一ノ瀬志希「ダイジョーブ、ダイジョーブ」(58)



P「はぁ……」

P(今日も仕事疲れた……)

P(最近は色々な子の人気が上がり始めて……仕事も莫大に増えて……)

P(嬉しい事ではあるけど、猫の手を借りても足りないくらいに忙しくなってしまった……。
  自分ながらに仕事は出来る方だと自負していたが……)

P(寝不足だしまともな食事も摂れてないし、いつ体を壊すか……)

P「うぅ、今日は久しぶりに家に帰れる……早く帰って寝よう……」

比奈「あ、プロデューサーだ」

P「はぁ、疲れたなぁ……」フラフラ

比奈「何だかフラフラと……大丈夫っスかね……」

P「……」トボトボ

比奈「あ、プロデューサー! 赤信号の交差点に入っちゃ駄目っスよ!」

P「家に帰ろう、帰ろう……」



ププーッ


比奈「わっ、と、トラックが! プロデューサー! 危ないっス! トラックが!」

P「ん? 比奈の声がするような……あ、向こう側にいたのか」

比奈「避けないとヤバイっス! 危ないっス!」

P「えぇ?」


キキーーーーッ
ドッカーーーン


P「ぎゃああああああああっ!」

比奈「プロデューサーッ!」



ピューンッ
ガシャッ ドテッ


比奈「ぷ、プロデューサーが……トラックに……」


「おい、どうしたんだ!」
「人が轢かれたみたいだぞ!」
「とりあえず救急車呼べ救急車!」


比奈「あ、あぁ……」ヘナヘナ


――



ピーポーピーポー


比奈「あぁ……ヤバイっス、ヤバイっスよこれ……」

看護師「あ、先程運ばれた患者さんの関係者さんですか?」

比奈「あ、は、はい! それでプロデューサーは! プロデューサーは無事なんでスか!?」

看護師「はい。患者さんは幸運にも極めて軽傷です。一応精密検査などはしますが、命に別状は無いそうです」

比奈「ほ、本当でスか!」

看護師「はい」

比奈「良かった……良かったっス……」

看護師「それでは私は失礼します。何かあったらまたお伝えしますので」

比奈「は、はいっ」

比奈(良かった……プロデューサーが無事でっ……)

比奈「……あっ、皆にも連絡しないと……」


……


P「う、うーん……」

P(ここはどこだ……俺は一体……)

P(はっ……そういえば俺は車に轢かれて……まさか俺は死んだのか!?)

??「ハーイ? だいじょーぶ?」

P「わっ!」

??「そんなにビックリしなくても良いのに」

P「え、誰君? というか、ここ何処? え、病院?」

P(病院にしちゃなんか物騒な物が沢山置いてあるんだけど……)

??「まぁまぁ落ちついて。キミは事故に遭って病院に運ばれて来たんだよ。
   それでここは病院の……集中治療室ってとこかな」

P「は、はぁ」


??「で、あたしは一ノ瀬志希。海外から来た……お医者さんだよ♪」

P「そ、そうですか(随分若いな)」

志希「まぁ手術でもしようかと思ったんだけど、残念な事に軽傷だから色々な事はできないんだけどね~。ホント残念っ」

P(何で残念なんだそれが……)

P「ま、まぁ……軽傷で済んでるなら良かったよ。何かトラックに轢かれたような気がしたから死んだかと……。
  というより、君は本当にここのお医者さんなのかい? 随分若く見えるけど……高校生とかじゃなく?」

P(白衣は着ているけど、その下に見えるのは……学校の制服か?)

志希「キミ、この状況でもちゃんと人を観察できたりするんだね。感心感心。えーと、うーん……」クンクン

P「え、何。なに臭い嗅いでるの」

志希「……うん、やっぱりキミは良い匂いがするね! あたしの予想通り! ね、あたしキミの事気に入っちゃったから、やっぱり集中治療する事にするよ♪
   何か望みの治療とかある?」

P「の、望みの治療?」


志希「はい、これがメニュー。好きなの選んでよ」

P「は、はぁ……(メニュー? 何だこれは……)」


>心身共に疲れている
 髪の毛を増やしたい
 精神面を強化したい
 特殊な能力を身に付けたい
 今より強くなりたい


P(な、何だこのメニューは……)

志希「どれも無料だからね、遠慮しないでね」

P「そ、そう……」


P(心身共に疲れてる……うーん、まぁ今現状はこれなんだけどなぁ)

P(髪は遺伝的にハゲたりしないから大丈夫だからいらないとして……)

P(精神面を強化かぁ、強くなったら売り込みとかももっと上手くできるようになるかな……いやそれ以前に……)

P(この最後の二つが気になるんだけど……これは一体何なんだ?)

P(特殊な能力……何だろう、超能力かなんかか?)

P(そして今より強くなってどうするんだろう……)

P「え、えっとぉ……」

志希「なになに? 質問?」

P「この能力って言うのは……」

志希「あぁそれ? それで成功すればね、逆境に強くなったりチャンスに強くなったりするよー」

P「へ、へぇ……(成功すれば? 失敗もするのか?)」

志希「ねぇー早く選ぼうよー。あたし待つの嫌いなんだー」


P「えぇ? じゃ、じゃあ……えっと……っていうかこの治療って絶対選ばなきゃ――」

志希「はいっ! 今より強くなりたいねっ、りょうかーいっ♪ キミはパイオニアだねー♪」

P「え、まだ何も」

志希「はいはい、とりあえずこれにサインしてねー」

P「え、えぇ?」

志希「まぁ捺印だけでも良いよ、後でこっちが勝手に足すから」グイッ

P「ちょ、ちょっと」ペタッ

志希「はいオッケー♪ ゲドー君、準備開始!」

ゲドー「ギョッギョー」


ガシンッ ガシンッ


P「わっ、何だ! 足と手が! ていうか今の誰だ!」

志希「あんまり薬剤の中で暴れられると大変だからねー。ちなみに麻酔とかも無いから安心して♪」

P「ま、麻酔無しっ? え、何かの手術でもするの?」

志希「手術じゃないよ。人体実験」

P「もっと性質が悪いじゃないか!」

志希「さすがのあたしでもこの実験の成功確率は50%を切るからね、頑張って♪」

P「待て! 失敗したらどうなるんだ!」

志希「……」

P「おい! 何で黙る!」

志希「さぁゲドー君! カプセルの中に入れちゃって♪」

ゲドー「ギョギョ~」

P「わーっ! 運ぶな! やめろーっ!」


志希「科学ノ進歩ニ犠牲ハツキモノデース。うーん、一度言ってみたかったんだー♪」

ゲドー「ギョギョ」ガチャンッ

P「わっ、なんだこのカプセルは! 出してくれ!」

志希「さぁゲドー君。この前作った『アレ』でカプセルを満たして!」

ゲドー「ギョギョ~……」

志希「弱気になっちゃ駄目だよ。あたしが満たしてって言ってるんだから満たして」

ゲドー「ギョ……」


オオオオオオオンッ
ブクブクブク



P「わっ! 床が開いて……何だこの液体!」

志希「じゃあ実験開始!」

P「なんだよこの液体! く、臭い! 夏場に放置し過ぎてチョコレートみたいな見た目になったベーコン並に臭い!」

志希「じゃあ気をしっかり持って! あんまりその液体飲むと大変だからねー」

P「ううううわああああああっ!」


……


志希「気絶しちゃったみたいだね」

ゲドー「ギョ」

志希「もう良い時間かなー。ゲドー君、薬剤抜いて」

ゲドー「ギョッ」


ブクブクブク


志希「ふんふん……よし実験成功♪ じゃあゲドー君、元の場所に戻してきて」

ゲドー「ギョッ!」


――


看護師「Pさん」

P「うーん……」

看護師「Pさん、起きて下さい」

P「ん~……ここは……」

看護師「病院ですよ。貴方は事故でここに運ばれて来たんです」

P「え? あぁ……確かそんな事があったような……」

P(あれ……なんか頭の中から抜け落ちてるような……)

看護師「これで治療は終わりです。もうお帰りになって結構ですよ。軽い怪我で良かったですね」

P「は、はい。お世話になりました」


P(うーん、思い出せない……)

P(でもまぁ良いか。何か体が気分爽快だしっ)


スタミナが上がった。
攻撃コストが上がった。
守備コストが上がった。
振り分けポイントを30手に入れた。
疲れがとれた。
『ケガしにくい』になった。


……


比奈「……」

P「あれ、比奈。どうしたんだこんな所で」

比奈「あっ……ぷ、プロデューサー……」

P「あぁー、えっと……見舞いに来てくれたのか?」

比奈「プロデューサー!」バッ

P「うわっ」ギュム

比奈「私、心配したんでスよ! あんなデカイトラックに轢かれて、死んじゃうんじゃないかって……」

P「あ、あぁ……ごめんな」

比奈「ほ、ホントに心配したんでスよ……」

P「……うん……」



「P君の病室ってどっち!」
「こ、こっちのはずです!」
「急いで!」
「わ、わかってます!」


P「……おっと、人が来た。比奈、悪いけどもう離れないと」

比奈「あ、ハイ……」サッ


タタタッ


瑞樹「P君!」

若葉「Pさん!」

ちひろ「プロデューサーさん! ……ってあれ、普通に立ってる」

P「あぁ……これはどうも、皆で……」


瑞樹「P君大丈夫!? トラックに轢かれたんでしょう!」

P「え? あぁ、まぁ轢かれましたけど命には別状無いようで、内臓とかにも響いてないし医者が帰って良いと……」

若葉「ぐすっ……ほ、ほんとうにだいじょうぶなんですか」

P「わっ、どうした若葉。目真っ赤じゃないか」

ちひろ「若葉ちゃん、ここに来る途中ずっと泣いてましたから……」

P「あぁ……」

若葉「だ、だって、事故に遭ったって聞いて、比奈ちゃんが凄い事故だって……」

P「あぁ、ごめんな心配かけて……よしよし」

若葉「うぅ、Pさん……」

瑞樹「本当に大丈夫なの?」

P「えぇ。この通りピンピンしてます。むしろ事故に遭う前よりも元気というか……」

瑞樹「えぇ?」

P「いや、何でも無いです。まぁとにかく、俺は無事です。心配させてしまったようで、本当に申し訳ない」


瑞樹「そ、そう……まぁP君がそう言うのなら大丈夫なんでしょうけど……」

ちひろ「最近イベントばかりで激務続きでしたからね……それでフラフラとして、信号無視したりしたんじゃないですか? プロデューサーさん」

P「あはは……まぁ、その通りなんだけど……」

瑞樹「もう! 気をつけないと駄目よP君! 今回は運が良かったのかも知れないけど、一歩間違えたら死んじゃう所だったのよ!」

P「はい、すいません……皆に迷惑かけてしまって……」

瑞樹「……無事で、本当に良かったわ。本当に……」

P「……すいません」

ちひろ「比奈ちゃんにも謝らないと駄目ですよ。
    事務所に連絡入れてくれたり、ここでずっとプロデューサーさんを待ってくれたりしてたんですから」

P「あぁ、まぁ……ごめんな比奈も。色々迷惑かけて」

比奈「え? い、いや、私はもう大丈夫っスよ。別に謝る事でも無いでスし、さっきちゃんと話したじゃないっスか」

P「そ、そうか。まぁでも……ごめんな。それとありがとう」

比奈「は、ハイ……」


ちひろ「……もう帰りましょうか。もう帰らないと日を跨いじゃいますし、プロデューサーさんも早く休んだ方が良いでしょうから」

P「あ、はい。そうですね。ほら若葉、もう帰るよ。このままだとだっこして帰る事になっちゃうぞ。もう放れて? な?」

若葉「ぐすっ……は、はい……」

ちひろ「じゃあ行きましょう。荷物とかは大丈夫ですか?」

P「あ、病室に置きっぱなしでした」

ちひろ「なら私は先に駐車場に行って車で待ってますね。プロデューサーさんは焦らないでゆっくり来て下さい」

P「わかりました。すいませんホントに」

ちひろ「いえ、今はこれくらいしかできないですから。それではお先に」


スタスタスタ



P「……」

瑞樹「……どうしたのP君。荷物、取りに行くんでしょう?」

P「え? あ、あぁ……そうですね。行きましょうか」

瑞樹「大丈夫? 本当は脳にダメージ行ってたりして頭がボーッとしちゃうんじゃないの?」

P「いえ、ただ少し考え事をしてただけですよ。行きましょうか」

瑞樹「……そう。なら良いけど」

P「……」


スタスタスタ



P(うーん……やっぱりどう考えても記憶が抜け落ちてるなぁ……事故のショックか?)

P(というより、トラックに跳ねられて即日退院ってあり得るのか? いくら軽傷って言ったって……。
  取り調べとかした記憶も無いし……)

P「……」

P(はぁ、考えても無駄だな。とりあえず無事だったんだ、その事に感謝しよう)


――


(それから二ヶ月)


P「はい。はい、ありがとうございます。それではまたその件についてそちらで……はい、宜しくお願いします。
  それでは失礼致します……」


ガチャッ


P「ふぅ……」

ちひろ「プロデューサーさんお疲れ様です。お茶淹れたのでどうぞ」コトッ

P「あぁすいません。ん、苦い」ゴクッ

ちひろ「疲れた時は渋い方が良いらしいので。それにしても、最近調子良いですねプロデューサーさん」

P「わかりますか。いやぁ最近は何だか疲れを感じなくて、自分でもビックリするくらい仕事ができるようになったんですよ」


ちひろ「お仕事の量は増えてるのに凄いですね。一体どうしたんですか? 仕事のし過ぎでふっきれちゃいましたか?」

P「なんでしょうねぇ。前には出来なかったような事が出来るようになったって言うのが大きいですね。
  でかいライブの構想もこう、パッと浮かぶようになりましたし、その為の営業だってバリバリ行けるようになりましたし」

ちひろ「……事故で何かツボでも押されたんじゃないですか?」

P「ツボ? まぁ、そうかも知れませんね。あはは」

ちひろ「ふふっ、でも本当に最近のプロデューサーさんは凄いです。いえ、前から凄かったですけど、更に磨きがかかったというか。
    でも何にせよ、無理はしないで下さいね。社長もできるだけ休みは無理にでも消化しなさいって言ってましたし」

P「えぇ。でも今有給なんてとってたらこの勢いが無くなりそうですからね、まだ休めませんよ」

ちひろ「そうですか……でも事故には本当に気をつけて下さいね」

P「わかってます。じゃあ、そろそろまた打ち合わせなんで行ってきます」

ちひろ「あ、はい。行ってらっしゃい」


ガチャッ



ちひろ「……」

比奈「あれ、プロデューサーは?」

ちひろ「あ、比奈ちゃん。プロデューサーさんなら今出て行った所よ」

比奈「あちゃー、マジっスかー。新しいサイン思い付いたんで見せようと思ったんスけどねぇ」

ちひろ「……ねぇ比奈ちゃん」

比奈「何でスか?」

ちひろ「何か最近のプロデューサーさん、変だと思わない?」

比奈「変? 何がっスか?」

ちひろ「何て言うか……バイタリティに溢れ過ぎてるというか、何と言うか……」

比奈「バイタイリティに溢れるのは良い事じゃないっスか」


ちひろ「いやそれにしても……プロデューサーさん、あの事故起きて少し休暇貰ったでしょう? 二日くらい。
    それ以来あの人休んでないのよ……」

比奈「え、そんなに休んでないっスか」

ちひろ「えぇ。しかも大体誰よりも早く来て誰よりも遅く帰ってるから……心配で……」

比奈「それじゃまたこの前みたいにフラフラしてトラックにでも轢かれかねないっスね……」

ちひろ「そうなのよ……それに、よく蝋燭が一番燃えるのは消える直前だなんて言うし……」

比奈「それは縁起でも無いっスよちひろさん」

ちひろ「そ、そうね……少し考え過ぎなのかも……」

比奈「でもさすがにそろそろ休んで貰った方が良いんじゃないっスか」

ちひろ「そうねぇ。まぁ一応来週に連休を捻じ込んであるから大丈夫だとは思うんだけど……」

比奈「じゃあ……一応大丈夫っスね」

ちひろ「うーん……そうねぇ……」



……


(一週間後)


P「おはようございまーす」

ちひろ「おはようございます……って、あれ? 何で今日来てるんですか? 今日休みですよね?」

P「えぇ。でも良いアイディアを思いついちゃって居ても立ってもいられず……あ、会議室開いてますか?
  皆の邪魔にならないようにそこで少し草稿書くんで、借りますね」

ちひろ「ちょ、ちょちょ、ちょっと待って下さい」

P「なんですか?」

ちひろ「きょ、今日はお休みですよ? 二ヶ月ぶりの」

P「えぇ。でも休みの日にやる事もなくて……」

ちひろ「だったらお家で寝ましょうよ。ここ最近働きっぱなしだったじゃないですか」

P「でも」


ちひろ「でもじゃないですよ!」

P「……ち、ちひろさん」

ちひろ「事故起きた時の状況覚えてますか? あの時だってぶっ続けで働いてたから事故が起きたんですよ?」

P「え、えぇわかってます。でも今回はあの時みたいに疲れなんて感じてません」

ちひろ「疲れを感じてなくても、人は休まないといけないんですよ。人間は機械じゃないんですから。
    いえ、機械だってメンテナンスとかでお休みします。だから人であるプロデューサーさんは尚更休まないといけないんです」

P「でも……」

ちひろ「あぁもうこのワーカーホリックは! 事故に遭った時の若葉ちゃんと川島さん見ましたよね!
    あんなに心配してたんですよ! 比奈ちゃんだって、とっても心配して連絡をくれたんですよ!」

P「……」

ちひろ「何かあってからじゃ遅いんです。病気でも事故でも、何かあってからじゃ……」

P「ちひろさん……」


ちひろ「……ほらほら! 帰った帰った! 事務所は遊び場じゃないんです! 休みの人間が油売りに来る所じゃないんですよ!」

P「うわっ、ちょ、ちょっと、押さないで下さいよ」

ちひろ「さっさと帰って温かくして寝てなさい! 良いですか! プロデューサーさんには休んで貰わないと困るんですよ!
    もしまた何かあったらお仕事も回らなくなっちゃいますし、皆が心配するんですから!」

P「わ、わかりました。わかりましたから押さないで下さいよ、ちゃんと出て行きますから」

ちひろ「はい、じゃあさようなら!」


ガチャッ
バタンッ


P「……」

P(追い出されてしまった)

P「はぁ……別に眠くないしなぁ……」

P(街に行ってもさしてやる事ないし……)

P「……帰るか」


……



トボトボ


P「はぁ……俺そんなに働いてたかなぁ……」

P「ていうか最近は働いてるっていう感じじゃないんだよなぁ。何て言うかこう……趣味? してるみたいな……」

P(前から仕事は楽しかったしそれなりに自分でもできると自負してたけど、最近は調子良くてもっと楽しく感じてたからな)

P「もう疲れなんてそうそう感じないし、もう半分趣味みたいな感じになっちゃったしなぁ仕事が」

P「そりゃ活き活きもするさ、だって趣味だもん……だから別に大丈夫だって言ってるのに……」

P「腹筋とかも最近イキナリバッキバキになったし……あれ、何で腹筋割れたんだっけ。俺筋トレしたか?」


ガサガサ


P「ん?」


志希「ハーイ、ミスター♪」

P「わっ、何だイキナリ。誰だ君は、何で茂みの中に……というか俺になんか用か」

志希「あぁそうだった、記憶戻さないと。はい、このハンカチの匂い嗅いでー」

P「うっ、何だこの臭いは……三角コーナーの臭いが……ん、あれ? 君はこの前の……」

志希「ふっふ~、さぁこの間の続きをするよっ」

P「は、はぁ……」


……



志希「さてと、じゃあ何の治療にする?」


>心身共に疲れている
 髪の毛を増やしたい
 精神面を強化したい
 特殊な能力を身に付けたい
 今より強くなりたい


P「またこれか」

志希「うん。キミはバクダンとかついてないからメニューは必然的に少なくなっちゃうからしょうがない」

P「バクダン? あぁ、肘とかの話か」

志希「それで今回はどうするの?」

P「……あれ? 俺前何を選んだんだっけ」

志希「今より強くなりたいってやつ」

P「あぁそうそう、それで……ん、待てよ? ここ最近疲れを感じなかったのってこれのせいだったのか?」

志希「そうだよ~。実験成功したからかなり強靭な肉体になったはずだよ」

P「……君一体何者なの」

志希「あたし今はふつーのJK~♪」

P「……」

志希「まぁとりあえず今回も強くないたいで良いよね♪ はいじゃあゲドー君!」

P「え、ちょ、まっ」

ゲドー「ギョッギョー」


ガシンッ ガシンッ
ブクブクブク


P「またこれかー!」

志希「科学ノ発展ニ犠牲ハツキモノデース」

P「うううううわあああっ!」


……


P「……うーん」

P(頭がグワングワンする……ここはどこだ……)

P(……ここは……公園、か。帰りに寝ちゃったのかな……ていうか冬の公園でよく寝たな俺は)

P「わっ、もう夜じゃないか。俺どれだけ昼寝してたんだ」

P(うーん、休みの日にいくら何もする事が無かったとは言え、これだけ昼寝してしまうとは何だか勿体ない気がするな……)

P「まぁでも、気分も悪くないし別に良いか」


スタミナが上がった。
攻撃コストが上がった。
守備コストが上がった。
振り分けポイントを30手に入れた。
疲れがとれた。


志希「……ふんふん」



――



(翌日)


P「……ふわぁ~あ……今何時だ……」

P「……六時か……いつもより少し早く起きたな」

P(今日も休みか。今日はどうしようかなぁ、昨日みたいに寝て過ごすのも何だし、街に出てみるか)

P(にしても何処に行くか……)

P「……事務所の周り、散歩でもしてみるか。昼に食べる所探すのも良いかもな」


……



P「ふぅ……つい最近まで冬だと思ってたけど、もういつの間にか暖かくなったな」

P(この公園いつも通勤の通り道にしてるけど、こうやってゆっくり歩くとまた違って見えるな……)

P(今はジョギングする人なんかが大半だけど……昼過ぎになったら親子連れが来て、この枯れ木ばかりの公園も、
  少しは黄色く、明るく色付いて見えるのかも……)

P(……ふっ、我ながら詩的だ)


サササッ


P「……ん?」

P(なんだ? あの茂みの方から人影が見えたような……あそこ立ち入り禁止じゃ……)


サササッ

P(気のせいじゃないな、やっぱりあそこに人がいる。一瞬姿が見えたが、髪の長さからして女か。
  それに公園の管理人か職員という風貌でも無かった)

P「……子供が火遊びでもしてるか?」

P(何か悪さでもしてたらアレだしな。見に行くか)


スタスタ


P「えっと、確かこっちに……」

志希「あっ」

P「あ、いた。君、こんな所で何してるんだ? 見た所高校生みたいだが……あれ、君何処かで……」

志希「逃げちゃえ~♪」タタタッ

P「あ、おい。どこ行くんだ」

P(……追った方が良いのか?)

P(……はぁ。気持ち悪いな……何だ? あの子と何処かで会ったような、いや遭ってしまったような気がする……)

P「……しょうがない、追うか」


……


志希「……どうやらまいたみたいだね」

P「誰をまいたって」

志希「あれ、ついて来てた。おかしいなぁ気配は感じなかったのに」

P「別に普通について来たぞ俺は」

志希「まぁいいや。そっちの方が好都合だし」

P「……何なんだここ。色々物騒な物が置いてあるけど」

志希「はいハンカチの臭い嗅いでー」ヒラヒラ

P「うっ、臭い……あれ、君は……一ノ瀬だったか」

志希「さて、治療の続きをしようか♪」

P「……」

志希「あれ、どうしたの? 何か乗り気じゃない感じ」

P「普通に考えて人体実験に乗り気な人間なんてそういないよ」

志希「そんな事ないよ、キミはちゃんと誓約書にサインして受けたんだから。ほらこの紙」ヒラヒラ


P「そんなもの無効だ。捺印があったってちゃんと本人のサインが無いと」

志希「えー」

P「えーじゃないよ。死ぬ思いをしたんだぞ俺は」

志希「その割にはあんまり怒ってなさそうだけど」

P「怒ってるよ。というよりも、色々事態が呑み込めなさ過ぎて戸惑ってるだけだよ」

志希「あ、何かあたしに質問したいって事?」

P「……まぁそうだね。とりあえず聞きたい事は山程」

志希「あはは、じゃあキミの為に治療前の質問タイム設けちゃうよ。何でも聞いて♪」

P「(治療は決定事項なのか)とりあえず……君の今の職業は? 高校生でいいのか?」

志希「そうだよ。海外の学校で飛び級とかやってたけど、つまんないからこっちに帰って来たんだー。
   戻ってくる前に学校のテストで低い点とか取ってたのもあるんだけどね」

P「……俗に言う天才って奴か、君は」


志希「ギフテッドって言うんだってさ、あたしみたいなの。人と違うみたいだけどあんまりよくわかんないけどね」

P「ギフテッド? なんか聞いた事あるけど」

志希「常人よりも何かの才能、例えば勉強だとか、芸術だとか、リーダーシップなんかを先天的に高く持った人間の事だよ。
   小難しいでしょ定義が」

P「……そうだな。それで、君は勉強の才能が高かった訳か」

志希「うん。一応あっちでは薬学を習ってたよ」

P「今は?」

志希「今は高校で周りと同じ勉強してる」

P「退屈じゃないか? レベルが違い過ぎて」

志希「うーん、どうだろうね。あっち居てもつまらなかったしあんまり変わらないよ」

P「そういうものか」

志希「そういうことー」

P(天才で、よく見ると……いやよく見なくても顔立ちも良い……天は二物を与えたな。
  この子をアイドルに……いや、これ以上仕事を増やすとちひろさんに何か言われかねない。やめよう)


P「……とりあえず君の素性は何となくわかった。で、何で普通の女子高生が人体実験なんてやってるんだ」

志希「あぁ、それね。話すと長くなるけど聞いちゃう?」

P「……あぁ、聞くよ。今日は時間だけはあるから」

志希「そう? じゃあ話すよ。まずあたしのお父さんがお医者さんでさ。あ、お父さんも頭良いけどギフテッドとかじゃないんだって。
   それで、お父さんの知り合いにスポーツ医学の権威の人がいてね、ちょっとそういうのに興味があったからその人の手伝いとかしてたんだけど、
   その博士が一時的に帰国するっていうから、この部屋を貸して貰ってるの」

P「スポーツ医学の権威?」

志希「うん。最近は野球選手とかを研究対象にしてたかなー。プロに入った選手も何人か博士が改造……じゃない手術してるよ」

P「……え、人体改造したプロ選手が何人もいるの?」

志希「いるよ、本人には自覚無いだろうけど。手術受けた記憶は消しちゃってるからね」

P(あぁそういえば俺も人体実験受けた事忘れてたな……まぁ人体改造までするんだ、記憶を消すのくらい訳ないか)

P「なぁ、人体改造って事は……サイボーグ的な感じになるのか? 機械を埋めたりとか……」

志希「違うよー。博士がやってたのは人体の再構成とかだからそういうのはないない」

P「人体の再構成?」


志希「ほら、そこのでっかいミキサーみたいなのあるでしょ?」

P「あぁ、その物騒な……」

志希「それで一度体を砕いてからまたこっちで再構成するんだよ」

P「……」

志希「……」

P「……はぁ!?」

志希「その再構成が難しいんだー。良い方向に再構成できるのなんて、博士でも三回に一回成功するくらいだから」

P「え、人体を砕く? 死ぬだろそれ」

志希「それで手術が終わった後とかに博士が、科学ノ発展ニ犠牲ハツキモノデース、って決め台詞言うの♪
   カッコ良いでしょ?」

P「いや、全然カッコ良くない! 人殺し一歩手前の行為をしてその台詞はヤバイだろ!」

志希「ダイジョーブ、ダイジョーブ。再構成自体は簡単なんだけど、良い方向に構成するのが大変なんだー。
   だから死人は見てきた中ではゼロだったよ。まぁ、ちょっと体が悪くなっちゃった人はいたけど」

P(見てない時に死人があったんだろうなぁ、そんなぶっ飛んだ手術……)

志希「ねぇねぇ、他に質問ない? 何でも聞いて良いんだよ~」


P「え? あぁ、そうだな……君は何度もこういう事を?」

志希「ううん、キミで初めてだよ。嬉しいでしょー♪」

P「あぁそうだね」

志希「素っ気ない声だなー。これでもあたし自信が気に入った人しか実験対象にしないってポリシーを持ってるんだよ。
   キミを街で見かけた時にビビッと来て、だからトラ……何でもない♪」

P「今トラックって言いかけたろ、何だよオイ。あれは君が差し向けたのか?」

志希「はいこのハンカチの臭い嗅いでー」

P「うぐぅ」

志希「はい、もう良いよー」

P「あれ、俺は何を……」

志希「あたしに質問してたんでしょ、続き続き♪」


P「え? あぁそうだっけ……で、御両親はこの事は?」

志希「お父さんもお母さんも知らないよー。お父さんには研究室の手伝いしてるとは言ったけど、博士の所にいるとは言ってないからね」

P「だよな(知ってたら普通止めるだろうし)」

志希「キミってさ」

P「ん?」

志希「案外動じないタイプだよね」

P「動じない?」

志希「だって今まで二回も人体実験やって、その後に記憶も戻した状態で結構平然とあたしに質問するからさ。
   うーん動じないって言うか、すぐに適応するタイプかな」

P(口ぶりからして自分がやってる事が異常だと言う事は自覚してるんだな)

P「まぁ、ね。もうアラサーだし、冷めたって言う方が当たってるかも知れない」

志希「ふーん。でもその割には若く見えるね」

P「そうかな……とりあえず、色々と君の事はわかったよ。それでなんだけど、とりあえず今日の実験は無しにしてくれるかな」


志希「え、しないの?」

P「うん。俺は十分強くなったし、もう良いよ」

志希「そっかー。残念」

P(この前は強制的にやらされたが、案外簡単に断れたな……それとない流れで言いだしてみて良かった……)

志希「でもその代わりにさ」

P「ん?」

志希「これからは仕事終わりとか、暇な時間ににここに遊びに来てよ」

P「えぇ?」

志希「あたしは買い物したりする以外にはこの研究所に四六時中いるから、いつでも来て良いよ♪」

P「え? ここに住んでるのか?」

志希「うん、最近はずっとここにいるよ。生活する為の物は揃ってるし、駅もそれなりに近いし便利だから」

P「……大丈夫なのか?」

志希「何が?」


P「いやぁ、親御さんとかが心配するだろ。こういう実験とかしてるのは知らないのに、ずっと外にいるって」

志希「キミ文系?」

P「あぁ」

志希「理系だと研究室に籠るとかザラだから案外普通だよ、家に数日帰らないのなんて」

P「あぁ……確かにそういう話は聞くな。でもさ、やっぱり心配させちゃうだろ。何日も家に帰らなかったら」

志希「……しないよ」

P「え?」

志希「ふっふ~。とりあえず実験しないならもう今日は残念だけどお開きかなー。
   あたしも少し調合しないといけない物があって時間無いからねー」

P「あ、あぁ」

志希「時間があったらいつでも寄ってね♪ というか毎日でも来て♪」

P「いや、休みは今日でおしまいだからしばらくは来れないよ」

志希「そっかー……」


P「でもこの公園は通勤の時に通るから、帰りに寄れたら寄ってみるよ」

志希「本当に?」

P「あぁ」

志希「やったー♪ じゃあ絶対に来てね!」

P「わかったわかった。じゃあ俺は帰るな」

志希「うん! じゃあまたねー♪」

P「あぁ、またな」


ウィーン バタンッ



P「……」

P(何だか知らないが遊ぼうという話になってしまった)

P(まぁ何だか心配だし、時々様子を見に来る事にするか)

P「……それなりに面白い子だったしな。遊びに来ても、良いか」


志希と遊べるようになりました。
ぶらつくコマンドで会いに行けるようになります。


P「……ん? 何だ今のナレーション」



――

寝るわ
とりあえず酉残しておく

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