魔王「おれと手を組め」魔法使い「断る」(1000)

――魔王城

魔王「側近はいるか」

側近「は、ここに」

魔王「人間の町に降りる。お前も来い」

側近「畏まりました。しかし、なぜ人間の町へ?」

魔王「ああ。ついさっき面白いことを聞いてな」

側近「面白いこと、ですか?」


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魔王「勇者が殺されたらしい」




――人間界、宿場町

魔法使い「……もう夕方か」

魔法使い(朝からずっと走り回っていたんだな…)

僧侶「あっ、魔法使いさん!」タタタ

魔法使い「僧侶。なにか情報は?」

僧侶「ありません…戦士さんたちも同様らしく」

魔法使い「そうか…」

僧侶「わたし、まだ信じられません…。何故、勇者さまが…」

魔法使い「だな…」

魔法使い(宿近くの裏路地であんなにあっさりと……)

剣士「魔王が先手を打って刺客を寄越したんだろうよ」ザッ

魔法使い「剣士か。先手とはどういうことだ?」

剣士「力をつけられる前に殺したってことだ。深夜に勇者を呼び出して殺害したんじゃないか?」

魔法使い「しかし、剣は部屋に起きっぱなしだったが。呼び出されたにしては不用心だ」

剣士「なら、その時ちょうど散歩にでも出掛けてたんだろ」

魔法使い(無茶苦茶だな)

剣士「それに、見ただろ?あの勇者の身体をさ」

僧侶「う、うう…」

魔法使い「おい、剣士。少しは気を使え」

剣士「本当の事だろ――めちゃくちゃに切り刻まれていたじゃないか」

僧侶「ううう…」

魔法使い「なら何故、宿で寝ていた私たちを倒さなかったんだろうな。勇者を殺すついでにさ」

騎士「おいおい、魔法使い。しっかりしてくれよ」

騎士「魔王を倒せるのは選ばれた勇者、と剣だけだろ?」

魔法使い「ふむ…つまり私たちは倒すに値しないと判断されたわけか」

僧侶「そんな!」

騎士「命拾いしたってやつだが…くそ、胸くそ悪いな」

僧侶「勇者さま以外は脅威にすら見られてないなんて…」

剣士「残念だが、それが現実だ」

僧侶「……」

魔法使い「精神的にも疲れが溜まると良くない。宿に戻ろうか?」

剣士「そうだな…虚勢張ってバテても格好悪い」

僧侶「戻って、情報交換しましょうか」

剣士「だな」

魔法使い「……!」ピィン

僧侶「魔法使いさん?」

剣士「どうした?」

魔法使い「いや…少し気がかりなことが出来た。先に戻っていてくれないか」

僧侶「は、はぁ…分かりました」

剣士「いつ戻る?」

魔法使い「今日中には戻る」

魔法使い「明日になっても戻らなかったら警戒体制に入ってくれ」

剣士「ああ」

僧侶「…それ、いっしょに行ったほうが良いのでは?」

剣士「それで強めの敵に当たって三人仲良く全滅したら?」

僧侶「ぜ、全滅……」

魔法使い「まあ大丈夫だろう。僧侶を頼むぞ」

剣士「はいはい。僧侶には馬鹿みたいに優しいな」

魔法使い「……なあ、もう一度確認したいんだが」

剣士「ん?」

魔法使い「勇者は誰に殺されたんだと思う?」

剣士「誰って、だから魔王直属かなんかの魔物だろ」

僧侶「魔法使いさんは、何か他に考えが…?」

魔法使い「いや。まあなんだ、話し合いは後にしよう」

剣士「おう」

魔法使い「…戦士は個人行動を一番嫌がるからな。なんとか宥めておいてくれ」

剣士「ええー…あいつかなりピリピリしてるし、自分でなんとかしろよ」

魔法使い「憂鬱だ…。じゃあ、後で」

僧侶「ご幸運を……」

――町外れの森

魔法使い「……」

魔法使い(確かここらへんから弱めとは言え、魔力を感じたが……)

ピーヒョロロ-

魔法使い「鷹?」

魔法使い(向こうに誰か、居る…?鷹使いか?)

青年「……」ボソボソ

魔法使い(もしかしてあれは鷹と話しているのか?)

青年「おい、そこ」

魔法使い「……!?」ビク

青年「覗き見などと趣味が悪いな」

魔法使い「……申し訳ありません。悪気はないのです」ザッ

青年「ふむ、それは杖か。魔法を使用する者とみたが」

魔法使い「はい」

青年「ふん――なるほど、いいカモフラージュだ」

魔法使い(カモフラージュ…まさかな…)

青年「しかし何故魔力を魔力によって抑え込む?」

魔法使い「っ!」ギク

青年「どうした?おれはただ疑問を口に出しただけだ」

魔法使い「……まさか見破られるとは。高度技術を持った魔法使用者、でしょうか」

魔法使い(魔力を抑えてることなんて師匠以外には見破られなかったのに…)

青年「はは、不思議そうな顔をしているな」

魔法使い「?」

青年「まだおれの正体に気づかないのか?」

魔法使い「は――?」

青年「お前をここに招待したのはおれさ。勇者パーティーの一員、魔法使い」

魔法使い「!?」

青年「やはり話し合いをするには似ている系統同士がいいと思ってな」

魔法使い「似ている、だと?」

青年「おれもお前も、基本的には魔法を使うからさ」

魔法使い「…わざと魔力を放出させ、それに反応したものをここへ呼び出したというのか」

青年「その通り。――そっちの言葉使いのほうがいいな。新鮮だ」

魔法使い「……。一体あなたは誰だ」

青年「ふん、考えてみろよ」

魔法使い「――まさか、勇者を殺した犯人だとか」

青年「ならとうの昔にお前らは生きていないさ」

青年「それに、お楽しみは最後まで取っておくタイプなんだよ」

魔法使い「……」

青年「とはいっても、いつまでも黙っているのは性格は悪いな」ブォン

魔法使い(動作と詠唱無しに結界を!?)

青年「これで話を邪魔する雑魚はこない」メキメキ

魔法使い(頭から角が生えて……この姿は、まさか)

青年「なぁ、魔法使い。聞いたことはないか?」

魔法使い「……」

青年「ヒトに近いカタチをした、角の生えた魔物を。そして、魔物の上にたつ魔物の存在をさ――」


魔法使い「……――魔王か!!」


魔王「ご名答」ニヤリ

魔法使い(どうして気づけなかった――鷹から魔力が感じられる点で不自然だろう!)

魔法使い(不味い…私ごときが魔王になど勝てるわけもない)

魔法使い(ならばこの異変を他に伝えるしか…)ポゥ…

魔王「はっ、ダメダメだな。動作で何をするかがバレちまうだろ」パチン

フッ

魔法使い「魔法が…消えた…」

魔王「ま、座れよ。おれだって何も勇者なしのパーティーに止めを刺しに来た訳じゃない」

魔法使い(いつの間にか後ろに椅子がある)

魔法使い「…では、なにをしにきた」

魔王「ふん。なぁ魔法使い。お前は勇者がなにに殺されたか――知っているんだろ?」

魔法使い「……」

魔法使い「魔物だろう。あなた直属のな」

魔王「本気でそう思ってるのか、魔法使い」

魔法使い「……」

魔王「……」ニヤニヤ

魔法使い「魔王、あなたは相当最低な性格みたいだな」

魔王「これでも部下思いだがな」

魔法使い「…勇者の遺体に、魔法を使った形跡はなかった」

魔法使い「魔力をもったものの犯行なら、いくらか魔力が残るはずだ」

魔王「それで?」

魔法使い「全ての魔物は、微弱とはいえ魔力持ちだ」

魔法使い「魔力の痕を完全に消し去ることは私ですら不可能だ」

魔王「そうだな」

魔法使い「まとめると、《勇者から魔力は感じられなかった》」

魔法使い「《魔物は関わったものに魔力を残す》」

魔王「一種のマーキングだからな」

魔法使い「つまり、だ」

魔王「つまり?」

魔法使い「勇者を殺したものは、かなりの高度技術を持った魔法使用者か――」






魔法使い「それか、人間」


魔法使い「それも――あの勇者が剣無しで会う程に親しい関係の」




魔王「ほう?剣無しとは?」

魔法使い「私が見たかぎり、勇者は剣を非常に大切にしていた」

魔法使い「見知らぬ人間に呼ばれても手放して行くとは考えられない」

魔法使い「――だが、知り合いだったら?ある程度共に過ごした……仲間<パーティー>だったら?」

魔法使い「『散歩に行かないか。剣は重いだろうから置いていけばいい』」

魔法使い「そんな感じに言えば、多少は渋るものの勇者は置いていくと思う」

魔法使い「あいつはどちらかというと、話は聞くタイプだったからな」

魔王「ここまでの話に確証は?」

魔法使い「まさか、あるはずない。単なる私の不合理な妄想だ」

魔王「ふむ。では魔法使い、お前は犯人を見つけたいか?」

魔法使い「もちろんだ」

魔王「勇者のために?」

魔法使い「……」

『魔物は全て死ぬべきだ。そうだろう?』

『特に――』

魔法使い「ただの自己満足。身近に犯人がなんておちおち寝てもいられない」

魔王「ふん。じゃあこうしよう」

魔王「おれと手を組め」

魔法使い「断る」

魔王「何故だ」

魔法使い「魔王と犯人捜しなど意味が分からない」

魔王「敵と手を組むのがそんなに嫌か」

魔法使い「分かっているなら勝手に一人で探せ」

魔王「つれないな少年。――あ、いや少女か。すまんすまん、胸があまりにも慎ましいものだったのでつい」

魔法使い「―――魔王覚悟ッ!!」

ドゥンッ

なんちゃってミステリー(笑)
続く

――深夜、宿

魔法使い「ただいま…」フラッ

僧侶「ぼ、ボロボロじゃないですか!」

剣士「何があったし」

魔法使い「ちょっとな…自爆した…」

盗賊「めずらしい、普段はそんなことないのに?」

魔法使い「ちょっと気が高ぶっていてつい」

僧侶「治療しますから動かないで下さいね」キィィィン

魔法使い「ああ、ありがとう」

戦士「魔法使ァァァァい!!」バァン

全員「」ビクッ

魔法使い「なんだ、戦士。私は疲」

戦士「なんだじゃねぇ!どこほっついてたんだ、こんな時に!」

魔法使い「……すまなかった」

戦士「勇者が殺られたんだぞ!それなのに貴様は――」

魔法使い「悪いが、ここは宿で、今は深夜だ」クルリ

戦士「~~~!?」バタバタ

盗賊「いいなその杖?くれよ?」

魔法使い「あげるか。私の大切な商売道具なんだぞ」

剣士「お前らは一大事ってときに…」ハァ

僧侶「他のお客さんをこれ以上不安にさせてはいけません…静かに話しましょう」

魔法使い「そうだな」

盗賊「じゃあまず状況確認?」

僧侶「そうですね」

戦士「~~~!」バタバタ

魔法使い「小声なら出せるはずだ」

戦士「あ、本当だ。この野郎魔法使~~~~!」バタバタ

魔法使い「学習してくれよ…」

剣士「話進めていい?」

魔法使い「どうぞ」

剣士「――勇者は裏路地で発見された。裏路地といっても、まあまあ広いところだが」

剣士「そしてそれを通行人が見つけたのが雨月の18日。つまり今朝だ」

僧侶「そういえば、その通行人さんはどうなったんですか?」

剣士「ショックで寝込んでしまったそうだ」

盗賊「かわいそうに?」

魔法使い(第一発見者か…なにか他に情報を持っていないだろうか)

剣士「ここまでで、何か疑問は」

魔法使い「ん。勇者は昨日遅くまでどこに行っていたのか分かるか?」

僧侶「そういえば、昨晩異様に遅かったですよね」

盗賊「この町に来てから毎晩どっか行ってない?」

僧侶「そうですね。ふらりと」

剣士「ああ…それか。呆れるなよ……」ハァ

盗賊「なになに?」

剣士「聞き込みしてたら教えられたんだがな――」

魔法使い「」ゴクリ

剣士「アイツ、最近ずっと接待専門の酒場行っていたようだ」

戦士「……」

僧侶「えっ」

魔法使い「国から貰った金で遊びほうけていたのかあのバカは」

剣士「そして酒もしこたま飲んでいたとさ」

魔法使い(そう言われてみると勇者の部屋はすごい酒臭かったな…)

剣士「…なら、酔った勇者を倒すのは、普段より容易いものとなる」

戦士「む…なんだか、犯人が分かったみたいな話ぶりだな」

僧侶「はい。私たちが考えたのは、魔物の仕業かと」

剣士「魔王直属かなんかのな」

魔法使い「……」

魔法使い(…魔王に言い含められているだけかもしれないんだ)

魔法使い(幻想で人間の仕業だと、思い込まされていてもおかしくない)

魔法使い(あいつは私たちに仲間割れを起こさせるつもりなのだろうか)

盗賊「本当にそうかなあ?」

剣士「は?」

戦士「どういうことだ?」

盗賊「だってさぁぁ、なんでこんな時期に死なないといけない?」

盗賊「まだ旅が始まったばかりと言っても過言じゃないじゃん?」

戦士「数ヶ月は経ってるけどな」

盗賊「あと、魔王は歴代の“勇者”を墓場送りにしたんだろ?」

魔法使い「……」

盗賊「どうして早めに芽をつむ?あっちには相当な力があるのに?」

僧侶「実は勇者さんにすごい力を秘めていたから早めに始末したとか…」

盗賊「……」

剣士「……」

戦士「……」

魔法使い「……」

僧侶「…なんて」

魔法使い(むしろ最弱のほうだからなぁ)

戦士「まあな、俺も最初は思ったさ」

魔法使い(先代勇者の息子だから、“勇者”の血が流れているから)

剣士「死んだやつのことを悪くいいたくはないがな…」

魔法使い(それだけで、選ばれた――力ではなく血筋しか見ていない)

盗賊「先代“勇者”がすごすぎたんだよな?」

魔法使い(納得は出来なかったが…剣を持てるのは彼しかいなかったからしょうがない)

戦士「……」

剣士「…寝るか」

戦士「だな」

僧侶「もう日付も変わりましたしね…」

剣士「とりあえず明日、国に連絡しよう。あとは朝起きてからだ」

魔法使い「分かった」

僧侶「ではお先に」ペコ

魔法使い「おやすみ」

戦士「ほら勇……、あー…そっか、いないのか」

魔法使い「戦士…」

戦士「気にすんな。そんなヤワじゃないからな、俺は。じゃ」

盗賊「あ、戦士?すぐ寝る?」スタスタ

戦士「なんだよ」スタスタ

魔法使い「……私も寝る」

剣士「ああ。また明日」

魔法使い「また明日」

――宿部屋

キィ

魔法使い「ふぅ」ドサ

魔法使い「……」

青年「ここに一人とか豪勢だな」

魔法使い「!?」

青年「この宿は二人部屋しかないそうだから溢れたか?しかしぴったり六人のはずだが」

魔法使い「な、何でここに居る!?」

青年「もう忘れたか?おれは魔王だ。このぐらい余裕」

魔法使い「だからって人の借りた部屋でくつろぐなよ……」

青年「あ、分かった」

魔法使い「話を聞け」

青年「魔法使いお前、男って偽ってるだろ?」

続く

魔法使い「…ひとつ、言わせてくれ」

青年「なんだ」

魔法使い「順番というか、順序ってものを知っているか?」

青年「それがどうした」

魔法使い「私が女だと暴く前に今のセリフだろ。普通は」

青年「ふん。順序なんて意味のないものに付き合うほど俺は暇じゃない」

魔法使い(どうみても暇そうなんだけどな……)

青年「で、どうなんだ」

魔法使い「…ああそうだよ。私はパーティー内では男としている」

魔法使い「だいたい何故あなたは私の性別が分かった?それが不思議なのだが」

青年「簡単だ。軽く解析したら普通ヒトのオスにあるものがなかったからな」

魔法使い(いつ解析とかしたんだ?というより解析ってなんだ?)

青年「しかし迷ったぞ。なんせメスにあるはずの豊満なものも――」

ガッシャーン

僧侶『魔法使いさん!?大丈夫ですか!』ドンドン

魔法使い「あ、やあ…僧侶」ガチャ

僧侶「どうしたんですか今の音!それに何か話し声もしたような…」

魔法使い「寝ぼけていて。ちょっと今日は疲れてしまったみたいだ」

僧侶「え?そう…ですか。早く寝た方がいいですよ?」

魔法使い「いや、もう寝ていた」

僧侶「?」

魔法使い「……実は私、寝相が悪いんだ」

僧侶「まあ…」

魔法使い「秘密にしていたんだが…言わないでくれるか?恥ずかしいから」

僧侶「も、もちろんです!」

魔法使い「ありがとう。おやすみ、僧侶」

僧侶「おやすみなさい、魔法使いさん」

魔法使い「僧侶も早く寝た方がいいぞ。体力ないんだから」

僧侶「失礼です!」

魔法使い「ごめんごめん」

パタン

魔法使い「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

魔法使い(騙してごめん僧侶)

青年「あの少女にはおれの存在が気づけなかったみたいだな」

魔法使い「…隠れていたのか」

青年「面倒なことは嫌だからな」

魔法使い「彼女は治癒に特化しているんだ。その他は全然……」

青年「全然?」

魔法使い「…そういえば、あなたは敵だったな…」

青年「ふん。仲間の弱点は言いたくないか」

魔法使い「……」

青年「その勇者無しのパーティーでおれを倒しにいくなら言わないほうがいいな」

魔法使い「……ふん」

青年「話を戻すか。魔法使い、お前は自分を男だと認識させる魔法でも使っているのか?」

魔法使い「魔法など使わなくても、私は昔から男子に間違われていたんだ」

魔法使い「ボロをみせなければ誰も私のことなど女だと思わない」

青年「ふうん、なるほどな。やっぱ胸の大きさも関係しているんだろうか」

魔法使い「………」イラッ

青年「だが、風呂とかはどうしている?」

魔法使い「それは言うべきことなのか――」

鷹「」バサッ

魔法使い「あ、窓から鷹が」

青年「ご苦労。なにかあったか?」

鷹「いいえ」

魔法使い(喋ったよ)

青年「魔物のほうは何もなし、か。さておれらも戻るかな」スク

魔法使い「戻るって、どこへ?」

青年「向かいの宿だよ」

魔法使い「は?」

青年「寂しくなったらいつでもこい」シュンッ

魔法使い「誰が行くか!――……もういないし」

――青年の宿部屋

鷹「魔王さま」

青年「ん?」

鷹「このような質素な部屋でよろしいのですか?」

青年「いいんだよ。あまり高い部屋に何日もいたら怪しまれるしな」

鷹「ならよいのですが」

青年「それに…外は久しぶりだからな。どこであろうと楽しめる」

鷹「……前々代魔王様と前代魔王様があんなに早く引退しなければ、もう少し自由に」

青年「よせ。もう終わった話だ」

鷹「はい…申し訳ありません」

続け

――
――――
――――――

「おとうさん?おかあさん?」

 『……』『……』

「ねえ、おきてよ。にげなくちゃ、ねえったら」

 『おい、まだ子供がいるぞ』

 『ガキぃ?慰みもんにもなんねーじゃん』

「ひっ――!?」

 『こんな死体なんかにすがり付くなよ気持ち悪い』

 『おいおい、自分でやっといて良くいうよ』

「や、やめて……おとうさんたちをけらないで……」

 『あ?なに言ってんだよ』

 『敗戦国が偉ぶってるんじゃねえ』

「い、いた……やだ…」

 『つまんね、殺すか?』

「ころ…す……ころ…」

 『そうだな。じゃあ俺から――』



わたしには人をころせる力があるって

むかし、おとうさんがいってた



「………しんじゃえ」



それが、わたしの、はじめての

――――――
――――
――

チュンチュン

魔法使い「朝か……」ムクリ

魔法使い(頭痛い考えすぎたからかな)

青年「ふん。気持ち良さそうにうなされていたが」

魔法使い「それはどっち…だ…」

青年「こういうときはおはよう、というそうだな」

魔法使い「……」

青年「……」

魔法使い「なんでここにいるんだ!?ふざけているのか!」

青年「失礼な。おれは少しもふざけていないのだが」

魔法使い「なんで普通に私の部屋に侵入しているんだ!」

青年「魔王だからな」

魔法使い「したり顔やめろ!」

青年「それより、どうやら階下が騒がしいぞ?」

魔法使い「……?」

青年「早く行ってみたらどうだ。好転か後転、どちらだろうな」

魔法使い「……いいか、荷物漁るなよ」ダッ

トントントン

魔法使い「みんなおはよう」

僧侶「あ、魔法使いさん!今から呼びにいこうと思ってたんですよ」

魔法使い「どうしたんだ?犯人が見つかったか?」

僧侶「違うんです…」

剣士「おはよう。…盗賊がいなくなったんだ」

魔法使い「盗賊が?よりによってこんなときに?」

戦士「こんなときだから、だろ。怖くて逃げたんだ」

魔法使い「戦士」

戦士「くそったれが。あいつ、俺の所持金ごっそり持っていきやがった」

僧侶「ええ!?」

剣士「そうなんだ。同室だったこちらも半分盗まれている」

戦士「“盗賊”だからな。寝た人間を起こさず盗むなんて朝飯前だ」

戦士「それにこちとら相手を信用しているから…」ギリッ

魔法使い「……」

魔法使い「勇者の剣は?」

戦士「あんなの売れないだろ。金額的な意味ではなく知名度で」

魔法使い「ああ…そうだな。怪しまれるだろう」

剣士「昨日はそういう素振りを見せなかったんだがなぁ…」

戦士「心変わりは一晩あれば充分だ」

剣士「……」

剣士「勇者の件と盗賊の件、両方聞かなくてはいけないな」

戦士「勇者はともかく、盗賊め……」

僧侶「あの、魔法使いさん」

魔法使い「ん?」

僧侶「盗賊さんの位置を特定できないのですか?」

魔法使い「そうか、その手があったか。やってみよう」

戦士「出来るのか?」

魔法使い「私は攻撃専門だが、まあ出来ないってわけじゃない」

魔法使い「誰か、盗賊が使っていたものはないか?」

戦士「探してくる」トントントン

剣士「しかし…いったいどうなっていやがるんだ」

僧侶「……」

魔法使い「……」

剣士「五人パーティーのうち、一人が死亡一人が行方不明」

魔法使い「…酷いものだ」

剣士「とても魔王討伐など行けないな。諦めるしか…」

僧侶「帰るのですか」

剣士「それしかないだろう。そして新たな“勇者”が生まれるまで待つしかない」

魔法使い(その魔王は今私の部屋でごろごろしてるんだがな)

魔法使い「しかし、まあ」

剣士「なんだ?」

魔法使い「昨日から思っていたが、あまり勇者の死に動揺しないんだな」

僧侶「わたしは…もう、なにがなんだが分からなくて…」

剣士「死に方は違うとはいえ、仲間が死ぬことに…なんというか慣れちまってな」

魔法使い「……」

剣士「戦に参加しすぎた結果がこれだ。深く悲しめない最悪な人間となってしまった」

魔法使い「そうか…。悪かった、このようなことを聞いて」

剣士「いや、いいさ」

戦士「あったぞ」トントントン

魔法使い「それは?」

戦士「ベルトだな。かなり使い込んでいる」

魔法使い(……何故ベルトを置いていったんだ?)

魔法使い(いつもは確かズボンとの間にナイフとか挟むのに使っていたな)

魔法使い(新しいものを手にいれた――と考えるべきか?)

戦士「魔法使い?どうした」

魔法使い「あ、なんでもない。ちょっと外に行こう」

ガチャリ

僧侶「何故外に?」

魔法使い「汚れるからさ。宿の女将だっていい顔しないだろう」

僧侶「?」

剣士「む…朝はまだ寒いな」

戦士「それに雨が降りそうだ」

魔法使い「じゃあ、やるぞ」ブォン

魔法使い「……」コツン

僧侶「魔法陣がベルトを真ん中に回り出した……」

魔法使い「誰か、小さくていい。刃物を」

剣士「これはどうだ?手のひらに収まるぐらいだが」

魔法使い「少し借りる」ピッ

僧侶「っ!」

剣士「おい!」

戦士「なに手首を切ってるんだ!」

魔法使い「こちらの位置を手っ取り早く表すには血が有効なんだよ」ポタポタ

魔法使い「本当はさらに盗賊の血もあれば早く見つかるのだが…流石に常備しているわけでもないし」ポタポタ

戦士「…血の常備は嫌だろ。吸血鬼じゃあるまいし」

魔法使い「位置特定」

魔法使い(わりと近いな。…動いてはなさそうだ)

魔法使い(まだ早朝だし寝ているのか?)

魔法使い「こっちだ」タッ

僧侶「あっ、待ってください!」タッ

戦士「チームワークというものを大切にしろよ…」タッ

剣士「やれやれ、朝からマラソンか」タッ

タッタッタッ

魔法使い「早朝だと開いている店はほとんどないな」

僧侶「ぜぇ……そうですね……はぁ……」

戦士「おんぶするか?」

僧侶「舐めないで……下さい……」

剣士「ここらへんは森に近くて少し不気味だな」

魔法使い(そういえば私も昨日、ここらで魔王と……)

魔法使い「この辺りだ」ピタ

剣士「おおい、盗賊ー!」

戦士「盗賊ー!でてこーい!」

僧侶「お願いします、姿を見せて下さい!」

カァカァ

剣士「? あそこ、やけにカラスが集まっているな」

戦士「食品廃棄物が捨てられているんじゃないのか?」

僧侶「酒場とかありますからね」

戦士「でもなんか引っ掛かるな。見に行こう」

魔法使い(おかしいな、盗賊はどこに…あのあと動いたか?)

戦士「ほれ、しっしっ」

魔法使い「焼き払おうか」

戦士「……地味に恐ろしいこと提案するな。焼き鳥にしたってうまくないからいい」

剣士「ん?人形か?にしては、大きい――え?」

魔法使い「な、まさか……」

戦士「嘘だろ……盗賊!?」

剣士「ふ、服装は、昨日の盗賊のものだ……」

僧侶「あ…あ……」パクパク

魔法使い「僧侶!しっかりしろ!」

僧侶「い……いやああああぁあぁああぁぁぁぁぁぁ!!」

――魔法使いの宿部屋

スィー バサッ

青年「よう側近。どうだった?」

鷹「どうやら、盗賊なるものが死んだようです」

青年「ほう?」

鷹「しかし、断定はまだ。カラスどもがほとんどの顔を食ってしまいましたので」

青年「所持品を見ればわかりそうだな。盗賊で間違いなさそうだが」

鷹「はい。わたくしもそう思います」

青年「はは、しかしわずか二日三日で二人も死ぬなんてな」

青年「一人目は勇者、二人目は盗賊――か。どういう決まりなのやら」

鷹「犯人は誰かなどとは考えておられるので?」

青年「まだまだだ。情報が足りない」

鷹「はっ。ではもう少し」

青年「まだいい。――奴が帰ってきたみたいだからそちらを優先に聞こう」

ガチャ

魔法使い「……まだいたのか」

続こう

青年「ふん。客に対して失礼だな」

魔法使い「そもそも呼んでいない。客は客でも招かざる客だろ」

青年「招かざる客な。なかなかいい響きだ」

魔法使い(なに言っても無駄っぽいな……)

青年「で?何が起きたんだ?」

魔法使い「……分かっているみたいだな、その態度からすると」

青年「どうだろうな?ハッタリかもしれないが?」

魔法使い「……」

魔法使い(全く感情が読めない。さすがは王と言うべきか)

魔法使い「少し待て」コツン

ブォン

青年「ほう、人払いか」

魔法使い「弱めのな。緊急な用事なら通す」

青年「ふむ――昨日から思っていたのだが」

魔法使い「なんだ」

青年「嫌がってる割にはやけに協力的な態度じゃないか。なにか考えているのか?」

魔法使い「……」

魔法使い「あなたの質問を拒否すると後が恐いということと」

青年「相手魔王だしな」

魔法使い「誰かに話さないと、潰れてしまいそうなんだよ…」ギシ

青年「潰れる、とは?」

魔法使い「精神的にだ。身近にいた誰かが死ぬのは、辛い」

青年「……」

魔法使い「ましてや殺人事件だ。……前触れもなく死んでしまう」

魔法使い「ああ、思い返せばそうだな……警戒していたわりには喋りすぎた」

青年「……」

青年「適度に息を抜け。壊れるぞ」

魔法使い「精神的にか?」

青年「精神的にだ」

魔法使い「はぁー……」

青年「なんだ、ため息などついて」

魔法使い「まさか魔王に慰められるなんて思ってもみなかった」

青年「おれも勇者パーティーとここまで話すとはな」

魔法使い「…とりあえず、あなたはあまりこの件にでしゃばらないでもらいたい」

青年「切り替え早いな。おれは邪魔か?」

魔法使い「邪魔というより、物事を変にややこしくさせそうだから嫌だ」

青年「はっはっは、失礼だな殺すぞ」

鷹(その通りな感じがするが言わないでおこう…)

魔法使い「さて、そろそろ行かなければ」スッ

青年「せいぜい頑張って現実に絶望することだな」

魔法使い「…嫌みしか吐けないのかあなたは」

青年「そうじゃないか。犯人など見つけてどうする?死者が蘇るか?」

魔法使い「……あなたのところでは、どう対処するんだ?」

青年「まず殺し合わない。飢饉で共食いはあるが、それも最近はない」

魔法使い「…平和だな、うらやましい」

青年「ま、一部は血気盛んでこまるけどな。ほら行くんだろ」シッシッ

魔法使い「…私の部屋、乗っとるなよ?」コツン ブゥン

青年「今のは解除か。しねぇよそんなこと」

魔法使い「どうだか…」ガチャ

ガチャ

魔法使い「……」

戦士「魔法使い」

魔法使い「僧侶は…?」

戦士「駄目だな。勇者、盗賊で立て続けにあれだったから…引きこもったままだ」

魔法使い「入れてもらえるだろうか」

戦士「どうだがな。アイツ自身に聞かないとどうにも」

魔法使い「…僧侶」

戦士「下に行こう。剣士がさっきからうんうん考えてやがるんだ」

魔法使い「分かった」

剣士「ううん…」

戦士「ひどい顔だな」

剣士「戦士たちか一体何が目的で犯人は二人を殺したのか…」

魔法使い「魔物、じゃないのか?」

剣士「勇者はな。でも、問題は盗賊だ」

魔法使い(魔物のセンは変えないか…)

剣士「盗賊と戦士の金が消えていた。盗賊の…死体からは、見つからなかった」

魔法使い「何者かに持っていかれたと?」

剣士「しかし、必ずしも犯人が持っていったとは考えられない」

剣士「たまたま通りかかった浮浪者が持っていった可能性だってある…」

剣士「ううん…」

戦士「ひどい顔だな」

剣士「戦士たちか。一体何が目的で犯人は二人を殺したのか…」

魔法使い「魔物、じゃないのか?」

剣士「勇者はな。でも、問題は盗賊だ」

魔法使い(魔物のセンは変えないか…)

剣士「それに盗賊と戦士の金が消えたことも。盗賊の…死体からは、見つからなかった」

魔法使い「何者かに持っていかれたと?例えば犯人に」

剣士「しかし、必ずしも犯人が持っていったとは考えられない」

剣士「たまたま通りかかった浮浪者が持っていった可能性だってある…」

魔法使い「…同一人物だろうか?」

剣士「分からん。分かるのは、盗賊には争った形跡があったことだ」

魔法使い「争った」

戦士「形跡?」

剣士「そうだ。手や顔に細かい傷がついていたし、襟首も伸びていた」

魔法使い「…死ぬ前に抵抗をしたのか、盗賊」

戦士「……ひでぇもんだな」

剣士「しかしここで考えてほしい」

魔法使い「何を?」

剣士「盗賊は身のこなし――逃げ足が早いだろ?」

魔法使い「ああ、まあな。“盗賊”だしな」

戦士「それが?」

剣士「勇者と同じく、いきなり襲われたんじゃないかと」

魔法使い「なるほど…追いかけられて捕まるほど間抜けじゃないもんな」

戦士「ふむ…」

剣士「誰かと待ち合わせをしていて、その誰かか、誰かのバックにいた人物に襲われたんじゃないか?」

剣士「そう思うわけだ」

魔法使い「それはつまり、盗賊は誰かと会う約束をしていたことになるが?」

剣士「それなんだよな。盗賊が見つかったところは確かに密会にはいい」

魔法使い「だが密会する意味が不明だと」

剣士「そうだ」

戦士「…なんか薄汚ねぇことでも話していたんじゃないのか?」

魔法使い「……例えば?」

戦士「知らん。ただ、金を持っていったのも関係するかもな」

剣士「ううん……」

魔法使い「女将さん」

女将「ひゃあ!?」ビク

魔法使い「――いや、そこで聞き耳立ててたのは知ってますって」

戦士「客はまだいなくて良かったな」

剣士「だからこそここまで話せたんだよ」

魔法使い「三人分コーヒーをお願いします」

女将「わ、分かりました」ソソクサ

魔法使い「……僧侶は大丈夫だろうか」

剣士「ああ…」

戦士「ホントか弱いんだなぁあいつ」

剣士「むしろこんな態度をとれてる自分たちが異常なんだよ」

魔法使い(確かに)

戦士「戦争とかで見慣れたからな、こっちは」

魔法使い「……」

女将「はいコーヒー」カチャ

魔法使い「ありがとうございます」

戦士「よくお前らそのままで飲めるな。苦いだろ」ドバドバ

剣士「慣れた」

魔法使い「慣れた」

戦士「ちぇっ、気取ってやんの」

魔法使い「……」ズズッ

戦士「いっそのこと嫌なこと忘れさせてやろうぜ」

剣士「どうやって?」

戦士「どうもこうも、セックスしかないだろ」

剣士「ブーッ!」

魔法使い「…はぁ。僧侶の最初の自己紹介思い出せよ」

魔法使い「“僧侶”は神と契りを交わしたもの。姦淫は御法度だ」

戦士「バレなきゃ問題ないって」

魔法使い「癒しの魔力が低下するけどな。半減か、それ以下だ」

戦士「っ!?」

魔法使い「ちゃんと聞いとけよ……。“僧侶”はそういうのがあるからあまり数がいないんだ」

剣士「一生独身を貫かないといけないんだよな?」

魔法使い「そう。神に背かぬ生き方を一生だ」

戦士「へえぇ。とても俺にはできそうにない」

魔法使い「だから容易にそのようなことを言うな。失礼だ」

戦士「へいへい」

剣士「はぁ……」

魔法使い「私は少し、町を見てくる」

剣士「大丈夫か?」

魔法使い「朝から襲ってはこないだろう。聞き込みをしてくる。それと」

剣士「なんだ?」

戦士「あ?」

魔法使い「第一発見者の家とか出来たら教えてほしい」

剣士「ん。控えておいたんだ」ペラ

魔法使い「ありがとう。昼には戻る」

戦士「俺はどうすっかな…こっちも聞き込みするわ」

剣士「自分も。また報告があったらここで連絡を」

魔法使い「了解。じゃあ後で」

――街

ワイワイ

魔法使い(やはり話題で持ちきりか)

魔法使い(…悔しいな。仲間が死んでいくとは)

青年「それは嫌嫌つきあっている仲間ではなくてか?」

魔法使い「!?」バッ

青年「そんな驚いてくれるな。目立つだろ」

魔法使い「…なんなんだ、一体」

青年「怖い顔してんなよ。一人より二人だろ?」

魔法使い「私は一人でも動ける。あなたに助けてもらう筋合いはない」

青年「助けるというか、面白そうだからついてくだけだが?」

魔法使い「……あ、そ」

――街

ワイワイ

魔法使い(やはり街も話題で持ちきりか)

魔法使い(…悔しいな。仲間が死んでいくとは)

青年「それは嫌嫌つきあっている仲間ではなくてか?」

魔法使い「!?」バッ

青年「そんな驚いてくれるな。目立つだろ」

魔法使い「…なんなんだ、一体」

青年「怖い顔してんなよ。一人より二人だろ?」

魔法使い「私は一人でも動ける。あなたに助けてもらう筋合いはない」

青年「助けるというか、面白そうだからついてくだけだが?」

魔法使い「……あ、そ」

青年「で、どうなんだ?あのパーティーに嫌嫌ついてってないのか?」

魔法使い「…そんなわけないだろ」

青年「どうせ国かなんかに押し付けられたんだろ?」

魔法使い「……」

青年「それか偉い分類に入る個人に脅されたとか」

魔法使い「…あー、自主的なものなら、参加していなかっただろうな」

青年「なら、やはり強制か?」

魔法使い「……もういいだろ、こんな話は」

青年「ふん。そうか」

続きます

青年「お前は」

魔法使い「…まだ続くのか」

青年「勇者をどう思っていた?」

魔法使い「は?」

青年「言葉のままだ。いずれおれと対峙したはずの人間がどういうものかと思ってな」

魔法使い「勇者は……そうだな」

青年「ああ」

魔法使い「馬鹿で己の正義しか見れない、祝福された力がなければちょっと強いだけの人間だった」

青年「…コテンパンだな」

魔法使い「私は見たままを言っているだけだが」

青年「なんだそれは、つまり最悪な男だったのか」

魔法使い「まあ、色欲にはほとほと手を焼いたがな――」

魔法使い「――多分、“勇者”らしいと言えばらしい男だったよ」

青年「ふむ」

魔法使い「ただもうちょっと周りが見えていれば良かったがな。今更だが」

青年「今更だな。死者に何を言っても始まらない」

魔法使い「やれやれ、だ…。道半ばで死亡など可哀想にもなってきたよ」

青年「生き返らせることはどんな奴ですらも無理だからな」

魔法使い「ああ。昔、道中で死んだ“勇者”が教会で蘇ったという話があったが」

青年「ほう」

魔法使い「なんのことはない、教会にいた“勇者”の素質をもった人間が代わりに出ていっただけだ」

青年「なるほど、尾ひれがついたのか。愉快な噂話だ」

魔法使い「……愉快かどうかは分からないがな…。おっと、この周辺みたいだ」

青年「ここらは民家が並んでいるんだな」

魔法使い「間違えて破壊するなよ。いいな?」

青年「お前はおれを何だと思っているんだよ。慈悲深い魔王サマだぜ」

魔法使い「……うん。あ、ここみたいだな」

リンリン

老婆「はぁい……あら、どなた?」

魔法使い「こんにちは、突然すみません。…昨日の朝のことをお聞きしたく」

老婆「あら……。つまりあなたは…」

魔法使い「勇者さまの仲間<パーティー>、魔法使いです」

青年「同じく勇者さまの仲間<パーティー>、サポート役の青年です」ニコ

魔法使い「……」

老婆「ご丁寧にどうも。ここじゃ立ち話もなんだし、中に入って」

魔法使い「お邪魔します」スッ

青年「お邪魔します」スッ

魔法使い(ごくごく普通の家だな)

老婆「そこに座って少し待って。主人を呼んでくるわ」パタパタ

魔法使い「はい」

青年「」ニコニコ

魔法使い「……」

青年「」ニコニコ

魔法使い「なんのつもりだ、サポート役の青年クン?」

青年「馬鹿正直に魔王ですなんて言えるわけないからな」

魔法使い「だからと言って自分を仲間にねじ込むな」

青年「いいじゃねぇか、減るもんじゃないし」

魔法使い「あなたのせいではないにしろ、事実減ってるけどな」

青年「ああ、もしかしたら青年って名前は初出しか?」

魔法使い「そうだな。私の場合はあなたが最初から知っていたし」

青年「名前ぐらい簡単に調べられるんだよ。今度から宿に泊まるときは偽名使え」

魔法使い「…耳に痛い忠告だ」

青年「そんなわけでこれから気軽に青年と呼べ」

魔法使い「命令系かよ。あと気軽に呼べるか」

老婆「お待たせしましたー」パタパタ

魔法使い「ご主人が第一発見者なのですか?」

老婆「そうなのよ。あの人、あれからずっとガタガタ震えっきりで部屋から出ないの」

魔法使い「…その気持ちは分かります。国を、世界を救うはずの方が…」

老婆「そうね…わたしも聞いたとき貧血を起こして倒れてしまったし…」

青年「大丈夫ですか?」

老婆「今はね。でも貴方達も大変でしょう……」

魔法使い「……」コク

青年「……」

老婆「今、話をするように主人に言ってきましたが、出て来るかどうか」
魔法使い「それに、いきなり来てしまいましたからね。また日を改めてきます」

青年「いつまで滞在するんでしたっけ、魔法使いさん」

魔法使い「王様と大臣様の指示待ちですから長期間はかかるでしょう」

老婆「まあ。大変ね…」

魔法使い「憲兵にも事情を説明しなくてはなりませんし」

老婆「そうねぇ、憲兵は普段はこの街にいないから来るまで時間がかかりそうね」

青年「来ないんですか?それは些か危ないのでは?」

老婆「数十年間事件や事故らしい事故が起こらないかったからね。信頼されてるのよ」

魔法使い(それが今回仇となったけどな…)

魔法使い「……ん?勇者さまは昨日亡くなられましたが――憲兵、まだ来てないですね」

老婆「あら。貴方達、聞いていないのかしら?」

魔法使い「すみません。それどころではなかったので…良かったら教えて下さい」

老婆「隣の隣の街が魔物に襲われたらしくてね。調査が大変みたいよ?」

青年「その情報は……」

老婆「井戸端会議よ。でも多分、合っていると思うけど」

青年「……」

老婆「いやぁねぇ、魔物は出るし勇者さまは……どうなってしまうのかしら」

魔法使い「…なんとかします。みなさんの生活を守るために」

老婆「頼もしいわ」ニコ

青年「あれ、なにか階段から落ちているような音が」

バタン!

老婆「あなた!」

老人「お、おぬしら、は……」

魔法使い「こんにちは。勇者さまの仲間<パーティー>、魔法使いです」

青年「同じく。青年です」

魔法使い「突然の訪問―――」

老人「ああ、ああ!わしには重いのだ!重すぎて潰れてしまう!」ガシッ

魔法使い「――!?」ビク

青年「落ち着いて下さい、ご主人。いったい何がありましたか?」

老婆「あなた…」

老人「あ、あ、あ……恐ろしいものだよ…真実は…」ガクガク

魔法使い「…何か、見たのですか?」

青年「現場になにか落ちていましたか?」

老人「恐らくすでに拾い上げられてしまった…」ガクガク

魔法使い「……かなり混乱している」ボソ

青年「おれは苦手なんだよな。精神を操るのは」ボソ

魔法使い「…ご主人、今日は安静にしていて下さい。明日また来ます」

老婆「すみませんねぇ…いったい何をみたのやら…」

魔法使い「いいえ、こちらこそ」

老婆「主人は戦争のトラウマがあって、血を見るのが大嫌いなんです」

青年「なるほど…」

魔法使い「では、お邪魔しました。お茶ありがとうございます」

老婆「本当にすみませんねぇ」

老人「」ガタガタ

青年「また明日」

老人「明日、必ず言おう…わしは弱虫だ。そんなことでと思うかもしれん……」

魔法使い「…?」

老人「これだけは言う……先入観には騙されるな!…ぐぅ」

魔法使い「ご主人!」

老婆「あなた!心臓のお薬飲まなかったんですか!」

青年「心臓病なのですか?」

老婆「はぁ、たまに発作がありまして…大丈夫です、直に引きますから」

魔法使い「…では」ペコ

青年「」ペコ

魔法使い「……」スタスタ

青年「……」スタスタ

魔法使い「僧侶なら、うまく聞き出せただろうな」

青年「ふん。あの様子じゃ無理矢理記憶を取り出させたら狂うのがオチだろ」

魔法使い「…そうだな。口に出すのも酷く恐れていたし…」

青年「先入観ねぇ。なんなのか解ければいいのだな?」

魔法使い「そうなるな」

青年「……勇者は女だった、とかは?」

魔法使い「私じゃあるまいし。れっきとした男だ」

青年「証拠は?」

魔法使い「素っ裸の場面を見たことがある」

青年「ふむ?人間の女は男の裸体を見ると恥じるというが」

魔法使い「ん……まあ、全部の女性に当てはまるわけではないぞ」

青年「なるほど、痴女か」

魔法使い「ふざけるな」

青年「ふん。――しかし、こちらも悩み事が増えた」

魔法使い「悩み事…魔物か」

青年「そうだ」ピューイ

バサッ

鷹「なんでしょう」

青年「近くで魔物が人間の街ないし村を荒らしているようだ。様子を見てくれ」

鷹「仰せのままに」チラッ

魔法使い「……?」

鷹「では」サッ

青年「頼む」

ピューヒョロロ…

魔法使い「なんだったんだ、今。何かしたか?」

青年「何かが気になったのだろうな」

魔法使い「……へぇ。彼…彼?は鳥人族か」

青年「よく知っているな。優秀な鷹一族の中でもかなりの優れものだ」

魔法使い「それはそれは。鷹一族ということは、他にもいるのか」

青年「いるさ。雀に烏に椋に鳩――少し前に鷹族と匹敵するぐらいの一族がいたんだがな」

魔法使い「ということは、今は?」

青年「純血は絶滅した。混血も恐らくはいないか、途絶える一歩前だろう」

魔法使い「…わけを聞いてもいいか?」

青年「別に構わん。例えお前がおれから全ての情報を引っ張り出してもおれには勝てないからな」

魔法使い「あー、そーですか」

青年「単純に言うと、人間どもの戦争に巻き込まれた」

魔法使い「30年前のか?10年ほど前のか?」

青年「30年前のだ。酷かったな、あれは」

青年「襲撃された村周辺に住んでいた純血は人間に卑怯な手段を取られ殺され」

青年「そこではないが近くの村に住んでいた、人間と結ばれた一族も殺された」

魔法使い「人間と魔物が?」

青年「珍しくはない。だが、魔物側からしてみれば異端だからな。追放されるか殺される」

魔法使い「そこを生き延びたのに戦争で……か。報われないな」

青年「ふん。こういう話には涙脆いのか」

魔法使い「泣いてなどいない。同情を示しただけだ」

青年「魔物にか?おいおい頼むぜ、勇者さまの仲間さんよ」

魔法使い「それはそうなんだがな。私にも色々事情はある」

青年「ほう?」

魔法使い「言わないけどな」

青年「やれやれ。人間は溜めが好きだな」

魔法使い「人間に限らずそっちも同じようなもんだろ」

青年「ふん」

魔法使い「宿についた」

青年「にしても、街が嫌に静かだな」

魔法使い「殺人事件が起きたからな。犯人がいるかもしれないのに不必要に彷徨くか」

青年「はぁん。そうそう」

魔法使い「?」

青年「勇者と盗賊だったか?二つ、死体を見せてくれ」

魔法使い「何?」

青年「憲兵が調べるまではどっかに安置してるだろ?」

魔法使い「してるが……」

青年「別に何もしない。興味があるのでな」

――

剣士「医者、か」

青年「はい。小さな医院の駆け出しですけどね」

魔法使い「…………」

青年「損傷が進まないうちに、不束ながら僕が調べさせていただきたいのですが」

剣士「しかし、憲兵の」

青年「許可は貰ってあります。こちらです」ペラ

魔法使い(いつの間に)

剣士「……分かった。ただし、俺と魔法使いの立ち会いの元でだ」

青年「ありがとうございます」

剣士「二人は、今は使っていない地下貯蔵庫にいる」ギィ

魔法使い「火が必要だな」スッ

剣士「…ランプより明るい。便利だな」

魔法使い「どうも」

青年「ふむ…こちらですか…」

剣士「……」

魔法使い「……」

青年「盗賊さんのほうが執拗に斬りつけられていますね。これは…剣による傷ですか?」

剣士「だな。深さから見る限り剣の使い方には慣れていないようだ」

魔法使い「そういえば、勇者の所持品の有無を調べてなかったな…」

剣士「ちくしょう、うっかりしていた。何か分かるか?」

魔法使い「……」ジッ

青年「……」

魔法使い「ペンダントが無くなっていないか?」

剣士「あ、確かに。あんなに大切にしていたのに」

青年「部屋には置いてないのですか?」

剣士「まさか。野宿だと寝る時すらはずさないぐらい大切にしてるんだ」

青年「お守りですか」

魔法使い「王女さまから直直のプレゼントだよ。婚約済だ」

青年「ははぁ…帰ったら結婚云々ですか」

剣士「だな。まさか盗まれたのか?デザインは美しいものだったから」

魔法使い「……分からんな。医者、もういいのか」

青年「はい。ありがとうございました」

青年「では僕はこれで」スタスタ

魔法使い「……」

剣士「そうだ。悪いが魔法使い、僧侶に食べ物運んでやってくれ」

魔法使い「構わない」

剣士「昨日からあまり食べてない。あれじゃ餓死するぞ」

魔法使い「過保護だろ。分かった、無理矢理にでも食べさせておく」

剣士「頼んだ」

魔法使い「頼まれた」

トントントン

魔法使い「僧侶」コンコン

「……」

魔法使い「食べ物と、飲み物だ。なにか口にいれた方がいい」

「……」

魔法使い「…入るぞ」ガチャ

僧侶「……」グス

魔法使い「目が腫れているじゃないか。顔が台無しだ」

僧侶「次はわたしだと思うと怖いんです……」

魔法使い「そのときは、守ってやる」

僧侶「…魔法使いさん、優しいですね」

魔法使い「たまには優しくしないとな。バチがあたる」

僧侶「…あはは」

ガチャ

魔法使い「……」パタン

戦士「よう。僧侶は?」

魔法使い「寝た。だいぶ無理をしていたようだな」

魔法使い「ああ。どうだった?」

戦士「なんにも、だ。そっちはどうだった?」

魔法使い「第一発見者がだいぶ錯乱していてな。何も――何も聞けなかった」

戦士「骨折り損だったな」

魔法使い「ま、落ち着いたら再び行くさ」

戦士「遅めの昼を食おうぜ。腹減った」

魔法使い「あ、私は先に食べたからいいや」

戦士「こ、この裏切り~~!!」バタバタ

魔法使い「悪い悪い。まだ魔法をかけっぱなしだったか」クルリ

戦士「ったく…」

魔法使い「今日は少し疲れた。これから明日まで少し休む」

戦士「そうしろ。顔が蒼白だぞ」

魔法使い「そうか。じゃあ、剣士に言っといてくれ」

戦士「おう」

―――
――


 勇者が死んだ。
 盗賊が死んだ。

 それでも変わらず夜はやってくる。

 魔法使いが僧侶を寝かしつけ、自分も精神的な疲れのために高ぶっていた神経を
 鎮め、ようやく眠りについた夜遅く。

 魔物が住み着いているために開発していない森の奥の奥で。


 魔王がたった一つの身体で数十体の魔物を蹂躙していた。


側近「流石です、魔王さま」

 ヒトの形をした、しかし唇の代わりにくちばし、腕の代わりに鳥の羽、そしてところどころが羽毛で覆われた表皮。
 昼間は鷹のすがたを取っていた鳥人族である側近は無表情のままに感想を述べた。

魔王「ふん――これぐらいで苦戦していたら王を名乗れん」

 惨状を産み出した主、魔王は答える。

 端正な顔立ち、真っ暗な髪、側頭部から生える真っ暗な曲がった角、
 そしてそれら容姿に不釣り合いな金色の目。
 その冷たい美しさを持った魔物は側近に肩を竦めて見せた。

魔王「困ったものだ。反魔王派――反おれ派対策も早めにやらないとな」

側近「すみません、魔王さま。ただの魔物同士のいさかいとしか思いませんでして」

魔王「いや。おれも色々頼んでいたしな――全く幸運だったよ」

 紫色の液体を踏みつける。
 ぐちゃ、と嫌な音がした。

魔王「ほどほどに人間を食えって前にいっただろ。やりすぎだ、馬鹿」

 返事はない。

魔王「お前らが食い過ぎるとバランスが崩れて大変なことになるんだよ」

魔王「一気に100人。対するお前らは12。どうみても88人は余分だろうが」

 それから、目を細める。
 文句が言い足りないらしい。

魔王「というか、そんなにおれが嫌いか」

 側近はそっと主の顔を見たが、そこから表情は読み取れなかった。

魔王「そこまでして王となりたいか」

 倒れ伏す魔物の間をゆっくりと歩いていく。

魔王「人間を食らい、力をつけて。そしておれを倒すつもりだったんだよな」

魔物「……そうだ」

 か細い声があがった。
 魔王の口がつり上がる。

魔物「前々代魔王さまを……殺したのは、お前だ」

魔王「ふん。復讐か」

魔物「何故殺した。何故前代魔王さまを追放した」

魔王「親父は逃げたんだよ。おれから逃げるためにさ」

魔王「あと良いこと教えてやる。前々代魔王はまだ死んでいない」

魔物「は?」

魔王「弱体化してるがな。お前らみたいな連中にいいように使われたくないからって引退した」

側近「……」

魔王「というよりよぉ、魔王になってもいいことないぜ?」

魔王「どうやらお前ら一族の悲願らしいが。偏った夢だな」

魔物「黙れ……!人間などいらんのだ!一部の魔物もだ!」

魔王「大馬鹿者め。自分好みに作られた世界はすぐ滅びる」

 手を軽くふる。
 それだけで、魔王と側近以外の魔物はサイコロサイズに切断された。
 魔王はため息をつく。

魔王「…参ったな。やっぱおれ、魔王として歓迎されてなくね?」

側近「これからですよ、魔王さま」

 夜は更けていく。

続きます

>>127
×数十体
○十数体

――魔法使いの宿部屋

「……さん…」

魔法使い「ん……」

僧侶「魔法使いさんっ!」

魔法使い「ッ!?」ハッ

僧侶「良かった…大丈夫ですか?」

魔法使い「あ、え、僧侶?」

僧侶「はい、僧侶ですが」

魔法使い「何で私の部屋に?」

僧侶「お手洗いに行こうとしたら魔法使いさんの部屋から唸り声が聞こえて…」

僧侶「それに、鍵がついていなかったのでつい……すみません」

魔法使い「謝ることはない。少し無防備だったな」

僧侶「そうですよ、自分のことも考えて下さい」プクッ

魔法使い「悪い。――それより、気分はどうだ?」

僧侶「…少しだけ落ち着きました。ごめんなさい、昨日は色々と」

魔法使い「困ったときはお互いさま、だろ?構わないさ」

僧侶「魔法使いさんは、優しいですね」

魔法使い「そんなことはないさ。放っておけないだけだ」

僧侶「それを優しいというんですよ」クス

魔法使い「そう言えば、今の時刻は?」

僧侶「五時前です。まだ朝は来ませんね」

魔法使い「そうか。じゃあ二度寝でも洒落込むかな」

僧侶「あ、あの」

魔法使い「ん?」

僧侶「さっき、悪い夢…みていたんですよね?」

魔法使い「……ああ」

僧侶「じゃあ、わたしが側についていてあげます。悪い夢を見ないように」

魔法使い「……んん?」

僧侶「い、いわゆる添い寝です」

魔法使い「…神は許してくれるのか?」

僧侶「さすがにそれぐらいは許して下さるでしょう…多分」

僧侶「」モゾモゾ

魔法使い(これ逆に寝れないぞ)

僧侶「あ、そうだ。手首……」

魔法使い「手首?……ああ、切ったところか」スッ

僧侶「あれ?治りかけていますね」

魔法使い「……。ちょっと僧侶の治癒魔法を真似してみたんだ」

僧侶「わあ、すごいですね」

魔法使い「いやいや。魔法は複雑だし、治りきらないし、僧侶は凄いと思ったよ」

僧侶「そ、そんなことないです。じゃあ最後まで治しますね」パァァ…

魔法使い「ありがとう」

僧侶「…なんだか、懐かしい感じがします」

魔法使い「そうなのか?」

僧侶「わたしは孤児だったから、教会で育てられたんです」

魔法使い「……」

僧侶「あ、他の同じ境遇の子と仲が良かったからあまり寂しくはなかったですよ?」

魔法使い「…へぇ」

僧侶「でもやっぱり、寂しくなるときはあって…」

僧侶「そういう時は年上のお姉さんの布団に侵入して寝てたんです」

魔法使い「何か言われなかったのか?」

僧侶「うーん…ちょっと迷惑そうでしたけど、何も」

僧侶「そのお姉さんは戦争が始まる前にどこかに行ってしまいました」

僧侶「今はもう二十歳を越えているでしょうね。子供、いるのかなぁ」

魔法使い「どうだろうなぁ」

僧侶「…なんかすみません、こんな話をして」

魔法使い「いいよ。誰にだってそういう気分になることがある」

僧侶「そうですね」

僧侶「…魔法使いさんはすごく強いですけど、いつぐらいから魔法の修行を?」

魔法使い「うーん…10歳ぐらいからかな」

僧侶「ええ!?じゃあまだ修行初めて10年もたってないんですか?」

魔法使い「んー……うん。師匠は厳しかったから上達せざるを得なかった」

僧侶「天才なんですね…」

魔法使い「師匠いわく素質というか力『だけ』はあったから」

僧侶「師匠はどんな人だったんですか?」

魔法使い「いやぁ厳しかった厳しかった。何度か殺されかけた」

僧侶「あはは」

魔法使い「でも色々お世話にはなったよ」

『それで終わりか?まだいけるだろう』

『お前どうやったらスープを毒物に変えられるのだ!?』

魔法使い「……」

『――お前の生き方だからな。反対はできんよ』

『行ってこい』

魔法使い「…きっとあれが師匠なりの優しさだったんだな」

魔法使い「僧侶?」

僧侶「……」スー

魔法使い「…寝たのか」

僧侶「……」スースー

魔法使い「むぅ」

青年「どうした」

魔法使い「何故彼女にはあって私にはないのだろうと熟考していた」

青年「考えようがないものはない。諦めろ」

魔法使い「……」

青年「……」

僧侶「……」スースー

魔法使い「お前、いつからそこに」

青年「今だ」

魔法使い「常識的に考えろ。寝ている人間の部屋に忍び込むな」

青年「なにを今更。それにその常識は人間の常識だろう?」

魔法使い「ああ…そっち魔物だもんな」

青年「しっかりしてくれ。だてに胸ではなく頭脳に栄養を回したわけではあるまいに」

魔法使い「殴られたいか」

青年「しかし驚いた。一切性別がバレる様子がないとは」

魔法使い「…サラシできつく巻いてるからな」

魔法使い「下半身はともかく、少し触られたぐらいではバレない」

青年「よかったじゃないか、元から小さくて」

魔法使い「黙れ。何事も控え目が一番いいんだ」

青年「必死だな」

魔法使い「…で?朝っぱらから何のようだ」

青年「なぁに。微妙に魔力を放出しているから見に来ただけだ」

魔法使い「…そうか?魔力を抑える魔法が弱まっていたか」

青年「むしろ逆だ。魔力が強くなっている」

魔法使い「強くなっている?」

青年「気づかないのか。まぁ、満月が近いしな」

魔法使い「?」

青年「満月の夜は魔力が少しばかし増えると言われている。それのせいかもな」

魔法使い「…初めて聞いたが。魔物限定じゃないか、それ」

青年「分からん。人間も同じようなものだと思っていたが」

魔法使い「ふぅん……なるほどな」

魔法使い(満月の日に魔王襲ってたらヤバかったな)

青年「そんなとこだ。そっちの少女が目覚めて騒がれてもこまるし、おれは戻る」

魔法使い「そうしろ」

青年「ふん、冷たいな」ヒュンッ

魔法使い「まったく……」

僧侶「……」スースー

魔法使い(…僧侶も実は寝れなかったんじゃないのか?)

魔法使い(怖いよな、犯人が側にいるかもしれないんだから)

魔法使い「……」ギュッ

魔法使い「温かいな、相変わらず」

――魔王城

人魚「上流から水が汚れていると意見が」パチャパチャ

ゴブリン「ええい跳ねるな跳ねるな。濡れる」

トロール「上流といったら巨人かもナ。ちょっと聞いてみル」

魔大臣「ふぁ…もう朝だ」

ミノタウロス「続きの会議は夜から――」


青年「ご苦労だな」シュンッ


人魚「え?あ、……魔王さま!!」バシャッ

ゴブリン「ギャーー!!」グッショリ

トロール「魔王さま、人間のお姿ですカ」

魔王「ああ忘れていた。これでいいか」

魔大臣「丁度良い時に。人間の街で一部の魔物が暴れていると――」

魔物「それさっき殲滅してきた」

魔大臣「わぁお」

人魚「すごい……」パチャパチャ

ゴブリン「わざわざ報告にこられたんですか?お疲れさまっす」

魔王「ついでに会議の様子もな」

魔王「おれがいなくとも回るとは思うが、ずっと放置というのもあれだし」

人魚「いいえ!魔王さまがいない会議なんてただのむさい集まりですわ!」バシャン

ゴブリン「おい」

魔大臣「即位してからずっと根詰めて働いてきたのですから、たまには休みませんと」

トロール「でモ、たまに帰ってきてくれないと困ル」

魔大臣「そういえば、側近は?」

側近「呼んだか」バサッ

魔大臣「おおう、いたいた。魔王さまの側にいるのならいいや」

魔王「おれの一人歩きはそんなに不安か」

休憩 バサッ

ミノタウロス「遊びに慣れてない人がいきなり遊びに行くなんてそりゃ心配にもなりますって」

トロール「遊びすぎも毒ですガ、仕事だけというのも毒ですネ」

魔王「前代魔王は仕事ほったらかして遊び呆けていたな、そういえば……」

人魚「おかげで魔王さまは幼いうちから代理をされてましたね…」ポロポロ

ミノタウロス「涙――というか、真珠出てる真珠」

僧侶「怒り狂った人魚が前代魔王に破滅の唄を歌って三階の廊下が壊れたのはいい思い出だな」

ミノタウロス「すごかったな。それを退けた前代魔王さまもすごかったが」

ゴブリン「あれは後片付け大変だったな……」

トロール「うン」

人魚「だからしばらくは魔王さま、羽を伸ばしていいんですよ?」ポロポロ

ゴブリン「それ以上泣くな、また床が真珠だらけになる」

トロール「踏んだ瞬間滑って転ぶよネ」

ゴブリン「そうだ。最近勇者の気配を察知したのですが、突然消え失せまして」

ゴブリン「何かご存知ですか?」

魔大臣「まだ言ってなかったか。それは――」

魔王「勇者は死んだ」

人魚「え?」

トロール「なゼ?」

魔王「どうやら人間にやられたらしくな。今犯人を探している途中だ」

ミノタウロス「ん?魔王さま、勇者パーティーの付近にいるんですか?」

人魚「まあ」

魔王「そうだ。あれじゃおれの討伐には来れないな」

魔大臣「ふむ…人間に、ですか……」

トロール「人間、領地ぐらいで殺しあいするもんナ」

ゴブリン「広い土地を持て余してるくせにさらに広い土地を狙うんだもんな」

魔王「そのぐらいだ。何かあったら呼べ」

魔大臣・人魚・トロール・ゴブリン・ミノタウロス「畏まりました」

シュンッ

人魚「あう…行っちゃった…」

トロール「残念だったナ」

ゴブリン「魔王さまに惚れてるんだっけ?」

ミノタウロス「まずケバい化粧除かないと振り向いてくれないな」ニヤニヤ

人魚「なんですって!」

側近「……」

ミノタウロス「うお!?」

ゴブリン「あれ?魔王さまと転移したんじゃ」

側近「お前たちと話したいことがあったからな……先にいってもらった」

トロール「なんダ?」

側近「人間でも、魔物と同じように魔法を使うものがいるじゃないか」

ゴブリン「いわゆる“魔法使い”だな」

人魚「うんうん、それで?」

側近「なにか、“魔法使い”に制限かけられていたりするのか?」

ミノタウロス「制限?」

側近「なんでもいい。心当たりがあれば教えてくれ」

トロール「うーン?」

人魚「あ、そういや昔聞いたことあるわよ」

ミノタウロス「おお」

人魚「おばあちゃんが教えてくれたの」

側近「彼女は素晴らしい歌声だったな」

人魚「うん、あたしたちの誇り」

人魚「“魔法使い”はねー、男しかなれないんだってさ」

ゴブリン「どういうことだ?それは」

人魚「魔法を使える素質が絶対的に男しか持てないっていうやつみたい」

ミノタウロス「あるんだな、そういうの」

側近「……女は?」

人魚「ほぼいない。いたとしても“魔女”として燃やされるだとか」

トロール「それはまタ、なんでなんだろウ」

人魚「“魔女”は異質、というか歓迎されてないようね」

人魚「なんというか…あちらからすると汚い血が流れてるから、らしいよ?」

側近「それって」

人魚「うん、つまり――――」

――宿

魔法使い「魔物がぜんぶ倒されていた?」

剣士「そうだ。朝から生々しくて悪いが」

剣士「隣の隣の街で魔物の襲撃があったようなんだ。今朝、そいつらが倒されていた」

魔法使い「……」

剣士「これと勇者と盗賊の件は別物かはまだ不明だ」

魔法使い「別物っぽいがなぁ」

剣士「あ。もしかしたら、街を襲う前に勇者を襲ったとか」

魔法使い「ではなぜ盗賊も死んだ?」

剣士「ぐぬぬ……」

魔法使い「ペンダントや所持品が消えた理由も分からないぞ」

剣士「ぐぬぬぬ……」

剣士「だぁ!どうすればいいんだ!」

魔法使い「落ち着け」

剣士「むーむむ…勇者に恨みをもっていた魔物か人物…だめだ、盗賊とペンダント…」

魔法使い「魔物からは離れないんだな」

剣士「当たり前だろ?傷は剣によるものだったが、もしかしたら人間のフリして使ったかもしれないし」

魔法使い「剣ね…そういえば市場で中古の剣を売っていたな」

剣士「盗んだものかもしれんが…今日行って聞いてみるか」

魔法使い「ああ」

僧侶「おはようございます」

剣士「おはよう。珍しく遅いな」

僧侶「えへへ…寝すぎました」

魔法使い「戦士、遅いな」

剣士「いつものことだろ」

僧侶「呼んできますね」トントントン

剣士「……剣士も剣士で辛いだろうな」

魔法使い「勇者のことでか」

剣士「そうだ。二人とも夜遅くまで飲んでいた仲だし」

魔法使い「そうだったな」

剣士「ああでも…複雑でもあっただろうな。戦士、姫様が好きだったから」

魔法使い「そうなのか?」

剣士「一目惚れだと。どうしたって結婚出来ない相手に恋は辛いよな」ハァ

魔法使い「剣士…もしかして、僧侶が」

剣士「な、なんでそこに行き着く!?アホか!」

魔法使い(図星か)

トントントン

戦士「おふぁよう」

魔法使い「はいおはよう」

僧侶「朝ごはん頼んできますね」パタパタ

剣士「どうした?夜遅くまで起きていたか?」

戦士「落ち着かなくてな」

剣士「無神経なお前がか?」

戦士「うるせー」

戦士「それで?今日はどうするつもりなんだ」

魔法使い「私はまず第一発見者のところに行きたい」

剣士「そのあと、最近剣を買った人物がいないか聞きにいく」

戦士「そりゃまた、なんでだ?」

剣士「剣の使い方が力任せで未熟だったんだ」

魔法使い「だから、普段は剣を専門にしないやつだと思ってな」

戦士「ほお…昨日勇者たちの身体をみたんだったな」

眠いなら寝ても良いのよ




誤字増えてきてるよww
魔王軍団の中に僧侶がいたり剣士が剣士について語ったり

魔法使い「私は第一発見者のところへ、剣士は剣を見に行く」

魔法使い「戦士は?」

戦士「個人行動はぶっちゃけ嫌だが…残っているよ」

剣士「憲兵が来るかもだしな」

戦士「そうだ」

僧侶「お待たせしましたー。なんの話ですか?」

戦士「今日なにするかって話だよ」

魔法使い「私は第一発見者のところ、剣士は剣を見に、戦士は留守番だが」

僧侶「わたしは…」

戦士「剣士についてってやれよ。変なもの買わないように見張ってくれ」ニヤニヤ

剣士「ぶっ!?」

魔法使い(こいつも知っているのか)

――街

魔法使い「……」スタスタ

青年「よう」

魔法使い「一働きしたみたいだな」

青年「まあな」

魔法使い「容赦ないんだな」

青年「生ぬるい支配は争いを起こす。厳しくしないといけない」

魔法使い「大変なのか」

青年「ふん。反勢力も芽を摘まないとな」

魔法使い「へぇ」

青年「それに勇者の行動の監視も加わると死にかける」

魔法使い「激務だな……」

続く

>>163
うぎぃやぁすみませんすみません
今から怒濤の訂正タイム

>>153
僧侶→ゴブリン

>>161
剣士「……剣士も剣士で辛いだろうな」

剣士「……戦士も戦士で辛いだろうな」

青年「だから、勇者がいなくなって楽になったと喜ぶべきか」

青年「退屈を壊す人間がいなくなってしまったと嘆くべきなのか」

青年「おれにはさっぱり分からん」

魔法使い「…なんとも“魔王”らしい言葉だな」

魔法使い(それか揺れる感情に困っている思春期っぽい)

青年「ふん。だてに魔王を百数年しているわけではない」

魔法使い「……容姿、若いんだな」

青年「魔王を討伐に来ているのに魔物のことを知らないのか」

魔法使い「わ、私はなんでも知っているわけではないからな」

青年「はっ。――年をとるのが遅いんだよ、人間と比べてな」

魔法使い「…どのくらい?」

青年「長くて千年。長寿は龍族だ」

魔法使い「そんな長く、か。本気を出せば人間界を征服できるんじゃないか?」

青年「ほう?」

魔法使い「コツコツと攻めていけば、さ」

青年「なんだお前。攻めてほしいのか?」

魔法使い「そういうわけじゃない。ただの思いつきだ、本気にするな」

青年「今のところ、おれたちはこの状態が一番いい形だ」

魔法使い「そう…なのか」

青年「それをわざわざ壊すなどアホか」

魔法使い「………」

青年「それにこちらから戦争をおっぱじめるとなると各種族に協力を仰ぎ」

青年「効率の良い陣地の配分をし指揮をあげて指示をし毎朝毎晩会議続きだ」

青年「勇者に殺されるとか、攻められて落城云々の前に過労で倒れる」

魔法使い「かなり過酷だな!?」

青年「…普通は前代も手伝ったりしてくれていいんだがな」ボソ

魔法使い「……?前代魔王と、仲が悪いのか?」

青年「……ふん」

魔法使い「なんでそう頑なな態度に――」ザクッ

鷹「調子に乗るな、小娘」ヒソリ

魔法使い「あぃだ!?つ、つつかれた!おいつつかれたぞ!」

鷹「魔王さまの深部にずけずけと入り込むな馬鹿者。殺されないだけよしと思え」ヒソ

魔法使い「~~~」

青年「ははっ。端からみると鷹の調教に失敗したやつみたいだな」

魔法使い「悠長なこといってないでなんとかこの鷹を――っぃだ!?」ザクッ

鷹「だいたい貴様は魔王さまに無礼すぎる!ここで叩き直してやろう!」

魔法使い「赤毛になる!髪の毛が赤毛に!!」



子供「ママー、あそこで男の人が悶えてるよー」

母親「見ちゃだめ」

魔法使い「ひどい目にあった」

青年「なかなか愉快だった」

魔法使い「私は不愉快だがな」

青年「当人には悲劇でも周りから見ると喜劇って本当のことだったことが分かったよ」

魔法使い「性格悪いぞ」

青年「ふん」

魔法使い「しかしなんだあの鷹は。過保護か。過保護なのか」

青年「まあな。気づいたらおれの監督官だったわけだし」

魔法使い「へぇ」

青年「…思えば、あいつもおれのそばにいてよく死なないな」

魔法使い「何をしてたんだあなたは」

青年「大したことじゃない。ほら、ここだろ」

魔法使い「…まあいい。ここだな」

リンリン

青年「……」

魔法使い「ごめんください」

シン…

魔法使い「やけに静かだな」

青年「配達物が箱に挟まったままだ」

魔法使い「郵便受けというものだよ。まだ寝ているのかな」

おばさん「あれま、あんたたちどうしたの?」

魔法使い「おはようございます。少し、ここの人に用が」

おばさん「ベルは鳴らした?」

魔法使い「はい。――でも、誰も出てこなくて」

おばさん「おかしいわねぇ?いつも早起きなんだけれど…」リンリン

青年「……」スッ

カチャッ

魔法使い「…ドアが開いた」

青年「なるほど…」

おばさん「え?え?」

魔法使い「すいません、そこにいて下さい」

青年「嫌な予感がしますので」

おばさん「あ、ちょっとー!」


魔法使い「おはようございまーす、魔法使いですが」スタスタ

青年「誰かいらっしゃいませんか」スタスタ

魔法使い「リビングに電気がついてる。いるかもな」

青年「期待した形ではいないだろうがな」

魔法使い「……。見なくちゃ分からないだろ」

青年「そうか」

魔法使い「開けるぞ」

青年「ああ」

カチャ

魔法使い「……」

青年「……」

魔法使い「……」

青年「……期待通りか?」

魔法使い「……全然。出来れば、予想で終わって欲しかったものだが」

青年「見事なまでに惨殺されているな。抵抗のスキを与えていない」

魔法使い「このお婆さんには罪はないのに…」

青年「第一発見者は?」

魔法使い「…確か、上にいたはずだ。いってみよう」

魔法使い「ご主人!」ガチャッ

青年「きっちり殺ったか……」

魔法使い「……」

青年「喉が切り裂かれている。即死だな」

魔法使い「叫ばせないためか?殺人に慣れた人物の犯行だろうか」

青年「ああ、これは剣の傷跡か」

青年「傷は喉のみ。強い恨みはなかったようだ」

魔法使い「……」スクッ

青年「だいぶ、犯人絞り込めてきたんじゃないか?」

魔法使い「…残念なことに、そうだな」

続こう
そろそろ分かってきたんじゃないかと


まったく残念な結果になりそうで楽しみだよ

ところで、この世界には電気があるの?
ガチファンタジーを想像してたんだけど。
「灯り/明かり」で脳内変換するけど。

>>184
あ…オイルランプで変換お願いします

――市場

僧侶「初めてかもしれませんね、剣士さんと二人っきりになるのは」

剣士「お、おお、そうだな」ドキッ

剣士(俺の馬鹿!意識してどうする!)

剣士(もしかしたら付近に勇者と盗賊を殺した野郎がいるかもしれないんだ)

剣士(今は色恋云々している場合じゃないんだよ俺!)

僧侶「…剣士さん、そのまま進むと香辛料の中に突っ込みますよ?」

剣士「うおっ、危ねぇ」

僧侶「やはり、剣士さんも無理をしてられるのでは…」

剣士「大丈夫さ。何回か戦場に行ったりしてるし――」ハッ

僧侶「そうですか…」

剣士(間違えた…会話の選択肢を明らかに間違えたぞ)

剣士(彼女は聖職者だから生き死にに敏感なんだったな…)

剣士「まあ、なんだ。僧侶は?顔色が優れていないが」

僧侶「わたしは大丈夫ですよ。今日はよく眠れましたから」

剣士「そうか、それはよかったな」

僧侶「はい」

剣士「っと、あれか?」

僧侶「剣や槍が並んでいるところですか?そうみたいですね」

剣士「なんか覚えてるといいんだけどな。こんちは、おじさん」

店主「アァ?冷やかしは帰れ」

剣士「冷やかしじゃないぜおっさん。聞きたいことがあってな」

店主「媚薬は向こうのババアんとこだ」

僧侶「?」

剣士「誰もそんなこと言ってねぇよ」

僧侶「ビヤクってなんですか?」

剣士「………。人の理性を壊す代物だよ」

僧侶「まぁ怖い…」

店主「なるほどお嬢ちゃんは知らなくて当然だわな」ヒッヒッ

剣士「黙ってろおっさん」

僧侶「あの、それで。この数日で剣を買いに来た方はいらっしゃいませんでしたか?」

店主「何人かいたが…なんでだ?」

剣士「…おっさん、勇者が殺されたことは知ってるか?」コソ

店主「なんと。あれは嘘じゃなかったのか」

剣士「ああ。混乱起こすから大々的には言ってないが」

店主「その方がいい。ふむ――凶器は剣か」

僧侶「そうです」

店主「…あんちゃん、どうやら“剣士”っぽいが」

剣士「俺を疑っているなら答えは『いいえ』だ」

剣士「勇者を殺すメリットどころか、デメリットしかない」

僧侶(剣士さんは称号と成功報酬が欲しいんでしたっけ)

店主「はいはい分かった分かった」

店主「しかし…この数日で買ったのは何人もいるからな…」

僧侶「何か変な人はいませんでしたか?」

剣士(…さすが中古、刃が曇ってやがる)シャリン

店主「変な人なぁ。あ、見るからに初心者みたいなのはいたぜ」

僧侶「初心者ですか」

剣士「おっさん詳しく」

店主「長い布で顔を巻いていたから顔は分からん。体つきはがっしりしてたな」

剣士「なるほど」

剣士(確かにあの傷は力任せに斬りつけたものだった)

剣士「がっしりか…そんなやつどこにでもいるからな…」

店主「全体的に鍛えた感じだったぞ」

剣士「そうか…むむぅ」

僧侶(…一人該当する人が…いえ、そんなわけありませんよね)

剣士「ありがとなおっさん。行こう僧侶」

僧侶「はい」

店主「くそっくそっイチャイチャしてんじゃねーよ」

剣士「あとその宝石ついた鞘のやつ、下手すんと王族のだぞ」

店主「なんだって!?」

――第一発見者の家

魔法使い「殺された理由は口封じだな…どうみたって」

青年「だな」

おばさん「あの…なにがあったのかしら?」コソッ

魔法使い「入らないでください。憲兵に来てもらわないと」

おばさん「え?きゃ、きゃあああああああ!!」

魔法使い「落ち着いてください!」

おばさん「」バタ

青年「なんで入るなと言われているのに入るのか」ガシ

魔法使い「そういうもんなんだよ!奥さん!奥さん!?」ユサユサ

……

魔法使い「はぁ…説明があんなに大変なものだったとは」

青年「血が固まっていて良かったな。危うく犯人扱いだ」

魔法使い「まったくだ…」

青年「進展はしたな。犯人は何か見られてはいけないものを見た」

魔法使い「そうだな。だからって、殺さなくてもいいものを」

青年「死人に口無しって言うじゃないか。運が悪かった、そんだけだろ」

魔法使い「……あなたは他人事のように話すな」

青年「他人事どころか種族事だし」

魔法使い「…私ももっと彼らの周辺を警戒しておけば良かった」

青年「肉の調理法は前もって言えってやつだな」

魔法使い「は?」

青年「焼くか煮た肉はどんなに嘆いても生肉には戻らないっていう言葉だが?」

魔法使い「覆水盆に返らずとかそういうやつか…」

青年「ふん。そっちとこっちでは違うのか」

魔法使い「全然違う。いや、今はそんな話をしているわけではなくてだな」

魔法使い「……」

魔法使い「あれ?魔王?」キョロキョロ

僧侶「魔法使いさーん!」

剣士「遅かったじゃないか」

魔法使い(隠れたのか…空気は読めるんだな)

剣士「どうだった?」

魔法使い「それが……」

――説明中――

僧侶「なんてことでしょう…」フラ

魔法使い「僧侶!」

僧侶「冥福のお祈りばかりが増えていきます…」

剣士「……。慌ててんのかな?」

魔法使い「ん?」

剣士「慌ててんのかな、犯人は。バレてしまいそうで」

魔法使い「じゃないのか?」

剣士「早く止めないと、こりゃ――被害が大きくなるぞ」

魔法使い「……そうだな」

僧侶「とにかく、宿に戻りましょう!わたしたちは離れないほうがいいですね」

剣士「その通りだな。離れていると――」

僧侶「特に魔法使いさん」

魔法使い「え、私?」

剣士「」シュン

僧侶「もしかしたらなんらかの手がかりを掴んでしまったかもしれません」

僧侶「狙われるとするなら、魔法使いさんでしょう」

魔法使い「んー…狙われる実感はないが…警戒はしておこう」

僧侶「施錠もお願いしますよ!魔法使いさんが傷ついたら悲しいので!」ズイ

魔法使い「あ、はい…」

剣士「」ショボン

――宿

魔法使い「戦士はちゃんといるといいんだが」

剣士「こういうときはちゃんとした男だよ」

戦士「俺がなんだって?」ノソリ

魔法使い「いた」

剣士「いた」

僧侶「?」

僧侶(どうして戦士さんの靴が土まみれなんだろう…)

魔法使い「どうした僧侶?」

僧侶「いえ…戦士さん、今日はどこかいきましたか?」

戦士「いや?ずっとここにいたが」

僧侶「そうですか…なんか靴が汚れている気がして…」

戦士「ああ、手入れ怠っちまったからな」

剣士「ちゃんとそういうのはやっておけよ」

戦士「それどころじゃなかったんだよ」

魔法使い「まあまあ、ここは争うところじゃないぞ」

魔法使い「女将さん、何か飲み物をくださいませんか」

女将「ええ。今持ってきますわね」

剣士「女将さん、こんな図体のでかいやつが一日中いて嫌だったでしょう」

戦士「おい」

女将「いえいえ。トラブルも起こさないでくれますし…」カチャカチャ

剣士「偉かったな」

戦士「おい」

女将「あ、昼時は定食屋として開放していて、戦士さんのことまで頭がまわりませんでしたわ。ごめんなさい」

戦士「いやぁ…逆に気にされると困るっていうか…」ポリポリ

女将「どうぞ」カチャカチャ

魔法使い「ありがとうございます。一応戦士にも照れってあるんだな」

戦士「うん、今の言葉ちょっと傷ついたぞ」

剣士「だったら盗賊のほうがもっと――」

僧侶「……」

魔法使い「……」

戦士「あー……」

剣士「…今日失言多いな、俺…」

魔法使い「早めに見つけ出さないと。あの二人の、いや四人のためにも」

戦士「四人?」

魔法使い「そうか、戦士は聞いてなかったか…」

魔法使い「第一発見者とその伴侶が殺されていた」

剣士(あっさりだな)

僧侶(わたしたちの時よりあっさりですね)

剣士(ちょっとめんどくさくなってしまったんだろうな)

戦士「…酷いな」

魔法使い「ああ。応対したと見られる夫人はとくに酷かった」

戦士「人間とは思えねぇな」

剣士「でも待てよ…そんな細かい芸当ができたってことは、魔物じゃない?」

魔法使い「うん?話してくれないか」

剣士「家ん中まで夫人は犯人をいれたんだろ?魔物ならいれないだろ」

魔法使い「見た目がグロテスクなのもいるからな」

剣士「しかも人間らしい知恵と伝達方法があったってことだ」

剣士「と、なると…俺の魔物説も疑い直さないとな」

魔法使い(まだ考えてたのかそれ)

戦士「傷跡が剣か、魔物の爪ないし歯かは分かってるのか?」

魔法使い「それは分かっている。剣だ」

戦士「剣ねぇ……」チラ

剣士「…お前まで俺を疑うのかよ」

戦士「別にそんなわけじゃねえよ」

戦士「でもまあ、お子ちゃま勇者がいなくなって清々はしてんだろ?」

剣士「…あのな、戦士。お前やっぱり疑ってんじゃねえか」

戦士「そもそもな、普通は報酬じゃなくて国のために戦うもんだろ」

剣士「そこまで引っ張り出すか。じゃあどんな動機なら良かったんだよ」

戦士「国民のために、国王様のために、お妃様のために、お姫様のために、だろ」

剣士「今まで王家とかにまったく興味なかったくせにな…」

戦士「悪いかよ突然興味もっちゃ」

僧侶「あ、あ、あの」

魔法使い「……」タンッ

バッシャアアア

剣士「つめたぁ!?」

戦士「冷水!?」

魔法使い「今、仲間割れしてどうする。頭を冷やせ」

剣士「体まで冷えてしまったんスけど…」

魔法使い「……」クルリ トンッ

ボォッ!

剣士「あっつぅ!?」

戦士「乾かし方が強引だろ!!」

魔法使い「落ち着いたか?まったく…」

魔法使い「仲間割れが犯人の狙いだったらどうするんだ?」

剣士「…ごめん」

戦士「…すまん」

僧侶「仲直りして良かったです…」

魔法使い「そうだ。憲兵はまだか?」

剣士「もう少ししたら来るんじゃね?」

戦士「ならもう安心だな」

魔法使い「問題は犯人をしぼれるかなんだけどな」

魔法使い(ぶっちゃけしぼりこめてはいるんだが)

剣士「念のため、ちょっと部屋行ってくる。何かなくなってたら嫌だし」

魔法使い「そうだな。刃物類は特に慎重にな」

剣士「うい」トントントン

戦士「ふわぁ」

魔法使い「なんだかんだで夕暮れ時か…一日が早かったな」

僧侶「太陽が沈むのも早くなってきていますしね」

ドッターン ギャア!

魔法使い「…あの馬鹿、なんかひっくり返したな」

戦士「ちょっと見ていくか」

魔法使い「私が行く。またケンカなんかされたらたまらない」

戦士「へいへい、悪かったですねー」

魔法使い「一体なにをしたのやら…」トントントン

戦士「……」

僧侶「あの、戦士さん」

戦士「なんだ?」

僧侶「さっきから気になっていたんですが…ポケットから見えてるその鎖、なんですか?」

僧侶「なんだか、ネックレスのチェーンみたいな感じがするんですが」

戦士「…あぁ、これか」

僧侶「それに、今日どこかに行きましたよね?土がまだ新しいから…」

戦士「……――む!?」

僧侶「どうしたんですか!?」

戦士「魔物の気配だ!近いぞ!」ガタッ

僧侶「えっ!?」

戦士「悪い、サポートしてくれ僧侶!」ダッ

僧侶「え……あ、ええと…待ってください!」ダッ

トントントン

剣士「ほんと助かった」

魔法使い「剣士がランプをひっくり返し…あれ?いない」

女将「あ、なんかさっき魔物だぁとか言って出ていっちゃいましたよ?」

剣士「魔物?」

魔法使い「…戦士と、僧侶が?」

女将「その時はこっちいなかったから分かりませんが、多分二人だけで」

女将「お客さんもいないし、どっちに行ったかは分からないですね…」

魔法使い「……剣士、かなり不味いぞ」

剣士「不味いって、なにが?」

魔法使い「戦士が魔物を察知して出ていった、そうなんですよね?」

女将「はい…」

女将「魔物の気配がどうたらこうたらって」

魔法使い「…くそっ!剣士、急いで出る準備をしろ!」

剣士「な、なんだよ?」

魔法使い「気づけ!何ヶ月このパーティーで行動してきたんだ!」

剣士「う、うん」

魔法使い「魔物の気配を察知できるのは私と勇者と、微弱なら僧侶だけ!」

剣士「そ、そういえばそうだよな…。俺も戦士も魔物の気配を掴めな…なに!?」

魔法使い「そうだ!戦士は分類からすれば一般人、魔物の気配なぞ遠くから分からない!」

剣士「じゃ、じゃあなんだ!?戦士は……」

魔法使い「何故虚偽の事を言ってここから飛び出した?何故僧侶を連れていった?」

剣士「…まさか、僧侶はなにかマズいことを言ったのか」

魔法使い「恐らくな!手分けして探すぞ」

魔法使い「――下手すると、僧侶が危ない!」

――街

剣士「魔法使い!」

魔法使い「なんだ、いたか!」

剣士「お前が落ち着け!――居場所を割り出す魔法を」

魔法使い「…そうか。でも、私は」

剣士「僧侶が使ってたカップを借りてきた。どうだ?」

魔法使い「…少し劣るが、やってみよう」コト

コツッ

魔法使い「……」

剣士「……」

魔法使い「…森だ」

剣士「森?確か遠いよな」

魔法使い「走るしかないだろう」ダダッ

剣士「転移魔法使えないのか!?」ダダッ

魔法使い「一切使えない!」

剣士「うおおおお!僧侶ぉ!!」ダダダ

――森の近く

剣士「…民家がないと、さすがに静かだな」

魔法使い「ここらのはずだが…移動したか?」

剣士「そうか、こっちが移動している間にあっちも移動してるかもしれないんだよな」

魔法使い「まだ遠くは行っていないはずなんだ…」

魔法使い「苦手だけど生体探索を…ん?」

剣士「魔法使い?」

魔法使い「あれは……」

剣士「どうした?何かあったか」

魔法使い「あの白いの、なんだろう」スタスタ

剣士「棒みたいだな、形的に」

魔法使い「――……いや」

剣士「…おいおい、これってまさか」

魔法使い「まだ温い。血も、完全に固まっていない。それにこの指の形…」



魔法使い「僧侶の、片腕だ」



続く

剣士「は……は…う、嘘だろ?」

魔法使い「嘘だと思うなら自分で見てみろ。…少なくとも、私にはそうみえる」

剣士「……」

剣士「…………」

魔法使い(傷口から見るに引きちぎられたようだな…)

剣士「…そうりょ……」

魔法使い(他にむごいごとされてないといいんだが…)

剣士「なんなんだ?これって、戦士は…犯人なのか…?」

魔法使い「……ああ。私が考える上ではな」

剣士「頼む、説明してくれ。頭がこんがらがりそうだ」

剣士「分かった。だが、僧侶を探しながらだ」

魔法使い「まず、私はハナから魔物の仕業だとは考えてなかった」

魔法使い「勇者に近いものの犯行だと――最初から検討をつけていたんだ」

剣士「……」

魔法使い「ああ、分かってるさ。私は少しとはいえ仲間を疑っていた」

魔法使い「正直、どうやって戦士が勇者を呼び出したのかは知らない」

魔法使い「ただ、その時点で凶器は持っていたはずだ」

剣士「商人のおっさんが、初心者っぽい男が剣を買ったと言っていたな」

魔法使い「そうか。――泥酔した勇者を力ずくで斬り伏せるのは、力のあるものならできると思う」

剣士「そうだな。元々、怪我をさせやすいように――殺しやすいように作られたものだからな」

魔法使い「…私には第一発見者が何を見たのか分からない」

魔法使い「ただ、『先入観』はいいヒントではあった」

魔法使い「剣をつかうからって“剣士”とは限らない」

魔法使い「次に、盗賊」

魔法使い「あの前日、なにか話していたんだよ。盗賊と戦士が」

剣士「そうだったな」

魔法使い「おそらく盗賊は戦士の弱味かなにか握っていたんじゃないか?」

剣士「…だからあんなとこに呼び出して殺したと?」

魔法使い「そう考えるのが自然だ。あいつ、金儲けしか考えてなかったしな」

剣士「……。じゃあ金を盗んだのは?」

魔法使い「盗賊が生きていると思わせる小道具だよ」

魔法使い「だからって、今このタイミングで仲間の金をとって逃げるのは些か無理があるが」

剣士「そうだな。下手すると自分が疑われる――指名手配がかけられるだろうし」

魔法使い「それに。盗賊が金だけ律義に盗むわけないじゃないか」

剣士「……だよな」

魔法使い「第一発見者は、多分住所のメモを覚えていたんだ」

剣士「みんなに見せるようにしてしまったからな…」

魔法使い「私がうまくいかなかったことに安堵しただろう」

魔法使い(そしたら、私も犠牲者に名を連ねていたかもしれない)

魔法使い「ここまで仮説をべらべら喋ったが――訂正はあるか?戦士」

剣士「戦士?」

魔法使い「向こうの木の横だ」

剣士「…見えた」

戦士「こうなったら、全員殺るしかないな」

魔法使い「ふむ。では私の仮説はだいたい合っていたのか」

戦士「余裕そうだな」

戦士「そうだよ。勇者を殺したのも盗賊を殺したのも夫妻を殺したのも、俺だ」

剣士「僧侶は!?」

戦士「『まだ』死んじゃいねぇぜ?」

剣士「くそぉっ!」

魔法使い「やめろ。冷静を欠いた剣士が今突っ込んだら負ける」

剣士「っ」

戦士「ほんっとーにさぁ…勇者は、資格なんかないんだ」

戦士「何故あいつが選ばれた!?“勇者”に!何故俺じゃなかった!」

戦士「あんな女遊びをするやつが、姫様と結ばれる気でいたんだ!」

魔法使い「……」

戦士「姫様のもらいもんだよ…勇者から貰ったんだ」チャリ

魔法使い「奪ったんだろ」

戦士「これがふさわしいのは俺なんだ。俺だけなんだよ!」

戦士「なのに…あいつはせせら笑いやがった!負け組を見るようにな!」

戦士「――それで、思ったんだ」

戦士「“勇者”になれないなら手を汚してでも“勇者”になればいいと気づいたんだ」

戦士「殺して、しばらくしてネックレスをとりに行った」

戦士「そしたら通行人――第一発見者だな――に見られた」

戦士「どんな顔してたんだろうな。思いっきり睨んだら逃げちまったよ」

魔法使い(ご主人は戦争の記憶でも蘇ったのだろうか…勇者血まみれだったしな)

戦士「そしたらなんで気づいたか盗賊だ。俺の秘密を弱味にして交渉してきた」

戦士「むちゃくちゃな交渉だったよ。あれは、俺が路頭に困るぐらいの金額だ」

剣士「……」

戦士「だから、殺した。殺した方が手っ取り早いって知っているからな」

戦士「あとはお前の想像通りだよ、魔法使い」

魔法使い「…やれやれ」

魔法使い「『第一発見者がどんな凶器で殺されたか知らないのに剣ないし牙の傷だと推測した』」

魔法使い「それをたった今考えたが、無駄になってしまったようだな」

戦士「冥土の土産には十分か?」ザッザッ

魔法使い「僧侶は?」

戦士「あっちに転がっているよ。ピーピー煩かったからな」

剣士「このっ……!」

魔法使い「剣士。僧侶を安全なところへ連れていけ」ボソ

剣士「お前は?」ボソ

魔法使い「こいつを引き留める」ボソ

剣士「ば……!なら、俺も!」

魔法使い「重症の僧侶を放置するならいいぞ」ボソ

剣士「……っ」

魔法使い「行け。――足手まといだ」ボソ

剣士「わぁったよ!」

魔法使い「こちらから行くぞ、戦士」コツン

ゴォォォ

戦士「ぐぅっ!?」

剣士「」ダダッ

戦士「しまっ――」

魔法使い「ほらほら、戦う相手が違うんじゃないか?」

戦士「ちぃっ…」


剣士「僧侶!」

僧侶「…」グッタリ

剣士「止血を…」ギュ

剣士「任せたぞ、魔法使い…!」

魔法使い(行ったか)

戦士「隠せると思ったんだけどなぁ」スラリ

魔法使い「…剣、か」

戦士「一度は埋めたんだよ。だけど僧侶が気づいちまって」

魔法使い「……あのさ。思ったこと言っていいか」

戦士「あ?」

魔法使い「くだらない」

戦士「――なんだと?」

魔法使い「くだらないと言ったんだ」

魔法使い「一人殺して、ズルズルと何人も殺害して」

魔法使い「その動機が姫様への淡い恋心なんだからな。彼女もかわいそうだ」

なんかどっかで見た気がする

戦士「――お前に何が分かるってんだよ!」

戦士「俺は姫様のためにこの仲間<パーティー>に入った!」

戦士「全ては姫様のためだ!それの何が――」

魔法使い「なにもかも他人に投げつけるな!あたかも姫様のせいみたいじゃないか!」

魔法使い「仲間は、どうだって良かったのか!?」

戦士「うるさいんだよ!!――死ね!」ザッ

魔法使い「土の壁!」ヒュッ

戦士「効くかぁ!」ボガッ

魔法使い「憲兵に大人しく自首しろ。逃げ切れると思うな!」

戦士「やってみないと分からないだろうが!」

魔法使い(こうなったら――)ガンッ

戦士「!?」

魔法使い(石を当てて何ヵ所か死なない程度に損傷させるか――)

ガラガラガラ

戦士「うわぁ!」

魔法使い「悪いな、死にはしないが――」

>>230
多分どっかで影響受けてるんだろうね…

『初めまして。オレは勇者』

『えっと、わたしは僧侶です!』

『盗賊です?』

『剣士。よろしくな』

『あー、俺は戦士だ。まあよろしく』

『私は魔法使い』

『これからオレらは魔王倒すまで一緒だからな!頼むぜ!』

魔法使い(…仲間を傷つけていいものか?)

魔法使い(仲間を殺した男とはいえ、私がこの男を傷つける理由に――)

戦士「はぁっ!」ドガ

魔法使い「ぐぅっ」ズサァ

戦士「いってぇな…よくもやってくれたな」ヒュンヒュン

魔法使い(ちっ…少し、迷った)

戦士「これがなければ魔法使いクンはただの人間だぁな?」バキッ

魔法使い「あ、杖」

戦士「……なんだよ商売道具折られたのにその反応。使えなくなったんだぞ?」

魔法使い「…まあ、そうだな」

戦士「余裕そうだな」ザクッ

魔法使い「ガッ……!?」

戦士「ほらほらどうした?まだ刺されただけじゃねえか」グサ

魔法使い(駄目だ…駄目なんだよ)

魔法使い(私がこれから先人間として生きるためには、使っちゃだめなんだ)

戦士「ん?なんだこれ…サラシ?」

魔法使い「あ…」

戦士「…お前、まさか、女だったのか?」

魔法使い「……」

戦士「なるほどな…同室に頑なだったのも男装がバレるからか」

魔法使い「……」

戦士「まさか本当にいるとは思わなかったが」

戦士「勇者に同行してなにをするつもりだったんだよ?――“魔女”」

魔法使い「……」

戦士「さっきの威勢のよさはどうした?」

魔法使い(出血多量で死にそうなだけだよ)

戦士「そうか…全部“魔女”のせいにすれば事は済むのかな」

戦士「そんなら、証拠の首を貰うぜ。混血児」グッ

魔法使い「!」

魔法使い(私――死ぬ――殺される――殺される?)ドクンッ

魔法使い(な、力の、制御が、できない)

魔法使い(…――満月が近い?――強い力に共鳴?――魔王?――)

戦士「?なんだよ、静かになって…」

魔法使い「う」



魔法使い「ぅぅぅぅあああああああああ!!」バサァッ




青年「おいおいおい。ちょっと離れていたらずいぶんと進展してるじゃねーか」

青年「仲間外れはよくないぜ。元から仲間じゃないけど」

鷹「……」

青年「側近、見とけよ。お前ら一族の苦しみの種は除かれたぜ」

鷹「そのようですね」

青年「さて、どうする?助けにいくか?」

鷹「…しばらく様子見で」

青年「ふん。そうしよう」

大風呂敷を綺麗に畳めなかった
続く

―――
――


 ぼたぼたと戦士に斬られ刺された箇所から血が溢れ出てくる。
 だが、魔法使いは傷口に片手を添えるだけですぐさま止血には動かない。
 魔法使いにとって、それを気にかけている場合ではないのだ。

魔法使い「いたい……」

 刺されたときだって痛かったが、この背を焼くような痛みはもっと酷かった。
 それは瞬間的なものではあったが、まだつづいているようにすら思えた。

 彼女はよろりと立ち上がる。

戦士「つ、翼が……」

 戦士の言う通り、魔法使いの背中から一対の大きな翼が生えていた。

 翼といえども幼児が思い描く、天使の背についているような白い翼ではない。

 濃い茶色をした、シャープな形をした翼。
 先端は他より長い羽により切れ込みがあるように見える。

戦士「な、なんだよ…どうなってんだよ…」

魔法使い「私も、聞きたい、ぐらいだ」

 息も絶え絶えにあげる。容姿にもいくらか変化があった。
 きついつり目となり、白眼の部分がうっすらと黄色に染まっている。
 手首や足首、首もとには白い羽が薄く生えている。

魔法使い「怖いよ…この姿になったら、私は……」

戦士「ち、近寄るな化物…」

 ふらふらと助けを求めるように魔法使いは戦士のほうに歩いていく。
 彼女の変化に腰が抜けた彼は、座ったままなんとか後退を試みた。

魔法使い「また…人を攻撃してしまうんだ…それが、怖いんだよ」

戦士「…くっそぉ!」

 気力を振り絞り立ち上がった戦士は、力加減を忘れて思いっきり魔法使いの顔を殴った。
 いや、殴ろうとした。

 魔法使いが、あっさりと片手で受け止めた。

戦士「え、え、ええ…?」

魔法使い「化物になってしまったんだ…私は」

戦士「筋力まで増加するのか…!」

魔法使い「違う。魔法を使っただけだ」

 その回答に戦士が目を見開く。

戦士「嘘だ…だってお前、杖がないと魔法が…」

魔法使い「私は“魔法使い”じゃないんだよ。杖がなくても、使える」

魔法使い「戦士が言った通り――私は混血児、だ」

 近くにあった木に拳を叩きつける。
 一瞬木の幹に魔法陣が浮かんだ後、大きな音を立ててへし折れた。

魔法使い「どっかいってくれ。私たちの前から、消えてくれ」

 戦士が後退りしたが、すぐに木にぶつかって止まった。

戦士「う、うわ、わぁ……!」

 喘ぎながら、戦士は目の前の少女から目が話せなかった。

魔法使い「じゃないと、私は思わず殺してしまう」

魔法使い「戦士は許されないことをしたし、許す、つもりはないけど――でも、仲間だったから」

 ガタガタと震える男のすぐ前で立ち止まった。
 いつの間にか魔法使いの血は止まっていた。

魔法使い「だめだな、この姿になると―――」

 戦士の頭のすぐ上の木に手を当てた。
 それだけで、さっきとおなじように木が倒れる。

魔法使い「―――人間が、殺したくなる、よ」

戦士「………ひぃぃ!!」

 悲鳴をひとつのこすと、股間から生暖かい液体を漏らし戦士は気絶した。

漢字と語彙力の低さに絶望している今日この頃
始めます

魔法使い「……」

 倒れた戦士をしばらく無表情で見つめる。
 脇腹に意識を向け、傷の程度を確認した。
 血は止まっているとはいえ、重症。
 内臓も傷ついただろうし、もしかしたら致命傷かもしれない。
 医学にはあまり明るくないので推測するしかなかったが。

魔法使い「…本当に僧侶の治癒魔法を真似できたらなぁ…」

 小さく呟いた時。
 気が緩んでしまった時。
 興奮状態がおさまり、受けた傷の痛みが強くなってきた、その時。

 最悪のタイミングで、黒い影が襲いかかってきた。

魔物A「ウガアァァァァ!!」

魔法使い「!?…こんな時に!」

 空を切るように手を振る。
 宙に魔法陣が現れ、それと同時に魔物が横に切れた。
 ぶしゃっと血が飛び散る。

 それで終わりではなかった。
 後ろから二匹目の魔物が飛び出てくる。

魔法使い「……っ!」

 痛みと疲労により足が縺れ、尻餅をついた。
 猪のような形をしたそれは、魔法使いに一直線に突進してくる。

 頭が真っ白になり、身体が動かない。

魔法使い(ここで――終わりか?)

 突然目の前が暗くなった。

魔法使い「…?」

 痛みは襲ってこない。
 撥ね飛ばされた気もしない。

 目はしっかりと開いているはずなのだが。
 まるで何かが覆い被さっているような。
 それは羽毛、のようだった。

魔法使い「あなた、は…」

 見上げると、見慣れない誰かがいた。
 人間の形をして、それでいて鳥の形をしているもの。
 聞いたことがある。
 いや、知っている。
 鳥人族。

側近「――同類が危機ならば、助けなければならないからな」

 最近聞いたことのある声で、彼は言った。

 わずかに考えて、それがあの鷹だということに気づいた。

魔法使い「でも、私は――」

側近「混血だな。人間と魔物の」

魔法使い「半端者を――あなたは、今、守っているんですよ」

 混血は異種間で産まれた汚れた存在だ。
 人間にも魔物にも、忌まわしい存在として嫌われ、最悪殺される。

 この状況は、どう考えても魔物から自分を守っている。
 なぜなのか。

側近「駄目か」

魔法使い「そういう、わけじゃないです、が…私みたいな存在は、迫害されてて…」

側近「誰もみていない」

魔法使い「…魔王は?」

側近「そちらで馬鹿どもを粛正している」

魔法使い「……」

 そっと地面に寝かせられ、魔法使いには空しか見えなくなった。
 不完全な丸い月。

魔法使い(満月に魔力は強まるんだったか)

 なら、何故自分は今日いきなり魔力が強くなったのか。
 いくつもの満月を越えたが、こんなことは前に一度きりだけだ。

 痛みが強くなり、目がまわる。

 視界に、角の生えた美しい男が入り込む。

魔王「よう、一日ぶり」

魔法使い「…大変な時にいないな、あなたは」

魔王「タイミング悪いよな。仕事を片付けててな」

魔法使い「私が、混血だと気づいていたか?」

魔王「ふん、最初から薄々な。杖から魔力は感じられなかったから怪しんではいた」

魔法使い「…そうだったな」

魔王「で、普通は魔力を持ち得ない女だった。側近の話と統合すると、なんかの魔物と人間の愛の結晶だなと」

魔法使い「そうか…それで、魔王。私はどうなる?」

 金色の目がきょとんとした。

魔王「どうなるとは?」

魔法使い「魔物と人間が、結ばれることは、禁忌だ。その子供も、然り」

 痛みに顔を歪ませながら続ける。

魔法使い「王にとって、私の存在は――許せるのか?」

魔王「ふむ。なら言わせてもらおう」

 魔王は手の甲を自らの爪で傷つけ、垂れてきた血を魔法使いの傷に注ぐ。
 急速に傷が癒えていく。

魔王「歯向かう奴には容赦はしないし、助けを乞うものには手をさしのべる」

魔王「その逆もあるし、例外もある。気分にもよるし、厳格に行うときもある」

魔王「つまり、おれがルールだ」

魔法使い「……流石、魔王だな」

 そして魔法使いの意識は途切れた。

魔王「…なるほど。そういうのを忌む奴もいたな」

側近「はい。そこの連中もそうでしょう」

 翼で倒された魔物達を指す。

側近「一昨日あたりの生き残りですかね」

魔王「何故ここまではるばるときたのか不思議だな」

側近「そこの放出されるわずかな魔力を辿って来たのでしょう」

側近「混血の内臓は強い魔力を与えてくれるとも言いますし」

魔王「ほう。まだおれへ対抗する気だったか」

側近「…一時は大量生産や乱獲もあったそうですよ。美容にいいとか、なんとか」

魔王「ふん、くだらん。実際に効果は?」

側近「あるかどうかも不明です」

側近「それでも今だに裏取引をされているともっぱらの噂ですね」

魔王「なら、こいつはよほど運がいいやつなんだろうな」

側近「でしょうね。かなり恵まれているほうでしょう」

魔王「はん――とりあえず誰かに見つかる前に人間の姿にしといてやらないとな」

 ごそごそやりはじめた魔王に側近が後ろから疑問を投げ掛ける。

側近「あの、魔王さま――その小娘のこと、気に入ったのですか?」

魔王「さぁな。――なんだろうな、放っておけないというのか」

側近「……」

魔王「この娘はなかなか面白いことをするから目が離せないというのか」

側近「……」

魔王「そっちの男に丁度刺されているところを見たとき、どうしてか不快だったが――」

側近「……」

魔王「おそらく気に入ったのだろうな。面白いから」

側近「……そうですか」

 色々考えたあと、そうだこの人恋愛経験皆無なんだ、と側近はようやく気がついた。

つづく

確かに魔王童貞だわ…
始めます

側近「しかし」

魔王「ん?」

側近「今日は満月ではありません。ならなぜ、小娘の魔力があそこまで暴発したのか…」

 力の扱いになれていないものが力を暴走させることは珍しくない。
 魔法使いの場合、出来るだけ魔力を抑えていたから尚更だ。

魔王「…完全な魔物じゃないって意味なんじゃないか?」

魔王「新月でも三日月でも満月でもない、半端な月」

魔王「混血を表す――最高の皮肉だとおれは思っていたがな」

側近「……そうですね」

魔王「ま、そんな話は後だ。こいつらをどうするかが問題なわけだが」

側近「このまま放置してもよろしいのでは?小娘もいずれ目覚めるでしょう」

魔王「だとすると、そっちの戦士とやらが先に起きる可能性があるぞ」

魔王「今度こそ殺されかねん」

側近「なら殺してしまえばいいではないですか」

魔王「…同類傷つけた相手にはとことん厳しいよな、お前ら一族」

側近「どこも同じだと思いますが」

魔王「そんなもんか。――手っ取り早いのが誰かをここに連れてくることだが」

側近「事件のせいで外を歩く人間はほとんどいないでしょうね」

魔王「それなんだよな」

側近「困りました」

魔王「困ったな」

側近「やっぱりそこの男を」

魔王「そうなると魔法使いに容疑がかかりそうだけどな」

側近「ううむ…。下手なことして小娘に恨みを買われるのも厄介ですね」

魔王「困ったな」

側近「困りましたね」

オーイ

魔王「おや。どうやら、ここで悩んでいた甲斐はあったみたいだな」

側近「あれは?」

魔王「憲兵隊みたいだな。ふん、ようやくご到着か」

側近「めんどくさくなる前に、退散しますか」

魔王「そうだな。行くぞ」シュンッ

―――
――


魔法使い「……っ!!」ガバ

僧侶「きゃっ」

魔法使い「ゆ、夢か……」

僧侶「夢、ですか?」

魔法使い「ああ…勇者と盗賊が死んで、戦士が犯人で、僧侶の腕が大変なことになった夢を…」

僧侶「あの、それ…現実です」

魔法使い「……」

僧侶「現実です」

魔法使い「……現実か」

僧侶「残念ながら…」

魔法使い「そうだ僧侶、腕は!腕はどうなったんだ!?」

僧侶「あぁ…この通り、欠けてしまいました」

魔法使い「そんな」

僧侶「離れたものは流石に、生やしようがありません…」

僧侶「でも、今までどおり治癒魔法は使えますよ。…あと、利き手じゃなくて、良かったです」

魔法使い「そういう問題じゃない!…私がもっと早く行けば…」

僧侶「やめて下さい。魔法使いさんが、取り乱してまでわたしを探したと聞いています」

僧侶「――わたしは、それで十分なんです。それにこうやって生きているんですから、ね」

魔法使い「……」

僧侶「魔法使いさんこそ大丈夫なのですか?丸三日は眠っていましたよ」

魔法使い「え」

僧侶「怪我はないとはいえ、おびただしい血が魔法使いさんのローブや周りの地面を濡らしていたみたいです」

魔法使い「……」

僧侶「私が見た限り、うっすらと傷が塞がった後がありましたが…」

僧侶「誰かに治療をしてもらったのですか?お礼を言いにいかないと…」

魔法使い「……。さあ、どうだろう。記憶がなくて」

僧侶「記憶喪失ですか!?」ガタ

魔法使い「剣士と離れたあたりから全くな…」

魔法使い(言えないことが多すぎる)

魔法使い「僧侶こそ、出血が酷かったんじゃ?」

僧侶「剣士さんがお医者さんに連れていってくれて、輸血をしてもらいましたので」

僧侶「かろうじてあった意識の中、止血をしていたのが良かったみたいです」

魔法使い「なるほどな…」

魔法使い「……」

魔法使い「あれ?私、裸……?」

僧侶「あ、すみません!背中の…魔法陣には触りませんでしたから」

僧侶「確かあれに触れると魔法を全て使えなくなるって聞きましたので…」

魔法使い(ごめんそれ大嘘)

魔法使い「ん?」ペタペタ

僧侶「どうしました?」

魔法使い(身体が男になっている…)

魔法使い「」ペタペタ

魔法使い(下半身は変わっていない…上半身だけ?)

僧侶「魔法使いさん?」

魔法使い「あ、いや、なんでもない」

僧侶「ともかく、わたしが助かったのは魔法使いさんと剣士さんのおかげです」

僧侶「ありがとうございました」ペコ

魔法使い「そんな畏まって言わないでもいいのに」

ガチャ

剣士「いいじゃねえか。あと、好意は受け取っておけよ」

魔法使い「…すごい自然に入ってきたな」

>>282 さすがにひげの生えた娘は拾えない…

また寝落ちごめん

>>283
大丈夫一時的だから

魔法使い(まてよ……戦士が私のことについて何か言ってるんじゃ…)

剣士「それで、魔法使い」

魔法使い「な、なんだ?」

剣士「そんな身構えるなよ。なにか聞きたいことは?」

魔法使い「……やっぱり、戦士のことだな」

僧侶「……」

魔法使い「あ、悪い――僧侶にとっては、気分の良くない話題か」

僧侶「いいえ。罪を憎んで人を憎まず、そう教わっていますから」

魔法使い「強いな」

僧侶「魔法使いさんほどではないですよ」

剣士「話していいか?――下手すると、僧侶より酷いことになっちまった」

魔法使い「酷いこと?」

剣士「気が…狂っちまったんだよ。話しすら通らない」

魔法使い「は?」

剣士「戦で生きる人間がああなるんだ。恐ろしいモノをみたんじゃないかって話だ」

剣士「憲兵隊によるとあたりの木がなぎ倒されたりしていたらしいからな」

魔法使い「……」

剣士「何があったんだ?」

魔法使い「さあ…私は、なにも覚えていなくてな」

僧侶「記憶が抜けているみたいなんです」

剣士「本当か!?僧侶、記憶を呼び起こすことは?」

僧侶「いいえ…まだそのような技術は出来ていないんです」

剣士「そうか……どんなヤツだったんだろうな、そいつ」

魔法使い「……」

剣士「そばに魔物も死んでいたんだと。どうやら一撃らしい」

魔法使い「へぇ…」

僧侶「良かったですね、手を出されなくて…」

魔法使い「全くだ…その誰かさんが傷の手当してくれたのかな」

剣士「え、じゃあなんだ?こっちの味方か?――でも戦士があれだし…」

魔法使い「どうだろうな―――きっと気まぐれなやつなんだよ」

魔法使い「それで、戦士は?」

剣士「先に城へ送還されたよ。――勇者たちもいっしょにな」

僧侶「……」

魔法使い「そうか…終わったんだな」

剣士「ああ」

魔法使い(あの老夫婦のことは…また後で行こう)

剣士「俺らも帰れとさ。こんなんじゃ――魔王以前の問題だ」

魔法使い「だな」

僧侶「みなさんは、また新しい“勇者”さまが現れたら…どうします?」

剣士「そうだなぁ…どうすっか」

僧侶「わたしはもう無理でしょうが…魔法使いさんは?」

魔法使い「私は…」

『お前の一家をバラされたくないなら、勇者と旅に出ろ』

魔法使い「そうだな――」

『そして、勇者のために戦い、勇者を守り、そして――』

魔法使い「私、あそこの大臣が苦手だからあんまり会いたくないんだよ…」

『国の為に死ね、混血児』

魔法使い「ちょっと、旅に出ようかな…修行もかねてさ」

魔法使い(あの大臣にあったらどんな無茶ぶりされるか)

剣士「“勇者”パーティーには付いていかないと?」

魔法使い「ああ」

剣士「そのほうがいいかもな…疑心暗鬼になっちまいそうだ」

僧侶「でも、一度国には戻りますよね?」

剣士「ああ。母ちゃんに会いたいしな」

魔法使い「私も…師匠に挨拶しないと」

剣士「じゃあ、一週間以内にはここを出るか。それでいいな?」

魔法使い「分かった」

僧侶「はい」

剣士「じゃ、魔法使いはちゃんと体力戻しておけよ」ガチャ

魔法使い「分かったよ」

剣士「腹減ったら下来い」バタム

魔法使い「持ってきてくれないんだ…」

僧侶「あはは…。でも意外ですね」

魔法使い「ん?」

僧侶「大臣さん、お嫌いですか。優しいと思うんですけど」

魔法使い「ちょっとな…色々あって」

魔法使い(私の正体を何故か知っているし)

魔法使い(それをネタに脅されて討伐にでる羽目になったからな…)

魔法使い(まあ、いいか。これから先あの人から逃げていれば)

僧侶「ふぅん…性格の会う会わないは色々ありますからね」

魔法使い「そうだな」

僧侶「じゃあ、わたしもちょっと横になりますね」

魔法使い「ああ、無理をさせてしまったか…。ありがとうな」ニコ

僧侶「い、いえ!平気ですよ!では!」ガチャバタム

魔法使い「……?」

青年「待ちくたびれたぞ」

魔法使い「だからいきなり現れるな。…ひとつふたつ聞きたいんだが」

青年「なんだ?」

魔法使い「なんで私は男性の身体になっている?」

青年「脱がされるのは分かっていたからな。ちょっと魔法をかけておいた」

魔法使い「あ、そうなんだ…てっきり悪ふざけだと」

鷹「魔王さまのお気遣いに感謝しろ小娘!」ザクッ

魔法使い「いっだぁ!?」

青年「明日には元に戻ってる。ま、胸のサイズに変わりはなさそうだがな」

魔法使い「ふざけんな、一応あるからな」

青年「しかし良かったな。戦士とやらがお前の存在を脅かさなくて」

魔法使い「良かったのか悪かったのか…」

青年「どうしていた?もし戦士が正気で、べらべらと話していたなら」

魔法使い「その時は――その時、だよ。そうなったら考える」

青年「ふん。そうだ、仲間に感謝を述べるのもいいがこいつにも礼を言っとけ」

鷹「えっ、ま、魔王さま」

魔法使い「?」

青年「夜毎にこっそり具合を見に来ていたんだ。今はそんな親切微塵も見せてないがな」

鷹「いやいやいや魔王さまそれはあの」

魔法使い「……」

鷹「恩人の娘ですし――」

魔法使い(恩人?)

鷹「あ、あと鷲一族の最後の生き残りですから」

魔法使い「――それでも、ありがとうございます」ペコ

鷹「う…」

青年「いやー側近が慌ててるなんてめったに見られないから楽しいな」ニヤニヤ

魔法使い「…悪趣味」

青年「よく言われる」

青年「さ、では行くか」

鷹「はっ」

魔法使い「……帰るのか」

青年「仕事もたまには見ないとな」

魔法使い「ふぅん」

青年「また会える日を願って」

魔法使い「もう会いたくないけどな、私は」

青年「ふん。そんなに期待するな」

魔法使い「どこをどう勘違いしたらそうなる」

青年「じゃあな、魔法使い」シュンッ

魔法使い「……」

魔法使い「……変な奴だな」

休憩
エピソード最終回は今夜から

――数十日後、城

王「あの勇敢なるものが亡くなったのには、心を痛めておる」

王「しかし、おまえたちも様々な混乱にあっただろう」

王「今は身体を休め、心を休め――そして仲間の冥福を祈ってくれ」

王「“勇者”の剣は――再び握れるものが出るまで眠らせておこう」

王「……ご苦労であった」

――城の門前

剣士「さて、ここでお別れだな」

魔法使い「そうだな」

僧侶「…なんだか、寂しいですね…」

剣士「気が向いたら、僧侶のいる教会に寄るよ」

剣士「…勇者と盗賊の墓参りにもな」

魔法使い「私も」

僧侶「ありがとうございます。待っていますね」ニコリ

僧侶「でも剣士さん、そろそろお嫁さんを見つけなければいけませんよ?」

剣士「……………ハイ」

魔法使い(うわあ、今のはキツい)

剣士「じゃあ、な。元気で」

魔法使い「そっちこそ」

僧侶「またお会いできますよね?」

剣士「もちろん!」ヒラヒラ

魔法使い「……」

僧侶「……」

魔法使い「僧侶は、こっちだよな?私もなんだ」

僧侶「そうなんですか?では、しばらくご一緒に」

魔法使い「……」

魔法使い「なあ、僧侶」

僧侶「はい」

魔法使い「勇者は…魔物が嫌いだったじゃないか」

僧侶「そう、ですね」

魔法使い「そして混血も。いなくなればいいと、言った」

僧侶「ええ」

魔法使い「僧侶はどうなんだ?魔物を、混血を、憎むのか?」

僧侶「そうですね…。全ての生命は神様から与えられたものです」

僧侶「それをわたしたち教会の人間がどうして憎めましょう?」

僧侶「…だから最初はあまり魔王討伐に行きたくはなかったのですが」

魔法使い「そうなのか…」

僧侶「あ、もう近くですね。わたしの住むところまで」

魔法使い「じゃあここらでさよならか」

僧侶「あの」

魔法使い「ん?」

僧侶「いつか――魔法使いさんのこと、聞かせてくれませんか?」

魔法使い「……」

僧侶「わたしと同じ秘密が、あるように思えて」

魔法使い「意外だな。僧侶にも秘密があるのか」

僧侶「はい。――どうか、まあ会えたとき、話し合いましょう」

魔法使い「…私のことが嫌いになるかもしれないぞ?」

僧侶「いいえ、嫌いになりません。わたしは魔法使いさんが酷いひとだとは思いませんから」

魔法使い「……」

僧侶「どうか、あなたの旅に困難がありませんように…」

魔法使い「ありがとう。きみのこれからに、災難がないように」

僧侶「それでは」

魔法使い「ああ」


僧侶・魔法使い「また、次の時に」


――国外れの家

魔法使い「……」キョロキョロ

魔法使い「……」

魔法使い「師匠?」

師匠「後ろだ」フーッ

魔法使い「…なぜあなたはいつもいつもそんなことを」ビク

師匠「話は聞いた」

魔法使い「早いですね」

師匠「もっと誉めて」

魔法使い「……。…情けないです。仲間ひとり救えなかった」

師匠「迷うな。今のお前は、迷うと飲み込まれかねん」

魔法使い「力に、ですか」

師匠「そうだ。…封印が解けとるな。暴走したか」

魔法使い「…はい」

師匠「こんなところに引きこもっては駄目だな。旅に出ろ」

魔法使い「……」

師匠「力の使い方を学べ。そして――世界を見ろ」

魔法使い「世界を」

師匠「こちらのことは心配せずともよい」

魔法使い「また師匠が女をたらしこまないか不安なのですが」

師匠「……。え、えっと――ああ、両親の墓参りにも行ったほうがよいな」

魔法使い「……」

師匠「娘の姿を見たいだろうからな」

魔法使い「これといって成長はしていませんけどね…」

師匠「両親を失ってから30年あまり――人間なら50歳は越えているはずなのに」

師匠「お前は未だに、若々しい少女のままだな」

魔法使い「元々かなり成長は遅いですが。父の血が影響しているのでしょう」

師匠「それか、あの暴走以来魔物寄りになっているかもしれんな」

魔法使い「……」

師匠「ともあれ、よく帰ってきた。おかえり」ポンポン

魔法使い「ただいま帰りました」

師匠「まぁしばらくはゆっくりしていけ」

魔法使い「はい、師匠」

師匠「肉はあったかの…」ゴソゴソ

魔法使い「私が作りましょうか、ご飯」

師匠「いや、座っとれ。いいな?間違えて毒キノコ放り込むなよ?」

魔法使い「三回しか入れたことないじゃないですか、毒キノコは。誤って」

師匠「だからじゃ!」

……

師匠「」ザクザク

魔法使い「…師匠」

師匠「なんだ?」

魔法使い「私が魔王を倒さず帰ってきて、残念ですか?」

師匠「いんや。倒したとしてもお前が死んでいたら、残念だったが」

魔法使い「…そうですか」

師匠「魔王にも昔、少しだけ関わりがあったから正直心苦しかった」

魔法使い「魔王と…?」

師匠「ちょっとだけな。もう引退したから会うこともあるまい」

魔法使い「あの。師匠は人間と魔物、どちらの味方なんですか?」

師匠「ふむ…難しいな」ジャー

師匠「そうさなぁ、わしは愛するものの味方でいるよ」

魔法使い「……槍でもふるかな」

師匠「ひどっ!!」

――魔王城

サキュバス「どうも~しばらくお出かけしてたサキュバスちゃんで~す☆」

サキュバス「あれれっ?今日は少ないね~?」

魔王「……」

ゴブリン「帰れ」

人魚「帰んなさい」バシャ

魔大臣「グッバイ」

側近「失せろ」

サキュバス「ああ~ん、言葉攻めは苦手なのあたし~」

側近「なんのようだ」

サキュバス「魔王さまが帰ってきたから~、ちょっと見に来たの~」

人魚「」イライラ

ゴブリン「おい水かけるなやめろ」

サキュバス「なんか調子悪そうじゃ~ん☆どしたの?」スリスリ

人魚「」バッシャンバッシャン

ゴブリン「うわああああ濡れたああああ」

魔大臣「書類があああああ」

魔王「…なにか最近、調子おかしくてな」

側近「?」

人魚「病気ですか?」

魔王「ふむ。病気かもしれない」

魔王「とある人物を思うと、少しばかり体温があがり心拍数が増えなにやらいてもたってもいられなくなるんだ」

人魚「……えっと」

ゴブリン「……その」

魔大臣「……むむ」

側近「……あー」

サキュバス「ええ…病ね。かなり重症な」

全員「」コクコク

人魚「こほん…それで、会議の内容ですけど」

人魚「南の海で人間によるあたしたち“人魚”の乱獲が酷いようです」

ゴブリン「“人魚”たちをどうしているとかは?」

人魚「さあ…でも、なにかされてはいるかもしれないわ」

魔大臣「これは少々痛い目をみせないといけないか」

ゴブリン「兵を攻めこませるか?」

人魚「防護力の強い“人魚”を乱獲よ?――普通の人間じゃないわ」

魔大臣「ゴーレムはだめか…トロールは強いが遅いしな」

ゴブリン「あと、まずは何が起きてるか調べないといけないな…」

魔王「……おれがまた出かけたら怒るか?」

人魚「いえ?時折帰って来てくだされば」

魔王「じゃあ、そこに行ってくる。側近」

側近「はっ。――え?」

魔王「どんなやつがおれの国の民を捕まえて遊んでいるのか見てみたくてな」ツカツカ

魔大臣「そんな、魔王さま直々に」

魔王「手間が省けるだろ。用意してくる」ガチャ

全員「……」

サキュバス「もしかしてさ~…誰かに会いたいのかな?」

ゴブリン「…多分」

人魚「きぃっ!誰よ!」

魔大臣「でも最近生き生きとしてるからいいんじゃないか…?」

側近「どうだろうな…」









??「“魔王”が倒されたらどうしようかとヒヤヒヤしていたが――よもや仲間割れとはな」

??「丁度いい。これでまた一歩、計画が前進する」

??「“勇者”の剣が手に入った」

??「魔力を増強させる薬は完成した」

??「そしてこの私の人を操る魔法――」

??「……あの混血がそばにいると色々厄介だが…対策をまた考えるか」

??「ふふ、まだだ。まだ計画は途中だ」

??「しかしなんだろう?この身体の震えは!ああ、楽しみすぎる!」

??「さあおいで、可愛い可愛い完成品――」

コツリ コツリ

僧侶「」ペコ

??「普通の少女が薬を飲み、魔法を使えるようになる」

??「新しい時代が来る!そして私はその先頭に立つのだ!」

??「これから忙しくなるぞ――手伝ってくれ、僧侶」

僧侶「はい」


僧侶「分かりました――大臣さん」


魔王「俺と手を組め」魔法使い「断る」



――了

お分かりのとおり、続きます
すいません続きます

このままこのスレを使うべきでしょうか?

たくさんの感想ありがとうございます
このままここで投下していきます




魔王「俺と旅をしろ」魔法使い「断る」



――国外れの家

師匠「これでよし」ポン

師匠「魔法使いよ、翼の封印は前回より軽くしておいた」

魔法使い「何故ですか?」

師匠「こういう類いのものは解けるとき激痛を伴うからの」

魔法使い「…確かに」

師匠「敵の目の前で行動不可になったら困るだろう?」

魔法使い「そうですね」

師匠「……こんなことせずとも、普段から出し入れ可能にしてもよいのに」

魔法使い「私の翼はタンスの服ですか」

師匠「ちょっとうまいなその例え」

魔法使い「どうやら私の感情の高ぶりで翼が出るみたいですから」

師匠「封印無しではどんな弾みで翼が広がるか分からないと」

魔法使い「はい。あと翼の自制の仕方がいまいち良く分からないので…」

魔法使い(前回は魔王がやってくれて助かったけど)

師匠「ふむ…。まあそれは自ら学んでいくしかあるまい」

魔法使い「あと…私は、人間として生きたいのです」

師匠「魔物としては駄目なのか?」

魔法使い「私は、魔物化すると人間を殺したくなってしまうんです」

師匠「血が騒ぐ、というやつか」

魔法使い「それに、今まで人間として生きてきましたから」

師匠「難しい問題だの。しかしそれはおまえの問題だ、おまえが解くしかない」

魔法使い「はい」

師匠「そうだ、旅に出るなら南の街に寄ってくれ。――知り合いへ、手紙を届けてほしい」スッ

魔法使い「師匠のお知り合いに?分かりました」

師匠「さぁ――行ってこい、弟子」

魔法使い「行ってきます、師匠」

師匠「死ぬなよ」

魔法使い「もちろんです」

――森の入り口

魔法使い「さて」

魔法使い(南の街に行くには、まずこの森を抜けなければいけない)

魔法使い(魔物がわんさかいるという噂だ)

魔法使い(かなり遠回りとはいえ北の街から行った方が安全だが――)

魔法使い(手紙を無くすのはいやだから早めに届けに行こう)

魔法使い「……」スタスタ

魔王「ほう、杖を新調したのか」

魔法使い「!?」ビク

側近「……」

魔法使い「!?」ビビク

魔王「何を驚く」

魔法使い「そりゃあ驚くだろう!いつからいた!?」

魔王「今だ」

側近「今ですね」

魔法使い「……そうか」

魔王「そうだ」

魔法使い「短い別れだったな…」

魔王「ふん。まあそうだな」

魔法使い「それで、なんでふたりはここに?」

魔王「この森の主に挨拶をしていたらたまたまお前が来たからな」

魔法使い「挨拶?」

側近「森の管理は大変だから、たまに魔王さまが労いの言葉をかけに行くのだ」

魔法使い「へぇ…」

魔王「魔法使いこそなんだ。旅でもするのか?」

魔法使い「まあな。修行の旅というか、自分探しの旅というか」

魔王「自分探しの旅ってたいてい自分が見つからないまま終わらないか」

魔法使い「…細かいことはいいんだよ」

魔王「ふん、そうか」

魔王「ここを通るということは――南へ行くんだな?」

魔法使い「ああ、そうだな。用事もあるし」

魔王「そうか。じゃあ――」

魔王「おれと旅をしろ」

魔法使い「断る」

魔王「解せん」

魔法使い「なんだよ旅って!魔王が旅って!」

魔王「駄目か」

魔法使い「駄目というか、普通“魔王”は王座に座ってるもんじゃないのか?」

魔王「思い込みもはなはだしいな。普段は会議室の椅子に座っている」

魔法使い「……」

魔王「勇者が来たときぐらいだな。あの部屋使うの」

魔法使い「使い分けているのか…」

魔王「お前、山となった書類の中で戦いたいか?」

魔法使い「それはなんか嫌だな」

魔王「ああ、ちゃんと外出許可ももらっているぞ」

魔法使い「子供か…」

側近「小娘のほうが子供だろう!」ザクッ

魔法使い「うぅぎゃああああぁぁぁあ!!」

魔王「それと、今回は観光でも暇つぶしでもないんだよ」

魔法使い「は?」

魔王「――ちょっと人間を痛い目に遭わせないといけない用事が、な」

魔法使い「……」

魔王「微妙な顔をしているな」

魔法使い「南の方で、人間がなにかをしたのか?」

魔王「ああ。魔物と人間の間にある境界を越えるようなことをだ」

魔法使い「……」

魔王「なぜ暗い顔をする?」

魔法使い「……私は、人間の――味方、だから」

魔法使い「……」

魔王「微妙な顔をしているな」

魔法使い「南の方で、人間がなにかをしたのか?」

魔王「ああ。魔物と人間の間にある境界を越えるようなことをだ」

魔法使い「……」

魔王「なぜ暗い顔をする?」

魔法使い「私は、人間の――味方だ」

魔王「ふむ。理由は?」

魔法使い「今まで人間として生きてきたから」

魔法使い「だから私は、人間があなたに傷つけられるなら…一応の手は打たなくてはいけない」

魔王「面白い。おれと戦うか」

魔法使い「いいや、それは勘弁だ。どう考えても魔王のほうが圧倒的すぎる」

魔王「ならばどうする?」

魔法使い「ペンは剣より強し、というだろう?話し合いだよ」

魔王「ほう」

魔法使い「それで、人間達が何をしているんだ?」

魔王「聞いてどうする」

魔法使い「――それを止めさせる。それなら文句はないだろ」

魔王「おれとではなく、人間とか。なるほど、原因を無くそうと」

魔法使い「そうだ。…もちろんお前とも話さなくてはいけなさそうだがな」

>>346は無しで

魔王「はは、まさか城の外でおれと話し合いをしようとするやつがいるなんてな」

魔法使い「……」

魔王「だがな、魔法使い。お前が守ろうとした人間に手のひらを返されることだってあるぞ」

魔王「“魔女”という存在にはかなりの金額がかかっていると聞いたが」

魔法使い「…そうだな。半年は遊べる位の」

魔王「それがバレてしまったらどうするんだ?感謝もなにもせずお前を火に焼くぞ?」

魔法使い「……」

魔王「分かっているならいいが」

続く

魔法使い「……正直さ、分からないんだ」

魔王「ふむ」

魔法使い「人間は私のような混血を忌み嫌っている」

魔法使い「混血や“魔女”を捕まえたならすぐさまあなたの言った通り、火炙りにする」

魔王「それはなんでだ?」

魔法使い「汚れたものがこの世界に長くいないように」

側近「……」

魔法使い「だから…そういうことが――私の存在を否定するような人間がいる限り」

魔法使い「完璧には人間の味方にはなれないんだろう」

魔法使い「それに私には魔物の血も流れている。だから、完全に魔物を敵にできない」

魔王「宙ぶらりんって感じなのか」

魔法使い「だろうな。結局、私は人間側に必死にしがみついてるだけ」

魔法使い「……どちらにもなれないんだ」

側近「それじゃ駄目なのか。小娘は小娘では駄目なのか」

魔法使い「え」

側近「…なんでもない。魔王さま、わたくしは空から付いてゆきます」バサッ

魔王「分かった」

魔法使い「なんなんだ…?」

魔王「あいつもあいつなりに考えてやったんだよ」

魔法使い「ふぅん…」

魔王「で、我に返ったときに恥ずかしくなったんだろ」

魔法使い「それ言っちゃうか」

魔王(あの表は素っ気ない態度で裏ではかなり相手を大事にしていることを何と言うのだろうな)

魔法使い「…ところで何の話をしていたんだっけ」

魔王「おれが人間を絞め上げる云々から発展していったな」

魔法使い「なんかさっきより言葉が過激になってないか」

魔王「気のせいだろう」

魔法使い「……絶対気のせいじゃない」

魔王「じゃ、お前がおれといかないなら先に行ってるぞ」スタスタ

魔法使い「あっ」

魔王「」スタスタ

魔法使い「…!あの野郎…」

魔法使い「待て」タタッ

魔王「おやおや、何か用かな」

魔法使い「棒読みもはなはだしいな。――行けばいいんだろ、行けば」

魔王「おやおや、なんでそうなったのかな」

魔法使い「…あなたから目を離して何かされたら堪ったもんじゃないから」

魔法使い「なら、あなたが変なことしないように私が見張ってればいい」

魔王「ふん」

魔法使い「……というか、元から私に追わせるつもりだっただろ」

魔王「おやおや、根拠は?」

魔法使い「あなたは転移魔法使えるくせに歩くか、普通」

魔王「それにあえて引っかかったお前もお前だけどな」

魔法使い「それは…まあ…なんというか…」

魔王「ま、いいだろう。人間をおれの餌食にしたくないなら、このままおれに付いてくることだな」

魔法使い「やっぱり表現が過激になってきているぞ」

魔王「気にするな」

魔法使い「はぁ……いったい私が何をしたんだろうな」

――南の街

ガヤガヤ

青年「南の街は他より賑わっているな」

魔法使い「だな。海に近いから貿易が盛んなんだ」

青年「あー、海の向こうのものを取り扱ってるから客も多くなるのか」

魔法使い「その通り」

青年「果物に、工芸品……たしかに物珍しいものが多い」

魔法使い「お前のところはどうなんだ?」

青年「文化も技術も、あまり発展していないしする必要もない」

青年「そもそもこういうものを飾る家本体がないからな」

魔法使い「へぇ」

町人A「今日は来てるってさ!」

町人B「マジかよ!ついてるなおい!」

ワイワイ

魔法使い「?」

青年「なにやら始まるみたいだな」

魔法使い「そうっぽいな」

青年「行ってみるか」

魔法使い「いや、私はまず手紙を……」ゾク

魔法使い(後ろの木から殺気が……!また頭をつつかれる!)

魔法使い「…行くか」

青年「ああ」

魔法使い(わぁい殺気がやんだ…)

ガヤガヤ

青年「ここか」

魔法使い「掘っ立て小屋…なんだか怪しげだ」

商人「さあさあみなさんお集まりかな?」

町人C「オヤジ!今日はなんだよ!」

町人D「もったいぶるなよ!」

魔法使い「へぇ。今までもなにか支持を得るものを売っていたようだな」

青年「ほう。だからここまで期待をしているのか」

魔法使い「多分」

商人「今回は男性向けじゃあないんだな」

エーナンダヨー ヒッコメ ジャアダレヨウダヨ

ブーブー

商人「女なら誰もが好きな光り物!今日はそれを格安で売りに来た!」

青年「女はそういうものなのか、魔法使い」ボソ

魔法使い「あなたは私の立場を考えろ」ボソ

青年「ふん。――女はそういうものが好きだというが、どうなんだろうな」

魔法使い「さぁな、人によりけりだろ。興味があまりないのもいる」

青年「なるほど」

町人C「宝石?なぁ、宝石?」

町人A「宝石なんか格安で買えるもんじゃねーよ」

商人「慌てるな慌てるな。――これだ」ドン

ドヨッ

青年「!」

魔法使い「……大量の真珠…あんなにたくさんどうやって」

魔法使い(二枚貝ひとつから一個しかできない貴重なものと聞いていたが…)

魔法使い(それに養殖も未だ上手くいかなくて人工ですら非常に高いとか)

商人「そして値段は――」

ドヨヨッ

魔法使い(……安い。かなり、とは言えないが…あんなに大量に、そしてこの値段)

魔法使い「…なぁ、何かおかし――」ビクッ

青年「……」

魔法使い「おい?」

青年「……」

魔法使い(無表情で――ずっと真珠を睨んでる)

青年「…魔法使い」

魔法使い「ど、どうした?」

青年「害虫を見つけたら――どうする?」

魔法使い「いきなりなんだ。面白い答えはないぞ」

魔王「いいから。答えろ」

魔法使い「その場で潰す、かな」

青年「じゃあ害虫に巣があると知っている場合は?」

魔法使い「泳がせといて、巣を見つけて、壊す…と思う」

青年「だよな」スタスタ

魔法使い「おい、何があったんだよ」

商人「そこのお兄ちゃんはいいのかー?」

魔法使い「あ、はい。ごめんなさい、大丈夫です」



少女「……」

――裏路地

魔法使い「おい、魔王ったら!」

青年「青年だ」

魔法使い「…青年。どうしたんだよいきなり」

青年「別に」

魔法使い「……」

青年「魔法使い、部屋はどうする。別々か、一緒か」

魔法使い「…別々だったら怪しまれるだろう」

青年「じゃあ部屋をとってくれないか。残念ながらあまり得意ではなくてな」

魔法使い「それはいいけど…」

青年「金は出す。しばらく滞在すると思うが、お前は?」

魔法使い「…私も留まる。あなたが何もやらかさないように」

青年「ふん。そうだったな」

魔法使い「なんか見たのか。――真珠が苦手とか」

青年「当たらずとも遠からず。ほれ」ピン

魔法使い「わっ……真珠?買ったのか?」

青年「元から持っていたやつだ。売るなりなんなり好きにしろ」

魔法使い「なんで突然…」

青年「あれ見て思い出した。――これはあれとは違って自分の意思で作られたやつだ」

魔法使い「は?」

青年「部屋が埋まらないうちにとっておけ。おれは行くところがある」

魔法使い「ちょっ」

青年「安心しろ。今日はなにもやらない」スタスタ

魔法使い「…どうしたんだいったい」

バサッバサッ

魔法使い(あの人…あの鷹?も魔王を追いかけていったみたいだ)

魔法使い「不思議なやつ」

魔法使い「……」

魔法使い(この真珠、ちょっと水色かかっててきれい)

少女「…お兄さん」スッ

魔法使い「わぁっ!?」ササッ

少女「あ、ごめんなさい…」

魔法使い「い、いや、いいんだ。私も驚いただけだし」

少女「あれ、もう一人のお兄さんは…?」キョロ

魔法使い「急な用事ができたみたいでどっか行ってしまったよ」

少女「帰ってくる?」

魔法使い「多分ね。それで、君は私たちに何か用事があるのかな」

少女「お兄さんたち、あそこで何も買わなかったね」

魔法使い「ああ、あの掘っ立て小屋のこと?うん、買わなかったけど」

少女「なんで?」

魔法使い「なんでって…いらないから」

少女「欲しくなかったの?」ズイ

魔法使い「あ、ああ…」

少女「どうして?」

魔法使い「どうしてって言われても。君こそどうしてそんな質問を…」

少女「あそこで売るものはね、魔法がかかっているの」

魔法使い「…魔法?」

少女「売ってるものが、すごーく、すごぉーく欲しくなる魔法」

魔法使い「続けて」

少女「買うのが女の人だけー、とか、男の人だけーとかの日もあるけど」

少女「なんでだか知らないけど、欲しくなっちゃうんだって」

魔法使い「君は?」

少女「ぜんぜん。友達も欲しくならないみたい」

魔法使い「それって大人だけに効いてるってこと?」

少女「かも。だからね、あの売ってる人は悪い“魔法使い”なんだよ」

魔法使い「……悪い、ね」

少女「みんなを騙して大儲けしてるの!だから倒さないといけないんだよ」

魔法使い「それで、何故私たちのところに?」

少女「やっつけて」

魔法使い「………………ん?」

少女「お兄さんは買わなかった。魔法が効かなかった」

少女「それに知ってるよ。お兄さんの杖、“魔法使い”が使うやつでしょ?」

魔法使い「うん」

魔法使い(フェイクだけどね)

少女「だから、戦えるよ。魔法を使えるお兄さんたちなら!」

魔法使い「私の意見も聞いてくれお嬢ちゃん」

少女「……ダメなの?」

魔法使い「『オッケー叩きのめす』って即答するやつは余程お人好しか脳筋だけだと思う」

少女「…のうきん?」

魔法使い「いや、こっちの話だ。…深刻な状態なのかい?」

少女「……」

魔法使い「君自身に直接ではないとはいえ――なにか、あの店がらみであったんだろう?」

少女「…うん」

魔法使い「だろうね。話し方が切羽詰まってる」

少女「…あのね」

魔法使い「ああ」

少女「あそこで何かかわないと、落ち着かなくなるんだって」

魔法使い「……」

少女「パパもママも、いらないのに買ってきてはケンカしてる」

魔法使い「捨てたりとかはできるのかな?」

少女「できるよ。でも…お金かかったから、かんたんに捨てられないって」

魔法使い(物品そのものに魔法はかかってない、ということか)

魔法使い(ならあの売人か誰かが洗脳に近い魔法をかけていると…)

魔法使い「……ふむ」

少女「……」

魔法使い「分かった。調べて――できる限りのことはやってみる」

少女「ほんと!?」パァ

魔法使い「ああ」

魔法使い「もう日も暮れる。私はここら辺に止まるから、また明日会わないか?」

少女「うん!」

魔法使い「あそこの街灯の下にでも。じゃあ明日」

少女「また明日、お兄さん!絶対だよ!」フリフリ

魔法使い「ん」フリフリ

魔法使い(私も私で、お人好し…だなぁ)

魔法使い(あ、手紙…これも明日でいいか)

――掘っ立て小屋付近

青年「……」

鷹「…思うところが、ありますか」

青年「ある。――あの真珠は“人魚”の涙だ」

鷹「と、すると」

青年「人間が“人魚”たちに何かをしているのは確定ということだ」

鷹「そのようですね」

青年「昔、人魚がおれに教えてくれたんだけどな」

青年「桜色の真珠は歓喜。黒色は恨み。水色は同情」

青年「あの真珠の色は、無色…白だったな」

鷹「はい」

青年「悲しみの時の色だ」

鷹「……悲しんでいる“人魚”がいると」

青年「それも大勢な」

青年「真珠をあれほど人間が持っている時点でおかしいんだけどな」

鷹「ええ」

青年「しかもあの金額。おれはあまり値段に詳しくはないが…安い」

鷹「……」

青年「一度あの商人の巣を調べてみる。疑問が多すぎる」

鷹「そうですね」

青年(…あとは、魔法使いにも聞かないと分からないことがある)

――宿

ザパーン

魔法使い(個室に風呂とは珍しいな…時代が変わっている)

魔法使い(警戒しながら入らなくていいのは良いけど)ザパッ

魔法使い「ふぅ」

ガラッ

青年「ほう、湯の間か」

魔法使い「」

青年「どうした?」

魔法使い「わ、わ、私!」

青年「?」

魔法使い「私は今、裸だ!!」

青年「困るものでもあるまい」

魔法使い「私が困る!ちょっと出てろ!!」ブンッ

青年「その投げた桶で隠せばいいものを。馬鹿か」スッ

魔法使い「とりあえず一回閉めろ!閉めてくれ!」

青年「分かったよ。それにしてもお前」

魔法使い「え?」

青年「脱いでも小さ――ぐぉ」スパコーン


鷹(あのまんまじゃダメだな……)

……

魔法使い「あのな、怒鳴ったのは悪かったよ。まさか裸でいるとは予想がつかないだろうから」

魔王「ああ」

魔法使い「だが、小さいと言ったのは許さん。撤回しろ」

青年「事実は曲げられん」

魔法使い「その誇らしげな顔やめろ。腹立つ」

青年「しかしそれ、成長が遅いだけなのか止まったのか分からないな」

魔法使い「いや、遅いんだ。発展途上だ」

青年「でもその容姿だからもう止まった可能性もあるな。まあ落ち込むな」

魔法使い「よし、よく分かった。戦争だ」

鷹(好きな子にちょっかい出したい年頃…か…)

魔法使い「それで。何か見つけたのか」

青年「いまいち。それで聞きたいことがあるんだが」

魔法使い「ん」

青年「あの商人から、魔力を感じはしなかったか?」

魔法使い「……同じようなことを考えていたみたいだな」

青年「そうか」

魔法使い「私はわからなかった。女だからかもしれんが」

青年「どういう意味だ?」

魔法使い「どうも売りたい相手――性別にしか効かない魔法を使っている説が」

青年「面白い。今日売りたい相手だったのは男だけだったわけか」

魔法使い「そう考えると、あなたはどうだった?」

青年「そういうちゃっちい魔法は無意識に跳ねるからな」

魔法使い「ズルいだろそれ…」

青年「おれの特権だ。ま、ある程度強いやつならダメージは食らうが」

魔法使い「催眠術系にはかからないと…」

青年「相手が一般人ならなおさらかかりやすいだろう」

鷹「それに、魔法なんか使わなくても、雰囲気で買いたくなることもあるそうだ」バサッ

魔法使い「雰囲気?」

鷹「周りが欲しい欲しいと言っていると、自分も欲しくなる。そういう現象があるらしい」

青年「そんなのがあるのか」

鷹「又聞きですので詳しくは存じませんが」

青年「ほう…魔法だけではなく、心理にも商売を持ちかけているのか」

魔法使い「じゃあ売れるわけだな…はふ」

青年「眠いのか」

魔法使い「ああ…もう私は寝るよ…」ゴソゴソ

青年「……」

魔法使い「……」

青年「……」

魔法使い「…あなたは寝ないのか?」

青年「魔物はあまり睡眠とらなくてもいい種族だからな」

魔法使い「夜どう過ごすんだよ…」

青年「お前でも眺めていようか」

魔法使い「やめろ」

青年「おやすみからおはようまで見つめ続けてやる」

魔法使い「嫌がらせかよ!」

ではまた

――人間の城、地下牢

大臣「私だ」

兵士「大臣さま?ここはいくらあなたさまであろうと通れな――」

大臣「<従え>」ギュインッ

兵士「――どうぞ。夜遅くにご苦労様です」ガチャッ キィ…

大臣「戦士のところまで案内してくれ」

兵士「はい」

コツコツ

大臣「――どうだ、やつの様子は」

兵士「はい。一日中、ずっとあんな感じです」

戦士「……」ガリガリ

大臣「堕ちたものだな――下がれ」

兵士「分かりました。用事がすみましたらお呼びください」ススッ

戦士「……」ガリガリ

大臣「何を壁に彫っている?」

戦士「……」ガリガリ

大臣「…人の言葉が通じないか」

戦士「……の……」ガリガリ

大臣「なんと?」

戦士「ばけもの……」ガリガリ

大臣「……」

戦士「ひとじゃない……まものじゃない……」ガリガリ

大臣「…やはり魔法使いか…」

大臣(あの力は身近な邪魔者の中でも強すぎる――消しとくべきだろう)

戦士「……」ガリガリ

大臣「その翼の生えた人間は、お前のいう化物か」

戦士「……」コク

大臣(人間の姿のまま魔物化する、ということか)

大臣(なら都合がいい)

大臣「なあ、戦士」

戦士「……」ガリガリ

大臣「力が欲しくないか」

戦士「…ちから…?」ガリ…

大臣「魔法使いに負けない力だ。お前の望みを叶える強さだ」

戦士「……」

大臣「欲しいのなら、その薄暗い地下牢から手を伸ばせ、戦士」

大臣「――これを飲みさえすれば、お前は強くなれる」チャプ

戦士「……ぁ」

大臣「お前は完全には狂っていないぞ――まだ戦えるのだ」

戦士「……」

大臣「ほら――」スッ

戦士「……」

大臣「何をためらう?」

大臣「お前は――魔物を倒す“勇者”となりたくないか?」

戦士「……」




ゴクッ



――宿

青年「!」

魔法使い「……」スースー

青年(どこかで微弱で歪ながら、魔力が生まれたな――)

青年(ふむ。新たな子の誕生にしてはおかしすぎる)

魔法使い「む……」ゴソ

青年(しかも人間の国、城の近くからなんとなく感じる)

青年(知らないところで何か動き出しているのか…?)

魔法使い「………うぅ…」モゾモゾ

青年「魔法使い?起きたのか」

魔法使い「……ひとりに…しない…で……」

青年(夢をみているのか)

魔法使い「……やだ……みんな…」

青年(鷲一族は……一気に皆殺しされたんだったな)

魔法使い「……やめ…」

青年「」ナデナデ

魔法使い「…さみし…い……」

青年「今はおれがいるだろ」ナデナデ

魔法使い「……」パチリ

青年(起きた?)

魔法使い「置いて…いかない、で……」

青年「ああ」

魔法使い「……」スー

青年「……」ナデナデ

バサッ

鷹「まお……」

青年「……」ナデナデ

魔法使い「……」スースー

鷹「」

青年「側近か。どうだった」

鷹「海に異常はなし――あの掘っ立て小屋にも人影はありませんでした」

青年「“人魚”には会えたか?」

鷹「いえ。“人魚”は警戒して海上付近にはいませんでした」

青年「おれが行くべきかもな」ナデナデ

鷹「…それより、今、なにをなさっているんです?」

青年「こいつがうなされていたのでな」ナデナデ

青年「ミノタウロスが言っていた『泣いてる子は抱き締めて撫でろ』を実践中だ」

鷹「」

青年「まあ今は寝ているから抱き締められないけどな」

鷹「」

青年「もういいか」スッ…

魔法使い「……」スースー

鷹「」

青年「側近?」

鷹「あ、ちょっとお花畑に行っていました」

鷹(今度ミノタウロスに会ったら『変な知識植え付けんな』と言わなくては…)

……

チュンチュン

魔法使い「……ん、朝か…」

青年「よう」

魔法使い「」

青年「なんだ?おれとお前で部屋をとったことを忘れたのか」

魔法使い「い、いや……あれ?なんで私があなたの手を握っているんだ?」

青年「覚えていないのか。まぁ寝ぼけていたしな」

魔法使い「ちょっ、一体私はあなたになにをしたんだ!?」

青年「なにって」

鷹「」バサッ

魔法使い「あっ、ちょうど良いときに!あの!私は昨晩なにを!」

鷹「……」

鷹「きのうは、おたのしみでしたね(主に魔王さまが)」

魔法使い「」

青年「楽しかったな(撫でるのが)」

魔法使い「」

青年「お前案外ああいう(撫でられる)こと好きなのな」

魔法使い「」

青年「あれなら別に普段からでも(撫でて)やっていいぞ」

魔法使い「」

鷹(すごい放心状態…いじりすぎたか)

青年「」ナデ

魔法使い「!?」

青年「ああでも表情は固いな。寝ているときは無防備なのか」ナデナデ

魔法使い「え?え?」

つづく

すまないホモ以外は以下略
はじまるよ

――街

少女「あ!おにいさーん」フリフリ

魔法使い「やぁ……」

少女「…どうしたの、お兄さん。顔が赤いよ」

魔法使い「なんかな…あんなことされると妙に意識するというか…」

少女「へ?」

魔法使い「いや、こちらの話だ。朝ごはんは食べた?」

少女「もちろん。お兄さんは?」

魔法使い「バッチリ」

少女「あそこの宿のご飯不味いでしょ。部屋はいいらしいけど」

魔法使い「……だから自分で朝食を買う客が多かったのか…」

少女「お兄さんなんとも思わなかったの?」

魔法使い「別のことで頭がいっぱいで。それに、自分で作るものの方が不味いし」

少女「…お料理下手なんだ?」

魔法使い「みたいだな。食べた人は一回はひっくり返る」

少女「毒物!?」

魔法使い「それ言われたな。アオビカリキノコ入れたときとか」

少女「それあたしみたいな子供でも知ってるほどの毒キノコだよ!」

魔法使い「青いスープって美味しいのかなって思うじゃないか」

少女「お兄さん冒険しすぎだよ!」

魔法使い「まあ料理談義はここまでにして」

少女「料理なの…?」

魔法使い「どうしようか、ここから。何も考えてないんだ」

少女「……」

少女「じゃあ、うちに来て」

魔法使い「え?」

少女「きっと、どれだけ大変なことが起きてるか分かるから」

――街

住人「なんかよくわかんねーけど買っちゃって――」

住人A「俺もかかあに怒られて――」

住人B「なんかこう、買っちまうんだよな。その場のノリで」

住人「分かる分かる」

ヤンヤヤンヤ

少女「……」

魔法使い「…そうですか。お話、ありがとうございます」

住人B「しかしあんちゃんは何者だ?

住人A「や、杖もってるから“魔法使い”なのは分かるけど」

魔法使い「修行の旅、ですかね。いわゆる」

住人「わけぇのに大変だなぁ」

魔法使い「いえ」

住人A「なんだい、話聞いたってこたぁ兄ちゃんはここの謎を突き止めてくれんのか」

魔法使い「出来る限り」

住人「頼もしいなぁ」

住人B「でもひよっこだから期待はできんぞ」

アッハッハ

少女「」オロオロ

魔法使い「……」コツン

住人「あれ、急に小便行きたくなった」

住人B「俺も」

住人A「便所どこだった!?」バタバタ

少女「お兄さん、なんかしたの?」

魔法使い「…一応プライドはあるから。期待できない、とかはちょっとね…」

少女「意外だね。もうちょっとクールな人だと思ってた」

魔法使い「クールじゃないよ。すぐにキレる」

少女「意外……」

魔法使い「で、羽も生えてくる」

少女「お兄さん、あんまり冗談とかだじゃれとかうまくないほうでしょ」

魔法使い「あはは」

魔法使い(本当なんだよ…)

少女「じゃああのおっさん集団に止められたけど……あれがうち」

魔法使い(一般的な大きさだな)

魔法使い「入っていいのか?」

少女「うん」ガチャッ

魔法使い(……う、わぁ)

少女「すごいでしょ?」

魔法使い「これは、思ったよりも」

少女「色んなものがごっちゃごちゃ――足の踏み場もないよ」

魔法使い(全く家そのものの雰囲気と噛み合っていない)

魔法使い(なにもかもちぐはぐで――落ち着きがないというべきか)

少女「本当は、お母さんもお父さんもこんな趣味じゃないの」

魔法使い「なるほど…」

少女「なのに、わけの分からないものをどんどん買ってきて…」

魔法使い(なんだこれ…)ビヨヨーン

少女「やっぱりなんか起こってるんじゃないかなって」

魔法使い「そうか…」ビヨン

魔法使い「……行ってみるか、あの小屋に」

少女「でもあそこ、不定期だよ」

魔法使い「誰もいないほうがやりやすい」

少女「そうなの?」

魔法使い「何かしら残っている場合もあるだろうし」

少女「そうなのかな」

魔法使い「多分」

少女「……そういえば、もう一人のお兄さんいないね」

魔法使い「ああ、海に行くらしい」

少女「海?」

――海

ザザ… ザザーン

青年「静かだな」

鷹「人間の街の近くですからね」

青年「ふん。普段の“人魚”を知らぬからなんともいえんが」

鷹「そうでしたっけ?」

青年「ああ。おれは今まであの城にいる人魚ぐらいしかみたことがない」

鷹「あれは稀なタイプです」

青年「稀か」

鷹「あれは変化(へんげ)が出来ませんが、魔力と知力と化粧のケバさにおいては断トツです」

青年「今ちらりと悪意をこめてなかったか?」

鷹「気のせいです」

青年「となると、普通の“人魚”は変化できるのか」

鷹「はい」

青年「……無知だな。王のくせして他を知らないとは」

鷹「これから学べばよろしいのですよ。それに、そのための我らです」

青年「頼もしいな」

鷹「勿体なきお言葉」

青年「――さて」チャプ

青年「“人魚”は今海底にいるのか」チャプチャプ

鷹「恐らくは」

青年「では、あちらがこれないのならこちらが行くべきだな」

鷹「あの」

青年「なんだ」

鷹「…鳥人族は水が駄目で…」

青年「じゃあ留守番だな」

鷹「お気をつけて」バサッ

青年「分かっている」チャプ

バシャン

青年(かなり深くのようだな)

青年(魔力…こっちか)

~♪

青年(歌声…意外だな、水中でも聞こえるものだったのか)

青年(元の姿に戻るか)

人魚A「……!しっ!誰か来る!」

人魚B「また人間!?」

人魚C「違うみたいね。人間なら泳ぐはずよ」

人魚D「歩いてきてるね。陸上みたいに」

人魚B「泳ぐ方が早い気がするんだけ……あれ?あの姿は……」

魔王「」スタスタ

人魚A~D「」

つづく

魔王「初めてだな」ピタ

人魚A「え、ま、魔王さま?」

人魚B「強い魔力といい角といい、どう考えても魔王さまよ!」

人魚C「お化粧ちゃんとするんだった!どうしよう!」

キャアキャア

魔王(魔力は中ぐらいか。防護魔法が強いんだったな)

人魚D(やば!?無表情だ、怒らせたかも!)

人魚D「あーっと、申し訳ありません魔王さま」アセアセ

人魚D「今、わたくしどもは精神状態が不安定です。ご無礼をお許しください」フカブカ

魔王「構わん。こちらも突然来て悪いな」

人魚A「そんな!いいんですよ!」

人魚B「魔王さまが謝ることじゃありません!」

魔王「では本題に移ろうか」

人魚D(マイペースだなぁ)

魔王「――他の“人魚”はどうした」

人魚A「……」

人魚C「人間にさらわれました」

魔王「お前ら防護魔法が協力だと聞いたが」

人魚A「なぜかは分からないんですけど、人間側の武器で防護壁が一ヶ所破れたんです」

魔王「ふむ」

人魚A「それで、あの…パニックになってしまって。網でわーと」

人魚D「今は、ギリギリ逃げ延びたわたしたちだけです…」

人魚B「」グスン

魔王「今までにも人間はお前たちをさらおうとしていたか?」

人魚A「はい。でも最近は様子がおかしかったですね。ね?」

人魚C「なんかわたしたちが居るところを見に来てる感じだったよね」

人魚D「今思えばみんなで固まっているところを捕まえようとしてたんだね…」

魔王「ふむ――武器、か。どのような?」

人魚B「えっと、矢です」

魔王「矢?矢を水中に穿ったのか」

人魚A「魔法をかけられていました」

人魚C「それらがヒビをいれて、パリンと割れたんです。…わたしたちの防護壁が」

魔王「…人間め、厄介なものを作ったものだ」

人魚A「矢は一つ一つじゃどうってことありませんが、大量にだと話は違います」

人魚D「お願いします!わたしたちの仲間を助けてください!」

魔王「ああ。そのためにきたのだからな」

人魚B「」キュン

人魚D「なにか、お手伝いすることは?」

魔王「そうだな。お前らは仲間がそばにいるか確認するために何かしているか?」

人魚A「あ、はい。真珠…この場合、わたしたちの涙のことですが」

人魚C「仲間がそばにいると、反応してほのかに光るんです」

人魚B「すごくきれいですよ」

人魚D「今は見つかるといけないから外していますが」

魔王「なるほどな。…では真珠を貸してくれないか」

人魚A「貸すだなんて。魔王さまのためならいくらだってあげますわ」ポロッ

人魚A「どうか…頼みます」スッ

魔王(曇りのない白色か)

魔王「ありがとう。必ずやりとげる」

人魚A(お礼言われた…)キュン

――掘っ立て小屋

魔法使い「……」

魔法使い(わずかながら、魔力の跡)

魔法使い(あの商人は“魔法使い”までとは言わずとも、魔法はつかえるようだ)

少女「どう…?」

魔法使い「欲しい情報は得られたかな」

少女「本当?」

魔法使い「うん……っ!」バッ

魔法使い(今、明らかに視線を感じた!)

魔法使い(……誰だ?商人か、商人の仲間か)

少女「どうしたの?」

魔法使い「…なんでもない。早く行こう」

少女「ん?うん…」

――少女の家近く

魔法使い「いいか、良く聞いて」

魔法使い「私と君はここで離れる」

少女「なんで?まだお昼前なのに?」

魔法使い「……昼は関係あるのか?ともかく、私と行動は危険になった」

少女「?」

魔法使い「変なやつに見られたようだ」

少女「えっ!」

魔法使い「君にも被害がかかる。だから、ここでお別れだ」

少女「あ、あたしだって戦えるよ!」

魔法使い「甘いよ。私たちの世界の戦うは殺すか殺されるかだ」

少女「……」

魔法使い「わかってくれ」

少女「……うん」

魔法使い「いい子だ。また、すべて終わったら会おうよ」ナデナデ

少女「絶対だよ?」

魔法使い「ああ」

少女「じゃあね、またねお兄さん!」タタッ

魔法使い「」コク

魔法使い「……さぁてと」




??1「おい、子供が消えたぞ!」

??2「まさかあの男、魔法を使いやがったか!」

??1「ちっ…。あの男を直接襲撃するしかないな」

??3「宿は?」

??2「つけていこう。本来ならあの子供の予定だったのに…」

??1「あの“魔法使い”を始末したらでいいだろう」

??3「だな。俺らの商売の危険因子は取り除かないと――」

――宿前

青年「よう」

魔法使い「やあ。海から帰ってきたか」

青年「たった今な。で、お前、知ってるか?」

魔法使い「もちろん知ってる」

青年「ならいい」

魔法使い「夜になるまで街を歩こうかと思うんだが」

青年「手紙は?」

魔法使い「今のこの状態じゃ、迷惑がかかるだけだろ」

青年「そうだな」

魔法使い「じゃ」

青年「おいおい。おれを置いていくかよ」

魔法使い「…あなたもついてくるのか?」

青年「もちろんだ」

魔法使い「……」ハァ

――市場

魔法使い「この麻の糸をください」

「はいよー」

青年「何に使うんだ?」

魔法使い「別に……秘密だよ」

青年「ふん。隠すことが好きだなお前は」

魔法使い「一つはバラしたら明らかに命に関わるけどな」

青年「注意しないとな」

魔法使い「うん、あなたが口を滑らさなければ多分大丈夫」

青年「信用ないな」


鷹(あれ…距離縮んだ?)

……

魔法使い「時間は潰せたみたいだな」

青年「退屈しないですんだ」

魔法使い「異国の文化って思ったよりすごいもんだな」

青年「ふぅん。おれはあまり興味ないが」

魔法使い「あっそ。――帰るか」

青年「そうするか」

――深夜、宿

ギシ…

??1「全員寝静まったな」ヒソ

??2「うむ」ヒソ

??3「早く終わらせちまおう」ヒソ

カチャ カチャ カチッ

??1「さすが鍵あけの天才」ヒソ

??2「ふふん。さ、入るぞ」ヒソ

ガチャッ

??1「!?」

??2「いない!?」

??1「バカな…」

ボフン

??2「今、音がしなかったか」

??3「うん、窓が開いている。あそこからだな」

??2「連中、まさか逃げ出したとかじゃ…」ツカツカ

??2「…でも誰もいな――」

青年「窓の外に落ちた枕がそんなに気になるか?」

??1「!?」

つづく

青年「部屋に入るまでは良かったのにな。予想外のことでもちゃんと対応しとけよ」

??2「貴様っ…ぐっ!?」バタ

??3「なにが……」バタ

??1「おまえら!――おい、なにをしやがった!?」

青年「おれじゃない。そっちに聞いてくれ」

魔法使い「気絶させただけだよ。借りている部屋だからな」スッ

??1(死角に…!?わざわざ声をかけたのは、死角に目がいかないため…)

青年「チェックアウトだな」

魔法使い「うん、チェックメイトな」

青年「メイトもアウトも同じようなものだろ」

魔法使い「多分違うと思うぞ」

青年「まあいいか。改めて、チェックメイトだ」

魔法使い「話し合いにその布は邪魔だな。取らせてもらうぞ」コツン

パキンッ

中年1「ま、魔法を破られた…だと?」ハラリ

魔法使い「なんだ、自分に魔法をかけていたのか」

青年「ちょっと魔法を使える程度の一般人に“魔法使い”が負けるわけないだろ」

魔法使い「…やめてくれよ。この先万が一負けたら恥ずかしいだろ」

青年「なんだ、負けるのか?」

魔法使い「そういうわけじゃないが…私は規格外に強い訳でもないし」

青年「ふん。弱気だな」

魔法使い「過信しすぎていてもな」

中年1「あの、帰っていい?」

魔法使い「無理」

青年「駄目に決まっている」

魔法使い「だいぶ脱線してしまったな――」

魔法使い「で。私たちに何のようだ?」

青年「寝込みを襲うって時点でろくな理由じゃなさそうだがな」

中年1「…誰が言うかよ」

中年1(この窓から逃げ出すことは可能だな。……よし、今――)ザッ

青年「待った。話は終わっていない」

中年1「あっ…!?身体が動かな…」ガチ ビキッ

魔法使い「…石化か。元に戻すほうが難しいようだが」

青年「戻せる。じゃなかったら使わない」

魔法使い「ならいい。ああ、ちなみに今から尋問から拷問になった」

青年「分かった」

中年1「は!?」

魔法使い「逃げないで素直に吐けば穏便に事を運ぼうとしたのだが」

青年「それは残念だったな。こいつ、自分の立場をよく理解していないんだろ」

魔法使い「じゃ、教えないといけないな」

中年1「ま、待て!いいのか!?声が周りに聞こえるぞ!」

魔法使い「……」

青年「……」

魔法使い「この騒ぎでどうして誰も来ないんだろうとか、思わなかったか?」

中年1「あ」

魔法使い「すでにこの部屋は防音だ。窓も開いてるが、見えない壁を張っているだけ」

青年「つまるところ…なにやってもバレないってこった」ペロ

中年1「」ゾクッ

魔法使い「師匠に教えられた通りにうまくできるかな。少し不安だ」

青年「なに、死なない程度に痛め付ければいいだけだろ」

魔法使い「コツがいるんだってさ」

青年「コツねぇ。まず何からする?」

魔法使い「爪の間に針を入れようか。腕を完全に固定しないとできない」

中年1「」

青年「痛いのか」

魔法使い「痛い痛い。指に針刺しただけでも痛いんだから」

中年1「ひっ…や、やめろ!」

魔法使い「じゃあ吐け」

中年1「」

魔法使い「吐け」

中年1「俺も、正直分からないからなんとも……」

青年「ふん。死体処理がめんどくさそうだな」

魔法使い「鳥葬でもするか」

青年「……いや、それはお前、ちょっと、なんというか」

魔法使い「…冗談だ」

中年1「待て待て!本当だ!本当なんだ!」

青年「ふむ。詳しく話せ」

魔法使い(やはり王。オーラが違うな…)

中年1「……数ヶ月前、得たいの知れない男が来たんだ」

中年1「それで、薬と矢を渡して――」

『実験をしたい。その薬は無害だ』

『それにその矢は魔物の魔法を破る』

『どちらも与えてやろう。代わりに結果を聞かせろ』

中年1「――って」

魔法使い「実験……その薬は飲んだのか?」

中年1「ま、まあ」

魔法使い「どういう効果が?」

中年1「俺はあんまり効かなかったけどよ…リーダーは人を操れるぐらいの魔力を持てたんだ」

青年(……ふむ。繋がった)

魔法使い「個人差があるのか。薬の効き目は?」

中年1「リーダーは二週間で切れるな…定期的に飲まないといけないらしい」

青年「矢は?」

中年1「そ、それは…」

青年「“人魚”狩りか」

中年1「うっ……」

魔法使い「……?」

青年「ふん――リーダーのところまで案内しろ」

中年1「馬鹿言うな!そんなことしたら俺が殺されちまう!」

青年「今死ぬか否かの違いだろ」

中年1「……」

……

中年2「なんかよくわかんないけど連行されてた」

中年1「ちぃっ…」

魔法使い「早く歩け。朝が来るぞ」

中年2「朝が来たところで――」

青年「魔法使い!」グッ

魔法使い「っ!?」ヨロ

シュッ サク

魔法使い「矢!?」

シュッシュッシュッ

中年1「ガッ…!」ザク

中年2「ぐぅっ」ザク

中年3「…やはり…見限られ…」ザク

魔法使い(全員不自然なほどに急所を…!)

青年「…魔法で力を得ているな。まだ飲んだ人間がいたのか」シュパッ

魔法使い「手づかみで…いや、そうじゃなくて!」

魔法使い「おい!しっかりしろ!」

中年1「あは…は…りぃ、だぁは…きびし…な」

魔法使い「……」

中年1「おま…え…いつか、必ず……痛い目…に…」ガク

魔法使い「……」

青年「他二人は死んだ。即死だな」

魔法使い「こっちも死んだ」

青年「死体はどうする」

魔法使い「…ここに放置しとこう。縛ろうと思わなくて良かったよ」

青年「ああ」

魔法使い「……あと、お仲間さんが回収するかもだし」

青年「ふん。やれやれ、相手は相当あせっていると見た」

魔法使い「だな」

魔法使い「……」

青年(黙祷というものか)

魔法使い「……。ここから離れよう」

青年「ああ」

魔法使い(ん?最初の矢になにか…紙が?)

青年「どうした、置いてくぞ」

魔法使い「あ、ああ。今行くから」ガサッ

ローブノ男 ノミ 読メ

魔法使い(私のことか?なんだこれ。それと黒い束も……髪の毛!?)

青年「」スタスタ

魔法使い(やつは気づいていないな…ちょっと読んでみよう)

子供ハ 預カッタ

魔法使い「!」

以下ノ 場所二来イ

誰カニ イウナ 誰カト クルナ

破ッタラ 子供 殺ス

以上

魔法使い「……」

魔法使い(この髪は…確かに、あの子みたいな髪だが…)

魔法使い(別人の可能性もある。ただの脅しかもしれない)

魔法使い(あの子に会ってみるか)

鷹「お疲れさまです」バサッ

青年「お前の枕を落とすタイミング、ぴったりだったぞ」

鷹「有りがたきお言葉。枕は回収致しました」

魔法使い「あ、放置してなかったんだ」

鷹「失礼な!」グサッ

魔法使い「いっづぅぅ!?」

――数時間後、少女宅

ザワザワ

魔法使い「…?」

憲兵「もう一度、聞き直しますね。あなたのお子さんは…」

少女母「だから、朝見たらいなくなっていたのよ!」

少女父「夜遊びするほど大きくも無ければ、勇気もないのに…」

憲兵「玄関は開いていたんですね?」

少女母「ええ。外に出たとしても、靴をはかずに」

憲兵「抱えられて連れ去られたかもしれない、と…」

憲兵B「あなた方は何か気づきませんでした?」

少女父「いいえ、馬鹿みたいに寝ていました…」

魔法使い(僅かだが両親に魔法をかけられたあと)

魔法使い(見た感じ睡眠魔法か。……なんてことだ)

魔法使い(本当――だったのか)

魔法使い(別れたのが昼…あのあと出歩いた可能性もある)

魔法使い(外に出るなと言っていれば良かった…ちくしょう)

魔法使い(彼女は――私のためにさらわれたんだ)

魔法使い(なら、私は……)

――宿部屋

青年「……」ガチャ

青年(あそこで物を売る気配はない…警戒したか)

青年「む、魔法使い?いないのか」

鷹「魔王さま。手紙が」

青年「手紙?」


出掛けてくる。

帰るなら帰ってていい。
荷物はそのままにしといてくれ。

鷹「……これだけですか?」

青年「いや…お互い勝手に出掛けているが、今まで置き手紙などしなかった」

青年「どこに――」

鷹「魔王さま?」

青年「感じられないな…」

鷹「何がですか?」

青年「魔法使いの魔力だよ。あいつ、念入りに魔力を消してる」

鷹「何故今になってそんなことを小娘が」

青年「おれに付いてきて欲しくないんだろうな」

鷹「ならこの置き手紙に意味があるのでしょうか?」

青年「あるさ。遺書だ」

鷹「遺書!?」

青年「わざわざ『出掛けくる』。そのくせに場所は書かない」

青年「そして『帰るなら帰ってていい』。まるで長期間ここへ帰らないと言わんばかりだ」

青年「荷物の件は分からん。ま、これはただ嫌なだけだろう」

鷹「遺書って…小娘は死ぬんですか?」

青年「まだなんとも言えん」

青年「……誰かに呼ばれ何処かに行ったか、自発的にか…まあどちらでもいい」

青年「探すぞ。おれはあいにく人探しの魔法が出来ないから地道にな」

鷹「は、はい」

青年「あと、ほかにこれにはもう一つ意味があるとおれは推測する」ペラ

鷹「え?どういう意味が?」


青年「――『助けに来てくれ』」


――街からかなり離れた場所の建物前

魔法使い「ここか」ザッ

魔法使い(なんだ?微かに魔物の気配がある)

魔法使い「……」

魔法使い(それにしても、なんであんな手紙残してきたんだろう)

魔法使い(明らかに『今からなんかやりますよん』って言ってるようなものじゃん…)

魔法使い(…魔王も一緒に来れば心強いが……なんせ、人質がいるかもだしな)

魔法使い「考えても仕方がない……行くか」スタスタ

――建物内

魔法使い(だだっ広いところだな)キョロキョロ

「ようこそいらっしゃいました、お客さま」

魔法使い「!」バッ

商人「どうも、しがない一商人でございます」ニタァ

少女「お兄さぁん」グスッ

魔法使い「…その子を離せ。どうして私を呼び出した」

商人「商売に邪魔なものは消えていただかないと困るんですよ」

魔法使い「商売だと?あんなのか商売だと言えるのか」

商人「売ったもの勝ちですよ。そして――」

少女「お兄さん、後ろ!!」

魔法使い「え――」

ヒュンッ ドス

魔法使い(背中を射たれ――!)

商人「先手をうったもの勝ちでも、あります」ニヤニヤ

魔法使い「何を…塗りやがった…」

商人「眠り薬を。いささか強すぎたみたいですね?」

魔法使い「…っ」ドサッ

商人「警戒心が甘いですねぇ。ここは敵の本拠地ですよ」

魔法使い(…師匠に見られたら…怒られそうだな…)

魔法使い(ちょっと…鈍ったかも……)

商人「――が――で――」

魔法使い「…まぉ……」


バタリ


つづく
あと二週間ほど更新できなくなる

魔法使い「やめろ!私に乱暴するつもりだろう!エロ同人みたいに!」



のような展開はありません
すいませんさっさと投下しますね
ここからは地の文でいきます


――
―――

魔法使い「ここは……」

 目を覚ましていの一番に状況を確認する。
 身体は石造りの壁に寄りかかっており、手と足には鎖が巻かれていた。
 天井から降りる別の鎖のせいで腕は吊り上げられた形だ。

魔法使い(そして鉄格子か…どうみても牢だな)

魔法使い「っ」ズキ

魔法使い(背中の傷が癒えていない、のか?)

 人間の姿であるとはいえ、この程度の傷は多少塞がっていてもおかしくはないはずだが。

魔法使い(と、するとあの矢も『魔物云々』の矢…?)

魔法使い(無意識下の治癒魔法も無効果されてしまったということか)

魔法使い(矢を抜いた後も効果があるというのは厄介だな)

魔法使い(いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。早くここから出ないと)グッ

魔法使い「……ん?」

魔法使い「……」グイグイ

魔法使い(魔法が――使えない)

魔法使い(魔法が使えない“魔法使い”とか洒落にならないぞこれ)

??「あは、驚いてる?」

魔法使い「!」

 突然の声。
 鉄格子の向こうに誰かがいた。

??「こんなに暗いとよく見えないね」シュボッ

 ろうそくが灯され、辺りがぼんやりと明るくなる。
 同時に相手の顔もはっきり見えるようになった。

魔法使い(性格の悪そうな女だな)

女「あは、ひどいなぁ。うちね、心読めちゃうの」

魔法使い「そうか、それはすまなかった――性格の悪そうな女だな」

女「あ、わざわざ言い直すんだそこ」

魔法使い「それで?お前は何者だ?」

女「マイペースだね…うん、じゃあ教えてあげる」

女「大臣さまの部下」

魔法使い「!」

女「あは、驚くよね。だって大臣さまがこんなことするって思えないよね」

魔法使い(……大臣?あいつは何を企んで…)

女「それは秘密だよ。教えてもいいけどそれだとびっくりできなくなるし」

魔法使い「あ、そうか。読めるのか」

女「……もうちょっと読まれることに恐怖するとか対策考えるとかないの?」

魔法使い「考えても全部筒抜けだろう?意味ないじゃないか」

女「なんか調子狂うなあ…」

女「ま、うちはあんまり偉くないんだけどね」

女「ここの連中を見張りに来てるだけ。大臣さまに歯向かわないようにね?」

魔法使い「…私が今現在こんなことになっているのも、大臣の指示か」

女「ううん、あいつらの判断。しょぼい商売なんて大臣さまに関係ないもの」

魔法使い「……」

 解錠し、鉄格子の扉を開ける。
 そして魔法使いに寄った。

女「でもさぁ、あいつらもひどいよねぇ?」

 くいっと顎を掴み。

女「こんなカワイイ“女”の子を閉じ込めちゃうんだから」

 ぴくりと魔法使いの肩が動く。

魔法使い「…やはりバレるか」

 意識がない間に性別を見破られていてもおかしくない。

女「実際に触るとね」

魔法使い「嫌な気分だ」

女「触ったの上半身だけだったけど、一瞬男の子かなって思っちゃった」

魔法使い「平べったくて悪かったな…」

女「でもでも、いくらちっちゃくても」

 女は手のひらを魔法使いの胸にあてる。

女「この柔らかさは女の子特有のものだよ?」

魔法使い「不快だ。触るな」

女「……」

魔法使い「――だからといって揉むな。痛い」

女「むしろ揉めない……」

魔法使い「黙れ」

女「…いろんな意味で面白みがない…」

魔法使い「悪かったな」

女「でもそのぐらいがいいのかもね?――混血って知られたらヤバイじゃん?」

魔法使い「……」

女「人間の女性は何故か魔法を使えない。なのにあなたは使える」

女「だとしたらゆいいつの例外、混血しかないよね」

魔法使い「…大臣の嫌いなな」

休憩

女「ふーん、大臣さま混血嫌いなの?なんで――」

 女の疑問は別の足音で遮られた。

商人「勝手に何をしている?」

女「別に?少し遊んでいただけだよ」スッ

魔法使い「……」

魔法使い(ここからが本番か)

商人「すみませんねぇ、そいつはちょっとお遊びが好きで」

魔法使い「…ずいぶん口調が変わるんだな」

商人「商売の顔と普段の顔を使い分けてこそが商人ですから」

魔法使い「…はん、ご苦労なことで」

商人「さてとまぁ、なにから始めましょうか」

魔法使い「…なにか薬を飲んだと聞いたが」

商人「ああやっぱ話されてましたか。どうしようもないクズでしたね」

魔法使い「そして、何故あの三人を殺した」

商人「用済み、どころか厄介を生みかねなかったので」

魔法使い「…そうか。子供を使ってまで私を捕らえたのは、バラされたくなかったからか?」

商人「ええはい。種明かしされたら困りますからね?」

魔法使い「種明かし、ね。――で?私をどうしたいんだ?」

商人「同行者がいたでしょう?」

魔法使い「……」

商人「あれにも黙ってもらわないといけないので、教えてくれませんかね」

魔法使い「教える馬鹿がどこにいる」

商人「子供が」

魔法使い「!」ピク

商人「子供がどうなってもいいなら、黙秘もいいですけど?」

魔法使い「汚いな」

商人「商人はみんなそうです」

魔法使い「他の商人にとってはかなり風評被害だ」

商人「で、どうします?」

魔法使い「断る」

商人「……だから子供が」

魔法使い「はは、その程度で私が揺れるとでも?」

女「わお」

魔法使い「それと子供に実際危害を与えたら最後、私は何も喋らんぞ」

商人「……」

女「じゃあ、取引しちゃえばいいじゃん商人」

商人「なに?」

女「知ってる?混血の身体は高く売れるんだよ?」

 そのままの意味だ。
 内臓が、目玉が、舌が、薬として売られる。
 そのため、わざと混血を産ませることもあるという。

魔法使い「……」

女「少女が傷つくか、あなたが刻まれるか。どっちがいい?」

魔法使い「私が刻まれると子供は?」

商人「」チラリ

女「」チラッ

商人「仕方がない。離しましょう」

女「え、ほんとに?」

商人「こちらには操る魔法があるからな。喋らせないぐらいできる」

魔法使い「……」

魔法使い(…そうか)

女(ありゃりゃ。なかなか愚かだね)

商人「どうです?できれば早めに返事を――」



魔法使い「勝手に売ればいいじゃないか、ハゲ」


………

 小さな蝙蝠が牢に戻ってきた。
 元々ここが寝床だったのだが、なにやら今日は騒がしく一旦退避していたのだ。

蝙蝠「?」

 気配を感じ、その方向に超音波を飛ばす。
 人形(ひとがた)の何かがいると知ると、小さな蝙蝠は恐れずにそこへ近寄った。

蝙蝠「キミ、ダレ?」

 眠っていたのか、ソレはゆっくりと頭をあげる。

魔法使い「…魔物?蝙蝠一族、か?」

蝙蝠「ウン。ボク、蝙蝠一族。キミ、ニンゲン?」

魔法使い「……混血だ。鷲と人の」

蝙蝠「ワシ!ワシ、スゴイ。ボク、ソンケイ」

魔法使い「混血だが」

蝙蝠「ワシノチ、ヒイテル。スゴイ、スゴイ」

魔法使い「凄いのか?」

 相手が小さく笑った。
 同時に「あいたっ」と叫ぶ。

蝙蝠「ダイジョブ?ケガ?」

魔法使い「いやぁ…さっき身体的欠点を指摘したら殴られちゃって」

蝙蝠「?」

魔法使い「ちょっと自分の立場忘れていたよ…ははは」

蝙蝠「バカ?バカ!」

魔法使い「まったくだ」

蝙蝠「ツナガレル、ワルイコト、シタノ?」

魔法使い「してないよ。私はそういえる」

蝙蝠「ジャア、ココニイナクテモイイジャナイ」

魔法使い「同行者の所在地を言わない代わりなんだ」

蝙蝠「デナイト、コロサレルヨ」

魔法使い「…なかなかシビアな蝙蝠だな」

蝙蝠「ニゲナイト」

魔法使い「…仮に逃げても、人質がいるんだ」

蝙蝠「ダレ?」

魔法使い「女の子」

蝙蝠「ソノコハ、コロサレナイ?」

魔法使い「私が死ねば助かる、はず」

蝙蝠「バカ?ダマサレテルヨ、ボク、ワカル」

魔法使い「知ってるさ…ただの自己満足だ」

蝙蝠「ジコマン、ジコマン」

魔法使い「…そうだ」

蝙蝠「?」

魔法使い「お使い、頼まれてくれないか」

蝙蝠「イイヨ」

魔法使い「鷹一族と、人間の形をした魔物がいるんだ。それが同行者なんだけど」

蝙蝠「マサカ、マオウサマ?」

魔法使い「ああ」

蝙蝠「オツカイ、スル!マオウサマ、アウ!」

魔法使い「じゃあ、ここの場所を教えてきてくれないか」

魔法使い「そして少女も救ってくれと。――首元に紐があるだろう、それとってくれ」

蝙蝠「ウン」

 多少手こずったが、引っ張りだされたのは麻の紐。
 一部だけ網が編まれており、その中には

蝙蝠「ニンギョノ、ナミダ」

 それはペンダントのような造りだった。

魔法使い「貰い物だ」

蝙蝠「ココニモ、ニンギョ、イル」

魔法使い「え?…え?」

蝙蝠「ジャア、サガシテクル。アトハ?」

魔法使い「人魚の件聞きたいんだが…そうだな」

蝙蝠「ハヤクハヤク」

魔法使い「日の出が出たら私死ぬからって伝えて…いややっぱやめ…」

蝙蝠「ワカッタ、ジャアネ!ガンバレ!」

魔法使い「今の無し!ねぇ!」

 時すでに遅し。
 小さな小窓から小さな蝙蝠が飛び立った後だった。

魔法使い「……」

魔法使い「魔王、なにしてんだろうな…」

 口の中に溜まっていた血を吐き捨てる。
 「ハゲ」「チビ」とか言ったらかなり暴行された。
 今度から悪口には気を付けようと思った。

魔法使い「…今度があれば、だけどな」

 せめてあの子だけは助けたいなぁと呟いた。

 蝙蝠は飛ぶ。
 ペンダントを持って。

 これを見せればどうやら話がスムーズに進むらしい。

蝙蝠「タカ、タカ」

 懸命に探す。
 お使いを成功させたかったからだ。

 やがて、下から。

青年「――おい、そこの蝙蝠」

 人間…いや人間ではない何かが声をかけてきた。肩には鷹がいる。
 蝙蝠は地面にコテリと降りた。というか落ちる。

蝙蝠「オツカイ!キミ、マオウ?」

青年「いかにも。…それは、なんだ?」

 指差されるは麻の紐。
 蝙蝠は答えた。

蝙蝠「コンケツカラ、アズカッタ!」

 なぜ目の前の王は一瞬泣きそうな顔をしたのか。
 蝙蝠には分からなかった。

長い休憩でしたね、はい。

休憩。
今日中には戻ります

……

青年「そうか」

 蝙蝠の話を聞き終わり、彼は息を吐いて空を見上げた。
 月だけがぽっかり浮かぶ空だ。

青年「あいつは自己犠牲を選んだのか。ふむ、らしいと言えばらしい」

鷹「…魔王さまは…どうなさるのですか?」

蝙蝠「ドスルノ?」

青年「決まっている。何と言われようが奪い返しに行く」

鷹「子供も?」

青年「ああ。じゃないと怒るだろうからな」

 側近はそこで口をつぐんだ。

 ある程度予想していた解答だったし、文句もない。
 文句があったとして、側近はそれでも魔王に従うだろうが。

鷹「……」

 側近が黙ったのは何も言うことがなくなったというのもある。
 だが、もう一つ。

 青年の出す威圧感に恐れを感じたからだ。

青年「なんだろうな。変な気分だ」

 角が生え、爪は尖り、瞳は爛々と光る。
 青年の本当の姿だ。

蝙蝠「マオウサマ!」

 蝙蝠は嬉しそうに飛び跳ねる。

魔王「あいつが誰かに好きにされると聞くと、酷く胸がむかつく」

鷹「……そうですか」

魔王「ああ」

 魔王はペンダントを拾い上げ、目の前に掲げる。

蝙蝠「ソレ、コンケツ、クビニ、カケテタ!」

魔王「そうか」

 輪を頭に通し、真珠の部分が前に来るようにする。
 真珠は月明かりで鈍く輝いた。

魔王「蝙蝠、案内してくれ」

蝙蝠「ワカッタ!コッチ!」

鷹「…もっと魔王さまに敬意を払え」

 夜明けは近い。

――同時刻、牢

少女「お兄さん…」

 囁く声。
 魔法使いは目を見開いてそちらを見る。

魔法使い「…なぜここに」

少女「脱出したの。見張りは、寝てたから…」

 得意気に鍵を見せる。
 それから音をたてないように慎重に鍵穴へ差し込む。

少女「逃げよう。殺されちゃう」

魔法使い「あなただけでも」

少女「ダメだよ!二人で逃げるの」

 鎖の鍵に手惑いながら、強く言う。
 じゃらじゃらと音をたてるために連中が気づきやしないかと気が気じゃない。

魔法使い「…私はまだやることが」

少女「怪我が治ってからじゃダメなの?」

 涙目にたじろきかけたが、それでも魔法使いは首を横にふる。

魔法使い「それじゃ遅いんだ」

少女「じゃああたしも協力する!それじゃいけないの?」

魔法使い「いけない。君は、こっち側の世界の子じゃないから」

少女「こっち側?」

魔法使い「私は――」

 最後の鎖が取れた。
 魔力が少しずつ戻ってくるのを感じる。

魔法使い「――私は…」

少女「どうしたの?」

魔法使い「いや……」

魔法使い(ふむ。鎖に魔力を封じる何かがあったようだな)

魔法使い(人間はなんとめんどくさいものを発明するのやら。じゃなくて)

少女「お兄さんはなんなの?“魔法使い”じゃないの?」

魔法使い「“魔法使い”ではあるけど、もっと君と根本的に違うんだ」

少女「?」

魔法使い「あー、なんというか」

女「あは、化け物なんだよね」

魔法使い「!」バッ

 鉄格子を挟んで向こう側にあの女が立っていた。
 警戒しつつ少女を抱き寄せる。彼女は大人しく従った。

 女は舌舐めずりをして口を開く。

女「――混血の目玉が美容にいいってのは、本当かな?」

続く
魚の目玉はちょっとだめです

魔法使い「…それは嘘じゃないのか」

 即答。
 自分で試したことはないので推測ではあるが。

女「試してみないと分からないよ?」

魔法使い「魚の目玉でも食ってろ」

女「やだぁ、魚の目玉なんてグロいじゃん」

魔法使い「……数秒前の台詞をよく思い出せ」

魔法使い(魚よりヒトの目玉を食らう方がもっとグロいと思うが)

女「だってあなた、同族(にんげん)じゃないもん」

魔法使い「……」

女「人間に形が似てるだけで。だからあんまり抵抗はないかなぁ」

魔法使い「…同族じゃない、か。確かにな」

 心の奥で微かにほの暗い感情が沸き上がる。

 人間として生きたい。

 ――だがそれは、他ならぬ人間が、魔法使いを人間だと認めてくれなくてはいけない。
 ただの一方的ななりきりでは、駄目なのだ。
 混血だとか。
 呪い子だとか。
 そう言われているうちは――人間など、なれやしない。 

少女「…お兄さん?」

 人間の少女が不安げに見上げてくる。

魔法使い(この子もいつかは混血を忌むのだろうか)

 結局――混血はモノとしてしか扱われない。
 牛や豚と同レベルだ。

魔法使い(私が人間と認められたら…)

魔法使い(それは、他の混血への裏切り行為なのか?)

 人間に迫害されている混血がいたとして。
 敵視されてしまうのだろうか?

女「そうだね。人間を憎む混血もたくさんいるわけだし」

魔法使い「じゃあ……私には、味方がいなくなってしまうのか?」

女「何言ってるの?」

 ナイフを二振り両手に持ち、女は嘲るように笑った。

女「あ ん た な ん か に 味 方 な ん て い る わ け な い じ ゃ な い 」

 女も薬を飲んだ一員である。
 手に入れた力は読心。
 戦闘には向かないが、このような時には多く使える。

 魔法使いを相手にした場合、彼女に奥深く眠る悩みを利用した。
 『どうやら人間として生きたい』と分かったら、その考えに揺さぶりをかけていけばいい。

 間違えているか、正しいか。
 その問いだけでも大抵はうまくいく。

女(この程度じゃまだ心は壊れないけど、戸惑ってはいる)

 だから、この隙に。

女「逃げようとする動物は殺さないとね?」

 牢に入り、まっすぐに魔法使いを討ちにかかった。

女「…やった」

 手応えがあった。
 が、何か違う。

魔法使い「…ふむ。痛いな」

 壁の向こうで混血が呟いた。
 ――壁?

女「は、羽?」

魔法使い「ああ。翼にも痛覚はあるんだな」

 翼でぱんっとナイフをはじき、彼女は姿を現す。

 背からソレは生えていた。
 首元、手首には羽毛らしきものがうっすら見える。

魔法使い「私に味方なんていない、か。なるほど…なかなかキツいな」

 だがな、と混血は拳を握りしめる。

魔法使い「その言葉で現実に戻れたよ」

 分からない。
 なぜ、こんなにすがすがしい顔をしてるのか。

魔法使い「それは間違えだ。全てを受け止めると語ってくれた人がいる」

魔法使い「私をここまで育ててくれた人がいる」

魔法使い「そして――」

魔法使い「私と旅をしようと言ってくれた奴がいる」

 固めた拳をみぞおちに鋭く突き刺した。

魔法使い「――その他はまた考えよう。どうせ、私は長く生きる」

女「――っ!」

魔法使い「…ちょっと目を背けていたんだ。向き合わせてくれて感謝する」

 その声は届かなかった。

――建物内

 どやどやと出てきた人間を数秒かからず伸した後、魔王が顔をあげた。

魔王「む」

鷹「どうしました」

魔王「いや、魔法使いが壁を乗り越えた気がしてな」

鷹「物理的に?」

魔王「精神的に」

鷹「えっ?」

蝙蝠「デンパ、デンパ!」

鷹「何を言ってるんだおまえは」

魔王「ともあれ。悩ましいところだな……」

 二つの分かれ道を交互に見比べながら魔王は言う。

魔王「“人魚”を救うか、魔法使いを救うか――どちらを先にするか」

ううむ…

続く

 右からは多数の魔物の気配。
 左からはそれより少し強いなにかの気配。

鷹「…魔王さま」

魔王「なんだ」

鷹「先に、“人魚”達を救出するほうが良いかと思います」

魔王「……」

鷹「小娘たちは…恐らく、自力でなんとかするでしょう」

 魔法使いのほうばかりに気をとられてはいけないのだ。
 魔物の王である彼は真っ先に魔物である“人魚”を救い出すべきで。

 “人魚”も魔法使いも、それぞれここから遠く、しかも逆方向。

 どちらを救うためには――どちらかを見捨てなければいけない。

鷹(……見捨てる、はないか)

鷹(ただ…生存確率が半分になることは確か)

鷹(片一方が逃げられたことに激昂し、殺してしまう可能性だってある)

魔王「……」

鷹(…辛い判断でしょうが…)

魔王「そうだな。まず“人魚”からだ」

鷹「はっ」

魔王「待たせたな、蝙蝠。行くぞ」

蝙蝠「ウン、コッチダヨ!」

――とある部屋

蝙蝠「タブンココ!」

魔王「……」ガチャ

鷹「これは……」

 青い光が部屋を満たしていた。
 巨大な水槽。
 その中に浮かぶ、傷ついた“人魚”達。
 意識がないものが大半だった。

鷹「何故こんな姿に…」

魔王「真珠を出させるためだろうな」

蝙蝠「ダサセルッテドウヤッテ?」

 魔王はすぐには答えず近くに放られていた物体を持ち上げる。
 鞭だった。

魔王「こんなやつで痛めつけて、泣かせるんだろうな」

 瞳に表情は無かった。

魔王「商売のためだけに。それだけでこいつらは傷つけられた」

 鞭は一瞬で炭くずと化した。

魔王「――誰も生かしておけないな」

鷹「」スッ

側近「魔王さま……」

魔王「側近、海の位置は分かるか」

側近「はい」

魔王「今からお前に魔力を注ぐ。そして“人魚”と海に転移しろ」

側近「え!?」

魔王「術師無しでも移転はできるが――安全性はそのぶんなくなるからな」

魔王「弱った“人魚”を陸に打ち付けるなどできない」

側近「そうですね」

魔王「頼まれてくれるか」

側近「拒む理由などどこにありましょうか?」

 魔王は水槽に近寄る。

魔王「聞こえるか」

「……え?」「誰?」

魔王「今、お前たちを海に連れていく」

「!?」「え、夢?」「夢なの?」

魔王「移転を行う。少し我慢しとけよ」

「まお…魔王、さま?」「わたしたちのために?」

魔王「側近」

側近「はっ」

 魔王は指の肉を噛みちぎり、側近は自らの翼を小さく傷付けた。
 互いの血液を当て、魔王は魔力を傷越しに送り込む。

魔王「体液同士を触れあわせないといけないというのは面倒だな」

側近「そうですね」

魔王「気をつけろよ」

側近「ありがとうございます」

 強い魔力を送られたからか一瞬ふらついたが、側近は水槽に寄る。
 魔王が少し遠くに離れたのを確認して、自分と水槽を魔法陣で囲う。

 そして消えた。
 後に残ったのは魔王と蝙蝠と、

魔王「……水槽だけは残したのか。側近の魔法もなかなかのものだな」

蝙蝠「ソッキン、マホウ、ツカエルノ?」

魔王「使えるさ。日頃はあまり使わないだけで」

蝙蝠「ナンデダロ?ツカエルナラ、ツカエバイイノニ」

魔王「ほら、よく言うだろ」

魔王「能ある鷹は爪を隠す――ってな」

蝙蝠「ソレ、ウマイトコニ、イレテキタネ!」

魔王「ふん。さ、おれたちは魔法使いのところに向かうぞ」

ちなみに魔王さんはドヤ顔でした
続く

――牢付近

少女「……」ポカーン

魔法使い(しまった)

魔法使い(ついこの子の前で本来の姿になってしまった)

 緊急事態ではあったが、迂闊だったとも思う。
 少女との間に亀裂が入ることは避けたかったのに。
 …先ほどから混血混血言われているのでもう手遅れかもしれないが。

少女「……」

魔法使い「えっと、その」

少女「…て……」

魔法使い「て?」

少女「お兄さん、天使さまだったんだ!?」

魔法使い「は?」

少女「こんけつって、天使さまのことだったの?」

魔法使い(あ、そもそもそれ自体知らなかったんだ)

魔法使い「いやなんというか、私は天使じゃなくてだな…」

少女「でも、羽があるし」

魔法使い「うう……これには深い理由があって…」

魔法使い(天使、か)

 金色の髪に青い瞳、そして白い翼。
 神のつかいといわれるそれと言われたのは初めてだった。

 魔法使いは黒に近い茶色の髪と瞳、そして若干まだらな模様のある焦げ茶色の翼を持つ。
 どうみたってそんな美しい存在じゃない。そう考えた。

 だがしかし、ここで混血について教えるよりこのまま天使として誤認識させておいたほうが
 この先楽なような気がしてきた。わざわざ仲が割れるようなことは言いたくないし。

魔法使い「……天使に近い存在だよ」

少女「そうなんだ!」

魔法使い「う、うん」

 心が傷んだ。

少女「嬉しいなぁ…天使さまが助けに来てくれたんだね」

魔法使い(不意討ち食らって牢に放り込まれたけど)

 むしろ助けられたのは魔法使いだったりする。
 我ながら情けない。

魔法使い「よし、じゃあここを出……っ!?」

 ぞわりと。
 本能的な恐ろしさを感じた。

少女「どうしたの?」

魔法使い(この魔力…魔王か?)

少女「天使さま?」

魔法使い「あ、い、いや。なんでもない」

少女「?」

魔法使い「それと天使さまはやめようよ。なんだかむず痒くなる…」

少女「うーん。天使さんは?」

魔法使い「あんま変わってないような……まあいいか」

 少女と手を繋いで、歩き出す。
 騒ぎで起きた見張りはいたが、魔法でダウンさせた。

魔法使い「早く家に帰らないとね」

少女「うん!」

 一見すれば仲良さげな背中が完全に牢から消えた後。

 腹を抱えながら女がよろよろと起き上がった。
 目には憎悪を浮かばせて。


女「壊してやる」


 そして、翼の去った方向に駆け出した。

……

魔法使い(ああそうだ…この姿になると)

 十数人に囲まれながら魔法使いは思考する。
 元々ここに雇われていたらしき人間や、兵士の恰好をした人間。
 矢や剣を手にジリジリと間合いを詰めて来ている、

魔法使い(人、殺したくなるんだよな)

 不思議と少女は殺したくはないが。
 恐らく守ってあげたいという感情のほうが強いのだろう。

魔法使い「しばらく、何も見えなくなって、何も聞こえなくなるけど良い?」

少女「えっ……怖いよぅ」

魔法使い「うん…ちょっとだけだから」

少女「……そばにちゃんといるなら、いいよ」

魔法使い「いるよ。手を繋いだままでいるから」

少女「じゃあ」

 コクリとうなずいた少女の頭に片手をのせて小さく呪文を呟く。
 一時的なものだが生身の体を相手にしているためにわずかに緊張する。
 少女の目の前に手を振ってみせても反応しないことを確認して、魔法使いは「さて」と辺りを見回す。

魔法使い「お待たせしたな。ここからは未成年の教育にはよくないから」

 誰も彼も無言だ。
 矢はほぼ魔法使いに狙いをつけて、あとは射つだけ。

魔法使い「忠告するが――もし攻撃するなら、お前たちの命はない」

魔法使い「私は攻撃してきたら普通に殺すぞ?」

 たじろくような空気が表れた。
 頭の中で適切な魔法陣を浮かべながら最終警告をする。

魔法使い「攻撃するな。私たちは帰りたいんだ」

「―――射て!」

 弓が穿たれた。

 矢が放たれて数十秒後。

魔法使い「……だから言ったのに」

 魔法使いたちの周りで立つ人間は誰一人としていなかった。

兵「な、なぜ……矢が、効かない…あの矢は、魔法を…」

魔法使い「簡単なことだ」

 血だまりの中で蠢く人間を魔法使いは冷ややかな眼差しで見やる。

魔法使い「魔法が通じないなら、直接的な魔法で戦わなければいい」

魔法使い「だから強風を起こして矢を叩き落とせたんだよ」

兵「むちゃくちゃだ…」

魔法使い「…賭けだったけどな」

魔法使い「でもまあ、結果オーライか。これで対策も分かった」

兵「忌み子が……呪われてしまえ…」

魔法使い「呪い子がこれ以上呪われたらどうするんだよ」

兵「貴様らは…いないほうが、世のためなんだよ…!」

兵「この世界は、人間のものだっ!」

魔法使い「――言いたいことは、それだけか」

兵「はん……貴様なんかに殺されてたまるか」

 皮膚を切り裂いた音と、液体が床に滴り落ちる音。
 魔法使いはそれを黙って見届けて、目を伏せた。



 彼女が少女を抱き抱えてそこを出たとき、生きている者はいなかった。

風なんて吹かして少女に当たらないのか?

……

魔法使い「ここまでくればいいか」パァァ

少女「ん……終わったの?」

魔法使い「終わった」

少女「あの人たちは?」

魔法使い「…ごめんなさいって、帰っていったよ」

少女「そうなんだ。なんか、すごい生臭かった気がする」

魔法使い「それは…」

 真実は言えない。

魔法使い「みんなで魚捌いていたんだ」

少女「魚捌いていたの!?」

魔法使い「だから生臭かったんだと思う」

少女「え、そうなんだ…へぇ…」

 自分で嘘をついといてなんだが、もう少し人を疑うべきだと思う。

魔法使い「ん、広い通路だな…ここ行ってみるか」

少女「うん!」

>>595
魔法使いと少女の場所は台風の目みたいな感じだったと思って下さい

――通路

魔王「魔法使いの近くに来ているな」

蝙蝠「ソウナノ?」

魔王「あいつの魔力が強くなってきている」

蝙蝠「フゥン。ネェネェ、マオウサマ!」

魔王「なんだ」

蝙蝠「マホウツカイッテヒト、ドウオモッテル?」

魔王「ふむ…そうだな。見所のあるやつだと思う」

蝙蝠「ソレダケ?」

魔王「それと、質問から離れるがあいつを考えると胸が苦しい」

蝙蝠「ビョウキ?」

魔王「だとしたら嫌だな」

 蝙蝠はまだ子供で、魔王は色恋とは離れて暮らしていたために発言の重大さを分かっていない。
 恐らく側近あたりが聞いたら身悶える話を魔物たちはしばらくしていた。

魔王「誰か来たか」

 直進か左右かの分かれ道。
 右から足音が聞こえた。間隔からして走っている。

女「…っはぁ、見つけ…あれ?」

女(回りこんだはず…まさか途中で曲がった?)

魔王「なんだお前は」

女「あんたこそ誰よ…みたことない顔だけど」

魔王「だろうな。少し人探しをしている」

女「……男装した混血のこと?」

魔王「それだな。知っているのか」

女「知っているもなにも、用があるんだよね」

魔王「ほう。どんな?」

女「その前にちょっと覗かせてね!」

 話している相手が誰かもしれず、ただ恨みでここまで動いていた女は
 いつものように敵の弱点を汲み取ろうとした。

     山積みの書類。

 会議。

   廊下がひび割れているとの報告。

     西で魔物と人間が

   “人魚”

女(――?)

  承認

    真珠

      シェフがまた激マズメニューを

  門番が暴れて

女(…こんな浅い悩みじゃなくて……もっと深くに――)

 深く

 深く

 深く


 『お前に王位を譲る。今からお前が王だ』

女(あ、トラウマの記憶かな?さっさと掘り出して……)

女(王ってどこの――あれ、そういえば)

 『何故ですか父上。ぼくはまだ未熟です』

 『……』

女(角がある――飾りとかじゃないのかな)

 『見てみろ、周りを』

 ひび割れた地面。

 血。

 死体。死体。死体。死体。

 静か。

 『敵も味方も引っくるめて始末したお前に――もう俺は勝てない』

 『ぼくは、父上を殺しませんが』

 『お前はそうだろう。だがな――俺は、』



 『―――怖いんだ、お前のことが』



 それから記憶が溢れ出るように女の脳内になだれ込む。
 制御できない。
 人為的に作られた魔翌力は暴走を始めていた。

 いや。
 数倍以上長生きをしている者を相手にしてしまった反動か。

 小さなコップにバケツの水が全て入りきらないのと同じように
 女の脳の本来の容量を越えた膨大な記憶。
 二十わずかしか生きていない人間に対策ができるわけもなく。


 ぶつん。

 その音を最後に女の脳は機能を停止した。

魔王「……少し固まったと思ったらいきなり倒れたんだが」

蝙蝠「ナンデ?」

魔王「知らん。おい」ユサユサ

蝙蝠「オキナイネ。オネボウサン」

魔王「……」

蝙蝠「?」

魔王「死んでる」

蝙蝠「マオウサマ、ヤッツケタノ?」

魔王「まさか。一体なんだったんだ、微弱ながら魔力を使ったみたいだが」

蝙蝠「マオウサマノ、ココロ、ミヨウトシタトカ」

魔王「そんなアホらしい理由なら笑うがな。生きている年月が違うんだから」

蝙蝠「パンク、パンク!」

魔王「謎だな。ほら、置いてくぞ」

続く
しばらく寝おちすいませんでした

ちなみにあと一エピソードあります
このスレ内で終わらせます。多分

――別の通路

追っ手たち「待ちやがれーー!!」

魔法使い「ああぁぁぁもうっ!」ダダダ

少女「わ、わ、わ、」ダッコ

魔法使い「なんで次から次へと人が出てくるんだ!アホか!」

少女「天使さん、飛ばないの?」

魔法使い「……しばらく飛んでないからな…いけるか分からない」

少女(飛んだら楽そうだけどなぁ)

 魔法使いの首に抱きつきながら目と鼻の先にある翼を眺めた。
 走らないものは余裕である。

魔法使い「行き止まりか!?いや、ドアがあるな!」

 蹴破るようにしてドアを開き中へ侵入する。

魔法使い「え、水槽…?」

少女「大きい水槽…」

魔法使い(そういえば“人魚”とか言っていたような)

商人「全く――手間をかけさせないで下さい」ザッ

魔法使い「悪かったな」

商人「どうやら、だいぶ部下を始末されたみたいですし」

魔法使い「……」

商人「まぁ、『魔女』として国に渡せば報酬が貰えるでしょうが」

魔法使い「部下より金か」

商人「当たり前です」

魔法使い「へぇ。ま、そちらさんの事情に首は突っ込まないが」

商人「賢明ですね。貴女は頭が良さそうだ」

魔法使い「そりゃどうも」

魔法使い「しかし、これで――どちらも、相手を始末しなければいけない状況になったんだな」

商人「そうですね。だから」

ザザザ

魔法使い「…そういえば、なぜ兵がいる?」

商人「お借りしたんですよ。あなたみたいな輩がいるから」

魔法使い「…誰に?」

商人「大臣さまに」

魔法使い「やっぱあいつか……!」

商人「もういいでしょう。死んでください」

商人「身体の方はこちらで預かりますから――」

魔法使い「そんな気遣いいらな――えっ」

 目にはいったのは先端にに火がつけられた矢。
 防いだ場合の被害を考えて一瞬思考が止まる。

 それを待ってくれるほど優しくはなかった。

タン タタン

魔法使い「~~!」

 痛みと熱さで意識が飛びかけた。

商人「自慢の翼が焼けてしまいましたね」

 少女が無事なのは良かったが、このままでは焼死確定だ。

魔法使い「魔女にふさわしい死に方だな…だが」

 手に魔力を集め、そばにあった水槽のガラスを叩き割った。

 水が勢いよく流れ出し、またたくまに火を消した。
 ついでに流されたが死ななかっただけ良かったと思いたい。

魔法使い「…い、生きてる?」

少女「うん…」

 なおも矢を向けてくるのでそちらの方向に軽く爆発を起こした。

魔法使い「頼む、抜いてくれないか。表に刺さってるから自分じゃ届かなくて」

少女「い、痛いよ?絶対痛いよ?」

魔法使い「大丈夫」

少女「いくよ……えいっ」

魔法使い「づっ!いっ……たく、ないし」

少女「それやせ我慢だよ…」

 わりと容赦なく抜かれる間に、爆発に飲み込まれなかった数人がこちらへ来た。
 今度はナイフまで構えている。しくじりはしないということか。

魔法使い「この世にお別れは済んだか?」

商人「あなたこそ。――今の気持ちは?」

魔法使い「は?」

 視界の隅。
 何かが腕を振り上げた。

魔法使い「っ!?」

 少女が、手をあげたまま虚ろな目で魔法使いを捉える。
 握りしめるは、取り出したばかりの矢。

魔法使い「くそっ、操ったのか!」

商人「利用しない手はありませんから。やってしまえ」

少女「はい」

 凶器はまっすぐに魔法使いの胸へ吸い込まれ――


 先ほどよりも大きい爆発が起きた。



少女「あいたっ!」コテン

魔法使い「またなにが!?」

少女「あれ――天使さん、あたし、今何を」

魔法使い「一人で怪しげな踊りしていたかもしれない!」

少女「ええっ!?」

 適当に返事をして砂ぼこり舞う部屋の中へ目を凝らした。

魔法使い(瓦礫まで吹っ飛んでるし…)

魔法使い(向こう、穴が開いてる?誰かが突き破ってきたのか)

ガラッ

魔法使い(誰か来る……ん?)ギュッ

少女「て、天使さん…そんな強く」カァァ

魔法使い(この魔力、まさか)

側近「――む?部屋間違えたか?」シュンッ

魔法使い「あ、側近さん」

少女「おっきい鳥さんだ!」

側近「小娘!探したのだぞ…ってなんでまたお前はボロボロに」

魔法使い「深い事情は後です。そちらこそ一体何を」

側近「“人魚”を送り届けていた。話に時間がかかってな」

側近「魔王さまは…そばにいるか」

魔法使い「ええ、そうですね」

スタスタ

魔王「お、いた。会いたかったぞ、魔法使い」

魔法使い「こちらこそ、魔王」


側近(すごく仲良しそうな会話!だか、なんかもどかしい会話!)

蝙蝠「?」

少女「?」

魔王「さてと、こんな騒ぎの首謀者は始末しないとな」

魔法使い「…子供がいるからもっと柔らかい言い方で頼む」

少女「?」ミミガード

蝙蝠「シマツ、シマツ!」

側近「やめろ」

魔王「それで一体どこに隠れたんだろうな?恐れをなして逃亡か」

魔法使い「んーと……爆発が起きて、瓦礫が飛んで…」

魔法使い「かなり大きい瓦礫も目の前を通過し……て?」

側近「どうした?」

魔法使い「…魔王が乗ってる瓦礫の下、見てくれませんか」

側近「下か?」ヒョイ

蝙蝠「ナンカ、アル?」

魔王「退くか」スッ

側近「ありがとうございます」グイッ

 持ち上げて、黙った。

蝙蝠「エグイネ!」

側近「ここの、てっぺん頭の特徴はあるか?」

魔法使い「ハゲでチビです」

側近「……」

 元に戻して、魔王たちをぐるりと見回した。

側近「帰りましょうか」

魔王「そうか」

魔法使い「はい」

蝙蝠「ウン」

少女「?」

――城

部下「大臣さま、報告を」

大臣「なんだ」

部下「数日前に、南の海に近い街で商人が」

大臣「ああ、薬を渡したやつか。どうかしたのか」

部下「死んだそうです。どうやら、襲撃されて」

大臣「なに?」

部下「薬や矢の資料はあらかじめまとめてありましたが――」バサッ

大臣「本人には用はなかったしな。これだけ手に入っただけでも良い」

大臣「だが、なんだ?誰に襲撃された?」

部下「それはまだ不明ですが……」

大臣「言いにくそうだな」

部下「生き残った兵によると、『羽が生えていた』と」

大臣「!」

部下「あとは女性だとか男性だとか色々と意見が別れてまして」

大臣「ふむ……」ギリッ

大臣「女も死んだのか」

部下「はい」

大臣「死因は?」

部下「それが…脳が焼ききれていたとか」

大臣「は?」

部下「商人のほうは瓦礫に押し潰されて圧死とのことです」

大臣「……不思議な死に方をするんだな」

部下「そうですね」

大臣「はぁ…そろそろ頃合いだな。動くか」

部下「いよいよですか」

大臣「薬を飲む人間によって使う魔法が違う法則も今回で分かった」

大臣「兵も魔物も集まった」

大臣「いつでも出せるようにしておけ」

部下「はい、仰せのままに」

大臣「それに、あいつもここに呼べ」

部下「大丈夫でしょうか」

大臣「経過は良好だ。やはり人間、恨む人間がいると使いやすいな」

部下「はあ。では、失礼します」

ガチャン

あ、なんか今日投下多くなりそう

――同時刻、宿

ガチャ

魔法使い「あ」

青年「動けるようになったか」

魔法使い「ああ。さっきどこにいってたんだ?」

青年「“人魚”のところに行ってた」

魔法使い「結局私は最後まで関われなかったな…」

青年「別に無理矢理関わる必要もなかろうに」

魔法使い「それはそうなんだが……」

青年「ああ、あの少女も見かけたが、元気そうだった」

魔法使い「それは良かった」

青年「黙っておくように言ったんだな」

魔法使い「そりゃな…大変だったんだから。『また会いたいから誰にも言わないでね☆』って」

青年「ぶっ」

魔法使い「わ、笑わなくてもいいだろ!」

青年「すまんすまん、でもツボにはいって」ククク

魔法使い「……にしても今回は厄介だったな」

青年「…そうだな。魔法を無力する矢、魔法を作り出す薬」

魔法使い「狙いが分からない。魔法で何をしたいのか」

青年「誰がしているのか検討はついてるのか?」

魔法使い「大臣だ。何故か私を嫌っている」

青年「難儀だな」

魔法使い「私も嫌いだし」

青年「その大臣がなにを企んでるのか不透明だな。どいつもこいつも」

魔法使い「?そっちでもなんかありそうなのか?」

青年「魔王反対派が妙に静かでな。絶対になにかあると睨んでいる」

魔法使い「…大変だな」

青年「王はそういうのが付きまとうからな。ところで魔法使い」ズイ

魔法使い「な、なんだ?」

魔王「これだけはいわせろ」

魔法使い「?」

魔王「おれの傍から勝手に離れて危険なことをするな」

魔法使い「…魔王だって、勝手に出掛けてるじゃないか…」

魔王「魔王だからな」

魔法使い「……」

しまった、
魔王→青年で

青年「ならおれも魔法使い、お前のところに戻る」

魔法使い「…別にそういうことじゃないんだが」

青年「違うか」

魔法使い「なんか違う」

青年「ふん。まあいい――とりあえずさっさと体力を回復させろ」

魔法使い「ん、分かった」

青年「手紙も届けないとな」

魔法使い「すっかり忘れてた」

蝙蝠「ネェネェ」

鷹「なんだ」

蝙蝠「マオウサマト、コンケツハ、リョウオモイ?」

鷹「やはりそう思うか」

蝙蝠「ドウナノ?」

鷹「その通りだろうな」

蝙蝠「ナンデツキアワナイノ?」

鷹「両方、とんでもない朴念仁なんだよ……」

蝙蝠「……ドウシテ、タカサンガ、ナヤムノ」

鷹「ふたりとも自覚していないんだよ……こっちがもんもんしてる」

蝙蝠「クロウシテルネ」

鷹「どうも…」

蝙蝠「ホゴシャミタイ」

鷹「えっ」

――さらに数日後

魔法使い(ここか)

コンコン

魔法使い「ごめんください」

ガチャ

黒髪の男「うぇい」

魔法使い(なんだか…師匠を若くしてボサボサにしたような)

黒髪の男「なんの用だ?」

魔法使い「こんにちは。これを師匠から預かってきました」スッ

黒髪の男「…なるほど。立ち話もなんだ、入ってくれ」

魔法使い「お邪魔します」

黒髪の男「わりぃな。客なんかこないから茶もいれらんね」

魔法使い「お構いなく」

黒髪の男「それにしてもなんだ?わざわざ手紙なんてよ」ガサガサ

魔法使い「知り合い、なんですか?」

黒髪の男「父親だ」

魔法使い「えっ」

黒髪の男「ふむ。ふむ。あー、なんかやべーのか」

魔法使い(軽っ)

黒髪の男「どうだい師匠は。相変わらず女好きか」クシャクシャ

魔法使い「…はい」

黒髪の男「かわんねぇな。俺はすっかり大人しくなっちまった」ポイ

魔法使い(捨てちゃった)

魔法使い「でもまだ若いですよね」

黒髪の男「何歳に見える?」

魔法使い「四十半ばでしょうか」

黒髪の男「嬉しいこといってくれんじゃん。いっひっひ」

魔法使い(帰りたい)

黒髪の男「…本当はここにいちゃいけないんだけどな」

魔法使い「え?」

黒髪の男「俺にも果たすべきものがあったんだが…全て投げてきた」

魔法使い「……?」

黒髪の男「子育てもろくにできなくてよ。捨てたも当然だ」

魔法使い「ご家族がいたんですか」

黒髪の男「美人な妻と健気な息子がな」

魔法使い「そうなんですか…」

黒髪の男「おっと、話しすぎた。忘れてくれ」

黒髪の男「遅くなると同行者も不安になるだろう」

魔法使い「なんでそれを」

黒髪の男「ひ、み、つ☆」

魔法使い「はは…。そういえばあなたも、魔力持ってるんですね」

黒髪の男「ん?ああ」

魔法使い「昔は『魔法使い』を?」

黒髪の男「もっとスゲーもんだよ。たまげるぐらいスゲーもん」

魔法使い「へぇ」

黒髪の男「じゃあな。同行者によろしく」

魔法使い「あ、はい。それでは」バタン




黒髪の男「…嫁さん候補かなー、あの子」

魔法使い(不思議な人だったな。どこで同行者がいると思ったのか)スタスタ

魔法使い(ま、用事が済んだからいいか)

魔法使い(魔王はしばらく城に行くらしいし…何してようかな)

魔法使い「ん」ゴソ

魔法使い(そういえば真珠のペンダント返してもらってないや)

魔法使い(魔王つけてたな。いつ帰ってくるんだろ)

魔法使い(…なんで仕事帰りを待つ妻みたくなってんだ?私)

魔法使い(なんか最近あいつといると変な気分なんだよな)

魔法使い「……」

魔法使い「……」

魔法使い(……そういえば最近、こちらの国も不穏だとか)

魔法使い(何か――嫌な予感を覚えるな)

魔法使い「!」

ヒュンッ

魔法使い「誰だ!」ズサッ

魔法使い(気配もないまま、後ろから攻撃――ただ者じゃない)

魔法使い(数秒遅れていればただでは済まなかった…拳、か?)

ザッ……

??「皮肉なもんだな。お前によって狂い、お前によって正気に戻った」

 がっちりした体型。
 顔に巻いた布。
 いやに聞き覚えのある声。

魔法使い「なっ…」

??「探したぜ……どっちつかずの混血児」

 バサリと布を剥ぎ取った。
 そこから表れた顔は


魔法使い「――戦士!?」


――国

兵士A「国王一家を拘束いたしました」

大臣「分かった。まだ外には知らせるな」

兵士A「は!」

魔兵士A「こちら、準備整いました!」

大臣「では作戦を開始しろ」

大臣「魔王は国王ほど丁重に扱わなくていいぞ。生きていればよい」

魔兵士A「了解!」


大臣「始まるぞ!身を引き締めろ!王は引きずり落とせ!」

大臣(そして暁には――――)





僧侶(…………)


魔王「おれと旅をしろ」魔法使い「断る」

―――了

変なところで二部終了
あと一部で終わります。

お付き合い、ありがとうございます

閑話

蝙蝠「オジイチャンノ、ムカシバナシ!」側近「食われたいのか」

――魔王城、資料室

側近「……」パラッ

側近「……」パラッ

蝙蝠「ホンガ、タクサン!」

側近「そうだな」パラッ

蝙蝠「クチバシデ、メクルンダネ!」

側近「そうだな」パラッ

蝙蝠「ヒローイヒローイ」パタパタ

側近「あんまり暴れるなよ。司書が怒る」

側近「……」

側近「ちょっと待て」

蝙蝠「ナァニ?」

側近「なんでお前がいる!?」

蝙蝠「ツイテキタ!」

側近「元々住んでいたところはどうした!」

蝙蝠「ハンカイシタカラネェ。スメナイヨ」

側近「……仲間は?」

蝙蝠「イマ、イチニンマエノ、シュギョウチュウダカラ!」

側近「そうか。しばらくひとりで生活する掟があるんだな」

蝙蝠「ウン!」

側近「だからといってここに来るか!?」

蝙蝠「シャカイケンガク!」

側近「遠足か!」

司書「……お静かに……」ゴゴゴゴ

側近「すみませんでした」

蝙蝠「ゴメンネ」

側近「はぁ……まあお前さんはスペースもとらないし、居てもいいとは思うが」

蝙蝠「ヤッタ!」

側近「ちゃんと挨拶はしていけよ。友好を築きたいなら」

インキュバス「お、蝙蝠じゃん。ちっす」スタスタ

オーク「ちび助、迷子になるなよ」スタスタ

蝙蝠「ワカッタ!」

側近「……」

蝙蝠「モウアイサツハ、オワッテルヨ」

側近「………早いな」

蝙蝠「ミンナ、ヤサシイ!」

側近「…それは良かったな」

蝙蝠「トコロデサ」

側近「ん?」

蝙蝠「30ネングライマエニ、センソウアッタンデショ?」

側近「……あったな。魔物と人間が入り乱れた、最悪な戦争」

蝙蝠「ボクノイチゾク、ダレモハナシテクレナイ」

側近「……」

蝙蝠「ネェ、ナニガアッタノ?ソンナニヒドカッタノ」

側近「本当に好奇心旺盛だな…」

蝙蝠「エヘヘ」

側近「でも、そうだな。いつまでも、傷としてしまっていてはいけないな」

側近「若い世代に伝えて――二度と過ちを犯させないようにしなくては」

蝙蝠「ハナシテクレルノ?」

側近「大雑把にだけどな。まあどこか落ち着くところにぶら下がれ」

蝙蝠「オジイチャンノ、ムカシバナシ!」

側近「食われたいのか」

 実を言うと戦争が起きた直接的な理由は分からない。
 だが当時、きっかけはなんでも良かったのだろう。
 今以上に人間と魔物の溝が深かったのは確かだったから。

 人間は『勇者』がなかなか現れないことに焦りを感じていたし、
 魔物は人間が次々作り出す武器に恐れを感じていた。

 ならば、と両者は思ったわけだ。
 人間のほうは『勇者』がいないなら自分達でなんとかしようと考え。
 魔物のほうは人間が脅威になる前に潰してしまおうと考えた。

 そうだ。
 互いが互いを排除したかった。
 自分たちが生物界の頂点に立ちたかった。

 そのせいでどちらも大勢死んだ。

 前代魔王さまも、人間の前代の王もなんとか争いを止めるよう努力したが……

 え、ああ、違う。
 国あげての戦争じゃない。勝手に始まったんだよ。
 人間側は『救世主』とかって奴が率いて、魔物側は戦が好きな種族が率いた。

 で、お上の言うことなんか聞かずにやりたい放題始めた。
 魔物も人間も。
 次第に手口は汚くなって、敵の街や村を破壊したり無抵抗の住人を惨殺したり。
 …可哀想なことをした。後に知って無力さに泣いたよ。
 自分は自分の一族を守るだけで手一杯だったから。

 蝙蝠一族も大変だっただろうな。
 静かな日々を望んでいたのに夜の偵察に遣わされたりして。

 で、戦争は唐突に始まったのと同じように唐突に終わった。
 まあ終わりの方じゃどちらも戦力足りなかったし、長くは続かなかったかもな。

 史実だと、前代魔王さまが終わらせたことになっている。
 そう、史実。
 ……あんまり言い触らすなよ。
 まだこの事実を公表するのは早い。
 戦に参加した魔物から反感を買われるから。もう少し傷が和らいだらのほうがいい。


 魔物の兵と人間の兵。
 その間に立ってありったけの魔力を暴発させたのは――

 ――現魔王さまだった。

 遠くから見ていたが凄まじかった。
 というか巻き添えを食らいかけた。

 両者あわせて二百万。
 ――その大半が死亡した。即死に近い。

 現魔王さまが暴走したのは色々理由があったんだが…。
 かなりデリケートだから触れないでおく。

 それで、戦争は終わらざるを得なかった。

 前代魔王さまは現魔王さまに王位を渡し姿を消した。
 今更感もあったが。ほとんど城にいなかったし。

 様々なところに残した深い傷はまだあちこちに残っているし、
 なにより――自分にとって一番大きかったのは鳥族の最強とも言われた鷲一族がほぼ全滅したこと。
 かなり卑怯な手を使われたと聞く。

 ――知っていたのか。
 唯一の生き残りが小娘だ。純血は絶えた。

 小娘もわりとすごい暴走したらしいけどな。
 前前代魔王さまがそんなことを言っていた。止めるのに苦労したらしい。
 初対面じゃ気づかなかったけど。
 それもまさか恩人の娘だったなんて。


 以上だ。
 酷い戦争だった。

 今は前より敵意を持ってないみたいなのは救いだが。

 もうあんなことは見たくない。
 
 悩みのない平和な世界なんて来るわけないが、それでも。
 明日を迎えられると保証できる未来にはしておきたい。

 お話終わり。

蝙蝠「ウマクマトメタネ!」

側近「自分らしくないことを言った気がした」

蝙蝠「ソンナコトアッタンダネ。マオウサマ」

側近「本人には言うなよ。かなり気にしてるから」

蝙蝠「ソコマデ、ムシンケイジャナイモン!」

側近「信じられない……」

蝙蝠「タカサン、マオウサマ、シンパイ?」

側近「ああ。強さゆえに弱さをみせられないお方だから」

蝙蝠「コンケツナラ、ナントカシテクレル!」

側近「何故そこに話が飛ぶ!」

蝙蝠「ケッコン!ケッコン!」

司書「……未だ結婚できぬ我の嫌がらせですか……」ゴゴゴゴ

蝙蝠「ゴメンネ」

側近「ここで炎系魔法はやめよう」

閑話 了

耳だれが痒い

最終パート

魔王「おれと来てくれないか、魔法使い」魔法使い「…ああ」

――魔王城

人魚「――つまり、スパイがいたってこと?」

魔大臣「そう。人間側と、反魔王派のふたつだ」
ゴブリン「なんでスパイが今頃見つかったんだ?」

魔大臣「今頃、というより今まで泳がしていた」

側近「魔大臣と一応の検討はつけていたが、いかんせん証拠がなくてな」

魔大臣「証拠なしで疑惑なんかかけたら問題が起こる。だから手を出せなかったんだ」

トロール「証拠がつかめたト」

魔大臣「そういうこと」

ミノタウロス「ってことは自分からゲロったと」

魔大臣「うーん…当たらずとも遠からず…だな」

側近「自分からゲロらせた、というべきかなんなのか…」

ミノタウロス「?」

側近「本人からのほうが話が早いだろうな。いつまでそこで盗み聞きしてるんだ」

サキュバス「えへへ☆入り時を見失っちゃってた☆」ガチャ

人魚「」イラッ

サキュバス「なんと、サキュバスちゃんのお手柄なんですっ!」バ-ン

ゴブリン「は?」

トロール「どういうこト?」

魔大臣「サキュバスといったらアレしかないだろ…」

側近「ここまで自分を武器にするとは恐れ入った…」

ゴブリン「ま、まさか」

サキュバス「そっ☆スパイくんたちを片っ端からベッドに呼んで――」

サキュバス「情報と精、搾り取っちゃったよ☆」ツヤツヤ

ミノタウロス「スパイは…どうなったんです?」

ゴブリン「なぜ敬語」

サキュバス「あたし達が本気出したら死んじゃうからね☆一歩手前で止めたよ☆」

トロール「ご愁傷様だネ」

ゴブリン「まったくだ」

サキュバス「ところで魔王さまは?」

側近「資料を見に行っている」

サキュバス「残念☆魔王さまと遊びたかったなぁ。性的な意味で」

側近「!?」

ゴブリン「ぶぅーっ!?」

人魚「あ、あんた、まさか魔王さまと寝る気!?許さんわ!」

サキュバス「あれれ~おばちゃん、嫉妬~?」

人魚「だ、れ、が、おばちゃんよ!!」バッシャーーン

ゴブリン「ぎゃああぁぁぁぁびっしょびっしょぉぉぉぉぉぉ!!」

魔大臣「真面目に会議できないのかな…」

側近「無理っぽいな」

――資料室

魔王「」パラッ

司書「……魔王さまが、ここになんて珍しいですね……」

魔王「司書か。気になることがあってな」

司書「……お調べ物ならなんなりと……」

魔王「じゃあ聞くが、全く魔力のない人間に魔法を使わせる薬はあるのか?」

司書「……“人魚”の時の件ですか……」

魔王「よく知っているな」

司書「……情報を集めるのが我の仕事ですから……」

司書「……あるには、あります……」

魔王「どんな?」

司書「……いくつか入手の難しい薬草を、ややこしい調合で混ぜ作るんです……」

魔王「ふむ。そう簡単にはできないってことか」

司書「……はい……」

魔王「副作用はないのか?」

司書「……すぐにはありません。しかし……」

司書「……服用すると短命に…飲んでから十年生きられるかどうか……」

魔王「…無理矢理に魔力をつくる代償が寿命か」

司書「……はい……」

魔王「なるほどな。礼を言う、参考になった」

司書「……勿体なきお言葉……」

――街の近く

戦士「久しぶりだな、魔法使い」

魔法使い「何故ここに。牢に入れられたと聞いたが」

戦士「牢から出してもらったんだよ。お前を倒すためにな」

魔法使い「誰に!」

戦士「誰でもいいじゃないかよ……挨拶はここまでだ。行くぞ」ブォン

魔法使い「魔法――!?戦士、お前、薬を飲んだのか!」

戦士「じゃないと勝てないからな。なんにでもすがるさ」

魔法使い「戦士…自分の力で敵に勝つんじゃなかったのか」

戦士「……」

魔法使い「鍛錬し、己を磨き、最強を目指すんじゃなかったのか」

戦士「……」

魔法使い「あれらはすべて嘘だったのか!」

戦士「もうあの頃のオレじゃないんだよッ!」

魔法使い「……っ」

戦士「勇者を殺し、盗賊を殺し、僧侶を傷つけ、剣士を騙したオレは――」

戦士「そんな、そんな夢なんて語れる身分じゃないんだよ」

魔法使い「……」

戦士「オレは目的を見失った。狂ったオレ残ったものは――お前への恐怖」

魔法使い「私への……」

戦士「だから、殺り合おうぜ。魔法使い」

魔法使い「……」

戦士「オレはお前を殺して、恐怖を殺して、それから生きる目的を探す」

魔法使い「とんでもなく自己中心的だな」

戦士「なんとでも言え――なぁ、お前はオレを殺したらどうするんだ?」

魔法使い「殺さない。せまい牢に生きて、罪に苦しめ」

戦士「ははっ……相変わらずキツい奴だな」グッ

魔法使い「……」

戦士「覚悟しろ――混血っ!」

魔法使い「……っ、来いよ!我が侭に付き合ってやるよ、戦士!!」

続く
実は去年中耳炎なったんですよね…耳鼻科行くか

ご心配おかけして申し訳ありません
土日に耳鼻科に行く予定です

 顔に打たれるギリギリでくるりと魔法使いは回避した。

魔法使い「っ!」

 逃げてもまた追ってきて今度は蹴りを食らいそうになる。
 体力は並みの人間より上とはいえ、早めに対処をとらなければいけない。

戦士「逃げてばっかりか!そんなに軟弱なのか!」

魔法使い「安い挑発だな」

 魔法陣を戦士の足元に展開させ、爆発させた。
 容赦はしない。
 そしてこの程度では死なないだろうとも思っている。

戦士「だぁっ!!」

魔法使い「…やっぱりな」

 ぴんぴんの姿で砂ぼこりの中から姿を現した。

 戦士は目の前に魔法陣を展開させ、それに向かって勢いよく拳を叩きつけた。
 それは空気を圧縮させた凶器となり魔法使いに迫る。

 が、手を払っただけであっさりと消え失せた。

 そもそも基礎が違う。
 強い魔力をもち十年も修行に明け暮れた魔法使いと、
 薬を飲んでわずかな期間で魔法を使う練習をした戦士。
 勝敗は明らかだった。

魔法使い(ま、それも魔力だけならな――)

魔法使い(あっちは身体が武器だから)

 一瞬でも油断すれば重い拳の犠牲になるだろう。
 よろめいたらそこで終わりだ。抵抗する間もなくひたすら殴られる。

魔法使い(それは、やだなぁ…)

魔法使い(魔物化をすれば一発で倒せるとは思うが)

 それは嫌だった。
 間違えて戦士を殺してしまう可能性もある。

魔法使い(あと、通行人も巻き添え、に、………ん?)

 違和感。
 戦士が動きをとめた魔法使いに今がチャンスと殴りかかってきたが撥ね飛ばした。

 周りを見回す。

 誰もいない。
 ―――誰も、いない。

魔法使い(戦士にばかり気を取られていたが――これは…)

魔法使い「おい、戦士」

戦士「あ?」

魔法使い「お前は人払いを出来るのか?」

戦士「んなもんするぐらいならもっと技磨いてらぁ」

魔法使い「だよな…そこまで頭が回るほど賢くないよな…」

戦士「なんだとコラ」

 うるさいので再び足元を爆発させる。三連発。
 魔法使いは熟考し、そして

魔法使い「逃げるぞ、戦士」

戦士「は?」

魔法使い「周りの気配を探ってみろ。武器を持った人間が二十名」

戦士「……マジか」

魔法使い「しかも人払いをかけられているのに、だ。嵌められたな」

戦士「嵌められた?つまり…」

魔法使い「どちらかが勝っても、結局は奴等に殺される」

戦士「待てよ、意味わかんねぇよ」

魔法使い「お前は誰から薬を貰ったんだ?正直に言ってくれ」

戦士「……大臣さまだ」

魔法使い「ふん。じゃあ確実に私を殺しにきたか」

戦士「オレは?特に殺される理由ねぇぞ」

魔法使い「なにいってんだ」

 切羽詰まってきてなんだか笑えてきた。
 ひきつった笑みに戦士が引いた。

魔法使い「捨てゴマに決まってんじゃないか」

戦士「………」

 怒るかな、と魔法使いは身構えたがそうでもない。
 ただ静かに立ち尽くしているだけだ。

戦士「じゃあ」

魔法使い「なんだ」

戦士「オレを捨てゴマ扱いしてる奴らをぶっ殺してから、お前も殺す」

魔法使い「勝手にしろ」

戦士「逃げるか」

魔法使い「そうだな」

 杖で上に向かって大きく弧を描く。
 周りが大爆発していくつかの悲鳴が生まれた。

――魔王城

魔王「あ」

司書「……魔王さま?……」

魔王「いや、ちょっと遠くで誰かが危険なことにあっている気がしてな」

司書(……電波?……)

側近「魔王さま!」バサッ

魔王「どうした」

側近「反魔王派が城内で暴動を起こしているそうです」

魔王「ふむ。分かった」

司書「……我も行きますか……」

魔王「いや。お前はここを守れ、いいな?」

司書「……はい……」ドキドキ

側近(天然タラシ…か…)

短いけどここまで

魔王「おれと耳鼻科にいけ」魔法使い「自分で行けよ」

ちょっと男子ーやめなさいよー1が泣いちゃったじゃないー
耳鼻科はお休みでした

夜に投下です

――魔王城通路

 魔王がついた時、すでに暴動は終わっていた。

魔王「ご苦労だったな」

ゴブリン「このぐらいなんでもありませんよ」

 ゴブリンの持つ棍棒とトロールの拳にはどろりとした液体が付着していた。
 壁や床がそこまで損傷していないところを見ると厳しい戦いではなかったようだ。
 メイド達は慣れた手つきで速やかに掃除、補修をしていく。

魔王「生存者は?」

ゴブリン「ふたりです。あ、あと人魚がそろそろ来ます」

魔王「上々だ。いい部下を持った」

ゴブリン「褒めても何も出ませんって」

 トロールに押さえられている魔物を魔王は目を細めて見やる。
 金色の目からは思考が伺えない。

ミノタウロス「魔王さま、来ていたんですね」

 ミノタウロスの肩に乗せられて人魚が来た。

ゴブリン「…陸上げ」ボソッ

人魚「鼓膜破るわよ」

ゴブリン「それはやめて!」

ミノタウロス「暴れるな、落ちるから」

 ゆっくりと人魚を暴動を起こした魔物の前に降ろす。
 尾ひれで床をぱしぱし叩きながら人魚は問う。

人魚「分かってるわよね?覚悟は当然、してきたでしょ?」

 ふたりの魔物はそれには答えず、ただ恨みのこもった目で見返すだけ。

魔物α「……」

魔物β「……」

 人魚はやれやれとため息をつき、こほんと咳払いをした。
 白魚のような細い指が魔物αの頬を優しく、強く包み込んだ。

人魚「あなたが首謀者?」

 鈴のような軽やかな声。
 “人魚”の声は相手を惑わす。つまり、使い方によっては尋問時の武器となる。
 それが彼女が魔王に直直に仕える理由だ。
 人間のような足が生やせない代わりに声と魔法はずば抜けいる。

魔物α「チガう」

人魚「じゃあ他にいるのね。誰かは分かる?」

魔物α「ダイジン」

人魚「それは誰?」

 それに答えたのは意外な人物だった。

魔王「……そいつは人間だ」

人魚「え?」

ゴブリン「ん?」

トロール「なんで魔王さまガ?」

魔王「細かい事情は後だ。今は聞き出せるだけ聞いてくれ」

人魚「は、はい」

 分かったことはふたつ。

 その『大臣』は魔物と人間、両方を引き連れていること。
 今、人間の国を掌握していること。

魔王「人間のところまでか。なんだか糸が見えんな」

人魚「それは後で考えるとして……もういいですか?」

魔王「ああ」

魔物β「な、なにをするつもりだ!殺すなら早く――」ガタガタ

魔王「焦るなよ。お望み通りにしてやるから」

 彼は暴君でもなければ慈悲深くもない。
 功績を残した部下にはそれ相応の褒美をやるし、
 逆に今回のようなことを起こした部下はしかるべき処置をする。

魔王「人魚」

人魚「はい」

 ふたりの魔物以外は耳が聞こえなくなった。魔王が魔法をかけたのだ。
 彼が頷くのを見て、人魚はすっと息を吸い、歌い出す。

 崩壊の歌を。

人魚「~~♪」

魔王「……」

人魚「~♪……」コク

 歌が終わった時、魔物αとβは口から泡を吹き、白目で死んでいた。
 魔法を解く。

魔王「相変わらず、気持ち良さそうに歌うな」

人魚「私たちにとって歌は命ですもの。例えどんな内容でも」

ミノタウロス「それにしても、魔王さまならすぐに終わらせられたんじゃないんですか?」

魔王「おれは基本的に散らかるからな。メイドに申し訳ない」

メイド達「」オロオロ

ゴブリン(変なところで気遣いするんだよなぁこの方…)

魔王「さてと。司書を呼んでくれるか」

ミノタウロス「了解っす……人魚?」

人魚「水、ミズをぉぉぉぉ……」ブルブル

ゴブリン「やばい禁断症状が!」

トロール「近くの水につけてこなくちャ」

バタバタ ワアワア

魔大臣「あれっ?」

側近「全部終わってた」

ゴブリン「今まで何してたん?」

魔大臣「警戒措置をとらせるために城内を手分けして走り回ってた」

ミノタウロス「うん、お疲れ」

――街を抜けて

戦士「人払いの結界は!?」ダッダッ

魔法使い「抜けた!」タタタ
戦士「だとするともう誰が敵か分かんなくなるな」

魔法使い「攻撃してきたら敵だ」

戦士「そんぐらい分かっとるわ馬鹿!もういっそ辺りを…」

魔法使い「いいか、みだりに周りへ攻撃するなよ」

戦士「なんでだよ、討たれる前に討たないと」

魔法使い「この脳筋が。仕方がないだろ、一般人なんか攻撃してみろ」

戦士「誰が脳筋だゴルァ」

魔法使い「大臣のやつ、嬉々として私たちを犯罪者に祭り上げるぞ」

戦士「ぐっ」

魔法使い「あまり敵は増やしたくないんだ」

戦士「……じゃあ翼生やせよ。強くなれんだろ」

魔法使い「あのな、混血狩りとかあるんだから。結果的には敵増やすだけだろ」

戦士「なんかお前本当にめんどくさいな!」

魔法使い「私がいいたいぐらいだ!」

戦士「ちくしょう、恨むぞ大臣の野郎!」

魔法使い「それには私も同意だちくしょうめ!」

――人間の城の近く、酒場にて

マスター「どうやら国王さまが捕まったらしい」

「なんで?」

「嘘だろ。平和じゃねーか」

マスター「いや…風の噂なんだがな。真実かは知りゃせん」

マスター「なんでもフードを被った女が『国王が危ない』と言いに来たそうだ」

「どこに?」

マスター「憲兵隊詰所」

「だから最近せわしないのか」

「季節外れのジョークだろ」

ガタ

マスター「帰るのかい」

剣士「なんか、そういう気分じゃなくてな」

カランカラン

剣士「いったい何が起きてるんだか…」

剣士(いやに静かすぎるのも不気味だが)

スタスタ

剣士「ん?」ピタ

フード「……」

剣士(女、か?)

剣士「ここは治安があまり良くないから出歩かない方がいいぞ」

フード「今はそういうことも言ってられない状況なのです」

剣士「え?」

フード「」パサッ

剣士「え、あ、あ、ああっ!?」

僧侶「お久しぶりです、剣士さん」

僧侶「さっそくで悪いのですが――どうか、助けてください」

続く

剣士「そ、僧侶……?」

僧侶「はい」

剣士「僧侶…」

僧侶「そ、そうですよ。剣士さん?」

剣士「」ポロッ

僧侶「ええっ!?な、なにか失礼なことをしましたか!?」

剣士「違うんだ…ただ、毎日しょうがないとはいえオッサンに囲まれてて…」ポロポロ

僧侶「は、はあ」

僧侶(確かどこかに所属しているんですよね、剣士さんは)

剣士「鍛錬で汗臭い男と剣を交える日々…花のような芳しい香りなどあるはずもなく」グッ

僧侶「」オロオロ

剣士「そんなところに来たのが僧侶!女神か!天使か!」

僧侶(頭をやられてしまったのでしょうか)

剣士「あの日以来何度教会に行こうとしたか…しかし邪魔になると思い行けず…」

僧侶「き、基本的に来る人は拒みませんよ。お祈りの時以外は、いつでも」

剣士「優しい…やっぱり優しいよ僧侶…」

僧侶「…魔法使いさんには会わなかったんですか」

剣士「だってあいつ絶対『悪いが愚痴には付き合わない』で終わるぞ」

僧侶「…否定できません」

剣士「で、どうしたんだ?」

僧侶「話が元に戻るまでずいぶんかかりましたね…」

僧侶「出来れば、人のよらないところで話をしたいのですが」

剣士「じゃあ、借りてる部屋があるからそこへ来るか?」

僧侶「」カアッ

剣士(しまった!男の部屋に女の子呼ぶとかどう考えてもアウトだろ!)

僧侶「……剣士さんならいいですよ」

剣士「」

僧侶「元パーティーでしたし、信頼していますし…剣士さん?」

剣士「」

僧侶「立ったまま気絶していますね…」パシパシ

――剣士の部屋

剣士「今ランプに火をつけるから」シュボッ

僧侶「はい」

剣士「適当に座っていいよ。お茶持ってくる」

僧侶「そんな…悪いです」

剣士「いいからいいから」

僧侶(すっきりした部屋ですね)キョロキョロ

剣士「男の一人暮らしだからろくなもんねーけど」コト

僧侶「ありがとうございます」

剣士「で……なんだい?わざわざ遠くから来た理由は」

僧侶「その前にひとつ」

剣士「ん?」

僧侶「この話を全て信じてくれませんか」

剣士「分かった。信じよう」

僧侶「助かります」

剣士「こっちからも一つ…憲兵隊のところに言ったのは、僧侶?」

僧侶「……はい。しかしなかなか動いてくれないので、もう剣士さんしかいないと」

剣士「そ、そんなにオレを頼られると困っちゃうなー」テレッ

僧侶「話に入りますね」

剣士「……ハイ」

僧侶「まず、国王さま一家が捕らえられました」

剣士「!」

僧侶「もうお聞きですか?」

剣士「ああ……でもなんで表向きはあんなに静かなんだ?」

剣士「普通は『この国はおいらのだー』とか言うと思うが」

僧侶「ええ…普通は、その首謀者は大々的に公表するでしょうね」

剣士「時期を見計らっていたりするのか?」

僧侶「当たらずとも遠からず、です。まだ終わっていないのです」

剣士「というと?」

僧侶「この世界には大きく分けて王がふたりいるでしょう?『国王』と――」

剣士「――『魔王』!?次は魔王を捕まえるつもりなのか」

僧侶「単純な話、王をふたり倒せば人間と魔物、両方の王になれますからね」

剣士「バカげてる…国王はともかく、魔王は強いんじゃ」

僧侶「現魔王は戦慣れをしていないと聞きます」

剣士「というと…」

僧侶「単体なら最強ですが、軍隊を組んで行動をしたことがないとか」

剣士「そう言われればそうだな。魔王直直の戦争は最近ない」

僧侶「不意打ちや罠には恐らく善処できないのではないか、と言われています」

剣士「じゃあ…うまく行けば魔王も…」

僧侶「…はい」

剣士「そいつは誰なんだ?思い上がりも甚だしいそいつの名前は?」

僧侶「…大臣さま、です」

剣士「なっ!?」

僧侶「…わたしはあの人に近いため、このような話も多くされました」

僧侶「大臣さまは今、自らの望みのために堕ちています」

僧侶「もはやその姿は人間ではありません」

剣士「……」

僧侶「巻き込んでごめんなさい。でも、でも、この国は見えないところで危機に陥ってます」

剣士「危機…」

僧侶「わたしだけじゃもう……。どうか、国を…守ってください」

剣士「――分かっ」

バァン!

剣士「!」ジャキッ

大臣派兵「やっぱり裏切ったなぁ?この雌狐!」

僧侶「つけられていた…!?」

大臣派兵「教会の人間のくせに尻が軽いな!…まあ」ジャキンッ

大臣派兵「大臣さまのそばにいたてめーは前から気に入らなかったんだよ。ここで死ね」

剣士「後ろに下がってくれ」

僧侶「で、でも……」

剣士(敵は五人、なかなかの強者に見える)

剣士(しかもこの狭さだ。不利すぎる。だが、やるっきゃ――ないだろ)

大臣派兵「行け!」

大臣派兵A「ウオォォォ!!」

剣士「くっ」ガキンッ

ザシュッ

剣士「ひとり!」キィンキィン

大臣派兵B「ひでぶぅっ」ザシュッ

剣士「ふたり!っと――!?」

大臣派兵C「足元がお留守だ!」

剣士「うおっ」ドサッ

僧侶「剣士さんっ!!」

剣士「そ、僧侶!どけ、お前まで」

僧侶「嫌です!」

大臣派兵C「仲良く死―――あがっ」バタッ

剣士「……え?」

マスター「話は聞かせてもらった!!」

剣士「なんでマスター……」

「おい剣士が羨ましいシチュエーションしてる」

「ケッ」

マスター「怪我はありませんか、お嬢さん」

僧侶「は、はい」

剣士「どうしてマスターがここに?」

マスター「なんか変な奴いたから追いかけたらここに来た」

剣士「運いいんだなオレ。ってか、マスター強かったんだ…」

マスター「昔は騎士だったからな!酒が好きだから酒場を開いたが」

剣士「っあー…なんかもう、ドッと疲れが」

マスター「まだまだ夜は始まったばかりだ。お嬢さん、最初から話をしてくれないかな?」

僧侶「え?」

マスター「元は国に仕えていた身だ。国がピンチなら助けにいかないと」

僧侶「マスターさん…」

剣士「あれっ、これオレ空気?」

――魔王城、会議室

司書「……人間界の大臣ですか……」

魔王「ああ。そいつの情報はあるか?」

司書「……しばらくお待ちを……」フゥッ

ミノタウロス「魔王さま。なぜ大臣とかってやつをご存知だったんですか?」

魔王「…なんでだか大臣に嫌われてるやつがいてな。そいつから色々聞いたことがある」

側近(まだ混血の差別は色濃い…わざとはぐらかされましたか)

魔王「魔法を破る矢、魔法を使えるようになる薬。それらを開発したら張本人しい」

魔大臣「人間の技術力は底無しですね」

人魚「なんで人間って魔法に憧れるのかしらね」

トロール「なかなか手に入れられないからじゃなイ?」

ゴブリン「憧れって怖い」

司書「……魔王さま……」フゥ

ゴブリン「で、でたァ――――!!」

人魚「キャ―――――!!変態!!」

魔大臣「うるさい」

魔王「どうだった」

司書「……外からは人格者、生真面目、忠誠心のある有能な人材……」

ミノタウロス「そんな奴存在していたんだ…」

人魚「でも裏があったじゃない。そんなもんよ」

魔大臣「人間の技術力は底無しですね」

人魚「なんで人間って魔法に憧れるのかしらね」

トロール「なかなか手に入れられないからじゃなイ?」

ゴブリン「憧れって怖い」

司書「……魔王さま……」フゥ

ゴブリン「で、でたァ――――!!」ダキッ

人魚「キャ―――――!!抱きつくな変態!!」

魔大臣「うるさい」

魔王「どうだった」

司書「……外からは人格者、生真面目、忠誠心のある有能な人材……」

ミノタウロス「そんな奴存在していたんだ…」

人魚「でも裏があったじゃない。そんなもんよ」

司書「……ただ、親や生まれた場所、また城に勤めるまでどこにいたかは謎……」

魔王「ふむ」

司書「……なにか知られては都合が悪いらしく……」

魔王「都合の悪い過去か。助かった」

司書「……以上です。それでは……」フゥ

ゴブリン「びびったぁー」ドッキドッキ

人魚「びびりすぎ!しゃんとしなさいしゃんと!」

側近「ああもうお前らは…」

魔王(過去になにか罪を犯したのか?いや、ならとうに暴露されててもおかしくない)

魔王(親すらも隠しているとなれば、可能性のひとつに――)

バッタァァン!!

人魚「キャアアア―――!?」ダキッ

ゴブリン「ウワアアア――――!?」ダキッ

魔大臣「小心すぎるだろ」

側近「メイド長か。どうした」

メイド長「緊急。メイドが何人か突然倒れました。呪いの魔法かと」

ミノタウロス「なぜ呪いにかかった?」

メイド長「不明。今詳しいものに調査を以来しています」

魔王「……そのメイドたち、暴動起こしたやつらの死体や血に触れたか?」

メイド長「多分。――そこから呪いが?」

魔王「あらかじめ仕込ませていたかもしれんな」

魔王「見に行く。案内を」

メイド長「御意」

魔王「お前たちはそれぞれすぐに動かせる兵の数を出しておいてくれ」

側近「!」

魔大臣「というと?」

魔王「その大臣とやらがいつ何をやりだすか分からない」

トロール「仲間呼ブ」

ミノタウロス「こっちも」

魔王「緊張はしておけ。最後まで何もなくてもだ」

魔大臣・人魚・トロール・ゴブリン・ミノタウロス「了解!」

ゴブリン「あー!」

トロール「やばイ」

ゴブリン「棍棒でぶん殴っちゃったじゃん!」

トロール「殴っタ」

魔大臣「なんだって!?」

人魚「妙ね。見た感じ呪いにはかけられてないみたい」

側近「トロール族は昔から呪いには強いぞ。ゴブリン族は知らないが」

トロール「良かっタ」

ゴブリン「どうしようどうしよう」

魔王「なにか異変を感じたら早く言え。死なないようにはする」

ゴブリン「ぴぎゃー!」

――魔王城通路

魔王「メイド長は血には触れなかったのか?」

メイド長「肯定。触れました」

魔王「何か体調の違和感は?」

メイド長「否定。ありません」

魔王「ふむ。では何故爪を伸ばす」

メイド長「不、明。あ、れ?からだ、の制御が、いきなり」カクカク

魔王「どこかで操られてるか」

メイド長「危険。魔王さま、逃げてくださいま――」ガク

魔王「…ほう。意識までもか」

メイド長「ハハ!はじめましてだな、魔王サマ」

魔王「誰だ」

メイド長「そっちはもう首謀者が誰だか分かってるんじゃないか?」

魔王「大臣とか言ったな」

メイド長「大当たり。あいつらが吐いてるとは思っていたがね」

魔王「何が目的だ」

メイド長「そんなもの、あってないようなものだ。違うか」

魔王「知らんな。呪いの魔法をかけたのも貴様か」

メイド長「頼もしい私の部下だ。あれ、無理矢理解除すると死に至るからな」

魔王「なに?」

メイド長「人間界の城にご招待しよう。そしたら呪いも解こう」

魔王「ふん。もっと上手い招待をするべきだな」

メイド長「いいのか?来なかったらお前の可愛い部下は酷い苦しみの中死ぬぞ」

魔王「はん。三流の脅し文句か」

メイド長「本気だ。お前みたいなたかだか百歳二百歳の若造にはまだ未経験だろうがね」

魔王「……」

メイド長「さぁ宣戦布告もすんだ。ああ、残念ながら私が呼んだのは魔王だけだから、」

魔王「一人で来いってことだろう?そのぐらい予想できるさ」

メイド長「なら話は早い。来いよ、じゃないと…」

魔王「チョップ」ビシ

メイド長「鈍痛。わたくしはいったいなにを?」

魔王「何も。早く行こう、時間がない」

――魔王城医務室

医師「呪いです。無理矢理解除したら、命に関わるほど強力な」

魔王「嘘ではなかったか」

医師「はい?」

魔王「なんでもない。こちらの話だ」

医師「解決を急いでいますが……どうしたらいいものか」

魔王「なんとかする」

医師「魔王さま?」

魔王「なんとかしてくる」

――会議室

側近「魔王さま!ゴブリンが!」

魔王「…どうした?」

トロール「いきなり倒れて…意識が戻らなイ」

人魚「突然、突然に魔法が…巧妙な時限制の魔法だったみたいで…」

魔王「昏倒の呪文か…おい、ゴブリン」

ゴブリン「」

魔王「起きろ。聞こえるか、起きろ」

人魚「……っ」

ミノタウロス「チクショウ…!」

側近「……」

魔王「…彼を医務室に。おれは出掛けてくる」

側近「魔王さま、お一人で、ですか?」

魔王「ああ」

魔王「兵は側近、魔大臣で指揮をしろ」

側近「…は?」

魔大臣「えっ?」

魔王「もしも敵からおれの名前を出されても惑わされるな」

人魚「魔王さま!?いったい何を!」

魔王「なに、大切な部下たちに手を出されたお礼にいくんだよ」

ミノタウロス「大切な部下って、え、」

トロール「自分たチ?」

魔大臣(な、なんか嫌な前触れのデレかただな…)

魔王「ゴブリンの扱いは丁寧にな。お前らも無理をするな」

人魚「……ま、待って下さい!なんで今、そんなことを…」

魔王「なに、ちょっと遊びに行ってくるだけだ」バタン

側近「魔王、さま…」

――魔王城通路

サキュバス「魔王さま!」

魔王「サキュバスか。非戦闘員は安全な場所へ行け」

サキュバス「どこにいくの!?どうして皆を頼らないの!」

魔王「危険だ」

サキュバス「あたしたちは喜んで危険に飛び込むわよ!」

魔王「おれが良くない」

サキュバス「あなたが優しいのよ!魔王はもっと残酷であるべきだから!」

魔王「ふん。30年前、敵味方諸とも吹き飛ばしたおれが優しいと?」

サキュバス「優しいわよ…優しくなかったら、孤児になったあたしを城にいれてくれなかった」

魔王「……そんなこともあったな」

サキュバス「いかないで。事情はあるだろうけど――みんなを率いて戦って」

サキュバス「お願い、一人で戦わないで」

魔王「おれは一人じゃない。お前らがいるかぎりな」

サキュバス「またそんな…」

魔王「それに部下に手を出されたんだ。このまま黙っていられない」

サキュバス「あなたは…優しくて、脆くて、鈍感」

魔王「そうか」

サキュバス「でもそういうところも好きなのよ、魔王さま」

魔王「すまんな。他に、特別な相手がいるんだ」

サキュバス「なら仕方がないわ。寝取りは嫌いなの」

魔王「でも気持ちは嬉しい」

サキュバス「すっぱり断りなさいよ☆」

魔王「じゃあ行ってくる」

サキュバス「ええ。――ちゃんと帰ってきてね、お兄ちゃん」

魔王「懐かしいな」

サキュバス「あの頃は偉いひととは思わなかったからね~」

魔王「じゃ」

蝙蝠「トウッ」パタパタ

魔王「皆によろしく伝えてくれ」シュンッ

サキュバス「……」

サキュバス「えっ、今なんかいた?」

続く

――どこか

魔法使い「そうだ、城へ行こう」

戦士「軽いな」

魔法使い「状況が不明なところに乗り込むのは気乗りしないが仕方ない」

戦士「さすがに城はまだ大臣の手に落ちてないんじゃないか?」

魔法使い「どうなんだろうな。大臣はかなり汚い奴だから」

戦士「お前本当に嫌いなんだなあいつ」

魔法使い「戦士のほうがまだ二割はマシだ」

戦士「そうか、やっぱり予定を変更してここで殺るわ」ブォン

魔法使い「仲間割れをしている場合じゃない。…仲間というものなのかは知らんが」

戦士「自分の発言を見直してから仲間割れ云々言えよな」

魔法使い「話を戻して、だ。下手すると城の人間達が私たちの敵になっている可能性もあるぞ」

戦士「…冗談でもそういうのはやめろよ。頼るところがねーじゃん」

魔法使い「そうだな。じゃあ城に行くか」

戦士「待て。自分で話しときながらそれか。負ける。絶対負ける」

魔法使い「“戦士”だろ?負けるなんか思うな」

戦士「二対何百何千の兵で勝てると思ってんのかアホ!」

魔法使い「全てに立ち向かわなくてもいいじゃないか」

戦士「へ?」

魔法使い「なにをそんな几帳面に戦う必要がある?」

戦士「これだから魔王討伐の時からお前が苦手だったんだよ…」

魔法使い「なんだ、苦手だったのか」

戦士「お前の料理もろもろにな」

戦士「あのな、“戦士”は戦うことが誇りなんだ。戦わない道を選択するなんて恥だ」

魔法使い「じゃあいますぐその誇り捨てろ。まあ戦士のばあい埃被ってるだろうが」

戦士「無茶ぶり言うな!あとそのうまいこと言ったって顔やめろ!むかつく!」

魔法使い「冗談はともあれ、誇りに縛られてたら死ぬぞ。特に今回は」

戦士「……」

魔法使い「何も考えず戦えないんだよ。殴りあうだけじゃ駄目だ」

魔法使い「それに大臣はさっきも言ったように汚い奴だ」

戦士「……分かったよ!そんな説教しなくてもいいじゃねーか」

魔法使い「悪い」

戦士「しかし本当に二人だけで行くつもりか?」

魔法使い「……助っ人が欲しいところだがな」

戦士「ちょっと待ってみよう。この流れならもしかしたら助っ人が来るかもしれない」

魔法使い「そうだな」

 一分経過。

戦士「んなわけねーだろうが!!」

魔法使い「言い出しっぺのくせに何を言っているのやら」

戦士「都合良く助っ人なんか来るわけないよな!」

魔法使い「追っ手は来たけどな」

戦士「無駄話しすぎた」

魔法使い「うまくひっかかるといいが」トントン

戦士「……杖、新しくしたのか?」

魔法使い「ないと色々困るし」

 前方を見やれば追っ手がかけてくる。

戦士「おい、やばいんじゃ…」

魔法使い「大丈夫。走っていれば弓矢は使えないし」

 距離、五十メートルになって。
 魔法使いが一段と強く杖で地面を叩いた。

 がばっと地面に穴が開く。
 追っ手は抵抗できずに飲み込まれて消えた。

戦士「……死んだのか?」

魔法使い「いいや。数日後にここから吐き出されるよ」

戦士「お前、すげー魔法使うんだな」

魔法使い「そりゃどうも。じゃあ、城に行こうか?」

 そういってずりずりと地面に円を書き始めた。

戦士「なにしてんだ…?」

魔法使い「魔法との相性が悪くて思うままに使えないんだよ」ガリガリ

魔法使い「だからこうやってわざわざ陣を地面に書いているわけ」ガリガリ

魔法使い「最近魔法陣でも正確に転移できる魔法を教わったし」ガリガリ

戦士「…何か大変だな」

魔法使い「武器との相性みたいなもんさ」

魔法使い「できた」

戦士「大丈夫なんだろうな」

魔法使い「いけるだろ、多分」

戦士「不安すぎる」

魔法使い「位置的には城のそばに転移するぞ。いいな」

戦士「その方がいいだろ。なあ、これって衝撃とかあ―――」

シュンッ

――人間の城、門前

魔王「……」シュンッ

魔王「ここか」

 城門を一睨みして、魔王は歩き出した。
 よく“魔王”の外見を思い浮かべるとき、人間が考えがちなマントはない。
 そのため一見すると、真っ黒な出で立ちの青年が城へ歩いているように見えなくもない。

魔王「……」

 夜風が彼の髪を荒らす。
 もうじき月が真上にかかるだろう。

 胸元の真珠に気づいて魔王は苦笑をもらす。

魔王「まだ返してなかったな」

 それきり表情を消し去って、彼は闇へ消えた。



 だが。


 彼は多くの騒ぎの中で失念していた。
 “魔王”は無敵だ。どんな傷もたちどころに治す。

 そんな治癒効果すら、もっといえば“魔王”そのものの力を
 封じ込めてしまう代物があることを頭の隅に置きっぱなしにしていた。

 それが今入った城にある。
 これから会うことにある大臣がそれを持っている。


 ――魔王が“勇者”と一度でも斬り結んでいれば。
 それ専用の対策をとっていただろう。
 だが彼は若すぎたのだ。“魔王”として。


 すなわち、その名は。





―――『勇者の剣』






蝙蝠「ハッ」パチ

蝙蝠「チョットショウゲキガ、ツヨカッタヨ」

蝙蝠「アレ。マオウサマ、イッチャッタノカナ?」

蝙蝠「オイカケナクチャ。ボク、コノアタリシラナイシ」

蝙蝠「スッカリヨルダネ。ヨルハ、スキ」パタパタ

蝙蝠「マオウサマー」パタパタ

続く
剣士は強いんです…一応強いはずです…

――酒場

僧侶「……と、いうわけなんです」

マスター「なるほど」

僧侶「信じていただけるのですか?」

マスター「先ほどの奴等を締め上げたら同じ事を言っていたからね」

僧侶「締め上げた?」

剣士「気にしなくていい。マスターと仲良くなりたいなら」

僧侶「は、はぁ」

剣士「にしても大臣はなにをしようとしているのやら」

僧侶「それはわかりません。力を…とにかく、強い力が欲しいようでした」

マスター「力ねぇ」

「国王とかやばいやん」

「魔王も狙われてるんだろ?すげーな」

「早くなんとかしないと」

剣士「表だって何もされてないんじゃ手の出しようがない」

マスター「だな。しらばっくれられたらそこまでだ」

「目つけられるかもだしな」

「大人ってめんどくさい」

ザワザワ

剣士「あ、じゃあこうしよう」

僧侶「?」

剣士「魔物が城を襲おうとしているって偽の情報を言えばいい」

マスター「ほう」

剣士「そのために警備してるんです→内部探りという感じで」

マスター「うまくできるかどうかは分からないが…やってみる価値はある」

「なんたって国王が危機だしな」

「王女さん大丈夫かな」

僧侶「で、でもそれだと魔物の怒りを…」

マスター「なんなら話せばいいさ、さっきの話を」

僧侶「聞いてくれるでしょうか…」

剣士「賭けだな。魔王も大臣に侮辱されたも当然だから攻撃ぐらいはするかも」

マスター「ついでにこちらの被害も未知数、と……」

僧侶「……」

剣士「とりあえず、ありったけの兵力を集めよう。明日の朝までにだ!いいな!」

「おう!」

「連絡してくる」

「憲兵隊にも」

剣士「表向きは『魔物に攻められそうだから』な。誰が密告するか分からないから」

剣士「武器の手入れと食料もだ。いつ何がおこるか分からないぞ!」

「了解!」

「行くぞ!」

僧侶「…剣士さん、人望ありますね」

マスター「あれでも隊長候補だ。変に抜けているのが不安だがね」

僧侶「そうなんですか…」

僧侶(ちょっとかっこいいです、剣士さん)

僧侶(ところで魔法使いさんは今なにをしているのでしょうか…)

――城のそばの森

シュンッ

魔法使い「少し遠すぎたか」

魔法使い「ふむ……移動にてこずりそうだな。城につくまで何があるか」

魔法使い「戦士はどう思う?」

魔法使い「戦士?」

戦士「オロロロロロロロ」

魔法使い「なに吐いているんだ。武者震いならぬ武者吐きか」

戦士「ちげぇ!衝撃がやばすぎて気持ちわオロロ」

魔法使い「あのぐらい耐えろよ」

戦士「逆によく耐えられるな!毎日やったら死ぬわ!」

魔法使い「そうか、初心者にはきつかったか。私は耐性があるんだろうな」

戦士「移動は…確かにめんどいな。行くまでに襲撃されたら困る」

魔法使い「もう一度転移か」ガリガリ

戦士「待った、それで敵の中に放り込まれてもしばらく動けないぞ」

魔法使い「…そうか。無理矢理身体動かせと言っても、動かないもんは動かない」

戦士「地道に行くしかないな」

魔法使い「その前に」

戦士「ああ」

魔法使い「――周りを囲んでいる連中を始末しないとな」

戦士「そうだな」

戦士「この森に元々住んでいる魔物じゃないんだな?」

魔法使い「違う。この森は小さい魔物がほとんどだから

 ボンッと。
 当たったら爆散しかねない攻撃が四方から二人に向かってくる。

魔法使い「触るなよ!」

 魔法使いも光の球をいくつか出現させ、当てさせた。
 強い風と砂ぼこりが舞う。

戦士「来る!」

 砂ぼこりを掻き分け、敵が踊りかかってくる。
 見る限り全員魔物だ。

魔法使い「了解!」

 背中あわせになり戦士は拳で、魔法使いは強化した杖で相手を砕いていく。

 殴り、叩き、突き刺す。
 悲鳴と肉が潰れる音が断続的に響いていた。

魔法使い「ようやく半分だ」

戦士「気を抜くな」

 足下からきた魔物を蹴り飛ばす。
 魔法使いは魔法で石を浮かし、執拗に魔物へ当てていく。

 数は減ってきた。
 しかし疲労は重なっていく。

戦士「あっぐぅ!?」

魔法使い「戦士!?」

戦士「足をぶっ刺された…くそったれ!」

 何かを殴打する音が背中から聴こえる。
 しかし魔法使いも魔法使いで絶え間なくくる攻撃で振り向けない。

戦士「くっそ…」

戦士(足の感覚がほとんど消えた。立つのでやっとだ)

魔法使い「悪い、あとで薬草を渡す、今は辛抱してくれ!」

戦士「……わぁったよ。っと」

 首筋に噛みついてくる魔物に容赦なく頭突きをした。
 足の血が止まらない。
 間隙を縫って布で止血を試みたが、深すぎるようだ。

戦士「……」

魔法使い「っ」

 魔法使いが息を飲む。

魔法使い「最後の切札か!」

 見れば、残った五体が突き出した手に魔力を込めていた。

 邪魔をしようと杖を振り、

魔法使い「っぐ」

 五体のうちの一体が攻撃をしかけてきた。
 魔法使いの腕と手の甲が裂けた。

 直後に二体が崩れ落ちたが、残りの魔物たちは気にするようもない。
 いや、むしろ。
 今がチャンスとばかりに、飛びきり大きい攻撃の球を送り出す。

魔法使い「――させるか」

 応戦。
 二つの球はぶつかり合い牽制しあう。
 魔法使いがさらに力を放出すると魔物側の球は圧されていく。

 あともう一押し、というところで。



魔物「魔王、捕ラエタ」


魔法使い「―――は?」

 瞬間、集中力が途絶える。
 それに気づいたころにはもう魔法使いの目前に死が迫っていた。

戦士「魔法使い!!」

 横から強い力で押された。
 堪らずに数メートル吹っ飛ぶ。

 振り向いて、彼の姿を認める。
 球に真正面から立ち向かう戦士を。

魔法使い「せん――」

 ゴウッという音がやけに耳に焼き付いた。

 轟音。
 強い光があたりを照らす。

 一通り落ち着いたあと、魔法使いは唇を震わせながら呼ぶ。

魔法使い「戦士……?」

 砂ぼこりを手で払うように振ると、すぐさま視界が透明になる。
 人間が横たわっていた。

魔法使い「うそ」

 両腕の肘から下がない。
 あちこちが焼け焦げ、悲惨な有り様だった。

魔法使い「戦士!なんで!」

 胸元を叩いて呼びかける。
 薬草でどうにかなるレベルの損傷ではない。

戦士「………い…」

魔法使い「戦士!」

戦士「あ……オレ、原型残っ……さすが、強化……魔法…」

魔法使い「なんで…なんで私を!」

戦士「女に……戦わせん……の、恥、だから」

魔法使い「誇りのためか!?でも、結果がこれだ馬鹿!」

戦士「……オレ、さぁ……勇者、になりたくて………」

戦士「でも、なれなくて……さ」

魔法使い「……」

戦士「あんな…こと、した……償い……」

魔法使い「私を殺さないのか。大臣を殺さないのか!?」

戦士「足……も、ダメだったから。動くの、無理……だった」

魔法使い「……」

戦士「足手、まとい、よりは、いいだろ?」

魔法使い「馬鹿……お前なんか見とりたくなかった」

戦士「オレも……できれば、王女、さまが、良かった、なぁ……」

魔法使い「あはは…わがままなやつ」

戦士「なぁ……オレから、必要なの、持ってけ…」

魔法使い「ああ」

戦士「埋めなく……いいから…体力、使う」

魔法使い「ああ」

戦士「勝てよ」

魔法使い「必ずだ」

戦士「……僧侶と、剣士にも……よろしく」

魔法使い「分かった」

戦士「………」

魔法使い「………」

魔法使い「止まった」

 見渡せば、魔物が増えていた。
 ちらほら人間も見える。
 騒ぎで集まってきたらしい。

魔法使い「……もっと早く魔物化していれば良かったな…」

魔法使い「でもなんでか……感情が高ぶらないとなれないんだよ、戦士」

魔法使い「ごめんな。都合が悪いやつで、ごめん」

 翼が少女の背から生える。
 鷲の大きく獰猛な翼が。

魔法使い「一人で逝くのは寂しいだろ?すぐ賑やかにしてやるから」


 一対数十。

 圧倒的な数の中、魔法使いは笑った。

――酒場

僧侶「あ」

剣士「どうした?」

僧侶「いえ…なにか、今、感じまして」

剣士「感じた?」

僧侶「…『戦いの中死ぬなら本望だ』」

剣士「……それ、戦士が昔言ってたやつ?」

僧侶「あれ、そうですね。なんで突然こんなことを…」

剣士「……」

僧侶「……」

剣士「…なんか、胸がざわめく夜だ」

僧侶「ええ…」

続く
彼はこんな終わりで良かったのか悩んでる

――城のそばの森

魔法使い「はぁ……はぁ……」

 血まみれだった。
 彼女自身の血と彼女のではない血で。

 まだ息のある人間を見つけ、胸ぐらをつかんで中吊りにした。

魔法使い「教えろ。魔王が捕まったとはどういうことだ」

生き残りの兵「ひっ…自分は何も知らねぇ!ただ、魔王を誘き寄せたとは聞いたが…」

魔法使い「誘き寄せた?一体どうやってだ」

生き残りの兵「わ、分かんねぇ……本当だよ、分かんねぇんだ…」

魔法使い「そうか」

 そのまま落とした。
 「ぐぇ」と足下から声がしたが気にしない。

生き残りの兵「頼むよ……見逃してくれないか」

 魔法使いの足首にすがって人間は言う。

魔法使い「……」

生き残りの兵「妻子がいるんだよ……」

魔法使い「勝手にしろ」

 足首に絡まる手を振り払い、完全に興味をなくして踵をかえした。

生き残りの兵「なぁんてな化物がァァァァァ!!」

 隠し持っていたナイフで人間が魔法使いの首筋を狙う。
 素早い動きで彼女は振りかえると、ナイフをかわしつつ右手を固めて顔面を殴った。
 湿った嫌な音がした。

魔法使い「これで終わりか」

魔法使い「みんな死んじゃった」

 感情もなく呟くとそのまま崩れ落ちた。

魔法使い(まおう……)

魔法使い(まおう、あぶないなら、たすけにいかなきゃ)

 しかし手はおろか身体に力が入らない。

魔法使い「バッカだなぁ――体力使い果たした…」

 夜風がふいて魔法使いの短い髪を優しく撫でた。
 静かだった。

??「うわ、すごいな」

 意識のどこかで声が響いた。

魔法使い「……あなた、は」

黒髪の男「よー」

魔法使い「こんばんは…」

黒髪の男「魔力使い果たしたな。頑張りすぎだろ」

魔法使い「はは…」

黒髪の男「力が欲しいか」

魔法使い「怪しい匂いしかしないのでいいです」

黒髪の男「単純に魔力だよ、魔力」

魔法使い「いいです」

黒髪の男「大丈夫大丈夫。――ちっと俺の魔力を渡してほしい奴もいるし」

魔法使い「話だけは聞きましょう」

黒髪の男「目が虚ろなんだが。生きてるか?おーい」

魔法使い「行かなきゃ…」ググ

黒髪の男「そんなボロボロでか?」

魔法使い「国が……魔王が……」グググ

黒髪の男「やめな姉ちゃん。死ぬぜ」

魔法使い「え……性別」

黒髪の男「俺にはお見通しだよ。なんでもな」

魔法使い「……」バタッ

黒髪の男「あ、死んだ」

黒髪の男「……生きてた生きてた、びっくりした」

黒髪の男「少し寝てろよ姉ちゃん。まだ始まってすらないぜ」

黒髪の男「っと、傷口失礼……」

 指で皮膚を噛みきり、魔法使いの傷口と接触させる。

魔法使い「ん……」

黒髪の男「いま渡した魔力の半分は魔王にやってくれ」

魔法使い「あなたは…誰なんですか?」

 質問しながら意識が沈んでいく。
 手足の隅々が暖まっていくのをぼんやり知覚する。
 本当に魔力を流し込んでいるのか。

黒髪の男「知りたいか。知りたいよな」

 なにか言っている。
 でももう眠気が限界だ。

 月を背にしたその姿がとても誰かにそっくりだった。
 その誰かの名前もモヤがかってきている。

 それでもその誰かの、あの金色の瞳が見たかった。

 黒髪の男が何やら言ったとき、魔法使いの意識は深く落ちた。


黒髪の男「俺はほんの少し前まで魔物の国を治めていた、王だよ」

――同時刻、魔王城で

魔大臣「魔王さまが……?それは本当か?」

鳩「クルッポー」

魔大臣「勇者の剣…!?そういやあんなもんあったか」

鳩「クルッポー」

側近「兵の収集を頼む。女子供はいいから」

鳩「クルッポー」バサッ

トロール「するト?」

人魚「…どうする?」

魔大臣「決まっているだろう」

側近「人間の城に行くぞ」

――人間の城、牢

国王「…………で」

魔王「なんだ」

国王「何やっとるんじゃお主は…」

魔王「捕まった」

国王「魔王はそんなにあっさり捕まるものか!?」

魔王「傷口に響く。もっと静かに話してくれ、人間の王よ」

国王「激戦と聞いたが……」

魔王「おれ対二百な。しかも対魔物用の矢」

国王「……」

魔王「不意討ちの不意討ちの不意討ちで脇腹にこれ――『勇者の剣』を刺されてな」

国王「……」

魔王「後は分かるだろ」

国王「いや、分からん」

魔王「理解力のないじいさんだな」

国王「どうして畏怖されてきた魔王が全身ボロボロなのか理解できんのじゃ…」

魔王「簡単だよ。刺されたとたん、力をほぼコイツが封印してただの人間当然となって」

魔王「残ってた十二人に殴る蹴るされていた。ざっと二時間」

国王「ということは最後の力を振り絞ったんじゃな…」

魔王「その頃には疲れていたしな」

国王「しかし、さっきお主を連行してきたのは大臣含め六名じゃったが」

魔王「四人死体にして三人足もいでおいたからな」

国王「うわぁ」

魔王「あー、でもしくったな。あいつら上手くやれてるかな」

国王(すごく人間味があるのう……)

魔王「じいさん、これ抜いてくれないか」

国王「互いに鎖に繋がれてるから無理じゃな」

魔王「おれとか身動ぎすらできない。待遇の改善を訴えるべきだな」

国王「……」

魔王「というよりこれ、後ろに突き刺してるのか?馬鹿か?抜けないだろ」

国王「しかし不思議じゃな……なぜ“勇者”でもないのに使えたのか」

魔王「触るだけならできるヤツもいるだろうさ。人間に関わらず魔物だって」

国王「そ……そうなのか」

魔王「ただ使えるかは別問題だ。今回は魔法を使って飛ばしてきやがった」

国王「とんでもない戦闘じゃったんだな……」

魔王「まあな。魔力封じられてるから傷も治らない。不便だ」

国王「…“勇者”はよくこんな奴と戦えるのう…」

魔王「だったら送り込むのやめろよ。前代国王は“勇者”を送り込まなかったぞ」

国王「新しい“魔王”になったって聞いたから早めに潰そうと…」

魔王「“勇者”のほうが先に潰されたが」

国王「あれ、一体何が問題だったんじゃろうな……」

魔王「人材」

国王「……」

魔王「さらに言うなら、国王の判断ミス」

国王「やめてくれ!こんなことになってるから凹んどるんじゃて!」

魔王「暇だから仕方ない」

国王「暇だから人の心を抉っとるのか!」

魔王「いいじゃねぇか。ボケ予防になるんじゃないか」

国王「逆にストレスばかりが溜まりそうで嫌なんじゃが」

魔王「王はそんなもんだろ」

国王「だれのせいじゃだれの」


見張り(仲良しだなー)

魔王「――お」

国王「?」

魔王「明るくなるにつれて、色んな気配がしてきたな」

国王「分かるのか…?魔力封じられているのに」

魔王「こんなもん魔力を使うまででもない。生まれつきだ」

国王「……」

魔王「ふん。さて、おれを助けにきてくれる者はいるのかどうか」

魔王「それに誰が勝者となるのか――楽しみだな」ニィ

国王「」ゾク

魔王「あ、いてっ。頬が腫れてるんだった」

国王「………………」

――城の前

僧侶「夜明けですね……」

剣士「長い戦いになるぞ」

偵察「たたたた、大変だーーっ!!」

剣士「なんだどうした」

偵察「あ、あああああっちの向こうから、向こうから!」

マスター「落ち着け。向こうからなんだって?」

偵察「魔物が!戦の恰好をした魔物達が近づいてくる!」

マスター「」

剣士「」

僧侶「」

――城の前付近、魔物側

ザッザッ

側近「?何故人間が」

ミノタウロス「あちらさんも同じ事情なんじゃ?」

魔大臣「なるほど。国王が云々とか言っていたな」

ミノタウロス「大臣ってやつは凄いなまったく。馬鹿か天才か」

側近「むぅ、上手く手を組めないものか。さすがに二つと争うのは厳しい」

魔大臣「それはあちらさんの出方によるだろうな」

トロール「脅しで攻撃すル?」

魔大臣「しない。静観だ」

ミノタウロス「果たして人間側に静観する余裕はあるかどうか…」

――城内、どこか

大臣「始まるぞ!私の記念すべき日が!」

大臣「魔物も人間も入り乱れて争うがいい!」

大臣「お前達の王は私だ!」

大臣「踊れ!歌え!そして手のひらで転がり続けていればいい!」




そして日が昇った。



続く。
魔王さまは戦闘なれしていないの!弱いわけじゃないの!

――城門前

ヒュオオオオ…

側近(城の護りは固い。恐らく我々が飛んでも打ち落とされる)

側近(なんとかあの護りを破れば中へ入れるんだろうが)

側近(そこまでに被害は出したくないな)

側近(しかし、目下問題は)

側近(百、二百メートルそばに人間がいるってこれどんな状況だ)

トロール「近いなア」

ミノタウロス「おかげで硬直状態が続いているんだけどな」

魔大臣「これじゃ日が暮れてしまうぞ」

ミノタウロス「昇ったばかりなのに?」

ヒュオオオオ…

剣士(ある意味、今日一日が全てを決めるだろう)

剣士(ぐずぐずしてられない。ただ――警備が固すぎる)

剣士(ここで兵を減らすのは避けたいところだ)

剣士(しかし……)

僧侶「こ、こんな近くにたくさん魔物がいますよ…」

マスター「妙な緊張感があるな…」

剣士「ああもうどうすれば!!」

 人間と魔物は相容れない。

側近「……」

 だが、協力を申し出たいし、協力をしてほしい。

剣士「……」

 少なくとも自分たちだけで勝てるような相手ではない。

魔大臣「……」

 大臣派には人間と魔物が入り交じっていると聞く。

僧侶「……」

 共に戦った方がよいに決まっている。

ミノタウロス「……」

 だが、長年の確執が交渉を邪魔していた。

マスター「……」

 ふと、剣士と側近両者は後ろのほうが騒がしくなったことに気づいた。
 緊張感を持てと剣士が怒鳴る。後ろまで聞こるたかはともかく。
 同じように側近も怒鳴ろうとしたが、声が出なかった。

 おぞましいほどの魔力を感じたからだ。

魔大臣「な、なんだ――この魔力は」

ミノタウロス「でかすぎる!なにが来るんだよ!?」

トロール「……」

側近「……鳩、誰がいるか、分かるか」

鳩「クルッポー」バサッ

側近「そうか……来たのか」

 ざわざわとした声は前へと移動してくる。
 人間と魔物の間にできた道を歩いてきているようだ。

ミノタウロス「攻撃は?」

側近「やめろ。絶対にだ!」

ミノタウロス「あ、ああ……」

 人影が見える。
 端がボロボロになったローブ。
 短髪。
 そして、背には大きな翼。

魔大臣「……混血か?」

側近「鷲族唯一の生き残りだ」

魔大臣「なっ!?」

側近「安心しろ、あいつは我々の味方となってくれる」

側近(目的は――やはり魔王さまか?)

剣士「なんだあれ……混血か?」

マスター「みたいだな。しかし何故ここに…」

人間兵「攻撃体制は整っております!」

剣士「まだ攻撃をするな。このまま様子見だ」

人間兵「はっ」

僧侶「……」

剣士「僧侶?」

僧侶「あれ……もしかして!」ダッ

剣士「あっ、僧侶!?」ダッ

マスター「…知り合いか?いやまさかな…」

……

側近「やはり小娘か」バサッ

魔法使い「側近さん」

側近「なんだその有り様は…何があった?」

魔法使い「なんでもありません」

側近「…見たところ傷は治ってるようだから追求はしないが」

魔法使い「助かります。ところで魔王は、あの中ですか」

側近「そうだ」

ダダダダッ

側近「!?」

魔法使い「……僧侶」

僧侶「勇者パーティの時のか」

魔法使い「はい。……こんな姿をみせてしまうのか」

側近「……」

僧侶「はっ、はぁっ……きゃあっ!?」ガンッ

 魔法使いまであと僅か、というところで僧侶はつまずいた。
 そのまま重力に引っ張られ地面とご対面になるところで、ふわりと支えられる。

魔法使い「…こんなとこで怪我を作るなよ」

僧侶「す、すいません…じゃなくて!」

 黄色がかかった目、首や手首から生える羽毛、そして翼。
 それらを見て、最後に魔法使いの顔を見て僧侶は笑った。

僧侶「魔法使いさん!」ギュッ

魔法使い「私だと…分かるのか?」

僧侶「もちろんですよ!」

魔法使い「僧侶」

僧侶「はい」

魔法使い「私は、混血なんだ」

僧侶「そうみたいですね」

魔法使い「化物だぞ。それでも以前のように話してくれるのか」

僧侶「関係ありません。魔法使いさんは魔法使いさんですから」

魔法使い「…ありがとう」

僧侶「いいえ。――着ているものが汚れていますが、どうしたんですか?」

魔法使い「ちょっと色々ね。僧侶、傷の様子は?」

僧侶「片腕にもだいぶ慣れました。利き手じゃなくて良かったですよ」

魔法使い「そうか。強いな」

僧侶「えへへ」



剣士「……僧侶!」

 僧侶がこけ、混血に抱き止められた時に剣士は声を出していた。

剣士「僧侶から手をはな――」

側近「やめんか」

 いつのまにか側にきていた鷹の魔物に翼で叩かれた。

剣士「な、なんだ魔物!やるか!?」

側近「おちつけ餓鬼」

剣士「餓鬼…」

側近「よく顔を見ろ。見覚えがあるんじゃないのか?」

剣士「見覚えって――魔法使い!?」

側近「このアホタレ。仲間の顔すら忘れていたのか」

剣士(気づかなくて悪かったけど、なんで魔物に説教されてんだろ)

側近「それに、軽々しく小娘に混血というな。あいつ気にするから」

剣士「小娘?誰が?」

側近「魔法使いのことだが」

剣士「」

側近「そうか、ずっと男として通してきたんだったか」

側近「…本人の口からのほうが良かったか?」

剣士「う、嘘だ……」

側近「?」

剣士「あんなツルペタなやつが女なわけないじゃないかー!!」

 直後、剣士の足下が軽く爆発を起こした。

僧侶「ま、魔法使いさん!?」

魔法使い「悪い、つい反応してしまった」

僧侶「何にですか?」タユン

魔法使い「……なんでもないよ」

剣士「お、おらー!魔法使い!なにすんじゃ!」

魔法使い「すまない」

剣士「すまないですんだら憲兵隊いらぬわ!」

側近「そろそろ話を進めないか」

 魔物側からは側近、魔大臣。
 人間側からは剣士、僧侶。
 そして――どちらでもあって、どちらでもない側の魔法使い。

 五人が円となり座った。

側近「攻撃は?」

魔法使い「まだのようです。恐らく、兵全体が動いたら攻撃するかと」

剣士「で、どーすんだ?」

魔法使い「僧侶、城について説明してくれないか。魔物は知らないんだ」

僧侶「は、はい」

 僧侶が説明を始める。

 まず城門を入ると大きな出入り口が。そこをとおると中庭がある。
 右にいけば王室と謁見室、左にいけば客間。正面は次の中庭へと。
 階は不明だが、五、六階以上はあるはず。
 そして地下もある。

魔大臣「正直、人間と組ませた方が早いかもな」

僧侶「でしょうね。複雑ですから」

剣士「……それを連中が納得してくれるかどうか」

魔法使い「納得させるしか、ない」

剣士「……だな」

側近「今は、魔物だから人間だからと言っている場合じゃないからな」

魔法使い「じゃあ、頼んだ。側近さんと剣士が言ってくれ」

剣士「オレの声届くかな」

魔法使い「ん、ちょっと待て――よし。しばらくは大声になる」パァ

側近「こちらは大丈夫だ。じゃあまずは……」

 バサリ、と側近は飛び魔王軍を見下ろす。

側近「聞け!」

側近「今、我々は人間と手を組まなければ勝てない!」

 ざわざわ。

側近「我らだけでは不十分で――人間だけでも不十分だ!」

側近「一時、力を貸してやってくれ!しばらくは因縁なんかは無しだ!」

 ……。

側近「嫌なら帰れ。魔王さまに忠誠を誓いたいなら、残れ!!」

 ウオオッ――!と魔物が吠えた。
 去るものはいなかった。

剣士「さぁ国王軍ども!よく聞け!」

剣士「まず――わりぃ、魔物が攻めてるのは嘘な!」

 えええーっとブーイング。
 しかし誰かがばらしていたのかそこまで混乱はなかった。

剣士「今から向かうはなんか勘違いした大臣のところだ!」

剣士「そいつに国王さまは捕まった!」

剣士「しかもだ!やつは人間と魔物がごっちゃな軍を作ってるらしい!」

剣士「ならこちらも人間と魔物で行くぞ!」

剣士「倒せ!救え!」

剣士「少しだけでいい、魔物と手を組むんだ!そして、共に戦え!」

剣士「誰も死ぬなよ!以上!」

 割れるような歓声。

僧侶「……すごいですね」

魔法使い「ああ」

魔大臣「さすが側近といったところか」

魔法使い「すごくスムーズに行くってわけじゃないが…勝ち目はある」スッ

魔大臣「…どこにいく、混血」

魔法使い「混血は嫌いか?」

魔大臣「……」

魔法使い「殺したいなら全て終わってからにしてくれ」

僧侶「魔法使いさん、どこに!?」

魔法使い「お先にいかせてもらう。僧侶、あなたは危ないから援護に行ってくれ」

僧侶「魔法使いさんだって!」

 魔法使いは笑って僧侶の頭を撫でた。

魔法使い「行かなきゃ」

僧侶「……」

魔法使い「道を開ける。そしたらすぐに侵入を開始してくれ」

側近「…お前だけで大丈夫か」バサッ

魔法使い「今の私は、周りを巻き込みかねないから」

側近「……なら、行ってこい」

魔法使い「行ってきます」

魔大臣「混血」

魔法使い「?」

魔大臣「確かに、あまり混血は良く思っていないが――」

魔大臣「別に嫌いなわけじゃない。――それに、おまえのようなやつは好感が持てる」

魔法使い「…そう」

 歩き出す。
 城門と城壁が騒がしくなった。
 侵入者を排除するために。

剣士「魔法使い!」

魔法使い「?」

剣士「帰ったら色々聞かせてく」れ、で魔法が切れたらしい。

 一度だけ大きく手をふった。

魔法使い「さぁて」

 侵入を防ぐために仕舞われていた、堀の上にかかる橋を魔法で下ろした。
 その上を通りながら矢を風や小石で避けていく。

 固く閉じられた城門をやはり魔法でこじ開け、蹴り飛ばした。

 重い音をたてながら目に入るは数百の兵。

魔法使い「はは、一番乗りで良かった」

 目の前いっぱいに多数の魔法陣を展開する。
 有り余るほど魔力があるために今ならかなり無茶しても大丈夫そうだ。

魔法使い(魔王に渡さないといけない分もあるけど)

 あと数秒で幾百もの攻撃が魔法使いを仕留めんと向かっていくだろう
 彼女は口の端を歪めて呟いた。



魔法使い「―――しんじゃえ」


 攻撃は同時だった。

魔法使いさんキレモードで次回
好きな演説はヘルシングのあのお方

すみません、僕の胃腸で先に戦争が始まってしまったので
投下が突然とまる可能性がありますご了承ください

――城門前

ドーン ドカン バン

僧侶「容赦が全然ありませんね、魔法使いさん…」

剣士「すっげぇ…もうあいつ一人でいいんじゃないか?」

側近「たわけ。あくまでもあいつは我々のために道を開けているだけだ」

側近「本番は我々が動いてからだ、違うか?」

剣士「う」

僧侶(どうしてこの鷹の魔物さんは剣士さんに厳しいのかな…)

魔大臣「して、どのタイミングで行く?」

側近「まだだな。あの破壊音が一通り落ち着いてきたら」

ドバーン

僧侶「火が一瞬見えましたよ!?」

側近「…はっちゃけているなぁ」

魔大臣「解らんな…」

側近「なにがだ」

魔大臣「なぜここまで必死に我々に協力してくれるのか」

魔大臣「混血達は普通、迫害されてきたのもあってこちらを恨んでいるはずだ」

側近「…ああ」

魔大臣「なのに……こうも手を貸してくれている」

側近「そうだな」

魔大臣「あの混血はなんのために戦っているんだ?」

側近「決まっている」

魔大臣「?」

側近「大事なひとのためだ」

――城内、中庭

魔法使い「だいたいやったか……」

魔法使い「そこ。死んだふりは見苦しいぞ」ゲシ

「~~!?」

魔法使い「魔王は?国王は?どこにいる?」

「だ、誰が教え……」

魔法使い「そういう台詞には飽きた。苦痛を味わいたいなら構わない」

「ど、どちらにしろ生きてないだろうよ!」

「国王は大臣さまに全てを明け渡し、魔王は魂を搾り取られて」

「もうじき生首が仲良く並ぶこ――びしっ」グシャッ

魔法使い「あ。靴が汚れてしまった」

 

魔法使い「そっちも顔が汚れたな。まあお互いさまだ」スタスタ

魔法使い(こちらが騒いでいる間にあいつは着々と行動しているわけか)

魔法使い(ちんたらしてられないな。ついた時には手遅れとなりかねない)

魔法使い「……」スッ

魔法使い(得体の知れない魔力やらで正確にしぼりこむことは難しいが)

魔法使い(魔王を閉じ込めているならそれなりの魔力がかけられているはず)

魔法使い「ん?……これは……」

魔法使い(この穢れのない魔力は……『勇者の剣』?)

魔法使い「……」

魔法使い「ひとまず、一切の疑問は置いておくとして」

魔法使い(場所はここから少し遠いようだな)

魔法使い(…『勇者の剣』は魔王の力を押さえつける力があったはず)

魔法使い(つまり――うん)

魔法使い「行ってみるしか、ないか」

ザザザザ

魔法使い「……その前に」

 どこかからわいてきた兵士達を一瞥する。

魔法使い「お相手しなきゃいけないか」

――牢

キィ…

魔王「よぉ」

大臣「…拘束されているというのに余裕そうだな」

魔王「そうでもない。萎れている方が好みだったか?しないが」

大臣「ふっ、この状況でその返答か。さすが王だな」

魔王「で、なんの土産を持ってきた。それを見せるために来たんだろ」

大臣「目ざといな。だが、ただ見せるだけではない」パサッ

魔王「水晶?」

大臣「ただの水晶じゃあない」

大臣「対象の生命力を封印する代物だ」

魔王「ふむ。嫌な予感しかしない」

 口元をひくつかせる魔王を横目に、大臣は魔法陣を書き、真ん中に水晶をのせる。

魔王「生命力を肉体から水晶に移すということか」

大臣「その通り」

魔王「すると、肉体のほうは?」

大臣「ただの肉と成り果てる。オイルのないランプのようなものだ」

魔王「…そして朽ちていくのか」

大臣「察しがいいな」

魔王「おれに死ねと」

大臣「そうだ」

魔王「面白いやつだな」

大臣「強情をはるのも今のうちだ。せいぜい苦しんで死ね」

魔王「死ぬのは貴様だ」

大臣「私が?ひとをおちょくるのも程々にしておけよ、魔王」

魔王「なに偉ぶってんだよ大臣。滑稽極まりないぜ」

大臣「な――」

魔王「そもそも“魔王”を殺すのは“勇者”しかいないんだよ」

魔王「それとも“勇者”になりたかったのか――混血」

大臣「っ!」

魔王「おいおい、そんなに驚くなって」

大臣「なぜそれを……」

魔王「魔王に隠し事ができると?一目で分かったよ」

魔王「なんか分かるんだよ。独特のオーラというか」

大臣「……」

魔王「そう考えると疑問に思っていたことも解決する」

大臣「わ、私が、汚らわしい混血?冗談もほどほどにしろ」

魔王「認めろよ」

大臣「黙れェ!!」ガッ

魔王「ぐふ」

大臣「どうやら、まだ、上下関係が、分からない、ようだな?」ガッガッガッガッ

魔王「って言ってもだ。このぐらいで逆転すると思うなよ?」

大臣「……っ。そこで戯言を言っていろ!」ツカツカ

魔王「……」

魔王「あー、いってぇ…」

国王「」

魔王「おっさん。おっさん?」

国王「はっ!」

魔王「いや暴力シーンで固まるなよ。どれだけ平和に生きてきたんだ」

国王「昔から苦手での…」

魔王「ああそうかい」

魔王(少しずつだるくなってきた。こいつのせいか)

国王「水晶に光が…」

魔王「憎い演出だ。最後には煌々としているんだろきっと」

国王「だ、大丈夫なのか?」

魔王「今はな」

魔王(ここに誰がくるのが先か、おれがくたばるのが先か)

魔王「……」

魔王(何故魔法使いの顔が浮かぶ?)

国王「これからどうなるんかの…」

国王「后と娘は無事なのかも気になるし…」

魔王「うるさいなおっさんは」

国王「おっさんでもなければじいさんでもない!あと統一しろ!」

魔王「細かいことはいいんだよじっさん」

国王「ま、混ぜおった」

魔王「独り言は自分の胸のなかでやってくれ。おれは寝る」

国王「お、おい」

魔王「」スー

国王「早っ」

国王(水晶の光がさらに強くなっている…)

――城内、通路

魔法使い「……」スタスタ

??「おっとここから先は通さないぜっ!」バッ

魔法使い「邪魔」

??「大臣さまの右腕候補!その名前は――」

魔法使い「邪魔」ゴスッ

??「ぐぇ」バタ

???「兄者ー!!おのれ、よくも!」

魔法使い「邪魔」ガスッ

???「ぐわ」バタ

魔法使い「――はぁ」

魔法使い「魔王がピンチな気がしたんだが…大丈夫かな」スタスタ

つづく
剣士は僧侶とフラグたてたら終わりな気がする

――城門

マスター「頃合いだ。行くか」

剣士「そうだな」

僧侶「剣士さん――」

剣士「僧侶は危ないから、後ろで治療班にまわってくれ」

僧侶「わたし、大臣さまを……救いたいんです」

剣士「……」

僧侶「勝手なのは分かっています。わがままなのは知っています」

僧侶「でも……かつてあの人は、わたしの居場所を作ってくれたから…」

僧侶「お願いします!一緒に連れていってください!」

剣士「……」

マスター「行かせてやれよ」

剣士「そんな無責任な」

マスター「お嬢さん」

僧侶「は、はい!」

マスター「死ぬ覚悟はできてるかい?戦場は誰であろうと死ぬぜ」

僧侶「できてます!」

マスター「もし死んでも恨みっこなしだ。いいな?」

僧侶「はい!」

マスター「まぁ剣士が守ってくれると思うけど。な?」

剣士「え?」

マスター「なんだ、守れないのか」

剣士「ま、守れるぞ!僧侶はオレの命をかけても守るから!!」

僧侶「け、剣士さん」カァァ

剣士「あ、いやその…うん、頑張るから」カァ

僧侶「お、お願いします」

側近「……」

ミノタウロス「どうしたん?こっち準備できたが」

側近「いや……あの小僧、見てて不安だなと」

ミノタウロス「ああ…」

側近「軍、動かすか」

魔大臣「そうしよう」

魔大臣「トロール達が先に行ってくれ」

トロール「分かっタ」ノシノシ

魔大臣「隊列を組め!進むぞ!」

剣士「おっと――行くぜ!やる気を出せよ!」

ウオオオォォ!!

マスター「雑魚はこちらで潰す。お前たちは国王の救出を」

剣士「――、了解した」

マスター「多分、大臣も王達の近くにいると思う。予想だけど」

マスター「もともとふたりが狙いだったわけだしな」

僧侶「はい」

剣士「じゃ、また後で。気をつけてくれよ、マスター」

マスター「剣士に言われたくない。お前こそ油断するなよ」

剣士「大丈夫だよ。故郷の姉貴が作ってくれた御守りつけてるし」チャラッ

マスター「…ペンダントか」

剣士「これのおかげで今まで生き残ってるんだからさ」ニカッ

僧侶「……」

マスター「……お嬢さん、こいつの周りを見ててくれ。絶対不意打ちで攻撃がくるから」

僧侶「…分かりました。気をつけます」

剣士「?」

マスター「お前たちは少し後ろからこい。ある程度は片付いてるはずだ」

剣士「あんがと」

側近「……」ヌッ

剣士「うお!?」ビク

側近「これを」

僧侶「は、羽?わたしにですか?」

側近「魔法の攻撃を一回やり過ごせるはずだ。持っておけ」

僧侶「」ポカン

側近「二人だけでいかせるのか?」

マスター「いいや。何人かで行動させる」

側近「だよな。二人だけだったらどうしようかと」

僧侶「…あ、えっと、ありがとう、ございます」

側近「礼はいらない」

側近「死ぬなよ。小娘が悲しむのは見たくないからな」ボソ

僧侶「今、なんと?」

側近「なんでもない」

――中庭

ザワッ…

マスター「こいつはひどい……死体だらけだ」

魔大臣「魔法使い、と言ったか…敵には絶対まわしたくないな」

側近「……」

側近(だいぶキレているな)

側近(普段は冷静なのに。何があったのやら)

マスター「おっと……奥からまだまだ出てくるぜ」

側近「ゴーレムか。単体は弱いが――術師を殺らないと消えないぞ」

ミノタウロス「こっちで足止め食らわす。早いとこ探してくれ」

魔大臣「悪い」

ミノタウロス「お互い様だろ?」ニヤ

魔大臣「だな。給料あげてやる」ニヤ

ミノタウロス「そうこなくっちゃ」

休憩

――とある部屋

キィッ

魔法使い「ここじゃないか」

魔法使い「でも近いな。別のところをあたろう」

魔術師「いいや、ここがキサマの最後の部屋だ」ドン

魔法使い「…話なら早くしてくれ。急いでいるんだ」

魔術師「まあ焦るな」

魔術師2「ゆっくりと」

魔術師3「あの世へいけ」

魔法使い「誰?」

魔術師「我ら三つ子の魔術師」

魔法使い「ああ……“魔法使い”が偉くなるとそういう名前になるんだっけ」

魔術師「だが」

魔術師2「我らは」

魔術師3「貴様を同類だとは思わぬ」

魔法使い「ふん。混血だからか?」

魔術師「左様」

魔術師2「理に反したものは」

魔術師3「“魔法使い”ではない」

魔法使い「じゃあ私は“魔法使い”ではなければなんなんだ?」

魔術師「半端者」

魔術師2「人間にもなれない魔物にもなれない」

魔術師3「半端な化物」

魔法使い「……みんな語彙力ないのか?化物は聞きあきた」

魔術師「ではなんだ?」ブォン

魔術師2「大恋愛の末の結晶とでもいうか?」ブォン

魔術師3「聞こえはいいが、所詮は愚かな両親よ」ブォン

魔法使い「……」

魔術師「子のことを考えず」

魔術師2「間違いを犯し」

魔術師3「結果がそれだ。誠に愚かしい」

 部屋を埋めるように魔法陣が展開された。
 それを黙って魔法使いは見ている。
 隙は馬鹿みたいにあったのに。
 その中央から巨大な蛇が這い出て、魔法使いを丸飲みした。

 そして、弾けた。

魔術師「ふむ」

魔術師2「強いな」

魔術師3「ならもっと――!?」

魔術師「どうした?」

 魔術師3の喉にぐるりと赤い線か引かれた。
 それにそってぽろりと頭が取れた。一拍遅れて血が吹き出す。

魔術師「弟!?」

魔法使い「ごめん。まとめてやろうとしたんだけど――」

 先ほどと変わらぬ位置で、困ったように笑いながら魔法使いは言った。

魔法使い「両親を最初に侮辱したから。ついやってしまった」

魔術師「ぁ…ぁ…」

魔法使い「確かに力は強いけど、個人戦向きじゃない。力を一つにするまで時間かかりすぎ」

魔法使い「見た感じ、薬の調合とか研究で“魔術師”になったんじゃないか?」

 魔術師二人に向かい歩いていく。
 魔術師たちは兄弟を殺した相手に恐怖を感じ、とにかく攻撃をしかける。
 標準の合っていないそれを軽く魔法使いはいなしていく。

魔法使い「だとしたら悪い。こちらは最近ずっと戦いっぱなしで――」

 バサリと翼を広げてみせた。

魔法使い「正直、ぬるいよ」

 魔法使いが片手の指を曲げた。
 それだけで、ふたりの人間の頭と四肢が胴体から離れ落ちた。

魔法使い「駄目だよ。両親は悪くいっちゃあ」

魔法使い「これでも誇りに思ってるんだ」

魔法使い「嫌だろ?尊敬してる人を馬鹿にされたら」

魔法使い「それを戦場で言ったら――敵が怒るのも無理はないよ」

魔法使い「今更だけどね」

魔法使い「時間食った。魔王は何処だろう」

 彼女が気づかぬ内に――爪は、厚く固く、伸びていた。
 鳥の爪のように。
 魔物化が進んでいることに。

――魔王城、医務室

ゴブリン「はっ!?」

サキュバス「チッ」

ゴブリン「待て、今どうして掛布団に潜っていた。何をした貴様」

サキュバス「今からするトコだったのに~」

ゴブリン「おい」

サキュバス「気分はどう?」

ゴブリン「気分?そういや、いきなり意識が――」ハッ

ゴブリン「みんなは!?」

サキュバス「魔王さま奪還の戦いに出ちゃった☆」

ゴブリン「魔王さまが!?なんで……」

サキュバス「……さぁね。ほら、まだうごかなーい」

ゴブリン「こうやって寝てる場合じゃないんだ!行かないと!」

サキュバス「ま、そうだけどね」

人魚「ゴブリン!起きたの!?」ガラガラ

ゴブリン「なんか水槽ごと運ばれてきたよ…」

人魚「呪いが解けたの…?」

サキュバス「みたい☆メイド達も起きてきてるし」

ゴブリン「人魚は残ったのか」

人魚「ええ。陸じゃ戦えないから、代理で城内指示」

ゴブリン「そうか…」

サキュバス「あれあれ~、お礼言わなくていいの?」

ゴブリン「お礼?」

人魚「ちょっ」

サキュバス「人魚さんったら、ずっとあなたを見守ってたのよ~」

ゴブリン「えっ」

人魚「な、何言ってるのよ!」

ゴブリン「本当…みたいだな」

人魚「べ、別にあんたが昏睡してて不安で仕方なくて見ていたわけじゃないし」

人魚「ただ死なれたら困るなーって思っていただけよ!文句ある!?」

ゴブリン「ないです」

サキュバス「素直じゃないね☆」

ゴブリン「うん、体は大丈夫そうだ」

人魚「病み上がりで戦いに行く気?」

ゴブリン「呪い上がりだけどな。戦いに行く気だ」

人魚「体調は?」

ゴブリン「バッチリ。一切問題ない」

人魚「…城内を一緒に見てよ。パニックが起こると大変なの」

ゴブリン「人魚ならいけるだろ」

人魚「無責任すぎるわ」

ゴブリン「ほら、でもさ。自分だけ暢気に寝てるのも悪いし」

人魚「……分かったわよこの戦闘馬鹿」

人魚「そうね、元々戦いが生き甲斐だものね」

ゴブリン「そこまで戦闘狂ではないが……」

人魚「転移してあげる。用意してきて」

ゴブリン「どうも。ちょっと待っててくれ」タッ

人魚「ハァ……」

サキュバス「え~、気になっちゃった感じ?」

人魚「ばっ、そんなんじゃないわよ!」

サキュバス「へぇ~」ニヨニヨ

人魚「い、嫌な子ね」

サキュバス「ひとの恋愛は見てるだけで面白いからね~」ニヨニヨ

人魚「だからっ、恋でも愛でもないわよ!」キー

ゴブリン「用意してきた。飛ばしてくれ」タタッ

人魚「ええ。みんなによろしく」

ゴブリン「分かった」

人魚「じゃね」

ゴブリン「頑張れよ」

人魚「そっちこそ」

シュンッ

サキュバス「うひひっ☆」

人魚「…何?」

サキュバス「戦場に行くオトコに惚れちゃった?」

人魚「うずまき管壊すわよ」

サキュバス「ごめんね」

――人間の城、中庭付近

側近「待て!」バサバサ

術師「はーっはっはっ!待つ馬鹿がどこにいる!」

魔大臣「うるせぇ!大人しく捕まれ!」ダダダ

側近「口調が乱れているぞ」バサバサ

術師「はっはっは!」

魔大臣「ちぃ、ゴーレムにお姫様抱っこで運ばれてるくせに」

側近「しかしアレ防御強いな。すぐ再生するし」

魔大臣「早くしないとミノタウロス達の体力が――」

ゴブリン「ギャ――――!!!あいつどこに落としてんだ――!!」ドサッ

全員「!?」

ゴブリン「あいたた……うわ、なんで土に埋もれてるんだ」

側近「ご、ゴブリン……?目覚めたのか」

ゴブリン「お陰様で」

魔大臣「なんで空から……」

ゴブリン「人魚がちょっと間違えたみたいで…あれ、誰かの上に座ってるぞ」

術師「きゅう」

ゴブリン「うわっ、なんだ平気かこいつ」

魔大臣「……」

側近「……」

魔大臣「給料上げよう。人魚もな」

ゴブリン「え?」

側近「次に行こう」

魔大臣「そうしよう」

ゴブリン「え?え?」

――別のとある部屋の前

兵士「なんだ貴様――ぐぁ」バキ

兵士2「大臣さまに歯向か――べぁ」バキ

魔法使い「なんだ、ここは異様に見張りが多いな――ん?」

魔法使い(微弱に魔力がある――なんだろう)

魔法使い「あれ?」ガチャガチャ

魔法使い「開いてない」ガチャガチャ

魔法使い(普通の錠と魔力で鍵がかかっている)

魔法使い(魔王の気配じゃないし――)

魔法使い(見張りの多さといい、これといい、まさか国王がこの部屋にいるんじゃ)

魔法使い「……」

魔法使い(この姿じゃ、ちょっとな)

??『もし?誰かいますの?』トントン

魔法使い「! はい」

??『あなたは誰?』

魔法使い「…大臣の敵とだけ。あなたはどうしたのですか?」

??『大臣にこの部屋に監禁されていますの。助けて下さらない?』

魔法使い「……ひとつ、条件が」

??『はい』

魔法使い「絶対に目をお開けにならないようお願いします――王女さま」

王女『あら――知ってましたの?』

魔法使い「ええ。では、開けますよ」

王女『分かりました』

パキン

魔法使い「……」ギィィ

 そこに立っていたのは上等なドレスを着た金髪の少女。
 年は十代中ごろほどか。
 瞳は瞼に遮られ見えない。

魔法使い「お妃さまは?」

王女「分かりません。どうしているのでしょう」

魔法使い「心配ですね――ちょっと目隠しをさせてもらいます」シュルッ

 懐に包帯があったのでそれで緩く目を覆う。

王女「そんなに容姿が気になるの?」

魔法使い「はい。怖がらせてしまいますから」

王女「優しいのね」

魔法使い「いいえ。私は優しくなどありません」

王女「そうかしら。――何も見えないから、腕を掴んでいい?」

魔法使い「どうぞ、お気になさらず」

王女「細いわ。声は低いけど高い感じがするし……」ギュ

王女「不思議。あなたは男なの?女なの?」

魔法使い「お好きなほうで」

王女「意地悪ね。じゃあ、男の人。こういうのは王子さまが助けにくるものだから」

魔法使い「…そうですね」

魔法使い(戦士に呪われそうだ)

続く

Q、このスレ内に終わる?
A、知りません

側近×剣士とか新しすぎるよ…

魔法使い「王女さま、大臣には会いましたか?」

王女「…ええ、会いました」

魔法使い「何か言われましたか?」

王女「あの男、『お前たちの時代は終りだ』って」

魔法使い「困った人です。しっかり叱っておきましょう」

王女「会いにいくつもり?」

魔法使い「はい、大臣が全ての元凶ですからね。灸をすえにいきます」

王女「嘘」

魔法使い「え?」

王女「そんな大人しい言い方しなくてもいいのに。殺しにいくのでしょう?」

魔法使い「……まあ、はい」

王女「別に、殺しちゃ駄目なんて子供じみたことは言わない」

王女「大臣は説得で投降するほど軟弱な人間ではないだろうし――意志も弱くないでしょう」

魔法使い(僧侶に聞かせたら泣きそうだな…)

王女「でも、気をつけて。もう――あの男は止まれない」

魔法使い「……」

王女「自分が死ぬなら周りももろとも、というやり方しかねないわよ」

魔法使い「ああ…なんかありそうですね」

王女「ところで」

魔法使い「はい」

王女「本当に大臣倒しにいくだけ?」

魔法使い「はい」

王女「嘘」

魔法使い「……読心が得意なんですね」

王女「いいえ。読心なんて技術持ち合わせていないわ」

王女「ただ、聞いているかぎり、何かの『ついで』みたいだから」

魔法使い「『ついで』……ですか」

王女「そう。わたくしがたまたまそこに居たから助けた感じでしょう?」クスクス

魔法使い「えっ、いや、そんな」

王女「いいのよ。ああ、お父様が目的じゃないのは分かるけど」クスクス

魔法使い「えっとですね……」

王女「大事なひとでも捕まっているのかしら?」

魔法使い「だ、大事なひと……なのかな」

王女「今ので全部分かっちゃった♪」

魔法使い「え、いや、そういう関係じゃないですし…」

王女「体温上がってるわよ?」

魔法使い「うぐ」

王女「……大臣も酷いことをするわね」

魔法使い「……」

王女「わたくしは何も出来ないけど…応援はするから」

魔法使い「…ありがとうございます」

王女「生きてね」

魔法使い「はい、必ず。この戦い、勝ちます」

王女「フフッ、頼もしいわ」

バタバタ

兵「あ!王女さま!」

兵2「ご無事ですか王女さま!」

王女「ええ」

兵「その…お疲れさまです」

魔法使い(血まみれでこの姿だもんな。怖がられても仕方ない)

魔法使い「いえ……彼女を頼みます。私は、まだやらないといけないことが」

兵2「しかし…」

王女「いいわ。足手まといでしょうし」

魔法使い「すみません。私がいなくなったら包帯をはずして下さい」

兵「あ、ああ」

魔法使い「では」タッ

兵2「お気をつけて!」

王女「」シュル

兵「あ、王女さま――」

王女「あら」

 わずかに見えた魔法使いの背を見て王女は口に手を当てる。

王女「天使に恋してしまったみたい」

――とある部屋

剣士「お邪魔します」キィ…

剣士「」

剣士「お邪魔しました」バタン

僧侶「どうしたんですか?」

剣士「何にもなかったよ。何にも」

僧侶「は、はぁ」

剣士(バラバラ死体があった…)

老兵「まだ階段登るのかい、僧侶さん」

僧侶「すいません…まだもう少し」

老兵2「どこに行くんだっけ?」

老兵3「ちゃんと聞いとけよボケジジイ」

老兵2「あぁん?」

剣士「争ってる場合じゃないだろじいさん達」

僧侶「上に、脱出不可と言われる凶悪犯罪者用の牢があるんです」

剣士「何故そんな物騒なものを城に…」

僧侶「国王さまを守るために選りすぐりの人がいつも待機していますから」

僧侶「仮に逃げられてもその人たちが早期に押さえつけることができるから、だそうです」

剣士「へぇ」

僧侶「それに窓から脱出は飛び降りと同意義ですから」

老兵「もちここから国王さまの部屋までは容易にいけない造りになってるそうだ」

老兵2「人質になったら大変だからな」

僧侶「わたしの予想ではそこにいるんじゃないかと…間違えたらごめんなさい」

剣士「そんな消極的になるなよ。オレらじゃそもそも検討もつかないし」

老兵「慰め下手だな」ヒソヒソ

老兵2「な」ヒソヒソ

老兵3「ありゃだめだ」ヒソヒソ

剣士「おい」

僧侶「ここから階段が狭くなります。足元に気をつけて」

老兵「じゃ、儂が前に出る。一応な」

老兵2「後ろから敵は?」

老兵3「いない。静かすぎて不気味だが…」

剣士(この辺りはほとんど魔法使いがやったみたいだからな)

老兵「ぐずぐずしてないで行こうや」

剣士「ごめん」

僧侶「……」

僧侶(今なら、これを……)

僧侶「」スッ

剣士「僧侶?オレの服になにかついてたか?」

僧侶「い、いえ!なんにも付いてませんでしたよ」

剣士「?」

僧侶「行きましょう行きましょう」グイグイ

剣士「お、おお」

――城近くの森

黒髪の男「やっぱ、アレですね父さん」

師匠「なんだ馬鹿息子」

黒髪の男「遠くから見てるだけじゃつまらないですね」

師匠「何を言っとるんだ。ここで見守ろうと言い出したのはおまえだろ」

黒髪の男「確かにそうですけど」

黒髪の男「――あのぐらいのピンチ、乗り越えなきゃ“魔王”じゃないですし」

師匠「あのぐらい、ねぇ…一回『勇者の剣』で刺されてみろ」

黒髪の男「ヤですよ」

師匠「というか刺されろ」

黒髪の男「なんでそんなに厳しいんですか!」

師匠「当たり前だろうが!幼い息子に仕事押し付けおって馬鹿!」

黒髪の男「だってあいつ、情報処理とか自分よりうまいんだもん…」

師匠「補佐としてしばらく手伝って貰っていれば良かったのに」

黒髪の男「……駄目だったんです」

師匠「何がだ」

黒髪の男「あいつが、我を忘れて辺りを血の海にした時。とても恐かったんです」

師匠「……」

黒髪の男「愛情より畏怖のほうが強くなってしまった。…父親失格です」

師匠「もう30年なのか…」

黒髪の男「結局逃げたんですよ。もう自分はあいつに顔向け出来ない」

師匠「出来るだろう」

黒髪の男「……出来ますかね。まだ、もうちょっと時間が欲しいです」

師匠「おまえが間接的とはいえ魔力をやったことを知っている」

師匠「完全に見放されてないって分かれば孫も一安心するだろう」

黒髪の男「見てたんですか」

師匠「見てた」

黒髪の男「あの混血の姉ちゃんは…父さんの弟子ですか」

師匠「そうだ」

黒髪の男「でも30年前、人間に育てさせたほうがいいと言ってませんでした?」

師匠「その時はまだ普通の人間とばかり思っていた。暴走しなければ大丈夫だと」

黒髪の男「でもそうじゃなかった?」

師匠「ああ。魔法が使える、成長が遅い」

黒髪の男「魔物の血の効果ですね」

師匠「そう、だから引き取った。あのままじゃ火炙りだった」

黒髪の男「それに、忘れ形見ですからね。父さんの友人の」

師匠「まあな…見過ごせなかったのもある。しかし気になるの」

黒髪の男「この戦いの行方がですか?」

師匠「それもだが――魔法使いは、どのような生き方を選ぶのか」

――城内、通路

魔法使い「は―――はぁ、はぁ」

 窓を見れば太陽が真上に浮いていた。
 もう昼間らしい。

魔法使い「疲れるはずだよ」

 壁に背を預け、ぺたりと座り込む。
 周りは死体が囲んでいた。

 ふと思い、そばに落ちていた剣を手にとった。
 刃の部分に魔法使いの顔が写り込む。

魔法使い「なんで……」

 羽毛が彼女の頬にまで広がっていた。
 背の翼も一段と大きくなっている。

 人間から遠のいていく。
 かといって完全に魔物にもなれない。

魔法使い「……」

 頬から首元までなぞっていく。
 ふわふわとした柔らかい感触。

魔法使い「中途半端…か…」

 もし元から人間だったなら、と想像してみる。
 少なくとも、ここにはいないだろう。
 今までにあった人と会うことはきっとなかった。

 師匠とも。
 勇者たちとも。

 魔王とも。

魔法使い「私は……私だったから――」

 

続く

――どこかの天井

蝙蝠「ウーン」

 蝙蝠は天井からぶら下がり、目の下で起こる様々なことを見ていた。

 兵のぶつかりあいだとか。
 逃げる兵や、それを追う兵。
 あとは豪奢なドレスを着た女性が助けられてたり。

 小さな蝙蝠に気づくものはいなかったし、蝙蝠自身も気をつけていた。
 人目がないのを確認すると、蝙蝠は飛び出す。

蝙蝠「マオウサマ、ドコカナ」

 蝙蝠は何も知らない。
 魔王がここに来た意味も、兵達が争う意味も、なにもかも知らない。

 そんなことはどうだって良かった。
 ただ、何処かに行ってしまった魔王を探しているだけだ。

 ひとりで旅立とうとする魔王の転移魔法に割り込んだのに深い理由はない。
 なんとなくその背中が寂しそうだったから。
 それだけの理由で共に転移した。
 魔王が蝙蝠に気づかなかったのは魔力が微弱なことと他のことを考えていたからかもしれない。

蝙蝠「サビシイト、ツライヨネェ」

 時折休みながらあちこちを飛んでいく。

蝙蝠「ボクモヒトリハ、サビシイモン」

蝙蝠「モシカシタラ、ナイテタリシテ」

 金色の瞳から流れる涙は何色だろうかと考える。

蝙蝠「キンイロカナ。ギンイロダッタリシテ」

蝙蝠「ア、デモ」

蝙蝠「タカサンニ、ナカシタッテマチガエラレタラ、タイヘンダ」

蝙蝠「……ソウイエバ、タカサントカ、ココニイナイノカナァ」

 魔王の側には必ずいるのだから多分いるだろう。
 安直に考えて飛び続ける。

 そして、曲がり角から現れた人物にぶつかった。

蝙蝠「アイタ」

魔法使い「ごめ……え、蝙蝠?」

蝙蝠「コンケツ!」

魔法使い「なんでこんなところに」

蝙蝠「エットネ――」

 説明中。
 説明後。

魔法使い「…じゃあ、蝙蝠も魔王を探しているのか」

蝙蝠「ウン!イッショニサガソ!」

魔法使い「一緒に探そったって…危ないぞ?」

蝙蝠「ナンデ?」

魔法使い「いつ誰に攻撃されるか分からないんだから」

蝙蝠「ダカラ、コンケツモボロボロナノ?」

 蝙蝠は魔法使いの平らな胸へ飛び込む。抱き止められた。

魔法使い「ああ。攻撃したりされたりで」

蝙蝠「コンケツ、トリニナッテキテルネ!」

魔法使い「やっぱりそうか…」

蝙蝠「カッコイイヨ!」

魔法使い「はは、ありがとう」

蝙蝠「ボクネ、ソレナリニツヨインダヨ!」

魔法使い「そうなのか…?お前が強い、ねぇ」

蝙蝠「ナメチャコマルゼ。ダカライッショニイコ!」

魔法使い「……」

蝙蝠「イイデショ?」

魔法使い「…仕方ないなぁ。文句は受け付けないからな」

蝙蝠「ワァイ、アリガトウ!」

 魔法使いの腕のなかに収まっていると眠気が襲ってくる。
 言葉すくなになると「マイペースすぎるだろ」と苦笑する声が上から降ってくる。

蝙蝠「……コンケツノツバサハ」

魔法使い「うん」

蝙蝠「オオキイネ。トバナイノ?」

魔法使い「飛べる…のかな」

蝙蝠「トベルヨ。ソンナオオキイツバサナラ、ドコダッテ」

魔法使い「飛んだことないから。どうなんだろうね?」

蝙蝠「コンケツナライケルヨ」

魔法使い「はは、ありがとう」

短いけど続く

――通路

「衛生兵!早く!」

「負傷者が出たぞ!」

側近「強いというより……しぶといな」ハァハァ

マスター「さっさと降伏すればいいものを」ハァハァ

側近「どうやら自らの意思で退却はできないらしいぞ?」

マスター「なに?」

側近「あの魔物みてみろ。両足なくしてショック状態だ」

マスター「…よく冷静でいえるんだな……」

側近「生きてきた時間が違う。ほら、身体が痙攣しているくせにまだこちらへ来るぞ?」

マスター「………っ、なぜ……」

側近「やつらから魔術を感じる」

マスター「魔術?なんの?」

側近「自分は魔王さまではないから詳しくは分からないが…操りの魔術だ」

マスター「……なんだそれ」

側近「文字通り人を操るんだよ。催眠みたいなもんだ」

側近「『ひたすら前進せよ』とか言われたんじゃないか?」

マスター「そんな――操るなんて出来るものか」

側近「ちょっとの心の緩みさえあればコロリと従うさ」

側近「元からある忠誠心に上乗せした、というのも考えられる」

マスター「……」

側近「これだけ大人数の術を解除するのは難しい」

マスター「そうか」

側近「解除している間に攻撃されたら一溜まりもないだろう?」

マスター「そうだな」

側近「だから…やつらには敵になったことを悔やんでもらうしかない」

マスター「……」

側近「躊躇いが出たか」

マスター「いいや。みんな戦っているんだ」

マスター「個人の感情で仲間を殺したくはない」

側近「流石だな。見直した」

マスター「はははっ、魔物に言われるなんてな」

魔大臣「側近!」

側近「どうした!」

魔大臣「兵にも疲れが見えている。どうする」

側近「二陣と入れ換えだ。一陣はしばらく休ませる」

魔大臣「了解!」

側近「トロールたち、疲労は?」

トロール「ないけどそろそろ血止めがほしイ」

トロール2「矢の盾はいいけド、矢じりを抜いてくレ」

側近「衛生兵、トロール達にも処置を!」

魔大臣「…しっかし、いつ終わるんだろうなこれ」

側近「終わるさ。――大臣は敵に回しちゃいけないのを敵に回したからな」

――どこかの階段

 後ろから追いかけられていた。

剣士「ちくしょう!よりによってここでか!」

老兵2「走れ!槍を持ってるぞ」

僧侶「容赦がないですね!」

剣士「僧侶、悪いがしばらく全力ダッシュだ!」

僧侶「はい!」

剣士「じいさん達も―――なにやってるんだ?」

 剣士が振り返ったとき、老兵二人は立ち止まり後ろ――下を見据えていた。

剣士「馬鹿、早く逃げないと。せっかく引き離したんだから…」

老兵2「アホウ、こっちで足止めするからさっさと行け」

僧侶「そんな!」

老兵3「どうせ老い先短いんだ。なら戦って死んだ方が名誉だ」

僧侶「名誉って―――」

老兵2「行け。どちらにしろ足がもう使い物にならん」

老兵3「こういうときに体調悪くなるんだとはなぁ」ヒッヒッヒ

僧侶「駄目です!みんなで生き残って、それで」

剣士「行こう僧侶。じいさん達に失礼だ」

僧侶「でも!」

老兵「……すぐ行く」

老兵2「おう、そしたら酒を飲もうや」

老兵3「あっちに酒はあるんだろうかな」

剣士「…ありがとうな!でも生きれたら生きろよ!」グイ

僧侶「そんな、駄目ですって、どうか――」

 剣士に引っ張られ、僧侶たちが上へと登っていくのを見届けた。

老兵2「優しいな」

老兵3「不安になるほどにな」

老兵2「……しかしどうする?」

老兵3「本当だな。敵が数人ならこんなことしないが」

老兵2「何て言ったって足音だけで二十三十だもんなぁ」

老兵3「こうなるとこの先に国王さまがいるのは確かみたいだな」

老兵2「だな」

老兵3「全員死ぬより…ここで二人、食い止めて死んだ方が良いな」

老兵2「全くだ」

老兵3「やっと妻のところにいける」

老兵2「やっと娘に会える」

ワーワー

老兵3「お出ましだ。覚悟はいいか」

老兵2「もちろんだ」

老兵3「じゃ、若い世代に後は託して、何も考えずに戦うか」

老兵2「そうしよう。最後だ、楽しもうぜ」

 そして、激突した。

……

魔法使い「――激闘だったんだな」ピチャピチャ

 階段に広がる血と、転がる肉片をできるだけ踏まないようにしながら階段を登っていく。

蝙蝠「スゴイチノニオイ」

魔法使い「ああ」

蝙蝠「アトカタヅケ、タイヘンソウダネ」

魔法使い「それは勝者になってからの悩みだな」

蝙蝠「コンケツ、マケルノ?」

魔法使い「まさか、負けないさ。負けないけど油断はしてはいけない」

蝙蝠「ユダンタイテキ!」

魔法使い「その通り」

蝙蝠「ヒノヨウジン!」

魔法使い「マッチ一本?」

蝙蝠「アバンチュールノモト!」

魔法使い「ごめん、何言ってるかよく分からない」

蝙蝠「コンケツ、コイハネ、チョットノキッカケデモエアガルンダヨ」

魔法使い「へ、へぇ……」

蝙蝠「コイヲシタラ、テニオエナインダッテ!」

魔法使い「誰から聞いたんだそんなこと…」

蝙蝠「マオウジョウデ、タクサンキイタ!」

魔法使い「変なこと吹き込むなよ魔王城の面々…」

蝙蝠「スキナヒトノタメニハ、ナンデモヤルンダヨ!」

魔法使い「駄目だ暴走してるわこの子」

蝙蝠「コンケツモ、モエガッテルデショ?」

魔法使い「なんで私が人体発火現象を巻き起こしているんだ?」

蝙蝠「チガウヨ、ハナシノナガレニノロウヨ」

魔法使い「はぁ…。恋に燃え上がってるか?私」

蝙蝠「バッチリダヨ!」

魔法使い「うーん……誰に?」

蝙蝠「……」

魔法使い「えっ、なんでそこで黙るんだ」

蝙蝠「タカサン、クロウシテルンダネ」

魔法使い「そんなしみじみと言われても」

蝙蝠「コノボクネンジン!」

魔法使い「う、うん」

蝙蝠「コタエハジブンデミツケナサイ!」

魔法使い「意地悪だな」

蝙蝠「コウイウノハネ、ジブンデキヅクノガ、イチバンナンダヨ」

魔法使い「ちなみに、蝙蝠は?」

蝙蝠「ボクニモプライバシーハアルンダヨ!」

魔法使い「はいはい」

蝙蝠「アレレ、ネエネエコンケツ、シタミテ」

魔法使い「下?――ああ」

蝙蝠「オジイサンタチ、マンゾクソウニネテルヨ」

魔法使い「いや……死んでるんだよ」

 身体のあちこちが裂け、刺された姿で老人二人は座って壁にもたれていた。
 微かな笑みを浮かべ、二度と上がることのない目蓋を閉じていた。

魔法使い「あなたたちが…この上を守ったのですか」

 数秒の黙祷。
 それから頭を深くさげて階段を登る。

蝙蝠「コンケツ」

魔法使い「どうした?」

蝙蝠「ダレカシヌト、カナシイ?」

魔法使い「悲しいよ。取り残されてしまうことが、悲しい」

蝙蝠「ソッカァ」

魔法使い「あなたは?」

蝙蝠「マダダレモイナクナッテナイカラ、ワカンナイ」

魔法使い「そうなんだ」

蝙蝠「デモ、ソッカ、サミシイノカ」

魔法使い「うん」

蝙蝠「コンケツ、シナナイデネ。ボク、サミシイノキライ」

魔法使い「…ああ。そっちも死ぬんじゃないぞ?」

蝙蝠「モチロン!」

魔法使い「私の名前は魔法使いだ」

蝙蝠「ウン?」

魔法使い「混血は名前じゃないんだ。魔法使いが名前」

蝙蝠「マホウツカイ」

魔法使い「そう」

蝙蝠「マホウツカイッテヨンダホウガイイ?」

魔法使い「そのほうが、仲良しって感じでいいじゃないか」

蝙蝠「ナカヨシ!」

魔法使い「そう、仲良し。私は、仲良しの子には寂しくさせないよ」

蝙蝠「ジャ、マホウツカイトマオウサマ、ナカヨシ?」

魔法使い「え……どうだろ」

蝙蝠「ア、デモ、マオウサマナキソウナカオ、シテタトキアルヨ!」

魔法使い「あいつが?」

蝙蝠「マホウツカイノネ、アノシンジュノヤツヲワタシタトキ」

魔法使い「ああ、あの“人魚”ときの」

蝙蝠「ナンカ、モッテイタノガイガイダッタミタイ」

魔法使い「そうなんだ…」

蝙蝠「ナンデモッテタノ?」

魔法使い「なんとなく、かなぁ。なんでだろ」

蝙蝠「アトネアノトキ、マオウサマ、マホウツカイイナクテ」

蝙蝠「チョットサミシカッタンダヨ。ボクガオモウニ」

魔法使い「そんなことはないんじゃないか?いじる相手がいなかったからとか」ハハハ

蝙蝠「………」

魔法使い「……あ」

蝙蝠「ドウカシタ?」

魔法使い「あの真珠の、魔王が持ちっぱなしみたいだ」

蝙蝠「カエシテモラワナイトネ」

魔法使い「ふふ、そうだな。早く返してもらわないと」

蝙蝠「モウチョットデカイダンオワルネ」

魔法使い「長かったな」

蝙蝠「ツカレタ?」

魔法使い「ううん。今この状態なら、全然」

蝙蝠「ボクハマホウツカイにシガミツイテルシネ」

魔法使い「そうだな」

蝙蝠「ダケドサ、イマツカレスギタラ、カエリタイヘンダヨネ」

魔法使い「少し休んで帰るよ。どんな戦闘になるかは分からないけど」

蝙蝠「ソダネ」

魔法使い「ああ」

蝙蝠「マホウツカイ」

魔法使い「うん?」

蝙蝠「マホウツカイハ、マオウジョウスムノ?」

魔法使い「いやぁ…難しいだろうな…」

蝙蝠「ムズカシイカナ?」

魔法使い「私のことを嫌がる人がいるかもしれないし…」

蝙蝠「マオウサマサエイレバ、ラクショーダヨ!」

魔法使い「はは、そうかもな」

蝙蝠「コンド、マホウオシエテネ!マホウツカイミタイニツヨクナル!」

魔法使い「あれれ、強いんじゃなかったのか?」

蝙蝠「マホウハマダマダナノ!アトハツヨイノ!」

魔法使い「はいはい分かった分かった――さぁ、どの部屋に行けばいいのかな」

ツヅク!

あ、どのくらいで次スレたてるべき?

――牢の近く

剣士「はぁっ!」バキッ

老兵「とうっ!」バコ

剣士「ここの見張りはこいつらだけか」

老兵「だな」

僧侶(神に仕えるものとしてこれは辛いですね…)

僧侶(口出しなんかして皆さんで死ぬのは目に見えてますからいいませんが)

剣士「鍵はっと……一個あった」ゴソゴソ

老兵「こっちは一個だけだ」

剣士「あ、こいつも一個」

僧侶「この人も一個ですね…」

剣士「……あと七人、地道に調べろと……?」

老兵「時間食うなこれ…」

剣士「」ゴソゴソ

老兵「」ゴソゴソ

僧侶「失礼します…」ゴソゴソ

剣士「これいちいち差し込まないといけないのか」ゴソゴソ

老兵「面倒くさいが、良く考えたものだな」ゴソゴソ

僧侶「すみませんすみません」ゴソゴソ

剣士「よしっ、これで最後だな」

老兵「じゃあ奥へ進もう」

剣士(……なんか“勇者”になった気分だな…)

剣士(あいつがいたらどんなことをしただろうか)

僧侶「剣士さん?」

剣士「あっ、い、いやなんでもないぞ」

僧侶「?」

コツコツ

剣士「灯りがろうそくだけっていうのも不気味だな」

僧侶「なにか出てきそうです…」

老兵「……」キョロキョロ

剣士「トラップの類いはなさそうだな」キョロ

老兵「逆に気味が悪い」

剣士「ああ…まるで来ることを望まれているようだな」

老兵「何故だ?」

剣士「オレも知りたい」

僧侶「わたしも、どうしてこんなことをしているか不明です…」

剣士「一番奥に部屋が――」

老兵「用心しろ」

剣士「忠告ありがとう」ゴクリ

僧侶「……」

剣士「僧侶は、どうやって大臣と知り合ったんだ?」

僧侶「い、今それいいますか?」

剣士「緊張しすぎで気をそらしたいんだよ現実から」

僧侶「それもそれでどうなんでしょうね…」

僧侶「わたしは元々孤児でした。それで、戦争が終わる前に大臣さんにあったんです」

僧侶「『願いはあるか』と聞かれて――わたしは、『みんなの怪我を治したい』といいました」

僧侶「その時、小瓶にいれられた液体を飲むようにいわれて――」

剣士「飲んだのか」

僧侶「いいえ。その時は飲みませんでした」

剣士「え?」

僧侶「というより、引っ込められたんです」

老兵「引っ込められた?」

僧侶「それからわたしに、『“僧侶”になりたいか』と言いまして。頷きました」

剣士「そしたら?」

僧侶「引き取られました。それで、いくつか治癒魔法を習ったり」

老兵「大臣から?」

僧侶「いえ、専門の人からです。確か三つ子でした」

剣士「三つ子ってすごいな」

僧侶「まあもちろん」

僧侶「いいえ。その時は飲みませんでした」

剣士「え?」

僧侶「というより、引っ込められたんです」

老兵「引っ込められた?」

僧侶「それからわたしに、『“僧侶”になりたいか』と言いまして。頷きました」

剣士「そしたら?」

僧侶「引き取られました。それで、いくつか治癒魔法を習ったり」

老兵「大臣から?」

僧侶「いえ、専門の人からです。確か三つ子でした」

剣士「三つ子ってすごいな」

僧侶「ええ。ちょっとうざったい人たちでした」

老兵「それで“僧侶”として?」

僧侶「まだです。…女ですから魔力はありませんし、かすり傷を治すのでやっとでした」

剣士「……」

僧侶「それで、大臣さまからとある液体をもらったんです。なんでも、魔力を出すものとか」

老兵「へぇ」

僧侶「それを飲んだら今みたいな治癒魔法を使えるようになったんです」

剣士「……僧侶にとって」

僧侶「はい」

剣士「大臣は、どんな存在だ?」

僧侶「――お父さん、みたいな存在でしょうか」

剣士「……そうか」

剣士「先に謝っとく。ごめん」

僧侶「え?」

老兵「……」

剣士(大臣を切ったら僧侶に嫌われるだろう)

剣士(でも――“剣士”は情に流されてはいけないんだ)

剣士「」ピタ

僧侶「ここですね…ここしかありませんが」

老兵「鍵は?」

剣士「開いているみたいだ。――離れててくれ」

――キィ

見張り「来たか。やれ!」

見張りB~G「オオ!!」バッ

剣士「っちくしょ!」シャキン

老兵「懲りずに続々と!」シャキン

 ふと僧侶は左側の壁が気になった。
 何故だろう。とても嫌な予感がする。
 交戦する剣士たちの背中を眺め、決心したようにふたりの襟首を背伸びしてつかむ。
 そのまま後ろに倒れ込んだ。

老兵「な―――」

剣士「そうり―――」

 文句が最後まで出るのも待たずに、鼓膜を震わす破壊音が牢に響いた。

 さっきまで剣士と老兵がいた場所が瓦礫で埋もれていた。

剣士「」

老兵「」

僧侶「だ、誰が……!?」

 僅かにかぶった砂や小石を払いながら立ち上がる。
 ここだけは丈夫なランプだったようで、辺りが無事に明るくまず安心する。
 奥の鉄格子の向こうにはポカンとする国王と動かない青年がいたが今は後回しにする。
 この惨事を起こした主が敵かもしれないのだ。

 ぽっかりと空いた穴の向こう、異形のシルエットが浮かび上がった。

 人の形と、そこから生える翼。

「ムチャクチャダヨ!トイウカ、キシカンアルヨ!」

「気のせいじゃないか?」

 そして、異形のものは僧侶を見て軽く手をあげる。
 どこか鳥の手に見えるのは気のせいだろか。


魔法使い「やあ、僧侶。ごめん、平気だった?」

 いっそ、その姿は恐ろしさを通り越して美しかった。

次スレに続く
携帯からうまくできるか分からないので間違えてたらサポートお願いします

魔王「おれと手を組め」魔法使い「断る」2 です

スレタイ普通にナンバリングか、>>663になると思ってたよ

>>984
そうですね、それでいきます。すみません

正直スマンカッタ


次スレ
魔王「おれと来てくれないか、魔法使い」魔法使い「…ああ」
魔王「おれと来てくれないか、魔法使い」魔法使い「…ああ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1346245762/)

【蝙蝠一族ノオキテ!】

蝙蝠父「イイカ、我ガ子ヨ」

蝙蝠「ウン、ナァニオトウサン」

蝙蝠父「明日カラ、オ前ハ、シバラクヒトリデクラス」

蝙蝠「ソウダネ!ソウイウキマリダカラネ!」

蝙蝠父「泣クンジャナイゾ?」

蝙蝠「ナカナイヨ!」

蝙蝠父「危ナイコトスルンジャナイゾ」

蝙蝠「シナイヨ!ダブン」

蝙蝠父「体調ハ万全ダロウナ?」

蝙蝠「モチロン!」

蝙蝠父「モシ本当ニ困ッタ事ガアッタラ、パパヲ呼ンデイインダゾ」

蝙蝠「大丈夫ダヨ」

蝙蝠父「一時間二、五回グライ様子ヲ見二行クカラナ」

蝙蝠「ソレハウザイヨ、オトウサン」

蝙蝠父「ダッテダッテ、オマエガイナクナッタラパパハ死ンデシマウヨ」

蝙蝠「タイヘンダネ」

蝙蝠父「本当ハオマエヲ旅タタセタクナインダァァァァ」オイオイ

蝙蝠母「今ノウチ二、イッチャイナサイ」

蝙蝠「ウン。オカアサン、ゲンキデネ」

蝙蝠母「アナタモネ。元気二帰ッテ来テチョウダイ」

蝙蝠「イッテキマス」

蝙蝠父「ウワァァァァァンイカナイデ――プギャッ」

蝙蝠母「サァ今ヨ!オ父サンハ押サエテルカラ!」

蝙蝠「ナカヨクネー」パタパタ

 その数ヶ月後、魔法使いと会うことになる。

>>987
ありがとうございます
なんか魔法使いと魔王のヒロインの座が変わってますが…

【魔王の一日スケジュール】

魔大臣「……」

側近「どうしたんだ?」

魔大臣「いや…魔王さまの一日を記してみているだが…」

起床

緊急書類チェック

朝食(抜きの場合も)

会議

書類チェック、作成

会議

昼食、散歩(30分)

会議


側近「あれ、おかしいな。前が滲んで見えない」

魔大臣「もはやこれ以上書けない」

【先代魔王の一日のスケジュール】

魔大臣「こんなの出てきた」

側近「先代さまの?」

魔大臣「勤めたての時に書いたようだ」

側近「どれどれ――」

起床

脱走

説教

夕食

側近「………」

魔大臣「………」

魔王「そろそろ会議が始ま――なんだこの微妙な空気」

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