姉「身代わり人形?」(133)

弟「うん」

姉「なにそれ?」

弟「だから身代わりになってくれる人形」

姉「うん。それで?」

弟「こんどの休みに取りに来いってさ」

姉「誰が言ったの?」

弟「婆ちゃん」

姉「はあ……」

弟「溜息吐くなよ」

姉「だってせっかくの休みなのよ?それを人形あるから
  取りに来いとかないわ」

弟「でも身代わり人形だし、姉ちゃんに何かあったら守って
  くれるかもよ?」

姉「何かって、なによ」

弟「例えば交通事故とか?」

姉「あんた、本気で人形があたしを守ってくれるとでも思ってんの?」

弟「ぜんぜん」

姉「でしょ?」

弟「まあ、流石にねぇ」

姉「はぁ……そういう古臭いしきたりっていうか、風習をあたし達
  にまで押しつけて欲しくないわよね」

弟「同感」

弟「けどまあ、一応行っといた方が良いんじゃない?こないだなんか
  姉ちゃん実家に帰るの嫌がって、墓参りも行かなかったでしょ」

姉「だってあの独特の空気嫌いなんだもん」

弟「父さん困ってたよ?爺ちゃんと婆ちゃんが『姉ちゃんは帰ってこんのか?』
  ってうるさかったし」

姉「だから帰るの嫌なのよ…」

弟「その気持ちは分かるけどさ」

姉「だいたい、あたしが帰らなくてもあんたが帰ってるんだから
  十分でしょ」

弟「どうだろう」

姉「とにかく!あたしは帰るの嫌だからね!」

弟「はいはい。でも一応さっきの電話の内容伝えはしたから、
  後は父さん達と話し合って決めてね」

姉「うぅぅ…」

弟「んじゃ」バタン

姉「はぁ……ったく」


      シャランラーン♪


姉「ん?」

姉「裕子か…」ピッ

姉「もしもーし?どうしたの?」

姉「え?今度の連休?うん……うん」

姉「うそっ、マジ?」

姉「行く行く!うん……うん!」

姉「やった!……大丈夫大丈夫!……うん!うん!オッケー!」

姉「愛してるよぉ、裕子!……うん、それじゃね!」ピッ


姉「やった~~~~~!!!ライブだ~~~~!!!」

姉「持つべきものはやっぱ友達だよね!」

姉「忘れないようにカレンダーに印を……と」キュポン キュキュキュ

姉「……ん?」

姉「あ……この日って、実家に帰って来いって言われてた日じゃん…」

姉「…………」

姉「うん」

姉「用事があるから帰れないってことで、オッケーだよね?ふふん♪」

姉「実家にも帰らなくていい口実出来たしライブも行ける!」

姉「あたしってツイてる~~~♪」

そして……連休初日。



父「本当に帰らないのか?」

母「お爺ちゃんとお婆ちゃん楽しみにしてたのよ?」

弟「……」

姉「ごめんね~、裕子がどうしてもって言うからさ~♪」

父「ライブはまた今度でも良いと思うんだが…」

母「そうよ、考え直したら?」

姉「も~~~!実家に帰るなんて、そっちこそいつでも帰れるじゃん!」

姉「ライブは今日しかないのよ、今日しか!」

母「……」

父「そうか……じゃあ父さん達は一泊して来るけど、しっかりな」

父「夜はちゃんと鍵を確認するんだぞ?」

姉「大丈夫だって!心配しすぎだよ、お父さん」

父「仮にも若い娘を一人残して行くからな」

姉「えっへっへ~♪」

父「じゃ行ってくるぞ」

母「閉じまりはしっかりね?」

姉「はいはい、分かってますって♪」

弟「……」


ブロロロロロロロロ

姉「行った……ね」

姉「う~~~~、やっほ~~~~♪」

姉「家で一人のんびりくつろげるし、ライブも行けるし、実家に
  帰るのキャンセル出来たしホンット最高~~~♪」

姉「裕子にはマジで感謝しなきゃね♪」


       シャランラーン♪


姉「……っと噂をすれば」ピッ

姉「は~い、もしも~し」

そして……。


姉「あぁぁぁ~~~~!!!もうサイッコー!サイッコーだったよ、裕子!」

裕子「ね!ね!良かったよね!」

姉「うんうん!もうあたし感激しまくりで痺れまくりだったよぉ!」

裕子「だよね?だよね?」

姉「うんうん♪」

姉「よ~~~し、このままカラオケでも行っちゃうか~~~♪」

裕子「行こ行こ!朝まで歌い続けようよぉ!」

姉「乗ってるねぇ、裕子!」

裕子「あんたもノリノリじゃん!」

姉「えっへっへぇ♪」

姉「んじゃ、いつものトコへ!」

裕子「GO~~~~~♪」



~~~カラオケ屋前~~~


姉「てってって~~~ん♪」

裕子「てててて~~~ん♪」

姉「ててて……ん?」ピタッ

裕子「ちょっとぉ、急に止まってどうし…」

姉「ねえ、あれ……」スッ

裕子「え?」クルッ

        ウー ウー ウー ウー カンカンカン

       オイ ナカノニンズウハ? ゲンバドウナッテル?


裕子「火事?」

姉「あれって、あたし達が向かってたカラオケ屋じゃない?」

裕子「まさか……」

姉「カラオケ屋だよ……ほら、アレ」

裕子「あ……」

姉「ね?」

裕子「……」

姉「どうする?」

裕子「どうするったって……火事じゃ仕方ないよ」

姉「……だよね」

裕子「うん」

姉「別のトコ行く?」

裕子「けど、ここからじゃ遠いよ?」

姉「う~~~ん、ここのカラオケ屋、安いからわざわざ歩いて
  きたもんね」

裕子「でしょ?」

姉「はぁ……ライブ行ってテンション上がってたのに、一気に
  冷めちゃったよ」

裕子「あたしもぉ~」

姉「じゃ、解散します?」

裕子「しゃあないね」

姉「うん」

裕子「じゃ、帰りますか」

姉「歌いたかったのになぁ~」

裕子「まあ、またの機会ってことにしとこ~よ」

姉「あ~~~あ……」


           シャランラーン♪


姉「……あ」

裕子「誰から~?」

姉「着信……父さんからだ」パカッ

裕子「そっか、じゃあたし先に帰ってよっか?」

姉「そんな、別に良いよ。気にしないで」

裕子「……そう」

姉「……えい」ピッ

裕子「良かったの?」

姉「良いの良いの、あとでまたかけ直すから」

裕子「ふ~~~ん…」

           シャランラーン♪


姉「……」

裕子「でもまた掛かってるよ?」

姉「……うん」ピッ

裕子「お父さん可哀想…」

姉「良いのよ、あんなの!」


           シャランラーン♪

姉「……」

裕子「……」

姉「……」ピッ


           シャランラーン♪

           シャランラーン♪


姉「……」

裕子「……」

裕子「良いの?こんなに何回も電話掛けてくるなんて何か
   あったんじゃ…」

姉「心配しなくても、どうせ大した事ないって!」

裕子「そうかしら?」

姉「そうよ!」ピッ!

姉「ついでに携帯の電源も切っといてやる!」ピピピ

裕子「何もそこまで…」

姉「これくらいしなくちゃ、あたしが取るまで掛け続けて来るって」

裕子「そう…」

姉「これで良しと!」フンス


           シャランラーン♪


姉「え?」

姉「ちょ、ちょっと……さっき電源切って…」

           シャランラーン♪

           シャランラーン♪

           シャランラーン♪

姉「ひっ!?」

           シャランラーン♪

           シャランラーン♪

姉「だ、誰なのよ……一体」パカッ

姉「…………」ジッ

姉「や、やっぱりお父さん…」

姉「なによ、コレ。あたしの携帯に何したのよ?」

姉「なんで着信鳴りっぱなのよ…」

           シャランラーン♪

           シャランラーン♪


姉「……」ピッ

           シャランラーン♪

           シャランラーン♪

           シャランラーン♪

姉「……」

姉「ご、ごめん裕子。あたしやっぱりちょっと電話……裕子?」キョロキョロ

姉「ね、ねえ!裕子!?」

姉「ちょっと隠れてないで出て来なさいよ!」

姉「なに?何の冗談!?」

姉「裕子!?」

姉「ちょ、ちょっとぉ……」ガクガク

姉「一人にしないでよぉ…」


           シャランラーン♪

           シャランラーン♪

           シャランラーン♪


姉「…………で、出ろって?」

           シャランラーン♪

           シャランラーン♪

           シャランラーン♪


姉「…………」パカッ

姉「も、もしも…」

         『……やっと繋がった』

姉「ひぃっ!?」ガチャン

姉「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」ピピピッ

姉「だ、誰これ?お父さんじゃない!?」

           シャランラーン♪

           シャランラーン♪

           シャランラーン♪

姉「ひぃっ!?」

           シャランラーン♪

           シャランラーン♪

           シャランラーン♪


姉「い、いやあああああああああ!!!」バンッ!!!

姉「あ、あぁぁぁぁぁぁぁ……」

姉「きゃあああああああああああああああああああああああ
  あああああああああああああああああああ!!!!」ダダダダダダ

家!


姉「はぁっ、はぁっ、はぁっ!!!」ガチャガチャガチャ

姉「か、鍵掛けなきゃ……鍵」ガチャカチャアチャ

姉「早く……早く……」ガチャガチャ

姉「じゃないと、携帯が追ってくる!」ガチャガチャ


             ガキン!!!


姉「で、出来た!こ、これで……!!!」


     Rrrrrrrrr Rrrrrrrrr Rrrrrrrr


姉「!?」

姉「そ、そんな……家の電話も!?」ペタン

        Rrrrrrr Rrrrrrr Rrrrrrrrr

姉「ど、どうなってるの、コレ?」

     Rrrrrrrrr Rrrrrrrrr Rrrrrrrr

     Rrrrrrrrr Rrrrrrrrr Rrrrrrrr

姉「やめて!やめてよ!」

姉「あたしが何したってのよ!!!」

姉「お願いだから止めてよ!!!」

    Rrrrrrrrr  ……プツン

姉「え?」

姉「お、音が止んだ?」

姉「……は、ははっ」

姉「な、なんなのよ、一体……」

姉「って、座りこんでる場合じゃない……電話線抜かなきゃ…」スッ


姉「こ、これで良し……」

姉「はぁ……どっと疲れた…」

姉「何だってのよ、まったく…」

姉「今日はせっかくライブも行ったし良い一日だったのに…」

姉「かなり走ったし汗ダラダラ……気持ち悪い」

姉「お風呂…………は流石に今日は入るの怖いわね」

姉「……」

姉「とりあえず、部屋戻ろう…」スッ

1時間後!


姉「ふぅ……ちょっとは落ち着いたかな」

姉「あれから電話も掛かってこないし…」

姉「やっぱり電話線抜いて良かったぁ…」

姉「……それにしても、ビビって思わず携帯投げ捨てて来ちゃったけど、
  今考えるとちょっと焦りすぎだったなぁ」

姉「もったいなかったかも…」

姉「でも、どうしてお父さんからの着信なのに女の子の声
  だったんだろ」

姉「家に掛けてきたのも、多分あの子だよね…」

姉「あっちにはお爺ちゃんとお婆ちゃんだけで若い子いないのに」

姉「本当に誰だったんだろ……それに携帯の電源切っても着信
  鳴りっぱだったし」

姉「…………」

姉「や、やめよ。今日は考えるの」

姉「明日みんな帰ってきたら聞けばいい事だし!」

姉「携帯だって明日改めて探しに行けばいい事だし、それに誰かに
  拾われててもどうせ壊れてるだろうしね!」

姉「うん♪」


           シーーーーン


姉「は、ははっ…♪」

姉「ははは……はぁ…」

姉「あたしも実家帰っとけば良かったかなぁ…」

ガチャン!!!


姉「!?」ビクッ

姉「な、なななななな何!?」

姉「し、下の方から?」

姉「泥棒……じゃないわよね?」

姉「し、調べに行くとか怖すぎて無理なんですけど……」ガクガクガク

           ガチャン!!! ガチャン!!!


姉「そ、空耳じゃないし……」

姉「もぅ……なんなのよぉ……」


         ガチャン!!! ガチャン!!! ガチャン!!!


姉「家荒らしてるみたいだし、やっぱ泥棒なのかな?」

姉「…………でもあたし一人で泥棒と?」

姉「ムリ、無理無理無理無理!」

姉「でも荒らされてるのに見過ごすわけにも…」

姉「警察に知らせたいけど携帯捨ててきてるし、家のは
  電話線抜いてるし…って元々一階にしかないから無理だし…」

姉「あぁぁぁ、もう!」

姉「……って、あれ?」

姉「ちょっと待って……うん、うん……そっか、そういう事か」

姉「ナルホド、ナルホドね…」

姉「むぅぅぅ!」

姉「さっきのあの電話!この泥棒の仕業ね?」

姉「あたしに警察に電話を掛けさせない為に、こんな手のこんだ
  事やったんだわ!」

姉「そう考えたら全部辻褄があう!」

姉「……ふふん!」

姉「でもあたしの勝ちね!あんたはツメをあやまったのよ!」

姉「相手が泥棒なだけなら、心霊現象とかじゃなかったらあたしだって!」

         ガチャン!!! ガチャン!!! ガチャン!!!

姉「……確か弟の部屋にバットあったわよね」

姉「見てなさいよ!」スッ

階段!



         ガチャン!!! ガチャン!!! ガチャン!!!


姉「姉+バット=最強!」コソコソコソ

姉「せいぜい今の内に荒らしとけばいいわ」

姉「今からあたしを怖がらせてくれた分も含めて……」ヌッ

姉「たっぷりとお仕置きしたげるから!」

         ガチャン!!! ガチャン!!! ガチャン!!!

姉「来たわね…」

         ガチャン!!! ガチャン!!! ガチャン!!!

姉「これでも……」

姉「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」ブオン!!!

             スカッ!!!

姉「え?」

姉「う、うそ!?外した?」

姉「そんなハズ……」バッ

姉「……」キョロキョロキョロ

姉「ど、どういう事?」キョロキョロ

姉「泥棒は?」

姉「……って、どこも荒らされてないじゃない…」キョロキョロ

姉「さっきまであんなに音がしてたのに…」

姉「あたしが二階に上がるまんま…」

姉「幻聴?そんな、まさか……」


        ガシャアアアアアアアンンンンンン!!!!


姉「!?」ビクッ

姉「こ、今度は二階!?」

姉「どうなってんの!?」

姉「と、とにかく行かなきゃ!」ダッ!      ペタ…

ダダダダダダダダダッ!!!        ペタ ペタ ペタ…


姉「はぁ、はぁ、はぁっ!」

姉「こ、今度こそ逃がさないわよ」

姉「…………」

姉「ていっ!」バタン!!!

姉「……いない」キョロキョロ

姉「こっち!?」

        バタン! バタン! バタン!

姉「ここも…」

姉「ここも……」

姉「ここも……!!!」

姉「どうなってるのよ!?」

姉「いるんでしょ!?」

姉「こそこそ隠れてないで出て来なさいよ!」

姉「はぁ、はぁ、はぁっ……」


            シーーーーン


姉「……」

姉「本当に……いない?」

姉「あたしの、気のせい?」

           『いるよ』

姉「え?」

         『あなたの後ろに』

姉「この声……う、うそ!?」バッ

姉「……は、ははっ、いないじゃない…」

            『いるよ』

姉「だから居ないって…」クルッ

         『あなたの足元に……』

姉「!?」

           『やっと、会えたね』

姉「に、人形!?」

          『そう……身代わり人形』

           『あなたの身代わり』

姉「しゃ、喋って!?」

          『今日、来てくれなかったね』

              『悲しかった』

姉「そ、それであたしのトコわ、わわわわざわざ来てくれたたたんだ…」ペタン

               『……』

姉「ち、ちちち違うの?」

      『…………ねえ、知ってる?身代わり人形ってさ』

翌日


弟「ただいまー」

父「おぉ、遅くなってすまなかったな」

父「そっちは大丈夫だったか?」

姉「……」

父「どうした、具合でも悪いのか」

姉「……」フルフル

父「そうか……なら良いんだが」

父「そうだ、お前にお土産があるんだ」

ドン!

父「開けてみなさい」

姉「……」ファサ

母「あなたが来られなくて、お爺ちゃんもお婆ちゃんも残念がってたけどね」

母「あなたが病気や事故に遭わないようにって……身代わり人形下さったのよ」

父「まあ、元々持って帰るつもりだったがな」

父「どうだ、良く出来てるだろう?この人形はな、おまえが生まれた時に
  わざわざ造ってもらって…」

姉「……」スッ

父「お、おい…」

姉「……」トントントン

母「あらあら、よっぽど人形が気に入ったのね」

母「抱きかかえて二階に上がるなんて」

父「ふぅむ……少し不気味だから怖がりのあの子はもっと怖がるとも
  思ったが…」

母「あれなら大丈夫そうね」

父「だな!」

二階!


弟「ん?姉ちゃんその人形…」

姉「……」ガチャ バタン

弟「ね、姉ちゃん?」

        ガチャ

弟「鍵閉めやがった…」

弟「あんな人形部屋に持ち込んでどうするつもりだよ…」

弟「……にしても、なんだか変だよな」

弟「まるで人が変わったみたいな…」

弟「俺らが実家帰ってる間なんかあったのかなぁ?」

弟「…………ま、いいか」

弟「きっと気のせいだよな」

弟「明日が来ればいつもの姉ちゃんだよな…」



姉の部屋


姉「……」

姉「…………うふ」

姉「うふふふ」

姉「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ…」




おわり


         『…………身体、動かない』

            『誰か、助けて…』



おわり

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