_ U ∴ ol
/ /∴ U :l
| | U o∴。l
| | : ∴ ol ゴクゴク!!!!
| ∨∴ U∴U
∧ ∨U o∴ l
/ \ ∨∴ oUl _ノ!
| (゚ ) Y ̄ ̄ ̄ ̄ ̄_ ノ
|  ̄ ̄ ̄| ̄
》 }
/ /
│ │
天気の良い昼下がり、見滝原郊外のテニスコート。
使い込まれたノートに、ポッキーを咥えた杏子が何やら書き込んでいる。
杏子 (んー……。『甘みはつよいが、あと味はすっきりしていてのみやすい』と……) カリカリ
さやか「ふぃー、トイレ混んでて参った参った……ん?」テクテク
さやか「杏子ー? 何そのノート、前も見た記憶あるけど」
杏子「あっ……! いやこれはだな……」ササッ
さやか「何さ、隠す必要無いじゃん」ヒョイッ
杏子「おいこらっ!」
さやか「ほほう?『お菓子メモ』?」
杏子「勝手に見るなって!」ジタバタ
慌てる杏子の額を片手で押さえながら、ぺらぺらと捲る。
さやか (……なるほど。食べたお菓子の記録をつけてるんだ)
さやか (相変わらず字は汚いなー)
杏子「かーえーせーよーっ!」バタバタ
さやか「ふむ、たまにコソコソ書き込んでたのはこれだったか……。あんた意外とマメなとこあるね。ほい」
杏子「い、いいだろ別にっ……」ガシッ
差し出されたノートを奪い取り、胸元に抱える。
さやか「悪いなんて言ってないじゃんさー。すぐいじけるんだから……」
さやか (でもそこがかわいいとこでもあるんだけど)
杏子「……だって……変じゃねーか?」
さやか「え、どして? あんたがお菓子に人一倍こだわりあるのは知ってるもん。面白いと思うよ?」
杏子「………」
さやか「うーん。杏子がどんなもの食べて、どんなふうに感じてるか……。さやかちゃん、すっごく興味があるなー?」
杏子「う……」
さやか「ちょっと読ませてくれたら、あたしすっごく嬉しいなー、なんて……?」
杏子「ぐ……」
さやか「ね、駄目かな……?」
杏子「………はぁ、分かったよ……ほら」ヒョイ
さやか「ありがとっ!」
さやか (ほうほう……。よく見ると簡単なコメントと共に、★5つで評価してある……。Amazonみたい)
さやか「今書いてたのは……これか、今飲んでた『はちみつレモン』だね」
杏子「ああ……。復刻版? とかで何か新製品らしかったから買ってみた。結構うまいよ。
10年ぐらい前の話らしいし、元々どんな味なのか知らないけどね」
さやか「ふぅん……。一口貰える?」
杏子「! あ、ああ……ほら」ヒョイ
さやか「さんきゅー! どれどれ……」コクコク…
杏子 (………)
飲み口を咥える唇に、ちょっとだけ目がいってしまう。
さやか「んー、んまいね! 名前そのまんまって感じだけども」
杏子「あ……そうだな。レモンが後味スッキリしてていいよ」
さやか「でも、これが★3ですか……。わりと評価厳しいのねー」
杏子「まあな。完全にあたしの好みで書いてるから、結構適当だけど」
さやか「てかこれ、お菓子扱いなの? 飲み物だけど」
杏子「ん、ちょっと前からジュースにも手を広げたんだよ。最近何でもかんでも……なんだっけ、あれ。
アセなんとかケーなんとかってやつ……人工物質?」
さやか「人工甘味料のこと? アセルスファムだかアセスルファムだか……忘れたけど」
杏子「そうそうそんなやつ。あれが入ってるマズ~いやつばかり増えてるからさ……。
買うときに必ず確認するようになっちまって。それ以来ジュースにもちょっとこだわりが出てきた」
さやか「不味いかな? ちゃんと甘いし、カロリー低くて太らないし良いことばっかだと思うんだけど」
杏子「……はっ、さやか程度の舌じゃ分かんねーか、あのエグい後味が」
さやか「こんにゃろ、たかだか100円そこらのジュースの味がどうこうで偉そうにするんじゃないやい」
さやか「それにほむらなんか、むしろ『砂糖っぽくない、この甘さがクセになるのよ』とか言ってた気がするけどなぁ」
杏子「毎日毎食カップヌードルとコーヒーだけで生きてるヤツと一緒にしないでくれよ……」
さやか「あー、うん。それは言ってからちょっと思った」
さやか「他にも飲み物は……」ペラッ
さやか「あった。『キリンコーラ』? 何これ」
杏子「キリンのコーラ」
さやか「うん」
杏子「……いや、そのまんまなんだ。キリンが出してるコーラだよ」
さやか「キリンってビールの?」
杏子「そうそう。この前コンビニ行ったら置いてあって、初めて見たもんでとりあえず。
刺激が緩めで飲みやすい感じのコーラだったよ」
さやか「へー、見たこと無いな……どこのコンビニ?」
杏子「駅の裏の……って、もうそこには置いてなかったぞ」
さやか「マジですか、そんな不味い……わけじゃないんだよね? 同じく★3だし」ペラッ
杏子「ああ。何でだろうな……」
さやか「あ、『なっちゃん 朝MIX ピーチ&ブルーベリー』はあたしも飲んだ! おいしかったよねー」
杏子「それはかなり好みだったよ」
さやか「あれ? これ、名前だけしか書いてないよ。『冬のコアラのマーチ 焦がしミルク』?」
杏子「まだ食ってないからな」
さやか「予定ってこと?」
杏子「そーゆーことだ。今月発売で……たしかもう出てるはずだな。でも、電子レンジが必要なんだよ」
さやか「電子レンジ? コアラのマーチって、あのコアラのマーチでしょ?」
杏子「そうだけど、冬のバージョンはレンジで暖めて、中のチョコを溶かして食べると美味いようにできててさ。
電子レンジ持って無いし、レジで暖めて貰ってもすぐ冷めちゃうし、ちょっと手が出しにくくて」
さやか「毎年あるってこと?」
杏子「去年もあったよ。たしか……『キャラメルオレ』だったか? うまかったぞ」
さやか「へー、面白そう……。ねね、帰りに買っていこうよ、あたしの家で暖めてさ」
杏子「! へへ、それは嬉しい提案だな……。一緒に食べよーぜ」
さやか「うん!」
さやか「こうして見ると……わりかしハイペースで記録が増えてるよね。いつから書いてるの?」
杏子「え? どうだろ……。覚えてないけど、もう30か40冊ぐらい書いたんじゃねえかな……」
さやか「うお、そんなに続けてたんかい……。何でも三日坊主なさやかちゃんとしてはちょっと尊敬するかも……」
杏子「……他に趣味もねーからな。暇さえあれば食ってるから、まあ初めて食った菓子だけでも、いつの間にか、ね」
さやか「趣味ねぇ……」
さやか (あたしは恭介のせいでちょーっとだけクラシック曲に詳しくなったぐらいだし……やっぱり何も無いかなあ)
杏子「生きるってのと食うってのは同じようなモンだからな。あたしん中じゃうまいお菓子を食うのは、
人生最大の趣味だよ。お菓子のためなら死ねるっ!」
さやか「あはは、こりゃ筋金入りだわ……」
杏子「まだまだ食べてみたいものも一杯あるんだ。例えばほら、この前マミがお土産買ってきたろ。
何だっけ、三角形でやーらかくて甘いの」
さやか「……もしかして生八つ橋のこと?」
杏子「そうそうそれだ! あれを食って衝撃を受けたね、こんな美味い菓子を今まで知らなかった自分が悔やまれてならねーって」
さやか「確かにあれは、メロメロにされてしまう気持ちが分からなくもないわね」
杏子「そういうわけで、土産物のお菓子ってのも気になってきたんだよなあ。
いろんな所に出かけて、いろんな物を食べてみたいよ」
さやか「お菓子のためにお出かけかー。面白そうだけど、結構お金かかるんじゃない?」
杏子「そーなんだよな。だから、あたしバイク欲しいと思ってるんだ」
さやか「バイク?」
杏子「ガソリン代かかるけどさ、電車とかよりは結構気ままに食べ歩きできそーじゃん?」
さやか「いいねー、楽しそうだし……カッコよさそうだ、杏子。免許はちゃんと取りなよ?」
杏子「分かってるって……。警察に追われるめんどくささは、身を以て知ってるからな……」
さやか「ああ、そうよね……」
さやか「……あれって、16歳からだっけ。乗れるの」
杏子「そうだな。だからまだ、先の話だよ」
さやか「安全運転しなさいよ? 杏子が怪我してお見舞いに行くとか嫌だよ、あたし」
杏子「よほどの事故じゃなきゃ、魔力で回復できるだろ?」
さやか「いやそりゃそうかもしれないけど……」
さやか「……それにしても、ちょっと安心したよ。暇な時何してんのか聞いてもさ、いつもあんた何もしてないって言うから」
杏子「ん? いや、何もしてないぞ。ゲーセン行くか、魔女と仲良くするかぐらいだし」
さやか「うーん、そうなんだろうけど……。ま、いいの、あたしの気持ちの問題だし」
杏子「……? 何だそりゃ……」
さやか「それよりさ、もう一試合しない? そろそろ体力も回復したし」
杏子「ああ、かまわねーけど……。さやか強すぎるんだよな、全然勝てねえ」
さやか「あたしも慣れてるだけで大したこと無いんだけど……。杏子もやってるうちに上手くなってきてるじゃん」
杏子「そーかもしれんが……」
さやか「……ふむ、ようし。さやかちゃんがいいエサをぶら下げてさしあげましょう。
大サービスで、杏子が勝ったら何でも……一つだけ言うこと聞いてあげるよ?」
杏子 (!? 何だと……?)
杏子「……すげーうまい話に聞こえるけど、それあたしが負けたらどうなるんだ?」
さやか「もちろん、立場が逆になるね?」ニヤリ
杏子「だよなぁ……。うん、でもまあいいや、やろうぜ」
さやか「お、乗ってきたなっ!」
杏子「賭けるモンがあると、あたしはひと味違うってことを教えてやるよ」
杏子「っりゃ!」パシュッ
力一杯返される杏子のストロークを、
さやか「ほいっ」ポン
軽くさやかがネット際に落とす。
杏子「あっと!」ポコン
それでも杏子は犬のように齧り付いて球を拾うが、
さやか「そりゃっ!」パシンッ!
うまくロブを打たれ、後ろに消えていく球を見送った。
杏子「ああっ……!」
さやか「よっしゃー、40-15!」
杏子「くっそ卑怯だろ! 毎回毎回あたしの居ないとこにばっか打ちやがってっ!」
さやか「いやいやそういうゲームですし……。もうちょっと予測して動かなきゃー」
杏子「ぬぐぐ……」
何度か力業で杏子が押し切るも、そのままさやか優位で試合は運び。
ゲームカウント5-2、ほぼ詰んだ最後のゲームにも関わらず、
デュースに持ち込み杏子は気合いのみで粘っていた。
杏子「っはぁ、はぁ……」
杏子 (くっそ、絶対に負けらんねぇ……! 次取られたら終わりだ!)
息を荒げながら、いつになく真剣な目がさやかを見据えている。
さやか (むーう、そろそろ決めとかないと、あたしも体力的にやばいのよね……あきらめのわるいヤツめ)
さやか (……よしっ)
さやか「行くよっ!」
杏子「来いっ!」
さやかはひょいと、ボールを軽くトスし、
さやか (決めちゃるっ!) バシッ!
最後のつもりで…全力でラケットを叩き付ける。
杏子 (うお、速っ) パシッ
疲れのせいか、先ほどから落ちていた球速が突然復活し…
それに驚きながらも、危なげな動きでなんとかレシーブする。
さやか (さすがに返されるかっ……!)
お互い、つらい顔をしながらもラリーは続く。
片方は冷静な判断で、他方は燃え上がる闘志を頼りにして。
さやか (くそう、何だかんだで決まらないな……)
さやか (ん? これって……)
ともかく反射でもって球を追いかけようという姿勢のせいか、まさしく背水の陣であるゲーム状況のせいか。
杏子の立ち位置は、じりじり前にずれて来ていた。
多分、本人は気づいていない。
さやか (……そろそろかな?)
杏子は相変わらず力押しだ。だが疲れが出ているのは向こうも同じようで、
そう返球するのに苦労は感じない。
さやか (このまま待っていればそのうち……)
さやか (来たっ!)
そして……実にいい高めの球が返されたところを、逃すことなく捕らえ、
さやか (とどめだーっ!) バシンッ!
力強く相手のコートにスマッシュを打ち込んだ。
杏子「っ!」
そこでようやく杏子は自分の過ちに気づくが、反応が間に合わない。
横目で睨むボールは既に遠く、きっとこれでゲームは終わりだろう。
だが……
杏子 (くっ……! 届かない……いやでもっ!)
このまま終わらせたくはない。何としてでも勝ち取りたい。
その想いが、杏子の眠れる本能を呼び覚まし…
杏子「っらああぁ!!」ブンッ
ザシュッ… ポテッ
いつしか召還した槍の切っ先で、ボールを真っ二つに切り裂いていた。
さやか「……はい?」
杏子「………あ、やべっ」
さやか「もー、なーにやってんのあんたは……。ボール勿体ないじゃん」
杏子「いや、その、悪い……。必死になってたらつい……」
さやか「まあいいけどさ。危ないからもうやめてよ?」
杏子「ああ……。でも実際、もっと重くて長くないと振り回しづらいんだよなあ……」ブンッ
杏子「……最初から槍でやったら勝てる気がする」
さやか「そりゃ長い方が届くかもしれないけど。何かあたしだけ不利なような……いやそうでもないか?」
杏子「なんなら一本貸すよ?」
さやか「そんな花形満みたいなテニスはやりたくないです……。第一、ボールがスライスされる問題は解決してないじゃん」
杏子「それもそっか」
さやか「ま。とりあえず、この試合はさやかちゃんの大勝利に終わったわけですが。ねぇねぇ杏子ちゃんどんな気分?」ニヤニヤ
杏子「……くっ、調子に乗りやがって」
さやか「ほっほっほ、あたしに挑戦するなら、あと3年は精進するがよかろう!」
杏子「いつか潰す…いつか潰す…」ブツブツ
さやか「そんじゃそろそろ帰ろっか。借りてる時間も終わるし」
杏子「あ、そうだな。……帰り、コンビニ寄るの忘れんなよ?」
――その日の夜、美樹邸――
杏子「な、なぁさやか……」
薄暗い。机のランプだけが、部屋を淡く照らしている。
さやか「んー?」
杏子の足下で、ごそごそと作業をしながら気のない返事。
杏子「やっぱり……やめない? これ……」
ベッドの上。裸で大きく広げたまま、縄跳びに縛られた両腕を揺らす。
思いの外……しっかりと結ばれているようだ。
さやか「えー? 賭けに負けたあんたが悪いんじゃん?」
杏子「それは……そうなんだけど……! こんなことするなんて……」
さやか「……よしっと。これでいいかな」
最後の足の拘束を終え、満足げな表情で立ち上がる。
さやか「ふむ………」ジロジロ
杏子「う、そんなに……見るなよっ………///」
ぷいっと横を向き、赤い顔を隠そうとする。
さやか (あはは、かーわいっ。その仕草がもう……たまらないんだよ、杏子………)
ギシッ…
杏子「あ……っ」
緩む頬を押さえられないまま、さやかはゆっくりと杏子のお腹に馬乗りになる。
さやか「あんた、いつ見てもきれーなカラダしてるよね……。
柔らかすぎず、締まっていて……でも硬すぎない、そんなカラダ」
杏子「へ……へんなこと言うなよっ!」
慌てる様が面白い。
さやか「ホントのことしか言ってないよ……? 杏子、いつもはもっと素直なのに。どうしたの?」
杏子「だ、だって……。縛られてるって何か……恥ずかしい……。ヘンタイっぽいじゃんか……///」
さやか「そう……? でも……」モミッ
杏子「んぁっ……!」
呼吸と共に緩やかに上下する、まだまだ小振りな両胸を揉みはじめる。
さやか「ほらー、やっぱり。……いつもより、感じてる」
杏子「あっ……ん、そんな、こと………ないっ」
さやか「はは、嘘ばっかり。ヘンタイっぽいんじゃなくて、ヘンタイさんじゃん……」
杏子「そ、それ……はっ、さやかが………んっ……こんなこと、する……んむっ!?」
荒い吐息で説得力のない言い訳をする唇を唇でふさぎ、無理矢理黙らせた。
杏子「ン………」
目を閉じ、なすすべ無く受け身な杏子の口の中を、さやかの舌が蹂躙する。
さやか (んふ……。いつ味わっても、甘いな……杏子の口の中。チョコレートの味がする……) レロッ…
それはきっと、さっき同じお菓子を食べたさやかも同様であるに違いなかったが…
さやか (何でかな……。もっと……美味しい………)
特に理解をするつもりもなく、本能に任せるままに嘗め続けた。
杏子 (あっ……上あごが………)
杏子 (へ………変に、されちまう……っ!)
てろてろと注がれる唾液を味わいながら、杏子は口の中だけでなく…
自分の意識まで嘗め溶かされているような錯覚を感じる。
杏子「ンンー………」
それをただ受け入れてぼうっとしていると、
コリッ
杏子「ンフッ! ンーー……!」
急に、摘まれた乳首の感触にびくりと目を開ける。
目の前にあるさやかの両眼が、いたずらっぽく笑っているのが見えた。
杏子「ムゥ………」
ちょっと抗議を込めてにらみ返すも、
コリリッ
杏子「ンフゥ!」
さらなる追撃に、簡単に屈してしまう。
杏子 (な、なんだよこれっ……?)
杏子 (こんなに………感じるもんだったか……?)
そう、急に責められた驚きもあるが…
それよりも、妙に反応の良い自分の身体に驚いていた。
杏子 (やっていること自体は……いつもとそんな変わらないんだけど………)
ぐっと、縛られた四肢に力を入れてみる。
手首に足首に、巻き付いた縄の締め付けを実感し、自分では逃れられないことを確かめると…
杏子 (う………///)
その感覚に、きゅんと心が締め付けられる自分が居る。
期待感? 恐怖感?
良く分からないが、なぜかいつもより自分の心音が高鳴っていることは否定できない。
杏子 (こんなの……う、嘘だろっ………)
杏子 (さやかの言うとおり、ヘンタイじゃん、あたし……!?)
おかしいことだ、悪いことだという特に根拠のない理性が少し頭をかすめるも…
杏子 (あうっ、ん……!)
次々とやさしく加えられる刺激に、間違いなく感じている身体を誤魔化すことはできず。
杏子 (認めたく……ねーけど………)
早くも杏子は、さやかに全てを握られる心地よさを覚えはじめてしまっていた。
さやか「ぷはっ……」
随分と楽しんだ後で、さやかがようやく口づけをやめる。
顔を上げるにつれ、つつー、と。二人の唾液が杏子の首元をなぞった。
さやか「……杏子、だぁ~い好き………」サラッ…
赤い髪を軽くなでつけながら呟く。
杏子「あ……あたしも………好きだっ……!」
とろけきった目でそれに応える。
杏子「だから……その、さ………」モゾッ…
目を伏せつつ、もどかしそうに身体を捩り『はやく、もっと欲しい』とアピールする杏子。
さやか「なぁーに、もうおねだりー?」
杏子「だってっ………///」
さやか「ふぅん。……よいしょっと」
さやかは杏子のお腹の上をまたぐ恰好から、左右にぱっかりと開かれた杏子の脚の間へと腰を移した。
さやか (……ははは、すごいじゃん、これ)
うっすらと毛の生えたその場所は、さやかの予想以上の粘液を滴らせて誘っていた。
さやか「杏子ー、あんたちょっと濡れすぎじゃない?」
指でひとつまみ、その蜜をすくって伸ばしてみせる。
杏子「言わないでっ………///」ギッ…
お願いしておきながら、恥ずかしさから脚を閉じようとして……縄に阻まれる。
さやか「ふふふ……」クリッ…
杏子「んっ………」
ゆっくりと、じっくりと、杏子の陰部を撫でていく。
あえて、一番待ち望んでいるその突起をずらして。
追い込むように、くるくると指を動かす。
杏子「はあっ……んう………!」
その動きに時折、声を上げながらとぷりと蜜を吐く。
さやか (あはは、いいなぁ。今すぐにでも食べちゃいたいくらい……。でも……)
杏子「さやかぁ……! も………もっと………」
やがて我慢できず、懇願の声を上げる杏子に対して、
さやか「え? やーだねっ☆」
急に、茶化すかのようにさやかが拒絶した。
杏子「えっ……?」
その断る声のトーンに疑問の声を上げる。
いつものさやかなら、何だかんだで優しいのだ。
意地悪を言いつつも、ねっとりとじらしながらも、結局は望んだ刺激を与えてくれた。
杏子 (でも今の一言は……)
さやか「それじゃ、本番に入ろっかなー」トッ…
すっ、とベッドから降りてどこかに行くさやか。
杏子「へ……? さやか……?」
目で追いかけるが、すたすたと部屋を出て行ってしまった。
杏子 (えっ……このまま放置されんのか………?)
杏子 (それはそれで……辛いものが………///) モジッ…
等と思っていると、思いの外すぐに帰ってきた。
さやか「お・ま・た・せ~♪」
杏子「どうしたんだ……?」
さやか「ん? これ」ヒラッ
持ってきたタオルを、教えるかのように杏子の目元にかざした…
わけではなく。そのまま、杏子の視界を奪うために覆って結びはじめた。
杏子「ええっ!? おいっ……!」
首を振って抵抗するが、既に結び終えているようで、何も見えない。
鮮やかな犯行だ。
さやか「こうするとさ、ほら……」
指でそっと、やわらかな杏子のおなかをなぞると、
杏子「ひゃっ……!」ビクッ
太ももの内側をつつっと指を滑らせても、
杏子「んひっ!?」ビクッ
触れるたび。面白いように身体が跳ねる。
さやか「あは。出来上がったカラダが、もっと敏感になってる」
杏子 (や、やだっ……! 何だこれ………!)
視覚を完全に奪われ、どこに触れられるか分からない恐怖が触覚を鋭くする。
さやか「ごめんね杏子……。あたしさ、もう我慢できないんだよね」
杏子「な………何をだよ……?」
答える代わりに、脇腹をくにっと、優しく揉む。
杏子「んひゃははっ!!」ゾゾッ
杏子「く、くすぐったいだろっ! おいっ!」
さやか「あっはっは、そりゃーねぇ。くすぐったもん」
杏子「………え?」
さやか「ずーっと、こうしてみたいなーって思ってたんだ」
さやか「いっつもさ。あんたの魔法少女姿見てると、露出したこのワキが誘ってるように見えてさ……」
言いながら、毛のない綺麗なワキを指でつんつんとつつく。
杏子「えひゃはははっ、やめろって!」ギシシッ
拘束に逆らって抵抗する姿が、たまらなくいとおしい。
さやか「まどかをくすぐって遊んだこともあるけど……。何て言うか……杏子相手だと、この欲求が尋常じゃないんだよね」
さやか「ヘンな嗜好だとは分かってたから……我慢してたんだけど」
さやか「………そろそろ限界かなって、さ」
杏子「……お、おい、待てってあたしくすぐり弱いんだって知ってるだろ!?」
杏子の声に焦りが出始める。さやかの言い方、間違いなく本気だ。
さやか「この手で、いつもちょっと斜に構えた杏子ちゃんを満面の笑顔にしてあげたら……」
杏子「おいっ! 話を聞けよ!」
さやか「それってとっても、楽しいんじゃないかなって思ってね?」
杏子「頼むから……! 勘弁してくれって!!」
姿が見えない杏子の脳裏に、両手をわきわきとくねらせるさやかが浮かぶ。
さやか「ふふふふ、もう逃げられないもんねー。杏子の全ては、さやかちゃんの手の中にあるのだよ」
その言葉に、ちょっとだけ嬉しい響きを感じるも……そんな場合ではない。
杏子「た………助けて………」
さやか「ま、『何でも言うことを聞く』って話だからさ。今日ぐらい諦めて、思いっきり笑って?」
杏子「ババババカッ! マジでやめっひひひひひっはははあっは!」
抗議の言葉は脇腹への攻撃でかき消され。
杏子にとって、最悪の時間がついに始まった。
杏子「ははははははっはは、ははは! やめれへへはははははっ」ジタバタ
ふにふにと揉んでいるだけなのに、こんなにも愉快そうに笑ってくれる。
杏子「あっはははははははは、ひひはっ、や、やめろってひひひひ」
さやか「えー? あんた自分の立場分かってないんじゃない?」
杏子「うひひひひひひっな何がひはは! ははっははっははは!」
さやか「お願いするならさー、もっと丁寧に『お願いします』って言わなきゃダメだよ」
杏子「えははははっはっははおね、おねがはははははっ! 助けっひひひひひははは」
さやか「えー? 聞こえないなぁ」ニヤニヤ
少し、くすぐり方を手加減してみて…
杏子「っはあっ、お願い、はははっ…しますから! やめてへへへっひっ……やめてくださいいっ!」
さやか「あは、カワイイけど……。そんな簡単に言われると、なんだかありがたみがないなぁ。やめたげない♪」
杏子「そんなあっはっはっはっははは、うひはははっ酷いっひひ!ひひひっひひひ!」
またどん底に突き落とす。
さやか (いいよ杏子、もっと、もーっと笑っていいんだよ……)
杏子「もうかんべっへへへへっえへへ、がんべんしてへっへへへ! いひひひっひひっ!」
さやか「まだ5分も経ってないんだけどなぁ……」
目隠しの下、唾液を飛ばして不自然に歪む口元を見て、さやかもまた不自然なほどにやにやと笑ってしまう。
さやか (あぁ………可愛すぎるよ……)
杏子「はっはっはっははっ、えひゃははひひっ! ひひっ……くく! 頼むふふふひひっ!」
自分の指先のせいで部屋に響くその笑い声が、耳から脳をぞくぞくと震わせるのを感じる。
さやか (杏子、こんなにも幸せそうに笑えるんだなぁ……)
さやか (でも杏子は、心から苦しんでる。それをあたしは誰よりも知っている……)
その支配感が、矛盾した笑い声が、さやかの心を昂ぶらせる。
杏子「あははっははっはは、死ぬっ! 死んじゃははははうふふっはははは!」
さやか「魔法少女は、そう簡単には死なないよー。多分、このまま1週間くすぐり続けても死なないんじゃない?」
さやか (まぁ、その前にあたしが疲れちゃうけど)
ほとんどジョークだが、現実感のまるでない地獄を今まさに味わう杏子には恐ろしかったようで。
杏子「!? いやだあああっはははははっ! な、なははんでもするっからははは! たずけてっへへへははっはは!!」
さやか「……えっ? そう?」
杏子「っはひっ……?」
急に、脇腹を揉む手を止める。
杏子「ぜはっ、はぁ……はぁ……」
一時の休息。息を整える以外の事は、何も考えられない。
杏子 (……? た、助かった……?)
さやか「あはは、そっか。それもいいかも?」
杏子「はっ……はっ……はぁ……。何がだ……?」
さやか「いやさー、今も、すっごい満ち足りた気持ちではあるんだよ。長い間の念願が叶った、そんな感じで」
杏子「はあ……?」
さやか「でもこの愉しさを一度覚えちゃうと……あたし、もう今日だけで我慢できるとは思えないんだ」
杏子「……? 悪いけど、何を言ってんのか……」
さやか「だからさ。何でもするなら、約束してよ。……また今度、杏子のことを、あたしに好きなだけくすぐらせてくれるって」
杏子「………はっ? 何だと!?」
さやか「そしたら今日は許したげてもいいよ。もう、脇腹を揉んで虐めたりしないから。あははっ」
杏子 (ど、どういうことだよおい……)
今の苦痛か、先送りか。どちらにしろ杏子には何の得もない取引である。
杏子「え……あ、その………」
さやか「ねー、どうするの? 別にあたしはどっちでもいいんだよ。この脇腹をさ……」スリッ…
杏子「ひゃうっ!」
触れるか触れないかの力加減で撫でさする。
さやか「杏子が壊れるまで、ずーっと、ずーっと。何分も、何時間も可愛がってあげても良いんだけど……」ススス…
杏子「っく……ひひひっ」
ちょっとした刺激でも、先ほどの苦しみがフラッシュバックして堪らない。
さやか「ねぇ。杏子はどっちがいーい?」ニタッ
明らかに悪意を持った声が、酸素の不足した脳に決断を迫る。
もちろん、ここまで脅されては選びようなどあるはずもない。
恐怖を煽られ、ただただ現状から逃れたい一心から……
杏子「や……やだっ! いやだっ! やめてくれ!!」
杏子「約束するから……! また今度くすぐらせてやるって約束するから、今はもうやめてくれようっ!!」
泣きそうな声で、さやかちゃんの予定通りに答えを返すのだった。
さやか「………あっはっは、そっかそっか。うん、約束♪」
杏子「だ、だから早くこの目隠しを……」
さやか「……うーん、それじゃどこくすぐればいいかな?」
杏子「………へっ!?」
さやか「お腹かなぁ」ススッ…
すべすべしたおへそのまわりをなぞる。
杏子「いひっ!? おいさやか、約束っひひひっ!」
さやか「足の裏も捨てがたいよね」コショショッ
杏子「そこはっあひゃっくくく……おい、何でだよっ! もう許してくれるって」
さやか「んー? そのせいで悩んでるんじゃない。……太ももかなー」モミッ
杏子「ふはははっはははっ! 話が違うだろっ! ……っはははっ」
さやか「何言ってるのー? あたしは脇腹を揉むのは許してあげるって言ったけど、くすぐるのはやめるなんて言ってないよ」
杏子「ばっ………騙しっひひひひっ!? だましやがっははは! ったのか!」
さやか「騙してないよ。もう脇腹は触らないのはほんとだもん。……今度また可愛がらせて貰うのも、ほーんと」
杏子「やめっへへへっ……やめてくれよぉぉぉほははっ!!!」
つん。
杏子「んひっ!」
つんつん。
杏子「あんっ……ひひっ!」
リズムをつけて、全身をランダムに苛んでいく。……約束通り、脇腹だけは避けつつ。
いつのまにか、杏子は抗議を諦めたようで、鳴き声しか上げなくなっていた。
さやか (……楽しいわねー、これ。楽器みたいだ)
特にくすぐったがりそうな場所だけというわけではなく。
杏子「んぁぅ!……っあ………。はははっ!」
時折、キモチイイ場所にヒットするのか……鼻にかかった声を上げる。
さやか (ふぅん……?)
残酷なまでに触れられないままだった、杏子の割れ目に目をやる。
さやか (なるほど。見たこと無いぐらい……とろっとろ……)
そっと、杏子の耳元に顔を近づけて囁く。
さやか「杏子? あんたさー……。くすぐられて、きもちいーの?」
その声で耳にかかるさやかの吐息に、杏子はぞくりと全身を震わせた。
杏子「はあっ!? そんなわけ……んんっ! ………ひひひっ」
口ではそう否定するものの、全身の隅々までを弄られて、杏子は混乱していた。
杏子 (………そんなはずねぇだろ……! 一刻も早く、この苦しみから逃れたい)
しかし、絶え間なく与えられる感覚が、くすぐったさなのか何なのか……だんだん分からなくなっている。
杏子「あひっ!………っははは、は……うっ!」
杏子 (……言われてみると………気持ちいいのかな………これ)
杏子「いやっ………ははっ! ………うくく」
杏子 (苦しいのが……気持ちいいのか……? まさか……)
杏子「うっ………ははっ………ははは」
杏子 (もうやだ……何もわかんねぇ……)
考えることを諦める。
どうせ考えようとも、今はさやかに遊ばれるしか術はないのだから。
杏子 (だったら、気持ちいいって……思っといた方が良いか………)
正気を失いかけている意識の片隅に、そんな想いが渦巻いた。
杏子「えひひっ………んふひ………へへ………」
そのまま、手を使い舌を使い、時に優しく、時に厳しく全身をくすぐり続け。
杏子は、ほとんどまともに笑い声も出せなくなっていた。
さやか「杏子ー?」
杏子「はんっ…………ははっ………ひひひ……」
さやか (反応無し、と……ふうむ。もう限界かなー?)
杏子「っふ………。………ふへへ………」
何もしなくても、だらしなく口元が笑っている程だ。
さやか (んー。たっぷり楽しんだし……そろそろ、楽にしてあげますか)
さやか「……お疲れ様、ご褒美あげるよ」
今の杏子には聞こえないことを分かりながら、ぼそりと呟くと、頭を脚の間、濡れそぼつ局部に持って行く。
さやか (頑張ったねぇ、よしよし)
さやか「んむっ……」ジュルッ…
そして口づけて……ずっとずっと、蜜を吐くことだけで欲望を訴え続けていた蕾を吸い上げる。すると、
杏子「あっ……ああああんん! ひゃうっ!!」ギシッ
残った体力を振り絞り、本能が大きく悦びの叫びを上げた。
杏子「うああぅ……んひいっ!」
ざらついた舌を巧みに使い、手加減無しで責め立てる。
杏子「ふあっあああぁ……えああ! ……いひっ」
舌が往復する度に、頭を振り乱して反応してくれる。
さやか (………うーん。まだ笑えるかなぁ?)
ついでとばかりに、両手をワキの下まで伸ばして強くまさぐってみる。
杏子「あっはははははっん……んはああんっ! あひっ!」
さやか (あ、悪くないかも)
そのまま、舌と両手で間髪を入れず追い詰める。
杏子「あははっ……ああうぅん……ひひっ!」
遠慮のない強烈な刺激に、そう長くも耐えられるはずはなく、やがて……
杏子「ああっ! がっ……いっあ゙あああぁぁぁっ!!」ギチチッ
動けない身体を全力で引っ張り、限界まで身体を弓なりに反らせて。
ついに杏子は絶頂を極め、最高の快楽と安らかな眠りを手に入れたのだった。
杏子「………」ピクッ… ピクッ…
さやか (……ん?)
全てを使い切った身体をどさりとベッドに沈めると……
痙攣を続ける身体から、ちょろちょろと黄色い液体が流れ出した。失禁したようだ。
さやか「おっと………ん……」ズズッ
すかさずもういちど、先ほどと同じ位置に口を添え、流れ出る小水を啜る。
さやか (んくっ………)
初めて飲むものの、あまり躊躇わずに味わってみると……
さやか (へぇ。ちょっと苦いけど……甘いや、これ)
温かく口を潤すその液体は、思いの外甘く飲みやすかった。
若干、果物の香りがあるような気もする。
さやか「はは、美味しい……。杏子のおしっこ、すごく美味しいよ……」
さやか「誰にも渡さないんだから。あたしだけの、杏子……」
チュッ…
さやかは口内の味も変わらぬうち、相変わらず意識のない杏子におやすみのキスをした。
――翌朝――
さやか「おーっす!」
杏子「よお」
まどか「さやかちゃん、杏子ちゃんおはよう!」
ほむら「おはよ、二人とも。朝から仲良く出勤とは、妬けるわね」
仁美「おはようございます。これはきっと、お二人だけの濃密な時間を……嗚呼っ」
さやか「なっ、たたた、ただ昨日一緒に遊んだついでに泊まっただけよっ!」
杏子「そ、そうだよ……変なこと言ってんじゃねーよ……///」
まどか「……あれ? 杏子ちゃん、なんだか元気がない、ような?」
杏子「んっ!? あ、あぁ……何でもないよ、いつも通りさ」
さやか「そ、そうだよまどかー、いつだってこんな感じだよー?」
まどか「うーん、そうかなぁ……?」
まどか (さやかちゃんは、逆にいつもよりゴキゲンなような……)
ほむら「………ふうん?」
さやか (さーすがに、疲労の色が見えちゃうよなぁ……。やりすぎたか)
ほむら「あら、今日はポッキーじゃないのね。珍しい」
杏子「ん? 『ダース クラッシュアーモンド』だよ。くうかい?」モグモグ
ほむら「……一つ貰うわ」ヒョイ
仁美「わたくしも頂いてかまいませんか?」
杏子「おう」
まどか「わたしも欲しい!」
さやか「ほらほらさやかちゃんにもよこしなさい!」
杏子「ほい、まどか。……さやかは何かイラッときたからお預けな」
まどか「あはは」
さやか「あ、ちょ、酷っ!」
ほむら「……へぇ、香ばしくて……なんだかアーモンドもちょっと独特?」ムグ…
仁美「中のアーモンドが少し、やわらかい食感ですわね」モグ…
杏子「ダースはせいぜい『食いやすい板チョコ』ぐらいの立場で満足してろとも思ってたが……。
毎回変わり種が出る度、食ってみると案外悪くないんだよな」モグモグ
仁美「チョコレートは私も大好きでいろいろと食べていますけれど、これもなかなか気に入りましたわ」
杏子「そうかい? 同じ趣味か、そいつは嬉しいね」ニカッ
さやか「くそぅ、マジで一つもよこさないとは……」
杏子「昨日のおかえしだよ、ったく……」ボソッ
まどか (……?)
まどか「それにしても杏子ちゃん、甘い物好きだよね」
ほむら「そうね。それだけ食べて太らない体質が腹立たしいくらい」
さやか「そんな甘いもんばっか食べてるから、杏子のおしっk…」
言いかけて。自分がとんでもないことを口にしようとしたことに気づく。
ほむら「え?」
仁美「はい?」
まどか「え?」
杏子「何だ?」
さやか「うあおっ!? え、えっと………! その………!」
さやか「あーっと、ほら、おし………いれがさ、杏子のお菓子で一杯っていうかさ、あははは、はは……」アタフタ
杏子「何言ってんだ、さやかん家のお菓子は台所にあるだろ?」
さやか「だあぁぁぁぁ! 杏子は黙っててっ!!」
ほむら「なるほど? まさか、あなたたちがそこまでの域に達していたとはね……」
さやか「ほむらっ!!」
仁美「こ、これは予想以上に来てますわね……!」ダクダク…
さやか「仁美も!? 何鼻血出してんのさ!」
ほむら「ほら仁美、ティッシュあげるから鼻血止めなさい、すごい勢いよ」
仁美「ありがとうございます……ぶふっ」
ほむら (致死量に見えるわね……)
まどか「ねえねえほむらちゃん? 何の話?」
ほむら「あなたは知らない方がいい事よ」
仁美「まどかさん、ちょっとこれは刺激が強すぎる話でしてよ……!」
まどか「ええっ、みんな酷いよう……。ねね、杏子ちゃん、何の話なの?」
杏子「いや、悪い、あたしも何でこいつらが盛り上がってるのかさっぱりだ……」
さやか「ああああっ、あんたたちの勘違いなんだからね、あたしは何も言ってないんだからね!?」
ほむら「もうその慌てっぷりで証明してるじゃないのよ……」
ほむら (でも、だとすると………。まあ……夕方で、いいかしら……)
――放課後――
キーンコーン カーンコーン…
さやか「終わったっ! 自由だ、あたしは自由を手に入れたぞ!」
ほむら「あなたは授業中だって自由に寝てるじゃない」
さやか「失礼な、今日は起きてたよ!」
ほむら「あらそう。……そんなことより」
さやか「ん?」
ほむら「ちょっと、このあと時間取ってもらえない?」
さやか「……へ? 別にかまわないけど、どしたの」
ほむら「……そうね、あなたに相談があるのよ」
さやか「んー……? よくわかんないけど、別にいいよ?」
ほむら「ありがとう」
まどか「ほむらちゃん、さやかちゃん、一緒に帰ろ?」トタタ
ほむら「あ、まどか……」
さやか「ごめんまどか、ちょっとほむらと用事があるんだ。今日は仁美と帰ってもらえるかな」
まどか「え? ほむらちゃんと?」
ほむら「ごめんなさい、まどか」
まどか「あ、うん、いいんだけど……」
ほむら「じゃ、また明日」
さやか「まったねー」ノシ
まどか「うん、またねー?」
まどか (何だろう、二人でないしょの用事? 気になるなあ)
仁美「あら……? お二人はどうなさったのでしょう……」トコトコ
まどか「仁美ちゃん。良く分からないんだけど、二人で何か用があるみたいだよ?」
仁美「そうですか……」
仁美 (まどかさんもご存じない、秘密の……?)
仁美 (これはズバリ……。杏子さん、大ピンチ、ですわね!?)
仁美 (朝から衝撃の発言があったと思いきや、今度はNTRだなんて……!)
仁美 (っと……いけませんわね。これ以上は、また貧血を起こしてしまいますわ……)
ザクッ… ザクッ…
校舎の裏の隅、草も高く生い茂り誰も近寄らない場所。
足が折れた椅子や机など、粗大ゴミに出してもらえなかった廃棄物が山と積まれている。
さやか「それで、どうしたの? あんたがあたしに相談なんて、珍しいじゃん」
ほむら「ええ、その、正確には相談ではないわ。ちょっと二人だけで話したいことがあって」
さやか「え? ……あれ、やだ、もしかしてこれさやかちゃんの貞操がピンチだったりする?」
ほむら「茶化さないで……。真面目な話よ」
さやか (たしかに、いつになく真剣な顔してるなぁ……)
ほむら「それで、まずは確認なのだけれど……」
さやか「うん」
ほむら「………貴女、佐倉杏子の尿を飲んだことあるのよね?」
さやか「………」
さやか「はえっ!? あっ………ええっ!? そ、そんなストレートに……///」
ほむら「そうなんでしょう? もう驚くほどバレバレだから、変に隠さなくて良いわよ」
さやか「ぐっ…………はい……認めます……。飲みましたぁ………///」
さやか「うう……もうっ、思い出させないでよ! せっかく朝言わされたこと忘れかけてたのに!!」
ほむら「あれはあなたの自爆じゃない、何言い出すのかと思ったわ……」
さやか「ああっ……、さやかちゃんの清純乙女なイメージが崩れちゃうよう……!」
ほむら「いや、杏子と二人で結構よろしくやってるらしい事自体はみんな分かってるからいいのよ」
さやか「へっ!? 何よそれ、まどかとか仁美とかマミさんとか、そういう認識なの!?」
ほむら「ええ、大体あってるけれど……まどかだけは知らないはずよ。この私が、決して、汚させない」
さやか「ああそう……」
さやか (………)
さやか「まどかの体操服の匂いを嗅いで恍惚としてたヤツの台詞とは思えんなあ……」ボソッ
ほむら「……何ですって!?」
しらを切ることもなく。ぐいっと、さやかの襟首を掴み、睨みつける。
ほむら「ちょっと貴女、どこで誰からいつその話を聞いたの? ……返答次第では、ただではおかない」
大きく見開いた瞳には、殺しにかかっている意思を感じる。
さやか「え、いやその……。聞くもなにも、この目で見てしまったと言いますか……」
ほむら「………」
ほむら「なるほど、つまり……。その記憶は、貴女の息の根を止めることで、この世から抹消できるのね?」
さやか「……はあっ!?」
空恐ろしい一言にぽかんとしていると、本当に襟を掴んだその手を首元に移し……ぎゅっと喉元を潰しに来た。
さやか「ぎ、ギブギブ! 首はやばいって! ぐびはまじで……ぐぐっ、ぐるじーよ!」
さやか「おぢづげ……って!」ゲスッ
ほむら「うぐっ!」フラッ
軽く腹部を蹴られ、手を離してよろけるほむら。
さやか「っは、はぁ……はぁ……。ホントに殺されるかと思った……」
ほむら「!? あっ……ごご、ごめんなさい。ちょっと取り乱したわ……」
さやか「ちょっと……? 落ち着いてくれればそれでいーけどさ……。らしくないじゃん、いつも冷静なのに」
ほむら「さやか、お願いだから……その事は、誰にも……特にまどかには決して言わないで欲しいの」
さやか「ああ、うん、言うつもりは無いから大丈夫……」
さやか「でも、そもそもほむらこそ、普段からまどかにぞっこんなコトは周囲にバレバレなんだけど……。
わざわざ隠す必要あるのかな……?」
ほむら「あるに決まってるじゃない!!」
なかなか聞けない、ヒステリックな声を上げる。
さやか「いやまー、結構ヘンタイ的ではあるけどさー。まどかならそのくらい受け入れると思うよ?」
ほむら「そういう問題じゃないの!」
さやか「どういう問題なのよ。前から相思相愛っぽいし、何でつきあわないのかなーとは思ってたのよね」
ほむら「貴女ね、まどかがどうしてこの世で一番美しいか、分からないの?」
さやか「………はい? ……いや、唐突に言われても……」
ほむら「はぁ……。本当に愚かね」
心の奥底から憐れむような表情を向けられる。
さやか (これは何か、嫌な予感が……)
ほむら「いいわ、教えてあげる。それはまどかが、この世で一番純粋で、汚れを知らない愛の女神だからよ」
さやか「………は、はぁ」
さやか (うわあ、やっぱり……ヤバいモンに踏み込んでしまったような後悔があるなぁ……)
ほむら「貴女は理解しているかしら。まどかが、どれほどの優しさを持つ存在か」
さやか「あ、うん……。優しい子ですね、まどかは」
ほむら「ええ。でも優しいなんてものではない、本当に底なしの慈愛に満ちあふれている」
ほむら「そしてその慈愛を、分け隔て無く……万人に注ぐことが出来る。太陽のような存在よ」
さやか「はぁ………」
ほむら「人がどんなに醜いか分かる? そこらに転がっている人間の酷いこと酷いこと、
欲に溺れ、憎しみに溺れ。汚れきっていて反吐が出る」
ほむら「ところがまどかには一点の曇りもない。純白な輝きとなり、ただそこにある。
自らを犠牲にしてでも、我々人類に救いの手をさしのべてくれる」
ほむら「これはもう……稀少なんてもんじゃないわね、唯一無二にして絶対の救世主、それがまどかなの」
さやか (どうしよう、この人わけがわからない……)
ほむら「でもね、それだけの存在だからこそ、壊れやすい。……聞いてる?」
さやか「はい」
ほむら「限りなく純粋であると言うことは、ほんの少しの汚れでも触れてしまえば、染まってしまうと言うこと」
ほむら「私が手を触れてしまったら……いいえ。私が手を触れようとしてしまったら、
その想いが本人に知れてしまったら。私の心の醜い部分がまどかに触れてしまったら。
壊れてしまうのよ。世界の至宝が」
ほむら「そうしたら……私は一体何にすがって生きていけばいいの? 誰が私に愛を注いでくれるの?
答えは明らかよね。そんなものはどこにも無い。死ぬしか無くなるわ……」
さやか (………?)
さやか (……ごちゃごちゃ言ってるけど要するに、フられたら人生おしまいだって話?)
ほむら「だから私は、まどかを崇拝しながらも、常に距離を置かなければならないのよ」
さやか (じゃあまどかのロッカー漁るなよ、って言わない方が良いんだよね……多分)
ほむら「そして、貴女を含めた、この世の俗物から守らねばならない。命に替えてでも、汚すことは許されない……」
ほむら「それがまどか。私の生きる理由、全てを捧げるに値する女神」
ほむら「どう。分かってもらえたかしら?」
さやか「え、えっと……」
さやか (ほむらって、結構アホだったんだなぁ……)
さやか (とりあえず、ここは聞き流して……)
さやか「あの、はい、まどかのすばらしさはとても良く分かりましたので、そのへんで宜しいかと……」
ほむら「そう? 良かったわ。そういうわけだから、本当にお願いよ。何でもするから、絶対にそのことを誰にも言わないで」
さやか「だーかーらー、そのつもりはないし、大丈夫だってば……。
第一あたしの方も言われたくない秘密握られてるんだし、お互い様じゃん」
ほむら「……ありがとう、助かるわ」
当たり障りのない和解をしつつ、何か少し頭に引っかかる。
さやか (ん? ……今、何でもするとか言ってた……?)
想像する。ほむらの、いつもきりりと冷たいまま、まどかを抱きつかせでもしない限り緩まない鉄壁の表情。
それをこの手で、ぶち壊す。とびっきりの笑顔にしてあげる。
元に戻らないぐらい、歪ませてあげる。
さやか (ああ。……それって、すっごい、イイかもしんない)
ほむら「……さやか? どうしたの、そんなにニヤニヤして」
さやか「えっ!? あ、ああ、何でもない何でもない」
ほむら「そう……?」
さやか (危ない危ない、別世界にトリップしかけてた……)
さやか「……それで、なんかものすごーく脱線した気がするけどさ」
ほむら「あ……そうね。さやかが杏子の尿を飲んだ話だったわね」
さやか「繰り返すなっ! ド直球な表現で繰り返すなっ!」
ほむら「ごめんなさい。でも、その前提でもう一つ確認したいのよ」
さやか「何か茶化されてるだけにしか感じないのよね……」
ほむら「いえ、本当に大事な話よ……。で、それ。甘かったの?」
さやか「はあ?」
ほむら「勘違いならごめんなさい。……勘違いであって欲しいけれど。
話の流れからして、杏子の尿は甘い味がしたと、そう言いかけたように聞こえたのだけれど。違う?」
さやか「ーっ………///」
ほむら「………分かりづらかったなら、もう少し詳しく言ってあげるわ。
情欲の熱に当てられた美樹さやかが恥ずかしげもなくゴクゴク!とその喉を潤した液体、
溺愛する佐倉杏子の不浄の穴から排泄されたその生あたたか~い液体に舌鼓を打っt」モガガッ
さやか「わーわーわーわーわー!!! 言うからやめてって!!!」
さやか「………甘かった、です………。マジでもう勘弁して………///」
真っ赤な顔でうなだれる。
口元をふさぐさやかの手をどかして続ける。
ほむら「そう……。ありがとう」
ほむら「……だとしたら、とてもまずい事態ね、これは」
さやか「………え?」
ほむら「佐倉杏子には、糖尿病の疑いがあるわ」
さやか「………? 何それ?」
突然の話に付いてけず、首をかしげる。
ほむら「名前ぐらいは聞いたこと無いかしら?」
さやか「いや、あるけど……何だっけ、生活習慣病? って言うんじゃなかったっけ」
ほむら「そう、その糖尿病よ」
さやか「……え、でもそれって、大人とかお年寄りとかの病気じゃないの?」
ほむら「そうね、大人の方が患者が多いのは事実だと思う。でも、子供だからって、かからないわけじゃない」
さやか「うーん………。急に言われても、ちょっと信じがたいなあ。朝も見たでしょ、ピンピンしてるじゃん」
ほむら「外からの見た目では分からないのよ……」
ほむら「私が心臓を悪くして入院していた話は知ってるわよね?」
さやか「うん」
ほむら「おかげで、その病院の患者さんに何人か知り合いが居るのだけれど……」
ほむら「その中の一人に、小学生で糖尿病の子がいたわ」
さやか「……はい? 小学生で糖尿病? ……嘘でしょ?」
ほむら「本当よ。見た目は普通の小学生だったけれど、彼の場合は……1型、とか言っていたかしら。
糖尿病の種類の中でも、悪い物? だったらしいわ……」
ほむら「ともかく、放っておいたら死に繋がると言っていた。
定期的に自分でしないと行けない注射や、食事の気をつけ方なんかを頑張って覚えていたわね」
さやか「………」
ほむら「それ以外にも、糖尿病のせいで腎臓が悪くなって、透析をする人とか……。
足が腐って、切断しなければならなくなった人も居たわ」
さやか「そんな……」
ほむら「周りから見た様子どころか、本人にも自覚のないうちに悪化していって、気づいたらもうどうしようもない状態。
糖尿病って、そういう病気らしいのよ……」
さやか「や、やめてよ………」
さやか (杏子が病気? そんなの嘘に決まってる……)
さやか「で、でも! おしっこが甘いからって、本当に糖尿病なの?
ただ単に、甘い物をいっぱい食べたから、それが出てきただけかも知れないじゃない」
ほむら「……もちろん、私は医者ではないから、確実なことは言えないわ」
さやか「だ……だよね!」
ほむら「ただ、知り合いの人も『本当に尿が甘くて驚いた』と言っていたの……。
それに糖尿病の名前の通り、尿に糖が入っていること自体が危険なサインであるとは思わないかしら。
彼女が普段から異常な量の甘いお菓子を食べていることも知っているはずよ?」
さやか「う………」
ほむら「だから、早めにあの子を病院に連れて行きなさい」
さやか「え……?」
ほむら「信じたくない気持ちは分かるけれど、疑わしいことは認めて貰えるでしょう?
なら、さっさと検査をしてもらって、できるだけ早く疑惑を払拭すべきよ」
さやか「そう、かもしれないけど……」
さやか (たしか糖尿病って、甘い物食べられなくなるんだよね……)
さやか (だとしたら……もし万が一杏子が糖尿病なら……。それは、杏子に死ねって言うような物じゃないの?)
さやか (そんなの……絶対に嫌だ……!)
さやか「やっぱりほら……そんな気がする、っていうだけで、病院に行けっていうのはさ……」
ほむら「………」
さやか「それに何て言えば……。『実はあんたのおしっこ飲んだけど、甘かったんだ』とか言うのは……ちょっと……///」
ほむら「え……? 貴女が尿を飲んだこと、杏子は知らないの?」
さやか「あ、うん……」
ほむら (この二人、一体どんなプレイしてるのかしら……?)
さやか「と、とにかく。もうちょっと調べてからじゃないと……何とも言えないと思うの」
ほむら「………」
さやか「だから図書館とかでさ、本とか探して……。それからでも遅くないんじゃないかって」
ほむら「……そうね、わかったわ。私も手伝う」
さやか「え……?」
ほむら「杏子は私にとっても大切な仲間だから。糖尿病について調べるというなら、手伝うわ」
さやか「……ありがとう!」
――帰り道――
まどか「あ、杏子ちゃんだ!」
仁美「あら、杏子さん」
杏子「よーっす」
杏子「……あれ? さやか居ないんだな、珍しい」
仁美「! ええっと、それはですね……」
まどか「なんだかわかんないけど、ほむらちゃんとご用があるって言って二人でどっか行っちゃったよ?」
仁美 (まどかさん! それは……)
杏子「ほむらと……? ……へぇ、それであんたらは二人だけなのか」
まどか「うん、だから仁美ちゃん家に行ってお話でもしようかなって思ってたんだ」
仁美「杏子さんもご一緒にどうですか?」
杏子「ん、行ったことねーけど……大丈夫か?」
仁美「ええ、もちろんです。ふふ、わたくしのお気に入りのチョコレートをご馳走させて頂きますわ」
杏子「おっと、そいつは行かねーわけにはいかなくなってきたな……! へへ」
まどか「ティヒヒ、それじゃ行こっか!」
――ほむホーム――
ほむら「入って」ギィーッ
さやか「お邪魔しまーっす。……おかえり、ほむら」
ほむら「……何とも有り難くない気の利かせ方ね」
さやか「むむ、そこは素直に受け取っておきなさいよー」
ほむら「はぁ。……ただいま」
さやか「は~い、良くできましたね~ほむらちゃ~ん」ナデナデ
ほむら「殴られる前にそっちの椅子に座っていてもらえるかしら、渋いお茶出してあげるから」
さやか「怖っ! あ、でもインターネットで調べるんだよね?」
ほむら「ええ。図書館には専門書しか無くて、よく分からなかったから……」
さやか「なら先に調べてよっか? あたしもちょっとなら使えるよ」
ほむら「……えっと、あー。ちょっとパソコンでやりかけの作業をそのままにしてあるから、その。
片付けが済むまで待っててもらえるかしら」
さやか「そう? わかった」
ほむら (危ない……。とりあえずデスクトップのファイルを隠して、ブラウザの履歴とか消して……)
ほむら (ブックマークのmadocam.comとかバレたら今度こそ終わりだもの……)
さやか (ふぅむ……) コクッ…
さやか (あれ、これ玉露じゃない……? ぶっ壊れた食生活のわりに良い物飲んでるのねー)
お茶を出した後、ほむらはパソコンに向かい何か作業を続けている。
さやか (暇だなー……)
一応借りては来た、糖尿病に関する本をぱらぱらとめくるが…
さやか (うん。良く分からん)
すぐに理解を諦める。
さやか (何の作業してたのか知らないけど、早くおわんないかなぁ)
ほむらのさらさらした髪が揺れる背中を見ながら、ふと、また欲望の火が灯る。
さやか (ああ、そう言えば。ほむらくすぐったら面白そうとか、思ってたなぁ……)
さやか (……ちょっと、挑戦してみるか?)
腕はマウスとキーボードに向けられ、両脇は誘うようにがら空きだ。
意識も液晶画面に集中しているようで、普段から隙の少ないほむらを狙うなら恰好のチャンスと言える。
さやか「………」ゴクリ
そろり、そろりと息を殺して近づく。
はやる気持ちを抑えながら、じっくりと時間をかけて射程圏にたどり着き。
その両手をすっとほむらのワキの下に伸ばしかけたとき……
ほむら「動くな」ゴッ
眉間に、冷たい銃口が当てられた。
さやか「ひいっ! ごめんなさいっ!?」バッ
出そうとした手をピンと上に伸ばし、降参のポーズをする。
ほむら「……あれ? さやか?」
さやか「はい、さやかちゃんでございます……」
ほっとしたような残念なような顔で、突きつけた銃を降ろす。
ほむら「ごめんなさいね、なんだか妙に悪意のあるピンクな視線を感じた物だから……ぞっとしちゃって。
勘違いだったみたいでよかったわ」
さやか「あー、そっか、うん……」
さやか (はい、まさにあたしですねそれは……。くそう、ほむらには簡単には手が出せないなぁ……)
ほむら「まあいいわ。丁度、終わった所だから……早速調べてみましょうか」
さやか「お、待ってました!」
カタタッ…
ブラウザの検索欄にキーワードを入れて調査を開始する。
さすがに『糖尿病』に関しては、かなり沢山の情報があるようだ。
さやか「うーん、いっぱいあって困るけど……。一つずつ見ていくしかないか」
ほむら「そうね……」カチッ カチッ…
適当にタブで開き、流し読みしていく。
さやか「……あ、ここわかりやすそうじゃん」
ほむら「とりあえず『糖尿病とは何か』からね……」カチッ
> 糖尿病とは、血液中に含まれる糖分の量、『血糖値』が異常に高くなること。
> また、それによって引き起こされる様々な合併症のこと。
さやか「ふむふむ……」
> ある量より血糖値が高くなると、腎臓での再吸収が追いつかなくなり、尿に糖分が排泄されて甘くなる。
> 1674年にイギリス人の医師が、やけに尿の量が多い奇妙な病気の人々を調べ、
> その尿を実際になめてみて甘いことから『糖尿病』と名付けたという。
さやか「……やっぱり、おしっこが甘いってのは………」
ほむら「そのようね。……楽観視は、しないほうがいいと思う」
> 血糖値が酷く高い状態が続くと、これを排泄しようとして尿が多くなる。
> 同時に、それによって失われた水分を補うため、異常にのどが渇くのを感じる。
さやか「……どうなんだろう」
ほむら「多いの?」
さやか「うん……。いつも食べながらジュースとか飲んでるし、仕方ないかなぁと思ってたんだけど」
ほむら「………」
ほむら「次、『糖尿病の種類と原因』行くわよ」
さやか「うん……」
> 糖尿病自体は血糖値が高くなることであるが、これが起こるには実に様々な要因が絡んでいて複雑である。
> しかし大きな分類として、『1型糖尿病』と『2型糖尿病』の2種類がある。
さやか (たしかほむらが言ってたな、1型とかって……)
> 1型はすい臓にある『β細胞』という細胞が破壊され、『インスリン』が分泌されなくなる病気である。
> 自らの免疫機能が暴走することが大きな原因とされ、遺伝的な要因があるとも言われるが、
> そうでない場合もあり、正確なメカニズムは不明である。
> これはいわゆる『生活習慣病』と呼ばれるタイプの糖尿病ではない。
ほむら「こういうことだったのね。あの子、1型って事は、自分じゃどうしようもなく……」
さやか「………」
さやか「えっと、インスリンってのは?」
ほむら「たしか注射する薬だったような……。ちょっとまって」カタタッ…
> インスリンとは、すい臓のランゲルハンス島β細胞にて分泌されるホルモンである。
> 人体内で血糖値を下げる働きをする唯一の物質であり、糖尿病の治療などに使われる。
ほむら「……なるほど。細胞が破壊されて自分では分泌されなくなるから、注射しなければならなかったのね」
さやか「注射とか……ずっとしないといけないの?」
ほむら「みたいね。毎日ちゃんと注射しないと急激に血糖値が上がって酷いことになるってことでしょうね。
インスリンが体内で全く作れないというのなら……納得はいくわ」
さやか「きょ、杏子はお菓子を食べ過ぎてる生活習慣のせいだよね!?」
ほむら「……分からない、無いとは言い切れないんじゃないかしら。
……ほら、『1型糖尿病の多くは10代で発症』って書いてある」
さやか「う……」
ほむら「……これは安心する材料を探すための調査ではないのよ。それを忘れないで」
さやか「………」
ほむら「2型は……」
> 2型糖尿病は様々な要因が合わさって血糖値が慢性的に高くなる病気である。
> 全ての糖尿病の9割以上を占めており、一般的に糖尿病と言われる場合は2型を指す。
ほむら「なるほど、普通糖尿病というのはこちらのことなのね……」
> 原因は人によって異なり、一概に何が原因と言うことは出来ない。
> ただ、基本的に「糖尿病にかかりやすい」体質の人が、「糖尿病になりやすい」生活を続けて生じる病気であり、
> そのために生活習慣病と呼ばれている。
> 『肥満』『運動不足』『ストレス』『食生活』など、糖尿病を誘発する生活習慣は多岐にわたる。
さやか「太って無いし……運動もしてるよね」
ほむら「……食生活が、まさにぴたりと当てはまるじゃない」
さやか「それは……そうだけどさ………」
さやか「……それに、そもそも何で血糖値が高いと問題なのかな?」
ほむら「言われてみればそうね……」
ほむら (足を切ったあのおじさんも……糖尿病、だったわよね?)
さやか「………」
ほむら「次、見てみましょう。『糖尿病合併症の恐怖』」
> 1型糖尿病の場合は極端に血糖値が上がることで血液が酸性になり、
> 意識障害や最悪死に至るなど、血糖値の高さそれ自体が害となるが、
> 2型糖尿病の場合、慢性的な血糖値の高さが招く『合併症』の方が問題となる。
さやか「合併症……」
> 過剰な血液中の糖分には毒性があり、放っておくと身体の微細な血管を傷つけてしまう。
> これによって、じわじわと緩やかに身体が壊れていくのが糖尿病の合併症である。
> 初めのうちは、自律神経や感覚神経が冒され、胃腸がうまく働かなくなったり、
> 手足がしびれてきたりする。
ほむら「これは……」
> そのうち様々な障害が起こり、たとえば網膜の血管が破壊され、目がだんだん霞んでいき、
> 最後には失明してしまう。失明する人の2割は糖尿病が原因な程である。
> 腎臓が壊されてしまい、体内の毒素を尿で排出できなくなることもある。
> この場合、人工透析をしなければ生きていけない身体にもなる。
さやか「怖い……」
> 血管の破壊が酷いと、末端部分に栄養が届かなくなり、手足の細胞が死んで腐ってしまう。
> こうなってしまうとその部分は手術により切断する他、なくなる。
ほむら「………」
> 2型糖尿病の初期の段階では激しい自覚症状が起こらないため、
> 本人も「大した事はない」と見過ごしてしまいやすく、
> 気づいたときには手遅れである場合が多い。これが合併症の恐ろしさである。
さやか「こんなの、信じたく、ない……」
> 1型はインスリンを投与し続けるしかなく治療法も存在しない。
> 2型も本人の体質や、なかなか直せない生活習慣によって起こされる物であるため、
> 薬を投与すれば治るというようなことはなく、一生つきあっていかなければならない事が多い。
> このため一般的に「糖尿病はかかったら治らないもの」とされている。
ほむら「……つまり、佐倉杏子は」
さやか「やめてよ!」
> 2型は個人によっていろいろな要因があるので、決まり切った治療法はない。
> 医師の指示に従い、適切な食事や適切な運動を行うなどして、
> 厳しい自己管理に基づいた生活を送ることが大切である。
さやか「やめて……」
ほむら「………」
ほむら「……もう、ほとんど結論は出ているわよね」
さやか「………」
ほむら「どう見ても杏子は」
さやか「分かってる!」
ほむら「……放っておく程悪くなるのよ?」
さやか「………うん。それも……分かってる」
ほむら「なら」
さやか「でもさ!!」
さやか「でもさ………残酷すぎるんだ。杏子にさ、あんたは糖尿病です、
もう一生好きに食事なんてできません、そうしないと死にます、なんて……。
そんな夢も希望もないこと、言えるわけがない」
ほむら「………」
さやか「あいつが何を楽しみに生きてると思ってるのさ。おいしい物を食べることだよ?
あたしもそれが……痛いほど分かる。……魂抜かれて、生きてるって実感が欲しくて、そういう気持ちが」
さやか「せめてさ。可能性は低くても、こうしたら何とかなるんじゃないか、みたいな……。
その位の材料が無いと、あたしは………」
さやか「だ、だからまだ……杏子には……いや、みんなには黙ってて。お願い」
ほむら「………」
ほむら「そうね……」
ほむら「一週間、経ったら。マミにリボン振るわせてでも、医者に連れて行くわよ。それでいい?」
さやか「………わかった」
さやか「……また明日、調べたいから……ネット貸してよ。お願い」
ほむら「ええ。……もちろん、かまわないわ」
――翌朝、美樹邸前――
杏子「ようさやか!」
さやか「あ……おはよっ」
杏子「……どうした?」
さやか「えっ? ど、どうもしないけど……?」
杏子「そうか……? ……そういや、昨日ほむらと何か面白いことやってたらしいじゃねえか」
さやか「! あ、あはは、面白いことじゃないってば。ちょっと……相談事をね」
杏子「相談……? ほむらにねぇ……」ポキッ
さやか「………」
今日も、相変わらず朝からポッキーを囓り続けている。
杏子「やっぱポッキーはノーマルが一番だよなー。極細の堅さも悪くないけど、折ったときの感覚が劣るね」モグモグ
さやか「うん、そうだね……」
杏子「ほら、くうかい? 今日はイジワルしないよ」
お菓子を差し出しながらにっと笑う、その表情が眩しい。
さやか (無理………。言えない……)
まどか「おっはよーさやかちゃん、杏子ちゃん!」
杏子「よーっす」
ほむら「おはよう」
さやか「……おはよ」
仁美「おはようございます、皆さん」
杏子「よっ、仁美、昨日はあんがとな」ポキッ
仁美「いえいえ、喜んで頂けたようでわたくしもうれしいです」
まどか「あれ、今日はさやかちゃんが、元気ないような?」
さやか「ん……? 別に……」
上の空で答えるさやかは、目線を杏子の口元から離すことが出来ない。
ぼりぼり。もぐもぐ。
仁美 (……? ずっと杏子さんを見つめていますけれど……)
その様子に気づきながら、それを『さやかさんはやっぱり杏子さんが好きなんですね』と
茶化すことができない程にさやかの表情は重かった。
まどか (さやかちゃん……?)
ほむら「………」
まどか「そ、そうそう、昨日テレビでさ―――」
ぽきっ。ぼりぼり。もぐもぐ。
次々とポッキーは口内に消えていく。
仁美「それでしたら確か―――」
ぽききっ。ぼりぼり。もぐもぐ。
今度は二本一気に消えていく。
ほむら「言ったでしょう、だから宿題はちゃんと―――」
ぱきっ。ぼりぼり。もぐもぐもぐ。
手に持つ箱の、最後の一本も消えていく。
杏子「はぁー、学生ってヤツは―――」
でも終わらない。
びりりっ。また取り出した次の箱を開け、ポッキーはどんどん消えていく。
さやか (お願い、やめてよ………)
ぼりぼり、もぐもぐ。
食べる。まだ食べる。ぽきっ。
願いは通じず、ついに2袋目を開けて食べ始めたとき、
さやか「も、もうやめてえぇぇぇぇぇっ!!!」
ばしん、と。我慢できず、さやかの右手が杏子のポッキーをはたき落とした。
「「「………!」」」
ばらばらと地面に散らばるポッキーに、場の空気が一瞬にして凍った。
まどか「えっ………」
仁美「さや、か……さん……?」
杏子「………」
杏子「おいさやか……何してんだよ!?」
当然の抗議の声を上げながら、かがんで散らばったかけらを拾う。
まどか「あ、わたしも手伝う……」
さやか「………」
衝動的に自分のした行為が、自分でも信じられない。
杏子「さやか? 何とか言えっつってんだよおい!」
立ち上がり、ぐいっと胸を掴まれ睨まれる、その顔に目を向けることが出来ない。
さやか「あっ………その………」
さやか「………ごめん……」
杏子「……違うだろ」
さやか「え……?」
杏子「明らかにわざとだったじゃねえか。何でンなことしたのかって聞いてんだよ!」
掴む手に力が入る。
さやか「そ、それ……は………」
それだけ凄まれても、目をそらしたまま本当の事を言うことが出来ず…
杏子「………ちっ。……もーいいよ。ああ、朝から胸くそ悪ぃ……」スタスタ…
さやかを掴んだ手を離し、早足でどこかへと歩き去っていった。
仁美「ええと……」
さやか「………っ」ダダッ
まどか「あっ、さやかちゃん!」
何も説明することなく、さやかもまた一人で学校へと走って行ってしまった。
仁美「一体……」
まどか「二人とも、どうしちゃったのかな……」
ほむら「………」
――その日の夜――
シュゥゥ……コロンッ
杏子「いっちょあがり、っと……」
小振りなグリーフシードを拾う。
ほむら「あら、遅かったみたいね……」
杏子「ん? おう……ほむらか。もう終わったよ」
ほむら「そのようね。さすがに熟練の魔法少女は頼りになるわ」
杏子「はは、繰り返した時間も含めりゃあんたのが長いかもしれねーけどな」
ほむら「……どうかしら」
杏子「………それよりさ。今朝、あの後さやか何か言ってたかい?」
ほむら「え……いえ、何も。学校でも、ずっと一人で黙っていたようね」
杏子「じゃあ、さやかがどうしてあんな事をしたのか、理由は分からないわけだ」
ほむら「……ええ」
杏子「ふぅん。じゃあ質問を変えるけどな……」
杏子「ほむら。あんたさ、さやかと一緒に今日、何やってたんだ?」
ぴくりと一瞬、ほむらの動きが止まった。
ほむら「……見ていたの?」
杏子「あー……。マジで何かやってんだな」
ほむら「! 貴女……」
杏子「夕方ぶらぶらしてたら、一人で帰るまどかに会ってな。
『さやかちゃんに避けられてるような……』とか言ってたけど、まさかってな」
ほむら「………」
杏子「珍しい組み合わせだもんなー、さやかとほむら。
それが二日連続で、しかもさやかには訳分かんないコトされるし……」
ほむら「つまり……」
杏子「そうだよ。疑ってんだよ、てめぇのことをさ」
すっ、と、先ほどまで魔女を引き裂いていた槍を向ける。
杏子「本当はさ。あんた、さやかが何であんなことしたか知ってるんだろ? え?」
ほむら「………」
杏子「吐いて楽にならねぇか?」
ほむら「………」
射貫くような眼光に睨まれながらも、相変わらずほむらは涼しい表情で黙り込む。
ほむら (ここで言えば……。それはそれで、悪いようにはならないのだろうけれど)
ほむら (……でも、本人にこれを伝えるのは、さやかの役目でしかあり得ない)
ほむら (何より……。最悪の場合に、杏子を支えてあげられるのは、さやかしか……いない)
杏子「……ふん。だんまりか」
諦め、向けていた武器を消す。
杏子「あぁ、イライラするな……」
杏子「ま、いい……。ただな、さやかにあんまりふざけたマネしてるとしたら、
いくらあんたでもただじゃ済まさねぇからな」
杏子「それだけは、よーく覚えとけ。いいな?」
ほむら「……分かった。肝に……銘じておくわ」
杏子「………」
杏子「それじゃ」
ふぃっと背中を向けると、強化した肉体で跳び去り、すぐに姿は闇の中へ消えていった。
――翌日、ほむホーム――
ほむら「―――というわけで。ごめんなさい、カマかけにはどうも弱くって……」
さやか「……そっか、それで今朝はいなかったんだ。仕方ないよ、あたしが変なコトしたのが悪いんだし」
ほむら「………」
さやか「ちょっと今は、杏子には……ううん、みんなには近づかない方がいいような気がする。
あたし、自分が抑えられそうに無くって、怖いんだ……」
ほむら「さやか……」
さやか「………でも、どうしよう。やっぱり、救われる話なんて、見あたらない」
ほむら「そう、ね……」
昨日も今日も、いくら調べてみても、夢のある話なんかほとんどない。
日本で700万もの人々が悩み、苦しみ続ける病気なのだ。
結論は変わることはない。医者に連れて行き、適切な治療をするしかない。他にあり得るとすれば…
さやか「………となると、やっぱり」
ほむら「ええ。……出来ることなら、顔も見たくないけれど」
あとは、奇跡か魔法に頼るしかない。
さやか「居るかな……? 確認は、しなきゃね……」
ほむら『インキュベーター? 顔を出しなさい』
程なくして、二人の後ろから白い毛玉が顔を出した。
QB「なんだい? 君たちから僕に用事だなんて、気味が悪いじゃないか」
ほむら「もっと気味の悪い自分の顔を何とかしてから吐いて欲しいわね、そういう台詞は」
QB「酷いなあ。これでも、君たちの『かわいい』という感覚を理解するには何十年を要したというのに」
ほむら「まだまだ研究不足ね。あと数万年、かわいさを磨き続けることをオススメするわ」
この顔を見るとついつい、嫌味の言葉が口をつく。しかし今は……
さやか「………ほむら」
やや非難のこもった目を向けられる。
ほむら「……そうね、ごめんなさい。ふざけている場合ではないわ」
QB「ようやく本題だね?」
ほむら「ええ。簡単な話よ」
ほむら「魔法少女は、魔法で自らの病を治すことは出来るのかしら?」
QB「病? それは、難しい場合が多いんじゃないかなあ」
軽く告げられたそれは、二人の期待を大きく裏切った。
ほむら「え」
さやか「え!? 嘘、だって、あたしたち死なないんじゃないの?」
QB「うん、死なないよ。ソウルジェムが破壊されるか、ソウルジェムが濁りきらない限り。
君たちは魔法少女として生きていられるだろう」
さやか「だよね? それにあたし、切られてもちぎられても………治せるよ。嬉しく、無いけど」
QB「そうだろうね。君の魔法の特性が治癒であることも関係しているが、ほむらでもその位はできるだろう」
ほむら「………だったら、どういうことなの?」
QB「いや、それは……怪我は病気とは違うと言うことさ。腕がちぎれたなら、ちぎれた部分をくっつければ元通りだ。
心臓が破れたとしても、やっぱりくっつければいいし、血を失いすぎたなら作ればいい」
QB「要するに、分かりやすい損傷は治しやすいんだよ。ところが病気となると、
人間程度の頭じゃ理解できないことが多すぎるだろう。治そうにもやり方が分からない場合が多いと思う」
さやか「そんな………」
ほむら「……実際に、病に倒れた魔法少女の例はあるの?」
QB「そうだね……。ああ、丁度いい例があるよ。ガンで死んだ魔法少女の話だ」
さやか「ガン……」
QB「その子にはね、ガンで苦しむお兄さんがいたんだ。ずっと入院していて、もう長くないと言われていた」
QB「そこで僕は助けてあげようと思ってね。『魔法少女の契約をすれば、お兄さんの病気を治せるよ』って言ったんだ」
QB「ほとんど猶予はなかったからね。すぐに契約してくれて、お兄さんはみるみるうちに元気になった」
QB「とてもいい笑顔で喜んでいたね」
QB「……そこまでなら、僕もすぐ忘れた話なんだろうけれど。興味深いのはここからさ」
さやか「………」
本当に感情がないのだろうか? 嫌な話をするときだけ、生き生きした様子がある。
QB「実はその子のお母さんは、お兄さんがかかる前、既にガンで無くなっていたんだよ」
QB「遺伝性のガンは、とても珍しいんだけどね。予想通り数年後、魔法少女のその子もガンにかかったんだ」
ほむら (予想通り……? こいつも苦しんで死ねばいい)
QB「もちろん、魔法で何とかしようとしていたけれど、ガンがどういう物かも分かっていなかったらしくてね」
QB「苦しみながら、魔力を何とか節約して最低限のハードウェアメンテナンスを続けながら……」
QB「最後には、無理なんだなって、さくっと絶望してくれた。何もすることのない、とても楽な仕事だったよ」
さやか「この……ゲス野郎………」
QB「つまり、魔法少女だろうと、理解してないことを魔法でどうにかすることはできないってことさ。
例えばマミが銃を出したり紅茶を出したりしているのは、彼女自身の研究の成果だよ」
ほむら「………」
QB「まあ……分かって無くても、魔力に物を言わせてある程度誤魔化すことはできるけどね。
人体の錬成は相当なコストがかかると思うよ。君たち程度の魔力じゃあ、到底為し得ないだろう」
QB「結局、病気で死ぬと言うより、病気の苦しみや治そうという無駄な努力がソウルジェムを濁らせて死ぬんだ。
そういうわけだから、魔法で治すのは諦めた方が良いんじゃないかな」
さやか「……そんな………」
QB「………誰が何の病に悩んでいるのか、それはどうも教えてもらえそうにはないのかな?」
ほむら「当たり前でしょう。……知りたければ、勝手に探ってなさい」
QB「別にいいよ。おせっかいをするつもりもないし、君たちの誰か一人が絶望してくれるなら待ってるだけで良いんだから」
QB「それより、僕にこんな事を聞くって事は、治りにくい病気なんだろう?
なんなら鹿目まどかを呼んで来たらどうだい?
魔法じゃ無理でも、契約時の奇跡なら病気ぐらい簡t」グシャッ
言い終わらないうちに、ほむらの拳がキュゥべえを磨り潰した。
ほむら「冗談を言う空気でないことぐらい、分かるようになれると良いわね……クソ毛玉」
最後の望みもまた、握りつぶされてしまったのだった。
チッ… チッ…
静かな部屋で、ソファに二人並んで腰を下ろしている。
半時間ほど、彼女たちは何も言葉を交わしていなかった。
3日間かけて分かったこと、「どうしようもない」ということ。
それを心の中で、ゆっくりとかみ砕いていく。そして飲み干したときに…
さやか「……っ、うっ………えっ………」
ほむら「………さやか?」
静かに、涙を流していた。
さやか「っぐ……。ごめん、ね………」
さやか「もう……結論の出たこと、なんだけど……さ。
いや、最初から………分かってた、のかな」グズッ
ほむら「………」
さやか「あたしは……ずっと、杏子と一緒に……いたい。一緒に、ひくっ……生きていきたい……」
さやか「………だから、さ……。杏子は……あたしが、支えないといけなくって……。
どんなに、酷い……病気でも。悲しいことがあっても……さ、あたしが……」
さやか「多分……その、自信が………持てなかった、だけなん……だよね」
さやか「ほんと、バカだよね……あたし………えぐっ」
ほむら「そうね……バカ、ね……」ギュッ
さやか「えうっ……ほむらぁ………」
泣いたまま崩れそうなさやかを、ほむらがしっかりと抱き留める。
ほむら「……でも、それをしっかり理解できたなら。この3日間も無駄ではなかったでしょう?」
さやか「うん……ひっく、多分……」
ほむら「だから、さやかは……頑張って、貴女の大切な人を支えてあげて」
さやか「うん……」
ほむら「辛かったら、こうして時々、泣きに来てもいい。ね?」
さやか「うん……うん………!」
強く頷くさやか。
それをほむらは、しばらく涙が止まるまで、抱きしめ続けていた…
やがて、部屋にも再び静寂が帰ってくる。
落ち着いたさやかだが、ほむらと身体を離そうとはせずにそのままだった。
ほむら「……落ち着いたかしら」
さやか「うん………」
ほむら「……どうするの? 貴女は」
さやか「明日、杏子に会って……全部、話してくる。医者にも、つれていく……」
ほむら「私もついて行った方が、いいかしら」
さやか「う、ううん……。これは、あたしの問題だから……。あたしが、一人で行く」
ほむら「そう」
さやか「でも、今だけは……今夜だけは、一緒にいて。不安で、まだ泣きそうだから……」
ほむら「ええ……わかったわ。ふふ」
そして、どちらともなく二人はソファに横になり、目を閉じて互いを抱き合う。
ほむら (……多分、これで良いのよね。私に出来る事なんて、このくらいだもの)
杏子を支えるさやかを支え、二人の友人は苦労しながらも仲良く生きていく。
他にこの事態を打開する秘策があるわけでもない。ほむらの助力に間違いはなかったろう。
ただ、二人を遠くから、窓越しに覗く姿があったことだけが誤算だった。
少し離れた屋根の上、赤色の髪が綺麗な少女が双眼鏡を覗いている。
マーブルチョコの意匠が入った可愛らしいそれを覗く両眼は、見開かれたまま凍り付いていた。
杏子「……はあー」
深く、ため息と共に声を出す。
杏子「そうか。おかしいと思ったら……そういうことなんだな。ハハ、ざまぁねえ」
接眼レンズから目を離す。これ以上、見ていられる自信がない。
杏子「何だよ。先週末までは、あたしらうまくいってたろ? 何がいけなかったってんだよ!」
杏子 (………? もしかして、以前からずっと……?)
杏子 (急に態度を変えたのは……? そろそろ手を切りたいってサインだっつーのか?)
特に思い当たる節がない、それだけにいろいろな悪い想像が頭を巡る。
杏子 (……そうか。意味もなくあたしの大事なお菓子をはたき落としたのは、あたしに嫌われるためだったのか)
杏子「………一言ぐらい、あってもいいだろうによ」
杏子 (もうさやかは……あたしのものじゃないんだな)
熱くなりかけた目頭を押さえ、溢れ出そうなものを我慢して……
屋根を降りた杏子は、バリバリと板チョコをかじりながら、とぼとぼと歩いて去っていった。
まだ暗くなりはじめたばかりの道を、一人で歩いていく。
行き交う人々全てがなぜか敵に思え、自分が孤立した存在に思えてくる。
杏子「クソッ……イライラする……」
杏子 (なんだか身体もだりぃ……ああ、うぜぇ。ムカツク)
杏子 (……そもそも、さやかは……一度もあたしのものにはなってなかったのかもな)
杏子 (あたしは間違いなく、さやかのものだったのに)
杏子 (………だとしたら、非難できる立場でもねぇのか)
杏子 (……所詮、飼い犬みたいなもんだったてことか)
杏子 (………死にたい……)
手を広げ、ソウルジェムを取り出してみると、若干の濁りが見られる。
これを砕いたら楽になれるんだなぁ、と、ぼんやりと思う。
杏子 (……でも……)
杏子 (まぁ、昔に戻っただけだよな……)
杏子 (遠くに……行きてえなあ………)
まだ夜は始まったばかり。
ゆっくりとした足取りで、杏子は確実に見滝原から離れたどこかへ向かっていった。
――翌日、夕方の街角――
ほむら「はぁ……駄目ね、どこにも居ない」
さやか「そんな!? 何で急に……? 」
ほむら『マミ! どう、見つかったかしら?』
マミ『こっちにも居ないわ。最近見なかったけど……本当にどこか行ってしまったの?』
ほむら『……ありがとう。駅前の公園で落ち合いましょう』
マミ『分かったわ』
ほむら「見つからないそうよ。……もう3時間も走り回ったわ。一旦休憩しましょう」
さやか「でも!」
ほむら「いつもの場所のどこにも居ない時点で、闇雲に探してなんとかなる状況ではないの。落ち着いて」
さやか「……でも………」
さやか (何で……? 私の決心が遅すぎたの………?)
さやか「杏子っ……!」ダッ
ほむら「あっ、待ちなさいって!!」
姿を消した杏子を求め、さやかは走り出さずには居られないのだった。
マミ「……あれ? 美樹さんは?」テクテク…
ほむら「一人でまた探しに行っちゃったわ」
マミ「……そう。大切な人だものね」
ほむら「ええ……」
マミ「でも、二人とも仲は良かったはずよね? 急に姿を消すなんて、魔女に何かされたとか?」
ほむら「………杏子ほどの熟練なら、そう簡単には死なないでしょう」
マミ「そうね。そんな大きな魔女の反応は、探している間にも街中に感じられなかった」
マミ「だとしたら……けんか?」
ほむら「………」
マミ「……さすがにあなた、落ち着きすぎだもの。何か知っているんじゃないかしら?」
ほむら「……さやかと杏子のけんか、のようなものと……思ってもらえれば」
マミ「そう……?」
マミ (それにしては……美樹さんの慌てっぷりがおかしいような気もするけれど……)
マミ「……まあいいわ。それ以上話す気は無さそうだし」
ほむら「ごめんなさい……」
マミ「謝るぐらいなら、教えて欲しいのだけれど。私たちは大事な仲間同士のはずよ?」
ほむら「分かってる……。でも……」
マミ「訳あり、と……」
ほむら「ええ………」
マミ「……それじゃあ、何か分かったら、連絡するし……そちらも分かったことは教えて頂戴。
私だって心配だから、佐倉さんのこと」
ほむら「ええ。分かってる。……きっと、大丈夫よ。心配ないわ」
マミ「また明日。……あ、ちゃんと美樹さんは捕まえておきなさい。彼女まで倒れたら大変よ」
ほむら「そうね。探してくる」
その後、無遠慮にテレパシーで杏子を呼び続けるさやかを難なく見つけ、
どうにかほむらは家に連れて帰り落ち着かせたのだった。
さやか「杏子ぉ………」
寝言ですらその名を呼ぶ。しかし、夢の中ですら出会えないままだった。
――数日後――
ガヤガヤ… ザワザワ…
見滝原から少し離れた駅の前。
マミ「ふっふっふっふ……」
行きつけの紅茶店に足を伸したマミは、両手に買った茶葉を抱えて幸せそうだった。
マミ (また今日もサービスしてもらっちゃった……。あの店員のおじさん、話が分かるわね)
マミ (帰ったら早速……そうね、セカンドフラッシュをまず楽しみましょう)
マミ (うふふー、香りを反芻するだけで幸せー♪)
ニコニコと、通りすがる人が不気味がるほどのいい笑顔。
そんなマミの目が、偶然にもその姿を捕らえることが出来たのはきっと幸運だったろう。
マミ (……! あ、あれ……佐倉さんじゃない?)
ばりぼりと、豪快に板チョコをかじりながら歩く佐倉杏子の姿が目の前にあった。
マミ「あなた……佐倉さん? どうしたの、こんなところで」
杏子「!? ……え、マ……マミ?」
突然話しかけられ、びくっと固まる杏子。
マミ「ええ……。みんな心配していたわよ? 急に居なくなったって」
杏子「……っ!」ダッ
逃げようとするところを、
マミ「待ちなさいって!」シュルル…
杏子「うあ、クソッ」
リボンを腕に巻き付けられ、引き寄せられる。
杏子「離せよ!」
マミ「……何があったのかは知らないのだけれど。ね、少しぐらい聞かせてくれない?」
杏子「………」
マミ「少しは……楽になるかも、しれないじゃない?」
マミ「私で良ければ、力になるわ」
杏子「マミ……」
マミ「ほら。ここじゃなんだというなら、駅の裏手に静かな場所があるから……」
そう言って杏子の手を取ろうとすると、
ガシッ
マミ「……え?」
杏子「マミ……さん……」
杏子の方から抱きつかれ、
マミ「どど、どうしたの急に……」
杏子「う……ううっ」
杏子「うあぁぁぁぁ……ひっく」
そして唐突に、泣き出した。
杏子「嫌だよ! あたしが……えぐっ……何したって言うんだよ!」
マミ「え? ちょ、ちょっと落ち着いててば……よしよし」
混乱しながらも、優しく抱き留めて頭をなでる。
杏子「畜生……! うっく……」
杏子「もう嫌だったんだよ! あたし……もうひとりぼっちは嫌なんだよ……!」
――マミホーム――
カチャッ…
ダージリンのいい香りが、ティーカップから立ち上る。
マミ「どう? 美味しい?」
杏子「あ、ああ……。相変わらずだな、マミの紅茶は」
マミ「それは良かったわ」
杏子「………その、さっきは……悪い」
マミ「かまわないわよ。落ち着いたみたいだし」
杏子「何かちっと……取り乱しちまって。済まなかったよ」
マミ「ふふ。久々に『マミさん』なんて呼んでもらえたし、別に怒ってないわよ?」
杏子「っあ、あれは………///」
マミ「ご飯、何か食べたい物あるかしら?」
杏子「えっと……その。何でも、食えれば……いい」
マミ「分かったわ。じゃ、少し待っててもらえるかしら。作ってくるわ」
杏子「………」
杏子「けぷっ……ふぅ。ごっそさん、美味かった」
マミ「もう、ちゃんと噛んで食べてるの? 早食いは身体に悪いわよ」
杏子「はは、昔からずっとこんなだもんよ。今更言われてもな」
マミ「ふふふ……そうかもね」
マミ「お風呂、もう沸いてるわよ。片付けてるから、先に入って来ちゃって」
杏子「えっ……」
マミ「……? どうしたの?」
杏子「いや、何か……」
マミ「あら、あなたに今更遠慮なんて、似合わないわよ?」
杏子「う、うっせーな! そうじゃなくって……」
杏子「………何にも、理由……聞かないんだなって……」
マミ「……何だ、そんなこと」フッ
杏子「そんなって」
マミ「いいのよ、あなたがあんなに泣くほど追い詰められてるなんてこと、滅多にないから……。
話したくなったら、話してくれればいいわ」
杏子「………あり、がと……」
そうして本当にただ、何も話さないままお風呂に入り、ゆったりとした時間を過ごして。
今は二人、マミのベッドの中でもぞもぞと動いていた。
杏子「……何かマミの胸にでけぇ障害物があるせいで狭くないか?」
マミ「失礼ね、そんな邪魔になるほど大きくないわよ」
マミ「それにしても、誰かと一緒に寝るなんていつ以来かしら……」
杏子「まぁ、普通に生きててもそんなに機会無いよな」
マミ「そうだけど……もう」ギュッ
その胸を当てるように、腕を回す。
杏子「っつ……暑いから離れろって……」
そう言いながらも、柔らかい感触の安心感には抗う意思がわかなかった。
マミ「ふふふ、おとなしくしてなさい」
杏子「……食事のお礼ってことにしといてやるよ」
マミ「………そっか」
マミ「佐倉さんは、人の温もりが欲しいとは……思わない?」
杏子「え……? それは……」
マミ「私は欲しいな。いつでも、いくらでも、手に入るだけ」
杏子「………」
マミ「もう一人じゃないって言えるけど……やっぱり、ね。夜は、不安なの」
マミ「キュゥべえを抱えて寝てみたこともあるわ。でも、あれは。ぬいぐるみよりも冷たかった」
マミ「……やっぱり、人じゃないとダメね。
こうして、添い寝して貰うって、なんでこんなに心が安まるんだろ……」
杏子「マミ………」
マミ「ね、だから……お願い。寝ている間、私を暖めてほしいの……佐倉さん」
杏子「………はぁ」
杏子「……とりあえず、今夜だけ……な」モゾッ
くるっと寝返り、杏子もマミの身体に腕を回す。
マミ「………うん。ありがとう」
マミ「ふふっ」ナデナデ
杏子「………」
マミ「………zzzz」
杏子「寝ちまった、か……」
杏子 (まぁ……マミは、優しいよな。昔から)
杏子 (この温もりに、ぬるま湯に浸かってるのは……気持ちいーけど)
杏子 (マミが求めてんのはあたしじゃなくて……多分。人なら、誰でも良いんだろうな……)
ノソッ
一人、ベッドから抜け出して立ち上がる。
杏子「はぁ……。何か、食いモンねぇかな……」
夕飯も食べ、風呂にも入り、幸せのさなかにいるはずが……何かが足りなかった。
杏子 (さやかん家なら……いくらでも、お菓子あんのにな……)
そう。甘いものが足りなくて、何とも眠れない……
杏子 (冷蔵庫に、何かあるかな?)
ヒタ… ヒタ…
足音を殺してキッチンに向かう。
一人暮らしサイズの小振りな冷蔵庫を開けると、ぶうんと低い音がした。
ゴソゴソ…
杏子 (うーん、材料ばっかだな……)
杏子 (前は結構、食べかけのケーキが残ってたはずなんだが……)
まっ暗な部屋で眩しく輝く箱の中を探すが、そんなに嬉しい物が入っていない。
杏子 (……なんだコレ。ジャム? ……ううん、嘗めるのはなあ)
杏子 (あ、でもパンがあれば……。いや、でも冷蔵庫じゃないよな、どこだ……?)
そうして、無防備に冷蔵庫をあさる杏子の後ろに、
ぼんやりと暗い影が近づいてきて…
杏子「うーん、何もねぇな」
「何をお探しかしら? ネズミさん」
杏子「えっ!?」クルッ
シュルルルル…
杏子「あうっ!」ギシッ…
気づいたときには、リボンで全身をぎっちりと捕らえられてしまった。
マミ「こーらっ。まったく、相変わらず手癖が悪いわね」
杏子「マ、マミ……。起きてたのか……」
マミ「夕飯が足りなかったのなら、おかわりすれば良かったじゃない」
杏子「う……夕飯じゃなくて、その、お菓子が……」
マミ「お菓子?」
杏子「何か、甘いモン食ってないと落ち着かなくてな……」
マミ「………だからといって、勝手に冷蔵庫を漁っていいものかしら?」
杏子「そ、それは悪かったって……。でもホント、眠れなくってさ……」
マミ「あなた、四六時中お菓子食べてるものね。さすがに身体に悪いんじゃない?」
杏子「そうか? 太らない体質っぽいし……。マミとは違って」ボソッ
マミ「……はい? 何か言ったかしら、愉快な台詞が聞こえたような」
杏子「あっ! いや、何でも……!」
マミ「今私は怒ってるのよ……? もっと怒らせると……」
ギチッ
杏子「んあっ……」
リボンの拘束がきつくなる。
さすがに持ち前の特性だからか。あるいは、使い方次第で物をも切れるリボンを、
人に巻き付けることに慎重になっているのか。
全身をぐるぐると、リボンで乱雑に絡め取るだけ。
一見そう見えて、中のリボンは実に繊細に身体を縛り付けていた。
腕や足の一本一本を巻き取り、それぞれ全体に均等な圧力を与えて締め付ける
優れた工業機械でも、こうはうまくいかないだろう。
杏子 (うっ………この感覚、ヤバいかも……)
杏子 (っくそ。……変な気分にされちまうじゃねえか)
身体に刻まれてしまった、甘い記憶が呼び起こされる。
杏子 (……あれが、最後だったよなぁ、さやかと……やったのは)
杏子 (………あたしが楽しんでるだけだった? のが悪かった? わけじゃ、ないよな……)
もう諦めたはずなのに、いつまでたっても、さやかのことを忘れられない。
うつろな目線で、いろんなことを考えていたら……
マミ「佐倉さん? どうしたの、黙り込んで。何か言うことは?」
杏子「!」
怪訝がるマミの一言で、現実に戻された。
杏子「えっとその、悪かった……。ごめんなさい」
マミ「よろしい。ちゃんと謝ればいいのよ」
杏子「悪いついでに一つ頼みがあるんだけど……」
マミ「お菓子は与えないわよ?」
杏子「いや、そうじゃなくて……。このまま、縛ってて、もらえねーかなって………///」
マミ「………え?」
杏子「そそそその! 変な意味じゃなくってだな!」
マミ (……? 変な意味って何かしら………)
杏子「こここ、このままだと……自分で……我慢できそうになくってさ、お菓子」
マミ「………」
マミ (本当に、病気に近いのかしら……。ちょっと心配だけど)
マミ「……はぁ。何言ってるのよ、もう」
ドサッ
杏子「あっ……」
あきれるため息と共に、マミはリボンを消してしまった。
マミ「バカね。我慢は、自分で覚えなきゃ意味がないでしょうが」
杏子「う、そう……ですね………」
マミ「お菓子だってね、食べたいなーって思うのは別に悪い事じゃないわ。
私だって、今も頭にケーキを思い浮かべれば、そりゃよだれがでてくるわよ」
マミ「でも、そこでぐっとこらえるから……うふふ。後で食べたとき、とびきり幸せに感じるのよ」
杏子「そういう、もんかねぇ………」
マミ「そういうものよ」
杏子 (よく……我慢、できるよなぁ。マミは)
杏子 (………多分、泣くのもずっと我慢してるような、そんなヤツ……)
杏子 (あたしは……。食べて、寝て、………さやかと遊んで)
杏子 (自分の望むままに、ヒトの三大欲求を余すことなく満たさなきゃ……)
杏子 (そうでなきゃ、生きている実感が得られない)
杏子 (……さやかだって。そうだったはずだ)
杏子 (魂もがれて抜け殻にされちまった、その事実を受け入れて以来)
杏子 (似たもの同士で生きている実感を確かめあう、そーいう関係だと……思ってたんだけどな)
杏子「はぁ」
杏子「なぁ……マミ」
マミ「なあに?」
杏子「生きている、って実感する瞬間って……あるか?」
マミ「……突然何を?」
杏子「いや、ちょっと、な」
マミ「それこそ、さっき言ったように、我慢してたケーキを一口食べた瞬間なんか、
最高に『生きててよかったわ』って気持ちになれるのだけれど」
杏子「……そうか」
マミ「……それに、私は一度……死にかけて契約したからね。
こうしてあなたとお話ししているだけで、生きているという実感があるとも言えるわ」
杏子「………そうだったな。悪い」
マミ「いいわ。もう随分昔の話だもの」
杏子「………」
マミ「……そんなことに、悩んでいたの?」
マミ「そのくらいなら、話してくれればよかったのに。急に失踪なんてしないで」
マミ「美樹さんだって、話せば真剣に聞いてくれたんじゃないかしら」
杏子「……!」
少しずつ踏み込みはじめた話に、杏子の目つきが若干硬くなる。
杏子「………違う、それとは……また別の話だよ」
マミ「そう?」
マミ「それじゃあもしかして……」
杏子「……?」
マミ「その話のせいで、美樹さんと喧嘩したのかしら?」
杏子「……何だと?」
そしてついに……ぎろりとマミを睨む目つきになる。
マミ「え……?」
杏子「どういうことだおい。あたしとさやかが喧嘩しただって?」
マミ「あ、れ……。違った、の?」
杏子「勝手な想像で物を語らないでくれよ、気分悪ぃ」
マミ「え、えっと、想像……というか………」
杏子「……?」
マミ「暁美さんが、そう言っていたのよ……。佐倉さんと美樹さんの喧嘩みたいな物だから、
あまり心配することはない、って……」
杏子「……はぁ?」
杏子 (何だと!?)
その一言で一気に、嫉妬は怒りへと変わり…
杏子 (冗談じゃねぇ……。ヒトの大事なモン奪っといて、それは隠したまま喧嘩扱い?)
杏子 (おまけに心配することはないって、あたしがいなくなったのを笑って喜んでたってか?)
杏子 (………ダメだ。やっぱあたしは……このまま泣き寝入りするようなタチじゃねえ)
杏子「ふっざけやがって……! ほむらの野郎………!」
杏子「殺すしかねぇな。このムカツキはもう押さえらんねぇ……」
マミ「……!? 佐倉さん、あなた何を言って……」
杏子「悪ぃけど、ちょっと用事が出来たんでな。行ってくる」
マミ「ま、待っ…」
またも、リボンで引き留めようとして、
杏子「おっと」ブンッ
マミ「がっ……はっ………!」ドスッ
杏子の槍に腹を殴られ、壁に飛ばされる。
杏子「縛られて遊ばれてる暇はねーんだわ。寝ててくれ」
マミ「………」
杏子「そんじゃ。また、会えたら会おう。……楽しかったよ」
律儀に挨拶は済ませながら、
ガシャンッ
ベランダのガラスを割り、外に出る。
まだ時刻は3時前だ。
何もかもがまっ暗に眠った夜の中、杏子はほむらの家を目指して跳んでいった。
――ほむホーム――
ガチッ キリキリ……カチン
杏子「よし。開いたな、カギ」
杏子 (はぁ、しばらく使ってなかったテクだが、こういう役立ち方をするとはね)
ガチャッ…
時間を止められなくなっているとはいえ、相手はあの隙のない暁美ほむらだ。
苦しめるにしろ一瞬で殺すにしろ、本気で狙うなら正攻法は取るべきではない。
ヒタ… ヒタ…
杏子 (……ふん、前来たときと変わらねー、つまんない部屋だな)
杏子 (まずはソウルジェムを抜き取って、死なない程度に足でも裂いて……)
冷静に、これから料理する食材の行く末を思い描く。
杏子 (たしか寝室は……こっちだったな)
一人暮らしには広い家の中、迷うことなくその目的の部屋のドアを見つけてノブを握る。
そこに力をかけようとしたその時後ろから、
ほむら「……何をしているのかしら?」ガチッ
杏子「!?」
突きつけられた銃の重みに身を固くしながらも、くるりと振り向く。
杏子「ちっ……! 何で気づきやがった………?」
ほむら「セキュリティには気をつかって……え? 佐倉……杏子? 杏子じゃない!」
侵入者が、むしろ探していた人物だったことに驚き銃を降ろす。
ほむら「ど……どこに居たのよ! ずっと……探していたのよ? みんな心配していたんだから!」
杏子「は? 心配してた? ……居なくなってせーせーしてたの間違いじゃねえのか、コラ」
ほむら「え、貴女何を言って……」
杏子「もうネタは上がってんだからさ、ちったぁ悪びれたらどうだい?」
ほむら「だから何の話……?」
杏子「はぁ……。うっぜぇなぁー、てめぇのその態度。ま、最初からやるこたぁ決まってたからな」
杏子「銃を降ろしたのは、ちっとばかし迂闊だったな?」
ほむら「えっ……!」サッ
ブンッ
一瞬前にほむらがいたその場所を、杏子の槍が素早く薙ぎ払った。
ほむら「っ!? 危ないじゃない! 何をするのよ!」
杏子「ほらほら、無駄口叩いてる暇ぁねえぞ!」
ヒュッ ヒュンッ
心臓の位置を、一突き、二突き。
それをさらりとかわして避けるほむら。なるほど、戦い慣れている。
杏子 (ちっ……。長引きそうだな)
ほむら「何なの、わけがわからな……!」
ほむら「……まさか、魔女の口づけが?」
杏子「あっはっはっは、おもしれー冗談だ。じゃあ、ぶっ殺すべき魔女はてめえだな!」
ヒュヒュン…
槍を召還し、散弾のごとく一気に放つ。
ほむら「っく……!」
ズダダダッ
それをほむらは、ドアの扉を壁にして何とか防ぐ。
杏子「んー? どうしたぁほむら? 変身ぐらいしたほうがいいんじゃねえか?」
深夜のその騒ぎの音に、もう一人の人物がソファで目を覚ました。
さやか「ん………? 何の……音……」
ドダッ… ズダダダッ… ガキンッ…
目覚ましの音でもなく、工事現場の音とも違うそれに、寝ぼけている暇が無くなる。
さやか「……!? え、マジで……何これ? ちょっと、ほむらー!?」ドタタッ
音は廊下の方から聞こえてくる。とにかく様子を確認しようとドアに駆け寄ると、
ドガンッ!
さやか「うっわっ!?」ズザッ
そのドアが吹き飛んで危うく当たりそうになった。
さやか「ちょ、ちょいま……何!? ほむらーっ! 居ないの!?」
近寄るのを諦め、少し身をかがめて守りながらほむらを呼ぶ。
すると、乱暴に開けられた入口に姿を現したのは……
杏子「……さや、か?」
さやか「えっ………?」
予想だにしないその人物に、さやかもやはり驚いて固まったのだった。
杏子「さやか……? なんでここに……」
さやか「きょ、きょう……こ?」
少しだけ正気に戻りかけるが、
杏子 (……ああ、そっか。当たり前っちゃ、当たり前か)
そういえば、こいつら二人は毎日よろしくやってんだったなと、
自分の勘違いを再確認して怒りに変える。
杏子「……そうかそうか。そりゃそうだよな、邪魔者はもう居なくなって、
まーさか戻ってくるなんて夢にも思わなかったんだよなぁ? え?」
さやか「……? 何言ってん……のさ……?」
まるで話が見えてこない。
とにかく浮かんで来るままに疑問符を並べていると、
ほむらが杏子の入ってきた後から現れた。
ほむら「さやか! そいつから離れなさい!」
さやか「あ、ほむら……居たんだ? えっと……?」
杏子「心配すんなって。あたしはほむらさえ殺せれば、すっきるするからさ。……多分」
さやか「え………? 殺す、って……?」
ほむら (撃つしかない……? でも、ジェムに当たるかもしれないし……)
さやか「だ……駄目だよっ! そんなの……」ダッ
とりあえず、杏子を止めなければならないということだけ理解して、駆け寄ろうとするが…
杏子「さやかに用はねぇって言っただろ!」ヒュッ
さやか「ぅごふっ……!」…ドタッ
槍の反対側で強くみぞおちを突かれて倒れる。
ほむら「さやか!」
杏子「おっと」ズイッ
さやかに駆け寄ろうとするほむらもまた、槍の切っ先で制される。
杏子「あんたの相手はあ・た・し。分かってねぇのか」
ほむら「………」
杏子「邪魔者はまた寝てくれたんだ。派手にやろうよ、ねえ?」
ほむら「………」
杏子の発言にはもはや耳を貸さずに、目線で素早く部屋を改める。
ほむら (何か、頭を殴れそうな物……)
ほむら (仏像……はちょっと遠いわね。……電気スタンド? いけるかしら?)
ほむら (目くらましになりそうな物? 閃光弾はないし……水は……)
冷静に、杏子を気絶させる方法を考える。
表情は変わらない。ただ、どう見ても、そこに戦おうという意思は見えてこず、
それが余計に杏子をいらいらとさせる。
杏子「……何なんだよ。何さっきっから余裕かましてんだ? 何で逃げてばっかりなんだよ!?」
杏子「魔法少女だろ? 変身しろよ! 銃を持てよ! 手榴弾を持てよ!
あたしに弾を打ち込めよ! ありったけの武器でかかってこいよ!
さっきから逃げるばかりで……てめぇは何をしてるんだよ!!」
ほむら「……それは」
杏子「それは?」
ほむら「……大切なあなたを、できるだけ傷つけたくないから」
杏子「………あっはっはっはっはっはっはっは、死ね!!!」
ヒュヒュヒュッ… ズダダッ
棚に、ソファに身を隠しながら移動するほむらを追って、ひっきりなしに槍が打ち込まれる。
杏子「死ね! さっさと死んじまえクソヤロウ!」
どう見ても杏子は正気ではない。おそらく、ジェムの濁りなどかまいなしに魔力を使っているのだろう。
ほむら (ちょっと投げてみましょう……) ヒョイッ
隠れた棚から引っ張り出した、器の中身を投げつける。
杏子「っ!? なんだこれ……碁石?」ジャラジャラ…
急にほむらが反撃してひるむものの、おもちゃをぶつけられただけと認識すると余計に頭に来る。
杏子「いい加減にしろよコラぁ……!」
ほむら (やっぱり、頭に血が上って避けることをしなさそうね………)
ほむら (……あとは、ちょっとでも目が開けられなくなるような……ジュースでもいいから………)
効果があることを確かめると、本来の目標となる物がある場所へ急いで移動しようとする。
しかしその気の焦りが仇となり、
杏子「ほらそこだっ!!」ヒュイッ
ほむら「あっぐっ!!」ガクッ
ついに、槍の一本がほむらの左足を綺麗に貫いた。
杏子「ほら言わんこっちゃねぇ。人を馬鹿にして変身すらしねえから、こうなるんだ」
こつ、こつと床を鳴らして近づいていく。
ほむら「ぐっ………!」
太ももに刺さった槍は、脚からも壁からも抜けそうにない。まるで昆虫標本の気分だ。
杏子「よーしよしよし、良い子だ。おとなしくしてな」ニヤニヤ
ほむら (……近寄ってくるなら、銃でも外さずに)
杏子「おっと」ドスッ ドスッ
ほむら「いぎあぁっ!?」
新たな企みに動こうとした両腕も、槍に突かれて使えなくなる。
杏子「そんな状態で、ヘタなマネしようとすんなって。遅すぎんだろ」
ほむら「………」
杏子「まぁ、治療は何度でも出来るからな。とりあえず、思いっきり……」
杏子「そのきったねぇ腹でも裂いて、あたしからさやかを奪った罪を……たっぷりと味わって貰おうか!!」ブンッ
ほむら (……今、何て?)
ようやく杏子が何を思っているのか理解しかけるが、
すでに掲げられた槍は、力強く腹部に向かって振り下ろされた後だった。
覚悟を決めて目を閉じるほむら。
一番イイ瞬間を見逃さないよう、目を大きく見開く杏子。
二人とも、次の瞬間に起こることを同じように予期していたのに、
さやか「やめてえぇぇぇぇぇぇぇっ!!」ダダッ
ほむら「!」
杏子「!?」
ザシュッ
さやか「っぎあああぁぁ!」
第三者の乱入により、結果は大きく違った物になってしまった。
ほむら「さやか!?」
杏子「はっ……? さ………さや、か……?」
二人とも、それを呆然と見つめる。ほむらをかばって覆い被さったさやかは、
背中から大きく真横に裂かれて……半分になっていた。
ほむら「さやかぁっ!! ぎっ……この!!」グイッ
ちぎれそうな腕もかまわず、自由になろうともがくほむら。
杏子はと言えば、何をしてしまったのかさっぱり分からない、といった顔で突っ立っている。
杏子「え…………」
杏子「おい! 何でだよ、どういうことだよ!!」
ようやく何をしたか、分かってくる。がらん、と、音を立てて槍を取り落とした。
さやか「ぎっ………ぐうぁ………」
杏子「さ、さやか! だから……さやかは寝てろって……!」
杏子「クソッ……そんなに、大事なのかよ!? 体張って守るぐらい、ほむらが大事なのかよ!!!」
さやか「な……何を、言ってんのよ………杏、子……」
杏子「さやか!?」
さやか「……さす………がに、痛覚を……遮断しても、結構これ……くる、ね………っぐ」
杏子「い、今治療するから………黙ってろ!」
さやか「大丈夫……斬られただけなら、なんとでも……なるから。
あたしの身体、元通り……並べてもらえるかな………」
杏子「わ、分かった、分かったよ……」
言われたとおり、そっと上半身と下半身を床に並べる。
さやか「んっ………!」
そして青白く光り輝いたかと思うと……すぐに、元通りのさやかの肉体が現れた。
さやか「ふぅ、うまくいった……。死んだかと思った」
杏子「さやか……ご、ごめんよ………」
さやか「……あんたね、それより先に謝る相手が居るんじゃないの?」
杏子「えっ……」
さやか「そこで磔にされてるほむらが睨んでるじゃない」
ほむら「………」
杏子「で、でもほむらは……」
さやか「あのね。さっきの質問に答えておくけどさ」
杏子「……?」
さやか「そりゃ、ほむらは大事に決まってるじゃん。あたしら仲間なんだよ?」
杏子「ああ……やっぱり………」ギリッ
さやか「でもあたしは、それよりも杏子に……あんな酷いこと、してほしくなかった」
杏子「………え?」
さやか「誰よりも大事なあたしの杏子に、人を傷つけるなんてして欲しくなかったんだ」
ギュッ
杏子「あ………」
二度と離さない力強さで、さやかが杏子を捕まえる。
さやか「ねぇ……どうしちゃったの? 急に姿を消してさ……」
さやか「あたしも……変なコトしちゃってさ、それをすぐに謝れなかったのは悪かったけど……」
さやか「突然、何も言わないで姿を消すなんて……酷いじゃん………」
杏子「えっ……と………」
さやか「今日だって、ほむらと夜中まで街をずっと探してさ……」
さやか「また見つからなかった、って思う度に、悲しくなって……」
さやか「やっと会えたと思ったら、何でこんなこと………えうっ………するのよ………!」ズズッ
杏子「だって………」
杏子「だ、だってそれは! ほむらが……あたしのさやかを、奪った……から………」
さやか「………はい?」
ほむら (やっぱり……聞き間違えじゃなかったのね)
ほむら「えっと。良いところで悪いのだけれど、この槍抜いてもらえないかしら………」
杏子にグリーフシードを提供させて、荒れ果てたほむホームを魔法で修復してまわる。
1時間も経った頃には、あらかた家中は片付けられ、
今はリビングの中央で杏子が正座のままうつむいていた。
その前には、さやかとほむらが仁王立ちしている。
ほむら「……なるほど、ね」
さやか「あれを見られてたか……///」
ほむら (ここまで思い込み激しいとはね……。さやかの悪いとこが伝染ったのかしら)
ほむら「でも、それにしては早とちりしすぎなんじゃない?」
杏子「だ、だって……。あたしのお菓子をはたき落とすし、急に避けられて会ってもらえなくなるし……」
さやか「……まぁ、それはあたしも悪かったと思う」
ほむら「そう、ね……。そろそろ、こちらも本題に入りましょう」
杏子「本題?」
ほむら「さやか。……大丈夫?」
さやか「………うん」
杏子「糖尿病……? あたしが?」
さやか「うん。……ほぼ、間違いないと思う。多分、お菓子を食べ過ぎているせいだよ」
杏子「それがどうして……」
さやか「もし本当に糖尿病なら、この先……自由に、お菓子が食べられないから」
杏子「え……?」
さやか「ううん。お菓子だけじゃない。普通の食事だって、一生好きな物は食べられなくなるかもしれない」
杏子「………嘘だろ?」
さやか「……あたしも、嘘だって思いたかった。それで、どうしても言う勇気が出なかったんだ」
杏子「………」
さやか「でも、逃げていても……杏子の身体は、悪くなるばかりだからさ」
さやか「杏子が、際限なくポッキーを食べているのを見て、怖くなって……勿体ないことしちゃった」
さやか「……ごめんね。あれは、そういう理由だったの」
杏子「いや……うん。そうか、いいよ、それは」
さやか「このままじゃ良くないって、ようやく決心して。それで言おうとしたら……杏子、居なくなっちゃって」
杏子「………」
さやか「だから、今、改めて言わせて」
屈んで、真っ直ぐに、杏子を見つめて。
さやか「あたしは、大切な杏子を、ずっと大切にしていたい」
さやか「だからさ。お願いだから、あたしと一緒にお医者さんに行って、検査して」
さやか「それでもし本当に……糖尿病だったら」
さやか「杏子の一番の楽しみは、もしかしたら………ずっと、奪われてしまうかも知れない」
杏子「う………」
さやか「でも、その時は。あたしがずっと、杏子の側にいるから」
さやか「どんなに辛くっても、苦しくっても、それでもあたしは側にいるから」
さやか「お願い。悲観したりヤケになったりせずに、治療してくれるって……約束して欲しいんだ」
杏子「………わか、った。約束、するよ」
さやか「杏子……!」
杏子「約束、だからな? ずっとあたしを一人にしないでくれるんだな!?」
さやか「当たり前じゃん!」
杏子「そ、そっか………///」
杏子「ところで……」
さやか「うん?」
杏子「そもそも、なんであたしが糖尿病だって分かったんだ?」
ほむら「あらそれは」
さやか「ほむらは黙ってろ!」
ほむら「………」
杏子の耳元に、そっと口を持って行く。
さやか「あんたの、おしっこをさ……飲んだんだ」ヒソ
さやか「そしたら……甘かった。糖尿病の症状なんだ」ヒソヒソ
一瞬、何を言われているのか分からない。
杏子「……はっ!? いつそんなことを!?」
さやか「くすぐった時、最後気絶して漏らしてたから……。何というか、その、ノリで」ヒソヒソッ
杏子「ばっ………! バカ、じゃねえのか………///」
ほむら (……本当、このバカ二人が何をしてたのか。ちょっと気になるわね)
――二週間後、見滝原中央病院――
まどか「………」
さやか「………」
杏子「………何か、遅いな」
ほむら「混んでるみたいだから。もうすこし待ちましょう……」
そわそわと、しかしやることもなく座っている4人。
学校の帰り。病院の一室で、杏子の検査結果を待っていた。
先週は杏子を糖尿病の検査に連れて行った。
検査前日の夜から何も口にすることが許されず、発狂しそうな杏子をなんとかなだめて血液検査。
その結果が、今明かされようとしていた。
ガチャッ
さやか「!」
医師「すみません、大変お待たせ致しました」
4人の前に、メガネをかけた若そうな男がやってきた。
ぎいと、パイプ椅子を引いて4人の前に男が座る。
医師「……えっと、佐倉さんは……そちらの方でしたよね」
杏子「おう、あたしだ」
医師「こちらの方々は……ご一緒なさっても問題ありませんか?」
杏子「……問題ないよ。あたしの、大事な友達だから」
医師「………そうですか」
医師 (身寄りがないらしいし……仕方ないかな)
さやか「それより、どうだったんですか!?」
医師「……それでは、始めましょうか」
医師「はい。血液検査の結果、佐倉さんは糖尿病であることが、分かりました」
杏子「っ………」
さやか「ぐ………」
ほむら「………」
まどか「そんな………」
さやか「……1型、ですか?」
医師「え……いえ。糖尿病についてご存じですか」
さやか「あ、いや……ちょっと調べた程度、ですけど……」
医師「そうですか。佐倉さんは、2型の糖尿病ですね」
杏子「………」
さやか「じゃあ! もう、お菓子を食べたりは……」
医師「はい、そこを……これから、説明させて頂きます」
医師「まず原因なんですが、体質と言うより……ほとんど食生活のせいでしょうね」
さやか「お菓子の食べ過ぎ……」
医師「そうです。聞けば、朝起きてから寝るまで、ほとんど休み無くお菓子を食べ続けていると言うことで……」
医師「こちらが青ざめました。そんな生活をしていて、よく身体をこわさなかった物だと」
医師「それだけ常に糖を摂取していると、さすがに身体も疲れてしまって、
血糖値をだんだん下げることができなくなるんですね」
医師「佐倉さんの糖尿病は、おそらくそれが原因です」
医師「運動もよくしていらっしゃるようですし、食生活の改善が重要なポイントになるでしょう」
杏子 (覚悟してても……。言われると、これ、クルな。結構)
さやか「たとえば……どんなものが、食べてはいけないとか……」
医師「え、いえ、食べられない物と言うよりは……」
杏子「……おい、まさかあたし、何も食えなくなったのか?」
医師「いえ、そうではなく、逆と言いますか。何か食べてはいけないのではなく、食べる量をともかく減らして下さい」
さやか「………つまり?」
医師「休み無くお菓子を食べる、異常な習慣を直しましょうと言うだけです」
杏子「……え?」
医師「常時ぼりぼりとお菓子を食べ続けているというのが、体型に影響しなくても……ちょっと異常だと、
それはご理解頂けますか?」
杏子「あ、ああ……分かっては……いる」
医師「原因のほとんどがそれだと思われるので、とにかくお菓子のドカ食いをやめること」
医師「まずはそこからです。発見が早かったこともあって、すい臓の疲弊もそれほど進んでいないと思われますし……」
ほむら「えっと……つまり、別にお菓子がもう食べられないわけではない?」
医師「はい。全く食べてはいけないのではなく、量が問題です。糖尿病が甘い物を全く食べられないというのは誤解です。
佐倉さんほどの食べ方ですと……ほとんど、ペットボトル症候群に近いような形だったんではないでしょうか」
まどか「ペットボトル症候群……って?」
医師「ペットボトル症候群というのは、最近増えている急性の糖尿病です。
皆さんも、喉が渇いたらジュースとかをよく飲まれる方は居るでしょう?」
まどか「あ、はい……」
さやか「飲むね」
医師「ああいった清涼飲料水には、見掛け以上に大量の糖分が含まれているんです。
しかも液体ですから吸収されやすい。そのおかげで、気づかないうちに致命的な量の糖分を摂取してしまう」
さやか「え……」
医師「結果として、健常な人でも急性の糖尿病になってしまうんです」
医師「そして、血糖値が異常値になると、人は喉が渇くものなんです。
それをまたジュースで補おうとし、悪循環になって……悪いと、そのまま死んでしまいます」
まどか「こ……怖い、ね……」
医師「もちろん、ジュースを飲むことそれ自体が悪いという話ではありませんが。
気をつけて下さい、とくに若い方々に増えている病気なので」
まどか「はい……」
さやか「気をつけます……」
医師「そういうわけですから……2週間ほど。経過の観察と、食事の調整と、
あと糖尿病についての学習のために入院して貰うことになります」
杏子「入院、か……」
医師「はい。そこで自己管理についてしっかりと学んでいきましょう」
さやか「はは、寂しがるなって。ちゃんと毎日来てあげるから」
杏子「そ、そんなんじゃねって……」
まどか「でも、よかったね……。このままだったら大変なことになってたと思うと」
ほむら「ええ。早めに気づいて、本当に良かった」
医師「それでは、佐倉さんは入院の手続きをさせていただきたいので、こちらに……」
杏子「あ……おう。手続き……?」
ほむら「私もついて行ってかまわないかしら?」
医師「はい、どうぞ」
糖尿病、だからといって悲観するばかりではないと、それを伝えて…
そうして、3人は部屋を出て行った。
さやか「はぁ……。良かった、杏子……」
まどか「そうだね……。でも、よくこんな病気に気づいたね、さやかちゃん」
さやか「え゙っ……いやその……」アタフタ
さやか (そういえばまどかは知らなかったな……)
ガチャッ
さやか「! あれ?」
まどか「先生?」
医師「はい。ちょっとお二人に、お話が」
さやか「え?」
当の本人を人払いしておいて、お話? あまり、愉快な話とは思えず少し緊張する。
さやか「まさか……本当は、もう長くないとか」
医師「ち、違います違います。そういうたぐいの話ではありませんよ」
さやか「じゃあ……」
医師「彼女が、なぜあんなにお菓子を食べていたのか、という点についてです」
まどか「……?」
医師「特に甘い物を中心としていた、みたいですね」
さやか「はい、チョコレートとかをいつも……」
医師「その根底に、彼女が何らかの精神的なストレスを抱えているのではないかと思いまして」
まどか「ストレス……?」
医師「はい。甘い物を食べると、ストレスが和らぐ作用があるんですよ」
さやか「え、そうなんだ……。イライラすると、食べ過ぎて太ったりするのは」
医師「そうですね。関係あると思います」
まどか「でも杏子ちゃんに、ストレスって……」
さやか「………多分」
医師「佐倉さんは……昔、ご家族を亡くされてしまったそうですね」
さやか (だよなぁ、やっぱ………)
医師「そのことが深い傷となって、精神的にいつもイライラしていた、というようなことは十分考えられます」
まどか「杏子ちゃん……」
医師「ですから、その。ご友人の方々で、是非とも彼女を励ましてあげてください。
そうすることで、彼女の食生活もだんだん正常になっていくと思いますから……」
さやか「……そんなことか。うん、もちろんですよ! 杏子は大事な……仲間、ですから!」
――病室――
さやか「よっ! 元気かっ!」
杏子「あ、さやか。おう、元気にやってるぞ」
さやか「どうなの? その後の経過は……」
杏子「ああ、調子良いな。何か前より、眠気というか、だるさというか。そういうのも減ってる気がする」
さやか「ほほう」
杏子「先生もなんか、かなり驚いてたっけ。『きみ、ほんとどんだけお菓子食べてたの……』とか言われた」
さやか「ああ、うん……。杏子で麻痺してたけど、思い返すとあたしもそう思うし……」
杏子「病院食もさ、結構うまいんだよなー。どうせ味のしねー栄養剤みたいなモンだろ? って思ってたが」
さやか「え、そうなの? あたしも不味いと思ってた」
杏子「……今度、夕飯時にきてみろよ。少し分けてやるよ」
さやか「大丈夫なのかな……」
杏子「別にあたしが食べる分が減るのは問題ねーんじゃねーかな……?」
さやか「かなぁ……?」
さやか「……ま、いいや。それより、これこれ。これを見せに来たのだよ……ほれ」ゴソゴソ
杏子「ん?」
鞄の中を漁り、一冊のノートを取り出して見せる。
杏子「なんだコレ……って。『杏子とさやかのお菓子メモ』?」
さやか「そう! 赤青二色とか探すの苦労したんだよ?」
杏子「……えっと、どういうことだ?」
さやか「んもう、鈍いヤツめ……」
さやか「あんたはさ、結局お菓子の食べ過ぎで、大変な目に遭うところだったわけでしょ?」
杏子「ああ」
さやか「……だからさ。お菓子を食べるなら、あたしといっしょに食べるの。必ず」
杏子「………へ?」
まだ、うまく飲み込めない。
さやか「もちろんあたしも書くよー? 必ず二人で食べて、二人分の記録を残すのさ。
杏子とは判断基準違うから、容赦なしに★1連発するかもしれないけど……」
杏子「さやか」
そこまで聞いて、ようやくさやかの言いたいことを理解する。
さやか「………」
杏子「こ……こっち、来て、くれよ」
目線を泳がせる杏子に言われ、そっと同じベッドに腰掛ける。
杏子「えっとだな……その………////」
さやか「ん………」
隣に来たさやかに身体を寄せながらも、きょどきょどした目線が定まらない。
杏子「……ありがとう」
さやか「うん……」
杏子「………あい、してるよ。さやかっ」
ガバッ
何度も繰り返してきた台詞なのに、なぜか舌がうまく廻らない。
それを無理矢理勢いに回せて言い切り、近寄ったさやかに顔を寄せると、
チュッ
っと、やけに初々しい口づけをしたのだった。
杏子「………わ………悪い、その……限界で………///」
さやか「……ううん。杏子から、してくれるなんて……ほとんど無かったもん。すごく……嬉しい……///」
――学校の教室――
さやか「まどか、ちょっとこっち来て」
まどか「え? どうしたのさやかちゃん……?」
まどか (何かお話かな……?)
放課後。突然呼ばれて、連れ出される。
さやか「ねぇまどか。今回のことは……ごめん、ね。相談もしないで」
まどか「え、ううん、謝らなくていいよ。わたしだったら、力になれなかったと思うし……」
さやか「そんなことないけど……でもさ、今回のことで、食生活って大切だなぁって、思わなかった?」
まどか「うん。パパの食事が、すごく有り難いんだなって、よく分かった」
さやか「あー、まどパパは神の域にあるよね。相変わらずうらやましいよ」
まどか「えへへ……///」
さやか「ところでさ。まどかは、ほむらがどんな食生活してるかは聞いてるよね?」
まどか「えっと……。たまに自炊もするけど、いつもはスーパーでお総菜を買ってるって……。
そう言えば、あんまりいいことじゃないよね……」
さやか「あー、うん。でもそれ口止めされてるけどさ、実は嘘なんだよね」
まどか「え?」
まどか「そっか、ちゃんと毎日自炊してるんだ? 良かった……」
さやか「………いや。逆なのよ」
まどか「へ?」
さやか「あいつ、毎日カップラーメンをコーヒーで流し込んでるだけで、他に食べてないんだよ」
まどか「ええっ!?」
さやか「お昼も、菓子パンにジュースばかりであんまり食べてないでしょ? だからかなり、酷い食生活なんだよね……」
まどか「ほ、ほむらちゃん……そんな……。ほむらちゃんまで病気になったら……」
さやか「うん、心配だよね?」
まどか「当たり前だよっ!」
さやか「じゃあさ。ほむらにさ、まどパパ直伝の、料理の腕を振るってやりなよ!」
まどか「………え?」
さやか「ほむらの家行ってさ、料理作ってやったら、あいつも喜ぶと思うんだよねー」
まどか「……で、でも。わたしがそんな押しかけたら、ほむらちゃん迷惑じゃないかな……」
さやか「……あはは、ないない。ぜーったい、無い」
まどか「ほんとかな……? ワルプルギスの夜の後からずっと……ほむらちゃん、私に対してだけ冷たい気がするよ……?」
さやか (ああ、やっぱほむらのアホ、そういう印象抱かせてたか……)
まどか「避けられてるのかなって……」
さやか「あー、うん、それ。照れてるだけだから」
まどか「照れてる?」
さやか「そうそう。考えてもみなって、まどかのことを嫌ってたら、そもそも何度も時間を繰り返して
終わりの見えない戦いを続けたりはしないでしょーが」
まどか「それは……うん。そう、思うんだけど……。
やっぱり……後悔、してるのかなって。わたしなんかのために、大変な目にあったことを」
さやか「そんなわけないって、ああもう!」
さやか「ほむら理論でいくと、ほむらがおねだりするのは良くないけど、
まどかから愛情を注ごうとするのは悪くないはずだし……」ブツブツ
まどか「え……?」
さやか「いや、こっちの話。まあ、一回ぐらいやってみようよ、食生活が心配なのは本当なんだから」
まどか「う、うん……」
さやか「なんならあたしがセッティングして差し上げますから」
まどか「……わかった。そこまで言うなら、挑戦してみる!」
その後、杏子は退院した。
あたし達の愛情のおかげか、病院で説かれた糖尿病の恐怖をよく胸に刻んだか。
もりもりと際限なくお菓子を食べる癖も抜け、今日も元気に暮らしている。
最近は仁美の家にお邪魔して、一日一つだけ高級なチョコレートを頂くのを楽しんでいる。
むむ、仁美に餌付けされて……取られないと良いんだけど。
まどかによるほむらの攻略も始まった。
何だかんだでほむらは幸せそうで、挙動不審なことが増えてきた。
まどかもみんなに味をほめられた料理に自信が付いてきたようで、すごく生き生きとしてきた気がする。
「やっぱりお昼も健康的じゃないとダメだよね!」と言って、まどか謹製のお弁当も食べさせるほどだ。
まどパパがまどかのお弁当を作り、まどかがほむらお弁当を作り、ちょっとキッチンが狭い物の。楽しいと言っていた。
さて。あとは、あたしには一つだけやらなければならないことが残っている。
それはもちろん―――
――数日後、朝――
シャリシャリ… シャリシャリ…
杏子「ふぁー、よく寝………た?」
さやか「よっ、起きたか杏子。おはよう」
杏子「………おはよう。それ、爪切りか?」
さやか「うん。ちょっと伸びてたから、切って磨いてた」
杏子「そうか………。で、だ。罰ゲームでもないのに、なんであたし縛られてるのかな?」ギシッ…
さやか「あはは、そんなの決まってるじゃん」
杏子 (そうだな、分かってはいるんだけど……) ゾクッ
さやか「きっと美味しいことには変わらないと思うけどさ……」
杏子 (ちょっとだけ期待感があることも否定しねーけど………)
さやか「そろそろさ。あんたのおしっこが、ちゃ~んと甘くなくなってるか……確認しないとね?」ニコッ
杏子「や、やっぱもうくすぐりはやめてくれええぇぇぇっ!!!」
叶わぬと知っている悲痛な叫びが、朝の冷たい空気を揺らした。
~fin~
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません