闇条「お前…ムカつくな」 (958)

速報復活したあああああああ

深夜からの乗り換えです。


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上条当麻は、不幸な人間である。

それゆえ、早くから自分という人間がわかっていた。

自分は疫病神で、不幸を寄せ付ける。

自分は絶対に幸せにはなれない。

そんなことを、5歳の頃には悟っていた。



お寿司屋さん、お花屋さん、ケーキ屋さん…。

幼稚園の廊下に張り出された十人十色の夢の中に、小さく、『金』とだけ書かれた紙があった。

こんな自分が幸せになるとすれば、もうお金しかないんじゃないか…。

幼ながらにそう思ってしまうほどに、少年は人生に絶望していた。



少年は父と母の顔も名前も知らない。

ずっと昔に死んだ。ということだけは、知っていた。

小学校に上がるまで育ててくれた親戚は、『置き去り』という形で彼を施設に預けて姿を消した。

いつか捨てられるであろうことは、早くから予期していた。

彼はそのことを恨んでいないし、むしろここまで面倒を見てくれたことに感謝すらしていた。




預けられた先でも、少年の不幸は留まるところを知らない。



幻想殺しについて気づいた研究者は、彼の右手を調べる。

でも、彼の右手の研究成果を得られた者はいない。

なぜか、彼らは次々にその姿を消した。

そして、歳にそぐわない達観した目をもつ少年はすぐに気がついた。

アブノーマルな力を持つ自分の希少価値に。

彼らがそれに目をつけたことで消されたということに。


自分と関わることで死んでしまったことに。





少年は小学校に上がる頃に初めて人を殺す。

彼が手にかけたのは、置き去りの友達を人体実験に使おうとした研究者だった。


友達が得体のしれないカプセルに入れられ、暴れている姿を目にした時、生まれて初めて怒りの感情を覚えた。

どうすればこの男が止まるのか、そう考えたらとても簡単な事だった。

不思議と抵抗はない。

ただ、相手が血の通った人間に見えなかったのだ。




血だまりの中佇む少年の顔には、恐れも怯えもなかった。

ただ、無表情で、それでも瞳の奥はギラついていた。



少年はその時に悟る。

なぜ、こんな右手を持って生まれてきたのか。

なぜ自分ばかりが不幸な目に合うのか。


神様はどうしてこんな道を自分に押し付けたのか。


―――そうか、僕は…


彼を取り巻く絶望的な環境――多感な時期に訪れる不幸の連続。

こんな状況下でも、少年の心根は温かいままだった。

こんな人生でも歩いていけるのは、芯が強く、どこまでも底抜けに優しいからなのだろう。


―――周りの人を幸せにするために、生まれてきたんだ。


―――そのために、泥をかぶり続けろっていうんだね。






その日以来、学園都市の表の世界から少年は姿を消した。


それから数年が経過した後には、最強最悪の無能力者として裏の世界でひそかに名が轟く。


どこの組織に入っても命令を聞かない、時には仲間にさえ容赦なく手をかける厄介者。


少年を持て余した組織は次々に彼を手放し、上から気に入った依頼だけを受けるたった一人の暗部組織が誕生する。


組織名も、少年の顔も、名前も、直接命令を下す上の人間以外誰も知らない個人組織。


リーダーである上条当麻は現在高校1年生となり、正体を隠しとある高校に通っている。










窓のないビル


第七学区に存在する巨大な建物の内側に存在する異様な空間に、これまた異様な二人の人間が対峙していた。

片や透明なビーカーの中を逆さまになって浮いている、性別不明の長髪の人間。

片や顔に刺青をした白衣の男。

長髪の人間は知る人ぞ知る学園都市のトップ、統括理事長アレイスター=クロウリー。

向かい合う白衣に金髪、顔に刺青をした男は、学園都市の暗部組織、猟犬部隊を取り仕切る科学者、木原数多。



『ふふっ…幻想殺しも順調に成長を遂げている…』



木原「あのガキ…好き勝手させていいんですか?」



あのガキが指すのは上の命令もろくに聞かず勝手な行動を取る少年のことであり、

好き勝手、とは、つい先日木原が取り仕切る暗部組織『猟犬部隊』が壊滅寸前まで追い込まれたことを指している。




『アレは一番の重要人物だ。万が一にもこちらが噛み付かれるようなことになってはならない』



木原「なるほど。それであれだけの事をしでかして生きていられるわけだ」



不服そうな顔をしつつも、素直に首肯するのは裏の組織の掟。

立場が上のものに逆らって生きられる道はない。まして相手は名実ともにトップの人間である。



『それでもアレを裏に置いておくのはこちらの都合のいいように動いてもらうためさ』



『アレがどういう理念で動くかも把握している』



木原「では。こっちはこっちでまたクズの補充をしねぇと」ケラケラ



『人員補充については好きにしてくれて構わない』



『幻想殺しについてはそのまま放任とする』



木原「…了解」



木原(あいかわらず何考えてんのかわかんねぇな…)









「君かわいいね」



夕方の第七学区は、とある路上。

辺りに仕事帰りの社会人やら下校途中の学生やら目立つ中、道の隅で一人の女子中学生が複数人の男たちに囲まれていた。

少女も、周りの人間も一目見ただけでわかる。いわゆるナンパというやつ。

一人の女の子を囲むにしては人数が多すぎるのではないか?という疑問には、彼女の着用した制服が答えてくれる。

灰色のプリーツスカートに半袖のブラウス。サマーセーター。

それは、学園都市中の誰もが知る名門、常盤台中学の制服。


その意味は、強能力者(レベル3)以上の能力者しか通うことを許されない学校であるということ

つまり、ただの子供にしか見えない少女が、最低でもレベル3以上の能力者であるということの証明なのだ。

男たちがこの少女に目をつけた理由は、おそらく、『好みの容姿だったから』というだけではなく、多かれ少なかれ嫉妬の意味が含まれている。



有する能力のレベルで差別化されるこの学園都市において、強い能力とはそれだけで優秀とされる。

強い能力を持つ者はそれだけで尊敬され、学園都市における社会的地位も上になる。

能力の低い者は常に己の劣等感と戦い続け、この男たちのように捻くれてスキルアウトとなってしまう場合さえあるのだ。


おそらく、学園都市の六割を占める無能力者のほとんどが同じように思っているに違いない。

たとえばそれは生活に便利な能力であったり、人を惹きつけるものであったり。

はたまた、他者を圧倒する強い力だったり。

そんな能力が、当たり前のようにいつでも目に入ってくる環境。


誰だってそう。最初は、自分の可能性を信じてこの街に足を踏み入れたはずだ。

しかし結果は無能力者(レベル0)。

いつしか周囲の人間が能力に目覚め始めると、世間は彼らに落ちこぼれの烙印を押す。

彼らは、行き場のないこの気持を誰かにぶつけたかったのかもしれない。

たとえば、目の前に居るこの少女に。

自分たちが欲してやまなかったものを当然のように手に入れた、この少女に。





御坂(馬鹿な連中…)



不良達は、少女が大人数を相手に怯えていると思っているし、行き交う通行人たちもそうだろう。

その証拠に、彼らはこちらの様子をチラチラと伺っては、辺りを見張る不良達に追い払われている。

しかし、実際のところこの少女、御坂美琴は微塵も怯えてなどいなかった。

不良達がどんなに声をかけても無視の一点張りで通すのは、そもそも話を聞いていないからである。

学園都市に居ればナンパなど道を歩けば五万と出くわすし、少女は容姿の良さも相まって普通の人よりも多くナンパをされる。

ゆえに、少女はこういう状況には慣れていた。

少女の目には、執拗に迫ってくる男たちの顔など写っていない。

彼女が見ていたのは、こちらを見てみぬふりをして歩く通行人の方だった。

別に、と、少女は考える。



―――そう、別に、彼らが薄情だというわけではない。わかってる。


少女の目に、こちらを伺い、一瞬声をかけようとした通行人が不良に萎縮して走り去っていくのが映る。

きっと彼は、少女を助けようとしたのだろう。

でも、結局大勢の男達に敵わないと見て逃げ出した。



―――実際にここに割って入ってきたって、何かできるわけじゃないし。怪我をするだけだ。

だれだって自分が可愛い。それが普通。

見ず知らずのやつのためにそんなことをする奴がいたとしたら、そいつはただの馬鹿か―――。



「臭えんだよ。ゴミが集まるな、周りの迷惑だ」



不良達は知らなかった。

彼らが取り囲んでいる少女はレベル3なんてちゃちなものではなく、彼らが100人束になったところで敵わないほど強大な力を有している超能力者(レベル5)だということを。


そして行動を誤ってしまった。

決してこの道で、『彼』の目にとまるような行動をしてはならない。

この道は、裏の世界で噂される正体不明の無能力者、上条当麻の通学路であるからだ。




夕方の第七学区は、とある路上。

ここに因縁の出会いが果たされた。

片や、七人しかいない超能力者の第三位。お嬢様とは名ばかりのきかん坊。

片や、裏の世界に轟く存在すらも疑わしい正体不明、最強最悪の無能力者。



少女は、突然割って入ってきた少年に興味の眼差しを向け、少年は目の前にたむろする男たちを、ゴミを見るかのような目で睨みつける。


二人の出会いは、なんともすれ違ったものであった。





上条「はぁ…」



少年の口から、今日何度目になるかわからない溜息がこぼれる。

もう慣れっこではあるが、彼が道を歩けば必ずといっていいほど面倒な状況に出くわしてしまう。

今回の場合は、女子中学生がナンパの被害にあっている場面。

枚の毎度の状況に、彼が道を歩くことで面倒ごとが発生しているのではないかとすら思えてしまう。


―――これじゃあ疫病神って言われても仕方ねぇな。


周囲を見渡せば、見て見ぬふりしか出来なかった通行人たちがチラチラとこちらを気にし始めていた。

いきなり首を突っ込んでいったことで注目を浴びてしまっているのだろう。

面倒なら、自分が可愛いなら、彼らのように見て見ぬふりをすればいい。


しかし、少年は目をそらさなかった。


前持って言っておくなら、決して彼はヒーローなどではない。

それは、少年自身がよくわかっていることだ。

ヒーローなら、と、少年は考える。



―――そう、もしもヒーローがいたなら。

―――ヒーローがいたなら、だれにでも手を差し伸べて皆を助けることができる。


でも、少年にはそれが出来ない。

彼は自身の人生で、そのことを学んだ。

一人ができることなんてたかが知れている。

どんなに手を伸ばしたって、どんなに手を広げたって、届く距離には、抱えられるものには限りがあるのだ。

ヒーローみたいに、誰もが笑っていられる世界は作れない。

何かを救うためには、必ず何かが犠牲になってしまう。


だから矮小な人間は、常に優先順位を決め続けなければならない。

誰かを守るなら、誰かを見捨てる覚悟を。あるいは、殺す覚悟を。

そうやって彼は生きてきた。




さらにいえば、少年は善意で動いたりしない。

ただ、自由に、好き勝手に自分のやりたいことだけをやる。

だから気に入らないクズは五万と殺してきたし、逆に気まぐれに助けたりもする。

誰にも、何からも縛られたりしない。

それは、少年が不幸な人生の中でただひとつ見つけた、自分の生き方。

―――良いも悪いも関係ない。

―――気に入らなければ殺してみろ。



上条「俺はてめぇらみてーに群れなきゃガキ一人も相手にできねぇような奴らを見てるとムカつくんだよ!」


少女の肩に手を回していた男までもが少年に向き直る。

どうやら、彼の目論見通り標的が彼女から少年へ移ったようだ。


上条(…このまま人気のない場所まで鬼ごっこするか)


少年が追われる形でその場を後にしようと背を向けた瞬間、少女の額で青白い火花が散る。

誰一人気にも留めない中、少年だけは見逃さなかった。

少年は凄まじい早さでバク転を繰り返し、少女から距離を取る。

揺れる視界の中捉えたのは、男たちがパタパタと倒れていく姿だった。




―――たいそうな能力じゃねぇか。



大勢のスキルアウトを女子中学生が一蹴。

一見信じられない光景だが、学園都市ではそれがあり得てしまう。

能力の強度からみるに、おそらく、大能力者(レベル4)以上の能力…。



御坂「アンタ…」



少年が訝しげな目で少女を見ると同じように、彼女もまた同じような目でこちらを見据えている。

両者の間に僅かな緊張の空気が流れた。



上条「ったく…。俺まで巻き込まれるとこだったろ」



おかしい…。

どう考えてもおかしい…。

ここは普通巻き込んでごめんなさい、ケガとかありませんでしたか?とか言って心配してくる場面なのではないだろうか。


なのに、あろうことか少女は敵意を込めた目でこちらを見つめている。



御坂「なんでアンタだけ無傷なわけ…?」






少女は、気に入らない。ただ目の前に立つ少年が気に入らない。

足元で昏倒している不良達のことなど、もう頭の隅にもなかった。

14年間の人生で、限定的にいうなら、超能力者と認められてから、少女の攻撃から免れたものなど誰一人としていない。

自分をガキと罵ったことも気に入らなかったが、自分の攻撃を意図も簡単に交わされたことがもっと気に入らなかった。



能力の発現当初からレベル5だった者が多い中で、少女は珍しく発現当初レベル1だった。

それから努力を重ね超能力者へと登りつめた彼女にとって、超能力者という称号は、彼女の自信の根源となっている。

強さこそが彼女のアイデンティティ。


故に気に入らなかった。

意図も簡単に自分の攻撃を交わした目の前の男が。


そして同時に心の何処かで歓喜していた。

やっと見つけた、『自分と対等かもしれない人間』の存在に。



強大な能力ゆえに、少女が本気を出すことは許されない。

それでも自分の力を試したいという欲求は、能力者なら誰もが持ち合わせている。

だから学園都市では、能力者同士の抗争が後を絶たないのだろう。


少女の場合はいなかっただけなのかもしれない。自分と対等な、力を試せる相手が。

この日、学園都市の広告塔・模範生のお嬢様は、自らにまとわりつくレッテルを振り払い、本性をむき出しにする。


青白い火花を散らす、誰もが恐怖するであろうその姿にさえも、少年は全く動じた様子を見せない。

少女の口元が緩む。

少女の好戦的な目に、少年はただ溜息を漏らすばかりであった。





少年は実感する。

ほんとうに自分はついていないと。

今回は不幸なことに、気まぐれな性格が仇になった。

少年は現在、路地裏を学生寮とは逆方向に走っている。



上条「まさか絡まれていたのが噂に名高い『超電磁砲』だったなんてな…」



少年のつぶやきに答えるかのように、背後から『追跡者』の追い打ちが飛来した。

喰らえば火傷は免れない電撃。

電撃使いとしては最高位に君臨する少女の攻撃だ。

頑丈な少年でも喰らえばただではすまないだろう。



御坂「ちょこまかとっ!なんで当たんないのよ!」



わかったら諦めてくれ。

少年は言葉であしらったが、無駄だった。少女は聞く耳を全く持たず、ただ勝負しろの一点張り。

攻撃のパターン、威力、能力の応用…。

それらから判断するに、おそらく少女は逆立ちしても少年には敵わないだろう。

当然といえば当然だ。

常に死線に身を置く彼が中学生ごときに負けていては話にならない。

少年に超能力者との対戦経験はないが、右手があるかぎり負けることはないだろう。

実際、少年は後ろを振り返ることなく電撃をかわし続けていた。




それにしても、と少年は思う。


―――なんでこいつはこの速さについてこれるんだよ…。



ここにきて、初めて少年が後ろを振り返る。

少女は息を切らしつつも火花を散らせながら走ってきていた。



御坂「は~ん。意外って顔ね…」

御坂「こんなスピード出したのは初めてだけど、体内の電気信号操れば簡単よ」



上条「体内の電気信号…?」

上条(いよいよなんでもありじゃねーか。超能力者)


御坂「大体、アンタ何者よ!こんなに苦戦したのは初めてなんだけどッ!?」



言いながら、少女はまた電撃の槍を飛ばす。

放たれた電撃は、少年へとぐんぐん距離を詰めていく。

スピードを落とすのは得策ではないと考えた少年は、身体を綺麗に丸めた飛び込み前転で電撃をかわし

回転の遠心力でスピードを落とすことなく走り始めた。



少女の表情から怒りや悔しさといった色が消え失せる。

一瞬だけ現れた感心の表情が、不敵な笑みに取って代わった。



御坂「やるわねっ!…おもしろくなってきた!」バチバチ



少女には見えるはずもないが、少年はげんなりした表情で溜め息をこぼし、すこしだけ笑った。





御坂「はぁ…はぁ…はぁ…」



第七学区の公園の、薄暗い街灯の下で一人の少女が息を切らしベンチに深く腰掛けていた。

運動不足であるつもりはないが、さすがにぶっつづけの走りっぱなしはこたえたらしい。

少女は苦しそうに顔を歪めながらも、どこか楽しそうな表情を浮かべている。



御坂「はぁ……撒かれちゃったわね」



誰にともなくつぶやき、手にしたヤシの実サイダーを一気に煽る。

飲み干した炭酸の余韻をひとしきり楽しんでから、少女は考える。


―――それにしてもアイツ…。


いままで目にしてきた数々の能力の、そのどれにも当てはまらない…。

いっそ無能力者だと言われたほうがしっくりくるような気さえする。



常識はずれの足の速さ、フットワークの軽さ、ずば抜けた身体能力、判断力。

超能力者相手に動じない、どころか、軽くあしらうような態度…。



御坂「極限まで身体を鍛えぬいた無能力者とか?」



口にしてブンブンと大きく首を振る。

有り得ない…。

無能力者相手に自分が苦戦することなどありえるはずがない。



―――そうよ、なにかタネがあるにちがいないわ。


御坂「今度こそっ」



少女の右の拳が固く握られる。

少年に負けたことが素直に悔しい。

無意識のうちに、少女はまた少年に会うことを望んでいた。

かばんを取り、女子寮への道を歩み始める彼女の顔は、どこか嬉しそうで

頭の中は、次の勝負のシミュレーションでいっぱいだった。



少女は、自らが残していった空き缶の存在に気がつかない。

ロボットにも回収できない絶妙な位置に放置された空き缶が、後日誰かが転ぶ原因になることも、少女は知らないまま生きていく。





翌朝。


学生寮の、自室のベッドの上に座る少年はいささか機嫌が悪い。

少年の手には携帯電話が握られており、電話機の向こうでは、聞いたこともない男の声が仕事の内容を説明していた。


少年に仕事の話を持ち掛けてくる人間は、ころころと変わる。

どうやら今まで経歴が相まって、上での彼の評判はすこぶる悪いらしい。

組織に所属していた頃、少年が無視した命令の数は数えきれない。

守るはずだった研究所をまるごと燃やしたこともあったし、組織のリーダーを殺したこともあった。


まず殺されてもおかしくない状況で少年が生きながらえているのは、統括理事長による後ろ盾が大きい。

そのことを知ってか知らずか、電話口で頭をペコペコ下げているのではないかというくらい、男の声は謙虚なものだった。



大体話を把握したところで、しかし男の話の途中で、少年は口を開ける。



上条「イヤだ。てめぇで探せよバーカって言っとけ」



そのまま返事も待たずに切る。

普通断ることのできない依頼も、少年には断る権利があるらしい。

そもそも、重要な仕事の場合は統括理事長が直々に電話をしてくることになっていた。



一息つこうと腰を上げた瞬間、再び携帯が鳴る。

げんなりした顔で画面を覗くと、『木原数多』の名前が表示されていた。





木原『よぉ。まだ生きてんのか?』


上条「おかげさまで」


木原『そりゃ迷惑な話だ』


上条「木原さんの方こそ。この間はちゃんと殺してやれなくてすみませんでしたね」



二人の会話は、いつも互いの罵倒から始まる。

別段仲が悪いというわけではない。ただ、互いが互いを殺したいと思っているだけにすぎない。

少年のいうこの間とは、別任務で動いていた猟犬部隊を、彼が壊滅寸前まで追い込んだことを指していた。


少年は木原に、次に目の前に現れたら殺すと一方的な約束を取り付けている。

それから、この間で実に二度目。

少年が本気ではなかったとはいえ、その二回で、猟犬部隊は二度の壊滅的打撃を受けていた。



木原『仕事はしねぇで余計なことばっかしやがって。こちとらまたクズの補充だぜ』ケラケラ


上条「そいつはいい気味だ。てめぇを殺せばその手間も省けるってもんだぜ。次は確実に殺すぞ。木原」


木原『口の減らねぇガキだ。もう一匹のクソガキを思い出すぜ』





上条「まぁいい。要件はなんだよ」




木原『テメェが引っ掻き回してくれたおかげでクズの人員不足だ。仕事がたまってんだよ』


木原『クズの仕事はテメェでちゃんとやりやがれ』


上条「てめぇも害悪だってこと棚に上げて喋ってんじゃねぇよ」



上条「まぁでもしょうがねぇからひとつだけ引き受けてやる」


木原『やけに素直じゃねーか』


上条「これ以上てめぇの声を聞きたくねぇんだよ、察せ。内容はメールで送れよ」





予め予期していたのか、電話を切ってすぐに仕事内容が送られてきた。

手早く確認を済まし、テンプレから文を選び下部組織にメールを入れる。


朝食を済ませ、学校用のかばんに教科書もろもろを詰めたところで、隣人の土御門からお呼びがかかった。



上条「おう。今行く」



隣人に挨拶をするのは、少しだけ眠そうなアホ面の高校生。表の住人上条当麻。






土御門「おっはよーう!」



一歩前を歩く金髪の少年、土御門元春が教室全体に響くような大声で挨拶し、後ろのドアから中へ入っていく。

アロハシャツにグラサンという大変奇抜な格好で席につく土御門は、はたから見れば相当怪しい。

そんな彼に目もくれないクラスメイト達は、たとえばスキルアウトが教室に入ってきたところで誰も気づかないんじゃないだろうか。

改めてこの学校のおかしさを痛感したところで、上条の肩にもう一人の友人の手が置かれた。



青ピ「おはようつっちー、カミやん」

上条「おう」



野太い声で挨拶をする身長180cm超えのこの少年は、主に頭が奇抜な通称『青髪ピアス』。

彼の本名は誰も知らない。むしろ興味もない。

故に、周囲から浮きまくりな青い髪と耳に付けたピアスで持ってそう呼ばれている。

ちなみに変態。

変態の上に学級員まで務めているという、実に奇特な男である。



青ピ「てゆうかカミやん…ふふっあはははっ…なんやねんそのたんこぶ」



上条の顔を見た途端、彼は指をさして笑いはじめた。

その笑い声が、クラスの連中の注目を集めた。

いつの間にかクラスのほとんどが上条の顔を指差し、あちこちで笑っている。




上条「大体今日のは土御門のせいだっつーの」

上条「お前が自販機に寄ろうとするからこうなったわけであって…」



本日、上条当麻はおでこにたんこぶを作っている。

前髪で少しは隠せているものの、やはりよく見たら目立っているようだ。その証拠に、彼は登校中にも幾度となく指を指されて笑われた。

『今日のは』とつけたのは、非常に嘆かわしくも、少年の不幸こそが彼の日常だからである。

本日も不幸の平常運転なり。



土御門「俺のせいにするとはひどいぜよ。にしても普通踏まないだろ…わははははっ思い出したら腹痛いっ…」

青ピ「やっぱその顔っ…傑作やでぶはははは」



殴ってもいいだろうか?

理不尽とは自覚しつつも、なんとも腹立たしい。


そもそも少年が転んだのは、登校中に飲み物を買うと言い出した土御門に付き合い公園に行ったのが原因だった。


自販機と睨み合う友人を尻目に休憩しようと近づいたベンチで、いや、近づいてしまったベンチで、彼はひとつの空き缶と出会う。

炭酸飲料を閉じ込めるのに無駄のないフォルム、シンプルながらも思わず飲みたくなるようなデザイン。

彼は少年にヤシの実サイダーと名乗った。


足元で待ち構える空き缶が何を意味するか…疫病神と讃えられるこの少年ならば、迷わずに即答するだろう。

結果、少年は見事に足を取られ、彼の頭はベンチと派手な邂逅をはたした。


近くで待ち構えていた掃除ロボが、そそくさと役目を終えた空き缶を回収する。

少年は赤く腫れた額をさすりながら、あれは悪意を持って仕掛けられたとしか思えない絶妙な位置に置かれていたと語った。




上条「ったく…不幸だ」


吹寄「ようやく三バカが揃ったわね」



賑やかに雑談する彼らを、まるでころがるゴミを見るような目で見る彼女の名前は吹寄制理。

制服の上からも目立つ豊満な胸に、しなやかな黒髪とキリッとした眉毛が特徴の少女。

彼女は、上条・土御門・青髪ピアスの三名を、クラスの三バカ『デルタフォース』と呼び、慕っている。

委員長気質で隙がないように見える彼女だが、実はズレた健康志向の持ち主で、通販の健康グッズを買い漁るという奇特な趣味を持ち合わせていたりする。



土御門「デルタフォースっつっても、実際に馬鹿なのはカミやんだけなんだけどにゃー」



…妙なことをいう男だ。

彼らは三バカと称される通り、居残り・休日補習の常連である。

今更取り繕おうたって、どこに取り付くしまがあるというのか。



青ピ「つっちーアカんて。ボクらはともかくカミやんはほんまに馬鹿やねんから」

上条「なにおう!テメェらだって補習の常連だろ!」

青ピ「ボクは小萌ちゃんの授業が楽しいんや~。小萌センセが担任やなかったら学年一番とってるとこやで?」

上条「嘘つけ!テメェが頭いいなんて、上条さんの幸運以上にあり得ねぇよ」



吐き捨てるように言って、口の端を吊り上げる。

そろそろ青少年の目を覚まさせてやらなくてはならない。




土御門「知ってる側からするとこうも哀れなんて…どんまいカミやん」

青ピ「カミやんがそう思っとるんならそれでええんやけどな」

青ピ「それより今日も補習楽しみや~。せやカミやん!今日の放課後空いてへん?つっちーと三人で久々にゲーセン行こうや」

土御門「名案だにゃ―!負けたら晩飯おごりだぜい?」

青ピ「つっちーほんま悪やな~。カミやんがおごり確定やん」



彼らは好き勝手に上条を罵りつつ話を進める。

遊びたい気持ちはやまやまであったが、少年の答えは決まっていた。



土御門「いつものファミレス。カミやんに何を奢らせるか迷うぜい」

上条「悪いな。今日は外せない用事があるんだよ」



そう、外せない用事。

胸糞悪い木原から回ってきた仕事ではあったが、少年が受けることを決めた依頼だった。

本当に残念な顔をする青髪を見ると、少しだけ罪悪感に包まれる。

しかし、暗部に身を置く以上プライベートとはきっちり線を引かなければならなかった。



表の世界では、ただの無能力者で。

補習でだべったり友達と遊びに行ったりの、多くも少なくもない交友関係をもつ普通の男子高校生。



決して表の住人を巻き込んではならない。

決して表の住人に知られてはならない。


そういう意味では、

―――あのビリビリ中学生は要注意だ。


彼女は珍しくも綺麗なままの超能力者である。

しかし、いつどんなきっかけで闇に堕とされるかわかったものではない。

裏の連中がどれだけ高位能力者を欲しがっているかは少年もよく知っていた。



昨日の件であの少女が上条に興味を持ってしまったことは間違いようもない。

右手を使わずに逃げることには成功したが、おそらく少女は上条のことを忘れないだろう。



自分が近くで見守ってやるのがいいか…。

自分と関わらないように手を回すのがいいか…。



―――素直に言うことを聞きそうな奴でもねぇよな。



この時点でもう既に、御坂と二人の人間が闇に触れるきっかけとなる実験が進行していることを、彼はまだ知らない。



そして、彼が今夜出会う、ある一人の少女のことも。






吹寄「遊んでる暇なんてないわよ!次のテストに向けてちゃんと勉強しなさい」

青髪「委員長が手取り足取り教えてくれるん?」

吹寄「そんなわけないでしょ。バカが伝染るわ」

青ピ「その蔑むような目!ぞくぞくするわ~もと虐めて~」クネクネ

吹寄「…」

土御門「さすがにキモいぜい」

青ピ「…野郎からの言葉責めはいらんわ」

土御門「うっさいにゃー!」

吹寄「そろそろHR始まるから席に戻りさなさい」

青ピ「せやねー」

土御門「にゃー」



吹寄「ほら!貴様もはやく!」



少年の悩みなどつゆも知らない明るい声が、彼を思考の闇から現実へ引き戻す。



上条「ああ」





午後の学園都市は第三学区、とある個室サロン。

豪華な内装が施された一室に、風変わりな四人の少女たちが居た。

電話に向かってキレ気味な態度をとる長髪の少女、窓の外をぼんやりと眺めるジャージの少女

ベレー帽をかぶり缶詰でタワーを作っている金髪の少女、オレンジのパーカーを着こむ一際幼い少女。

はたから見れば、どこにでもいそうな仲良しの四人組に見えるかもしれない。

しかし、実際の彼女たちはそんな暖かな関係ではない。

名を、『アイテム』。

その実体は、学園都市内の不穏分子の削除及び抹消を主な任務とする、学園都市の暗部組織。

つまり、上条当麻と同じ裏社会の人間たち。



麦野「わかったわ」



アイテムのリーダーを務める少女、麦野沈利が口論の末に電話を切る。

どうやら、交渉が成立したようだ。

メンバーに向き直ったリーダーに、全員の視線が集まる。



麦野「は~い。お仕事の時間よ」

麦野「今回は研究施設からブツを奪って逃走している連中の抹殺よ」

フレンダ「麦野!そのブツって?」

麦野「さぁね。長生きしたければ言われたことだけやってなさい」




冗談のような口調でも、彼女は本気である。

裏社会の人間など、いくらでも替えがきくのだ。

ここは、学園都市にとって不都合な情報を持てば殺される、それが当たり前の世界。



フレンダ「こわっ!?目が笑ってないわけよ…」

麦野「フレンダァ。今回はポカすんじゃねぇぞ」



フレンダと呼ばれる金髪碧眼の少女は、優秀な戦闘員ではあるがどこか抜けているところがある。

これまでに、フレンダが原因のミスで劣勢に追い込まれた件が度々あったため、麦野からの信頼は低い。



フレンダ「ぜ、善処しまーす…」

滝壺「がんばってふれんだ」

フレンダ「た、滝壺ぉ~」ウルウル

滝壺「そんな役立たずのふれんだをわたしは応援する」

フレンダ「」



脳天気な、どこか無機質な声で話す少女の名前は滝壺理后。

戦闘能力は劣るものの、彼女の有する能力『能力追跡』は戦闘の要であり、アイテムの切り札でもある。

その能力は、一度記憶した能力者のAIM拡散力場から、たとえ地球の裏側に逃げようとも相手の正確な位置を特定できるというもの。

また能力体結晶、通称『体晶』を用いることで強化され、相手の能力に干渉することもできる。

故に、アイテムの対能力者における戦闘は、常に滝壺を守りつつ、滝壺の補助によって成り立つ。




絹旗「麦野、敵の人数と潜伏先の目星は?」

麦野「それが潜伏場所ほっぽって逃げまわってるみたいなのよね。人数は4人で全員無能力者」

麦野「面倒なことに二組に分かれて逃げまわってるみたいよ」

麦野「いま下部組織の連中に追わせてるみたいだけどね」

フレンダ「それっておかしくない?無能力者がたった4人なら、わざわざわたしたちが出ていく必要ってないわけじゃん?」

麦野「私も最初そう言ってやったんだけど、どうやらブツの取引の相手がどこかの研究所らしくて、そいつらがまたどっかの組織を雇ってるらしいわ」

フレンダ「うわーめんどー…」

麦野「まぁブツが渡る前にそいつらをやっちゃえば、どこぞの組織の連中とやりあう必要もないんだけどね」

絹旗「ではとりあえず、麦野と私で別れて滝壺さんを―――

フレンダ「は~い!」



まとまりかけていた話を、フレンダが制する。

納得がいかないといった表情ではなく、むしろ口の端を吊り上げた笑みを浮かべていた。



麦野「あ?」

フレンダ「片方はわたしひとりで行く!」

麦野「はぁ?んな危ねぇ橋渡る必要ねぇだろ」



麦野は、論外という風に片手を振る。

しかし、フレンダは珍しく食い下がった。



フレンダ「そこをなんとか!お願いっ」

麦野「珍しいわね。一体どういうつもり?」

フレンダ「一人で倒せば、結局撃墜ボーナスゲットでしょっ?」

麦野「はぁ~、いいわ。でも連絡は必ず入れること。いいわね?」



麦野の忠告に、フレンダはウインク一つで答える。

普段ならフレンダのわがままに付き合うことのない麦野だが、今回は無能力者の敵が二人ずつだったために了承した。







とある高に、下校時刻を知らせうチャイムが鳴り響いた。

それを合図に、一年七組の居残り補習授業がやっとのこと終わりを迎える。



小萌「じゃあ今日の補習はここまでなのです!上条ちゃん、授業内容はわかりましたか?」



なぜか上条だけに意見を求める失礼極まりない担任教師の名は月詠小萌。

まさにロリっ娘と称されるに相応しい小萌は、教卓の前に立つと首しか見えなくなるというとんでもない教師だった。

身長は135cmで、安全面での理由からジェットコースターの利用をお断りされたという伝説を持ち、

『歳を取らない虚数学区の住人』として学園都市の七不思議にまで登録されてる奇特な幼女先生である。

しかし外見に似合わぬヘビースモーカーで、嘘かホントか口に咥えただけで煙草の品質の違いが分かるらしい。



小萌「あのー上条ちゃん?」

上条「ああ、はい。よくわかりましたよ!上条さんは完璧に理解しました」

小萌「本当ですか?次のテスト期待していますよ!」

上条「あ、はぁ…」

土御門「どうあがいてもまた三人で仲良く補習ですたい」

青ピ「もう補修が終わってもうたわ…ボクはまだまだ何時間でも受けたいのに」

上条「変態の上にロリコンかよ、救えねぇな」



くだらない談義を済ませ、荷物をまとめる。

さっさと帰ろうと席を立ったところで、青髪ピアスが立ちふさがった。




青ピ「カミやん。君はほんまに残念な子や~」

青ピ「ロリのよさがわからんなんて。…聞いたかいなつっちー」

土御門「ロリのよさがわからんとは…さすがはホモ疑惑が立つカミやんだぜい」

上条「テメェらがベタベタしてくるからそんな根も葉もない噂が立つんだよ!」

土御門「ふはははっ冗談だにゃ―。カミやんのタイプは寮の管理人のお姉さんだからにゃー」

青ピ「うんうん。わかるでー!今夜は年上談義に花を咲かそうやないか!」

土御門「そこは義妹(いもうと)談義に決まってるぜい!」

青ピ「シスコン軍曹はだまってくれへん!?この裏切り者がっ!」

土御門「心地良い嫉妬と受け取っとくぜよ」ニヤリ

青ピ「くぅ~ッなんなんその余裕!ボクら三人負け犬組やなかったんかい!」



土御門元春は、メイド愛好家にして繚乱家政女学校に通う義妹を溺愛しており、しかも既に一線を越えてしまっている模様。非常に恐ろしい。



上条「とにかく、俺はこの後用事あるから帰るぞ。また明日な」



腕を振り、負け犬とシスコン軍曹の間を割って通る。

またしつこくまとわりつかれることを予想した上条だったが、しかし彼らが上条に食い下がることはなかった。







夕方の第七学区は、とある路地裏。

薄暗く人の寄り付かないその場所に、一人の少女と武装した数人の男達が対峙していた。

男たちは誰も彼もが歪んだ笑みを浮かべ、少女を取り囲むように立っている。

誰もが恐怖するであろうその場面にも、少女は顔色一つ変えず、とくに怯えた様子を見せなかった。



治安の悪い学園都市のなかでも、第七学区は特に治安の悪い区域として知られている。

学園都市のほぼ中央に位置する第七学区は、学舎の園を始めとしたお嬢様の集うエリアと、庶民性の強いエリアが同居しているため

学生の多い学園都市の中でも特に学生が多い学区である。

学生たちによる犯罪行為がそのほとんどを占める学園都市において、第七学区の治安の悪さは当然といえた。



少女は、自身を囲むスキルアウトと思しき男たちを見て、悟る。

その顔には恐れも怯えもなく、挑発的な笑みだけが浮かべられていた。



少女A「能力者狩りの連中ね。残念だけどわたしはレベル3のッッ―――!?」



突然、耳を塞ぎたくなるような不協和音が場を支配する。

何事かと思い、目を丸くして辺りを見回した途端に気づいた。


男たちは先ほどと変わらぬ歪な笑みを浮かべたまま…彼らには大した音に聞こえていないようだ。

つまり、これは―――。




スキルアウトA「レベル3の、なんだって?」

スキルアウトB「頭痛能力か?」



彼らの間にどっと笑いが起こる。

能力を起こそうにも、騒音が頭に響いて演算に集中できない――。


能力を持つはずの能力者が、なぜ無能力者なんかにやられるのか。

―――わたしなら、返り討ちにしてやるのに。

昼間の会話が頭をよぎる。

能力が使えない。

つまり今この瞬間、少女はただのか弱い女の子ということで…

周囲から抜きん出た強能力者も、その細腕だけでは男の手から逃れることも叶わなかった。


少女の腕を強引に引く男が、彼女に振り返って口を開く。

スキルアウトC「教えてやろうか?こいつはキャパシティダウンっつってな、どっかの研究者が開発した装置で能力者の演算を阻害するんだと」

スキルアウトB「お前ら能力者が二度とデカい面出来ねぇように俺たちが有効活用してんだよ」



少女は腕を引かれ、見るからに怪しい黒いバンに乗せられようとしている。

彼女は最後の抵抗に、もがき大声をあげようとしたが、口に押し付けられた白い布によってとうとうその意識は刈り取られた。








第七学区、某所。



とあるビルの前に、一台の黒いバンが停車していた。

運転席に座る男はサングラスに黒いスーツといった格好で、顔も名前も知らないある男を待っている。

15歳の少年にして、男が下部組織として配属された暗部組織のリーダーを務める、男の直属の上司となる人間。


なんでも、男を含めて20名の下部組織の上に立つ、15歳の少年が仕切る組織は彼一人だけで構成されているという…。

ただの使い捨ての下っ端組織かと思えば、裏の業界では『切り札』とまで称されるほどの特殊な組織であるらしい。


考えにふけっていた男の後ろで、突然、バンの後部座席のドアが開かれる。

ミラー越しに確認すると、ツンツン頭の少年が後部座席に乗り込んでくるところだった。

車を間違えていないか、という趣旨の注意を促そうとして、しかしその声はいつまでも発せられない。


ミラー越しに見えた少年が、男に鋭い眼差しを向けてきたからである。

どこまでも見透かすような、それでいて極度のプレッシャーを放ってくる視線。

一目見た印象はどこにでもいそうな少年。しかし今、男はその一瞬で理解した。



上条「場所わかってんな?」

男「はい。把握しています」

上条「よし、出せ」




男は、少年の見た目と雰囲気にかなりの違和感を感じた。

それは、男とは全く違う世界で生きてきたことを感じさせるような、異質な雰囲気。

と、そこで再び少年の方から声がかけられた。



上条「お前、新入りか?」

男「はい」



サングラスにスーツ。男を含めた他全員が同じ服装をしている中、少年はすぐに気がついたようだ。

間髪入れずに答え、次の質問を待つ。



上条「なら覚えとけ。言われたことだけをやれ。他のことは一切するな」

男「は、はぁ」

上条「要は指示待ちでいいってことな。もし俺の許可無く人を殺せばお前を殺す」

男「………っ」



男はいままで幾度と無く脅しをかけられてきたし、逆もあった。

しかし、この少年のそれはいままでのそれとは全く別物といっていい。

有無をいわさない。それは既に心臓を握られているような感覚……。

これが思春期の15歳の少年だと思うと、尚の事恐怖を感じる。




上条「あと、現場は見ないほうがいいぞ。余計なこと知ったら消されるぞ」


淡々と物騒なことを告げる少年から、男はこの世界の恐ろしさを改めて思い知らされた。

不都合な人間はすぐに抹消される。

聞いた話では、男の座るポジションの前任者はこの少年によって消されたらしい。

クズの寄せ集めと揶揄される下部組織は、誰が殺されようとも足がつかない。『消えても誰も不自然に思わない人間』の寄せ集めであるからだ。

生きるためには、この少年に従うしかない。


男「はい…」

上条「まぁ俺はお前らに車の運転くらいしかさせねぇから安心しろ」

上条「たまに手伝わせるかもしんねぇけどな。今日は運転と見張りだけ」

上条「見張ってて逃げてきた奴は殺さずに捕まえとけ。多分ねぇけど」

男「は、はい」

上条「後ろ走ってる二台にも同じように指示すること、以上」

男「了解しました」



暗部に堕とされた以上どんなひどい扱いを受けることも覚悟していた男だったが、幸運なことに少年は男たちに無関心だった。

しかし、同時にミスをすれば命の保証はない。

この少年はきっと容赦しないだろう。

あらためて気持ちを入れなおしたところで、目的地である倉庫が見えた。



上条「たしか裏口あったろ?後ろの車を前後一台ずつで固めとけ」



返事をするまもなく、少年は車を離れていった。









少女の目が開く。

いつもなら、少女が目を開けた時にまず広がってくるのは、学生寮の見慣れた低い天上である。

しかし、今彼女の目に広がっているのは、遠くにある壁と、いくら手を伸ばしても届きそうにないくらい高い天井だった。

辺りになにもないところを見ると、ここは使われていない廃墟のような倉庫だとわかる。

そこで、少女は自らの身体に異変を感じた。

まず、手が、さらには足が動かせない。

驚き、目を落とせば、少女の足首の部分がロープで固く縛られており、動かそうにもまったく動かせない状態だった。

おそらく両手も同じように後ろで縛られているのだろう。

一体なぜ―――。


少女は嗅がされた薬品とショックによって、一時的に襲われた時の記憶を失っていた。


しかしながら、両手両足を縛られて見知らぬ場所にいるという異様な状況は、否応なしに事態を連想させる。

助けを呼ぼうにも、少女の口はテープで塞がれていた。




パニックに陥った少女に追い打ちを掛けるように、背後からカツカツと幾つもの足音が響く。



スキルアウトA「おはよー。お嬢ちゃん」



恐怖し、それでもわずかに助けを期待した少女の希望が完全に殺される。

こんな状況じゃなければ、ただの呼び声に聞こえるセリフかもしれない。

しかし、少女の身体は覚えていた。

男の声に反応するように、身体がビクッと反応し、心臓が暴れ始める。

少女の第六感とも呼べるものが、危険を知らせる警笛を鳴らす。

少女の勘が正しかったと告げるように、彼女の髪が強引に引っ張られた。

引っ張られて振り返った先に数人の男たち、その背後にもっと大勢の男の姿が見える。



男の顔を見た瞬間、少女は記憶を完全に取り戻した。

―――能力者狩り。

それは彼女の通う学校で、もっといえば学園都市中で噂になっている一つの事件である。


能力を持たないスキルアウトが、集団になって能力者を襲うという事件。

元をたどれば能力者による無能力者狩りが発端となっていたその事件を、少女は他人事のように考えていた。




―――そんなの私には関係ない。

―――襲われたって返り討ちにしてやるわ。



なにも少女だけに限った話ではないだろう。誰もが他人事のように考えているからこそ興味本位で噂を流す。


曰く、『能力者狩り、無能力者狩り』

曰く、『学園都市に都合の悪い人間を始末する組織の存在』

曰く、『レベル5の軍事用クローン』

曰く、『幻想御手なる簡単に能力が上がるアイテムの存在』


学生たちの笑いの種になる噂話が、当事者になってみればこんなに恐ろしいなんて一体誰が考えただろうか。

そんな不安を笑い飛ばしていた自分自身が、なにもできずにただ震えることしか出来ないなんて予想だにしていなかった。


それに、噂話とは本当に都合がいい。

能力者狩りは能力を使えなくする機械を使うなんて話はなかった。




男たちの一人が少女の襟首を掴み、奥へと引きずり始めた。



スキルアウトB「悪く思うなよ。もともと無能力者(おれたち)を虐げてきた能力者(おまえら)が悪いんだ」



コンクリートの地面を引きずられる痛みさえわからないほどに、少女は恐怖で頭がいっぱいだった。

倉庫の奥へ奥へ進むにつれ、男たちはうじゃうじゃとその姿を表す。

味方は誰一人としていない。

能力も使えない。

たとえ使えたところで、20人を超える男を相手にできるほどの力もない。


これからどうなってしまうのか考えるのも恐ろしかった。

全身から嫌な汗が流れはじめる。

男たちの笑い声やしゃべり声以上に、自身の心臓の音がうるさかった。


急に少女の身体が地面に投げ出される。

痛みに顔を歪めながら視線を上げた先には、大柄な一人の男が立っていた。


スキルアウトB「こいつ…なかなか綺麗な顔してますよ」


おそらくそれは少女の容姿を褒める言葉だったが、嬉しい気持ちはかけらも起きなかった。

荒々しかった男の声が媚びへつらうようなものに変わっているところを見るに、目の前の男がここのリーダーなのだろう。

190を超える身体に、スキンヘッドの頭。

少女の人生において、初対面でこれほど嫌悪感を抱く人間は初めてだった。




大男「いつもみたいに俺が楽しんだ後お前らで好きにやれ。終わったらちゃんと処理しろよ」

スキルアウトB「うぃっす」


男は恭しく頭を下げ、少女と男をふたりきりにし、来た道を引き返していった。



残された少女の顔は恐怖に青ざめる。

処……理…?

終わったら処理される。

まるでゴミを捨てるかのように軽い言葉だった。

処理が何を意味するか考えたところで、ふたたび少女の心臓が暴れ始めた。

いやだいやだいやだいやだいやだいやだ―――。

ここにきて、初めて少女の頬を大粒の涙が伝う。


にじり寄ってきた大男の手が、少女顎を強引に自分の顔へ引き寄せた。

そのまま、あろうことか大男は少女の涙をベロベロと舐め取りはじめる。


ジュリルジュルリと男の生んだ音が、彼女の波打つ心臓の音と混ざり室内に響きわたる。

思わず耳をふさぎたくなるような不快な音。

他人に顔を舐められるという初めての感覚はひたすら不快で、平気でこんなことをする目の前の男が怖かった。

恐怖心が次々に涙をこぼし、待ち構えていた男の舌が荒々しくそれを舐めとっていく。


後ろ手に縛られている両手で、両足で、全身で必死にもがき抵抗を試みたが、少女を束縛する縄が緩むことはなく、大男の舌が止まることもなかった。



涙だけでは満足できなくなったのか、男の舌が頬を這い、少女の口元に到達する。

学舎の園と呼ばれる男子禁制のエリアで暮らす彼女に経験はなかったが、知識として知っている行為。

またしても少女の予感が的中と告げんばかりに、男の手が彼女の口を覆うテープを強引に剥がした。



少女A「ぶはッ――!!」



ガムテープを一気に剥がされた痛みよりも、はじめてのキスを奪われる恐怖のほうが何倍も上だった。



テープを丸めて地面に放った男の興味が、ふたたび少女の口元に向けられる。

唾液の引いた糸を押しのけて、ヤニで茶色く汚れた男の舌が再びその姿を現した。





投下終了です。
拙い文章でごめんなさい。細かな部分は脳内補完をお願い致します。

不快にさせた方がいたようですね。

自分なりにLR読んで深夜の方は気ままに自由だったので立て替えても不都合ないと思ってました。

ごめんなさい。ここまでよんでくれてありがとうございました。


今日の分投下しますね





あれから何分が経っただろうか。

初めてのキスを奪われ、服をすべて脱がされ、全裸で地べたに横たわる少女は、声を上げて泣いていた。

少女の隣に立つ大男は、そんな少女のことなどお構いなしに嬉々として服を脱いでいる。


大男が服を脱ぎだした瞬間、性知識の少ない少女にもこれから男が何をしようとしているのかがはっきりとわかった。

大男はその全身を持って、少女の初めてを奪い尽くそうというのだ。

そして、たとえその地獄のような時間が終わったとしても、その先に希望はない。

少女が明日を迎えることは未来永劫叶わないのだ。


思えば遠くまで来てしまったな、と少女は他人事のように考えていた。

きっとこれは一種の自己防衛本能なのだろう。

いまとなってはもう抵抗する気も起きなくなっていた。

それでも涙が次々に流れてくるのはなぜだろう。




こんな絶望的な状態でも、少女の頭によぎるのは楽しかった思い出ばかりだった。

つまらなかったはずの授業も、面倒だったはずの学校も、実は本当に幸せなことだったと今になって実感する。

もういつのもの生活には戻れないことがわかってしまうと、ほんの数時間前まで元気に笑っていたことが信じられなかった。



―――はぁ…なんで、なんであんな道を通ってしまったんだろう。

近道なんてしなければ。


―――なにか悪いことしたかな?わたし…



少女A「ねぇ…神様ぁぁ」



大男「今更神頼みか?おい?」

大男「もうなにもかも手遅れなんだよ」




大男は、硬くなった陰茎を少女の股間に押し当て、そのまま彼女の股間にこすりつけるように腰を前後させる。


大男がいよいよ少女の膣内に挿入しようと腰を上げたところで、二人だけだった空間になにかが割り込んできた。



それは、奥の倉庫から響いてくる一つの乾いた音。

銃声と思しきその音は、その一回を皮切りに続けて5,6回鳴り響いた。

少女の顔に驚きが、大男の表情に焦りが現れる。

ふいに流れた緊迫の空気は、その後響いてきた男たちの悲鳴によってより一層のものとなった。


仲間割れか――あるいは侵入者か。


男は慌てて服を着こみ、ポケットから取り出した拳銃を握ると、そのまま部屋の外へ飛び出していった。


絶望にひしがれていた少女に、希望の光がさしはじめる。




もしかしたら――アンチスキルが来てくれたのかもしれない。

もしかしたら―――。

少女は全裸なのも構わずに、大男が去っていった道を恐る恐る追っていく。


部屋を出た途端、火薬のような匂いが少女の鼻をつき、彼女の脳内に映画やドラマの銃撃戦のシーンが思い起こされた。

彼女の想像にリンクしたように再び銃声が轟き、その度に男たちのうめき声や叫び声がこだまする。


息を殺し音に近づいていくと、少女が連れて来られた倉庫まで辿り着いた。



その先に広がるの、何もなかったはずの倉庫は阿鼻叫喚と化していた。

乾いた音が響く度に男たちが血しぶきを上げて沈んでいく。

ある者は声を上げ、あるものは声もなく――。

ただ共通して誰もが一発だけ、心臓に当たる部分だけを撃ちぬかれて死んでいく。

この場にいる誰もが恐怖に青ざめるその光景に、しかし少女だけはそんな様子を見せない。



少女にとって、死んでいく彼らは恐怖の塊でしかなかった。

故に彼女にとってこの光景は、ヒーローが敵を倒していく場面にさえ映っていた。

苦しそうに命を散らしていく彼らの姿に少女は一切の同情も抱かない。


立ち込めていた薄い煙が晴れると、二人の対照的な男の姿があった。

片や、拳銃を片手に余裕綽々の態度を見せる細身の少年。

片や、高圧的な態度の消え失せた必死に命を乞うだけの巨漢。


つい先程まで狩りを楽しんでいた大男も、強者の前では狩られる側でしかない。

彼のやってきたことなど、鬼の居ぬ間の洗濯に過ぎなかったわけだ。

鬼が帰ってくれば阿諛追従するしかない、惨めな男。



少年「テメェら、やりすぎたな」



緊張が支配していた沈黙の空間に、少年の声がよく響いた。

少女と同世代に見えるその少年も、その態度と威圧的な姿勢からずいぶんと大きく見える。




少年「能力者狩りだけで十数人殺っちまったって?」

大男「た、頼む…金なら入るんだ!今取引の―――



大男の声を、少年の放った銃声と鉛弾が制する。

一瞬何が起きたかわからなかった様子の大男も、自分の腕がなくなっていることにすぐに気がついた。

無くなった肩から先を見て、少しだけ笑う。

少女には重度の痛みに感覚さえおかしくなっているように見えた。



少年「上に目つけられた時点でおしまいよ。せいぜい今生での行いを悔いながら地獄に堕ちな」



ヒラヒラと手を振り、少年が再び銃を構えた。

ポカーンとした大男の、左腕が、両耳が、両足が、次々に撃ちぬかれていき、その度に大男の絶叫が響く。

慣れているとでもいうように、その間少年は眉一つ動かさない。

一瞬の表情の変化もないまま、最後に照準を大男の頭に向け彼を地獄へ堕とした。




過激な少女の王子様は、物陰から彼を見つめる少女に目を向けると、躊躇なく引き金を引いた。







上条「ふぅ…」



一仕事を終えた少年は、死体の転がる倉庫の真ん中で木箱にまたがり携帯をいじっていた。

倉庫に充満する火薬と血の混じった匂いを気にも止めず、テキパキと下部組織に電話をかける。

死体の処理を行ってもらうためだ。

基本的に標的を殺すのが少年の仕事で、その他もろもろをこなすのが下部組織の仕事である。

少年の耳に3コール目の発信音が聞こえてきたところで、彼の顔つきが変わった。


一瞬で木箱から飛び退き、左手に拳銃を握る。

少年の勘が正しかったことを告げるように、倉庫の入り口に若い女がその姿を現した。

長めの金色の髪にネイビーのベレー帽を被る、碧眼の人形のような少女。

何が誇らしいのか胸を張り、両手を腰に当て、したり顔で少年を見つめている。




先に口を開いたのは、統括理事長の切り札である少年のほうだった。



上条「おい…俺の可愛い部下はどうした。表を張ってたはずなんだけど?」



フレンダ「誰かいたような?…結局足止めにもならなかったわけだけどね?」



少年は壁壁とした様子で銃を握り直す。

こんな事態には慣れっこの少年も、やはり少しだけ面倒に思う。

目の前に佇む少女は、明らかに裏に足を踏み入れている人間――彼には匂い、雰囲気でわかってしまう。

様々な暗部を渡り歩き、やがて自分の組織を持つようになってから襲われた回数は一度や二度ではない。

『統括理事長の切り札』『最強の無能力者』

その得体のしれない噂が、存在が、邪魔になる人間はいくらでもいるのだろう。



可哀想に。

目の前の少女は、そんな不明瞭な存在の抹殺の依頼を受けここに馳せ参じたわけだ。


また依頼主を叩き潰しに行かなければならない。

少し面倒だが仕方がない――そう決断したら、少年のほうが速かった。



地面を蹴り、地面すれすれの低い体勢で爆発的な加速をした少年はあっという間に少女への距離を詰めた。

不意を疲れた少女は回避行動に移る暇もなく、両手のガードで少年の蹴りを受ける。

見かけによらず戦闘慣れした少女は、ガードの瞬間にバックステップをすることで蹴りのダメージを軽減していた。




フレンダ「んぐっ…」



一瞬の判断にしては完璧とも言える行動を起こした少女だったが、少年の蹴りは予想の遥か上を行く威力。

少女は後方に5m近くふっとばされた。

倉庫のシャッターが緩衝材となりダメージは軽減されたものの、すぐには立ち上がれない様子である。



上条「言え。誰の差金だ」



少年は銃を構え、短く声を発する。




フレンダ「誰って言われても…依頼主のことなんて知らないし?」

フレンダ「結局あんたこそ誰?」



無用な問答を避けたい少年は、黙って引き鉄を引いた。

放たれた銃弾は、少女頭の真横を貫通する。



フレンダ(やばい…こいつ麦野並に容赦無いわけよ)



上条「テメェの組織は?さっさと答えろ」



フレンダ「わかった。わかったから…ね?」


少女は参ったといったようで両手を上に上げる。

瞬間、何もなかったはずの彼女の手のひらに、筒状のものが現れる。

少女がベレー帽を顔にかぶり直すと同時に、地面に落ちた筒状の何かが倉庫内を真っ白に照らした。



フレンダ「フラッシュグレネード」



少女はさっきまでと打って変わった余裕綽々の声で、一音一音丁寧に発音するように筒状の物体の名称を口にした。



フレンダ「結局、アンタの目はしばらく見えないわけよ!これでわたしの勝ちぃっ!」


少女のかかとから仕込まれていた尖頭型の刃物が顔を出す。

そのまま少年の上段にかかとが食い込むようにすさまじい速さの回し蹴りを繰り出した。

ビュンッと、ムチを振ったような風を切る音だけが鳴り響いた瞬間、少女の目が、再び驚愕に見開かれた。



フレンダ(こいつ…目をつぶったままで――!?!?)



少女の思惑とは反し、少年は目を閉じたまま、しゃがみこんで少女の蹴りをやり過ごしていた。

次に少女が逆足で蹴りを出しても、少年は目を閉じたままで飛び上がり、バク転で蹴りを交わす。



上条「無我の境地…ってな!」



優位なはずの状況に少女は冷や汗を流し、少年は余裕の態度で次々に攻撃を交わしていく。




フレンダ「なんで!?見えないのに避けられるわけっ?」



得意なはずの肉弾戦も、目をつぶったままの少年にあしらわれてしまう。

焦り、爆弾を取り出した少女だったが、ブツの回収が済んでいない状況では爆弾を使えないことに思い当たった。



その一瞬のすきを突いた少年の蹴りが少女の足に命中する。

見事に体勢を崩した少女は、あっという間に敵の捕虜になった。








フレンダ「わかった…話すからっ!」



少女、フレンダ=セイヴェルンと名乗った。は、縄でグルグル巻きにされ銃口を向けられたところでようやく観念した。



上条「さっきのでわかったと思うけど、能力で何取り出したって無駄だ」

上条「超広範囲の爆弾で倉庫ゴト自滅する気なら多少は意味あるかもしんねぇけどな」


フレンダ(それで多少…!?)


上条「いいから。組織名と他の構成員について話せ」

上条「そしたら命は見逃してやる」



少年は今まで自分を狙った組織を潰してきたが、命は奪っていない。

殺すのは依頼主だけで、依頼を受けた連中は半殺し程度で済ませていた。再び狙われるのは面倒だからだ。

彼の脅しが聞いたのか、二度続けて命を狙ってきた者はいなかった。




フレンダ(話したら麦野に殺される…でも話さなかったらここで殺される…)

フレンダ(可能性は少なくても…今殺されるわけにはいかない)

フレンダ(妹を守るのがお姉ちゃんの役目だから…)



フレンダ「そ、組織名は…アイテム」

上条「アイテムねぇ。構成員は?」

フレンダ「私の他に3人」

上条「全員ここに呼び出せ」

フレンダ「え?何する気?」

上条「いいからさっさとやれ。リーダーの名前は?」

フレンダ「む、麦野沈利。第四位」

上条「うげっ…レベル5かよ。こりゃ面倒だ…」

フレンダ「アンタじゃ命ないわけよ。スキルアウトに倒せる相手じゃない」

上条「はぁ?スキルアウトだと?」

フレンダ「仲間割れで殺したんじゃないの?」

上条「違うっつの。俺はお前らと同じ」

フレンダ「じゃあアンタどこぞの研究所の組織ね…」

上条「お前何言ってんだ?俺を殺しに来たんだろ?」

フレンダ「え?いやわたしたちはブツの回収に…」

上条「…」

フレンダ「…」

上条「…」

フレンダ「…」

上条「俺を殺しに来たわけじゃねえの?」

フレンダ「アンタはブツの取引しにきたんじゃないの?」

上条「…」

フレンダ「…」



沈黙が場を支配しだした瞬間、少年の顔が険しい物に変わる。

瞬間、少年は少女の袖を引き、横に飛ぶ。

見れば、先ほど混て彼らがいた場所に溶かされたような大きな穴が開いていた。



フレンダ「む…麦野」



麦野「へぇ…今の交わすんだぁ」



シャッターに空いた大きな穴から、三人の女が現れた。

仲間の登場に、少女はただ震えている。

麦野と呼ばれた少女は嬉々としてフレンダと上条を見据え、付き従っている二人の少女はバツの悪そうな顔で俯いていた。




麦野「残念だわ、フレンダ」

フレンダ「…」

麦野「喋ったのね」



仲間の裏切りを沈黙を答えとして受け取った麦野の顔の前に、光る球体が現れる。



麦野「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」



いざ、原子崩しを放とうとした少女の右頬を、銃弾がかすめた。



麦野「あぁ?」



麦野の目が彼女の死角から銃を放った少年に向けられる。

彼女の強烈な蛇睨みに、少年は銃を構えたまま肩をすくめることで答えた。

挑発。




麦野「なんのつもりだよ?童貞野郎」



上条「俺の早とちりのせいだからな。フレンダ、今回は助けてやる」



フレンダ「!?」



上条「ねぇ、オバサン。コイツいらねぇならもらっていいかな?下部組織も全滅でウチは人員不足なんだよ」



言うやいなや、少年は麦野に向かって二発発砲する。

しかし、読んでいた麦野は能力を展開させ銃弾を無効化した。



上条「ひぇ~っ。さすが超能力者だぜ。銃弾が塵になった」




麦野「のわりには余裕じゃねぇか」



次は麦野の原子崩しが少年を襲う。

放たれた原子崩しはまっすぐに少年に元へ伸びていき、彼を貫く、はずだった。



上条「遅い。止まって見えるぜ」



少年は、溶けた地面の真横に立っている。

少年お得意のフットワークがなせる技だった。




投下終了であります。







フレンダ「………っ」



少女、フレンダ=セイヴェルンは自分の目を疑った。

目の前で繰り広げられている光景が、ただひたすらに信じられない。

少女のリーダー、麦野沈利は学園都市に七人しか存在しない超能力者である。

フレンダはこれまでの仕事で、麦野が苦戦する姿をみたことがなかったし、これからもそうだと高をくくっていた。

それほどまでに、リーダー麦野沈利は圧倒的な存在だった。

しかし、どうだろう。

麦野沈利が繰り出すレベル5の一撃一撃を、少年は楽しそうに交わしていく。

もっと信じられなかったのが、麦野がフレンダに向かってはなった一撃を、少年が跳ね返したこと…。

跳ね返した、と言えば語弊があるかもしれない。

うまく言うなら、触れただけで人体が融解してしまうはずの原子崩しを、上条当麻はその右手で掴みとって、投げ返した。

というのが、少女がみたありのままである。

麦野も一瞬驚きはしたものの、なんとか跳ね返してきた一撃を交わした。

それから約1分に渡り、少年は麦野の原子崩しを飛び退いて、転がって、逆立ちで、サイドステップで……遊ぶようにかわし続けている。



上条「お前…本当に超能力者か?」



回避行動をやめることなく、少年は今まさに飛び跳ねながら声を発した。




麦野「あぁ?どういう意味だ?」


上条「こんな来る場所もまるわかりのスローなビーム…お前はアレですか、穴掘り屋ですか?」


上条「なんつーか、上条さんは拍子抜けです」



その一言が、完全に麦野の逆鱗に触れた。

麦野はプライドをかなぐり捨て、少年を殺すために手段を厭わない覚悟を決める。



麦野「滝壺。飲みなさい」



少女の声に頷くことで答えた、滝壺と呼ばれる可愛らしいピンクのジャージを着た少女がポケットから何かを取り出す。



フレンダ「気をつけて!アレをやられたらまずい!」


麦野「へぇ~。フレンダぁ…すっかりそいつにご執心じゃねぇか。あぁ?」


フレンダ「…」


二人の間に流れた緊張感を、乾いた銃声が打ち破った。

上条当麻が滝壺理后に発砲した音である。




麦野「なにっ!?」


絹旗「しまっ――」



しかし、滝壺理后から血が流れることはなかった。かわりに、彼女が取り出した何かが風穴を開けられ地面に転がる。



上条「戦いのさなかに敵から目をそらすなんて…お前はとことん駄目だな」

上条「あからさまなドーピングなんざさせるわけねぇだろ」



麦野「チッ…絹旗テメェ滝壺守んのが仕事だろぉぉが!」



絹旗「すみません」

滝壺「ううん、大丈夫。それに体晶使っても意味が無い」

麦野「あぁ?」




滝壺「このひと、AIM拡散力場がないから…」



麦野「なんだとっ!?」

絹旗「!?」

フレンダ「!?」



周囲に、驚愕の雰囲気が流れる。

しかし、上条だけは動揺した様子を見せない。

AIM拡散力場――能力者が無自覚に発しているとされる微弱な電波のようなもの。それがないのも当然、上条当麻は歴とした無能力者。

それも、ただの無能力者ではなく、いうなれば完全な無能力者なのだ。

ただの無能力者であるならば、AIM拡散力場は存在するはずである。



上条「おいおい。詮索はナシだぜ?…ちょっと変わってるだけだっての」



明らかな強敵の出現に、戦闘狂である麦野沈利は笑う。

笑って黒いカードを一枚取り出した。




麦野「んだかわかんねぇけどおもしれえええ」

麦野「これでお別れだと思うと涙が出てくるぜ」

麦野「そこの金髪と一緒に並んで墓を立ててやるよ」



言うやいなや、麦野は黒いカードを空中に放った。

今度は放ったカードをめがけて原子崩しを放つ。



しかし、カードを出した途端から目をつけていた少年に、そんな小細工が通用するはずもなく

少年は放たれたカードめがけて、原子崩しより早く発砲した。




カチッ



上条「…あ」


麦野「溶けて消えろやああああああ」


黒いカードに原子崩しが触れた途端、原子崩しは網を通したかのように細かく別れ、それぞれ別に少年に襲いかかる。



麦野「そんだけありゃもう避けらんねぇだろ!」



上条「ああ。さすがにこりゃ参ったぜ」



ここにきて、初めて少年の口から弱音が吐出された。

しかし、彼の顔は相変わらず余裕の表情を保っていた。

先に襲ってきた数発をバックステップでかわし、片足のステップで横に大きく飛び追撃をかわす。

しかし、着地するる場所には既に追ってきた原子崩しが跳んできていた。

次の瞬間、少年は残っていた原子崩しを飛びながら右手を前に出すことで防ぐ。

時間に置き換えて1秒足らずの間に、少年は見事にすべての原子崩しを防ぎきっていた。



上条「もういいや。楽しかったぜ、原子崩し」



少年は最後にそう告げると、右足のホルスターから別の拳銃を取り出し、麦野沈利に発砲した。



麦野「馬鹿か!拳銃は効かねぇって――――



銃弾を原子崩しをバリアのように展開することで防いだ麦野だったが、少年は麦野の遥か上を行く。

銃弾をフェイクとし、常人の域を逸脱した速度で麦野に迫った少年の拳が彼女の鳩尾に突き刺さった。

麦野沈利がその意識を散らしたことは言うまでもない。




フレンダ「う…嘘っ」

フレンダ「む、麦野を…倒しちゃったわけ?」



少女は、いまだ目の前の現実が受け入れられずにうろたえていた。

無敗を誇ったリーダーは、敵に傷を負わせることもできずに敗北したのだから無理もない。



絹旗「で、わたし達はどうするれば?」



滝壺理后を庇うように立つ、オレンジ色のパーカーを深くかぶった少女、絹旗最愛が拳を構える。

少年はげんなりした様子で、フレンダにかけた縄をほどきながら適当に答えた。



上条「もともと手違いなんだよ。リーダーとブツを回収してアジトに帰んな」


上条「別に追ったりしねぇから」



滝壺「……」


上条「あ、あとお前らの下部組織にここの処理させといてくんねぇ?」


上条「俺の下部組織はコイツが殺っちまったみたいだしな…」


フレンダ「催眠ガスで眠らせただけだけど?」


上条「本当か?じゃあやっぱいいや」


絹旗「超グダグダですね…」


上条「そいつ目を覚ましたら言っとけよ。もう俺に手を出さないほうがいいって」


上条「一度目の襲撃なら大抵大目に見るけど、次に来たら殺すからな」



淡々と告げる少年の目が鋭く光り、絹旗最愛は言葉に詰まる。

本気の脅し―――実際彼にはそれが簡単に出来てしまう。

現に、今回麦野は面白いように弄ばれていた。

殺そうと思えば本当にいつでも殺せるのだろう。

たとえ相手が学園都市の頂点・超能力者だとしても――。




絹旗「こっちとしても無駄な争いは本望じゃありません」


絹旗「しかしそれを麦野が超よしとするかどうか」


滝壺「むぎの、負けず嫌いだからね」


上条「いいや。こっちも考えがある」


上条「それじゃあな。よし、行くぞ雑用」


フレンダ「は!?行くって何?わたしほんとに組織移るわけ?」


上条「馬鹿かお前?そいつが目を覚ましたら殺されるぞ絶対」


フレンダ「…」


上条「安心しろ。好待遇の大人気職場ですのことよ」


フレンダ「わ、わかったわ…。絹旗、滝壺、元気でね?」


絹旗「……はい、また生きて会いましょうね、フレンダ」


滝壺「むぎのにはうまく言っておくから」


フレンダ「…うん」


少女は戦友との別れに小さく手を振り、麦野沈利にも小さくお別れを告げ、裸の少女を担ぐ少年の後を追っていく。

この日、フレンダ=セイヴェルンは晴れて雑用になり下がった。

催眠ガスなんてあるなら美琴も催涙ガスやるかスタングレネ-ド使えばいいのに
閃光弾使ったときから常に思う

なんとなく書いてたら溜まったので投下しました。

今日は筆が進みますね。

こんなかんじで不定期なりますが、よろしくお願いします。
多分次から幻想御手編に入っていきます


ここではフレンダどういう能力の設定で行くんだろう
なんかのレベル4っぽいけど

拳銃の種類はなんだ 超能力使えるやつらを相手にするんだから破壊力重視でマグナムとかコルトガメバメントとか
それとも威力が低いけどれんしゃできて使い勝手のいい自動拳銃のどれか
サブマシンガンやアサルトライフル出す予定ある

>>105
フレンダはアポーターにします。レベル4の。
引き寄せオンリーで自分飛ばせないので、視界外の結構遠くにあるものも引き寄せられなきゃレベル4にはなれない気がするのでそんな感じです。

>>103 どういうことでしょうか?すみません理解力なくて

>>106 ごめんなさい拳銃の知識ないんです。ただの銃だ!ドン

フレンダは弾補充が便利なので上条さんの相棒にしました。

別に美琴を[ピーーー]んじゃなくて依頼は退避を行うまでの時間稼ぎなんだからわざわざフレンダが戦わなくても、このスレにある催眠ガスはオリジナルでも、それを充満させたように時間稼ぎなら催涙ガス使って相手に吐き気や倦怠感を催すよう仕向けたり、光と音で相手を気絶や麻痺させる効果があるスタングレネ-ドを閃光弾で目眩ましするならむしろ使った方がいいんじゃないか

あれ?少女A生きてた?

>>109

そうですね、確かに。

フレンダは油断して足元救われるタイプなので…ね?

>>111

まぁ後で描写するかもしれませんが

麦野を撃った銃と少女を撃った銃は風紀委員とか警備員が使う
ゴム弾です。意識奪う目的の。






夜の第七学区は学舎の園、入り口。

男子禁制のお嬢様エリアの入口に男子高校生が立っているという異常な状況に門番が反応しないのは、少年の前に立つ常盤台の少女が原因だったりする。

金髪ロングに豊満なバスト、常盤台中学の制服に身を包むかなり垢抜けたこの少女の名前は食蜂操祈。

学園都市に七人しかいない超能力者の第五位に君臨する、通称『女王』。

その能力は人間の精神、脳に干渉するという、使い方次第ではかなり凶悪なものである。



食蜂「上条さん。今日はまた違った娘を連れてるのねぇ」



上条「うっせーよ。さっさと仕事しろ」




少年は食蜂に、今回能力者狩りの被害に遭った少女の記憶改竄を依頼していた。

少女はやれやれといった様子で言葉を紡ぐ。



食蜂「いきなり呼び出しておいてはい仕事だもの。ひどいわぁ」



フレンダ「結局リーダーは甘すぎなわけよ!見ず知らずの子なんて放っておけばいいのに…」


少年の隣に立つ、西洋人形

上条「そのおかげで助かったくせに何いってんだか。捨てるぞこら」

フレンダ「はぁ。雇い主の器が知れるわけよ…」

上条「クーリングオフもなしかよ…」

フレンダ「ひどっ!?わたしは物扱い!?」



食蜂「見せつけてくれるわね。どうせまたその子も助けてきたんでしょ?」


上条「こいつはただの雑用だっての」

フレンダ「その紹介はひどくない?」


上条「つーか、いい加減仕事しろ」


食蜂「はいはい…」


言うやいなや、食蜂はカバンからテレビのリモコンのようなものを取り出し、少女に照準を合わせた。


食蜂「うわ~。これはひどいわね」


上条「あとはお前がその子の学生寮まで送り届けろよ」


食蜂「いい顔して助けといてこっちに丸投げ!?ひどっ」


上条「いいだろ別に。それがお前の仕事だろうが。じゃーな」




食蜂はいつもしつこくまとわりついてくるので、少年は早々に言葉を切って踵を返した。

フレンダも彼の後に続く。



食蜂「もう上条さん!これは高く付くからね」



食蜂の声に手を上げて答え、少年は隣を歩くフレンダに目を向けた。



上条「お前のソレ、捨てといたほうがいいぜ」


フレンダ「え?ああ、そうだよね」


少年が指したのは、少女のポケットに見え隠れする携帯電話のことだった。

持っているだけで発信機となりえるそれは、少年の知らない少女の過去の因縁につながっている。

アイテム時代の面倒事を持ち込まれるのはさすがに厄介だった。



フレンダ「まぁ連絡先は覚えてるしいっか」




少女は誰にともなく呟くと、携帯を破壊して掃除ロボットに投げつけた。

掃除ロボは小さな音を立て、掃除機のように携帯を吸い込む。

その様子を足を止めて眺めていたフレンダに、少年は静かにつぶやいた。



上条「携帯くらい経費で落としてやるよ。ともあれ契約は明日な」


フレンダ「え?経費で落ちるの!高待遇は嘘じゃないのね!」



嬉しそうに小躍りする少女を尻目に、少年はなぜこんな子が暗部に、と考えていた。

純粋に小さなことに一喜一憂する少女は、その小さな身体に一体どんな闇を抱えているのか。



フレンダ「ってゆうか他のメンバーは?給料は?アジトは?」


上条「っせーな。いっきに聞くなっつうの。飯にするか、あそこのファミレスでいいだろ?」


フレンダ「わたし一文なしだけど?」


上条「能力で引き寄せらんねーの?」


フレンダ「アイテムのバンがどこにあるかわかんないから無理」


上条「なら経費で落としてやるよ」


フレンダ「便利な言葉だね」




二人は奥の席に座り、それぞれ注文を済ませた。

ドリンクバーに行かせたフレンダが戻ってくると同時に、少年はさっきの質問に答えてやることにした。


上条「メンバーは俺とお前だけ。組織名は多分ない」


少年の言葉に、少女が驚いた声を上げる。

心を落ち着けるようにドリンクを一飲みし、再び少年に目を向けた。


フレンダ「わたしとリーダーだけ?え、もう壊滅寸前なわけ?」


失礼なことを言う少女に軽くチョップし、口を開く。


上条「いままで一人でやってこれたからな。別に人入らねぇんだよ」


少年の言葉に、少女は納得したように苦笑して頷いた。

少女の脳裏には今日の記憶が蘇っているのだろう。



上条「あとは基本仕事くるまではのんびりしてればいいかな」

上条「ぶっちゃけ仕事なんてしなくていいんだけどな」


少年の言葉にまたもや少女が驚きの声を上げた。

一々忙しい奴である。


フレンダ「仕事断ったりできるわけ無いでしょ?仕事しなかったら消されるわけよ!」


上条「ウチにはそういうのないんだって。うるせぇなぁ」


フレンダ「でもそれじゃ報酬が――」


少年の目に、少女はどこか金銭面を危惧しているように映った。


上条「依頼の報酬とかは最初からねぇよ。はじめから結構振り込まれてるからな、ポケットマネーってやつ?」


上条「それから給料は割いてやるよ」


上条「お前が使えたらな」


フレンダ「う…」



上条「まぁそれはそれとしてお前今日からどこに住むの?」


フレンダ「あ…」


上条「一応うちのアジトが2つあるけど」


フレンダ「リーダーはどこにいるわけ?」


上条「上条さんは学生寮ぐらしですのことよ?」


フレンダ「え?リーダーって学校行ってるわけ?暗部のくせに寮に住んでるの?」


上条「俺のこと知ってる奴なんていねぇから狙われる心配はないからな」


上条「それに学生寮なんて盲点だろ?」


フレンダ「それはまぁ…そうかもしれないけど」


フレンダ「じゃあわたしもリーダーの学生寮でお世話になるわけよ」



上条「お前正気か?野郎の部屋で寝泊まりしようってか?」


フレンダ「一人で居るなんて怖すぎるわけよ…いつ麦野に狙われるかわかったもんじゃないし…」


上条「ああ、そういやそうだったな」


上条「いいや、じゃあお前は床で寝ろよ?」


フレンダ「えっ乙女を床で寝せようってわけ?」


上条「布団はあるっての。贅沢言うならつまみ出すぞ」


フレダ「はい…」






翌朝。

上条当麻はベッドの上で、いささか機嫌を悪そうにしている。

少年の足元には、寝相最悪のフレンダ=セイヴェルンが横たわり、なにやら寝言をつぶやいていた。



上条「とにかく、アイテムに釘を差すように手を回せよ」


木原『ったく面倒くせぇなおい』


上条「面倒だと思うならちゃんとした電話番用意しろよ。コロコロ変わってうざってぇんだよ」


少年は、今朝も木原数多と悪態の付き合いを繰り広げていた。

彼は、アイテムにフレンダ=セイヴェルンから手を引かせるように手を回していたのだ。


木原『んで、その女とよろしくやってんのか?ギャハハハ』


上条「くだらないこと言ってんなよ。んなわけねーだろ」




裏で高い権力を誇る木原に指示を終えたところで、少年の顔が険悪なものに変わる。

彼の脳内には、昨日アイテムが探し求めていた資料が入っている。

目を通してはいけない極秘資料も、少年には興味の対象でしかない。

不幸な少年が、出ていこうと思えばでていける学園都市に居座り続けているのも、これがひとつの要因と言えた。


―――本当に退屈しない、この街は。


数年前、自分が絶対に死ねないことを確信した少年は、いつか死ぬために自らを鍛え続けた。


そして、神になろうとする一人の人間と出会った。


―――なぁ、アレイスター。

―――お前が神になったら、俺を殺してくれないか?


―――約束しよう、『幻想殺し』。



あの日から、少年は統括理事長の切り札として、裏の世界でプラン遂行のために働き始めた。

いつか、必ず死ぬために。


アレイスターは最高の人間だと、少年は思っている。

疫病神である彼を受け入れ、育ててくれた親であり

退屈しない生活環境をくれた人であり

生き続ける目的をくれた未来の神でもある。



しかし、少年は完全に非情にはなりきれない。

だからこそ、ふざけた実験や裏の事情に一般人を巻き込みたくないという思いが彼の心の奥底にある。


いつか死にたい自分と、関係ない人間を巻き込みたくない自分の二人が、一人の中に生き続けている彼は、どっちつかずだ。


彼のプランの成就を願いつつも、気に入らないやり方は徹底的に邪魔をする。


どっちが大切なのか、少年は未だわからないままだった。




上条「テレスティーナ=木原=ライフラインって奴は、テメェらイカれた一族の人間なのか?」




くぅ~疲w 今度こそ投下終了です。もう書きません。

銃のことを良く知らない作者が書いた漫画や小説で、「弾切れになってるのに
気付かず引き金を引いてカチッと音がする」という描写がよくあるが、これは
熱膨張以上に恥ずかしい勘違いだからな。
そもそも、オートマチック型の拳銃なら弾を撃ち尽くした時点で遊底が
後ろに下がったまま固定されるから、弾が残っているかどうかは一目瞭然。
リボルバー型なら弾切れになっても外観上の変化はないから、気付かずに
引き金を引くということはありえるが、第一に最近では実線でリボルバーが
使われることなど日本の警察官ぐらいしかないし、第二にリボルバーという
のは基本的に6発しか弾が入らない構造になってるから、銃を扱い慣れた
人間なら弾が残っているかどうかは常に把握している。

>>133 ありゃりゃ、お詳しい方から見ると滑稽に映ってしまいましたか…泣

銃の知識はないし興味もないのでこのままなんか都合のいい銃としてやっていきます。ごめんなさい。

次回は今日の夜か明日の夜になると思います。






フレンダ=セイヴェルンが雑用に成り下がってから、はや一週間が経とうとしていた。

夕方の学園都市は、とある河川敷、第七学区。



上条「あらよっ」


御坂「これならっ!」



少年は、不幸なことに再び電撃中学生、御坂美琴に捕まっていた。

数分前、路上でばったり運命的な再会を果たした二人にロマンチックな雰囲気が流れるはずもなく―――。



御坂『今度こそ勝負よっ!』



という御坂の強烈な誘いにより今に至っている。


御坂「やっぱり当たんないわねーっ!一体どんな体してんのよこの猿!」



少女は、立て続けに撃ち続けた電撃が一発も当たらないことに激昂していた。

目の前に立つ名前も知らない少年は、今まさに雑談をしながら飛来する電撃をかわし続けている。



上条「猿だぁ?じゃあお前は電気ウナギだなっ」

上条「つーか、当たったらタダじゃ済まないことわかって撃ってんだろうな?」



御坂「どうせ当たんないんでしょーが!」



そう、少女は知っている。

この少年にはおそらく何度やっても電撃が当たらない。

最大出力で迎え撃てばおそらく勝機はあるが、それでは少女のほうが晴れて殺人犯だ。




御坂「今日こそアンタの隠された能力、炙りだしてやるわ!」



電撃が無理なら、わたしは―――。



御坂「わたしは最高位の電撃使い、わたしなら、こーんなこともできちゃうのよねぇ」



少女の右手に、地面から舞い上がった砂鉄が集まり、それらが細長い形をとる。

彼女の能力は、なにも電気を扱うことだけにはとどまらない。

これが、少女の能力の応用、磁力操作によって作られた砂鉄のチェーンソー。



上条「その見るからに危なっかしいやつは…」



御坂「能力で作ったの。砂鉄が高速で振動してチェーンソーみたくなってるから」

御坂「触れるとちょっと血がてたりするかもねっ…!」




言うやいなや、少女は砂鉄の剣を少年めがけておもいっきり縦に振る。

が、思いの外なんの手応えもなく、空を切った音だけが少女の耳に届いた。

そんな単調な攻撃は少年にあっさり交わされる。

彼は振り下ろされた剣の真横に立っていた。



上条「あぶねー」



口笛を吹く余裕綽々の態度に苛立ち、次は真横一文字に斬りつける。

今度こそ、と顔を上げた少女だったが少年は彼女の想像を超えた身体能力の持ち主だった。

助走なしで少女の身長を超える高さを真上に跳んでいる。



上条「ははっ」

上条「いまのは良かったぜ」



御坂「チッ」

御坂「やっぱ能力者ね、アンタ」


上条「さぁな。っていうかお前、その攻撃はさすがにやり過ぎじゃねえの?」


少年は少女がはじめの一撃を繰り出した地面を指して言う。

見れば、地面に大きな亀裂が入っていた。


御坂「わたしだって!アンタ以外のやつにこんな攻撃しないわよ!」


上条「そんな特別いらねぇ…」


げんなりした少年を見て、少女は決断する。


上条「っ!?!?」


突如、少年の袖が切れる。

余裕の態度を貫いていた少年の顔に、明らかな焦りが見て取れた。



―――勝機あり。


上条「驚いた。まったく見えなかったぜ」


それもそのはず。

少女は、以前の経験を活かしてここに立っている。

体内の電気信号の操作。

それにより、少女の体は常人を遥かに凌駕したスピードで動かすことが可能になる。



上条「なるほど。電気信号の操作とかいうやつね」

上条「じゃあ俺もちょっとだけ本気出すぜ」


御坂「ちょっとだけ!?こっちが全開でいってるっていうのに…ムカつくわね!」


上条「のわりには嬉しそうだな、ビリビリ中学生」


御坂「フッ……行くわよ」

少女が再び高速の斬撃を繰りだそうと―――。


御坂「なっ!?」

御坂「アンタ正気!?」


少年は、いきなり目を閉じた。

目を閉じ、さきほどと同じ体勢で立っている。


上条「お主、わかっておりませぬなー」

上条「目で見えていたら、見えてからしか反応できないんだぜ?」



御坂「………っ」

御坂「いいわ、じゃあいくわよ!」



少女が自分にも目視できない速さで繰り出した斬撃を、少年は見事に交わす。

交わすというより、少女が構えた時点で既に動き出していた。

つまり―――。



御坂「当たらない場所に移動した…アンタわたしがどこに攻撃するかわかるの…?」

御坂「それじゃあ予知能力じゃない…」



少女の問を、少年はただ否定する。



御坂「負けてたまるかあああああ!」




その後数分に及び続いた攻防戦は、上条当麻の逃亡によって幕を閉じた。

今夜もまた、少女の反省会が始まる。






夕方の学園都市は、上条当麻の学生寮。

一人の女子高生がダラダラといたずらに時間を浪費していた。

彼女の名はフレンダ。

金髪碧眼の、どこか西洋人形を彷彿とさせる少女である。


静まり返った室内に、着信を知らせる音声がよく響いた。

机の上で歌う携帯電話は、どちらも上条当麻に買ってもらったものである。


フレンダ「ん~、誰?」


フレンダ「はい。もしもし」ピ

上条『あーフレンダ?』



フレンダ「あっリーダー?」


少女がリーダーと呼ぶ少年、上条当麻はこの部屋の家主である。


フレンダ「ていうか、なんで買い物に行ってこんなに時間かかってるわけ?」


上条『ははっ。悪いなフレンダ、財布忘れちまった』


え、と短く声を上げいつも少年が財布を置いている台の上に目を移すと、なるほど確かに彼の財布が置かれていた。


フレンダ「リーダーってば何しに行ったわけ!?もうっ届ければいいんでしょ?今どこ」

上条『ああ、悪いなフレンダ。お給料アップだな』


突然の朗報に、少女の顔がほころぶ。

扱いやすっ、とつぶやいた少年の声も、今の彼女には聞こえない。


フレンダ「まじっ!?すぐ行くからね!」

上条『おーう』


すぐさま電話を切り、少年の財布を持って駆け出していく。

これから上条当麻の不幸体質に巻き込まれることなど、少女は予想だにしていなかった。



終わり。






上条「おー!フレンダ。早かったな」



通話を終え、数分と立たないうちに少女は財布を持って現れた。

現在、上条当麻はコンビニの雑誌コーナーで漫画を読みふけっている。


フレンダ「結局、昇給のチャンスなわけだからねっ…」


走ってきたのか、走らなければこんなに早くつくはずもないのだが、フレンダはかなり息を切らしており、静かな店内で随分と目立っている。


上条「昇給?ああ、そういやそんなこと言ったっけな」


少女の期待に反して、少年にとっては口をついて出た言葉に過ぎなかった。

一瞬で表情を曇らせる彼女に悪い気がして、少年は手を振り改めて昇給を約束する。



フレンダ「大体、財布忘れて買い物に行くなんて間抜けすぎ」

上条「なにおう、仮にもリーダーに対して何たる――

フレンダ「あっ。そういえば最近全然サバ缶食べてなかったんだった。もちリーダーのおごり、ねっ?」


少年の言葉を気にも留めず、少女は可愛らしくウインクをして缶詰の棚に消えた。

なんとなく彼女の後姿を目で追い溜息を付いたところで、店の入口に現れた女子中学生が大声で――


白井「ジャッジメントですの!!」


風紀委員(ジャッジメント)とは、能力を持った学生で組織される治安維持部隊で、基本的に校内の治安維持をその職務とする。

しかし、このssではアニメの設定を引き継ぎ、街の治安も守っちゃいます。


白井「早急にこの場から避難してください!」

風紀委員の腕章をしたツインテールの女子高生が客の誘導を始める。

見れば、彼女の後ろにも盾を装備した風紀委員が二人ほどいた。

突然の避難勧告に店内がざわつく中、店の奥から店長らしき人物が何事かといった様子で顔を出す。


店長「あ、あのー…うちの店がなにか?」


おどおどと辺りを伺いながら質問を投げかける店長は、店の体裁を気にしているのだろうか。

辺りに不審な客がいない以上、問題があるのは店の方だと考えるのが普通である。

風紀委員の少女は一刻を争うといった面持ちで、店長の問いに対する答えを店中に叫ぶ。



白井「重力子の加速が観測されました。この店に、爆弾が仕掛けられた可能性がありますの!」


少女の言葉に、店内が一瞬でパニックに陥る。

我先にと逃げ出す客で出入り口が混みあう中、上条当麻はのんびりとした様子で連れの少女を一瞥した。


上条「あの人……いつかやると思ってました」


両手で顔を覆い、声色を変えてしゃべる少年に、少女はギャーギャーと騒ぎたて握っていたジュースを投げつける。


フレンダ「わたしじゃないわけよっ!」


白井「あなた方!何を遊んでますの!早く避難してくださいまし!」


白井はいまだ口喧嘩を続ける二人を言葉で制すと、店内に誰も居ないことを確認するように辺りを見渡す。


白井「爆弾は…見つかりませんでしたのね…」

白井「全員、下がってくださいまし!」

少女の剣幕に、入口付近に残っていた人間があっという間に退散していく。

しかし、上条当麻だけは別だった。

誰も気付かない中、少年だけは中に残されていた人物に気づく。

コンビニの奥のトイレから出てきたのは、5歳ほどの小さな女の子だった。


白井「トイレの中を確認しなかったんですか!?なにやってますの!ってあなた!」


上条当麻は、迷うことなく店内に駆け込んでいた。

女の子との距離、5m。

大丈夫、彼ならばまばたきの間にたどり着ける距離だった。


フレンダ「ちょっリーダー!?」


白井「あなたたちは全員を下がらせて!」

他の風紀委員に指示を終えると、白井黒子はその場から消えた。

学園都市にも珍しきその能力の名は空間移動。

白井はコンビニの入り口から姿を消すと、少年とほぼ同じタイミングで女の子の元へたどり着いた。


白井「まず―――


少女が、少年が女の子の元へ辿り着いた瞬間、店内が昼間に戻ったように輝き始めた。


白井(間に合わない――!!)


上条「重力子の加速…?つまり能力者のテロみたいなもんか…」


不謹慎な――。

こんな状況で、少女たちの前に立ちはだかる少年は笑っていた。

まるで――そう、面白いおもちゃを手に入れた子供のような顔で。



轟音とともに、棚という棚が吹き飛び、窓ガラスが割れる音が幾重にも響いた。

せめてもの正義感で、女の子を庇うように抱きしめた少女の顔が驚愕を伴い上げられる。

なぜか、彼女たちの周りだけは爆発の影響が起きなかった。

爆風は面白いくらいに彼女たちを避けていく。



上条「はははっ。こいつはすげー!」



声の主は、少女たちの遥か前方。

爆発という爆発を右手一本で散らしながら、どんどん奥へ歩いて行く。


白井「一体何が…!?」


少年が爆発の根源に触れた途端、まるで核が潰されたかのように辺りはシンと静まり返った。


上条「あー、失敗失敗」


少年は、自身に驚愕の視線を向ける少女を一瞥すると、誰にともなくつぶやいた。



投下終わり。


タイトル詐欺!?ごめんなさい。たしかに悪条ではないかもしれませんね。
>>1は行き当たりばったりで書いているので。





白井「だーかーらー!ちゃんと説明して守らなきゃ困るんですのッ!!」


場面は移り、ここは第七学区の某雑居ビルの中に位置する風紀委員第一七七支部である。

上条当麻と愉快な雑用は、今回の虚空爆破事件に関わってしまったため、事情を説明すべく連れて来られていた。

現在、フレンダ=セイヴェルンはココアをすすりながらくつろぎ、上条当麻は白井黒子と名乗る少女の追求を適当に受け流している。


上条「ところでこの煎餅美味いな。どこで買ってんの?」


白井の追求に全く答える気がない少年の興味は、お茶菓子として出された煎餅の方に移っていた。

目の前でムッキーと唸る白井はどうやらご立腹のご様子。


初春「あ、それは実家から送ってきてもらったんですよ~」


口をついて出た少年の質問に応えるのは、花飾りを頭に乗せた植物人間、初春飾利。

もはや事件のことについて騒ぎ立てるのは白井だけになっていた。



白井「初春までっ!!いまは一大事なんですのよ!?」


初春「まぁまぁ、白井さん。上条さんは何も知らないとおっしゃってますし」


白井「キーーーッ!そんなわけありませんの!わたくしこの目でちゃんと見ましたの!」


初春「なにをですか?」


白井「この殿方が爆発を防いだんですの!!」


初春「え!?上条さんは能力者なんですか?」


上条「いや」バリバリ


白井「いい加減煎餅から手を離しなさい!!」


白井が、煎餅箱に触れた途端、残りの煎餅が一気に消失する。



上条「あああああああああッ」


上条「おのれ!テレポーターか!」


怒り任せに少女を見上げる少年に、彼女はしたり顔で微笑む。

今度こそちゃんと話を聞こうとする少女を、少年は再びスルーした。


上条「甘いな黒井白子」


白井「逆ですのッ!」


必死に訂正を求める少女を再び無視し、少年はソファで一人くつろぐフレンダに目を向ける。

先ほどからやけに上から物が落ちてくるが気にしない。


上条「フレンダ」


少年の合図に、フレンダは一瞬何がなんだか分からない顔をし、直後思いついたようにウインクした。

次の瞬間、テーブルの上に再び煎餅箱が姿を現す。



上条「ふむ。ご苦労」ベリッ


白井「……なッ」


フレンダ「ああ、わたしはアポーターな訳だから」


白井「アポーター…ですの?聞いたことありませんわね」


フレンダ「引き寄せ専門の空間移動だからね」


白井「レベルはおいくつですの?」


フレンダ「レベルは4」


白井「あら!わたくしと同じですの!」


初春「へぇ。フレンダさんもレベル4なんですね」


フレンダ「まぁね♪」



白井「ゴホン。話題がそれましたの…わたくしたちも始末書を書かなければなりませんので」


上条「別にお前がテレポートで助けたことにすればいいじゃねぇか」


白井「そういう訳にはいきませんの!」


上条「いくら聞かれたって俺実際何もやってないしな~…」


四人の男女が雑談に興じる一七七支部のドアがなんの前触れもなく開かれる。

全員がなんとなく視線を寄越すと、そこには常盤台中学の制服を身にまとう一人の少女が立っていた。


御坂「やっほー!暇だから来ちゃった」


まるで友達の家に遊びに来たような軽いノリで入ってくる少女の前に、白井が立ちはだかった。


白井「もう!お姉さまったらまた勝手に…!」


御坂「別にいいじゃない減るもんじゃないんだし!こんにちはー初春さん」


初春「あ!御坂さん!こんにちはー」


御坂「それにしても今日は少し暑いわねー」


初春「クーラー目当てで入ってきたんですか、御坂さん」


図星を疲れた美琴が、可愛らしく舌を出して苦笑する。

隣に立つ白井も諦めたように肩をすくめていた。


御坂「あれ?誰か来てるのって―――」

御坂「…あ」


軽い足取りでソファに向かっていた少女の足が、突然ピタリと止まる。

その表情は驚きと恥ずかしさと笑みと怒りが混同とした、華の女子中学生のものとは思えないような有り様だった。


御坂「なんでアンタがここにいんのよ――!!」


ビシッと効果音の付きそうな勢いで指を指し、額から微弱に漏電するその姿に全員の視線が寄せられる。


対する少年は、顔色一つ変えずに片手を上げて答えた。


上条「おービリビリ中学生。なんだとうとう捕まったのか?」


なんか筆進まないのでここまで。エロはおそらくありません。残念だったな!

い、今書いてるから許してくれー

>>1はとっくに春休みでござる。投下




のんきに煎餅をかじる少年の態度が理解できないといった表情の少女は、喧嘩腰に言葉を続けた。


御坂「な、なんでアンタがここにッ!?いつぞやの勝負付けに来たんかーー!」


今にも襲いかかってきそうな少女を一瞥し、少年は溜息をこぼしお茶をすする。

御坂美琴はもう少年の眼中にはなかった。


上条「初春さん茶淹れんのうまいな~」ホッコリ


御坂「ぐぬぬ…」


フレンダ「ココアのほうが美味しいわけよ」ホッコリ


初春「いやいやそんなに上手くないですよ~」



白井「え、え、スルーしていいんですのこの状況!?」


白井「お姉さまはこの殿方とお知り合いなんですか?」


御坂「ふふん。まぁライバルってとこかしらね」


少女は何が誇らしいのか胸を張って答えた。対する少年は呆れた顔で一瞥もくれずにつぶやく。


上条「ライバル?…何いってんですかねこのお子ちゃまは」


御坂「だ、誰がお子ちゃまですってぇーーーッ!」


白井「室内での能力のご使用は控えるようにとアレほど…」


御坂「…チッ」



初春「で、結局どういったお知り合いなんですか?」


一段落ついたところで、改めて初春飾利が切り出した。

心なしか、恋話に花を咲かせる女子高生のような興味津の表情である。


上条「別に俺達のことはいいだろー」


そこに触れられるといろいろ面倒であるため、少年が早々に話題を切る。

意外なことに美琴もあっさり首肯した。


それより、と少年が新たに切り出す。

少年がわざわざここまで足を運んだ目的を、そろそろ果たさなければならない。


上条「今回の爆発は、予めお前らが予期してただろ?」

上条「つまり事件は今回が初めてじゃないんだな?」


白井が肯定の返事をする。その表情はいつの間にか真剣なものに変わっていた。



フレンダ「そういえば最近第七学区で爆破事件が起きてるって話を聞いたような」


上条「えー、お前ひきこもりのくせになんでそんなこと知ってんだよ」


フレンダ「わたしだって外出くらいしてるもん!リーダーが学校行ってる間とか?」


上条「へぇ…」


白井「よろしいですの?」


上条「ああ、そんで?」


白井「一連の事件は第七学区を中心に頻発しており、能力者によるものですの」


御坂「愉快犯だとしても、あんまり笑えないわよねー。それで、犯人の目星は付いてるの?」


美琴の質問に、白井は困った顔で首を横に振った。



白井「手がかりだけはようやく。グラビトンってご存じですか?」


御坂「グラビトンっていえば…重力子のことだっけ?」


白井の質問には頭脳派の美琴が答える。能力者とはどうしてこうも理科に詳しいのだろうか。


白井「どのケースも、爆発の直前に重力子の急激な加速が衛星によって観測されていましたの」


白井はテーブルの上に置かれたジュースのアルミ缶を指し言葉を続けた。


白井「アルミを起点に重力子の速度を爆発的に加速させ、一気に周囲に撒き散らす」


白井「つまりはアルミを爆弾に変えていた、ということですわ」


御坂「ふーん」


御坂「でもそれじゃあ書庫(バンク)見れば一発でわかるんじゃないの?」


少女の言う書庫とは、学園都市に暮らす230万人もの学生のデータが集められたもので

その人物がどんな能力を有しているかを簡単に調べることができるというもの。

美琴の提案に、白井は再び首を横に振った。



白井「もう既に。該当する能力は量子変速。しかも爆発の規模からして容疑者は大能力者以上…」

白井「その条件で合致する能力者は一人しかいませんでしたの」


白井「しかし、入院中のアリバイが」


御坂「…それでどん詰まりってわけね」


暗い雰囲気が流れる中、少年が煎餅をかじる音だけが響いた。


白井「ですから!!事件解決に協力してくださいな!あなたは爆発を止めたんですからッ!」


話が再び振り出しに戻ったところで、少年はおもむろに腰を上げる。


上条「だから俺はなんにもしてません。でも面白い話が聞けたぜ、サンキュー」


少年はうわ言のように事件のキーワードを繰り返すと、雑用の少女を連れ、風紀委員の少女が止めるのも聞かずに支部を後にした。

後に大量の煎餅のゴミを残して。



上条「まったく退屈しませんね。…この街は」

終わり。

終わりって書くから前そう書いた時点でどっかにまとめられてたなww

>>245 うはwwwwww 投下終わりの略です!まとめないで!

投下します。





白井「まったく!なんなんですのあの殿方は!」



少年が去った後の一七七支部で、白井黒子は彼の残していった包み紙を片付けながらつぶやいた。

キーーーッと呻きながらジタバタする姿がなんとも微笑ましい。

彼女のつぶやきに、自分の席でパソコンと睨めっこをしていた初春飾利が答える。



初春「なんだかせわしない人でしたね」



御坂「ほんとよ。アイツはいつもいつも…勝手に逃げていくんだからッ!!」



白井に同調して文句を垂れている美琴だが、その顔はやはりどこか嬉しそうだった。

その様子を見ていた初春の表情が、まるで面白いおもちゃを見つけた子供のようなものになる。




初春「仲、いいんですね。御坂さん」



初春の思惑通り、美琴は顔を赤くし早口で否定の言葉を並べた。

常盤台中学に通う超能力者のお嬢様もこういったことには不慣れのようで、歳相応の、あるいは随分と子供らしい反応を見せてくれる。

このことを知ってから、美琴をからかって反応を見るのが初春の密かな楽しみになっていた。



白井「おのれあの類人猿…!わたくしのお姉さまに何たる……ッッ!!」



例のごとく、白井が暴走状態に入ったところで美琴のチョップが入る。

涙目で頭をおさえる白井だが、その表情は恍惚を帯びていた。



御坂「いつからわたしがアンタのものになったのよ」

初春「あははは…」


白井「ちゃんと証言を取りたかったのですが仕方ありませんわね…」


白井「初春、合同会議に参りますわよ」


聞きなれない単語についていけていない美琴が、合同会議?と短く声を上げる。

答えたのはテキパキと身支度を済ませた白井だった。


白井「今回の件、被害者が出始めていますのでわたくしたち風紀委員と警備員が合同で捜査をすることが決定いたしましたの」

白井「ですから今からその合同の会議が」


風紀委員の部分の発音が妙にしっかりした白井の言葉に、美琴は得心したような声を上げる。


御坂「あー、それで固法先輩がいないのね…」

彼女が固法と呼ぶ少女は、この一七七支部に務める最年長の風紀委員で、常にムサシノ牛乳の紙パックを握っているという奇特な人物である。

今回はこの支部の代表として、会議前の打ち合わせに参加すべく欠席していた。


白井「ええ」


初春「白井さん準備出来ました」


連れの準備が済んだところで、白井は美琴に説教する勢いで向き直る。


白井「とにかく。いつも申し上げておりますがお姉さまは一般人。今回の事件に面白半分で首を突っ込まないでくださいな」


御坂「…ゔッ」


白井「よ・ろ・し・い・で・す・わ・ね」


御坂「わかったわよ…うっさいわね」


白井「おねがいします」


最後に念を押すと、二人は会議に去っていった。


御坂「ちぇーっ、私も帰ろっかな―…」







フレンダ「はい。リーダー」コト



ここは上条当麻の学生寮。

少年がイヤホンを耳から外し、右手が手持ち無沙汰になったところで、ちょうどよくコーヒーが運ばれてきた。

見れば、彼の向かい側で自分の分のコーヒーを啜りだした少女が、どうだと言わんばかりの顔でウインクする。



上条「さっすが」



賞賛の言葉を口にし、彼女の淹れてくれたコーヒーを啜ったところで、不意に声がかけられた。


フレンダ「で、お目当ての情報は?」


上条「ああ。事件のあらましと過程がな。これからもっと面白くなりそうだ」



少年が(盗)聞いていたのは、今日行われた警備員と風紀委員の虚空爆破事件に関する合同会議である。

実は警備員には少なからず裏の人間が潜り込んでいるもので、少年はコネを使って会議の内容を盗聴していた。

現在、その会議が終わったところである。


少女が少年に詳しく説明を求めたところで、突如彼の仕事用の携帯が鳴った。フレンダが顔色を変え息を呑むのがわかる。

少年はげんなりした様子で舌打ちすると、あからさまに不機嫌な声で電話に出た。


『仕事です』


聞こえてきたのは、30代と思われる男の声。この声に聞き覚えはない。


―――どのみち、アレイスターでなければいい。


上条「君、ちょっといいかな?」


依頼してる側が、仕事の内容を伝える前に逆に指示されている。

男は、彼の突拍子もない言葉に間の抜けた声を上げた。評判通りのとんでもないやつだと実感したことだろう。


上条「しばらくこの番号は閉鎖にしますぅ」

上条「こっちはいまから大忙しなのでぇ、しばらく面倒事は持ち込まないようお伝えくださーい」


予想だにしなかった少年の言葉に、男はへりくだった態度を忘れはぁ!?と大きな声をあげた。

彼もまた不幸だ。これから突然のイレギュラーに振り回されるのだろう。

少年は知ったことではないという態度で一方的に命じると、快活に笑い通話を切った。

目の前に座る少女は彼の性格に慣れ始めてきたのか、はたまた感覚が麻痺してきたのか、苦笑いを浮かべるだけだった。


上条「聞いての通りしばらく休業だ」


フレンダ「まぁあれだけ強ければ誰も文句言えないのかもね…」


上条「とにかく今は仕事なんてやってらんねぇ」

コーヒーを一口啜り、

上条「この事件はかなり根が深いと上条さんは睨んでいるわけです」


ニヤリと不気味な笑みを浮かべ腕を組む少年に、少女は興味津々と言った様子で中断された説明を要求する。

案外、この二人は馬が合っているのかもしれない。


少年は、会議の内容をかいつまんで説明した。



フレンダ「え?つまりどういうこと?どこが根が深いわけ?」


上条「まぁ、お前ならそういう反応すると思ってたけどな」


少年のすました顔に、少女は悔しそうに頬を膨らます。


上条「こっちでも書庫覗ける奴に調べてもらったんだが、どうやら量子変速の能力を持つ奴は一人じゃねぇんだな…これが」


彼の言葉に、少女がふむふむと頷く。

今度こそ理解しようと、彼女は少年の言葉を繰り返しつぶやいていた。


上条「そいつの名前は忘れたが、まぁデータは送ってもらったからいいか…」


上条「そいつは異能力者(レベル2)ってことで捜査線上から外れたらしいんだが、俺はこいつが犯人だと睨んでる」


ここで、頷きを止めた少女がえ、と短く声を上げる。

それも少年の予想の範疇だった。


フレンダ「でも爆発の規模は私から見ても明らかに大能力者以上だったと思うんだけど」


上条「だから言ったろ。一連の事件は最初は小規模だったって」


上条「最初は大きな音で周りを驚かせる程度だったのに、繰り返しているうちにコンビニをふっとばす威力に―――


フレンダ「………成長した」


フレンダ「つまり、短期間に急激にレベルが上がったって、リーダーはそう言いたいわけ?」


上条「正解」


少年の言葉に、少女がありえないと首を振った。

大能力者である彼女が、大能力者であるからこそレベル上げの苦労を知っているのかもしれない。

たしかに、こんな短期間にレベルが上がるというのはかなり無理のある説だった。



上条「何も正当な手段だとは言ってないぜ…」


上条「たとえば、お前の仲間が使ってた能力体結晶、いわゆる『体晶』とか…」


少年の言葉に、少女はハッとした声を上げる。

滝壺理后が能力体結晶を用い暴走状態に入ることで、普段とは比べられないほどの力を発揮していたことがフレンダの頭には入っていた。



フレンダ「リーダーは体晶のことまで知ってるんだ…」


上条「まぁな」


実際に知ったのはこの少女と出会った倉庫で、というのは付け加えなかった。

彼がその薬について知ったのは、この少女が任務で追っていた資料に目を通した時であったからだ。

スキルアウトのボスと少女の言葉から推察するに、少年が始末したスキルアウトの中には、

能力体結晶についての資料を、それを欲する何処かの研究所に横流ししようとしていた者がいたのだろう。

もっともその計画は、まったくの別件で動いていた少年の介入によって頓挫したわけだが…。


上条「体晶もその一つってことだ。だけどあれはそんなに多用できる代物じゃない」


上条「とはいっても可能性の一つには変わらないんだけど…」


ということは、と少女が唇に指を添え続ける。

彼女も少年の考えを理解しはじめたのだろう。


フレンダ「まだ他にツールが有るっていうこと…?」


フレンダ「急激に能力のレベルを上げられるツールが…」




上条「幻想御手(レベルアッパー)だ」




というわけで投下終了。毎度レスありがとうございます。

今日はあんまり筆進まないので、もう一度深夜1時に投下します。起きてる人がいたら覗いてください。





フレンダ「幻想御手ぁっ!?」


聞いたこともない、が名称を口にしただけでおおよその理解が追いつく単語に少女は大仰な仕草で驚く。

彼女は、何度もまばたきを繰り返すと本気なのかと尋ねた。


上条「まぁ驚くのも無理ねぇわな」


少年はその反応も予期していたかのように平然と答えると、ノートパソコンを開き何度か操作をする。

その後少女に見えるように画面の向きを変え、続けた。


上条「俺もクラスで噂を聞いた時は鼻で笑ったけど…」


フレンダ「どれどれ…学園都市の都市伝説の掲示板?」

フレンダ「まさかこんな根も葉もない噂を鵜呑みにするわけ?」



上条「別に鵜呑みにしたわけじゃねぇさ。仮にあると仮定した場合辻褄が合う。それだけだ」

上条「これも体晶と同じく可能性の一つにすぎないってとこだな」


ただ、と上条が続ける。


上条「…」


フレンダ「ただ、なに?」


続く少年の言葉を待つ少女に、彼はなんでもないと首を振った。


―――そんな学園都市に大波乱を巻き起こすような代物があるとするなら、アレイスターが関わっているはずだ。

―――ならばアレイスターは、彼らを使って幻想御手の試運転をしている…?

―――…わからない。


上条「まぁそれは今回の犯人をとっ捕まえてから聞き出せばいいさ」

上条「現行犯をとっ捕まえるのがいいか、先に捕まえて吐かせるのがいいか…」


悪人面を浮かべる少年に、少女は引きつった笑みを浮かべる。


上条「どちらにせよ今から外出すんのは面倒だから明日。もう完全下校時刻は過ぎてるし…」


上条「そうと決まればご飯にしますか」


パンと手を打ち席を立った少年に習い、少女も腰を上げてキッチンへとついていく。


フレンダ「リーダーのご飯は最高だからね!今日は何ー?」


上条「つーか本来なら雑用の仕事ですよねー。あーあ、使えねぇもん拾っちまったな」


満面の笑みで鼻歌を歌う少女に軽いチョップをお見舞いした後、下準備に入る。


フレンダ「ひどっ!?」


涙目で不満そうに額を抑える少女の顔は、それでもやっぱりどこか嬉しそうに笑っていた。




翌日。



午後の風紀委員第一七七支部には、ツインテールがトレードマークの白井黒子と、肩までの黒髪にメガネを掛けた委員長気質の固法美偉が来ていた。

コンピュータ作業を得意とする花飾りの初春は、パトロール中につき不在である。

一向に進まない捜査状況にどんよりとした空気が漂うなか、固法美偉が口火を切った。


固法「もしかして、手口は同じだけど、同一犯じゃない……とか?」


じっと画面を見つめ、顎に手を添えて語る姿を見れば、それだけで信憑性のある言葉に聞こえてるが、白井は考える間もなく首を横に振る。



白井「…まさか」


考えるまでもないという白井の意見に、固法は言ってみただけとつぶやき、項垂れた。

この状況を見るだけで捜査に全くの進展がないことが伺える。

わかっているのは、


白井「大能力者クラスの犯行ということ…だけですの」


固法「それだけじゃねぇ…」


固法「あっ!短期間で急激に力をつけたっていうのは?」


白井「介旅初矢のことを言ってますの?レベル2がたったこれだけの期間で大能力者に……ありえませんわね」


固法「あははは…」

力なく笑ったと、再び固法が切り出す。


固法「せめて手がかりだけでも掴まないとね…。同僚が9人も負傷しているんだもの」


彼女の言うとおり、既に風紀委員に所属する学生9名が一連の事件により負傷していた。

うーと唸る固法を見つめる白井が神妙な顔つきでつぶやく。


白井「ちょっと…多すぎません?」


固法「……!」


固法「ま、まさかっ標的(ターゲット)は!!」


固法がハッとしたような声を上げたところで、彼女の前に位置するノートパソコンがけたたましい通知音を上げる。

それは、衛星が観測した重力子の急激な加速を知らせる音だった。


固法「観測地点は、第七学区の……『セブンスミスト』!!」





第七学区 某カフェ



店員がチラチラと覗いてくるのも気にかけず、好き勝手に過ごす二人組の客がいた。


フレンダ「リーダー…、もう直接行ってとっ捕まえればいいじゃん」



自前のサバ缶を食べ終え、追加注文したココアをすすりながら向かい側に座る少年に声をかけるのはフレンダ。

対する少年は、パソコンの画面を見つめたまま生返事をするばかりだった。



上条「せっかく準備したのに使わないまんまじゃつまんねぇだろー」



少年が凝視するモニタには学園都市の地図が画面いっぱいに表示されており、

彼は衛生が重力子の加速を観測する瞬間を今か今かと待ち構えていた。




フレンダ「ひーまーだーよー」



朝食を食べることを目的としてやってきたため、入店から既に5時間あまりが経過していた。

最初こそ何でも頼めという少年の言葉に浮かれっぱなしの少女だったが、時は人を如何様にも変化させてしまう。

今ではすっかり駄々をこねるばかりになっていた。


しかし少年も既に飽きが来ていた。介旅初矢は彼の思惑とは反し、まったくアクションを起こしてこない。

無益に過ごした分の介旅に対する理不尽な怒りが募ったところで、ようやくパソコンが彼の待ち望んだ通知音を奏でた。

客の注目を集め、店員が何やら舌打ちをしたようだが気にしない。

少年は嬉々として小躍りした。



上条「ようやくか!ようやくだなようやくだよ。面白くなってきた!」


少女もまた、暇な地獄から開放されたことに安堵の笑みをこぼす。


昼下がりの第七学区。

ここに、虚空爆破事件の主犯・介旅初矢の運命が決まった。


投下終わりです。やっぱり今日は駄目だ。

さてボチボチ書き始めますね。
今日は一度だけ更新します。では何時間か後に。

投下します



初春飾利は、支部にはパトロールと偽った報告をし、友人とともにここセブンスミストへ買い物に来ていた。

彼女は人一倍正義感が強く生真面目な性格の持ち主だが、同時に年頃の女の子でもある。たまには血なまぐさい事件から開放されて友人と休日を満喫したい。

結局、彼女は親友である佐天涙子に押し切られる形で買い物来てしまっていた。

ふと、初春は隣を歩く佐天を見る。

彼女、佐天涙子は初春とは対照的な人物だといえる。

天真爛漫が服を着たような佐天は、かなり明るい性格で人見知りをしない。ゆえに、そんな彼女がクラスの中心人物であることに疑問を抱く人間はいないだろう。

佐天涙子は不思議と他人との距離を感じさせない少女だ。初春も、そんな明るい彼女に惹かれていつの間にか友達になっていた。

茶目っ気たっぷりである彼女はノリもよく、いたずら好きなところもある。

ついつい行き過ぎてしまう彼女の暴走を止めるのが、自然と初春の立ち位置になっていた。




初春「佐天さん」

佐天「なーに、なんかいいの見つけた?」

初春「いえ…その、今日は誘ってくれてありがとうございました」

初春「このところ事件のことばかりで、でも今日ここに来てなんかスッキリしました。また頑張れそうです!」



突然の初春の言葉に、佐天は少しだけ目を丸くして笑顔を作る。

対極と言っていい二人だからこそ、こんなに仲良くなれたのかもしれない。

今回は彼女の良い意味でいい加減な性格に救われたな、と初春飾利は考えた。




佐天「なかなか恥ずかしいことを言ってくれるね君は」

初春「え?」

佐天「とりゃーっっ!」ガバッ



突如、初春の股の間を初夏の健やかな風が――――



初春「あわわわっちょっと佐天さん!///」



なんの前触れもなく、初春飾利のスカートが大きくめくられた。

二人がいるのは女性下着売り場であったため男性に見られた心配はないが、初春の顔はそんなことは関係ないというように一瞬で羞恥に染まる。

対する佐天は、いたずらに成功した小学生のような顔でケラケラと痛快そうに笑っていた。

初春(油断したぁ~っ!!)

毎度のことながら、佐天涙子は確実に初春の隙をついてくる。

これで何度目になるかわからない、数えるのも億劫な佐天からの攻撃に、それでも初春は慣れきれなかった。

恨みがましく佐天を睨む初春の表情も、彼女にとっては嬉しい反応でしかないことを初春は知らない。




佐天「初春がらしくないこと言うから…やっといつもの初春に戻ったね」

初春「もう知りませんっ!」

佐天「あはは怒っちゃったかぁ。ごめんってば初春~」



宥めるように追ってきた佐天に、あそこのパフェで勘弁してあげますと言いかけたところで、初春の携帯が鳴った。



初春「あ…白井さんだ…」



携帯の表示をみた初春がバツの悪そうな声でつぶやく。



佐天「あはは…パトロール中って言ってたもんね。とりあえず出なよ」


初春「…はい」



初春「はいもしもしー」


仕事をサボったことを咎められると一瞬身構えた初春だったが、白井の口から飛び出してきた言葉は全く別のものだった。

初春の表情が、風紀委員の初春へと移り変わる。


初春「ほんとうですかっ!」


白井『ええ、とにかくあなたはこちらへ合流を!』


初春「それより観測地点を!!」


白井『第七学区の洋服店、セブンスミストですの!』


初春「セブンス…ミスト』


その言葉の意味を確かめるように、初春は白井の言葉を繰り返す。

間違いない。そこは―――



白井『どうかしましたの!?初春』


初春「ちょうどいいです!わたしそこにいますから今すぐ避難誘導を開始します!」


白井『いけませんわ!よk―――』


急ぎ何かを伝えようとする白井の声が少女に届くことはなかった。



―――私がやらなきゃ。


自らの正義感を奮い立たせるように、初春飾利は一度だけ深い深呼吸をする。

これから自分のいる場所が爆破されるかもしれない恐怖に、心臓が暴れだすのがわかる。


―――大丈夫。私は冷静だ。


落ち着いて辺りを見渡すと、同じように買い物に来ていた女子学生が、男子学生が、子供が、親友の顔が見えた。


―――絶対に守らなきゃ。




佐天「初春…?」


どことなく不安そうな声で、親友が少女の名前を呼んだ。

見れば、よほど初春の声が響いていたのか、あちこちでこちらを気にする雰囲気が伺えた。



初春「落ち着いて聞いてください。このデパートに爆弾が仕掛けられた可能性があります」


佐天「えっ!?…それほんとなの?」


一瞬驚いた後、佐天は周囲に聞こえないように落とした声で聞き返した。

初春は黙って頷く。


初春「とにかく佐天さんは急いで避難してください!わたしは避難誘導を開始します!」


佐天「ちょっ初春!?」


キビキビとした動作で腕章を腕に回すと、初春飾利は駆け出した。






白井「初春!初春っ!?」


あからさまに慌てた白井に、固法美偉が心配そうな目を向けた。


固法「どうかしたの?初春さんになにか?」


白井「初春が…セブンスミストに」


固法「なんですって!?」


驚きを露わにした固法が、確かめるように再び机の上のモニタに目を移す。


固法「じゃあ今回の狙いって…」


悪い予感が的中だと告げるように、白井は短くええとだけ答えた。

太ももに巻いた金属矢の感触を確かめ、腕章の向きを直す。


白井「わたくしは現場に急行いたします!固法先輩は警備員に連絡を!」



わかったわ、という固法の返事が耳にとどいた時、白井の視界には満点の青空が広がっていた。

学園都市の上空に浮かぶ飛行船の、外れない気象予報(いや『予言』と言っていいかもしれない)によればこれからしばらく晴れが続くらしい。

少女の空間移動の能力が発現し、大能力者へとクラスチェンジしたばかりの頃、彼女はこの空を見るのが好きだった。

学園都市広しといえども、これだけの高度から空を見上げ、街を見下ろすことのできる人間がどれだけ居るだろう。

辛いことがあっても、空高く舞い上がれば、自然に空気と一体化し空に溶けてしまうような気分になることがきでた。


でも、ビルというビルをつたい、何もない空を階段のように駆け上がる少女の顔は一向に晴れない。

初春飾利は優秀な風紀委員だ。それは長らくパートナーを組んだこの少女が一番良くわかっている。

でも、だからこそ心配になる。

初春飾利はこの少女によく似て、強い信念と揺るぎない正義感を持っていた。

たとえどれだけ不利な状況でも、初春は間違ったことを許せない少女なのだ。そのせいで危険な目にあったことは数えきれない。

今回の初春の行動は間違っていない。逆の立場ったら自分もそうしているはずだと白井は思う。


でも、今回は―――。

今回の狙いは―――。


白井「あなたなんですのよ…初春!」






御坂「あれー、佐天さん?」



買い物に足を運んだセブンスミストの、その入口でごった返す人々の中に、御坂美琴は友人の影を見つけた。

行き場のない両手を前で握り締め、中の様子が気になってしかたがないようにキョロキョロと人の影からデパートを覗いていたのは、やはり彼女の知る佐天涙子だった。



佐天「あっ…御坂さん」



少女の声に気づいた佐天が小走りで近づいてくる。その顔が美琴にはやはりどこか不安そうに映った。


御坂「なんかあったの?なんか人だかりが出来てるみたいだけど…」



美琴の質問に、佐天は一瞬だけ顔を伏せると一秒でも惜しいというように切り出した。


佐天「例の事件の爆弾が中にっ!…初春は避難の誘導でまだ――」


まだ中にいる、というように佐天が後ろの建物を見上げる。

これから爆破されるかもしれないその建物は、そんな雰囲気を微塵も感じさせないほどにいつも通りに見えた。

予想外の彼女の言葉に、美琴は驚きカバンを落としそうになる。

野次馬の話し声の隙間に、店内から電気系統の故障を知らせるアナウンスが聞こえてきた。

ただの電気系統の故障に全員避難、さらに警備員が出入口を封鎖するという状況の異様さに周りの人々も気付き始めたようで、爆弾という言葉がちらほらとささやかれ始めた。




佐天「…初春」



御坂「―――待ってて」



友人を心配する佐天の声を聞いたら、美琴の口から自然と言葉が出ていた。

目を丸くし美琴に振り向く少女にウインクでこたえると、御坂美琴は駆け出した。今の彼女に警備員の咎める声は聞こえない。


『この際、ここでお誓い頂きますの。一つ、無闇矢鱈と戯れに事件に首を突っ込まない』

『二つ、万一事件に巻き込まれても単独での立ち回りはくれぐれも禁物。ジャッジメントの到着を待つ』

『三つ、スカートの下に短パンを履かない!!』


彼女との約束は破ることになるけれど、御坂美琴は止まらない。それが少女の人となりだからだ。


―――やっぱり、困っている人がいたら、わたしはわたしが戦わないのを納得出来ない。


御坂「それにしても三つ目は関係ないわよね…」


誰にも見えないデパートの中で少女は一瞬クスリと笑い、初春飾利を目指した。







初春「よし…全員避難完了」



全階の避難誘導を終えた初春が短い息を吐く。

それは、ここまで怪我人を出すことなく誘導を完了させられたことに安堵した溜息だった。

何気なくあたりを見渡せば、数分前とは打って変わったガランとした売り場が映る。

取り残されたデパートで、次は自分が避難する番だと移動を始めた途端、再び彼女の携帯が鳴った。


初春「白井さ――


少女の声をかき消すような白井の声。


白井『今すぐそこを離れなさい!!』


初春「……え?」


白井『過去の人的被害は風紀委員だけですの』


白井『犯人の真の狙いは…観測地点周辺にいる風紀委員』


白井『今回の標的は…あなたですのよ初春っ!!』


初春「…え」



どこか釈然としなかった、少女の心のなかに宿る違和感―――。

通り魔のような、無差別に他人を爆弾で攻撃するのが目的なら、もっと早く爆破させるはず。

しかし、全員の避難が終わる今になっても、爆発は起きていない…。

まだ残っているとすれば……避難誘導を行っているこの少女のような―――。



女の子「おねえちゃ~ん!」


考えに止まっていた少女の時間が再び動き出す。

声のした方は、5mほど先。

5歳ほど小さな女の子が両手いっぱいに大きなぬいぐるみを抱え、やっと見つけたといったような声で少女を呼び、走ってくる。

少女は、この連続虚空爆破事件を引き起こしている犯人がぬいぐるみに入れたアルミを爆破させることを知っていた。



白井『初春…!ちょっと初春…!』


少女は携帯を離し、ぬいぐるみを奪い取ってできるだけ遠くに放ると、空いた手を大きく広げて女の子を抱き止めた。

これが、触れたものを保温することしか出来ない少女の、精一杯の正義。

この子だけは必ず守るというように爆弾に背を向けると、女の子を包み込むようにして抱きしめた。



御坂「初春さん!」



突如、初春が信頼する一人の少女の声が飛び込んできた。

死さえ覚悟した初春は幻聴かと思ったが、御坂美琴はこんなのことを平気でやってのける少女だと想い出す。

そして同時に、彼女ならなんとかできるという希望も―――。



御坂「顔を伏せてて!今私が何とかするからっ!」



返事をし、言われたとおりに出来るだけ体を丸め、顔を伏せてきゅっと目を閉じた。

一、二、三、………。

無限のように感じられた一秒一秒も、十秒ほど立てばいつまで経っても訪れない爆発を不思議に思い始める。


御坂「爆弾が……消えた?」


静かすぎる空間に、美琴の声がよく響いた。



ここまで。闇条さんとフレンダちゃんは出番がなかったようです。

では今日の分を投下したいと思います。





介旅「なぜだ…おかしい…なんで爆発しないぃぃっ」


ざわつく野次馬の中を抜け、幾度か転びそうになりながらヘッドホンの少年がセブンスミストを背に歩き出していた。

驚愕に目を見開き、冷や汗を流すその足取りは重い。

が、一連の事件の犯人である彼が風紀委員と警備員が目を光らせるこの場に留まり続けるわけにはいかなかった。


介旅(演算に狂いはなかったはずだ。今回の爆発は今までで最高の規模になるはずだったのに…)


ふらつきながらも人目につかない路地裏に辿り着いたところで、介旅初矢は青ざめた表情でへなへなと腰を折った。


介旅(今日こそ風紀委員を葬ってやれると思ったのに。クソッ!)


介旅「でもどうやって…。警備員か?風紀委員か?」


介旅は、とうとう口をついて出てしまった予期せぬ心の声に動揺する。


―――よかった聞いてる人はいなかった…。

と思った。

背後から撃たれたと思われる銃弾が、自分の右耳をかすめるまでは。


「俺だよ」






上条「俺だよ」


尻尾を出した介旅の声に、上条当麻は一発の銃弾と短い声で持って答える。

介旅の耳をかすめるように狙って撃った銃は、彼の狙い通りの軌道を進んだことを知らせるように短く真っ直ぐな煙を漏らした。

煙は3cmほど上に登った後、空気に溶けて消える。

介旅の高そうなヘッドホンがカラカラと音を立て地面に転がった。



フレンダ「わたしのサポートも紹介してよ!結局、わたしがいなかったらみんな今頃黒焦―――

上条「うるせー!お前は表を見張ってるように言っただろ!」



少年のさらに背後から聞こえてくる、聞いただけで性格が読めてしまうような少女の声は、しかし彼の横槍によって最後まで発せられない。

少女は不満そうな声で「く~ッッ!最後まで言わせてくれたっていいじゃん!私だって頑張ったのに…」と言い残し去っていった。

機嫌を悪くしたように聞こえるが、彼女の機嫌を取るのは呼吸するより簡単なことなので少年は気にも留めない。




上条「おっと振り返るなよ。顔を見られたら殺すしかなくなっちまう」



一瞬こちらを伺おうとした介旅を、少年は脅しという形で制する。

しょっぴかれた先でべらべら喋られると非情に都合が悪いからだ。

もしそうなった場合、圧力という形で捜査の目をかいくぐることは可能だが、彼としてはその方法だけは取りたくなかった。

結果的に法の裁きから逃げおおせることは出来ても、一度降りかかった疑念を晴らすことはできない。


介旅「………」


介旅のかすめられた耳から滴る血が、背後に立つ少年が本気だということの裏付け。

介旅初矢は筋肉が痙攣したように肩を小刻みに震わせながら両手を上に上げた。言わずと知れた降参のポーズ。


後ろから聞こえてきた、称賛とも取れる女の子の口笛がなんともシュールである。

少年は見張りに集中しない雑用に舌打ちで最後通告を施すと、表情を変え、すぐさま介旅に悟られないように銃をしまった。

次に右足のホルスターから別の拳銃を引き抜くと、大地を蹴り、走りながらも決して右手を揺らさずに介旅の首筋を狙い躊躇なく引き金を引く。


介旅のうめき声と、背後からの少女の声が同時に響いた。


フレンダ「リーダー!超電磁砲が!」


上条「わかってるよ!お前もっと早く気付けよな!」


フレンダ「だいたい見えてないのになんで分かるわけ!?」


上条「多分向こうもこっちに気づいてるぞ。さっさと走れ!」


フレンダ「ちょっリーダー速すぎっ!」





決まったはずの介旅の運命は、現れた常盤台の顔、御坂美琴によって変えられてしまった。

能力によるレーダーをたどりやってきた美琴を迎えたのは、謎の二人組ではなく間抜けな顔を晒し昏倒した介旅の姿であった。






翌日、風紀委員第一七七支部。


第七学区の某雑居ビルの中にある一室(一室の中に区切られたスペースが複数点在する、部屋というには少々広すぎる)に、数名の少女達が集まっていた。

窓の外から室内を射す橙の太陽は、もう西に大きく傾き始めている。彼女たちの中には風紀委員に所属してない者もちらほらといた。


固法「犯人逮捕できてよかったわね、これで一段落だわ」


支部のリーダー固法美偉が、祝の杯として右手に持ったオレンジジュースを高く掲げる。

少女たちも乾杯という掛け声とともに彼女に続いた。



佐天「まぁわたしはなんにもしてないんですけどね…」


ジュースを片手に苦笑を浮かべるのは佐天涙子。彼女は今回巻き込まれた側の人間だった。

その声にどこか自嘲の色があることに誰も気づかない。


白井「大体それが普通ですの。治安維持は風紀委員のお仕事なんですから」

白井「と前に申し上げましたわよねぇ、だ・れ・か・さ・ん」


白井のつぶやきに応えるように、美琴が効果音の突きそうな勢いでジュースを勢い良くテーブルに置く。


御坂「しょーがないじゃない!緊急事態だったんだからっ!」


一見喧嘩しているように思える二人のやりとりも実はいつものことであり、注意する白井自身でさえ半分諦めていることだった。

白井も含めたこの場にいる全員が、そこが美琴のいいところでもあるとわかっている。

初春が改めて美琴にお礼を言ったところで、美琴は浮かない表情で、でもと切り出した。



御坂「あの爆発を止めたのは私じゃないわ」


御坂「わたしのレールガンじゃ間に合わなかった…」


美琴の言葉に、初春がえ、と短く声を漏らす。初春だけではなく誰もが美琴の言葉に驚きを隠せずにいた。

沈黙を破ったのは白井。


白井「でも、あの場にはお姉さまと初春しか」


その声には、美琴以外に誰にそんなことができるという意味が含まれていた。

実際にあの時あの場にいたのは、巻き込まれた女の子を含めて三人しかいなかったはずである。

白井の言葉に、美琴はわたしもよくわからないんだけど、と続けた。


御坂「あの場所には確かに私たちしかいなかった…でも確かに爆弾は私の目の前から消えた」

美琴は一度言葉を切り、

ここまでが警備員に話したことの全部、といいかけたが、やめた。

唐突に、彼の言葉が蘇ったからだ。

『別に俺達のことはいいだろ』

彼は美琴から見て謎の多い不透明な人物だった。

未だに持っている能力もわからないし、考えてみれば本名も聞いたことがない。

そして、なぜか彼は自分のことを頑なに隠そうとする。美琴にはそう映った。


―――今回の件にアイツが関わっていることは確信できる。


実は爆弾が謎の消失を遂げた後、美琴が介旅初矢を発見できたのは全くの偶然なのである。

彼女が爆発の寸前初春飾利の元へ辿り着いた時には、コインを出してももう既に間に合いそうにない状況にあった。

それでも諦めるわけにはいかないと放とうとした超電磁砲は、美琴にとって致し方ない苦肉の策だったのである。

しかし、次の瞬間彼女の目に飛び込んできたのは全く予想外の爆弾の消失。

それがフェイクである可能性も捨てられないために美琴は初春を連れてデパートから避難したが二次爆破は起きず、依然謎は解けないままだった。

そこで、美琴は偶然にも近くにいる上条当麻を発見した。

発見した、といえば少々語弊があるかもしれない。正確にはいるとわかった、である。

御坂美琴は自身の能力によって常に放出されている電磁波からの反射波を利用して、周囲を感知できるレーダーを張っている。

しかし、デパートの周囲で一箇所だけ感知できない場所があった。

人間を感知することも可能なそのレーダーに引っかからない人間は、彼女の知る限りただ一人しかいない。そしてそこに彼はかならずいる。

美琴は直感的に彼がこの件に関わっているかもしれないと思い立ち、彼を追った。そしてその先で『偶然にも』介旅を発見したというわけだ。



佐天「爆弾が消えたって…どういうことですか?」


初春「確かにあのあとは何も起きませんでしたね…そういえば不思議に思っていたことを今思い出しました」


固法「そんなことあるの?」


白井「……」


つい先日ここに訪れたばかりの少女の能力を思い出したのは白井だけだった。


固法「まぁ犯人は捕まって怪我人も出なかったんだし、今回は打ち上げを楽しみましょうよ」


佐天「そうですね!お菓子も開けましょう開けましょう!」


初春「あっ!じゃあ白井さんが買ってきてくれた学舎の園のケーキも出していいですか?」



白井「…」


初春「あの、白井さん?」


白井「あ、ええ、どうぞどうぞ」


佐天「どうしたんですか白井さん、ぼーっとしちゃって。なにか気になることでも?」


白井「い、いえ。その、ちょっとわたくし野暮用が…」


御坂「なんの用事?」


白井「クラスメイトとお茶を…」


御坂「そうなんだ、珍しいわね」


白井「せっかくの打ち上げのムードを崩しちゃって申し訳ありませんが、今日のところは失礼させてもらいますわ」


佐天「ええ、わかりました…」



白井「ではお姉さま、また寮で」


御坂「はいはい。遅くならないうちに帰ってくるのよ」


お姉さまこそ、と言い残し白井黒子は姿を消した。


美琴(とにかく、わたしもわたしで気になることが出てきたわね…)


初春「うわー!白井さんの買ってきてくれたケーキすごいですよ!」


固法「ほんとねぇ…!あっ私紅茶淹れるわよ」


御坂「じゃあ私も手伝いますね」


固法「ありがとう御坂さん」


少女たちの打ち上げはこの後二時間に及び、やがてお開きとなった。






今日もまた、人の少なくなった校舎に放課後のチャイムが響き渡る。

担任のロリ教師が残念な顔をし、上条が歓喜するそのチャイムを合図に小萌が教科書から顔を上げた。


小萌「残念ですが今日の補習はここまでなのです。三人とも気をつけて帰ってくださいね」


テキパキと道具を片し教卓を降りる小萌に、青髪ピアスがすがるような視線を送るが、小萌は無情にも教室から去っていった。

見るも無残な青髪の視線が上条へと移される。


上条「なんだよ…つーかその顔やめろ」


上条がげんなりとした顔で青髪の頭を教科書で叩くと、彼は短くなんでや…と呟いた。



青ピ「なんでカミやんばっかりが小萌ちゃんに当てられるんや!僕は何度もアイコンタクト送ってるのに!!」


授業中に何度も担任教師へアイコンタクトを送るのはどうなのだろうか。

青髪の理不尽な糾弾に触発されたように、ニヤニヤとした顔の土御門が振り返った。


土御門「カミやんは小萌先生のお気に入りだからにゃ―、仕方ないぜい」


土御門の言葉に今度は青髪が理不尽やと漏らす。

立ち上がり髪を掻き毟るその姿にはなんともいえない悲壮感がにじみ出ていた。


上条「んなくだらねぇことで騒ぐなよ」


青ピ「カミやんには僕の気持ちなんて理解できんのや!もうええわ!ふたりとも絶交やあああああ」


ガタン、と音の立つ勢いで席を立った青髪は脇目もふらずに駆け出していく。

残された二人の少年は顔色一つ変えずにその背中を見送った。



土御門「不器用なやつぜよ…」


土御門のつぶやきを上条は鼻で笑う。馬鹿にしたような笑いではなく、どことなく温かい雰囲気を感じさせる笑いだった。

青髪がこんな風にして一人帰って行く時は、大体下宿先のパン屋の手伝いがある日と決まっている。

なによりも友人との時間を大切にする彼は、放課後に用事があるから、と謝るのが苦手なのである。そして二人はそのことをよくわかっていた。


上条「絶交だってよ」


土御門「何回絶交すれば気が済むんだろうな」


数秒の沈黙の後、土御門が嬉々とした表情でところで、と切り出した。


土御門「今日は舞夏が帰ってくる日なんだぜい!」


上条「ああ、そういやそんなこと言ってたよなお前。テンション高いのはそのせいかよ」


土御門「にゃっはっはっは。気づかれてか~」


上条「うぜー…」



土御門「だから今日は舞夏と買い物に行かなくちゃなんねぇんだ…だからその」


上条「お前は青髪かっつーの。まぁ楽しんでこいよ」


サングラスの奥で一瞬だけ曇った目は、すぐに輝きを取り戻す。

こいつもまだ高1なんだな、と上条はらしくもないことを考えた。


土御門「そうするぜい!今夜は少し騒がしくなるかもしんねぇがよろしく頼むぜい!」


土御門「じゃあなカミや~ん!」


誰もいない廊下を鼻歌交じりのスキップで駆ける金髪アロハはかなり怪しく、かなりシュールだった。


上条「おーう、頑張れよシスコン軍曹」


一拍遅れて返事をした上条もテキパキと身支度を済ませ、ビリビリ中学生に捕まる前に帰ることにした。



今日は回線が混み合ってたのかなかなか思うように投下が進みませんでしたが、今日はこれで全部です。

読みにくい部分あったらごめんよ。





上条「はぁ…。なんでお前がこんなとこにいんだよ」



開口一番、少年は自販機の前に立つ少女にそう告げた。

彼女は少年に視線を移すと不機嫌そうに髪を揺らし、お待ちしておりました殿方さんと挨拶した。


上条「とうとう上条さんにもモテ期ですか。でも生憎上条さんはお前みてぇなちっぱいに興味はありませんのことよ。じゃあな」


少年はこれ以上関わりたくないがために適当にはぐらかし、少女の横を片手を上げ通り過ぎる。

しかし、当然彼女が簡単に引き下がるはずもなく、白井黒子は瞬間移動で少年の前に立ちふさがった。

呆れ果てる少年に、少女は絶対に逃さないというように両手を広げる。



上条「んだよハグでもして欲しいのか?生憎だけど俺は―――


白井「その返しはもう結構ですの。わたくしの方こそお猿さんに持ち合わせる感情など微塵もございませんので、どうぞご心配なく」


上条「…最近女子中学生によく猿って罵られるな…なんかの挨拶なのか」


少女はそんな少年の言葉などどこ吹く風でさっさと要件を切り出した。


白井「あなたを待っていたのは少々聞きたいことがあるからですの…」


上条「んだよ。上条さんはこれからご飯の支度とかいろいろあるんですが?」


少年の言葉に少女はうんざりした息を漏らし、今度は真面目な顔で少年の目をじっと見つめる。


白井「先日の件、やはりあなた方の仕業なんですのね?」


一瞬逃げてしまおうかと考えたが、少年は彼女がテレポーターであることを思い出した。

鬼ごっこでは百回やっても勝ち目がない。

少年は再びげんなりした顔で溜息をこぼすと、まぁな、とだけ返した。



少女は少年の言葉に、やっぱりとでも言いたげな表情をし、直後「やっぱり」、と洩らした。


白井「今回はもう警備員に引き渡した案件ですからもう追求はいたしませんの」


てっきり彼女は深く追求してくるだろうと思った少年は頭のなかで必死に言い訳を考えたが、しかし少女の声ははっきり追求しませんと告げた。

告げた、が、言葉とは裏腹に彼女はなんとも煮え切らない様子である。


白井「ですが……やっぱり」


白井「く~~ッ!やっぱり気になりますの!あなたは一体何者なんd―――


時間にして約三秒。正義の味方、風紀委員の少女はわずか三秒で民間人との約束を破った。

ニコニコと天使のような笑顔を浮かべた少年のチョップが彼女の脳天に落下したことは語るまでもない。


白井「あぅっ」

上条「ものの見事に一瞬で前言撤回してんじゃねぇよ。いっそ清々しいな」



付き合うんじゃなかったぜ、とこぼした少年が歩き出したが三歩目。風紀委員の少女は再び彼の行く手を阻んだ。

少年は自身の顔がひくひくと引きつるのがわかったそうな。


白井「暴行罪ですわ」

上条「あのなぁ…」


いい加減にしろとの意味を込めた目で少女を睨むと、彼女はクスクスと笑い冗談ですの、と呟いた。


白井「今日はお礼を言いに来ましたの」

上条「お礼だぁ?」

白井「ええ。お姉さまも初春も、その場にいた女の子も、あなた方に救われましたので…」


少女の言葉に、少年はちげーよと短く答える。


上条「助けようなんて思っちゃいねぇよ。買いかぶり過ぎだっての」


少年の言葉に、今度は少女が首を振った。


白井「ですが助かったのは事実ですからわたくしが代表してお礼を…」



少年は何も答えず少女の前を横切る。

彼を呼び止める言葉にジュースだよ、とだけ答え、宣言通り少年は自販機へと向かった。

前回の経験を活かし、自販機(コイツ)には絶対にお札は飲ませない。少年は挑むような目で500円玉を放った。

彼は自分の分のザクロコーラを購入した後、一瞬迷った末に少女の分も購入することにした。


上条「ほい、白子」


振り返りざまに放った缶がきれいな放物線を描き少女の両腕の中に収まる。

なんでもないワンシーンを目で追った直後、彼女のどこか怒ったような声が響いた。


白井「この暑い時期になんでHOTのいちごおでんなんですのっ!!」


上条「お前へそ出して寝てそうだからな。気ぃ使ったんだよ」


予想通りの反応に満足した少年の足は、今度こそ学生寮に向かって歩み出す。

白井をいじり倒した満足感から機嫌が良くなった少年は、帰りにサバ缶でも買って行ってやるか、と珍しいことを考えた。


上条「じゃーな白子」


手を振り背を向けた後、背後から投げつけられた物体はいちごおでんではないと信じたい。


白井「だぁぁかぁぁらぁぁぁ逆ですのおおおおおおおおおおお!!」


公園を散歩していた鳩の群れを一気に散らすその断末魔のような叫びも、彼の嗜虐心を心地よくくすぐった。

終了

またやっちゃった。投下終了でした。ミス。完結はずっと先です。

きょ、今日は来ませんよ(震え声)今お絵かきにはまってるので。。。

ちなみに しらこ と読んでます。





完全下校時刻に差し掛かる学園都市の第七学区、上条当麻の学生寮。

不幸なことに、エレベーターがちょうどいいタイミングで登って行ってしまったため、右手に学生鞄、左手にスーパーのレジ袋を下げた上条当麻は、七階までの道のりを階段で上る羽目

になっていた。


上条「畜生…俺が何したっていうんだよ…」


ぼやいても仕方ないと思いつつもぼやかずにはいられない。実は今しがた起きた現象はこの寮では日常茶飯事なのだ。

『家主の到着の瞬間勝手、狙いすましたかのように一人登っていくエレベーター』

少年は、ぜひこれを学園都市の七不思議に認定したいと思う。

彼が以前隣人の土御門元春に意見を求めた際、そんなことないぜよ、との一言で一蹴されたことはきっと聞き間違である。


少年がようやく七階に到着した際、ちょうどよく男子生徒を乗せたエレベーターが彼の目の前を過ぎていった。

一つ下の階から響く小気味のいい到着音が非情に不愉快である。


上条「……チッ」




少年の胸に渦を巻く少々黒い感情は、しかし三秒後には綺麗さっぱり消えていた。


両手のふさがった彼は当然ドアノブを引いていないし、さらに言えばチャイムも押していない。

ところが帰宅してきた少年がドアの前に経つと、気配を察知した同居人によって内側からドアが開かれ―――


フレンダ「おかえりっ!」


もう聞き慣れた、高校生にしては幼い少女の明るい声が、今日もまた両手のふさがった彼を迎える。


本人も自覚していないが、きっと少年はこの瞬間が好きだった。

家に帰れば誰かがいて、自分の帰りを待っている―――そんなはじめての感覚をどこか大切にしている自分に、少年はまだ気づかない。

それは心の奥で否定しているからなのか、単純に気がついていないだけなのか。結論を出すには、おそらくまだ時間が足りない。



上条「只今戻りました。この上条、本日は姫のためにサバ缶など買って参りました」


冗談めかして頭を下げる上条に、少女は右手をまるで扇子を持ったように胸の前にかざすと、


フレンダ「おーほっほっほ。苦しゅうないぞ。褒めてつかわそう」


彼女なりの姫のイメージで答え、手のひらを広げてぐいっと前に突き出した。


が―――。


フレンダ「熱っ!?なにこれぇぇって………げ。いちごおでん」


彼女の手のひらを飾ったのはサバ缶などではなく、数分前に少年が別れた少女の大好物だった。







フレンダ「ふわ~。ちょっと食べすぎたかも…」


上条「行儀悪いっつーの。しっかし舞夏のやつ、また腕を上げたな」


隣人土御門元春の愛する義妹・メイドさんの養成学校に通う土御門舞夏は、今夜隣の部屋に帰ってきている。

どうやらテンションを高くしたのは兄貴の方だけではないらしく、義妹の方も随分とご機嫌だった。

この辺りからも二人の相思相愛ぶりが見て取れる。現在も薄い壁の向こうから、二人の賑やかな話し声が聞こえてきていた。

時折聞こえてくる兄・元春の断末魔の叫び…隣では一体何が繰り広げられているのだろうか。

普段なら壁を蹴り飛ばしてやるところだが、土御門家は上条宅の夕飯を用意することで先手を打っていた。なかなか策士な兄妹である。

少年は短いため息をつき、隣から聞こえてくる声をシャットアウトした。




フレンダ「ん~」

お腹を擦り地面を転がる少女を尻目に、少年は仕方なく彼女の分もお茶を持って行ってやることにした。

幸運欲しさに茶柱の立った方を自分のものにしたのは内緒だ。

体を起こし恐る恐るお茶を受け取った少女は、失礼にもツリーダイアグラムの予測演算とは異なる天気予報を口にした。


フレンダ「ところでリーダー」


上条「んー?」


フレンダ「なんでアイツのこと捕まえなかったわけ?」


フレンダ「アイツ捕まえて拷問にでもかければ今頃欲しい情報は手に入ってたと思うんだけど」


少女の言うアイツとは、先日の事件を引き起こした介旅初矢のことだろう。

彼女は訝しげな目で少年を見つめながらも、必死にお茶を冷まそうと息を吹き続けていた。



上条「お前猫舌なの?」


フレンダ「そうそう。大体リーダーよく熱いまま飲めるね――


フレンダ「じゃない!!リーダーってばちゃんと人の話聞いてる!?」


上条「聞いてるっての。ちょっと気になっただけだろ」


少年は取り出した煎餅をかじりながら呟く。

それは彼が下部組織に手配させたもので、どこか見覚えのあるそのシルエットに、少女はよっぽど気に入ったんだね、と小さく笑った。


上条「大体そんなに無理しなきゃなんないような情報じゃないし」


上条「それに…」


フレンダ「それに?」


上条「手がかりはもう掴んであったりしてな」


少年はテーブルの端に置かれたノートパソコンを素早く操作し、口の端を持ち上げる。

彼の不敵な笑みに続いて画面を覗きこんだ少女は意表を突かれたような声で、いつのまに…と感心の声を洩らした。



少ないですがとりあえず一時間で書けるだけ書いてみました。

とりあえずはつなぎにどうぞ。

しらこってなにが卑猥なんだ 魚の卵がしらこ

あれ精巣か卵巣だっけ

>>401 精巣みたいですね。知りませんでした
http://image.search.yahoo.co.jp/search?ei=UTF-8&fr=top_ga1_sa&p=%E3%81%97%E3%82%89%E3%81%93#mode%3Ddetail%26index%3D0%26st%3D0





翌日。放課後の風紀委員第一七七支部に、再び暇を持て余した部外者が立ち入っていた。

彼女の名は御坂美琴。この広い学園都市で一番の有名人といっても過言ではない少女である。


固法「もー御坂さん。風紀委員(ココ)は暇つぶしの溜まり場じゃないのよ」


牛乳を片手にもーと唸っているのは固法美偉。彼女はおやじギャグが好きなのだろうか。

痛いところを疲れた美琴は苦笑いを浮かべ、あははは、と力なく笑った。


白井「まったくもうお姉さまったら…」


いつものやりとりを済ませたところで、今度は開いたノートパソコンに向かって唸っていた初春飾利がところで、と切り出す。



初春「一連の事件の犯人、介旅初矢は間違いなくレベル2の能力者だったみたいです。」


実はコンビニの爆発を間近で見ていた白井が書庫に記載されていた情報と実際の能力に差異があると指摘したため、風紀委員から警備員に再度調べ直すように依頼していたのだ。

初春が今目を通していたのは、警備員から送られてきた介旅初矢の最後のシステムスキャンの結果である。

各学校で行われる能力測定に狂いがあるとは到底思えない。

予想外の返答にも白井は動揺した様子を見せず、ただ腕を組んで顔を曇らせるばかりだった。


白井「やはりですか…」


初春「やはり?」


白井「先週起きた銀行強盗の事件。現行犯で警備員に引き渡しましたので後から気がついたのですが、発火能力を持った男も書庫の情報と狂いがありましたの」

白井「それ以外にも常盤台狩りの眉毛女の件もそうでしたわね…」


白井の言葉に、その場にいた全員が驚いた反応を見せる。

一件ではなく、三件。気のせいで済まそうとしても、これで簡単には忘れることができなくなった。

一度降りかかった疑惑は、それが間違いであると証明できない限りずっと心に残り続けるに違いない。


初春「少し気になりますね…」


顎に指を添え呟く初春に、固法も同調するような声を洩らす。

全員が事の異常さに注目し始めたところで、美琴があ、と何かに気がついたような声を上げた。



御坂「そういえば前にあったとき、佐天さんがレベルアッパーとかなんとか言ってたのよね」


白井「れ、れべるあっぱぁー?」


突如都市伝説を持ちだした美琴の言葉を、白井が間の抜けた声で復唱した。

名前からして胡散臭さがこの上ない都市伝説を聞けば、誰もがこんな反応をするのかもしれない。


初春「そういえば私も前に佐天さんから聞いたような…。佐天さん、都市伝説が好きですからねぇ」


固法「そんなものがあったらたまらないわ。街中パニックに陥るわよ」


固法の言葉に、白井もうんうんと力強く頷く。

実際にそんなものがあったとして、街中が大混乱に陥るのは火を見るより明らかだ。

誰もが心の何処かで強い力を求めているこの街にそんなものがあれば、後に起こるであろうケースは風紀委員や警備員の頭を悩ませるものばかりしか想像できない。

でも―――。

もしあるとするなら。



白井「ありえませんけど、もしそんなものがあるとすれば辻褄が合いますわね」


初春「佐天さんが喜びそうな話ですね」


初春が苦笑を浮かべたが直後―――。

本来部外者は立入禁止のはずの一七七支部の扉が明るい声とともに開かれた。


佐天「誰が喜びそうな話だって~?うーいはるっ!」


朝の教室でクラスメイトに挨拶するようなノリでやってきたのは佐天涙子。

都市伝説といたずらをこよなく愛する、初春飾利のクラスメイトにして立入禁止(ジャッジメント)の常連の少女だった。


固法「はぁ~あなたまで…」

固法「明日からだれでも歓迎の立て札でもかけようかしら…」


白井「固法先輩…ヤケになってはいけませんの」



佐天「あ、あははは」


初春「もう佐天さんったら、笑い事じゃないですよー」


佐天「ごめんごめん」


佐天「で、何の話?」


一悶着の末、とうとう無血開城となった一七七支部に佐天涙子が落ち着いた。


佐天「あー、幻想御手ですか」


佐天「ええ、知ってますよ。でもあれはなんというか実体もよくわからない代物なんですよねー」


どこかはっきりしない様子の佐天に、白井が深い説明を要求する。

頭ではありえないと否定しつつも、やはりこの場にいる全員が心の何処かでその不明瞭な存在に興味を持ちはじめていた。



佐天「ん~、本当か嘘かわかんないんですけど、幻想御手を使った人たちがネットの掲示板に書き込みをしている、とか」


降ってきた僅かな可能性を必死につかもうとするように、間髪入れずに美琴が、


御坂「それ、どこの掲示板かわかる!?」


しかし、質問に答えたのは素早くキーボードを叩いた初春だった。

コンピュータネットワークを扱わせて、彼女の右に出るものはこの場にいない。

おずおずと向きを変えた初春のパソコンのディスプレイに映し出されていたものは、佐天の言った通りのページだった。


白井「お手柄ですわ!あとはそいつらの素性や溜まり場を調べられれば!」


顔を明るくした白井に、初春は彼女の予想を上回る形で素性まではわかりませんが、と続けた。



初春「溜まり場なら、ほら、ここ。このファミレスによく集まっているみたいですよ」








『ジョナG』


夜の位空の下、明るい光を発しているこのファミレスは、㈱すかいらーくが運営するファミレス、ジョナサンを元ネタとしている。

店の手前でこれまた明るい光を発している看板の下に、二人の女子中学生が立っていた。


御坂「ここね…」


ここは、初春飾利が見つけた幻想御手の手がかりが転がっているかもしれない店。

ワクワクして息を呑む美琴に、白井は再び小さな溜息を付いた。


御坂「あんたは風紀委員だから面が割れてるかもしんないでしょ。わたしが聞き込みやるから、アンタは離れた席で待機しておくよーに」


白井「またお姉さまは…」


頬を膨らます白井に、美琴はウキウキとした様子でカバンを預けそそくさと駆けていく。

その背中を見送った白井は今度は大きなため息を付き、


白井「なんなんでしょう…黒子はとっても不安ですの」

と洩らした。








店員「ご相席よろしいですか?」


本日、七月十九日はこの街に暮らす学生にとって特別な日であるといえる。

学生といっても、上条当麻の向かい側に座っているフレンダ=セイヴェルンのような学校に通っていない学生には関係ないが、七月十九日は翌日から始まる夏休みを控えた、少々・いや

かなり特別な日なのだ。

特別な日の前は誰もが気分がハイになってしまうというのが世の常であり、今日このファミレスが満席状態になっているのも、おそらく七月十九日が原因であるといえる。



たとえばそれは、ファミレスで一学期の終了に祝杯を上げる学生の集団であったり

特にお腹も空いてないのに無駄食いでもするかなー、と立ち寄って席についた学生であったり

学園都市の七不思議の真偽を確かめようとするこの二人のような客であったり。


つまりそういうわけで、本日は珍しくもこのファミレスが満席状態なのだ。


上条当麻は顔を上げて、げ…と短く声を発した。そしてそれは、相席を持ちかけてきた少女の方も同じだった。

何を隠そう、この二人は顔なじみなのだ。それも昨日会ったばかりの。


やってきた少女は白井黒子。この街の学生の自治組織、風紀委員に所属する少女である。

彼女の姿が視界入った瞬間、上条当麻はすべての事情を察した。おそらく、白井の方も同じだろう。


上条は若い女性の店員に構いませんよ、と笑顔で告げ、やってきた少女を向かい側の、フレンダの隣に座らせた。

てなわけで今日はここまで

読み返してみるとタイトル詐欺と言われても仕方ないなと思ってしまいました笑。

ですがなんというか>>1としては闇にいながらも本質は上条さん、っていうのを書きたかったんです。
思いつきでつけたスレタイのせいで口論させてしまい申し訳ない。2スレ目は違ったスレタイにしようと思います。

次の投下は今日中に一度行うのでお待ちください。

ご忠告痛み入ります。ですがもっと中二臭いスレタイにしてみようと画策中なので笑。ではまた次回




とあるファミレスの一席。

底辺高校の男子高校生と常盤台のお嬢様・金髪碧眼の少女というバラエティに富んだ面子が揃ったテーブルは、しばらくの間自然と店内の注目を独占した。

無理もないと、上条は思う。はたから見ればこの三人に一体どんなつながりが見いだせるというのか。

そして自分だったらきっと三秒足らずで考えを放棄するだろうなぁと考えた。

彼の考えに同調するように次第に好奇の目はやんでいった。

彼らのテーブルをなんとも言えない沈黙が漂ったが、上条は何の気なしに口火を切った。彼の右手の人差指が遠く離れたテーブルを指している。


上条「で。アイツはお前の連れか…?」


辟易として口を開いた上条に、白井は肩をすくめて首肯した。彼女の隣りに座るフレンダがたった今気づいたような反応を見せる。


上条「なるほど。アイツらしいったらアイツらしいのかねぇ」


白井「間違いありませんの…」


白井はドリンクを一口飲み態度をガラリと変え、ところで、と切り出した。


白井「大体なんであなた方はわたくし達の行く先々に!今回も一歩先を…ッ」


悔しそうに歯噛みする白井は風紀委員として一般人に後れを取ったことを悔しんでいるのだろうか。

だがそれはテンで的はずれというもの。彼らを一般人としてくくるには無理がありすぎる。最も彼女には知る由もないことだが…



フレンダ「風紀委員まで出てくるとなると、結局リーダーの考えは当たりだったって訳ね…」


フレンダは上条の顔を一瞥すると、心底驚いたような声を洩らした。彼女の言うリーダーの考え、とは幻想御手の存在云々のことである。

聞けば笑って突っぱねてしまうような選択肢(正解)を、上条は冷静に分析して選びとっていた。

彼ならば自分には見えないものでも見通せる、フレンダにはそう思えた。



上条「それはアイツらが教えてくれるさ。…まぁ、あれじゃ当分無理そうだけどな」



上条は再び視線を店の奥へと向ける。

上条組と常盤台組が狙う手がかり(スキルアウト)は、絶賛女子中学生とお話中の様子だった。

上条は、フレンダは、白井は、あの女子中学生を知っている。半袖のブラウスにサマーセーター、灰色のプリーツスカートに身を包む彼女の名は御坂美琴。

現在、彼女は猫という猫をかぶり、媚びるような声で「おねが~い」と手を合わせている。




上条「今どきどこの世界にあんなしゃべり方する女子中学生が居るんだよ…」ハァ


フレンダ「さすがにあれはないわ…」ウゲー


白井「禿げ上がるほど同意致しますの」ホロホロ


三者三様の悪態がこぼれたところで、ちょうどよく注文した料理が運ばれてきた。



店員「お待たせしました。苦瓜と蝸牛の地獄ラザニアをご注文のお客様」



手を挙げる上条に、うげ、という二人の少女の声が重なった。






結果から言えば、上条がそれを口にすることは出来なかった。

『ゲテモノほど美味い』を確かめたかった上条だが、彼の優先度はゲテモノを切り捨てた。

現在、上条とフレンダ、それに白井を含めた三人は息を潜め、暗がりのなか美琴を追跡している。



スキルアウトA「さてと、ここらでいいだろう」



ふと、前方を歩く美琴を含めたスキルアウト集団が歩みを止める。

夜の路地裏はかなり静かであったため、約10メートル離れた上条たちの位置からでも彼らの会話を聞き取ることが出来た。

スキルアウト達は美琴を取り囲むように立つ。夜の暗さも相まって、彼女が常盤台の超電磁砲であることを知らなければかなり危険に映る光景だった。



スキルアウトA「これで邪魔者はいなくなったぜ」


邪魔者はお前らが取り囲んでるけどな、とのツッコミが喉の奥まで出かかったのは、きっとこの二人の少女も同じだろう。

まずは有り金をすべて出せ。男は美琴にそう告げた。おそらく彼らとしては金蔓を捕まえたつもりのようだが、それはとんだ勘違いである。

あまりにも哀れな連中の姿を目に納め、本当に不幸な連中だ、と上条は思った。

美琴としては穏便に話を聞き出すつもりだったのだろう。でなければ、こんな回りくどい真似をするはずがない。

(風紀委員の少女がいなければ)おそらく上条がそうするように、『吐かせればいい』。彼女なら簡単にできる。

だが彼らを一蹴できる力を持ちながらそうしなかった辺り、人格破綻者(レベル5)といえど、なるほど確かに美琴はまともな部類の人間であるといえた。


スキルアウトC「いいから。話聞きてぇんだろ?ならさっさと出せや!」


薄暗い闇の中、青白い光はやけに目立った。


下手に出れば調子に乗りやがって。青白い光はそう訴えているかのように見えた。

まともな部類であるという上条の評価は、どうやら見直す必要があるらしい。隣に立つ白井も、額に手を当て溜息をついていた。

フレンダはそわそわと落ち着かない様子で超電磁砲(レベル5)の戦闘に興味津々の様子である。


御坂「あーあ。もう、やってらんないわ。めんどくさっ…」


男たちには豹変したとしか思えない、しかし素に戻っただけの美琴に、彼らは動揺を隠せない。

焦燥感に駆られたリーダー格の男は、自らの焦りを決して認めまいと美琴に掴みかかる。

飛んで火に入る夏の虫――なかなかよく表せたと思う。

一瞬後、男は手足を痙攣させ地面に横たわっていた。美琴の額に、バチバチと音を立てる青白い光。

まばたきの間に何が起きたのか、その光を見れば想像に難くない。彼らの間に一層の焦りが生まれた。

彼らの目には、たった今まで幻想御手に頼るしかない女の子に見えていた。たった今までは。



改めて常盤台中学、その意味を思い返す。

それは、強能力者以上のお嬢様しか足を踏み入れることを許されない、選ばれた者の集う学校。


でも、と男たちは思った。思ったことは、口をついて出る。


スキルアウトB「スカしてんじゃねぇぞ!パワーアップした俺達の力、見せてやろーぜ!」

スキルアウトC「オウ!」

スキルアウトD「あひゃひゃひゃひゃひゃ」+5人


彼の掛け声に続き、姿を隠していた男たちが次々と現れた。

スキルアウトといえば、とイメージが根付きつつある鉄パイプや金属バットを持った男はひとりとしていない。


御坂「パワーアップした力。なるほど、まんざら嘘でもなさそうね」


スキルアウトB(そうさ…。能力者が何だ。俺達は力を得たんだ!)


勝負は一瞬だった。彼らは持ち前の能力で、四方八方から一気に跳びかかった。

下策だ、と上条は思う。電撃使い相手に、取り囲むことほど間抜けな戦法はない。彼らは一瞬で、全員が、一人の例外もなく飛来する電撃の餌食となった。


そもそも無能力者が低能力者に、異能力者に移り変わったところで、超能力者との差は縮まったりしない。

能力者をピラミッドに表す、という話がある。ピラミッドは四段あって、下から無能力者、低能力者、異能力者、強能力者の四段階に分けられる。

しかし、その上はない。上を表すとするなら、大能力者(レベル4)はピラミッドのはるか上空を舞う鳥だ。同じ土俵には立っていない。

そして、超能力者とは空に輝く星。差を埋めようと思うことすらおこがましい、手を伸ばしても届かない星。


改めて常盤台中学、その意味を思い返す。

そもそも手が届かなかったからこそ、彼らはスキルアウトになった。



上条は、白井と同じタイミングで溜息をこぼした。

溜息をすると寿命が縮まるという非現実(オカルト)の話がある。もしも正しいとするなら、上条はとっくに死んでいるし、白井は崖の縁にいる。


上条「つーか、まったくの無駄足だったぜ。お前ってほんとに手加減を知らないよな」


ついつい洩れて出た上条の不満に、美琴はしょーがないじゃないと頬を膨らました。

しょーがないで済むのだろうか。仮にも風紀委員の前で。


白井「相手に非があるからといってむやみに能力をお使いになるのはやはり…」

白井「今回は正当防衛として目をつぶっておきますが、お姉さまにはいかほど以上に超能力者としての自覚が足りませんの」アーダコーダ


間抜けな顔を晒し焦点の合わない目で天を見上げる彼らの姿に少なからずとも罪悪感を感じたのか、美琴は珍しく白井の説教を黙って聞いた。




フレンダ「リーダー」

上条「ああ。まだ一人いるな」



姉御「ずいぶんと派手にやってくれたじゃないか…」


スキルアウトB「あ、姉御…」


突如現れた、不良の代名詞ともいえるスカジャンを羽織った女の声に触発されたかのごとく、男たちが次々と目を覚ます。

あまりの体育会系ノリに、上条はアレはもう催眠だな、と毒づいた。


姉御「女の財布なんか狙いやがって…お前らもう帰んな!」


し、失礼します!と、野球部の監督を前にしたように帽子を取りお辞儀をした男たちが次々と駆け出していく。

彼らを背中で見送ったラスボス臭の漂う女はどうやらこちらに気づいていないらしく、美琴の顔だけをキッと睨みつけた。


御坂「アンタ、あいつらのボス?なら、幻想御手のことも知ってるわよね?」


単刀直入に切り出した美琴のことなどどこ吹く風で、女は両の手をスカジャンのポケットに突っ込むと、目を閉じ、


姉御「そんなことより。あたいの舎弟を可愛がってくれたみたいで…覚悟はできてるんだろうねぇ」



上条「はぁ…。アホらし」

間の抜けた声は上条のもの。再びついた溜息は、今度は美琴と重なった。


姉御「借りはきっちり返させてもらう。いくよっ!!」


叫び、女が右手を地面につける。

例えばこの女の動作のように、傍から見て何がしたいのかわからない意味不明な動きというのは、たいてい能力発動の前兆である。

突如、地面がまるで池やプールの水面に変わったかのように、その表面に波紋が現れた。


御坂「なによこれっ!?」


揺れる地面を前に美琴が驚いた声を上げる。

女はその反応を満足そうにみたあと、口の端を吊り上げ、


姉御「あたいの能力は表層融解。アスファルトの粘性を自在にコントロールすることができるのさ」


満足そうに口を割った。スキルアウト(レベル0)だった頃にたまった鬱憤が晴れた気分だろうか。

たとえそれが借り物の力であったとしても、能力で能力者の上に立つことが彼女の原動力だ。虐げられてきた苦しみを表すかのように、アスファルトは大きく揺れる。


御坂「自分から能力についてべらべら喋るなんて間抜けが過ぎるわ。どっかの誰かさんとは大違い―――」


御坂「ねッッ!!」


美琴の指先から、細長い形を与えられた電撃が一直線に飛んで行く。

だが女の胸元めがけて跳んでいったそれは、地面から盛り上がったコンクリートの壁によって阻まれる。


姉御「だから言ったろ!アスファルトはあたいの思いのままさ!」


愉快そうに歪められた女の表情は、次の瞬間には驚きに取って代わっていた。

目の前にいたはずの少女が、どこにもいない。



姉御「消えたっ!?」


御坂「電流ってね―――


キョロキョロと探しまわった少女の声は、女の予想とは反し、上から聞こえてきた。

まるで某スパイダーマンのように、少女は壁にまるで引き合う磁石のように張り付いていた。


御坂「磁場を作るのよ」

御坂「それを壁の中の鉄筋に向けると、便利でしょッ!」


次は、美琴の右手から大きな電撃。

一度目に見事に防いでみせた彼女の能力を信じて、美琴はほんの少しだけリミッターを外す。

読み通り、彼女はアスファルトの壁を作ったが、それは粉々に砕け散った。


姉御「な――ッ!?」


実は、砕け散っただけではない。女は目の前の地面が激しく陥没していることに気づき、冷や汗を流した。

目の前の少女は手加減をして戦っていた、そして、

自分の操る自慢のアスファルトは、敵の電撃の前では形を保つことすらできない。

発砲スチロールが鉄を砕けないのと同じ。発砲スチロールではそもそも勝負にすらならない。と、心ではわかっていたが、口をついて出るのは本音とは裏腹に…


姉御「だけどあたいはまだ負けちゃいない。アンタも能力者なら本気で来な!」


姉御「あたいの黒鉄の意思…電気ごときで砕けるもんなら砕いてみなっ!!」




常盤台の超電磁砲。最強無敵の電撃姫。七人しかいない超能力者。さらに学校では御坂様と呼び慕われているらしい。

そんな完璧が服を着て歩いているような御坂美琴は、学園都市の広告塔でもあるようだ。

でも、そんな肩書に踊らされて、誰も彼女の本質を見ていない。

そんなのすべて関係ない。虚像にすぎない。なぜなら、御坂美琴という人間は―――


御坂「きらいじゃないわ、そういうの」


御坂「じゃあ。お言葉に甘えて」


心なしか、声が上ずっているように聞こえる。

能力者なら誰もが持ち合わせている欲求が、その本能をむき出しにするが如く、御坂美琴は右手を上げた。

彼女の右手には、青白い光が幾重にも。稲妻は絡まり合い、彼女の手を離れ高く伸びていき、



白井の注意を素直に聞いていた美琴はもうどこにもいない。

フレンダは初めて見る他のレベル5の戦闘に興奮していたが、今はただガタガタと震えている。

あれはやばいと本能的に感じたのだろう。

上条は、雷でも落とそうかという美琴をまじまじと見つめ、直後隣の建物が変電所であることに思い至った。


こういうとき、彼の不幸(よかん)はよく当たる。というか、外れた試しはない。


空が、ゴロゴロと怒ったように鳴く。黒ずんだ雲が時折輝くのを見て、おそらく誰もが『次』を予想した。

予想しても、なにができるかといえば、なにもできないわけで。

真っ白な光が辺り一帯を包んだ瞬間、上条はめいいっぱい不幸だと叫んだ。


なぜなら、御坂美琴という人間は、喧嘩っ早くて生意気な、ちょっと厄介な力を持っただけの女子中学生でしかないからだ。







上条「あー不幸だ」



翌日。上条当麻の住む学生寮はうだるような熱気に支配されていた。

部屋の電化製品のうち八割が死滅した悲しい事件の一番の被害者は間違いなくエアコンだろう。それもこれもすべてあの雷神様のせいである。

受け取り方次第では能力を使ったテロ行為とも言えるんじゃないか、と上条は思う。

ときに噂とは本当に脚が速いもので、『樹形図の設計者の予測演算に反した謎の落雷』と題されたそれは、第七学区を中心にひろく蔓延していた。


フレンダ「リーダー、冷蔵庫も駄目っぽいよ」


開いても明かりの付かなくなった冷蔵庫を開け放ったまま、こちらに首だけで振り返るフレンダの言葉から新たな情報が読み取れる。

この熱気の中冷蔵庫が死んでいるということは…。

そもそも冷蔵することができなくなってしまった時点でヤツを冷蔵庫と呼ぶことはできない。いまとなっては冷蔵庫に似たただの箱である。

箱が腹の中で必死に溜め込んだ食料は、無情にもすでに腐ってしまっているに違いない。

就職難のこのご時世において、食べ物を冷やすことが出来なくなった彼の不幸を憂いたところで、少年は布団を干そうと思い立ち、席を立つ。

今更気づいたわけではないが、神様とは本当に意地悪なやつで、エアコンが壊れた今日の日を狙ったかのごとく猛暑日にした。しやがった。

――せめてこの無駄に輝く日の光を有効活用してやらねば。

でもこれってよくよく考えてみれば雑用の仕事なんだよなー、と上条は思う。

思って振り返ったが、フレンダは狙いすましたかのごとく鼻歌交じりにアイスコーヒーを作っていた。如何せんこれで文句は言えなくなった。

カランカランと、ガラスのコップに当る氷の音が、風鈴に似た涼しさを感じさせる。


『一つの刺激で複数の感覚を得ること。これを共感覚性というのです。わかりましたか、上条ちゃん』。


唐突に頭をよぎった担任の言葉は、今になってああそうかと納得が追いついた。

だからといってなにかに使えるわけじゃねぇし、と自己完結させると、今度こそ布団を担ぎべランドの窓に手をかけたところで―――。


ドスン、という、まるで人が向かいの建物からここ(七階)のベランダに着地したような、それはそれは鈍い音が聞こえてきた。

日差しを避けるためにかけたカーテンのせいで見えないが、間違いないと思う。

敵の強襲かとも考えたが、にしては殺気のような気配も感じられない。

だからといって油断はしない。上条は一度布団を降ろし、まるで虫に怯える小学生のような動作で、腫れ物にさわるようにカーテンを開けた。

シャーーッというカーテンがレールの上を走る音が耳に入り、目には…純白の…、


上条「……ただの布団か」


上条は布団(先客)にベランダを譲るかのごとく、そっと優しくカーテンを閉めた。



というところで投下終了。2スレ目は多分余裕で超えるでしょうね。先は長いのでまったりいきましょう。

すみません。筆とる時間がなくて。これから時間あるので書きます
とりあえずほんのつなぎに、前回楽しようと思って投下しなかった分を






上条「………………っ」



お腹へった、という日常会話の一言にすぎない言葉を、かれこれ50回は聞いたんじゃないかと思う。

既に上条当麻の中でお腹へった、という言葉がゲシュタルト崩壊を起こしていた。

甘かった、と上条は思う。適当に無視していれば諦めてくれるだろうとの考えは今になって誤りだったと気づいた。

そもそも、ここは七階のベランダである。どちらにせよ部屋を通す以外に彼女が去れる道はない。

わかりましたよ、と小さな声で誰にともなく呟くと、上条はカーテンと窓を開けた。

ベランダに掛かった真っ白なソレは、布団とも、よく見ればシスターとも見える。

布団シスターは、やっと現れた家主の目をじっと見つめ、



禁書「お腹へったって、さっきからそう言ってるんだよ!」


一体どこの世界に、勝手に人様の家のベランダに現れてこんなセリフを吐く人間が居るのだろうか。

いや、ない。と上条は勝手に反語で締めくくる。締めくくってみたものの、そんな人間は実際目の前に居るわけで…、


禁書「あれ、日本語間違ってたかな?でも通じてるよね?」

禁書「えっとえっと、ご飯を食べさせてくれると嬉しいな!」


疲れきった表情で、それでも最高の結果を期待した少女の目だけはキラキラと輝いていた。

はぁ…、と一息つく。

(溜息で寿命が縮まるって言ったやつ、ちゃんとカウントしてますか?)



自分と関わってもろくな事なんてない、とは上条の考えである。故に少年は、いままで他人とできるだけ関わりは持つまいとしてきた。

しかし例外はあり、御坂美琴はそのいい例だ。一度関わってしまった彼女は放っておいたほうが危険だといえる。だから美琴や白井のことは近くで見守ると決めていた。

それでも、少年の抱えられるものには限りがある。

全員を助けようなんてヒーロー気取りのぬるい考えは、とっくの昔に捨てていた。

けれどもかつての罪滅ぼしに、せめて決めた範囲のことは…と心の奥で思っている。そのために、彼は生きているのだから。


実際のところ、上条はわかっていた。

飛び移ってきたとしか思えないこの少女が、何かから逃げて来たということを。

それも鬼ごっこなんて生ぬるいものじゃなく、屋上を飛び移ろうとしてまで逃げなければならないような状況だったということを。


上条「はぁ…」



人を助けるということは、ほんとうに難しい。

矮小な上条は人を助けるために、危険を殺す。それが一番手っ取り早く、というか彼にはそれしか出来ない。

相変わらずベランダにぶら下がったままの少女は、上目遣いで少年を見上げている。

人助けなんて似合わない考えは、噛み殺す。上条はあくまで、さっさとこの布団シスターと後腐れなく縁を切るために―――。



追手とやらをぶっ殺してやることにした。



上条「中にいるおねーちゃんが、ファミレスでご飯をおごってくれるってよ」


中にいる少女と、外にいる少女。

悲哀と歓喜の叫びがシンクロした。



と、ここまでしかないんですけどね。

魔術と絡めない方が…うん。たしかにその通りだと思いますが、
とりあえずインさんの事件はやりたいと思ってます。その後どうするかはまだ…。

また次回~。





二時間も立たない間に、上条さんご一行は再び学生寮へと帰ってきていた。これまで特に目立ったトラブルは起きていない。

それにしてもファミレスにおいてのシスターさんの食いっぷりは半端なものではなく、フレンダの顔は終始ひきつっていた。

夏休み初日のファミレスは、まだ午前中でもあるのにかかわらず人でごった返していた。

やはり学生たちの認識で言うと、ファミレスとはただ食事をするだけの場所ではないようだ。

とりあえず集まって、みんなで駄弁る場所。だいたいそんな感じだと思う。でなければ何時間も居座ったりしない。

ただ目の前のシスターさんだけは、食事だけで何時間でも居座れるかもしれない…。上条にはそう思えた。

そろそろ、人の多かったファミレスでは聞けなかったことを切り出すときだ。上条は少しだけ眉間に皺を寄せ、


上条「で、お前は一体どこの誰で、何から追われてきたんだ?」


少年の言葉に驚いたのは、布団シスターだけだった。少年の隣で答えを待つフレンダも事情は察していたのだろう。



禁書「うん、そうだね。私はね、インデックスっていうんだよ。魔法名ならDedicatus545だね」

禁書「魔術結社に追われてきたの…」


深刻そうに語る少女を前に、全くそんな雰囲気を見せない二人の男女が顔を見合わせた。


上条「お前…今ちゃんと聞き取れた?」

フレンダ「聞き間違いだったかな?」


二人の話し声を聞き、インデックスと名乗った少女は、む、と不満そうに唸る。まるでまともに取り合ってくれない大人に拗ねる子供のような態度で。


禁書「日本語が悪かったのかな?マジックキャバルだよ!」


今度こそ、と鼻息を荒くするインデックスに、上条はヒラヒラと手を振った。


上条「魔術結社ぁ?ああ、わかりましたよ。お前はアレですか、電波ですかぁ?」

上条「ちょっと前までのシリアスムード返しやがれ、この妄想女!」



と、言ってみたもの。確かに煮え切らない部分はあった。

『魔術』。決して信じたわけじゃない、と上条は自分の中で確認する。でも、はたしてないと言い切れるか?

この街では、さもそれが常識であるかのように、中学生が雷を落とす。瞬間移動する。コンビニを空き缶でふっとばす。

はたしてこれを知らない者が、いきなりこんなことがありますと言われてどんな反応をするだろうか。まず、信じない。それが普通だ。

でも、たしかに超能力というものはあって。いまでも、この街の何処かで行使されている。

例えば。この街の外で、そんな異能の力があるとして―――それを、魔術と呼んでいたら?


上条は、改めて目の前に座る銀髪シスターを見る。


禁書「むぅ~。やっぱりバカにしてるね!魔術はあるもん!」


彼女ははっきりそう言っている。別に完璧に信じたわけじゃない、上条は再び確認を取り、次に自分の右手を見た。

『幻想殺し』。若く、年老いた、そのどれにも取れるような不思議な声は、たしかこの手をそう呼んでいたっけ、と思い出す。

システムスキャンでは無能力。数値から見れば存在しないその能力も、確かに存在する。つまりこの右手は超能力以外の力ということになる。



禁書「魔術はあるもん!じゃあ、証明してあげる!」



少女は一方的に告げると、キッチンへと走っていった。ガチャガチャと何かを取り出した彼女は、すぐさま二人の前に戻ってくる。

その手に、刃渡り15cmの上条愛用の包丁を握って。


上条「おいおい…短気にもホドがあるだろ。近ごろの若モンは」

フレンダ「…嘆かわしいね」


禁書「ちーがあああああああう!」


叫び、少女は刃の先を自らの胸へと向けた。突き立てれば致命傷は免れない左胸。

これで、なんとなく少女が何をしたいかは見当がついた。でも、それに一体何の関係が――


抱いた疑問に答えるように、少女は興奮気味に、



禁書「これっ!この服っ!これはねっ!『歩く教会』っていって最上級の結界なんだから!」

禁書「包丁程度じゃ傷ひとつつかないんだよ!」


魔術の存在はさておき、上条はこの少女が魔術師だと信じたわけではない。


上条「馬鹿かテメェ!オマエの言っていることが妄想だったら病院に運ぶの俺なんですけど!そこんとこわかってくれてますか?」


依然魔術の存在を信じないように言う上条に、インデックスは頬を膨らませる。じゃあどうしたら信用してくれるのさ、とでも言うように。


上条「オマエが魔術師だってんなら、魔術の一つでも見せてみろってんだよ」


禁書「私には魔力がないから、それは無理かも」


フレンダ「はぁ!?なにそれぇ!カメラがあるから気が散って超能力は見せられませんってどっかの魔法使い(インチキ)も言ってたんだ・け・ど!」


禁書「……魔術はあるもんっ」



どうやらこの少女はなんとしてもその存在を認めてもらいたいらしい。なんとなく、上条にはわかる気がした。

たとえば自分だけが知っていることを、知らない他人に教えて、信じてもらえなかったとき。子供なら間違いなく癇癪を起こすだろう。

大人になった今だからこそ、別にどうでもいいで済ませることができるが、銀髪シスターはおそらくまだ子供だ。


(なら、手っ取り早い方法があるじゃねぇか)


上条「俺の右手には、それが異能の力ならどんなものでも打ち消せる幻想殺しがある」


禁書「いまじんぶれいかー?」


上条「もしオマエの言う歩く教会?が本当だってんなら、俺の右手が触れた途端になにか反応があるはずだ」


禁書「いいよ?君の力がほんとうな・ら・ね・っ!」


挑発的に胸を張り、余裕の声で言う少女に、少年は意地悪そうな笑みを浮かべ、


上条「テメェが大嘘つきだって証明してやるぜコラァァ!」


右手で、彼女の服に触れた。



例えば。例えばいまここで少女が全裸になったとして。少年に罪はあるだろうか?

別に彼は本気で服をひんむこうとしたわけではないのだ。思春期の盛り、15歳の少年にも、そこまでの溢れんばかりの欲望はない。と信じたい。

魔術なんて言葉鵜呑みにしたわけじゃなかったから。法廷に立たされたらそう弁明しよう、上条は一瞬で決めた。


男子高校生の手狭な学生寮に、裸の女の子が降臨しなすってから、はや―――。

一瞬、いや三瞬ばかり遅れて、銀髪シスターは自らの現状に気がついた。

歩く教会は頭にかぶったソレを除けば、散り散りの布きれとなって床に散乱していた。

少女はない胸を懸命に張り、両の手を腰に当てた姿勢で立っていた。

彼女の目の前に、顔色一つ変えない上条当麻。斜め前で大口を開ける、フレンダ=セイヴェルン。


禁書「あ…あわ…あわわわわ///」


上条は、悪かったと呟くと、何事もなかったかのようにお茶をすすりはじめた。


魔術とは大なり小なり関わるでしょう。基本再構成+αなので。

オリキャラ(名無し、能力名のみ)やオリジナルの事件は今後出てくるので、前もってご了承ください。

>>1。はじめてプロットなるものを練ってみました。これで多少はいきあたりばったり迷走状態から抜け出せそうです。
魔術と関わるといっても、そっちメインになるのは少なく出来そうです。科学7対魔術3くらいまでには。どちらにせよ暗部メインにするので安心してください。

まずは超特急でインさん事件を。本日中に投下します。

ちょっと投下ー





禁書「……もうお嫁にいけないかも」グスッ


インデックスと名乗る少女は、現在奇妙なシスター服を身にまとい、二人に(特に上条当麻に)背を向けるようにしてうずくまっている。

彼女が着ている元シスター服は奇妙と呼ぶほかない。一度は散り散りの布きれになったそれに、インデックスは安全ピンで応急処置を施し着用していた。

顔を伏せているのはどうかしなくても裸を見られたことが原因なのだろう。

時折恨みがましく上条を睨みつけるのは、自分を裸にしたことと、裸を見ておいてなんの反応も示さなかったことに対して怒っているからである。

彼女もシスターである以前に年頃の女の子なのだ。裸を見ておいて無関心というのは、少々くるものがある。相手も年ごとの男の子であったため尚更…

しかしながら、上条当麻はそんなこと知る由もなく、というか全く気にしていなかった。

彼の興味は少女の裸などにはなく、むしろ服が右手に反応し破れたことにあった。

例えば超能力で作った服である、とかでなければ、今の現象を説明できない。あとひとつ可能性があるとすれば…、



フレンダ「え、じゃあ、結局…」

フレンダ「魔術ってマジモンなわけ!?」


禁書「……だから魔術はあるもん」


インデックスは両腕で自分の胸を抱くようにして、ジトーっとした目つきで振り返った。

もしかしなくても両の目で少年を睨みつけながら。


上条「とりあえずまぁ、あるって前提で進めてやるよ」


あるという前提。それが超能力で作られた服であるという可能性が消えたわけではない。

だからこれが、科学の街で育った少年の精一杯の妥協点だった。


禁書「む」

禁書「でもまぁいいんだよ」


そうと決まれば、次の話の方向は自ずと決まる。少年は湯のみを机の上に戻し、布団シスターに視線を向けた。


上条「じゃあそのインデックスさんは、一体どうして魔術結社とやらに追われてたんですか?」


少年の問いに、銀髪シスターが息を呑むのがわかる。なんとなく部屋の雰囲気が一変した。


禁書「私の持ってる一〇万三〇〇〇冊の魔導書が狙いかも」


………………………………………………………………。


上条「なんだって?」

フレンダ「え?どっかの図書館の鍵とか持ってるってこと?」


上条とフレンダの疑問に、インデックスはブンブンと首を振る。

では、一体どういう意味だろうか。そういう魔術でもあるのかとか上条があれこれ思案している間にも、銀髪シスターは言葉を紡ぐ。


禁書「ちゃんと一〇万三〇〇〇冊、一冊残らず持ってきてるよ」


上条「あのぉ…」


まさか馬鹿には見えない本なんて言うんじゃねぇだろうなぁ。そう言いかけた言葉を呑み込む。

一切の常識が通用しないこの少女の発言を一々まともに捉えていては話にならない、上条はそう結論づけた。

と、直後。予期せぬ着信音が学生寮の空気を変えた。窓際の壁にかけられた制服のポケットから鳴り響いているということは、プライベート用の携帯への着信。

のそのそと面倒くさそうな仕草で立ち上がり、手にとってみると、ディスプレイには『月詠小萌』と表示されていた。

(おいおい…今日は夏休みだぜ)

別に聞かれてなんの問題もない話であろうことは考えるまでもないが、少年はなんとなく部屋の外へ出る。

快晴の今日は気温がずいぶんと高かったが、玄関の外は日陰になっていたため、クーラーの効かない室内よりは幾分か涼しかった。


上条「もしもーし」

小萌『ああ、上条ちゃんですか!もうっ!先生もうこれで五回はかけちゃいましたよ?』

上条「すみません、ちょっと取り込んでたんですよ。だいたい先生こそ、今日はもう夏休みですのことよ?」

小萌は一息短な溜息をつき、

小萌『上条ちゃんってばちゃんと先生のお話を聞いていましたか?』

上条「はい?」


小萌『ただでさえ出席が足りてないんですよ~?』

上条「ええっと…それはつまり…?」

小萌『上条ちゃーん、バカだから補習で~すっ!』

明るい、とても楽しそうな声で死刑宣告する小萌の後ろから、猫鳴き声とエセ関西弁が聞こえてくる。

上条「あー、青髪と土御門も?」

小萌『はい。まったく三人とも手がかかるんですから。カミやんなにしてんね~――ッサボりは許さんぜよ!!』

上条「うるせーよ!」

小萌『あと今日は吹寄ちゃんも来てるのですよ――って!ゆっくりお話している場合じゃないです!早く来てください!』

上条「はぁ…」


生返事をした上条が思案したのは、部屋の中にいる銀髪シスターの事だった。

補習にいけば、必然と彼女を放っておくことになる。一〇万三〇〇〇冊の魔導書が狙われている、彼女はそういったが、上条は別に信じてはいない。

たしかに本当かもしれないが、彼女の妄言だった時のことを考えれば、補習を潰すのは得策じゃない。

まぁ、追手が来たとしてアイツが居れば大丈夫か…。上条は同僚のフレンダに任せることを勝手に決めた。


小萌『どうかしましたか?上条ちゃん』

上条「あーいや、じゃあ今から準備して出ますんで」

小萌『はい!とにかく急ぐのですっ!わかりましたか?」

上条「はいはーい」









本日も、自動販売機で待ち伏せしていたのは御坂美琴ではなく、風紀委員の白井黒子だった。


現在、上条当麻は補習へ向かうべく通学路を歩いている最中だ。家に残る妙ちきりんなシスターのことは、すべてフレンダに任せて来た。

万が一追手が来た場合は撃退するように言うと、フレンダは余裕綽々の態度で頷いた。

アレでもフレンダは大能力者だ。魔術師とやらが居たとして、相当な強敵でない限り負けることはないだろう。そう考えるくらいには、上条はフレンダを信頼していた。

少しやり過ぎかと思案したが、一応のために上条は下部組織を一チーム五人、学生寮周辺に張らせている。異常があれば直ぐに連絡が来ることだろう。

これでもう何も心配することはない。



お待ちしておりましたわ殿方さん。白井黒子は、今日も似たような挨拶で歩み寄ってきた。



上条「なんだよお前。つか、よく俺が今日ここを通るってわかったな」


夏休みなのに、という意味を込めて上条が聞くと、白井はバカにしたように笑った。


白井「お馬鹿(カミジョウ)さんなら夏休みも補習があるものでしょう?」


上条「うぜー…。つか、雷神様にちゃんと説教してやったか?うちの電化製品ほぼ死滅なんですけど?」


上条の言葉に、白井は一瞬で顔を曇らせる。どうもこの少女は本気で美琴を崇拝しているらしく、美琴の失態を自分の失態と捉えているフシがある。

女子校で百合は通常仕様(デフォ)ですか?、上条は心のなかで毒づいた。


白井「昨日はさすがに反省はしておられましたけど…」


上条「……まぁいいんだけど」


本当は全然良くなかったが、この少女に文句を垂れるのは違う。それに、今は補習に向かう最中でさっさと本題を切り出して欲しかった。

これ以上足止めを食らっては一人だけ居残り、なんて鬼畜な処置もありえる。


上条「で、なんでわざわざ待ってたんでせうか?」


本題を催促する上条に白井は小さく頷くと、真剣な表情になり、


白井「それなんですが、実は今朝連絡が入りまして…、例の虚空爆破事件の犯人、介旅初矢が事情聴取の最中に昏倒したらしく」


他にも過去の事件の犯人達が次々に意識を失っている、と告げた。


上条「幻想御手、やっぱりマジモンなんかねぇ」


白井「…」


上条「それがほんとうにあるとすれば、今後、いやすぐにでも事件が頻発するだろうな」

上条「たとえば無能力者が能力を得られるとすれば、能力者狩りを始めてもおかしくねぇし」

上条「介旅モドキが五万と出るはずさ。――でも、意識を失うリスクが有る」


白井「ええ…」


上条「…、」



ここで、上条当麻は確信する。

なぜ、そんなものを開発した研究者はその存在を公表しないのか…。

そんなものを本当に作り上げたのだとしたら、それは誰がなんと言おうと偉大な研究成果だ。伏せておくメリットはない。

なぜなら、この街の研究者はそのほとんどが学生たちを『モルモット』として扱っているからだ。故に、研究者たちは自らが能力者になることをしない。

モルモットたちのレベルを上げ、絶対能力者へと進化させるのがこの街の存在目的だということを、上条は知っている。

ならば、幻想御手が聞き及ぶ通りの効力を持つとすれば、それはこの街が一番求めているものだと言っていい。にも関わらず、公表しないのはなぜか。

もし利益を得るためだとすれば、その存在を公表したほうがはるかにいいに決まっている。


理由は簡単な事だ。


レベルアップは単なる副産物にすぎないからだ。目的は別にある、そう考えたほうが自然である。

使用者が昏倒するとしても、レベルアップが目的でないなら問題はない。そんな可能性さえ出てくる。



上条「なら、まずは幻想御手がどんな媒体なのか調べるこったな」


上条「もしかしたら、レベルアップなんてのは単なる副産物にすぎないのかもしんねーし」


白井「え?レベルアップが副産物…?レベルアッパーなんですのに?」


小首をかしげる白井に、上条はさて、と切り出す。


上条「この街の六割の学生は無能力者です」


俺も含めて、とは言わない。白井は再びクエスチョンマークを浮かべた。


上条「お前らみたいな高位能力者は一握りしかいないません」

上条「おそらく殆どの学生は自分のレベルに対し劣等感を持っています」


白井が一瞬押し黙る。風紀委員であり、大能力者でもある彼女は、そういった嫉妬に慣れているのだろうか。


上条「そんなとき、レベルが簡単に上がるアイテムの噂が出回っていたとしたら…」


白井「……」


上条「きっと多くの学生が僅かな可能性でもかけたいって思うんじゃねぇの?」


白井「…たしかに」


上条「でも、使用したかもしれないと疑われている学生は次々に昏倒していく…。もし幻想御手があったとすれば、それが原因である可能性は極めて高い」


上条「それが開発者の意図しないところだったのか、それとも学生に対するテロか」


上条「甘い餌で寄ってきたそいつらに、ソレを使わせるのが狙いなのか」


白井「!!」


上条「最後のだとしたら、他に目的があると見て間違いねぇだろ?まだ憶測だけど…」


と、慌てて上条は時計を見る。

白井と遭遇してから、既に五分ちょっとが経過していた。ただでさえ社長出勤であるのにこれ以上遅れると本当にまずい。

上条は白井が思案中なのも構わず、学校へ向かい駆け出した。








少年が去っていった後の公園の、ちょうど木陰に当たるベンチで、白井黒子は考え事をしていた。

少女の膝の横には、彼女がお姉さまと慕う少女の好物、『ヤシの実サイダー』が容量の半分を残された状態で立っている。

少女が考えていたのは、なにも幻想御手事件のことばかりではない。上条当麻という、不思議な少年の事だった。

コンビニで初めて会った日、彼は不思議な力で爆発を防いでみせた。

問いただしても彼は答えなかったし、誰も見ていなかったため忘れられていたことだったが、白井だけはずっと覚えている。

そして、なにか、心にひっかかっていた。まるで――――。


白井「そんなわけ…ありませんわよ、ね…」


(そういえば、あの日はお姉さまと上条さんについて話しあったんでしたわね…)

美琴が興奮気味に、はじめて男性の話をしていたことは白井の記憶に新しい。

おどろくべきことに、彼は常盤台が誇る超能力者と互角以上の力を持っているという。

最初は笑い飛ばした白井だったが、爆発を防いだ彼の姿がちらついて、すぐ後には、もしかしたら…と思ってしまっていた。



白井「やっぱり、不思議な殿方ですの…」


今までの男性のイメージと違う。それに彼はどこか他人と距離を取ろうとする節がある。

気になる、と思った。直後、少女は首をふる。

変な考えを振り払うように、白井はヤシの実サイダーを一気に煽った。気温の高さ故か、少しぬるくなったそれはお世辞にも美味しいとはいえなかった。

空き缶をロボが回収すると同時に、彼女の携帯が鳴る。美琴からの着信だった。


(そういえば、今から病院に行くんでしたわね)


彼女がこれから向かうのは、介旅が搬送された病院である。白井はベンチから立ち上がり、カバンを握った。


白井「レベルアップが副産物、ですか…」

白井「一体どうやったら一介の高校生にここまでの推理が出来ますの?」


不思議そうな顔でつぶやき、それにしても、と続ける。


白井「なぜ黒子は……」


白井「上条さんに相談したんでしょう」




投下終了なりや

書き溜め進まんので少しだけ





小萌「遅いですよもう!何してたんですか上条ちゃんっっ!」


教室の扉を遠慮がちに開いた上条の耳に届いてきたのは、教師とは思えないほどのロリボイスだった。

気まずそうに笑う彼の目線の先には、短い手を腰に当て可愛らしく激昂する月詠小萌。ちなみに全然怖くない。

左に目を移せば、土御門、青髪の両名が手を振っている。その隣には、ジトーっとした目つきで睨んでくる吹寄制理の姿もあった。

彼女、吹寄制理は絵に描いたような真面目ちゃんである。それもただの真面目ちゃんではなく、わざわざ夏休みの初日から自主学習に登校してくるほどの強者だ。

吹寄曰く、学校に来たほうが勉強がすすむとのこと。やはり彼女は言うことが違う。強制参加で、更に遅刻してくるこの少年とは雲泥の差である。



上条「いやぁ、それがいろいろとありまして…」


上条のセリフに、小萌は小さく溜息。眉をハの字にしてまたですか、とボヤいた。いろいろと(フコウ)で通じてしまうのがなんとも恐ろしい。小萌は理解あるロリ教師だった。


吹寄「まったく、貴様はまた遅刻か!少し弛んでるんじゃないの?」


吹寄のセリフに、青髪と土御門が楽しそうにうんうん頷く。弁明させてもらえるなら、いやさせてもらえないけど、不可抗力だと叫びたい。

なんせ落雷による停電の次は空から電波シスターが降ってきて、風紀委員に事情聴取をされていたのだから…。

しかし当然そんなことを話せるわけもなく…、上条当麻は遅刻の謝罪をするばかりだった。





なんとなく、バカの登場で教室のムードが変わった。この瞬間を金髪アロハは逃さない。

なんといっても、土御門は勉強がしたくて補習に来ているわけではない。学校が楽しいから来ているのだ。

青髪ピアスもそれについては同意見で、小萌がいれば授業でも雑談でも構わないらしい。そもそも男子高校生は勉強が嫌い、というのが世の常だ。



土御門「そーいや最近幻想御手なんて聞くけど、小萌センセーは知ってるかにゃ―?」


補習から世間話にすり替えるという土御門の術中に、小萌は難なく嵌った。


小萌「あー、そういえば職員室でも話題になってましたねぇ。でもほんとうにあるんですか?」


土御門「さぁ~、どうなんだろうか。俺も噂くらいしか聞いたことないんですたい」


吹寄「まさか。都市伝説に決まってるでしょ」


上条「そうそう。んなもんあったら補習も意味なくなっちまうしな」


青髪「それは嫌や!いいかカミやん。学校はレベルアップだけのためにあるんやないで?」


上条「テメェがまともっぽいこと言うんじゃねぇよ…」



小萌「そんな危ない噂にかまけてたら補習を倍に増やしますからね!」


青髪「そんならボクは―――


土御門「もうわかってるから言わなくていいぜい」


青髪「やっぱわかってもうた?」


青髪「でもホンマにあるんやとしたら…ボクは透視能力が欲しいわ~」


吹寄「最低…」


青髪「ボクはまだなんにも言うてへんのに!いいんちょーナニ想像しったぁぁぁーーっ!」バコンッ


吹寄「ふんっ」


小萌「今のは青髪ちゃんが悪いです」



青髪「あ~、朝から幼女に言葉ぜmったぁぁぁーーーっ!!」ベシッ


上条「少しは自重しろよ!テメェっ!」


青髪「ちょっと!カミやったぁぁぁーーーーいわッ」バスッ


土御門「ちょっと早かったか?」


青髪「ボクはまだ何も言うてへんわ!このアロハ野郎!」


土御門「にゃーっははははは」


小萌「あーーっもうっ!今は補習の時間なのですよ。再開するのですっ!」フンス


まだここまでしか…。

なんとなくニワカ臭がしてたが、やっぱりだったか
上条さんのクラスの委員長が誰か知ってるか?
まあこういう指摘も原作厨って叩かれるのは目に見えてるけど

>>608 吹寄のあだ名が委員長だってご存知でしょうか?

言い方が悪かったですね。青髪は吹寄を委員長と呼んでいた記憶がありまして…違ったらごめんなさい。
青髪が委員長をやってるっていうのは頭に書いてたと思います
一応新約9巻までは既読です。ニワカの定義がよくわからんけど。

すみません見てない間に随分と。また論争させてしまったみたいで本当に申し訳ない。

>>608
僕が勝手に吹寄はいいんちょうとあだ名で呼ばれてると勘違いしていたみたいですね。おそらくssを読んでいるうちに原作とごっちゃになってしまったんです。本当にごめんなさい。

今後も指摘がありましたら前向きに正していきますのでどうぞよしなに。また近々更新したいと思います。

なんだか雲行き怪しいスレになってますが、出来た分を投下したいと思います。





小萌「はーい、じゃあみなさん。今日は先生張り切って補習用のプリントを作ってきたので配るです。吹寄ちゃんも一緒にいいですか?」


可愛らしく首を傾ける小萌に、呼ばれた吹寄が短く返事をする。小萌は補習が楽しくて仕方ないというような調子で、嬉しそうにプリントを配り始めた。

もうこのクラスになって一学期が経つが、未だに吹寄は隣の三人が気がかりで仕方ない。今日補習に来たのもそれが原因の一つであったりする。

気がかりとはいっても、そこに甘い意味は1ミリたりとも含まれておらず、彼女が三人に対して懐く感情は不満の一言に尽きた。

まず――、

両手を握り合わせて幸せの絶頂のような表情をしている、青髪ピアス。彼の目は教卓の小萌に釘付けだった。

(あれが教師を見る目!?…まったくもうっ!)

心のなかで注意する。実際に注意したらしたで、不埒なセリフでごまかされるであろうことは容易に想像できたからだ。


大体、本名不明とはどういう了見なのだろうか。そして、そのことについて誰も触れない…それってクラスメイトとしてどうなの、と吹寄は未だに煮え切らないでいた。

さらにやつは身なりも悪い。奇抜な青い髪にピアス。隣に金髪グラサンの土御門が並ぶことで余計不良に見える。

口を開けば不埒なことしか言わないし、女の子が絡むと節操が無い。風紀委員や警備員は何をしているのだろうか、捕まえるべきはここにいるというのに。


次に、土御門元春。

金髪にアロハシャツ、青みがかったサングラス。以前吹寄は、貴様はビーチにでも来ているつもりなのか!と注意したことがある。

その問いかけに答えたのは上条だったが、なんでも女の子にモテるためなんだとか。吹寄は呆れてなにも言えなかった。

さらに土御門は体育の授業の時でさえサングラスと金色のネックレスを外さない。おまけに先生も突っ込まない。吹寄は諦めると同時に執念に似たものを感じた。



最後に、上条当麻。

(やっぱりコイツが諸悪の根源…ッ!大体貴様は授業中にどこ向いてるのよ!!)

吹寄がいい加減咎めるより早く、青髪ピアスが口を開ける。


青髪「センセー?上条クンが窓の外の女子テニス部のひらひらに夢中になってまース」


振り返った上条が絶叫、直後弁解。

何を思ったのか、教卓の前で小萌は涙ぐんでいた。


吹寄「上条っ!貴様はまじめに授業も受けられないのか!」


上条「いや、わたくしめは別に女子テニス部なんて…!」


吹寄「とにかく先生に謝りなさい!そして今度こそ真面目に授業を受けるのよ上条当麻!」


上条は、なにか言いたげにオロロしたあと、観念したように突っ伏し、不幸だとお決まりのセリフを洩らした。



やっぱり、と吹寄は上条を睨むように見据える。

(やっぱりコイツは…!)

上条当麻。目下吹寄の悩みの種であるこの少年は、学校に来ないしやる気や真剣さといったものが足りない。

今日の補習とて、出席と成績が危うい上条のために開かれたものだといっていい。なのに上条は遅れてきた。

そして不幸の一言で片付ける。吹寄は、上条の不幸というセリフが気に入らなかった。

(なんでもかんでも不幸でごまかして。私はそうやって人生に手を抜く輩が大嫌いなの)

恨めしげな吹寄の視線に気づかない上条は、またぼんやりと窓の外に目を移した。







ここにないリーダーの指示で待機する、二台の車両があった。どちらも目立った特徴のない、どこにでもあるような一般車両だ。

二人、三人に分かれて乗り込んでいる男達も至って普通の服装をしていた。

仮に通りかかった人間が彼らの姿を見ても、きっと印象に残ろないだろう。そんな格好。

目立たないようにとある学生寮を見張るその車に、近づいてくる影はたった一つ。けれどもその一つの影は、まごうことなき殺しのプロのものであった。

黒い修道服に身を包んだ影は、優に2mは越そうかという長身。肩までの長髪は赤く染められ、耳には毒々しいピアスをしている。形容するなら、不良神父といったところだろうか。

大柄なこの男に隠密という言葉は似合わない。影は悠々と道を闊歩していた。

たとえばこの道を通る人間の、その全てが気づかないような特有の"匂い"にも、この影は気づく。

それは、日常とは隔たった非日常に身を置く人間が否応なしに発してしまう気配のようなもの。服装や髪型といった外見を変えても、それは拭い去ることが出来ない。

その匂いを察知できたからこそ、影は迷うことなく誰もが見逃す車に目をつけた。影の勘が、これはクロだと告げていた。

ゆったりと、しかし着実に歩み寄ってきた影が音もなく車両に肉薄する。中の男たちは、すぐに気づくことができなかった。この時点で優劣は傾き始める。



「炎よ――――――――」


何か呪文のようなものを唱えた男の腕から、オレンジの軌跡(ライン)が轟!と爆発した。見たままを表現するなら、それは炎で作られた剣だ。

車に引火させられればタダでは済まない。男たちは咄嗟に、転がるようにして車から飛び退いた。その手に黒光りする拳銃を握って。

撃ち方は心得ている。彼らが身を置く非日常は、怪しく光るこの黒い道具と共にあるからだ。

殺すための道具を握った男たちにも、殺しのプロである影は臆さない。そんなものは脅威じゃないというように口の端を吊り上げて嗤う。

不気味な影に恐れ、出足が鈍った時点で運命は決まった。炎の剣は風になびくこともなく、鋭く長い形を保ったまま、あっさりと男の身体を焼き斬った。

炎が、まるで本物の刃物であるかのように人体を切断する。断面がジュージューと音をたて身体を蝕んでいく。

影は変わり果てた死体に見向きもしない。慌てふためく男達とプロとの差は歴然としていた。

そもそも、街の駒にすぎない彼らは到底プロには成り得ない。彼らは別に戦闘術を叩きこまれたわけではないのだ。生きるために模索し、命をつなぐしかなかった。

影を始末できない時点で、男たちに残された道はない。諦めに似た恐怖を抱く男達に、影は躊躇うことなく炎の剣を振るった。



―――やがて、死地に慣れた一人の少女が表の異変に気づく。







とあるファミレス。


「レベルアッパー?…それはどういったシステムなんだ?形状は?どうやって使う?」


語尾上がりの、眠そうな、どこか疲れを感じさせる声を発した女性は、なるほど目の下にクマを作っていた。

疲労困憊です、といった感じのその女性の名は木山春生。白衣を身にまとう彼女は大脳生理学の専門家でもあるらしい。

話し方にもどこか知性を感じさせる。

白井は美琴と立ち寄った病院で、偶然にも専門家として応援に駆けつけていた木山と出会った。

捜査の進展しない事件を抱える風紀委員として、ヒントを与えてくれる専門家とコンタクトをとれたことは僥倖の一言に尽きるだろう。

なんでも美琴の方は知った顔だったらしく、脱ぎ癖のある木山の扱いには慣れた様子だった。



白井「…まだわかりませんの」


聞かれて、白井は朝の少年の言葉を思い出す。

彼に言われた通りに、まずは幻想御手なるものの形状を調べなければならない。


木山「ソレが昏睡した学生たちに関係があるんじゃないかと、そう考えているわけだ」


白井は間髪入れずに肯定の返事をする。

疑惑は、既に白井の中で確信に変わっていた。


木山「で、なぜそれをわたしに?」


白井「能力を向上させるということは、脳に干渉するシステムである可能性が高いと思われますの」

白井「ですから、もし幻想御手が見つかったら脳の専門家である先生に見ていただきたいんですの」


木山「むしろこちらから協力をお願いしたいね。大脳生理学者として興味がある」


窓の外を眺めながらの木山の言葉に、二人の少女が表情を明るくした。







補習を終え、吹寄センセーの説教から逃れてきた上条当麻は岐路を行く。

右手のカバンを肩に掛けるように持つやり方は、全国の男子高校生なら必ず共感してくれるだろう。

手持ち無沙汰な左手をポケットに突っ込み、電柱の代わりに建てられた高く白い風力発電のプロペラを通り過ぎたところで、三台の清掃ロボが隣を追い抜いていく。

なんでもない日常の風景を眺めながら歩く上条の背後から、けたたましい叫び声が――、


御坂「いたいた!いやがったわねアンタ!!」


声の主は、忌まわしき右手が呼び寄せたビリビリ中学生こと御坂美琴だった。

大方この大来の中恥ずかしげもなく指を指したりしているのだろう、と上条は推察する。

無視を決め込みスタスタと歩く上条に、美琴は急いで並んできた。



御坂「アンタよアンタ!ちょっ止まりなさいってば!」


補習上がりで疲弊した上条とは対照的に元気な声は、結構くるものがある。上条はチラッと一瞥すると、抑揚のない声で、


上条「おー…またかビリビリ中学生」


御坂「ビリビリ、ビリビリって!私には御坂美琴って名前があんのよいい加減覚えなさいよ!」


憎いくらいに元気いっぱいな声は、周囲の注目をいやというほど集めた。

大きな声『だけ』なら、好奇の目はすぐに止む。しかし、隣を歩く少女は灰色のプリーツスカートに半袖のブラウス、サマーセーターという格好をしていた。

誰もが知る名門・常盤台中学の制服は、そこにあるだけで何かと視線を集めるのだ。厄介で仕方がない。

さらに美琴はこの街一番の有名人ときた。そんな彼女が男子高校生と居るだけで、顔見知りの目にはビックニュースに映るのかもしれない。

もっとも、土御門や青髪ピアスといった面々に見られてしまえば、上条の方とてスクープと騒ぎ立てられるに違いないのだが。



上条「と、威圧感バリバリで上条に迫ってきたのは、昨日の超電磁砲女だ。たった一度勝負に負けたのが相当悔しいらしく、それから上条の元を何度も訪れては返り討ちに遭っているの

だ」


御坂「……。誰に説明してんのよ」


上条「気が強くて負けず嫌いだけど、実はとっても寂しがり屋でクラスの動物委員を務めてます」


御坂「勝手に設定考えんな!」


バタバタと手を振る美琴を尻目に、上条は朝の白井を思い出し、なんとなく気になっていたことを聞くことにした。


上条「夏休みなのになんで制服着てんの?お前ひょっとしてバカなんじゃねーの?補習?」


御坂「アンタなんかと一緒にしないでよね!常盤台(こっち)は色々とめんどくさい校則(ルール)があんのよ」


ふーん、と上条。

疑問は解消したがこれといった感動もない。やはりお嬢様は庶民とは違うなぁと、なんでもない感想を抱くだけだった。



御坂「それよかアンタ!今日という今日こそ電極刺したカエルの足みたいにひくひくさせてやるんだから遺言と遺産分配やっとけやグルァ!」


上条「無理無理~、一〇〇年遅えっつーの」


ヒラヒラと手を振りあしらう上条に、美琴はなおも食い下がる。


御坂「なんですって!その自信木っ端微塵に―――


美琴が言い終えるより早く、上条がじゃーなの一言で制する。


御坂「こ…こ―――――の!」


バチィィィッという、行き場を求め地面を走る電撃の音に、周囲の人間がざわつき始める。

どうやら、この場にいる大勢の人間の携帯が焼かれたらしい。それは上条とて例外ではなかった。そもそも不幸の化身たるこの少年が、そんな不幸(オイシイ)イベントを逃すはずがない。


彼は知る由もないが、この一瞬後にかけられてきたはずの電話には出ることができなくなった。

未だ興奮冷めやらぬという美琴は、反省の色なし。

そろそろお灸をすえてやるかと、上条が怒りに震えた瞬間に、その音(声)は聞こえてきた。


『―――メッセージ、メッセージ。エラーNo.100231-YF。電波法に抵触する攻撃性電磁波を感知。システムの異常を確認。電子(サイバー)テロの可能性に備え、電子機器の使用を控えてくだ

さい』


上条当麻と確信犯は、恐る恐る振り返る。ぷすぷす、と。煙を吐いて歩道を転がるドラム缶が不幸の呪文を呟いた、直後。

甲高い警報が辺り一帯に鳴り響いた。




きりのいい数字で投下終了です。ん?演出…?

帰ってきますよ笑。ちょっと他スレの更新をしていました。
なので書き溜めは進んでいません。
ただ、次の投下は4月の最終日~5月1、2日辺りになりそうです。
明後日から一ヶ月間遠くへ出なければならないので。ごめんなさい。

外出先のホテルが個室だったので更新可能でした。




ロボットを振りきった後、追ってきたのはもっと厄介な女だった。学園都市に七人しかいない超能力者、超電磁砲の御坂美琴。

どうやら常盤台のお嬢様は、反省の二文字を知らないらしい。自身の性格が災いしたことを、美琴は気にも留めていなかったようだ。

例のごとく、『勝負よ!』との一声で始まった五分近くの(美琴による)一方的な攻防戦は、美琴があっさり勝負を投げたことで終わりを告げた。

去っていく彼女の後ろ姿を見送った上条は、踵を返し帰路を進む。早足で進む。

やがて、陽の落ちた学生寮に補習の道具が詰め込まれたカバンを抱えた上条がたどり着いた。見慣れた学生寮を見上げる彼の表情は、ひどく冷たかった。

明らかな異常事態は、実は少し前から始まっていた。美琴が急に背を向けた、あの時から――。

少年の知る限り、御坂美琴は往生際の悪い負けず嫌いな少女であったはずだ。

例えば、いつでもどこでも『勝負しろ』から会話を始めるくらい元気な少女で、何度負けても立ち向かってくるくらい頑固な少女だった。

たかだが五分程度で諦めて帰ってしまうような、そんな物分りの良い性格はしていない。


そんな彼女が、奇行とも呼べる撤退を選択した時点で、上条当麻は警戒レベルを一気にあげていた。

非日常という名の日常は、いつも唐突に、少しの異常から始まる。

そびえ立つ学生寮からは、不自然なことに、人の気配が全くしなかった。世界にただ一人残されたかのような、疎外感にも似た感覚が少年を襲う。

いくら夏休みで出払っている人間が多いとはいえ、こんなことはまず有り得ない。第一、ここに居なければおかしい二人の少女を、上条は知っている。

彼の悪い予感は、漂う血の匂いによって簡単に裏付けられてしまう。


上条「おいおい…冗談だろ」


少年の頬が笑みに歪む。それは決して楽しそうな笑いではなく、頬が引きつった乾いた笑いだった。

口元は笑っていても、目は決して笑っていない。むしろ、少年は珍しく本気で怒っていたのだ。なんに対してかは言うまでもなく。



学生寮から20m離れた位置に、見慣れない車が距離を一〇メートルほど開けて一台づつ停まっていた。

窓ガラスはところどころ砕け散り、片方はボンネットを大きく歪めていた。車の状態だけを見るなら、軽く交通事故を起こした後のように見えるだろうか。

異質なのは、それぞれの足元に転がる、焼け焦げた、かろうじて人体に見えなくもない死体だった。

一体どれほどの熱を浴びせればここまで…、

(発火能力の比じゃねぇな)

心境とは裏腹に、上条の頭は機械的に事態を眺めていた。


上条「……」


誰もが顔を覆ってしまう凄惨な光景を前に、鼻をつまみたくなるような臭いの中で、上条はソレを発見した。

場所は学生寮の入り口の辺り。

妙な存在感を放つ修道服を纏ったシスターが、その純白を真っ赤に染めて、血だまりの中に沈んでいた。

生きているか死んでいるかも、この距離からでは判別できない。むしろ上条には、あの出血量で生きながらえている可能性のほうがはるかに低いように思えた。

彼女の背中を走る横一文字の切り傷は、どう見ても転んでついた傷のようには見えない。



上条「くそがっ…フレンダのやつはどこにっ!」


カツン、カツンと響く足音は、荒々しく携帯を取り出した少年の遥か後ろから聞こえてきた。その足音に焦りは感じられない。

が、この非常事態では、ゆったりとした『正常な』歩みこそが真の異常だった。

足音の主は、急ぐ必要はないと、その先に広がるものは既に知っていると告げているようで…、

上条は爆発しそうな激情を必死に噛み殺し、冷静に、その正体をたった一言でわかりやすく確かめる。


上条「テメェが…魔術師か?」


足音は、その一言でピタリと動かなくなった。逆に少年の頭の中では、さまざまな憶測が飛び交う。

声は、一瞬の沈黙の後、


「そうだよ。もしかしなくてもソレから聞いたのかな?」


少年の視界の外で、魔術師は横たわるシスターを指さしながら告げた。


その一言で、上条の頭のなかは一気に真っ白になり、やがてひとつの答えを導き出した。

魔術師は存在した、という再三聞かされた答えを。

『魔術はあるもん』

『魔術結社に追われてきたの…』

何一つ嘘をついていなかった少女の言葉は、今になって刺に変わる。

落ち着いた頭に再び血が上ってきたところで、後ろの魔術師が続けた。


「ところで、こちらからもひとつ質問いいかな。――なぜ君はここにいる?」

魔術師は一度言葉を切り、

「いや。正確に言うならば、そうだね。なぜ君はここに入ってこられた?」




魔術師は、まるでバリケードを張っていたかのように言う。ここにいられるはずがないとでも言うように。

少年の頭は、こんな時でさえ冷静に、機械的に答えを導き出す。腸が煮えくり返りそうになっているこんな時でさえ。

背後の声はトリックを明かすように、


「ここはね、人払いのルーンによって誰も近づくことができないはz―――


上条「ごちゃごちゃうるせえぞ」


相手が魔術師だとわかれば、他の理屈なんてもうどうだってよかった。

聞きたかった答えは聞いた。それだけで、もう上条はためらわない。やることは決まった。彼の背中を押すのは、物言わぬ死体だけだ。


上条「……俺のせいだな」


灰になった彼らだって、死ぬ覚悟はできていたはずだ。

だけど、今回は仕事じゃなかった。死ぬ必要がどこにもなかった。ただそれだけの話。



上条「今回は俺の馬鹿な指示のせいで五人も死なせちまった」


上条は振り返り、


上条「コイツらは、テメェが殺ったんだな?」


敵意と殺意に彩られた少年の眼光に、目の前の男が肩をすくめる。

男はまだ幼なさの残る顔立ちをしていた。推定一〇代。肩までの髪は赤く染められ、目の下にバーコード模様の刺青がある。

耳には毒々しいピアス、指には鈍く輝く指輪の数々、全身は真っ黒な修道服に包まれていた。ただしこの男を神父と呼ぶにはかなり無理がある。

一触即発の状況でタバコを咥える余裕が、ひどく上条の癇に障った。


「このルーン魔術には少々前準備があってね」

不良神父は煙草の煙を吐いて、

「彼らは邪魔だから焼いておいた。その後出てきた金髪のお仲間は術式が完成したことで難を逃れたけど」



見逃してあげた、と。不良神父はどこまでも人を見下し嗤う。


上条「ならいいんだ。お前が殺したとわかればそれでいい」


今回は仕事じゃなかった、ただそれだけの話だ。

もっと真剣に考えていれば、早く真実に辿りつけたんじゃないか、と上条は考える。

追われてきたことも、魔術という突拍子もないものの存在も、何一つ彼女の言葉に嘘はなかった。

適当に考えて、ナメてかかることほど間抜けなことはない。上条の失態は大きかった。

結果、自分だけはのうのうと生き残り、周りは一目瞭然だ。部下は灰になって、少女は血みどろになっている。

だったらせめて、


上条「馬鹿な俺が死なせたんだ。せめて半分は敵をとってやんねぇとな」

上条「お前は殺すぞ」



上条の言葉に、魔術師は肩をすくめて答えた。子供を相手にする家のような仕草だ。自分の勝利を信じて疑わない姿勢。

もう、上条は安い挑発に乗ったりしない。目の前の男が、すぐ後には死体に変わることは決定事項だ。今更情もわかない。


拳銃は持ち合わせていない。そもそも上条は夏休みの補習の帰りなのだから、持っている方が不自然だ。

あるのは無駄に重い学生カバンだけ。補習に使う教科書や小萌作成のプリント、筆記用具類が詰まっている。

対して相手は、見た目こそなんの装備もないように見えるが、それは戦力共に未知数。

発火能力の比にならない能力を扱うことだけはわかっている。おそらくそれが彼らの使う魔術というものなのだろう。

不良神父の口ぶりからして、人を払いのけた能力と発火能力は彼が起こしたもののようだ。つまるところ、それが超能力との違いだ。

(一人で複数の能力を使う、か。厄介なのは厄介だが…)

上条は己の右手を見る。『幻想殺し』。それが異能の力であるなら、超能力だろうが神様の奇跡だろうが簡単に打ち消せる力。



『なぜ君はここに入ってこられた?』


不良神父の言葉から、既に魔術は機能しなかったことがわかる。


上条は固く拳を握る。神父は、『素手で戦う気かい?』とでも言いたげな表情で煙を吐いた。

(俺も馬鹿だが、テメェも大概だな)

上条は心のなかで毒づくと、大地を蹴り、たった二歩で一〇メートルの距離をゼロにした。時間にしてコンマ数秒のうちに、なんの構えも見せない神父の懐に潜り込む。

神父は焦ったように慌てて身を引こうとしたが、少年の拳はずっと早く神父の鳩尾に突き刺さった。

激痛に顔を歪ませた神父の口から、小さな呻き声が漏れる。吐瀉物がこぼれなかったことは、幸運と呼ぶべきだろうか。

ふとそんなことを思ってしまうほど、上条には心の余裕があった。

後方へ吹っ飛ばされそうになった神父の身体は、予め少年の左手でガッチリと押さえられていた。

一撃程度では逃さないという少年の意志表示。彼の腕は、2mをこす巨体を片手で難なく受け止めていた。

人払い魔術のおかげで音を気にする必要はないが、少年は癖で肺を狙う。右手を引き戻すと同時に放たれた遠慮のない頭突きが、神父の胸でドスンという鈍い音を立てた。

魔術師の口から溜め込んでいた空気がすべて吐き出される。悲鳴をあげさせずに殺すためのテクニックだ。

今度こそ手を離された神父の巨体がゴロゴロと転がっていき、五メートル先の地面で止まった。



上条「魔術ってもんは相当頼りになるみてーだな」

上条「非現実(オカルト)も科学も大差ねぇよ。能力を過信してるから弱っちいんだっつの」


安っぽい挑発だな、と上条は思ったが、神父は答える気力もないらしい。両手で胸を抑え、苦しそうにのたうち回っている。

上条は拳を握った右手の親指と人差指だけを伸ばすと、


上条「おい、いつまで寝てんだ三流魔術師。テメェは今一回死んだぞ」


拳銃がねぇと素手で殺さなきゃなぁ、と上条が高校生らしからぬ思考に没頭している間に、ステイルは詠唱を続けていた。

小声でのたうちまわりながら紡いでいく言葉に、上条は気づくのが遅れた。


「…我が身を喰らいて力と為せ」

上条「あぁ?何ブツブツ言ってやがる死にぞこないの芋虫が…」

「その名は『魔女狩りの王』…その意味は、」


黒の魔術師は、消え入りそうに苦しそうな声で、それでも力強く


「必ず殺す」



直後、轟!!という爆発的な音に続いて、神父と上条の間に巨大な炎が現れた。

炎は、あまりの高温で空気を揺らし、離れた上条の両目から水分を奪う。いかに丈夫な上条とはいえ、触れてしまえば一瞬で火葬されてしまうだろう。

揺れる視界の中捉えた神父の表情が、息を吹き返したように醜く笑っていた。


「どうやら、勝負あったみたいだね」


上条は、もはや何色の表情も浮かべていない。見方によっては、キョトンとしたように見えるかもしれない。

もはや、敵を敵とも思っていない表情だ。


上条「よぉ三下…テメェの頭は一体どういう思考回路してんのか甚だ疑問だぜ」

上条「一体どうやって生き延びれるとか考えちゃってんだよお馬鹿さんが」


上条は、両の目を閉じる。彼は、この戦闘とも呼べない戦闘で、目の乾きすら負うことを許さなかった。

さっさと終わらせて、あのシスターを病院に運ぶ。幸い、魔女狩りの王はその熱で、自分の居場所を常に上条に知らせていた。目を閉じていても関係ない。

上条は、低く身をかがめると、爆発的な加速で一直線に炎に向かって突っ込んでいった。

魔術師は、とうとう血迷ったか、なんて思っているに違いない。客観的に見れば、誰だってそう思うはずだ。

だが、上条の右手はあらゆる常識を根本から覆す。彼曰く、『神様だって殺せる』。

もはや、誰にと求められない。


投下終了です。今日はエラー頻発しますね。

では、ほんの少しですが投下しますね。




夏休み初日の学生寮は、なぜか焦熱地獄と化していた。不幸な少年、上条当麻の日常はこうでなくちゃいけない。

寮へ帰ってきた少年を迎えたのは、若くて綺麗な管理人のお姉さんではなく、炎の巨人だった。

轟々と燃え盛る巨人の身体は、近くはもちろん、遠くのものにまで引火させそうな勢いだ。

あたりの空気をその灼熱で歪め、陽の堕ちた学生寮に陽炎を起こす。無造作に放られた上条の学生鞄の金属部位が、熱した鉄板のように熱くなっていた。

炎の巨人を挟むような形で、若い男が向かい合っている。

魔術師は勝ち誇った笑みを浮かべたまま、もう動く必要はないと言うようにただ立っていた。

彼の前には、絶対の門番(イノケンティウス)が立っているのだから無理もない。いくら少年が戦慄しても、魔女狩りの王は越えられない。

上条は、なんの装備もなく、丸腰で炎に立ち向かう。まさに無鉄砲。

矢の如く飛んだ上条は、炎の巨人の懐に潜り込んでいた。遠くと近くとでは、温度の差がありすぎる。


よもや熱いとも形容しがたいその温度は、サーモグラフィを通せば白を超えた白銀になるんじゃないだろうか。上条は全身の汗が一瞬で干やがるのを感じた。

瞼に覆われた眼球が煮えたぎりそうになる。

上条は右手を大きく広げ、炎の巨人を平手打ちの要領で殴った。直後、ガラスの砕け散るような激しい効果音。炎が右手を避けるように四方八方へ散る。

音という音が交差する中で、上条は神父が息を呑むのを聞いた。信じて疑わなかった『必殺』を破られたのだから当然だろう。

だが、次の瞬間。

上条は、全身で嫌な予感を感じ取った。タンっと音の立つ勢いで跳ね、五メートルもの距離を取る。

サバンナに生息する野生動物並みの危機察知能力は、見事に少年を窮地から救った。彼の瞳孔が大きく開かれる。

炎の巨人は再生した。

触れただけで、一〇億ボルトの雷撃をかき消し、炎を無に変え、水を干やがらせ、爆発をも飲み込んだ右手に、

炎の巨人は耐えぬいた。

魔術師は、それでも驚きの色を隠せないでいた。よほど炎の魔術に自信があったのだろう。

そして、今度こそ上条の能力を見きったに違いない。



「驚いたね…。秘密は、…その右手、かな?」


炎の神父は、信じられないものを見たという顔で、まるで自分の言葉に自信がないかのように途切れ途切れ言葉を紡いだ。

確かに、上条も今までに能力を無効化する能力者に出会ったことはない。

それは、目の前の男も同じだったのだろう。彼のこめかみを伝っているのは冷や汗だ。


「科学の力、か…本当に恐ろしく思うよ」


どうも、魔術師は上条の力を科学の産物だと誤認したらしい。んなわけねーだろバーカと言ってやりたい上条だったが、わざわざ説明してやる必要もないかと思い直した。

(それにしても、いや参ったね。あの炎再生するんかよ…)

上条はあくまでも冷静だった。この程度のイレギュラーで揺らいでいては、自分があの三流魔術師と張り合っていることになる。

この戦闘で目の乾きすら負いたくない上条は、あくまで敵をなぶり殺しにしなければ気が済まなかった。


上条は、炎の巨人を見る。

(右手の力は確かに通用した。つまり、なんらかのタネがあるわけか)

そもそも、上条は右手の力を疑ったことがない。持ち主の死でさえ塗り替えるこの力が、狐火ごときで揺らぐはずがないからだ。

もしも右手が焼かれるようなことがあるなら、上条は喜んで魔術師になるだろう。が、炎の巨人はたしかに一度爆散した。それも上条の『幻想殺し』によって。

(消されても回復する、か。消されたそばから次々に炎を…)

(どこかにタネがある…)


上条「なぁ。テメェなに勝った気でいるんだよ」


魔術師は、まるで羽虫の存在に気づいたかのように、鬱陶しそうに上条を見る。

上条の方から見える魔術師の顔は、陽炎に歪められて随分と不細工だった。


上条「その巨人。テメェが管理下に置くロボットみてーなもんか」


上条のセリフに、魔術師が眉をひそめる。

図星を突かれたといよりは、科学的な例えが気に入らないように見える。



上条「この街の発火能力(パイロキネシスト)とは随分プロセスが違うみてぇだ」

上条「その巨人を消した時、俺にはテメェが何もしていなかったように見えたんだが」


上条は一度言葉を切り、笑みを浮かべて


上条「だとすると、そいつが自発的に回復したか、もしくは術者の他に核を持ってる奴がいんのか…」


例えばこの街の発火能力なら、上条が触れた途端に炎は消えてしまう。

だが、目の前の魔術は消えたそばから再生を繰り返した。『魔術師の不意を突くかたちで炎を消したにも関わらず』だ。

どこの世界に炎の塊を一瞬で消されると予測できる者がいるだろうか。ましてや、魔術師は上条を完全にナメきっていた。

そんなこと夢にも思うはずがない。

実際、炎は消えながらもすぐに復活を遂げた。


魔術師の管理の外でその回復がなされたと前提するならば、

・魔術自体に回復命令が組み込まれていた
・能力の根源となる核が別に用意されている

そのどちらかだ。そして、前者はあり得ない。もしも前者だとするなら、上条が触れた途端にその命令すら破綻してしまうはずだ。

故に、炎の巨人の回復を説明するなら、後者である可能性が非情に高い。

本来、能力に核があるとすれば能力者本人だ。その場合、能力者に上条が触れてしまえばそれで片がつく。今回も、上条が魔術師に触れればそれまでだろう。

炎の巨人がこれまでと違う点は、術者本人の他に核が存在するかもしれない、というところだ。

もしそうだとするなら、核を潰さない限り炎が再生するのにも頷ける。

例えるなら、心臓だけが別の場所に置かれている、というところだろうか。魔術師は、どこかに巨人の心臓を隠している。

しかし、ここまでだ。上条は魔術についてほとんど何も知らないため、その心臓がどこにあるかの検討もつかない。


日本語を話せても、英語が話せないのと同じだ。言葉(異能力)という概念が同じでも、畑が全く違う。

つまり、上条にわかるのは

(どこにあるかもわからない巨人の心臓の存在だけ、か)

はっきりいって、かなり分が悪い。もはや、上条に巨人を打倒できる手札はない。竜の力に頼ることは、選択肢になかった。

それくらいの意地はまだ保てる。こんな状況でも、上条は神父に負ける気がしなかった。

残された道は、

炎の巨人をやり過ごしながら神父を叩くか、

(拳銃を取りに戻るか)

それしかない。上条は、なんの恥じらいもなく敵前逃亡を選択した。



今日はここまでです

1乙 続きが気になる

>>806 うわ自分のスレに誤爆した。すみません、また次回です。

とうか~




炎の巨人は、寮の入り口から先へは追ってこなかった。

というより、不自然にも白いシスターに近づこうとしなかった。まるで、その高熱から彼女を守るように。

それが意図したことなのか、そうでないのか。それとも行動範囲に限りがあるのか。上条はとりあえず思考を断念し、ただひたすらに七階を目指した。


不用心にも、部屋の扉は開きっぱなしだった。これが魔術師が意図的に作り出した状況だと思い至るまでに時間はかからない。

フレンダが魔術によって払われた光景が目に浮かぶ。

テレビも電気もつけっぱなしだったが上条は構わず、拳銃を隠している金庫に土足で歩み寄る。

もたもた鍵を開けている暇さえ惜しい。上条は自慢の脚力で、真っ白い金庫をおもいっきり蹴破った。


ズドンという轟音の後、グニャリと歪んだ鉄板の隙間に、黒光りするそれらが姿を見せる。ザッとみて一〇丁以上。

上条はそそくさと二丁を選び、弾倉のストックをポケットにねじ込むと来た道を引き返し始めた。

尻尾を巻いて逃げ出した戦場へ。

本当は手榴弾の類が欲しいところだが、不幸体質の上条は自室にそれを置いておく気にならなかった。暴発事故など起きてはシャレにならない。

以前フレンダが室内で爆弾をいじくっていた時は、問答無用で部屋から放り出したほどだ。

駆け下りていく階段から、炎の巨人が揺らす空気が見える。まだ逃げられてはいないらしい。

上条は片方のセーフティレバー下ろし、左手で固く握った。マガジンには、学園都市製の衝槍弾頭(ショックランサー)が込められている。


「オムツでも交換していたのかな?」


不良神父は、炎の巨人を隣に置き相変わらずの余裕を保っていた。上条ならば、あまりの熱でのたうち回っているところだろう。

にも関わらず平気で立っているところを見ると、あの熱は魔術師本人には影響がないらしかった。


上条は取り合わず、左手で銃を構え臨戦態勢をとる。これ以上時間はかけられない。冥土返しと呼ばれるあの医者にも、死んだ人間を蘇らせることは出来ないのだから。

あのシスターが三途の川を渡る前に病院へ運ばなければならない。逆に言えば、それができれば必ず助かる。医者の腕は本物だ。

上条は魔術師の頭に照準を合わせると、迷いなく引き金を引いた。


「魔女狩りの王!!」


魔術師の声に合わせて、炎の巨人が彼の盾になる。

巨人の体内に突っ込んでいった衝槍弾頭は、炎中に大きな風穴を開けるも、神父には届かなかった。

(衝槍弾頭でも駄目か…)

学園都市が誇る衝槍弾頭は、特殊な衝撃波を纏った銃弾だ。威力は普通の銃弾を遥かに凌ぐ。

おまけに、銃弾との空気との摩擦で特殊な溝が消えてしまうため、敵にその技術が渡る危険もないというスグレモノだ。


(なら…)

上条は再び大地を蹴り、矢のような速度で巨人に肉薄すると、轟々と燃える爆炎に再び右手を突っ込んだ。ガラスの弾けるような音とともに、炎が上条の右手を避ける。

が、すぐに再生する。


「だから何度やっても――

上条「そうじゃねぇ」


神父の声を上条が上塗りする。上条は、その服と前髪を焦がしながら、単純な答えに辿り着いた。

上条は一度バックステップで巨人から距離を取ると、拳銃を左手から右手に持ち直した。

不良神父が何かに気づくよりも早く、獣のように巨人に飛びかかった上条が、まず一発目を発する。

乾いた銃声の後、衝槍弾頭は溶けて消えたが、遅れてきた衝撃波の槍が炎の中に風穴を開けた。ほぼ同時に、上条がその右手を突っ込み、長さの問題を解消する。

二発目は―――。

ガラスの弾けるような轟音のなか、とうとう巨人の身体を貫通した銃口が火を噴いた。


上条に衝槍弾頭の軌道を負う余裕はない。風穴を埋めるように襲ってきた爆炎が、上条の右腕を容赦なく襲う。

絶叫は二人分。

上条と魔術師は、ほぼ同じタイミングでアスファルトの上を転がった。

半袖のカッターシャツは右側を大きく焼失していた。露出した右腕がぷすぷすと小さな煙を立てる。

何とか立ち上がった上条の目論見通り、炎の巨人はもう随分と小さくなっていた。あれでは盾にすることもままならない。

銃口は神父の右胸に火を噴いた。利き腕によって放たれた一発は、間違いなく魔術師の肺に穴を開けたはずだ。

力を供給できなくなったのか、炎の巨人は今にも消えようとしている。おそらく、もう一度右手が触れれば今度は復活できない。

勝負はついた。

上条は己の惨状をまじまじと見つめ、なんだかんだ言いながら結局苦戦してしまったことに歯噛みする。

右腕の火傷は一般人なら失神するレベルに達していた。上条は手早く下腹部のシャツを破り取ると、火傷を覆い隠すように結びつける。

かなり大胆になったボロボロのシャツは、パッと見アブナイ人に見えなくもないが、上条は気にせずに拳銃を持ち替え、魔術師に歩み寄った。


魔術師は苦しそうに顔を歪め、血みどろの胸を片手で抑えながら、随分荒い呼吸にならない呼吸を繰り返している。

もはや銃は必要ない。ちょっと足であの手をずらせば、空気漏れした風船にように肺がしぼみ、彼の息の根は文字通り止まる。


上条「なんだよ寂しいな。もう軽口は叩けねぇのか?」


魔術師は吐血しながらも精一杯空気を吸う。怪訝そうに眉をひそめ、上条を睨み上げる。

どうやら、もう言葉も発せないらしい。

おそらくIDのない彼を受け入れてくれる病院もない。もっとも、この男を逃がす気もない。

(急がねぇと…)

勝利の余韻に浸っている暇もない。上条は最後に魔術師の眉間に銃口を向け―――、


カツン、カツン、と。


異常なほどに正常な足音は、淡々と、どこか怒りの色を匂わせながら迫ってきた。



「息はありますか?ステイル」


鬱陶しそうに目を細めた先に、長身の女。長い黒髪を後ろで束ねたポニーテール。

ざっくりと袖の切られたTシャツは腹の上で縛られており、同じく片方をざっくりと切断されたジーンズを履いている。

腰には二メートルはあるかという日本刀がぶら下がっていた。


(クソが。いねぇわけねぇとは思っちゃいたが今来るかクソッタレ!!)


女は、上条の握るモノを見つめ、


「それ以上は、私の魔法名にかけてさせません」



投下終わり




神裂火織は、目の前に映る光景がひたすらに信じられなかった。

調べでは、上条当麻は能力を持たない学生だったはずだ。この街の超能力開発で、実用レベルの能力を発現できなかった無能力者(レベル0)。

それが上条当麻だったはずだ。

だが、目の前に広がっていたのは、信じて疑いもしなかった天才・ステイル=マグヌスの敗北の光景だった。出血量もさることながら、呼吸がおぼつかない。

恐らく肺を損傷したのだろう。危ない状態であることは、誰の目にも明らかだった。

周囲の惨状を見れば、彼が切り札である『魔女狩りの王』を使ったことは容易に想像がつく。

あれを打開することなど、ましてやただの高校生に―――。

だが、目の前の惨状は間違いない。紛れも無い現実だ。

つまり、『情報に不備があった』、それしか考えられない。


なぜなら。


神裂「ただの高校生が所持しているものには見えませんが、その――」


高校生が持つもにしては不自然極まりない、黒光りする自動式拳銃。

握り方ひとつ見ても、とても素人が今しがた拾ったようには見えない。付け焼き刃で正確に肺を狙えるはずもない。


上条「ああ、落ちてたんだよ」


つまらないことを。神裂は吐き捨てるように言って、軽く七天七刀の柄に触れる。ずしりとした重みが伝わる。

胸騒ぎを感じ駆けつけたため、七閃の用意はない。七閃は神裂の得意戦法だが、前準備が必要な攻撃であるため今回は使えない。

(とにかく、今はステイルから標的を私に移さなければ)


神裂「ステイルからどきなさい。さもなくば――」



神裂火織は聖人の身体能力を持って、一瞬のうちに少年の懐へ入り込んだ。風の音さえ神裂より遅れてくる。

柄に手をかけた神裂に対し、少年は瞬時の判断で七天七刀の柄頭を片手で抑えていた。抜かせない。少年は言外にそう語っていた。

聖人の肉体を持ってすれば、たかだか抑えこまれた程度で剣を封じられることはない。

が、神裂はこの速度に対応した少年に驚きを隠せないでいた。上条当麻は役立たずの無能力者(レベル0)。情報の不備は、もう疑いようもない段階にきている。


両者は、まばたきの間に互いの実力を認めた。





上条当麻は、左手で馬鹿みたいに長い刀の柄頭を抑えていた。目で見てから動いていれば、今頃上条の肉体はスライスされていたに違いない。

だが、見る前に察知したからこそ、上条は肉片にならずに済んでいた。

しかし、全く安心できない。

敵は、おそらく今までに対峙した誰よりも強い。生体電気を操る御坂美琴よりも体感速度は速いように思える。


上条「テメェも…魔術師か」


危機一髪の状況で、ようやく絞り出した言葉は十人並みのものだった。もっとも、この質問に意味はない。

言葉にされるまでもなくわかっていた。すなわち、これは時間稼ぎ程度のものでしかない。

(とにかく距離を取らねーと…)


神裂「はい。神裂火織、と申します」


上条「へえ。でも名前なんてどうでもいいや」

上条「選べ」



神裂の鋭い目がさらに細められる。無数の針のような威圧感が上条を襲う。

だが、上条は全く臆しない。もう時間をかけられないことは、上条がよくわかっていた。


上条「今ここで、このデカブツと一緒にあの世へ行くのか――


仲間を貶されたことに怒りを示したのか、神裂の膝が銃弾のように上条の鳩尾へ飛んでくる。

上条は飛んでくる膝に左手を乗せると、その威力を利用して後ろへ大きく飛んだ。距離が三メートルほど開く。


上条「大人しく逃げ帰って、恐怖に怯えながら暮らすのか。選ばせてやる」


上条は左手に銃を構えると、神裂の眉間に照準を合わせた。

弾倉に詰められた弾は、残り一二発。ポケットに替えのマガジンがいくつかあるが、はたしてこの相手を前に交換のチャンスがあるかどうか。


上条は、今になって衝槍弾頭(ショックランサー)を選んだことを後悔していた。

衝撃波の槍によって威力こそ眼を見張るものがあるが、この弾は通常のものに比べやや速度が落ちる。例えるなら、後ろにパラシュートを付けたようなものだ。

普通気にするような誤差ではないが、相手が神裂のような達人ならば、わずかな速度の差でさえ命取りになる。


だが―――。不思議と、負ける気はしない。

上条は自分の強さを正しく理解している。まだまだ竜(ソコ)を見せなくても、この程度の敵にはやられない。

それに―――――。


神裂「話になりませんね。いいでしょう。あなたを倒し、禁書目録とステイルを回収させてもらいます」

神裂「こちらとしても、早めに決着を付ける必要がありますので」

神裂「あなたがステイルを倒したことで、人払いの刻印は効果を失っています。時期に人がやってくるでしょう」



上条は、人一倍視野が広いばかりか、目を瞑っても気配や呼吸、音で正確に敵を追うことができる。

だから、もう気づいていた。

この戦いは、既に急ぐ必要がなくなっていることに。


上条「そうだな。なら、仲間と一緒に死ぬんだな?」


神裂が腰を落とすのも構わず、上条は大きく息を吸い込み、


上条「刀だ!!」


叫んだ。


神裂「なにを――ッ!?」


神裂の声など、もう上条は聞いていない。

次の瞬間、神裂火織の腰から七天七刀が消失した。



投下終了なり。

投下なり




上条が笑う。

突然の出来事に、神裂火織はただ目を丸くしていた。超能力と関わりのない彼女なら当然の反応といえる。

肩で息をするステイルの苦しそうな吐息が学生寮にこだましていた。

次の足音は、ゆったりとしていない。足音を聞いただけで、急いで駆けてくるのがわかる。


上条「遅えーぞ。雑用」


神裂「なにを…」


事態について来れていない神裂を無視した声が、彼女の背後から、上条の視線の先から聞こえてくる。


「やった!!今私すごく役に立った!?」


声は、場にそぐわないほど明るく、そわそわと落ち着かない。


上条「いや、〇点だな。つか、来るの遅い」



神裂が慌てて振り返る。彼女の背中が、ギョッとしたように大きく揺れた。

やってきた金髪碧眼の少女、フレンダ=セイヴェルンの手には、先ほどまで神裂が腰に下げていた七天七刀があった。

おそらく神裂は突然の不可思議現象を考察しているのだろう。

上条のセリフに、危うくフレンダは刀を落としそうになった。かなり重たそうにしている。


神裂「何者です」

フレンダ「リーダーの右腕っ!フレンd――

上条「嘘つけ」

フレンダ「~~ッ!」


声にならない声を上げたフレンダの動きが、その動きが一瞬でピタッと止まる。彼女の表情が、一瞬で険しくなる。


フレンダ「リーダーその腕…ッ!」


ガッシャーンと。フレンダの手を離れた七天七刀がアスファルトを転がるが、少女は気にも留めない。

フレンダは虚空から拳銃を取り出すと、右手で握り、息絶え絶えのステイル=マグヌスをキッと睨みつけた。

彼女の小さな手に収まるレディースガンが、その小さな銃口で同じようにステイルを睨む。

ハッとしたように、神裂がフレンダの前に立ちふさがった。その身一つでステイルを庇うように。両者の距離約一〇メートル。


やめろ、と。上条が短く声を上げる。

上条「こっちはいい。お前はあのシスターを病院に運べ」

フレンダ「でもっ――」

上条「やれ」


上条はフレンダから視線を外し、銃口を神裂に向け直す。

少々きつい物言いになっても、神裂とフレンダを交戦させるわけには行かなかった。

フレンダの実力は上条も認めるところだが、絶対に神裂には敵わない。とにかくここを離れさせるのが懸命だ。



フレンダが小さく頷くと同時に、学生寮の入り口から銀髪シスターが消える。血の池に僅かな波紋が広がる。修道服のフードらしきものが血だまりの中に取り残されていた。

突如、フレンダの短い悲鳴が響いた。シスターの背中のぱっくりと開いた傷を見たのだろう。言葉にしなくても、事態の緊急性を正しく理解したはずだ。


神裂「させると思いますか?」


神裂の冷たい声に、フレンダがビクッと背筋を揺らす。フレンダは膝と左手を使ってシスターを持ち直し、右手を空にしていた。

拳銃は彼女の右ポケットに収まっている。


神裂「禁書目録をこちらへ引き渡してください」


言い終えぬうちに、神裂が腰を低く落とす。フレンダがサッと身構えるが、両者の距離が縮まることはない。

パン!と乾いた銃声が、両者の間に割って入った。フレンダに気を取られていた神裂は一瞬反応が遅れるも、聖人の身体能力は、常人の不可能をあっさり覆した。

弾痕は、振り返った神裂の二センチ左の地面で煙を上げている。彼女は、音がしてからのコンマ数秒のうちに銃弾を避けきったのだ。

前兆の感知を持って攻撃を回避することに長けた上条では、おそらく今の動きは真似できない。



上条「ひゅ~、さっすが」


しかし、避けられることは上条の計算の内。二発目を予期させ、神裂の視線を一度こちらに戻せばそれでよかった。

今度は、カランという金属製の缶が地面に落ちる音が、神裂の背後で響く。

科学に不慣れな神裂は、音だけでそれの正体を認識することが出来なかった。

神裂は一瞬の判断でフレンダに振り返る。フレンダは、既にネイビーのベレー帽を顔に下げていた。

いかに俊敏な神裂でも、時間の流れに逆らうことは出来ない。

学生寮周辺が、転がった缶から溢れる真っ白な光に覆われた。明るすぎる光によって、影という影が全て取り払われる。神裂の両目が強力な閃光によって焼かれた。

わかっていた上条はしっかり目を覆っていたため無事だった。挟み撃ちにされた聖人だけが視覚を根こそぎ奪われる。

冷静になっていれば、神裂火織にはまだ挽回のチャンスがあったに違いない。それがわかっていたからこそ、上条は僅かな時間も与えない。

光が止むと同時に、上条の握る自動式拳銃がなんの躊躇いもなく火を噴いた。


神裂は、銃の軌道を目で追えないばかりか、丸腰であるため刀で弾道をそらすことも出来ない。彼女の愛用する七天七刀は、頼りなく地面を転がっている。

衝槍弾頭が、神裂の右腿に真後ろから食い込んだ。一瞬遅れた衝撃波の槍が、ジーンズを食い破って赤い血をまき散らす。

(なんつー足してやがんだ!鋼鉄かっつーのッ!)

思いの外、神裂の足は軽症だった。多少動きは鈍らせられるだろうが、決定打にはならない。

上条の拳銃が、続けて二回の射撃を行う。神裂は何も見えないまま素早く跳び上がった。

肩を狙った弾が空を切るも、首を狙った一発が彼女の右足の踵に食い込んだ。

着地に失敗した神裂が小さな呻き声を上げ、アスファルトの上を無様に転がる。だが、これも決定打にはならない。

今度は、フレンダの方から二つの卵型の物体が放られた。神裂は地面を転がるようにして避けるが、隙を突かれたために爆撃範囲から逃れることは叶わなかった。

轟!!という爆音の後に、地面がえぐれ、神裂の身体が竹とんぼのように回転しながら空を舞う。

はだけたアスファルトの断片が周囲を飛び、学生寮の窓ガラスが砕け散る。真っ逆さまに地面を堕ちた神裂の身体にも、いくつもの欠片が降り注いだ。


上条は、それでものそのそと立ち上がろうとする聖人に背後から発砲する。

動きが鈍った聖人の臀部が血を吹いた。短い悲鳴の後、神裂の身体が再び地面に放られる。情けの欠片もない追撃はまだ終わらない。


上条「フレンダ!とにかく病院へ運んでこい!助かったぜ」


頷いたフレンダが、今度こそ駆け出していく。上条は一瞬だけで目で見送ると、再び神裂火織に目を移した。

(手榴弾二発も食らって四肢が飛んでないってあり得ねぇだろ…)

彼女の身体に蓄積したダメージは、常人を何回殺せるだろうか。神裂火織は、血の塊を吐きながら立ち上がる。

(銃弾三発に手榴弾二発…まだだめか)

上条はサッと拳銃をポケットにねじ込むと、格闘術の構えを見せた。

タフな神裂を相手にするには、直接ダメージを叩き込んでいったほうが効率がいい。上条はそう判断した。

拳銃を逐一避けられていては話にならない。ましてや、一対一なら彼女は撃たせる隙を与えないだろう。



神裂「禁書目録は…逃して…しまいましたか…」


苦しそうに呟くと、神裂は上条に視線を戻し、「仕方ありません」と肉弾戦の構えを見せる。

右手と右足。互いに損傷している場所は違えど、神裂に対し、上条の方は少しばかり深傷だった。

撒いていたシャツに血が滲み始めている。


神裂「あなたは…なぜそこまでして戦うのですか?」


神裂「禁書目録にも、今日会ったばかりなのでしょう?」


油断させる、とは違うようだ。神裂火織は低い構えを見せたまま、本当にわからないというように告げた。


上条「気にしなくていい。テメェらはまとめてあの世に行くんだからな」


上条は、上辺だけで適当に答えると、大地を蹴って飛び出した。

神裂も、一拍遅れて上条へ距離を縮める。遅れたはずの神裂が半歩速い。


神裂から放たれたただの拳が、空気の層を纏いながら、ブォォォンと音を立て上条の頬をめがけて飛ぶ。

が、目を閉じた上条は、首を逸らしてその一撃をやり過ごした。上条の耳に轟音が轟く。

今度は、前のめりになった神裂の腹に、目にも留まらぬ速さで繰り出された上条の膝が突き刺さった。

ドン、という鈍い音がした後、声を上げたのは神裂ではなく、膝蹴りを出した上条の方だった。神裂の方は一瞬眉をひそめるも、その一撃に耐えぬいている。


上条「痛~ッ!?なんつー腹してやがる」


追撃を避けるために、上条が地面を横に転がる。そのまま立ち上がった上条に対し、神裂の方は構えを保ったまま向き直っていた。

距離は三メートルほど。まばたきの間に互いが次の攻撃を繰り出せる距離だ。


先に動いたのは神裂だった。至近距離で向かい合った瞬間、上条の視界から神裂の姿が消える。

その後、上条の真下から突き上げるようなアッパーカット。喰らえば脳が揺れるでは済まされないような一撃。

上条は咄嗟に仰け反ると、ブリッジを描くように後方に身体を投げ出した。どれだけ速くても、磨きぬかれた前兆の感知の壁は高い。


真下から突き抜けるように跳び上がってきた神裂の拳は、あっさりと空を切った。直後、逆に神裂の顎がメキメキと嫌な音をたてた。

ブリッジの要領で両手を地につけた上条の右足が、ものすごい速さで振り上げられたのだ。

カポエイラのような予測不可能な動きに、神裂は対応できなかった。上条の踵に蹴り上げられた神裂の頭が激しく揺れる。どれだけ屈強な肉体でも、脳を揺らされればたまらない。

上条はそのまま足を一回転させ飛び上がると、未だ宙を舞う神裂の落下地点を予測し、容赦なく引き金を引いた。

乾いた銃声の後、衝槍弾頭が生み出す衝撃波の槍が、転落中の神裂の鎖骨を砕く。

鎖骨の損傷で思うように腕を動かせない神裂は、頭から派手に地面に突っ込んだ。人体が地面にたたきつけられる音は、それだけで耳を覆いたくなる。


上条「もう立つんじゃねーぞ。さすがに俺も限界だぜ」


神裂はぐったりとしたまま、のたうち回ることもしなければ、立ち上がろうともしない。

彼女の身体は、奇しくも瀕死の同僚の隣に転がっていた。思い出したように、上条はステイル=マグヌスに視線を寄越す。

こっちもこっちで、未だ胸を抑えたまま苦しそうに弱々しい呼吸を続けていた。目は閉じられたままだ。



上条「ッチ。まだ息があんのかよ。しぶてー野郎だ」


上条は腰を落とし、銃を構える。動けない人間二人は、もう避けることができない。情けもなければ、躊躇いもしない。

上条の引き金は恐ろしく軽い――――

はずなのに、上条の銃口はいつまでたっても火を噴かなかった。別に弾切れだったわけでもないし、今更躊躇したわけでもない。

拳銃が、なんの前触れもなく虚空に消えてしまったのだ。


上条「あー。そういうこと…」


つまらなそうな声を上げ、上条はようやく感じていた違和感の原因に気がついた。拍子抜けしたように髪を掻く。

人払いの刻印の効力がなくなった後、派手な閃光や爆撃、轟音が続いたにもかかわらず、人が寄って来なかった違和感の原因を。

そもそも、魔術師なんてイレギュラーな人間が街に侵入していた時点で、アレイスターが糸を引いていることを疑うべきだったのだ。

そして、それはやってきた一人の少女によって確信に変わる。


上条「案内人…結標淡希か」



鬱陶しそうに仰ぎ見た先に、彼を見下ろす一人の少女。後ろで二つに縛った赤い髪を、緩やかな風になびかせている。

シンプルなデザインのブレザーは、袖を通さずただ肩にかけられている状態で、ブラウスはない。

上半身は裸で、胸にインナーのようなピンクの布が、包帯のように適当に巻かれているだけだ。

短めのスカートから組んだ足を色っぽく覗かせ、恐らく能力によって取り寄せた室内用の豪奢な椅子に腰掛けていた。


結標「多分お察しの通りよ。いきなり『あの人』に呼び出されたのよ。急を要する仕事ってね」


結標はつまらなそうに告げ、ふーんと不敵に微笑むと、


結標「あなたが噂の幻想殺しね?お目にかかれて光栄だわ。といっても、あなたの方はわたしのことを知っていたようだけど」


今度は興味深そうに言った。



案内人、結標淡希は名門霧ヶ丘に籍を置く、上条よりも年上の女子高生だ。

有する『座標移動』の能力を持って、統括理事長の居る窓のないビルの案内人をしている。

もっとも上条は右手の力のせいでビルに入ることは出来ないので、結標との面識はない。

彼女のことは情報として知っていただけだ。

その結標が出てきたということは―――。


上条は事情を察し、先手を打って彼女の行動を遮るように言う。


上条「邪魔するなよ。コイツらが死ぬことは決定事項だ」


上条は態度を変え、結標を睨み上げる

肌で危険を感じ取ったのか、結標は警棒にもなる軍用の懐中電灯を飾りのベルトから抜き取った。

直後、ガーーッというタイヤがアスファルトの上を転がる音が幾重にも響く。

音の先を目で追うと、アンチスキルが使うような真っ黒のバンが二台ほど走って来た。

誰が降りてくるまでもなく、上条にはわかる。




上条「テメェまで寄越してきやがったか。木原ッッ!!」



黒いバンは学生寮の手前、上条立ちから約二〇メートル離れた地点に並んで停車した。

ガラガラとスライド式のドアが開かれる。


「いやー…さー」


手前の車両の後部座席のドアから、ボサッとした金髪の頭が覗く。

ゆっくりと足を出し、出てきた長身の男は膝下までの白衣を羽織っていた。

彼の名は木原数多。つまり、黒いバンに乗り込んでいたのは、警備員とは似ても似つかない、木原率いる『猟犬部隊』の人間たち。

この学生寮に人が流れてこないのは、おそらく彼の部隊が手を回していたからだろう。


木原「テメェと交渉すんなら、なんとなく暗黙の了解で俺が出るハメになっちまったんだよ」



今日はここまでです。

乙でした。
正直、ねーちん倒せるとは思わなかった(驚愕)
せいぜい痛み分けで撤退に追い込むのが限度かと思ってたからたまげたなあ。

>>867
まぁほとんど二体一だったので。神裂さんは人を[ピーーー]気ないですしね。
ではまた次回です。

>>871
あっ、不満みたいに見えてたらごめんなさい。
強くてカッコイイ上条さんは大好物なのですが、大抵のSSだとステ強化された上条さんでも、
ねーちん相手に勝利することは稀だったから、この作品がいい意味で裏切ってくれてよかったと思います。
説得力のある濃密な戦闘描写で、しかもねーちんに完勝したとなると、それだけでもこのSSの存在意義があると思う。

こ、こまけぇこたぁ…。

今日も夜更新します。

>>873 いえいえそんな 滅相もございません

あんまりできてないですけど投下をしたいと思います




木原「んだよその目は。こっちだって好き好んでテメェの関わってるヤマに首突っ込むけねーだろ」


研究者は、白衣の襟を正しながら告げる。

その手には、マイクロマニピュレータと呼ばれる、鈍く煌めく金属製のグローブがはめられていた。


木原「押し付けられちまったんだよ。疫病神の面倒はごめんだってなぁ!」


木原はバカにするようにケタケタと笑い、態度を翻し片手を上げた。


木原「やれ」


鬱陶しそうに目を細めた木原の指示で、真っ黒なバンから躍り出た約一〇人の隊員がぞろぞろと上条を取り囲む。

彼らは全員黒ずくめの装束を身にまとい、顔には分厚いマスクをしているため区別がつきにくい。が、木原に言わせれば全員が全員クズの集まりだ。

コードネームらしきものがあるらしいが、そこに特別な意味は無いのだろう。


彼らの手に持つ巨大なショットガンの銃口が、一斉に上条を狙う。

訓練された兵隊のような動きを目にした上条が茶化すように口笛を吹く。


上条「お宅は部下の面倒見がいいらしいな」


木原「つかよー、黙って手を引いてくんねーか。そこに寝てる二人、アレイスターの野郎が死なすなってうるせーんだよ」


上条「ははーん。そーかいそーかい。そこの芋虫二匹はどこぞのVIPですか?でも関係ねぇな。俺が殺すと決めたんだ」

上条「大体殺されたくねーんなら最初から俺の方に寄越すんじゃねえよ。聞いてるんだろアレイスター!」


吐き捨てるように言って、空を仰ぎ見る。なんとなく、アレイスターなら空の上にいても不思議ではない感じがしていた。

猟犬部隊の人間たちがたじろぐのがみえるが、上条は構わない。

彼は知っている。この街は常に一人の『人間』によって監視され続けていることを。

空の彼方に浮かぶ人工衛星、街中に設置された監視カメラ…、ほとんどの人間が知っているのはここまでだろう。

だが実際には、滞空回線と呼ばれるナノデバイスが飛んでいて、常に街中を監視しているのだ。



木原「物分りの悪りぃガキだねぇ…」


上条は自身を取り囲む猟犬部隊の人間たちに向き直り、


上条「つか、テメェらも根性あるなぁ。今まで仲間たちが俺にナニされたか、知らねぇわけじゃねーだろ?」


不意に目があった男の手が震え、銃口が小刻みに上下する。どうやら相当なトラウマを抱えているらしい。

頭のなかで上条と木原、どっちが脅威なのか吟味しているのだろうか。


ピン、と。沈黙を破る小さな金属音が上条の真後ろから響く。猟犬部隊の一人が深い緑色の物体を放ってきたのだ。

マニュアルに従っているのか、彼らのは皆同様の構えを見せる。手榴弾の爆撃に備えているのだろう。

しかし、もしそんな見え透いた攻撃を食らうような間抜けなら、上条はとっくに死んでいる。

彼は一度も後ろを振り返らないまま後ろ手に手榴弾をつかみとると、爆発の瞬間に向かい合った男にソレを投げつけた。

ポトッと拍子抜けするような小さい音がして、大仰なショットガンを構えた男の足元に手榴弾が転がる。

意表を突かれた猟犬部隊の一人が、間抜けな声を上げた。辺りが一瞬でシンと静まり返る。



上条「いひっ☆」


ドカーン、と耳を覆いたくなるような轟音が続けざまに響く。手榴弾の爆発が猟犬部隊の装備していた火薬に引火したのだ。

アスファルトが粉々に砕け散り、赤黒いキノコ雲がモクモクと上がる。短い絶叫が轟き、手前にいた数人がバラバラにはじけ飛んだ。

何に引火したのか炎が上がり、人間の焼かれる臭いが煙に乗って漂ってくる。

爆竹が弾けるような音は、その後何回も続いた。骨が焼かれる音だ。ここまで、たったの二〇秒にも満たない。


上条「華やかに散ったねぇー。羨ましい」


上条は仕込んでおいたもう一方の拳銃を抜き取ると、崩れた包囲網から一瞬で外に飛び出した。怯える銃口が立て続けに火を噴き、上条を追う。

上条は地面を転がると、ヘッドスライディングで弾を頭上でやり過ごす。そのまま飛び上がり、猟犬部隊の一人を一発で射殺した。

残る装甲服は五人。一〇人余りいた猟犬部隊は、たった一人の無能力者を相手に一分以内で半数にまで減らされていた。



木原「…冗談じゃねぇぞ。おい、結標!!」


木原自身も拳銃を引きぬき、野次馬根性を発揮している結標に銃口を突きつけ指示を飛ばす。

結標は豪奢な肘掛け椅子を後ろに蹴り落とすと、軍用の細長い懐中電灯を引きぬき、


結標「わかってるわよ。私に指図しないで」

結標「それより。ちゃんと回収ポイントに護送車は用意してあるんでしょうね」


木原「地点B-2に手筈通り三台用意してある」


結標は頷きもせず踵を返すと、懐中電灯をサッと一振りした。


木原「生意気だねぇ…」


結標の細い指がスイングするのに合わせて、魔術師の身体が姿を消す。座標移動は空間移動と違って、手で触れる必要がない。



上条「調子に乗るなよ小娘がッ!」


上条はもう見境なく案内人に発砲する。仮にも年上に対しての発言とは思えないが、上条は気にしない。

対する結標は余裕の表情でサッと懐中電灯を一振りし、爆発に呑まれて吹き飛んでいた車のボンネットを自身の前に転移した。

ボンネットはビリビリと振動し、なんとか銃弾を防ぎきるが、その一発であっさりと砕け散る。


結標「ふーん。どうやら普通の鉛弾じゃないみたいね」


結標は忌々しそうに呟くと、今度は懐から取り出した金属製のコルク抜きを虚空へ消す。彼女の顔に歪な笑みが張り付いた。


上条「…ッ」


上条は前兆の感知を持って、右足で大地を蹴り高く飛び上がる。何もない空間に突如現れたコルク抜きが、カラカラと音を立て地面に転がった。


結標「っ!?」


上条「甘い甘い」



上条は停車していた黒いバンの天井に片足をつくと、ダンと音を立てて再び飛び上がる。

ミシミシと音をたてた黒い鉄製の屋根がグニャリと歪み、歪んだ窓枠からガラスが外れ、アスファルトにぶち撒けられる。

飛び上がった上条は拳銃を腰のポケットにしまうと、空中で身を捻って回転蹴りの構えを見せた。


木原「ギャハハハハ!テメェの命も今日までってなぁぁぁッ!!」


不意に、下から狂気の叫びが割り込んでくる。

木原の手には、いつの間にか携行型対戦車ミサイルが握られていた。

肩にかけられた全長一メートル、太さ三〇センチを誇る銃身が、ガシャリと音を立てながら空を飛ぶ上条を睨みつけている。

丸腰の人間相手に使うようなシロモノとは思えないが、上条の脅威をよく知る木原なら当然のチョイスだった。


上条「クソッタレ!!白衣の人間の持ちモンかよッ!!」



このまま放てば上条はおろか、味方であるはずの結標まで粉々のミンチになるだろう。対戦車ミサイルの威力は絶大だ。

楽しそうにスコープを覗く木原の表情には、一切の躊躇いも情けもない。


木原「死にたくなけりゃ能力使えよッッ!!」


恐らく結標に向けて放たれた一言は、彼女を見ないままに告げられた。心配する気持ちの欠片もない。木原の両目は宙を舞う上条に釘付けだった。

空間移動系の能力者は学園都市に五八人しかいないレアな存在であるが、結標の他に宛があるのだろうか。

どのみち、今の木原は結標が死のうが生きようがどっちでもいいという感じだ。


結標「――くっ」


今にも噴火しそうな大穴が、正確な位置を捉えたのかピタリと止まった。


木原「あばよクソ野郎!!さよーなら生意気な子猫ちゃん!!」


結標(――とにかく転移をッ)


木原「ヤッハーーーッ!!」



ドゴーーーンと。それだけで衝撃波のような、空気を揺らす轟音が鳴り響いた。木原が満足気な表情で上体を揺らし、発射の反動を上手く後ろに受け流している。

缶ジュースがスッポリはまりそうな銃口から発された小さなロケットは、大気を跳ね除けながらターゲットへ向かって一直線に飛んで行く。

上条はあれこれ思案するが、身動きの取れない空中では避ける方法がない。引きつった笑みが浮かぶ。

思考とは裏腹に、本来の目的であった結標まで後三〇センチほどのところにまで来ていた。手を伸ばせば余裕で届く。


上条「神様アリガトウ!!」


上条は蹴りだすはずだった足を前に振り戻し、火傷を追った右腕で、彼を払いのけるように振り出された結標の左手首をつかみとる。

パシッという音とともに、結標の両目がギョッとしたように見開かれた。


結標(転移が―――出来ッ!?!?)


上条「ざまぁッ」


おそらく、彼女は知らされていなかったのだろう。統括理事長の切り札、『幻想殺し』のその意味を。

その能力が、異能の力をすべて無効化するというJOKERのような存在だということを。



ミサイルは二人の繋がった手に向かって、ロケット花火のように甲高い音を立てながら飛んでくる。

上条は空中で結標の身体を自分に引き寄せると、彼女の身体を足場にして上手く体勢を立て直した。左足で、彼女の居た足場を蹴る。

脇腹に右足を叩き込まれた結標が勢い良く血を吹き、両目を剥く。

上条は彼女の身体を蹴っ飛ばすことで進行方向を逆転すると、用済みになった結標の身体を空中に放った。

あばらの骨は何本か逝っただろうが、恐らく爆撃範囲からは逃れられたはずだ。

上条は自分がひしゃげたバンに舞い戻ると、歪んだ天井に飛びつく。

と、次の瞬間。

辺りが光りに包まれ、一拍遅れた爆音がドドーーンと木霊する。発射時の轟音も相当のものだったが、爆発した瞬間の音とは比べ物にならない。

先ほどまで二人がいたコンクリートの地面が粉々に吹っ飛び、火の粉が上がる。木原の周囲に控えたいた猟犬部隊の人間が風に煽られ次々に吹っ飛ばされた。

空気中の地震とも呼べる揺らぎに、そびえ立つ学生寮がビリビリと振動する。

まさに戦車に対応した巨大な爆発の範囲は、上条の飛び移ったバンでさえ例外ではない。突風によって車が吹っ飛ばされそうになる。

上条は体重を上手く利用してバンを横に倒すと、おんぶするような形になり、吹き荒れる風を利用してバンを投げ飛ばした。

彼の背筋の筋肉がブチブチと嫌な音をたてるが、構わない。



上条「お土産だッ!!」


大破しながら転がっていく黒いバンは、部品を飛ばしながら木原率いる猟犬部隊へ向かって行く。

直後、エンジンに引火し、二次災害が巻き起こった。転がっていくバンが大爆発を引き起こしたのだ。

一〇メートルも先で起きた爆発は、上条の元まで爆風を飛ばし、外れたドアや割れた窓ガラスをも飛ばす。

絶叫さえ呑み込む大爆発は猟犬部隊の身体をバラバラに散らし、その肉を焼く。

木原と二名の装甲服がギリギリのところで難を逃れるも、身体中に真っ黒なススをまとっていた。隊員のマスクが飛ばされ、火傷を負った顔が露わになる。

木原が何やら指示を飛ばしているが、もう上条にはどうでも良かった。


上条「クソが!本命を逃しちまった…ッ」


まだ息の根を止めていない人間が二人、どこかに。上条はまだ諦めない。木原に構う暇もない。

魔術師が窓のないビルに逃げ込んだら詰みだ。今度こそ手段がなくなってしまう。



駈け出した上条の足が不意に止まる。

轟々と燃える火の手の中、誰の指示か、更に五台の黒いバンが現れたのだ。

中から出てきたのは猟犬部隊の人間だろうか。全員が黒い服をまとい、それぞれ死体の回収を始めているところを見ると、真っ当な人間であるとは思えない。

中には消火活動にあたり始めるものまでいた。


振り返った先に、既に木原数多の姿はない。結標淡希も同様に姿を消していた。


おそらく上条が追撃を始める前に、待機させていた護送車へ向かったのだろう。

追いかけるか一瞬思案した上条の耳に、他と異なる動きをする足音が聞こえてきた。ゆったりとした足取りは、間違いなく上条に近づいてきている。


上条(よっぽど奴らを逃したいみてぇだな…)


「カミやん」


炎の奥から歩いてくるシルエットが、戦場に似つかない人懐っこそうな声で上条を呼び止めた。

聞き覚えのあるその声に、上条の眼光が鋭く光る。



上条「…その顔で親しげに呼んでんじゃねぇぞ」


上条は後ろに押し込めていた拳銃を抜き取り、目にも留まらぬ速さで敵の顔面を撃つ。

顔面をブチ抜くはずだった銃弾は、どういうわけかカラカラと音をたて、敵の足元に転がっている。


「じゃあ改めようか」


銃口に一瞬も臆しない敵は、ひょうひょうとした笑みを崩さない。

敵は学生服のズボンのポケットから手を引き抜くと、仰々しく片手を自分の胸に当てた。

この男が出てきたということは、後ろで後処理をしている男達は猟犬部隊とは別働隊の人間ということになる。


「はじめまして『幻想殺し』」


答えない上条に、目の前の男は笑みを絶やさぬままに言葉を続ける。


「ボクかて本意やないんよ?君ならわかってくれるやろうけど。でも君を止められる人間なんてごっつ限られてくるやんか」


だから自分が駆り出された、と。敵は淡々と告げる。



「アレイスターも想定外の事態や言うとったで…」


「なぁ。どうしてもこの件から手を引いてくれへんのか?」

「ボクがこうして出てきた時点で向こうも本気や言うことがわかってんねやろ」


上条は銃を下げずに、敵を睨みつけたまま、


上条「テメェが俺を止められるだと?」


「できないとでも?」


敵は態度を一変し、恐ろしく冷たい声で告げた。その一言で彼の本気がジリジリと伝わってくる。

まさかここまでの事態に発展することなど、今朝の時点で誰に予想できただろうか。

あの魔術師二人をアレイスターが手引したことは考えるまでもないが、いったいその裏にどんな意図が隠されているのか、上条にはわからない。

そしてあの二人を意地でも逃がそうとするのは―――。



上条は銃をおろし、雑に仕舞った。どのみち、もう逃げられてしまっているのだろう。

この相手と戦おうにも、今の傷ではやや分が悪い。それに、やることもできた。


「わかってくれて嬉しいわ」


上条「一度忠告しておく」


敵は一度上条の目をじっと見据え、その後軽く頷いた。


上条「二度とその顔で俺の前に現れるな」


上条「次は…殺すかもしんねーぞ」


敵は、上条の冷たい声色の中に優しさを見出し、踵を返し去っていった。

能力を使ったのか、三歩ほど歩いた後彼の姿が虚空に消える。

上条は隠蔽工作にあたっている黒服の一人から問答無用で携帯を奪い取ると、夜の闇に消えた。








第七学区にそびえ立つ窓のないビルの、その中央に位置する場所に巨大な円筒器が鎮座していた。

中を赤い液体で満たされているその空間に、逆さまに浮いているのは、『人間』アレイスター=クロウリー。

学園都市の統括理事会一二人の上に立つ、二三〇万人を統べる者にして伝説の魔術師。またの名をエドワード=アレキサンダーという。

巨大なビーカーからは複数のコードが伸びており、周囲を囲む巨大なコンピュータに接続されていた。


『さて、わたしに何か用かな?幻想殺し』


どういう原理か、アレイスターは口を開くことなく言葉を発する。

逆さに浮いたその表情からは、一切の感情が読み取れない。


上条『すっとぼけてんじゃねーぞ。更年期障害か?耄碌ジジイが』


上条の声に呼応するように、ビーカーに表示されたウィンドウが点滅する。

アレイスターの返事を待たずに、上条は言葉を続ける。



上条『魔術師なんぞ送りつけて来たと思ったら、今度は"アイツ"まで寄越してきやがって』


『こちらとしてもアレは本意ではなかった』


上条『だったらはじめからあんなモン送りつけてくるんじゃねぇ』

上条『お前が何を企んでるのかは知んねーがな』

上条『大体魔術師(あいつら)は何なんだよ?どうせテメェが連れ込んだんだろ?』


『今日はよく喋るな』


上条『黙れ。さっさと答えろ。テメェに割ける通話料はあんまりねぇんだ』


『君の携帯ではなかったはずだが』

『魔術師についてはおそらく君の想像の通りだよ』


上条『読心術でも覚えたか?薄気味の悪い野郎だ』



『随分と気が立っているようだが』


上条『当たり前だ。テメェの胸に聞いてみろ』

上条『殺し損ねたやつはこれで三人目だ』


『彼らを殺せばどうなっていたか、本当は気がついているんじゃないのか』


上条『…』


『むしろ感謝してほしいものだ。あやうく君は自分の首を絞めるところだったのだからな』


上条『…ッ。禁書目録といったか。じゃああのガキはなんなんだ』


『そのうち。また会うことになるだろう』


上条『冗談じゃねぇ!誰が』


『必ずだ』


コンピュータが彼の意思を汲み取ったのか、なんの前触れもなくそこで通話が途切れる。

何かを企む男は、先ほどと変わらぬ表情のまま、再び誰かと会話を始めた。



今日はここいらで終わりです



オリ設定なら最初に注意書きしといた方がいいよ

>>920 その通りですね。次スレには書きます

ちょいと問題発生です。
幻想御手篇、やろうと思ってた木山強化ネタが他の現行スレで先に出ちゃってました。
なので練りなおしてます。

あと伏線張っといてなんなんですが、春上さんのRSPK症候群篇はやってもつまらないとおもうので省略します。上条さんが関わらない形で。

もしかしたら幻想御手も終わっちゃったことにして、次に行くかもしれませんがどうでしょう。

どうしても見たければ頑張ってねりねりしますが。

おそらくですね笑

あんまりにも似過ぎていたのでちょっと幻想御手篇は上条さんの知らないところで解決したということで。
申し訳ないです。

溜めてるネタはたくさんあるので先のことはご心配には及びません。

区切りがいいのでここでHTML化します。
新スレからは三沢塾をすっ飛ばして妹達篇になります。

新スレ立てました

上条「俺がいる限り、テメェは一生最強には届かねぇんだよ!」
上条「俺がいる限り、テメェは一生最強には届かねぇんだよ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1396962963/)

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年03月10日 (月) 22:50:39   ID: kyjXCyNu

面白いよー
続き待ってます!

2 :  SS好きの774さん   2014年03月11日 (火) 21:28:32   ID: j5DDcJhO

早く続きお願いします( ̄▽ ̄)

3 :  SS好きの774さん   2014年03月12日 (水) 07:34:05   ID: 3Hqd-z_Y

これはいい。フレンダ好きには最高のssだと思う。

4 :  SS好きの774さん   2014年03月13日 (木) 11:04:51   ID: wshwVxiw


とても面白いです(゚∀゚)
続きが気になります!

5 :  SS好きの774さん   2014年03月15日 (土) 00:32:29   ID: UTaAej-K

面白い!
これからも頑張ってください!

6 :  SS好きの774さん   2014年03月15日 (土) 08:07:15   ID: 5l-ansur

超面白いです。

7 :  SS好きの774さん   2014年03月16日 (日) 01:04:05   ID: Z88JTIb1

早く読みたいです(^^♪

8 :  SS好きの774さん   2014年03月16日 (日) 11:04:49   ID: 6B15U3eX

更新楽しみにしてます!!!

9 :  SS好きの774さん   2014年03月16日 (日) 11:29:29   ID: qLs9t2Ic

名作、、、(≧∇≦)❗️

10 :  SS好きの774さん   2014年03月16日 (日) 12:43:29   ID: 6SQYIvti

これは文句なし!完結まで張り付きます笑

11 :  SS好きの774さん   2014年03月17日 (月) 14:52:41   ID: kI96TeQQ

面白い

12 :  SS好きの774さん   2014年03月18日 (火) 09:21:46   ID: hIEmzSv9

最高です!

13 :  SS好きの774さん   2014年03月19日 (水) 19:42:29   ID: hWZrt6A4

面白い!

14 :  SS好きの774さん   2014年03月20日 (木) 11:05:32   ID: owJjzXWD

更新たのしみです

15 :  SS好きの774さん   2014年03月21日 (金) 00:42:45   ID: FaPg4AGy

過去最高に面白い

16 :  SS好きの774さん   2014年03月21日 (金) 12:01:45   ID: 5xtxbV9J

面白いです!

17 :  SS好きの774さん   2014年03月22日 (土) 13:46:42   ID: tciCxUKd

これ以上ないくらいに最高のss

18 :  SS好きの774さん   2014年03月22日 (土) 17:37:06   ID: OD23C29Q

更新が楽しみだ

19 :  SS好きの774さん   2014年03月25日 (火) 02:59:05   ID: uJXC4k4c

これの文庫化はいつだ(`Д´≡`Д´)??

20 :  SS好きの774さん   2014年03月25日 (火) 06:28:55   ID: M8JvAHsf

めちゃ楽しみ

21 :  SS好きの774さん   2014年03月26日 (水) 19:35:38   ID: Jlwo6yFN

やっぱ面白いね。最高です

22 :  SS好きの774さん   2014年03月26日 (水) 20:47:45   ID: jx5MGmKw

更新されてた!
面白いです(^^)

23 :  SS好きの774さん   2014年03月28日 (金) 15:06:08   ID: zSh7IpM_

更新まだかな
めちゃめちゃ面白い

24 :  SS好きの774さん   2014年03月29日 (土) 23:52:12   ID: X9xkfyag

面白い!

25 :  SS好きの774さん   2014年03月30日 (日) 23:41:56   ID: NhGMlgU-

良スレ発見。

26 :  SS好きの774さん   2014年04月03日 (木) 12:30:26   ID: -W8625FI

面白いけど美琴が後先考えずチンパンすぎだろ
一度捕まった方が本人のためだと思うけどね

27 :  SS好きの774さん   2014年04月03日 (木) 20:09:25   ID: joHV_C8c

>>26 確かに正論だが、原作美琴は序盤そんな感じだったよね。
一巻の無能力者を馬鹿にする発言とか黒歴史すぎ。
超電磁砲の美琴とは別人みたいだw

28 :  SS好きの774さん   2014年04月04日 (金) 10:37:19   ID: tiS7S4bZ

更新キターーーーー

29 :  SS好きの774さん   2014年04月04日 (金) 11:25:44   ID: CwQ4lNcb

すごく面白い
めっちゃ期待してる

30 :  SS好きの774さん   2014年04月07日 (月) 21:00:53   ID: _GZ_WTos

盛り上がってきたああああああ!!

31 :  SS好きの774さん   2014年04月08日 (火) 19:48:51   ID: tDVye1yl

期待

32 :  SS好きの774さん   2014年04月30日 (水) 12:40:39   ID: ezwkECeE

原作より面白いわ
天才って本当にいるんだな

33 :  SS好きの774さん   2014年05月14日 (水) 12:29:00   ID: 2ntwDQZF

俺、少し前まで自殺考えてたんだけど、このSSを見て生きようって思った
この世界にこんな素晴らしいものがあるって教えてくれた命の恩人だから
本スレ荒シル糞ジャップどもは津波で氏ね

34 :  SS好きの774さん   2014年08月04日 (月) 12:57:40   ID: ar_0c7Py

不謹慎なこと平気で書き込める奴は荒らしを批判する資格すらないよ?自殺を志願するのは当然です。

35 :  SS好きの774さん   2014年10月03日 (金) 08:16:31   ID: x7NrOIRj

このスレを立てた人は天才や。

36 :  SS好きの774さん   2017年02月05日 (日) 21:11:06   ID: cnLFQ73L

原作より面白いで草

37 :  SS好きの774さん   2017年06月15日 (木) 12:50:43   ID: bY11OKdL

この作者も自殺しなきゃよかったのにな

38 :  SS好きの774さん   2017年07月05日 (水) 14:16:15   ID: hJYJEFNi

※37
え?まじですか?

39 :  SS好きの774さん   2017年07月13日 (木) 13:00:51   ID: nk4S588C

この作者はプロになてるらしい

40 :  SS好きの774さん   2017年11月22日 (水) 13:27:18   ID: ZGp6W6ul

※39
本当。ソードアートのあとかきでそれっぽいこと言ってた

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