魔王「なかなかこれは気まずいな……」
姫「なにをブツブツ言ってるのかしら?」
魔王「ぬおあっ!? き、キサマ、我々の言葉がわかるのか!?」
姫「私の側近に魔物に無駄に詳しいのがいるのよ。いつもその人の魔物話を聞くついでにあなたたちの言葉も教えられて。
それでしゃべれるのよ、書くのは流石に無理だけどね。それより今気まずいって言ったわよね?」
魔王「キサマら脆弱な人間にこの魔王がそのような感情を抱くわけあるまい。
馬鹿なことを言うなら口を慎め、人間」
姫「そうね、下等な人間は黙っておくわ」
五分後
魔王「…………おい」
姫「あら、下等生物の人間である私になにかようかしら?
あなたと私の間で会話が弾むような話題があるとは思えないし喋るなと言われたはずだけど」
魔王「用は無いし会話をしたいわけではない。だが、なにかこの魔王に言いたいことはないか?」
姫「ないわね、髪の毛一本分すらないわ」
魔王「……いやいや、たぶん今自分が置かれている状況とかに疑問はあるでしょ?」
姫「なんなのあなたは? さては相当ヒマなのね、この立派すぎるお城の敷地に生えてる草でも抜きにいったら?」
魔王「この魔王になんて口のきき方だ。
あまり生意気な口は叩かない方がいいぞ。キサマら人間は私が触れただけで……ぬおあぁっ!? イタイいいぃっ!?」
姫「私が指につけてるこの指輪、うちの賢者たちが何年もかけて魔力を込めて作った魔除けの指輪なの」
魔王「ぬうぅ、まさかそのようか代物をキサマが所持しているとは……」
姫「まさかこの指輪があなたに効くとは思わなかったわ。
私を直接さらったあなたの側近には効かなかったのに。不思議ね、あなたには効果があるなんて」
魔王「な、なかなかやるではないか……その指輪に免じて特別にキサマにこの魔王に質問する権利をやろう」
姫「なんなのあなた、私とお話がしたいの?」
魔王「断じてちがうわ! ただ一つの空間に二人っきりでいるのに沈黙しかないというのが気まずいだけだ!」
姫「無駄に声でかいわね、と言うか気まずいって言っちゃってるし」
魔王「う、うるさいっ! いいからこの魔王に質問をするのだっ!」
姫「まあ私もここにいる限りはヒマだし、指輪によってあなたが私になにかするのも無理みたいだし質問してあげるわ」
魔王「初めから素直にこの魔王の言葉にそうやって従えばいいのだ」
姫「……まあいいわ。そうね、実のところ気になることはけっこうあるのよね。
うちの凄腕の兵士たちをどのようにかいくぐって城に侵入したのか、とか」
魔王「ふむふむ」
姫「私をさらう理由もよくわからないし、勇者様と闘わないことはもっとわからないわ。
しかも城へ攻撃するわけでもないし私を連れて魔王城に帰っちゃうし……まさかあなたロリコン!?
たしかに私の年齢ならまだロリと言えなくはないし……だとしたら指輪を持ってなかったら危なかったわね」
魔王「この魔王を愚弄する気かキサマっ!? キサマごときが私の目にかなうとでも!?」
この魔王がキサマら人間相手に抱く感情など微塵もないわ!」
姫「さっき気まずいって言ったじゃない」
姫「疑問と言えばまだあるわね、今あなたと私がいる部屋よ」
魔王「この部屋? キサマが幽閉される部屋だが、なにか問題でもあるのか?」
姫「逆よ、問題が無さすぎるのよ」
魔王「ならばよいではないか、いったいなにを疑問に思うことがある?」
姫「だから問題がなさすぎることが問題なのよ。なんなのこの横たわった瞬間に全身が沈んでしまうような柔らかいベッドは?
私の部屋より広いし、ピアノまで置いてあるわ!タンスを見てみれば素敵な服がたくさんあるし!
シャワーまで備えられてるし棚には高級なお菓子がいっぱい並んでるし、私はお客様なの?」
魔王「ええい! そんなに長々と喋るな、だいたい疑問に思う前に少しは自分で考えんか!」
姫「自分が質問しろって言ったんじゃない」
魔王「まったく、これだから頭でっかちな人間は困るのだ」
姫「頭の悪そうな魔王様、質問させたんだから答えなさいよ」
魔王「 頭の悪い、だと? むぅ…………………………」
姫「今度は急に黙ってどうしたの?」
魔王「オレ、あんまり記憶力ないからこの羊皮紙に書いてくれ。
明日には答えを教えてやろう、前言撤回の準備をしておけ」
姫「あなたって実は……」
魔王「勘違いするなよ人間、初日から過酷な環境に置けばキサマのような箱入り娘は自殺する可能性があるからな」
姫「今のところ幽閉されてることを除けば快適そのものなのだけど……書いたわよ、これでいいかしら?」
魔王「たしかに受け取った。この魔王の解答をせいぜい楽しみにしているがいい、あはははははは」
姫「……と言うか気まずいなら一緒にいなければそれですんだと思うんだけど、まあいっか。シャワー浴びて寝よう」
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