魔王「おれと来てくれないか、魔法使い」魔法使い「…ああ」(301)

三部あります
軽いあらすじ

魔王「おれと手を組め」魔法使い「断る」
→勇者が殺された。一体誰に?
 魔王と魔法使いがなんやかんやで犯人探しをする

魔王「おれと旅をしろ」魔法使い「断る」
→“人魚”が行方不明になる事件発生。
 手紙配達のお使い中だった魔法使いと共に街の妙な連中について調べると…

魔王「おれと来てくれないか、魔法使い」魔法使い「…ああ」
→大臣の暴走。魔王危機。魔法使いがぷっつん。
 魔物と人間が共に手を組み大臣を倒すべく戦いに挑む。

前スレ
魔王「おれと手を組め」魔法使い「断る」
魔王「おれと手を組め」魔法使い「断る」 - SSまとめ速報
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SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1346245762

登場人物

魔法使い…男装少女。魔物と人間の混血。

魔王…それなりに苦労人。遅い思春期到来

側近…魔王に最も近い配下。鳥人族の鷹一族。

魔大臣…魔王の配下。まじめ

人魚…魔王の配下。身体が乾かないように水槽の中にいる

ゴブリン…魔王の配下。人魚の水しぶきの主な犠牲者

トロール…魔王の配下

ミノタウロス…魔王の配下

剣士…元パーティー。次期隊長候補

僧侶…片腕を無くした治癒魔法に優れた少女

戦士…死亡

大臣…色々企んでいる

国王…おじいさん



師匠…魔法使いの師匠。

黒髪の男…師匠の息子。

僧侶「魔法使い…さん


魔法使い「うん」

僧侶「どうしたんですか…先ほどより、外見が…」

魔法使い「なんだかこんな姿になってた」

 瓦礫を踏み越え、鉄格子に近寄る。
 国王は顔面蒼白でパクパクと口だけ動かすのみ。

魔法使い「魔王」

魔王「……」

魔法使い「どうした?」

国王「ま、魔王は……」

 震えながら国王は声を絞り出した。

国王「その水晶玉に、生命力を吸いとられておる」

魔法使い「…あれですか?」

 光る透明な球を尖った爪先で指差す。

国王「そ、そうじゃ」

魔法使い「生命力をとられたら、死ぬのですか?」

国王「ああ。助けるなら早く助けないと、危険な状態じゃぞ」

剣士「ま、魔法使い!鍵ならこれらのうち一つにあるぞ!」

魔法使い「ありがとう。でもいらない」

 言った瞬間、ぐにゃりと鉄格子を曲げた。
 その場の全員が黙った。

 そのまま牢の中へ入り、魔王の前に片膝をつく。

魔法使い「…生きてる」

 彼の口元に手をあて呼吸を確認すると安心したように息を吐く。

魔法使い「『勇者の剣』に串刺されたりして災難だな、あなたは」

 そして足元の水晶に視線を落とした。
 そっと指先で触れると軽く電気が流れた。防御魔法は弱いみたいだ。

魔法使い「蝙蝠」

蝙蝠「ドシタノ?」

魔法使い「ちょっと離れていてくれ。危険だから」

蝙蝠「ウン」パタパタ

剣士「……魔法で砕くのか?」

魔法使い「ううん。魔法を跳ね返す術があるみたいだ」

剣士「じゃあどうやって」

魔法使い「こうやって」

魔法使い「ふっ!」

 渾身の力をこめて水晶玉を殴った。ヒビが入った。殴った。砕いた。
 破片が手に突き刺さるのも構わずに、何回も何回も拳を降り下ろす。
 粉々になって、ようやく手を止めた。

 光は既に消え失せていた。

魔法使い「魔王」

魔王「……」

魔法使い「魔王!」

 のろのろと魔王が顔をあげる。
 金色の瞳に混血の少女が写る。

魔王「……魔法使い、か?」

魔法使い「…良かった…間に合ったか」

 脱力したように魔法使いはへたりこんだ。

続く

登場人物2

蝙蝠…明るく元気で無邪気。魔王城に住み着いた。

サキュバス…非戦闘員だがベッドの上では最強。

これで恐らく洩れはない…はず

魔王「ずいぶんと激戦を潜り抜けてきたみたいじゃないか」

魔法使い「踏み越えてきた、と言った方が正しいかもな」

 一度振り返って剣士たちが国王の元に走り寄るのを見たあとにまた魔王へと視線を合わせる。

魔法使い「顔、腫れてるぞ」

魔王「やっぱりか。そっちもしばらく見ないうちに変わったな」

魔法使い「ああ、正直自分でも驚いている」

 魔法使いは立ち上がり、魔王の脇腹に突き刺さる剣の柄に手をかけた。

魔法使い「抜くけど覚悟は出来てる?」

魔王「一思いにやってくれ」

魔法使い「――やるぞ」

 腕に意識を集中させ、なるべくまっすぐに抜けるように調整する。
 そして思い切って引っ張った。

魔王「っ」

魔法使い「わぁっ」

 勢いで後ろに倒れた。

僧侶「魔法使いさん!?」

魔法使い「あいたた…尻餅ついただけだから…」

 不思議と剣が手に馴染むが、今はそんなことよりも魔王の傷だ。
 鎖で押さえつけられてるために傷口に手を添えることもできない。

魔法使い「なんで…あなたは傷がすぐ治るんじゃないのか」

魔王「それがあの剣だよ。おれの力なんて通用しない」

 パァンッと鎖が弾けた。ついでに国王のも。

魔王「あー……まだ魔力戻りきってねぇな…」

魔法使い「…今ので十分魔力がある方だと思うが…」

僧侶「あ、あの、大丈夫ですか?」

 恐る恐るといった風に僧侶が近寄る。

僧侶「わたしの魔法が効くか分からないですが…その、見てられませんし」

 今もなお流れ続ける傷を指差す。
 魔法使いはどうしたものかと両者を見比べた。

魔王「…やってくれるならやってくれないか。割りと死にそうだから」

魔法使い「えっ、死にそうなのか!?」

僧侶「ちょっとじっとしていて下さい」パァ…

魔王「……」

 血がとまり、神経が繋がり、筋肉が修復し、皮膚がそれらを隠した。
 数分も経たず、完全にそれは治る。

魔法使い「…すごい、こんなに」

魔王「治癒されるのは初めてだな。ありがとう」

僧侶「ひぅ!?ど、どういたしまして」

蝙蝠「テンパッテルネ!」

国王「魔王も礼を言うのか…」

魔王「失礼だな。傷つくぞ」

 彼は壁に身体を預けつつ立ち上がった。
 足取りは不安定だ。

魔法使い「魔王、まだ無理をしないほうがいいと思う」

魔王「あいつが何かしでかす前に止めないといけない」

魔法使い「でも、まだ体力も魔力も回復してないんだろ?」

魔王「待ってくれるほど世界は優しく……っ」

 よろめいて魔法使いに倒れ込む。彼女はなんとか彼を支えた。
 僧侶は口出ししないほうがいいなぁと下がっていた。

魔法使い「そんなんじゃ倒す前に倒され……あ、そうだ」

魔王「なんだ?」

魔法使い「お使い頼まれていたんだよ。忘れかけていた」

魔王「お使い?また手紙か?」

魔法使い「そうじゃない。ちょっと屈め」

魔王「分かった」

 魔法使いは彼の肩を掴み、少しばかり背伸びをする
 そうして顔と顔の距離を近づけて。


 唇を合わせた。


急用なのでちょっと席はずします

老兵「」

国王「」

僧侶「!?」

剣士「ぶっ」ブシャアッ

 大人二人は口をあんぐりと開け、僧侶は顔を赤くし、盛大に剣士の鼻から血が流れた。

 構わずに魔法使いは魔王の口内に舌を入れてそこから魔力を送る。
 魔王はと言えば突然のことに目を見開いたまま固まっていた。

魔法使い「んっ……」

 口を離し、こぼれた唾液を手の甲で拭う。

魔法使い「一気に入れたが大丈夫か?」

魔王「…ちょっと待て」

魔法使い「どうした」

魔王「何故口移しなんだ」

魔法使い「なんでって…傷をいちいち作るのも面倒だったし」

 真面目な顔だった。

魔法使い「厳密には唾液は体液じゃないけど口腔からならいけるかなって」

魔王「ああ、うん、いけた。おかげで復活した」

魔法使い「良かった、駄目だったらどうしようかと」

魔王「なんか挫けそうだ」

蝙蝠「マオウサマ…」

剣士「僧侶、大怪我だ。オレの心が大怪我した」

僧侶「今から鼻血止めますね」

老兵「お、男同士か…」

国王「ま、まあ人それぞれだがいきなりすぎてもう」

剣士「いや、あいつ女なんだって」

僧侶「ええ!?」

剣士「僧侶、手元が狂ったのか知らないが鼻血がスピードアップした」ダクダク

老兵「間抜けな光景だ……」

僧侶「し、知りませんでした!魔法使いさん女の人だったんですか!」

魔法使い「う、うん。バレると火炙りだから隠してきたけど」

老兵「“魔女”か…最近は見ないがあったな、そんなものが」

国王「…そうじゃったな」

剣士「ごめん、しんみりしたところ悪いけど誰か鼻血なんとかして」ダクダク

蝙蝠「マオウサマ、ダイジョブ?」

魔王「変なところで世間知らずでびっくりした」

魔法使い「なんか不味いことしたか?私も初めてだったから勝手が」

魔王「した。今の行為はなんという」

魔法使い「接吻というものらしいが」

魔王「そうだな。その接吻は一体誰とやればいいかは分かるか?」

魔法使い「? 親しい同士じゃないのか」

魔王「……」

国王(すごく頭が痛そうじゃな…)

老兵(戦闘は半端ないのにこういうのは駄目か)

僧侶(どこか母親らしい優しさがあると思ったらそうだったんですね)

剣士「」ボタボタ

蝙蝠「マホウツカイ…ジョウダンハヨシンコチャン」

魔法使い「冗談って」

魔王「魔法使い」

魔法使い「うん」

魔王「良く聞け」

魔法使い「う、うん」

魔王「唇同士の接吻――キスは、互いを好きあっている者同士がするものだ」

魔法使い「は?」

魔王「深いキスは非常に愛し合ってる者たちがする」

魔王(と、サキュバスとか他が言っていた)

魔法使い「つまり……」

魔法使い「」カァァ

魔王「やっとわかったか…」

蝙蝠「マホウツカイ、カオガマッカッカ」

僧侶「それはそうですよねぇ…」

剣士「純粋って恐ろしいな」

国王「昔の妻もあんな感じじゃったな。可愛いんじゃぞ、照れたときの」

老兵「ここでノロケないで下さい」

魔法使い「……」

 耳まで赤くなりながら俯いた。
 同時に頬の羽毛がはらはらと取れていく。魔力を渡したからなのか。

魔法使い「その…ごめん」

魔王「何故謝る?」

魔法使い「だって、仕方ないとはいえ嫌だったろ。私となんか」

魔王「バーカ」

 魔法使いの顎を持ち上げると自動的に顔があがる。
 数秒見つめあったのちに今度は魔王から軽くキスをした。

剣士「ぞうりょ…」ダバダバ

僧侶「剣士さーん!!」パァァ

老兵「」

国王「」

蝙蝠「ダイタンダネ!」

魔法使い「……、何してる!?」

魔王「別に。お前の疑問に答えただけだ」

魔法使い「はい!?」

魔王「おっと、気を引き締めろ。ラスボスが登場だぜ」

魔法使い「ああもうタイミング悪いなおい!」

 更に上へ繋がる階段に人が立っていた。
 全員に緊張が走る。

魔王「よう。どうやらおれを倒すにはお前の実力で勝負しないといけないみたいだぜ」

大臣「楽をしたかったが…うまくはいかないか」

 そして魔法使いの姿に顔をしかめる。

大臣「忌々しい…。魔法使い、またお前が邪魔をするのか」

魔法使い「…何故私をそこまで憎む」

 質問には答えずに、大臣は床にワイン瓶を二つ投げ捨てた。
 甲高い音が響く。

僧侶「大臣さま、まさかその分の薬をお飲みに…!?」

大臣「そうだ」

魔王「ふん。そこまでして頂点に上りたいかよ」

大臣「そうだ。…話をする時間すらおしい」


大臣「負けた姿が楽しみで仕方ないよ」

魔王「それはこっちの台詞だ。早く見たいもんだな」


 ――時刻は夕方。
 城にいた者たち全員が、城が大きく揺れるのを感じた。

続け
全然ロマンがないキスだけど許して

――階下、通路

側近「」ハッ

魔大臣「何だったんださっきの揺れ…側近?どうした?」

側近「魔王さまが本気を出されたようだ」

魔大臣「本当か!?」

トロール「魔王さま、復活なされたカ」

側近「ついでに二人に進展があった気がする!」

魔大臣「…はい?」

側近「なんだろう、苦労が報われた気分だ…」グス

ミノタウロス「精神攻撃でも食らったんじゃないか!?」

ゴブリン「衛生兵ー!!」

――牢、だったところ

 天井の一部から茜に染まった空が見えた。

僧侶(すぐ上は外だったんですね)

僧侶(ああ……公開処刑所でしたっけ)

 何が起きたか、良く覚えていない。
 魔王と大臣が動くのが同時で、魔法使いが自分たちの前に立って、爆発が――

僧侶「みなさん!?」ガバッ

剣士「いちち…みんな生きてるか?」

老兵「なんとか」

国王「死ぬかと思った死ぬかと思った死ぬかと思った」ブツブツ

 辺りは先ほどよりも更に酷い有り様だった。

 大きい瓦礫や細かな瓦礫、それらが床を覆いつくしている。
 壁はひび割れ、無事なところを見つけるのが困難だ。

魔法使い「怪我はないか?」

僧侶「魔法使いさん!魔法使いさんが守ってくれたんですね」

魔法使い「僧侶、いや全員」

僧侶「はい」

魔法使い「逃げろ。退避を伝えながら城から出ろ」

僧侶「え?」

魔法使い「巻き込まれて死ぬぞ。脅しじゃなく」

剣士「今ので決着はついたんじゃ…」

魔法使い「そう簡単につくと思うか。見ろよ」

 指差した向こう、暗がりの中に立ち尽くすシルエットが二つ。

魔法使い「大臣が耐えた」

剣士「嘘だろ……」

魔法使い「本当だ」

僧侶「だ、大臣さんっ!!」バッ

魔法使い「あ、僧侶!」

 静止を聞かず、僧侶が飛び出した。

僧侶「止めてください!これ以上はもう駄目です!」

大臣「……」

僧侶「もうこんなことやめましょう!…いっしょに、静かに生きていきましょうよ…」

 無駄な事とは分かっていた。
 都合の良いことだと自覚していた。
 しかし、大切な人がこれ以上壊れるのはみていられなかった。

大臣「……」

魔王「なんとか言ったらどうだよ」

大臣「……僧侶」

僧侶「大臣さん…」

大臣「もう…立ち止まれないんだ。そして誰にも止めらない」

僧侶「そんな…」

大臣「僧侶、お前は大切な“娘”だった。それでも――これは邪魔させぬ」

 大臣の目が不気味に光り、とっさに魔法使いは僧侶を地に伏せさせた。
 直後に大臣の本当の狙いに気づく。

魔法使い(違う、狙いは僧侶じゃない!)

 視線の先には、

魔法使い「国王!!」

国王「わし!?」

大臣「弱いところから攻撃をするのは基本だよな!」

 どす黒い矢が空中から現れ、国王へと真っ直ぐ突き進んで行く。
 とっさに剣士が身体を被せるようにして国王を庇う。
 しかし、このままでは剣士に刺さってしまう。

魔法使い「くっ――!」

 魔法使いの魔法は遅すぎた。

――階下、通路

魔大臣「上でかなりすごい魔力がぶつかり合ってるぞ?」

側近「多分、首突っ込んだら死ぬ」

魔大臣「だな」

ゴブリン「退却?それとも部屋をひとつひとつ捜索していく?」

魔大臣「だな…まだ隠れている輩がいるかもしれんし」

ミノタウロス「しかしまぁ、ぼっろぼろだぁな。この城も」

魔大臣「元は綺麗だったんだろうな。もったいない」

トロール「でモ、赤も綺麗じゃないカ?」

ゴブリン「時間の経過でどんどん黒くなってくよ」

側近(む?この感覚は…)

――牢だったところ

剣士「オレ死んだか…あれ?」

老兵「あんなこと言ってるからやはり…あれ?」

国王「わしのせいで若い命が…あれ?」

僧侶「剣士さん…あれ?」

魔法使い「馬鹿だけど良いやつだった…あれ?」

大臣「ど、どうしてだ!?そいつらに魔力など感じなかったのに!」

魔法使い「これは…羽?」

 焼け焦げた羽を拾い上げた。

剣士「それ、僧侶が貰ったやつじゃないか?」

僧侶「ええと…すみません、剣士さんにこっそり忍ばせてました」

剣士「馬鹿、なんで」

僧侶「ごめんなさい…なんだか、あっさり死にそうで……」

老兵(分かる)

国王(気持ちは分かる)

魔法使い(痛いほど分かる)

魔王「まったく――おれはメインディッシュかよ?」

 大きい瓦礫が持ち上がった。
 上から、右から、斜めから、法則性などなく大臣にぶつけていく。

 ちらりと魔王が目配せして魔法使いが頷いた。

魔法使い「そんなわけだ。その人連れて行ってくれ」

剣士「魔法使いは?」

魔法使い「私は魔王と戦う。手助けぐらいはできるだろうから」

剣士「じゃあ、オレも」

魔法使い「駄目だ」

剣士「…確かに魔法使えないし、弱いけどよ」

魔法使い「次元が違う。私だって今この状況で一対一なら負けている」

剣士「……」

魔法使い「僧侶と国王を守ってくれ。それとも逃げが恥ずかしいか」


剣士「…逃げる勇気ってな。足手まといにはなりたくないから行くよ」

僧侶「剣士さん…」


魔法使い「早く行け。魔王の時間稼ぎもいつまで持つか」

剣士「わぁったよ、後でな!」

僧侶「ご武運を…」

老兵「立てますか国王さま」

国王「うむ…悪いな、頼んだぞ!」

バタバタバタ

魔王「行ったか」

魔法使い「ああ」

蝙蝠「ボクハドウシヨ?」

魔法使い「お前もいっしょに行った方がいいんじゃないか?」

蝙蝠「ウーン。ココニイルヨ」

魔法使い「…私は私のことで精一杯だぞ」

蝙蝠「イイヨ」

魔王「ふん。魔法使い、どうやらあちらさんはキレたようだ」

 同時に爆風が起こる。

大臣「……魔法使い」

魔法使い「なんだ」

大臣「お前は、どっちの味方だ」

魔法使い「……」

大臣「人間か!魔物か!どっちなんだ!」

バタバタバタ

魔王「行ったか」

魔法使い「ああ」

蝙蝠「ボクハドウシヨ?」

魔法使い「お前もいっしょに行った方がいいんじゃないか?」

蝙蝠「ウーン。ココニイルヨ」

魔法使い「…私は私のことで精一杯だぞ」

蝙蝠「イイヨ」

魔王「ふん。魔法使い、どうやらあちらさんはキレたようだ」

 同時に爆風が起こる。

大臣「……私は」

魔王「なんだ」

大臣「私は、王となるのだ」

魔王「ほう」

魔法使い「まあ…王をふたり捕らえた辺りから予想はしていたが」

魔王「で?貴様は何故王になりたいのだ」

魔法使い(あ、口調変わった)

大臣「魔物と人間が共存する国の、だ」

魔法使い「……」

魔王「共存ねぇ。ふん、この件は後回しだ。本当にそれだけか?」

大臣「ない」

魔王「どうせ誰もいないんだ。喋っちまえよ」

大臣「……仕返しだ」

魔法使い「仕返し」

大臣「私を笑ったものへの仕返しだッ!」

大臣「魔法の使えない混血だからと嘲った奴等への!」

魔法使い「驚いた。大臣も混血だったのか」

大臣「狼と人間のだ。だが、私は…私は魔力もわずかしか持っていなかった」

魔王「ふむ」

大臣「ただの人間も当然だ……弱いだけの人間に!」

魔法使い「……」

大臣「だから魔物と対等となるべく努力を重ねた」

魔王「変なところにエネルギーを使ったな」

大臣「今の私には両方を従えることができる。もう二人の王なぞいらない」

大臣「そもそも、人間と魔物を分けるから混血が疎まれるんだ。なぁ魔法使い、そう思うだろ?」

魔法使い「そうだな」

魔王「……」

魔法使い「だが混ぜるな危険とは良く言うじゃないか」

魔法使い「魔物と人間は習慣から違うぞ?それを一つに?馬鹿か」

魔法使い「別けなければいけなかったから別けた。それだけの理由だろ」

魔王「だな」

大臣「混血として苦しんでおきながら……それはこれから生まれる混血を不幸にする気か」

魔王「根本的に駄目だってことだ。人間が圧倒的に不利になるだろ」

魔王「魔法を使えないからって魔法を使える同類に八つ当たりか?」

魔法使い「ほぼそれだろ」

魔王「そうだな」

魔法使い「何故私の事情を知っているのかは謎だが」

大臣「簡単だ。お前の母親と知り合いだったから」

魔法使い「……何?」

大臣「たまたま事故にあったところを助けてくれたんだよ、お前のお節介な母親は」

魔法使い「おかあさんと…話したことがあるのか」

大臣「それどころか初恋の相手だ」

魔法使い「え」

大臣「そして――彼女を殺したのも私だ」

続く
書き溜め無しなので時折矛盾が入りますね

魔法使い「…なんで?」

大臣「お前を庇ったからだよ」

魔王「……」

大臣「お前が死ねばそれで終わったんだ」

魔法使い「私がどうして殺されなければいけない」

大臣「目を覚ませてあげたかったんだよ。自分がどんな化物を生んだのかってな」

大臣「魔物である父親を凌駕する魔力を持つ子供なぞ――危険な爆薬だ」

大臣「彼女が不幸せになるのは目に見えて分かっていた」

魔王「ふん。貴様、こいつの母親に恋したのか」

大臣「……」

魔王「なんだかんだ理由をつけておいて――」

魔王「自分の出来損ないさを他人のせいにしているわけか」

魔王「そして人妻に恋狂い、こいつに嫉妬しただけか」

魔法使い「……」

魔王「なるほどなるほど、じゃあ鷲一族を殺すように言ったのは?」

大臣「…魔力を無効にする矢を試したかった。まあ、結果は可の下だったが」

魔王「あいつらが住んでる森を焼いて、逃げ出したところを集中攻撃か。いい的だったろ」

大臣「そうだったな。悶えながら死んだよ。愉快極まりない」

魔法使い「っ」

魔王「それで?鷲族を全滅させて、何を得られた?」

魔王「可哀想な混血たちは救えたか?貴様の焦がれた女は助けられたか?」

魔法使い「…魔王」

 横に並ぶ魔法使いの肩を魔王が掴む。
 とちらかの身体が小刻みに震えていた。

大臣「…彼女と父親に拒まれ、それからそいつの爆発に巻き込まれてすべてはおじゃんだ」

大臣「魔物の血のせいか死だけは免れたが……数年は修復にあてなければいけなかった」

魔王「なんにもできてねぇじゃねえかよ」

大臣「なに?」

魔王「なんにも達成できてないだろ。なんにも」

大臣「……」

魔王「自分が弱いから強いやつに八つ当たりか」

魔法使い「…魔王討伐に行かせたのも…そういう理由だったか」

魔王「死ぬ可能性があるからな。帰ってきたら適当に理由つけて殺すもよし、襲わせるもよし」

魔法使い「……」

大臣「私は、失敗したが正しいんだよ!混血の格差をなくせれば――」

魔王「でめその前に他の混血殺すんだよな。あと王がなんだとか止めろ。笑うから」

大臣「なっ……」

魔王「貴様が思うほど王ってのは楽じゃないんだよ」

魔王「自分のために国をまわすんじゃない。国民のために国をまわすんだ」

魔王「確かに混血の地位上昇はいいがな――今の貴様じゃ、魔法使いみたく強い混血は処分するだろ」

大臣「……危険因子となりかねないから」

魔王「なら人間にも魔物にも危険因子はたくさんいるだろ」

魔王「結論を言わせてもらうと、貴様は強いやつが羨ましいだけなんだ」

大臣「ふ――ふざけたことをォォォォォォォ!!」

 目が潰れるほどに強い光が大臣を中心に弾けた。
 様々な種類の攻撃が魔王たちを襲う。魔王は攻撃そのものを消し、魔法使いは弾いていく。

魔王「図星か」

 魔王が呟いたのは攻撃がやみ、静けさが空間を占領した頃だった。
 頬に切傷ができていたが、流れた血の跡を残して瞬く間に消えてしまう。

魔王「すまないな、魔法使い」

魔法使い「……」

魔王「挑発とは言え、お前にはかなり辛いことだったな」

魔法使い「鷲一族は」

魔王「ああ」

魔法使い「どこに住んでいたんだ?」

魔王「村民がほぼ全滅し、兵の虐殺が起こった村のすぐ近くの森だ」

魔法使い「それって、私の村だよな」

魔王「知らん。…ただ、人間に化けた魔物が居たとは聞いた」

魔法使い「人口とかは、分かるか?」

魔王「八十人程度の規模だと聞いた」

魔法使い「じゃあ、私の…村か」

魔王「今まで調べなかったのか」

魔法使い「思い出したくなかったから」

魔王「ふん、そうか」

魔法使い「私は…鷲一族に認められていたのかな?」

魔王「そんなに近くに住むってことはそうだろ。記憶は?」

魔法使い「昔過ぎて覚えてないよ。ああ、でもそうだったんだ」

 大臣はいない。
 新たに天井に穴が空いているのを見つけ、上に行ったのだろうと魔王は考える。

魔王「魔法使い、泣いたり動揺するなら今のうちだ」

魔法使い「泣いてないし動揺してない」グッ

魔王「目拭いたじゃないか」

魔法使い「目にゴミが入っただけだ」

魔王「そういうことにしとくか」

魔法使い「うるさい」

 彼女は袖でごしごしと目元を擦る。

魔法使い「…おかあさんは、筋金入りのお人好しだったからなぁ」

魔王「そうか」

魔法使い「あはは、大臣、追わないと」

魔王「……」

 手近にあった剣を拾い上げる。

魔法使い「何もないより…マシかな」

魔王「触れるのか」

魔法使い「え?うん」

魔王「…とんでもないやつだな」

魔法使い「何が?」

魔王「なんでもない」

魔法使い「……?」

魔王「さてと…決戦は上ってことか。見ろよ、もう夜だぜ」

魔法使い「見えるかな」

魔王「あちこち燃えてるから大丈夫だろ。――……」

魔法使い「魔王?」

魔王「いや……きっと、死ぬか生きるかの戦闘になるかと思う」

魔法使い「そうだな」

魔王「生きられたとしても、今のこの状態とは限らない」

魔法使い「うん」

魔王「だから、問うが――」

魔王「おれと来てくれるか、魔法使い」

魔法使い「…ああ」

ぎゃあああ痛恨のミス!

魔王「おれと来てくれないか、魔法使い」

魔法使い「…ああ」

魔王「今度は断るじゃないんだな」

魔法使い「断れるか。一緒に戦おう」

蝙蝠「ボクモ!」

魔王「いたのか」

蝙蝠「シリアスダッタカラネ。サスガニデレナイヨ」

魔法使い「はは、そうだったのか」

 上へ繋がる階段は、あちこち崩れていたが使えないこともない。

 魔王は魔法使いに向けて片手を差し伸べた。
 魔法使いは魔王の手に自分の手を置いて、握った。

魔法使い「戦場までエスコートしてくれますか、王子?」

魔王「もちろんですよ。どこまでも連れていきましょう、我が姫」

 二人は顔を合わせて笑った。

続く
とりあえず痛恨のミスで泣きたい
大臣の理由が浅いけどもう気にしない

次回から最終決戦です

>>87
そんな設定無いぞ

>>88
前スレのこのへん

35 :1 :saga :2012/06/19(火) 00:07:57.17 (p)ID:rz/v2xqAO(6)
魔法使い(むしろ最弱のほうだからなぁ)

戦士「まあな、俺も最初は思ったさ」

魔法使い(先代勇者の息子だから、“勇者”の血が流れているから)

剣士「死んだやつのことを悪くいいたくはないがな…」

魔法使い(それだけで、選ばれた――力ではなく血筋しか見ていない)

盗賊「先代“勇者”がすごすぎたんだよな?」

魔法使い(納得は出来なかったが…剣を持てるのは彼しかいなかったからしょうがない)


811 :1 :saga :2012/08/22(水) 23:54:58.09 (p)ID:aUuKbk4AO(12)

(略)

国王「しかし不思議じゃな……なぜ“勇者”でもないのに使えたのか」

812 :1 :saga :2012/08/23(木) 00:04:13.63 (p)ID:q5pwSgPAO(29)
魔王「触るだけならできるヤツもいるだろうさ。人間に関わらず魔物だって」

国王「そ……そうなのか」

魔王「ただ使えるかは別問題だ。今回は魔法を使って飛ばしてきやがった」

(略)

>>89
そこ読む限り、それこそ「触るだけならできるやつもいるだろうよ」
魔法使いはまだ「使って」ないんだから。

まあ、こまけぇことはいいよな。
一番大事なキメ台詞やらかすよりかはさwww

洪水で夕飯を買いに行けませんでした1です

魔法使いが剣を持てた件についてはこれから明かしていきます
納得されるかは別として

――通路

人間兵「あっ、国王さま!」

マスター「国王さま!」

国王「どうも国王です…」ゼヒュゼヒュ

剣士「ちょっと走ったぐらいで息切れないでください…」

老兵「運動不足ですよ」

国王「言いたいこと言い過ぎじゃろ!」ゼヒュゼヒュ

側近「となると、魔王さまも――」

僧侶「あ、そのことなのですが!」

側近「どうした」

僧侶「今すぐ城から出ろと、言付けを受けました!」

魔大臣「何?」

僧侶「魔王さんが大臣さんと――交戦をしているんです」

ゴブリン「何としてでも仕留めるつもりか…」

側近「小娘は?」

僧侶「小娘?」

側近「魔法使いのことだ」

僧侶「…あの方は、魔王さまと残りました」

側近「そうか……」

ミノタウロス「退却させちまうなら退却させるぜ」

側近「頼む」

ミノタウロス「全軍退却!怪我人を忘れるなよ!」

剣士「あれ?」

マスター「どうした」

剣士「なんだろうな……あのでかいの」

ゴブリン「あの外にいるやつか。あの大きさでどこに隠れていたんだろ」

トロール「巨人族だナ。その中でもさらにでかいほうダ」

剣士「へー」

側近「なあ魔大臣」

魔大臣「なにかな側近」

側近「どうみてもこっち来てないか、あの巨人」

魔大臣「やっぱり?」

巨人「グオオオォォォォォォォォ!!」ドシドシ

側近「こっちに走ってきたぁぁぁぁ!!」

魔大臣「とにかく逃げろ!!」

ゴブリン「振動やべぇ!!」

国王「ぎえええ!!」

マスター「あ、早い」

老兵「この城は年寄りに優しくないな」

――中庭

ギャーギャー

王女「賑やかだわ」

后「すごく嫌な予感がするけど…」ガタガタ

王女「あら、お父様が来たわ」

后「良かっ……」

従者「」

王女「なにかしら。大きいのも後ろから付いてきたわよ、お母様」

従者「に、逃げましょう」

后「そうね」

王女「お父様は?」

后「あの人、殺しても死にはしないから大丈夫よ」

従者「……」

王女「あーあ。天使さんにまた会えるかしらね?」

ドタバタ

魔大臣「魔法は!駄目か!?」

側近「皮膚が分厚いのか深刻なダメージは無理だ!」

ミノタウロス「とにかく足止めはしないと!」

国王「はひゅ、はひゅ、」

ミノタウロス「……」ヒョイ

老兵「か、軽々と」

側近「だめ押しでもう一発だ――『破裂せよ』!」

巨人「」ボリボリ

側近「これで切傷かよちくしょう!!」

魔大臣「落ち着け」

剣士「僧侶!大丈夫か?」

僧侶「ま、まあまあ……あっ」ステン

剣士「僧侶!」

 逃げ惑う兵をかき分けながら僧侶を助け起こす。足を捻ったようだ。
 後ろを見上げれば巨人はあと二三歩の位置に迫っていた。

僧侶「剣士さん、なにやってるんですか!早く逃げてください!」

剣士「一日に何度も見殺しにしてたまっか!」

 僧侶を抱えあげて走る。
 だが、もう足掻きにしかならない。

 巨人が二人に狙いを定め、意思を持って踏み潰そうと足を上げた。

僧侶「ごめんなさい…!」ギュッ

剣士「まだ諦めんなァァァァァァ!!」ダダダ


 背後に突如気配を感じた。
 振り向える余裕なぞなく、走り続ける剣士の耳に入った言葉。

師匠「一番弟子を泣かせたくはないのう」

 直後、巨人が後ろ向きに倒れた。

剣士「し、死ぬかと……」

僧侶「ありがとう…ございます…」ギュウ

マスター「ヒヤヒヤしたぞ…」

僧侶「それにしても、あの方は…?」

剣士「そ、僧侶。まず降りてくれないか?」カァァ

僧侶「す、すいません」カァァ

側近「本物か?」

魔大臣「本物だな」

ゴブリン「本物だ」

ミノタウロス「本物だろ」

トロール「本物だネ」

剣士「本物って――あの人は誰なんだ?」

一同「「「 前々代魔王さま 」」」

マスター「前々代!?」

国王「なんてことじゃ」

黒髪の男「魔物は長生きだかぁな。二百年前の魔王がいてもおかしくねーさ」

僧侶「そうなんですか…二百年、てすごい年数ですね」

黒髪の男「人間にとっちゃそーだろうな」

僧侶「……」

剣士「……あの、誰ですか?」

黒髪の男「前代魔王」サラリ

僧侶「」

剣士「」

黒髪の男「お、いいねぇそのリアクション」

僧侶「え、えええっ!?」

剣士「なんで魔王が!?」

黒髪の男「息子の様子を見に来たんだよ、僧侶の姉ちゃん」

僧侶「じゃ、じゃあ早く魔王さんのところへ行ってあげないと!」

黒髪の男「いいや?あいつの戦いはあいつ自身が終わらすべきなんだよ」

僧侶「ではなんのために…」

黒髪の男「今みたいなあいつの手が届かないところをサポートしに来たわけ。ちなみにあれは俺の父親」

オマエモ タタカエ!バカムスコ!

黒髪の男「へいへい」

僧侶「息子さんが、心配じゃないんですか?」

黒髪の男「それなりに心配さ。でも大丈夫だろ」

黒髪の男「あいつは今、一人じゃないから」

休憩

――階段

 手を繋ぎながら二人は階段を登る。
 魔法使いの左手には魔王の手、右手には剣を携えていた。

蝙蝠「マオウサマ、カツホウホウ、カンガエタ?」パタパタ

魔王「最終手段はな」

魔法使い「どんな?」

魔王「言わない。まだお披露目じゃないからな」

蝙蝠「イジワル!」

魔法使い「…よろしくない魔法なんだな?」

魔王「ふん。まあ使いたくはないものだ」

魔法使い「…そうか」

魔王「……」

魔法使い「……」

魔王「魔法使い、怖くないか」

魔法使い「うん。あなたがいるから」

――屋外、公開処刑場

コツコツ

魔王「見晴らしがいいな」

魔法使い「下からも見えるようにしてあるからだと思う」

魔王「ここはなんだ?」

魔法使い「公開処刑場だと聞く」

魔王「ふん。なかなか洒落た場所で決戦か」

魔法使い「洒落てるか…?」

蝙蝠「キニシタラマケ」

 剣を一度地面に下ろす。

魔王「そういえば、お前、杖どうした」

魔法使い「あっ」

魔王「会ったときには持っていなかったな」

魔法使い「あちゃー…森に忘れたかもしれない」

魔王「無くてもいけるだろ?」

魔法使い「私の数少ないアイデンティティーが…」

魔王「むしろありすぎだろ」

蝙蝠「ウン」

魔法使い「外見的な意味でだよ」

蝙蝠「ツバサハエテルジャン」

魔法使い「…普段人間の姿の私がってやつ」

魔王「まあ確かに普段の姿はパッと見、どこでもいそうだが」

魔法使い「だろ?」

魔王「アイデンティティがないというかまず胸からしてないからな」

魔法使い「うぬぉっ!」ブン

魔王「暴れるなよ」パシッ

蝙蝠「パンチ、アッサリウケトメタネ!」

魔法使い「やめろ。その話題はやめろ」

魔王「減るものでもあるまい。これ以上」

魔法使い「ぐぬぬぬ」

蝙蝠「オフタリサン、イイトコロワルイケド、ホラアレ」

 五メートルほど先にワイン瓶が七、八本転がっていた。
 そばには踞る人間の姿。

魔王「ありったけをのんだって感じか」

魔法使い「…副作用を無視してこんなに…頭おかしいな」

魔王「副作用が無くても無理矢理魔法を持たされた身体はボロボロだろうさ。寿命も縮むらしい」

魔法使い「え?」

魔法使い(寿命縮むんだ…)

 ゆらりと大臣が立ち上がる。
 先ほどより身長が高く、ゆうに二メートルを越していた。
 眼球はすべて黒くなっている。

魔王「この中で一番人間らしいの、もしかしたらおれかもな」

魔法使い「角が生えてる以外はそうだよな」

蝙蝠「マオウサマノ、アイデンティティ、チッチャイネ!」

魔王「ふん、王はシンプルでいいんだよ。飾り立ててたら戦い難いだろ」

蝙蝠「カッコイイ!」

魔法使い「ちっちゃいと言われても起こらないとか心広いなあなたは…」

魔王「…む」

 魔王は会話をしながらも一切大臣から視線を逸らさずに見ていた。

大臣「……」ユラリ

 動き始めからを捉えられたために、防御にするか攻撃にするかと考える余裕がある。
 大臣が片手を前に出すと、紫色の光がそこに集まり大きくなっていった。

魔王「お喋りはここまで――みたいだな」

魔法使い「うん」

 痛いほどに緊張した空気が針つめた。

魔王「最初は慎重に行くぞ。集中砲火からだ」

魔法使い「どこらへんが慎重なのか是非教えてくれ」

続く
あれ…今回はギャグ?

胸熱な展開だな(`・ω・)b

魔法使いの胸は薄(ry

 大臣が紫色の光を放つと同時に魔王も真っ黒な光を放った。
 二つの力はぶつかり合い、激しい火花を生む。

魔王「本体に攻撃をしてくれ」

魔法使い「了解」

 魔法使いは見えないものを持ち上げるように、手を上にあげた。

大臣「!?」

 ザクザクと先が鋭く尖った杭が地面から生えてきた。

大臣「ぐぅっ……!」

 どれかが刺さったらしい。
 紫色の光が弱まり、それを弾くと共に魔王は大臣へ黒い光を打ち込む。

蝙蝠「ヤッタ?」

魔法使い「…まだだな」

魔王「このぐらいで終わるようならこんな苦労してないさ」

 魔王が言い終わる前に杭が凄まじいスピードで飛んできた。
 魔法使いは自分たちの目の前に新たな杭を隙間なく並べる。
 それらに飛んできた杭がぶつかってきた。
 攻撃が止んでしまうと魔王が即座にすべて燃やしてしまった。

魔王「視界を悪くしてどうする」

魔法使い「そこまで考えてなかった」

 思いついたものがそれしかなかったのもある。
 視界を防いでしまうのは隙となりかねない。

蝙蝠「ダイジン、アシ、サンボン」

魔王「三本?」

蝙蝠「アレ、ミテミテ」

魔法使い「…違う。足が裂けているんだ」

 杭によってなのか、右足がえぐいことになっている。
 戦場とはいえ、そうした張本人とはいえ気分の良いものではない。

魔王「ほう」

 魔王が感嘆の声をあげた。

魔王「自己再生までするのか、あの薬は」

 妙に軋んだ音をたてながら足が元通りに戻っていく。

魔法使い「あの薬…今まで見た薬と同じなのかな」

 今まで、というのは人を操るだとか読心のことだ。
 あそこまで強力だとは思わなかったが。

魔王「さあな」

 空中から火の玉を取り出し、そのまま大臣に投げつけた。

 回復を待つこともせず。
 容赦なく、思いっきり。

大臣「があぁぁぁぁ!?」

魔法使い「うわ」

蝙蝠「オニダ」

 悲鳴が聞こえた。
 少しだけ同情するが、すぐに気持ちを入れ替えることにした。

蝙蝠「マオウサマ、ソコハマッテアゲヨウヨ」

魔王「いちいち相手に花を持たせなくてもいいだろ」

魔法使い「絶対にあなた、勇者が回復魔法かけてもらっている最中に攻撃するよな」

魔王「悠長に待ってられないだろ」

魔法使い「そうなんだけどな、なんか正しいというか間違えているというか」

蝙蝠「キニシタラ、マケ」

魔法使い「便利な言葉だよな」

大臣「……」ヨロ

魔王「さてさて。大臣が焼け死んでいないんだがどうしようか?」

魔法使い「…しぶといな」

蝙蝠「ドコカニジャクテンガアルハズ!」

 魔法使いは顎に手をやりながら風を作り出し、カマイタチにして大臣に浴びせた。
 大臣の身体がところどころ裂けるのが見えた。

魔法使い「…直ぐに傷を修復してしまう…」

魔王「お前もひとの事言えないだろ」

魔法使い「これでも足りないぐらいだ。親も殺されてるんだから」

魔王「そうか」

魔法使い「ああ」

 魔王と魔法使いはお互いから半歩離れる。
 その間を攻撃魔法が通り抜けていった。

魔法使い「危なかった」

魔王「まったくだ」

 あらかた身体を治した大臣は、足元に爆発を起こし真っ直ぐに魔法使いへと向かっていく。

魔法使い「直接殺りあおうってか!」

 頬に向かってくる手のひらをはね除ける。これはフェイクだ。
 本命であろう大臣の魔力を込めた拳を、こちらも魔力を込めた手刀で叩き切る。

大臣「ぐっ!」

魔法使い「だぁッ!」

 力を入れた蹴りで数メートル飛ばす。
 何度かバウンドした後に、大臣は地面にごろりと転がる。

魔王「まだ死なないか…」

魔法使い「怖くなってきたな、なんか」

蝙蝠「フジミダッタラドウシヨ」

魔王「それは困る」

魔法使い「だったらどこかに沈めてしまおうよ」

魔王「それいいな」

蝙蝠「アブナイケイカクダヨ!」

 空気が動く。
 また大臣が立ち上がっていた。

大臣「ククク……」

魔王「何がおかしい」

大臣「薬について、教えてやろうか」

魔法使い「……」

大臣「あの薬にはただ飲んだだけじゃ魔法は使えない」

魔法使い「というと…」

大臣「飲んだ人間の強い望みによって変化するってことだよ…」

魔王「興味深いな」

大臣「そこまで思い悩んでいないような望みなら持続性はない。深い望みなら長い間持つ」

大臣「大量に飲むと、自分でも扱い難いほどの魔力を得られることが分かったがな――」

魔王「…ずいぶん便利なものを考えつくんだな」

大臣「お褒めいただき光栄だよ魔王――」

魔王「今日いっぱいでその技術も無くなると思うと残念だな」

大臣「軽口を叩けるのも今のうちだ!」

蝙蝠「マホウツカイ!」

魔法使い「!」

 大臣から切り離した手首が突然動いて魔法使いへ飛び、その細い首を絞め始めた。

魔法使い「取れなっ……!?」

魔王「魔法使い!」

大臣「そっちの心配ばかりでいいのかァな!?」

 気づくといつのまにか接近していた大臣の腕が魔王の体内に潜り込んでいた。

魔王「やりやがったな」

大臣「これでも平然としてられるのか化物め」

魔王「魔法使いからさっさとあれを外っ……!」

 魔王の口から大量の血が溢れた。
 体内で小規模ながら爆発を起こされたのだ。

蝙蝠「マオウサマ!」

魔法使い(くそっ、どんな魔法使ってるんだ!全然取れない!)ギリギリ

魔法使い(見えないから、指ごと消去しようとしても下手をすると私の首も…)ギリギリ

魔法使い「が、は」

魔王「っんの…」

 魔王が爪を大臣の眼球に突っ込むよりも早く、蝙蝠が躍り出た。

 それから顔面に張り付く。

蝙蝠「コノコノコノ!」バタバタバタ

大臣「な、なんだ!退け!」

蝙蝠「ヤダ!」バタバタバタ

 散々大臣の顔面で暴れた挙げ句に、小さな口で噛んだ。

大臣「いたっ!」

 集中力が乱れたその隙に魔王は体内から大臣の手を引きずり出し、
 魔法使いは絞めが弱まりかけた手を無理矢理剥がした。

魔法使い「けほっ……蝙蝠!」

大臣「こんの――!!私に何をする!!」

 蝙蝠をわしづかみにすると、そのまま地面へと叩きつけた。

蝙蝠「ギッ」

大臣「この、下等なくせに、よくも――!」

 まさに蝙蝠を踏み潰そうとした大臣を魔王が殴り付ける。
 そのまま少し離れた地面へと飛ばされ石畳へと若干めり込んだ。

魔法使い「蝙蝠!」

魔王「蝙蝠!」

蝙蝠「」ピクピク

 魔王は塞ぎかけた傷から血を掬いとり蝙蝠の口へ含ませた。

魔法使い「なぁ、大丈夫なのか?生きてるよな?」

魔王「生きてる。それに魔王(おれ)の血も飲んだんだ、すぐ治る」

 そういえばいつか魔法使いも魔王の血を注がれ治ったことがある。

魔法使い「助かるんだよね?平気だよね?」

魔王「そう言ってるだろう」

魔法使い「はぁぁぁ…」ヘタリ

魔王(出来ればこっちの心配もしてほしいんだけどな)

 体内の修復過程で要らなくなった肉片を吐き出しながら思った。

蝙蝠「ムー?」パチ

魔王「まだ動くな」

蝙蝠「ナンカ、カラダカライヤナオトシタヨ…」

魔王「夢だろ」

蝙蝠「ユメカナァ?」

魔法使い「ちょっとうたた寝してたんだよ」

蝙蝠「ソウナノカナ?」
魔法使い「ちょっとここにいな」

蝙蝠「マホウツカイタチハ?」

魔法使い・魔王「ちょっと本気出してくる」

続く
だれだプチッて言ったやつ

※魔法使いパンチは大木を折る威力です

蝙蝠ちゃんに何してんだよ(#゚Д゚)ゴゴゴ…

――城門

ドドーン…

師匠「やれやれ。年老いた身にはキツいわい」

黒髪の男「そう言いながらわずか数分で沈めましたか」

師匠「あちらも戦局は変わってなさそうじゃな」

黒髪の男「そうですね。かろうじて人影が見えるぐらいですが、まだ両者立ってますし」

剣士「いやいや…見えやすい工夫をしてるとは言え、オレには何も見えませんぜ」

僧侶「剣士さん、お二人は元魔王ですから…」

剣士「魔王ってすげぇな…さすが王だぜ」

師匠「褒めてるのかが良く分からん」

国王「どちらが『勇者の剣』を持っているかでかなり戦局は変わるがのう…」

剣士「そんなにすごいものなのですか?」

国王「ある意味無敵な剣じゃ。使用者さえ合っていればの」

側近「使用者…」

国王「……剣の力を最大限に発揮できる“勇者”が死んだ今――」

国王「誰かにあの剣を扱う資格が移っていると思うのじゃが」

剣士「でも、勇者は血筋で選ばれましたよね?確かにあれを扱えましたが…」

国王「不思議なことにの、勇者の一族も選ばれたものと同様に使えるんじゃ」

剣士「へぇ……」

側近「しかし」

国王「」ビク

側近「“勇者”の資格を持つものが百年に一度しか現れない、というのがあるが。あれは?」

国王「資格を持つものが現れるのは不定期でのぉ…」

剣士(そのぐらいハンデないと魔王もたまったもんじゃないだろうなぁ)

僧侶「適切のある人が触ったら、光るんでしたよね?」

国王「おお、そうじゃ。祝福の光があたりに満ちる」

魔大臣(人間ばっかり有利じゃないか?)

側近(魔王さまが強すぎるだけなんだよ)

僧侶「そういえば…魔法使いさんは剣に触っていましたよね?」

国王「たまにいるそうじゃ。剣に触れるだけならできる者が」

剣士「?なら、選ばれたものは…持つとすごいんですか?」

国王「悪を滅ぼす力を纏い、聖なる光で刃を輝かせ、敵に立ち向かう勇気を与えてくれるだとか」

僧侶「すごいですね」

側近(…下手すればチートじゃないか)

魔大臣(魔王さま自体がチートだからな…トントンってとこだろ)

――公開処刑場

魔王「心臓らしいな」

魔法使い「心臓?」

魔王「あの男、攻撃を受ける度にまず胸を庇う」

魔法使い「そこらへんにダメージが行くのが不味いという意味か?」

魔王「そう、だから――弱点は恐らく心臓だ」

魔王「普通の生き物でも貫かれたら死ぬ、非常に重要な器官だからな」

魔法使い「なるほど…で、私はどうすればいい?」

魔王「その剣で大臣の心臓を突け」

魔法使い「……確かに効果はありそうだけど」

魔王「何が心配だ?」

魔法使い「逃げられるだろ、流石に」

魔王「ふん、馬鹿か。そのぐらい考えている」

魔法使い(馬鹿って…)

 大臣に一度強い攻撃を浴びせてから魔王は続ける。

魔王「おれがあいつを止める」

魔法使い「どうやって?」

魔王「魔法陣を展開して、その中に閉じ込めるさ」

魔王「ただ、今あいつは半分暴走状態だ――いつまで閉じ込められるかは疑問だが」

魔法使い「じゃあ早いうちに刺せばいいんだな?」

魔王「ああ。いざとなったら強化も行う」

魔法使い「強化?」

魔王「ちょいと力を借りるんだよ」

魔法使い「……?へぇ…、元気玉みたいな?」

魔王「なんだそれ」

魔王(力は力でも生命力…それを強力な魔力に変換させる禁忌魔法)

魔王(魔法を破られたら最悪死だ。…魔法使いが反対するだろうから言わないけど)

魔法使い「私はこれで攻撃をしかければいいんだな」

魔王「そうだ。…重くないのかその剣」

魔法使い「あんまり。むしろしっくりくるよ」

魔王(案外いるんだな、適正持つやつ)

魔法使い「じゃあ、魔王、あとはたの――」

ゴゴゴゴゴ

魔王「!?」

魔法使い「なんだこの揺れ!」

 ピシ、と何かが割れる音がした。
 そしてその音は近づくにつれ早くなってゆく。

魔王「魔法使い!地面だ!」

魔法使い「えっ!」

蝙蝠「キャア!」

 魔王と魔法使いの間にヒビが入った。
 そして、一段と大きい音がした直後に魔法使い側の地面が崩れた。

魔法使い「っ!」

 ここはかなり高い。
 魔物化してるとはいえ、落ちたら死ぬだろう。

魔王「魔法使い!」

 伸ばされた手はギリギリで届かなかった。

続く
違う…魔法使いはリサみたいな体じゃない…

魔王「くそ!」

 魔王が飛び降りようとした時、彼の首すれすれに魔法で作られた刃が舞った。

大臣「ここでの勝負を投げ出すつもりか?」

大臣「たった一人のために部下の戦いを無駄にするつもりか?」

魔王「……っ」

 挑発だ。挑発だが、確かにその通りなのだ。
 ここで決着をつけなければこれから先、また犠牲を増やさなければいけない。

魔王「……」

 魔法使いがいた部分を一瞥して、魔王は大臣に向き直る。

魔王「…あいつが飛ぶ、とは思わなかったのか?」

大臣「思わなかったさ、思わなかったよ!」

大臣「なんせあれは人間として生きたいだなんて馬鹿なことを考えていたんだからな!」

 障害物である魔法使いを始末できたことで興奮しているらしかった。
 顔を赤くし、おおげさに腕を広げてみせる。

大臣「アッハッハッハ!まったく愉快だよ!」

魔王「……」

大臣「私の理想の世界にはあれはいない!消えてくれて清々した!」

魔王「そうか」

大臣「あとはお前だけだ!この世界の王は私だけなんだ!」

魔王(遠い所にも一応国はいくつかあるが、まあそれは範囲外なんだろう)

大臣「どうした?まさかあの女に惚れていたのか?」

魔王「ああ」

大臣「それは失礼なことをした!仲良く殺せば良かったかな!」

魔王「問題ない」

 金色の目が大臣を睨んだ。
 大臣は一瞬息を飲む。

魔王「仲良く貴様を殺すさ」

大臣「アハハハ、どうやって?死人に手でも貸してもらうか?」

魔王「その前に、現実を突きつけてやろう」

大臣「は」

魔王「貴様は負ける。多分でも恐らくでもなく絶対にして確定だ」

大臣「…あれが死んで頭がおかしくなったか?今の私にはお前を殺害するほどの」

魔王「それだよ。おれに勝つ?一昨日きやがれ」

大臣「は――はぁ?」

魔王「一度おれは貴様の策略に負けた。だがな、二度も負けるつもりは、ない」

大臣「……」

魔王「それに貴様はおれを随分と怒らせてくれるからな。それ相応の覚悟は出来てるだろ?」

大臣「…ま、負け犬の遠吠えか。そんなことで寿命延ばして楽しいか?」

魔王「もうひとつ」

魔王「貴様、いつから魔法使いが死んでいると勘違いしていた?」

大臣「……は?」

魔王「あいつがただで落ちるわけねぇよ」

魔王「ならとっくに死んでいるはずだ。おれに会う前にな」

大臣「魔法使いが――生きてる?」

魔王「おれの妄言でもなんでもないぜ。――貴様、人の魔力が分からないか?」

大臣「な……なんのことだ」

 分かってはいる。
 だが、魔王が復活したあたりから魔王が魔法使いの魔力を隠してしまっていたのだ。
 強力ゆえに。覆い被せるように。

魔王「焦らされるのは嫌いみたいだな。じゃあ、もうネタバレするか」

 魔王が横にすっと手を伸ばした。
 バサリ、と音がして剣を片手に掴んだ魔法使いが姿を表した。
 魔王の手を取り、無事に着陸する。

魔法使い「盛り上がりにかけるんじゃないか?」

魔王「いいんだよ、盛り上がりなんて」

魔法使い「そうか」

魔王「ああ」

大臣「な、な、なんで飛べたんだ!?」

魔法使い「見よう見まねだよ。蝙蝠に教えて貰ったんだ」

蝙蝠「エヘへ」

魔王「いつ?」

魔法使い「さっき。剣がたまたま城壁に刺さってぶら下がってたとき」


魔王「ふぅん。お疲れだな」

魔法使い「見えてたくせに……」

魔王「覗いたらあいつに殺されかけるもんよ」

魔法使い「なら仕方ないな」

魔王「だろ?」

大臣「う、嘘だ…どうして翼が使える?普通は弱るはずなのに!」

魔法使い「それはただの鳥の場合。私は魔物の子だぜ」

魔法使い「まあ…すごく疲れたけど」ハァ

蝙蝠「マホウツカイ、カナリヒッシニバタバタシテタ!」

魔法使い「しっ」

魔王「明日は筋肉痛だな」

魔法使い「やめてくれ。考えたくもない」

大臣「……もう一度…今度は翼をもいで…」ブツブツ

魔王「物騒だな」

魔法使い「物騒だ。私が生きててそんなショックか」

魔王「おれはお前が生きてて嬉しい」

魔法使い「ありがと」

蝙蝠(ココハ…カオヲアカラメルトコナノニ…)

魔王「それじゃ、魔法使い」

魔法使い「うん」

魔王「まずおれが近寄ってあいつの動きを封じる。至近距離じゃないとうまくいかないんだ」

魔法使い「分かった」

魔王「そしたら、すぐに攻撃に入ってくれ」

魔法使い「うん」

魔法使い「おれに剣が当たりそうでも構わずに行け」

魔法使い「え?うん」

魔王「実行だ、魔法使い」

魔法使い「分かった、魔王」

眠気ヤバいのてここで続く
最終回まであと二三回かな

 魔王がたったの一歩で高く跳躍し、回転しつつ大臣の視界を遮るような爆発を起こした。

大臣「まだ何かをするつもりか……!!」

魔王「そろそろクライマックスだからな」

 魔王が大臣の真上に落ちる。直前の爆発のせいで大臣の対応がわずかに遅れる。
 それを狙って大臣の身体を後ろに踏み倒した。

 即座に魔法陣を展開させて大臣をその場に縛り付ける。
 この術を実践したことは片手に数えるほどしかない。
 その為、どの程度暴れたら術が破れてしまうのかはまるで検討がつかない。

魔王(やはり禁忌魔法を使うか――)

 『勇者の剣』で術を破られようなら死は確定できだ。
 いや、むしろ魔法陣に侵入された時点で生命が果てるだろう。
 強化の代償は大きい。

魔王「――いや」

 魔法陣を二重三重に展開し、変わらずあの位置に立つ魔法使いを見て考える。

大臣「離せ!くそったれ、私ならこのぐらいはずせるぞ!」

 ミシミシと魔法陣にヒビが入る。
 さすがに驚嘆した。ここまで力を引っ張り出せるのかと。

 だが、例え彼が勝ったところで身体は限界を迎えているだろう。

魔王「後先考えないとろくな目にあわない、か」

 上半身を起こした大臣の首根っこを掴み、無理矢理立たせる。
 それから脇の下に手を入れ羽交い締めにした。

魔王「禁忌魔法に拘らなくても、こういう方法があるんだよな」

大臣「な…!お前も死ぬぞ!私を離さなければ死ぬぞ!」

 大臣の頭越しに真正面からこちらへ向かってくる魔法使いが見えた。

魔王「分かってる、そんなの」

 魔王の行動に、顔をしかめ歯を食い縛っていた。
 だが彼女は止まらない。

魔王「もし死んだとしても、それはそれで本望だ」

 魔法使いは、魔王が大臣へと躍りかかったのを見届けるとゆっくりと瞼を閉じた。

 今が決着の時だ。
 大臣とも。
 自分の存在とも。

 ずっと逃げてきた。
 今戦わなければこの先はずっと逃げ続けるだろう。
 そんなのは嫌だった。

 人間として生きたかった。
 しかし、それは人間の世界しか見ていないからではないか?
 魔物の世界で生きていたなら、魔物として生きたいと言っていたかもしれない。

 心のどこかで人間になれないと分かっていた。

 魔法使いと人間は決定的に何かが違う。
 人間としていくなら様々な制限や我慢をしなくてはいけないだろう。

魔法使い(それでもいいと思っていた。けど)

 魔王と会って、色んなことに遭遇して、次第にそれでは駄目だと思い始めていた。

 出した答えはシンプルだった。
 無理して人間として生きるよりもありのままの自分で生きればいい。

魔法使い「蝙蝠」

蝙蝠「ナァニ?」

魔法使い「お前の考える王とは、なんだ?」

蝙蝠「エットネ…ミンナヲナカヨクサセルノ!ケンカシナイヨウニスル!」

魔法使い「そっか」

蝙蝠「マホウツカイハ?」

魔法使い「私もそう思うよ。国民を守るのが、王なんだろうな」

蝙蝠「ダカラ、マオウサマハツヨインダネ!」

蝙蝠「コクオウハソウデモナイケド!」

魔法使い「それは言っちゃ駄目だよ。でも、彼には彼を手助けする部下がいる」

 その一人があれだったんだけど、と魔法使いは苦笑いする。

魔法使い「蝙蝠」

蝙蝠「ン?」

魔法使い「私が何者になっても――仲良しでいてくれるか?」

蝙蝠「モチロンダヨ!マオウサマモ、タカサンモ、ミンナナカヨシ!」

魔法使い「ありがとう」

蝙蝠「マホウツカイ、ソロソロジャナイ?」

魔法使い「うん」


 ――幼い頃、魔法使いは訪ねたことがある。

魔法使い『わたしは魔物なの?人間なの?』

 父親は困った顔で、柔らかく魔法使いの髪を撫でた。

父『どちらでもあって、どちらでもないよ』

 母親は穏やかな笑顔で抱き締めた。

母『それはあなたが決めることよ。――あなたの選択は、きっと正しいわ』



 魔法使いは目を開けて、剣を構えて呟く。

魔法使い「私がなんなのか、何をすべきか、分かったよ」

 魔法使いは走り出す。

 魔王が大臣を羽交い締めにしていた。
 下手すれば魔王も死んでしまうだろう。
 だが、彼女は止まらなかった。


魔法使い「魔王!!」

魔王「魔法使い!!」

 喉が潰れるほどの大音量で叫ぶ。

魔法使い「行くぞ!」

魔王「来い!」

 奇しくもその姿は

大臣「やっ、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 “魔王”を倒さんとする、“勇者”のようだった。


 魔王はギリギリで大臣を突き飛ばした。
 魔法使いは心臓に剣を突き刺した。

 大臣の最後の足掻きによって魔法使いの脇腹がえぐれた。
 また、大臣の背から飛び出した剣が魔王の肺を突き刺した。

魔法使い「大臣――あなたが二つの国を一つにして、王になると言うのなら」

 魔法使いは口から血を流しながら、死に行く大臣に囁く。


魔法使い「私は三つ目の国を――混血の国を作る」


大臣「ば……か…め…」

魔王「ふん――お前、らしい」

 魔法使いと魔王は顔を見合せ、そして笑った。




「「チェックメイトだ、大臣」」


 大臣が息を引き取ると同時に処刑場が音を立てて崩壊する。
 激しい戦闘のせいで限界を迎えていたのだ。


魔王「あー…、もう、動けねぇ」

魔法使い「私も…」

 並んで横たわりながらぼそぼそと会話をする。

魔王「傷、酷いな。平気か」

魔法使い「そっちこそ、ひゅうひゅういってるじゃないか」

魔王「はは」

魔法使い「あはは」

蝙蝠「マオウサマ!マホウツカイ!」

魔王「おう、蝙蝠、か。逃げた方がいいぞ」

蝙蝠「オイテニゲラレナイヨ!ボク、バリアハレル!」ポワン

魔法使い「魔法…使えたんだ」

蝙蝠「イッタジャナイ!ボク、ツヨインダヨ!」

魔法使い「うん、強いよ」

 魔王がずるずると魔法使いに手を伸ばす。

魔王「悪いな…おれの血をお前にやれればいいんだが、動けなくて」

魔法使い「いいよ。私だけ治っても、さ」

 魔法使いからも手を伸ばし、それから固く繋いだ。

蝙蝠「ズットイッショダネ!」

魔王「ああ」

魔法使い「うん」


 そして、瓦礫に沈んだ。

――城門

僧侶「あ…処刑場が…」

剣士「崩れていく…」

僧侶「あ!魔法使いさんは!?」

側近「……」

魔大臣「転移、してこないな……」

側近「…そうだな」

ゴブリン「嘘だろ…」

国王「……奇跡が起こると思ったが、のう」

マスター「…どうしました?」

国王「奇跡が起きて…あの子らが『勇者』と認められるかと思ったが」

国王「無事にあそこから帰ることができると思ったが…」

側近「勝手に魔王さまを殺すな。それに――」

側近「『勇者の剣』が使えないのは、あの人たちらしいじゃないか」

――どこかの宿場街

女将「……ん?」パチ

女将「嫌だね…こんな時間に起きちゃうなんて」ゴシゴシ

女将「……」

スタスタ ガラッ

女将「城でなにかあったのかな……?」

――どこかの街

少女「おかーさん…」

少女母「あら…どうしたの?」

少女「怖い夢、みたの」

少女母「どんな?ほら、こっちにおいで」

少女「あたしを助けてくれた天使さんがね…地面に飲み込まれちゃうの」

少女母「まあ…」

少女「天使さん、大丈夫かなぁ」

少女母「大丈夫。きっとどこかで元気でいるわ」

――魔王城

人魚「?」

サキュバス「どうしたの~?トイレ近いの?」

人魚「うっさいわ!…こう、なんか胸騒ぎが…」

サキュバス「……」

人魚「きっと、大丈夫だと思うんだけど…心配だわ」

サキュバス「いいこと教えてあげる」

人魚「なによ?」

サキュバス「動悸がするなら多分それ更年期障 バシャッ!

続く

――瓦礫周辺

剣士「城が全壊しなくて良かった、というべきか…」

僧侶「その可能性もあったと思うと寒気がしますね…」

側近「む…」

 側近は空が明るいことに気づく。
 夜明けだった。

側近「あ、一睡もしてない」

魔大臣「寝るなんてこと忘れていたよ」

トロール「数日は眠らなくても大丈夫ダ」

ミノタウロス「なんだか気が緩んだ瞬間にどばっと眠気くるわな」

ゴブリン「なんかすいやせん……」

師匠「そんなことより早くあの二人を見つけんと」

剣士「そうだった!おーい魔法使ーい!」

マスター「魔力とかで辿れないのか」

側近「魔王さまたちはかなり弱っているらしく、魔力が拾えない状態だ」

僧侶「そんな…!早くしないと!」パタパタ

剣士「ちょ、僧侶、お前ただでさえバランス取りにくいんだから」バタバタ

黒髪の男「……」

側近「先代魔王さま、分かりますか?」

黒髪の男「あっちらへんかな」ビシ

側近「そんな大雑把な!?」

ミノタウロス「魔王さまー!」

ワアワア

師匠「……おい、馬鹿息子」

黒髪の男「なんでしょうか」

師匠「正確な位置も分かっとるだろ」

黒髪の男「そういうあなたも」

師匠「……」

黒髪の男「……」

師匠「人間と魔物が共に協力して探しあっているからの」

師匠「争いもせずひとつのことだけを必死にやっておる」

黒髪の男「これが、お互いの大きな一歩となればいいのですが」

師匠「仲良しこよしになれとはいわんが、必要な時に手を組める仲になれればいいな」

黒髪の男「まったくです」

師匠「……」

黒髪の男「……」

師匠「…孫がそんな悠長なこと言ってられない状態だったらどうしよう…」

黒髪の男「……あいつの悪運に祈ります」

オーイオーイ

ドコダー

側近「魔王さまー!小娘ー!」

僧侶「魔法使いさぁーん!」

剣士「魔法使い!いたら三秒以内に返事しろ!さん、に、いち」

側近「アホやっとる場合かーー!!」ザク

剣士「ぎゃあああああ」

キラリ

僧侶「あれ?」

剣士「どうした?」ズキズキ

僧侶「あそこで何か光ったような…」

剣士「?」

側近「?」

スタスタ

僧侶「紐の切れた…真珠のペンダントですかね」

側近「なに!?」

剣士「知っているのか鷹さん!」

側近「これは……もしかしたら近くにいるかもしれない!」

ミノタウロス「本当か!」

魔大臣「ではここら辺を慎重に探さないと…」

僧侶「!」ピキン

側近「!」ピキン

剣士「な、なんだ。なにを受信モガモゴ」

僧侶「しっ……何か聞こえませんか?」

剣士「え?」

…-ン ココダ… キヅ…テ

側近「……そこか?」

ゴブリン「この大きな瓦礫の下に?」

側近「トロール!」

トロール「はいヨ。よっこいしョ!」ゴゴゴ

全員「!」

蝙蝠「シヌカトオモッタヨ…ヨクマリョクモッタヨネ…」

側近「蝙蝠!」

魔大臣「魔王さま!」

剣士「まほ」

僧侶「魔法使いさんっ!」

剣士「……」

 服は裂け、血が滲み、怪我は酷い有り様だった。

 しかし二人は穏やかに眠っていた。
 魔王は腕で魔法使いの頭を守るように、魔法使いは翼で魔王を守るようにして。

魔大臣「……『気に入らないなら、すべて終わってから殺せ』と言われたが…」

側近「……」

魔大臣「殺せるか。こんなに、身をすり減らしてまで戦った彼女を」

ミノタウロス「そうだな…」

トロール「うン」

ゴブリン「ああ…えっ、女なの?」

僧侶「ち、治療!治療しないと!」

 まずは血だらけの魔王から癒していく。

僧侶「肺を貫かれてますが…生きて、ますよね?」

黒髪の男「肺が一個潰れたぐらいで死にゃせんよ」ザッ

剣士「さ、さすが“魔王”…チートだ…」

 肺から血を抜いた後に組織を繋いでいく。
 僧侶の額には汗が浮いていた。

側近「手伝いの衛生兵を呼ぶか?」

僧侶「いいえ…怪我人の方を治療するのでいっぱいいっぱいでしょうから」

 次は魔法使いを。
 彼女は少しずつ自己再生をしていたおかげで早く終わった。

僧侶「ふぅ…」フラッ

剣士「僧侶!」ガシ

僧侶「えへへ…すみません、剣士さん」ニコ

剣士「!」カァア

ゴブリン「甘酸っぱいな…」

魔大臣「時場合場所を考えろやおまえら」

魔王「……う」

側近「魔王さま!」

魔大臣「魔王さま!」

魔王「なんだ…生きているのか?おれ」

ゴブリン「生きてますよ!」

魔王「なぜだか知らんが……死んだはずの父上が…」

黒髪の男「ちょっと待てお父ちゃんは死んでないぞ」

魔王「あ、祖父上。お久しぶりです」

師匠「おう」

黒髪の男「むきぃー!」
魔王「?傷が治ってる」

僧侶「わたしが治癒をかけさせて貰いました。違和感はありますか?」

魔王「いや、ない。また助けられたな」

僧侶「」パクパク

魔王「……だから礼を言ったぐらいで驚くなよ」

蝙蝠「ネー、マホウツカイハー?マホウツカイ、オキナイヨ?」

魔大臣「確かに…起きる素振りもない」

僧侶「わたし、何か至らないことが…」

師匠「いや」

 魔法使いの傍に立ち、屈んでそっと髪を梳く。

師匠「まだ――もう少し眠りたいのだろう」

魔王「……」

師匠「お前もだが、この子も頑張った。少し休ませてやれ」

魔王「はい」

側近「あの、前々代魔王さまは小む…魔法使いと会ったことが?」

師匠「弟子じゃ」

全員「弟子!?」

黒髪の男「とんでもない師匠をもったもんだな…」

僧侶(そういえば弟子とかなんとか言ってましたね)

魔王「じゃ、一旦帰る」

剣士「そんな軽く!?」

魔王「安心しろ、ちゃんと直しにくる。今は体力が限界だ」

マスター「そうだな。こちらも少し休もう」

国王「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

剣士「国王さま!?こんな危ないところを!」

国王「こ、今回は助かった。礼を言う」

魔王「まあボロボロだけどな、あんたの城」

国王「それは…うん、まあ、仕方ないんじゃ、うん」

僧侶「国王さま…目が泳いでいますよ」

黒髪の男「直すってば」

魔王「側近、魔大臣。兵の撤退を」

側近「はっ」

魔大臣「畏まりました」

魔王「またな」ヒョイ

側近(小娘を姫抱っこした)

剣士「…ああ。魔法使いを頼む」

僧侶「起きたら顔を見せにきて欲しいと伝えて下さい」

魔王「どっちにしろこいつも駆り出すから顔は見せられるだろう」

側近(駆り出すんだ!?)

魔大臣(鬼だ!?)

魔王「緊張緩んで怪我とかすんなよ。魔法使いが悲しむから」

シュンッ

僧侶「一気に消えた…」

剣士「夢みたいだったな…」

マスター「この惨状も夢にしたいな」

剣士「寝るか」

マスター「寝よ寝よ」









――魔法使い家

母「ほら、起きて」ユサユサ

魔法使い「ふに?」

母「寝るならベッドで寝なさいな」

魔法使い「んー…このソファ寝やすいんだもん」

母「もう。風邪引くわよ?」

魔法使い「うっ…それは嫌だ。起きる」

母「紅茶入れるけど、飲む?」

魔法使い「うん」

母「何か夢でも見ていたの?けっこううなされていたけど」

魔法使い「あ、やっぱりうなされていたんだ」

母「お父さんが聞いていたら医者を呼ぶぐらいにね」

魔法使い「そんな大げさな――とは言いたいけど、あり得るね…」

母「あの人の親ばかには呆れるわ」コポコポ

魔法使い「まったくだよ。女らしいカッコしろとか、なんとか」

母「わたしは似合ってると思うけどね、そのままでも」コト

魔法使い「ありがとう」ズズッ

母「それで、魔法使い」

魔法使い「うん?」

母「どんな夢見ていたの?」

魔法使い「ああ…聞いてよ。すごく変な夢だったんだ」

魔法使い「まずね、勇者が死んで魔王と出会うんだ――」

母「波乱の幕開けね」

魔法使い「でしょ?それでね――」


母「人魚かぁ、会ってみたいわね」

魔法使い「私も会わなかったけど。夢なのに」


母「なに?わたしたち死んじゃってるの?」

魔法使い「う、うーん、そうみたい」


魔法使い「で――」

母「へぇ――」


魔法使い「大臣が――」

母「あらま、黒幕だったの――」


母「あなたバッタバッタ殺りすぎよ」

魔法使い「なんかすごい人数たおしてるよね……」

魔法使い「ってところで、おしまい!」

母「うたた寝なのに随分と長い夢だったのね」

魔法使い「不思議だね」

父「ただいま」ガチャ

魔法使い「お帰りなさい、おとうさん」

父「外はまだ冷える。母さん、温かいのくれ」

母「ちょっと待ってて」

魔法使い「おとうさん羽毛あるのに」

父「抜け毛の時期間違えたんだ…今抜けている…」

魔法使い「暖炉の前にずっといるからだよ…」

母「もしかしたら抜ける歳かもね」

父「!?」

魔法使い「おとうさんが幽体離脱を起こしたんだけど、おかあさん」

父「まだ禿げないからな!」

魔法使い「そんなムキにならなくでも。そもそも人間じゃないんだから」

母「皮膚病かもね」

父「!?」

魔法使い「ちょっと止めてあげてよおかあさん」

母「ほらあなた、お茶を入れたわよ。手作りクッキーもあるわ」

魔法使い「すごい顔で固まったままのおとうさんを無視したね」

母「冷めてしまうわ」

父「ありがとう母さん」ズズ

魔法使い「おとうさんは立ち直り早いなぁ…」

続く
次回最終回

父「しかし魔法使いもいつの間にか大きくなったな」

母「そうねぇ。ちょっと前は泣き虫だったのに」

魔法使い「いつまでも泣き虫じゃないよ」

母「そう?」ウフフ

魔法使い「……で、さ」

魔法使い「私、死んだの?」

父「ん?」

母「あらあら」

魔法使い「ここは、現実…じゃないよね」

魔法使い「私がこの十代後半の姿になる頃はおかあさんはもうお婆さんのはずだよね」

母「人間だからね」

魔法使い「でも若いよね」

母「あらあら、何も出てこないわよ」

魔法使い「あの日のまま、止まってる。何もかもが」

父「……」

母「……」

魔法使い「私だけが進んでいる」

父「うん、さすが僕らの娘だ。気づいてしまったか」

母「気づかなかったら気づかないままで良かったんだけど」

魔法使い「ここはどこなの?私はもう『いない』の?」

父「まあ落ち着きなさい。これが恐らく最初で最後だ」

魔法使い「……」

父「都合の良い夢か、はたまたあの世に君がいるのか。どっちがいい?」

魔法使い「どっちも良くない。夢ならすべてが自作自演だから」

母「なら、ここは生死にさ迷うあなたがちょっとだけこちらに来てるってことにしましょう」

魔法使い「いいのか。それでいいのか」

父「魔法使い」

魔法使い「なに?」

父「よく頑張ったよ」

魔法使い「……たくさん殺したけど、ね」

父「ああ、大団円にしては君は殺しすぎた」

父「だから、彼らの死を無駄にさせてはいけない」

魔法使い「分かってる」

母「あと好きな人の前ではあんな顔晒さないようにね?フラれちゃうわよ」クスクス

魔法使い「な、なんの話!?」

コン

魔法使い「!誰かドアを…」

コンコン

父「……」

母「……」

魔法使い「ちょっと待って、開けてくる」

母「いいの?」

魔法使い「え?」

母「そのドアの向こうには、苦しみや壁が立ちはだかっているわ」

母「ここにいてずっと穏やかにいたほうが幸せじゃないかしら」

父「母さん」

母「あなたが混血として生きることを決めた次に…もしかしたらそれ以上に大きな選択よ」

コンコン

魔法使い「私は……」

父「時間はないだろうが、悩みなさい。君だけが決められる選択だ」

魔法使い「私だけの」

父「そう。魔法使い自身はどうしたい?」

コンコン

魔法使い「……」

魔法使い(ここにいれば、もう痛い思いをせずに済む)

魔法使い(おかあさんもおとうさんもいる)

魔法使い「……」

魔法使い「おかあさん、おとうさん」

母「どうしたの?」

父「なんだい?」

魔法使い「私のこと、どう思ってる?」

母「そりゃあ」

父「もちろん」

両親「愛してる」

母「……どこにいたってね?」

魔法使い「ありがとう」ニコ

魔法使い「やっぱり私はいかなくちゃいけない」

魔法使い「やらないといけないこともあるし、なにより」

魔法使い「傍にいたい人がいるから」

父「そうか」

魔法使い「全部全部終わったら、また会いに来るね」

母「お土産話期待してるわ」

魔法使い「それじゃあ――いってきます」


ガチャ


――魔王城、一室

魔法使い「!」ハッ

魔王「っ」サッ

魔法使い「ま、魔王?今何をしていた?」

魔王「……なんでもない」

サキュバス「なにって、そりゃ眠り姫を起こすためにはモゴモゴ」

側近「空気読め!!」

魔法使い「というか、ここは一体……?」

魔王「城だ」

魔法使い「誰の?」

魔王「おれの」

魔法使い「嘘っ!?」

人魚「魔王さまは嘘なんかつかないわよこの泥棒猫!」

ゴブリン「こっちにかけるなぁぁぁぁ!!」

魔法使い(に、賑やかだ)

魔法使い「ちょっと待て、なんで私が魔王城にいるんだ!?」

魔王「成り行きで」

魔大臣「気づいたらお持ち帰りを」

魔法使い「お持ち帰りって……」

ミノタウロス「一応恩人ですし?」

蝙蝠「チューシタナカジャナイ」

人魚「なんですってぇぇぇぇ!?一回以上キスしてたんですか!?」

魔王「……」テレッ

人魚「無理してでも加わるべきだったわー!」バシャッ

ゴブリン「」グッショリ

魔法使い「え?一回以上ってことは、やっぱりさっきのは…」

魔王「言うな」

魔法使い「……」

魔法使い「え、ええとこの方たちは?」

魔王「おれの部下。非戦闘員だ」

サキュバス「奮闘したんでしょ?お疲れ☆」

人魚「ふ、ふん。べ、別によく頑張ったなぁとか思ってないんだから」

サキュバス「おばさんのツンデレは痛い…」ボソ

人魚「あ?」

魔法使い「どうも……」ペコ

側近「小娘、身体の具合はどうだ」

魔法使い「背中がひきつってますが、その他は特に。どのぐらい眠って…?」

魔王「丸三日寝ていた」

魔法使い「わお」

魔王「あと人間の城はまだ直ってない。からお前も手伝いにいけ」

魔法使い「ああ」

側近「本当にいかせるんだ……」

ミノタウロス「容赦ない…」

魔法使い「…ん?どうしてまだ直らないんだ?魔物さえいれば」

サキュバス「人間のものだからできるだけ人間で直したいんだって☆」

魔王「だから重いものを持ち上げるなどの手伝いをしてる」

魔法使い「魔王がか?」

魔王「空いた時間にな」

魔法使い「律儀だな」フフ

側近(あ、これ二人の世界に入ったや)

側近「じゃあこちらは仕事してくるんで、では」グイグイ

ゴブリン「えっえっ」

ミノタウロス「なんだなんだ」

蝙蝠「ボクマデ?」

サキュバス「バイ☆」

人魚「ちょ」ガラガラ

ワアワア

ガチャ

魔王「なんだいきなり…」

魔法使い「」ポカーン

魔王「…大勢の前じゃいえない話でもするか」

魔法使い「そうだな。あ、翼しまってくれたんだ」

魔王「寝る時邪魔だろうと思ってな」

魔法使い「ありがとう」

魔王「どうも」

魔王「それで?お前は本当に混血の王となるのか」

魔法使い「ああ」

魔王「王というだけで首の価値があがる。ましてや混血だ」

魔王「おれ以上に変なやつが命を狙いに来るぞ」

魔法使い「…狙われてるんだ」

魔王「週一で」

魔法使い「!?」

魔王「生半可な気持ちならやめておけ」

魔法使い「生半可ではない。私はもう決めたんだ」

魔法使い「混血の迫害を無くす。不当な扱いを受けさせないようにする」

魔王「ほう」

魔法使い「すぐには不可能だろうが…まずは始めなければ」

魔王「忙しくなるな。まずは混血の現状を知らなくてはいけない」

魔法使い「だとすると、また旅だな」

魔王「そうだな」

魔法使い「魔王は?」

魔王「なんだ?」

魔法使い「魔王は、その…旅に、こないのか?」

魔王「そんなに城を空けるわけにもいかないからな」

魔法使い「…そうか」

魔王「なんだ?いっしょに来て欲しいのか?」ニヤニヤ

魔法使い「ば、ばか!別にそんなんじゃないから!」

魔王「ま、安心しろ。おれはここにいる。お前の知らないところには行かない」ポンポン

魔法使い「……ん」

――魔王城、食堂

側近「甘!?」

人魚「コーヒーに砂糖入れた?」

側近「わ、分からない…ただいきなり甘くなって…」

ミノタウロス「はい?」

――人間の城

キュウケイニスルベー

オー

僧侶「あ」ピキン

剣士「どうした?」

僧侶「なんだか、魔法使いさんが目覚めた気が」

剣士「なんなんだその能力は…ところでさ、僧侶」

僧侶「はい」

剣士「昨日、魔王と何か話していたじゃないか。なんだったんだあれ?」

僧侶「ああ……。この話、内緒ですよ?」

剣士「え、うん」

僧侶「わたし、もしかしたらあと五年も生きられないかもしれないんです」

剣士「はぁ!?」

僧侶「しぃ」

剣士「ご、ごめん」

僧侶「あの薬の副作用、だそうです。本来なら十年だとか言われてますが――」

僧侶「…治癒魔法はかなり身体に負担をかけます。そのことから考えるに、五年かと」

剣士「う――嘘だろ……」

僧侶「いえ…確かに、身体は弱くなってきているんです」

剣士「……」

僧侶「だから、魔王さんからあるものを渡されたんです」

剣士「あるもの?」

僧侶「魔法使いさんの血です」

剣士「ええ!?」

僧侶「こっそり抜いてきたとか言っていました」

僧侶「あ、魔法使いさんに言わないでくださいね。なんとなく顔が合わせづらくなるので…」

剣士「わ、分かったよ」

僧侶「あるんだそうです。混血の血には、寿命を伸ばすモノが」

剣士「……噂とかではなかったのか」

僧侶「今回飲んだ血でいうなら、あと七、八年は生きられます。二年延長ですね」

僧侶「もしお婆さんになるまで生きたいというなら――それこそ、人一人分飲まなくてはいけません」

剣士「結果的に魔法使いの血をすべて…」

僧侶「はい。…でもいいんです。短い時間でも、充実していれば」

剣士「僧侶……」

僧侶「剣士さん」

剣士「な、なにかな」

僧侶「わたしとあなたは結ばれることができません。神に仕える身ですから」

剣士「うん?……うん?」

僧侶「だけど――いっしょにいることはできます」

剣士「それってつまり…」

僧侶「はい……剣士さんの傍で、生きていていいですか?」

剣士「……」

剣士「もちろんだ!」




マスター「よくやったな…」グスッ

老兵「あいつらも空で喜んでるだろうな…」グスッ

――魔王城、一室

魔王「……まだ、この城には混血を忌むものがいる」

魔法使い「……」

魔王「無理矢理強制して考えを変えさせるつもりはない。逆効果だからだ」

魔法使い「そうだな」

魔王「だが、諦めなければ少しずつ混血に対する認識も変わるだろう」

魔法使い「……」

魔王「お前がここで認められるまで時間はかからないと思うが――その時は」

魔王「おれもお前もやるべきことが一段落したら」

魔法使い「…うん」

魔王「……おれと、結婚してくれないか」

魔法使い「うん…喜んで」


 かくして、少女と青年は結ばれた。

 そこに行くまで血に濡れた道ではあったけれど。

 その後をここで足早に語るのは彼らに失礼というもの。

 またいずれか、出会う機会があったときに話そう。






終わりです。お疲れさまでした

矛盾やら文章の稚拙さやらで読み返すのが恥ずかしいですね
言い訳をすると、プロット考えてなかったんですよ…
楽しめてくれたならいいかなって

あとは何本か小ネタを投下しようとおもいます
おつきあいありがとうございました

【ない】

魔法使い「」

サキュバス「二日も起きないね~」

人魚「…なんでわたし達が看病しないといけないのよ」

サキュバス「だって手が空いてるから☆」

人魚「恋敵の看病なんかできるかー!」ウガー

サキュバス「……本当に恋敵かな」

人魚「え?」

サキュバス「なんか…男の子っぽいんだよね」タユン

人魚「まあ確かに」タユン

魔法使い「」ゲソッ

サキュバス「調べてみるね☆」ゴソゴソ

人魚「ちょっ」

サキュバス「……」

人魚「さ、サキュバス?」

サキュバス「………上の膨らみも下のあれも、両方ない」

人魚「えっ」

【魔法使いが起きる前】

魔王「起きないな」

側近「一体なにが原因で…」

魔大臣「……す」ボソ

側近「ん?」

魔大臣「ほら、あるじゃないかおとぎ話で……目を覚まさせるために、キスを…」

ミノタウロス「!」

ゴブリン「!」

蝙蝠「チュー!」

人魚「なんですってぇ!?」

サキュバス「やってみなよ魔王さま☆」

魔王「……本当に起きるんだろうか」スッ

 起きた。

【NG】

「「チェックメイト(アウト)だ」」

魔法使い「……」

魔王「……」

大臣「……」

魔王「テイクツーで」

【ピーヒョロロ】

魔法使い「側近さん、序盤ではよくピーヒョロロって言っていたけど最近言いませんね」

側近「……あれな。鳶の鳴き声だったんだよ」

魔法使い「……」

【泥棒猫】

人魚「あれから考えたんだけど」

魔法使い「はい」

人魚「泥棒猫より泥棒鷲よね」

魔法使い「そんなこと言われましても」

以上です。では

スルーなんて嘘だ…
蛇足ですがゆるゆると思いついたネタを

【捕獲】

魔法使い「くっ」ダダダ

メイド「お待ちなさい!」ザッ

魔法使い「!」

メイド2「うしろにもちゃっかりいるんですよねぇ」ザッ

魔法使い「……どいてくれ。危害は与えたくない」

メイド「それはできません」

メイド2「大人しくすればすぐ終わるよ」

メイド長「肯定。わかりましたら早く自室へお戻り下さい」ザッ

魔法使い「…断る」

メイド「抵抗はさせませんよ?」

メイド2「今日という今日こそ―――」

メイド長「願望。ドレスを着てもらいます!」

魔法使い「やだー!!そんなフリフリやだー!!」ズルズル



蝙蝠「ナニアレ」

側近「…男服になれてしまったんだな…」

【サイズ】

※魔法使いが目覚めてない時の会話

メイド「魔法使いさまは胸当てにサラシ使っていましたね」

メイド長「熟考。……ブラを作るべきですね」

メイド2「じゃあまだ目覚めないと思いますし、測ってきましょう」

メイド長「了解。お願いします」

……

メイド2「……」

メイド「どうだった?」

メイド2「トリプルエー………でした」

メイド長「えっ」

【側近】

側近「これを――ああして――」テキパキ

側近「ここはこうして――こうなれば――」テキパキ

蝙蝠「ホワァー」

側近「なんだ」

蝙蝠「タカサン、オオイソガシダネェ」

側近「魔王さまの次には忙しいだろうな」

蝙蝠「ツカレナイ?」

側近「正直、魔王さまと小娘のなかなか縮まらない距離を見る方が疲れる」

蝙蝠「タシカニ」

【キャベツ畑で】

魔法使い「そろそろ春か」

魔王「そうだな」

魔法使い「赤ちゃんがキャベツ畑から生まれる時期だな」

人魚「」

側近「」

サキュバス「」

魔王「馬鹿だな。コウノトリが運んでくるんだろう?」

魔法使い「あ、そうか」

ゴブリン「」

ミノタウロス「」

トロール「」

魔大臣「」

【健全】

サキュバス「魔王さまと魔法使いちゃんが同じベッドで寝た!?」

ゴースト「どうやら寝ぼけて魔法使いさまが魔王さまのお部屋に入られたそうで」

人魚「きぃぃぃぃ!!」

ゴブリン「落ち着け!」

ミノタウロス「見に行こうぜ!」ガッターン

側近「座れ馬鹿!!」

サキュバス「どうなの?どうなってるの?」ワクワク

ゴースト「なんというか……」


魔王「……」スー

魔法使い「……」スー


ゴースト「――と、すごく健全に寝ていました」

魔大臣(魔王さまにマムシ仕込んでおくか……?)

【帰還】

蝙蝠「タダイマ!」

蝙蝠父「我ガ子ヨォォォォォォォォ!!」バッ

蝙蝠「」サッ

ドンガラガッシャーン

蝙蝠母「強クナッタワネ」

蝙蝠「ソウカナ?」

蝙蝠母「エエ。オトウサン、抱キツキ技ヲ磨イテイタノニ」

蝙蝠「ボク、オトウサンノショウライガシンパイ」

蝙蝠母「怪シスギテ、アヤウク警察呼ビカケタワ」

【新事実】

蝙蝠「タカサン、ケッコンシナイノー?」

側近「妻子持ちだが」

蝙蝠「エッ」

側近「それがなにか」

蝙蝠「ドクシンダトバカリオモッテタノニ…」

側近「おい」

蝙蝠「コンキ、シショサンミタイニ、ノガシテソウダッタノニ…」

側近「ヤバイ!司書がものすごい顔で走ってきてるから逃げろ!!」

【勇者】

魔王「他の国から“勇者”が来てるらしい」

魔法使い「ええっ!?」

魔王「くくく、どうする?おれがやられてしまったら」

魔法使い「この世界を滅ぼす」

魔王「愛されてて光栄だよおれ」

 勇者は途中でホームシックにかかり帰った。

【】

人魚「その胸の乏しさどうにかならない?」

魔法使い「……」

サキュバス「殺意抑えて」

人魚「マッサージしてみたら?大きくなるらしいわよ」

魔法使い「こうですか?」ゴリゴリ

人魚「ええ」

魔法使い「痛いんですけど」ゴリゴリ

サキュバス(揉んでる、というか撫でてるようにしか)

【甘い】

魔法使い「しばらく、混血の王として活動してくる」

蝙蝠「ボクモイク!」

魔王「……そうか。部屋をしばらく空けるのか?」

魔法使い「うん。生まれ育った場所も行ってみたいし」

魔王「ほう」

魔法使い「あと、呼ばれればすぐ帰るから」

魔王「それでも寂しくなるな」ワシャワシャ

魔法使い「別に永遠に置いていくわけじゃないし」ワシャワシャ



側近「甘いな」

魔大臣「甘いな」

蝙蝠「マタクウキヨンジャッタヨ」

以上
次は 少年「混血の女の子に一目惚れした」 で会いましょう

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