羽川翼「最近、情緒不安定なんだよねー」(177)
翼(私の家族、恋、その他諸々が片付いて数日後のことです――)
翼「阿良々木くーん、あと30分でタイムアップだよー」
暦「わかってる。わかってるんだ。あと30分もあるんだ」
翼(彼――阿良々木くんは二学期のまさに今日、夏休みの宿題をやっている)
翼「なんてベタな……、ていうかちゃんと勉強してたようだったのに」
暦「ああ、してた、してたさ。ハートキャッチプリキュア見ながらしっかり受験勉強に勤しんでいた」
翼「幼児向けアニメ見てるなんて余裕だね」
暦「サバーク史上最大の作戦には僕も唸ったぜ……、もうダメだ! 羽川!」
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翼「いくぞ岬くん!」
岬「おう翼くん!」
アナウンサー「さぁ審判のフエがなったぁ!全日本再び黄金コンビで攻めます!」
翼「教えてあげないよ」
暦「無理だろ! あと25分しかないんだぜ!? 5教科も終わるわけないだろ!」
翼「五等分してちょうど5分ずつあるじゃない」
暦「キレイに等分できたけども!」
翼「ほらほら、無駄口叩いてる暇があったら手を動かす動かす」
暦「おい、忍」
翼「あー! ズルしようとしてるー!」
忍「…………」
暦「おねむのところ悪いけどよ、この問題をあっと言う間に解決してしまうスキルはないのか」
翼「ドラえもんですか」
暦「ねーのぶえもーん! なんかスキル出してー!」
翼「どちらかというと2代目ジャイアンに近いし!」
暦「時間が惜しい。おい、どうなんだ?」
翼「忍ちゃんがそんな要望に応えてくれるとは――」
忍「申し訳ありません。誠に残念ながら主様の直面なさる問題に適格なスキルの持ち合わせがございません」
翼「!?」
暦「そうかー。いや、悪かったよ、真昼間に」
忍「恐縮です。むしろお力添えできず、口惜しい限りでございます」
翼「阿良々木くん」
暦「なんだ? しょうがねー、自力で解くかー」
翼「この、忍ちゃんみたいなとっても畏まった幼女は誰?」
暦「はあ? どういう意味の質問だそりゃ。自分で答え出てるじゃねえか」
翼「えーと。私の記憶、またズレてるのかな? 忍ちゃんってもっと横暴……いえ、横柄な態度だったような」
暦「あまり意味に大差がないぞ。どうしたんだよ、羽川。どこからどう見てもこいつは忍だろ」
翼「どこからどう見ても忍ちゃん、だけど……」
忍「なんじゃ、委員長。人をあまりじろじろ見るものではない」
翼「あ、はい。すみません。ん?」
若林「こい!シュナイダー!」
アナウンサー「シュナイダー君GK若林君めがけてまっしぐら!!」
岬「ボクがとめる!」
アナウンサー「ああっと岬君はじきとばされたァ!」
暦「あーあ、こりゃ内申に響くかなー羽川ー」
翼「うーん……」
忍「あるじ様の質問に答えんか煩悩文化猫娘!」
翼「ぼっ、煩悩文化!?」
暦「それを言うなら万能だろー忍ー」
忍「はっ、申し訳ありません。まったくもって万能とは程遠い小娘ですな」
翼「なぜ阿良々木くんにはゴマすって、私には毒舌……」
忍「儂は下僕なんじゃから当然じゃろ」
翼(いや、前だったら下僕っていう立場にもポジティブではなかったはずなのに……)
暦「ところでお前影に潜らなくて平気なのか?」
忍「はっ、お心遣いまたまた恐縮。最近夜型から昼型に変わりまして、これくらいの時間帯にも通常状態でいられるのです」
暦「ふうん、まあよかったなー」
忍「ありがとうございます」
翼(どういうこと? 忍ちゃんの『正しい使い魔』っぷりとそれを容認している阿良々木くん……)
忍「ひそひそ。おい、委員長。ひそひそ」
翼「な、何? 内緒話になってないけど」
忍「カッコだけじゃカッコだけ。気持ちひそひそで話せ。なんならカギカッコをつけてもいい」
翼『こ、こうかな?』
翼(あ、なんかひそひそしてるっぽい!)
忍『委員長、あるじ様のしゅくだいとやらは終わらないとまずいことになるのかの?(キリッ』
翼『そこまでカッコつけなくても。あと17分以内に担任の保科先生に提出しないといけないのよ』
忍『ふむふむ』
翼『もともと先生達からは目をつけられているし、せっかく改善したイメージをまた落とすことになるかどうか、その瀬戸際ってことです』
忍『ふうむ。あるじ様のイメージがこれ以上悪化するのは避けたいかのう。なにせ最近は悪行が目立ち過ぎて読者からも引かれておるからの』
翼『それとはまた別問題だけれど……彼の将来が危うくなるのは確かです』
忍『なるほど、あいわかった。ところで委員長、うぬはまだあるじ様にベタ惚れなのか?』
翼『なっ』
忍『首まで赤くしおって。少女漫画だったら斜線だらけじゃぞ、うぬ』
翼『そ、それが今の状況と何の関係があるのですか』
忍『うぬがあるじ様の手助けをするなら、儂があるじ様にうぬを取りはからってやってもよい』
翼『…………』
忍『ほーれ、どうじゃ。あるじ様と手をつないでドキドキしたり、図書館に行ったりできるぞ~』
翼(手をつなぐどころか――彼には今までパンツを見られたり、胸を触られそうになったり、)
翼(性的な目で見られたり、上で寝かされそうになったりと、既に手遅れな感じがある)
翼(手遅れって我ながら……、彼女でもないのに、下手に深い仲になっているなあ)
忍『おい、見ろあるじ様を。すっかりやる気をなくし、はまじみたいな顔して笑っておるぞ』
翼『う、あれはちょっとひどい』
忍『儂が恩を売るのは少々違うが、これまで助けてもらったじゃろう』
翼『…………』
忍『それこそ、あやつに助けられた女は多いが、あやつを助けることのできる者は、なかなかおらんからのう』
翼(結局――やった。やりましたとも、阿良々木くんの宿題。夏休みの全部)
翼(ちょっと久しぶりに『本気』になったので疲れたけど、まあ期限内には終わらせ、保科先生に提出することができた)
翼(それより、阿良々木くん、さっきまで真面目に取り組んでいたと思いきや、ノートにひたすらラクガキを描いていた)
翼(蛇――否、ウロボロスだった。最近見ているタイガー&バニーに出てくるとか言っていた)
翼(さすがに『頭にきた』ので私は彼への『罵詈雑言』をひたすらつぶやき、その波に乗って宿題をやり遂げた)
翼(とても、疲れた)
暦「ありがとう、羽川! お礼にジュースおごちゃうぜ!」
翼「それより、そのいい笑顔を一回殴っていいかな?」
翼(慣れないことは、まだ慣れないのだ)
暦「じゃあ、帰ろうか。送っていくぜ。自転車の後ろ乗ってけよ」
翼「あー……(いいのかなあ)」
暦「ん? それとも前のカゴに乗るか? 僕はそれでも、むしろそっちのほうが嬉しいんだけど」
翼「今聞えた台詞はなかったことにして、じゃあ甘えちゃおっかな」
暦「おう。甘エロ甘エロ」
翼「エロはない」
暦「……じゃあ――甘えなさい」
翼「はーい」
翼(彼の自転車の後ろに腰を下ろし、出発――)
翼(二人乗りは二度目。阿良々木くんの運転は慣れたもので、とても軽やかだった)
翼(私は彼の腰に手を回したりはせず、背中をちょっとつまむような感じで、落っこちないようにしていた)
翼(別に遠慮しているわけじゃあない。これが今の私の距離なのだ)
暦「……そんなつかまり方、不安になるんだが」
翼「え?」
暦「もっとしがみついてろよ。つまんでないで」
翼「いやあ、ははは」
暦「でなきゃ羽川が感じられないじゃないか」
翼「……なんか阿良々木くん、素直になったよね」
翼(いや、欲望が透けて見えるようになったというか。むしろ危険度が上がっている)
暦「戦場ヶ原の家でいいのか?」
翼「うん。もう先に帰ってると思うけど」
暦「ああ、さすがにちょっと僕に呆れていたみたいだ」
翼(私は今、諸事情から戦場ヶ原さんのお家にお世話になっているのだ)
暦「あいつとの生活ってどんな感じだ?」
翼「規則正しい――って感じかな。朝起きて、ランニングして、ご飯食べて」
暦「まだ、走ってたのか」
翼(ちょっと嬉しそうな顔になる阿良々木くん。別に戦場ヶ原さんがランニングしてるとはまだ言ってないよー)
翼「うん。元陸上部だからね。習慣になってるんだよ。私も走ってるんだよ?」
暦「へえ、羽川が? どんな格好で?」
翼「どんなって、ジャージだけど。たまにタンクトップ借りるけど」
暦「へえ、タンクトップかあ。タンクトップかあ」
翼「今どうして二回言ったの?」
暦「いや、別に羽川のおっぱいが朝から揺れているなんて考えていないけど、うん、運動はいいよな!」
翼(――耳たぶをつねった)
暦「痛い痛い! 羽川さん痛い!」
翼「羽川さんイタイ? へー私ってイタイ子だったんだ」
暦「違う! 痛いのは僕! 耳が痛いの!」
翼「吸血鬼なのにこんなのがダメージなの?」
暦「吸血鬼っていってもほとんど人間なの!」
翼(悲鳴をあげる彼がちょっと面白いのでしばらくこのままにしてやる)
翼「そうそう、戦場ヶ原さんのお父さんに会ったよ」
暦「痛い……、え? ああ、あの面白いお父さんか」
翼(面白い? あれはかっこいいお父さんっていう感じだったけどなあ)
暦「でも、大変だよな。休みなしで働いてさ」
翼「阿良々木くん家だってそうでしょう?」
暦「ん、まあ……いや、僕ん家はいいんだよ」
翼「私の家は……どうだったのかなあ。忙しい家庭だったのかなあ」
暦「…………」
翼「まあ、ここ数日はバタバタしてるけど」
暦「今からでも聞けばいいじゃないか」
翼「え?」
暦「どういう両親なのか、本人達にさ」
翼「…………」
暦「いや、今のはやっぱりなしな」
翼「もし私に彼氏ができたらあの人達に紹介しなきゃいけないのかなー」
暦「彼氏だと? そんなのが仮にできたとしたらまず僕のところに連れてくるんだ。処刑するから」
翼「ほう、アナタが言いますか」
暦「あうっ、羽川さん痛い! あ、でもちょっと気持ちいい」
翼(これ以上は彼の中の新たな扉を開きそうなので、耳たぶから手を離した)
翼「あれ、私の携帯鳴ってる。ごめん、ちょっと止まって」
暦「んー」
翼(鞄から携帯を探り、着信を見ると――戦場ヶ原さんからだった)
翼「――電気と水道とガスが止まった?」
ひたぎ「ええ。年に何回かはこういうことがあるのよ」
翼「それで、戦場ヶ原さんどうするの?」
ひたぎ「とりあえずそれぞれの機関の人間は呼んだから、今は待つばかりね」
翼「そっか。うーん、今日中にはなんとかなるのかな」
ひたぎ「そこにマイラブリー……阿良々木くんはいるかしら」
翼「マイラブリーって……、いるよ」
ひたぎ「今日は彼の家で過ごしてくれない?」
翼「え?」
ひたぎ「さすがにあなたをここに置くわけにはいかないし。あの男なら喜んで家に連れ帰るでしょ」
翼「いやちょっと待ってよ。私はそれは他人だけど……」
ひたぎ「私には慣れたことだけれど、我が家とはいえ、こんな危ないところにいさせられないもの」
翼(前科があるだけにね――と戦場ヶ原さんは笑って言った。それを言われるとぐうの音も出ない)
翼「でも、それこそ戦場ヶ原さんがそこで一人で過ごすのは『危ない』んじゃないの?」
ひたぎ「大丈夫よ。言ったでしょう、慣れてるのよ。それに」
翼「それに?」
ひたぎ「気恥かしいのよ。こんなボロ屋のボロの部分を見られるのは」
翼(彼女は言っていた。今の暮らしは不満だらけなのだと。ちっともいいものだとは思わないと)
翼(きっと、今すごく怒っていたりするのかもしれない)
翼「……わかった」
ひたぎ「そう」
翼「でも、正直、私もそっちに行きたいのが本当なんだからね」
ひたぎ「ええ」
翼「気恥かしいって、今さら何言ってるのよ。その部屋で私達二人数日過ごしたんだよ?」
ひたぎ「だから今日だけは――」
翼「カッコつけちゃって。阿良々木くんに家に行け? 戦場ヶ原さんは私の親なの?」
ひたぎ「ちょっと、どうしたの」
翼「電気もガスも水道も止まっちゃって、今何しているのよ。薄暗い部屋から私に電話してきてるの? すっごく寂しい人よそれ!」
ひたぎ「あのね……」
翼「素直じゃない! 戦場ヶ原さんって頑な!」
ひたぎ「結構よ。ずいぶん言うじゃない。もしかして同姓同名の人物に掛け間違えたのかしら」
翼「へー、そんなに知り合いいたの?」
ひたぎ「いえいえ、あなたに劣らず知り合いは少ないほうよ」
翼「……今日は、阿良々木くんの家にお邪魔しますから」
ひたぎ「せいぜい楽しんでくれば。私は今日一日羽を伸ばさせてもらうから。まあ、羽は今日いないんだけど」
翼(――電話を切った)
暦「……どうしたんだよ」
翼「ん……、今日、阿良々木くんの家にお邪魔してもいいかな?」
暦「それは構わないけど。妹達は喜ぶだろうし」
翼「じゃあ早く、いこ」
翼(彼は私を乗せて、再び自転車をこぎ始めた)
暦「……喧嘩か?」
翼「どうだろう。喧嘩といえるのか、わからないな」
暦「めずらしいな、羽川がイライラしてるなんて」
翼「最近、情緒不安定でさ」
暦「ふうん」
翼「お察しの通り、まあ後遺症みたいなものなんだろうけど」
暦「後遺症? 別に『普通』だろ」
翼「ふつう?」
暦「誰にだってそういうときがあるってことだ」
翼「そっか。そうかもね」
火憐「よう! ファイヤーシスターズの歯磨きは奥歯から始める方、火憐だぜ!」
月火「ハーイ! ファイヤーシスターズの毎朝モテレッチをやってる方、月火だよ!」
翼(ようこそ!――と声をそろえて火憐ちゃんと月火ちゃんは出迎えてくれた)
火憐「嬉しいぜー、翼さん。また来てくれるなんて。もういっそ家の子になれば?」
翼「それはここのお姉ちゃんにならないと無理だねえ」
火憐「それはいい! おい、兄ちゃん、今すぐ市役所に行け!」
暦「勝手に話を進めるな」
月火「まあまあ。ほら、今日はパパとママは帰りが遅いからさー、先にみんなで夕ご飯食べちゃおう」
火憐「今日は月火ちゃんが当番だぜ。翼さん知ってる? 月火ちゃん、あたしの前に料理うまいんだぜ」
翼(月火ちゃんの次に火憐ちゃんがうまいらしかった)
翼(そういえば、阿良々木くんって、料理とかするのかな?)
翼(夕飯はオムライスだった。なんでも最近見たアニメで出てきて作りたくなったそう)
翼(それにしてもアニメに影響されやすい兄妹だな……)
翼(オムライスといえば卵でうまくライスを包めるかがネックだけれど、これがお店に出せそうなくらい綺麗にできていた)
翼(手先が器用な月火ちゃん、これくらいはお手の物のようだ)
火憐「オムライスっていえばよー、こないだ007見ててさー」
月火「火憐ちゃん、それなんか関係あるの?」
火憐「ロシアより愛をこめてって結局どういう意味なんだ? 全然わかんなかった」
翼「そこなんだ……」
火憐「あのボンドガールは悪なの? 味方なの?」
暦「お前には早すぎたみたいだな」
火憐「うんにゃ。スイートプリキュアくれーわからいやすく作れっつー話だよ」
暦「セイレーンちゃんは萌えるよなー」
翼(食事中に萌えの話はあまり聞きたくないなー……)
翼(その後も、『お兄ちゃん』によるキュアビートがいかにかわいいかを2時間熱い語りを聞き、)
翼(夜も更ける頃、阿良々木父母が帰宅。私の滞在をあっさり許可していただいた。うーん、ぱない)
翼(ローテーションをはやく回すため、再びファイヤーシスターズと入浴することになった)
暦「お前ら、変なことするなよ。羽川、なんなら僕と入ろう」
翼「それは却下」
翼(でも、やっぱり三人入る湯船は狭いのだった)
火憐「くあーっ! 生き返るぜぇー! リバース!」
月火「火憐ちゃん、もう遅いから静かにねー」
翼(元気ハツラツな火憐ちゃん。ところで前回よりも狭いような……)
翼「もしかして、火憐ちゃん背ェ伸びた?」
火憐「あっれ、そうかなー?」
月火「春よりは確実に伸びてるよ」
火憐「ふうん」
翼(と、火憐ちゃんはちょっとつまらなそうにする)
翼「成長期だものね」
火憐「けど、おっぱいはまだ翼さんに負ける」
翼「私に言及しないで」
月火「羽川さん、肌きれいだよね。何かしてる?」
翼「いや、普通に保湿とかはするけど、特別なことはしてないかなー」
月火「へえ、いいなー」
翼(そう言う月火ちゃんだけれど、この子はこの子で触れればそのまま沈めてしまいそうなもち肌なのだ)
月火「……羽川さん、変なこと訊いてもいい?」
翼「うん」
月火「羽川さんっていつからお兄ちゃんのこと好きなの?」
翼「うん!?」
月火「あ、間違った。羽川さんってお兄ちゃんのこと好きなの?」
翼(どんな間違いだ。いや、それにしてもストレートに訊いてきたな)
翼「そりゃあ、嫌いではないよ」
月火「ん。あのさ、一応ラブかライクかで聞きたいんだよね」
翼「…………」
翼(逃げ場がなかった。ツーアウトっていう感じだ)
翼「……ラブ、かな」
月火「そっか。ありがとう。うん、まあ、そうだとは思ったけど」
翼「そ、そんなにわかりやすいかな」
月火「いやいや、友達のいないお兄ちゃんが家に連れてくるくらいだもの、それくらいは予想がついちゃうんだよね」
火憐「兄ちゃん、男友達はいねーしな」
翼(妹達に色々把握されてお兄ちゃんらしい)
火憐「あたし、最初は翼さんとつきあってると思ったんだけどな」
月火「なにせ初めて家に連れてきた女子だしね」
火憐「しかも超頭いいし、超優しいし、超かわいいし」
翼「いや、そんなことないよ」
火憐「超おっぱいでけーし」
翼「おっぱいは避けられないの!?」
火憐「うわ、これ兄ちゃんの好みのおっぱいじゃんって思ったもん」
翼「…………(これは喜んでいいのかしらん)」
月火「お兄ちゃんには……」
翼「うん、阿良々木くんはもう、知ってるよ」
月火「そっか」
火憐「え、自分がふったくせに友達ヅラしてんの? 兄ちゃん馬鹿じゃねーのか」
翼(なんの遠慮もなくズバズバと言う火憐ちゃん)
月火「なまじ仲がいいと――よすぎると縁が切れないもんなんだよ。ほら、カップル解消して友達になるとかあるじゃない」
火憐「そういうもんかね」
翼「まあ、そういうことなのかもね」
月火「特にお兄ちゃんはあの通り、お人好しだからさ」
翼「うん」
火憐「お人好しってつまり馬鹿ってことだろ?」
月火「融通が利かないって点ではね」
火憐「やっぱ馬鹿なのかなー兄ちゃん」
翼「うん……、馬鹿なのかも」
火憐「お?」
翼「夏休みの宿題やらないし、小学生と遊んでばかりだし、人のこと気にかけすぎだし――馬鹿なのかも」
月火「中学生とも遊んでるよ」
翼「……なんか、腹立つなー、ってごめんね。お兄ちゃんなのに」
月火「そんなことないよ。私達だって日頃あの変態には頭を悩まされているし」
翼(その後、数十分に渡る阿良々木くんの悪口大会が開かれた)
翼(まあ、ほとんど私と月火ちゃんなのだが、火憐ちゃんだけはなぜかフォローに徹していた)
翼(さっきまで馬鹿にしていたのが嘘のように)
翼(何かあるんだろうか、この二人に……)
翼(宴もたけなわ――もとい浴場をあとにして、最後に月火ちゃんは訊いた)
月火「今でもお兄ちゃんのことを?」
翼「うん」
月火「彼女がいても?」
翼「むしろいるからこそ、かな」
月火「ふーん。屈折してるなあ。でも羽川さんから見たら――羽川さんの立ち位置からすればそうなのかな」
翼「やっほー。お風呂いただいたよー」
暦「ああ」
翼(少し元気がない。どうしたのだろう?)
翼「……戦場ヶ原さんから何か?」
暦「なんでわかるんだ?」
翼「携帯が充電器に差さっていないし、ちょうど放ったくらいのところにあるから」
暦「それだけでわかるのかよ……、うんまあ、ガハラさん――戦場ヶ原からだいたいのことは聞いたよ」
翼「そっか」
暦「別に気にしてない、ってさ」
翼「戦場ヶ原さんが?」
暦「ああ」
暦「あの馬鹿達と一緒で狭かっただろ、風呂」
翼「んー、でも会話が弾んだから別にってとこ」
暦「あいつらと何話すんだお前?」
翼「阿良々木くんの悪口」
暦「やめてくれよ!」
翼「あはは」
暦「羽川だけはガールズトークなどという昨今の似非文化に染まらないと信じていたのに……」
翼「私だってガールですから」
暦「そもそも、最近やたらと女子って使うのは何なんだろうな。あげくに30代女子とか」
翼「ああいうのはファッション誌との兼ね合いもあるんじゃないかと思うけど」
暦「妙齢の女性が女子を自称するのはいただけないぜ」
翼(まあ確かに、女子なる言葉からくる未成熟なイメージをどこまで自覚しているのかは甚だ疑問である)
翼「じゃあ、女子じゃなくて何だったらいいの?」
暦「それは……、女とか」
翼「女ね」
暦「でも、なんか女っていうのもちょっと攻撃的というか、『ガンガンいくぜ!』的なニュアンスを感じてしまうぜ」
翼「それは単に阿良々木くんが女に気遅れしているっていうだけでは?」
暦「そ、そんなはずないと思うけどな」
翼「そういえばさ、阿良々木くんって戦場ヶ原さんとはもうしてるの?」
暦「……なんで今それを訊くんだよ」
翼「いや、女を知らないから故にそういうニュアンスを受け取っているのかなあと。で、どうなの?」
暦「…………」
翼(ん?)
暦「…………」
翼「あ、そっぽむいた」
翼(んん~?)
翼「もしかして……」
暦「坂本真綾結婚だってな」
翼「誤魔化さないでよ」
暦「…………」
翼「あれ、だって……」
翼(戦場ヶ原さん、阿良々木くんの前ではすっかり『彼女』になっちゃって、私てっきり二人が……)
暦「手をつないで寝たことならあるぜ!」
翼「私は抱かれながら寝たことあるけど」
暦「おいちょっと待て! どういうことだそれは!?」
翼「聞きたいのは私の方だよ!」
翼(ちょっと待ってよ、戦場ヶ原さん――『それなのに私を阿良々木くんの家に行かせたの?』)
暦「おい、羽川! 抱かれたってどういうことだよおい!」
翼(私をそこまで信頼してるから? 阿良々木くんにはそんな度胸がないから?)
暦「おい! 答えろって!」
翼(それとも――別に『そうなっても構わない』から?)
暦「答えによっては僕はあいつをおしおきしなきゃいけなくなるぞ!」
翼「…………」
翼「いや、抱かれたっていうのは、こう、羽毛布団的な」
暦「羽毛布団?」
翼「なんでもないよ……」
翼(何、考えてるのよ……)
暦「うーむ、明日聞き出すか。とりあえず、僕は風呂に――」
翼(手を握った。彼を呼びとめるように。引きとめるように)
暦「――羽川?」
翼「あ、あの……」
暦「うん?」
翼「えっと……」
翼(阿良々木くんは私に手を握られたまま、ふぅと一息つき、優しくこう訊いた)
暦「どうした?」
翼「あ……」
翼(私は、私はもう一方の手で彼の頬をなぞり、そして――)
翼「あ、阿良々木くんは、いつも、自分のことよりも他人ばっかりで――」
翼「誰かのことばかりで――傷だらけになって」
暦「…………」
翼(彼は何も言わない。黙って、黙って、黙って)
翼「辛くない?」
翼(虚を突かれたようになり、やがて照れるように俯いた)
暦「いや、羽川さ……」
翼「これまで、あんまりいい結末じゃなかったよね。ひどいこともたくさんあったよね」
翼(例えば――春休み、そしてゴールデンウィーク)
暦「……」
翼「慰めてあげよっか」
忍「戯れもほどほどにせい」
翼(背後から声――忍ちゃんが私の首筋に手刀を突き付けていた)
忍「うぬともあろうものが自分の領分を弁えておらぬわけではなかろう」
暦「忍、よせ。羽川は前みたいになってるわけじゃない」
忍「ふん。お前様はこの場でもそんな台詞が出てくる有様か。おい色ボケ猫」
翼(忍ちゃんは冷たい声で続ける。表情まで見えるようだった)
忍「その先へ進めば殺す。退けば殺さず。二つに一つ。傷物にはなりたくないじゃろう」
翼「いいえ」
忍「何?」
翼「阿良々木くんがそうであるなら、私自身が傷つくことなんて、気に留めるほどのことではありません」
忍「ほう、ぬかしおる。格下」
翼「けど――」
翼「あなたはもう傷つきたくないですよね。あなただって彼と同じ傷をずっと負っている身だもの、キスショットさん」
忍「……儂をその名で呼ぶな携帯食」
翼(途端、彼女の声も手も震えだす)
忍「あるじ様の前故、一度だけ融通を利かせてやる。いいか、『黙ってあるじ様から手を離せ』」
翼「私を携帯食なんて呼ばないで」
忍「――うぬの死は決定じゃ」
暦「やめろ忍!」
忍「――なんじゃ。海より広い儂の心もここらが限界じゃ」
暦「頼むから。羽川を離してやってくれ」
翼(懇願する阿良々木くん。しばらく沈黙が続き――)
忍「――明日は儂の願いを聞けよ」
翼(背後で忍ちゃんが床に着地する音がすると、彼女は阿良々木くんの影に向かい不機嫌そうに歩いた)
暦「羽川――さっき僕と忍が傷ついてるって言ったけど、お前だってそうだろ」
翼「…………」
暦「お前だって、たくさん辛いことあっただろ。鈍いな」
翼(どっちがだ――そう言って忍ちゃんは彼の影に消えていった)
翼「……ごめん」
暦「いや。でも、よかったぜ。お前がちゃんとお前でいてくれて」
翼「私ははじめから私だからね」
暦「ああ、そうだったな」
翼「そっか……、慰めてほしかったのは、私か」
暦「…………」
翼「あーあ。ちょっと仲良くなったと思ったけど、また忍ちゃんに嫌われちゃった」
暦「なあ、何か僕にできることってあるか?」
翼「……阿良々木くんにならできることはあるけど、できないことだと思うよ」
暦「どういうとんちだ?」
翼「阿良々木くんの言うとおり、私、すごく傷ついたの」
暦「うん」
翼「だから――」
翼(もう一度、阿良々木くんに歩み寄る――否、初めて近づいたのかもしれない)
翼「慰めてくれる?」
翼(そうは言っても、彼は私に触れる度胸がなかったし、やっぱり今もない)
翼(なので私が慰めました。もとい、襲いました)
翼(阿良々木くんに飛び込んで、押し倒しました。えへ)
暦「は、羽川……」
翼「……何もしないでいいよ。私が一人で勝手に助かるから」
翼(あなたで)
翼「とはいっても……」
翼(どうしたものか。何せ初めてだから勝手がわからない。勝手に助かるはずなのに)
翼「…………」
翼(とりあえず胸に顔を埋めて、彼の臭いを嗅ぐ)
翼(吸血鬼だけど、ちゃんと男の子の臭いだった)
翼(時折ちらとむこうを見ると、すごく吃驚して恥ずかしそうにしていた)
翼(ちなみに今の私はお風呂上がりで月火ちゃんに借りたパジャマを着ている)
翼(阿良々木くんは部屋着らしいTシャツとスウェットだった)
翼(Tシャツの裾から手を入れ、めくるように上へずらした)
翼「…………」
翼(吸血鬼効果なんだろうけど、筋肉がある。こういう男の部分見て興奮するのは、やっぱり私は女なんだなあ)
翼(やっぱり臭いを嗅ぐ。ちょっと汗くさい。そして鼻先で皮膚をなぞっていく)
翼(乳首まで来た。舐めてみる)
翼「ど、どうかな……」
翼(顔を見ながらやったほうがいいかと思ったら、予想が当たったらしく、阿良々木くんは気持ち良さそうに見えた)
翼(しばらく乳首を舐める。両手で彼の顔、首、腕、胸、腹を愛撫する)
翼(夢中になっていると自分の息が上がっていることに気付く。恥ずかしい)
翼(でも、今さらやめる気もない)
翼「何か、こうしてほしいとか、ある、かな」
暦「い、いや……、特には」
翼(と言いつつ彼の視線は一点集中。まあそうだろうそうでしょうね)
翼「……おっぱい、さわって、みる?」
翼(阿良々木くんは頷きもせず、体を起こすと私のパジャマの裾をつかんだ)
翼(この積極性は彼の嗜好が如実に表れていて、とても参考になる)
翼(男の人の力で脱がされるせいか、一瞬ぞくっとくる)
暦「あっ……、風呂上がりだから、つけて、ないんですね……」
翼「うん……」
暦「あ、こうなってたんですか、はあ、へえ、ほう」
翼(妙に芝居調で感心する阿良々木くん)
翼「あの、揉んでもいいんだよ?」
暦「えええ!? さ、さわってもいいのですか?」
翼「あ、ほら、あれ言ってあげようか。このおっぱい、阿良々木くんのものだよ。好きなだけさわっていいの」
翼(だったっけ? それにしても、本当この人口だけだったんだなぁ……)
翼(その口だけの阿良々木くんはというと、頭を抱えていた)
翼「あ、あれ? なんか変だったかな」
暦「僕は、何を言って……、もうほんっと僕馬鹿だな」
翼「まあ、あまり知性の感じられる台詞じゃないよね……」
翼(彼はここでもふんぎりがつかないらしく、空を揉んでいた。どんな比喩だこれ)
翼(仕方がないので、私は阿良々木くんの胸に背中を預け、彼の両手をそれぞれ掴み、胸に導いた)
翼「ほら、これで、ね」
翼(彼の指先が私の乳房に触れると、体が震えた)
翼(他人に触れられるとはこんな感覚なのかと、やっと理解し始めていた)
翼(彼の手のひらで乳房を覆うようにし――我ながら収まりきらないのだが――揉むように促す)
暦「うわぁ……うわぁ……」
翼「ん、ど、どう……かな、ふっ」
暦「なんていうか、生きててこんなのさわったことない」
翼「……それは、褒めてる、のかな、ん」
暦「ほ、ほめてる」
翼「そ、それじゃあ、よかった」
翼(嬉しい。恥ずかしくなるくらい)
翼(コンプレックスになってる時期もあったけど、それも水に洗い流そう)
翼(彼の手の動きも段々積極性を見せ始め、私もそれに併せて冷静さを少しずつなくしてきた)
ヘ, 、 ____ ヘ 、
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暦「あの、さ……好きなように揉んでいいでしょうか」
翼「ん……いい、よ」
翼(阿良々木くんはそれから全体を揉んだり、下の部分をさすったり、乳首を突いたりした)
翼(首筋に彼の鼻息を感じたが、背中を向けててよかった。たぶん、私は今情けない顔をしているだろうから)
翼「…………あぁ、あっ、ん、あっ、あっ、ふあぁっ、はっ」
暦「ど、どれくらいやれば……」
翼「へ? い、いいよ、好きなだけ、ああ、やぁん、あっ」
暦「そ、そっか」
翼(その後しばらく――たぶん20分くらい――彼は胸を揉んでいた)
翼(阿良々木くんが手を下ろすと、私は既に平静を失っていて、彼にもたれた)
翼(ぼんやりしていると、彼が顔を近づけてきたのがわかったので、私は慌てて払いのけた)
翼「だ、だめ、だめだめ!」
暦「へ!?」
翼「……キスは、しちゃダメ」
暦「羽川……」
翼「マウストゥマウスはダメだけど、口でしてあげるから」
翼(あ、口か。乳首舐めたりはしたけど、こういう場合ってやっぱり……)
暦「…………」
翼(なんか、期待してる顔になってるし……)
翼「……し、下、脱がすね」
翼(私は彼のスウェットに手をかけ――ついでだと思い、パンツにも手をかけ、下ろした)
翼(そして――彼の……が出てきた)
翼「…………」
翼(思わず引いた。ギーガーのエイリアンみたいだった。これ、口が開いて襲ってきたりしないかな)
翼(彼、一応吸血鬼だし……)
暦「あの、羽川さん、あんまりじっと見られると恥ずかしい……」
翼「私だって、阿良々木くんに計30分は揉まれてたんだから、これくらいいいじゃない」
暦「すみません……」
翼「…………」
翼(つついてみた)
翼「わ、すごい、元の位置に戻ってくるー」
暦「遊ばないでくれ……」
翼「へえ……あ、硬いんだね、やっぱ。へえ」
翼(亀頭(こういう単語は知ってる)を人差し指でぷにぷにと押してみる)
翼「……これで気持ちいいの?」
暦「いや、まだそんなには」
翼「ふうん」
翼(この後、これが私にインアンドアウトするわけだ。こう、擦ってやればいいのかしら)
翼(わ、これはすごくしてるっぽいかも)
翼「こ、こんな具合でいいのかな」
暦「で、できれば、もう少し強く」
翼(これくらいかな。こころなしか阿良々木くんは気持ち良さそうだ)
翼(でも、彼が今どれくらい感じてるかなんて想像でしかないのよね。案外、難しいな)
翼「…………」
翼(まあ、大丈夫だと思おう)
翼(私は彼のに口づけた。さっきみたいに、鼻で、舌で、指で愛撫してやる)
翼(先の方へ舌でなぞっていったら、阿良々木くんは大きく息を吐いた)
翼「ん……ろ、ろう?」
暦「ああ……ち、ちょっと落ち着かなくなってきたな」
翼(時々、彼の腰が浮く。私はいよいよ意を決し、それ全部を口に頬張った)
暦「うわ……」
翼(インアンドアウト、インアンドアウト……滑らせればいいのか)
翼(私は舌がさながらレールになるように彼のを口に出したり、入れたりした)
翼(舌をあれが擦っているので唾液の量がすごいことになっている)
翼(汚い気もしたけれど、続けるうちにその淫靡さと背徳感にのめりこんでいった)
翼(阿良々木くんの息が激しくなるのがわかった。私はちょっと余裕ができたのか活字で男性の喘ぎ声の需要について考えたりしていた)
暦「は、羽川、ごめん、そろそろ離して、でないと出そうなんだ」
翼「ん……、そ、そうなの」
暦「ああ……」
翼(彼が隙を見せたところで、私は一旦出したそれをもう一度口に含み、上下した)
暦「羽川っ……っ!」
翼(彼が声にならない悲鳴をあげたのと同時に、一気にそれが放出された)
翼(正直、その出てくるものを私は舐めていた。いや、まあ舐めていたんだけれども)
翼(喉の奥にそれは飛んでいき、詰まってしまった。私は彼から身を引き、えづいた)
翼「げほっ! げほっ! えほっ……」
暦「大丈夫か?」
翼「ごめん、ティッシュ、取ってくれないかな……」
翼(阿良々木くんは素早くティッシュ箱から2枚手に取り、私にくれた)
翼(ティッシュに吐き出したものを見ると、彼から出た白い液があった)
翼「……これで、妊娠しちゃうんだよね」
暦「え、あ、ああ、そうだな。あっ」
翼「どうしたの?」
暦「そういえば、持ってない……」
翼「……避妊具?」
暦「ああ……」
翼「……最後に外に出してくれれば」
暦「お前ってそういうこと言うタイプだったか!?」
翼「だって、私、もう……」
翼(確かにそういう時は避妊はしなきゃいけないと思っていたけれど、今さらあとには引けない)
翼「ほら、確実じゃないけど、安全日ってあるじゃない。私、今ちょうど大丈夫だから」
暦「そ、そうなのか」
翼(少しホッとした様子の阿良々木くん。ごめんなさい、嘘です)
暦「えっと、その、そっちの下、脱がすな」
翼「ん……」
暦「横になってくれるか?」
翼(私は仰向けになり、阿良々木くんはパジャマの下を脱がせた)
暦「黒だ……」
翼「一応言っておくと、偶々だからね?」
暦「羽川、その台詞をもう一度、ツンデレ調で言ってくれないか」
翼(なんか余裕がでてきている……)
翼「か、勘違いしないでよね。別に阿良々木くんのために穿いてきたわけじゃあないんだからね」
暦「ありがとう……」
翼「いえ」
翼(そのまま彼は私の下着をゆっくり脱がせた)
暦「あ、糸引いてる」
翼「え、あ! やだ! 言わないでよ」
暦「羽川はかわいいなー」
翼「…………」
暦「ん、どうした?」
翼「そんなこと言うの初めて聞いたから……」
暦「あれ、そうか? 僕的にけっこう頻度の高い形容詞のはずだけどな」
翼(……まあ、今は追求しません)
翼「でも、ちょっと嬉しいかも」
暦「羽川かわいいよ」
翼「乱発はNG」
暦「いや、本当だって」
翼(言いながら阿良々木くんはわたしのあそこへ手を伸ばし、触れた)
翼「ふああ!?」
暦「すっげ……」
翼(彼は円を描くようにそこをなぞっていき、最後に秘部に到達すると、ゆっくり指を入れた)
翼(先程の私と逆転――彼はいずれかの指を私にゆっくり入れたり出したりし、その度に私は体を振るわせ、声をあげた)
翼「やっ、やん、にゃっ、はあっ、あっ、あっ、ああっ、ふあっ、へっ!」
暦「気持ちいいのか、羽川?」
翼「やっ、訊かないでよう、はあっ、あんっ、あっ」
暦「もう、僕我慢できないわ」
翼(阿良々木くんは指を離し、私の息をつく間に足を開いて、いよいよ入ろうとしていた)
暦「本当にいいんだな?」
翼「だから……最初に言ったとおり、私が勝手に慰めてもらって、助かるだけだから……」
暦「そっか。じゃあ、する、から」
翼(そう言って彼は――場所がわからずしばらく頭を悩ませた)
翼「あの……、もう少し下」
暦「ああ、そっか……、指でしたのに、一回見失うとちょっとわからなくなるな」
翼「そういえばさ」
暦「なんだよ、にやにやして」
翼「春休みに戦ってるときも、私がアドバイスしたりしてたね」
暦「文字通り命がけでな」
翼「あの時は……、ん、いいや。はい、どうぞ」
暦「ああ……、じゃあ、おじゃまします」
翼「いらっしゃいませ」
翼「……あ、いた、いたい、いたい、いた」
翼(痛い)
翼(入ってきた瞬間は平気だったのが奥に進んでくるにつれて痛みが増す)
翼「痛い、なぁ……」
暦「平気か?」
翼「いや、わりと深刻に……、でもまあ、いいよ、阿良々木くんの好きにして」
暦「そうか?」
翼(ちょっとずつ進んでいるのはわかる。たぶんまだ全部は入っていないはず)
翼(あ……こんなところかな?)
暦「羽川、入った」
翼「うん。あ――」
暦「どうした?」
翼「中身デローンってしちゃったとき、こんなアングルで阿良々木くんを見てたかも」
暦「……嫌なこと思い出させるなよ」
翼「ごめんごめん。ほら、インアンドアウト、インアンドアウト」
暦「って、いきなり動いていーもんなのか? 慣れるまでは待機ってモノの本には」
翼「別に平気だからさ。ね、お願い」
暦「お願いされちゃあな」
翼(阿良々木くんは本とやらに倣ったのか、ゆっくりゆっくり動いてくれた)
翼(私も時間が経つに連れて――というよりどんどん『その気』になっていったので、気持ちよくなった)
翼(何より、ここから阿良々木くんの必死な顔を見ていると、なんだかこちらも感化されてしまうのだ)
翼「ね、ねえ、あっ――位置、交代してみよっか」
暦「位置……体位か。どうするんだ?」
翼「私と阿良々木くんのポジ交代」
翼(そして、私は彼に跨った。騎乗位というらしいが、今乗っているのは馬ならぬ鬼だった)
翼(鬼とはいっても、彼は私のヒーローだった)
翼(ああ、たぶん、あの二回目の時はきっと、こうしたいって思ってたんだ――)
暦「羽川?」
翼「えっと、私が動いてもいいかな」
暦「ああ」
翼(まだ勝手がわからない。けど、ようはあれが出たり入ったりすればいいわけだ)
翼(だからそうなるように腰を動かせばいいだけ)
翼「あっ……あっ、はっ、ああっ、ひゃっ、んっ、んんっ、ふっ」
翼(痛いし――でも気持ちも良いし)
翼(私はそのまま彼の身体に倒れこみ、なおも動き続けた)
翼(そういえば、『こないだ』はここを舐めたらすごい血が出ていたっけ)
翼(もうとっくに傷は消え、跡形もないそこを舌で舐めた。もちろん、血は出ない)
翼(私は化け猫じゃなくて――今はただの色ボケ猫だから)
暦「羽川、ごめん、そろそろ……」
翼「うん?」
暦「ま、また出そうだから、どいてくれないと……」
翼「いやだ」
暦「だって、でなきゃそのままだぜ?」
翼「いいよ、阿良々木くんなら」
暦「羽川……」
翼「ば、馬鹿みたいだってわかってるけど、今日の何もかも、で、でも私はまだ――」
暦「ごめんな」
翼(謝らないでくれたら、許してあげたのに――)
翼「ふあっ、ああっ、や、やんっ、あ、あ、あ、あっ、ああっ」
翼(私はそのまま中で阿良々木くんから出てくるものを受け入れ、受け止めた)
翼(終わってから――阿良々木くんはお風呂に行き、私は一人彼の部屋でぼおとしていた)
翼(彼と体を重ねられたのは嬉しいけど、なんだろう)
翼(私はこれで何かを為せ、そして何かが成ったのだろうか)
月火「――羽川さーん。いるー?」
翼(月火ちゃんがノックするので、私は返答した)
翼「うん、いるよー」
月火「入るよー」
翼(一応、さっきまでの証拠は隠滅したつもりだけど……)
月火「窓、開いてるよ?」
翼「あ、ああ! ちょっと暑いかなーなんて」
月火「ふうん」
翼(スマイルの月火ちゃんはしばらく部屋を歩き回り、ベッドを凝視したり、ティッシュの箱を見つめたりし、)
翼(そして、ごみ箱を嗅いだりした……)
翼「あ、あのう、何、してるの?」
月火「今月のLO――ああ、お兄ちゃんが買ってるエロ漫画でね、妹が隣の部屋の兄の情事に聞き耳立てるっていうのがあったんだけど」
翼「…………」
月火「まさか、それがそっくり体験できちゃうとは、さすがに度肝抜かれたというかなんというか」
翼「…………」
月火「ああ、火憐ちゃんもう寝ちゃってるから。パパとママもたぶん」
翼「…………」
月火「さて、羽川さん――羽川翼さん」
翼(お話しようか。月火ちゃんはそう言った)
月火「私は羽川さんがお兄ちゃんのこと好きなのは全然オッケーだと思うの」
翼「うん……」
月火「私だって、お兄ちゃん好きだしね」
翼「うん?」
月火「まあそれは置いとくとして、例え彼女がいてもそこまで積極的になれるなら羽川さんの『好き』は認めるべきなんだと思う」
翼「認めるって」
月火「だって、襲っちゃうくらい好きなんでしょ? あのヘタレ兄が襲うわけないし」
翼「そうなんだけど、襲ったというか、阿良々木くんの優しさに甘えたっていうことだと思う」
翼(襲撃した過去もあるけど……)
月火「そっか。羨ましいなあ。私はそこまで甘えるわけにはいかない事情があるから」
翼「……月火ちゃんは、お兄ちゃんが好きなの?」
月火「夜這いを実行しそうになる自分を抑える毎日です」
翼(得意気に言う月火ちゃん。毎日なのか……)
翼「事情っていうのは、やっぱり、その、兄妹だから?」
月火「うん。あともう一つ。これはちょっと言えないんだけれど」
翼(近親愛以外。彼氏のことだろうか。それとも他の理由だろうか?)
月火「だから私はお兄ちゃんに『好き』のベクトルを向けてもぶつけるわけにはいかない」
翼(自分のポリシーに反してもね、と月火ちゃんは続ける)
月火「今まで何人かお兄ちゃんを好きだっていう子を見てきたけれど、やっぱりどこかで諦めちゃうんだよね」
月火「つりあわないとか、自信がないとか。羽川さんは知ってると思うけど、お兄ちゃん押しに弱いからさ」
翼「そうだね……」
月火「だから、前まではちょっと頑張れば不可能じゃないことだったんだよ、お兄ちゃんと付き合うなんて」
月火「でも――戦場ヶ原さん」
翼(あの人が現れて、そういう子がぱったり来なくなったんだよ。月火ちゃんはそう言う)
月火「羽川さんがお兄ちゃんとクラス一緒になったのって今年から?」
翼「うん。そうだよ」
月火「前にさ、お兄ちゃんから恋愛相談受けたって言ったのを覚えてる?」
翼「ああ、確か5月頃にって――」
月火「あれはゴールデンウィーク最初の日。4月29日。お兄ちゃんが気になる子がいるって言ってきたの」
翼「4月……?」
月火「クラスのHさんていう子が気になるって――あれってたぶん羽川さんのことだと思う」
翼「…………え?」
翼(ちょっと待って。4月29日? 確か阿良々木くんが戦場ヶ原さんのことを訊いてきたのはゴールデンウィーク明けのことで)
月火「初めは『戦場ヶ原ひたぎさん』がHさんだと思った」
翼(けど、と月火ちゃんは続ける)
月火「あの時話してた内容と今の羽川さんとお兄ちゃんの付き合いを見てるとそれは間違いだった」
月火「Hさんは羽川さん。お兄ちゃんが私に恋愛相談してきたのは羽川さんについてだったんだよ」
月火「私はその時、お兄ちゃんの相談に真面目に耳を貸してあげられなくて」
月火「だから、その時の気持ちも流れていっちゃった」
月火「これは今さらの話で、私が言うべきことでもないのかもしれない」
月火「でも、たぶん私のせいで誰かが不幸になってるのはわかるから」
月火「……ごめんなさい」
翼(月火ちゃんは、見たこともないような綺麗な土下座をして、謝罪した)
月火「私が余計なこといわなければよかった。もっとちゃんと耳を傾けるべきだった」
月火「私が動揺したりしていなければよかった。お兄ちゃんなんか好きになっちゃったばっかりに」
月火「私が――いなければよかったのに」
翼「…………」
翼「……い、いや」
翼(違う。決してこの子のせいじゃない。でも――)
月火「私なんかいなければよかったんだ。私なんかいなければよかったんだ。私なんかいなければよかったんだ。
私なんかいなければよかったんだ。私なんかいなければよかったんだ。私なんかいなければよかったんだ。
私なんかいなければよかったんだ。私なんかいなければよかったんだ。私なんかいなければよかったんだ。
私なんかいなければよかったんだ。私なんかいなければよかったんだ。私なんかいなければよかったんだ。
私なんかいなければよかったんだ。私なんかいなければよかったんだ。私なんかいなければよかったんだ。
私なんかいなければよかったんだ。私なんかいなければよかったんだ。私なんかいなければよかったんだ」
翼(自らへの呪詛を呟く月火ちゃん。それは断末魔のごとく)
月火「私が――この家に生まれてこなければよかったんだ」
翼「……違うよ」
月火「…………」
翼「それはきっと違う。誰もそんなこと思っていないし。私だって」
翼「月火ちゃんのせいで私が失恋しちゃったみたいな話に聞えるけど、頭の固いミステリじゃあるまいし、そんなわけないでしょう」
月火「……そうかな」
翼(まるで『これまではそうだった』かのように、死にそうな声で話す月火ちゃん)
月火「私は羽川さんにすごく好感を持っているし、お兄ちゃんと付き合っていてもきっと祝福できたと思う」
月火「だけど、きっとどこかでブレーキがかかっちゃうんだ。結局、あの人に狂っちゃってるから」
翼「月火ちゃん、さっきの事情っていうのは絶対に言えないものなの?」
月火「こればっかりは私が100歳まで生きてお墓に仕舞わなきゃいけない。もしかしたらお兄ちゃんは勘付いているかもしれないけど」
月火「ごめんなさい。要領を得ない話になっちゃって」
翼(でもね、と言って、月火ちゃんは立ちあがった)
月火「お兄ちゃんが好きなら、出来る限り向かっていってほしいの。みんな」
月火「私にはできないから……」
月火「だから羽川さんも戦場ヶ原さんに遠慮せずに、ガンガン襲って、バンバンえっちするといいんじゃないかな」
月火(と、最初の明るさを急に取り戻し――怪しいほどに――私に言った)
月火「そろそろあの変態兄貴も戻ってくるし、羽川さんもこっちで寝るといいよ。体裁としてね」
翼「月火ちゃんは――いいの?」
月火「ん?」
翼「月火ちゃんだって、阿良々木くんに想いをぶつければいいじゃない」
月火「なんだかんだ、この妹っていうポジションはけっこうイイんだよ。一番近づけるしね」
翼「でも」
月火「でも――そう、この妹だからまた一番遠い。だから私の長所はお兄ちゃんの妹であること。そして」
翼(短所はお兄ちゃんの妹であることなんだよ。そう言う月火ちゃんは中学生には見えないほど何かを悟って、)
翼(とても切ない女の子に見えた)
月火「これだけ考えて考えて、悟って悟っても、子供扱いされちゃうんだから敵わないよね」
翼「明朝――午前5時。阿良々木くんの部屋の事)
暦「ん……、何やってんの羽川?」
翼「あ、おはろー」
暦「いや、いい挨拶だけども」
翼(なんで朝から僕の舐めてるんだ。というごもっともな質問)
翼「夜這いです」
暦「もう夜じゃねーよ。明け方だよ」
翼「まあまあいいじゃない。阿良々木くん好きでしょこーゆーの」
暦「ちょっ、待てって」
翼「らいひょぶらいひょぶ、あさのしらうまれにはおわるはら」
暦「くそっ、ちょっとかわいいとか思ってる自分が――」
翼(さっき、ここの部屋に入ると――一足先に月火ちゃんがお兄ちゃんの寝顔を見つめていた)
翼(毎朝火憐ちゃんと起こす前に、こうして『独り占めの時間』を楽しむのだと)
翼(私に見つかり、ばつが悪そうに教えてくれたのだった)
翼(本日の下校はまっすぐ戦場ヶ原家へ)
翼(学校で訊けばもうライフラインは復活したとのこと)
翼(彼女は昨日当たった私にも依然と――平然として接してくれたのだった)
ひたぎ「――で、どうだったのかした。阿良々木くんとの夜は」
翼「は!? いや、ああ、もちろんみなさんによくしていただいたよ」
ひたぎ「私が聞きたいのはどうも私に敵対感情を持っているあの姉妹とかのことじゃなくて」
翼(あの男との一夜のことよ、と戦場ヶ原さんは私の耳元で囁くように言った)
翼「な、何言ってるのよ、ガハラさん」
ひたぎ「ガメラみたいなアクセントで呼ばないで」
翼「な、何言ってるのよ、ガーハラさん」
ひたぎ「ガーハラさんってなんだかバーバラさんとか外国の名前みたいじゃない」
ひたぎ「やれやれ。正直に答えてくれれば優しくしてあげようと思ったのに」
翼(戦場ヶ原さんは制服のリボンをしゅるとはずすと、私に艶めかしい足取りで迫ってきた)
翼「な、何で脱衣してるのかなあ」
ひたぎ「安心なさい。一夜といわず、今から二回目の夜までたっぷりかわいがってあげるから」
翼(幸い明日は創立記念日だし、と彼女が言った。なんて都合のいい、否、悪い)
ひたぎ「阿良々木くんよりもちょ~~っと、痛い目に遭うかもしれないわね」
翼「ほ、ホッチキスであそこ閉じちゃったりするの?」
ひたぎ「ホッチキス? 羽川さんずいぶん猟奇的なことを考えるのね。ケッチャムとか平山夢明の読み過ぎじゃない?」
翼「……ごめんなさい」
ひたぎ「…………」
翼「こんなの許されることじゃないってわかってるけど、いつか戦場ヶ原さんが言ってたこと」
――阿良々木くんのこと、今でも好き?
翼「私、今でも阿良々木くんのこと好きだよ」
ひたぎ「……いい台詞を言っているようだけれど、震えているわよ」
翼「あ……」
ひたぎ「まるで私に告白しているみたい。ドキドキしちゃったわ」
翼(戦場ヶ原さんは右手を私の顎を鷲掴みにして、自分の方へ向けさせた。空いた手がすごく気になる。なんだろう。何されるんだろう)
ひたぎ「さあて、一緒に遊びましょうか」
翼(彼女はもう一方の手も使い私の顔をがっちり固定すると私に――――唇が剥がれそうなほど熱いキスをした)
翼「――で、結局そのまま48時間、ぶっ通しでやっちゃったんだよね」
ひたぎ「エキサイティングだったわ」
翼「48時間で四十八手制覇しようとするし」
ひたぎ「性覇、というべきかしら」
翼「私もう一日目の三つめでヘトヘトだったよ。つばめ返ししてるころ」
ひたぎ「あら、ちょうど盛り上がってきたっていうところじゃない。羽川さんいい声出してたわ」
翼「ああ、そうそう。あの撞木ぞりってやつ、あれ危ないからやらないほうがいいよ」
ひたぎ「獅子舞とかも楽しかったわね」
翼「食事・トイレタイムは、なんか二人羽織りになってたよね。全裸だったけど」
ひたぎ「二人一緒にトイレに入るのは、なかなか出来る体験じゃないわね」
翼「戦場ヶ原さん、あと押し車とかすごいやってたよね。下役」
ひたぎ「やってると面白くなってくるのよ。あとどれだけ耐えられるかな、あ、気持ちいいみたいな」
翼「どうしてあんなことになっちゃったのか、もうよくわかんないけど。貴重な体験だったと思う」
ひたぎ「そうね。卒業アルバムに収めてもらいたいわ」
翼「それは断固拒否しておく」
ひたぎ「そう。ところで、もうそろそろ飛行機の時間なんじゃないの?」
翼「うん」
翼(私はこれから、来年予定している世界旅行の下見に、ちょっと地球一周をしてくるのだ)
翼「でも、戦場ヶ原さんは阿良々木くんと関係してしまった私が憎くないの?」
ひたぎ「あなたと男の趣味が一致したように。阿良々木くんと女の趣味が一致したということよ。つまりあなたと私」
翼「あ、自分も好きなんだ……」
ひたぎ「ええ。大好きね。阿良々木くんの彼女になれた女だもの」
翼「私も、もう少し早く動けていれば――」
ひたぎ「…………」
翼「――ううん、今のなし」
翼「ねえ、たぶん阿良々木くん、これからも女の子のいるとことほいほい行っちゃうと思うよ」
翼「他に私みたいな女の子もいるかも」
ひたぎ「どれだけ汚れようとも、最後にこの私の膝元にいればそれでいい」
翼「それ、拳王とかそういうやつの台詞じゃ……」
ひたぎ「性紀末覇王ヒタギとは私のことよ」
翼「字が違う!」
ひたぎ「四十八手制覇したし」
翼「え、そのための地獄の二日間だったの!?」
ひたぎ「一片の悔いのない人生を歩めなくても、満足のいく最後を目指すつもりよ」
翼「そっか」
ひたぎ「そろそろね。あなたも身体に気をつけてね。あなたの身体はもうあなたのものではないのだから」
翼「ちょっと違うけど……、うん、気をつける」
ひたぎ「世界旅行に別の意味合いが生まれてくるわね」
翼「まあいいよ……、戦場ヶ原さんも気をつけてね。こわーいラスボスが残っているから」
ひたぎ「この世に恐いものなんかないわ」
翼「頼もしい」
翼(でも――裏ボスがいるかもしれないからね)
翼「じゃあ行ってくる」
ひたぎ「いってらっしゃい」
翼「いってきます」
翼(私は私の門を抜ける。帰るところを後にして)
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