~お昼休み ラウンジにて~
桜井「ふふふんふんふんふ~ん♪ プリン、プリン♪ プリプリプリン~♪」
伊藤「桜井~ 歌ってないで早く食べちゃいなよ」
桜井「うん。やっぱりプリンは美味しいよね~」
伊藤「桜井は何でも美味しそうに食べるよね」クスクス
桜井「え~ 何でもって言うのは、ちょっと言い過ぎじゃないかなぁ?」
伊藤「そうかな? 桜井があんまり美味しそうに食べてるから、私まで食べたくなってきたよ」
桜井「それじゃ、香苗ちゃんにも一口おすそわけ。はい、あ~ん」
伊藤「あ~ん。……うん、美味しいね」パクッ
桜井「でしょ~?」ニコニコ
桜井(……あれ? そういえば、茶道部の荷物運びって明日だっけ明後日だっけ?)
伊藤「どうしたの桜井?」
桜井「うん、茶道部の先輩の用事があったんだけど、明日だったか明後日だったかな?って」
伊藤「そういう事は、ちゃんと確認しておいた方がいいよ?」
桜井「う~ん、やっぱりそうだよね……」
桜井(この前も迷惑掛けちゃったし……)
桜井(先輩達、部室にいるかな?)
桜井「……香苗ちゃん、ちょっと部室に行ってきてもいいかな?」
伊藤「うん、私の事はいいから行っておいで」
桜井「ごめんね~ 香苗ちゃん」
伊藤「午後の授業、遅れないようにね」
桜井「えへへ、ありがとう」
~お昼休み 茶道部室にて~
桜井「あ、あのっ! 明日の昼休み集合だったか明後日だったか……」ガラッ
桜井(……えっ!?)
桜井「あれ!? 純一? なんで茶道部室に!?」
夕月「噂をすればなんとやらだな……とりあえず落ち着きなって」
飛羽「冷静さが大事」
桜井(えっと……どういう事だろう?)
夕月「とりあえず集合は今日だったけど、人手は足りたから大丈夫だ」
飛羽「問題、ない」
桜井「はあ……。あ! 純一が手伝ってくれたの?」
橘「成り行きだけどね」
桜井「ありがと~っ。先輩、純一迷惑かけませんでした?」
橘「おいおい、いきなり何を……」
夕月「くっくっくっく」
飛羽「似たもの同士」
夕月「大丈夫。あんたよりは役に立ったよ」
桜井「え、あ。そうですか」
飛羽「戦利品、ばっちり」
桜井「すっごぉい! おこただ! 先輩入ってみてもいいですか?」
夕月「別にいいけど……」
桜井「やったあ!」
キーンコーンカーンコーン
飛羽「時間切れ」
夕月「はい、残念賞! 続きは部活でねー」
桜井「そんなぁ~」
橘「やれやれ……それじゃ、僕はもどります」
桜井「あ、私も一緒に戻ります」
夕月「おうっ、お疲れさん」
飛羽「また……」
橘「それじゃ……」
夕月「ああ、ちょっと待った」
橘「はい?」
夕月「今日は助かったよ。よかったらまた遊びに来な」
橘「あはは、そうですね」
桜井(るっこ先輩、純一の事気に入ってくれたのかな?)
夕月「じゃ、そういうことで」
桜井「お疲れさまでした~っ」
…………
夕月「なぁ、どう思う?」
飛羽「うん、悪くはない」
夕月「うん、悪くないな。しかし……あの調子じゃね」
飛羽「前途多難」
夕月「まぁ、キッカケがあればとんとん拍子にいきそうだけど」
飛羽「……それなら」
夕月「おう、りほっちのために、ここは私らが一肌脱ぎますか」
飛羽「りほっちのため、仕方がない」
…………
桜井「だって。また遊びに来てよね」
橘「うん、そうだな」
橘「なんだか先輩達も、見た目に反して話しやすいし……」
桜井「あはは、怒られちゃうよ?」
橘「そ、そうかな?」
桜井「ふふっ」
橘「お、おい、梨穂子」
桜井(先輩達と純一が一緒にいるなんて、びっくりしちゃったよ)
桜井(でも……先輩達と仲良くなったみたいで良かったぁ~)
桜井(うん……)
桜井(これなら、純一を部室に連れて行っても大丈夫だよね)
~放課後 2年A組にて~
桜井(……うん、大丈夫だよね)
桜井(よしっ!)
桜井「すいませ~ん、橘君いますかぁ?」
橘「……うん?」
梅原「おい、大将。奥さんが呼んでるぜ?」
橘「か、からかうなよ、梅原」
梅原「何言ってるんだ。あんなに可愛くて優しい奥さんなら大歓迎だろ」
橘「り、梨穂子とはそんなんじゃないから……」
梅原「ほれ。桜井さんニコニコしながら手を振ってるぞ」
橘「梨穂子のやつ……」
梅原「あんまり待たせてないで、早く行ってやれって」
橘「そ、そうだな……」
桜井「ごめんね、忙しかったかな?」
橘「いや。どうかしたのか?」
桜井「うん、今日のお昼に先輩達の事、手伝ってくれたでしょ」
橘「ああ、茶道部の?」
桜井「そうそう。だから、純一にお礼しなきゃな~って思って」
橘「気にしなくてもいいよ、乗りかかった船だったし」
桜井「で、でも……」
橘「……わかったよ。それで、どんなお礼をしてくれるんだ?」
桜井「うん! とりあえず茶道部に一緒に来てくれるかな?」
橘「茶道部に?」
桜井「……えっと、予定があるなら今度でもいいんだけど」
橘「わかった。荷物を取ってくるからちょっと待っててくれるか」
桜井「うん!」
桜井(よかったぁ~ 断られたらどうしようかと思ったよ)
梅原「桜井さん何だって?」
橘「う~ん、お礼がどうとかで茶道部に行く事になった」
梅原「お礼? 大将、何かしたのか?」
橘「ああ、お昼休みにちょっとね」
梅原「へぇ~ どんなお礼なんだろうな?」
橘「さあ?」
梅原「そうだな……例えばこんなお礼なんかどうだ?」ニヤニヤ
橘「どんなお礼だよ?」
梅原「おぅ、畳の上でまさかの嬉し恥ずかしのお礼とか?」ニヤニヤ
橘「……お、怒るぞ」
梅原「おいおい。それじゃぁ、これがツイスターゲームだとしたら、どうだ?」
橘「ツイスターゲーム?」
梅原「そう。ゲームが進むうちに自然と触れあう体と体……」
橘「あ……う、うん」ゴクッ
梅原「近づく顔と顔、超がつく程の至近距離で感じる相手の息遣い……」
橘「あ、あぁ……」
梅原「どうだ、悪くないだろ?」
橘「……ま、まぁね」
梅原「まだまだこれからだぜ?」
橘「ま、まだ……」
梅原「おう。さらにゲームが進むうちに……」
橘「ど、どうなるんだ?」ゴクリッ
梅原「もしかしたら……ってところに偶然触っちまう事もあるかもな?」
橘「も、もしかしたらって……」
梅原「ふふん、そいつは大将の想像にお任せするぜ」
橘「…………」モヤモヤ
~~~~
桜井『やだ、どこ触ってるの、純一///』
橘『仕方ないだろ、指定された印がここなんだから』キリッ
桜井『く、くすぐったいから動かないで///』
橘『ほら、次は梨穂子の番だぞ』キリッ
桜井『うわぁ、こんなところ無理だよぉ~』
橘『なに言ってるんだ。ここをこう動かして、こうすれば大丈夫だろ』キリッ
桜井『ほ、ほんとだ……で、でも///』
橘『それじゃあ梨穂子の負けでいいよな』
桜井『それはやだ~! も~見てなさいよ……んっ……っ……ゃぁん///』
橘『ははっ、梨穂子もなかなかやるじゃないか』キリッ
~~~~
梅原「どうだ、大将?」ニヤニヤ
橘「……ま、まぁまぁじゃないか///」
梅原「へぇ、まぁまぁときたか……」
橘「あ、ああ。まぁまぁだよ。それに梨穂子とは……」
梅原「まぁ、待て待て。これからが本番だぜ」ニヤリ
橘「こ、これからが!?」
梅原「おう。ゲームも終盤……体をを支えるのもお互い限界だ」
橘「……そ、そうだな」
梅原「危うい均衡で成り立ったバランス……もし、それが崩れたらどうなる?」
橘「……も、もしかして!?」
梅原「そうだ! 体を絡ませて密着した状態で床に倒れ込むしかないだろう」
橘「くっ……」
梅原「さっきまでのツイスターゲームで、二人の気持ちは十分に盛り上がってるはずだ」
橘「た、確かに……」
梅原「そこに、抱き合うように倒れこんだ男女二人……どうなると思う?」
橘「ま、まさか!?」
梅原「そう! 二人はそのまま……な~んて事もあるかもよ」
橘「くぅっ!? り、梨穂子とはそういうのじゃないって言ってるだろ!///」
梅原「おや~? 別に桜井さんと、なんて俺は一言も言ってないぜ」ニヤニヤ
橘「う、梅原いい加減に……」
梅原「まぁまぁ、冗談だってば。そんなにムキになるなよ、大将」
橘「梨穂子とは幼稚園の年長からのつき合いなんだ。それを今更……」
梅原「そうか? 俺はそんな事関係ないと思うぞ?」
橘「…………」
梅原「あれだけ器量良しで可愛い幼なじみなんて、滅多にいるもんじゃないぜ」
橘「そ、そうかな……」
梅原「そうさ。大事にしないと罰が当たっちまうぞ」
橘「あ、ああ……」
梅原「……引き止めちまって悪かったな。ほら、桜井さんが待ってるぞ」
橘「わ、わかってるよ。それじゃあ僕は行くからな」
梅原「おう、桜井さんによろしくな~」
~~~~~
橘「……お待たせ。それじゃあ行こうか」
桜井「梅原君、用事があったの?」
橘「い、いや、気にしなくていいんだ///」
桜井「あれ? 純一顔が赤いよ?」
橘「そ、そうかな?」
桜井「うん」
橘「きっ、気のせいじゃないか///」
桜井「う~ん、熱とかあるんじゃない? 大丈夫?」
橘「だ、大丈夫だって。それより、茶道部に行くんじゃなかったのか?///」
桜井「あっ!? そうだったね」
橘「まったく……梨穂子はしょうがないな」
桜井「えへへ~」
橘「それで、お礼って一体何なんだ?」
桜井「それは、行ってからのお楽しみって事で」
橘「……///」
桜井「ねぇ? やっぱり顔が……」
橘「なっ、何でもないから。よし、行こう!」
桜井「ま、待ってよ純一~」
~放課後 茶道部室にて~
橘「お邪魔しまーす」
桜井「お邪魔しま~す」
橘「梨穂子は茶道部員だろ?」
桜井「えへへ、純一につられて、つい」
橘「あれ、誰もいないじゃないか」
桜井「う~ん、先輩達はまだ来てないみたいだね」
橘「先輩達って、お昼の二人か?」
桜井「そうだよ~ るっこ先輩とまな先輩」ニコニコ
橘「……なぁ、茶道部って3人しか部員がいないのか?」
桜井「掛け持ちの子が何人かいるんだけど、ちゃんと活動してるのは私と先輩達の3人だけかなぁ」
橘「それって、部としてかなりヤバいんじゃないのか?」
桜井「だから、新入生が入部してくれないと、ちょっと大変になっちゃうかな」
橘「それより、この時期に3年生が部長をやってる事の方が、もっと問題なんじゃないのか?」
桜井「そうなんだよ~ もうすぐ先輩達も卒業だし……」
橘「うん……って待てよ」
桜井「どうしたの?」
橘「……って事は梨穂子が次の部長になるのか?」
桜井「う~ん、多分……」
橘「多分って……しっかりしてくれよ」
桜井「そんな事言われても~」
橘「本気で不安になってきたぞ……」
桜井「う~ん」
橘「ま、まあ先輩達にも何か考えがあるんだろう」
桜井「そ、そうだよね?」
橘「あ、ああ」
桜井「と、とりあえずおこたに入ってて~。お茶いれるから」
橘「そうか、悪いな」
桜井(はぁ……)
桜井(純一はちょっと失礼だよねぇ……)
桜井(でも……来年になったら先輩達は卒業しちゃうんだ……)
桜井(…………)
桜井(まだ、少しだけ時間はあるけど……)
桜井(やっぱり寂しいな……)
桜井(…………)
橘「ふぅ……やっぱり和室にコタツがあると落ち着くな」
桜井「え? な、何?」
橘「何だ、聞いてなかったのか?」
桜井「ちょっと考え事してて、ごめんね」
橘「大した事じゃないから、気にしなくていいよ」
桜井「うん……ありがと」
橘「それで……さっき言ってたお礼って?」
桜井「あ、これなんだけどね」
橘「へえ、豆大福か。なかなか渋いチョイスじゃないか」
桜井「うん、冷蔵庫に入れてたから、ちょっと硬くなっちゃってるけど」
橘「そっか。ほら、梨穂子も早くコタツに入れよ」
桜井「うん。……はぁ~暖かいねぇ~」
橘「まるで、お年寄りみたいだな」
桜井「えへへ~、そうかな?」
橘「気持ちはわかるけどさ。少し寒い部屋で暖かいコタツ……」
桜井「熱いお茶に甘いお菓子……最高だよねぇ~」
橘「日本の風情って感じだな」
桜井「うんうん。きゃっ!?」
橘「あっ……悪い。足が当たっちゃったか?」
桜井「純一~足を伸ばすなんて行儀悪いよ」
橘「まあ、いいじゃないか。ほら、梨穂子も伸ばしてみろよ。気持ちいいぞ」
桜井「……じゃあ、ちょっとだけ」
橘「どうだ、気持ちいいだろ?」
桜井「ほんとだぁ~ はぁ、極楽極楽♪ このままこたつに吸い込まれそうだよぉ」
橘「梨穂子は大袈裟だなぁ。ほら」
桜井「きゃあ!? も~ 足でくすぐらないでよぉ」
橘「あはは。悔しかったら、梨穂子もやり返せばいいじゃないか」
桜井「う~ ……えいっ!」
橘「おっ、やるじゃないか」
桜井「えへへ~」
橘「油断大敵だ、それっ!」
桜井「きゃあ!?」ガシャン
橘「あっ、熱っっ!?」
桜井「だ、大丈夫?」
橘「お、お茶が!? 熱っ!?」
桜井「ヤケドしちゃうから、服を脱いで!?」
橘「わ、わかった……」ゴソゴソ
桜井「ご、ごめんね。今拭くもの持ってくるから……」
橘「た、頼む……」
夕月「おーっす」ガラッ
橘&桜井「えっ!?」
夕月「今日は早いじゃないか、りほっち……って部室で何やってんだぁ! このポルノ野郎!!」ゲシッ
橘「うげっ!?」ドスン
桜井「じゅ、純一!?」
飛羽「大丈夫か……りほっち?」ガスッ
橘「ぐぇ!?」
桜井「ち、違うんです!?」
夕月「違うって何が! どう見てもこいつがりほっちを襲おうとして、服を脱いでるようにしか見えないじゃないか」
飛羽「制裁を加えよう……」
橘「ぅぅ……」
桜井「だ、だからお茶をこぼしちゃって、ヤケドしちゃうから服を……」
夕月「お茶? ヤケド?」
桜井「は、はい……」
夕月「マジか?」
橘「は、はい……」
夕月「…………」
飛羽「…………」
夕月「ま、まあ……本気で蹴ってないから大丈夫、だよな?」
飛羽「間違いは誰にでもある……」
橘「ひ、ひどいですよ、先輩……」
桜井「純一……大丈夫?」
橘「ああ……大丈夫だよ」
夕月「……悪かったな、橘」
飛羽「……すまなかった」
橘「も、もう大丈夫ですから。勘違いは誰にでもありますし……」
夕月「ふぅん……」
飛羽「……ふっ」
桜井「ど、どうかしたんですか?」
橘「な、なんでしょう?」
夕月「……お前、やっぱり変わってるな」
桜井「……先輩?」
夕月「いや、この前コタツを運んでもらった時といい、今回の件といい……」
橘「は、はあ……」
夕月「普通なら、怒るなり何なりすると思うんだけど……」
飛羽「呪われてもおかしくない」
夕月「……怒らないって事は、それなりの理由があるんだろ?」
橘「え、えっと、まあ……一応」
桜井「るっこ先輩……」
飛羽「りほっちは、少し黙ってる……」
桜井「は、はい……」
夕月「よかったら、その理由を教えちゃくれないかい?」
橘「……えーと、理由って程のものじゃないと思うんですけど」
夕月「それでもいいよ」
橘「はい。この前は梨穂……桜井の知り合いってわかったので、手伝いぐらいは別にいいかな?って」
夕月「ああ……それは確かに言ってたな」
飛羽「……言ってた覚えが、ある」
桜井(え、えっと……)
橘「今回の事は……先輩達が桜井の事を心配してやった事ですよね?」
夕月「あぁ、そうなるね」
橘「だったら、僕が怒る理由はありませんよ」
夕月「そうか……」
飛羽「…………」
橘「…………」
桜井(ど、どうなっちゃうんだろ……)
夕月「……お前やっぱり変わってるよ。でも、悪くない」
飛羽「見かけによらず心が広い」
桜井(……!?)
橘「そ、そうでしょうか?」
桜井(……だ、大丈夫なんだよね?)
夕月「りほっち」
桜井「は、はい!」
夕月「りほっちが言ってた事、少しわかった気がするよ」
飛羽「まさに単純明快……」
桜井「え、えっと……」
夕月「橘、今日は本当に悪かったな」
飛羽「……すまなかった」
橘「いえ、もう済んだ事なので……」
夕月「これに懲りずまた来てくれ。歓迎するから」
飛羽「いつでも、歓迎しよう」
橘「は、はい。ありがとうございます!」
桜井(はぁ~ よ、良かったぁ~)
夕月「ほらぁ、いつまでもそんな格好だと風邪引くぞ」
橘「あ、ジャージがあるので着替えます」
夕月「そうか。それじゃ、私らは外で待ってるから、着替えたら声を掛けてくれ」
飛羽「ひとまず退散」
橘「わかりました」
夕月「ほら、りほっちも行くぞ。それともこいつの着替えを手伝う気か?」
桜井「わ、私も外で待ってます///」
飛羽「寒いから早く頼む」
夕月「こっちが風邪を引かないようにしてくれよ?」
橘「は、はい」
~放課後 茶道部室前~
桜井「……先輩、色々とごめんなさい」
夕月「どうして、りほっちがあやまるんだ」
飛羽「悪いのは私達」
桜井「私が純一を連れて来なかったら、こんな事には……」
夕月「それは関係ないだろ。今回の件は、私らに否があるんだから」
飛羽「……早とちり」
桜井「でも……」
夕月「ほら、そんな顔しない」
桜井「は、はい」
夕月「りほっちがあいつの事、好きになった理由がよくわかったよ」
桜井「ふえ? な、何を……///」
夕月「りほっちはさ、いっつもあいつの話を私らに聞かせてくれるけど……」
桜井「そ、そうでしたっけ?///」
飛羽「耳にたこ」
夕月「まぁ、ちょっと変わってるっていうより、特殊な部類だよ」
飛羽「良い意味で」
夕月「そうだな、愛歌の言うとおり良い意味でな」
桜井「え、えへへ、ありがとうございます」
夕月「ふぅ……どうしてりほっちがお礼を言うんだ?」
桜井「そ、それは///」
夕月「まぁ、それはいいや」
飛羽「細かい事は、置いておく」
夕月「しかし、あんなのが小さい頃から一緒だなんて、りほっちも苦労するよ」
飛羽「腐れ縁」
桜井「……そ、そんな事は///」
夕月「まぁ……余計な事かもしれないし、今回のお詫びって訳じゃないけど……」
夕月「私らで出来る事があったら協力するからさ」
飛羽「うむ。全面的に、協力しよう」
桜井「せ、先輩……」
橘『お待たせしました。着替え終わりました』ガラッ
夕月「おっ!? ジャージ姿もなかなか様になってるじゃないか」
飛羽「馬子にも衣装」クスッ
橘「誉めたって何にも出ませんよ」
夕月「そんなもん、別に期待してないよ」
桜井「ヤケド、大丈夫だった?」
橘「少し赤くなってるけど、大丈夫だよ」
夕月「……りほっち、橘を保健室に連れてきな」
桜井「はい。……行こう、純一?」グイ
橘「保健室なんて大げさですよ」
桜井「でも……」
夕月「私らが心配だから、行けって言ってるんだ」
橘「先輩達が?」
夕月「何だぁ、その意外そうな顔は? 私らが心配したら迷惑なのか」
橘「い、いえ、そんな事は……」
夕月「わかったら、りほっちに保健室に連れてってもらえ」
飛羽「荷物は置いていけばいい」
橘「わ、わかりました」
桜井「ほら、純一。行こう」
橘「あ、ああ……」
~放課後 保健室にて~
桜井「うん、そんなにひどくないみたいだね……良かったぁ」
橘「だから、大した事ないって言ったじゃないか」
桜井「うん……」グスッ
橘「り、梨穂子!? 急に泣き出すなんて、どうしたんだ?」
桜井「ご、ごめんね、安心したら急に……」
橘「もしかして、僕が着替えてる時に先輩達から何か言われたのか?」
桜井「違う、違うよ。本当に安心したら、なんか急にね……」ゴシゴシ
橘「そっか……」
桜井「うん……」
橘「……心配掛けて悪かったな」ナデナデ
桜井「ふぇ? あっ……///」
橘「……泣き顔なんて、梨穂子には似合わないぞ」
桜井「えへへ、そうかなぁ?///」
橘「うん、やっぱり笑顔の方が可愛いよ、梨穂子は」ナデナデ
桜井「ね、ねぇ……///」
橘「うん? どうかしたのか」
桜井「あ、あのね……///」
橘「な、なんだよ?」
桜井「うん……もうちょっとだけ、こうしていてくれるかな?///」
橘「そんな事か。お安いご用さ」ナデナデ
桜井「えへへ///」ニコニコ
~放課後 保健室前廊下にて~
上崎(幼なじみだから、少しぐらい仲がいいのは、仕方ないかなって思ってたけど……)
上崎(橘君に怪我をさせるなんて、一体どういう事なの……)
上崎(…………)
上崎(それに、あの先輩達……)
上崎(あの人に暴力を振るったくせに……)
上崎(それを笑ってごまかそうとするなんて……)
上崎(ひどい、許せないよ……)
上崎(やっぱり、私が守ってあげなきゃ……)
上崎(あの人が傷つかないように……)
上崎(私がしっかりしなきゃいけないよね……)
上崎(橘君は私が守ってあげるから……)
上崎(…………)ギュッ
~翌日 放課後 2年B組にて~
橘「すいません。桜井さんいますか?」
伊藤「あぁ、橘君。桜井なら部活に行っちゃったよ」
橘「そ、そうなんだ」
伊藤「うん、さっき教室を出ていったばっかりだから、今なら追いつくと思うけど」
橘「ありがとう、行ってみるよ」
伊藤「うん、じゃあね~」
橘「ああ、またね」
上崎(…………)
上崎(……私が)
上崎(私が橘君を守らないと……)
~放課後 茶道部室にて~
橘「ごめんください」ガラッ
夕月「よぉ~来たか、入部希望者」
飛羽「熱烈歓迎」
橘「ち、違いますよ」
夕月「何が違うんだ? りほっちに会いに来たんだろ?」
飛羽「顔に書いてある」
橘「そ、それはそうですけど」
夕月「なら、茶道部に入っちまえよ。そうしたら、放課後はずっと一緒にいられるぞ?」
橘「り、梨穂子とはそんなんじゃ……」
飛羽「語るに落ちたな……」
橘「ど、どういう意味です?」
夕月「『梨穂子』」ニヤニヤ
橘「あっ!?」
夕月「まぁ、私ら相手に取り繕う必要なんてないよ。普段はそっちで呼んでるんだろ?」
橘「は、はい……それじゃあ、そうします///」
飛羽「素直でよろしい」
橘「それで、梨穂子はいますか?」
夕月「いないよ」
橘「え?」
夕月「だから、りほっちなら『 い な い 』って言ってんの」
飛羽「残念だったな」
橘「だって、梨穂子の友達が部活に行ったって……」
夕月「あぁ、さっき顔は出したけど『家の用事がある』から休ませてくれってさ」
橘「そうだったんですか」
夕月「なんだ、その露骨に残念そうな顔はぁ?」
飛羽「……失礼千万」
橘「い、いえ、そういう訳じゃ……それじゃ、僕も失礼しますね」
夕月「まぁ、待ちなよ」
飛羽「……逃げるな」
橘「べ、別に逃げる訳じゃ……」
夕月「りほっちに会いに来たって事は、暇なんだろ?」
橘「えっ、確かに暇といえば暇ですけど……」
夕月「せっかく来たんだ。お茶ぐらい出してやるから休んでけ」
橘「さ、茶道部には入りませんよ?」
夕月「その事は今はいいんだよ。それとも私らが出すお茶が飲めないってのか?」
飛羽「嫌われたものだ……」
橘「そ、そういう訳じゃ……」
夕月「よし、決まりだな。それじゃ、さっさと入り口を閉めて中に入ってくれ。寒くてかなわん」
橘「は、はい」
夕月「ほら、コタツに入って座ってろ。今お茶を淹れてやるから」
飛羽「ゆっくり、くつろぐがいい……」
橘「ありがとうございます」
夕月「まぁ、何だ。昨日のお詫びもあるし、ちょっと話したい事もあってな」
橘「僕に話……ですか?」
夕月「そう身構えるな。茶道部に入れって話じゃないから……あ~全く関係なくもないんだけどさ」
橘「……どういう事でしょう?」
飛羽「そう緊張するな……」
橘「はぁ……」
夕月「あーお湯が切れてるな。沸かしてると時間がかかるし、麦茶でいいだろ?」
橘「はい、ありがとうございます」
夕月「で、話ってのは、りほっちの事なんだけどさ」
橘「梨穂子の? 梨穂子がどうかしたんですか?」
夕月「ん~ ぶっちゃけた話……あんた、りほっちの事どう思う?」
橘「な、なんですか、いきなり!?///」
夕月「いや、聞き方が悪かったな。あんたから見て、りほっちは部長に向くと思うか?」
橘「そ、そういう事ですか……」
飛羽「何を勘違いしてる?」クスッ
夕月「もしかしたら、りほっちからも聞いてるかもしれないけど……」
橘「えっと、茶道部に正式な部員が先輩達と梨穂子しかいないとか……」
夕月「そう、それだ!」
飛羽「以心伝心」
橘「う~ん、向くか向かないかで言えば、梨穂子には向いてないと思います」
夕月「……だよなぁ。すごく頑張ってるのはわかるんだけど、どっか抜けてるというか」
橘「そうですね。確かにそういう所はありますね」
夕月「……あんたがそう言うなら、間違いないんだろうなぁ」
橘「でも、梨穂子以外に部長をやる人間がいないんですよね?」
夕月「いや、私らはりほっちが部長にふさわしくない、って言ってる訳じゃないんだ」
飛羽「その通り」
夕月「むしろ、りほっちしかいないと思ってる」
橘「それを聞いたら、梨穂子も喜ぶと思います」
夕月「そこで、ここっからが本題なんだけど……」
飛羽「……真面目な話だ」
橘「はぁ……」
夕月「何だ何だ、気のない返事だなぁ……まぁいい」
橘「す、すいません」
夕月「あんた、掛け持ちでもなんでもいいから、ウチの部の副部長をやってみる気ないか?」
飛羽「THE・副部長」
橘「ど、どうして僕なんかが!?」
夕月「あんたならりほっちと仲もいいし、あの子のこと上手くサポート出来ると思うんだ」
飛羽「適材適所」
橘「そんな事、急に言われても……」
夕月「私らを……いや、りほっちを助けると思って頼む!」
飛羽「……助けると思って」
橘「あ、頭を上げてください!? そ、そんな事されても困ります!」
夕月「じゃぁ、考えてくれるか?」ニカッ
橘「そ、それは……」
夕月「ん……あんたに無理矢理やってもらっても、りほっちのためにはならないだろ」
飛羽「自発的なのが望ましい……」
橘「はい……」
夕月「ダメならダメでいい。だから考えるだけ考えてくれ」
橘「ダメだと思いますけど……そういう事でしたら、お話だけは預ります」
夕月「そうか……やっぱりいいやつだな、お前」
橘「ですから、まだお話を受けた訳じゃ……」
飛羽「……わかっている」
夕月「さっきも言ったけど、ダメならダメでいいんだ」
橘「はい。でもそれじゃあ……」
夕月「あぁ、りほっちはとんでもなく苦労するかもしれない」
夕月「でも、それはあの子が乗り越えなきゃいけない事だ」
夕月「それに、本当に困っている時はあんたが助けてくれるんだろ?」
橘「そ、そりゃあ、梨穂子が困っていたら……」
夕月「だったらそれでいいんだ。今、あんたに頼んだのは、単なる私らのワガママだ」
橘「ワガママ、ですか?」
飛羽「そう……勝手な押しつけ」
夕月「りほっちに苦労して欲しくないっていう、私らのワガママだよ」
橘「先輩……」
夕月「身勝手な先輩だと思って、笑ってくれていいよ」
橘「そんな事ありません!」
夕月「橘……」
橘「先輩達にそこまで思われて、梨穂子は幸せだと思います」
夕月「そっか……そう言ってもらえると、嬉しいよ」
飛羽「照れるじゃないか……///」
夕月「話はここまでだ、つきあってもらって悪かったな」
橘「いえ、気にしないでください。じゃぁ、僕はこれで失礼します」
夕月「それじゃぁ、私らもそろそろ帰るか」
飛羽「勉強が待っている……」
夕月「あぁ~~! それを言うな、愛歌」
橘「あはは、頑張ってください」
夕月「お前だって、来年の今頃は他人事じゃなくなってるんだからな!」
橘「はい、来年頑張ります。それじゃあ、また」ガラッ
夕月「あぁ、気をつけて帰れよ!」
飛羽「……また遊びに来るといい」
夕月「……くっそー頼むぞ」
飛羽「あとは天命に任せよう……」
~同時刻 繁華街にて~
桜井(最近、純一とお話する事が多くて嬉しいなぁ)
桜井(えへへ、先輩達とも仲良くなったみたいだし)
桜井(このまま、茶道部に入ってくれたら嬉しいんだけど///)
桜井(う~ん、そこまでは、流石に無理だよね……)
男「ねぇ……そこのアナタ?」クネッ
桜井(よし、明日も部活に誘ってみよう)
男「ねぇ……アナタよ、アナタ」
桜井「……ふえ?」
男「そう、そこの可愛いアナタの事」ウフッ
桜井「……は、はい?(な、何だろうこの人……)」
男「あぁ、そんなに警戒しないで、怪しいもんじゃないのよ……って言われても信用出来ないわよね」
桜井「え、えっと……何の御用でしょうか?(も、もしかして……ナンパ?)」
男「私、こういうものなんだけど……」スッ
桜井「はぁ……(これって名刺?)」
男「アナタ、テレビとか興味ないかしら?」クネッ
桜井「え、えっと……どういう事ですか?(……エンターブレイン芸能事務所?)」
男「うん、キャンキャンとかヒロミチとか知ってるでしょ? テレビに出てる」
桜井「もしかして、アイドルの……ですか?」
男「そうそう! あの子らはうちの事務所の子なのよ?」
桜井「そ、そういえば……この事務所の名前聞いた事あるかも……」
男「でしょ~? まぁ、それでなんだけどね……」
桜井「はい……」
男「アナタ、アイドルやってみる気ないかしら?」
桜井「……だ、誰がですか?」キョロキョロ
男「私が話してるのは、アナタしかいないでしょ?」ウフッ
桜井「え、えぇぇ~~~~~!?」
男「いいわねぇ~そのリアクション♪ そういうの大事よ、ファンから喜ばれるから!」クネッ
桜井「じょ、冗談ですよね……」キョロキョロ
男「……まだ誰か探してるの?」
桜井「……いたずらとかドッキリとか、カメラとかあるのかなぁ~って思って」
男「うふふ、冗談でわざわざ声なんか掛けないわよ。私だってこれでも忙しいんだ・か・ら♪」
桜井「え、えへへ……」
男「……それでなんだけどね?」
桜井「は、はい」
男「こんなところで立ち話もなんだから、そこの喫茶店で私の話を聞いてくれないかしら?」
桜井「え、えっと……急にそんな事言われても困ります」
男「そんなに時間がかかる訳じゃないし……何だったらここでもいいんだけど。ね? お願い!」
桜井「で、でも……」
男「ほんとすぐなの! 10分も掛からないから!! お願い!!!」
桜井(うぅ~ こんなに頭を下げられちゃ、断りにくいよ……)
男「ね? お願い!」クネクネ
桜井「わ、わかりました……」
男「え?」
桜井「……す、少しだけなら」
男「ホント! ありがとう~~~!! こんな逸材に逃げられたら、後悔してもしきれないじゃない?」
桜井「わ、私、普通の高校生です」
男「今活躍してるアイドルだって、元々は普通の学生とかだったのよ?」
桜井「は、はい……」
男「その普通の子……ううん! 君みたいなダイヤの原石を発掘するのが私達のや・く・め!」クネッ
桜井「わ、私……そんな風に言われた事ないです」
男「それは、アナタの周りにいる人達に見る目がないだけよ♪」
桜井「う~ん」
男「ささ、私がおごってあげるから好きなもの頼んでね!」
…………
男「そういう事だから。返事は今じゃなくてもいいから、ね?」
桜井「は、はい……」
男「詳しい話が聞きたくなったら、その名刺の番号に電話ちょうだい?」クネッ
桜井「わ、わかりました……」
男「それじゃ、私はここで失礼するけど……支払は済ませておくから、ゆっくり食べててね♪」
桜井「あ、ありがとうございます」
男「じゃ、いい返事待ってるわよ?」ウフッ
…………
桜井「はぁ~~~~~」
桜井(突然の事でびっくりしちゃったよ……)
桜井(ダイヤの原石とかアイドルとか……)
桜井(えへへ、でも誉められて悪い気はしないよね、うん)
桜井(テレビに出てるような可愛い衣装を着て……)
桜井(歌って踊って……)
桜井(……でも、こういうのは夢のままの方がいいよね)
桜井(…………)
桜井(……純一が聞いたらどんな顔するかな?)
桜井(……えへへ、きっと驚くだろうなぁ)
桜井(……あっ)
桜井(早く帰らないと、お母さんに怒られちゃうよ)
~数日後 授業中 グラウンドにて~
桜井「あ、純一」
橘「よう、梨穂子」
桜井「えへへ、最近どう?」
橘「ぼちぼちかな、梨穂子は?」
桜井「この前、街で男の人に声掛けられちゃった」
橘「『試食していきませんか?』って?」
桜井「失礼な~。名刺までもらったんだよ」
橘「名刺? うさんくさいなぁ…… 梨穂子はぼーっとしてるんだから気をつけろよ?」
桜井「えへへ、心配してくれてありがと」
橘「それで、何て声を掛けられたんだ?」
桜井「うん、えっとね……」
先生「ほら、皆集合してー!」
橘「あ、集合か……」
桜井「うん、今度ちゃんと話すね」
橘「ああ、わかった」
桜井(話しそびれちゃった……)
桜井(純一がどんな顔するか楽しみだったのに)
桜井(……あれから、純一とあんまり話せてないなぁ)
桜井(……うん)
桜井(放課後にでも部室に誘って……)
桜井(ゆっくりお茶でも飲みながら話せばいいよね?)
桜井(えへへ、先輩達もびっくりするかな?)
桜井(も~ 早く授業終わらないかなぁ……)
~放課後 2年A組にて~
桜井「すいませーん、橘君いますか~?」
梅原「よぉ、桜井さん」
桜井「あっ、梅原君。純一いるかな?」
梅原「あ~ 大将ならクリスマス委員の打ち合わせみたいだぜ?」
桜井「純一がクリスマス実行委員に?」
梅原「あれ、桜井さん知らなかったのか?」
桜井「う、うん、初めて聞いたかも……」
梅原「そっか、大将のやつ何も言ってないのか」
桜井「でも、クリスマス委員ってけっこう前から活動してるよね?」
梅原「あぁ、そうだな」
桜井「純一が参加してるって、初めて聞いたよ?」
梅原「え~っと、ウチのクラス委員の絢辻さんがいるだろ?」
桜井「うん。絢辻さんがどうかしたの?」
梅原「絢辻さん、なり手がいないってんで、クリスマス委員も掛け持ちしてるんだ」
桜井「それって凄く大変じゃないのかな?」
梅原「あぁ、桜井さんの言う通りでさ。どうも過労で倒れちまったらしいんだ」
桜井「えぇ!? そうなんだぁ……絢辻さんは真面目そうだもんねぇ」
梅原「それで、さすがにマズいだろうって、絢辻さんの補佐を決める事になってさ」
桜井「う~ん、さすがに一人で全部やるのは無理だもんね」
梅原「その補佐に何でか知らんが、大将が立候補しちまってさ」
桜井「じゅ、純一が!?」
梅原「ああ、誰かがやらなきゃいけないんだろうけど……」
桜井「う、うん……」
梅原「まさか、大将が立候補するとは思わなかったよ」
桜井「そうなんだぁ……純一は優しいから、頑張ってる絢辻さんの事、見てられなくなったのかも」
梅原「あぁ、そうかも知れないな。そういえば何度か絢辻さんの事を手伝ってたみたいだし」
桜井「……それで、純一がクリスマス委員に参加してるんだぁ」
梅原「ああ、ここんところはずっと忙しそうにしてるな」
桜井「そっかぁ……」
梅原「桜井さんは大将に用事でもあったのかい?」
桜井「用事って程じゃないんだ。一緒に帰ろうかなって思って」
梅原「そっか、明日大将に桜井さんが来た事、伝えとくよ」
桜井「ううん。純一にクリスマス委員、頑張ってって伝えておいて」
梅原「ああ、わかったよ」
桜井「ありがとうね、梅原君」
梅原「おう。桜井さん、また大将の事誘ってやってくれよ」
桜井「うん、そうするね、ばいばーい」
…………
桜井(純一、やっぱり優しいなぁ……)
桜井(でも……)
桜井(……ううん。絢辻さんが頑張ってるんだもん)
桜井(純一だったら、頑張っている人を応援するに決まってるよね……)
~同時刻 2年B組廊下にて~
上崎(せっかく、最近桜井さんが大人しくしてくれてたのに……)
上崎(今度は絢辻さん……)
上崎(橘君は優しすぎるよ……)
上崎(そんなに優しくされたら、勘違いしちゃう子だって……)
上崎(…………)
上崎(でも、そこがあなたのいい所だよね……)
上崎(うん……)
上崎(まずは桜井さんに諦めてもらうのが先決……)
上崎(絢辻さんはしばらく様子を見てもからでも大丈夫……)
上崎(お互いが不幸にならないためだもの……)
上崎(橘君は気になるけど……)
上崎(帰って準備しなきゃ……)タッタッタッ
~放課後 茶道部室にて~
夕月「何だぁ~元気ないぞ、りほっち」
飛羽「何かあったのか?」
桜井「あ、あはは、そんな事ありませんよ~」
夕月「あのなぁ、りほっちはすぐに顔に出るんだから」
飛羽「そうそう」
桜井「はい……」
夕月「お腹でも減ったのか? おやつなら冷蔵庫にあるよ」
桜井「ち、違いますよぉ」
夕月「冗談だよ。……橘の事だろ?」
桜井「ふぇ? ど、どうしてわかるんですか?///」
飛羽「ふっ、わからいでか」
夕月「りほっちが元気がないっていったら、あいつの事ぐらいしか考えられないだろ」
桜井「そ、そんな事……ない、と思います……」
夕月「そんな事あるから、元気がないんだろ?」
桜井「…………」
飛羽「それで?」
桜井「は、はい……実は最近、純一とすれ違いばかりで」
夕月「橘とあんまり話が出来なくて寂しい?」
桜井「そ、そこまでは言ってませんけど……」
夕月「でも、そうなんだろ?」
桜井「は、はい……」
飛羽「そういう時もある」
夕月「あぁ、愛歌の言う通りだな」
桜井「それに、クリスマス委員のお手伝いもする事になったみたいで……」
夕月「橘がか?」
飛羽「奇特なやつだ」
桜井「クリスマス委員をやっていた子が過労で倒れちゃったから、お手伝いするみたいで……」
夕月「あいつは本当に特殊なやつだな……まぁ、そこがいい所なんだろうが」
飛羽「これから、忙しくなる」
桜井「そ、そうなんです!」
夕月「はぁ……」
桜井「だから、しばらくゆっくりお話とか出来ないかな……って」
飛羽「そんな事はない」
夕月「幾ら忙しいっていっても、24時間何かしてる訳じゃないんだから、何とかなるだろう」
桜井「でも……今度は純一が倒れちゃったら……」
夕月「全く、あんたらときたら……」
飛羽「気を遣いすぎ」
桜井「……そうですか?」
夕月「放課後がダメなら昼休み。昼休みがダメなら休み時間。休み時間がダメなら休みの日」
飛羽「幾らでも、時間はある」
夕月「相手の迷惑を考えるのも大事だと思うさ」
桜井「…………」
夕月「でもね、今やらなきゃいけない事をやらないのは、きっと後悔するよ?」
飛羽「後悔、先に立たず」
桜井「後悔……ですか?」
夕月「りほっちみたいに我慢して我慢する時だって、モチロン必要さ」
飛羽「石の上にも三年……」
桜井「は、はい」
夕月「でもさ、今はそういう時じゃないと思うよ」
桜井「で、でも……」
夕月「それにさ……同じ後悔するなら、何もしないで後悔するより、何かして後悔した方が良くないか?」
桜井「何かして……」
夕月「あぁ。例え思うようにいかなくても、それが自分で行動した結果なら、納得できるだろ」
飛羽「自分を信じて、頑張れ」
夕月「それでも、ダメだった時は私らがついてる」
飛羽「りほっちは一人じゃない」
桜井「せ、先輩……」グスッ
夕月「今だけだからな……」ナデナデ
飛羽「私の胸で泣け」ナデナデ
桜井「うぅっ……ありがとう、ございます……」
夕月「まぁ、私らはりほっちみたいに立派な胸じゃないけどな」ククッ
~翌日 お昼休み 食堂にて~
夕月「……どうした愛歌?」
飛羽「あれ……」
夕月「へぇ~ モチロン行くよな?」
飛羽「当然……」
夕月「よし……じゃあ行くか」
…………
橘「えっと、さっきの荷物はもういいのかな?」
絢辻「えぇ、あれはもう使わないから、そのままでいいわ」
橘「それで、放課後だけど……」
夕月「よっ!」
飛羽「……奇遇だな」
橘「あ、先輩達もお昼ですか?」
絢辻「…………」ペコリ
夕月「あんたは、やけに遅いお昼じゃないか」
橘「はい、創設会の打ち合わせで、ちょっと遅くなっちゃいまして」
絢辻「橘君、紹介してもらえるかな?」ニコッ
橘「あぁ、こちら三年の夕月先輩と飛羽先輩。二人とも茶道部だよ」
絢辻「絢辻です。よろしくお願いします」ニコリ
夕月「あぁ、よろしく」
飛羽「…………」ジィーッ
絢辻「もしかして、橘君に御用ですか?」
夕月「察しがいいのは助かる」
飛羽「少し、借りたい」
橘「え、えっと……??」
絢辻「わかりました。橘君、さっきの件は放課後でも大丈夫だから」
橘「そう? それじゃ後でお願い」
絢辻「それじゃあ、私はこれで失礼します」ペコリ
夕月「悪いね」
絢辻「気にしないでください」ニコ
…………
夕月「……あれが噂の優等生か」
飛羽「ふっ……」
夕月「悪かったな、忙しいのに」
橘「大丈夫ですよ。どうせ、お昼を食べようと思っていたので」
夕月「そういえば、クリスマス委員の手伝いをしてるんだって?」
橘「あれ? ご存知だったんですか?」
飛羽「りほっちから聞いた」
橘「梨穂子から? ……あれ、梨穂子にこの事、話したかな?」
夕月「……ぁあ?」ブチッ
橘「……えっ?」
飛羽「冷静に……」クイクイ
夕月「……わかってるよ」
橘「え、えっと、どうかしましたか?」
夕月「あんた……最近、りほっちとどうなんだい?」
橘「最近ですか? う~ん、別にどうもないですけど……」
夕月「りほっち、あんまり元気がないからさ」
橘「梨穂子が……珍しいですね」
飛羽「見る影もない……」
橘「そんなにヒドいんですか?」
夕月「ひどいね。橘、お前心当たりあるか?」
橘「い、いえ……」
夕月「あんた、忙しくてりほっちの相手してないだろ?」
橘「確かに……実行委員の方が忙しくて……それがどうかしました?」
夕月「……それが理由って言ったら?」
橘「えっ? ど、どういう事ですか?」
飛羽「どうもこうもない」
夕月「はぁ……りほっちは何でこんなやつを……」ブツブツ
さるになったので繋ぎ直してID変わりました
橘「え、えっ? えっと……梨穂子のやつ、そんなに元気がないんですか?」
夕月「ああ、あそこまで元気のないりほっちを見てると、こっちまで気が滅入ってきてさぁ……」
橘「そうですか……」
飛羽「見てて気の毒になる」
夕月「……なぁ? りほっちの相手をする時間ぐらいあるだろ」
橘「……わかりました。時間が出来たら、梨穂子と話してみます」
夕月「…………」
飛羽「…………」
橘「今はクリスマス委員の手伝いで、少し忙しいので……」
夕月「愛歌……止めるなよ……」
飛羽「……好きにしろ」
橘「……ど、どうかしましたか?」
夕月「時間が出来たらじゃねぇ! そんなもん作る気になりゃ、幾らでも出来るだろうが!」バンッ
橘「!?」ビクッ
夕月「私らは確かに強制なんてしてない。でも、あんたを見込んでりほっちの事を頼んだんだ」
橘「た、頼んだって……」
飛羽「くそっ、とんだ見込み違いだったよ!」
生徒「……なんだ?」ヒソヒソ
生徒「……やだ、ケンカ?」ヒソヒソ
生徒「なんだよ、こんな所で……」ヒソヒソ
夕月「うるせえぞ、お前ら!!」ギロッ
飛羽「少し、静かにしていろ」ジロッ
生徒「「「…………!?」」」シーーーン
訂正
× 飛羽「くそっ、とんだ見込み違いだったよ!」
〇 夕月「くそっ、とんだ見込み違いだったよ!」
夕月「あんた……私らに言ったよな? りほっちが『本当に困ってたら助ける』って?」
橘「は、はい。た、確かに言いました……」
夕月「じゃあ……」グイッ
橘「なっ、何を!? は、放してください……」
夕月「じゃあ……どうして、りほっちが泣いてんだよ!!」
橘「り、梨穂子が??」
夕月「普段のあの子はなぁ、人前で涙を見せるような子じゃない」
飛羽「……悲しくても辛くても」
夕月「何かあっても困ったように笑って、いっつも我慢してるりほっちが……」
橘「え……ぁ……」
夕月「……そのりほっちが私らの前で泣いたんだぞ!!」
飛羽「……見ているのが、辛い」
夕月「それがどういう事で、どれだけの想いを抱えてるのか……」
橘「は、はい……」
夕月「幾ら鈍いお前にだって……わかるだろ!」
橘「せ、先輩……」
夕月「幼馴染なんじゃないのか? 長いつきあいなんじゃないのか?」
飛羽「気づかない振りをしているのか、本当に鈍いのか」
橘「そ、それは……」
夕月「……私らはさ。何もあの子の気持ちに応えろって言ってるんじゃないんだよ」
飛羽「無理強いはしない」
夕月「ただ、お前の知ってる幼馴染を大切に思う気持ちが、少しでもあるんなら……」
橘「大切に思う……気持ち」
夕月「……あの子にちゃんと答えを出してやってくれ」
飛羽「りほっちが先に進めるように」
橘「…………」
夕月「……手荒な真似して悪かったな」
飛羽「すまなかった」
橘「……いえ、色々ありがとうございます」
夕月「こんな理不尽な言いがかりをつけられても、まだ怒らないのか……ホント変わったやつだよ」
橘「……理不尽でも言いがかりでもありませんから」
飛羽「まだ、そう言ってくれるのか」
橘「はい。こうして先輩達から怒鳴られなかったら……」
夕月「…………」
飛羽「…………」
橘「何が本当に大切か気づかないまま、取り返しのつかない事になっていたと思います」
夕月「そうか……そう思ってくれるなら私らも嬉しいよ」
~6時限目 2年B組にて~
桜井(お昼も純一と話せなかったな……)
桜井(ううん……)
桜井(純一が絢辻さんと一緒だったから、声を掛けられなかっただけ……)
上崎(準備はしてきたから……)
上崎(後は桜井さんとお話するだけ……)
上崎(…………)
桜井(昨日、先輩が応援してくれたのに……)
桜井(このままじゃダメだよね、私……)
桜井(…………)
上崎(桜井さん、今日は元気がないみたい……)
上崎(やっぱり今日はやめた方が……)
上崎(…………)
桜井(そうだ……あの名刺……)
桜井(…………)
桜井(……もしかしたら)
上崎(ダメ!)
上崎(このままじゃ、二人とも傷ついちゃうもん……)
上崎(橘君を守るためだもん……しょうがないよね……)
桜井(……今のままじゃあダメなんだもん)
桜井(確か……いつでも電話してくれって……)
桜井(うん……)
上崎(授業が終わったら、声を掛けよう……)
上崎(うん、それでいいの……)
上崎(それで……)
~放課後 校務室前公衆電話にて~
上崎(桜井さん……教室を飛び出して行っちゃった……)キョロキョロ
上崎(どこにいるの……)
上崎(あっ……)
桜井「はい……そんな事ありません……」
上崎(電話……誰と……?)
桜井「今日……ですか?」
上崎(何かメモしてる……?)
桜井「わかりました。キビトグランドホテルのラウンジですね」カリカリ
上崎(ホテル……?)
桜井「夕方の5時……はい、わかりました」カリカリ
上崎(誰かと約束してるの……?)
桜井「はい。では失礼します」ガチャン
上崎(あっ……)
桜井「うん……」
上崎「あ、あの……」
桜井「ひゃっ!?」ビクッ
上崎「あ、驚かせちゃってごめんなさい……」
桜井「か、上崎さん? どうかしたのかな?」
上崎「え、えっと実は桜井さんに大事なお話があって……」
桜井「私に?」
上崎「はい。大事なお話なんです……」
桜井「う~ん、上崎さんが私にお話って珍しいよね?」
上崎「はい……あの……」
桜井「どうかしたかな?」キョトン
上崎「こ、ここだと話しにくいので、場所を変えてもいいですか?」
桜井「私、この後約束があって……」
上崎「す、すぐ済みますから! だから、少しだけ……」
桜井「う、うん。わかったよ」
上崎「じゃ、じゃあこっちに……」
~同時刻 2年A組にて~
橘(今日に限って授業が長引くなんて……)
橘(もうチャイムが鳴って5分以上経つのに)
橘(くそ……)
橘(廊下から声が聞こえる)
橘(他のクラスはもう終わってるよな)
橘(梨穂子、頼むからまだ帰るなよ……)
先生「……よし、だいぶ時間が過ぎちゃったけど、今日はここまでにしようか」
橘(よ、よし……終わった)
先生「何か質問はないか?」
生徒「すいません、さっきのところなんですけど……」
橘(な、何でこんな時に質問なんか!?)イライラ
橘(ま、まだか……)
先生「……という事だ。わかったか?」
生徒「はい、ありがとうございました」
時間配分間違ったな……まだ半分近くあるんだ
どうしたもんか
見てる人がいるなら続けるか……
先生「他に質問は? よし、それじゃ今日はこれで終わり。号令」
絢辻「起立、礼」
生徒「「「「「ありがとうございました」」」」」
橘「お、終わった……」
橘(よ、よし!)
橘「あ、絢辻さん!」
絢辻「あら、どうしたの、橘君?」
橘「今日の実行委員だけど、休ませて欲しいんだ」
絢辻「急な話ね……何か用事でも出来た?」
橘「うん、とても大切な用事があるんだ。この埋め合わせは絶対にするから!」
絢辻「う~ん……」
橘「や、やっぱりダメかな?」
絢辻「大切な用事なんでしょ、わかったわ」
橘「ありがとう!」
絢辻「その代わり、その分は明日頑張ってもらいますから」ニコッ
橘「もちろんだよ絢辻さん!」
高橋先生「はーい、帰りのホームルーム始めるわよ」
橘「先生! お腹が痛いのでトレイに行きたいです!」
高橋先生「ちょ、ちょっと……すぐに終わるけど我慢出来ないの?」
橘「はい、我慢出来ません!」
絢辻「先生、橘君は午後からずっと体調が悪かったみたいです」
高橋先生「そうなの?」
絢辻「はい、今もその話をしていて……お薬を渡すところでした」ゴソゴソ
橘(……え?)
絢辻「はい、橘君。さっき言ってたお薬。私も使ってるけど、良く効くと思うから」
橘「あ、ありがとう……」
絢辻「橘君には実行委員の打ち合わせ内容を電話でするつもりだったので……」
橘(あ、絢辻さん……どうしてそこまで……)
絢辻「……ホームルームの内容は私から彼に伝えておきます」
高橋先生「そう? ……それじゃあ悪いけど、絢辻さんお願いするわね」
絢辻「はい」ニッコリ
高橋先生「橘君、行っていいわよ」
橘「ありがとうございます」ダッ
高橋先生「体調が悪いなら、もっと早く言ってくれたらいいのに……しょうがない子ね……」
梅原「麻耶ちゃ~ん、ホームルーム始めないんですかぁ?」
高橋「……梅原君? ちゃんと先生って言いなさい」
梅原「麻耶先生~~ ホームルーム始めないんですかぁ?」
高橋「……梅原君、後で職員室にいらっしゃい。……ほら、みんな席に着いて」
絢辻(これでお見舞いの借りは返したわよ)
絢辻(どんな用事か知らないけど、全く世話が焼けるんだから……)
~放課後 校舎裏にて~
上崎(ここなら人も来ないかな……)
桜井「えっと、大事なお話って何かなぁ?」
上崎「はい。桜井さんってA組の橘君と仲がいいですよね……」
桜井「えっ? あ、うん。……そうだね、橘君とは幼馴染だし///」
上崎(……私だって)
桜井「そ、それが、どうかしたの?」
上崎「この写真、見てください……」
桜井「……写真?」
上崎「え、えっと、桜井さんが知らなかったらいけないと思って……」
桜井(純一と……この人は絢辻さん……?)
桜井(楽しそうに腕を、組んでる……)
桜井(…………)
桜井(……そっかぁ)
上崎「さ、桜井さんにはショックかもしれないけど……」
桜井(だったらしょうがないよね……)
上崎「橘君にはおつき合いしてる人がいるみたいだから、、桜井さんが深入りする前にと思って……」
桜井「上崎さん、ありがとう」ニコッ
上崎「……えっ?」
桜井「そっかぁ~ 橘君にもやっと春が来たんだねぇ」
上崎(……な、なんで?)
桜井「うんうん、良かった良かった」
上崎(…………)
桜井「あれ? 上崎さん、どうかしたの?」
上崎「え、えっと、こんな事を聞くのはちょっと変なんだけど……」
桜井「ふえ? なにかな?」
上崎「桜井さんは、橘君がおつき合いしてる人がいるのに……ショックじゃないの?」
桜井「うん、それは驚いたよ~ まさか橘君がねぇ~」
上崎「じゃぁ! ……どうしてさっきから……えっと、笑ってるの、かな?」
桜井「えっ!? 私、笑ってるかな?」
上崎「うん……」
桜井「うん、そうだね……」
上崎「…………」
桜井「うん、橘君が幸せそうだから……じゃないかな」
上崎「幸せ……?」
桜井「うん、橘君は、えっとね……昔、色々と辛い事があったみたいだから」
上崎(あっ……)ズキッ
桜井「だからね、それを乗り越えて幸せになってくれるんだったら、私も嬉しいかなって」
上崎(……でも、桜井さん。どうしてそんな辛そうな顔で笑っているの?)
桜井「ホント、良かったよ~ そっかそっかぁ」
上崎(……どうしてそんなに寂しそうな顔で笑っているの?)
ID変わりました
さるで繋ぎ直しです
桜井「上崎さん」
上崎「は、はい……」
桜井「えへへ、教えてくれてありがとうね」ペコリ
上崎(何……これ……)ズキッ
桜井「あ、あれ? どうかしたの?」
上崎「な、なんでもありません……」
桜井「えっと、お話はこれで終わりでいいのかな?」
上崎「は、はい……」
桜井「そっか。じゃぁこの写真は返すね、はい」
上崎「あ、はい……」
桜井「それじゃ、私は用事があるから……上崎さん、またね」
上崎「あっ、ま、また……」
上崎(どうして……)
上崎(どうして、胸が苦しいの……)
上崎(私……間違ってない、よね?)
上崎(ねぇ……橘、君……)
上崎(ねぇ……)
上崎(…………)
上崎(……こ、れ?)
上崎(……桜井さん、落として?)
上崎(…………)
~放課後 玄関にて~
橘(くそっ……ここにもいない)
橘(教室にも茶道部室にも……)
橘(もしかして、もう帰っちゃったのか?)
橘(よし、こうなったら梨穂子の家に……)
上崎「あ、あの……」
橘「えっ?」
上崎「ご、ごめんなさい。急に呼び止めたりして……」
橘「き、君は?」
上崎「え、A組の橘君ですよね?」
橘「そ、そうだけど……ごめん、今ちょっと急いでいて……」
上崎「わ、私、桜井さんと同じクラスの上崎っていいます……」
橘「梨穂子と同じクラス?」
上崎「はい。橘君、桜井さんを探しているんですよね……」
橘「そうだけど……もしかして、どこにいるか知ってるの?」
上崎「え、えっと……もしかしたらなんですけど……」
橘「知っているんなら、僕に教えてくれないかな?」
上崎「…………」
橘「……ど、どうしたの?」
上崎「……いえ、これ」
橘「名刺? ……あっ!?」
上崎「き、キビトグランドホテルのラウンジに今日の夕方の5時……」
橘「ど、どうして君が!?」
上崎「ぐ、偶然、桜井さんが電話しているの聞いちゃって……これが電話の所に落ちてたから……」
橘「そ、そうか、ありがとう上崎さん!」ギュッ
上崎「あっ……///(橘君が私の手を握って……)」
橘「ありがとう、本当に助かったよ! このお礼は必ずするから」ダッ!
上崎「あっ……(行っちゃった……橘君……)」
上崎(これで……)
上崎(これで、良かったんだよね……)
上崎(……うん、胸が痛く、ない)
上崎(…………)
上崎(私、橘君の事……諦めた訳じゃないよ……)
上崎(私、頑張るから……)
上崎(だから……)
男子生徒「あ、あの……」
上崎「えっ!?」ビクッ
男子生徒「あっ、急にごめんね。僕、中学から同じ学校だったんだけど……知らないよね?」
上崎「…………」コクッ
男子生徒「はは、そうだよね……僕、目立たないし取りえがある訳じゃないし……」
上崎(……誰、だろう?)
男子生徒「でも、ずっと上崎さんの事、見てたんです……」
上崎(えっ……)
男子生徒「いきなりこんな事を言われたら、気持ち悪いよね……」
上崎「そ、そんな事は……」
男子生徒「そ、そっか、だったら良かった。あはは」
上崎(この人も……)
男子生徒「でも、見てるだけじゃダメだって思ったから……」
上崎(同じなんだ……)
男子生徒「上崎さんの姿を見掛けたので、思い切って声をかけさせてもらったんだ」
上崎(私だけじゃない……桜井さんもこの人も、同じなんだ……)
男子生徒「か、上崎、さん?」
上崎「あ、ありが……と……」
男子生徒「え、えっ?」
上崎「見ていてくれて……ありがとう……」
男子生徒「そ、そんな……」
上崎「で、でも……私好きな人が……」
男子生徒「あっ…… い、いや、そういうつもりじゃなくて?!」
上崎「……?」
男子生徒「一方的に見てるだけじゃなくて、せめて……僕の事を知ってもらえたらって……」
上崎(一方的に見てるだけじゃ……)
男子生徒「……そう思って声を……ど、どうしたの!?」
上崎(うん、そうだよね……)
男子生徒「だ、大丈夫ですか?」
上崎「何でもないんです……あなたのお名前は?」
男子生徒「ぼ、僕の名前は……」
~17時20分 キビトグランドホテルにて~
橘(くそっ、ラウンジにもいない!)
橘(僕は間に合わなかったのか!?)
橘(…………)
橘(まさか……いや)
橘(梨穂子に限ってそんな事……)
橘(でも……)
橘(……よし)
橘「……すいません」
フロント「はい、なんでしょう?」
橘「今日この名刺の人が部屋を取ってると思うんですけど……」
フロント「拝見致します」
橘「はい」
フロント「……どういったご用件でしょうか?」
橘「はい、17時にラウンジで待ち合わせしていたんですけど、遅くなっちゃって……」
フロント「はい」
橘「先に女の子が来てると思うんですけど……もう部屋に行っちゃったのかな?と思って」
フロント「確認いたします。少々お待ちください」
…………
フロント「申し訳ありません、内線で確認しましたが。お出になられないようです」
橘(くっ!? やっぱり部屋を……くそ、どうしたらいい……考えろ、考えろ)
フロント「……お客さま?」
橘(……そうだ! 絢辻さんにもらった薬が確か……)
フロント「どうかなさいましたか、お客さま?」
橘「も、もしかしたら一緒にいる女の子が倒れてしまったのかもしれません」
フロント「えっ? どういう事でしょうか?」
橘「は、はい! その子はこの薬を飲まないと発作を起こしてしまうんです! 僕は頼まれて……」
フロント「もう一度、内線で呼び出してみましょうか?」
橘「もし、発作だったら手遅れになります! 部屋に連れて行ってください!!」
フロント「……少々お待ちいただけますか? マネジャー?」
…………
橘(……だ、ダメか?)
フロント「お待たせして申し訳ありません」
橘「……はい」
フロント「そういうご事情でしたら、確認の為にお部屋までご一緒させていただきます」
橘「は、はい、お願いします!」
フロント「では、こちらに」
橘(待っててくれ、梨穂子……)
~17時25分 ホテルの一室にて~
男「もぅ……梨穂ちゃんたら、そんなに緊張しなくても大丈夫よ?」
桜井「うう……」
男「でも、緊張するなって言う方が無理な話よねぇ、初めてなんだし」クネッ
桜井「は、はい……」
男「初めては誰にでもあるから、気にしなくていいのよ?」ウフッ
桜井「そ、そうですよね……」
男「でも……緊張した顔も初々しくていいわぁ~」
桜井「え、えへへへ……」
男「そうそう、体の力抜いて? すぐに終わるから……」
桜井「あっ……は、はい……」
男「そのうち、これが病みつきになっちゃうの」
桜井「そ、そういうものなんですか?」
男「そうよ、気持ち良くてね……『もっと! もっと!』ってなるの……」クネクネ
桜井「……///」
男「……じゃぁ、そろそろ始めましょうか?」
桜井「は、はい///」
男「うん、いいお返事よ♪」ウフッ
桜井(純一……私……)
コンコンコン
男「……ちょっと!? いいところなのに誰なの?」
フロント『申し訳ありません。ホテルのフロントですが』
コンコンコン
フロント『お部屋にいらっしゃいますか?』
男「フロントが何の用事? ……もしかしてさっきの電話かしら?」
コンコンコン
男「いるわよ! なぁに、ちょって待って!」
桜井「え、あ、あの……」
男「ゴメンねぇ、梨穂ちゃん。ちょっと待っててね」
桜井「は、はい……」
男「一体、なんの用なの……」ガチャッ
フロント「申し訳ありません、お客さま。少々確認したい事が……」
橘「梨穂子、いるのか!!」
桜井「……えっ!?」
フロント「あっ!?」
男「な、何!?」
橘「その声は……梨穂子か!」
桜井「う、嘘……純一がどうしてここに?」
フロント「お、お客さま、困ります!」
橘「こいつ! 梨穂子に何をするつもりだ!!」
男「ちょ、ちょっと!?」
橘「どけっ!」ドカッ
男「きゃっ!?」ドスン
フロント「お、お客さま大丈夫ですか?」
橘「大丈夫か!? 梨穂、子?」
桜井「や、やだ……恥ずかしいから見ないでよぉ///」
橘「そ、その格好は……」
男「もぅ……なんなの? 梨穂ちゃん、この乱暴な子は……アナタのお知り合い?」
桜井「そ、そうです」
橘「え、えっと……こ、これは一体?」
男「……今から、梨穂ちゃんのセールス用のスチールを撮るところだったんだけど?」
橘「そ、それで、こんなアイドルみたいな衣装を?」
桜井「う、うん……///」
フロント「勝手に部屋に入られては困ります! 一度こちらに……」ガシッ
橘「あっ、ま、待ってください!」ズルズル
男「……ねぇちょっと?」
フロント「は、はい?」
男「アナタ、梨穂ちゃんに用があって来たのかしら?」
橘「そ、そうです! 僕は梨穂子にどうしてもしなくちゃいけない話があって!」
男「……もう一度確認するけど、この子、梨穂ちゃんのお知り合いで間違いないのよね?」
桜井「は、はい。純一は私の……」
男「ふ~ん ……そういう事だから、アナタ帰っていいわよ」
フロント「し、しかし……」
男「私がいいって言ってるのに、何か問題でもあるの?」
フロント「はっ……お客さまがそう仰るのでしたら……」
男「ドアを開けたまま騒いでたら、他のお客さんにご迷惑になるから、中に入ってちょうだい?」
橘「は、はい……」
…………
橘「梨穂子……この人は?」
桜井「えっと、芸能プロダクションの人……実はね、私この人にスカウトされて……」
男「そうなのよ、梨穂ちゃん素敵でしょ? だからどうしてもウチの事務所からデビューしてもらいたくて」
橘「……そうなのか?」
桜井「…………」
男「それでさっきも言ったように、セールス用のスチール写真を撮るところだったのよ」クネッ
橘「ごめんなさい、僕は梨穂子に聞いてるんです」
男「あら、怖い。……梨穂ちゃん、彼がこう言ってるけど?」
桜井「あのね、純一……」
橘「うん……」
桜井「私ね、ダイヤの原石なんだって。凄くないかな?」
橘「梨穂子が……?」
桜井「これも……凄く可愛い服でしょ? ねぇ、似合ってるかなぁ?」
橘「あぁ……」
桜井「私、変われるかもしれないの。おっちょこちょいで鈍臭い女の子じゃなくて……」
橘「…………」
桜井「先輩達や香苗ちゃん、純一にも心配掛けないような女の子にだよ?」
橘「…………」
桜井「……ねぇ、純一?」
橘「…………」
桜井「黙ってないで、何か言ってほしいな」
橘「先輩達は……」
桜井「えっ?」
橘「……茶道部はどうするつもりなんだ?」
桜井「ど、どうするって……」
橘「あの、すいません……」
男「……何かしら?」
橘「もし、梨穂子がアイドルになったら、学校はどうなるんですか?」
男「そうねぇ……お仕事がある時はお休みを貰うか……」
桜井「お休み……」
男「……売れっ子になったら芸能科のある学校に移ってもらう可能性もあるわね」
橘「……ありがとうございます。今聞いた通りなんだけど……茶道部続けるのは難しいよな」
桜井「う、うん……」
橘「先輩達が卒業したら、廃部になっちゃうかもしれない……」
桜井「あっ……」
橘「……創設祭が終わってから、って思ってたんだけど」
桜井「……え?」
橘「僕も茶道部に入ろうかと思ってたんだ」
桜井「ど、どうして、そんな事一言も言ってなかったよね?」
橘「この前、先輩達からお願いされたのも理由でさ……ずっと考えてたんだ」
桜井「先輩達が純一にそんなお願いしたの?」
橘「勿論、最初は断るつもりだったけど……でも……」
桜井(じゅ、純一が茶道部に……そんな大事な事、どうして今まで言ってくれなかったの?)
橘「先輩達は……何も言わずに、きっと梨穂子の事を応援してくれると思うよ」
桜井「あ……うん……」
橘「……だからって、梨穂子はそれでいいのか?」
桜井「わ、私だって一生懸命考えたんだよ?」
橘「で、でも……」
桜井「純一、聞いて!」
橘「…………」
ID変わりました……さるにより繋ぎ直し
過疎杉だね
桜井「私なりに一生懸命やってるつもりなの! でも、いつも失敗ばかりしちゃって……」
桜井「……すっごく悩んだよ? でも、変われるチャンスだと思ったの!」
橘「梨穂子は……どうして変わりたいと思うんだ?」
桜井「変わりたいよ! 今の私はダメだもん! 優柔不断でおっちょこちょいで!」
桜井「みんなに迷惑ばかり掛けて! それに……大切な人からも相手にされてなくて!」
橘「……大切な人?」
桜井「……ずっと……昔から一緒だったんだよ」
橘「り、梨穂子……」
桜井「これからも一緒だと思ってたの! ……私が勝手に思っていただけだった!」
桜井「色んな事を話したかったの! この話も聞いて欲しかったの……」
桜井「……でもね、その人は違う人を見てたみたいなの」
橘「ち、違う人って?」
桜井(私じゃないんだよね? 純一……)
橘「お、おい……」
桜井「ねぇ……絢辻さんとおつき合いしてるんだよね?」
橘「なっ!? と、突然何を言ってるんだ?」
桜井「隠さなくてもいいよ。写真、見っちゃたの……絢辻さんと楽しそうに腕を組んでる写真……」
橘「ちょ、ちょって待って……」
桜井「嬉しかったの。ちょっと驚いたけど……でも、純一が楽しそうにしてる姿を見て嬉しかった」
橘「り、梨穂子、それは……」
桜井「でもね……痛いの……」
橘「だ、だから待てよ……」
桜井「痛くて、すごく胸が苦しいの……嬉しいはずなのに……」グスッ
橘「少しは人の話を聞けって!」
桜井「だ、だって……」グスン
橘「絢辻さんとつき合ってるって、僕がか?」
桜井「うっ……ぐすっ……」コクリ
橘「実行委員で一緒になる事が多くなったけど、絢辻さんとはただのクラスメイトだよ」
桜井「うぅ……で、でも……」グスン
橘「僕は誰ともつきあってなんかいない。そんな話、誰から聞いたんだ?」
桜井「そ、それは……」
橘「……誰が言ったか知らないけど……梨穂子は僕の言う事が信じられないのか」
桜井「で、でも……写真に……」
橘「そんな写真、僕は知らない!」
桜井「ほ、本当に? ……でも、どういう事?」
橘「僕の方が聞きたいよ。それに、梨穂子はいつも僕の事を信じてくれてたじゃないか」
桜井「だって、純一は自分の為の嘘なんてつかないって知ってるもん……」
橘「だったら……」
桜井「う、うん……」
橘「今度だって僕は嘘なんてついてない。梨穂子なら信じてくれるよな?」
桜井「そ、そうだよね……」
橘「わかってくれたらそれでいいんだ」
桜井「ごめんね……純一」
パシャッ!
橘「な、なんだ!?」
桜井「ふえ!?」
男「あら、ごめんなさい。いい表情だったから、つい」ウフッ
桜井「あ……」
男「アナタ達、私の事なんてすっかり忘れてたでしょ?」
橘「そ、そういえば……」
男「やっぱりね」
桜井「ご、ごめんなさい……」
男「はぁ~それにしても……悔しいわねぇ」
男「く、悔しいって……??」
男「悔しいじゃない。梨穂ちゃん、アナタ今すっごくいい表情してるのよ?」
桜井「わ、私がですか?」
男「そうよ。さっきまで緊張でガチガチだったのに……」
桜井「そ、それは……」
男「その子と話をしてる時の梨穂ちゃんたら、色んな表情を見せてすっごく輝いてるんだもん」
桜井「えっ……あ、あぅ///」
男「そうよ! 私には見せなかった顔を、その子の前ではあんなに自然に……ねぇ、ボク?」
橘「は、はい?」
男「その表情を出したの、アナタだってわかってる?」
橘「ぼ、僕がですか?」
男「ホント、罪作りな男の子ねぇ……ア・ナ・タ♪」
桜井「あ、あの……」
男「なぁに、梨穂ちゃん?」
桜井「は、はい、その……アイドルデビューの件なんですけど……」
男「やめるんでしょ?」
桜井「はい……え?」
男「アナタ達のお話聞いてたら、それぐらい誰でもわかるわよ」
橘「でも、いいんですか?」
男「まだちゃんと契約をした訳じゃないから。それに……」
桜井「は、はい」
男「ごめんなさいね、私のメガネ違いだったみたい」
橘「メガネ違いですか?」
男「そう。梨穂ちゃん? アナタ、アイドルに向いてないもの」
桜井「あ…… や、やっぱりそうですよね……」
男「……あのね、アイドルって、さっきアナタが彼に見せた表情を、ファンの人達に魅せるものなのよ」
桜井「ファンの人達に……ですか?」
男「そうよ。私がさっき『悔しい』って言ったでしょ?」
橘「確か、梨穂子がいい表情してるからって……」
男「その表情を向けるのって、結局アナタにだけなのよ、梨穂ちゃんは」
桜井「え、ええっと///」
男「ほら、これ……さっき撮ったポラロイド」
橘「こ、これは……」
男「ね? 素敵な顔してるでしょ、梨穂ちゃん」
橘「は、はい」
桜井「ぁ……ぅ……///」
男「それをね、ファンに魅せる事が出来て初めてトップアイドルになれるの」
橘「そういうもの、なんですか?」
男「そういうものなのよ。仮に無理をしたとしても、どんどん辛くなるだけ……」
桜井「無理をしても……」
男「そうやって自分を殺して……耐え切れなくなって、芸能界を去っていった子を何人も見てるわ」
橘「そ、それじゃあ梨穂子は?」
男「もう本人にその気がないんだもの。そうでしょ、梨穂ちゃん?」
桜井「はい、ごめんなさい」
男「そういう事だから、二人とも帰っていいわよ。もぅ……また新しい金の卵を探さなくちゃ」
桜井「本当に、ごめんなさい」
橘「り、梨穂子……」
男「気にしなくていいのよ。私のメガネ違いだったんだから」
桜井「はい……」
男「ねぇ……アナタ?」
橘「は、はい」
男「梨穂ちゃんを、ちゃんと大切にしてあげなさいよ?」
橘「言われなくてもそのつもりです」
男「いいお返事ね♪ ……梨穂ちゃん、ちょっとこっちにいいかしら?」
桜井「は、はい」
橘「……梨穂子に何の用ですか?」
男「そんな目で睨まなくても大丈夫よ? 私、男の子じゃないとダメだから♪」ウフッ
橘「えっ!? お、男にしか…… ええっ!? ダメって……」
男「だから、私には事務所が男の子のプロデュースをさせてくれないのよねぇ……残念」
橘「あ……」ブルッ
桜井「……な、なんでしょうか?」
男「……あの子、逃がさないように頑張らなきゃダメよ?」ヒソヒソ
桜井「えっ!? あっ……が、頑張ります///」
男「梨穂ちゃんもいいお返事ね♪ それじゃぁ、悪いけど二人とも部屋から出て行ってくれるかしら?」
桜井「あっ!? 衣装を返さないと……」
男「その衣装、記念に梨穂ちゃんにあげるわ♪」
桜井「え、でも……」
男「その代わり……そのまま着ていく事♪」ウフッ
橘「き、着ていくって……」
男「そのコートを羽織れば、外から見てもわからないでしょ?」
桜井「で、でも下が短くて……これで外を歩くのはちょっと///」
男「うん、確かに下は少しセクシーな感じになっちゃうけど、それぐらい平気よ」
桜井「そっちの部屋で着替えちゃだめですか?」
男「ゴメンなさいねぇ~ 私も忙しいから時間がないのよ」クネッ
橘「と、突然押しかけて、すいませんでした」
男「いいのよ、アナタはカワイイから特別に許してあげるわ♪」ウフッ
桜井「あ、あの……」
男「はい、着ていた服はこの袋に入れて持って帰って。それじゃ二人とも頑張ってね」
橘&桜井「あ、ありがとうございました」
男「そのポラロイドも、記念に持っていきなさい」ウフッ
~同時刻 創設祭実行委員準備室にて~
棚町「それで、次は何をすればいいの?」
絢辻「それじゃぁ、今度はこっちの備品を必要数配ってください」
梅原「必要数はどれで調べればいいんだ?」
絢辻「この書類に全部書いてありますので、確認してください」
田中「は~い」
ケン&マサ「「絢辻さん、こっちも終わったけど?」」
絢辻「じゃあ、棚町さん達を手伝ってくれる?」
ケン&マサ「「任せとけ」」
絢辻「…………」
梅原「……どうした~絢辻さん?」
絢辻「うん……私が倒れた時は橘君がお見舞いに来てくれたけど……」
一同「…………」
絢辻「橘君の時はこれだけの人が集まるなんて……正直悔しいかなって」クスッ
棚町「べ、別に純一のためって訳じゃないし」
梅原「まぁ、絢辻さんが倒れた時にさ、正直、絢辻さんに任せっきりにし過ぎたって思ってさ」
田中「そうそう、橘君だからって訳じゃないよ」
ケン「ま、あいつも何かあったんだとは思うけど」
マサ「俺達にだって出来る事ぐらいあるだろうからな」
田中「でも……絢辻さんでも、そういう事考えるんだね?」
絢辻「わ、私だって人間だから……」
梅原「まぁまぁ、そんな事どうでもいいじゃないの」
ケン「やる事、まだ山積みだもんな~」
棚町「うん、ちょっとびっくりしたよね」
マサ「これじゃ、絢辻さんが倒れるのも無理ないよな」
田中「うん、一人でこれは大変だよ」
梅原「家の手伝いがある時は、他に声を掛けるからさ」
棚町「そうそう、何でも一人で抱え込まないで、あたしらにも言いなよ?」
絢辻「……みんな、ありがとう」ペコリ
~夜 住宅街にて~
橘「なぁ、梨穂子?」
桜井「なぁに?」
橘「本当に良かったのか?」
桜井「……良かったって?」
橘「うん、アイドルデビューの話……」
桜井「いいんだよ~ あの人も『向いてない』って言ってたでしょ」
橘「それは、まぁ……」
桜井「それにね……変わらなくてもいいのかな?って思っちゃったから」
橘「そうなのか?」
桜井「うん、そうなんです♪」
橘「そうだな。僕も梨穂子は今のままがいいと思うよ」
桜井「えへへ、ありがと///」ニッコリ
橘「……あ、そういえば、最後にあの人から何て言われたんだ?」
桜井「う~ん、内緒」
橘「別に隠さなくてもいいだろ?」
桜井「恥ずかしいから、純一には教えてあげないの♪」
橘「は、恥ずかしいって……」
桜井「……くしゅん」
橘「だ、大丈夫か?」
桜井「うん、大丈夫。でも、もう12月だもんねぇ~寒い訳だよ……」
橘「そ、それにその格好だもんな///」
桜井「あっ、そ、そうだよね///」
橘「ほ、ほら……」
桜井「えっ?」
橘「り、梨穂子がイヤじゃなかったら…… す、少しは暖かいだろうし///」
桜井「うん……ありがと///」ギュッ
橘「ど、どうかな?///」
桜井「えへへ、腕を組んで歩くのって、結構暖かいんだね~///」
橘「あ、ああ……カップルがよくこうやってるのが、少しはわかった気がする///」
桜井「あはは、そうだね」
橘「…………」
桜井「……ねぇ、純一?」
橘「ど、どうした?」
桜井「……どうして、純一はホテルまで来てくれたのかな?」
橘「そ、それは……梨穂子が変なヤツに騙されてないか心配だったからで……」
桜井「あはは、そうだよね~」
橘「…………」
桜井「…………」
橘「……ごめん、違うんだ」
桜井「えっ?」
橘「……僕がイヤだったからだ」
桜井「ど、どういう事?」
橘「うん、言葉にしたり行動しなきゃいけない時ってあるじゃないか?」
桜井「そうだね、るっこ先輩達も言ってた……」
橘「あの時ホテルに行かないと、一生後悔するって僕は思ったんだ」
桜井「ど、どうして?」
橘「行かなかったら、僕の前から梨穂子がいなくなりそうだったから……」
桜井「あ、う、うん///」
橘「……それがイヤで怖くて仕方なかった。だから、僕はホテルまで梨穂子を探しに行ったんだ」
桜井「じゅ、純一……」
橘「迷惑じゃなかったか?」
桜井「め、迷惑なんてとんでもない。それどころか……」
橘「……うん」
桜井「純一が来てくれて、凄く嬉しかった///」
橘「そっか……それなら良かった///」
桜井「だってね、私がホテルにいる事なんて誰も知らないはずなんだよ?」
橘「……そうだよな」
桜井「だから純一が現れた時、すっごくドキドキしちゃったもん///」
橘「そ、そっか///」
桜井「思い出しただけで……今も、ほら?///」ギュッ
橘「あ、う……た、確かに……///(り、梨穂子の胸がドキドキしてるのが僕の腕に伝わってくる)」
桜井「ね、ドキドキ……してるでしょ?///」
橘「ぼ、僕もドキドキしてる、かも///」
桜井「ホントに?」
橘「あ、ほ、ほら、こうすればわかるんじゃないか?」ギュッ
桜井「あっ……」
桜井(純一が私の事を抱きしめてくれてる……)
桜井(暖かくて安心するよ……)
橘「ど、どうかな?///」
桜井「……うん。純一の胸がドキドキしてるのわかるよ///」
橘「そ、そっか……それは良かった///」
桜井「私と純一のドキドキが一つになったみたい……」
橘「本当だ……」
桜井「…………」
橘「…………」
桜井「ねぇ、純一?」
橘「……あ、うん?」
桜井「純一がね……こうやって私の事をしっかり掴まえていてくれるなら……」
橘「…………」
桜井「私はどこにも行ったりしないよ……?」
橘「梨穂子……」
スレタイの所でさるとか……ID変更になりました
桜井「うん……」
橘「んっ……」チュッ
桜井「……ぁ」チュッ
橘「んんっ!」チュッ
桜井「んっ……」チュッ
橘「…………///」
桜井「…………///」
橘「ん……い、イヤじゃなかったか?///」
桜井「……えへへへ、イヤじゃないよ///」
橘「そっか……んっ」チュッ
桜井「んっ……」チュッ
橘「……な、なんだか少し暑くなってきたかな?///」
桜井「そ、そうだね……えへへ///」
橘「そ、そうだ!? そろそろ帰らないと、梨穂子のお母さんも心配してるんじゃないか?」
桜井「あ、そうだよね……家に連絡とかしてないから……多分」
橘「よし、家まで送っていくから、早く帰ろう」
桜井「うん、ありがと……あ……」
橘「……梨穂子?」
桜井「……あのね、純一?」
橘「どうかしたか?」
桜井「今日は……ありがとう」ボソッ
橘「うん? 何か言ったか?」
桜井「えへへ、何でもないよ……行こう、純一♪」
~数日後 放課後 茶道部室にて~
桜井『しゅわしゅわしゅわっと♪ クリームソーダ~♪』
橘「また、梨穂子はおかしな歌を……お邪魔しまーす」ガラッ
桜井「あっ、いらっしゃ~い」
飛羽「……よく来たな」
夕月「よっ、このおかしな歌、なんとかならないか?」
橘「それは……僕じゃなくて梨穂子に言ってください」
桜井「あれ? 私、また歌ってたかな?」
橘「ああ、外に聞こえるぐらい大きな声でね」
夕月「無意識であれだけ大きな声で歌ってるんだから……全くりほっちは……」
桜井「え、えへへへ。どころで、クリスマス委員の方が大丈夫なの?」
橘「ああ、絢辻さんに一時間ほど抜けるって言ってあるから」
桜井「そっかぁ~ それなら大丈夫だよね」
橘「それに今日は手伝いも多いから、僕がいなくても大丈夫なんだ」
桜井「お手伝いって梅原君達?」
橘「ああ、梅原達も時間のある時は準備を手伝ってくれてるからさ」
夕月「…………」ニヤニヤ
飛羽「……ふっ」
橘「な、なんですか、二人とも?」
飛羽「気にするな」
夕月「いや、ここんところ毎日顔を出すなと思ってね」ニヤニヤ
桜井「先輩、あんまり純一をいじめちゃダメですよ」
夕月「いいじゃないか、りほっちだってこいつが来て嬉しいんだろ?」
桜井「そ、それは……嬉しくないって言ったら……///」モゴモゴ
飛羽「おしどり夫婦……」
橘「バカな事言ってないで、茶道部の準備は大丈夫なんですか?」
夕月「あぁ、あんたが手伝ってくれてるからな」
飛羽「あとは設営用の資材調達と当日の準備ぐらい……」
桜井「ほんと、純一が書類の事、教えてくれるから助かってるよ~」
夕月「りほっちに任せておくと、記入ミスが多いからな」
桜井「そ、そんな事ありませんよぉ」
橘「いや、先輩の言う通りだぞ。ほら、この書類もここの数字が抜けてるし」
桜井「えっ!? あ、ホントだぁ……」
夕月「全くりほっちは…… なぁ、それよりも茶道部の入部、考えてくれたのか?」
橘「またそのお話ですか?」
飛羽「我々はいつでも君の参加を待ってる」
桜井「先輩、今は創設祭の準備があるから、幾ら言ってもムダですよ」ニコニコ
夕月「何だ、りほっちは橘に入部して欲しくないのかい?」
桜井「大丈夫ですよ。純一が私が必要な時に必ず来てくれますから……ね、純一?///」
橘「あ、そ、そうだな///」
飛羽「意味深長な発言……」
夕月「何だ何だ、二人して?」
桜井「えへへへ」
橘「はい、それじゃ、梨穂子はこの書類を訂正して。先輩達は設営資材を配りますから来てください」
夕月「何だ、あんたが運んでくれるんじゃないのか?」
飛羽「重いものを女性に持たせるなんて……」
橘「僕一人じゃ運べないから言ってるんです。ほら、早くしてくださいよ」
夕月「あぁ~~~~~くそっ! どっかにいい男はいないかなぁ~」
飛羽「設営資材運びを手伝ってくれるような」
橘「僕も一緒に運びますから……ほら、行きますよ」
夕月「わかったよ、行けばいいんだろ、行けば」
飛羽「仕方ない……」
桜井「先輩~ よろしくお願いしますね」
夕月「りほっちも来るんだよ、書類はあとにしろ!」
飛羽「たまには運動も必要……」
橘「そうだな、確かにたまには運動しないと……梨穂子、書類はあとにして資材を運ぶぞ」
桜井「うぇ~ そんなぁ~」
夕月「いいから、一緒に来い!」
飛羽「一蓮托生」
桜井「は~い」
桜井(純一が茶道部に入部してくれる事は……)
桜井(先輩達にはまだ内緒だけど……)
桜井(……きっと、二人とも喜んでくれるよね?)
桜井(純一……ありがと)
桜井(これからも……)
桜井(……ずっと一緒だよ)
桜井(…………)
桜井(……純一)
桜井(大好きだよ)
おわり
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