黒鎧「勇者と魔王、捕まえた」(182)


魔王・勇者「さてどうしたものか……」


<魔王城.廻りの間>


 ドバタガッシャァッ!


勇者「おうおうおうおう! 勇者様のご登場だぜ!」

魔王「来たか勇者、待ちくたびれたぞ!」

勇者「面倒なゴタクは嫌いだ。覚悟はいいか!?」

魔王「我輩随分待たされた! さっさとかかってこないかこのド阿呆が!」

勇者「いい返事だ! 早速行くぜ!」ダンッ!

魔王「来い!」グッ

勇者「うおおおおおおおお!」

魔王「ははははははははは!」


 ――ズドッ!


勇者「……」

魔王「……」


黒鎧「……」キュイィィン


勇者「えっ」

魔王「は?」


 勇者の剣。魔王の拳。その両方を、突如出現した黒い鎧が受け止めていた。
 瞬きする前は――戦闘中にそんな余裕があったとは思えないが――いなかったと断言できる。
 だがそれでも双方の攻撃はそのとき、目の前で確かに阻まれていた。

 勇者が慌てて口を開く。


勇者「魔王! てめえ、まさか! 決闘の掟を破ったのか!?」

魔王「ち、違う、我輩は知らん!」

勇者「勇魔の決闘には余人の立ち入りを禁ず! 忘れたか!?」

魔王「違うといっとろうが!」

黒鎧「……」


 自らをはさんで口論する二人に、だが黒い鎧は反応しなかった。

 上背はそこそこあるが、ちゃんと中に人が入れるのか怪しい程スリムなフォルム。
 硬さよりも滑らかさを感じさせる鎧表面。
 二人の全力の攻撃を受け止めてなお微動だにしない。

 と。
 鎧が突如動きを見せた。
 受け止めていたそれぞれを弾き飛ばす。


黒鎧「フシュッ!」キィン!

勇者「……!」バックステップ

魔王「……っ」バックステップ

黒鎧「<..."phantom" launch>」

勇者「……本当に、知らねえんだな?」

魔王「当然だ」

黒鎧「<capture mode ready...>」

勇者「ってことはだ」

魔王「ああ。あいつは我輩らの神聖な決闘に水を差した大馬鹿者だ」

黒鎧「<...go>」

勇者「――高くつくぞ!」バッ!

魔王「覚悟しろうつけが!」ダンッ!


 右方からの勇者。鋭い踏み込み、大上段からの一閃。
 左方からの魔王。猛烈な突進、繰り出される剛拳。
 黒鎧の頭部と胴にそれぞれ鋭い突風が襲いかかった。


勇者(間抜けな素顔を見せやがれ!)

魔王(眠れド阿呆!)

黒鎧「<guard>」


 ――ガキンッ!


 甲高い激突音とともに剣と拳が虚空で停止した。
 二人の息をのむ気配。
 展開された不可視の障壁は、確かに攻撃を受け止めていた。


勇者(あの短い詠唱で魔術を!?)

黒鎧「<counter attack>」

魔王「!」


 ぶわ――ッ!


 突如障壁が拡大。
 二人は押しのけられるように弾き飛ばされ床に叩きつけられた。

「<"winter field" ready...>」

 うめき声を上げる二人に、しかし黒鎧は手を休めることなく追い打ちをかける。

「<...exist>」


 シュウウウウゥゥゥゥゥ……


勇者「な、なんだ?」

魔王「奴の周りから煙が……」

黒鎧「……」キュイィィン

勇者「……! 寒!」

魔王「なんだこれは!?」


 猛烈な冷気。煙の正体はそれだった。
 急冷され、空気中の水分が次々凍結していく。
 勇者魔王の周りも例外ではない。

 勇者が悲鳴を上げる。驚異の早さで体温を失った腕が剣を取り落とした。
 魔王が跪く。寒気に力を失った脚が、主を支えるのを放棄した。


勇者「な、なんなんだよ……!」

魔王「――」

勇者「? 魔王。魔王……!?」

魔王「――」

勇者(あまりの寒さに意識を……俺も……)ガク

黒鎧「……」

勇者「……!」


 目の前に黒鎧がいた。
 近寄られていたことに気付かなかった。
 そしていつの間にかそれが槍を取りだしていたことにも。
 動けない。

(……終わりか)

 槍が振り下ろされる。重い衝撃と共に勇者の意識を黒い帳が覆う。
 最後に彼の脳裏に浮かんだのは、城外で待っている相棒のことだった。



     ・
     ・
     ・


<database>


・phantom:黒鎧。以下不明


     ・
     ・
     ・


<魔王城.地下牢>


勇者「『アカシア』」

  魔王「『赤紫斜めマダラ接続式ゾウガメ』」

勇者「なんじゃそら……め、め、『綿花』」

  魔王「『カゲスズミノコギリコバト』」

勇者「と、と、『問い合わせ』」

  魔王「『栓抜き付き回転振り子ガニ』」

勇者「……」

  魔王「どうした。次は『に』だぞ」

勇者「お前って、変な動物に詳しいのなぁ……」

  魔王「そうか?」

勇者「ああ」


  魔王「……もうそろそろ飽きてきたな」

勇者「同感だ」

  魔王「そっちの居心地はどうだ?」

勇者「快適そうに聞こえるか? 聞こえるならもうそんな耳落としちまえ」

  魔王「そうだな」


勇者「……」

  魔王「……」

勇者「何考えてやがる?」

  魔王「お前と同じことだろうよ」

勇者「……アイツ、なにもんだ?」

  魔王「分からん。が、魔王と勇者を苦もなく生け捕りにするところから見て相当な使い手だろう」

勇者「魔術騎士?」

  魔王「さて。しかし、あんな騎士も魔術も見たことがない。いや障壁自体は珍しくも何ともないが、あれを大した予備動作なしでとなるとな」

勇者「ううむ」

  魔王「お前、頭はいい方か?」

勇者「別に。良かったら勇者なんぞやめてるし、悪かったら今頃生きちゃいねえよ」

  魔王「ふむ……」


勇者「何かわかったのか?」

  魔王「大したことは。とりあえず分かっていることは、少なくとも我輩らを殺す気はないということだ」

勇者「わざわざ牢屋まで引きずったらしいしな。おかげでケツが擦れてやがる」

  魔王「我輩の顔もだ」

勇者「はっ、だっせぇ」

  魔王「言ってろ」

勇者「……はぁ」

  魔王「……」


 ――ズズン……! グラグラ……


勇者「……地震か」

魔王「最近多いな」


<魔王城.尖塔の一部屋>


黒鎧「<Satan&brave-system-circuit check start...>」

黒鎧「――」キュイィィン……

黒鎧「<...all green>」


 ――ズズン……! グラグラ……


黒鎧「…………」

黒鎧「<next...>」キュイィィン……

黒鎧「<...all green>」


     ・
     ・
     ・


<魔王城.魔王の部屋>


 ――グラグラ……


メイド「地震……最近多いわね」

メイド「……」ソワ

メイド「ああもう、魔王のやついったいいつまで待たせるのかしら!」

メイド「勇者ごときになにを手こずって……ご飯が冷めちゃうじゃない」

メイド「……」

メイド「まさか負けたなんて事は……」

メイド「ないわね。魔王はああ見えて戦闘に関してだけは世界最強だし」

メイド(でも……油断して、ってことはあり得るかしら)

メイド「……しかたないわね。本当は勇魔の決闘は二人きりでって掟だけど。ちょっとくらいいいでしょ」スク


     ・
     ・
     ・


<魔王城門前>


 ――グラグラ……


銃士「……地震かい」

銃士「……はぁ、いったいあたしゃいつまで待ちゃいいんだろうねえ」

銃士「勇魔の決闘は余人の立ち入りを禁ず。
   そういうものらしいけど、どうにもまあ待たされる相方の都合ってもんをないがしろにしてるよこりゃ」

銃士「はぁ…………うん」

銃士「拳銃の手入れもすっかり終わっちまったし、ちょっと魔王城探検としゃれこみますか」スク


     ・
     ・
     ・

―SSスレにありがちなこと―
・書き手の体調が悪くなる、急に用事ができてSSが中断される
・SS終了してもいつまでもクソみたいな馴れ合い
・「誰も見てないのかな(ならやめようかな)」→「見てるよ」→「じゃあ書きます」とかいうショートコント
・なぜかかなり腰低めの書き手だが他のスレじゃキチガイ
・エロを入れたがる奴がいる
・聞いてもないのに「◯◯で再生された」「○○ちゃんでイメージ」とかいうレス
・ちょっとでも批判されるとすぐ「嫌なら見るな」と即レス脊髄反射
・「SS書くの初めてorまだ◯回目だから~」とか言って進行の遅さや文章が拙い事の言い訳
・「これは稀に見る良SS」
・「あとは任せた」「こんな感じのを誰か頼む」 と他人任せ立て逃げ
・途中まで面白かったのに安価なんか始めて激しく萎える
・書き手が失踪して保守レスを最後にスレが落ちる、もしくは他の奴が代わりに書き始める。しかもつまらない


<魔王城.廻りの間>


メイド「おかしいわね。ここにいるはずなんだけれど」

メイド「片方しかいない、ならわかるわよ。命を賭けた勝負なんだから」

メイド「でも、どっちもいない、となると……」

メイド「……分からないわねー」

メイド「ちょっと他を当たってみますか」


<魔王城内部>


銃士「おかしいねえ、魔族もいないしがらんとしちゃって」

銃士「まさか勇者一人に怯えて逃げ出したわけでもなし」

銃士「勇魔の決闘は余人の立ち入りを禁ず。まさかここまで徹底してるってことかい」

銃士「魔族のくせに変に律義にふるまっちゃってまあ」

銃士「それにしても勇者は一体どこにいるんだい……まったく」


<地下牢>


勇者「ふぎぎぎぎ……っ!」グググ!

  魔王「見えんが何をやっているかは分かる。無駄だ、やめておけ」

勇者「はあっ、はあっ……丈夫だな、これ」

  魔王「魔王城の特別強力な魔物・魔族をとらえておく檻だ。当たり前だろう」

勇者「じゃあどうすんだよ。あいつが変な気まぐれ起こして俺たちを解放しようと思い付くまで待てってのか?」

  魔王「無駄に体力を使うなということだ」

勇者「……チッ、気取りやがって」


  「あ、いたー!」


魔王・勇者「?」


メイド「ちょっとちょっとちょっと! あんた何牢屋に入ってんのよ馬鹿じゃないの!?」

勇者「なんだ?」

魔王「メイドか」

メイド「こっちには勇者っぽいのもいるじゃない。訳わかんないどうなってんの?」

魔王「勝手に部屋を出たのか」

メイド「仕方ないじゃないご飯冷めちゃうし。探しに来てやったんだからむしろ感謝してほしいわよ」

魔王「ふむ」


勇者「どうでもいいから出してくんね―かな」

メイド「なにあんた、勘違いしてない? わたしは魔王を探しに来たの。あんたなんかどうでもいいわよ」

勇者「……んだと?」

メイド「あらその歳でもう耳が遠いのかしら。あんたを出してやる義理はないっつってんの」

勇者「表出ろ」

メイド「あんたからどうぞ」

勇者「この……!」

魔王「いいから出してくれ」


メイド「……仕方ないわね。別にあんたのためじゃないわよ。ご飯が冷めちゃうから仕方なくなんだからね!」

魔王(ツンデレ乙)

勇者「うぜぇ……」

メイド「ええと、確かここに鍵が……」ジャラ


 ジャキ……!


「動くんじゃない。動けばドタマに風穴が開くよ」

メイド「!」

勇者「銃士か。遅かったな」


銃士「助けに来てやったのになんだいその口の聞き方は。あたしの相方のくせして捕まってやがるし、まったく」

メイド「い、いつの間に……」

銃士「別に何の気もなく入ってきたよ。あんた鈍すぎるんじゃないかい?」

メイド「なんですって!?」


 タァンッ!


メイド「……!」

銃士「たるい口喧嘩は好きじゃないよ。さっさとそれを渡しな。次は当てる」


メイド「……」ジリ

銃士「……」ジャキ

魔王「盛り上がっとるところ申し訳ないが」

勇者「俺たちを外に出せ。両方だ」

メイド「え?」

銃士「……あんた何言ってんだい? 変な物でも食った?」

魔王「いいから急げ」

勇者「もたもたしてんじゃねえよ愚図」

メイド「な……!」

銃士「チッ、仕方ないね。出たらちゃんと説明するんだよ」

長くなりましたがこのSSはこれで終わりです。
ここまで支援、保守をしてくれた方々本当にありがとうごさいました!
パート化に至らずこのスレで完結できたのは皆さんのおかげです(正直ぎりぎりでした(汗)
今読み返すと、中盤での伏線引きやエロシーンにおける表現等、これまでの自分の作品の中では一番の出来だったと感じています。
皆さんがこのSSを読み何を思い、何を考え、どのような感情に浸れたのか、それは人それぞれだと思います。
少しでもこのSSを読んで「自分もがんばろう!」という気持ちになってくれた方がいれば嬉しいです。
長編となりましたが、ここまでお付き合い頂き本当に本当にありがとうございました。
またいつかスレを立てることがあれば、その時はまたよろしくお願いします!ではこれにて。
皆さんお疲れ様でした!


<混濁する渦の中>



「――フシュウゥゥゥ……」



<魔王城.ふたたび地下牢>


メイド「……」

銃士「……」

勇者「――とまあ、こういうわけだ」

メイド「黒い鎧、ねえ……」

銃士「にわかには信じられないね」

魔王「だが」

メイド「分かってるわよ。そうじゃないと自分で牢屋に入ったことになっちゃう」

銃士「けど、魔王と勇者を二人同時に相手にできる化け物かい……空恐ろしいじゃないか」

メイド「そうね……」


勇者「じゃあリベンジだ」コキコキ

銃士「え?」

魔王「よし、行くか」ポキポキ

勇者「言っとくが、共同戦線は一時的なものだからな」

魔王「無論だ」

メイド「ちょ、ちょっと!?」

魔王「なんだ?」

銃士「いや、ここは普通――」

勇者「『プライドからはにげられない』」

魔王「そういうことだ」

銃士「バトル狂どもめ……」

メイド「ば、馬鹿言わないで! せめて作戦を……」

勇者「『ガンガンいこうぜ』」

魔王「よしきた」

メイド「こんの分からず屋ぁっ!」


<魔王城.大広間>


黒鎧「<standby mode...>」キュゥゥゥ……

黒鎧「<...shut dow――>」


 ドバタンッ!


勇者「うおおおおおッ!」ダダダ!

黒鎧「……」

黒鎧「<...restart>」キュイィィン!

魔王「勇者め、抜け駆けするな!」

勇者「先手必勝!」


 下方から切り上げられた刃が、

「<guard>」

 虚空で音を立てて停止した。

「<counter att――>」

 黒鎧がすぐさま反撃に移る。
 が、その前に突風が舞い込んだ。
 魔王。その拳が障壁を突き破る。


黒鎧「……!」ガス!

魔王「通った!」

勇者「チッ、先越された!」

黒鎧「……」バックステップ

魔王「攻撃に移る瞬間が狙い目だな!」

勇者「ならもう勝ったようなもんだ! 次は俺だからな!」

黒鎧「<quick processing "summer field" exist>」


 シュボッ――!!


 瞬間、火球がいくつもいくつも宙に発生する。
 部屋の温度が、今度は急激に上昇した。

「無駄だ!」

 魔王が火傷をものともせず突き破る。振り下ろされる拳。
 それはまた、受け止められるが――

「突き破れ!」

 いつの間にか鎧の背後に回り込んでいた勇者の突きが、障壁に風穴を開けた。
 勇者は止まらない。剣を引き抜き、できた穴に手を突き込む。

「"弾けろ"!」


 ――パァンッ!


黒鎧「!」ビシ!

勇者「っつつ……どうだ!」

魔王「密閉空間内での小爆発か。無茶したな」

勇者「でも効いたろ?」

黒鎧「……」


 黒鎧が手を掲げた。槍が出現する。

「<shield off>」

 黒鎧はそれをつかむと、

「<attack>」

 すぐさま振りおろした。


勇者「はっ、おせえよ!」バックステップ

魔王「こっちががら空きだ!」ブン!

黒鎧「!」ガス!

魔王「まだまだ!」


 白兵戦のため障壁は消したらしい。魔王の一撃は難なく通った。
 瞬時に理解した彼は、さらなる攻撃のために拳を身体に引きつける。

 戦闘の興奮で視界が狭まる。血が、沸騰するように熱い。
 火球は相変わらずいくつも宙に浮いている。
 視界が歪むがそれも魔王には愉快だった。

「ははははは!」

 笑いと共に繰り出した拳は空を切った。

「ぬ?」


魔王「あれ?」

勇者「どうした、休むな!」

魔王「わ、わかっとる!」ヒュッ!

黒鎧「……」


 ――スカッ


魔王「ぬぬ?」


魔王「???」

勇者「何やってる! 相手は目の前だぞ!」

魔王「……お前こそどうした」

勇者「ああん?」

魔王「どちらに向けて構えとる。相手はこっちだぞ」


 勇者の剣はあらぬ方向を向いていた。
 魔王は改めて目の前を見る。

(いない……)

 黒鎧は消えていた。
 構えは解かないまま周りを見回すが目標を視界に収めることはできなかった。
 部屋の気温はさらに上がる。暑い。

(しまった……)

 その段になり、魔王はようやく理解した。


魔王「やられた」

勇者「どうした!?」

魔王「勇者、この指何本だ!?」ビッ

勇者「八本」

魔王「馬鹿者! 片手だぞ!?」

勇者「……熱か」

魔王「ああ。限界はとっくに越していたらしい」


 熱により沸騰した脳による幻覚。どうやらそういうことらしかった。
 二人はとっくに黒鎧の術中にはまっていた。
 黒鎧の姿は、相変わらず、ない。


勇者「……どうする?」

魔王「祈れ」

勇者「は?」

魔王「あまり痛くないといいな」


 ――ドゴドゴォ!


     ・
     ・
     ・


勇者「――勇者になって以来初めてだな」

魔王「奇遇だな。我輩も魔王になってから初めてだ、こんな気分は」

黒鎧「……」キュイィィン

勇者「もう起き上がる気も起きねえ」

魔王「それも同意だ」

黒鎧「……」

勇者「ちくしょう殺せよ……」

魔王「いっそ楽になりたいな」

  メイド「ちょっとちょっとちょっと!」


黒鎧「……」チラ

メイド「魔王! あんた何負けてんのよ!」

銃士「ふぅむ……」

メイド「あんなに大口叩いといてどういうこと!?」

魔王「言うな。我輩今めたんこへこんどる」

メイド「シャラップ! 仮にも魔王なら今すぐ立ちなさい! あんたが負けるのを見るのは嫌なの!」

銃士「へえ……」

メイド「あ……べ、別に変な意味じゃないわよ、勘違いしないでよね!」

銃士「ツンデレお――」

黒鎧「ツンデレ乙」

勇者「えっ」

魔王「えっ」

メイド「えっ」

銃士「えっ」


黒鎧「言語取得完了。コミュニケーションモード起動」キュイィィン

勇者「しゃ……」ムク

魔王「しゃべった!?」ムクリ

黒鎧「遅クナリマシタガ初メマシテ」

銃士「?」

黒鎧「私ノ仮名称ハphantomデス。以後オ見知リオキヲ」

メイド「ふぁんとむ?」

勇者「ど、どういうことだ?」

魔王「……お前は何者だ?」

黒鎧「システムノヒズミデス」

勇者「?」

黒鎧「……スミマセン。分カリマセンネ」

魔王「そうだな、良くわからん。初めから話せ。お前の目的はなんなんだ?」

黒鎧「私ハ世界ヲ救ウタメニココニイマス」

勇者「……ますますわかんね」


黒鎧「魔王勇者システム、トイウモノガアリマス。全テハソコニ端ヲ発シテイマス」

銃士「魔王勇者、システム……?」

黒鎧「エエ。話ヲ始メルニハソコカラ説明シナケレバナリマセンガ」クルリ


?「……」


黒鎧「マズハアレヲ片付ケル必要ガアリマス」

勇者「……いつの間に?」

メイド「白い、鎧?」

魔王「わけのわからん奴らが次々に……我輩の城大人気だな」

銃士「あれは?」

黒鎧「"keeper"デス。下ガッテイテクダサイ」


白鎧「<..."keeper" launch>」キュイィィン……


<database>


・魔王勇者システム:この世の"運命の流れ"を制御するために魔力素子理論を応用して考案された機構


・魔王&勇者:魔王勇者システムを展開するためのユニット


・keeper:魔王勇者システムのエラー除去・修正を行う番人


     ・
     ・
     ・


 白鎧は黒鎧と全く同じ形をしていた。違うのはその色のみ。
 かたや白銀に輝く光沢、かたや闇に沈む暗色。

 双方は虚空から色違いの槍をそれぞれ取り出すと、地面を蹴った。
 激突。金属の甲高い悲鳴が響く。
 それにかぶさるように幾重もの衝突音が後に続いた。


 ガガガガガガガガッ!


白鎧「……」キュイィィン

黒鎧「……」キュイィィン

勇者「な……」

魔王「は、速すぎて見えん」


 押し合いはしばらく続いて、一際大きな音とともに途絶えた。

「――っ」

 弾き飛ばされた黒鎧が地面に落ちる。
 槍がその後を追った。

「<"autumn field" ready...>」

 白鎧の無機質な声が響く。

「<...exist>」

 天井に光が瞬いた。それが白鎧の追撃。
 一拍置いて雨のように降り注いだ光の一つが、黒鎧を貫いた。

「ガッ……!」

 苦悶の声が黒鎧から漏れた。


白鎧「……」キュイィィン

勇者「……おい」

魔王「ああ」

白鎧「……」クル

勇者「今度は俺たちか……!?」

魔王「構えろ」スッ

メイド「ひっ……」

銃士「……」ジャキ


 白鎧はゆっくりと四人の方へと足を踏み出した。
 緩慢な足取り。その足音。まるで威圧するかのように。

 魔王と勇者はそれぞれ右方と左方に分かれて身構える。
 鎧の正面には拳銃を構えた銃士。その後ろに隠れるようにメイド。

 鎧との距離が三歩に迫った。
 魔王と勇者が同時に踏み出し、銃士が引鉄にかけた指にわずかに力を込めた。
 だが、交錯の前に事態は収束した。

「<...damaged>」

 白鎧が跪く。その背中に黒い槍が突き立っていた。
 それから数拍も置かずに、白鎧は虚空に姿を消した。まるで幻だったかのようにそこには何も残らなかった。



     ・
     ・
     ・


 かつて――


 かつて、はるか遠い昔。人が決定的に神を殺した時代があった。
 栄え、力に溺れた時代があった。

 新エネルギーの模索のさなか発見された謎の素子。
 それが、全ての引き金。


黒鎧「旧文明が発見したそれは、この世に存在する物質ではありまセン。
   この世界とほぼ重なるようにしてある別種の世界のものデシタ」

勇者「それが、魔力素子?」

黒鎧「ハイ。便宜的な呼び名ではありマスガ」

魔王「どうでもいいが、少し言葉が流暢になってるな」

黒鎧「言語取得後の学習で少しずつ上達していマス」

魔王「そうか。で、その魔力素子というのはどういった働きをするのだ?」

黒鎧「魔力素子はこの世界の物質ではないと言いマシタガ、しかし、この世界に影響を及ぼしていマス。
   もともと極めて近い世界同士ナノデ、相互に影響を与えるんデスネ」

銃士「つまり?」

黒鎧「特別な方法で魔力素子を操作することで物理現象をこの世界に起こすことができマス」

メイド「もしかして、魔術?」

黒鎧「ハイ。その発見は当時のエネルギー問題を根こそぎ駆逐しまシタ。夢のエネルギー抽出法と呼ばれていたんデスヨ」

魔王「ほう……」


勇者「で、それと魔王勇者システムだったか? と何の関係があるんだよ。あとあの白い鎧」

黒鎧「"運命"というものを信じマスカ?」

銃士「ん?」

黒鎧「この世にはそういった流れがあるそうデス」


『魔力素子蒸着確認』

『"魔王ユニット"安定』

『"勇者ユニット"発生ルーチン確立』

『……運命操作機構"魔王勇者システム"、始動』


黒鎧「魔力素子のポテンシャルは、物理現象を引き起こすにとどまりませんデシタ」

魔王「まさか」

黒鎧「この世の物事の移り変わりにも影響を与えることが分かったんデス」

勇者「え、ええと?」

黒鎧「隕石をご存知デスカ?」

銃士「そりゃね」

黒鎧「説明を簡略化すれば、そういった類の"不運"をキャンセルできマス。そういうシステムデス」

メイド「え?」

黒鎧「他にも文明を脅かす天災、人災は全て"起きないこと"にできマス」

勇者「……」

黒鎧「当時研究されていた不老不死と合わせて、運命の完全掌握を目論んでいたようデスガ、それは成りませんデシタ。
   その前に文明が滅びたのデス」

銃士「え、なんでさ。システムとやらに守られてるんだろ?」

黒鎧「不明デス。しかし確かに滅びマシタ。一説では、"受け継ぐ"ための文化や風習等が廃れてしまったためと言われてイマス」


黒鎧「次に、システムの仕組みの概要デスガ、これは全魔力素子の流れを制御してやることで可能となりマス。
   デスガその際、そのための中心が必要となりマス」

魔王「……我輩か?」

黒鎧「エエ。正確には歴代魔王デス。
   魔力素子を肉体感覚で操れるように遺伝子操作されたもの、これは現在の魔族デスガ、そのうち最も力の強いものデス。
   現在魔王城と呼ばれているこの施設はそれ自体が一つの装置で、魔王の力を増幅し、運命に干渉シマス」

勇者「じゃあ俺は?」

黒鎧「次の魔王候補デス」

勇者「なに?」


黒鎧「――アナタは魔王になる前は何をしていマシタカ?」

魔王「……聞いてどうする?」

黒鎧「記憶がないはずデス。アナタはそれが始まった時から魔王ダッタ」

魔王「……」

黒鎧「……魔王という心臓部もいつかは取り替えねばなりマセン」

銃士「その交換部品が、勇者?」

黒鎧「ハイ。運命操作プログラムには、勇者の発生から魔王交代までのルーチンも刻まれてイマス。
   通常全人類のなかからランダムに選定されて、身体のどこかに印が発生シマス。それが勇者の証」

メイド「……」

黒鎧「勇者は魔王城まで連れてこられ、廻りの間にて魔王と戦いマス。
   勇者が勝った場合はその部屋ごと一時凍結され、数十年間ほど設定の上書きを行い、元勇者は魔王として目覚める、というわけデス」

銃士「……」


勇者「勇魔の決闘に余人の立ち入りを禁じるってのは……」

黒鎧「スムーズに魔王引き継ぎを行うためにできた不文律デスネ」

魔王「旧文明が滅びたあとも、このシステムだけは残ったというわけか」

黒鎧「皮肉デスネ」

銃士「うん?」

黒鎧「不老不死もこのシステムも、後世への引き継ぎを拒否し己を存続させるためのものデス。
   そのシステムがこのように受け継がれているトハ」


メイド「あの、質問なんだけど」

黒鎧「なんデショウ?」

メイド「あんたやあの白鎧は一体何なの?」

黒鎧「あの白鎧は、システムの番人デス。
   システムの運営に支障が出そうなときに出現し、問題を解決するようプログラムされてイマス」

勇者「じゃあお前もその類か?」

黒鎧「イエ。私はただのエラーの産物デス。"keeper"は私を消去するために現れたのデス」

魔王「どういうことだ?」

黒鎧「数百年、数千年を稼働し続けてきたシステムは、既に限界にありマス。
   このまま続ければ崩壊し、世界も丸ごと引きずり込みかねマセン。
   最近地震が多くありまセンカ? それが予兆です」

メイド「あの地震が……?」

黒鎧「崩壊に向かうシステム。その中にエラーがたまり、偶然発生した存在。それが私、"phantom"デス」

勇者「……」

魔王「……」

黒鎧「私はシステムを停止させねばなりマセン。それが私の存在意義だから、デス」


黒鎧『"keeper"は今回は撃退出来マシタ。でも、あれは、またやってきマス。今度こそ私を消去するために』

黒鎧『次こそはあれを、システムを停止させなければなりマセン』

黒鎧『システムの仕様から逆算するに、再び襲ってくるのは二日後の夕刻デス』

黒鎧『――協力していただけマスカ?」


<魔王城.魔王城自室>


メイド「――って言ってたけど」

魔王「……」

メイド「……あんたはどうするの?」

魔王「残って戦う」

メイド「……分かったわ。あんたならそう言うと思ったわよ」

魔王「ああ」

メイド「がんばりましょうね!」

魔王「ん?」

メイド「え?」


魔王「……お前、もしかして一緒に残るつもりか?」

メイド「ちょっと! わたしだけ逃げろっていうの!?」

魔王「勇者との決闘のときは残りたいというお前に我輩が折れた。今度はこちらの言うことを聞いてもらう番だ」

メイド「で、でも」

魔王「別に我輩は危険を冒すつもりはない。いざとなったら逃げる。安心しろ、な?」

メイド「……わたしが治癒魔術しか使えないから?」

魔王「……」

メイド「そうなんでしょ?」

魔王「違う」

メイド「分かってるわよ。わたしが残っちゃうと足引っ張っちゃうものね」

魔王「違う」

メイド「でもわたしは――」

魔王「話を聞け」ポコ

メイド「あいたっ」


魔王「我輩が魔王として目を覚ましたときの事を覚えているか?」

メイド「……忘れるわけないじゃない」

魔王「皆に盛大に迎えられ称えられ、初めて入る自室にお前はいた」

メイド「……」

魔王「第一声は『誰よあんた』だったな」ククッ

メイド「し、知らなかったものは仕方ないじゃない!」

魔王「数十年ぶりに誕生した魔王を? 馬鹿言うな。ふふ」

メイド「なんで今その話をするのよ!」

魔王「あれから十数年だが、いまだに我輩に正面切って楯突くのはお前くらい」

メイド「悪かったわねじゃじゃ馬で」

魔王「そんなお前にもしものことがあっては困る」

メイド「っ!?」

魔王「我輩と真に対等な友人はお前だけだからな」

メイド「え、あ、友人……?」

魔王「さて……」


魔王「何はともあれ、今回は我輩の言うことを聞け」

メイド「……分かったわよ」

魔王「それでいい」

メイド「でも! これだけは約束しなさい。絶対に危険は冒さないこと!」

魔王「我輩はもとよりそのつもりと言ったはずだが」

メイド「言うのと約束するのは違うの」

魔王「……分かった、約束する」

メイド「絶対だからね」

魔王「ああ……もちろんだ」


<魔王城.食堂>


勇者「――と、言うわけで俺は残る。お前は逃げろ」

銃士「分かったよ」

勇者「……」

銃士「?」

勇者「お前、そこは少し粘ったりするもんじゃねえのか?」

銃士「何を?」

勇者「……まあいいや」

銃士「冗談だよ。でも、あたしが残ったところで何になる? 足を引っ張るのだけはごめんだよ」

勇者「分かってんならいいんだ。気持ちの問題だ」


銃士「まあ、足を引っ張るのもそうだけど」

勇者「ん?」

銃士「受け継ぎ、だっけ。それはあんたたちの役目だと思うからね」

勇者「……」

銃士「主役はあんたたちだ。あたしは脇役」

勇者「おい」

銃士「勘違いしないでおくれ。不満はないよ。むしろあたしはその役に誇りすら覚える」

勇者「?」

銃士「あたしはちょっと逃げる。けど、あんたの仲間をやめるつもりもない。
   安心しな。どんな時もあたしはあんたの味方だよ」

勇者「……」

勇者「……!」ハッ

勇者「ば、馬鹿言ってんじゃねえよ。そんな言葉だけじゃなんの足しにもなんねえよ」プイ

銃士「あたしの言葉、忘れないでよ?」

勇者「……おう」


<二日後.夕刻.魔王城.城門前広場>


 ――ズズン……グラグラ……


勇者「……地震だな」

魔王「ああ」

黒鎧「……」

魔王「……なあ、勇者」

勇者「ん?」

魔王「先代勇者については何か聞いているか?」

勇者「聞きたいのか?」

魔王「我輩の前世だ。気にもなる」

勇者「前世じゃないだろ……まあいいか」


勇者「まず、生まれて三カ月にしてもう立って歩いていたという逸話がある」

魔王「ほう?」

勇者「五歳にして武におけるあらゆる領域でその筋の達人をうならせ、魔術の師匠のプライドを折って泣かせたらしい」

魔王「ふむ」

勇者「十六歳のとき既に人格は完成しており、その徳は天に届き、神の祝福を余すところなく受けた彼は、それまでの勇者の中で最も早く当時の魔王を降したとか」

魔王「なるほど。さすが我輩、勇者時代からして最強だったのだな」

勇者「――というのが表向きの口伝」

魔王「ん?」


勇者「話を盛ってるのさ。それに武の面以外の彼はあまりいい噂は聞かない」

魔王「……」

勇者「やれ働きたくないやれ面倒くさい。彼のゆくところ怠惰の嵐が吹き荒れたそうだ」

魔王「う、ううむ……」

勇者「地位の高い人間には誹謗中傷も多い。他にも女癖が悪かったとか酷い乱暴者だったとかあるらしいが、まあ噂だ。気にすんな」

魔王「聞かなければ良かった気もしてきた」

勇者「だな」


黒鎧「……」サッ


勇者・魔王「!」

黒鎧「来ました」



白鎧「……」キュイィィン



<database>


・『受け継ぐ』:前任者が残した仕事などを引き受けて行う。ある人の性質や意志などを引き継ぐ。継承する


     ・
     ・
     ・


 相変わらず唐突な出現だった。やはり瞬きの前にはいなかったと断言できる。
 夕日の紅を反射し、白鎧が立ちあがった。

「<..."keeper" launch>」

 すぐさま黒鎧が進み出る。


黒鎧「<quick processing "spring field" exist>」


 ――ブワ……


 黒鎧の背後から猛烈な追い風が発生する。
 同時、白黒両方の鎧が地を蹴る。
 魔王勇者を置いてきぼりに、激しい衝突音が響いた。

 追い風を受け黒鎧には有利に、向かい風を受け白鎧には不利に働いた。
 したがって黒鎧に分があった。はずなのだが。

 崩れ落ちる音。
 黒鎧が地に倒れ伏した。


勇者「ファントム!?」

魔王「馬鹿な! 一撃だと!?」

白鎧「……」キュイィィン

黒鎧「――」

魔王「チッ、我輩らも行くぞ!」

勇者「おう!」


 魔王と勇者が地を蹴り飛び出した。

 魔王がやや先行した。白鎧の左に回り込み、その横腹に拳を飛ばす。
 しかし、障壁に防がれるよりも前に白鎧の腕の一振りで叩き伏せられた。

 勇者は。既に槍にその槍に肩を貫かれて力を失っていた。
 悲鳴を上げる彼に構わず、白鎧はその使命を遂行する。

「<Catch>」

 槍に光がともる。

「<rewrite ready...>」


魔王「ぐ……」

魔王(あくまで、あれの目的はシステムの存続を図ること……強引に勇者を魔王に変換する気か!)

魔王「やめんか!」

白鎧「<5.4.3...>」

勇者「あぐ……」

勇者(俺が俺じゃなくなっていく……)

魔王「勇者!」

勇者(……死ぬのか)



「いいや」



 ガシャ!



銃士「それはないね」



 ――ズキュゥゥゥン!



 白鎧の身体が震えた。
 勇者が槍から解放されて地面に落ちた。

 白鎧が夕日の方角を見る。
 そしてさらに飛来した弾丸によってのけぞった。

◆◇◆◇◆

 離れた小高い丘に、彼女は伏せていた。
 スコープの向こう側に目標を捉えたまま。
 次弾を装填し、引鉄を絞る。


白鎧「……っ!」ドス

魔王「……狙撃?」

勇者「銃士……」


  銃士『どんな時もあたしはあんたの味方だよ』


勇者「そう……そうだったな」


 合計六発。撃ちこんだ弾丸の数だ。
 彼女はさらに次弾を装填し、スコープを覗き込んだ。

「あたしの目から逃げられると思うんじゃないよ……!」

 だがその覗き込んだ先で、

「……!」

 目標と目が合った。


白鎧「<anti snipe mode...>」スッ

魔王「?」

勇者「なんだ?」

白鎧「<fire>」


 カッ――!


 彼女にもそれは見えていた。

「チッ、ここまでか」

 スコープの向こうが光で埋まる。
 それでも彼女はそれを睨むのをやめなかった。

「後は任せたよ、勇者」

 光と熱が彼女を吹き飛ばした。


 ――ドゴォォッ……


勇者「……銃士?」

魔王「……」

勇者「…………こ、の」

魔王「待て!」

勇者「クソ野郎がァァァッ!」

白鎧「……」キュイィィン!


 ――ドス!


勇者「っ……!」ドサ

魔王「が……ッ」

勇者「ばっ……お前、なんでかばった!」

魔王「ぐぶ……」

白鎧「<Catch>」

勇者「ちくしょう、魔王を放しやがれ!」


 飛びかかる勇者に、白鎧は空いている腕を振り上げた。
 が、突如動きを変え、飛び退る。
 魔王から槍が引き抜かれ、彼は地面に倒れ伏した。

 白鎧が退いた理由。それは死角に迫っていた黒鎧である。


黒鎧「すみません、再起動に時間がかかりました」

魔王「ぐ……が……」

勇者「魔王!」

黒鎧「離れたところへ。私は番人を止めます」

勇者「わ、分かった」

白鎧「……」キュイィィン


     ・
     ・
     ・


魔王「ゼィ、ゼィ……」

勇者「しっかりしろ! おい魔王、聞いてんのか!?」


  「わたしに任せて」


勇者「……?」

メイド「……わたしが助ける。あんたはファントムを手伝ってあげて」

勇者「どうしてここに……いや、分かった。頼むぞ」

メイド「ええ」


メイド「"癒しよ"」ポゥ

魔王「……」

メイド「"慈悲よ"」ポゥ

魔王「……」

メイド「……"恵みよ"」ポゥ

魔王「……」

メイド「……あんた、危険は冒さないって約束したじゃない。危なくなったら逃げるって言ってたじゃない……」

メイド「なのに何よこれ! なに死にかけてんのよぉ!」

魔王「……」

メイド「ふざけんじゃないわよ。必ず約束は守らせんだからね……!」グス


     ・
     ・
     ・


魔王「……っ!」ゴボ!

魔王「うっ、がは……!」

魔王「ゼィ、ゼィ……」

魔王「……我輩は、一体」ムクリ

メイド「――」

魔王「メイド?」

メイド「――」

魔王「おい、メイド」ガシ

メイド「――」ズルリ……ドサ

魔王「メイド! お前まさか!」

メイド「――」

魔王「馬鹿者! 自分の命を削る奴があるか! なぜ逃げなかった! なぜ、こんな無茶を!」

メイド「――ま、おう……」

魔王「メイド!」


メイド「……これ、で、おあいこ、ね」

魔王「っ……」

メイド「また、ね……」

魔王「……」

メイド「――」

魔王「……すぐ追いつく、から。待ってろ」


白鎧「フシュ――ッ!」

勇者「うわっ!」ドサ

黒鎧「くっ!」ドサ


  魔王「こっちだ!」シュッ!


白鎧「!」バックステップ

勇者「魔王!」

黒鎧「大丈夫ですか?」

魔王「いや……傷だらけだ」

黒鎧「……」

勇者「そうか……」


黒鎧「……逃げてくれませんか?」

勇者「は?」

魔王「あれの狙いは現在、勇者を強制的に魔王に変換することだ。
   だから、お前が逃げれば延命措置にはなる」

勇者「却下だ。俺に逃げる選択肢はもうない」

魔王「奇遇だな。我輩もだ」

黒鎧「……なにか策は?」

勇者「『ガンガン行こうぜ』」

魔王「よしきた!」


 三人が一斉に地を蹴る。
 最も速く白鎧に肉薄した黒鎧が、槍の洗礼を受けた。
 金属を引き裂き先端が黒鎧の背中を突き破る。

「まだまだデス……」

 機能停止の間際に、黒鎧はあがいた。
 槍を握り込み、それを封じる。
 白鎧のありもしない動揺を感じた気がした。


勇者「喰らえやッ!」

魔王「終わりだッ!」

白鎧「!!」


 ――ズン……ッ!


 白鎧、その胴を魔王の拳が砕いた。
 その頭部を勇者の剣が斬り飛ばした。

 悲鳴を上げることなく、静かに白鎧は停止する。
 一瞬の均衡を保って、それから黒鎧と折り重なるようにそれは倒れた。

 二人は構えたまましばし息をつめた。


白鎧「――」

魔王「終わり、か?」

勇者「……」

白鎧「<...second-form ready>」

魔王「ぬ!?」


 カッ――!


勇者「な、なんだ?」

魔王「さ、下がれ!」


 ズオゥッ――!


 一陣の突風の後、そこにあったのは巨大な質量だった。
 見上げるほど巨大なそれは――

「ドラゴン……?」

 お伽話の幻獣に似ていないこともなかった。

「<...target lock on>」

 幻獣はその大きな顎を開く。

「<fire>」

 光があふれた。


     ・
     ・
     ・


勇者「ぁ……」

魔王「ぅ……」


「<second-attack ready...>」キュイィィン!


 認識しきれないほどの激痛が身体をさいなんでいた。
 生きているのが素直に信じられない、と勇者はぼんやり思った。
 だがあともうしばらくもしないうちに死ぬだろう、とも思った。


魔王「ゆ、うしゃ……立てる、か?」

勇者「うぐ……」

魔王「どちらかが、立たねば、ならん……」

勇者「けど……」

魔王「お前が、立て……」

勇者「むりだ……っ」

魔王「お前に、託す……」ポゥ

勇者「……」

魔王「……受け継いで、くれ」


「<fire>」

 再び怪物の顎から光があふれ出す。
 しかしそれが放たれる前に異変が起きた。
 とどろく爆発音。怪物の側頭部から火が噴き出す。

「<...error>」

 再び爆発。立てつづけに三つの爆音がとどろく。

「その内部爆発。なんでか分かるか?」

 勇者はその音の中、静かに身を起こした。

「――俺の相棒。その魔弾だよ……!」

 彼は思い出していた。
 対象物に打ち込むと中から爆発するという魔弾を子供のように自慢していた相棒を。
 そんなもの役に立つか、とからかうと、ムキになって反論した彼女を。


 ――ドゴドゴォ!


「<error...>」


勇者「俺がなんで今立てるかわかるか?」

勇者「――メイドと魔王の、おかげだよ!」チャキ


「"error..."」


勇者「俺がなんで戦うか分かるか?」スッ

勇者「受け継いでいくためだよッ!」ズダン!


 魔術で重力を中和し跳躍する。
 剣を大きく上段に振りかぶる。
 握り込む拳に力がこもった。


勇者「おおおおおッッ!!」

「<attack ready...>」

勇者「おせえッ!」


 ――ズンッ!



     ・
     ・
     ・


勇者「――以上が、事の顛末です。俺が見聞きしたことの全てです」

王「…………御苦労で、あった」

勇者「……」

王「旧文明の遺物、魔王勇者システム……そのような真実が、この世界の裏側にあったとは」

勇者「……」

王「世界を救ってくれたこと、誠に感謝する」

勇者「陛下」

王「なんだ?」

勇者「俺はもう疲れました」

王「これはすまない。すぐに部屋を用意させよう」

勇者「いえ、ここで少し座って楽にさせてもらうだけでいいんです」

王「? まあ、かまわないが」


勇者「ふぅ……」ペタン

勇者「……終わったよ、銃士」

王「……」

勇者「務めは果たしたぜ、魔王、メイド」

王「……」

勇者「これでよかったんだよな、ファントム」

王「……勇者?」

勇者「陛下」

王「ああ」

勇者「この世界を頼みます」

王「わかった」

勇者「……すみません。ちょっと休みます」

王「……おい?」

勇者「――」

王「勇者……?」


 それきり、勇者は黙り込んだ。目を閉じ、俯いたままで。
 顔には疲労が見える。
 だが、見ようによっては満足げな微笑みにも見えた。

 ――勇者の死によって、システムは真に停止した。

 王はしばしの沈黙をはさんだあと、静かに玉座を下りた。
 勇者の前にかがみこみ、床に手をつく。 



王「……確かに、受け継ぎました」


 そしてふかぶかと、頭を垂れた。
 厳粛な静寂がそこにあった。


 ――ズズン……!


王「……」

兵「じ、地震! 陛下、ご無事ですか!?」

王「ああ」

兵「大きい!」

王「問題ない。じき静まる」

兵「……?」

王「心を平静に。これからは不運に対し我らが自ら戦わねばならないのだから」

王「……だろう、勇者」

終わり

ねぇねぇ、バカやっちゃってるけど
今どんな気持ち?

        ∩___∩                     ∩___∩
    ♪   | ノ ⌒  ⌒ヽハッ    __ _,, -ー ,,    ハッ   / ⌒  ⌒ 丶|
        /  (●)  (●)  ハッ   (/   "つ`..,:  ハッ (●)  (●) 丶     今、どんな気持ち?
       |     ( _●_) ミ    :/       :::::i:.   ミ (_●_ )    |        ねぇ、どんな気持ち?
 ___ 彡     |∪| ミ    :i        ─::!,,    ミ、 |∪|    、彡____
 ヽ___       ヽノ、`\     ヽ.....:::::::::  ::::ij(_::●   / ヽノ     ___/
       /       /ヽ <   r "     .r ミノ~.    〉 /\    丶
      /      /    ̄   :|::| >>1 ::::| :::i ゚。     ̄♪   \    丶
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          ソ  トントン                             ソ  トントン

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