京子「あれ、なんでだろ……起きるのがつらい」(128)


 チュン チュン

 チチチ…

京子「朝かぁ」

京子「……」

京子「あれ、どうしたんだろ」

京子「わたし、なんでこんな気分なんだろ」

京子「……まぁいいや。そんなことより起きて学校行かなきゃ」

京子「……」

京子「なんか」

京子「起きるのがつらい」

●登校路


京子「はぁ、はぁ」

京子「朝の準備済ませて登校路歩いてるダケなのに」

京子「どうしてか心臓がドキドキいってる」

京子「それに暑くもナイのに汗がでてきて」

京子「体温計っても平熱だし……」

京子「いったいどうして……」

結衣「よー。おはよう京子、いつもどおりの時間だな」

京子「……!」

京子「おーおはようっ、いつもどおりの京子ちゃんが来たぜぃ!」

結衣「やけにテンション高いな。いいことでもあったのか?」

京子「え、いいこと?」

京子「イイことね……えとえと……」

京子(なんかよくわかんないけど)

京子(正当な理由を見つけなきゃいけない気がする)

京子(で、でも理由なんて何があったんだろう)

京子(やばい思いつかない)

京子「えぇ――とえとイイことってなんかあったっけぇ――……」 ポリポリ

結衣「別にそんな真剣に悩まなくたってイイだろ」

京子「あっ、そぉ――だよねぇアハハ!」

結衣「……?」


 ピィ――ンポォ~~~ン


結衣「あかりー学校行くよー。準備できてるかー?」

あかり「できてるよー!」

 ドタドタ

あかり「おはよう結衣ちゃん、京子ちゃん!」

結衣「あぁ。おはよう」

京子「おはよう……」

あかり「……?」

あかり「京子ちゃん、どうかしたの?」

京子「……!」 ギクッ

京子「えっ、えっ、わたし?」

京子「なんでわたしがどうかしてるって話になるのかなァ?」

あかり「そ、そんな深い意味はないんだけど」

あかり「いつもとチガって元気がない感じがして」

京子「あーごめんゴメンちょっと考えごとをねっ」

京子「物思いに耽っておりましてチョットだけさ!」 ポリポリ

あかり「あぁ~! また漫画のことでも考えてたんだねっ!」

京子「そうそうそうなのだよ。いやぁ――あかりは鋭いなァ!」

あかり「京子ちゃんって本物の漫画家さんみたい。将来大物になりそう!」

京子「期待しているがよい!」 ぐっ

結衣「……」

結衣「じゃ、そろそろ学校へいこうか」


 ドキ ドキ

京子「……」

 ドキ ドキ

京子「くっ」

京子「はぁ、はぁ」

結衣「京子」

京子「はぁ、はぁ」

結衣「京子ってば」

京子「――はッ! な、なに?」

ちなつ「わたしセンパイに挨拶しているんですケドー」

京子「ちなつ、ちゃん?」

ちなつ「そぉーですけどなにか?」

ちなつ「あ、もしかして私ジャマでしたー?」

京子「あっははは!」

京子「今日もカワイィねェ――!」

京子「ってコトでちなっちゃァーン!」 だきっ

ちなつ「わぁーっ、やめてください!」

ちなつ「わたしホントーに嫌なんですからァ~!!」

京子「……」

京子「あっははハハごめんごめーんスグ離すよ」 パッ

ちなつ「……?」

京子「あはは」

結衣「なあ京子」

京子「ん、なに?」

結衣「体調とか悪くないか」

結衣「熱があったりとかさ」

京子「無いよ計った」

結衣「ちょっとこっちきてみろ」 ピトッ

京子「……」

結衣「……嘘じゃないみたいだ」

京子「だから言ったじゃん」

結衣「うん。それはわかってたんだけど」

結衣「……うん」

そして時間は放課後まで飛ぶ。


京子「ようやく放課かぁ」

京子「なんか今日は変に疲れちゃったな」

京子「時間の経過もいつもの数倍遅かったし」

京子「でも朝の動悸みたいなのは治まったからヨシとするか!」 ガタッ

京子「おーい結衣ぃー! 部活いくぞー!!」

結衣「声を張り上げなくとも聴こえてるって」

結衣「……すっかり調子を取り戻したみたいだな」

京子「べつに調子崩してなかったし!」

結衣「あぁそうだったのかもな」

結衣「となると、単なるお寝ぼけさんか」

京子「ひっどいなー」

●娯楽部室


京子「ちなっちゃーん!」 むちゅー

ちなつ「……!」

ちなつ「キャーやめてくださぁ~い!」

京子「ちゅーさせてくれたらやめるよぉ」 ドタドタ

ちなつ「それって事後じゃないですかー!」 バタバタ

結衣「ふぅ……」

あかり「あの二人っていっつも騒がしいね」

結衣「まったくだね」

結衣「でもちょっぴり安心した」

あかり「安心って?」

結衣「あーいうのがやっぱ京子らしいかなって」

綾乃「歳納キョ――コぉ~!」 がらっ

千歳「ウチもお邪魔させてもらうなぁ」 トコトコ

京子「むちゅ――!」

ちなつ「嫌ァー離れてくださぁーい!」

綾乃「コラァ――! アンタなにやってのよォ!!」 がしっ

綾乃「そういう行為はダメっ……! 禁止……! 禁止錦糸町よっ……!」 ぐばっ

ちなつ「わぁ――ん結衣センパァ~イ!」 ダダダッ

結衣「よしよし」

ちなつ「わたしの味方は結衣センパイだけですぅ」

ちなつ「そしてわたしはいつだって結衣センパイの味方ですからね!」

京子「んもぅ、いいところで邪魔すんなよお」

綾乃「邪魔じゃありません。乱れた風紀を正しているだけよ」

京子「ったく。ひとをフシダラ扱いすんなよなー」

あかり「ハイどうぞ」

千歳「えろぅすんませぇん」

京子「それで?」

綾乃「な、なによその態度」

京子「言うことあるんだろ?」

綾乃「話が早いわね。そう――察しのとおり」

綾乃「ずばりわたしと勝負しなさいってことよ!」

綾乃「もちろん今度の定期考査のことだからね!」

ちなつ「随分と気が早いんですね。定期考査ってまだまだ先じゃ」

綾乃「い、いいのよ備えるぶんには早くとも。わかったかしら?」

京子「あはは、いいよ」

綾乃「そ、そう。せいぜい頑張ることね」

結衣「頑張るっていっても」

結衣「京子はどうせ勉強しないと思うけど」

京子「決めつけないでよ。すこしはやるかもしれないだろう?」

綾乃「ふんっ――余裕でいられるのも今のうちよ!」

綾乃「いくわよ千歳」

千歳「ほなまた今度なぁ」

あかり「お大事にー」

結衣「日も傾いてきたし」

結衣「そろそろお開きってことにしようか」

京子「んーそうだな。うん、そうしよう!」

あかり「あかり適当に片づけてるね」

ちなつ「えぇーもうですかぁ?」

ちなつ「わたし結衣センパイと離れるの寂しいぃ~!」

結衣「そう言ってもらえるのは嬉しいけど」

ちなつ「あ、でもわたしも用事あるんでした。残念」 ペロッ

京子「じゃあテキトーにカタしちゃおうっ!」

●帰路


ちなつ「あかりちゃーん」

ちなつ「ちょっと付き合ってほしいコトがあるんだけど」

あかり「ええっ、いまからかな?」

ちなつ「うんうん」

あかり「でも途中までみんなと一緒に行こうよ」

ちなつ「いいから。ちょっとだけ、お願い」

あかり「だったらいいよぉ。あかり、そんなに急いでないし」

ちなつ「というわけで一足先に失礼しちゃいますね、センパイっ!」

京子「……それにしても」

京子「いつのまにやら涼しくなったもんだなぁ」

京子「涼しいをとおりこして寒さすら感じるもん」

京子「夏虫だって死骸のほうばかり見掛けるようになったし」

京子「これからさきは、さながら死の季節だね」

結衣「……やけにネガティブだな」

京子「この季節ってさ。ん、時間帯のせいかな」

京子「なんか。理由もなく、」

結衣「うん?」

京子「……やっぱいいや。なんか纏んなかった」

結衣「……」

結衣「えっとさ」

結衣「実は新しいゲームに手をだしてみたんだ」

京子「うん行く!」

結衣「まだ何も言ってないだろ。……まあ、合ってるけど」

●結衣宅


京子「む、こしゃくな!」

結衣「甘いな。その程度は読んでるよ」

京子「むむむっ!」

結衣「……あはは」

結衣「なあ京子、朝のことなんだけど」

結衣「あれって本当に気のせいだったの?」

京子「朝のことって?」

京子「むっ、隙アリ!」

結衣「あっ」

京子「見たかわたしの底力を!」

京子「……で、なんの話だっけ?」

結衣「いいや。やっぱり気のせいだったな。私のね」

楽しい時間に限っていともあっさりと終わる。



京子「じゃーわたし帰るねー」

結衣「え、こんな遅いのにか?」

京子「実は同人活動のほうでチョットだけだけど」

京子「済ませておいたほうがいいかなってコトがさ」

結衣「だったら今日の誘い断ってくれてもよかったのに」

京子「にしし。楽しそうだったからツイ、ね?」

結衣「なら送っていくよ。ひとりは危ないだろうし」

京子「時間的には、わたしを送り届けたあとの結衣のほうがもっと危なくなるだろー?」

京子「ってことで玄関まででいいや」

結衣「そっか」

京子「うん。それじゃあバイバイっ」

結衣「ばいばい。車には気をつけるんだぞ」

京子「……ちっちゃな子供じゃないんだから」

●京子宅


京子「ふぁ――……眠い眠い」

京子「眠るわけにはいかないけどね」

京子「ここらで気持ちを切り替えて」

京子「さてさて勉強ベンキョー」 どさっ

京子「定期考査もそのうちあるし気合いいれなきゃだな」 パラパラ

京子「漫画の主人公みたいに本当の無勉強でさ」

京子「上位キープできるんなら苦労しないんだけどねェ」 ぺらっ

京子「ま、無理いっても仕方ないか」

京子「そういうのが普通に実在するんなら」

京子「わざわざ漫画のキャラにしてまで描かれないだろうし」

京子「えーとえと、ここの解答はと……」 パラパラ

それからしばらくはこういう日が続いた。

以前のように動悸に襲われない日だってあった。

しかし頑強な金属ですら反復するダメージで疲労し、

やがては脆く折れてしまうように、それは確かに進行していた。

当然のことだ。

適切な処置をほどこさない傷口とは拡がり続けるもの。

いくら望もうとも、目を閉じて、次に開けたときには完治していた――、

そんな魔法などありはしないし起こりもしない。

悔やむべきは人間が順応性を備えているということ。

悪化するそれとは裏腹に、痛みに対しては慣れ、感覚は麻痺していく。

だから気がつかない。

手遅れになってしまうその時まで。

京子(……朝……?)

京子「……」

京子(……)

京子「……」

京子(アタマ、わたしの……)

京子(ちゃんと……ある……よね……?)

京子(……思考が、まとま……んない)

京子(わかるのは、辛うじて)

京子「サイアク」

京子(なんか……最悪だ……)

京子(わかんないけど……)

京子(最悪だ……)

京子(でもいつもみたいに……暫くじっとしてれば……)

京子(立てるようには、なる、はず)

京子(時間だ)

京子(そろそろ)

京子(起きなきゃ……どやされる) ぐっ

 もそもそ

京子(重力、強っ……) ぐぐっ

京子(悪意あるよ、これ……わたしのぶんだけ水増してるって、ぜったい……)

京子(肩とか手足とか……床へむけて引っ張られてる感覚あるし……)

京子「はぁ、はぁ」

京子(それに、なんかズレてる)

京子(うまく繋がってない感じがする)

京子(わたしの身体……あたま……神経……?)

京子「はぁ、はぁ」

京子「鏡は」

 ずる ずる

京子(よかったわたしだ)

京子「はぁ、はぁ」

京子(違ってたらドウしようかと思ったけど)

京子「外傷も、はぁ、ないし……」

京子「ないのに……はぁ、だから一時的で……」

京子(長引く夏風邪みたいに……いずれ治るはずなのに……)

京子(治らなきゃおかしいのに……なのに……全然……)

京子「はぁ、はぁ」

京子(……まさか大きな病気?)

京子(だとしたらなんの……?)

京子「ひょっとして、はぁ……不治の……だったりして……」

京子(……もしそうだったら……一生入院させられるんじゃ……)

●登校路


京子「はぁ、はぁ」

京子「なんだかんだいって、酷いのは治まった」

京子「わたしの勝ちだぞ」

京子「病は気から」

京子「熱も咳もないし、痛みもないんだし、そうに違いない」

京子「ぜんぶ、気のせい。それで決まり」

京子「だから、治れ。治ってよ……!」

 ポタっ

京子「えっ……? なんで……?」

京子「なんで涙が……? わたし泣いてんの……?」

京子「いまから戻って顔洗うヒマなんてないのに……」

京子「それになんか……キテる感じまでするし……」

京子「それがいつか、までは判らないけど……絶対クる……」

京子「違う、もうキテるのかも?」

京子(やばい……どうしよう……)

京子(なんか痺れてきたし……)

京子(なにから……なにをしたら……)

京子(まず……最初は……どっちに……)

結衣「京子」

京子「ッ――!?」

結衣「いつもより遅かったからさ」

結衣「ちょっとこっち側まで来てみたんだけど」

京子「……!」 ダッ

結衣「待って。逃げないで」

結衣「べつに何かしようってワケじゃない」

結衣「とりあえず私のうちへ行こう。な?」

●結衣宅


結衣「あかり?」

結衣「……うん。おはよう」

結衣「私、遅れそう。あと、京子も……うん」

結衣「……あぁ、そういう訳だったみたいだ」

結衣「だからちなつちゃんと一緒に先へ行ってて」

結衣「ちなつちゃんのほうにも連絡いれとくから」

結衣「……うん。そっちこそな。いってらっしゃい」

結衣「……」

結衣「つぎはちなつちゃんに……」 ピポパ

京子「……」

結衣「アイス、食べるか?」

京子「……いい」

結衣「朝ごはんは食べてきた?」

京子「……食べてない」

結衣「なにか食べるか?」

京子「……いい」

結衣「なにか口にいれたほうがいいぞ」

京子「お腹すいてない」

結衣「なら飲み物でももってくるよ」

結衣「ココア、じゃなくて。ホットミルクでいいな?」

京子「……」


 ことり

京子「……いらない」

結衣「飲めるぶんでいいから」

京子「……いらない」

結衣「……」

京子「……」

結衣「あのさ京子、病院に」

京子「……だいじょうぶ」

結衣「うん。わかってるけど、でもさ」

京子「……いきたくない」

結衣「……うん。わかった」

               >'"              `く
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    |  で、色々ありましたけど。               |'
    |                                |
    |  お医者さんにみてもらったところ、          |
    |                                |
    |  ただの夏風邪だったらしいです。          |
    |                                |
.   ,ノ|                                |
   }、| ___                   おしまい    |
  〈つ)'´〉 〉)-、__________________」

.   ー‐‐'ー'-'7´       |:| || |:|        |

                     _..:─v'::─-、/⌒ヽ
                    .:´.::.:⌒.::.⌒::.::. ヽ.::.:::
               /::.::.::人::.:リ\::ハ ::. i::.::.|     禁止錦糸タウンにすべきだったのかしら…!

                |/|::.i ト、∨/八}::.:i:|::.: |
            (\    _jハN○   ○ノ::.从::.::ヽ      こ、このさいだから言わせてもらうけどね、
          \ヽ、  乂八" r ⌒ヽーァ| ハ::.::.::.、
           r'⌒゙  `ト、_ノヘ::` ゝ __,ノイ::.|  ヽ.::.::.:、      それを考えるのに1時間もかけたのよ!
           く\ヽ_}>、)   }}\}く\,,ト|::.:|   '::.::.::.::.
            ̄¨¨`'ーーく/  ノ \7∧::|   i.::.:::.::.::.     ま、まあいいわ…どうせあんたたちのセンスなんて
                 T    凶 V}  _, |:.:::.::.::.::.
                    |    ∧  [_∨r`|::.:::.::.::.::       散々サンクスギビングなんだからね!
                    人    //ハ  Ⅵ_に|::.:::.::.::.::

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