ちひろ「私がプロデューサーさんにあげられるものは」(83)

ちひろ「……んー」

P「どうしたんですか、ちひろさん?」

ちひろ「いえ、特になんでもありませんよ」

P「そうですか。ちひろさん」

ちひろ「なんでしょう?」

P「あのドリンクもらえませんか?」

ちひろ「ドリンク……あぁ、はい」

P「どうも。これってどこのメーカーのなんですか?」

ちひろ「実家が製薬会社をやってまして」

P「はぁ……効くんですよ、これ。元気も出ますし」

ちひろ「ありがとうございます」

P「あ、お代置いときますね」

ちひろ「あ、はい」

ちひろ「……」カタカタ

ちひろ「うん、今月も黒字」

ちひろ「経営も安定」

ちひろ「アイドルたちのお仕事も増えて……」

ちひろ「……」

ちひろ「なんだろう、このモヤモヤ」

ちひろ「プロデューサーさんはアイドルと良好な関係を築いてる」

ちひろ「とってもいいこと……なのに」

ちひろ「うーん」

――――

――

P「はい、こちらCGプロモーションの……はい! お世話になっております。はい、ありがとうございます!」

ちひろ「……」カタカタ

P「はい、ありがとうございます。それでは……失礼します。はい」ピッ

ちひろ「お仕事ですか?」

P「はい。今回は雫に牧場ロケだそうです」

ちひろ「雫ちゃんですか……大きいですね」

P「そうですね。やっぱり牛とか動物に慣れているのは大きなアドバンテージです!」

ちひろ「そうじゃなくて、その」

P「じゃあ、なんのです?」

ちひろ「……いえ、そうですね。プロデューサーさんですものね」

P「んー、今日の予定は……」

ちひろ「プロデューサーさん、おはようございます」

P「あ、ちひろさん? おはようございます」

ちひろ「あの、少しいいですか?」

P「え? えぇ、まぁ」

ちひろ「これ、よかったらどうぞ」

P「これって……いいんですか?」

ちひろ「はい。試供品みたいなものですから」

P「じゃあありがたくいただきます。ありがとうございます」

ちひろ「いえいえ」

P「それじゃ、凛送ってきますね」

ちひろ「あ、はい。いってらっしゃいませ」

P「ふぅ……」

ちひろ「あ、お帰りなさい」

P「ちひろさん、まだ事務を?」

ちひろ「ふふっ。結構、お仕事も増えていますからね」

P「ありがとうございます。いつも……」

ちひろ「いえいえ。お仕事ですから」

P「そうですね、やりがいもありますし」

ちひろ「やりがいですか?」

P「あれ? 俺何か変なこと言いました?」

ちひろ「……いえ、たぶん言ってない、と思います」

P「そうですか……」

ちひろ「……」カタカタ

P「ちひろさーん」

ちひろ「あ、あれ? プロデューサーさん。お帰りなさい」

P「大丈夫ですか? ずっとやっていたような」

ちひろ「いえいえ、やっぱりきちんと働いてきちんとお金を稼ぎたいですから」

P「お金、ですか?」

ちひろ「あれ、何か変なこと言いました?」

P「……いえ、特に」

ちひろ「そうですか。ふふっ、業績もちゃんと上がってますよー」

P「そうなんですか?」

ちひろ「もう、担当アイドルのことはちゃんと把握しておいてくださいよ」

P「アイドルのことは考えているつもりなんですけどね」

P「よし。大きな仕事とれました!」

ちひろ「わぁ、おめでとうございます!」

P「ありがとうございます。めでたいなぁ」

ちひろ「そうですね、これで資金も……」

P「ちひろさん?」

ちひろ「おっと、失礼しました。とにかく、よかったです」

P「まだまだこれからですけどね?」

ちひろ「そうですね」

P「そうですとも!」

ちひろ「ふふっ、プロデューサーさんって努力家なんですね」

P「がんばってるのはアイドルですよ。俺はただの手伝いです」

P「……」

ちひろ「あれ? プロデューサーさん、まだ帰って……」

P「zzZ」

ちひろ「……寝てるんですか。まったくもう」

P「ん……」ブルッ

ちひろ「ひざかけでもかけておきましょうか……」

P「……」

ちひろ「これでよし、と」

P「……ったぞ、うづき……しごと……」

ちひろ「……夢の中でもお仕事だなんて、本当に病気みたい」

P「んぅ……? あ、あれ」

ちひろ「あ、おはようございます」

P「ちひろさん? ……あ」

ちひろ「お仕事大変ですもんね。居眠りしちゃいましたか?」

P「あはは、お恥ずかしい……」

ちひろ「いえいえ、眠気覚ましはいかがですか?」

P「あ、どうも」

ちひろ「……」

P「あ、お代は?」

ちひろ「えーっと……結構です」

P「え、いいんですか?」

ちひろ「それも試供品みたいなものですから」

P「それじゃあ、ありがたくいただきます」

ちひろ「はい」

P「ふぅ……」

ちひろ「どうですか?」

P「どうって……あぁ、そっか。試供品って言ってましたものね」

ちひろ「はい。味とか、気分とか」

P「そんなに普段のと変わってる感じはしませんね」

ちひろ「そうですか、ありがとうございます」

P「いえ、こちらこそ」

ちひろ(……まぁ、いつものドリンクなんだから当たり前なんだけれど)

P「……ん? 何か顔についてます?」

ちひろ「い、いえ。とくには」

P「そうですか、ならいいんですけれど」

P「そうだ、ちひろさん」

ちひろ「なんです?」

P「いつもありがとうございます。お礼と言ってはなんですけれどこれ」

ちひろ「……?」

P「ちょっとしたアクセサリです。ぬいぐるみとかも考えたんですけれど少女趣味すぎるかと思って」

ちひろ「あ、ありがとうございます」

P「さてと……あー。微妙な時間だなぁ」

ちひろ「あ、帰れないんですか?」

P「もうこのまま明日の業務始めちゃったほうが楽かもしれませんね」

ちひろ「それは流石に……」

P「ははは、冗談ですよ……仮眠室借ります」

ちひろ「はい、どうぞ。戸締りしたら私は帰りますね」

P「わかりました、お気をつけて」

ちひろ「大丈夫ですよ、ありがとうございます」

ちひろ「私に、プレゼント……」

ちひろ「中身は……」ガサガサ

ちひろ「……」

ちひろ「普通の、アクセサリ。きっとそんなに高くない」

ちひろ「なのに、なんだか……すごく……」

ちひろ「嬉しい、な」

ちひろ「なんでだろう……?」

ちひろ「……この世はお金がすべて」

ちひろ「このお仕事だって、軌道に乗った時のリターンが大きいから最小限の出資でやってみただけ」

ちひろ「……」

ちひろ「それだけ?」

ちひろ「わからないな……私、わかんない」

ちひろ「お父さんもお母さんも、諭吉さんも教えてくれない」

ちひろ「このモヤモヤって、やっぱり……」

ちひろ「……好きってことなのかしら?」

ちひろ(……わ、なんだか照れくさいな)


ちひろ(まるで、恋する乙女みたい)



ちひろ「……乙女?」


ちひろ(でもそれはない、かな)

ちひろ(だって私、どうしたらいいかわからないもの)

ちひろ(これも、きっと勘違い)



ちひろ(乙女なんて、柄でもないし)


ちひろ「……自分で考えててむなしいな。寝ちゃおう」

 ガチャッ

ちひろ「おはようございます」

ちひろ「……って、あら」

P「あ、おはようございます。ちひろさん」

ちひろ「お、おはようございます」

P「どうしたんですか?」

ちひろ「い、いえ。別に……お早いんですね」

P「あはは、まぁちゃんと寝ましたからご安心を」

ちひろ「気を付けてくださいね、体は資本ですよ」

P「わかってますよ。ありがとうございます」

ちひろ「それならいいんですけれど……」

P「さて、今日もお願いします」

ちひろ「は、はいっ!」


ちひろ(うぅん、なんだか顔が熱いような……風邪かしら?)

ちひろ(それとも昨日の晩意識しちゃったから……なんて)


P「どうしました?」

ちひろ「い、いえ! 特に! 今日のお仕事の予定は卯月ちゃんのスポーツバラエティ参加ですね」

P「卯月、どんなグループやクイズに参加しても平均とるんですよね……プロに交じってもですからね」

ちひろ「すごいことだと思いますよ」

P「あれは卯月の実力ですね」

ちひろ「ふふ、そうですね」


ちひろ(あぁ、なんだか声が上ずってる気がする。だめだな、ちょっと考えただけでこんな……)

P「ちひろさん?」

ちひろ「はいっ!」

P「……どうしたんですか? なんだかちょっと、変ですよ?」

ちひろ「そうですか……?」

P「はい。寝不足とか、体調不良とかじゃないですか?」

ちひろ「へ、平気です。へっちゃらですとも!」

P「それならいいんですが……しかし」

ちひろ「ほ、本当に平気ですから!」

P「……無理はしないでくださいね?」

ちひろ「大丈夫ですよ。ほら、ドリンクも、ありますし! ね!」

P「は、はぁ……」

ちひろ「よかったらプロデューサーさんもどうでしょう? ほら、元気!」

P「……いいんですか?」

ちひろ「え、えぇ!」

P「でも、お代は?」

ちひろ「いいえ、大丈夫ですから!」

P「……じゃあ、ありがたくいただきます」

ちひろ「はい! どうぞどうぞ」

P「じゃあ、気合い入れていきましょうか!」

ちひろ「はいっ!」


ちひろ(あ、喜んでもらえた……!)

ちひろ(……嬉しい、かも)

――

ちひろ「プロデューサーさん、お疲れ様です。ドリンクいかがですか?」

P「え? あぁ、ありがとうございます」

ちひろ「いえいえ!」

P「じゃあもう少しがんばってみますか」

ちひろ「あっ、その……無理はしないでくださいね!」

P「わかってますよ。大丈夫です」


ちひろ(やっぱり、喜んでもらえるんだ)

ちひろ(してもらったら嬉しいことを、してあげればいいんだ)

ちひろ(……やっぱり、好きってことよね。これって)

ちひろ(そうだってわかったんだから)

ちひろ(そうね、私がしてほしいことを……欲しいものを……)


ちひろ「……何がいいかな」

凛「ちひろさん?」

ちひろ「え? あ、凛ちゃん。おはようございます」

凛「うん、おはようございます……何か考え事?」

ちひろ「ううん、なんでもありませんから……」

凛「ふぅん……」

ちひろ「な、なんでしょう?」

凛「プロデューサーのことだったりして」

ちひろ「や、やだなぁ。そ、そんな、わけないじゃない、ですか、あは、はは……」

凛「……ちひろさん、嘘そんなに下手だっけ?」

ちひろ「ぁぁ……」

ちひろ「――というわけでして……」

凛「ふぅん……」

ちひろ「あの、その……」

凛「そっか。ちひろさんが恋するなんて……」

ちひろ「やっぱりこれは好きってことですよね?」

凛「うん、たぶん」

ちひろ「でも、こんなの……」

凛「おかしいことじゃないよ? 少なくとも、私は応援する」

ちひろ「凛ちゃん……その、凛ちゃんは?」

凛「私?」

ちひろ「プロデューサーさんのことを、その……」

凛「……そういう対象ではない、かな。頼れる人だと思うし、大切なパートナーだけど」

ちひろ「そ、そうなんですか……ほっ」

凛「ふふっ、なんだかいいね」

ちひろ「え、えぇ?」

凛「ちひろさんがそんな風に焦ったりするの初めて見たから」

ちひろ「私、普段どんなイメージだったんですか……?」

凛「それは……」

ちひろ「それは……?」

凛「……」

ちひろ「あの、凛ちゃん?」

凛「うん、この話はおいておきたいかも」

ちひろ「ちょ、ちょっと!」

凛「ふふっ、とにかく……がんばってね」

ちひろ「も、もちろん!」


ちひろ(応援されちゃった)

ちひろ(うん……じゃあ、明日からも、がんがんアピールしなきゃ)

ちひろ「ふぁいと、私っ」

――

ちひろ「プロデューサーさん、おはようございます。ドリンクどうぞ」

P「あ、ありがとうございます」

ちひろ「お代はいりませんから!」

P「え? あぁ、ありがとうございます」


ちひろ(まずは、ドリンク!)

ちひろ(いつも仕事が大変で疲れてるだろうし、ちょっとでもねぎらわれたら嬉しいはず……)

ちひろ(やってもらって、嬉しいこと。がんばろう……)

――

ちひろ「プロデューサーさん、おはようございます。今日は寒いですね」

P「確かにそうですね……ちゃんと気を付けるよう言わなきゃ……」

ちひろ「だから、その。これどうぞ」

P「え? カイロ、ですか」

ちひろ「はい! さ、寒いですからもっていってください!」

P「ありがとうございます。それじゃあ、ありがたく……」


ちひろ(やった、これでプロデューサーさんが私のぬくもりを……)

ちひろ(私のぬくもりじゃなくてっ、もう! 何考えてるのかしら私ったら)

ちひろ(でもあったまってくれたら嬉しい……かな)

――

ちひろ「プロデューサーさん、おはようございます」

P「おはようございます……どうしたんですか?」

ちひろ「その、今日は寒かったので、あったかいものをと思って……」

P「は、はぁ」

ちひろ「シルクのコートです。受け取ってください」

P「……いや、これはさすがに」

ちひろ「ご、ご迷惑でしたか?」

P「迷惑というか、その……」

ちひろ「すみません、捨てますから……」

P「えっ、いや、それはもったいないですよ!」

ちひろ「でもこれ、男物ですし。私は着れないので捨てるしか……」

P「そ、そんなことするぐらいならもらいますから」

ちひろ「本当ですか!?」

P「え、えぇ」

――

ちひろ「プロデューサーさん、お昼って普段どうしてます?」

P「え? まぁ、食べたり食べなかったりですかね……簡単に食べれるものばかりですし」

ちひろ「じゃ、じゃあこれを!」

P「これって……お弁当ですか?」

ちひろ「いえ、その……簡単に食べられるごはんがないかと思って。宇宙食の一種なんですけれど」

P「は、はぁ……」

ちひろ「これなら、時間がなくても食べられますし。どうでしょう?」

P「それじゃあ、ありがたく……でもこういうのってお高いんじゃ?」

ちひろ「私がプレゼントしたくてしてるんです! ね?」

P「でも……」

ちひろ「いいですから!」

P「は、はぁ」

――

ちひろ「……こんな感じで、少しずつアピールをしてみてるんですけれど」

凛「……」

ちひろ「あの、凛ちゃん?」

凛「ちがうっ!」ダンッ

ちひろ「えっ!?」ビクッ

凛「なんで、プレゼントが宇宙食とかシルクのコートとかなの!?」

ちひろ「こ、今度は移動手段として車でもって思っているんですけれど」

凛「ダメだよ! それじゃあ全然、違うよ!?」

ちひろ「そうなんですか……?」

凛「そうです。……というか」

ちひろ「は、はい」

凛「ひょっとして、ちひろさん……不器用?」

ちひろ「だって、その……こんな気持ちは初めてで」

凛「初めてでも流石にこれは……はぁ。まぁいいや」

凛「たとえばちひろさんがシルクのコートや車をもらったらどう思う?」

ちひろ「とっても嬉しいです」

凛「……」

ちひろ「あ、あれ?」

凛「そっか……そもそもそこが……」

ちひろ「だって、世の中はお金なんですよ! お金以上に不変の価値のあるものなんてありません!」

凛「うん?」

ちひろ「そんなお金を、相手のためにかけたいと思うのが。払うのが。すごいことだと、相手を思っているという証明じゃありませんか?」

凛「……」

ちひろ「……少なくとも。これまでの私にとってはそうなんです」

凛「……ちひろさん」

ちひろ「わからないんですよ……どうしたら、いいのか」

凛「……」

ちひろ「お金じゃ、ダメなんですか?」

凛「私は、それは違うと思う」

ちひろ「……」

凛「まだ、私も子供だから。お金がどれだけ大事なのかってきっとわかってないんだと思う」

凛「それでも、私は」

凛「お金よりももっと大切なものがあると思ってる」

ちひろ「……そう、なのかしら」

凛「ただの意見だけど。そう思いたいっていうのもあるかな」

ちひろ「うん……ありがとう、凛ちゃん」

凛「……それに、プロデューサーも」

ちひろ「え?」

凛「ううん、やっぱりなんでもない。これは今いうことじゃないから」

ちひろ「は、はい……?」

凛「とりあえず、宇宙食はやめたほうがいいと思う」

ちひろ「はい……でも、そうしたらプロデューサーさんのお昼が……」

凛「……本気でいってるの?」

ちひろ「え?」

凛「思いを伝えたいなら、手作りが一番。でしょ?」

ちひろ「て、手作り?」

凛「……作れない、の?」

ちひろ「うちはほとんど外食で……」

凛「……リッチだね」

ちひろ「うぅ、めんぼくない」

凛「ううん、私もうまくはないけど手伝うから……ね」

ちひろ「凛ちゃんありがとうございますぅぅ……」

凛「わ、顔ぐちゃぐちゃだから。涙拭いて!」

ちひろ「あい……」グスグス

凛「包丁の持ち方はこうやって……」

ちひろ「は、はい」


凛「……ご飯は洗うのは水っていうのは?」

ちひろ「わかってますよ、それは大丈夫です!」


凛「味付けは好みだけど……余計なものをいれないっていうのが一番大事だよ」

ちひろ「でも、せっかくだから……」

凛「そういうはもっと慣れてからすることなの」

ちひろ「は、はい……」


凛「……料理のさしすせそは?」

ちひろ「え? えーっと、さとう、しお、す、せ、せ……せ、せんざい?」

凛「……」

ちひろ「そは……そ。そ……ソイソース! しょうゆ!」

凛「ちょっと惜しかったかな、うん」

ちひろ「で、できた……!」

凛「うん、美味しい。こんな感じならきっと喜んでもらえるよ」

ちひろ「凛ちゃん、本当にありがとうございます! どうお礼をしたらいいのか……」

凛「お礼はいいよ。気持ちだけで」

ちひろ「でも、やっぱりこういうのをタダで……」

凛「だから、それ」

ちひろ「え?」

凛「お金とかじゃなくて、気持ちが大事。でしょ?」

ちひろ「……はい!」

凛「うん、それでいいと思う……がんばってね、ちひろさん」

ちひろ「はいっ!」

ちひろ「あの、プロデューサーさん」

P「あ、ちひろさん。おはようございます……その」

ちひろ「きょ、きょうの! ごはんなんですけれど!」

P「あ、あの! いつもありがたいんですけれど、やっぱり……」

ちひろ「こ、これを!」

P「……え?」

ちひろ「……」プルプル

P「し、新製品ですか?」

ちひろ「ち、ちがいます。その……」

P「お、お弁当……です、よね。ひょっとして、手作り、とか?」

ちひろ「はっ、はい!」

P「い、いいんですか?」

ちひろ「い、いらない、なら結構です、けど……」

P「い、いえ! いります! 超いります!」

ちひろ「よ、よかったぁ……」

――

ちひろ「プロデューサーさんはお弁当をもってお仕事に……」

ちひろ「……だ、ダメだぁ。お仕事が手につかない」

ちひろ「はぁ……」


ちひろ「……」

ちひろ「……美味しくなかったらどうしよう」

ちひろ「そもそも食べにくいんじゃないかしら……」

ちひろ「そうしたら、今まで通り宇宙食のほうがよかったって……言われちゃうんじゃ……」

ちひろ「そ、それどころかさっき、『いつもありがたいけどやっぱり』って言ってたような」



ちひろ「私のあげてるもの、やっぱりいらなかったのかな……」

ちひろ「……プロデューサーさん……」

P「はい?」

ちひろ「ひゃ、わ、あっ!?」ツルッ

P「あ、あぶない!」


            ドンガラガッシャーン!




        P「……いてて」
             ちひろ「う……えっ!?」


         P「あ……え」むにっ
          ちひろ「あ、あの。プロデューサーさん」


P「す、すみません!」ササッ

ちひろ「い、いえ。た、助かりましたし……その、抱き留められる、ぐらいなら、嬉しい、というか、その」

P「でも、いや、やわらか……」

ちひろ「プ、プロデューサーさん……」

P「す、すみませんっ!」

ちひろ「……あの」

P「は、はい」

ちひろ「どう、でした?」

P「えっと、本当に申し訳なく……」

ちひろ「そっちじゃなくて!」

P「え? あ、はい! お弁当、ですよね、お弁当! すごく嬉しかったし、美味しかったですよ!」

ちひろ「そ、そうですか。よかった……」

P「……よかったら、また」

ちひろ「え?」

P「また、作ってきてもらえませんか……?」

ちひろ「も、もちろんです!」

ちひろ「……ところで、なんで今事務所に……? まだ送迎が……」

P「凛が別件で用事があるらしいので駅まででいいって言われたんです。それでいったん事務所にと……」

ちひろ「なるほど……」

P「あの、ちひろさん」

ちひろ「は、はい。なんでしょう?」

P「その……最近、プレゼントをしてくれていたじゃないですか」

ちひろ「す、少しでも喜んで欲しくて……ですね……」

P「そ、それも嬉しかったですけど。やっぱり、俺……お弁当が一番うれしかったです」

ちひろ「そうなんですか……」

P「俺が、一番欲しかったのはやっぱり、人のぬくもりだったのかなぁ……なーんて」

ちひろ「ひとの、ぬくもりですか?」

P「あ、いや……まぁ。家に帰ると寝るばかりでしたしね……」

ちひろ「……お仕事、増えてますしね」

P「ははは、そんな感じです」

ちひろ「……人の、ぬくもり」

P「ちひろさん?」

ちひろ「私、まだまだお料理も下手ですけれど……プロデューサーさんが望むなら」

P「え?」

ちひろ「あげられ、ますよ? その……ぬくもり」

P「……い、いやいや! 気持ちはありがたいですけど、でも」

ちひろ「それに、私。知らないんです……そういうのを」

P「ちひろ、さん……」

ちひろ「だから。私がプロデューサーさんにあげるだけじゃなくて、プロデューサーさんも私に、ください」

P「……男にそういうこというと、危ないですよ?」

ちひろ「危ない橋も、嫌いじゃないんです。得るものが大きいなら」

P「俺が、そうだっていうんですか?」

ちひろ「たぶん、私の中ではとっても。自分でもわかんないぐらい、大きくなってるんだと思います」

P「……ちひろさん、そういうのは反則ですって」

ちひろ「ぁ……」

               ぎゅうぅ…
ちひろ「あ、あの。プロデューサーさん。こんな、ところで……」

P「嫌、ですか?」


           ぎゅっ……ぎゅう
ちひろ「……嫌じゃ、ないです」
          
P「お弁当、本当に嬉しかったです」


         ぎゅぅぅぅ………
ちひろ「……プロデューサーさん、私」

P「……俺、実はちひろさんのこと――」



ガチャガチャ…
<あれー? ドアが開かない……

P「!?」バッ

ちひろ「っ!」ササッ

卯月「おはようございます、島村卯月です!」

ちひろ「お、おはようございます。卯月ちゃん」

P「よ、よぉ卯月。今日は早いな、は、はは」

卯月「え? 時間通りのつもりだったんですけれど……」

P「え? あ、うん! そうだな!」

卯月「さぁプロデューサーさん、今日も頑張りましょう!」

P「お、おう! それじゃあ、ちひろさん!」

ちひろ「え? あ、はい! いってらっしゃい」

P「また、帰ってきてから。話したいことがありますから、待っててください」

ちひろ「……はい!」


卯月「??」

P「さ、いくぞ卯月」

卯月「はい、わかりました! わかりませんけれど!」

P「うん、卯月はそれでいいと思う」

卯月「えぇっ!? ひどいですよプロデューサーさん!」

ちひろ「……やっぱり、お金は大事だと思う、けど」

ちひろ「お金以上に大切なこと、か……」

ちひろ「……」


ちひろ「私がプロデューサーさんにあげられるものは」

ちひろ「私の全部と、それから……」

ちひろ「プロデューサーさんを何よりも大切にする気持ち?」


ちひろ「お金よりも大切なものがあるんじゃなくて」

ちひろ「お金よりも、大切にしたいものがある……ってこと……」

ちひろ「……なーんてね」


ちひろ「よしっ、お仕事がんばろう!」

おわり

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