アルミン「海」(159)

※現代転生パロ

繁華街に出るまでにかかる時間は、車を走らせて三十分。

公共交通機関はバスだけだが、それも一時間に一本しか走っていない。

周りに何があるかといえば、山と、山と、川。
それから個人経営の寂れた商店が一軒。

そんな、田舎町。


そこが僕ことアルミン・アルレルトの故郷だ。

あまりにも田舎すぎるこの町は何かと不便が多く、若い人達は次々と都会へと移り住んで行ってしまう。
人口は減っていく一方だ。

昔は多かったと聞く子供の数も、今では片手で数えられるほどにまで減ってしまっている。

同い年の子供と出会えるのは、町から出たところにある高校に上がってから、という例も少なくない。

さて、そんな中、僕には近所に同い年の友達がいる。
幸いにも馬が合い、幼い頃からずっと二人で遊んできた。

その子に手を引かれて山を散策してみたり、一緒に本を読んでみたり、この町の外について思いを馳せてみたり、など。

僕一人だけでは出来ないことも、その子と一緒にたくさん経験してきた。

その友達は女の子だけど、高校三年生になった今でも友達としての交流は続いている。



その友達の名前は……、




「ミカサ」



しんと静まり返った放課後の教室。
ミカサはその中で、何をするわけでもなく、自分の席に座って窓の外を眺めていた。

が、僕が来たことに気付くと彼女はこちらへと目を向け机の上に置いてあった鞄を持って立ち上がった。

「ごめんね、お待たせ! ああもうこんな時間だ!」

時計を見ると、下校時刻まではあと五分しかなかった。
いくら委員会が長引いてしまったとはいえ、随分と待たせてしまった。

本当にごめんね、と謝ると、ミカサは何てことのないような顔をして、たった一言、「いいえ」と答えた。

それは素っ気無い返答に思われるだろうが、僕は知っている。
その言葉の中に、様々な意味が含まれていることを。

「じゃあ、待っててくれてありがとう」

そう言うと、ミカサは何も言わなかったがコクリと頷いてみせてくれた。


季節は夏だ。
もう夕方だというのに、外に出るとまだまだ元気のいい太陽が僕らに照り付けてくる。

暑い。思わず呟くと、隣でミカサが頷いた。その割には、彼女はとても涼しげな表情をしているのだが。

バス停までの道のりを歩いていると、ふと、ミカサが思い出したかのように声を上げた。

「アルミン、あの話は何とかなりそう?」

その問い掛けに、僕は満面の笑みで頷きながら答えた。

「もちろんさ」


幼い頃から、僕は故郷とその近辺から出たことがない。

理由は単純だ。
両親が仕事で忙しく、僕を旅行や行楽に連れていける時間がなかったのだ。

そのことについて両親を責めるつもりは毛頭ない。
ここまで立派に育ててくれたのだから。

しかし、周りの人が町の外の話をしているのを聞くと、やはり興味を持ってしまうものだ。


その中でも、特に僕が気になったのが、「海」だった。

テレビや本なんかで「海」を見る機会はたくさんあったけど、僕は一度でもいいから実物を見てみたいと思っていた。

この目で見たい。

出来ることなら触れてみたい。

本当に塩水なのか、確かめてみたい。

しかし、当然のことながら、子供の僕が一人で遠い場所にある海に行くのを許してもらえるはずがない。

なので、幼い頃から今まで、僕は海に思いを馳せることくらいしか出来なかった。

けど、それも、もう終わり。


高校生活、最後の夏休み。
長く長い説得の末、僕はついに海に行くのを許された。

ミカサと一緒に。

アルミンとミカサだけか。エレンはいないんだな。いつも三人一緒のイメージがあるからな

「志望校への判定も問題なかったし、……ミカサと一緒なら安心なんだってさ。普通は女の子と一緒なんて心配するものなんじゃないのかな」

「アルミンと私は友達。それを、私の両親もあなたの両親もよく知っている」

「そうだけど」

確かに僕とミカサは友達で、それ以上になるようなことはこの先ないだろう。
とは思うけど、もう少しくらい危機感を持って欲しいと思ってしまうのは仕方ないことではないだろうか。

だって僕も、男なんだから。
こう見えて。

そんな僕の複雑な心境も知らずに、ミカサは呟いた。

「海。とても、楽しみ」と。

***

「オレには夢がある」

「××を駆逐してこの狭い壁内の世界を出たら」

「外の世界を」

「探検するんだ」

少年が、話している。

その顔は、モヤがかかって分からない。
彼の言葉の一部にもノイズがかかって聞き取りにくい。

あの少年は、誰だろう。

どうしてだろう、随分と懐かしい感じがする。

まるで、遠い昔に出会ったような、

気が、

する。

***

短いけどここまで

>>12
エレンについては追々

「アルミン」

体を揺すられて、僕は目を覚ました。目の前にはミカサの顔がある。

「ミカサ……? 何で僕の部屋に……」

「今日は朝から一緒に課題をしようと約束していたはず」

そう言われて、僕は飛び起きた。

そうだった。ミカサの言った通りだ。

今日は夏休みの初日。

早めに課題を終わらせてしまい、海へ行く時の心配ごとを少しでも減らそう。
ということで考えが一致した僕とミカサは、初日の朝から僕の部屋に集合しようという約束をしていたのだ。

しかし、どうやら休みということで気が緩んでしまった僕は約束の時間を過ぎても眠ってしまっていたらしい。

それを、ミカサが起こしてくれたのだろう。

「ご、ごめんね、ミカサ! 急いで準備するからリビングで待ってて!」

「分かった。けど、ゆっくりでいい。時間はたくさんあるので」

そう言って、ミカサは部屋から出て行った。
ドアが完全に閉まったのを確認してから、急いで着替えを始めた。


「お待たせ!」

リビングに行くと、ミカサがソファーの端っこに腰掛けていた。
僕がやって来たのを見て、黙って立ち上がる。

そのまま僕の部屋へ行く、と思いきや、彼女はその場に立ち、じぃっと僕の顔を見つめてくる。

何? と問い掛けてみても、黙って見つめてくるだけで何も言おうとしない。

そろそろ気まずくなってきた頃、ミカサはようやく口を開いた。

「どんな夢を見ていたの?」

「ゆ、夢?」

「ええ。さっき、アルミンはとても嬉しそうな顔をして眠っていた」

そう言われて、思い出そうと考える。

確かに、夢は見ていたような気がする。
けど、残念ながら内容までは覚えていなかった。

ただ、一つだけ覚えていることがある。

「ごめん、内容は覚えてないや。……けど、何だか、懐かしい感じがした」

僕の言葉を聞いたミカサが、ひゅう、と息を飲んだ。

気がした。


その後、僕の部屋に移動して、何事もなく課題を進めた。
僕は勉強が嫌いではないし、ミカサもまた苦手ではないので途中で休憩を入れながらも順調に進んでいった。

さて、これで何度目かの休憩を入れた時だった。
そういえば、と、ミカサが口を開いた。

「アルミンと海に行くと言ったら、クリスタに詰め寄られた」

クリスタというのは、高校でのミカサの友達だ。
僕も何度か話したことがあるが、見た目も中身も天使のような女の子だ。

そんなクリスタがミカサに詰め寄ったという。

失礼だとは思うが、ミカサがクリスタに、というのは容易に想像できるが、その逆は全く想像できない。

「何でまた」

「付き合っているのか、と。けど、すぐに否定した」

「ああ……」

そういうことならば、想像できなくもない。

目をキラキラさせながら、あの天使の笑顔でミカサに迫っているクリスタの画が思い浮かび、僕は思わず苦笑した。

そんな僕を見てどう解釈したのか知らないが、ミカサは「アルミンの気持ちはとても分かる」頷いてみせた。

「私達は、友達。付き合うなんて絶対にない。そうでしょう? アルミン」

「うん、僕もそう思うよ」


これは本心からの言葉だった。

僕とミカサは、友達以上になることは絶対に、ない。

今日はここまで
見てくれている人がいたら、ありがとう
おやすみなさい

支援ありがとうございます

ぼちぼち投下していきます

なぜ言い切れてしまうのか?

それは、僕とミカサは物心つく前からの仲なので、今更そんな目で彼女を見ることが出来ない、というのが最大の理由だ。


そして、もう一つ。


ミカサには、好きな人がいるのだ。

ミカサから「好きな人」がいると聞かされたのは、僕らがまだ小学生の頃だった。

ずっと一緒にいたミカサに、自分の知らないうちに「好きな人」が出来ているのはショックだったが、それ以上に好奇心の方が強かった。

誰なの?
そう問い掛けた僕に、ミカサは少しだけ迷い、こう言った。


「遠いところにいる人」

ミカサの言葉を聞き、遠いところってどこなの? 僕も出会ったことがある? などと問い詰めてみたが、その問い掛けの全てにミカサは頭を振るだけだった。

そして、ぽつんと、寂しそうな声で言ったのだ。


「会えない」と。


……その言葉通り、ミカサは今の今まで好きな人には会えていないようだ。

そして、きっとこれからも会えないのだろう。

会えないのだろう。

そんなことを考えていたら、自分のことではないのに、何だかとても寂しくなってしまった。

僕は気を紛らわすように教科書をパラパラと捲りながら声を上げた。

「さて、そろそろ再開しようか!」




***

「なぁ…アルミン…」

「お前が……」

「お前が教えてくれたから…俺は……」

「外の」

「世界に」

少年が、僕に語りかけてくる。
苦しそうな、悲しそうな、悔しそうな声色で。

少年が、僕に手を伸ばしてくる。
僕もそれを握り返そうと手を伸ばし、叫ぶ。

「×××!! 早く!!」

自分で発したはずの言葉は、ノイズが掛かっていて聞き取れなかった。
大切なことを言った気がするというのに。

伸ばされた少年の手は、僕の手を握ることなく、

落ちて

いった。

***


??目を覚ますと、僕は泣いていた。
とても悲しい夢を見ていた気がする。内容は忘れてしまったけれど。

のろのろと体を起こしながら、時間を確認する。

時刻は午前五時。
昨日とは違い、随分と早起きをしてしまったようだ。

もう一度寝ようかと思ったが、また嫌な夢を見てしまうのが怖くて、そのまま起きていることにした。

ふと、机の上に本が置いてあるのが目に入り、思い出した。
そうだ、今日は図書館へ本を返却しに行かなければならない。

図書館に行くには、バスに乗って行かなくてはならない。
無論、帰る時もそうだ。


本の返却手続きを終わらせて、時計を見る。
次に来るバスは一時間後だ。
……ということで、僕はその間、図書館で本を読んで暇をつぶすことにした。


「あれ、アルミン?」

暇つぶしにどの本を読もうか、と品定めをしていると、誰かに話し掛けられた。

振り返ってみると、そこには同じ学校の友人であるマルコがいた。
その横には、同じく友人のジャンもいる。

その手に教科書とノートを持っていることから、ここには勉強をしに来たのだろう。

「やあ。偶然だね、二人とも」

「そうだね。アルミンも課題かい?」

「ううん。今日は本を返しに来ただけ。今はバスを待つ暇つぶし」

そう言うと、マルコは「そういえばアルミンの家はあの町だったね」とか、「あの本が面白いよ」と勧めてくれる。

なるほどなるほど、とマルコの言葉に頷いていると、そのマルコの隣でジャンがそわそわしていることに気が付いた。

中々に挙動不審だ。

マルコもそれに気付いたようで、僕と話すのを止めて彼を見た。

ジャンが何を言いたいのか、大体想像がつく。
彼に気付かれないように小さく笑いながら、口を開いた。

「どうしたの、ジャン」

「え!? あ、いや……別に」

「ミカサなら今日はいないよ」

「……!! ミ、ミカサなんて一言も言ってないだろ!」

そう言いながらも、ジャンは少しだけがっかりした様子だった。

その様子が面白くて思わずマルコと顔を見合わせながら吹き出すと、「笑ってんなよ」と睨まれてしまった。

けど、微かに頬を染めながらの睨みは、あまり怖くない。


「あ、ミカサで思い出した」

ひとしきり笑ったマルコが、目尻の涙を拭いながら言った。

「今度、ミカサと二人で海に行くんだって?」

「うん。よく知ってるね、誰に聞いたの?」

「クリスタ達が騒いでたから」

「ああ……」

クリスタ、という名前に思わず苦笑する。

ミカサは否定したと言っていたけれど、どうやらクリスタはその言葉通りに受け取らなかったようだ。
ミカサの否定は照れ隠し、とでも思っているのだろうか。

これは夏休みが明けたとき、大変かもしれない。
今からクリスタの誤解を解く方法を考えとかなければならない。

そんなことを考えていると、鋭い視線を感じた。誰からのものというのは愚問でしかない。

ジャンだった。

ジャンも僕とミカサの関係は知っているはずだけど、やっぱり好きな女の子が自分以外の男と遠出をするのは面白くないのだろう。

「……ジャン、何度も言ってるけど、僕とミカサはただの友達だからね?」

「んなこと知ってるよ! けど、何かこう……分かるだろ!?」

「ま、まあ、少し」

こんな時にどういう表情をしていいか分からなかったのでとりあえず苦笑すると、ジャンにがしっと肩を掴まれた。

「俺も連れて行け!」

「えぇ!?」

「……と、言いてぇところだが、俺だってそんな野暮じゃねぇ……クソッ、楽しんでこいよ……」

そう言うジャンの顔は、とても苦々しいものだった。
そして、その隣に立つマルコも、笑ってはいるのだがどこか寂しそうだ。


どうしたの、二人とも。


そう言おうとしたのに、なぜだか声は喉に突っ掛って出てこなかった。

今日はここまでにします。

すっかり寒くなりましたね。
皆さん風邪引かないように気を付けてください。

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