤツらは?」

円周「さあ? もしかしたら今学園都市ではクレープが大ブームなんじゃない? 私テレビとか見ないから知らないけど」

一方通行「俺もテレビ見ねェから知らねェ」

打ち止め「テレビ見るけど知らないよ、ってミサカはミサカは流れに乗じてみたり」

禁書「私も毎日てれび見ているんだよ! とくにカナミンが面白いから好きなんだよ!」

一方通行「オマエのテレビの趣味なンざどォでもイイ。テレビしか見てねェクソガキがブームじゃねェっつゥンなら何かキャンペーンでもやってるってことか?」つチラシ


『卒業シーズン!! ラヴリーミトンのゲコ太とピョン子の卒業バージョンのストラップをプレゼントキャンペーン中!!』


一方通行「…………」ギロッ

打ち止め「あ、あははー、何のことやらー、ってミサカはミサカは口笛を吹いてごまかそうと口を尖らせてみるけどできない現実に絶望してみたり」スヒュースヒュー

一方通行「チッ、端からこれが目当てで俺を連れ出しやがったか。ふざけたクソガキだなァオイ」

打ち止め「べ、別にいいじゃん! もともとおやつに甘いものを食べたかったわけだし、そのオマケにストラップが付いてるくらいで本来の目的からはズレてないし!」

一方通行「オマエの場合その本来の目的っつゥのはそのカエルの人形だろォが」

円周「知ってる? 食用のカエルって鳥のささみみたいな味がするらしいよ」

禁書「へ、へーさすがの私もカエルは食べようとは思わないかな?」ジュルリ

一方通行「とりあえずよだれ拭いとけよ」つポケットティッシュ

打ち止め「うっ、そ、そんな話をしたところでミサカの決意は決してゆ、揺るがないかも……、ってミサカはミサカは頭に浮かんだ食用カエルを必死に消そうと抗ってみたり」

禁書「鳥のささみっていうことは唐揚げとかにしたらおいしいのかな?」

円周「世の中には活造りにして食べてる人たちもいるみたいだよ。やっぱり水辺の生き物だから刺し身が美味しいのかなあ?」

打ち止め「……おえっ」

一方通行「とりあえずそこの馬鹿二人。これ以上ゲテモノトークを繰り広げるつもりなら叩き潰してすり身にすンぞ」

円周「うーん、ここは話の流れに乗じて『オマエらを活造りにすンぞ』みたいに言ってくると思ったけど予想と違ったね。まだまだアクセラお兄ちゃんのこと分かってないようだなあ」

一方通行「どォでもイイことを人の理解の判断基準にしてンじゃねェ」

禁書「うん、やっぱり今の気分はクレープなんだよ! 鳥のささみの気分ってじゃないんだよ!」

円周「この『鳥のささみ』という単語はそのままの意味なのかはたまた例のブツを表す隠語なのか気になるよねー。打ち止めちゃん」

打ち止め「……正直どうでもいいよ、ってミサカはミサカは話の発端であるエンシュウを睨みつけながら切り捨ててみたり」ジロッ

円周「打ち止めちゃんがドMの豚野郎が喜びそうな蔑んだ目で親友の私を見てくる……」

一方通行「チッ、しかしこのチラシを見てから、何つゥか、胸騒ぎというか嫌な予感がすンのは何でだろォな」

打ち止め「たぶんインデックスがものすごくクレープを食べて大変なことになるからじゃない? ってミサカはミサカは一番に思いついた予想を言ってみたり」

一方通行「いや、そンな単純なことじゃねェ。そもそもインデックスの常識外れの食欲は、もはや俺の中で常識になっているからどォでもイイ」

円周「これは近年よく見るアクセラお兄ちゃんのデレだね。つまりあれだよインデックスちゃん。今日は好き放題クレープ食べてもいい日ってことだよ」

禁書「えっ、ほんと!? じゃあじゃあメニューの端から端まで――」

一方通行「とりあえず殺すぞクソシスター」




一方通行(しかし本当にこの胸騒ぎは何なンだ? チラシを見てから……いや、正確にはチラシのカエルのストラップを見てからだ)

一方通行(クレープ、カエルのストラップ、クソガキが大好きなストラップ、正確には妹達(シスターズ)全員が好き、つまり元のオリジ……あっ)

一方通行(……いやいやいやいや、そンな安易な展開二度もあるわけねェだろ。もし神様ってヤツがいンならこンな面白みのねェことを繰り返すわけ――)


??「――あっれー? 何で今日に限ってこんなに混んでるわけ? まさかみんなゲコ太ストラップ目当てでッ……!?」


一方通行「神様ってホントクソだと思わねェか!? なァ超電磁砲(レールガン)ッ!?」

美琴「えっ!? いきなり何……って一方通行ぁ!? 何でアンタがこんなところに!?」ビクッ

打ち止め「あっ、お姉様だ! やっほーお姉様ー! ってミサカはミサカは久しぶりの再会に喜びを覚えてみたり!」

円周「ここで超電磁砲が登場かー。シナリオ的には悪くないかな」

禁書「ん? 何でこんなところに短髪が……」

美琴「……というかまたこの面子なわけね。何か新しい子が一人増えてるみたいだけど」

一方通行「超電磁砲。頼むから俺の前から消えてくれ」

美琴「なっ、何でアンタなんかに指図されなきゃいけないわけ!?」

一方通行「オマエアレだアレェ、もォこのネタ前にもやっただろォが! これ以上続けて『お 約 束』とかにされてもこっちが困るンだっつゥの」

美琴「はあ? 知らないわよそんなの! アンタの勝手な事情を私に巻き込まないでよ!」

一方通行「見えてンだよオチがよォ、ちょうどオマエの番になってクレープが売り切れる未来がなッ」

美琴「ふん、今回は50ポイント集めるとかじゃないし、そんな都合よくベタ展開が起こるわけ――」チラッ


禁書「……何? 私の顔に何か付いてるのかな?」


美琴「…………」

禁書「?」

美琴「お願い一方通行ぁ!! 列の順番代わって!!」

一方通行「面倒臭せェ」

美琴「そこを何とかっ! お願いっ!!」

円周「アクセラお兄ちゃんが第三位の頭を下げさせてる。さすが第一位だね」

打ち止め「この場合あの人じゃなくてインデックスの存在が一番大きいんじゃないかな、ってミサカはミサカは冷静に状況を分析してみたり」

一方通行「つゥかよォ、今回はオマエの言う通りストラップを手に入れるために50個クレープを頼む必要がねェ。なのに何でオマエはこォも食い下がってきやがるンですかねェ?」

美琴「普通に考えたらそうだけど、よくよく考えたらこのチビシスターがいるんだったら話は別よ! 50個近いクレープを平然と平らげるようなヤツが目の前にいて売り切れを危惧しない馬鹿はいないでしょ!」

一方通行「ンだァ? さっきとは打って変わった意見じゃねェか。『ベタな展開』は起こるわけねェンだろ? だったら大人しく待ってりゃイイだろォが」

美琴「……え、えっと、その。ど、どうしても……だめ?」チラッ

一方通行「……ハァ? 何だよその上目遣いはァ? クソガキといいこの俺がそンな低能な真似でなびくと思ってンじゃねェよ」

美琴「ぐっ、別にそんなのしたつもりまったくなかったけど何かムカつくッ!」

円周「さすがアクセラお兄ちゃん。女子中学生の上目遣いには少しも反応しない、まさにロリコンのかが――」


ゴッ!!


一方通行「さて、そろそろ俺らの番だな」

円周「あれ? おかしいなあ? 事実を言ったのはずなのに頭が痛いぞ?」ジンジン

打ち止め「エンシュウ。何かすごい目であの人がこっち見てきてるからそれ以上変なこと言わないほうがいいよ、ってミサカはミサカは忠告してみる」




店員「――次の方どうぞ!」


禁書「あっ、私たちの番なんだよ! 早く早く!」

一方通行「チッ、分かってるからハシャイでンじゃねェようるせェ」

打ち止め「わーい、何にするエンシュウ? ミサカ的にはカスタードと生クリームとチョコを合わせたダブルクリームチョコがいいと思うんだ! ってミサカはミサカは提案してみる」

円周「いやーどうかなあ? バレンタインのせいでもうチョコは懲り懲りなんだよねー。ここはフルーティな感じなのがいいなあ」

禁書「どれも美味しそ……いや、美味しかったんだよ!」

打ち止め「さすが完全記憶能力保持者! 前ほとんどのメニューを平らげたからできる断言だ!」

円周「へー、インデックスちゃんって完全記憶能力なんて持ってるんだ。珍しいねえ」

禁書「ふふん。暗記関係のゲームで私の右に出るものはいないんだよ!」フフン

円周「でもそんな優秀な能力があってもそれを活かせるオツムがなかったらなあ……」

禁書「何だか知らないけど、ものすごく残念そうなものを見る目をしてるねえんしゅう」

一方通行「くだらねェこと言ってねェでさっさと食いたいモン選べ。オマエらみてェなのがいるから無駄に後ろのヤツらの待ち時間が増えンだよ」

円周「でも後ろには別に誰もいないよね?」

一方通行「あン?」

打ち止め「そうだよ。お姉様は何にするのー? ってミサカはミサカは問いかけてみる」

美琴「えっ?」

打ち止め「えっ、じゃなくてクレープ食べるんじゃないの? だったら一緒に頼んで食べようよ、ってミサカはミサカはスイーツタイムのお誘いをしてみたり!」

円周「そうそう。どーせ全部アクセラお兄ちゃんの奢りなんだから好きなの頼めばいいよ」

一方通行「は? 何で俺がコイツのまで面倒見なきゃいけねェンだよ」

打ち止め「どうせ一緒に食べるんだからお会計も一緒にしたほうが早いし効率がいいでしょ? ってミサカはミサカは当然のことを言ってみる」

一方通行「チッ、めんど――」

円周「いつも効率効率言ってそうなアクセラお兄ちゃんがまさかこの案を断るわけないよね?」

一方通行「…………」

円周「だってあれだよね。面倒臭いってようするに無駄なことはしたくない=効率よくしたい、ってことだもんね」

禁書「なるほどー。たしかにあくせられーたの口癖は面倒臭いなんだよ」

一方通行「……ハァ、クソが。好きにしろクソガキども」

美琴「一方通行……」

円周「よしデレた。これはもうアクセラお兄ちゃんは完全に私たちの配下に――」



ガッ!!





打ち止め「じゃあじゃあお姉様クレープの食べ比べとかしようよ! ってミサカはミサカは提案してみたり!」

美琴「え、ええいいわよ」

円周「うむ、すごく頭が痛い。これは頭に痛みが長時間残るような絶妙な角度と力で殴られてる。何という悪質なレベル5だ……」

一方通行「オマエのほうが圧倒的に悪質でうっとォしい存在だと思うンだけどなァ……」

打ち止め「どれにしようかなー、ってミサカはミサカはメニュー熟視しながら考えてみたり」

美琴「……打ち止め」

打ち止め「何? ってミサカはミサカは振り返りながら返事をしてみる」

美琴「……ありがとね」

打ち止め「んーん、別にミサカは何もやってないよ、ってミサカはミサカは本当のことを言ってみる」

一方通行「これ冷静に見るとガキに助けられる超能力者(レベル5)の第三位様っていう非常に面白い光景なわけだよなァ……」

美琴「……うっさい」

禁書「じゃあ私はメニューのここからここまでを――」

一方通行「オマエはイイ加減遠慮というものを覚えろ。一個だ一個」

打ち止め「さて、いろいろな問題も解決したところだし、これで安心してゲコ太のストラップをゲットできるぜ、ってミサカはミサカはわくわくどきどきが止まらなかったり!」

美琴「そ、そうね。正直クレープよりこっちがメインだし……!」

一方通行「オマエらあとでクレープ顔面に投げつけてやるから覚えとけよ」


店員「も、申し訳ございません。今回のキャンペーンの品は最後の一つしか残っていませんでして……」


美琴「……えっ?」

打ち止め「な、なんだって……?」

円周「何というベタな上にお約束な展開」

禁書「? 何で二人は絶望の淵に立たされたような顔をしてるの?」

一方通行「アレだ。オマエもクレープが食べられる寸前で、実は売り切れでしたってことになったらこンな顔すンだろ?」

禁書「えっ!? クレープ売り切れちゃったの!?」

一方通行「いや、オマエにこの例えをするのは間違いだったな」




店員「ありがとうございましたー!」


一方通行「……で、この一つだけのカエルのストラップはどォすりゃイインだ?」

打ち止め「……ど、どうするお姉様? ってミサカはミサカは恐る恐る尋ねてみたり」

美琴「ほ、本当にどうしようか……」

打ち止め「お、お姉様がもらってよ。知ってるよ、お姉様ゲコ太グッズすっごい集めてるんでしょ? ってミサカはミサカはミサカネットワークの情報を引っ張ってみたり」

美琴「なっ、何でそんな変な情報まであるのよそのネットワークッ!?」

円周「へー。常盤台のエース超電磁砲にそんな趣味があったのかあ。知らなかったなあ」

一方通行「ホントガキ臭せェ趣味だよな。いや、別にまだガキだからイイのか?」

美琴「ガキとか言うな子供扱いすんな!」

禁書「まあでも人形集めはいい趣味だと思うよ。うちの業界にもそういう人形集めてる(魔術的な意味で)人たくさんいるし」モグモグ

美琴「えっ、アンタの知り合いにゲコ太グッズを集めてる猛者とかいるのッ!?」キラキラ

禁書「うーん、そのげこたぐっずってヤツを集めてる人は知らないんだよ」

美琴「……そっか」シュン

一方通行「何だこの食付きよォは? そして落ち込みよォ」

円周「たぶんあれだよ。一人寂しくオタクをしてる人が他の人とそれについて語り合いたい、って感じのアレ」

美琴「……でも打ち止め。このストラップはアンタだって欲しいんでしょ?」

打ち止め「う、うんそうだよ。そのためにここに来たと言っても過言じゃないし、ってミサカはミサカは正直な気持ちを暴露してみたり」

美琴「だったらこれは打ち止めがもらうべきだと思うわ」

打ち止め「で、でもミサカはお姉様みたいなゲコ太コレクターじゃないよ! いわゆるニワカってヤツだからお姉様が持つべきだと思う!」

円周「ここは間を挟んで私がもがもが」

一方通行「オマエは大人しくクレープでも食ってろ」グイグイ

美琴「……ううん、打ち止め。やっぱり私じゃなくてアンタが持つべきよ」

打ち止め「で、でもお姉様」

美琴「こういうのは私みたいにコレクションするみたいな邪な考え持ってる人より、アンタみたいな純粋に欲しいと思ってる子が持つべきなの」

打ち止め「そ、それはお姉様だって同じでしょ? お姉様だって純粋にゲコ太が大好きで――」

美琴「私はアンタたちのお姉様よ。だから少しぐらいいいところ見せたっていいでしょ?」

打ち止め「お姉様……」

美琴「だから受け取ってよ……打ち止め」

打ち止め「……分かった。じゃあこれはミサカがもらうよ! ありがとうお姉様! ってミサカはミサカは笑顔でお礼を言ってみたり!」パ

美琴「どういたしまして」ニコッ





ワイワイガヤガヤ



美琴「…………」

一方通行「よかったのか。クソガキにアレを渡して」

美琴「いいわよ。だって私はあの子たちの姉よ? だから妹のためを想うのは当然よ」

一方通行「チッ、ガキが背伸びしやがって」

美琴「が、ガキ言うなし!」

禁書「短髪!!」

美琴「な、何よ突然?」

禁書「短髪の妹を、らすとおーだーを想うその気持ち。とてもとっても素敵だと私は思うんだよ!」

美琴「……はい?」

禁書「きっとあなたのした良い行いはいつかきっと自分のところに返ってくるから」

美琴「……唐突に何を言い出したかと思えば……アンタってそういうキャラだっけ?」

禁書「むぅ、見くびらないで欲しいかも。私だってシスターなんだから」

一方通行「シスターってそンなカウンセラーみたいな仕事だっけか?」

禁書「かうんせらー? 何それ?」

一方通行「オマエには絶対になれない職業のことだ」

禁書「むむむ、またあくせられーたが私のことをそこはかとなく馬鹿にしてる気がするんだよ」

一方通行「あはっぎゃはっ、ソイツはどォだろォなァ?」

禁書「その悪意のある笑い方は絶対にそうなんだよ!」

美琴「……ふふふっ」

禁書「こ、今度は短髪まで私を笑い始めたんだよ」

美琴「ふふ、ごめんごめん。あまりにアンタたちのやり取りが面白くてね」

禁書「別に面白いことしてる覚えはないかも。変な短髪」

美琴「というかいい加減その『短髪』っていうのやめてもらえない? 私には御坂美琴って名前があるのよ。わかった……『インデックス』?」

禁書「……うん! 分かったんだよ『みこと』!」

一方通行「……チッ、くっだらねェ」


??「――おーい、こんなところで何やってんだよ一方通行!」




一方通行「あァ?」

禁書「あっ、とうまだ!」

美琴「えっ!?」

上条「ん? インデックスに御坂まで……何だこの集まりは?」

一方通行「知らねェよ。気付いたらこンなクソみてェな面子が集まってたンだよ」

禁書「とうま! 今日の私のおやつを忘れてるなんてあまりにもひどい仕打ちだと思うんだけど」

上条「はあ? たしか冷蔵庫にプリンが一個余ってなかったか?」

禁書「えっ? あれってお昼のデザートじゃなかったの?」

上条「既に食ってたんかい! そりゃあるわけねーよなおやつ!」

一方通行「これはひどい」

上条「……で、いつものごとくここにいる一方通行様という神にその手に持つクレープを奢ってもらったと」

禁書「そうなんだよ!」

上条「……昨日のステーキといいいつも本当にすみません一方通行様」

一方通行「もォお礼とか別にどォでもイイっつゥの。このやり取りも何回目か分かったモンじゃねェ」

美琴「……ね、ねえ!」

上条「お、おお御坂。何だよ突然」

美琴「ところでアンタはこ、こんなところで何やってるわけよ。ここら辺にはアンタが行くような場所はないと思うけど」

上条「ひどい言われようだな。まあ、上条さんにもきちんした理由というものがあってだな――」


御坂妹「それはミサカがクレープを一緒に食べましょうと誘ったからですよ、とミサカは会話に割って入ります」


美琴「なっ、何でアンタがこんなところにっ!?」

御坂妹「さっき理由言ったばかりでしょうがきちんと聞いてろよ、とミサカはボヤきながらため息をつきました」

打ち止め「あっ、10032号だ! ってミサカはミサカは突然の下位個体との遭遇に驚きを覚えてみたり」

御坂妹「ちっ、やはり上位個体も一緒だったか。一方通行いるところに最終信号あり、やはりこの言葉は本当だったんですね、とミサカは再度ため息をつきます」ハァ

一方通行「コイツ何か口悪くねェか? 教育方針間違ってンじゃねェか冥土帰し」

円周「おお、気付いたら超電磁砲(オリジナル)、欠陥電気(レディオノイズ)、最終信号(ラストオーダー)と勢揃いになってる。あと第三次製造計画(サードシーズン)の個体がいれば完璧だね」

一方通行「あァ? 今何か言ったかクソガキ」

円周「別に何でもないよー」

一方通行「…………」




美琴「……ほぉ、つまりアンタたちは二人で楽しくデートしてたってこと?」ビリビリ

上条「あれ? 御坂さん何かものすごく怒ってらっしゃるように見えるのですが……?」

禁書「ふーん、そうなんだ。とうまは私がおやつがなくて飢えていたときに、おいしいくれーぷを食べていたと」キラン

上条「それは自分のせいだろッ!」

御坂妹「その通りですよお姉様。あなたがグズグズしてる間にペンダントの時みたく、ミサカはこうやってイニシアティブを取ることが出来るのですよ、とミサカは不敵に笑ってみせます」フフッ

美琴「……ふふふふふ、言ってくれるじゃない妹よ」ビリビリ

御坂妹「待ってるだけじゃ何も始まらないんですよ。これがミサカとオリジナルの差ですよ、とミサカは分かりやすく説明します」

上条「ちょっと待てぃ!! よく分かんねえけどこんなところでケンカはやめろ!」

御坂妹「ケンカなんかしませんよ。そんなことよりミサカはこの手に入れたばかりのこれを愛でる作業に早く戻りたいです、とミサカは本音を吐露します」スッ

美琴「そ、それは……!?」

御坂妹「おや、やはりお姉様もご存知のようですね。『クレープハウスrablun』期間限定キャンペーンで配布される『ゲコ太&ピョン子 卒業式ver』のストラップです、とミサカは懇切丁寧に説明しました」

美琴「…………」

御坂妹「? 何ですかそのリアクションは? お姉様もここにいるということは手に入れたんじゃなかったんですか……あっ、とミサカは驚異的な洞察力で察します」

美琴「しょ、しょうがないじゃない! 最後の一つしかなかったんだし! それなら打ち止めに譲るしか無いじゃない!」

御坂妹「……そうなんですか? とミサカは上位個体へ尋ねてみます」

打ち止め「う、うんそうなんだ。できればミサカはお姉様に譲りたかったけど、でもお姉様に恥はかかせられないし……」

御坂妹「そうですか。それは悲しい出来事でしたね、とミサカはイニシアティブとか言って勝ち誇ってた自分に恥ずかしさを感じました」

一方通行「何だこれ? ストラップ一つでここまで一つになれンのかよ」

円周「さすが遺伝子レベルで同じ姉妹だねー」

上条「ん? 何であの三姉妹は全員どんよりしてんだ?」

一方通行「オマエは会話を聞くってことをしろよ」

上条「いやー、正直それどころじゃなかったからな」ダラダラ

禁書「ふー! ふー!」ガジガジ

一方通行「おやつ一つでこの扱いか……」

上条「で、今どういう状況なんだよ?」

一方通行「あァ、あのクレープ屋の限定でストラップ配ってただろ。アレ、ちょうど俺らのところでなくなってな。クソガキはもらえたが超電磁砲はもらえなかった、っつゥオマエによくありそォな不幸話だ」

上条「たしかに俺にとってはよくある話だな。へー、御坂もあれ欲しかったんだな。あんな顔した御坂見たことねえもん」

一方通行「ま、しょうがねェったらしょうがねェ話だ。オマエがどォにか出来る話じゃねェよ」

上条「……別にそんなことはないんじゃねえか?」

一方通行「あァ?」




美琴「…………」ドヨーン

上条「おい御坂!」

美琴「……何よ?」

上条「お前も何というか俺みたいな不幸な目にあったみたいだな」

美琴「……不幸というかこれは自業自得よ。あれくらいならいつでももらえるでしょ、って思って最終日の今日に来たっていう自分への罰よ」

上条「別にそんな自分卑下することはねえと思うぞ。最終日の今日をお前が選んだのだって何か理由があんだろ? 例えば期間中に何か用事とかがあっていけなかった、とか」

美琴「っ、べ、別にそんなことなかったわよ」

上条「そうなのか? お前はそういうのは初日に行って確実に手に入れるようなヤツだと思ってたけど……まあ、違うなら違うで別にいいさ」

美琴「…………」

上条「お前がストラップを手に入れられなかったのは運が悪かっただけだよ。『不幸』の申し子上条さんが保証してやるよ」

美琴「……もしかしたら慰めてるつもり? そんなことして私が喜ぶと思ってるわけ?」

上条「思わねえよ。だからさ、ほらっ受け取れ」ポイッ

美琴「!? 何よいきなり――ってこ、これはっ!?」パシッ

上条「『不幸』の申し子上条さんからのプレゼントだよ。ありがたく受け取るこったな」

美琴「……『ゲコ太&ピョン子 卒業式ver』のストラップ、な、なんでアンタが……?」

上条「御坂妹と一緒にクレープ屋に行ったから、って理由があるけど別にそんなことどうでもいいだろ? これでお前は『不幸』じゃなくなったんだからな」ニコッ

美琴「……あ、ありがとう」

打ち止め「よかったねお姉様! ってミサカはミサカは自分のことのように喜んでみたり!」

御坂妹「おのれお姉様め、結局美味しいところ全部持って行きやがって、と思うところがありますが同志の喜びは祝福しなければなりませんね、とミサカは拍手を送ります」パチパチ

禁書「おめでとうみこと! きっとみことの気持ちが神の下へと届いていたんだよ!」

美琴「……ふふっ、そうね。アンタの言うとおりちゃんと良いことが帰ってきたのかもね。神様も馬鹿に出来ないわね」

一方通行「……チッ、さすがは三下、いやヒーロー様っつゥことか。くっだらねェ」

円周「…………か」ピーガガガ

一方通行「あ?」


円周「カッコイーッ!! 惚れちゃいそーだぜ当麻お兄ちゃん!!」


美琴「えっ!?」

御坂妹「ッ!?」

禁書「……とうま?」ギロッ

上条「ひぃっ、殺気ッ!?」

円周「やだなあ、冗談だよ冗談。そんなみんな真剣な目をしなくてもいいのに」

一方通行(この場のかき乱し方。コイツ、また『木原』の人格データを取り入れやがったか)

上条「あ、あははは。あまり大人をからかうもんじゃないぞー、どこの誰かは知らないけど」

円周「うーん、それは逆だと思うよ? 『子供』という一番『大人』を掻き回せる立場だからこそ精一杯掻き回さないと」

上条「……えっと、何なんでせうか? いつも昼ドラでも見てそうなこのバイオレンスっ子は?」

一方通行「ただの馬鹿だ。気にする必要ねェよ」


―――
――





同日 16:45

-第七学区・街頭-


打ち止め「いやー、みんなといろいろ話してたらすっかりこんな時間になっちゃったねー、ってミサカはミサカは楽しかったことへの満足感を得てみたり」

一方通行「そォかよ。ソイツはよかったな」

円周「しかしやっぱり外はいいよね、いろいろな経験ができる。今日もいろいろな人を『観察』することが出来たし」

一方通行「あァ? 観察だァ?」

円周「おっと間違えた。いろいろな人と『会えた』だね。日本語がおぼつかなくてごめんねー」

一方通行「……ああ」

打ち止め「ほんと分かるよー、日本語って難しいよね。でも大丈夫! 分からないことがあればミサカのようなきちんと学習装置で日本語を学んだプロフェッショナルに聞けば大丈夫だよ、ってミサカはミサカは自分の胸を拳で叩いてみる」ドン

一方通行「一番おぼつかねェヤツが何言ってンだか」

円周「……そういえば今日って何曜日だったっけ?」

一方通行「突然何だよ? 日曜日だろ」

打ち止め「日曜日……はっ!? ただ今の時間は『16:50』です、ってミサカはミサカはミサカネットワークから時報データを受信してみたり!」

一方通行「何だってンだァ? 急に時間を気にし始めやがって」

打ち止め「大変だよ! 日曜五時は『そげぶマンⅢ 雪原に立つ戦士達編』が始まる時間だぜ、ってミサカはミサカは見たいテレビの放送時間を述べてみたり!」

円周「ようするに、早くテレビの前に正座してアバンタイトルが始まるのを待ってなきゃいけないのに、未だにこんなところ歩いてるのが不味いってことだよね」

一方通行「そォだな。今から走っても必ず五時には食い込むだろォよ」

打ち止め「これはマズイよ。そげぶマンファンとしては是非とも前回のあらすじだろうとアバンは見逃す訳にはいかないのだ、ってミサカはミサカは熱く語ってみたり!」

一方通行「面倒臭せェ。ケータイのテレビ機能でも使って見てろ」

円周「ええー? いくら画質が良くてもこんなちっぽけな画面じゃあの迫力は出せないよ。やっぱり大画面のテレビじゃないとね」

一方通行「注文の多いクソガキどもだ。つまり何が言いてェンだ?」

打ち止め「能力使って早く家まで連れて行って! ってミサカはミサカは手を組んで上目遣いになりながらお願いしてみたり」ウルウル

円周「アクセラお兄ちゃんのチカラを使えばあんな距離3分もいらないよね? カップラーメン作ってから向こうに着いても、少し待ってからフタを開けないといけないくらいの時間には着くよね?」

一方通行「…………」

打ち止め「お願いアクセラレータ!」ウルウル

円周「お願いアクセラお兄ちゃん!」

一方通行「……ハァ、分かったよ。連れて行きゃイインだろ連れて行きゃあ」カチッ

打ち止め「おおっ、早い! あなたがここまで早く承諾してくれるなんて思わなかったよ、ってミサカはミサカはあなたの成長ぶりに驚いてみたり」

円周「本当だね。いつもならこのやり取りをあと3パターンほどしてからじゃないと許してくれないのにね」

一方通行「チッ、うるせェな。ただ俺もさっさと帰ってソファーに寝転びてェだけだ。利害の一致っつゥヤツだよ」

円周「……と訳の分からないことを供述しておりますが、実際はただデレてるだけで――」



ゴガッ!!





一方通行「おらっ、さっさと掴まれクソガキども! 振り落とされても知らねェぞ!」カチッ

打ち止め「じゃあミサカはお姫様だっこがいいー! ってミサカはミサカはあなたの前から飛びついてみたり!」ピョン

一方通行「ケッ、勝手にしろ」

円周「うぉぉぉ、これ確実に脳みそ割れてるよね? 右と左に真っ二つに。名付けるなら右脳と左脳……あれ? 最初から割れてるじゃん」

一方通行「わけ分からねェこと言ってねェでオマエもさっさと掴まれクソガキが!」



ドンッ!!



打ち止め「わっほーい!! すっごい飛んでるー!! ってミサカはミサカは興奮を隠しきれなかったり!!」

一方通行「喋ってンじゃねェ舌ァ噛むぞ!」

円周「ふむふむ。一見脚力や風力がメインに見えるけど、一番は重力かな? あとは状況によって……」ブツブツ

一方通行「……後ろのガキは何ブツブツ言ってやがる」

円周「別にー。下を歩いてる人が今何人いるか数えてるだけだよ」

一方通行「あ、そォ」

打ち止め「ねえねえ、一回ものすごく高く飛んでみてよ。できれば学園都市全体を見下ろせるくらいに、ってミサカはミサカはお願いしてみる」

一方通行「別に構わねェがあまりに高くてションベンちびらせて、学園都市に黄色い雨を降らせても知らねェぞ」

打ち止め「うえっ、それを言われると何か嫌だな。実を言うと今すごくトイレ行きたいから今回はやめとく、ってミサカはミサカは断念してみたり」

円周「あっ、そういえば今って反射働いてるの?」

一方通行「あァ? そりゃ能力使用モードなンだから当たり前だろ」

円周「ふーん、よっと」ガン

一方通行「……何やってンだよ」

円周「一回反射ってのがどんなのか試してみたくて……うん、骨にすごく響くね。強制的に急ブレーキをかけさせるのに近いのかな? これ」ガンガン

一方通行「地表200メートルから振り落とされたくなかったら、あンま余計なことすンじゃねェぞコラ」

円周「はあい」



ワイワイガヤガヤ



一方通行(……チッ、本当に今日はうっとォしいクソガキどもに振り回される厄日だったなクソッタレが)


――――――


今見てると円周のキャラこんなだっけって思うけど前スレでクソガキキャラにしちゃったからままええやろの精神

次回『卒業したくないんだけど』

1スレ目から見直すとキャラとかブレまくっててあああああああってなる(今もブレていないとは言っていない)

投下



3.卒業したくないんだけど


February Forth Wednesday 15:00

-第七学区・とある喫茶店-



芹亜「卒業したくないんだけど」



鞠亜「……突然呼び出されたと思ったらいきなり何なんだ? せめて前置きくらいないと会話にならないよ」

芹亜「別にこの言葉に深い意味なんてない。ただ卒業したくないんだけど」

鞠亜「まず主語を言え。何から卒業したくないのさ? 自堕落なニートみたいな私生活か? それとも女の子の純潔的なアレか?」

芹亜「……妹よ。お姉ちゃんはお前をそんな歪曲した発想しか出来ないような人間に育てた覚えはないけど」

鞠亜「そんなセリフはきちんと姉の役割をこなしてから言って欲しいんだが。妹に部屋の掃除をさせる姉のどこに育てられる要素があるのか……」

芹亜「いいじゃないか。お前の掃除スキルアップする私の部屋綺麗になる。まさしくWin-Winの関係ってヤツなんだけど」

鞠亜「あんなもんでスキルがアップするわけないじゃないか。『1+1』を何億何万と解いたところで数学が得意になるわけないだろ? むしろ嫌いになる」

芹亜「『塵も積もれば山となる』という言葉があるけど」

鞠亜「積もるような塵さえ出てこないってこっちは言ってんだよ! 適当なこと言って誤魔化そうとすんなあ!」

芹亜「妹が反抗期に入ったっ……!? お姉ちゃんショックで泣きそう……」

鞠亜「反抗期以前の問題だろ。この流れがこれからも続くなら白寿を迎えても同じリアクションをする自信が私にはあるよ」

芹亜「まあ話は戻るけど、卒業したくない」

鞠亜「だから主語を言えって言ってんでしょーが! ここから以下ループとかいうネタでもぶっ込むつもりか!?」

芹亜「-50年後-」

鞠亜「……乗らないぞ。そんなくだらないネタには絶対に乗らないぞ」

芹亜「これがネタじゃなくてマジだったらどうだ? 今私たちは6X歳と6Y歳いうことになるわけだけど」

鞠亜「いつから時間操作の能力者になったんだ? というかネタかマジかなんてないから。議論の余地皆無なのは周知の事実だから」

芹亜「ふふっ、それを分かるのは私たちだけだ。もしかしたら別の視点から見ている人たちは本当に50年の時が経ったと思っているかもしれないけど」

鞠亜「誰だよそいつら? わけの分からないこと言ってないで本題に戻れ」

芹亜「話を逸らしてるのはそっちだろ。律儀なツッコミは話のテンポを悪くさせるだけだけど」

鞠亜「誰がそうさせているんだ誰が……!」

芹亜「人のせいにするのはお姉ちゃんよくないと思うぞ。ツッコむかツッコまないかの決定権は自分にあるわけだし」

鞠亜「その状況を作り出してるのは間違いなくアンタだろうがな」

芹亜「まあまあ。そんなことより私が今いる学校を卒業したくない、っていう悩みの相談に乗って欲しいんだけど」

鞠亜「だから主語を……あれっ!? 主語があるっ!? なぜっ!?」

芹亜「同じネタを繰り返すのにはさすがに見ている人たちも飽きるだろ。きちんとそういうところも配慮しないとな」

鞠亜「本当に誰だよそいつら! というか、さっきから変なコトばっか言ってて気持ち悪いぞ……」

芹亜「そんなマジトーンで気持ち悪いと言わないでくれ。本気で傷つく」

鞠亜「本気で傷ついてるヤツがそんなこと真顔で言ってくるか!」




鞠亜「しかし卒業って学校のことだったのか。意外だったよ、私が絶対に思い浮かべない答えだ」

芹亜「えっ、普通卒業って言ったらソッチ方面にならない? 少なくとも一般的にはそうだと思うんだけど」

鞠亜「いや、単純に『青春』っていうものから対局の位置にいる姉が、そういうことは絶対言ってこないだろうと思ってたからな」

芹亜「青春真っ盛りのJKに向かって何たることを言っているんだこの妹は?」

鞠亜「ほとんど学校に行かず暗い部屋の中で、ブツブツ言ってるのが青春だっていうのならごめん。私の姉は青春そのものだったよ」

芹亜「……いや、別に引きこもりってわけじゃないけど。引きこもりって言われない程度には学校には行ってるけど」

鞠亜「何でそこで折れちゃうわけ? そこまで来たら引きこもり貫けよ。せっかく引きこもり=青春っていう公式成り立ったのに」

芹亜「どんな公式が成り立とうが、私が卒業したくないという事実には変わりはないのだけど」

鞠亜「……というか卒業したくないのならしなかったらいいじゃん」

芹亜「どゆこと?」

鞠亜「前言ってたじゃん。『私はクラスも分からなければ学年も不明の超絶先輩キャラの巨乳美人女子高生!! つまり、私はどの学年にいてもおかしくないということなのだけど!』って」

鞠亜「よく分からないけどその言葉が本当なら『実は二年生でしたー』って感じに言ってもう一年延長してもらえるってことだろ? というかG死ね」

芹亜「……ふふっ、そうだな。たしかにそう言えばもう一年スクールライフを延長、なんてことも可能だよ……以前までの私ならな」

鞠亜「以前までの? 何か変わったっけ?」

芹亜「私の通う学校には昼休みにたまに学内ラジオというものが放送される」

鞠亜「ラジオぉ? 随分と変わったことをする学校だな」

芹亜「私はそのラジオにゲストとして出演してしまったんだ。一時の気の迷いってヤツだけどな」

鞠亜「たしかに迷いまくってるな。引きこもりがそんな青春染みたことするなんてなあ」

芹亜「そのときのパーソナリティーの娘が二年生の放送部の部長だったんだ。あとは分かるな?」

鞠亜「分かるかっ。意味深なことを言えば何でも通じると思うなよ? あと予測出来ても自分の口では絶対言わないからな!」

芹亜「察しの悪い女子は嫌われるよ。女子高生の会話なんて言葉の裏の意味を常に考えながら繰り広げないと、すぐに置いて行かれてしまうからな」

鞠亜「そんな日本語もまともに使えないヤツに嫌われてもどうでもいいよ。だから早くどうなったのか言いなよ」

芹亜「……言ったんだ。二年生の部長が私のことを『雲川先輩』と。ラジオという公衆の面前でな……」

鞠亜「別にいいんじゃないの? その一言で何かが変わるわけじゃないだろうに」

芹亜「変わるさ。これで私は完全無敵の『三年生の先輩』と認識されてしまったのだけど」

鞠亜「そ、そうなのか?」

芹亜「そうだ。今までは『何となく先輩ってのは知ってるけど何年生なのかわからないなぁ』という認識だった。つまりそれはもしかしたら二年生だったという可能性が残されていたということだけど」

芹亜「しかしここで二年生の部長はハッキリと『先輩』と言ってしまった。それで皆の認識は『ああ、雲川先輩って三年生だったんだ』に変わってしまったんだけど」

鞠亜「でもそれってあくまで認識の話だろ? 自分で二年生と名乗ってしまえば問題ないだろ」

芹亜「それはもう無理だな」

鞠亜「何でさ?」

芹亜「私は部長対して圧倒的な先輩オーラを放ちながら接してしまったんだ……」

鞠亜「……あーそりゃアウトですなあ」

芹亜「アウトなんだよ。これでもう私の女子高生ライフは幕を閉じてしまうんだけど」

鞠亜「あっ、でもまだチャンスはあるぞ! 留年してしまえばまだオッケー!」

芹亜「そんな頭の悪いマネは私のプライドが許さない」

鞠亜「……たしかに、プライドを適度に傷つけることを信条としている私もそれはないわ」

芹亜「ところで私卒業したくないんだけど」

鞠亜「もう諦めろとしか言い様がないね。私みたいな才能あふれる天才でもどうしようもない」




芹亜「まあ、そんな話は置いといて」

鞠亜「そんな話って何だよ! 何かマジな感じだったから真面目に話を聞いてた私に謝れ!」

芹亜「この前常盤台に研修行ったってマジ? 研修なんて興味なさそうな格好してるくせに」

鞠亜「たしかに行ったけどその言い方はムカつくな。私はこう見えても真面目だぞ? こう見えても学校では成績トップだぞ? だからこう見えても研修にはちゃんと行くぞ?」

芹亜「まあ真面目ちゃんなのは分かったから。で、何でまた常盤台になんて行ったんだ?」

鞠亜「ああ、あれだよ。本当は別のクラスメイトが行く予定だったんだけど急遽別の研修が入ったみたいで、その代わりに暇だった私が行ってきたってわけ」

芹亜「ふーん、で感想は?」

鞠亜「頭がいい、いわゆる天才レベルが集まる学校って聞いてたけど正直拍子抜けしたね。能力の強度が強いだけでただの世間知らずのお嬢様ばかりだ」

芹亜「そりゃあの学校は能力至上主義だからな。凡人だろうが天才だろうが、無能力者(レベル0)だろうが超能力者(レベル5)だろうが何でも来いのウチとは違ってな」

鞠亜「でもあれはあれでプライドがいい感じに傷つけられてよかったよ。あの偉そうなくせに虫程度で阿鼻叫喚なお嬢様たちにこき使われる感じは」

芹亜「……もしかして妹よ。お前ってMなのか?」

鞠亜「ぶっ!? な、何を言っているんだこの姉はあ!?」

芹亜「いや、だって嬉しそうにプライド傷つけられたとか言ってるからてっきりそうなのかと」

鞠亜「わ、私はプライドを傷つけることによって窮地に対しての免疫をつけてるだけで、決してそういうのに心地よさを覚えてるわけじゃないからな!」

芹亜「はっ!? つ、つまりドMだということか……?」

鞠亜「ちーがーうー!! だからそうじゃないってー!!」

芹亜「まあ、妹を軽くキャラ崩壊させたところで本題に入るけど」

鞠亜「……待てよ。このやり取りはこのやり取りで私の経験値アップの糧となっているんじゃ……?」

芹亜「いいから話聞けよマゾメイド」

鞠亜「本題って何? もう卒業うんぬんの話の時点でもう本題は終わってると思ったんだけど」

芹亜「第五位には会ったか?」

鞠亜「第五位? 食蜂操祈のことか? ……あー、会ってはないけど見かけはしたなあ」

芹亜「どんな様子だった?」

鞠亜「うーん、別に普通に派閥の人たちと楽しそーにお茶会してたよ。まったくのんきなもんだよね」

芹亜「そうか。ありがとう」

鞠亜「……何だ? その第五位さんが何かしたっていうのか?」

芹亜「いや、たしかにアイツはムカつくことしかしてないけど、今のところは何もないけど」

鞠亜「じゃあ何でそんな様子とか聞きたがっちゃうのさ?」

芹亜「何もしてないってことがおかしいってことだけど。アイツの場合はな……」

鞠亜「?」

芹亜(そろそろこの年度も終わって新学期が始まる。このタイミングであの性悪女が動かないわけがない。もし動くとしたら一体どういう手で出てくるのか……)

鞠亜(何か難しいことを考えてる顔してる。これは別に大したことは考えてないな)ズズズ

芹亜「……まあとにかく」

鞠亜「うん?」

芹亜「卒業したくないんだけどどうすればいい?」

鞠亜「結局ループネタやるのかよ!」


―――
――





February Forth Thursday 12:20 ~昼休み~

-とある高校・一年七組教室-



キーンコーンカーンコーン



<よっしゃあ昼休みだっ!! <購買部に突撃だああああああっ!! <今日こそ焼きそばパンゲットだぜっ!!



青ピ「おおっ、今日もみんな気合十分やなぁ。よっしゃあボクらも購買部に行くでぇっー!」

土御門「今日もいつもどおりカミやんを盾に群衆に突っ込む、『カミやんメイン盾作戦』で行くぜいっ」

上条「ふざけんなっ! たまにはテメェらも盾になりやがれっ! いっつもいっつも良いパンゲットしやがって、たまには俺だって食ってみたいんだよ焼きそばパン、ソーセージパンetc」

一方通行「くっだらねェ。あらかじめコンビニとか買っとけよ焼きそばパン、ソーセージパンetc」

上条「そんな高いコンビニのパンなんか買えるかっ! 貧乏学生舐めるなよ!」

一方通行「たかだかニ、三十円の違いだろ」

上条「そのニ、三十円が大きいんだよっ! わかんねえだろうなぁ、このブルジョアめっ!」

青ピ「ん? というか何やっとんアクセラちゃん、自分の席でのんきにくつろいだりしてぇ。さっさ購買行くでぇ?」

一方通行「ハァ? 何で俺がそンな豚の餌場に行かなきゃいけねェンだよ」

土御門「豚の餌場か。ひどい例えだにゃー」

青ピ「そんなの決まっとるやろアクセラちゃん! ボクらはスクエアフォースやろ? いつでも四人で一つ、だから購買にも四人で行くのが常識なんやでぇ」

一方通行「だからオマエらと一緒にすンじゃねェっつってンだろ。つゥかオマエらも見ただろォが、期末試験の結果をよォ。見事な百の羅列だったろうが」

土御門「まあ、勉強ができるからと言っても、そいつが本当に馬鹿じゃないかどうかなんて分からないんだけどにゃー」

一方通行「……何が言いたいのかな土御門クゥン?」ピキピキ

土御門「おっ、効いてる効いてる。そこでイラつくってことは、少しは自覚があるってことじゃないのかにゃー?」

上条「お、おい馬鹿何いってんだつち――」

一方通行「ブチ殺す」カチッ

土御門「にゃっはっー、にっげろー! カンカンに怒ったアクセラちゃんが襲いかかってくるぞーっ!」

青ピ「よし、ここで『カミやんメイン盾作戦』を開始っ! 行けっ、カミやんっ! キミに決めたっ!」

上条「ふっざけんなお前らっ!! 俺を巻き込んでんじゃねぇ!!」

一方通行「安心しろォ。オマエら三馬鹿仲良く全員、愉快なオブジェにしてやっからよォ!」



ワイワイギャーギャードカドカガッシャーン!!



吹寄「……はぁ、また馬鹿四人の馬鹿騒ぎが始まったわ」

姫神「平常運転」

結標「あはは、まったく毎日毎日よく飽きないわよねー」

女子生徒「あのぉ、アクセラ君まだ教室にいる?」

吹寄「うん? まだ居るけど。後ろを見ての通り」

結標「どうかしたのかしら? 一方通行に何か用?」




女子生徒「えっと、アクセラ君にお話があるって人が来てるんだけど」

姫神「アクセラ君に話?」

女子生徒「うん。ほらっ、教室前の入り口のところ」

吹寄「ええっと、たしかあの人は……」


芹亜「…………」ニヤニヤ


姫神「……雲川先輩?」

結標「えっ? 雲川先輩ってあの『クラス・学年共に不明の謎の美人先輩』で有名な雲川先輩?」

姫神「そう。その雲川先輩」

結標「何でその雲川先輩が一方通行を?」

女子生徒「さあ? 何か大事な話があるから連れてきてほしいって言ってたけど」

結標「話? 一体何の話なのかしらね?」

姫神「雲川先輩は謎に包まれたミステリアスな先輩。まったく予想できない」

吹寄「……まさか」

結標「まさか? 何かわかったの吹寄さん?」

吹寄「わざわざ教室まで異性を呼びに来てする大事な話なんて、あたしに思い付くのは一つしかないんだけど」

姫神「……吹寄さん。まさか……っ!」

吹寄「そうっ、そのまさかだと思うわ!」

結標「? ちょっとずるいわよ二人だけわかった顔して。なになに教えてよー」

吹寄「……結標さん。心して聞いてちょうだい」

結標「う、うん。何なのそんな深刻なことなのかしら?」

吹寄「そう。もしかしたら雲川先輩は一方通行にこく――」


女子生徒「あっ、わかった! 雲川先輩はアクセラ君に愛の告白をしようとしているんだぁっ!


結標「…………」

姫神「…………」

吹寄「…………」

女子生徒「…………?」




結標「ってえええええええええええええええええっ!?」




一方通行「……あァ? 何ハシャイでンだあの馬鹿女はァ?」


上条「」ピクピク

青ピ「」ピクピク


―――
――





同日 12:40 ~昼休み~

-とある高校・屋上-


芹亜「……わざわざこんなところまでご足労頂き感謝するけど第一位」

一方通行「チッ、まったく心のこもってねェ感謝の言葉だな。うっとォしィ」

芹亜「感謝の言葉なんてこんなものだよ。この世に社交辞令という名の、心の一つもこもってない感謝の言葉がどれだけ溢れているか。知らないお前じゃないだろ?」

一方通行「そンなくだらねェ雑談を延々と繰り広げるつもりなら今すぐ帰るぞ俺ァ。一体何の用だ、統括理事会の一人、貝積継敏のブレイン雲川芹亜」

芹亜「ふーん、まさかお前なんかに正体をバレているなんて、私も結構有名になってきたみたいだけど」

一方通行「ンなわけねェだろォが。俺ァ以前はクソみてェな掃き溜めで生きてきたンだ。知らねェわけがねェ」

芹亜「あんな浅い暗部にちょっと居ただけで一端の裏の住人面してるなんて、井の中の蛙を見事に体現している男だなお前は」

一方通行「……オマエ、俺を誰だか分かって口ィ聞いてンだよなァ?」

芹亜「ああ、そのつもりだけど?」

一方通行「だったらさァ、今すぐそのよく回る舌をぶち抜いて口から赤い液体を吐き続けるマーライオン状態にすることなンざ、余裕で出来る男を目の前にしてるってことを理解しているはずだァ」

一方通行「なのになァ、そこンとこわかってるヤツの態度には見えねェンだよなァ俺にはよォ」

芹亜「……まあたしかに、お前にはそんな芸当が容易にできるようなチカラを持っていることも理解してるし、そのようなことをされたら私は無事ではいられないことだってきちんと理解してるつもりだけど」

一方通行「だったら不必要な発言は控えることだなァ、命が惜しいンだったらな」

芹亜「ま、でもその前にお前も理解、いや気付くべきことがあるってことを知ったほうがいい」

一方通行「あァ? どォいうことだ?」

芹亜「私に呼ばれて教室を出たお前のことが気になって、ここまでついてきている女子生徒が三人いる」

一方通行「……何だと?」バッ

芹亜「屋上の入り口で隠れてこちらの様子を伺っているのは、お前の友達じゃないのか?」

一方通行(姫神に吹寄、それと結標かッ……)

芹亜「やはり気付いていなかったようだな。そんな状態で私をマーライオンなんかにしたら、それこそお前の日常が跡形もなく砕け散ってしまうところだったってわけだけど」

一方通行「…………」

芹亜「まあそれをしてしまえば、お前の憧れる深い深い闇の部分にどっぷりと浸かることができるかもしれないな」

一方通行「俺は……そンなモンに憧れてなンかいねェ。あンなクソみてェな掃き溜めに、二度と戻ろォなンて思っちゃいねェよ」

芹亜「そうだったのか。すまない、てっきりそうなのだと思っていたのだけど」

一方通行「……まァでも、どォしてもその選択肢を選ばなきゃいけねェ時が来たっつゥならよォ」


一方通行「喜ンで堕ちてやるさ、暗部だろォが何だろうがよォ」ニヤァ


芹亜「じゃあ、そんなどうでもいい世間話は置いといて、さっそく本題に移りたいんだけど? そんな時間もないし」

一方通行「……チッ、そォだな。俺としても一刻も早くオマエとの茶番を終わらせてェ」




-屋上入口付近の物陰-


吹寄「……うーん、一体何を話しているんだろ?」

姫神「ここじゃあ距離がありすぎて。会話の内容まで聞こえない」

結標「ねえ、これって不味いんじゃないの? 盗み聞きだなんて……」

吹寄「そんなこと言って気にならないの? 二人が何を話しているのかを」

結標「き、気にならないわけじゃないけど……」

姫神「まあでも。あの様子からして告白してるってことは。なさそうに見える」

吹寄「たしかにそうね。もしあれが告白のシーンならば、二人してあんな邪悪な笑顔浮かべないもの」

結標「邪悪って……まあ否定はしないけど」

吹寄「……しかし耳を澄ませてみても全然会話が聞こえないわね」

姫神「読唇術でも使えれば。会話の内容がわかるんだけどね」

吹寄「近付こうにも、見事に屋上には隠れる場所なんてないときたものよ」

結標「でもほんと、何の会話しているんだろうね、あの二人」

姫神「あの二人の共通点と言ったら。学内ラジオで次回のゲストとして呼んだ側と呼ばれた側」

吹寄「たしか雲川先輩がゲストに呼ぶためにアクセラの携帯に電話したのよね?」 

結標「うん」

吹寄「てことは雲川先輩はアクセラの番号を知っていた、つまりもともと知り合いだったんじゃないかしら?」

結標「うーん、それはないんじゃないかな?」

吹寄「どうして?」

結標「たしかあの時かかってきた電話は非通知での電話だったわ」

姫神「それってつまり。雲川先輩が何らかの手段でアクセラ君の番号を手に入れて。自分の番号がわからないように非通知でかけたってこと?」

結標「うん。そうだと思う」

吹寄「じゃあ知り合いって線も薄くなっちゃうのかー」

姫神「でも。あのときの電話の内容からしたら。アクセラ君は雲川先輩のこと知ってそうだった」

吹寄「だったらやっぱり知り合い? うーん、謎が謎を呼ぶわね」





芹亜「――つまり、かくかくしかじかで卒業したくないんだけど」

一方通行「……あァ? 今何つった?」

芹亜「だから、かくかくしかじかなわけで、卒業したくないわけなんだけど」

一方通行「分かんねェよ。何だよかくかくしかじかって。ンなモン通じるのは創作の世界だけだ」

芹亜「えっ、ここって創作物の世界じゃなかったのか?」

一方通行「ンなわけねェだろ。現実だ現実ゥ、残念だったな」

芹亜「不便な世界なんだけど」

一方通行「まァでも、言いたいことは何となく分かる。この学校を卒業したくない、そォ言いてェンだろ?」

芹亜「おおっ、さすが第一位! 何という察しの良さ。お前は察しの良さでも第一位だったのか」

一方通行「いや、明日この学校の卒業式だろォが。そンな時に卒業っつゥ言葉聞いたら誰でもそれを連想すンだろ」

芹亜「素晴らしい。私の中でお前の好感度が3ポイントほど上昇したけど」

一方通行「いらねェよオマエの好感度なンてよォ。つゥか、上限何ポイント中の何ポイントだよ」

芹亜「65536ポイント中3ポイント」

一方通行「ゴミみてェなポイントじゃねェか」

芹亜「まあでも、察しが良くて助かっているのは事実なのだけど。また昨日みたいなやり取りをするのは正直疲れるからな」

一方通行「知るかよ。で、俺はそれを聞いてどォすればイインだ? 『あっ、そォ』って言ってやるのが俺的最適解だと思ってンだが」

芹亜「ふむ、では言い方を変えよう。卒業したくないんだけどどうすれば良いと思う?」

一方通行「黙って卒業して行けばイイと思います」

芹亜「やだ」

一方通行「ガキみてェなこと言ってンじゃねェ。つゥか、こンな相談卒業式前日にすることじゃねェだろ。もォ既に卒業式の練習も終えて、卒業する準備も万全っつゥ日だぞ?」

芹亜「私的には全然万全じゃない」

一方通行「誰もオマエのことを言ってンじゃねェよ。この学校全体の動きについて言ってンだよ。今頃準備されている卒業証書の中には、オマエの名前が記入されているモンもきちンとあるだろうよ」

芹亜「……でもそれっておかしくないか?」

一方通行「何がだ?」

芹亜「私は『クラスも分からなければ学年も不明の超絶先輩キャラの巨乳美人女子高生』ということで通っているんだぞ。生徒だけではなく教員に対しても」

芹亜「そんな状況で勝手に私の卒業証書が作られるわけがないんだけど」

一方通行「どォでもイイけどよォ、オマエってこの学校にちゃンと籍置けてンのか?」

芹亜「…………」

一方通行「オーケーオーケー、面白れェこと教えてやるよ不法侵入者」

芹亜「不法侵入者じゃないけど聞こう。何だ?」

一方通行「卒業証書に学年と組を書く欄はねェ。だから、名前だけ知っときゃ卒業証書なンざ作り放題だ」

芹亜「なっ、何でそんなことをお前が知っているんだ!?」

一方通行「卒業式の練習のときにチラっと見えた」

芹亜「あれは確か練習用のレプリカ品のはずだけど。卒業太郎みたいな適当な名前が入ったやつ」

一方通行「ああ、確かにそンな名前だったなァ。まァでも、記入されている名前が違うレプリカ品でもレイアウトは同じはずだ。よって本物も同じレイアウトな可能性が高い」

芹亜「ふ、ふんっ、まあ仮にその話を鵜呑みにするとしよう。だが私はクラスも学年も不明な女っ、それなら卒業生のリストに入っていない可能性が高いけど」

一方通行「ああ、そりゃ簡単な話だ」

芹亜「か、簡単な話だと? 一体どんなっ……?」




一方通行「オマエ、自分が卒業するって確信してるからこンなところで泣き言吐いてンだろ? じゃねェと俺みてェなヤツをここに呼び出す理由がないからな」

芹亜「…………」

一方通行「…………」

芹亜「ところで、私はどうすれば卒業しなくて済むんだ?」

一方通行「勝手に卒業しとけよ。サヨナラセンパイ」ガチャリガチャリ

芹亜「まあ待て。まだ私のターンは終了していないんだけど」ガシッ

一方通行「離せコラ。オマエのターンはもォ既に終わってンだよ、学校生活っつゥなァ。黙って卒業してろクソババァ」

芹亜「私はこんな面白い学校を離れたくないんだけど。私はこんな面白い学校を離れたくないんだけど。大事なことだから二回言ったぞ?」

一方通行「百回言ってもオマエの卒業は覆らねェよ。……つゥかよォ、そンなに残りてェンなら留年すりゃイイじゃねェか。オマエの権力使えば余裕だろ?」

芹亜「そんな留年なんて馬鹿みたいなことするのは、私のプライドがゆるさない。てか、昨日も同じようなこと言った気がするけど」

一方通行「オマエの昨日喋った内容なンて、俺が知るわけねェだろォが」

芹亜「チッ、学園都市最強の第一位様でも、ウチのマゾメイド妹と同じ結論か。所詮はその程度のモノだったというわけだけど」

一方通行「そのマゾメイドの妹さンは相当優秀なヤツなンだろうな。この俺と同じ結論が出るなンてよォ」

芹亜「ただのドMの変態だけど。……つまり、お前もドMというわけか?」

一方通行「ンなわけねェだろ。そォいや一つ気になったンだが」

芹亜「何か?」

一方通行「留年をプライドが許さないって言ってたが、俺みてェなクソ野郎に泣き付くのはオマエ的にオッケーなのかよ?」

芹亜「別に泣き付いてない。ただ相談しているだけだけど」

一方通行「似たよォなモンだろォが! てか、いつになったら俺ァ開放されるンだァ!?」

芹亜「私がこの面白い学校から離れなくても良い手段、つまり卒業しなくてもいい方法を見つけ出すまで」

一方通行「つまり一生ここで過ごさなきゃいけねェわけか? 詰みだ詰み」

芹亜「詰んではいないだろ。何か良い解決策があると思うんだけど」

一方通行「そォ思うンなら自分で考えろ。俺を巻き込ンでンじゃねェよ」

芹亜「良い案が出るまで昼休みをとってはいけません」

一方通行「給食を残した児童を、昼休み使ってまで完食させようとするクソ教員かオマエは?」

芹亜「へー、暗い過去を持つお前でもそういうネタがあることは知っているんだな」

一方通行「うるせェよ、そンなことどォでもイイから早く俺を……ン? 待てよ」

芹亜「どうかしたか?」

一方通行「いい方法を思い付いた。まあ、俺にとっては全然良くはねェンだけど」

芹亜「唐突だな。そんなあっさり出てきたアイデアなんて信用に値しないと思うけど」

一方通行「妙案っつゥのは、99%のひらめきと1%の努力で生まれるモンだ。だから唐突に閃いてもおかしくねェだろ」

芹亜「パーセントが逆だ逆。まあでも、本来の意味を考えればそれでも間違いではないけど」

芹亜「で、何なんだその画期的なアイデアっていうのは? 期待せずに聞いてやるけど」

一方通行「どこまでも偉そうなヤツだなァオマエは。まァイイ、その方法っつゥのはなァ――」




一方通行「――っつゥわけだ。こォすれば『卒業』は回避出来ねェが、『学校から離れたくない』っつゥ願いは叶えられる」


芹亜「……なるほど、その発想はなかった」

一方通行「笑えねェ冗談だな。統括理事会メンバーのブレインのオマエが、この手段を思い付かねェわけねェと思ってンだが」

芹亜「私のような一般的な女子高生には難しい話だと思うけど」

一方通行「オマエが一般人を名乗るなら、俺も一般人を名乗らなきゃいけなくなるだろォが」

芹亜「お前のような一般人がいるか」

一方通行「その言葉、そっくりそのまま返させてもらう」

芹亜「……まあでも、たしかに私好みのいい案だ。何で私がこれを思いつかなかったのか、という話になると、卒業シーズンという空気感が私の思考能力を低下させたのだろう」

一方通行「似合わねェな。そンな玉じゃねェだろうに」

芹亜「そうでもないさ。ブレインなんてものをやっていても、所詮はちっぽけな一人の人間に過ぎない。だから、ちっぽけなことで右往左往するけど」

芹亜「お前も私と同じようなことを思っているんじゃないか? 学園都市最強の超能力者君」

一方通行「……チッ、くっだらねェ」

芹亜「ひとまずお礼を言わせてもらうけど。これで私の動くべき道が定まったというわけだ」

一方通行「卒業式前日に進路の方向性が決まるなンざ、馬鹿みてェな話だな」

芹亜「なあに。ここから先は、せいぜいブレインとしての権力を乱用させてもらうけど。……それにしても」

一方通行「あァ? まだ何か問題でもあンのか?」

芹亜「いや、君たちをこの学校へ引き抜いてよかったと、ちょっと思っただけだけど」

一方通行「……オマエだったのか。このくだらねェ生活に俺や結標を引き入れやがった張本人は」

芹亜「楽しい生活だろ? お礼を言ってくれてもいいけど」

一方通行「楽しくねェよ」

芹亜「噂通りの素直じゃなさだな」

一方通行「黙れ。つゥか用が終わったンなら帰ンぞ? いつまでもこンな所でグダグダしたくねェからな」

芹亜「ああ、ありがとう。貴重な睡眠時間を奪って済まなかったな、いやコーヒーブレークか? 違うな。お友達との他愛のない時間、かな?」

一方通行「言ってろ」ガチャリガチャリ




結標「……あっ、何か話終わったみたいよ!」

姫神「付いてきたのはいいけど。とくに得られる情報はなかった」

吹寄「てか早く戻ったほうがいいんじゃない? さすがにアクセラに覗き見してたのバレるわけにはいかないもの」

結標「そうね。ってもうこんな時間っ!? お昼食べる時間あるかしら……」

姫神「急いで戻らないと」

一方通行「そォだな。飯どころかコーヒーを飲む時間さえ消え去っちまう」


三人「「「!?」」」


一方通行「おォーおォー、予想通りのリアクションお疲れさン」

吹寄「なっ、き、気付いていたのっ!?」

一方通行「……まあな」

姫神「気付いた上で。ここまで泳がせていたという。ずいぶんと意地悪ねアクセラ君」

一方通行「盗み聞きしてるオマエらほどじゃねェと思うがな」

結標「わ、悪かったわよ。ちょっとした好奇心でやっちゃったのよ」

吹寄「でも安心して頂戴。距離がありすぎて全くと言っていいほど話聞こえなかったから!」

一方通行「そォかよ。そりゃ残念だったな」

姫神「どうせ盗み聞きがバレてるのだから聞くけど。一体何の話をしていたの?」

結標「あっ、それ気になるわ……ま、まさかこ、告白とかじゃないわよね……?」

一方通行「厚かましいヤツらめ。オマエら絶対ェ謝る気も反省する気もねェだろ。あったらそンなくだらねェ質問してこねェはずだからな」

吹寄「そんなことないわよ。本当に悪いと思ってる。だけどまあ、気になるものは気になるというか」

姫神「そう。それ」

結標「は、早く言っちゃいなさいよ一方通行」


キャッキャキャッキャ


一方通行「……ハァ、頭痛てェ」


―――
――





February Forth Friday 12:00 ~卒業式・終了後~

-とある高校・校門付近-


ワイワイガヤガヤ


上条「さーて、終わった終わった。早く帰ってインデックスの飯作ってやらなきゃいけねーなー」


モブ卒業生A「Bちゃんっ! 卒業してからも毎日連絡するからね!」

モブ卒業生B「うん! ときどき会って遊ぼーね!」


モブ在校生A「Cセンパイっ! 絶対に次の大会では一番になってみせるッス」

モブ卒業生C「おうっ! あ、あとは頼んだぞ後輩よおおおおおおおおおっ!」


上条「……やっぱ卒業式だから盛り上がってんなあ。まあ俺は仲いい先輩とかいないからなー」

上条「ま、早く帰れるって考えれば得っちゃ得だな」

上条「……まあ、それはそれで寂しい気がしないでもないな」


芹亜「や、やあ上条」


上条「ありゃ? 雲川先輩じゃないっすか……ってえっ、雲川先輩その格好……?」

芹亜「そう。お前の思ってる通り、今日私はこの学校を卒業したわけだけど」

上条「雲川先輩って三年生だったんすか。何か知らないけど勝手に二年生だと思ってた」

芹亜「……うん。私も本当はそうしたかったんだけど、世界の不条理には逆らえなかったわけだ」

上条「?」

芹亜「……ごほんっ。というわけで、私は卒業しました。だから、何か感動的なシーンを一つでもどうぞ」

上条「そんなこと言われてやっても、ただの茶番になること請け合いだな」

芹亜「まあ私もそんな茶番好きじゃないから、別にやってくれなくて結構だけど」

上条「じゃあ何で言ったんだよ……」

芹亜「いや何となく。でもあれだ、その場のノリって大事だけど」

上条「滅茶苦茶だよこの人。……まあいいや、ごほんっ、じゃあ感動的じゃないけど一つ」




上条「先輩卒業おめでとう。時々する先輩とのよもやま話、結構楽しかったぜ」ニコッ


芹亜「……おっふ。これはなかなか強烈な一撃なんだけど。クリティカルなんだけど」クラッ

上条「お、おいおい大丈夫か先輩? そんなにふらついて……」

芹亜「だ、大丈夫だ。問題ない。ただの立ちくらみだけど」

上条「もしかして卒業式緊張でもしてたんすか? 終わったから急に気が抜けてってやつ?」

芹亜「そういうわけじゃないけど。まあいい、実は私もお前に一言言っときたいことがあるんだけどな」

上条「一言? 何すか?」

芹亜「そんな大したことじゃないんだ。ただこれをお前に言っとかないと、今日ここにきた意味がなくなるけど」

上条「何じゃそりゃ。あっ、もしかしてあれか? 卒業を機会に愛の告白とかしてくれちゃったりして?」

芹亜「ごほっ!? お、お前はいきなり何を言い出すんだっ!」

上条「えっ、いや冗談すよ冗談。卒業式ジョークですよ」

芹亜「……まあでも、お前がそれを望むのならしてやってもいいけど」

上条「えっ、いまなんて……?」

芹亜「しかし、今この場所このタイミングでそれをやってしまうと色々と問題がありそうだけど。だから、またそれは別の機会でやらせてもらうよ」

上条「つまり、どういうこっちゃ?」

芹亜「ごほんっごほんっ。じゃあ、私が一言言いたいっていうくだりに、話を戻すけど」

上条「あっ、どうぞどうぞ」

芹亜「上条。私は今日ここを卒業していなくなるわけだけど」

上条「うん」

芹亜「だが、私は必ずこの学校、そしてお前の目の前に再び姿を現すけど」

上条「何かやられちまった第一の魔王みたいなこと言ってんなー」

芹亜「勝手に変なツッコミを入れないで欲しいんだけど。まあ良い、だから上条当麻っ、だからそれまで私のことを忘れるんじゃないぞ!」

上条「あ、はい」

芹亜「絶対だぞ!」

上条「大丈夫ですって。だいたい忘れたくても忘れられないって、先輩存在感すごいし」

芹亜「むっ、何か気になる言い回しだけどまあいい。それじゃあ、さよならはもちろん言わない。また会おう上条」スタスタ

上条「お、おう。また」


上条「…………」

上条「一体何だったんだ? 言ってることが半分くらいわからなかったぞ?」

上条「……まあいいや。本人が会えるっつってんだから、また会えるんだろ」

上条「ほいじゃ、ま、帰りますか」スタスタ


――――――


雲川先輩めっちゃ頭いいけど書いてる僕くんが無能やからそれと同等かそれ以下の知能しか発揮できないの悲しいね

次回『雛祭り』

今の所週一ペースは守れてるね 偉いね

投下



4.雛祭り


March First Saturday 13:00 ~雛祭り前日~

-黄泉川家・リビング-



黄泉川「――というわけで、これから明日の雛祭りの準備をするじゃん」



打ち止め「おーっ、ってミサカはミサカは高々と拳を突き上げてみたり」

結標「うふふ、楽しみね」

芳川「……はぁ、めんどくさいわ」

一方通行「奇遇だな。珍しくオマエと同意見だ」

黄泉川「そこのローテンション二人組っ! そういうことは思っていても口には出さないっ!」

打ち止め「そうだそうだー、そういうのが場の空気を悪くするんだぞー! ってミサカはミサカは流れに乗じて口出ししてみたり」

結標「そうよ。それに一方通行に関してはいつもいつも面倒臭い面倒臭い言っているんだから、たまには『やったるでー!!』とかを口癖にしたらどうなのよ?」

一方通行「オマエそれキャラ崩壊とかいうレベルじゃねェぞ。俺のアイデンティティー崩壊だ崩壊」

黄泉川「そんなもんをアイデンティティーにしちゃいけないじゃんよ。そんなんじゃ将来本当に駄目な大人になってしまうじゃん」

芳川「ま、言ったところでもう手遅れかもしれないけどね」クスッ

一方通行「うるせェぞ芳川ァ。つーかよォ、大体何で俺が雛祭りの準備なンざしなきゃいけねェンだ? アレはたしか女の行事だっただろォが」

黄泉川「たしかに女の子が主役の行事ではあるよ? でも、別に男が参加しちゃいけない決まりなんてないじゃん?」

一方通行「屁理屈かよ。そンなモンで俺が動くと本気で思ってンのか?」

黄泉川「おう、もちろん!」ニッコリ

一方通行「…………」ギロッ

黄泉川「…………」ニコニコ

一方通行「……ハァ、ったく。わかったわかったやりゃイインだろやりゃあ?」

打ち止め「おおっ、あっさりだっ! ってミサカはミサカはあなたの聞き分けの良さに少し驚いてみたり」

一方通行「張り倒すぞクソガキが」

結標「でも打ち止めちゃんの言う通りよ? どうしたの今日はやけに素直じゃない?」

一方通行「誰が素直だって? これはそォいうンじゃねェよ。これ以上は拒否する方が面倒だ、っつゥことで了承しただけだ。実質強制されたよォなモンだ」

結標「あら、やっぱりいつもの一方通行だったわね」

打ち止め「そうだねー、素直じゃないツンデレータだ! ってミサカはミサカは同意してみる」

一方通行「言ってろ」

芳川「うん? そろそろツンデレ劇場は終わったのかしら」ピッピッ

一方通行「……ところでオマエは何をやってやがンだ?」

芳川「タブレットでネット。キミのいつものやり取りを見るのも飽きてきたから、その間の暇つぶし」スイースイー

黄泉川「へー、お前そんなもん持ってたのか」

芳川「この前バイト代で買った」

一方通行「ほォ、そォか。そォいやいつものやり取りっつったら、この俺の勘に触りやがった馬鹿にはよォ、制裁を加えてやるっつゥのも定番のやり取りだったよなァ?」カチッ

芳川「やめておきなさい一方通行。もしこれを壊されでもしたら、私は少なくとも半年間は部屋に引きこもってやる自信があるわ」

打ち止め「うわっ、駄目だ大人だっ! ってミサカはミサカは素直にオブラートに包むことなく指摘してみる」




黄泉川「はいはい、それじゃあテキパキやって、とっとと終わらせるとするじゃん。明日が雛祭りだからあんま時間は残ってないぞ」

芳川「……というか愛穂? そもそもひな祭りをやるなら、あらかじめもっと前に準備しておくのが普通じゃない?」

黄泉川「えっ、そうなの?」

芳川「そうよ。もともと雛人形は春分、ようするにニ月四日から二月中旬までくらい飾り付けるのが一般的よ?」

芳川「遅くとも、三月三日の一週間前には終わらせとかないといけないわけ。つまり、前日に準備だとだいぶ遅れていることになるわ」

黄泉川「はえー、そうなのかー」

結標「詳しいですね芳川さん」

芳川「さっきググった」

一方通行「どォりでスラスラ言葉が出てきたわけだ」

芳川「いや、勘違いしてもらってわ困るわ。私が調べたのは最低ラインだけよ。一般的にいつ飾れば良いのかは最初から知ってたわ」

一方通行「どォだか」

結標「……ところで黄泉川さん。飾る時期を知らなかったとしても、何で今日準備するんですか? もっと前から準備できそうな日あったと思うんですけど」

黄泉川「おっ、いいことを聞いてくれるじゃん。実はこの雛祭りのセットって全部もらいものじゃんよ」

打ち止め「もらいもの? ただでもらったってこと? こんな高そうなものを? ってミサカはミサカは率直な疑問を浮かべてみる」

黄泉川「おう。これはな、もともと第一三学区で私の知り合いが運営してた養護施設にあったものじゃん」

黄泉川「だけど、その養護施設が退っ引きならない事情で閉園してしまってさぁ。それでそこの施設のものを整理しているときに、この雛祭りセットがあってどうしようかって話になってな」

黄泉川「そんでその知り合いに冗談でちょうだい、って言ったら本当にくれたわけじゃんよ。ちなみにそれが昨日の出来事」

芳川「……要するに、貴女はもともと雛祭りなんてやるつもりなかったけど、たまたま昨日雛祭りセットが手に入ったから急遽雛祭りをやることになって今に至る、って言いたいわけね?」

黄泉川「そうそう」

一方通行「そこはリサイクルショップにでも売っとけよ経営者ァ。施設がぶっ潰れて金も必要だろォによ」

黄泉川「いいじゃん別によー、くれるって言ったんだからさあ。それに打ち止めがいるんだから、雛祭りの一つや二つ、やってやらなきゃなー」

打ち止め「おおっー! さすがヨミカワ! ミサカイベント大好きありがとー! ってミサカはミサカは素直にお礼が言えるいい子!」

黄泉川「あと淡希もそうじゃん。記憶喪失だから雛祭りなんてやった記憶ないだろうし」

結標「そうですね。たしかに記憶にはないです。……まあでも、同級生のみんなはこの歳じゃやらないわよー、って言ってたから素直に楽しめるかわかりませんけど」アハハ

芳川「別にいいんじゃない。雛人形を飾るのに年齢制限なんて存在しないわけだし」




黄泉川「ほいじゃ始めますか。私と桔梗で台座を組み立てるから、他三人は飾り付けの準備をするじゃん」

打ち止め「了解っ! ってミサカはミサカは背筋を伸ばしてしっかり敬礼してみたり」

結標「はーい」

芳川「ちょっと待って。何で私が台座の組み立てとかいう重労働をしなきゃいけないのよ? こういうのは男の仕事じゃないかしら? ねえ一方通行?」

一方通行「あァ? 杖突の身体にナニ重労働させよォとしてンだオマエはァ?」

芳川「何のための電極よ? こういう人の役に立つときに使わないと、電池がもったいないんじゃないかな?」

一方通行「そンな誰でも出来る作業に能力使うなンてよォ、役不足にも程があンだろうが」

打ち止め「だったら能力使用モードに制限かけてあげようか? それなら持続時間も伸びるし、ってミサカはミサカはアドバイスしてみたり」

一方通行「余計なこと言ってンじゃねェぞクソガキ」

黄泉川「まあ別に台座組み立てるくらい二人いれば十分だし、一方通行にそこまでしてもらう必要ないじゃん」

芳川「でも愛穂。正直台座の組み立てなんていう重労働、疲れるからやりたくないんだけど」

黄泉川「この前、バイト始めたから体力ついた、とか言ってたじゃん? その体力を活かすときが来たじゃんよ」

芳川「今日はバイトの休みの日、つまりその失った体力を回復させている日なのよ。それなのに体力を使うなんて――」

黄泉川「つべこべ言わず手、動かすじゃん」ニコッ

芳川「アッハイ」


打ち止め「おっ、話が付いたみたいだね、ってミサカはミサカは飾りを箱から取り出しながら解説してみたり」

一方通行「解説でも何でもなかったけどな」

結標「えっと、男雛様に女雛様、三人官女に五人囃子、随臣と仕丁。へー、総勢十五人か。すごい人数ですね」

打ち止め「よくできたお人形さんだね。材質とか良さそうだし、ってミサカはミサカはいじくりながら分析してみる」

一方通行「ガキの遊ぶお人形さンじゃねェンだ。あンま無茶して壊すンじゃねェぞ」

打ち止め「ぶー、わかってるよそんなことー、ってミサカはミサカはふくれてみたり」

結標「でもホントこれ高そうよ。こういう本格的な雛人形っていくらくらいするのかしら?」

芳川「ピンキリだけど、いいものだと四百万くらいするみたいね。通販サイトを見る限り」サッサッ

結標「よ、よんひゃっ!?」

打ち止め「す、すごいね。も、もしかしたらここにある雛人形もそれくらいするのかな? ってミサカはミサカは恐る恐る尋ねてみたり」

芳川「さあ? まあ安いのでも五万六万するみたいだし、決して安いものではないと思うわ」

芳川「それにここにある雛壇はね、何でか知らないけど十段あるのよ。市販品は七段までしか置いてないにもかかわらず」

芳川「つまりここにあるのは特注品。まあ、あとはご想像におまかせするわ」

結標「……触るのに手袋とかしたほうがいいかしら?」

一方通行「別にイイだろ、転売目的で扱うわけじゃねェンだからな。きっちり雛祭りに使って、くたびれさせてやったほうがお人形さンのためっつゥわけだ」

黄泉川「こらこらー、お前たち口ばっか動いて手が動いてないぞ―。桔梗に至っては堂々とネットサーフィンするのはやめとこうじゃん」

打ち止め「……あっ、見てこれ! ミサカはどうせ雛祭りをやるならこれが欲しいっ! ってミサカはミサカはタブレット端末を使いこなしてみせつつ懇願してみたり」

芳川「何勝手に私の持ち物使っているのよ」

一方通行「あン? 何だこりゃ、『ゲコ太とピョン子の雛祭りセット』だァ? こンなところまで展開してンのかこのカエルどもは」

打ち止め「ミサカこれがあれば雛祭りを通常の三倍、いや百億倍楽しめる気がするんだっ、ってミサカはミサカは購買欲をそそらせるアピールをしてみたり!」

一方通行「ここにわざわざ本物が置いてあンだから別にいらねェだろ。却下」

打ち止め「ぶーぶー」

一方通行「……しかしこの雛人形、どっかの超電磁砲は持ってそォだよなァ、何となく」




-常盤台中学学生寮・二〇八号室-



美琴「――へっくちっ!」



黒子「あらお姉さま、もしかして風邪ですの?」

美琴「んー? 別に身体に異常はないし、ただのクシャミでしょ」

黒子「いけませんわお姉さま。そういう油断が病を誘き寄せることに繋がりますのよ」

美琴「ただの風邪でしょ? 平気よ平気」

黒子「だからそれがいけないのだと言っているのですのよ? 大体お姉さまはいつもいつも自覚のある行動を――」

美琴「あー、ちょっと黒子。説教なら後にしてくれる? 私今、この『ゲコ太とピョン子の雛祭りセット』を眺めるのにひっじょーに忙しいから」キラキラ

黒子「……はぁ、またそんなファンシーグッズを買って。ましてや雛人形なんて、そういうのは小学生で卒業するものと思ってましたが」

美琴「黒子。アンタのその常識は間違えているわ。雛祭りに年齢制限なんてないのよ!」

黒子「いや、それは知ってますのよ。ただ、わたくしの周りに雛祭りをやろうなんて人、お姉さま以外いないから言っているんですの」

美琴「そんな狭い範囲の常識、全然常識じゃないでしょ」

黒子「……はいはいわかりました。そういうことにしておきましょう」

美琴「何か引っかかる言い方ねえ……」

黒子「そんなことないですの。それじゃあわたくしはこれからジャッジメントの仕事に行きますので。門限までには帰られると思いますが、何か用があったら連絡してくださいな」

美琴「ほいほーい。……あーかわいっ」キラキラ

黒子「……はぁ、ではいってまいりますの」ガチャ

美琴「いってらー」キラキラ




-黄泉川家・リビング-


黄泉川「――よし、これで土台は完成。あとは飾り付けだけじゃん」

芳川「疲れた。しばらく働きたくないわ」

黄泉川「よくそんなんでコンビニバイト続けられてるじゃんね」

芳川「あれは金銭が発生するから頑張れるのよ。この土台を組み立てる作業に金銭が発生しないのだから、頑張れないのは当然じゃない」

黄泉川「ほーん、じゃあこれあげるから引き続き頑張れじゃん」つ100円玉

芳川「……そんな金額じゃ幼稚園児しか動かせないわよ」

黄泉川「お金はお金じゃん」


打ち止め「おおっー、いつの間にか台ができてるー! 大っきいー、ってミサカはミサカは見上げながら感動を覚えてみたり」

黄泉川「おっ、そっちはどうじゃん? 準備できたか?」

結標「はい、組み立てなきゃいけないものは全部組み立てたと思います」

一方通行「つゥか、人形より他の部品のほうが多くねェかコレ? 人形じゃなくてこっちがメインみてェに見える」

結標「部品って味気ない言い方ね。飾りって言いなさいよ」

一方通行「別に変わらねェだろ」

芳川「飾りの数が多いのはあれね。普通は七段で解決するところを十段もあるわけだから、その分飾り過多になっているのでしょうね」

黄泉川「それじゃあぱぱっと飾り付けして、準備を終わりにするじゃん」

結標「……というかほんと大きいなあこの雛壇。軽く二メートルは越えてるわね」

打ち止め「ひゃあー、こりゃ上のほう飾るのきつそうですなぁ、ってミサカはミサカは自分の身長の低さに歯噛みしてみたり」グヌヌ

芳川「大人の私だって台がないとキツイのだから、別に悔しがることはないんじゃないかしら」

黄泉川「そうじゃんね。ちょっとイスでも持ってくるじゃん」


一方通行「……つーかよォ、結標が全部テレポートさせて飾り付けすりゃイイだろォが」


打ち止め「…………」

芳川「…………」

黄泉川「…………」

結標「…………」


一方通行「?」


打ち止め「おおっ、そういえばアワキお姉ちゃんはテレポーターだったね、ってミサカはミサカは再認識してみる」

芳川「ああ。テレポート使ってる場面なんて全然見ないから忘れてたわ」

黄泉川「あははー、ほんとじゃんねー」

結標「しょ、しょうがないですよ。私もこんな場面でテレポートが活用できるなんて思ってなかったんですから」

一方通行「オマエ本当にレベル5かよ? てか、オマエも散々俺に日常生活で能力を使えって言ってくるくせによォ、自分自身も活かせてねェっつゥンだったら話になンねェよなァ?」

結標「い、いやアレよ? ちゃんと遅刻しそうなときとかにテレポート活用してるから」

一方通行「しょうもない使い道だな」

結標「あ、貴方も似たような物でしょうに……」




結標「そ、それじゃあテレポート使って飾り付けしまーす」

打ち止め「がんばれー! ってミサカはミサカはお煎餅を片手に応援してみたり」ボリボリ

芳川「何かあったら呼んでちょうだい。私タブレットでゲームしているから」チャラチャラ

黄泉川「今日の晩御飯は何にしようかなーと」ガチャ

一方通行「オマエら一気にやる気なくなったな。結標に全部任せとけばイイってなった瞬間から」

結標「別にいいわよ。こんな能力が役に立つっていうのなら、それはそれで嬉しいし」

一方通行「そォかよ。俺には分かンねェことだな」

結標「……ところでこれってどれどう飾ればいいのかしら。説明書が見当たらないのだけど」

一方通行「そォいやそォだな。これだから中古は」

結標「だったらこれ、どういう風に飾ればいいのよ? わからなきゃテレポートの使いようがないわよ」

一方通行「あー、たしかアレだ。一段目に男雛と女雛、その左右にこの街頭みたいなヤツを一本ずつ。男雛と女雛の間にこのお供えに使うよォな台を置く。で、後ろに屏風を置いて終わりだ。次に二段目――」

結標「ちょ、ちょっと待って!」

一方通行「あァ?」

結標「あ、貴方知ってるの!? この雛人形の飾り方!?」

一方通行「まァな」

結標「へ、へー見かけによらずそういう知識はあるのねー」

一方通行「……何か勘違いをしているよォだが、俺はたださっき芳川のタブレットに映ってた雛壇の画像を見て覚えてただけだ。それを思い出しながら口に出しているだけに過ぎねェ」

結標「よくあの一瞬でそれだけのことが覚えられるわよね」

一方通行「オマエもそれくらい出来るだろ?」

結標「いや、普通に無理」

一方通行「……よし、なら訓練をしてやる」

結標「訓練?」

一方通行「そォだ。これから雛人形の並び順を最初から最後まで説明するから、それを全部記憶してみろ」

結標「ええっー、十段もある雛人形よ? 絵で見て覚えるならまだしも、口説明で十通りの組み合わせを一発で覚えろなんて無理よ」

一方通行「安心しろ。俺も知ってるのは七段目までだ。そこから下は情報がねェから適当にやるしかねェ」

結標「それでも七段か。やっぱし何かきつそう」

一方通行「そりゃアレだ、本気で覚えようとしてねェからだろ。オマエくらいの脳みそなら余裕で出来るはずなンだがなァ」

結標「それ本気で思ってる?」

一方通行「ああ」

結標「……ふふっ、わかったわ。何か出来そうな気がしてきたわ」

一方通行「単純かよ」

結標「うるさいわね。早く説明言いなさいよ」

一方通行「ああ。えーまず一段目から――」

一方通行「――で、この火鉢を二つ並べる、これで以上だ」

結標「ふむふむ、なるほどね」

一方通行「あと残ったヤツは適当に八、九、十段目に配置しろ。オマエのセンスに任せる」

結標「最後だけすごい雑ね。まあいいけど」

一方通行「それじゃあ答え合わせだ。覚えたとおりに飾り付けしてみろ」

結標「わかったわ。よっ」ブンッ




シュン、ストトトトトトトン



結標「……ど、どうよ?」ドキドキ

一方通行「……おう。正解だ。どォやら間違いなく覚えられたよォだな」

結標「そ、そう。よかったわ」ホッ

一方通行「まあ、欲を言えば男雛をもう左に八ミリのところに置いとけば、きっちり左右対称の位置に持ってこられてたンだがな」

結標「それは知らんがな」


打ち止め「おおっー、ミサカがアニメを見ている間に雛人形の飾り付けが終わってるー! ってミサカはミサカは巨大な雛壇を眺めながら興奮を覚えてみたり」

芳川「あら終わったのね。へー、すごいわね。これはウン百万とか言われても何も驚かないくらい豪華ね」

黄泉川「ほー、こりゃ壮観じゃんねー。これを見ながら飲む白酒はうまそうじゃん」

芳川「愛穂……貴女もしかして美味しいお酒を飲むために……?」

黄泉川「へ? い、いやそんなわけないじゃんよ。ちゃんと打ち止めと淡希の為を思って雛祭りをしようと思ったじゃん。ま、まあたしかに雛祭りといえば白酒が風流でいいなあ、とか思ってたけどさ」

打ち止め「へー、雛祭りではシロザケっていうのを飲むんだねー。ミサカも飲みたーい、ってミサカはミサカはお願いしてみる」

一方通行「ガキには二十年早ェ」

打ち止め「ぶーぶー」

芳川「そうね。でも安心しなさい打ち止め。実は子供でも飲めるお酒があるのよ?」

打ち止め「えっ、そうなの!? 何それ何それ、ってミサカはミサカは興味津々なワードに目を光らせてみたり」キラキラ

芳川「甘酒って言って、アルコール度が1%未満だから未成年でも飲むことのできるお酒よ。ま、分類上ソフトドリンクっていう扱いになるんだけどね」

打ち止め「へー、それはそれは名前からして甘そうなものですなぁ、ってミサカはミサカは期待で胸を躍らせてみたり」

結標「甘酒かー、飲んだことないから楽しみね」

一方通行「ケッ、くだらねェ」

結標「逆に貴方は絶対に飲まなそうね」

一方通行「当たり前だ。そンなモン飲むくれェなら泥水すすった方がマシだァ」

芳川「どうでもいいけど、よくブラックコーヒーのことを泥水とか言っている人いるわよね」

一方通行「どォいう意味かな芳川クゥン?」

芳川「別に意味はないわ」

黄泉川「ほいじゃー、とりあえず準備は終わったということで解散するじゃんよ。晩飯準備できたら呼ぶから待っててくれ」

結標「了解でーす」

打ち止め「アワキお姉ちゃーん、一緒にゲームしよー、ってミサカはミサカは暇つぶしの方法を提案してみる」

芳川「はぁ、やっと終わったわね。部屋に戻ってネットしよ」

一方通行「オマエタブレット買ったンだろ? それでやりゃイイだろォが」

芳川「馬鹿ね。タブレットはあくまで部屋を離れる用、自室にいるのならPC使ったほうがいいに決まってるじゃない。使いやすさは雲泥の差よ」

一方通行「知るかよ」


―――
――





March First Sunday 18:00 ~雛祭り当日~

-黄泉川家・リビング-



黄泉川「――それじゃあ料理もできたことだし、雛祭りを始めるとするじゃん!」


打ち止め「よっしゃああっ! やっと始まったぜ、ってミサカはミサカは待ち焦がれたイベントの開始に歓声をあげてみたり!」

円周「うおお」


一方通行「うるせェぞガキどもッ!! つーか、何で木原のクソガキまでここにいやがるッ!!」

芳川「キミも十分うるさいけどね」

円周「科学あるところに『木原』ありっ! イベントあるところに『円周』ありっ! つまりそーいうことだよ」

一方通行「帰れ」

結標「別にいいじゃない一方通行。人数多いほうが楽しいし」

一方通行「オマエコイツをパーティーを楽しくする人数にカウントしねェほうがイイぞ? プラマイゼロどころかマイナスの10くらいだ」

結標「それもう人数ゼロになっちゃうじゃん……」

一方通行「ゼロどころかマイナスだ。ただ負の感情しか生まねェ」

結標「どういう状況よそれ」

一方通行「……朝礼の校長の長話中とか」

結標「マイナスしょぼっ!?」


打ち止め「ところで雛祭りって何をやるのー? ってミサカはミサカは率直な疑問を投げかけてみたり」

芳川「雛祭りに特に決まってやることなんてないわ。雛人形飾った後は、雛祭りの定番の料理で適当にパーティーとかするのが一般的かもね」

黄泉川「ちらし寿司にはまぐりのお吸い物、デザートに雛あられに菱餅を用意したじゃん」

芳川「見事なテンプレねえ。というか雛あられと菱餅ってデザートと言えるのかしら?」

黄泉川「何じゃん? そんな文句言うなら食わなきゃいいじゃんよー」

芳川「誰も文句なんて言ってないわ。ただ疑問に思ったから質問しただけで」

円周「うーんたしかに雛あられって、デザートというよりおやつって感じだねー」ボリボリ

打ち止め「たしかにそだねー、ってミサカはミサカは同意してみる」ボリボリ

黄泉川「あっ、お前ら夕食前にお菓子を食べるなじゃん」

芳川「別にいいでしょパーティーなんだから。好き放題食べれば」




黄泉川「さーてさっそく豪華な雛人形を眺めながら、白酒で晩酌と行くじゃんよ」トクトクトク

一方通行「まァたババァが酒で暴走すンのか……」

黄泉川「何だ一方通行? 私と一緒に酒飲みたいのかー?」

一方通行「オマエまだシラフだよなァ? 教育者がそンなこと言ってイイのかっつゥの」

黄泉川「あははー、冗談じゃん冗談っ! ……んっ、かぁーうめぇー!」ガタン

一方通行「始まった始まった」ハァ

打ち止め「ところでミサカもお酒が飲みたいんだけど。昨日言ってたアマザケってやつー、ってミサカはミサカは要求してみる」

芳川「甘酒はこれよ」ゴトッ

打ち止め「おおっー、ヨミカワが飲んでるやつと違ってなんか白い! あれ? ヨミカワが飲んでるのはシロザケだけど透明で、これはアマザケってやつで白くて……あれ?」

円周「打ち止めちゃん深く考えちゃだめだよ。これはあれだよ、コンパンとトランセルの進化先が実は逆だった! みたいなヤツだよ」

一方通行「何言ってンだこのガキ」


結標「へー、これが甘酒かー。なかなかおいしいじゃない」

打ち止め「おおっ、甘いー! ジュースとかとはまた違った感じがするねー、ってミサカはミサカは食レポしてみたり」


円周「飲み物飲んだレポートって食レポっていうのアクセラお兄ちゃん?」

一方通行「知るか」

円周「何かつれないねー、せっかくの雛祭りだよ? もっと楽しそうにしてもいいのに」

一方通行「オマエがいなけりゃもォ少しは楽しめるだろォよ」

芳川「何嘘言っているのよ。いてもいなくてもキミはこんな感じじゃない」

一方通行「精神衛生上の話だ」

円周「うーん、アクセラお兄ちゃんなかなか心を開いてくれないねー。どうしたらいいのかなー桔梗おばちゃん?」

芳川「そうね、悪いけど私じゃわからないかな。この子ちょっと頭おかしいから。あと円周ちゃん? 『桔梗おばちゃん』じゃなくて『桔梗お姉さん』よ」

一方通行「誰が頭おかしいだって? つゥかナニ無様な若さアピールしてンだオマエ? 『桔梗ババァ』じゃないだけマシだと思ってろよ」

芳川「よろしい。ならば戦争よ」クワッ


黄泉川「きっきょーう!! 楽しんでるうううううっ!?」ガシッ




芳川「あっ、愛穂!? 貴女もう出来上がっちゃっているの!? ペース早っ!?」

黄泉川「あっれれー桔梗? もしかして全然飲んでないじゃーん? こんな楽しい日に飲まないなんて損じゃん! こっち来て一緒にのもーぜ!」

芳川「い、いや私明日朝からバイトだし。ちょっとアルコールは控えときたいんだけど」

黄泉川「なーに固いこと言ってるじゃんよ? 安心しろ、私も明日はお仕事じゃん!」

芳川「それ何の解決にもつながってないんだけど。そんなセリフ聞いてもまったく飲もうとか思えないんだけど」

黄泉川「つべこべ言わずこっちに来て飲めー! 私のお酒が飲めないのかー!」

芳川「……はぁ、わかったわよ。一杯だけよ?」

黄泉川「よーぅし、それでこそ桔梗じゃん!」

一方通行(アイツはもォ終わったなァ……明日のバイト)

黄泉川「おっ、一方通行ぁ! お前も楽しんでるかー!」

一方通行「酔っ払いが。静かにしろ近所迷惑だろ」

黄泉川「このマンションは防音設備しっかりしてっから安心じゃんよー。それよりオマエもこっちきて飲め飲めぇー!」

一方通行「だから俺は未成年だっつってンだろォが。イイ加減にしやがれクソ野郎が」

黄泉川「ほーん、ならこれ飲めこれ飲め甘酒ぇ! これなら子供でも安心して飲めるお酒、いやジュースじゃん!」

一方通行「俺は言わなかったか? そンなクソみてェな飲みモン飲むくれェなら泥水すすったほうがマシだってよォ」

芳川「うるさーい! つべこべ言わずに貴方も飲みなさーい!」

一方通行「芳川ァ。オマエソッチ側に行くの早すぎンだろ」

芳川「黙りなさい。こうなってしまったら、もうとことん飲むしかないのよ!」

黄泉川「おおっーよく言った桔梗ー! いいぞいいぞー!」

一方通行「ヤケになってやがる。これがヤケ酒ってヤツか」

芳川「いいから早くこっちに来て飲みなさい! こうなったら貴方も道連れにしてあげるわ!」

一方通行「うっとォしいッ! この酔っ払いどもめェ!」


円周「……へー、ああいうふうになったら第一位でも困っちゃうんだねー。これは面白いなあ」ピーガガガ




打ち止め「どうしたのエンシュウー、ってミサカはミサカはうきうきな気分で話しかけてみたり!」

円周「別にー。それより打ち止めちゃん、何か心なしか楽しそうだね」

打ち止め「そりゃ楽しいに決まってるよー! だってパーティーなんだしー、ってミサカはミサカはアマザケが入ったグラスを掲げながら返答してみたり!」

円周「……へー、甘酒っておいしい?」

打ち止め「甘くておいしいよー。コーラやオレンジジュースと違った優しい甘さというか何というか……とにかく変わった味なんだ、ってミサカはミサカはアマザケを飲みながら説明してみる」

円周「ふーん」

打ち止め「そんなに気になるならエンシュウも飲んでみたら? ってミサカはミサカは勧めてみる」

円周「いや、やめとくよ。これを飲んで楽しむより、この状況を『観察』したほうが楽しそうだからねー」

打ち止め「そっかーおいしいのになー、ってミサカはミサカはアマザケをコップに注ぎながら残念がってみる」

円周「……ちなみに打ち止めちゃん、その甘酒何杯目?」

打ち止め「うーんと、五杯目っ! ってミサカはミサカは手のひらを広げてパー作ってみたり!」

円周「へー、面白いから止めないけど飲みすぎじゃないかなあ?」

打ち止め「えー、そんなことないよ! アワキお姉ちゃんだって同じくらい飲んでると思うよー、ってミサカはミサカは普通アピールをしてみる」

円周「よくわからないけど、甘酒を五杯飲むのは普通の子供じゃないんじゃないのかなあ」

打ち止め「ええっー? ってミサカはミサカは驚きつつコップを口へ運んでみる」

円周「……よし、面白そうだから淡希お姉ちゃんの様子でも見に行ってみよう。淡希お姉ちゃあん!」テクテク


結標「あら? どうかしたの円周ちゃん」

円周「……あれ? 何か普通だなあ」

結標「普通? 一体何を期待して私に話しかけたの?」

円周「いやあ、打ち止めちゃんがいつもの三割増しでテンションが高いから、淡希お姉ちゃんもそれくらい変化してるかなあ、って」

結標「それってパーティーしてるからじゃないの? あの子イベント大好きだから」

円周「明らかにそーいう感じじゃないんだよなあ」

結標「ふーん」ゴクゴク

円周「あっ、甘酒だ。おいしい?」

結標「うん。何か変わった感じのジュースよね。変わった感じがするのは、お酒っていう名前があるからそのプラシーボ効果的な感じなのかしらね?」

円周「ちなみに今何杯目?」

結標「さあ? 数えてないから覚えてないわ」

円周「そんなに数えないほど飲んで飽きないの?」

結標「まだ飽きてはこないなー。ほら、今日の料理って塩辛いのが多いじゃない? だからそれで相殺されているんじゃない?」

円周「その理屈はおかしい気がするけどまあいーや。それじゃあ淡希お姉ちゃん、面白くなってきたらまた教えてねー」

結標「面白い? 今も十分面白いと思うけど?」

円周「面白いと楽しいは違うんだよなあ。私は行くよ。またね」タッタッタ

結標「……変なの」





~1時間後~



一方通行「……おェッ、や、やっと解放された」

一方通行「あのクソババァども、何つゥモン飲ませやがった。甘すぎンだろ気絶するかと思った」

一方通行「クソが、甘酒なンて二度と飲むかよ」


円周「アクセラお兄ちゃあん!」タッタッタ


一方通行「あン? オマエまだ居たのか」

円周「面白いよねー雛祭りって。いやあ、参加してよかったよ」

一方通行「は? どこにそンな面白い要素があるっつゥンだ?」

円周「うーん、みんなの面白い一面が見れるところかな?」

一方通行「面白い一面だァ? 何を言って――」


打ち止め「アマザケウメー! ってミサカはミサカははがないをゃしりケみマアらザみた飲で」ケラケラ


一方通行「あン? 何だありゃ?」

円周「打ち止めちゃん」

一方通行「いや、それは見りゃ分かる。クソガキの様子がおかしいことについて聞いてンだよ」

円周「あれはねー、酔っ払っているんだよ。あそこで面白いことになってる愛穂おばちゃんや桔梗おばちゃんみたいにね」


黄泉川「あっはっはっはっはぁー!! よく見たら雛人形の顔面白っ! めっちゃ面白っ!」ケラケラ

芳川「……おえっ、もう飲めない。勘弁……」グター


一方通行「何だと? まさかあのババァどもガキに酒盛りやがったのか!?」

円周「うーん、半分正解で半分不正解かな?」

一方通行「どォいうことだ?」

円周「まず甘酒って何かわかる?」

一方通行「甘い未成年でも飲める酒だろ? それが何だってンだ」

円周「そう。アルコール度が1%未満なら法的には未成年でも飲んでだいじょーぶ、って感じなんだけどそこに罠があるんだよねー」

一方通行「……1%未満っつってもアルコールは入っているっつゥことか?」

円周「そおそお理解が早くて助かる助かる。甘酒には米を原料にするものと酒粕を原料にするものがあるんだ。前者だとアルコール度は0だけど後者だといくらか入っちゃうんだよねー」

円周「ちなみに今ここにあるのは後者のほう。ラベル見る限りは1%未満になってるねー。さっきちょろっと舐めてみたけど、大体0.92%ぐらいかなーって思うよ」

一方通行「黄泉川ァ……あの野郎買うモン間違えやがったなァ」ギリリ

円周「いや正解でしょ。こっちのタイプの甘酒を買ってきてくれたおかげで、こんなに面白い状況になっているんだから大正解だよ」

一方通行「それはオマエが『木原』だからそォ思ってンだろォが! 一般人からしたら迷惑極まりねェンだよ!」

円周「そーともいうねー」




一方通行「チッ、とにかくあのクソガキを落ち着かせるか。さてどォすっか――」



結標「あっくせられーた♪」ダキッ



一方通行「ッ!? 結標ェオマエもか!?」

結標「あっれー? 何かたのしくなさそーねー一方通行?」

一方通行「そりゃなァ。こンな面倒臭せェ状況になって楽しめるほど人間出来てねェンだ。つーか離れろくっつくンじゃねェ!」

結標「えー? やだー? 一方通行も一緒にたのしもーよー」

一方通行「オマエが離れりゃ楽しンでやるよ」

結標「うっそだー、どーせ私が離れたらどっか逃げるつもりでしょ? 淡希お姉さんはわかってますちゃーんとわかってますよ」

一方通行「チッ、うっとォしい。イイから離れやがれクソがッ!」

結標「あーまたそんな汚い言葉遣いしてー、そんな悪い子にはメッ、ですよ!」

一方通行(こ、コイツは黄泉川、いやヤツ以上に厄介だ。これがアルコールのチカラっつゥことか……!)

結標「……そーだ! ねーねえ一方通行ー!」

一方通行「何だよ」


結標「――キス、しよ♪」


一方通行「ッ!?」

結標「……ねえねえしよーよー?」

一方通行「…………」

結標「むー、なーに黙っているんですかー? ……! そうだ、だった無理やりちゅーしちゃうぞー!」

一方通行「……オイオイ、ソイツァ洒落にならねェぞ。やめろ」

結標「あっ、これってあれだ! ツンデレだツンデレ! ってことはしてほしーってことだよね? りょーかいりょーかい!」

一方通行「ふざけンなっ! こンなときにくだらねェこと言ってンじゃねェ酔っ払いがっ!」

結標「酔ってませーん、それじゃあいきまあーす!」


一方通行(……ぐっ、仕方がねェ。使いたかねェが能力を……ッ)スッ





結標「…………」

一方通行「……あン?」

結標「…………Zzz」

一方通行「……はァ、寝やがったか」

結標「…………むにゃ」Zzz

一方通行「……とりあえず部屋ァ運ぶか」カチッ


打ち止め「ああっー! アクセラレータがアワキお姉ちゃんをお姫様だっこしてるーあははははははっ、ってミサカはミサカは笑しをてみ指りさ大たしてい!」ケラケラ


一方通行「こっちはこっちでアルコール入るとムカつき度が十割増しだな」

打ち止め「ミサカもいひひ、お姫様抱っこしてー! ってミサカはミサカはて願懇みしりた」

一方通行「オマエも大人しく夢の世界に行きゃあやってやるよ」

打ち止め「わーい、それじゃあミサカもれっつごーどりーむふふっ、ってミサカはミサカはZzz」

一方通行「……雛祭り、最悪のイベントだったな」

円周「そう? いろいろ楽しめたけどなあ?」

一方通行「それはオマエだけだろ。つーかとっとと帰れ」

円周「はいはいー。打ち止めちゃんも寝ちゃったし、私がいる意味あんまなさそーだしね。帰るとするよ」

一方通行「そりゃよかった。光の速さで出ていけ」

円周「そんなことしたら地球どころか銀河系がヤバくなっちゃうよ……あっ、そうだアクセラお兄ちゃん」

一方通行「何だ?」

円周「いくら淡希お姉ちゃんが酔い潰れてるからって、寝込みを襲っちゃたりしちゃダメだよー」

一方通行「するかよ」

円周「ありゃあ? 今のアクセラお兄ちゃんなら、面白いリアクションをしてくれると思ったんだけどなあ」

一方通行「そりゃ残念だったな。つーわけで帰れ」

円周「はいはーい、帰りますよー。またねアクセラお兄ちゃん!」タッタッタ

一方通行「二度と俺の前に面ァ見せンなよ」


円周「…………」

円周(……ふふふ、ありがとーね乱数おじさん。おじさんのおかげでなかなか楽しい雛祭りになったぜー)ピーガガガ



―――
――





March First Monday 07:00 ~次の日~

-黄泉川家・結標の部屋-



結標「Zzz……」



ピピピピッ! ピピピピッ! ピピピピッ!



結標「Zzz……んん? あ、朝?」

結標「…………」

結標「……私、いつの間に寝てたのかしら?」

結標「昨日、甘酒飲んだりしてたときから記憶が……ッ!?」ズキッ

結標「あー、何か頭痛がすごいわ。昨日はしゃぎすぎたのかしらねー」

結標「…………んー、なーんか忘れてる気がするのよね」

結標「昨晩、とてつもなくすごいことをやったような、やってないような……」

結標「…………」

結標「まあいいや。今日は学校だし、おーきよ」



-黄泉川家・リビング-


ガラララ


結標「おはようございまーす」

黄泉川「おおっ、おはようじゃん淡希!」

結標「元気そうですね黄泉川さん。昨日あんなに騒いでたのに」

黄泉川「ま、ちょっと体調不良って感じはするけどなー。伊達に酒をいつも飲んでないってね」

結標「すごいですねー。私なんかなぜだか昨日の後半くらいから記憶がないんですよねー」

黄泉川「へ、へー、そうなのかー。ま、それはそれだけ楽しんだってことじゃん?」

結標「そうなんですかねー?」





ガラララ



一方通行「…………」ガチャリガチャリ

黄泉川「よお一方通行! おはようじゃん!」

一方通行「おォ。相変わらず朝からうるせェヤツだ」

黄泉川「元気が取り柄だしなー」

一方通行「そォかよ」ガチャリガチャリ

結標「あっ、一方通行おはよう」

一方通行「……おォ」

結標「……うん? 何で目を逸らして挨拶しているのよ?」

一方通行「別に。いつも通りだろ」

結標「そうだっけ?」

一方通行「そォだろ」

結標「……嘘ね」

一方通行「嘘じゃねェ」

黄泉川「…………」



黄泉川(あ、あははー、昨日あったことは黙っといたほうがいいじゃんかねー? あの子たちのためにも)



結標「……ねえ、やっぱり目を合わせてくれないわよね? 私何かしたのかしら?」

一方通行「さァな」

結標「?」

黄泉川「あははー……」


――――――


ひな祭りやったことないからこれがひな祭りで合ってんのかは知らん

次回『漫画ではよくあること』

前回までが前スレ書き終えたあとくらいに書き溜めてたやつを直したやつで今回からのは禁書3期が放送してるときに書き溜めたやつの直したやつ

投下



5.漫画ではよくあること


March First Wednesday 12:30

-とある高校・校門付近-



ワイワイガヤガヤ



結標「さーて、学校終わった終わった。今日は午後の授業が先生の会議だからなしなんて、ラッキーよね」

一方通行「そォだな。平日の昼間っから昼寝に勤しめるなンて、今日はイイ日だな」

結標「たまには別のことしなさいよ。趣味を作るとか」

一方通行「そォいうオマエは何か趣味あンのか?」

結標「えっ、ええっと……ど、読書とか?」

一方通行「どォせファッション誌か漫画だろォが。そンなモンが読書って言えンのか?」

結標「うーん、あっ、あとテレビ鑑賞とか!」

一方通行「バラエティとかドラマしか見てねェだろ」

結標「ゲームとかもやるわ!」

一方通行「クソガキのセーブデータのレベル上げの作業しかしてねェだろォが。つゥか、いつまであのゲーム続けるつもりだ? いい加減何か新しいの買えよ」

結標「いや、まだクリアしてないし」

一方通行「真面目かよ。……はァ、オマエの挙げた趣味、どれもこれも俺の昼寝と大差ねェよォな気がするのは気のせいなのかァ?」

結標「ぐっ、そ、そんなことないわよ。少なくとも昼寝よりは有意義だと思うのだけど……」

一方通行「俺にとって昼寝は有意義なものだと思ってンだがなァ」

結標「ぐぬぬ」

一方通行「大体なァ、趣味っていうのは個人の――ッ!?」ゾクッ

結標「? どうかした?」

一方通行「……いや、何か急に悪寒っつゥか、寒気っつゥか、そンな感じのモンを感じた」

結標「やだ、もしかして風邪? たしかにまだ季節的にも寒いし」

一方通行「いや、そォいうのとはまた違うンだけどよォ……」





<しまっていこー!! <おおおおおおおおおっ!!



結標「あら? もうこんな時間から野球部が練習をやっているわよ」

一方通行「この時間じゃロクにメシを食えてねェだろォに、ご苦労なこった」

結標「あれじゃない? 十秒チャージ」

一方通行「あンなモンで足りるのか?」

結標「いっぱい食べたとか?」



カキーン!! <あぶないでーす!! 気を付けてー!!



一方通行「おそらくそれ、腹ァ壊すぞ」

結標「それじゃあカロ〇ーメイト的なものを一緒に……って一方通行あぶな――」

一方通行「ああ」カチッ



キュイーン、ポーン!!



<うわっなんか球が跳ね返ってきたぞ!? <どうなってんだ!?



結標「……ふう、何だ気付いてたのね。野球部が打った特大ホームランがこっちに飛んできてたの」

一方通行「オマエじゃねェンだから当たり前だ」

結標「私だってちゃんと気付いて危ないって知らせようとしたじゃない」

一方通行「俺は打球の音が聞こえた瞬間こっちに来ると確信していた」

結標「どんな耳してるのよ貴方」

一方通行「別に。普通だろ」





-第七学区・通学路-


結標「……しかし、打った打球がピンポイントにこっちに飛んでくるなんて、まるで漫画みたいな展開よね」

一方通行「そォなのか? あンま読まねェから知らねェンだ」

結標「うん。よく土手とか歩いていると飛んでくるみたいなのがあるわね。ギャグ漫画なら頭に当たって気絶したりするわ」

一方通行「ンだァ? あのまま脳天に直撃して気絶したほうが面白かったみてェな言い方だな」

結標「そんなこと言ってないわよ。バトル漫画やスポーツ漫画ならノールックで取ったり避けたりしてるし」

一方通行「あっそ」

結標「すごく興味がなさそうね」

一方通行「すごく、じゃなくてまったく、だな」

結標「どう違うのよ?」

一方通行「0か1かっつゥヤツだ」

結標「私との世間話は興味ゼロってことですかい……まあ知ってたけど」ハァ

一方通行「ま、そォいうこ――」



むぎゅ



一方通行「あァ?」



つるーん!



一方通行「――ごぱっ!?」ドカッ


結標「一方通行ぁ!?」

一方通行「ごはっ、ごほっ、がはっ!」

結標「ど、どうしたのよ一体? いきなり大リーガー並のオーバーヘッドキックを見せたと思ったら背中から地面に叩きつけられるなんて……」

一方通行「丁寧な説明アリガトウ。どォやら、何か変なモンを踏ンじまったよォだ」ピキピキ

結標「何かを踏んだ……? これって……」



バナナの皮『靴裏から摩擦を奪った』





結標「……見ての通り、バナナの皮ね……ぷぷっ」

一方通行「オマエ今間違いなく笑っただろ?」

結標「いえ……別に……ぷふっ」

一方通行「オマエには後で制裁を加えるとして、まずこのゴミクズにやってやる必要があるよなァ」カチッ



ドグシャッ!!



バナナの皮『』



結標「おー、バナナの皮が木っ端微塵に消え去っていったわ」

一方通行「ったく、一体どこの誰がこンなモン捨てやがったンだ。そもそもお掃除ロボは一体何やってやがンだ」

結標「おそらくあれね。私の話を興味ゼロとか失礼なことを言った罰よ」

一方通行「それはアレか? オマエが俺の足元にバナナの皮をテレポートさせた、っつゥことを自首したととっても構わないンだよなァ?」

結標「やだなー冗談よ冗談。……そういえばこれもそうよねー」

一方通行「あン? 何がだ?」

結標「バナナを踏んですってんころりん、っていうのも漫画とかでよく見るわね。まあ、漫画に限らずの定番ネタだけど」

一方通行「チッ、そンなクソみたいな展開が二度も続くなンてなァ。今日はツイてねェ」

結標「あっ、そうだ。ちょっと銀行寄っていきたいんだけどいい?」

一方通行「あァ? 金下ろすだけならコンビニで十分だろ」

結標「何か最近キャッシュカード調子が悪くてね。だから新しいの再発行しようと思って」

一方通行「学園都市製のキャッシュカードをぶっ壊すなンて、どォいう使い方してやがンだオマエ」

結標「べ、別にそんな変な使い方してないわよ! 何もしてないのに壊れたのよ、っていうかまだ壊れてないし!」

一方通行「それは機械をよく壊すやつの常套句なンだよなァ」

結標「ぐっ、と、とにかく銀行寄るから! 付き合ってちょうだい!」

一方通行「ヘイヘイ、わかったよ面倒臭せェなァ」






ワーワーキャーキャー!!




結標「あら、何の騒ぎかしら? 用水路の橋のところが賑やかね」

一方通行「さあな。どっかの馬鹿が飛び込みショーでもして盛り上がってンだろォよ」



幼女A「わー!! 幼児Aくんが川に落ちたー!!」

幼児B「あいつ泳げないんだぜ!? やべえよやべえよ」

幼児C「誰か男の人呼んでー!!」



幼児A「……あぼっ、……かぼっ、た、たすけ……」バシャバシャ



結標「あっ、大変! かわいい男の子が用水路で溺れてるわ!」

一方通行「……チッ」カチッ

結標「えっ、ちょ、一方通行!?」



ドン!



結標「…………」



幼児B「わーすげえアイツ! 水の上に走ってるよ!」

幼女A「私知ってるー! あの人シノビだよー! NARUT○で見た」

幼児C「白髪で目が赤いからあれだ、カカシ先生だ!」






幼児達「「「「ありがとうカカシ先生!」」」」



一方通行「誰がカカシ先生だ! 気を付けて遊べよ! 次はねェからなガキどもが!」



結標「…………」

一方通行「待たせたな。行くぞ」ガチャリガチャリ

結標「……ねえ」

一方通行「何だ?」

結標「珍しいわね。自分からああいうことするなんて」

一方通行「……そォだな。自分でもそォ思う」

結標「じゃあ何でやったのよ?」

一方通行「知らねェよ。何かカラダが勝手に動きやがったンだよ、悪りィか」

結標「別に悪いなんて言ってないわ。むしろ良いことだと思うわよ」

一方通行「チッ、何か喉が乾きやがった。そこの自販機でコーヒー買ってくる」ガチャリガチャリ

結標「あっ、私も何か買おうかな」タッタッタ


-自販機の前-


一方通行「…………」

結標「ん? どうかしたの? 買わないの?」

一方通行「何だァ? このクソみてェな自動販売機はァ? ブラックコーヒーだけピンポイントに売れ切れてやがる」

結標「あら本当ね。もしかしたら貴方みたいな人が買い占めていったのかもしれないわね」

一方通行「ハァ? 俺はそンなことしねェよ。こンな複数の種類を全部買い占めるなンて無駄なことするわけねェ。普通はお気に入りを一つ決めて買い占めるモンだ」

結標「買い占めはするのね……」

一方通行「チッ、次の自販機行くぞォ……」ガチャリガチャリ

結標「あっ、ちょっと待ってよ!」タッタッタ


-次の自販機の前-


一方通行「は? またブラックコーヒーだけ売り切れだとォ!?」

結標「うわぁ、すごっ。よっぽどブラックコーヒーが好きなのね、これを買った人」

一方通行「クソが、次だァ!」ガチャリガチャリ


-次の次の自販機の前-


一方通行「オイッ!! またかクソ野郎がッ!!」ガンッガンッ

結標「ちょ、ちょっと自販機叩かないでよ! 防犯センサーに反応したらどうするのよ!?」

一方通行「何ですか何なンですかァ!? この三下みてェな展開ィ!? もしかして俺の右手に能力無効機能追加されてンじゃねェか!?」

結標「いや、もしそうなら貴方能力使えないでしょ」




一方通行「……あァ、コーヒー飲みてェ」ガチャリガチャリ

結標「諦めて別の缶コーヒーを買えば? 微糖とか。おいしいわよ?」←さっきの自販機で買った

一方通行「そンな甘ったるいモン飲めるかってンだ。あれはコーヒーへの冒涜だ」

結標「それならコンビニで買ってくればいいんじゃない?」

一方通行「残念ながらここらへんにコンビニはねェ。あるとしたらもォ、オマエの目的地の銀行の近くにしかねェ。だったら大人しくまっすぐ目的地に向かったほうがイイ」

結標「そうね。そのほうが私も助かるし」

一方通行「あァーイライラするゥー」

結標「貴方ってそこまでカフェイン中毒者だったっけ?」

一方通行「いつもなら何てことねェ。だがこの飲みたいって時にねェのが腹が立つ」




ブルルルルルルルルルルン!!




結標「うん? 何かバイクか何かのエンジン音が近づいてくるわね」

一方通行「あァ?」




女性「きゃああああああああっ!! ひったくりよおおおおおおおおっ!!」


風紀委員「何だって!? 貴様ぁ!! まてえええええええっ!!」タッタッタ


ひったくり「ひゃっはああああああああっ!! 俺のバイクに追いつけるヤツはいねェぜええええええええええッ!!」ブルルルル




結標「うわっ、ひったくりだ。初めて見た」

一方通行「…………アハッ」カチッ

結標「あっ……」





ドンッ!! ガシャーン!! ドカッ!! バキッ!! ゴシャ!!





結標「うわぁ……」






ひったくり「」

バイクだったもの「」プスプス



女性「ありがとうございました!!」

風紀委員「ご協力感謝します!」



一方通行「チッ、ストレス解消にもならねェな」ガチャリガチャリ

結標「無茶苦茶するわね。わざわざあんなにしなくてもいいんじゃないかしら?」

一方通行「アレくれェやらなきゃヤツに恐怖を植え付けられねェだろォが。二度と犯罪を起こそうなンて微塵も思わせねェくれェの恐怖をよォ」ニヤァ

結標「あはは……」

一方通行「……しかし、さっきから変なことばっか巻き込まれてる気がすンなァ」

結標「たしかにそうね。今思えば、川でおぼれているこどもを助ける、ひったくり犯に遭遇してそれをとっちめる、どちらもよく漫画とかで見る光景ね」

一方通行「あと欲しい飲み物が売り切れ続出してンのも、漫画とかにあるネタか?」

結標「うーん、飲み物に限らなければそういうのもあるかなー?」

一方通行「一体何が起こってンだ? まさかこれが全部ドッキリとかで、あとからプラカードを持った木原クンでも現れるンじゃねェか?」

結標「何で木原さん? まあでも、ドッキリ疑ってもしょうがないくらいには事件が集中しているわよね」

一方通行「何か嫌な予感しかしねェな。もしかしてさっきの悪寒はこの事態を察知してたからなのか?」

結標「ベクトル操作って未来予知もできるの?」

一方通行「できるわけねェだろ」



ポツン



一方通行「あン?」




ポツン、ポツン、ザアアアアアアアアアア!!



結標「ちょ、やだ雨!? しかも結構強い!!」

一方通行「今日の降水確率0%じゃなかったか?」

結標「うん、たしかそう。って言ってる場合じゃないわ。どこかで雨宿りしましょ!」

一方通行「ちょうどイイところに屋根付きのバス亭があるじゃねェか。あそこに行くぞ」カチッ

結標「了解!」シュン





-屋根付きバス亭-




ザアアアアアアアアアアアアアア!!




一方通行「……しかしすげェ雨だな。ゲリラ豪雨ってヤツか?」

結標「うわぁ、結構濡れちゃったなあ……貴方は大丈夫?」

一方通行「能力使ったときに全部反射したから問題ねェ」

結標「相変わらずの便利能力ね」

一方通行「ところで結標。こういう事態も漫画によくあンのか?」

結標「こういう事態? 突然雨が降ってきて雨宿りするっていうの?」

一方通行「それ以外ねェだろ」

結標「そうね。定番って言ったら定番ね。特にラブコメとか……はっ!」

一方通行「あン? どォかしたか?」

結標「い、いや、何でもない!」

一方通行「?」

結標「うーん、あとラブコメで突然の雨と言ったら服が濡れて下着が透けるとか……って私濡れてるやばい!!」サッ

一方通行「何ハシャイでンだオマエ?」

結標「……よし! 大丈夫ね。よかったわ、透けにくい紺色のセーラー服で」

一方通行「くだらねェ。そンなどォでもイイことで取り乱してンじゃねェっつーの」

結標「何よ? 乙女にとっては重要なことなんですー!」

一方通行「…………ふっ」

結標「……ちょっと。何で鼻で笑ったのよ?」

一方通行「さあな」

結標「……知ってる? 漫画とかで主人公の男の子が女の子にデリカシーのないこと言うと、たいていその女の子にぶん殴られるっていう定番ネタがあるのよ?」つ軍用懐中電灯




ポツン……ポツン……




一方通行「……おっ、雨止ンだ。馬鹿やってねェで行くぞ」ガチャリガチャリ

結標「あっ、ちょっと待ちなさい! 話はまだ終わってないわよ!」タッタッタ




-銀行までの道中-


一方通行「……クソが。また売り切れてやがる」←自販機8連敗中

結標「すごいわね。これはもう偶然で片付けられる現象じゃないわ。やっぱりドッキリなのかしら?」

一方通行「だとすると相当手の込ンだイタズラだよなァ? 今日、俺らがこっちの方面に寄り道するのを分かってねェとこンなこと出来ねェぞ?」

結標「そうよね。この寄り道だって私が急に言い出したことだし」

一方通行「こンな芸当ができる暇人……、やっぱり木原の野郎しか思い浮かばねェな」

結標「どんだけ木原さんを疑ってるのよ。ドッキリを受けた経験でもあるのかしら?」

一方通行「別に。ただこォいうことをやりそうで、俺らの行動を予測できるやつなンざ木原しかいねェ。ただの消去法だ」

結標「へー、やっぱり木原さんってすごいのねー」

一方通行「さっきの説明で何でそンな感想が浮かぶのか、理解出来ないねェ」

結標「いや何となく」

一方通行「馬鹿かオマエは」

結標「むっ、馬鹿って言ったほうが馬鹿なのよ!」

一方通行「じゃあオマエも馬鹿っつゥことだ。残念だったな」

結標「かわいくないわね……ん?」


幼児弟「おにいちゃーん、じゃあ蹴るよー!」

幼児兄「よしバッチコーイ!」


結標「……はぁ、いいわぁ。サッカーでもしてるのかしら?」ウットリ

一方通行「は? 何言ってンだオマエ?」

結標「やっぱり触れ合うならああいう純粋な子がいいわよねー。貴方みたいなのと触れ合っても癒されないもの」キラキラ

一方通行「……よく分からねェがアンチスキルに通報しといたほうがよさそうだな」スッ

結標「ちょ、貴方は何か勘違いしているわ! もしかして私が邪な心であの子たち見てるとでも思っているの!? 違うわよ!」

一方通行「いや、挨拶しただけで通報される時代ですし」

結標「何じゃその理不尽! ……あっ、ボールが道路に飛び出していった」

一方通行「……まさか」



幼児弟「ボールボール!」トテトテ



自動車『ブウウウウウウウン!!』



幼児弟「よし、ボールとった……ッ!?」



自動車『キキイイイイイイイイイイ!!』




ガシャアアアアアアアアアアアン!!







バタン!



運転手「うわっ!? やっちまった!! だ、大丈夫か!? ……ってあれ?」




車『』プスプス


一方通行「ったくよォ、まず道路に出るときは右左確認してから出やがれ」

幼児弟「う、うん。ありがとお兄ちゃん……」

幼児兄「弟ー! だいじょうぶかー!」トットット


運転手「あれ? たしかにぶつかったよなあ? あれー? 何で俺の車だけ壊れてんの?」


一方通行「ほら、ガキども、さっさと行け。車には気を付けろよ」


幼児兄「ありがとお兄ちゃん!」トテトテ

幼児弟「ありがうございました!」チテチテ


一方通行「……オイ、運転手」

運転手「はいっ!?」

一方通行「オマエはただ運転ミスで壁に突っ込ンで自損した。俺やあのガキどもは関係ねェ。イイな?」

運転手「はいっ! ありがとうございましたぁ!」

一方通行「じゃあな。安全運転しろよ」ガチャリガチャリ



結標「…………」

一方通行「……なァ、これも漫画みてェな展開か?」

結標「よくわかったわね。その通りよ」

一方通行「また勝手にカラダが動きやがった。気付いたらあのガキを助けに行っていた」

結標「……もしかして貴方、ヒーローとかに憧れてたりしない?」

一方通行「ハァ? 何で俺がそンなモンに憧れなきゃいけねェンだ?」

結標「だってさっきからヒーローみたいなことばかりしてるじゃない。カラダが勝手に動くのも深層心理ではヒーローに憧れてるとかで……」

一方通行「馬鹿馬鹿しい。俺にはヒーローなンて似合わねェよ。薄汚れた悪党がお似合いだ」

結標「そう? そんなことはないと思うけど」

一方通行「オマエは何も分かってねェ」ガチャリガチャリ

結標「あっ、ちょっと待ってよ。……あっ、分かった照れてるんでしょ? 褒められ慣れてないから!」

一方通行「ホンっト俺のこと分かってねェよなオマエッ!」


―――
――





同日 13:00

-第七学区・某銀行-



ウイーン



一方通行「……はァ、やっと着いたか」

結標「そうね。何だかいろいろあったから長かった感じがするわ」

一方通行「もォさすがにねェよな? 漫画にありがちな展開なンてな?」

結標「うん。今のところ思いつくものは、これと言ってないわね。大丈夫だと思うわ」

一方通行「だったらとっとと手続き済ませてこい」

結標「はいはーい」タッタッタ

一方通行「……はァ、コーヒー飲みてェ」



~10分後~



結標「お待たせー。手続きは終わったわ。三日後くらいに新しいのがウチに届くらしいわ」

一方通行「……おォ」

結標「……どうしたの? そんな深刻そうな顔して。もしかしてカフェイン切れ?」

一方通行「違う。いや、たしかにコーヒーは早く飲みてェがよォ」

結標「じゃあ何なのよ?」

一方通行「気付かねェか?」

結標「何が?」キョトン

一方通行「この銀行に来てる客の中に、明らかに客じゃないですよ、っつゥ気配を放ってるヤツがいる」

結標「そんな人がいるわけ? ……あっ、わかった! あそこのイスで飲み物飲みながらくつろいでるおじさん。たぶんあれは仕事をサボる目的でここにいるわ」

一方通行「違うな。アレはおそらく呼び出し待ちのヤツだ。さっき番号札を持ってたのを見た」

結標「……だったら誰なのよ? ストレートに答えを教えなさいよ、もったいぶっちゃってさ」

一方通行「銀行に来る客や従業員以外のヤツなンざ、ほかに一つしかねェだろォが」

結標「?」



強盗A「おらっ、銀行強盗だ!! お前ら静かにしろ!!」つ拳銃

強盗B「おらっ、このカバンのありったけの金詰めろコラ!!」つ拳銃

強盗C「おらっ、お前は人質だ!! 来いガキィ!!」つナイフ

幼女「うわーん!! ママー!!」





結標「……ああ、たしかにあったわねこういう展開」

一方通行「これも漫画か?」

結標「うん、あったあった。バトルものはもちろん刑事ものに探偵もの」

一方通行「やはりそォか。つゥかオマエどンだけ漫画読ンでンだよ、幅広いジャンル読みすぎだろ」

結標「まあ広く浅く手を出してるつもりではあるわ。何かで面白いって情報が入ったらとりあえず読んでみるみたいな」

一方通行「オマエみたいな人間の為に、ステルスマーケティングっつゥのがあンだろうな」

結標「何よそれ?」

一方通行「何も考えねェ馬鹿を釣り上げる為の宣伝方法」


強盗A「おい!! そこのガキども何くっちゃべってんだ!! 黙ってさっさとそっちの壁際に集まりやがれ!!」


結標「ところでこれ、どうするつもり? ヒーローさん?」コソコソ

一方通行「別にあの人数を制圧するのに一秒とかからねェ。だが、あの人質と武器が面倒だ」コソコソ

結標「何で? 一秒とかからないなら大丈夫じゃない?」

一方通行「馬鹿かオマエ。その一秒でヤツらが牙を剥かねェとは限らねェだろうが」

結標「そうか。あの拳銃なんて下手に撃たれたら危ないわよね」

一方通行「そォいうわけだ。オマエも協力しろ」

結標「……わかった。あの武器と人質の女の子をこっちにアポートすればいいのよね?」

一方通行「ああ、まず俺が前に出てヤツらの注意を集める。その後俺が後頭部を掻く振りをして電極のスイッチを入れる。それがアポートの合図だ」

結標「……了解」ゴクリ


強盗B「早く金詰めろオラァン!!」

銀行員「…………」コソコソ

強盗A「ん? ちょ、お前何やってんだ!?」

銀行員「ひぃ!?」ピッ



ウイーン、ウイーン!! ガラララララララ!!



警備ロボA『ピピピ、ヒジョウジタイハッセイ。ヒジョウジタイハッセイ』

警備ロボB『ギンコウゴウトウヲカクニン。ギンコウゴウトウヲカクニン』

警備ロボC『タダチニセイアツシマス。タダチニセイアツシマス』



結標「わっ、入り口のシャッターが閉まって、警備ロボが出てきた!」

一方通行「チッ、余計なことを……!」ギリリ


強盗C「ひっ、クソが近づくなッ! このガキがどうなってもいいっつーのかよ!!」

幼女「ふええええええん!!」


一方通行「クソっ、作戦変更だ。合わせろ」カチッ

結標「えっ、ちょ、待ってどういう――」





ガッシャーン!!



警備ロボABC「」プスプス


強盗A「へっ? 何だ? いきなり警備ロボが吹っ飛びやがった? 一体何が……?」アゼン

強盗B「さ、さあ?」アゼン

強盗C「おらもわからんだ」アゼン

銀行員「俺も俺も」アゼン


結標「うわぁ、何やってるのよアイツ……」アゼン


一方通行「今だァ!! 結標ェ!!」


結標「あっ、なるほど! そういうことね」スッ



シュン!



強盗A「……あれ? 俺の拳銃どこいった?」

強盗B「あっ、俺のもどっかいった」

強盗C「ひえっ、俺にいたっては人質のガキまで消えやがった!?」


結標「おじさんたち?」


強盗達「「「うん?」」」


結標「捜し物はこちらかしら?」つ拳銃×2+ナイフ

幼女「ありがとお姉ちゃん!」



強盗達「「「なっ、なにいいいいいいいいいいいっ!?」」」



一方通行「……さてと」ガチャリガチャリ


強盗A「うわっ、何だお前体白過ぎ、キッモ」

強盗B「何だこいつヒョロガリじゃねえか、弱そっ」

強盗C「目ェ赤っ! 徹夜明けかな?」


一方通行「……はァ、何つゥか」



一方通行「スクラップの時間だァ、クソ野郎どもが」カチッ



―――
――





同日 13:30

-第七学区・某銀行-



ドンドン!! ガシャーン!!



黄泉川「突入!!」


ドタドタドタドタ


鉄装「う、うおおおおおおおおおっ……って、あれ?」

黄泉川「どうしたじゃん鉄装?」

鉄装「あ、あれー? 何かもう制圧されているんですけど……?」

黄泉川「なっ、そんな馬鹿なっ! さっき通報があったばっかりじゃんよ」

鉄装「いやっ、たしかにそうなんですけど……」

黄泉川「まあいいじゃん。とにかく強盗を確保!」


警備員達「「「了解!!」」」



銀行員「……あ、あのー」


黄泉川「あっ、ここの職員の方じゃん? 一体何があったじゃん?」

銀行員「いやー、さっきまでここいたんですけどねー、二人の学生さんが強盗たち見事に制圧してくれましてねー」

黄泉川「学生? ジャッジメントか?」

銀行員「いえ、そんな感じではなかったと思うんですか……」

鉄装「ちなみにどんな子たちだったんですか?」

銀行員「ええと、二人とも高校生だと思うんですが、一人は白髪で線の細い少年でしたね。それなのに銀行強盗を一発でノックアウトしてしまうくらい強くてねー」

黄泉川「……もう一人は?」

銀行員「赤髪でおさげの女の子でしたね。見た感じ能力はテレポーターじゃないかなー?」

黄泉川「……ちなみにその子、変な懐中電灯持ってなかったじゃん?」

銀行員「あっ、そうそう持ってました持ってました!」

鉄装「……黄泉川さん、もしかしてその二人組のこと知っているんですか?」

黄泉川「えっ、ま、まあ知ってるというか何というか……」アセッ


黄泉川(あいつら一体なにやってんじゃん……!)




-通学路-


一方通行「……どォなってやがる。まさかコンビニでも売り切れてやがるなンてよォ」

結標「これはもう呪いね。さんざん自販機でスルーされたブラック以外の缶コーヒーの」

一方通行「わけのわからねェこと言ってンじゃねェ」

結標「……ふう、しかしお腹空いたわ、お昼とっくに過ぎてるし。さっきのコンビニで何か買っとけばよかったな」

一方通行「寄り道なンかせずに帰ってりゃ、今頃ソファの上で寝転ンでいただろうな」

結標「そうだ。どうせだからどこかでご飯食べていかない? このまま帰ったら二時とかになってそうだし」

一方通行「オマエなァ、さっきから漫画みてェな事件に巻き込まれてるっつゥ状況で、よくそンなことが言えンなァ」

結標「どうせ貴方が解決してくれるんでしょ? だから大丈夫よ」

一方通行「俺の手に余る事件が起きたらどォするつもりだ?」

結標「そのときは私が手伝ってあげるわよ。さっきみたいにね♪」

一方通行「チッ、お気楽なヤツだ――ッ!?」ブルッ

結標「うん? 今度はどうしたの?」

一方通行「……いや、さっきからカラダにまとわりついてた悪寒が急に消え去りやがった」

結標「ふーん、ってことはもう事件は起きないってこと? たしか悪寒がするって言ってからよね? 事件が起き始めたの」

一方通行「かもな。まあ、油断は出来ねェがな」

結標「じゃあ大丈夫でしょ。ファミレス行きましょファミレス!」

一方通行「……しょうがねェな。付き合ってやるよ」

結標「おっ、珍しく素直?」

一方通行「ファミレスのコーヒーはあンま飲む機会ねェからな。まだ飽きてねェ」

結標「はいはいそうですね飽きてないですねー」

一方通行「チッ、うっとォしィ言い方だな」

結標「じゃあ早く行きたいからテレポートで行きましょ? もちろん貴方も一緒に連れて行ってあげるわ」

一方通行「ハァ? オマエそンなのでテレポート使うンだったら最初から使えよ。そォしたらもっとスムーズに移動出来ただろォが」

結標「いやいやテレポートだって疲れるのよ? 結構演算複雑だし。貴方の能力と違ってポンポン使えるものじゃないのよ」

一方通行「制限時間ねェくせに何言ってやがンだ。それにオマエのテレポートより絶対ェ俺のベクトル操作のほうが演算複雑だぜ?」

結標「わかったわかった、そういう話はファミレスに着いたらゆっくり聞いてあげるから、ね? 早く行きましょ?」スッ

一方通行「覚えてろよオマエ」




シュン!!




―――
――





同日 同時刻

-第七学区・とあるビルの屋上-



上条「――いいぜ、テメェが何でも思い通りに出来るってなら、まずはその幻想をぶち殺す!」



バキン!!



魔術師「あべし!?」バタリ


上条「……ふう、やっと終わったか」

土御門「お疲れカミやーん!」

上条「これでよかったのか土御門?」

土御門「上出来上出来。これで術式は解除された。安心して日常生活を送ることが出来るぜい」

上条「ところで、こいつの行ってたすげえ魔術って、一体どんなヤツなんだ? 急にここに連れてこられたから聞いてなかったけど」

土御門「ああ、これは最近日本の魔術師によって作られた魔術でな。『またこの展開かよ前も同じの見たぞ?(テンプレストーリーズ)』っていう名前の魔術だ」

上条「……は? 何だって?」

土御門「だから『またこの展開かよ前も同じの見たぞ?(テンプレストーリーズ)』だ。要するに、漫画とかでよくあるような展開が実世界に及んでしまうっていう魔術なんだぜい」

上条「何か今まで見た魔術の中で一番しょぼそうな感じがするな」

土御門「ところがそうでもないぜい。世界の事象を捻じ曲げるなんて天使降臨レベルのパワーがないと出来ないからにゃー。夏休み中にあった『御使堕し(エンゼルフォール)』と同レベルだな」

上条「嘘くせー設定だな」

土御門「まあ、今回は簡易的な術式で、しかも照準もズレてたみたいだから、ハッキリとは言えないけどこの学園都市にいる誰か一人が、その影響を受けてたくらいで済んでるかもしれないにゃー」

上条「おいおい大丈夫なのかよ」

土御門「今のところとくに大きな事件が起きた、みたいなニュースが流れてないから大丈夫じゃないか?」

上条「楽観的だな。いいのかよそんなんで」

土御門「へーきへーき。まあ、いざとなったらカミやんがどうにかしてくれるだろ?」

上条「俺はそんな何でもできる人間じゃないっつーの。……ってか、さっきこの術式の照準がズレてたって言ってたよな? じゃあこいつは誰を狙ってどんな目的で魔術を使ったんだ?」

土御門「話によると、最近流行りの異世界転生ものに憧れて、自分を対象に魔術を使って異世界に行くつもりだったらしいぜい」

上条「あー、たしかに今じゃありがちな設定だな。つーか、そんなこと出来るなんてすげえ魔術だな……」

土御門「だから言っただろ? 『御使堕し(エンゼルフォール)』クラスだって」

上条「ああ、そりゃ納得だな」




土御門「ま、とにかく助かったぜい。こいつの魔術を解除するには、魔術のプロフェッショナルが最低あと二人は必要だったからにゃー」

上条「しかし最近魔術師多くなってきたな。この前も学園都市の人間を全て雛人形にしてしまうとかいう魔術を使おうとするヤツとかいたし」

土御門「おう。実はカミやんが知らないところでも、結構魔術師がこの学園都市に侵入してるんだぜい」

上条「へー、まじかよ」

土御門「マジだぜい。例えばこの前のバレンタインの前日なんか、世界中のバレンタインを中止させる大型術式を使おうとするヤツなんかもいた。その時はたまたま一緒にいた魔術師と対応したが」

上条「何じゃそのくだらねえ魔術」

土御門「そいつも結構デカイ魔術だぜい。なんたって世界の行事を根本的に破壊する術式だからにゃー。仮に成功させられてたらどうなっていたか……」

上条「世界からバレンタインが消え去っちまってた……ってことか?」

土御門「そうそう。ま、こんな感じに魔術師が増えてきてて、オレだけで対応できるやつは対応してるけど、今回やひな祭りのやつみたいな強力な術式になると、どうもカミやん便りになってしまうんだにゃー」

上条「何で急に学園都市に攻め込んでくる魔術師が増え始めたんだ?」

土御門「さあな。だが何か大きな事件が起きる、その前触れじゃないかとオレは見ている」

上条「ふーん、大きな事件……」

土御門「そんなわけで現状オレ一人じゃなかなか厳しい状況ってわけだ。だからと言って、いつまでもカミやんに頼ってばかりじゃ悪いとも思っている」

上条「別に気にすんなよ。俺に出来ることがあるなら何でも言ってくれ」

土御門「サンキューカミやん。でもそうはいかない。だから、そんな状況を打破する対策を取ることにしたんだ。いたって単純な対策だけどにゃー」

上条「何だよそれ?」

土御門「ま、それはこれからのお楽しみってわけで……さて、腹も減ったし一緒に飯でも行こうぜい。もちろんカミやんのおごりでな」

上条「は? ふざけんな何で俺が……?」

土御門「さっき何でも言ってくれって言ったじゃないか。オレ今月ちょっと厳しいんだにゃー」

上条「俺だって厳しいんだよ! テメェに食い物おごれるほどの余裕なんてひとかけらもねえよ!」

土御門「えー? バイトしているんだろカミやーん?」

上条「そのうえで厳しいっつってんだよ、知ってて言ってるだろお前?」

土御門「オレラーメン食べたい!」

上条「おごらねえぞ? 絶対おごらねえからな?」

土御門「それは『押すなよ? 絶対に押すなよ?』的なやつかにゃー?」

上条「違うわ!!」


――――――


今更やけど1スレ目から見直そうって人いたらまとめサイトとかで見たほうが良いよ痛々しいレスしまくってるから
まあそもそもこのレスを見てるやつすらいるんか怪しいがね

次回『天草式』

ゲームで忙しいンゴ

投下



6.天草式


March Second Friday 15:00

-第七学区・とあるビルの屋上-


??1「……よし、ここまでは手筈通りなのよな」

??2「はい。魔術的な妨害と科学的な妨害、どちらも確認出来ません」

??1「じゃあ、あとは時間通りに目的地へたどり着くだけだ。この調子なら問題なく任務完了できそうなのよな」

??2「しかし油断は禁物です。ここは学園都市、言わば私たち魔術サイドから見れば天敵の本拠地。何があるかなんて私たちでは予想しきれませんよ」

??1「真面目だなー。大体そんなこと心配する必要、もうないと思うのよな」

??2「なぜですか?」

??1「そんなことが起きるっていうのなら、俺たちがここに侵入した時点で起きているとは思わないか?」

??2「……言われてみればそうですが」

??1「ということは、俺たちは歓迎されている、そうとも思わないか?」

??2「いや、その理屈はおかしいです」

??1「そうか、おかしかったか。ま、つまり何が言いたいのかというと、あんまり気を張りすぎているとすぐに参ってしまうぞ、ってことよな」

??2「ですが、油断をしていて隙だらけのところをグサリッ、なんてこと私は嫌ですよ?」

??1「誰も油断をしろとは言ってない。ほどほどに頑張ってろって言っているのよ」

??2「……はい。わかりました」

??1「それでいい。さて、それじゃあ再確認だ。一応、これは非公式で隠密な任務だ。現地人と接触するなとは言わないが、いざこざや騒ぎは絶対に起こさないこと」

??2「了解です」

??1「……ではそろそろ出発といくよな。時間に遅れてしまっていけないからな」

??2「はい」



ダッ!



―――
――





同日 16:00

-とある高校・校門付近-


一方通行「さて、やっと学校が終わりやがった。さっさと帰って昼寝だな」

一方通行「……いや、まずコーヒーを一杯飲ンでからの昼寝だな」


上条「――おーい、一方通行ぁ!」タッタッタ


一方通行「あン?」

上条「あれ? 結標のヤツがいないな。どうしたんだ?」

一方通行「ヤツは吹寄や姫神と帰った。おかげで悠々自適と帰れるわけだ」

上条「ふーん」

一方通行「ところで俺に何か用か? わざわざアホみてェな大声上げながらこっちに来やがったンだ。それなりに重要な用に思えるが」

上条「えっ、そんなアホみたいに声出してたか?」

一方通行「そンな部分に食い付いてンじゃねェ。先に用を言え。それにオマエはアホみたいじゃなくアホだから問題ねェ」

上条「ひでえ言われようだな、まあいいや。一方通行、ちょっと買い物に付き合ってくんない?」

一方通行「買い物だァ? またおひとり様限定の特売か何かか?」

上条「そうそう。今日は何と豚ロースがタイムセールでお得なんだ! 何と300gで五円だぞ!? これはもう行くしかねえよな!」

一方通行「それ本当に豚肉なのか? クズどもの人肉でも売ってンじゃねェのか?」

上条「怖えこと言ってんじゃねえよ! あそこは信頼できる安心安全のスーパーなんですう!」

一方通行「知るか。どォでもイイわそンなモン」

上条「まあ、そういうことなんで買い物付き合ってくんね? 上条さんちの食卓の笑顔と財政の為にも」

一方通行「……はァ、まァどォせ暇だから構わねェが」

上条「さっすが一方通行様! ありがてえ!」

一方通行「ところで何か見返りがあンだろうな?」

上条「見返り……?」

一方通行「当たり前だろ。前回は家に上げてもらった上に、泊めてもらったっつー恩があったが今回は何もねェ。ただただ俺の帰宅時間を遅らせるだけのクソ作業っつーことになるわけだ」

上条「……つまり手伝う代わりに何かしろと?」

一方通行「当然だ」

上条「…………」

一方通行「…………」




上条「……よし! だったら上条さんが肩たたきをしてやろう! 10分間! しっかり!」

一方通行「小学生からの親へのプレゼントかよ。いらねェよそンなモン、別のにしろ」

上条「じゃああれだ! 上条さんの超絶美術センスでお前の似顔絵を描いてやる!」

一方通行「だから小学生からの親へのプレゼントかっつってンだ! いらねェンだよそンなモン!」

上条「ええっと、じゃあ、じゃああれだ」アセアセ

一方通行「……はァ、面倒臭せェヤツだ。だったらアレだ、缶コーヒー一本奢れ。それで許してやる」

上条「なっ、缶コーヒー一本……だと?」

一方通行「ああ」

上条「おいおい缶コーヒーってあれだぞ。スーパーでも七十円くらいすんだぞ? キツイって」

一方通行「あァ? オマエ七十五円で豚肉が買えンだぞ? 安い買い物だろォよ……まァ、豚肉の相場知らねェから適当な発言だが」

上条「うーん、そうか。たしかにそう考えたら安いなー、って思ったけどそれって実質ただ働きじゃね? お前なら缶コーヒー一本買うくらい屁でもないだろし」

一方通行「……チッ、人がせっかく気ィ使ってやってるっつーのに水差しやがって。何でそォいうところだけ鈍感じゃねェンだオマエ?」

上条「鈍感? 俺が? 何で?」

一方通行「……はァ、だったら合理的な理由を一つ作ってやる。あれだ、よく言うだろ。他人の金で食うメシはうめェ、ってな。つまりそォいうことだ」

上条「よくわからんけど、お前がそれでいいんならそれで」

一方通行「……チッ、我ながら思うな。俺らしくねェことしてるってな」ボソッ

上条「ん? 何か言ったか?」

一方通行「死ねクソ野郎っつったンだよ」

上条「なんで!?」

一方通行「さァな」

上条「うーん、しかしおしいなあ」

一方通行「何の話だ?」

上条「ああ、もし結標が居たら三人分ゲットできたのになー、って思ってな」

一方通行「そォか。まァその場合は俺がその場に居ねェだろうから、結局二人分になるけどな」

上条「逃げる気まんまんかよ!」

一方通行「当たり前だ。誰があンな面倒臭せェ女とスーパーで買い物なンざするか」

上条「ひでえ言われようだな結標」


??1「……おっ、来たよな。おーい、上条当麻!」

??2「!!」ピクン


上条「えっ、た、建宮!? それに五和、だったっけ?」

建宮「久しぶりだな。イタリアの時以来よな」

五和「ご、ご無沙汰しております」ペコリ


一方通行(……何だこのクワガタ頭と地味女。一体何者だ……?)




上条「あっ、紹介するよ。こっちの大男が建宮斎字。女の子のほうが五和だ」

建宮「君は上条当麻のお友達かな? 建宮だ。よろしく!」

五和「五和です。宜しくお願いいたします」

一方通行「……一方通行だ」

五和「あくせ……られーたさん?」

建宮「外国の方か? どこの国なのよ?」

一方通行「何で馬鹿どもは揃いも揃って同じリアクションしやがンだ?」

上条「いや、しょうがねえだろ。その通り名を名乗っている限りずっと同じようなことになるぞ」

建宮「通り名? あー、なるほどニックネームってことか。うんうんかっこいいニックネームよなアクセラレータって」

一方通行「馬鹿にしてンのか? このクワガタ野郎が」ギロッ

上条「落ち着けよ一方通行。そんな安い挑発、というかおちょくられただけで青筋立てるなっつうの」

五和「きょうこう……建宮さんもですよ。初対面の方にそんなちょっかいかけるのやめてください」

建宮「ちょっかいなんてとんでもない。ただ仲良くなろうとフレンドリーに接しているだけよな」

一方通行(……コイツ、土御門や青髪ピアスと同系統のヤツか。面倒臭せェ)

上条「ところで二人とも、何で学園都市に?」

建宮「ちょっと用があってな」

上条「用? お前らの言う用って言うと、何か嫌な予感しかしないんだけど……」

建宮「ああ、大丈夫なのよ。今回は事件があったから来た、ってわけじゃないからな。安心してくれて構わないのよな」

上条「そんなことを言われると、逆に安心できないのはなんでだろうな」

建宮「そりゃあれだけ事件に巻き込まれてたらそうもなるだろうよ」

上条「……てか用事はまだ終わってないんだろ? 俺となんかと喋ってていいのかよ?」

建宮「ああ。実は用事って言ってももう終わったようなもんなのよな。なあ五和?」

五和「は、はい。問題ないです」

建宮「だから時間が少し余ってな、どうせ学園都市に来たんだから、それならってことでお前に会いに来たってわけなのよ」

上条「へー、そうなのか」

建宮「ま、こっちが本命とか思っているヤツもいるのよな」

五和「ちょ、建宮さん!」

上条「?」




建宮「ま、これでひと目お前に会えたんだから、あとは適当に観光でもして帰るとするよな」

上条「……ほう。つまり、お前らは今『暇』ってことだよな?」

建宮「特にすることがない、ってことが暇になるのならそうなのよな。何か他に用事あったっけ?」

五和「いえ。あとは学園都市から離脱するだけですが……」

上条「だったらさ、お前ら買い物に付き合ってくんない?」

五和「買い物、ですか?」

建宮「そりゃ別にいいけど何でなのよ? そんな人数が必要なくらい持ちきれない量の買い物をするのか?」

上条「違うんだ。実はスーパーで豚肉のタイムセールがあってな。何とお一人様限定で300g五円! それが欲しいんだ! たくさん!」

五和「……それ本当に豚肉なんでしょうか? いくら何でも安すぎるような気が……」

建宮「そんなもんにすがらなきゃいけないほどの財政状態なのか……?」

上条「…………まあな」ズーン

建宮「……あー、わかった手伝おう。学園都市のスーパーを観光するのも悪くないのよな」

上条「えっ、いいのか?」パァ

建宮「あ、ああ。別に行きたい所なんてないからな。なあ五和?」

五和「そうですね。私たちに手伝えることがあるのなら、是非」

上条「ありがてぇ……ありがてぇ……」


一方通行「……で、イイ加減話ィまとまったかァ?」


上条「うわっ、びっくりした! 急に喋りかけてくんなよ、つーかどうした? ずっと黙ってるなんて」

一方通行「悪りィが知らねェ人間、ましてや外部の人間を混じえて会話出来るよォな出来た人間じゃねェンだ俺ァ」

上条「別に気にしなくてもいいのに」

建宮「そうそう、気にしなくてもいいのよな」

五和「いや、私たちの立場的には気にしていただけるほうが助かると思うんですが……」

建宮「五和ぁ! お前ひどいやつなのよな」

五和「えっ、何で!?」

建宮「人見知りで輪の中になかなか入れなさそうな少年に救いの手を差し出す、それが俺たちのすべきことではないのか!」

五和「!」

一方通行「オイオイ何ですかこれはァ? 何で出会って五分も経ってねェよォな初対面のヤツに、いきなり人見知り判定されてやがンだァ?」

五和「……わかりました」

一方通行「あン?」




五和「一方通行さん! さあこちらに来て一緒に談笑しましょう! 大丈夫です、心の殻は一人で破るものではありません、みんなで一緒に少しずつ割っていくものですから!」


一方通行「だから何で出会って五分のヤツにそンな励ましの言葉なンて泣けるセリフ吐かれなきゃいけねェンだ!」

上条「はっはっはっはっ!」

一方通行「何一人で大爆笑してンだこの三下はァ!?」

上条「えー? だってさ、さっきまで会話なんてできねえなんて言ってたくせに、普通に会話してんだもん。そりゃ笑うって」

一方通行「どこをどォ聞けば普通の会話に聞こえンだよ。耳が腐ってンのかオマエ」

建宮「……そういえば上条よお。さっき言ってたタイムセールってのは何時開始なんだ?」

上条「四時半だけど……ってやばい! こんなことしてる場合じゃねえ! 早く行っていいポジションを取らねば!」

五和「ポジション? 買い物に行くんですよね?」

上条「あれは買い物という名の戦いなんだ。五和も気を引き締めていったほうがいいぜ」

五和「わ、わかりました。頑張ります!」

一方通行「……つゥか上条よォ」

上条「何だよ?」

一方通行「この豚肉購入メンバーは今、ここにいる愉快でクソな二人組が増えたわけだろ?」

上条「クソではないと思うがまあそうだな」

一方通行「だったら俺、もォいらなくね?」

上条「何を言っているんだ一方通行ぁ! お前がいるだけで手に入る豚肉は1200g! 1kgを超える大台に乗ることが出来るんだぞ! その意味、わかるな!?」

一方通行「知るか」

上条「よおし、今日は豚肉を手に入れてぇ、しゃぶしゃぶパーティーだぁ!」

五和「しゃぶしゃぶですか……この時期でしたら菜の花とか春キャベツを入れるとおいしそうですね」

一方通行「オマエせっかく手に入れた大量の肉を一晩で消費するつもりかよ」

建宮「まあ上条さんちにはあのシスターさんがいるのよな」

一方通行「どのみち消える肉なら、豪華に消費してやろうって魂胆か……そンなだからすぐ財政が窮地に陥るンじゃねェのか」

上条「……うるせえな。いいからさっさと行きますよ。いざ行かん戦場へ!」

建宮「おーう!」

五和「お、おー!」

一方通行「何だこのノリ。ついていけねェ」


―――
――





同日 16:30

-第七学区・とあるスーパー-


モブA「うおりゃあっ!! 邪魔をするなあっ!! 肉ぅうううう!!」

モブB「邪魔なのはあんたよ! うるさいしっ!!」

モブC「うるせえんだよ貴様らがあああっ!! ひゃっはああああっ!!」



ガシャーンガヤガヤガヤドパァン!!



上条「……くそっ、出遅れた!」

建宮「おーおー、こりゃすげえのよな」

五和「はい。言われた通り、本当に戦場のような迫力ですね」

上条「そうだ。蹴る殴るはもちろん、能力者による能力攻撃は当たり前。しかも店員でさえ、店に危害がなければいいよ、とさじを投げている。まさしくここは戦場だ」

上条「こんな戦場で豚肉を手に入れるなんて至難の――」


建宮「ほら、取ってきたのよ」つ豚肉

五和「同じくです」つ豚肉


上条「って早っ!? えっ、何が起こったの!? 俺が解説している最中に!?」

建宮「ま、戦場と言っても有象無象が勝手に暴れてるだけの、所詮はお遊びの場なのよな」

五和「人と人の間を気付かれないようにすり抜けて行けば、簡単に突破することができますよ」

上条「へーなるほどー。つまりこっそり近付いて、間をそーと抜けて、パパっと取れば楽勝っつーわけか」

建宮「そういうことなのよな。我らが天草式十字凄教にかかればこんなミッション、屁の河童なわけなのよ」

五和「ちょ、ちょっと建宮さん! ここでその名前は……!」

建宮「おっ、悪い悪い、つい口が滑ってしまったのよな」

五和「気をつけてください!」

上条「よーし、俺も同じようにしてゲットするぜ。まさしく忍のように……!」

五和「頑張ってください!」

建宮「骨は拾ってやるのよな」

上条「失敗する前提かよ! ……よし、行くぜ」ソー


モブD「おっ、何コソコソしてやがるウニ野郎!」

モブE「小僧! 俺と遊んでいこうぜ!?」ボキパキ


上条「oh……」



ドガッ、バキッ、メリッ、ガァン!!



上条「」ピクピク

五和「だ、大丈夫ですか!?」

建宮「ま、何の心得のないうえものすごーく不幸な上条当麻が俺たちと同じように出来るわけないのよな」




一方通行「……おォおォ相変わらず馬鹿みてェにハシャイでンなァ、ここにいる連中は」ガチャリガチャリ


建宮「おっ、やっと来たか。随分と遅かったのよな」

一方通行「見ての通りの杖突だからな。当然だ」

建宮「おっと、そいつは失礼」

一方通行「で、今どォいう状況だ?」

五和「はい。私と建宮さんは目的のものは入手出来ました。しかし、上条さんは……」

上条「……我が人生に一片の悔いなし」

一方通行「いや悔いれよ。安物の豚肉欲しさに終える人生だぞ」

建宮「そういうわけで、あと必要な数は二つってわけなのよな」

五和「どうしましょうか? また私たちで取りに行きます?」

一方通行「いやイイ。俺が行く」ガチャリガチャリ

五和「えっ、そ、そんな無茶です! そんな身体であの中に割って入って豚肉を取ろうなんて!」

建宮「そうなのよな。ここは俺たちに任せて先に行くのよな」

五和「こんな状況でボケないでください建宮さん! てか、先ってどこに行けばいいんですか!」

建宮「いやーつい」

一方通行「まァ俺のことが心配だっつゥ考えを持ってンなら今すぐそれを捨てろ。この程度の状況、一つも問題ねェ」ガチャリガチャリ

五和「で、でも……」

一方通行「それにもォ一度、俺直々が再教育してやらねェといけねェからな」

五和「再教育? 一体どういう……?」

一方通行「せっかく俺が安心安全かつ友好的な買い物のやり方を教育してやったっつゥのによォ、たった一カ月でその恩を忘れて暴れまわってるなンて涙が出る話じゃねェか」カチッ

五和「……言っている意味がちょっと――ッ!?」ゾクッ

建宮「ッ!? コイツッ!?」ゾクッ



モブA「邪魔だ邪魔だ――うおっ!?」ゾクッ

モブB「これは私の肉よ――ひぃっ!?」ゾクッ

モブC「全部ぅ!! 破壊してや――あがっ!?」ゾク




一方通行「あはっぎゃはっ! 相変わらず面白れェことやってンじゃねェかオマエらァ!」









モブD「あ、あの白い髪に赤い目、何かよくわからん機械の杖……間違いない、ヤツだ……!」ガタガタ

モブE「バレンタイン前日に颯爽と現れて、圧倒的なチカラでこの場を支配した化け物……!」ブルブル

モブA「や、ヤツは『バレンタインイブの白い悪魔』……! う、うわあああっ!?」ガタッ

モブB「う、嘘よ……あれは夢だったと思ってたのに……」ガクブル

モブC「うわああああああママあああああああああ!!」ドンドンッ





一方通行「さァて、補習の時間だァ。安心しろォ、1分間で分かるよォに丁寧に教育してやっからよォ」ニヤァ





~1分後~



モブA「はい順番でーす! 順番を守ってお肉をお取りくださーい!

モブB「やっぱり買い物は平和じゃないとね。こんなすがすがしい気持ち久しぶりだわ……」

モブC「やっぱり平和が一番だよなぁ……」



一方通行「……終わったぞ」つ豚肉×2

上条「お、おう。また何か恐ろしいことやったのか……」

一方通行「至って普通のことを言っただけだ。静かに皆様のご迷惑のかからないように買い物しましょう、っつゥ当たり前のことをなァ」

建宮「これはお見事なのよな。あれだけの連中を凄みと口だけで鎮圧するなんて、そう易々とできることじゃないのよな」

五和「…………」

一方通行「さて、用は済ンだンだ。さっさと帰る……いや、ちょっと帰り道に飲む用のコーヒーでも買って来る」ガチャリガチャリ

上条「お、おう」

五和「……あの、上条さん」

上条「何だ?」

五和「あの人、一体何者なんですか? 一般人があんな肌に突き刺さるような殺意、普通は出せませんよ?」

上条「あはは、まああれだ。只者じゃないって思ってくれれば大丈夫だ」

建宮「見た目からすでに只者じゃないのよな」

上条「いや、それはお前が言うなよ」

五和「……ふふっ」

建宮「あっ、何笑っている五和! お前だってたまにアレな恰好しているときあるのよな!」

五和「なっ、いや、あれたまたまあのときに最適な服の組み合わせがあれだっただけだからしょうがなくで、いつもあんなわけでは……!」

上条「アレな恰好ってどんなだよ?」

建宮「ああ、上半身の裸の上にブラウス一枚で――」

五和「ちょ、やめっ、ストップ!! ストップ教皇代理いいぃぃっ!!」


―――
――





同日 17:00

-第七学区・とある公園-


上条「ほい、自販機で買ってきた飲み物だ。今回のお礼……になるかわからないけどな」スッ

建宮「おっ、ありがたくいただくのよな」

五和「ありがとうございます!」

一方通行「わざわざ自販機の高い飲み物買ってくれるなンて、優しさあふれるお礼だよなァ」

上条「ぐっ、つーかお前絶対のその缶コーヒーいらねーだろ! 何だそのレジ袋に入った大量の缶コーヒーはッ!?」

一方通行「あン? いるとかいらねェじゃねェンだよ。対価を得るにはそれ相応の対価っつゥモンが必ず存在する。ただで肉が手に入ると思うなよ」

上条「ぐぬぬぬ……くそー、スーパーでお礼の飲み物買い忘れるなんて……不幸だ」

一方通行「それはただの不注意だ」

上条「くっ、……そういや二人はいつまで学園都市にいるつもりなんだ?」

五和「時間もいいくらいですし、そろそろ離脱しようかと」

建宮「用事はもうないからな」

上条「……ところでお前らの用事って結局何だったんだ?」

建宮「うーん、まあもちろん秘密、禁足事項ってやつなのよな」

五和「すみません、私たちから話すことは出来ないことなんです」

上条「いや、別に謝ることはねえよ。ただ気になったから聞いた世間話みたいなものだし」

一方通行「……よくわからねェが、それは部外者である俺がこの場にいるから喋れねェのか?」

五和「いえ、……いや、それもたしかにあるんですが、もともとこれはまだお話することができない情報なので」

上条「一体何が起きるってんだ……? この学園都市に……!」

建宮「そんな身構える必要はないのよな。それを防ぐための任務ってわけだ」

上条「よくわかんねーけどあんま無茶はすんなよ? 何かあったら神裂が悲しむぞ」

建宮「へっ、それはお前もな、って言って欲しいのか?」

上条「何で俺? まあいいや、悪いけどちょっとトイレ行ってくるから、俺の荷物見ててくれないか?」

五和「わかりました。いってらっしゃい」

建宮「ほいほーい、それじゃあ荷物は命をかけて守るのよな」

上条「そんなもんに命かけんなよ。じゃ、行ってくるよ」タッタッタ


五和「…………」

建宮「…………」

一方通行「……オイ、上条がいねェ間にオマエらに聞きたいことがあンだが?」

建宮「何なのよ、そんな改まって」

一方通行「オマエら一体何者だ?」




五和「……それはどういう質問なのでしょうか?」

一方通行「別に他意はねェ。そのまンまの意味だよ」

建宮「学園都市の外から来た正義のエージェント! なんて答えても、許してはくれなさそうなのよな」

一方通行「ソイツは今まで聞いた会話の内容からして何となく察しはついている。正義かどォかは知らねェがな」

五和「それ以上、何を答えればいいのでしょうか?」

一方通行「俺が聞きてェのはそンなどォでもイイことじゃねェ。俺が聞きてェのはオマエら自身のことだ」

建宮「そいつはどういう意味だ? 俺たちの個人情報でも聞きたいか? 五和のスリーサイズとかか?」

五和「えっ、何でそんなもの知っているんですか建宮さん!? いつ!? いつその情報を入手したんですか!?」ググッ

建宮「いやー冗談冗談建宮さんは何にも知らないのよな。だから首を絞めるのはやめてくれ……」

五和「だったらそんな笑えない冗談やめてください!」


一方通行「……この学園都市には超能力っていうチカラがある」


建宮「おっ?」


一方通行「薬品投与や頭に電極ぶっ刺して電気を流したりして、その末に得られる能力だ。まァ全員が全員満足にチカラを手に入れられるわけじゃねェがな」

一方通行「俺はそォいう能力者と何もやってない一般人。そいつらの感じ? 雰囲気? 何かそォいうので何となくわかる」

一方通行「あくまで何となくだから、そういう専門の能力者や機械、そういうモンに比べりゃ正解率は低いが、俺ン中ではそれなりに信用できる感覚だと思っている」

一方通行「その感覚がよォ、教えてくれてンだよ。オマエらが超能力者でもただの一般人でもない、何か別の存在だってことをよ」


五和「ッ」

建宮「ほう。その当てもない感覚で俺らをそういう別の存在だと決めつけてるというのか?」

一方通行「ああ」

建宮「……でもそれってあれよな? ここで俺らは別に普通の一般人です、って答えればどうなるんだ?」

一方通行「別にどォもならねェよ。ただそォですか、としか俺は言わねェ。深堀をするつもりも毛頭ねェ」

建宮「じゃ、そういうことで」

一方通行「うっとォしいヤツだな」

建宮「出会って一時間ちょっとで、そんなこと聞いてくるヤツよりはうっとおしくはないと思うのよな」

一方通行「チッ」

五和「……あの」

一方通行「何だ?」

五和「その感覚ってやつはどういうのなんですか? どういう感覚があなたの中で引っかかったんですか?」

一方通行「……答えづらい質問だな。あくまで感覚だから言葉にしづらいが……そォだな。例えるならオマエらは一般人過ぎる、っつゥ感覚だな」

五和「一般人過ぎる……? それって一般人ってことじゃないですか?」


一方通行「ああそォだ。だが一般人っつってもなァ、そいつらは一人一人違う考えを持ち、違うことをやっているから、千差万別の色がある。無理やりの言葉だが赤いヤツや青いヤツみたいな感じだな」

一方通行「だが、オマエらから感じるのは無色透明な一般人、まるで作られた一般人像を演じている、そォいう風に感じた」

一方通行「だから、オマエらはただ一般人を演じるための何かをやって、今ここに立っている、っつーように考えて、質問したっつゥわけだ」


五和「…………」

一方通行「ま、そりゃそンな顔するだろォよ。わかるよォに説明してるつもり皆無だからな」

建宮(……ほう、そんなことまでわかるのか。さすがは上条当麻の知り合いなだけあるのよな)




~10分後~


一方通行「……そォいや上条のヤツ遅せェな」

建宮「たしかにそうだな。ウンコか?」

五和「……下品ですよ建宮さん」ジトッ

建宮「えっ、ウンコって下品なのか一方通行少年?」

一方通行「知るか」

建宮「冷たいのよな。……あっ、もしかしたらアレかもしれんのよな」

五和「アレ、とは?」

建宮「五和の隠れたエロスに気付いてそれを慰めよ――」



ドゴッ!!



五和「だから下品ですっ!! というかセクハラですよ!!」

建宮「ぐ、ぐおっ……は、鼻が……」ズキンズキン

一方通行「アホくさ」


~さらに10分後~


一方通行「……まだ帰ってこねェのか。本当に遅せェな」

建宮「あっ、これはアレだろアレ!」

五和「……また下品なネタですか?」ジトッ

建宮「違う違う。これは真面目な話だ」

一方通行「何だ? 言ってみろ」

建宮「上条当麻は不幸だろ? たぶんあいつあれだ、トイレで大をしてて紙がないことに気付いて、動けなくなっているのかもしれないのよな」

一方通行「……たしかにそれはありえるな」

建宮「だろ?」

五和「……でも、その場合救援要請をしてくるのではないでしょうか? 携帯電話とか持っているのですよね?」

一方通行「ちなみに携帯だが、上条の置いて行った鞄の中に入っているな」

建宮「二重の不幸だったってわけなのよな」

一方通行「そォと決まったら公園のトイレに向かうぞ。たしか外れのほうに一軒あったはずだ」ガチャリガチャリ

建宮「待ってろー上条当麻! 俺たちが神の救いの加護を与えに行くのよなー、紙だけに」

五和「……神を馬鹿にしてないですか教皇代理」

建宮「いやいや冗談なのよな。みんなを笑わせるためのゴッドジョークなのよな」

一方通行「つまんねェダジャレにカミサマを巻き込ンじゃねェよ」


―――
――




-第七学区・とある公園外れのトイレ-


建宮「おーい、上条当麻ー! 助けに来たぞー!」


シーン


建宮「……あら? 返事がないのよな」

一方通行「つゥか、誰もトイレを使ってねェな。……ン? 何だこりゃ? やけに床が濡れンなァ」

建宮「うーむ、これは外したか? ほかに近くでトイレとかあるか?」

一方通行「コンビニとか行きゃあるだろォが、わざわざここを差し置いて行こうなンて思う距離にはねェ」

建宮「それにコンビニだったら、紙がなくても店員さんが気付いてくれるのよな」


五和「……念のために女子トイレも見てみましたが、誰もいませんでした」

建宮「五和。もし女子トイレにいたらどうしてたのよ?」

五和「ええっと、とりあえず謝ってここを後にします」

一方通行「そこは普通に通報しとけよ」


建宮「てか、トイレにいないとしたら一体どこに行ったんだ?」

一方通行「さァな。アレじゃねェか、誘拐とかでもされたンじゃねェのか」

五和「そ、それは本当ですか!?」

一方通行「真面目かオマエ。冗談に決まってンだろ」

建宮「まあでもあながち間違いじゃないかもな」

一方通行「どォいうことだ?」

建宮「アレよ。上条当麻が大好きなゲイストーカー的なヤツが一人のときを見計らって……みたいな?」

一方通行「そンなレアケースあるわけねェだろ。まだあの右手を研究したい研究者が、みたいな方がまだ現実味がある」

建宮「ははははっ、たしかにそうなのよな。まあそんなことあるわけ――」




五和「たっ、大変です!! 今すぐ助けに行かないと!!」クワッ






建宮「……あのー、五和さん?」


五和「私は東の方面を探します! 建宮さんは北、一方通行さんは西の方を頼みます! 何かあればすぐに連絡をします! ではっ」ダッ


一方通行「……何だアイツ。あンな冗談を真に受けて……もしかして馬鹿か?」

建宮「あー、あれだ。恋は盲目、みたいな。ぶっちゃけると五和は上条当麻のことが好きなのよな」

一方通行「そォか。どこに上条が行ったかどうかの手がかりもないくせに、よくも分からず路地裏の方へ走っていくという馬鹿みたいな行為は、その恋のせいだと?」

建宮「しょうゆうこと」

一方通行「相変わらず手広いこったあの三下は」


上条「――おーいっ! みんなー!」タッタッタ


一方通行「あァ?」

上条「わりーわりー。遅くなっちまった」

建宮「うん? お前トイレに行ってたんだよな? 随分と時間がかかったのよな?」

上条「あー、ちょっと不幸があってな」

一方通行「不幸だ? やっぱ紙でも切れてたのか?」


上条「いやー、最初にここのトイレ来たら清掃中になっててさあ。次に近くのコンビニのトイレ行ってみたら行列が出来ててな。それを何回繰り返してたら遅くなっちまった」


建宮「そいつは災難だったのよな」

一方通行「……どォりでトイレの床がびしょ濡れになっていたわけだ」

上条「いやー、危なかったぜ。危うくこの歳になってウンコ漏らすところだったよ」

建宮「ほら、やっぱりウンコって普通に使うのよ。全然下品じゃないのよな」

一方通行「そりゃ野郎だけの会話に下品もクソもねェからな」

上条「? そういや五和がいないじゃん。どこ行ったんだ?」


一方・建宮「「あ……」」



―――
――





同日 同時刻

-第七学区・路地裏-



タッタッタ



五和「くっ、まさか私たちがいながらあの人に危害を及ばせてしまうなんて」

五和「しかし、逆に私たちがいてよかった。必ず助け出してみせます、上条さん!」



ドン!



五和「ッ!? すみません! 大丈夫ですか!?」


スキルアウトA「痛ってえ!? 何だあ!?」

スキルアウトB「ん? 何だこの娘、結構かわいいじゃん」

スキルアウトC「ねえねえお姉ちゃんお暇? ちょっとお兄さんたちと遊ばない?」


五和「ごめんなさい、私ちょっと急いでて」

スキルアウトA「は? 人にぶつかっといてそれはないじゃん」

スキルアウトB「そーそー。こういうのは誠意を持った謝罪じゃないとねー」

スキルアウトC「誠意を持った謝罪と言ったらもう、あれしかないよねー」クイクイ


五和(くっ、この人たちが俗に言うスキルアウトというヤツらでしょうか? やっかいな連中と関わってしまいました……)


五和「本当に申し訳ございませんでした。申し訳ないのですが、私は本当に急いでて、急がないと私……」

スキルアウトB「そんなこと言ってー、本当はそんなに急いでないんでしょー?」

スキルアウトC「ちょっとだけ遊ぼうよー、そんな時間取らせないからさー」

スキルアウトA「つーかよお、人にぶつかっといてごめんなさいで済むわけねーだろうが! あいたたたぶつかったところが急に痛み出したー」

スキルアウトC「そいつはまずいなぁ。これはもう責任を取ってもらうしかなさそうですなぁ」ニヤニヤ


五和(ど、どうする私? 今なら誰も見ていない。ならば、一瞬で制圧すれば……いや、もし誰かに見られていたら)


建宮『騒ぎやいざこざは起こさないこと』


五和(だ、だったら逃げる……駄目だ、この人たち場慣れしてる。いつの間にか退路が断たれている……くっ、どうすれば)


スキルアウトA「おいおいどーしたぁ? 急に黙り込んでさあ!」

スキルアウトB「それってあれじゃん? つまりオッケーってことでしょ?」

スキルアウトC「そうかそうか。ならさっそく」ワキワキ


五和(……やるしか、ないのか……!?)キッ



??「――何だあ? この渋滞は?」





五和(ッ!? だ、誰ッ……!?」


スキルアウトA「あん? 何だこのチビ?」

スキルアウトB「もしかして、俺たちと一緒に遊びたくなっちゃったかなー? おチビちゃん?」

スキルアウトC「いやいやすまねえなあ。テメェじゃまだ早すぎると思うぜチビ助」


??「……おいおい、何勘違いしてくれちゃってんだテメェら? 私は何でこんな人気のないはずの路地裏で、人が通れないような渋滞が起きてるんだって聞いてんだ」ピキピキ


スキルアウトA「ああんっ!? なに調子に乗ってんだクソチビィ!? ガキは手を出されねーと思って調子に乗ってんじゃねえぞ!!」

スキルアウトB「わるいねーチビちゃん。俺たちもあまり優しくないんだよねー」

スキルアウトC「つーわけだ。チビガキは少女漫画でも読んで発情してなぁっ!」


??「…………あン?」ピキピキ


五和(殺気ッ!? でもこの殺気って……ッ!?)



黒夜「チビチビうるせェンだよクソ野郎どもがァ!! 私には黒夜海鳥っつゥ名前があンだよ、あァン!?」ゴパァ





ドガガガガガガガガン!!





スキルアウト達「」プスプス


五和「…………」

黒夜「あっ、そこのおねーさん大丈夫? 何もされなかった?」

五和「は、はい。ありがとうございました」

黒夜「駄目だよー? こんな薄暗い路地裏に女の子が一人で通ったら。今みたいなクソ野郎どもが涎垂らしながら群れてきちゃうよ」

五和「す、すみません。気を付けます」

黒夜「ほんと危なかったねー。私が来なかったら今頃おねーさん、トラウマ確定の4Pが繰り広げられてたかもねえ。三穴責めも余裕だねー」

五和(……な、何なのこの子? 見た目は小学生なのに、何て下劣な発言、それに……強い……ッ)

黒夜「あ、あと一つ、お姉さんに忠告しとかなきゃいけないことがあるんだよねー」

五和「な、何でしょうか……?」

黒夜「お姉さん。外の人間でしょ?」

五和「ッ!? ……ど、どうしてそれを」

黒夜「わかっちゃうんだよねー、そういうのはニオイでさあ。まあ外部の人間ならなおさら言っとかなきゃいけないんだよね」

五和「…………」スッ



黒夜「……殺意っていうのはさあ、もっとちゃんと隠しとかないといけないよ? この学園都市ではさ」




五和「さ、殺意……ッ!? な、何のことでしょうか」

黒夜「殺意っていうのはね、ちゃんと隠さないとすーぐ出てきちゃうんだよね。ちょっとこいつ死なないかな、なんて思ったらすぐ出ちゃう」

黒夜「お姉さんさっきの三人組のこと、少しでも殺ってしまおうって思わなかった?」

五和「……い、いえ、そんなこと」

黒夜「あれー? おかしいなあー、たしかに感じたんだけどなー。お姉さんから明確な瞬殺してやろう、っていう意思がさ」

五和「…………」

黒夜「ま、いいや。じゃ、私は行くとするよ。お姉さんもこんな汚い裏通りなんて歩かずに、ちゃんとキラキラした表通りを歩きなよ」

五和「は、はい。ありがとうございます」

黒夜「あ、あともう一ついい?」

五和「……何でしょうか?」



黒夜「そのショルダーバッグの中に隠してる槍、もーちょっと上手に隠した方がいいんじゃないかなー?」



五和「なっ……!?」

黒夜「次会うときは、助ける側と助けられる側じゃなくて、殺す側と殺される側になってることを祈ってるよ、強そうなお姉さん? じゃねー」テクテク


五和「…………」ダラッ

五和(な、何なんですかあの子……? あんな小さな身体で、鋭い殺意で、全てを見通してて……)


ピピピピッ! ピピピピッ!


五和「!?」ビクッ

五和「……な、何だ教皇代理からの電話か」ピッ

五和「五和です」

建宮『おっ、五和。今すぐ戻ってこーい、上条当麻が見つかったのよな』

五和「そ、そうですか。それはよかったです。すぐに戻ります」

建宮『うん? なーんか五和、声が震えてないか?』

五和「えっ、そ、そうですか? 自分じゃわかりません」

建宮『ほほう。もしやあれだろ? 上条当麻がヤバイことになってるのを勝手に想像してガクブル震えてたな? さーすが恋する乙女なのよな』

五和「す、すみません。気を付けます」

建宮『……わかった。すぐに戻ってこい。戻り次第学園都市を出るぞ』

五和「了解です。では……」ピッ


五和「……ふう」

五和(今回のことは、建宮さんには黙っておこう)

五和(何だか嫌な予感がする。もし、これを話したら何だかとんでもないことが起こりそう……そんな予感がする)

五和(……これが学園都市)


五和「……絶対に、負けない……!」ダッ


―――
――





同日 18:00

-第七学区・とある公園-


建宮「ほいじゃ、今日はこれで帰るとするのよな」

上条「おう。肉の件ありがとな。助かったぜ」

建宮「あれくらいで礼を言ってくれるならお安いもんなのよな。まあ、インデックスと楽しいしゃぶしゃぶパーティーになるといいな」

上条「……ははっ、そうだな」

五和「…………」

一方通行「……オイ、五和っつったか」

五和「は、はい」

一方通行「オマエ、上条を探しに行ってから随分としおらしくなったじゃねェか。何かあったか?」

五和「い、いえ。特に何も……」

一方通行「そォか……」


建宮「それじゃあまた会おう!」

五和「失礼します」


上条「……行っちゃったな。嵐のように現れて、嵐のように去っていく、ってこういうことなんだろうな」

一方通行「は? 何か違うンじゃねェ?」

上条「えっ、違う?」

一方通行「俺からすれば、何事もなかったかのように現れて、何かクソみてェなモン抱え込ンで去って行ったよォに見える」

上条「? ……つまり、どういうことだ?」

一方通行「チッ、気にすンな。じゃあ俺も帰るぞ」ガチャリガチャリ

上条「おう、肉の件サンキューな。またな一方通行!」タッタッタ


一方通行「…………面倒臭せェ」


――――――


こんなところで天草式の人たち出してていうのもあれやがしばらく再登場しない、というかこのスレ内ではもう登場しません!w
というか再登場まで書くための気力保つのかよってくらい先やで

次回『ホワイトデー準備』

まだ読んでる人いたのか・・・(困惑)

投下



7.ホワイトデー準備


March Second Thursday 14:00

-黄泉川家・リビング-




テレビ『――さあて、今日も始まりました。今日もお得な情報いっぱいでお送りいたします』




一方通行「…………」ボー




テレビ『――何と、あの『脳を活性化させる一二の栄養素が入った能力上昇パン』に新作が登場!! その名は『脳を活性化させる一八の未元物質が入った能力上昇パン』です!! これで皆さんもレベル5!!』




一方通行「…………」ボー




テレビ『――最近流行りの健康法です!! その名も窒素健康法です!! 何かこれを行うと超健康になれると噂です』




一方通行「…………」ボー




テレビ『――某ラーメン屋の『大盛ラーメン一時間20キロ完食チャレンジ』とかいう無理ゲーがついにクリアされました。何とクリアしたのは中学生くらいの少女でしゅうどうふ――』




一方通行「…………」ボー




テレビ『――来週はいよいよホワイトデー。モテモテだったキミは準備は出来てるかなー? できてないキミにオススメの――』




一方通行「……ホワイトデーか」





同日 14:30

-黄泉川家・芳川の部屋-


一方通行「――つゥわけで、ホワイトデーってどォすりゃイインだ?」

芳川「……はぁ。まあ答えてあげてもいいんけど、一つ質問いい?」

一方通行「何だ?」

芳川「何でホワイトデーのことを私に聞くのよ? キミには上条君とか男の子のお友達がいるのでしょ? そっちに聞くのが普通じゃないかしら?」

一方通行「あァ? あンな馬鹿どもに聞いてどォするっつゥンだ。第一こンなモンで相談しよォモンなら絶対ェ舐めた態度取りやがる」

芳川「要するに、お友達に相談するのが恥ずかしいのね」

一方通行「そォじゃねェ。面倒臭せェことは避けるのは普通の考えだろォが」

芳川「はいはい、わかったわかったわ。で、何で私がその相談相手になったのかしら?」

一方通行「たまたまオマエだけがこの家に居たから」

芳川「……じゃあもし淡希が居た場合、そっちに行ってたのかしら?」

一方通行「そォなるな。まァでも、アイツは記憶喪失だからロクな情報引き出せねェかもしれねェな」

芳川「…………」

一方通行「どォした?」

芳川「いえ、私に相談しに来てよかったわね、って思って」

一方通行「……どォいう意味だ?」

芳川「さあね。で、ホワイトデーの何が聞きたいのかしら?」

一方通行「ホワイトデーで何をすりゃイイのかが分からねェ。いや、何となくプレゼントを送りゃイイのは分かるが……」

芳川「そこまでわかってるなら話が早いわね。バレンタインデーにもらったものに対するお返しがするのがホワイトデー。別名、お菓子会社の陰謀」

一方通行「面倒臭せェことしてくれやがったなァお菓子会社」

芳川「というか、キミはてっきりホワイトデーのこと知ってると思ってたのだけど」

一方通行「あァ?」

芳川「だってバレンタインで私がお返しをキミに要求した時、何の違和感もなく会話してたじゃない?」

一方通行「あー、アレはお返しなンて要求するなンざがめついヤツだな、って思っての発言だ。ホワイトデーのホの字も頭になかった」

芳川「あ、そう。まあいいわ、ということで私のお返しは学舎の園のあの店のチョコレートセットで」

一方通行「だから男の俺に入手困難なモン要求すンなっつーの」




芳川「……そうだ。これ知ってるかしら? ホワイトデーのお返しはバレンタインの金額の三倍の値っていうの」ニヤッ

一方通行「そうなのか。面倒臭せェルールだな、手作りのヤツとかどォ調べりゃイインだよ価格」

芳川「ちなみにあの店のチョコレートセットは私のコンビニで買ったヤツに比べれば、三倍どころか十倍くらい違うわ」

一方通行「どンだけ安物だったンだよオマエのチョコ」

芳川「いや、そこはあの店のチョコレートセットの金額が高い、ってリアクションするところよ」

一方通行「知るか」

芳川「というわけだから、あの店のチョコレートセットを買えばほとんど文句は言われないと思うわ」

一方通行「そォか。ソイツはイイこと聞いた。そこでまとめて買えばラクでイイ」

芳川「あっ、あとホワイトデーにはこんなルールがあるのよ」

一方通行「まだあンのか」

芳川「渡すお菓子の種類によって意味があるのよ。キャンディだったら『あなたが好き』、マシュマロだったら『あなたが嫌い』、クッキーだったら『友達でいましょう』。ほかにもあるけどこれがメインね」

一方通行「へー、本当に面倒臭せェイベントだなァ、ホワイトデー」

芳川「例えばだけど、淡希にキミからキャンディとか渡したら面白くなりそうだと思わない?」

一方通行「ハァ? そンなことしたら俺が結標のこと好きみてェなことにならねェか? 何が面白れェンだよ?」

芳川「淡希のリアクションとか。どんなリアクションするのか気にならない?」

一方通行「蔑まれながら飴玉を床にばらまかれて終わりだ。何も面白くねェよ。オマエからしたら面白いのかもしれねェが」

芳川「………はぁ」

一方通行「何だそのため息」

芳川「別に。ちなみにだけど、チョコレートは特に意味なんてないからキミみたいな人にはピッタリなプレゼントだと思うわ」

一方通行「……そォか。よォするに俺はクソ高いチョコレートをまとめ買いすりゃイイわけだな」

芳川「キミがそれでいいと思うならそうね」

一方通行「何か引っかかる言い方だな。まァイイ、俺の好きなよォにやる。もともと俺の問題だしな」

芳川「そう」

一方通行「ま、とりあえず礼は言っておく。……その、アリガトよ」

芳川「そんなツンデレありがとうはいらないわ。だからあの店のチョコレートセットが欲しいわ」

一方通行「どンだけ食いてェンだよあの店のチョコレート」


―――
――





同日 15:00

-黄泉川家・リビング-


一方通行「オイオイ、どォいうことだ。芳川の言うあの店っつゥのはおそらくコイツだろォが、通販を取り扱ってねェだと?」

一方通行「……つゥか、学舎の園の菓子屋がほとンど通販に対応してねェのかよ。男はどォやったらこの中の菓子を食えるンだよ」

一方通行「チッ、頼みたくねェがヤツを使うしかねェか」つ携帯電話



-第七学区・とある公園-



美琴「――ちぇいさっー!!」グルッ



ドゴッ!! ガコッ



美琴「……よし! ヤシの実サイダーゲット! 今日は何だかいいことありそうね」



<ハナテココロニキザンダユメモミライサエオキザリニシ-テ♪



美琴「ん? 電話……? げっ!?」ピッ

美琴「もしもし?」

一方通行『今さっき「げっ」っつゥ声が聞こえたのは気のせいか?』

美琴「き、気のせいじゃない? ところで何か用? わざわざアンタが電話してくるなんて珍しいわね」

一方通行『オマエにちょっと頼みてェことがあってな』

美琴「頼みたいこと?」

一方通行『ああ。これはオマエにしか頼めェことだ』

美琴「な、何よそんな改まって……」

一方通行『学舎の園の中にチョコレートで有名なあの店があるだろ』

美琴「……あー、たぶんあの店ね。それがどうかした?」

一方通行『ちょっとそこの店でチョコレートのセット買ってきてくれねェか? 二十セットくらい』

美琴「……何? もしかして私をパシリか何かにしようとしてる?」

一方通行『そォいうわけじゃねェよ。ちゃンと金は払う。何なら少し色を付けてもイイ』

美琴「大体、何で私がそんなことしなきゃいけないのよ? 自分で買いに行きなさいよ」

一方通行『それが出来りゃやってるっつゥの。学舎の園に男子禁制とかいうクソみたいなルールがなけりゃいくらでも行ってやるよ』

美琴「……! だったら良い案があるじゃない!」

一方通行『……オマエの言いたいことは大方予想できるが何だ? 言ってみろ』



美琴「アンタ、もう一回女装、やってみる?」キラキラ



―――
――




March Second Wednesday 17:30 ~ホワイトデー前日~

-第七学区・学舎の園入口-


美琴「よし、じゃあ行くとしますか。ね、百合子ちゃん?」

一方通行(以下女装)「オマエは……ホント楽しそォだよなァ!? クソがッ!!」

美琴「そりゃそうよ。楽しくなけりゃ、アンタなんかを学舎の園の中へ入れる手伝いなんかしないっての」

一方通行「チッ、覚えてろよクソガキ……」

美琴「はいはい、それじゃあ早く入りましょ? 時間もそんなにないし」

一方通行「つーか今度は大丈夫なンだろうな?」

美琴「何が?」

一方通行「招待状だ。前みたいにまた仮の招待状で、ID求められても困るンだが」

美琴「大丈夫よ。ちゃんとVIP待遇のきっちりした招待状よ。ほら」スッ

一方通行「……本当に大丈夫なンだろうな、これで」

美琴「少しは信用しなさいよ。まあ、たしかに前のは本当に悪いとは思ってはいるけど……あ、そうだ。何なら一緒に入場してあげましょうか? それなら安心でしょ」

一方通行「付いてくる、っつゥ救済の案を挙げるってことは、何か不安要素があるっつゥ心理が働いてるからだ。違うか?」

美琴「……よーし、じゃあ行きましょー!」

一方通行「図星か。信用を得たいなら用意周到に、不安要素を全て潰さなきゃなァ」カチッ


-学舎の園・入口ゲート-


係員「――次の方どうぞ。あっ、御坂さん」

美琴「ど、どうもです」

係員「わざわざこっち側通らなくてもいいのに」

美琴「あ、あははちょっといろいろありましてね」ピッ

係員「? はい、次の方」

一方通行「……鈴科百合子だ。常盤台二年の御坂美琴、よォするにさっき通ったヤツの招待で来ました(以下姫神ボイス)」

係員「あ、御坂さんのお友達ね」

美琴「あはは、そ、そうですー」

係員「それじゃあ招待状を出してください」

一方通行「はい」スッ

係員「…………」

一方通行「…………」

美琴「…………」ゴクリンコ

係員「……はい、通ってだいじょうぶよ」ウイーン

一方通行「アリガトウございます」ガチャリガチャリ

美琴「……ふぅ」

係員「……あっ、そうだ鈴科さん?」

一方通行「あァ?」

美琴「!?」ビクッ

係員「次来るときはちゃんと制服で来た方がいいわよ? この中で私服って結構目立つから」

一方通行「はい。気を付けまァす」ガチャリガチャリ



-学舎の園・エントランス-


美琴「……はぁ、何だかすっごくドキドキしたわ」

一方通行「やっぱり確証がなかったンだな。そのリアクションを察するに」

美琴「う、うるさいわね。だって私招待なんてされたことないし」

一方通行「そりゃそォだな。だが仕組みくらいは知る機会ぐらいあると思うがな」

美琴「ぐっ……」

一方通行「まァイイ。で、目的地のあの店っつゥのはどこにある?」

美琴「ああええっと、たしか製菓店が集まってるエリアの結構奥側よ」

一方通行「そりゃまた面倒な立地だこった」

美琴「裏の方にひっそり建っている、みたいな感じだし。もしかしたら初めてじゃ見つかり辛いところにあるかもしれないわね」

一方通行「クソみてェな店ェ選びやがって芳川の野郎め……」

美琴「ま、そこんとこは安心しなさい。学舎の園の店は全部この頭の中に入ってるわ。隅から隅まで案内できるから、美琴センセーに任せなさい」

一方通行「そンなモン頭に入れるスペースがあンなら、招待状の仕組みの一つくらい入れとけっつゥ話だよな」

美琴「まだ言うか。アンタって意外と陰険でねちっこいのね」

一方通行「意外でもねェだろ。見た目通りのクソ野郎だろ?」


ピーンポーンパーンポーン♪


一方通行「あン? 何だこりゃ」

美琴「この音楽は呼び出しの放送ね」


放送『――常盤台中学二年御坂美琴さん。至急、常盤台中学第三能力開発室へ来てください。繰り返します――』


一方通行「……オマエ、何か呼び出し食らってンぞ」

美琴「私? 何で?」

一方通行「教室の窓ガラスでも割ったのか?」

美琴「割るか! てか割ったら素直にすぐ謝りに行くっての」

一方通行「自販機に蹴り入れてジュースパクってるヤツの言葉だ。信用ならねェ」

美琴「いや、だからアレは自販機のほうが悪いのよ! 私の万札を飲み込んだんだから!」

一方通行「どォでもイイが早く行った方がイインじゃねェのか? 至急って言ってただろ」

美琴「そうね。じゃあぱぱっと行ってくるから、ちょろっと待っててちょうだい」

一方通行「待たねェよ。どれだけ時間がかかるのか分からねェからな。先に店行っておく。何ならさっさと買い物を済ませてここから離脱する」

美琴「あっ、じゃあもし店にたどり着いたら私の名前を出してちょうだい。私の名前で二十セット予約しといたから」

一方通行「ほォ、オマエにしては気ィ利かせてンじゃねェか」

美琴「感謝しなさいよー、普通に行っても買えないんだからねー、あのチョコを二十セットなんてね」

一方通行「アリガトよ。それはそォと早く行って説教されて来た方がイインじゃねェか?」

美琴「だから私何もやった記憶ないって……、それじゃ行ってくる!」ダッ

一方通行「元気なヤツだ。さて、俺も行くか……いや、まだ行けねェよォだな」



一方通行「――隠れてねェで出てきたらどォだ? 第五位」




食蜂「……あらぁ、やっぱり気付かれちゃってたぁ? さすがの索敵力ねぇ第一位さん?」

一方通行「何の用だ? 俺は今から買い物しなきゃいけねェから忙しいンだよ」

食蜂「明日のホワイトデーの買い物かしら? 女装してまでこんなところに来るなんてアナタも大変ねぇ」

一方通行「そォいうわけだ。俺は急いでいるから行かせてもらうぞ」

食蜂「何だかつれないわねぇ、せっかくお邪魔虫さんがいなくなってくれたのだから、ちょっとだけお茶でもしない?」

一方通行「……さっきの放送はオマエの差し金か?」

食蜂「そうよぉ。たぶん御坂さんはあと一時間くらい戻ってこれないと思うから、少しくらい付き合ってくれてもいいんじゃない?」

一方通行「関係ねェ。ヤツが居ようが居まいが俺は買い物して帰るだけだ。オマエの存在を介入させる隙間なンてねェよ」

食蜂「そう、それは残念ねぇ。せっかく面白そうな話題を持ってきたっていうのにぃ」

一方通行「面白そうな話題だァ?」

食蜂「うん。アナタなら絶対に食い付くと思うわぁ」

一方通行「……言ってみろ」

食蜂「学舎の園にある隠れたコーヒーの店の話、とか」

一方通行「……くっだらねェ。そンなモンに食い付くわけねェだろ。大体、そンなモン知ったところで俺じゃ通えねェだろ」

食蜂「今女装して絶賛学舎の園に侵入している人のセリフじゃないと思うのよねぇ」

一方通行「今回も緊急事態だからやっているに過ぎねェ。そう何回もこンなことするかよ」

食蜂「うーん、だったらこの話題はどうかしらぁ?」

食蜂「学舎の園の絶景、パンチラスポット! とか?」

一方通行「……おォーおォーすげェすげェ、どっかのピアス付けたエセ関西人が聞いたら頭から飛び込ンで食い付きそうな話題だなァ」

食蜂「これならアナタも食い付くんじゃなぁい? 私の情報網からアナタがロリコンだってことはわかっているわぁ」

一方通行「何だその信憑性皆無の情報網はァ? 俺はロリコンなンかじゃねェっつゥの」

食蜂「えぇー? でもそんなこと言ってるけど実はー?」

一方通行「違うっつってンだろォがクソガキがッ! 大体よォ、仮に俺がロリコンだとしてもそンな情報もらっところでさっきと同じ理由で意味ねェだろォが」

食蜂「だから同じように女装してウォッチングすればいいんじゃないかしら?」

一方通行「生憎だが、俺は女装してガキのスカートの中覗き見るよォなクソ野郎じゃねェンだ。話にならねェよ」

食蜂「そう、ならばこれはどうかしらぁ」

一方通行「もうやめろ。いくらオマエが話題を出したところで俺が食い付くわ――」



食蜂「結標さんの記憶喪失について、とかどうかしら?」ニヤリ



一方通行「…………」ピクッ

食蜂「あっ、やっとまともな反応を見せてくれた。これに関しては興味深々のようねぇ」

一方通行「オマエ、アイツに一体何をするつもりだ?」

食蜂「話が飛躍してるわよぉ。別に私は彼女をどうにかしようなんて思ってないわぁ。ただ、彼女に関してちょっとお話がしたいなぁ、って思っただけだゾ☆」

一方通行「……イイだろ。案内しろ、その茶会の会場によォ」ギロッ

食蜂「ウフフ、そうこなくっちゃ♪」


―――
――





同日 18:00

-学舎の園・とある喫茶店-



ウエイトレス「――こちらエクレアとミルクティー、こちらがアイスコーヒーになります」ゴトッ



食蜂「ありがとう」

ウエイトレス「ではごゆっくり」

一方通行「…………」ズズズ

食蜂「あらぁ? ストロー使わないのぉ? 変な飲み方ねぇ」

一方通行「……そォいや、前に超電磁砲にも同じこと言われたな。これで別に問題ねェだろ」

食蜂「景観に配慮されてない飲み方だと思うのだけど」

一方通行「知るかよ。つゥか、そンなどォでもイイこと喋る為にこンなところに来たわけじゃねェだろ。さっさと話を進めやがれ」

食蜂「もぉ、せっかちねぇ。まあたしかにグダグダして御坂さんが戻ってきたら嫌だしぃ、急ぐに越したことないのよねぇ」

一方通行「ついでにそのうっとォしい喋り方もどォにかしてくれると助かるンだが」

食蜂「それは無理な話なんですケド。これが私の自然体で居られる喋り方なんだゾ☆」

一方通行「だったら敬語で話せ。年上は敬えよクソガキ」

食蜂「アナタが言うな、って言った方がいいのかしら?」

一方通行「チッ、話ィ始めろ」

食蜂「そうねぇ、じゃあまず手始めに、結標さんとは仲良くやってる?」

一方通行「仲が良いの定義が何だか知らねェが、別に何の問題もなく過ごしてるとは思っている」

食蜂「そ。なら、楽しい? その生活」

一方通行「……俺に相応しくねェモンだとは思うが」

食蜂「ふーん、つまり楽しいってことかなぁ? いいわねぇー楽しくて」

一方通行「何勝手なこと言ってンだオマエ」

食蜂「じゃあ楽しくないわけぇ?」

一方通行「…………」

食蜂「駄目よぉ、そんな遠回しな言い方でどっちつかずの答えを出して、話を逸らしても私にはアナタの考えてることが手に取るように分かるのよぉ?」

一方通行「チッ、分かったところで何だってンだ」

食蜂「別にぃ。あっ、一応言っておくけど特に言いふらしたりしないわぁ。言いふらしたところで何も面白くないのよねぇ」

一方通行「そォかよ。そりゃ残念だったな面白くなくて」

食蜂「じゃあそんな楽しい楽しい生活を送っている一方通行に質問です」





食蜂「いつまでこの『偽り』の生活を送っていくつもりなのかしらぁ?」






一方通行「……どォいう意味だ?」

食蜂「そのままの意味よぉ。アナタのこの日常はいずれ破綻することは確定しているわぁ。なのに流されるままこの日常に甘んじているアナタは一体、いつまでこれを続けるつもりのかなぁ? っていうコト♪」

一方通行「破綻する、だと?」

食蜂「ふふっ、本当は分かってるクセに、そうやって分からないフリをする。そうやって守っているのよね、アナタ自身を」

食蜂「だったらそんなアナタにきっちり説明してあげるわぁ。アナタの逃げ場をなくしてあげる」

一方通行「…………」

食蜂「まず、その話をするには結標さんの記憶喪失について説明しないとね」

一方通行「アイツの記憶喪失、だと?」


食蜂「そう。そもそも記憶喪失っていうのは三つのパターンがあるのよぉ。一つは元ある人格から記憶が消え去るパターン、まあこれが一番よくあるヤツよねぇ」

食蜂「例を言うならお酒の飲みすぎで昨晩の記憶がない、みたいなのがそうよねぇ。もっともポピュラーな記憶喪失かも」

食蜂「ちなみに、このパターンなら何かしらの刺激が脳に走ったら、もしかしたら記憶が蘇る可能性があるかもしれないわぁ」


一方通行「……二つ目は?」


食蜂「二つ目は記憶が跡形もなく破壊されるパターン。これはそのままの意味よぉ。脳に記憶そのものが跡形もなく消滅していまうのよ」

食蜂「身近な実例が思いつかないから省くけど、この場合は文字通り破壊されたことになるから、どんな刺激があろうと記憶が戻ることは決してないわぁ」

食蜂「これは滅多なことじゃ起きないから、一番珍しいパターンだと思う。ま、私の超能力を使えばそんなのも余裕なんですケドね」


一方通行「オマエそンなことやってンのかよ。趣味の悪りィヤツだ」

食蜂「出来ると言っただけでやったことがあるとは言ってないわよぉ。それに別に命を取るわけじゃないんだから、それくらいいいんじゃないかしらぁ?」

一方通行「人にとっては記憶は命と同価値足りえる場合だってある。やってることは人殺しに等しいぞ」

食蜂「それはアナタには言われたくないんですケドぉ」

一方通行「チッ、そォだったな。で、最後の三つ目は何なンだよ」

食蜂「最後の三つ目、これは結標さんに当てはまる症状よぉ」

一方通行「結標の?」


食蜂「三つ目は元の人格が記憶の奥底に押し込まれて、代わりの人格が意識を乗っ取る、っていうパターンよ」

食蜂「よく聞く事例だと、カッとすると周りが見えなくなって暴れだして、そのあと『自分はいったい何をやったんだ?』みたいな人いるじゃない? あれも一種の記憶喪失ってワケ」

食蜂「結標さんはそのロングバージョンってことになるのかしらぁ? 元の人格が記憶の引き出しの奥底に押し込まれて、代わりに今の人格が結標さんを演じているのよぉ」





一方通行「…………」

食蜂「さて、ここまで説明すれば私の言いたいことが嫌でも分かってくるんじゃないかしらぁ?」

一方通行「……そォだな。要するにアレだろ。アイツの記憶喪失が治った場合、半年前の人格、今のアイツとはまったく関係のない結標になっているっつゥことだろ?」

食蜂「そうよぉ。ちなみにこの三つ目パターンの記憶喪失っていうのは、一つ目のやつと同じでちょっとしたことで記憶が戻ってくるかもしれないわぁ」

一方通行「つまり、もしかしたら明日記憶が戻っているかもしれないし、一年後に戻ってくるかもしれない、そォいうことか?」

食蜂「まあ、その記憶が戻るトリガーが何かによるかな。それが普段の彼女にまったく関係ないものなら戻らないし、身近だけど出会ってないものならすぐにでも戻る可能性があるしぃ」

一方通行「……で、こんなところでわざわざそんな記憶喪失の説明会開いて、一体オマエは何が言いたいンだよ?」

食蜂「それ、本気で言ってるワケ? だとすると本当にアナタは理解力のない間抜けな人間ってことになるのよねぇ」

一方通行「何だと?」

食蜂「分かってないのなら教えてあげる。彼女が記憶を失ったのは去年の九月一四日。原因はアナタ、一方通行との交戦での頭部へのダメージ」

食蜂「つまり、半年前の結標さんからしたら、アナタは同じ家に住む居候同士でもなければ同じ高校に通うクラスメイトでもない」

食蜂「ただの、自分に危害を加えた『恐怖』の対象でしかない」

一方通行「……ああ。たしかに俺はあの時アイツと接触し、明確にオマエを倒すと宣言し、圧倒的なチカラで叩き潰した」

一方通行「そンなヤツがいきなり目の前に現れて、恐怖を覚えねェほうがおかしい」

食蜂「よかったわぁ、ちゃんと理解してくれてるのねぇ。だったら、改めて聞かせてもらうわぁ」


食蜂「アナタはいつまでこの偽りの中を過ごしていくつもりなのかしらぁ? いくらアナタが今の彼女と思い出を作っていっても、たった一つのきっかけで全てが壊れてしまう」

食蜂「そんな辛い結末が待っている物語を、アナタはまだ紡いでいこうと言うのかしら」


一方通行「…………」

食蜂「……そう。それがアナタの答えなのねぇ。ふふっ、カッコイイじゃなぁい?」

一方通行「ッ!? オマエ俺の思考を……!」

食蜂「ただその考えは逃げに過ぎないわぁ。与えられた選択肢を選ぶことなく保留にして、自分で答えを出そうとしない受け身な考え」

食蜂「まあでも、アナタがそれで良いと思っているなら、それもある意味一つの答えかもしれないしねぇ」

一方通行「…………」

食蜂「さて、これでお開きとしましょうかしらぁ? そろそろ御坂さんが来てもおかしくない時間だしぃ」

一方通行「……そォだな。これ以上オマエと話すことなンてねェ」

食蜂「あ、そうそう。最後に一ついい?」

一方通行「あン?」

食蜂「もし結標さんの記憶が戻ってしまって、アナタが前の結標さんのほうがいいなぁ、なんて思ったりしたら私に言ってちょうだい。私の能力を使って――」



ガシッ!



一方通行「…………」ギロッ

食蜂「あらぁ、女の子の胸ぐら掴むなんていけな――」


一方通行「人の記憶を玩具扱いしてンじゃねェぞ。クソガキが」


食蜂「ふふっ、冗談よぉ。そんな怖い顔なんかしちゃダメだゾ☆」

一方通行「……チッ」パッ





<ありがとうございましたー!



一方通行「……オイ、最後に一ついいか?」

食蜂「何かしらぁ?」

一方通行「オマエは何のために俺と接触したンだ? オマエの今日の行動が何一つ解せねェ」

食蜂「最後って言うから何かと思ったらそんなことなのねぇ。ふふっ、気になるぅ?」

一方通行「別に」

食蜂「ええっー、何その素っ気ない答え? アナタから聞いてきたことでしょー?」

一方通行「どォせオマエは真面目に答えねェだろォが」

食蜂「そんな決めつけはひどいゾ☆ ま、その通りなんだケド」

一方通行「だろォよ。答える気がねェならさっさと消えろ」

食蜂「はいはーい! あっ、でも一つだけ教えてあげるわぁ。私がなぜこんな場をセッティングしたのか。それは――」



食蜂「――――同情よ」



一方通行「……どォいう意味だ?」

食蜂「それじゃあごきげんよう、鈴科百合子さん☆」タッタッタ



一方通行「……チッ、無駄な時間食っちまった。行くか」




美琴「……ちょっと待ちなさい」

一方通行「……居たのか超電磁砲」

美琴「まあね。あんな性悪女の時間稼ぎなんて、ちょちょいと終わらせてやったわ」

一方通行「その余った時間で覗き見かァ? いい趣味なこった」

美琴「勘違いしないでよね。私が来たのはついさっきだし、別にアンタたちの会話なんて一言たりとも聞いてないわよ」

一方通行「そォかよ」

美琴「で、何話してたのよ? って聞いても教えてはくれないでしょうけど」

一方通行「わかってンじゃねェか。その理解の良さに敬意を表して教えてやる。どォでもイイよォな世間話だ」

美琴「嘘くさ。世間話ならそんな顔して喫茶店出てこないっつーの」

一方通行「元からこンな顔だ」

美琴「そうですかい。じゃ、アンタもそんな時間もないと思うし、ちゃっちゃと用事済ませちゃいましょうよ」

一方通行「……ああ」


―――
――





同日 19;00

-第七学区・とある公園-


一方通行「……はァ、やっとあのクソみてェな格好から開放された(以下一方ボイス)」

美琴「まーた捨てちゃったのね、勿体無い。まだ入る機会があるかもしれないんだから、どうせなら取っとけばいいのに」

一方通行「ねェよそンな機会。金輪際」

美琴「それってフラグってやつ?」

一方通行「ねェよ。チッ、しかしチョコレートでも二○セットもあったら流石に重ェな」ガチャリガチャリ

美琴「そりゃそうよ。というか一体何で買って……もしかして明日のホワイトデーのためとか?」

一方通行「まあな」

美琴「へー、アンタって意外とモテるのねー」

一方通行「不本意だがな」

美琴「……そのもらったバレンタインって全部、まさかの本命?」

一方通行「ンなわけねェだろォが。顔も知らねェ頭ン中がピンクな一部のヤツらを除けば、全部義理だ」

美琴「そんなヤツらのためにわざわざお返しを用意するなんて、マメなやつ」

一方通行「は? 返さなくイイのか? これ」

美琴「当たり前じゃない。わけのわからない人からもらったものに対して、お返ししてやる義理なんてないじゃない」

一方通行「言われてみりゃそォだな」

美琴「アンタ今までのホワイトデーって、もしかして律儀に全部返してたわけ?」

一方通行「いや返してねェ。つゥか、今までバレンタインやホワイトデーなンかをするよォな世界で生きていなかったからな。もらったことねェからそンな概念すらねェよ」

美琴「だから女装してまでたっかいチョコレート買うなんて迷走してるのね」

一方通行「値段の三倍ルールに対応するには、これくらいの金額のチョコレートが必要だろォが」

美琴「どこの誰だかが勝手に決めたルールに騙されてどうするのよ。大切なのは気持ちよ気持ち」

一方通行「芳川め……クソみてェな情報握らせやがって」

美琴「で、その話を聞いてアンタはどうするわけ? その大量のチョコレートセット」

一方通行「あァ? まァ買ってしまったモンは仕方がねェよ。とりあえずもらった分は全部返す」

美琴「律儀ね。返さなくても誰も文句は言わないだろうに。何というか、似合わないわね」

一方通行「ホント、何やってンだろォな、俺は……」

美琴「でも、血みどろの殺し合いなんかをやっているときよりはよっぽどマシよ」

一方通行「…………」




美琴「じゃ、私行くわ。打ち止めによろしく言っといてね」

一方通行「何でアイツの名前が出てくンだ?」

美琴「どうせ打ち止めの分もその中に入っているんでしょ?」

一方通行「……ああ」

美琴「あっ、あとアンタ性悪女に何言われたか知らないけどさ、気にしないほうがいいわよ。アイツは適当なこと言って人を困らせて楽しんでるだけだから」

一方通行「適当、か……」

美琴「とにかく、アイツの言ったことをいちいち気に留めてちゃダメよ? ストレスで白髪増えるわよ」

一方通行「もともと白髪だっつゥの。つーかオマエ、もしかして俺を励ましてるつもりか?」

美琴「べ、別にそんなことしてないわよ。ただ食蜂と会ってからのアンタは何か変だから。うまく言葉には出来ないけど」

一方通行「そォかよ」

美琴「ま、アンタが変だろうと私には関係ないし、何でもいいんだけど」

一方通行「だったら放っておけよ」

美琴「じゃ、今度こそ行くわ」

一方通行「ああ、アリガトよ。わざわざ付き合ってもらってよ」

美琴「………‥」

一方通行「? どォした?」

美琴「やっぱ変よ。アンタから『ありがとう』の言葉が出るなんて」

一方通行「オマエ叩き潰すぞ」


―――
――





同日 20:00

-黄泉川家・リビング-



ガラララ



一方通行「帰った」

結標「あら、おかえりなさい。随分と遅かったのね。晩ご飯冷めてるわよ」

一方通行「おォ。他のヤツらは?」

結標「黄泉川さんと打ち止めちゃんはお風呂に行ってて、芳川さんは部屋にいると思うけど」

一方通行「そうかよ」

結標「ところでどこ行ってたのよ? 貴方がこんな時間まで出歩くなんてよっぽどよね」

一方通行「別に。オマエには関係ねェよ」

結標「そう言われると気になっちゃうのよね。その荷物は何? 随分と大きな紙袋だけど」

一方通行「それもオマエには関係ねェ」

結標「……あっ、もしかしてあれ? エッチな本的な……?」

一方通行「そンなモンこンなデカイ紙袋一杯に買うわけねェだろォが」

結標「実はコレクションをする趣味があったりして」

一方通行「ねェよ。つゥか、俺の部屋入ったことあるよなオマエ?」

結標「押入れの中は見たことないわ」

一方通行「はァ、馬鹿なこと言ってンなよ。部屋に荷物置いてくる」

結標「ごゆっくりー」

一方通行「その言葉の意味、あえて聞かねェようにする」ガチャリガチャリ





『いつまでこの『偽り』の生活を送っていくつもりなのかしらぁ?』





一方通行「……結標」

結標「何?」

一方通行「いや……何でもねェ」ガチャリガチャリ

結標「? 変なの」


――――――


食蜂さんがもし馬鹿なこと言ってたらそれはワイが馬鹿なだけだからゆるして・・・

次回『ホワイトデー』

今回ちょっと長め

投下



8.ホワイトデー

March Second Thursday 07:30

-とある高校・昇降口-



シーン



一方通行「ふァー、ねっむ。……よし、この時間帯ならまだ人は少ねェ。絶好のチャンスってヤツだ」

一方通行「バレンタインの時、俺の靴箱にモノぶち込みやがったヤツは全員で十人」

一方通行「一年が四人、二年が二人、三年が一人。残りは送り主不明のヤツ、コイツらと卒業して居なくなった三年はどォしようもねェから放っておく」

一方通行「返せるヤツ全員の靴箱の位置は既に確認済。靴箱に入れてきたンだから、靴箱に返してやるのが礼儀っつゥモンだよなァ」

一方通行「靴箱にチョコレートを入れる動作は三つ。開ける、入れる、閉める」

一方通行「これを普通にやったら時間を食ってしまい、他人に見られる危険性が高まってしまう。だが……」



一方通行「この俺のベクトル操作を使えば、そンな動作を七回繰り返すくれェ簡単なンだよッ! 一瞬で終わらせてやるぜェ!」カチッ



バッ!




ダダン! ダダン! ダダン! ダダン! ダダン! ダダン! ダダン!




モブ生徒A「うわっ、何だっ!? この変な物音は!?」

モブ生徒B「うるさっ! 靴箱叩いて遊んでるのかしら?」

モブ生徒C「一体誰がこんなことを………」




一方通行「……ケッ、ミッションコンプリートってヤツだ。クソったれ」カチッ




―――
――





同日 07:50

-とある高校男子寮・上条当麻の部屋-


上条「じゃ、学校行ってくるよ」

禁書「うん! いってらっしゃいとうま!」

上条「あ、そうだ。これを渡すのを忘れてた」ゴソゴソ

禁書「えっ、何かくれるの?」

上条「おう。こいつだ」スッ

禁書「……何それ? クッキー?」

上条「そうだ。上条さんお手製のクッキーだぜ」

禁書「なるほど。昨日とうまがコソコソ作ってたのはこれだったんだね」

上条「コソコソって言うなよ」

禁書「ところで何でいきなりクッキーをくれるなんてことしてくれるの? 別に今日はバースデイでも何でもないんだよ」

上条「あー、お前らには馴染みがないかもしれないけど、今日はホワイトデーっつって、バレンタインのお返しをする日なんだ」

禁書「へー、ホワイトデーそういうことだったんだ。てれびで見たけどよくわからなかったんだよ」

上条「つーわけで、こいつはバレンタインに対するお返しだ。インデックス、チョコレートありがとな」スッ

禁書「うん、どういたしまして。そしてありがとうなんだよ! よし、早速いただいて」

上条「お前さっき朝飯食ったばっかだろ!」



-第七学区・通学路-



上条「ふんふーん♪ この時間なら遅刻なんてまずないだろ。やっぱ早起きって素晴らしーい!」


舞夏「うーい、上条当麻ー!」ウイーン

上条「よお舞夏。こんな時間にこんなところにいるなんて、もしかして上条さんのホワイトデー目当てか?」

舞夏「別にそんなつもりはなかったけど、もらえるものならもらっとくぞー」

上条「何だ違うのか。まあいいや。ほらっ、上条さん特製のクッキーだぜ」

舞夏「ありがとなー。へー、手作りなのか。これはまた何で?」

上条「市販されてるホワイトデー仕様のお菓子って高いんだよなー。それなら自作したほうが安上がりっつーことでの手作りクッキーってわけ」

舞夏「ふーん、てっきり私に対抗意識を燃やしてたのかと」

上条「お前に対抗意識燃やしても勝ち目まったくねーよ。ワンパンだよワンパン」

舞夏「それじゃあ私は行くとするぞ。上条当麻も勉強頑張れなー」ウイーン

上条「うーい、お前もなー」


―――
――





同日 09:00

-ファミリーサイド・従犬部隊オフィス-



ガラララ



ヴェーラ「おはようございます」

ナンシー「おはようございまーす!」



数多「おう、お前ら二人ちょっと来い」


ナンシー「はい?」

ヴェーラ「何でしょうか」

数多「ほら、お前らにこいつをくれてやる」スッ

ナンシー「……あっ、これってもしかしてホワイトデーのプレゼントじゃないですか?」

ヴェーラ「いいんですか? こんなものをいただいて」

数多「いいんだよ。人の厚意は素直に受け取っとけ」

ナンシー「あ、ありがとうございます社長!」

ヴェーラ「ありがたく頂戴します」


円周「ふーん、今日はホワイトデーなのかあ」



ピンポーン



円周「おっ、打ち止めちゃんかな?」タッタッタ



ガチャ



打ち止め「おはようございまーす! ってミサカはミサカは元気いっぱいに挨拶をしてみたり!」

円周「うおおはぁようっ!! 打ち止めちゃん!」

数多「朝っぱらからうるせぇぞガキども」

芳川「おはようございます木原さん。今日もよろしくお願いします」

数多「どうもでーす。あっ、そうだ。芳川さんこいつを」スッ

芳川「あら、もしかしてこれホワイトデーの?」

数多「ええ。あといつ会えるかわからないんで、黄泉川さんの分も渡しといてくれませんか?」スッ

芳川「わかりました。わざわざありがとうございます」

数多「いえいえ」




打ち止め「……ねえねえキハラ?」

数多「あん?」

打ち止め「ミサカの分のプレゼントは? ってミサカはミサカは手のひらを差し出して要求してみる」

数多「えっ、お前からバレンタインもらったっけか?」

打ち止め「あげたよぉ! ミサカ渾身のスーパースウィートチョコレートを! ってミサカはミサカはバレンタイン当日とのことを思い出しながら熱弁してみたり」

数多「……あー、そういやもらってたなぁ。あのゲロ甘いヤツ」

打ち止め「その表現には納得いかないけどちゃんと思い出してくれたんだね、ってミサカはミサカはそっと胸を撫で下ろしてみる」

打ち止め「というわけでプレゼントを寄越せー! ってミサカはミサカは再度要求してみたり!」

数多「チッ、だったらこれでいいだろ。ほら、チョコボールだ。しかも銀のエンゼルが当たってるレアモンだぞ」

打ち止め「えっ、何ですでにエンゼルの有無がわかってるの? ってこれ食べ残しじゃん! こんなのいらないよ、ってミサカはミサカは抗議してみる」

数多「我慢しろ」

打ち止め「ううっ、あんまりだー、ってミサカはミサカはチョコボールを食べながらしょぼくれてみたり」ショボーン

数多「…………」

円周「うわぁ、いい歳こいたおっさんが幼女を泣かせたー。全世界のロリコンを敵に回したね」

数多「……チッ、しょうがねーな。ほらよっ、やるよ」スッ

打ち止め「えっ? くれるの……?」

円周「って、あげるんかあい!」

数多「いつまでもくよくよされてもうっとおしいからな」

打ち止め「あ、ありがとうキハラぁ! ってミサカはミサカは満開の笑顔でお礼を言ってみたり!」

円周「てか、用意してたのに渡すのを渋るなんて意地悪なおじさんだねー」

数多「違げえよ。こいつはもともと近所のババァに渡す用のヤツだったもんだ」

円周「……あー、あの犬飼ってるおばさん?」

数多「そうだ。別にあのババァには渡さなくても問題はねえだろうと判断したまでだ」

円周「数多おじちゃんは熟女より幼女を取ったってわけかー」

数多「語弊のある言い方はやめろクソガキ」


打ち止め「うんまーい!! ってミサカはミサカは思わぬチョコレートの美味しさに感想を叫んでみたり」

数多「うるせぇ!」

円周「ところで数多おじちゃん。私もチョコレートあげたよね? 私のホワイトデーは?」

数多「お前からは何ももらってねーなぁ。たしかポリバケツさんにあげたんじゃなかったか?」

円周「あっ、そうだった。ポリバケツさーん、ホワイトデーのお返しちょうだあい」テクテク

数多「アホか」


―――
――





同日 09:40 ~一時間目-ニ時間目間休み時間~

-とある高校・一年七組教室-


吹寄「――で、あたしたちに話って何よアクセラ」

姫神「まあ。だいたい予想はつくけど」

結標「そうなの?」


一方通行「おォ、オマエらに渡すモンがある。ホワイトデーのお返しっつゥヤツだ」スッ


結標「あっ、なるほど。昨日の大荷物はそれだったのね。道理で隠そうとするわけだ」

吹寄「へー、まさかアクセラが自分からそういうことするなんてね。珍しいというからしくないというか」

一方通行「うるせェな。黙って受け取ることも出来ねェのか」

姫神「ありがとアクセラ君。……ん? こ。これは……!」

結標「どうしたの姫神さん?」

姫神「二人とも。このチョコレートよく見て」


吹寄「えっ、何なの……、ッ!? こ、これはあの有名な店のチョコレートセット!?」

結標「ええっ!? 有名な店って世界で学舎の園にしか出店してないっていうあのッ!?」

姫神「間違いない。雑誌とかでよく見るあのパッケージ。まったく同じ……!」

吹寄「開店後10分で売り切れで、何か政界の要人とか某国の王族などのVIPにしか予約とかすることが出来ないとか、いろいろ聞いたことあるわ!」


一方通行(へェ。そンなすげェモンだったンだな。つか、それを20セット予約できる超電磁砲は一体何者だ? あっ、レベル5の第三位か)


結標「あ、貴方一体どうやってこんなすごいものを……?」

一方通行「あ、ああ。常盤台に通ってる知り合いに買ってきてもらった」

姫神「なるほど。さすがレベル5第一位。人脈も広いのね」

吹寄「一生縁のないものだと思ってたけど、まさかそんなものを食べられるなんて……アクセラありがと!」ニコッ

一方通行(オイオイ吹寄のあンな笑顔初めて見たぞ。何なンだこの店のチョコレートセット……!)


上条「……あのー」


吹寄「何よ? 大した用じゃないなら後にしてくれる?」

上条「あのですね。一方通行のチート級のプレゼントで盛り上がってるところで本当に申し訳ないんですが、私めもホワイトデーのプレゼントなるものを持ってきてましてね」

結標「えっ、そうなんだ。何持ってきたのかしら?」

上条「本当みすぼらしくて申し訳ないのですが、手作りのクッキーのようなものを持ってきましてね、はい」

吹寄「クッキーのようなものって何よ。クッキーじゃないのそれ?」

上条「いえ、紛れもなくクッキーでございます、ははぁー」

一方通行「何だこの流れ」

姫神「……上条君」

上条「はい、何でしょうか?」

姫神「私。上条君がこんなものを作ってくれてきたなんて。とっても嬉しいわ」ニコッ

上条「……お、おう。こちらこそもらってくれてほんとありがとう」




吹寄「……ふむ、しかし」


一方通行のプレゼント←三人とも同じチョコレート

上条当麻のプレゼント←三人とも同じクッキー



吹寄「……もっと空気読めないのかしら?」



上条「えっ、何が!?」

一方通行「さァ?」



吹寄(だいたいこっちは本命チョコレートを渡してるっていうのに、全員同じって……)チラッ



結標(一方通行からのプレゼントかぁ、すごく嬉しい!)キラキラ

姫神(上条君からの手作りクッキー……!)キラキラ



吹寄「……はぁ、まあいっか。本人たちがそれでいいなら」



上条「何だったんだ一体?」

一方通行「知るかよ」


土御門「おっ、みんなして集まって何してるんだ? もしかしてホワイトデープレゼント会でもやってるのかにゃー」

青ピ「女性陣の皆さん! この愛の貴公子青髪ピアスが、最高のホワイトデープレゼントをお渡しまっしょう!」

吹寄「……いや、あなたたちには何も求めてないから。別にいらないから」

青ピ「ひどい吹寄さん! せっかく用意してきたって言うのに!」

吹寄「どうせロクなもんじゃないでしょうに」

青ピ「まあまあそんなことを言わずに。どうぞこれを!」スッ

吹寄「……何これ? 大量のウエハースチョコ? 何よこの謎チョイス」

青ピ「ああ、食玩のカードが入ってるヤツ。大人買いしたらいっぱい余っちゃってなあ。まだまだ一杯あるでえー」スッスッ

吹寄「あたしはゴミ回収係じゃないわ! そんなプレゼントじゃ愛の貴公子の名前が泣くわよ!」

青ピ「いや、別に愛の貴公子じゃないですし……」

吹寄「自分で言った言葉は最後まで責任を持ちなさい!」

土御門「ちなみにぶっちゃけるとオレ、今日のホワイトデー何も用意して来てないんだぜい。すまん」

吹寄「別にいらないけど、それはそれでムカつくわね」

土御門「オレのホワイトデーは舞夏に全力だからにゃー。他に回す金なぞないっ!」

一方通行「ああそォだ。ちょっとイイか土御門」

土御門「何だ?」

一方通行「コイツをオマエの妹に渡しといてくれ。俺もバレンタインの日一応もらってたからな」スッ

土御門「…………」

一方通行「あン? どォした」





土御門「――キエエエエエエエエエエエエイッ!!」ドガッ



上条「あっ、一方通行の超高級チョコレートが叩きつけられた! もったいなっ!」

吹寄「えっ、そこ!?」

一方通行「何をしやがるンだ土御門ォ?」

土御門「貴様ぁ、オレと舞夏の恋路を邪魔するつもりか。一方通行、貴様は今からオレの敵だ」

一方通行「へっ、上等だァ。この俺をどォにか出来ると思ってンのかァ? 三下がァ!」

上条「あっ、そういえば俺、さっき舞夏にクッキー渡したわ」

土御門「おらぁ!!」ドゴッ

上条「ぐほっ!? な、何しやがる!」

土御門「オマエラ・コロス・スベテ・マイカノ・タメ」

吹寄「いい加減にしろ」


ゴッ


土御門「ひでぶっ」ガタッ


青ピ「おおっ、さすが一年七組のドン。つっちーを一撃で沈めるなんて……」

吹寄「誰がドンよ!?」


結標「あら、青髪君じゃない。どうしたのその大量のウエハースチョコ」

姫神「どうせまた。食玩か何かのやつ」

青ピ「正解! どうや二人とも? 一袋くらいいる?」スッ

姫神「いらない」

結標「私も今日はいいわ」

青ピ「なんやつれないなー。ボクのホワイトデーは誰も受け取ってくれへんわ。寂しいホワイトデーやでー」

吹寄「そんなこと言うくらいだったら、もっとまともなもの持ってきなさいよ」

青ピ「まあでも、あんなモテすぎてお返しが大変、ってなるくらいなら実際はこれくらいがええんやろうな。ムカつくけど」

結標「えっ?」

姫神「どういう――」




一方通行「オイ。この前のバレンタインの返しだ。大人しく受け取れ念動使い」スッ

念動使い「えっ、私にくれるの? 別にいいのに……ってこれあの店のチョコレートセットじゃない!? うわっ、やばっ!? すごっ!」

女子生徒A「うわーいいなぁー、あたしもアクセラ君にチョコあげればよかったー」

女子生徒B「私にも一個食べさせてよ」

念動使い「やなこった。ありがとねアクセラ君!」

一方通行「……おォ」


上条「バレンタインありがとな。これお返し」スッ

女子生徒C「あっ、クッキーじゃん。ありがと上条」


上条「これホワイトデーのお返しな。受け取ってくれ」スッ

女子生徒D「えー、別にお返しなんていいのにー」


上条「上条さんお手製のクッキーを受け取ってくれ」

女子生徒E「これ手作り? 上条君こんなの作れたんだすごーい」



結標「…………」←同じチョコレート

姫神「…………」←同じクッキー




結標・姫神「「よく見たらこれ全部同じヤツ!?」」




吹寄「今さらっ!?」



―――
――





同日 10:00

-ファミリーサイド・従犬部隊オフィス-



円周「――数多おじちゃーん、例の物が出来たよー」


数多「やっと完成したか。遅せーぞ」

円周「えー、これでも超特急で作ったんだけどなあ」

数多「あれぐらい五分で作れ」

円周「カップうどんじゃないんだからさあ」

打ち止め「ところでエンシュウ。一体何が出来たの、ってミサカはミサカはテレビを間近で凝視しながら質問してみたり」ジー

数多「そんな近くで見てっと目が悪くなるぞ」

円周「うーん、まあ見てからのお楽しみと言うか……」

打ち止め「えっ、そんなに面白いものなの!? ってミサカはミサカは興味を持ちつつ興奮を覚えてみたり」

円周「うん。すごく面白かったよ。勉強にもなったし」

打ち止め「うぇー、勉強するのか。それは嫌だなぁ、ってミサカはミサカは渋い顔をしてみる」

円周「別にそういうのじゃないんだけどなあ。で、数多おじちゃん。あれいつやるの?」

数多「今から」

円周「おー、さすが数多おじちゃん行動が早い」

打ち止め「何か面白そうだからミサカも行くー! ってミサカはミサカはテレビを消して立ち上がってみたり」ピッ

ヴェーラ「社長、どちらへ?」

数多「ちょっとホワイトデーのプレゼント渡してくる」

ナンシー「えっ、さっきの会話ホワイトデーのプレゼントの話だったの? まったく予想つかなかったんだけど……」

数多「暇ならお前らも見に来るか? 面白れーモンが見れるかもしれねーよ」

ナンシー「……じゃ、じゃあ行こうかなー」

ヴェーラ「ちょっとナンシー。あなたまだ仕事がたくさん残ってるでしょ」

ナンシー「いいじゃないちょっとくらい。休憩よ休憩」

ヴェーラ「……もう!」

ナンシー「とか言いながらヴェーラも付いて来ようとするのね」

ヴェーラ「私は良いのよ。ナンシーと違って仕事早いから」

ナンシー「嫌味な言い方ね」




-ファミリーサイド・屋上-


ヴェーラ「……なにこれ?」

打ち止め「うおおっ、かっこいい! ってミサカはミサカは率直な感想を述べてみる」

ナンシー「あっ、懐かしい。これペットボトルロケットじゃない? 子供の頃作って飛ばしたことあるわ」

数多「それはそんなしょうもねえモンじゃねえよ。こいつは超小型の巡航ミサイルだ」

ヴェーラ「…………えっ、なんて言いました?」

数多「だから超小型の巡航ミサイルだっつってんだろ」

打ち止め「おおっ、ミサイルってあれだよね? びゅーんって飛んでどかーんってなるやつ、ってミサカはミサカは擬音を駆使して説明してみたり」

円周「違うよ。ばしゅーんからのぼぉん! だよ」

数多「どっちでもいいわ。それよりきちんと機能すんだろうなこれ?」

円周「うん。数多おじちゃんの言う通りに出力、角度、座標設定etc。完璧にこなしましたあ!」

打ち止め「へー、エンシュウってこんなものを作れるんだー、ってミサカはミサカは素直に尊敬してみたり」

円周「作るっていうかただ設定しただけだよ。誰でも出来る簡単な作業だねー」

ヴェーラ「……ところで、このミサイルとホワイトデーに一体何の関係が……?」

数多「ああ。それを今から見せてやる。まずはこいつを使う」つ お得用マシュマロ一袋

ナンシー「マシュマロ? たしかホワイトデーでは『あなたのことが嫌い』の意味をもつお菓子でしたっけ?」

数多「そうだ。こいつをミサイルに括り付ける」スッ

数多「そして発射」ポチッ




ピシューン!




打ち止め「うわーマシュマロが飛んで行っちゃった。勿体無いなぁ、ってミサカはミサカは指を加えてみたり」

ヴェーラ「ところであのミサイルはどこに飛んでいったのですか?」

数多「ああ、お前ら木原病理ってヤツ覚えてるか?」

ナンシー「バレンタインの日に来られた木原一族の方でしたっけ? あの窓ガラスを割らずに窓ガラスを割って侵入してきた」

ヴェーラ「そっちは乱数さんでしょ。車椅子に乗ってた女性の方よ。で、その人がどうかしたのですか?」

数多「あの糞女バレンタインの日に、未元物質チョコレートとかいう産業廃棄物を渡しに来ただろ? まあ受け取ってはねーけど」

数多「だがあの女の中ではその時点でバレンタイン成立=ホワイトデーのお返しがもらえると思ってやがるから、必ずまたここに現れるはず」

数多「だからその前に先手を打った、ってわけだ」

ヴェーラ「……つまり、あのマシュマロ(ミサイル)は今その木原病理さんのところへ向かって飛んでると?」

数多「おう。アイツの住んでるマンションのベランダの窓、そこに直撃するように設定してある」





<ドッゴーン



円周「あっ、着弾したみたいだね。予定通り」

数多「よし、それじゃあ撤収ぅー。ナンシー、ヴェーラ。そこの玩具片付けとけ」

ヴェーラ「あっ、はい」

ナンシー「何か今頃向こうではテロリストとか何とかで騒ぎになってそう……」



ピピピピッ! ピピピピピッ!



数多「あん? ……チッ、電話か」ピッ

数多「もしもし」

??『どうも数多クーン! 最高のホワイトデーのプレゼント、ありがとうございましたー!』

数多「やっぱこの程度じゃ死なねえか。木原病理よぉ」

病理『私、焼きマシュマロというものを初めて食べたのですが、なかなかいけますねー』

数多「そりゃ喜んでくれて何よりだ。次の機会があったら、ガトリングレールガンの弾をマシュマロ替えてブチ込んでやるから楽しみにしてな」

病理『おー、それはそれは素晴らしいですねー。来年を楽しみにしてまーす。ではではー』ピッ


数多「…………」

ヴェーラ「…………」

ナンシー「…………」ゴクリンコ


数多「さーて、仕事に戻るぞー」スタスタ

円周「打ち止めちゃん、今日は何して遊ぶ?」テクテク

打ち止め「うーん、そうだ! 今日は強くてニューゲームの人生ゲームをやろう、ってミサカはミサカは画期的なアイデアを繰り出してみたり」トテチテ




ヴェ・ナン((な、何事もなく帰っていったあああああああああっ!?))



―――
――





同日 13:00

-第七学区・とあるファミレス-



ワイワイガヤガヤ



浜面「えー、本日はご多忙の中お集まりいただき――」




フレンダ「――結局、サバが最高の食材というのは揺るぎない事実な訳!」フンス

滝壺「何でふれんだはこんなに興奮しているの?」

麦野「この前連れて行ってあげたレストランのコース料理で出た、魚料理のサバのムニエルが相当お気に召したみたい」

絹旗「えっ、そんなところ行ったんですか!? ずるいです、私も超行きたかったです!」



浜面「……あのー」



麦野「はあ? 誘ったけど、アンタは映画見に行くとか言って断ったじゃない」

フレンダ「ま、でもああいうレストランはお子様にはまだ早いって訳よ。ファミレスでじゅーぶんじゅーぶん」フフン

絹旗「その程度のことでマウントを取っているつもりでいる人が行けるなら、超大人な私でも行けると思うんですが」

フレンダ「うん? それはどういう意味かな絹旗ちゃーん?」

滝壺「大丈夫。そんなふれんだを私は応援している」



浜面「ちょっとすんませーん! 話、聞いてもらってもいいですかねー!」



麦野「何だよさっきからうるせえなあ浜面ァ」

浜面「いえ、本当に申し訳ないですが、少しお時間をいただきたく」

絹旗「何というか、敬語で喋る浜面って超少しキモいですね」

浜面「少しキモいのか超キモいのかハッキリしろよ!」

フレンダ「あっ、私のメロンソーダなくなってる。ちょっと浜面行ってきて」

浜面「お、おうちょっと行って……って人が話をしようって時に雑用頼むなよ!」

滝壺「大丈夫。私はノリツッコミに勤しんでいるそんなはまづらを応援してる」

浜面「しなくていいから話を聞いてくれ……」




麦野「で、話って何よ? まあどうせホワイトデーのお返しがある、みたいなありがちなヤツだろうけどな」

浜面「えっ、何でバレてるの!? 俺のサプライズっ!?」

フレンダ「そりゃ今日は三月十四日。ホワイトデーの日にアンタがキモい挙動を取ってたら、そりゃもうね」

絹旗「で、浜面は何を持ってきたんですか? まあ、超期待なんてできませんけど」

浜面「え、ええっと……なけなしの金で買ったデパートのそこそこの菓子屋の菓子詰め合わせ」スッ

麦野「うわっ、ふっつー」

絹旗「まあでも、浜面にしては超努力したほうではないでしょうか?」

フレンダ「ま、所詮は浜面って訳よ」

浜面「すぎのこ村を買ってきたヤツに言われたかねえよ!」

フレンダ「何ぃー? すぎのこ村を馬鹿にしたなぁ? あれ見つけるのすっごく苦労したんだからね!」

浜面「ウケ狙いでそんなもん買おうとするからだろ!」

フレンダ「称賛もされないしウケもしないものよりは遥かにマシって訳よ」

麦野「いや、お前のすぎのこ村もそんなウケてはないよ?」

フレンダ「しょ、しょんなー!?」

浜面「く、クソ……たしかに俺のは面白みもねえただのお菓子の詰め合わせだ。駄目だ、勝てねえ……」

絹旗「えっ、今のでどこか負ける要素ありましたか? 何でこんなに超悔しがっているんですか?」

滝壺「大丈夫だよはまづら」

浜面「た、滝壺……」

滝壺「面白くないものでも大事なのは気持ちだから。どんなに面白くないものでも気持ちがこもっていれば大丈夫だから」ニコッ

浜面「何か一番ひでえっ!?」

麦野「まあいいや。食後のデザートっつうことで食ってやるか」

絹旗「へー、マカロンとか入ってますよ。さすがそこそこの店の詰め合わせ」

フレンダ「まあそこそこ美味しいね。悪くはないって訳よ」

滝壺「普通だね。ありがとうはまづら」


浜面(ぐっ、案の定ボロクソに言われているがそれは別に構わねえ。俺の狙いはただ一つ……!)



滝壺「……ん? なにこれ?」つ飴玉





浜面(き、来た……! 俺があとから入れた、駄菓子屋で買った飴玉だ……!)

フレンダ(なっ、あ、あれはキャンディー!? ホワイトデーでの意味は『あなたが好きです』!)

絹旗(私や麦野、フレンダの分には入っていない……? ってことはまさか浜面!)

麦野(……チッ、ヘタレ野郎かと思ってたけど結構攻めるじゃん。さーて、どうなるのか……?)


滝壺「……はまづら。これ……」

浜面「た、滝壺! こ、このキャンディーが俺のきも――」




滝壺「このお菓子の詰め合わせの内容物じゃないよね? 異物混入ってやつだよ。お店に連絡しといた方がいいよ」




浜面「えっ、あ、うん。そうだな」


絹旗「…………」

フレンダ「…………」

麦野「…………」


滝壺「……? どうしたの三人とも? 私の顔に何か付いてる?」


絹旗「……いえ、何でも。ぷぷっ」

フレンダ「ふふふふ何でもないって訳よ」

麦野「くくく、べ、別に……ふっ」

浜面「」



滝壺「?」



―――
――





同日 14:00

-第七学区・とあるホテルの一室(グループの隠れ家)-



ピー、ガチャン



黒夜「うーす、って誰もいるわけないか」

黒夜「ま、集合時間の二時間以上前だからそりゃなあ」

黒夜「そんな時間に来て何やってんだ私は」

黒夜「…………」

黒夜「時間もまだあるし、昼寝でもして暇でも潰すか」ゴロン



黒夜「…………」



黒夜(そういや今日ってホワイトデー、だったよなぁ)

黒夜(ひと月前のバレンタインで私は番外個体のヤツに嵌められて、海原のクソ野郎にイタズラという名目で手作りチョコレートなんかを渡すなんてことがあったが)

黒夜(あのクソ野郎は果たして私にお返しなんてものをしてくれんだろうか?)

黒夜(いや、別に期待なんてしてないし、欲しいとも思ってないんだけど)

黒夜(ただこっちだけ痛手を負って、向こうだけ何もないっつーのもおかしな話だよな)



ガチャ



黒夜(……よし、何も用意してなかったらヤツのドタマをかち割ってやる。いや、でも待てよ)

黒夜(そんなことをしたら、まるで私がお返しが欲しいヤツのように見えないか?)

黒夜(いやいやいらねえよそんなモン! ただくれなかったらムカつく、それだけだ!)

黒夜(でももしかしたらめっちゃ良いものもらえたりして……って何考えてんだ私!)

黒夜(これじゃまるで私がプレゼントをすごく欲しいみたいな――)




海原「おや黒夜じゃないですか。珍しいですね、こんなに早く来ているなんて」






黒夜「っておわっ!? う、海原ァ!? いつの間に現れやがったッ!?」

海原「今さっきですが。どうしたのですかそんなに取り乱して」

黒夜「な、何でもねーよ。アンタこそどうしたんだよ、こんな集合時間二時間以上前から来やがって」

海原「自分は特に異常がなければこれくらいの時間には来ていますが。ご存知ではなかったでしょうか?」

黒夜「んことなんて知るわけないだろ」

海原「まあ、いつも集合時間ギリギリに来ている黒夜には知るすべはありませんか」

黒夜「喧嘩売ってんのか?」

海原「そんな売ってもつまらないものなど、売る道理はありませんね」ガサゴソ

黒夜「うっとおしいヤツ。……何こそこそやっているのさ?」

海原「番外個体さんのお菓子のストックがここにはなかったはずなので、補充をしているんですよ」

黒夜「チッ、あのクソ女なんかの為にご苦労なことで。何が良いんだかあんなヤツ」

海原「彼女はそういう存在ではありませんよ。自分が守りたい人の、その周りの世界の中の一欠片。ただそれだけです」

海原「まあ、あの人から見たら彼女のことなんて毛先ほども知らない存在でしょうけどね」クスッ

黒夜「ふーん、そっか。でもさぁ、あの女を守ることとあの女のパシリになることは全然違うと思うんだけど、そこんとこどうよ?」

海原「パシリとは失礼ですね。これは彼女を守ることの一環としてお菓子等を買っているだけです」

黒夜「あー、そう。ま、別にどうでもいいんだけどね」

海原「……そうだ。貴女にちょっと用があるのを忘れていました」

黒夜「何だよ?」

海原「先月貴女からバレンタインのチョコレートをいただいたので、ホワイトデーのお返しを渡そうと」

黒夜「ふぇっ!?」

海原「えーと、確かこの辺に……」ゴソゴソ

黒夜「い、いや私そんなつもりで渡したんじゃねーっての! ありゃイタズラだから! だからそういうの求めてないから!」

海原「いえ、イタズラであれ何であれ、もらったものに対してお返しはしないと」ガサガサ

黒夜「だからいらねェっつゥの! 話聞けェ海原ァ!」

海原「……あっ、ありました。どうぞこちらを」スッ




つ5円チョコ




黒夜「……なにこれ?」

海原「ふふっ、しょせん貴女程度ではこの程度のものがお似合いだと思い、用意させていただきました。どうぞごゆっくりお召し上がりください」ニッコリ

黒夜「…………」

海原「おや、あまりにも感激しすぎて声も出ませんか?」ニヤリ

黒夜「…………び」

海原「び?」






黒夜「びえええええええええええん!! 何で私ばっかこんな扱いなんだああああっ!! あんまりだああああああああああっ!!」




海原「なっ!? 何ですかこれは、マジ泣き……!?」



黒夜「リーダーに性的な目で見られ、ビリビリ女に玩具にされて、その上に海原にまで弄ばれてええええええええっ!!」



海原「え、えっと……、本気なんですかこれ?」

番外個体「うわぁー、何か女の子を泣かせてやがるクソ野郎がいるー。まじひくわー」

海原「み、番外個体さん!? い、いつから……!?」

番外個体「さて問題。ミサカはいつから居たでしょうか? 『1.最初から 2.はじめから 3.スタートから』。どれでしょーか?」

海原「全部最初からじゃないですか! 一体どこに隠れていたんです!?」

番外個体「ずっとお風呂場でスタンバってました」

海原「また貴女は何かイタズラをしようと……」

番外個体「それがミサカの存在意義でもあるしね♪」

海原「なんですかその陰湿な存在意義は」

番外個体「ま、女の子泣かすようなヤツには言われたくないけどにゃーん?」

海原「……はぁ。それについては誤解があるんですよ。いや、誤解と言うのとも違う気がするんですけど。まあ自分が悪いことには変わりないんですが」

番外個体「ほうほう。このクソ野郎確定の状況を打破できるような理由があると?」

海原「打破できるかはわかりませんがね」


黒夜「ひぐっ、ひぐっ、もうやだこのグループ。みんなして私をイジメやがって」

海原「黒夜。ちょっとよろしいでしょうか?」

黒夜「……ひっぐ、なにさ?」

海原「今貴女に渡したヤツはあれです、冗談です」

黒夜「……冗談?」




海原「はい。ちょっと面白いかなと思ってやってみたんですが、まさかマジ泣きされるとは思わなくて……申し訳ないです」

黒夜「……ふ、ふざけンじゃねェ! 何が冗談だ、何が面白いだ、ふざけンなッ!」

海原「だから、お詫びと言っては…‥いえ、違いますね。これは詫びではないです。貴女に最初から渡そうと決めていたものです」

海原「都合のいいことを言っている自覚はありますが、受け取ってはいただけないでしょうか黒夜?」スッ

黒夜「これが……本当のやつ?」

海原「はい……」

黒夜「……チッ、うっとォしィ野郎だ。しょ、しょうがねェから受け取ってやるよ」スッ

海原「ありがとうございます」

番外個体「うわっ、ちょろっ」

黒夜「な、何か言ったかなァ? 番外個体クゥン?」グスン

番外個体「そんな涙目で睨まれても怖くないんだけど。やっぱかわいいねークロにゃんは♪」

黒夜「ぐっ、今回ばかりは言い返す言葉がねェ」

番外個体「あ、そうだ。海原ー、ミサカの分のホワイトデーはぁ?」

海原「もちろん用意してありますよ。自分のあらゆる人脈を使って手に入れた、あの店のチョコレートセットを!」

番外個体「あれ? ミサカには5円チョコくれないの? 面白愉快で泣けるサプライズはないわけー?」

海原「番外個体さんにそんなことするわけないじゃないですか。そんな面白くもないサプライズ」

黒夜「……は? 何言ってンだオマエ。何で私にやってそのクソ女にはやらねェンだよコラ」

海原「いえ、番外個体さんにはその分野ではかないませんからね。それにバレてるドッキリをやるほど自分も愚かではありませんよ」ニッコリ

黒夜「た、たしかにそォだけど、何か納得いかねェ!」

番外個体「あの店のチョコうめー」モグモグ


―――
――





同日 15:00

-第七学区・スクール隠れ家-


砂皿「…………」カチャカチャ

誉望「……ところで砂皿さん?」

砂皿「…………」カチャカチャ

誉望「砂皿さん?」

砂皿「…………」カチャッ

誉望「ちょっと無視ないでくださいよ。相変わらず愛想がないっスね」

砂皿「……何だ? 気が散るから手短に話せ」

誉望「おっ、悪口言ったら反応してくれた」

砂皿「貴様が五月蝿いから返事をしただけだ」

誉望「はいはいそーっスね。えっと今日ホワイトデーじゃないっスか?」

砂皿「それがどうした?」

誉望「砂皿さん彼女さんへお返ししたんスか? あの外にいる、えっと……ステファニーさんでしたっけ?」

砂皿「……だからあれはそういうものではないと言っているだろう」

誉望「またまたー、隠さなくてもいいのにー。本当は付き合ってるんでしょー?」

砂皿「くどいぞ」


ガチャ


海美「お疲れー。楽しそうに何を話しているのかしら?」

誉望「あっ、お疲れっス。砂皿さんが彼女さんにホワイトデーのお返ししたのかなー、って話してたんス」

海美「ああ、ステファニー・ゴージャスパレスさんに? それは気になるわね」

砂皿「だから違うと言っている」

誉望「往生際が悪いっスよー。素直にゲロっちまった方が楽なんじゃないですか?」

砂皿「今ここで撃ち殺してやろうか。ゼロ距離なら貴様でも防げまい」スッ

誉望「あははー、冗談冗談ホワイトデージョークっすよ」

海美「教えてくださいよー砂皿さーん!」キッ

砂皿「ッ、能力者め、そんなものを使っても貴様に話す口など持たん」

海美「もう、強情ね。まあ別にいいけど」




誉望「あっ、そうだ。これどうぞ心理定規さん」スッ

海美「あら、これってホワイトデーの? ありがとう誉望君」

誉望「いえいえ。大したもんじゃないですけど」

海美「……たしかに。私の渡したやつの金額を三倍した数字よりは安そうよね」

誉望「えっ!?」

海美「冗談よ。ありがと、うれしいわ」ニコッ

誉望「あはは……」

砂皿「…………」

海美「ん? 何か言いたそうな顔ね、砂皿」

砂皿「受け取れ能力者」ポイッ

海美「っと。あら、まさかあなたからお返しがもらえるとは思わなかったわ」

砂皿「ただの社交辞令だ。それ以上の意味はない」

海美「そうね。それ以上の意味は私たちにとっては必要ないしね。まあでも……」

誉望「でも? どうかしたんすか?」

海美「私にお返しをしたということは、必然的に彼女にはお返しをしたということになるわね」

砂皿「!?」

誉望「おおっ! たしかに!」

海美「砂皿―ステファニーの心理距離は友達以上恋人未満の数値だったわ。ただの他人の私に渡してそんな彼女に渡さない理由がないものね」

砂皿「勝手なことを言うな。能力者め」カチャ

海美「私を撃つつもり砂皿さん?」キッ

砂皿「くっ……!」

海美「……ところで垣根はここには来てないのかしら?」

誉望「そうですね。今日はここにずっといましたけど見てませんよ」

海美「そう。あの野郎もしかして日付変わるまで逃げるつもりかしら。電話にも出ないし」

誉望「やっぱ垣根さんにもバレンタインあげたんスね。しかし垣根さんのホワイトデーのプレゼントってすごそうっスよね。あの店のチョコレートセットとかめっちゃ買ってきそう」

海美「それくらいのをくれないと私絶対に許さないから」

誉望「一体何があったんスか……?」

海美「別に。ガキの相手は疲れるってだけ」

誉望「?」



チャララー♪




海美「電話? あら、噂をすれば何とやら」

誉望「垣根さんスか?」

海美「そう……もしもし?」ピッ

垣根『よお心理定規。何か用か電話なんかしてきて』

海美「別に用なんかないわ。暇つぶしに電話しただけ」

垣根『そんな理由で俺に電話してきてんじゃねえっつーの』

海美「あらごめんなさい。いっつも暇そうにしてたから、今日もてっきり暇なんだと思ってたわ」

垣根『喧嘩売ってんのか?』

海美「別に」

垣根『チッ、まあいい。ところでお前、今日の夜空いてるか?』

海美「唐突ね。特に用事はないけど? どうかしたのかしら、私に用事?」

垣根『えっと、あれだ。お前今夜一緒に飯でも食わね? よかったらだけど』

海美「……えっ? 今何て言った?」

垣根『だから飯食わねえかっつってんだよ。何回も言わせんなよ面倒臭せえ』

海美「いえごめんなさい。あなたがそんな食事のお誘いなんてしてくるなんて思わなかったら。一体どういう風の吹き回しかしら?」

垣根『チッ、つまんねえ詮索はするな。イエスかノー、それだけ答えろっつーの』

海美「そうね。特に何もすることないからいいわよ」

垣根『……そうか。それじゃあ第三学区のスクールのアジトに六時半に集合っつーことで。じゃあな』ピッ

海美「えっ、ちょ、どこの何の店に……って切りやがったわね。せっかちなヤツ」

誉望「どうかしたんスか?」

海美「垣根に夕食のお誘いを受けたわ。どこの何の店に食べに行くのかは教えられずに切られたけど」

誉望「へー、そうなんスか」

海美「ま、どうせあれよ? 焼肉食べたいけど一人じゃ入れないし、一緒に行く友達もいないから私に泣きついてきたに決まってるわ」

誉望「ふーん」

海美「そーいうわけだから、来たばかりで悪いけど私帰るわね? じゃ、あとよろしくね」

誉望「よろしくされても、別に今日も何もないでしょうけどねー」

海美「そんなことを言ってると、別の暗部組織に襲撃されちゃうかもしれないよ?」

誉望「不吉なこと言わんでくださいスよ……」

海美「じゃ、お疲れ様ー」


ガチャ


誉望「……砂皿さん」

砂皿「何だ?」カチャカチャ

誉望「さっきの話、あれって絶対垣根さんのホワイトデーのお返しの食事ですよね?」

砂皿「知るか。子供の色恋沙汰など興味ない」

誉望「ちぇー、さすが彼女持ちで大人な砂皿さんは言うことが違うスよねー」

砂皿「だからアイツは違うと言っている」


―――
――





同日 16:00

-とある高校・一年七組教室-


小萌「――というわけで、今日のホームルームは終わります」

青ピ「気をつけ、礼」


<ありがとうございましたー


結標「ふぅ、今日も終わったわね。帰りましょ一方通行」

一方通行「ちょっと待ってろ。少し用があるヤツがいる」

結標「用、って誰に?」

一方通行「見てりゃわかる」ガチャリガチャリ


女子生徒A「せんせさよならー」

女子生徒B「さよならー!」

小萌「はい、さようならー」

一方通行「……オイ、月詠」

小萌「はい? 何ですかアクセラちゃん?」

一方通行「ホワイトデーだ。何も言わずに受け取れ」スッ

小萌「えっ、もしかしてアクセラちゃん、わざわざ用意してくれたんですかー? 先生のために」

一方通行「何も言うなっつっただろォが。別にオマエの為にじゃねェよ。ついでだついで」

小萌「ってこれって有名なあの店のやつじゃないですかー!? せ、先生はそんなつもりでバレンタインを渡したつもりはないのですよー!」

一方通行「うぜェ。いらねェならゴミ箱にでも放り込ンでろ」

小萌「むむむむ、わかりました。ありがとうございますアクセラちゃん」ニコッ

一方通行「チッ、ぐだぐだ言わずにさっさと受け取れっつゥンだ」


上条「あっ、小萌せんせー! 俺のプレゼントも受け取ってくれー!」タッタッタ


小萌「上条ちゃんまで持ってきてくれたのですか? もー、そんなつもりで配ったんじゃないのにー」

上条「一方通行に比べたらしょぼいけど、上条さんの真心がこもった手作りクッキーなんで是非受け取ってくだせえ」

小萌「プレゼントに豪華もしょぼいもないんですよー。大事なのは気持ちなのですー。だから大丈夫ですよ、上条ちゃんの気持ちは気持ちはきちんと伝わりました」

上条「うわっ、そうまじまじと言われると何か照れくせーな」

小萌「上条ちゃんありがとうございました」ニコッ


結標「…………」

一方通行「終わったぞ。帰るか」

結標「まさか小萌先生の分まで用意してるなんて……一体何が貴方をそこまで駆り立てたのよ?」

一方通行「さァな。俺にも分かンねェ」

結標「……もしかして熱でもあるんじゃ……?」

一方通行「ねェよ、そンなモン」


―――
――





同日 17:00

-黄泉川家・リビング-



ガララ



一方通行「帰ったぞ」

結標「ただいまー」


打ち止め「あっ、アクセラレータにアワキお姉ちゃん! おかえりなさい、ってミサカはミサカは迎えの挨拶をしてみたり」

円周「二人ともおかえりー。そしてお邪魔してます」ピコピコ

一方通行「本当に邪魔だな。さっさと隣へ帰れ」

円周「やだよーだ。今イイところなんだから」ピコピコ

結標「何やってるの? ゲーム?」

打ち止め「うん! 学園都市クエストがいつまで経ってもクリアーできないから、エンシュウにやってもらってるの、ってミサカはミサカは説明してみる」

円周「そうそう。今さっきラスボスのアクセラお兄ちゃんを倒してクリアーしたところだよ」

結標「えっ、クリアーしたの? すごいわねー、いくら戦っても勝てなかったのに……」

一方通行「は? 俺がいつ負けたっつゥンだよ。ふざけたこと言ってやがるとぶち殺すぞガキが」

打ち止め「やだなーゲームの話だよー。そんな本気にしないでよ、ってミサカはミサカは振り上げた右腕を引っ込めることを勧めてみたり」

一方通行「ンだァ? ゲームの話だと? このゲームはクソゲーだな。全然原作再現出来てねェ」

円周「えっ、でも結構負けてるじゃんアクセラお兄ちゃん。当麻お兄ちゃんに数多おじちゃんに。あと、スキー場で一回第二位にやられてるし」

一方通行「随分と物知りだなァ、褒めてやるからこっちこい。頭撫でてやるからよォ」カチッ

円周「頭を撫でるのに何で電極のスイッチを入れてるの?」

結標「へー、貴方って上条君と戦ったことあるんだ。喧嘩か何か?」

一方通行「……まァ、そンなところだ」

打ち止め「あとヨミカワにも負けてるよねー。よくゲンコツ食らって伸びてるし、ってミサカはミサカは自分が食らった記憶を思い出して頭を押さえてみたり」

一方通行「アレはこっちがやられてやってンだよ。本気でやれば余裕でやれるし」

円周「でも電極スイッチ入れた時点で負けみたいなものだよねー」

結標「で、結局どうやって倒したの? ゲームの一方通行」

円周「簡単だよー。まず木原一族の仲間になります。木原神拳を取得します。アクセラお兄ちゃんをボコボコにします。以上」

一方通行「それは真っ当なクリアーの仕方なのか?」

円周「ゲームに実装されている時点で、それは正規の仕様なのだあ」

打ち止め「すごかったよねー木原神拳最終奥義。ダメージが9999でカンストしてたし、ってミサカはミサカはあの時の衝撃を思い出しながら語ってみる」

一方通行「絶対ェ正規の方法じゃねェ。チーターっつゥヤツじゃねェのか」

円周「オフラインゲームだからセーフ」



打ち止め「ところでアクセラレータ、ってミサカはミサカは唐突に呼びかけてみる」

一方通行「あン? ホント唐突だな」

打ち止め「ミサカ、ホワイトデーのお返しのプレゼントが欲しいんだけど、ってミサカはミサカは手のひら差し出して要求してみる」

一方通行「ああ、そォか忘れてた。ほらよ」スッ

打ち止め「えっ!? ……何で?」

一方通行「何でって、ホワイトデーだからだろ。つゥか、オマエが要求してきたンじゃねェか、何でそこで疑問を持ちやがる」

打ち止め「いや、だって素直にあなたがプレゼントを渡してくるなんて、今まで前例のないことだから、ってミサカはミサカは動揺を隠しきれなくなりながらも説明してみる」

結標「まあたしかにそうよね。ツンデレ一方通行らしくない行動よね」

一方通行「いつから俺はツンデレとかいう訳の分からねェモンになったってンだ」

円周「まあそれは最初からとしか……いや、待てよ。もしかしたら小学生の頃は素直で純粋な少年だったかもしれない……!」

結標「素直で純粋な一方通行……」


一方通行(ショタ)『ボク淡希お姉ちゃんのこと大好きー!! 一緒にベクトル操作の実験しよー!!』


結標「……素晴らしい!」グッ

一方通行「何勝手に一人で盛り上がってンだオマエ。残念ながら小学生の頃から俺はこンなだよ」

打ち止め「へー、そうなんだ。何か想像できないなーあなたがミサカと同じくらい小さいころなんて、ってミサカはミサカは想像力のなさに歯噛みしてみたり」

円周「でもあれだよね。小学生の頃からこんなってことは、あれから全然成長出来てな――」


ゴッ!


円周「おごごごごごごごごご、これ絶対つむじ増えたっ……! つむじが二つでダブルサイクロン……!」

一方通行「つーわけでオマエにはホワイトデーのプレゼントはきちンと渡した。だからこれ以上変なモン要求してくンじゃねェぞ」

打ち止め「うんそうだね。何はともあれあなたからのプレゼントは素直にうれしいかも。ありがとうアクセラレータ、ってミサカはミサカは笑顔でお礼を言ってみたり!」ニッコリ

一方通行「……おォ、大事に食えよ」

打ち止め「了解、ってミサカはミサカはさっそく包装紙を破いて開封作業に入ってみたり」

一方通行「言ったそばから雑に扱いやがって……」

円周「ねえねえアクセラお兄ちゃん」

一方通行「何だ」

円周「私の分がまだなんだけど」

一方通行「あるわけねェだろ。オマエからは何にも受け取ってねェンだからよォ」

円周「あれー? おかしいなあ? たしか私はずなんだけどなあ? あれー?」

一方通行「オマエの薬品入りチョコレートはきっちりオマエに突き返してやっただろうが」

円周「……そういえばそうだった! くそう、何で薬品なんて混ぜちゃったんだろうひと月前の私」

一方通行「知るか」

円周「ちっ、こうなってしまったら仕方がない。『木原』的にここは撤退するぜ」スタタタ

一方通行「おォ。そのまま帰って二度と来ンな」

結標「ばいばーい。また遊びにおいでー」ノシ

打ち止め「じゃあまた明日ー! ってミサカはミサカは手を振って見送ってみたり」ノシ


―――
――




同日 17:10

-第七学区・とある公園-



美琴「…………遅い!」


美琴(まったく、珍しくアイツからの呼び出しだっていうのに何で時間に遅刻するかな)

美琴(でも、今日の呼び出しってことはアレよね。ほ、ホワイトデーの……)

美琴(……も、もももしかしたら、もしかしたらって展開あったりして……な、なんて)



上条「おーい、御坂ー!」タッタッタ



美琴「なっ、アンタちょっと遅いわよ! 10分遅刻よ10分!」

上条「わりーわりー。ちょっといろいろあって」

美琴「アンタが決めた時間なんだから、そういう不足の事態を含めて時間を決めなさいよ」

上条「いやー、こっちもこれからバイトとかあるから、この時間しかないって思ってさ。すまねえ」

美琴「もう! まあいいわ、30分のとか1時間の大遅刻とか、挙句の果てには約束すっぽかすなんてことなかっただけマシよ」

上条「ははは、そんなことないって言えないのが情けねえ……」

美琴「で、よよ用事って何よ。私をこんなところに呼び出して」

上条「ああ。お前バレンタインの時にチョコくれたじゃん。だから、そのお返しにプレゼント渡そうと思ってな」

美琴「えっ、あ、そう。そうだったんだ。そういや今日ホワイトデーだったわねー、忘れてたわー」アセッ

上条「そうなのか。そういうイベントを忘れるくらい忙しかったんだな御坂。悪いなそんな時に呼び出したりして」

美琴「い、いや別にそんなことないわよ。気にしないでいいって」

上条「そうか。だったら喰らえ、上条さんお手製スペシャルデリシャスファンタスティックただのクッキーだ!」スッ

美琴「……要するにただのクッキーってわけよね。いろいろ言ったけど」

上条「そうです。超高級チョコレートとかじゃなくてすみません」

美琴「べ、別にいいわよそういうのは金額じゃないし。というかアンタクッキーとか作れたのね、意外」

上条「上条さんほどの料理スキルがあれば、レシピを片手にクッキーを作ることなど造作のないことだぜ」

美琴「それって別に大した自慢にはならないんじゃない?」

上条「ま、まあな」

美琴「ふーん、まあいいわ。ありがと、ありがたくいただくわ」

上条「おう。じゃあ俺バイトあるから行くわ。またな御坂」タッタッタ

美琴「あ、うん。また……」


美琴「…………」




同日 同時

-柵川中学女子寮・佐天涙子の部屋-


佐天「……ふむふむなるほど。テレポーターは三次元から十一次元へ物体を特殊変換する能力、つまり別次元に干渉できる能力である」

佐天「つまり、並行世界や異世界に物質を転移することが出来てもおかしくはない。またはその逆もまた然りである。

佐天「こういった理論を実証するための研究が密かに行われているという噂」

佐天「ふーん、何かすごそう! 今度白井さんに教えてあげよう、と」



チャララー♪



佐天「はい、もしもし」

美琴『あっ、佐天さんこんにちは。ちょっと電話いい?』

佐天「いいですよー、どうかしました?」

美琴『さっきアイツにホワイトデーのプレゼントってことで、手作りクッキーもらったんだけど』

佐天「ああ上条さんにですか? へー、そうなんですか。それは良かったですねー」

美琴『それが素直に良かったと言えるかどうか微妙なのよ』

佐天「どういうこと……あっ、たしかクッキーって」

美琴『そうなのよ。ホワイトデーでクッキーの意味って『友達でいましょう』じゃない? これってやっぱりそういうことなのかな……』グスン

佐天「あー、えーと、その……、た、たぶん大丈夫じゃないですか?」

美琴『……何で?』

佐天「たぶんですけど、上条さんはそういうつもりで渡したんじゃないと思います。今から名探偵涙子がバリバリの推理をしながら説明します」

美琴『お、お願いします!』

佐天「まず、上条さんがホワイトデーのクッキーの意味を知っているかどうか、それは正直どっちの可能性もあります。なのでこれは置いておきます」

美琴『置いておくんだ……』

佐天「まず御坂さんから聞いてた話からの推測です。上条さんは大変モテモテな人です。事実バレンタインデーにたくさんのプレゼントをもらっていました」

美琴『う、うん。全部義理ってアイツは言ってたけど……』

佐天「いえ、おそらくそれは勘違い。間違いなく本命も混じっているでしょう。まあ、その話は今とは関係ないので置いておきます」

美琴『置いておくなら何で話すの……?』

佐天「いやー、何と言うかいたずらごころっていうかなんというか」

美琴『もう! こっちは真面目に話してるのよ!』




佐天「えへへごめんなさいごめんなさい(御坂さんをからかうのは面白いけどこれ以上はやめとこ)。では続きを」

佐天「大量のバレンタインプレゼントをもらったということは、必然的にホワイトデーに大量のお返しをしないといけないことになります」

佐天「別に返さなくてもいいんですけど、御坂さんから聞いた感じでは上条さんは律儀に返しそうな人だから、間違いなくそういう事態になるでしょう」

佐天「そして上条さんは結構家計が厳しい家庭の方です」

美琴『そうね、いつもスーパーの特売特売言ってるし、バイトしてるらしいし』

佐天「そんな上条さんに大量のホワイトデーのプレゼントを買う余裕はないはず。そこで上条さんは考えました」


佐天「お菓子が買えないなら作ればいいじゃない、と」


佐天「普通に買ったら少し割高になるものでも、業務用のスーパーとかで材料を買い込んで大量生産すれば安上がりになります」

佐天「しかもクッキーは、作る手間もそんなに面倒臭くなく簡単なので、大量生産にはうってつけのお菓子です」

美琴『な、なるほど……』

佐天「ほかにも手作りできるお菓子の種類はありますが、難易度、メジャーさ、それらを考えればクッキーがベスト!」

佐天「だから上条さんはホワイトデーにクッキーを作ることを強いられていた、つまりそんなホワイトデーのお菓子の意味なんて考えてる暇はなかったはずです」

美琴『…………』

佐天「そういうわけなんで、大丈夫ですよ御坂さん。そんな心配なんて無用です」

美琴『……あの、佐天さん?』

佐天「なんでしょう?」

美琴『どのみち大量生産されたクッキーってことは、結局そういう義理的な意味になるんじゃ……』

佐天「…………」

美琴『…………』



佐天「だ、大丈夫ですよ御坂さん! おそらく上条さんはホワイトデーのお返しを全部クッキーで済ませてる=本命の相手なんていないはずなので、まだまだチャンスはありますよ!!」



美琴『い、一体それはどういう推理で導き出された答えなの……!?』

佐天「……め、名探偵涙子ちゃんの勘、ですかね?」

美琴『駄目じゃない!!』


―――
――





同日 17:30

-第七学区・ファミリーサイド付近のコンビニ-


ウイーン


御坂妹「ありがとうございました、とミサカは感謝の挨拶をします」

芳川「ありがとうございましたー」


御坂妹「…………」ソワソワ

芳川「ふふっ」

御坂妹「何ですか? いきなり意味深な笑みを浮かべて、とミサカは怪訝な表情を浮かべます」

芳川「そろそろ彼が来るから、一見無表情な貴女でも内心ウキウキワクワクなんだろうなあ、とか思ってたら面白くて」

御坂妹「勝手に人の心を妄想して笑うのはやめていただきたいのですが、とミサカは注意を促します」

芳川「あら、間違ってた?」

御坂妹「そうですね。正確にはドキドキワクワクです、とミサカは訂正します」

芳川「大して変わらないじゃない。ちなみにだけど私は今ウキウキワクワクしてるわよ。割と」

御坂妹「あなたのことなど知りませんよ。というかなぜです? とミサカは問いかけます」

芳川「ホワイトデーに踊らされてる人からイイものがもらえるかもしれないからよ」

御坂妹「?」


ウイーン


上条「とあっ! よし、ギリギリセーフッ!」ダッ


御坂妹「……何か一カ月前も同じような光景を見たような、とミサカはデジャヴを感じ困惑します」

芳川「というかいい加減遅刻しそうだからって、正面入り口から入ってくるのやめたら? お客様が居たら失礼よ」

上条「あははすみませんつい」

御坂妹「そもそもギリギリセーフでたどり着いても、仕事の準備ができてなければアウトなのでは、とミサカは正論を述べてみます」

上条「ぐっ、たしかに」




芳川「何でもいいけどとりあえず準備してきたら?」

上条「う、うっす。……あっ、そうだ、二人に渡すものがあるんだけど」

芳川「おっ、お待ちかねのホワイトデーのプレゼントよ」

上条「へっ? そんな期待しても大したもん出ないすよ?」

芳川「別に私はそうでもないんだけどね……ねえ?」

御坂妹「なぜこっちを見るんですか、とミサカは横目で睨みつけます」

上条「まあいいや。俺が作ったクッキーなんすけど。本当に大したもんじゃなくてすんません」スッ

芳川「いえいえ、そんな気にしなくて大丈夫よ。嬉しいわありがとう」

上条「ほら、御坂妹も」スッ

御坂妹「あ、ありがとうございます、とミサカは受け取りながらお礼を言います」

芳川「しかし、男の子でわざわざ手作りするなんて珍しいわね。お料理が好きなのかしら?」

上条「いえ、単純に金無しなんで安上がりのもんで済ましてるだけですよ」

芳川「なるほど。手作りせざるを得ない状況になるくらいもらっているわけか。さすが、ね?」

御坂妹「だからなぜミサカを見るのですか、とミサカは再度問いかけます」

芳川「別に意味はないわ」ニヤニヤ

御坂妹「ぐっ……」

上条「じゃあ着替えて準備してきまーす」テクテク


上条(しかし、結局雲川先輩やイギリスの連中には渡せなかったなぁ)

上条(まあイギリスの連中がここに来ることなんて稀だからしょうがないとしても、雲川先輩くらいは運良く会えるかと思ったけど)

上条(……よくよく考えたら、上条さんに運良くなんてことあるわけなかったな。こんなことなら卒業式の時に連絡先聞いとけばよかったなー)



―――
――





同日 18:30

-第三学区・スクール隠れ家-


海美「さて、そろそろ時間かしらね」←私服

海美「一体何を食べに行くっていうのかしらね? というかこれ垣根の奢りよね? 何かそういうところケチ臭そうだから割り勘とか言ってきそう……」

海美「サイフここに置いといてやろうかしら」


~10分後~


海美「……遅い。あれ? 待ち合わせ時間六時半よね? もう10分も過ぎているのだけど」

海美「もしかして六時半ってあれ? 明日の朝六時半って意味? いや、でもたしか今夜って言ってたはず……」



ガチャ



垣根「おぃーす。待たせたな」

海美「……ふう、よかったわ」

垣根「あん? 何の話だ?」

海美「ええ、私が時間を間違えたわけじゃなくてあなたが無様に遅刻した、ってことがわかったからよかった、って話よ」

垣根「誰が無様だとテメェ」

海美「……ていうか、ちょっといいかしら?」

垣根「何だよ」

海美「あなたの私服ってそんなフォーマルな感じの服装だったっけ?」

垣根「いや違うけど。今日の為に買った」

海美「今日の為? あなた一体今夜どんな店に行くつもりなのかしら?」

垣根「まあ見てのお楽しみっつーところだ。それじゃあ行くぞ」スタスタ

海美「え、ええ」





-第三学区・とある高級ホテル前-



海美「……こ、ここって」

垣根「そう。学園都市の中でもトップクラスの、いわゆる最高級ホテルっつーヤツだ。その最上階にあるフレンチレストラン、そこが今日のメシ食う場所だ」

海美「ちょ、ちょっと聞いてないわよこんなところでご飯を食べるなんて!」

垣根「あん? 言ってなかったっけ?」

海美「言ってなかったわよ! こ、ここに来ることがわかってたら、こんなみすぼらしい格好してこなかったわよ!」

垣根「てか何で今日はオフの格好してんだお前? いっつもキャバ嬢が来てそうなドレス着てんのに」

海美「あれはあくまで仕事着よ。普段から着てるわけじゃないし。だいたい今日は焼き肉とかファミレスとかそういうしょっぼい店に行くと思ったから、こういう服装で来たわけだし」

垣根「誰も焼き肉やファミレスなんて行くって言ってないだろ」

海美「さっきも言ったけど高級レストランに行くなんて一言も聞いてないからね」

垣根「まあいいや。それじゃそろそろ時間だ、行くぞ」

海美「よくないわよ。ちょっと一度戻って着替えてくるわ。こんなみすぼらしい格好で店に入りたくないわ」

垣根「知るか。予約の時間が来るっつってんだろ。そんな戻ってる時間はねえ」

海美「嫌よ」

垣根「……ったく、しょうがねえなぁ」ファサッ

海美「こんなところで能力を使って何をする気? もしかして私の家まで送ってくれるのかしら?」

垣根「そんな面倒なことするか。お前、気を付けしろ気を付け」

海美「? こう?」

垣根「……数値はこんなところか。行くぜ、未元物質(ダークマター)物質化、ドレス」


キュイーン


海美「こ、これは……」←白ドレス着用

垣根「よし、我ながら上出来だな。色は味気ねえ白だが、これなら別に浮かねえだろ」

海美「…………」

垣根「どうした? もしかして気に入らねえって言うつもりじゃねえだろうな? その場合全裸で入店コースっていうもっとみすぼらしいことになるけどよお」

海美「いえ、そういうわけじゃないわ」

垣根「じゃあ何だってんだよ」

海美「ただ素敵なドレスね、って思っただけよ」

垣根「……お、おう。そりゃそうだ、誰が作ったと思ってやがる。つーか時間が来てんだ、こんなところでゴチャゴチャ言ってねえで行くぞ」

海美「そうね」クスッ





-第三学区・とある高級ホテル最上階フレンチレストラン-



ウェイター「――二名でご予約の垣根様ですね。こちらの席へどうぞ」


垣根「おう」

海美(うわっ、ほんとにこのレストランで食事をするのね。まるで夢でも見てるようだわ……)

垣根「どうした? 顔強張ってんぞ? 緊張してんのか柄にもねぇ」

海美「まあね。この店に来るのは初めてだし」

垣根「援交してるときにパパに連れてきてくれるみたいなことなかったのかよ」

海美「援交じゃないし、援交言うなし。たしかにこういうレストランに連れてきてくれる人は居たけど、このレベルのヤツは初めてよ」

垣根「……へー」

海美「だいたいこんな場所で下品な発言やめてくれない?」

垣根「じゃあ何て言えばいいんだよ? パパ活?」

海美「意味的にはそっちのほうが合って……だから、そういう発言をやめなさいと言ってるの」

垣根「へいへい」



ウェイター「こちらが席になります」



海美「!!」

垣根「ほう、こいつは絶景ってヤツだな」



ウェイター「どうぞお掛けください」スッ



海美「すごい、ここって窓際の特等席じゃない!?」

垣根「当たり前だ。俺に相応しい席っつったらここしかねえだろうが」

海美「相応しいかどうかは知らないけど、……へえ、いい夜景ね。ビルの窓からの光がたくさんでまるで星空みたい……」

垣根「この光一つ一つにちんけでカスみたいなヤツらがせこせこ働いてると考えると、笑えて来るよな」

海美「……台無しよ」ハァ


―――
――





同日 19:00

-黄泉川家・リビング-



ガラララ



芳川「ただいま」

打ち止め「おかえりなさい! ってミサカはミサカは出迎えの挨拶してみたり」

結標「おかえりなさい。さっき連絡あったんですけど黄泉川さん今日アンチスキルの仕事で、遅くなるらしいですね」

芳川「ええ、私のほうにも連絡がきたわ。だからこれを買ってきたわ」スッ

打ち止め「おお、コンビニのお弁当だ! ってミサカはミサカはレジ袋の中身に興味津々になってみる」

芳川「別に大したもの入っていないわよ。ただの弁当におにぎりくらい」

打ち止め「こんな時間にコンビニ弁当を食べるだなんて新鮮かも」

結標「そうかもね。いつもはちゃんと黄泉川さんが作ってくれるし、遅くなってたら出前頼んでたものね」

芳川「悪かったわね。安物のコンビニご飯で」

結標「いえ、別にそんなことを言ってるわけじゃ」



ガラララ



一方通行「コーヒーコーヒーっと、あン? 帰ってやがったのか芳川」

芳川「帰ってたのよ一方通行」

打ち止め「今日の晩ご飯はコンビニの弁当だよ、ってミサカはミサカは報告してみる」

一方通行「どォでもイイ」

打ち止め「どれが食べたい? 唐揚げ弁当とかのり弁とかあるけど、ってミサカはミサカはあなたの言葉を無視して話を進めてみる」

一方通行「オマエらで適当に食ってろ。余ったのもらう」

結標「無欲ね。というより選ぶのが面倒臭いとか言うつもりかしら?」

一方通行「御名答」




芳川「だったらこのサラダを残しておきましょ。そうすれば野菜分の足りてない彼にはいい栄養補給になるんじゃない?」

一方通行「ふざけンなァ! そンなモン買ってきてンじゃねェぞ芳川ァ! 嫌がらせかコラ」

芳川「何でもいいって言ったのはキミじゃない? 自分の言葉には責任を持ちなさい」

一方通行「クソったれが」

結標「安心して一方通行。それ私が選ぼうとしてたやつだから」

芳川「駄目よ淡希甘やかしちゃ。こういうヤツには厳しくしてやらないと付け上がるだけよ」

結標「いや、私は普通にこれが食べたいだけなんですが……」

一方通行「そォいうわけだ。無様な作戦失敗だな芳川ァ」

芳川「こんなこともあろうかと野菜スティックなるものを買ってきているのだけど」スッ

一方通行「よし、せっかくだから俺はこの唐揚げ弁当を選ぶぜ」スッ

結標「えらくあっさり選んだわね……」

打ち止め「のり弁に入ってる磯辺揚げうまー、ってミサカはミサカはちくわを頬張りながらコメントしてみる」モグモグ

一方通行「……そォだ。芳川、これ受け取れェ」ポイ

芳川「よっと。あら、随分と手荒なホワイトデーじゃない?」パシッ

一方通行「オマエ俺を騙しやがったな? 三倍返しが絶対みてェなこと抜かしやがって」

芳川「誰も絶対とは言っていないわ? キミが勝手にそう解釈して動いただけじゃない?」

一方通行「チッ」

結標「……なるほど。やけに今日の一方通行は準備がいいなあって思っていたけど、芳川さんが裏で動いていたのね」

芳川「人聞きの悪いこと言うわね。ただ彼が私にホワイトデーとは何なのかを尋ねてきたから答えてあげたに過ぎないわ」

一方通行「オマエに聞いたのは最大の失敗だったわけだなァ。反省しねェとな」

結標「うわっ、反省するって言葉がここまで似合わないヤツっているのかしら?」

一方通行「頭ァ叩き割るぞオマエ」

芳川「ま、とにかくありがとね一方通行。ありがたくこのチョコレートセットはもらっていくわ」

一方通行「覚えてろよクソババァ」

芳川「はいはい」


―――
――





同日 20:30

-第三学区・とある高級ホテル最上階フレンチレストラン-


垣根「ふぅ、なかなかうまかったな。さっきの肉料理」

海美「それはそうよ。どれだけランクの高い店だと思っているわけ」

垣根「まあでも量は少なかったな。もうちょっと欲しかった」

海美「何というか、その発想が貧乏人臭いわね。ここはそういう店じゃないのよ? わかってる?」

垣根「うっせーな、わかってるっつうの。ただ素直な感想を言っただけじゃねえか」

海美「思っていてもそれは言わないようにするのがマナーよ」

垣根「チッ、面倒臭せー店だなおい」

海美「……それで、何であなたは今日、その面倒臭い店で食事をしようなんて言い出したのかしら?」

垣根「あん? ああ、あれだよ。まず食事をしようって誘ったのは、これがホワイトデーのお返しっつーことだからだ」

海美「えっ、これがホワイトデーのお返しだったの?」

垣根「つか気付かなかったのかよお前」

海美「……言われてみれば、ここまでの行動すべて何をとってもあなたらしくない行い、たしかに気付くポイントはあったわね」

垣根「お前何か失礼なこと言ってんだろ?」

海美「別に。というか何でお返しが食事なわけ? 普通にプレゼントをくれればよかったんじゃない?」

垣根「はあ? お前、俺を誰だと思ってやがる。垣根帝督だぞ? 俺に常識的なホワイトデーなんて似合わねえ。っつーわけで食事に誘ったっつーわけだ」

海美「なるほどね。で、わざわざここを選んだ理由は?」

垣根「ま、それはあとで教えてやるよ。……そろそろだな」

海美「何?」

垣根「サプライズってヤツだ。窓の外を見やがれ」

海美「サプライズをサプライズって言ってやったら意味ないんじゃない?」

垣根「いいから見ろっつーに」

海美「はいはい、……!? こ、これは……!」


モブA「お、おい見てみろよ窓の外。何か巨大な真っ白な花火が上がっているぞ?」

モブB「てかあれって花火なの? 全然消える様子がないんですけど……?」


モブC「すごい……いろいろな形に次々と変化していく」

モブD「どういう原理なんだあれ?」




海美「…………」

垣根「俺の未元物質(ダークマター)に常識は通用しねえ」

海美「あの花火、あなたの仕業?」

垣根「当たり前だ。あんな芸当俺以外じゃ出来ねえよ」

海美「相変わらず趣味が悪いわね。真っ白な花火なんて華やかさの欠片もないわ」

垣根「悪かったな」

海美「……でも」

垣根「あ?」



海美「綺麗ね……とっても」



垣根「……へっ。テメェも十分趣味悪りいじゃねえか」

海美「誰かさんといつも一緒にいるおかげでね」

垣根「人のせいにするなっつーの」



ウェイター「失礼いたします。こちらデセールになります。あの店のチョコレートを使用した、『ブロンディ・オ・ショコラノワール・エ・ショコラブラン』です」スッ



海美「あら、すごいわね。あの店のチョコレートを使っているなんて、さすがね」


ウェイター「こちらのチョコレートは垣根様よりお持ち込みいただいたものです」

垣根「おい余計なこと言ってんじゃねえよ」

ウェイター「申し訳ございません。出過ぎた真似をいたしました」

海美「へー、あなたがわざわざ、ねえ」ニヤニヤ

垣根「チッ、そんな顔で見んなうっとおしい」


ウェイター「ではごゆっくり」




同日 21:00

-第三学区・とある高級ホテル前-


垣根「……ふぅ、やっぱ何か食った気がしねえな」

海美「あれくらいでちょうどよかったわよ。だいたいああいう店はお腹一杯にするのが目的じゃないわ」

垣根「コスパが悪いっつーヤツだな」

海美「……やっぱりあなたには似合わないわね、ああいう店は」

垣根「チッ、まあもう来ることもねえから別にいいけどよお」

海美「そういえばまだ聞いてなかったわね。何でこの店を選んだのかを」

垣根「ああそうだ。これを言っとかなきゃ俺のホワイトデーは終わらねえんだった」キリ

海美「な、何よいきなりそんな真面目な顔して……」

垣根「ああ。これは今日絶対にお前に言っときたい言葉があってな」

海美「……えっ、そ、それって」アセ

垣根「よーく聞け心理定規……いや、 獄彩海美」

海美「ちょ、急に本名で呼ばないでちょうだい、き、気持ち悪い……!」ドキン

垣根「チッ、うるせえな別にいいだろ面倒臭せぇヤツめ。まあいい、よく聞け心理定規」

海美「……は、はい」ドキドキ






垣根「ざまあみろクソガキが!」






海美「……え?」


垣根「お前バレンタインのときに散々俺をガキ扱いしやがっただろうが。だがよお、今日のホワイトデーのお返しを思い出してみろ!」

垣根「高級ホテルで食事。サプライズの花火。こんなもんそこらのガキじゃ出来ねえ。つまり俺は超絶完璧な大人っつーわけだ」

垣根「思い知ったか心理定規! この俺の『大人』なホワイトデーっつーのをよお!」


海美「…………はぁ」

垣根「あん? 何だその残念なものを見た後のため息みてえなのは?」

海美「別になんでもないわ。私ちょっと気分が悪いから先帰らせてもらうわ」

垣根「そーか。じゃあここでお開きだな。お前絶対今日のことを、かけがえのないひと時として記憶の中に永久保存しとけよ」

海美「……そうね」

垣根「あん?」

海美「たしかに楽しいホワイトデーだったわよ。こんなの初めてだったし、たぶん忘れることもないわ」



海美「ありがとうね、垣根」ニコッ



垣根「……お、おぉ」


―――
――





同日 21:30

-黄泉川家・リビング-



ガラララ



黄泉川「ただいまじゃん! いやーすごかったすごかった」


結標「おかえりなさい黄泉川さん。すごかったって何がですか?」

黄泉川「何か九時前くらいに真っ白な花火が上がってたんだけど、それがどういう仕組み知らないけど10分くらいずっと形を変えながら空に滞在してたじゃんよ」

結標「へー、学園都市の新しい技術なのかしら?」

一方通行「こンな時期に花火を上げるなンて酔狂なヤツがいたモンだな」

黄泉川「しかしみんな遅くなって悪かったじゃん。コンビニ弁当を晩飯にさせちゃって」

結標「たまにはいいですよ。黄泉川さんも今日くらいゆっくりしてください」

黄泉川「ほんと悪いじゃんねー。しかし一方通行、お前がこの時間にこんなところにいるなんて珍しいな。いっつも部屋かソファで寝てんのに」

一方通行「あン? 居たら悪いかよ」

黄泉川「別に。なんなら久しぶりに将棋でもするかー?」

一方通行「そンな勝ち負けの決まったゲームなンざしたくねェよ」

黄泉川「まあ私も正直疲れてるからやりたくないけどな」

一方通行「だったら誘ってくるなよ」

結標「あっ、黄泉川さんお茶でも入れてきましょうか? それともコーヒーがいい?」

黄泉川「ありがとうじゃん。お茶で頼む」

結標「はーい」テクテク

一方通行「……黄泉川」

黄泉川「何じゃん?」

一方通行「疲れてるっつったな。だったらコイツでも食ってろ」スッ

黄泉川「うん? おっ、何これチョコレート?」

一方通行「疲れてるときには甘いもの、ってな」

黄泉川「……ぷふっ」

一方通行「あァ?」




黄泉川「ぷわっははははははははははははははははっ!!」

一方通行「な、何を笑ってやがる!?」

黄泉川「くふっ、い、いやーだってお前がそんな似合わないセリフを言うなんて思わないじゃん?」

一方通行「チッ、俺だってわかってンだよ、らしくねェなンてよォ」

結標「そうよね。ほんと、今日の貴方はいろいろと変わってるわよね。お茶置いときますね黄泉川さん」ガチャ

黄泉川「おっ、ありがとじゃん」

一方通行「皆まで言うな。面倒臭せェ」

黄泉川「これってあれか? 今日ホワイトデーだから、バレンタインのお返しってやつ?」

一方通行「そォだよ。分かったら黙って受け取ってろよ」

黄泉川「はいはいありがとじゃん。へー、これってあの有名な店のチョコレート? すごいじゃん」

結標「ほんとすごいですよね。どんな手を使って手に入れたのやら……」

一方通行「言ったじゃねェか。常盤台の知り合いに頼ンだってよ」

結標「ほんとかしらね?」

一方通行「嘘は言ってるつもりはねェ」

黄泉川「しかし、今日はお疲れじゃんね。お前たくさんもらってたから今日一日大変だったんじゃないか?」

一方通行「まァな」

黄泉川「そうか。……で、どうだった? 今日のホワイトデーの感想は?」

一方通行「……‥…」





一方通行「二度と御免だ。こンなクソイベント」




―――


心理定規ちゃんとゴーグル君の名前が解禁されてたから改名させたけど違和感すげンだわ

次回『焼き芋大会』

とくに書くことねーや

投下



9.焼き芋大会


March Forth Saturday 20:00

-黄泉川家・食卓-



一方通行「ハァ? 明日焼き芋大会に行って運営を手伝えだァ?」

黄泉川「そうじゃん」

結標「その焼き芋大会ってどういうのなんですか?」

黄泉川「ああ、町内会の主催のヤツじゃん。近くのでっかい公園を借りてやる子供向けな感じの」

一方通行「つーか、何でそンなモンの手伝いに行かなきゃいけねェンだ?」

黄泉川「いやー、実は私もその大会の係員の一人だったんだけどさー、ちょっとアンチスキルの仕事で緊急なヤツが入ってな」

結標「なるほど。それで代わりに私たちに行ってこい、と」

黄泉川「そうそう」

一方通行「オイ、その大会とやらは町内会でやってるヤツだろ? だったらその役員の中に暇なヤツくらい何人かいるだろ。ソイツらに頼めよ」

黄泉川「いやー、そうしたいのはやまやまなんだけどなー、こんな夜分に連絡するのも悪いし、ぶっちゃけると私、町内会の中では結構若年者だから頼み辛くて……」

一方通行「えっ? オマエの年齢ならもっと上の――」



ゴッ!



結標「それにしても何で私たちなんです? 芳川さんは出られないんですか?」

芳川「残念。私はバイトよ。まあ、休みだとしても行きたくはないけどね」

黄泉川「薄情な親友じゃんね」

一方通行「……まあ他に頼めるヤツが居ねェことはわかった。だが欠員は一人だろ? だったら一人だけ行かせりゃイイだろォが。俺を巻き込ンでンじゃねェ」

黄泉川「運営するのは大人たちだからな。その中に子供一人に行かせるのは酷だろ? だから二人で行けば怖くない、って感じじゃん」

一方通行「そォか。だったら結標はしっかりしているから問題ねェ。安心して任せられる」

結標「何よ? 私が行くことは確定しているわけ?」

一方通行「どォせ暇だろうが」

結標「それは貴方にも言えることじゃない? ちなみに昼寝で忙しいはなしね」

一方通行「クソが」




打ち止め「はいはーい!! だったら代わりにミサカが行くよ、ってミサカはミサカは挙手して志願してみたり」

一方通行「一番の不安要素は黙ってろよ」

打ち止め「ぶーぶー」

黄泉川「そういうわけだから、二人とも頼むじゃん。手伝ってくれたら焼き芋一個ただで食べさせてくれると思うからさ」

結標「……まあ、別に明日はすることないからいいですよ。参加する側じゃなくて、運営する側ってのも面白そうだし」

一方通行「つゥか、金取るのかよこの焼き芋大会」

黄泉川「ちなみに参加費三百円じゃん」

一方通行「俺らの日当三百円かよ」

打ち止め「三百円か……それならミサカのお小遣いでも大丈夫そうだね、ってミサカはミサカは明日の予定が出来たことを喜んでみたり」

一方通行「チッ、オマエも来るのかよ」

打ち止め「うわっ、露骨に嫌な顔するね。慣れない環境の中だったら知り合いが一人でも多い方が気が楽になったりするよ、ってミサカはミサカは知ったようなことを言ってみたり」

一方通行「慣れない環境だろうと気なンて重くならねェよ」

芳川「あら。スキー旅行の行きの時、車の中で風斬さんと二人きりになってものすごく動揺してたキミがそれを言うのかしら?」

一方通行「何だと?」

結標「そういえばメールでSOS出してきてたっけ。あれは面白かったなあ……」

一方通行「変な記憶呼び起こしてンじゃねェよ!」

黄泉川「じゃ、二人ともよろしくじゃん」

結標「はい」

一方通行「面倒臭せェ」


―――
――





March Third Sunday 13:00

-第七学区・とある公園-


一方通行「……はァ、今日ほど面倒臭せェと思ったことはねェな」

結標「そのセリフ、今までに何回も聞いたことあるような気がするのは気のせいかしら?」

打ち止め「よーし、今日は焼きまくるぜー! ってミサカはミサカは背中に大きな気合の炎をまとっている気分になってみたり」

結標「そういえば今日は円周ちゃんいないのね。いつもこういうイベント事のときって一緒に付いてきてるイメージあるけど」

打ち止め「誘ってみたんだけど、何か今日は実験で忙しいとか言ってて断られちゃったんだ、ってミサカはミサカは説明してみる」

結標「そう。それは残念ね」

一方通行「うぜェのがいなくてせいせいするがな」

結標「……あっ、設営のテントが見えてきたわ。たぶんあそこが会場じゃない?」

打ち止め「よーし、ならばいざ突撃じゃー! ってミサカはミサカは指をさしながら駆け出してみたり」タタタ

一方通行「走ンな! コケて怪我でもされたら面倒だ」

打ち止め「コケないよーだ! ってミサカはミサカは気にせずダッシュ!」ダダダ

結標「子供は元気よねー」

一方通行「うっとォしいだけだ」


結標「こんにちはー」

係員1「おやこんにちは。話は聞いてるよ、黄泉川さんの代理の方たちだね?」

結標「結標です。至らぬ点が多々あると思いますが、本日はよろしくお願い致します」ペコ

係員1「これはご丁寧に。こちらこそよろしくね」


打ち止め「おおー、アワキお姉ちゃんが家では見せたことないような大人な対応をしてる、ってミサカはミサカは動揺を隠しきれずにいたり」

一方通行「やっぱ俺いらねェよォな気がして仕方がねェンだが」

打ち止め「そうだね。あなたが出ていっても何もできなさそう、ってミサカはミサカは同意してみる」

一方通行「オイ、それはどォいう意味だクソガキ」

結標「何やってるのよ一方通行。こっちに来て自己紹介しなさいよ」




一方通行「一方通行だ」

打ち止め「打ち止めでーす! ってミサカはミサカは自己紹介してみる」

係員1「はいよろしく。ちなみにこの子は……」

打ち止め「ミサカはお手伝いさんじゃなくて、このなけなしの三百円を持ってきて焼き芋を食べに来た参加者でーす、ってミサカはミサカは百円玉三枚を見せつけてアピールしてみたり」

結標「すみません。この子一人じゃここまで来れるかわからないので、先に連れてきちゃったんですよ」

係員1「なるほど。……そうだ、始まるまで暇だろ? なら君も手伝ってくれないかな? そうしたら参加料をタダにしてあげよう」

打ち止め「えっ、ほんと? 手伝う手伝うー! ってミサカはミサカはやる気アピールを発してみたり」

結標「いいんですか?」

係員1「構わないよ。それに始まるまで一時間もあるんだ。君たちもこの子が目に届く範囲にいたほうが助かるんじゃないかな?」

結標「ありがとうございます。ところで私たちは何をすればいいんですか?」

係員1「そうだね。君たちは机と椅子の設営を手伝ってもらおうかな」

結標「机と椅子を?」

係員1「そうそう。長机とパイプ椅子があるからそれを運んで、組み立てて並べてほしいんだ。すでにやってる係の人がいるから詳しくはその人に聞いてくれ」

結標「分かりました」

係員1「あと君たちはお客さん、要するに子供たちの対応も手伝ってもらおうと思っているのでそのつもりでいてくれ」

一方通行「は?」

打ち止め「了解! 子供の対応なんて全部ミサカに任せなさい、ってミサカはミサカはお姉さんアピールをしてみたり」

係員1「いや、君はそのときはお客さんとして参加してくれればいいよ」

打ち止め「そっかー、それは残念だね、ってミサカはミサカは指をくわえてみる」

係員1「じゃ、頼むよ」

結標「分かりました」


-机・椅子設営場所-


係員2「おっ、黄泉川さんとこの居候さんたちだね。今日は来てくれてありがと」

結標「いえ。ところでどういう風にやればいいです?」

係員2「ああ、あそこに積んである長机とパイプ椅子をこっちに持ってきて、組み立てて並べていくんだよ」

係員2「並べ方は長机を二つ横に並べて一つの島を作る。一つの島には左右三つずつ合計六つのイスを並べる。このセットを十セット作ることになる」

一方通行「つまりこれは六十人が定員の大会っつーことか?」

係員2「まあそれくらいだね。椅子の予備はあるからある程度は許容できるよ。まあでも、今頃の子供はこういう古臭いイベントに参加したがらないからねー、埋まることはないと思うよ」

結標「もしかしたら人がまったくこない、みたいなことになるってことですか?」

係員2「いや、それはないよ。近くの養護施設の子たちが来たりする予定だから、ある程度は席は埋まるよ。人が居なくて中止はまずないね」

一方通行「俺たちのやることは無駄にはならねェってことだな」

結標「ちょっと一方通行言い方悪いわよ?」

係員2「ははは、いいよいいよ。それじゃあ並べていこうか」




結標「……しかし、机と椅子が積んである場所から設営場所までそこそこ距離があるわね」

打ち止め「そうだねー。いちいち何回も往復しなきゃいけないんだね。それにミサカにとっては結構重そう、ってミサカはミサカは自分の細腕を見ながらげんなりしてみる」

一方通行「面倒臭せェ。結標、ここはオマエの能力を有効活用する場面だ」

結標「私の?」

一方通行「ああ。長机二本、パイプ椅子六つを一セットになるよォにして、設営場所まで移動させろ。そォすりゃあとは組み立てるだけの作業になる」

結標「また私ばかり働かせるつもりね? 雛祭りのときみたいに」

一方通行「能力の有効活用だ」

結標「貴方でも出来るでしょうに」

一方通行「出来るが、オマエがやるより絶対に遅くなるだろうから無駄な時間を過ごすことになる。なにより電極のバッテリーの無駄遣いはしたくねェ」

結標「私だって脳のブドウ糖大量消費するんですけど?」

一方通行「この後クソ甘ェ焼き芋食うンだからプラマイゼロだろ」

結標「……はぁ、わかったわ。やりますやらせていただきますよ」

打ち止め「おおっ、アワキお姉ちゃんの超能力ショーの開幕だぜ、ってミサカはミサカは目を輝かせながら胸をときめかせてみたり」キラキラ


結標「係員2さーん」

係員2「どうかした?」

結標「かくかくしかじかなんでだいたいの配置予定を教えてもらませんか」

係員2「へー、君ってテレポーターなんだ。すごいねえ。それじゃあこれが配置図だ」ペラッ

結標「ありがとうございます」

係員2「がんばってくれ」


結標「えーと、この配置だと島と島のスペースがだいたい2~3メートルくらいになるのかな?」

結標「まあ、細かい調整は組み立てるときにすればいいから、適当に飛ばせばいっか」スッ



シュン! シュン! シュン! シュン! シュン! シュン! シュン! シュン! シュン! シュン! 



結標「ざっとこんなもんか」


打ち止め「おおっー! さすがアワキお姉ちゃん鮮やかなお手並みだ! ってミサカはミサカは称賛の拍手を送ってみたり」パチパチ

一方通行「へェー、前より演算の速度上がってンじゃねェか?」

結標「それはそうよ。雛祭りの時に散々能力使わせられたのだから。配置から片付けまで」

係員2「お見事だねー。この分じゃ設営はすぐに終わりそうだね」

打ち止め「よーし、それじゃあ組み立てよー! ミサカに続けー! ってミサカはミサカは隊長気分で先陣を切ってみたり」タッタタ

一方通行「オマエ組み立て方分かンのかよ?」ガチャリガチャリ

打ち止め「知ってる? ああいうのって適当にやっても誰でも組み立てられるように設計されているんだよ? だからやったことなくてもだいじょーぶ! ってミサカはミサカは博識ぶってみたり」

一方通行「誰でも、っつゥ範疇にクソガキは含まれてねェだろ」


―――
――






同日 13:30



ワイワイガヤガヤ



結標「あっ、設営が終わったと思ったら、いつの間にか結構人が来てるわ」

係員2「あれは近くの養護施設の子たちだね」

一方通行「ざっと見た感じ三十人っつゥところか」

打ち止め「見たところそれ以外の人たちもいるよ。見た目中学生とか、高校生の人たちもぽろぽろ見かけるね、ってミサカはミサカはざっと公園を見回してみたり」

結標「たぶん兄弟とか近所で仲良くしてる小さい子の付き添いでしょうね」


係員1「おっ、終わったみたいだね。じゃあ君たちにはこれからやることをざっと説明するよ」

結標「お願いします」

係員1「まずこの焼き芋大会の流れなんだけど、君たちが作ったブースで子供たちがサツマイモに濡れ新聞とアルミホイルを巻く」

係員1「そのあと別の係員が作った焚火で芋を焼く。だいたいこれが一時間くらい。その一時間の待ち時間に子供たちはゲームとかして遊んで時間をつぶす」

結標「ゲームですか?」

係員1「ボールを用意してるからドッジボール大会でも開こうと思っているけど、まあ強制とかじゃないから適当に自由にしてもらって構わないよ」

係員1「で、それで一時間くらい経ったら完成すると思うからまたブースに戻って実食。終わったらお土産にお菓子を渡して終わりって感じ」

結標「なるほど。それで私たちのやる仕事っていうのは?」

係員1「君たちはブースでの焼き芋の準備とゲーム中の子供たちを見守るのが役目だよ。あっ、ちなみに焼き芋の準備のときに君たちも自分の分も作っておいてくれ」

係員1「焼き芋の準備のときはHとIの島を君たちは見ていてくれ」

係員1「まあ、あとは終わった後の片付けも手伝ってもらおうかな。遠めで見たけど君はなかなか便利な能力を持っているようだ」

結標「ありがとうございます。任せてください」

係員1「それじゃあ時間までゆっくりしてていいよ」

結標「わかりました」


結標「――というのが私たちの役割よ」

一方通行「面倒臭せェ」

結標「言うと思ったわ」




一方通行「ただでさえこのクソガキの子守で面倒だっつゥのに、他のガキどもに構ってる暇ァあるかよ」

打ち止め「大丈夫だよ。ミサカは平気だから安心して自分の仕事に臨むといいよ、ってミサカはミサカは胸を張ってみる」

一方通行「オマエが一番安心できねェっつってンだろォが」

結標「しかしだんだん人が増えてきたわね。あれならブースのほとんどは埋まりそう」

一方通行「こンなくだらねェ行事によく参加できるモンだ」

結標「あら、こういうイベントで思い出を作っていくのが普通じゃない? ましてやあの年代の子たちになると」

打ち止め「そうだそうだー!! そういうわけだからミサカをもっとイベントごとに連れてけー!! ってミサカはミサカは抗議デモのごとく要求してみたり」

一方通行「うるせェ――ッ!?」ゾクッ

打ち止め「ん? どうしたの、ってミサカはミサカは首をかしげてみる」

一方通行「……このニオイ」

結標「ニオイ? ああ、たしかに焚火の葉っぱが燃える特有のニオイはするわね」

打ち止め「おおっーたしかにそうだ。何か悪いものを肺に吸い込んでる気がしてすごいねー、ってミサカはミサカは深呼吸しながら言ってみたり」スー

結標「焼いてるのは落ち葉とかだから身体に悪いものはないと思うけど、深呼吸するのはやめときなさい」

一方通行「…………」ガチャリガチャリ

結標「ちょっと一方通行? どこに行くつもりよ」

一方通行「トイレ」ガチャリガチャリ

結標「あっ、そう。でもそっち――」

一方通行「すぐ戻る」ガチャリガチャリ

結標「……うん」


結標「…………」

打ち止め「どしたのアワキお姉ちゃん?」

結標「いや、アイツトイレがある方とはまったくの逆方向に歩いていったのよ」

打ち止め「そうなんだ。だったら教えてあげればよかったんじゃ、ってミサカはミサカは当然のことを聞いてみる」

結標「何か……、そういうこと言えるような表情じゃなかったのよ、アイツ」

打ち止め「へー、あれじゃないかな。おしっこ漏れそうなんだよきっと、ってミサカはミサカは名推理を披露してみたり」

結標「それって名推理なの?」





フレンダ「フレメアー! お姉ちゃんここのベンチに座って休んでるから時間になったら教えてー」

フレメア「えー、お姉ちゃんも一緒にやろうよバイオハザードごっこ。お姉ちゃんがゾンビ役で私が配属初日の新米警官役」

フレンダ「ごめんねー。私そんなバイオレンスな遊びに付き合えるほど元気じゃないって訳よ。昨晩遅くまで出かけてた疲れが今になってたたってきてだるい」

フレメア「にゃあ。今日一緒に焼き芋大会に行くことは約束してたはず。それなのに遅くまで出かけてたなんて、大体お姉ちゃんが悪い」

フレンダ「私にもいろいろあるって訳よ。だからほんとマジで休ませて。遊びならまた今度付き合うからさー」

フレメア「もう! しょうがないなあ。ここは私が大人になろう。私一人でバイオハザードごっこやるよ。ゾンビ役は……ここにいる人たちみんなだ!」タッタッタ

フレンダ「はいはい、怒られない程度に頑張ってねー……ふう、やっと静かになった。ちょっと仮眠でも取ろう」ゴロン


一方通行「オイ」


フレンダ「……ゲッ、だ、第一位!?」

一方通行「オマエ、こンなところで何をしてやがる」

フレンダ「えっ、ええっと……」アセッ

フレンダ(や、やばい。こんなところで第一位と遭遇するなんて思ってもみなかった訳よ。ど、どうする私……!?)

一方通行「他のアイテムの連中もいるのか?」

フレンダ「い、いやいないと思うよ。今日はプライベートでここに来たって訳よ」

一方通行「暗部組織のオマエの言葉なンざ一ミリも信用できねェな」

フレンダ「別に信用してくれなくてもいいよ。アンタがいくら警戒しようが他のメンバーはここには来ないから無駄骨を折るだけって訳」

一方通行「まァイイ。で、オマエはこンな場所で何をやっている。まさか焼き芋大会に参加しに来た、とかいう似合わねェ言葉を言うわけじゃねェだろォな?」

フレンダ「えっ、何で分かったの?」

一方通行「……はァ、面倒臭せェ」

フレンダ「ベクトル操作って相手の思考を読むチカラでもあるの? うんたらかんたらのベクトル操って解析、みたいな?」

一方通行「ンなモンねェよ。ここが焼き芋大会の会場で、その会場のベンチで寝てるヤツならたぶン参加者だろう、そォ思っただけだ」

フレンダ「ってことは、アンタもこの焼き芋大会に参加するつもりな訳?」

一方通行「不本意だがな。それに俺は参加者側じゃなく運営側だ」

フレンダ「へー、似合わなっ」

一方通行「だから不本意だっつってンだろ。家主に頼まれて仕方がなく手伝っているだけだ」

フレンダ「あーそう。ま、正直アンタが何でここにいるのかとかどーでもいいけど」

一方通行「オマエはどォして焼き芋大会なンて参加してンだ? オマエこそ柄じゃねェだろこンな平和ボケした催し」

フレンダ「私がいつでもどこでも暗部モードだとか思わないでよ? まあ私だって不本意だってところは一緒だけどね」

一方通行「あン?」

フレンダ「あそこを見て」スッ


フレメア「ふりぃずっ! バンバンッ!」

子供1「うわあ、やられたー」

フレメア「ゾンビはやられたー何て言わない! 『あうぅん……』って感じで死んでいく!」

子供2「それってゾンビがやられたときのセリフだっけ?」

子供3「というか何で鬼ごっこしてたのにいつの間にかゾンビごっこになってんの?」




一方通行「……あのガキ、オマエの妹か何かか」

フレンダ「そ。あの子の付き添いで来てる訳よ。昨晩も暗部のお仕事があったから今日ぐらいゆっくり休みたいんだけどね……おっと、仕事があったなんか言っちゃいけなかった、忘れて忘れて」

一方通行「忘れろと言われて素直に忘れられるわけねェだろ」

フレンダ「まあアイテムの存在自体がトップシークレットだし、それを知ってるアンタに知られたところで何てことないんだけどね」

一方通行「随分なトップシークレットだなオイ」


結標「一方通行ー! そっちにトイレないわよー! ってあら?」

打ち止め「あっ、何かどっかで見たことあるような外国のお姉さんとお話している。これはレアなケースですなあ、ってミサカはミサカは分析してみたり」


一方通行「チッ、面倒なのが来やがったか」

フレンダ「げっ、座標移動(ムーブポイント)まで来てんのかよ」ボソッ

結標「えっと、確か貴女は浜面君の上司の方でしたっけ? たしかスキー場の雪合戦の時に爆弾使ってた」

フレンダ「そ、そうそう。フレンダっていうんだけど、改めてよろしくね結標さん」

結標「うん、よろしく。で、こんなところでこのフレンダさんと何を話してたのよ貴方は?」

一方通行「別に。たまたま会ったから喋ってただけだ。コイツもこの焼き芋大会に参加するそォだ」

結標「へー、そうなんだ。焼き芋好きなんですね」

フレンダ「いや違う違う。私は――」


フレメア「ばんばん! くらえっ、頭蓋骨爆散キック。とあっ」バッ

打ち止め「甘いぜ! ミサカにはお姉さまの最強DNAが受け継がれているので、そんな攻撃見てから回避余裕なのだ、ってミサカはミサカは左右にステップしながら回避行動に移ってみたり」シュバッ

フレメア「何だと!? まさかお前はウイルスの適合者!? こーなったら……必殺RPG-7発射!!」


フレンダ「……あの子の付き添いよ。別に焼き芋なんかに全然興味はないって訳よ」

結標「妹さん? 随分と元気な子ね」

一方通行「つゥか、いつの間に仲良くなりやがったンだこのクソガキ。まだ出会って一分とかそンなモンだろ」

結標「まあ、子供ってそんなもんだし」



係員1『えー大変長らくお待たせいたしました。まもなく焼き芋大会を始めますので集合をお願いしまーす』



結標「あっ、そろそろ始まるそうよ。私たちも戻らなきゃ」

一方通行「面倒臭せェ」

フレンダ「あっ、そうか。アンタたちは運営側なんだっけ?」

結標「そうよ。まあ楽しめるかどうかは分からないけど、楽しんでいってくださいね」

一方通行「オイ、クソガキ行くぞ。いつまでも馬鹿みてェな遊びしてンじゃねェ」

打ち止め「ふんっ、今日のところは許してやろう、ってミサカはミサカは偉そうな態度でこの場を立ち去ってみたり」

フレメア「にゃあ。こうなったら決着は焼き芋大会の決勝戦でつけてやる」

フレンダ「焼き芋大会に決勝戦なんかないでしょ。てか結局仮眠取れなかった訳なんだけど。サイアクなんだけど」


―――
――





同日 14:00



係員1「では皆さん。もらったサツマイモに濡れた新聞紙を巻いてから、そのあとにアルミホイルを巻いてください」

係員1「何かわからないことがあったら、近くにいる係のお兄さんお姉さんに聞いてねー」



<はーい!! <わかったー!! <ラジャー



-H・Iの島-



フレンダ「……えっと」

一方通行「何でオマエらがピンポイントにこっちの島に来ンだよ」

フレンダ「し、知らないよ。何かこっちの島に行ってくれって係のおじさんに言われた訳よ」

結標「まあいいじゃない。知り合いは少しでも多い方が貴方にとっていいんじゃない?」

一方通行「知り合いが居りゃイイっつゥモンじゃねェだろォが」


フレメア「にゃあ。また会ったなちびっこ! あの時の決着をここでつけてやる。この焼き芋大会という大舞台で!」

打ち止め「受けて立つぜちびっこ! このスウィーツマイスターのミサカに焼き芋で戦いを挑むなんて十年早いぜ、ってミサカはミサカは腕組しながら胸を張ってみたり」


子供1「やったれフレメアちゃーん!」

子供2「負けるな打ち止めちゃーん!」

子供3「焼き芋大会に勝敗があるのか知らないけど、二人ともがんばれー!」


一方通行「……あァ、頭痛てェ」ズキズキ

結標「まあわからなくはないけど我慢しなさい」

フレンダ「アンタたちも苦労してるんだね」ハァ


子供4「ねえねえお姉さん」

結標「何かな?」

子供4「どうすればいいのかわかんないや。教えて」

結標「いいわよ。お姉さんに任せなさい」

一方通行「……オイ」

結標「何よ?」

一方通行「オマエ、大丈夫か?」

結標「大丈夫って何が?」

一方通行「焼き芋の作り方なンて教えてよォ」

結標「その質問の意図が分からないけど、大丈夫よ。きちんと教えてもらったし」

一方通行「ならイイが」

子供5「お姉ちゃん早くおせーてー」

結標「はいはーい」




結標「まずはテーブルに置いてある新聞紙を一枚とります」

結標「次にこれを水が入ったトレイに浸します」

結標「この水を浸した新聞紙をサツマイモに巻き付けます」

結標「そして、このアルミホイルをサツマイモにグルグルして巻きます」


子供6「なるほどなるほどー」

子供7「わかりやすーい」


一方通行(さすがに料理音痴レベル5の結標でも、焼き芋の作り方ぐらいまともに説明できるか。これなら安心――)


結標「あっ、あと最後にひと工夫するとおいしくできるわよ」

子供8「ひと工夫?」

子供9「なんだろう」

結標「アルミホイルを巻いたサツマイモにこれを塗りたくりまーす」



結標「てってれー♪ ガーソーリーンー!」



ズガン!!



結標「痛いっ!? な、何するのよ一方通行ぁ!?」

一方通行「それはコッチのセリフだ馬鹿野郎が!! 一体どォいう思考をすれば焼き芋にガソリンを塗りたくるっつゥ答えが導き出されンだ!?」

結標「あれよ。焼き芋っていうくらいだから圧倒的な火力で焼いてあげればきっとおいしいはずよ。だから火力を助けるために、サツマイモにガソリンを塗れば火力アップでおいしさアップ!」

フレンダ「えぇ……」

一方通行「オマエそンなことしたら火力が出すぎて焼き芋通り越して灰になるぞ! それどころか下手すりゃ結構なボヤ騒ぎになるかもしれねェ!」


子供4「なるほどガソリンを塗るのか」

子供5「うわー変なにおーい」

子供6「でもこれでおいしくなるなら……!」


一方通行「塗るンじゃねェガキどもッ!」


子供達「!?」ビクッ

フレンダ「ちょ、ちょっとアンタ子供にそんな怒鳴り方したらダメでしょ! ごめんねー君たち、このお兄ちゃんはみんなの安全の為に大声を出しただけで、怒ってる訳じゃないよー」

結標「そんな怖い顔にしちゃだめよ? 子供たちがおびえちゃうわ」

一方通行「誰のせいだ誰の」




打ち止め「……なるほど、さすがアワキお姉ちゃん。ガソリンはどうかと思うけど塗るというアイデアはいいと思うな。つまりアレが使える、ってミサカはミサカは意味深なことを言いつつポケットの中を探ってみたり」ゴソゴソ

フレメア「いいこと思いついた。大体、これを使えば焼き芋を最高のすうぃーつに出来る!」ゴソゴソ


打ち止め・フレメア「「じゃーん! このチョコレートを溶かして塗りたくればあっという間に、おいしいおいしいチョコレート焼き芋の出来上がり!!」」バッ


打ち止め「…………」

フレメア「…………」

子供1「おおっ、見事に息ピッタリで同じアイデア繰り出した!?」

子供2「あらかじめ打ち合わせをしていたかのようなミラクル!?」

子供3「しかも持ってるチョコレートのメーカーも同じだし」

打ち止め「おのれまねっこめー!! ミサカのグレイトなアイデアをパクったなー!! ゆるさーん、ってミサカはミサカは訴訟を辞さない覚悟で糾弾してみたり!」

フレメア「それはこっちのセリフだまねっこめー!! にゃあ!! ゆるさーん!!」 

打ち止め「こうなったらどっちがこのアイデアを持つにふさわしいか」

フレメア「勝負をして決着をつけるしかないし! ぎゃおー!!」


一方通行「ハイ、そンな奇抜なモン没収ゥ」ヒョイ

フレンダ「チョコレートなんて入れたら、焼き芋の良さが丸ごと消し飛んでしまうって訳よ」パシッ


打ち止め「ああっー!! ミサカのチョコレートがあ!! ミサカのグゥレイトォなスウィーツがあ!! ってミサカはミサカはジャンプしてチョコレートの奪還を試みてみる!」ピョンピョン

一方通行「返してやるよ。この焼き芋大会が終わった後でなァ」

フレメア「にゃあ! 返してお姉ちゃん! これがないと焼き芋大会で優勝できない!」

フレンダ「焼き芋大会に優勝なんてない訳よ。みんな仲良く一等賞。いい思い出ができた人が優勝って訳」

結標「あのー、ちょっと四人ともいい?」

フレンダ「何?」

結標「もうみんな準備ができて焚火のほうに行ったわよ? だから早く準備してくれるとありがたいんだけど」

一方通行「どォでもイイが、責任の一端を担っているオマエにだけは言われたくねェよ」

結標「な、何でよ!?」

一方通行「とりあえずそこに置いてあるガソリンが入ったポリタンクを、元あった場所に戻せば理由が分かるかもしれねェなァ?」

打ち止め「……で、結局これどうやってやればいいんだっけ? 焼き芋の準備って、ってミサカはミサカは腕を組んでみる」

フレメア「さあ? 私もわかんない。にゃあ」

一方通行「オマエらは今まで何を聞いていたンだ?」

フレンダ「はぁ、二人とも見てて。こうやってサツマイモに濡れた新聞紙を巻いて……はっ!」

フレンダ(これの新聞紙の間にサバ缶のサバを入れれば、落ち葉で蒸し焼きしたサバというまだ試したことない食べ方を開拓できるんじゃ……!?)

一方通行「オイ」

フレンダ「な、なにかな?」

一方通行「オマエもそっち側に行く気かコラ」

フレンダ「な、なんのことやら……」スヒュー

一方通行「そのセリフが言いてェなら、その手に持ったサバ缶をしまってから言いやがれよサバ女」


―――
――






同日 14:30


子供A「ドッジボールする人集まれー!」

子供B「わーいやるやるー!」

子供C「この俺の球で全滅DA!」


子供1「じゃあゾンビにちなんでゾンビ鬼ごっこしようよ」

子供2「ゾンビ鬼ごっこって?」

子供3「捕まった人が鬼になるのは同じだけど、捕まえた鬼の人がそのままでだんだん鬼が増えていくっていうヤツだっけ?」

子供1「そうそう。ゾンビみたいに増えていくからゾンビ鬼」

子供4「だったらボクがゾンビをやるよ。がおー、みんなゾンビにしてやるー」

フレメア「おのれゾンビめ! 私が全滅させてやる。にゃあ!」

子供5「遊び方が違うよ! 逃げなきゃダメじゃん!」

打ち止め「ふっ、逃げているだけではいつまで経っても戦いに勝つことは出来ぬのだよ、ってミサカはミサカは歴戦の勇者のような口ぶりになってみたり」

子供6「いや、だからそういう遊びじゃないんだってば」



ワーワーギャーギャー!!



一方通行「……うるせェヤツらだ」

結標「まあ子供だし。それに元気なのはいいんじゃない?」

一方通行「うっとォしいだけだろ」

結標「特に元気に駆け回ってる男の子、相手をやっつけようとボールを一生懸命投げてる男の子、いいわよねぇ……」ウットリ

一方通行「何を言っているンだオマエは」


係員1「結標さん。ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけどいいかな?」

結標「あっ、はい。大丈夫です、すぐ行きます」

一方通行「俺は行かなくてイイのか?」

結標「別にいいんじゃない? 私を名指しだし。ゆっくりベンチにでも座って子供たちを見守っててちょうだい」

一方通行「そォか。じゃあお言葉に甘えて」ゴロン

結標「誰が寝ていいって言った?」

一方通行「チッ」



打ち止め「うぉぉぉぉ、ゾンビだぞぉぉぉ、血ぃ吸わせろぉぉぉ、ってミサカはミサカは迫真の演技をしながら全速力で追いかけてみたり」シュバババ

フレメア「にゃあ!! 大体ゾンビが全力疾走するなんて反則だ!! ルール違反だ!!」

打ち止め「いつからゾンビが全速力で走れないと錯覚していた? ってミサカはミサカは的確なコーナリングで追い詰めてみる」キキィィ

フレメア「なん…‥だと……?」

子供7「ていうか血を吸うのはゾンビじゃなくてバンパイアじゃね?」




一方通行「……元気だなァ。面倒なくらい元気だなァ」

フレンダ「ちょっとゴメン。隣いい?」

一方通行「無理」

フレンダ「な、何でさ!? いいじゃん空いてるんだから!」

一方通行「何で俺が座っているベンチに来やがったンだ? 別のとこ行け」

フレンダ「いやー、だって他のベンチ誰かしらに座られてんじゃん? 知らない人の隣に行くはちょっとアレだからここに来たって訳」

一方通行「迷惑な話だ。つゥか、座るだけならあそこのパイプ椅子並べたブースに行きゃイイだろォが」

フレンダ「私は別に座りたいわけじゃない。ちょっと昼寝をしたい訳よ」

一方通行「なおさら向こうでイイだろ」

フレンダ「あんな目立つところで昼寝するのはやだ」

一方通行「そンな変わンねェだろが」

フレンダ「違うって。まあまあお仕事の邪魔しないから」スッ

一方通行「オマエの存在そのものが邪魔なンだよなァ」

フレンダ「じゃ、おやすみ」

一方通行「話聞けよオマエ」

フレンダ「…………」

一方通行「…………」

フレンダ「……ねえ、ちょっといい?」

一方通行「結局邪魔すンのかよ」

フレンダ「ちょっとくらいいいじゃん」

一方通行「寝ろよ。そのつもりでここに来たンだろ?」

フレンダ「何かね、いざ寝ようと思って目をつぶってみるとあら不思議、なぜだか眠気がなくなってたんだよね。よくあることでしょ?」

一方通行「少なくとも俺にはねェよ。てか寝る気がねェなら向こうに行け」

フレンダ「……はぁ、しかしあーやって元気にやってる子たちを見ると、私は一体何をやっているのかなぁー、って思う訳よ」

一方通行「何勝手に話を続けてンだよ。話聞けコラ」

フレンダ「アンタって一応暗部出身でしょ? それなのに今はこーいう平凡な日常を送れてるなんて、羨ましい限りって訳よ」

一方通行「……オマエは暗部を抜けたいと思ってンのか?」

フレンダ「さあ? わかんない」

一方通行「ハァ? オマエが羨ましいつったンだろォが」

フレンダ「羨ましいからと言っても、そうなりたいと思うこととイコールじゃないよ」

フレンダ「私は暗部で何十人もの人を殺してきたし、それについては何とも思ってない。むしろ殺すことは快感を覚えるくらい大好きって訳」

一方通行「とンだクソ野郎だな」

フレンダ「アンタだけには言われたくないんだけど。まさか自分は違うとか言うつもり?」

一方通行「…………」




フレンダ「ま、暗部にいるヤツなんて基本クソ野郎しか居ないから、アンタの言ってることは正しいっちゃ正しい訳よ。でも、そんなクソ野郎な私でも、さっきみたいにたまに思うことがあるのよ」

フレンダ「こういう平凡な日常を過ごす度、楽しむ度、安心する度、何で私は暗部なんかに堕ちたんだろう、ってね」

一方通行「後悔してるっつゥことか」

フレンダ「いや、ところがそうでもないよ。いざお仕事してるときの充実感は、まさしく『生きてる』って感じがして楽しいし、たっかい法外のギャラをもらった時だってやっててよかったって思う訳」

一方通行「で、オマエは一体何が言いてェンだ?」

フレンダ「別にぃ。ただちょっと愚痴りたかっただけよ。アイテムじゃこんなこと絶対に言えないし、アンタみたいなこっちの事情知ってる知り合いいないし。ただそれだけって訳よ」

一方通行「くっだらねェ。そンな愚痴言うくらいならやめちまえ」

フレンダ「あはは、笑えない冗談だね。それがどれだけ難しいことか、知ってて言ってるんだよね?」

一方通行「ああ」

フレンダ「ちっ、暗部ってのは底なし沼みたいなものよ。沈むのは簡単だけど、這い上がろうすることがどれだけ難しいか。難しいどころか不可能と言ってもいいかもしれない」

フレンダ「みんながみんなアンタみたいなラッキーなんて起きる訳ないってこと。わかる?」

一方通行「…………」


フレンダ「ま、ついでに一つ忠告しておくけど。間違ってもまたあの泥沼に足突っ込もうなんて思わないことね。絶対にもうラッキーなんてもの起きやしない訳よ」

フレンダ「今暗部間ではあることが噂になっているの。近いうちに暗部組織で抗争が起こる。下手したら暗部組織一つを残して全て壊滅する、なんてことがあるかもしれない」

フレンダ「そんな状況に軽々しく突っ込んでもみなさいな。今度こそアンタは一生泥沼、もしかしたら死んでしまうかもね♪」


一方通行「……ふわァ」

フレンダ「……えっ、あれ? 何でこの空気であくび? わけわかんない」

一方通行「悪りィ。あまりにもどォでもイイ話だから、つい眠気が」

フレンダ「ふふふ、さすが第一位って訳よ。こんな話を聞いても何一つ取り乱さないなんてね」

一方通行「取り乱すだァ? オマエは大きな勘違いをしてンだよ」

フレンダ「勘違い?」

一方通行「ああ。俺は暗部組織に堕ちよォなンて欠片も思ってねェし、オマエら暗部の連中がどンな馬鹿騒ぎしよォがどォでもイイと思っている。まァだけど一つだけ言えることがある」



一方通行「もし俺の身内に指一本でも触れてみろ。全員まとめて俺が叩き潰すぞ」



フレンダ「……そう、それは残念」

一方通行「残念、だと?」

フレンダ「うん。もしアンタが暗部に堕ちるってなったら、ぜひともアイテムに味方して欲しかったなーとか思ってた訳よ」

フレンダ「そうしたらこれから起きるであろう抗争でも、私の生存率はぐっと上がるしね。ま、麦野はいい顔しなさそうだけど」

一方通行「チッ、自分勝手なヤツだ」

フレンダ「当たり前じゃん。暗部において一番重要なのは自分が生き残ること。他人のことなんて気にするな、それが暗部での鉄則」

一方通行「そォかよ。だったらせいぜい死なねェよォに頑張ってくれ」

フレンダ「ハイハイ頑張りまーす。じゃ、お仕事邪魔したね。また後で」

一方通行「……ああ」




一方通行「…………」

結標「ただいまー。はぁ、疲れた。何かいろいろ雑用頼まれちゃった。あんまり能力って見せびらかせない方がいいのかもね」

一方通行「能力が世の為人の為になってンだ。よかったじゃねェか」

結標「そうなのかしら?」

一方通行「まァ、俺が同じ立場になったらブチ切れるだろォがな。なにコキ使ってくれてンだコラ、ってな」

結標「うん、知ってた」

一方通行「そォかよ」

結標「で、とくに問題はない?」

一方通行「知らね」

結標「知らね、って貴方今まで何やってたのよ。ちゃんと子供たちを見守ってなかったの?」

一方通行「忘れてた」

結標「まったく。どうせまた昼寝とか何とかやってたんでしょう?」

一方通行「気にすンな」

結標「いや、気にするなとかそういう問題じゃないでしょ」

一方通行「ハイハイ悪かった悪かった」

結標「…………」

一方通行「あァ? 何だよ」

結標「貴方、何かあった?」

一方通行「別に、何もねェよ」

結標「そう。ならいいんだけど」

一方通行「…………」


―――
――





同日 15:00


打ち止め「はふはふっ、おおっー甘くておいしい! さすが焼き芋そのままでも見事なお味ですな、ってミサカはミサカは噛みしめてみる」

フレメア「にゃあ。大体チョコレートがいらないなんてわかってた。しんぷるいずざべすと!」


結標「ほんと、おいしいわね。なるほど、石焼き芋のおじさんはこんなすごいものを売っていたのか」

一方通行「……甘ェ」

フレンダ「あら? 第一位は甘いものが苦手な訳?」

結標「そうなのよ。甘すぎるものを食べたときは気絶するくらい嫌いなのよ」

一方通行「余計なこと抜かしてンじゃねェよ」

フレンダ「へー、それはあれだよね。病気だよ病気」

一方通行「ンだとオマエ!」

フレメア「にゃあ。お兄ちゃん好き嫌いしちゃだめだよ。大きくなれないよ」

一方通行「あァ?」

打ち止め「そうだそうだー! ってミサカはミサカは便乗してみたり」

結標「ぷふっ」

フレンダ「にひひっ、たしかにそうだね。第一位様とあろうものが食べ物の好き嫌いなんかしてたら駄目って訳よ」

一方通行「人間っつゥのはなァ、摂取しちゃいけねェモンを摂取したときにはよォ、拒絶反応が出て身体に重大な問題を起こすンだよ」

フレンダ「それって毒物か何かを摂取したの時の話じゃない?」

結標「ただの好き嫌いを小難しく言い換えただけよ」

打ち止め「つまりピーマンは毒だった……? ってミサカはミサカは驚愕の事実に気付いてみたり」

フレメア「グリーンピースも毒って感じの味がする。にゃあ。やっぱり食べなくて正解」

一方通行「好き嫌いしてンじゃねェクソガキども」

結標「お前が言うな」




係員1『それでは、本日はお集まりいただきありがとうございました。これで焼き芋大会のほうを終わりとさせていただきます』

係員1『お土産としてお菓子の詰め合わせをご用意しておりますので、お帰りの際はお持ち帰りいただくよう、宜しくお願い致します』


打ち止め「おおっー!! こんなにいっぱいお菓子をもらえるなんて、ってミサカはミサカはサプライズに歓喜してみたり」

一方通行「オマエそれを家に持ち帰ってすぐ食うつもりじゃねェだろォな」

打ち止め「な、何のことやら……」

一方通行「オマエの今日のおやつは焼き芋で終わってンだよ。これ以上の食い物は余計な間食だ」

結標「そうよ。晩ごはん残したら黄泉川さん怒るわよ」

打ち止め「ひえっ、それは非常に困るなあ、ってミサカはミサカは諦める決意をしてみる」

フレメア「ふふふ。それに関しては私は大丈夫! 大体このお菓子を食べても夕飯なんてよゆーで完食できるのだ!!」

フレンダ「アンタこの前パフェとかクレープとかいろいろ食べた日、夕飯食べ切れずに食堂のおばちゃんに怒られてたでしょ?」

フレメア「な、なぜその機密情報をお姉ちゃんが!? 一体どうして!?」

フレンダ「寮監さんに聞いた」

フレメア「にゃあ。まさかそんなところに繋がりがあるなんて……」

フレンダ「そりゃそうでしょ。一応、アンタのここでの保護者なんだから」

一方通行「…………」

打ち止め「お互い大変だね、ってミサカはミサカは仲間意識を持ってみたり」

フレメア「うん。われわれが今考えるべきことはただ一つ!」



打ち止め・フレメア「「いかに晩御飯を食べなくて済むようにしておやつをたくさん食べるか!!」」

一方通行・フレンダ「「いや、おやつを食べずに晩御飯を食えよ!!(食べなさいよ!!)」」



結標「だから貴方が言っても正直お前が言うな、って感じなんだけど」




フレンダ「じゃ、私たちはこれで。残りの係員の仕事頑張ってね」

結標「うん、ありがとう。気を付けて帰ってね」

フレンダ「こんな時間からこの平和な第七学区に危険なんて早々ないって訳よ。それに私を誰だと思ってる訳?」

結標「えーと……爆弾魔?」

フレンダ「あれ? 私のイメージってそれだけ? いや、間違ってはないけど、あれ?」


フレメア「にゃあ。今度会ったときは、フロントスープレックスで即死させてやるから覚えていろよちびっこ」

打ち止め「ふんっ、そんなものお姉様流まわし蹴りで見事に迎撃してやるぜ。覚悟しておくんだなちびっこ、ってミサカはミサカは宣戦布告してみる」


結標「この子たちは仲が良いのか悪いのか、さっぱりわからないわね」

一方通行「クソガキなだけだろ」

フレンダ「それじゃあ第一位、次会うときは敵じゃないことを祈ってるよ」

一方通行「それはオマエら次第だ」

フレンダ「そうだねー。結局、こればかりは神のみぞ知るってところな訳かな?」

結標「?」

フレンダ「結標さんもまた……いや、もしかしたらもう会うことはないかもしれないね」

結標「何で? きっと会えるわよ。学園都市はそんなに広くないわ」

フレンダ「……そうだね。それじゃ、また会おうね。フレメア、行くよ」

フレメア「にゃあ。またなちびっこ! あっ、あと私にはフレメアという名前があるから覚えておけ!」

打ち止め「ミサカにも打ち止めって名前があるんだからそっちも覚えておけちびっこ! ってミサカはミサカは怒りの自己紹介をしてみたり」


結標「……さて、片付けの手伝いに行きますか」

一方通行「面倒臭せェ」

結標「今度こそ貴方が能力使って頑張りなさいよね。大まかな移動なら私の方が効率いいかもだけど、細かい片付けとなると逆に貴方の方が効率的でしょ?」

一方通行「オマエよりはマシってだけで非効率なことには変わりねェよ」

結標「ベクトル操作による超高速机・椅子の折り畳み! みたいなの出来ないわけ?」

一方通行「やってもイイが、それで机・椅子がブッ壊れても責任は持ってくれるっつゥことだよなァ?」

結標「……じゃあいいです」

一方通行「ま、効率的に使える部分くらいはチカラァ使ってやるよ」

結標「珍しいことを言うわね。自分からそういうこと言ってくるなんて」

一方通行「焼き芋分の働きくらいしねェとな」

結標「本当珍しいわね」

打ち止め「じゃあミサカは終わるまでおやつを食べながら待ってるね、ってミサカはミサカはキャ○ツ太郎の開封作業に取り掛かってみる」

一方通行「だから食うなっつってンだろ。オマエも焼き芋分の働きをしろクソガキ」


――――――


学園都市に町内会なんてあるのか知らんけどままえやろの精神
ここまで禁書3期放映中くらいに書いてて心折れた分を直したやつで次からはスレ建てのタイミングで書いてたつまり現在進行系で書いてるやつ

次回『花見(前編)』

こっから前中後編の長編
なんで花見なんかにこんなに尺使ってんですかねぇ・・・


投下



10.花見(前編)


March Third Wednesday 12:30 ~昼休み~

-とある高校・一年七組教室-




青ピ「花見に行こうや!!」ドン




吹寄「……いきなり何? うるさいわよ?」

一方通行「同感だ。つゥか、何でオマエらはいっつも俺の席の周りに集まってくンだ? 別のところ行けうっとォしい」

姫神「それはアクセラ君と結標さんの席が隣同士だから」

一方通行「だったら吹寄か姫神の席で食ってろよ」

吹寄「だってこの辺りの席の人たちはみんな学食行くんだもの。つまり空席だということだから席の確保が容易なのよ」

土御門「にゃー、オレたちはれっきとした理由があるんだぜい。アクセラちゃんといると楽しいからにゃー、おちょくる的な意味で」

青ピ「そうそう。ボクらは何も面白みのない昼食の時間に彩りを付けるために、アクセラちゃんにちょっかいかけながらご飯食べてるんやでー」

上条「テメェら、その自分たちのたちの部分に、まさか俺を含めてるんじゃねえだろうな?」

青ピ「何をいまさら。ボクらデルタフォースはいつでも一緒、一心同体!」

土御門「さらに言うなら、オレたちはスクエアフォースでもあるから、アクセラも一緒に昼休みを過ごすのは当然だということですたい」

一方通行「だから一緒にすンじゃねェって何度言えば分かる。そろそろ愉快なオブジェ展覧会を開催した方がイイかもしれねェよなァ三馬鹿諸君?」

上条「げっ、また俺が巻き込まれるパターン!? ゆっくりほのぼのメシくらい食わせろよクソったれ!」

土御門「カミやーん。俺たちにほのぼのな昼休みなんて存在しないんだぜい?」

青ピ「せやせや。ボクらがほのぼのな昼休みを過ごす為にはなぁ、ボクら四人が美少女化して日常系四コマ漫画のキャラみたいなきゃっきゃうふふ、みたいなことにならんとできへんのやでぇ!」

一方通行「昼時に気持ち悪りィモン想像させンなクソ野郎がッ!!」





ワイワイギャーギャー!!



吹寄「うるわいわねえ、お昼ぐらい静かに食べられないのかしら?」

姫神「それは今更な話」

結標「さっき青髪君が言ってたけど、花見いいわね! 私花見行きたいわ!」

吹寄「花見かー、今年は早咲きだから今がシーズンになるのかしら?」

姫神「たしかそう。ニュースでは今週末くらいから満開とか言っていた」

青ピ「そうそう。だから今週末くらい一緒に行かへん? って誘おうと思って机叩いたんよ。なのに何でこんなことになったんやろ?」ボロッ

吹寄「それは貴様らが馬鹿だからじゃないかしら。ねえ上条当麻?」

上条「何で俺が主犯みたいな言い方なんだよ? 俺むしろ被害者なんだけど」ボロッ

一方通行「いや、被害者は俺だろ」

土御門「実行犯が何か言ってるにゃー」ボロッ

結標「一方通行! 花見行きましょうよ花見!」

一方通行「花見だとォ? そンなの勝手に通学路に咲いてる桜でも見とけよ」

結標「それは花見とは言わないんじゃないの? 世間一般的な意見として」

一方通行「知るか」

土御門「しかし満開時に行くなんて人が多そうだにゃー。ましてや週末だし」

青ピ「だからこそ行くんやろ! 人が多そうだから行くのやめよう、って思っている人多そう読みの週末花見決行やッ!」

姫神「そんなことを考える人が多いのなら。世の中人込みの大渋滞なんて起こらない」

吹寄「ま、こういうので大切なのは場所取りよ。いかにいい場所を確保するかが楽しい花見ができるかを左右するわ」

結標「なるほど。つまり私が花見決行一日前から場所を確保しておけばいいわけね」

一方通行「やっぱり馬鹿だろオマエ。春が来ているとはいえまだ夜は寒いンだぞ? そンな寒空の中で一晩過ごすつもりか?」

結標「あははー、やっぱ駄目かしら?」

一方通行「そンなモンで風邪ひかれて寝込まれたら、コッチが困るンだっつゥの」

結標「……もしかして、心配してくれてるわけ?」

一方通行「してねェよ。ただ風邪で寝込まれたあとに起こるであろう、俺への被害が面倒だから止めてるだけだ」

姫神「相変わらずのツンデレ」

吹寄「素直じゃないわよね」

一方通行「うるせェぞクソアマども」




吹寄「まあ行くことは決定としていつ、どこへ行くのかを決めましょ?」

土御門「場所は第七学区の桜公園でいいんじゃないか? メジャーなところだから人も多そうだけどにゃー」

姫神「メジャーじゃなくていいところは知らないの? いろんな隠れた飲食店を知っている。土御門君なら知っていそうだけど」

土御門「あるにはあるけど、第七学区からは結構遠めのところになるな。電車とバス乗り継いで、バス停から結構歩く感じになるけどいいか?」

土御門「それに花見の為に作られたところじゃないから、コンビニとかが遠かったりするからいろいろ不便だぜい」

吹寄「……それを考慮するなら、早めに桜公園のほうの場所を確保して花見したほうがよさそうね」

姫神「うん。帰りの時間を考えなくてもいいのが大きい」

結標「場所はそれでいいとして日程はどうする? とりあえず今週末やるとして土曜日か日曜日よね? 私はどっちも大丈夫だけど」

青ピ「もちろんボクも両方大丈夫やで! なんたって言い出しっぺなんやからなー」

姫神「私は日曜日の午前中にちょっと行くところがある。といっても昼まではかからないくらいの用だけど」

土御門「オレは土曜日の昼から以外だったらいつでもいいぜい」

上条「悪りぃ、俺土曜日のほうは夕方にバイトあるから無理だ。昼開始の夕方解散ならできないことないけど」

吹寄「あたしは土曜日は一日用事があるからダメね。だから日曜にやってくれるならありがたいんだけど」

一方通行「俺は両方とも昼寝で忙しいな」

結標「……つまり、日曜日の午後からなら問題ないってことよね?」

吹寄「そうね。じゃあ日曜日の午後からってことで」


みんな「はーい!」


一方通行「ちょっと待て。俺の意見がまったくと言っていいほど反映されてねェ」

吹寄「当たり前でしょ。昼寝なんてただの暇つぶしでしょ? また別の日にやりなさいよ」

一方通行「暇つぶしだとォ? 何を言ってやがンだ、昼寝っつゥのは趣味、生活の一部、いや人生――」

土御門「場所と日時が決まったところで何をするかを決めようぜい」

吹寄「そうね。花見と言ったら飲み食いよね。花より団子という言葉もあるわけだし」

姫神「それなら私がお弁当でも作ってくるよ。店屋物やお菓子だけじゃ味気ないし」

青ピ「おっ、ヒメやんの手作り弁当やってえ!? そいつはめっさ楽しみやなぁ! なぁカミやん?」

上条「おう。姫神料理うまいからな。すっげぇ楽しみ」

姫神「がんばります!!」ガタッ

上条「うわっ、急にどうした!?」

土御門「姫神も結構単純だにゃー」

結標「お弁当を用意してがっつり食べるってことは、時間帯は夕方になるのかしら?」

青ピ「そりゃそーでしょ! 夕方どんちゃん騒ぎして、最後夜桜を見て帰宅。これが最高の花見プラン!」

土御門「どんちゃん騒ぎするためにはいろいろ余興が必要ですなー、ピアス君」

青ピ「そうですねー。これは我々で用意をする必要がありますねー、カミやん君」

上条「えっ、俺も用意するのか?」

土御門「当たり前だろ上条当麻ぁ!! 貴様まさかただで花見に参加できると思っていたのか!?」

青ピ「働かぬものに食わすメシはなぁい!! それ世界の定理ッ!!」

上条「ぐっ、お前らに言われると何か納得いかねえけど正論だ……わかったよ手伝やいいんだろ余興の準備!」




吹寄「……準備するのはいいけど、変なもの持ってこないでよ? わかっているんでしょうね上条当麻?」

上条「俺に忠告するより先に、そこのアホ二人に言った方がいいと思うんですけど吹寄さん!?」

一方通行「…………」ムスッ

姫神「どうしたのアクセラ君? 会話に参加もしないで」

一方通行「別に。何でもねェよ」

結標「勝手に話が進んでいくから拗ねてるだけよ」

姫神「なるほど」

一方通行「勝手なこと言ってンじゃねェぞコラ」

吹寄「あっ、姫神さん。お弁当作り大変そうだからあたし手伝いに行くわ。材料の買い出しとかお弁当持っていくのとか大変でしょ?」

姫神「それはありがたい。どうせヤツも来ると思うから荷物は多くなりそうだし」

吹寄「ヤツ……?」

姫神「私の宿敵」

結標「吹寄さんがお弁当手伝うのなら、私も手伝いに行こうかしら? どうせ暇だし!」



みんな「「「「「「それだけはやめろッ!!」」」」」」

結標「みんなしてひどいっ!!」ガーン



吹寄「お弁当はこっちに任せてくれていいから大丈夫よ。それにあなたには、いえあなたたちには重大な役割があるわ」

結標「役割? それは一体……?」


吹寄「結標さんとアクセラ、あなたたちには花見の場所取りをお願いするわ!!」


結標「おおっ! たしかにそれは重要な役割! 何か一番しょぼい役どころっぽいけどたしかに重要!」

一方通行「ちょっと待て! 何で俺がそンな三下みてェな役割やらなきゃいけねェンだ!?」

土御門「アクセラちゃーん。働かざるもの食うべからず、何の役目もないニート野郎は姫神特製弁当を食う権利はないんだぜい!」

一方通行「つーか、花見自体参加するとは言ってねェぞ!」

結標「どうせ参加することになるんだしいいんじゃない?」

一方通行「どォせって何だ!? それは一体どォいうことだオイ!」

上条「お前参加しないのか?」

一方通行「当たり前だろォが。俺は昼寝で忙しいっつっただろ」

青ピ「よくよく考えたら昼寝で忙しいって面白い言葉やなぁ、あははは」

一方通行「そのニヤケ面今すぐ凹ませてやろォかクソ野郎が」

姫神「アクセラ君。いいことを思い付いた」

一方通行「あァ?」

姫神「アクセラ君は昼寝をしたいんだよね? 日曜日は」

一方通行「そォだな」


姫神「だったら花見の会場で場所を取ってから。そこでゆっくり昼寝すればいい。そうすれば場所も取れて昼寝がこなせる。完璧な一石二鳥」




一方通行「お、おォ」

上条「す、すげえ。一方通行を言葉でねじ伏せた」

土御門「そうか? 割といつも言葉でねじ伏せられてるような気がするけどにゃー」

青ピ「まああれよ。実はみんなと花見したいけど素直になれないツンデ――」



ガシッ!



一方通行「で、青髪ピアス君。オマエの死体は桜の木の下に埋めとけばイイのかァ? なァ?」ニヤァ

青ピ「あ、あははははだめだよアクセラくーん。綺麗な桜の木の下には人の死体が埋まってるなんて、あんなの迷信やでー」

一方通行「迷信かどォか、ちょっと試してみようぜ?」グググッ

吹寄「やめなさいアクセラ。こんなヤツの汚い血で桜を汚しちゃダメよ」

青ピ「イタイイタイ! アクセラちゃんのベクトル握力と吹寄さんの容赦ない言葉の暴力で二重に痛いっ、でも感じちゃう!!」

一方通行「うわっ、気持ち悪っ」パッ

吹寄「今更ね」

結標「ところで場所取りって何時くらいに現地に行けばいいのかしら?」

一方通行「オマエさっき一日前とか自分で言ってなかったか?」

結標「いや、あれは場の勢いから出た適当な発言というか……」

土御門「まあ、あそこの公園は結構広いから、そんな早く行かなくてもいい場所は取れるとは思うけどにゃー」

上条「でもこの前ニュースで見たぞ。花見の為に朝五時からゲーム機片手に場所取りしてるヤツ」

土御門「安心しろ。そいつはガチ勢だ。まともに張り合う必要性は皆無だ」

結標「五時か……頑張ればいけそうね!」グッ

一方通行「やっぱり馬鹿だろオマエ」

吹寄「まあ五時は早すぎだとしても、いい場所取る為なら昼くらいに行けばいいんじゃない?」

青ピ「でも満開日やからそれじゃあ遅いかもわからんよなぁ」

一方通行「そンなに心配なら俺の代わりに朝五時から待機しててくれよピアスクン」

青ピ「ボクには花見を盛り上げるための余興の準備があるから」

一方通行「クソの役にも立たねェ余興なンて準備の必要ねェだろ」

青ピ「なんやてっ!? だったらやってやらぁ、アクセラちゃんがあっと言わせるような余興をッ!!」

一方通行「そォかよ。そりゃ楽しみだ」




結標「ちなみに花見の開始時間は?」

吹寄「夕食もかねてだから、まあちょっと早いかもだけど五時くらい? 次の日学校だから終わりが遅くなりすぎてもあれだし」

結標「昼十二時に来たとしても五時間待機か……長期戦ね。雑誌とかいっぱい持っていけばいいのかしら?」

吹寄「それかいい機会だし公園の散歩とかでもして時間潰せばいいんじゃない? そこそこ広いところだし。場所取りは片方でも居ればいいわけだし」

姫神「何なら二人で桜並木道を歩いてみては? 平たく言うならお散歩デート」

結標「ちょ、姫神さん何を言っているのよッ! こんな状況でッ!」

姫神「おっと口が滑った。てへ」

一方通行「……つゥか、場所取りに行ってンのに二人で出歩いたら意味ねェだろ。アホか」

結標「…………」

姫神「…………」

一方通行「あン? 何だコレ?」

青ピ「アクセラちゃん。何というか、某最強のスルースキル持ちを見て呆れてたけど、キミも大概なんだよなぁ……」

一方通行「ハァ? 何言ってンだコイツ?」

上条「さあ?」

土御門「要するにアクセラちゃんも馬鹿野郎ってわけだにゃー」

一方通行「言っている意味はよく分からねェが、とりあえず喧嘩売ってるっつゥことで構わねェンだよなクソ御門クン?」

土御門「そうだ。さぁ、能力なんて捨ててかかってこい!」

一方通行「やなこった」カチッ

土御門「よし、カミやんあとは任せたッ!」ダッ

上条「だから俺を巻き込むんじゃねえッ!」

吹寄「……はぁ、ストップストップ収集付かなくなる前に話をまとめるわよ」


吹寄「花見の会場は第七学区の某桜公園。日時は今週末の日曜日の午後五時集合」

吹寄「各員の役割は、姫神さんとあたしでお弁当係。三馬鹿は特には求めてはないけど余興の準備係。結標さんとアクセラで場所取り」




青ピ「ひどい言われようやなぁ。せっかく盛り上げようとしたのに」

土御門「そうだにゃー。カミやんに裸踊りでもさせて盛り上げようとしたのに」

上条「絶対やらねえぞ? 俺の幻想殺しでそのくだらねえ余興全部ぶっ壊してやるよ」

姫神「……少し見てみたいかも」ボソッ

上条「あれ? 何か聞きたくない言葉が聞こえてきたんですが姫神さん!?」

結標「吹寄さん。ここ以外のメンバー連れてくるのあり? たぶん話聞いたらうちの打ち止めちゃん付いてきそうなんだけど」

吹寄「別にいいんじゃない? 人数多い方が楽しいし」

一方通行「それを認めるとなると、上条さンちのリーサルウェポンが来るっつゥわけだな」

上条「あっ、やべえ。忘れてた……」

土御門「お弁当全滅の危機だにゃー」

姫神「大丈夫。それを想定して多めに作るつもり」

結標「さすが姫神さんね!」

上条「ありがとうございます姫神様!」ハハァ

姫神「くるしゅうない」

一方通行「はァ、だがその想定を上回るのがあのシスターだ……しょうがねェ。俺も何か適当に買ってくるか」

上条「ありがとうございます一方通行様!!」ハハハァ

姫神「……むっ」ジロッ

一方通行「ンだァその面ァ? 人がせっかく食料防衛に手ェ貸してやろうって言ってるのによォ」

姫神「別に」





キーンコーンカーンコーン



結標「あっ、予鈴」

吹寄「話は大体まとまったし。あと何かあったらまた話しましょ」

姫神「わかったわ。さて。今のうちに何作るか考えとかなきゃ」

青ピ「とりあえずあれとあれを用意して……」ブツブツ

土御門「やっぱり罰ゲーム的なのがあったほうがいいかにゃー。じゃああれを……」ブツブツ

上条「こいつら絶対悪だくみしかしてねえ」

一方通行「くだらねェ」

結標「今から楽しみよね。ね、一方通行?」ニコッ

一方通行「今から億劫だよ」

結標「それは楽しみだ、という解釈でいいのかしら?」

一方通行「オマエの思考回路はどォなってやがる」


吹寄「あっ、そうだ結標さん」コソッ

結標「何かしら?」

吹寄「姫神さんじゃないけど、せっかく二人きりの状況なんだからこのチャンス活かしたほうがいいとあたしも思うわ」

結標「えっ、いやそんな急に言われても……」アセッ

吹寄「どうせなら告っちゃえば?」

結標「!?」ブッ

吹寄「ま、それは冗談だけど。ちょっとくらいは頑張ってみてもいいんじゃない? じゃね」タッタッタ

結標「えぇ……」


―――
――





同日 19:30

-黄泉川家・食卓-



結標「――というわけで、今週末の日曜日に花見に行くことになったんですよ」


黄泉川「おっ、いいじゃんねえ花見。綺麗な桜を肴にこう酒をぐいっと」

一方通行「オマエは酒が飲めれば何でもイインだろォが」

黄泉川「そんなことないぞー。やっぱシチュエーションっつーのは大事だと思うのよ。飲み屋で飲む酒と桜を見ながらの酒、また味わいが違うじゃんねえー」

打ち止め「なるほど、シチュエーションか。部屋の中で食べるお弁当と公園とかで食べるお弁当の味が違う現象みたいな感じだね、ってミサカはミサカは一例を挙げてみる」

黄泉川「もちろんお前らと団欒しながら飲む酒もうまいぞー!!」

一方通行「うるせェ黙れ酔っ払い」

芳川「でも淡希。その日ってたしか満開の予報が出てたわよね? 人が多いんじゃない?」

結標「はい。だから早めに行って場所を確保するのが私と一方通行の役目なんですよ」

芳川「ふーん。まあ、せいぜい早く出ることね。学園都市には花見ガチ勢が結構いるから」

結標「そ、そうなんですか……? 昼くらいに行こうかと思ってたんですけど……」

芳川「それくらいなら主要な場所が抑えられてる可能性があるわね。残ってるとしたら、端っこのしょぼくてトイレもコンビニも遠い不便な場所」

結標「な、なんと!?」

一方通行「面倒臭せェ展開になってきやがったな」

芳川「そこそこの場所でいいのなら九時くらいに行くのが安全だと思うわよ」

打ち止め「詳しいねヨシカワ」

芳川「まあね。研究者時代にこの時期は花見してたからそれなりに知ってるわ」

結標「九時か……学校行く日と同じくらいの時間に起きて、行動しなきゃいけないわね」

一方通行「別に場所とかどこでもよくね?」

結標「嫌よ。場所取り係になったからには出来る限りいい場所を確保したいわ。レジャーシートが敷けないみたいな場所は絶対にごめんよ」

一方通行「ま、別に出遅れてたとえ場所がなくてもアレだ。俺がちょっとチカラ使って脅してやりゃ、連中快く場所空けてくれると思うぜ?」

黄泉川「うん? 何か悪事が聞こえてきた気がするんだけど、気のせいか?」ジロッ

一方通行「気のせいだろ」

黄泉川「あんまり無茶するなよお前ら。一応、その日は私のいる班のアンチスキルが見回りしてると思うから、ちょっと問題でも起こしてみろ。いくら身内でも容赦しないじゃん」

結標「き、気を付けます」

一方通行「チッ、厄介なヤツが居やがる」

結標「……ってことは黄泉川さん当日はお仕事ってことですか?」

黄泉川「そうじゃんね」

結標「それは残念ですね。一緒にどうかな、って思ったんですけど」

一方通行「ソイツは朗報だな。面倒なのがいなくて清々する」

黄泉川「なんだー? 生意気なことを喋る口はこいつかぁー? このこのー」ツネッ

一方通行「いふェえ、はひひやはるッ!?(痛てェ、何しやがるッ!?)」




芳川「ちなみにだけど淡希。私もその日はバイトと時間が被ってるから行けないわ」

結標「そうですか」

芳川「ま、休みでも行かないけどね」

結標「何でですか? もしかして面倒臭いとかどっかの白髪みたいなこと言うつもりじゃ……?」

一方通行「へェー、ソイツは奇遇だなァ」ヒリヒリ

打ち止め「大丈夫? ほっぺたが真っ赤に腫れてるよ? ってミサカはミサカは急激な肌色の変化に心配してみたり」

一方通行「あの野郎一体握力いくつだ? 本気でつねりやがってよォ」

黄泉川「覚えてないけど、リンゴくらいなら握り潰せるじゃん」

一方通行「怪力ゴリラババ――」



ゴンッ!!



芳川「うーん、面倒臭いっていう気持ちがあるのは否定はしないけど、理由は別にあるわ。子供たちの集まりに大人が混じるのって正直あれだからよ」

結標「な、なるほど。その発想はありませんでした」

芳川「子供には分からないでしょうね。この気持ち」

黄泉川「別にいい気がするけどなー。引率みたいなもんじゃん?」

芳川「高校生の花見に引率が付くなんて聞いたことないわよ?」

一方通行「行きたくねェな、そンなモンが付く花見なンてよォ」

黄泉川「花見なんて学生がはっちゃける行事の筆頭だからな。節度のある花見をするように指導しなきゃいけないじゃん」

打ち止め「指導? 節度のある花見にするための指導って何なの? ミサカはミサカは率直な質問をしてみたり」

黄泉川「そうだなー。例えばアルコールの入ったジュースを飲もうとしたら取り上げたり、アルコールの入った炭酸の麦ジュースを飲もうとしたら取り上げたり」

一方通行「両方酒じゃねェか。それしか基準がねェのかよ節度のある花見っつゥのはよォ」

黄泉川「そりゃそうだろ。花見の飲み会なんてはっちゃけるのが普通じゃん? 未成年がアルコールを飲まなきゃ、好き放題してくれりゃいい。あくまで常識の範囲内でだけどな」

一方通行「随分と適当だな。アンチスキル」

黄泉川「そこまでギチギチに締め付ける気はないってだけじゃん」

結標「あっ、そうだ。打ち止めちゃんはもちろん来るわよね?」

打ち止め「……ふふふっ、残念ながらミサカはここでノーと答えさせてもらうぜ、ってミサカはミサカはハードボイルドを気取ってみたり」

芳川「貴女ハードボイルドの意味知ってる?」

結標「珍しいわね打ち止めちゃん。貴女がこの誘いに乗ってこないなんて……花見はあんまり興味なかった?」

一方通行「どォりで話に食い付いてこねェわけだ」

打ち止め「おっと勘違いさせちゃってるね。ミサカはあくまでアワキお姉ちゃんたちとは一緒に行けないって言いたかったんだよ、ってミサカはミサカは追加の説明を入れてみる」

一方通行「あァ?」

打ち止め「同じ日の同じくらいの時間帯にキハラたちも花見をするんだ。それにエンシュウから誘われたからそっちのグループで花見するよ、ってミサカはミサカはさらに追加説明してみたり」

結標「へー、木原さんたちも花見するんだ」

一方通行「嫌なヤツと鉢合わせしそォだ」

打ち止め「そういうわけだから一緒にいけないんだ。まあ、ちょくちょくそっちの方にも顔出してちょっかいかけるとするよ、ってミサカはミサカは二つの組織をまたにかける女スパイの気分になってみたり」

一方通行「何がスパイだ。コッチの菓子とか食いモン目当てに寄って来る乞食の間違いだろ」

打ち止め「へへー、やっぱりバレてた? ってミサカはミサカは舌を出しておどけてみたり」テヘペロ




結標「ところで一方通行? 当日何時に行くのがいいと思う? やっぱり九時がいいかしらね?」

一方通行「面倒臭せェ、そンなに九時に行きてェならオマエだけ先に行ってろよ」

結標「ええっー、それは嫌よ。行くなら一緒よ? 一人で長時間寂しく待機なんて絶対嫌っ!」

一方通行「だったら昼頃行くか?」

結標「でもそれだったらいい場所取れない可能性が……」

打ち止め「こうなったらジャンケンで決めればいいよ! このままじゃどうせいつまで経っても埒が明かないんだからさ、ってミサカはミサカは解決案を提示してみたり」

一方通行「……ほォ、面白れェじゃねェか。この俺にジャンケンを挑もうなンて百年早ェンだよ」

結標「何よ、随分な自信じゃない? 誰がやっても平等に三分の一の確率で決まる勝負なのに」

一方通行「俺を誰だと思ってやがる? あらゆるベクトルを観測できるこの俺が、オマエの出す手を見抜けねェわけねェだろォが」カチッ

結標「なっ、理屈はよく分からないけど能力を使うつもりね!? 汚いわよ!」

芳川「たぶんあれね。ジャンケンの手を出すときの微妙な筋肉の動きとかを観測して勝つつもりよ。要するにやることは後出しと一緒」

一方通行「ケッ、チカラ含めて俺の実力だ。オマエにとやかく言われる筋合いはねェ」

黄泉川「だったらここに何かのパーティーで使ったジャンケンカードがあるじゃん。これでやれば公平だろ」

一方通行「は? 何でそンなモンがあンだよ?」

黄泉川「何か隅っこに転がってた」

芳川「なるほど。これを使えばベクトル操作の能力で、相手が何を出すのかを知ることはほぼ不可能ね」

結標「ナイスアシストです黄泉川さん! よし、これで純粋な運の勝負よ一方通行!」

一方通行「チッ、調子に乗るなよ格下がァ! この俺が普通にやったところでオマエなンかに負けるわけねェだろォが!」スッ

結標「ジャンケンに格下格上なんて関係ない! それじゃ行くわよ!」スッ



一方・結標「「ジャンケン、ポン!!」」バッ



―――
――





March Forth Sunday 09:00

-第七学区・とある桜公園-



結標「よし、着いた。ここが桜公園ね」

一方通行「何で俺がこンな朝早くからこンな場所に来なきゃいけねェンだ」

結標「ぶつぶつうるさいわよ。大人しく敗者は勝者に従いなさい」

一方通行「たかだかジャンケンごときに勝ったぐらいでそこまで偉そうに出来るなンて、ある意味才能だな」

結標「そのたかだかジャンケンに負けてゴチャゴチャ文句垂れてるヤツに言われたくないわね」

一方通行「チッ、面倒臭せェ」

結標「しかし、桜すっごい迫力ね。これが満開の桜ってやつか……綺麗」

一方通行「ふーン、あちらこちら見回して見ると、例の場所取りガチ勢とやらが結構居やがるな」

結標「芳川さんの情報は正しかったってことね。信じてこの時間に来てよかったわ。昼頃に来てたらほとんど埋まってたんじゃない?」

一方通行「この桜の量ならどこにレジャーシート敷こうが同じだっつゥの」

結標「……まあ、それはたしかに思う。ちょっとだけだけど」

一方通行「つまり、わざわざいい場所を取る必要はなくなったっつゥわけだ。じゃ、一回家帰って寝直してからまた昼頃来るとするか」ガチャリガチャリ

結標「まあ待ちなさい。せっかく来たのだから、ちゃんと場所取りしましょうよ」ガシッ

一方通行「オマエもさっきどの場所でも同じっつってただろォが」

結標「いや、もしもの話をしましょ? もしここで帰ってまた昼間に来たとしましょう。すると大盛況でレジャーシートを敷く隙間すらありませんでした」

一方通行「考えすぎじゃねェのか?」


ガチ勢「それが考えすぎではないぞ!!」


一方通行「あン?」

結標「誰っ!?」


ガチ勢「今日は日曜日に加え満開日だ。さらにこの時間の段階で場所取りしているグループの数がそこそこ多いッ!!」

ガチ勢「もちろんそのグループは夜に花見をするグループではなく、昼で解散するグループかもしれない。だが経験からしておそらくあの中では半分くらいだッ!!」

ガチ勢「さらにこの週末にはこの公園周辺で桜祭りと言って出店が出ているため、集客力がかなり高まっているだろうッ!!」

ガチ勢「以上のことからして、この時間ここにいるのならば場所取りをしない理由は皆無ッ!! では、レッツ花見ライフッ!!」スタスタ


一方通行「……何だったンだ今の?」

結標「さ、さあ? 例の花見場所取りのガチ勢の人じゃない?」




一方通行「よくわからンがアイツが言うことを信じるなら、昼間に来たら場所がなくなっている可能性が高いっつゥことか」

結標「ほ、ほら私の言った通りじゃない。やっぱり場所取りはしとくべきよ」

一方通行「あンな見ず知らずの不審者の言うことを聞くつもりかオマエは?」

結標「見ず知らず不審者じゃないわ、ガチ勢の人よ」

一方通行「俺からしたらほぼ同じ意味なンだがな……まァイイ、花見ガチ勢か。お手並み拝見と行くか」

結標「しかしいい場所と言ってもどういう場所がいいのかさっぱり分からないわね」

一方通行「ネットで見る限りだと、桜が綺麗に見える場所、トイレとかゴミ箱が近い場所、座る場所が荒れてなく座りやすい地面の場所、とかだそうだ」ピッピッ

結標「へー、なるほど」

一方通行「あと、俺らは夜桜の予定だから足元が見やすい街灯とかの下がイイらしい」

結標「…………」

一方通行「あァ? どォかしたか?」

結標「いや、さっきまで文句しか言ってなかったヤツがこういろいろ調べてくれてるのに違和感が……」

一方通行「人がせっかく働いているっつゥのに、何でそンなこと言われなきゃいけねェンだ?」

結標「あはは、ごめんごめん。でもあれよね。なんだかんだ言って貴方も花見が楽しみだったってわけよね?」

一方通行「どこをどォ思考すればそンな考えが出てくる? 勘違いすンじゃねェぞ。オマエに適当な場所を闇雲に取られて、俺まで他のヤツから総スカン食らいたくなかったから調べただけだ」

結標「はいはいそうですねー、私はそんなことをやりそうな馬鹿ですよーと」

一方通行「チッ、癇に障るヤツだ」

結標「……うーんざっと見た感じ、さっき貴方が言ったポイントに当てはまりそうな場所は大体取られているようね」

一方通行「そりゃそォだ。わざわざこンな時間に来るヤツがゴミみてェなポイントを陣取るわけねェからな」

結標「やっぱりガチ勢ってすごいのね。ほら見てみてよあそこ。わざわざ寝袋まで持ってきて場所取りしてるわよ。一体いつからあそこに待機しているのかしら?」

一方通行「あンなのカワイイモンだ。アッチにはテント張ってる馬鹿が居やがるぜ?」

結標「あそこまでしないといい場所は取れないってことね。甘く見ていたわ花見の場所取り……」

一方通行「まァ、俺が脅せば一発で」

結標「だからやめときなさい。黄泉川さんのお世話になりたくないでしょ?」

一方通行「だったら金でも積むかァ? コンビニのATMで五万くらい下ろしてくっかァ?」

結標「それも黄泉川さんならきっとアウトって言うからやめときなさい。というか嫌にリアルな数字よね五万って」

一方通行「買収の何が悪いのか理解に苦しむねェ。俺たちは場所を取れる、相手は五万円儲かる。まさしくWin-Winの関係だっつゥのに」

結標「まあそうなんでしょうけど……あっ、あれを見てよ一方通行」

一方通行「あン?」ジロッ



黒服1「…………」

黒服2「…………」

黒服3「…………」



結標「黒いスーツにサングラス、まさしくいかにもな人たちが場所取りしてるわよ。しかも結構良さそうな場所」

一方通行「ほォ、いかにもな三下どもだな。まさしく花見の場所取りにピッタリなヤツらだ」

結標「やっぱりあれくらいの人たちじゃないといい場所が取れないのね」

一方通行「……つゥかアイツら、どっかで見たことあるよォな気がする顔だな」

結標「えっ、ほんと? うーん……」ジィ




黒服1「……あっ、一方通行さんに結標さん、おはようございます!」

黒服2「ちわっす!」

黒服3「そちらも花見の場所取りですか? お互い大変ですねー」


結標「……あっ、思い出した! たしか木原さんの会社の!」


マイク「どうも。コードネーム:マイクです」

オーソン「オーソンっす」

デニス「デニスと申します」


一方通行「……つゥことは、ここは木原の野郎が来る予定の場所か?」

オーソン「そうっす。夕方五時スタートの予定です」

結標「ふーん、偶然にも同じ時間ね。じゃあここら辺の近くで場所取れば、打ち止めちゃんとも一緒に花見できるわね」

一方通行「オイやめろ。何で花見の時に木原の顔なンて見なきゃいけねェンだ。この位置から真反対の場所に行くぞ」

結標「ここから真反対だと、さっき貴方が言ったトイレやゴミ箱に近いって条件に全然合わない位置になりそうよ」

一方通行「俺の平穏の為には背に腹は代えられねェ」

結標「ほんと貴方嫌いよね。木原さんのこと」

一方通行「普通の思考していたら、ヤツを嫌悪しねェヤツはいないはずなンだがなァ」

結標「じゃ、そういうわけなんで私たちは行きます」

マイク「場所取り頑張ってください」

デニス「花見の場所取りは戦争ですからねえ。ご武運を」

結標「ありがとうございます」




結標「さて、じゃあ別の場所を探すとしますか」

一方通行「もォこの際普通に座れりゃどこでもイイだろ。トイレなンて歩かせりゃイイし、ゴミなンてオマエが飛ばせばすぐ運べる」

結標「貴方の言うことには納得しかねるけど、この空いてる場所からしてそうせざる負えないようね」

一方通行「何だその言いようは? そンなに気に入らねェならゴミは俺が大気圏外に向けてぶっ飛ばしてやるよ」

結標「宇宙にゴミをばら撒くのはやめなさいよ」

一方通行「もともとデブリだらけなンだから問題ねェだろ。そもそも大気圏の摩擦でゴミが燃え尽きるっつゥの」

結標「まあトイレとゴミ箱は度外視するとしても、せめて街灯とかは欲しいわよね? 足元とか見づらいと何かと不便だし」

一方通行「それなら楽な条件だ。街灯のある道沿い歩いて行きゃどっかあンだろ」

結標「そうね。じゃあ、その辺適当に歩いてみましょ」

一方通行「ああ。しかし、吹寄のヤツよくもこの俺にこンな面倒事押し付けてくれたな。覚えてろよアイツ」

結標「まあいいじゃない。どうせ上条君たちと余興の準備をしろって言われても嫌がるでしょ貴方」

一方通行「それはもちろン全力で逃げる。チカラァ使ってでもなァ」

結標「かと言って女子二人に混じってお弁当作りを手伝え、って言われても嫌でしょ?」

一方通行「まァな。まあ馬鹿三人に付き合うよりはマシだろォけどよ」

結標「じゃあ場所取りしかやることないじゃない」

一方通行「まだやることは残ってるだろ」

結標「何よ?」

一方通行「家で昼寝して集合時間が来るまで待機」

結標「まだそんなこと言っているの貴方は? いい加減諦めなさいよ」

一方通行「オイ結標」

結標「何よ?」

一方通行「面倒だからあの場所でイイだろ。街灯もあるし、地面も平面に近いから座りやすいし、広さもそこそこだ」

結標「うーん、まあトイレまで片道五分くらいかかりそうなところだけど、いいんじゃないかしら? 景色もまあ良さそうだし」

一方通行「場所も場所だから人が少ないのも俺からしたらポイントが高いな。ま、時間が経てばここにも有象無象で溢れかえるンだろォが」

結標「じゃ、ここら辺にしましょ。シート敷くから手伝って」ゴソゴソ

一方通行「ハイハイ」ガサガサ


結標「……よし、これで場所は取れたわ」

一方通行「やっとこの場所取りっつゥクソみてェな作業から解放されンだな」

結標「残念ながら花見が始まるまでが場所取りです。絶対に逃がさないわよ」

一方通行「わかってるようるせェな。逃げやしねェよ」

結標「本当かしら?」

一方通行「当たり前だろォが。あっ、そォだ。ちょっとコーヒーが飲みたくなってきたから自販機行ってくる」

結標「とか言って逃げるつもりじゃないでしょうね?」

一方通行「ンなわけねェだろォが。どれだけ信用されてねェンだ俺は?」

結標「逃げたら絶交だからね?」

一方通行「その程度で絶交されるなンてクソみてェな信頼関係だなァオイ」


―――
――





同日 11:00

-とある高校男子寮・上条当麻の部屋-



青ピ「――というわけで、長い話し合いの末にボクらの用意する余興が決まりましたぁー!」



土御門「いえーい!」

上条「ちょっと待てコラ」

青ピ「なんやカミやん。何か不満でもあるんかいな?」

上条「不満しかないわ! お前ら本気で『アレ』を花見の会場でみんなの前でやるつもりなのかよ?」

青ピ「むしろああいう場でやってこそやん。それにインデックスちゃんもやる気になってるし」

禁書「なんだかよくわかんないけど頑張って歌うんだよ!」

上条「なんだかよくわからないものを頑張ろうとするな! 大体お前歌とか歌えんのかよ?」

禁書「むむっ、とうま! 私は声とか歌を使った魔術のプロフェッショナルなんだよ! だから歌は大大大得意かも!」

青ピ「魔術……?」

上条「あ、あははいやいや何でもない何でもない気にしないでくれ。つーか、お前が歌おうとしてる歌はそういうのまったく関係ないヤツだろうが」

禁書「そこのところは大丈夫! だって毎週欠かさず観てるし、何より私には完全記憶能力があるからね。バッチリ歌えるんだよ」フフン

上条「くっ、なんつう自信満々の顔だ」

土御門「カーミやーん、諦めて大人しく受け入れたほうがいいんじゃないか?」

上条「……い、いやでも」

土御門「だったら代わりに姫神ご所望の裸踊りでもやるかい?」

上条「ぐっ……、わかったよ。やりますよやらせていただきますよ」

青ピ「さすがカミやん。わかってくれると思うとったで」

禁書「ねえねえとうま」

上条「何だよ?」

禁書「そろそろお昼の時間なんだよ。お腹が減ってきたかも」

青ピ「ほな練習は昼メシ食べてからにしよーか。腹が減っては戦はできぬ、ってね」

土御門「よし、ならラーメン食いに行こうぜラーメン。近くに最近見つけたうまいラーメン屋があるにゃー」

禁書「わーい、らーめんらーめん♪」

上条「ラーメンは二杯までだからなインデックス。そんな手持ちないんだからな、わかってんだろうな?」

禁書「ちゃーはん♪ ぎょーざ♪ からあげ♪ ほいこーろー♪」

上条「サイドメニューは二つまでにしろ!」

禁書「はーい!」

青ピ「なんや貧乏貧乏言うとるわりには結構許容してへんか?」ボソッ

土御門「カミやんはなんだかんだ言って甘いからにゃー。それにインデックスに慣れすぎて感覚が軽くぶっ壊れてるのかもしれない」ボソッ

青ピ「カミやんェ……」

上条「なに二人してコソコソ喋ってんだ? さっさと行こーぜ?」


―――
――





同日 12:00

-第七学区・とある桜公園-



ワイワイガヤガヤ



一方通行「Zzz」



結標「ただいまー、お昼買ってきたわよー、って寝てるし。この騒がしい中よく寝られるわね……」

結標「ちょっと起きなさいよ一方通行! お昼ご飯買ってきたわよ!」ユサユサ


一方通行「Zzz――あァ? ……チッ、俺の睡眠を妨げやがってクソが」


結標「相変わらずの寝起きの悪さね。ほら、お昼買ってきたわよ」つコンビニ弁当

一方通行「別に腹なンて減ってねェよ。だから俺の昼寝の邪魔をするなよ」

結標「周りはお花見昼の部で大騒ぎしてるっていうのに、よくこの状況で昼寝しようなんて思うわね」




<うわー桜満開すごいねー!! <昼間から飲む酒うめええええ!! <ここで一曲歌います!!




一方通行「……おォーおォー、いかにもなヤツらがハシャギ回ってンなァ」

結標「えっと、鮭弁とからあげ弁買ってきたけど貴方どっちがいいかしら?」

一方通行「だから腹減ってねェっつってンだろ。いらねェよオマエ一人で食え」

結標「なっ、い、嫌よ何で私が二人分のお弁当食べなきゃいけないのよ!」

一方通行「オマエが勝手に買ってきたンだろォが」

結標「大体、夜にもたくさん飲み食いするっていうのにここでそんなに食べたら、絶対、その、体重が……」ボソッ

一方通行「あァ? 別に誰もオマエの体重の増減なンざ気にしねェだろ」

結標「私が気にするのよ! ったく、貴方って本当にデリカシーってのがないわよね」

一方通行「今さらそンなこと言われてもなァ」

結標「……はぁ、まあいいわ。私鮭のほう食べるから唐揚げのほうよろしく」カパッ

一方通行「勝手に決めンな、つゥかいらねェっつってンだろォが」

結標「どうしても今食べないっていうのなら私にも考えがあるわ」

一方通行「あン?」


結標「この唐揚げ弁当、今から私直々に美味しく味付けして食べさせてあげるわ。どんな手を使ってでも、ね」ニヤッ


一方通行「いただきまァす」カパッ

結標「はい、よろしい」ニコッ




一方通行「……はァ。自分のウィークポイント晒し上げまでするとは、どンだけ弁当食わせてェンだよオマエ」モグモグ

結標「いや、なんかこのまま引き下がったら負けた気がして」パクパク

一方通行「何つゥか、オマエも超能力者(レベル5)らしくなってきたな」

結標「何でよ?」

一方通行「負けず嫌いっつゥか、我が強いっつゥか」

結標「そ、そうなのかしら……、まあでも貴方にはさすがに負けるけどね」

一方通行「誰が負けず嫌いで我が強いヤツだってェ?」

結標「だって事実よね? 負けるの嫌いだし、何が何でも自分のこと押し通そうとするし」

一方通行「チッ、そォかよ」

結標「……そういえばさ」

一方通行「何だよ」

結標「まだ二人しかいなくて、食べてるものもこんなショボいコンビニのお弁当なんだけどね」

一方通行「買ってきたのはオマエだろォが。で、それがどォかしたかよ」

結標「これもある意味花見をしてる、ってことになるわよね?」

一方通行「桜見ながらメシを食う、っつゥ行為が花見って言うならそォだろォな」

結標「場所取りって一見損な役回りっぽいけど、昼間の桜の木を見ながらご飯食べられるならある意味役得よね」

一方通行「そォか?」

結標「そうよ。だってみんなが来るのは夕方からだからみんなが見られるのは夕方からの桜だから。私たちは長くいろんな桜を楽しめるってこと」

一方通行「……まァ、大半の場所取りしてるヤツらは寝てたり本読ンでたりゲームしてるから、そンなこと思ってるヤツは少数派だろォよ」

結標「別にいいわよ。少数だろうが多数だろうが私が良ければ」

一方通行「つゥか、オマエいつからそンなお花サン大好き女になったンだ?」

結標「別にそういうわけじゃないわよ。ただ、せっかく花見に来たんだから桜の景色楽しまなくっちゃねって感じよ」

一方通行「へェー」

結標「貴方も少しは景色を楽しんでみたらどう? すぐに昼寝しようとせずにね」

一方通行「……まァ、別にそれはやってもイインだけどよォ」

結標「あら、貴方にしては意外な答えね。何かしら屁理屈こねて突っぱねると思ったのに」

一方通行「俺を一体何だと思ってやがる」

結標「あはは、ごめんごめん」

一方通行「……たしかに、こォいう風に揺れる花とか木々とか見ると落ち着くよなァ」

結標「そうね。わかってるじゃない」

一方通行「落ち着くからか知ンねェけどよォ」カクン

結標「うん?」

一方通行「……こう、自然と、睡魔が――Zzz」

結標「結局寝るんかい! ていうか、お弁当食べ差しにしたまま寝るな!」


―――
――





同日 14:00

-とある高校女子寮・姫神秋沙の部屋-


吹寄「………ふう、今頃場所取り二人組は仲良くやってるかしらね」

姫神「やっぱり場所取りを二人に任せたのは。そういう意図があったからなのね」

吹寄「まーね。って言っても、あの選択肢三つだったら消去法で結局はああなりそうだけど」

姫神「アクセラ君だったらなんやかんや言いながらも。余興とかなら渋々参加してくれそうな気がする」

吹寄「たまによくわからないノリの良さを見せるわよねアクセラって」

姫神「ふふふ。そうね」

吹寄「ま、二人のことは置いといて、姫神さんも花見中に隙を見つけてガンガンアタックしなさいよね」

姫神「うっ。それは……」

吹寄「花見の宴会って言ってもずっと同じ場所にいなきゃいけないってことはないんだから、連れ出して二人きりになっても構わないわけだし」

吹寄「今日は桜祭りで屋台とか出てるみたいだし、一緒に回ってみたりすればいいんじゃないかしら?」

姫神「なんとも難易度の高い要求。そんなことができるのなら。こんな状況にそもそもなっていない」

吹寄「そんなこと言ってたらいつまで経ってもこのままよ?」

姫神「む……。それはそう」

吹寄「だったら今日のお花見は上条当麻を誘って一緒に屋台に行く。これがミッションよ♪」

姫神「……なんか楽しそうね。他人事だと思って」

吹寄「何言ってるのよ。ちゃんと姫神さんのこと考えてるわ」

姫神「本当に?」

吹寄「だって実現できたら姫神さん、嬉しいでしょ?」

姫神「……まあ。たしかに」

吹寄「じゃあ決まりね! 頑張ってね姫神さん。出来る限りのことはあたしもサポートするわ!」

姫神「ありがとう。じゃあ。なんとかやってみるとする」

吹寄「よし、そうと決まればささっとお弁当の準備済ませて、結標さんたちと合流しましょ」

姫神「うん」


―――
――





同日 15:00

-第七学区・とある桜公園-


結標「…………」←来るときに買ってきたファッション誌を読んでいる

一方通行「…………」←寝たらなぜかどつかれるので仕方無しに漫画雑誌読んでいる



ワイワイガヤガヤ



結標「……気付いたらこの辺りも人が増えてきたわね」

一方通行「そォだな」

結標「やっぱり早いうちから場所取りしてて正解だったってことね」

一方通行「ここまでのことをしないといけねェとは、ホント面倒臭せェイベントだよなァ花見ってヤツはよォ」

結標「その分楽しいわよ。きっと」

一方通行「だとイイがな」

結標「何よそれ。少しは楽しもうという意思を見せたらどうかしら?」

一方通行「チッ、くっだらねェ」

結標「もう……」


『せっかく二人きりの状況なんだからこのチャンス活かしたほうがいいと思うわ』


結標「…………」


『どうせなら告っちゃえば?』


結標「……はぁ、そんなこと言われてもねえ」ボソッ

一方通行「あン? 何だよ」

結標「えっ、いやなんでもないわよ、あははははは!」アセッ

一方通行「?」


結標(大体二人きりと言っても周りには他の花見客とかいるわけだから、言うほど二人きりって状況じゃないわよねこれ)

結標(そんな公衆の面前で恋愛マンガみたいな熱烈な告白なんかしたら、恥ずかしすぎて死ぬってレベルじゃないわよね)

結標(そもそも二人きりって状況、私たちの場合別に珍しくないのよね。登下校とか結構二人きりのこと多いし)

結標(だからか二人きりの状況の活かし方がぜんぜん思いつかないわ……)




結標「……はぁ」

一方通行「さっきから何ため息ばっかついてンだ、うっとォしい」

結標「別に。あっ、もうこんな時間か。おやつでも食べよっと」ガサゴソ

一方通行「あと二時間弱か。もう少しでこの場所取りとかいう苦痛から解き放たれるっつゥことだよな」

結標「むっ、私といる時間が苦痛って言いたいのかしら?」

一方通行「薄寒い空の下の固い地面の上で、長時間座ったりしながら本読ンだりぼォっとし続けるのは苦痛だろォが。オマエの有無は関係ねェ」

結標「あー、たしかにね。私もそろそろキツくなってきたわ、クッションとか持ってくればよかった」

一方通行「チッ」

結標「まあまあそう機嫌を悪くしないでちょうだい。そうだ、ポッキー食べる?」つポッキー

一方通行「いらねェよ。大体そンなモンで機嫌がよくなるわけねェだろォが」

結標「何? 私のポッキーが食べられないっていうのかしら?」

一方通行「甘いモンはいらねェ」

結標「安心してちょうだい。これは大人なビターなヤツだから」

一方通行「そォだとしてもいらねェよ」

結標「むー、だったらこの突き出したポッキー行方は一体どうなるっていうのよ?」

一方通行「自分で食えばイイじゃねェか」

結標「なんかムカつくから貴方が食べなさい! はい、あーんしなさいあーん」

一方通行「やるわけねェだろ!! 馬鹿言ってンじゃねェぞクソアマが!!」



ワーワーギャーギャー!!



モブ(なんだあのバカップル……糞がッ!)


―――
――





同日 16:00

-ファミリーサイド・従犬部隊オフィス-


数多「――さて、お前ら食いモンとか酒とかの準備は出来ているな?」

ヴェーラ「問題ないです」

ナンシー「バッチリです」

数多「ならそろそろ行くとするか。おいクソガキども! そろそろ行くぞ準備出来てんだろうな!?」

打ち止め「別に準備するものなんて特になかったから大丈夫だぜ、ってミサカはミサカは両手のひらを見せて手ぶらアピールをしてみる」

円周「私も特には言われてなかったけど、いろいろと準備はできてるよー」ゴチャゴチャ

数多「あん? 何をそんなに持っていこうとしてんだよ」

円周「えっとね、よく掘れるシャベルに掘削用の手持ちドリル、それに岩盤破砕用のダイナマイトにー」ゴソゴソ

数多「お前一体どこに行くつもりなんだ? 一人だけ炭鉱にでも行こうってか?」

円周「違うよ数多おじちゃん。これは桜の木の下に埋まってる死体を掘り起こすための道具だよ」

打ち止め「ひっ」ビクッ

数多「お前人の話聞いてたか? 花見に行くっつってんだよ穴掘り大会に行くなんて一言も言ってねえんだよこっちはよ」

円周「でも数多おじちゃん、『木原』的には桜の花びらの鮮やかさと、地面に死体が埋まってるかどうかの関連性はぜひとも調べないといけないよね?」

数多「んなもん調べてどうするってんだ?」

円周「……さあ?」

数多「ノープランかよ。飲み食いしている隣で砂埃撒き散らされてもこっちは迷惑なんだっつーの。どうしてもやるなら別のところ行けや」

円周「うーん、ここで私だけハブられるのはあまりよくないなー。わかったよこの死体発掘セットは置いとくよ」ガタッ

数多「いい子だ」

打ち止め「……ねえねえキハラ? 本当に埋まってるの……? その、死体……、迷信じゃなかったの? ってミサカはミサカは恐る恐るたずねてみる」

数多「何でそんなこと聞くんだよ」

打ち止め「だってその答えによっては花見に行きたい度がガクっと下がるかもしれないから、ってミサカはミサカは震えながら答えてみたり」ガクブル

数多「あー……まあ埋まってると言えば埋まってるし、埋まってないと言えば埋まってはいないだろうな」

打ち止め「えっ、それどういうことなの!? ってミサカはミサカはあまりにも曖昧な回答に驚きながらも返答してみたり」

円周「この辺りの土地は大昔戦で死体が放置されてたり、死体処理場だったりしたような場所だから、土に還ってるって意味では埋まってるってことだよ」

打ち止め「はえー、なるほど。つまり桜の木の下に生々しい死体が埋まってるってことはないんだね? ってミサカはミサカは確認をとってみる」

円周「まあ誰かが新しく埋めたりしてない限り、そんな生々しいのは出てこないだろうねー」

打ち止め「う、埋まってないよね……?」

円周「……ふふふ、さーてそれはどうか――」



ゴッ



数多「いい加減にしろクソガキが! いつまでここで足踏みさせるつもりだ!? 埋まってねえからさっさと行くぞ!」スタスタ

円周「ぐごごごごごごあともうちょっと力が強かったら、私が桜の木の下に埋まる死体になってたよ危ない危ない」

打ち止め「大丈夫エンシュウ? ってミサカはミサカは心配そうに眺めてみたり」


―――
――





同日 16:30

-第七学区・とある桜公園-



吹寄「あっ、いたいた! おーい結標さんアクセラー!!」タッタッタ



結標「吹寄さんに姫神さん! 早いわねもう来たの?」

姫神「場所取りの待ち時間。退屈にしてると思って」

吹寄「本当に大変だったでしょ? 何時くらいからここにいるの?」

一方通行「どっかのアホが馬鹿の言葉を真に受けたせいで九時からだ」

結標「何言ってるのよ。九時に来たからこそ、こんなそこそこ良い場所を取れたんじゃない」

姫神「……逆算すると。だいたい七時間半か。なかなかのハードさ」

吹寄「す、すごいわね。本当にありがとうね二人とも!」

結標「いや、これが私たちの仕事だし全然いいわよ……しかしお弁当の量すごいわね」

姫神「あのシスターが来るなら当然」

一方通行「……そォいや俺の方でも何か適当に食いモン買うっつってたの忘れてたな。コンビニでも行ってくるか」

吹寄「別に今行かなくても大丈夫じゃないかしら? これだけあればしばらくはもつだろうし、買いに行くなら近くに屋台とか出てるからそこに買いに行けばいいと思うわ」

一方通行「ああ、そンなモン出てるっつってたな」

結標「吹寄さんたちが来たことだし、あとは上条君たちが来ればお花見始められるわね」

吹寄「あいつらちゃんと集合時間に来るのかしら?」

姫神「間に合わない確率のほうが高そう」

一方通行「まァ、大体の遅刻の原因のインデックスのメシ作りっつゥのが今回はねェから、多少の希望は持てるかもなァ」

結標「他にもたくさんあった気がするけどね。遅刻の理由シリーズ」

姫神「驚異の信号赤率。おばあちゃんの道案内。財布とか携帯を家に忘れるetc……」

吹寄「ちゃんと早めに出てれば間に合うんだから、そんなのを言い訳にするなんて甘えよ甘え」

一方通行「信用のねェヒーローだこった」


~35分後~


吹寄「…………遅い!」イライラ

姫神「予定調和」

結標「ま、まあまあ落ち着いて吹寄さん」

吹寄「大丈夫。あたしは至って冷静だから」イライラ

結標「そうには見えないんだけど……」

一方通行「ったく、何でこォ面白いよォに毎回同じ展開繰り返してンだアイツらはよォ」





上条「おーい!」タッタッタ



結標「あっ、上条君たち来たわ!」


吹寄「ちょっと上条当麻ぁ!! 5分遅刻よ5分!!」

上条「ぎゃあああ申し訳ございません!! 言い訳なんですが驚異の赤信号率、おばあちゃんの道案内、財布とか携帯を家に忘れるetc……とかやってしまいましたすんません!!」


一方通行「フルコースじゃねェか」

姫神「これはひどい」

結標「よく5分遅刻で済んだわね。逆にすごいわ……」

土御門「にゃー、カミやんが居てくれると吹寄の雷の避雷針になってくれるから助かるぜい」

青ピ「ほんまやなぁ。カミやんさまさまやでえ」

一方通行「オマエらも少しは反省しとけよクソ野郎どもが」

青ピ「まあボクらは悪くないしなぁ」

一方通行「連帯責任っつゥ言葉ァ知ってるか?」



上条「許してください頭突きだけは勘弁してくれー!!」ドゲザ

吹寄「なっ、ちょっとわかったから土下座はやめなさい! こんな人目の多い場所で!」



一方通行「甘えとか言ってたくせに許すのかよ」

結標「まあ、あんな勢いで謝られたら怒る気も失せるわよね」

土御門「さすがの吹寄も、大量の見物客の前で説教ショーができるようなメンタルは持ち合わせてなかったことだにゃー」




禁書「ねえねえあくせられーた」

一方通行「あァ?」

禁書「本日はお招きいただきありがとうございますなんだよ」ペコリ

一方通行「別に俺が呼ンだわけじゃねェぞ。つゥか、何だァ? 今日はやけに礼儀正しいじゃねェか」

禁書「そういうわけだから早くご飯が食べたいんだよ!」

一方通行「と思ったら別にそォでもなかったな」

禁書「あいさのお弁当すっごく楽しみ!」

姫神「楽しみなのは良いけど。一人で全部食べようとはしないでね」ジトー

禁書「うっ、き、気をつけるんだよ」

青ピ「ほな、吹寄さんの説教も終わったことやし、ぼちぼち始めるとしますかー」

姫神「ちょっと待って。今準備する」

上条「姫神手伝うよ」

姫神「……ありがとう。じゃあ飲み物の準備をお願い」

上条「了解!」


ワイワイガヤガヤ


青ピ「――ではみなさん飲み物は回りましたかー?」


土御門「イエーイ!!」

吹寄「大丈夫よ」

姫神「うん」

一方通行「何でオレンジジュースなンだよ? コーヒーに替えろ」

結標「最初くらい我慢してみんなに合わせなさいよ」

禁書「えっ、これまだ飲んじゃいけなかった?」

上条「おいお前何先飲んでんだよ!? 紙コップ貸せ、すぐ入れるから!」


青ピ「ほな、もう一年生もほぼ終わりやからお疲れ様っちゅうことで、カンパーイ!!」




「「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」」




――――――


リア充爆発しろみたいな表現使おうとしたんやがあれってもう死語なんやなって
ワイくんの文章年齢透けてそう

次回『花見(中編)』

いまさらやけど花見なんてしたことありません(半ギレ)

投下



11.花見(中編)


March Forth Sunday 17:30

-第七学区・とある桜公園-


禁書「おいしい! これもおいしい! あいさのお弁当ほんとおいしいね!」ガツガツムシャムシャ

姫神「当然」フフン

上条「もうちょっと落ち着いて食べろよ。喉詰まらすぞ?」

禁書「ふふん、私はそんなドジは踏ま――ごほっごほっ!?」

上条「ほら見ろ言わんこっちゃない」

土御門「華麗で迅速なフラグ回収だったにゃー」

吹寄「言ってる場合じゃないでしょ! ほら、インデックス飲み物よ!」

禁書「――ぷはっ! し、死ぬかと思ったんだよ……ありがとうせいり!」

青ピ「まあでも、そないがっつくのもわからんこともないけどなー」パクパク

上条「たしかに。ほんと姫神って料理うまいよなー」モグモグ

姫神「……あ。ありがとう」テレ

一方通行「どっかの誰かさンとは大違いだな」

結標「……うるさいわね。私だって練習していずれは上達してみせるわよ」

一方通行「やるなら一人で練習しろ。俺を味見役とかにしよォとかするンじゃねェぞ」

結標「えぇー? 味見くらいいいじゃない付き合ってよ」

一方通行「殺す気かオマエ」


土御門「――さーて、そろそろオレたちの余興で場をさらに盛り上げてもいい時間帯じゃないかにゃー?」

青ピ「せやな。花見のオープニングを飾るにふさわしいモン見せたるわー!」

上条「いっ、あれ本当にやるつもりか? こんな場所で」

青ピ「当たり前やんカミやん。キミは三時間にも及ぶ猛特訓を無駄にするつもりかいな?」

上条「ここでやらずに済むなら全然無駄にするけどな」

結標「結局何をするのよ余興って?」

土御門「それは見てからのお楽しみだにゃー。じゃあちょいと準備してくるぜよ」テクテク

青ピ「やったるでー! お花見会場を沸き上がらせてやるんや!」テクテク

上条「……はぁ、やるしかねえのか。いくぞインデックス! 出番だぞ!」

禁書「! ふんふぁかった!! いふいふ!!(うんわかった!! いくいく!!)」モガモガ

上条「弁当は置いてけ」




吹寄「……あの馬鹿ども、一体なにを企んでるのかしら?」

結標「さあ? 全然わからないわね」

姫神「でもろくなことじゃなさそう」

一方通行「ま、この前あンだけ大口叩いたンだ。せいぜい楽しみにさせてもらおうとするか」


打ち止め「おおっーい! お花見やってるー!? ってミサカはミサカは手を振りながら駆け寄ってみたり」トテチテ


結標「あっ、打ち止めちゃんに円周ちゃん。いらっしゃい」

円周「あれー? なんか人数少ないお花見会だねー。しかもアクセラお兄ちゃんハーレム状態だー。やったじゃん」

一方通行「何アホなこと抜かしてンだこのクソガキは? 他のヤツらは余興の準備とやらで席外してンだよ」

打ち止め「余興? 何か始まるの? うおおーっ!! 最高のタイミングでこっちに来れちゃった、ってミサカはミサカは興奮してみる!」

円周「スタートで滑り散らかしたかいがあったねー」


吹寄「……ねえ結標さん。この子は?」

結標「ああ、この子はウチの隣に住んでる木原さんっていう人の親戚の子で円周ちゃんっていうのよ」

打ち止め「エンシュウはミサカの親友なんだよ、ってミサカはミサカは補足説明してみたり」

吹寄「へー、そうなんだ。吹寄制理っていうんだけど、よろしくね円周ちゃん?」

姫神「姫神秋沙。よろしく」

円周「制理お姉ちゃんに秋沙お姉ちゃんだねー、打ち止めちゃんから話は聞いてるよ。よろしくー……ん?」

姫神「?」

円周「んー?」ジー

姫神「? 私の顔に何か付いてる?」

円周「……へー、秋沙お姉ちゃんって変わったチカラを持っているんだねー珍しい」

姫神「!?」

結標「あれ? 姫神さんって能力者だったの?」

吹寄「あたしも知らなかったわ」

姫神「……いや。私は身体測定(システムスキャン)で判定されている通り。レベル0の無能力者」

円周「ふーん、そっか、そういうことね。ごめんねー私の勘違いだったよ」

姫神「うん。大丈夫だよ。気にしていない」

一方通行「…………」




~10分後~


打ち止め「アイサお姉ちゃんの料理おいしいね! ってミサカはミサカは素直に感想を言ってみたり!」

姫神「ありがとう」ニコッ

結標「ところで打ち止めちゃんたちはこっち来てていいの? 木原さんところでお花見してたんじゃないのかしら?」

円周「あー、ちょっとね。私たちもオープニングセレモニーってことで二人でちょっとした余興をしたんだー」

打ち止め「それでちょっと会場の空気を微妙にしちゃったんだ。だからちょっとこっちに避難してきたってわけだよ、ってミサカはミサカは説明してみる」

一方通行「何やったんだよオマエら」

円周「えっとねー、私と打ち止めちゃんでちょっとまんざ――」



青ピ「おまたせしましたーん!! これからボクらぁのショータイムが始まりますよ―ん!!」



結標「あっ、戻ってきたわ」

土御門「よっこいせ、っと」ガタン

吹寄「何よそれ」

土御門「カラオケセットですたい。あとでカラオケ大会でもやろうぜい」

吹寄「そんなもの用意して一体なにをす――ッ!?」




禁書(カナミンコスプレ状態)「あっ、らすとおーだーにえんしゅうだ!! おーい!!」ノシ




姫神「!?」

一方通行「あン?」

打ち止め「おおっー!? 超機動少女カナミン(マジカルパワードカナミン)の格好してる!! すごい!! ってミサカはミサカは称賛の声を上げてみたり」

円周「おおー、やっぱりこういうコスプレは外国の人が着たほうが画になるよねー」

結標「お、思い切ったことをやってきたわね……」


上条「……なぁ、これでウケてるんだからもうやめないか?」

青ピ「はぁ? 何言うとんねんカミやん!! ウケとるってことは流れがこっちに来とるってことや!! 攻めなくてどうするんや!!」

土御門「ここまで来て言うことじゃないぜい。諦めろ」


吹寄「…………」ズンズンズン


青ピ「うん? どしたん吹寄さん? 何かよ――」



ドゴッ!! バキィ!! ガン!!





青ピ「ごふっ!?」土御門「ぐはっ!?」上条「おぼっ!?」



吹寄「貴様らあんな小さい子にいかがわしい格好させてどういうつもりよ馬鹿者どもが!!」



土御門「ご、誤解だにゃー吹寄! そんな吹寄が思ってるようなことは起こっていないぜい」

青ピ「そうそうつっちーの言う通りやで、なあカミやん?」

上条「あ、ああ。たしかに提案したのはこっち側、つーかこいつらだけだけどノリノリで了承したのはアイツだ。俺はどっちかと言ったら反対派でしたよ」

青ピ「あっ、カミやんなに一人だけイイ子ちゃんアピールしとるん!? ずるいでボクら仲間やろ!?」

上条「うるせえ変態ども!! 上条さんは健全な出し物を望んでんだよ!!」

青ピ「健全ですぅー! カナミンは女子小学生と大きなお友達から大きな支持を得ている健全なアニメなんですぅー!」


吹寄「……はぁ、まあいいわ。無理やり着せたわけじゃないことはわかったから」

上条「えっ、今のやり取りのどこにそんな要素が!?」

土御門「ついに吹寄がデレたのかにゃー?」

吹寄「違うわよ! 大体、貴様らのやり取りなんて少しも当てにしてないわ」



禁書「――マジカルパワード……カナミン!!」ビシッ

打ち止め「うおおおおかっけえー!! ねえねえミサカにもそのステッキ貸してー!! ってミサカはミサカは目を輝かせながらお願いしてみたり」



吹寄「あれを見たら無理やりじゃないってことはあたしでもわかるわ。無理やりやらされてる子があんなノリノリにポーズ決めるわけないもの」

上条「……あはは、たしかに」

土御門「それじゃ吹寄のお許しも出たことだし、そろそろ余興のほうを始めるとしようぜい」

吹寄「? コスプレしたインデックスを見せびらかすのが余興じゃなかったの?」

青ピ「んなわけないやろー、そんなんじゃデルタフォースの名が泣くでえ」

上条「泣かせとけよそんなもん」

青ピ「よし、ほなインデックスちゃんやるでー! 準備してやー!」

禁書「了解なんだよ!」




青ピ「――では始めます! ポチッとな」ピッ



スピーカー<チャーチャチャチャチャー♪ タタター♪



打ち止め「おおっ、これはカナミンのオープニングテーマだ!! ってミサカはミサカは聞き覚えのあるBGMに心を踊らせてみたり」

結標「あー、なるほどね。コスプレしたインデックスちゃんが歌うっていうやつね」




禁書『~~~~~~~~~♪ ~~~~~~~~~~~~♪」←~には適当な魔法少女的な歌詞入れて遊んでください




一方通行「結局あのガキ任せであの馬鹿三人は何にもやらねェのかよ」

姫神「インデックスの後ろで待機してるから。あの三人もなにかやるみたい」

円周「なにか両手に持ってるねー。あれはペンライトってやつかな?」

吹寄「ペンライト……?」




禁書『~~~~~~~~~~~、~~~~~~~~~~~♪』


上条・青ピ・土御門「「「ハイ!! ハイ!! ハイ!! ハイ!! ハイ!! ハイ!! ハイ!!」」」シュバッシュバッシュバッ




打ち止め「うおおっ、なんか後ろで変な踊りみたいなのやってる! ってミサカはミサカは実況してみる」

円周「あれはいわゆるヲタ芸ってやつだね」

結標「知ってるの円周ちゃん?」

円周「うん。乱数おじさんのカビにやられた人たちがあんなのやってたよー」

結標「よくわからないけど詳しくは聞かないことにするわね……」




禁書『~~~~~~~~~~~~♪ ~~~~~~~~~♪ ~~~~~~~~~、~~~~♪~♪~~~~~♪』

上条・青ピ・土御門「「「カナミン!! ミン!! ミンミンミンミン!!」」」バッバッバッバッ


禁書『~~~~~~~♪ ~~~~~~~~~~♪ ~~~~~~~~~~~~~~~~♪』

上条・青ピ・土御門「「「カーナミン!! カーナミン!! マジカルパワードカーナミン!!」」」グワングワングワン



ざわ……ざわ……



一方通行「……当たり前だがすげェ注目浴びてンな」

結標「まあしょうがないわね。あれだけ騒いでたら嫌でも見ちゃうわよ」

姫神「別にあそこに立って。一緒に歌ったり踊ったり。しているわけじゃないけど。恥ずかしくなってきた」

吹寄「頭痛い……」



禁書『~~~~~~~~~~~♪ ~~~~~~~~~~♪』

上条・青ピ・土御門「「「ハイ!! ハイ!! ハイ!!」」」シュバッシュバッ

禁書『~~~~~~~~~~~♪ ~~~~~~~~♪』

上条・青ピ・土御門「「「ハーイ、ハイ!! ハーイ、ハイ!!」」」シュババババ

禁書『~~~~~~~~~~~♪ ~~~~~~~~~~♪』

上条・青ピ・土御門「「「ハーイ、ハイ、ハイ、ハイ、ハイ!!」」」シュバーンシュバーン

禁書『~~~~~~~~~~~♪』

上条・青ピ・土御門「「「ハイ!! ハイ!! ハイ!!」」」グルグルグルグル

禁書『~~~~~~~~~~♪』

上条・青ピ・土御門「「「ハイッ!!」」」バッ



打ち止め・円周「「いえーい!!」」

一方通行「うるせェぞクソガキども」

打ち止め「せっかくのライブなんだから楽しまなきゃ損だよ、ってミサカはミサカは正論を言ってみる」

一方通行「全然正論じゃねェだろ。もっと楽しむものをしっかり選べ」





<ハイ!! ハイ!! ハイ!! ハイ!! ハイ!! ハイ!! ハイ!!



吹寄「ん? なんかいろんな方向から掛け声みたいなのが聞こえて――」




通りがかりのヲタク集団「ハイ!! ハイ!! ハイ!! ハイ!! ハイ!! ハイ!! ハイ!!」シュバッシュバッシュバッ




吹寄「」

姫神「いつのまに……」

円周「もしかしてフラッシュモブってやつ?」

一方通行「ただの便乗して騒ぎたい豚どもだろ」

結標「うわー、すごいわ。本当のアイドルのライブみたいね」



禁書『――マジカルパワード……カナミン!!』ビシッ




<ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!




一方通行「……うるせェ。この俺直々に黙らせてやろォか」ピキピキ

結標「気持ちはわからないことはないけど落ち着きなさい」


―――
――





同日 17:50


禁書「すっっっっごく楽しかったんだよ!!」←修道服に着替えた


上条「……そうか。そいつはよかったな」ゲンナリ

姫神「おつかれさま」

打ち止め「インデックスって歌が上手なんだね、ってミサカはミサカは意外な特技に驚きを隠せなかったり」

禁書「ふふーん。私は声とか歌を使った魔術のプロフェッショナルなんだから当然なんだよ」ドヤァ

吹寄「まじゅつ……?」

上条「あははー何でもない何でもない気にしないでくれあっははー」アセッ

円周「なるほどね。何かにおうなぁと思ったらそっちサイド人だったかー納得納得」

結標「? 何の話?」

円周「何でもないよー」

一方通行「…………」

青ピ「アックセラっちゃーん! どうやったボクらぁの余興? おもろかったろ?」

土御門「アクセラちゃんもこっち側に来とけば一緒に楽しめたんだけどにゃー」

一方通行「あァ? あンなクソみてェな真似、この俺がやるわけねェだろォが」

上条「まあたしかに」

土御門「カミやんはわかってないにゃー? アクセラちゃんはツンデレだからな。内心は一緒にやりたかったって残念がって――」

一方通行「あンま馬鹿なこと言ってるとそのグラサン、レンズなしに改造してやるぞクソ御門クン?」

土御門「にゃはははー、そいつは勘弁」


円周「……さーて、面白いもの見せてもらったし私たちも何かお礼をしてあげないといけないよねー。ねえ打ち止めちゃん?」

打ち止め「お礼? どうするつもりなのエンシュウ、ってミサカはミサカは首を傾げてみる」

円周「この場をさらに盛り上げるために私たちも余興をやろう」

打ち止め「え゛っ!? あのキハラたちの空気を微妙な感じにしたアレをまたやるつもりなの!? ってミサカはミサカはあのときのことを思い出してみたり」

円周「大丈夫だよ打ち止めちゃん。あれは数多おじちゃんたちがオッサンだったから受けなかっただけで、ここにいる人たちには受けると思うよ。たぶん」

打ち止め「……今たぶんって言わなかった? ってミサカはミサカは疑いの眼差しを向けてみる」

円周「気のせいだよー」

結標「打ち止めちゃんたちは結局なんの余興をやったのよ?」

円周「何って……ただの漫才だよ」




打止・円周「「どうもー!!」」テテテテ


打ち止め「打ち止めです! ってミサカはミサカは元気よく自己紹介してみたり」

円周「円周でーす!」


打止・円周「「二人合わせて、『円周率は3』でーす!! どうぞよろしくお願いしまあす!!」」


青ピ「うおお!!」パチパチパチ

土御門「待ってましたー!!」ピューピュー

一方通行「どォいうコンビ名だよ」

結標「円周率は円周ちゃんのことでしょうけど3はよくわからないわね」

姫神「ミサカのミを3にして。昔ニュースとかになってた円周率は3で教える。っていう誤報にかけたんじゃ?」

吹寄「あー、なるほどね納得」


円周「いやあアツはナツいですねー」

打ち止め「いやアツとナツが逆! というか今春なのになんでそのネタ使っちゃったの? ってミサカはミサカは問いかけてみる」

円周「そう言われると思いましてなんと! なんと! 春バージョンのネタも考えてみましたあ!」

打ち止め「おおっーさすがエンシュウだー! ってミサカはミサカは称賛の拍手を送ってみる」パチパチパチ

円周「じゃあいくよ。いやあポワはハルいですねー」

打ち止め「いやポワとハルがぎゃ……ってポワってなに!? ってミサカはミサカは突然現れた謎の名詞に驚愕してみたり」

円周「打ち止めちゃん。『ぽわい』は名詞じゃなくて形容詞だよー」

打ち止め「そんなのどっちでもいいよ! 『ぽわい』って何かってミサカは聞いてるの! ってミサカはミサカは頬を膨らませて怒りアピールしてみたり」プンプン

円周「何かって言われても『ぽわい』は『ぽわい』だよ。春はぽわいよねーって使うよ」

打ち止め「むー説明されてもわかんない。もういいよぽわいは。漫才続けようよ? ってミサカはミサカは呆れながら促してみ――」

円周「春ですねー。お花見とかいきたいよねー」

打ち止め「わっ、急に来たっ。そうだねーシーズンですからねー、ってミサカはミサカは同意してみる」

円周「花見に行きたすぎてちょっと下見に行きましてねー」

打ち止め「そうなんだ。たしかに下見とか大事だよねー、いつ行ったの? ってミサカはミサカは質問してみる」

円周「去年の12月」

打ち止め「12月!? 冬じゃん!? 季節全然違うじゃん!? そんなタイミングで下見して一体なにがわかるのさ!? ってミサカはミサカは息を荒げなからも問いかけてみたり」ゼェゼェ

円周「うーん、そうだねー。冬には桜の花は咲かないってことがわかったよ」

打ち止め「えぇ!? そんなの下見しなくてもわかることじゃん常識じゃん……ってミサカはミサカは衝撃的な答えに思わずため息が出たり」ハァ

円周「ああでも、桜の木に雪が積もってたから満開の桜に見えなくはなかったよー」

打ち止め「いらないよそんなフォロー」




円周「そうだ。私、食レポしてみたいんだー」

打ち止め「また急に話が変な方向に飛んだね、ってミサカはミサカは話の展開の急さに戸惑ってみる」

円周「せっかくの花見だから桜にちなんだ食べ物を食べて食レポするから、何を食べてるのか当ててみてよ」

打ち止め「なるほど、食レポクイズだね。いいよ受けて立つよ、ってミサカはミサカは肩を回してやる気アピールをしてみる」クルクル

円周「じゃあ始めるよ。わーおいしそうですねー。さっそくいただきまあす。ボリッボリッ」

打ち止め「ボリッボリッ? 硬いものかなー? 桜えびとか使ったおせんべいかな? ってミサカはミサカはさっそく予想してみたり」

円周「うーん、苦くて独特な味ですねー。特に皮の味が濃いですよー」

打ち止め「苦い? 皮? なんだろ? 思いつく食べ物がないわけじゃないけど桜に全然関係ないしなー、ってミサカはミサカはお手上げムードになってみたり」

円周「じゃあ次は葉っぱの部分を食べてみましょう。この部分は一般的にも食べられる部分ですからねー。もしゃもしゃ」

打ち止め「葉っぱ? キャベツとかそういう野菜かな? 春キャベツみたいに桜キャベツっていうのがあるのかもしれない、ってミサカはミサカはキャベツに皮がない事実を無視しながら推測してみる」

円周「うーん、やっぱり普通に食べると青臭いですね。やっぱり塩漬けにしないとねー」

打ち止め「塩漬け……? も、もしかして……まさかアレ? ってミサカはミサカは思いついてしまった答えに困惑を隠せなかったり」

円周「では最後に花びらを食べてみましょー。もきゅもきゅ」

打ち止め「はい!! 答えは『桜の木』ー!! てか桜にちなんだというか桜本体じゃん!! 食べ物じゃないじゃん!! ってミサカはミサカは出題内容に抗議してみたり」

円周「はい。正解は『桜の木』でしたあ! よくわかったねー。さすがクイズ王を名乗るだけあるよ」

打ち止め「そんなの名乗ったこと一度もないよ! ってミサカはミサカは否定してみる」

円周「ところで花見に来たら一度やってみたかったことがあるんだあ」

打ち止め「いっつも突然来るね。何かな? ってミサカはミサカは不安を抱きながらも聞いてみる」

円周「一度綺麗に咲いてる桜の木の下を掘ってみて、死体が埋まってないか確認してみたいんだー」キラキラ

打ち止め「うぇー、なんでエンシュウはそんなグロテスクなことを目を輝かせながらやりたい発言できるの―? ってミサカはミサカは怪訝な表情を浮かべてみたり」

円周「私は桜の木の下を掘る人やるから打ち止めちゃんはなんか一緒にいる人やってよ」

打ち止め「なんか一緒にいる人って曖昧な感じの役だなー。一緒に掘る人役でいいと思うんだけど、まあいいか、ってミサカはミサカはしぶしぶ了承してみる」

円周「わあい、今日は絶好の死体掘り日和だあ! 掘るぞ掘るぞー! ザッザッ」

打ち止め「死体掘り日和ってどんな日なの? 晴れの日? 雨の日? お昼? それとも夜? ってミサカはミサカは疑問符が止まらなくなってみたり」

円周「ザッ! ザッ! ガッ! おっ、なんか出てきた! ……これは箱? 棺桶かなあ?」

打ち止め「えっ、桜の木の下の死体ってそんな感じで埋まってるの!? ってミサカはミサカは意外な事実に面食らってみたり」

円周「ではさっそく開けてみよう。ガチャリ」

打ち止め「死体が入ってるかもしれないのに箱を開けるのに躊躇がなさすぎるよ、ってミサカはミサカはその迷いのなさが怖い」

円周「なにが出るかなあ♪ なにが出るかなあ♪ うん? これはビック○マンシール? しかも古いやつだ」

打ち止め「なんでそんなものが入ってるの? ああ、もしかして生前大事にしてたものと一緒に埋葬するっていうあれかなー、ってミサカはミサカはドラマで見た知識をひけらかしてみる」

円周「他にはなにか入ってないかなあ? おっ、これは写真だ。小さい男の子が写ってるね」

打ち止め「たぶん息子さんの写真とかだろうね。やっぱり子供って親から見たら大事なものだしね、ってミサカはミサカは推理してみる」

円周「あとは……あっ、手紙が出てきたよー、ほら」スッ

打ち止め「手紙? 一体何が書かれてるんだろ? ってミサカはミサカは好奇心に負けて手紙を開けてみたり、べりっ」

打ち止め「なになにえっと、『10年後のボクへ』……ってこれ10年後の自分への手紙ぃ!! これ棺桶じゃなくてタイムカプセルじゃんッ!! ってミサカはミサカは今日一番の声量で吠えてみたり!」

円周「これじゃあ死体掘り大会じゃなくて同窓会だね。どやぁ」

打ち止め「いやドヤ顔するほどうまくはないから! もういいよ!」


打止・円周「「ありがとうございましたあ!!」」





パチパチパチパチパチ



結標「……うん、頑張ったね二人とも!」

青ピ「いやーロリ二人がイチャイチャ漫才してるところ見てたらこうふ――ぶべらっ」ドガァ

一方通行「棺桶に入れてそのまま桜の木の下に埋葬してやろォか変態野郎」

姫神「ところどころに。光るところはあった。ような気がする」

土御門「まあたしかにちゃんと漫才っぽくなってたと思うぜい」

吹寄「そうね。きちんとネタを作ってやり切るなんてエライわ」

禁書「おふわははらはったへほ、おはっはほおほうほんはお!!」モガモガ

上条「口の中に物がなくなってから喋れ!」


打ち止め「……うわーん! やっぱり微妙な空気になっちゃったじゃん! だめだったじゃんエンシュウ! ってミサカはミサカは涙ながらに文句垂れたり」

円周「やっぱりだめだったかあ。しょうがない。空気が元に戻ってそうな数多おじちゃんたちのところに撤退しよう」タッタッタ

打ち止め「あっ、ちょっとまってよエンシュウー! ってミサカはミサカは追いかけてみたり」トテトテ


結標「……二人ともいっちゃったわね」

一方通行「うるせェのが消えてせいせいするな」

結標「ところで一方通行様的にはさっきの漫才はどうでした?」

一方通行「内容の良し悪しはよくわからねェけど、あのクソガキの長ったらしい語尾がテンポ崩してるってことはわかる」

結標「あー、なるほどね」


―――
――





同日 18:00



青ピ「――さあて、盛り上がってきたところでお次の余興です! じゃーん、みんなで楽しく王様ゲームをやりまひょー!」つ割り箸



土御門「うおお」

結標「漫画とかでよく見るやつだわ!」

姫神「定番だね」

禁書「王様ゲームって何とうま?」モシャモシャ

上条「当たりと番号書かれたくじを引いて当たりを引いた人が王様になって、他の人になんでも好きな命令できるってゲーム」

禁書「えっ、なんでも!?」

上条「常識の範囲内のなんでもだぞ」

吹寄「王様ゲームか……ゲームに乗じていやらしいことをしてやろうって魂胆が見え見えね」ジトー

青ピ「いやいやそんなわけないですよ吹寄さん。紳士であるボクがそないな卑劣極まりないことするわけないやん」

吹寄「どうだか……」

結標「それならそういう命令は禁止にすればいいんじゃないかしら?」

吹寄「それもそうね。そうしましょ」

青ピ「ヴェ!? ……せやな。健全で楽しい王様ゲームにしましょ」

一方通行「さっきのヴェは何だよ」

土御門「まあぶっちゃけ王様になっていやらしいことしようとしても、相手はランダムだからにゃー。下手したら男×男の地獄絵図が生まれるからリスクがでかすぎるぜい」

結標「それはたしかにキツいわね……」


青ピ「ほなさっそく始めるようや。みんな割り箸選んで選んでぇ」スッ


禁書「これにするんだよ!」スッ

上条「こういうのって当たり引いたことないんだよなぁ。一回くらい引いてみてえなぁ」スッ

姫神「反対に。命令の対象にばかりされそう」スッ

吹寄「でもいざ王様になってもやってほしい命令なんて思いつかないわね」スッ

土御門「ま、なんでもいいわけだから気楽にいこうぜい」スッ

一方通行「面倒臭せェ。これ俺が王様引いたら王様ゲーム終了って命令してもイイか?」スッ

結標「百パーセント白けるから絶対にやらないでよ?」スッ


青ピ「よし、みんな選んだな。ほな――」




「「「「「「「「王様だーれだー!!」」」」」」」」






青ピ「おっ、いきなりボクかラッキーやなあ」

吹寄「いきなり当たってほしくないヤツが王様になったわね」

青ピ「まあまあそんな警戒せんでもええでー、吹寄さんが思うとるようなことはせんせん」

一方通行「それだけ信用がねェっつゥことだろうな」

姫神「残念ながら」

青ピ「みんなしてひどいなぁ。ほな、最初の命令は軽いジャブってことで」スッ



青ピ「この場にあるあらやる飲み物や調味料を絶妙な割合で配合した、スーパーデリジャスグレイトワンダフルエナジードリンクを一気飲みしてもらうでえ!!」ババーン



結標「うっ、すごいニオイ……」

土御門「なんとも形容し難い色をしてるにゃー」

吹寄「そういえばこの馬鹿はこういう方面でも馬鹿だってこと忘れてたわ」

一方通行「そこら辺の泥水すすったほうがマシだな」

禁書「……さ、さすがの私もそれは口にしたくないかも」

姫神「あの暴食シスターが。そんなことを気にするなんて。あれは相当やばい……!」


青ピ「さて、このスーパ(ryドリンクを飲むのは4番の人やでー!」


上条「うわぁ、絶対に飲みたくねーなぁ……ん? 4番?」

上条「…………」つ4番の割り箸

青ピ「…………」つスーパーデリジャスグレイトワンダフルエナジードリンク

上条「…………」

青ピ「…………」ニッコリ

上条「……あはは」スッ






上条「」チーン



土御門「無茶しやがって……」

姫神「残念ながら。予定調和」

青ピ「じゃあカミやんが再起不能になったんで、次はカミやん抜きでやりますか」スッ

禁書「王様ゲーム……まさかこんな過酷なゲームだったなんて思わなかったんだよ」

一方通行「いや、全部が全部あンな命令じゃねェだろ、たぶン」




「「「「「「「王様だーれだー!!」」」」」」」




結標「あっ、次は私ね! どうしようかなー?」

吹寄「まあ結標さんなら無茶な命令はしないでしょ」

一方通行「そォとも限らねェぞ。『私の作った料理食べろ』なンつゥ命令が下された瞬間、上条クン2号が誕生することになるぞ」

結標「そんなにその命令をして欲しいならしてあげようか?」ギロッ

一方通行「スンマセン、勘弁してください」



結標「じゃあ私の命令よ。1番の人はこの王様ゲーム中ずっと語尾に『にゃん』をつけなさい!」



姫神「まあ。こういう命令なら」

吹寄「というかこれ土御門が対象だったらほぼダメージないじゃない」

土御門「たしかにそうだにゃー。でも残念ながらオレは5番だから対象じゃないぜい」

禁書「じゃあ誰が1番なのかな?」


一方通行「…………」つ1番の割り箸


青ピ「あっ……」

吹寄「ぷふっ」

姫神「おお。これは面白い展開」


一方通行「……ちょっと用事思い出したから帰るわ。じゃあな」ガチャリガチャリ

結標「まあ待ちなさいよ1番の人」ガシッ

一方通行「離せ腐れ王。俺には大事な用事があるンだよ」

結標「どうせお風呂入って寝るとかそんなんでしょうが。許さないわよ」

一方通行「クソが! 学園都市第一位の超能力者(レベル5)のこの俺が何でこンな真似をしなきゃ――」




青ピ「王様の」ニヤニヤ

姫神「命令は」ニヤニヤ

吹寄「絶対」ニヤニヤ

土御門「だにゃー」ニヤニヤ

禁書「えびふらいおいしいんだよ」モグモグ


一方通行「クソ野郎どもがァ……」ギリリ


結標「じゃ、改めて命令するわ。1番の人は語尾に『にゃん』をつけなさい!」

青ピ「そういや1番の人の名前ってなんやったかなぁ? ちょいと自己紹介してほしいでー」

土御門「おっ、そいつはいい考えだにゃー。じゃあ1番の人お願いしまーす!!」



一方通行「…………お、俺の名前は、あ、一方通行(アクセラレータ)だ……、にゃン」



青ピ「ぶふっ、ぶわっはははっははははははははははははっ!!」

土御門「ひぃーひぃー腹痛い!! 腹痛い!!」

吹寄「ふふふ、ま、まあに、似合ってるんじゃない? っく」

姫神「まさしく。王様ゲームらしい楽しい展開。ぷふっ」

一方通行「オマエらあとで絶対ブチのめすから覚えてろよ……にゃン」

禁書「あくせられーた?」

一方通行「あン?」

禁書「何で語尾に『にゃん』なんてつけてるの?」

一方通行「オマエは王様ゲームに参加しているンじゃなかったのか? ……にゃン」


青ピ「いひひひ、さてひとしきり笑ったところで次のくじ引きましょか」

上条「……あー、死ぬかと思った」

吹寄「あら、上条当麻。復活したのね」

上条「今どういう状況なんだ? やけに笑い声が聞こえてきたけど」

土御門「それはアクセラちゃんに聞いてみると一番よくわかると思うぜい」

上条「? どうなってんだ一方通行?」

一方通行「……オマエに喋ることなンざねェよ引っ込ンでろ三下……にゃン」

上条「……にゃん? あー、誰かに語尾に『にゃん』つけろみたいな命令されたのか。かわいそうに」

一方通行「何でオマエはそういうところだけ察しがイインだよォにゃン!? もしかして知ってて聞きやがったなクソ野郎がにゃあああああン!!」カチッ

上条「ぎゃあああなんか当ててしまってすまん!! すまんから電極のスイッチ切ってくれえええ!!」





「「「「「「「「王様だーれだー!!」」」」」」」」



吹寄「あら、今度はあたしね」

上条「おっ、次は吹寄が王様か」

土御門「一体どんな冷徹非道な命令が下されるんだにゃー? 恐ろしいぜい」

吹寄「なっ!? あたしはあなたたちと違ってそんな命令しないわ!」

青ピ「ならどんな面白おかしい命令が飛び出すんやろうなぁ」

結標「楽しみね」

一方通行「俺に被害が及ばなかったら何でもイイにゃン」

姫神「なんかにゃんの語尾が。普通に定着してきてない? アクセラ君」

吹寄(……しかしいざ王様になってみても何にも命令が思いつかないわね。どうしようかしら?)

禁書「……どうかしたのせいり?」

吹寄「な、なんでもないわ。よし、だったらあたしからの命令よ」



吹寄「5番の人が今ここにあるゴミをゴミ捨て場に持っていきなさい!」

ゴミ『塵も積もれば山となるってなぁ!!』



上条「あー、なんつーか吹寄らしい命令だな」

青ピ「ぶーぶー、そんな命令してなにがオモロイんやー! ぶーぶー」

吹寄「う、うるさいわね! 何でもいいでしょ!? てかあたし王様よ? 文句言わないでちょうだい!」

結標「ところで5番って誰なのかしら?」

姫神「5番は私」つ5番の割り箸

土御門「おお、よりもよって女子にこの命令が下ってしまったのか」

吹寄「ご、ごめんね姫神さん」

姫神「問題ない。それじゃ。ゴミを捨てに行ってくる。よっと」スッ

禁書「うわー、重そうなんだよ。本当に大丈夫なのあいさ?」

姫神「……大丈夫。持っていけないことはない」フラッフラッ



上条「……よし! 姫神、俺も一緒に行くよ」





姫神「えっ? いいよ。私一人で大丈夫だから」

上条「何言ってんだそんな足をふらつかせて。無理すんなって」

姫神「でもこれは。王様ゲームの命令だから」

上条「……なあ王様、俺もゴミ捨て手伝ってもいいだろ?」

吹寄「えっ、ええ別にいいわよ」

上条「王様の許可が下りたな。じゃ、行こうぜ姫神」ニコッ

姫神「……うん。ありがとう」ニコッ



一方通行「ケッ、さすがは上条だにゃン。大したヒーローっぷりなこったにゃン」

禁書「……はぁ、まあとうまはああいう人だからね。しょうがないんだよ」

青ピ「まさしく一級フラグ建築士やでー」

土御門「まあもともとフラグは建ってる相手だから、その言葉を今使うのはちょっと微妙だけどにゃー」

結標「ねえ、吹寄さん」ボソッ

吹寄「な、なに結標さん?」

結標「さすがね。ああいう展開になることを予想してあの命令を出したのね」

吹寄「えっ?」

結標「えっ?」

吹寄「…………」

結標「…………」



吹寄「……そ、そうよ! まさしく計画通り、ってやつよ!」

結標「うおお吹寄さんすごい!」



一方通行「何二人盛り上がってンだにゃン。あの馬鹿二人はにゃン」

禁書「……なんか私の中でね、あくせられーたが『にゃん』って言ってるのに違和感がなくなってきたかも」ゴモゴモ

一方通行「オイやめろにゃン」





青ピ「じゃ、姫神ちゃんたちが帰ってきたから続きやるでー!」スッ




「「「「「「「「王様だーれだー!!」」」」」」」」




一方通行「……おっ、アハッ、俺が王様かにゃン」

上条「今度は一方通行か」

結標「変な命令しないでよね」

一方通行「オマエが言うンじゃねェにゃン。何だよ『にゃん』をつけるとかいうクソみてェな罰ゲームはにゃン」

結標「何言ってるのよ? こういうのは王様ゲームでは定番よ? 漫画で見たから間違いないわ」

一方通行「フィクションの世界じゃねェか!」

吹寄「もういいからアクセラ? さっさと命令しちゃいなさい」

一方通行「おォ。じゃあ俺の命令はこれだにゃン」




一方通行「1番の人が7番の人に全力でデコピンしろにゃン」




青ピ「うわー暴力なんてサイテー」

土御門「ゲームの楽しい空気ぶち壊しだにゃー」

一方通行「ハァ? これくらい問題ねェだろ、別に全力でぶん殴れって言ってるわけじゃねェンだからにゃン」

結標「ま、まあそうだろうけど」

上条「ちなみに1番は俺なんだけど、7番の人って誰だ?」つ1番の割り箸



吹寄「……あたしよ上条当麻」ギロッ



上条「」

姫神「おお。これは」

青ピ「カミやんがついに一年七組の最高戦力に反旗を翻すのか……盛り上がってまいりました!!」

土御門「いけいけカミやーん! お前のゲンコロフィンガーを見せてやれい!」

禁書「よくわかんないけどがんばれーとうまー!」モシャモシャ

一方通行「ぎゃはっ、適当に考えた命令だったが結構盛り上がってンじゃねェかにゃン」

結標「まあ、約一名絶望に満ち溢れた表情してるけどね」





吹寄「…………」

上条「……ええと、吹寄さん?」

吹寄「なによ?」

上条「い、今から全力デコピンすんだけど、これはあくまで王様ゲームの命令であって」

吹寄「それくらいわかってるわよ。早くしなさい」

上条「……本当にやっていいんでせうか?」

吹寄「王様の命令は絶対よ? いいから早くやりなさい、やらないなら逆にあたしがデコピンするわよ?」

上条「いぃぃ!? やります!! やらせていただきます!!」


吹寄「……ふう」スゥ

上条「じゃ、じゃあ行きますよ?」

吹寄「き、来なさい……!」ギリッ


結標「…………」ドキドキ

姫神「…………」ジー

禁書「…………」モグモグ

青ピ「…………」ワクワク

土御門「…………」ニヤニヤ

一方通行「ふわァ」



上条「――あああああああああああああッ!! 吹寄さん!! 申し訳ございませええええええええええええええええええええええええん!!」パッ



バチン!!



吹寄「痛ッ……!」グラッ

上条「があああああああああおでこ硬ったああああああああああああああああああ!? 指があああああああああああああああああああああああああッ!!」ゴロンゴロン



結標「だ、大丈夫吹寄さん?」

姫神「おでこ。切ったりとかして。傷とか出来てない?」

吹寄「え、ええ大丈夫。あれくらい平気よ」

青ピ「おおー、驚異の防御力やなぁーさすがやで」

土御門「まさしく吹寄おでこDXだにゃー」

一方通行「どォでもいいけど、オマエら地面にのたうち回ってる三下を少しは心配したらどォだにゃン」

姫神「まあ。上条君なら平気だろうし」

土御門「心配するだけ損だにゃー」

禁書「とうま! このたこさんウインナーすごく美味しいんだよ! とうまも食べる?」

上条「…………不幸だ」






「「「「「「「「王様だーれだー!!」」」」」」」」




青ピ「おっ、またボクやんラッキーやで! 日頃の行いがええからやろうなぁ」

一方通行「寝言は寝て言えにゃン」

吹寄「次は一体どんなひどい命令をする気かしら? また変なドリンク飲ませるみたいな二番煎じしようと思ってるんじゃないでしょうね?」

禁書「飲むなら美味しい飲み物が飲みたいかも」モグモグ

上条「それじゃ罰ゲームにならねえから面白くないだろ」

青ピ「まあさすがに同じネタを繰り返すなんて馬鹿なことせーへんわ。さーて、あんまドギツイ命令すると吹寄さんに怒られそうやからこれくらいのライトなのにしよーかな」



青ピ「3番の人が1番の人に食べ物をあーんするんや!!」



吹寄「……まあ、これくらいならいいか」

禁書「あっ、1番は私なんだよ! 早く食べさせてほしいかも!」つ1番の割り箸

上条「お前さっきからずっと食ってばっかじゃねえか!」

姫神「じゃあ。3番は誰?」

一方通行「……チッ、また俺かよにゃン」つ3番の割り箸

結標「!?」

吹寄「あー、まあこれはしょうがないわね」

姫神「ドンマイ」



一方通行「面倒臭せェからさっさと終わらせるかにゃン。オイクソシスター口開けろにゃン」つからあげ

禁書「あーん!」

一方通行「ほら食えにゃン」スッ

禁書「んっ……おいひいんはほ! あふぃあふぉあふへはへーは!(おいしいんだよ! ありがとあくせられーた!)」モガモガ

一方通行「口に物入れたまま喋ってンじゃねェにゃン」



結標「…………いいなあ」ボソッ

青ピ「……おかしいなぁ。本当は他の女子連中が恥ずかしがりながら食い食わせする展開を期待してたのになぁ」

土御門「打って変わってのほのぼの展開だったにゃー」






「「「「「「「「王様だーれだー!!」」」」」」」」




土御門「おっ、今度はオレかい?」

吹寄「変な命令するんじゃないわよ?」

土御門「わかってるにゃー。ちゃんとやっていいラインは心得てるつもりですたい」

一方通行「本当だろォなにゃン。オマエの言ってることは全然信用できねェンだよにゃン」

土御門「信用されてないにゃー。ま、いっか。じゃあオレの命令行くぜい」スッ




土御門「6番の人は王様ゲーム中、このミニスカメイド服+ネコミミを着用するんですたい!!」つミニスカメイド服セット+ネコミミ




青ピ「うおおおおおおおおおおおおおボクは7番だから高確率で女の子のメイド服が見れるうううう!!」つ7番の割り箸

上条「わっ、俺2番かこえー。つーか、これ吹寄的にアウトになるんじゃねえのか?」つ2番の割り箸

土御門「にゃー、これはアウトとは言わせないぜい。吹寄はさっきインデックスがやったカナミンのコスプレを許容したからにゃー」

吹寄「あ、あれはインデックスが望んで着てるから――」

禁書「おおっー! 何かまいかが着てる服に似てるんだよ! ちょっと着てみたいかも! でも私は3番だから違うんだよ」モグモグ

土御門「最年少のインデックスが着たいと言ってるのに、大人な我々が恥ずかしいなどと言って拒否するのどうなのかにゃー?」ニヤリ

吹寄「ぐっ、まあいいわよ。言っておくけどあたしは6番じゃないわよ」つ5番の割り箸

結標「私も4番だから違うわね」つ4番の割り箸

姫神「私も違う」つ1番の割り箸

結標「……ってことは」チラッ



一方通行「…………」つ6番の割り箸



青ピ「あっ……」

吹寄「えぇ……」

結標「……ぷぷっ」

上条「ありゃあ……」

姫神「今日はよく当たるね。アクセラ君」

禁書「?」モグモグ





一方通行「…………あばよ、クソ野郎ども」カチッ



結標「あっ、逃げるつもりよ!」

姫神「まあ。これはしょうがない」




一方通行「こンな茶番、付き合ってられ――」グッ




バガン!!




一方通行「なっ!? 能力が使えねェだと!?」


ヒラヒラ


上条「? なんだこのヒラヒラした紙吹雪みたいなの? どっかで見たことある気がする」



土御門『攪乱の羽(チャフシード)』。電波攪乱兵器の一種だぜい」




一方通行「またかクソがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」ドンドン




上条「まあまあ落ち着けって一方通行」ポン

一方通行「さり気なく右手で触って能力封じてンじゃねェぞ三下ァ!!」

青ピ「そない怒らんでもええやんアクセラちゃん。ほな、行こうや」ニヤニヤ

一方通行「あァ!? どこ行こうってンだゴルァ!!」

土御門「お着替えタイムだぜーい」ニヤニヤ



~しばらくして~






一方通行(ネコミミミニスカメイド)「クソッタレが……」



結標「きゃあああああ!! 前から見てみたかった一方通行の女装姿!!」キラキラ

上条「おおっ、なんだ結構似合ってんじゃねえか」

姫神「元の顔立ちが中性的だから。女物の服でも違和感がないね」

禁書「たしかにあくせられーた女の子みたいなんだよ!」モガモガ

吹寄「ぷふっ、そうね女の子みたい」クスクス

土御門「みんなに大好評で何よりだにゃー。こっちも準備してきた甲斐があるってもんだぜい」


青ピ「……なあアクセラちゃん」

一方通行「あァン!?」

青ピ「ボクって実は『男の娘』もいける口なんよなぁ」ワキワキ

一方通行「オラァ!!」スッ



パコン



青ピ「おうふっ、アクセラちゃんの能力なしヘナチョコパンチが女の子らしさが出ててよきッ!!」

一方通行「クソがッ!! まだチャフの効果切れてねェのかよ長げェよ!!」

土御門「ああ、能力使われて逃げられても困るから、登場シーンの前くらいにもう一回撒いといた」

一方通行「余計なことしてンじゃねェぞクソ野郎がァ!!」

結標「ねえ一方通行?」

一方通行「何だよ!?」

結標「一つ忘れてることがあるでしょ?」

一方通行「あァ?」

結標「私が王様になったときの命令よ」

一方通行「あっ……」

結標「ね?」ニコニコ

一方通行「…………」



一方通行「オマエらあとでホントにぶっ潰してやるからにゃああああああああああああああああああああああン!!」







「「「「「「「「王様だーれだー!!」」」」」」」」




姫神「あっ。私が王様」

上条「次は姫神か。くそーやっぱなかなか王様引けねーなぁ」

青ピ「ヒメやーん! いっちょ面白い命令頼むでー!」

姫神「……了解した。そこまで言うなら。期待に応えよう」ニヤリ

土御門「おっ、なんか嫌に自信満々やなぁー楽しみだぜい」

姫神「では……」スッ




姫神「4番と7番の人が。このポッキーを使って。ポッキーゲームをしてもらう」



青ピ「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

土御門「きたああああああああああああああああ!!」



姫神「ちなみにルールは。王様である私と二人の勝負。途中でどっちかがポッキーを折ってリタイアしたら二人の負け」

姫神「負けたら罰ゲームとして。青髪君が作ったドリンクの残りを。二人に飲んでもらう」

吹寄「ちょ、ちょっと姫神さん!」

姫神「大丈夫。さすがにマウストゥマウスはマズイと思うから。二人の鼻頭が接触したら。クリアとする」

吹寄「……まあ、それならいーか」

姫神「だけど鼻頭で済ますか。またその先を目指すかは。本人たち次第とします」ニヤリ

禁書「うーん、私は5番だから外れだね。ポッキー食べたかったかも」

上条「お前はそればっかだな」

一方通行「結局、4番と7番って誰なンだにゃン? 俺は違うぞにゃン」つ2番

結標「私も違うわ。なんか焦ってそうだったから吹寄さん?」つ1番

吹寄「違うわよ。不健全なゲームにならないように止めようとしただけよ。ちなみにあたしは6番よ」

上条「俺は3番だな。まあこういうゲームはあんまりやりたくないから、当たらなくてラッキーだぜ」



青ピ・土御門「「……ん?」」



青ピ「……えっと、つっちーって何番?」

土御門「……4番なんだけど。ちなみにピアスクンは?」

青ピ「7番……」

姫神「…………」つポッキー

青ピ・土御門「「…………」」


姫神「……王様の命令は絶対」ニヤリ





~見苦しいシーンなので割愛~



土御門「オエエエエエエエエエ!! 何が楽しくて野郎とゼロ距離顔面しなきゃいけないんだオエエエエエエエエエ!!」

青ピ「それはこっちのセリフやでオロロロロロロロロロロ!!」



吹寄「ふん。いい気味よ」

一方通行「あはっ、ぎゃはっ!! 俺を散々おもちゃにしてくれたバチが当たったよォだにゃン!! ざまあねェにゃンッ!!」

禁書「すごく嬉しそうだねあくせられーた」パクパク

上条「うぇ、これやるほうも地獄だろうけど見る方も地獄だな」

姫神「世の中には。こういうのを見たりして。楽しむ女子がいるらしい」

結標「へー、そうなんだ」



青ピ「――はぁ、はぁ、オェ……じゃあ、気を取り直してくじ引くでー」フラッ



上条「そんな状態になりながらまだやるつもりなのかよ」

吹寄「もうやめたら? いろいろダメージを受けた人もいるだろうし、これ以上やっても素直に楽しめる気がしないわ」

土御門「だにゃー、そろそろ潮時かもな」

結標「そうね。ドキドキ感とかはすごいせいか知らないけど、すごい疲れた気がするし」

一方通行「オマエは特に何も罰を受けてねェだろォがにゃン」

青ピ「ぐぬー、ボク的に思い通りの展開には出来なくて残念やが、みんながそう言うならしゃーないなぁ。ほな次ラストにしましょ」スッ

姫神「まあ。もう一回くらいなら。いいか」

吹寄「しょうがないわね」





「「「「「「「「王様だーれだー!!」」」」」」」」







禁書「うん? とうまー、なんか割り箸に赤い印が付いてるんだよ」

上条「お前それ王様の当たりくじじゃねえか! チクショウ、やっぱ俺じゃ王様引けなかったか」

結標「王様になって何の命令するつもりだったのかしら?」

上条「いや、ただ当たりを引きたかっただけで、別にそのあとのことは考えてなかった」

吹寄「じゃあインデックス。王様になったのだから命令を言ってちょうだい」



禁書「うーん、だったらやきそばが食べたいんだよ!! あくせられーた買ってきて!!」



一方通行「ハァ? 何言ってンだオマエにゃン? ルールきちンと理解してねェようだにゃン?」

禁書「?」

姫神「1から7までの番号を言って。その番号を引いてた人がその命令をやる。さっきまであなたもやってたでしょ?」

禁書「なるほど。だったらあくせられーたと7番の人は焼きそば買ってきて!」

一方通行「だから何で俺だけ名指しされなきゃいけねェンだにゃン!? 潰すぞクソガキが!」

吹寄「もういいじゃない。7番の人と焼きそば買ってくれば?」

一方通行「納得いかねェにゃン。何でルールガン無視しやがるクソ王にパシりさせられなきゃいけねェンだにゃン」

青ピ「まあ最後の命令ってことやしサービスってことでええやん」

一方通行「……やっぱり納得いかねェにゃン」

上条「ところで7番の人って誰だ?」


結標「……えっと、私」つ7番の割り箸


一方通行「……うわァ」

結標「うわぁ、とは何よ? どっちかと言ったら女装してにゃんにゃん言ってるヤツと一緒に歩かないといけない、私のほうがうわぁだわ」

一方通行「その半分はオマエのせいだってこと忘れるなにゃン」

吹寄「はい! じゃあ二人とも屋台の方に行って焼きそば買ってきてちょうだい」

上条「ああ、焼きそば代出すよ。いくら王様の命令は絶対だからって言って、金まで出させるわけにはいかねえからな」

一方通行「チッ、いるかよそンな端金にゃン。結標、とっとと行って終わらせるにゃン」

結標「はいはい。じゃあちょっと行ってくるわね」

吹寄「ふふっ、ごゆっくりー」

禁書「いってらっしゃいなんだよ!」

一方通行「……つゥか、服着替えてイイかにゃン? こンな格好他の知り合いに見られたらマズイにゃン」

青ピ「何言うとんねんアクセラちゃん!! お使いが終わるまでが王様ゲームや!!」

土御門「ま、それに今のアクセラちゃんなら、ちょっとくらいの知り合いになら見られてもバレないと思うからへーきへーき」

姫神「それはたしかに言えてる」

一方通行「クソ野郎どもがにゃン……」


――――――



一方さんが幻想殺し宿したんじゃないかっつうくらい罰ゲーム喰らいまくってるけどままえやろ

次回『花見(後編)』

インデックスさん登場シーンを書いてるときにはスフィンクスさんの存在を高確率で忘れているけど日常シーンで一緒に居ないってのはおかしいから一応おるということにしておこう

投下



12.花見(後編)


March Forth Sunday 18:30

-第七学区・とある桜公園・桜祭り会場-



ワイワイガヤガヤ



一方通行「クソが……何で俺がこンなことしなきゃいけねェンだにゃン」ガチャリガチャリ

結標「ちゃんと私の命令律儀に守ってて偉いわね」テクテク

一方通行「守らねェとオマエグチグチ言ってきてうるせェだろにゃン」

結標「私って貴方から見たらそんなふうに映ってるわけ?」

一方通行「さァにゃン」

結標「もう……しかしいろいろな屋台が出ててすごいわね」

一方通行「おかげで人が多くていけねェにゃン。つゥか――」


モブ客1(メイド服……?)ジロジロ

モブ客2(うわー、肌しっろ。外国の人?)ジロジロ

モブ客3(ネコミミメイドか。ふっ、尻尾がついてないから70点だな)ジロジロ


一方通行「この服装のせいでやけに注目浴びてうっとォしいにゃン」ギロリ


モブたち「!!」スタコラサッサー


結標「関係ない人たち睨んでどうするのよ?」

一方通行「ヤツらがジロジロ見てきやがるのが悪いにゃン」

結標「しょうがないわよ。ただでさえ白髪赤眼で目立つのにネコミミメイド服だし」

一方通行「これもしかしてバレてンじゃねェのかにゃン? 俺が男だって」

結標「うーん、どうだろ? まあでも土御門が言ってたみたいに、知らない人ならたぶん女の子だとは思うだろうけど」

一方通行「チッ、女装好きの変態野郎なンて思われたくねェぞ俺はにゃン」

結標「大丈夫よ、変態野郎なんて思われないわよきっと。ああ、そういう人なんだなあ、くらいでしょたぶん」

一方通行「どっちにしろ俺からしたら不本意なンだよクソッタレにゃン」

結標「でしょうね」

一方通行「チッ、面倒臭せェ状況になる前にとっとと焼きそば買って帰るにゃン」

結標「はいはい」



黄泉川「おっ、淡希に一方通行じゃん! よーす」





一方通行「!?」

結標「あっ、黄泉川さんどうも」

黄泉川「おーおー、一方通行の格好からしてどうやらお花見をしっかり楽しんでるようじゃんねえ。よかったよかった」

一方通行「あァ!? 楽しンでるわけねェだろォがにゃン!」

黄泉川「にゃん? ああ、王様ゲームでもやってんのか? そいつは災難だったな」

結標「すごいですね黄泉川さん。よくわかりましたね」

黄泉川「ま、アンチスキルの飲み会とかでもたまーにやったりするからな。だからなんとなくわかったじゃん」

結標「なるほど」

一方通行「つゥか、アンチスキルって一応教師の集まりだったよにゃン? そンなヤツらがこンないかにもな不健全なゲームやっててイイのかにゃン?」

黄泉川「お前らが思ってるような命令はさすがにやらないさ。そのへんはちゃんとわきまえてるじゃんよ」

結標「例えば黄泉川が王様になったらどんな命令するんですか?」

黄泉川「私? うーんそうじゃんねー。私だったら腕立て伏せ100回やれ! とかかな?」

結標「それはなかなかにハードですね……」

一方通行「オマエとは絶対ェ王様ゲームやらねェぞ」

黄泉川「えぇー? 今度ウチでご飯食べてるときとかやろうよー?」

一方通行「するかボケ!」

結標「……ところで黄泉川さん。さっき普通に一方通行って呼んでたけど、こんな格好でよくわかりましたね?」

黄泉川「そりゃそうだろー。なんせ一緒の家に住んでる同居人じゃん?」

結標「あーたしかにそうですね」

黄泉川「それにこんな目立つ容姿のやつ、この学園都市に二人や三人居てたまるかっての」

一方通行「……そいつは俺のことを馬鹿にしてるっつゥことでイインだよにゃン? 黄泉川クゥン?」

黄泉川「なははごめんごめん。でも特徴的なのは事実じゃん?」

一方通行「チッ」

黄泉川「……おっと、そういや見回りの途中だった」

結標「そういえばそうでしたね。すみませんなんか喋っちゃって」

一方通行「サボってンじゃねェよアンチスキルさンよォにゃン」

黄泉川「じゃ、花見楽しめよー」ノシ

結標「黄泉川さんもアンチスキルのお仕事頑張ってください」ノシ




一方通行「……チッ、いきなり知り合いに会うとは思わなかったにゃン」

結標「たしかにね。でも黄泉川さんだったからよかったんじゃない?」

一方通行「まァな。もしアレが木原とかクソガキどもとかだったら俺は理性を抑えきれる気がしねェにゃン」

結標「黄泉川さんのお世話になるようなことはやめなさいよほんと」

一方通行「それはこれからの運次第だにゃン」

結標「運って……はぁ、だったら早く焼きそば買って、王様ゲーム終わらせて着替えないとね」

一方通行「たまにはイイこと言うじゃねェか結標クン。この格好をする時間を伸ばせば伸ばすほどよくねェことが起こる確率が高まるンだにゃン」

結標「そうね……」



ワイワイザワザワ



結標「この人混みだからどこに誰がいるかわかったものじゃないしね」

一方通行「ハァ、ホント人混みっつゥのは慣れないにゃン」

結標「じゃ、早く行ってパパっと終わらせて帰りましょ? インデックスが待ってるわよ?」

一方通行「つゥか、何であの野郎は俺を名指しで指名しやがったンだにゃン?」

結標「……ふん。それはあれでしょ? 貴方がいつもいつもインデックスに優しくしてあげてるからでしょ?」

一方通行「優しくしてるつもりはねェにゃン。ぎゃあぎゃあうるせェからメシィ与えて黙らせてるだけだにゃン」

結標「それが優しさっていうんじゃないかしら?」

一方通行「……オマエ何か怒ってないかにゃン?」

結標「別に!」

一方通行「チッ、まァイイ。とにかくさっさと焼きそば買って――」




??「――あら? もしかして鈴科さんではないでしょうか?」




一方通行「ッ!?」

結標「すずしな?」





婚后「やっぱりそうでしたわ! 奇妙な格好をしているので最初気付きませんでしたのよ」

湾内「お久しぶりですわね鈴科さん」

泡浮「鈴科さんも桜祭りへ来られていたのですね」


一方通行(こ、こいつらたしか超電磁砲の知り合いの常盤台のガキどもッ!?)

一方通行(クソがッ! まさかよりにもよって俺の女装姿のときの知り合いに出会うなンて、ツイてなさ過ぎるだろオイッ!?)


結標「? 常盤台の制服? 貴方の知り合い?」


一方通行(しかもこの場に俺が女装をして、『鈴科百合子』っつゥ女を演じていたことがあるという事実を知らねェヤツがいやがる)

一方通行(何より最悪なのは『鈴科百合子』の声は俺がベクトル操作で作った姫神の声だっつゥところだ)

一方通行(目の前にいるガキどもは俺の地声を知らねェ、結標は俺が姫神の声を使っていることを知らねェ)


結標「?」

三人「?」


一方通行(……つまり、下手に声を出すと俺の人生が終わるってことだ)


結標「……どうしたのよ? 突然黙り込んで?」


一方通行(……さて、どォする。どォやってこの状況を切り抜ける?)

一方通行(無難なのは俺は『鈴科百合子』なンて女じゃなくて『一方通行』だ、って感じに人違いだってことにするか?)

一方通行(……いや、一見安牌な方法に見えるが一つ欠点がある。それは俺の見た目だ)

一方通行(白髪赤眼で肌が白い人間なンざ、黄泉川が言ったとおり学園都市中探しても多くないだろう)

一方通行(まだその段階なら人違いで済ませられるが俺には決定的に他のヤツらと違う特徴がある)

一方通行(この首についてる電極付きのチョーカーとこのメカメカしい特注品の杖だ)

一方通行(これら全部の特徴を持ったヤツが俺以外に学園都市の中に存在するのか? いや、それは否だ)

一方通行(だからこそ、こいつらは俺がいままで一度も着たことないメイド服を着ていても、俺のことを『鈴科百合子』と断定して話しかけてきたンだ)

一方通行(そンな状況で俺は『一方通行』だって名乗っても、おそらく素直にハイそォですかとはいかねェだろう)

一方通行(常盤台のヤツらは能力だけじゃなく学力も高水準だ。そこら辺で馬鹿騒ぎしてる三下どもとはオツムが違う)

一方通行(下手したら『一方通行』=『鈴科百合子』という公式がガキどもの中で生まれてもおかしくはない)

一方通行(そォした場合ヤツらは共通の知人である超電磁砲に問い詰めるだろう)

一方通行(その場合超電磁砲が真実を話すかどうか、っつゥ話になるが間違いなくヤツは暴露するだろう)

一方通行(なぜなら俺と超電磁砲は別にそンな仲のいい関係でもないただの知り合い、ってか過去のことを考えれば仇敵と言ってもイイか)

一方通行(そしてそこの三人と超電磁砲はおそらくトモダチだろう)

一方通行(その場合どちらを取るかっつったら、間違いなくヤツはトモダチのほうをとる)

一方通行(暴露の仕方はどォいうのかはわからねェが、いずれのパターンでも俺は女装して男子禁制の場所に侵入した変態野郎の烙印を押されるだろう)

一方通行(……つまり、人違い作戦は使えねェっつゥことだ)


婚后「……? どうかしましたか鈴科さん? 全然喋りませんけど」

湾内「もしかしてわたくしたちの声が聞こえてなかったのでしょうか? この騒がしさですし」

泡浮「そうかもしれませんね。ではもう一度呼んでみましょう。鈴科さん! 聞こえますでしょうか?」




一方通行(あと思いつく作戦は何だ? コイツらをチカラを使って一瞬で気絶させる、いやこンなことしたら変態野郎よりも最悪なクソ野郎になる)

一方通行(チカラを使って逃亡するか? いや、俺だけ逃げても結標を置いていくことなるから無理だ。残ったアイツがこの三人に俺が『一方通行』だっつゥことを伝えるかもしれねェからな)

一方通行(だったら結標ごと逃亡するのはどォだ? ……ダメだ。逃亡したあとに何であンなことをしたンだという結標からの質問対して、有効な回答が出てこねェ)

一方通行(……こォなったら、強引だがこれで行くしかねェ……!)


結標「……? ちょっと貴方? 話きいて――」

一方通行「ゴホッゴホッ!! ゴホッゴホッ!!」

結標「? ど、どうしたのよいきなり咳なんてして?」

湾内「咳? 風邪でも引いているのかしら」

婚后「たしかにすごいガラガラ声ですわ」

泡浮「だから喋れなかったのですわね」

一方通行「ゴホッゴホッ結標ゴホッゴホッ!! ゴホッゴホッ!!」

結標「な、なによ!?」

一方通行「ゴホッゴホッ!! 先にゴホッゴホッ!! 焼きそば屋ゴホッゴホッ!! 行っててくれゴホッゴホッ!!」

結標「……先に行ってろってこと? 何でよ?」

一方通行「イイからゴホッゴホッ!! 先に行ってろってンだクソ野郎ゴホッゴホッ!!」

結標「? よくわからないけどわかったわ。じゃ、先行ってるわよ?」テクテク


一方通行(…………よし行ったな。あとは)カチッ


婚后「あら? お連れの方が行ってしまいましたわよ?」

泡浮「ところで大丈夫ですか? さっきから咳が治まらないようですけど……)

湾内「も、もしかして救急車とか呼んだほうがよろしいのでしょうか?」オロオロ

一方通行「あーあー、ゴホン! 悪りィもォ大丈夫だ。ちょっと砂埃かなンか吸ったみてェでむせてただけだ(以下姫神ボイス)」

湾内「あらそうでしたのですね。それなら安心ですわ」




一方通行「オマエらはこンなところで何やってンだ? って、さっき桜祭りとか何とか言ってたか」

泡浮「はい。今日桜祭りがあると聞きまして、寮の門限延長申請を出してここに来ましたのよ」

婚后「本当は桜の木の下に座してお花見会といきたかったのですが、さすがにこの人多さだとそこまでは出来ませんでしたわ。残念です」

一方通行「あァ、ここには花見場所取りガチ勢がいるから、オマエらみたいなのじゃたしかに厳しいかもしれねェな」

湾内「がちぜい、さん? この辺りの桜の場所を管理している方でしょうか?」

泡浮「なるほど。その人にお願いしないと場所が貸していただけないのですね」

一方通行(これが世間知らずのお嬢様ってヤツか。面倒だからツッコムのはやめておくか)

婚后「ところで鈴科さんはどうしてそんな奇妙な服装をしているのでしょうか? 丈の短いスカートをしたメイド服のようなものに加え、猫の耳を模したカチューシャなどをして」

一方通行「ああ。これはな、花見でやったゲームのちょっとした罰ゲームみたいなモンだ。別に俺の趣味とかじゃねェから安心しろ」

婚后「はあーそうなんですの。高校生のお花見というのはそういうことをするものなのですね」

一方通行「まァ全員が全員やってるわけじゃねェと思うけどな」

泡浮「勉強になりますわね」

湾内「桜祭りに来てよかったですわ」

一方通行(チッ、そろそろ話切り上げねェとな。前はクソガキに能力使用モードに制限付けさせてたからよかったが、今は普通の能力使用モードで変声してるから電池残量が心配だ)


一方通行「……ま、そォいうわけだから俺は行くとす――」



美琴「あっ、婚后さんたちいたいた! おー……い?」タッタッタ



一方通行「あっ」

美琴「あっ」


黒子「……お姉さま? どうしたんですかいきなり手を上げたまま固まって」

佐天「もしかしてだるまさんが転んだでもしてるんじゃないですか?」

初春「またまたー、佐天さんじゃないんだからそんな急に変なことしないですよー」


一方通行(クソがあああああああああああッ!! 抜かったッ!! こいつらがいるっつゥことは超電磁砲とその連れもいるっつゥことだろォが何やってンだ俺ェ!?)

美琴(えっ、ええええええええええっ!? あれ一方通行よね!? なんで学舎の園の中じゃないのに女装してるのアイツ!? なんでっ!? どうして!?)


婚后「あら、御坂さんたちどうかなさりましたか?」

佐天「婚后さんたちがやりたがってた金魚すくいの出店が見つかったので呼びに来たんですよ」

初春「なんとなく金魚すくいって夏祭りのイメージあるんですけど、探してみれば案外あるものなんですね」

黒子「……ところでそちらの奇抜な格好をなさった方は婚后さんたちのお知り合いですの?」

湾内「はい。鈴科さんと言って、一ヶ月ほど前に学舎の園で会いましてお知り合いになりましたのよ」

婚后「御坂さんのお知り合いの方でしたから、てっきり貴女たちも知っているかと思っていましたわ」

佐天「うーん、鈴科さんかー。聞いたことないねー」

黒子「わたくしも聞いたことありませんわね」

初春「まあ御坂さん知り合いの人多そうですから、知らない人がいてもしょうがないですよね」




美琴「(ちょ、ちょっと一方通行ぁ!? アンタ何でこんなところで女装してんのよ!? も、もしかして私のせいで女装癖に目覚めて――)」

一方通行「(ンなわけねェだろ殺すぞオマエ! こちらとら罰ゲームでクソみてェな服着せられてンだよ!)」

美琴「(あー、なるほど。それでその状態で婚后さんたちに会っちゃって仕方無しに『鈴科百合子』になったってわけね。……よかった、私のせいじゃなくて)」ホッ

一方通行「(まァ、そもそもオマエが『鈴科百合子』なンておぞましいモン生み出さなきゃ、こンなことにはならなかったンだがな)」


佐天「御坂さん御坂さん! その人誰なんですか!? あたしたちにも紹介してくださいよ!」

美琴「えっ? え、ええ、ええっとこちら鈴科百合子さん。ちょっとした知り合いよ」

初春「初春飾利です! よろしくおねがいします」

佐天「佐天涙子でーす!」

黒子「…………」

美琴「……? どうかしたの黒子?」

黒子「いえ、どこかで見たようなお姿だと思いまして……はて、どこでしたっけ?」

一方通行「ッ!?」

美琴(そ、そういえば初詣のときに『一方通行』の姿でこの子たちと会ってたんだっけ!? すっかり忘れてたやばい!!)

佐天「うーん、言われてみればなんかそんな気がしないこともないような気がするなー」

初春「それするのかしないのかどっちですか? まあたしかに私もなんか引っかかってる気がするんですよねー」

婚后「あら? 貴女たち鈴科さんと知り合いでしたの?」

黒子「いえ、そういうわけじゃないんですが……ふむ」ジロッ

美琴「あ、あははー、多分気のせいよ気のせい」アセッ

一方通行「そォだ。俺はオマエらのことなンて知らねェからな。気のせいだ白井」

黒子「……うん? どうしてわたくしの名字を知っているんでしょうか? わたくしはまだ自己紹介していないと思うんですけど」

一方通行「あっ」

美琴(ちょ、ちょっとなにやってんのこの馬鹿ッ!?)

黒子「どうしてわたくしの名字を知っているのですか? 鈴科百合子さん?」ジロッ

一方通行「……あ、アレだ。超電磁砲からオマエのことを聞いててよォ、それで知っててつい呼ンじまったンだ」

黒子「なるほど、たしかにそれはありえますね」

美琴「ほっ」

黒子「変に疑った目を向けてしまって申し訳ございません。職業柄こういうことには敏感で……。あっ、紹介が遅れましたわね」

黒子「わたくしは常盤台中学一年で風紀委員(ジャッジメント)をさせていただいています、白井黒子と申します」

一方通行「おォ。よろしくよろしく」

黒子「ちなみに御坂美琴お姉さまとはルームメイトであり、将来を誓い合った仲ですのでお見知り置きを」

美琴「だからアンタは勝手に変なことを初対面の人に言うなッ!!」




美琴「――じゃ、私たちは行くわ」

婚后「鈴科さん。また学舎の園にぜひ遊びに来てくださいね?」

湾内「アフタヌーンティーでもしながらゆっくりお話したいですわね」

佐天「いいなぁー、そのときはあたしたちも誘ってくださいよ!」

泡浮「ふふふ、もちろんですわ」

初春「あ、アフタヌーンティー……ああ、お嬢様っぽくていいですねー」

黒子「では、ごきげんよう」



ワイワイガヤガヤ



一方通行「……やっと行ったか(以下一方ボイス)」カチッ

一方通行「クソッタレが。土御門の野郎のせいでとンでもねェ目に遭っちまったな。あのクソ野郎絶対許さねェ」ギリリ

一方通行「……まあイイ。さっさと結標のところに行くか」


結標「あっ、いた! 一方通行!」タッタッタ


一方通行「あン?」

結標「ちょっと何やってたのよ遅いわよ。もう焼きそば買ってきちゃったわ」つ焼きそば

一方通行「あァそォか。すまねェな」

結標「ところでさっきの常磐台の子たち誰なのよ?」

一方通行「あァ? 知らねェよ」

結標「えっ? でもあの子たち貴方に話しかけてたじゃない?」

一方通行「人違いだった。どォやら俺の女装した姿に似た知り合いがいるらしくて、そいつと間違えて俺に声をかけたらしい」

結標「へー、貴方に似ている女の子ってすごいわね。その人貴方の生き別れの妹さんだったりするんじゃない?」

一方通行「俺にそンな小説の物語にでも出てきそうな設定の身内なンざいねェよ。はァ、目的のモン買ったなら戻ンぞ?」ガチャリガチャリ

結標「あっ、ちょっと待ちなさいよ!」タッタッタ

一方通行「こンな危険を呼ぶ服、さっさと脱ぎ捨ててェ」

結標「……ところで一方通行?」

一方通行「何だ?」

結標「『にゃん』の語尾、また忘れてるわよ」ニヤリ

一方通行「…………にゃン」


―――
――





同日 19:00

-第七学区・とある桜公園-



青ピ『そげぶマ~ン♪ そげぶマ~ン♪ ララララそげぶマ~ン♪』



結標「ただいまー!」テクテク

一方通行「チッ、クソみてェなお使いだったにゃン」

吹寄「おかえり二人とも」

結標「今何やってるの? カラオケ大会?」

吹寄「そうよ。ごめんね、二人を待とうって言ったんだけど馬鹿どもが勝手に始めちゃって」

結標「別にいいわよ。どうせ王様ゲームは終わりってわかってたしね」

一方通行「オイ、インデックス。ご所望の品だにゃン」つ焼きそば

禁書「わーい! ありがとうなんだよあくせられーた!」

一方通行「……さて、王様の命令もこなしたところで、さっさとこのクソみてェな服脱ぎ捨てねェとにゃン」

土御門「あっ、アクセラちゃんお疲れだぜい!」

一方通行「チッ、土御門ォ。オマエのせいで本当に疲れたにゃン」

土御門「どうかしたのか? 小太りのハゲ散らかしたオッサンにでも一発どう? って誘われたりでもしたのかにゃー?」

一方通行「……そっちのほうがまだマシだったにゃン。みぞおちに一発入れてやりゃ済む話だからにゃン」

土御門「よくわからんが楽しんでいただけてなによりですたい」

一方通行「どこをどォ聞いたらそンな言葉が出てくるンだにゃン?」

結標「……そういえば、姫神さんと上条君が見当たらないけどどうかしたのかしら?」

吹寄「ああ、二人なら屋台のある方へ言ったわよ。すれ違わなかった?」

一方通行「イイや、知らねェにゃン」

吹寄「そう。あとで結標さんたちももう一回屋台とか回ってもいいわよ? さっきのは王様ゲームの命令だったからゆっくりできなかったでしょ?」

一方通行「チッ、行かねェにゃン。二度とゴメンだにゃン」

吹寄「……何かあったの?」

結標「ええ、女装したせいで知らない女の子たちに人違いで話しかけられたみたいよ」

土御門「ぷふっ、そ、そいつはすごいにゃー」

一方通行「笑うンじゃねェ殺すぞにゃン。……まァイイ、とにかくさっさと着替えるにゃン」ガチャリガチャリ


青ピ「おっ、アクセラちゃん帰ってたんやなー」


一方通行「おォ」

青ピ「ちょうどいいタイミングやったなぁ。カラオケの出番、次がアクセラちゃんの番やったんや。ほい、マイク」ポイッ

一方通行「ハァ? 何で俺が歌なンざ歌わなきゃいけねェンだにゃン。つゥか、勝手に曲入れるなよ。帰ってくるの間に合わなかったらどォするつもりだったンだにゃン?」パシッ

青ピ「でぇーじょうぶだ、アクセラちゃんたちが帰ってくるのが見えてから曲割り込ませたから」

一方通行「クソみてェなことしてくれてンじゃねェにゃン」

青ピ「まあまあ。ちゃんと今アクセラちゃんにピッタリの曲入れといたから安心しぃ」

一方通行「あン?」




一方通行「今の俺にピッタリの曲にゃン? 一体何の曲――」



『はっぴぃ にゅう にゃあ/芹沢文乃(伊藤かな恵)&梅ノ森千世(井口裕香)&霧谷希(竹達彩奈)』



一方通行「なっ!? コイツは……!」

結標「ぷふっ、な、懐かしいわね」

吹寄「あー、冬休み前の打ち上げでカラオケ行ったときのヤツね」

土御門「にゃっははーまさしくピッタリな曲だぜい! ナイス選曲だ青髪ピアス!」

青ピ「アクセラちゃんの萌え萌えにゃんにゃんライブの始まりやでー!!」

一方通行「ふざけンなッ!! 何で俺がこンなクソ曲歌わな――」

青ピ「あっ、この曲すぐ始まるやでー」



タータタタンタータタタタンタ♪ タータータータータタタタタタタタタン♪



一方通行『にゃあ♪』



青ピ「うん?」



一方通行『ンでンでンでェ♪(にゃあ)にゃァンでェ♪ かまってかまって欲しィのォ♪』


一方通行『イイ子じゃないとォきのわたしィ、カワイィとかありえなァい♪』


一方通行『それそれそれェ♪(にゃあ)らァあぶッ♪ もらってもらってくださいィ♪』


一方通行『非常事態が日常ですゥ♪ 好きって言ったらジ・エンドにゃン♪』



土御門「なっ、なにぃ!? 何のテレもなく完璧なリズムで歌いこなしてるだと!?」

青ピ「そ、そんな馬鹿な!? ネコミミメイドのアクセラちゃんが赤面状態でたどたどしく歌うっていう、おもしろおかしいシチュのはずだったのに!?」ガクッ

結標「まあ、一方通行の頭なら一回曲歌えば完璧に歌えそうではあるわね」

吹寄「それに二回目だから恥ずかしさとかも半減だろうし。完全に馬鹿二人の負けってことかしら?」





一方通行『わがままそのままねこまンまァ♪ 上から目線のてンこ盛ィ♪』


一方通行『三毛ブチィ♪ トラシロォ♪』


結標「はやくしろっ♪」


一方通行『うェるかむねこまねきィ♪』


青ピ「なんかしらんけど姉さんまでノリノリやんけ!? つっちー!! どうやら遊んでる暇はなさそうやで!!」

土御門「たしかに、一般人どもに負けるわけにはいかないにゃー」

吹寄「何の勝負よ?」


一方通行『ちょォしにのっちゃだめェ♪ にゃンたら優しすぎるのだァいキィラァいィ♪』


ダン! ダン!


結標・土御門・青ピ「「「みゃーん♪」」」


一方通行『はァァァぴィにゅうにゃァ♪ はァァァじめましてェ♪』


一方通行『キミにィあげるゥ最初のオォォバラァン♪ 逃げるからァ追い掛けてェまァるい世界ィィ♪』


ティロティロ♪


一方通行『ラァアアアッキィニューフェェイス♪ ちィィかづいてるゥ♪』


一方通行『わたしだけェェ見つけなさいィィ♪ 拾いたいなら拾えばァァァ♪』


一方通行・結標・土御門・青ピ『「「「いーじゃン(ん)♪」」」』



<ぎゃははははははははははははははははははっ!!



一方通行(……あン? 何か聞き覚えのあるクソみてェな笑い声が聞こえて――)チラッ





数多「ぎゃはははははははっ!! 何だぁ? クソガキが花見してるって聞いて何してっかなぁって様子見に来たらよぉ、馬鹿みてぇな格好して馬鹿みてぇな曲歌ってやがるじゃねえか!!」

打ち止め「おおっ!! あれは伝説の『はっぴぃ にゅう にゃあ』だっ!! ってミサカはミサカはもう一度伝説を目の当たりに出来て感動を覚えてみたり!」

円周「くそう。こっちはこんなにおもしろい展開になってたのかあ。つまんない数多おじちゃんのところになんて戻らなきゃよかったよー」


一方通行『』


結標「あっ、打ち止めちゃんたち。それに木原さんもいる……あっ」

吹寄「あれが噂の木原さんね……なんか怖い雰囲気ね」

青ピ「ひえー顔面に刺青入れてるなんて裏の人やないんかい?」

土御門「…………」



一方通行『……木ィィィィィ原くゥゥううううううううううううううううううううううンッ!!』



キィィイイイイイイイイイン!!


吹寄「わっ」

土御門「うるさっ!?」

結標「ちょっと一方通行マイクマイク!!」

青ピ「耳がッ!? 耳がああああああああああああああああああッ!?」


一方通行「木原ァ……今見たこと」カチッ





一方通行「忘れろっつってもどォせ忘れねェだろォからなァ!? 記憶ゥこの俺が直々にその腐った脳みそグチャグチャにしてェ、命もろとも跡形もなく消し去ってやるよォおおおおおおおおおおおッ!!」バッ

数多「ぎゃはっ、面白れェ。少しは強くなったか見てやるよ。来やがれクソガキィ!!」





ドガン!! ズガガガガガガガ!! バギィン!! ゴォウ!! ドドドドド!! ベキン!! ゴパァ!!





<ぎゃああああああああ!! <なんだなんだ喧嘩か!? <ああああああすごい突風で桜の花びらとか食べ物とかいろいろ飛んでいくううううう!?


打ち止め「ちょ、ちょっと二人ともやめてええ!! ってミサカはミサカは精一杯呼びかけてみたり!!」

円周「おおー、まさか桜の満開日がそのままシーズン終了日になるなんて思わなかったなあ。さすが学園都市だねー」


結標「ちょっと一方通行落ち着きなさい!! このままじゃもう騒ぎどころか大事件に発展しちゃうわよ!!」

禁書「ああっ、私の焼きそばが飛んでいった!?」

吹寄「な、なんというかすごいわね……」アゼン

青ピ「つ、つえー……あのアクセラちゃんをまるで駄々こねる子供みたいにあしらうなんて。一体何者やあの人ぉ」

土御門(ふっ、さすがは木原数多だな。間違いなくヤツも敵に回したくない相手の一人だ)


―――
――





同日 19:10

-第七学区・とある桜公園・桜祭り会場-



<ドッッゴオオオオオオオン!!



上条「うわっ、何だ!? 何かすげえ音が聞こえたぞ!?」

姫神「あの方向は。私たちがさっき。花見をしていた場所辺り」

上条「マジかよ。何事もなければいいけど……」

姫神「たぶん大丈夫。そろそろアクセラ君が戻っているはずだから。なにか事件みたいなのがあれば。解決してくれてると思う」

上条「……そうだな。それに結標もいるし何とかなるか」

姫神(まあ。でもあんな騒ぎ起こせる人って。私の中では一人しかいないけど。黙っておこう)


上条「……しかし、もう三月も終わりで一年生も終わりってことは、もう二年生になるってことだよな?」

姫神「そうだね。ところで。上条君?」

上条「何だよ?」

姫神「補習の常連メンバーだったくらいの成績だったけど。二年生に進級できるの?」

上条「がっ、そ、そりゃ大丈夫だったよ! 一方通行や結標に期末試験の勉強手伝ってもらって最後の補習回避できたおかげでな!」

姫神「へー。正直心配してたから。ホッとした」

上条(でも最後のテストもダメだったら本気でヤバかったなんて言ったら、なんか怒られそうだから黙ってよう……)タラッ

姫神「どうしたの?」

上条「いやなんでもねえよ。だけどもう二年生かぁ……なんかあっという間だった気がするよ」

姫神「私も。この学校に転入したのが九月だから。余計に早く感じる」

上条「まぁ、俺も夏休み前半以前の記憶がないからだろうなぁ……」ボソッ

姫神「なにかいった?」

上条「いや、なんでもないんだ気にしないでくれ!」アセッ

姫神「?」

上条「で、でもあれだよな。あっという間に感じるってことは楽しい学校生活を送れてるってことだよな?」

姫神「うん。合ってると思う」

上条「だよな。ほんと楽しかったと思うよ。辛いこととかもたくさんあったっけどさ」




姫神「……上条君」

上条「何だ?」

姫神「私がこうやって。楽しい学校生活を送れてるのは。上条君がいてくれたから。だから。改めてお礼が言いたい」

上条「お礼? なんでそんな……」

姫神「上条君があのとき。私を助けに来てくれなかったら。今こうして生きていられたかも。わからない」

上条「…………」

姫神「……だから。その。ありがとうございました」ペコリ

上条「……ははっ」

姫神「? 何かおかしいこと言った?」

上条「いやーごめんごめん。おかしくて笑ったわけじゃないんだ。そこはわかってくれ」

姫神「じゃあ。なんで?」

上条「俺はな、別にお礼を言われるために助けたわけじゃないからな。だからいざお礼なんて言われたから、なんか笑っちゃってさ」

姫神「……それって。やっぱり。おかしいと思って。笑ったってことにならない?」ジロッ

上条「あれ? そうなりますかね?」

姫神「うん」

上条「……マジで?」

姫神「うん」

上条「姫神様のありがとうございましたを笑ってしまってスンマセンっしたぁ!!」

姫神「……だめ。ゆるさない」ムスッ

上条「そ、そこをなんとか……」

姫神「…………ふふ」

上条「?」

姫神「ふふふ。冗談。面白くて。ちょっとからかっちゃった」クスッ

上条「……ははっ、人が悪いですよ姫神さん」

姫神「ごめんなさい。ふふっ」

上条「くそぅ……まあ、でも」

姫神「うん?」







上条「こうやって姫神が笑顔で笑ってくれるならさ、真面目な顔してお礼なんか言われるよりずっと嬉しいよ。俺にとってはさ」ニコッ





姫神「…………ッ」

上条「……あら? なんかスベった?」

姫神「…………」プイッ

上条「あのー、なんでそっぽを向くんでせうか? そんなに俺変なこと言いましたかね?」

姫神「……ごめん。今。私。そっち。向けない」

上条「?」

姫神「…………」

上条「…………あのー?」

姫神「……よし。いこう」

上条「いく? どこか行きたいのか?」

姫神「上条当麻君」

上条「うおっ、なんだいきなりフルネームで呼んで?」

姫神「あなたに。話がある」

上条「お、おう」



姫神「私は。あなたのことが――」



婚后「あら? その声もしかして鈴科さんですの?」






姫神「!?」ビクッ

上条「すずしな?」

婚后「……あら? 全然違いましたの」

上条(常盤台の制服だ。御坂の知り合いだったりするのか?)

姫神「……私に。何か用?」

婚后「申し訳ございません。貴女の声が先程出会えた知り合いの声に似ていて、思わず声をかけてしまいました」

姫神「そう。別にいい。勘違いは誰にでもある」


湾内「婚后さーん! どうかなさいましたかー?」

泡浮「早くいかないと御坂様たちと離れてしまいますわ」


上条(御坂様? やっぱり御坂の知り合いか)

婚后「ごめんなさいすぐ行きますわ! それでは失礼致します」ペコリ

姫神「うん」



<ドウシタンデスカイキナリハナレテ? <イエスズシナサンソックリノコエノオカタトオアイシマシテ <ソンナグウゼンガアルノデスワネー



上条「なんだったんだ?」

姫神「さあ?」

上条「ところで姫神。結局話ってなんだったんだ?」

姫神「話?」

上条「ほら、さっき何か言いかけてただろ?」

姫神「…………」

上条「?」

姫神「!!!?!!!?」バッ

上条「うおっ!? いきなりまたそっぽ向いてどうした姫神!?」

姫神(私は!! さっき!! 一体!! なにを!! しようと!! していた!?)

上条「……あのー、姫神さん?」

姫神「……ごめんなさい。さっきの話。なしで」

上条「お、おう? わかった」

姫神(恥ずかしすぎて。とても顔が。見れない)カァ

上条「?」



―――
――





同日 19:30

-第七学区・とある桜公園・外れ-



一方通行「…………」ゴロン ←普通の服装に戻っている



結標「あっ、いた! こんなところで一人寝転がって何やってるのよ?」

一方通行「……結標か」

結標「そろそろお開きの時間だから、みんな片付けとかやってるわよ? 私たちも行きましょ?」

一方通行「悪りィ、今日は疲れてンだ。もう少しここに居させてくれ」

結標「……もう、しょうがないわね」スッ

一方通行「あン? 何で俺の隣に座りやがンだ?」

結標「うん? サボり仲間が欲しいんじゃないかと思って、一緒にサボってあげてんのよ」

一方通行「いらねェよそンなモン。グチグチ言われるのは俺一人で十分だ」

結標「別にいいでしょ? たまには私だってそういう日があるってことよ」

一方通行「……チッ、勝手にしろ」

結標「…………」

一方通行「…………」ボー

結標「……着替えたんだ」

一方通行「あァ?」

結標「ネコミミメイド服」

一方通行「当たり前だろォが。俺を何だと思ってやがる」

結標「似合ってたわよ? 私の思ったとおりね」

一方通行「世界で一番言われても嬉しくねェ褒め言葉だな」

結標「ふふっ、そうね。ごめんなさい」

一方通行「散々な花見だったなクソッタレが」

結標「あら? 楽しくなかったのかしら?」

一方通行「当たり前だろォが。朝から場所取りさせられて、クソみたいな罰ゲーム食らわせられて、馬鹿みてェな曲歌わせられて、木原のクソに調子に乗られたうえにやられて」

結標「いや、最後のは貴方がいきなり暴れだしたのが悪いんじゃないかしら?」




一方通行「……とにかく、俺が楽しめる要素皆無だったっつゥことだ」

結標「ふーん、まあいいじゃない。それでも」

一方通行「ハァ? 何言ってンだオマエ?」

結標「苦労することでみんなが笑ってくれるなら、それでもいいじゃないってことよ」

一方通行「いつから俺はそンなドM野郎になりやがったってンだ?」

結標「別にそうは言ってないわよ。最高の場所とは言えないけど、場所取りしてあの場所を確保したことによってみんなが花見を楽しめた」

結標「それだけで私は、休日なのに朝早く起きてここに来てよかったと思ってるわよ」

一方通行「お気楽クンはイイねェ。俺にはどォやってもあンな格好で醜態晒されたことをそォいう風にやってよかった、っつゥ感想に持っていくことが出来ないねェからな」

結標「……でも、貴方は本気で断らなかったじゃない」

一方通行「ハァ?」

結標「だってそんなことを言うくらい嫌だ、っていうことならそういう状況になったときって本気で嫌がって断るじゃない?」

結標「それか、本気で怒ってどんな手を使ってでもこの場から立ち去ろう、なんてことしようとしたんじゃないかしら?」

一方通行「何言ってやがる。アレはオマエらがあの手この手で俺の退路を塞いで――」

結標「だけど断ってはなかったわよね? 本気で逃げようともしてなかったわよね? 逃げられる場面ならいくらでもあったっていうのに」

一方通行「…………」

結標「いくら王様の命令は絶対、って言っても所詮はゲーム。本気で嫌がるのだったらみんなだって潔く引き下がってくれるはずよ。貴方だってそれくらいはわかるでしょ?」

一方通行「……ああ。甘い連中だよ本当に」

結標「わかってるじゃない。そう、わかっているのに断らなかった、ってことはそういうことでしょ?」ニコッ

一方通行「……馬鹿馬鹿しい。そンなわけねェだろが、くっだらねェ」

結標「はいはいそうですねー」

一方通行「ンだァ? そのクソみてェな口ぶりはよォ?」

結標「何でもないですよー、別に」

一方通行「チッ」

結標「……ところでこの辺って全然人がいないのね。ちょっと中心にいけば花見客がごった返してるっていうのに」

一方通行「ここら辺は街頭やら電灯やらが少なくて暗い上に桜もそンなに生えてねェし、中心部から遠いから桜祭り会場やトイレとかに行くのにも不便だからな」

結標「あー、言われてみればそうね」

一方通行「わざわざこンなクソみてェな場所で花見しよォなンざヤツはまずいねェだろ」

結標「なるほど。つまり、人混みの大嫌いな貴方にとってはオアシスみたいなものってことね」

一方通行「まァな」

結標「でもさっきの説明、一つだけ間違えてるところがあるわよ?」

一方通行「あン?」




結標「貴方はここをクソみたいな場所って言ったけど、貴方が思うほどここは悪いところじゃないわよ?」

一方通行「……なぜそォ思う?」

結標「向こう見てちょうだい」

一方通行「……桜公園の中心部か。桜並木が街頭や電灯とかの灯りに照らされてライトアップされてやがンな」

結標「そう。ちょっとしたイルミネーションみたいなものよね? こんな風景が見られるのだからいい場所だと思うわよ私は」

一方通行「イルミネーションって言うには地味で淡い光だと思うがな」

結標「いいじゃないそれで。たしかに、誰かがお客さんを喜ばすために緻密に計算して色彩鮮やかにした灯りもいいかもしれない」

結標「でも、ただその場を明るくするためだけの灯りが集まってできた、偶然見つけた光の集合も素敵だと私は思うわよ?」

一方通行「……そォかもな」

結標「あら、珍しいわね。貴方がこういうのに同意してくるなんて」

一方通行「別にイイだろォが。俺の勝手だろ」

結標「ふふっ、ごめんごめんつい」

一方通行「うっとォしいヤツだ」

結標「…………あれ?」

一方通行「あァ?」

結標(……今って、二人きりでいて、綺麗な夜景を一緒に見てて、なんというか……いい雰囲気な気が)



『せっかく二人きりの状況なんだからこのチャンス活かしたほうがいいと思うわ』



結標(これって……いわゆるチャンスってヤツ……?)


一方通行「……どォかしたか? 急に馬鹿みてェにフリーズしやがってよ」

結標「あっ、うん何でもない何でもない気にしないでちょうだい!」アセッ

一方通行「?」


結標(な、なんかそういう状況って気付いちゃったせいか知らないけど、なんかすごく恥ずかしくなってきた……!)

結標(あれ? 私ってさっきまでどうやって喋ってたっけ? どんな顔してたっけ? どうやってアイツの顔見てたっけ?)

結標(や、やばい、心臓がドキドキしてきた、顔が熱くなってきた、どうすれば、私はどうすれば――)



『どうせなら告っちゃえば?』





結標「――って絶対無理ッ!!」


一方通行「あァ? 何だいきなり?」

結標「ご、ごめんなさい! 変な声が出ちゃった! な、何でもないわ! 気にしないで!」

一方通行「何か顔赤けェぞ? まさか風邪でも引いたンじゃねェだろォな?」

結標「ち、違うの!! そんなんじゃないから!! ほんと大丈夫だから!!」

一方通行「……チッ、まァイイ。オイ、他のヤツらンところ戻ンぞ」スッ

結標「あ、あら休憩はもういいのかしら?」

一方通行「オマエみてェなのが隣に居られたら休めるモンも休まらねェよ」

結標「……ちょっと、それはいくらなんでひどいと思うんですけど?」

一方通行「黙ったと思ったらいきなり大声上げるようなやつが隣りにいて、オマエは心休まンのかよ?」

結標「そ、それはごめんなさい」

一方通行「……はァ、それにアレだ。風邪引いてるかもしれねェヤツを、いつまでもこンな寒空の下に居させるわけにはいかねェからな」

結標「…………」

一方通行「だから、とっとと戻って片付ける終わらせてウチに帰……あン? どォした?」

結標「……ふふっ、いえ。やっぱり貴方はツンデレってヤツよね、って思ってね」

一方通行「ハァ? そンなくだらねェ単語使って俺をわかった気でいるンじゃねェよ」

結標「そうかしら? 私的にはドンピシャだと思うのだけど?」

一方通行「ケッ、オイさっさと行くぞ」ガチャガチャ

結標「あっ、ちょっと待ちなさいよ!」


青ピ「おおっーい!! アクセラちゃんに姉さーん!!」ボヨンボヨン


一方通行「あァ?」

結標「あら青髪君。片付けはどうしたの?」




青ピ「姉さんら遅いでほんま。もう終わってしもうたよ」ボヨンボヨン

結標「あっ、そうだったの。サボっちゃってごめんなさい」

青ピ「ええってええって、二人のおかげでぎょーさん笑わせてもろうたし。特にアクセラちゃんとか」ボヨンボヨン

一方通行「今度は全力でブン殴るぞオマエ?」

青ピ「あははーすまんすまん」ボヨンボヨン

結標「ところで青髪君。その手に持ってる大きな風船? は何なのかしら?」

青ピ「ああこれ? よくぞ聞いてくれました! これは水ヨーヨーの出店に一つだけ浮いてたキングサイズの水ヨーヨーだぜ!」ボヨンボヨン

結標「へー、よくそんなの取れたわね。すごいわ」

青ピ「せやろせやろ?」ボヨンボヨン

一方通行「くっだらねェ。行くぞ結標」ガチャリガチャリ

結標「あっ、うん」テクテク

青ピ「あーん、ちょっとまってや二人とも――ってぎゃああああズッコケて水ヨーヨーがすっぽ抜けたあああああああああッ!?」スポン

結標「なにそのやけに説明口調な悲鳴!? って一方通行危ないっ!?」

一方通行「あァ? なン――」



パンバシャアアアアンン!!



一方通行「だよ……」ポチャンポチャン

結標「あっ」

青ピ「いっ」

一方通行「…………」ポチャンポチャン

結標「だ、大丈夫一方通行?」

青ピ「すまんアクセラちゃん! わ、わざとじゃないんやわざとじゃ……」アセッ

一方通行「……青髪ピアスクゥン?」ポチャンポチャン

青ピ「は、はいぃ!!」


一方通行「死体確定だこのクソやああああっくしょンッ!!」


青ピ「……くそやくしょん?」

結標「あ、一方通行?」

一方通行「…………は」




一方通行「はっくしょン!!」




――――――


はっぴぃにゅうにゃあってもう10年以上前の曲なんやなって
おっさんなのバレちゃうねぇ

次回『風邪』

週2更新とかにしたいけど全然書き溜めのマージンが全然取れねんだワ

投下



13.風邪


March Forth Monday 07:30

-黄泉川家・一方通行の部屋-



一方通行「――ゴホッ! ゴホッ!」



芳川「……熱は38.5℃。結構な高熱ね。まあ症状からしてただの風邪でしょうけど」

打ち止め「大丈夫? ってミサカはミサカは心配そうに見つめてみたり」

一方通行「……ああ。ちょっと咳が出て、喉が痛くて、鼻水が出て、身体がだりィだけだ。問題ねェ」

黄泉川「いや、そんなに症状が一度に出てる時点で問題だから」

結標「やっぱり原因は昨日水かぶったせいかしらね?」

芳川「それに昨日は比較的に寒い日だったわ。そんな中、長時間外に居たのだから免疫力が低下してしまってても当然ね」

打ち止め「アワキお姉ちゃんは大丈夫なの? 一緒に場所取りとか行ってたんでしょ? ってミサカはミサカは質問してみる」

結標「ええ、私の身体はとくに異常はないわよ」

芳川「まあ、普段から食事をあまり取る方じゃない上に運動とかもしないモヤシ君が、そんな過酷なことをしていたのだからしょうがないわね」

一方通行「好き勝手なこと抜かしてンじゃねェぞ芳川ァ。……よっと」ガチャリ

黄泉川「ちょ、ちょっと一方通行! いきなり立ち上がってどうするつもりじゃん?」

一方通行「決まってンだろ。学校行くンだよ」

黄泉川「馬鹿言ってんじゃないじゃん! そんな身体で行けるわけないじゃんよ!」

芳川「キミなら学校サボれるって言って喜んで休むと思ったのだけど、いつからそんなに学校が好きになったのかしら?」

一方通行「あァ? 何勘違いしてンだ。オマエらがいつもサボるなサボるな言ってるから従ってやってるだけじゃねェか」

黄泉川「サボると休むは全然違うじゃん!」

一方通行「チッ、グチグチうるせェヤツらだ。大体こンな風邪なンてなァ、俺のチカラァ使えば余裕なンだよ」スッ

芳川「!? 打ち止め! 能力使用モードの制限をかけなさい! 早く!」

打ち止め「えっ、な、なんだかよくわかんないけどわかった! ってミサカはミサカはミサカネットワーク上に制限指示を送ってみたり」ビビッ

一方通行「どォいうつもりだオマエら!? 人がせっかく風邪を治そうとしてンのによォ!」

芳川「……一方通行。今何をしようとしてたのか言ってみなさい」

一方通行「あァ? 決まってンだろ。俺の能力で風邪のウイルス皆殺しにしてやるンだよ」

芳川「一方通行。悪いけどそれは許可できないわ」

一方通行「何だと?」

芳川「キミが能力をどういう使い方をして風邪を治そうとしているのかはわからないけど、今のキミが能力を使うのは危険すぎるわ」

一方通行「オマエ、この俺がチカラの使い方ァミスるって言うつもりか!?」


芳川「そうよ。キミの頭は今、高熱に侵されて思考能力が低下している。いくら演算はミサカネットワーク上でやってくれるとはいえ、演算の指示を出すのはキミのそんな頭」

芳川「出す指示を少しでも間違えれば能力は機能しない、いや、機能しないだけならまだいいわ。間違って能力が意図しない方向へ暴走してしまうかもしれない」

芳川「身体に関するベクトル操作は電子顕微鏡レベルの緻密さが求められる。以前キミが言っていたことよ」

芳川「今のキミにそれができるとは私には到底思えないわ」




一方通行「…………」

芳川「てなわけで、今日は一日寝てなさい。学園都市製の薬を飲んで一日寝てれば風邪なんて治るわよ」

結標「そ、そうよ一方通行。今日はゆっくり休んだほうがいいわ」

打ち止め「ミサカもそう思うよ、ってミサカはミサカは同意してみる」

黄泉川「身体を休めて風邪をしっかり治すことも学生としての立派な務めじゃん」

一方通行「……チッ、わかったよ。うるせェ女どもだ」

結標「あのー、私も休んだほうがいいですか? 看病とか必要だと思うし」

一方通行「あァ? いらねェよ看病なンてよォ。ガキじゃねェンだから」

結標「でもなんか心配だし……」

黄泉川「まあただの風邪だし、淡希がそこまでする必要はないじゃん」

芳川「下手に一緒にいて貴女に風邪が感染っても困るしね」

結標「……そうですね。わかりました」

打ち止め「ふふふ、安心してアワキお姉ちゃん! 代わりにミサカがしっかりと看病してあげるから、ってミサカはミサカは胸に拳を当ててしっかり者アピールしてみたり」

一方通行「話聞いてなかったのかクソガキ。オマエに風邪ェ感染ると面倒だ。さっさと木原ンところにでも行ってろ」

打ち止め「ぶーぶー」

芳川「付きっきりの看病はしてあげられないけど、バイトの休憩中くらいは様子見にきてあげるわ」

黄泉川「頼むじゃん桔梗。私も合間で様子見に来たいところなんだけど、今日は忙しくてちょっと抜けられそうにないじゃん」

一方通行「だから看病なンていらねェっつってンだろが。薬ィ飲ンで一日中寝てるだけだっつゥのにオマエらから借りる手なンざねェンだよ」

黄泉川「ほら、熱冷まシートとか交換したり、体拭いてあげたり」

一方通行「いらねェよ」

結標「でも寝てる間に病状が悪化してたらどうするつもりなのよ?」

一方通行「ほっとけ。最悪死ぬだけだ」

打ち止め「ええぇー!? 死んじゃ嫌だよ!! ってミサカはミサカは率直な気持ちを伝えてみたり」

一方通行「あくまで最悪の場合の話だ、そンな簡単に死ぬかよ。つゥか、オマエらいつまでこの部屋に居座るつもりだコラ。早く休ませろよ」

黄泉川「あはは悪い悪い。じゃ、私らは退散するとしようじゃん」

芳川「薬ここに置いとくから適当なもの食べてから飲んでおいてね」

結標「……学校から帰ったらまた顔出すわ」

打ち止め「死なないでね、ってミサカはミサカは懇願しながら部屋を後にしてみる」


ガチャ


一方通行「……ったく、休めやら寝とけやら、自分でほざいてたくせに、うっとォ……しィヤツらだ」ゼェゼェ

一方通行「頭ン中、ガンガン、金槌で、叩かれてる……みてェだ」ゼェゼェ

一方通行「クソ……が……」ガクッ



ドサッ!



―――
――





同日 08:20

-とある高校・一年七組教室-


吹寄「えっ、アクセラが風邪で寝込んでる!?」

結標「ええ、そうなのよ」

土御門「馬鹿は風邪を引かないって話だったけど、あれは迷信だったのかにゃー?」

姫神「いや。アクセラ君は普通に。頭はいいよ?」

土御門「頭がいいと馬鹿かどうかはまた別の話だぜい」

青ピ「せやせや。アクセラちゃんはクラスの四バカ(スクエアフォース)の一員なんやで? それなのに風邪に負けるなんてなさけ――」


ゴッ!


吹寄「風邪の直接的な原因のあなたが偉そうに言ってんじゃないわよ!!」

青ピ「ぶびばべん……」

上条「しかし一方通行が風邪引いて寝込むなんて全然想像できないな」

吹寄「そうね。不健康そうな見た目だけど、病気らしい病気にかかってるところなんて見たことなかったし」

土御門「アクセラちゃんはちゃんと病気にかかってるぜい。中二病っていう心の病がな」

青ピ「これは重症ですねぇ」

吹寄「心配してる人もいるんだから、少しは考えて発言しなさいよ馬鹿ども!」

姫神「大丈夫? 結標さん」

結標「…………」

姫神「結標さん?」

結標「あっ、ごめんなさい! ちょっとボーッとしてたわ」

吹寄「アクセラのことでも考えてたのかしら? たしかに心配よね」

結標「い、いや別にそんなんじゃないわ! というか二人とも深刻な顔し過ぎよ、所詮はただの風邪なんだから」

上条「風邪だからって心配しちゃいけないってことはないだろ。心配なもんは心配だ」

結標「もう上条君までそんなこと言って……、あっ、そろそろHRの始まる時間だし席着いとかなきゃ。じゃ、またあとでね」タッタッタ


吹寄「……結標さん」

姫神「こっちも。割と重症みたい」

土御門「ま、ほんとに風邪なら一日も寝てれば治るだろうし、大丈夫だろ」

青ピ「さすが学園都市製の風邪薬やで!」

上条「でも高いんだよなぁ。上条さんちで風邪が流行った瞬間家計に大打撃だぜ」

土御門「カミやんは風邪とか引かないからへーきへーき」

吹寄「インデックスならともかく、上条当麻ならたしかに平気そうね」

上条「さっきまであんなに真面目な発言をしていた吹寄さんまでひでえ!?」


―――
――





同日 09:00

-ファミリーサイド・従犬部隊オフィス-


円周「はえー、アクセラお兄ちゃん風邪引いちゃってるんだ」

打ち止め「そうなんだー。今頃部屋で寝てるんじゃないかな? ってミサカはミサカは推測してみる」

数多「宴会で大はしゃぎして次の日体調崩して学校お休みなんて、ほんとガキだなぁアイツ」

打ち止め「もー、たぶんキハラもその体調を崩した原因の一つだと思うよ、ってミサカはミサカはジト目でにらみながら物申してみたり」ジトー

数多「あ? 何で俺なんだよ」

円周「そういえば昨日、数多おじちゃんアクセラお兄ちゃんボコボコにしてたからねー。そら体力も奪われて風邪引いちゃうよ」

数多「おいおい、あれはただの自己防衛だぜ? 悪いのは先に仕掛けてきたあのクソガキだ」

円周「ところでアクセラお兄ちゃんは強くなってたの? 試してやるみたいなこと言ってたけど」

数多「あぁ? あー、前よりはマシにはなってたんじゃねえのか? まあ、俺に勝つのはまだ百年足りねえけどな」

打ち止め「キハラってなんでそんなに強いの? ってミサカはミサカは素朴な疑問を投げかけてみたり」

数多「そりゃお前決まってんだろ。俺が『木原数多』だからだ」

打ち止め「答えになってないよ、ってミサカはミサカは頬を膨らませてみる」

円周「ねえねえ数多おじちゃん! 私とアクセラお兄ちゃんだったらどっちが強い?」

数多「今風邪で寝込んでるほうのクソガキ」

円周「えー? 即答ー?」

数多「だってお前弱いし」

円周「うーん、おかしいなあ。私も毎日『木原』を勉強しているつもりなのにねー」

数多「『木原』は勉強して身に付けるようなもんじゃねえんだっつーの。いい加減わかれよ」

打ち止め「なにしゃべってるのか全然わかんないからテレビでも見よっと、ってミサカはミサカはリミコンのスイッチを押してみる」ピッ

円周「ねえねえ打ち止めちゃん。あとでアクセラお兄ちゃんのお見舞い行こうよ」

打ち止め「えぇー? やめといたほうがいいよー。あの人看病されるのすごく嫌がってたからそういうことすると多分怒るよ、ってミサカはミサカは警告してみる」

円周「それはあれだよ。押すなよ絶対に押すなよみたいなやつだよきっと。本当は看病してほしいに決まっているんだあ」

打ち止め「本当かなー?」

円周「ま、それに今のアクセラお兄ちゃんになら怒られても怖くないし、どっちにしろ私は行くことはケッテー! って感じなんで」

打ち止め「もーエンシュウったらほんとイタズラ大好きだね、ってミサカはミサカはため息をついてみる」

円周「よーし、そうと決まったらお見舞いの準備だあ。数多おじちゃん、ちょっといろいろ買ってくるからカード貸して?」

数多「自分の金で買えクソガキ」


―――
――





同日 10:30 ~三時間目前休み時間~

-とある高校・一年七組教室-


青ピ「いやー今日行って明日行けば春休みやでー! うおお遊ぶぞおおおおおおおおおお!!」

吹寄「昨日あんなに遊んだのにまだ遊び足りないのかしら?」

青ピ「なにいうとん吹寄さん、ボクは三六五日二四時間常に遊びのことしか考えてないんやでー?」

姫神「その時間と労力を。勉強方面に持っていけば。医者でも弁護士でもなれそう」

土御門「いやいや無理無理。青髪ピアスがいくら勉強したって、頭の中にそんな知識が身に付くわけないにゃー」

青ピ「なんやとつっちー? 失礼な。ボクだって本気出せば何にでもなれるで! 魔法少女にでも美少女戦士にでも」

上条「性別自体変わってんじゃねえか」

青ピ「ま、そんなどうでもいい話置いといて、春休みもまたみんなでどっか行って遊ぼうや!」

姫神「なんとなく。来るとは思ってた」

吹寄「ほんとそればっかよねあなたって」

土御門「どこか行くって具体的にはどこ行きたいのかとか決まってるのかにゃー?」

青ピ「もちろんノープランや!」

上条「だろうな」

青ピ「それを今からみんなでじっくり決めていくんやでー!」

吹寄「……はぁ。まあそれは別にいいけど、こういうのは普通全員が揃ってから決めるものじゃないかしら?」

姫神「そうだね。今日は。アクセラ君が休んでるから」

上条「たしかにここで決めてもアイツが嫌だっつったら駄目だしな」

土御門「でもアクセラちゃんなら何だか言って了承してくれる気がするにゃー」

上条「それはわからんでもない」

青ピ「……ん? そういやいつもならこんな遊びの話題を出すと、真っ先に食いついてくるお方が全然会話に乗ってこーへんなぁ」

土御門「姉さんはどっかいきたいとことかないのかにゃー?」

結標「…………」

土御門「姉さん?」

結標「……えっ? ああ、ごめんなさい。えっと、何の話してたんだっけ?」アセッ

姫神「完全に上の空」

土御門「姉さんの頭の中にはもうアクセラちゃんしかいないようだにゃー」

吹寄「しょうがないじゃない。今日はもうそっとしておきましょ」

上条「そうだな」

結標「?」

青ピ「ほな、また授業中にスペシャルなお遊びプランを考えておくでー」

吹寄「授業中は勉強に集中しなさい馬鹿者!」


―――
――





同日 11:00

-黄泉川家・一方通行の部屋-


一方通行「…………おァ?」ムクリ

一方通行「…………」

一方通行「……そォいや風邪でぶっ倒れてそのまま寝てたのか」

一方通行「今何時だ? ……一一時か。俺にしては早起きじゃねェかよ」

一方通行「……クソが。まだ頭がボーっとしやがる」

一方通行「……ああ、薬飲ンでなかったな。面倒臭せェが何か適当に食って飲むとするか」ガチャリ

一方通行「あー、クソ。身体がフラフラしやがる。特注品の杖じゃなかったらまともに歩けてねェなこりゃ」ガチャリガチャリ

一方通行「……風邪ェ治ったら、真っ先に青髪ピアスの野郎を川に放り投げてやる」


ガチャ


-黄泉川家・リビング-


一方通行「……クソッタレが。まさか部屋からリビングまでがこンなに遠いなンてなァ」ゼェゼェ

一方通行「チカラァ使えりゃ楽なンだろォが、心配性のヤツらのおかげでまだ能力使用モード絶賛使用禁止中と来たモンだ」

一方通行「早く薬飲ンで、ベッドに横たわりてェぜ」



<ワイワイギャーギャー!!



一方通行「……あン? 何かキッチンの方が騒がしいな。クソガキの野郎、木原のところ行かずここで遊ンでやがんのか……?」

一方通行「言う事聞かねェガキには説教が必要だな。余計な体力を使わせやがってよクソガキが――」



円周「はあい! ここで四四種類の風邪に効く食材やら薬品やらをブレンドしたものを、先程炊きあがったお粥の中に全部投入しまあす!」ドボボボ

打ち止め「ぎゃああ!! 真っ白だったお粥の色が何とも形容し難い色へと変色しちゃった!? ってミサカはミサカは驚愕してみたり」





一方通行「……あァー頭痛てェ。これは風邪のせいなのか? いや、絶対違う気がすンぞ」

円周「あっ、アクセラお兄ちゃん起きてたんだ!」

打ち止め「ちょ、ちょっと立ち歩いてて大丈夫なの!? ってミサカはミサカはフラフラのあなたを見て心配してみる」

一方通行「大丈夫じゃねェからそのまま回れ右して、元の居場所に引き返しやがれクソガキども」

打ち止め「でもその言葉通りにしちゃうと結局ミサカの元の居場所はここになるから、ここにいてもいいよってことにならない? ってミサカはミサカは言葉の揚げ足を取ってみたり」

一方通行「イイから木原ンとこ行ってろクソガキ。風邪感染ンぞ」

円周「本当に風邪つらそうだねーアクセラお兄ちゃん。言葉の一つ一つに覇気が全然ないよ」

一方通行「わかってくれて嬉しいぜ。そォいうわけだから早く俺の前から消えろ」

円周「そんなアクセラお兄ちゃんのために、なんと! なんと! なんと! 円周ちゃんがスペシャルなお粥を作っちゃいましたあ!!」

一方通行「人の家で産業廃棄物を生み出してンじゃねェよ」

円周「こいつを食べればウイルスなんて一気に消滅して、風邪を完治することができるすぐれものだよー」

打ち止め「えっ、それ本当に食べられるものなの!? ってミサカはミサカは鼻を摘みながら質問してみる」

円周「当たり前だよー。ちょいと見た目とニオイと味は悪いけど、効果だけはすごいんだぜ。なんたってこれは『木原一族』に代々伝わる秘伝のお粥になってくれたらいいなあと思ってるよ」

打ち止め「それ秘伝でもなんでもないただのお粥じゃん。いや、お粥と言えるかも正直怪しいけど、ってミサカはミサカは透かさずツッコんでみたり」

一方通行「……チッ、どォやらそれをどォにかしねェと帰るつもりはねェよォだな」

円周「そのとおり! そういうわけで、たんと召し上がれ!」つスペシャルなお粥入鍋

一方通行「わかった。鍋ごとよこせ」

円周「おー、ついにアクセラお兄ちゃんが私の手料理を食べてくれるときが来ちゃったよー」

打ち止め「ほ、本当に食べるつもりなの? もしかして風邪で頭がちょっとおかしくなってるんじゃ、ってミサカはミサカは心配しつつ止めようとしてみたり」

一方通行「心配すンな。俺は至って正常だ」

打ち止め「ほ、ほんとぉ?」

円周「さあ! さあ! アクセラお兄ちゃん、ぐぐっとどうぞ!」

一方通行「……オイ、オマエ虫歯になってねェか? ちょっと見てやるから口ィ開けてみろ」

円周「えっ、ほんと? あーん」



一方通行「オラァ!! 自分で作ったモンは自分で処理しやがれクソガキがッ!!」ナベポイー

円周「ばごヴぇるごぶちゃえ!?」



打ち止め「うわぁ!? エンシュウの口の中にスペシャルなお粥が全部流し込まれた!? ってミサカはミサカは今起こったことをありのまま解説してみたり」

円周「」チーン

打ち止め「だ、大丈夫エンシュウ? ってミサカはミサカはほっぺたつんつんして意識の有無を確認してみる」ツンツン

一方通行「そこの馬鹿連れてさっさと向こうに帰れ。俺はパンでも食って薬飲ンでから寝る」ガチャリガチャリ

打ち止め「う、うんわかった! ってエンシュウおもいー! これじゃ一人で連れて行くのは無理そうかも、ってミサカはミサカはあなたに助けを求めてみたり」

一方通行「病人に肉体労働の助けェ求めてンじゃねェよ。向こうで暇そうにしてるオッサンにでも言ってろ」

打ち止め「あ、うんたしかにそうだよね、ってミサカはミサカは納得してみる」



―――
――





同日 12:30 ~昼休み~

-とある高校・一年七組教室-


青ピ「せや! 今日学校終わったらアクセラちゃんのお見舞いにでもいこうや!」


土御門「おおっー! なかなか面白いアイデアじゃないかにゃー」

結標「えっ、そんな悪いわよ。ここからファミリーサイド結構距離あるから、行って帰ってとかやってたら完全下校時刻来ちゃうわ」

吹寄「というかあなたたち本当にお見舞いする気あるの? 行ってギャーギャー騒ぐだけじゃお見舞いにならないわ」

青ピ「わかっとるわかっとる。アクセラちゃん部屋に閉じこもっててきっと悶々しとるやろうから、エロ本の一冊や二冊持っていけば喜ん――」


ゴガッ!


青ピ「かいらくてんっ!?」

吹寄「この変態!! 普通はお見舞いって言ったらフルーツとかゼリーとかプリンみたいなデザートとかでしょうが!!」

姫神「スポーツドリンクとか。飲み物もありだね。風邪だと汗かくから。水分は欲しい」

土御門「わかってないにゃー女子どもは。男ってのは疲れるとムラムラっとするもんなんだぜい。なあカミやん?」

上条「うわっ、こっちにそんな話題振んなっ! 昼間っからどうどうと女子にセクハラ発言してんじゃねえよテメェら」

青ピ「だって事実やん。カミやんやってエロ本もろうたほうが嬉しいやろ?」

上条「上条さん的には食い物もらったほうが嬉しいっつーの。メロンとかみたいな普段お目にかかれないような高級品なんてもらった日にはもう大喜びだ……インデックスが」

姫神「悲しい現実」

青ピ「まあとにかく、放課後みんなでアクセラちゃんのお見舞いいくってことでええな?」

吹寄「待ちなさい。こんな大勢で押しかけたら迷惑よ? 二人くらいに人数絞ったほうがいいわ」

結標「うちの人たちは別にそんなことは気にしないと思うけど……」

吹寄「……でも普通に考えて五人がかりでお見舞いなんておかしいと思うわ。常識的に」

青ピ「ほなみなさんを代表してボクが行ってきますん!」

上条「何かお前が行ったら逆に風邪悪化しそうだな」

土御門「よし。ここはオレの出番というわけだにゃー」

吹寄「というか三馬鹿トリオは誰が行っても迷惑かけそうだから論外ね」

上条「えっ!? 今んとこ常識的な発言だけしているつもりなのに同列扱い!?」




青ピ「吹寄さーん、三馬鹿トリオなんてダサい名前で呼ばんといてーな。ボクらにはデルタフォースというかっこいい名前があるんや」

吹寄「知らないわよ! とにかく、お見舞いはあたしと姫神さんで行ってくるわ」

姫神「あっ。吹寄さん」

吹寄「何かしら?」

姫神「ごめんなさい。私は今日。用事があるから行けない」

吹寄「あっ、そうなの。こっちこそ勝手に決めちゃってごめんなさい。だったらしょうがないわね、あたし一人で――」


青ピ「はいはーい!! 一枠空いたんならボクがヒメやんの代わりにいっきまーす!!」

土御門「抜け駆けは許さんぞピアスくん! オレが行って面白おかしいお見舞い会にしてやるんだにゃー」


吹寄「何言ってるのよ。ダメに決まってるでしょそんなの」

青ピ「でも吹寄さんは最初二人と言いましたー!」

土御門「真面目で優等生な吹寄さんが一度言ったことを曲げるなんていけないと思いまーす」

吹寄「ぐっ……」

姫神(本当は『二人くらい』って言ってたけど。放っておいたほうが面白そうだから。黙っておこう)

吹寄「わ、わかったわよ。だったら三馬鹿でじゃんけんして勝った人がお見舞いにいく。これで文句ないでしょ?」

青ピ「了解やでー。よーしやるでー! うおおおおおおっボクのこの手が光って唸るぅぅううううう!!」

土御門「オレのチョキはすべてを切り裂くぜい」

上条(別に俺行きたいとは一言も言ってないんだけどなあ……まあジャンケン弱いしどうせ負けるだろ)


青ピ・土御門・上条「「「ジャンケン!!」」」


結標(別に何人だろうとアイツは嫌がりそうよね……まあ今さら言い出せなさそうな空気だし、別にいいか)



―――
――





同日 13:00

-黄泉川家・一方通行の部屋-



一方通行(…………眠れねェ)


一方通行(どォいうことだ? いつもなら寝転べば秒で眠れるってのにかれこれ二時間弱意識が消えねェ)

一方通行(午前中に二時間くらい寝たからか? いや、あの程度で俺の睡眠に支障はきたさねェはずだ)

一方通行(だとするとやはり原因は風邪か? それとも飲ンだ薬の副作用か?)

一方通行(チッ、風邪ってヤツは面倒臭せェなァオイ)



コンコン!



一方通行「あァ? 誰だ?」



ガチャ



芳川「あら? もしかしてノックの音で起こしちゃったかしら?」

一方通行「芳川か。いや、もともと起きてたから問題ねェ」

芳川「そう。でも寝てないと風邪は治らないわよ?」

一方通行「わかってるが眠れねェンだからしょうがねェだろ」

芳川「なるほどね。体調不良で身体の調子が出なくて、いつもやっている睡眠が出来なくなっているのね」

一方通行「たぶンな」

芳川「普通は逆なんだけどね。風邪を引いたら身体が十分な睡眠時間を確保するために、脳が休ませようとするはずなんだけど」

一方通行「もしかしたらこれも、ホルモンバランスが崩れたことが原因によるモンなのかもしれねェな」

芳川「眠気を促すためには食事を取ることで血糖値を上げるといいわ。どうせお昼ご飯とか食べてないでしょ? うどんでも作ってあげるわ」

一方通行「いらねェよ。二時間くらい前に食パン一枚食ったからイイだろ」

芳川「風邪を治すためにはきちんとしたものを食べて、エネルギーを摂取することも重要よ?」

一方通行「オマエが適当に食って薬飲めっつったンだろォが」

芳川「あらそうだったかしら? ごめんなさいね。文字通り適当なこと言って」

一方通行「チッ、大体オマエ料理できンのかよ。どっかの料理音痴みてェにダークマター精製したりしねェだろうな?」

芳川「愛穂みたいに上手ではないけど、人並みにはできるつもりよ」

一方通行「アイツの場合上手い下手というより、炊飯器の性能に全部任せてるだけだろ」

芳川「ま、それは否定はしないわ。それじゃ作ってくるからちょっと待っててね」




~一〇分後~



ガチャ



芳川「ほら、できたわよ」

一方通行「……何だ普通のうどんじゃねェか。てっきりカップ麺でも持ってくるかと思ったが」

芳川「ほんと失礼ねキミ」

一方通行「疑り深いと言って欲しいねェ」

芳川「あと部屋見渡す限り飲み物とか全然飲んでなさそうだから、飲み物も持ってきたわ」つ缶コーヒー

一方通行「うどンに缶コーヒーかよ」

芳川「どうせキミはこれしか飲もうとしないでしょ?」

一方通行「違いねェ。……ああ、そういや今日一回もコーヒー飲ンでなかったな」

芳川「それは珍しいわね。いつもならカフェイン切らすと手足がプルプル震える中毒者なのに」

一方通行「そこまでじゃねェよ。人を薬物中毒者みてェに言うンじゃねェ」

芳川「カフェインも見方を変えれば薬物みたいなものでしょ?」

一方通行「チッ、まァイイ。コーヒー見たら本当に飲みたくなってきた。ありがたくいただく」プルプル

芳川「ほら、手、震えてるわよ?」

一方通行「これは風邪の影響だっつゥの。イイ加減にしろ」パキッ

一方通行「…………」ズズズ

一方通行「……あァ、コーヒーうめェ」

芳川「手の震え、止まってるわよ?」

一方通行「……残念ながらまだ震えてるぜェ? そりゃそォだこれは風邪の影響なンだからなァ」プルップルッ

芳川「なんかわざとらしい震え方ね」

一方通行「気のせいだ、……ろ……」カクン

芳川「あらどうしたの? いきなりボーっとし始めて」

一方通行「……いや、何か急に……睡魔が……」カックンカックン

芳川「えっ!? まさかコーヒー飲んだから!? 普通逆でしょ逆!?」

一方通行「……そォいうわけだ。俺は寝る……じゃあ、な」ガクッ

芳川「ちょ、ちょっと待ちなさい! キミ私が作ったうどん一口も食べてないじゃない! 一口ぐらい食べて食レポしてから寝な――」


一方通行「…………Zzz」


芳川「……はぁ、完全に寝てるわね。というかカフェイン摂取したら落ち着いて眠れるなんて、本格的に中毒者のそれじゃない」

芳川「さて、このうどんどうしようかしらね? 私はさっきお昼食べたばかりだからこんなの食べられないし……」

芳川「…………」

芳川「まあ、冷蔵庫にでも入れていれば誰か食べるでしょ」


―――
――





同日 16:00

-とある高校・校門-


吹寄「さて、とりあえずコンビニにでも寄ってお見舞いの品買ってからいきましょう」

上条「……まさかバイトの日じゃないのに、ファミリーサイド周辺に行くとは思わなかったな」

結標「ごめんなさい二人とも。わざわざアイツのために時間作ってくれて」

吹寄「いいわよ別に。どうせこの時期は暇だしね」

上条「まあ風邪で弱ってる一方通行というレアな姿が見られるんなら、それくらい安いもんだぜ」

吹寄「貴様もそんな不純な動機でお見舞いに志願したのかしら上条当麻?」

上条「いや、そういうわけじゃねえよ。そういうわけじゃねえけど見てみたいだろ?」

結標「別にそんな面白いものじゃないと思うわよ。咳とかしてる以外普通だと思うし」

上条「冗談だって。ちょっと様子見て帰るだけだから、そんな期待してねえよ」

吹寄「……ところで上条当麻。その手に持ってる紙袋は一体何なのかしら?」

上条「これ? ああ、何か青髪ピアスが、お見舞い行くんやったら代わりに持っていってくれー、って渡してきたヤツ」

結標「お見舞い決まったの今日の昼休みなのに、一体いつの間に用意したのかしら……」

吹寄「何にしてもあの馬鹿が準備したものならロクなものではなさそうね」

上条「さすがにアイツも一回喋ったネタだから、同じことやるようなつまらないヤツじゃないと思うけどな」

吹寄「念の為に中身確認しときなさいよ」

上条「用心深いな。えっと……ジャ○プに○ンデー、その他諸々。ああ漫画雑誌か」

結標「なるほど。退屈しのぎのアイテムってわけね」

吹寄「まともね。不自然なくらいまとも。まともすぎるのが逆に変」

上条「ひでえ言われようだな。しょうがないけど」

吹寄「……まあいいわ。じゃ、コンビニに向かいましょ。結標さん、通学路にコンビニある?」

結標「ええ。五分くらい歩いたところにあるわ」

吹寄「そう。なら向かいながらで寄れるわね」

上条「さーて、何買っていこうかなー。つーか、アイツ何喜ぶんだ?」

吹寄「変なもの買おうとするんじゃないわよ?」ジロッ

上条「買わねーよ!」


―――
――





同日 17:00

-黄泉川家・一方通行の部屋-


一方通行「…………Zzz」

一方通行「Zzz……ン、……ふわァ。今何時だ?」チラッ

一方通行「五時か。一時過ぎに寝たから四時間弱寝たっつゥところか」

一方通行「やっぱ本調子じゃねェから眠りが浅せェみてェだな。コーヒーでも飲ンで寝直すか」ガチャリガチャリ



ガチャ



-黄泉川家・リビング-


打ち止め「あっ、アクセラレータだ! 起き上がって大丈夫なの? 元気になったのかな? ってミサカはミサカは心配しながらも質問してみたり」

芳川「あらおはよう。随分と早起きなのね」

一方通行「……ああ、オマエらか。まあ身体の状態は前よりはマシっつゥところか。薬が効いてンだろォな」

芳川「熱は?」つ体温計

一方通行「ああ」ピピィー

一方通行「……37.4℃だな」

芳川「体温も落ちてきてるし、このままいけば明日には治ってるわね」

打ち止め「わーい! よかったねアクセラレータ! ってミサカはミサカはバンザイして喜びを表現してみたり」

一方通行「チッ、うるせェな。大げさなンだよクソガキ」



ガチャ



結標「ただいまー……って一方通行!? ちょっと立ち歩いてて大丈夫なの!?」

一方通行「おォ。少しはマシになった」

吹寄「お邪魔します。あら、アクセラ思ったより元気そうじゃない」

上条「たしかにそうだな。わざわざお見舞いに来るほどじゃなかったみてえだ」

打ち止め「あっ、ヒーローさんにセイリお姉ちゃんだ! いらっしゃい! ってミサカはミサカは歓迎してみる」




一方通行「ケッ、わざわざこンな場所までご苦労なこった」

結標「ちょっと。せっかく来てくれたのにそんな態度はないんじゃないかしら?」

吹寄「いいのよ結標さん。そっちのほうがアクセラらしいし」

打ち止め「そうそう。あんなこと言ってるけど内心大喜びだしね、ってミサ――あたっ、ちょっと照れ隠しでチョップするのやめてほしいかも、ってミサカはミサカは頭を抑えながら抗議してみる」

一方通行「テレてねェよ。勝手なこと言ってンじゃねェぞクソガキ」

吹寄「あっ、そうだ。お見舞いの品持ってきてたんだった。はい、お腹が空いてるときにでも食べてちょうだい」スッ

一方通行「何だこりゃ」

吹寄「プリンとかそういうの買ってこようと思ったけど甘いもの嫌いらしいし、コーヒー好きだから無糖のコーヒーゼリーよ」

一方通行「へー。まァ気が向いたら食ってやるよ」

吹寄「全然嬉しそうじゃないわね。まあいいけど」

上条「上条さんは安牌の缶コーヒー買ってきたぞ。何が好きなのかわからないから、種類バラバラで適当に買ったヤツだけど」スッ

一方通行「おォおォ、さすがは上条クンだ。見事に最近飽きたヤツばっかセレクトしてやがる」

上条「げっ、まじか」

一方通行「まァ、いつか飲みたくなるときが来るかもしれねェからな。ありがたくもらっとく」

打ち止め「ねえねえ。そっちの紙袋はなんなの? ってミサカはミサカは指を指して尋ねてみたり」

上条「ああこれか。これは青髪ピアスからの見舞いだ。漫画雑誌たくさん入ってるから暇つぶしにでもしてくれ」スッ

一方通行「漫画の雑誌か。風邪で寝込ンでンだから暇もクソもねェと思うがな」ガサゴソ

結標「……というか貴方、さっきから文句しか言ってなくないかしら?」

一方通行「悪りィな。そォいう人間性なンだ。諦めてくれ」

結標「もう」

一方通行「……あァ? 漫画雑誌の中に変なのが混じってンな」スッ

上条「変な雑誌?」



『月間まんが4545タイム』





一方通行「…………」

上条「…………」

結標「…………」

吹寄「…………」

打ち止め「ねえねえそれなんの漫画雑誌? みせてみせてー、ってミサカはミサカは興味を示してみたり」



バシィ!!



吹寄「こ、これは何でもないのよ!? 何でも!! おほほほほほほほほほほほほ!!」

打ち止め「えっー? そんなこと言われちゃうと逆に気になるよ、ってミサカはミサカは好奇心が止まらなくなってみたり」

芳川「打ち止め。貴女にはまだ早いわ」

打ち止め「?」

吹寄「そ、それじゃあんまり長居してもいけないし、あたしたちはそろそろ帰るとするわ。ねえ、上条当麻?」ギロリ

上条「ひぃ!? 殺気!? あ、はい、僕も帰ります」

打ち止め「そうなんだー残念だね。ばいばーい! ってミサカはミサカは手を振って見送ってみたり」ノシ

吹寄「お邪魔しましたー!」

上条「ましたー!」


ガチャ


一方通行「……チッ、くだらねェ。俺ァコーヒー飲ンでから寝る」

結標「あ、うん。わかったわ」

打ち止め「晩御飯は食べないの?」

一方通行「飯時に起きてれば食う」

芳川「なんなら冷蔵庫に私が作ったうどんがまだ残ってるけど食べる?」

一方通行「いらねェよ、絶対ェ汁の油とか固まってンだろそれ」

芳川「レンジでチンすれば溶けるでしょ」

一方通行「だとしてもいらねェよ」



窓の外<不幸だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!



―――
――





同日 18:00

-黄泉川家・リビング-



ガチャ



黄泉川「ただいまー!」



打ち止め「おかえりー、ってミサカはミサカは返事のあいさつをしてみたり」

結標「おかえりなさい」

黄泉川「お腹空いてるだろうし、ちゃちゃっとご飯作るから待っててくれ」

打ち止め「はーい!」

黄泉川「そういえば一方通行の調子はどうじゃんよ。少しは良くはなったのか?」

結標「体温も下がってきてるようですし、部屋から出歩けるくらいには回復してましたよ」

黄泉川「そっか。それはよかったじゃん。で、今何してんの?」

打ち止め「一時間前くらいに寝るって言って部屋に戻って行ったよ、ってミサカはミサカは説明してみる」

黄泉川「あー、そうなるとしばらく起きないじゃんね。アイツの晩ご飯どうしよう」

結標「夕食時に起きてたら食べるって言ってましたけど……起きないでしょうね、たぶん」

黄泉川「まあいいや。とりあえずお粥でも作っとけば、仮にアイツが腹減って夜中起きたとしても、勝手に温めて食べるじゃん」

芳川「彼がそんな面倒なことしてまで食べるかしら?」

黄泉川「残ってたら残ってたで明日の朝食にするから問題なし」

打ち止め「お粥の話してたらミサカもお粥食べたくなってきた、ってミサカはミサカは唾液を飲み込んでみる」

黄泉川「よし、だったら今晩はお粥パーティーにでもするか!」

結標「何か寝る前とかにお腹とか空きそうね。お粥消化にいいから」

黄泉川「……ところで桔梗はなんでうどんなんか食べてるじゃん? 腹減りすぎて我慢できなかったのか?」

芳川「いえね。これもともと彼のお昼ご飯のために作ったものなのだけど、結局食べてもらえなくてね」

芳川「このまま捨てるのももったいないから、こうやって自分で食べているってわけ」

黄泉川「へー、それ食べて大丈夫じゃん?」

芳川「冷蔵庫で保存してたから問題ないわ。まあ、味は半減してるけどね」

芳川「そういうわけだから、私の夕食少なめで」

黄泉川「へいへい。じゃ、ぱぱっと作るから待っててくれ」


「「はーい」」


―――
――





同日 19:00

-黄泉川家・一方通行の部屋-


一方通行「……Zzz」


コンコン、ガチャ


結標「……一方通行? 起きてる?」

一方通行「……Zzz」

結標「まあ、起きてるわけないわよね」

一方通行「……Zzz」

結標「……ほんと、寝てるときの表情だけは穏やかよねコイツ。いつもは常に眉間にシワが寄ってて敵意むき出しって感じなのに」

一方通行「……Zzz」

結標「熱はどうなのかしら……よっと」スッ

一方通行「……Zzz」

結標「うーん、私と同じかちょっと温かいくらいだから、たぶん下がってきてるってことよね」

一方通行「……Zzz」

結標「…………」



結標(……ねえ一方通行? 私ね、すごくすごく心配したのよ。貴方が知る由もなかったでしょうけど)


結標(今日、私は学校に行ったのだけど、学校で何があったかまったく覚えてないわ)


結標(登下校で見た景色も、授業で先生が話していたことも、休み時間みんなと喋った内容も、お昼に食べたお弁当の中身も)


結標(全然頭の中には残っていないわ)


結標(……それは当たり前ね。だって何をしてても、貴方のことだけ考えていたから)


結標(きちんとゆっくり寝られているかしら? お薬はちゃんと飲んでいるのかしら? 症状が悪化していないかしら?)


結標(ずっとそんなことばかり考えていた気がする)


結標(だから、家に帰って普通に立ち歩いている貴方に出会えて安心した。嬉しかった)


結標(……ほんと馬鹿みたい。ただの風邪なのにそんな心配事なんてしちゃってね)


結標(でも、そんなことを思えるってことは、やっぱり私は――)















結標「――私は、貴方のことが、一方通行のことが好きってこと、なのよね」















一方通行「…………」

結標(……ってあれ? 私さっき声に出してた!? 嘘!? 一方通行起きてないわよね!?)

一方通行「…………Zzz」


結標(ほっ、よかった。あんなの聞かれたら恥ずかしすぎて三日間は部屋に引き込もれる自信があるわ……)

結標(……しかし情けない話よね。面と向かって言おうとしても全然言えなかったっていうのに)

結標(相手が寝てたらこんなにすんなり言えちゃうなんて)

結標(何やってんだろ私……)


結標「……はぁ」



コンコン!




打ち止め「アワキお姉ちゃんいるー? 晩ごはんの準備できたよー、ってミサカはミサカは報告してみる」



結標「あっ、ご飯できたんだ」

結標「さて、じゃあ私は行きますか。じゃあね一方通行」



ガチャ



一方通行「…………Zzz」



―――
――





March Forth Tuesday 07:00

-黄泉川家・結標淡希の部屋-


ピピピピ! ピピピピ!


結標「…………ん」スッ


ピッ!


結標「…………朝か」

結標「…………」ボッー

結標「……起きよ」


ガチャ


-黄泉川家・リビング-


結標「……おはようございます」


黄泉川「淡希おはようじゃん」

芳川「おはよう」

結標「……はぁ、とりあえず今日の修了式が終われば春休みね」

芳川「あらそうなの? もう二年生になるのね、早いわ」

結標「本当は三年生でこれから受験、って歳なんですけどね。あはは、どうしてこうなった……」

黄泉川「ま、なっちゃったもんはしょうがないし、その状況をめいいっぱい楽しめばいいじゃん」

結標「まあ、一年七組のみんなは良い人ばっかりでよかったとは思いますけどね」

芳川「でも二年生になると魔のクラス替えがあるわよ? 仲良かったメンバー全員と離れるなんてことも」

結標「うっ、それはたしかにつらい……」

芳川「特に中二病で陰キャな一方通行クンにとっても怖いイベントよね」

結標「あはは、そうですね。ところで一方通行の風邪は治ったんですか?」

黄泉川「ああ、熱も下がってたし顔色もよかったし大丈夫だと思うじゃん」

芳川「無茶してぶり返さないかだけが心配だけどね」クスッ

結標「そうなんですか。よかった……で、その一方通行はどこですか? まさかまだ部屋で寝てるんじゃ……?」

黄泉川「ああ、一方通行なら何か今日日直だっつって、先に学校へ行ったぞ」

結標「……えっ?」

芳川「たしかに驚くわよね。あの子が日直なんてものに真面目に取り組んでるなんて」

黄泉川「真面目にやってくれているならいいことじゃん。まあたしかに、こんな時間から行ってまでするほどの仕事なんて日直にはないと思うけどな」

芳川「たぶんあれよ。きっと早く行って終わらせて、机に突っ伏して睡眠の続きをやっているに違いないわ」

黄泉川「あー、ありえるじゃんね。てか、机で寝るのは身体に悪いから保健室のベッド借りればいいのに」

芳川「そこツッコむところかしら? ……ん? 淡希どうしたの? 急に黙って」

結標「……いえ、ちょっと疑問がありまして」

黄泉川「何じゃん?」


結標「……一方通行って今日、日直だったっけ?」


――――――


次回からまた長編に入るらしい

次回『春休み』

今回からワンクール日常アニメにありがちな終盤のギスギスみたいなのあるからうんちやね

投下



14.春休み


March Forth Tuesday 08:30

-とある高校・一年七組教室-



ガラララ



吹寄「あっ、結標さんおはよう」

姫神「おはよう」

結標「おはよう。ねえ、一方通行いる?」

吹寄「えっ、アクセラ? 見てないけど」

姫神「アクセラ君。風邪治ったんだ。よかった」

結標「……おかしいわね。何か今日日直だから、って言って先に学校に行ったらしいんだけど」

吹寄「それはないわよ、だって今日の日直はあたしだし。何ならこの教室に最初に来たのもあたしだし」

結標「そうなんだ。何か妙ね……」

姫神「そもそもアクセラ君。日直だからって学校に早く来たことないよね」

結標「うん。一体どういうことなのかしら? なら一方通行は今どこにいるのよ?」

吹寄「電話してみればいいんじゃないかしら?」

結標「それもそうね。じゃあ――」スッ



キーンコーンカーンコーン



ガララ



小萌「はーい、朝のホームルームの時間ですよー。みなさん座っちゃってくださーい!」



結標「あっ、しまった。先生来ちゃった……」

姫神「まあ。ホームルームと修了式の間に。ちょっとだけ時間がある」

吹寄「まったく。最後の最後の日にサボろうなんてことないでしょうね」





小萌「――ちゃん。アクセラちゃん……今日もアクセラちゃんはお休みですかー?」



結標「いえ、学校には行くってウチを出たみたいなんですけど、まだ学校には来てないみたいで……」

小萌「はえーそうなんですか。それはちょっと心配ですね……なにか事故とかに巻き込まれてなければ良いんですが」

結標「先生。HR中ですけどちょっと電話してみてもいいですか?」

小萌「……そうですね。お願いします結標ちゃん」

結標「じゃあ――」



ガラララ



一方通行「…………」ガチャリガチャリ


青ピ「あっ、アクセラちゃん来たで!」

結標「えっ?」


小萌「アクセラちゃん。遅いですよー何かあったのですかー?」

一方通行「悪い。寄り道してたら遅れた」

小萌「そうだったんですか。ダメですよアクセラちゃん。明日から春休みで浮かれる気持ちもわかりますが」

一方通行「ああ」


結標「ちょっと一方通行」

一方通行「……あァ?」

結標「貴方どこに行っていたのよ? 黄泉川さんたちには日直だから先に行くって言ってたみたいだけど、そうじゃないんでしょ?」

一方通行「……別に。ただの野暮用だ。オマエには関係ねェよ」

結標「だったらそう言えばいいじゃない。何で変な嘘なんか……」

一方通行「…………」

結標「?」


―――
――





同日 09:00 ~修了式~

-とある高校・体育館-


校長『――であるからして』


青ピ(……二次元か三次元か。はたまたゲームかアニメか漫画か小説か妄想か。今日はどれで一発いこうかなー?)

土御門(ふむ、どうにかして舞夏に花見のときのネコミミミニスカメイド服を着させられないだろうか……)

上条(今日の特売はたしか鶏肉だったよな……、こいつは気合い入れねえといけないな)

姫神(……七回目)


結標「…………おかしいわね」

吹寄「(……どうしたの結標さん? いま式中よ?)」ボソッ

結標「(あれを見てちょうだい)」ボソッ

吹寄「?」


一方通行「…………」


吹寄「(……アクセラがどうかしたの?)」

結標「(……寝てないのよ)」

吹寄「(……えっ、なんて?)」

結標「(校長先生の話の途中だっていうのに……寝てないのよ、アイツ)」

吹寄「(……いや、別にそれ普通じゃない?)」

結標「(おかしいわよ。だって、アイツ校長先生が話してるとき、寝てなかったことなかったのよ?)」

吹寄「(言われてみれば、いつも黄泉川先生に起こされていた気がするわね)」

結標「(でしょ?)」

吹寄「(まあ、普通は起きてるものだから、そういう日もあるってことでいいんじゃないかしら?)」

結標「(……ふむ。でもやっぱりおかしいわよね)」

吹寄「(しかし、そんなこと気付けるってことは結標さん、あなたこういうときはいっつもアクセラのこと見てるってことよね?)」ニヤリ

結標「(えっ、そ、そんなこと……)」

吹寄「(だって寝てなかったことないって断言したってことは、そういうことでしょ?)」

結標「(べ、別に私はいっつも黄泉川さんに怒られてるなぁって思って見てただけで、特にそんな――)」



黄泉川「結標、吹寄。随分と楽しそうになに話しているじゃん?」ニコニコ



結標・吹寄「……あ」

黄泉川「校長先生のありがたーい話の途中なんだから、ちゃーんと聴いとかないといけないじゃんよ?」ニコニコ

結標・吹寄「……す、すみません」



校長『――であるからして』



一方通行「…………」


―――
――





同日 12:20 ~四時間目LHR~

-とある高校・一年七組教室-



小萌「――というわけで、明日から春休みですがみなさんあまり羽目を外し過ぎないように注意してくださいね」

小萌「そして何より、怪我なく病気なく健康面にも気をつけてください」

小萌「新学期に、二年生になったみんなの元気な姿をまた見せてほしいのですー」

小萌「……それでは――」



青ピ「一年七組!! 起立!!」



ガタッ!ガタッ!ガタッ!ガタッ!ガタッ!ガタッ!ガタッ!



小萌「ふにゃっ!? な、なんです突然ー?」



女子委員長「小萌先生! 一年間ありがとうございました!」


クラス一同「ありがとうございました!!」


青ピ「小萌センセと、この一年七組のみんなとワイワイできた一年間、ほんま最高やったで!」



<うおおおおお一年七組最高おおおお!! <小萌先生、くそお世話になりました!! <FOOOOOOOOOOOOOOOO!!



小萌「……ふえぇ、みなさん大げさですよー、まだ一年生が終わっただけなんですよ? なのに、そんな、ぐすん」






ワイワイガヤガヤ



結標「さて、帰りますか。お昼どうする?」

一方通行「……何でもイイだろ」

結標「相変わらずの返答ね」


青ピ「アクセラちゃんに姉さん! これから春休みの打ち合わせも兼ねてファミレスで昼どーや?」


結標「あらいいわね。じゃあ行きましょうか」

一方通行「……春休みの打ち合わせ?」

結標「ああ、昨日みんなで話してたのよ。春休みどこか一緒に遊びに行こうって。まあ、私は昨日なに話してたかはあんまり覚えてないんだけど」

一方通行「……そォかよ」

青ピ「もっちろんアクセラちゃんも行くやろ?」

一方通行「どォせ行かねェっつっても、あれこれ抜かして無理やり連れてくつもりなンだろォがよォ。面倒臭せェが行ってやるよ」

結標「素直じゃないわねほんと」

一方通行「…………」

結標「……あれ?」

青ピ「みんな姉さんらも行くってー! ほな、ファミレスにレッツゴー、なので!」

上条「変な語尾付けんな気持ち悪りぃ」

吹寄「打ち合わせするのはいいけど、ちゃんとどこ行きたいかとか決めてきたんでしょうね?」

土御門「それはファミレス行ってからのお楽しみだにゃー」

姫神「随分ともったいぶるね」


一方通行「…………」

結標「ほら、一方通行。私たちも行きましょ?」

一方通行「……ああ」

結標「……一方通行?」

一方通行「……何だ?」

結標「えっと……いや、何でもないわ。気にしないで」

一方通行「……ああ」


―――
――





同日 12:40

-第七学区・とあるファミレス-



青ピ「――というわけで、春休みに『スターランドパーク』に行くことが決定しました!! どんどんぱふぱふー!!」



吹寄「ちょっと待ちなさい! 決定しましたってどういうことよ?」

土御門「ああ、それはこういうことだぜい」スッ

姫神「これは?」

土御門「スターランドパークの入場券。とあるルートで入手したものだぜい」

上条「うさんくせーな。本当に正規品かこれ?」

吹寄「なるほどね。この券が手に入ったからみんなで行きましょう、ってこと」

土御門「そうそう。しかもなんと一〇枚もありまーす!」

姫神「なんでそんな大量に……」

土御門「いや、一口一〇枚だったからにゃー。まあ、人数分足りるしセーフってことで」

青ピ「さすがはつっちーやで! 褒めて使わす!」

上条「褒め方が偉そうだな」

結標「スターランドパークってあの大きな遊園地よね? オープン日に行ったのが懐かしく感じるわ」

姫神「結標さんも初日のナイトパレード。見に行ってたんだ」

上条「あっ、それ俺も行ったぜ。まあ、追っかけ回された記憶ばっかでパレード全然覚えてないんだけどな……」

土御門「なんだ。結構行ったことあるやつ多いのかにゃー」

結標「しかし、楽しみね。一回行ったけど広すぎて全部は回れなかったのよね」

姫神「アトラクションだけでも一五〇種類あるのだから。一日で回るのは不可能」

吹寄「すごい数ね……一日どころか一週間でも無理そう」

青ピ「ある程度的を絞っていけば効率よく回れそうやな。ボクらは絶叫度レベル5のアトラクションはしごしまくるでー!」

上条「げっ、マジかよ? 俺ジェットコースターのやつ乗ったけど死ぬかと思ったぞマジで」

土御門「なにを言っているんだカミやん。死ぬほどじゃないと面白くないぜよ」

結標「ふふっ、そういえば一方通行って絶叫マシンダメなのよね」

姫神「それは意外」

吹寄「能力で音速飛行しまくってるのに、今さら絶叫マシン程度でなにが怖いというのか……」

青ピ「えっ!? アクセラちゃんって絶叫マシンあかんの!? あはははははっアックセラちゃんこっどもっー!」

上条(あっ、これいつもの流れだ)




一方通行「…………」ボォー


青ピ「こっどもーこっどもー! ……あれ? ベクトルツッコミがない……だと……?」

土御門「なんだと!? これは一体どういうことだ!?」

吹寄「あなたたちの馬鹿さ加減に愛想つかしたってことでしょ? 毎度毎度いい加減飽きるでしょ」

上条「おい一方通行? おーい一方通行?」

一方通行「…………!? お、おォ、何だよ?」ビクッ

姫神「どうしたのアクセラ君。ぼーと窓の外なんか眺めて。なにかあるの?」

一方通行「いや、別に何でもねェよ。ただ何となく外眺めてただけだ」

吹寄「もしかして昨日の風邪まだ残ってる感じ? 早く帰って休んだほうがいいんじゃない?」

土御門「なるほど。病み上がりだから青髪ピアスのしょうもない煽りにも反応しなかったんだにゃー」

一方通行「別にそォいうわけじゃねェ。チカラ使ってきっちり滅菌したから万全のはずだ」

上条「どんなベクトル操ったら風邪のウイルスが全滅すんだよ……」

青ピ「ほーん、そうとわかったらリピートぅ! アクセラちゃん絶叫マシン怖いってこっどもー! ……ほら、ほら、ツッコミカモンカモン!」

一方通行「そンな見え見えの挑発のるかよドM野郎かオマエは? つゥか、絶叫マシンなンて怖くねェ」

姫神「でも。結標さんが言ってたよ。絶叫マシン苦手だって」

一方通行「……また適当なこと抜かしやがって」

結標「あはは、ごめんごめん……ん?」

結標(あれ? そういえば……)

青ピ「まあ、そろそろ本題に戻しましょか。次にスターランドパークへいつ行くかやけど――」



ワイワイガヤガヤ



結標(一方通行、頼んだコーヒー、さっきから全然飲んでない……?)


一方通行「…………」ボォー



―――
――





同日 13:00

-ファミリーサイド・従犬部隊オフィス-



数多「…………あー、なんか面白れェことねえかなー」ボー



円周「はい。こちらが平日の昼間からダラダラしてるダメ人間さんです。よいこのみんなはこんな大人にならないように気をつけようねー」

打ち止め「はーい! ってミサカはミサカは挙手してみる」ノ

数多「あ? 誰がダメ人間だって?」

円周「平日の昼間から面白いことないかなーってぼーっとしてるおっさんが、ダメ人間じゃないわけないよね」

数多「何言ってんだお前。俺は今絶賛仕事中だぜ? 次の仕事が来るまで待機っつー仕事をよ」

打ち止め「ちなみに次の仕事っていつくるの? ってミサカはミサカは好奇心のままたずねてみたり」

数多「あー、あれだよあれ。五分後かもしれねえし、はたまた明日かもしれねーし」

円周「仕事なくてサボってるだけだね。社内ニートってやつだよ」

数多「潰すぞクソガキ」

打ち止め「でも部下の人たちは今も忙しそうにしてるっていうのに、キハラは暇なんだね、ってミサカはミサカは社員のみんなを見ながら言ってみる」


ヴェーラ「ちょっとオーソン! この伝票領収証付いてないわよ! 早く出して!」

オーソン「あっ、悪い! 今から運びの仕事だからまた今度でいい?」タッタッタ

ヴェーラ「いますぐもってこい!!」

ナンシー「……ああっ!? あと少しで終わりだった資料を保存せずに閉じちゃった!? 私の三日間返して……」

マイク「いや、三日間もやってて何で途中保存してないんだよ……って言ってる場合じゃねえ、早く出ねえと」スタスタ



数多「まー、俺はここの社長だからな。席で踏ん反り返るのが仕事みたいなもんだろ」

円周「暇人おじさんが開き直っちゃったよ」

打ち止め「だめだこりゃ、ってミサカはミサカは呆れながらお手上げポーズしてみたり」

数多「そもそもお前らの遊びに付き合ってやってんだから十分だろ。保育も立派な仕事だ」

打ち止め「ええっー? うっそだー、いっつもゲーム一緒にやろうって言ったら忙しいとか言って逃げるくせに、ってミサカはミサカは反論してみる」

円周「これは育児放棄だね。出るとこ出るよ」



数多「……よーし、じゃあこれから鬼ごっこだ。一秒数えるからその間に逃げろ。捕まったヤツには罰ゲームとして木原百裂拳脳天に食らわせてやるよ」ゴキゴキ

打ち止め「ヴぇっ!? こ、これはまずい! ってミサカはミサカは全力で逃走を図ってみたり!」ダッ

円周「うんうん、わかってるよ数多おじさん。『木原』なら逃走する前にトラップを仕掛けて追跡を振り切る確率を上げるものだよね」スッ

数多「はい、いぃぃち! 覚悟しやがれクソガキども――」



ピピピピッ! ピピピピピッ!



数多「あん? はい、木原だ」

打ち止め「おっ、なんか電話に出たよ。もしかしたら死の鬼ごっこ中止になるかも、ってミサカはミサカは希望的観測をしてみたり」

円周「うーん、せっかく地雷仕掛けたのに。足が吹き飛んで無様に地面を這いつくばる数多おじさんっていう、面白いものが見られると思ったのになあ」

打ち止め「うえぇー、そんなの見たくないから今すぐそれ撤去してよ、ってミサカはミサカはグロテスクな光景を想像したことに後悔を覚えたり」

数多「――ああ。ああ。はい、りょーかい。じゃ、そういうことで」ピッ

円周「何の電話だったの?」

数多「新しい仕事の電話だ。残念だったなクソガキども。テメェらと遊ぶ暇が消えちまった」

打ち止め「仕事ってどんな仕事なの? ってミサカはミサカは聞いてみる」

数多「あー、あれだ。泥臭いクソみてえな裏の仕事じゃなくて、表の世界を盛り上げるエンターテイナーみてぇな仕事だな」

打ち止め「?」

数多「おいヴェーラ!」

ヴェーラ「はい!」

数多「全社員に通達しろ」


数多「明日から死ぬほど忙しくなるぜ、ってな」ニヤリ



―――
――





同日 14:00

-第七学区・通学路-


結標「…………」テクテク

一方通行「…………」ガチャリガチャリ

結標「……ねえ、一方通行?」

一方通行「……あァ?」

結標「やっぱり、昨日の風邪ちょっと残ってるんじゃない?」

一方通行「……どォしてそォ思う?」

結標「いや、何ていうか、今日の貴方何か変よ?」

一方通行「……変?」

結標「うん。何か全然居眠りとかもしてないし、かと思ったらぼーっとしてるし、コーヒーも全然飲んでないし」

一方通行「……オマエがいつも俺のことをどォ思ってンのかがよォくわかった」

結標「それに何か喋り方に違和感があるわ。勢いがないというか……」

一方通行「……いつもこンなモンだろ」

結標「いや、絶対違うわよ。伊達に貴方と毎日一緒にいるわけじゃないわ」

一方通行「……そォかよ」

結標「家に着いたらすぐ休んだほうがいいんじゃない? って、私が言うまでもなくすぐに寝ちゃうんでしょうけどね」

一方通行「……だろうな」

結標「そういえば久しぶりに風斬さんに会えるかもしれないのね。楽しみだわ」

一方通行「……風斬? どォいうことだ」

結標「ぼーっとしてたから貴方は知らないでしょうけど、春休みにスターランドパークへみんなで行くってことになって、それで風斬さんも誘おうって話になったのよ」

一方通行「……スターランドパーク? ……ああ、そォいうことか。だから遊園地の話してたのか」

結標「本当に全然話聞いてなかったのね」

一方通行「……で、何で風斬を呼ぶことになってンだ?」

結標「土御門君が用意したスターランドパークのチケットが一〇枚あって、私たちで七枚使うってことは三枚余るでしょ?」

一方通行「……何で一〇枚も用意してンだよ」

結標「さあ? 何か一セット一〇枚だったらしいわよ? まあ、それで余った三枚は打ち止めちゃんとインデックス、それで風斬さんも誘おうってことになったのよ」

一方通行「…………」




結標「スキー旅行のとき以来か……来てくれると嬉しいわね」

一方通行「……そォだな」

結標「やっぱり今日の貴方は変ね。素直に同意してくれるなんて」

一方通行「……別にイイだろ」

結標「……はっ!? もしかして貴方、風斬さんのことが……!?」

一方通行「ンなわけねェだろ。馬鹿言ってンなよ」

結標「そ、そうよね。あはは、ごめんごめん」

一方通行「…………」

結標「そうだ。貴方どうせ話聞いてなかっただろうから言っておくけど、スターランドパークに行く日は明日よ? 朝八時に駅集合。忘れないでよ?」

一方通行「……わかった」

結標「本当にわかったんでしょうね? ちゃんと聞いてるわよね?」

一方通行「……チッ、明日の朝八時だろ? うるせェな」

結標「はい、よろしい」ニコッ

一方通行「……はァ」

結標「なによそのため息?」

一方通行「……何でもねェ」

結標「あっ、あとちゃんと風邪治しときなさいよ? 遊ぶ当日までそんな感じだったら嫌よ? 何か調子狂うわ」

一方通行「……ああ。俺もそォ思うよ」


―――
――





同日 14:30

-ファミリーサイド・十三階廊下-



ピンポーン



ガチャリ



ヴェーラ「はい……あっ、黄泉川さんのところの」

結標「いつもお世話になってます。打ち止めちゃん迎えに来ました」

一方通行「…………」

ヴェーラ「打ち止めちゃーん! 迎えが来たわよー!」



ドタドタドタ!



打ち止め「オイース! おかえりなさい二人とも、ってミサカはミサカは元気いっぱいに駆け寄ってみたり」トテチテ

一方通行「少しは静かにできねェのかクソガキ」

打ち止め「元気こそミサカのアイデンティティーだからこればかりはどうしようもないね、ってミサカはミサカは断言してみる」

一方通行「そォかよ」

結標「それじゃあ、明日からは私たち春休みなんで、二週間くらいはこっちで打ち止めちゃんの面倒見ますから」

ヴェーラ「はい、聞いています」

結標「ではお世話になりました」

打ち止め「ましたー! ってミサカはミサカは簡略化して復唱してみたり」





-黄泉川家・リビング-



打ち止め「ええっー!? 春休みにみんなでスターランドパークに行く!? 行く行く行きたい行きたい!! ってミサカはミサカは歓喜の声を上げてみたり」


一方通行「うるせェ」

結標「あはは、打ち止めちゃんならそう言うと思ったわ」

打ち止め「で、スターランドパークにはいつ行くの? ってミサカはミサカはウキウキ気分でたずねてみたり」

結標「明日よ。別に予定とかないでしょ?」

打ち止め「えらく急だね、うん大丈夫だよ! エンシュウとは一週間くらい会えないからね。暇を持て余しまくってるぜ、ってミサカはミサカは得意げに言ってみたり」

結標「円周ちゃんどうかしたの? 一週間って結構長いわよね?」

打ち止め「何かキハラたちの会社で出張の仕事が入ったみたいで、それが一週間くらいかかるみたい、ってミサカはミサカは人差し指を立てて説明してみる」

結標「なるほどね。それに円周ちゃんも付いていくってことか」

打ち止め「そうそう」

結標「一週間の出張って一体どんな仕事なんでしょうね?」

打ち止め「さあ? 何かエンターテイナーとかなんとか言ってたよ、ってミサカはミサカはあのときの言葉を思い出してみたり」

一方通行「どォせくだらねェ仕事だろ。考えるだけ時間が無駄だ」ゴロン

打ち止め「家に帰って真っ先にソファに寝転ぶなんて相変わらずだね。たまにはミサカと遊んだらどうだあ! ってミサカはミサカは文句垂れてみたり」

結標「あっ、打ち止めちゃんごめんね。一方通行昨日の風邪がまだちょっと残ってるみたいだから、そっとしといてあげて」

打ち止め「……へー、風邪、か。それはたしかにそっとしといたほうが良さそうだね、ってミサカはミサカは優しく見守ることを決意してみたり」

一方通行「うっとォしいこと決意すンな。余計なことすンじゃねェぞ」

打ち止め「はーい、ってミサカはミサカは軽く返事をしてみる」

一方通行「…………」


―――
――





同日 17:00


打ち止め「――あっ、もう五時だ! 超機動少女カナミン(マジカルパワードカナミン)の再放送が始まる時間だぜ、ってミサカはミサカはテレビのリモコンのスイッチを押してみたり」ピッ


テレビ<チャーチャチャチャチャー♪ タタター♪


打ち止め「このオープニング見てると花見でインデックスがコスプレしてたの思い出すなぁ。ミサカもコスプレしてみたいなぁ、ってミサカはミサカは一人で勝手に願望を吐露してみたり」


ガチャ


芳川「ただいま」

打ち止め「おかえりー、ってミサカはミサカはテレビの画面を凝視しながら挨拶してみる」

芳川「あら、二人してテレビ鑑賞? 随分と仲良しなのね」

打ち止め「えっ、二人?」チラッ


一方通行「…………」ボー


打ち止め「……あれ? あなた寝たんじゃなかったっけ? ってミサカはミサカは記憶を思い返しながら聞いてみたり」

一方通行「…………」ボー

打ち止め「? おーい、どうかしたの? おーいアクセラレーター、ってミサカはミサカはあなたの目の前で手の平を振ってみたり」

一方通行「…………何か用かクソガキ」

打ち止め「用っていうかあなた風邪で疲れてるから寝たんじゃなかったの? ってミサカはミサカは首を傾げてみる」

一方通行「……ああ、ちょっと考え事してた」

打ち止め「あれから二時間くらい経ってるのに一体何をそんなに考えてるの? ってミサカはミサカは少し興味を持ってみたり」

一方通行「オマエには関係ねェよ」

打ち止め「……ふーん、そう。まあいいや、カナミンの続き観よっと、ってミサカはミサカは視線をテレビへ移してみたり」

一方通行「……チッ」

芳川「一方通行」

一方通行「あン?」

芳川「ほら、缶コーヒーよ。キミならこれ飲めば熟睡できるのでしょ?」スッ

一方通行「……ああ、悪い」スッ

芳川「…………」

一方通行「…………」

芳川「……ん? 飲まないの?」

一方通行「……何か飲む気が起きねェンだよな」

芳川「家にいる時間の九割は睡眠時間、一日に飲む缶コーヒーは二ダース以上のキミがこんなことになるなんて、異常事態ね」

一方通行「そンなに寝てねェし飲ンでもねェよ」

芳川「まあそれは言い過ぎだとしても、キミのメインの欲求二つを満たそうとしてない時点で十分おかしいわね。さっきあの子は風邪とか言ってたけど、もしかしたら別の病気とかにかかってたりして」

一方通行「……それこそ言い過ぎだな。俺は至って健康体だ」

芳川「それ、仮に万全のキミが言ったとしてもギャグにしか聞こえないわよね?」

一方通行「解体されてェかクソババァ」


―――
――





同日 19:00


一方通行「…………」ボッー


黄泉川「――おおーい、一方通行? 晩御飯の時間じゃんよ」

一方通行「…………」ボッー

黄泉川「おーい」

一方通行「…………」ボッー

黄泉川「…………」


ゴッ


一方通行「痛ェ!? 何しやがる黄泉川ァ!?」

黄泉川「なーにぼーっとしてるじゃんよ。晩御飯できてるって言ってるじゃん」

一方通行「チッ、だったら口で伝えりゃイイだろォが」

黄泉川「口で言っても聞かなかったから、拳で語ってやっただけじゃん♪」

一方通行「そォかよ、悪かったな」


-黄泉川家・食卓-


結標「あっ、やっと起きたのね一方通行」

打ち止め「うーん、まあ起きるのは起きてたんだけどね、ってミサカはミサカは訂正してみる」

結標「どういうこと?」

打ち止め「何かずっとテレビとか窓の外とか部屋の隅のなにもないところとか見ながら、今までずっとぼーっとしてたよ、ってミサカはミサカは事細かく説明してみる」

結標「風邪治せって言ったのに何やってるのよ」

一方通行「……言っただろォが。風邪はもォ完璧に治ってる」

結標「そういう風に見えないから治せって言ったのよ」

一方通行「…………」

黄泉川「はい、そんな調子の悪そうな一方通行には特別メニューを作って上げたじゃん♪」

一方通行「特別メニューだァ?」

黄泉川「おう」カチャ



大皿一杯のサラダ『盛るぜぇー超盛るぜぇー!』



一方通行「……オイオイ、何だこの雑草の山はァ?」

黄泉川「野菜は身体の調子を整えるじゃん。さらに今日の晩御飯のメニューはトンカツ! 豚肉も身体の疲労を回復してくれる優れものじゃんよ」

一方通行「だったら豚肉だけでイイだろォが!」

黄泉川「一方通行」

一方通行「あァ?」

黄泉川「栄養バランスは大事じゃん♪」

一方通行「絶対ェバランスおかしいだろこのメニュー!?」




黄泉川「へー、明日スターランドパーク行くのか。いいじゃんいいじゃん楽しんできな」

結標「はい」

芳川「春休み真っ只中だから人が多そうね」

結標「ですね。まあそれはどうしようもないから割り切ってます」

打ち止め「イエーイ!! 今から楽しみで夜も眠れなくなりそうだぜ、ってミサカはミサカは興奮を抑えきれなくなってみたり!」

黄泉川「食事中に騒ぐんじゃないじゃん」

打ち止め「ごめんなさい、ってミサカはミサカは行儀よく座り直してみる」

黄泉川「しかし、そんな楽しいイベントがあるならなおさら身体の調子取り戻さないとな。なあ一方通行?」


一方通行「…………」ボッー


打ち止め「あっ、食事中なのにまたぼーってしてる、ってミサカはミサカは少し驚いてみる」

黄泉川「おい一方通行。そんなぼーっとしてたらご飯冷めちゃうじゃんよ」

一方通行「……ああ、悪りィ」

芳川「大方、目の前にある野菜の山から現実逃避していたのでしょうけど、いくら時間を潰しても食べない限りなくならないわよ、それ」

一方通行「チッ、わかってンだよそれくらい……おェ、不味っ」モシャモシャ

打ち止め「がんばえー、って言いつつもミサカも頑張って自分の分のサラダ食べなきゃ……ってミサカはミサカはたじろぎながらも応援してみたり」モシャモシャ

結標「…………」

芳川「どうかした淡希?」

結標「いえ、大丈夫かなって」

芳川「彼のこと? たしかにちょっと様子はおかしいけど、そんな心配するほどじゃないとは思うけどね」

結標「……そうですね。まだぼーっとしてるけど下校してるときよりはハキハキ喋ってる気がするし、よくなってますよね、たぶん」

芳川「そんなに変だったの? 下校中」

結標「はい、喋り方が変っていうか、勢いがないと言うか」

芳川「……ちなみにそのときって二人きりのとき?」

結標「そうですけど、それがどうかしましたか?」

芳川「いえ、なんとなく聞いただけよ……ふーん」

結標「?」


一方通行「ぜェ、ぜェ、クソがっ、やっと半分かよ……おェ」

黄泉川「なんならおかわりもあるぞ?」

一方通行「いるかッ!!」


―――
――





同日 21:00

-黄泉川家・リビング-



テレビ<ギャハハハハハハ!! <チンサキニギガデインナンヨ!!



一方通行「…………」ボッー


ガララ


結標「一方通行、お風呂空いたわよ?」

一方通行「…………」ボッー

結標「またぼーってしてる……ちょっと一方通行? 一方通行ぁ!」

一方通行「……何だようるせェな」

結標「貴方がぼーってしているのが悪いんでしょ。お風呂空いたわよ」

一方通行「……わかった」

結標「……あっ、上条君から連絡来てる! 風斬さん来られるって!」

一方通行「……そォか」

結標「もうちょっとテンション上げてくれると私も報告したかいがあったのだけど」

一方通行「……別にイイだろ」

結標「というかまたその変な喋り方に戻ってるわよ? 一体どうしたっていうのよ今日の貴方は?」

一方通行「……さァな」

結標「早くお風呂入って温まってからゆっくり寝なさいよ」

一方通行「……ああ。そォさせてもらう」ガチャリガチャリ



ガチャ



結標「……もう、本当に大丈夫なんでしょうね明日」

結標「あんな状態で一緒に遊園地回ったって全然楽しくないわ」

結標「まあ、さすがに明日になったらもとに戻ってる、わよね?」



しかし、そんな彼女の希望も虚しく当日も一方通行はあんな感じなのだった。



――――――


なんで昔のワイは一方さんに絶叫マシン駄目設定なんてつけたんや……?

次回『スターランドパーク、再び』

ここまで読んだ人がいれば分かると思うけど過去のネタの使いまわしばっか

投下



15.スターランドパーク、再び


March Forth Wednesday 08:00 

-第七学区・地下鉄駅前-



結標「あっ、みんなおはよー!」テクテク

打ち止め「おっはよー!! ってミサカはミサカは飛び跳ねてみたり」ピョンピョン

一方通行「……朝っぱらからうるせェ」ガチャリガチャリ


吹寄「三人ともおはよっ」

姫神「おはよう」

青ピ「おっ、姉さんらが来たってことはビリはカミやん組で確定やな」

土御門「ま、それはわかってたことだからにゃー、賭けにもならないぜよ」

結標「やっぱり上条君たちはまだ来てないのね」

姫神「まあ。今回は風斬さんも連れてこないといけないから。しょうがないと言ったらしょうがない」

吹寄「姫神さん甘いわよ。いつもと違うことがあるのなら、それを踏まえて早く行動しなきゃいけないのよ?」

土御門「カミやんにはその言葉、何百何千言ったところでまったく聞かないと思うけどにゃー」

青ピ「すだれに腕押しってやつやな」

姫神「それを言うなら。のれんに腕押し」



上条「うおおおおおおおおおおおっ!!」タタタタタ

禁書「とうまー! だから走るの速いんだよ! ひょうかもいるんだからもっとゆっくり走ってよ!」ドタドタ

風斬「インデックス。私は大丈夫だから、ね?」タッタッタ



打ち止め「あっ、ヒーローさんたち来たよ! ってミサカはミサカは報告してみる」

吹寄「遅いっ!」キッ

上条「ひいぃ!? さ、三分くらいなら誤差なのでは……?」

吹寄「三分だろうが三秒だろうが遅刻は遅刻よ!」

青ピ「おっ、いつもの説教始まった始まった」

土御門「三分で済んだのがこっちからしたらラッキーみたいなもんだにゃー」





一方通行「…………」

禁書「おはようあくせられーた。……えっと、何かちょっと元気ない?」

一方通行「そォかもな。オマエは相変わらずアホ面でのんきそォにしてて羨ましいこった」

禁書「むぅ、元気はなくても悪口はいつもどおりなんだよ」

打ち止め「この人の口の悪さには困ったものですなぁ、ってミサカはミサカはため息交じりに呆れてみたり」

一方通行「泣かされてェのかクソガキども」

風斬「……、あの。えっと、ど、どうも」

一方通行「……おォ」



『あなたが思ってる以上に『化け物』かもしれませんよ?』



一方通行「…………」

風斬「え、えっと。その、私の顔に、なにか付いてるでしょうか?」

一方通行「……いや、何でもねェ」

風斬「…………」

結標「? 二人して黙って見つめ合ってなにやってるのかしら?」ジトー

風斬「!? い、いえ、別に何でもないです」

一方通行「……妙な言い回ししてンじゃねェよ」

結標「それより風斬さん! スキー旅行のとき以来よね、久しぶり!」

風斬「は、はい……、お久しぶりです」

結標「今日はめいいっぱい楽しみましょうね」ニコッ

風斬「……はい!」ニッコリ

一方通行「…………」




吹寄「さて、みんな揃ったことだし行きましょうか。スターランドパーク」

青ピ「なんやもう説教終わったんかつまらん」

姫神「電車の時間もあるし。しょうがない」

上条「くそー、なんでこうギリギリ間に合わないんだろうなぁ」

土御門「右手ぶった切ったら間に合うようになるんじゃないかにゃー」

上条「無茶言うなっ!」

打ち止め「ミサカね、実はスターランドパーク二回目なんだー! ってミサカはミサカは自慢気に言ってみる」

禁書「私も行ったことあるんだよ。こもえとあいさと一緒に行ったんだよ」

結標「風斬さんは行ったことあるのかしら?」

風斬「……、な、ないです」

打ち止め「そうなんだ! ふふん、だったらスターランドパーク先輩のミサカがスターランドパークのなんたるかを教えてあげよう、ってミサカはミサカは偉そうに胸を張ってみたり」

風斬「え、えっと、……よ、よろしくね」

禁書「ひょうか! 私も先輩だから聞いても大丈夫かも」

一方通行「……オマエに聞いても食い物のことしかまともに答えられねェだろうな」

禁書「あくせられーた? 見くびらないでほしいかも。ちゃんとあのとき乗った乗り物九種類全部名前言えるんだよ。なんならいま言ってあげてもいいよ?」

一方通行「言われたところで答え知らねェから意味ねェよ」

結標「教えてもらったらいいんじゃない? 貴方、行ったことあるって言っても、ほとんどの時間寝てたから全然アトラクションとか行ってなかったでしょ?」

一方通行「……チッ、うっとォしい」

結標「…………」



結標(……はぁ、やっぱり今日も何か変ね。一体どうしたっていうのよ一方通行?)



―――
――





同日 08:50

-第六学区・スターランドパーク入口-


ワイワイガヤガヤ


吹寄「……ふむ、やっぱり春休みだけあってすごい人ね」

姫神「まあ。それはわかっていたこと」

上条「開園初日並に人がいる気がするな……」

土御門「レビューサイトとか見るとリピーター率結構高めらしいからにゃー。何度も通っている玄人たちもたくさんいるんだろ」

打ち止め「そうなんだ。ミサカも玄人っていうのになってみたいなぁ、ってミサカはミサカは毎日連れてけアピールを交えながら願望を吐露してみたり」

一方通行「ふざけンなクソガキ」

青ピ「よし、つっちー、カミやん、アクセラちゃん! 我らスクエアフォースは開園早々に『トルネードスクリューコースター』へ突撃するぞ!」

土御門「了解だぜい。絶叫レベルマックスのジェットコースターだ。楽しみだぜい」

上条「げっ、マジで絶叫レベル5ツアーを敢行するつもりなのかよ……」

一方通行「……オイ、何で俺までメンバーに入れられてンだよ?」

青ピ「なにいうとんアクセラちゃん! 我らスクエアフォースは一心同体。せやから絶叫マシンで絶叫するときも常に一緒なんやで」

土御門「そうだぜい。ジェットコースターが脱線してアスファルトに頭から突っ込むときも一心同体だにゃー」

上条「遊園地の目の前でそんな不吉なこと口走るんじゃねえ!」

一方通行「くっだらねェ。行くならオマエら三馬鹿だけで行って来い」

土御門「……なるほど。さてはアクセラちゃんビビってんじゃないかにゃー?」

一方通行「あァ?」

上条「あー、そういや絶叫マシン駄目とかなんとか言ってたもんな」

一方通行「馬鹿言ってンじゃねェよ。怖くねェよそンなモン」

打ち止め「はいはーい! だったら代わりにミサカが行ってあげるよ、ってミサカはミサカは立候補してみたり」

一方通行「クソガキは絶叫レベル1ツアーでもやってろ」

打ち止め「ぶーぶー」

青ピ「……まあええわ。せいぜい女子連中と一緒に生ぬるいアトラクションでキャッキャウフフを楽しむとええでアクセラちゃん」

吹寄「たしかにこっちはそんな絶叫レベル高いやつばかり行くつもりはないけど、なんかその言い方イラってくるわね」ピキピキ

青ピ「ひぃ!? すんません生意気言いました!!」

一方通行「チッ、あいにくだが俺は女子連中とも行くつもりもねェよ」

姫神「だったら。あなたは一体どこに行くつもりなの?」

一方通行「そりゃオマエ、カフェに行ってコーヒー飲みながら閉園時間を待つに決まってンだろ」

結標「今日貴方は何しにここに来たのよ? 駄目よそんなの私が許さないわ」

一方通行「……クソが、俺の勝手だろうが好きにさせろ」

結標「せっかくみんなで来たんだからみんなで楽しまないと。だからそういうの禁止よ」

一方通行「……チッ、わかったよ。うっとォしいヤツだな」

禁書「ひょうかひょうか! ここのカフェのケーキもおいしかったし、ここのレストランのパスタもとってもおいしかったんだよ!」

風斬「へー、そうなんだ」

禁書「あとあと、ここにあるソフトクリームもなかなか――」

上条「お前今日は遊園地に遊びに来たんだぞ? 飯食いに来たわけじゃないぞ?」

禁書「わ、わかってるんだよ! ただ私的におすすめなお昼ごはんやおやつを食べられるスポットを紹介してるだけであって」

上条「まだ開園もしてないのに昼メシやおやつの話してんじゃねえ!」



係員「ただいま九時となりました。これより開園します。押さず走らずゲートをお通りください」


青ピ「うおお!! 開いたでえ!! 総員突撃!!」ダダダ

土御門「よっしゃあああああ!!」ダダダ

吹寄「走るなって言ってるのが聞こえてないの!? この馬鹿者ども!!」

姫神「放っておいて。他人のふりをしたほうがいいかもしれない」

上条「俺もそうしとこ」

打ち止め「いよいよ入場かー! みなぎってきたあー! ってミサカはミサカは興奮を抑えきれなくなってみたり」

結標「打ち止めちゃん? 盛り上がっているところ悪いけど、今回はちゃんとチケット持ってるわよね?」

打ち止め「もちろんだよアワキお姉ちゃん。この通り! ってミサカはミサカはチケットを掲げてみる」



ビュウウウウン!!



打ち止め「あっ、チケットが風に飛ばされていっちゃった!? ってミサカはミサカは実況してみたり」

結標「って言ってる場合か!」



パシッ



一方通行「……チッ、手間ァかけさせてンじゃねェよクソガキが」カチッ

打ち止め「あっ、ありがとう! またあなたに助けられちゃったね、ってミサカはミサカは以前のことを思い出してみたり」

結標「まったく。ちゃんと気をつけなさいよ?」

打ち止め「はーい、ってミサカはミサカは敬礼してみる」ビシッ

禁書「わっ、わっ、すごい人かも! ひょうか! はぐれちゃいけないからしっかり付いてきて欲しいかも」

風斬「う、うん」

上条「一番はぐれそうなのはお前だろうが!」


―――
――





同日 09:10

-スターランドパーク・ゲート前広場-


青ピ「ほな、ボクらはさっき言ったとおり絶叫レベル5めぐりしてくるから、ここで一旦お別れや」

吹寄「わかったわ。なら、一二時くらいにここでまた落ち合いましょうか」

土御門「了解だぜい。じゃ、走れ走れー! 絶叫レベル5は人気アトラクションだにゃー! できる限り列の前の方へ行けるように急ぐんだッ!」ダダダダ

青ピ「うおおおおおお!! デルタフォース突撃ぃいいいいいいい!!」ダダダダ

上条「こんなところで体育のときでも見せたことないような全力疾走してんじゃねえよ!」タッタッタ


吹寄「さて、あたしたちはどうしようかしらね?」

姫神「こういう遊園地で遊ぶ時間で。もっとも割合が多いのは順番待ち。つまり待ち時間が少ないアトラクションを乗っていけば。効率よく数をこなせる」

吹寄「なるほどね。さっき馬鹿どもが言ってたように絶叫レベルが高いやつに人気が集中してるようだから、低めのやつを狙えば良さそうね」

結標「そうね。小さい子もいるしそっちのほうがいいわ」

打ち止め「ミサカは絶叫レベル4でも5でもなんでもオールオッケーだよ、ってミサカはミサカは胸を叩きながら豪語してみたり」

結標「でも前来たときは絶叫レベル3くらいのやつでもボロボロになってたじゃない」

打ち止め「ふふん、ミサカは成長しているんだよ? あのときのミサカとは違うのだ! ってミサカはミサカはレベルアップの効果音を頭の中で鳴らしてみたり」

結標「いや、頭の中じゃ聞こえないわよ」

吹寄「ま、とりあえずレベル3のやつ試しに行ってみて、それから方針を決めれば良いんじゃないかしら?」

姫神「異議はない」

結標「そうね。たしかに二回目だから案外いけちゃうかもしれないしね」

打ち止め「いけちゃうじゃないよ、いけるんだよ! ってミサカはミサカは訂正を求めてみる」

吹寄「インデックスと風斬さんもそれでいい?」

禁書「よくわからないけど良いと思うんだよ」

風斬「よくわからないのに了承したらいけないよ……、あっ、私は大丈夫です、はい」

吹寄「アクセラ、あなたもそれでいいわよね?」

一方通行「…………」ボォー

吹寄「……アクセラ?」

一方通行「……ああ、悪りィ。何だ?」

結標「またぼーっとしてたわね、もうっ」

姫神「とりあえずお試しで。絶叫度レベル3のアトラクション行ってみる。っていう話をしていた」

一方通行「ああ、別にそれで構わねェよ」

禁書「……ねえ、あくせられーた」

一方通行「何だよ?」

禁書「なにか悩み事でもあるのかな?」

一方通行「……どォしてそォ思う?」

禁書「いや、なんとなくだけど」

一方通行「そォか。だったらオマエの勘違いだ。安心しろ」

禁書「そうなんだ。ならいいけど……」

打ち止め「…………」




吹寄「さて、そうと決まったらどこに行くか決めましょう」

結標「どんなジャンルに行きたいかよね。ジェットコースター、空中ブランコ、バイキング、ウォーターライドとか」

打ち止め「その中だったらウォーターライドっての乗ったことないから行ってみたい、ってミサカはミサカは挙手して発言してみる」

禁書「うぉーたーらいどってなに?」

吹寄「水路の上を船みたいなもので進んでいくアトラクションよ。ものすごい坂の水路を船が下っていくようなのテレビとかで見たことない?」

禁書「ああ、それなら前行ったとき乗ったんだよ! たしかうぉーたーあどべんちゃーって名前のやつ」

姫神「……そういえば乗ったね。たしかあれは絶叫度レベル2のやつだった気がする」

吹寄「よくよく考えると来たことある人たくさんいるのよね。だったら出来る限り前行ったのと被らないようにしたほうがいいわね」

結標「別に気にしなくてもいいわよ。面白いアトラクションなら何回乗っても面白いわ」

姫神「まあとりあえず。絶叫度レベル3のウォーターライドに行こう。マリンチェイサーっていうやつがレベル3だし。空いているっぽい」

打ち止め「うん? なに見てるのアイサお姉ちゃん、ってミサカはミサカは持ってる携帯に興味を示してみる」

姫神「これは遊園地が配布しているアプリ。全アトラクションの場所とか調べられる。その上待ち時間もリアルタイムでわかる優れもの」

打ち止め「はえーなんかすごいね、ってミサカはミサカは感心してみる」

吹寄「じゃあそこにしましょ。グズグズしてる間に待ち時間増えてもあれだし、さっそく行きましょうか」

打ち止め「おおっー! ってミサカはミサカは拳を突き上げてみたり」

禁書「ところでまりんちぇいさーってなにかな?」

風斬「さ、さあ? 直訳すると海の追跡者? かな?」

禁書「ああ、やっぱりそういう意味なんだ」

一方通行「…………」ボォー

結標「あっ、またアイツぼーっとしてるわね。ちょっと一方通行! 行くわよ早く付いてきなさい!」

一方通行「……ああ、悪りィ」

結標「貴方、最近そればっかり言っているわよね。本当にどうしたのよ?」

一方通行「……何でもねェよ。気にすンな」

結標「そんなこと言われても気になるものは気になるわ」

一方通行「…………」

結標「……もういいわ。早く行くわよ」

一方通行「……ああ」


―――
――





同日 09:20

-スターランドパーク・マリンチェイサー-


吹寄「……なるほどね。マリンチェイサーってそういう意味か」

打ち止め「おおっー、何かサメの絵とかがいっぱい描かれてる、ってミサカはミサカは見たままの光景を口にしてみたり」

禁書「わあっ、なんかすごいねひょうか!」

風斬「そ、そうだね」

結標「何か絶叫度の種類が違う気がするわね……」

姫神「もう一つ絶叫度レベル3の。ウォーターライド系のアトラクションはあるけど。この位置からは真反対だから結構距離がある」

吹寄「うーん、そうなるとここでいいかってなるわね。待ち時間も一〇分とかだし」

打ち止め「ミサカは大丈夫だよ! どんなアトラクションだってどんと来いだ! ってミサカはミサカは胸を張ってみたり」

結標「そう。じゃあ並びましょうか」



~一〇分後~



係員「――では次のお客様!」

吹寄「すみません。七人なんですけどいけますか?」

係員「はい。こちらのアトラクションは八人乗りなので大丈夫ですよ。では一緒になれるように調整いたしますねー」

吹寄「ありがとうございます」

係員「では、こちらのボートに乗ってください」


打ち止め「うおおっ! いよいよ始まるのかー楽しみだぜ! ってミサカはミサカは胸を躍らせてみたり」

吹寄「どういう感じのアトラクションなんだろ。最後は坂を滑り降りる感じのだとは思うけど」

姫神「学園都市外のテーマパークに。同じ題材でびっくり系のアトラクションがあったけど。たぶん似たような感じだと思う」

結標「やっぱりそういうやつなのね」

禁書「ところでサメって食べられるのかな?」

風斬「中華料理にフカヒレがあるくらいだから、種類によっては食べられると思うよ」

禁書「そうなんだ」

風斬「……、あの、一応言っておくけど、ここで出てくるサメはたぶん、作り物だから……食べられないよ?」

禁書「そ、それくらいわかっているんだよ! ただ気になったから聞いてみただけであって」

吹寄「というか本物だったとしても食べられないでしょ。むしろ逆にこっちが食べられるわ」

一方通行「…………」




係員「それでは危険でデンジャラスな海の旅をお楽しみください」



バシャー!!



打ち止め「われわれは今洞窟っぽいところをひたすら進んでおります、ってミサカはミサカは実況してみたり」

結標「誰に向かって言っているのよ?」

姫神「海の旅とか言っていた気がするけど。洞窟の中なんだね」

吹寄「まあ、洞窟出たら海なんでしょ、たぶん」



ゴゴゴゴゴゴッ!!



禁書「ん? 何か変な音が聞こえてくるかも」

打ち止め「おっ、そろそろサメさんの登場かな? ってミサカはミサカは目を輝か――」



ドパァァン!!



サメ『ガアアアアアアアアアアアア!!』



打ち止め「ぎゃああああああっ!? 船の右側からサメが出てきた!? てか顔怖っ!? ってミサカはミサカは驚きながらも実況を続けてみたり」

吹寄「本物のサメをこの目で見たことはないけど、なんかリアルっぽいわねこの作り物」

姫神「そうだね。図鑑とか動画とかで見る。ホウジロザメそのもの」



ガン!! ガン!! ガン!! ガン!!



禁書「わっ、サメが船に突進してきているんだよ! こ、このままじゃ転覆しちゃうかも!?」

打ち止め「ひゃあああどうしよ海とかプールとかミサカ泳いだことないんだけど!? ってミサカはミサカは未知の世界に恐怖を覚えてみたり」

結標(楽しんでるなー、どうせ作りものだから安全って思っている自分がちょっと寂しい)



ザパン



打ち止め「あっ、サメが海の中に帰っていった。諦めてくれたのかな? ってミサカはミサカは安心のため息をついてみる」



ゴポポ、ドパァァン!! ガギン!!



風斬「ひっ!?」

打ち止め「ああああっ!? 今度は前からサメが出てきてボートの前部分を噛み付いた!? ってミサカはミサカは懇切丁寧に実況してみたり!」

吹寄「へー、すごいわね。乗り物自体に干渉してくる装置なんて見たことないわ」

禁書「これって大丈夫? すごい勢いで噛み付いてきているけど……」

姫神「学園都市製の乗り物だから大丈夫だよ。さすが学園都市」

一方通行「…………」




~五分後~


打ち止め「いやー、なかなか面白いアトラクションだったねー、ってミサカはミサカは率直な感想を言ってみる」

結標「そうね。すごい風が吹いてきたと思ったら、大量のサメが上から降ってきたヤツはすごかったわね」

姫神「でも。砂浜からサメが突然現れたり。双頭のサメが現れたり。タコみたいな足が生えたサメが出てきたときは。なにかと思った」

吹寄「一体何を見せられてるのかとちょっと困惑したわね……まあ最後の巨大サメに食べられて急落下したところはよかったわ」

打ち止め「でもさ、食べられてから落ちた後それで脱出できました、でアトラクションが終わったってことは、ミサカたちはサメさんのうん――」

姫神「それ以上はいけない」

禁書「なんかガチャガチャしてて派手なアトラクションだったね」

風斬「う、うん……、こ、怖かった……」

打ち止め「ふふふ、レベル3がこれなら4どころか5でも余裕かも、ってミサカはミサカは不敵な笑みを浮かべてみたり」

吹寄「いや、あれは絶叫マシンと言えるか少し怪しいから、もうちょっと様子を見たほうがいいんじゃないかしら?」

打ち止め「よーし、だったら次は絶叫マシンの王道ジェットコースターに行こー! ってミサカはミサカは提案してみる」

結標「たしかにそういうヤツのほうがわかりやすいか」

姫神「ジェットコースター系で絶叫レベル3は。スカイラインコースターってやつと。フロートフィーラーってやつが待ち時間少なめ」

結標「スカイラインは前来たときに乗ったやつね。成長を見られるって意味ならそっちのほうがいいかも」

打ち止め「うっ、い、いややっぱり一度乗ったやつだと新鮮味がないからね。もう一個のほうがいいんじゃないかな、ってミサカはミサカは提案してみる」

禁書「らすとおーだー。なんかすごい汗かいてるよ?」

吹寄「フロートなんとかってのはどんなの?」

姫神「足場がない系のジェットコースター。よくあるやつだね」

吹寄「あー、足場がないだけで恐怖感が増すって聞くあれね」

打ち止め「ふふん。足場があろうがなかろうがジェットコースターには変わりないのだ! ってミサカはミサカは核心に迫った発言をしてみたり」

結標「人生で一回しかジェットコースター乗ったことないのに、よくそんな自信満々に発言できるわね」

姫神「ちなみに待ち時間は今の所二〇分」

吹寄「ジェットコースターは遊園地の花形だから、さっきのやつよりはちょっと長いわね」

結標「それでも人気アトラクションに比べればすぐよ。それじゃあ行きましょ」

打ち止め「うおしゃあああああっ!! 足場なしがなんぼのもんじゃーい!! ってミサカはミサカは勇ましい口調で意気込みをアピールしてみたり」


一方通行「…………」ボォー


結標「……ほらっ、一方通行キビキビ歩くっ!」ガシッ

一方通行「……ッ!? オマエ引っ張ンじゃねェ危ねェだろォが」

結標「だったらぼーっとしてないで自分で歩きなさい!」

風斬「…………」

禁書「? どうかしたひょうか」

風斬「……、う、うん。なんでもないよ、あはは」

禁書「?」


―――
――





禁書「へー、なんだか大変そうだね」

吹寄「そうは言うけどインデックス? あなたも修道服着ているから似たような自体には陥っているのよ?」

禁書「そ、そうなの?」

吹寄「だってそれってワンピースみたいなものでしょ? しかも足首まで伸びてるロングスカートの」

禁書「……あー。だから前ここに来たときこもえが『なんで動きづらい修道服で来ちゃったんですか!?』って言ってきたんだね」

姫神「気付いていなかったのか……」

吹寄「ったく。だいたい上条当麻は遊園地に行くってわかっていたのだから、二人に動きやすい服装を準備するように言っておくくらいしてくれててもよかったのに。まったく気が利かないヤツね」

結標「まあ、男の子だしそういうの気付くほうが珍しいからしょうがないわよ」

姫神「で。どうするの? 別のヤツに変える?」

風斬「い、いいですわざわざ私たちのためにそんな! し、下で待っておきますので大丈夫です」

禁書「えっ、私も待つの?」

姫神「修道服の裾をまくりあげた姿を。公衆の面前にさらしてもいいなら。乗ってもいいと思うけど」

禁書「うっ、なんかそういう言い方されると乗りたくなくなるかも」

吹寄「でも待つといっても待ち時間とジェットコースターに乗る時間で二〇分強かかるわよ?」

風斬「それでも、別のアトラクションへ移動する時間と、そこでの待ち時間を考えたら、余計に時間がかかってしまいます。皆さんにそんな、無駄な時間を使わせたくない、です」

結標「だけど、それだと貴女たちだけが私たちが終わるまでの待ち時間という無駄な時間を使うことになるわ。そんなの悪いわよ」

風斬「……いえ、私たちは大丈夫なので」


一方通行「……ったく、面倒臭せェ。だったらその待ち時間で別のアトラクションに乗って時間潰せばイイだろォが」


風斬「!?」

打ち止め「あっ、アクセラレータがシャアベッタアアアアアア!? ってミサカはミサカは子供らしいハイテンションなリアクションをしてみたり」

一方通行「何で俺が喋っただけで、そンなリアクション取られなくちゃいけねェンだ」

結標「いや、それは貴方がさっきからぼーっとしてばかりだからでしょ」

一方通行「……悪かったな」

吹寄「……たしかにアクセラの言う通りかもね。なにもみんなで同じアトラクションに絶対に乗らないといけないなんてことはないんだもの」

一方通行「そォいうわけだからオマエらはそっちのジェットコースターに乗ってろ。俺はこいつらと適当に時間潰す」

姫神「アクセラ君はそっちに行っちゃうんだ」


>>345ミスったこれの前にこれ



同日 09:50

-スターランドパーク・フロートフィーラー-



ゴガガガガガガッ!!



<きゃああああああああっ!! <すげえまるで空を飛んでいるみたいだ!! <あっ、ワイの靴がどっか飛んでいった!?



打ち止め「おっ、おう。これが足場なしのやつか。ま、まあ前乗ったやつに比べればちょっと速度が遅いかな? ってミサカはミサカは冷静に分析してみる」

結標「よかったわね打ち止めちゃん。これなら大丈夫そう?」

打ち止め「な、なにを言っているのかなアワキお姉ちゃん。ミサカはも、もうちょっと速くても余裕だったんだぜ? ってミサカはミサカは腕を組みながら答えてみる」

吹寄「さて、さっそく並ぶとしましょ」

姫神「待ち時間は変わらず二〇分待ち。減ってくれていれば嬉しかったけど。まあ。増えているよりはマシか」

風斬「……、あ、あの」

結標「どうかしたの?」

風斬「わ、私は、その、……このアトラクション、乗らなくても、いいですか?」

吹寄「あ、もしかしてジェットコースターとかダメな人だった? ごめんなさい、そうと知らずに勝手に決めちゃって」

風斬「い、いえ、そういうわけじゃないんですが……」

姫神「……ああ。なるほど」

禁書「なにがなるほどなのあいさ?」

姫神「風斬さん制服着ているから。このアトラクションはちょっと辛い」

吹寄「あー、たしかにスカートであのジェットコースターは恥ずかしいわね。まして風斬さんはスカート長めにしてるし」

打ち止め「なんでスカートだと乗れないの? ってミサカはミサカは首を傾げてみる」

姫神「あのジェットコースターの安全装置が。股の間まで固定するものだから。長めのスカートだとかなりめくり上がってしまう」

結標「座り方を工夫すれば下着が見えないようにはできるだろうけど、どうしても太ももとか出ちゃうし格好はよくないわね」

打ち止め「なるほど。だからヨミカワが準備してくれたミサカの今日の服はショーパンだったんだね、ってミサカはミサカは納得してみる」



一方通行「何か問題があるのか?」

姫神「いや。別に」

結標「……や、やっぱり貴方は風斬さんのことが……」アワアワ

一方通行「……だから勝手に変なこと決めつけてンじゃねェよ。こいつらだけを野放しにしとけねェと思っただけだ」

禁書「ちょっとあくせられーた? 私たちはあなたに面倒を見られないといけないような子供じゃないんだよ」

一方通行「悪い言い方間違えた。風斬は問題ねェが機械音痴クソシスターの暴走を、風斬一人でどォにかできるとは思えねェから俺が出張ってやるンだ。感謝しろ」

吹寄「……わかったわ。だったらあたしたちがジェットコースター乗り終えるのが二〇分後くらいだから、それくらいの時間にまたここに集合ってことで」

一方通行「ああ」

姫神「ところでアクセラ君たちは。何のアトラクションに乗るつもりなの?」

一方通行「何でもイイだろ。適当にそこらへんにあるヤツにすれば」

姫神「だったらあそこに。面白そうなものがあるよ」

一方通行「あァ?」


『爆転シュート!! カプブレード』


ガキン!! ガキン!! ガキン!!


<ああああああああああああっ!! <目が回るううううううううう!! <おろろろろろろろろろっ!!


一方通行「」

風斬「ひっ!?」

打ち止め「うおおおなんだあれ!? コーヒーカップ同士が回転しながらぶつかり合って火花を散らしまくってる、ってミサカはミサカは目の前の状況に戸惑いながらも解説してみたり」

姫神「絶叫レベル5のコーヒーカップ。待ち時間もこっちと同じ二〇分。ちょうどいいんじゃないかな?」

禁書「はえー、すごいやつなんだ! なんだか面白そうだねひょうか!」

風斬「えっ!? ……あ、えっと、う、うん、そうだね……」

吹寄「風斬さん顔青ざめてきてない?」

結標「……一方通行?」

一方通行「……何だよ」

結標「ジェットコースターに乗るのが嫌でそっちに行ったのでしょうけど、残念ながらそっちのほうがキツそうね」

一方通行「……そンなつもりはさらさらなかったが、たしかに後悔しかねェ」


―――
――





同日 10:00

-スターランドパーク・爆転シュート!! カップブレード-


ガキン!! ガキン!! ガキン!!


<やあああああああああああああああああああああああ!! <めええええええええええええええええええええええ!! <てええええええええええええええええええええええええ!!


禁書「目の前で見るとすごい迫力だね!」

風斬「そ、そうだね……」

一方通行「……よし。オマエらはそこの列に並ンで順番を待って、あのアトラクションを楽しンでこい。俺は適当にコーヒーでも飲ンで待っているから」

禁書「えっ、あくせられーたは乗らないの?」

一方通行「俺はオマエらの面倒を見るためにここにいる。つまり、わざわざ一緒になってアトラクションにまで付いていかなくても、ここで遠目に見守ればイイってわけだ」

禁書「でもそれじゃあくせられーたが楽しくないんじゃないかな?」

一方通行「安心しろ。それに乗るよりは遥かに楽しいからよォ」

禁書「えー」

一方通行「そォいうわけだから、オマエらだけ――」



ガシッ



風斬「…………」

一方通行「あァ? 俺の手を掴ンでどォいうつもりだ?」

風斬「……あの、えっと、い、一緒に、いきませんか?」

一方通行「あァ? だから言っただろ。俺は行く必要ねェって」

風斬「い、いえそんなことはないです。なにが起こるかわからないし、あ、あなたに付いていただけると、助かります」

一方通行「別に大したことは起こらねェだろ。せいぜい過度な恐怖感と疲労感、あとは平衡感覚を失うことによって嘔吐感が湧くくれェか」

風斬「け、結構な大事だと思うんですが……」

一方通行「それは俺が居よォが居まいが必ずオマエに訪れる事象だ。だから付いていく必要がねェ」

風斬「あ、あなたが一緒に居てくれれば、な、なんとか頑張れるような気が、します」

一方通行「ハァ? 俺はいつからオマエのそンな精神的支柱みてェなモンになったってンだ? 大体、俺たちが会ったのはスキー旅行ンときとバレンタイン前日のそれくらいでそンな接点ねェだろ」

風斬「……ど、どうしてもだめですか?」

一方通行「だから、一緒に行く理由が――」



バチバチィ!



一方通行「ッ!?」

風斬「……あ、あなたは知っていますよね? 私の持っているチカラ」

一方通行(あのときのヤツか……!?)




風斬「正直このチカラはまだ完全に制御できているわけじゃありません。なので、なにかのきっかけで暴発する可能性だってあります」

風斬「もし、こんな場所でチカラが暴走したら、ここにいるたくさんの人たちやあの子へだって被害が出てしまうかもしれません」

風斬「でも、あなたならもしこのチカラが暴走しても止められるかもしれない……いえ、きっと止められると思います」

風斬「……だ、だから一緒に、付いてきてくれないでしょうか?」グスン


一方通行「…………」

禁書「あー、あくせられーたがひょうか泣かせたんだよ! ちょっとあくせられーた! なに言ったの!?」

風斬「……う、ううん、な、何でもないよインデックス。気にしないで」

禁書「でも」

一方通行「……あー、クソ。わかったよ行きゃイインだろ行きゃあ? 面倒臭せェヤツだなァクソッタレが」

風斬「!!」

禁書「えっ、結局あくせられーたもあれに乗るの? さっきまであんなに嫌がってたのにどうして?」

一方通行「チッ、何でもイイだろ別に」

禁書「……なるほど。これが『つんでれ』ってやつなんだね!」

一方通行「オマエその言葉どこのどいつに吹き込まれた?」

禁書「えーと、そう言ってたのはらすとおーだーにあおがみにもとはるにあわきにえんしゅうだよ」

一方通行「馬鹿のオールスターズじゃねェか! つゥか、そンな言葉忘れろクソシスター」

禁書「ふふふ。私には完全記憶能力があるから一度覚えたことは絶対に忘れないんだよ。すごいでしょ?」

一方通行「無駄な特技持ちやがって……」

風斬「……ふふっ」

一方通行「笑ってンじゃねェぞ風斬ィ!」

禁書「あっ、なんかあのアトラクション人が増えてきてるんだよ! 早く並ばないと遅くなってしまうかも! いこ! ひょうか! あくせられーた!」ドタドタ

風斬「あ、うん。ま、待ってインデックス!」タッタッタ

一方通行「チッ、面倒臭せェ……」ガチャリガチャリ




~二〇分後~


禁書「そろそろ私たちの番が来そうだね。ね、あくせられーた?」

一方通行「そォだな」

禁書「ふーふーふっふん♪ ふーふーふっふん♪ ふーんふーんふーん♪」

一方通行「……なァ、風斬」

風斬「は、はい?」

一方通行「オマエ……何つゥか変わったよな」

風斬「か、変わりましたか……? 私」

一方通行「いや、語弊があるな。俺ン中のオマエの認識がちょっと変わったって言ったほうがイイか」

風斬「?」

一方通行「まさかオマエがこの俺を脅してまでして、こンなところに引きずり込むようなヤツだとは思ってもみなかった」

風斬「お、脅す!? い、いえ、わた、私はそんなつもりで言ったんじゃ……!」

一方通行「ああ、わかってるよ。冗談だ冗談、悪かったな」

風斬「えっ、あ、ああ冗談。そ、そうだったんですねごめんなさい」

一方通行「何でオマエが謝ってンだ」

風斬「……でも、変わったっていうのはあながち間違いではないかもです」

一方通行「あァ?」

風斬「私は、あなたたち能力者の発するAIM拡散力場が集まることによってできた集合体です」

風斬「あなたたちヒトは時間が経てば成長し、変化します。それにともないAIM拡散力場も変化していきます」

風斬「集まるAIM拡散力場が変化しているなら、それが集まって出来た私も自然と変化していくということです」

一方通行「変化ねェ。オマエと会ったのがだいたい一ヶ月前くらいだが、一ヶ月程度そこまで変わるモンなのか?」

風斬「変わっていますよ。この街にいる皆さんや今日一緒に来ているみんな。そして、もちろんあなたも」

一方通行「ケッ、一体なにが変わったのか教えてもらいたいね」

風斬「……そうですね。こういうのは本人に言うのはあまり良くないとは思うんですけど」

一方通行「あァ?」


風斬「あなたのAIM拡散力場が不安定になっています。まるで、あなたの中に大きな迷いがあるみたいに」


一方通行「ッ……」

風斬「あなたは一体、何をそんなに迷ってられるのですか?」

一方通行「……さァな」

風斬「…………」


係員「――次のお客様!」


禁書「あっ、二人共とも! 順番来たんだよ!」

一方通行「さて、本当にこれ乗らなきゃいけねェンだな」

風斬「うっ、……、なんか乗る前から、気分が悪くなってきました」

一方通行「頼むから暴走なンてしてくれるなよ。あンなこと言われた手前でアレだが、正直俺にオマエを完全に止められるチカラなンざあると思えねェよ」

風斬「……がんばります」


―――
――





同日 10:30

-スターランドパーク・フロートフィーラー-


結標「――あー、面白かった!」

吹寄「やっぱり足場がないと違うわね。スリルがだいぶ増すわ」

打ち止め「ふ、ふふふふふふ、み、ミサカはまだまだレベル高いやつい、いけるかな、ってミサカはミサカは恐怖で震える唇を必死に動かしてみたり」ガクブル

姫神「体。震えているけど。よっぽど怖かったんだね」

結標「というか語尾からしてバレバレよね」

吹寄「さて、コーヒーカップ組はもう終わってるかしらね」


禁書「あっ、みんな終わったんだね! おーい!!」ノシ

一方通行「…………おェ」ズーン

風斬「……はぁ、はぁ、ごほっ」ズーン


結標「随分とハードなアトラクションだったみたいね」

姫神「約一名。元気そうなやつはいるけどね」

吹寄「二人とも大丈夫?」

風斬「……は、はい。な、なんとか……うぐっ」

一方通行「問題ねェ……よっ」

結標「全然大丈夫そうじゃないわね。ちょっとだけ休憩でもする?」

打ち止め「う、うんそうだね! ミサカもちょっと喉とか乾いたかなーって思ってたから、ってミサカはミサカは賛成の挙手をしてみる」

吹寄「じゃあ休憩所で飲み物でも飲みながら、次行くアトラクションでも決めましょうか」

姫神「ここから近い休憩所は。第四休憩所かな」

禁書「休憩? わーい! ひょうか、一緒にソフトクリーム食べようよ!」

風斬「……あ、あはは、ご、ごめん。私はちょっと今、食べたくない、かなって」

結標「よかったわね一方通行。念願のコーヒーブレイクよ?」

一方通行「……余計なことしやがって」

結標「そんな青ざめた表情で言われてもね」

一方通行「……チッ」


―――
――





同日 10:40

-スターランドパーク・第四休憩所-


打ち止め「――やっぱりレベル3のアトラクションを難なくクリア出来たから、次はレベル4にチャレンジしてみたいな、ってミサカはミサカはオレンジジュース片手に強気な発言をしてみたり」

姫神「難なく?」

吹寄「風斬さんたちのことを考えたら、フリーフォールとか空中ブランコみたいなヤツは避けたほうが良さそうね」

風斬「……ご、ごめんなさい。私たちのためにそこまで」

結標「別にいいわよ。他にも楽しいアトラクションはたくさんあるわけだし」

姫神「……いろいろ見てみたけど。バイキング系統のヤツならどうかな」

吹寄「ああ、あの船みたいなのが前後に揺れるやつね」

結標「いいんじゃない? 人数制限も多そうだからみんなで乗れそうだし」

姫神「ちなみに。絶叫レベル4のやつは。フルムーンパイレーツというやつ」

吹寄「フルムーン? 満月ってこと?」

打ち止め「お月様の上にでも乗るのかな? ってミサカはミサカは月で団子を作るウサギさんを想像してみたり」

姫神「まあ。名前の由来は行ってみればわかる。ちなみに待ち時間は三〇分」

結標「三〇分ってことは、ここで休憩してから移動して、待ってから乗ったら一一時半ぐらいってところかな」

吹寄「そこから次のアトラクションに行こうとしたら、集合時間過ぎそうだから実質午前の最後にヤツになるわね」

姫神「まあ。待ち時間短いの探せば。もう一つくらいはいけないこともない」

吹寄「どうするかはそのときに決めましょ? じゃ、次はフルムーンパイレーツに行くけど風斬さんたちは大丈夫?」

風斬「は、はい。大丈夫、です」

禁書「ぺろぺろ……うん! 問題ないんだよ!」

打ち止め「何食べてるの? ってミサカはミサカは尋ねてみたり」

禁書「コーヒー味のソフトクリーム。そこの売店で買ったんだよ」

打ち止め「はえー、チョコレートのやつより色が濃いんだね。……なんかそれを見るとうん――」

結標「打ち止めちゃん。思っていても決して口に出しちゃだめなことってあるのよ?」




一方通行「…………」ボォー

禁書「あくせられーた!」

一方通行「あァ?」

禁書「これ、コーヒー味なんだよ!」

一方通行「……それがどォした?」

禁書「おいしいよ?」

一方通行「そォかよ。悪りィが俺は甘いモンは趣味じゃねェンだ」

禁書「苦いよ?」

一方通行「ソフトクリームっつゥのは本来甘くすることを目的として作られたモンだ。そン中に多少苦さが混じったところで無意味なンだよ」

禁書「でもおいしいよ?」

一方通行「話聞いてンのかクソガキ」

禁書「むぅ、だったら食べてみるといいよ! 百聞は一見にしかず。このソフトクリームのおいしさを味わってみればわかるんだよ! ほらっ」スッ

結標「!?」

一方通行「何でそンなモン食わなきゃいけねェンだ? ぶち殺すぞクソシスターが」

禁書「……ほらっ」スッ

一方通行「……ったく、わかったよ食えばイインだろ食えば」パクッ

結標「!!!?!!!?」

一方通行「……ハイハイ、おいしゅうございました……おェ」

禁書「でしょ? 私もそう思うんだよ」

一方通行「わかったから俺の前から消えろ」

禁書「? よくわかんないけどわかったんだよ。……ひょうかー! このソフトクリームおいしいんだよ!」ドタドタ

一方通行「…………ゲロ甘めェ」

結標「あああ貴方って……?」

一方通行「……あァ?」

結標「もしかしてインデックスのことが……」アワアワ

一方通行「……だから、どォしてそっちの方面に思考を直結させンだオマエ? 面倒だから茶番に付き合ってやっただけだ」

結標「い、いやそれにしたって……」

一方通行「……チッ、口直しのコーヒー買ってくる」ガチャリガチャリ


結標「…………」

吹寄「……まあ、なんというか」

姫神「ドンマイ」


―――
――





同日 11:00

-スターランドパーク・フルムーンパイレーツ-



グルングルングルングルン!!



<があああこえええええええ!! <まるで世界が反転したみたいだ!? <死にたくなああああああああああい!!



打ち止め「おっ、おう。船が三六〇°回転してやがるぜ、ってミサカはミサカは思わず後ずさりしてみたり」

吹寄「昔、似たようなヤツ乗ったことあってそれは最後だけ数回転してたけど、これは何回も回転するのね」

姫神「これで絶叫度4だと。5は一体なにが起こるんだろう」

禁書「次はこれ乗るんだ。楽しそうだねひょうか!」

風斬「……う、うん。ま、まあこれくらいなら」

結標「それじゃあ行きましょうか」

打ち止め「よ、よーし。レベル4なんて余裕だぜってところを見せてやるぜ、ってミサカはミサカは一歩一歩踏みしめながら進んでみたり」

姫神「怖いなら。やっぱり別のにする?」

打ち止め「こ、こわい? ふふふん、ミサカの辞書にはこわいなどという言葉は存在しないのだ、ってミサカはミサカは偉人の名言をオマージュしながらキメてみたり」

姫神「さっき言っていたような気がするのは。気のせい?」

一方通行「…………」ボォー

結標「あっ、またぼーっとしてやがるわ。一方通行?」

一方通行「……ああ。今行く」

結標「さっきまでちょっといつもの感じに戻ってたように見えたけど、またそんな感じになっちゃったわね。何で?」

一方通行「……俺はいつもこンな感じだろ」

結標「はいはい、そうですね」

一方通行「……チッ」





~三〇分後~



係員「――では、次のお客様どうぞー!」



結標「あっ、私たちの番が来たわね」

吹寄「ふふっ、楽しみね」

打ち止め「い、いよいよ来てしまいましたか、ってミサカはミサカはつばを飲み込みながら謎の敬語を使ってみる」ゴクリンコ

姫神「まだ引き返せるよ?」

打ち止め「大丈夫だよ! ミサカにあるのはただ制圧前進のみ! ってミサカはミサカは意気込みを語ってみたり」

姫神「……まあ。そこまで言うなら止めはしない」

禁書「あっ、私たちは船の先頭辺りの席みたいだね」

吹寄「バイキングの前側の席は真ん中に比べて迫力がすごいわよ」

風斬「そ、そうなんですか……?」

姫神「地面に衝突しそうなスリルが。一番味わいやすいからね」

風斬「なるほど……」

一方通行「…………」カチッ

結標「……あれ? 一方通行今電極のスイッチ入れなかった?」

一方通行「……気のせいだろ」

結標「いや、でも電極のランプの色が赤色に変わっているんだけど」

一方通行「……気のせいだな」



係員「それでは安全装置の確認もできましたので、これより出発です! どうぞお楽しみください!」



<ブウウウウウウウウウウウウウウ!!






<ウイイイイン、フウウウウウウウン!!(傾き四五°くらい)



打ち止め「ままままあ、最初はこんなもんだよね、ってミサカはミサカは腕を組みながら余裕を見せてみたり」

結標「喋っていると舌噛むから危ないわよ? あとちゃんと安全バー掴んでおきなさい」



<ガタン!! フウウウウウウウウウウン!!(傾き九〇°くらい)



<キャーキャー!! <ワーワー!!


風斬「……ひっ」

禁書「おおっー!」



<ガタン!! フウウウウウウウウウウウウウウウン!!(傾き一三五°くらい)



<キャーキャーキャー!! <ワーワーワー!!


一方通行「……ふわァ」



<ガタン!! フウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!(傾き一八〇°くらい)



<キャーキャーキャーキャー!! <ワーワーワーワー!!


吹寄「ぐっ、く、来るわよ回転……!」

姫神「…………」ドキドキ






フウウウウウウウウン……フウウウウウウウウウウウウウウウン!!(傾き三六〇°くらい)



<キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! <ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!


結標「きゃああああああああああああああああああああっ!!」

打ち止め「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!! ってみさみさみさみさみさみさ――」



フウウウウウウウウウウウウウウウン……フウウウウウウウウウウウウウウウン!!(二回転)



<ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! <アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!


吹寄「ぐぐぐっ……!」

姫神「おおっ……」キラキラ



フウウウウウウウウウウウウウウウン!! フウウウウウウウウウウウウウウウン!!(速度上げて二回転)



<グゥゥオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! <がああああ がああああ


禁書「あははははははははっ!! 面白いねひょうかー!!」

風斬「!!?!!?!!?!!?!!?」



フウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!(ノーブレーキで回転中)


一方通行(……さて、この回転が終わればアトラクション終了か。チッ、無駄にバッテリー使っちまったな――)


電極<ビイイイイ!!


一方通行「なっ!? 能力使用モードに使用制限がかかった!? どォいうことだ!?」


打ち止め「ミサカはミサカはミサカはミサカはミサカはミサカはミサカはミサカはミサカは――」ビビビビ


一方通行「あンのクソガキィ、パニクって変な司令ミサカネットワークに流しやがったなァ!? ッ!?」



ピタッ、フウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!(逆向きにノーブレーキで回転中)



一方通行「ふざっけンじゃねェぞ!! ナメやがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」



―――
――





同日 11:40

-スターランドパーク・第二休憩所-


打ち止め「あぁぁぁミサカはミサカは目を回してミサカはミサカは千鳥足にミサカはミサカは――」

結標「初めての絶叫レベル4は相当キツかったみたいね」

吹寄「そりゃそうよ。あたしだってちょっと怖かったんだもの。子どもには辛いわよ」

禁書「ねえねえ、大丈夫ひょうかー?」

風斬「…………、…………」チーン

姫神「そっとしといてあげたほうがいい。結構キツめのアトラクション二連続だし」

一方通行「…………」ズーン

結標「あら、能力使用モード使ってたんじゃなかったのかしら? 随分お疲れのようだけど」

一方通行「……クソガキがパニクりやがって、能力使用モードに制限がかけられちまっただけだ。疲れてねェ」

結標「やっぱり能力は使おうとしていたのね……」

吹寄「ふむ、こんな状態じゃ次のアトラクションへとはいけそうになさそうね。少し休んだら集合場所のゲート前の広場へ行きましょ?」

姫神「了解した」

結標「お昼ご飯何にしようかしら?」

禁書「やっぱりここにあるレストランのパスタがおいしいかったんだよ。あっ、でも個人的にオムライスもおいしいんじゃないかなって気になってはいるんだけど。あっ、あと――」

結標「あ、あはは、ありがとうね。参考にさせてもらうわ」

打ち止め「――ミサカはミサカは……はっ、ミサカは一体なにを……ってミサカはミサカはここ数分の記憶がないことに首を傾げてみたり」

一方通行「オイ、クソガキ。イイ加減能力使用モードの制限を解除しやがれ」

打ち止め「あれ? ミサカそんなものかけてたっけ? ってミサカはミサカは再度首を傾げて考えてみる」

一方通行「さっきのアトラクションでオマエが勝手にパニックになって、無意識のうちに制限しやがったンだよ。さっさと解除しろ」

打ち止め「はえー、よくわかんないけどとりあえず解除の司令出しておくよ、ってミサカはミサカは電波をビビッっと発信してみたり」ビビッ

一方通行「……よし、戻ってきたな」

打ち止め「ところで能力使用モードがアトラクション中に使えないことがわかったってことは、そのときに能力を使っていたってことだよね? ってミサカはミサカは問いかけてみたり」

一方通行「……何が言いてェンだ?」

打ち止め「やっぱりあなたもこのアトラクション怖がっていたんだね、ってミサカはミサカは同族意識を芽生えさせてみたり」

一方通行「オマエと一緒にするンじゃねェ」

結標「やっぱり絶叫マシンダメなのね貴方」

一方通行「……チッ、勝手に言ってろ」

打ち止め「…………」


―――
――





同日 12:10

-スターランドパーク・ゲート前広場-


吹寄「……来ないわね。あの馬鹿ども」イライラ

姫神「たしかに遅いね。もう一〇分経っている」

結標「楽しすぎて時間を忘れてましたー、みたいな感じかしら?」

姫神「上条君がいるから。また何かのトラブルに巻き込まれているのかも」

打ち止め「あー、たしかにヒーローさんならありえるね、ってミサカはミサカはいろいろ思い出しながら納得してみる」

禁書「えっ、またとうまが危ないことに首突っ込んでいるの!?」

風斬「い、いや、まだそうと決まったわけじゃないよ」

吹寄「何にせよ連絡の一つも寄越さないのは気に入らないわ」イライラ



タラララ~♪



吹寄「……って言ってたらかかってきたわね」スッ

結標「誰?」

吹寄「青髪ピアス。……もしもし?」

青ピ『あっ、吹寄さん? ごめーん、ボクらぁそっち行けそうにないわ』

吹寄「はあ? どういうことよ」

青ピ『いまボクら二時間待ちのアトラクションの列の真ん中くらいにおるんよ』

吹寄「何でそんなアトラクションにこんな時間に並んでいるのかしら……?」イライラ

青ピ『ひぃ!? 声色が変わった!? ま、まあそういうわけやから先メシ行っといてーや。こっちはこっちで勝手に食っとくから』

吹寄「……わかったわ。ただこの連絡があと一〇分早くかかってきていたら、あたしがこんなにイライラすることもなかったんだけど」

青ピ『メンゴメンゴ! そういうことで切るわ。ほな……』ピッ

吹寄「ちょっと! そんな雑な謝罪であたしが許すと……くっ、切りやがったわね」

姫神「青髪君。なんだって?」

吹寄「アトラクションの列に並んでるからこっちに来れないそうよ。だから先にお昼ごはん行ってくれって」

禁書「えっー? とうまたち来ないのー?」

姫神「上条君になにか用?」

禁書「うん。ちょっと朝もらったお金じゃ足りなさそうだからもらおうかなって。途中ソフトクリームとかいろいろ買ったからお昼代足りないかも」

姫神「ちなみに。そのお金もらったとき。上条君なにか言ってなかった?」

禁書「えっとねー、『この樋口様が今日一日のお前の軍資金だからな。大事に使うんだぞ? わかったな?』って言っていたんだよ」

姫神「……だったら。上条君と会ったところで。もらえないんじゃない?」

禁書「そうなの?」

姫神「そう」




吹寄「そういうわけだから、お昼食べにいきましょうか。どこ行く?」

結標「さっきインデックスが言っていたレストランとか? あー、でも時間が時間だから人多そうよね」

姫神「屋台で売ってるようなもので済ませる。というのも一つの手」

吹寄「そうね。あんまり食べすぎてもあれだしね」

禁書「屋台ならホットドッグがおいしかったんだよ!」

打ち止め「本当にいろいろなこと知ってるねインデックスは。食べ物限定だけど、ってミサカはミサカは感心してみる」

吹寄「だったら屋台が集まっているところで昼食と行きましょうか。各々好きなもの買って食べるってことで」

結標「なら私が空いてる席探しておくわ。だから先に屋台に行って買ってて」

姫神「結標さんの分。よければ私が買ってこようか?」

結標「そう? だったらインデックスおすすめのホットドッグでお願い」

姫神「わかった」

吹寄「じゃ、そういうことで一旦解散!」

禁書「ひょうかー! 一緒に屋台見に行こー!」

風斬「う、うん。と、ところでお金は、大丈夫なの?」

禁書「……な、なんとかこの残りのお金で頑張ってみるよ」

打ち止め「よーし、こういうときこそあの人にたかればいいんだよ。ねえねえアクセラレータ? ってミサカはミサカは上目遣いで声をワントーン上げて話しかけてみたり」


一方通行「…………」ボォー


打ち止め「……あっ、またぼーっとしちゃってるや。おいおーい! アクセラレータ! ってミサカはミサカはぴょんぴょん跳んで存在感をアピールしてみたり」ピョンピョン

一方通行「……ンだよクソガキ」

打ち止め「あなたぼーっとし過ぎだよ。毎回毎回こんなんじゃテンポが悪くなっちゃう、ってミサカはミサカは文句垂れてみたり」

一方通行「チッ、クソ長げェ語尾いちいち使ってやがるオマエには言われたくねェよ。で、何の用だ」

打ち止め「一緒にお昼ごはん買いに行こうよ! ってミサカはミサカは屋台を指差しながら誘ってみる」

一方通行「何で俺が付いていかなきゃいけねェンだ。金ねェンなら適当に渡すからオマエらだけで行け」つ一万円札

打ち止め「ええぇー? そんなにくれるのー? 悪いよー、ってミサカはミサカはニヤつきながらお金を受け取ってみる」

一方通行「チッ、そのムカつく面ァのせいで悪いなって気がかけらも感じられねェなァ」




打ち止め「よし、お金が手に入ったぜ! 二人とも、屋台に行こう! ってミサカはミサカは隊長気分で先導してみたり」

禁書「わーい、ごはんだー!」

風斬「う、うん……」

一方通行「チッ、うっとォしいガキだ」

打ち止め「……あっ、そうだ。アクセラレータ!」

一方通行「あァ?」

打ち止め「アワキお姉ちゃんがどこかでお昼食べる場所取ってるはずだから、そこにいって一緒にみんなを待ってるといいよ、ってミサカはミサカは目的地を示してあげてみたり」

一方通行「…………」

打ち止め「……あれ? どうかした? ってミサカはミサカは急に黙り込んだあなたを見て首を傾げてみる」

一方通行「……気が変わった。俺も屋台からの匂い嗅いでたら腹ァ減ってきた。俺も行く」

禁書「あくせられーたも来るんだ! だったら、私がおすすめの屋台を紹介してあげるかも」

一方通行「オマエのおすすめなンざ当てにするかよ」

打ち止め「……はぁ、そっか。じゃあ、一緒にいこう、ってミサカはミサカはあなたの手を掴んで駆け出してみたり」トテチテ

一方通行「杖突きのヤツの手を無理やり引っ張ってンじゃねェよクソガキが」ガチャリガチャリ

風斬「…………」

禁書「どうかしたの?」

風斬「……、なんでもないよ。私たちも行こっか」

禁書「うん!」


―――
――





同日 12:30

-スターランドパーク・屋台広場周辺休憩所-


禁書「やっぱりここにある食べ物は全部おいしいんだよ!」ガツガツパクパク

吹寄「相変わらずすごい量ね……成人男性が一日に必要な摂取カロリー分くらいあるんじゃない?」

風斬「あはは……」

吹寄「さて、午後一で行きたいやつなにかあるかしら?」

結標「うーん、食後だからあんまり激しいのはキツイかな?」

姫神「ならば。絶叫レベル2くらいに下げたほうが。いいかもしれない」

打ち止め「別にミサカは3でもイイと思うけどなー、ってミサカはミサカは焼きそばの中にあるピーマンを避ける作業をしながら進言してみる」

結標「ちゃんと嫌いなものも残さず食べなさい」

姫神「レベル3のアトラクションは。大したことないなってヤツと。これけっこうキツイってヤツが。混在しているから。注意して選ばないといけない」

禁書「へー、そうなんだ。詳しいねあいさ」モグモグ

姫神「過去に行った経験と。このアプリに書かれてるレビューとかを見て。そう思っただけ」

吹寄「まあ、絶叫度って言ってもジャンルによっては意味が変わってくるわよね。たとえばスリルを味わう絶叫マシンとビックリ系のアトラクションだと体にかかる負担も変わってくるわ」

姫神「なるほど。いわゆるお化け屋敷みたいなやつだと。食後でも普通に楽しめそう」

打ち止め「うっ、お、お化け屋敷はちょっとやめたほうがいいんじゃないかなぁ、ってミサカはミサカはトラウマを思い出してみたり」

結標「あー、たしかにあれは怖かったわよね」

吹寄「ここのお化け屋敷に行ったの?」

結標「うん。5レベのヤツ」

吹寄「たしかにそれはトラウマになってもおかしくないわね」

結標「それにちょっとした騒ぎ起こしちゃって大変だったわ。ねえ一方通行?」


一方通行「…………」ボォー


結標「…………」

姫神「なにがあったの? 騒ぎって」

結標「いや、まあ、いろいろとね?」

姫神「?」

結標「あはは、それより次行くところ決めましょう」




吹寄「それだったらまたジェットコースターはどう? さっきのは足場なしのやつで風斬さんたちが乗れなかったから、普通のにして再チャレンジよ」

姫神「そうだね。レベル2までランクを落とせば。打ち止めちゃんでも難なく乗れる」

打ち止め「ふははははっ! 絶叫レベル4を経験したミサカからすれば、レベル2のジェットコースターなど余裕余裕! ってミサカはミサカは腰に両手を当てて高笑いしてみたり」

禁書「あれ? さっき記憶がないとか言っていたよね?」パクパク

打ち止め「ミサカネットワークからダウンロードしました、ってミサカはミサカは簡潔に説明してみる」

禁書「はえー、なんかすごいんだよ」マグマグ

姫神「ちなみに。セブンスターズレディバグっていうのが。絶叫レベル2のジェットコースター」

打ち止め「どこかで聞いたことある名前だね、ってミサカはミサカは懐かしさを感じてみたり」

結標「たしか子供用のジェットコースターじゃなかったかしら?」

吹寄「へー、絶叫レベル2で子供向きの扱いになるのね」

姫神「まあ。レベル1が普通のメリーゴーランドとか。普通のコーヒーカップとかだから」

吹寄「うーん、しかし高校生が揃いも揃って子供用のジェットコースターに乗ってる様ってどうなのかしら?」

姫神「言いたいことはわかる」

打ち止め「ならば2じゃなくて3にすればいいんじゃないかな? ってミサカはミサカは提案してみる」

吹寄「……そうね。食後にしっかり休憩しておけば、多少の激しいアトラクションでも大丈夫でしょ」

姫神「絶叫度レベル3のジェットコースターは。さっき乗ったヤツを除いてあと四つ。スカイラインコースター。ツインコースターストライク。バック・トゥ・ザ・ゴール。ユー・アー・スーパーマン。以上」

吹寄「何でそんなにジェットコースターがたくさんあるのよ?」

結標「他の種類のアトラクションもだいたいそんな感じよ」

姫神「この中だとスーパーマンの安全装置が。足を通すものだから。行くとしたら他三つ」

打ち止め「スカイラインは前乗ったことあるからわかるけど、他のってどんなの? ってミサカはミサカは好奇心を高めてみたり」

禁書「たしかついんこーすたーすとらいくは、乗り物が二台隣り合ってレールを走るヤツだったんだよ」ムシャムシャ

風斬「……乗ったことあるの?」

禁書「うん、そうだよ! あいさとこもえ一緒に乗ったんだよ!」

吹寄「もう一個のバックなんとか、ってヤツは?」

姫神「バック・トゥ・ザ・ゴール。後ろ向きに走るジェットコースター」

吹寄「なるほどね。ってことは、誰も乗ったことないのはそのバック・トゥ・ザ・ゴールだけってことだから、次乗るのはそれ?」

姫神「別に私たちに気を使う必要はない。好きなのに乗ればいい」

結標「私もそう思うわ」

吹寄「そう。じゃあ、特にこれに乗りたい、ってのがないならそのときに空いていそうなアトラクションへ行くとしましょうか」

打ち止め「よーし、そうと決まればさっさとご飯を食べてジェットコースターへ行くとするぜ、ってミサカはミサカは焼きそばをかきこんで――ごほっ!?」

結標「別にジェットコースターは逃げはしないんだから、落ち着いて食べなさいよ」

吹寄「よく噛んで食べないと消化に悪いわよ?」

禁書「そうだよらすとおーだー。ちゃんと噛まないと……よし、ごちそうさまでした!」

打ち止め「インデックスにだけは言われたくないよ、ってミサカはミサカはもの言いたげな目で見つめてみたり」ジトー

姫神「あの量で。誰よりも先に食べ終わるのか……」


―――
――





同日 13:00

-スターランドパーク・道中-


姫神「……待ち時間と距離で考えれば。ツインコースターが一番良さそう。待ち時間は四〇分で徒歩一〇分もかからないくらい」

吹寄「ならそこにしましょうか」

結標「しかし、ジェットコースターがいくら花形とはいえ、待ち時間四〇分もあるのは人が増えてきてるってことよね」

吹寄「そうね。気持ち、周りにいる人の数が増えてる気がするもの」

打ち止め「よし、そうと決まれば善は急げだ。人が集まる前にツインコースターへ向かうのだ! ってミサカはミサカは……ん? ひいっ!?」

禁書「? どうかしたのらすとおーだー」

打ち止め「あ、あ、あ、あれ。ってミサカはミサカは震える手を必死に動かしながら指で指してみる」ガクブル

風斬「あれ……?」



『恐怖! Dr.GENSEIの館』



風斬「ひっ!?」

吹寄「あれって……もしかしてさっき言ってた絶叫レベルマックスのお化け屋敷?」

結標「そうよ。懐かしいわねー」

姫神「たしかに。レベル5と言われるほどの。雰囲気はある」

打ち止め「ああああああああああ、ちょ、ちょっとー!? せっかく忘れてたのにあのときの記憶ネットワーク上にばらまくのやめてよー!! ってミサカはミサカは意地悪してる下位個体たちに文句を言ってみたり!」

禁書「何を一人で騒いでいるのかな?」



<おおーい!!



打ち止め「……うん? なんか聞き覚えのある声が聞こえてきたような、ってミサカはミサカは耳を澄ませてる」



<おおーい! 打ち止めちゃーん!



打ち止め「……あっ、この声はもしかしてえんし――ひゃっ!?」



円周(ゾンビメイク)「打ち止めちゃーん! まさかこんなところで会えるとは思ってなかったわけじゃないけど思ってなかったことにしよう」



打ち止め「ぎゃああああああああああああああああああっ!? なんかエンシュウみたいなゾンビがこっちに向かってきたー!? ってミサカはミサカは思いがけない事態に思考が追いつかなくなってみたり!」






円周「あっ、そういえばメイクしてるの忘れてた」

結標「円周ちゃんじゃない。どうしたのよこんなところで……というか何その格好?」

円周「ああ、やっぱり淡希お姉ちゃんたちもいたんだね。私はここでお仕事の手伝いしてたんだー」

結標「お仕事の手伝い?」

円周「うん。そこの安っぽいお化け屋敷の手伝い」スッ



『恐怖! Dr.GENSEIの館』



結標「円周ちゃんが手伝っているってことは……木原さんたちの出張先って――」



数多「おう。そういうことだ」



打ち止め「あっ、キハラだ。こんなところで何やってるの? もしかして遊んでる? ってミサカはミサカはサボリ疑惑を浮かべてみたり」

数多「馬鹿言ってんじゃねぇぞクソガキ。仕事だ仕事」

円周「えぇー? でも社員のみんな何かしらやってるのに、数多おじちゃんだけ何もやってないよね? 実質それはサボっていると同等なんじゃ?」

数多「何いってんだテメェ。俺はあれだ、ここのお偉いさんとかといろいろ打ち合わせとかしてたんだよ」

円周「打ち合わせとか言ってるけどどうせあれだよ。キャバクラとか行ってたっかいお酒とかゴチになってるに決まってるよ。ほんとおっさんはいやだねー」

打ち止め「ねー、ってミサカはミサカは同意してみたり」

数多「昼間っからんなとこ行くかよ。アホくさ、勝手に言ってろ」

結標「そういえば前も仕事でここに来てましたよね? たしかここのオーナーさんに世界一のお化け屋敷を作ってくれって依頼があったとか何とか」

数多「そうだ。で、作ってやったのはいいが、俺が離れてからクオリティが著しく下がっちまったらしくてな。それを立て直してくれってまた依頼が俺んとこに来たってわけだ」

結標「へー、そうだったんですか」


姫神「……あの人は?」

吹寄「木原さんっていう結標さんたちの部屋の隣に住んでるなんでも屋をやってる人」

姫神「ああ。あの人が花見のときに。能力使用モードのアクセラ君を殴り飛ばしたって人か」

吹寄「うん。今でも信じられないわね。あのアクセラを正面から殴り飛ばすなんて」

風斬「……、あ、あの人は」

禁書「ひょうか? もしかしてあの人と知り合いなのかな?」

風斬「……ううん、知り合いってわけじゃない、かな?」

禁書「ふーん」

風斬「…………」




数多「――そういうわけで、あのお化け屋敷は前来たときより数段レベルアップしているっつーわけだ。何ならちょっと寄って試していくか?」

結標「い、いえ。これからジェットコースターに行こうとしてるので、またの機会にお願いします」

数多「そうか、そりゃ残念。まあ、またあのクソガキに暴れられて設備ぶっ壊されても困るしいっか」

結標「あはは、すみませんでしたあのときは」

数多「……そういや、こういう話題出したら真っ先に食い付いてくるヤツが来ねぇな」


一方通行「…………」ボォー


数多「あん? 何一人たそがれてんだあのクソガキは?」

結標「……もう、また……」イライラ

数多「……ふーん、面白れェことになってんじゃねえか」

結標「えっ、それってどういうことですか?」

数多「まあ、そのうちわかるだろ」

結標「?」

数多「それじゃ仕事に戻るとすっか。おい、行くぞ円周」

円周「はあい。あっ、そうだ打ち止めちゃん。この遊園地に打ち止めちゃんが好きそうなイベントがあるのは知ってる?」

打ち止め「ミサカが好きそうなイベント? それってどんなの? ってミサカはミサカは興味を持ってみる」

円周「ヒーローショーみたいなものなんだけど。それのタイトルが『そげぶマンvs超機動少女カナミン』ってヤツなんだ」

打ち止め「なんだって!? あのそげぶマンと超機動少女カナミン(マジカルパワードカナミン)に会えるの!? ってミサカはミサカは夢の共演に胸を躍らせてみたり」

円周「二つとも元はアニメだから、特撮ヒーローみたいな感じのヤツじゃなくて精巧な立体映像なんだけどね。まあ、子供だましにはなるかなあ」

打ち止め「それはいつどこであるの!? ってミサカはミサカは5Wのうちの2Wを聞いてみたり」

円周「たしか一四時からかな。場所はイベント広場だよ」

打ち止め「うおお、これは絶対に行かねば、ってミサカはミサカは決心を固めてみたり」

円周「カナミン目当ての豚みたいなお兄さんたちが早々に場所取りしているって噂だから、今のうちに行って場所確保したほうがいいかもねー」

打ち止め「そうなんだ。貴重な情報ありがとうエンシュウ、ってミサカはミサカは笑顔でお礼を言ってみたり」ニコッ

円周「また感想教えてねー。じゃあ、私はあのボロお化け屋敷で馬車馬のように働かされてくるよ。ばいばーい」ノシ

打ち止め「ばいばーい、ってミサカはミサカは手を振って見送ってみたり」ノシ




禁書「ええっー!? あのカナミンに会えるのー!?」

打ち止め「そうだよ。一四時からイベント広場でやるらしいよ、ってミサカはミサカは同志に有益な情報を伝えてみたり」

禁書「私も見に行きたいんだよ!」

吹寄「一四時か。ってことは今からジェットコースターに行って帰ってからだったら、時間に間に合わないかもしれないわね」

打ち止め「エンシュウが言うには、豚みたいなお兄さんたちが早くから場所取りしてるから、早めに行ったほうがいいんだって、ってミサカはミサカは聞いたまま言ってみたり」

吹寄「ぶ、豚……?」

打ち止め「そういうわけだから今すぐイベント広場に向かわなければ、ってミサカはミサカは使命感に燃えてみたり」

禁書「うおおおおっ!」

結標「別に行くのは構わないんだけど、二人だけで大丈夫?」

打ち止め「ミサカだっていつまでも子供じゃないからね。イベント広場に向かうことなんて造作も無いことだぜ、ってミサカはミサカは自信に満ち溢れた表情をしてできるアピールをしてみたり」

禁書「私の完全記憶能力を使えばイベント広場を探すのなんて簡単なんだよ!」

姫神「まず。探すとか言ってる時点で。完全記憶関係ない」

風斬「……で、でしたら。私が付いていきます」

禁書「ひょうかもカナミンが見たいんだね」

風斬「そ、そういうわけじゃないけど……」

吹寄「……風斬さんがそっちに行くってことは、こっちがジェットコースターへわざわざ行くこと必要性が薄くなってくるわね」

結標「だったら、そのヒーローショーが終わってからみんなで行きましょ?」

風斬「ごめんなさい。勝手なことを言って……」

打ち止め「……ってことは、みんなも一緒にヒーローショーへ行くってこと? ってミサカはミサカは同志が増えたことに喜びを覚えてみたり」

姫神「いや。さすがにそれは。ちょっと」

結標「間の時間は別のアトラクションで遊んでるわよ」

打ち止め「なんだぁー、せっかくみんなで声援を送れると思ったのにー、ってミサカはミサカは唇を尖らせてみたり」

吹寄「ごめんなさいね」

結標「つまり、ヒーローショーに行く組と普通にアトラクションで遊ぶ組に分かれるってことね」

姫神「ヒーローショーが終わる時間が。おそらく一五時くらいだろうから。そこで喫茶店とかで小休憩に入るのはどうだろう?」

吹寄「いいわね、それ。じゃあ、それくらいの時間で喫茶店に集合しましょ」

禁書「やった! おやつの時間だね、わかったんだよ!」

吹寄「ところでアクセラ? あなたはどっちに付いていくつもり?」


一方通行「…………」ボォー


吹寄「……アクセラ?」

結標「…………」

一方通行「……ああ、悪りィ。何の話してたンだ?」

吹寄「えっと、ヒーローショーに――」



結標「――ちょっと!! 一方通行ッ!!」



みんな「!?」

一方通行「……あァ?」




結標「さっきから本当に……いい加減にしなさいよ!」

一方通行「……悪りィ」

結標「またそれ!? さっきからそんなふうに謝ってばっかじゃない! 本当に悪いと思っているわけ!?」

一方通行「…………」

吹寄「ちょ、ちょっと結標さん……」

結標「だいたい貴方言ったわよね? 風邪はもう治った。俺は万全だって。なのに何でそんないつまでもずっとぼーっとしてんのよ!?」

一方通行「……オマエには関係ねェよ」

結標「関係ないわけないわよ! そのせいでみんなで楽しく遊園地で遊ぼうっていう空気を壊してるのよ!?」

一方通行「……現在進行系でぶっ壊してンのはオマエだろ」

結標「元の原因は貴方でしょ!?」

一方通行「…………」

結標「…………」


風斬「あの……えっと、………その」

姫神「……二人とも。そのへんに――」


結標「そもそも貴方、遊園地まで遊びに来ててもしなきゃいけない考えごとって何なのよ!? そんなに大事なことなわけ!?」

一方通行「……だから言ってンだろ。オマエには関係ねェって」

結標「ふーん、そうなんだ。そうやって隠すってことは相当大事なことみたいね? みんなと遊ぶことを置いといて考えるくらいには」

一方通行「……勝手に決めつけてンじゃねェよ」

結標「貴方はここに何しに来たのよ? 今は遊ぶことだけ考えればいいのに、ずっと別のこと考えててわけわからない!」

一方通行「……俺の勝手だろォが」

結標「その勝手がハッキリ言って迷惑なのよ! 会話にも全然参加しないし、かといってこっちから喋ったらいちいち何の話してんだって聞いて説明させて……!」

一方通行「……知るかよ」

結標「ぐっ、……もういいわ! 二人とも行こ!?」

吹寄「えっ、ちょっと……」

姫神「いいの? 結標さん」

結標「あんなヤツもう知らないわよ。勝手にどっかの喫茶店にでもこもって、ずっとコーヒー片手にぼーっとしてるがいいわ! このバカセラレータ!!」ズカズカ


一方通行「…………」

風斬「……えっと、結標さん。行っちゃいましたよ?」

禁書「一体これはどういうことなの? あわきもあくせられーたも何かおかしいよ?」

一方通行「別におかしくはねェよ。俺もアイツもあンなモンだろ」

禁書「嘘だよ。絶対におかし――」


一方通行「おかしくねェっつってンだろォが!! さっさとヒーローショーにでも何でも行ってろクソガキどもッ!!」


禁書「……わかったんだよ。いこ? ひょうか。らすとおーだー」

風斬「う、うん……」

打ち止め「…………」



――――――


このギスギスは次回で終わるから我慢してね

次回『迷い』

主人公とヒロインがキャラ崩壊する回

投下



16.迷い


~回想~


March Forth Tuesday 08:00 ~修了式の日~

-第七学区・とある公園-


一方通行「…………」ピッガチャン

一方通行「…………」ガチャリガチャリ

一方通行「…………」←ベンチに座る


一方通行「…………はァ」



『――私は、貴方のことが、一方通行のことが好きってことなのよね』



一方通行「さて、どォすりゃイインだこれ」


一方通行(風邪で寝ているときに気配を感じて、意識を覚醒させたと思ったらあの女が妙なことをつぶやきやがった)

一方通行(このクソ野郎が一生かけてもらうこともねェだろう言葉をだ)

一方通行(まさか、ヤツが俺をそォいう対象で見ているなンて思いもしなかった。気付けやしなかった)


一方通行「…………いや、違うな」


一方通行(本当は既に気付いていたのかもしれない。なぜなら思い当たる節が腐るほどあるからだ)

一方通行(クリスマスやスキー旅行、バレンタインや花見、他にも些細な日常の中にも気付けるポイントが沢山あったはずだ)

一方通行(なのに、あの言葉を聞いてここまで驚けるっつゥことは)

一方通行(無意識のうちに、気付いていないフリをしていたのかもしれない)


一方通行「……チッ、こンなンじゃ上条のこと笑えねェな」


一方通行(とにかく、俺はアイツの気持ちを知った上でこれからどォするのかを考えなきゃいけねェ。……いや、それは考えるまでもねェか)

一方通行(そもそも俺とアイツは、互いの気持ちがどォあれ決して結ばれることがない存在だからだ)

一方通行(なぜかというと、アイツの抱えている一番の問題である記憶喪失、それの原因が紛れもないこの俺、一方通行だからだ)

一方通行(去年の九月一四日。アイツと俺は敵対関係にあり、交戦し、その戦いの結末は俺の一撃で決した)

一方通行(それが原因でアイツは記憶を失い、そこからどォいうわけか、俺とアイツは同じ家に居候する同居人になり、同じ学校に通うクラスメイトという関係になっていた)

一方通行(アイツはこのことを知らないだろう。知っていたら、あンなに馴れ馴れしく接してきたり、昨日みたいな馬鹿な言葉を吐くこともなかっただろォ)

一方通行(……つゥか、何で俺はこの真実をヤツに伝えていなかったンだ? 今まで機会がなかったわけじゃなかっただろうに)

一方通行(さっさと伝えていれば、こンな面倒な事態にならなくて済ンだっつゥのに何やってンだ俺はァ)

一方通行(単に伝えるのが面倒臭かったからか? 喋ることが原因で血みどろの闘争が起こるかもしれないことを警戒したからか?)



一方通行「……そォじゃねェ。伝えなかったンじゃない。伝えられなかったンだ」






一方通行(俺とアイツが生活を共にしておおよそ半年。その中でいろいろなことがあった)

一方通行(面倒で退屈な学校生活を送ってきたり、馬鹿みたいでくだらねェイベントごとにも散々参加させられたりもした)

一方通行(いつもアイツは隣にいて、小言をグチグチ言ってきたり、面倒事を引っ張って来たり、馬鹿みたいに笑ったり)


一方通行(そンなアイツの存在が、いつの間に俺の中のでデカくなっていたンだ)


一方通行(アイツがいるこの日常を壊してしまうンじゃねェか、そンなことを感じて俺は真実を自分の中に押し留めたンだ)

一方通行(そンなクソみてェなことをしながら、俺はのうのうと今まで過ごしてきたっつゥことだ)



一方通行「……情けねェ話だなァオイ。いつの間にこンなに弱くなっちまったってンだァ? なあ、学園都市最強の超能力者(レベル5)さンよォ?」



一方通行(今さらそンなこと言ったって何も変わらねェ。考えるべきは今後どォするべきか、だ)

一方通行(さっきも言ったが俺とアイツは結ばれることはない、結ばれてはいけない関係だ)

一方通行(第五位曰くアイツの記憶喪失は、以前までの自分とその記憶が奥底に押し込められていて、全く違う人格が本人を演じているタイプらしい)

一方通行(つまり、アイツが記憶を取り戻した場合、それは俺とアイツの敵対関係にあった当時の人格が蘇るということになる)

一方通行(さっきまで敵対関係にあったヤツと気が付いたら恋人関係にありました、なンてことになったらアイツに多大な精神的苦痛を与えることになる)

一方通行(そうならないよォにするほうが俺にとっても、アイツにとってもいいだろ)

一方通行(まァ、それに関しては今の関係でも起こり得ることだから今さら、か……)


一方通行「……それ以前に俺は償いきれない罪を犯した。そンなモンになる資格なンざ端からねェよ」


一方通行(さて、アイツの中にある想いっつゥのは、寝ている俺にあンなことを言い出すくらい、強くなってきてやがる)

一方通行(いずれ俺の目の前に立って、同じセリフを言う時が来るのもそォ遠くないだろう)

一方通行(そのとき俺は、一体何て答えてやりゃイインだ? どうしてやるのが正解だってンだ?)



一方通行「……面倒臭せェ」



―――
――





March Forth Wednesday 13:30

-スターランドパーク・道中-


結標「ごめんなさいね二人とも。嫌な気持ちにさせちゃって」

吹寄「あ、うん。あたしは別にいいけど」

姫神「…………」

結標「気を取り直して遊びましょ? どこいく? 私的にはこことかどうかなって思うんだけど」

姫神「結標さん」

結標「何?」

姫神「本当に。いいの?」

結標「いいって何が?」

姫神「何って……」

結標「ああ、もしかしてアイツのこと? いいのよあんなヤツ。みんなで遊ぼうってときにそれを放っておいて上の空なんて最低だわ」

吹寄「た、たしかにそれはそうだけど……」

結標「あんなのと関わっていたらせっかくの楽しい遊園地が台無しよ。喫茶店にでも休憩所にでも行って大人しくしてくれてたほうがいいに決まってるわ」

吹寄「でも、あれってやっぱりアクセラ本調子じゃなかったってことじゃないかしら? たぶんまだ風邪が残っているんじゃない?」

結標「……その可能性もあるかもしれないわ。でも本人が治ったって言っている以上、治った振る舞いをするべきだと私は思うわ」

吹寄「もしかしたら、どうしても遊園地に来たくて体に鞭打ってここに来てる可能性も……いや、ないか」

結標「ないわね。もしそんな体調が優れない状態ならきっとそれを理由に来ないに決まっているわよ」

吹寄「……うん、そうかも」

結標「でしょ?」

姫神「…………」

結標「そういうわけだから、あとは私たちだけで楽しみましょ?」

姫神「……結標さん」

結標「何かしら?」

姫神「大丈夫?」

結標「……何言ってるのよ私は平気よ?」

姫神「……そう。それならいい」

吹寄「…………」


―――
――





同日 13:45

-スターランドパーク・第四休憩所-



一方通行「…………」ボォー



『貴方さっきから本当に……いい加減にしなさいよ!』



一方通行「……何やってンだ、俺は」ボソッ


打ち止め「――アクセラレータ」


一方通行「……クソガキか。何の用だ」

打ち止め「あなたに話があるの、ってミサカはミサカは真剣な眼差しを向けてみる」

一方通行「ヒーローショーとやらには行かなくてもイイのかよ」

打ち止め「場所はインデックスたちに確保してもらってるから大丈夫だよ、ってミサカはミサカはこの場に居ていいことを説明してみる」

一方通行「そォかよ。で、話って何だよ」

打ち止め「さっきのなんなの? ってミサカはミサカは問いかけてみる」

一方通行「さっきだと? いつのことだ?」

打ち止め「誤魔化さないでよ。アワキお姉ちゃんとの口論のことだよ、ってミサカはミサカは単刀直入に言ってみる」

一方通行「口論だァ? あの女が勝手にグチグチ喚いていただけだろォが」

打ち止め「じゃあ質問を変えるよ。昨日からずっとアワキお姉ちゃんとの間に壁みたいなのを作ってるよね? それは一体何で? ってミサカはミサカは問いかけてみる」

一方通行「そンなモンねェよ。オマエの勘違いだ」

打ち止め「じゃなかったらアワキお姉ちゃんがあんなふうに怒ったりしないよ。だから勘違いじゃない、ってミサカはミサカは反論してみたり」

一方通行「アレは俺がこの遊びに積極的じゃねェからキレただけだろ」

打ち止め「あくまでそれはきっかけだと思う。アワキお姉ちゃんもきっと感じていたんだ、あなたとの間に壁みたいなものを、ってミサカはミサカは推測してみる」

打ち止め「そしてアワキお姉ちゃんは不安になって、それに加えてあなたの心ここにあらずの態度を見て、どうすればいいのかわからなくなって……」

一方通行「虫の居所が悪かっただけだろォよ」

打ち止め「ねえ、アクセラレータ」

一方通行「あァ?」

打ち止め「あなたがアワキお姉ちゃんに対してそんなふうになっている理由、聞いてもいい? ってミサカはミサカはあなたの目をジッと見つめてみる」

一方通行「理由も何も俺はもともとこンな――」



打ち止め「もしかして、アワキお姉ちゃんがあなたに対して想っている気持ちが関係あったりするんじゃないかな? ってミサカはミサカは核心をついた質問をしてみたり」





一方通行「ッ……」

打ち止め「……少し反応したね。やっぱりそうなんだ、ってミサカはミサカは確信してみる」

一方通行「クソガキのくせに何言ってやがる。アイツが俺のことをそンなふうに想っているだァ? ンなわけねェだろ。クソみてェな妄想垂れ流してンじゃねェよ」

打ち止め「これは妄想じゃないよ。ミサカは事実を言っているんだよ、ってミサカはミサカは否定してみる」

一方通行「何を証拠に言ってやがンだクソガキ。あンま適当言っているとたとえオマエだろォとブチのめすぞ?」

打ち止め「ミサカ、知ってるんだ。一昨日の、あなたが風邪を引いて寝込んでる日の晩に、あなたの部屋であったことを」



『――私は、貴方のことが、一方通行のことが好きってことなのよね』



打ち止め「アワキお姉ちゃんがあなたに対して『好き』って言ったことを、ハッキリこの耳で聞いたんだ! ってミサカはミサカは声を張り上げてみたり!」

一方通行「……何で知ってやがる」

打ち止め「あの日、晩御飯ができたことをあなたの部屋にいるアワキお姉ちゃんに伝えに行こうとしたんだ。そしたらあなたの部屋の扉越しから聞こえてきたんだ、ってミサカはミサカは当時のことを説明してみたり」

一方通行「…………」

打ち止め「さっきあなたは何で知っている、って質問したよね? ってことはあなたもあの言葉を聞いていた、知っていたってことだよね? ってミサカはミサカは問い詰めてみる」

一方通行「……さァな。知らねェよンなモン」

打ち止め「とぼけないでよ!! 今さらそんなことを言ってももう遅いんだよ!! ってミサカはミサカは投げやりな嘘をつかれたことに憤りを感じてみたり!」

一方通行「……うるせェよ」ボソッ

打ち止め「何?」

一方通行「うるせェよっつってンだよ!!」

打ち止め「!?」


一方通行「……ああ、そォだよ!! 俺はアイツの『好き』っつゥ言葉を聞いた!! 俺に対してのなァ!! アイツ自身は知らねェだろォがなァ!! だから、それがどォしたってンだ!?」


打ち止め「だから……あなたはアワキお姉ちゃんにあんないい加減な態度を取ってたんだね? ってミサカはミサカは冷静な口調で問いかけてみる」

一方通行「結果的に見ればそォなるだろォなァ」

打ち止め「何でそんなことをしたの? ってミサカはミサカは率直な疑問を投げかけてみる」


一方通行「やりたくてやったンじゃねェよ。アイツの気持ちを知ってから、アイツとどンなふうに喋ればイイのか、アイツの言葉にどンな反応すればイイのか、アイツに何て言ってやればイイのか」

一方通行「わかンねェンだよ! そォしたらよォ、あンなふうにもなるだろォが! 何の気持ちもこもってねェ言葉を捻り出すしかできない、決まった文言しか喋れねェおもちゃみてェによォ!」

一方通行「オマエにはわからねェだろォなクソガキィ。こンなクソみてェな感情なンてよォ」




打ち止め「そうだね。ミサカは異性に『好き』なんて言われたことないから、そんなふうに悩んだりしたことないからわからないよ、ってミサカはミサカは事実を述べてみる」

一方通行「そンなオマエがこの俺に説教垂れよォとするなンて、面白れェ話だよなァ?」

打ち止め「説教? ミサカはそんなことをするつもりは最初からないよ、ってミサカはミサカは否定してみる」

一方通行「あァ? じゃあオマエは何で俺の目の前に突っ立って生意気な言葉ァ並べてンだ? オマエは一体何がしたいンだ?」

打ち止め「ミサカはね、あなたにこの一言を言うためにこの場にいるんだよ、ってミサカはミサカは返答してみる」

一方通行「チッ、一体ナニを――」



打ち止め「――決断することから逃げないで」



一方通行「……逃げるな、だと?」

打ち止め「あなたはどうすればいいのかわからないというのを言い訳にして、どちらか決めることを避けているんだ。アワキお姉ちゃんの気持ちを受け入れるか否か」

打ち止め「このままあなたを放っておけば、一生こんな曖昧なことを続けて、アワキお姉ちゃんを傷付け続けていくに決まってるよ、ってミサカはミサカは予測してみる」

打ち止め「だから、ミサカがこうやってあなたに忠告しているんだ、ってミサカはミサカは改めてこの場に立つ理由を示してみたり」

一方通行「ケッ、クソガキのくせに恋のキューピッド様にでもなろォってか? くっだらねェ」

打ち止め「そんなつもりはないよ、ってミサカはミサカは冷静に否定してみる」

一方通行「そォかよ。つゥか決断しろっつってもよォ、ンなモン初めから決まってンだろォが。大体なァ、俺はあンなクソアマのことなンざ何とも思ってねェンだぜェ?」

打ち止め「…………」

一方通行「何なら今からあの女のところに行ってよォ、『オマエのことなンざ何とも思ってねェンだよ。俺と一緒にいること自体がおこがましいとは思えなかったのか? このアバズレがァ』って貶してやってもイインだからなァ?」

打ち止め「……嘘をついてるね、ってミサカはミサカはバッサリと切り捨ててみる」

一方通行「ハァ? ナニ言ってンだオマエ? これが俺の思っていることそのまま――」

打ち止め「半年間、ずっと一緒に過ごしてきたんだよ?」

一方通行「…………」


打ち止め「たしかに親子とか兄弟とかみたいな関係の人達と比べたら圧倒的に短い時間かもしれないよ。それでも、ミサカにはわかるよ」

打ち止め「あなたが今嘘をついているってことぐらい、ってミサカはミサカは見抜いてみたり」


一方通行「……残念ながらそれは間違いだ。オマエは俺のことなンてまるでわかっちゃいねェ」

打ち止め「そう……なら、仮にそれがあなたの本心だったとしたら、何であなたはそんなふうに悩んでいるの? ってミサカはミサカは矛盾点を指摘してみたり」

一方通行「ッ……」

打ち止め「なんで?」

一方通行「…………」




打ち止め「答えられないよね? だってそうだよ。あなたがそんなふうに思っているような人だったなら、とっととアワキお姉ちゃんにそう言って関係を終わらせているよ」

打ち止め「でも、本当は違うんだよね? 違うからこそあなたはこんなふうに悩んで、苦しんでいるんだ、ってミサカはミサカはあなたの心情を言葉にしてみる」


一方通行「……チッ、だったらどォしたってンだよ」

打ち止め「さっきも言ったよね? 決断することから逃げるな、って。アワキお姉ちゃんのことを大事に思っているならなおさらだよ、ってミサカはミサカは再度お願いしてみる」

一方通行「馬鹿言ってンじゃねェよ。そもそも俺にはそンな決断をする資格なンて端から存在しねェンだよ」

打ち止め「資格がない? どういうこと? ってミサカはミサカは聞き返してみる」

一方通行「俺みてェな大罪人が色恋沙汰なンてモンに関わること自体馬鹿馬鹿しいっつってンだよ」

打ち止め「……もしかして、それは『絶対能力進化計画(レベル6シフト)』のことを言っているの? ってミサカはミサカは眉をひそめてみる」

一方通行「ああ。そォだよ」

打ち止め「…………」

一方通行「屑野郎にそンな世界へ足を踏み入ることなンて、許されるわけ――」

打ち止め「……けるな」ボソッ

一方通行「あァ?」



打ち止め「ふざけるなっ!! ってミサカはミサカは思ったことそのままを叫んでみたり!!」



一方通行「ふざけるな、だと?」


打ち止め「そうだよ!! 何が資格がないだっ!! 何が踏み入ることさえ許されないだっ!! あなたそんなことを言って、ミサカたちのことを利用して結局逃げているだけなんだっ!!」

打ち止め「そもそもあれはミサカたちの抱えている問題であって、アワキお姉ちゃんにはまったく関係ないことじゃないか!! ってミサカはミサカは指摘してみる!!」


一方通行「ああ、そォかもな。たしかにオマエらの問題であってアイツには関係ねェことだ。だが、これは俺自身の抱える問題でもある」

打ち止め「……そっか。怖いんだね、ってミサカはミサカは悟ってみる」

一方通行「怖い? この俺がか? 適当なこと言ってンなよッ!? 一体どこが怖がっているってンだッ!?」


打ち止め「自分自身の問題なんて言葉でごまかしているけど、あなたは恐れているんだ。自分が決断することによってアワキお姉ちゃんを傷つけてしまうんじゃないか、自分自身を傷つけてしまうんじゃないかってことに」

打ち止め「でもあなたは気付いていないんだ。結局、そうしたせいでアワキお姉ちゃんが傷ついてしまったことに。もちろん、あなた自身もだよ」


一方通行「……俺は、傷ついてなンていねェ」

打ち止め「本当に? ミサカには少しでも触れたら壊れてしまいそうなくらい、ボロボロになってるようにしか見えないよ、ってミサカはミサカは率直な感想を言ってみる」

一方通行「……壊れてンのはオマエの頭だろ」

打ち止め「少なくとも今のあなたよりはマシだと思うよ、ってミサカはミサカは比較してみる」

一方通行「…………」


打ち止め「……とにかく、もうやめようよ? こんな無意味なこと。いつまでもこんなこと続けていても虚しいだけだよ、ってミサカはミサカは提案してみる」

打ち止め「アワキお姉ちゃんときちんと向かい合って? そして全てにケリをつけてよ、ってミサカはミサカはあなたの目を見つめながらお願いしてみる」




一方通行「…………」

打ち止め「…………」



携帯<チャーチャチャチャチャー♪ タタター♪



一方通行「……電話鳴ってンぞ?」

打ち止め「あっ、うん、ごめん、ってミサカはミサカは通話ボタンを押してみたり」ピッ


打ち止め「はい、こちら打ち止めです! ってミサカはミサカは元気よく挨拶してみたり」

風斬『……あっ、出た。えっと、打ち止めちゃん? どこにいるの? も、もうそろそろ始まっちゃうよ?』

打ち止め「ごめんねヒョウカお姉ちゃん。ちょっとトイレが混んでて、ってミサカはミサカは適当なこと言ってみる」

風斬『……えっ、い、今適当って、言った?』

打ち止め「今から急いで向かうよ、わざわざ電話してくれてありがと! ってミサカはミサカはその場で駆け足して大至急アピールしてみる」

風斬『うん、えっと、じゃあ、そういうこと、なので』

打ち止め「了解! ってミサカはミサカは終了ボタンを押してみたり」ピッ


一方通行「…………」

打ち止め「じゃあミサカは行くとするよ。ごめんね。一人の時間を邪魔しちゃって、ってミサカはミサカは謝罪してみる」

一方通行「……ああ」

打ち止め「アクセラレータ。アワキお姉ちゃんに謝ってね? さっきお願いしたこと、絶対やってよね? ってミサカはミサカは何度もお願いしてみる」

一方通行「そォいうのはお願いって言わねェよ。命令だ」

打ち止め「あなたがやってくれるなら命令ってことでもいいよ、ってミサカはミサカは乗っかってみたり」

一方通行「チッ」

打ち止め「絶対だからね!? 実行しなかったら絶対に許さないから、約束だよ! ってミサカはミサカは念を押しながら駆け足でこの場を去ってみたり」トテチテ


一方通行「…………」


―――
――





同日 14:10

-スターランドパーク・MUROFUSHI-



ブンブンブンブンブンブン!!



<遠心力がすげえ!! <おっほおおおおっ <飛ぶぞぉ!?



吹寄「……いつの間にか二時過ぎてるわね。あの子たちヒーローショー楽しんでいるころかしら?」

姫神「いろいろ情報を見てみると。精巧なホログラムらしいから。本物が目の前にいる。って叫んでいそう」

吹寄「ふふっ、たしかに目に浮かぶわね」


係員「――お次でお待ちのお客様どうぞー!」


吹寄「そろそろあたしたちの番が来そう。楽しみね」

姫神「絶叫度レベル4の空中ブランコMUROFUSHI。あまりの遠心力で叫びたくなるという」



<ア゛ア゛アアアアア!!! <ア゛ア゛アアアアア!!! <ア゛ア゛アアアアア!!!



吹寄「……何か嫌だから絶対に我慢しよ」

姫神「そうだね」

吹寄「これが終わってからもう一つくらいアトラクションいけそうね。次のアトラクション今のうちに決めときましょうか」

姫神「思い切って。絶叫レベル5のやつとか攻めてみる?」

吹寄「たしかに思い切ったわね。でもレベル5って人気なんでしょ? 集合時間間に合うかしら?」

姫神「……今の状況からするなら。ちょっと過ぎそう」

吹寄「ちょっとってどれくらいよ?」

姫神「一〇分くらい」

吹寄「……うーん、先に連絡しとけば許してはくれそうだけど……どうしようかしら?」

姫神「結標さんはどう思う?」


結標「…………」ボォー



姫神「……結標さん?」

結標「……あっ、ごめん! 統括理事会人気投票誰に入れるかの話だっけ?」

姫神「別にそんな話はしていない」

吹寄「何よその総投票数一〇〇票もいかなさそうな人気投票」




吹寄「というか結標さん? さっきアクセラにあんなにぼーっとするなって文句言ってたのに、今度はあなたがそんなにふうになるのはどうかと思うわよ?」

結標「ご、ごめんなさい……」

姫神「やっぱり。アクセラ君のことが気になっているの?」

結標「べ、別にあんなヤツのことなんか何とも思ってないわよ!」

姫神「そんなツンデレの。テンプレートみたいなこと言われても。説得力ゼロ」

結標「うっ……」


吹寄「結標さん? たしかにあなたがアクセラへ言ったことは正しいとは思うし、彼の行動にちょっと問題があったのもの事実よ?」

吹寄「だけど、このままケンカ別れした状態であんなヤツ知らない、って態度を貫こうとするのはあたしは正しいとは思わない」

吹寄「本当にあなたがそれでいいと思っているならそうすればいいと思うけど、少しでも違うと思っているならこの状況は今すぐやめたほうがいいわ」

吹寄「こういうのは時間が立つと変にこじらせてしまうかもしれないから。下手したら一生こんな状況になってしまうかも」


結標「…………」

吹寄「……まあこんなこと言われても、今すぐそうしますってできないのもわかってるつもりよ? けど、そういうふうになるかもしれないってことだけは――」

結標「…………」ジワッ

姫神「あっ。泣いた」

吹寄「えっ!?」


結標「……や、やっぱり私……ぐすっ、い、言い過ぎだったわよね? わ、私、えぐっ、きら、嫌われちゃったよねぇっ……?」グスン


吹寄「説得したあたしが言うのも何だけど、折れるの早っ!? まだ別れて一時間くらいしか経ってないわよ!?」

姫神「まあ。さっき言ったように。下手に長引くとろくなことないから。早いに越したことはない」

結標「あ、アイツって強がりだから……、体調悪くても絶対にそういうの言わないヤツって、ずずっ、わ、わかってたはずなのにぃ……」

姫神「さっきまで。体調悪くても。治ったって言っているなら体調いいフリすべき。って言ってたのは何だったのか……」

結標「わ、わ、私……ど、どうすれば……」エグッ

吹寄「……まあ、言い過ぎたってことを謝ればいいと思うわ。アクセラからは絶対に謝ってきそうにないからこっちから先にね」

結標「な、なるほど」

吹寄「いや、待てよ?」

結標「?」




吹寄「そもそも悪いのはアクセラなわけだから変にこっちが平謝りしたら、根本的な問題は解決しないんじゃないかしら?」

結標「そ、それはどういうことですか?」

姫神「自分はやっぱり悪くなかったんだな。って自分が悪いことを自覚させずに調子付かせる可能性がある」

結標「……たしかに、それは嫌ね」

吹寄「よし、結標さん。謝るのは謝るけどあくまでアクセラも悪いって姿勢は崩さずに謝りなさい!」

結標「で、でもそれってまた揉める可能性があるんじゃ……?」

吹寄「それはたしかにありえるけど、まあ、そうならないように頑張ってとしか言えないわね」

結標「なんか薄情!?」

姫神「二人とも。とにかくこの話は一旦置いておこう」

吹寄「どうしたのいきなり?」

姫神「だって……」



ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……



係員「……あのーお客様方? 何か問題でもありましたでしょうかー?」



結標「あっ」

姫神「明らかに場違い」

吹寄「す、すみません。お騒がせいたしました……」


―――
――





同日 14:30

-スターランドパーク・第四休憩所-


一方通行「…………」

一方通行「……逃げるな。きちンと向かい合え、か……」


一方通行(クソガキ。たしかにオマエの言うことは正しいだろう。このままくすぶってたところで状況は何一つ変わらねンだからな)

一方通行(……だが、俺には資格の有無以前に俺はアイツと向き合うことを許されない事実がある。クソガキ。オマエは知らねェだろォがな)

一方通行(それは紛れもなく俺と結標の間にある問題であり、俺の抱えている罪だ)

一方通行(そンなモンを抱えている状態で、俺は一丁前にアイツと向き合うことが許されるとは俺には到底思えねェ)


一方通行「……悪りィな、クソガキ」

一方通行「許してくれとは言わねェ。だが、やっぱり俺には……」

一方通行「…………」


―――
――





同日 15:00

-スターランドパーク・喫茶店-



吹寄「――というわけで、いい結標さん? 最初に『さっきはごめん。ついカッとなっていろいろ言ってしまって……』って感じに謝って様子見よ」

吹寄「それで、もし向こうが調子に乗ってきたら構わないわ! 反論しなさい!」

結標「……だ、大丈夫かしら?」

姫神「なんか。状況によっては二回戦が勃発しそう」

結標「それはいやね……」

吹寄「さて、肝心のアクセラのヤツは集合場所に来ているかしらね?」


打ち止め「あっ、アワキお姉ちゃんたちだ! おおーいっ! こっちこっちー! ってミサカはミサカは大きく手を振ってみる」

青ピ「おつかれやでー!」


吹寄「あら、どうしてあなたたちがここに? 集合場所別に伝えていなかったはずだけど」

青ピ「さっき『そげぶマンvs超機動少女カナミン』っていうショーに見に行っとったんよ。そこで偶然一緒になってって感じや」

土御門「いやーガキの頃見たヒーローショーなんかとは比べ物にならないクオリティだったにゃー。さすが学園都市」

上条「たしかにすごかったけど、客層小さな子とかばっかだったからちょっと居心地が悪かったな」

青ピ「何言うとんカミやん。ところどころに大きなお友達の方たちがいたから全然へーきやったろ?」

上条「そいつらの存在含めて居心地が悪いって言ってんだよ!」

姫神「ところで。アクセラ君は一緒じゃなかったの?」

打ち止め「…………」

風斬「は、はい。ショーにいくときに別れまして……」

吹寄「まあたしかにあの状況でそっちに付いていくようなヤツじゃないか」

上条「あの状況? なんかあったのか?」

結標「あっ……、その、えっと……」

姫神「…………」

上条「?」

土御門「……なんかただならないことがあった感じだにゃー」

青ピ「一体なにがあったんや……?」

吹寄「……実は――」




吹寄「――ってことがあったのよ」

青ピ「へー、姉さんがマジギレするなんて珍しいなー。ちょっと見てみたかったなぁ」

結標「うっ、なんか恥ずかしくなってきたから勘弁して……」

上条「まあ、たしかに今日の一方通行の様子、ちょっとおかしかったからな」

土御門「今日じゃなくて昨日くらいじゃないかにゃー?」

青ピ「それで、姉さんは関係がこじれる前に謝りたいからってことでアクセラちゃんを探しとるんか?」

結標「そうなのよ」

青ピ「ほーん、しかし待ち合わせ場所に来てないってことは、さすがのアクセラちゃんもそれなりにショックを受けとるってことなんやろうか」

結標「うぐっ」

上条「たしかにそんなケンカしたあとだったら、また顔合わせるのはちょっと気まずいかもな。ましてやったすぐ後だし」

結標「がはっ」

土御門「今頃どこかの休憩所の隅っこで体育座りしながら泣き崩れたりとかしてたりして!」

結標「…………ひぐっ」ジワッ



ガッ! ドッ! ゴガッ!



吹寄「貴様らもう少し結標さんの気持ち考えてから発言しなさいよ!!」

上条・青ピ・土御門「「「ずびばぜんでじた」」」


姫神「結標さん。そんなに気に病むことはない。たしかにアクセラ君も気まずい気持ちになっているかもだけど。それは当たり前のこと。だからそこまで深刻になるほどのものでもない」

結標「……うん、ありがと姫神さん」グスン


青ピ(……まあ、もしアクセラちゃんが泣き崩れる姿なんてのがあったら、たしかにレアなんやろうけど)

上条(結標がここまで弱っている姿ってのも)

土御門(レアシーンって言ったらレアシーンだにゃー)


吹寄「……あなたたち、もしかしてまた何か変なこと考えているんじゃないかしら?」

土御門「いやいや別に何にも思ってないぜい!」

青ピ「せやせや。別に涙もろくなった姉さんがエロかわいいなぁなんておもごぱぁっ!?」ドガァ

上条「アホがいるぞ」




吹寄「……? そういえばインデックスの姿も見えないわね。どうしたのよ?」

打ち止め「インデックスならここでケーキ食べたあと塩辛いものが食べたい、って言って屋台の方へ行ったよ、ってミサカはミサカは説明してみる」

上条「あんにゃろー、自由気ままに食いすぎだろ。もう完全に予算オーバーだよこんちくしょう」

姫神「そういえば。アクセラ君からいくらか。お金出してもらっていたような」

上条「まーた土下座して平謝りしないといけないのか……」

吹寄「やるなら遊園地出てからにしなさいよ? こんな人通りが多いところでそんなことしたら注目されて嫌だわ」

青ピ「で、姉さんこれからどーすんの? アクセラちゃん捜しに行くんか?」

結標「……ううん、やめておくわ」

吹寄「どうして? さっさと謝ってケリつけるんじゃなかったの?」

結標「ここにアイツが来ないってことは、みんなが言ってた通り私にまだ会いたくないってことだと思うわ」

結標「そんな状態で無理やり探し出して謝っても、きっと許してはくれないと思う」

打ち止め「そ、そんなことないよアワキお姉ちゃん! ちゃんと話せばわかってもらえるよ! ってミサカはミサカは――」

結標「……ふふっ、励ましてくれるの打ち止めちゃん? ありがとね」

打ち止め「アワキお姉ちゃん……」

結標「だから待つわ。アイツの中の戸惑いが消えて、私の前に姿を見せてくれるまで」

吹寄「……たしかに結標さんの言う通りかもしれないわね。うん、それで良いと思うわ」

姫神「お互いが冷静になっていたほうが。話もしやすいしね」

青ピ「うおおいいぞ姉さん! 待てる女はいい女ってヤツやなっ!」

土御門「それ使い方合ってんのかにゃー?」

結標「……まあ、本音を言うと自分から行く勇気がなかなか出せないってだけなんだけどね。あはは」

上条「別にいいだろそれで。勇気は実際に会って謝るときまで取っとけばいいさ」

結標「そうね。ありがとう」ニコッ

打ち止め「…………」

風斬「……? えっと、どうかした打ち止めちゃん?」

打ち止め「……ううん、なんでもないよヒョウカお姉ちゃん、ってミサカはミサカは首を横に振ってみる」


打ち止め(アクセラレータ。アワキお姉ちゃんは待ってるよ? あなたが来るのを)

打ち止め(だから、ずっとこのままなんてことはないよね? ねえ、アクセラレータ……)


―――
――





同日 同時

-スターランドパーク・第四休憩所-


一方通行「…………」ボォー

一方通行「……? いつの間にかコーヒーが空になっていやがる」

一方通行「チッ、もう一本買うか……」ガチャリガチャリ


禁書「――あくせられーた?」


一方通行「……チッ、今度はオマエか」

禁書「こんなところで何やっているの? みんな向こうの喫茶店でお茶しているよ」

一方通行「そォかよ」

禁書「……どうしたの? 行かないの?」

一方通行「あァ? 行くわけねェだろォが」

禁書「なんで?」

一方通行「何で、ってオマエそンなこともわからねェのか?」

禁書「うーん、あっ! わかったんだよ! 喫茶店の場所がわからないから行けないんだね?」

一方通行「ハァ? オマエじゃねェンだからそンなわけねェだろ」

禁書「むぅ、見くびってもらっては困るかも。私は一度覚えたことは絶対に忘れないんだよ? 何なら今から喫茶店まで案内してあげてもいいよ?」

一方通行「うぜェからすンな」

禁書「うーん、場所がわからないわけじゃないのなら一体何で行かないの?」

一方通行「……オマエ、それ本気で言ってンのか?」

禁書「?」

一方通行「チッ、俺は今アイツらと顔合わせる気もねェし、アイツらも俺の顔なンざ見たくねェだろ。そォいうことだ」

禁書「うーん、そうなのかな? みんな別にそんな様子じゃなかったと思うんだけど」

一方通行「たとえそォだとしても、俺が顔合わせたくねェンだ。もォ俺なンて放っておいて帰れよクソシスター」

禁書「…………」ジー

一方通行「あァ? 何だよさっさと俺の前から消えろ」




禁書「ねえあくせられーた。やっぱりあなたなにか悩みを抱えているんだね?」

一方通行「……ナニ適当なことを抜かしてンだクソガキが。だからそンなモン抱えてねェっつってンだろ」

禁書「適当じゃないもん!」

一方通行「ほォ、そンなこと言うなら何か明確な証拠なり理由なりあンだろォな?」

禁書「証拠? 理由? うーん……なんとなく?」

一方通行「適当じゃねェか!」

禁書「悩みがあるなら私が聞いてあげるから話してみるといいかも。なんたって私はシスターなんだからね」フフン

一方通行「何悩みがある体で話ィ勝手に進めてンだオマエ!」 

禁書「そんなに強がらなくてもいいかも。悩みを抱え込み続けちゃうと身体に毒なんだよ。よいしょっと」スッ

一方通行「悩みなンてねェってさっきから言ってンだろォが! てか俺の隣に勝手に座ンじゃねェ、さっさと消えろクソシスター!」

禁書「悩みを聞くまでここを離れる気はないかも」

一方通行「チッ、面倒臭せェ。だったら俺がこの場を離れるだけだ。未来永劫そこに座ってろ」ガチャリガチャリ

禁書「だったら私も一緒に行くんだよ!」テクテク

一方通行「付いてくンな! イイ加減にしろよテメェ!」

禁書「いい加減にするのはあくせられーたのほうかも!」

一方通行「あァ? 何を言って――」

禁書「だって今日のあくせられーた、会ったときからなんかずっとつらそうな、苦しそうな表情をしているんだよ! 放っておけないよ!」

一方通行「……俺はもとからこォいう顔だ」


禁書「あくせられーた。自分の表情は決して自分では視ることはできないんだよ」


一方通行「…………」ギロリ

禁書「…………」ジー

一方通行「……はァ、面倒臭せェ」

禁書「?」

一方通行「……例え話だ」

禁書「例え話?」

一方通行「そォだ。実在の人物・団体とは一切関係ねェただの作り話のフィクションだ」





一方通行「ある男と女がいた。ソイツらは敵対関係にあり交戦した。結果はその男が圧倒的なチカラを振るい、その女を殴り飛ばすことで勝敗を決した」

一方通行「その戦いからしばらくしてから男と女が再び出会った。どういう因果かその男が住ンでいる家に女が居候するという形でな」

一方通行「女は記憶喪失になっていた。だから自分の過去のことはもちろン、その男のこともまったく覚えていなかった」

一方通行「記憶喪失の原因は、以前その男と交戦したときに受けた一撃による記憶障害だった」

一方通行「そンな男と女の、加害者と被害者の奇妙な共同生活が始まったわけだ」

一方通行「同じ屋根の下で生活し、同じ学校に通うクラスメイトとして過ごし、いろいろな出来事を共にした」

一方通行「だが、そンな中でも男は女に伝えることができなかった。自分が記憶喪失の原因だということをな」

一方通行「そのまま月日が流れていき、ある日転機が訪れた」

一方通行「女が男に対して好意を持ち、好きだと言った。自分の記憶を奪った張本人に対してだ」

一方通行「さて、その男は一体どォすればイインだろォな? 背負った罪を有耶無耶にしたまま女を騙し続けたクソ野郎はよォ?」


禁書「…………」

一方通行「以上が例え話だ」

禁書「……なるほど。難しい話かもしれないね」

一方通行「そォかよ。まァ、別にオマエなンかに答えなンざ求めてねェからな。そォいうわけだから俺の前から――」


禁書「うーん、とりあえず好意は素直に受け取ってあげたら良いんじゃないかな?」


一方通行「……ハァ? ナニ言ってンだオマエ?」

禁書「あっ、男の人の気持ちもあるから、ただ受ければいいって決めつけてしまうのは早計だったかも」

一方通行「いや、そォじゃねェだろ」

禁書「?」

一方通行「記憶を奪った男だぞ? 女の大切なモンを根こそぎ刈り取ったクソ野郎だぞ?」

禁書「うん。たしかにそうだね」

一方通行「だったらよォ、そンな受けるから受けないかなンていう決定権がある立場に、立つことなンざ許されるわけねェだろォが!」

禁書「……違うよあくせられーた」

一方通行「何が違うってンだクソガキ!」

禁書「許せるか許されないか、それを決めるのは私でもあなたでもないと思うんだよ」

一方通行「ふざけてンのかオマエ? ここには俺とオマエしかいねェだろォが!」

禁書「そういうことを言っているんじゃないんだよ」

一方通行「あァ?」




禁書「決められるのは物語の登場人物である、好意を持ってしまった女の人、ただ一人だと思うんだよ」


一方通行「…………」

禁書「だからこそ、その男の人は打ち明けるべきだと思うんだよ。その抱えている罪っていうのを」

禁書「もしかしたら、それによってその女の人の気持ちが変わってしまうかもしれない。でも、それはしょうがないことなんだよ」

一方通行「しょうがない、か。たしかにそォだろォな。それだけの罪を犯してンだ。今まで築き上げたモン全部ぶち壊してしまってもしょうがねェよなァ」

禁書「けどね、私は思うんだよ。その程度の『告白』では物語の女の人の気持ちは揺るがないんじゃないかって」

一方通行「記憶を奪ったっつゥのがその程度だと? ケッ、面白れェこと抜かしやがンじゃねェかクソシスターが」

禁書「……これはね、あくまで想像でしかないんだけど、その男の人はきっとその女の人ことをとっても大切に想っていると思うんだよ」

一方通行「どこをどォ解釈すりゃそンな妄想を垂れ流せられるのか不思議でならねェ」


禁書「だってもともと敵対関係にあったんだよね? いくら記憶を失っているとはいえ、そんな人と生活をともにするってなったら絶対に嫌だと思うんだよ」

禁書「ぞんざいな扱いをしたり、無視したり、傷付けたり、そんなことをしてもおかしくはないくらいに」


禁書「けれど、その女の人はその男の人のことへの好意を抱いた。何でだと思う?」

一方通行「俺が知るわけねェだろ」

禁書「男の人から感じたんだと思うんだよ。さっき挙げた敵意とかとはまったく真逆のものを。この人とと一緒に居たいと思えるほどのものを」

一方通行「……ハッ、くっだらねェ。それは女の見る目がなかっただけだよ。男は紛れもないクソ野郎で、そんなモンとは対極の位置にいるクズでしかねェンだからなァ」

禁書「私にはそうは思えないかも」

一方通行「どォやらオマエの見る目もねェよォだな」

禁書「だってその男の人は迷っているんだよね? 女の子の好意にどう向き合うべきなのか、そもそも罪という十字架を背負う自分が向き合うこと自体許されるのか、って」

一方通行「ッ」


禁書「そんなことを考えられる人が、私には本当に悪い人なんだって決めつけることはできないんだよ」

禁書「その人が本当にあなたの言うような人間なら、こんな例え話っていう物語は絶対に生まれることはなかったと思うよ」


一方通行「……ンなわけ、ねェだろ」


禁書「そんなわけあると思うんだよ。自分がやったことを罪と認識して葛藤できるのは、その罪をどうにかして償いたいと思っているから」

禁書「好意に対してどうすればいいのかって悩めるのは、真剣にその女の人のことを想っているから」

禁書「そうやって考えてみると、その女の人の見る目っていうのは間違っていなかったってことだよね」


一方通行「…………」




禁書「あっ、ごめんね。なんかちょっと話が逸れてきちゃってるかも。最初の方に戻るね。たしかどうすればいいのか、だったよね?」

一方通行「……ああ」


禁書「さっきはなんか適当に言っちゃったから、改めてきちんと答えさせてもらうんだよ」

禁書「まずはきちんと二人で向き合って話し合うべきだと思うんだよ。元々の二人の関係やその罪のことをね」


禁書「あえてそのことを打ち明けないという考え方もあるかもだけど、個人的にはおすすめしないんだよ」

一方通行「……何でだよ?」

禁書「そこから二人の関係がどうなるにせよ、罪の十字架にその男の人が一生縛られてしまうことになってしまう」

禁書「きっとね、それはとても辛いことだと思うんだよ」

一方通行「…………」

禁書「だから、そのことを告白した上で、もし女の人の気持ちが変わることなく自分に好意を向けてくれるのなら、そこから先を決めるのは……」ジー

一方通行「あァ?」



禁書「――もうわかっているよね? ねえ、あくせられーた!」ニコッ



一方通行「……オマエ、もしかして全部わかっていて」

禁書「? なんのことかな?」キョトン

一方通行「チッ、何でもねェよ」

禁書「?」

一方通行「……ところでオマエのその言葉は、オマエの信じる十字教やら神様やらの教えから来てんのか?」

禁書「ううん、違うよ。さっきの言葉は全部、素直に私、インデックスが思ったことです」

一方通行「やっぱオマエって駄目なシスターだよな?」

禁書「むむむ、何で相談に乗ってあげたのにそんなこと言われなきゃいけないのかな?」

一方通行「相談だァ? オマエは適当な創作話聞かされてそれに対してペチャクチャ戯言吐いてただけだろォが」

禁書「ぐっ、たしかに言われてみればそうかも……」

一方通行「大体よォ、仮にアレ相談たったとするのなら、普通迷える仔羊ってのに対して布教してやンのがシスター様の仕事じゃねェのかよ?」

禁書「え、えーと、えへへ、わ、私はまだ見習いのシスターだから……」

一方通行「そンなこと抜かしてるうちは一生オマエはそのままだエセシスターが」




禁書「……あっ、そ、そういえば私屋台でチュロスとフランクフルトとワッフルとじゃがバターを買いに行く途中だったんだよ!」

一方通行「体裁悪くなって適当な理由つけて逃げるつもりだな。てか何だよその食いモンの組み合わせ」

禁書「わ、私はもとから屋台に行こうと思っていたからそういうのじゃないんだよ!」

一方通行「そォかよ」スッ

禁書「うん? どうしたの急に立ち上がって? もしかしてあなたも屋台に行く気なのかな?」

一方通行「ンなわけねェだろォが」

禁書「じゃあどうしたの?」

一方通行「別に。野暮用だ」

禁書「ふーん、そっか」

一方通行「つゥかオマエ、さっきは散々付きまとってきやがったクセに急に離れだしたな。そンなに突かれたところが痛かったか?」

禁書「そんなことないもん! だから、私は最初から屋台に――」

一方通行「ヘェヘェわかったわかった。俺が悪かったからさっさと屋台にでもなンでも行きやがれ」

禁書「もう! あっ、そうだ。あくせられーた?」

一方通行「あァ?」



禁書「今のあなたの表情、とってもいい感じだと思うんだよ!」



一方通行「は?」

禁書「それじゃ、またあとでねー!」タッタッタ


一方通行「……チッ、くっだらねェ」

一方通行「…………」



『――決断することから逃げないで』



一方通行「……ああ」



『――もうわかっているよね? ねえ、あくせられーた!』



一方通行「わかってるよ。クソッタレが」



――――――


ロリ二人に説教される一方さん
これが書きたくて今までのインデックスさんの出番を多めにした感があるよね

次回『いつもの二人』

前スレ書き終わった頃は社会の厳しさを思い知ってたわ

投下



17.いつもの二人


March Forth Wednesday 15:30

-スターランドパーク・喫茶店-


青ピ「――そういうわけで、一番すごかったレベル5のアトラクションはフリーフォールのヤツやったなぁ」

打ち止め「うおおすごそう!! 次それ乗ろうよ、ってミサカはミサカは提案してみる」

結標「でもフリーフォール系だと、また安全ベルト問題が出てくるわよ?」

風斬「だ、大丈夫です。また私たちは、別のアトラクションとかで楽しみますので」

吹寄「そういえば上条当麻!? 何で二人に動きやすい格好で来るように言わなかったのよ!?」

上条「へ? どういうことでせうか?」

姫神「実は。かくかくしかじか。ということがあった」

上条「あー、そうだったのか。全然気が付かんかった」

吹寄「……貴様ぁ」ギロリ

上条「ひぃ!? ごめんなさい!!」

姫神「というか。謝る相手が違うと思う」

上条「あ、ああそうだったな。風斬ほんとごめん!」バッ

風斬「い、いえそんなに謝らなくても。遊園地、って聞いた時点で気付けなかった、私も悪いです」

青ピ「風斬さんええ子やなぁ……ほんまええ子やなぁ」

吹寄「青髪ピアスが女の子褒めてるところ見ると、何かいかがわしい感じがして不愉快ね」

青ピ「ひどい言われようやなぁ」

土御門「おっ、もうこんな時間か。オレたちはそろそろ次のアトラクションの列へ並びに行くとするぜい」

青ピ「ほんまやんけ! ついついゆっくりしてもうたなぁ。次はコーヒーカップのレベル5やったっけ?」

土御門「そうそう。あのすっごい速度で回転するやつ」

風斬「うっ」

上条「どうかしたのか?」

風斬「…………いえ」

吹寄「あたしたちは六時くらいに夕食取ろうと思っているけど、あなたたちは?」

土御門「特には決めてはなかったにゃー」

青ピ「せやな。そしたら時間が合いそうなら合流するわ」

吹寄「わかったわ。どこで食べるとかは全然決めてないから、合流しようってタイミングで連絡ちょうだい」

上条「おう、了解だ」

青ピ「そういやアクセラちゃん来んかったなー結局」

結標「……うん。残念だけど」

打ち止め「…………」




結標「ま、しょうがないわ。アイツはそういうヤツだし」

風斬「結標さん……」

上条「まあ気にすんなよ。まだ機会はあるって」

土御門「次に集まれそうなのは夕食時くらいか?」

青ピ「ほな次の集合時間伝えとかなあかんな。メッセでも送っとくか」

吹寄「ああ、大丈夫よ。こっちでやっとくわ。それにこっちはインデックス待たないといけないから、もう少しここにいるし」

青ピ「はいよー。しっかし楽しみやなー。二人が仲直りした暁にはそれはもう死ぬほどアクセラちゃんおちょくったるわ」

上条「お前、またボコボコにされんぞ?」

青ピ「何言うとんカミやん!? 隙を見せたらおちょくってやる! それが真のともだ――」



スコォン!!



青ピ「――あいたっ!? なんや!? 何か硬いもんが飛んできた!?」

姫神「これは……缶コーヒーの空き缶?」

風斬「!!」

上条「何でこんなもんが……」

打ち止め「缶コーヒー……はっ、もしかして!?」バッ




一方通行「……おォ、悪りィな。何かアホみてェな会話が聞こえてきたから、つい手が滑っちまった」ガチャリガチャリ




吹寄「あ、アクセラ!?」

姫神「あの距離で聞こえてたんだ。なんという地獄耳」

土御門「青髪ピアスの声が馬鹿みたいにデカかっただけだと思うにゃー」




結標「一方通行……」

一方通行「よォ」

結標「あ、あの、その、えっと……」

一方通行「結標」

結標「は、はい!」


一方通行「さっきは悪か……いや、すまなかった」


結標「!!」

一方通行「……違うな。ゴメンナサイ? 申し訳ございませンでした?」

結標「いや、どれもほぼ同じ意味だから。別にいいわよ言い方なんて」

一方通行「そォか」

結標「あの、一方通行?」

一方通行「何だ?」

結標「その、私もね、さっきは言い過ぎたっていうか、えっと……ごめんなさい!!」

一方通行「……何でオマエが謝ってンだ?」

結標「だって私が怒鳴ったせいで、その、ケンカになっちゃったじゃない?」

一方通行「オマエのせいじゃねェよ。アレは俺が全面的に悪かった」

結標「……ねえ」

一方通行「あァ?」

結標「貴方、本当に一方通行?」ジトー

一方通行「何で俺がそンな疑惑の目を向けられてンだよ」

結標「いや、だって素直に自分の非を認めるなんてらしくないわよ?」

一方通行「ぶち殺すぞクソアマ」プルプル

結標「あはは、ごめんつい」

一方通行「チッ」

結標「ねえ、よかったら聞かせてよ。何であんな変な感じになっていたのか」

一方通行「……そォだな。まァ、端的に言えば俺は逃げていたンだ。オマエから」

結標「逃げていた、って私から?」




一方通行「ああ。オマエとどォ接すればイイのか、どンな顔をすればイイのか、何もかもがわからなくなっていた」

一方通行「だから、俺はそれをずっと考えていた。今の今までずっとな」

一方通行「だがいくら考えたところで結論は俺の中から出てこなかった。俺にそれだけの能がなかったからだ」

一方通行「そして俺は逃げたンだ。それが今俺が考えうる最善の方法だと思って、その最悪な方法を実行した」


結標「ちょっと待って。貴方が何を言っているのかさっぱりわからないんだけど」

一方通行「……ああ、そォだろォな」

結標「おい」

一方通行「あー、面倒臭せェ。結標、これだけは言っておく」

結標「何よ」




一方通行「俺はもォ逃げねェ。オマエとこれからどンなことがあろうが、どンな結末になろォが、絶対に逃げねェ」




結標「…………」

一方通行「以上だ」

結標「……ねえ」

一方通行「ああ」

結標「何言っているのか全然わかんないんだけど」

一方通行「わかったら逆にすげェよ」

結標「……はぁ、そう言うってことは懇切丁寧に説明しろって言っても聞かなそうね」

一方通行「よくわかってンじゃねェか」

結標「だからね、最後に確認させて」




結標「これから接する貴方はいつもの一方通行ってことでいいのよね?」




一方通行「……ケッ、くだらねェこと聞いてンじゃねェっつゥの」

結標「ふふふ、そう。ありがとうね」ニコッ

一方通行「チッ……」





青ピ「うおおおおおおアクセラちゃああああああああん!! 休憩所の隅っこで体育座りしながら泣き崩れてたってほんごふぁあっ!?」ドガッ


一方通行「ナァニクソみてェな寝言抜かしながらコッチに向かってきやがってンだオマエ?」カチッ

上条「……何か知らねえけどすげえ懐かしい感じがすんな。何でだろ?」

土御門「だにゃー。ま、何にしろアクセラちゃんが本調子になってくれて嬉しいぜい」

一方通行「ハァ? 俺はずっと本調子だっつゥの」

上条「ははっ、そうだな。たしかにいつもの一方通行って感じだ」

一方通行「笑ってンじゃねェよ。すり潰すぞ三下ども」

姫神「よかったね。結標さん」

吹寄「しかし、まさかアクセラのほうから先に謝るなんて意外だったわね」

結標「あー、うん。たしかに私もそれは思う」

姫神「俺は悪くねェ。っていう態度をずっと貫くと思っていた」

吹寄「そうね。まあでも、結局最後は折れて素直に悪いって認めそうよね」

結標「ああ、それわかるわ」

一方通行「何で先に謝罪しただけでこンな好き放題言われなきゃいけねェンだ?」

吹寄「あはは、ごめんなさい。冗談よ冗談」

一方通行「チッ」

姫神「でもアクセラ君。きちんと謝れることは。とても偉いことだと。私は思う」

一方通行「俺には似つかわしくねェ評価だな」

青ピ「そんなことないって。なんたって謝ったことは事実なんやからなぁ、エライエライ!」

一方通行「そンな人ォ馬鹿にしたよォなツラでンなこと言われてもよォ、一つも心に響かねェンだっつゥの」

吹寄「……そういえば謝るで思い出したわ。青髪ピアス! あなたお昼に電話したときのあの雑な謝罪は何だったのよ? もしかしてあたしをなめているのかしら?」

青ピ「ひっ!? なんかよくわからへん地雷踏んでもうたっ!?」

吹寄「きちんとした謝罪のやり方、あたしが一から叩き込んであげましょうか?」ゴキゴキ

青ピ「謝罪とは真逆の方法を振りかざしそうな気配がするんですが!? ひえええカミやん助けてええええ!!」

上条「なっ、テメェ!? だから俺を巻き込むんじゃねえッ!!」

土御門「カミやんも怒られる機会多いんだから、ついでに叩き込んでもらえばいいんじゃないかにゃー?」

吹寄「それもそうね。上条当麻はとりあえず土下座しとけば許してくれるみたいなこと考えてそうだし、ちょうどいいわ」

上条「そんなことひとかけらも思ったことねえよ!!」





ワイワイギャーギャー!!



一方通行「……何ハシャイでンだこの馬鹿どもは?」

打ち止め「アクセラレータ!」

一方通行「……打ち止め」

打ち止め「よくできました! ってミサカはミサカは子どもを褒める親御さんのような気持ちになってみたり」ニコッ

一方通行「ガキのクセに親とか何言ってンだオマエ」

打ち止め「まあまあ別にいいじゃんそういう気分なんだから、ってミサカはミサカは軽く流してみたり」

一方通行「うっとォしいヤツ」


風斬「……ふふっ」

禁書「ただいまー」モグモグ

風斬「おかえり。……、またいろいろ買ったね」

禁書「ひょうかも食べる? おいしいよワッフル」

風斬「い、今はいいかな?」

禁書「そっか。……あっ、あくせられーた戻っていたんだ! おーい!」

一方通行「あァ? 何だよ、そンだけ食いモン抱えていてまだ俺に何かせびるつもりかァ?」

禁書「なっ、私はそんなことしないんだよ!」

一方通行「それは新しいギャグか何かか?」

禁書「ぐぬぬ、……ところであくせられーた。ここにいるってことはもう野暮用ってやつは終わったのかな?」

一方通行「ああ」

禁書「そう。それはよかったんだよ」

一方通行「よかったって何だよ」

風斬(……、なるほど。そういうこと、か)クスッ

一方通行「……あァ? 何だよ風斬」

風斬「い、いえ。なんでもないです……」

一方通行「?」




青ピ「……ってかこんなことしとる場合やなかったわ! はよ行って列並ばなあかんやん!」

吹寄「こんなこと……?」ギロッ

青ピ「あははははそない怒らんといてえな。言葉の綾ですやん」

土御門「今から行けば一時間待ちってところかにゃー」

上条「他のやつに比べたら短く感じるな。まあ、コーヒーカップなんてそんな人気ないか」

一方通行「コーヒーカップだァ? オマエら次何に乗るつもりなンだよ?」

土御門「『爆転シュート!! カプブレード』ってヤツだにゃー」

一方通行「…………おェ」

上条「おえ?」

青ピ「どしたんやアクセラちゃん? もしかして一緒に行きたいんか?」

一方通行「ンなわけねェだろ。誰がオマエら馬鹿三人と行くかよ」

青ピ「そら残念やなぁ。絶叫マシンでギャーギャー言っとるアクセラちゃん見たかったわぁ」

一方通行「一度も言ったことねェよそンな言葉」


青ピ「ほな時間もないし、ボクらは行くとするわー。いくでえー野郎どもおおおおおおおおおおっ!!」ダダダダダ

土御門「急げ急げい! たった今一時間待ちが一時間一〇分待ちに変わったにゃー!」ダダダダダ

上条「だああっまたかテメェら!! だからこんな人通りが多いどころで全力疾走してんじゃねえ!!」ダダダダダ


一方通行「オマエもしてンじゃねェか」

吹寄「さて、みんな揃ったことだしあたしたちも行くとしましょうか?」

姫神「そうだね。休憩は十分できた」

一方通行「あン? そォいやこれからどこに行くつもりなンだ?」

結標「『エターナルフォールブリザード』っていうフリーフォールの絶叫度最高のやつ」

一方通行「」

打ち止め「ふ、ふふふ。初のレベル5のアトラクション、武者震いが止まらないぜ、ってミサカはミサカは現状報告してみる」ガタガタ

姫神「それは本当に武者震いなの?」

一方通行「……つゥか、フリーフォール系は風斬とシスターが行けねェから選択肢から外してなかったか?」

風斬「あっ、今回も私たちは残って別のアトラクションに行くので、大丈夫です」

禁書「そうだったんだ」モグモグ

一方通行「チッ、だったらしょうがねェなァ、また俺がコイツらの面倒を――」

吹寄「あっ、今回はあたしが残るから無理して残らなくていいわよ?」

一方通行「…………は?」




吹寄「よくわからないけど今まで悩み事とかあって楽しめてなかったんでしょ? だから、今回は譲ってあげたほうがいいかなって思って」

一方通行「クソみてェな心遣いアリガトウ。だが、そンなモンする必要ねェからオマエが行け」

結標「あれあれー? そんなこと言って、やっぱり貴方って絶叫マシンダメってことなのね?」

一方通行「は?」

吹寄「あーそうなんだ。だったらしょうがないわね。代わってあげましょうか?」

一方通行「チッ、ふざけンじゃねェ。余裕なンだよレベル5のアトラクションなンざよォ」

吹寄「そう。だったら楽しんできてね」

一方通行「お、おォ」

姫神「……アクセラ君?」

一方通行「何だ」

姫神「強がるのはいいけど。気絶とかしないでね? 面倒だから」

一方通行「強がってねェよ」


打ち止め「よーし!! そうと決まったら早速いこーう!! ってミサカはミサカは隊長気分で先陣を切ってみたり」トテチテ

結標「先に行くのはいいけど、貴女場所わかっているのかしら?」

禁書「ひょうかー、私たちはどこにいくー?」

風斬「うーん、そうだね。怖くないところならどこでもいいよ」

姫神「ちなみにこっちが行くヤツは。待ち時間一時間半だから。待ち時間少ないところ狙えば。三個くらい乗れると思う」

吹寄「あえてアトラクションにこだわらなくてもいいかもしれないわね。ディスプレイとかゲームコーナーとかも選択肢としてありかも」

禁書「げーむこーなー? だったらまたぷりくら撮ろうよひょうか!」

風斬「う、うん。いいよ……、で、でも裸みたいな格好するのは、ちょっと、嫌かな?」

吹寄「裸?」

風斬「……い、いえ! なんでもないです!」

打ち止め「はい! ミサカもプリクラ撮りたい! ってミサカはミサカは挙手してみる」

結標「だったら、フリーフォール終わったあとね。ゲームコーナーだったら晩御飯までの時間潰しまでにちょうどいいでしょ」

吹寄「そうね。だったらその辺りの時間帯はゲームコーナーにいるわ」


一方通行「……結標」

結標「何?」

一方通行「あとで話がある」

結標「話? 今じゃいけないのかしら?」

一方通行「……ああ。できれば俺とオマエ、二人きりでだ」

結標「…………へ?」


―――
――





同日 17:30

-スターランドパーク・ゲームコーナー-


-エアホッケー-


禁書「――ふふふふ、このショットで決めてあげるんだよひょうか」スッ

風斬「…………」ゴクリ

禁書「行くよ! たああああああああああああっ!!」バッ



スカッ、ガチャン!!←自分のゴールにパックが入った音



禁書「…………」

風斬「…………」

吹寄「これで7-6で風斬さんの勝ちね」

禁書「ああああ負けちゃったんだよ! ちょっと悔しいかも!」

風斬「お、惜しかったと思うよ。きちんと当たっていたらゴール取れてたよ……たぶん」ボソッ

禁書「たぶん?」ジト-


結標「あっ、三人ともいた! おーい!」ノシ


吹寄「あっ、みんな終わったのね。どう? 面白かった?」

結標「すごかったわね。何だっけ、擬似重力発生装置? ってやつのおかげで見た目は車輪状にグルグル回ってるだけなのに、乗ってみたらずっと落下してる感覚だったのよ」

吹寄「へー、たしかにそれはすごいわね。スカイダイビングを体験しているみたいなものなのかしら?」

姫神「たぶん。そんな感じ。スカイダイビングはしたことないけど」

吹寄「……で、そっちの二人はどうしたの?」


打ち止め「えへっ、えへへへっ、なんかもう、えへえへ、ってミサカはミサカはえへへへへっ」フラフラ

一方通行「がはっ、く、クソガキが。何回能力使用モード誤制限すりゃ気が済むンだコラ」ヨロヨロ


結標「ああ、絶叫マシンにやられただけよ。放っておけば回復するでしょ」

吹寄「やっぱりアクセラって絶叫マシン駄目だったのね」

一方通行「駄目じゃねェよ!」ヨロッ

吹寄「そんなボロボロの状態で凄まれても……」

結標「ほらっ、打ち止めちゃん? ゲームコーナー着いたわよ?」

打ち止め「ふへへへへってゲームコーナー!? うおおっプリクラ撮るぞ撮るぞ、ってミサカはミサカは目を輝かせてみたり」キラキラ

姫神「あっ。復活した」

吹寄「単純ね」

一方通行「オラッ、クソガキ! さっさと能力使用モード返しやがれ!」




結標「ところで遊園地のプリクラってどんなのがあるの?」

吹寄「見た感じだと普通にゲーセンとかにあるやつとか、あと遊園地オリジナルのもあったわね」

結標「遊園地オリジナル?」

吹寄「なんだっけ? クロホシくんだっけ? パンフとかに書かれてるキャラ。あれと一緒に撮れるみたいね」

結標「ああ、この逆立ちした星みたいなやつか。正直かわいいとは思わないけど」

姫神「地方の変なゆるキャラみたい」

禁書「……むぅ」

風斬「どうかしたの?」

禁書「ここには衣装貸し出ししてくれるところがないんだよ!」

吹寄「衣装? コスプレしたいってこと?」

禁書「そう! そのこすぷれってヤツして撮りたいんだよ!」

姫神「そういえば。地下街のゲームセンターに。そういうのあったね」

打ち止め「そんなのがあの地下街にはあったんだ! ミサカ今度地下街に連れて行って欲しいなぁ、ってミサカはミサカはチラチラ目配せしてみる」チラチラ

一方通行「こっち見ンな」

風斬「ま、まあ、貸衣装がないならしょうがないよね。あはは」

結標「私たちから見たら、その修道服も十分コスプレっぽいけどね」

禁書「?」

吹寄「で、どの機種で撮るの? 遊園地オリジナルのやつ?」

結標「うーん、たしかに思い出に残すならそっちだろうけど……正直微妙よね」

姫神「うん。子供向け感がすごい」

打ち止め「ゲコ太のプリクラはないのかな? ってミサカはミサカはあたりを見回してみたり」キョロキョロ

一方通行「あンなマイナーなキャラのモンが作られるわけねェだろォが」

吹寄「ま、無難に有名所のやつでいっか」

結標「そうね」




打ち止め「よし、では突撃ー!! プリクラで重要なのは位置取りだ!! 最高の位置を確保しなければ!! ってミサカはミサカはミサカネットワークで得た情報を遺憾なく披露してみたり」タタタ

禁書「そうなんだ! 私もいい位置を取るんだよ!」タッタッタ

風斬「ちょ、ちょっと二人とも、その、走ったら危ないよ……」


一方通行「……さて、俺は適当に缶コーヒーでも買って時間潰すか」

結標「えっ、何言っているのよ一方通行。貴方もこっちに来るのよ?」

一方通行「は? 何で俺まであンなキラッキラッしたモンやらなきゃいけねェンだ?」

吹寄「そりゃここにみんなで来たっていう記念みたいなものだし。まあ、馬鹿三人足りないけど」

一方通行「記念っつっても別にオマエらだけでも十分だろ」

姫神「……アクセラ君。もしかして女の子の中に。男の子一人混じって。プリクラ撮るのが恥ずかしいの?」ニヤリ

一方通行「ハァ? そンなわけねェだろ。逆にオマエらはイイのかよ? 野郎が一人混じってよォ」

吹寄「まあ、アクセラなら別に」

姫神「うん」

一方通行「何でだよ? オマエら頭おかしいンじゃねェのか?」

結標「そういうわけだから、早く来なさいよ」グイッ

一方通行「ッ!? クソがッ! 引っ張ンじゃねェ!」ガチャリガチャリ



-プリクラ内-



打ち止め「ふふふっ、やっぱりミサカは主役だからね。ド真ん中のセンターじゃなきゃ、ってミサカはミサカは中央で仁王立ちしてみたり」

吹寄「まあ、あなたの身長なら必然的にその位置になるわね」

禁書「ひょうかー一緒に写ろー?」

風斬「うん、じゃああなたは私の前くらいがいいかな?」

結標「……ちょっと一方通行! 何でそんな端っこにいるのよ? もうちょっとこっち寄りなさいよ」

一方通行「何で俺はこンなことしてンだ……? 俺はそンな柄じゃねェだろクソッタレが……!」ブツブツ

結標「なにぶつぶつ言ってるのよ?」

姫神「そろそろ撮影が始まる」



機械『ポーズを決めてね! 3・2・1』



パシャッ!!



―――
――





同日 18:00

-スターランドパーク・道中-


打ち止め「いやー初めてのプリクラ楽しかったなー、待ち受け画面にしとこ、ってミサカはミサカは華麗に携帯を操作してみたり」

結標「……貴方、もうちょっといい表情はできなかったのかしら?」

姫神「仏頂面か。引きつった笑顔しかないね」

一方通行「ふざけンなッ! あンな環境で満面の笑みィ浮かべられる野郎なンざいるわけねェだろォが!」

吹寄「いや、結構いるとは思うけど」

一方通行「大体よォ、俺はそンな呑気に笑顔振り撒けるよォな環境に今までいなかったンだ。あンな状況で笑顔なンか作れるかよ」

吹寄「どんな環境よ?」

禁書「あくせられーた? 笑顔っていうのはこうやるんだよ?」ニコッ

打ち止め「なっ!? ヨミカワ家の癒やし系マスコットの名にかけてミサカも負けられない、ってミサカはミサカは元気っ子にこやかスマイルで対抗してみたり」ニカッ

一方通行「その間抜け面ァ苦痛の表情に歪めてやろォかクソガキども」

結標「ところで夕食は何にするか決めているの?」

吹寄「いろいろ調べてみたんだけど、バイキング形式の野外レストランってのがあるらしいから、そこがいいかなって」

禁書「私たちが前行ったところだね。あそこのドイツ式のソーセージが美味しかった記憶があるんだよ」

姫神「ああ。あそこか。料理の種類も豊富だったし。良いと思うよ」

結標「場所が決まったんだから上条君たちに伝えとかないとね」ピッピッ

姫神「向こうが合流するってときに。連絡が来るんじゃなかった?」

吹寄「まあいいんじゃない? 連絡待つのも面倒だし」

結標「了解。じゃ、メッセージ入れとくわね」ピッピッ

吹寄「ありがと。そしたらレストランに向かうとしましょうか」

打ち止め「なんかレストランって聞くとテンション上がるね、ってミサカはミサカはウキウキ気分でスキップしてみたり」

結標「よく行くファミレスも一応ファミリーレストランっていうレストランよ?」

打ち止め「ファミレスでもテンションは上がるよ! ってミサカはミサカは補足説明してみる」


タララ~♪


結標「あっ、青髪君からの返事が来たわ」

姫神「なんて?」

結標「タイミングピッタリだから直でこっちに向かってくるって」

吹寄「了解。三馬鹿にしては上出来じゃない」

禁書「バイキング楽しみだねひょうか!」

風斬「……あんまり、食べ過ぎたら駄目だよ?」

禁書「それくらいわかってるかも。さーて、お腹いっぱい食べるぞー!」

風斬「本当にわかってる……?」

一方通行「それでわかるならスキー旅行ンときみてェな悲惨なことは起きねェンだよ」

風斬「あはは……」

禁書「?」


―――
――





同日 18:30

-スターランドパーク・野外レストラン-


青ピ「――なっははははははっ!! なんやこのプリクラおもろっ!!」


吹寄「馬鹿笑いして、なにがそんなに面白いのよ?」

青ピ「だってこれ見てえや! ただでさえ真っ白なアクセラちゃんが美肌補正かかってさらに白ぉなっとるんよ!? これもう白通り越して無やん!!」

一方通行「あァ? オマエさっさと黙らねェと息の根止めて肌の色青白くさせンぞ」

上条「しかし一方通行がプリクラ撮るなんてな。そういうの嫌がると思ってたんだけど」

一方通行「クソどもに無理やり参加させられたンだよ」

結標「別にいいじゃない? 思い出になったでしょ?」

一方通行「それがいい思い出かどォかはわからねェけどなァ」

打ち止め「ミサカ的にはこっちの王子様風の目にいじったヤツとかカッコよくていいと思うなぁ、ってミサカはミサカはディスプレイにプリクラの画像を表示してみたり」

上条「ぶっ」

青ピ「あはははははっ!! ほんまかっこいいなあははあはははっはははっ!!」

一方通行「クソガキィ!! 余計なモン披露してンじゃねェ!!」

土御門「ふむ、そっちがプリクラなんて面白いイベントやっているとは思わなかったにゃー。正直こっちが回ったアトラクション二つはハズレだったから、そっちに合流しとけばよかった感あるぜい」

姫神「一つは絶叫度レベル5のコーヒーカップだろうけど。もう一つは何に乗ったの?」

青ピ「絶叫度レベル5のメリーゴーランドやで」

結標「そんなものがあったのね……」

土御門「両方とももともと絶叫マシンのジャンルじゃなかったからか、迫力とかそういうのはレベル4クラスだったからちょっと拍子抜けだったな」

上条「たしかにな。最初らへんに乗ったジェットスターとかバイキングとかほどヤバイとは感じなかった」

風斬「……なるほど。あれってそんなにすごくはなかったんですね……あれが?」

青ピ「なんや風斬ちゃん乗ったんかあれ?」

風斬「は、はい。インデックスと一方通行さんと一緒に」

禁書「私は面白かったと思うんだよ!」

一方通行「クソみてェなモン思い出させンな」

土御門「おっ、絶叫マシン大嫌いなアクセラちゃんからしたら、レベル5の絶叫マシンに乗ったらおしっこチビっちゃいそうなくらいビクビクだったのかにゃー?」

一方通行「だから嫌いじゃねェっつってンだろォが!? イイ加減にしねェとハラワタ引っこ抜くぞ!?」

結標「貴方もいい加減苦手って認めたら?」

一方通行「ンだと!?」

上条「別に絶叫マシン駄目だからって誰も笑わねえだろうし、いいと思うけどな俺は」

青ピ「ニヤニヤ」ニヤニヤ

土御門「クスクス」クスクス

一方通行「現在進行系で笑ってるクソどもが後ろにいやがンだがどォ説明してくれる気だ三下ァ?」




姫神「ところで。夕食が終わったあとは。どうするの?」

打ち止め「また何かアトラクションとか乗るの? ってミサカはミサカはソーセージにフォークを突き刺しながら聞いてみたり」グサリ

吹寄「それもいいけど、あたしはイルミネーションとか見て回りたいわね」

結標「たしかに。もうすっかり夜だしいいわね」

青ピ「ふふん。この時間帯は帰宅した人やイルミネーションに目が奪われてる人がたくさんおるから、ここは手薄になった絶叫マシンに行くのが正解や!!」

吹寄「別に無理してこっちに合わせろとは言っていないのだから、アトラクション行きたいなら好きに行きなさいよ」

上条「俺はもういいや。正直絶叫マシン乗り過ぎてもう疲れたよ」

青ピ「なんやてカミやん!? こんなところでへこたれるなんてどういうことや!? デルタフォース失格やぞ!?」

上条「これでそんな不名誉な称号を捨てられるならいくらでもへこたれてやるよ」

土御門「夜景を見ながらの絶叫マシン。これこそ最高の楽しみ方なのににゃー」

姫神「……! それなら上条君。よかったら。私と――」


禁書「とうまー! だったら私たちと一緒にぷりくら撮りにいこうよー!」


上条「いいけど、お前どんだけプリクラハマってんだよ?」

姫神「…………」

上条「ん? そういや姫神、なんか言いかけてたけど何だったんだ?」

姫神「……なんでもない」ムスッ

上条「なんでそんなに怒っているのでせうか……?」

風斬「えっと……、なんかすみません」

姫神「別に。あなたが謝るようなことではない」

禁書「?」


一方通行「……はァ、俺はとりあえず腹ァいっぱいだからコーヒーでも片手に一服してェ」

結標「いつもやっていることと変わらないじゃない」

一方通行「こンなところに来たところで俺の行動自体が変わるわけねェだろ」

結標「少しは変わった行動してみたらどう? たとえばお土産コーナーでハシャイでみたりとか?」

一方通行「オマエはそンなことする俺が見てェのかよ?」

結標「いや、別に」

一方通行「だったらクソみてェな提案してンじゃねェ!」

結標「ごめんごめん。あっ、ちょっとトイレ行ってくるわね」ガタッ

一方通行「そォかよ」


―――
――





同日 18:40

-スターランドパーク・野外レストラン近く女子トイレ手洗い場-



ジャバババババババババ



結標「…………はぁ」



『あとで話がある』



結標(……そういえば、アイツ二人きりで話があるって言っていたわね。あれから全然それっぽい素振りは見せてこなかったけど)

結標(一体何の話なのかしら? アイツがあんなこと言ってくるなんてたぶん初めてよね?)

結標(……駄目ね。全然思いつかない。何を喋ろうとしているのかまったくわからないわ)

結標(でも、こういう呼び出しという行為自体は漫画とかそういうのでもよく見るシチュエーションよね)

結標(そこに関連させて思いつくのは……たとえば決闘とか?)

結標(いわゆるヤンキー漫画とかで屋上や河原とかに呼び出して喧嘩する、みたいなのはよく見るわね)

結標(けど、アイツが私にそんなもの挑むなんてことしてくるとは思えないわね。第一、アイツのほうが圧倒的強いっていうのは周知の事実なんだからする必要ないわけだし)

結標(だったら、もう一つ思いつく方、ってことかしら……?)


結標(……愛の、告白?)


結標「って、そんなわけないでしょ!」

結標「はー馬鹿馬鹿し。もしアイツがそんなことしてきたらほんと大笑いよね?」

結標「……馬鹿みたいなこと考えてないで、早くみんなのところに戻ろ」



-スターランドパーク・野外レストラン近くトイレ周辺-



結標「さて、たしかあっちの方向から来たわよね?」キョロキョロ


??「――よう、結標さん」


結標「あっ、木原さんじゃないですか」

数多「ここにいるってことは晩メシでも食っていたのか?」

結標「はい。そういう木原さんもここで晩御飯を?」

数多「いいや、違う」

結標「ならなんでこんなところに……ああ、トイレですね。ごめんなさい」

数多「いや、それも違う。俺はお前に用があって来た」

結標「私に? なんですか?」

数多「……そうだな。お前にちょっと話しておきたいことがある」

結標「話?」

数多「ああ。つーわけで、ちょっと時間もらえるか? 結標淡希」

結標「…………」


―――
――




同日 19:00

-スターランドパーク・野外レストラン-


一方通行「…………チッ、遅せェなアイツ。一体どこほっつき歩いてンだ」


ザッ


一方通行「あン?」


結標「…………」


一方通行「やっと来やがったか? 他のヤツらはもォここ出たぞ?」

結標「…………」

一方通行「各々行きたい場所がバラバラだからこっからは自由行動だとよ」

結標「…………」

一方通行「吹寄と姫神はイルミネーション見に行って、上条とシスターに風斬はゲーセン、馬鹿二人はどっかの絶叫マシンに乗りに行った」

結標「…………」

一方通行「自由時間っつゥことだから、俺は休憩所に直行して昼寝でもしてかったンだがなァ。吹寄のヤツにオマエをここで待ってろって言われちまってよォ、面倒臭せェ」

結標「…………」

一方通行「オマエを連れてイルミネーション広場に連れてこい、ってな。つゥか、連れてこいって言うくらいならオマエらも待ってろっつゥ話だよなァ? わけわかンねェよ」

結標「…………」

一方通行「……あン? どォした? 急に黙りこくっちまってよォ?」

結標「……あっ、うん。ごめんなさい。ちょっと考え事してて」

一方通行「さっきまでの俺みてェなこと言いやがって、何かあったのか?」

結標「いや、ほんと何でもないから気にしないでちょうだい! イルミネーション広場よね? じゃあ、行きましょうか?」テクテク

一方通行「……ああ」ガチャリガチャリ



一方通行(結標のヤツの雰囲気が変わった? 一体どォいうことだ……?)



――――――


次でスターランドパーク編&記憶喪失あわきん編のクライマックスやで

次回『二人の告白』

なんとか週一更新間に合ったな

投下



18.二人の告白


March Forth Wednesday 19:00

-スターランドパーク・イルミネーション広場-


吹寄「へー、すごいわねー。まるで別世界にでも来たみたい」

姫神「そうだね」

吹寄「……さて、今頃あの二人はうまいことやってるかしらね?」

姫神「やっぱり。そういう意図があって。アクセラ君を待たせたんだ」

吹寄「そうそう。ケンカして仲直りしたあとは絆が深まるなんて話よく聞くし、ここで二人きりにしてあげればもしかしたら、って思ってね?」

姫神「なるほど。そこまで考えていたんだ」

吹寄「姫神さんは残念ね。上条のやつインデックスたちに取られちゃって」

姫神「いい。別に私はここで勝負を決めよう。みたいなこと全然思ってないから」

吹寄「そっか。まあ春休みはまだあることだし、まだまだチャンスはきっとあるわよ」

姫神「チャンスはあるのだろうけど。活かせるかどうかはまた別」

吹寄「随分と弱気な発言ね」

姫神「現実主義と言って欲しい」



ピロリン♪



吹寄「ん? 土御門からメッセが来てる」スッ

姫神「なにかあったのかな?」

吹寄「さあ?」ピッピッ

姫神「なんて書いてるの?」

吹寄「ちょっと待って? ええっと……これは?」


―――
――





同日 19:10

-スターランドパーク・イルミネーション通り-



一方通行「…………」ガチャリガチャリ

結標「…………」テクテク


一方通行「……なァ?」

結標「……何かしら?」

一方通行「どォしたンだよオマエ? さっきから全然喋らねェし。俺が言うのもなンだが、らしくねェぞ?」

結標「あ、あはは、ごめんなさいね。ちょっと今日はハシャギ過ぎちゃって疲れちゃったのかも」

一方通行「そォかよ」

結標「うん……」

一方通行「…………」

結標「…………」

一方通行「疲れているところ悪りィが」

結標「何よ?」

一方通行「ちょっと前に言った、二人きりで話をしたいっつったヤツ、今やってもイイか?」

結標「ああ、あれね。今なのね……」

一方通行「あン? 嫌なら別にイインだが」

結標「いや……ううん、大丈夫よ。というか二人きりって言っても、そこら中に他のお客さんとかいるけどいいの?」

一方通行「オマエにだけ聞こえるよォ声量を調整して喋るから問題ねェ」

結標「そう。で、どんなお話を聞かせてくれるわけ?」

一方通行「この話を聞いたら、オマエは俺に対して嫌悪感や憎悪を覚えてしまうかもしれねェ」

結標「…………」


一方通行「だが、俺がこれ以上先に進むためには絶対にオマエへ話しておかないといけないことだ」

一方通行「自分勝手だとは思っている。だから、聞いてくれ。俺の『告白』ってヤツをよ」


結標「……わかったわ。話して」

一方通行「悪いな」




一方通行「まずは俺の過去のことだ」

結標「過去?」



一方通行「ああ。まず俺は、人を殺したことがある」



結標「ッ」

一方通行「それも一人や二人じゃねェ。一万人以上っつゥ馬鹿みてェな数の人間をこの手にかけた」

結標「一万……」

一方通行「その一万の数の大半を、ある実験に参加することによって殺めた」

一方通行「『絶対能力進化計画(レベル6シフト)』っつゥ最悪の実験に参加してな」

結標「絶対能力者(レベル6)。そんなものが実在するの……?」

一方通行「さァな。実際のところあの実験をあのまま続けていたら、本当にそこまで到達できたかなンて俺にもわからねェ」

結標「…………」

一方通行「話を続けンぞ? 家の近くのコンビニでバイトしてるミサカっつゥヤツ覚えてるか?」

結標「え、ええ、覚えてるも何も友達みたいなものじゃない?」

一方通行「そォ言ってもらえるとアイツも喜ぶだろォよ。で、アイツの姉のことは?」

結標「超能力者(レベル5)の第三位、常盤台の超電磁砲(レールガン)、御坂美琴って人でしょ?」

一方通行「そォだ。しかし、事実はそォじゃねェ。アイツらは本当の姉妹じゃねェンだ」

結標「……どういうこと?」

一方通行「アイツは、アイツらは妹達(シスターズ)って言って、御坂美琴のDNAマップを使って生まれた体細胞クローンだ」

結標「く、クローン……? あ、あの子が?」

一方通行「戸惑うのも無理はねェ。国際法で禁止されているよォなヤべェモンだからな」

結標「……そのクローン、ミサカさんが一体貴方と何の関係があるのかしら?」

一方通行「『絶対能力進化計画(レベル6シフト)』の内容。それを教えてやろう」



一方通行「それは二万通りの戦場で二万体の『妹達』を殺害すること。もちろン、殺すのは被験者であるこの俺、一方通行だ」



結標「ッ!?」




一方通行「アハッ、イカレてンだろ? 二万人の人間をぶっ殺す実験なンてなァ? だが研究者どもからしたらそォじゃなかった」

一方通行「ヒトの形をしているとはいえ、所詮はクローン。薬品とタンパク質で合成された人形、実験動物のモルモットと同価値の使い捨ての消耗品。その程度にしか思っていなかった」

一方通行「当然、被験者であるこの俺も同じことを考えていたっつゥわけだ。ヤツらと同じクソ野郎だったっつゥことだよ」


結標「…………」


一方通行「ま、オマエも察しているとは思うがこの実験は失敗に終わった」

一方通行「第一〇〇三二次実験。その最中にとある無能力者(レベル0)の男が実験に介入し、この俺と交戦した」

一方通行「結果、超能力者(レベル5)の第一位である一方通行は敗北した。無様にも、その無能力者(レベル0)相手にな」


結標「無能力者(レベル0)、ってもしかして……」

一方通行「ああ。オマエの思っているヤツで間違いねェよ。オマエもよく知っているアイツだ」

結標「そっか……」

一方通行「そォいうわけで、この俺が最強の能力者っつゥのを前提で行われていた実験が、最弱の無能力者に敗北したことで前提条件が崩れちまった」

一方通行「そして実験は凍結した。用済みになった妹達九九六八人は学園都市に何人か残して、残りは外にある学園都市の関連機関に移されて生命維持の為の調整を受けてるっつゥ話だ」

結標「……なるほど。それが、貴方が心の中にずっと抱え込んでいた過去、ってことなのね?」

一方通行「そォいうことだ。けど、この話にはまだ続きがある」

結標「続き?」

一方通行「ああ。実は妹達には二〇〇〇一人目の個体が存在していた」

結標「二〇〇〇一……実験では二万人しか用意しないんじゃなかったっけ?」

一方通行「そォだ。だが事実ソイツは存在していて俺の目の前に現れた」


一方通行「ソイツはオマエもよく知るヤツだ。ミサカ二〇〇〇一号。通称打ち止め(ラストオーダー)って呼ばれているヤツだ」


結標「打ち止めちゃんが……」


一方通行「アイツは妹達のいわゆる司令塔っつゥヤツで、ミサカネットワークっつゥ妹達の中で形成された電磁的情報網から妹達へ直接司令を送れる上位個体だ」

一方通行「まあ、内容は省くがその打ち止めを利用して妹達を暴走させるウイルスコードを流させ、学園都市転覆を企てるヤツが出てきた」

一方通行「なりゆきで俺はそれを阻止するために動いて、打ち止めを救い出した。その代償がコレだ」コンコン


結標「チョーカー……電極?」




一方通行「そう。俺はそンとき脳みそに銃弾をブチ込まれて言語能力、歩行能力、計算能力が奪われた」

一方通行「普通ならそンな傷受けたら一生ベッドの上から降りることができねェよォな、深刻なダメージだったわけだ」

一方通行「だが、俺はアイツら妹達のチカラを借りることによって、一時的にではあるがそれらを取り戻すことができるよォになった」

一方通行「ミサカネットワークを経由して一万近い妹達に代理演算してもらうことができる補助演算デバイス。つまり、俺はアイツらに生かされているっつゥことだ」


結標「それが、頭に電極を付けている理由、能力使用モードっていうものがある理由……?」

一方通行「ああ」

結標「…………」

一方通行「ま、こンなモンか。俺の話したかった過去については」

結標「……ねえ、一つだけ聞かせて」

一方通行「あン?」

結標「貴方はミサカさんたちを、妹達を実験動物って思っていたって言ってたけど、それは今も変わらないわけ?」

一方通行「……ああ、そォいえばこれは言ってなかったな」


一方通行「俺は、今はアイツらのこと人間として見ているつもりだ。一人ひとりが意思を持っている、今を精一杯生きている人間としてな」

一方通行「だが、そンなアイツらを実験動物として見ていて、利用しよォとしているヤツらもまだ腐る程いる」

一方通行「俺は打ち止めを、妹達をソイツらから守るためだったらどンなことだってする。それが俺の紛れもない意思だ」


結標「…………」

一方通行「さて、もォ俺の過去の話はイイだろ。次は俺とオマエの過去の話だ」

結標「貴方と私の過去?」

一方通行「そォだ。っつっても、前話したよォにオマエと俺が接触した時間は五分にも満たねェ」

結標「ええ、覚えているわ。だって、あの家に居候し始めた頃に話したことだしね」




一方通行「これはさっきの話とも繋がることだ。九月一四日ンときのオマエ、つまり記憶を失う前のオマエはとある『部品』をある機関から強奪し、逃走していた」

結標「……『部品』?」


一方通行「その『部品』っつゥのが、それが存在するだけであの馬鹿げた計画が再開される可能性がある、俺や妹達にとって最悪の代物だったわけだ」

一方通行「俺はそれを聞きつけて、それを破壊するためにオマエの前に立ちふさがった」


結標「それが、私と貴方の初対面ってわけね?」

一方通行「そォいうわけだ。そして、俺とオマエはその『部品』を巡って交戦した。まァ、交戦って言えるほどのモンかどォかはわからないがな」

一方通行「戦いは一瞬で終わった。テレポートで逃げるオマエを高速飛行で追尾して、オマエの持つ部品ごとオマエの顔面に拳を叩き付けることによってな」

結標「それが、私が鼻を怪我していた理由……?」

一方通行「ああ。そしてこれが」




一方通行「オマエが記憶を失った原因。この俺一方通行が全ての元凶だったっつゥことだ」




結標「…………」

一方通行「……あとは、オマエが知っている通りだ」

結標「……そう、だったのね」



一方通行「つまり俺は、一万人以上の人間をぶち殺したクソ野郎でありながら、オマエの記憶を奪い、今の今までそれを知っておきながら黙ってのうのうと過ごしてきた、最悪なクソ野郎でもあるっつゥことだ」

一方通行「どォだ? これを聞いてどォ思った? 幻滅したか? 悲嘆するか? 嫌悪するか? 腹わたが煮えくり返りそォか? グチャグチャの肉塊に変えてやりてェか?」





結標「…………」

一方通行「それでイイ。オマエが感じているその負の感情は、真っ当な人間なら湧いて当然のモノだ」

結標「…………」

一方通行「……以上が、俺がオマエにだけは話しておきたかったことだ。悪かったな。今まで黙っていて」

結標「……ねえ」

一方通行「何だ?」

結標「なんで突然、そんなこと私に話そうって思ったのよ? 貴方が話さなければ私には一生わかる機会なんて訪れないことだっただろうし」

結標「黙っていれば、今まで通りの変わらない日常をずっと過ごしていけたかもしれなかったのに」

一方通行「言っただろ? 俺はもォ逃げねェって。これ以上罪から目を背けておめおめと生きていくのが許せなくなった」

一方通行「つまり、完璧な自己満足だ。そンなモンに付き合わせちまってすまねェとは思っている」

結標「そう……」

一方通行「…………」

結標「……もうひとついい?」

一方通行「ああ」

結標「あれに……乗らない?」



『スターランドパーク最大の観覧車!! レボリューション!!』



一方通行「……観覧車? 何で急にそンなモンに」

結標「別にいいでしょ? ちょうど待ち時間もないみたいだし」

一方通行「いや、俺が聞きたいのはそォいうことじゃねェ――」


結標「あっ、係員さーん! 次私たち乗りまーす!」


一方通行「……わけがわからねェ」


―――
――





同日 19:20

-スターランドパーク・レボリューション個室-


結標「……うわー、すごいわね。さすが最大の観覧車。まだ中腹辺りなのに綺麗な夜景が一望できるわね」

一方通行「オイ、どォいうつもりだオマエ?」

結標「どういうつもりって?」

一方通行「あンな話聞いて、俺がどンなクソ野郎かわかっただろォに、何で俺をこンなモンに誘ったンだ?」

結標「理由、か。貴方とこの観覧車に乗りたかった、っていうのじゃ駄目かしら?」

一方通行「駄目じゃねェが、納得はできねェな」

結標「そう。……ねえ、私貴方に言っておかないといけないことがあるの」

一方通行「何だよそれは?」

結標「貴方、三つの話をしてくれたわよね? 『絶対能力進化計画(レベル6シフト)』のことと『打ち止め(ラストオーダー)』ちゃんのこと、私の『記憶喪失の原因』の話」

一方通行「ああ」



結標「実はね。その話、もうすでに知っていたのよ。私」



一方通行「…………は?」

結標「一万人以上のミサカさんを死なせてしまった話も、打ち止めちゃんを命がけで守った話も、私の記憶を奪ってしまった話も、全部知っていたのよ?」

一方通行「…………」

結標「ふふっ、聞いてるときの私のリアクション、なかなかの名演技だったでしょ?」

一方通行「どォいうことだ? いつ? どこで? 誰からだ? 一体どォやってその情報を得やがった!?」

結標「……夕食のとき、私トイレに行くために席を外していたじゃない? そこで木原さんに偶然会って、そのときに」

一方通行「あ、あの野郎ォ……! 何のつもりでそンなクソみてェな真似をしやがった……!」

結標「さあ? 私もその理由までは教えてくれなかったわ。でも話してくれてるときの木原さんの表情は、なんというか、真剣って感じはしたわ」

一方通行「真剣だろォが真剣じゃなかろォが関係ねェ。あの野郎、あとでスクラップ確定だクソ野郎がッ!」

結標「……そういえば、貴方さっき私に質問したわよね? この話を聞いてどう思ったか、って」

一方通行「ああ。そォだな」


結標「たしかに、木原さんにその話を聞いたときはいろいろな感情が頭の中を巡っていったわ。もちろん貴方の言った負の感情っていうのもね」

結標「さらには木原さんが冗談を言っているんじゃないかっていう疑念さえも出てきたりしたわ。目を背けたかったんでしょうね」

結標「その頭の中にある様々な考えや感情を整理して、まとめて、でも結局収まりがつくことはなかった」

結標「けど、改めて貴方の口から直接話を聞いたときに、なんというか、いろいろあったものが頭からすぅっと消えてく感じがしたわ。そして、ある考えだけが残った」

結標「一方通行。私はね」




結標「貴方のことを支えてあげたいと思った。守ってあげたいと思った」






一方通行「…………」

結標「それが、さっきの質問の答えよ」

一方通行「……何言ってンだオマエ? わけがわからねェよ? 支えてあげたい? 守ってあげたい? ふっざけンじゃねェ!!」

結標「ふざけてなんかいないわ」

一方通行「いィやふざけてる!! 俺は大罪人だッ!! 一万人以上の人間を殺したッ!! オマエの記憶も奪ったッ!!」

一方通行「そンな人間がかけられてイイ言葉じゃねェンだよ!! オマエの言った言葉はッ!!」

結標「たしかにそうかもしれないわ。その貴方の言う罪っていうものだけ見ればね」

一方通行「わかってンじゃねェか。だったらよォ、そンな感情は生まれねェはずなンだよ!」


結標「でも貴方は言ったじゃない? 打ち止めちゃんを、妹達のみんなを守るって」

結標「でも貴方はたくさんの思い出をくれたじゃない? 記憶を失ってどうしようもなく不安になっていた私に」


一方通行「それが、どォしたってンだ! そンなことしたからって過去が変わるわけじゃねェ!」

結標「ええ、そうよ。いくら罪を償う為に行動したところで罪自体が消えるわけじゃない。貴方の言いたいこともわかるわ」

結標「けれど、貴方はそれをわかっていてなお、その罪から逃げようとせずに向き合おうとしていたじゃない」

一方通行「何でそンなことがわかる!? 俺が本当に罪と向き合おうとしているかなンて、わかるわけねェだろォが!」

結標「さっき貴方は自分で言ったじゃない。罪から逃げないって、目を背けないって」

一方通行「そンなモン口から出任せ言っているだけかもしれねェだろォが! 何の信憑性もねェ言葉だ!」

結標「私は信じるわ」

一方通行「どォしてそンなことが言えンだ!?」 

結標「信じるに決まっているじゃない。だって貴方は」



結標「きちんと私に向かい合って、自分の罪を打ち明けてくれたじゃない」



一方通行「ッ」


結標「私がもし貴方と同じ立場だとしたら、こうやって他人に自分の忌々しい過去を打ち明けるなんてこと簡単にできるとは思えない」

結標「けど貴方はこうやって私に話してくれた。相当な覚悟を持って私の前に立っているんだってわかるわ」

結標「そんなこと、口から出任せを言うような人にはできない、本当に罪と向き合おうとしている人じゃないと、絶対にできないことだと私は思う」


一方通行「…………」

結標「だから私も向き合いたい。貴方が背負っているもの、貴方が抱え込んでいるものと」

一方通行「……やっぱり理解できねェ。何でオマエはそこまでのことが言えるンだ?」

結標「……だって、だって私は――」
















結標「私は貴方のことが好きなんだからっ! ずっと貴方の側に居たいと思っているからっ!」






一方通行「…………」

結標「…………? って、あれ? 私今なんて言った?」

一方通行「…………」

結標「も、も、もしかして、私とんでもないこと口走らなかった?」

一方通行「……ああ。おそらくオマエが思っている通りの言葉を言ったな」

結標「あ、あ、あわ、あ、あわわ」カァ

一方通行「オマエ、頭おかしいンじゃねェの?」

結標「え、えっ?」

一方通行「普通、俺みてェな人間にそンな感情が生まれることなンてねェンだよ。そンな言葉を吐くことなンてありえねェンだよ」

結標「……そうね。たしかにそうかもしれない。でも、私はおかしいとは思わない」

一方通行「ハァ?」

結標「私だって超能力者(レベル5)なんだから。貴方たち人格破綻者のお仲間なんですもの」

一方通行「…………」

結標「……あら? ひょっとしてまた私変なこと言っちゃった?」

一方通行「……アハッ」

結標「?」








一方通行「アハハッ、アハギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァッ!!」









結標「うわっ、急に何よ!? てか笑い方怖っ!?」

一方通行「ハァーッ、ああ。ひっさしぶりに大爆笑しちまったァ」

結標「そ、そんなに私変なこと言ったかしら?」アセッ

一方通行「……オマエ、ホント馬鹿だよな?」

結標「なっ、そこまで言われる筋合いはないと思いますけど?」

一方通行「ホンット、馬鹿みてェだよな、オマエも……俺も」

結標「一方通行?」

一方通行「…………フゥ、結標淡希」

結標「は、はい?」

一方通行「俺は決めていたことがある。こォいう状況になったときどォするべきかを、いや違う。俺自身はどォしたいのかを」

結標「?」

一方通行「だから、今からそれを実行してやるよ」

















一方通行「俺もオマエが好きだ。オマエが隣に居ない世界なンて考えられねェくれェ、オマエのことが好きだ」









結標「…………えっ? い、今なんて言った?」

一方通行「…………」

結標「ちょ、ごめん、もう一回言って!」

一方通行「……チッ、らしくねェなンて俺だってわかってンだよ。あンなセリフ二回も吐かせよォとすンなクソ野郎が」

結標「ね、ねえ? つまり、これって……?」

一方通行「ああ。オマエが思っていることで間違いねェよ」

結標「これ……もしや夢なんじゃ……?」

一方通行「かもな。ベタだが自分の頬つねってみろよ」

結標「……ふぃたい」ギュー

一方通行「そォかよ」

結標「……いだぃ」ポロッ

一方通行「あン?」

結標「いだぃよ、どっでもいだいよあぐぜられーだぁ」ポロポロッ

一方通行「何泣いてンだよオマエ? 普通笑うところじゃねェのかよこォいうのってよォ?」

結標「ご、ごめんね。わだしにもよくわがんない」ポロッポロッ

一方通行「……はァ、面倒臭せェ」




一方通行「……ああ、そろそろ頂上か。つゥか長げェよこの観覧車、どンだけデカいンだよ?」

結標「……ねえ、一方通行」

一方通行「何だよ」

結標「私たちって、その……こ、恋人同士ってことでいいのよね?」

一方通行「……ああ、まァ、そォいうことになるな」

結標「本当に?」

一方通行「何でこのタイミングで疑い出してンだよ? どこにそンな不審な点があるっつゥンだ?」

結標「だ、だってよくよく考えたら貴方があんなこと言うのに違和感が……」

一方通行「それはたしかに俺だって自覚はあるけどよォ」

結標「もしかしてどこかにドッキリの札を持った青髪君が潜んでいるんじゃ……?」

一方通行「ンなわけねェだろ! やらせるにしてもソイツじゃなくてもっとマシな人選するわ!」

結標「……怪しいわね」

一方通行「チッ、だったらどォすりゃ信用してくれるっつゥンだよ?」

結標「何って、そうね……あっ!」ピコン

一方通行「あン?」

結標「あ、あの、その、えっと、あのね? あー、えっと、えー」

一方通行「何だァ? 急にどもりやがって。一体何やらせるつもりなンだオマエ?」

結標「……き」

一方通行「き?」




結標「キスして!! この観覧車が頂上に達する瞬間に!!」




一方通行「…………」




結標「そ、そしたら信じてあげるわ! ほ、本当に恋人だって言うなら、それくらい余裕でしょ?」

一方通行「……何つゥかオマエ、ナニ発情してンだよ?」

結標「そ、そんなんじゃないわよ! 恋人同士ならそれくらい普通にするでしょ普通に!」

一方通行「知るかよ。つゥか本当かよ? 恋人っつゥモンになって即接吻なンてことが常識なンかよ。俺もそォいうのはよくわかンねェがよォ、信じらンねェ」ブツブツ

結標「何一人ブツブツ言っているのよ?」

一方通行「ちょっと頭ン中整理してンだ……あン?」チラッ

結標「ん? 突然窓の外見てどうしたのよ?」

一方通行「……アハッ。いや、イイ景色だなァって思ってよォ」

結標「そうね……ってそんなので誤魔化されないわよ!? キスするの? しないの? どっちよ?」

一方通行「何で俺がこンなに責められてンだ? まァイイ」カチッ

結標「一方通行?」


一方通行「イイだろォ。キスの一つや二つ、やってやるよ」


結標「ええっ!? ……その、ほ、本気なの?」

一方通行「オマエがやれって言ったンだろォが!」

結標「で、でも……」

一方通行「……頂上まであと二〇秒っつゥところか。拒否すンなら今のうちだぜェ?」

結標「え、えと、あっと、その……」

一方通行「あと一〇秒」

結標「ああああ、お、お願いします!」スッ

一方通行「…………」フゥ-

結標「…………」ドキドキ

一方通行「……行くぞ?」

結標「は、はいぃ!」














一方通行「あ、そォだ。言い忘れてたが、窓の外で俺らの行動を監視しているヤツらがいるぞ?」













結標「えぇっ!? う、嘘!? あっ、あれは空撮用のドローン!? なっ、ちょっ、んっ――――」


―――
――





同日 19:30

-スターランドパーク・レボリューション前-


土御門「……あちゃー、やっぱバレちまったかにゃー」

青ピ「さすがアクセラちゃんやなー。警戒心もレベル5や!」

上条「ってそんなこと言ってる場合かよ!? バレたっつーことはすなわち一方通行ブチギレ確定ってことじゃねえか!」

青ピ「何言うとんやカミやん!! ブチギレたいのはこっちやで!! 一人だけ抜け駆けしおってゆるさーん!!」

上条「そ、そう言われてみればそうだな! くっそーアイツ今日から彼女持ちかよ羨ましいぜ」



ガン!!



上条「痛てっ!? 何でだよ!?」

青ピ「いや、なんかムカついたから」

土御門「同じく」


吹寄「な、ななななななななななななななななな――」カァ

姫神「どうしたの吹寄さん? 顔真っ赤にしちゃって。もしかしてキス見ただけで。恥ずかしくなっちゃった?」

吹寄「なっ、そ、そ、そんなわけないじゃない! キスくらいなんてことないわよ! ドラマとかで何十何百回と見たことあるんだから!」アセッ

姫神(かわいい)クスッ

吹寄「……とにかく! 二人が帰ってきたら祝福してあげないとね?」

姫神「そうだね」

吹寄「この流れで姫神さんも頑張ってね?」

姫神「……まあ。ぼちぼち」


風斬「…………、…………」カァ

禁書「ひょうか?」

風斬「な、なに?」

禁書「二人ともとっても嬉しそう。なんだかこっちも嬉しくなるんだよ!」

風斬「……うん! 私も嬉しいよ!」


打ち止め「…………」テクテク


禁書「らすとおーだー?」




-離れた場所-


打ち止め「……これでよかったんだよ、ってミサカはミサカは……」ボソッ


禁書「らすとおーだー? どうかしたの?」ドタドタ

打ち止め「ッ、ううん、なんでもないよ! ちょっと人混みに酔っちゃったから避難しただけだよ!」

禁書「…………」

打ち止め「よ、よーし! あの人たちが帰ってきたら精一杯賑やかしてやるぜ、ってミサカはミサカはお祭り野郎の気持ちになってみたり」

禁書「……だめだよ、らすとおーだー」

打ち止め「えっ?」

禁書「そんな悲しそうな顔で祝福されても、二人は喜ばないよ」

打ち止め「悲しそう? あ、あははーまたまたー! 笑顔の伝道師であるミサカがそんな顔するわけないじゃん!」

禁書「…………」スッ

打ち止め「ふえっ!?」ビクッ

禁書「…………」ナデナデ

打ち止め「なっ、なんなの急にミサカの頭を撫でて、み、ミサカはそんなことされて喜ぶお子様じゃないよ、ってミサカはミサカは戸惑ってみる」


禁書「……あの観覧車乗ったことあるけど。あの位置なら二人が帰ってくるまでまだ少し時間があるよ」


打ち止め「そ、そうなんだ。へー、そんなことわかるなんてさすが完全記憶能力だね、ってミサカはミサカは」


禁書「だから、今だけは我慢しなくもいいんだよ? 強がらなくてもいいんだよ?」


打ち止め「が、が、我慢? つ、強がってる? み、ミサカはそんなことしてない、よ」


禁書「私にはよくわからないけど。たぶんずっと一人で抱え込んでいたんだよね。ずっと一人で頑張ってたんだよね」


打ち止め「み、み、み、みさ、ミサカは、ちが、ちがう」ポロッ


禁書「こんなときくらい、一人じゃなくてもいいと思うんだよ?」ニコッ


打ち止め「…………みさ、みさかは、みしゃかは――」









風斬「…………、…………」


―――
――





同日 19:40

-スターランドパーク・レボリューション前-



吹寄・姫神「「アクセラ(君)!! 結標さん!! おめでとう!!」」



結標「あ、ありがとう二人とも!」

一方通行「おォーおォーどォだった? 楽しンでもらえたかなァ覗き魔どもがァ。見物料はオマエらの命っつゥことで構わねェよなァ?」

青ピ「うるせーこの裏切り者めぇ!! 一人だけ良い思いしやがってえ!!」

土御門「そうだそうだー! 観覧車のてっぺんでキスなんて漫画みたいなことしやがってー!」

上条「つーか、土御門。よくよく考えたらお前舞夏いるんだから文句言う資格ねえんじゃねえか?」

土御門「いやー流れ的にこうするのが正解かと」

一方通行「遺言はそれでイイか? 馬鹿三人、まずはオマエらから血祭りに上げてやるよ」カチッ

青ピ「よーし! いけ、カミやん!! あの腐れ裏切り野郎に粛清を!!」

土御門「オレらの意思を持っていけカミやん!!」

上条「だから俺を勝手に身代わりにするんじゃねえ!! てか俺何も文句言ってねぎゃああああああああああああああああああああああああッ!!」



ドガ!! バガ!! ボコ!! グシャ!! メリィ!!



吹寄「まったく、こんな人通りの多い場所で暴れてんじゃないわよ」

姫神「もはや。定番の流れ」

結標「はは……」

一方通行「バッテリー無駄に使わせてンじゃねェっつゥの」ガチャリガチャリ

吹寄「おかえりアクセラ」

姫神「おつかれ」

一方通行「傍観者面してっけど、オマエらも同罪だからな違法視聴者ども」

吹寄「あはは、ごめんなさいね。どうしても気になっちゃって」

姫神「欲望には敵わなかった」

結標「もー、ひどいわよ二人とも」

一方通行「チッ、うっとォしいヤツらだ」

青ピ「ふざけんなー! 女子にもちゃんと粛清しろー!」ブーブー

土御門「差別だ差別だー! 男女平等に接しろー!」ブーブー

一方通行「…………」カチッ



ドゴォン!!






タッタッタッタッタッタッ!!



一方通行「あン?」



打ち止め「おりゃー突撃ー!! ってミサカはミサカは助走の勢いをそのままに頭から突っ込んでみたり!」バッ



ドゴッ!



一方通行「ごふっ!?」

結標「打ち止めちゃん!?」

禁書「ちょっと待ってよらすとおーだー!」ドタドタ

上条「ん? そういえばお前ら今までいなかったけど、どこに行ってたんだ?」ボロッ

風斬「い、いえ、その……」

禁書「とうまには関係ないかも。というかとうまは何でそんなにボロボロになっているのかな?」

上条「……ちょっと悪魔の逆鱗に触れちまって」

禁書「?」


一方通行「……痛ってェなァ、何しやがるクソガキ!」

打ち止め「アクセラレータ!」

一方通行「あァ?」

打ち止め「約束守ってくれてありがとう! そしておめでとっ! ってミサカはミサカは感謝の言葉とお祝いの言葉を同時に贈ってみたり」ニコッ

一方通行「……ケッ、何が約束だ。命令とか言ってな……いや違う。そォじゃねェ」

打ち止め「うん? 違うって何が? ってミサカはミサカは――」



一方通行「こっちこそありがとうだ。打ち止め」



打ち止め「ッ、…………アワキお姉ちゃん!!」

結標「はい!?」


打ち止め「この人は無愛想で、口が悪くて、短気で、面倒臭がり屋で、非常識で、ひねくれ者で、笑顔が怖くて、笑い方も怖くて――」


一方通行「オイ」


打ち止め「そんな変人だけど、アクセラレータをよろしくね、ってミサカはミサカはお願いしてみる」


結標「……うん、知ってる。任せてちょうだい」ニコッ

打ち止め「うん!」ニコッ

一方通行「……くっだらねェ」




青ピ「よっしゃー!! こうなったら二人のお祝いパーティー開催するでー!!」


上条「切り替え早っ!? さっきまで文句垂れてたヤツのセリフとは思えねえな」

吹寄「いいわねお祝いパーティー。あなたにしては珍しくいいアイディアじゃないかしら?」

姫神「いつやるの?」

青ピ「そんなの今日に決まっとるやろ! 鉄は熱いうちに打てってヤツやで!」

上条「げっ、今日はさんざん絶叫マシン乗りまくって疲れ切ってるっつーのに」

青ピ「あの程度で音を上げるなんてだらしないなーカミやん! てなわけでつっちー! パーティー会場の確保や!」

土御門「そう言うと思って、安くてうまくて夜遅くまでどんちゃん騒ぎしても怒られない店の予約を取っておいたぜい」ピッ

青ピ「さすつち!」

吹寄「……もう、勝手に次々と決めちゃって。しょうがないわね」

禁書「わーい! パーティーだー! ごはんだー!」

風斬「さっき、あんなに食べたばかりなのに……」

姫神「相変わらずの食欲で。逆に安心する」

打ち止め「宴会盛り上げ隊長のミサカがパーティーを最っ高に盛り上げてやるぜー! ってミサカはミサカは意気込んでみたり!」

上条「……だぁーもうわかりましたよ!! 日付が変わるまでだろうが朝までだろうが付き合ってやるよこんちくしょう!!」

土御門「その意気だぜいカミやん!」

青ピ「そうと決まればさっそく会場にレッツゴーや!!」

打ち止め「おおっー!! ってミサカはミサカは駆け出してみたり」タッタッタ

風斬「ああ、走ると危ないって言ってるのにまた……」オロオロ


結標「……あはは、私たちのお祝いパーティーですって」

一方通行「面倒臭せェ」

結標「言うと思ったわ。こういうときくらい素直に喜びなさいよ?」

一方通行「素直に面倒臭せェ」

結標「まったく……」


吹寄「二人とも、何してるの? 早く行きましょ?」

打ち止め「おおーい!! 早く早くー!! ってミサカはミサカは飛び跳ねながら急かしてみたり!!」ピョンピョン


結標「うん、ちょっと待っててー! すぐ行くからー! ほら、行くわよ一方通行?」

一方通行「チッ」

結標「……あっ、そうだ。一方通行?」

一方通行「あァ?」



結標「改めて、これからもよろしくね!」

一方通行「……ああ」



――――――





『結標淡希記憶喪失編』 完





くぅ疲
とりまこれで8年以上前から5スレに渡って続いた話にケリが付いたってことで
打ち止めに関しては家族愛で通してもよかったけど
公式でも恋愛感情あるっぽい描写あったし、この過去スレでもそれっぽい描写入れちゃったからやらざるを得なかった感じやね

これで1スレから見てくれてる人に対しての話は一区切りってことで
ここから先はおそらく誰も求めていないガチオナニーの蛇足編やから読まなくていいよ
具体的に何するかと言うと回収してない伏線の回収

ではおまけと予告で今日はおわり!w



~おまけ~


同日 21:00

-スターランドパーク・恐怖! Dr.GENSEIの館・スタッフ控室-


円周「――数多おじちゃん」テクテク

数多「あん?」

円周「アクセラお兄ちゃんと淡希お姉ちゃんがくっついたらしいよ」

数多「そうかよ」

円周「あれ? 思ったより薄い反応だね。これを期待して淡希お姉ちゃんにアクセラお兄ちゃんのこと暴露したんじゃなかったの?」

数多「別にそんなつもりはねえよ」

円周「じゃあ何を期待してそんなことをしたの? もしかして血みどろの戦いが起こるほうを期待した?」

数多「それも違うな」

円周「むー、わからないなー。そんなもったいぶらずに教えてよー」

数多「何かを期待していたってほどの話じゃねえっつってんだよ」

円周「なら質問を変えるよ。何のためにあんなことをやったの?」

数多「……そうだな。ただの生意気なクソガキに対しての嫌がらせっつーだけの話だ」

円周「えー、そんなことのために数多おじちゃん直々に出張ったっていうのー? ほんと暇なんだねおじさん」

数多「だから暇じゃねえっつってんだろうがクソガキ!」

円周「社員のみんなが汗水垂らしながら働いているっていうのに、女子高生と楽しくトークトークしてるおっさんなんて暇人以外形容する言葉がないよ」

数多「……よーし、わかった。そんなに死にてえなら新しい木原神拳奥義の実験台にテメェを使ってやるよ」ゴキゴキ

円周「うん、うんうんわかってるよ数多おじさん。おちょくって逃げるヒットアンドアウェイ戦法、それが『木原』の真骨頂なんだよね」ピーガガガ

数多「それはテメェだけだクソガキィ!!」



ゴツンッ!!



円周「ほげぇ!?」バタリ

数多「はぁ……、さーてと」




数多(わかってんだろうな一方通行。テメェは大きな壁を乗り越えたつもりでいるんだろうが、まだテメェは根本的な問題を解決できてねえんだっつーことをな)







円周「きゅー……」




――――――



次回『S1.ファーストデートi』

書き溜め完全に尽きたので来週投下無理かもわからん

先に行っておくけど明日の投下はないです
進捗はどうあれ来週は絶対する



今回から蛇足編が始まりやす
読む人いないと思うけど一応注意事項追記しとく


今までの話の雰囲気とはだいぶ毛色が変わる(特にS2の終盤以降から)

描写をわかりやすくするため台本形式から台本+地の文形式に変更(本格的な変更はS3から)

やりたいストーリーに無理やりキャラを当てはめてるから今まで以上にキャラ崩壊注意

設定改変・独自解釈のオンパレード

ストーリーの進行上特定のキャラが悪者になったりキャラ下げみたいに思えるような展開あり


では投下



S1.ファーストデートi


私の名前は結標淡希。とある高校へ通う空間移動(テレポート)という超能力を持つ至って普通の女子高生。
そんな私に最近恋人ができた。
白髪赤眼で線の細い体格。ぶっきらぼうで偏食家で面倒くさがり屋でいつでもどこでも昼寝をしているような、同じ家に居候している同居人の年下の男の子。
一週間前に一緒に行った遊園地の観覧車の中で、私の方から告白をし、それを受けてくれたことによって恋人同士となった。
思春期真っ盛りの女子高生からしたら初の彼氏ができるということは、それはもうとてもとても嬉しく、毎日がウキウキワクワクみたいな感じである。
まさしく人生が薔薇色になるとはこのことなんだろうとハッキリと言える。

そんな誰にでも自慢したくなるような状況だけど、その現場にいた子以外の同居人にはこのことはまだ話してはいなかった。
なんというか、今更そんな関係になりましたと面と向かって言うのが恥ずかしくてまだ話せずにある。
いつか自分から話そうとは思っているが、果たしていつになることやら。
まあ、その同居人二人のうち一人はニヤニヤしながらこっちを見ていたりするので、気付いていそうではあるが……。

そんな人生の絶頂期にあるであろう私には一つの悩みがあった。
先程言ったように、彼と私が恋人となったのは一週間前である。七日間経っているのである。当日を除いたら六日間。
六日間もあったらやりたいことは学生レベルなら大抵何でもできると思う。たぶん。
そんな日数経っているのにも関わらず、私と彼の間には――。




April First Wednesday 15:00

-黄泉川家・リビング-



結標「……ねえ、一方通行?」



一方通行「あン?」

結標「ちょっと確認したいことがあるんだけどいいかしら?」

一方通行「何だよ?」

結標「私たちって恋人同士、ってことでいいのよね?」

一方通行「そォだな。それがどォかしたかよ?」

結標「…………」

一方通行「?」

結標「…………ないのよ」ボソッ

一方通行「あァ?」





結標「私たちあれから恋人らしいこと一度もしていないのよ!!」ドン





一方通行「……ハァ?」

結標「恋人らしいことよ恋人らしいこと! あれから一週間も経つというのになんにもないじゃない!」

一方通行「そりゃいつも通り生活してりゃ何も起こりよォがねェだろ」

結標「何でいつも通り生活しているのよ!? 恋人同士になったのよ!? なんかあるでしょやること!」

一方通行「その言葉、そっくりそのままオマエに返してやるよ」




結標「だいたい唯一やった恋人同士らしいことなんて、観覧車のときにやったその、き、キスくらいじゃない。そんな状態で恋人同士なんて言えるのかしら?」

一方通行「知るか」

結標「と、とにかく! 何か恋人同士でやるようなことをやりたいわ!」

一方通行「何かって漠然とし過ぎだろ……はァ、まァイイ。そンなにやりてェならやってやるよ」

結標「えっ、ほんと? 一体何をするつもりなのよ?」

一方通行「……よし、外出るぞ」ガチャリガチャリ

結標「外? 一体どこに行くつもり?」

一方通行「どこって、ラブホ――」




ゴッ!!




結標「ふ、ふざけんなッ!! この変態ッ!!」つ軍用懐中電灯

一方通行「痛ッ……恋人同士でやることやりてェっつったのはオマエだろォが。キスの次っつったらそォいうことになるだろ」

結標「極端過ぎるわよ! 私たちにはまだ、その、は、早いっていうか……」

一方通行「だったら何がやりてェンだよオマエは?」

結標「うーん、そうねえ……やっぱりデート、とかかしらね?」

一方通行「最初からハッキリそォ言え」

結標「……あっ」

一方通行「ンだァ? その何かを察したみてェな面はァ?」

結標「もしかして貴方、そういうキス以上のことやりたかった、ってこと?」

一方通行「は?」

結標「いやー、貴方にもそういう感情があるんだなぁって気付けて何か嬉しいなーっていうか」

一方通行「付き合い始めて五分くれェでキス求めてくるオマエほどじゃねェけどな」

結標「なっ、あれはそういうのとは違うでしょ!?」

一方通行「同じようなモンだろ」

結標「違うわよ!」




結標「と、いけないいけない話が逸れていっているわ。デートの話よデートの話」

一方通行「デートって具体的に何をやればイインだ? 悪りィが俺ァその辺疎くてよォ」

結標「そうね。たとえば一緒にショッピングしに行くとか?」

一方通行「なるほど。だったら適当にコンビニでも行くか」

結標「それショッピング違う!」

一方通行「あァ? ショッピングって買い物することだろォが」

結標「貴方の言っているのはただの買い出しよ」

一方通行「なら何を買いに行けばショッピングっつゥことになるンだよ?」

結標「うーん、たとえばかわいい洋服買いに行ったり、かわいいアクセ買いに行ったり、かわいい雑貨買いに行ったり」

一方通行「オマエが欲しいモン並べてるだけじゃねェか」

結標「でもショッピングってこういうことよ?」

一方通行「面倒臭せェ。他に何かねェのかよ? ショッピング以外にも何かあるだろ?」

結標「雑誌とかでよく特集されているのは遊園地デートとかかしらね?」

一方通行「この前行ったばかりだろォが。また行く気かよオマエ」

結標「さすがの私もそれはないわね」

一方通行「ソイツは安心した」

結標「他には動物園とか水族館とか美術館みたいなところ行ったりとか」

一方通行「面白れェのか? それ?」

結標「あっ、あとお弁当持って自然公園へピクニック、ってのもあるわね」

一方通行「そのお弁当っつゥ言葉を聞くと果てしなく不安になるから却下だな」

結標「貴方って本当に失礼よね」

一方通行「事実だからな」

結標「あとは映画を一緒に観に行くとか……そういえば、貴方と一緒に映画観に行ったことないわよね?」

一方通行「ああ」

結標「じゃあ映画観に行きましょ? 私たちの初デートは映画デートに決定!」

一方通行「映画か。去年の秋くらいにインデックスと一緒に行った以来か」

結標「……なんで私とは行ったことないのにインデックスとは行ったことがあるのよ?」ジト-

一方通行「勘違いするな。人探しに付き合っていただけだ。映画自体は観てねェ」




結標「さて、今やっている映画は、と」ピッピッ

一方通行「つまンねェ映画選ぶンじゃねェぞ」

結標「貴方ってどういうのが好きなのかしら?」

一方通行「……あー、好きかって言われたらアレだが、ド派手なアクションものの洋画とか観てた気がすンな。悪党が活躍するよォなモン」

結標「なるほど。貴方らしいって言ったら貴方らしいわね」

一方通行「オマエはどォなンだよ?」

結標「私はいろいろ観るわよ? 恋愛ものとかホラーとかファンタジーとか。この前、打ち止めちゃんと行ったときはアニメも観たし」

一方通行「多趣味なことで」

結標「どうせだから貴方も新しいジャンルを開拓してみれば? というか貴方は恋愛ものとか観て女心の一つでも学んでみたらいいと思うんだけど?」

一方通行「何で俺がそンなことしなきゃいけねェンだよ?」

結標「だって貴方デリカシーとか全然ないし。そういうのは直していったほうがいいと思うわ」

一方通行「余計なお世話だっつゥの」

結標「というわけで観るのは恋愛もので決定! ちょうど『今期最大の青春ラブストーリー』とかいうキャッチコピーの映画がやってるし、これでいいでしょ」ピッピッ

一方通行「何だよ最大のラブストーリーって。意味わかンねェ上に安っぽ過ぎンだろ」

結標「いいじゃない別に。大事なのは映画の内容よ」

一方通行「そンなクソみてェなキャッチコピー付けられている時点で、内容の方も期待できそォにねェけどな」

結標「どうして貴方はそうネガティブというか、マイナスみたいな思考しかできないのかしら?」

一方通行「変に希望を持たねェよォにしているだけだよ」

結標「あっそ。じゃあそういうわけで明日の朝一〇時前くらいのヤツ予約入れとくわね」ピッピッ

一方通行「あァ? 明日だと? 今から行くンじゃねェのかよ」

結標「そんな急に今から行くなんてことしないわよ。私だって準備とかいろいろあるし」

一方通行「それはイイとして何で朝に行こうとしてンだよ? 別に昼からでもイイだろ」

結標「決まってるでしょ? 映画観終わってランチに行って、そのあといろいろ遊びに行けるでしょ?」

一方通行「映画だけじゃなかったのかよ」

結標「当たり前じゃない。それくらい付き合いなさいよ」

一方通行「面倒臭せェ……」


―――
――





同日 19:00

-黄泉川家・食卓-


結標「――そういうわけで、明日は朝から二人で出かけてきます」

黄泉川「おう、わかったじゃんよ」

芳川「……ふーん、二人きりで、ね。随分と仲がいいのね?」クスッ

結標「あははは、別にそういうのじゃないですよ」

芳川「そういうのってどういうことかしら?」ニヤニヤ

結標「さ、さあ? どういうことでしょうか、あははははは」

黄泉川「?」

打ち止め「ねえねえ、何の映画を観に行くの? ってミサカはミサカは興味を示してみる」

一方通行「あァ? 何かよくわからねェ恋愛もののヤツ」

打ち止め「ああ、あのよくCMで見る学園恋愛ドラマのやつ? ってミサカはミサカは頭の中の記憶を引っ張り出してみたり」

一方通行「たぶンそれ」

打ち止め「いいなぁ、ミサカも映画館行きたいなぁー。今度エンシュウでも誘ってみようかな、ってミサカはミサカは現在絶賛公開中の『劇場版そげぶマン 奇蹟の歌姫編』を観るための方法を画策してみたり」

黄泉川「ところでいつ帰ってくるじゃん?」

結標「おそらく夕飯までには帰って来れるとは思います」

黄泉川「了解。明日は煮込みハンバーグ作る予定だから、たくさん遊んで腹空かせて帰ってくるとじゃん」

打ち止め「わーい!! ミサカ、ヨミカワの作ったハンバーグ大好き!! ってミサカはミサカはバンザイして喜びを表現してみたり」

一方通行「晩メシの為に腹空かせろとかガキじゃねェンだからよォ」

黄泉川「もちろん一方通行の為に大盛りのサラダも作っておくじゃん」

一方通行「ますます腹空かせる気が起きなくなってくるな」

芳川「ま、テンション上げすぎて朝帰りみたいなことはないようにね?」

結標「な、何言っているんですかきちんと夕食までには戻りますよ!」

一方通行「くっだらねェ」


―――
――





April First Thursday 09:00

-第七学区・駅前-



結標「…………あれ?」ポツーン



結標「今九時よね? 一方通行のヤツが来ないわ……」

結標「まあ、アイツのことだからちょっとくらい遅れるくらいはありえる、か……」

結標「うーん、こんなことならあんな提案しなかったらよかったかしら?」


~回想~


結標「ねえ一方通行? 明日のことなんだけど」

一方通行「あン?」

結標「ここから一緒に映画館に行くんじゃなくて、あえて駅前とかで待ち合わせして行かない?」

一方通行「何でそンな面倒なことしなきゃいけねェンだ?」

結標「いやー、デートで待ち合わせって定番じゃない? 『ごめん待ったー?』とか『大丈夫だよいま来たところ』みたいなやつ」

一方通行「知るかよ」

結標「そういうの何となく憧れがあってやってみたいなーって思ってたのよ」

一方通行「ンなことの為に別々に家出ンのかよ?」

結標「こういうとき同じ家に居候しているっていうのって不便よね」

一方通行「不便って言葉の使い方、それで合ってンのか?」


芳川「同じ家に居候しているって、言い方変えると同棲している、とも言えるんじゃないかしら?」


結標「!?」

一方通行「どっから湧いてきやがったクソババァ」

芳川「普通に部屋からだけど」

結標「へ、変な言い回ししないでください!」

芳川「あらそうかしら? 同じ屋根の下に男女が一緒に住んでいるのだから間違ってはいないんじゃない?」ニヤニヤ

結標「そ、それは……」

一方通行「どォでもイイが、他にクソババァ×2+クソガキが居る時点でそォいうのとは違ってくンじゃねェのか?」

芳川「あっ、バレちゃった?」

一方通行「チッ、うっとォしいヤツ。とっとと部屋に帰りやがれ」

芳川「ふふふ、お邪魔しちゃってごめんなさいね。じゃ、おやすみ」テクテク

結標「お、おやすみなさい……」

一方通行「……はァ、俺も眠くなってきたから寝るか」

結標「あっ、ちょっと。さっきの待ち合わせの件、忘れないでよね! 駅前に九時よ!」

一方通行「わかったわかった、ふァー」ガチャリガチャリ


~回想終わり~




結標「……ちゃんと覚えているわよね? 改めて朝のうちにもう一度確認しなかったのちょっと後悔だわ」

結標「いや、でも普通に考えて忘れるってことはないはずよ。だってデートよ? 初デートよ? そんな重要イベントの待ち合わせよ?」

結標「……まあいいや、もうちょっと待ってみるか」



~一〇分後~



結標「……来ない」

結標「もしかして私待ち合わせ場所か時間どっちか言い間違えた?」

結標「無意識のうちに公園に一〇時集合とか言っちゃってた? いや、まさかー」

結標「ま、まあもうちょっとだけ待ってみようかしら」



~さらに一〇分後~



結標「さ、さすがにこれはおかしいわね。アイツもしかして寝ているんじゃない?」

結標「……いや、さすがにそれはないか。だって一緒に朝食食べてたんだから起きているのは確実よ」

結標「うーん……そうだ。ちょっと電話してみようかしら」ピッピッ

結標「…………」プルルルル


携帯『おかけになった電話は電波の届かない場所にいるか電源が入っていないためかかりません』


結標「……あの野郎、電源切ってやがるわね」

結標「ど、どうしようかしら。今から家に戻ってたら映画の時間絶対に間に合わないし、戻ったら戻ったですれ違いとかになったら嫌だし」

結標「ぐぬぬ……」


―――
――





同日 09:30

-黄泉川家・リビング-


打ち止め「ふんふーん♪ 今日は学園都市クエスト最初からプレイして無能力縛りで遊んでみよう、ってミサカはミサカは新しい遊びを開拓してみたり」

打ち止め「そういえばゲーム機どこ置いたっけ? ゲーム機ゲーム機……あれ?」キョロキョロ


一方通行「Zzz……」


打ち止め「……うん? 今日ってアワキお姉ちゃんとデート、もとい映画館に行っているんじゃなかったっけ? ってミサカはミサカはソファに寝転んでいるアクセラレータを見ながら考え込んでみたり」

打ち止め「アワキお姉ちゃんウチにはいないみたいだから今日で間違いないと思うんだけどなぁ。ねえねえ、アクセラレータ起きてー、ってミサカはミサカは嫌な予感を感じながら揺さぶってみる」ユサユサ


一方通行「Zzz……あァ? もォ朝か?」


打ち止め「あれ? さっきまで一緒に朝ごはん食べてたよね? ん? つまりその朝っていうのは明日の朝かってこと? ってミサカはミサカは頭の中がこんがらがって思考がまとまらなくなってみたり」

一方通行「何わけのわからねェこと言ってンだ? 何か用かよ」

打ち止め「あなたって今日アワキお姉ちゃんと映画館に行くんじゃなかったっけ? なのに何でこんなところで寝ているの? ってミサカはミサカは聞いてみたり」

一方通行「映画……今何時だ?」

打ち止め「ただ今の時間は九時三二分四一秒をお知らせします、ってミサカはミサカはミサカネットワークから時刻情報をダウンロードしてみたり」

一方通行「…………」

打ち止め「…………」

一方通行「…………」ピッ←携帯の電源を入れる

一方通行「…………」プルルルルピッ

結標『……もしもし?』

一方通行「……結標」

結標『……なによ?』

一方通行「…………」



一方通行「オハヨウゴザイマス」



結標『はよこい!!』


―――
――





同日 09:40

-第七学区・駅前-



ドォウン!!



一方通行「…………」カチッ

結標「やった来た!! ちょっと貴方今まで何やってたのよ!?」

一方通行「メシ食ったあと待ち合わせ時間までまだ結構あったから、ソファに転ンでくつろいでおくか、ってなって今に至るわけだ」

結標「至るわけだ、じゃないわよ! デートの前だっていうのに普通寝る!? もう信じられない!」

一方通行「寝ちまったモンはしょうがねェだろォが」

結標「……というか貴方。まずは私に一言言っておかないといけないことがあるんじゃないかしら?」

一方通行「あァ? ……ああ。ゴメーン、待ったァー?」

結標「もうちょっとちゃんと謝れ!」

一方通行「オマエが憧れてるとか言ったンだろォが」

結標「あーそういやそうだったわ。もういいわよ……ってやばい!? もうこんな時間!?」

一方通行「あン?」

結標「予約してる映画の上映開始時間が九時五四分。電車とかのそういう移動時間考えたらこれもう間に合わないじゃない!」

一方通行「何でそンなギリギリの時間に予約入れてンだよ」

結標「貴方が待ち合わせ時間をきちんと守っていれば余裕で間に合ってたのよ!」

一方通行「わかったわかった悪かったよ。つか、映画って次の上映のヤツとかあンだろ? そっちに変えればイインじゃねェのか?」

結標「まあ、今となったらそれしかないわね。次の上映は……げっ、二時間後!? それもうお昼じゃない!」

一方通行「面倒臭せェ展開になってきやがったな」

結標「誰のせいよ誰の……あーもう最悪。いろいろ予定考えたのに台無しよ……」ブツブツ

一方通行「……チッ、しょうがねェ。九時五四分の方観るぞ? それなら問題ねェだろォが」

結標「まさか途中から入って観るつもり? そんな中途半端なの嫌よ私」

一方通行「何勘違いしてンだ? 上映時間には間に合わせる」

結標「どうやって?」

一方通行「チカラ使って映画館へ直行する。直線距離にすれば大した距離じゃねェからビルの上跳ンで行けば余裕で間に合うだろ」

結標「な、なるほど。たしかに……」

一方通行「つゥわけで、行くぞ?」カチッ

結標「……うん? 行くぞ?」




一方通行「当たり前だろォが、オマエも付いて来るンだよ。空間移動能力者(テレポーター)だろォがオマエは」

結標「えっ、も、もしかしてテレポートの連続使用でビルの上空から移動しろって言うつもり?」

一方通行「それ以外あンのかよ?」

結標「…………」

一方通行「どォかしたか?」カチッ

結標「あのー、地面に沿って移動するのはなしでしょうか?」

一方通行「何でだよ?」

結標「上から行くってことは通行人とかの頭上を移動するってことでしょ?」

一方通行「そォいうことになるな」

結標「そ、そんなの絶対嫌よ!」

一方通行「オマエって高所恐怖症だったか?」

結標「別にそういうわけじゃ……」

一方通行「じゃあ何でなンだよ? ハッキリ理由を言え」

結標「だって今日の私、……す、スカートなのよ? しかも割と短めの」

一方通行「……へー」

結標「何よその薄いリアクションは?」

一方通行「いや別に。まァオマエの言いたいことはわかった。で、仮にオマエの言う通り地面を沿いながら行くとするだろう」

結標「うん」

一方通行「オマエあの人通りや車の交通量も多い道路を連続テレポートで速く移動できンのかよ?」

結標「えっ、ええと、そ、それは頑張ればなんとか……」

一方通行「少しでもミスれば、何の関係もねェ通行人や掃除ロボとか車とかとテレポート合体ってことなンだがよォ?」

結標「わ、私はこれでも一応超能力者(レベル5)よ? そんなヘマするわけ――」

一方通行「そォいえば昔、軽い気持ちでテレポートして床に足突っ込ンだヤツが居たなァ。ソイツは今となったらそのことはもォきれいサッパリ忘れているだろォけどよォ」

結標「ぐっ……」

一方通行「なンなら俺が抱えて跳ンでやってもイインだぜェ? その場合公衆の面前で羞恥プレイっつゥ、マラソン大会のときの二の舞になるけどなァ」

結標「ふぐぅ……、あ、あんなこと思い出させないでよ、顔熱くなってきた」カァ

一方通行「さあ早く選べよ? 時間がねェンだろ?」

結標「ぐぬぬぬぬぬぬ、が、がんばって上からテレポートしますぅ……」

一方通行「そォかよ。じゃ、先行ってンぞ」カチッ



ドォン!!



結標「…………」

結標「ってちょっと待ちなさい! あーもうっ」

結標「というかそもそも遅刻したのアイツなのに、何で私がこんな目に合わなきゃいけないのよ……!」

結標「学園都市の皆様、今だけ空を見上げないでくださいお願いします」



シュン!



―――
――





同日 09:45

-第七学区・街中-


佐天「……ん? なんだあれ?」

初春「どうかしたんですか佐天さん? 空なんか見上げて」

佐天「いや、なんかビルとビルの間ピュンピュン飛び回ってる人がいたんだけど」

初春「パルクールってヤツですか?」

佐天「あれはそんなもんじゃないね。ニンジャだよニンジャ!」

黒子「大方、風力操作系の能力者がビルからビルに飛び移って遊んでいたのでしょう」

初春「明らかな危険行為なので風紀委員(ジャッジメント)として注意に行ったほうがいいでしょうか? 私たち今は非番ですけど」

黒子「まあ、その現行犯の方を実際に見たわけではないですし、そもそも佐天が鳥か何かと見間違えた可能性もありますので必要はないでしょう」

佐天「えぇー? さすがにそんなのとは見間違えないよー!」

初春「まあまあ佐天さん。想像力豊かな人はものを見間違えることなんてよくあることみたいですし」

佐天「初春めー、見間違え説が出てきた途端に信じるのやめたなー? よーし、だったらもう一回見つけて証明してやるー」

初春「いえ、最初から信じてはいませんよ?」

佐天「薄情な親友だなー、ん? あっ、出た!」

初春「ほんとですか!? ……あれ? なにもない?」チラッ

佐天「あれー初春ー? 信じてないんじゃなかったっけー?」ニヤニヤ

初春「あああああ、謀りましたね佐天さん!」

佐天「あたしのことを信じなかったバツでーす!」

黒子「……あっ、いましたわ」

佐天「またまたー、白井さん? 同じネタを二度もやったら面白さ半減しちゃうよー?」

黒子「いえ、冗談ではなく本当に」

佐天「えっ……あっ、ほんとにいた! んー? でもあたしが見た人とは違う人っぽいね」

初春「そうですね。あれは風力操作とかじゃなくて」

黒子「空間移動能力者(テレポーター)……ですわね」

佐天「さっき見た人は男ぽかったし、あの人は女の子だから間違いなく別人だね」

初春「えっ、佐天さんわかるんですか?」

佐天「うん、だってスカ……いや、なんでもないや」

初春「?」

佐天「しかし、白井さん以外のテレポーターの人初めて見たなー」

初春「私もです。あの人相当すごいですよ。移動距離の長さも連続転移のインターバルの短さも白井さん並ですよ」

黒子「……いや、違う」

初春「白井さん?」





黒子(一度に飛ぶ距離、目測でも一〇〇メートル以上はゆうに跳んでいる、のにも関わらずわたくしと同じくらいのインターバル……いえ、もしかしたら)



佐天「どうしたの白井さん? 珍しくそんな真剣な表情して」

黒子「何でもありませんわ。って珍しくは余計ですの」

佐天「というかあれも危険行為じゃないの? 現行犯だけど追わないの?」

黒子「……いえ、やめておきますわ」

佐天「えっ、何で?」

初春「あっ、わかりました! 同じテレポーターの白井さんも能力をよく変な使い方をしてますので、注意しづらいんですね?」

佐天「あー、なるほどー」

黒子「うーいーはーるー? その言葉だけ聞くとわたくしが、いつも能力を馬鹿みたいな使い方をしているように聞こえるんですがー?」

初春「ええぇー? だって事実じゃないですかぁ? 主に御坂さんへの変態行為とかで」

黒子「お黙りなさい! あれはお姉様への愛ゆえの行動。初春? 貴女には一度説教ォ! してさしあげないといけないみたいですわね?」

初春「ひえぇ、そんな説教聞きたくないですよー!」


美琴「――おっまたせー! やっとお目当ての『ゲコ太人形焼き』買えたわ! いやー写真撮らなきゃ写真……ん? どしたの?」


佐天「いえいえ何でもないですよ。いつも通り二人がじゃれ合ってただけです」

初春「そんな人を猫みたいに言わないでください!」

佐天「あれ? 今日の猫さんはそういう意図で選んだんじゃなかったの?」

初春「えっ……って佐天さん!? また!? いつの間に!?」

佐天「ふっふっふ、まだまだ修行が足りませんなー初春隊員」

黒子「…………」

美琴「あははー、……あれ? どうしたのよ黒子?」

黒子「いえ、なんでもありませんの。さ、お姉様の買い物も済みましたし行くとしましょうか」

美琴「そうね」

佐天「おっー!」

初春「ちょっと佐天さん! まだ話は終わってませんよ!」

黒子「…………」


黒子(先ほどのテレポーター。もしや……いえ、そんなまさか)


―――
――





同日 09:53

-第七学区・とあるショッピングモール・映画館入り口-


結標「――ぜぇ、ぜぇ、あ、あと一分! なんとか間に合いそうね!」タッタッタ

一方通行「何でそンなに疲れてンだ?」スゥー

結標「当たり前でしょ! 一刻も早く空の旅を終えるために全開で連続テレポートしたんだから!」

一方通行「地表何十メートルを飛ンでると思ってンだ? そォやすやすとスカートの中なンざ見えるかよ」

結標「そうじゃなくて見えてるかもしれないっていうのが嫌なわけで……はぁ、もういいわ。貴方に言うだけ無駄よね」

一方通行「何勝手に自己解決してンだよ。チッ、ちょっとコーヒー買ってくる」ガチャリガチャリ

結標「えっ、ちょっとあと三〇秒くらいで始まるのよ!? そんな余裕ないわ!」

一方通行「いや、よくよく考えたら本編開始前に他の映画の宣伝映像流れるだろ? だったら別にそンな急ぐ必要ねェと思ってよォ」

結標「…………あっ」

一方通行「まァ、オマエが宣伝映像まで目にしっかりと焼き付けたい映画マニアだっつゥなら先行っとけよ。何かいるモンあンなら代わりに買っといてやる」

結標「……いや、いい。私も売店いく」

一方通行「そォかよ」

結標「ポップコーンでも買おうっと」


-第七学区・とあるショッピングモール・映画館内-



<――の監督が贈る超アクション大作!!



結標「……私たちの席はKの8と9ね。えっと、K、K、K、あっ、あったあった」テクテク

一方通行「ガラガラとは言わねェがまばらな席の埋まり具合だな。まあ、満員で混雑してるよりはマシだが」ガチャリガチャリ

結標「別に公開初日とかじゃないからこんなもんでしょ?」

一方通行「もしかしなくてもクソつまらねェ映画じゃねェだろォな?」

結標「本当につまらなかったらそれこそガラガラになってるわよ。ここまで来たんだから文句言ってないでおとなしく映画観なさい」

一方通行「ヘイヘイ」




少女『あああ今日から新学期だって寝坊しちゃうなんてツイてない!』つ食パン


曲がり角でドン!!


少女『痛っ!?』ドタッ

少年『ってぇなぁ!? オマエどこ見て走ってやがるっ!?』

少女『なによぉー、それはこっちのセリフよ!』

少年『チッ、こんなことしてる場合じゃなかったな。じゃあなクソ野郎』タッタッタ

少女『誰がクソ野郎よ!? ちょ、ちょっと待ちなさい!!』



結標(おおー漫画とかでよくネタにされるラブコメテンプレ展開! ドラマとかで観るのは初めてね)

一方通行(……食パン食いながら走って口乾かねェのか?)





少女『ちょっとアンタ! ちゃんと宿題出しなさいよ! じゃないと委員長の私が怒られるんだからね!?』

少年『あぁ? んなこと知るかよ。宿題なんてくっだらねぇ。帰る』

少女『宿題がくだらないなんて何のために学校に来てるのよ……って待ちなさーい!』


場面転換 雨ザーザー


少女『まったくアイツ宿題も出さないし、口も悪いし、もう最悪よ!』

少女『ん? あそこにいるのアイツじゃない』


少年『……チッ、このままじゃ風邪引くぞ? この傘使えよ』

捨て犬『くぅーん』

少年『ったく、らしくねぇなぁ。何やってんだ俺ぁ』


少女『なっ、なにアイツ!? アイツあんな優しいところあったんだ……』トクン


結標(わっ、これも何かで見たヤツ!? ……しかし、あの少年キャラどっかで見たことある感じよね)

一方通行(捨て犬を拾いもせずに傘だけ与えるって優しい行為なのか?)





少女『あっ、アイツに遊園地誘われるなんて……一体何がどうなってるの!?』

弟『ねーちゃん! ゲームしてあそぼーよ!』

少女『お姉ちゃん忙しいからまた今度!』

弟『えぇー?』


結標(きゃあああああああ天才子役のコウくん!! やっぱり演技も上手でかわいいわ!!)ハァハァ

一方通行(……隣の馬鹿の鼻息がうるせェ)







少年『俺はオマエのことが好きだっ!! だから俺がオマエを必ず守ってやるからよぉ、俺の女になれっ!!』

少女『……はい』


なんか壮大なBGM


少女『ねえ』

少年『あん?』

少女『私の彼氏になるんだったら、ちゃんと宿題やらなきゃね?』

少年『……チッ、面倒臭せぇ』


-E N D-


結標(……うーむ、まあこんなもんか。役者さんの演技は上手だったしそのへんはよかったかな。とくにコウくん!!)


結標「そうだ一方通行? 映画どうだった?」

一方通行「…………」

結標「? 一方通行?」

一方通行「…………Zzz」

結標「…………」



ゴッ!!



―――
――





同日 12:00

-第七学区・とあるショッピングモール・通路-


一方通行「……クソッ、思い切りブン殴りやがって」

結標「せっかく映画を観ているのに隣でスヤスヤ寝ているやつが居たら、普通ぶつわよ」

一方通行「オマエだけだよそンなヤツ」

結標「ちなみにどこまで意識あったわけ?」

一方通行「あァー、何か遊園地デートしてたのは覚えてるよォな気がする」

結標「中盤くらいね。まあ、そこまで観れたなんて貴方にしては頑張ったほうじゃないかしら?」

一方通行「チッ、うっとォしいヤツ」

結標「さて、それじゃあお昼行きましょ?」

一方通行「店ェ決めてンのか?」

結標「モール内に行ってみたい店があるから、貴方がよければそこがいいかなって」

一方通行「俺にそンな気ィ使わなくもイイっつゥの。好きにしろ」

結標「その店実はサラダ専門店なんだけど……」

一方通行「殺すぞ」

結標「わかっていたけど自分の意見変えるの早すぎでしょ……」

一方通行「何でこの俺がそンな雑草畑に行かなきゃいけねェンだ」

結標「雑草畑て……まあ、さっきのは冗談よ。本当に行きたかったのはふわとろオムライスが有名なお店よ」

一方通行「チッ、だったら最初からそォ言え」

結標「ごめんごめん。それじゃお店に行きましょうか?」テクテク

一方通行「おォ」ガチャリガチャリ


―――
――





同日 12:20

-第七学区・とあるショッピングモール・某洋食屋-



店員「おまたせいたしました。デミソースのオムライスとセットのスープとサラダです」ゴトッゴトッ


結標「ありがとうございます」


店員「こちらはトマトソースのオムライスでございます」ゴトッ


一方通行「……どォも」


店員「ごゆっくりどうぞ」テクテク


結標「うーん、いい香り。すごく美味しそう!」

一方通行「……なァ?」

結標「なに?」

一方通行「ふと思ったンだが、オマエ何でデミグラスソースのヤツ頼ンだンだよ?」

結標「何で、って別に美味しそうだったから以外理由はないわよ?」

一方通行「さて、問題だ」

結標「?」

一方通行「昨日黄泉川が言っていた、今日の晩メシに作ろうとしているメニューは何でしょうか?」

結標「たしか煮込みハンバーグ……あっ」

一方通行「正解ィ! デミグラスソース二連チャンおめでとォ!」

結標「ぐっ、完全に忘れてた……」

一方通行「これだから格下は」

結標「うるさいわね。いいわよ、オムライスとハンバーグじゃ味変わるだろうし」




結標「……うーん! ふわとろでおいしいー!」モグモグ

一方通行「そォかよ。ソイツはよかったな」パクパク

結標「あら? お気に召さなかったかしら?」

一方通行「別に。普通だ」

結標「素直においしいって言えばいいのに」

一方通行「普通なモンは普通なンだよ」

結標「でもこういうの食べると、やっぱり私も自分の手でこういうオムライスとか作ってみたい! とか思っちゃうわねー」

一方通行「オマエ半年前に作ったかわいそうな卵のこともォ忘れたのかよ」

結標「あー、懐かしいわねー。貴方と一緒に作ったやつだったっけ?」

一方通行「思えばあンときからおかしかったよな。オマエの料理センス」

結標「何言っているのよ。それに関しては貴方も似たようなものだったじゃない」

一方通行「あァ? オマエみてェな料理音痴レベル5と一緒にするンじゃねェよ」

結標「ぐぬぬ、見てなさい! 絶対オムライス作れるようになって貴方の舌を唸らせてやるわよ」

一方通行「唸るっつゥか悲鳴を上げそォだからやめろ。そンな高難易度料理より先に野菜炒め作れるよォになれよ」

結標「ふむ、たしかにそうね。やっぱり基礎から学ぶほうが大事よね」

一方通行「そォだな。まず最初に『レシピ通りの材料を用意してレシピ通りに作業する』っつゥ基礎から叩き込まねェとなァ」

結標「思い立ったが吉日。帰りに材料買って帰って明日くらいに練習しようかしら?」

一方通行「よし、明日は一日外出してよォ」

結標「薄情なヤツね」

一方通行「俺ァまだ死ぬわけにはいかねェンだよ」

結標「もうっ……えっと、野菜炒めの材料ってたしか、キャベツ、にんじん、もやし、しめじ」

一方通行「あァ? 何だよ案外まともな材料じゃ――」

結標「スイカ、目薬、木炭、野菜ジュース、森林の香りの消臭剤――」

一方通行「やっぱりオマエ一生料理すンなッ!!」

結標「ええぇっ!?」ビクッ




結標「ねえねえ一方通行? ふと思ったことがあるんだけど」

一方通行「何だよ」

結標「何で貴方って私のこと名字で呼んでいるのかしら?」

一方通行「……ハァ?」

結標「だって打ち止めちゃんや黄泉川さんに芳川さんは、みんな私のこと名前で呼んでるじゃない? 貴方だけよウチの中で名字で呼んでいるの」

一方通行「あー、まァアレだ。オマエが黄泉川や芳川を名前で呼ばない理由と同じだ」

結標「なるほど。貴方は私のことを保護者だと思っているのね?」

一方通行「そンなこと一回たりとも思ったことねェよ! 何なら残りのババァ二人にすらなッ!」

結標「えー、じゃあ何でなのよ?」

一方通行「名前で呼ぶよォな間柄じゃねェってだけだ」

結標「ふーん、そう。ってことはあれよね?」

一方通行「あァ?」

結標「今は恋人っていう関係になったのだから名前で呼んでくれるってことよね?」

一方通行「…………」

結標「でしょ?」

一方通行「……いや、イイ」

結標「なんでよ?」

一方通行「今さら呼び方変えるのが面倒臭せェ」

結標「むすじめの四文字からあわきの三文字へ減るんだから、発する言葉の労力が減るわよ?」

一方通行「たかだか一文字変わったくれェでそンな変わるかよ。呼び方変えるっつゥ労力のほうがデケェから結果損すンだよ」

結標「……ははーん、わかったわ」

一方通行「ンだァ? そのクソみてェな面はよォ?」

結標「貴方面倒臭いとか労力とかうだうだ言っているけど、さては恥ずかしいのね? 名前で呼ぶのが!」

一方通行「ハァ? ナニ馬鹿みてェなこと抜かしてンだクソアマがァ。あンま適当言ってると頭蓋骨卵みてェにカチ割るぞ?」

結標「だったら名前で呼んでよ?」

一方通行「だから面倒臭せェって言ってンだろォが」




結標「呼び捨てが気恥ずかしいなら淡希お姉ちゃんでもいいわよ? ……いや、むしろそっちのほうが」

一方通行「ソッチのほうがハードル上がってンじゃねェか。性癖見えてンぞショタコン野郎が」

結標「ぶっ!? な、な、なななななにを根拠に、しょ、しょた、ショタコンだなんて!?」

一方通行「そのうろたえ方で十分な根拠になると思うがな」

結標「な、ならないわよ! だいたい根拠っていうのは……あっ、そうよ名前! 危ない危ない思わず陽動作戦に引っかかるところだったわ」

一方通行「オマエが勝手に陽動されただけだろ」

結標「いいから名前で呼びなさい! じゃないと後々困ることになるわよ?」

一方通行「困ることだと?」

結標「ええそうよ。だって将来的に結婚したら私の名字結標じゃなくなるでしょ? そんな状態で結標って呼ぶのはおかしいじゃない?」

一方通行「……オマエ付き合ってまだ一週間だっつゥのに、もォそンな先のことまで考えてンのか。気の早ェヤツだ」

結標「えっ!? えっと、や、その、か、仮にの話よ!! 仮にの!!」

一方通行「うるせェなァ、公共の場所で大声出してンじゃねェよ」

結標「あ、貴方が変なこと言うからでしょ?」

一方通行「先に言ったのはオマエだろ」

結標「ぐっ」

一方通行「……はァ。つゥかメシ食い終わったンならとっとと席空けるぞ? いつまでも居座って店の回転率下げるわけにはいかねェからな」ガタッ

結標「あ、うん、ちょ、ちょっと待ってちょうだい!」ワタワタ

一方通行「…………」

結標「ごめん、おまたせ」


一方通行「さっさと行くぞ……『淡希』」


結標「……うん!」

一方通行「チッ、面倒臭せェ」

結標「一方通行?」

一方通行「ンだよ?」

結標「一回だけでいいから『淡希お姉ちゃん』って呼んでみてくれない? 一回だけでいいから!」

一方通行「蹴り殺すぞ」


――――――



次回から金曜更新を土曜更新にするわゆるして・・・

次回『S2.sラストデート』

この話でファッション的なことを具体的な発言をしているけどこれのセンスの有無はファッションとかよくわからんからネットで検索したモデルとかの画像を適当に選んだワイくんのセンスであって実際の登場人物のセンスとはまったく関係ないんだからね!

投下



S2.sラストデート


April First Thursday 13:00

-第七学区・とあるショッピングモール・通路-


一方通行「……で、次はどこへ行こうってンだ?」

結標「決まっているじゃない。洋服見にショップ行くわよ」

一方通行「ええェ……」

結標「はい、そこ露骨に嫌な顔しない!」

一方通行「何で俺がオマエの服選びを手伝わなきゃいけねェンだ……あン? 何かデジャブ感じンだが」

結標「それは私の居候生活が始まったすぐくらいのときに、一緒に買い物したからじゃないかしら」

一方通行「あー、そォいやそォだったな」

結標「忘れてたのか……」

一方通行「つまりもォこの買い物イベントはやったっつゥことか。何回も同じイベント見せられても面白くねェだろォし、このシーンはカットってことで」

結標「貴方が何を言っているのかさっぱりわからないけど、絶対に逃がさないわよ?」

一方通行「チッ」

結標「少しは彼女のために協力してあげようとか思わないわけ?」

一方通行「オマエも少しは男のために協力してあげようとは思わねェのか?」

結標「だって貴方に協力しても、朝から晩までお昼寝パーティーみたいなイベントになって面白くないじゃない」

一方通行「そンなアホみてェなことするかよ」

結標「嘘だー? この前『春眠暁を覚えず』とか言って朝八時から夜八時という一二時間睡眠した挙げ句、風呂ご飯を終えたあとすぐに次の日の朝までぐっすり寝てたじゃない」

一方通行「ああ。何か日付が一日飛ンでンなァって思ったらそンなことがあったのか」

結標「アホだ。阿呆がいる」

一方通行「あン? 誰が阿呆だコラ」

結標「ま、そういうわけだから今日ぐらい私に付き合ってよね」

一方通行「どォいうわけだよ」

結標「ほら、行きましょ?」テクテク

一方通行「……面倒臭せェ」ガチャリガチャリ


―――
――





同日 13:10

-第七学区・とあるショッピングモール・某ショップ-


結標「ふーん、ここのはセブンスミストのに比べたらちょっと大人っぽい感じなのね」

一方通行「そォかよ」

結標「なによ。少しは興味持ったら?」

一方通行「女物しかねェのにどォ興味持てばイインだよ?」

結標「そりゃあれよ。私に似合いそうな服探したりとか、私に着て欲しい服探したりとか」

一方通行「……はァ」

結標「何でこのタイミングでため息?」

一方通行「いや、面倒だなって」

結標「貴方って人は本当に……」ハァ

一方通行「例えばだがよォ、オマエは俺にこの服着ろって言われたらハイハイって素直にソレ着るンかよ?」

結標「まあ、貴方がいいと思うものなら」

一方通行「じゃあアレを着ろっつったら?」

結標「アレ?」

一方通行「あのパリのファッションデザイナーが芸術性を重視してデザインしたよォな、胸部がメッシュ状のシャツみてェなの」

結標「うわぁ……いや、無理」

一方通行「そォだろ? そォいうリアクションを取られる可能性があるっつゥのに、服選ばなきゃいけねェなンて面倒極まりねェっつゥわけだ」

結標「あんな変なのじゃなく普通のやつ選んでくれれば、私は着てあげるわよ?」

一方通行「その変の基準が俺とオマエじゃ違うだろォが」

結標「まあたしかにそうだけど……あっ、もしかして貴方ってああいう服が好みなわけ?」

一方通行「は?」

結標「たしかに変な柄のTシャツとか愛用しているから、女物の好みもちょっと変になっててもおかしくはないわよね」

一方通行「ナニ勝手に納得してンだオマエ? 例え話っつっただろ?」

結標「あはは、そうよね」

一方通行「チッ、俺だってアレが一般的な趣味嗜好から外れてるモンだっつゥことぐれェわかるっつゥの」

結標「だったら平気ね。好きなの選んでくれればいいわよ」




一方通行「…………」


一方通行(さて、どォすっかなァ。コイツの普段着どンなのだったっけか?)

一方通行(今着てンのは上が白パーカーにデニムのジャケット羽織って、下が紺のプリーツのミニスカートで足元がくるぶしにスニーカーか)

一方通行(あァ? コイツって普段七分丈くれェのパンツ穿いてなかったか?)

一方通行(今日は何でまた……あァ、デートだからって頑張りました、ってヤツか)

一方通行(まァ、今はそンなこたァどォでもイイ。今はコイツにどンな服を選ンでやるかだ)

一方通行(好みの服選べっつっても別にそンなモンねェし、似合う服選べっつってもなァ)

一方通行(どォしても普段着や今のコイツの服装に引っ張られて、それに似たヤツを選ンじまいそうになる)

一方通行(どォせだから、普段からあンま着なさそうなモン選ンだ方がコイツは喜ぶのか? たとえばこのロングのワンピなンざ着ねェだろコイツ)

一方通行(……いや、待て。着ないってことは、自分には似合っていないって思っているってことじゃねェのか? そンなモン提示したら確実にブーイングっつゥことにならねェか?)

一方通行(チッ、コイツァ面倒なことになってきやがったな。どっちが正解だ……?)


結標(……なんかすごく真剣に考えてくれているみたいね)

結標(私的には『これはどう?』『なかなか良さそうだから試着してみまーす!』『しました!』『いいじゃん!』みたいなのを、サクサク複数回やる感じなのを期待していたのだけど)

結標(コイツ変なところで真面目よね。まあ、それだけ熱意を持ってくれているってことだから、嬉しいのは嬉しいんだけど)


結標「……ま、いいか。一方通行が選び終えるまで私は私で見て回りますか」


??「結標さん?」


結標「あっ、吹寄さんに姫神さん!」

姫神「こんにちは」

結標「どうしたの二人とも? 今日はショッピング?」

吹寄「ええ、ちょっと暇つぶしにぶらぶらって感じかな?」

結標「なるほど」

姫神「そっちは?」


一方通行「…………」ブツブツ


姫神「って。聞くまでもなく。デートか」

結標「ええ、そうよ」

吹寄「うまくやってるみたいね」

結標「うーん、どうなんだろう?」

姫神「どうかしたの?」




結標「いやー、実は今日のデートが初でね。付き合って一週間だっていうのに」

吹寄「別に普通じゃない? 学校が休みだから毎日放課後デート、みたいなのができないわけだし」

結標「そうなのかしら? 逆に休みだから毎日どこかに遊びに行くってのが普通なのかとてっきり」

姫神「まあ。それは人によるとしか。言えないわ」

吹寄「二人には二人のペースがあるんだから、二人が楽しめてればそれでいいわよきっと」

結標「……そうよね。ありがと二人とも」

姫神「ところで。アクセラ君は。一人で突っ立って何をしているの?」

結標「えーと、私に似合う服選んで、って言ったらこうなっちゃって」

吹寄「あー、たしかにアクセラなら考え込みそうな問題ね」

結標「気楽に選んでくれればいいのにね」

吹寄「仲が良さそうで何よりね」

姫神「吹寄さん」

吹寄「あっ、そうね。これ以上二人の時間をお邪魔してもいけないし、邪魔者は退散するとしましょうか」

結標「別にそんなこと気にしなくてもいいのに」

姫神「じゃあ。私たちはこれで」

吹寄「しっかり楽しみなさいよ」

結標「うん。またねふた――」


一方通行「オイちょっとイイか『淡希』」


結標「あっ」


姫神「わ?」

吹寄「き?」


一方通行「あン? 吹寄に姫神じゃねェか。こンなところでなに――」


結標「ちょ、ちょっといいかしら一方通行……!」ヒソッ

一方通行「ンだよ?」




結標「(なんで貴方こんなタイミングで名前呼びしてくれちゃってるのよ!?)」

一方通行「(ハァ? オマエが名前で呼べっつったンだろォが)」

結標「(た、たしかにそうだけど、よりにもよって二人がいる前で……!)」

一方通行「(別にイイだろ。何か問題あンのか?)」

結標「(も、問題と言うかなんというか……は、恥ずかしい……)」

一方通行「(恥ずかしがるくらいなら最初から要求すンなよ)」

結標「(いや、普通こういうのって二人きりのときだけやるものでしょ?)」

一方通行「(知るかよ。そォして欲しいなら最初からそォ言え)」


結標「……え、えーと、二人とも? これは彼が言い間違えただけで別にそんな名前で呼び合ってるとか――」


吹寄「へー、そうなんだ。まあ、別にいいんじゃない? 名前で呼び合うくらい」ニヤニヤ

姫神「うん。恋人同士なんだから。なんらおかしくはない」ニヤニヤ


結標「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」カァ


吹寄「じゃ、あたしたちは行くわ。またね、アクセラに『淡希』さん?」ニヤニヤ

姫神「お幸せに。アクセラ君に。『淡希』さん」ニヤニヤ


結標「あっ、はい……」

一方通行「おォ」


結標「…………」

一方通行「で、俺は結局どォすりゃイインだ? 結標って呼べばイイのか淡希って呼べばイイのか」

結標「……もういいわよ。淡希統一でお願いします」

一方通行「わかった」




結標「ところで私に何か用かしら」

一方通行「ああ。服選ンだから評価して欲しいンだが」

結標「……あー、そういえばそんなことお願いしてたわね」

一方通行「みぞおちに一発入れるぞコラ」

結標「あはは、ごめんなさいごめんなさい。で、貴方が選んだ服ってどれ?」

一方通行「コレだ」スッ

結標「……へー、キャミソールタイプのロングの黒ワンピか。貴方ってこういうのが好きなの?」

一方通行「別にそォいうわけじゃねェ。ただオマエが着なさそうォなヤツを選ンだ。色に関しては俺の好みだがよォ」

結標「なるほどね。たしかに私はそういうの着ないわね」

一方通行「ま、新規開拓すりゃイイだろっつゥ素人の浅知恵だ。クソみてェな思考で悪かったな」

結標「別に私だってプロのコーディネーターとかじゃないんだし、そこまで卑下しなくてもいいわよ」

一方通行「そォかよ」

結標「じゃ、ちょっと試着してみるわね」

一方通行「ああ、インナーにその着てるパーカーか適当な白系統のTシャツか何か合わせたらイイと思う。あくまで個人的な意見だが」

結標「そう。ありがとね、参考にするわ」ニコッ

一方通行「……チッ」


~一〇分後~


結標「――おまたせ。どう?」

一方通行「……まァ、イインじゃねェの?」

結標「相変わらずの適当な返事ね。わかってたけど」

一方通行「だったら最初から聞くなよ」

結標「でも貴方が選んでくれた服なんだから、貴方が最後まできちんと責任を持ってべた褒めするべきだと思うのよね」

一方通行「褒められるの確定かよ」

結標「まあ私から見てもいいなって思っているし」

一方通行「随分な自画自賛じゃねェか。ナルシストな淡希ちゃンよォ?」

結標「そんなこと言うってことはもしかして貴方、本当は似合っていないって思っているのかしら?」

一方通行「別にそォいうわけじゃねェよ」

結標「それならナルシストではないわね。よかったよかった」

一方通行「うっとォしいヤツ」

結標「……うん。それじゃあこれ買うとするわ。せっかく貴方が選んでくれた服だしね♪」

一方通行「好きにしろ」

結標「じゃあこの調子でドンドン服選んでいこーう!」

一方通行「ハァ? まだやンのかよ?」

結標「当たり前よ。女の子の買い物が服一着選んだくらいで終わるわけないじゃない」

一方通行「クソッタレが……!」


―――
――





同日 15:00

-第七学区・とあるショッピングモール・某カフェ-



ワイワイガヤガヤ



結標「いやー、いっぱい買った買った。楽しかったわー、今までで一番充実したショッピングだったかもしれないわね」

一方通行「今までで一番疲れたショッピングだったな」

結標「だらしないわねー。そんなのじゃショッピング後半戦を戦っていけないわよ?」

一方通行「まだ何か買うつもりなのかよ? どンだけモノ買う気だよオマエ」

結標「別にいいじゃない。買ったものは全部自宅に送ってもらっているから、貴方に荷物持ちとかさせているわけじゃないんだし」

一方通行「ソイツは賢明な判断だな。俺にそンなこと頼みやがった時点でオマエを張り倒すところだったぜェ?」

結標「貴方は普段片手しか使えないからそんなに物持てないし、何なら筋力もないから重い物とか持てないわけだから、荷物持ちなんて頼んでもしょうがないわよ」

一方通行「やっぱりオマエ張り倒してイイか?」カチッ

結標「冗談よ冗談。やだなー」アハハ

一方通行「チッ」カチッ

結標「まあショッピング後半戦って言っても、適当に色々な店見て回るだけだから、なにかを買うっていうつもりはないわ。いわゆるウィンドウショッピングってヤツね」

一方通行「何だそりゃ。買わねェのに店見て回るなンて冷やかしかよ?」

結標「冷やかしとは違うとは思うけど。別にお店には迷惑はかけるつもりはないし、欲しい物があったら買うし」

一方通行「結局買うのかよ」

結標「欲しい物があったらの話よ?」

一方通行「そンなあやふやな意識で店回って楽しいのか?」

結標「楽しいわよ? へーこの店こんなの置いているんだー、みたいな発見とかあって」

一方通行「へー」

結標「発見とかなくてもこう、いろいろ商品が並んでいるのを見るとなんか高揚感があるというか」

一方通行「コーヒーうめェ」ズズズ

結標「……話聞いてる?」

一方通行「ああ。そりゃもちろン」

結標「そう。ならいいんだけど。さっきの話の続きだけど――」

一方通行「あっ、店員さン。コーヒーおかわり」

結標「ほんとに聞いてる!?」




結標「……そうだ。貴方に一つ言っておきたいことがあったんだった」

一方通行「あン? ウィンドウショッピングのアレコレか?」

結標「それはもういいわ」

一方通行「あっそ。で、何だよ?」

結標「観覧車の中で記憶喪失の原因は貴方ってことは、すでに知っていたっていう話したじゃない?」

一方通行「ああ。木原のクソに教えてもらったっつゥヤツだろ?」

結標「そう。でもね、実はそれは違うのよね」

一方通行「どォいうことだ?」

結標「その話をされるはるか前から知っていた、いや、知っていたという表現は違うかしらね」


結標「記憶喪失の原因は貴方じゃないかなって、薄々思っていたのよ。ずっと」


一方通行「……ソイツは素敵で愉快なイカれた話だなァオイ」

結標「まあ、あくまでそうじゃないかなっていう推測でしかなかったから、確信を得たのはその日の出来事でだから知ったのは最近ってことになるのかな?」

一方通行「ほォ。いつからそンな推測が出てきていたのか、是非とも知りたいモンだ」

結標「……最初から」

一方通行「は? ナニ言ってンだオマエ」

結標「最初からよ。正確に言うなら初めて会った日から」

一方通行「……どォいうことだ?」

結標「だって貴方、私が来た初日の夕食のときに言いかけてたじゃない。その鼻を折ったのは正真正銘自分だって」

一方通行「……たしかに。そォいやそォだったな」

結標「だから何となーくコイツが記憶喪失の原因なのかな、って思ってたわけよ。表には出さなかったけど」

一方通行「そォか……いや、おかしいだろ?」

結標「何が?」

一方通行「その話が本当ならよォ、オマエは今まで記憶を奪った張本人かもしれねェヤツと生活を共にしてたっつゥことになるンだが」

結標「たしかにそうね」

一方通行「そンなクソみてェな状況で、最終的に俺のことが好きだとか抜かしやがるよォになるなンて、どォ考えたっておかしいだろ?」

結標「おかしくはないわよ」

一方通行「ハァ?」

結標「なぜなら貴方が、自分から記憶を、さらに言うなら命を奪うためにチカラを振るったりするような、残虐非道な人間じゃないってわかったからよ」

一方通行「…………」

結標「面倒臭がり屋でぶっきらぼうだけど、意外と面倒見は良くて、変なところで一生懸命で」

結標「居候生活始まって間もないくらいのときから、そんな人じゃないかってなんとなく思ってた気がするわ」

一方通行「ケッ、めでてェ頭してンなオマエ。内心ナニ思っているのかわかったモンじゃねェっつゥのに」

結標「でも間違ってはなかったでしょ?」

一方通行「チッ、……で、オマエは一体何が言いたいンだ?」

結標「何って?」




一方通行「いきなりこンなクソみてェな話始めやがって。何か言いてェことがあンだろ? 目的やら理由やら」

結標「んー……とくにないけど」

一方通行「オチなしかよ。救いよォのねェ馬鹿だな」

結標「馬鹿にして……いいわよ、オチね? 話にオチをつければいいのね? うーん……あっ」

一方通行「今から考えたところで大したオチは付かねェよ。大体、こォいうのは話し始める前からかん――」




結標「そんな一方通行だったから、私は貴方のことが好きになったのよ」




一方通行「が……」

結標「つまり、これが言いたかったわけよ。たしかあのとき言ってなかったわよね? 好きになった理由」ニコッ

一方通行「…………」

結標「あっ、別に会ったばかりの貴方を好きになったわけじゃないわよ? 好きになったのはもっとあとの話だから。そんな軽い女じゃないわよ私は!」

一方通行「……はァ、馬鹿馬鹿しィ。あまりの馬鹿馬鹿しさに何だか頭痛くなってきた」

結標「そんな頭抱えるほど!?」


ウェイトレス「失礼します。お待たせいたしましたー。コーヒーのおかわりになります」コトッ


一方通行「どォも」


ウェイトレス「そしてこちらが」



ゴトッ!



一方通行「あン?」

結標「えっ?」




ウェイトレス「カップル限定ラヴラヴミックスジュースでございまーす!」






一方通行「……ンだこりゃ?」

結標「……こ、これは漫画とかでよく見る一つのグラスに二本のストローがハート型に交差して刺さってるアレね」

一方通行「懇切丁寧な説明アリガトウ。オマエこンなモン頼みやがったのかよ? どンだけ舞い上がってンだよクソ野郎が」

結標「ち、違うわよ! さすがの私でもこんな……は、恥ずかしい代物頼まないわよ!」

一方通行「オマエじゃなかったら誰が頼むってンだよ。もしかしてアレかァ? 無理やり変なモン押し付けて高けェ代金ふンだくってやろォっつゥ、ボッタクリ的なアレかァ?」

ウェイトレス「……え、えーと」

一方通行「吹っかける相手ェ間違えたなァ? あンま調子乗ってっと痛い目にあってもら――」


ゴッ!


一方通行「うがっ!?」

結標「店員さんにケンカ吹っかけんなっ!」

ウェイトレス「ひっ」ビクッ

一方通行「何しやがるッ!?」

結標「勝手に詐欺だと決めつけちゃダメでしょ? えっと、店員さん? これってどういう経緯でここに持ってこられたんですか?」

ウェイトレス「え、えっと、その……」

一方通行「何をそンな言いよどンでンだァ? やっぱ何かやましいことでもあンじゃねェのか?」ギロッ

結標「そんなすぐに睨まない!」

一方通行「チッ」

ウェイトレス「……その、これは内緒なんですけど」

結標「内緒?」

ウェイトレス「これは、あちらのお客様からのサプライズのプレゼントなんです。お客様には言わないでくれとは言われているのですが」

一方通行「あちらのお客様だァ?」チラッ



土御門「ニヤニヤ」ニヤニヤ

青ピ「ヤニヤニ」ニヤニヤ

上条「わたくしめは無関係ですよー」スヒュー



一方通行「…………」ピキッ

結標「あら、上条君たちじゃない。同じ店に来てたのねー」

一方通行「…………」カチッ

結標「あっ」


シュバッ!!



<ぎにゃあああああっ!! <目の位置へ的確にストローがァ!? <何で俺まで不幸だあー!!



ウェイトレス「おっ、お客様! 店内で物を投げるのは他のお客様の迷惑になりますのでおやめください!」





青ピ「いやー、二人っきりでお茶しとるの見つけたから、ちょっとボクらぁの気持ちをサプライズしただけやで。ご祝儀みたいなもんや」

一方通行「ありがた迷惑なンだよ。ジュースの方を投げられなかっただけ感謝しろォ」

土御門「ところで二人はデートかにゃー? 姉さん、いつも遊んでいるときよりオシャレしてるし」

結標「あっ、わかる? さすが土御門君ね。コイツなんてそういうの全然気が付かないのよ?」

一方通行「ハァ? 俺だっていつもと格好が違うなァ、くれェのこと気付いてるっつゥの」

結標「だったらそれを口にしなさいよ。言葉にしないと女の子は喜ばないのよ?」

一方通行「ヘイヘイ。で、ソッチの三下トリオはこンなところで何やってンだ?」

上条「別に何もしてねえよ。暇だからショッピングモール適当にぶらぶらしてただけだ」

一方通行「悲しい人生だな」

上条「この野郎ッ!! 自分だけ勝ち組になったからって!! あークソ羨ましいィ!!」

青ピ「お前が言うなって言いたいところやけど、アクセラちゃんに関しては同感だから今日は許す!!」

結標「二人とももうちょっと声の音量下げたほうがいいわよ? ウェイトレスさんこっち見てるわ」

上条「あ、悪い」

一方通行「くっだらねェ」

青ピ「それで二人とも、そのラヴラヴジュース飲まへんのか?」

一方通行「飲むわけねェだろ」

結標「さすがにこれは、ね……」

青ピ「そら残念やなぁ。飲んどる姿写真に収めて、ボクの思い出アルバムに保存しておこう思っとったのに」つスマホ

一方通行「そのスマホへし折るぞオマエ」

土御門「でもー、恋人ならこれくらいのこと普通にやると思うけどにゃー」ニヤリ

結標「そ、そうなの?」

土御門「舞夏とやれって言われたら喜んでやってやるぜい」

上条「お前ら兄妹を普通の基準にしていいのかは果てしなく微妙だけどな」

青ピ「はいはーい! ボクもやったことあるでー! あれはカナちゃんとの初デートの日のことやった……」

一方通行「どォせゲームの話だろォが」

青ピ「なんやと!? 何決めつけてくれとんねん! キミはボクの昔のことなんて知らへんやろ!?」

一方通行「お、おォ、悪りィ」

青ピ「まあたしかに『さー☆すけ』っていうエロゲーのキャラの初デートイベントの話やったんやけど」

一方通行「俺の謝罪を返せコラ」




結標「……えっと、一方通行?」

一方通行「あン?」

結標「こ、これ、やっぱり私たちで飲んだほうがいいと思うんだけど」つカップル限定ラヴラヴミックスジュース

一方通行「ッ!? いきなりどォした?」

結標「だって土御門君が『これを恥ずかしくて飲めないが許されるのは小学生カップルまでだよねー』って言ってたから……」

一方通行「土御門ォ!!」

土御門「にゃっははっー、オレは二人の恋路を応援しているだけだぜーい」

一方通行「どこが応援だ! おちょくって遊ンでるだけじゃねェか!」

結標「あ、あとこれが飲めないカップルは一ヶ月以上続かないって土御門君が……」

一方通行「そンな露骨なガセ情報に踊らせれてンじゃねェよ! それが本当だったら世界中破局カップルだらけだろォが!」

結標「あっ、そっか」

青ピ「でもこういう困難を乗り越えることにより、二人の絆が強まったり強まらなかったりするんやないか?」

一方通行「オマエは黙ってろよクソ髪ピアスがァ!」

上条「どうでもいいけどこれ、早く飲まないとぬるくなっちまうぞ? ぬるいミックスジュースなんて全然おいしくねえからな」

一方通行「そォ思うならテメェで飲ンでろ三下ァ!」

上条「いや、これは二人へのプレゼントなんだから二人が飲まないと意味ないだろ?」

一方通行「それはプレゼントじゃなくて嫌がらせって言うンだぜェ?」

青ピ「そんなことより面白恥ずかしラヴラヴジュース撮影会はまだですかー?」

一方通行「そンなにジュースの写真撮りてェなら勝手にグラスだけ撮ってろ!」




一方通行「ぜェ、ぜェ、つゥか何で俺はこンなに疲れてンだ? ここに休憩しに来たンじゃなかったか?」

結標「大丈夫?」

土御門「いやー見事な連続ツッコミだったにゃー」

青ピ「こっちもボケ甲斐があるってもんやで」

上条「俺は別にボケてねえぞ?」

一方通行「うるせェよオマエら。てか、もォ消えろようっとォしい」

上条「……そうだな。あんま二人の邪魔しちゃ悪いし」

青ピ「二人にはぎょーさん楽しませてもろうたし満足やで」

土御門「外野はこれにて退散だにゃー」

結標「あ、うん。バイバイ」

一方通行「二度と顔見せンなクソ野郎ども」

青ピ「……あっ、そうだ! 二人に一つだけ聞きたいことがあったんやった!」

一方通行「あン?」

結標「何かしら?」




青ピ「エロいことはもうやっへぶううぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」



ドゴォッ、ズザザザザザザザザッ!!



一方通行「人の女の前で、堂々とセクハラ発言してンじゃねェぞ脳みそチンカス野郎が」カチッ


上条「うわっ、青髪ピアスがノーバウンドで二〇メートルくらい吹っ飛んでいった!?」

土御門「床を滑りながら吹っ飛ぶのってノーバウンドって言っていいのかにゃー?」

結標「わ、私たちにはそういうのはまだ早いっていうか……」テレッ

一方通行「ナニ普通に答えてンだオマエ」



ウェイトレス「お客様!! 他のお客様のご迷惑になることは!!」



―――
――





カフェでの休憩?を終えた二人はそのあといろいろな店を回った。


-第七学区・とあるショッピングモール・某ペットショップ-



<キャン!! キャン!! キャン!! <にゃー <ウホッ! ウホッ!



一方通行「何でペットショップなンかに来てンだ? ウチのマンションペット禁止じゃなかったか?」

結標「別にいいじゃない。こういうの見るだけでも楽しいわよ?」

一方通行「ギャーギャーうるせェだけだろ」

結標「まあ、それはしょうがないわよ。あっ、見て一方通行!」

一方通行「あァ?」

結標「ウサギよウサギ!」



ウサギ『…………』ガサガサ



一方通行「……ああ。それがどォかしたか?」

結標「貴方にそっくりじゃない?」

一方通行「どこがだよ。その目ェちゃンと見えてンのか?」

結標「だって白いし、目が赤いし、えっと……似てるでしょ?」

一方通行「それだけかよ。それは俺に対しても失礼だし、このウサギに対しても失礼に当たるだろ」

結標「そうよね。貴方はこんなに可愛くないしねー」

一方通行「体中の関節へし折りまくってそこのケージの中に放り込ンでやろォか?」





-第七学区・とあるショッピングモール・某ゲームショップ-


結標「円周ちゃんが学園都市クエストクリアしてくれたから、そろそろ新しいの欲しいなとは思ってたのよねー」

一方通行「学園都市クエストってアレか? 俺が無許可でラスボスとして出演してるクソゲー」

結標「そうそう。うーん、どういうゲーム買おうか。どうせならみんなでできるパーティーゲームとかがいいかしら?」

一方通行「好きなの買えよ。どォせ俺はやらねェ」

結標「なんでよ? やりましょうよきっと楽しいわよ?」

一方通行「家にいるときくれェゆっくり寝させろ」

結標「またそんなこと言って……ん? あれは」

一方通行「どォかしたか?」

結標「学園都市クエストの新作が出てるわ。学園都市クエストⅡ」

一方通行「そンなモンが出るくらい人気あったのかよ」

結標「浜面君が当時一番流行ってるゲームって言ってたから人気はあったんじゃないかしら?」

一方通行「誰だよ浜面って」

結標「この前の焼き芋大会で一緒だったフレンダさんっていたじゃない? あの人の部下、に当たる人だったかしら?」

一方通行「フレンダだと?」

結標「ほら、雪合戦のときにも居たわよ。あっ、でもそのときは海原って人が変装してたんだっけ?」

一方通行「……まァイイ。で、その浜面クンとそのゲームに何の関連性があるってンだよ?」

結標「あのゲームを買ったときにゲーム選びを手伝ってくれたのが浜面君だったのよ。私目線で言うなら結構長い知り合いってことになるわね」

一方通行「そォかよ……」

結標「どうかした?」

一方通行「……いや」

結標「? ま、とにかく学園都市クエストⅡが出てるならこれ買ってもいいかもね。何かバージョンアップしてるのかしら?」

一方通行「勝手にしろ。俺には関係ねェからな」

結標「なになにー? 『学園都市の頂点に君臨した新たな最強の超能力者(レベル5)、その名も『未現物質(ダークマター)』をキミは倒せるか!?』ですって」

一方通行「あァン!? あのゴミ野郎が最強のレベル5だとォ!? ちゃンと原作読めやクソゲーム会社がッ!!」

結標「原作ってなに!?」




-第七学区・とあるショッピングモール・某カジュアルショップ-


結標「……あっ、見て一方通行」

一方通行「今度は何だ?」

結標「あのブランドって貴方がいつも着てるTシャツのところじゃない?」

一方通行「……本当だな。こンなところに店舗があったンだな」

結標「あったんだな、って貴方はいつもどこで服買ってるのよ」

一方通行「面倒臭せェからネットで買ってる」

結標「ああ、ぽいわね。そうだ、せっかくだし見ていきましょうよ?」

一方通行「俺は別に服買おうなンて思ってねェぞ?」

結標「別に見るだけでもいいじゃない。もしかしたら欲しい物があるかもしれないわよ?」

一方通行「ヘイヘイ」


店員「しゃっせー!」


結標「うおおっ、ほんとに貴方がよく着てる感じの服がいっぱいある!」

一方通行「そりゃそォだろ」

結標「貴方に囲まれているみたいで何か気持ち悪いわね……」

一方通行「自分から店に入ってナニ抜かしンだこのアマは?」

結標「冗談冗談。へー、このブランドってレディースもあるのね」

一方通行「ああ、みてェだな」

結標「…………」

一方通行「?」


結標(こ、これを買えばペアルックなんてことができるのでは……? いや、さすがにそれは恥ずいか……)

一方通行(何かまた妙なことを考えてンなコイツ。面倒臭せェ)


―――
――





同日 17:30

-第七学区・風紀委員活動第一七七支部-



ワイワイガヤガヤ



佐天「――ってことがあったんですよー!」

初春「もう、またまた佐天さんったら」

美琴「でもそれってあれじゃ――」


固法「ちょっとあなたたち! ここは溜まり場じゃないって何回も言っているでしょ?」


佐天「あはは、すみません。ここ居心地よくて」

黒子「まったく。佐天はともかくお姉様まで意味もなく居座るだなんて。もしかしてまた何か事件があったら首を突っ込もうなんて思っていませんよね?」

美琴「えっ、いや、そんなことはないわよ。佐天さんと同じく居心地よくてさー」

黒子「本当ですの?」

固法「とにかく、佐天さんと御坂さんはそろそろ完全下校時刻近いのだから帰りなさい。御坂さんは寮の門限とかあるでしょ?」

佐天「はーい!」

美琴「黒子たちはどうするのよ?」

黒子「わたくしたちは残った雑務を終えてから帰りますので」

佐天「大変だねー二人とも」

初春「いやー、まあお仕事ですのでしょうがないですよ」

黒子「貴女に関しては二人にかまけて仕事に手をつけてなかったからでしょう?」

初春「……返す言葉もございません」

美琴「黒子。遅くなりそうなら門限延長出しとこうか?」

黒子「いえ。すでに届け出はしていますわ。お気遣いありがとうございます」

美琴「そう。じゃあ先に帰るわね」

佐天「さよならー! またきまーす!」


ガチャ


固法「だからここは溜まり場じゃ……もう!」

初春「さーて、お仕事頑張るぞー!」フンス

黒子「まったく……」



ピピピピッ! ピピピピッ!





固法「はい、こちら風紀委員活動第一七七支部です」


初春「うーん、七時までには終わりますかねー? 今日見たいテレビ番組があるんですけど。まあ、終わってなくてもここで観ればいっか」

黒子「そういうものがあるのなら、何で真面目に仕事に手を付けなかったのですの?」

初春「いやー、せっかく来てくれているんですから、対応しないと悪いですし」

黒子「はぁ、暇なときくらいはいいですが、こういう繁忙日には来ないように、わたくしのほうから一度二人には言ったほうが良さそうですわね」


固法「――はい、はい、わかりました。対応いたします。では」ピッ


初春「何かあったんですか? 固法先輩」

固法「ええ。上からウチへ直々にオーダーよ」

黒子「上から直々? そんなこと今まで聞いたことないですわね」

初春「そうですね」

固法「ある『荷物』を奪った強盗犯が第七学区内を逃走しているらしいわ。それの確保が上からの依頼よ」

初春「えっ? それって普通警備員(アンチスキル)の領分じゃないですか? 何でそれがウチに?」

黒子「アンチスキルへ知られてはいけない『何か』を奪われてしまったか。それか一七七支部だけへ通達が来たところからして、少数で解決しないといけないような内密な事件か」

黒子「いずれにしろ、今回の件はちょっとニオイますわね」

固法「そうね。とにかく動きましょうか。初春さん。上から一七七支部のアドレスへ概要データが入っているはずだから、それをもとに逃走者の足取りを追ってちょうだい」

初春「わかりました」

固法「私と白井さんでターゲットの確保へ向かうわ。装備の携帯の許可は下りているから忘れずに持っていってね」

黒子「了解ですの」

固法「しかし、今ここにいるのがこの三人っていうのが痛いわね。初春さん、いちおう非番の他のメンバーにも支援の要請を出しておいて」

初春「はい!」


黒子(……はぁ。門限の延長時間、もうちょっと長くとっておけばよかったかもしれないですわね)


―――
――





同日 18:00

-第七学区・とある公園-


結標「はあー、疲れた!」

一方通行「俺はオマエの三倍は疲れた」

結標「なによそれ?」

一方通行「こンなベンチでも今なら余裕で寝られる自信がある」

結標「……寝ないでよ? 家まで私が運ばなきゃいけなくなるじゃない」

一方通行「チカラ使えば余裕だろ?」

結標「能力使うんだったら、まず貴方を一メートルくらい上から落下させて叩き起こすために使うわよ」

一方通行「チッ」

結標「しかし今日は楽しかったわねー」

一方通行「そォかよ。ソイツはよかったな」

結標「貴方は楽しくなかった?」

一方通行「退屈はしなかったな」

結標「つまり楽しかったってことよね? よかったよかった」

一方通行「退屈してねェってことしか言ってねェぞ俺ァ」

結標「同じよ。私にとってはね」

一方通行「…………」

結標「私今日あったことは絶対に忘れないと思うわ」

一方通行「随分な自信だな。ただ映画行ってメシ食って買い物行っただけだろォに」

結標「ただじゃないわよ」

一方通行「あン?」

結標「貴方と映画に行って、貴方とご飯を食べて、貴方と買い物をした」


結標「それだけで私にとってはきらびやかな思い出よ?」


一方通行「……ケッ、その程度できらびやかなンて安っぽいヤツだな。金メッキか?」

結標「嫌な言い方するわね。ふん、別にいいわよ金メッキでも銀メッキでも」




結標「私って記憶喪失でしょ?」

一方通行「……ああ」

結標「だから、私にとって新しい思い出ができるってとても重要なことなのよ」

一方通行「…………」

結標「打ち止めちゃんたちとの思い出、クラスのみんなとの思い出、貴方との思い出、そして」


結標「これから作っていく思い出、全部私にとっては大切なものよ」


一方通行「……ふっ」

結標「ちょっと、このタイミングで鼻で笑うのは流石にひどいと思うんですけど?」

一方通行「いや、悪りィ。アホらしくてつい笑っちまった」

結標「どこがアホらしいって言うつもりなのかしら?」

一方通行「だってよォ、当たり前のこと並べていつまでもグダグダ語ってるヤツの、どこがアホじゃねェってンだ?」

結標「一方通行……」

一方通行「ンだァ? その間抜け面はァ? 憎まれ口叩かれてンだからもっと怒れよ」

結標「ふふっ、怒って欲しいならもっとちゃんと悪口言ったら?」

一方通行「チッ、うっとォしいヤツだ」

結標「さーて、たくさん思い出作るぞー! 行きたい場所はいっぱいあるのよ? 水族館や動物園や美術館や自然公園へピクニックや」

一方通行「昨日言ってた他のデートプランじゃねェか」

結標「夏になれば海も行きたいし山も行きたいし、一緒に花火大会にも行きたいし」

結標「秋になれば大覇星祭ってやつも楽しみだし、ハロウィンパーティーってのもやってみたいし」

結標「冬になれば一端覧祭ってのがあるみたいだし、クリスマスにデートもしたいし……あっ、クリスマスはみんなでまた集まってパーティーもいいわねどうしましょ?」

一方通行「……はァ、次から次へと変な予定入れやがって。面倒臭せェ」

結標「ま、いろいろ言ったけど予定なんてどうでもいいわよ」

一方通行「ハァ? 何言ってンだオマエ」


結標「だって、貴方が一緒にいればどんなことがあってもいい思い出になると思うわ。きっと、ね」ニコッ


一方通行「……そォかよ」




結標「……って、お姉さんまた恥ずかしいこと言っちゃってた感じ? あはは、ごめんね」

一方通行「オマエの奇天烈な発言なンざいまに始まったことじゃねェ。気にすンな」

結標「あははは、ちょ、ちょっと喋りすぎて喉乾いちゃった。飲み物買ってくるけど貴方もいる?」

一方通行「ああ。缶コーヒーブラック。銘柄は今俺がハマってるヤツ」

結標「それ言われても普通の人はわからないわよ? まあ、私はわかるからいいけど」

一方通行「オマエにしか言わねェよ、そンな雑な要求」

結標「私のことを信頼してくれているって解釈すればいいってことよね?」

一方通行「勝手にしろ」

結標「ふふっ、じゃあちょっと行ってくるわね!」タッタッタ

一方通行「おォ」


一方通行「…………」



『今は恋人っていう関係になったのだから名前で呼んでくれるってことよね?』



一方通行「名前、か」


一方通行(俺には『―― ―――』っつゥ、いかにも日本人らしくて、大して珍しくもない本名がある)

一方通行(この名前を知っているヤツは腐る程いるだろォが、その名前を使うヤツは皆無だ)

一方通行(だから俺もあえてその名前を名乗ることなく、通り名の『一方通行(アクセラレータ)』を使ってきた)

一方通行(……だが)



一方通行「――アイツになら、俺の名前を教えてやってもイイのかもしれねェな」



―――
――





同日 18:15

-第七学区・とある自販機前-


結標「……えっと、たしかこの銘柄だったわよね」ピッ



ガタン!



結標「さて、あんまり待たせてもいけないし、急ぎますか」

老婆「あのー」

結標「はい?」

老婆「ちょっと申し訳ないんですけど、この荷物を運ぶのを手伝ってほしいのですが」

結標「うわっ、大きなキャリーケースですね」

老婆「あそこのホテルまででいいですが。頼まれてはもらえませんかねー?」

結標(うーん、ホテルまで結構距離あるなー。能力使ってもいいけど、下手におばあちゃんをテレポートさせて怖がらせてもあれだしなー)

老婆「お忙しいですかね?」

結標「……うん、大丈夫ですよ。お手伝いしますよ!」

老婆「そうですか。ありがとうございます」

結標(ごめんね一方通行。もうちょっとだけ待っててちょうだいね)

老婆「それでは行きますか」ヨボヨボ

結標「……あれ? おばあちゃん、そっちはホテルまでの道じゃないですよ?」

老婆「こっちから行ったほうが信号とかの有無で早いんですよ」

結標「なるほど、そうなんですね。じゃ、このケース持ちますねー、ってあれ?」


結標(思ったより軽いわね? いや、重くないわけじゃないけどまるで――)


結標「おばあちゃん?」

老婆「なんでしょうか?」

結標「ちなみになんですけど、これの中身って何が入っているんですか? 物によっては丁寧に運ばないとですよね?」

老婆「ああ、大したものは入ってないので雑に運んでもらって結構です」

結標「そうですか。わかりました」


結標(……あっ、結局中身は何なのか聞けてない。もう一回聞くのはさすがになー、まあいっか)


―――
――





同日 18:20

-第七学区・街頭-


美琴「――やっば、いろいろ寄り道してたらもうこんな時間じゃない!」タッタッタ

美琴「ま、まあ、この時間ならギリギリ門限は間に合うか」タッタッタ

美琴「……ん? あれは?」タッタッタ


男「…………ううっ」


美琴「ちょ、ちょっとアンタ大丈夫!? そんなボロボロの体で何があったのよ?」

男「ぐっ、あ、あんたその制服、常盤台の生徒さんかい?」

美琴「そ、そうだけど」

男「ってことは高位の能力者の人だね。……がっ」ヨロッ

美琴「ちょ、ちょっと! ど、どうしよう? とりあえず救急車呼んだほうがいいわよね?」オロオロ

男「あ、あんたに頼みがあるんだ」

美琴「頼み? ああ、救急車なら今から呼ぶから大丈夫よ?」ピッピッ

男「そうじゃないんだ」

美琴「えっ?」

男「実は、この怪我はある高位の能力者にやられたやつなんだ」

美琴「能力者に……?」

美琴(そういえば能力者による無能力者狩りっていうのがあるって聞いたことある。もしかしてこの人はそれに……?)

男「そいつは今、あそこの路地裏にいる。今でも俺の仲間が痛い目にあっているかもしれない」

美琴「…………」

男「あんた高位の能力者さんなんだろ? 仲間を助けてはもらえないだろうか?」

美琴「……わかったわ。あそこの路地裏ね? ちょっと待ってなさい」タッタッタ

男「すまない……たのむ……」


美琴(強力なチカラを使って無関係な人を傷つけるなんて許せない……! ごめんね黒子。アンタの説教はあとでいくらでも聞いてやるから……)


美琴「絶対私が止めてみせる!」



―――
――





同日 18:25

-第七学区・路地裏-



シュン!



黒子「……初春? 目的のポイントに到達しました。ターゲットの動きは?」

初春『衛生カメラの映像から見ると、あと一分後にそちらへ接触すると思われます』

黒子「了解」

固法『こちら固法。ポイントに到達したわ』

初春『先輩もそのまま待機でお願いします。白井さんと接触して逃亡に成功した場合、そちらへ向かう可能性が高いため待ち伏せを』

黒子「大丈夫です。先輩のお手間は取らせませんの。絶対にここで拘束してみせますわ」

固法『頼もしいわね。じゃあ、私はこのまま待機しとくわ』

初春『本当はターゲット側の入り口にも人を配置できれば包囲できたんですけどね』

固法『しょうがないわ。今向かってきている子たちはいるけど、その子たちを待ってチャンスを逃すわけにいかないもの』

初春『ターゲット接触まで三〇秒……』

黒子「…………」ゴクリ


黒子(装備に不備はなし。わたくしの身体も異常はなし、むしろ絶好調ですの)


黒子「絶対に――」


初春『ターゲット接触まであと二〇……なっ!?』


黒子「!? どうかしましたか初春!?」

初春『ターゲットが急に進路を逆走しました!! この速度は……もしかして気付かれたっ!?』

黒子「くっ、もしや透視能力や感知能力を持った能力者ですの!?」

初春『顔さえ映ればこちらで能力を検索することができたんですが……すみません、私のミスです』

黒子「問題ないですの初春」

初春『白井さん!?』

黒子「こちらの存在を確認できたということはそれに関する能力者。しかし裏を返せば逃亡する速度を上げるチカラは持っていないということですの」

初春『し、白井さん。まさか……』

黒子「わたくしが直接ヤツを追いますの! 貴女は引き続きターゲットの監視・予測を! 固法先輩はそれに従って先回りをお願いしますの!」ダッ

固法『わかったわ!』


黒子(さて、鬼ごっこの時間ですの。こう見えて鬼ごっこは得意ですのよ? わたくしから逃げられると思わないことですね。強盗犯さん!)



シュン!



―――
――





同日 18:30

-第七学区・路地裏-


結標「…………はぁ」テクテク


結標(路地裏ってあんまり来たくないのよね。一方通行が危ないから行かないほうがいいって言ってたし)

結標(というかこの道本当に近道なのかしら? 目的地のホテルからだいぶ遠ざかっているように見えるのだけど)

結標(うーん、あんまり言いたくはないけどおばあちゃんの言ったことだしなぁ。なんか勘違いしているかもしれないわよね)

結標(……一応、もう一回聞いてみようかしら?)


結標「……あのー、おばあちゃん?」



シーン



結標「……あれ? 誰も居ない」

結標「…………」キョロキョロ

結標「おばあちゃん!? ちょっとおばあちゃん!? どこにいるの!? おばあちゃん!!」

結標「……うーん、困ったわね。どこかではぐれちゃったのかしら?」

結標「でもこの開けたところに来るまでこの通路は一本道だったわよね?」

結標「…………」

結標「まあ、目的地はわかっているし、とにかくあのホテルへこれを届けに行きましょうか」

結標「よし、じゃあテレポートで――」



美琴「ちょっとアンタ!!」



結標「ん?」




美琴「アンタね!? ここらへんで無能力者の人たちを襲っているのうりょ――ってあ、アンタは……!」


結標「……えっ? み、ミサカ、さん?」


美琴「アンタは結標淡希!? 何でこんなところにアンタがいるのよ!?」


結標(あれ? あの顔に常盤台の制服だからミサカさん、よね? でもなんだかちょっと雰囲気が違う気が――)ズキッ

結標(な、なに? 今の頭痛は……?)


美琴「……そういうことなのね」

結標「?」

美琴「アンタ、私に『残骸(レムナント)』を件を妨害されて奪取を失敗したことを未だにムカついているってことよね?」

結標「れ、むなんと……?」ズキッ

美琴「それでアンタは無能力者狩りなんてくだらないことして、関係のない他人を傷付けて鬱憤を晴らしていたってわけね!?」

結標「……ち、ちが、私はそんなこと」ズキッ

美琴「そんなことはもうさせないわ。これ以上誰かを傷付けようなんて思っているのなら、この『御坂美琴』が相手になってやるわよ!!」

結標「み、みさか……みこ、と?」




『私はムカついているわよ私利私欲で! 完璧すぎて馬鹿馬鹿しい後輩と、それを傷つけやがった目の前のクズ女と、何よりこの最悪な状況を作り上げた自分自身に!!』




結標「うっ、ぐっ……!?」ズキンッ

美琴「? ちょ、ちょっとアンタ急にどうしたのよ!? 頭なんて抱えて、それに顔色が――」



シュン!



黒子「風紀委員(ジャッジメント)ですの!! 追いつきましたのよ強盗犯ッ!! 大人しくわたくしに拘束されることを――ってお姉様!?」


美琴「く、黒子!? アンタなんでこんなところに!?」

結標「……く、ろこ?」ズキッ


黒子「お、お姉様こそなんで……って貴女は結標淡希!?」


結標「がっ、あぐっ……!」ズキン


―――
――





同日 18:35

-第七学区・とある公園-



一方通行「…………遅せェ」

一方通行「何やってンだアイツ? 自販機なンてここから近いところでも往復五分もかからねェだろ」

一方通行「まさか俺の欲しがってた銘柄だけ売ってないっつゥ上条クン顔負けの不幸が訪れて、どっか別ンとこまで買いに行ってンじゃねェだろォな」

一方通行「…………」


一方通行(……いや、待てよ。アイツがそンなことするか?)

一方通行(売ってなかったら売ってなかったらで別の銘柄買ってきて、ゴメンゴメン売り切れてたわ、って感じにヘラヘラ笑いながらブツ渡してくるに決まっている)

一方通行(何なら売ってなかったらなしで! とか言って自分だけ悠々と飲み物手に入れるっつゥことしてきてもおかしくねェ)


一方通行「…………」

一方通行「ま、イイか」

一方通行「しばらくすりゃ帰ってくンだろ。それまでちょっと仮眠でも――」



ブチッ!



一方通行「あン? 電極のケーブルを束ねてる留め具が壊れやがった」

一方通行「乱暴に使いすぎたか? まァコイツをもらって半年以上経ってるから壊れてもおかしくはねェか」

一方通行「…………」


一方通行「チッ、面倒臭せェ」


―――
――





同日 18:40

-第七学区・路地裏-


黒子「……貴女でしたのね。第七学区内を逃走していた強盗犯。結標淡希」


結標「ご、ごう、とう……?」


美琴「えっ、強盗!? 無能力者狩りの犯人じゃないの!?」

黒子「無能力者狩り? いえ、そんな通報受けては、ってお姉様? 貴女がここにいるのとその無能力者狩りというのはもしかして何か関連性があるんですの?」

美琴「え、えーと、その……」

黒子「お姉様。わたくしはあれだけ口を酸っぱくして申し上げましたのに、何でまた厄介事に首を突っ込んでいるのでしょうか?」

美琴「しょ、しょうがないじゃない! 助けてって言われたら助けに行くしかないじゃない!」

黒子「そういうのはジャッジメントやアンチスキル等の治安組織の管轄ですのよ! 一般人のお姉様がどうにかするのは本来は違反になるんですの!」

美琴「わかってるわよそれくらい」

黒子「……さて、与太話はこの辺にして仕事の方に戻りましょうか」


結標「はぁ、はぁ………」


黒子「結標淡希。まさか貴女がまたこのようなことをしているとは思いませんでしたの」

結標「な、なにを言っているの? 私はそんな、強盗なんかじゃ、ない」

黒子「ほう、しらばっくれるつもりですの? ではその手に持っているキャリーケースは一体なんなんでしょうか? 貴女の持ち物ですの?」

結標「こ、これはおばあちゃんの荷物を、代わり持ってあげてた、だけよ」

黒子「そのおばあちゃんとやらがこの場では見当たりませんが?」

結標「はぐれたのよ、こ、ここまで来る道のどこかで」

黒子「ここの通路は一本道です。わたくしはあちらの方から来ましたが、そのような人は見かけませんでしたの。ちなみにお姉様は?」

美琴「私はこっちから来たけど人なんて通ってなかったわよ?」

結標「そ、んな……」

黒子「というわけで貴女を容疑者として拘束させていただきます、と言っても貴女もテレポーターです。対空間移動能力者用の拘束具を今持ち合わせていませんので形だけの拘束となりますが」

黒子「大人しくこのまま連行されていただけると非常に助かりますの」

結標「な、なんで……イヤ……」



ガチャリ





美琴(……? 結標ってこんなに大人しく捕まるようなヤツだったっけ? それにさっきから様子がおかしいみたいだし)

黒子「どうかなさいましたかお姉様?」

美琴「いや、何でもないわ」

黒子「そうですか。えー、こちら白井。容疑者を拘束いたしました。しかし容疑者の能力はテレポートですので、至急、対空間移動能力者用の拘束具を要請しますの」

結標「……し、らい。しらい、くろこ………?」ズキッ

黒子「? どうかなさいましたか?」

結標「あ、貴女は、『白井黒子』っていう、の?」

黒子「そうですが。というか何で今さら名前を確認いたしますの? まさかわたくしの名前を忘れていたなどとはおっしゃりませんよね?」

結標「白井……黒子……うぐっ」ズキンッ



『今からその腐った性根を叩き直して差し上げますの!!』



結標「!!!?!!!?」ドサッ

黒子「ッ!? ちょ、ちょっと貴女どうかなさいましたの!? いきなりうずくまって!」

美琴「やっぱり様子がおかしい……! 黒子、一応医療施設の手配もしておいたほうがいいかもしれないわよ」

黒子「そ、そうですわね。こちらしら――」





ドオオオオォォォォン!!







黒子「ぐっ!?」

美琴「な、なにっ!? いきなり空から何かが降ってきたッ……!?」




????「――ったくよォ、たかだか缶コーヒー買いに行くだけでどンだけ時間かけるつもりだよ? こちとらもォ喉が渇き過ぎて、喋るのもダルくなってきてンだっつゥの」




美琴「あ、アンタは……『一方通行(アクセラレータ』!?」



一方通行「あン? 超電磁砲じゃねェか。それに白井、だったか。何だこの面子は……あァ?」



美琴「な、なんでアンタがここに……」

黒子「貴方はたしか、初詣のときにお会いした殿方?」

結標「…………」






一方通行「……ガキども、コイツはどォいう状況だ?」





――――――


誰も望んでいない展開定期

次回『S3.タイトル未定』

まだ全然そういうの決めれてねンだわ

今回からクソみてえな地の文がつく
台本形式やし地の文は読み飛ばしてもええかもわからん
先に行っとくけど戦闘描写は極力省くわ下手クソ地の文の戦闘長々やってもしゃーないしね

投下



S3.トリガー


 第七学区にある地裏の開けた場所、そこに四つの人影があった。

 一つは一方通行(アクセラレータ)。
 杖の付いていない左手を首に当て、頭左右に揺らしてゴキリと音を鳴らしながらその場に立っていた。

 一方通行の位置から五、六メートル離れた位置には三つの少女の影。

 一人は御坂美琴。
 目の前に急に現れた一方通行を警戒するように、彼の姿を目に見据えながら身構えていた。

 一人は白井黒子。
 同じく突然現れた一方通行に驚き、少し混乱している様子だった。

 一人は結標淡希。
 少女二人の足元でうずくまり、頭痛がひどいのか両手で頭を抱えている様子だった。


一方通行「――もォ一度聞く」


 沈黙を破ったのは一方通行だった。


一方通行「これは一体どォいう状況だ? ここで何があったって言うンだ?」

美琴「そ、それは……」

黒子「お姉様」


 何かを喋りだそうとした美琴の前に、黒子は手を出し制止した。
 ここは風紀委員(ジャッジメント)として自分が喋らなければいけないという、意志の表れだろうか。


黒子「本日の一七時四〇分頃、わたくしが所属している風紀委員活動第一七七支部へ強盗事件が発生したという旨の通達を受けました」

黒子「わたくしはその強盗犯を拘束する任に付き、今まで追跡行動を取っていました」

黒子「そして、その結果こうして強盗犯を確保することができ、これから連行をしようしているところです」


 黒子がひとしきり説明したあと、一方通行が口を挟む。


一方通行「……で、そこに転がっている女がオマエの言う強盗犯っつゥことか?」


 一方通行は二人の後ろでうずくまっている少女に視線を移した。
 腰まで伸ばした赤髪を二つに束ねていて、腰に巻かれたベルトには軍用懐中電灯が引っ掛けられている。
 結標淡希。先程まで自分と行動をともにしていた女。
 何度見返しても紛れもない自分のよく知る女が目に映るだけだった。
 その彼女が強盗犯という扱いを受けていると知り、一方通行は口を開く。


一方通行「ソイツは何かの間違いだろ? その女が強盗犯なわけがねェだろ」

黒子「それは、どういうことですの?」

一方通行「その女にはアリバイがある。なぜなら、アイツはその事件発生時は俺と一緒にいたからな」


 一方通行は先程少女の言った言葉を思い出していた。
 今日の一七時四〇分頃に事件発生の通達が来た。つまり、事件はその時間以前に起こったことになる。
 その時間帯は、たしかに自分と結標淡希が一緒に居た時間だ。ショッピングモールからの帰り道で歩きながらなんてことのない雑談をしていた記憶がある。
 自分の記憶が正しければ彼女はそんな強盗なんていう行為はしていないし、自分の目を盗んでそういう行為を行う時間もなかったはずだ。




黒子「……この場合、貴方がこの女をかばって虚偽の情報を言っている可能性がありますが、それが虚偽ではないという証明はできますの?」

一方通行「その時間は第七学区の駅周辺を歩いていたはずだ。そこらの監視カメラとかの映像を見れば証明できるだろ」

黒子「しかし、それを確認するためには手間と時間がかかりますわ」

一方通行「どォいう意味だ?」

黒子「こちらがもらった犯人の容姿と彼女の容姿は告示しておりますし、わたくしも衛星カメラからの映像で追跡してここまでたどり着き、彼女と出会いました。そして何より」


 黒子が結標の側で倒れているキャリーケースへ目を向けた。


黒子「盗難品であるこのキャリーケースを持っていたという事実があります。貴方の言うように犯人では無いにしろ、何かしら事件へ関わりがあったということが考えられますの」

黒子「強盗犯の疑いがある以上、ここで拘束させていただき、連行させていただくことには変わりはありませんわ。アリバイ等の確認はそれ以降になるかと」

一方通行「…………」


 たしかにそうだ、と一方通行は言葉を飲んだ。
 あのキャリーケースは自分も知らないものだ。自分と一緒に居たときはあんなものの存在は欠片たりとも認識していなかった。
 そこで一方通行の中で一つの疑問が浮かんだ。
 
 彼女はいつ、どこであれを手に入れたのだろうか。


一方通行「……オイ、白井」

黒子「何でしょうか?」

一方通行「その女と話をさせろ」

黒子「……それは構いませんが、妙なことをしましたら貴方も共犯者とみなし拘束対象になるということは忘れずに」

一方通行「ああ」


 そう返事をし、一方通行は結標淡希へ向けて足を進めた。
 しゃがみ込み、うずくまっている彼女の肩を揺さぶりながら喋りかけた。


一方通行「オイ。オイ、淡希」

美琴(……淡希?)


 美琴が彼の言葉に眉をひそめた。
 しかし、一方通行はそれに気が付くことなく続ける。


一方通行「聞こえてンのか? オイ!」

結標「…………、うっ」


 何度もかけられた声にやっとのこと結標は反応を示した。
 唸り声のようなものを吐きながら、少女は目の前に顔を上げた。


結標「だ、誰……ッ!?」

一方通行「あン?」


 結標と一方通行の目が合った。その瞬間変わった。
 少女の顔に映る、何が起こっているのかわからないと困惑している表情から一気に。
 死を目の当たりにしたときのような、恐怖で顔を歪めた表情に。


結標「あ、一方通行……?」

一方通行「……どォした? あわ――」

結標「い、イヤッ!!」

一方通行「ッ!?」


 結標は短い悲鳴を上げた瞬間、空気を切るような音とともにその姿を消した。
 その場に残っていたのは彼女の手の自由を奪っていた拘束具と、アスファルトに倒れたキャリーケースだけだった。




美琴「き、消えた!?」

黒子「しまったッ!? くっ、どこにッ!?」


 黒子が周囲を見渡した。数秒も経たないうちに目標を捉える。
 

黒子「ッ、いましたわッ!!」


 結標淡希は先程居た位置から一〇メートル程離れた位置。路地裏の細い通路に入りかかる場所に立っていた。


黒子「やはり大人しく捕まる気はなかったようですわね。こうなったら力尽くで――ってちょっと!?」


 黒子が武器である金属矢を収納している、太腿に巻いたホルダーへ手をかけようとしたとき、彼女の目に少年の姿が映った。
 機械的な杖を器用に使いながら、結標淡希へと足を進める一方通行の姿が。


一方通行「オイ、何をそンなにビビってンだオマエ? 一体どォしたっつゥンだよ」

結標「や、やめて。来ないで……」

一方通行「……、オマエ、まさか――」


 一方通行が何かに気付き、顔を歪める。
 それを見た結標がビクリと体を震わさせて、



結標「こっちに来ないでよ!! この『化け物』ッ!!」



 叫び声とともに、結標は再び空気を切るような音とともに姿を消した。
 一方通行は彼女がいたはずの空間を大きく見開いた目で見ながら、呆然と立ち尽くしていた。


黒子「あの状態でのテレポートならそう長い距離は跳べないはず。すぐに追跡を――」


 黒子は逃げ出した結標淡希を追うべく、身構えた。
 彼女の能力は空間移動能力(テレポート)。手に触れた物体や自分自身の体を転移させる能力。
 この強力なチカラを使えば、再び逃走者を補足することも可能だろう。
 だが、黒子がこのチカラを行使し追跡を開始することはなかった。
 なぜか。


黒子「――がっ!?」

一方通行「…………」


 一方通行。学園都市に七人しかいない超能力者(レベル5)。その中の頂点である第一位の能力者。
 その怪物の左手が、白井黒子の首を鷲掴みにして宙へ釣り上げていたからだ。





黒子(!!!?!!!? い、息が、できッ!?)

一方通行「超能力っつゥのはただ能力を使います、って思えば使えるほど簡単なモンじゃねェ。それを使うために脳みそフル回転させて式を立てて、演算する必要がある」


 顔を真っ赤にさせながら足をバタつかせている黒子を眺めながら、一方通行は語りかける。


一方通行「白井。オマエの能力はたしかテレポートだったか? よく知らねェが結構複雑な演算すンだろ?」

黒子(に、逃げなければ、だ、だめだ、頭がまわら)


 呼吸困難になった黒子の表情が大きく崩れる。
 顔にあるあらゆる穴から体液が漏れ出し、赤くなっていた肌の色が段々と青ざめていく。


一方通行「あはっぎゃはっ!! 突然首ィ絞められるみてェな急激な状況の変化ァ、そンな中で演算なンかに思考を回す余裕ねェよなァ!?」


 悪魔のような笑い声を上げながら少女へ圧倒的なチカラを振るう一方通行。
 しかし、引き裂くような笑顔が次第に冷静な表情へと変化した。


一方通行「あの女に何をしやがった? 悪りィが全部吐いてもらうぞ? できねェっつゥならこのままこの首をへし折って――」

美琴「一方通行!!」


 遮るように一方通行を呼び掛ける者がいた。
 一方通行は首だけを動かし、声のした方向を見る。
 そこには御坂美琴が立っていた。特になにか構えることもなく、ただそこに立っていた。


美琴「……やめてよ、一方通行」

一方通行「そォいやオマエも居たな。オマエにも聞きてェことが腐るほどあンだ。コイツから吐かせたあと相手してやっから――」

美琴「お願い!! やめてよ。黒子を離してあげてよ、一方通行……」

一方通行「ッ」


 不安で押しつぶされそうな表情をした美琴を見て、一方通行の脳裏に一人の少女がよぎった。
 打ち止め(ラストオーダー)。
 御坂美琴の提供したDNAマップから生まれた体細胞クローンである少女。自分が守ると決めた、自分の生きる意味を教えてくれた少女が。
 
 一方通行の左手から力が消え、緩やかに開いた。


黒子「ごほっ!? がはっ、おぇ、ごほっ、ごほっ、すぅ、がふっ!!」


 一方通行の魔手から逃れた黒子は両手を地面に付け、顔を下に向けながら呼吸を必死に整えていた。





一方通行「……悪りィ。ちょっと頭に血ィ昇ってた」


 首元の電極にのスイッチを押し、能力使用モードを解除する。


美琴「ねえ。アンタって結標淡希とどういう知り合いなわけ?」

一方通行「……別に大した知り合いじゃねェよ」

美琴「嘘よ」

一方通行「あァ?」

美琴「アンタがあんなに取り乱したところなんて見たことない。つまり、それだけの関係ってことでしょ?」

一方通行「…………」

美琴「それにアンタあの人のこと『淡希』って呼んでた。アンタが名前で呼ぶような人がただ知り合いなわけない」

一方通行「…………はァ」


 一方通行はため息をつき、しばらく空を見上げた。
 日は完全に沈んでおり、空には星の光が点々としていた。
 そして少年は、面倒臭そうに口を開いた。


一方通行「アイツは……俺の恋人ってヤツだった」

美琴「ッ!?」

一方通行「今日は朝から一緒に出かけてて、映画行って、メシ食って、買い物して、さっきまでそこの公園のベンチに座って馬鹿みてェな話してたところだった」

美琴「…………」

一方通行「だからこそ知りてェンだよ。ここで何があったのか。アイツの身に何があったのかをよ」


―――
――





黒子「こちら白井。申し訳ございません。犯人の逃亡を許してしまいました」


 白井黒子が耳に取り付けた端末で風紀委員(ジャッジメント)の仲間と通話していた。
 黒子からの任務失敗の報告に対して、真っ先に返事をしたのは先輩である固法だった。


固法『……そう。相手がテレポーターならしょうがないわ。初春さん、追跡を再開してもらえる?』

初春『了解です』


 固法の指示に対し、バックアップ担当の初春が一言で返事をする。


黒子「初春。ちなみに逃亡者の名前は結標淡希ですの」

初春『結標淡希……ってあのときの!?』

黒子「そうですの。なので今回の事件発生当時の、この辺り周辺の監視カメラの結標が映っている映像データの解析も並行してお願いできます?」

初春『なるほど。アジト等の隠れ家の位置を見つける手がかりになるかもしれませんしね。わかりました』


 そう言うと初春の電話口からカタカタとキーボードを叩く音が聞こえてきた。


固法『こっちは他の一七七支部のメンバーと合流したわ。すぐそちらに合流する』

黒子「……いえ。実は逃げられるときに少し負傷してしまいまして。すぐに応急処置して合流しに行きますので、追跡のほうを優先してください」

固法『大丈夫? 救援のために一人くらいそちらに送りましょうか?』

黒子「だ、大丈夫です。本当に大したものではありませんので! で、では治療のために一度こちらからの通信は切ります」


 耳に付けた端末をオフにしながら、黒子はため息を付いた。
 そして視線を一緒にいる美琴へ向ける。


黒子「……さて、これで少しの間だけお話する時間は取れましたのよ?」

美琴「ごめんね黒子。これって思いっきり規則とかの違反になっちゃうよね?」

黒子「当たり前ですの。これがもしバレたら始末書アンド始末書のフルコース確定ですわよ」

美琴「ありがとうね。この埋め合わせは必ずするから」

黒子「それならば今度の週末一日デートでお願いしますの。もちろん二人きりで」


 あはは、と苦笑いする美琴。
 「絶対ですよ」と念押しした後、黒子が彼女へ向けていた視線を一方通行へ移す。


黒子「……本当は暴行罪及び治安維持妨害で貴方を拘束してやりたいところですが、お姉様に免じてとりあえずは不問といたします」

一方通行「悪かったな」


 首に残った痛みを手でほぐしながら、黒子は問いかける。


黒子「で、聞きたいこととはなんでしょうか?」

一方通行「さっきも言ったが、この現場で何があったのかだ。事細かく喋れ」

黒子「ふむ、そうですわね……」


 黒子は考え込みながら、美琴の顔を見る。


黒子「わたくしが喋るより、先にお姉様から話したほうがよろしいのでは?」

美琴「私?」

黒子「わたくしがここに到着したときには、すでにお姉様はここにいましたでしょ?」

美琴「え、ああ、そうね。えっとどこから喋れば……」




 顎に手を当てしばらく考え込む美琴。
 考えがまとまったのか、うん、とつぶやき一呼吸置いてから再び喋り始める。


美琴「私が寮へ向かう帰り道のことだったわ。道端に傷だらけでボロボロになっている男の人を見かけたのよ」

美琴「ほっとくわけにはいかないから、その男の人に声をかけて、喋っているうちにその怪我はある能力者にやられたってことがわかったわ」

美琴「で、この路地裏でその能力者に仲間が襲われているから助けてくれって言われたから、ここまで走ってきたってわけよ」


 美琴の説明を聞き、黒子はなるほどと納得したような声を出して、


黒子「それでお姉様は結標淡希を無能力者狩りの犯人だと思っていたのですね」

美琴「そういうこと」

黒子「……というかお姉様? 普通そういうことはアンチスキルやジャッジメントへ通報するのが先ですのよ?」

美琴「はいはいわかってるわよ。そう何回も言わなくても」

黒子「本当にわかっているんですの?」

一方通行「で、そのあとはどォなったンだ?」


 話が逸れていきそうになっている先輩後輩コンビの会話に割って入る一方通行。
 ごほん、という咳払いをしてから美琴は話を再開した。


美琴「やったことって言っても大したことはしていないわよ? ちょっと会話したくらいよ」

一方通行「会話? 内容は?」

美琴「……えっと」

一方通行「あン?」

美琴「あ、一方通行? ちょっと耳貸してちょうだい」


 そう言うと美琴は一方通行の隣に行き、口を耳元に近づけた。


美琴「(結標とした会話の内容をちょっとこの子に聞かれたくないのよ。突き詰められたらあの『実験』のこととか喋らなくちゃいけなくなるし)」

一方通行「(『実験』っていうのは『絶対能力進化計画(レベル6シフト)』のことか?)」

美琴「(そうよ。結標とは直接的には関係はないんだけど、全容を喋るってなるとどうしても引っかかってくるっていうか)」

一方通行「(オマエ、もしかして『残骸(レムナント)』のこと言ってンのか?)」

美琴「なっ、なんでアンタがその名前をッ!?」


 思わぬところから思わぬ単語が出てきたことにより思わず美琴は声を荒げてしまった。
 大声を浴びた一方通行は貸していたほうの耳を弄りながら、


一方通行「……うるせェな。耳元で大声上げンじゃねェよ」

美琴「ご、ごめん」


 二人の様子を見ていた黒子が怪訝な表情を浮かべながら、


黒子「さっきから二人で何コソコソ話していますの? というかお姉様? そんな不用意に殿方と近寄ってはいけませんのよ! ただでさえあの腐れ類人猿と――」

美琴「ちょっと! それは今の話とは全然関係ないことでしょ!?」

一方通行「また話が逸れ始めてンぞ。早く話ィ進めろ超電磁砲」


 ごめん、と美琴は謝ってから再び話を続ける。




美琴「……まあ、そうね。簡単に言うと、去年の九月頃に、あるモノを巡って私と結標淡希の間に因縁みたいなものがあったのよ」

美琴「結果的に、結標淡希はそのモノを手に入れることができず、それは破壊された。それを壊したのは私じゃないけど、私がそれを手に入れることを妨害していたっていうのは事実ね」

美琴「で、私はそれを彼女が未だに根に持ってて、その憂さ晴らしで無能力者狩りなんて行為をしているんだと思った」

美琴「だからそんなことはやめろ、やめないなら私が代わりに相手になってやるって言ってやったわけよ」

美琴「そのあとに黒子が来たのよね? たしか」


 急に話を振られた黒子は首を傾げる。
 

黒子「たしかと聞かれましても、わたくしは会話自体は聞いていませんのでそこは答えかねますの」

一方通行(……『残骸(レムナント)』、か)


 御坂美琴が言っていた『残骸(レムナント』と、それを巡った抗争があったことは一方通行は知っていた。
 あくまで打ち止めを経由して聞いたミサカネットワーク上に流れていた情報だけだが。
 いろいろな組織が動いていて大事になっていたことは聞いていたが、まさか彼女たちのオリジナルである御坂美琴も抗争に参戦していたとは思いもしなかった。
 まあ、彼女の心境からしてこれを知ってしまったら、参戦しないという選択肢はないに等しいのだろうが。


一方通行(…………ということは)

黒子「さて、今度はわたくしの番ですわね」


 一方通行は様々な考えを巡らせていたが、黒子は気にせず自分の話を始めた。
 少年は適当にため息をつき、黒子の方へ視線を向ける。


黒子「今回起きた事件に関しては、先程説明させていただきましたので省かせていただきます。わたくしは衛星カメラの映像をもとにターゲットの追跡の任についていましたの」

黒子「徐々にターゲットとの距離を詰めていき、最終的に接触できる位置まで追い詰めることができました」

黒子「しかし、接触できる直前ターゲットに気付かれてしまったようで、ターゲットは逆向きに逃走。それをわたくしが直接追いかけましたの」

黒子「そして、わたくしがターゲットをここに追いついたと思いましたら、そこにいたのは結標淡希と、彼女と対峙していたお姉様でしたわ」


 黒子の話を聞いて美琴が眉をひそめる。


美琴「……何かその話おかしいわね」

一方通行「どォいうことだ?」

美琴「私が結標を発見したときはそんな急いで逃げている様子はなかったわ。それに私の顔を見たとき困惑した表情をしていたのよ。例えるならなんだこいつ……? みたいな」

一方通行「そォか。普通逃走中の身なら出会った人間全てが追跡者に見えてもおかしくはねェ。なのに、そンな表情を浮かべる余裕があるっつゥことは、ソイツは逃走劇なンて繰り広げている気はなかったっつゥことか」

黒子「で、ですがわたくしは衛星カメラの映像情報をもとにこちらに来ましたのよ? もちろんその映像には彼女に酷似した容姿の方が映っているという情報も得ていますので人違いもありませんの」


 そう言うと黒子は携帯端末に複数枚の画像を映し出した。
 そこにはぼやけていてハッキリとは確認できないが、結標淡希のような容姿をした少女が映っていた。
 髪型も服装も盗難品であるキャリーケースも、全てがまったく同じ少女が。
 それらを見て、一方通行があることに気付く。


一方通行「……結構な枚数の画像があるが、どれも顔が写ってねェよォだが?」

黒子「ええ。運が悪いというか、逃走者がうまく動いていたというか、ここまで顔がまったく映らず逃走をしていたことになりますわね」

一方通行「それは監視カメラの方でも同じか?」

黒子「そうですわね」


 つまり、街中にある膨大な監視カメラと衛星軌道上に浮いている衛星カメラから逃れていたということだ。
 まったく映らないように立ち回ることは可能だろう。だが、映ってなお顔だけ映さないようにするなど可能なのか?





黒子「……では、少し話が逸れましたので戻しますわ。彼女と接触したときの会話は、軽い尋問のようなことをしました」

一方通行「尋問だと?」

黒子「ええそうですわ。彼女が自分は強盗犯ではないと言い張りますので。質問内容はそうですね……」


 地面に転がっているキャリーケースを見ながら黒子が続ける。


黒子「盗品であるキャリーケースを何故持っていたのか? ですわね」

一方通行「それでアイツは何て答えたンだ?」


 一方通行の問に黒子は当時を思い出しながら、
 

黒子「たしか、このキャリーケースは荷物が重くて困っている老年女性の代わりに持ってあげていた、と言っていましたわ」

黒子「しかし、その肝心な老年女性の方が見当たりませんので、とっさについた嘘だとわたくしは判断しましたの」

黒子「そのあと、対空間移動能力者用の拘束具がなかったため、通常の拘束具で形だけの拘束したあと、貴方がここに現れましたのよ」


 一通り話すことが終えたのか、黒子はふうとため息をついた。


黒子「何か他に質問したいことはありますの?」

一方通行「……そォだな。オマエらと接触していたときの結標のヤツの様子が知りてェ」

美琴「様子ね。そういえば私と話しているとき、急に様子がおかしくなったわね」

一方通行「おかしくなった? 具体的にどォおかしくなったンだ?」


 質問に反応した美琴へと視線を向ける。


美琴「何か急に頭を抱えだして、顔色が悪くなってたわ」

一方通行「オマエと会話をしてからか?」

美琴「うん、たしかそう」

黒子「そういう話なら、わたくしも少し違和感のある行動がありましたわ」

一方通行「違和感?」


 黒子が不満げな顔を浮かべながら思い出す。
 

黒子「わたくしの名前を確認してきましたのよ? 貴女は白井黒子っていうんですか? みたいな感じに」

黒子「たしかに最後に会ったのは去年の九月の話でしたけど、そうそう忘れてしまえるような関係ではなかったと思いますのに」


 黒子が腕を組みながら考え込む。そんな彼女に一方通行は確認する。


一方通行「……オマエもアイツと知り合いだったのか?」

黒子「え、ええ。先程お姉様が言っていたいざこざに、わたくしもジャッジメントとして首を突っ込んでいましたのよ」


 美琴が言っていたいざこざというのは『残骸(レムナント)』のことだ。
 つまり、黒子も美琴と同じ理由で結標淡希と関係があったということになる。


黒子「まあ、わたくしは大して力にはなれませんでしたが」

美琴「そ、そんなことないわよ黒子! アンタがいてくれたから結標淡希の野望を打ち砕くことができたのよ? アンタは頑張ったわよ」

黒子「……ふふっ、そう言ってもらえますとわたくしも嬉しいですわ。けど事実は変わりませんわ」






美琴「黒子……あっ、そういえば」


 少し悲しげな表情を黒子が浮かべている中、美琴があることに気付く。


美琴「その会話してからよね? 結標が急にうずくまったのは?」

一方通行「その話っつゥのは、白井の名前を確認したっつゥ会話のことか?」

黒子「たしかそうでしたわね。急なことでしたので忘れていましたわ」

一方通行(やっぱりそォか。オマエはもォ……)


 一方通行は何かを悟った。
 そして、そのことから目を背けるように再び星空を見上げた。
 その様子を見て少女二人が首を傾げる。


黒子「ところでもうお話はよろしくて? そろそろわたくしも追跡の任に戻らないと仲間たちに不審がられますの」

一方通行「ああ。悪かったな」

美琴「ありがとね黒子」

黒子「はい。では――」

 
 黒子が動こうとした瞬間、ピピピという電子音が流れた。
 その音源は黒子の持つ携帯端末からのようで、少女は携帯端末のボタンを押し通話モードにした。


黒子「こちら白井です。遅くなってすみません、今から追跡班に戻りますの」


 謝りの言葉を返し、通話中いくつかの返事した。どうやら指示か何かを受けているのだろう。
 そのあとさらにいくつか返事をすると、


黒子「――えっ?」


黒子の表情に驚きのようなものが現れた。


―――
――






 風紀委員(ジャッジメント)の同僚との通話を終えた黒子が端末を切った。
 険しい表情をしている黒子を見て、美琴が問いかける。


美琴「どうしたのよ黒子?」

黒子「……いえ、急に結標淡希の追跡が打ち切りになったという連絡を受けましたのよ」

一方通行「何だと? どォいうことだ白井」

黒子「盗難品であるキャリーケースを確保できているから、それ以上の追跡は無意味ということで打ち切りになった、と上から通達が来たそうです」

一方通行「上、っつゥのは」

黒子「はい。ジャッジメントの上層部のことですわ」

一方通行「……チッ、そォいうことかよクソッタレが」


 黒子の言葉を聞いてから、一方通行の表情が怒りの表情へと変化していく。
 歯を食いしばり、ギシシと擦れる音が鳴る。


美琴「ど、どういうことなのよ? 何かわかったの一方通行!?」

一方通行「……オマエら、結標と知り合いだったよな」

黒子「はい。さっきも言ったとおり」

美琴「それがどうかしたのよ?」

一方通行「だがオマエらは知らねェよな? アイツが記憶喪失になっていたっつゥことはよォ?」

黒子「なっ!?」

美琴「記憶喪失!?」


一方通行からの出てきた突然の事実に、二人は驚愕する。


一方通行「ああ。アイツは去年の九月一四日以前の記憶がない、記憶喪失者だ」

美琴「九月一四日っていえば……あの日じゃない!」

黒子「たしか結標淡希は何者かの襲撃を受けたことにより大怪我を負い、病院に搬送されたと聞きましたわ」

一方通行「その何者っつゥのがこの俺、一方通行だ」

美琴「あ、アンタがあれをやったっていうの……? たしかにあの現場を見る限り、あんなことができるのはアンタくらいしかいないけど……」


 美琴が顎に手を当て考え込む。当時のことを思い出しているのだろう。
 一方通行は当時結標淡希を狩るために、一帯にある道路を砕き、周囲にあるビルのガラスを叩き割った。
 大地震が起きた後のような惨状だった。たしかに、美琴の言う通りあのようなことができる者は限られるだろう。


黒子「なぜ貴方がそんなことを?」

一方通行「あァ? それはそこにいるオマエのお姉様と同じ理由だ。つまり詳しくは聞くなっつゥことだ」

美琴「あ、アンタもあの子達のために……?」


 美琴は一方通行の赤い瞳を見る。一方通行は特に答えない。
 目で会話している二人を見て、黒子はため息をついてから、


黒子「わかりましたわ、詳しくは聞きませんの。で、つまり貴方が結標淡希を病院送りにして、それが原因で彼女の記憶が喪失した、そう言いたいんですのね?」

一方通行「物分りが良くて助かる」

美琴「たしかにそう考えたら、アイツの反応や行動に対する違和感に説明がつくわね」


 そこで「んっ?」と黒子の動きがピタリと止まる。




黒子「そういえば貴方は、結標淡希と恋人関係にあると言ってらっしゃいましたよね? もしかして恋人を病院送りにしたということなのですか貴方は?」

一方通行「イイや、違う。そのときの俺たちは初対面の完全な他人だった。アイツとそォいう関係になったのはもっと先、最近のことだ」

美琴「どういうこと?」


 そォだな、と一方通行は面倒臭そうに頭を掻く。


一方通行「記憶を失ったアイツはどォいう経緯でかは知らねェが、俺が居候している住処に居候として移住してきたンだ」

一方通行「そして俺とアイツは同じ学校の同じクラスへ編入された。敵対関係にあった女と、同じ家に住む居候同士でありクラスメイトでもあるという、奇妙な共同生活が始まったっつゥことだ」


 アイツが来たのが一〇月半ばの頃だから半年近い期間になるか、と付け加えた。


美琴「なるほど。その中でアンタと結標がその、こ、恋人っていう関係になったってわけね」

一方通行「ああ」

黒子「しかし、結標淡希のあの事件後の来歴はわかりましたが、それと今回の事件に関連性があるとは思えませんが」

一方通行「…………」


 一方通行は神妙な顔つきになり数秒口を閉じた。
 そして自分の中での考えがまとまったのか、再び口を動かし始めた。


一方通行「こっから先俺が言うことは、学園都市のドス黒い裏の話だ。できれば記憶に留めるな。留めるにしても絶対に口外なンてすンじゃねェぞ?」

美琴「……ちょっと待って」


 一方通行の発する雰囲気からただならぬものを感じた美琴は、視線を黒子の方へ向けた。


美琴「黒子。アンタはこれ以上の話は聞かないほうがいいわ。今すぐジャッジメントのみんなのところに帰りなさい」

黒子「なっ、なにを言っていますのお姉様!? ここまで聞いてあとはお預けなんてわたくしには耐えられませんわ!」

美琴「一方通行がこんなこと言うなんておそらく本当にヤバい話よ? たぶんフェブリのときとは比べ物にならないくらいの暗部の」


 美琴と黒子、そしてその仲間たちは、とある暗部組織の野望を阻止するために、その暗部組織と戦った過去があった。
 そのときは一歩間違えれば命を落としてもおかしくはないような、過酷な戦いだった。
 だが、それより危険な何かを美琴は直感で感じ取っていた。


美琴「そんな話を、私は大事な後輩に聞いて欲しくない!」

黒子「……お姉様。こちらからも一つ言わせてもらってもよろしいですの?」

美琴「何よ?」

黒子「お姉様がわたくしを想ってくれていることは大変嬉しいですの。けど、わたくしからも同じことをお姉様に対して想っているっていうことをわかって欲しいですの」

美琴「黒子……?」

黒子「お姉様はここでの話を聞いたら、おそらく、いや必ずそれに首を突っ込もうとする思いますわ」

美琴「うっ」


 図星を突かれたのか美琴が一歩後ろに退いた。
 それを追うように黒子は距離を詰め、美琴の目を見つめながら、


黒子「だから、その話を聞いた上でわたくしはお姉様を止めないといけませんの」


 そしてそのまま横目で一方通行を見る。
 

黒子「それに一方通行さんがわたくしにも話そうとしてくれているということは、それはわたくしにも関係があるという話ですの」

黒子「ならば、わたくしはそれから逃げたくありませんわ。もうすでにあのとき、片足突っ込んでいるようなものなのですから」





 黒子の真剣な目付きからどうやら彼女の決意は堅いようだ。
 それを察した美琴は諦めのため息をついた。

 
 
美琴「……わかったわ。一方通行、お願い」


一方通行「ああ、わかった」


 そう言われて一方通行は二人を見る。


一方通行「これはあくまで俺も聞いた話に過ぎねェから、そォいう話もあるかもしれねェくらいで留めておけ」


二人が黙って頷いたことを確認し、一方通行は話を始める。


一方通行「結標淡希が持つ能力『座標移動(ムーブポイント)』。これを利用した計画が存在する」

美琴「計画……? も、もしかして、アンタのような……?」

黒子「?」

一方通行「いや、そこまではわからねェ。俺もあくまで聞いただけの話だからな」


 そう、と言ってから美琴は黙った。


一方通行「当たり前だがその計画は表には絶対に公表されないよォな、いわく付きのモンだっつゥことは間違いねェ」

一方通行「その計画に必要なモノは、当たり前だが結標淡希本人だ。だが、その結標淡希は記憶喪失していて表の世界で何事もなく過ごしていた」

一方通行「そンな表の住人であるヤツを裏の計画に引き入れる手段なンざ大きく分けて二つしかねェ」


 指を一本立てて一方通行を説明を続ける。
 

一方通行「一つは、人の善意に付け込ンで騙し、本人はそンなクソみてェな計画に加担していることなンてこと悟らさせずに、計画へ参加させる手段」

美琴「…………」


 美琴の表情が険しくなる。
 なにか思い当たる節があったのだろう。
 

一方通行「もう一つは、何らかのソイツの弱みを握り、それをチラつかせることによって計画に参加せざる得ない状況を作り上げる手段」


 一方通行は二本目の指を立てる。
 

一方通行「だが、結果的に見れば、この二つの手段が結標淡希を計画に参加させるために有効な手段かというと、そォじゃなかったわけだ」

黒子「今の今までそのような計画に参加している様子がなかったから、でしょうか?」

一方通行「そォいうことだ」


 一方通行は首を縦に振った。


一方通行「一つ目に関しては、俺が結標に裏ではそォいう事情があるっつゥことを教え込ンでやった。だから、そォいう関係の話は全部断るよォにしていたはずだから有効には働かない」

一方通行「二つ目に関しては、弱みさえ作らなければ向こうは攻め入ることはできねェ。今までその手を使ってこなかったっつゥことは、ヤツらは弱みを握ることができなかったっつゥことだ」

一方通行「さて、この二つの方法が使えない場合、結標を計画に参加させるにはどォすればイイか……」


 一呼吸置いてから、再び口を開ける。


一方通行「それは結標が裏の住人になってもらうことだ。表の住人を無理やり計画に引き込ンでやろォモンなら、オマエらジャッジメントやアンチスキル等の治安組織や、一般人の目に止まってしまう可能性が高くなるからな」

一方通行「それに比べて裏の住人なら、人権なンてあったモンじゃねェ。拉致なりなンなりして計画に参加させればそれで問題ねェっつゥことだ」

一方通行「もともと結標は裏の住人だ。ここまで言えば何となく俺が言いたいことがわかってくるンじゃねェか?」





 その言葉に美琴が理解したような反応をする。
 

美琴「……そうか。結標が記憶を取り戻したら、裏の記憶や知識を取り戻すということだから、必然的に裏の世界に戻ってくるってことね?」

黒子「しかしそれはおかしくはないでしょうか?」

美琴「おかしい?」


 黒子の反論に美琴が首を傾げる。
 

黒子「ええ。記憶を取り戻してもあくまで元の記憶や知識が蘇るだけですの。その時点では自分は記憶喪失中は表の住人だったという記憶も存在するはずですので、必ず裏の世界とやらに行くとは限らないのでは?」

一方通行「それに関しては裏に行くという確信のある情報がある」


 黒子の推論を否定するように情報を後付する。

 
 
一方通行「結標淡希の記憶喪失は元あった記憶とその人格が奥底に封じ込まれ、新しい人格が記憶のない状態から結標淡希を演じるというタイプのものらしい」


黒子「なるほど。つまり、記憶を取り戻した時点で記憶喪失中の記憶はない、九月一四日時点の裏の住人である結標淡希の人格が蘇るということですわね」

美琴「な、なんでそんなことがわかるわけ? 記憶喪失なんて症状見ただけじゃどういうのなんかわからないじゃない」

一方通行「これは第五位。精神系能力者の頂点に立つ食蜂操祈から教えてもらった情報だ。あえて虚偽の情報を教えられたとかじゃねェ限り間違いねェよ」

美琴「……アンタ、あのときそんなことを話してたの?」

一方通行「ああ」


 美琴は三月一三日のことを思い出していた。
 一方通行と食蜂操祈が神妙な顔付きで話をしていたときのことを。

 それに、と言って一方通行は付け加える。


一方通行「さっき結標が俺に向けてきた目は、まさしく九月一四日、俺と敵対関係にあったときのアイツと同じモノだった。つまり、第五位の言ったことは間違いなかったっつゥことだ」


 その目付きとは恐怖。嫌悪感。絶望。様々な負の感情が混ざりあったモノ。
 今までの結標淡希が決して向けてくることがなかった目だった。
 
 話が逸れちまったな、と流れを修正し一方通行は続ける。


一方通行「さて、これでクソ野郎どもの目的が『結標淡希の記憶を取り戻す』ことに定まった。なら、ヤツらはどォ動くか」

黒子「在り来たりなところを挙げると、学園都市には記憶喪失を治療する薬品などザラにありますの。それを結標淡希に投与すれば戻るのでは?」

一方通行「それがわかりやすい方法だろォな。だが、その薬品をどォやって結標に投与する?」

黒子「そ、それは……」

 
 すぐに思いつく答えが出ないのか、黒子は言葉を詰まらせる。

 
 
一方通行「脳への投薬は風邪薬みてェに錠剤飲むだけで終わるよォなモンじゃねェ。然るべき施設で専用の機器を使うよォな治療になる」


一方通行「そンな大掛かりなことをやる場合必ず足がつく。表に情報を晒したくねェヤツらは絶対にこの方法を避けるだろォ」

一方通行「それを度外視したとしても、まず結標の同意を得て施設に招き入れなきゃいけねェ。だが、俺に言われて警戒心が強まっている結標をそンなところに騙し入れるなンて難しいだろォよ」


 つまり投薬で記憶喪失を治そうとするのは難しい、と一方通行は言う。
 ならばと美琴が代替案を出す。





美琴「精神系能力者に治させるとかは? 食蜂のヤツはもちろん、食蜂以外でも記憶喪失を治せるような精神系能力者の人がいると思うわ」

一方通行「そォだな。それが可能なら一番イイ方法だ。けど、実際に今日までその方法が使われてないっつゥことはそれができなかったっつゥことだ」

美琴「うーん、まあたしかにそうね。食蜂がそんな誘いに乗るかどうかも怪しいし、仮に他に治せる能力者たちがいたとしても同じく協力してくれるとは限らないわね」


 一方通行の視点から見ても第五位の少女は、このような話に賛同しないことは何となくわかっていた。あくまでそんな気がする程度の話だが。
 彼女のことは基本的に謎に包まれている。彼女が何を思い、何のために、どういう行動をするのか。彼は何も知らない、わからない。
 ということは、食蜂は基本的に表に素性を出さないようにしているということだ。
 そんな彼女が表に出せないような計画のために、一人の少女の記憶喪失を治してくれ、と言われて二つ返事で了承するとは思えない。
 その行動一つで、どれだけの自分の情報をバラ撒いてしまうのかわからないのだから。

 
 
 
一方通行「こォいう感じにヤツらの中にある案が次々と挙がっては却下されていったンだろォ。そして、ヤツらは結局この方法を取った」



 美琴と黒子を一度見たあと、一方通行はその方法を挙げる。
 

一方通行「記憶が回復するきっかけを無理やり起こすことにより、記憶を回復させるっつゥ手段だ」

黒子「きっかけ、ですの?」

一方通行「ああ。第五位が言っていたが、あのタイプの記憶喪失はふとしたことがきっかけで回復することがあるらしい」

美琴「へー、つまりそのきっかけっていうのを自発的に起こして記憶を戻させるってことね?」

黒子「しかし、それは難しいのではないでしょうか? まずそのきっかけというのがなにかわからなければいけませんし、何よりそれを自発的に起こすことによりその方たちの足がついてしまうのでは?」

一方通行「オマエの言う通りだ白井。しかし、そのきっかけっつゥのがすでにわかっていて、それを足がつかないよォに行えることなら可能なンじゃねェのか?」

黒子「た、たしかにそうですが」


 美琴が眉をひそめながら一方通行を見る。
 

美琴「……アンタ、知っているのね? そのきっかけっていうヤツを」

一方通行「知っている、っつゥのは語弊があるかもな。あくまでそォじゃねェかっつゥ推測に過ぎねェ」


 一方通行は手品のネタバラシをするかのように、ゆっくりと喋り続ける。


一方通行「去年の九月一四日。結標淡希を中心とした抗争。その中でアイツと深い関わりのあった人物との接触」


 それを聞いて美琴がピクリと反応する。

 
 
美琴「それってまさか……!」


一方通行「ああ。『御坂美琴』。『白井黒子』。そしてこの俺『一方通行』のことだ」

黒子「なっ……!」


 自分たちの名前が突然出てきたことにより、少女二人の動きが固まる。
 それに対して一方通行は何も喋らない。
 沈黙。ビルの裏に取り付けられている換気扇のファンの音だけが耳に入ってきた。
 
 しばらくして、美琴がはっ、した。


美琴「……ってことは私たちは、その計画を実行したいヤツらに嵌められてこんなところに立っているってこと!?」


 美琴は先程出会った男を思い出していた。ボロボロの体で自分へ助けを求めてきた男を。
 たしかによくよく考えてみればおかしい点がある。彼はここに能力者に虐げられている仲間がいると言っていたはずだ。
 しかし、ここにはそんな人たちは見当たらず、いたのはたしかに結標淡希ただ一人だった。


黒子「ば、馬鹿なッ! わ、わたくしはジャッジメントとしての任務でここまで来ましたのよ!? それがそんな訳のわからないものたちの策略などと……!」


 大きく目を見開かせながら声を荒げる黒子。
 彼女はジャッジメントの仕事を自分の誇りとしている少女だ。そんな部分を利用されたと知れば、こうなるのも無理はない。
 だが、一方通行はそれを冷静に返す。





一方通行「そォだ。オマエはジャッジメントとして上からの指令に忠実に動いた。だが、そンなオマエでも何あったンじゃねェのか? 今回の任務の中で違和感が」

黒子「そんな……」


 黒子は否定の言葉を言いながらもどこかでそれを考えていた。
 
 ジャッジメント上層部からの支部へ直接通達されるという異例。
 本来のジャッジメントとしての管轄ではない、強盗犯の確保という任務。
 なぜか一七七支部だけに通達されているという状況。
 
 たしかに、一方通行の言ったことを前提として考えれば、これらのことに対して納得がいく。
 だが、黒子の中には一つだけ解せない点があった。


黒子「仮にこれが裏で暗躍している連中が仕組んだことだとするなら、わたくしは一体誰を追いかけてここにたどり着いたんですの!?」


 ここにいる三人の発言を全て真実とするなら一つ矛盾点が発生していた。
 それは事件発生時、一方通行と結標淡希が一緒にいたという事実と、その間に衛星カメラや監視カメラの映像を元に黒子たちジャッジメントが追跡劇を繰り広げていたという事実だ。
 一方通行が嘘を言っているとは思わないが、かといって一七七支部でバックアップしてくれていた少女、初春飾利からの情報が間違っていたというのも信じがたいことだった。


一方通行「オマエが疑問に思っているのは、衛星カメラとか監視カメラの映像についてじゃねェのか?」


 一方通行は見透かしたように黒子の浮かべている疑問を口に出した。


一方通行「ああいうのは、技術があるヤツが使えばダミーの映像へ差し替えることができンだろ? それに踊らされたっつゥのが一番ありえる話だろォな」

黒子「た、たしかにそういう技術は存在しますわ! けどそれをやられたとしてあの初春がそれに気付けないなどということが……!」

一方通行「その初春っつゥのがどれだけ電子戦に長けたヤツかは知らねェが、学園都市の闇は深けェ。それより上のハッカーがいるか、またはシステムが存在するか」

黒子「ぐっ……」


 たしかに初春飾利は優秀なハッカーだ。彼女の力には黒子も何度も助けられている。
 だが、実際黒子は彼女がどれだけすごい技術を持っているのかを知らない。黒子自身がその分野に関しては知識が足りていないからだ。
 だから、一方通行の言ったことに即座に切って捨てることができなかった。

 言葉を詰まらせる黒子をよそ目に一方通行は続ける。


一方通行「ま、そォいうわけだから結標が言っていたババァもその手先と考えたほうがイイな」


 そう言いながら一方通行は、横に転がっている盗難品であるキャリーケースの目の間に立った。
 そして首元に手を当て、電極のスイッチを入れる。


美琴「――ちょ、ちょっとアンタなにを!?」


 制止しようとする美琴を無視しながら、一方通行はキャリーケースを軽く小突く感じにつま先を当てた。
 ガンッ、という音とともにキャリーケースの施錠が破壊され、蓋が勢いよく開く。
 その中を見て黒子が目を見開かせる。


黒子「な、中身がない……?」


 黒子の言う通りキャリーケースの中身は空だった。
 正確に言うなら中にある物を固定するベルトや、外部からの衝撃を吸収する防護材などがあるが、これらはこのキャリーケースに備え付けられた機能に過ぎない。
 

一方通行「そォいうことだ。オマエらを釣るための盗難品っつゥ役割を果たすだけなら中身はいらねェからな」

一方通行「それにアイツは九月一四日当時、同じよォなデザインのキャリーケースを持っていた。おそらくコイツにも記憶回復を助長させる意味があンだろォな」


中身のないキャリーケースを見つめながら、一方通行はつぶやく。





一方通行「……ふっざけやがって」


歯をきしませる音が聞こえるくらい怒りに震えている少年を見て、美琴は問いかけた。


美琴「アンタ、これからどうするつもりなのよ?」

一方通行「決まってンだろ。結標を追う」


 まるで当たり前かのように一方通行は即答した。
 だから、美琴は率直に思ったことをそのまま聞く。
 

美琴「……追ってどうするのよ?」

一方通行「どォするだと?」


 一方通行は首をかしげた。言っている意味がわかっていないように。
 そんな彼を見て美琴は顔をしかめた。


美琴「だって今の結標はアンタと恋人だった結標とは別人なのよ? まったくの赤の他人、いや、当時のことを考えればもっと最悪な関係性よ。そんな女を追いかけて捕まえられたとして、今のアンタに何が出来るっていうのよ?」

一方通行「さァな」


 特に美琴の言葉に感情を揺らされることなく一方通行の顔は冷静だった。
 

一方通行「だが、俺は行かなきゃいけねェンだ。アイツと『約束』したからな」

美琴「『約束』……?」

一方通行「ああ。だから俺は止まるわけにはいかねェンだよ」


 冷静な口調だが、その言葉には力強さのようなものがあった。
 一方通行の真紅の瞳から絶対的な意思のようなものが映っているように見える。
 どんなことがあっても折れない、鋼のような意思を。
 この少年を止めることの出来る言葉はもう存在しない、そう美琴は感じ取った。


―――
――






 ピィー!! ピィー!! ピィー!!


 深夜の学園都市。ビル街の中に電子音が響く。
 ビルとビルの間を飛行機のように飛行する超能力者(レベル5)の少年、一方通行がチョーカーに取り付けられた電極に手を当てる。


一方通行(――そろそろバッテリー切れの時間か)


 先程の音は能力使用モードの残り時間が一分を切ったという合図だ。
 自分の生命線である電極のリミットが近づいたことに気付いた一方通行は、適当な歩道に着地しスイッチを切り替える。


一方通行(……今何時だ?)


 携帯端末の画面を点灯させる。
 そこには『23:58』という数字が表示されていた。


一方通行(結標が行きそォな場所片っ端から回ってみたがいなかった)

一方通行(ま、当たり前か。そもそも今のアイツは俺の知っている結標じゃねェ。だから、記憶喪失中のデータを使って捜したところで意味ねェだろォが)

一方通行(チッ、ナニやってンだ俺ァ? 普通に考えればそれくらいわかるだろォよ。残された時間がどれくらいかわからねェっつゥのに、無闇に時間とバッテリーを浪費しやがって)

一方通行(……いや、違う。俺ン中でまだどこかで捨てきれていなかったのか? もしかしたらまだ結標が俺の知っている結標なンじゃねェのかっつゥ甘ったるい希望を)


 力のない笑い声をこぼしたあと、一方通行は地面に唾を吐き捨てた。


一方通行(馬鹿なこと考えてンじゃねェよ一方通行。そンなクソみてェな幻想はもォ捨てろ。今俺がやるべきことはどォやってアイツを見つけるかっつゥ方法考えることだ)


 一方通行は自分の中の考えをまとめるために、公園にあるベンチへ腰を掛けた。


一方通行(捜し人を捜すのに一番効率のイイ方法は、風紀委員(ジャッジメント)や警備員(アンチスキル)に協力を仰ぐことだろう)

一方通行(ヤツらなら街中の監視カメラ、衛星軌道上にある衛星カメラの映像から人を捜すことが出来る)


 しかし、この方法には一つ問題があった。


一方通行(今回の件でジャッジメントが利用されたっつゥことは、その上層部とクソ野郎どもとが繋がっているっつゥことだ)

一方通行(下手に協力を要請したら、俺の目論見がバレてもみ消される可能性がある)

一方通行(アンチスキルの方も同じだ。アンチスキルはジャッジメントとは指揮系統が違うから、まだ上層部が繋がっているとは決まったわけじゃないが、可能性がある以上避けたほうがイイ)

一方通行(そォいうわけでヤツらは使えねェ)


 最も確実な方法が使えない状況に、一方通行はこれといって悲観することなく思考を続ける。


一方通行(表の住人が使えねェっつゥなら裏の住人を使うしかねェっつゥことだ)




 一方通行の中にはすぐコンタクトの取れる宛が二人いた。

 一人は木原数多。元暗部組織『猟犬部隊(ハウンドドッグ)』に所属していた男。
 現在はその猟犬部隊が解体された為、表の世界で『従犬部隊(オビディエンスドッグ)』という会社を立ち上げ、なんでも屋の仕事をしている。
 そのはずだが、近隣の住民の信用をまだ得ていないためか、依頼の入ってくる仕事はほとんどが殺しや盗み、運びなどの裏の仕事らしい。
 ちなみにそのなんでも屋の業務の一環で、自宅に大人がいないときに打ち止めを預かる、保育園の代わりのようなこともやっている。

 一人は土御門元春。暗部組織の中でもトップシークレットに当たる組織『グループ』に所属している男。
 通常時は一方通行と同じ学校、同じクラスに通う学生をしている。
 暗部絡みの問題に巻き込まれたときのサポートや、一方通行や結標への裏からの働きかけを処理しているなどと、その日常を守るために尽力しているように見える。


一方通行(コイツらなら裏の顔も利くだろォし、やろうと思えば結標の確保も容易にやってのけるだろう)

一方通行(だが、今となったらコイツらも信用できるかわからねェ)

一方通行(なぜなら俺はアイツらの真意を知らねェからだ。今まで手を貸してくれていたのも、今日の件を見越してのことかもしれねェ)

一方通行(木原に至ってはそれらしい行動が一つあった。遊園地でのことだ)


 一方通行は結標淡希に自分の過去のことを話した。
 『絶対能力進化計画(レベル6シフト)』。
 『打ち止めと一方通行のこと』。
 『結標淡希の記憶喪失のこと』。
 しかし、これらのことを一方通行の口から話す前から結標淡希は知っていた。
 話す直前に木原数多が彼女にそれらのことを話していたからだ。


一方通行(それが原因で記憶が回復する可能性だってあった。つまり、木原は記憶喪失が回復した結標が必要だという見方もできるっつゥことだ)


 つまり、この二人に協力を仰ぐのは危険だ。
 そう結論付けた一方通行は次の案へとシフトする。


一方通行(やっぱり俺自身が自力で結標を見つけ出すしかねェ。だがどォやって見つけ出す?)

一方通行(俺が知っている結標に関する情報はあくまで記憶喪失以降の情報だ。そンなモンあったところで糞の役にも立たねェ)

一方通行(そンな状態でいくら闇雲に動いたって見つけられる可能性はほぼゼロに近い。やるならヤツの記憶喪失前の情報が必要だ)

一方通行(けど、そンなモンどォやって手に入れる? 書庫(バンク)のデータなンざ一般人が容易に手に入れられるモンじゃねェ)

一方通行(施設でも襲って無理やり手に入れるか? いや、そンなことすりゃ俺がアンチスキルを敵に回すことになる)


 それに情報を得たところで確実に結標を見つけ出すことが出来るとは限らない。
 そんな不確定なものの為に、学園都市の治安組織を敵に回すのは割に合わないどころではない。
 自分の中でその案を却下する。以降ひたすら頭を働かせるが別の案は生まれなかった。


一方通行(クソっ、何で俺はそォいう関係のデータっつゥのを持ってねェンだ? あンだけゴミクズどもと接してきたっつゥのに俺には何にも残されちゃいねェじゃねェか)

一方通行(せいぜい残ってるっつったら、冥土帰しからもらった超能力者(レベル5)の……待てよ?)


 一方通行の口角が釣り上がる。
 まるで獲物を見つけた狩人のように。


一方通行「あンじゃねェかよ。俺にもまだ手段っつゥモンがよォ」


 そう呟くと一方通行は首元にある電極のスイッチを押す。
 バッテリー切れ間近の警告音が公園の中に鳴り響く。
 ドンッ、という地面を抉るような音を上げて、一方通行は再びビルの上空を飛んだ。


―――
――





一方通行「そォいや今日のメシはハンバーグだったか」


 一方通行は現在、自分の居候している住処であるファミリーサイドの二号棟にある一室、黄泉川愛穂の部屋のリビングに立っていた。
 食卓に置かれている、ラップがかけられたハンバーグの乗った皿を見ながら少年はそうつぶやいた。
 ハンバーグの乗った皿は二食分置かれていることから、もう一人のこれを食べる予定だった住人がここには戻っていないということを証明している。
 その事実を確認し、舌打ちをしながら一方通行は自室へと移動した。

 自室に辿り着いた一方通行は真っ先に自室に置いてある机の引き出しを開けた。
 

一方通行「――あった。コイツだ」


 自室にある机の引き出しから、一方通行は一冊のファイルを取り出した。
 ファイルの表紙などに中身の表記などをしているわけではなかったが、彼にはこれの内容がわかっていた。


一方通行(超能力者(レベル5)八人全員のパーソナルデータ。コイツがあれば結標のことがナニか分かるかもしれねェ)


 これは以前カエル顔の医者からもらったものだ。
 一方通行はある決心をしていた。
 どんな敵と対峙しても絶対に負けない。自分の敗北によって自分たちの日常は壊させない。
 その為、手始めとして自分の敵になりうるであろう超能力者(レベル5)の情報を得るために要求したものだ。


一方通行(コイツの中にはそれぞれの能力の詳細だけじゃなく、ソイツの経歴データとかも詳しく載っていたはずだ)

一方通行(その中にあるはずだ。結標淡希の手がかりとなる情報が)


 一方通行はファイルの他に予備の電極と充電用のケーブルを持ち、何も入っていない学校指定のカバンに放り込んだ。
 部屋を一望して特に忘れ物などがないことを確認してから、少年は再びリビングに戻る。
 
 リビングに戻った一方通行は、電話機の横においてある小さなメモ用紙を一枚剥がし、ペンを走らせた。
 書きたいことを書いた一方通行はメモ用紙を食卓の上に置く。


一方通行「……行くか」


 そうつぶやいて一方通行はリビングをあとにしようする。
 すると、一方通行は背中に気配を感じ、後ろを向いた。
 

打ち止め「――帰っていたの? ってミサカはミサカは目をこすりながら聞いてみる」

一方通行「打ち止め……」


 いつの間に一方通行の後ろには、パジャマ姿でカエルのキャラを模した抱き枕を持った少女が立っていた。
 その様子からさっきまで就眠していたことがわかる。
 打ち止め(ラストオーダー)。この家に居候する同居人のうちの一人であり、一方通行が絶対に守ると決めた存在。





一方通行「悪りィ、起こしちまったか」

打ち止め「ううん、いいよ。おかえりなさい。随分と遅くまで遊んでいたんだね、ってミサカはミサカは時計を見ながら言ってみる」


 時計の針は深夜の十二時をゆうに過ぎていた。
 ふわぁ、とあくびをしながら打ち止めは続ける。


打ち止め「ところでアワキお姉ちゃんはいないの? お風呂? ってミサカはミサカは一人のあなたに対して尋ねてみたり」

一方通行「……ちょうどイイ。オマエには直接面と向かって喋っておきたかった」


 そう言うと一方通行は、先程食卓の上に置いたメモ用紙を握りつぶしてズボンのポケットに押し込んだ。
 その様子を見て打ち止めはきょとんとした表情で首を傾げる。


一方通行「打ち止め。もう結標はこの家には戻ってこねェ」

打ち止め「……どういうこと?」

一方通行「そのままの意味だ。アイツはもォこの家には戻ってくることはねェって言ってンだ」

打ち止め「だからどういうこと? あなたの言っていることがわからないよ? どうしてアワキお姉ちゃんが帰ってこないの? ってミサカはミサカは具体的な質問をしてみる」

一方通行「オマエの知っているアワキお姉ちゃんは、もォこの世にはいねェンだよ」

打ち止め「え……」

一方通行「アイツは記憶を取り戻して、九月一四日ンときの結標淡希に戻っちまったンだよ」


 打ち止めは目を大きく見開き、手に持っていた抱き枕が床に転がった。
 声を震わせながら少女は口を動かす。


打ち止め「そ、それじゃ、アワキお姉ちゃんはもう覚えていないの? ミサカたちと一緒に遊んだことも、ご飯を食べたことも、お風呂に入ったことも、笑ったことも」

打ち止め「ぜんぶ、ぜんぶ忘れちゃったってことなの? ってミサカはミサカは問いかけてみる」


 大きな瞳に涙をにじませながら、打ち止めは恐る恐る問いかける。
 その姿を見た一方通行は歯噛みしながら、


一方通行「……ああ」

打ち止め「う、嘘……だよね? み、ミサカをからかうための嘘、なんだよね……?」

一方通行「…………」

打ち止め「うっ……わっ、ああ、……」


 打ち止めは少年の表情から、これは紛れもない事実なんだと、察しのだろう。
 だから、それに気付いた打ち止めは膝から崩れ落ちた。
 目から大粒の涙がフローリングへとこぼれ落ちていく。


一方通行「すまねェ」


 一方通行はしゃがみ込み少女の頭を撫でながら謝った。
 いくら結標淡希の記憶の回復が意図的に行われたことだろう。しかし、それがなくてもいつかは記憶を取り戻して、同じ状況にはなっていたはずだ。
 結局、いつまでも問題を先延ばしにしていた自分のせいだ。自分が目の前にいる少女を傷付けた。




 打ち止めは一方通行を見上げながら、


打ち止め「……ねえ、あなたは悲しくないの? ってミサカはミサカは冷静な表情のあなたを見て聞いてみる」

一方通行「俺には悲しンでいる暇なンてねェよ。俺にはやることがあンだ」

打ち止め「やること?」

一方通行「ああ。これから結標には命を狙われるに等しいくらいの危険が迫ってくるだろォ。だから、そォなる前に俺が見つけ出してやらなきゃいけねェ」


 以前、打ち止めの流す涙は止まらない。
 だが、彼のその言葉を聞いて打ち止めの口元が緩む。
 

打ち止め「……そう、なんだ、ってミサカはミサカは勝手に納得してみる」

一方通行「あァ? ナニ勝手に納得してンだ?」


 一方通行の問に対して特に返答することなく打ち止めは立ち上がる。
 涙に濡れた目を服の裾で拭いて、赤みがかった目を一方通行へと向けた。


打ち止め「ねえ、アクセラレータ。アワキお姉ちゃんを絶対に連れ戻してね、ってミサカはミサカはお願いしてみたり」

一方通行「連れ戻すだァ? 馬鹿なこと言ってンじゃねェよ。今の結標はオマエの知っている結標じゃねェっつっただろォが。そンな女を連れ戻してどォするってンだ」

打ち止め「たしかに今までのことも覚えていないのかもしれないし、性格だって全然違うくなってるかもしれないよ。けどね」


 打ち止めは笑った。ニッコリと、心の底から溢れ出てきたような笑顔で。

 
 

打ち止め「アワキお姉ちゃんがアワキお姉ちゃんであることには変わりないよ! 一度仲良くなれたんだから、もう一度仲良くなることだってできるよ! きっと!」



打ち止めの一切の疑いもない自信に溢れた目を見て、一方通行は馬鹿馬鹿しいと思った。
結標淡希はもともと裏の人間だ。裏にいるってことはそれ相応の闇を見てきたということだ。
そんな女と目の前にいる少女が以前の関係を取り戻すことができるとは到底思えない。
だからこそ一方通行は、


一方通行「わかった。あの馬鹿女を必ずここに連れ戻してきてやる」

打ち止め「うん! 約束だよ、ってミサカはミサカは小指を突き出してみたり」

一方通行「ああ、約束する」


 二人の小指が結ばれた。
 これ以上、絶対にこの少女を泣かせてはいけない。そのためには、必ず結標淡希を見つけ出さなければならない。
 一方通行は、自分の中にある意思がより強まったのを感じた。


一方通行「……さて、俺は行く。いつ戻れるかわからねェし、何なら戻ってこられるかもわからねェ。それだけは覚悟しとけ」

打ち止め「覚悟なんていらないよ。どうせあなたは帰ってきてくれるでしょ? だって約束したんだもの、ってミサカはミサカは当たり前のことを言ってみたり」


 自信満々の顔をする打ち止めを見て少年はげんなりとした表情を浮かべる。


一方通行「あー、そォいや一個言うの忘れてた」

打ち止め「何?」

一方通行「明日……いや今日か。今日の八時くらいにここへある人が尋ねてくるはずだ。オマエは俺がいない間ソイツと行動をともにしろ」

打ち止め「それはいいけど、ある人って誰なの? ってミサカはミサカは疑問を浮かべてみたり」

一方通行「なァに、オマエがよく知っているヤツだよ」


―――
――






 阿部食品サンプル研究所第三支部。
 第一〇学区にある、文字通り次世代の食品サンプルを開発ために尽力している研究施設。
 ここが開発した『本物と全く同じ感触で同じ匂いのする食品サンプル』は学園都市の中でも一時期話題になったことがある。
 そんな研究所の三つ目の支部のとある一室に、初老の研究員と若い研究員がいた。


初老「よし、今日はこんなところでいいだろう」

若い「ふわぁー、もう日付変わってんじゃないすか。こりゃ今日も晩酌できそうにねえや」


 若い方の研究員がボヤきながら帰り支度をする。


初老「別に飲みたければ飲めばいいだろう。明日は午後からの予定だろ?」

若い「さすがにそんな元気はないっすよ。俺もおっさんになっちまったすねー」

初老「まだ二十代だろうに」

若い「サーセン。じゃ、お疲れ様でーす」


 部屋の自動ドアが開いたあと、若い研究員は適当な挨拶をして部屋の外へ出ていった。


初老「……素晴らしいな。これだけのデータが集まれば十分実用可能なレベルだ」


 ディスプレイを見ながら笑みを浮かべる初老の研究員。
 クククク、と絶えず不気味な笑いを発していた。


初老「さて、私もそろそろ帰るとするか」


 そうつぶやいたとき、後ろから自動ドアの開く音がした。


初老「なんだ忘れ物か? まったく相変わらず不注意なヤツだ」


 研究員は画面を見たまま小言を言う。
 先ほどまで一緒にいた若い研究員が戻ってきたと思ったのだろう。
 しかし。


??「――そうね。忘れ物、というより探し物があると言ったほうが正確かしら」


 研究員の背後から聞こえてきた声はよく知る若い男の声ではなかった。
 少女の声。この研究所ではまったく聞くことのない声だった。


初老「だ、誰だ!?」


 初老の研究員は声の主を確認するために、椅子ごと体を後ろに勢いよく向けた。
 そこには一人の少女が立っていた。
 赤髪を二つに結んで背中に流しており、腰に巻いたベルトに警棒のようなものをぶら下げている。




初老「お、お前は結標淡希……!」

 
 男からその少女の名前が呼ばれる。
 彼の反応はその少女のことを知っているようなものだった。


初老「なぜお前がここにいる!?」

結標「ここにある研究データ、全部私にいただけないかしら?」


 結標はメモリースティックを研究員に投げた。研究員は反射的にそれを受け取ってしまう。


初老「馬鹿なッ!! そんなことができるわけないだろう!!」

結標「別にデータを奪おうなんて思っているわけではないわよ? ただコピーしてそれに入れて欲しいと言っているだけ」

初老「データが流出するという意味では同じことだろう!! お前にやるデータなどない!! 帰れ!!」

結標「ふーん」


 鬼のような形相で怒鳴る男を前にしても結標は不敵な笑みを崩さなかった。
 ふぅ、というため息を一度付き、床に指を指す。


結標「貴方が協力しないというなら、貴方にもこの人のような目に合ってもらうってことなんだけど」

初老「ッ!?」


 初老の研究員が少女の指した指の先に目を向ける。
 そこには先ほどこの部屋を出たはずだった若い研究員のようなものが、いつの間にか転がっていた。
 ようなもの、と形容したのはなぜか。
 転がっている男の体の至るところに、研究で使うメスやハサミなどの器具、事務で使うボールペンや定規などが突き刺さっていて、剣山のようになっていたからだ。


結標「お分かり?」

初老「……殺したのか?」

結標「いいえ、生きてはいるわ。気絶はしているけど。だけど、このまま放置していたらいずれ死ぬでしょうね」


 クスッ、と笑ったあと結標は続ける。


結標「データを渡したあとこの人を病院に担ぎ込んで二人とも生き残るか、データを渡さずに二人仲良くピンクッションになるか」


 研究員は後ずさりしながら机の裏に手を入れる。この裏には緊急事態時に押すボタンがある。
 これを押すことで自動的にアンチスキルへ通報され、駆けつけてくるという仕組みだ。
 だが、そのボタンは押されることはなかった。


初老「ごっ、がああああああああああああああああああああああッ!?」


 ドスリ、という音とともに男の手の平から甲にかけて金属矢が突き刺さったからだ。
 あまりの痛さに床でのたうち回る研究員。それを見下ろしながら結標は再び喋り始める。



結標「――どっちの人生が貴方にとってお好みかしら?」



――――――



地の文やっぱつれぇわ

次回『S4.タイトル未定』

ライブ感で書いてるから矛盾発生するかもだけど許してね

ここから登場人物増えまくって視点が変わりまくる群像劇の猿真似をするよ

投下


   ムーブポイント
S4.結標淡希を追え


 午前七時五五分。ファミリーサイド二号棟のエントランスに一人の少女が立っていた。
 肩まで伸ばした茶髪に花形のヘアピンをした、名門常盤台中学の冬服を着用している少女。
 御坂美琴。学園都市にいる八人の超能力者(レベル5)の中でも第三位。常盤台の超電磁砲(レールガン)の異名を持つ少女だ。


美琴「――号室の黄泉川さん、だったわよね? たしか」


 美琴は住民呼び出し用のインターホンに四桁の部屋番号を入力した。


美琴「しかし黄泉川っていう名字どこかで聞いたことがあるような……まあいいか」


 プルルルル、という呼び出し音が三回くらい流れたあと、ブツンという音とともに音声が聞こえてきた。


??『はい、黄泉川ですけど?』

美琴「あっ、えっと、私、常盤台中学二年の御坂という者なんですけど」

??『御坂さん?』

美琴「その、そちらに打ち止めちゃんっていう子がいると思うんですが、いらっしゃいますでしょうか?」

??『…………』

美琴「?」


 しばらく沈黙が続いた。
 思わず部屋を間違えたか? と思う美琴だった。
 だが、二〇秒くらいするとガチャン、というエントランスにある入り口のロックが外れる音がした。


??『どうぞ入ってちょうだい。一三階だからエレベーターを使うことをおすすめするわ』

美琴「は、はい」


 そう言うと電話口の声が切れた。
 言われた通り美琴はエレベーターに乗り、一三階へと向かっていった。


美琴(……はぁ、まさかこんなことになるなんてね)


 御坂美琴がこんな場所にいる理由。
 それは昨晩の結標淡希に関する一方通行からの話を受けたあとのことだった。





~回想~


黒子「では、わたくしは一七七支部に戻って残っている仕事を片付けなければいけませんので」


 一方通行との話が終わった黒子はそう言って、開いた盗難品のキャリーケースを閉じた。
 しかし、一方通行が無理やりこじ開けたモノなので、なかなか良いように閉まらない。
 軽くイライラしている黒子へ美琴が言う。
 

美琴「黒子。わかってるわね?」

黒子「……ええ、わかっていますわお姉様。ここで話したことは初春や固法先輩、他のジャッジメントの皆様には内密に、ですわよね?」

一方通行「ああ。下手に触れ回って連中に気付かれてもいけねェしな」


 そう言って一方通行は忠告する。
 今回の件に対して何かしらのアクションを起こしている者がいると向こうにバレれば、何かしらの対策を講じてくるかもしれないからだ。
 それによって彼女たちの身に何が起こるのか。良いことにはならないことは確実だ。
 

黒子「承知しております、わっ!」


 バキッ!! 黒子はキャリーケースを蹴り、無理やり閉めた。
 蓋はきちんと閉まったが、外部に明らかに凹んだ跡が見える。彼女は犯人との交戦で破損したとか適当に言い訳でもするつもりなのだろうか。


黒子「ではこれで」


 そう言うと黒子は一礼し、盗難品ということになっているキャリーケースを持って、空を切るような音とともに姿を消した。


美琴「さーて、私も帰りますか……げっ、よく見たら門限完全に過ぎてるじゃない!? あーこれはペナルティー&説教確定ね。はぁ」


 美琴が携帯電話を開いて、時間を確認したあとため息交じりにぼやく。
 そんな美琴に一方通行は話しかける。


一方通行「超電磁砲」

美琴「何よ?」

一方通行「オマエに頼みてェことがある」

美琴「頼み事? もしかして結標捜しを手伝えとか言わないわよね?」

一方通行「いや、そンなことは言うつもりはねェよ」


 たしかにオマエが入れば捜すのは楽になりそうだがな、と一方通行は付け加えて続ける。


一方通行「打ち止めの面倒を見て欲しい」

美琴「打ち止めの? 何でよ?」

一方通行「アイツは結標と同じくらい、クソどもから価値のある研究対象として見られている」


 一方通行の言葉は予測とか想像とかでもなく事実である。
 その理由として過去に、打ち止めを狙った組織が彼女の面倒を見ていた木原数多たちを襲撃した事件があった。
 彼が聞いた件はそれだけだが、もしかしたら水面下で数々の組織が彼女を狙い、木原たちに潰されていった可能性だってある。

一方通行「今までは俺の存在で躊躇していた三流組織が腐るほどいたかもしれねェ。だが俺が結標を追って裏に潜り込ンだことを知れば、ソイツらはこぞって動き出す可能性がある」

美琴「そんな状態で今までよく生活してこられたわね」

一方通行「一応は打ち止めの用心棒件保育担当のヤツがいる。だが、正直今はソイツを信用できねェ状況にある。そこで超能力者(レベル5)第三位のオマエのチカラを借りてェ」

美琴「なるほどね。私に打ち止めのボディガードをしろって言いたいわけ?」

一方通行「ああ。オマエなら妹達の事情のことも知っているし、戦闘力も申し分ねェ。何よりオマエなら信用ができる」

美琴「何か買いかぶり過ぎな気がするんだけど」


 居心地が悪そうに美琴は頭を掻いた。
 



一方通行「オマエにも事情っつゥモンがあるってことはわかっている。オマエにも危険が及ンでしまうかもしれねェ。それについてはすまねェとは思っている」

一方通行「けど、オマエしかいねェンだ。あのガキを任せられるヤツはよォ。だから、頼まれてくれねェか?」


 頼み事をする一方通行の目は真剣そのものだった。
 それに対して美琴は、

 
 
美琴「うん、いいわよ」



 即答だった。まるで消しゴムを貸してくれと言われて了承するように。呑気な笑顔で。
 あまりの即答に一方通行は怪訝な表情を浮かべる。


一方通行「返答早ェよ。頼ンだ俺が言うのも何だがもっと考えて返事しろォ」

美琴「だって断る理由ないじゃない」


 軽い感じに美琴は続ける。


美琴「大切な妹に危機が迫っているから助けてくれって言われて、それを嫌ですって断る姉がいる?」

一方通行「…………」

美琴「私だってあの子の、あの子たちの姉なんだから。その役割を果たさせてよ」

一方通行「……悪りィ。助かる」

美琴「それに……」


 美琴が一方通行の顔から目をそらした。
 彼女の表情にはどこか悲しげなものが映る。


美琴「アンタには、その、悪いことしちゃったみたいだしね」

一方通行「気にするな。いずれこォなることはわかっていた」


 ふぅ、と美琴が息を吐いてから、再び一方通行を見る。

 
 
美琴「で、どのくらいの期間になるわけ? 一週間も二週間も預かれって言われたら、さすがの私にもキツいものがあるわよ?」


一方通行「わからねェ。この件が終わるまで何とも言えねェよ。明日になるかもしれないし、俺がくたばって永遠にその時が来ねェかもしれねェ」

美琴「たしかにそうね。暗部っていうのはそこまで簡単なことじゃないわよね」

一方通行「ああ」

美琴「まあ期間に関してはその時考えるとして、打ち止めはいつ迎えに行けばいいのよ? 今から? それならちょっとこっちも準備の時間が欲しいんだけど」

一方通行「それなら明日の朝でイイ。そォだな朝八時くらいにしとくか」

美琴「いいの? そんなのんびりしてて」

一方通行「まァ、その時間までは他の住人がいる上に、あのマンションのセキュリティもそれなりに高い。そンなすぐのすぐにあのクソガキが狙われることはねェだろ」


 楽観的な考えだがな、と一方通行は付け加える。


一方通行「そォいうわけだ。クソガキを頼むぞ」

美琴「任せときなさい。だからアンタは絶対に帰ってきなさいよ? それまで絶対に打ち止めを守り切って見せるから」


~回想終わり~





美琴(学校が始まるのが三日後だからそれまでは何とかなりそうだけど、それ以降もとなるとちょっと辛いわねー)


 そんなことを考えてながら歩いていると、美琴は目的の部屋の前へとたどり着いた。


美琴(やっぱり知らない人の家のインターホン鳴らすのって、なんだか緊張するわよね)


 すぅ、と呼吸を整えて美琴はインターホンのボタンを押した。
 ピンポーンと小さな音が聞こえる。室内にドアベルの音が流れたのだろう。
 すると間髪入れずに施錠を解除する音がし、ドアが勢いよく開いた。


打ち止め「わーい!! お久しぶりお姉様ー!! ってミサカはミサカは喜びの気持ちともに飛びかかってみたり!」

美琴「ちょ、打ち止め、うわっ!?」


 思わぬ突撃に耐えられず、美琴の体は打ち止めごと床に倒れ込んだ。


打ち止め「大丈夫? お姉様? ってミサカはミサカは心配してみたり」

美琴「あははは、大丈夫大丈夫。大丈夫だから降りてもらえる?」


 はーい、と言って打ち止めは馬乗りを止め、美琴の体から降りた。


??「何をやっているのよ貴女たち。ご近所さんの目もあるし早く中に入りなさい」


 玄関から一人の大人の女性が現れた。
 肩に届かない程度の長さの黒髪で、シャツの上からカーディガンを袖に通している。
 この人が黄泉川さんなのかな、と美琴は思った。
 

打ち止め「了解、ってミサカはミサカは敬礼してみる」

美琴「あ、はい。お邪魔します」


 挨拶をし、美琴は打ち止めとともに部屋へと上がっていった。


美琴(うわー広いリビング。さすが高級マンションね)


 普段は手狭な学生寮の部屋か、コインロッカー代わりに使っているホテルくらいしか見ない美琴の目には、高級4LDKマンションの一室は新鮮に映ったようだ。


??「御坂さん? そっちのソファに適当に座っててちょうだい。飲み物は何する? お茶? コーヒー? 紅茶?」

美琴「紅茶でお願いします」


 そう返した美琴はL字型のソファの端の方へと腰をかける。
 その隣を追うように打ち止めが飛ぶように座った。





打ち止め「ミサカは牛乳を飲んでいるんだ! 早く大きくなりたいから、ってミサカはミサカはマグカップを片手に願望を口走ってみたり」

美琴「もう二、三年すれば私くらいの大きさにはなっているわよ」

打ち止め「うーん、ミサカはもうちょっと大きくなりたいなぁ、ってミサカはミサカは意味深なことをつぶやいてみたり」

美琴「うふふ、それはどういう意味かな打ち止めちゃん?」


 視線を顔から三〇センチほど下に落としやがった打ち止めを見ながら、美琴は引きつった笑顔を浮かべていた。
 そんな彼女の目の前のテーブルにティーカップが置かれた。


??「はい、紅茶よ。と言ってもインスタントの安物だからお嬢様には物足りないかしら?」

美琴「い、いえ全然大丈夫です。ありがとうございます。えっと、黄泉川さん?」

芳川「ああ違うわ。私の名前は芳川桔梗よ。その子と同じここに住む居候の一人。家主の黄泉川愛穂は仕事で今いないわ」

美琴「あっ、ご、ごめんなさい!」

芳川「いいのよ。勘違いは誰にでもあるわ」


 慌てふためく少女を見て芳川はくすりと笑みをこぼした。
 コーヒーを一口飲み、芳川は話し始める。


芳川「その子から大体の経緯は聞いたわ。ウチの同居人たちの問題に巻き込んじゃって申し訳ないわね」

美琴「そんな。謝ることようなことじゃないですよ。私が好きでやってることですから」

芳川「ふふっ、ありがとうね。けど、こうやって子どもたちが大変なことになっているときに、大人として何もできない自分が悲しくなってくるわね」

美琴「…………」


 そんなことないですよ、そう言おうと思った美琴だったが、そんな適当なことを言っていいのか? そんな身勝手なことを言っていいのか?
 そういった考えが頭の中で交錯して言葉を飲み込んだ。


芳川「同じ大人でも愛穂はどうにかしようと頑張っているわ。けどたぶん、今回の問題に関してはおそらく空回りしそうね」

美琴「愛穂さん、って黄泉川さんのことですよね? どういう人なんですか?」

打ち止め「ヨミカワはアンチスキルなんだよ、ってミサカはミサカは説明してみる」

美琴「アンチスキル? 黄泉川さん、アンチスキル、……もしかして」


 美琴の中には黄泉川という名前のアンチスキルに心当たりがあった。
 美琴は過去結構な数の事件に首を突っ込んでいるような少女だ。
 その中でアンチスキルに助けてもらう機会があったが、そのときに主で動いてくれた女性。
 よく会ったり喋ったりしたから、なんとなく顔見知りみたいな感じになっていた。


芳川「思い当たるような人がいるみたいね。たぶん、その人で合っているわよ」

美琴「ここ、あのアンチスキルの人の部屋だったんですね」


 改めて部屋をキョロキョロ見渡している美琴を無視して芳川は話を続ける。


芳川「アンチスキルはあくまで表の世界の治安維持をしている組織。何かしらの裏の敵対組織を相手にしようとするなら、その敵対組織を表に引きずり出さないといけない」

芳川「けど、今あの子たちが関わっている件はおそらく学園都市の深い闇の部分。一介のアンチスキルが動いたところで、どうにかできるようなものではないわ」




 表の世界や学園都市の闇などという言葉を平然と口に出す芳川。
 そんな彼女を見ながら美琴は尋ねる。


美琴「芳川さん。あなたは一体……」

芳川「私は学園都市の抱える闇の一端に触れていた元研究員。それは貴女もよく知っている闇だと思うわ」

美琴「……まさか」


 美琴はふと隣に座る打ち止めを見た。
 マグカップを両手に持った打ち止めがそれに気付いて、首をかしげる。

 
 
芳川「そう。『絶対能力者進化計画(レベル6シフト)』。貴女が最も忌み嫌っているだろう実験に協力していたたくさんの研究者たち、そのうちの一人よ」


美琴「ッ……!」


 美琴の目が大きく見開く。バチッ、と彼女の体に紫電が走った。
 その音にビクッ、とさせた打ち止めが慌てながら、

 
 
打ち止め「お、お姉様!? どうかしたの、ってミサカはミサカは聞いてみる」



 打ち止めの言葉は美琴には届かなかった。
 まっすぐと芳川を睨みながら美琴が問いかける。

 
 
美琴「なんであんな実験を行ったのよ……!」



 美琴の鋭い視線に動じることなく、芳川は答える。
 

芳川「私は雇われの研究者だったから、と言っても貴女には言い訳にしか聞こえないかしら?」

芳川「それとも、この実験自体がなぜ行われたのかと聞いているつもり? それなら、貴女のほうがよく知っていると思うけど」


 ぐっ、と美琴はたじろぐ。
 たしかにこの質問には最適解などない。つまり、意味のない八つ当たりのような質問だ。
 芳川という女性はそれを気付かせるために、あえてああいった答えを突き付けたのだろう。

 それを理解した美琴は深呼吸して息を整える。
 

美琴「すみません、取り乱しました」

芳川「別にいいわよ。同じ立場なら誰だって激昂すると思うわ」

美琴「……けど、最後に一つだけ聞いていいですか?」

芳川「何かしら?」





美琴「あなたにとって、打ち止めは何なんですか?」


 美琴は彼女の真剣な眼差しで問いかける。どうしても知りたいことを。


芳川「そうね」


 前置きをして、芳川はコーヒーカップに口を付けてから、答える。
 

芳川「血の繋がっていない家族、かな? 彼女は娘であり、妹でもある。そんな感じの存在かしら?」

美琴「……そう、ですか」


 その答えを聞いた美琴は、安心したように小さく微笑んだ。

 
 
打ち止め「うおおっ! ミサカもヨシカワのことお母さんのように思ってるよ! ってミサカはミサカは乗っかってみたり」


芳川「打ち止め。そこはお姉さんと言いなさい」

打ち止め「ええぇー? でもお姉さんというには歳が――」

芳川「お・ね・え・さ・ん・よ?」

美琴「……ふふっ」


 二人の言い合いを前に、美琴は思わず笑いがこぼれた。
 

打ち止め「あっ、お姉様が笑ったー! ってミサカはミサカは指摘してみる」

芳川「あら? 何か言いたいことでもあるのかしら御坂さん?」

美琴「ご、ごめんなさい! つい何か笑っちゃって」

芳川「笑われてるわよ打ち止め」

打ち止め「えー? ヨシカワのほうでしょー、ってミサカはミサカは会話を思い出しながら言ってみる」


 また同じようなことを始めて美琴は笑いそうになったが、出されていた紅茶を無理やり一気飲みして全部飲み込んだ。


芳川「……あら、もうこんな時間」


 ふと、壁にかかった時計を見た芳川が呟く。
 芳川は自分の使ったカップを流しに置き、床においていた鞄を手にした。


芳川「そろそろ私はバイトに行かなきゃいけない時間だからここを出るけど、貴女たちは?」

美琴「あ、はい。ここにいるわけにはいきませんので、私たちも一緒に出ます」

打ち止め「わーい!! お姉様とお出かけだー!! ってミサカはミサカは小躍りしながらハシャイでみたり」

芳川「じゃあ御坂さん。打ち止めのことをよろしくね」

美琴「はい、任せてください」


 彼女たちは部屋をあとにし、それぞれの行き先へと足を進めた。


―――
――






 とあるホテルの一室。
 一方通行はベッドの上に座り、コンビニで買ってきたフライドチキンをかじりながら、テレビの画面を見ていた。


テレビ『今朝のニュースです。昨晩、学園都市内にある研究施設が何者かに襲撃されるという事件がありました』

テレビ『被害があった施設は三軒。阿部食品サンプル研究所第三支部、岡本脳科技工所、日野電子材料開発部門。いずれもデータを強奪されるという被害にあったようです』

テレビ『被害にあった研究施設の研究員からの証言で、その犯人は何かしらの能力者だということです。手口は全て同じなため、同一犯による犯行の線で捜査が進められています』


 フライドチキンの骨を口に加えたまま一方通行は思考する。


一方通行(おそらく、このニュースの犯人は結標だろォ。理由はアイツの記憶が蘇って失踪してから今までの間に起きたから、っつゥ何のひねりもねェ推理だが)


 結標淡希が記憶を取り戻し、逃走を始めたのが一九時頃。ネット記事によると最初の襲撃は深夜〇時過ぎ頃。
 約五時間といったところか。これくらいあれば行動に移すには十分な時間だ。
 しかし、これだけではこの犯人が結標だと断定はできない。稚拙過ぎて推理とも言えない。
 こんなものに頼らないといけないほど、一方通行はよくない状況にあるということだ。
 

一方通行(結標。いまオマエは何を考えている? 何を目的に行動しているンだ?)


 考えたところで答えは出ない。
 なぜなら、今の彼女は自分の知っている結標淡希ではないのだから。
 

一方通行(……しかし、これを結標の犯行だとすると妙な点があるな)


 ニュースを読んでいるうちに、彼の中に違和感が現れる。
 

一方通行(ヤツらは結標の確保を企てているはずだ。そのためにヤツの記憶を蘇らせて確保のしやすい裏に引きずり込ンだ)

一方通行(それならば結標が何かしらの事件を起こした場合、こォやってニュースなンかで表沙汰にする必要はねェはずだ)


 情報操作は裏の連中からすれば十八番だ。都合の悪いニュースはもみ消したり、改竄したりする。
 例えば今回の件に当てはめれば、わざわざ能力者の仕業などと言わずに、コソドロが忍び込んだとすればいいだけだ。
 研究所に物理的に大きな被害が出ているのであれば、ただの事故として扱えば問題なく処理できるはずだ。


一方通行(表沙汰にすればアンチスキルが動く。そォなったら結標の動きが少なくなり、ヤツを補足するのが困難になる)

一方通行(さらに言うなら、結標を確保しようとする勢力も動きづらい状況になるだろうし、メリットなンざ皆無っつゥことだ)


 このことから考えられるのは、この犯人を表沙汰にしたい連中がいるということ。
 結標やそれを狙う組織の動きを制限させたい連中がいるということ。


一方通行(……つまり、この件に関係している勢力が一つだけじゃねェっつゥことだな)


 結標の記憶を蘇らせた勢力と、その勢力を邪魔して先に結標を確保しようとしている勢力。
 この二つの勢力がいるということにすれば、この疑問を解消できる。
 しかし、この場合はある問題が起こることに一方通行は気付いた。


一方通行(……その他の勢力が一つだけとは限らねェかもしれないっつゥことか)


 結標の記憶を蘇らせた勢力はほぼ間違いなく一つだ。だが、その勢力を妨害しようとする勢力が一つとは限らない。
 それが二、三勢力くらいの可能性もあれば、一〇以上の勢力が入り乱れる混戦状態になる可能性もある
 

一方通行(そンな中、俺はたった一人でソイツらと渡り歩かなきゃいけねェっつゥわけだ。ソイツらの中にはグループやスクールみてェな暗部組織や、木原の野郎もいるかもしれねェ)


 一方通行はフライドチキンの食べ柄をゴミ箱へ投げ捨て、舌打ち混じりに言う。


一方通行「面倒臭せェ……」


―――
――





 第七学区。人通りの少ない裏通り。
 道路沿いに黒塗りのキャンピングカーが一台停まっていた。
 その中にある居住スペースに四つの人影があった。


黒夜「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃッ!! どうだい!? 今までちまちまと守り続けたモンがあっさりとぶち壊される気分はさぁ!?」

土御門「…………」


 黒を基調にしたパンク系衣装に身を包んだ見た目一二歳の少女、黒夜海鳥は高笑いしながら居住スペースに備え付けられているモニターに指をさす。
 モニターには白の背景に黒色の文字が並んでいるというたんぱくなものであった。
 書かれている内容は『座標移動(ムーブポイント)の回収。生体が好ましい。死体の場合、脳髄及び脊髄への損傷は避けること』。
 これが暗部組織『グループ』へ通達された指令であった。


黒夜「この指令はおそらく他の暗部組織にも流れているよ。スクールとかアイテムとか同ランクの組織はもちろん、名前も知らないような弱小組織とかにもねェ!」

海原「…………」

黒夜「始まるのさ!! アンタらがビビって先延ばしにしてきた抗争がねッ!! 座標移動っていう獲物を巡って起こる楽しい楽しいコロシアイがなァ!!」

番外個体「嬉しそうだね。クロにゃんのそんな笑顔始めて見た気がするよ」

黒夜「そういうアンタもイイ顔してんじゃないのさ。番外個体(ミサカワースト)」


 棒付きキャンディを口に咥えながら番外個体と呼ばれる少女はニヤリと笑う。


番外個体「そだね。座標移動が堕ちたってことは必然的にミサカのターゲットも堕ちてくるってことだからね」


 咥えていたキャンディを噛み砕く。飴の欠片がソファや床にボロボロと落ちていった。


番外個体「早く会いたいなぁー、第一位♪」

土御門「……お前ら、盛り上がるのは勝手だがあくまで仕事の内容は座標移動、結標淡希の回収だ。それを忘れるな」


 金髪サングラスでアロハシャツの上から学ランを着た少年、リーダー土御門元春は冷静に忠告する。


黒夜「ヘイヘイわかってるよ。だからわざわざ私が報道関係に働きかけて、あの女がやらかしたことを表沙汰に出してやったんでしょうが」

番外個体「へー、あれってクロにゃんの仕業だったんだ。そういうチマチマした仕事はやらなそーな感じなのにねー」

黒夜「まあたしかに好きじゃないよ。でもこれをすることで、一番最初に動いた組織をおびき出すエサにできるからね。さっさとバトりたい私からしたら大事な下準備ってわけさ」

海原「そんなエサに引っかかってくれるほど、簡単な相手ではないとは思いますけどね」


 見た目爽やか少年の、海原光貴と名乗る男はやれやれといった感じに首を振る。


黒夜「うるせえな、そんなことはわかってるよ。だけど、これのおかげ座標移動の動きを制限させて生存率上げてやってんだ。感謝はされても文句を言われる筋合いはないね」

海原「ですがそのおかげで、こちらも結標さんの動向を掴むのに難航しているということも忘れないでください」


 黒夜は舌打ちをし、バツの悪そうな顔でフライドチキンを頬張った。




土御門「とりあえず結標は生きて回収する。そのためにお前たちは常に対空間移動能力者用の拘束具を常に携帯しておけ」

黒夜「面倒臭いなー。脳みそが無事ならいいって書いてあるんだから、サクッと心臓ぶち抜いて上に報告すりゃいいと思うけどね」

海原「結標さんは仮にも超能力(レベル5)の能力者ですよ? そう簡単に殺せるとは思わないことですね」

黒夜「なにブルっちゃってんですか海原クン? ちょっと前まで大能力者(レベル4)だった女に、この私が遅れなんて取るわけないだろ?」

番外個体「同じくレベル4のミサカに手も足も出ないクロにゃんが随分と強気じゃないかにゃーん?」


 自分の両手人差し指の先を向かい合わせて、間に電気を走らせながら番外個体はニヤニヤする。


黒夜「うるせェ! アンタは別だよ別ッ!」

番外個体「というか座標移動がレベル5になれたのって記憶喪失してたおかげじゃなかったっけ? トラウマを忘れているから自由自在に自分の転移をできるからって」

海原「ええ、たしかそのはずです」

番外個体「でも今の座標移動は記憶喪失治っちゃったんだよねー? てことはまた自分自身の転移ができないレベル4に戻っちゃったことじゃないの?」

土御門「それに関してはそう簡単ではなさそうだぞ」


 土御門が報告書のようなものを見ながら、会話に割って入る。


土御門「結標と接触した下部組織の連中からの話によると、連続転移を使用していたらしい。それによる体調不良も見られなかったそうだ」

番外個体「へー。つまり、完璧な座標移動に加え、テロリスト時代の知識と戦闘技術を持っているってことか。クロにゃんじゃ負けそう」

黒夜「何だとッ!?」

海原「99.9999999%負けますね」


 黒夜が額に青筋を立てながら、椅子から立ち上がった。
 ギロリと目線を海原へと向ける。


黒夜「……よォし、まずオマエから殺してやる。座標移動はそのあとだッ!!」

番外個体「い・つ・も・の♪」

 
 いつの間にか番外個体が黒夜の後ろに回り込んで、電磁波を浴びさせていた。
 黒夜はサイボーグだ。二本の腕やそれを支える肩甲骨部分を中心に、上半身の各所を機械化している。
 そのため、発電能力者の番外個体とは相性が最悪だ。
 

黒夜「あばばばばばばばばば!! だから電気はやめめめめめめめめめめめめ!!」


 このように制御を奪われたりして玩具にされるからだ。
 目を回しながらロボットダンスみたいなことをしている黒夜を見て、ため息交じりに土御門が頭を抱える。
 

土御門「……お前らいい加減にしろ。遊ぶなら任務が終わってから勝手にやれ」


 はーい♪ という反省する気のない返事をして、番外個体は黒夜を開放した。
 自由の身になった黒夜は、番外個体の座っている場所とは対角線の位置に座り、涙目でブツブツ何か言っていた。
 静まったことを確認したあと土御門は続ける。


土御門「とにかく、オレたちの目的は結標淡希を生きたまま確保することだ。勝手に殺すのは認めない。その目的に立ち塞がる者がいれば全て潰せ。それがスクールだろうとアイテムだろうと――」


 土御門のサングラスの奥の目付きが変わる。
 いつもの悪ノリをしているときのようなおちゃらけた目付きから。
 獲物を見据えた冷酷な狩人のような瞳へと。


土御門「第一位だろうと、な」


―――
――






上条「……げっ、昼メシに食べられるもん何にも残ってねえじゃねえか」


 とある高校の男子寮にの中にある一室。
 冷蔵庫と戸棚の扉を開けっ放しにしたまま上条当麻はつぶやいた。


上条「しょうがねえ。買い出しに行くか」

禁書「とうま? お出かけするの?」


 純白の修道服に身を包んだ少女、インデックスが飼い猫スフィンクスと戯れながらたずねる。


上条「ああ、ちょっとスーパーへ買い出しにな。本当はタイムセールの時間に行きたかったけど、そのために昼飯抜きにするのもあれだしな」

禁書「そう。いってらっしゃい」

 
 そう一言だけ見送りの挨拶をしたあと、インデックスは再びスフィンクスと遊び始めた。
 それを見た上条の眉毛がピクリと動く。


上条「……インデックスさん? たまには買い物に付いてきてお荷物の一つでも持つの手伝いましょうかとか、そういう心温まる言葉くらい言えねえんですかね?」

禁書「ちょっと今スフィンクスと遊ぶのに忙しいかも」


 遊ぶのに忙しいもクソもあるか! 心の中で上条はそうツッコンだ。
 まあ、こんなやり取りは今に始まったことではないので、上条はため息交じりに諦める。

 
 
上条「もういいよ。いってきます」



 そう外出の挨拶をしてから玄関へ向かう。


上条(まあよくよく考えたら、アイツが下手に付いてきてスーパーの道中にある食べ物屋とかに反応して、割高な食い物をせびられても困るしな)


 そんな危険予知的なことをしながら上条は部屋を出ていった。


―――
――






 春休み期間ということもあって朝から私服の学生たちが闊歩している街中の歩道。
 その中で二人の少女が仲良く手をつないで歩いていた。
 御坂美琴と打ち止め。知らない人が見れば姉妹が一緒におでかけしているのだと思うだろう。

 背中にリュックを背負った打ち止めが聞く。

打ち止め「お姉様? ところでこれからどこに向かうの? ミサカ的には映画館とか行ってみたいな、ってミサカはミサカは要望を遠慮なく口にしてみたり」

美琴「映画館か。そういえばあの馬鹿と一緒に行ったっきり行ってないわね。というかあんときのアイツは本当に……」


 ブツブツなにかをつぶやいている美琴に首を傾げる打ち止め。
 それに気付いた美琴はごほん、と咳払いをしてから話を続ける。


美琴「とりあえず今私たちが向かっているのは、私の知り合いがいるジャッジメントの支部よ?」

打ち止め「ジャッジメント?」

美琴「そうよ。私のルームメイトが働いているところなんだけどね。昨晩帰ってきてなかったからどうしてるのかな、って様子見に行こうと思ってて」

打ち止め「へーそうなんだ。ミサカジャッジメントさんが働いているところに行くの初めて! ってミサカはミサカは胸を躍らせてみたり」

美琴「アンタが胸を躍らせるようなものは何もないと思うけどね」


 他愛のない会話しながら二人はとある一棟のビルの前にたどり着いた。
 入り口には『風紀委員活動第一一七支部』と書かれたプレートとそれが2Fもあるということを表したプレートがあった。
 二人はその順路通り階段を上がっていき、二階にある一一七支部のドア前に着く。


美琴(黒子いるかな……?)


 ドアの横に付いている呼び出しのインターホン。そのボタンを押そうとした瞬間、


??「――見損ないました!! 白井さんがそんな人だとは私思いもしませんでした!!」


 少女の怒号が聞こえてきた為、美琴の指がピタリと止まった。


美琴(今のは初春さんの声? 一体何が)


 と考える間もなく美琴はドアを開けてしまう。




美琴「どうしたの黒子!? 初春さん!?」

初春「み、御坂さん!?」

黒子「お姉様……」


 美琴の目に映ったのはデスクチェアに座って腕と足を組んだ白井黒子と、その目の前に食って掛かるように立っている初春飾利だった。


美琴「ど、どうしたのよ二人とも。二人してそんな怖い顔して」

黒子「いえ、何でもありませんわ」

美琴「何でもないってことはないでしょ」

黒子「お姉様には関係ありませんの。わたくしたち一七七支部の中の問題ですので」

初春「…………」


 支部内に重苦しい空気に包まれた。
 なにを喋ろう。
 この雰囲気をどうにかしようと頭をフル回転させる美琴をよそ目に一人の少女が発言する。
 

打ち止め「ねえねえ。よくわかんないけどケンカはいけないと思うよ二人とも、ってミサカはミサカは殺伐とした空気を和らげる清涼剤になってみたり」

黒子「!? ち、小さいお姉様!?」

初春「たしか御坂さんの従妹の……打ち止めちゃんでしたっけ?」

打ち止め「お久しぶりだねクロコお姉ちゃんにカザリお姉ちゃん! ってミサカはミサカは再会の挨拶をしてみる」

初春「どうしてこんなところに?」

美琴「ああ、ごめんね。今私この子の面倒見てて」

初春「そうだったんですねー。あっ、打ち止めちゃんなにか飲みます? って飲み物何かあったかなー?」


 わーい、とハシャギながら打ち止めはソファの上に飛び乗った。
 それに続いて美琴もソファに腰掛ける。





黒子「……言っておきますがお姉様? ここは託児所ではありませんのよ?」

美琴「わ、わかってるわよそれくらい!」

黒子「でしたらお姉様はどうしてここに来られたんですの?」

美琴「いや、昨日アンタ寮に帰ってこなかったでしょ? だからどうしてるかなーってちょっと様子見に」

黒子「そうだったんですのね。一応、寮監には門限延長から外泊許可への変更の連絡は入れておいたのですが、申し訳ございません。お姉様には連絡入れるの忘れてましたわ」

美琴「別にいいわよ。昨日あったことがあったことだし」

黒子「……ええ」

美琴「で、初春さんと言い合ってたのはその件についてかしら?」

黒子「…………」


 黒子は喋らなかったが美琴はその雰囲気で何となく察した。
 やはりこの子はあの場にいるべきじゃなかったんじゃないか、そんなことを思う美琴だった。


初春「打ち止めちゃん、オレンジジュースならありましたよ!」

打ち止め「わーい、ありがとー! ってミサカはミサカはきちんとお礼が言えるいい子!」


 ストローを咥え、オレンジジュースを吸い込む打ち止めを横目で見ながら美琴は考える。


美琴(さて、これからどうしようかしらね)


 ここはジャッジメントの詰め所だ。そこら辺の公園とかにぼーっと立っているよりはいくらか安全だろう。
 しかし、それすら障害とは思わないような輩がここに攻め入ってくる可能性がないわけじゃない。
 もしそんなことになれば、ここにいるみんなを巻き込んでしまうことになる。


美琴(あんまりここに長居するわけにはいかないわよね)

打ち止め「ところでお姉様? 映画館に行くっていう話はどうなったの? いつ行くの? ってミサカはミサカは聞いてみる」

初春「映画観に行くんですか? いいですねー何観るんですか?」

打ち止め「ミサカはそげぶマンが観たいな! 『劇場版そげぶマン 奇蹟の歌姫編』! ってミサカはミサカは映画タイトルまるまる言ってアピールしてみる」

初春「ああ、あれですか。面白かったですよー、最後はヒロインが――」

打ち止め「わーだめだめネタバレはNGだよー! ってミサカはミサカはカザリお姉ちゃんの暴挙を阻止してみたり!」


 真面目な考え事をしている美琴のことなどつゆ知らず、打ち止めはこれからの遊びのスケジュールを一生懸命立てていた。
 やれやれ、と美琴はため息を付いた。


―――
――





 スーパーからの帰路。
 上条当麻は食材やら何やらが入ったレジ袋を片手に街中を歩いていた。


上条(今日の昼飯は何にしようかなー)


 何となく卵の気分だから親子丼とかいいなあ、いやオムライスも捨てがたい。
 
 そんなことを考えながら歩いている上条の視界に見知った人が入った。
 赤髪を二つに結んで背中に流していて、腰に巻いたベルトに軍用懐中電灯を付けている少女。


上条(あれは結標じゃねえか)


 クラスメイトを発見した上条はおーい、と声をかけようとしたが、少女はすぐに路地裏の方へ入ってしまった。


上条(路地裏なんかに入ってどうしたんだアイツ?)


 何度か彼女と街中を歩いたことはあるが、進んで路地裏なんていう場所を歩きたがるような人ではなかったはずだ。
 違和感を覚えた上条は、結標淡希を追いかけて路地裏に入っていった。


上条(近道とかそんな感じじゃなさそうだよなー)


 たしかここの路地裏を進んだ先は行き止まりだったはずだ
 普段から怖いお兄さんたちとやりたくもない追いかけっこをしているため、裏道とかに詳しい上条にはすぐそれがわかった。
 しばらく進んだところにある曲がり角。そこに彼女はいた。
 ビルの壁に背中を預けて、荒げている息を整えている様子だった。


上条「……結標? どうしたんだよこんなところで?」

結標「ッ!? 誰!?」


 いきなり声をかけられて結標は壁から背を離し、上条と対面して身構えた。


上条「誰、って俺だよ俺。上条さんですよ」

結標「だから誰よ!?」

上条「えっ?」


 初対面のような反応をされて少し戸惑う上条。
 もしかして人違いか? と思い何度も目の前の少女を目で確認するが、どう見ても自分の知る結標淡希だった。
 ふと、そのとき上条は気付く。
 彼女の着ている洋服のところどころに赤い染みのようなものが付いていた。





上条「お、おい結標。それなんだよ……? もしかして血じゃ――」


 上条が近づこうとした瞬間、結標は腰につけている軍用懐中電灯を抜いた。
 そしてそれを真横に振るう。

 ドスリ。

 上条の左肩に鋭い痛みが走った。


上条「なっ、があっ……!?」


 思わぬ痛みに持っていたレジ袋を地面に落としてしまう。
 中に入っていたものが散乱する。


上条(こ、これってテレポートの……!)


 肩に手を当てる。
 そこには錆びついた五センチくらいの長さの釘が突き刺さっていた。
 それを確認したせいか、さらに痛みが増していくように感じる。


結標「貴方。さっきから私のことを追いかけてきているヤツらの一員ね? 一般市民の知り合いを装って話しかけて来るなんて姑息な手を使うわ」

上条「何言ってんだ、お前……」

結標「何? もしかして本当に一般の人だった? それならごめんなさいね」


 軍用懐中電灯を適当にいじりながら結標は続ける。


結標「でも私は貴方のことなんか一ミリたりとも知らないわけだし、不用意に近付いてきた貴方が悪いってことで許してもらえないかしら?」

上条「知らない、だと? そんなわけねえ、だろ」

結標「事実よ。ま、貴方が無関係な一般人の可能性を考慮して、これ以上の攻撃をするのはやめてあげるわ」


 結標は軍用懐中電灯を再び腰に付けて、上条に背を向ける。


結標「ただし、次私の前に姿を現したときは、私を追う刺客とみなして容赦はしないわ」

上条「ま、まちやが――」

結標「だから気をつけてね。上条君?」


 軽い感じに手を上げ、結標は空気を切る音とともに姿を消した。
 人がいなくなった空間を見つめて、上条は呆然と立ち尽くす。


上条「うそ、だろ? 結標……?」


 少年の問いかけに答える者は、もうここには誰もいない。


―――
――





 一方通行は第一〇学区にある阿部食品サンプル研究所第三支部という研究所の近くに来ていた。
 ここは今朝のニュースで話題に上がった、能力者による襲撃を受けた場所の一つである。
 事件が発生した場所だけあって、駐車場にはアンチスキルの使う車輌が複数台止められており、研究所周辺には見張りをしているアンチスキルも複数人いた。


一方通行(犯人は現場に戻るなンつゥ言葉があるが、まァそンな簡単な話はねェっつゥことだな。どォでもイイが)


 一方通行は遠目で研究所の様子を見ながら手に持っているファイルを眺める。


一方通行(阿部食品サンプル研究所第三支部。中に入ることができりゃ分かるが研究所の名前はダミーで、ここは空間移動能力者(テレポーター)を専門している研究機関だ。他の二施設も同様にな)

一方通行(結標がテレポート関連の実験を受けた履歴の中に、コイツらの名前があった。つまり、アイツは過去に実験を受けた施設を襲撃しているということか)

一方通行(理由はなンだろォな。過去に受けた実験の復讐っつゥのが妥当なところか。いや、データを強奪されたとか言ってた気がするから何かのデータを探してンのか?)


  一方通行は頭から余計な考えを飛ばすように頭を横に振った。


一方通行(……ンなモン考えたところでしょうがねェか。今考えるべきは結標のこれからの行動予測だ)


 一方通行は携帯端末をポケットから取り出し、地図アプリを起動する。


一方通行(結標の今まで実験を受けた施設の数は、今回狙われたものを含めて全部で八九種類。当時存在したが現在は閉鎖されているものを減らせば三二種類か)

一方通行(これらの施設全部を回っていくことは不可能じゃねェが、回ったところでヤツと遭遇しなけりゃ意味がねェ)

一方通行(アイツが行きそォな場所を予測して、待ち伏せるなりなンなりして見つけ出さなきゃいけねェっつゥことだ)

一方通行(すでに狙われたところを抜いても二九種類。そン中から一つをドンピシャで当てるのは難しいっつゥレベルじゃねェ)

一方通行(例えばアイツの狙いが何らかのデータだっつゥなら、それを手に入れたらこの襲撃して回ンのが終了するっつゥことだ)

一方通行(そンな状況でいずれここに来るだろう、って特定の場所に一晩中張り込ンでいてもリスクが増すだけだ)


 地図アプリを操作し襲撃のあった地点にマーカーをつける。
 時間軸で並べるとそれは北へ北へ、第七学区方面へ向かっていることがわかった。


一方通行(おそらく第七学区にある寝床に向かっていったって考えるのが妥当だろォ。アイツがもともと使っていた住処か、はたまた普通にホテルか)




 時間を見る。ちょうど昼の一一時を回ったところだった。


一方通行(昨日の最初の襲撃が深夜一二時から一時の間。これは人目のつかない深夜だからこの時間にスタートしたってことか……いや)

一方通行(そもそも記憶が戻ったのが夕方のことだ。そこから自分の状況を把握して、研究所襲撃をするという行動方針を決めるのにそれなりの時間がかかったはずだ)

一方通行(つまり、夜じゃねェと襲撃しねェっつゥ固定概念を持っちまうのは危険だ。大事なチャンスを逃すかもしれねェ)


 携帯端末を眺める一方通行の耳に、なにやらざわついた音が聞こえてきた。
 何かと思い、音のする阿部食品サンプル研究所第三支部の建物がある方へ目を向ける。
 そこには慌てて研究所から出ていくアンチスキルの姿があった。


一方通行(……何だ? 昼休憩にはまだ早いだろォに)


 たまたま近くに見張りを続行しているアンチスキルの男がいたため、一方通行は聞き込み調査を始める。


一方通行「オイ」

アンチスキル「うん? 何だお前?」

一方通行「あそこで大急ぎで退却しているお仲間がいるが、何かあったのか?」

アンチスキル「ああ、あれだよ。今朝のニュースでやってただろ? 研究所の襲撃事件。あれの四つ目が今発生したらしい……おっと、こんなこと一般人に言っちゃいけねえや。忘れてくれ」

一方通行「そォか。アリガトよ」


 お礼を言って、研究所のある方向から真逆の道を歩いていく。


一方通行(表はオマエの襲撃で大騒ぎしてるっつゥ状況で、こンな昼間っから動くなンざ随分な余裕じゃねェかよ)


 一方通行の口元は、引き裂いたような笑みを浮かべていた。


―――
――





佐天「――つまり映画とは、最初の一〇分でそれが面白いかどうかを判断することができるのだ!!」

打ち止め「うおおおおおおおっ!! ってミサカはミサカは拍手喝采を送ってみたり」


 一時間ほど前に一七七支部に遊びに来た少女、佐天のネットから持ってきた眉唾ものの話一つ一つに目を輝かせる打ち止め。
 そんな二人をヤシの実サイダーという缶ジュースを片手に美琴は眺めていた。


美琴(そろそろここを出ようかって思ってるけど、佐天さんと楽しそうにしているのを見るとなかなか言い辛いわね)

佐天「あとこの噂知ってる? 超能力者(レベル5)には何と幻の八人目の能力者がいるっていう話」

打ち止め「うん、さすがのミサカでもそれは知ってるよ、ってミサカはミサカは得意げに答えてみたり」

佐天「あちゃー、知られてたかー。やっぱこれは有名な噂話だったかな」

打ち止め「噂話というか、その八人目の人ってミサカがよくしって――はっ、これはトップシークレットだった、ってミサカはミサカはお口にチャックをしてみたり」

佐天「えっ!? もしかして打ち止めちゃん八人目が誰か知っているの!?」

打ち止め「し、知らないよー、すひゅーすひゅー、ってミサカはミサカは露骨な態度で誤魔化してみたり」


 教えろー、と言いながら佐天は打ち止めの脇腹をくすぐる。
 あまりのくすぐったさにギャーギャー騒ぐ打ち止め。
 その騒音で仕事のためにキーボードを叩いていた黒子の額に青筋が浮かぶ。


黒子「ちょっと佐天! あんまり騒ぐようならここから出ていってもらいますわよ!」

佐天「ええぇー? ちょっとくらいいじゃん。ほらほら打ち止めァー、ネタは上がってるんだぜい! 吐け吐けー!」

打ち止め「し、しらっ、しらな、はひっ、ミサカは第八位の超能力者なんか――」


 くすぐられて呼吸困難になっている中、打ち止めの脳裏には超能力者(レベル5)第八位の少女、結標淡希の姿が浮かんだ。
 半年という短い期間。だが打ち止めにとっては、生まれてから今までの半分以上の期間を一緒に過ごしたお姉さんのような存在。
 その楽しかった思い出たちが次々と流れていった。

 それと同時に、一方通行から告げられた一言も思い出していた。

 『オマエの知っているアワキお姉ちゃンは、もォこの世にはいねェンだよ』。

 その瞬間、打ち止めのつぶらな瞳から大粒の涙が流れた。
 それに気付いた佐天が少女からぱっと手を離す。


佐天「ご、ごめん! 痛かった!?」

打ち止め「う、ううん、平気だよ! ちょっと笑いすぎて涙出ちゃっただけだよ、ってミサカはミサカは最もなことを言ってみる」

黒子「まったく貴女って人は。加減というものを考えなさいな」


 気をつけますー、と佐天は頭を掻いた。
 そんな彼女を横目に、黒子はポケットからハンカチを取り出し打ち止めに差し出す。




打ち止め「あっ、ありがとクロコお姉ちゃん! ってミサカはミサカはお礼を言ってみる」

黒子「ふぐぅっ、い、いえ。どういたしまして」

佐天「どうかしたの?」

黒子「何でもないですの。ただ妹キャラのお姉様はやはり強力過ぎるというかなんというか……」

美琴「聞こえているわよー黒子ー?」


 変態後輩に釘を差しておく美琴。
 わたくしはお姉様一筋ですの、といういつもの発言を適当に流しながら、美琴は空になった缶ジュースを捨てるために立ち上がる。
 そのとき、一生懸命ディスプレイとにらめっこしている初春飾利が目に入った。
 よくこの一七七支部には顔を出すので彼女が仕事している風景はよく見かけるのだが、今の彼女の机の上の環境は今までとは明らかに違っていた。
 外付けのディスプレイやノートパソコンなど全て合わせて八つの画面が机の上にあった。
 気になった美琴は初春の席へ向かう。


美琴「初春さん?」

初春「はひっ!? あっ、何でしょうか御坂さん?」

美琴「大変そうね。ジャッジメントの仕事?」

初春「は、はい。ちょっといろいろありまして……」


 初春はきまりが悪そうに愛想笑いを浮かべていた。
 ちらりと目線をディスプレイの方へ向ける。たくさんの文字列やらグラフやらがずらりと並んでいた。
 一般人なら視界に入れた瞬間理解することを諦めそうな画面だった。
 そんな中、美琴は一枚の画像データがあることに気がつく。


美琴(あ、あれは、昨日の……!)


 その画像は監視カメラの映像を停止したものだった。
 時刻は昨日の一七時五七分三一秒。映っているのは街中。
 たくさんの通行人の中に一人だけ、美琴にとっては異質な存在が映っていた。
 昨日の夕方に会った、結標淡希と全く同じ格好をした少女。
 結標淡希と断定しないのはその人物の顔がカメラからは写っていないからだ。


美琴(……なるほどね。やっぱり今朝のケンカの原因はあの件だったってわけか)

初春「?」

美琴「自販機行ってくるけど、よかったらついでに何か買ってきてあげましょうか?」

初春「わー、ありがとうございます。でしたらいちごおでんをお願いします」


 どうせだし、と他のメンバーの分も買ってくるか。
 人数分の欲しい飲み物を聞いて、美琴は自動販売機へ向かうために一七七支部をあとにした。


―――
――





 ビルの入り口から徒歩一分もかからないところに自動販売機はあった。
 中身のバリエーションは、相変わらず学園都市独特の変わった飲み物が並んでいる。
 だが、彼女たち学園都市の住人からしたら見慣れたものなので、特に気にすることなく硬貨を自動販売機へ入れていく。


美琴「――黒子が黒豆サイダーに打ち止めもヤシの実サイダーで」


 自販機で買い物をしていると美琴の耳にある足音が聞こえてきた。
 足音というのは普通一定のリズムを刻んでいるようもなものだが、それは不規則かつ安定しないリズムで聞こえてくる。
 こんな時間から酔っ払った大人でもいるのか、と美琴は怪訝な表情で音の発生する方向へ目を向けた。
 その目に飛び込んできた光景を見て、少女はぎょっとする。


美琴「ちょ、ちょっとアンタ!? どうしたのよその怪我!!」

上条「……み、御坂、か?」


 そこには左肩を抑えてふらつきながら歩く上条当麻がいた。
 肩には釘のようなものが刺さっており、そこから出血したのか腕を伝って左の手から赤い液体がポタポタ垂れていた。
 美琴は携帯電話を取り出し、


美琴「びょ、病院、救急車呼ばないと……!」

上条「ま、待て御坂! そんな大した怪我じゃねえよ」

美琴「でも、血が……」


 救急車を呼ぶことを拒否した少年に戸惑う美琴。
 しかし、本人が言うような大した怪我じゃないことは目を見て明らかだ。
 何が何でも早く治療しないと、と少女は思い、


美琴「……私の肩に捕まって」

上条「な、何で――」

美琴「いいから!!」

上条「お、おう……」


 美琴の迫力に負け少年は大人しく言う通りにした。
 上条当麻の体を支えながら美琴は先ほどまで自分がいた、ジャッジメントの第一七七支部のあるビルへと足を進める。
 ゆっくりとしたペースで階段を上がっていき、呼び出し用のインターホンを鳴らさずにドアを勢いよく開けた。


―――
――





 黒子は自席で頬杖を突きながら、パソコンのディスプレイをぼーっと眺めていた。
 画面には一人の少女のパーソナルデータが映し出されている。

 
 
黒子(……どうやらあの人の話は本当だったようですわね。たしかに結標淡希は去年の一一月に霧ヶ丘から別の高校へ籍を移している)



 黒子が見ているのは結標淡希の情報。風紀委員(ジャッジメント)の権限を使い書庫(バンク)から入手したモノだ。
 顔写真や能力、学歴といったプロフィールのデータがまとめられている。
 彼女が見ているのは学歴の部分。『霧ヶ丘女学院 入学』の次の行には、以前見た時には書かれていなかった文字列があった。
 

黒子(――高等学校。……はて、どこかで聞いたことがあるような。まあ、その程度の認識ということは、別に名門校とかではないということですわね)

 
 他にもいろいろ見てみたが、これと言って役に立ちそうな情報はなさそうだった。
 黒子がため息を吐くと、


美琴「――黒子!!」


 第一七七支部の部屋内に美琴の声が鳴り響いた。
 それを聞いた黒子が体をビクッ、とさせて入り口の方を見ながら、


黒子「な、なんですのお姉様? そんな大声で呼んで……ってあ、貴方は!?」


 入口の方向を見た黒子の表情に驚きと、嫌なモノを見たときのような色が浮かぶ。
 目に映ったのは御坂美琴、と彼女に体を支えてもらっている少年、上条当麻だった。
 応接スペースで遊んでいる二人の少女もそれを見て、
 

佐天「御坂さーん。このあとお昼にファミレスに行こうって話してて――あっ、上条さんだ! どうしてこんなところに!?」

打ち止め「わーい、ヒーローさんだ……ってええっ!? ち、血がだらだら垂れてる!? ってミサカはミサカは突然のバイオレンスな光景に戸惑いを覚えてみたり」

上条「あ、あれ? 俺ジャッジメントの支部に入ったんだよな? なんだこのメンツ」


 明らかにジャッジメントと無関係そうな少女たちがワイワイ騒いでる様子を見たせいか、上条は困惑した顔をしていた。


美琴「黒子、ちょっと救急箱貸してちょうだい。コイツすぐに手当してあげないと」

黒子「そ、それはよろしいですが、そのような怪我なら病院に行ったほうが良いかと思いますが……」

美琴「なんか知らないけど病院行きたがらないのよコイツ」

上条「…………」


 上条のバツの悪そうな表情を見て黒子はため息を付く。


黒子「何か訳ありってことですわね。わかりました。わたくしが治療いたしますので、その殿方をソファに座らせてくれます?」

美琴「えっ、でも黒子……」

黒子「お姉様。素人が下手に触って怪我を悪化させたりしたら大変ですの。ここはジャッジメントとして訓練を受けている、わたくしにお任せくださいませ」

美琴「……ありがと、黒子」





 ソファに座っている少年の隣に黒子は座り、傷の確認をする。


黒子(錆びた釘が刺さっておりますわね。出血しているのは無理に抜こうとして傷口を広げたとかそんなところでしょうか。とにかく釘を抜いて傷口を洗浄する必要がありますわね)


 黒子が見た通り、上条の肩には服の上から錆びた釘が突き刺さっていた。
 釘の頭部が見えているところから、先端部分は体内だ。まるでトンカチで叩かれたかのようだった。
 一体、何をしていたらこんな怪我を負えるのか、と黒子は疑問に思った。


黒子「初春!!」


 黒子はパーティションの向こう側へ向けて声をかけた。
 その声が聞こえたのか、パーティションの端から覗き込むように初春が出てきた。

 
 
初春「な、なんでしょうか……って上条さんじゃないですか!?」


黒子「初春。怪我人の応急処置をしますわ。今すぐ応急セットと新品のタオル何枚か持ってきてくださる?」

初春「は、はい! 了解です!」


 そう返事すると、初春は頼まれたものを準備するために部屋の中を小走りに動き始める。


黒子「待っている間、上に着ている衣服を脱いでいただきますわ」

上条「あっ、うん。じゃあ」

黒子「いえ。脱ぐときに傷口に刺さった釘に接触して、傷口が広がってはいけませんので貴方は何もしなくてよろしいですわ」


 失礼、そう一言告げて黒子は上条の衣服に触れる。
 シュン、という音を立て上半身の衣服が消え、ソファの前にあるテーブルへと移動した。


美琴「なっ、えっ、なっ、ちょっ、ちょっとぉ!?」

佐天「おっ、おうふっ、たくましい身体ですね……」

打ち止め「うわー、あの人とはぜんぜん違うや、ってミサカはミサカは率直な感想を述べてみる」

黒子「貴女たち怪我人に失礼ですわよ?」


 隣にいた少女たちが、三者三様のリアクションをしながらその風景を眺めていた。
 それに対して黒子は呆れ顔で注意する。

 
 
初春「白井さん! 準備ができました!」



 そう言って初春はテレポートされた衣服をどけて、そこに救急セットと封の開いていない袋入タオルを一〇枚ほどをテーブルの上に置いた。


黒子「では早速釘を抜きます。抜くときの痛みはないとは思いますが、一気に血が吹き出てきますので覚悟だけはしておいてください」

上条「ああ、やってくれ」


 黒子は上条の左肩に刺さった釘に触れ、テレポートを行使する。
 左肩から釘が消え、少女が言ったように栓を失った傷口からは大量の血液が溢れ出てきた。





黒子「続いて洗浄スプレーで傷口を洗い流します。少し痛むとは思いますが我慢してくださいな」


 黒子は救急セットとからスプレー缶を取り出す。生理食塩水を噴射することができる医療用のスプレーだ。
 蓋を開けて、傷口に向かって噴射する。
 

上条「ッ……!?」


 上条が痛みで顔を歪める。
 負傷部分の周りにあった血液や汚れが一気に流されていく。


黒子(こ、これは……!)


 あらわになった傷口を見て黒子は目を細めた。それを見て何かに気付いたという様子だ。
 だが、彼女は止まらず応急処置を続行した。
 黒子は救急セットからチューブ状のものを取り出す。


黒子「対外傷キットですの。これで傷口を塞ぎますわ」


 新品のタオルの封を一枚切り、そのタオルで肩の周りにある血液や水分を拭き取る。
 そのあとチューブを押し、ジェル状のものを手にとって傷口に塗りつけた。
 ドロドロだったジェルは次第に固まっていき、傷口を塞ぐ蓋となる。
 
 傷口がふさがったことを確認した黒子は、包帯を取り出し鮮やかな手さばきで巻いていく。


黒子「これで処置は完了いたしましたわ」

上条「お、おう……」


 黒子の手際の良さに驚いているのか、上条は唖然とした様子だった。
 気にせず黒子はいくつか未開封のタオルを手に取り、


黒子「あとはタオルを何枚か渡しますので、血で汚れた体をそれで拭いてくださいな。それくらいは一人で出来ますわよね?」

上条「……ああ、サンキュー白井」

黒子「ふんっ、これはあくまで応急処置ですので。このあと病院に行き、然るべき処置を受けることをおすすめいたしますわ」


 不機嫌そうに眉を上げて、黒子は推奨する。
 一連の応急処置の様子を見ていた佐天が目を輝かせながら、
 

佐天「おおおおおっ!! さすが白井さん! 初春なんかとは比べ物にならないね」

初春「ちょ、ちょっと佐天さん! それは聞き捨てならないです! 私だって同じ訓練を受けているんですからね!」


 初春が顔を真赤にしながら反論する。
 何やってんだか、とそれを見ている黒子へ、美琴が名前を呼んで、


美琴「ありがとね。助かったわ」

黒子「いえ。ジャッジメントとして当然のことをしたまでですの」


 じゃなければ誰が好き好んであんな腐れ類人猿の怪我の治療なんか。
 ぶつぶつと負のオーラをまとっているような後輩を見て、美琴は苦笑いする。




佐天「よし! 一件落着しましたのでこれからみんなでお昼にいきましょー!」

初春「ちょっと佐天さん!? まだ話終わってませんよ!」


 怒っていた初春の相手をするのが飽きたのか、空腹が絶えきれなくなったのか、佐天が拳を突き上げながら提案する。
 

打ち止め「うおおっ! お昼だファミレスだっ! ってミサカはミサカは子どもらしくハシャイでみたり!」

美琴「そんな話になってたの?」

黒子「みたいですね。あの子たちが勝手に決めただけでしょうけど」

佐天「……! そうだ!」


 佐天が体の汚れを拭いている上条を見て、


佐天「せっかくだし上条さんも一緒にどうですか!?」

美琴「!?」


 美琴が体をビクッっとさせる。
 なっ、なっ、なっ、と戸惑いの声を上げているが、顔を紅潮させて少しニヤついた感じが見えるので嫌ではなさそうだ。
 忌々しい、と黒子は誰にも聞こえないように舌打ちする。

 少女たちに昼食を誘われた上条だが、表情を暗くし、視線を下げて、


上条「……ああ、悪い。ちょっと行くところあるから行けないんだ」


 断りの言葉を入れた。
 そうですか、と残念そうな顔をする佐天を見て「誘ってくれてありがとな」と礼を言ってから、上条は血が付いた自分の衣服を着直し、部屋を出て行こうする。
 その姿を見て美琴は思わず呼び止める。


美琴「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

上条「何だよ? まだ何か用があんのか? あっ、そういやお前にもお礼言わなきゃな。サンキュー御坂」

美琴「お礼なんて別にいいわよ。それより私にはアンタに聞きたいことがあんのよ!」

上条「聞きたいこと?」

美琴「アンタ一体何があったのよ? そんな怪我してるってことは、また何か変なことに巻き込まれているんじゃないでしょうね?」


 美琴は質問した。怪我をした彼を見てからずっと疑問に思っていたのだろう。
 上条当麻はよく厄介事に巻き込まれる体質にある。だから、この怪我も何かしらの事件に巻き込まれて負ったものじゃないかと、美琴は勘を働かせたのだろう。
 少女の茶色い瞳が上条を見つめる。
 しかし、上条はあはは、と軽く笑ってから、


上条「いや、ほんと何でもないんだ。ちょっと変な感じにずっこけちまうっつー不幸があっただけだよ」

美琴「そ、そう……」


 あっさりと軽い感じに返された。
 この言葉が嘘か本当かは美琴では判断できない。
 だが、仮にこれが嘘だとしてもこれ以上詮索することは彼に失礼に値する行為だ。
 そう思ったから、美琴は変な相槌しか打てなかったのだろう。




上条「じゃあ行くよ。世話になった」


 上条が出入り口のドアのノブに手をかける。
 が、そのドアノブが回されることはなかった。


黒子「先ほど拝見させていただいた傷口についてなのですが、皮膚や肉がまるで釘に押しのけられたように周りに広がっていましたわ」


 黒子が腕を組み壁に背を預けながら、上条の怪我についての話を始めたからだ。


黒子「普通に刺さったのでしたら、あのような形にはなりませんわ。しかし、わたくしはそのような怪我を負わせる方法を一つ知っておりますわ。なぜならわたくしも同じ怪我を負ったことがありますから」


 全てを見透かしたように少女は言葉を続ける。


黒子「その傷、もしかして空間移動能力者(テレポーター)が行う物質の転移によって負ったものではありませんか?」

上条「ッ」


 上条がピクッと少女の言葉に反応した。
 それをは確認した美琴が彼女の言いたいことを察したのか、打ち止めの方を見る。


美琴「打ち止め。ごめんだけど私たちちょっと話があるから、先に佐天さんとファミレスに行っててちょうだい」

打ち止め「へっ? う、うんわかった、ってミサカはミサカは了承してみる」

美琴「佐天さん。お願い」

佐天「あっ、はい。……じゃあ行きますか打ち止めちゃん」


 そう言って佐天は頭にハテナマークを浮かべている打ち止めの手を引いて、一七七支部の部屋を出ていく。
 佐天もただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、特には言及することはなかった。


黒子「さて、初春。貴女も一緒にお昼に行ってきなさいな。居ない間はわたくしがここで留守番しておきますので」

初春「……白井さん。一つ聞いてもいいですか?」

黒子「何ですの?」


 初春が黒子を見る。その表情からはいつもののほほんとした雰囲気は感じられない。
 問い詰めるかのような口調で初春は聞く。


初春「もしかして上条さんの怪我の原因は、昨晩の事件に関係しているんじゃないですか?」

黒子「…………」


 昨晩の事件。それだけで彼女が何が言いたいのか、黒子は理解していた。
 理解していたからこそ、黒子は何も答えない。
  
 喋らない黒子に対して、初春はジッと彼女を見つめながら、
 




初春「どうなんですか?」

黒子「……関係、ありませんの」


 いつもらしからぬ少女の圧に、黒子は思わず口を開けた。
 その言葉を聞いた初春は、


初春「嘘ですね?」


 一蹴する。看破したように。
 

黒子「何で貴女にそんなことがわかりますの?」

初春「……そんなの決まっているじゃないですか。だって、……私は白井さんのパートナーなんですよ?」

黒子「ッ」


 初春の言葉に聞いて、黒子はたじろいでしまった。
 そんな様子を気にしていないのか、気付いていないのかわからないが、初春は内のものを吐き出すように続ける。
 

初春「だから、わかりますよ。白井さんが何か隠し事をしていることも、何か深刻なものを抱え込んでいることだって」

初春「もしかして、私を巻き込みたくないと思っているから話してくれないんですか? そうなら私を見くびらないでください!」

初春「私だって風紀委員(ジャッジメント)です! ですから戦う覚悟は出来ていますから!」


 言い切った初春は息を荒げていた。目が潤んでいるように見えた。頬がほのかに赤く染まっていた。
 それだけ一生懸命声に乗せたのだろう。自分の気持ちを。
 

黒子「初春……」


 黒子は迷っていた。たしかに、彼女はジャッジメントであり、同僚であり、パートナーでもある。
 だからといって、彼女をこれ以上こちらの問題に巻き込んでもいいものか、すぐには判断が下せなかった。
 
 そんな黒子の様子を見ていた美琴がため息をつく。
 そして語りかける。


美琴「黒子、もういいんじゃない?」

黒子「し、しかし……」

美琴「初春さんの決心は本物だと思う。昨日のアンタと同じでね」

黒子「…………」


 黒子は考え込むように口を閉じた。昨日のことを思い出す。
 自分は御坂美琴に帰れと言われて、何と言い返したのか。そのときの自分はどんな想いを持っていたのか。



 
 
黒子「…………はぁ」

 
 
 黒子は呆れた。自分に対して。

 そして少女は見る。目の前の少女を。こんな馬鹿な自分をパートナーと呼んでくれた少女を。


黒子「初春。覚悟はよろしくて?」


 黒子の表情は今までのどこか張り詰めたようなものではなく、穏やかな友人に向けるものであった。


初春「……はい! もちろんです!」


 同じように、初春も微笑むように笑い、そう返した。


上条「あのー」


 少女たちが友情やら信頼やらの話をしている中、蚊帳の外にいた上条が発言する。


上条「よくわかんないけど、俺ってもう帰っていいのか?」


 その言葉を聞いた三人の少女たちは目を見合わせた。
 目線だけで会話をしたのか三人はにっこり笑い、一斉に上条の方へ顔を向ける。



「「「いいわけないでしょ!!」」」



 三人のツッコミが一七七支部内に響いた。


―――
――






 お昼時。とあるファミレスの一角にある六人掛けのボックス席に四人の少女たちが座っていた。
 麦野沈利。フレンダ=セイヴェルン。絹旗最愛。滝壺理后。
 学園都市の非公式の暗部組織『アイテム』の顔触れだ。


麦野「……やっぱりコンビニのヤツは微妙ね。チッ、無難に鮭弁にしとけばよかったか」


 透明のプラスチック容器に入ったサーモンのマリネサラダを箸でかき混ぜながら、麦野はぼやく。
 横に乱雑に置いてあるビニール袋と彼女のセリフからして、これはどこかのコンビニで購入されたものなのだろう。


フレンダ「結局それって、この前行った高級レストランで同じようなもの食べちゃったせいじゃない? 自分の中の期待値が高くなっているみたいな」


 それに比べてサバ缶はいつ食べても期待通りの味で最高って訳よ、と付け加えながら、フォークに刺した鯖のカレー煮を口に運ぶフレンダ。
 彼女の対面の席に座っている絹旗が、フライドチキンを片手に呆れ顔で見ながら、


絹旗「よくもまあ、そんな毎日毎日サバ缶ばかり食べて超飽きませんね? 私なら三日も同じものを食べたら超嫌気が差しますが」

フレンダ「大抵の人って主食としてご飯やパンを毎日食べてるじゃん? つまり、そういうことって訳よ」

絹旗「その魚類を主食として超カテゴライズしてもいいのか果てしなく疑問ですが。滝壺さんはどう思います?」

滝壺「……北北東から信号が来てる」


 絹旗の左の席にだらんとした感じに座っている滝壺が呟く。
 その眠そうな瞳の焦点はどこに合わせているのか傍から見てもわからなかった。


絹旗「……うん、滝壺さんもこう言っていることだし、サバが主食なのは超ありえませんよ」

フレンダ「えっ!? 今の言葉の中のどこにそんな意味が隠されていたの!?」


 そんなコントのような会話を繰り広げている席に一人の少年が近付いてくる。
 片手に二つずつ、合計四つのグラスを手にしドリンクバーから戻ってきた、アイテムの下部組織という名のパシリをやっている浜面仕上だ。


浜面「ほら、ドリンクバーのおかわり持ってきたぞ」

麦野「遅せーぞ浜面。飲み物汲んでくるのにどんだけ時間かけてんだよ」

浜面「しょうがねえだろ? 今は飲食店のピークタイムだ。ドリンクバーだってそりゃ人が並ぶよ」


 弁解をしながら浜面はグラスを少女たちの目の前に置いていく。
 置かれたグラスを手に取り、麦野はそれを一口飲んでから開口する。


麦野「さて、下僕が帰ってきたところで例の件の話を始めるとしましょうか」

絹旗「例の件というのは座標移動(ムーブポイント)の超捕獲任務のことでしょうか?」

麦野「そうそう。正直あんま乗り気じゃないけど、指令を受け取った以上やらないといけないわけだからね」

浜面「座標移動って結標の姉さんのことだよな? 何であの人を捕まえろなんていう指令が降りてきたんだ?」

麦野「さあね。ヤツは空間移動能力者(テレポーター)の中じゃずば抜けて優秀な人材みたいだし、それを実験動物にしたいっつーヤツが上層部にいるってことじゃない?」

浜面「実験動物って……ひでえ話だな」


 浜面はその言葉に嫌悪感を抱き、苦虫を噛み潰したような顔した。
 しかし、そんなことを思っている人は他にはおらず、滞りなく会話は進行する




絹旗「超捕獲するためにはまず座標移動を見つけなければいけないわけですが」

フレンダ「見つけるなら滝壺の能力追跡(AIMストーカー)を使えばすぐじゃない?」

滝壺「ごめん。私その座標移動のAIM拡散力場を記録していないから、それはできない」

フレンダ「あ、そっか。雪合戦のときは、第一位の分析に全力注いでたから記録できなかったんだっけ」

絹旗「ということは超面倒臭い任務になりそうってわけですね」

麦野「ま、でも宛がないというわけじゃないわよ」


 麦野は携帯端末を操作し、ニュースアプリ表示させてテーブルの真ん中に置く。
 そこには四箇所の研究施設が謎の能力者の襲撃を受けたという記事が載っていた。


浜面「これってたしか、今朝からニュースで大騒ぎになっているやつじゃねえかよ」

フレンダ「よく知ってるじゃん浜面。浜面でもニュースくらいは見るんだね」

浜面「お、俺もそれくらい見るっつうの!」

滝壺「このニュースがどうかしたの?」

麦野「ニュースに書かれている襲撃者、こいつが座標移動の可能性が高い」

絹旗「どういうことですか?」

麦野「あくまで推測の域だけどね。理由は三つあるわ」


 そう言うと麦野は再び携帯端末を操作して、何かのリストのようなものを表示する。
 そこに書かれていたのは研究施設の名前の羅列だった。


絹旗「これは?」

麦野「学園都市内にあるテレポーターについて研究している研究所の一覧。表に公表されているものはもちろん、秘密裏に動いているヤツ含めて全部よ」


 麦野は携帯端末の画面をスクロールさせ、ある位置で止めた。


麦野「ここに書かれている研究所の名前、どっかで見たことないかにゃーん?」


 そう聞かれて他四人は画面を覗き込む。


浜面「阿部食品サンプル研究所第三支部……ってたしかニュースで被害に遭ってた研究所の名前じゃねえか」

フレンダ「岡本脳科技工所、日野電子材料開発部門、SATO新エネルギー開発。うん、見事に四箇所全部あるって訳よ」

麦野「そ。つまりこの犯人はテレポーターに関する何らかの情報が欲しいヤツってことよ。しかも、四箇所も襲っているってことは、狙いは相当な機密データじゃないかと予測できるわね」

絹旗「しかし、それが座標移動が犯人だという超理由に繋がりますかね?」

麦野「ま、それだけじゃ無理ね。ちなみに今言ったのが一つ目の理由。次は二つ目だけど」


 ドリンクをもう一度口へ運び、喉を潤してから麦野は続ける。




麦野「研究所を四つも襲撃してアンチスキルどもがまったく足取りをつかめていない状況。この時点で相当高位な能力、またはそれに準ずる技術を持ったヤツが犯人ってことにならないかしら?」

浜面「たしかにそうだな。現にニュースに書かれているのは謎の能力者っつー感じだし」

フレンダ「なんかいつかの第三位を思い出すね。電子的な警備を全部掌握して侵入してたとかいう話だったし」

麦野「嫌なモン思い出させてんじゃねーよ」


 彼女たちの言うように、昔アイテムは超能力者(レベル5)第三位の少女、御坂美琴と交戦したことがあった。
 そのときも今と同じような状況で、とある研究施設を襲撃しているインベーダーが御坂美琴だったというわけだ。


滝壺「むぎのは座標移動に、第三位と同じくらいのチカラあるって言いたいの?」

麦野「そりゃさすがにあのションベン臭いガキのほうが圧倒的に上よ? けど、座標移動でも同じ結果を出せるくらいのチカラはあるんじゃないのかとは思うわ」

絹旗「たしかにテレポートは壁を越えて超移動できますし、点と点の超移動だから監視カメラとかの死角から死角へ飛ぶとかすれば、超避けることもできそうですね」

麦野「そういうこと。これが二つ目の理由よ。で、三つ目だけどこれはシンプルね」


 麦野は携帯端末を手に取り、素早い指さばきで操作してある画面を映して再びテーブルの中央に置く。
 そこには『座標移動(ムーブポイント)の回収。生体が好ましい。死体の場合、脳への損傷は避けること』という文章が表示されていた。


麦野「この指令を受領した時期と事件が発生しニュースで騒がれだした時期が重なっている。これを偶然と片付けるにはちょっと無理があるんじゃないかしら?」

絹旗「た、たしかに……」

浜面「つまり、その襲撃犯を追っていけば自ずと結標の姉さんのところへたどり着ける、っつーことか?」

フレンダ「そういうことにはなるけど、かといってどうやってターゲットを追いかけるのよって話にならない?」


 フレンダの言う通り、彼女がいくらテレポーターの関連施設を狙っているとわかっていたとしても、その襲撃候補の数は膨大だ。
 そこからいつどこを彼女が襲撃するのかを予測するのは大変困難なこと。
 しかし、麦野はニヤリと口角を上げた。


麦野「実はあるのよね。ヤツがいずれ狙うであろう研究施設の候補がわかる情報が」


 テーブルの中央においてある端末をそのままの位置で操作し、別の画面を表示させる。
 それは何かのリストのようなものだった。中身を読んだ絹旗が問う。
 

絹旗「これは……学園都市にある民間警備会社の超警備先のリストでしょうか?」

浜面「うわっ、すげえ。こんなの絶対外部に漏れちゃいけねえ企業機密みたいモンだろ」

麦野「私たちからすれば、こんなもん機密でもなんでもないけどにゃーん」


 重大な情報を軽い感じに扱っている麦野を見て、浜面は改めてアイテムという組織のヤバさを認識して唾を飲み込んだ。


麦野「この中に今朝ある警備会社と新規に契約した研究施設があるわ。それが櫻井通信機器開発所」

滝壺「……もしかしてその研究施設も」

麦野「そう。さっき見せたテレポーターの研究をしている研究施設のリストに名前が載っているところよ。もちろん、名前の通り表向きにはそれを出してはいないけどね」

麦野「さらに言うとこの契約は、研究所を襲撃しているヤツがいるっていうニュースが流れてから行われているわ。つまりこの研究施設は、自分たちが狙われるとわかっているから警備会社に泣きついたってことにならない?」

フレンダ「なるほどね。ここを張っていれば座標移動と接触できる可能性が高いっていう訳か」

絹旗「そうと決まったら早く現場に超出向いたほうが良いのでは?」





 せっかく来る場所がわかっていても、ターゲットが来たときに自分たちがいなければ意味がない。
 一刻も早く動くべき状況だ。しかし、麦野は特に慌てた様子もなく、
 

麦野「それに関しては問題ないわ。四つ目に狙われたSATO新エネルギー開発の襲撃があったのが三〇分ほど前。そこから櫻井通信機器開発所に行くには車で飛ばしても二時間弱はかかる位置よ」

フレンダ「テレポーターって連続使用してまっすぐ進めば、時速換算でニ、三〇〇キロくらい出るんじゃなかったっけ? 間の障害物も越えられるし、もっと早く着くんじゃない?」

滝壺「いや、それは難しいと思う。一応は身を隠している逃亡犯なのだから、そんな派手な動きを取るのは理にかなっていないよ」

フレンダ「あっ、そっか」

麦野「滝壺の言う通りよ。ま、でもここでいつまでものんびりしていい理由にはならないし――」


 そう言って麦野はぼーっと突っ立っている下っ端の方へ目を向ける。


麦野「というわけで浜面。さっさと足の確保しなさい。三分以内」

浜面「へいへい、わかりましたよー」


 軽く返事をし、浜面はファミレスの外へ車を探しに出るためにファミレスの出入り口へと向かった。
 そんな少年をなんとなく頬杖付いて眺めていたフレンダ。
 すると、彼女の視界にある出入り口の扉から、ある人物たちが入店してくるのが目に入った。


フレンダ(ッ!? あ、あのコは……!)


 それは二人組だった。
 一人は肩まで伸びた茶髪に自己主張の激しいアホ毛が特徴の見た目一〇歳前後の少女。
 もう一人は背中まで伸びる黒髪ロングへアーに白梅の花を模した髪飾りを付けている少女。
 その少女たちをフレンダは見覚えがあった。というかアイテムとか全然関係ないところでの知り合いだった。


フレンダ(や、ヤバっ!? 見つかったら絶対話しかけてくるって訳よ。今仕事中だってのに不用意に一般人と接触するわけにはいかない……!)


 何という運の悪さか、二人組の少女はフレンダたちのいる席に近い場所を店員に案内されようとしている。
 フレンダは不味いと思い被っているベレー帽を目深に被った。
 その様子を見て三人は、


絹旗「何やっているんですかフレンダ? 新しい超ファッションかなにかでしょうか?」

麦野「フレンダがそんなダセーことするわけないでしょ。もしこれをファッションと言い張るなら幻滅だわ」

滝壺「大丈夫だよフレンダ。私はそんなださいフレンダを応援している」





 フレンダフレンダフレンダと自分の名前を連呼する同僚たち三人に向かって、フレンダは人差し指を口元に持っていき黙れのジェスチャーをする。
 もちろん意図がわからない三人は揃って首を傾げた。
 そんなことをしているうちに、店員に席を案内されていた少女二人は斜向かいの席に座った。
 席の配置の都合上、黒髪ロングの少女の目がこちらに向いた状態で。


フレンダ(ひ、非常にマズイ状況って訳よ……)


 フレンダは出来る限り見えないようにしようと、対面に座る絹旗の陰に隠れようと身をかがめる。
 だが、その動作が逆に目立ってしまったようで、黒髪ロングの少女の視線が明らかにこちらを向いた。
 そのとき、


 ピピピピピピピッ!!


 甲高い電子音が鳴った。麦野沈利の携帯端末の着信音だ。
 麦野は端末を手に取り、通話モードに切り替える。


麦野「はい」

浜面『ワンボックス一台かっぱらってきたぜ。いま表につけてるから早く来いよ』

麦野「タイムはニ分五二秒。ギリギリだけどよく出来ました浜面君♪」

浜面『ま、マジかあぶなっ!?』


 どうやら下っ端浜面が移動手段の準備が出来た電話だったようだ。
 その聞き耳を立てていたフレンダがバッ、と立ち上がる。


フレンダ「じゃ、私は先に行っておくって訳よ! それじゃっ!」

麦野「あ? ちょ、フレンダ――」


 麦野の制止を耳にも止めず、フレンダは競歩の選手じゃないかと思うくらいの早足で出口へ向かい、駆け抜けた。


麦野「……? 何やってんだアイツ?」

滝壺「さあ? お腹でも痛かったんじゃない?」

絹旗「いや、それならそこにあるトイレに超駆け込むでしょ」


 フレンダの奇行に疑問符を浮かべながらも、他のアイテムのメンツも彼女の後を追って店外へ出ていった。


―――
――






一方通行「チッ、遅かったか……」


 一方通行は新井植物科学研という研究施設の周辺にいた。
 この研究施設も彼の持つファイルの中にあるリストに載っていた、過去に結標淡希が実験を受けた空間移動能力者(テレ ポーター)を研究する施設だ。
 なぜ一方通行がここにいるのか。


一方通行(建物ン中から次々と避難している研究員たち。つまり、予想だけは当たってたっつゥことか)


 一方通行は狙われた研究施設四つの共通点を考えた。そこで浮かんできたのは規模の大きさだった。
 大々的な研究をするためにはある程度のまとまった資金が必要だし、機材を置くためのスペースだって必要だ。
 それに大きい研究所なら自然と集まるデータも膨大になる。
 その共通点を前提に、一方通行は最後に狙われた施設であるSATO新エネルギー開発から最も近い、かつ同程度の規模の研究施設。
 そこに結標淡希が現れると予想をして、この場にたどり着いた。
 しかし、そこに広がっていた光景は、警報音のようなものを鳴らしている建物内から避難している研究員たちだった。


一方通行(あンだけ人が避難してるっつゥことは侵入してもォだいぶ経ってやがる。アイツはすでに逃げたあとだろう)


 間に合わなかったものはしょうがない。
 そう考え、一方通行は携帯端末で地図アプリを起動する。


一方通行(ここから近い同程度の施設っつったら……チッ、一〇キロ圏内だけでも三つもありやがる)


 端末のディスプレイに表示されているのは自分の位置を表す三角形と、そこから東西南の位置に一つずつ目的地のマークが記されていた。
 一方通行はとりあえず一番近い位置にある目的地へタップし、ナビゲーション機能を起動する。
 それと同時に首元にある電極のスイッチを入れた。
 地面を蹴り、目的地のある方角へ飛び上がる。


一方通行(クソが、こンなンじゃ一生アイツに追いつけねェぞ? どォにかしやがれ一方通行)


 ビルの屋上を弾丸のような速度で飛び移っていく。
 彼の表情はいつも以上に険しいものだった。


―――
――





上条「そう……だったのか」


 上条が落胆したような声を出す。
 ここは風紀委員活動第一七七支部の事務所。部屋の中にある応接スペースのソファに少年は腰掛けていた。


初春「まさかそんなことがあったなんて……」


 上条の隣に居る初春も似たような反応だった。


美琴「そうよ。今話した話は憶測部分を除けば全部事実よ」


 目の前に座っている美琴が肯定する。

 美琴と黒子は昨晩あったことを二人に話した。
 一方通行には口止めをされていた。
 しかし、実際に事件の重要部分に関わっている初春と、事件の延長線上で関わった上条にはきちんと話しておくべきだ。
 そういう判断だった。


初春「ぐっ、私がリアルタイムでダミーの映像に気付けなかったせいでそんなことに……情報分析担当失格ですっ」


 葉を食いしばる初春。
 あっさりと出し抜かれてしまった自分への戒めの気持ちと、電子戦という自分が一番得意とする分野で不覚を取ったことによる悔しさが、彼女の中で渦巻いているのだろう。


黒子「気にするなとは言いませんわ。しかし、過去をいくら振り返ったところで意味はないですの。考えるべきはこれからのことでは?」

初春「……はい!」

 
 対面いる黒子からの言葉に、初春は力強く返事をした。


上条「結標の記憶喪失が治ってたなんて全然知らなかった。何で教えてくれなかったんだよ一方通行」

美琴「たぶん、アイツなりにアンタを巻き込みたくないと思ってのことだと思う」

上条「……ふざけんじゃねえ」


 上条は膝の上に置いた拳を力強く握りしめる。


上条「巻き込みたくないって、俺だってアイツとは友達なんだよ。それなのに、友達が大変なことになってるってときに蚊帳の外なんて、そんなのねえよ……」

美琴「それでアンタはこの話を聞いてどうするつもりなのよ?」

上条「決まってんだろ! 結標を捜す!」


 今まで伏し目がちだった顔を上げる。





上条「俺なんかが結標に会ったところで何が出来るかなんてわからない。けど、歯を食いしばってこのまま何もしないなんてこと俺には耐えられねえよ」

美琴「……はぁ、言うと思った。わかってたわ、アンタがそういうヤツってことは」


 美琴はやれやれという感じに額に手を当てた。


黒子「しかし、捜すと言ってもどうやって捜すつもりですの?」

上条「そ、そりゃ決まってんだろ。街中走り回って……」

黒子「馬鹿ですの? もしかしてお猿さんは頭の中もお猿さんでしたの?」

上条「ぐっ……」


 年下の女子中学生に憎まれ口を叩かれているが、言っていることは間違っていないため、反論できない上条だった。
 言葉を詰まらせている上条に、隣りに座っている少女が恐る恐るという感じで、


初春「……あの、上条さん」

上条「なんだ? えっと、初春さんだっけ」

初春「はい。よろしければ結標さんを捜すのをお手伝いしましょうか?」

上条「えっ、いいのか?」


 いいですよ、と初春が了承する。
 それを見ていた黒子が机を叩く。


黒子「ちょっと初春!」

初春「何でしょうか?」

黒子「貴女この一般人である腐れ類人猿の為に、監視カメラ情報を取得してさしあげようと考えてますの?」

初春「ええ、まあ。私にはそれくらいしか出来ませんので」

黒子「そんな職権乱用行為、わたくしは認めませんわよ? もしバレたら始末書ではすみませんわ」

初春「たしかにそうですね。けど、ここで発想の転換ですよ」


 そう言って初春は上条の方を向いて、


初春「上条さん、この一七七支部に電話してもらえませんか? 内容はそうですね、迷子の捜索依頼みたいな」

上条「ま、迷子? もしかしてその迷子って結標のことか?」

初春「はい、そういうことになります」




 あまりに斜め上過ぎる言葉を聞いて戸惑いながらも、上条は携帯電話を出した。
 こちらが番号になりますんで、と初春が番号の書かれたメモ用紙を差し出す。
  

黒子「……もしかして貴女、たかだか迷子の捜索程度で監視カメラ情報の取得をしようと考えておりますの?」


 ジトーっと見ていた黒子が呆れたように尋ねる。
 それに反論するように初春が、
 

初春「たかだかとはなんですか! 迷子の捜索だって立派なジャッジメントの職務です!」


 鼻息を荒くする。
 まあたしかにそうだが、と黒子も思っているのかそれに対しては言及しない。
 だが、

黒子「そんなことでアンチスキルが監視カメラの情報を提供するとお思いですの?」


 基本的に監視カメラの情報を管理しているのはアンチスキルだ。情報取得の許可を得るためには、様々な工程を経なければならない。
 迷子の場合ならいなくなった地域や日時などを、その工程の中で報告する。
 そのため、例えばアンチスキル側がそれを元に、何日の何時から何時の第七学区の一部分だけの監視カメラ情報だけ許可する、となればその一部分しか情報を得ることができなくなる。
 今回の場合は結標淡希がどこにいるのか皆目検討も付かないので、その程度の情報では役に立たない可能性が高い。
 逆に地域や日時がわからないと報告すれば、行方不明者となりアンチスキルの管轄になってしまうかもしれない。
 
 そんな事情があることは初春も知っている。知っているからこそ初春は言う。

 
 
初春「大丈夫です白井さん。ちょちょっとハッキングして情報をいただければ問題ありません」


黒子「……言うと思いましたの」


 黒子がげんなりとする。
 

黒子「というか最初からハッキングするつもりなら、わざわざ迷子の捜索などという名目を立てる必要ないんじゃありませんの?」

初春「何言っているんですか白井さん。私的な目的のためにハッキングするのは完全なコソドロですけど、ジャッジメントとしての使命を果たすためハッキングするのは『それならしょうがないかー』ってなりますよね?」

黒子「んなわけねえですの。五十歩百歩ですわ。どちらにしろバレたらただじゃ済みませんわよ?」

初春「平気ですよ。だって私、そんなバレるなんてヘマしませんので!」


 ニコッ、と笑う初春飾利。
 その笑顔の奥に何か黒いオーラのようなものが見えるのは絶対に気のせいじゃない。


上条「……す、すげえな御坂。お前の友達」

美琴「え、ええ、ほんとそう思うわ」


 二人が初春飾利に圧倒されているとき、美琴の持つ携帯電話から着信音が鳴り響いた。
 それに気付いた美琴はポケットから携帯電話を取り出し、ディスプレイを見る。

 『佐天涙子』。


美琴「あっ、そういえばお昼にファミレス行くんだった……」

黒子「いってらっしゃいませお姉様。わたくしたちは外食するほどの時間が取れなさそうですので」

美琴「そう。わかったわ」


 そう返事をして、美琴は電話を通話モードにしながら、部屋の外へ駆け出した。


―――
――






 一方通行が目的地である日高新薬研究センターにたどり着いて三〇分ほど経過していた。
 ずっと様子をうかがってはいたが、関係者と思われる人や車が何回か出入りしただけでとくに異変のようなものは見つからなかった。


一方通行(三択を外しやがったか……)


 一方通行の中に焦りのようなものが渦巻いていた。
 だが、この程度のことで動じていては彼女にたどり着くことは出来ない。
 そう考え、一方通行は携帯端末を手に持った。


一方通行(外した、っつゥ判断をするのはまだ早ェか。状況が状況だからアイツもほとぼりが冷めるまで襲撃を控えたっつゥ可能性もある)


 この短時間で二箇所の研究施設が襲撃されている。
 そのため街中はたくさんのアンチスキルやその車輌、警備ロボ等がせわしなく動き回っていた。
 こんな状況で好き放題動くのは至難の業だ。


一方通行(ニュースやSNS上にも六箇所目の襲撃情報は上がってねェ、てことはそォいうことだと思ってイイだろう)

一方通行(ま、それはアイツがまだ求めている情報を手に入れてねェっつゥ、楽観的な状況である前提だ)

一方通行(もし逆の状況にあったなら、俺はもォヤツを追うための最大のチャンスを逃した、つまり完全な敗北ってことになる)

一方通行(そォじゃねェこと神に祈るだけだな……ケッ、似合わねェなクソッタレ)


 一方通行はため息を付いた。そのとき、ふと近くに自動販売機があることに気がつく。
 コーヒーでも飲むか、そう思い自動販売機の元へと足を進める。


一方通行(しかし、考えるべきはこれからどォするかだ。このままここに待機するか、それとも監視場所を別に移すか)

一方通行(待機の場合他の場所を襲撃されたときに対応できず、別に移した場合入れ違いでここを狙われてしまえば対応できねェ)

一方通行(どっちも可能性がある以上、どっちが正解なンかわかりゃしねェ)


 決断を迫られている一方通行だったが、彼には他にも気になる点があった。


一方通行(街ン中駆け回っているときに感じたあの気分の悪りィ感覚、やっぱりあのクソ野郎どもも動いているっつゥことだな)


 学園都市の暗部組織。この街の裏の世界を暗躍する者たち。
 一方通行は今まで何回かその者たちと接触したことがある。
 そのときに感じた肌にまとわりつくような嫌な感覚、それと似たようなものを彼は感じていた。


一方通行(とにかく、俺に遊ンでいる時間なンざ残されていねェっつゥわけだ)




 自動販売機で買った缶コーヒーを開け、一口含む。
 少年に、近づく人影達があった。


一方通行「……あン?」

スキルアウト「よお。お前一方通行だろ?」


 気付いたら一方通行は一〇人くらいの男たち囲まれていた。
 彼らの格好を見る限り、健全な学生生活を送っているような者には見えなかった。
 武装無能力集団(スキルアウト)。真っ当な学生というレールから外れた無能力達が集まった武装集団。
 そんな男たちが一方通行の行き先を阻む。


一方通行「人違いだ。人ォ捜してンならアンチスキルかジャッジメントに行け」

スキルアウト「嘘ついてんじゃねえよコラ! わかってんだよこっちはよ!」


 吠える男を見て一方通行は面倒臭そうに頭を掻く。
 一方通行がとある無能力者(レベル0)に敗北してからは、こういう勘違いした馬鹿が絡んでくることはよくあった。
 おそらく今回も同じようなことだろう。そんなことを思いながら左手を首元にある電極のスイッチへと運ぶ。


スキルアウト「ちょっと聞きたいことがあってよ。俺たち人を捜してんだけどな」

一方通行「オマエらの事情なンざ知ったことねェよ。これ以上邪魔しよォなンて考えてンならミンチにして――」

スキルアウト「お前『結標淡希』と知り合いだろ? アイツが今どこにいるかとか教えてくんねえかな?」

一方通行「……は?」


 スイッチを押そうとした手が止まる。
 明らかに無関係だろう人間から、今自分にとって一番優先度の高い名前が出てきたからだ。


スキルアウト「俺らちょっとやばいことになっててよ。どうしてもその女をある『場所』に連れて行かなきゃいけねえんだ」


 この言動から彼らは何者かに脅されて、結標淡希を捜索していることがなんとなく分かる。
 その何者かとは、結標を狙っている者、または組織。
 彼らをたどっていけば、彼女を追っている何かに近付くことができるのではないか。
 ひいては、結標淡希へたどり着くための何かを得ることが出来るのではないか。


一方通行「……喜べオマエら。オマエらにチャンスをやる」

スキルアウト「あ? 何言ってんだテメェ! 質問に答えやがれコラ!」


 真ん中に立っていた男に同調するように周りに居た他の男達も野次をあげる、
 だが一方通行はそれを気にも止めない。


一方通行「オマエらが結標を連れて行かなきゃいけねェっつゥ『場所』を吐きやがれ。そォしたらよォ――」


 白い少年は口元を引き裂いたような笑顔を浮かべた。


一方通行「いつもなら愉快なオブジェになってもらうところを半殺しで勘弁してやるからよォ」


 電極のスイッチが押される。
 この場の全てを支配する、圧倒的なチカラを振るうためのスイッチが。


一方通行「っつゥわけで選べェ。まァ、オマエらにとっては選択肢なンざねェ、優しい優しいサービス問題なンだけどなァ?」


――――――


行間主人公化とした一方さん

次回『S5.空間移動中継装置計画(テレポーテーションけいかく)』

今回で実はあれそうやったんかみたいな話出るけど8割くらい後付サクサク

投下


S5.空間移動中継装置計画(テレポーテーションけいかく)


固法「――まったく、ここは溜まり場じゃないって何度言えば……というか何か増えてるし」

佐天「あはは、すみません」

打ち止め「お邪魔してまーす! ってミサカはミサカは元気よく挨拶してみたり」

固法「誰この子? こころなしか御坂さんに似ているような気が……」

打ち止め「お姉様の従姉妹の打ち止めでーす、ってミサカはミサカは自己紹介してみる」

固法「そ、そう。固法美偉よ。よろしくね打ち止めちゃん」


 部外者二人組が真面目なジャッジメントの先輩固法美偉と挨拶をしている中、他のメンツは初春飾利の席周辺に集まっていた。
 初春がキーボードを高速でタイピングしている中、上条が問いかける。


上条「ところでどうやって結標を見つけるつもりなんだ?」

初春「えー、シンプルに監視カメラや衛星カメラの映像から捜す方法ですかねー」

美琴「でもそれって危険じゃないかしら? 昨日黒子の動きを誘導するために映像を差し替えられてたのよね?」

初春「そうですね」

美琴「その差し替えしたヤツらも結標を狙っている=他の勢力には狙わせたくないってことだから、今もなお結標の映像を隠している可能性があるわ」

初春「正解ですよー御坂さん。実際映像を偽装されている可能性が高いですねー」


 そう言うと初春はキーボードのエンターキーを押す。
 正面のディスプレイに監視カメラの映像と思われる動画ファイルのサムネイルがずらっと並んでいる映像が映った。


初春「なぜなら、昨日の朝六時から今現時刻にかけて結標さんと思われる人物を検索をかけたところ、出てきたのは事件当時のヤツだけでしたから」

上条「それはおかしいな。昨日は一日一方通行と結標は一緒に外出してたはずだ。だったらどっかのカメラに映っててもおかしくはないはずだ」

 上条は昨日その二人に会っていた。場所はショッピングモールだった。
 その建物内にも監視カメラは存在するだろうし、そこまで行く道中にも数え切れないほどの監視カメラがあるはずだ。


黒子「ということは、その結標を狙う勢力とやらは今現在も、監視カメラに映る結標淡希の映像を全て別の映像に差し替えているということですの?」

初春「そういうことになりますねー」

美琴「厄介ね」


 美琴が考え込むように目を細める。


美琴「ああいうのって監視カメラが壊れてました、とか監視カメラを整備のため切ってました、とかみたいな言い訳して証拠隠滅するのがお決まりのパターンでしょ?」

美琴「それだったら映像が消えている監視カメラには結標が映っていた、ってことでそこを手がかりにすればいいわけだけど、それが使えないってことになるわよね。今回の場合」


 同じく黒子も考え込みながら美琴に続く。
 

黒子「まあ、そもそも結標淡希が監視カメラの映る場所を歩いてくれているかどうかも怪しいですわね」

上条「どういうことだ?」

黒子「もともと彼女は裏の人間なのでしょ? でしたら監視カメラや衛星カメラを避けて移動する技術を持っていてもおかしくはないですし」

黒子「そもそもずっと監視カメラがない場所に隠れているというパターンもありますわね。ホテルとか自宅とかそういう場所にいるのならカメラに映りようがありませんし」

初春「それに関しては問題なさそうですねー。ここ数時間監視カメラの映像が偽装された痕跡がありますので、間違いなく彼女は映っていますよ」

美琴「えっ、そんなことがわかるの?」

初春「ええ、まあ。頑張ってあぶり出しました」

黒子「よくそんなことができますわね。偽装というのは元あった映像を違和感のない映像に差し替えているようなものでしょう? 傍から見たら絶対に気付けないと思いますが」

初春「たしかにこれをやった人は映像を差し替えた、という形跡自体消しちゃっているので普通に見ればまずわかりませんよ。けど、実はこの映像の差し替え自体は完璧な差し替えじゃないんですよねー」

黒子「完璧じゃない?」





 はい、と返事をして初春はキーボードを叩く。
 するとデスクの上にある八つのディスプレイが一気にある映像に差し替わる。


黒子「これは……昨晩の事件のときの映像ですの?」

初春「そうです。私たちが苦渋を味わされた忌々しい映像ですねー」


 軽い感じで言ってはいるが初春の目の中は笑っていなかった。


初春「一番わかり易いやつだとそうですねー、この左上のディスプレイを見てください」


 ディスプレイに映っていたのは三人の人物だった。
 一人はサラリーマン風の男。バス停の前でバスを待っている様子だ
 もう二人は男女の学生だった。仲良く談笑しながら画面から見て手前へ向かって歩いていく。
 車道側を男子学生が歩いているところから見て、気配りのできる少年なんだとわかる。


上条「……? なにかこれおかしいのか?」

初春「いえ、これだけではおかしいかどうかは判断できません。この映像をAの映像として、次にその右隣の画面を見てください」


 先ほどの映像と似たような風景のものだった。
 ところどころ細部が違うためおそらく同じ場所にある別の監視カメラなのだろう。
 その証拠に先ほど映像に映っている歩道の向きは逆になっている。
 そのため男女二人組が左右同じ位置で奥に向かって、同じように談笑しながら歩いている。
 しかし、その映像には結標らしき人物が歩道から路地裏に入るシーンが映っていた


初春「このカメラはAの映像を撮ったカメラと同じ場所にあるものです。この二つは死角を消すためにV字に隣接して設置されています」

美琴「なるほどね。つまりこのカメラは、さっきのカメラが映している場所から見て隣の位置を映しているわけか」

初春「そうです。ちなみにこの映像は見て分かる通り、結標さんが映っているので何者かに差し替えられた偽の映像です」

黒子「でしょうね。事実この時間帯では結標本人は別の場所にいたはずですから」

初春「では、この映像をBとしてさらに右隣の画面も見てください」


 映っていたのはやはり同じような背景の映像だった。
 角度が大幅に変わっているが先ほどのカメラたちと同じ歩道を映していることが分かる。
 その映像にも相変わらず車道側に男、歩道側に女という並びで同じ男女が歩いていた。


初春「このカメラも設置場所は違いますが、先ほどの結標さんが映っていたカメラをカバーする形で映像を撮るようになっています」

黒子「それはなんとなくわかりますわね。三つとも同じ二人組が歩いていますので。で、これがどうかしたのでしょうか?」

初春「わかりませんか? この映像をCとして、ABCの映像を時系列通り順番に見てみるとある違和感が浮かび上がってくるんですよ?」


 そう言われて三人は三つの画面を凝視する。
 繰り返し流れる映像を見るうちに上条はなんだか目が回るような気分になってきた。
 そんな少年に構わず少女二人は、


美琴「……なるほど。そういうことね」

黒子「……はい。わかりましたわ」

上条「えっ、マジで?」


 呆気を取られる上条。
 早抜け方式のクイズで他の人が次々と抜けていく中、答えがわからず孤立していく解答者はこういう気分なのだろう。


美琴「アンタこんなのもわからないわけ?」

黒子「しょうがないですわよお姉様。見るからしてこのような間違い探しみたいなものが不得意そうな感じですし」

上条「おのれ! 馬鹿にしやがって! 見てろよ!」




 人を馬鹿にしたような目で見てくる女子中学生二人を尻目に、再びリピートされ続ける映像に目を向ける。
 何度も眺めているうちに上条はあることに気付く。


上条(……あれ? 何かBの映像おかしくねえか? よく見たら女の子が車道側を歩いているように見えるんだけど)


 上条の思っている通りBの映像に映っている少女は車道側を歩いていた。
 Aの映像とは逆向きに歩道を映しているからなかなか気付けなかったのだろう。


上条(AとBの映像の中で入れ替わったのか? いや、待てよ? その場合Cの映像でまた同じ位置に戻ったってことにならねえか?)


 上条の言ったことを実践した場合、AからBへ移り変わるタイミングで男女が位置を入れ替わり、BからCのタイミングで元の位置に戻ったということになる。
 ハッキリ言ってそんなことをするのは不自然だ。狙ってやらないとそんな変な挙動が起きることはまずないだろう。
 上条はBの映像は何者かに差し替えられたもの、という先ほどの初春の言葉を思い出していた。


上条「つまり、このダミー映像を作ったやつが男女の位置をミスって配置してしまった、ってことか?」

初春「はい! 正解です!」


 初春が正解者に向かってにっこりと笑った。


初春「このような矛盾した映像が差し替えられたモノの中にいくつか見られました。もちろん、ここ数時間で差し替えられたものにも」

黒子「しかし、このようなところに穴があるとは、相手方も思ったより間抜けのようですので」

初春「いえ。おそらくこの差し替え用の映像はツールかなにかで機械的に作ったものだと思います。こんなものを人力でやるとしたら難易度と手間が一気に上がりますからね」

美琴「そっか。機械だからこそ矛盾点ってやつに気付かずに映像を作ってしまった。差し替えているやつも差し替える作業でいっぱいいっぱいだからそれに気付けかなかった」

初春「そうです。なので、リアルタイムで監視カメラ映像を監視していき、差し替えられた映像を見つけることができれば、その近くに結標さんがいるということがわかります」

美琴「……ちょっと待って初春さん」


 美琴がなにかに気付いたように止める。


美琴「今リアルタイムにカメラの映像を監視するって言ったけど、学園都市の中には何十万単位で監視カメラが存在するのよ? それを全部一人で解析するつもり?」

初春「あっ、その点は大丈夫です。目には目を理論で機械相手にはこちらも機械を使います」


 そう言うと初春は片手でキーボードを走らせる。
 すると画面に『違和感さがすくん』というアプリが表示された。


初春「こんなこともあろうかと午前中に作ったものです。先ほどのような簡単な矛盾点程度なら自動で抽出してくれるツールですよ」


 「それでも漏れはありますので、結局私が直に見て回らないといけないことは変わりませんけどね」と初春は付け加える。


黒子「貴女、そんなものを作っていたなんて最初からこの件に関わる気満々でしたのね?」

初春「はい。白井さんと同じですよ」

黒子「ッ」


 黒子が体をピクリとさせる。


初春「知ってますよ? あれから結標さんに関する資料を片っ端から漁っていたのを」

美琴「そうだったのね」

黒子「……たまたま! たまたまですの!」


 照れくさそうにほのかに頬を紅潮させ、黒子は目を逸らした。
 その様子を見て微笑む他少女二人を見て「もう!」と声を上げる。




初春「ちなみにこの矛盾映像から結標さんの行動を分析してみたところ、どうやら今ちまたを騒がせている研究所襲撃犯が結標さんっぽいんですよね」

上条「えっ、結標がそんなことを!? なんでっ!?」


 パイプ椅子から飛び上がるように上条は立ち上がった。
 それに戸惑いながら初春は首を傾げる。
 

初春「さ、さあ? こればかりは私にもさっぱり」

黒子「たしか盗まれているものは研究データとかでしたか? 狙われている研究所のジャンルはバラバラのようですが」

美琴「何か共通点があるってことかもね。私たちにはわからない何かが」

上条「……ま、考えてても仕方がねえか」


 そう言うと上条は部屋の出口へと体を向ける。


美琴「どこに行くつもりなのよ?」

上条「研究所を狙っているってことは、そういう施設が集まっている場所に結標がいるってことだろ? 行ってみればもしかしたらバッタリ会えるかもしれねえ」

初春「えっ、でもどこにいるかわかってから動いたほうが効率がいいと思うんですが」

上条「ああ、それはわかってる。けどこんなところでジッと待ってるなんて俺にはできねえ」

美琴「はぁ、アンタらしいわね」

上条「なんかわかったら携帯に連絡してくれ。番号は御坂が知っているから」


 上条はそう言い残して部屋の出口へと足を進めた。
 自席で仕事をしていた固法が気付く。


固法「……あら? お話はもういいのかしら?」

上条「はい、助かりました。部外者が長時間居座っててすんません」

打ち止め「あっ、ヒーローさんもう帰っちゃうんだ! もっと遊びたかったなー、ってミサカはミサカは残念がってみたり」

佐天「また遊びに来てくださいね上条さん! 御坂さんが待ってますよー?」

美琴「ちょ、佐天さん!! 変なこと言わないでよ!!」


 姦しい少女たちの声を背に上条当麻は部屋の外へと出た。


上条「……さて、行くか」


 階段を駆け下りる。結標淡希にもう一度会うために。
 たとえ一方通行に恨まれようが。この足を止めることはない。
 なぜなら、これが今の自分がやるべきことだと信じているからだ。


―――
――






 とある高層ビルの中にある一室。
 テーブルといくつかのイス、観葉植物が数本置いてあるだけの簡素な部屋。
 暗部組織『スクール』の複数ある隠れ家の中の一つ。
 そこに一人の少女がイスへ腰を掛けて携帯端末で通話していた。


海美「――つまり、私たちの工作がバレ始めている、ってコトかしら?」


 ホステスが着るような丈の短いピンク色のドレスを着た中学生くらいの少女、心理定規(メジャーハート)こと獄彩海美が問いかける。


誉望『始めているってよりたぶんもうバレてますね』


 通話先の相手は誉望万化。
 彼女と同じくスクールに所属する少年だ。


誉望『こっちが情報操作した監視カメラがある周辺エリア、そこに対するアクセス数が明らかに増加しているんスよ。それってつまりそういうことっスよね?』

海美「どうやってこちらが操作した監視カメラを割り出したのかしらね?」

誉望『さあ? 俺の隠蔽工作にミスはないとは思ってますから、おそらくこのツールに何か穴があったとしか思えないスね』

海美「ああ、例の組織から共同戦線を張る代わりにもらったものね。あそこはそういうの専門の組織だった気がするから、不備があるとは思えないけど」

誉望『どうせあれっスよ。試作品を俺たちに押し付けてデータを取ろう、っつー魂胆スよ』

海美「ま、いずれにしろ今ウチに勝負を挑んできているハッカーさんは、相当の技術を持っているってことよね?」

羨望『そうスね。一体どこの誰だか』

海美「わからないの? アクセスログから逆探知するとかして」

羨望『あー、一応やってはみたんですが時間がかかりすぎそう、っつーか無理っぽいスね』


 バツの悪そうに誉望は諦めた感じに、


誉望『何か複数の海外サーバーを経由してアクセスしてるみたいなんスよ。しかも一つ一つのサーバーの中にダミーをいくつも仕込ませて』

誉望『そんなもんに時間をかけてもあれだし、下手にやってこっちの情報すっぱ抜かれたらたまったもんじゃねえスからね』


 海美は空いた手を顎に当て考える。


海美「たしかにそれは賢明ね。学園都市は外への情報流出対策に内外からSランクのセキュリティーを張っているわ。海外サーバーを利用しているということは、つまりそれらを掻い潜っているということ」


 相手が悪すぎるわ、と付言する。


羨望『でもどうするんスか? このままいけば次座標移動が監視カメラに映れば、いくらこっちがダミーを張ろうが向こうは居場所を補足するってことになりますよ?』

海美「……そうね」

??「なーにコソコソ話してんだ心理定規」


 電話をする海美の後ろから声がかかった。
 少女は携帯電話を耳に当てたまま振り返る。




海美「あら? 垣根じゃない。別に。ただ誉望君とお仕事の話をしていただけよ?」

垣根「へー、そうか。スピーカーにしてどういう状況になっているのか話せ」


 言われた通り少女は端末を操作してスピーカーモードにする。
 そこから誉望により事細かく状況説明が行われた。
 垣根は説明を聞き、口角を上げる。


垣根「別にいいじゃねえか。放っておけよ」

羨望『えっ、いいんスか? このままじゃ計画が狂ってアイツらとの協定違反になってしまうんじゃ……』

垣根「その謎のハッカーとやらの裏にヤツがいるかもしれねえんだ。俺が興味あるのはヤツだけだからな」


 不敵な笑みを浮かべつつ垣根は続ける。


垣根「大体、協定違反になったところで俺たちには何にも関係ねえだろ。逆らえば潰す。それだけだ」

海美「正直、私はあの組織との正面衝突は避けたいのだけど。いくら超能力者(レベル5)第二位のあなたがいるからと言ってもね」

垣根「そうかよ。なら、せいぜい死なねえように周到に生き残る準備しとくことだな」


 そういうわけでそのまま情報操作は続行だ。
 そのセリフを聞いて電話先の羨望は「はい」と一言だけ返し電話を切った。


海美「ところで貴方は今までどこに行っていたのかしら?」

垣根「ただの昼休憩だよ」

海美「そう。せっかくなら誘ってくれたら良かったのに」

垣根「俺に昼飯代奢らせようとする気満々の女なんざ誘うわけねえだろ」

海美「それは残念」


 クスリと笑う少女を見て、垣根は舌打ちをした。
 そんな中、再び海美の持つ携帯端末に着信が入る。


垣根「あん? また誉望の野郎か?」

海美「いいえ、違いそう。……こちら心理定規」

?????『……私だ。進捗状況を聞くために電話した』


 電話口から聞こえてきたのは少女の声だった。
 幼さを残した声色とは裏腹に冷静かつ自信に溢れたような。


海美「どうでもいいけど名前くらい名乗ったほうがいいと思うけど? 誰かわからないから名乗れ、っていう面倒なやり取りが起こるかもしれないからね。ショチトルさん?」

ショチトル『貴様はそんな面倒なやり取りをさせるような輩ではないだろう』


 彼女の名はショチトル。垣根たちスクールと同等のランクの暗部組織『メンバー』に所属する少女。
 海美が知っているのはその程度の知識であった。
 




海美「進捗状況はあまり良くはないわね」

ショチトル『どういうことだ? こちらが送ったツールとやらを使ってはいないのか?』

海美「使っているわよ。そのうえで良くないと言っているのよ」


 「このままじゃ他の組織が先にターゲットを捉える可能性があるわ」と海美は付け加えた。


ショチトル『それは困る。どうにかしろ』

海美「どうにかと言われてもこっちが困るのだけど。こちらも優秀なハッカーが工作しているけど、向こうは向こうでそれを上回る技術を持っているみたいだし」

ショチトル『そんな事情こちらとしては知ったことではない。出来ないというのであれば貴様らの目的のものをこちらで潰す。そういうことになるが』


 ショチトルの発言をスピーカーで聞いていた垣根は舌打ちをし、海美の携帯端末を取り上げた。


海美「ちょ、ちょっと――」

垣根「わかったわかった。こちらとしてもスケジュールは守る。そのほうがこちらとしてもメリットがあるからな」

ショチトル『当然だ』

垣根「だが、これだけは言っておくぜ」


 垣根の表情が変わる。いや、正確には彼のまとっている雰囲気が。
 立ち塞がるものは全て破壊してやる。邪魔するヤツは全て殺す。歯向かうものは絶対に許さない。
 そんな彼の意思をそのまま現したようなドス黒いものへと。
 

垣根「テメェらとは利害の一致で手を組んでいるに過ぎねえ。部下になったつもりも仲間になったつもりもねえ。だから、あんまり調子乗ってると皆殺しにすんぞ?」


 そう言い残すと垣根は手に持った携帯端末を握り潰した。
 バラバラになった端末が部品と残骸になって床に落ちて散乱する。


海美「……もう! その端末のデザイン気に入ってたんだけど?」

垣根「悪い。ついやっちまった。反省はしてねえ」


 垣根は適当に謝りながら部屋の奥へと足を進めていく。


海美「どこに行く気かしら?」

垣根「誉望のところ。俺もそろそろ仕事しねえとな」


 ニヤリと笑う垣根の背中に一瞬だが天使の羽根のようなものを海美は見た。
 目の錯覚のような現象だったが海美は特に驚くことなく見送る。
 なぜなら、それが彼の超能力者(レベル5)としてのチカラだと知っているからだ。


―――
――






 第一〇学区にある廃工場。
 錆びついた機械や中身のない埃のかぶったコンテナが積まれているところから長い間放置されていることがわかる。
 人一人いないそんな廃墟に一台の白いバンが入ってきた。
 物資の搬入口付近に停まり、中から一人の男が出てきた。
 短髪に丸メガネをし、白衣を上から着ているいかにもな研究職の人間だ。


研究員「お、おい! 来たぞ! どこにいいる!」


 周りに他の人がいないからか、大声で誰かを呼んでいる様子だ。


研究員「早く来い! 私も忙しいんだ! 座標移動を早く引き渡せ!」


 しかし、いくら研究員の男が叫んでも誰一人返事がない。
 おかしいなと思ったのか男がなにかを確認するためか、携帯端末を取り出したとき、


 ガキキキキキッ!!


 という金属が捻じ曲がるような音が背中から聞こえてきた。


研究員「なっ、何だ!?」


 異様な音に驚き、後ろへ目を向ける。
 そこに映ったのは、上から落石でも受けたように天井から潰れているバンだった。
 予想外の光景に男はひっ、と小さな悲鳴を上げる。
 潰れたバンの中から一人の少年が立ち上がった。
 学園都市最強の少年が。


一方通行「よォ、オマエだよなァ? あのスキルアウトどもに結標淡希の捕獲を依頼した三下野郎はよォ?」

研究員「お、お前はあ、一方通行ッ!?」

一方通行「ほォ、俺のこと知ってンのか? それなら話が早ェ」


 そう言うと一方通行は軽くバンを踏みつける。
 バガン、という轟音を上げ足元にあったバンが鈍角のVの字にひん曲がった。
 同時に少年はふわっと宙に浮かび上がり、男の目の前に着地する。


一方通行「この俺に逆らったらこォいうことになるってことぐれェ、すでに理解しているっつゥことだよなァ?」

研究員「な、なぜお前がこんなところにッ!? スキルアウトどもはどうしたッ!?」

一方通行「さァな? その不細工な顔ォグッチャグチャに整形してみれば、もしかしたらわかンじゃねェのかなァ?」

研究員「ひっ、ひぃ!?」


 男はあまりの恐怖に腰を抜かして尻餅をついてしまう。
 一方通行はそれを見下ろしながら、悪魔の笑顔を浮かべ、


一方通行「オマエらのアジトを教えろォ。そォしたらこのまま何事もなかったかのよォに見逃してやるからよォ?」


 人一人すらいないはずの廃工場。
 そこから悲痛な断末魔が鳴り響いた。


―――
――





円周「……うーん、ここをどーんってやってかーんって感じでやればいけるかなあ?」


 木原円周。
 お団子頭を左右に揃えた黒髪で、首には携帯電話・小型ワンセグテレビ・携帯端末をストラップをつけてぶら下げているのが特徴。
 『従犬部隊(オビディエンスドッグ)』という会社のオフィスに居候している中学生くらいの少女だ。
 フローリングに座って、部品やら工具やらを広げて何かを組み立てている様子だった。


円周「やっぱり違うかなあ? ぽーん、って感じ? いや、きゅいーんってのも捨てがたい」

数多「何一人でわけのわからねえことブツブツ言ってんだ?」

円周「あっ、数多おじちゃん」


 円周を見下ろしている数多おじちゃんと呼ばれている男。
 木原数多。色素を抜いたような金髪と顔面左部分に大きく刺青を入れている、従犬部隊の社長をしている科学者だ。
 科学者だからか会社の社長という立場なのに白衣を袖に通していた。


円周「ちょっといろいろ実験しているんだー。ねえ数多おじちゃん、ぱこーん、と、どかーん、はどっちが正解だと思う?」

数多「わかるか。ちゃんと日本語で喋れ」


 円周の奇天烈発言を適当に流し、数多はA3用紙が丸々入りそうな大きな黒いカバンを持って玄関の方へ向かう。


円周「あれ? 数多おじちゃんおでかけ?」

数多「昼飯食ってるときに言っただろうが。仕事だよ仕事」

円周「本当にー? 真っ昼間からえっちな店に行くつもりなんじゃないのー?」

数多「そんな暇人みてぇなことはしねぇっつーの。俺はあいにくと大忙しなんだよ」

円周「じゃあ一体何の仕事に行くつもりなの?」

数多「何って、ただの開発関係の打ち合わせだ」

円周「曖昧な言い方だなー。これはあれだね、女の子身体を開発する的な意味の開発なんだね」

数多「んなわけねぇだろ。つかお前最近下ネタ多いぞ? 一体誰の思考をトレースしてやがんだ」


 数多は呆れた顔で靴を履き、玄関のドアへ手をかける。


数多「晩飯までには帰る」

円周「帰りにケンタッ○ーのフライドチキン買ってきて」

数多「あん? お前そんなもんが食いてぇのか?」

円周「うん。今日の私はそういう気分なんだあ」


 目を輝かせながらこちらを見てくる円周を見て、数多はため息を吐いて、


数多「へいへい。買ってきてやるから帰るまでにそのガラクタ片付けとけよ」

円周「わあい」


 無邪気に喜ぶ少女をよそ目に、数多はドアを開け部屋の外へと繰り出した。


―――
――





 櫻井通信機器開発所。一般的には通信機器の開発をしていると公表されている施設だ。
 一〇階建てのビルを、しかも一号棟と二号棟の合わせて二棟をそのまま与えられていることから、この研究機関の大きさが伺える。
 その付近に一台の黒塗りのワンボックスカーが停車されていた。


滝壺「……なかなか動きがないね」


 滝壺がぼーっと車の窓から外を見ながら呟く。


絹旗「というか座標移動(ムーブポイント)の動き自体超なくなってますよ? 新井植物科学研襲撃のニュースから超更新がないところから見るに」


 座席にもたれ掛かりながら、絹旗が携帯端末を操作してニュースサイトを確認する。
 何度更新をしても変わらず同じニュースがトップに上がった。


フレンダ「もしかしてこれって、ターゲットが欲しいモノ手に入れちゃったってことじゃない?」

麦野「そうかもね」


 麦野が頬杖を付き、窓の外の景色を眺めながらフレンダの問いかけに適当に返した。


フレンダ「ちょ、それってマズイんじゃない!? このままじゃ私たち、タバコ臭い車でドライブだけして任務終了報酬なしってことになる訳だけど!」

麦野「うるせーな。まだそうと決まったわけじゃないでしょ。そういう言葉は一晩明けてから言いやがれ」

絹旗「たしかにそうですね。こういう破壊工作がやりやすいのは超夜中です。少なくとも夜が明けるまで様子を超見ないと判断がつきませんね」

フレンダ「えぇー? もしかして最悪こんな場所でこんな車の中で一晩を明かさなきゃいけないって訳? 嘘でしょ?」

麦野「ま、そうならないことをせいぜい祈ることね。神様に、いやこの場合は座標移動様、にかな?」


 その言葉を聞いてフレンダはくたびれた表情をする。本当に疲れたのか座席をめいいっぱい後ろに倒してから寝転んだ。
 やれやれ、と言った感じに麦野は視線を運転席の方へと移す。


麦野「つーわけで浜面? そろそろティータイムの時間だから適当にお菓子と飲み物買ってきて」


 今まで会話に参加せずハンドルに顔を突っ伏していた浜面は、ゆっくりと顔を上げる。
 はいはい、と適当に返事をして車のパーキングブレーキを解除し、シフトレバーをDに持っていく。


麦野「は? 何やってんのよ浜面?」

浜面「何って車の発進準備をしてんだけど?」

麦野「誰が車使って買いに行けっつったよ?」

浜面「はあ!? おま、近くのコンビニまで徒歩二〇分くらいかかんだぞ!? それを歩いていけって言うのかよ!」


 ぎゃーぎゃー吠える浜面を麦野は舌打ちしてから睨みつける。
 その迫力に思わず浜面はひっ、と声を上げた。


麦野「私らがここ離れている間にターゲットがここを襲撃しにきたら駄目でしょ? だから、ここで待機しとかなきゃいけないってわけ」

浜面「だ、だったらお前らだけ車から降りて待機しとけばいいだろ?」

 その発言を聞き、女性陣が一斉に浜面仕上を見る。


麦野「は? 何で私たちがこんなクソみてえな道端で突っ立ってなきゃいけねえんだ?」

フレンダ「そうだそうだ麦野の言う通り! 結局、そんなことで仕事に使う大事な体力を使うわけにはいかないって訳よ」

絹旗「アスファルトの上って立っているだけでも超体力持っていかれますからね。私たちがそれで消費する体力と浜面がコンビニまで往復する体力、どっちが超重要か考えるまでもないですよね?」

滝壺「大丈夫だよはまづら。そんなはまづらを私は応援してるから」


 ひでえ女たちだ。
 そう思いながら浜面は車を降り、近くのコンビニがある方向へ走った。

―――
――



初春「――ッ!? こ、これは」


 黒子と初春は監視カメラの情報の監視を続けていた。
 先程まで一緒に居た美琴は、本来の役目でもある打ち止めの面倒を見るために、応接スペースに行き佐天と一緒に遊んでいる。
 

黒子「どうかなさいましたの?」


 黒子は大きく目を見開いている初春を見て、その視線の先へ目を向ける。
 そこには学園都市全体の地図が映っているディスプレイがあり、その中にある第七学区の南東部分に赤い点の集合があった。


黒子「もしや結標淡希に動きがありましたの?」

初春「いえ、そうじゃありません。くっ、やられたっ……!」


 初春が苦虫を噛み潰したような表情をする。
 そんな彼女を見て、黒子はもう一度地図の映っているディスプレイに目を向けた。
 そしてその原因に気付く。


黒子「監視カメラの偽装情報が複数箇所にある……?」


 彼女の言う通りディスプレイに映っている地図には点の集合が複数あった。
 最初に気付いた第七学区の南東部分、第一〇学区の中心部分、第一七学区の東部。
 計三箇所の地域に監視カメラの映像を操作された形跡が残されていた。


初春「この展開を予想していなかったわけではありませんが、いざやられると辛いものがありますね」

黒子「いろいろな地域に偽装情報をばら撒き撹乱させるのが目的ですわね」

初春「一度に作成できる偽装映像の数は一地域分が限界だと踏んでいたのが仇になりました」

黒子「一地域分の物を三つに分散したのではありませんの?」

初春「いえ、作りの粗い偽装映像しか抽出しないとはいえ、一箇所にある点の数は今までの一箇所分とほぼ同等の数はあります」


 ツールの性能を上げたか同じツールを三つに増やしたか。
 初春は次々と予想を口にするがいくら考えても答えがわかるわけではない。


黒子「この中のどれかが本物で、そこには結標がいる可能性があるってことですわよね? 正解が分かればそこに向かうことが出来ますのに、歯がゆいですわね」

初春「断言は出来ませんがこの中に本物はないと思いますよ?」

黒子「そうなんですの?」

初春「結標さんはほとんど研究所周辺のカメラに映り込んでいます。つまり、襲撃するときだけ顔を表に出しているということです」


 初春はマウスを操作して三箇所それぞれを拡大表示し、周辺情報を見えるようにした。


初春「見ての通り周囲一〇キロ以内に研究施設は存在しません。今までは遠くても二、三キロ以内でした」

黒子「つまり、これらのダミーは我々を混乱させるためだけに作られたものというわけですわね?」

初春「そうです。が、その可能性が一〇〇パーセントというわけではないので、さっきも言ったとおり断定はできませんが……」

黒子「しかし、そう考えねば相手の思うつぼになってしまいますの」

初春「幸いなのは、相手がまだ私たちが襲撃犯=結標淡希という前提で動いているということに気付いていないことですね」


 もし気付いていたら、研究所三箇所にダミーを撒くなどしてくるはずだろう。
 初春は冷や汗のようなものを額に浮かべながら、


初春「仮に相手がそれに気付いてしまったら、今までの方法では正確の情報を掴むのが困難になってしまいます」

黒子「……何か策はありますの?」

初春「今の所お手上げですねー残念ながら。けど、どうにか出来ないか考えてはみますよ!」





 ふんっ、と鼻息を荒げ両手ガッツポーズを胸辺りに持ってきてやる気アピールをする初春。
 明るく見せているが内心焦りやプレッシャーに苛まれていることに、黒子は何となく察していた。


黒子「しょうがないですわね。息抜きにでも、わたくしが紅茶でも入れて差し上げますわ」

初春「わぁ、いいんですか? どうせならティースタンドにお菓子とか載せてアフタヌーンティーやりましょうよ!」

黒子「調子に乗るんじゃありませんの」


 黒子はえへへと誤魔化し笑いをする初春を背に給湯室へと向かう。
 ふとその道中に応接スペースの方へ目を向けると部外者三人組がトランプをして遊んでいた。
 注意をしていた固法はもう諦めたのかデスクに座って事務作業をこなしていた。
 

黒子(……そういえば映画映画言っていましたが、結局行かなかったのですわね)


 そんなことを考えながら給湯室にたどり着き、ティーポットに入れるための湯を沸かし始める。
 その様子をぼーっと眺めていた黒子に近付いてくる者がいた。


美琴「黒子?」

黒子「あっ、お姉様?」


 肩をトンと叩かれたため少し体をビクつかせる。


黒子「な、なんでしょうか?」

美琴「あんまり状況は良くなさそうね」


 美琴は黒子の浮かない表情から事態を察したようだ。
 大切なお姉様に余計な心配をさせるなんて何をやっているんだ。
 黒子は自分を戒める。


美琴「私に手伝えることある?」

黒子「いえ、大丈夫ですわ。お姉様はお姉様の役割を果たしてくださいまし」


 黒子の言う通り彼女には彼女のやることがある。打ち止めという少女の面倒を見ること。
 嵌められたとはいえ、自分たちのせいで今もどこかで戦っているだろう少年、彼からの頼み事だ。
 彼女にはそれを疎かにしては欲しくはなかった。


美琴「……わかったわ。でも、何かあったら私を頼りなさいよ? 私はアンタのお姉様なんだからね」

黒子「ありがとうございますお姉様」


 心強いお姉様の言葉を聞き、黒子は柔和な表情を浮かべた。


―――
――






 第一〇学区にある閉鎖された研究施設。
 有刺鉄線に巻かれ錆びついた鉄柵に囲まれており、敷地内は整備されていないのか雑草がところどころ生い茂っている。
 正門には『関係者以外立ち入り禁止』の看板がでかでかと番線で括り付けてあった。
 その看板の前で、一方通行は腰を落としながら首に付いている電極をいじっていた。


一方通行「――よし、予備のバッテリーに交換完了だ。とりあえず用が終わったらメインの方を充電しねェとなァ」


 一方通行の電極には今サブのバッテリーが取り付けられている。
 能力使用モードの持続時間は一五分間とメインの半分だが、彼にとっては有用な戦力だということには変わりない。
 バッテリーの交換が終わった一方通行は立ち上がり、敷地内を眺めながら柵の外を歩いて回る。


一方通行(ここがヤツらの住処だということは間違いないだろォ。ヤツの状態からして嘘は付いていなかったはずだ)


 ここの情報は先程接触した研究員から得たものだ。
 口で脅しても吐かなかったから、軽く拷問じみたことをしただけですぐに吐いた安い情報。
 その真偽は一方通行が能力による生体電流の読み取りと、嘘にまみれた世界で磨き上げた洞察力によって正しいものだと判断した。
 もしこれが嘘だとしたら、あの研究員はハリウッド俳優も霞むほどの名演技をしたということだろう。
 そんなことを考えていた一方通行だが、あるものを見てこの考えが杞憂だったことにすぐに気付いた。


一方通行(この監視カメラ、一見劣化して機能停止したスクラップ品に見えるが、動いてやがンな)


 金属部分は錆びついており、起動しているということを表すランプも消えている。
 電気を通すためのケーブルは断線しており、誰がどう見ても壊れた監視カメラだった。
 しかし、一方通行はそれらの情報などまったく気にしていない。見ているのはレンズの奥。
 機械の内側で目の前の景色を映し出そうとする部品の動きを。


一方通行(さて、住処の入り口はどこだァ? 普通に考えりゃあそこにある施設の建物だろォが)


 壁は土で汚れ、窓は割れ、中は埃でまみれている。
 扉の蝶番の部分は遠目で見ても錆びついているし、付近は草で生い茂っていた。
 どう見ても人の入ったような形跡は見られない。


一方通行(……となると)


 一方通行は敷地内にある研究施設にしては広い庭地に目を向ける。
 背の低い草が点々と生えている以外はこれといった特徴はない、普通の人間ならそう判断するだろう。
 しかし、一方通行の眼はそれを見逃しはしなかった。


一方通行(あそこだけ一センチくらい地面が浮いてやがンな。しかも不自然なことに直線にな)


 一方通行の目線の先にある地面は彼の言うように他の部分より一センチほど高かった。
 ただ高いだけなら地面が荒れることによってできた凹凸として判断できるが、その一センチの高台は一〇メートルほど直線に伸びていた。
 一方通行は電極のスイッチを入れ、鉄柵を伸び越えてその不自然な地面の前へと着地する。
 よく見てみるとその直線は別の直線と繋がっており、それらを全て繋げると一〇メートル四方の正方形が出来上がった。


一方通行「……ここだな」


 そうつぶやき、一方通行はその一センチの台を蹴る。
 すると、その四角形は金属が無理やり折り曲げられたような鈍い音を上げ、地面と垂直になるように跳ね上がった。まるで蓋が開くように。
 四角形のあった場所には地面の中へと続く坂道が地下へと伸びていた。
 そこの風景は、地上にあるまったく整備の行き届いていない廃墟と違う、明らかに作りの新しい研究所を思わせるようなものだった。




一方通行「ここがヤツらの巣かァ? アハッ、害虫駆除と行くかァ」


 能力使用モードを切り、機械的な杖を使いながらそのスロープを降りていく。
 
 一〇〇メートルほど進んだところでスライド式の扉が見えた。
 扉は分厚い鋼鉄製で、扉の横ではパネルのようなものが設置されていた。
 パネルには手形のようなものが書かれているところから、指紋や生体電流等が一致しないと開かないセキュリティのようだ。
 一方通行はそれを見て何となく手と手形を合わせてみる。当たり前だが『ERROR』の赤文字がパネルのディスプレイ部分に浮かび上がる。


一方通行「……はァ、面倒臭せェ」


 そう言って電極のスイッチを入れ、能力使用モードを起動する。
 右手を鋼鉄の扉に押し付ける。
 扉から働く抗力等のベクトルが反射され、五指が全て扉の中に埋まった。
 そのまま一方通行は扉を無理やりスライドさせる。
 機械をプレス機にかけたときのような激しい音を上げ、扉が強引に開かれた。
 その瞬間、建物内に警報が流れた。


一方通行「遅せェな。監視カメラに俺が映った時点で鳴らしとけよ。もしかして俺のこと舐めてンのかァ?」


 グシャグシャに破壊された玄関を後にし、一方通行は奥へ奥へと進んでいく。
 
 横幅五メートルもない殺風景な廊下をしばらく行くと、広間のようなところに出た。
 そこは一言で言うなら工場。
 何に使うのかわからない機械があちらこちらに設置されていて、迷路のように入り組んでいる。
 壁や天井を見る限り、高さは二〇メートルくらいで、横幅はざっと二〇〇メートルほど、奥行きは四、五〇〇メートルはあるだろうか。
 あの廃墟の地下にこんな広大な空間があるという事実に、一方通行は驚きを覚えた。


一方通行(一体ここで何を作ってやがンだ? 見たところ機械は動いてねェよォだが)


 侵入者が現れたから急遽停止したのかと思ったが、そもそも機械が動いていた形跡はなかった。
 その点から考えられるのは、作るものを作ったからもう機械を動かす必要のないということだろう。


一方通行(まァイイ。ンこと気にしても仕方がねェ。俺に出来ることは前に進むことしかねェンだよ)


 一方通行は再び歩き始めた。
 入り組んだ迷路を進んでいき、行き止まりになればベクトル操作で障害物を退かす。
 そうしながら進んでいくうちに一方通行はあることに気付く。


一方通行(別に素直に下の道進まなくても、上から跳ンで行きゃイイじゃねェか)


 何やってンだ俺は、そう思いながら一方通行は電極のスイッチに手を伸ばす。
 すると、


 ドスリッ。


 左腕に何かが刺さった音が聞こえた。


一方通行「がっ……!?」


 左腕を見る。そこには一〇センチくらいの長さの金属矢が突き刺さっていた。
 あまりにの痛さに壁に寄りかかりながら、右手で左腕を押さえる。
 ふと、自分の歩いてきた方向を見る。





一方通行(駆動鎧……!?)


 そこには真紅の駆動鎧を着た何者かが立っていた。
 アンチスキルが使っているタイプよりは少し小型になっており、手には釘打機にサブマシンガンのマガジンが取り付けられたようなものを持っている。
 駆動鎧はその釘打機のようなものを一方通行へ向けて、引き金を引いた。
 それを見た一方通行は反射的に地面に倒れ込むように横に飛ぶ。
 すると、一方通行のちょうど頭のあった空間に金属矢が突然現れた。


一方通行(あれは空間移動(テレポート)ッ!? あの野郎ォ空間移動能力者(テレポーター)かッ!!)


 駆動鎧が再び一方通行へ向けて引き金を引く。
 一方通行は無傷の右手で無理やり首筋にある電極のスイッチを入れる。
 反射という圧倒的なチカラが一方通行の体にまとわれた。
 一方通行の頭部を狙った金属矢は彼に届くことなく跳ね返る。一一次元のベクトルを介して、元あった釘打機のようなものの銃口の中へ。
 金属矢が発射されたときとは釘打機の位置に微妙なズレがあったのか、金属矢は銃身へと突き刺さっていた。

 反射により武器が破損し戸惑っている姿を一方通行は見逃さない。
 一方通行は飛び上がり、脚力や空気抵抗等のベクトルを操り、弾丸のような速度で駆動鎧へと突撃する。
 しかし、衝突する前にその駆動鎧は姿を消した。一方通行はそのまま地面に激突し、床に亀裂が走った。


一方通行「チッ、消えやがった。どこに行きやがったッ!?」


 一方通行は三メートルくらいの高さがある機械の上に飛び乗った。
 辺りを見回し消えた赤い駆動鎧を捜す。
 テレポーターはモノを七、八〇メートル近い距離飛ばすだけで優秀と言える。
 つまり、大抵のテレポーターは長距離の転移をすることはできないということだ。
 ましてや緊急回避で高度な演算をする余裕のない状態での転移などなおさら長距離飛べるわけがない。
 そう考え、近くを見渡したが見つからなかった。


一方通行(連続で転移してここを離れたか、物陰に潜ンでやがるか。いずれにしろ厄介な状況には変わりねェ)


 首元にある電極に手を触れる。
 この電極には一五分間のタイムリミットがある。
 いや、ここまで来るのに能力を度々使っていた為、もっと短い時間になっているだろう。
 バッテリーの節約の為にスイッチを切りたいが、切ると当たり前だが能力が使えなくなる。
 無防備な状態で物質の転移などと言う凶悪な不意打ちを受けてしまえば、命など容赦なく消えてしまうだろう。
 そのため一方通行は一刻も早く敵を始末したかった。

 そんなことを考える一方通行の身体にある感覚が走った。
 反射が働いたという感覚。それはつまり、攻撃を受けているということ。
 一方通行はその感覚を頼りに後方を見る。
 二〇メートルほど先の床の上、そこには先ほど見たものと同じタイプの赤い駆動鎧が釘打機のようなものを構えていた。
 しかし、それが先ほど自分と交戦した駆動鎧ではないことはすぐにわかった。
 なぜなら、


一方通行(三機だとッ!? )


 同タイプの駆動鎧が三機いた。
 直近に戦った駆動鎧は金属矢を反射することにより釘打機のようなものを破損させている。
 だが、その三機の手に持つ物は全て無傷だ。
 つまり、まったくの別の個体ということになる。


一方通行(テレポーターが四人。笑えないねェ。厄介ってレベルじゃねェぞこれは)


 一方通行は足元にある機械を踏み付ける。
 機械は軋むような音を上げる。
 ネジやナットを等の細かい部品が外れ、銃弾のような速度で駆動鎧達の方向へ飛んでいく。
 部品の弾丸は道中にある鉄板等の障害物を突き破りながら進む。散弾銃が如く破壊が駆動鎧達へ襲いかかる。
 しかし、攻撃が届く前に駆動鎧三機は姿を消した。




一方通行(チッ、ヤツらあと何機居やがるッ!? 四機いたっつゥことはもっと居てもおかしくねェっつゥことだ)


 一刻も早く敵を殲滅しなければいけない状況、だがまずは敵の戦力を把握することが重要だと一方通行は考えた。
 再び少年は足元の機械を踏みつけ、二〇メートルほどの高さがある天井に向かって飛び上がる。
 そしてベクトル操作をして手と足を天井に張り付けて、獲物を捜すトカゲのように工場の中を見回した。


一方通行(……全部で一二機か。面倒臭せェことになってきやがった)


 工場の中をうごめく赤い影は一二機。
 一機で行動する者も居ればスリーマンセルを組んでいる者も居る。
 駆動鎧たちはターゲットが射程距離外にいるためか、攻撃を行わずただただ天井にいる少年をじっと見つめているようだった。


一方通行(おそらくアイツらは全員テレポーターだろう。そういえば学園都市にいるテレポーターの数は五八人とか聞いたことあるが、アレはそのうちの一二人っつゥことになンのか?)


 その五八人には結標淡希や白井黒子も含まれている。
 そんな希少な能力者の二〇パーセントがこんな場所にいるということに、一方通行は疑問を感じていた。


一方通行(全員が駆動鎧を着て同じ武器を携帯している、っつゥことはヤツらの使っているテレポートは機械のチカラっつゥこととも考えられる)


 だが一方通行はその考えも素直に納得できるものではなかった。
 空間移動の機械での再現は困難だ。発電能力の電気や発火能力の炎を再現するのとは次元が違う。
 そんなものを駆動鎧という小さな機械で再現し、ましてや量産しているなどとは信じがたいものがあった。


一方通行(ま、今はそンなこと考えたところでしょうがねェ。今はどォやってこの場を切り抜けるかだ)


 電極のバッテリーの残り時間はおそらく一〇分もない。
 その状態でテレポーター一二人と戦わないといけない状況。


一方通行(ヤツらは俺のことを知っているはずだ。もちろンこの能力使用モードのこともな)


 つまり、相手からしたら一〇分間逃げ回るだけで勝ちということだ。
 対してこちらは一〇分以内に敵を殲滅。さらに言うなら敵はこの駆動鎧だけではないかもしれない。
 余力を残した状態でここを潜り抜けなければいけないということ。
 厳しい勝利条件を突きつけられた一方通行。しかし彼は止まらない。逃げ出さない。


一方通行(こォいう状況になるなンてこたァ初めからわかってたことだ。あの女を追うと決めた時からなァッ!!)


 一方通行は天井を蹴り、一番近くにいる駆動鎧目掛けて滑空する。
 命をかけた一〇分間の鬼ごっこが始まった。


―――
――




 第一〇学区のとあるマンション。その中の一室に大勢の人影があった。
 リビングに当たる部分には武装した男たちが一〇人以上。
 その隣にある部屋に男一人女二人の三人組がいた。
 熊のような大男、佐久が携帯端末を片手に電話の向こうの相手に喋りかける。


佐久「山手。そちらの状況は?」

山手『問題なしだ。大事なモンは全部積んで離脱した。もちろん、例の置き土産は残してきたがな』


 山手と呼ばれる男の声の後ろからエンジン音のようなものが聞こえてくる。
 彼は現在車か何かの車輌に乗っているようだ。


佐久「ご苦労。これでヤツがくたばってくれるのが一番だが、少しでも心が折れてくれれば成功といったところか」


 佐久の隣にいる筋肉質な長身な女、手塩が腕を組みながら質問する。


手塩「本当に、あの程度のもので、心が折れるのか?」

佐久「さあな? まあ心が折れるというより動揺してくれれば、って言ったほうがいいか。そうなればヤツも冷静な行動ができなくなりこちらも動きやすくなる」


 佐久が質問に答えたことを電話越しに確認した山手は会話を続ける。


山手『あと例の情報封鎖の件だ。こちらからメディアに手を回したから、これ以後ニュースに流れるとかはないだろうよ』

佐久「ネット関係は?」

山手『そいつは今から向かうところだ。ついでにわかったことだが、今回の情報を無理やり開示させたヤツらは俺たちと同程度の権限を持っている組織だ』


 どこのどいつだかはわからなかったがな、と山手は付け加える。


佐久「だろうな。おそらく情報を封鎖したことはそいつらもいずれ気付くだろう。用心はしておけ」

山手『了解』

佐久「手塩。アンチスキルどものほうはどうだ?」

手塩「問題ない。やつらが今できることは、せいぜい襲われた後の、研究所の警備くらい。ターゲットを捕縛するために、大部隊を派遣なんてことは、ないわ」


 特に表情を変えることなく、冷静な口調で返答する。


手塩「一人、座標移動について騒いでいる、アンチスキルの女がいるみたいだが、所詮は個人。対して影響はないだろう」

佐久「例の警備の件は?」

手塩「すでに、当日に配置されるアンチスキルは、我々の息のかかった者たちに、なることは確定しているよ」

佐久「そうか。では山手、情報封鎖の件は頼むぞ。手塩は引き続きアンチスキル関連の監視だ」


 そう言われて電話越しの山手と手塩は了解と一言返事し、山手は通話を切り、手塩は五、六人ほどリビングにいた男たちを連れて部屋を出ていった。
 それを見届けると佐久は同じ部屋にいたもうひとりの少女。白を基調としたセーラー服を着た鉄網に話かける。


佐久「鉄網。これから例の外部組織の代表と直接接触する。お前も付いてこい」

鉄網「了解した」


 そう一言だけ返して鉄網は部屋の外へと向かう佐久の後ろをついていく。
 そのあとを残った男たちがゾロゾロとついていった。


佐久「……さて、散々今までこき使ってくれやがったクズどもめ。『ブロック』による反逆までの時間は残り一二時間は切った。せいぜい首でも洗って待ってやがれ」


 彼らの所属する組織の名前『ブロック』。
 グループ、スクール、アイテム、メンバー。それらと同等の権限を持った暗部組織の一つである。


―――
――




 閉鎖された研究施設の地下にあった工場のような場所。
 その中の一角で一方通行は息を荒げながら立っていた。


一方通行「――クソがッ!! ちょこまかちょこまかとうっとォしいィ!!」


 一方通行が空間移動(テレポート)という超能力を使用する一二機の赤い駆動鎧との戦いを始めて、既に五分経過していた。
 つまり、彼には時間がほとんど残されていないということだ。
 五分間という貴重な時間を使って減らせた敵の数はゼロ。
 その事実に一方通行は額に汗を浮かべていた。


一方通行(どォやって倒すッ!? 思い切って天井を崩して生き埋めにしてやるかァ?)


 地上には使われていない廃墟とした研究所の建物がある。
 天井を崩せばそれらが二〇メートル上空から落下してくるということなので、相当な能力者ではないと切り抜けられない状況へと持っていけるだろう。
 だが、


一方通行(それは最終手段だ。もしそンなことをしてこの地下施設全体が崩壊しちまったら、情報やらなンやらが全部下敷きになるってことだからな)


 そんなことになったら今自分がわざわざこうやって施設に潜り込んで戦っている意味がない。
 そのため、一方通行はその手段を取ることを避けていた。
 
 焦燥している少年の後方に一つの大きな人影が現れる。
 赤色に塗装された駆動鎧一二機のうちの一機だ。
 ヤツらはこうやって急に出てきてはおちょくるように攻撃して、こちらが仕掛ければテレポートして離れるヒットアンドアウェイ戦法を取っていた。
 一方通行のチカラは強力だ。その手が駆動鎧に触れるだけで機能停止に陥られるほどに。
 だが、それは当たらなければ意味のないチカラ。そのためこの相手は相性が最悪と言えるだろう。


一方通行「ぐゥっ、くたばりやがれクソ野郎がァああああああああああああああああッ!!」


 どうせテレポートで逃げられるだろう。しかしわかっていても攻撃しないわけにはいかない。
 半ばやけくそ気味に一方通行は地面に転がっていたレンチを蹴り飛ばし、駆動鎧に目掛けて発射する。
 駆動鎧へそれが到達する三メートルほど前。転移して逃げるだろうタイミング。
 そのとき、なぜか駆動鎧はいつもとは違う動きを見せた。


駆動鎧『――なっ、しまった!! 転移できなッ!?』


 駆動鎧は転移せずに焦ったような様子で床を見ていた。
 すなわちそれは、一方通行が放った一撃が直撃するということだ。

 ガンッ!!

 という金属音を上げながらレンチは駆動鎧の頭部へと直撃する。
 重要な装置か何かを頭部に積んでいたのかわからないが、機能停止して駆動鎧は動かなくなった。


一方通行(……どォいうことだ。ヤツはなぜテレポートして逃げなかった?)


 一方通行は状況の分析を始める。
 今自分が行った攻撃は金属で出来た小物を弾丸のような速度で飛ばすベクトル操作。
 この戦いの中でも同じようなことは何十回とやってきた。ヤツらはテレポートを使ってそれを容易に回避してきた実績がある。
 なのに、コイツは回避せずに攻撃を受け入れた。焦った様子を見る限り、あえて攻撃を受けたということはないだろう。
 つまり、





一方通行(空間転移をするためには何らかの条件があって、それを満たせなかったから避けられなかった、ってことか?)


 そう考えた一方通行ふと気付いたことがあった。


一方通行(そォいや、ここって最初に駆動鎧のクソ野郎に会ったところじゃねェか)


 後ろから突然現れたヤツの釘打機のようなものによる不意打ちより左腕を負傷した場所。
 カウンターに空中から駆動鎧目掛けて突撃をしたが、テレポートで逃げられて砕けたのは床だけだった。
 そういう出来事があった場所だ。
 一方通行はさらに気付く。


一方通行(床……?)


 駆動鎧が立っていた足元を見る。
 そこにはベクトル操作によって破壊されひび割れた床があった。
 近付いてその床をよく見てみると、ランプのようなプラスチック製の黄色い破片があちこちに転がっている。
 そしてひび割れた床下部分には断線したケーブルのようなものが埋まっていた。


一方通行「……もしかして、コイツが駆動鎧が好き放題テレポートすることが出来た理由の答え、っつゥことか?」


 一方通行は一五メートルくらい上空を飛び上がり、工場全域の床を見回す。
 今まで気付かなかったが、床のあちらこちらには直径二メートルほどの黄色い円形のパネルのようなものが埋め込まれていた。
 それを見て一方通行は、


一方通行(試してみる価値はあるな)


 一方通行は天井から吊るされていた重量物移動用のクレーンを掴み、引きちぎる。
 そしてそれをそのまま一機でいる駆動鎧のいる場所へと投げつけた。
 攻撃に気付いた駆動鎧は一歩後ろにバックステップをして、クレーンが到達する前に転移して回避する。
 一方通行はその光景を見て、


一方通行(思った通りだ。さて、あとは効率のイイ方法を取れるかどうかだ)


 空中から床へと着地した一方通行はすぐさま床に埋まっているパネルへ右手を当てる。
 そして一方通行は反射以外の演算能力を全て右手に集中させた。
 しばらくして一方通行は『何か』のベクトルを操作する。
 すると、目の前の直径二メートルの円形のパネルから、空気を切るような音とともに現れた。
 真紅の駆動鎧が一機。


一方通行「あはっぎゃはっ!! 残念だったなァ!? 自分の思っていた場所へ転移出来なくてなァ!!」


 口元が裂けるような笑顔のまま一方通行は、目の前にいる駆動鎧を思い切り殴りつける。
 グシャリ、と金属が砕ける音を上げ、吹き飛んだ。駆動鎧は為す術なく進行方向上にあった機械へ体を叩きつけられ、そのまま動かなくなった。




一方通行(コイツらのテレポートは能力によるモノじゃなく機械によるモノ。この床のあちこちにあるパネルが全部繋がっていて、そのパネル間を自由に転移できるっつゥヤツだ)


 おそらくこの施設内にテレポートを再現する巨大な演算装置が設置されていて、パネルからパネルという限定条件をつけることで制御しているものだろう、と一方通行は適当に推測する。


一方通行(テレポートにもベクトルは存在する。つまりやろうと思えば俺でもそのベクトルを操作することは出来るっつゥことだ)


 再び一方通行はパネルに手を当て、『何か』のベクトルを操作する。
 そして目の前に別の駆動鎧が一機、再び出現した。


一方通行「つまり、このパネルを介して行うテレポートだってわかってりゃよォ、パネル間に存在するテレポートのベクトルを操作すりゃ出現場所くらい好きに操作することができンだよォ!!」


 駆動鎧を蹴り上げる。
 ロケットのような速度で駆動鎧は天井へ頭から突き刺さった。
 
 短時間に二機の味方がやられるという異常事態。
 それ察知して、様子を見るためか一方通行の後方へ駆動鎧が二機現れた。
 気付いた一方通行は右手を近くにあった機械へ突っ込み、引き抜く。
 ネジやナット等の部品という名の武器を大量に手にした。


一方通行「ほらほら逃げろ逃げろォ!! こォいう投擲物避けンの得意だろオマエらァ!?」


 手にした部品の半分を前方にいる駆動鎧達へ投げ飛ばした。
 それを確認した駆動鎧達はテレポートの姿が消えた。
 テレポートした瞬間、一方通行は後方へ残りの部品を投げ飛ばす。
 ガガガッ、と部品が何かに命中した音がした。
 音源のある方向を見る。そこには先ほど消えた駆動鎧二機が転がっていた。


一方通行「タネさえわかりゃ楽なモンだよなァ?」


 一方通行は靴裏でずっとパネルに触れていた。
 一度目の投擲で駆動鎧達のテレポートを誘い、そのベクトルを察知し、転移の方向を後方にあるパネルへと操作した。
 だから、一方通行にはどこにヤツらがテレポートするのかがわかった。
 だから、迷いなく転移先の後方へ攻撃した。


一方通行「残りの能力使用モードの時間は四分っつゥところかァ? こンな鉄屑どもォ片付けるだけだったら十分過ぎる時間だなァ、オイ」


 一方通行は楽しそうに笑った。
 駆動鎧の数は残り八機。
 約一分後。その数はゼロとなった。


―――
――






初春「――この状況を打破する方法、一つ思いつきました」


 風紀委員活動第一七七支部の一角。
 自席でキーボードを高速タイピングしながら初春がポツリと呟いた。


黒子「本当ですの初春!?」

初春「ええ、少々危険で真っ黒な方法ですが」


 そう言うと初春はディスプレイの一つにあるプログラムを映した。
 それを見て黒子が首を傾げる。


黒子「これは?」

初春「ウイルスです。ダウンロードした瞬間、そのコンピュータに自動的にバックドアを作成する強力なヤツです」

黒子「……なんで貴女がそんなものを持っていますの?」

初春「いやー、蛇の道は蛇って言うでしょ?」


 黒子は軽く頭痛がするのを感じた。
 もちろん原因は一線を走り幅跳びで越えていく目の前にいる相棒である。


初春「安心してください白井さん! これは一般的なウイルス対策ソフトはもちろん、機密程度のセキュリティレベルなら絶対に引っかからない代物ですので」


 さすがに書庫(バンク)のセキュリティレベルには引っかかりますが、と初春は付け加えた。


黒子「そんなことは心配してませんわ。貴女はそれを使って一体何をするつもりですの?」

初春「ヤツらのコンピュータにこのウイルスを仕込んでバックドア作り、そこを起点にハッキングして監視カメラ偽装ツールを破壊します」

黒子「……はぁ、見事に予想通りの返答で逆に驚きもしませんわ。しかし、そのウイルスを一体どうやって相手のコンピュータに仕込むつもりですの?」


 まさか馬鹿正直にメールで送りつけるとかいいませんわよね? と黒子は顔をしかめる。
 質問に対して初春はニッコリ笑顔で、


初春「その辺はたぶん大丈夫だと思いますよ。偽装ツールを使うときは必ず監視カメラから動画データをダウンロードしているはずです。だから、そこを狙います」

黒子「なるほど。偽装されそうな監視カメラを特定して、そこにウイルスを仕込むということですわね。バレたら少年院行き確定ですわよ?」

初春「少年院に行かせるような人たちにはバレないとは思いますので、そこは問題ないと思います。しかし」


 初春の顔に少し陰りが見えた。


初春「バレるとしたらこの相手に、ですかね」

黒子「たしかに初春に匹敵する技術を持っている相手ですから、ウイルスに対応できるようなセキュリティを持っているかもしれませんわね」

初春「いや、そこはたぶん大丈夫だとは思うんですけど。問題はハッキングしているときです」

黒子「どういうことですの?」

初春「相手のコンピュータ内部のプログラムを破壊するんですから、こちらもそれなりの代償を払わなければいけないということですよ」




 代償。
 その重苦しい言葉を聞き黒子は息を飲み込んだ。


初春「あくまで最悪なケースの話ですが、こちらの位置情報等のパーソナルデータが相手に抜かれるかもしれません」

黒子「貴女いろいろな国のサーバーを経由して、そういう逆探知の対策を取っていると言っていませんでしたか?」

初春「それだと処理速度が落ちてしまうんですよ。今回のハッキングは一刻を争う作業です。だから、そういうのは抜きで直接やります」

黒子「しかしそれだと」

初春「そうです。仮にデータを抜かれたら風紀委員(ジャッジメント)の、一七七支部の皆さんに迷惑を掛けてしまうことになります。ですが」


 初春は何かを言いかけたまま自分のリュックを開く。
 その中から一台のノートパソコンを取り出した。これは初春が個人で使用している私物だ。


初春「これは私が個人的にやろうとしていることです。ハッキングもこれでやりますので、抜かれたとしても私個人のデータです」

初春「ですので、それが原因で一七七支部自体が糾弾される事態になりましたら、遠慮なく私を売っちゃってください」


 そう言って初春は微笑んだ。
 それに対して黒子は一言言った。


黒子「ふざけんじゃねえですの」

初春「えっ?」

黒子「貴女自分で言っていることわかっていますの? 相手は暗部組織。もしそんなことになったら、貴女の身に何が起こるかわからないわけではありませんよね?」

初春「……そうですね。わかっています」

黒子「でしたら、そんな馬鹿なことなどせずに別の方法を――」

初春「ありませんよ。他に方法なんて」


 黒子が言い切る前に初春は否定する。
 少女の冷静な口調からしてその言葉は真実なのだろう。
 だからこそ、黒子は問いかける。


黒子「どうして貴女はそこまでやりますの? ここでさじを投げても誰も文句を言わない立場だというのに、なぜそこまでの危険を犯してまでこの件に関わろうとしますの?」


 黒子にされた論理的な問いを聞き、初春は目を丸くさせた。
 そのあと小さく笑いながら、


初春「……ふふっ、すみません。私にもなんでかわかりません」

黒子「はぁ?」


 初春飾利から出た予想外な答えに思わず黒子は素っ頓狂な声を上げてしまった。




初春「何と言いますか、上条さんのことを見ていると、その、私にでも何かできることがあるんじゃないか、って思いまして」

黒子「……貴女、もしかしてあの腐れ類人猿のことが……!?」

初春「い、いえそういう意味じゃないです!」


 両手を手の前でバタバタさせながら初春は精一杯否定する。
 すぐそこにいる誰かさんに聞かれて変な誤解をされても困るからだ。


初春「私たちは強盗犯の結標さんしか知りません。まあ、私に限っては会ったことすらないんですけどね」

黒子「そうでしたわね。あの事件はあのあとすぐアンチスキルに引き継がれましたから、貴女には出会える機会などありませんでしたわね」


 黒子のいう事件というのは『残骸(レムナント)』に関わった事件のことだ。
 あのとき初春は後方で黒子のバックアップをしていたので、直接現場に赴くことはなかった。


初春「けれど、上条さんや一方通行さんは私たちの知らない結標さんをたくさん知っています。そんな彼らが一生懸命結標さんを追いかけているということは、それだけ大切な存在だったということです」

黒子「しかし、その大切だった彼女はもう既に……」


 彼らが接してきた少女は記憶喪失をしていたときの結標淡希だ。
 しかし、今彼らが追っている少女は記憶を失う以前の結標淡希。
 悪い言い方をすればまったくの別人ということになる。
 その意味を理解した上で初春は、


初春「それはあの人たちが一番わかっていることです。なのに、彼らは追いかけることをやめていません」

初春「きっと彼らは信じているんじゃないでしょうか。例え記憶がなくったって、またわかり合うことが出来るんじゃないかって」


 勝手に私が思っているだけなんですけどね、と照れくさそうに初春は笑って誤魔化す。
 しかし、彼女が冗談で言っていることではないことは目を見ればわかる。


初春「そう考えたら、なんか私も手伝いたいなって思ってしまいまして、なんて」

黒子「……はあ、何と言いますか、甘いですわね。お花畑なのは頭の上だけかと思ったら中までそうだったのですの?」

初春「なんのことですか?」


 真顔で首を傾げる初春を見て黒子はたじろいだ。
 なんでもないですわ、と黒子が有耶無耶にして目を逸らす。
 そんな黒子の様子を見てまた首を傾げながらも、初春は話を続ける。


初春「それに、一度会って話してみたいと思いまして」

黒子「話してみたい? 誰とですの?」

初春「もちろん決まっているじゃないですか。あの人たちがあんなに大事に思っている結標淡希さんっていう人とですよ」


 黒子はのん気そうな笑顔で変なことを言う友人を見て再びため息を付いた。
 片手で軽く頭を抱えながら黒子は口を開く。


黒子「……ふん、あまり変な期待をしないほうがよろしいかと。ただのいけ好かない女ですの」

初春「ええぇー?」


―――
――





 ジャッジメント二人がいるブースから少し離れた場所にある応接スペース。
 ソファに座ってトランプのカード一枚を片手に何かを考えている御坂美琴がいた。


美琴「…………」

打ち止め「……お姉様? 次はお姉様がカードを引く番だよ、ってミサカはミサカは二枚のカードを突き出して催促してみる」

美琴「あっ、ごめん」


 一言謝り打ち止めが持つ二枚のカードのうち一枚を手に取る。そのカードはハートの2。美琴の持つカードはダイヤの2。
 美琴は二枚のカードをまとめてテーブルの真ん中へと置く。
 どうやら美琴、打ち止め、佐天の三人でトランプのババ抜きをやっているようだった。


打ち止め「ああああ、また負けちゃったー! ってミサカはミサカは悔しさをロックバンド風に体で表現してみたり」


 軽いヘッドバンギングのようなことをして、打ち止めの茶髪が上下に激しくなびいた。
 生き物のようにアホ毛が揺れる。
 佐天があははと笑ってから、


佐天「打ち止めちゃんは表情に出やすいからねー。それに語尾のセリフで何となくババ持っているかどうかわかるし」

打ち止め「な、なんと!? ミサカにそんな弱点があったなんて、ってミサカはミサカは驚愕してみたり」

佐天「その語尾って我慢できないの? そうすれば少しはババ抜きの勝率も上がるんじゃないかなー?」

打ち止め「なるほど。ならちょっとチャレンジしてみようか、ってミサカはミサカは意気込んでみたり」

佐天「もうすでに我慢できてないじゃん」

打ち止め「わわわ、今のはなし今のはなし! ってミサカはミサカはうわあああまた勝手に出てきた、ってミサカはミサカは頭を抱えてみたり」


 二人がそんな他愛のない会話をしている中、美琴はソファから立ち上がり、


美琴「さて、打ち止め。そろそろここ出るわよ?」

打ち止め「ん? どこか行くの? もしかして映画館ッ!? ってミサカはミサカは期待の眼差しを向けてみたり」

美琴「違う違う。今日私たちが泊まる予定にしてるホテルよ」

打ち止め「うおお!! ミサカホテルに泊まるの初めてなんだ、ってミサカはミサカはまだ見ぬ世界にハイテンションになってみたり」

佐天「もう帰っちゃうんですか?」

美琴「うん。黒子たちも忙しそうだし、あんまり長居しても迷惑でしょうし」


 美琴はパーテーションの向こうで今も戦っているだろう二人の方向を見た。




佐天「そうですね。じゃあ、あたしも帰ろっかな」


 その様子を見た佐天も立ち上がり、背伸びをして体のコリを解す。


美琴「黒子ー!」


 美琴がパーテション越しにいる黒子に聞こえるように名前を呼ぶ。
 呼んだ一秒後、美琴の前に空を切る音とともにツインテ少女がいきなり現れる。


黒子「なんでしょうか?」

美琴「私今日は打ち止めとホテルで寝泊まりするから寮には戻らないわ」

黒子「わかりましたわ。ところでその楽園はどこのホテルの何号室で?」

美琴「来ようとするな!」


 冗談ですわ冗談、と黒子はおどけた感じに笑う。


黒子「外泊申請はきちんと出してますの?」

美琴「う、うん。まあ、なんとか、ね……」


 遠い目をしながら疲れた笑顔の美琴を見て黒子は不思議な表情をする。
 美琴は昨晩門限破りをした。そのため今朝ペナルティを受けたばかりだった。
 そんなあとに外泊の申請を出したので凄まじい追求を受けて何とか許可を得たことは、昨晩寮に帰っていない黒子には知りようにないことだ。


美琴「ま、私は帰るけどアンタも早く仕事終わらせて帰りなさいよ?」

黒子「はい、わかっていますわ」

美琴「……じゃ、打ち止め行きましょうか」

打ち止め「はーい!! お邪魔しましたー!! ってミサカはミサカは別れの挨拶をしてみたり」


二人は部屋の奥で親友と適当に挨拶を済ませた佐天と一緒に、一七七支部を後にした。


―――
――





 一方通行はテレポートを使用する赤い駆動鎧を全滅させ、地下施設の奥に来ていた。
 先程までの工場のような背景からは一転して、いかにもな研究施設の中のような廊下を一方通行は歩いている。
 しばらく歩くと、分厚そうな鋼鉄の扉に五種類くらいの認証システムを取り付けた、いかにも大事なモノを置いていますよと言う雰囲気を放つ部屋を見つけた。


一方通行(ダミーや罠の可能性も無きにしもあらずだが、迷っている時間はねェ。入るか)


 首に巻いたチョーカーに取り付けられた、電極のスイッチを入れる。
 地面に転がった空き缶でも蹴るような感覚で、つま先を扉にぶつけた。
 グシャリ、と扉は大きく凹み周りの壁にひびが入る。
 それを見て舌打ちをし、一方通行は片足を膝くらいの高さまで上げ、足裏で押すように扉を蹴った。
 すると扉は床に音を立てて倒れていく。


一方通行「これは……」


 中の部屋を見る限り、そこはモニター室のような場所だった。
 正面の壁に大きいモニターがあり、それと隣接するように左右斜めの位置にもモニター。
 一体化するようにモニター前には、何かのボタンやランプ、小さいモニターみたいなものが付いた機械が置いていた。


一方通行「どォやら当たりだったよォだな。いや、正確に言うなら外れ、か?」


 一方通行はこの部屋に入ってからいくつかの違和感を覚えていた。
 ここはおそらく実験をモニタリングしてデータを収集したり、それらを解析したりするための部屋だろう。
 
 しかし、
 
 人が一人も居ない。パソコンや実験機器といったものがほとんど見当たらない。
 置かれているデスクや戸棚の引き出しが、まるで空き巣にでも入られたかのように乱雑に開かれ、空になっている。
 それらの状況を見て一方通行は確信した。


一方通行「チッ、クソどもは大切なモンを抱えてすでにトンズラこいた、ってかァ?」


 ここにいた研究員は既に大事なデータを持ち出して逃げた後なのだろう。
 すでにここは引き払われる予定だったか、一方通行の襲撃を察知してからか理由はわからないが。
 駆動鎧という兵隊を残して時間を稼がせていたところからして、おそらく後者だろうが。
 とにかく、一方通行にとって欲しい情報は既にここにはないということを表していた。


一方通行「何もねェンだったらこンなところにいつまでも長居してもしょうがねェか。かえ……あン?」


 部屋の中を適当に歩き回りここを後にしようとしたとき、一方通行は地面に転がったトレイの下にある物が隠れているのに気付いた。
 トレイを蹴り飛ばしてどける。そこに落ちていたのはメモリースティックだった。


一方通行「ンだこりゃ? ぎゃはっ、もしかしてこれはアレかァ? 慌てて逃げ出したから落としたことに気付かず、ここへ忘れて行っちまったっつゥマヌケがいたってことかァ?」


 にやり、と口角を上げ一方通行はそれを拾い上げた。
 一般的な電気屋等に並んでいるタイプの物で、自分の持っている携帯端末でも読み込むことができる。
 迷わず一方通行はそれを自分の端末へ差し込んだ。
 特にパスワード等が掛けられているわけではなく、すぐにダイアログボックスが開いた。


一方通行「パスも掛けてねェなンてなァ。こンなクソみてェな組織に俺はあそこまで追い詰められたってのかよ。とンだ学園都市最強様だよ俺はよォ」


 一方通行は皮肉を述べながら端末を操作する。
 中に入っているのは実験データだった。
 いろいろな能力者や機械類の実験データがフォルダ分けされていたが、中でも一番容量を食っていたのは空間移動能力者(テレポーター)の実験データだった。
 そのフォルダを開き中を確認する。中に入っているのは表題通り実験のデータ類だが、一方通行はその中にあった一つのテキストデータを目に付けた。


一方通行「……『空間移動中継装置(テレポーテーション)計画』、だと?」


 一方通行は思わず息を飲んだ。
 直感でわかった。これは絶対に目にしてはいけないものだと。
 だが、これはあの女に繋がる手がかりになるかもしれない、そうだとも感じた。
 だから一方通行は、このファイルを開くことに何の躊躇もなかった。


―――
――





『空間移動中継装置(テレポーテーション)計画』。


この計画は空間移動能力者(テレポーター)の転移能力を機械的に再現し、非能力者でも再現できるようにすることを目的とした計画。
これが実用可能になれば、学園都市内の交通、流通、運送等あらゆる分野での発展が望めるだろう。

(中略)

最終的には、その転移可能範囲を世界へ広げることにより、学園都市外の全ての国を牽制し優位に立てる戦術兵器にもなりえるだろう。


~~


二〇〇X年三月A日。
予測装置『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』を用いて演算した結果。
ある一定の数値に達した空間移動能力者を素体とし、一定水準のスーパーコンピューターを一〇八台と連結させ、並行演算させることにより以下の性能を発揮する装置が完成する。
・最大重量:四六万五七三○トン。
・最大飛距離:一万九一三〇キロメートル。

(中略)

素体の候補は、現段階で空間移動能力者最高位の位置にいる大能力者(レベル4)の座標移動(ムーブポイント)、結標淡希が適していると判断。
転移の始点が固定されない能力のため、装置として完成したときにはこの点が強みになるだろう。


~~


二〇〇X年四月A日。
身体検査(システムスキャン)により座標移動の能力をレベル4と判定。
最大重量四五二〇キロ。最大飛距離八〇〇メートル。
現状のスペックでは素体としては不十分だと判定。
座標移動には推定値に達するまでの成長が必要である。
しかし、一年前のシステムスキャン時から見てもまったくの進歩が見られていないことが懸念材料だ。


~~


二〇〇X年四月B日。
座標移動の成長を阻害する要因が判明。
彼女は二年前のカリキュラムにより自分自身の転移に失敗し、大怪我を負う事故に遭っていた。
以降、それがトラウマとなり自分自身の転移が困難となっている状態である。

(中略)

このトラウマを打ち消すことが、彼女の成長へと繋がるきっかけになることになるだろう。


~~


二〇〇X年四月C日。
様々な専門家の意見を統括し、座標移動のトラウマを消すためには超能力者(レベル5)第五位。
心理掌握(メンタルアウト)食蜂操祈の手を借りることが適していると断定。


~~


二〇〇X年五月A日。
心理掌握への三度目のコンタクトを取ったが交渉は決裂。
これ以上の彼女への接触は危険とし、心理掌握の能力によるトラウマ削除の計画は白紙とする。


~~


二〇〇X年七月二九日。

(中略)

ツリーダイアグラムが正体不明の高熱源体直撃を受け、大破した旨の報告を受ける。
本件に関しての再演算ができなくなったことは痛いが、最初の演算結果を元に計画を続行することを決定。


~~




二〇〇X年九月A日。
結標淡希の消息が不明となる。
所属する霧が丘女学院に問い合わせても『特別公欠』しているとの一点張り。
一刻も早く彼女を見つけなければ本計画自体が白紙になってしまうだろう。


~~


二〇〇X年九月一四日。
結標淡希が発見される。
科学結社という外部組織と協力し、ツリーダイアグラムの『残骸(レムナント)』を手に入れようとしていたようだ。
その件で重症を負い、第七学区の〇〇病院にて入院している。


~~


二〇〇X年九月B日。
結標淡希が記憶喪失になっていることが発覚する。
彼女と直接接触し、トラウマも消失していることを確認した。


~~


二〇〇X年九月C日。
記憶を失った結標淡希に自分自身の能力について教え、自分自身の転移を試みさせる。
結果、失敗。
記憶はないが、身体にトラウマが染み付いていたようで転移後意識を失った。
そのとき、壁に頭部及び鼻部を強打。
前後の記憶を失い、鼻部を骨折する怪我を負う。


~~


二〇〇X年一〇月A日。
ある科学者が発表した実験結果を入手する。
『同系統の能力者が生活を共にすることで、下位の能力者の成長速度が平均三八%向上したことを発表』。
この結果を、当計画にも反映できないか検討。


~~


二〇〇X年一〇月B日
座標移動は空間移動能力者の中で最上位の能力の為、彼女の上位の能力者を用意することはできない。
そこで、別系統でも明確に上位の能力者と組み合わせることで同様の結果を生み出すことは出来ないか、と考える。

(中略)

以上のことから、学園都市で最高位の演算能力を持つ一方通行(アクセラレータ)と組み合わせることが適していると断定。
一方通行は現在警備員第七三活動支部所属の黄泉川愛穂宅に居候している。
このことから警備員(アンチスキル)の上層部と交渉、黄泉川愛穂へ結標淡希を預けることが決定。


~~


二〇〇X年一〇月C日。
結標淡希が退院。そのまま黄泉川宅への居候生活を開始する。
以降、経過を観察していく。


~~


二〇〇X年一一月一九日。
あれから約一ヶ月経過。現状、結標淡希に変化は見られない。
環境を変化させるために学生として学校へ通わせることにする。
高位の能力者が多数在籍している『長点上機学園』が編入先として適していると考え、その方向で話を進める。


~~




二〇〇X年一一月二〇日。
結果、結標淡希及び一方通行は――高等学校へ編入することとなった。
統括理事会のメンバー『貝積継敏』が手を回したことにより決まったことらしい。
こちらとしては不本意だが、あの学校には『幻想殺し(イマジンブレイカー)』や『吸血殺し(ディープブラッド)』といった詳細不明の能力者が在籍している。
それらの存在が結標淡希に大きい影響を与えてくれることを期待して、経過観察を進めていく。


~~


二〇〇X年一一月二六日。
結標淡希及び一方通行が――高等学校へ編入。
結標淡希と一方通行が常に行動をともにすることが必要条件の為、結標淡希を一年次へ編入する特例措置を行使する。


~~


二〇〇X年一二月七日。
結標淡希が居候生活を始めてから最初のシステムスキャン。
これといった変化は特に見られない。相変わらず自身の転移を行うことができない状況。


~~


二〇〇X年一二月一三日。
ヒトは大きな困難を乗り越えることにより、大きな成長へと繋げることが出来る。
結標淡希が成長する舞台を用意し、著しい成長を促すことにする。

(中略)

以上の点から、我が部門とも関係性のある△△スキー場をその舞台と設定する。
結標淡希をその場所に連れて行く為に、――高等学校へ能力有りのマラソン大会を開かせる。
そのクラス単位での大会優勝賞品をスキー場への無料券とすることで、違和感のない道筋を作る。
同クラスには一方通行が在籍している為、優勝は確実だろう。


~~


二〇〇X年一二月一六日。
マラソン大会当日。
一方通行が予定通り優勝。


~~


二〇〇Y年一月一日。
結標淡希他が△△スキー場へ来場する日程が二〇〇Y年一月四日に決定。
結標淡希が成長する舞台を能力有りの雪合戦大会とし、それに伴い超能力者(レベル5)を持つ暗部組織『スクール』・『アイテム』へ雪合戦大会出場を依頼。


~~


二〇〇Y年一月四日。
予定通り結標淡希他が来場。
同様にスクール・アイテムも来場を確認。


~~


二〇〇Y年一月五日。
能力有り雪合戦大会を予定通り実施。
結果、結標淡希はトラウマを乗り越え自身の転移を成功させる。
この大会で得られたデータを上層部へ報告。


~~


二〇〇Y年一月六日。
報告したデータから座標移動(ムーブポイント)を超能力者(レベル5)判定とされた。
大々的に発表する必要性は皆無とし、この情報は機密事項とし本人通達するとする。


~~




二〇〇Y年一月七日。
結標淡希へレベル5判定を受けたことを通達。


~~


二〇〇Y年一月八日。
他組織で結標淡希に価値を見出し取り込もうとする者の動きが見られる。
ある程度の組織ならこちらで対処できるが、実力行使で来た場合の対応が難しい。
そこで、結標淡希とクラスメイトであり友人でもある土御門元春。彼が所属する暗部組織『グループ』に目をつける。
それらの組織を不穏分子として扱い、グループへ処理の依頼をかけることとする。


~~


二〇〇Y年二月二二日。
結標淡希が超能力者(レベル5)になってから最初のシステムスキャン。
結果から言うと著しい能力の向上が見られた。トラウマという足かせがなくなったことによる効果だろう。
さらに、こちらの想定より上昇値が二一%高いことから、一方通行との共同生活も関係していることも大きな要因と考える。

(中略)

この結果なら、『空間移動中継装置(テレポーテーション)計画』の素体として十分運用可能と判断。
計画を再び進行することを決定する。


~~


二〇〇Y年三月二○日。
計画の進行が決定してからあれから約一ヶ月。
結標淡希をこちら側に引き込むために、本計画を隠蔽し別の実験として協力の依頼を一七回掛けたが全て断られる。
報酬金額を予算限界額まで設定しても拒否をされた為、この方法では引き込めないと判断。

(中略)

その為、結標淡希の記憶を戻し、学園都市に仇をなす犯罪者として捕縛することにより、計画に引き入れることが有効とする。


~~


二〇〇Y年三月二一日。
記憶を回復させるファーストプランとし、再び心理掌握(メンタルアウト)食蜂操祈へ依頼する案が上がる。
以前のこともあるため、一度だけと決め、コンタクトを取った。
そのあと直接接触して交渉するところまではいったが、やはり決裂。


~~


二〇〇Y年三月二二日。
記憶を回復させるセカンドプランとし、記憶が回復するきっかけを能動的に起こすことにより対処する案が上がる。
不確定な案なため反対意見が多数上がるが、他に容易に解決出来る案が上がらなかった為、この案を進行させる。

(中略)

以上のことから『残骸(レムナント)』事件の関係者、『白井黒子』、『御坂美琴』、『一方通行』を起点とした計画を他組織へ依頼することが決定する。



 これ以降、このテキストファイルには何も書き込まれていなかった。


―――
――





一方通行「……何だよ、これ」


 中に書かれていた内容は、簡単に言えば『空間移動中継装置(テレポーテーション)』というおぞましい装置についての詳細と、この計画が発足してから現在に至るまでの経緯だ。
 一方通行がまったく知らない情報も書かれていれば、一方通行がよく知る情報も書かれてあった。
 彼がこれを一読して思ったことは一つ。

 まあ、これくらいの闇は学園都市だったら当然存在するだろう。

 ただ、それだけだった。
 一方通行は以前『絶対能力者進化計画(レベル6シフト)』という暗部の実験に関わっていたこともあるし、それ以前にも聞いただけで反吐が出るような実験にも関わっていた。
 そのためこの程度の計画が立案されていてもおかしくはないと予想はしていたし、自分たちがのうのうと生活している裏で、何かが蠢いているとは感づいてはいた。
 だから、今さらこのようなものを見たところで驚きもしなかった。
 だが、


一方通行「…………ッ!!」


 一方通行は怒りで、奥歯が砕けてしまうかと思うくらいの力で歯を食いしばっていた。 

 予想はしていた。
 おかしくはないし、当然だとも思っていた。
 驚愕もしなかった。
 なのに、一方通行の中ではドス黒い憤怒の感情が渦巻いていた。

 一方通行はなぜこんな感情が生まれてきたのか、自分では理解できなかった。

 人間をまるでパソコンパーツのように扱う計画が進行しているからか?
 そのパーツに結標淡希を使おうとしているからか?
 この計画の為に自分が利用されていたことを知ったからか?
 自分だけではなく自分の守るべき存在である少女や、その同居人たちも利用されていたからか?
 さらに言うなら、同じ学校へ通う友人たちも利用されていたからか?
 この約半年間の間にあった全ての思い出というものは、この計画した者たちによって与えられたものだということに気付いてしまったからか?
 自分が初めて明確に好意というものを抱くことができたのも、この者たち計画というお膳立てがあったからではないかと気付いてしまったからか?
 学園都市最強の超能力者(レベル5)も、所詮はこの者たちの手のひらの上で踊るお人形さんだということに気付いてしまったからか?

 一方通行はわからなかった。自分が何に対して激昂しているのかが。

 そんな中、一方通行は携帯端末のディスプレイの中からある単語が目に入った。

 『試作空間移動中継装置(テレポーテーション・プロトタイプ)』。

 一方通行は反射的にそのファイルを開く。
 内容は、計画の予行演習のテスト品ということで作成した擬似的な空間移動中継装置についてのレポートだった。
 中を読み進めてわかったことだが、特殊素材で作った複数の電磁パネルを裏から配線で繋げることで、パネル間でテレポートが自在に可能という物。
 つまり、先ほど戦闘した駆動鎧達が使っていた物のことが書かれていた。

 ということは、この建物の中のどこかにこの装置が存在しているということになる。





一方通行(……そォいえばアレは)


 今まで気付かなかったが、一方通行はモニター室の隅に横開きの自動ドアのようなものを見つけた。
 暗がりだったのと、物があちこちに散乱している状況だったから視界に入らなかったのだろう、と適当に一方通行は理由付けした。
 一方通行は吸い込まれるように自動ドアの前に立つ。すると、まるで中へ誘い込むようにドアは左右へ開いた。


一方通行「…………」


 一方通行は息を整えて、暗がりの部屋へと入っていった。

 部屋の中はお世辞にも綺麗な部屋とは言えなかった。
 地面には配線だらけでごった返していて、空やゴミが詰め込んでいるダンボールがあちこちへ転がっている。
 部屋の奥へと進んでいくと、暗闇から明かりのようなものが浮かび上がってきた。
 一方通行はさらに奥へ行く。光の発生源へとたどり着いた。
 そこには複数台の大型コンピューターのようなものが床を埋め尽くしており、その隙間に人一人は入れそうなカプセルのようなものが置いてあった。


一方通行「…………ッ!?」


 カプセルの中を見て、一方通行は絶句する。
 中は培養液のようなもので満たされていて、あるものがその中を浮かんでいた。
 それは人間の脳髄と脊髄。
 至るところに電極が取り付けられていて、まるで機械の部品かのように扱っていた。


一方通行「……コイツが、『試作空間移動中継装置(テレポーテーション・プロトタイプ)』ってヤツの本体ってことか」


 見るだけで吐き気を催すような装置を見て、一方通行は先ほど読んだレポートに書いてあった文章を思い出していた。

 この装置の素体に使われたのは、少年院に収容されていた強能力者(レベル4)の空間移動能力者(テレポーター)だった。
 収容された理由は、半年もすれば出てこれるような罪。しかし、その者からすればそれは長すぎたらしい。
 毎年年度末に行われるAIMジャマーの一斉メンテナンス、そのときに脱獄しようと試みる。そして再度捕まり、さらに奥深くへと収容された。そういう人物だ。

 当初、人体五体満足のまま培養液で満たしたカプセルで生命維持しつつ装置にする予定だった。後々、この素体に人間的な価値を見出したときに再利用するためだ。
 しかし、素体本人が反旗を翻したことにより当研究所に甚大な被害が起きてしまった為、素体を殺害して必要な部品のみを取り出し使用した。
 この経験を活かし、『空間移動中継装置(テレポーテーション)』で座標移動(ムーブポイント)を素体にする際も、同様に殺害して必要な部品だけ回収して使用することとする。


一方通行「――――」


 一方通行の中で渦巻いてた怒りが消え去った。
 その代わりに何かが音を立てて崩れ去っていくのを感じた。
 支えるものが無くなった理性が侵略するように全ての感情を塗り潰す。
 そして、彼の中で何かが生まれた。




 この日、第一〇学区の一角で深さ五〇メートルを超える地盤沈下が起こり、施設が崩れ去るというが大事故が発生した。




―――
――





初春「引っかかりました! これよりハッキングを開始します!」


 そう言って初春はデスクに置いた私用のノートパソコンのキーボードを尋常でない速度でタイピングする。


黒子「ッ……」


 その様子を見て黒子は息を飲む。
 ディスプレイには大量のウインドウが出たりは消えたりを繰り返していた。
 黒子にはわからないがハッキングに関するなにかのプログラムを走らせているのだろう。


黒子「……タイムリミットは『二分』」


 黒子はそう呟いたあと、先ほど初春とした会話を思い出す。


 『どんな凄腕のハッカーでも、おそらく侵入した私を補足して完全に動きを封じ込めるのには『二分』はかかるでしょう』


 初春いわく、侵入すると同時に一〇〇以上のダミープログラムを侵入させる為、補足するのには時間がかかるらしい。
 それを終えるまでの時間二分間を初春の中でのタイムリミットととしていた。
 だが初春は、


 『まあ、たぶん私なら一分ちょっとで完全掌握出来ると思いますので、心配しなくても平気ですよ』


 と言っていたため、今から約一分後には向こう側にあるコンピューターを掌握して、偽装ツールを破壊していることだろう。
 しかし、その会話をしていたとき黒子は一つの疑問を感じた。
 もし、それが成功せずに、逆に完全に動きを封じ込められてしまったらどうなるのか。
 それを聞いたとき初春は言った。


 『うーん、そうなっちゃったら完全に詰みですね。その時点で履歴データとかは全部抜かれていると思いますので、こちらの情報が向こうに漏れてしまいますから』


 だから、やられた時点でパソコンを物理的に破壊しても身バレは避けられないでしょうね、とも初春は言った。


黒子(頑張りなさい、初春……)


 電子戦になると黒子には何も出来ない。
 大能力(レベル4)という大きなチカラを持っていても、そんなもの何の役にも立たない。
 だから、黒子は初春の勝利を祈るしかなかった。


―――
――





 スクールの隠れ家にある情報処理室。
 そこは窓のない部屋で、真ん中に椅子とディスプレイが一つずつポツンと置かれており、それを囲むように周囲にはたくさんの巨大な黒いサーバーが円形に設置されている。 
 その椅子に座っている少年、誉望万化の頭に装着している土星の輪のような特殊ゴーグルから伸びたケーブルが、全てのサーバーへと繋がれていた。


誉望「……ふん、予想通りこちらに侵入してきたな。じっくり料理してやりたいところだが、向こうもそれなりにやるようだしさっさと終わらせてやるとするか」


 誉望万化は念動能力(サイコキネシス)を持つ大能力(レベル4)の能力者。
 彼が今行っていることは念動力を応用した電子制御だ。
 つまり、スクールのコンピューターへ侵入してきたハッカーから、コンピューターを防衛する電子戦を行っていることになる。
 そんな彼をぼーっと眺める男がいた。


垣根「本当に大丈夫なんだよな? もしミスってデータ抜かれでもしてみろ? その時点で処刑だぞ処刑」


 誉望の席の前方にある二つのサーバーの間に置いてある白い箱状の物。その上に足を組んで座っている垣根は警告する。


誉望「問題ないっスよ。この俺が電子戦で、ましてやホームでの防衛戦に負けるわけないじゃないっスか」

垣根「そんないかにもな三下の負けゼリフ言ってんじゃねえよ」


 呆れながら垣根は続ける。


垣根「ったく、負けたりなんかしたら、何のために俺がこんな陰気臭せえ部屋に一緒に籠もってやったのかわからなくなるからな」


 そう言いながら垣根は自分の下にある白い箱を数回叩いた。
 その箱からは白いケーブルが伸びていて、部屋に備え付けられているサーバーのうち一つと繋がっていた。


誉望「垣根さんには感謝してるっスよ。それのおかげでこうやって敵をおびき寄せることが出来たんスからね」

垣根「当たり前だ。俺の未現物質(ダークマター)には常識が通用しねえんだからよ」


 この白い箱は垣根の能力未現物質によって作られたサーバーだ。
 中にはメンバーからもらった監視映像偽装ツールを真似して作ったプログラムがインストールしてある。
 これ単体では意味はないが、既存のツールと併用することによって偽装能力が向上するという物。
 これのおかげで相手ハッカーをおびき寄せることができたということだ。


誉望「おびき寄せさえすればこっちのもんスよ。スクールのサーバー内は俺の庭みたいなもんスからね。何か無駄にダミーを大量にバラ撒いているみたいスけど、そいつらの処理は秒で終わるんだよなぁ」


 消えていくダミーの信号を確認し、最後に残った動きの速い信号を確認した。


誉望「随分と活きの良い獲物じゃねえか。でもなあ」


 誉望がニヤリと笑みを見せる。


誉望「俺が全力でやればこんなヤツを補足して掌握するのに『一分』もいらないんだよ」


 誉望の目の前に置いているパソコンにある一文が浮かび上がった。
 『Complete』。侵入者を完全に補足し、捉えたという合図だった。


誉望「はい、終わりっと。これでコイツは何もできないし、逃げることも出来ない」

垣根「つーことはそのハッカーの情報を抜けたっつーことだよな? お前が言うにはスピード勝負のハッキングはどっかのサーバーを経由とかしてねーんだろ?」

誉望「問題ないっス。何なら今から情報開示して近くにいる下部組織の連中に襲わせてやりましょうか?」


 そう言うと誉望は能力を使い電子操作をする。するとディスプレイに侵入者のパーソナルデータが出てきた。
 そこに出てきた位置情報を誉望は読み上げる。


誉望「ハッカーの居場所は……第七学区ふれあい広場近くにある公衆電話っスね」

垣根「ほう。そんな場所からお前とやり合えるなんて相当のやり手だな」

誉望「そうっスね。せっかくだしどんなヤツか一度顔でも拝んでやりましょうか。周辺の監視カメラの映像をハッキングします」





 そう言うとディスプレイには大量の監視カメラの映像が映る。
 いや、映ったものは正確に言うと映像ではなかった。


誉望「なっ、なんだと!?」

垣根「あん? どうかしたかよ」


 驚きの表情を見せる誉望を見て、垣根も同じディスプレイを覗き込む。
 そこに映っていたのは監視カメラの映像ではなかった。
 真っ黒の背景に白い文字で『No entry』。
 それは監視カメラ側からの情報を閉鎖していることを表すものだった。


誉望「どういうことだ? 別のパソコンを使って監視カメラをハッキングしてブロックしているってことか? いや、そんなことするためなら全部監視カメラに直接有線で繋げるくらいしないと無理なはず」

垣根「チッ、よくわかんねえがとりあえず下部組織の連中に周辺を捜索させろ」

誉望「了解っス。下部組織へ――」


 誉望が指示を出す前に何か嫌な信号が彼の頭の中をよぎった。


誉望「がっ……!?」

垣根「今度はどうした?」

誉望「ば、馬鹿なッ……コンピューターの制御が、奪われた……?」


 ディスプレイには誉望の考えとはまったく違う動きをしているコンピューターが映った。
 なぜそれが考えとは違うとわかったのか。それは監視カメラ偽装ツールを完全削除しようとしているからだ。


垣根「……チッ」


 垣根は背中から三対の白い翼が現れる。
 その瞬間、部屋にある全てのサーバーや電子機器が木っ端微塵に破裂した。


誉望「なっ、べ、別に物理的に破壊なんてしなくても……」

垣根「制御を奪われたっつーことは完全にフリーになったってことだろうが。そんな状態を一秒でも許すってことはどれだけの情報が奪われるかなんてこと、わからねえわけじゃねえよな?」

誉望「す、スンマセン!!」

垣根「……まあ、いいや」


 面倒臭そうに頭を掻きながら垣根は続ける。


垣根「十分時間は稼げただろ。あとは時を待つだけってな」


 そう言って垣根は部屋の出口へ向かって歩き出した。
 こんな状況なのに、垣根の顔にうっすら喜びの表情なものを見たとき、誉望は背筋がゾッとしたのを感じた。

 部屋の出口の前にたどり着いたとき、垣根は振り返って誉望の方を見た。


垣根「そういやさっき電子戦は負けねえとか抜かしてたヤツがいたよな?」

誉望「うぐっ」

垣根「それに対して俺はミスったら処刑だぞとも言ったよな?」

誉望「ッ!!!?」


 誉望万化は体の中にある内臓が全部口から出てくるんじゃないかと思えるくらい、大量の吐瀉物を吐き散らかした。


―――
――





初春「ふぁー疲れましたー」


 椅子の背もたれにぐったりともたれ掛かっている初春。
 その様子を見て黒子は問いかける。


黒子「成功したみたいですわね?」

初春「完全勝利とは行きませんでしたけどねー。偽装ツールっぽいものは破壊できましたが、そのあとは反応が完全にロスト」


 「物理的切断されちゃったから大したデータを抜き出すことも出来なかったので、個人的には負けですね負け」と悔しそうに初春はそう言う。
 黒子からすれば偽装ツールを破壊しただけでも十分と感じるものだが、電子戦に対してのプライドの高さ伺える発言だった。


初春「抜いた情報もあまり役には立たなそうですね。位置情報を辿って現場に行ってもたぶんもうもぬけの殻だろうし、機材の型式番号とかから相手を追ってもどこかしらでルートが潰されてそうですし……おっ?」


 奪った情報を眺めている初春の目が少し見開く。

 
 
初春「『スクール』? たぶんこれが相手さんの組織の名前か個人のコードネームですね」


黒子「ふん、『学校』ですの? 暗部組織などという相反する位置にいる者がそのような名前を名乗るなどとは、面白い皮肉ですわね」


 鼻で笑っている黒子。
 しかし、初春は何かを考えて込んでいるような表情をしていた。
 

黒子「どうかしましたの?」

初春「いえ、さっきのハッキングのときのことなんですが、何か妙だったんですよねー」

黒子「妙?」

初春「相手の動きですよ。たしかにこっちは一〇〇以上のダミーをバラ撒いたんですけど、私本人の攻撃にまったく興味を示さなかったんですよねー」

黒子「……それは単にダミーに引っかかったということではありませんの?」

初春「それはないですよー。あんなものに苦戦するようなヤツだったら、私が直々にこんな危険なことしませんってー」


 あははは、と笑いながら初春はテーブルに置いてあるティーカップを手に取り、冷めた紅茶を口に含んだ。


初春「なんと言いますか、まるでもう一人凄腕のハッカーが侵入していて、そっちに意識が向けられていた、って感じなんですよねー」

黒子「そんなことがありえますの? 相手は暗部組織ですわ。そんな相手を特定して狙いを付け、ハッキングする奇特なハッカーなど他にいるとは思いませんが。しかも貴女と同タイミングで」

初春「まーあれですよ。悪い組織だから敵も多そうだし、敵対している組織の凄腕のハッカーさんと攻撃タイミングばっちり合っちゃったとか、そんな感じじゃないですか?」


 初春はぐっ、と背伸びをしてから再びパソコンのディスプレイに目を向ける。


初春「さて、本来の仕事に戻らないと! 早く結標さんを見つけて上条さんに知らせなきゃ」


 そう言って初春はキーボードを叩き、監視カメラ情報の収集を始めた。


―――
――






 第七学区のふれあい広場。
 そこの近くにある公衆電話ボックスから一人の少女が出てきた。
 御坂美琴。
 その手には彼女がいつも使っているゲコ太仕様の携帯電話ではなく、PDAという情報端末が握られていた。


打ち止め「あっ、お姉様ー! 友達への電話は終わったの? ってミサカはミサカは駆け寄りながら聞いてみたり」

美琴「あ、うん。終わったわよ。待たせてごめんなさいね」


 美琴は謝りながら手に持っていたPDAをスカートのポケットに仕舞い込んだ。


打ち止め「しかし携帯の充電を忘れてて電池切れだなんておっちょこちょいだね。というか能力使って充電すれば携帯使えたんじゃなかったのかな、ってミサカはミサカは今更な打開案を挙げてみたり」

美琴「まあたしかに出来ないことはないけど、変に電気流して携帯壊しちゃってもいけないしね」


 充電用のケーブルとかあれば別だけどね、と美琴は付け加える。


打ち止め「なるほど。だからミサカの前の携帯はお亡くなりになられたのか、ってミサカはミサカは同じ過ちを繰り返さないこと決心してみたり」

美琴「電子ロックを無理やり解除とかもあんまりやらないほうがいいわよ? 私だって何十個壊したか覚えてないくらいだし」

打ち止め「うおお、なんかカッケーぜ! ってミサカはミサカは武勇伝を語るお姉様に羨望の眼差しを向けてみたり」

美琴「そんなことに憧れちゃいけません」


 説得力のない戒めの言葉を美琴は告げた。


――――――


パソコン関係全然わからんからハッキング部分とか間違ったこと書いてるやろけど雰囲気で読んでくれると助かる

次回『S6.vsアイテム』

今さら超電磁砲の続きとアストラルバディと学芸都市読んで思ったんやけどこのスレの初春さんナーフしすぎたな

投下



 S6.vsアイテム
 

 美琴と打ち止めはふれあい広場から移動し、とあるホテルの前に立っていた。
 そびえ立つ建物を眺めながら美琴が言う。


美琴「というわけで着いたわよ? 今日泊まるホテル」

打ち止め「すごく大きくて立派なホテルだね! ってミサカはミサカは素直な感想を述べてみたり」

美琴「そんな高級ホテルとかじゃないから、変な期待はしないほうがいいわよ?」

打ち止め「でもエントランスにはお金持ちっぽい老夫婦とか、高そうな服を着た生意気そうな子どもとか見えるんだけど、ってミサカはミサカは疑いの目を向けてみたり」


 そんなやり取りをしながら二人はホテルの入り口をくぐってエントランスへと入った。
 入り口には屈強なガードマンのようなホテルマンが立っていた。打ち止めはますます怪訝な表情を浮かべた。
 彼らは少女二人を見るなり一礼する。
 美琴は軽く会釈して返す。つられて打ち止めもアホ毛を揺らした。


打ち止め「でもどうせ外泊するならお姉様のお部屋とか行きたかったな、ってミサカはミサカは少し残念がってみたり」

美琴「あー、それはちょっと厳しいわね。ウチの寮いろいろ規則とか厳しいから」

打ち止め「はえー、なんだか大変そうだね、ってミサカはミサカは同情してみたり」

美琴「それに私の部屋には変質者が出るから、ほんとやめたほうがいいわ……」


 美琴はツインテールの後輩を思い浮かべながら力のない笑いを浮かべた。


美琴「そういうわけだから、もし明日も泊まることになったらまた別のホテルに行くわ」

打ち止め「ふーん。まあ、ミサカとしてはどこに泊まろうと旅行気分で楽しめるから問題ないよ、ってミサカはミサカはとりあえず京都とか行ってみたい気分になってみたり」

美琴「さすがに学園都市の外へは連れて行くことはできないわね……」


 逆に外へ出ればこの子を狙う組織とやらから離れることが出来るのでは?
 と一瞬美琴は思ったが、よくよく考えたら無理やり外へ出たことによってお尋ね者にでもされそうなことに気付いて、頭を振って考えを消し去った。

 会話をしているうちに二人は受付にたどり着き、チェックインの作業を終える。
 二人の部屋は七階。階段で行くには面倒な階層なのでエレベーターの方へ向けて足を動かした。


―――
――






 ぼーっと車の座席に座っている滝壺がぴくりと反応する。


滝壺「……! むぎの」


 麦野が小さくうなずく。


麦野「ええ、来たわね」


 彼女たちの視線の先には櫻井通信機器開発所という施設がある。
 その敷地内で警備員のような服装をした男たちが忙しく動き回っていた。
 絹旗が携帯端末につなげたイヤホンを片耳へ当てながら、


絹旗「……無線情報を拾えました。例の侵入者で超間違いないようです」

フレンダ「よっし! こんな狭っ苦しい車の中で一晩過ごすなんて展開にならなくってよかった訳よ」


 フレンダは車のスライドドアを勢いよく開き、車外へと飛び降りた。


浜面「せっかくの電動ドアをフルパワー開閉すんじゃねえよ壊れんだろ? まあ、別に俺の車じゃないからいいけど」


 ボヤきながら浜面は手元にあるドアの開閉スイッチを押して、開いていない方のスライドドアを開いた。
 麦野、滝壺、絹旗も車外に降りたことを確認して、浜面は再びボタンを押してドアを閉めてから、車のエンジンを切って降車する。


麦野「さて、予定通り五分以内に絹旗とフレンダはそれぞれのポイントへ移動しなさい」


 二人は了解、と一言返事してそれぞれ別方向へと走り去っていった。
 それを確認してから麦野は続ける。


麦野「滝壺は私と来なさい。ターゲットの座標移動へ一言挨拶しに行くわよ」

滝壺「うん」

麦野「浜面はいつも通り滝壺の援護。肉壁としてきっちり働きなさい。もし滝壺に少しでも傷を付けやがったら、その股間に付いてる粗末なモン焼き切ってやるわよ?」

浜面「ひぃ!? が、頑張ります!」


 股間を押さえながら返事をする浜面を冷ややかな目で見ながら、女子二人は施設の方へと歩みを進める。
 それを追いかけるように浜面も小走りを始めた。

 研究施設へ近付いてくる麦野たちに三人組の警備の者たちが気付く。
 「貴様ら何者だ、これ以上近付くと撃つぞ」。機関銃を構え、警告を出そうとした瞬間、


 クアッ!!


 という音と共に警備員たちの胴体が焼き払われて、上半身と下半身が真っ二つに分かれた。
 超能力者(レベル5)第四位。『原子崩し(メルトダウナー)』という麦野沈利の圧倒的な破壊のチカラが振るわれたのだ。
 周りに赤い液体が飛び散る。男たちのうめき声が漏れる。
 その光景を見た浜面は吐き気がこみ上げてくるのを感じる。
 同じモノを何度も見たことはあるが全く慣れないものだ、と浜面は思った。




 サクッと目の前にいた人間を殺してから麦野はハッ、と何かに気付いたような表情をしてから携帯端末に向けて喋りかけた。
 この端末は既に複数人同時通話用のアプリを起動している為、その声はアイテムのメンバー全てに届く。


麦野「言い忘れていたけど、ここの建物にいるヤツらはどっちかと言ったら裏の人間よ。だから、ターゲット以外は好きに殺して構わないから。あの糞女にも許可は得ているから安心しなさい」


 殺してから言うなよ、と浜面はツッコミたかったけど殺人ビームがこちらに飛んできそうだからやめた。


フレンダ『ちょっと麦野ー、それもうちょっと早く言ってよー? 無駄に気絶とかさせて二〇秒くらいロスしちゃったって訳よ』

絹旗『拳が超際どい角度で入ってピクリとも動かなくなった人がいたので、それを聞いて超安心しました』

滝壺「まあでも、あんまりやりすぎて勢いで座標移動を殺しちゃった、みたいなのはなしだよ」


 彼女たちの軽い感じの返しを聞いて、浜面はげんなりする。


浜面(……毎度思うが、ほんと俺だけ場違いだよな。何でこんなことになっちまったんだろうなぁマジで)


 一〇〇人以上のスキルアウトを束ねるリーダーだったときは輝いていたよなぁ、とかぼーっと浜面は考えているとそれに気付いた麦野が、


麦野「浜面テメェ何一人で楽しく妄想にふけってやがんだッ!! さっさとしろ!!」


 施設の入り口の前に立って青筋立てていた。
 入り口の扉周りが、炎であぶられて溶けた金属みたいになっているところからして、麦野がセキュリティをガン無視して能力でこじ開けたのだろう。
 このまま立っていたら今度は俺があの扉みたいになっちまうな。
 そんなことを考えながら、浜面は二人のあとを追い施設の中へと踏み込んでいった。


―――
――





 上条当麻は結標淡希を探して研究施設が比較的に多い第一〇学区をさまよっていた。
 第一〇学区は研究施設が多いと同時に学園都市で一番治安の悪い学区でもあったため、スキルアウトに絡まれては逃げて、スキルアウトに絡まれては逃げてを繰り返していた。
 そんな中、上条はある場所へとたどり着く。


上条「……うわぁ、なんだこりゃ?」


 目の前にあったのは巨大な穴。
 学校の校庭くらいの広さがあり、深さは五〇メートル前後あるか。
 周りには進入を禁止するようにバリケードが張ってあり、その前でアンチスキルが見張りをしていた。
 穴の中を覗き込んでみると、巻き込まれた人の救助でもしているのか、駆動鎧が瓦礫の撤去作業をしているのが確認できる。
 危険な現場でうろちょろしている上条を見て、見張りをしていたアンチスキルが近付いてきた。


黄泉川「――ちょっとそこの少年! ここは危険だから近づかないほうが……ってありゃ? お前上条じゃんか」

上条「黄泉川先生?」


 話しかけてきたアンチスキルは、上条の通う高校で教師をしている黄泉川愛穂だった。


上条「これなんかあったんすか? こんなでっかい穴が空くなんて不発弾でも地面に埋まってたのか?」

黄泉川「あー、まあ爆弾じゃないけどとんでもないものが地面に埋まっていた、っていうのは間違いないかな?」

上条「とんでもないもの?」


 首をかしげる上条を見て、黄泉川は穴の方へ目を向ける。


黄泉川「ここはもともと廃棄された研究施設があったじゃん。けど、そこの地下にはまだ稼働している巨大な施設があったみたいで、それがなにかの衝撃で天井から崩れてって感じじゃんよ」

上条「へー、そりゃ大事故だなぁ。下手すりゃ死人とか出てそうだな……」

黄泉川「それなら安心するじゃん。ここの職員と思われるヤツらはみんな変わったデザインの駆動鎧を着てたみたいでな。多少は怪我しているが全員無事生還しているじゃん」

上条「そっか」


 こんな大規模な事故でも生き残れるなんてやっぱ学園都市の技術はすげえな、と上条は感心した。
 すると黄泉川は言い忘れていたことを思い出したような顔をして、


黄泉川「あっ、そうだ。実際は全員じゃ――」


 となにかを言いかけて口が止まる。


黄泉川「…………」

上条「?」


 黄泉川は険しい表情を浮かべたまま黙り込んだ。
 しばらくして、表情をいつもの軽い感じに戻して再び口を開いた。


黄泉川「いや、何でもない。忘れてくれ」

上条「はあ」

黄泉川「ところで上条はこんなところで何やってるじゃん? この辺りにお前の好きそうなものなんてないと思うけど?」

上条「うっ、え、えっと……」


 上条は突然の質問に体をビクつかせた。
 彼がここに居る理由は結標淡希を捜すためだ。
 だが、上条はそれを目の前にいる女性に話していいものか悩んでいた。
 結標と同居人である彼女は今の結標のことについてどこまで知っているのか。そもそも、彼女に話をしていいのか悪いのか。


上条「あー、その、なんと言いますか」


 そんなことばかり考えてしまっているため、気の利いた言い訳が全然出てこなかった。
 その様子を見た黄泉川は、不審感のようなものを抱いてしまったようで眉をひそめる。



黄泉川「上条。お前もしかして何か先生に言えないようなことやってんじゃないだろうな?」

上条「へっ? い、いやーそんなわけないじゃないですかあはははは」

黄泉川「じゃあこんなところで何やっているのか、きっちり説明してみるじゃん」


 黄泉川のあまりの迫力に上条は思わずたじろぎ後ずさりしてしまう。
 冷や汗が全身から滲み出て、目があちらこちらへとバタフライする。
 そんな状況にある上条に、救いの女神様から手が差し伸べられた。


 タラララ~♪


 上条のズボンのポケットに入っている携帯電話から電子音が流れる。
 この音楽は電話の着信音だ。
 上条はポケットから携帯電話を取り出した。


上条「あっ、友達から電話だ! すみません黄泉川先生! あんまり先生たちの邪魔しちゃいけないし、俺行きますんで!」

黄泉川「ちょ、上条!?」


 上条は逃げるように黄泉川のいる方向から逆向きへ走り出した。
 走りながら携帯電話を通話モードにして耳へ持っていく。


上条「もしもし?」

??『え、えっと、上条さんの携帯電話で間違いないでしょうか?』

上条「その声は初春さんか」


 電話口から聞こえてきたのは、結標の捜索を買って出てくれた初春飾利という少女の声だった。
 彼女から電話がかかってくるということは、


上条「もしかして結標が見つかったのか!?」

初春『はい。五分程前の映像ですが、間違いなく結標さんの姿を捉えました』

上条「結標は今どこにいるんだ?」

初春『この映像は第一〇学区にある第三廃棄場近くの街頭カメラからのものです』

上条「わかった。すぐそこに行ってみるよ」


 上条は携帯電話の通話を切ろうとするが、


初春『あー! 違います待ってくださいー!』

上条「ん? 違うって何が?」

初春『この映像はあくまで五分前のものです。映っていた様子からしてどこかへ移動中のようでした。なので、今からそこに行ったところで出会えませんよ』

上条「ああ、そっか」


 たしかに徒歩でも五分あれば四、五〇〇メートルは移動できる。
 さらに早足や走りならなお広範囲に移動できるだろう。


初春『結標さんが研究施設を襲撃している犯人じゃないか、という話はしましたよね?』

上条「ああ。だから俺もこうやって施設の多い第一〇学区で結標を捜してんだから」

初春『私が見た限りだと、結標さんが監視カメラ等に映るときは研究施設を襲おうとして動いたときです』

上条「つまり、今結標はどこかの研究施設に行っている可能性が高いってことか?」

初春『そうです。このカメラの位置から一番近い研究施設は……櫻井通信機器開発所です』


 上条は一度携帯端末を耳から離し、研究施設の名前を地図アプリへ入力して検索する。
 画面に地図が映し出されて目的地へマーカーが表示され、ナビゲーションが開始された。


上条「……この距離なら走って一〇分くらいだな。よし」



 上条は目的地のある方へと進行方向を変えて走り出す。
 すると、電話の向こうの初春が神妙な声のトーンで、


初春『上条さん』

上条「何だ?」

初春『場所を教えてから言うのもあれなんですが、私はあなたに櫻井通信機器開発所へ行って欲しくないです』

上条「どうしたんだよ急に」


 初春は一呼吸置いて、ジャッジメントが現場で危険を民間人へ説明するときのように、


初春『櫻井通信機器開発所周辺の監視カメラが全部壊されています。今までの傾向からしてこれは結標さんの仕業ではないことはわかります』

上条「……まさか」


 上条は一七七支部で聞いた話を思い出していた。
 結標淡希を追っているのは一方通行や自分だけではない。


初春『はい。おそらく、結標さんを狙っている暗部組織の人たちもその場所にいる可能性が高いです。そんな場所へ一般人であるあなたが一人で行くなんて危険過ぎます』


 彼女の言うことは至極真っ当なことだろう。
 上条当麻はそれを自慢だとは思わないが、今までそれなりの修羅場はくぐってきた経験がある。
 だが、それに対してとある少女は生き残れたのはラッキーだっただけ、と言ってきた。
 たしかにそうかもしれない。前と同じ状況を一〇〇回やって一〇〇回同じ結末に出来るほどの技術や力など上条にはない。
 そんな人間が裏で動いている組織みたいなヤツらがいるところへ行くのは無謀だ。
 しかし、


上条「ありがとう初春さん。けど、俺は行くよ。もしかしたらこれが最後のチャンスかもしれねえんだ。これを逃したら、たぶん俺は一生後悔する」


 上条当麻の意思は変わらなかった。
 彼の中には『結標淡希にもう一度会う』。それ以外のことは存在しない。
 初春は諦めた様子でため息をつく。


初春『やっぱり白井さんの言った通りの展開になっちゃいましたねー。わかりました、もうこれ以上は止めませんよ』


 ただし、と初春は補足する。


初春『今、白井さんが現場に全速力で向かっています。たぶん二〇分くらいで着くと思いますので、それまでは無茶なことはしないでください』

上条「……ああ、わかった」

初春『では、私は白井さんのバックアップに戻らなきゃなんで電話を切りますね。……もう一度言いますけど無茶はしないでくださいよ?』

上条「信用されてねえなぁ。何度も言わなくてもわかってますよ」


 そう再確認して通話を切った。
 電話という並行作業を終えることで、上条の走行速度が速くなる。


上条(俺が着くのが一〇分後で白井は二〇分後。その一〇分で結標が用事を済ませて姿をくらませる可能性だってある)


 そうなったら次会えるのがいつになるのかわからなくなる。
 もしかしたらもう次の機会なんてないかもしれない。
 上条は心の中で謝った。


上条(悪いな初春さん、白井。俺、先に行ってるよ)


 夕日が沈みかけて暗くなった街中を上条当麻は全力で駆け抜けていく。


―――
――





 櫻井通信機器開発所八階にあるモニター室。
 その中にある中央モニター前に立っている人影が二人。
 一人はモニターの前にあるパネルを操作している白衣を着た、見るからに研究員の男。
 一人はその男の後ろに立ち、まるで監視でもしているように腕を組んでその様子を見ている少女。
 赤色の髪を二つに結んで背中に流し、軍用懐中電灯を片手に持っている。

 結標淡希。

 今学園都市の中でトップニュースに上がっている研究施設襲撃事件。
 それを引き起こしている張本人だ。

 研究員の男は額から脂汗をにじませ、体を震わせながらモニターを操作している。
 このことから、彼は結標に脅迫されて仕方がなく動いているのだとわかる。
 モニター室の中には、体の至るところから血を流している研究員が複数倒れているところから、その脅迫は『痛い目にあいたくなかったら言うことを聞け』とかそういったモノだと思われる。

 必要な作業が終わったのか、研究員は手を止め結標へ背を向けたまま投げやり気味に喋りかける。


研究員の男「ほらっ、終わったぞ」

結標「そう、ありがとう」


 礼を言い、結標は研究員の男の後頭部目掛けて軍用懐中電灯を横振りする。
 ゴッ、という鈍い音と共に男の体は床に投げ出されて、意識を失ったのか動かなくなった。

 軍用懐中電灯を腰のベルトへ戻し、結標はモニターを操作する。
 画面には目次のように様々な表題が羅列していた。
 ひたすら画面をスクロールしていくと、ある場所でそれを止め結標は大きく目を見開かせた。


結標「……やっと、見つけた」


 そう呟く彼女の表情は安堵のようなものを浮かべていた。
 その項目を選択して中身を確認する。
 内容は間違いないと確認した結標は、メモリースティックをポケットから取り出し、目の前にある機器へと差し込んだ。
 モニターを操作して目的のデータをメモリースティックへコピーする。
 ディスプレイにコピー状況を表すバーが表示され、パーセントが時間経過とともに増加していく。
 ……70%、80%、90%。あと少しでコピーが完了する。
 瞬間、


 目の前の機器に青白い光線が突き刺さった。


結標「ッ!?」


 機器から火花が散ったのを見て、結標はとっさに五メートルほど後方へ転移する。
 同時に機械は爆発し、火を吹いた。あの場にいたら火傷程度では済まなかっただろう。
 一体何が起こったのか。結標は目の前の炎を見つめながら考えていたが、それは即座に中断された。
 背中から刃物で突き刺されたかと思うような殺気を感じたからだ。

 結標は後ろへ体ごと向ける。
 モニター室の入り口に一人の女が立っていた。
 ふわふわ茶髪にモデルのようなプロポーションをした長身の女だった。
 そんな女を見て、結標は問う。


結標「……誰よ? 貴女」


 その質問を聞き、女は少し驚いた様子を見せてから、軽く笑った。



麦野「おいおい、まさかこの超能力者(レベル5)第四位、麦野沈利の顔が忘れられているなんて思いもしなかったにゃーん?」

結標「第四位……貴女が?」

麦野「たしかに会ったのは、雪合戦大会とかいうクソみてえなお遊びしているときだけだし、そのときも一言たりとも会話してなかったけどさ」


 麦野の言った通り彼女たちは一度だけ同じ場所に居合わせたことがある。
 ただ、それは結標淡希が記憶を失っているときのことであり、記憶を取り戻している今の彼女には知る由もなかった。


麦野「ま、いいや、そんなこと」


 本当にどうでも良さそうに麦野は話を切り上げた。


麦野「今私はアンタの前に立ちはだかっているってわけだけど、何となくその理由は察しているわよね?」


 そう言われて、結標は不敵な笑みを浮かべる。


結標「そうね。大方、あちこちの研究施設を荒らしている犯人を殺してこいとか言われて、ずっと私にまとわりついて来ているヤツらの中の一人、ってところかしら?」

麦野「いいや。違う」


 バッサリと切り捨て、麦野は続ける。


麦野「私はアンタを生け捕りにして連れてこいって命令をされているわ。そんなチンケなコソドロ事件なんて関係ない」

結標「生け捕り?」

麦野「襲った施設で研究データとか盗みまくってんだろ? それなら思い当たる節の一つや二つ、思いつくんじゃないかしら?」

結標「…………」


 結標は眉をひそめた。手の中を見る。
 そこには先ほど機器に差し込みデータのコピーに使ったメモリースティックがあった。
 機器が攻撃をされ炎上しようとするときも、結標は画面から目を離さなかった。
 だから、彼女は画面にコピーが完了した文章を見逃さなかった。
 だから、メモリースティックをアポートしメモリースティックを回収することが出来た。

 メモリースティックを懐にしまい込み、そのまま腰のベルトに取り付けられた軍用懐中電灯に手を当てる。
 そんな様子を気にすることなく麦野は、


麦野「そういうわけで、私はアンタを殺せないわけ? だから大人しく付いてきてくれればこちらも手を上げるつもりもないし、最低限の安全は保証してあげるわ。けど――」


 引き裂くような笑みを浮かべ、結標へ忠告する。


麦野「少しでも反抗する意思や逃走しようとする動きが見えれば、手足の一本や二本吹っ飛ばされても文句言えないってことなんだけど、そこんとこわかってんだよなぁ!? 座標移動ォ!!」


 結標は軍用懐中電灯を抜き、横に振る。同時に麦野は後ろへ一歩下がる。
 シュン、と空気を裂く音が鳴り、三本の金属矢が現れた。麦野の右胸部、右横腹、左足首、があった場所へ。
 そのまま金属矢はカランという音とともに床へ落下した。
 それを見て麦野があざ笑う。



麦野「この期に及んで急所を狙わないなんて、まさかテメェ……人も殺したことがないとかいう処女発言するつもりじゃねェだろうなぁ!? アッハッハッ!!」



 麦野の周囲に青白い光の玉が複数浮かび上がった。
 あれはやばい、と結標は直感する。

 青白い光の玉たちは一斉に電子の線となり、結標淡希へ向かってまっすぐ伸びる。
 電子線が結標へ到達する前に彼女の姿が消えた。
 自身の体をテレポートさせることで麦野のレベル5のチカラを回避したのだ。

 モニター室へいるのは麦野とその他倒れている有象無象だけとなった。


―――
――




麦野「…………」


 麦野は部屋の中を見回した。
 結標淡希の姿がないことから、この部屋ではないどこかへ転移して逃げたのだろうと予測する。
 それを確認して麦野は特にイラついたり、悔しがるような様子を見せることなかった。
 計画通りと言わんばかりの薄ら笑いのまま部屋の外の廊下へと目を向ける。


麦野「滝壺? ちゃんと記録できた?」

滝壺「――問題ない。座標移動(ムーブポイント)のAIM拡散力場の記録は終了した」


 麦野の視線の先には滝壺理后がいた。
 彼女の様子はいつもと違っている。
 ぼーっとして眠たそうにしている彼女の目が、大きく見開いていて瞳には光が灯っていた。
 『能力追跡(AIMストーカー)』。一度記録したAIM拡散力場を持つ能力者を、例え地球の裏側に逃げようが捕捉し続ける能力。
 それを発揮しているという証拠だ。

 滝壺は携帯端末を口に近づける。


滝壺「座標移動は現在この建物の七階廊下西側を移動中。パターンCが有効だと判断する」


 端末のスピーカーから了解と二人分の声が聞こえた。
 その声を確認した麦野は、


麦野「パターンCね。じゃ、私も所定の位置に移動するかー。浜面? このまま滝壺を車のところまで護衛して連れていきなさいよ」

浜面「お、おう。わかってるよ」


 滝壺の後ろにいた浜面仕上からの返事を聞き、麦野は青白い光の玉を一つ手の中に浮かべてからそれを真下の床へ放った。
 玉は一筋の光線となり、床を食い破るように突き刺さる。
 麦野の放つ光線は『粒機波形高速砲』という正式名称で、簡単に言うなら障害物を全てぶち抜く電子ビーム砲。
 電子線は床貫通してから下の階の床も貫通し、それが地下一階の床まで貫いた。
 床は直径五メートルのくらいの大穴を開け、下の階へ簡単に降りられる移動手段となる。


麦野「じゃ、ポイントへ着いたら連絡するからよろしくー」


 軽く言って麦野は目の前に空いた大穴を飛び降り、下の階へと移動した。
 これから『アイテム』による狩りが始まる。


―――
――





上条「――はぁ、はぁ、はぁ」


 上条当麻は第一〇学区の街中を走り、目的地である櫻井通信機器開発所の建物が肉眼で見えるくらいの位置まで来ていた。
 このペースでいけばあと二、三分でたどり着くだろう。
 走りながら施設の建物を眺めていると、


上条「なっ!? なんだあれは!!」


 建物の中から夕空に向かって青白い光線が発射されたのが見えた。
 サーチライトや花火とかそういうものと違う、禍々しい青白い閃光。
 それは一度だけではなく、五秒くらいの間隔で色々な角度で発射されている。
 光線はこちら側に向かって伸びてこないことから、建物の向こう側へ放たれていることがわかる。

 上条当麻はそれが何かはわからないが、これは能力者が何らかのチカラを使って放っている攻撃なのだと直感的に感じ取った。
 そこで思い出したのが、先ほど電話での初春飾利との会話。

 結標淡希を狙う暗部組織がいるかもしれない。


上条(まさか、あのビームみてえなのが発射されている先に結標が……?)


 この推測が当たっているのなら建物の向こう側へ行けば結標に会えるかもしれない。
 そうすれば上条にとっての第一目標が達成される。

 だが上条の視線はそちらではなく、青白い光線が発射地点に向いていた。

 あの光線の射程がそのまま光の線の長さだとするなら、それは数百メートルどころかキロ単位はあるように見える。
 建物から様々な角度で発射されているところから、建物の下の階の方から壁や天井をぶち抜いて外へ飛び出しているということになる。
 つまり、人間があの光線に命中してしまったらただでは済まない威力だということだ。

 だから上条は、結標がいるだろう方向ではなく光線が発射地点がある方向へと駆け出す。
 結標淡希に危機が訪れているかもしれない。その危機を取り除くことが出来るかもしれない。
 そんな不確定な可能性だけでも、上条当麻が動くための理由としては十分なものだった。


―――
――





 麦野沈利は施設の一階にあるロビーのようなところにいた。
 来客が待ち合いの為に座るようなソファに腰掛けながら、片手に携帯端末を持って耳に当てている。
 携帯端末から滝壺の声が聞こえてきた。


滝壺『――のポイントに砲撃』

麦野「りょーかい」


 軽く返事をして麦野は斜め上の方向へ手をかざす。
 掌から青白い電子線が一直線に発射された。
 発射されてから五秒後くらいに、また携帯端末から滝壺の声が聞こえる。


滝壺『予定通り座標移動はポイントαに向けて移動中。あと三回の砲撃で到達する予定』


 彼女たち『アイテム』が今行っているのは、結標淡希を生かして捕獲するための作戦の一つだ。
 麦野の役割は誘導。
 滝壺が能力追跡で敵を捕捉し、ターゲットである結標を目的地のポイントへ移動させるために、適切な位置へ砲撃して誘導するというもの。
 結標はテレポートを使用して間の障害物を無視して立体的に移動する。
 それを利用して彼女に移動して欲しい方向とは逆の位置へわざと外すように砲撃して移動させるという具合だ。

 誘導先のポイントαには絹旗、ポイントβにはフレンダが待ち受けている。
 そこに誘われた結標を各ポイントにいる彼女たちが、それぞれ持っている手段で結標を捕縛するという作戦だ。
 α・βと並んでいることからわかるように、絹旗が失敗した場合の予備プランとしてフレンダは待機している。

 今回の作戦、超能力者(レベル5)である麦野が誘導というサポートに徹しているのは理由がある。
 麦野の能力『原子崩し(メルトダウナー)』は、人を殺したり物を破壊したりすることに関しては最強格のチカラだ。
 しかし、今回のようなターゲットを生かしたまま捕獲するという条件が付いてしまうと、途端にこのチカラは使いづらいものとなってしまう。
 この能力は出力が大きい分正確な位置を狙って狙撃するような器用なことをするのが難しい。
 結標はテレポートという回避や逃げることに関しては最高位のチカラを持っている。
 そんな相手をこの原子崩しで手足を奪って捕獲、なんてことをするのは困難なことだ。

 一応、今回の命令は『死んでいても脳髄と脊髄が無事ならセーフ』みたいな感じなのだが、麦野のチカラではそれすらあっさり破壊してしまうかもしれない。
 そうなった場合は任務失敗どころか、違約金を取られて一方的にこちらが損する状況になってもおかしくない。
 だがら麦野は、今回の作戦のメインを絹旗とフレンダに任せることを決めた。


滝壺『――きぬはた。次の砲撃後、約三〇秒後に結標がポイントαに到達する予定。準備して』

絹旗『了解です。任せてください、私のところで超決めてやりますよ』

フレンダ『気楽にやっちゃってくれていいよ絹旗。後ろには私が控えてるから安心して失敗してくれればいいって訳よ』

絹旗『フレンダでは超失敗しそうなんで、そういうわけにはいきませんね』

フレンダ『にゃにぃー!?』

麦野「はいはい仕事中にペチャクチャ余計なこと喋らない。さて、最後の砲撃行くわよー?」


 そう言って麦野は滝壺に指定されたポイントへ向けて粒機波形高速砲を放った。
 三〇秒後、結標淡希と絹旗最愛の戦いが始まるだろう。


―――
――





 櫻井通信機器開発所の一号棟と二号棟をつなぐ搬入通路。
 長さは一〇〇メートルくらいあり、巨大な機材を運ぶ用途で作られた通路なのか道幅は八、九メートルほどある。
 機密のためか四方はコンクリートの壁で覆われており、窓一つない空間だ。
 今は搬入という用途で使われていないのか、通路のあちこちに使われていない機材や備品、書類などが詰められたダンボールなどが転がっていた。

 そんな通路の物陰に絹旗最愛が片膝をついて隠れていた。
 ここはアイテムが指定したポイントα。絹旗が結標と交戦しここで捕獲すると決めたポイントの一つだ。
 通信により麦野が最後の砲撃をしたことは確認している。
 あと数十秒くらいで結標淡希がこの場を通るはずだ。


絹旗(……早く来てくれませんかねー? こっちとしては早くやりたくて超うずうずしているんですが)


 そんなことを考えていると、通路の入口の方向から足音が聞こえてきた。
 足音の数は一つ。足音の大きさとターゲットはスニーカーを履いていたという麦野からもらった情報から、結標淡希だと断定する。


絹旗(さて、やるとしますか……)


 絹旗はポケットからテニスボール大の機械で出来た球体を取り出した。
 結標の足音が近付いてくる。物陰を挟んで向こう側に来た。


絹旗(――今だッ!)


 絹旗は球体の中心部にあるボタンを押し、結標が通るであろう場所へそれを転がした。
 そして球体の進行方向上に現れた。結標淡希が。


―――
――





結標「何っ!?」


 突然地面を転がってきた球体を見て結標の表情が強ばる。
 その形から結標は手榴弾のような爆発物を警戒した。もしそうなら一秒もしないうちに爆発するかもしれない。
 このタイミングで自身のテレポートでの回避は間に合わない、そう判断した結標は腕を交差させ、上半身を守りながら無理やり後ろへ飛んだ。
 しかし、


 爆発などしなかった。


 代わりに球体からキイィン、という甲高い音が通路に鳴り響いた。
 例えるなら黒板を引っ掻いた音を無理やり高音にしたような不快な音。


結標(……? 何よのこの変な音は? 爆弾じゃなかったわけ?)


 何が起こっているのか理解できず、混乱する結標に凄まじい速度で接近する影が一つ。


絹旗「残念、その判断は超失敗ですよ!」


 絹旗最愛。丈の短いニットのワンピースを着た中学生くらいの少女が。
 身をかがめながら拳を握りしめて、結標に突進するように近付く。


結標「ッ、今度は誰よ!?」


 結標の反射神経はそれに反応することが出来た。
 自身をテレポートすることによってこの少女の接近を回避することができるだろう。
 彼女は頭の中でテレポートするための演算式を――


結標「――えっ!?」


 立てられない。

 あまりにも予想外の状況で結標の動きが止まる。
 絹旗はその隙を決して見逃さない。
 握りしめた拳に自分のスピードと体重を乗せて、結標淡希の腹部へ突き刺した。


結標「あっ、がァ……!?」


 強力な一撃で結標の体がくの字型になって後方へ吹き飛んだ。
 そのまま彼女は通路の床を転がり、積み上げらたダンボールの山へ体ごと突っ込んだ。
 ダンボールの山は雪崩が起きるように崩れ去って結標の体に降りかかる。


絹旗「そこそこ鍛えているみたいですね。腹をそのまま突き破れると超思ったんですけど。まあ、これで気絶してくれていると超助かるんですが」


 絹旗はダンボールが散乱した場所へと歩いて近付く。
 集まって出来た小さなダンボールの塊が崩れた。


結標「ごほっ、ごほぉっ、おぇ、うっ!?」


 結標淡希が胃の中の物を吐き出しながら、ゆっくりと立ち上がった。
 それを見て絹旗は舌打ちをする。




絹旗「やっぱり素直に顎を狙って脳みそ超揺らして意識奪ったほうがよかったでしょうか?」

結標「はぁ、はぁ、貴女も、あの麦野とかいう女の仲間ってことで、いいのかしら?」


 結標は荒げた息を整えながら問いかける。
 その問いに絹旗は目を丸くさせながら、


絹旗「あれ? もしかして私のこと超忘れられちゃってますか? スキー場でのことが道端で挨拶した程度の出来事で超処理されているんですか?」

結標「スキー場? 何を言っているのよ?」

絹旗「……少し超ムカつきましたが、まあいいです。いずれにしろ私のやることは超変わりませんから」


 ドンッ、と床を蹴り、一歩で結標との距離を詰める。
 右拳を振るう。彼女の次の狙いは結標の下顎。
 結標は体を大きく左へ逃がすことでそれを避ける。

 回避をされたことを瞬時に理解した絹旗は、離れていく結標の頭部を追い左フックを繰り出す。
 結標を右腕を左手で支える形で受ける。右腕からミシリと嫌な音が聞こえた気がした。


結標「う、ぐっ」


 結標の体が受けた勢いに押され床へ倒れ込む。
 次の一撃に備えなければ、と結標は痛みを堪えながらも絹旗のいる方向に目を向ける。
 そこにいたのは、床に倒れ込んでいる結標を狙い、飛び上がりながら右拳を体の後ろへ引いている絹旗だった。
 バゴン!! 結標がとっさに体を横に転がしたことで、絹旗の拳は床に突き刺さる。
 ひび割れた床を横目で見て、結標全身に冷や汗が流れた。

 転がった勢いで結標は中腰気味に立ち上がり、腰のベルトにある軍用懐中電灯を抜く。
 鈍器にもなる懐中電灯を両手で握り、床に拳を付けているため低い位置にあった絹旗の頭目掛けてフルスイングする。

 ガゴン!!

 軍用懐中電灯は絹旗の頭部に直撃した。だが、彼女の体は特にのけぞることもなければ、ダメージを受けている様子もない。


結標「なっ、痛ッ……!?」


 むしろダメージを受けているのは、攻撃した結標淡希の方だった。
 まるで鉄柱を思い切り殴りつけたような感覚。両手が痺れて震えているのがわかる。
 
 予想外の反撃を受けて動揺している結標へ、絹旗がすぐさまに狙いをつける。。
 絹旗は拳を握り、結標の下顎を目掛けてアッパーカットの要領で拳を突き上げた。
 結標の顎が空を見る。
 投げ出されたようになった彼女は意識を、


結標「――こっ、のぉッ!!」


 失わなかった。
 結標は絹旗の腹部に前蹴りを繰り出す。
 だが、先ほどの軍用懐中電灯での打撃と同じように絹旗にはダメージが入っている様子はない。
 結標もそのことは百も承知だった。
 そのまま結標は絹旗の腹を壁のようにして、脚力を使って後方へ飛んで距離を取る。





絹旗「……なるほど、なかなかやりますね。とっさに私の拳を超避けていたとは、大した体捌きです」


 絹旗の言う通り、結標は先ほどの絹旗の顎への一撃を回避していた。
 オーバー気味に体を後方へ仰け反らせることで、拳から逃れていたため意識を奪われるという最悪の結果から逃れたのだ。


結標「貴女の能力……体に何か見えない鎧みたいなものを纏っている、みたいな感じかしら? 肉体強化なら私の攻撃に傷一つ付かないなんておかしいもの」

絹旗「私の『窒素装甲(オフェンスアーマー)』のことまで超忘れられているなんて、私の影も随分と薄くなったものです」


 『窒素装甲(オフェンスアーマー)』。
 空気中の窒素を操る能力で、それは鉄板を拳で叩き割るような破壊力や銃弾をも通さない窒素の壁による防御力を再現できる出力を持つ。
 射程は体表面から数センチほどしかないという欠点はあるが、それを補って余りある攻防一体の強力なチカラだ。
 まあいいか、と絹旗が続ける。


絹旗「さっきからお得意の空間移動(テレポート)を超使っていないようですけど、身体の調子でも悪いんでしょうか?」

結標「…………」


 たしかに彼女の言う通り、結標はこの攻防で自身の転移はおろか物質を転移させるということすら行っていなかった。
 結標は能力を使わなかったわけでもなく使いたくなかったわけでもない。使いたくても使えない状況にあったのだ。
 なぜか。


結標(何なのよこの妙な感覚は? まるで目隠しでもされたかのような、五感のうちの一つが失われたような感覚は?)


 結標はその妙な感覚のせいで能力を使うことができなくなっていた。
 演算が出来ない。例えるなら電卓から数字のキーを抜かれたような。
 何か致命的なモノを奪われた感覚に、結標は陥ってしまっている。

 結標はふと、あることを思い出した。絹旗との戦闘が始まる前に起こったことだ。
 まるで開戦の狼煙を上げるかのように奇妙な音を発した機械製の球体があった。
 思えばあのときからだ。自分が能力を使えなくなったのは。


結標「……まさか」


 地面に転がっている球体に目を向ける。
 その様子を見て、絹旗は小さく笑う。


絹旗「さすがに超気づきましたか? あなたが能力を超使えなくなったのはあれのせいですよ」


 そう言って絹旗は地面を蹴り結標に突っ込む。左右の拳による連打を結標に向けて放つ。
 結標はそれを紙一重のところで避けたり、受け流したりし、何とか直撃を免れる。


絹旗「あの球体は『空間認識阻害(テレポーターキラー)』と言いまして、簡単に言うなら空間移動能力者(テレポーター)の持つ突出した空間認識能力を一時的に奪うジャミング装置ですよ」


 乱打を止めずに絹旗は話を続ける。




絹旗「テレポーターっていうのは普通の人間とは違う空間認識能力を持っているみたいで、それを特殊な音波を聴覚から脳に流すことによって麻痺させ、能力を超使えなくなるという仕組みです」

絹旗「厳密には能力が使えなくなるというわけではなく、演算式を立てるために必要な物質の位置情報がわからなくなるというだけなんですが」


 だけとは言うが、結標はこれが絶望的な状況だとすぐに理解した。
 テレポートを実行するためには空間内のどこに何があるかという情報は必須だ。
 それがなければ物を正確な位置へ飛ばすどころか狙った物を飛ばすことすら出来ないし、自分自身を転移させた場合自分の身体が壁や床の中に転移するという事故が起きてしまう可能性が高い。
 後者に関しては自分も過去に一度経験があるため、絶対に避けたいことだと心の底から思っている。
 つまり、結標は今絶体絶命な状況にある、ということだ。

 しかし、結標はあることに気付く。
 それはさきほど言っていた絹旗の言葉の中にあったものだ。


結標「でも、この状況は長時間続かないんじゃないかしら?」


 絹旗最愛は先ほど『空間認識能力を一時的に奪う』と言った。
 そもそも能力者の能力を奪ったり、制限をかけるような装置はそれだけ電力が必要となる。
 少年院などに使われているAIMジャマーのような装置だって、莫大な電力を消費して効力を発揮している。
 それは今回絹旗が使ったものも同様だと結標は推測した。
 テニスボールくらい小さな球体の中にあるバッテリーが、それを長時間実行し続けるほどの電力を蓄えているとは思えなかった。

 結標の核心を付いた発言に、絹旗は拳を引っ込め、にやりと笑みを浮かべる。


絹旗「ええ、たしかのその通りです。技術班からの話によると長くても一分間の効力しかないそうですよ。ちなみにあれを使って今五〇秒くらい経ちましたので、そろそろ音が超鳴り止むことでしょう。けれど――」


 音が鳴り止むということは結標の空間認識能力が戻ってくるということ。
 すなわち能力を自由に使うことが出来るということになる。
 絹旗にとってそれは避けなければ行けない状況だ。
 だが、彼女は不気味な笑みをやめることはなかった。

 絹旗は懐から何かを取り出す。


絹旗「弱点が超わかっているというのに、私がそれをそのまま放っておくような超馬鹿な女に見えますか!?」


 手に持っているのは機械で出来たテニスボール大の球体。
 『空間認識阻害(テレポーターキラー)』。
 再び恐怖が現れ、結標淡希の身体にゾッと悪寒が走る。


絹旗「効力が切れて能力で超逃げられる前に、もう一度これを起動すれば、楽しい楽しい一分間の延長戦の始まりですよッ!!」

 絹旗が装置を起動しようと動く。結標淡希は脳みそフル回転させて考える。
 能力は今現在使えない。
 軍用懐中電灯で彼女を殴っても通じない。
 その他体術を使っても彼女には通用しないだろう。
 だからこそ、結標は今自分がやるべきことが明確にわかった。


結標「――させないッ!!」


 結標淡希は軍用懐中電灯を絹旗の目先に向けた。
 軍用懐中電灯は鈍器としても使用できる懐中電灯。
 本来の用途は。


 強力な光の点灯による『目眩まし』。


―――
――





 カッ!! 絹旗の視界に閃光が走った。


絹旗「なっ!?」


 とっさのことに絹旗は空いた腕で目を覆って光から守る。
 わずかに遅かったのか視界の色が白一色に染まった。
 そんな状況だが絹旗は冷静だった。


絹旗「目が見えなくてもこれを起動するくらいは超出来ますよ!」


 絹旗は手の中にある球体のスイッチを押す。
 キイィン、という不快な高音が鳴り響く。
 これで再び結標は能力の使えない一分間を過ごすことになるだろう。

 ガキン、ガキン!!

 その音は即座に鳴り止んだ。
 金属と金属が擦り合うような音を上げてから。


絹旗「い、一体何が――」


 奪われた視力が回復してきた絹旗は、真っ先に自分の手の中にある球体へと目を向ける。
 そこにあった球体はただの球体ではなくなっていた。

 二本のボルトが突き刺さり、機能の停止した鉄屑が手のひらに転がっているの見て、絹旗は目を大きく見開かせる。


絹旗「これはもしかしてテレポートによる物質の転移ッ!? 馬鹿なッ!! 一度目のジャミングも超残っていたはずなのになぜッ!?」


 驚愕の表情のまま絹旗は目の前にいる結標の方を見る。


絹旗「ッ――!?」


 絹旗は目を大きく見開かせる。
 結標淡希は両人差し指を両耳に突っ込んで耳をふさぎ、口に軍用懐中電灯の底の部分を咥えているという奇妙な格好をしていた。
 至って単純な対策だ。聴覚から脳へ働くジャミングならその聴覚を断てばいい。
 そんな安っぽい手で学園都市の技術を使った最新鋭の兵器が破られたのだ。

 結標は軍用懐中電灯を咥えたままニヤリと笑い、首ごと軍用懐中電灯を横振りする。
 トン、という肉を断つような音が、絹旗の体から鳴った。
 左肩、右横腹、右太腿。その三箇所には先ほどの絹旗の持っていた武器を破壊したものと同じ種類のボルトが、肉体を押しのけるように突き刺さっていた。


絹旗「あぐぁ……!?」


 テレポートによる物質の転移。
 転移先の物質を押しのけて出現するという性質があるため、どんな強度があるものでもそれを無視することが出来る強力な矛。
 それは窒素装甲という鉄壁の鎧に対しても同じことであった。
 鋭い痛みが走り、絹旗はその場にひざまずく。

 それを見て結標は耳穴をふさいでいた指を抜き、咥えていた軍用懐中電灯を手に取った。




結標「勝負ありね」

絹旗「なっ……!」

結標「これ以上どうにかしようとか別に思っていないから、安心してそこで休んでいるといいわ」

絹旗「……ふざけているんですか……! 私がこの程度で超戦えなくなるような貧弱な雑魚だと本気で思っているんですか?」


 絹旗は獣のような獰猛な瞳で結標を見上げる。
 だが、結標は特に気にする様子もなく絹旗の横を通り過ぎていった。

 瞬間、絹旗は頭の中の血液が全て沸騰したかと思うくらい、怒りの感情が爆発する。



絹旗「舐めてンじゃねェよッ!! このクソアマがァ!!」



 咆哮とともに絹旗は近くに置いていたデスクの足を掴む。
 それを結標淡希が歩いている後方へ向けて、身体中に走っていた痛みも忘れ全力で投げ飛ばした。
 五〇キログラムほどの物体が、砲弾のような速度で結標の背中へ向かう。


結標「…………」


 シュン、と結標は特に後ろを見ることもなく、テレポートをして姿を消した。
 目標を失ったデスクがそのまま先に置いてあった機材へと激突し、部品がバラバラに散らばった。
 絹旗は脱力して床に座り込む。


絹旗「……はぁ、これは私の超負けってことですか?」


 ため息交じりに呟く。


絹旗「やっぱり敗因は、初撃で顎を超狙わなかったせいですかねー」


 一人反省会を開きながら絹旗は、懐から携帯端末を取り出す。
 他のアイテムのメンバーに現状を報告するために電話口へ喋りかける。


絹旗「えー、こちら絹旗。すみません、超失敗しちゃいました」



―――
――





 上条当麻は何故かフェンスに開いていた大穴をくぐって、櫻井通信機器開発所の敷地内へと入っていた。
 あとは何故かぶち破られているドアから建物の中に入るだけだ。
 しかし、上条は建物の中に入れず、物陰に隠れているという状況にあった。


上条(……クソっ、あと少しで中に入れるっていうのによ)


 建物の周りにはいかにもな男たちが周辺を警戒していた。
 その手には拳銃が握られており、あの中を強行突破しようとしても上条当麻では逆立ちしたって無事ではいられないだろう。


上条(さっき建物の中から茶髪のチンピラみてえなヤツとジャージ着た女の子が出てきたけど、たぶんあいつらのことだよな? 結標を狙っている暗部組織って)


 その二人は周りにいた男たちを数人引き連れてどこかへ歩いて消えていった。
 おそらくあの二人は、というより厳密に言うと女の子のほうがあの男たちの上司か何かに当たる人なのだろう。
 女の子のほうにだけ男たちはペコペコと頭を下げていたのを見ていた上条は、勝手にそう予想した。


上条(……というかさっきの二人どっかで見たことあるような気がしないでもないような)


 上条はしばらくぼーっとそんなことを考えたあと、首を振ってその考えを飛ばす。
 今はこんなことを考えている場合じゃねえだろ、と再び建物の周りにいる男たちの方へ目を向ける。


上条(全然あの場から動こうとする様子が見られねえな。このまま待っててもジリ貧だろうし、どっか別の入口探すか?)


 この建物はかなり大きい上に二棟が連なっている。
 ということは、入り口は複数あってもおかしくはない。
 こんなところで隙を伺うくらいなら、別の安全な入り口を探したほうがいいんじゃないか。
 そう思って上条は動こうとした時、


上条「……って、あれ?」


 突然、建物の周りに立ち入り口を監視していた男たちが一斉にどこかへ向かって歩き始めた。
 そのまま男たちが姿を消していき、入り口が完全にガラ空きになったことを確認する。


上条「何かあったのか? みんなで仲良く連れションに行ったわけじゃねえだろうし、もしかして罠かなんかか?」


 いろいろ考えて辺りを見回してみたが、特にその罠らしいものは見当たらない。
 考えててもしょうがない。こうなったら行き当たりばったりだ。
 そう考えて上条当麻は、物陰から飛び出して入り口へ向かって走った。


―――
――





 麦野は相変わらず施設の一階のロビーで、滝壺の指示通りのポイントに向けて砲撃をしていた。
 何度も同じような場所に電子線が発射されているからか、天井にはたくさんの穴が集まるように空いている。
 砲撃を続けながら麦野は携帯端末へ話かける。


麦野「アンタが失敗するなんて珍しいわね。さすが座標移動(ムーブポイント)ってところかしら?」

絹旗『完全に私の判断ミスです。超反省しています』


 いつもよりワントーン声が低い絹旗のことを気遣っているのか、


フレンダ『大丈夫だってへーきへーき! おかげでボーナスは私のモノって訳だから問題ナシ!』

麦野「へー、もう任務を達成した気でいるなんて随分と余裕じゃないか? しくじるんじゃないわよフレンダ」

フレンダ『任せてよ麦野! 結局、こういう作戦は私のほうが向いているって訳よ』


 自信満々のフレンダの声を聞いて麦野はため息をつく。
 本当に大丈夫なのか。麦野の中に不安の気持ちはあった。
 しかし、彼女はやるときはきっちりやってくれるヤツだということは麦野がよく知っている。
 なぜなら彼女も『アイテム』の一員なのだから。


滝壺『フレンダ。三〇秒後にポイントβに到達する。準備はいい?』


 滝壺がアナウンスをする。それに対してフレンダはいつもの調子で、


フレンダ『オッケー! さーて、勝負だ座標移動!』

滝壺『了解。むぎのこれが最後。――のポイントに三秒後砲撃』

麦野「はいはい」

 
 軽く返事をして麦野は手を斜め上へとかざす。
 この砲撃がフレンダと結標の戦いの開始を知らせるゴングとなるだろう。
 麦野の掌から青白い光の玉が発生する。
 その瞬間、

 何者かの気配がこのロビーへ侵入したことに麦野は気付いた。


麦野「あ?」


 だが麦野は特に動揺することもなく予定通り砲撃を放つ。
 建物の壁や天井を突き抜けて電子線が一直線に伸びた。


滝壺『予定通り座標移動はポイントβに――ごほっ!?』





 滝壺は突然咳き込み言葉を中断させた。
 彼女の能力は『体晶』という特殊な薬品を摂取することにより起こる暴走、それによって使用できるチカラだ。
 だが、それは彼女の身体に大きな負担がかかるというデメリットがある。
 それを知っている麦野は、


麦野「滝壺。もういいわ。あとは適当に休んどきなさい」

滝壺『でも』

麦野「これが最後の仕事じゃないのよ? だから、こんなところで潰れてもらっては困るのよ。わかる?」

滝壺『……うん。わかった』


 滝壺の了承の返事を聞いて、麦野は端末のマイクを切って懐にしまう。
 麦野の目はロビーの入り口のある方向へ向いた。


麦野「さて、待たせたわね。見たところここの職員でも警備会社のヤツでもないみたいだけど、あなたは一体何者かしら?」


 麦野の視線の先には一人の少年が立っていた。
 ツンツンした短い黒髪を頭に生やした少年。それ以外これと言った特徴はない。
 こちらをじっと見つめてくるその瞳からは、明らかな怒りのような感情が感じられる。
 少年の口が開く。


上条「……上条、いやそんな名前なんて名乗ったところで意味ねえよな」


 上条と名乗る少年は続ける。


上条「テメェだな。さっきからビームみてえなのをバカスカ撃ってやがるヤツは」

麦野「はぁ? ビームだぁ? あれは『粒機波形高速砲』っていう正式名称があるのよ? そんなダセェ名前で呼ぶのはやめてもらってもいいかしら?」

上条「名前なんてどうでもいいんだよ!」


 上条はバッサリと切り捨てる。


上条「テメェはそのチカラを使って一体誰を攻撃してんだよ?」

麦野「別に。適当に壁に撃って遊んでいただけよ?」

上条「とぼけてんじゃねえよ!! テメェら結標のことを狙ってやがる組織とかいうヤツの一員だろ!? あのチカラの矛先は結標に向けられていたんじゃねえのか!?」


 上条の口から結標淡希の名前が出てきて、麦野は眉をピクリと動かした。
 こいつは結標淡希のことを知っているし、結標淡希がターゲットとなって狙われているという事実を知っている。
 そして、その現場にこうして現れて麦野の前に立ちはだかっている。
 このことから同じ暗部組織の人間か、と思った。が、あんな善人臭いガキが暗部の人間か? という疑問が浮かんだ。


麦野「……アンタ、座標移動と知り合い?」

上条「友達だよ」


 即答した。
 暗部の世界には全く似つかわしくない言葉が出てきたことに麦野は笑いをこぼす。




麦野「友達、ふふっ、友達かー、くふっ、友達ねー」

上条「何がおかしいんだよ?」

麦野「別に何でもないわよ。ところでその座標移動とお友達の上条君は、こんな場所に一体何しに来たのかにゃーん?」


 麦野の逆撫でするような問いかけに、上条は眉をひそめながら答える。


上条「最初俺は結標に会うためにここに来た。けど、いざここにたどり着くと結標を傷つけようとしているヤツらがここにいるってわかった」

上条「だから、俺がそいつらぶっ飛ばして止めてやらなきゃって決めたんだ。結標と会うのはそれからでも遅くはねえはずだ」


 上条の言葉に嘘や偽りなどない本心の言葉だということを麦野は理解した。
 だからこそ麦野は再び笑みをこぼす。


麦野「つまり、私をぶっ飛すことで座標移動を守れると思って、アンタはこの場に立っているってことでいいかしら?」

上条「ああ、そうだ」

麦野「だったらそれは間違いよ」


 麦野は即座に否定する。


麦野「私の仕事は座標移動をある地点に誘導すること。実際にアンタの言う傷つけるような行いをするのは、その地点で待機している捕獲係のヤツよ」

上条「何だと?」

麦野「その目的を果たすためには捕獲係がいる地点に行かないといけない。つまり、アンタは無駄足を踏んでいるってことよ。おマヌケさん?」


ぐっ、と上条は焦る様子を見せた。
それを見た麦野は、


麦野「教えてあげましょうか? その捕獲係がいる地点」

上条「なっ」

麦野「二号棟の地下から外へ出る時に使う非常通路。そこが私たちが座標移動を捕獲するためのポイントとしている場所よ」


 上条はきょとんとした表情で麦野に問う。


上条「な、何でそんなことを俺に教えてくれるんだよお前」

麦野「何で、か。そんなの決まっているじゃない。だって――」


 麦野はブチブチと引き裂くような笑顔を浮かべた。


麦野「そうしねえと場所がわかってても絶対にたどり着けないことを理解して浮かべる、テメェの絶望に満ちた表情が見られねえじゃねえかッ!!」


―――
――





 青白い光の玉が複数、麦野の体の周辺に現れた。
 上条当麻はその光に見覚えがあった。先ほどから研究施設から空に向けて放たれていた光線。
 それが今、自分に向かって放たれようとしている。


麦野「てかそもそも今から現場に向かったところでもう間に合いはしねえんだ!! ここに来た時点でテメェはもうゲームオーバーなんだよ!!」


 麦野から複数の電子線が発射される。
 『粒機波形高速砲』。
 一人の人間を破壊するだけなら十分過ぎる威力を持つ、圧倒的なチカラが、複数。


上条「ッ!?」


 上条は反射的に横へ飛んだ。電子線が上条がいた場所を的確に通過する。
 着地点に置いてあった四人がけのソファに激突して、ソファごと上条は床に倒れ込んだ。
 追うように、麦野は再び電子線を複数放つ。
 それに気付いた上条は、不安定な体勢から無理やり前転するように移動して着弾地点から逃げる。

 だが、その行動は麦野沈利に読まれていた。
 いつの間にか上条の目の前に彼女が立ちふさがっていたのだ。


麦野「ほらほら、どうしたッ!? もっと楽しませてみろよクソガキィ!!」


 位置が下がっていた上条の顔面に麦野の靴が突き刺さった。


上条「ぐがッ……!?」


 強力な蹴りを受け、上条の体は二メートルほど宙に投げ出され、勢いのまま壁に背中から叩きつけられた。
 頭部と背中に意識が飛びそうなほどの痛みが走る。吐き気と目眩が頭と意識をぐらつかせる。
 だが、ここで倒れるわけにはいかない。体にムチを打ち、ふらつかせながら上条はゆっくりと立ち上がる。

 その様子を見て麦野はつまらなそうに右手をかざす。
 掌からは青白い光の玉が現れる。


麦野「見たところ何の能力のも持たないただの無能力者(レベル0)ってとこかしら? そんなのでよく超能力者(レベル5)第四位である私に楯突こうと思えたわね」


 麦野の見下した言葉を受けても上条は特に反応ない。
 ぜぇぜぇと呼吸を整えているだけだった。




麦野「チッ、つまんねえ。大人しく死んでなさい」


 そう言って麦野は電子線を上条へ放った。
 一秒もしないうちにそれは少年の元へたどり着き、ただの肉塊に変えてしまうだろう。

 しかし、その驚異は上条当麻を破壊することはなかった。

 バキン!

 上条当麻の右手。『幻想殺し(イマジンブレイカー)』。
 どんな異能なチカラも触れるだけで打ち消してしまう上条の持つチカラ。
 それが麦野の原子崩し(メルトダウナー)を消し去ったからだ。


麦野「は?」


 予想外の状況に麦野の表情に困惑が見えた。
 
 過去に麦野のチカラを受け流すことができる能力者はいた。
 それは自分と根っこが同じの同系統かつ同等のチカラを持つ能力者だから出来た行為だ。

 過去に麦野のチカラを跳ね返すことができる能力者はいた。
 そいつは学園都市最強のチカラを持つ能力者だから出来た行為だ。

 しかし、このチカラが直撃しても打ち消されるという現象にまだ麦野は出会ったことがなかった。
 

上条「……たしかにテメェの言う通りかもしれねえよ。今からアイツのところに向かったところでもう手遅れなのかもしれない」


 麦野を睨みつけながら、上条は一歩一歩前へ歩みを進めていく。


上条「けど、それはテメェが勝手に言っているだけの想像に過ぎねえ。だってそうだろ? 本当はどっちが正解かなんて実際に行ってみなきゃわからねえんだからな」


 結標淡希ならきっと困難を乗り越えてくれる。
 上条はそれを信じている。だからこそ、彼は何をしなければいけないのかを理解した。



上条「だったらな、邪魔するテメェをぶっ飛ばして結標のところに行く。それ以外の方法なんて思いつくわけねえだろ!!」



 上条は床を蹴り、麦野へ向かって飛び出した。
 歯を食いしばる。右拳を握る。
 迷っている時間などない。こんなところで立ち惚けていい時間なんて一秒たりとも残されていないのだから。


―――
――






 櫻井通信機器開発所の二号棟に爆発音が鳴り響く。
 一度だけではない。何度も何度も、花火大会の花火の打ち上がるような頻度で。


フレンダ(ふっふっふっ、いい子いい子。ちゃーんと私の思惑通り動いてくれて大助かりって訳よ)


 フレンダは二号棟の地下にある非常用の出口に繋がる通路にいた。
 このような大きな施設には避難のときに使われる通路は複数あり、この地下通路もその一つだった。
 地下だからかあちこちに人間が丸まれば入りそうな太いパイプが張り巡らされており、かくれんぼをすれば鬼が泣いて家に帰るくらい暗くて入り組んでいる。
 そんな通路の道沿いにあるパイプの後ろに隠れ、フレンダはポータルテレビを見ながら携帯端末を操作していた。

 ポータルテレビに映っているのはフレンダがこの施設内に仕掛けた監視カメラの映像。
 安物で画質は悪いがその場所の状況を見るだけなら十分な性能のものだ。
 その映像に映っているのはもちろん、ターゲットである結標淡希の姿。


フレンダ(ん? ちょっとルート外れようとしてるなー)


 結標がT字路の通路を左に曲がったのを見てフレンダは眉をひそめた。
 すかさずフレンダは手に持つ携帯端末を操作する。


 ドゴォン!!


 再び二号棟に爆発音が鳴り響く。
 すると、監視カメラに先ほどのT字路に戻って来てもう一つの道へと走る結標の姿が映った。

 フレンダがやっているのは麦野のような誘導。
 監視カメラで逐一結標の動向を探り、自分の決めている道筋から外れようとしたときに、その先に仕掛けた爆弾を爆破して道を塞いで誘導する。
 それだけをしていた場合、頭のキレる者なら誘導されていると気付くかもしれないが、フレンダにはその点は抜かりはなかった。
 正規の通路にも先ほど使ったような遠隔操作型の爆弾はもちろん、センサー式の自動爆弾を仕掛けており、それらを逐一爆破させることでカモフラージュさせている。
 今回の彼女たちの任務は結標淡希を生きて回収することだ。
 そのため今回使用している爆弾は威力は抑えられており、爆風が体に少しだけ掠るように設置場所にもこだわっている。


フレンダ(ま、でも結局こんな面倒臭い設定しなくても、座標移動なら全力で殺しに行っても突破されそうな気はする訳なんだけどねー)


 ポータルテレビを見て携帯端末を操作する。そんな作業をしながらフレンダはあることを考えていた。
 それは座標移動、結標淡希のことだ。
 アイテムのメンバーの中で、フレンダは結標本人と比較的に接点がある方だった。


フレンダ(最初に会ったのは、クリスマスのとき浜面と一緒にケーキを買いに行ったときだったっけ?)


 去年のクリスマスイブの時にアイテムはクリスマスパーティーを開催した。
 女四人と奴隷一人という寂しいパーティーだったがそれなりに楽しかった記憶がある。
 そのとき『よく見たらケーキがないじゃん』という麦野の言葉で、誰かと浜面がケーキを買いに行くという展開になった。
 ジャンケンに負けたフレンダは罰ゲームとして、浜面仕上と一緒にケーキ屋にクリスマスケーキを買いに行った。
 そのケーキ屋で売り子のバイトをしていたのが結標淡希、彼女だった。
 ミニスカサンタ服という寒そうなコスプレをしていた姿を思い出す。
 あのときは同行していた浜面の知り合いということで適当に挨拶を交わして終わり。そんな感じだったような気がする。




フレンダ(次に会ったのがスキー場での雪合戦大会のときかな?)


 今年の一月月初、一般的な学生からしたら冬休みという時期にアイテムは『第二〇学区にあるスキー場で開催される雪合戦大会に出場しろ』という依頼を受けていた。
 そのとき結標は、学園都市の最強の超能力者(レベル5)一方通行と、アイテムと同等の暗部組織グループのリーダーである土御門という少年と組んで、同じ大会に出場していた。
 初めて彼女と会ったときは、彼女が座標移動(ムーブポイント)という強力なチカラを持っていることは知らなかった。
 だからこそ、フレンダは初めて結標の能力を見たときは恐怖のようなものを覚えていたと記憶していた。
 結局、アイテムチームと一方通行チームが準決勝で当たって、いろいろあってアイテムチームは敗北。
 まあ、勝つことが目的ではなかったとは言え、少し悔しい思いをしたな、とフレンダは思い出す。


フレンダ(で、最後に会ったのが焼き芋大会のとき、か)


 三月の中旬頃、今から三週間くらい前の話。
 フレンダは町内会主催の焼き芋大会へ妹のフレメアと一緒に焼き芋大会に参加していた。
 そのときにもフレンダは結標と出会っていた。
 彼女は先ほども名前が出た一方通行と、打ち止めと呼ばれる少女と一緒に来ていた。
 一方通行曰く、来られなくなった主催側の人の代理で来たとかそんなことを言っていた。
 今まで挨拶程度の付き合いでしかなかったフレンダと結標。
 初めてそこでまともな会話らしい会話をしたような気がしていた。
 そこでフレンダが抱いた結標に対する感想は、料理センスがおかしい以外至って普通の善人だ、というものだった。

 それだけに、フレンダがこの裏の世界で結標淡希の敵として立ちはだかっている状況に、少し寂しさのような感情を抱いていた。


フレンダ(何で今さらこんな汚い世界に堕ちてきたのか知らないけど、まあ私からしたらそんな事情知ったこっちゃないって訳なんだけどね)


 フレンダはポータルテレビに映る監視映像を確認する。
 そろそろか、そう呟いてフレンダは座っていた状態から中腰の状態へと移行した。


フレンダ(ここから先は一本道。あの速さだとあと二〇秒くらいでポイントに到達、ってところかな)


 フレンダはスカートの中からリモコンを取り出す。
 このリモコンは、目の前にあるパイプ管を挟んだ向こう側の通路に設置してある爆弾と繋がっているもの。
 専用のリモコンを使用している理由は、絶対に間違えるわけにはいかないため、携帯端末での制御から切り離しているからだ。

 あの爆弾はもちろんフレンダが自らの手で設定した特別製だ。
 爆発の指向性を調整してあり、普通の人間が適切な位置で爆発を受ければ両足が吹き飛ぶような調整をしている。
 ただ、この適切な位置というのが曲者で、爆発のタイミングが早すぎたり遅すぎたりすれば、威力が足りずに火傷程度で終わってしまうかもしれない。
 だからこそ、フレンダはこうやって直接目視できる位置に待機して、爆破スイッチを握っているのだ。

 フレンダの狙いはこうだ。
 専用の爆弾で結標の両足を奪うことで移動手段をなくす。
 しかし、彼女にはテレポートという移動手段がまだ残っている。が、問題なし。
 空間移動能力者は少し動揺しただけで、まともに演算が出来なくなってしまうなんて話は、暗部の世界では常識だ。
 両足を失うということは、今まで味わったことのないほどの激痛を味わうということでもある。
 そんな状態で平然と思考できる人間などいるわけがない。
 仮に足を失ったことによる痛みでショック死した場合でも、フレンダは問題ないと思っている。
 傷ついているのは脚部だけなので、傷つけるなと言われている脳髄と脊髄を傷つける確率はほぼゼロ。
 我ながら完璧な作戦だ、とフレンダは笑みを浮かべる。


フレンダ(さて、そろそろターゲットがここを通る時間ね……)


 物陰に息を潜めるように隠れ、フレンダはリモコンを構える。
 足音が聞こえてきた。すぐそこに結標が来ている。
 そして、

 フレンダの視界に結標淡希の姿映った。




フレンダ(――今だッ!)


 フレンダは手元にある爆破スイッチを持つ指に力を入れようとする。
 しかし、彼女の顔を見た瞬間、


『結標さんもまた……いや、もしかしたらもう会うことはないかもしれないね』

『何で? きっと会えるわよ。学園都市はそんなに広くないわ』

『……そうだね。それじゃ、また会おうね』


 フレンダの脳裏に浮かんだのは過去にあった結標との会話。
 一瞬、彼女の動きが硬直した。


フレンダ「――はっ、しまっ」


 とっさにフレンダはリモコンのスイッチを押す。
 ドガン!! という音とともに通路に爆風が広がった。


―――
――





フレンダ「……はぁ、はぁ、ま、間に合った?」


 フレンダが爆風から目を腕でかばいながら辺りを見回す。
 爆煙に埋め尽くされて通路が今どうなっているのかが見えない。
 予定通りなら、煙が晴れると両足を失い地面に這いつくばっている結標淡希の姿が現れるはずだ。
 だが、現実はそうではなかった。


フレンダ「…………」


 煙が晴れた爆心地には爆発の炎で黒焦げた床しか目に映らなかった。
 人一人どころか物一つすら落ちていない。


フレンダ「……はあ、やっちゃった」


 フレンダは体中の力が抜けて地面にへたり込んだ。
 ぼーっと何もない空間を眺めながらフレンダは後悔の念に駆られていた。


フレンダ(結局、いくら偶然だったとはいえ、表の世界で不用意に彼女と接触してしまったことが失敗だったって訳よ。あーあ、ほんと何やってんだろ私……)


 フレンダは懐から携帯端末を取り出してミュートを解除する。


フレンダ「えっと、こちらフレンダ。ごめん、失敗しちゃった」


 フレンダの言葉に返事はなかった。
 全員の回線がオープンになっていることから聞いていないわけではないだろう。
 ただ、その事実を受け入れられないだけなのかもしれない。自分たちは任務を失敗したという事実を。
 そんな中、口を開いたのは滝壺理后だった。




滝壺『大丈夫だよフレンダ。私が能力追跡を使えば座標移動を追うことが出来る。まだチャンスは残っているよ』


 たしかに滝壺のチカラを使えば、例え学園都市の外へ結標が逃げようとその後を追跡することが出来る。
 しかしフレンダはその提案を素直に飲むことが出来なかった。


フレンダ「で、でも滝壺。アンタ今日はもう身体が……!」

滝壺『問題ないよ。少し休んだら楽になったから』


 嘘だ。フレンダは彼女の声色でそう感じた。


絹旗『しかし、再追跡するとしても作戦は超必要ですよね? ただいたずらに座標移動を追ってもこちらが超消耗するばかりで得策とは言えませんよ』


 絹旗が話に割って入る。
 彼女の言う通りテレポートは逃走することに関しては優れた能力だ。
 無闇に追いかけても捕まえられる確率は相当低いだろう。


絹旗『そういうわけで麦野? 一度退いてから作戦を立て直すことを超提案します』


 アイテムのリーダーは麦野沈利だ。
 こういうときに皆の行動指針を決めるのは彼女の仕事。
 アイテム全員が麦野の判断を待つ。
 しかし、


滝壺『……むぎの?』


 麦野沈利からの言葉はなかった。通信回線はたしかに繋がっている
 なのに、なぜか彼女からの言葉は一向に流れない。
 この状況にフレンダは恐る恐ると喋り始める。


フレンダ「も、もしかして麦野の身に何かあったんじゃ……?」


 麦野が超能力者(レベル5)の第四位という強力なチカラを持つ能力者だということは誰もが知っている。
 そんなことありえないだろうという考えがまず最初に浮かぶ。
 しかし、この麦野からの返答がない異常な状況。
 放っておくことができない状況だということは全員が理解できる。


絹旗『……こちら絹旗から下部組織へ通達。班を三つに分けろ。一つは一棟の一階ロビーで待機しているはずの麦野のところへ行き状況確認。一つは搬入通路にいる私のところへ。残りは現状のまま周辺を警戒せよ』


 絹旗が別の端末で下部組織の人間に指示を出した。
 そしてそのままアイテムとの通話に戻る。


絹旗『とにかく一度全員集合しましょう。浜面? 表に車を超回してください』

浜面『りょ、了解!』


 絹旗の提案に全員乗り、それぞれ動き出す。
 これからどうするかを決めるために。


―――
――





黒子「――うっ、これは……」


 白井黒子は結標淡希がいるかもしれない場所であり、上条当麻との待ち合わせ場所でもある櫻井通信機器開発所の周辺へとたどり着いていた。
 そこはまるで別世界のようだと黒子は顔をしかめる。
 敷地内の庭には血と思われる赤い液体が至るところに飛び散っており、建物は焼け焦げた跡や壊されたような跡がところどころに見える。


黒子(十中八九暗部組織と呼ばれる連中の仕業でしょうね。初春の予想は大当たりですの)


 黒子は辺りを見回すが上条当麻らしき人物は見当たらない。
 状況が状況のため、尻尾巻いて逃げていったのだろうと判断するのが妥当だ。
 それなら彼は今、安全地帯で事なきを得ていることだろう。
 だが、黒子はその判断を下すことが出来なかった。


黒子(あの類人猿がそんな利口な判断が出来るとは到底思えませんの。絶対あの中に単身で突入などという馬鹿丸出しなことをやっているに決まっていますわ)


 黒子は呆れたような表情で、物陰から施設の建物を眺める。
 上条当麻があの中に入っていると仮定をした場合、自分はどうするべきか。
 白井黒子は風紀委員(ジャッジメント)だ。しかしジャッジメントには怪しいからと言って無断で施設へ突入していいなどという権限はない。
 許可もされていないあの建物に入るということは、扱い的にはコソドロとまったく同じになるだろう。
 そんな状態で施設に入って職員にでも見つかりなどしたら、即アンチスキルに通報されてもおかしくはない。


黒子(とはいえ研究所は今異常事態に陥っている。それを理由に突入すれば始末書程度で済ませることもできるか……?)


 などと考えながら施設の周辺を観察しているとある光景が目に入った。
 施設の入り口の前に一台の黒塗りのワンボックスカーが停まっていて、その周りに六つの人影が見える。
 人影たちの背丈やたたずまいからして男。よく見えないが車の中にも何人か人が乗っている様子だった。


黒子(ここの職員……ではありませんわよね? 格好からして)


 一人の格好を例にするとニット帽にナイロン素材のジャケットに下はジーパン。
 男たちの格好は皆似たような感じのコーディネートをしているところから、この研究所の職員とは到底思えなかった。


黒子(……となると)


 黒子は深呼吸をして息を整える。
 そして、物陰から飛び出した。


黒子「ジャッジメントですの! そこの入り口付近でたむろしている方々? このような場所で一体何をしているか話を聞かせてもらいますわよ?」


 「ジャッジメントだと!?」「なんでこんなところにいやがるんだよ!?」。
 男たちのうろたえている様子を見て黒子は拍子抜けする。
 暗部組織の連中だと思い警戒していたが、ジャッジメントが目の前に立つだけであの様子だと大した勢力ではないようだ。
 そう思って黒子は彼らに近づこうとする。
 しかし、

 六人の男が一斉に拳銃をこちら向けてきたことで、黒子の足が止まる。




黒子(実銃ッ!? 不味い――)


 黒子はとっさに空間移動(テレポート)のチカラを使い、先ほどいた物陰に移動する。
 ダガン!! ダガン!! という何発もの銃声が聞こえてきたことで、黒子は顔から血の気が引くような感覚が走った。


黒子(躊躇なくこちらへ発砲してきたところからして、やはりただのスキルアウトとかとは違うようですわね)


 スキルアウトの中にはああいった装備品を、どこからともなく仕入れて使っている過激派集団もいる。
 だが、所詮はチンピラの集まり。実際に使用する時が来ると怖くて撃てなかったり、うまく使いこなせなかったりする。
 それが黒子の中での認識だった。


黒子(相手は六人。位置取りや動きさえ間違えなければ負けはしないはず)


 この状況の打開策を打ち出すため頭を回転させる黒子。
 手持ちの武器や周辺の壁になりそうな障害物を確認する。
 そんな中、

 ブオオオオン!!

 という耳障りな大音が黒子の耳に飛び込んだきた。


黒子(これは車のエンジン音?)


 物陰から音のする方向を確認しようとする。

 彼女の横を一台の車が猛スピードで通り過ぎていった。
 茶髪のツインテールが風で大きくなびく。
 
 先ほど男たちと一緒にいた黒塗りのワンボックスカーだ。
 後ろにあったフェンスを突き破り、夜の街へと飛び出していった。


黒子「しまったッ!! 逃げられたッ!?」


 黒子が車の後を追うために物陰を飛び出す。

 パァン!!

 その瞬間、黒子の頬を掠るように何かが通り抜けた。
 頬から熱と痛みを感じ、たらりと生温い液体が流れる。
 何が起こったかを黒子は即座に理解して、再び物陰に飛び込んだ。

 銃を持った六人の男は逃げてはいなかった。

 黒子は思い出す。そういえば車の中にも何人か人が乗っていた。
 この状況から、車で逃走した者たちが暗部組織の幹部で、ここに残っている男たちは下っ端の兵隊なのだと黒子は断定する。


黒子(なるほど。上の者を逃がすために、この場に残ってわたくしを足止めするということですのね。大した忠誠心ですの)


 黒子は物陰で思考する。これからどうするべきかを。
 逃げていった車は結標淡希を狙った組織の幹部が乗っていると考えられる。
 最悪なケースを想定するなら、あの中には捕まった結標も一緒に乗っているかもしれない。
 あの車をここで逃してしまうということは、結標が自分たちには一生手の届かない場所に行ってしまうということに等しい。

 黒子にはもう一つ気がかりなことがあった。
 それはここで待ち合わせしていたはずの上条当麻の存在だ。
 彼が黒子を待ちきれずに建物内に侵入したとすれば、例の組織の連中と接触した可能性が高いだろう。
 黒子が知っている限り、あの少年は銃火器を持った人間とまともに戦えるような武器やスキルなど持ってはいない。
 だから、彼は今頃あの建物の中で最悪死体として、運が良ければ大きな怪我を負う程度で済んでいる可能性がある。
 その上条を助けに行こうとするなら、今現在自分を殺そうとしている六人の男を相手にしないといけない。





 二つの考えを巡らせて選択をしようとする。そんな少女の頭を一瞬で真っ白にする出来事が起こった。

 ボゥン!! という轟音とともに櫻井通信機器開発所の施設が燃え上がる。


黒子「なっ……!? もしや自分たちがいたという痕跡を消すために建物へ放火を……!」


 目撃者はジャッジメントだろうと消そうとしている組織だ。
 建物ごと全てを消してしまうという判断を下しても何らおかしくはない。

 パリン、と建物の上階の窓ガラスが割れる音がした。黒子はその方向へ目を向ける。
 割れた窓枠から上半身を出して、必死に手を降っている男が見えた。
 耳を澄ませると「助けてくれ」という声が何度も聞こえてくる。

 黒子は耳に付けている携帯端末を操作し、初春飾利との回線をつなげる。


黒子「こちら白井。櫻井通信機器開発所で火災は発生しておりますの。至急、アンチスキルへ消防と救急の要請を」


 電話口から『了解しました』という初春の声を聞いてから端末のマイクを切る。


黒子(わたくしは風紀委員(ジャッジメント)ですの。目の前で助けを求めている人を放っておくわけにはいきませんわね)


 そもそも結標淡希はそう簡単に捕まるようなヤワなヤツではない。それは黒子自身がよくわかっていることだ。
 だからさっき通った車の中に彼女はいない。黒子はそういうことにして、目の前の問題へと注力する。


黒子(類人猿がもし建物内に侵入していたとすれば、彼はあの火の中ということになりますわね。ほんと世話の焼ける殿方ですの)


 黒子は太ももに巻いているホルダーに手を当てる。
 収められていた金属矢が数本、黒子の手の中へ転移した。


黒子(何をするにしても、あの厄介な男ども制圧しなければなりませんわね)


 拳銃を持ちながらジリジリとこちらへ距離を詰めてくる六人組。
 彼らに聞こえるよう黒子は声を張り上げる。


黒子「わたくしはこれからあの火事の現場へ人命救助を行います!! もし、それを邪魔しようとお思いなっているのでしたら――」


 物陰にいた黒子の姿が消える。
 ドゴッ、一番遠くの位置にいた男の後頭部へ黒子の両足裏が突き刺さった。
 その勢いに負け、男の体が地面に転がる。


黒子「――容赦はいたしませんので、ご注意くださいませ」


―――
――





麦野(…………んん)


 麦野の意識が覚醒する。
 ここはどこだ? 私はなにをやっていた? どうして私は寝ていたんだ?
 いろいろな疑問を浮かべながら、麦野は目を開ける。

 目に入ってきたのは、心配そうな表情でこちらを見る同僚であるアイテムの少女三人だった。


フレンダ「む、麦野!! よかった!! 目を覚ましたんだね!!」


 フレンダの表情が喜びで満ち溢れていた。


絹旗「……ほっ、まあ生きていることは超分かっていましたが、無事意識を取り戻してくれてよかったです」


 冷静な言葉を使っているが、さっきまで焦っていたのか絹旗は息を吐いて胸を撫で下ろしていた。


滝壺「本当によかった……」


 『体晶』の副作用で病人のように顔色の悪い滝壺も、静かに微笑みを浮かべていた。


麦野「……はあ? 何よこの状況? つーかここどこよ?」


 麦野は周りを見渡す。見覚えのある風景だった。
 二つ横に並んだシートが縦に三組の六人乗りの車の中。
 今日アイテムの足として使っていた盗難車のワンボックスカーの中だ。
 窓を眺めると景色が後ろに流れていっているところからして、この車は移動しているのだとわかる。


麦野「車ん中、ってことは任務は終わったってことか。ターゲットは捕まえられた?」


 麦野の問いかけに他の少女たちの顔が曇る。
 その様子から麦野は何となく察した。


フレンダ「……ご、ごめん麦野。私が、私のせいだ」


 うつむいて膝の上で拳を握り締めながら、フレンダは瞳に涙を浮かべていた。


絹旗「ち、違いますよ! そもそも私が超しくじらなかったらこんなことにはならなかったんです! だから私が悪いです!」


 擁護するように絹旗は自分の責任を主張する。
 そんな二人を見ながら麦野はため息を付いた。


麦野「もういいわよ。私はあなたたちなら座標移動を捕まえられると思って役割を任せた。それで駄目だったってことは役割を与えたリーダーである私の責任よ」




 だからあなたたちは悪くないわ、と麦野は付け加える。


フレンダ「む、むぎのぉ……」

絹旗「……すみません、次は絶対に失敗しません」


 リーダーの言葉に少し明るさを取り戻した二人。
 何からしくないことしているな、と思いながら麦野は頬をかいた。


滝壺「……ところでむぎの。気絶するなんて一体何があったの?」


 滝壺の言葉に麦野は顔をしかめる。


麦野「気絶? この私が?」

絹旗「は、はい。麦野からの通信が途絶えて、下部組織の連中に超様子を見に行かせたら、麦野が倒れていると報告を受けまして」

フレンダ「それでこれは不味い状況だってことで、麦野をこの車に乗せて櫻井通信機器開発所から脱出したって訳よ」


 少女たちの言葉を聞き麦野は当時のことを思い出す。
 たしか自分は櫻井通信機器開発所一棟の一階ロビーに待機して、滝壺の指示を受けながら能力を使って結標の動きを誘導する役割だったはずだ。
 絹旗の待機場所への誘導はもちろん、予備プランのフレンダの位置までの誘導もこなした記憶がある。
 そんな自分がなぜ気絶などしていたのか。ふと、麦野はある光景が頭の中をよぎった。

 自分の前に立ちふさがったツンツン頭の少年を。


麦野「――あんのクソガキィ!!」


 先ほどまでの穏やかな表情から一転し、麦野の顔は怒り一色に染まった。
 突然の怒号に少女たちがビクつかせる。


麦野「浜面ァ!! 今すぐさっきの場所へ車を戻せッ!!」


 運転席の浜面がバックミラーで麦野を見ながら、


浜面「なっ、今から戻んのかよ!? もうあそこには結標の姉さんはいねえだろうし、今頃他の下部組織の連中が後始末で建物に火を放ってるところだぜ?」

麦野「それでも戻れッ!! あの上条とかいうクソ野郎をブチコロシに行くッ!! たった一発のラッキーパンチで図に乗ってんじゃねえぞゴルァ!!」


 激昂する麦野をアイテムのメンバー+下っ端で何とか説得し、第三学区にある隠れ家へと帰還したのだった。


―――
――





 第一〇学区。櫻井通信機器開発所から一キロほど離れた場所にある寂れた公園。
 園内に設置されている遊具は錆びついているところから、すでに管理から外れていて手入れがされていないことがわかる。
 公園の入り口から少し離れた位置にある自動販売機、その前に設置されているベンチに結標淡希は腰掛けていた。

 彼女の様子は一言で言えば満身創痍。
 肌が見えるところだけでも至るところに切り傷や打撲痕が見られ、着ている服もところどころに破れた跡や焼け焦げたような跡があった。
 顔を伏せながら息を荒げている様子から、相当な疲労やダメージが蓄積されていると見える。

 ボロボロの結標は呟く。


結標「……あと、もう少しよ……」


 言葉を発することで動かない身体を鼓舞する。
 もうすでに限界が近いのだろう。

 結標はおもむろに腰に付いた軍用懐中電灯へ手を伸ばす。
 それを握り、引き抜き、立ち上がって、結標は軍用懐中電灯で空を切った。

 カラン、という軽い金属のようなものが地面に落ちる音が公園入口から聞こえてきた。
 金属矢。彼女が携帯していた武器が地面に転がっている。

 その落下地点の側に、一人の少年が立っていた。


結標「止まりなさい。上条君」


―――
――





上条「結標……」


 上条当麻は公園の前に立っている。
 彼の格好も結標のように傷だらけだった。
 切り傷や打撲痕はもちろん、額からは血を垂らしており、高熱の金属か何かで焼かれたのか左足の脛の皮膚がズボンごと焼けただれていた。
 そんな状態でも上条当麻は地面に立ち、しっかりと結標のことを見据えている。


上条「探したよ。こんなところにいたんだな」


 左足を引きずりながら、上条はゆっくりと前に進む。
 結標はそれを制止するように、


結標「私は止まりなさいと言ったわよね? これ以上近づこうものなら、脳天にコイツ打ち込むわよ?」


 手に持った金属矢を見せつけながら結標は続ける。


結標「何でこんなところにいるのかしら? 私は関わるなと忠告したはずだけど」

上条「関わるなとは言ってないだろ? たしか追ってきたら刺客とみなすって言っていた」

結標「屁理屈を言わないでちょうだい。どちらも同じ意味よ」

上条「いいや違う。俺はお前を追いかけている刺客だ、って名乗れば追っていいってことになる」


 上条の滅茶苦茶な言い分を聞いて結標は鼻で笑った。


結標「なるほどね。つまり、貴方は私を力尽くで取り押さえようとしているってわけか。ふふっ、いいわよ。貴方程度に捕まるような私じゃ――」

上条「そんなつもりはねえよ」


 結標の言葉を遮りように上条は否定する。
 眉をしかめながら結標は問う。


結標「だったら貴方は何でこんなところにいるのよ? 何で私の目の前に立っているのよ?」

上条「……決まってんだろ」


 上条は右手を差し伸べる。


上条「結標、一緒に帰ろう。お前がいたあの場所に。みんながいるあの場所に」


 まるで友達に向けるような笑顔で。
 上条当麻は彼女を呼びかける。


結標「…………帰る?」

上条「ああ」


 顔を下に向けながら、結標は再び問う。


結標「帰るってどこによ? 私にはもう帰る場所なんて残されていない」


 スカートのポケットから携帯端末を取り出し、その画面を眺めながら結標は続ける。


結標「みんなって誰よ? 『青髪ピアス』? 『土御門元春』? 『姫神秋沙』? 『吹寄制理』? 『芳川桔梗』? 『黄泉川愛穂』? 『打ち止め』?」




 かつての結標淡希と親交のあったものたちの名前が並ぶ。
 携帯端末の電話帳に登録されている名前を片っ端から読み上げているのだろう。


結標「私の知っている名前の人なんて誰一人いないわ。そんなところに帰って一体何になるというのかしら?」

上条「……そう、だよな。お前は記憶が戻って……、記憶がないんだよな。この半年間の」

結標「ええそうよ。だから無意味なのよ。貴方のしようとしていることは」

上条「…………」


 上条の表情が曇る。
 たしかに結標の言うことは正論だ。
 彼女からするなら初対面の人しかいない場所へ、得体のしれない人間しかいない場所へ連れて行かれようとしているのと同意義だ。
 だが、上条は話すことをやめない。


上条「なあ、結標。なんつうか、すっげえ個人的な話なんだけど、聞いてくれないか?」

結標「嫌よ。これ以上貴方との茶番を続けるつもりはないわ。ここから立ち去らせてもらうから」


 結標は上条に背を向け、反対側の出口へと足を進める。
 そんな結標に気を止めず、上条は恐る恐る、だけど彼女には聞こえるようにしっかりとした声で、


上条「――実は、俺も記憶喪失なんだよ! 去年の七月の終わり頃、それ以前の記憶がねえんだ!」


 言った。
 墓場まで持っていこうと思っていた秘密を、上条当麻はここで打ち明けた。
 絶対に誰にもバレてはいけないと隠し続けていた、その秘密を。

 上条の明かした真実を聞き、結標は足を止めた。


結標「へー、そうなんだ」


 体ごと振り返り、


結標「で、それがなに? 同じ記憶喪失者だから私の気持ちが分かるとか言うつもり? もしそうならやめてもらえるかしら? 反吐が出る」


 結標は吐き捨てるように言って、一蹴した。
 が、


上条「言わねえよ。そんな自惚れたような言葉」


 上条は静かに否定する。
 そのまま語りかけるように続ける。


上条「記憶を失ったときにさ、自分が何者なのかもわからなくて、これから俺はどうすればいいんだよって不安に駆られてたんだ」

上条「そこで俺はある女の子に出会ったんだ。その子は俺が記憶喪失になる前からの知り合いだった」


 上条は純白の修道服を着た銀髪碧眼の少女を思い出す。あのときの病室を思い出す。


上条「その子は俺が記憶喪失だって知って泣いてくれたんだよ。まるで自分のことかのように、大粒の涙を流しながら。それで俺はとっさに嘘を付いちまったんだ。記憶喪失なんてしてないぜ、って。何でだと思う?」

結標「…………」


 上条の問いかけに結標は答えない。
 だが、彼女の瞳はたしかに上条当麻を見ている。


上条「俺はそのとき思ったんだ。あの子には泣いて欲しくないって、あの子を泣かせちゃいけないって」




 上条は心臓のある左胸を拳で叩き、


上条「たしかに言ったんだよ。俺の『心』が、この子は俺が守らなきゃいけない、って!」


 その答えに結びつけるように、上条当麻は結標へと確認する。


上条「結標。お前もそうなんじゃねえのかよ!? お前の中にもそういう人がいるんじゃねえのか!? そいつに対する想いってのがあるんじゃねえのか!?」


 先ほど結標淡希が名前を挙げなかった一人の少年を思い浮かべながら、


上条「もしそうなら、それは『幻想』なんかじゃねえ!! 紛れもないお前の中にある『心』の声だよ!!」


結標「…………」


 結標は黙り込んだまま顔を伏せる。
 何かを考え込むように。何かを隠すように。
 十数秒の間を空けて、結標は囁くように、


結標「……ないわよ」

上条「結標?」


 下げていた視線を上げ、


結標「勝手なこと言ってんじゃないわよ!! 私にはそんなものは存在しない!! 貴方の独りよがりな妄想を押し付けないでよ!!」


 結標の叫びが公園内に響き渡る。
 だが、それを見た上条はなにかに気付く。そして臆することなく結標へ向かう。


上条「……何をそんなに怖がってんだよ、お前」

結標「――――!」


 その言葉で結標の中で何かが切れた。
 目を大きく見開き、犬歯をむき出しにさせながら、手に持った軍用懐中電灯を真横に振った。
 瞬間、上条当麻の居る地面に巨大な影が映る。


上条「…………」


 上条はゆっくりと上空を見上げた。
 そこにあったのはさっきまで公園内に設置されていた物たちだ。
 ゴミ箱。その中に入っていた大量の空き缶。その近くに置いてあったベンチ。
 そして公園に設置されていた自動販売機。

 上条当麻に大量の凶器が降り注ぐ。
 地面に落ちた質量で周辺に風を巻き起こし、砂煙が上がる。

 落下を確認した結標は腰のベルトに軍用懐中電灯を戻し、再び背を向け公園の出口へと向かう。
 背中越しに結標は告げる。


結標「――さよなら上条君。二度と私の前に姿を現さないで」


 ふらふらとした足取りで、結標淡希は暗闇の中へと消えていった。


―――
――





 すっかり日が暮れて夜に包まれた学園都市の街中。
 車の通りもなく静かな道沿いの歩道をゆっくりと、杖を突きながら歩く少年が一人。
 一方通行。
 その顔から生気が消え、地面を踏みしめる一歩一歩に彼の意思はなく、ただ流されるように前に進んでいる人形のようだった。

 少年の頭に何か冷たいものがポツリと一滴落ちた。
 その一滴は次第に数を増やしていき、やがてそれは数多の水滴となる。

 学園都市にパラパラと雨が降ってきた。
 傘を差さないとずぶ濡れになりそうな強さの雨が。


一方通行「…………あ」


 頭上から落ちてくる雨に当たり、一方通行の目は目覚めるように生気を取り戻した。
 同時に停止していた一方通行の思考が回り始める。


一方通行「……ここはどこだ?」


 道路を見渡す。『第七学区』の中にある道路だと表す看板が立っていた。


一方通行「……今何時だ?」


 ポケットの中から携帯端末を取り出しディスプレイを見る。
 『18:24』と表示されていた。


一方通行「……俺は一体、何をやっていたンだ?」


 一方通行は記憶を必死に手繰り寄せる。
 たしか午後四時を過ぎたくらいに廃棄された研究所をカモフラージュした、敵勢力の住処である地下施設に侵入したはずだ。
 そこでテレポートを使う駆動鎧と交戦し、苦戦しながらもソイツらを退けた。
 そのあとは……。


一方通行「あン?」


 ふと、一方通行は携帯端末が入っていたポケットに他の物が入っていることに気付く。
 何かと思いそれを掴み、取り出した。
 それは家電量販店とかに売っているどこにでもありそうなメモリースティックだった。


一方通行「…………がっ」


 『空間移動中継装置(テレポーテーション)計画』。


 その単語と、それに付随する情報が土石流のように一方通行の頭の中に流れ込んでくる。
 あのときの、モニター室での記憶が全て蘇る。



一方通行「がァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」



 一方通行は咆哮する。
 手に持ったメモリースティックをアスファルトの上に叩きつけ、それを靴裏で踏み付ける。何度も、何度も、何度も。


一方通行「……はァ、はァ、はァ、はァ」


 息を整えながら一方通行はぐちゃぐちゃになった思考を落ち着かせる。
 こんなちっぽけな物を破壊しても何も解決しない。
 本能のまま怒りに任せたところで何も変わらない。
 現実から目を背けたからといって彼女は帰ってこない。


一方通行「……そォだ。結標を、アイツを早く見つけねェと」




 一方通行は再び携帯端末を手に取り、今日のニュースのページを表示する。
 それを見て一方通行は目を見開かせた。

 『第一〇学区にある櫻井通信機器開発所に原因不明の火災が発生』。

 『櫻井通信機器開発所』。
 その名前に一方通行は覚えがあった。
 結標淡希が過去にテレポートの関係で実験で赴いた施設の中の一つ。
 現在、結標と思われる襲撃者がターゲットにしていると予想できる施設の一つ。
 だが、今までの襲撃のニュースとは決定的に違う部分が一つあった。

 それは襲撃されたというニュースではなく火災が起こったというニュースだという点。

 今までの襲撃犯は人を傷つけ情報を盗むことはしていたが、建物を燃やすなんていうことはしていない。
 たまたま手違いで火が点いて施設が燃え上がったと考えればそれまでなのだが、一方通行はもう一つの可能性の方が脳裏によぎってしょうがなかった。


一方通行(ついに、どっかの暗部組織と結標が接触したっつゥことか……?)


 結標が空間移動能力者の関係の研究施設を狙っていることを暗部組織が予測し、それを的中させて結標と接触したという可能性。
 暗部の人間なら自分たちがいたという証拠隠滅に放火を行ってもおかしくはない。
 そして一方通行は、その可能性と連動して最悪なケースを頭に浮かべてしまう。

 結標淡希が抵抗虚しく暗部組織に捕まってしまうという、最悪なケースが。


一方通行「あっ、ああ、あァ、アア、あああ、ァァ、あ、アッ」


 言語にもなっていない声を吐く。
 携帯端末ごと手をガタガタと震わさせる。
 足から力が消えて膝から崩れ落ちる。
 目頭が引き裂けるくらい目を大きく見開かせる。
 心臓の音が今までで一番大きく聞こえる。

 パニック状態に陥った一方通行は気付いたら、ある人物へと電話を掛けていた。
 それは一方通行が頼るべきではないと考えていた人物。
 切羽詰まった少年にそれを判断できる思考能力は残されていなかった。

 端末のスピーカーから呼び出し音がなる。
 一コール目。二コール目。三コール目。
 四回目のコール音に差し掛かったところで電話が繋がった。
 雑踏の音や電子音のようなものが混じった背景音の中から、その人物の第一声が聞こえてきた。


???『もしもしー? アクセラちゃんが電話してくるなんて珍しいにゃー、どうかしたのか?』


 聞こえてきたのは軽い感じの男の声。
 それは一方通行にとってよく知る者の声だった。


一方通行「土御門ォ!!」


 受話器の向こう側にいる男は土御門元春。
 一方通行のクラスメイトであり、暗部組織『グループ』のリーダーでもある男。
 土御門は一方通行の荒げた声を聞き、


土御門『いつっ、ほんとどうした? いきなりそんな大声出して。鼓膜が破れるかと思ったぜよ』


 土御門の言葉を無視して一方通行は吠える。


一方通行「オマエ今の結標のこと知ってンだろッ!? 結標が今どォなってンのか知ってンだろッ!? 結標が今どこにいるのか知ってンだろッ!? 結標がこれからどォなるのか知ってンだろォッ!?」


 一方通行は思いつく限りの質問を吐き出す。抑えきれない思いが溢れ出していくように。


一方通行「教えろ土御門ォ!! オマエの知っていることォ、洗いざらい全部ゥ!!」

土御門『…………』




 電話の向こうの土御門は黙り込んだ。
 数秒間沈黙が続き、騒がしい雑音だけがスピーカーから漏れてくる。
 土御門はため息をつき、声のトーンを落として、


土御門『――無様だな。一方通行』


 吐き捨てるように言った。


一方通行「何だとッ!? オマエ今なン――」

土御門『無様だと言ったんだ。聞こえなかったのか?』


 声を荒げる一方通行を無視して続ける。


土御門『一人でどうにか出来ると思ったか? この学園都市の闇を。たしかにお前は学園都市最強の超能力者(レベル5)だ。が、それだけだ』

土御門『いくら圧倒的なチカラを持っていたとしても、お前は所詮表の住人だということだ。今回の件で十分身に染みただろう』

土御門『そもそもオレは忠告しておいたはずだが? 何があってもこちら側に堕ちて来るな、と』


 忠告、その言葉を聞いて一方通行は反発するように、


一方通行「ふざけるなァ!! オマエ言ったよなァ!? 裏のことは全部オマエらが片付けるってよォ! 俺に余計な手間を掛けさせないようにするってよォ!」

一方通行「だから俺はオマエを信じた! 結標に関わる裏の事情は詮索しなかった! 表の世界でのうのうと過ごした! そしたらこのザマだッ!!」


 一方通行の反論に土御門は冷静な口調で、


土御門『そうだな。それに関してはこちらの落ち度だ、謝ろう。すまん』

一方通行「すまン、だと?」


 たった一言の謝罪、それを聞いて一方通行はガリッと音が鳴るくらい歯噛みする。


一方通行「そンな安い謝罪なンざいらねェンだよ!! 寄越せェ!! オマエらの持っている結標に関する情報をッ!! アイツの居場所をッ!!」

土御門『断る』


 土御門は一言でバッサリと切り捨てた。


土御門『先ほども言っただろ? お前は所詮表の住人。そんなヤツにオレたちが持っている情報を与えたところで何も出来ない。ただ闇雲に動いてくたばるだけだ』

土御門『オレたち『グループ』も結標を追っている。もちろん、ヤツは生かして保護するつもりだ。そのための算段も大方付いている』

土御門『そんな状態でお前なんかに下手に動かれて、オレたちの計画を狂わされても困るんだよ。素人は引っ込んでいろ』


 土御門の言葉を聞いて一方通行は嘲笑うように、


一方通行「ぎゃはっ、信じて任せろってかァ!? 散々偉そォなことォ言ってこンなクソみてェな状況にしやがったオマエらを!? 悪りィがそれが出来るほど俺ァ馬鹿じゃねェ!」

一方通行「俺の方がオマエらみてェな糞の集まりなンかよりよっぽどうまくやれる自信があるねェ。三下どもは引っ込ンでろってンだ!」


 一方通行の挑発じみた発言。
 それが効いたのか効いていないのかわからないが、土御門は声のトーンをもう一段落として、


土御門『まるでお前のほうがうまくやれると言っているようだな?』

一方通行「その通りだ」




  一方通行の即答を聞き土御門はしばらく考えてから、


土御門『面白い。だったらお前にチャンスをやろう』

一方通行「チャンスだと?」


 土御門の提案に一方通行は眉をしかめた。
 一方通行の返しを気にすることなく土御門は続ける。


土御門『この学園都市にはオレたちグループが使っている隠れ家が大小含めて一〇〇近く存在する。その中のどこかにいるオレたちを見つけ出してみろ』

土御門『そうしたら、オレたちの持っている情報を欲しいだけくれてやろう。タイムリミットはそうだな、今日の日付が変わるまでとしておこうか』


 土御門の言ったことは要するに『かくれんぼ』だ。
 舞台は学園都市。その中のどこかに隠れている土御門たちグループを日付が変わるまでに見つけ出す。
 東京都の中央三分の一を占める広大な土地で、ビル等の建物で入り組んだ場所で、残り時間はもう六時間も無いという無茶苦茶な『かくれんぼ』。
 だが、一方通行はそれを聞いても決して戸惑ったり恐れたりすることなく、ただ笑った。


一方通行「上等だァ。すぐさまに見つ出してェ、全員まとめて愉快なオブジェにしてやるからよォ? 楽しみにしてろォ」

土御門『ふん、威勢のいい小僧だ。まあ、だがお前程度ではこの条件はちと厳しいか。少しヒントをやろう。オレたちは今『第七学区』のどこかにいる』


 学園都市には二三に仕切られた学区が存在する。
 その中で一つに絞られるのは一方通行にとって有益な情報だが、第七学区は学園都市の中でもトップクラスの面積を持つ学区。
 しかも一番学生などの人通りが多い学区でもあるため、難易度的には焼け石に水かもしれない。
 ヒントをもらった一方通行はニタニタした表情のまま、


一方通行「ンだァ? いきなり難易度緩和してくるとは気前がイイねェ? そンなミンチにして欲しいなら面倒臭せェゲームなンてまどろっこしいことせずに、直に場所ォ教えてくれやりゃイイのによォ」

土御門『調子に乗るな。ゲームにならないから言ってやったに過ぎないさ』

一方通行「そォかよ」


 一方通行は適当に返した。


土御門『さて、これからすぐにオレたちは打ち合わせの時間なんだ。そういうわけだから、これ以降お前と電話で話すことはないだろう』

一方通行「ああ、必要ねェな。次に話すときは俺とオマエ直に会って目ェ合わせながら話すンだからなァ」

土御門『では、無駄な悪あがきに、ご武運を』


 土御門は薄っぺらい応援の言葉を吐いて、通話を切った。
 一方通行はふと雨がやんでいることに気付く。どうやら通り雨だったのだろう。
 濡れた白髪をぐしゃりと掻きむしり、ただただ彼は笑った。


――――――


書いてて思ったけど座標移動って強すぎない?

次回『S7.前夜』

年内に終わると思って再開したのにどういうことだってばよ?

投下



S7.前夜


 火災を起こしていた櫻井通信機器開発所の建物の火は、なんとか一時間ほどで鎮火した。
 今は死傷者の捜索でアンチスキルが駆動鎧を着て建物の中をせわしなく歩いている。
 建物が燃えている間に逃げ遅れた人の救助活動をしたり、それを妨害しようとした暗部組織の下っ端らしき男たちを打ちのめして拘束したり、
 いろいろと奮闘していた黒子は、敷地の端のフェンスにもたれ掛かりながら体を休めていた。
 制服の焼け焦げた部分を見て、買い換える決心をしている黒子の携帯端末に着信を表す電子音が鳴り響く。
 耳に付けている端末のボタンを押して、電話をつなげる。


黒子「はい、白井です」

初春『初春でーす。救助活動お疲れさまでしたー』

黒子「……ほんと、疲れましたわ」


 ツートーンくらい低い声で答える。
 空間移動(テレポート)の演算難易度は他のポピュラーな能力に比べて高度だ。一回使用するエネルギーが桁違いということになる。
 そんな能力を、この短時間で百は超える回数使った黒子の疲労度は言うまでもないことだろう。


初春『上条さんとは合流できましたか?』

黒子「いいえ。救出活動中は火の上がっていないところは全て捜しましたが見つかりませんでしたの」


 その間に十数人ほど逃げ遅れた人を外へテレポートさせたりしたが、もちろんその中に上条の姿はなかった。


初春『ということは火が起こった場所にいて、一酸化炭素中毒を起こし気絶して焼死体になっちゃった、っていう可能性が高いってことでしょうか?』

黒子「言い方が悪いですわよ」


 げんなりしながら黒子は続ける。


黒子「その可能性はないとは言いませんが、あの類人猿がそう簡単にくたばりやがるとは思えませんの。脱出してどこかへ行った可能性のほうが高いかと」

初春『そうですよね。でしたらもう一度監視カメラの映像をハックして上条さんを捜すとしましょう。といってもその周辺は暗部の人たちにカメラ潰されているから望み薄ですけどねー』


 向こうの電話口からキーボードを叩くと音が聞こえてきた。またグレー行為を平然と。
 黒子はため息交じりに聞く。




黒子「電話はかけてみましたの?」

初春『はい。けど、何度かかけましたが一向に出ないんですよねー。コールされるってことは携帯自体は無事だとは思いますけど』


 『そう考えたら火事に巻き込まれた可能性は低いかもですねー』と初春は軽い感じに言った。
 耐火仕様の携帯端末なんてものがあったような気がするが、と思いついた黒子だったが、あの類人猿がそんなハイテクなもの持ってないだろ、と思考を頭から消し去った。
 

黒子「まあ、あの類人猿の行き先は任せますわ。わたくしはこの現場を見届けなければいけませんので」

初春『あれ? アンチスキルに引き継がなかったんですか?』

黒子「いえ、もしかしたら類人猿がひょっこり顔を出してくるかもしれませんし、それと」


 黒子は照れくさそうに続ける。


黒子「自分が関わった現場ですので、最後まで見届けておきたいとかそういう感じのやつです」

初春『白井さん……』


 初春からの声とキーボードの打音が止まる。
 そして、初春は『ふふっ』とわずかに笑ってから、


初春『でもジャッジメントとして越権行為をした事実は変わりませんので、帰ったら始末書書かなきゃですねー』

黒子「……それくらいわかっていますの!」


 そう言って黒子はむくれながら携帯端末の回線をぶっ千切った。


―――
――





 雨上がり。第一〇学区にあるとある公園。そこには異様な光景があった。
 地面に横向きで倒れた自動販売機。投げ出されたように転がったベンチやゴミ箱。
 その周辺には空き缶がばらまかれたように散らばっていた。

 スクラップの廃棄場みたいになっている一角の中心に一人の少年が転がっていた。
 上条当麻。体中に傷や火傷痕のようなものがあり、目に見えてボロボロな少年。
 ここに広がった物は全部上条の頭上から落ちてきた物であり、それらの落下物を身に受ける形となっていた。
 ベンチやゴミ箱の下敷きになっているが、自動販売機という巨大な物体に押しつぶされなかったのは不幸中の幸いだったか。


上条「…………」


 落下物の何かが頭にぶつかったせいで上条は今の今まで気を失っていたのだ。
 目を覚ました上条は雲と雲の間にある夜空の星を見ながら考え事をしていた。


上条(――悪いな一方通行。やっぱり俺じゃ駄目だったよ)


 上条当麻は心の中でそう謝った。結標淡希を取り戻せなかったことについて。
 彼は一方通行に頼まれて結標を追っていたわけでもないし、それどころか彼がそんなことをしたと一方通行が知ったら逆に『余計なことをするな』と怒るかもしれない。
 だが、上条の中にある謝罪の気持ちは一向に消えなかった。


上条(――俺じゃ、アイツの『ヒーロー』にはなれなかったよ)


 上条は他の人から『ヒーロー』と称されることがある。
 彼は自覚はないがよく人助けをしていた。
 落とし物を一緒に探すなどという小さなことから、他人の一生を左右する重大な事件に関わるという大きなことまで。
 そういうことに頻繁に首を突っ込んだりしたためか、よく『ヒーロー』だなんて呼ばれていた。
 だからこそか、上条はいつからか無意識に自分が『ヒーロー』なんだと思い上がった考えを潜在させていたのかもしれない。
 自分が『ヒーロー』だから結標を追いかけなければいけない。自分が『ヒーロー』だから結標を救い出してやらなければいけない。
 その結果が、この無様に地面へ横たわる自分である。


上条「……クソッ」


 情けないヤツだ、そう思って上条は舌打ちした。
 動かない身体を無理やり動かして体にのしかかったベンチやゴミ箱をどかす。
 上体を起こして雨に濡れた地面へ座り込む。


上条「……これからどうすればいいんだ?」


 上条は呟く。
 今から結標を追いかけようにもどこにいるかわからない。
 もう一度ジャッジメントの一七七支部にいる初春という少女に電話し居場所を探してもらう。
 そうすれば結標を再び見つけることができるかもしれない。
 だが、見つけたところでなんだ? 今結標に会ったところで何が出来る?
 そんな思考が上条の頭の中をグルグルと駆け回っていた。

 ジャリッ。

 上条の後ろから雨で濡れた砂を踏んだような足音が聞こえてきた。
 なんだ、と思い上条は後ろに首を向ける。


上条「……だれ?」




 そこに立っていたの黒髪の少女だった。
 背丈や体付きからして上条と同い年くらいの高校生か。
 春休み中なのに制服を着ているみたいだが、上条はそれがどこの学校の制服か見当がつかなかった。
 呆気を取られている上条を見て、その謎の少女はニヤリと笑う。


??「倒れた自動販売機に散乱したジュースの空き缶……もしかして盗んだジュースでやけ酒ならぬやけジュース中だったかしらぁ?」

上条「なっ、ち、違う! これはそういうのじゃなくてなぁ」


 突然の盗人判定を受け、上条は両手を前に出して弁明の機会を求める。
 そんな様子を見て少女はクスリと笑い、


??「嘘よぉ、ちゃんとわかってるわぁ。全部見てたから事情は知ってる。結標さんにやられちゃったのよねぇ」

上条「なっ、アンタ結標のこと知ってんのか!?」


 まったく知らない人間から結標の名前が出たことに上条は驚く。
 通常時なら結標の個人的な知り合いとかで片付ける話だが、状況が状況だ。
 それにこの少女は上条が結標を知っている前提で話をしている節があった。

 上条の質問に特に答えることなく、少女は公園の反対側の出口へと向けて少し歩いてから振り返った。
 まっすぐと上条の方へ向いて、


??「結標さんのこと、助けたいとは思わなぁい?」

上条「……アンタは一体、何者なんだ?」


 少女は少しだけ目を丸くさせたあと顎に人差し指を当てて何かを考え出した。
 五秒位考えたあと、少女は不敵な笑みを浮かべながら、


??「うーん、そうねぇ。ここで本当の名前を名乗ってもいいんだけどぉ、どうせすぐに忘れちゃうから不便なのよねぇ。じゃ、私のことは少女Aとでも呼んでちょうだい!」

上条「凶悪な少年犯罪犯してニュースで名前を隠された女子生徒かよ」

??「そのツッコミはどうなのかしらぁ? 人によっては不快力で笑えないかもしれないわよねぇ」

上条「そんな変なもんを連想させるような名前を名乗っているテメェには言われたかねえよ!」

A子「もう、しょうがないわねぇ。だったらA子でいいわよ。まぁ、正直名前なんてなんでもいいんだケドぉ」


 やれやれと言った感じで少女は少女AからA子へ改名した。
 そんなA子と名乗る少女と話している上条は、何か違和感のような変な感じがあった。
 この少女とどこかで会ったことがあるんじゃないか。デジャヴみたいなものだろうか。
 首を傾げながらも上条は質問する。




上条「何でアンタ結標のこと知ってんだ? 友達か何かか?」

A子「友達ではないわぁ。知り合いって言えるほどの面識力もないかもしれないわねぇ。直接会ったことあるのは結標さんがバイトしているケーキ屋さんで偶然出会って世間話した時だけだしぃ」


 けれど、とA子と名乗る少女が言う。


A子「それは結標さんが記憶喪失していた時の話だから、今の結標さんとはおそらく初対面ってことになるわよねぇ」

上条「…………」


 上条はこの言葉で確信した。この謎の少女は全部知っている。
 結標が記憶喪失していたということも、その結標が記憶を取り戻して今大変な事態に巻き込まれているということも。


上条「ほんとアンタ何者だよ? もしかして暗部組織の人だったりするのか?」

A子「私はそういうのじゃないわねぇ。わざわざそんなところに堕ちてあげる必要性が感じられないわけだしぃ」

上条「じゃあ何で結標の記憶のことを知ってんだよ。結標のことなんてそんな世間に出回っている情報じゃねえだろ?」


 少女は人差し指を唇に当てながら、


A子「アナタが納得するような答えを私は持っているんだけどぉ、言ったところでアナタには覚えてもらえないわけだしねぇ。あー、でも納得したという事実力は残るはずだから別にそれでいいのかしらぁ?」

上条「? 何言ってんだ?」


 困惑の表情を浮かべる上条を無視して少女は、


A子「実は私、超能力者(レベル5)第五位の心理掌握(メンタルアウト)こと食蜂操祈ちゃんなんだゾ☆ 私の収集力にかかればその程度の情報なんて簡単に集まっちゃうってコト♪」


 ピースみたいな形にした右手を目の横に持ってきて、左手を軽く腰に当て、ウインクのように片目を閉じる。
 そんなポーズをする少女の瞳の中には、十字形の星模様のようなものが浮かんでいた。


―――
――





佐久「――山手の部隊と連絡が付かないというのは本当か?」


 第一〇学区の隠れ家の一室にいる『ブロック』のリーダー佐久が下部組織の男に問いかける。
 下部組織の男の一人は恐る恐るな感じで、


ブロック下部「は、はい、ここ一時間程。最初は作戦行動中で連絡が付かないと思っていたのですが」

手塩「たしかに、それは妙だな」


 壁を背に腕を組んでいる手塩が怪訝な表情をする。


手塩「いくらヤツが、作戦行動中であっても、定時報告を怠るなど、あるはずがない」


 「ましてやこちらからの連絡に返事を返さないのはおかしい」と手塩がさらに付け加えた。


佐久「もしかしたら殺られちまったのかもしれねえな」


 佐久はあっさりと言い放った。
 山手という男はブロックの幹部の一人で、これまでの活動を支えてくれた優秀な男だ。
 その男が死んだかもしれないという予想を立てた佐久の表情は、特に変わったところはなかった。


佐久「あいつの仕事は情報封鎖の残り物を処理することだ。今まで情報開示していたヤツがそれを予測して返り討ちにした可能性が高い」

手塩「……たしかに、そうだな。櫻井通信機器開発所の火災のことが、ニュースに上がっている。おそらくこれは、座標移動が関係していることだろう」


 山手は既にメディア関係の施設への手回しは終えたと言っていた。
 手回しというのは研究施設を狙う謎の襲撃犯に関する報道の規制。
 だが、現実ではその関係するニュースが流れている。


手塩「最初は襲撃犯に、直接関係していないと、判断されてしまったと、思っていた。そこで、山手が倒されたという、前提で考えると……」

佐久「そうだ。情報封鎖が解かれている可能性が高い。つまりその封鎖を解いたヤツに殺されたってことになるな」


 幹部とその部隊を失う。
 その痛手を考慮して手塩が確認する。


手塩「作戦は、どうするつもりだ? 最悪な、パターンを考えたら、こちらの情報が、山手から抜かれている、可能性もあるわ」




 山手はブロックの幹部だ。
 拷問。自白剤。精神系能力者によるチカラ。
 あらゆる手を使って山手から情報が奪われていた場合、それすなわちブロックの全てが奪われたに等しい。
 ブロックの行動方針が把握されていては、これからの作戦に支障をきたす。
 質問に対して佐久は笑みを浮かべ、


佐久「決まってんだろ。続行する」

手塩「正気か?」


 いつも冷静な手塩の表情が少し動いた。
 それだけの決断をリーダーの佐久がしたということだろう。


佐久「たしかに俺たちの作戦が筒抜けかもしれねえのは痛手だ。だが、そいつらのターゲットもおそらく座標移動。それならばヤツらは俺たちの邪魔をすることができないということになる」

手塩「それはあくまで、作戦開始までのことだろう。実際に、ヤツが現れたら、混戦になる」

佐久「だろうな」

手塩「だったら、なぜ、続行する?」

佐久「勝てる算段があるからだ」


 そう一言で返したあと佐久は笑みを崩さないまま、


佐久「決行場所の都合上能力者が殴り込みに来る可能性は低い。スクールとかアイテムとかのクソッタレどもはそれだけで戦力は半減以下だ」

佐久「それに比べてうちの戦力は圧倒的だ。残りのヤツらなんて容易に制圧できるくらいにな」

佐久「混戦? そんなことにすらならねえよ。制圧して座標移動を捕らえて逃げ切りゃそれで俺たちの勝ちだ」


 説明を聞いた手塩はため息を一つつき、そのまま黙り込んだ。
 反対意見がないことを確認した佐久は携帯端末を起動し、通話を繋げる。


佐久「鉄網か? 俺だ。作戦は予定通り決行する。そちらも準備を進めておけ」


―――
――





 第七学区にあるアミューズメント施設。
 ボウリング場やゲームセンター、ちょっとしたスポーツを楽しめる設備の整った施設だ。
 現在は春休みのため学生の客で施設内は賑わっていた。
 その中にあるカラオケボックスの大部屋。そこには『グループ』の面々がいた。

 この一室はグループが隠れ家として使っているものだ。
 部屋にたどり着くためにはトリックアートのような技術で綿密に隠された通路を複数通らなければならない。
 そのため、人の出入りが多いカラオケボックスという場所でも隠れ家という役割を果たしていた。

 各々好きな場所に座って顔を見合わせているところから、何か打ち合わせのようなことをしていることがわかる。
 そんな中、見た目一二歳のパンク系少女黒夜が話を切り出す。


黒夜「――つかさぁ、本当に大丈夫なのかよ? アンタら二人がオフェンスでさ」


 テーブルに広げられたフライドポテトを一本手に取り、それを男二人のいる方向へ向ける。
 二人のうち海原のほうが冷静な口調で、


海原「自分は問題ないと思いますがね。あの場所は貴女たちがまともに戦えない環境でありますから、必然的に自分と土御門さんが適任となるでしょう」

黒夜「チッ、せっかくの楽しい楽しいお祭り騒ぎだってのに、やることが会場の警備だなんて面白くねェ」

番外個体「まあいいじゃん。クロにゃんは今回の情報を引っ張ってきた、っていう十分な仕事を果たしてくれたんだから。あとはゆっくりしとけばいいよ」

黒夜「アンタからの称賛の言葉なんてもらっても嬉しくないよ。だいたい私と同じ立場なんだからもうちょっとアンタも反論しろよ」

番外個体「ミサカはクロにゃんみたいなバトル脳じゃないからねー。ミサカ的には仕事サボれてラッキーって感じだから」


 番外個体がケラケラ笑いながら答える。それを見て黒夜が不満そうに舌打ちした。
 会話が収まったことを確認した土御門は、


土御門「というわけで、プランAの説明は以上だ。頭に叩き込んでおけ」

黒夜「へいへい。で、プランAってことはプランBがあるってことだよな? Bのほうはいつ説明してくれんだ?」

番外個体「そりゃあれだよ。例のゲームであの人が勝ったあとじゃない?」

黒夜「あー、そういうことか。ま、それならBのプランは必要ないね」


 黒夜が得意げな表情で指についたフライドポテトの塩分を舐める。


黒夜「勝とうが負けようが、どっちにしろそのときあの野郎は、この場に立っていないんだからね」


 その発言に対して他三人は特に反応はしない。
 部屋の中にはカラオケのディスプレイから流れる宣伝用の映像の音声だけが聞こえる。
 そんな耳障りな沈黙を破るように、


 ダゴンッ!!


 という大きな音を立て入り口のドアが吹き飛んだ。
 ドアはそのまま直線上にある壁に叩きつけられ、地面に横たわった。
 それを四人は視線だけ向けて確認する。
 ガチャリ、ガチャリ。
 機械の駆動するような音を立てながら、入り口から一人の少年が入ってきた。
 真っ白な髪と皮膚。悪魔のような真紅の瞳。首元には電極付きのチョーカーが巻かれており、右手には機械的な杖を突いている。
 学園都市最強の超能力者(レベル5)が口元を大きく引き裂きながら、


一方通行「こンばンはァグループのカスどもォ! 随分と待たせちまったよォですまねェなァ? お詫びってわけじゃねェけどよォ、痛みを感じることなく一瞬で肉塊にしてやっから感謝しろォ!」


―――
――





 グループの隠れ家である一室の入り口に立った一方通行は部屋を見渡す。
 正面右側には一方通行がよく知っている、金髪にサングラスをかけた男、土御門元春。
 その隣には見た目爽やかで笑顔の似合う男、海原光貴。
 入り口から対角線上の位置にいるのは茶髪の少女。背格好からして自分と同い年くらいか。暗がりにいるためか顔までは確認できない。
 彼の目にはその三人が映っていた。

 一方通行の中にある疑問が浮かぶ。


一方通行(あン? 三人だァ?)


 以前、海原光貴が言っていた説明を思い出す。
 スクールやアイテムが四人組の組織であるようにグループも同じ四人組の組織であったはずだ。


一方通行(グループってのは四人組じゃねェのか?)


 だが、そんな疑問は一瞬で吹き飛んだ。
 なぜか。
 一方通行の死角に潜り込み、突き刺すような殺気を放ちながら右方から猛スピードで接近してくる少女に気付いたからだ。


黒夜「いらっしゃい第一位ィ!! そしてこのままサヨナラだァッ!!」


 黒夜海鳥が最強の能力者へ突っ込む。彼女の右の掌から見えない何かが噴出される。
 ザパン!! という音を上げ掌の先にあったテーブルの板が切断され、上に乗っていた料理の皿や飲み物の入ったグラスが宙に舞った。
 『窒素爆槍(ボンバーランス)』。
 空気中の窒素を操り、掌から窒素で出来た無色透明の槍を生み出すチカラ。
 戦車の装甲を容易に貫通・切断する破壊力を、黒夜は一方通行の華奢な体に突き付ける。

 一方通行と窒素の槍が交差する。
 ズガン!! という爆音が鳴り、その余波で室内に烈風が巻き起こった。

 一方通行と黒夜海鳥の戦いの決着は、その一撃であっさりとついた。
 勝者は悠然とその場に立っており、敗者は体ごと吹き飛んで壁に叩きつけれていた。


黒夜「なン……だとォ……?」


 壁に叩きつけれ吐血した黒夜は、床へ膝から崩れ落ちて目を大きく見開かせていた。
 チカラを振りかざした右腕は皮膚がめくれ上がるように破れ、赤い液体を垂らしながら黒い合金製の骨を覗かせて、あらぬ方向へ折れ曲がっていた。


黒夜「ば、馬鹿な。私には、ヤツのパラメータが……!」


 驚愕の表情のまま黒夜は呟く。
 その様子を見た一方通行はつまらなそうに首を鳴らし、


一方通行「オマエ、木原のクソ野郎の猿真似をしてやがったな?」


 一方通行は見透かしたように問いかける。


一方通行「大方、『木原数多』の思考パターンを取り入れて、俺の『反射』を機械的に破ろうとしたンだろがよォ。オマエはいつの『木原数多』のデータを取り込ンだ?」

黒夜「ッ!?」




 黒夜は言葉の意図を理解したのか、顔を強張らせた。
 一方通行は気にせず、傷口に塩を塗りたくるように、丁寧に説明を続けてやる。


一方通行「人間っつゥのは時間が経過すればそれだけ変化する生き物だ。肉体的な部分はもちろン、思考パターンもなァ?」

一方通行「それは俺だって当然例外じゃねェ。例えば半年前の俺と今の俺の思考パターンを比べりゃ、大きくズレが生じているだろォよ」

一方通行「木原の技術は俺の思考パターンを完全に把握することによって、初めて『反射』を破ることが出来る」

一方通行「あの男はリアルタイムで俺の思考パターンを分析することでそれを把握しやがる。だからこそ、ヤツには後出しで反射角を調整しても通用しねェ」


 言うことを言って一方通行は片膝立ちになっている黒夜の前に立ち、見下ろす。


一方通行「ここまで言えばあとはわかるだろォ? オマエは俺がオートの『反射』をすると思ってチカラを寸前で引き寄せた。だが実際俺が行ったのは手動のベクトル操作」

一方通行「この時点でオマエが持っている『木原数多』の思考データはただの糞だったってことになるわけだ。残念だったなクソガキ」


 吐き捨てるように言った一方通行。
 それに対して黒夜は犬歯をむき出しにして、憤怒の表情を浮かべながら、無傷の左手をかざした。


黒夜「見下してンじゃねェぞクソ野郎がァ!!」


 左掌から窒素の槍が噴出された。ターゲットは一方通行の額。
 無色透明の槍が一方通行の頭に突き刺さろうと伸びる。
 しかし槍は一方通行の皮膚には届かない。

 『反射』。

 ゴパァン!! 跳ね返った窒素の槍が黒夜の左腕を吹き飛ばした。


一方通行「無駄だっつってンのがわかンねェのか?」

黒夜「く、そが……」


 両腕という武器を失った黒夜は地面に倒れ込んだ。
 瞬間、一方通行は頬に痛みが走ったことに気付いた。
 痛みのあった部分に手を当てると、生ぬるい血液がベッタリと掌に付着した。


一方通行(……腐っても『木原数多』の技術か。完全に『反射』することが出来なかったっつゥことか)


 一方通行は頬の血を適当に拭い、血流のベクトルを操作して出血を無理やり止める。自分の未熟さに舌打ちした。
 そんな様子を見て部屋の奥の方に座っていた茶髪の少女が立ち上がり、こちらを向いて馬鹿笑いしながらパチパチと拍手する。


????「いいっひっひっひっひっひひひひぃっ!! あんなに自信満々だったのにクロにゃんダッサぁー!!」

一方通行「あン? 今度はオマエが――ッ!?」


 明るみに出た茶髪の少女の顔を見て一方通行は絶句する。
 とても見覚えのある顔だった。
 同じ家に居候してる同居人であり、守るべき存在である少女『打ち止め(ラストオーダー)』。
 もう絶対に誰一人殺さないと一方通行が決心した、『絶対能力進化計画(レベル6シフト)』で一万人以上殺した少女たち『妹達(シスターズ)』。
 彼女たちのオリジナルであり、彼女たちの姉である『御坂美琴』。
 その全ての少女たちの面影を残した目の前の女。彼女を見ながら一方通行は震える口を動かす。


一方通行「オマエ、妹達(シスターズ)、か?」

番外個体「正解ぃ!! ま、でもミサカは従来の製造ロットとは違う『第三次製造計画(サードシーズン)』の番外個体(ミサカワースト)だから、ちょびっと違うんだけどねー」




 『第三次製造計画(サードシーズン)』。聞いたことのない単語だった。
 一方通行の知っている『量産型能力者計画(レディオノイズ)』とはまったく別物なのだろう。
 自分の知らないところで新たな個体が生み出されていたという事実を知り、一方通行は動揺を隠せなかった。


番外個体「クロにゃんが無様に敗北しちゃったから、お次はミサカの出番ってことなんだけどさぁー」

一方通行「ッ」

番外個体「ええと、なんだっけ? 一万人以上殺しちゃったけどもうこれ以上は絶対に殺さないんだっけ? 『最終信号(ラストオーダー)』を、他の『妹達(シスターズ)』を守るんだっけ?」


 ニヤニヤとした表情で番外個体は続ける。


番外個体「だったらさー、ミサカのことも守ってほしいなー? ミサカが生まれた理由は『一方通行(アクセラレータ)の殺害』。あなたを殺さないとミサカは処分されちゃうってことなわけよ」


 一方通行は番外個体の言葉を聞いて理解した。
 学園都市最強の超能力者(レベル5)を倒すためにはどうすればいいか。
 その問いの最適解を目の前に叩きつけられたような気がした。


番外個体「ミサカはね、ミサカネットワークから負の感情を拾い上げやすいように調整されている個体なんだー」

番外個体「その負の感情っていうのもちろん、実験で一〇〇三一回もなぶり殺してくれたあなたに対する恨み、憎しみ、復讐心」

番外個体「感情が表に出にくい他の妹達の代わりに、こうやってそういう負の感情を拾い集めて表現してあげているってこと」


 そういうわけだから、と番外個体はポケットから何かを取り出す。
 ジャラリと、彼女の手の中には十本近い数の鉄釘が収まっていた。


番外個体「殺された一〇〇三一人の妹達のために死んでよ第一位ッ!! 残りの九九六九人の妹達とミサカのためにもねぇッ!!」


 番外個体は叫びながら手の中の鉄釘を一本取り出し、それを一方通行へ向けて構えた。
 おそらく超電磁砲(レールガン)のように鉄釘を射出しようとしているのだろう。
 体中に白い火花が走る。
 番外個体のチカラが今、放たれようとしていた。
 だが一方通行は、


一方通行「……たしかに、そうだな」


 肯定した。番外個体の言葉に対して。
 全身から力が抜かれる。戦意が消える。
 番外個体からしたら予想外の発言だったのか、射出されそうだった鉄釘は止まり、眉をしかめさせた。


番外個体「へー。エラくあっさり認めちゃうんだ? もうちょっと抵抗してくると思ったんだけどさー」

一方通行「オマエの言っていることは何一つ間違ってねェよ。俺は確かに一万人以上ぶっ殺した。それに対して罪を咎められるのは当然だし、アイツらに死ねと言われたら死んでやるべきだと俺も思う」


 けど、と一方通行は付け加える。


一方通行「俺にはまだ守らねェといけねェヤツがいる。守らねェといけねェ『約束』がある。そのためにも俺は――」


 一方通行の頭の中には結標淡希の姿があった。
 自分が初めて明確に好意を抱いた女。
 こんなクソッタレな男に好意を抱いてくれた女。
 彼女は今、学園都市の闇という底なし沼に引きずり込まれてもがいている。
 だからこそ、一方通行は、


一方通行「――アイツを救い出すまで死ぬわけにはいかねェンだよ!」




 瞬間、一方通行がまとっていた雰囲気が変わる。番外個体の視界に映っていた一方通行の姿が消えた。
 番外個体はミサカネットワークの稼働状況をモニターすることで、一方通行の行動を先読みすることができる。
 だから、番外個体は一方通行は次にどこへ行き、何をしようとしているかがわかっていた。
 しかし、


番外個体(――速過ぎるッ!?)


 後ろを振り返ろうとする番外個体の首の後ろ部分に衝撃が走る。
 一方通行は番外個体の後ろへと一瞬で移動し、彼女の首へ手刀を打ったのだ。
 ガクン、と脳みそを揺らすような一撃に、番外個体は糸が切れた操り人形のようにテーブルの上に崩れ落ちる。
 薄れていく意識の中、後方にいる一方通行から声が聞こえた。


一方通行「悪りィな。全てが終わったあとまた殺しに来い。俺は逃げも隠れもしねェからよォ」


 それを聞いた番外個体は、声を発することなく口だけの動きで何かを喋った。

 なんと言ったのかは一方通行にはわからなかったが、おそらく自分に対する罵詈雑言だろと考えるのをやめて、視線をグループの残り二人へと向ける。


一方通行「さて、次はどっちだ? 海原、オマエか?」


 名前を呼ばれた海原と呼ばれる少年はクスリと笑みをこぼし、


海原「ふふっ、残念ながら今の自分は貴方を倒す手段を持ち合わせておりません。なので、ここはやめておきましょう」


 ニコニコ笑顔で両手を上げて降参の格好をする海原を見て、一方通行は毒気を抜かれたような表情をした。
 そして海原より奥側で大股開いて座っている土御門の目の前にジャンプして立ち塞がる。
 足元には壊れたテーブルの破片や食べ物が散乱していたが、一方通行は気にすることなくそれを踏み潰した。


一方通行「土御門ォ、このゲームは俺の勝ちだァ。約束通り吐いてもらうぞォ? 結標に関する情報を、洗いざらい」


 その言葉を聞いた土御門は「ふっ」と鼻で笑った。
 一方通行はそれを見て苛立ちを見せながら食ってかかる。


一方通行「ハッ、話す気はハナからなかったっつゥことかァ!? イイだろォ!! だったらこれから楽しい拷問の始まりだァ!! 最初は爪を――」


 一方通行が言葉を言い切る前に土御門は懐へ手を入れ、何かを取り出した。
 それは二〇センチくらいの棒の先に直径一五センチくらいの円状のものが取り付けられた道具だった。
 何かの武器かと思い、一方通行は身構えた。
 土御門はニヤリと笑い、その道具についたボタンを押す。


 ピンポン!!


一方通行「…………は?」


 気の抜けるような電子音が道具から鳴った。
 まるでクイズ番組か何かで正解した時に鳴るような軽快な音が。
 呆気を取られている一方通行を見てケタケタ笑いながら土御門は、


土御門「合格だぜい! アクセラちゃーん!」


 土御門が持つ道具の円盤部分。
 そこには赤い丸マークが描かれており、チカチカと点滅していた。


―――
――





数多「――帰ったぞ」


 従犬部隊のオフィスである木原数多の部屋。
 リビングの入り口のドアを開けて、数多が帰宅したことを告げる。


円周「おかえりー数多おじちゃん」


 応接用に使っているソファに寝転びながら漫画を読んでいる円周が、適当に挨拶をした。
 それを見て軽くため息を吐きながら、数多はソファの前の応接テーブルに手に持っていた箱状のものを置いた。


数多「ほらっ、買ってきてやったぞ。ケ○タッキーフライドチキン」

円周「おおっ、このスパイシーな香りは間違いなくケンタ○キーフライドチキン!」


 円周はソファから飛び上がるように上体を起こし、食欲をそそる香りを放つ箱を手に取り自分の目の前へと引き寄せる。
 スムーズな手付きで開封し、中に入っている脚部分のフライドチキンを手に取り、頬張った。


円周「うん、うん。やっぱりジャンキーって感じがして美味しいね」

数多「そうかよ。そりゃよかったな」


 数多が手に持っていた荷物をその辺の床に放り投げて、自分の席である窓際の中央デスクへと座った。
 背もたれがきしむくらい背中を預け、両足をデスクの上に投げ出す。疲労が溜まっているのだろうか。
 そんな様子を見て、鶏肉を咀嚼しながら円周は、


円周「お仕事はちゃんと終わったのー?」

数多「まあな」

円周「一体どんな仕事だったの? 開発の仕事とか言っていたけど」

数多「あぁ? あー、あれだ。こういう機械を作りたいんだけどどうすればいいですか、みたいな質問に答えるだけの面倒な仕事だったわ」


 「結局この俺が直々に設計図書いてやったんだがな」と数多は面倒臭そうに補足した。
 時計の針は午後七時頃を指していることから、それなりに難航したのだとわかる。


円周「ふーん、ちなみにどんな機械を作ったのー?」

数多「あん? そりゃ言えねえなぁ」

円周「何で?」

数多「一応、客先との話だからな。機密事項ってヤツがあるわけだから、喋ることができねえわけだ」


 社会人として情報漏えい対策のルールをしっかり守る社長を見て、円周は不満げな表情をした。


円周「えー、それって社員の人にも話ちゃいけないことなのー?」

数多「いや、お前社員じゃないだろ」


 円周が「えっ」と目を丸くする。




数多「お前はこのオフィスに勝手に居候してるガキだろうが。社員名簿にお前の名前はねーよ」

円周「スターランドパークのお化け屋敷とかいろいろ仕事手伝ってあげたのにー?」

数多「それに対する賃金を俺はやってねえだろ?」

円周「そういえば何ももらってなかったねー」


 納得したのか円周は視線をフライドチキンの入った箱に移して、手羽部分を取り出して頬張った。
 すると、円周は手羽を咥えたまま「ん?」と疑問符を浮かべる。


数多「どうかしたか?」

円周「いや、よくよく考えたらお仕事手伝ってあげているのに、給料が一銭も出てこないのはおかしくない? 労基に駆け込んだほうがいい?」

数多「何言ってんだお前。ここの衣食住の金は誰が出してやっていると思ってんだ?」


 そういえばそうだね、と円周は再び手に持つ手羽に興味を戻す。
 美味しいねー、とニコニコ笑う円周を見るところから、完全にさっきまでの会話の内容への興味が失せたみたいだった。


数多「あー、俺もメシ食って風呂入って寝るか」


 そう言って数多は携帯端末を開いて、某フードデリバリーサービスのサイトを見ながら今日の夕食を吟味する。
 そんな数多をよそ目に円周は箱から胸部分を取り出し、それを見つめながら唐突に話し始める。


円周「そういえば今日は、よく家の周りで虫が跳んでいるみたいだけど、駆除しといたほうがいい?」

数多「あー、まあ別にいいだろ放っておけ」

円周「なんでー?」

数多「朝蜘蛛とか夜蜘蛛っていう話あるだろ? 今は夜だから害虫さんは放っておけばいいだろっつー話だ」


 その話を聞いて円周は首を傾げながら、


円周「ふーん、数多おじちゃんが迷信めいたものを言うなんて珍しいねー。でもその理論なら夜だから殺さなきゃだよ」

数多「あ? そうだっけか?」

円周「それに蜘蛛はどっちかと言ったら益虫だから、害虫でもないよねー」

数多「あー……」


 数多は携帯端末を操作しながらしばらく黙り込んだ。
 その様子を円周は胸肉をムシャムシャとかじりながら直視する。
 そして数多はふと何かを思いついたかのように、


数多「まあ益虫の対義語が害虫だから、害虫の場合は逆に夜は生かすっつーことで」

円周「なんか適当だなー」


 そう言うと円周は食べ殻だけになった箱を持って、それを捨てるためにキッチンへと歩いていった。


―――
――




土御門「にゃっははー、まさかアクセラちゃんが、こんなに早くオレたちを見つけ出すとは正直思わなかったぜい!」

一方通行「…………」


 グループの面々と一方通行は、先ほどまでいたカラオケボックスの隠れ家から、近くにあるホテルの中の一室へと場所を移していた。
 ツインルームだからベッドが二つ並列しており、椅子やソファなども置いてある広々とした部屋だ。
 もちろん、この部屋もグループのたくさんある隠れ家の中の一つだった。
 部屋を移った理由は、一方通行と黒夜の交戦により結構な騒ぎが起こってしまったからだ。
 いくら無関係の一般人が見つけづらい位置に隠れ部屋が存在しているとはいえ、派手な音や振動などがしたら隠し通すのは難しい。
 他の人間に存在を悟られたくない暗部組織としては当然の判断だった。
 
 番外個体がベッドに腰掛けながら首元を抑えてゴキリと音を鳴らす。


番外個体「あちゃー、第一位に首元殴られたせいかセレクターが壊れちゃってるじゃん。せっかく自爆して嫌がらせしてやろうと思ったのになー」


 そんなことをしながらニヤついた顔で犯人の方へとチラチラと視線を送っていたが、面倒臭いのか一方通行は無視を決め込んだ。


黒夜「その装置がなんなのかは知らないけどさ、両腕を吹っ飛ばされた私よりはマシだと思うけどね。チッ、予備の義手使い切っちまったからまた技術部に作らせねーとなぁ」


 黒夜はボロボロにされ、使い物にならなくなった両腕の義手を新しい義手へと取り替え、動作確認のためか手をグーパーしたり、肩をグルグル回したりしていた。
 そんなことをしながら犯人の方を獣のような目で睨みつけていたが、やはりこれも面倒臭いのか一方通行は無視を決め込む。


海原「しかし、よくこんな短時間で自分たちを見つけられましたね。一体どういう方法を使ったのですか?」


 机に備え付けられた椅子に座りながら海原が興味深そうに質問した。
 一方通行は頭をぐしゃっと掻きながら、


一方通行「あーアレだ。録音していた土御門との電話の背景音を解析することでカラオケボックスだと断定して、あとは第七学区中の店舗を回ってっつゥ感じだな」


 「まさか一店舗目で見つけられるとは思わなかったがな」と一方通行は自分の運の良さを無意識にアピールする。


海原「なるほど。背景音の解析とはアンチスキルのよく使う技術ですね。アンチスキルにコネでもあったのでしょうか?」

一方通行「イイや。そンなモンは使ってねェ。音声のベクトルを読み取って数値化して分析した。コイツを使ってな」


 一方通行は首元の電極を指でコンコンと突く。


土御門「さすが万能ベクトル操作能力だにゃー。相変わらずのチート能力で安心するぜよ」

一方通行「そンなチカラがあったところで、一人の女も守れねェよォじゃただのクソだよ」

海原「しかし、いくらその電話の音声の中にカラオケボックスの情報が入っていたとはいえ、実際にその場にいるとは限らないとは思わなかったのですか?」


 「たまたま移動中にカラオケボックスの背景音が入っているかもとは思わなかったのですか」と海原が問いかける。


一方通行「ああ、その電話で土御門が言ってたンだよ。『これからすぐに打ち合わせ』ってな」

海原「なるほど。それですぐそこに隠れ家がある。つまり、カラオケボックスに隠れ家があると断定したのですね」


 海原が納得したように微笑む。

 
 
一方通行「そっからは簡単だったぜェ? 受付の店員に『グループ』『土御門』『海原』っつゥ単語を言ってやったらよォ、その店員は馬鹿正直に瞳孔を不自然に動かしやがったンだ」


一方通行「おかげでこの建物ン中のどこかにいるってわかったからな。あとはオマエらの臭せェニオイを嗅いで場所を特定するだけでゲームセットだァ」


 嘲笑うように一方通行は語る。
 それを見ながら土御門がニヤニヤして言う。


土御門「いやー、ほんとお見事お見事! オレの出してやったヒントを全部拾ってくれてるなんて、嬉しすぎてオレっち泣いちゃいそう」

一方通行「……こンな隙を見せるなンざらしくねェと思ってはいたが、やっぱり俺を呼び寄せるためのエサだったか」

土御門「そうそう。真面目にやったらお前なんかがオレたちを見つけられるわけないからにゃー」

一方通行「うっとォしい野郎だ」


日本人はカス民族。世界で尊敬される日本人は大嘘。

日本人は正体がバレないのを良い事にネット上で好き放題書く卑怯な民族。
日本人の職場はパワハラやセクハラ大好き。 学校はイジメが大好き。
日本人は同じ日本人には厳しく白人には甘い情け無い民族。
日本人は中国人や朝鮮人に対する差別を正当化する。差別を正義だと思ってる。
日本人は絶対的な正義で弱者や個人を叩く。日本人は集団イジメも正当化する。 (暴力団や半グレは強者で怖いのでスルー)
日本人は人を応援するニュースより徹底的に個人を叩くニュースのが伸びる いじめっ子民族。

日本のテレビは差別を煽る。視聴者もそれですぐ差別を始める単純馬鹿民族。
日本の芸能人は人の悪口で笑いを取る。視聴者もそれでゲラゲラ笑う民族性。
日本のユーチューバーは差別を煽る。個人を馬鹿にする。そしてそれが人気の出る民族性。
日本人は「私はこんなに苦労したんだからお前も苦労しろ!」と自分の苦労を押し付ける民族。

日本人ネット右翼は韓国中国と戦争したがるが戦場に行くのは自衛隊の方々なので気楽に言えるだけの卑怯者。
日本人馬鹿右翼の中年老人は徴兵制度を望むが戦場に行くのは若者で自分らは何もしないで済むので気楽に言えるだけの卑怯者。
日本人の多くは精神科医でも無いただの素人なのに知ったかぶり知識で精神障害の人を甘えだと批判する(根性論) 日本人の多くは自称専門家の知ったかぶり馬鹿。
日本人は犯罪者の死刑拷問大好き。でもネットに書くだけで実行は他人任せ前提。 拷問を実行する人の事を何も考えていない。 日本人は己の手は汚さない。
というかグロ画像ひとつ見ただけで震える癖に拷問だの妄想するのは滑稽でしか無い。
日本人は鯨やイルカを殺戮して何が悪いと開き直るが猫や犬には虐待する事すら許さない動物差別主義的民族。

日本人は「外国も同じだ」と言い訳するが文化依存症候群の日本人限定の対人恐怖症が有るので日本人だけカスな民族性なのは明らか。
世界中で日本語表記のHikikomori(引きこもり)Karoshi(過労死)Taijin kyofushoは日本人による陰湿な日本社会ならでは。
世界で日本人だけ異様に海外の反応が大好き。日本人より上と見る外国人(特に白人)の顔色を伺い媚びへつらう気持ち悪い民族。
世界幸福度ランキング先進国の中で日本だけダントツ最下位。他の欧米諸国は上位。
もう一度言う「外国も一緒」は通用しない。日本人だけがカス。カス民族なのは日本人だけ。

陰湿な同級生、陰湿な身内、陰湿な同僚、陰湿な政治家、陰湿なネットユーザー、扇動するテレビ出演者、他者を見下すのが生き甲斐の国民達。

冷静に考えてみてほしい。こんなカス揃いの国に愛国心を持つ価値などあるだろうか。 今まで会った日本人達は皆、心の優しい人達だっただろうか。 学校や職場の日本人は陰湿な人が多かったんじゃないだろうか。
日本の芸能人や政治家も皆、性格が良いと思えるだろうか。人間の本性であるネットの日本人達の書き込みを見て素晴らしい民族だと思えるだろうか。こんな陰湿な国が落ちぶれようと滅びようと何の問題があるのだろうか?



 舌打ちをしながら一方通行は続ける。


一方通行「まァイイ。とにかくこのゲームは俺の勝ちだ。教えろ土御門。アイツは今どこにいる? 俺はどォすりゃあの女を救える?」

土御門「まあまあ落ち着け。情報はきっちり教えてやる。だが、そのためにはいくつかの条件を飲んでもらおう」

一方通行「条件だァ?」


 いつもと違う暗部の口調に戻った土御門の言葉を聞き、一方通行はピクリと眉を動かした。


一方通行「オマエゲームに勝ったら情報を欲しいだけくれてやるって言っただろォがァ! ナニ勝手に条件とか後付してやがンだァ!」

土御門「オレは嘘つきなんでな。まあ、安心しろ。きちんと条件を飲めば欲しいものは全てくれてやる。これは紛れもない事実だ」

一方通行「……オマエ、何か勘違いしてねェか? 俺は情報を寄越せと言ってンだよ。素直に寄越すならソレで終わりだ。だがよォ、そンな簡単なこともせずにグダグダ言って渡さねェっつゥならよォ」


 一方通行は口の端を歪めながら、


一方通行「ここで今すぐオマエの手足もぎ取って、ナニも出来ねェダルマにしてやってもイイってことをよォ、わかって言ってンだよなァオマエはよォ!」


 一方通行が電極のスイッチに手を伸ばす。
 全てを制圧する圧倒的なチカラを開放するスイッチへ。

 だが一方通行の手が電極へ届く前にピタリとその動きを止めた。
 いや、正確に言うなら止められたと言う方がいいか。

 指がスイッチへ届くより先に、土御門の持つ拳銃の銃口が一方通行の眉間に狙いを定めて向けられていた。

 彼だけではない。
 椅子に座った海原も同じように拳銃を一方通行へ向けている。
 ベッドであぐらをかいている番外個体は、体から電気を発しながら手に持つ鉄釘を向けている。
 一方通行の背後に立っている黒夜は、掌から放つ窒素の槍を一方通行へ向けている。
 少しでもその指を電極へ近づけたら撃つ。そんな殺意に一瞬で囲まれたから一方通行は動きを止めたのだ。


一方通行「……わかったよ。さっさと言いやがれ。その条件とやらを」


 舌打ちをして指を電極から離す。
 同時にグループの面々も構えていた武器を引っ込めた。


土御門「賢明な判断だ。仮にお前がここでチカラを使いオレたちを制圧したところで、お前程度がやる拷問じゃ誰一人情報は吐かなかっただろう」


 土御門の言いたいことを理解した一方通行は「そォかよ」と吐き捨てた。
 一方通行が大人しく話を聞いてくれるようになったことを確認し、土御門は喋り始める。


土御門「まずは一つ目の条件だ。オレたちは結標淡希の身柄を押さえるためにこれから動く。その作戦行動にお前も協力してもらう」

一方通行「あン? この俺にグループのお仲間になれってか?」

土御門「そうは言っていない。あくまで協力関係という形だ。その方がお前にとっても都合がいいだろ?」


 そう言ったあと土御門は視線を一方通行からグループの問題児二人へと向ける。


土御門「ところでお前ら。ちゃんとわかっているんだろうな?」


 土御門のリーダーとしての問いかけに、




番外個体「はーい、わかってまーす」


 番外個体は憎たらしい笑顔で軽く返事をし、


黒夜「チッ、ヘイヘイ。わかってるっつーの」


 黒夜は手を広げ、投げやり気味に返事をした。
 その様子を頬杖をつきながら眺めている一方通行を見て、海原が微笑みながら、


海原「実は、貴方が我々を見つけ出すというゲームをしている間に、並行して彼女たちもちょっとしたゲームをしていたんですよ」

一方通行「ゲームだァ?」

海原「はい。もし一方通行が自分たちグループの目の前に現れたとき、一度だけ一方通行を本気で殺しに行ってもよい。ただし、それを失敗した場合はその後一切一方通行へは手を出さない。そういうゲームです」


 それを聞いて一方通行は納得した。
 あのカラオケボックスにたどり着いたとき、なぜ黒夜海鳥と番外個体は自分へ攻撃を仕掛けてきて、土御門元春と海原光貴が攻撃を仕掛けてこなかったのかという疑問に対して。
 だが、それと同時に新しい疑問が生まれる。


一方通行「番外個体(ミサカワースト)っつったか。アイツは俺を殺すために作られたと言っていた。そンなヤツにたった一回のチャンスだけ与えてあとは飼い殺しだなンて、一体ナニがしたいンだオマエら?」


 敵意を剥き出しの眼光を放つ一方通行。
 海原は何かに気付いた。


海原「おや、もしかして彼女の出生に我々グループが関わっていると勘違いしていませんか?」

一方通行「違うのか?」


 一方通行が怪訝な表情を浮かべる。


海原「彼女はまったく別の機関で生まれた方です。おそらく生み出された目的は『一方通行が学園都市上層部に対して反旗を翻した時のカウンター』と言ったところでしょうか」

一方通行「そォいうことか。俺がいつまで経っても反逆しねェから出番が一向に来ない。このままじゃせっかく作ったのに腐らせちまう、つゥことで席の空いているグループへ派遣した、って感じかァ?」

海原「理解が早くて助かります」


 海原が爽やかに微笑む。称賛された一方通行の方は鬱陶しげに目を逸らさせた。
 一方通行からしたら、製造ロットや生まれた意味が他とは違う番外個体だって守るべき妹達の一人であることは変わりない。
 そんな彼女が一方通行を殺しに来ようが、グループという掃き溜めのような組織に送り込まれようが、どちらにしろ不本意な結果な為、彼がこうなるのも仕方がないことだ。
 笑顔だった海原が真剣な表情に戻り、話を続ける。


海原「しかし、それはあくまで過去の話です。現在貴方は結標淡希を追っている。上層部がこの行動を反逆の意思だと受け取れば、必然的に彼女へ殺害命令が下ることでしょう」

海原「彼女は今グループの指揮下に入ってはいますが、もちろん優先度はそちらのほうが上です。だから、そういったことになる覚悟はしておいたほうがいいですよ?」


 「自分としてはその展開は勘弁願いたいものですがね」と海原は呟くように言った。
 二人の話が終わったことに気付いた番外個体が一方通行へ向かって、


番外個体「そーいうわけだから、今だけは見逃してあげるよ第一位。上から殺害命令が下りるのをせいぜい楽しみに待っててね☆」


 あざ笑うかのように言った。
 死刑執行日が決まるのを待つ死刑囚のようなこの状況。しかし、一方通行はこの状況に安堵を覚えていた。
 今の一方通行は結標淡希の問題で手一杯な為、ここでさらに番外個体の問題を上乗せされた場合、全てを処理しきれる能力を彼は持ち合わせていない。
 束の間の猶予だろうが彼にとってそれは大きなものだった。


一方通行「……それで」


 一方通行はカラオケボックスで襲いかかってきたもう一人の少女に目を向ける。


一方通行「こっちのチビも似たよォな感じか?」

黒夜「あ?」




 侮蔑が混じった言葉を聞いた一二歳くらいの少女黒夜は声を低くさせた。
 そんな彼女を気に留めることなく海原が答える。


海原「そうですね。彼女は貴方がよく知る『暗闇の五月計画』の生き残りで、暗部の中の組織を転々として最終的にグループへ行き着いた、って感じですかね?」

黒夜「チッ、言い方は気に入らないが間違ってはいないね」

一方通行「なるほど。やっぱりそォだったか」


『暗闇の五月計画』。最強の演算能力を持つ一方通行の演算パターンを参考に、彼の精神性・演算方法の一部を他の能力者へ植え付け、その能力者のチカラを向上させようする計画。
置き去り(チャイルドエラー)がその被検体として使われているという、暗部では有名な実験の一つだ。
被検体の一人が暴れて、研究者を皆殺しにした為、計画は凍結された。一方通行が知っているのはこの程度の知識だった。


黒夜「ふん、私をただの流れ者だと思うなよ? 私には現在の暗部組織が何らかの要因で一つ残さず解体されたときに、暗部組織を復興し、それの指導者として悪の頂点に立つ役割を与えられた――」


 黒夜が意気揚々と喋っているのを見て一方通行は、


一方通行「よォするに補欠ってことか」


 馬鹿にしたように一言で片付けた。
 それを聞いて黒夜が額に青筋を立てる。


黒夜「あァ!? 私が補欠だとォ!? ふざけンなッ!! この私の役割が補欠なンてそンなクソみてェな――」


 口調を荒げながら食ってかかる黒夜。
 しかし彼女の後ろから「補欠だよにゃー」「補欠ですね」「補欠だねー」というヒソヒソ話が聞こえてきて動きが止まった。


黒夜「……オマエら、いつか絶対ェ皆殺しにしてやる……!」


 プルプルと体を震わせながら黒夜は忌々しげにつぶやいた。
 黒夜がおとなしくなったことを確認した土御門は話を戻す。


土御門「次に二つ目の条件だ。とその前にお前に一つ聞きたいことがある」


 一方通行の方を見て続ける。


土御門「お前には結標を追い始めてから様々な障害が立ちふさがったと思う。その中でお前は人を殺したか?」

一方通行「……さァな」


 一方通行は適当に返した。誤魔化すように。
 たしかに一方通行はこの一日だけでも多くの敵にチカラを振りかざした。
 結標を捜していたスキルアウトたち、それをけしかけた研究員、地下研究施設を防衛していた駆動鎧。
 一方通行がその者たちへ直接手を下したときは、殺さない程度に痛みつけるだけで終わっていた。
 口ではいろいろ言ってはいたが、無意識のうちに人を殺すということに対し、理性がセーブをかけていたのだろう。
 しかし、彼は地下研究施設での出来事で我を忘れて、施設まるごと崩壊させるほどのチカラを振りかざすということがあった。
 施設には機能停止した人入りの駆動鎧が放置されていたし、逃げ遅れた人だっていたかもしれない。
 そんな場所を崩壊させてしまったのだから、一方通行は人を殺していないなどとは口が裂けても言えなかった。

 一方通行の曇らせた表情を見て土御門はサングラスを軽く上げて、


土御門「まあいい。それで二つ目の条件だが、これから結標を助ける道中に現れる敵、ソイツらを一人たりとも殺すな」

一方通行「ハァ? 相手は暗部のクソッタレどもだろォが。別にぶっ殺したって問題ねェクズどもじゃねェのかよ?」

土御門「ソイツらを殺すのは同じクソッタレであるオレたちの役目だ。お前の出る幕はない」

一方通行「オマエらごときで他の暗部にいる超能力者(レベル5)を殺れンのかよ?」

土御門「…………」




 アイテムにいる第四位の麦野沈利。スクールにいる第二位の垣根帝督。
 他の組織にもレベル5ではないにしろ、それと同等の戦力を持っていることだろう。
 そんな状況で第一位である自分が戦力外扱いにされていることが、一方通行は気に入らなかった。


黒夜「ケッ、たかだかレベル5ごとき余裕だっつーの。私がこの手で全員の首飛ばしてやるよ」

番外個体「まーたクロにゃんのビッグマウスが始まっちゃったよ。クロにゃんって調子に乗って真っ先に命落とすタイプだよねー」

海原「ふふっ、まったくその通りですね」


 沈黙する土御門の代わりに返答したのは黒夜だった。追う形で他二人から茶々が入る。
 おちょくられてギャーギャー騒ぐ黒夜。嘲るように爆笑する番外個体。それをニコニコと見守る海原。
 そんな様子を見て一方通行は、


一方通行「……大丈夫かよ、この暗部組織」


 まるで小学校の教室だな、と率直に思った。
 呆れ顔でそれを眺める一方通行を見て土御門が軽い感じで、


土御門「なあに、なんとかなるさ。オレたちの目的はあくまで結標だ。他の組織を壊滅させることじゃない」

一方通行「楽観的だねェ。ま、オマエらが死ンだら死ンだであとは好き放題やらせてもらうだけだからァ、それはそれで好都合っつゥわけだ」

土御門「その場合はお前もくたばってるだろうけどにゃー」


 そう言われて一方通行はうっとおしそうに舌打ちした。


一方通行「次の条件は何だ? さっさと言え。もしかしてもォ終わりか?」

土御門「悪い悪い。それじゃあ次の条件だ。これは結標の情報をお前にやるタイミングの話だ」

一方通行「タイミングだァ? 条件飲ンだらすぐにくれるわけじゃねェのかよ」

土御門「ああ。情報を話すのはオレたちが結標を確保する作戦を実行する三〇分前だ」


 三つ目の条件を聞いて一方通行はニヤリと笑う。


一方通行「なるほどねェ。俺が先走ることに対しての対策っつゥことか。周到なこった」

土御門「よくわかっているじゃないか。では最後の条件も似たようなものだからついでに言っておこう」


 土御門は口角を釣り上げて白い歯を見せながら、不気味な笑顔を作る。
 その顔を見て一方通行は背筋がゾクッとなるような寒気を感じた。


土御門「お前はこれから作戦開始三〇分前まで、オレたちにその電極を預けておいてもらおうか」


 命の綱を握られる悪魔のような条件が、学園都市最強の能力者へと突きつけられた。


―――
――





 第三学区にある暗部組織『アイテム』の隠れ家。
 屋内レジャーだけ集めたいわゆる上層階級と呼ばれる人だけが利用できる、高層ビルの一角にある施設。
 その中にあるVIP用の個室サロン。個室といいながら3LDKを超える広さを持つ空間。

 リビング部分にアイテムの少女四人と下っ端浜面仕上がソファや椅子に座って会話していた。
 いや、一人だけ座っていない少女がいる。滝壺理后。
 ピンク色のジャージを着た少女がソファの一角に、毛布を被って横たわっていた。
 風邪を引いているみたいに息を荒げながら顔を赤らめている。
 そんな少女を横目にリーダー麦野が一言。


麦野「――私たちアイテムは今回の仕事降りまーす」


 麦野の発言に他のメンバーが「えっ?」と声を揃える。
 その中の一人絹旗最愛が立ち上がって中央のテーブルを叩き、前かがみになりながら、


絹旗「な、なんでですか!?  そんな急にっ!?」


 それに続いてフレンダも不安げな声のトーンで、


フレンダ「も、もしかして私たちじゃ手に余る案件ってこと?」


 困惑してる二人を見ながら麦野は冷静な口調で説明する。


麦野「別にそういうわけじゃないわ。次、本格的に攻め込めばたぶん捕れる。けどそのためには滝壺のチカラが必須なわけ」

麦野「こんな状態の滝壺を、これ以上消耗させてまで座標移動を捕まえたところで割りに合わない。だから降りるの、わかる?」


 説明を終えるとしばらく無言の時間が続いた。
 サロンに流れている癒やし系のBGMだけが部屋中に流れる。
 そこで真っ先に麦野に反論したのはソファに寝込んでいる滝壺理后だった。


滝壺「……む、ぎの。私なら、大丈夫、だから……、追おう、座標移動を」

浜面「お、おい! 無理すんなよ滝壺!」


 滝壺は体をふらつかせながらゆっくりと上体を起こしていく。
 一瞬、体がぐらついたのを見て浜面が彼女の体を支えた。
 その様子を見て麦野は舌打ちをして、


麦野「うっせーな、降りるっつったら降りるのよ。病人は引っ込んでな」

絹旗「で、でも麦野。いちおうあの電話の女からの指令だから、勝手に降りたりしたら超不味いのではないでしょうか?」


 絹旗の言う通り暗部の仕事というのはシビアだ。たった一回の失敗で多大なリスクを負う可能性だってある。
 失敗したから消す。そんなことが日常茶飯事行われているのが学園都市の暗部だ。


麦野「うーん、まあたしかに多少のペナルティーはあるだろうけど、たぶん大丈夫だと思うわ」


 麦野は軽い感じに答えた。その軽さに戸惑いながらフレンダは問う。


フレンダ「な、何でそんなことがわかるのさ?」

麦野「今回の仕事はアイテム以外の組織にも通達されているからよ」

フレンダ「他の組織って……『スクール』とか『グループ』とか?」

麦野「そうよ」


 何か確信を得いているような口ぶりで麦野は続ける。




麦野「座標移動と接触したときヤツは、私のことを『追い回しているヤツらのうち一人』って感じに言ってきたわ。つまり、ヤツを追っている組織が他にもいるってこと」

麦野「私たちと同じ指令を受けているということは同ランクの暗部組織。つまり、他の四つのどれか、または全部」


 麦野の言う四つとは、『グループ』『スクール』『メンバー』『ブロック』のことを言っているのだろう。
 それは他のアイテムメンバーでもわかっていることだが、そのうちフレンダが首を傾げながら、


フレンダ「他の組織にも同じ指令が行っているかもしれないってことはわかったけど、それがなんで指令を降りても大丈夫ってコトになるの?」


 「同ランクの組織が並んでいるのなら、むしろ出し抜いて勝ち取らなきゃいけないんじゃ」とフレンダは付け加える。


麦野「たしかにそれが一番だろうけどね。でもおそらくこの指令、それぞれの組織で依頼主は違うところになっているだろうけど、たぶん辿っていけば大本は全部一緒のところよ」

絹旗「要するにどこの組織が座標移動を捕らえても、彼女の行き着く先は超同じというわけでしょうか?」

麦野「そーいうことよ。だから失敗したからってどこかの組織が捕らえりゃ問題なし。ま、手柄がなくてマージンが取れない電話の女にはネチネチ文句は言われるでしょうけどね」


 麦野の話を聞いてメンバーたちは各々納得する様子を見せていた。
 しかし滝壺だけは違った。焦点が合っているのかよくわからない目でゆっくりと反論する。


滝壺「……でも、むぎの? その話は、あくまであなたの想像、だよね? 実際はどうなのかなんて、わからない」

麦野「ええ、そうね」

浜面「認めちゃったよ!」


 浜面の言う通り麦野はあっさりと認めた。
 しかし、麦野は表情を崩すことなく反論に対して反論する。


麦野「私たちが学園都市になくてはならない組織とかいう妄言を言うつもりはさらさらないけど、この程度のことで潰されるような安い存在じゃないことはわかるわ」


 「もしそうならとっくの昔に潰されているはずだからね」と麦野は補足する。


滝壺「でもむぎの、もし、もしだけど、今回がそのもしかしてだったら……?」


 滝壺の問に対して麦野は「ふふっ」と小さく笑ってから、


麦野「もし上層部が私たちを消そうってなったら逆にそれは面白いんじゃない? 今まで散々こき使ってくれやがったクソ野郎どもをこの手でぶち殺せるんだからねえ」


 ブチブチと引き裂くような笑顔で麦野は答えた。
 その姿を見て一同はゾッとする。あまりの圧力に体が硬直した。

 特に返事のないことを確認し、麦野はいつもの感じに戻り二回手拍子をする。
 その音を聞いて他のメンバーはハッとして、麦野の方へ目を向けた。


麦野「私の見通しだと今夜中に座標移動はどこかしらの組織に捕まると思う。おそらく明日の朝一くらいに指令取り下げの連絡が来るんじゃないかな」

麦野「ま、仮に明日の朝それが来てなかった再び私たちで追うとしましょ? それまでしっかり準備をして体を休めておくこと」




 というわけで一旦解散! という麦野の一声でアイテムはそれぞれ別行動を始めた。
 絹旗はお腹が空いたということでルームサービスで適当な料理を頼む。
 浜面は滝壺をゆっくり寝かせるために部屋へ連れて行く。
 麦野は暇潰しにテレビを付けてチャンネルを回して番組を吟味していた。
 そしてフレンダは、


フレンダ「――私、ちょっと疲れたから少し仮眠を取るって訳よ」

麦野「ほーい、おやすみー」


 麦野がテレビから特に視線を移すことなく手をひらひらさせたのを見てから、フレンダは空いている部屋へと移動した。
 部屋に備え付けてある高級個室サロンの名に恥じぬふかふかベッドに、倒れ込むように顔からダイブする。
 低反発枕に顔を埋めながら、


フレンダ(……ホントなにやってんだろ、私)


 頭の中を巡るのはやはり二時間前くらいの光景。僅かなタイミングのズレによって起こった任務の失敗。
 フレンダは別に今までヘマをしていなかったわけではない。
 そのたびに怒られたり呆れられたりして、それはそれでショックを受けたりはした。
 だからこそ、憐れんだのか気まぐれだったのかはわからないが、麦野が珍しく見せた優しさが逆に彼女の胸を強烈に締め付けたのだろう。
 こんなことならいつも通り言い上げられた方がマシだったかもしれない、とフレンダは思う。
 仕事を降りるか降りないか、そんな選択肢が生まれた原因が結果的に見れば彼女のミスなのだからなおさらだ。


フレンダ(絹旗のヤツ、すごいな……)


 今回の件では同じような境遇の絹旗という少女のことを思う。
 実際彼女が、今回の件のことをについてどう思っているのかなんて、フレンダにはわからない。
 だが、絹旗は責任感の強い少女だ。何も考えてはいないということは無いだろう。
 そんな絹旗がいつも通りの振る舞いを見せているのは、素直に彼女自身の強さの表れだろうとフレンダは推測する。
 自分より年下で小さい女の子と比べて自分は一体何なんだ。自己嫌悪の激流がフレンダの中を渦巻いた。


フレンダ(……やっぱ……わた……あん……て……かな……)


 いくら負の思考が頭を巡っていても今の彼女は疲労した状態でふかふかベッドの上。
 次第に自分が何を考えているのかわからなくなり、夢の世界へと誘われていく。
 ただ、眠りに付く前にフレンダは明確一つだけ思った。

 『目が覚めたら今日のことが夢だったらよかったのに』。
 
 砂糖菓子より甘くて儚い願いを抱え、フレンダの意識は消えていった。


―――
――






 暗部組織『スクール』のアジト。そこには構成員の四人が揃っていた。
 四人と言っても一人は非正規の雇われのスナイパーなのだが。
 砂皿緻密。本来は外で活動している男だが、現在は暗部間の抗争で失った前任の少女の代わりの補充要員として『スクール』に雇われている。
 装備の整備をしながら砂皿は他の三人の会話を聞いていた。


誉望「――あっ、来ました。『メンバー』からの情報っス」


 誉望がテーブルの上に置いているノートパソコンを、頭につけたゴーグル経由で操作して画面に情報を表示する。
 そこに書かれているのは日時と座標。それを見た垣根がピンときたのかニヤリと笑う。


垣根「なるほど。ヤツの目的はそういうことだったのか」

海美「ふーん、随分とお友達想いの人なのね」


 同じように理解した海美がネイルをいじりながら感想を述べた。
 そんな二人の様子を見て誉望が戸惑いながら、


誉望「な、なんで座標見た瞬間に場所を把握できんスか?」

垣根「学園都市内の座標くらい覚えとけよ。せめてその座標辺りに何があるとかくらいはな」


 ウス、と返事をして誉望はノートパソコンで座標の検索を開始する。
 一秒もかからないうちに結果が画面に表れた


誉望「……へー、こんなところに座標移動が現れるんスか? なんでまたこんな場所に?」

海美「彼女のプロフィールデータを一通り眺めてみればわかるんじゃないかしら?」

垣根「ま、その肝心のデータが全部吹っ飛んじまったから今さら確認できねえだけどな。どっかの馬鹿のせいでな」


 誉望が「うっ」とバツの悪そうな声を漏す。
 彼は先ほどハッキングによる電子戦で負けてしまい、情報を根こそぎ奪われる一歩手前まで追い込まれるということがあった。
 そのピンチを一歩手前で防いだのは垣根帝督。サーバーごと物理的に木っ端微塵に破壊したため、最悪なケースから免れさせた。
 だが、それイコール今までのスクールが収集してきた情報やら何やらを全部デリートしたということになる。




垣根「まあいい。つーことで座標移動は心理定規と誉望、お前ら二人でやれ」

誉望「ええっ、マジっスか? 相手は超能力者(レベル5)っスよ? キツくないスか?」

垣根「お前最初自分のチカラはレベル5級なんだ、ってほざきながら俺にケンカ売っただろうが。それが証明できるまたとないチャンスじゃねえか」

誉望「言われてみればそうっスね」

海美「それに私が付いているのだから平気よ」


 海美が不敵な笑みを浮かべる。


垣根「あとは……砂皿、お前は外周で待機して外部からの侵入者を排除しろ。狙撃ポイントは任せる」

砂皿「了解した」


 一言だけ返して砂皿は道具の整備に戻った。無愛想な返事だったが垣根は特には気にしてはいない。
 彼は与えられた仕事は必ずこなす。今までのスクールの活動から見て、垣根もその点は信用していた。


誉望「ところで垣根さんは一体なにをするつもりなんスか?」


 誉望の質問を聞いて垣根は楽しそうに笑いながら、


垣根「決まってんだろ。座標移動を追いかけてくるだろうアイツをここでブッ殺す。そして俺が頂点に立つ」


 垣根が天井の証明に手をかざし、その光掴むように掌を握り締める。
 彼から発するプレッシャーが強まったのをスクールのメンバーたちは感じた。


垣根「――楽しもうとしようぜ? なぁ、一方通行(アクセラレータ)」


―――
――





 学園都市にあるどこかのビルの屋上。一人の少女がいた。
 赤いセーラー服を着た小柄な体格。茶髪を二つ結びにして肩にかけている。
 彼女はショチトル。学園都市の暗部組織『メンバー』の構成員の一人だ。

 ショチトルは落下防止の欄干に背中を預けながら携帯端末を耳に当て、通話をしている様子だ。


ショチトル「――では約束通り、こちらは座標移動(ムーブポイント)の方を追わせてもらおう」


 そう電話先へ言ったあと、いくつか相槌を打つ。
 そして何か謙遜をするように、


ショチトル「あまり期待するな。私一人で出し抜けるほど向こうも甘くはないだろう」


 返したあとショチトルはしばらく黙り込んだ。
 おそらく電話先の相手が長々と話を続けているのだろう。
 しばらくしてから少女の口が開いた。


ショチトル「――ああ、せいぜいそちらも楽しむといい。こちらもじっくりと楽しませてもらうよ」


 ニヤリと口角を上げ、ショチトルは通話を切る。
 携帯端末を懐にしまったあと、夜のビル群を眺めながら呟く。


ショチトル「あれから半年以上か。長かった。だが、これでようやく終わりに出来る。そうだろ……『エツァリ』?」


―――
――





黒子「――ただいま戻りましたの」


 ジャッジメント白井黒子は櫻井通信機器開発所の火災現場の救助活動を終え、無事第一七七支部へと帰還した。
 少し肩を落としながら入室したところを見るに、相当疲労が溜まっているのだろう。
 体中に見える灰が擦れたような汚れや、にわか雨を受けて湿った衣服がそれを助長させているように見える。

 そんな彼女へ一番に声をかけたのは、入り口から一番近い席に座っている先輩固法美偉だった。


固法「お疲れー。例の迷子の子は見つかったのかしら?」

黒子「……いえ、残念ながら」


 黒子と初春は迷子の捜索という建前で結標を追っている。
 これは逃走犯としての結標の捜索が打ち切られたから、上条当麻に迷子の捜索と言う形で依頼してもらうことによって行っている風紀活動だ。
 結標淡希が迷子として扱えるかどうかは怪しいが、初春の起点と詭弁でとりあえず許されている状況だった。
 しかし、


固法「うーん、ここまで捜しても見つからないってことは、こちらの手に負えない状況かもしれないわね」

黒子「えっ」

固法「アンチスキルへ引き継いだほういいかもしれないわ」


 迷子。そう言うと童謡にも使われている平和そうな単語に聞こえる。
 だが、言い方を変えれば行方不明者。捜索の時間が長引けば長引くほど深刻な事態へとつながっていく。


黒子「た、たしかにそうかもしれませんわね。あはは」


 引きつった笑顔で愛想笑いをしながら初春のいる席へと向かう。
 このあまりよろしくない状況を伝えるためだ。


黒子「初春!」

初春「ほえ?」


 一個三〇〇円弱しそうなプリンの容器を片手に、プラスチックの使い捨てスプーンを咥えている初春がのんきそうに返事をした。
 机の隅にコンビニ弁当の空殻が置いてあるところを見るに、食後のデザートなのだろう。
 いろいろ言いたいことはあったが黒子はぐっと飲み込んで、


黒子「固法先輩がこの件をアンチスキルへ引き継ぐと言っていますわ。そろそろ限界かもしれませんわね」

初春「あー、たしかに時間が時間ですからねー。うーん、困ったなー」

黒子「そんなセリフはその手に持ったデザートを机に置いてから言いなさいな」

初春「ちぇー、別にプリンを持っていようがいまいが作業スピードは変わらないのにー」


 初春は唇を尖らせながらしぶしぶ手に持った容器とスプーンを置いた。




黒子「ところで進捗はどうなんですの? あれから一切連絡を寄越していないところから察しはしていますが」

初春「お察しのとおりですよー。結標さんどころか上条さんも監視カメラに引っかかってません」

黒子「類人猿もですの?」

初春「はい。電話の方も相変わらず繋がりませんね」


 黒子は眉をひそめた。
 結標淡希は裏の住人のため監視カメラを避けて移動する技術を持っている。
 そのためいくら監視カメラの映像を検索したところで一つもヒットしない、などということが起きてもおかしくはない。

 だがもう一人の上条当麻は違う。
 彼は少し特殊なチカラを持ってはいるが、その点を除けば至って普通の男子高校生だ。
 そんな彼が監視カメラに映らず街を動き回る技術など持っているはずがない。
 電話もつながらないという事実から黒子は嫌な考えを巡らせる。


黒子「やはり、あの類人猿の身に何かあって、動くこともままならないということ……?」


 監視カメラに映り込まないということは動けない状況。
 それに加えて電話にも出ないとなると言葉には出したくはないが、


初春「やっぱり死んじゃった、ってことですかね?」

黒子「あっさりそういうことを口に出すんじゃありませんの」


 たしかに口に出しても出さなくても状況は変わらないが。
 ここで黒子の脳裏によぎったのは尊敬する御坂美琴お姉様の姿だった。
 認めたくはないが、彼女は上条当麻を意中の相手として見ている。
 そんな少年が確定しているわけではないがそういう状況になっていると知ったら、全てを投げ売ってでも彼を捜しに行くだろう。
 それすなわち美琴が暗部に首を突っ込むどころか宣戦布告してもおかしくないということ。


黒子(ど、どうしますの白井黒子。このことをお姉様に伝えるべきか伝えないべきか……)


 心臓がバクバクと鳴る。全身に嫌な汗がにじみ出る。
 拳銃を持った男六人に囲まれたときと比べ物にもならない緊張が彼女の中で走った。
 そのとき、


 ピピピッ! ピピピッ!


 初春の使っているたくさんのディスプレイの中のうち一つから電子音が鳴った。
 何だと思い黒子はそのディスプレイへと目を向ける。


 そこに映っていたのは街中を謎の黒髪少女と一緒に歩いている上条当麻の姿だった。


 この映像は同日同時まさしく今撮られたもの。


初春「あっ、上条さんだ」

黒子「…………」


 このあと黒子は初春から少年の電話番号を聞き出し、鬼のように電話をコールさせた。


―――
――





 とある高級ホテル(美琴いわく普通のホテル)の七階にある一室。
 そのバルコニーにある椅子へ座りながら御坂美琴が携帯電話の画面を眺めていた。
 体が火照っていて髪の毛が微妙に湿っており、寝間着を着ていることから入浴後だということがわかる。


美琴(……大丈夫かしら、アイツ)


 携帯電話の画面には『一方通行』の文字。
 裏の世界へと姿を消した結標淡希を追っていった少年。
 美琴の今の役割は彼から預かった打ち止めという少女の面倒を見ること。


美琴(初春さんがあれだけ頑張ってやっと手がかりを掴めたものを、アイツ一人でどうにかしようなんて……)


 正直無理だろうと美琴は思った。
 一方通行のベクトル操作はたしかに優秀な能力だ。
 しかし、それはあくまでベクトルを介する事象にだけ通用する。情報収集などというベクトルが一切関わらないものには役に立たない。
 今彼はろくな手がかりをも掴めずにもがき苦しんでいるのではないか。
 どうしようもない状況で途方に暮れているのではないか。

 だから美琴は少年に電話をかけようと考えた。どういう状況なのかを確認するために。
 しかし、美琴は通話ボタンを押せない。


美琴(もし、もしこの電話をかけて、さっき思ったような状況になっていたら……?)


 ゴクリとつばを飲む。


美琴(私は一体なんて声をかけてやればいいの? 頑張れ? 負けるな?)


 そんな安っぽい言葉をかけて何になるんだ、と美琴は顔を曇らせる。


美琴(今さらだけど手伝ってあげようか、とか?)


 いや、それこそない、と美琴は即座に否定した。
 そもそも彼はなぜ一人で行ったのか。
 それは他の人を巻き込むわけにはいかないと考えての行動だろう。
 この事情を美琴と黒子に話した時、他の連中へ話すなと念を押していたことからわかる。

 しかし、美琴はある考えが浮かぶ。
 要するに彼は一人で全てを抱え込んでいる状況に陥っているのだ。
 忌まわしいあの最悪の実験を止めるために奔走していたときの自分を、美琴は思い出していた。
 あのとき、とある少年が声をかけてくれなかったら、今の自分はいなかっただろう。

 そう考えたとき、美琴の指は自然と動いた。




美琴(余計なことするなって煙たがられるかもしれない。けど、もし私があの馬鹿と同じことができるかもしれないなら)


 携帯電話を耳に当てる。すると、ある電子音声が流れてきた。
 『おかけになった電話は電波の届かない場所にいるか電源が入っていないためかかりません』。
 一方通行の携帯端末に電話を繋げることが出来ないことを表すアナウンスだった。


美琴「……ま、そうよね」


 美琴は疲れたように呟いた。
 そもそも彼は今何をしているのかはわからないのだ。
 暗部組織の連中と壮絶な戦いを繰り広げているのかもしれないし、どこかの研究施設やアジトに潜入しているのかもしれない。
 だから、携帯の電源を用心のため切っていても何もおかしくはない。


美琴「はぁ、もういいや。明日の朝くらいにでももう一回連絡入れてみるか」


 諦めた感じにため息をついて、美琴は携帯電話から目を離す。
 ガチャリ、と部屋からバルコニーに出るドアが開く音がした。


打ち止め「何やってるのお姉様? お風呂上がりにそんなところにいると風邪引いちゃうよ? ってミサカはミサカは予想外の夜風の冷たさに驚きつつ心配してみたり」


 パジャマを着た打ち止めが、アホ毛を揺らしながらドア越しにこちらを覗いていた。


美琴「あ、うん、ちょっと涼んでただけ。すぐ戻るわ」


 返事をして椅子から立ち上がる。
 バルコニーを少しだけ見渡してから部屋の中へと戻っていった。


美琴(……そういえばあの馬鹿はどうしているんだろうか)


 美琴はふと思い出した。結標淡希を追っているもう一人の少年上条当麻のことを。
 彼にはジャッジメント二人が後ろに付いている。おそらく無茶なことはしないだろう。


美琴「…………」


 いや、無茶なことをするだろうな、と美琴は心の中でため息をついた。
 彼が誰かを救うためなら、危険とかそういうのを顧みず突っ走ってしまう人間だということは、美琴自身がよくわかっている。
 言っても聞かない上条当麻に頭を悩ませている少女二人が容易に想像できた。

 だが、そんな上条のことを美琴は心配などしてはいなかった。
 違う。心配していないと言ったら嘘になるか。心配してもしょうがない、そう思っていた。
 どうせすぐに全部終わらせて、何食わぬ顔でまた自分の前に現れる。
 そんな確信めいたものを美琴は感じていた。

 と心の中ではそう思っている美琴だったが、どうやら体は正直らしい。
 携帯電話の発信履歴にずらりと並んだ『上条当麻』の文字を見て、美琴は苦笑いした。


―――
――





A子「――あらぁー、まさか同じホテルになっちゃってたなんてぇ、よほどの運命力が働いたとしか思えないわよねぇー」

上条「何言ってんだお前?」


 上条当麻は第一〇学区で出会ったA子と名乗る黒髪の少女と一緒に、とあるホテルの一室に来ていた。
 女の子と一緒にホテルなんていかがわしさマックスの文面だが、今のところそういった行為が行われたような跡はない。
 それは上条の体の至るところに新しい包帯が巻かれていたり、絆創膏貼られていたりしていて、手当を受けたばかりだということがわかるからだ。
 ルームサービスで頼んだバジルとトマトのスパゲティを食べながら、少女は問いかける。


A子「ところで怪我の方は大丈夫なのかしらぁ? 手当てっぽいことはしてみたのだけど、ちゃんと出来ているかよくわからないのよねぇ」


 同じくルームサービスで頼んだ牛丼を食べている上条が、視線を手足の包帯や絆創膏へ目を向けて答える。


上条「ああ。まあ痛くないって言ったら嘘になるけど多分大丈夫だろ」

A子「個人的にはさっさと病院行けって言いたいところだけどぉ、そんなところに行ったら即入院確定だからあえて言わないわね」


 彼女が言ったように上条の怪我の手当てをしたのは目の前にいる少女本人だ。
 昼頃に、ジャッジメントの少女による手際の良い応急処置を見たせいもあるだろうが、上条には包帯グルグル絆創膏ベタベタな処置が不器用なように見えた。
 見た目が悪くても患部をきちんと処置はされていたので、彼自身は特には気にしてはいなかったが。


上条「それで結標を助けるって言ってたけど何をするつもりなんだ? もしかしてこのホテルのどこかに結標がいるとかなのか?」

A子「いいえ、違うわぁ。たぶん結標さんは今頃別のホテルか、昔使ってた隠れ家とかに身を潜めているんじゃないかしらぁ?」

上条「じゃあ何で俺たちはこんなところにいるんだよ」

A子「それはここでゆっくり休んでアナタに体力を回復してもらうためよぉ」


へっ? と上条は素っ頓狂な声が出た。
そんな様子をニヤニヤしながら少女は続ける。


A子「だってぇ、見るからにアナタの身体ってボロボロで瀕死に近い状態じゃない? そんな状態で結標さんをどうにかしようなんて、いや、そもそも結標さんがいるところにたどり着けないかもしれないわよねぇ」

上条「……たしかにそうだな。正直、走るどころか歩くのもしんどい」

A子「それはそうよぉ。だってその左足の火傷、そんなの負ってたら普通歩けないと思うんですケドぉ。一応、火傷の塗り薬っぽいのぺたぺた塗ったけどそんなので痛みが治まるとは思わないしぃ」

上条「ははっ、これ以上言わないでくれ。意識したらめっちゃ痛く感じてきた……」


 この傷は先ほど櫻井通信機器開発所での一戦で負った傷だった。
 超能力者(レベル5)第四位を名乗るビームをバカスカ撃ってくる女。
 それだけならまだよかったのだが、素のパワーや体術も上条より圧倒的に上を行く化け物。
 何度も何度も死を予感した戦いだった。生き残れたのは正直奇跡だと思う。
 つかほんとよく五体満足で勝てたな、と上条は力なく笑った。


上条「俺が身体を休めて体力を回復しないといけないことはわかったけど、そのあとはどうするんだ?」

A子「そうねぇ、結標さんが現れそうな場所に行って会う。それだけよぉ」

上条「どこなんだよそれ」

A子「ヒ・ミ・ツ☆ 行ってからのお楽しみってことで♪」


 小悪魔的な感じに笑っている少女を見て、上条は嫌な予感しかしなかった。
 食べ終えた牛丼のドンブリの乗ったプレートを適当にテーブルの上に置いて、ふと思い立って携帯電話を開く。


上条「げっ、知らないうちに着信履歴がすごいことになってる……」




 履歴は五〇件以上。一覧を見る限り御坂美琴と初春飾利と知らない番号。
 面子的におそらく知らない番号の持ち主は白井黒子のことだろう。大体の割合は美琴五割・黒子三割・初春二割。
 なぜだかマナーモードになっていた携帯電話のせいで今まで気付かなかった。
 その画面を横から見た少女が手を口に当てながら、


A子「あらぁ、もしかして彼女さん? いや、番号が三通りあるってことは……三股ゲス野郎?」

上条「ち、違げえよ! ただの友達と結標捜しを一緒に手伝ってくれてるジャッジメントの二人だ! たぶん、俺が勝手に突っ走って音沙汰なしだったから電話してきてたんだ!」


 「まあ御坂はなんで電話掛けてきてんのか検討もつかねえけど」と上条は付け加えた。
 さてどうしたのものかと上条は考え込む。
 今の時間は午後九時になりそうな時間帯だ。彼女たちが既に眠りについているとは思わないが、こんな時間に電話をするのはなんか気が引ける。
 携帯電話のディスプレイを凝視しながら難しい顔をしている上条を見て少女は、


A子「――えいっ☆」


 パシッ。上条当麻の携帯電話を取り上げた。
 突然の行動に上条は立ち上がり少女を睨みつける。


上条「なっ、なにしやがるっ!?」


 ドンッ!

 上条の体に衝撃が走った。少女に体を押されたのだ。
 不意のことだったのでバランスを崩し、上条は背中からベッドへ倒れ込んだ。


A子「アナタの考えていることは手に取るようにわかるわぁ。だからこそ、この携帯電話を渡すわけにはいかないってコト」

上条「なにわけのわからねえこと言ってんだ! かえ――」 


 上条が起き上がる前に少女が覆いかぶさるように馬乗りになった。
 何が起こっているのかわからず、上条の頭の中が真っ白になる。
 そんな上条を少女は星型の瞳で上からじっと見つめながら、


A子「下手に誰かと連絡を取られてこの場所を特定されても困るのよねぇ。だから、折返しの電話をするなら全部終わってからにしてくれるかしらぁ?」

上条「え、え、え、えーと」

A子「そういうわけで、今から上条さんはお休みの時間でーす! 時間になったら起こしてあげるからゆっくり寝ちゃっていいわよぉ?」

上条「は、はあ!? まだ九時だろ、そんな早くから寝られるわけねえだろ!」

A子「大丈夫よぉ、だって――」


 彼女が何かを言い終える前に上条の頭の中で何かの音が鳴った。
 ピッ、という電子音のようなものが。


上条(……えっ、な、なんか急に眠気が……)


 上条の意識が朦朧としている中、部屋の入口の方から声が聞こえてきた。
 さっきまで喋っていた少女とは全く違った声色だが、全く同じような喋り方の声が。


??「私の催眠力を使えばぁ、例えば虫歯で歯が痛くてまったく寝られないような人でもぉ、リラクゼーションサロンで心身を癒やされたときみたいな、快適な睡眠をお届けすることができるんだゾ☆」


 上条当麻は薄れゆく意識のまま声のした方向へ目を向ける。
 そこには蜂蜜色をした長い髪の毛の少女が立っていた。テレビのリモコンのようなものをこちらへ向けて。
 ただそれだけを認識して上条は、力尽きたように沈んでいった。


―――
――






 アイテムの隠れ家である個室ラウンジにあるシャワー室。
 麦野はそこで一人シャワーを浴びていた。
 少し熱めのお湯を浴びながら麦野はある記憶を思い起こす。
 櫻井通信機器開発所で自分に立ちふさがった上条とかいう少年のことを。

 ドゴッ!!

 壁に向かって拳を突き立てた。
 外観は特に変化はなかったが、壁の中からミシミシというひび割れるような音が鳴る。
 拳を紅く染めながら麦野は怒りで震えた声を漏らす。


麦野「……糞がッ」

 
 勝てる戦いだった。負けるはずのない戦いだった。
 相手はただの喧嘩っ早いだけのガキ。パンチの打ち方も知らないような、人の殺し方も知らないような小僧。
 実力の差はプロボクサーとそこらにいる不良学生くらいはあった。

 だが、麦野は敗北した。
 屈辱だった。何より負けたことより、こうやって敗北したのに生かされているということに。
 プライドの高い麦野にとってそれは、陵辱されて女の尊厳を奪われること以上に屈辱的だった。

 彼女は敗北した理由を自分なりに分析する。
 原子崩し(メルトダウナー)という超能力(レベル5)を打ち消せる謎の右手。
 麦野の必殺のチカラもその右手に遮られることで全て無に帰する。
 全てを貫通し焼き尽くす粒機波形高速砲も、どんな物質も通さず崩壊させる電子線の楯も。

 しかし、麦野にとってそれは驚異にはなりえなかったはずだった。

 麦野沈利は卓越した身体能力を持っている。
 蹴り一発で数メートル飛ばせる怪力。暗部で培った戦闘技術。急所を狙うことをいとわない精神力。
 並大抵の格闘家程度なら能力など使わなくても容易にねじ伏せることができる。
 普通に殴り合えば麦野が負ける要素は皆無だったということになる。

 そう、『普通』に殴り合えば。

 麦野は上条との戦いで原子崩しというイレギュラーを介入させてしまった。
 純粋な肉弾戦から能力という不純物が混じった戦いへ。
 そこに付け入る隙を与えてしまったということだ。

 結果的に見れば麦野沈利は『油断』していたということになるのだろう。
 自分の超能力(レベル5)を見せびらかすように、使わなくもいいチカラを使ってしまったということなのだから。


麦野「――糞がァ!!」


 その事実に気づいた麦野は歯ぎしりさせながら頭を掻きむしる。
 シャワーを止めたあと、個室のドアを蹴り開けた。
 鍵が掛かっていた上、想定されていない衝撃が走ったためか。ドアはハンマーで殴られたように砕け飛んだ。
 畳まれておいてあったタオルを一枚引っ張るように取り、それで濡れた頭を乱雑に拭く。

 そんな中、置いてあった麦野の手荷物から電子音が鳴った。

 ピピピッ! ピピピッ!

 麦野の携帯端末の着信音だった。
 甲高い音にイラつかせながら麦野は端末を濡れた手のまま取り、画面を見る。


麦野「……チッ」


 『非通知』。
 その三文字だけで誰からの電話か麦野は瞬時に理解した。だから舌打ちをした。
 通話ボタンを押して、携帯端末を耳に当てる。


????『おつかれー! ちょっと電話いいー? まあ良くなくても続けるけどー』

麦野「だったら聞いてくんじゃねえっつーの」


 女の声だった。電話の主は麦野たちが電話の女と呼称する『アイテム』の指令役の女。
 飄々とした喋り方だが、彼女が暗部組織を操っている者だという事実に変わりはない。





電話の女『座標移動(ムーブポイント)捕獲任務の進捗はどうなってる?』

麦野「……残念ながら進捗なしよ」


 麦野はあえてそう言った。
 実際は滝壺にAIM拡散力場を記録させたため、いつでも追うことはできるというところまで進んでいる。
 だが、彼女は既にこの任務を降りるつもりでいるため、余計なことを喋らなかった。
 そう言われて電話の女は『ふふっ』と笑い、


電話の女『そうだよねー。まあでも、せっかくのチャンスを無様に逃して涙目敗走してるなんて、現状維持どころか後退しているって言っても文句言えないけどねー』

麦野「チッ、知ってんなら聞いてくるなよ」

電話の女『こっちからしたら、あんたら四人揃ってて何で失敗してんのよーって感じなんだけど。一体誰がしくじったのかなー? 絹旗? フレンダ? まさか滝壺? ……もしかしてあんたぁ?』

麦野「…………」


 言われて麦野は黙り込む。
 反論したい意思はあるが彼女の言っていることは全部事実だ。
 思いの丈をぶつけたところで、それは感情に流されたガキが喚くのと一緒になってしまう。


電話の女『滝壺は既にヤツのAIM拡散力場を記録してるんでしょ? だったら何で隠れ家でのんびり遊んでるのかなー?』


 要するに彼女が言いたいのは『滝壺を使って早く捕獲任務を再開しろ』。
 電話の女がこちらに連絡を寄越した理由。ただそれを伝えるためだけのことなのだろう。


麦野「滝壺は今ひどく消耗してる。このまま使い続けて完全に潰れたら、これからのアイテムの活動に支障が出るわ。そんなことをしてまで続行するのは割に合わねえだろうが」


 我ながら似合わないセリフを吐いたなと麦野は心の中で思った。
 しかし、そんなセリフを言ったところで無駄だと彼女は理解している。
 滝壺理后はたしかに優秀だ人材だ。けれど、上層部からしたらあくまで彼女は能力者を追跡できる道具としか見ていない。
 ということは、滝壺が使い物にならなくなったところで、すぐに代わりの道具を用意して補充してくるということ。
 使い捨ての消耗品としか彼女を見ていない。
 だから、次に電話の女が吐く言葉は『滝壺を潰してでも座標移動を捕獲しろ』。
 言葉の細かい差異はあろうが同じ意味のセリフを淡々と告げるだろう。
 だが、


電話の女『うーん、たしかにそれは一理あるわねー』

麦野「……は?」


 電話の女は同意した。麦野の甘ったれた言い訳に。
 予想外のことに麦野は目を丸くさせた。


電話の女『もともとあんたらの業務は『不穏分子の抹消』。だからこんな毛色の違う仕事持ってこられても私たち困っちゃうー! ってことよねー』

麦野「あぁ? そうは言ってねえだろうが! 勝手なこと抜かしてんじゃねえぞ!」

電話の女『素直に認めちゃいなよー? 私たちには到底無理な仕事でした、許してくださいってね?』

麦野「誰がッ……」


 歯噛みしている麦野の姿を勝手に想像しているのか、電話の向こうにいる女はしばらく馬鹿笑いした。
 ひとしきり笑ったあと、女はいつもどおりの口調で、


電話の女『ま、そういうことで今回の仕事はキャンセルってことで。代わりに別の仕事用意してあげといたからー』

麦野「別の仕事だと?」

電話の女『そ。あんたらお得意のくそったれ共を皆殺しにする簡単なお仕事でーす』


―――
――





 とあるホテルの一人部屋。そこには一方通行と土御門元春がいた。
 ベッドに腰掛けている一方通行が目の前に立っている土御門へと喋りかける。


一方通行「土御門。作戦時間っつゥのは何時なンだよ? 俺は一体何時間眠らされるンだ?」

土御門「悪いがそれも答えられないな」

一方通行「たかだか時間を聞いただけで動けるわけねェっつゥのによォ。随分と秘密主義に徹してンじゃねェか」

土御門「この世界では、必要のない情報を無駄に漏らすことは命取りになるってことは常識だぞ? どんな情報が敵にとって有益なものなのかがわからないんだからな」


 そォかよ、と一方通行は適当に相槌を打った。


土御門「さて。では電極をもらおうか、とその前にもう一度だけ確認しておこう」

一方通行「あァ?」

土御門「本当にオレたちのことを信用するんだな? その電極をオレたちが預かってもいいんだな?」


 その言葉に一方通行は不気味な笑みを浮かべながら答える。


一方通行「信用だァ? ンなモンしてるわけねェだろォが。電極を奪われたあとは、無防備な俺へ向かって鉛玉がブチ込まれンだろォな、って思ってるよ」

土御門「ほぉ、やはり情報提供を受けるのをやめる、と?」

一方通行「そォじゃねェよ」


 一方通行は即座に切り捨てた。


一方通行「このまま情報を受けずにアイツを失うのと、電極を奪われたあとオマエらにブッ殺されるのと、俺からしたら同等にクソッタレな結果ってだけだ。だからオマエらの条件に甘ンじてやってるに過ぎねェよ」


 一方通行の言葉に土御門は「ふふっ」と笑いをこぼした。


土御門「お前らしい答えだな。ツンデレのアクセラちゃん?」

一方通行「俺はそンなのじゃねェっつってンだろォが! 殺すぞ!」


 怒号する一方通行。
 そんな彼を土御門は笑って流しながら、


土御門「ま、電極がないときの安全くらいは保証してやる。海原」


 呼ばれた海原が部屋の入り口から入ってくる。いつもどおりの爽やかなニコニコ笑顔で。
 もしかして呼ばれるまでずっと待っていたのか、と一方通行は呆れる。


土御門「これから時間までオレと海原が交代でお前の護衛についてやる。どこかのクソ野郎に命を取られる心配はしなくてもいいし、あとは――」


 言いかけた土御門はふと窓の外のバルコニーへと目を向ける。


土御門「無防備なお前へちょっかいかけようと、外で待機している馬鹿二人からマヌケないたずらをされる心配もしなくてもいいだろう」


 そう言うと突然バルコニーへの入り口のドアが開いた。
 外から二人の少女が入ってくる。
 スーパーデラックスマジックペン(定価二四五円)や猫耳などのコスプレグッズ、一眼レフカメラやレフ板を持った、番外個体と黒夜海鳥が。




番外個体「ありゃりゃー、バレちゃってたかー」

黒夜「誰が馬鹿だ。こんなヤツと一緒にするんじゃねえ」


 少女二人の登場に一方通行は特に反応を示さなかった。
 土御門と同じように彼も彼女たちの存在に気付いていたからだ。
 触れなかったのは単に面倒臭いと思っていたからだろう。


海原「どこからそんなたくさんの物を持ってきたんですか?」

番外個体「こんなこともあろうかと下部組織の連中に買いに行かせてた」

海原「そんなことに人員を割かないください」

番外個体「だってクロにゃんが買いに行ってくれなかったんだもん」

黒夜「誰が行くかッ!」

海原「それはたしかにしょうがないですね。黒夜には困ったものです」

黒夜「殺すぞ海原ァ!」


 コントみたいなやり取りをしている三人。
 それを見て土御門は頭に手を当てながらため息を付く。


土御門「とりあえず番外個体と黒夜はその玩具を持って部屋に戻って待機しておけ。明日は早いんだからな」

番外・黒夜「「はーい(へいへい)」」


 リーダーの言葉に二人はやる気のない返事をしてから部屋を出ていった。
 二人がいなくなったことを確認してから土御門は再開する。


土御門「では電極を預かろう」

一方通行「壊すンじゃねェぞ?」

土御門「ああ。きちんと使える状態で返してやるさ」


 会話を終えると一方通行は首元のチョーカーの金具をいじって取り外した。
 そしてこめかみに貼り付いている線に手をかけ、ゆっくりと引き剥がす。


一方通行「――――」


 ガクン、と一方通行の体が揺れ、ベッドに倒れ込むように横たわった。
 ミサカネットワークからの補助演算デバイスを失い、彼から言語能力・歩行能力・計算能力が奪われたからだ。
 土御門は倒れた少年から電極を取り、


土御門「義務を頂いて保管して申す。不明瞭を理解、発言する物体はあなたを全うしNOW」

一方通行「――――」


 言語処理の能力のない今の一方通行からしたら、「こいつは責任を持って預からせてもらおう。と言っても、今のお前には何を言っているのかはわからないか」というセリフがこういうふうに聞こえる。
 言葉を理解できない一方通行は、面倒なのでこのまま眠りに入ることにした。

 土御門との約束が実行されるならば、次に目覚めるときは結標淡希を救い出すとき。
 そして、全てを終わらせる。一方通行はそう決心し、深い眠りについた。


―――
――



 
 
 気付いたら天敵に囲まれていた。

 
 散々自分を追い回してきた超能力者(レベル5)第三位、『御坂美琴』。
 精神崩壊するくらいにまで自分を追い詰めた風紀委員(ジャッジメント)、『白井黒子』。
 そして、自分の希望を打ち砕き、圧倒的なチカラを振りかざした最強の超能力者(レベル5)、『一方通行』。
 
 そんな三人に囲まれていた。
 顔がこわばった。
 心臓がバクバクと鳴った。
 全身に鳥肌が立った。
 頭がおかしくなりそうだった。
 
 だから。
 
 逃げた。
 全力で。自分の身のことなど二の次に。目の前の恐怖たちから。一刻も早く離れるために。
 
 気付いたら隠れ家として使っているマンションの空き部屋にたどり着いていた。
 当たり前だが鍵がかかっていた。しかし手持ちに鍵はない。
 緊急時だからと言い聞かせて無理やり開けた。能力を使って。
 
 ドアを開けると、自分にとって信じられない景色が目の中に飛び込んでくる。
 部屋の中の家具は埃に塗れていて、長い間人が出入りした形跡がなかった。
 なんでこんなにボロボロなんだ、と疑問が浮かぶ。
 
 そこで何となくポケットに入っていた携帯端末取り出す。
 自分が持っていたものとは全然違うデザインのものだった。
 ボタンを押して画面を開いてみる。画面に表示されている時刻は二二時前。
 時計に並ぶように表示されている日付を見て絶句した。自分の目を疑う。
 
 その日付は自分が今日だと認識している日付から半年以上経過していたのだ。
 
 頭の中が混乱する。何度も画面を見る。日付がゲシュタルト崩壊する。
 だが、いくら考えても事実は変わらない。
 童話の浦島太郎の気持ちが今なら理解できるような気がした。
 
 携帯端末のボタンを押す。パスコードによるロックがかかっていた。
 四桁の番号を入力することで開くことが出来るシンプルなもの。
 自分がよく使っている数字を。誕生日でも何でも無い四桁の数字を入力してみた。
 
 開いた。
 
 やはり、この見覚えのない携帯端末は自分のものなのだろうか。
 そう思って電話帳を開いてみた。その瞬間、この携帯端末が自分のものではないことを確信する。
 
 電話帳は知らない人名で埋め尽くされていたからだ。
 それどころか自分のよく知っている仲間たちの名前が一つも載っていなかった。
 電話帳を眺めているとある名前を見つける。
 
 『一方通行(アクセラレータ)』。
 
 心臓が止まるかと思った。
 自分の前に立ちふさがった男。自分の身体の芯まで恐怖を植え付けた男。圧倒的なチカラで自分をねじ伏せた男。
 つい数時間前の記憶だ。鮮明に覚えている。
 あのときの記憶を思い出すだけでも、全身から嫌な汗がにじみ出た。携帯端末を持つ手が震える。
 
 これは一体どういう状況なんだ?
 そう思って手持ちの物を確認する。
 財布があった。中を見ると現金やポイントカードの他にある物を見つける。
 学生証。いわゆる学園都市のID。
 自分の顔写真が載っているがその自分は全然知らない学校の制服を着ていた。
 そのIDを読むと今自分は――高等学校の一年七組に所属しているらしい。
 霧ヶ丘女学院の二年生だったはずなのに何で一年生になっているんだ、と疑問に思ったがそれよりも気になる記述があった。
 
 能力名『座標移動(ムーブポイント)』。強度『超能力者(レベル5)』。

 
 
 

 
 
 超能力者(レベル5)? 自分が? 何で? 次々と疑問符が湧いてくる。

 たしかに一時期、次期レベル5だとか言われて持て囃されていた時期があった。
 その時は自分もそうなんだろう、そうなるのだろうといい気になっていたと思う。
 
 そんな話はある日を堺に聞かなくなった。それは二年前。
 自分自身の身体を密室へ転移させるというカリキュラムを行ったときからだ。
 結果から言うなら、それは失敗した。演算ミスをして自分の足を床に突っ込んでしまうという大事故を起こして。
 その事故がトラウマとなり、自分自身の転移を躊躇うようになり、自由に行えなくなった。
 だから座標移動(ムーブポイント)はこう評価される。出力だけは超能力(レベル5)級の大能力者(レベル4)として。
 
 そこであることを思い出した。つい先程のことだ。
 当時は無我夢中になっていたから気が付かなかったが。
 三人の恐怖から逃げるとき、たしかに自分は使っていた。
 トラウマによってろくに使えなかった自分自身の転移を。それも連続で。
 そんなことを行えば身体に大きな負担がかかり、胃の中にあるものを全て吐き出すなんてことがあってもおかしくなかったはずだ。
 あまりの恐怖にそれさえ気付かなかったのか、と適当に推測した。
 
 確認しなければ、と決意する。
 試しに自分自身の転移を行ってみようと思った。
 部屋の中から外のベランダまで。距離にして五メートルくらいか。
 自分の知っている座標移動なら、この程度の距離でも転移しただけで胃液がこみ上げてくる感覚を覚えるだろう。
 
 ゴクリとつばを飲み込み、身構えて、頭の中で公式を組み立てる。
 そして。
 
 跳ぶ。
 
 一瞬で、自分の体は外のベランダへと立っていた。
 襲ってくるはずの吐き気に備え、身体が強ばる。
 
 ――――しかし、その吐き気は一向に姿を見せなかった。
 
 おかしいと思い、今度はベランダから部屋の中へ、さっき自分がいた位置へと転移する。
 問題なく転移が完了し、部屋の中へと跳んだ。やはり何も起こらない。
 
 トラウマはある。あのときの記憶がなくなったわけじゃない。
 そのときの光景や痛み、恐怖心は今でも覚えている。脳裏にこびり付くように。片時も忘れたことはない。
 なら、なぜ自分自身の転移が容易に行えるようになっているのか。
 わからない。
 けど、一つだけ言えることがある。
 
 自分はトラウマを乗り越えていた。自分の知らないうちに。
 
 そこで思い出すのが、先程見た超能力者(レベル5)という知らないうちにもらった称号。
 おそらく自分の知らないうちに自分はトラウマを克服して、それを勝ち取ったのだろう。
 
 知らないうち。つまり、それは九月一四日から現在に至るまでの空白の期間。
 ここで気付く。
 
 『私は記憶喪失になっている』と。
 
 なぜ自分が記憶喪失になっているのか。さらなる疑問が溢れ出てくる。
 そんなことはいくら考えても答えが出るわけじゃない。だから、今することはそんなことを考えることじゃない。
 とにかく、今自分は何をするべきなのかを考えるべきだ。
 考える。それは真っ先に思いついた。
 それはやるべきことなどという使命めいたものではなく、やりたいことという願望。
 
 ――今まで一緒にやってきた『仲間』たちに会いたい。
 
 彼ら彼女たちが今どこで何をしているのか。
 全く検討は付かない。けど、この隠れ家がまったく使われていないところからして、以前のような活動はしていないのだと推測できる。
 どうやって探す。手がかりのまったくない状況で。
 
 ふと思い出す。自分が超能力者(レベル5)ということを。
 レベル5というものはただチカラが強ければなれるものではない。現に出力だけは強大だった座標移動はレベル4止まりだったのだから。
 そのチカラに研究価値があるかどうか。それもレベル5として必要な条件の一つだ。
 上層部が座標移動に研究価値が見出した。だからレベル5になれた。そう考える。

 
 
 

 
 
 研究価値を見出したということは、今もなお自分のデータを収集して分析をしている機関が存在しているはずだ。

 そういうところは能力についてだけではなく、その使用者のパーソナルデータも用意周到に集めている。
 つまり、『仲間』たちの消息というパーソナルデータを持っている研究機関がどこかにあるかもしれない。
 
 思いつくのは、過去自分を研究していた研究施設の数々。
 全部で八九箇所。当時の名前や場所、全て明確に覚えていた。
 二年以上前の情報なので、今となっては閉鎖されていたりと状況が変わっているかもしれない。
 しかし、施設が潰れたからと言って研究しようとする意思まで潰れるわけではない。
 施設が新設されたり、潰れようのない大きな施設へ吸収合併されたり。
 必ず、どこかにその意思は生きているはずだ。
 その研究機関たちはレベル5になった自分のことを、今もなお研究し続けているだろう。
 この記憶を使ってヤツらを追えば、もしかしたら仲間たちの情報を見つけ出すことができるかもしれない。
 確証はない。けど、やってみる価値はある。
 
 おそらく、これを実行することによっていろいろなものを敵に回すことになる。
 警備員(アンチスキル)や風紀委員(ジャッジメント)といった治安組織。そして学園都市上層部が抱えている暗部組織という闇。
 生半可なチカラではあっさりと捻り潰されてしまうだろう。
 しかし、

 
 
 『――私だって座標移動(ムーブポイント)だ。やってやれないことはないわ』。

 
 
 部屋に置いてある棚の引き出しを開く。そこには金属矢が大量に収められていた。

 普段はかさばるからと持ち運ばずに、現地にある物を武器として使用していたため、使わずじまいになっていた物。
 しかし、今はそんなこだわりを持つべきではない。これから自分にどんな困難が立ちふさがるのかわからないのだから。
 それを大雑把につかみ取り、服のポケットに入れる。ふと、棚の上に写真立てが倒れていることに気付く。
 手に取り見てみると、そこには自分と仲間である少年少女たちが写った写真が入っていた。
 自分から見れば最後に会ったのは数時間前とかそんなものだ。しかし、それを見るとなぜだか懐かしさのようなものを感じた。
 
 さて、まずはどこへ向かおうか。部屋の玄関に向かいながら考える。
 ここから近くに大きめの研究施設が建っていたはずだ。携帯端末の地図アプリを起動する。
 もう覚悟は決めた。玄関のドアを開ける。

 
 
 これは結標淡希の二四時間前の記憶。

 このあと彼女は様々な困難を乗り越えて、『仲間』たちの情報を手に入れることができた。
 『仲間』たちの居場所。『仲間』たちの状況。そして、『仲間』たちを救い出す方法。
 
 そして、六時間後。
 
 学園都市のとある場所で。あらゆる者の思惑が交錯する場所で。
 極めて短くて、限りなく長い『一五分間』という時が流れる。


――――――



上条さんの食蜂専用記憶喪失の仕組みあんま理解してないから描写ミスってるかもやけどままえやろ

次回『S8.AM04:00』

あけましておめでとうございます
元旦からSSなんて投下してなにやってんだよこいつ

投下



S8.AM04:00


 明け方の学園都市。まだ日の光が欠片も見えない夜と変わらない空。
 第一〇学区の街中を歩く一人の少女がいた。
 時間が時間のため遅くまで夜遊びをしたあとの帰り道のように見える。
 しかし、その少女の姿はとてもそんなことをするようには見えなかった。

 長い茶髪のストレートヘアだが一束だけゴムで束ねて横に垂らしている。
 大きな眼鏡を掛けていて、着ている制服はスカートの長さが膝下までで、服装検査を受けても百人が百人合格と言うくらいきっちり着こなしていた。
 一言で言うなら地味だけど真面目そうな少女。とても夜遊びなどするようには見えない。

 そんな少女はまっすぐ目を据えたまま淡々と歩道を歩いていく。
 ある地点にたどり着くと方向転換し、ある建物のある方へと目を向ける。
 それは大きな壁に囲まれている建物だった。一五メートルくらいの高さがあるため中の様子を伺うことが出来ない。
 だが、少女はまるで何かが見えているのかのように、目を逸らさずそれを見つめていた。
 少女は呟くように、


??「…………、始まるんですね……」


 突然、少女の体にノイズのようなものが走る。
 まるで電波状況の悪いテレビに映った登場人物のような。
 彼女の輪郭が歪み、波打ち、変色し。

 最終的には少女の姿は無になり、そこには誰もいなくなった。


―――
――





 結標淡希はビルの屋上に立ち、ある建物を眺めていた。
 それは第一〇学区にある学園都市唯一の少年院。


結標「あそこに……みんなが……」


 結標淡希のかつての仲間たちの居場所。この少年院の遥か地下にある反逆者用の独房の中。
 『残骸(レムナント)』を強奪するという学園都市に対する謀反の罪により、無期限で監禁されている。
 それが九月中旬の出来事だから、あれから半年以上の時間が経っていた。
 つまり、彼女の仲間たちはそれだけの長い時間あの中で過ごしたことになる。

 だからこそ早く助けねば、と結標は建物の様子をうかがう。
 周りは一五メートルの壁に囲まれており、その上から覆いかぶさるようにたくさんのワイヤーのようなものが張り巡らされている。
 結標はあれが何かを知っていた。


結標「……『AIMジャマー』、か」


 『AIMジャマー』。
 そのワイヤーから特殊な電磁波のようなものを流すことで、能力者のAIM拡散力場を乱反射させて、自分で自分の能力に干渉させるように仕向ける装置。
 能力者は能力の照準を狂わせられ、下手に使うと自滅しかねない危険な状態に陥ってしまう。
 例えば彼女があの場で能力を使った場合、物がどこに飛んでいくかわからないし、何が飛んでいくのかもわからなくなる。
 つまり、実質能力者はチカラを封じられるに等しい状況となるということだ。

 少年院の建物から距離的には二〇〇メートルくらいはあるビルの上、そんな位置でもその影響が出ている感覚があった。
 能力が使えなくなるというほどではないが、ずっとその場にいたらどうにかなってしまいそうな違和感が。
 そんな感覚を味わいながら結標は携帯端末を開き、時間を見る。

 『03:59』。

 結標はその時刻をずっと見つめる。
 まるで何かが来るのを待つように。
 十数秒後、時が動く。

 『04:00』。


 瞬間、


 結標「……情報通りね」


 少年院から発せられていた嫌な感じが途切れた。まるで電源が切られたストーブの熱気のように。




 結標淡希は二つの情報を手に入れていた。
 一つはかつての『仲間』たちの居場所。それを知ることができたから今ここに立っている。
 そしてもう一つは、少年院のセキュリティーについての情報だ。
 本日、午前四時にAIMジャマーをメンテナンスするために、一五分間だけ一斉に停止させるというもの。
 つまり、少年院内で使用がほぼ不可能だったチカラが満足に発揮ができるということ。
 とは言っても、受刑者たちは何かしらの能力の使用を妨害する措置を施されているため、このタイミングで能力を使って脱獄などとはできないわけだが。
 だがそれは、外から侵入する結標にとっては関係ないことだ。ただの侵入するチャンスでしかない。

 少年院側も馬鹿ではない。こういう状況になったら、外から仲間を救出しようとする輩から攻撃を受けることを想定していないわけがない。
 いつもより多めの人数の警備兵が配置されており、装備も暴徒鎮圧用の銃火器はもちろん、駆動鎧を着た者も複数配置されているという堅牢な布陣となっている。

 シュン。空気を切るような音と共に結標淡希の姿が消えた。
 彼女は一体どこに行ったのか。


結標「……よし、無事侵入成功、と」


 結標は少年院の敷地内に侵入していた。
 監視カメラやセンサー、監視している警備兵の死角となる僅かな隙間に。
 彼女はメンテナンスの情報と一緒に内部図面とそのセキュリティー情報も得ていた。
 それを全て頭の中に叩き込んでいる。今の結標なら少年院の図面にその情報を正確に書き込めるだろう。

 結標は周辺の状況を確認しつつ小刻みに短距離テレポートを繰り返し、警備の穴をつく。
 穴と言っても本当に僅かな隙間だ。針に糸を通すような精密な計算や動作を求められる。
 それに彼女が把握しているのはあくまで書面上のセキュリティ。
 実際の現場がそれ通りに動いているとは限らない。
 だから、


警備兵A「――ッ!? 何者だ!?」

結標「くっ」


 結標は警備で廊下を歩いていた警備兵の目の前にテレポートしてしまった。
 武装した男だ。軍用のヘルメットやチョッキを着込んでおり、脱獄犯制圧用の機関銃を手にしている。
 この場所は監視カメラ等の機械的なセキュリティは避けられる場所だった。
 そんな場所に警備の人間が配備されていないわけがない。
 そのためこのようなバッタリ鉢合わせが起こってしまう。

 しかし、結標は冷静だった。
 即座に警備兵の後ろにテレポートする。
 標的を見失った警備兵が辺りを見回す。すると、警備兵が被っていたヘルメットが消え、生身の頭部が露出した。
 結標によるテレポート。警備兵の頭部の防御力が一気にゼロとなる。
 男が彼女が後ろにいることに気付き、後ろへ向くより早く、結標は軍用懐中電灯で後頭部を強打した。

 後頭部へ一撃をもらった男は、意識が消え床に倒れる。
 脅威の排除を確認した結標は、周辺を警戒しつつ先へと進む。
 目的地は地下にある反逆者用の独房。
 残された時間は多くはない。一刻も早くたどり着かなければ。
 このチャンスを逃せば、次の機会など未来永劫来ないに等しいのだから。


―――
――





 結標が少年院へ侵入している同日同時。御坂美琴と打ち止めが宿泊している第七学区のホテル。
 時間が時間のため大半の宿泊客は眠りについている。それは少女二人も同じことだろう。
 だからホテルの廊下はほとんど人通りがなく、深夜勤務のホテルの従業員がたまに通るくらいか。

 そんなホテルの七階にある廊下。そこに異質な者たちが闊歩していた。いや、者と呼称するのは間違いか。
 それは四足歩行の犬型のロボットだった。大型犬くらいの大きさがあり、全身が銀色のメタルで包まれていて、目部分には バインダーのようなものが付いている。
 犬型ロボは全部で五体いた。それぞれが違う方向へ注意を向けながら、堂々と廊下の真ん中を進んでいく。

 御坂美琴は否定していたが、ここはいわゆる高級ホテルである。
 第三学区のランクの高いホテルに比べれば確かに下だろうが、紛れもなくここも高級と称して問題ないだろう。
 高級ホテルが高級ホテルとして言われる理由は何か。
 部屋が豪華。料理が豪勢で美味。入浴場を始めとした施設が充実している。
 人によって様々だろうが、真っ先に求められるのは安全性だ。
 上記が点が優秀でも、浮浪者が散歩でもするように中へ侵入してきたら問題だし、お忍びで宿泊している有名人へのところへマスコミや野次馬といった招かれざる客がゾロゾロ入ってきても問題だ。

 そういった点に関してはこのホテルは優秀だった。
 建物に入るための入り口全てには、軍隊上がりの屈強なガードマンが二四時間配置されている。
 内部にはたくさんの監視カメラやセンサー式の警備設置されており、入館許可を得ていない者が映り込めばすぐさま警備の者や警備ロボットに取り囲まれてしまう。
 近くには専属で契約しているアンチスキルの詰め所もあるため、場合によっては完全武装したアンチスキルたちがホテルの中に踏み込んでくるだろう。

 だから美琴は打ち止めのためにこのホテルを選んだ。
 暗部組織のような連中に狙われている以上その辺にある安っぽい宿泊施設に泊まるわけにはいかない。
 美琴は自分が住んでいる常盤台中学の寮に泊める方法も一応は考えた。
 あそこは強能力者(レベル3)以上の能力者たちが住み込んでおり、さらには鬼のように強い寮監が目を光らせている。
 下手なセキュリティよりよっぽど強固な守りをしている寮と言えるだろう。
 しかし、仮にそこを襲われた場合無関係な彼女たちを、美琴たちの事情に巻き込んでしまうということになる。
 そういった理由で美琴はセキュリティ性の高いこの高級ホテルを選んだはずだった。

 だが、犬型のロボットたちは侵入していた。この分厚いセキュリティの中を。
 なぜなのか。
 このロボットたちがこのホテルの中に宿泊している客の持っている持ち物だからか?
 このロボットたちがホテルの警備ロボットの一つで深夜のホテル内を警備しているから?
 理由はこちらではわからない。
 けれど、一つだけわかることがあった。

 犬型ロボットたちはある部屋の前で足を止め、ドアの方向へ目を向けた。
 ここは美琴と打ち止めが宿泊している部屋で、今頃彼女たちはふかふかベッドの中で眠りについていることだろう。
 犬型ロボットのうち一体が口に当たる部分を開いた。その中から金属製のホースのようなものが出てくる。
 その先端からガシャコン、という可変するような音が鳴り、そこから筒状のものが飛び出した。
 それを扉の前に向ける。口径四〇ミリくらいの黒い金属製の筒を。まるで銃口を向けるかのように。

 この犬型ロボットたちが一体何者かはわからないが一つだけわかることがある
 それは、


 美琴たちへと害を為す存在だということだ。


 筒状の物からグレネード弾が発射され、扉ごと部屋が爆破された。


―――
――





 ドゴォン、という轟音が鳴り響き、とある高級ホテルの一室にある窓から爆風が巻き起こった。
 窓ガラスの破片や家具だったものが窓から下へと落下していく。
 ホテルの入り口前に待機していたガードマンと思われる男たちが慌てふためいている様子が見える。

 その様子をホテルから離れた歩道で眺めている中学生くらいの少女がいた。
 肩まで伸ばした茶髪。半袖のTシャツにショートパンツのルームウェアを着ていて、さっきまで部屋で寝ていたかのような格好だった。
 背中に小学生くらいの似たような容姿の少女を背負っていて、その少女は眠りについているのか瞳を閉じている。

 御坂美琴と打ち止め。
 先ほどまで爆破された部屋で眠っていたはずだった少女たちだ。

 美琴は煙を上げている部屋を遠目に呟く。


美琴「……まさか、本当に来るとはね」


 たしかに美琴はあのホテルをセキュリティ性の高さで選んだ。
 だが、彼女が期待していたのはその安全性の部分ではなく、『電子的』なセキュリティを多用している部分であった。
 ホテル内のあらゆる場所には監視カメラやセンサー式の装置が設置されている。客室やトイレ、入浴場といったプライベート部分を除けば。
 そのため、その中に侵入しようとするならばそれらの部分をどうにかしなければならない。例えるならハッキングして機能を停止させるなど。
 そこらのコソドロ程度なら不可能なことだが、暗部組織の連中なら容易にそれくらいは行える。美琴はそう踏んでいた。

 だからこそ、美琴は『電子的』なセキュリティ多用しているここを選んだ。

 美琴は予めホテル内のセキュリティを全てハッキングしていた。
 ハッキングと言ってもそれはあくまで警備情報を全て抜き出す程度のもの。
 通常のセキュリティには影響せず、ホテル側もハッキングされているとは気付かないレベルで。
 それは寝ている間も常に行っていて、絶えず美琴のPDAにはその情報が流れてきていた。

 そして、あるタイミングでPDAへ流れる情報が途切れた。

 そう。何者かがセキュリティをハッキングしてセキュリティを停止させたからだ。
 それを美琴は感知した。何者かがセキュリティの切れたホテルへ侵入し、襲撃してくることを予期できた。
 だから美琴は部屋から脱出でき、難を逃れることができたのだ。


打ち止め「……んっ」

美琴「打ち止め?」


 美琴の背中で寝ていた打ち止めが目を覚ました。
 季節は春だとはいえ夜明け前の空の下。冷たい空気に身体を震わせて意識が覚醒したのだろう。




打ち止め「……あれ? どうしてミサカは外にいるの? ってミサカはミサカは辺りを見回しながら聞いてみる」

美琴「ごめんね。ちょっと不味い状況になっちゃったからホテルを出たのよ」

打ち止め「不味い状況? ってミサカはミサカは首を傾げてみる」

美琴「アンタを狙う悪者たちが来やがったのよ」


ほえー、と打ち止めは平坦な声で返事した。
目がぼーっとしていて、焦点があっていない感じからして寝ぼけているのだろう。
時間が時間のためしょうがないが。


美琴「とにかくここから離れるわ。しっかり掴まっていてちょうだい」

打ち止め「はーい、ってミサカはミサカはしがみついてみる」


 美琴は打ち止めを背負ったままホテルから離れるように駆け出した。
 これからどうするかを思考する。
 たしかこの近くにアンチスキルの詰め所があったはずだ。
 そこは先ほどいたホテルと専属で契約しているところなので、もしかしたらこの騒動を既に察知しているかもしれない。
 保護をお願いすればきっと快く引き受けてくれるだろう。
 いくら暗部組織とはいえアンチスキルの詰め所を正面から襲撃しようなんてことはしない。
 美琴はそう考えて目的地をアンチスキルの詰め所とした。

 しかし、美琴は足を止める。この一刻を争う状況で。
 ため息をつきつつ、目を尖らせながら、


美琴「――やっぱり、そう簡単にはいかない、か」


 美琴は周囲の道路を見回す。
 そこには犬型のロボットが彼女たちを取り囲んでいた。
 ざっと数えるだけで二〇機はいるだろうか。


美琴「打ち止め。しっかりと掴まっていなさい」


 改めて打ち止めにお願いする。
 その言葉を聞き、打ち止めの掴まる力が強まった。
 バチチィ、と美琴の額に青白い火花が走る。


美琴「――絶対、アンタには指一本触れさせないから!」


―――
――





上条「ここってどこなんだ?」

A子「どこって、ただの少年院よぉ?」


 三〇分ぐらい前にホテルを出発し、上条当麻とA子と名乗る黒髪少女は第一〇学区の少年院へ来ていた。
 二人は敷地内を歩いている。まるで庭の中を歩いているかのように進む少女の後ろを、少年が恐る恐る付いていくような感じに。


上条「こんなところに結標が来るのか?」

A子「私の持ってる情報が正しいなら来る、いやもう来てるはずよぉ」

上条「来てるはず?」


 質問に少女は特に顔を向けずに返す。


A子「そう。結標さんはここの少年院に用がある。でも、普段はAIMジャマーっていう能力を阻害する装置が起動しているから迂闊に侵入できないってワケ」

A子「けど、今日の午前四時からそのAIMジャマーがメンテナンスの為に一五分間機能を停止される。つまり、結標さんはその隙を突いて侵入しているはずってコトよぉ」


 少女の説明にピンと来ていない感じで、


上条「何でそんなまどろっこしいことやってんだ? 捕まってる人に会いたいなら面会するなりして普通に行けばできるだろうし」

A子「そこら辺の事情は彼女のプライバシーに関わるから控えるけど、そう簡単にはいかない状況に陥っているってことは教えてあげるわぁ」

上条「…………」


 上条は黙り込む。たしかにそうだなと納得したからだ。
 結標には結標の考え方がある。こちらがとやかく言えることではない。
 しかし、上条には疑問が残っていた。
 少年院に侵入するという犯罪めいたことをしてまで一体何をするつもりなのか。
 そんなことはいくら考えても、上条にはわからないことだが。


上条「……ん?」


 考えている中、上条はあることに気付く。
 少年院に無断で侵入するのは間違いなく犯罪だ。不法侵入とかそういう感じの。
 今、上条とA子と名乗る少女は少年院の敷地内にいた。なんなら今から建物の中に入ろうとしている。
 上条は少年院から入っていいなどという許可を得た覚えもない。
 無論、目の前を歩いている少女がそんなことをしていた様子も見ていない。
 ということは、


上条「ちょっといいですか? えっと……」

A子「少女A、じゃなかった。A子よぉ? 何かしら?」

上条「そのーA子さん? ワタクシめたちは今少年院に入っているんですよねえ?」

A子「そうよぉ。というか何? その違和力ありありな喋り方」

上条「ちなみにA子さんは少年院に入る許可とかって取ってるんですかね?」

A子「そんなモノこの私が取ってるわけないじゃない」


 何言ってんだコイツ、みたいな表情で少女は上条を見る。
 上条は「ふっ」と笑みを浮かべた。少女は首を傾げる。




上条「――ってふざけんなっ!! 俺らは絶賛不法侵入中の二人組ってことになるじゃねえか!!」

A子「あらぁ? もしかして今さら気付いたワケぇ? そういうツッコミはここに入る前にしてくれないかしらぁ」

上条「言ってる場合か! もしこれがバレて捕まったりしてみろ! 俺らがこの中にブチ込まれることになるんだぞ!?」

A子「大丈夫よぉ。バレなきゃ犯罪じゃないっていう格言があるのをアナタは知らないのかしらぁ?」


 そんな格言があってたまるか、と上条は心の中でツッコんだ。
 疲れたような表情で上条は入ってきた少年院の門を見た。
 今ならまだ引き返せるのではないか。犯罪者から傍観者へとクラスアップ出来るのではないか。
 そのようなことを考えていたが、すぐさまその必要がなくなった。

 上条たちの前方に武装した警備兵が現れたからだ。
 少年院の入り口からこちらをじっと見つめているようだった。


上条「いぃっ!?」


 思わぬ状況に上条は変な声を上げてしまった。
 引きつった顔で警備兵を見る。
 軍用ヘルメットに防弾チョッキ。手には脱獄犯制圧用の機関銃。
 終わった、と上条は思った。

 上条当麻の右手は幻想殺し(イマジンブレイカー)というチカラが宿っている。
 どんな異能の力も触れるだけで打ち消せるというもの。
 それが超電磁砲(レールガン)だろうがコンクリートを容易にぶち抜くビームだろうが。
 だが、そんなもの武装した兵隊に対しては何の意味もない。
 さらに言うなら上条はただの喧嘩っ早いだけの普通の学生だ。
 兵隊仕込の近接格闘術や一子相伝の暗殺術を持っているわけではない。
 目の前にいる男を一瞬で制圧する術など彼は持ち合わせていないということだ。

 つまり、上条当麻はここで大人しく捕まるしか選択肢はない状況。

 警備兵は上条たちのいる方向を向きながらずんずんと足を進めて近付いてくる。
 その様子を見て上条はたじろぐ。絶体絶命な状況だ。

 しかし、黒髪の少女の余裕めいた笑みは崩れなかった。

 少女は歩き出した。前から接近してくる警備の男へ向けて。
 上条はそれを見て思わず声を上げる。


上条「お、おい! 何やってんだお前!」


 上条の制止する言葉を無視して少女は歩みを止めない。
 少女と警備兵の距離が一〇メートル、九メートル、八メートルと次第に縮まっていく。
 そして、最終的に二メートル、要するにお互い目の前と言える距離まで接近して、二人の足が止まる。

 二人が見つめ合う。
 少女は変わらず笑みを崩さない。警備兵の表情はヘルメットのせいでわからないが、目の前の少女を見ていることはたしかだ。
 一体何が起こるんだ。上条は息を飲む。
 静止した二人。最初に動いたのは警備の男だった。


 男はひざまずいた。目の前に立つ黒髪少女へ向かって。




上条「……は?」


 予想外の光景に上条は戸惑いの声が出た。
 てっきり、捕縛術みたいなのを使って少女を拘束するのだと思っていたのだからしょうがない。
 ひざまずいた男は見上げるように少女を見て、


警備兵B「オ待チシテオリマシタ。『食蜂』サマ」


 A子と名乗る少女を『食蜂』と呼称し、忠誠を誓った。
 まるで館の主人と召使いの関係のように。
 それを上条は唖然とした様子で見ていた。
 くるりと少女は回転して上条の方へと向く。


A子「これが超能力者(レベル5)第五位『心理掌握(メンタルアウト)』のチカラよぉ。ここに勤めている職員・警備の人は全て私の制御下ってコト☆」

上条「第五位……、めんたる、あうと……?」


 メンタルアウトという単語は聞いたことあるようなないような変な感じだったが、第五位については何となく知っていた。
 記憶操作・読心・人格の洗脳・念話・想いの消去・意志の増幅・思考の再現・感情の移植・人物の誤認等。
 精神に関する事ならなんでもできる十徳ナイフのようなチカラだと、たまに小萌先生が授業で言っていたのを上条は聞いたことがあった。


上条「お前が、その第五位だったのか……?」

A子「一応、昨日も同じようなことを言ったと思うんだケドぉ、やっぱり忘れちゃってるわよねぇ。ま、一応言ってはおくけど、このカラダは私の能力で操ってる借り物のカラダだから、この私は私じゃないわよぉ?」

上条「なるほど。わからん」


 そう言って上条は思考することをやめた。
 とりあえず安全だとわかったので足を進めて彼女の元へ。そして少年院の建物の中へと入っていった。
 上条・A子・警備兵という謎パーティーで中を進んでいく。
 後ろから黙々と付いてくる警備の男を横目に上条は少女へたずねる。


上条「ところで警備の人全員制御下って言ってたけど、具体的に何が出来るんだ? 例えば職員全員グラウンドに集合! って指示とか出せるわけ?」

A子「さすがにそれは私のチカラでも及ばないわねぇ、ここには職員が一〇〇人以上いるしぃ。あくまで私がやっているのはある『命令』だけを植え付けて、あとは普段通り行動しろって感じのヤツよぉ」


 黒髪の少女いわく、その命令というのは『食蜂操祈及び食蜂操祈が操る人間、そして上条当麻を排除対象から外す。オプションで食蜂操祈の命令は絶対☆』らしい。
 排除対象から外すというものは、警備する人間が彼女たちを遠目で発見しても無視するし、監視カメラやセンサーで彼女たちを捉えてもそれを管理する職員は無視するということ。
 つまり、彼女たちはこの少年院の中を自由気ままに散策することが出来るということだ。
 その説明を聞いた上条は、


上条「よくわかんないけどすごい能力ってことだな? この中を安全に動けるってことだな?」

A子「……まあ、そういうことでいいわよぉ。アナタの理解力ならそれが限界ってコトかしらねぇ」


 上条の小学生並みの理解に少女は呆れた様子だった。
 そんなやり取りをしながら通路を歩いていると、前から五人組の警備兵が歩いてくる。
 それを見て上条はビクッと体を震わせたが、少女が言っていた職員はみんな奴隷みたいな言葉を思い出し、


上条「な、なあ? アイツらも大丈夫なんだよな?」

A子「大丈夫よぉ。言ったでしょ? ここの職員はみんな――」


 彼女が言い切る前に、


警備兵C「――貴様ら何者だ!?」




 五人組の先頭を歩いていた警備兵の声が差し込まれた。
 その声に上条はもちろん、黒髪少女も驚いた様子を見せる。


上条「なっ、どういうことだ!?」

A子「……なるほど、そういうコトねぇ」


 上条の質問をスルーして、少女は顎に手を当て何かを考えていた。


警備兵C「おい! そこの警備の者は侵入者と一緒に何をしている!? 内通者か!?」

警備兵B「…………」


 少女の管理下にいる警備兵は特に答えない。彼女の命令以外は聞かないということなのだろう。
 その様子を見て先頭の警備兵は、


警備兵C「疑わしきは罰する! 一人残らず排除させてもらう!」


 そう言って手に持つ機関銃を上条たちへ向けて構える。
 ガチャコン、という音が銃から鳴り、上条は心臓が縮み上がるような感覚が走った。
 このままでは全員やられてしまう。どうする、と上条は頭を高速回転させる。
 しかし、上条が何か妙案を思いつく前に、


 ズガン!!


 少年院の廊下に銃声が鳴り響いた。


上条(や、やられた……)


 上条は恐る恐ると自分の体を見た。
 一通り見て終わる。


上条「……あれ?」


 無傷だった。
 もしかして他の二人に当たったのか、と上条は少女とその後ろにいる警備兵を見る。
 その二人も特に怪我をしている様子もなく、その場に立っていた。
 おかしいな、弾は外れたのか。上条は銃声がした前方へと目を向ける。


上条「えっ!?」


 瞳に写った光景に上条は驚きの声を上げる。
 先ほど上条たちを警告して銃撃しようとした警備兵が倒れていたのだ。
 倒れた警備兵が落とした機関銃からは硝煙が上がっていないところから、使われた様子はない。
 だが独特の火薬の臭いのようなものが鼻につく。銃声も聞こえたから撃たれたことは間違いないはずだ。

 ふと、上条は五人組の警備兵の中の一人に目を付ける。
 その警備兵は倒れている警備兵とは隣り合うような位置にいた。
 彼の持つ機関銃からはうっすら煙のようなものが上がっている。
 つまり、


上条「……も、もしかして裏切った、のか?」

A子「それは違うわぁ。あの倒れている人以外は私の制御下にあった。御主人様である私に危険が及んだから自動で脅威を排除した、ってところかしらねぇ?」




 少女が銃口を向けられていても取り乱すことのなかった理由が分かった気がした。
 要するに彼女は初めからこの展開になることがわかっていたのだ。というかそういうことなら教えろよ、と上条は横目で少女を睨んだ。
 A子と名乗る少女はそれを気にも止めず、


A子「まあでも、ちょっと厄介なことになってきてるわねぇ」

上条「厄介なこと?」

A子「ええ。私のチカラの制御下にいない人がいた。つまり、外部から別の組織が介入しているってコト」

上条「外部? 暗部組織とかいうヤツらのことか?」

A子「そうだとは言い切れないケド。まあ、こんな場所に忍び込める潜入力がある時点でほぼ確定よねぇ」


 上条は昨晩のことを思い出していた。
 銃火器を持っていた男たちを。超能力(レベル5)というチカラで前に立ちふさがった女のことを。


上条(あんなヤツらがここにいるかもしれねえって、厄介ってレベルじゃねえぞ)


 やっぱり一筋縄じゃいかなそうだな、と上条は思った。
 しかもその驚異は上条たちだけではなく、彼が追っている結標淡希の身にも降り掛かってくることだろう。
 急がなければいけない、そう考えていると、


 ビィィィ!! ビィィィ!! ビィィィ!!


 建物内に警戒音のようなものが鳴り響いた。
 まるで非常事態が起こったかのような。
 つまり、


上条「――おっ、おい! これもしかして俺らのことが見つかったってことじゃねえか!?」

A子「かもしれないわねぇ。私の制御下にない人が監視カメラに映ってる私たちを見て警報を鳴らした、ってところかしらぁ?」

上条「かしらぁ、じゃねえよ! つーか、何でテメェはいっつもそんなに余裕綽々なんだよ? もしかしてまだ何か策とかでもあんのか?」

A子「残念ながらそーゆうのはないわねぇ。でも一つだけ言えることがあるわぁ」


 そう言って少女は人差し指を立てて、


A子「ここにいる警備の人たちのほとんどは私の制御下にある。その人たちには私たちへ危害を加えないよう細工がしてあるわぁ。だから、自分たちからこちらへ向けて大群引き連れて来るなんてことはないはずよぉ」

上条「けど、そうじゃねえヤツらには狙われるってことだろ? それはそれで危ないんじゃねえか?」

A子「そうね。でもこれはある意味チャンスだとも言えるのよねぇ」

上条「チャンス?」

A子「ええ。だって警報が鳴っている中で一生懸命捕まえようとしている人もいれば、無視して別業務に励んでいる人もいるのよぉ? きっと向こうは大混乱じゃないかしらぁ?」

上条「……あー、たしかに」


 軽い内乱みたいことが起こってそうだな、と上条は力なく笑った。


A子「というわけで進むなら今のうちよぉ。行くわよアナタたち」

警備兵達「「「「「了解シマシタ」」」」」


 武装した屈強な男たち五人組を従えながら少女は先先へと足を進めていく。
 上条はその後ろをそそくさと付いて行った。


―――
――





結標「――警報? もしかして気付かれた?」


 不安を煽る警告音を背に、少年院の通路を走る結標の顔が強ばる。


結標(セキュリティーには引っかからないように動いたつもりだった。ということは気絶させたヤツが見つかって、って感じか……?)


 結標はここに来るまでに五人の警備兵と交戦していた。
 全員後頭部を殴打して気絶させたのだが、その気絶した体を特に隠すとかせずに放っておいてここまで来た。
 タイムロスを恐れて手間を省いたのが失敗だったか、と結標は舌打ちする。

 しかし、結標は特に焦った気持ちはなかった。なぜか。


結標(その場合なら誰が侵入したかだとか、今侵入者はどこにいるだとかの情報は持っていないはず)

結標(仮に侵入者を能力者と見て、今からAIMジャマーのメンテを中止したとしても大丈夫ね。あれは再起動に五分はかかるはずだから)


 大丈夫とはいえ五分。決して長い時間ではない。
 なぜ結標は大丈夫という言葉を使ったのか。


結標(あのエレベーターの裏に階段があって、その階段を降りた後の曲がり角を曲がった先が独房のはず!)


 結標は自身の体を直接テレポートさせて階段へ飛び込む。
 エレベーター周りには監視カメラ等のセキュリティーが蔓延っているからだ。


結標(独房にさえたどり着けられれば問題なし。みんなの拘束を解いてここを脱出するだけなら五分間もかからないわ。私の座標移動(ムーブポイント)なら)


 階段を二段飛ばしで駆け下りる。
 L字の曲がり角の突き当りが見えた。ここを曲がればその先は――。


結標「……やっと、たどり着いた」


 曲がり角を曲がった結標の目に写った景色は狭い通路だった。
 左右に鋼鉄製の扉がズラリと並んでいる。あの扉一つ一つが独房になっているのだろう。

 結標は小走りに通路を進んである扉の前に立った。
 彼女はどこの扉に誰が収容されているのかの情報を既に持っている。
 だから、この扉の先には誰が居るかを把握していた。
 鉄の扉をノックし、扉越しに話しかける。


結標「――私よ! みんな無事!?」


 結標の呼びかけに対し、少し間を置いてから返答が来た。
 それは少女の声だった。


少女『……も、もしかして、その声……淡希!?』


 少女の驚いたような声が通路に響いた。
 それが聞こえたのか、呼応するように他の部屋にいる少年少女の声が聞こえてきた。
 その声は、結標にとって聞き覚えのありすぎる声。今まで一緒にやってきた仲間たちの声。




結標「よかった……、本当によかった……」


 結標からすれば、彼ら彼女らと最後に会ったのは二日前とかそれくらいしか時は経ってはいない。
 しかし、なぜだか彼女の中には妙な懐かしさのようなものを感じて、目が潤んだ。


結標「ごめんね、半年も待たせちゃって。待ってて、今すぐここから助け出す」


 この鋼鉄製の扉はちょっとやそっとじゃ打ち破れない強固な物だ。
 だが、結標にはそれを容易に破壊できるチカラを持っている。
 今すぐみんなをここから出してあげなきゃ、と軍用懐中電灯を手に取る。


少女『――淡希!! ここにいちゃ駄目!! 今すぐ逃げて!!』


 結標の行動を遮るように少女が叫ぶ。


結標「えっ、どうして……?」


 結標はその言葉の意味を理解できなかった。
 やめろ、と言われるならわかる。脱獄は重犯罪だ。
 それを止めようとする言葉を言われるだろうということは、何となく予想はしていた。
 しかし、彼女が言った言葉は『今すぐ逃げろ』。

 瞬間、結標はゾクリと嫌な気配を肌に感じた。
 体ごと気配のした方向、自分が降りてきた階段の曲がり角の方へと向ける。


結標「――なっ」


 十近い人数の武装した男たちが、機関銃の銃口をこちらへ向けてきていた。
 少女の言ったことの意味、それを瞬時に理解した。


結標(――待ち伏せッ!? 行き先を読まれた!? 私が侵入したということがバレていたというの!? いや、それにしても対応が早すぎる……!)


 大勢の武装した男たちを見る。何か違和感のようなものを覚えた。
 結標は額に汗を浮かべながらも、ニヤリと笑う。
 確信したような口調で、


結標「貴方たち、ここの職員じゃないわね?」


 武装集団へ問いかける。
 その問いが聞こえたのか、集団の後ろの方から一人の男が現れた。熊のような大男だった。


??「その通りだ。確かに俺たちはここの職員でも警備員でもねえ。よくわかったな」

結標「わかるわよ。貴方たちから生ゴミみたいな汚い臭いがプンプンするもの」

??「ひでえ言われようだな」

結標「大方、上層部に馬車馬のように働かされている暗部組織ってヤツでしょ? 『スクール』とか『アイテム』とかいう」

??「またまた御名答。でも一つ違うところがあるな。俺たちは――」


 大男の声を遮るように、




手塩「私たちは、『ブロック』。そいつらとは、違う組織だ」

??「手塩」


 声とともに男たちの後ろから手塩と呼ばれる筋肉質な女が現れた。
 手塩は大男の方を向いて、


手塩「いつまで、ターゲットと、与太話をしているつもりだ、佐久?」

佐久「別にいいじゃねえか。どうせもう俺たちの勝ちは確定しているようなもんなんだぜ?」

手塩「最後まで、何があるかなんて、誰にもわからないんだ。油断するな」


 佐久はへいへいと頭をかきながら返事した。
 二人の会話を聞いた結標は眉をひそめながら、


結標「あら? 勝利宣言だなんて随分と余裕じゃない。一体誰を目の前にして言っているのか理解できてる?」

佐久「ああ。きちんと理解できているさ。超能力者(レベル5)第八位。『座標移動(ムーブポイント)』結標淡希」


 その言葉を聞いて結標はギィと歯を鳴らす。


結標「――だったら、これから貴方たちが、どういう目に合うかなんてこともわかりきっているわよねッ!?」


 軍用懐中電灯を真横に振る。結標の懐に仕舞い込んだ大量の金属矢が姿を消した。
 テレポートによる物質転移。ターゲットは当然、目の前に立ち塞がる敵達。

 トンッ、という肉を裂く音が幾度という回数聞こえた。
 金属矢が体内に突き刺さる痛みによる断末魔が通路内を鳴り響き、武装した男たちがバタバタ床に倒れ込んでいく。
 そんな中、


佐久「おーおー怖い怖い」

手塩「…………」


 幹部と思われる二人は涼しい顔でその場に立っていた。
 おそらく金属矢が転移する場所を予測して回避したのだろう。


結標「なかなかやるみたいね。けど、そう何度も避けられると思わないことね」

佐久「……ふっ」


 佐久は鼻で笑った。まるで自慢気に的はずれなことを抜かす人間を嘲笑うかのように。


結標「一体何がおかしいのかしら?」


 結標の声色が変わる。目付きが鋭くなる。
 しかし、佐久は笑みを止めない。


佐久「いやー、なに。何にもわかってねえガキが粋がる姿を見るのって面白れえなぁと思ってな」

結標「わかっていない? それは貴方のことよ。これから頭を私のチカラで撃ち抜かれるというのをわかっていたら、普通そんな態度取れないもの」

佐久「違うな。やはりわかってないのはお前の方だ」




 佐久は薄ら笑いを浮かべる。ゾクリと背筋に嫌なものが走るのを結標は感じ取った。
 何かがヤバイ。そんな気配を感じた結標は、佐久の脳天を狙いチカラを行使する。


佐久「――これからお前にチカラを自由に使える時間なんてもう訪れねえんだからな」


 ドスリ、と金属矢が刺さる音が聞こえた。
 その音源は標的の佐久からではない。それより圧倒的に近い距離からだ。


結標「ぐっ!?」


 ズキッ、と結標は横腹の辺りに痛みを感じた。そういえば、先ほどの音もこの辺りから聞こえたような気がする。
 自分の横腹を見た。


結標「――えっ」


 前方に立つ男目掛けて飛ばしたはずの金属矢が、なぜか彼女の横腹に突き刺さっていた。
 僅かな筋肉の収縮運動で金属矢と肉が擦れ、筋繊維を削り取るような痛みとともに出血し、衣服に赤い染みが浮かび上がる。


結標「……あ、あがっ、な、ああ」

佐久「何で、って顔してんな。気付かねえのか? 俺たちにはわからねえが、お前にはわかんじゃねえのか? 違和感みてえなもんをよ」


 そう言われて結標はあることに気付いた。横腹の激痛に隠れていたがそれは確かに感じる。
 痛みだった。頭の中を直接弄られているような小さな痛み。
 結標はこれに似た痛みを知っていた。少年院突入前に感じていたあの感覚。


結標「――『AIMジャマー』!?」

佐久「正解だ。正解者には拍手を送ってやらないとな」


 佐久はやる気のなさそうな拍手をしながら笑った。


結標「な、何でよ? 今はAIMジャマーはメンテナンス中のはず。たとえ、さっきの警報から起動準備をしたとしても、そこから五分は作動するまでかかるはずよ!」


 事実、警報の音が少年院内に鳴り響いてからまだ一分ほどしか経っていなかった。
 しかし、装置が起動しているというのもまた事実だ。
 結標は傷口を押さえながら、全身に嫌な汗を流しながら思考する。
 佐久はそんな結標を見下すように、


佐久「おかしいとは思わなかったのか? 毎年年度末に行われているはずのAIMジャマーのメンテナンスが、今回に限ってこんな中途半端な日付で行われると聞いて」

佐久「おかしいとは思わなかったのか? たかだか空間移動能力者を研究しているだけの機関が、少年院の見取り図や警備情報を事細かに持っているということに」


 問いかけるような男の説明を聞き、結標は歯噛みしながら睨む。
 佐久はそれを見て楽しそうに笑いながら、


佐久「気付かなかったのか!? お前はここにおびき寄せられていただけだったってことをな!?」

結標「おびき寄せられた……? この私が……?」


 少女は大きく目を見開いて、呟くように言った。




佐久「そうだ。俺たち『ブロック』へ、正確に言うなら他の暗部組織にもか。座標移動の捕獲任務が下ったのは昨日の朝だった」

佐久「だが俺たちはその前からこうなることを想定して、シナリオを作り、動いていた。いずれこうなることはわかっていたからだ」

佐久「だからお前が情報を手に入れられるように、お前に関係する一部の研究機関へ情報を横流ししたし、AIMジャマーのメンテナンスも俺たちが手を回して遅らさせた」

佐久「こうすればお前はノコノコとここに現れると容易に予測できた。あとはお前が来るのをここでゆっくり待っていればいいっつう話よ」


 今までの行動が、自分が選んできた選択肢が、ここまで辿り着こうと努力した意思が。
 全てヤツの仕組んだことだったのか。全てヤツらの手の内で踊らさせられたことだったのか。


結標「…………」


 結標は膝から崩れ落ちる。
 身体には脱力感のようなものが、心には空虚感のようなものが、ずっしりとのしかかってくるような気がした。


手塩「……さて、話は、もういいか?」


 黙って話を聞いていた手塩が切り出す。


手塩「これから、私たちと共に、来てもらうわ。そちらが、暴れない限り、こちらも、手荒な真似を、するつもりはない」


 手塩が「おい」と倒れている部下の男たちに声をかける。
 男たちは急ぐように立ち上がった。結標の金属矢は致命傷とはなっていなかったようだ。
 手塩は部下の男から拘束具のようなものを受け取る。
 空間移動能力者専用の拘束具。見た目は普通の拘束具と変わらないが、空間移動能力者の演算を阻害する特殊な振動波が常に発せられている。
 あれを付けられたテレポーターは自分自身の転移はもちろん、物質の転移すら行えなくなるという物だ。


手塩「大人しく、捕まってもらえると、こちらとしても助かる」


 拘束具を持った手塩がゆっくりと跪いた少女に向かって歩いていく。
 それを呆然と見ながら、結標は考えていた。

 あれに捕まったらもう自分はお終いだろう。
 一生上層部の使い走りにされるか、実験動物と変わりない扱いを受けるか、いずれにしろロクな人生を歩まない。
 もし自分がいなくなったら、今無期限で捕まっている仲間たちはどうなるのだろう。
 自分という存在がいなくなることで、元の平穏な日常へと帰らせてくれるのだろうか。否。
 同じくくそったれのような反吐みたいな生活を送らされ、使い捨てられるに決まっている。



 駄目だ。それだけは駄目だ。絶対に許さない。





結標「――ッ!!」

手塩「!?」


 結標は軍用懐中電灯を振るった。それすなわちチカラの行使。
 ガキンッ、という音が鳴る。
 天井に取り付けられていた蛍光灯が一本消え、通路の壁に突き刺さって割れた音だ。
 手塩はそれを見て、特に表情を変えることなく、


手塩「まさか、戦おうというの? AIMジャマーに、チカラを妨害された状態で、私たち、ブロックと」

結標「ええ、そうよ」


 即答した。少女の目に揺らぎはない。
 手塩の目を見つめながらゆっくりと立ち上がる。


結標「AIMジャマーはあくまで能力の照準を狂わせるだけの装置。能力の使用自体を押さえつけるほどの出力はないわ」

手塩「同じことだ。照準が狂う、つまりはチカラの方向が、自分に向く可能性が、あるということ。そんな危険な武器を、使うことなど、自殺行為だよ」

結標「ここでチカラが暴発して自滅しようが、貴女たちに捕まって私の一生が奪われようが、結果は同じよ」


 横腹に刺さった金属矢を無理やり抜く。激痛とともに大量の血液が流れ出てくきた。
 スカートを無理やり破って布切れにし、それを包帯のように傷口に巻きつけて止血する。


結標「だったら私は、ここで最後まで抵抗する。そして、貴女たちの言うシナリオとかいう三流脚本、全部ぶち壊してやるわ」


 軍用懐中電灯を握りしめる。



結標「貴女たち全員ぶっ潰して、みんなを助け出して、生きてここを脱出するっていうハッピーエンド。これが私の脚本よ!!」



―――
――





 第七学区にある雑居ビルの屋上。そこでは絶えず電撃が走り、チカチカと輝いていた。
 屋上の出入り口の扉に背を預けるように立っている少女がいた。
 肩まで伸ばした茶髪にチャームポイントのアホ毛を風に揺らせている、見た目一〇歳前後の少女。
 打ち止め。寝間着のパジャマのままで明け方の時間の寒空の下にいるため、身体を震わせていた。
 彼女はそれを気にする素振りは見せていない。
 なぜなら、目の前で繰り広げられている光景に目を奪われているからだ。

 お姉様である御坂美琴と、謎の敵組織の手先の犬型ロボ達との戦いを。


美琴「――こんのぉ!!」


 美琴は額からの電流を手に流し、それを雷撃の槍として一機の犬型のロボへと放出した。
 一〇億ボルトの雷撃が犬型ロボへと襲いかかる。
 
 バヂィン!!

 雷撃の槍が命中し爆音と共にロボットが宙を舞った。
 しかし、

 ガシッ。

 まるで高いところから落ちた猫のような体捌きで、犬型ロボットは屋上の床へと着地した。
 体中に紫電を走らせているが、特にダメージを受けている様子もなく、美琴へ向かって再び走り出す。


美琴(ぐっ、コイツら……しつこい!!)


 美琴は接近してくる二〇機のロボットをひたすら電撃で吹き飛ばすという、防戦一方の戦いをしていた。
 なぜこのような戦いをしているのか。それは後ろにいる打ち止めという少女を守るためだ。
 自分一人だけなら、この程度のロボットの群れ程度なら瞬殺できるチカラを発揮できる自信が、彼女にはあった。
 守る戦いというのがこれほどキツイものとは、と美琴は冷や汗を流す。

 さらに美琴にはもう一つ、苦戦を強いられている要素があった。
 それは敵の犬型のロボットの存在である。

 美琴は超能力(レベル5)の電撃使い(エレクトロマスター)だ。
 一〇億ボルトもの出力を誇る電撃を発生させることはもちろん、磁力操作・ハッキング・マイクロ波の発生等、電磁気が絡むことならほぼ何でも行うことができる能力者だ。
 例えば、ただのロボットなら美琴の電撃が直撃しただけで、高出力の電気によりCPUがショートして機能を停止させる。
 例えば、ただのロボットなら美琴が磁力で操った砂鉄の塊を浴びるだけで、駆動系の細部まで入り込んだ砂鉄によって動けなくなったりする。
 例えば、ただのロボットなら美琴がプログラムを電磁的にハッキングして、意のままに操るなんてことは容易いことだ。

 つまり、ただのロボットが美琴と相対した場合、秒もかからないうちに完全に制圧されてしまうということ。

 しかし、美琴と犬型のロボットたちとの交戦が始まってから、既に五分くらいの時間が経過していた。
 美琴はこの状況の中でも冷静に分析をし、ある結論を導き出す。


美琴(――あのロボット、対電撃使いの対策処置がされてるわね……いや、もしかしたら超電磁砲(わたし)専用の対策か?)


 美琴はこの五分間で様々なことやった。

 一つは雷撃の槍を始めとした高出力の電撃による攻撃。
 先ほど見せたように電撃を当てても、ケロッとした顔で(ロボットだから表情はないが)立ち上がり、再び襲いかかってくる。
 おそらく電気を弾くような絶縁塗料のようなもので塗装されているのか、素材そのものがそういう類のものか。
 並大抵の物では美琴の電撃は防ぎきれない。つまり、一〇億ボルト以上の電撃を想定した特別品だということ。

 一つは砂鉄を操ることによる攻撃。
 砂鉄一つ一つが高速で振動をしている為、その砂鉄の塊一つ一つがチェーンソーのような切れ味を持っている。
 そこらにいるドラム缶型ロボットや駆動鎧程度の硬さならズタボロにできるほどの殺傷力だ。
 だが、そのチカラがあっても犬型ロボットを仕留めることは出来なかった。せいぜい装甲の表面に傷が付く程度だ。
 密閉性も大したものらしく、体全体を撫でるように砂鉄を這わせたが、内部に侵入できるような穴は存在しなかった。

 一つはハッキングによる電磁的な攻撃。
 ハッキングの方法は二種類ある。
 一つは内部CPUへ電磁波を浴びせ直接制御を乗っ取る方法。一つはロボットを遠隔操作するために使っている電波に介入して制御を乗っ取る方法。
 前者に関してはCPU周りに電磁波を通さないような仕組みを施しているみたいで、制御を奪うための電磁波を通すことが出来なかった。
 後者の方法は、そもそもあれは自動制御らしく、美琴の目から見てもそういった電波類を確認できなかった為、使えなかった。

 一つは自分の代名詞である超電磁砲(レールガン)による攻撃。
 ゲームセンターにあるようなコインを音速の三倍で飛ばすことで絶大な威力を発揮する彼女の得意技。
 これが直撃すればあの犬型のロボットたちもたちまちスクラップとなることだろう。
 しかし、それはあくまで当たればの話だ。
 美琴が超電磁砲を撃とうとした瞬間、犬型のロボットは蜘蛛の子を散らすようにあちこちへ逃げ回った。
 そこから一機を狙い撃ちしようとしても、ロボットはうまいこと直撃を回避をした。せいぜい余波を受けて吹き飛ぶくらいで、致命傷とはいかない。
 美琴の目線の移動や周囲に発する電磁波等の事前情報を察知することで、回避率を上げているのだろう。





美琴(チッ、このままやってたらジリ貧ね。朝ご飯もまだだから体力的にあんまり長期戦も出来ないし)


 波状攻撃のように突っ込んでくる犬型のロボットたちを電撃で弾きながら考える。
 手札が次々と奪われたこの状況をいかに切り抜けていくかを。
 美琴は後ろに立つ打ち止めをちらりと見てから、


美琴(――しょうがない。ちょっと危ないけど、アレを使うしかないか)


 バチバチィ、と美琴の周囲に電気が撒き散らされる。
 そして少女はある力を操り、ある物へ向けて手をかざし放出した。


 バキバキバキッ!!


 アスファルトを砕くような音が屋上から鳴った。
 その音を確認するためか、犬型のロボット達は一斉に足を止めて、音の下方向へと目を向ける。

 そこにあったのは宙を浮いている貯水タンクだった。

 雑居ビルの屋上に備え付けられているものだ。
 大きな円錐型のタンクで昇降用のハシゴが付属している。
 宙に無理やり浮かび上がらされているためか、パイプがちぎれてそこから大量の水が流れ出ていた。


美琴「……よし、重さもちょうどいい感じかな」


 そう言って美琴はかざした手を一機の犬型のロボットへ向ける。
 すると、


 ドゴォン!!


 ロボットを下敷きにするように貯水タンクが屋上の床へと落下した。
 あまりの衝撃にビル全体が地震のような振動が起きる。うっすら建物の中から警報器の音のようなものが聞こえるのは気の所為ではないだろう。


美琴「あっちゃー、ちょっと強すぎたかー?」


 頭を掻きながら、かざしていた手をそのままくるりと手のひらが上に来るように回す。
 すると落下した貯水タンクが再び宙に浮かび上がった。
 落下地点を見る。そこには道路で車に轢かれたカエルのように潰れた犬型のロボットが床に貼り付いていた。


美琴「電撃もだめ、砂鉄もだめ、ハッキングもだめ、超電磁砲もだめ……じゃ、そういうことならこうやって質量でぶっ潰すのが簡単よね?」




 美琴が行っているのは磁力操作。磁力を操って貯水タンクという巨大な金属の塊を意のままに動かしているのだ。
 犬型のロボット達が美琴がやろうとしていることを察したのか、散り散りになって逃げていく。
 それを追うように美琴は貯水タンクを操作し、


美琴「――遅いっての!」


 ハンマーを振るような軌道で手を振る。同じような動きで貯水タンクがアスファルトの上をものすごい速度で走った。
 軌道上にいた三機の犬型のロボットが車に撥ねられたように薙ぎ払われる。
 バチッ、と内部がショートし、機能停止したロボットたちが地面に叩きつけられた。


美琴「時速六〇キロの自動車が衝突する衝撃って、五階建てのビルから落下した速度と同じくらいなんですってね。ってことは、こんな大きくて重い物体がそれより速い速度でぶつかってきたら、ちょっと痛そうよねー」


 ガンッ!! ガガンッ!! ガシャーンッ!!

 機械の砕ける音がビルの屋上で次々と鳴り響く。
 美琴が貯水タンクを巧みに操作して、犬型のロボットの数を徐々に減らしていく。
 ふと、八機目の犬型のロボットを粉砕した辺りで、後ろにいる打ち止めが気になり、視線を移した。


美琴「…………え」


 美琴は目を丸くする。自分の背後に信じられない光景があったからだ。
 守るべき存在である少女が。大切な妹の一人である少女が。今そこにいるはずの少女が。

 いなくなっていた。


美琴「――――ッ!!」


 バチンッ!! と美琴の周囲に電撃が走り、彼女の体が宙に浮いた。
 高圧電流で空気を爆発させることによる飛翔。
 空中から辺りを見回す。視線を高速で動かす。
 そして、彼女はそれを捉えた。

 象の鼻のような機械製のロッドを打ち止めの体に巻き付けて、ここから離れようと下の道路を走る犬型のロボットを。


美琴「――逃がすかッ!!」


 美琴はその後を追うために磁力を制御して高速移動しようとする。

 
 
 瞬間、美琴の周囲に爆発が起こった。

 ビル街の空に黒煙が巻き上がる。

 それは屋上で立っている一機の犬型ロボットが起こした現象だった。
 ロボットは象の鼻のようなロッドをさらけ出していた。その先端には黒い筒状のものが付いている。
 グレネードランチャー。犬型ロボットに搭載されている兵器の一つだった。





 宙を浮く黒煙の中から何かが落下する。
 黒煙の欠片をまといながら下降するそれは、少しずつ黒色を引き剥がし、姿を現す。

 それは御坂美琴だった。

 煤で身体を汚しながらも、周囲に青白い電気を走らせながら、右手にコインを構えて、


 『超電磁砲(レールガン)』が発射された。


 音速の三倍で射出されたコインはオレンジ色に発光しながら閃光となり、犬型ロボットの体ごとビルの屋上へと突き刺さった。
 普通に撃っていたら避けられていただろう。発射の直前まで黒い煙に身を隠していたため、予備動作が見えず回避が遅れてしまったのだ。
 超電磁砲の直撃を受けた犬型ロボットは粉々のスクラップと化する。

 美琴が磁力を操作し、姿勢を制御して屋上へと綺麗に着地する。
 遅れたタイミングで上から黒焦げた看板が落ちてきた。人一人は余裕で覆い隠せるような大きなものだった。
 彼女の体は常に電磁波によるレーダーを発している。だから、グレネードランチャーの弾頭が接近してくるのも察知していた。
 撃ち落とすことは距離的に難しかった為、急遽磁力を使い鉄製の看板を盾にすることにより身を守ったのだ。

 そう。彼女には電磁波レーダーがある。
 後ろにいる打ち止めに何かが、具体的に言えば犬型ロボットなどという鉄の塊が接近すれば分かるはずだ。
 だが、事実あのロボットは美琴のレーダーを掻い潜って打ち止めをさらった。


美琴(理由はあとからいくらでも考えられる……! 今はあの子を追わなきゃ……!)


 屋上の欄干から体を乗り出し、打ち止めをさらった犬型のロボットが走っていた方向を見る。
 いた。まだ目で追える距離にいる。今ならまだ間に合う。
 美琴があとを追おうと、ビルから飛び降りて磁力を使いながら下の道路へとゆっくり着地する。
 すると、


 ガシャン、ガシャン、ガシャン。


 今まで戦っていた犬型のロボットが、まるでこの先へは行かせまいと美琴の前を立ちふさがった。
 数は一一機。電撃も、砂鉄も、ハッキングも、超電磁砲も通用しないロボットが。
 犬型ロボット達の遥か後方に居る打ち止めの姿がどんどん小さくなっていく。
 美琴の周囲に今までとは比べ物のならない出力の電撃が撒き散らされる。



美琴「――ジャマをぉ、するなぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」



 莫大な電流により、信号機のランプは割れ、ビルのガラスは砕け、路肩に停めてあった車が爆発した。


―――
――





 警戒音が鳴り響く少年院の廊下。上条当麻とA子と名乗る黒髪少女、そしてその少女の周りをゾロゾロと武装した男たちが歩いている。
 最初は一人だった少女の配下の警備兵は、今となっては一〇人という大所帯となっていた。
 ここにいる職員は、第五位のチカラにより少女の命令を聞く人形となっている。そのため、警備兵とのエンカウント=新メンバー加入ということになるのだ。
 だが、その警備兵の中には外部からの侵入者も含まれているらしく、そのものたちは洗脳から逃れている。
 そういった相手はここまで来るのに三人ほどいたが、他の洗脳戦士たちのおかげで容易に迎撃してくれた。


上条「…………」


 上条は難しい表情のまま廊下を歩く。何かを考えているような様子だった。
 それを見た少女が、


A子「何か考え事かしらぁ? そんなシリアスな顔しちゃってぇ、似合ってないんだゾ☆」

上条「なっ、失礼な! 上条さんにだってそういう顔をするときもあるんだっつーの。つーか、似合ってないとか言えるほどテメェとは付き合いねえだろうが!」

A子「…………」

上条(……あれ? さっきみたいな余裕綽々な感じで何か言い返してくると思ったんだけど)


 もしかして強く言い過ぎたのか、と上条は少し戸惑った。
 いくら能力の制御下にあるとはいえ、武器を持った男に真っ向から向かっていくようなヤツだからなおさらだ。
 少女はクスリと笑い、


A子「冗談よ冗談♪ ところで一体何をそんなに考えていたのかしら?」

上条「あ、ああ。ちょっとな……いや、なんでもねえや」


 そう言って上条は流した。さっきまでの暗い表情へと戻る。
 少女はその煮え切らない態度に対してムッとした表情をした。


A子「ちょっとぉ、何でもないとか言って、そういう感じに戻るのは個人的にナシだと思うんですケドぉ?」

上条「わ、悪りぃ」

A子「これから結標さんを助けに行こうってときにそんなんじゃ、助けられるものも助けられなくなっちゃうんだゾ☆ いっそのことゲロっちまったほうが楽になれると思うんですケド」

上条「女の子がそんな汚い言葉使っちゃいけません」


 上条はそう言いながらも納得した様子を見せた。
 そしてそのまま内心に留めていたことを口に出す。


上条「ここに来てからずっと考えてたことがあるんだ。俺ってここに何しに来たんだろう、って」

A子「……へー」

上条「あっ、テメェせっかく打ち明けたのにその目は何だその目は!」


 ジトーと上条を馬鹿にしたような目付きで少女は睨む。




A子「えっと、ホント何言ってんだろって感じなんだケド。最初に会ったときから私がずっと言ってるわよねぇ? 『結標さんを助けに行く』って」

上条「いや、それはわかってんだ。なんつーか、えー、俺はこれから結標に会って何をすればいいんだ? とか、俺には一体何が出来るんだ? みたいなこと考えてて」

A子「…………」

上条「俺さ、結標と一回会って、話して、説得しようとしたんだ。俺の伝えたいこと全部伝えたつもりだった。でも駄目だったんだよ」


 第一〇学区の公園での出来事を思い出す。
 上条は自分の思っていることを全部伝えたつもりだった。一人の『友達』として。
 結果彼の言葉は結標淡希には届かなかった。それどころか彼女を怒らせてしまい、手痛い反撃を受けることとなってしまった。


上条「そんな俺が今からアイツに会ってどうすりゃいいんだ。俺の『役割』ってなんなんだよ、って思っちまってよ」

上条「ずっとそんなことを考えてたら、全然結論が出てこなくて、お前に変な気を使わせちまったってことだ」


 変なこと聞かせて悪かったな、と上条は謝罪した。
 今更だが女の子に何話してんだ。少年は自己嫌悪のような感情が浮かばせ顔を曇らせた。


A子「…………ぷぷっ」

上条「へっ?」


 A子と名乗る少女は口元を隠すように手を当てる。
 彼女から吹き出すような声が聞こえた上に、目元だけ見てもわかるくらいニヤニヤしていた。
 上条は何かあざとさのようなものを感じて目を細める。


上条「お前、今笑ったろ?」

A子「……ううん、別にそんなこと……ぷっ」

上条「現在進行系で吹き出してんじゃねえか! つかわざとやってんだろテメェ!」

A子「アハハハハハっ、ごめんなさいねぇ。あまりにもアナタには似合わない悩みを打ち明けられちゃったから、ちょっと面白くて」

上条「ぐっ、たしかにそうかもしれねえよ。けど、さっきも言ったが似合わないとか言われるほど接点はな――」


 上条の言葉を遮るように、


A子「ま、私じゃ解決力のあるような一言はあげられないケド、一つだけ言えることがあるわぁ」


 少女はステップを踏むように上条の前に立ち、後ろで手を組み、前かがみ気味になりながらじっと見つめて、


A子「そんなこと理屈で考えたっていつまでも決着は付かないわぁ。だから、アナタが本当にやりたいと思えたこと、それがアナタの『役割』ってことでいいんじゃないかしらぁ♪」


 ニッコリと笑って、少女はそう答えた。


上条「本当にやりたいと思えたこと、か……」


 上条は言葉を噛みしめるように反復する。
 たしかに結標淡希を助けたいのは自分の本意だ。それは間違いない。


A子「少しは吹っ切れたかしらぁ?」




 少女の問に上条は、


上条「……ああ。こんなところでグダグダしてる暇なんてねえよな。俺に何ができるのかなんてわからねえけど、とにかく今はがむしゃらにでも行動するしかねえよな」

A子「そ。それはよかった」

上条「ありがとな、えっと……」

A子「A子」

上条「あ、そうそう、A子さん。ごめん、何か最近物覚えが悪くて」

A子「別にいいわぁ、アナタはそういう体質になっちゃったのだからしょうがないわよ」

上条「体質……?」


 首を傾げる上条。
 だが少女は構うことなく、くるりとターンして再び通路を歩き始め、階段を降りていく。
 頭にハテナを浮かべたまま上条も後ろを付いて行った。

 階段を降り切ると、目の前に十字路の通路が見えた。
 前方に通路は四、五メートル幅の道が五〇メートルくらい先まで伸びている。
 この位置から見る限りは突き当りは壁で、さらにそこから左右に道がありそうだった。
 左の道を見る。両方ともすぐに壁に突き当たって右に曲がるようになっていた。右の道も同様だ。

 十字路の中心に少女は立ち止まった。そして、上条の方へと視線を向けながら話しかける。


A子「――さ、着いたわよぉ」

上条「着いた? ここに結標がいんのか?」


そう思って辺りを見回してみたがそれらしき人物は見当たらなかった。
というか上条と少女+その他一〇名以外は人一人いない。


A子「そういうわけじゃないわぁ。私が案内できるのはここまで、って意味の着いたよぉ」

上条「だったら最初からそう言え……ってあれ? 案内できるのはここまでってことは」

A子「そうよ。あとはアナタ一人で行ってもらうわぁ」

上条「お前は来ないのかよ」

A子「私は私でやることがあるのよぉ。それに昨日も言ったけど私は今の結標さんとは初対面。そんな女が行ったところで警戒力が増えるだけよねぇ、ってコト」


 そもそも今の私は借り物の体だから面識力があっても意味ないんだけどね、と黒髪の少女は補足する。
 そのあと少女はこれから行くべき道を上条へ懇切丁寧に説明し始めた。
 何か『隠し階段』だとか『本来は存在しないはずの部屋』とかいろいろ言われて上条は頭がパンクしそうになる。
 それを見かねた少女の簡単な説明によると、真っすぐ行って突き当たったら右に曲がって、すぐあるエレベーターの裏にある階段を降りた先に結標がいるらしい。
 とにかく真っすぐ行って右に行ってエレベーターの裏に回って階段を降りればいいんだな、と上条は心の中で何回も復唱した。


A子「じゃ、私は行くとするわぁ。頑張ってねぇー」

上条「待ってくれ。ちょっといいか?」

A子「何かしらぁ?」

上条「何でお前はここまでしてくれたんだ?」




 最初出会ったときからずっと気になっていた。なぜこの少女は自分を助けてくれたのか。
 結標を助けるためか? しかし、彼女の言葉をそのまま鵜呑みにするならまったくの他人のはずだ。
 そんな他人を助けようとする男に対して、少年院などという普通では絶対に入れない場所、そんなところまで連れてほどのことをする理由が上条には思いつかなかった。


A子「何で、か……」


 少し考えてから少女は続ける。


A子「さっき言ったように私にもやることがある、目的があるってワケ。その流れでアナタをここに連れてきただけよぉ」

上条「目的……何だよそれ」

A子「女の子のプライバシーにズカズカ踏み込んじゃう男の子は嫌われちゃうんだゾ☆」


 おちゃらけて言っているが、これ以上聞いたらブチコロスぞこの野郎と言っているのだろう。
 こちらを見つめている十字形の星がそう訴えているのを上条は感じた。


A子「というかぁ、ここで私とウダウダとおしゃべりしてるのはよくないんじゃないかしらぁ? 正直、あんまり時間も残されていないわけだしぃ」

上条「げっ、そういえばタイムリミット一五分とか言ってったっけ」

A子「早くしないと結標さんがどこか行っちゃって、また行方不明になっちゃうかもねぇ」

上条「そいつは不味いな。じゃ、俺は行くよ。ありがとな……えっと」

A子「え――」


 A子という偽名を発しようとした口を無理やりつぐんだ。
 そして、ゆっくりと息を吸って、


A子「――『食蜂操祈』です!」


 その名前を聞いた上条はうん? と疑念の表情を浮かべた。おそらく「そんな名前だったっけ」とか考えているのだろう。
 しかし、少年はいつもどおりの感じに戻って、


上条「ありがとな! しょく、ほー?」


 上条当麻は軽く手を振って通路の先へと走っていった。




A子「…………」


 少女はそれを黙って見送りながら考えていた。
 おぼつかない口調だが、彼に名前を呼ばれるのはいつぶりだろうか。心が踊る。にへら笑顔が溢れそうになる。
 だけど、これは一過性の幸せ。どうせ彼は、もう自分のことなど覚えていないだろう。
 食蜂操祈という名前はもちろん、もしかしたらA子という偽物の食蜂操祈の存在そのものも。


A子「さて、私たちも行くわよ」

警備兵達「「「「「「「「「「了解致シマシタ」」」」」」」」」


 たくさんの警備兵たちを従えながら少女は左の通路へと歩いていった。
 歩きながら上条当麻が向かっていた通路を横目に呟く。


A子「――ごめんなさい」


―――
――





 少年院の遥か地下にある独房。その前にある細い通路に熊のような大男と長身の女、数人の武装した男たちが立っている。
 その通路の床には一〇もいかない数の人が倒れていた。ほとんどが武装した男たちだ。
 腹部や脚部に金属矢や割れた蛍光灯等の物体が突き刺さっていて、痛みで気絶したり動けないといった様子だった。

 そんな中を、うつ伏せ気味に床で倒れている少女が一人。

 結標淡希。座標移動(ムーブポイント)と呼ばれる少女。

 いつもは二つに束ねている長い赤髪が、ヘアゴムが切れたのか無造作に背中に広がっていた。
 元から傷だらけだった体に追い打ちを掛けられたように、新しい切り傷や打撲痕が目立つ。
 いや、それらの傷が目立つと表現するのは間違いか。
 なぜなら一番目立つ彼女の外傷は、体のいたる所に突き刺さっている金属矢なのだから。

 長身の女、手塩が倒れている少女を見下ろしながら、


手塩「……随分と、手こずらせてくれたな」


 熊のような大男、佐久が腕に刺さっていた金属矢を引き抜きながら、


佐久「痛ってえなぁ。あちらこちらへ物質転移しやがって、このクソガキが」

手塩「だが、もう能力を使う体力さえ、残っていまい」

佐久「そうだな。つーわけで、さっさとコイツ連れてトンズラと行くか。おい、お前ら拘束して連れてこい」


 佐久のひと声で暗部組織ブロックの下部組織の男たちが動き出した。
 一人の男の手には拘束具のようなものが握られている。結標を捕獲するために用意された空間移動能力者専用の拘束具だ。


結標「…………」


 結標は薄れた意識の中、冷たい床を肌で感じながらボンヤリと考えていた。

 『疲れた。もう指一本動かせない』。
 全身は傷だらけだがもはや痛みさえ感じない。

 『私、十分頑張ったよね。よくやったほうだよね』。
 単身でいろいろな場所に乗り込んで、情報を探し回って、ここまでたどり着くことが出来た。健闘したほうだ。

 『ごめんねみんな。助けられないで。ごめんねみんな。こんなダメなリーダーで』。
 思い返してみる。彼ら彼女らに何もしてあげられなかった。最後の少女の『逃げて』という願いにさえも。

 目の前にあった床が離れていく。体が抱え上げられたのだろう。
 おそらく、拘束されてどこかしらに連れて行かれる。その先は地獄かそれより惨たらしい世界か。
 恐怖や憎しみ、悔しさ等の負の感情が巻き起こるような状況だったが、結標はそうではなかった。
 それだけのことをしてきた。こんな扱いを受けてもしょうがない。それをわかった上でこれまで行動してきたつもりだ。
 後悔などはしていない、と結標は全てを受け入れるつもりでいた。




 ただ、彼女の中に一つだけ、心残りのようなものがあった。
 最後にある人物と会いたかったという感情。
 その人物は、彼女にとって最低最悪のクソ野郎で、世界で一番嫌いな少年だ。
 死んでしまえばいいのに。地獄に堕ちてしまえばいいのに。来世でも惨たらしく殺されてしまえばいいのに。
 少年のことを思い浮かべると負の感情ばかりが頭をめぐる。

 なぜ、こんな状況でそんな少年のことを考えているんだ。
 なぜ、そんな少年と会いたいなどという感情が浮かんでいるんだ。
 なぜ、もう会えないということを考えただけで寂しさのような、悲しみのような感情が湧いてくるんだ。


結標「……『一方通行(アクセラレータ)』」


 なぜ、名前も聞きたくもない少年の名前を呟いているんだ。
 彼女自身もそれはわからなかった。


 ピシッという音が上から聞こえた。結標は視線だけを動かし天井を見る。
 通路の自分から一〇メートル先の位置。そこの天井がまるで凍った水たまりを踏みつけた後のようにひび割れていた。

 瞬間、轟音とともにひび割れた天井へ衝撃が走る。大量のガレキを床に落下させながら天井が崩れ去った。
 その余波で通路内に暴風が巻き起こる。結標を抱えていた男がその風圧のせいで少女を離してしまう。結標は再び床に投げ出された。


結標「……い、一体、何が……?」


 粉塵が巻き起こり、視界の悪くなったガレキの山を見る。
 その上に人影のようなものが立っているのが見えた。
 視界を奪っていた白い粉塵が次第に薄くなっていき、その影がくっきりと瞳に映り始める。

 その影は少年だった。
 肩まで伸ばした白い髪。汚れを知らないような白く透き通った肌。
 線の細い体付きから知らない人が見れば白人女性と間違えるかもしれない。
 首には電極付きのチョーカー。右手には現代的なデザインの杖。
 こんな特徴の塊は、この街を捜しても二人といないだろう。
 彼女がよく知っている少年だった。

 真紅の瞳をこちらへ向けながら、少年は挨拶でもするかのような気軽さで、



一方通行「――呼ンだか?」



 学園都市最強の超能力者(レベル5)の少年が語りかけた。


―――
――





垣根「――来たか、一方通行」


 暗部組織スクールのリーダー垣根帝督が呟いた。
 彼は今少年院の受付ロビーのようなところのイスに、缶コーヒー片手に腰掛けている。
 周りには十人以上の武装した警備兵と思われし男たちが、血だらけになりながら床に伏せていた。
 まさに死屍累々とはこのことだろう。
 手に持っていた空き缶を適当に床へ放り投げながら垣根は立ち上がった。


垣根「このプレッシャー、間違いねえ。遅すぎるぜクソ野郎が」


 垣根は懐から携帯端末を取り出した。いくつか操作をしてから電話口へと喋りかける。


垣根「お前ら仕事の時間だ。カモが来やがったぜ」


 リーダーからの指示に返事をする少女が一人。


海美『何を言っているのよ。あなた以外はとっくの昔に動き始めているわ。サボリ魔さん?』


 海美の嫌味を聞いて垣根は頭をガリガリと掻きながら、


垣根「へいへいうるせーな。各々状況報告しろ」


 まず最初に報告し始めたのは海美だった。


海美「こちら心理定規&誉望組。裏門から少年院に侵入して現在地下二階にいるわ」


 そう報告する海美の声の後ろには大量の銃声が鳴り響いている。


海美「で、今八人の兵隊と誉望君が交戦中。まあ、あと五秒位で終わるんじゃないかしら」


 彼女の言った通り、五秒後には後ろから聞こえていた銃声が鳴り止んだ。


海美「というわけで、引き続き座標移動がいると思われる地下の独房へ進行するわ。大きな障害がない限り、あと二分くらいで到達するんじゃないかしら」

垣根「りょーかい。砂皿はどうだ?」


 通信をオンラインにしているが、黙々と話を聞いていたスナイパー砂皿緻密へとパスする」




砂皿『こちらは狙撃場所を裏門から正門へと移動しているところだ。裏門では五人殺したが、一人逃して中への侵入を許した』

垣根「ほぉ、お前の狙撃から逃れるヤツがいるとはな。どんなヤツだ? 会ったらついでに殺しといてやるよ」

砂皿『年端も行かぬ少女だった。赤いセーラー服を着て茶色い髪をした』

垣根「……ああ、アイツか。俺もアイツにはムカついてたんだ。ぶち殺す楽しみが増えたぜ」


 垣根が不気味に笑う。彼の言葉からして砂皿が逃した少女について何か心当たりのようなものがあるらしい。


垣根「じゃ、俺は今から表ルートで独房へ向かう。たぶん、一分もかからねえんじゃねえかなぁ」


 そう言うと、垣根の背中から天使のような三対六枚の翼が現れた。
 垣根は軽く足元を踏み付ける。彼を中心に直径五メートルくらいの大穴が床に開いた。まるでいきなりそこにあった床が無くなったように一瞬で。
 床がなくなったため、垣根の体は重力に従い地下へと落下する。カツン、と革靴の音を鳴らし何事もなかったかのように床へ着地した。


警備兵D「なっ、何者だ貴様!? もしや例の侵入者だな!!」


 垣根は気付いたら警備兵たちに囲まれていた。
 人数は六人。狭い通路で。もちろん全員武装した男たち。


 グシャ。


 勝負は一瞬で決する。
 警備兵たち全員の腹部に真っ白な巨大な杭のようなものが突き刺さり、大穴を開けた。
 垣根の背中から伸びた六枚の翼が変形した物だ。
 必殺の一撃を受けた警備兵たちはダラリと全身の力が抜け、持っていた銃火器を離し、床に崩れ落ちていった。

 そんな状況を知る由もない海美が電話越しに語りかける。


海美『一分で着くのなら、ついでに座標移動の方も確保してくれればいいのに。たぶん、一緒にいるのでしょ?』

垣根「ハッ、馬鹿言うなよ。何でこの俺がそんな三下みてえな雑用をやらなきゃいけねえんだよ」


 周りに転がる死体を気にすることなく、通路を歩きながら垣根は続ける。


垣根「それに俺のターゲットは片手間で殺れるようなヤツじゃねえ。だから、そんな雑魚に構ってられるかよ」

海美『そう。それは残念。じゃ、また独房で会いましょ?』

垣根「ああ」


 そう一言返して垣根は端末を切った。


――――――


台本形式なのに地の文多すぎるやろ…

次回『S9.総力戦』

ここからキャラ視点増えまくって余計に読みづらくなるね

投下



S9.総力戦


 一方通行は独房のある地下の通路をざっと観察する。
 前方にいるのは熊のような大男。筋肉質な長身の女。武装をしたいかにもな下っ端と思われる男三人。その後ろに倒れている有象無象。
 そして、傷だらけの姿で倒れていて、そんな状態でもこちらへ視線を向けてきている少女、結標淡希。
 通路の左右の壁を見る。そこには等間隔で独房に繋がっていると思われる鋼鉄の扉が取り付けられているが、その他に金属矢や蛍光灯が突き刺さっていた。
 このことから、この少女は相当暴れたのだろう、と推測できる。自分の身も顧みず。

 床に突っ伏した少女が震える声で問いかける。


結標「……な、なんでよ」

一方通行「あン?」

結標「何で貴方が、こんなところにいるのよ……?」

一方通行「オマエとの約束を果たすためだ」

結標「やく、そく?」

一方通行「ああ」


 少年は目を逸らすことなくただ一点を、結標淡希を見つめて、



一方通行「――『結標淡希』。オマエと、オマエの周りにある世界、全部俺が守る。その約束を果たしに来た」



 そう。これが彼をここまで動かしたその原動力。
 ただの口約束だ。別に契約書を交わしたわけでもない。何の効力もない言葉だ。
 だが、彼にとってはそれだけで十分だった。十分過ぎた。


結標「……なに、言ってん、のよ。そんな約束、私はした覚えなんてない、わ。」


 一方通行の言葉を聞いた結標が顔を伏せながら、


結標「その約束は、たぶん、私が記憶を失っているときの、もう一人の『私』とした、約束のはずよ。それは、貴方もわかっているはず……」

一方通行「…………」

結標「だから、今の私とは、なんら関係ないこと。なのに、なんで貴方は……、そんな決して果たすことのできない、約束を果たしに、こんな場所へ来たのよ?」


 彼女の言う通りだ。
 この約束は彼女が記憶喪失をしているときに、一方通行との間に交わされたものだ。それは紛れもない事実。
 今の結標淡希はそのときの『結標淡希』ではない。それも事実だ。
 しかし、一方通行は揺るがなかった。


一方通行「果たせない約束だァ? 何言ってンだオマエ」

結標「え……」

一方通行「俺は言ったはずだ。結標淡希を守るってよォ」

結標「だ、だから、それは、もう一人の『私』で――」

一方通行「関係あるかよッ!」


 結標の言葉をバッサリと切り捨てる。




一方通行「――あの時のオマエも、今のオマエも、紛れもない『結標淡希』だろォがッ!! 記憶があるだァ? ないだァ? そンなの関係ねェンだよッ!! 知ったこっちゃねェンだよコッチはよォッ!!」


 一方通行が吠える。
 今まで溜め込んでいたものを、内に秘めたものを、全て、彼女にぶつけるかのように。


一方通行「だから、俺はオマエを守るために、オマエをこのクソッタレな闇から救い出すために、こォしてこの場に立ってンだよッ!!」

結標「ッ……」


 一方通行の言葉を聞いて少女は黙る。
 彼の迫力に威圧されたのか。恐怖し、体が硬直したのか。それとも。
 


一方通行「……さてと」


 視線を結標からその後ろにたむろしている者共へ向ける。
 暗部組織ブロックの幹部の大男、佐久と目が合う。
 佐久はそのコンタクトに応じるように、


佐久「テメェどうやってここに来やがった!? テメェに対してこの情報が入らねえように封鎖させていたはずだ!! テメェなんかがこんなところに来れるわけねえんだよ!!」

一方通行「そォかよ、ソイツはご苦労なこった。けどよォ」


 煽るような口調で一方通行は口元を歪ませて、


一方通行「こォやってオマエらの前に立ててるっつゥことは、ソイツは点で無駄な努力だったっつゥことだよなァ? ぎゃはっ」


 佐久にとってこの状況は、避けなければいけないものだと思っていた。
 だから、水面下で情報を操作したり、一方通行に裏の事実を突きつけて心を折ろうともしていた。
 しかし、一方通行はこの場に立っている。佐久の恐れていた状況になっている。

 だが、佐久はあることに気付いた。それは自分の勝機へと繋がるような事柄。
 今まで焦りの見えていた佐久の顔に余裕のようなものが現れる。


佐久「……お前、ここがどこだかわかるか?」

一方通行「あン? 少年院の地下の独房だが、それがどォかしたか?」

佐久「だったらお前も知ってんだろ? 『AIMジャマー』っつう対能力者用の装置の名前くらいよお」

一方通行「…………」

佐久「他の階層のヤツは、メンテ中で作動はしていなかったからテメェは気付かなかったみてえだが、ここのは稼働してんだよ! 俺たちが手を回したからなぁ!」


 「本当は気付いてんだろ? 感じてんだろ? AIMジャマーっつうテメェらからしたら最悪の不快感をよぉ」と佐久が畳み掛ける。


一方通行「…………」


 一方通行はその問いに対して無言を貫き、ジッと佐久を見つめるように睨みつける。
 佐久が勝ち誇ったように、


佐久「AIMジャマーの影響っつうのは能力が強ければ強いほど、デカければデカイほど危険なんだってなッ! 例えばテメェみてえな超能力(レベル5)だとなおさらすげえんだろっ!?」

佐久「能力を使うたび腕や足が吹っ飛ぶかもしれねえっつリスクを負っちまう。つまり、そんな状態でチカラを使おうなんてヤツは自殺志願者でしかねえってことだ!」

佐久「どうりで強気な態度を取ろうとするわけだ。そりゃそうだよなぁ? 能力を使えないなんて悟られるわけにはいかねえからなあっ! 実は何のチカラも使えないクソガキでしたなんて気付かれるわけにはいかねえからなぁ!!」





 ひとしきり言うことを言って、佐久は左手を上げる。
 後ろにいた三人の下部組織の男たちが佐久の前に立った。手に持った機関銃を構え、照準を前方にいる一方通行へと定める。


佐久「好きな方を選びやがれ。鉛玉食らって蜂の巣になるか、一か八かチカラ使って自爆するか――」


手塩「…………」


 ブロックのもう一人の幹部、手塩が一方通行を観察するように眺めながら考える。
 最初から疑問だった。なぜ一方通行はこんなところに『来た』のか。いや、正確に言うと『来られた』のか、か。

 手塩はAIMジャマーについて詳しくは知らなかった。だからこの階層のAIMジャマーがどの程度の範囲に効果を及ばせているのか検討もつかない。
 完全にこの階層のみなのか、それとも上階にも影響があるのか。手塩の勝手な推測では前者と見ていた。

 その理由は一方通行が天井を突き破って現れたからだ。
 少年院の地下の階層を仕切る床や天井は核シェルターにも匹敵する強固な建材で作られている。能力者を収容する施設なため、そういった部分の耐久力にも力を入れているのだろう。
 普通の人間が使うような兵器では到底破壊できない天井。それこそ核ミサイルを何発も打ち込まないと破壊できない鉄壁。

 しかし、それはあくまで兵器での話だ。ベクトル操作という圧倒的なチカラを持った一方通行には関係のない話だ。
 彼が本気を出せば、そんな強固な壁もコピー用紙を破るかのような気軽さで打ち破ることができるだろう。
 ゆえに、一方通行は能力を使用して天井を破壊し、この階層へと侵入した。だから、上階にはAIMジャマーの効果は及んでいない。
 一見、筋の通っていそうな推測だ。が、手塩は納得していなかった。

 それは杖がないと歩けないような少年が、どうやって三メートル強の高さはある天井から安全に飛び降りたのか、という疑問が邪魔しているからだ。
 普通に考えればベクトル操作の能力を使って、姿勢を制御して着地したと考えるのが妥当だろう。
 しかし、忘れてはいけないことがある。この階層はAIMジャマーの効力の範囲内ということだ。おそらくこの床から天井に至るまで、通路全体へ広がっているだろう。
 そんな空間でベクトル操作の能力を使用してしまえば、先ほど佐久が言ったように制御がうまく出来ず、安全に着地が出来ないどころか手足が吹っ飛んだりするかもしれない。

 あの少年は一体、どうやって安全に着地したのか。
 実はあの杖はフェイクで普通に動けるのか? AIMジャマー下で能力を使用してたまたまうまく制御できただけなのか?
 手塩の中で仮説じみた疑問が次々と浮かんでくる。しかしそれらの疑問は、次に行った一方通行のある行動を見ることで、全て吹き飛び、正解が頭だけに残った。


 一方通行は笑ったのだ。わずかにだが。口の端を引き裂くように。


手塩「――待て!! 罠だ佐久ッ!!」


 手塩はとっさに反応し、佐久に銃撃を止めさせようとする。
 だが、すでに佐久の左手が降ろされていた。ブロックの中で使われている『射撃しろ』のハンドサイン。


 ズガガガガガガガガ!!


 おびただしい数の銃声とともに、三つの銃口から弾丸が斉射される。
 銃弾の到達地点は当然一方通行。訓練された兵士たちによる射撃。決して外すことはない。
 一方通行は『避けることが出来ない』のか、ただその場に立ち尽くしていた。
 いや、違う。


 あれは『避けようとしていない』――。


 ガシャシャシャン!! と何かが砕け散るような音が手塩の耳に飛び込んできた。
 目の前に立っていた三人の部下たちが、銃を持っている方の腕を抑えながら、うずくまるように地面に倒れる。声にならないような声を喉で鳴らす。
 彼らの腕から機関銃が消えていた。その代わりなのか、彼らの足元には大量の鉄くずと赤い液体が広がっている。
 それらを見て音の正体がわかる。先程まで獣の咆哮のような音を上げながら銃弾を吐き出していた、三人の部下が持っている機関銃がバラバラに破壊された音だったのだ。

 床に散らばった機関銃のパーツを見る。その中に明らかに使用済みの弾丸のようなものが数え切れないほどの数転がっていた。
 その弾丸を見て手塩は気付く。これはあの機関銃で使われている物だ。

 手塩は全てを理解した。この場で何が起こったのかを。
 彼女が口からそれを発しようとする。しかし、手塩より早く隣に立っていた佐久が叫ぶ。




佐久「――なんで『反射』が使えるんだテメェはぁ!?」


 その問いに一方通行は、


一方通行「…………」


 答えない。
 ただあざ笑うかのような笑顔で佐久を見ていた。
 何も喋らない少年の代わりに、別の少年の声が通路の中を響かせる。



???「――『AIMジャマーキャンセラー』。製作『グループ技術部』。技術提供『とある学園都市のなんでも屋さん』」



 その声は一方通行が開けた天井の大穴から聞こえてきた。
 穴から人影が飛び込んでくる。床の上に難なく着地し、声の持ち主が姿を表す。
 金髪にサングラスを掛け、アロハシャツの上から学ランに袖を通した少年。


佐久「て、テメェは『グループ』のリーダー、土御門……!」

土御門「初めましてだな。『ブロック』のリーダー、佐久」

佐久「なるほど、ようやく理解ができたぜ。第一位がここまで到達できた理由がよぉ」

土御門「そいつはよかったな」


 二つの暗部組織のリーダーが相対する。
 睨み合う二人。まるで真剣勝負の斬り合いをしているかのような威圧感。
 ぶつかり合うプレッシャーが空間を重く圧迫する。

 二人に割って入るように手塩が口を挟む。


手塩「AIMジャマーキャンセラー、と言ったか? なんだ、それは?」

土御門「言葉の通り、AIMジャマーを打ち消す装置、と言ったところか。実際はAIMジャマーを始めとした、AIM拡散力場を乱す装置全般を打ち消す、と言ったほうが正しいんだがな」

手塩「ば、馬鹿な。そんなものが、存在するのか……!」


 土御門はうろ覚えのことを思い出しながら話すように、


土御門「オレも詳しい理屈とかは理解してないんだがな。AIMジャマーってのは能力者のAIM拡散力場にジャミング波みたいなのをぶつけて、乱反射させることで照準を狂わせる装置だ」

土御門「AIMジャマー内にいる能力者は常にAIM拡散力場が乱れている状態にある。だから、好き放題チカラを使えない」

土御門「そんな中で能力を使うためにはどうすればいいか。それは簡単だ。至ってシンプルな答えだった」


 サングラスを中指で上げ、ニヤリと笑いながら、


土御門「乱れちまったAIM拡散力場を正常な数値に戻してやればいい。プラマイゼロを標準とした場合、マイナス五〇されたならばプラス五〇する。プラス一〇〇されたならマイナス一〇〇するという感じにな」

土御門「それを可能にしたのが『AIMジャマーキャンセラー』だ。一方通行の首に巻いてあるチョーカーに付いている電極、その反対側に取り付けられている装置がそれだ」




 「余計なことぺちゃくちゃ喋ってンじゃねェよ」と一方通行は睨みつけた。
 彼の言う通り、一方通行の首には電極付きのチョーカーが巻かれている。
 それは一方通行から見て左側の位置にスイッチ兼バッテリーの装置が取り付けられており、そこからこめかみへと伸びた線を介してミサカネットワークからの電波情報を脳内に伝達する。
 しかし、今はチョーカーの右側部分にも装置が増設されていた。元の電極と似たようなデザインだったが一回り大きく、少し首を右に傾けるだけで肩に当たりそうになる。
 装置から伸びた線は一本だけで、それは元の左側に付いている電極に繋げられ、連結しているようだった。


一方通行「…………」


 一方通行は首の右側についている装置を手で撫でながら考える。
 普通なら口に出すだけで机上の空論だと切り捨てられそうな装置、『AIMジャマーキャンセラー』についてだ。

 この装置は作戦時間三〇分前に叩き起こされたときには、既に首へ取り付けられていた。
 最初は『ナニ勝手なことしてンだ』と激昂した。だが、土御門のどうしても必要なモノだという説得と、電極本来の機能自体は問題なく使用できたという事実で、嫌々ながら無理やり納得した。
 そのときに先ほど土御門が言っていたような雑な説明を聞いていたが、それに関してはどうしても信じることはできなかった。

 土御門は簡単に言ったが、狂ったAIM拡散力場を正常値に戻すのはそう簡単なことではない。
 五〇や一〇〇といった大雑把な数字を上げていたが、実際は小数点以下どころかマイクロレベルの極小の誤差も許されない精密な分析が必要となるだろう。
 歪んだ数字を元に戻すとするならその元の数値も正確に把握できていないといけない。
 AIM拡散力場は常に一定の数値を保っているわけではない。能力者のそのときそのときに適した形に変化して、それを正常値としている。
 そういった要因を含めた上で、AIMジャマーキャンセラーという装置を作ろうとした場合、その使用する能力者の『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を完全に把握していなければいけない。
 そんなことは不可能だ、と一方通行は思っていた。

 だが、現実一方通行はこのAIMジャマーで能力が阻害されている状況で、正確に『ベクトル操作』というチカラを使用することができた。
 先ほどの無理難題をクリアーしたということになる。土御門が言った『とある学園都市のなんでも屋さん』という言葉を思い出す。


一方通行(……ああ、そォいや居たなァ。そンなことを鼻の穴をほじりながらこなすことができるクソ野郎が一人な)


 また変なところで借りを作ってしまったということか、と一方通行は舌打ちする。
 次会ったときに、ムカつくような面して煽りに煽りまくってくるオッサンが絵に浮かぶ。


佐久「くそったれがッ……!」

手塩「…………」


 一通りの説明などを聞いて圧倒的不利な状況に自分たちが立っていることに気付いたのか、ブロックの二人組は顔をひきつらせていた。
 そんな二人を見た一方通行は適当に首を鳴らしながら一歩踏み出す。


一方通行(AIMジャマーキャンセラーっつってもやってることはAIMジャマーと同じだ。歪ンだAIM拡散力場をさらに歪ませて元に戻しているに過ぎねェンだからな)

一方通行(AIMジャマーは莫大な電力を食う。ソレはコイツも同じ。装置本体には俺の持っていた電極の予備バッテリーが搭載されていて、さらに電極に付いたメインバッテリーも併用させることで、やっと五分間起動させることができるっつゥ話だ)


 ここにたどり着いてからどれくらいの時間が経ったか。一分か? 二分か?
 関係ない。こんなヤツらを制圧するのに十秒だっていらない。

 カシャン、と一方通行の機械的な杖の棒部分が収納された。
 一方通行の両手が空く。苦手と悪手を広げながら悪魔のような笑顔で、ゆったりと佐久たちとの距離を縮める。


一方通行「――コイツは戦いなンて高尚なモンじゃねェぞ。ただのくだらねェ害虫駆除だよ、ゴミムシどもが」


―――
――





 少年院の敷地内を一人の少年が歩いていた。
 海原光貴。暗部組織『グループ』の構成員の少年だ。
 彼の任務は外周の警備。グループに仇をなす者の外からの侵入を防ぐために行動している。

 当初の作戦では海原は土御門と共に独房へ赴き、結標淡希を救出する役割を与えられていた。
 しかし、急遽一方通行が加わったことでプランAからプランBへと変更され、番外個体と共に防衛の任についている。


海原「――さて、そろそろ始まっている頃ですかね」


 携帯端末で時間をひと目確認した後、警報の鳴っている少年院の方へ目を向ける。
 そんな海原の名前を呼ぶものがいた。


番外個体「おーい、海原ー」

海原「どうかしましたか番外個体さん。貴女の持ち場はこちらではないでしょうに」

番外個体「なんかねー、面白いことがあったから海原にも知らせてあげようと思って」

海原「……まったく、貴女という人は」


 堂々と任務をサボっている少女を前にして海原は頭を抑えた。
 番外個体のニヤニヤとした顔からして悪びれる様子はまったくないようだ。


海原「面白いこととは?」

番外個体「少年院の裏口の辺にさ、なんか集団自殺している人たちがいてね」

海原「集団自殺?」

番外個体「そうそう。みんなして自分のこめかみや脳天を自分の銃で撃ち抜いていたよ。ナイフ持ってる人は自分の心臓をぶっ刺しててさー、傑作だったね」

海原「…………」


 ケラケラと笑う番外個体とは対局に海原は難しい顔をして何かを考え込んでいた。
 ここは少年院。間違ってもネットの掲示板とかで集まった自殺志願者たちが来て自殺しにくるような場所ではない。
 その自殺に使われた方法が拳銃やナイフ。ここの警備兵やブロックの連中が使っていそうな装備。
 つまり、その自殺者たちは――。




?????「見つけたぞ」


 二人の背中から声がかかった。
 番外個体が歩いてきた方向。つまり、集団自殺があった少年院の裏口のある方向から。


海原「……どなたでしょうか?」


 二人は声のした方向へ向く。そこにいたのは小柄の少女だった。
 赤いセーラー服のような制服を来ていて、濃い茶髪を二つに束ねている。
 鋭い眼光が二人を、いや、正確には海原光貴の方へと向けられていた。


番外個体「どうやら少年院に迷い込んだガキンチョとかじゃなさそうだね。裏にどっぷりと浸かったドブクセェ臭いがプンプンだー」


 軽口を言う番外個体の体に紫電が走る。
 二億ボルトの電撃をいつでも放出できるという合図だろう。


番外個体「『スクール』や『アイテム』にはこんなヤツいなかったと思うから、『メンバー』か『ブロック』か。どっち?」

?????「『メンバー』だ。まあ、目的のために利用していただけだから、そんな枠組みなど今となってはどうでもいいがな」

番外個体「そっか。てことはさくっとドタマぶっ飛ばして終わりー、って感じでオッケーってことだよねー」


 番外個体は懐から鉄釘を取り出し、少女に向けて構える。
 釘を持った腕に電気が走り、磁力による音速弾が放たれようとする。
 しかし、海原がそれを止めるかのように番外個体の前に手を出した。


番外個体「ん? どしたの海原ー?」

海原「……あ、あなたは、まさか、そんな……」


 番外個体の質問に反応することなく、海原は顔をこわばらせながら目の前に立つ少女を見つめている。
 少年を鼻で笑うかのようにセーラー服の少女は、


?????「信じられないか? 私がここにいることが。夢か幻などというくだらない言葉で片付けようとでも思っているのか?」


 少女が手を顔に持っていく。そして顔にある何かを掴むように指を引っ掛ける。


?????「――だったら、貴様に現実というものを突きつけてやろう」


 顔についた何かを引き剥がすように、少女は手で顔を拭う。
 瞬間、目の前に居たはずの茶髪の日本人的な外見の少女が姿が変わった。
 堀の深い顔立ちをした浅黒い肌を持つ、くせ毛がかった黒髪を首元まで伸ばした少女が目の前に現れた。


海原「ショチトル……!」

ショチトル「久しぶりだな……『エツァリ』」


 ショチトルと呼ばれる少女が目の前に現れ、海原は歪ませた顔をさらに歪ませる。



番外個体「えつぁり……?」


 空気を読まずに番外個体はとぼけたような感じで首をかしげる。
 嫌がらせのためにわざとやっているのか、それとも彼女の素なのか、もしくは両方なのか。


海原「エツァリとは自分の本名です。海原光貴はこの顔の持ち主の名。つまり偽名なんですよ」

番外個体「はえー、そうなんだ。じゃあこれからはエっちゃんって呼んであげるよ」

海原「ッ……いえ、結構です」

番外個体「遠慮しなくてもいいのにー、照れちゃってー。エっちゃん♪」


 そんな二人の様子を見てショチトルが肩を震わせながら、


ショチトル「エツァリ貴様ッ!! 学園都市に寝返った裏切り者がッ!! まさか『組織』を裏切った理由はそのアホみたいで下品な女のためとか言わないだろうなッ!!」


 褐色の少女の咆哮に番外個体はピクリと反応する。


番外個体「あん? 誰がアホで下品だってー? あんま調子乗っちゃってると×××に電極ぶっ刺して、体内に直接二億ボルトの電流ぶっ放しちゃうよん? これぞまさしく電気マッサージだね、略して電マ!」


 お上品とは対局な発言を息を吐くように述べる少女。
 いつもの海原なら『下品じゃないですか』と一言ツッコミを入れるだろうが、今の彼にそんな余裕はなかった。


海原「ショチトル。まさか貴女は裏切り者の自分を追ってこんなところに……?」

ショチトル「ああそうだ。長かったよ。こんな気持ちの悪い街に半年以上も閉じ込められるとは思いもしなかった」


 ショチトルが片手を振るう。すると突然、手の中に白い大剣が現れた。
 サバイバルナイフのような鋭い凸凹が両刃に付いた白い玉髄で作られた刀剣が。


ショチトル「それも今日で終わりだ。エツァリ、貴様を処分することによってな」

海原「『マクアフティル』……! 貴女がそんなものを持ち出してくるなどとは、一体何があったのですか!?」


 海原の問いかけに答えない。白い大剣を携えたまま、少女はゆっくりと距離を詰めてくる。
 その姿を見た海原はごくりと唾を飲んで、


海原「番外個体さん」

番外個体「なに?」

海原「ここは自分に任せてもらえないでしょうか?」

番外個体「いーよ」


 番外個体は軽く返事をした。何の迷いもない。
 海原のことを信じているのか、はたまた面倒事に巻き込まれたくなかったからなのか。
 獲物を持って近付いてくる少女に背を向け、番外個体は離れるように歩いていく。


番外個体「じゃ、あとは若いお二人さんでごゆっくりー。ミサカは適当に外で散歩でもしてくるかにゃーん」


 手をひらひらさせながら番外個体は少年院の表門へと向かっていった。


海原「……ありがとうございます。番外個体さん」


 海原は構える。目の前に立ち塞がるショチトルと対峙するために。


 かつて師弟関係にあった少女と戦うために。


―――
――




 第七学区と第一〇学区の境目辺りに建てられた建物。一階と二階が吹き抜けになっているのが特徴の巨大な倉庫だ。
 中央には巨大な物資運搬用のリフトが設置されていて、広大な空間内でスムーズな荷の移動が可能となっている。
 各階には外部から搬入された物資が詰め込まれたコンテナが、倉庫内に隙間がないと思えるほどたくさん並んでいた。

 倉庫の一角に二つの人影と一つの獣の影が見えた。

 一人は男だった。
 ボサバサとした白髪にメガネを掛けている中年の男性。
 白衣を羽織っていることから、いかにもな学者という風貌をしている。

 もう一人の影は少女だ。少女は二メートル四方くらいの小さなコンテナの上に寝かされていた。
 打ち止め(ラストオーダー)。先ほどまで御坂美琴と一緒にいた少女だ。
 顔が風邪を引いているときのように紅潮しており、息を荒らげさせ、全身から流れる汗でパジャマの生地が皮膚に貼り付いていた。

 打ち止めの側には銀色の獣が佇んでいた。まるで少女を見張る番犬かのように。
 『T:GD(タイプ:グレートデーン)』と呼ばれる全身を金属で覆った犬型のロボットだ。
 御坂美琴が交戦していたロボット、打ち止めを連れ去っていったロボットと同じような型に見える。

 犬型のロボットが耳に当たる部分をピクリと動かし、音声を発する。


イヌロボ『博士。超電磁砲に向かわせていた対超電磁砲仕様のT:GD二〇機が全滅しました』


 少年の声だった。淡々とした口調で事実だけを報告した。
 博士と呼ばれた男が特に表情を変えることなく、


博士「そうか。ところで『最終信号(ラストオーダー)』を例の場所に運び出す準備の進捗はどうなっているかね?」

イヌロボ『あとニ分ほどで完了するかと』

博士「超電磁砲がニ分以内にこの場所を特定し、ここまでたどり着く可能性は?」

イヌロボ『ありえませんね。仮に最初からここだと決めて全力で移動しても四分弱はかかる。まず間に合いませんよ』

博士「それは結構。では『馬場』君。最終信号の搬送とともに『君自身』もここから離脱したほうがいいのではないかね?」


 『君自身』というのは今会話しているロボットのことではない。
 『馬場』と呼ばれるこのロボットを遠隔操作し、回線をつないで会話をしている少年のことだ。


イヌロボ『何を言っているんですか。『ヤツ』が来るかもしれないんですよ? そのときは僕がぶち殺してやって、無様に床へ転がる死体をこの目で直に焼き付けないと気が済まない!』


 機械の声色が変わる。今までの淡々としていたものから恨み辛みを込めたものへと。
 博士は不気味に口角を釣り上げながら、


博士「君という男には本当に困ったものだ。このために我々『メンバー』の資金を一体いくら注ぎ込んだことか」

イヌロボ『博士には感謝していますよ。僕のワガママを聞いて、実現してくれたのだから』


 博士が自分たちのことを『メンバー』だと名乗った。
 そう。彼らはショチトルと同じ暗部組織『メンバー』の構成員だ。
 博士はその中でもリーダーという立ち位置にいる。


博士「気にすることはない。これは投資だ。こちらとしても良いデータが取れることだろう。すぐに回収できる」

イヌロボ『必ずあなたの期待に応えられるように――』


 カッ、カッ。ペタッ、ペタッ。


 メンバーの会話に割って入るように、二人分の足音が倉庫内に響いた。
 一人はコルク製の靴裏が硬い床を叩くような大人の男の足音。
 一人はスニーカーで軽くステップでもするような年端も行かない子供の足音。




 博士と犬型のロボットは足音のする方向へ目を向ける。
 照明がついていない暗がりの通路から、二人の人間がゆっくりと姿を現した。
 その姿を捉え、博士はメガネのズレを直しながら、


博士「……来ると思っていたよ。『木原』君」


 ニヤリ笑い、その者たちの名前を言った。


数多「よぉークソジジイ。こんな日も昇ってないような朝っぱらから犬連れて散歩とはよぉ、ついに深夜徘徊するような歳になっちまったっつーことかぁ?」

円周「あっ、打ち止めちゃんだ。おーい、元気ー?」


 木原数多と木原円周。
 『木原一族』の二人がメンバーの二人に立ちふさがる。


博士「一応聞いておくが、一体どうやってことの場所を特定した?」


 世間話でもするように博士は質問した。


数多「あん? それはコイツに聞いたら快く教えてくれたぜ」


 数多はそう言って何かを放り投げるように右手を放った。
 ドサリ、とその何かは緩やかな放物線を描いて床に落下した。
 それは少年だった。メンバーの構成員である、彼らにとっては見覚えのあるジャケットを来ている高校生くらいの。
  

イヌロボ『――さ、査楽……!』


 犬型のロボットを操作する少年がその名を呟く。
 それは査楽と呼ばれる『メンバー』の構成員の一人だった。
 ただ、それは彼らの知っている査楽という少年の顔とはだいぶ変わっていた。
 顔が全体的に赤青く染まっていて、まるで内側から膨らませたかのように大きく腫れ上がっている。
 穴という穴から血液を流しており、頭蓋骨が砕かれたかのように輪郭が歪んでいた。

 何度も何度も叩かれ、何度も何度も殴られ、何度も何度も砕かれたのだろう。
 その様子が容易に思い浮かべられるほど、査楽という少年は惨ったらしい外見をしていた。


数多「いやー、ほんと心優しい少年だったわー。家の周りをチョロチョロ嗅ぎ回ってたようだったから、ちょこっと小突いてやっただけで、日時場所目的全部吐いてくれるなんてなぁ。こんな素直でいい子今時いないぜぇ?」


 口の端を割りながらギョロリとした目付きで、地面に転がった査楽を見下ろす。
 博士も査楽を見下ろしながら、


博士「たしかにそのようだ。物理的な拷問程度で情報を売るとは暗部組織の人間としては失格だな」


 同意する。博士の目から査楽への興味が消え失せていた。
 メガネの奥の瞳が木原数多へと向く。


博士「さて、君は私たちの目的を知った上でどうするつもりなのか」

数多「そんなの決まってんだろ」


 数多は小さいコンテナの上で寝ている少女を指差す。


数多「そこに寝ているガキを返してもらう。それはこちらにとっては大事な商品なんでな」

博士「ふん、随分と丸くなったものだな。木原数多君」

数多「あん?」


 博士がため息交じりに続ける。





博士「楽しいかね? 生温い表の世界で幼稚な会社を作り、お山の大将を気取れるその生活が」

博士「従犬部隊(オビディエンスドッグ)と言ったかね? 従業員は当時の猟犬部隊(ハウンドドッグ)の部下だったか。そんな使い捨てのクズどもを起用するとは情でも移ったのかね?」

博士「仕事で最終信号を預かっているそうだな。隣で無邪気に笑うこの少女を見て庇護欲でも湧いたのかね?」


 語りかけるように質問を投げ続ける。
 ただただ一方的に。


数多「…………」


 木原数多は答えない。
 博士を見たままその場を動かなかった。


博士「……なるほど」


 博士が何かに気が付いた。
 まるで長年持ち続けた疑問の答えを見つけたかのような表情を見せる。


博士「去年の九月三〇日。君が最終信号を捕獲しウイルスを打ち込むという任務を放棄し、アレイスターを裏切った理由がわかった」

数多「何が言いてぇんだテメェ」

博士「君はあの幼い外見に惑わされてウイルスを打ち込むことができなかった。ただの実験動物とは思うことができなくなっていた。違うかね?」


 博士の問いを聞き、数多が目を逸らし、顔を伏せた。
 その様子を見た博士が白い歯を不気味に見せる。


博士「くだらない、実にくだらない。君はそういうものとは対局の位置にいるような人間だと思っていたがね」

博士「君たち木原一族はそこにいる木原円周のことを『木原』のなり損ないと称しているそうだな」


 突然名前を呼ばれた円周が首をかしげる。


円周「?」


 だが、それだけで円周は特に何も喋らない。


博士「私からしたら君のほうがよっぽど『木原』のなり損ないだよ。科学に巣食う木原一族が憐れみなどという、最も不必要な感情に流されてどうする?」


 博士の言葉を聞いた数多の体は、震えていた。
 彼の抱いている感情は、動揺か、怒りか、悔しさか。


数多「…………はは」


 どれも違う。彼の抱いていた感情は、



数多「――ギャッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」



 愉悦。
 全てを卑しめるような笑い声が倉庫内に響く。
 博士が眉をひそませる。


博士「何がおかしいのかね?」

数多「全部だよ」


 一言で全てを突っぱねた。




数多「部下に情が移っただぁ? 新しい人員を補充するのが面倒だったからそのまま使ってやってるだけだ!」

数多「そこで寝ているクソガキに庇護欲が湧いただぁ? テメェは耳元でギャンギャン鳴く糞犬にそんな感情が湧くのかぁ? 俺には到底無理だねぇ!」

数多「『木原』のなり損ないだぁ? どこの誰が言ってんのか知らねえがそりゃ間違いだ。そもそも『木原』っつうのはなり損なえるモンじゃねえんだからよぉ」


 数多は頭を掻きむしりながら続ける。


数多「『木原』っつのは生まれた時点で『木原』なんだよ。んなことがわからねえで『木原一族』を語るなんざ、愉快で素敵で馬鹿馬鹿しいヤツだよテメェは」


 「まあたしかにぃ、円周は『木原』が足りてないのは事実だ。それは認めよう」と数多が補足する。
 それを聞いた円周が頬を膨らませながら、


円周「ひどいよ数多おじちゃん。生まれた時点で『木原』は『木原』ってさっき言ったよねー? だから私も立派な『木原一族』の一員なんだよ!」

数多「そんなこと言ってる時点で足りてねえんだよクソガキが」


 ギャーギャー問答している二人。まるで自宅でいつも通りやっているような他愛もないやり取りだった。
 そんな光景に博士は気にすることなく数多に問いかける。


博士「だったらなぜアレイスターを裏切ったのかね? 君が私の言ったことを否定するというのなら、その選択肢を取ったことがまったくと言っていいほど理解ができない」

数多「そりゃできないだろうな。アレイスターの犬に成り下がっているテメェじゃあな」


 博士たちが所属する『メンバー』は統括理事長アレイスターの直属の組織だ。
 その役割は任務内容の善悪に関係なく、アレイスターの手足として動くことである。


数多「テメェはあのガキにウイルスを打ち込もうとした理由は何か知ってるか?」

博士「……ウイルスを打ち込んだ最終信号の上位権限で妹達(シスターズ)を使い、AIM拡散力場の流れを誘導することで虚数学区を展開させることだろう。そうすることで『風斬氷華』は『ヒューズ=カザキリ』へと進化を遂げる」

数多「そうだな。だがそのウイルスの影響でガキは完全に壊れちまう。ミサカネットワークは崩壊し、妹達はただのAIM拡散力場を世界中にばらまくだけの電波塔に成り下がっちまうっつーことだ」

博士「まさか、君はミサカネットワークなどという玩具を守るためだけに裏切ったというのかね? アレイスターの求めるものを拒否してまで」

数多「残念ながら、正解半分だ」


 数多は鼻で笑う。まるで無知なものを見下すように。


数多「そもそもよぉ、必要なかったんだよ。あの任務自体がな」

博士「どういうことだ?」

数多「あん? お前知らねえのか? もしそうならとんでもないマヌケだっつーことになるんだがよぉ」

博士「だから、どういうことだと聞いている」


 ニヤニヤとした顔付きで数多が告げる。


数多「『風斬氷華』はそんなまどろっこしい方法を使わなくても、既に自分で『ヒューズ=カザキリ』へと変貌を遂げてたんだよ。九月三〇日以前からな」

数多「そんな状態で実験材料を無駄に使い潰してぇ、無駄な労力使ってぇ、何にも変わりませんでしたっつー無駄な実験をするなんざ、面倒臭せぇだろうが」


 その事実を聞かせられた博士は目を見開かせた。
 目の当たりにした数多は確信したように、


数多「そんな面見せるってこたぁ、ミサカネットワークの利用価値もわかってなさそうだな」

博士「……第一位の代理演算をさせて延命措置をさせていることか? それとも一〇〇三一人分の死の記憶などというオカルトじみたもののことか?」

数多「たしかにそれもその一部分だ。けどやっぱわかってねえよ。そんな表に浮き出てきた誰でも知っている事実しか挙がってこねえ時点でな」

博士「他に利用価値があるというのか?」

数多「あるぜ。何十何百とな。そうだな、例えば――」




 顎に手を当て三秒ほど考えてから、


数多「『ヘヴンズドア』って言葉、聞いたことあるか?」

博士「直訳すると天国への扉か。だとすると――」


 博士が何を言おうとする前に数多は口元を引き裂きながら、



数多「ギャハハハハハッ!! そんな表面上の言葉にしか目が行ってねえ時点でテメェはアレイスターの犬、いや、その犬のケツから垂れ流される糞以下の価値しかねえヤツだっつうことだッ!! 残念だったなぁ!!」



 博士の言葉を遮る。
 まるで発言権を奪うように。可能性を潰すように。存在全てを否定するように。
 叩き潰すような言葉を受けた博士は、


博士「……そうか」


 ただ一言だけ。これといったリアクションを見せることなく。つぶやいた。
 こめかみをポリポリと掻いた後、静かに語りかける。


博士「では君を処分した後で、ゆっくりとアレイスターからそれについて教えてもらうとしよう――馬場君」


 名前を呼ばれた犬型のロボットは特に返事をしなかった。
 その代わりにガシャン、という弾けるような音が倉庫内に何十も響き渡る。

 数多は周りを見回した。倉庫内に置いてあった大量のコンテナの蓋が全て開いていた。
 コンテナの中から何かがおもむろに姿を現す。

 それは『T:GD(タイプ:グレートデーン)』と呼ばれる犬型のロボットだった。
 しかし、それは目の前にいる博士の側で佇んでいる者とは違う形状をしている。
 背中に巨大なドラム缶のようなものが載せられていた。そこから管が伸び、砲台のようなものへと繋がっている。
 重量物を支えるため脚部にサスペンションのようなものが取り付けられていて、四足が大型化していた。

 異形の機械を見た数多が何かに気付いたように呟く。


数多「あれは……『Gatling_Railgun(ガトリングレールガン)』か」


 その言葉にかぶせるように馬場という少年が、犬型ロボット越しに、


イヌロボ『木原数多ぁ!! お前言ったよなぁ!? 俺を殺すなら第三位の『FIVE_Over(ファイブオーバー)』一〇〇機くらい用意しろってなぁ!! だから――』


 ガシャン、ガシャン、と全方位からロボットが起動する音が聞こえてくる。
 たくさんのコンテナの中から次々とドラム缶のようなものを背負った犬型のロボットたちが飛び出す。


イヌロボ『――用意してやったぞ!? ガトリングレールガンを搭載した『T:GD-C(タイプ:グレートデーンカスタム)』を!! 一〇〇機なあッ!!』


 倉庫の一階と二階から。数多たちを取り囲むように全方位から。
 一〇〇もののガトリングレールガンが銃口を向けられていた。


数多「……あー、そういやそんなこと言ったっけなぁ」


 数多は面倒臭そうに頬を掻いた。


数多「よくもまあ、わざわざ俺なんかのためにそんなもん手間暇かけて準備してくれたもんだ」

イヌロボ『お前が全部悪いんだ!! あのとき素直に『最終信号(ラストオーダー)』を渡さなかったから!! 僕たちに歯向かったから!! 僕のプライドに傷をつけやがったから!!』


 犬型のロボが咆哮する。
 腹の中で凝り固まった負の感情を全てぶちまけるように。


イヌロボ『だからお前を殺すッ!! 吹き飛ばしてやるッ!! 粉微塵になるまで消し飛ばしてやるッ!! この一〇〇機のガトリングレールガンでッ!! この僕の手でッ!!』




 ガシャコン!! と一〇〇機のガトリングレールガンの安全装置が外れる音が鳴る。
 数多はため息をつき、隣に立つ円周を見て、


数多「円周。あの犬っころどもの相手はお前がやれ」


 命令された円周は露骨に嫌そうな表情を浮かべる。


円周「えぇー? なんで私がー? 一人でイキり発言してに勝手にピンチへ陥ったのは数多おじちゃんだよねー」

数多「俺はそこのジジイの相手をしてやらなきゃいけねえからな。つーか、ピンチじゃねえし。俺一人でも余裕だからな残念でしたー」


 それに、と数多は付け加える。


数多「今作ってる例の『装置』のテストにピッタリだとは思わねえか? この状況はよぉ」


 そう言われた円周はしばらくボーッと考えた。
 なるほど、と納得した様子を見せてから前線へスキップするように立つ。
 それを見た犬型のロボは、


イヌロボ『木原円周か。そういえば君にも苦汁を舐めさせられたな。だったら、先に君から消し炭にしてあげるとするかッ!!』


 円周から向かって正面の二階にいたガトリングレールガンを持つ獣が動く。
 照準を少女に合わせる。ドラム缶の中からウォーン、という駆動音が鳴る。
 数秒後、全てを貫き、全てを吹き飛ばし、全てを破壊する砲弾の嵐が木原円周へと発射されるだろう。

 しかし、円周は気にせず首にかけた携帯端末を見ながら、ブツブツとつぶやいていた。


円周「うん、うん、うん、うん」


博士「……あれは」


 博士はあることに気付いた。
 木原円周は、電子端末を利用して状況に応じた他人の思考データを自分自身へと落とし込み、その他人の発想を得て戦術へと変えるという技術を持つ。
 『木原』が足りていない彼女はそれを利用して『木原』を補うことで、あらゆる状況を対応する。それが彼女の戦い方。
 彼は木原円周を何回か見かけたことがある。だから彼は木原円周の戦い方を知っていた。

 だからこそ、博士は気付いた。その違和感に。

 円周に会った何回か、その中で変わった部分はいくつかあったが、それはあくまで髪型や服装などというどうでもいい部分だけだ。
 しかし、彼女は一貫して首から電子端末をぶら下げていた。上記の技術を使うために。

 そんな過去に出会った彼女たちと、今目の前に立つ彼女には決定的に異なる点があった。


 木原円周の首にはチョーカーのようなものが巻かれていた。
 それには向かって右側に黒い機械のような物が取り付けれていて、そこから伸びたコードが二手に分かれて彼女のこめかみへと貼り付いていた。
 博士はあるものが頭の中をよぎった。彼女と同じような装置を付けた人物を。


 特殊な電極を取り付けたチョーカーを首に巻いた、学園都市の最強の超能力者を。


円周「うん、うん、そうだねアクセラお兄ちゃん」


 円周は首元に付いた機械に手を伸ばし、それのスイッチを入れた。
 ピーガガガガガガ、というノイズ音が走る。彼女の瞳に反射して映る、心電図のような線が上下に激しく動く。
 携帯端末から手を離す。重力に従い落下し、ストラップに引っ張られるように首にぶら下がる。



円周「――『一方通行(アクセラレータ)』ならこォするンだよね」



 彼女の瞳の色が変わる。全てを飲み込みそうな黒色から。
 ドロドロに薄汚れた血のような赤色へと。




 ドゴゴゴゴッ!! という連続した爆発の音が鳴る。
 木原円周の正面に立つガトリングレールガンが発射された音だ。
 音速の三倍を超える速度の砲弾が、毎分四〇〇〇発もの速度で、障害物を食い破りながら襲いかかる。
 砲弾が着弾する。建物全体が地震のように揺れる。倉庫内に粉塵が巻き起こる。

 ガトリングレールガンの音が止む。
 木原円周の肉体が砕け散り、ターゲットを見失ったから砲撃をやめたのか。
 今頃砲撃を撃ち終えたロボットは、砲身を冷却させながら次のターゲットへと銃口を移動させていることだろう。


 しかし、現実は違った。


 粉塵が晴れる。
 ガトリングレールガンの発射地点の倉庫の二階、一機のガトリングレールガン搭載の獣が立っていた場所。
 そこには誰もいなかった。その後ろにも何機か同じような獣が立っていたはずだ。だが。

 その一帯はまるで爆撃でもあったかのように床は砕け、壁は吹き飛び、天井に大穴を開いていた。


 粉塵が晴れる。
 ガトリングレールガンの着弾地点と思われる場所、木原円周が立っていたはずの場所。
 そこには人が一人立っていた。その姿は先ほどまでそこにいた少女だった。

 木原円周が、ガトリングレールガン発射前と変わらぬ姿で、悠然とその場に立っていた。


博士「……ば、馬鹿な」


 その一部始終を見ていた博士の顔が歪んだ。
 この場で起こったことを説明できる一言を、その起こった現象の単語を呟く。


博士「――『反射』、だと……!」


 着弾地点で首をゴキッと鳴らしながら円周はぼやくように、


円周「……うーン、反射角結構ズレてるねェ。威力も一〇〇パーセント跳ね返せてないし、まだまだ調整が必要かなァー」


 まァイイか、と円周は思考をやめてガトリングレールガンを持つ獣達へと再び目を向ける。


円周「じゃ、とりあえず『一方通行』らしく、この一言は言っておかないといけないよねェ」


 少女は赤い目を見開かせて、口端が裂けるくらい口角を上げて、



円周「――スクラップの時間だぜェ!! クソ野郎どもがッ!! って感じでお願いしまーす」



―――
――





 スクールの二人組。『心理定規(メジャーハート)』と名乗る少女獄彩海美と誉望万化は、少年院の地下三階の通路を駆けていた。
 通路にはバタバタと警備兵と思われる男たちが倒れている。通路を走る海美が倒れた警備兵たちを横目に、


海美「この死体、独房まで続いていそうね。この道を誰かが通ったってことかしら?」

誉望「おそらく第一位スよ。あんなえげつない殺し方しそうじゃないっスかアイツ」


 誉望が言うようにその男たちは、決まって体にドリルのようなもので抉り取られたような傷を負っていた。
 胸が裂け、腹に大穴を開けて。


海美「まあ、そう考えるのが妥当ってところかな。というか垣根のヤツが早く来てくれないと困るんだけど。このままじゃ私たちが第一位の相手をしないといけなくなるよ」

誉望「ゲッ、そいつは勘弁願いたいっスよ。アイツ相手にして一〇秒以上立ってられる自信ねえっス」

海美「言っておくけど私のチカラもアテにしないでよ? 何となく彼、逆上タイプな気がするし」


 海美の能力は『心理定規(メジャーハート)』という精神系の能力だ。
 彼女は対象の持つ他人との心理的な距離を、すなわち信頼度や親密度などを観測し、測定して数値化することができる。
 例えるならある男が持つ恋人との心理的な距離は一〇、のような感じに。
 さらに彼女の能力はそれだけではなく、その数値を元に自分と対象との心理的な距離を自由に操作することが出来るチカラがある。
 彼女からすれば、見ず知らずの男と運命の赤い糸で結ばれた恋人同士にも為ることも、親を殺された宿敵同士のような関係性に為ることも、造作のないことだった。

 海美の言う逆上タイプというのは、戦意を奪うためにチカラを使って親密な関係を偽装しても、『可愛さ余って憎さ百倍』という思考になり余計に襲ってくる人のことを指す。
 実際、海美は一方通行に能力をかけたことはないが、彼女の勘がそうじゃないかと告げていた。


誉望「そんな状況で座標移動(ムーブポイント)を捕獲しろなんて、無茶言いますよねー」

海美「ま、最悪座標移動を私の能力で味方に付ければ何とかなると思うよ。彼女が相手なら第一位も全力は出せないでしょうし」

誉望「さすが心理定規さん。頼りになるっス」


 会話をしながら進む内に通路の終わりが見えた。
 その先にあるのは地下四階に繋がる階段。地下四階には地下独房まで繋がる隠し階段が存在する。
 目的地はもうすぐそこまで来ている。


誉望「――ッ、誰かいる!?」


 誉望の顔が強ばる。頭に付いた土星の輪のようなゴーグルに付いているケーブルの一本が大きく揺れる。
 彼の念動能力は様々なことに応用することができる。
 彼が今行っているのは、微弱な念動波を常に周囲に発することで周辺の物体の動きを感知するレーダー。
 索敵や不意打ちを回避するために使用していたチカラが、誰かを感知した。

 誉望の言葉を聞いて海美も警戒心を強める。
 銃撃、爆発、刺突、あらゆる襲撃を警戒しつつ二人は通路の先にある階段前の広場へと飛び出した。


 何も起こらない。


 おかしいと思い、誉望はレーダーに反応した誰かがいるはずの方向を見る。
 その先には壁伝いにベンチが置いてあった。おそらく看守が休憩するために置いているものなのだろう。
 ベンチの上に何か黒いものが横たわっていた。誉望はそれが何かを確認するために目を凝らす。

 それは少女だった。
 見た目は一二歳位。パンク系の黒い服で身を包んでいる。
 肩甲骨辺りまで伸ばした髪の毛の色は黒だったが、無理やり脱色させているのか先端だけ金色をしている。
 そんな奇抜な格好をした少女が、ベンチの上で自分の両手を枕にして寝ていた。まるで暇潰しに昼寝でもしているかのように。




誉望「……なんだあれは?」

海美「たしか……あの子は――」


 色物を見るように二人は少女を見る。
 そんな二人の気配と視線に気付いたのか、寝転んでいた少女は目を覚ました。
 少女は上体を起こして、首のコリをボキボキとほぐしながら、


??「ふわー、やべっ、寝ちまってた。ったく、暇過ぎんだろこの任務……おっ?」


 辺りを見回した少女はスクールの二人の存在に気付く。
 二人の姿を二秒くらい見つめた後、はぁ、とため息を付いてからゆっくりとベンチから立ち上がる。


??「チッ、アンタたちかよ。あー、クソッ、二択外しちまったなぁ」

海美「こんなところで何をしているのかしら? 『暗闇の五月計画』の生き残り、黒夜海鳥さん?」


 黒夜と呼ばれた少女がニヤリと笑い、


黒夜「別に。ただのくだらない雑用さ」


 黒夜海鳥という名前を聞いた誉望が何かを思い出し、耳打ちするように海美に話しかける。


誉望「黒夜、ってアレっスよね? 去年の九月くらいに垣根さんにボコボコにされた」

海美「そうね。垣根に圧倒的な力の差をわからせられたあの子よ」

黒夜「……聞こえてんだけど」


 二人の会話に聞き耳を立てていた黒夜は体をプルプルと震わせていた。
 事実、彼女は超能力者(レベル5)第二位の垣根帝督と相対したことがある。
 そのときに超能力(レベル5)というチカラを見せつけられたことにより、戦意を完全に喪失させられていた。
 屈辱的な過去を持つ黒夜はふう、と息を整えてから続ける。


黒夜「たしかにあのときの私はただのザコだった。それは認めるよ。けど、今の私はあのときの私じゃない。超能力者(レベル5)だろうと何だろうと全員ブチ殺せるチカラを持っているのさ」

黒夜「本当はここで、第一位を追ってきた第二位をプチッと潰して借りを返してやるつもりだったんだけどさ、実際に来たのはアンタら残念な三下どもってわけだ」


 黒夜の発言を聞いた誉望の眉がピクリと動く。


誉望「垣根さんを潰す?」

黒夜「そうさ! 手足をぶった切って、内臓をグチャグチャにえぐり取って、脳みそコナゴナに吹き飛ばして、憐れな肉塊にしてやろうって言ってんだよ!」


 両腕を大きく広げ、見下ろすように笑う黒夜。
 絶対的な力を持っているような自信を少女から感じられる。

 そんな黒夜に向けて誉望は手をかざした。ゴーグルに付いたケーブルたちが蠢くように動く。
 何かを握り潰すように誉望はゆっくりとかざした手を握り締める。


 ブチィ!!


 黒夜の左腕が捻じり切れた。
 まるで雑巾を絞っているかのように螺旋を描き、肘の先からブッツリと。




黒夜「…………は?」


 捻じり切れた腕の断面からボタボタと赤い液体が床に垂れ落ちていく。
 それを見た黒夜は怪訝な表情を浮かべる。
 誉望がかざした手を下ろして、


誉望「この強度、普通の腕じゃないな? 骨格を特殊な合金にした義手か何かってところか」


 まあどうでもいいか、と誉望は淡々と続ける。


誉望「俺の攻撃を感知することが出来ず、無様に腕を切断されているようじゃ、垣根さんには足元にも及んでいない。お前にはウチのリーダーを潰すことはできないね」


 誉望の念動能力は発火・透明化・無音化・電子操作などの多彩な力を包括的に扱うことができる汎用性の高いチカラだ。
 しかし、それはあくまで彼の能力に付属したオマケのようなもの。念動能力の本質は見えないチカラを操ることで、触れずに物体を動かしたり、干渉することが出来るというものだ。
 超能力(レベル5)級と自称するその念動力の出力が、黒夜の合金製の義手を捻じり切ったのだった。


黒夜「……はぁ」


 肘から先が無くなった左腕から目を離し、黒夜はつまらなそうにため息をついた。


黒夜「ほんと、残念だよなぁ……」

誉望「残念? お前の今の無様さのことか?」

黒夜「アンタらのことだよ」


 黒夜は憐れむように誉望を、そして海美を見る。


黒夜「私の左腕をスクラップにしてくれたチカラの強さはたしかにすごいよ。けど、何でアンタは私の首じゃなくて左腕をわざわざ狙って潰してくれたんだ? そしたら一瞬でケリが着いたっつーのに」

誉望「ッ……」


 誉望は睨みつけるように目を細めた。


黒夜「心理定規だっけ? 獄彩海美だっけ? まあ、どっちでもいいや。アンタここにいるってことは銃なり何なり持ってんだろ? いくらでもチャンスはあったはずなのに、何で私を撃ち殺さなかったんだ?」

海美「…………」


 海美は表情を変えることなく黒夜を見ていた。


黒夜「アンタらはどこかで思ってたんだ。ウチのリーダーの垣根帝督があっさりと打ち払った相手だから、自分たちでも余裕で処理できる相手なんだと」

黒夜「自分たちは会ったことはないけど、リーダーがクソザコだって言ったコイツは驚異になりえない相手なのだと、勝手に私のことを値踏みしてたんだ」

黒夜「だから、こうやって急所を狙わないなんていう舐めた戦いをしやがるし、後ろから呑気に観戦を決め込むことができるのさ」


 黒夜はベンチに置いてあったイルカのぬいぐるみを手に取り、抱きかかえるように持つ。
 パァン、とそのイルカのぬいぐるみは音を立てて破裂した。
 黒夜が引き裂くように笑う。彼女のまとう空気が変わる。





黒夜「――つまり、オマエらは私を殺すことが出来る最後のチャンスを無様に失ったっつゥことなンだよッ!! わかったかなァー三下どもがッ!!」



 ゴパァ!! 黒夜から爆発のような空気の流動が、階段前の広場で巻き起こる。


誉望「ぐっ!?」


 誉望は咄嗟に目の前に念動力によって透明の壁を作り出した。
 四トントラックと正面衝突しても破れない鉄壁の壁を。

 しかし、黒夜の起こした爆風はそれを発泡スチロールのように突き破り、誉望の体を吹き飛ばした。


誉望「――ごぷっ!?」


 背中から壁に叩きつけられた少年は吐血し、そのまま床に崩れ落ちた。


海美「誉望君!?」


 あまりに急の出来事に海美が取り乱す。
 しかし、即座に意識を倒れた誉望から黒夜に移した。
 懐から取り出した銃を構え、銃口を向ける。


海美「……な、なによ、それ……」


 海美は目を大きく見開かせた。
 黒夜の腕が増えていた。比喩ではなく。横腹から左右合わせて二〇本近い数。
 掌は赤子のように小さいが、長さは彼女の腕とそう変わらない。
 色は肌色だが質感はビニール製品のようなもので、いかにも人工物的な光沢を放っている。


黒夜「コイツかァ? そォだな。いわゆる私の第二形態ってところかな? 私のチカラを大幅に増加させることができるね」

海美「気味の悪い姿ね」

黒夜「機能的と言って欲しいねェ」




 海美は考える。
 おそらくこの相手と正面からぶつかって勝つ確率などゼロに等しいだろう。
 そもそもそういった戦いは海美が得意とする分野ではない。


海美(心理定規(メジャーハート)を使うしかない。もしかしたら逆上タイプかもしれない、とかそんなことを考えている暇はなさそうね)


 海美が能力を使用するために意識を集中させる。

 黒夜は『暗闇の五月計画』という実験の被験者だ。
 超能力者(レベル5)第一位の一方通行の思考パターンの一部を植え付けることで、能力を向上させている能力者。
 一方通行が逆上タイプかもしれないと思うように、黒夜に対しても似たようなものを海美は感じていた。
 しかし、今そんなことを気にして何もしなければ殺されるだけだ。


海美(まずは、あの子の中の心理的な距離を――なッ!?)


 海美の表情が歪む。彼女にとって信じられないことがわかったからだ。
 彼女は心理定規のチカラを使い、黒夜の中にある心理的な距離を測定しようとした。
 だが、それはできなかったのだ。

 まるで、機械相手に能力を使用しているような感覚を、海美は覚えていた。


海美「――貴女は一体なんなのよ!?」


 目の前に立つ人の形をした異形の化け物を見て、海美は叫ぶ。


黒夜「そォいえば私の方からきちンと名乗ってなかったか……」


 再び黒夜は嘲笑うように腕を広げた。
 それに連動して脇腹から生える腕たちも蠢くように広がる。



黒夜「――『グループ』所属。黒夜海鳥。いずれ暗部の頂点に立つ女だ。ヨロシク、お姉さン?」



―――
――





 『スクール』に雇われている狙撃手、砂皿緻密は建設途中のビルにいた。
 磁力狙撃砲を構え、スコープを覗き、何かをじっと見据えている。

 彼の視線の先にあるのは少年院の正門だった。

 このビルは少年院から大体五〇〇メートルくらい離れた位置にある。
 ここからでは少年院の塀が邪魔をして敷地内までは見えないが、建物周辺の情報を探るのには十分な場所であった。

 砂皿緻密の任務は外部からの侵入者の狙撃。『スクール』の害と為す者の排除。
 先ほどまで少年院の裏門側にある似たような地形の建物に籠もり、五人ほどの狙撃し殺害したところだ。
 スナイパーは位置をバレるわけにはいかない。そのため、砂皿は表門側にあるこのビルに移動をしたのだ。


砂皿(……今の所、外部から侵入しようとする者はいないか。こちら側はハズレだったか?)


 表門側には人っ子一人いなかった。
 裏門側にいたときは、頻繁に人が出入りしているのを見たからなおさら人通りがないように見える。


砂皿(任務の残り時間は五分もないか。しかし、また裏門側に戻る時間もあるまい)


 安全のためとはいえ、狙撃場所を移動したことに若干の後悔を覚える砂皿。
 そんな彼の覗いているスコープに一人の少女が映り込んだ。
 肩まで伸ばした茶髪。手入れをしていないのか髪の毛の先があちこちへとハネていた。
 野良犬のような鋭い目付きをした瞳の下には隈のようなものが見える。


砂皿(……あの女、裏の人間だな)


 砂皿はスコープに映る少女のことを知らない。だが、薄汚い闇の世界に住み着く裏の住人だと一瞬で見抜いた。
 理由は、彼女が少年院の正門から歩いて出てきたことを確認したからだ。
 最初は脱獄犯か何かと思ったが、着ている服は囚人服ではなく白色の全身を包むような戦闘スーツのようなもの。
 少年院に勤める警備兵かとも思ったが、銃火器も装備していないし、成人にも満たしていない幼い外見からそれはないと判断した。


砂皿(リストにない顔だな。ということは『グループ』の不明だった残り二人のうちどちらか、それ以外の誰かか……)


 頭の中に記憶している暗部組織の構成員のリストと照合したが、あのような少女は見たことなかった。
 しかし、砂皿はそんなことは気にもしていなかった。


砂皿(私の仕事は『スクール』に害を為す者の排除だ。その可能性のある者なら狙撃するだけだ。相手が誰だろうと関係はない)


 砂皿は少女を狙撃するために周囲のビル風や空気抵抗などの計算をし、照準を合わせる。
 スコープに映る少女はまるで目の前に立っているかのようにくっきりと見える。
 この距離なら外すまい、と砂皿は引き金に指をかけた。


 と。


 スコープ越しに映る少女と目が合った。
 一瞬目が合ったとかそんなものではなく、ハッキリとこちらを見るかのように、顔を正面に据えて、視線を向けてきた。


砂皿「ッ!?」


 信じがたい出来事に砂皿は一瞬体がビクリと反応し、スコープから目を離してしまった。
 砂皿の手にはじわりと嫌な汗がにじみ出てくる。
 だが、彼もプロだ。すぐに息を整えて、狙撃の体勢へと戻り、スコープを覗き直す。


 少女は何かをこちらに向けていた。
 手だ。腕をこちらへ真っ直ぐと伸ばし、拳を握り締めるような形にして、親指と人差指の間に何かを挟み込むように持って。
 真っ赤な舌で出して、舌舐めずりをした。


砂皿(……なんだあれは――)


 砂皿がそれが何かを理解する前に、彼の視界がオレンジ色に染まった。




 ゴシャン!!


 覗き込んでいたスコープごと、磁力狙撃砲が弾け飛んだ。


砂皿「ごっ、がああああッ……!?」


 砂皿の体は建設途中のビルの足場にのたうち回るように転がっていた。
 右腕に傷を負ったのか血でにじむ長袖を左手で抑えている。
 爆散した磁力狙撃砲に巻き込まれたのだろう。


砂皿(……まさか、狙撃されたのか!? この私が!?)


 あの一瞬の出来事から砂皿はそう推測を立てる。
 彼女は銃火器を持っている様子はなかった。手ぶらだ。つまり、彼女は何かしらの能力者だということ。


砂皿(チッ、いずれにしろ場所が割れている以上、ここに居座る道理はない。撤退だ)


 側に置いていた大きな鞄を開け、磁力狙撃砲だった部品を乱雑に押し込める。
 ここに自分がいた形跡を残すわけにはいかないからだ。
 その最中に、部品と混じって転がっている、ある物が目についた。


砂皿(これは……釘、か?)


 それは鉄製の釘だった。
 ここは建設途中のビル。すなわち工事現場だ。釘の一本や二本落ちていてもおかしくはない。普通ならそう判断するだろう。
 しかし、その釘は金槌で横から殴ったようにひん曲がっていた。そして、焼けたように真っ黒に焦げていた。
 それを見て、砂皿はあることを思い出す。

 学園都市にいる超能力者(レベル5)と呼ばれる能力者の第三位に当たる少女のことだ。
 少女が使う超電磁砲(レールガン)という技。それは金属で出来たコインを音速の三倍で射出することによって莫大な破壊力を生むというものだ。

 砂皿の覗くスコープがオレンジ色の光に包まれたのはなぜか。
 莫大な電力が彼女の周りに放たれたからではないか。

 鉄釘がなぜ黒焦げているのか。
 電気を纏って射出されたため熱で焼けたからではないか。

 超電磁砲は金属製のコインを飛ばす技だ。
 コインが飛ばせるのなら鉄釘を飛ばせてもおかしくはないのではないか。


砂皿(……もしや、ヤツが第三位の超能力者(レベル5)、『超電磁砲(レールガン)』というヤツか)


 片付け終わった砂皿は鞄を肩へ掛け、下の階へと降りるために階段のある方向へ目を向けた。
 すると、

 カン、カン、カン。

 下から金属製の階段を歩いて上ってくる音が聞こえてきた。
 誰かがこのビルへと上ってきている音だ。時間が時間だ。工事現場の人間ではないだろう。
 砂皿は身構える。その階段の音は次第に大きくなっていき、距離が近くなっていく。

 階段から人影が現れる。


????「――こんにちはー!! アナタだね? スクールに雇われてるスナイパーさんってヤツは」

砂皿「……貴様は超電磁砲か?」


 砂皿は冷静に問いかける。




????「残念ながら違うよ。というかミサカをあんな幼児体型のおこちゃま趣味と一緒にしないで欲しいよねー」

砂皿「なら貴様は何者だ?」


 再び尋ねられた少女はクスリと笑い。


番外個体「そうだね。名前なんてないけど、あえて名乗るなら『番外個体(ミサカワースト)』とでも言っておこうかな」


 それを聞いた砂皿は肩にかけた鞄を床に落とした。


砂皿「……そうか。貴様は超電磁砲ではないのだな」

番外個体「だからそう言ってるじゃん」

砂皿「それはいいことを聞いた」


 砂皿は懐から拳銃と、何かに使う機械のようなものを取り出した。
 そして、番外個体と名乗る少女をじっくりと見据えて、


砂皿「ならば、何の問題もなく殺せそうだ」


 その言葉を聞いた番外個体は唇をぺろりと一舐めしてから身構える。


番外個体「相当自信があるみたいだね」

砂皿「私がこの街に来てから半年となるか。『スクール』の所属となり、あらゆる者と戦ってきた。学園都市が作り上げた不気味な機械はもちろん、あらゆる能力者たちともな」


 砂皿が拳銃の安全装置を外し、銃口を少女へと向けた。


砂皿「貴様は電撃使い(エレクトロマスター)だろ? 私は大能力者(レベル4)程度の電撃使いなら二人殺したことがある。もちろん狙撃ではなく、こうやって直にな」

番外個体「……なるほど、たしかに嘘は言っていないみたいだね。生存意識が薄いミサカでも死ぬかも、って思えるくらいのプレッシャーを感じるよ」


 けど、と番外個体は続ける。


番外個体「それはあくまで、ミサカがレベル4程度のザコザコ電撃使いっていう前提の話だよねー?」

砂皿「何が言いたい?」

番外個体「だってさ――」


 番外個体は笑う。
 まるでこれからイタズラを仕掛けようとするかのような笑顔を見せる。


番外個体「――誰もミサカが大能力者(レベル4)の電撃使い(エレクトロマスター)だなんて、一言たりとも言ってないよねぇ?」


 ふと、砂皿はある装置が目に入る。それは番外個体と名乗る少女のうなじに取り付けられている物だった。
 まるで無理やり接着剤か何かで後付したような、取ってつけたような違和感を放つ機械だ。
 その装置にはランプのようなものが点灯していた。薄い黄緑色だ。
 そして、砂皿は見た。


 そのランプの色が、黄緑色から赤色に変化するその瞬間を。


―――
――





 上条当麻はエレベーターの裏にある隠し階段の前に、つまり、結標淡希がいると言われている場所へと繋がる入り口の前で立ち尽くしていた。


上条「……クソッ、何やってんだ俺は……! 早く動けよ。今さら何をビビってんだよ……!」


 上条は呟くように自分を奮い立たせようとする。
 しかし、少年の足は根を生やしたように動かない。


上条(さっき爆発みたいな音が聞こえた! 地震みたいなもんが起こった! もしかしたら結標の身に何かが起きているかもしれねえんだぞ!?)


 結標淡希を助けたい。その気持ちはたしかに存在する。


上条(さっき決めただろうが! 俺がやりたいと思ったことが俺の『役割』なんだって! なのに、なんで動かねえんだよ!? 俺の身体!!)


 頭ではそう思っていても身体は正直、というヤツか。
 どこか無意識の部分で恐れているのか。再び、結標淡希に拒絶されるかもしれないということを。

 くっ、と上条当麻は右拳を壁に打ち付けた。
 拳にじわりとした痛みが広がる。


上条「はっ、何やってんだ俺!? 今何時だ!? あと何分残ってんだ!?」


 上条当麻はポケットから携帯電話を取り出し、時間を確認しようとする。

 ゾクッ、

 背筋に這い寄るような悪寒が走り、携帯電話を開こうとする上条の手が止まった。


上条「なっ、なんだっ!?」


 上条当麻は振り返る。当たり前だが誰もいない。
 小走りでエレベーターの裏からエレベーター前への廊下へと行き、確認する。誰もいない。
 それを確認したのになぜか上条が感じる悪寒は一向に収まらなかった。いや、むしろ段々と強くなっていく。


 カツン、カツン、カツン。


 なにかの音がこちらへ向かって近付いてくるのを上条の耳が捉えた。
 これは革靴で硬い廊下の床を歩いてできる足音だろうか。
 とにかく、何者かがエレベーターの裏にある隠し階段を、その先にいる結標へ向かって近付いてくる。


上条「…………」


 上条は息を飲む。心臓の鼓動が加速する。じわりと嫌な汗が全身に流れる。
 じわりとにじみ寄ってくるプレッシャーに上条当麻の息が荒くさせる。
 ついに、その悪寒が全身を包んだ気がした。

 そして、男は現れた。
 廊下の二〇メートルくらい先にある曲がり角から、革靴の音を鳴らしながら、ゆっくりと歩いて。
 その姿を見た上条当麻の全身が強張った。


上条「――て、テメェは……!」




 上条当麻はその男のことを知っていった。
 たった一度しか会ったことはなかったが、しっかりと脳裏に焼き付いていた。

 その男と出会ったのは冬休みの時に行ったスキー場。そこで開催されていた雪合戦大会の準決勝のときだった。
 正体不明のチカラを使い、自分だけではなく他のチームメイトである友達にまで、雪合戦という領域を遥かに超えた攻撃をしてきた男。

 上条当麻はその男の名前を知っていた。
 叫ぶように、吠えるように、嘆くように、上条はその名前を口に出す。



上条「――垣根提督!!」

垣根「あ?」



 名前を呼ばれた垣根は今気づいたかような様子で上条へ話しかける。


垣根「テメェは雪合戦のときにいた無能力者(レベル0)じゃねえか。何でこんなところにいやがんだ? もしかして、何かやらかして捕まっちまったのか?」


 垣根は軽い冗談のようなものを交えながら上条へ問う。
 しかし、上条の耳にはそんな言葉は届いていない。


上条「何でテメェがこんなところにいるんだ!?」


 敵意剥き出しの上条を見て、垣根は面倒臭そうに頭を掻いた。


垣根「ったく、質問を質問で返してんじゃねえっつうの。俺はここに用があって来ただけだよ。少なくともテメェには一ミリたりとも関係のな……うん?」


 関係のないという言葉を言いかけた垣根が何かに気が付き、言葉を止めた。
 顎に手を当て、何かを考えている様子だ。
 しばらく考えてから、垣根の表情が変わる。

 禍々しさを放つような笑顔へと。


垣根「――テメェ、もしかして座標移動(ムーブポイント)を助けにこんなところまで来やがったのか?」

上条「ッ!?」


 図星を突かれた上条の身体に緊張が走った。
 垣根が笑いながら続ける。


垣根「ぎゃははっ、正解かよ? カッコイーなぁお前。そんなくだらないことのために一人で少年院にまで乗り込んだのか? 傑作だぜ」

上条「くだらないこと、だと?」


 上条は垣根を睨みつける。


上条「困っている友達を助けることがくだらないことなのか!? 鼻で笑われるような馬鹿馬鹿しいことなのか!?」

垣根「何をマジになってやがんだ。コイツもしかしなくても本物か? 気色ワリー」

上条「質問に答えろよ!!」


 お前が言うなよ、と垣根は呟く。
 ため息をついてから氷のような冷たい目で問う。


垣根「お前、座標移動とはどういう関係なんだ?」

上条「言っただろ! 友達だ!」

垣根「いつからだ?」

上条「ッ」




 上条は垣根の言いたいことを瞬時に理解した。
 それは今の上条がここに立っているという意思を打ち砕くような致命的なこと。
 だから、言葉が詰まり、返答をすることが出来ない。


垣根「幼稚園の頃からの仲か? 小学校の頃からか? 中学校の頃からか? 高校へ入学してからか?」


 垣根はそのまま続ける。
 

垣根「――アイツがテメェらのいる高校へ転入してから、か?」

上条「…………」


 上条は答えない。答えたくない。認めたくない。


垣根「もしそうだとするならよ、今の座標移動とお前は友達どころか知り合いですらねえ、完全な赤の他人ってことになるよな?」


 ダメだ。やめろ。やめてくれ。


垣根「だったらさ、今の座標移動がお前なんかの助けを待ってるわけねえだろ。そんなヤツを勝手に友達認定して助けに行くなんて、一体何様のつもりだよヒーロー気取りクン?」

上条「…………ぁ」


 少年の中にある芯が叩き折られた。
 上条は腕をだらんと下ろし、力なくその場に立ち尽くす。
 今まで自分を奮い立たせていたものが崩れ、気力が削がれる。


垣根「チッ、つまらねえヤツ」


 吐き捨てるように言った垣根は再び歩みを進める。
 独房へ繋がる階段のある、エレベーターのある方向へ向けて。

 呆然と立つ上条と目的地へと進む垣根がすれ違う。
 その際に垣根が、


垣根「さて、やっと会えるぜ『一方通行(アクセラレータ)』。今からぶち殺せるかと思うと楽しみで仕方がねえ」


 白い歯を不気味に見せながら、呟くように宿敵の名前を呟く。


上条「あくせら、れーた……?」


 上条当麻の耳にもその名前が届いた。少年の止まった思考が再び動き出す。

 なぜ、一方通行の名前をつぶやきながら結標のいる独房へと向かっているんだ?
 そういえば、結標を救うために暗部という闇に立ち向かっている一方通行は今どこにいるんだ?
 そんなの決まっている。今も結標を捜してどこかを駆け回っているはずだ。
 いや、違う。一方通行は頭のいいヤツだ。絶対に場所を突き止めて、そこにいるはず。
 そうか。だから、垣根帝督は――。


上条「――おい、垣根」


 上条は呼び止める。


垣根「あん?」


 垣根がどうでもよさそうに振り返り、呼び止めた少年の方へと目を向ける。


垣根「ッ!!」


 そこにいたのは右手を握り締め、右腕を振りかざし、右拳を垣根に叩き込もうとする上条当麻の姿だった。





 ゴガッ、と上条の鉄拳を垣根は腕をクロスすることで防御する。

 その衝撃で垣根の体が二メートルほど後ろへ下がった。
 腕に痺れを感じているのか、垣根は手を握ったり広げたりしながら、


垣根「一応、俺の体にはオートで能力の防衛機能が働いてたんだがな。相変わらず、気持ちの悪いみぎ――」

上条「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 垣根が言い切る前に上条は叫びながら再び右拳を振りかざす。
 大ぶりで腕を振り回すように放たれた右ストレート。
 チッ、と垣根は舌打ちをしてからそれを飛び越えるように跳躍して避けた。

 バサリ、と空中に滞在する垣根の背中から六枚の天使のような白い翼が現れる。
 
 そのうちの一本が巨大な杭となって、上条当麻の心臓を貫くために射出された。


 バキン。


 上条はまるで投げられたボールを掴むように杭を右手で捕らえ、握り潰した。
 静かに床に着地した垣根がそれを見て、忌々しそうに言う。


垣根「ホント、何なんだその右手? スキー場んときは何かの間違いかと思っていたが今ので確信したよ。テメェは異常だ」

上条「そうだよな。俺ってホント馬鹿だよな」

垣根「はあ?」


 一見、会話になってそうでなっていない上条の返答を聞き、垣根は眉をひそめた。
 それもそのはずだ。上条は自分に対してその言葉を言ったのだから。


上条「たしかに俺はヒーロー気取りの大馬鹿野郎だよ。勝手にそれが自分の『役割』だと思い込んで、一人で勝手に背負い込んでたんだからな」

上条「本当のヒーローは俺なんかじゃない。結標淡希っていうヒロインを助け出すのは『アイツ』なんだよ。俺はせいぜいそれを傍から見守るだけのエキストラだ。通行人Aだよ」


 上条当麻は誰かに問いかけるように続ける。


上条「だったらさ、通行人Aの俺が出来ることってなんだろうな? 俺の『役割』ってなんなんだろうな?」


 上条当麻は睨みつけるように垣根を見る。その瞳は先ほどまでの迷いのあった少年のものではない。
 希望のような、勇気のような、進むべき方向を見つけた、ハッキリとした意思を持った目だ。


上条「そんなの決まってんだろ? ヒーローとヒロインが一緒に困難を乗り越えようとしているのに、それに水を差すどころか泥水をブッ掛けようとしてるヤツが目の前にいるんだ」


 上条は右腕を真横に広げる。道を塞ぐかのように。





上条「そいつをこっから先へ通さねえことだよ。例え、この体が真っ二つに切り裂かれようが、全身の骨がコナゴナに砕けようが、この心臓が止まって死んじまっても、な」

垣根「……くっはっ」


 立ちはだかる少年を見て、垣根は吹き出すように笑った。


垣根「面白れえじゃねえかよテメェ。まさか、この俺が超能力者(レベル5)第ニ位の垣根帝督だと知った上で、そんな舐めた口を利いてくるヤツがいるとはな」

垣根「けど、残念だよ。いつもの俺なら少しくらい遊んでやろうっていう気も回してやれただろうが、今は状況が違う」

垣根「俺は今からその後ろにいるクソ野郎をぶっ殺してやらなきゃいけねえんだよ! 悪いが死んだっつうことに気が付けねえくらい、一瞬で終わらせてもらうぞ!」


 垣根の背中から伸びる白い翼が膨張するかのように大きく広がる。
 まるで裁きを与える大天使のように。



垣根「今日は雪合戦みたいな遊びじゃねえぞ!? 純粋な、混じり気の一切ない、一〇〇パーセント完全な未現物質(ダークマター)だ!! テメェの中の常識を百万回ひっくり返しても足りねえくらいの異常空間を、せいぜい楽しみなッ!!」



 上条当麻は宣戦布告する。超能力者(レベル5)第二位の男、垣根帝督へ。



上条「――殺してやるよその幻想。二人の邪魔をしていいなんていう思い上がった考えや、そんなくっだらねえチンケなチカラごと。この俺が、全部ッ!!」



 全ての現実を歪める異能の翼と、全ての異能を破壊する右手が、少年院内の廊下で交差した。


―――
――





 地下独房前の廊下で一方通行と土御門元春はその場で立ち尽くしていた。
 顔をしかめ、ある一点を見つめ、体を微動だにもせず、まるで身動きが取れなくなったように。
 その原因は彼らの視線の先にあった。


佐久「――へへっ、動くんじゃねえぞクソ野郎ども」

結標「ぐっ……」


 佐久という大男が結標淡希の首に腕を回してホールドしていた。
 首へ回した手にはコンバットナイフが、もう片方の手には拳銃が握られている。

 人質。

 この空間の支配権をブロックが再び引き戻していた。


佐久「少しでも動いてみろ。この女の首を掻っ切る。別に俺からすりゃコイツの命なんざどうでもいいんだがよお、テメェらからすりゃそうじゃねえんだろ?」

土御門「チッ……」


 舌打ちする土御門の額には汗のようなものが見える。
 想定外の状況に焦りを出てきているのだろう。
 しかし、一方通行は違った。


一方通行「…………」


 冷静に。表情を変えることなく。結標を。彼女を捕らえる佐久を。
 ただただ黙ってそれを見つめていた。


佐久「さて、人質を助けたいんだろ? こちらの指示に従ってもらおうか」


 形勢が逆転した佐久は一方通行を見る。


佐久「まずはその厄介な『AIMジャマーキャンセラー』とかいう玩具をぶっ壊してもらおうか」


 手に持った拳銃で一方通行の首元に付いている装置を指す。
 これがなくなると彼はAIMジャマーという装置の効力が働いているこの場所で、能力を自由に使うことができなくなる。
 まさしく絶体絶命な状況に陥ってしまうだろう。
 しかし、


一方通行「ああ」


 グシャリ。一方通行は間髪入れず返事をし、首の右側にある装置を握り潰した。
 装置の部品が床にバラバラと落下していく。


一方通行「ッ……!」


 一方通行の身体がふらついた。
 今まで受けていなかったAIMジャマーの影響を受けたせいだろう。
 これで一方通行は自由に能力を使うことができなくなった。




佐久「よくできました。それじゃあ、お次は――」


 そう言って佐久は銃口を一方通行へ向ける。


佐久「テメェらにはここでくたばってもらおうか。安心しろ。みんな仲良くあの世に連れて行ってやるよ」

土御門「みんな、だと?」


 土御門が佐久の言葉に怪訝な表情をする。
 一方通行と土御門を殺すのなら『二人』という単語を使うはずだ。
 なのに、佐久は『みんな』と言った。


佐久「そうだよ。どうせこの女もすぐくたばるんだからな」


 それを聞いて一人だけ驚愕の声を上げる者がいた。
 一方通行でもなく、土御門でもなく、結標淡希でもなく。


手塩「どういうことだ佐久!? 座標移動は、生きたまま上層部へ、引き渡す予定だっただろ!?」


 同じブロックの構成員である手塩だった。
 まるで初めてそのことを聞かされたような、戸惑いの表情を浮かべている。
 手塩からの質問に面倒臭そうに佐久が答える。


佐久「そういえばお前には言ってなかったか。この女は上層部には引き渡さねえ」

手塩「何だと? では一体、座標移動を、どうするつもりなんだ?」

佐久「決まってんだろ。こいつは俺たちが使うんだよ」

手塩「使う?」

佐久「そうだ」


 不気味に口角を上げて佐久が笑う。



佐久「――『空間移動中継装置(テレポーテーション)計画』。座標移動(ムーブポイント)はその計画の礎となってもらう」



 一方通行がピクリと体を震わせる。
 『空間移動中継装置(テレポーテーション)計画』。その言葉の意味を彼はよく知っていた。
 一定水準に達した空間移動能力者(テレポーター)を素体とし、一〇八台のスーパーコンピューターと連結させることにより、莫大な演算能力を与える。
 そして、それらは一つの装置として扱われるため、誰でもボタン一つでテレポートというチカラを使うことが出来るようになるというもの。
 この装置を作るためには空間移動能力者の肉体は必要なく、脳髄と脊髄が残っていれば運用が可能となっている。
 つまり、彼らが欲しているのは座標移動の脳であり、結標淡希という少女は必要ないということだ。


手塩「その計画については、簡単にだが知っているつもりよ。だが、あれは我々だけで、再現できるものではないはずだ」

佐久「たしかにそうだな。けど、その点に関しては問題ないぜ。既にそれを再現してくれるスポンサーは見つけてある」

手塩「スポンサーだと?」

佐久「外部には学園都市の科学技術を狙う輩はたくさんいんだよ。その中には、それを再現できるだけの技術を持つ組織だって存在する」

結標「…………」


 結標が顔を曇らせる。
 かつての彼女も、学園都市の外部にある『科学結社』という組織と取引をしていたからだろう。




土御門「外部組織だと? 馬鹿な」


 土御門が問う。


土御門「上層部が一番気にしているのは外部への情報流出だ。だから、外部組織との連携の監視は一番力を入れている。そんな中、貴様らはどうやってコンタクトを取った」


 質問に対して佐久はあっさりと答える。


佐久「知らないのか? 俺たち『ブロック』の仕事は学園都市の外部協力機関との連携を監視することだ」

土御門「……なるほど、そういうことか」


 土御門は納得したように呟いた。


佐久「はぁ、余計なこと喋りすぎたな。あんまりここに居座ってクソどもを増やしてもしょうがねえか」


 再び、佐久は拳銃の照準を一方通行へ合わせる。
 引き金に指をかけた。


佐久「――くたばりやがれ第一位!! せいぜい、地獄に落ちねえように閻魔大王様に許しを乞うんだなァ!!」


 銃口を向けられた一方通行は目を逸らさない。佐久だけを見ている。
 佐久が引き金にかけた指に力を入れる。
 あと数ミリで銃弾が発射される位置まで押し込まれる。

 しかし、発砲音がなる前に別の音が通路内に鳴り響いた。
 ピピピピピピピピピッ!! という不安感を煽るような甲高い電子音が。


手塩「……これは、非常時の支援要請の音か?」


 手塩はこの音を知っていた。
 『ブロック』内で使われている携帯端末の着信音。
 それは緊急事態に陥っており、助けを求めている仲間からの連絡が来ていることを表していた。


佐久「…………」


 佐久の指から力が抜ける。どうやら、その着信音は佐久の端末から鳴っていたようだ。
 そのまま引き金から指を離し、拳銃を持ったまま腰に付いた携帯端末を取る。
 ピッ、と端末のボタンを押すと甲高い電子音が鳴り止み、通話モードとなった。
 佐久は端末を耳に当てる。


佐久「鉄網か? 何があった?」


 電話の先は鉄網という、同じブロックの幹部を担っている少女らしい。
 だが、電話からは声が帰ってこない。


佐久「まさか例の組織との連携で何か問題でも起きたのか? おい!」


 再び声をかけるが帰ってこない。
 と、思ったらザザッ、という音が聞こえたあと、女の声が聞こえてきた。




??『どーもー! 『ブロック』のリーダー佐久ちゃーん? お外にいるお友達と随分楽しいことやってたみたいだねえ?』


 その声は佐久の知っている鉄網という少女の声ではなかった。
 少女と比べたら低く、大人びたような声色をしている。


佐久「……誰だテメェは?」

??『あれれー? もしかしてわからないわけー? うーん、しょうがないなー。ちょっとだけヒントあげちゃおうかにゃーん?』

佐久「ふざけてんのか!! いいからさっさと名乗れ!!」

??『アンタらブロックと同等の機密レベルを持っていてー、上層部や暗部組織の監視や暴走の阻止を業務としている組織はなんでしょーか?』

佐久「なっ……!」


 クイズのような問いの中にある言葉言葉を聞いて、佐久は気付く。
 恐る恐るという感じに、電話口に答える。


佐久「『アイテム』、そのリーダーの麦野沈利か?」


 いひっ、と電話口の女は小さく笑う。


麦野『だーいせいかーい!! ま、って言っても正解したところで景品やら特典なんてものは、なーんにもないんだけどねー?』

佐久「ッ」


 佐久の端末と繋がっているのは同じブロックの構成員である鉄網の端末だ。
 その端末を麦野沈利が使っている。つまり、電話の持ち主が既にいなくなっているということ。

 佐久が鉄網に与えた仕事は外部組織との連携。
 ブロックの仕事をしている中で佐久が作った外部への運搬ルートを利用し、鉄網は学園都市の外へ出た。
 そして、外部組織のアジトへと向かい、今組織の人間とこれからの流れを打ち合わせしていることだろう。

 麦野沈利がその学園都市外にいる鉄網の携帯端末を持っているということは――。



佐久「――テんメェええええええええッ!! よくもやりやがったなあああああああああああああああああッ!!」



 佐久が電話口に向かって吠える。
 肺の中にある空気を全部吐き出すような声量で。


麦野『やりやがった、って一体何のことなのかにゃーん? アンタらの仲間の陰気臭えガキをブチ殺したこと? アンタらのお友達の組織とやらを皆殺しにしたこと?』


 電話の先の麦野の声が、嘲笑するようなトーンへと変わる。



麦野『――それとも、テメェのコツコツと積み上げてきた全部を、跡形もなく叩き潰してやったことかなー?』



 ガシャン!! 怒りで頭に血が上った佐久が携帯端末を壁に投げつけた。
 衝撃に耐えきれなかった端末は砕け散るようにバラバラの部品となり、床に散らばった。


―――
――





麦野「ぎゃははははははははッ!! 全然物事がうまくいかないからって物に当たるなんて、ガキかよこのオッサン!?」


 血塗られた端末を片手にアイテムのリーダー麦野が笑い声を上げていた。


滝壺「しょうがないよむぎの。あそこまで小馬鹿にされたら、誰だって怒ると思うよ?」


 高笑いする麦野の言葉に、ぼーっとした感じで滝壺が反応する。


絹旗「こんな周到に超準備してるようなヤツですからねえ。プッツンとキてもおかしくはありませんね」


 冷静な表情で絹旗が言う。

 彼女たち『アイテム』は今、学園都市の外にある廃病院のような建物の中にある一室にいた。
 廃病院なのは外見だけだった。学校の教室二つ分の広さのある部屋には、研究機材等の設備で溢れており、いかにもな研究所という感じだ。
 あちこちには研究員と思われる男たちが倒れており、施設の床が血の海のように赤く染まっていた。

 そんな中をアイテムの構成員フレンダが室内を歩きながら考え事をしていた。


フレンダ(……昨日今日の私、ほんとダメダメって訳よ)


 この施設の中には五〇人近い死体が転がっている。そのほとんどが麦野沈利、絹旗最愛がやったものだ。
 しかし、フレンダはここでは一人たりとも倒せてはいなかった。
 自分ではいつも通りやっているつもりだった。頑張っているつもりだった。
 だが、なぜだかフレンダの思うような結果は付いてこなかった。


フレンダ(……もしかして私、弱くなってる……?)


 具体的に何が弱くなったとか、フレンダ自身は理解していない。
 ただ、自分の中で何かが変わってしまったのじゃないか、と漠然とだがそんなもの感じていた。


フレンダ(このままじゃ足手まといになってしまう……どうにか、どうにかしないと)


 今日の自分の調子が悪いのは、しょうがないで済むかもしれない。
 だが、これ以上はそれでは済まないかもしれない。

 もし明日も調子が悪く、このままだったら。
 もし一週間後も調子が悪く、このままだったら。
 もし一ヶ月後も調子が悪く、このままだったら。

 もしずっとこのままだったら、フレンダはもう『アイテム』というこの居場所にいることができなくなる。
 役立たずの烙印を押され、排除されてしまうだろうからだ。
 そんなことを考えているフレンダの表情には陰りのようなものが見えた。

 室内をにある扉のない物置のような小部屋の前に、フレンダはたどり着いた。中にあるダンボールや機材をぼーっと眺める。
 そんな彼女に一人の少年が近付く。


浜面「どうかしたのか? フレンダ」




 下部組織の一員の浜面仕上が何気ない感じで話しかけた。


フレンダ「……ううん、別にどうもしないけど」

浜面「そ、そうか。ならいいんだけど」

フレンダ「というかまだ仕事中だよ? 持ち場から離れちゃって、こんなところでサボってたら麦野に怒られちゃうって訳よ」


 呆れるようにフレンダは言う。彼はこの部屋の入り口を見張る役目だったはずだ。
 何でこんなところにいるんだ、とか思いながらフレンダは彼を持ち場へ戻させるために手をひらひらとさせる。
 すると、急に浜面の表情が強ばる。


浜面「――フレンダ!! 危ねえッ!!」

フレンダ「えっ」


 浜面仕上が急に目の前の少女の両肩を掴み、床へ横向きに押し倒すように力を加える。
 突然のことでフレンダは踏ん張ることが出来ず、そのまま横向きに床へと倒れ込む。


 ドガッ!!


 鈍い打撃音のような音が聞こえた。



フレンダ「……痛ッ、な、何なのよいきなりぃ」


 肩と背中を硬い床へ軽く打ち付けたのか、フレンダは肩の後ろ部分を手で抑えていた。
 苦痛の表情に怒りを混ぜて、フレンダは現在進行系で自分を押し倒している少年を睨むように見る。


フレンダ「ちょっと浜面ぁ! アンタ一体――へっ?」

浜面「け、けがは、ねえか? フレンダ……」


 フレンダの目の前にいる少年は安堵の表情を浮かべている。
 しかし、その少年のこめかみの辺りから、赤い液体がダラリと流れていた。
 顔を伝って流れる液体は重力に従い落下し、ぽたりと真下いる少女の頬へと雫となって垂れ落ちる。


フレンダ「なっ、何でアンタ怪我して……ッ!?」


 フレンダは目だけを動かして、浜面の頭より後方を見る。

 そこには鉄パイプのような棒を持った、研究員のような格好をした男が立っていた。

 一体どこから現れたんだ、とフレンダはふと思い出す。
 自分は今扉のない物置のような部屋の前に立っていた。
 物置ということは物がたくさん置いてあり、その数に比例して物陰がたくさんできるということだ。
 つまり、あの男は今の今まであの部屋の中にある物陰に隠れて、ずっと機会を伺っていたということだろう。一矢報いれるチャンスを。

 そんなことを考えている中、男が鉄パイプ強く握り締め、大きく振りかぶったのが見えた。
 このままあれが振り降ろされたら、目の前にいる少年に硬い鉄パイプが当たってしまう。
 大怪我、最悪死ぬ。





フレンダ「浜面ッ、避け――」


 ドグシャ!! 鉄パイプが振り下ろされる前に、男の頭部がコンクリートの壁に叩きつけられた。
 同じアイテムのメンバーである絹旗最愛が、獣のような表情をして拳を男の顔面に叩き込んだからだ。
 鉄板をも容易に貫く絹旗の拳を受けた男の頭は、砕け散ってザクロのように赤い物体を周りに撒き散らした。


絹旗「調子に乗ってンじゃねェぞ、クソザコ野郎がッ……!」


 吐き捨てるように言った絹旗は、視線を男だったものから床に倒れ込んでいるフレンダたちへ向ける。


絹旗「超大丈夫ですか? 二人とも」

フレンダ「う、うん」

浜面「あ、ああ、助かったぜ絹旗……」


 そう言って浜面はゆらりと立ち上がった。それを追うようにフレンダも立ち上がる。
 別の場所にいた麦野と滝壺が、騒ぎを聞きつけたのかこちらへと駆け寄ってきた。


麦野「おーおー浜面クーン。随分と男前な面になったもんだねー」

滝壺「大丈夫? 血が出てる」


 滝壺はポケットからハンカチを取り出して、それを浜面へ差し出す。
 それを受け取った浜面が薄く笑って、


浜面「……あ、ありがとうな、た、きつ、ぼ……」


 浜面仕上の意識が消え、体が床へと倒れ込んだ。


滝壺「はまづら……!」

麦野「あっちゃー、当たりどころが悪かったのかねー? 絹旗。下部組織に連絡してここの後始末の指示と、浜面の代わりの運転手を一人こっちに寄越させなさい」

絹旗「了解です」


 アイテムのメンバー三人が忙しなく、手際よく動いている中、フレンダは倒れた少年を呆然と見ていた。


フレンダ「…………」


 フレンダは考える。
 この少年が怪我をしたのは自分のせいなのではないか、と。
 普通に考えれば、あんな隠れる場所が多くある物置に伏兵がいないわけがない。例えいなかったとしてもいる前提で行動するべきだ。
 フレンダはそこまで考えられていなかった。いつもなら絶対にやらないミスだ。
 そのミスのせいで、この少年は怪我を負った。下部組織の下っ端だとはいえ、仲間を危険に晒した。

 私のせいで。私のせいで。私のせいで。私のせいで――。


―――
――





土御門「……電話の内容まではわからないが、どうやらお前らの思惑はうまくいかなかったようだな」


 土御門は、携帯端末を通路の壁に叩きつけて、息を荒げている佐久を見て、言った。
 彼はブロックの二人に暗に『これ以上の抵抗は無駄だ。投降しろ』と言っている。
 それは佐久も手塩もよく理解していた。

 手塩が佐久の方を向いて、


手塩「……もう潮時だ。佐久」


 諦めの言葉を聞いた佐久はギリリと歯を鳴らす。


佐久「ふざけんな手塩ッ!! 俺たちはまだ負けてねえッ!!」

結標「うぐっ……!」


 人質を抱えている腕の力が強まり、結標から息が漏れる。
 佐久は手に持ったコンバットナイフの刃を少女の首筋に突きつけ、威嚇するように叫ぶ。


佐久「オラオラッ!! 俺たちにはまだこの座標移動がいんだよッ!!」

土御門「無駄だ。そんなことをしても貴様は生き残れない。仮にここから逃げ切れたところで、学園都市から反逆の罪で追われるだけだ。例え、外へ出られたとしてもな」

佐久「それはどうかな?」


 白い歯を見せながら土御門を否定する。


佐久「コイツは俺たちトップシークレットの暗部組織全部に回収命令を出すくらい、上層部から価値があると見られている存在だ。コイツを交渉材料に使えば活路はある」

手塩「活路だと? これ以上、何が出来るというのよ?」


 率直に疑問に思った手塩が聞く。


佐久「んなモン後から考えりゃいいんだよ!! 今はここを無事出ることだけ考えろ手塩ォ!!」

手塩「馬鹿な……」


 手塩の顔が曇る。
 リーダーの場当たり的な判断に嫌気が指したのだろう。
 そんなことも気にせず佐久はぼやくように続ける。


佐久「大体、あんなに苦労して手に入れたんだからよお、しっかりと有効活用しなきゃ割に合わねえだろうよクソッたれが……!」

一方通行「……苦労、した?」


 ずっと無言で佐久を見ていた一方通行が口をはさむ。
 まるで何かに引っかかったかのように。

 それを聞いた佐久が待ってましたか、とでも言うような笑みを見せる。


土御門「――よせ! これ以上ヤツの言葉を聞くな! 一方通行ッ!」


 佐久に気付いた土御門が止める。
 しかし、無力にも佐久の言葉が一方通行の耳へと届く。




佐久「そうさ!! コイツの記憶を戻すように動いたのも、コイツがここに来るように仕組んだのも、こういう環境を作り上げたのも、全部俺たちだッ!! 今まで散々コキ使ってくれたクソったれな上層部を潰すためになッ!!」

佐久「だったらよ、その努力が少しくらい報われてくれるような展開があってもいいよなぁ!? なあオイッ!?」


 滅茶苦茶な理論を正当な発言かのように、佐久は己の言葉を全部ぶちまける。
 身勝手で、禍々しい悪意が彼から発せられたように思えた。

 その悪意に触れた一方通行の目が剥かれる。赤い瞳の中にある瞳孔が収縮する。
 一方通行は呟くように、



一方通行「……そンなことのために」


 ――二人の未来が奪われたのか。


一方通行「……そンなことのために」


 ――あのガキは涙を流したのか。


一方通行「……そンなことのために」


 ――結標淡希はあンなにも酷く傷付けられたのか。


一方通行「……そンなことのためにィッ!!」




 ――自分たちの居た世界は跡形もなく破壊されてしまったのか。




 ブツッ。



 一方通行の中にある何かが壊れた。それが何かはわからない。
 だが、それが何か重要なものなのだということはわかる。なぜなら、それを失ったことによって彼の中にドス黒い何かが流れ込むのを感じたからだ。
 決壊したダムの水のように、土石流のように流体は一方通行の意識を侵略していく。
 喜怒哀楽。彼を構築するあらゆる感情の輪が全て崩壊する。バラバラになった様々な色の粒子が全て流体に飲み込まれた。
 一方通行の中にたった一つの色だけが残る。


 『黒』。


 その意味――『純粋な殺意』。






一方通行「ゴガァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」







 その黒い殺意は現出された。
 少年の背中から。


 噴射されるように溢れ出る一対の黒い翼として。


――――――


この上条さんメンタル弱すぎ問題
このシリーズじゃないSSも書いたことあるけどそのときも上条さんと垣根戦ってたな成長してねえ

次回『距離』

あへあへバトルパートはこれでラストや長かったね

投下



S10.距離


 第七学区と第一〇学区の境界線にある、吹き抜けで一階と二階が繋がった大型の倉庫。建物内は荒れていた。
 爆風が巻き起こり、砂煙が舞い、建物は揺れ、金属と金属が激しくぶつかり合うような音が幾度とも鳴り、崩れた天井が次々と床へと落下していく。
 災害とも言えるような現象。これは一人の少女と、一〇〇にも近い数の機械の獣によって起こされたものだった。

 少女の方は木原円周。
 ロケットのような速度で床から壁へ、壁から天井へ、天井から床へと、高速移動し、機械の獣を追う。
 彼女の拳を受けた壁はガラスのようにひび割れ、彼女の蹴りを受けたコンテナは針で突かれた紙のように穴を開けた。
 自分の体を顧みず暴れるように動き回る少女だったが、その体には砂煙による汚れのようなものが見えるが、致命傷のような傷は一切負っていなかった。

 機械の獣の方は暗部組織『メンバー』で作られた犬型のロボット『T:GD(タイプ:グレートデーン)』。
 正確に言うなら、それの背中にガトリングレールガンという第三位のファイブオーバーを搭載した、『T:GD―C(タイプ:グレートデーンカスタム)』。
 一〇〇近い数の方向から単発でも戦車の装甲さえ貫通し、破壊する砲弾が毎分四〇〇〇発という嵐のような攻撃が発射されるという脅威。
 それが発射される度に空気は振動し、射線にある障害物は全て吹き飛び、コンクリートの床を抉り取り、天井に大穴を開けた。

 二つの戦力がぶつかり合う中、倉庫の中心部に木原数多と博士が相対していた。
 周りの騒音を気に留めず、お互いに一〇メートル位の距離を空け、二人はただただ睨み合っている。
 二人のいる空間だけは、なぜか静寂だった。
 床は傷一つない綺麗なままだし、倉庫内を飛び交う破片は落ちず、砲弾がその一帯へ発射されることもない。

 安全地帯にいる博士が安全地帯にいる数多へと話しかける。


博士「くくっ、見事な位置取りだ。たしかにそこに居ればガトリングレールガンが発射されることはない。あの機械には私を巻き込まないようにする設定をしているからな」

数多「残念ながらそれだけじゃねえよ」


 笑みを浮かべながら数多が空を駆けている少女を指差す。


数多「あのガキは俺らを巻き込まねえように戦ってんだよ。どうすればこの一帯に傷がつかないようにするか、考え、工夫し、実行している。馬鹿馬鹿しいとは思うが、ヤツは今そういう『思考』を持ってんだ」


 博士もその少女のことを見ながら息を漏らす。


博士「しかし、あれは見事だな。まさか第一位の『FIVE_Over(ファイブオーバー)』が作られるとは。しかも、あんなに元の能力者の身体を維持した形で」

数多「はぁ? アレはそんな高尚なモンじゃねえよ。ただの子供の工作だ」


 面倒臭そうに数多は後頭部を掻く。


数多「大体、アレのどこがファイブオーバーだ? 第一位の能力を部分的に超えるどころか再現すら出来てねえじゃねえか。そう考えたら『アウトサイダー』にすら満たねえ欠陥品だよ」

博士「あれは木原円周が作ったのかね?」

数多「そうだな。せっかく第一位と接する機会が多くなったんだからな、って感じにな。ま、でもあれは作ったというよりは既存の技術を組み合わせただけのキメラだ。物理干渉電磁フィールド、慣性制御装置、反重力発生機、発条包帯――」


 その他二〇ほどの名前を言ってから、木原は億劫になったのか言うのをやめた。
 そもそもこんな話をしても何にもならない。本題に戻す。
 博士の側にある小さなコンテナの上へと横たわる少女を見る。


数多「随分と手の込んだことをしてんじゃねえか。今ごろほとんどのヤツらは座標移動(ムーブポイント)を中心に動き回ってるっつうのに、テメェらだけはそこで寝てるガキを狙うなんてな」

博士「何のことかね?」

数多「今第一〇学区の少年院でハシャイでいる『ブロック』とかいう連中、アイツらを焚き付けたのはテメェらだろ?」


 博士は不敵に笑う。




博士「どんな物語にも道化は必要ではないかね? 木原数多君」

数多「うっとおしいジジイだ」

博士「ところで、呑気に私などと談話などしていていいのかね?」

数多「あ?」


 いつの間にか博士の手には携帯端末が握られていた。


博士「そういえば、君は以前馬場君と戦ったときに、敵と仲良く談話していて形勢逆転されてしまった彼のことを、間抜けなヤツと称していたな」


 ザッ。
 木原数多の周りで何かが動いた。だが、そこには何もないように見える。
 しかし、それはたしかにそこにある。まるで数多の逃げ場をなくすように、取り囲むように。
 博士は笑う。


博士「――今の君も、同じく間抜けだよ。木原君」


 瞬間、数多の数メートル先の床に転がっていた査楽が絶叫した。


査楽「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」


 査楽の両足の膝から先が無くなっていた。
 いや、無くなったのは肉だ。皮だ。血液だ。
 少年の足は、履いていたジーンズと靴と骨だけになっていた。


数多「『オジギソウ』か。相変わらずの趣味の悪さだな」


 数多はその光景を見て、吐き捨てるように言った。


博士「知っていたか。特定の周波数に応じて特定の反応を返すナノサイズの反射合金の粒だ。その粒一つ一つが、接触するだけで細胞をバラバラに引き剥がし、骨と服だけしか残さない優秀な清掃道具だ」

博士「オジギソウは今の君を取り囲むように配置してある。ネズミ一匹逃げられるような隙間もない。君は終わりだよ」


 触れたら死ぬ檻に閉じ込められる。今の数多の状況を端的に表すとこうか。
 だが、その檻は動く。数多の安全地帯を狭めるように、殺意は最終的に数多を包み込む。
 絶体絶命とも言えるような状況で数多は、


数多「……なぁ、ジジイ。ビリヤードって知ってるか?」


 世間話のようなことを始めた。
 

博士「ビリヤード? キューで球を打って一五個の玉を穴に落とすゲームのことか?」

数多「そうだ。俺あのゲーム好きでよくやるんだよな」

博士「……何のつもりだ? そんな突拍子もない話を始めて」





 怪訝な表情をする博士。駅前で裸踊りをしている男を見るかのような目だ。
 しかし、数多は気にせず続ける。


数多「あれってな、手玉の形や重さ、キューの先端の硬さや摩耗率、並んだ一五個の玉の位置関係、細かい反射角やその場の空気の流れ、テーブルの上に乗るチリ一つ一つ」

数多「他にもいろいろあるが、そういうのきちんと計算すれば誰でも一発で一五個の玉を、全てポケットに落としてやることができるんだぜ?」


 数多はウンチクでも語っているように得意げな表情をする。
 その意図がわからない博士は解せない様子で、


博士「だからそれが何だというのだね? 君はもうその楽しいゲームすら出来なくなる。それくらいわか――」


 ゾクリ、と博士は背筋が凍るような感覚が走った。
 博士は前方一〇メートル先にいる数多を見る。
 彼の表情が一変した。
 先ほどの趣味の話を活き活きと語る男の顔から、『木原』特有の実験動物を見るような禍々しい顔へ。


数多「俺は力の制御に関する天才だ。金槌のような打撃を電子顕微鏡レベルの精密さで操作できるし、ある程度の外装の機械なら、殴った衝撃を弄って中身のCPU部分だけを破壊することだってできる」


 手につけた機械的なグローブ。マイクロマニピュレーターをガチャガチャと動かしながら。



数多「――それが『木原』だ」



 危機感を覚えた博士は、手に持った端末を操作する。
 一秒後、オジギソウが木原数多を包み込み、骨と衣服だけを残して分解するように。

 だが、それより早く木原数多が動く。
 腕が消えたと錯覚するような速度で、何もないように見える空間を殴りつけた。
 凄まじい拳圧だったのか、一〇メートル先にいる博士の頬をそよ風のような冷ややかさが撫でた。


 一秒後。


博士「……そ、そんな馬鹿な」


 博士は何度も瞬きをする。目を擦る。目を凝らす。
 しかし、彼の見る景色は何一つ変わらなかった。

 木原数多が存在していた。
 全身の肉が毟られ、骨と衣服だけ残して消えるはずだった男が。何一つ変わることなく。彼の目に映り続けた。


博士「なぜ貴様が生きている!? なぜオジギソウが効いていないんだ!?」


 手に持った端末の画面を見た。この画面にはオジギソウの稼働状況が表示されている。
 折れ線グラフや数字の羅列、散布状況をモニタリングするレーダーのようなもの配置されていた。
 それらを見て、博士は額に嫌な汗がにじみ出る。


博士「オジギソウが、全て工場の外へ流れ出ている、だと……?」


 オジギソウの散布状況を表すレーダーが、博士から一〇〇メートル以上離れた位置に、何十グループに分かれて配置されていることを示していた。
 どういうことだ、と博士はオジギソウの移動履歴のデータを確認する。
 それを見ると、たしかについ数秒前までは木原数多の周囲にオジギソウがいたことがわかる。
 しかし、数多が拳を空間に突き付けた時を境に、その状況は大きく変化していた。
 オジギソウたちが壁や天井に開いた数十の穴へ向けて、吸い込まれるように流れ出ていたのだ。
 きっかけは間違いない。木原数多の強打だ。

 そこで博士は思い出した。数多の言っていた無駄話の中にあった単語。『ビリヤード』。




博士「――ま、まさか貴様っ、オジギソウをビリヤードの玉のように弾いて、あの工場に開いた穴から外へ全て放出したと言うのか!?」

博士「ありえん!! ナノサイズの粒子だぞッ!? たしかにそれが物理的な現象であれば不可能はない!! しかし、その計算結果を導き出すためにどれだけの情報量がッ、天文学的な数字がッ、それを再現する技術がッ!?」


 はぁ、と数多はため息をつく。


数多「もういいか?」

博士「ッ!?」


 数多はズボンのポケットに手を突っ込みながら、ゆっくりと博士のいる方向へと足を動かす。
 その足取りは軽く、まるで近くのコンビニにでも行くかのような気軽さを感じる。


博士「糞ッ!!」


 オジギソウは全て建物の外。呼び戻すには時間が足りなさ過ぎる。
 目の前の化け物と戦えるような手段が全て消えた。そう思った。
 だが、博士は気付く。まだ終わりではないことに。


博士「――馬場ァ!! グレートデーンで私を守れ!! カスタムもだッ!!」


 小さなコンテナの上で寝ている少女の隣に佇んでいる、犬型のロボットへ命令する。
 あのロボットは常に馬場という少年と通信が繋がっており、こちらの状況がモニタリングされているはずだ。
 他の一〇〇近い数がいるロボットは基本自動操作の為、あのロボットを操作して援護する余裕くらいあるだろう。


イヌロボ『…………』


 しかし、犬型のロボットは答えない。


博士「何をしている!? 馬場ァ!!」

イヌロボ『…………』


 やはり、犬型のロボットは応じない。
 妙だと思い、博士はそのロボットを目を凝らして観察してみる。
 起動中は絶えず点滅しているはずの頭に付いたサングラスのようなセンサーが、全くと言っていいほど点滅していない。
 まるで、電源が切れているような。

 ふと、博士は気付いた。
 この倉庫内は、木原円周と一〇〇近いガトリングレールガンという兵器を搭載した犬型のロボットが交戦している場所だ。
 絶えず爆発音や、金属がこすれ合うような音、コンクリートが砕けるような音が響き渡っていた。
 ビルの解体現場の隣とは比べ物のならない騒音地帯のはずだ。はずなのに――。

 静かだった。今まで聞こえなかった夜風の音が聞こえる。
 博士は辺りを見回した。

 機能が停止して、電池の切れた玩具のように床に転がっている一〇〇近い数の犬型のロボットがいた。


博士「なっ」




 外部に目立った外傷はない。木原円周に破壊されたわけではない。
 つまり、制御している側で何かあったということ。
 具体的に言うなら、襲撃。

 いつの間にか木原数多は博士の目の前に立っていた。
 見下ろす数多に対し、博士は見上げるように目を尖らせる。


博士「木原貴様ッ……!」

数多「何だその目は? 別に俺は何にもしてねえぞ」

博士「貴様ら以外に誰がいる!?」

数多「いるじゃねえかよ。もう一人」


 何かを知っているように数多は言う。


数多「……テメェら、一体誰を敵に回したのかわかってんのか?」


 そう言われて博士はあることを思い出した。
 このガトリングレールガンを積んだ犬型のロボットたちは、遠隔している少年が操作しない限り基本自動制御で動いている。
 普通の人間なら同時に一〇〇ものロボットを制御することができないからだ。
 だから、仮に遠隔している者に何かがあっても、自動制御のロボットたちは従来のプログラム通りに動く。
 あのように停止させるためには、遠隔している少年に停止プログラムを起動させなければいけない。

 いや、違う。


博士「――そうか」


 博士は笑った。
 全てを理解したからだ。



博士「貴様らは、最初からこれを想定して動いていたのか!? 木原数多ァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」



 廃墟のようになった倉庫内に響き渡った男の絶叫は、すぐに途切れて静かになった。


―――
――





 木原数多や博士がいる二つの学区を跨いで建てられた倉庫。
 そこから約一キロほど離れたところにある大型車両用のパーキングエリア。
 その中に一台の大型トレーラーが駐車している。
 暗部組織『メンバー』の遠隔地からのサポートを任務としている構成員の一人。馬場芳郎がそのトレーラーの中にいた。

 トレーラーの中は部屋のような構造をしており、中には通信機器や分析用のコンピュータ、そしてメンバーが使用しているロボットの制御装置を積んでいる。
 電子制御で開閉する扉は防弾・防爆仕様で、彼がここの扉を自発的に開けることがない限り、外からの侵入を許すことはない。
 いわば、ここはメンバーの司令室のようなものだ。馬場芳郎はこの中で指示やサポートを行っている。

 そんな鉄壁の部屋にいる馬場は椅子から転げ落ちるかのように、床に尻もちをついていた。
 彼の目線の先は部屋の入り口の扉。扉が壁側にスライドし、外から冷たい空気を室内へ送り込んでいた。
 扉が開いている。それを我が目を疑うように馬場が見ていることから、彼がそれを開けたわけではないと思われる。

 彼の周りにはたくさんのモニターが設置されている。メンバーのサポート業務を行うためのコンピュータを使うためのものだ。
 ハッキング、通信の傍受、情報操作、レーダー、ロボットの制御、用途は様々。
 この部屋の要と言える数々のモニターだが、今は全て同じ画面が表示されていた。
 黒いバックに赤い枠ありの横文字で単語が一つ。『Locked』。
 馬場の存在意義が全て奪われたことを意味していた。

 部屋の外から、誰かが入ってきた。
 暗がりでよく見えないが、身長は一六〇センチくらい。体格や髪型からして少女だろうか。
 その誰かはゆっくりと、しっかりとした足付きで、馬場のいる方へと向かってくる。

 距離を取ろうとして壁を背中に擦りながら馬場が問いかける。


馬場「だ、誰だお前は!?」


 頭がテーブルにぶつかる。振動で上に置いていた二リットルペットボトルが床に落ちて転がった。
 中から炭酸の茶色液体が中から溢れ出ていく。


馬場「お前なのか!? ここの設備を掌握したクラッカーは!?」


 誰かは何も答えない。黙々と馬場との距離を詰めてくる。
 目の前と言える位置にその誰かが来た。
 モニターから発せられる淡い光に照らされ、その誰かの顔が浮かび上がってくる。


馬場「お、お前は……まさか!?」


 馬場芳郎はその誰かのことをよく知っていた。
 なぜなら先ほどまで、その少女のことをロボットのカメラ越しによく観察していたからだ。
 整った顔立ちで、茶髪を肩まで伸ばしている。
 数十分前まで床についていたのか、半袖のTシャツにショートパンツのルームウェアを着ていた。
 馬場は叫ぶ。その嫌というほど知っているその少女の名を。


馬場「――超能力者(レベル5)第三位!! 御坂美琴ッ!!」

美琴「…………」


 常盤台の超電磁砲(レールガン)と呼ばれる少女が。守るべき少女を彼の操作するロボットに奪われて右往左往しているはずの少女が。
 馬場の目の前に立ちふさがった。


馬場「なんでお前がここにいるんだ? お前に放った二〇機のグレートデーンは完全自動制御だ。僕の居場所を特定できるような要素は皆無だったはずだ。そういう風に対策したんだからな。なのに……なんでだッ!!」


 焦りと怒りが混じった表情で睨みつける少年。
 それに応じるように美琴も目を下に向ける。
 その表情は冷静だった。唇を横一文字で結び、表情筋が動いている様子がない。
 しかし、目だけは違った。まるで黒目が収縮しているようだった。そう思えるほど目を見開いていて、白目の面積が多くなっている。
 ずっと閉じていた少女の口が開く。




美琴「……やっぱりその声、あのときのヤツと同じだわ。婚后さんを傷付けやがったクソ野郎とまったく同じ」


 パチッ、と美琴の周囲に火花が走る。


馬場(ま、不味い。コイツ、まだあのときのことを根に持ってやがる……!)


 馬場は過去、婚后光子という少女と交戦し、倒し、痛みつけたことがあった。
 その少女は御坂美琴と友人関係にあったらしく、馬場はその件で激怒した彼女から手痛い報復を受けることになった。


馬場(くぅ、コイツがここに来るのは予想外だったが、僕だって対策をまったく取っていなかったわけじゃない……!)


 馬場は目線をそのままに手だけを動かして、自分のズボンの尻ポケットを探る。
 そこから試験管のようなの細長い入れ物のようなものを手に取った。


馬場(これは超電磁砲用にカスタマイズされたモスキートだ。最終信号(ラストオーダー)をさらったときに使ったグレートデーンと同じ、電磁波透過素材で出来た特注品さ)


 『T:MQ(タイプ:モスキート)』。蚊をモチーフにした極小サイズのロボット。
 その名の通り、蚊のように飛行して、取り付いた相手の皮膚に針を突き刺し、そこからナノデバイスを注入する。
 ナノデバイスを注入された者は高熱を発生させ、身動きが取れなくなるという兵器だ。
 彼が持っている入れ物にはこれが入っている。


馬場(通常のモスキートなら電磁波レーダーに引っかかって察知されてしまうだろうが、コイツは違う。つまり、こんな暗がりでコイツを出されたら目視で発見することも困難ッ。ヤツに防ぐ術は存在しないということだ)


 これを彼女に注入することができれば、いくら超能力者(レベル5)だろうと動けないただの一般人と相違なくなるだろう。
 たった一つの勝利条件にすがるように馬場は行動する。


馬場「ま、待ってくれ。話せばわかる。僕もやりたくて君たちを襲ったわけじゃないんだ。陰険なジジイに無理やり命令されていただけなんだ……」


 口八丁の言い訳を次々と並べていく。彼女を倒すためには時間を稼がなければいけない。
 その間にT:MQを起動するため、入れ物に付いた起動ボタンを指の感覚だけで探る。
 急げ、急げ、急げ、と指を細かく動かしつ続ける
 入れ物をガッシリと掴み、親指が起動ボタンにかかった。


馬場(き、来たッ!? これで、ヤツは完全におわ――)


 バチチチィッ!! 御坂美琴を中心に周囲へ電撃が放たれた。
 室内のモニターは全てひび割れ、コンピュータはショートし、床に転がっていた炭酸飲料の入ったペットボトルは感電して破裂した。
 それに伴い、馬場の体にも電気が走る。



馬場「ォおあああああああああああああああああああッ!?」


 
 電撃による痛みで絶叫する。モスキートの起動ボタンを押そうと力を入れていた腕が、変に力が入ってしまい腕が真上に上がった。
 その勢いで手に持っていた入れ物が放り投げるように宙を舞い、目の前にいる少女の足元へと音を立てて転がった。
 美琴は落ちた入れ物を拾い上げる。





美琴「ねえ。電磁波レーダーって知ってる?」

馬場「あが、あがが、がが、あば、ばばが」


 美琴が発した電撃波で舌がしびれて、うまく喋ることが出来ない様子だった。
 だが、気にせず美琴は話し続ける。

 
美琴「周囲に発した電磁波が物体に接触したときの反射波を利用して、周りの空間を把握できるってヤツなんだけど」


 モスキートの入った入れ物の中身を覗き込みながら、


美琴「これがどういう仕組みかよく知らないけど、私の電磁波レーダーを掻い潜れるみたいね。あの子をさらった犬みたいなロボットも同じ仕組みかしら?」


 「ま、でもそんなこと関係ないわよね」と付け加える。
 美琴は再び、地面に座り込む馬場へ目を向けた。


美琴「だって、レーダーで丸分かりだったんだもの。これを必死こいてポケットから取り出そうとしているアンタの間抜けな動きがね」


 馬場は感じ取った。自分ではどうしてもできないという無力さを。圧倒的な力を前にした絶望を。
 どんな能力者も徹底的に分析し、適切な対策を取れば倒せると思っていた。支配できると思っていた。
 しかし、現実は違う。自分たちの張り巡らせた小細工を規格外のチカラでねじ伏せる。
 既に負けていたのだ。超能力者(レベル5)を、学園都市が作り出した怪物を敵に回した時点で。


美琴「私、たしかあの時言ったわよね? 私の目の前や大事な友達の周りで一瞬でもあのロボを見かけたなら、アンタがどこにいようと必ず見つけ出して、潰すって」


 過去に通信回路越しで言った忠告を、再度馬場へ突きつけた。
 クシャクシャに歪めた馬場の顔から、目から、鼻から、口から、汚らしい体液が流れ出る。


美琴「けど、私だって鬼じゃないわ。こちらの条件を飲んでくれるなら、助けてあげないこともないわよ?」

馬場「ッ!!」

美琴「打ち止めの居場所を教えなさい」


 馬場に与えられた救いの手は、メンバーを裏切らないと掴むことが出来ない残酷なもの。
 メンバーを裏切るということ=統括理事会を裏切ること。つまり、学園都市そのものを敵に回すということ。
 苦渋の決断。前門の虎、後門の狼。
 人生の岐路に立たされた馬場は、口を震わせて歯をガチガチと鳴らす。


美琴「ただし、もし教えないという選択肢を取ったり、嘘を教えるなんていう裏切りがあったり、あの子がもう無事じゃないなんていう笑えない冗談を言うようなら」


 美琴が手に持った入れ物を自分の目前に持っていく。
 グシャリ。
 握力だけでそれをへし折り、砕く。



美琴「――殺すわよ」



―――
――






 一方通行は体の力を抜いたように両腕を垂らし、背筋を曲げながら立っていた。
 曲がっている背中から噴射するように飛び出した黒い翼は上へ上へと、核ミサイルにも耐える天井を突き破るように伸びている。
 長さは何メートルあるのかわからないが、あの先にあるあらゆる障害物は粉微塵に粉砕されていることだろう。


佐久「……何でだ」


 佐久は怪物を目の前にして恐怖を覚えた。
 体が震える。全身から絶えず嫌な汗が滲み出る。唾液が消えたように口の中が渇く。


佐久「何で能力が使えやがるんだテメェ!!」


 この施設のAIMジャマーは起動しているはずだ。でなければ人質になっている結標が何らかのアクションを取ってもおかしくないからだ。
 能力を使えばAIMジャマーの影響で何らかの不都合が発生する。腕が飛ぶなり、足が飛ぶなり。
 しかし、一方通行は目の前に五体満足で立っている。そして、現在進行系で能力を使用している。
 黒い翼というチカラを。

 ――本当にあれは能力なのか?

 佐久は科学者ではない。能力開発に関わる分野に詳しいわけでもない。物理法則に詳しいわけでもない。
 この世の全てのベクトルを操る能力者が、一体何のベクトルを操れば、あんな現象が起こせるのか。
 何一つ思い当たるような事象を佐久は導き出すことができない。
 だが、これだけはわかる。あの黒い翼はまともなものではない。まともな物理法則で動いているものではない。

 理解不能の現象を起こす能力者を目の前にして、ここにいる誰もが動けずに居る。
 同じ仲間のはずの土御門や、人質として囚われている結標はもちろん、相対している佐久や彼の隣りにいる手塩も。
 指一本さえ動かしてはいけない、目を反らしてもいけない、意識を別のものにすら移してはいけない。
 脅迫じみた圧力を感じていた。

 そんな中、一歩前に足を踏み出す者がいた。


 一方通行。


 背筋を曲げながらも顔だけは前を向き、真紅の瞳で佐久を捉えながら。


佐久「――一方通行ァ!! 動くなと言ったはずだがあッ!? こっちには人質がいることを忘れたかマヌケがァ!!」


 思い出したように佐久は叫ぶ。
 そうだ。こちらには最大の防御手段であり最大の攻撃手段である人質がいるのだ。
 一方通行がいくら強力なチカラを振りかざそうが、その事実には変わりない。
 佐久は再びナイフを結標の首筋に突き付ける。


結標「ッ……!」


 力が入りすぎたのかナイフの刃が人質の少女の首筋に当たる。
 裂ける痛みを感じたのか結標は顔をしかめた。
 傷口から赤い液体が首筋を伝って流れ出ていく。

 ゾクリッ、と佐久は背筋に刃物を突き立てられたようなプレッシャーを感じ取った。
 佐久は反射的に一方通行を見た。本能でヤツが発生源だと断定するように。

 一方通行の瞳の赤色が破裂したように広がり、眼球全体を覆っていた。
 目が充血しているとかそんな話ではなく、まるで最初からそうだったかのように染まっていた。




一方通行「――――」


 何かをブツブツと呟きながら、ゆっくりと、まるで狙いをつけるかのように、一方通行は左手を目の前にかざした。
 それを見た佐久はブチッ、と血管が切れるような頭で鳴った。


佐久「――だから動くなと言ったはずだろうがッ!! 馬鹿かよテメェえええええええええええええええええッ!!」


 咆哮する佐久。
 その感情は指示通り動かない目の前の少年に対する怒りなのか。
 それとも正体不明のチカラに対する恐怖心からなのか。
 佐久はナイフを握った右手の力を強める。


佐久「わかったわかったいいだろう。そんなに殺して欲しいなら、今すぐここでこの女をぶち殺してやるよおおああああああああああああああああああああああああああああッ!!」


 顔を歪めながら全身に力を入れる。体の全ての動きを結標淡希の首を掻っ切るために適応させた。
 一瞬という時間の間で頸動脈は切り裂かれ、噴水のように血液を噴出するだけの肉塊と化するだろう。


結標「ぐっ――」


 明確な殺意を、死の確定を感じ取った結標は覚悟する。
 目を瞑り、歯を食いしばった。


 ゴリュ。


 どこからともなく、何かの音が鳴ったのをここにいる全員が聞いた。
 その中でも佐久は、どこからその音が聞こえたのかを理解していたような気がしていた。
 ふと、人質を切ろうとしていたコンバットナイフを持った右手を見る。


 手とナイフが融合していた。


佐久「――なっ」


 まるで二色の紙粘土を混ぜてこねくり回したようだった。
 金属のナイフと指が不自然に歪な形で折れ曲がり、絡まるように一つとなっている。
 鉄色と肌色のマーブル模様の物体を認識した佐久は、



佐久「なんだこれァああああああああああああああああああああああああああああッ!!」



 目の前の非現実的な現実に錯乱する。
 人質を投げ出す。左手に持っていた銃を放り捨てる。
 自由になった左手で、右手だった物を抑える。
 意識が飛びそうだった。
 痛覚が潰されてしまいそうだと思えるほどの苦痛から逃避したくて。
 思考が狂ってしまうほどのリアリティーを頭から消し去りたくて。

 そんな佐久に追い打ちをかけるように、次の動きがあった。




 ダンッ!!


 見えない何かが佐久と激突した。
 トラックと正面衝突したような衝撃が、佐久の体全体に襲いかかる。
 彼の体はなすがまま後ろへ吹き飛ばされ、後方にあった硬い壁へ背中から叩きつけられた。
 肺に溜め込んだ空気が一つ残らず漏れ出ていく。


佐久「――ごぷっ」


 佐久へ与えられる苦痛はまだ終わらない。
 叩きつけられた体がそのまま壁に磔にされた。その見えない何かに押し付けられて。
 プレス機のように重く、ゆっくりな力で圧迫されて、肉体が壁の中へとめり込んでいく。
 圧力と壁に挟まれ、全身の骨がミシミシと悲鳴を上げる。内蔵が締め付けられて、体の穴という穴から血液が滲み出てきた。

 佐久をただただ破壊するためだけの現象。それを引き起こしているのは間違いなく、


土御門「やめろ!! 一方通行!!」


 土御門はその者を呼ぶ。一対の黒翼を携えた怪物を。
 彼の言葉に一方通行は反応を示さない。


土御門「オレたちとした取引条件を忘れたか!? ここでお前がヤツを殺してしまうと、お前はもう一生戻れなくなってしまう! お前が守りたかったあの世界へだ!」


 『お前は殺すな』。土御門が出した条件。
 その意図は、この一件を終わらせたあとに彼を元の世界に帰すために出したもの。
 汚れ役は自分たちだけで十分だ。土御門はそう考えていた。


土御門「人質となっていた結標は解放された! お前の目的は既に達成されたはずだ! これ以上の行動は何も生み出さない! 無意味なことにチカラを使うのはやめろォ!」


 土御門の必死な説得は、



佐久「――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」



 バキィ!! 痛々しい叫びを上げる佐久の後ろの壁に大きなヒビが入った。
 それは謎の見えない力の出力が増幅したことを意味する。


一方通行「etijht壊osa」


 土御門の言葉は彼には届かない。
 理性が跡形もなく粉砕され、破壊衝動に支配された一方通行。
 背中の黒い翼が彼の殺意に呼応するかのように、爆発的に天井へ向けて噴射された。


―――
――





一方通行『……ここはどこだ? 俺は何をしていた?』


 一方通行は寝起きのようにぼーっとした表情で辺りを見回した。
 狭い通路のようだった。四、五メートルほどの幅で、長さは端から端まで二〇メートルくらいあるだろうか。
 通路の左右にある壁のようなところには、等間隔で扉のようなものが取り付けられていた。

 先ほどから『のような』と曖昧な表現をしているが、それには理由がある。
 この目に映る景色はたしかにそれらの物だったが、それぞれの物の輪郭がゆらゆらと揺れていた。
 まるで陽炎のようだ。触ったら消えてしまいそうな、本当はここに何もないのかと思えるような。

 曖昧な世界の中には一方通行以外の人がいた。
 いや、人と称するのは間違いかもしれない。その人影一つ一つの輪郭も揺らめいていたのだから。
 人影はたくさんあった。しかし、ほとんどの影は輪郭だけで中身が見えない。黒で塗り潰した塗り絵のシルエットのように。
 そんな中でも、輪郭をぼやけさせながらも色を付けていた影が五つあった。


 一人は肩にかかるくらいの白髪を生やした線の細い少年のような影だった。
 左手を広げ、正面に腕を伸ばして何かに向けてかざしているような格好をしている。
 背中からはドス黒い竜巻のような噴射する翼が一対天井へと伸びていた。

 一人は金髪にサングラスをかけた少年の影だった。
 先ほどの白い少年に何かを喋りかけている様子だった。
 しかし、それに白い少年は見向きもしていない。

 一人は赤髪を腰まで伸ばした少女の影だった。
 床に投げ出されたようにうつ伏せで地面へ横たわっており、無理やり顔を上に上げて白い少年を見ている。
 その表情は、不安や困惑といったものが入り混じったように見える。

 一人は筋肉質で長身な女な女の影だった。
 白い少年の向いている方向。白い少年が手をかざしている方向を見て、恐怖で歪めた表情をしている。

 一人は熊のような大男の影だった。
 通路の端の壁に大の字のような体勢で、何かに強力な力で押さえつけられているように貼り付けられていた。
 苦痛を味わっているのか、白目をむくように目を大きく見開いていて、舌を揺らしながら大口開けて絶叫しているようだった。


一方通行『……そォだ』


 一方通行はそれらを見て、特に最後に目を向けた熊のような大男の影を見てあることを思い出した。
 それは彼の使命。命を賭してやり遂げなければいけないこと。自分の存在意義。
 大男を見つめながら、彼は呟く。


一方通行は『俺は、アイツを殺さなければいけなかったンだ。俺は、アレを破壊しなければいけなかったンだ』


 どういう方法を取ればいいのか。何をすればあの男を壊せるのか。
 彼は何一つ思いつかなかった。
 だから、一方通行はただ一歩踏み出した。壁に貼り付いた大男に向かって。

 すると、ある変化が見られた。
 ただでさえ苦痛で歪んだ男の表情が、さらに大きく歪んだのだ。




 一方通行はもう一歩踏み出す。さらに歪む。

 もう一歩踏み出す。また歪む。

 ニ歩、三歩と近付いていく。顔がグチャグチャになるくらい歪む。


 一方通行は理解した。熊のような大男の影を殺す方法は簡単だったのだ。
 ただ近付くだけでいい。近付くだけで彼は苦しむ。
 つまり、一方通行にとって彼はゴールなのだ。彼との距離がゼロになれば、最上級の苦しみを与え、命を奪うことができるだろう。
 だから一方通行は、進む、進む、進む。道中に居る白い少年や金髪の少年、赤髪の少女や筋肉質な女の影たちへ、気を止めることなく一目散に。

 そして、ついにたどり着いた。
 熊のような大男の影を目の前にして、一方通行は足を止める。
 今にでも崩れ去っていきそうな大男の顔を、見上げるように眺めた。
 一方通行の中にある憎悪や憤怒の炎が燃え上がる。なぜこのような感情が湧いてくるのかを彼は理解していない。
 だが、この感情に身を任せること。それが一番正しい判断だと一方通行は思っている。


一方通行『……コレで、終いだ』


 ゲームの終了を告げるように、少年はか細い手をゆっくりと大男の顔へと伸ばす。
 触れてしまえば壊れてしまうだろう。指先がかすっただけで潰れてしまうだろう。
 だからこそ、一方通行は鷲掴みにして握り潰してやろうと、男の目前で手を大きく広げた。


??『――待ってください!!』


 遮るように、誰かの声が少年の鼓膜へ突き刺さった。


一方通行『……あン?』


 差し出した手を引っ込めて、一方通行は体ごと後ろへ振り向く。
 声の持ち主はすぐ目の前にいた。
 少女だった。長い茶髪のストレートヘアを一束だけゴムで束ねて横に垂らしている。
 大きな眼鏡を掛けていて、制服のスカートを膝下まで伸ばしている、一見地味な外見。


一方通行『オマエは誰だ?』


 少女はじっと一方通行を見つめながら、引き締まった表情で答える。



風斬『――私は「風斬氷華」。あなたを止めに来ました』



―――
――





 風斬氷華は『正体不明(カウンターストップ)』と呼ばれる少女だ。
 その正体は、学園都市に住む能力者たちが無自覚に発する『AIM拡散力場』が集まり、人の形をとった集合体。
 普段は『虚数学区』というAIM拡散力場が集合して出来た世界に住んでいる。
 虚数学区は学園都市と常に隣り合うように存在する世界だ。風斬氷華はそんな世界を行き来しながら生活している。

 今、彼女が立っている世界はそのAIM拡散力場で出来た世界だ。
 つまり、目の前に立っている一方通行という少年は、その世界に入り込んでしまった迷人ということになるのか。

 現実はそうではない。彼は一方通行ではなく、一方通行の形をしたチカラの塊だ。
 一方通行は今なお現実世界に存在している。破壊衝動のままに行動する戦闘マシンとして。
 意識が吹き飛ぶほどの衝撃を受けた彼の精神が、彼の能力を通してAIM拡散力場へと溶け出して、この世界へと現出させたのだ。
 役割は『殺意の遂行』。佐久という男を破壊する役割だけを与えられたチカラが具現化した人形だ。

 だから、彼の中に残っているのは佐久に対する憎しみと怒りだけだった。


一方通行『俺を止めに来た、だと?』


 一方通行の形をした具現体が顔をしかめた。


風斬『はい』


 風斬は一言だけ返事をし、そのまま続ける。


風斬『やめてください。これ以上、罪を重ねるのは』


 風斬氷華の考えていることは、現実世界で必死に説得していた土御門と同じことだった。
 一方通行を元の居場所へ帰す。
 風斬はかけがえのない友人である少女を、それを取り巻く世界を守るために生きていくと誓っている。
 彼は、その少女にとって大事な存在の一つだ。彼を失うことは彼女の世界を大きく歪めてしまうことに等しい。
 悲しむ少女の顔を見たくない。それが彼の前に立ちはだかる風斬氷華のたった一つの意思だった。


一方通行『俺にコイツを殺すな、って言うつもりかよ』


 風斬の言葉の意味を理解したのか、具現体は噛み砕いて返した。
 少女は静かに頷いた。それを見た具現体が、


一方通行『ふっざけンじゃねェ!! 俺はコイツを殺すためだけにここへ立ってンだッ!! そンな安い言葉を突き付けられてハイハイとやめるわけねェだろォがッ!!』


 目を見開かせながら吠えた。具現体の怒りに反応したのか、彼の輪郭が大きく揺らめく。
 風斬は動じることなく問いかける。


風斬『本当にそうでしょうか?』

一方通行『どォいう意味だ?』

風斬『それが本当にあなたのやりたかったことなんですか? あなたが本当にやるべきことなんでしょうか?』

一方通行『何だと?』




 具現体は顔をしかめた。自分の根幹を為す部分を否定されたような気がしたからだろう。
 存在意義を揺らされた具現体は考え込むように口を閉じる。
 風斬は畳み掛けるように、


風斬『あなたは結標さんを救い出すためにここに来たはずです。彼女を守るためにこの場所に立っているはずなんです』

風斬『恨んだ敵を殺すためなんていうそんなつまらない理由で、あなたはここにいるわけじゃないはずなんですよ』


 風斬は視線を地面に横たわった結標淡希の影へ向ける。


風斬『何より、結標さんはそんなことを望んでいないはずです』


 具現体は風斬につられるように結標の影を見る。
 黒い翼を背に君臨する一方通行を見る彼女の顔は、不安や困惑が入り混じったような表情だ。
 圧倒的なチカラで君臨する白い怪物に恐れているようだった。
 しかし、反対にこうとも思える。
 何かの間違いを起こそうとしている少年を心配しているようにも見える、と。


一方通行『むす、じめ……、あわ、き……』


 具現体は何かを思い出したかのように、少女の名前を呟く。
 佐久を破壊する意思しかない、彼の中に守るべきモノの存在が介入した。

 これは賭けだ。風斬が心の中で言う。
 あれは佐久を殺すためだけに生まれた存在だ。それ以外はまったくない負の存在。
 その中に結標淡希という、元々の彼が持っている意思の根幹を担っている正の部分をぶつけた。
 プラスとマイナスが合わさり相殺するように、具現体の中にある殺意を消滅させる。
 そうすることによって、一方通行を正常に戻し、この場を収める。


一方通行『むすじめ、あわき……、結標、淡希……』


 具現体が頭を抱え葛藤する。彼の中の二つの意思がぶつかり合っているのだろう。
 数十秒の葛藤の末、


一方通行『……そォだ。そォだった。俺は、俺は……』


 彼の中に残ったものは。




一方通行『アハギャヒャハハハハハハハハハハハハハギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハァッ!!』




 具現体は笑った。邪悪に。全てを見下したように。
 口の端を引き裂きながら、具現体は風斬を見る。


一方通行『そォだァ! 全部思い出したァ! オマエのおかげで全部思い出したンだァ!!』

風斬『な、なにを……!』


 心のつっかかりが取れたように、具現体は楽しそうに話を続ける。


一方通行『たしかに俺はあの女を守るためにここいるッ! 約束を守るためになァ! だから、あの女に危害を加えやがる存在を排除するために俺は存在するゥ!』


 具現体は壁へ磔にされた佐久の影へと目を向ける。




一方通行『コイツはあの女を傷付けやがった、痛み付けやがった、殺そうとしやがったァ!! クソみてェな理由でなァ!!』

一方通行『俺は排除しなきゃならねェ! 守るためにコイツを殺さなきゃいけねェンだ! コイツの存在そのものがあの女の存在を脅かしてンだよ! 俺が壊してやらなきゃ守れねェンだよォッ!!』


 彼の並べる怒りの文言を聞いた風斬は、反論する。


風斬『そんなことをして、彼女が本当に喜ぶと思っているんですか!?』

一方通行『死んじまったら喜ぶことすら出来なくなるンだぞ?』

風斬『ッ』

一方通行『悲しむことも出来なくなれば、怒ることも出来なくなる。そして、一緒に思い出も作れなくなっちまうンだよ』


 今までの荒々しい言葉とは裏腹に、冷静な口調で語る具現体を前に、風斬は言葉が詰まってしまう。
 彼を否定する言葉が見つからなかったからだ。
 違う。彼の言葉に少しでも、つま先の先ほどでも、彼女は心の中で『たしかにそうだ』と肯定してしまった。
 そんな風斬から彼を止められる言葉が生まれるわけがない。


一方通行『俺はもォあの女と離れたくねェンだよ、一緒に居てェンだよ。そのためだったら何だって壊す。誰だって殺す。だから、邪魔するってンならオマエもぶち殺してやる』


 失敗した。風斬は己のミスを悔やんだ。
 結標淡希の存在が彼の殺意を打ち消すどころか、逆に爆発させてしまった。火に油を注いだように。
 マイナスにプラスを掛け算したら、より大きなマイナスが生まれる。
 もう彼を止める手立てなど何も思いつかない。


風斬(……やっぱり、私では駄目だった。あの子たちのようにはできなかった……)


 風斬は二人の少女を思い出していた。
 どうすればいいのかわからず迷い、ふさぎ込んでいた彼へ進むべき道を示した少女たち。
 行動する勇気を持てず、動けなくなった彼へ進むための勇気を示した少女たち。
 あの二人がここにいれば、また違う結果を生み出していたかもしれない。
 しかし、現実は違う。ここには彼女たちは存在しない。存在するわけがない。


 彼を止められる者はここにはいない。


 非情な現実という刃が彼女の心へ突き刺さり、胸が痛む。
 自分の無力さに風斬は下唇を噛む。
 それに気付いた具現体は見透かしたように肩を揺らしながら笑う。
 少女は潤んだ瞳で目の前の少年を睨んだ。

 ふと、風斬は気付いた。
 具現体が揺らしていた肩をピタリと止めたのを。
 歪な笑顔がそのまま固まって、次第に呆然としたような表情へ変化していったことに。


風斬(い、一体何が……?)


 正面にいる具現体の目を見る。彼の目の中には風斬などいない。
 彼は風斬より後ろにある何かを見ている。視線の先を追うように、風斬は後ろを向いた。


 赤い髪の少女が立ち上がろうとしていた。
 歯を食いしばりながら、傷だらけの体にムチを打って、立つこともままならない足へ必死に力を入れて。



 結標淡希が立ち上がった。



―――
――





 ふらふらとした足取りでも結標淡希は最短距離を進んでいく。黒い翼を持つ白い怪物へ向かって。
 視界の端にいる金髪の少年が何かを言っているようだったが、今の彼女には何を言っているのかわからなかった。
 それほど疲弊した少女は、歩きながらも考える。
 なぜこんなことをしているんだろう。結標は心の中で小さく笑った。

 こんなにも痛いのに、苦しいのに、疲れているのに。
 だけど、震える足をゆっくりと動かして、一歩一歩たしかに前へと進んでいく。

 こんなにも怖いのに、怖いのに、怖いのに。
 だけど、決して目を逸らすことなく、少年を見つめている。

 自分に何が出来るのかなんてわからない。自分が何をすべきなのかなんてわからない。
 だから、こうやって歩いている。
 
 大層な理由なんてない。ただ、自分がこうしたいと思っただけだ。
 なぜこうしたいと思ったのかなんて自分でもわからない。でも、そう思ったのはたしかに自分だ。
 自覚はなくても、それは紛れもない自分が抱いている想いだということだ。


 そして、結標淡希は辿り着いた。世界で一番嫌いな少年の目の前へ。


結標「あく、せられーた……」


 掠れた声でも、聞こえるように、少年の名前を言う。
 一方通行は反応を示さない。
 左手を前方にかざしながら、背中から一対の黒い翼を噴射し続ける。

 結標の姿がまるで見えていないようだった。
 その赤黒い瞳は目の前の少女ではなく、まったく別のものを見ている。

 結標の声がまるで聞こえていないようだった。
 耳栓でも付けているように、その声へ意識すらしない。

 結標淡希という存在自体を認識していない、そう思えた。
 しかし、


 結標はうろたえない。
 熱を帯びていてろくに働いていない脳みそを無理矢理動かして思考する。
 そして、

 結標は理解した。
 二人の距離が離れすぎているのだ。
 何千キロと離れている相手を肉眼で捉えることが出来ないように。何千キロと離れている相手に肉声を届けることが出来ないように。

 結標は思いつく。
 だったら、距離を縮めてしまえばいい。
 一ミリでも短く、一ミクロンでも先へ。

 結標は迷わない。
 これ以上近付いたら何が起こるかなんてわからない。
 心臓を抉り取られるかもしれない。木っ端微塵に吹き飛ばされるかもしれない。
 そんな怪物に近付くために、少女はさらにもう一歩踏み出した。

 結標は止まらない。
 一歩、一歩と一方通行との距離を詰める。
 そして、目と鼻の先に彼がいる位置へと足を踏み入れた。
 だが、一方通行に変化はない。まだ遠い。





 結標は決意した。
 少女は自分の腕を一方通行の首へ回し、引き寄せるように身体を密着させる。
 彼の全てを受け入れるように。彼の全てを迎え入れるように。


 二人の距離がゼロとなる。


 ザザザッ!! 一方通行の背中から噴射する翼が、結標の腕を掠めるように接触した。
 皮膚が剥げ、肉が千切れ、血液が飛び散る。意識を刈り取ってしまいそうな激痛が襲いかかってくる。


結標「一方通行……」


 しかし、結標は臆することなく少年の耳元で囁く。



結標「……もういいわよ、一方通行」


――なぜこんなことを言っているのだろうか。


結標「貴女は十分頑張ったわよ」


――こんな言葉をかけていい資格なんて、私にはない。


結標「これ以上頑張らなくてもいいのよ」


――そんなことは十分わかっている。


結標「こんな辛い思いなんてしなくてもいいのよ」


――けど、そんなことは関係ない。


結標「私はもう大丈夫だから」


――『私』がそうしろと言っているんだ。『私』がそう言えって言っているんだ。


結標「私はちゃんとここにいるから」


――私にとってはそれで十分なんだ。


結標「だから、そんな似合わないこと、無理してやらなくてもいいのよ」


――なぜなら私は、






一方通行「がァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」




 怪物が咆哮する。それに呼応するように黒い翼が爆発的に噴射される。
 バキバキィ、と抱き寄せている腕から嫌な音が鳴るのが聞こえた。
 だが、結標はやめない。



結標「だってそうでしょ?」



 顔を耳元から離し、一方通行の顔を正面から見据えて、



結標「面倒臭いわよね? そんなくだらないことをするのって」



 結標淡希は微笑んだ。



 パキンッ、音が鳴った。
 一方通行の背中にあった一対の翼がなくなっていた。あたかもそこには元から何もなかったかのように。
 全てを破壊し尽くすチカラは消え、そこには少年の華奢な背中だけが残っていた。


一方通行「……あ、わ……、き……」


 一方通行の眼球に広がっていた赤色が消えていき、いつもの赤と白の目へと戻る。
 破壊衝動に囚われていた険しい表情は、戒めから解き放たれたような優しく、穏やかなものへと変わった。

 全ての力を使い果たしたのか、一方通行はゆっくりと目を閉じて、全身から力を抜いた。
 そのまま身を任せるように、彼女の腕の中へと寄りかかっていった。
 結標はグチャグチャになった腕を無理やり動かして、眠りについた少年の白髪をそっと撫でる。


結標「おやすみなさい、一方通行」

 
 同時に、結標も力尽きて意識が消失する。
 支える力がなくなった二人の身体は、床へと一緒に崩れ落ちていった。


―――
――






 独房前の通路で横たわっている二人を見て、土御門は言う。


土御門「……ほんと、大したヤツらだよ。お前たちは」


 土御門は呆れるように笑った。
 視線をボロボロになった通路の壁や天井へ。床のあちこちで転がっているブロックの兵士たちへ。
 一方通行の殺意から解放されて壁に持たれかかるように座り込んだ佐久へ。そして、土御門の他に唯一この場に立っている手塩へと向ける。


土御門「まだ続けるかい? 『ブロック』」

手塩「…………」


 手塩はリーダーの佐久を見る。
 指一本動かせないのか座り込んだまま動いていない。息遣いの音がかすかに聞こえるから死んではいないのだろう。
 だが、これ以上の継戦は不可能だ。
 手塩は、再び土御門を見る。


手塩「これ以上の戦いは、お互い無意味だわ。認めよう。私たちの、負けよ」


 両手を小さく上げ、手の平を見せて、降参の意思を見せる。
 それを見た土御門が持っていた拳銃を懐へ仕舞い込む。


土御門「そう言ってもらえると助かる」


 携帯端末を取り出し、いくつか操作して電話口に喋りかける。


土御門「――こちら土御門だ。目的は果たした」


 それだけ言って端末の画面を切った。さて、あとは後片付けというくだらない雑用をして任務完了だ。
 土御門は次の段階へと行動を移そうとする。
 瞬間、


 ゾクリッ、と土御門は何かのチカラの動きのようなものを肌で感じとった。


土御門(なっ、なんだ!?)


 まだ何かあるのか、と土御門は警戒心を強める。
 視線をあちこちへと持っていき、そして彼はあるものを目撃した。


 倒れている結標淡希の周りを覆うように、淡い白色をした光のようなものがまとわれていた。
 まるで癒やしの光だ、と土御門はそれを評した。
 見ているだけで心が落ち着く。自分が死線に立っていることを忘れさせるような。
 光は次第に少女を包み込んでいき、そして弾けて消えていった。


―――
――





 少年院地下四階にあるエレベーター前の通路は荒れ果てていた。床や壁や天井といった通路にある全ての面はボロボロになっていた。
 巨大な彫刻刀で削り取られたような傷が、鉄球を叩きつけたようなひび割れが、ドリルでこじ開けたような穴が。
 それらのダメージが四方八方へ数多の数見られた。

 そんな中を垣根帝督が肩で息をしながら立っていた。
 口の端に流れる血を手で拭って、


垣根「何でだよ!? 何で倒れねえんだよテメェは!? 必殺の一撃を何発も、何十発もぶつけたはずなんだッ!! 何でテメェは死なずにそこで立ってんだッ!!」


 膝を軽く曲げ、前かがみ気味の体勢になり、ぜぇぜぇと息をする上条当麻へ喚き散らすように聞いた。
 着ている服がボロボロに破け、元々負っていた怪我の傷から再び血が吹き出し、覆っていた白いガーゼや包帯が赤黒く変色している。
 痛めているのか、右手で押さえている左腕が力なく垂れ下がっていた。霞んで焦点の合っていなさそう目でも、しっかりと 垣根を見ながら答える。


上条「……言った、だろ? 絶対に、通さねえってよ。二人の、邪魔はさせねえってな」


 息を交えながら途切れ途切れになっている言葉を聞いて、もう限界なんだと垣根は思った。
 いや、限界なんてとっくの昔に越えているはずだ。
 いつ体が動けなくなってもおかしくない。いつ意識が飛んでもおかしくない。いつ死んでしまってもおかしくない。
 そんな人間がなぜ、未だに垣根帝督の前に立ちふさがっているのか、彼は理解できなかった。

 優勢なのはこちらのはずだ。誰が見ても明らかだ。
 こちらはニ、三発の拳を受けただけだ。素人が喧嘩でやるような稚拙な打撃。
 致命傷なんて一つも貰ってはいない。体力も有り余っている。今からこの建物を滅ぼせと言われれば百回は滅ぼせられるほどに。
 だが、優位に立っているはずの垣根の心臓の鼓動が早くなる。掌が汗で湿る。足が震える。
 まるで追い詰められているのはこちらじゃないか。垣根は歯噛みする。


上条「……どうした?」


 上条が問いかける。


上条「もう、終わりかよ? テメェの未現物質(ダークマター)ってのは、その程度なのかよ?」


 挑発のようなセリフを言う上条。それを垣根は理解が出来なかった。
 なぜこの状況でそんな強気なセリフを吐けるんだ。
 少し小突いただけでぶっ倒れてしまいそうな体で。HP1のゲームのキャラクターみたいな状態で。


垣根「じょ、上等じゃねえかテメェ!! お望み通り全力でぶっ飛ばしてやるよッ!! この建物ごと、俺の未現物質(ダークマター)でなァ!!」


 垣根の背中から六本の白い翼が現れた。
 ガギギギギッ、とその翼は不気味な金属音のようなものを鳴らしながら、後ろへ後ろへ伸びていく。
 一〇メートル、二〇メートル、地下の壁を突き破り三〇メートル、四〇メートル……。
 気付いたら垣根の背中には、一〇〇メートル以上の長さを持つ巨大な翼が出来上がっていた。


垣根「原理はゴムと一緒だ。伸ばせば伸ばすほど力が大きくなる。一〇〇メートル以上伸びた俺の翼はその弾性で途中にある空気や障害物を全部巻き込んで、圧倒的な質量の塊と一緒に前方にあるモン全部吹き飛ばす」


 翼の付け根が唸るような音を上げる。


垣根「テメェの超能力を打ち消す右手は、どうやらチカラによって副次的に起こされる物理現象までは打ち消せねえようだな」


 垣根はこの数分の戦いで得た知識をひけらかす。
 例えば未現物質で作った翼による攻撃は打ち消せるが、未現物質で破壊した壁から飛び散る欠片は打ち消せない。
 だから、翼を引き戻す際に発生する風圧や、それと一緒に飛んでいくガレキは上条には防げない。




上条「…………」


 絶体絶命の状況にあるはずの上条は何も答えない。
 ただ、チカラを振りかざそうとする男を見ているだけだった。
 垣根は舌打ちをしてから、



垣根「つまり、テメェは終わりってことだよッ!! クソ野郎がァァあああああああああああああああああああああああああああああッ!!」



 未現物質で出来た六枚の翼が急速に縮み始めた。
 遥か後方から大量の空気や破壊した障害物を巻き込むような音が聞こえる。
 全てを吹き飛ばすエネルギーが垣根の前方へと放たれようとされる。


 ゾオォッ、


 瞬間、垣根の全身に悪寒が走った。
 ピタリと収縮する翼の動きが止まる。急ブレーキを掛けられたことによる反動で通路に強い風が巻き起こった。
 風で茶髪を大きく揺らしながら、垣根はゴクリとツバを飲む。背中の翼が粒子となって消える。


垣根(な、なんだ……? 今の殺気はッ……!)


 止めなければ死ぬ。このまま攻撃を続けていたら殺されていた。
 彼の直感がそう悟り、無理やり未現物質の動きを停止させた。
 死ぬ? 誰が?
 殺される? 誰に?
 垣根は見た。



 あらゆるものを叩き潰すようなプレッシャーを放つ、上条当麻を。



 『AIMジャマーのメンテナンスが終わりました。AIMジャマー再起動まで残り一分です。繰り返します――』。

 通路内にある拡声器からアナウンスが流れた。
 その声を聞いた垣根はハッ、と我に返る。
 一分後にAIMジャマーが起動する、つまりタイムリミットがすぐそこに来てしまったということ。


垣根「クソッ!! やっちまったッ!!」


 垣根は自分がやるべきだったことを思い出し、それがもう達成できないということに気付き、激昂した。
 今から一秒で目の前の男を殺し、一秒で一方通行が居る場所へ行けば、まだ五〇秒ほど時間が残るか。
 そんな時間で目的を果たせるのか。おそらく無理だ。そこまで簡単に済む話ではない。


 だったら、任務関係なく一方通行をこちらへ引きずり込んで倒すしかないか。




 ピピピピッ、そう思った垣根の携帯端末が音を鳴る。
 その番号は心理定規(メジャーハート)こと獄彩海美が使っている端末の番号だった。
 垣根は首をかしげる。今はスクール内の端末で常に会議モードにしており、誰とでもいつでも会話できるようになっている。
 ただの状況報告だけなら、わざわざ電話をかけてくる必要はない。
 疑問に思いながらも垣根は通話に応じた。


垣根「どうした? そっちの状況はどうなっている?」

海美『…………、かき、ね……?』


 電話口からは海美の声が聞こえた。
 しかしその声は、いつもの彼女の声ではなく、震えていて、か細い感じだった。


垣根「あん? どうしたんだよその声は?」

海美『……ご、ごめん、なさい。わた、したちはし、っぱいよ』

垣根「失敗? 座標移動を取り逃したっつうことか?」

海美『わ、たしたちは、もう、だめ、だから。かきね、はや、くてったい、し、て……?』


 海美の声が言葉を発する度に小さくなっていくような気がした。
 まるでチカチカと点滅して明かりを弱めていく、切れかけの電球のように。


垣根「何言ってんだよテメェ! 俺の質問に答えやがれコラ!」

海美『わたし、ね……あなたに、いっておき、たいことが、ある、の』


 垣根の言葉を無視して、海美は話を続けていく。


海美『あな、たって、ほんと、がき、っぽい、とか……ばか、っぽいとか、さんざん、いってきた、けど』


 最後の力を振り絞るように、


海美『やっぱり、わたしは、あなたのことが――』


 海美の言葉は最後まで聞こえなかった。
 ガシャン、という機器が粉砕されたような音を上げて、通話が終了したからだ。
 彼女の持っている携帯端末が、彼女の身に何かあったのだろう。


垣根「…………」


 垣根はディスプレイに映る通話終了の文字を見て考える。
 暗部にいて殺されるのなんて当たり前のことだ。
 本当にあっさり死ぬ。下部組織の下っ端共はもちろん、同じ正規の構成員だったとしても。
 半年くらい前には正規の構成員として少女が一人いた。無能力者ながら暗殺を得意とする優秀なスナイパーだった。
 そいつはあっさりと死んでしまった。ちょっとした暗部間の小競り合いで、無様に爆殺されて。
 だから、今回の任務で誰かが死ぬなんてことも当たり前のように起こることだろう。
 それは獄彩海美という少女であっても同じことだ。そう、同じこと――。





垣根「ふっざけんじゃねえぞあの女ァ!! どうせ死ぬならちゃんと全部セリフ言い切ってから死ねよコラッ!!」



 垣根は投げ入れるようにズボンのポケットに端末を入れて、上条の方へと目を向ける。


垣根「チッ、今日のところは預けておいてやるよ。一方通行の命、そしてテメェの命もな」


 垣根の背中から再び三対六枚の白い翼が出現する。
 力を溜め込むように、下方向へ向けて翼が折れ曲がっていく。


垣根「テメェのことは覚えたぜ? 上条当麻ァ!!」


 ドォンッ!! 垣根は力強く翼を羽ばたかせ、天井を突き破って上階へ飛び去っていた。




上条「……、終わった、のか?」


 上条は呟く。
 垣根が電話でどんな話をしていたのかはわからないが、あの様子ならここにはもう戻ってこないだろう。
 これで二人への脅威は去った。つまり、上条は役割を果たせた、ということだ。


上条「…………あ、れ?」


 それを実感した瞬間、上条の身体に強い疲労感が襲いかかってきた。
 ただでさえ満身創痍の状態だったのにも関わらず、垣根との戦闘でさらに傷を負い、上条の身体は完全に限界を迎えている。


上条(……や、べえ、意識が……)


 上条は硬く冷たい通路の床へと倒れ込んだ。
 そのまま重い目蓋を閉じて、意識が消え、脳を休息状態へと移行させる。


 タッ、タッ、タッ。


 床の上で寝ている上条の元へ、ステップを踏んでいるかのような軽い足音が近付いてきた。
 足音の持ち主は少女だった。
 蜂蜜のような淡い色をした金髪は、肩の辺りからニつに分かれて腰辺りまで伸びている。
 星のような形をした十字が入った金色の瞳。御坂美琴と同じ名門常盤台中学の制服を着用している。
 しかし、その体型は明らかに中学生離れしたものだった。

 少女は上条当麻の元へ立ち、見下ろすように彼を見る。
 数秒だけ彼を見つめて、にへら笑いを浮かべながら呟くように言う。



??「――お疲れ様。ヒーローさん♪」



―――
――





 少年院地下三階。地下四階へと繋がる階段の前の広場。獄彩海美は壁にもたれ掛かるように床へ座り込んでいた。
 彼女着ている綺麗なピンク色のドレスは、見る影もなくボロボロにされていた。
 肩紐が片方切れており、首に付けていたアクセサリーの装飾品の一部が、千切れたのか穴あき状態になっている。
 激しく動き回ったのかサンダルが片方脱げていた。そんな中、一番目立つのは横腹に負っている怪我だろうか。
 大量の血液が湧き出てきているのか、ピンクのドレスはそこだけ真っ赤に染まっていた。
 だらりと下がった彼女の右手の先には壊れた端末と、その部品が撒き散らされている。

 そんな海美を見下ろしている少女がいた。
 黒いパンク系の服で身を包んだ十二歳くらいの少女。少女の左腕は肘から先が無くなっており、先端から赤い液体が床にポタポタと落ちていた。
 その代わりなのか両脇腹へ二〇本近い数のビニール質な義手が取り付けられている。それらはマネキンが球体関節に依らず動いた様な動きで蠢いていた。
 黒夜海鳥。暗部組織『グループ』の構成員の一人であり、先ほどまで海美と交戦していた少女だ。


黒夜「あはぎゃはっ、最後の最後にドラマチックで泣かせるセリフ吐いてくれンじゃねェか。ま、最高のタイミングで端末ぶっ壊してやったから、向こうには届いてねェだろォけどなァ?」


 黒夜は嘲笑う。
 しかし、海美は死んだような目付きのまま、それには反応しない。



 『AIMジャマーのメンテナンスが終わりました。AIMジャマー再起動まで残り四〇秒です。繰り返します――』。



 少年院内に流れるアナウンス。
 それを聞いた黒夜はニタニタと笑いながら、


黒夜「さて、そろそろ私も脱出しねェとヤベェよなァ? 土御門は全部終わったっつってたから、私がここにいる意味もねェし」


 そう言って黒夜は右掌を海美の頭へ向けてかざす。
 シュー、という音とともに掌へ窒素が集まっていく。


黒夜「今からオマエと、あそこで気絶してる誉望とかいうカスへ、サクッと止めを刺してここから脱出するンだけどよォ。オマエは意識まだあるみてェだし、辞世の句とかあンなら聞いてやってもイイぜ?」


 黒夜は後方で倒れている血塗れの状態の誉望へチラリと目配せした。
 少女の持ちかけに対して、海美は瞳だけぎょろりと動かし、掠れたような声で応える。


海美「……くたばれ」

黒夜「最高の言葉だ」


 黒夜の掌に窒素で出来た透明の槍が発生した。
 その槍が射出される。海美の脳天へと目掛けて。




 しかし、その槍は到達する前に吹き飛ばされた。黒夜の小さな体もろとも。



黒夜「ごぱァッ――!?」



 黒夜の横腹へ鈍器で殴られたような重い一撃が叩き込まれた。取り付けられたビニール質な義手の半数が粉砕される。
 薙ぎ払うように打撃を受けた黒夜の小さな体は宙に浮き、二〇メートルほどの長さのある通路上空を飛び、その先にある壁へと叩きつけられた。



??「ったく、誉望も心理定規(メジャーハート)も二人してよお、こんなクソガキに遊ばれてんじゃねえっつうの」



 黒夜を吹き飛ばした男が、海美の前へと立つ。
 震える体を動かして、海美はその姿を目の当たりする。


海美「……かき、ね……?」

垣根「よお心理定規。命拾いしたな」


 憎たらしい笑顔の垣根を見て、海美は薄く笑った。


垣根「時間があんま残ってねえ。さっさとここを脱出すんぞ? もうここは用済みだ」

海美「たお、せたの? だいいちい、は……」

垣根「……聞くんじゃねえよ」

海美「ふふ、ごめ、んなさい……」


 垣根の六本の翼のうち二本が変形する。
 先端が五つに分かれて一本一本が独立して動く。その姿まるで巨大な手だった。
 翼で作られた白い手は、それぞれ海美と誉望の体を包み込み、垣根の元へと引き寄せる。


垣根「全開で上へ飛ぶぜ? あまりに速すぎてションベンちびらせんなよ?」

海美「……ほんと、あなたって、でりかしー、ない、わよね」


 残り四本の白い翼を羽ばたかせる。通路内に爆風が巻き起こる。
 上にある全ての天井を突き破るような勢いで、垣根たちは急上昇していった。


―――
――





 海原光貴は少年院を出て、街の中の歩道を歩いていた。
 息を荒げながら、ふらふらとした足取りで、今にでも倒れそうな状態だ。
 右腕にはノコギリで削り取ったような切り傷があり、着用している白い制服を赤く濡らしていた。

 そんな彼の背中には一人の少女がいた。
 くせ毛がかった黒髪、浅黒い肌色の皮膚、堀の深い顔立ち。
 どこかの学校の制服である、赤いセーラー服を着ている。
 ショチトル。暗部組織『メンバー』の構成員の一人であり、海原が以前いた組織で一緒に居た、同僚であり師弟関係にあった少女だった。

 海原とショチトルはさきほどまで少年院に居て、そこで交戦していた。
 結果は見ての通り、海原が勝利した。
 
 つまらない結末だった、と海原は思う。

 ショチトルは魔術師の一人だ。しかし、彼女は組織の中では非戦闘員という立場であったはずだ。
 そんな彼女が海原を圧倒できるほどの力を振るい、追い詰めることができたのは理由があった。

 魔道書の『原典』、『暦石』を皮膚の内側に記すことで、ショチトルは足りない力量を補っていた。

 それは諸刃の剣の行為だった。だから、すぐに破綻した。海原との交戦中に限界を迎えるという形で。
 戦闘中にショチトルから聞いたことだが、彼女も組織で海原と同様に裏切り者の烙印を押されているらしい。
 その処分として魔導書の力を使う『兵器』として、海原の元へ送り込まれた。まるで使い捨ての銃弾を撃つかのように。

 つまり、ショチトルはここで死亡するはずだった。しかし、現に彼女は生きている。
 限界を迎え、体がバラバラになっていくショチトルを見たとき、海原は思った。


 『彼女をこんなつまらないことで死なせるわけにはいかない。死んでいいわけがない』と。


 だから、海原は彼女を救った。
 正確に言うなら彼の力ではなく、魔導書の『原典』の力で。
 『原典』はその知識を欲する者に対しては力を貸してくれるという傾向があった。
 そこで海原は『原典』を騙すことによって、力を行使させた。

 『前の所有者』であるショチトルが死亡すれば、『次の所有者』になる海原光貴への『原典』の引き継ぎが行えなくなる。

 そう『原典』に思い込ませることにより、ショチトルを救い出すことが出来た。
 救い出したと言っても、かろうじて生き延びさせることが出来たと言ったほうがいいか。
 彼女は肉体の三分の二を引き換えに『原典』の力を手にしていた。そのため、今の彼女の肉体は三分の一だけしか残っていないということになる。
 そんな状態で生きていくことは不可能だ。肉体がなければ生命維持に必要な内臓を保持することができないのだから。
 そこで、『原典』はショチトルを生存させるために擬似的な身体を作り出して、彼女のその三分の二を埋めた。
 ただそれは上から肉を巻き直したようなものなため、きっとこれからの日常生活に支障が出てくることだろう。


海原「ッ………」


 海原は頭を軽く押さえながら、表情を歪ませた。

 ショチトルから『原典』の所有権が消えた。つまり、今『原典』を所有しているのは海原だ。
 彼の頭の中には膨大な知識が流れ込んでいた。それは人が記憶していいものではないとわかる。
 脳みその皺一本一本に砂鉄を擦り込まれたような頭痛を感じ、気を抜けば全身に痛覚が走るからだ。
 『原典』は毒物とはよく言ったものだ、と海原は苦笑いしながらそう思った。

 そんな状態で海原はショチトルを連れ、街の中を歩く。
 先ほどの仲間からの連絡からすれば、『グループ』の任務は既に完了した。
 本当ならこれから後始末やら何やらいろいろやることがあるのだが、今はショチトルのことのほうが心配だ。
 あとでグチグチとサボったことについて小言を言われるだろうな、と考えながらも、いつも真面目にグループの活動に取り組んでいるのだから今日くらい許して欲しい、と海原は素直にそう思った。


 背中にいる少女を救うために、海原光貴は闇夜の街へと消えていった。


―――
――






 第一〇学区の少年院の近くにある路地裏。
 番外個体は一人の男の首を掴んで体ごと持ち上げていた。
 その男は砂皿緻密。暗部組織『スクール』に所属している雇われのスナイパーだ。
 だらりと力なく腕を下げていることから、もう体を動かすような力を出すことが出来ないことを表していた。


番外個体「……はぁ、つまんないの」


 ため息をついてから、番外個体は手に持った砂皿を投げ飛ばした。
 ビルの壁に叩きつけられた砂皿は口から血が混じった息を吐いて、そのまま地面に落ちる。


番外個体「まあスナイパーだし、接近戦は本業じゃないからしょうがないとは思うけど、もうちょっと楽しめると思ったんだけどなー」


 ケラケラと笑う番外個体。
 地面に横たわる砂皿はそれを横目に、


砂皿「殺せ」

番外個体「漫画とかでよく見る『くっ、殺せ』ってヤツじゃん。リアルで言ってる人初めて見たよ。言ったのはかわいい女騎士サマじゃなくてむさ苦しいオッサンだけど」


 適当なことを言いながら、番外個体は腰に付いたポーチを開ける。
 その中から、鉄釘を一本取り出す。


番外個体「ま、安心してくれていいよ。そんなこと言われなくてもちゃーんと殺してあげるからさー」

 
 鉄釘をぺろりと舐めてから、それを指に挟んで砂皿へ向ける。
 バチバチッ、と番外個体の指先に電気が走った。


番外個体「とりあえず礼は言っといてあげるよ。例の『オモチャ』のテストに付き合ってくれたんだからね。その代わりと言っては何だけど、これ以上苦しまないように一瞬で終わらせてあげるよ」


 砂皿の頭部へと狙いを定める。
 番外個体が放つのは能力を用いて鉄釘を磁力で飛ばす音速弾。威力は砂皿が使っていたライフルと大差ない。
 こんな一メートルもない至近距離で頭蓋へ直撃すれば脳みそごと吹き飛ぶ。まさしく、痛みを感じることなく。


番外個体「じゃ、サヨナラ。スクールのスナイパーさ――」


 ダッ、と番外個体は何かが駆け寄ってくるような気配を感じた。
 路地の曲がり角の向こう側からアスファルトを蹴る足音が聞こえる。


番外個体(なんだ? こんな時間からこんな場所でジョギングなんてする酔狂な人は、この街には居ないと思うけど)


 番外個体は意識を砂皿からその気配の元へと切り替えた。
 首だけ動かして路地の曲がり角を見た。足音が大きくなってくる。
 そして、その気配は現れた。


番外個体「なっ……ッ!?」


 番外個体は顔をギョっとさせた。
 その気配の主は女だった。金髪碧眼で足元に転がっている砂皿緻密よりも高そうな長身。
 学園都市ではあまり見ないような成人した西洋人女性だった。
 しかし、番外個体が驚いたのはそこじゃない。
 彼女の手に黒光りしたものが握られていた。軍用のアサルトライフル。
 全長一メートル近い機関銃をこちらへ構えて、引き金に指をかけ、挨拶代わりに発射しようとしてきているからだ。
 狭い路地裏で――。





番外個体「――冗談っ、でしょッ!?」


 番外個体は前方に高出力の電撃を放つ。これは謎の機関銃女への攻撃のためじゃない。
 ドッ!! と高圧電流を浴びた空気が爆発し、番外個体の体が後方へ向かって吹き飛んだ。
 その先にあった反対側の曲がり角の壁へ、左肩からぶつかる。
 ゴキリ、と骨が外れる音が鳴る。変な体勢で激突したから脱臼したのだ。

 だが、今はそんなことを気にしている暇はない。
 番外個体は壁を蹴り、機関銃女から影になる曲がり角へと飛ぶ。


 ダガガガガガガガガッ!!


 狭い路地裏で凄まじい勢いで軍用アサルトライフルがフルオートで連射された。
 ピュン、ピュン、と弾丸があちこちへ跳ね返る音が聞こえる。
 番外個体は頭を抱えて体を丸めた状態で横たわって、被弾面積を狭くする。後頭部の方にある地面に弾が当たる音が聞こえた。
 運が悪ければ死んでるな、と番外個体は思った。

 弾が連射される音が止んだ。番外個体は壁を背にしながら様子を覗う。
 機関銃女は砂皿のところにいた。女は眉をひそめながら、


??????「ちっ、やっぱりただの機関銃じゃ決定力がなさ過ぎですね。いつもの軽機関散弾銃ならぱぱっと殺れたはずなんですが」

砂皿「そ、その声……まさか」


 倒れている砂皿を見て、機関銃女は嬉しそうな顔で喋りだした。


??????「お久しぶりです砂皿さーん! 間一髪でしたね!」

砂皿「『ステファニー=ゴージャスパレス』か?」

ステファニー「はい! あなたのかわいい愛弟子ステファニーですよ!」


 ステファニー=ゴージャスパレス。砂皿いわく彼女はそういう名前らしい。
 聞いたことない名前だ、と番外個体は大したデータの入っていない頭の中を検索して思う。
 あの二人の会話からして知り合いか何からしい。何なら知り合い以上の雰囲気を感じる。
 というか、知り合いがぶっ倒れている路地裏でアサルトライフルを乱射したのかあの女は、と番外個体は自分でも驚くくらい引いていた。
 ステファニーの視線が番外個体の居る方へと向けられる。


ステファニー「さて、そこに隠れている子ネコちゃん。悪いですが砂皿さんはやらせませんよ?」

番外個体「ステファニー=ゴージャスパレス、だっけ? あなたは一体何者なのかな? そこに転がっている砂皿緻密と同じ『スクール』に雇われた殺し屋さん?」

ステファニー「『スクール』? ああ、今砂皿さんが雇われている組織の名前がそんなでしたね、たしか」

番外個体「違うってことは、ほんとに何なのさ? 関係者でもないのに何でこんなところにいるわけ?」

ステファニー「ちょっとお仕事で学園都市に来る用事がありましてね、そのついでに砂皿さんの様子を見に来たら、って感じですかね?」

 



 「あっ、不用意に仕事のことを言っちゃいけないんでしたよね」とステファニーはおとぼけた感じで誤魔化す。
 砂皿へ目を向けて頭を掻きながら誤魔化し笑いをしているところからして、さっきのセリフは番外個体へ言ったものではなかったのだろう。
 なにはともあれ、番外個体がやることは決まっていた。


番外個体「あなたが何者かはよくわかんないけど、邪魔するって言うならあなたも黒焦げになってもらう、ってことだけどそれでオッケーかなー?」

ステファニー「それで構いませんよ。別にお友達になろうと思ってあなたとお話しているわけじゃありませんし」

番外個体「へー、言葉の節々に余裕を感じるね。ちょっとイラっとするよ。そーいうのはミサカの専売特許なんだけさー」

ステファニー「そう思えるのはあなたがビビってるからじゃないですか?」

番外個体「なに?」


 番外個体は眉を少し吊り上げた。


ステファニー「たしかにあなたは強いんでしょうけど、まだまだ戦闘経験が足りてなさそうです。そんなガキに殺られるほど私は弱くはないですよ」


 舐めやがって、と曲がり角の先でしゃがんだ番外個体は右手に電撃をまとわせながら構える。
 早撃ち勝負だ。ヤツのアサルトライフルが早いかこちらの電撃が早いか。
 こちらはこの一撃で殺す必要はない。痺れさせて動けなくさせてしまえば、あとはどうとでもなる。
 そう考え、番外個体は曲がり角を飛び出そうとする。

 カポン、という空気が抜けたような音が聞こえた。

 ふと、番外個体の視界にフィルムケースくらいの大きさの黒い筒状の物が飛んで来るのが見えた。
 彼女の卓越した動体視力と学習装置で得ていた軍事知識があの物体が何かを瞬時に判断する。


 グレネードランチャーの弾頭。

 
 路地裏に轟音とともに爆風が巻き起こる。
 路地に置いていたゴミ箱が中身ごと吹き飛ぶ。ビルやアスファルトの地面が揺れた。通路の中が黒い煙で埋め尽くされる。





 しばらくしてから、黒煙が晴れた。
 路地裏の通路は壁と地面の三方が焼け焦げていた。建物で囲まれているような閉鎖された空間のため焼けた臭いが充満している。
 そんな中、一人の少女が現れた。


番外個体「――ったく、信じらんない! こんな密閉空間でグレネードぶっ放すなんて頭イカれてんじゃないの!? 自爆したいなら勝手にしてろっての!」


 プンスカと番外個体が怒っていた。
 彼女は先ほどの銃撃を回避したときのように、空気を高圧電流で爆破して水平方向へ飛翔し、爆発から離れていた。
 しかし、多少は巻き込まれたようで、体の至るところに焦げ跡のようなものが残っている。


番外個体「とりあえず、あの二人の死体は回収しとかなきゃだよね……ありゃ?」


 曲がり角を曲がった先を見る。そこは砂皿緻密が横たわっていた場所で、ステファニー=ゴージャスパレスが機関銃を持って立っていた場所でもあったはずだ。
 だが、そこには二人の影の形すらなかった。バラバラになって体の部位の一部が落ちているとか、そういうものも見られない。
 跡形もなく木っ端微塵に吹き飛んだのか、と考えたがグレネードランチャーの爆発にはそこまでの威力はない。それは見た限り明らかだった。
 つまり、


番外個体「逃げるための目眩ましも兼ねてのグレネードだった、ってことか」


 まんまとしてやられて逃げられた。その事実を認識して番外個体は二人の居たはずの空間をぼーっと眺めた。


番外個体「……はぁー、まあいっか。あっちのほうはもう任務完了しているわけだし、こんなくだらない残業をやる必要性なんてミサカにはないからねー」


 誰かに話しかけているような声量で独り言を言った。
 元々、彼女はそこまで任務に精を出しているような少女ではない。今回もそこまで力を入れて任務を行っているわけじゃなかった。
 面倒臭そうに辺りを見回した後、体を路地裏の出口の方向へと向ける。

 『まだまだ戦闘経験が足りてなさそうです』。

 ふと、ステファニーの言った言葉を思い出した。


番外個体「…………チッ」


 少女は舌打ちして、脱臼した左肩を抑えながらこの場を後にした。


―――
――





 『メンバー』との戦いを終えた木原数多たちは後始末をしていた。
 壁や天井がボロボロに崩れて廃墟とかした倉庫の中には、コンテナだったと思われる鉄屑やスクラップと化した高所作業車が棄てられたように転がっていた。
 数多の周りには大勢の人影が集まっている。軍用のヘルメットに暗視ゴーグル、防弾チョッキといった装備を身に着けた風貌をしている者たちだ。


数多「さーてお前ら、面倒臭せぇお片付けの時間だ。三〇分以内に終わらせろ。じゃねーと殺す」


 数多の無茶苦茶な指示に「はい」と一言だけ返事をして、装備を身に着けた者たちは間髪入れずに行動を開始した。
 彼らは木原数多の経営するなんでも屋『従犬部隊』の従業員だ。
 ほとんどが元々『猟犬部隊(ハウンドドッグ)』という暗部組織に所属していた者たちなため、こういった裏の後始末といった仕事は下手な事務作業より慣れ親しんでいた。
 作業を始めた従業員たちを背にし、数多は倉庫から出ていくように歩き始める。それに 付いていくように円周も数多の横へ付く。


円周「ねえねえ、数多おじちゃん?」

数多「あ?」

円周「打ち止めちゃんは大丈夫なの?」


 円周は数多の背中の方を見ながら聞く。そこには打ち止めという少女がいた。
 木原数多に背負われる形で、少女は体を背中に預けてすやすやとした感じで安らかな表情で眠っている。


数多「ああ。あのジジイがナノマシンの停止コードを持っていたから即座に治療できた。ニ、三時間もすればいつもどおりのうるせぇクソガキに戻るだろうよ」

円周「ふーん、なんでそんなもの持っていたんだろうねー」

数多「大方、このガキを人質として使うための交渉材料の一つとして用意してたんだろうよ。ま、俺からすりゃこのガキが死んだところでなんとも思わねえから、無駄な準備だったっつーことなんだけど」

円周「まーたおじちゃんがツンデレ発言しているよ。オッサンのツンデレほど見苦しいものはないよねー」

数多「言ってろ」


 倉庫の出口を通り、二人は外に出た。
 まだ日が昇っていない時間帯のため、街中は暗闇に包まれている。
 円周がお腹を抑えながら、


円周「数多おじちゃんお腹すいた。朝ご飯はハンバーガー食べに行こうよ。マ○ク行こうマ○ク」

数多「あ? 別にいいけどよ。今から行ってもまだ開いてねえだろうし、開いたとしてもハンバーガー売ってねえだろ時間的に」

円周「うーん、世知辛い世の中だねー」

数多「その程度のことで世の中とか語ってんじゃねえよクソガキ」


 今日の朝食について会話しながら歩いている二人がいる方向へ、走ってくる足音が一つあった。
 深夜徘徊している老人にしては若々しい足取りだし、ジョギングしているにしては足音と足音の間隔が短い。
 その足音が一〇メートルほど先にある建物の前で急に止まる。まるで捜しているものが見つかったかのように。




??「ちょっとアンタたちッ!!」


 足音の主は、荒々しく二人を呼び掛ける。
 呼ばれたから数多と円周はそちらへ向く。
 円周がその人物の顔を見て少しだけ目を見開いて、


円周「あっ、美琴ちゃんだ! おーい!」


 そこにいたのは、木原数多が背負っている打ち止めと似た顔付きをした中学生の少女。
 御坂美琴だった。
 手を大きく振って円周は存在アピールをする。それを見た美琴はキョトンとした感じで、


美琴「あれ? アンタってたしか、一方通行と一緒にいた円周とかいう……」


 知り合いかつ同世代くらいの女の子の出現に美琴は面食らっている様子だった。


数多「おーおー、随分と遅めの登場じゃねえか超電磁砲(レールガン)? こっちは全部終わっちまったぜ?」

美琴「アンタは?」

数多「木原数多」

美琴「『木原』……」


 美琴が嫌なことを思い出すように眉をひそめる。
 

美琴「もしかして木原幻生やテレスティーナ・木原・ライフラインと親戚だったりする?」

数多「そうだとも言えるし、そうじゃないとも言えるな」

美琴「誤魔化してるつもり?」

数多「事実を言っているだけだ」

美琴「……はぁ、まあいいわ」


 美琴がため息交じりに続ける。
 

美琴「アンタね? 私の携帯にこのメール送ってきたのは」


 そう言って美琴はポケットから携帯電話を取り出し、画面を突き付けた。
 そこには未登録のメールアドレスで送られてきたメールが表示されている。
 アドレスの中に書かれている前半の文字列は『mika-arahata』。ミカ・アラハタ。人名のようだった。


美琴「『mika-arahata』っていう名前は『amata-kihara』を並び替えたアナグラムね?」


 数多は小さく笑う。





数多「正解だ。さすがは超能力者(レベル5)のガキなだけある。こんな子ども騙しくらいじゃ秒で解いちまうか」

美琴「メールに書かれていたのは座標だったわ。ここ第一〇学区のある場所を指したね。そこに行ったら打ち止めをさらったロボットを制御していた男がいた」


 美琴は数多たちの後方にある、廃墟と化した倉庫を見た。
 あちこちから煙が上がっている。ついさっき壊されたのが明らかにわかる光景だった。
 そして、視線を木原数多の背中にいる打ち止めへと移す。
 美琴は目の端を吊り上げた。


美琴「まんまと私を利用しやがったってことね?」

数多「思い上がってんじゃねえぞクソガキ。テメェがいなかったとしても、結果は変わらねえよ」

美琴「だったら、何で私にこんなメールを送ってきたのよ!」

数多「このガキを無様に奪われたことでテメェが溜め込んだ、ストレスを発散させられる場所を提供してやっただけだよ」

美琴「ぐっ」

円周「とか言ってるけど、ほんとは美琴ちゃんを助けてあげようとしてただけなんだよねー。いやーツンデレツン――」


 ゴッ、と円周の頭頂部に拳が振り下ろされた。数多が黙らせるために放った鉄拳。
 脳みそに直接突き刺さったような痛みを感じながら、円周は唸り声を漏らしながら頭を抑えてしゃがみこんだ。


数多「そういうわけだ。子守しようと思ってんならもう少し大人にならねえとなぁ?」

美琴「……たしかにアンタの言う通りよ。私は甘かった。もう少しちゃんと守れると思ってた。でも、現実はそうじゃなかった」


 うつむきながら美琴は吐き出すように言葉を連ねた。
 そして、何かを決心したように顔を上げて、


美琴「だから、今度は絶対に失敗しない! そのためにもっと強くなる! 誰だって守れるように、誰だって助け出すことが出来るように!」

数多「そうかよ」


 数多は適当に返事をした。心底興味のなさそうな様子だった。
 そんな彼を美琴は睨みながら、


美琴「ところでアンタはその子をどうするつもりなのかしら?」


 バチッ、と美琴の体表面に電気が走った。


美琴「見たところ科学者、って感じだけど。もし、打ち止めを何かの研究材料として使おうって言うつもりなら――」

数多「しねーよ。そんな面倒臭せぇこと」


 美琴が何かを言い切る前に数多は否定した。
 そう言った数多はゆっくりと歩き出した。立ちはだかっている美琴のいる方向へと。




美琴「なっ、なによやる気ッ!?」

数多「たしかにこのガキの利用価値は高けェよ。多種多様の方面へと影響力がある。コイツを利用した実験の企画書を集めただけで、マンションの一フロアが埋まっちまうほどにな」


 美琴の前へとたどり着く。二人の視線が交差する。
 数多はまるで虫でも眺めているような目で少女を見下ろしながら、


数多「けど、利用価値がある存在だからって、それが俺にとってメリットがあるものとは限らねえわけだ。そんなモンにわざわざ割いてやる時間なんてないってことよ。わかるかなーん?」

美琴「じゃあ、なんでアンタはその子を助けたのよ?」

数多「決まってんだろ」


 数多は背負っている打ち止めの体を一度降ろし、背中と膝の裏を支えるように横向きで持ち上げて、美琴の前に差し出すように持っていき、


数多「くだらねえ仕事だよ」


 面倒臭そうに数多はそう答えた。
 差し出されたため、美琴は自然な流れで打ち止めを受け取ってしまう。
 その様子を美琴は唖然とした様子で眺めていた。


数多「おい円周! 行くぞ!」


 打ち止めを引き渡したことを確認した数多は帰路に付くため歩き出す。
 はあい、と円周は気の抜けそうな返事をして小走りで付いていく。

 小さくなっていく二人の背中を見て、美琴は反射的に呼び掛ける。


美琴「――アンタたちは一体、何者なのよ!?」


 木原数多は足を止めた。
 首だけを後ろへ向けて、答える。




数多「『従犬部隊(オビディエンスドッグ)』。ただのなんでも屋さんだ」




――――――


いよいよ次回で蛇足編最終回
蛇足のくせにいつまでグダグダやってんねんって話やで

次回『S11.未知の世界へ』

うおお最終回だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ1!!!!!!!!!!!!

投下



S11.未知の世界へ


 一方通行はゆっくりと目を開ける。去年の秋頃に嫌というほど見た天井がそこにあった。

 
 
一方通行(……病院だァ?)



 彼は今、とある病院内にある病室のベッドの上にいた。
 入院着に着替えさせられていることから、現在入院中なのだろう。
 辺りを見回すと、他にはベッドがない。個室だ。
 こんなクソ野郎と同室になりたいなどという奇特なヤツは居ないから当然か、と一方通行は鼻で笑った。
 
 窓の外を見る。太陽の位置からして昼過ぎといったところか。
 いつもならこのまま昼寝を続行しようと思うような時間帯だが、そんな気分には到底なれなかった。
 なぜなら、自分が今どういう状況に置かれているのか、まったく理解できていないからだ。
 
 ガララ、と病室の引き戸を開く音が聞こえた。誰かが入ってきたようだ。
 一方通行は寝転んだまま視線を入り口の方へ動かした。


土御門「よぉーす、アクセラちゃーん。元気ー?」

一方通行「……土御門か」


 クラスメイトであり、暗部組織『グループ』のリーダーでもある土御門がニヤニヤしながら歩いてくる。


土御門「ほい、これお見舞い。なに買えば喜ぶのかわからんかったから、適当に缶コーヒー買ってきたぜよ」


 そう言ってベッドの横に置いてあるテーブルへ、大量の缶コーヒーが入ったビニール袋を乱雑に置いた。


一方通行「チッ、ンなモンどォでもイイ」


 吐き捨てるように言って、一方通行は上半身を起こした。
 そして、目の前の少年に問いかける。
 

一方通行「教えろ。わかっていること全部。今どォいう状況だ? 一体どォなってンだ?」

土御門「…………」


 先程まで呑気で飄々としていた土御門の表情が変わった。冷静な暗部の土御門へと。
 病室に置いてあった丸椅子に座り、ゆっくりと口を開ける。


土御門「……さて、何から話そうか」

一方通行「今はいつだ?」


 間髪入れずに聞いた。

 
 
土御門「四月六日の午後三時過ぎだ。あの件から半日近い時間が経過しているということになるな」


一方通行「半日、か……」


 いつもの自分なら平常時の睡眠時間だな、と笑って流すところだが今は違う。
 結標淡希を取り戻すために少年院へ侵入してから一一時間強経過しているのだ。
 つまり、それだけの時間、現場を放棄していたということになる。
 だから、一方通行はすぐにそれを聞く。





一方通行「結標はどォなったンだ? アイツは助かったのか?」


 白い少年の真っ赤な瞳が土御門を見つめる。
 それに対して土御門は、

 
 
土御門「結標は無事だ。オレたちグループが保護した。今のお前と同じくここへ入院しているよ」



 ニヤリと笑ってそう答えた。
 

一方通行「そォか」


 一方通行は呟き、視線を下へと落とした。
 ひとまず彼女の安全が確認できたことで、安堵しているのか軽く息を吐いた。
 しかし、彼の表情の中には疑問のような色が残る。
 その疑問を察したように土御門が、
 

土御門「あのとき、お前の意識がない間に何があったのか……聞きたいか?」

一方通行「…………」


 土御門が言うように、たしかに一方通行はあの現場での記憶が途中から消えていた。
 気付いたら病院で寝ていたとか、そんな感じだ。


一方通行「……そォだな。ま、どォせ聞いたところで、ロクな答えなンざ返ってこねェだろォがな」
 

 馬鹿にしたように口角を上げる。
 どうせ敵にぶん殴られて無様に気絶したとか、そんな答えが返ってくるのだろう。
 しかし、土御門から返ってくる言葉をそうではなかった。


土御門「お前は能力を暴走させていた。自分の意識を飛ばしてまでな」

一方通行「暴走?」

土御門「ああ。背中から黒い翼が出現して、目に見えない何かのチカラを操って佐久を殺そうとしていた」

一方通行「黒い翼だァ? ハッ、くっだらねェ。どっかのメルヘン馬鹿じゃねェンだからよォ。そンなモンが俺から出てくるわけねェだろォが」


 一方通行は鼻で笑った。
 彼の能力はあくまでベクトル操作。力の向きを変えるだけのチカラ。
 そんな黒い翼などというファンタジーのようなものを生やしたり、念動力の真似事のようなことなどできやしない。
 適当なことを言ってからかっているのだろう、と一方通行は信じなかった。
 しかし、


土御門「…………」


 土御門は至って真面目な顔をしていた。サングラスの奥の瞳がこちらを見据えている。
 冗談を言っているような雰囲気が、欠片も見られない。

 
 
一方通行「……チッ、俺も随分と化け物らしくなってきたじゃねェかよ」



 一方通行は舌打ちした。本当にくだらないモノを見たときのように。
 これ以上、この話を広げても無駄だろう。そう思った一方通行は話題を変える。





一方通行「で、俺と結標はこれからどォなるンだ?」

土御門「どう、とは?」


 土御門が首をかしげる。
 

一方通行「俺もアイツも裏の世界にドップリと浸かっちまった。俺は『グループ』っつゥ暗部組織に協力し破壊工作をした。結標は研究施設や少年院を襲撃した犯罪者だ」

一方通行「そンなクソッタレどもが、これから真っ当な生活が送れるだなンて到底思えねェ」


 どちらも重い罪だ。通報されれば警備員(アンチスキル)等の治安維持組織が拘束しようと飛んで来るだろう。
 そうなれば、少年院に長い期間放り込まれてもおかしくはない。

 
 
土御門「ま、そこんところは心配しなくてもいいぜよ」



 そんな重苦しい質問に、土御門は軽い感じで答えた。
 一方通行が目を細める。


一方通行「どォいうことだ?」

土御門「お前ら二人とも、無罪放免。表の世界へ逆戻り、ってわけだ。よかったな」

一方通行「……オイオイ、ナニ寝言抜かしてンだテメェは?」

土御門「まだまだ寝るには早すぎる時間だぜい」


 何を言っているんだコイツは、と一方通行は彼が言ったことに対して理解が追い付かなかった。
 アレだけのことをしてきた人間が無罪? ありえない。許されるわけがない。
 そんなことを考えている少年に気にすることなく、土御門は話を続ける。
 

土御門「まずは今回起きた一連の事件についてだが、『ブロック』が主犯格ってことになって話が落ち着いているようだ」

一方通行「主犯格? 襲撃自体を行ったのは結標だろォが」

土御門「そもそもブロックが動かなければこんな事件が起きなかっただろう?」

一方通行「たしかにそォかもしれねェが、そンなモン傍から見れば関係ねェ話だろォが。例えば、脅されたから人を殺した殺人犯は罪を負わねェのか?」


 結標淡希に至っては脅されたわけではない。
 外的要因で記憶を蘇らせられたとはいえ、そこから先は自分の意志で動き、今回の事件を起こしている。
 情状酌量の余地など存在しないはずだ。

 
 
土御門「……たしかにお前の言う通りだ」



 土御門は賛同するように返した。
 だが、と続ける。
 

土御門「それはあくまで表の世界の常識だろう? 裏は違う。表の常識なんて通用しない。それはオレたちにとってマイナスの要因でもプラスの要因でも、な?」

一方通行「言っている意味がまるでわからねェぞ? 俺たちが無罪になっている理由を説明しやがれ!」

土御門「わかったわかった。順を追って説明するつもりだから、そう急かすな」


 今でも飛びかかっていきそうな一方通行を手で制しながら、土御門は説明を続行する。





土御門「ブロックは結標淡希を使い、『空間移動中継装置(テレポーテーション)計画』を実行することにより学園都市上層部を潰そうとした。それを知ったお偉い様方は現在進行系で大騒ぎしているところだ」

一方通行「どォして今さらそンなことで騒ぐンだ? 学園都市にはヤバい技術で作られたような兵器が山程あるだろォが。今さら誰でもボタン一つで長距離テレポート使えますよ、っつゥ装置が出来たところで兵器が一種類増えたとしかならねェンじゃねェのか?」

土御門「その誰でも使えるって点が問題なんだ。地球上のどこにでも核爆弾を転移させることが容易にできる装置だからな。そんなものを敵対勢力に奪われてでもみろ、逆にこちらが大きな被害を被ることになる」

一方通行「ハッ、なるほどねェ。核シェルターの中に身を隠そうが、地球の裏側に逃げようが無駄。上のカスどもはそンな逃げ場のねェ状況を想像しちまってブルっちまったっつゥところかァ?」


 ニヤニヤと口の端を裂かせる一方通行を見て、土御門も口角を釣り上げる。

 
 
土御門「そういうわけで、だったら最初からそんなもの作らなければいいだろ、ってことでこの計画自体が完全に凍結された。それに伴い、結標淡希捕獲命令も取り下げられた。元々この計画のために結標を狙っていたらしいからな」


土御門「そして今頃楽しく犯人探しをしていることだろう。こんな計画を承認をした統括理事会のメンバーは一体誰なんだ、ってな。汚らしい人狼ゲームだよ」


 土御門は吐き捨てるようにそう言った。


一方通行「……あン?」


 一方通行が何かに気付いたように眉をひそめる。

 
 
一方通行「上のクソ野郎どもが馬鹿みてェにハシャイでンのはわかったが、結局俺らはどォして無罪になったンだ?」


土御門「そうだったな。それに関してはさっきの話に付随する形になる」

一方通行「付随?」

土御門「ああ。さっき計画が凍結されたと言っただろ? あれは実は間違いで、正確に言うなら計画を隠滅させようとしている、と言った方が正しい」


 ハァ? と一方通行は疑念の声を漏らす。

 
 
一方通行「一体、上のヤツラはナニがやりてェンだ? 今さらそンなモンをもみ消したところで何のメリットがあるってンだ」


土御門「メリットならあるさ。お前は覚えているか? ブロックがどうやって例の計画を実行に移そうとしたのかを」

一方通行「外部のアンチ学園都市の組織と連携してだろ? それがどォか……いや、待てよ」


 一方通行が頭に手を当てながら考え込む。
 学園都市と外部との技術力の開きは数十年と言われている。
 そんな技術力が圧倒的に劣っている外部組織に、ブロックは連携を持ちかけて計画を実行しようとした。
 つまり、
 

一方通行「外の技術でも実現可能な計画、っつゥことか?」

土御門「そういうことだ。素体となる結標淡希さえ居ればあとはどうとでもなるような計画。そんなものをいつまでも残しておくわけにはいかないだろ?」

一方通行「それで計画自体をなかったことにして、外部への情報流出する可能性を完全にゼロにしよォってか」

土御門「そう。だから、様々な暗部組織が今その情報の処分に駆り出されているところだ。と言っても、扱うモノがモノだからオレたちクラスのトップシークレットのヤツらだけだがな」

一方通行「それが撤回した結標の捕獲命令の代わりってことかよ。相変わらずクソみてェな雑用ばっかで楽しそォだねェオマエら」

土御門「なんなら一緒にやるかにゃー?」


 「死ねよクソ野郎」と呆れたような表情で一方通行は言った。
  




土御門「ま、そういうわけだから、ブロックの野望を打ち砕いて計画の流出を未然に防いだ、オレたち『グループ』へ莫大な報酬が入ったわけだ。報酬という形を取ってはいるが要するに口止め料だな。計画を口外するなっていう」

土御門「さらに言うなら、おそらくこの計画は結標を追っていた他の暗部組織も掴んでいたはずだ。連中も同様にそれなりの口止め料はもらっているだろうよ」


 たしかにそうだな、と一方通行は思った。
 自分程度でも入手できた情報だ。他の暗部組織の者たちが持っていないわけがないだろう。
 そんなことを考えている一方通行を見ながら、土御門が続ける。

 
 
土御門「それはもちろん、お前たちも一緒だ」


一方通行「俺たち? 俺と結標のことか?」

土御門「そうだ。お前たちもあの計画についていろいろと掴んでいた。だから、お前たちの持っている情報も処分の対象になっている」

一方通行「情報を持っている俺たちが抹消リストに載っているっつゥことかァ? ソイツは愉快で笑える展開だな」

土御門「逆だよ」


 土御門は小さく笑う。

 
 
土御門「このことは一切口外しないかつ、持っている情報を全て献上する。その条件を飲むことでお前たちにも口止め料が支払われる」


一方通行「……そォいうことか」


 一方通行は理解した。
 彼の言いたいことが。自分の質問に対する答えが。


一方通行「その口止め料っつゥのが、俺たちが行ったあらゆる悪行の免責、ってことか」

土御門「御名答。お前たちの持っていたデータは全てこちらで引き払っておいた。お前たちは自由の身だよ」


 自由の身。そう言われても一方通行は特に実感が湧くことはなかった。
 むしろ、彼の性格からしたら、逆に疑念のようなものが湧いてくる。
 だから一方通行は目の前の少年を睨みながら、

 
 
一方通行「ンなクソ甘めェ言葉ァ吐かれて、ハイハイと信じられるわけねェだろォが」


土御門「…………」

一方通行「俺は知っている。暗部がそンな簡単なモンじゃねェっつゥことをな。あの計画をなかったことにしてェっつゥのはわかるが、それだけで俺たちを手放すことなンざするわけがねェ」


 食って掛かるように前のめりになり、

 
 
一方通行「例えば、俺の場合は妹達を。結標の場合は少年院に収監されている仲間たちを。ソイツらを人質にして俺らを手中に収めるなンてこと、ヤツらは平然とやってきてもおかしくはねェ」


一方通行「さらに言うなら、結標はその計画になくてはならない重要人物だ。計画のことを知ろうが知らまいがアイツがいなきゃ話にならねェくらいのな」

一方通行「そんなヤツを野放しにしておくなンて選択肢を、あのクソ野郎どもが取るはずがねェンだよ」


 土御門はため息を付く。
  

土御門「ああ、たしかにお前の言う通りだ。現にお前らから人質を取って管理下に置こうとしている強硬派もいた。それは紛れもない事実だ」

一方通行「当たり前だ。それが学園都市のクソッタレな闇っつゥモンだからな」

土御門「だが、それはある人物がその者たちへ圧力を掛けたことにより抑えられている、って話だ」

一方通行「誰だソイツは?」

土御門「統括理事会の中の一人、貝積継敏だ」

一方通行「貝積だと……?」





 その名前を聞いた彼の頭の中に真っ先に浮かんだのは、統括理事会の一員である老人の顔ではなく、一人の女の顔だった。
 一方通行は口の端を歪める。
 

一方通行「チッ、そォいうことか。あのクソ女め、余計なことしやがって」

土御門「ちなみにそのクソ女さんから伝言を預かっているぜい」

一方通行「伝言だと?」


 土御門がごほん、と咳払いをする。
 

土御門「『卒業式前日のときの借りは返したけど。これでもう貸し借りなしってことだから、次何かやりやがったらもう知らんけど』だとさ」

一方通行「……馬鹿かコイツ。あンなくだらねェ進路相談のお返しで、統括理事会の一人を動かしてンじゃねェよ」


 一方通行は全身の力を抜いてベッドに倒れ込んだ。
 まるで気が抜けたように、不貞腐れたように寝転ぶ。
 

土御門「じゃ、オレはそろそろ行くとするよ。せいぜい、ゆっくり休むことだな」


 そう言いながら土御門は病室を出ていった。


一方通行「……チッ」


 ドアが閉まり、少年が出ていったあと、一方通行は忌々しそうに舌打ちをした。
 彼との話をしている中で、あることに気が付いてしまったからだ。
 結局、自分は彼女との、結標淡希との『約束』を果たせていないのではないか。
 
 土御門の話を全て鵜呑みにすれば、結標淡希は闇の世界から救い出されたことになる。
 それは一方通行にとっての目的でもあるため、願ったり叶ったりのことだ。
 しかし、それは一方通行の功績ではない。土御門を始めとした『グループ』や、統括理事会の一人を裏から動かすことができる女が与えてくれたモノ。
 一方通行は学園都市最強のチカラを持っている。だが、それだけだ。
 所詮は一介の学生である彼には、何も変えることはできなかった。
 
 胸にズキリと痛みを感じた。

 
 
一方通行「…………、いつまでも、泣き言は言ってられねェか」



 呟き、起き上がった一方通行はベッドから足を降ろし、棚に置いてあった機械的な杖を手に取る。
 それを使ってゆっくりとベッドから降り、立ち上がり、部屋の外へと向かって歩き出した。

 
 
―――

――






美琴「――ほんとアンタって馬鹿よね。せっかく黒子たちが協力してくれてたってのに、最終的には一人で突っ走ってそんな大怪我負ってるわけだし」

上条「……悪い」


 上条当麻は病室のベッドの上に居た。
 彼もまた、気付いたら病院に搬送されていて、目が覚めたら昔よく見た懐かしい天井を目の当たりにしたという感じだった。
 カエル顔の医者いわく全治一週間の怪我らしい。結構な大怪我を負っていたような気がするが、その程度で済んでいるのはお医者様様だということだろう。
 入院代も馬鹿にならないし、明後日からは新学期だということなので、なんとか明日には退院できるようにしてもらえないか、と説得でもしようかと思っていたところに美琴が来たのだった。
  
 美琴が呆れたように続ける。


美琴「しかも、結局結標のヤツを助け出したのは一方通行って話だし、アンタは一体何やってたのよ?」

上条「何をやってた、か……」


 上条は当時のことを思い出していた。
 
 結標を傷付けようとしている、第四位を名乗る女と対峙したこと。
 結標を説得しようとしてが、拒絶されてしまったこと。
 結標を追って、少年院へ潜入したこと。
 結標たちを守るために、第二位のチカラを振りかざす男を止めようとしたこと。
 
 別に誰かに頼まれたことじゃない。自分がやるべきことだというわけでもない。
 誰かが言った。自分がやりたいと思えたことが自分の『役割』なのだと。
 だから上条は、微笑みながらこう答える。
  

上条「そうだな。俺は俺のやりたいことをやってただけだ」

美琴「……はあ? なによそれ?」


 曖昧な答えを聞いた美琴が眉をひそめた。
 

 ドタドタバタバタ。


 忙しなく走っているような足音が病室の外の廊下から聞こえてきた。
 その足音は次第に大きくなってきていることから、この部屋へと近づいてきているということだろう。
 不機嫌そうな視線をこちらへ送り続けている美琴から目を逸らすように、上条は病室のドアへと目を向けた。  


 ドタバタ、ガチャ。ドアが開かれた。


禁書「とうま!!」


 同居人である純白のシスターさんが姿を現した。


上条「インデックス!? ……あっ」


 上条は何かを思い出したような声を上げた。
 それは決して忘れてはいけないようなことだったらしく、サーッと少年の表情が青ざめていく。





禁書「とうま? 今の今まで一体どこ行ってたのかな? お昼ごはんの材料を買いに行くって言ったっきり全然戻ってこないし」


 その帰り道で結標と接触してから、今の今までいろいろあったため、上条は完全にそのことを忘れていた。
 だから、あの大量に買い込んだ食料は今どこにあるのかなどという記憶は、頭の片隅にも存在しない。


上条「あのー、インデックスさん?」


 存在を忘れられていた挙げ句に、ご飯という彼女にとっての生きがいとも言えるイベントをすっぽかされていたインデックスはさぞお怒りだろう。
 少しでも怒りを緩和させるための言い訳を考えるために頭を思考させる。
 しかし、その思考は即座に中断された。



禁書「おやつの時間になっても戻らなくて、晩ごはんの時間になっても戻ってこなくて、次の日の朝ごはんの時間になっても帰ってこなくて、またまたお昼ごはんの時間になってもとうまはいなくて――」



 言葉を連ねる彼女の顔には怒りなどというものは見えなかった。
 どちらかといえば不安だとかそういった表情だ。



禁書「私、ほんっとに心配したんだよ!!」

 

 涙を滲ませた碧眼が、上条当麻をじっと見つめていた。


上条「……ごめん。インデックス」


 だから上条は、何の飾り気のないその一言で謝った。
 そんな二人の間に立っていた美琴がため息をつき、インデックスの方へと向いて、


美琴「一応言ってはおくけど、ここ病院だからあんまり大声上げないほうがいいわよ?」

禁書「あれ? みこと? 何でこんなところに?」

美琴「今気付いたのか……」


 美琴は目をパチクリとさせている少女を見て、げんなりした。


禁書「もしかしてみこともとうまのお見舞い?」

美琴「ま、まあ、そんなとこよ」

禁書「ふーん」


 ふと、インデックスの視線がテーブルの上へと向いた。
 そこにあるのは、美琴がお見舞いの品として持ってきたデパートかどこかで買ってきた缶入りのお菓子。
 それを見たインデックスはピクリと反応する。





禁書「もしかしてとうま、私がひもじい思いをしている中、とうまだけこんな高そうで美味しそうなものを食べていたのかな?」


 先程の不安を抑えきれなくなったような目から一変し、疑念を浮かべるような物言いたげな目をする。
 あっ、これはまずい。そう思った上条は弁解するように。


上条「いや、違う! これは御坂が持ってきたお見舞いの菓子だ! まだ一口たりとも口にしてねえ!」


 上条はこの二四時間以内に食べたものを片っ端から思い出しながら、


上条「それに、今日食ったのは病院食とかいう、栄養バランスだけで男子高校生の味覚に合わせられてない料理だけだし、昨日だってどっかのホテルのルームサービスで頼んだ一杯五〇〇〇円もするボッタクリ牛丼しか食ってねえよ!」

美琴「それってもしかして、第七学区にあるホテルが出してる高級和牛乗せてる牛丼じゃない?」


 思わぬところからの援護射撃がこちらへ飛んできた。


上条「えっ、マジでか? あんま美味しくなかったぞ?」

美琴「……ああ、味覚が合ってなかったのね」


 残念なものを見るような目で美琴はそう言った。
 まさかあの牛丼がそんな高級料理だとは思わなかった、とか、もっとちゃんと味わって食えばよかった、とかいろいろ思いたかったがそんな暇はない。
 なぜなら、目の前にいる純白シスターさんも美琴の話を一緒に聞いているのだから。


禁書「へー。私がこもえやあいさやまいかやいつわに普通のご飯を食べさせてもらっている間、とうまは美味しい牛肉が乗ったごはんを食べていたんだね」

上条「だからそんなには美味しくはなかったって! つーか、テメェさっきひもじいとか言ってたよな!? なにさらっと昼晩朝昼全部ごちそうになってんだ! ぜってえそっちの料理のほうが一〇〇倍うめえよ俺が食ったヤツより!」


 上条の怒涛のツッコミが病室へ響き渡った。
 先程名前の上がった救いの女神様たちにはあとで死ぬほどお礼言わなきゃいけねえなコンチクショー、とか思っている上条のことなど気にせず、インデックスは犬歯を光らせる。
 

禁書「とりあえず、一回とうまにはお仕置きをしておいたほうがいいかも」

上条「テメェさっきのお涙頂戴的な感動の再会シーンのときの感じはどこいった!? お菓子が入った缶切れ一つと、たった一杯のぼったくり牛丼でこんなに態度が変わんのかよ!?」

禁書「それとこれとは話が別かも」


 そう言ってインデックスはじりじりと距離を詰めてくる。


上条「ちょ、ちょっと待てインデックス! 御坂がさっき騒ぐなって言ってただろ?」

禁書「大丈夫。私は一言たりとも声は出さないんだよ」

上条「そりゃそうだ、お前は噛み付いてんだからな!」

美琴「じゃ、そろそろ私は行くわね」


 見捨てるかのように美琴がドアに向かって歩を進めていた。
 

上条「待て御坂! 助けてくれ! このままじゃインデックスに頭蓋骨粉砕されて集中治療室送りにされちまうッ!」

美琴「ま、私じゃどうしようもないからせいぜい頑張りなさい? あっ、そうだ」


 美琴が面白いことを思い出したかのようにニヤリと笑う。


美琴「たぶん、このあとこわーい顔した風紀委員(ジャッジメント)の二人が来ると思うから、楽しみにしときなさい♪」

上条「げっ、マジ?」


 だらりと嫌な汗が流れる。
 明日退院できる可能性のパーセンテージが急速にゼロへ向かって急降下していくのがわかった。





美琴「ほいじゃ、またねー……ん?」


 病室を後にしようとした美琴の視界にあるモノが映る。
 それは部屋に備え付けられている棚に置かれているいろいろな種類のフルーツが入ったバスケットだった。
 見るからにお見舞いの品だ。


美琴(私たち以外にも誰かがお見舞いに来てたのね)

 
 もちろんこれは美琴のモノでもないし、インデックスが手ぶらでここに来たのは知っているから彼女のモノでもない。
 つまり、ここにいる二人以外の誰か。


美琴(……一体誰が?)


 ふと、美琴の鼻が甘い香りを感じ取った。おそらくあのフルーツ盛りから香ってきたのだろう。
 だがその香りはフルーツのようなモノとは違うように思える。なぜなら、この香りがフルーツ類以外の何かということを知っているからだ。


美琴(蜂蜜の香り? どうしてフルーツ盛りからそんな香りが?)


 見たところあのフルーツ盛りの中にはそういうモノが入っている様子はない。
 ましてや、そういう系統の香りを発する果物など聞いたこともない。

 しかし、美琴はその蜂蜜のような甘ったるいニオイに覚えがあった。
 それは自分と犬猿の仲のような関係にある少女がまとっていたニオイとよく似ている気がした。
 ははっ、と力なく美琴は笑う。


美琴「……まさか、ね?」


 美琴はそう呟いて病室を出ていった。




上条「不幸だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」




―――
――






 とある病院の個室。窓を半分開けた室内には、温かい春風が緩やかに流れている。
 起き上がったリクライニングベッドに背を預けながら、結標淡希はカエル顔の医者に言われたことを思い出していた。

 『キミは肉体再生系の能力でも持っているのかな?』
 
 もちろん結標はそのようなチカラなど持ってはいない。なのに、なぜそのような質問を受けたのか。
 それは彼女がこの二日間弱の間に負った傷の数々のせいである。
 学園都市の暗部と命の取り合いとも言えるような戦いを繰り広げてきた結標は、体の至るところに傷やダメージを負っていた。
 かすり傷とかそういったレベルではない。全身から血を流すような重症とも言えるようなモノ。
 
 結標は今の自分の身体を見る。たしかに怪我はしている。痛みも感じる。
 しかし、それらは至って普通の怪我程度のモノに収まっていた。医者が言うには、病院に運び込まれた時点でこうだったらしい。
 付き添っていた少年が、どういった怪我を負ったのかという説明を事細かくしてくれたらしいが、彼が言うような怪我の度合いには到底及ばないほどの軽症だった。
 勘違いして大げさに言っているのだと医者は思ったらしいが、怪我の原因や箇所まで正確に言っていたりと、嘘を言っているような表情ではなかったことから、先程のようなセリフを結標に冗談交じりで問いかけたのだろう。

 何度も言うが、結標淡希には肉体再生などというチカラはない。
 だから、自分が重症だと思っていた怪我は、もしかしたら勘違いだったのかもしれない。そう考えればこの状況にも説明がつくだろう。
 だが、一つだけ説明のつかないことがあった。
 
 結標は、自分の両腕を見た。
 この腕は、能力を暴走させた少年の背中から発せられた、黒い翼のようなモノと接触してズタボロにされたはずだ。
 皮は破れ、肉は飛び散り、骨がへし折れ、まるで食べ散らかされた骨付きチキンのような見た目になっていた。
 しかし、現実今の彼女の目に映る両腕は至って普通の腕だった。
 自分の思い通りに動く。感覚もある。汗もかく。作り物でもない、紛れもない結標淡希の両腕。
 
 もしかして、あれは夢だったのか?
 あのとき感じた痛みも、あのときの出来事も、あのときの自分が思ったことも――。

 
 
結標「……はぁ、馬鹿馬鹿し」



 結標はため息交じりにそう呟いた。
 

 トントントン。


 自室のドアをノックする音が聞こえた。
 医者でも来たのか、と結標は入口の方を向いて返事をする。
 

結標「どうぞ」

??「失礼します」


 入ってきたのは中学生の少女だった。
 常盤台中学の制服を着ていて、ツインテールにした茶髪をゆらゆらと揺らしながら彼女がこちらへ歩いてきた。
 

結標「…………ッ」


 その少女は結標にとってよく知っている人物だった。
 だから結標は、眉をピクリと動かしたあと、くすりと笑みをこぼした。


結標「あら、こんにちは。白井さん?」

黒子「……どうも」


 そう挨拶して、黒子は一礼した。
 




結標「まさか貴女が私のお見舞いをしに来る日が来るとはね。一体どういう風の吹き回しかしら?」

黒子「勘違いしないでくださいます? 別にこれはお見舞いとかそういった類のものではありませんのよ? ただ様子を見に来ただけですの」

結標「……菓子折り持って?」


 黒子が後ろに隠すように持っていた紙袋を指差して、結標は問いかける。
 

黒子「こ、これはわたくしが個人的にここのお菓子を食べたいと思って店に買いに行ったから、そのついでに一緒に買ってきただけのモノですの! 決して、貴女のためではありませんわ!」


 顔を真っ赤にして否定する少女を見て、結標は「ふむ」と顎に手を当てながら、

 
 
結標「なるほど、これがツンデレというヤツね」


黒子「わたくしをそういった俗な呼び方で呼ばないでくださいます!?」

結標「冗談よ。ありがとうね白井さん」

黒子「まったく……」


 息を整えながら黒子は手に持っていた紙袋を差し出す。
 それを結標はお礼を交えつつ受け取った。
 
 ふと、中身を見てみると『学舎の園』の中にある有名な洋菓子屋さんで売っている、洋菓子の詰め合わせセットだった。
 昔、雑誌か何かで見たことある。度々、贈り物の菓子折りオススメランキングの上位に上がっていたので、印象に残っている。
 結標は中身を取り出して、箱を回したり角度を変えたりして様々な角度から箱を見る。
 その様子に黒子が怪訝な表情をする。
 

黒子「……どうかなさいましたの?」

結標「これMサイズね。常盤台のお嬢様なんだからケチらずにLサイズにしてくれたらよかったのに」

黒子「ほんといけ好かない女ですわね、貴女は」


 黒子は呆れながら言った。
 ごめんごめん、と軽い感じで結標は謝り、そのまま続ける。

 
 
結標「で、私に何か用? まさか本当に様子を見るためだけに、わざわざここまで来たとか言わないわよね?」


黒子「…………」


 その言葉に黒子の顔に陰りが見えた。
 しばらく沈黙が続く。
 よほど深刻なことなのだろう、と結標は彼女の様子から察する。
 意を決したのか、黒子の口が開かれる。
 

黒子「わたくし、貴女に謝らないといけないことがありますの。今日はそれを伝えにここに来ましたのよ」

結標「謝る? 私に?」

黒子「ええ。正確に言うなら、わたくしが謝りたいのはもう一人の貴女に対して、ですが」

結標「……なるほどね」


 結標はわかったような表情をし、


結標「もしかして、貴女も九月一四日以降の『私』と知り合いだった?」





 結標は先回りするように質問した。
 記憶喪失していたときの自分がどういう交友関係を持っていたのかなんてわからない。
 だから、目の前の少女と仲良くお茶をするような関係だったとしても、何らおかしくはない話だ。
 しかし、


黒子「いえ、まったく」

結標「は?」


 真顔で真逆の答えが返ってきた。
 思わず結標も唖然としてしまった。


黒子「わたくしは記憶喪失していたときの貴女のことは何一つ知りませんわ。けど、そのときの貴女が幸せに過ごしていたことは知っているつもりですの」


 「知っているとは言っても、あくまで聞いた話や状況から組み立てた憶測レベルなんですが」と黒子は付け加える。
 

黒子「けど、その幸せは全部壊れてしまいましたの。それも全部、わたくしのせいで」

結標「…………」

黒子「わたくしがもう少ししっかりとしていれば、もしかしたらあんな悲しいことは起きなかったかもしれませんわ」


 懺悔するかのように黒子は思いを打ち明けていく。
 ふと、黒子は目をハッとさせた。
 彼女の視線の先には怪我を負っている結標淡希がいる。


黒子「そう考えましたら今の貴女にも謝らないといけませんわね。貴女がこうやって怪我を負って入院している原因も、元を正せばわたくしですもの」


 結標は知っている。
 自分の記憶を蘇らせるために『残骸(レムナント)』事件に関わる人物たちが利用されたことを。
 『一方通行』。『御坂美琴』。そして、目の前にいる少女『白井黒子』。
 白井黒子もそれを知っている。わかっているからこうやって結標の前に立っているのだろう。
 だからこそ結標は言う。
 

結標「……自惚れないでくれる?」

黒子「えっ」


 結標は正面から彼女の目を見ながら、
 

結標「この怪我は私が自分のために行動した末残った結果。ただそれだけよ。貴女が介入できる余地なんてない。それに私はこういう結果になったことに対して、後悔なんて微塵も感じていないわ」

黒子「し、しかし」


 何か言おうとしている少女を遮るように口を動かし続ける。
 

結標「それに幸せをぶち壊した云々に関しては論外ね。だって、それは私に謝られても困るもの。私はあのときの『私』じゃない。許すこともできなければ、許さないと言って突き放すこともできないわけ」

黒子「うぐっ、たしかに……」

結標「そんな自己満足の謝罪をする暇があったら、学園都市の平和のためにパトロールでもしたほうがいいんじゃないかしら? 風紀委員(ジャッジメント)の白井黒子さん?」


 ふふん、と結標は笑った。
 それに対して黒子は体を震わせていたが、次第にそれが収まっていき、落ち着くようにため息をついた。
 




黒子「……たしかにそうですわね。貴女の言う通りですの。わたくしとしたことがどうかしていましたわ」

結標「まあでも、しおらしい白井さんは見てて面白かったわよ?」

黒子「そんなフォロー要りませんの!」


 ピコン♪
 

 突然携帯の通知音のようなものが鳴った。
 キィーキィー言ってた黒子の動きが止まる。
 スカートのポケットの中を探り、細長いスティック状の携帯端末を取り出した。
 どうやら彼女の携帯の音だったらしい。
 いくつか操作し、画面のようなものが出てきた。それを見た黒子が「あっ」と声を漏らした。

 
 
結標「どうかしたのかしら?」


黒子「ええ、貴女に会いたがっている人が居ましてね。その子からの連絡でしたの。ここに連れてきていたのをすっかり忘れていましたわ」

結標「へー、そんな物好きがいるのね。というか、今の今までずっと外で放置させていたわけ?」

黒子「そういうことになりますわね。ま、別にいいでしょ」


 黒子は画面を操作しながら話を流した。
 メッセージに対する返事でも送っているのだろう。

 
 
 ガララッ!!

 
 
 メッセージを送って五秒後くらいに病室のドアが勢いよく開かれた。

 ずんずんと力強い足取りで黒子と同世代くらいの中学生の少女がこちらへと歩いてくる。
 知らない学校の制服を着ているが、右腕部分にジャッジメントの腕章をつけていることから、おそらく白井黒子の同僚か何かなのだろう。
 頭につけている色とりどりの花々が飾られたカチューシャは、まるで花束をそのまま頭につけているようにも見えるほどの量だ。


??「ちょっと白井さーん! いくらなんでも待たせ過ぎですよ!? 悪いことして廊下に立たされてる生徒ですか私はー!?」

黒子「こちらが貴女なんかに会ってみたいなどという世迷い言を言う、頭がおか……女の子ですの」

??「無視して勝手に始めないでください! あと、さっきとんでもないこと言いかけませんでした!?」

黒子「気のせいですわ」


 いきなり入ってくるなり漫才のようなやり取りを始めた少女たち。


結標「えっと……」


 結標はそれに圧倒されながらも、あとから入ってきた花束みたいな少女を見ていた。
 視線に気付いた少女があたふたした感じになり、

 
 
初春「あっ、す、すみません、騒がしくして。申し遅れました、初春飾利と言います!」



 よろしくお願いします! と腰を直角くらいまで曲げてお辞儀をした。


結標「初春さんね、よろしく」


 つられて結標も軽く頭を下げた。
 二人は顔を上げ、しばらく見つめ合う。





初春「え、えっと、あはは……」


 と、愛想笑いのようなものをしながら初春は目線を右往左往させていた。
 埒が明かないな、と思い結標が動く。


結標「その、初春さん?」

初春「は、はい!」

結標「貴女はどうして私に会いに来たのかしら?」


 率直な疑問をぶつけてみた。
 結標は自分がそんな大した人間ではないことを理解しているつもりだ。
 そんな羨望の眼差しで見られたり、何かを期待してもらえるようなそんな立場にはいない。
 だから、結標はそう聞いた。
 

初春「へっ? え、ええっと……」


 聞かれた初春は戸惑ったようなリアクションを取った。
 まるで授業中にぼーっとしていたとき、突然先生に当てられた生徒のように。
 少し考えたあと、少女は困った感じの表情を向けてきた。


初春「その、え、えへへ、な、なんでしたっけー?」

結標「?」


 雑な質問で返された。
 そのため結標も首をかしげるくらいしかリアクションができなかった。
 二人のやりとりを隣で見ていたツインテールの少女が顎に手を当てながら、
 

黒子「何を言っていますの初春?」

初春「白井さん?」

黒子「貴女、殿方二人が大切に思っている人がどんな人なのかとか――」

初春「ちょ、ちょちょ白井さんストップ!! わー!! わー!!」


 黒子の言葉を遮るように声を上げる。


黒子「何をそんな大声上げていますのよ貴女は?」

初春「そりゃ本人の前であんな恥ずかしいセリフを言われそうになってるのだから、阻止だってしますよ!」

黒子「別にあの程度で恥を感じることはないと思いますが。わたくしならお姉様への愛の気持ちなら校庭のど真ん中でも叫べますわよ? 一切の恥じらいなく」

初春「私は白井さんのような恥知らずとは違いますので」

黒子「は? 貴女今なんとおっしゃいました?」


 お見舞いに来ているはずの二人組が病室で口論を始めた。
 ギャーギャー騒がしい声が部屋の中を飛び交う。ボクシング一ラウンド分くらいそれは続いた。
 言うことを言った二人は息を荒げていた。
 

初春「ぜぇ、ぜぇ、む、結標さん。これお見舞いの品です」


 唐突に初春が桃色の箱を結標へと両手で差し出した。先程の会話をさらりと流したつもりなのだろうか。
 よくわからないが余程お見舞いに来た理由を言いたくないのだろう。

 
 



結標「え、ええ、ありがとう」


 結標も別にそこまで理由に興味があったわけではないので、特に触れることなくそれを受け取った。
 渡しながら初春は言う。
 

初春「まあ、なんというか、あれです。あなたが無事でよかったというか、こうやって出会うことが出来て嬉しかったです!」


 少女はにっこりと微笑みかけた。
 太陽のような眩しい笑顔だった。
 

結標「……そう」


 初対面の人になんでここまで言えるんだ、と結標は少し照れ臭くなって、視線をもらったお見舞いの品の方へ向けた。
 その箱には描かれている絵を見て、結標は中身が何かに気付く。


結標「あら、これってたい焼き?」


 屋台とか専門店とかそういうところで売られているようなモノだった。
 その日に作られた出来たてのたい焼きをテイクアウトして持ってきたのだろう。
 箱の発するほのかな温かさからそれが伝わってくる。
 ……出来たての温かさ?


結標「この病院の近くにたい焼き屋さんなんてあったかしら?」

初春「いいえ、ありませんね。ちなみにそれは、ここからだと少し距離があるところにあるたい焼き屋さんのモノです。私のお気に入りなんです」

結標「まるでこれ出来たてみたいに温かいんだけど」

初春「はい! 結標さんのために頑張って持ってきました!」


 ニコニコしながらそう返した。おそらくこの温かさは彼女の能力か何かでもたらされたモノなのだろう。
 ああ見えてジェット機並みの速度で飛行できるチカラとか持っているのかもしれない。
 なにはともあれ、自分のためにこの少女はここまで頑張ってくれたのだ。なぜここまでしてくれたのかは未だにわからないが。
 結標はらしくないとは思いながらも、嬉しい気持ちは湧いて出てくるのを感じた。
 

結標「ありがとうね。嬉しいわ」


 結標は笑顔でそう応えた。
 

黒子「……ちょっとよろしいですの?」


 黒子が不満そうな表情をしていた。

 
 
結標「なにかしら?」


黒子「何でわたくしのお見舞いの品にはケチつけやがりましたのに、初春のは文句の一つも言わずにそんなに大絶賛なんですの?」

結標「失礼ね。まるで私がいつも悪態をついている人間みたいに言って。というか、やっぱり貴女もお見舞いに来てくれていたのね」

黒子「そういうことを聞いているんじゃないですの!」

結標「そうね」


 結標は不敵な笑みを浮かべながら、
 

結標「私だって悪態つく相手くらい選んでるわよ?」

黒子「ほんっと! いけ好かない女ですわ!」


―――
――






 ショチトルは病院のベッドの上で静かに眠りについていた。
 カエル顔の医者が言うには命に別状はないらしいが、あまり良い状態とは言えないらしい。
 肉体の三分の二を失い、それをまがい物の肉で埋められているのだからしょうがないことなのだろう。
 

海原「…………」


 ベッドの横にある椅子に座っている海原が、見守るように少女を見つめる。
 なぜこんなことになったのか。どうして彼女がこんな目に合わなければならないのか。
 疑問は尽きないが、今考えたところで何も解決はしない。
 今は、彼女がこうして生きていてくれている状況に感謝しなければ。


海原「……また来ます」


 海原は呟いて、音を立てないよう静かに病室から廊下へ出た。


海原「……おや、二人共いらしていたのですか?」


 病室の前には二人の少女がいた。

 
 
番外個体「ヤッホー☆」



 一人は番外個体。海原と同じ『グループ』の構成員の一人。
 今朝の作戦で左肩を脱臼するという怪我を負った為、治療のため肩にサポーターを取り付けている。
 本人はそのことを気にしていないのか、ケラケラと笑いながら手をこちらへ向けて振ってきていた。

 
 
黒夜「…………」



 もう一人は黒夜海鳥。同じく『グループ』の構成員。
 少年院の中での戦闘で苦戦を強いられたのか、体のいたる所に包帯やらギプスやらで処置されている跡が見られる。
 傷付いた野犬のように鋭い目を海原に向けていた。


黒夜「敵を助けるなんてアンタどうかしてるよ。コイツが回復した途端、私らに牙を剥いてきやがったらどうするつもりなのさ?」


 海原の背中にある扉へ向けて顎で指して言う。
 たしかに彼女の言う通り、今この病室で寝ているショチトルは暗部組織『メンバー』の構成員の一人だ。
 つい半日前には敵対関係にあって交戦していたことも事実だ。
 




海原「今の彼女にそこまでやれる力は残されてはいませんよ」

黒夜「脳みそさえ動いていればやりようはいくらでもあるよ?」

海原「自分がそんなことさせません」

黒夜「コイツを助け出すために『メンバー』の連中が動くことで、血みどろの抗争が起きちまうかもしれないよ?」

海原「この時点で何も起きていないことから、彼女にはそこまでの価値はない。切り捨てられたと見たほうが妥当だと思いますが」

黒夜「そんな安っぽい憶測を信じろと?」

海原「信じられないのなら、どうぞ自分の首を落としてください。それだけのことをしていることは自覚はあるつもりです」


 二人の視線がぶつかり合う。
 犬歯をむき出しにしながら睨みつける黒夜に対して、海原は動じることなく一直線に目の前の少女を見つめていた。
 殺気の満ち溢れたにらめっこ。
 先に動いたのは黒夜だった。


黒夜「チッ、くっだらねェ」


 舌打ちしながら視線を逸らす。


黒夜「ボロボロで無抵抗なアンタを殺しても何の面白みもないからね。好きにしなよ」


 黒夜はそう言って背中を向ける。
 この場から立ち去るようにゆっくりと廊下を歩き出した。
 

海原「……ありがとうございます」


 彼女の小さな背中を見ながら海原は微笑んだ。
 

番外個体「なんかカッコいいこと言ってる風だけど、実際はクロにゃんがエっちゃんにビビって引き下がっただけだよねー」


 そんなやりとりを見ていた番外個体が、茶々を入れるように言い放った。
 黒夜が勢いよく振り返って吠える。


黒夜「ビビってねェよ! 誰がこンなヤツなンかにッ! ……うん? エっちゃんって誰だよ?」

 
 番外個体の言った知らないあだ名を聞いて、黒夜は首を傾げた。
 ニヤニヤしながら番外個体は質問に答える。


番外個体「海原のこと。本名エツァリって言うらしいよー」

海原「ちょ、ちょっと番外個体さん。その名前はあまり広めて欲しくはないのですが……」

番外個体「えぇー? いいじゃんエっちゃん。かわいいよー?」





 海原光貴は偽名だ。この顔の本来の持ち主の名前をそのまま名乗っているだけ。
 この少年の本当の名前はエツァリ。それはアステカの魔術師としての名前。
 学園都市は科学サイドの中心。そんな中で天敵である魔術サイド側の名前を広められるのは、あまり好ましいことではない。

 
 
黒夜「……へー」



 それを聞いた黒夜は、面白いことを聞いたときのようにニヤリと口の端を歪めた。
 

黒夜「なるほどねー、そうだったのか。だったら私もエっちゃんって呼んで――」

海原「ぶち殺されたいのですか黒夜?」


 言い切る前に海原が鋭い眼光を光らせる。
 怒りと殺気を感じ取った黒夜がビクリと体を震わせた。


黒夜「なっ、なンでだよ!? 何で番外個体のヤツがよくて私が駄目なンだ!」

海原「貴女にそんな呼ばれ方をされるなんて虫唾が走ります番外個体さんは別ですけど。自分を怒らせたくないのならそんな呼び方はやめるべきですよ番外個体さんはどうぞ続けてください。貴女もバラバラに解体はされたくはないでしょ番外個体さんならいいんですが――」


 つらつらと言葉を並べていく海原。
 このような流れの言葉があと一〇個くらい続いたくらいで番外個体が、
 

番外個体「うわぁ……」


 ドン引きしていた。
 頭の中が負の感情で溢れかえっているはずの少女が。


黒夜「この依怙贔屓野郎めェッ! 安心しろ海原ァ! こっちもハナからそンなクソみてェなニックネームで呼ぶつもりなンてねェからよォ!」

海原「賢明な判断です。あっ、番外個体さんは好きに呼んでくれて構いませんよ?」

番外個体「……何か気持ち悪いから呼び方元に戻すね? 海原」


 目線を合わさずに番外個体はそう言った。
 

海原「そうですか。それは残念です」


 海原は爽やかな笑顔を浮かべた。


―――
――






 第七学区にあるふれあい広場。
 春休み期間ということもあり、小学生くらいの子どもたちが楽しそうに駆け回っていた。
 そんな場所だが中・高生もいる。RABLM(らぶるん)という移動式のクレープ屋の屋台の順番待ちの列に並んでいた。
 特にキャンペーンなどしている様子はないが、これだけの列ができるということはそれだけ有名な店なのだろう。
  
 そんな店のクレープを買い、ベンチに腰掛けて食べている金髪碧眼の少女二人組がいた。
 高校生くらいの少女フレンダと小学生くらいの少女フレメア。見ての通りの姉妹である。


フレメア「やっぱりクレープはチョコ&ショコラの組み合わせが最高! にゃあ」

フレンダ「それどっちもチョコレートじゃん」


 フレンダは呆れながら手に持ったクレープをかじる。

 
 
フレメア「ところでお姉ちゃん?」


フレンダ「なに?」

フレメア「今日はどうしたの? 急にクレープを食べに行こうだなんて」

フレンダ「……別にー。これと言った深い意味はない訳よ。ただ暇だっただけ」

フレメア「ふーん」


 嘘だ。本当はただ逃げたかっただけだ。
 暗部から。現実から。失敗続きで良いとこなしの自分から。
 妹という光の世界の象徴へ逃げたかっただけだ。
 

フレメア「だったらお姉ちゃん! 暇なら今から映画観に行こうよ!」


 フレメアが大きな瞳を輝かせる。
 正直、いま映画なんて観てもまったく内容が入ってこないだろう。
 けど、それで彼女が喜んでくれるのなら、とフレンダは小さく息を吐いた。


フレンダ「映画かー、まあ時間はあるし別にいいけど。何が観たいのよ?」

フレメア「今やってるゾンビのヤツ!」

フレンダ「うぇーやっぱそういう系かー。恋愛モノのヤツ観ようよー? 何か今やってるでしょ? 学園ラブコメのヤツ」

フレメア「そんなラブコメとかいうフィクションの塊なんて、大体、興味ない。にゃあ」

フレンダ「ゾンビ映画もフィクションの塊でしょうが!」


 ピコン♪ 二人の会話を止めるように携帯の通知音が鳴る。
 嫌な予感がする。
 そう思いながら、フレンダはスカートのポケットから携帯端末を出して、画面を見る。





フレンダ(ゲッ、仕事の連絡じゃん。もうっ、今朝学園都市へ戻ってきたばっかだってのに、ゆっくり休む時間ももらえない訳?)


 今朝、学園都市に反旗を翻そうとしている外部組織を殲滅するという任務を終えたばかりだった。
 ふとそのときのことを思い出してしまう。
 自分の失敗で浜面仕上という少年に怪我を負わせてしまったことを。
 幸い命には別状はなかったが、一つ間違えれば彼は死体処理場行きとなっていただろう。
 

フレンダ(……大丈夫。大丈夫だから。次はちゃんとやる。ちゃんとやれるハズ!)


 フレンダは心の中でそう言い聞かせる。
 そんな彼女の表情に不安や焦りといった陰が見えた。


フレメア「どうしたのお姉ちゃん?」


 フレメアが首を傾げる。


フレンダ「ごめんフレメア! ちょっと急用入っちゃって、映画一緒に行けない!」

フレメア「えぇー、またー? この前も同じこと言って遊園地行くの当日ドタキャンしたはず!」


 両手をバタバタ動かして抗議するフレメア。
 フレンダは彼女をなだめながら、

 
 
フレンダ「ごめんごめん、この埋め合わせは今度必ずするから、ね?」


フレメア「むむぅ、しょうがないな。ここは私が大人になってあげる。にゃあ」

フレンダ「じゃ、そういうことだからちゃんと門限までに寮へ帰りなさいよ?」


 そう言ってフレンダは立ち上がり、持っていたクレープを頬張った。
 ごくりとそれを飲み込んで、一歩踏み出す。

 
 
フレンダ「それじゃあまたね! フレメア!」



 フレンダは駆け出した。再び、闇の世界へ向かうために。

 
 
 
 
フレメア「……お姉ちゃん」



 フレメアは心配するかのように呟き、小さくなっていく姉の背中を見送った。


―――
――






 第七学区の中のとあるビルの中の一フロア。
 ここは暗部組織『スクール』が利用している隠れ家件医療施設だ。
 このビルの近くには病院があり、連絡すればスクールの息がかかった医療従事者が駆けつけて、治療するという仕組みとなっている。
 設備は他の病院と大差のないレベルで整っている。が、非合法なモノもたくさん置かれているため、そういう点で言えばこちらの方が上かもしれない。
 
 その中にはもちろん入院患者用の病室だって備え付けられている。
 医療用の器具やベッドが設置されており、白を貴重としたその部屋はまるで病室そのものだった。
 そんな一室に入院している少女が一人いた。
 獄彩海美。スクールの構成員の一人である中学生くらいの少女。
 頭には包帯が巻かれており、右腕がギプスで固定されているという、痛々しい見た目をしていた。
 入院着で見えないが、その下は包帯だらけのミイラ状態になっていることだろう。

 
 
垣根「なんつーか、新鮮だよな」


 
 ベッドの横に立っていた垣根が問いかけるように言った。
 海美が少年の顔を見上げながら、


海美「なにが?」

垣根「お前がボロッボロで入院してる姿なんてよ」

海美「なにそれ? まるで私が怪我して面白いみたいな言い草ね」


 海美が不機嫌そうに顔をしかめた。

 
 
垣根「そうは言ってねえだろうが。お前は何ていうか、何でも卒なくこなして、何事もなかったかのような顔で、任務完了を報告してくるようなイメージがあったからな」


海美「それは褒めてくれていると判断してもいいのかしら?」

垣根「ばーか逆だよ。失敗したくせに褒めてもらえると思ってんのか?」


 垣根はあざ笑うように少女を見下ろした。

  
 
海美「たしかにそうね。それに同じく失敗した人から褒められても嬉しくもなんともないし」


垣根「チッ」


 バツが悪そうに垣根は舌打ちした。
 

海美「そっちは何があったのよ? その感じだと第一位にボコボコにされて逃げ帰ってきたとか、そういうわけじゃないんでしょ?」


 話の流れのまま海美が問いかける。


垣根「…………」


 垣根は黙り込んだ。
 何かを考えているという様子だった。
 海美はその様子をただただじっと見つめていた。

 しばらくしてから、垣根がため息をして、
 




垣根「……上条当麻って覚えてるか?」

海美「上条……」


 海美が少し視線を上げながら記憶を思い起こすような素振りを見せる。
 

海美「たしか、雪合戦大会の準決勝で戦ったチームのリーダーだった人かしら? あのツンツン頭の。彼がどうかした?」

垣根「ヤツが立ち塞がって来やがったんだよ。一方通行をぶち殺すために独房へ向かっている俺の前にな」

海美「あんな見るからに表の人間って感じの人が、何でそんなところに?」

垣根「さあな。結局、俺はヤツを殺すことができなかった。逆にヤツも俺を殺すことが出来ていない」

海美「貴方と引き分けるなんて、相当なやり手ね」

垣根「引き分けじゃねえ」


 食い気味に垣根は否定した。
 

垣根「ヤツの目的は、時間いっぱいまで俺の足止めをすることだった。一方通行や座標移動を守ることだった。その勝利条件を達成されたっつーことは、すなわち俺の負けだよ」

海美「ふーん」


 海美が軽い感じに相槌を打つ。
 垣根は続ける。
 

垣根「あのあと気になって、その上条とかいうヤツを調べてみた。そうしたら面白れーことがわかったよ」

垣根「一方通行をぶっ飛ばして、『絶対能力者進化計画(レベル6シフト)』を凍結させるまでに追い込んだ無能力者(レベル0)、ソイツがヤツだ」


 すなわち、それは上条当麻は一方通行を倒したということ。
 未現物質(ダークマター)というチカラを持っている垣根でも成し遂げることができなかった偉業を、あの無能力者の少年は達成することができたということだ。

 
 
海美「なるほど、ね。道理で勝てないはずよね。第一位より強いヤツが相手じゃ」


垣根「うるせえよ。つーか、何勝手に俺が一方通行より下だって決めつけてんだ?」

海美「完膚無きまでに叩きのめされるシーンを目の前で見せられたからね」


 雪合戦、舐めプ、逆算、次々と癇に障るワードを吐き出す海美。
 垣根はそれを遮るように舌打ちをして、
 

垣根「まあいい。いずれにしろ負けっぱなしは趣味じゃねえ。一方通行に上条当麻。いずれこの借りは必ず返す」

海美「……そ。せいぜい期待はしないで見守らせていただくわ」

垣根「可愛くねえヤツ……あっ、そういやよお」


 垣根が思い出したかのように話題を変える。
 




海美「何かしら?」

垣根「お前、少年院のとき電話してきて最後なんか言いかけてただろ? アレなんて言ったんだ?」


 ビクッ、と海美の体が少し揺れた。

 
 
海美「……ああ、あれね。知りたい?」


垣根「そりゃな。このままじゃ気になって昼寝も出来ねえレベルには」

海美「果てしなく微妙なレベルね」

垣根「どうでもいいところに引っかかってんじゃねえよ」

海美「そうね……」


 海美はそう言って少し黙り込み、窓の外へ目を向けた。
 つられて垣根も見る。ビル街の中の病室のため、コンクリートジャングルしかない。
 風景を見るために彼女は外を見ているのではないのだろう。
 話すことが決まったのか、海美は振り向き、小さく笑って言った。
 

海美「うーん、ヒミツ、ってことで」

垣根「は?」


 その答えに垣根は目を細めた。
 

垣根「テメェ、俺が何のために助けたと思ってんだ?」

海美「えっ、そんなくだらない理由で私は命拾いしたわけ? ちょっとショックなんだけど……」

垣根「生き残れただけでもありがたいと思え。いいからさっさと言えよ、殺すぞ」

海美「もうっ」


 海美は困ったような声を漏らした。
 困ってんのはこっちなんだが、と垣根は頬を掻いた。
 ふと、それを見た海美が何かを思いついたようにニヤリと笑う。


海美「そうね。だったらヒントをあげるわ」

垣根「ヒントだ?」

海美「そう。ちょっと耳貸してちょうだい」


 そう言って海美はベッド横に置いてある台に左手を置いて、前のめりに顔を突き出した。

  
 
垣根「? こうか?」



 言われた通り垣根は中腰になって片耳を差し出す。
 海美はそのまま唇を近付けた。
 

 
 垣根の頬へ。
 





 頬に柔らかい感触を感じた垣根が飛び上がるように立ち上がる。
 海美から離れるように垣根はたじろぐ。

 
 
垣根「なっ、て、テメェ何しやがったッ!?」


海美「ふふっ、これがヒントよ?」


 わずかに頬を紅潮させながら、海美は微笑んだ。


 トントン、ガララ。
 ノックを二回したあと、部屋のドアが開かれた。


誉望「失礼しまーす。行方不明になってた砂皿さんと連絡付きましたよ」


 点滴付きのスタンドを片手に誉望万化が部屋に入ってきた。
 報告をしながらそのまま部屋の奥へと入っていく。
 

誉望「それで驚いたんスけど、なんと噂のステファ――」


 誉望の動きが止まった。
 今まで見せたことのないような戸惑いの表情をしている垣根。顔を赤くして目を逸らせている海美。
 そんな世にも珍しい二人組を目の当たりにしたからだ。


誉望「ちょ、二人してなんなんスかその感じッ!? ここで何かあったんスか!?」

垣根「な、何にもねえよ殺すぞッ!!」


 垣根の背中から三対六枚の白い翼が現れた。
 未現物質(ダークマター)。学園都市第二位の殺意が具現化する。


誉望「ええぇっ!? ちょ、病院で能力使わんでくださいよッ!? てか俺も結構重症患ぎゃああああああああああああああああああああああッ!!」


 点滴スタンドを抱えながら誉望は部屋の外へ逃げ、廊下を全力疾走していく。
 それを追うように垣根が翼を羽ばたかせながら飛行する。
 
 パリン!! ガシャン!! ドガッ!! ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


海美「……ふふっ」

 
 
 廊下から聞こえてくる破壊音や絶叫を聞きながら、海美はくすりと笑った。



―――
――






結標「……自由の身、か」


 ベッドの上で上半身を起こしている結標が、窓の外を見ながら呟く。
 先程まで土御門という少年と話をしていた。
 彼は結標淡希と同じ学校に通うクラスメイトらしく、『グループ』という暗部組織に所属する構成員でもあるらしい。
 らしい、というのは今の彼女には彼の記憶はないため、そのような助動詞が文章の最後に付いてしまう。
 
 土御門からはいろいろなことを聞いた。
 自分が様々な暗部組織から狙われていたということや、自分が起こした事件がどういう風に処理されたのか。
 そして、これからの自分の処遇、など。


結標「そんなこと言われても、私にはもう……」


 ガンガン!


 結標の病室のドアから、荒々しいノックの音が鳴った。
 今日は来客が多いな、と結標は入り口を見る。

 
 
結標「どうぞ」



 ドアが開かれた。
 そこにいたのは少年だった。
 白い髪を頭に生やし、血のように染まった赤い瞳、線の細い体はまるでハリガネのよう。
 首に巻いたチョーカーからは線がこめかみへ向けて伸びており、右手にはメカメカしい現代的なデザインの杖を取り付けていた。
 結標は少年の名前を呟く。
 

結標「……一方通行」

一方通行「よォ」


 一方通行は適当に挨拶をしながら歩を進める。
 ベッドの横に辿り着き、結標を見ながら、
 

一方通行「具合はどォだ?」

結標「おかげさまでね」

一方通行「そォか」


 挨拶程度の会話をして、そこで流れが止まった。
 沈黙。それに絶えきれなくなった結標が言う。


結標「……座ったら?」

一方通行「おォ」


 促されたため、一方通行はベッド横にある丸椅子へと座った。
 だが、沈黙はまだ続いた。変わったことは椅子に座ったかどうか。
 はぁ、と結標はため息をつく。





結標「ねえ」

一方通行「あン?」

結標「聞きたいことがあるんだけど」

一方通行「何だ?」

結標「どうして私を助けたのよ?」

一方通行「あァ? あのとき言っただろォが。俺はオマエとした『約束』を果たすために――」

結標「そういうことを聞いているんじゃないわよ」

 
 一方通行の返答を遮るように言った。
 

結標「貴方もわかっているんでしょ? 私は貴方を恨んでいる。嫌悪している。身の毛がよだつ程の恐怖の対象として貴方を見ている」

結標「そりゃそうよね? だって私にとっては、貴方にぶん殴られたのがつい一昨日のことよ? 新しい記憶として私の中にはっきりと残っているわ」

結標「そんな貴方にあんなことを言われて助けられたからって、私が喜ぶとでも思っていたの?」


 結標は少年を睨みつける。
 投げかけられた質問に一方通行は、
 

一方通行「いィや、ンなことは思ってはねェよ」


 考える間もなく即答した。
 

結標「じゃあ貴方はそれを理解した上で、なんで私を助けたのよ?」

一方通行「ただの自己満足だよ」


 吐き捨てるように言った。
 そのまま一方通行は続ける。

 
 
一方通行「九月一四日ンときのことは、俺は別に何とも思ってねェよ。お互いの立場が違った。俺は俺の正義で、オマエはオマエの正義で動いた結果だからな」


一方通行「だが、そっから先はクソだ。オマエから半年以上の記憶を奪った。いや時間を、人生を奪ったっつった方がイイか?」

一方通行「そォいうことを全部分かった上で、俺はオマエと共に過ごした。呑気に思い出作りなンてモンに興じた」

一方通行「そのとき俺たちが過ごした日々のことをオマエが知ったら、おそらく今とは比べ物にならねェほどの負の感情が湧き上がってくンだろォよ」

一方通行「よォするに罪滅ぼしをしたかっただけだよ。オマエを助け出して光の世界へと連れ戻す。そォすることでそれを償うことができると思ってやった、自分勝手で傲慢な行動だ」


 長々と返ってきた一方通行の言葉に、結標は目を丸くさせる。

 
 
結標「信じられない。そんな的外れな自己満足のために、貴方はあんなところにまで駆けつけてきたって言うわけ?」


一方通行「……そォだな」

結標「何で? 何で貴方はそんな事ができるのよ? 貴方の行動原理が私には理解ができないわ」


 ピタリと一方通行の動きが止まった。
 ちょっとした動作や、眼球の動き、息遣い。全部が。
 結標が首を傾げた。


結標「どうかした?」

一方通行「……悪りィ。今言ったこと全部嘘だ」

結標「はあ?」





一方通行「オマエに言われて気付いた。約束だとか、自己満足だとか、罪滅ぼしだとか、そンなモンただの建前だった。オマエを助けたかった理由はもっとシンプルだったンだ」


 真紅の瞳が結標淡希を見つめる。決して目を逸らすことなく、ただ一心に。
 そして、一方通行は言う。



一方通行「結標淡希。俺はオマエが好きだ」



 告げた。一言一句ハッキリと。目の前の少女に伝わるように。
 

結標「なっ」


 突然の告白に、結標が驚き、顔を赤面させる。
 一方通行はそのまま続ける。


一方通行「だから助けた。オマエに傷付いて欲しくなかった。オマエには笑顔で居て欲しいと思った。そンなオマエと一緒に居たいと思った。これは俺の嘘偽りのない気持ちってヤツだ。建前も打算も何もねェ純粋な想いだ」

結標「……違うわよ」


 俯きながら、結標は否定する。

 
 
結標「貴方のその気持ちは間違っているわよ。だって、私は貴方の知っている結標淡希じゃないのよ? なのに、そんな……」


一方通行「あのとき言っただろォが。記憶があろうがなかろうがオマエはオマエだってよォ」

結標「…………」


 結標は俯いたまま黙り込んだ。
 見たくないものから目を逸らせているように見える。


一方通行「ああ。そのリアクションは間違ってねェよ。これは俺が勝手に思っていることなンだからな」


 目線も合わせない少女に語りかけるように言う。
 

一方通行「オマエの気持ちはわかっているつもりだ。俺がどォ思っていよォが、俺がオマエの半年という長い時間を奪ったクソ野郎ってことには変わりねェ」


 一方通行は立ち上がり、結標へ背を向ける。


一方通行「邪魔したな。俺はもォオマエの前には二度と現れねェ。一切関与しねェ。オマエはオマエの好きなよォに生きろ」


 一方通行はそう言い残し、部屋の外へと向かって踏み出そうとする。
 しかし、彼のその一歩が止まった。
 振り返らずに、一方通行は問いかける。


一方通行「どォいうつもりだオマエ」


 一方通行の服の袖を掴む手があった。
 それは他の誰でもない、結標淡希の手だった。
 立ち去ろうとする一方通行を阻止しようとするように、引き留めようとするように。
 彼女はその手を離さない。





結標「一つだけ言わせて」


 結標は顔を下げたまま話し始める。
 

結標「たしかに私は貴方のことが嫌いよ。世界で一番って言っていいくらいに、視界に一切入れたくないくらいに、身体が震えるほどの恐怖を覚えるくらい」

結標「けどね、その気持ちとせめぎ合っているもう一つの感情が、私の中にはあるの。それはさっきのとはまったくの真逆な感情」

結標「世界で一番って言っていいくらいに、ずっと離れたくないと思うくらいに、一緒にいると安心感を覚えるくらい」


 結標は顔を上げた。
 少年の背中へ向かって、投げつけるように言い放つ。

 
 
 
結標「私は貴方のことが好きなのよ!」



 
 結標淡希の口から出てきた、絶対にその口から出てこないであろう言葉を聞いて、一方通行は目を大きく見開かせた。
 

結標「おかしいでしょ? わけがわからないでしょ? 笑っちゃうわよね? そんな相反する感情が混在しているなんて」

結標「私は九月一四日のときの貴方しか知らない。そんな感情が生まれるはずなんてない。なのに、私はたしかにそう想えている」

結標「ねえ、一方通行。これは一体どういうことだと思う?」


 ふぅ、と一方通行は息を吐いた。
 目を閉じながら、諭すように答える。
 

一方通行「……決まってンだろ。まがい物だよそれは」

結標「だったら」


 結標は袖を掴んでいた手を離し、じゃらりという音と共に、何かを取り出した。

 
 
結標「これもまがい物なわけ?」



 一方通行は振り返って、その何かを見た。

 
 
一方通行「ッ……」



 一方通行が動揺したかのように、見開かせた両目の瞬きが止まる。
 それはペンダントだった。
 四葉のクローバー型に加工された赤い宝石を金のビーズで縁取っている。
 学生が持つものとしては高級感のあるアクセサリーだった。
 見覚えがあるモノなのか、一方通行はそれを凝視したまま動かなかった。

 
 結標は手にしたペンダントを見ながら、 


結標「これを見ると、何か胸をギュッと締め付けられるような気持ちになる。楽しくて、嬉しいような、そんな感じの気持ちに」

結標「いつからこれがここにあるのかもわからない。けど、これはたしかにここにある。これも貴方の言うまがい物のなのかしら?」


 そう言って結標は一方通行の赤い瞳を見る。
 




一方通行「…………」


 一方通行は何も言わない。
 彼もわかっているのだろう。その意味を。
 わかっていても自分では答えられないのだろう。
 だから、結標は代わりに言う。
 

結標「私ね、思うのよ。たぶん、これはどちらかが偽物だとかそういう話じゃない。どちらも本物なのよ。紛れもない私が抱いている気持ちなのよ」

結標「けど、こんな相反するものがいつまでも共存できるわけじゃない。いつかはどちらかを決めないといけないときがきっと来る」


 そして結標は再び掴んだ。今度は袖ではなく、彼の左手を、しっかりと。


結標「だから教えてよ? 見極めさせてよ? 貴方がどんな人なのかを。私のどちらの気持ちが正しいのかを」

結標「この気持ちをハッキリさせないまま、私の前からいなくなるなんてダメよ。絶対に逃がさないから」


 結標淡希の顔は真剣そのものだった。嘘や冗談を言っている様子は皆無だ。
 ほのかに紅くした頬。正面から向き合おうとする目。その目にやんわりとにじむように浮かぶ涙。ガタガタと震える手。
 それらを見た一方通行は、大きくため息をついた。


一方通行「……やっぱりオマエはオマエだよ。俺の知っている結標淡希だ」

結標「? どういう意味よ」


 その問いに、一方通行は息を吐くように小さく笑い、


一方通行「面倒臭せェ女っつゥことだよ」

 
 そう答える一方通行の表情は、穏やかな優しいモノだった。
 

結標「うぐっ……」


 結標が小さく声を漏らした。
 ドクン、と結標は自分の心臓が大きく鼓動したのがわかった。
 思わず表情が崩れそうになり、目を逸しそうになったが、息を整えて、
  

結標「……ふふっ、貴方にだけは言われたくないわね」


 笑ってそう返した。
 

―――
――






 超能力者(レベル5)第五位の少女、食蜂操祈は一方通行たちが入院している病院の屋上にいた。
 欄干に肘を乗せ、落下防止用の高柵越しに、対角線上の位置にある一室、結標淡希がいる病室の中を眺めている。
 視力2.0あっても部屋の中を詳細に見ることは難しい距離だったが、彼女にとっては関係ないことだった。

 食蜂は今、精神掌握(メンタルアウト)のチカラを使って結標淡希の頭の中を覗いていた。
 彼女が感じている五感や深層心理、彼女の中にある記憶などを全てリアルタイムで抜き取り、食蜂の中へとインプットされている。
 もちろん、結標淡希本人はそんなことをされているとは知りもしない。
 精神モニタリングしながら、食蜂は呟く。


食蜂「……未だに、信じられないわよねぇ」

 
 食蜂は驚いていた。それは結標淡希の感情に対してだ。
 一方通行に対する好意と嫌悪が混在している。彼のこの部分は好きだがあの部分は嫌いとか、そういう次元の話ではない。
 彼女は全面的に彼のことが好きで、全面的に彼のことが嫌いなのだ。

 食蜂は今までいろいろな感情を見てきた。喜怒哀楽はもちろん四六種類に細分化された全ての感情の形を知っているつもりだ。
 そんな彼女でも今回の結標の感情に関しては初めての経験だった。

 嫌悪が生まれるのは当然だ。今の結標淡希の中にある一方通行に対する記憶は、敵対したときの記憶でほとんどを占めている。
 そんな相手を目の前にして嫌悪が生まれないわけがない。よほどの聖人君子でなければそれは不可能に近いことだろう。

 好意についても謎だった。これは一体どこから出てきた感情なのか。
 記憶喪失していたときの結標の記憶、つまり一方通行と恋人関係にあったときの記憶は、たしかに今彼女の脳の中に存在する。
 ただし、それは彼女の記憶の中の奥底。今の彼女では絶対に手を出すことができない場所に保管されていた。
 今の結標と記憶喪失中の結標の存在は表裏一体だ。彼女たちはお互いの記憶を決して共有することができない。
 現に、今の彼女が認識している記憶を端から端まで検索してみても、記憶喪失時代の記憶は一欠片も出てこなかった。

 ほとんどが嫌悪の記憶で埋まっている結標だが、一部だけだが好意的な記憶は一応はある。
 それは少年院で一方通行に命を救われた記憶だ。
 結標からしたら彼は命の恩人ということになるわけだが、果たしてそれだけで身を捧げたくなるような好意が生まれるのだろうか。
 嫌いの感情は好きへと変換できるとはよく言ったものだが、おそらくこれには当てはまらないだろう。
 なぜなら、好きと嫌いの感情が両立している時点で変換できていないということなのだから。

 そこで結標淡希の好意がどこから出てきているのか考えてみる。
 身体が好意を覚えていた? 本能といった彼女の先天性の部分に刻み込まれていた? そもそも脳みそ自体の形が変わり一方通行を受け入れた?
 様々な仮説を組み立ててみるも、これといってしっくりくるような結論は出てこない。

 とある少年が言っていた言葉を思い出す。『心』。
 おそらくあの少年が言った『心』は科学的に証明されている心理学的なものとは違ったものだと思う。
 そうでなければ、能力の名前の通り心理を掌握している食蜂が理解できないわけがないのだから。
 彼が言っている『心』は根性論とかみたいな精神論のようなものだ。オカルトだ。
 超能力者(レベル5)という科学に精通した存在である食蜂は、そういった類のものをなかなか受け入れられずにいた。

 そもそも彼の言う『心』に記憶が保管されているなどという確証はどこにもない。
 食蜂は今まで何百もの記憶喪失者を見たことがある。今みたいな完全に記憶を取り戻せない人たちだってたくさん見てきた。
 その中には将来を近い合った恋人だっていた。長年の絆で結ばれていた兄弟だっていた。お互いを死ぬほど恨んでいた加害者と被害者だっていた。
 だが、決まってその者たちの中に、今回のような思い出せない感情を明確に表面化させていた者はいなかった。
 そんな経験をしてきた食蜂。だから彼女はこう呟く。


食蜂「……もしかして、これが『奇跡』ってヤツなのかしらぁ?」





 我ながらいい加減な発言だな、と食蜂は笑う。『心』などと言う少年と大差ない。
 奇跡とは起きないから奇跡という。万が一どころか億が一の確率でも起きない事象なのだと食蜂は考えている。
 たった数百しかないサンプルでそうやって決めつけるなんて、奇跡なんてそこらに転がっていると言っているようなものだ。
 奇跡を馬鹿にしている。奇跡を軽く見ている。奇跡という言葉を安売りし過ぎている。
 しかし、自分が理解のできない現象を目の前にした食蜂は、おかしいと感じていてもそうじゃないかと思うしかなかった。

 この現象を『奇跡』と称するなら、それを引き起こしたのは一方通行という少年で間違いないだろう。
 一方通行は結標淡希の記憶が戻った場合、彼女が自分へ敵意を向けてくることはわかっていた。わかっていながら彼は進むことを止めなかった。
 彼は本気だった。真剣に結標淡希を救おうとしていた。自分の持ち得るモノを全て使い、どんな手段を用いようとも、ただただ一直線に。
 そんな彼だったから『奇跡』を勝ち取ることができたのだろう。


食蜂「…………」


 食蜂はそんな彼が羨ましかった。

 彼女はある『奇跡』が起きることを待ち望んでいた。
 とある想い人の少年のことだ。彼は絶対に『食蜂操祈』という存在を記憶することができない。
 例えば、目の前で恋愛ドラマのような大々的な告白をしても彼の視線が自分を離れれば、彼はそのあったことをまるごと忘れてしまうのだ。
 これは暗示にかかっているとか能力によって記憶を阻害されているとかではなく、脳の構造自体が変質してしまったことために起きる現象だ。
 精神系最高峰のチカラを持つ彼女でもどうしようもないことだった。

 だから、彼女は待つと決めた。いつか彼が自分のことを覚えていてくれるようになる時が来るのではないかと。
 そんな『奇跡』のような現象が、いつか自分の前に起きるのではないかと、淡い希望を抱いていた。

 食蜂が一方通行を陰ながら助けたのは、とある少年を巻き込んでまで助けたのは、彼に似たような境遇を感じたからだった。
 想い人に記憶すらしてもらえない食蜂と、いくら思い出を作っても記憶喪失が治ればそれが全て消え去ってしまう一方通行。
 結果的に見れば、それは食蜂が勝手に持っていた同族意識にしか過ぎなかった。
 彼からすればそんな事情は関係なかった。だから、足踏みすることなく動いた。そんな彼だから『奇跡』を起こせた。


食蜂「……なるほどねぇ、つまり、待っているだけじゃ『奇跡』なんて起きるわけがない、ってコトかしらぁ?」


 自分へ言い聞かせるように、食蜂は呟く。
 屋上を後にするために入り口へと向かって足を進める。
 少女の黄金色の瞳には、何かを決心したような光が見えた。


―――
――





一方通行「しかし、オマエ本当にイイのかよ?」

結標「なにが?」


 病室にある丸椅子へ腰掛けた一方通行が、隣に置いてある台に頬杖を突きながら結標へ聞く。
 

一方通行「俺と一緒にいるってことは、今までオマエが過ごしてきた環境を全てかなぐり捨てるっつゥことだぞ?」


 一方通行と同じ家に居候し、同じ学校へ通い、同じように生活をする。
 つまり、今の結標淡希からすればまったくの別世界へ飛び込むことと同義だ。
 それは生半可な覚悟では務まらないことに違いない。
 だが結標は、

 
 
結標「別にいいわよ」



 二つ返事で返した。
 一方通行は眉をひそめる。

 
 
一方通行「もォ少し思考してからモノォ言ったらどォだ?」


結標「別に何も考えていない、ってわけじゃないわよ?」


 軽い感じで結標はそのまま続ける。
 

結標「霧ヶ丘に未練があるわけでもないし、今のところ何かをやろうって気もないし、何かをやろうにも仲間たちが少年院から出られるのはまだ先だし」

一方通行「あン? オマエの仲間って反逆者として無期限で捕まってるって聞いたが」

結標「どういうわけか知らないけど、罪状が変わって刑期がきちんと付いたって聞いたわ」

一方通行「誰がそンなことを」

結標「土御門」


 ああ、と一方通行は納得の声を出す。
 自分だけではなく結標にも説明していたのか。
 アフターフォローまできっちりしていて気味の悪いヤツだ、と一方通行は心の中で呟く。


結標「…………」


 ふと、結標が目の前にいる少年をぼーっと見つめていた。
 それに気付いた一方通行は怪訝な顔になる。 


一方通行「どォかしたかよ?」
 
結標「……ねえ、一方通行?」

一方通行「あン?」

結標「今の私たちの関係って、何だと思う?」

一方通行「何って……恋人じゃねェのかよ?」

結標「……ふっ」


 結標は小馬鹿にしたように笑った。
 一方通行の怒りのボルテージがピキピキと上昇する。
 




一方通行「何かおかしいこと言ったかよ?」

結標「甘いわよ一方通行。大方、私が貴方のことを好きとか言ってしまったから両想いだと勘違いしてしまったんだろうけど、私は同じくらい貴方が嫌いとも言ったわよね?」

一方通行「そォいやそォだな」

結標「つまり好き一〇〇パー嫌い一〇〇パーでプラマイゼロ。そんな状態で恋人を名乗るなんておこがましいとは思わなかったのかしら?」


 あざ笑うように、見下すように結標は目の前の少年を見る。
 態度は気に入らないが、彼女の言いたいことはよくわかる。正論だ。
 だからこそ、一方通行は呆れたように言う。

 
 
一方通行「別に。どォでもイイ」


結標「あら、随分と余裕そうじゃない。もう少し慌てふためくかと思っていたのに」

一方通行「俺がそンなヤツに見えるかよ?」

結標「まあそうなんだけど……あっ」


 結標が何かを察したような表情をした。
 

一方通行「ンだァ? そのクソみてェな面はァ?」

結標「ふふっ、わかったわよ。貴方がそんな余裕ぶっこいている理由が」

一方通行「あン?」

結標「以前の『私』を一回落としたからって、私のことを簡単に落とせるとか思っているんじゃないかしら?」

一方通行「ハァ?」


 アホを見るような目を一方通行は少女へ向けた。
 しかし、結標はそんなことを知らずに指摘する。
 

結標「図星でしょ? 残念ね。私はそんな軽い女じゃないわよ?」

一方通行「知ってる。前のオマエから直に聞いた」

結標「あら、そうだったの。さすがは『私』ね」

一方通行「言ってろ」


 一方通行はため息交じりにそういい捨てた。
 何となく、このやり取りに妙な懐かしさのようなモノを感じた一方通行は、ふと思い出す。


一方通行「そォだ。一つ言い忘れていたことがあった」

結標「言い忘れていたこと? 何よ?」

一方通行「これはオマエのこれからの生活にも関わる重要なことだ」

結標「?」

一方通行「今までの生活を捨てて俺と一緒に過ごすってことはよォ――」





 ざわざわと病室の外の廊下から騒がしい声が聞こえてきた。
 その声の数は二人三人とかじゃなく一〇人近い数はいる。
 男の声や女の声。大人の声や子供の声。
 様々な声色の集団が徐々にこの病室へと近づいてきて、ドアの前へでそれが止まった。
 
 ガラララッ! と勢いよくドアが開かれた。


打ち止め「来たよーアワキお姉ちゃーん!! ってミサカはミサカは行きつけの飲み屋に入る常連さんみたいに入室してみたり!」


 同居人である打ち止めが勢いよく部屋に入ってきた。

 
 
黄泉川「打ち止め、なんでお前の口から飲み屋とか常連さんっていう単語が出てくるじゃんよ?」


芳川「いや、それより先に病院なんだから静かにしろ、って注意すべきよ。愛穂」

 
 それを追うように、同居人の黄泉川が抜けたツッコミしながら入室し、隣の同居人である芳川桔梗がそれを諭す。


青ピ「おっじゃまっしまーす!! おっ、姉さん髪下ろしてんやん!! エッろごふっ!?」

吹寄「うるさいわよこの馬鹿者が!!」

姫神「吹寄さんも。十分うるさい」


 いつもと違う結標淡希を見て興奮を覚えているクラスメイトの青髪ピアスが、同じくクラスメイトの吹寄制理のゲンコツを喰らい床に沈んだ。
 そのやり取りを同じくクラスメイトの姫神秋沙が冷めた目で見る。
 

土御門「ところでカミやんは、なーんで病院の中なのに頭から血を流しているんだにゃー?」

上条「シスターとは名ばかりのモンスターに噛みつかれ――」

禁書「何か言ったかな? とうま」


 同じくクラスメイトの土御門元春と上条当麻が適当な会話をしながら入室してくる。
 その後ろをオマケのように付いてくるインデックスはクラスメイトではないが、友人ということにしておこう。


結標「…………」


 結標淡希は入ってきた大勢の人たちを前にぽかんとしていた。
 その様子を見て、一方通行は口の端を尖らせる。

 
 

一方通行「俺なンかより百倍面倒臭せェヤツらの相手をしないといけねェってことなンだぜ?」



 結標が一方通行を見る。
 彼女の顔が呆然とした表情から、自信に溢れたような笑顔へと変わる。



結標「――上等よ」



―――
――






 一方通行たちが入院している病院の遥か上空。
 何もないはずの空中に足を付けて立っている少女がいた。
 風斬氷華。彼女の体には弾けるような音と共に白い電気のようなモノが小さく走っている。
 何らかのチカラを使い、その場に留まっているのだろう。
 
 風斬はあるモノを見ていた。
 それは苦難の状況から脱却し、日常へと戻っていった少年少女たち。
 あの場に自分も行って喜びを分かち合いたいが、自分が行くのは場違いだろうと思い、こうやって静観している。
 微笑んでいる少女の後ろから、何者かが話しかける。

 
 
????「楽しいかね? 自らの行動で変質させてしまったモノたちを眺めるのは」


風斬「……あなたですか」

 
 風斬は振り返らずに答える。
 まるで誰が話しかけてきたのか理解している様子だった。
 表情が変わる。微笑みから険しい顔へと。
 

????「君は本当に自由奔放に動く。少しはutojavsoufの自覚を持ちたまえ」


 声の途中にノイズのようなモノが入り込んだ。
 しかし、風斬はそれを気にも止めない。まるでその意味を理解しているように。 


風斬「私は『友達』を助けるために行動しました。これが私の存在意義であり、生きる意味でもあります。だから、あなたたちのような存在に指図を受けるつもりはありません」

????「君があの場に介入しなければ、アレのyueialsdを促すことができたというのに」

風斬「あなたたちの事情など私には関係ありませんよ」

????「まあその代わりに、ほんの少しだが『ヘヴンズドア』のxeiotuewoafを見ることができた。それはそれで面白かったから良しとしよう」


 その言葉に風斬は眉をひそめた。
 ノイズ混じりの声はそのまま続ける。
 

????「世界とは面白いモノだ。本来ならこの世界はあらゆる国を巻き込んだ戦争が起きていたり、世界そのものが崩壊するなどといった事象を経ていたはずだった」

????「しかし、たった一つの歪がこうも世界を変質させてしまったとは。qwoperypoの私も驚きを隠せない」

 
 その声は楽しそうに言った。
 まるで映画の大どんでん返しを見たように。スポーツの試合の大逆転劇でも見たように。

 
 
風斬「何を言っているんですかあなたは」


????「君が気にすることではない。せいぜい君は君の存在意義というモノを果たしたまえ」

風斬「一体何を企んでいるんですか?」

????「私は何もしないよ。プランだとかそういうものを考えるのは『彼』の役割だ。私はただ観察して楽しむだけだよ」

風斬「……まあ、私からしたらどちらでもいいです。しかし、一つだけ覚えておいてください」


 風斬は振り返る。
 目の前にいる存在をメガネのレンズ越しに睨みつけながら、バチィと電気のようなモノを走らせながら。

 
 

風斬「エイワス。あなたがもし私の『友達』に手を出そうとしたならば、私の全てを捧げてでもあなたを叩き潰してみせます」



 エイワスと呼ばれる者が不敵に笑う。
 

エイワス「面白い。それは実に興味の湧く忠告だ」


―――
――





 
 一方通行と結標淡希はファミリーサイドの二号棟のエントランスにいた。
 あれから一日経ち、二人は自宅療養ということで退院となった。
 退院時間は午後の三時だったが、いろいろあって出るのが遅れ、ここに辿り着いたのが午後五時過ぎとなっていた。
 
 一方通行がカードキーをエントランスにあるパネルへかざす。
 ピーガチャン、という音と共にロックが解除される。
 家は一三階の部屋のため、二人はエレベーター前へと向かって歩いていく。
 結標がキョロキョロと周りを見回しながら言う。


結標「――へー、私ってこんないいマンションに住んでいたのねえ」

一方通行「つっても居候だけどな」


 一方通行は不機嫌そうにそう答えた。
 

結標「貴方はせっかく退院できたっていうのに、何でそんなに不機嫌そうな顔をしているのかしら?」

一方通行「俺の顔は元からこンなだよ」


 結標は少年の顔をじっと見てから、

 
 
結標「……たしかにそうよね」


一方通行「オイ」

結標「冗談よ。そもそも私はいつもの貴方の顔なんて知らないのだから、そんなこと言われても困るのよね」

一方通行「そォいや、そォだったな」


 一方通行は面倒臭そうに頭を掻いた。
 エレベーターの前にたどり着き、一方通行は上の矢印が表示されたボタンを押してエレベーターを呼ぶ。
 ウイーン、と中で駆動音がかすかに聞こえてくる。
  

結標「で、結局その表情の意味はなんなのよ?」

一方通行「これから面倒なことが起こンだろォなァ、って思ったら自然とな」

結標「どういうこと?」

一方通行「これだ」


 一方通行は携帯端末の画面を突き付ける。
 なになに、と結標はその画面をまじまじと見た。
 あるメッセージが書かれていた。

 『退院したら寄り道せずに、お腹を空かせた状態でまっすぐウチに帰ってくるべし』。
 
 その文章を見て、結標が勘を働かせる。





結標「……なるほどね。大方、私たちの退院パーティーでも開いてくれるのかしら?」

一方通行「そォいうこった。面倒臭せェ」

結標「あの子そういうの好きそうだものね。えっと、打ち止め、だっけ?」

一方通行「アホ面ぶら下げて玄関前で待機してンのが目に浮かぶ」


 一方通行はげんなりとした表情のままため息をついた。
 キンコーン、とエレベーターが一階に到達する。
 ドアが開き、そのまま二人は乗り込んだ。
 一方通行が一三階のボタンを押す。
 ドアが閉まり、特有の浮遊感とともにエレベーターが上へ上へと上昇し始める。

 ふと、思い出したように一方通行が彼女を呼ぶ。


一方通行「結標」

結標「なに?」

一方通行「……あー、ンだァ」

結標「?」


 一方通行が天井を見上げた。
 何もない空間を見て、何か考え事をしている様子だった。
 だから結標はその様子をただただ首を傾げて見ていた。
 
 ふうっ、と一方通行が息を吐く。
 視線を結標淡希へと移す。

 
 
一方通行「えー、短い間か長い間か、どれくらいの付き合いになるかはわかンねェけどよォ」



 まるで慣れないことを言っているかのように、声のトーンを上下させながら、


一方通行「何つゥか、アレだ、改めてこれからよろしく頼む、っつゥかァー」


 たどたどしくそう言われた結標は、じっと彼を見る。


結標「……もしかして照れてる?」

一方通行「は?」


 その言葉に一方通行は食って掛かるように顔を近づける。




 
一方通行「何言ってンだこのクソアマはァ!? ンなわけねェだろォが!」

結標「ひっ、い、いや、だって言った瞬間、目逸らしてたし」

一方通行「逸らしてねェよ!」

結標「そ、そんなムキになってるところからして、よっぽど恥ずかしかったのね!」

一方通行「もォ一回顔面ブン殴って記憶飛ばしてやろォか?」


 ギリリと一方通行は左拳を握り締める。
 結標が身体をビクつかせた。


結標「あ、あはは、ごめんなさい。冗談よ冗談。というかその脅し文句は、割とトラウマダメージ大きいからやめて欲しいんだけど……」

一方通行「あ、ああ、悪りィ。ちと無神経過ぎたか」


 一方通行は戸惑いながら謝罪した。
 その様子を見て結標は少し口角を上げ、視線をエレベーターの隅っこへ向ける。

 
 
結標「(ふふふっ、こうすればコイツから主導権を握ることができるわけね。良いことに気が付いたわ……!)」


一方通行「……聞こえてンぞオイ」


 結標本人は心の中で呟いたつもりだったらしいが、どうやら声に出ていたらしい。
 だから一方通行の白い額に青筋が浮かび上がっている。
 あはは、と結標は誤魔化すように愛想笑いした。
 
 キンコーン。エレベーターが一三階に辿り着いた音を鳴らした。
 

結標「あっ、どうやら着いたみたいよ?」

一方通行「うっとォしいヤツ」
 

 決まりが悪そうに結標はドアの前へと一歩動いた。

 ドアが開かれる。 
 

結標「ふふっ、まあでも、そうね。これからどうなるかなんて私にもわからないけど――」

 
 駆け出すように結標は外へと一歩踏み出した。
 そして、体ごと振り向きながら、柔らかな笑顔を見せながら、



結標「こちらこそ、よろしくね?」






 私は結標淡希。九月一四日以降の約半年間の記憶がない、記憶喪失です。

 この半年間『私』がどう過ごし、何を思っていたのかなんて私はわからない。
 そんな未知の世界へ『私』の代わりに飛び込んでいくと私は決めた。
 不安がないわけじゃない。けど、不思議と怖さはなかった。
 それはこうだという明確な理由があるわけじゃない。
 だけど、私は思う。



 「『私』が好きになれた世界なのだから、私も好きになれるはずだ」。



 そんな至極単純なことを思って私はここに居るのだろう。きっと。


――――――







結標「私は結標淡希。記憶喪失です」 完






というわけで終わり
もうおらんやろけどここまで読んだ人がおったらおつかれした

伏線回収のための蛇足編のはずなのに全回収どころか逆に増えてるような気がするのは気のせい
ぶん投げENDってことでこんなしょうもないSSのことなんてもう忘れろ

長々語ったけど最後に心残りが一つ
>>345>>346を逆に投下してしまったのがほんま糞ムーブ

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2022年02月25日 (金) 18:44:40   ID: S:TmRCxc

もう続編は来ないと諦めてたのに数年ぶりの再開とは!
ゆっくりと楽しませてもらいます。

2 :  MilitaryGirl   2022年04月21日 (木) 07:41:09   ID: S:O0NPFQ

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