<王国城>
旅立ちを前に、国王に謁見する勇者。
国王「では頼んだぞ、勇者よ!」
大臣「必ずや魔王を打ち滅ぼして下さい」
勇者「はい」
勇者「勇者として、この俺が魔王を倒してみせます!」
勇者「ではさっそく、ここで一句詠ませていただきます」サラサラ…
国王「一句?」
勇者『 いざゆかん 打倒魔王の 旅路へと 』
国王(この男、いつも筆と短冊を持ち歩いているのか……?)
国王(なんだか不安になってきたんだが……)
すると──
大臣「クックック……勇者、残念ながらあなたは旅立てませんがね!」バサッ
勇者「!」
国王「! ──だ、大臣!?」
大臣「クックック……私は大臣などではありません」
大臣「必ずや王のもとに現れるであろう勇者を抹殺せよ、と」
大臣「魔王様からおおせつかったスパイ──魔族なのですよ!」ギラッ
大臣「人間に変身し、大臣として業務を果たして十数年!」
大臣「この時を待ち焦がれていました!」
大臣「さあ、死んでもらいましょうか、勇者!」
国王「ワシをだましておったのか、大臣!」
国王「ワシはおぬしを、もっとも信頼できる右腕だと思っておったのに……!」
大臣「だまされる方が悪いのですよ、国王陛下」ニィッ
勇者「ケンカはそこまでだ。どちらにせよ、お前を倒さなきゃならないらしいからな」
大臣「そうですね、さあさっそく戦いを始めましょうか」
勇者「その前に、一句いいか?」
大臣「一句? なるほど、辞世の句のおつもりですか……」
大臣「よろしい、詠んでみなさい」
勇者『 大臣に なりきる魔物 見事なり 』
大臣「? ……どういう意味です?」
勇者「魔物という立場でありながら、この十数年」
勇者「国王様をもだましきるほどに大臣の職務を全うしたアンタへの、賛辞だよ」
大臣「!」ガーン
大臣の脳裏に、十数年の思い出が蘇る。
国王『よろしく頼むぞ、大臣!』
国王『大臣、国費をちょろまかして二人でパブに──え、ダメ?』
国王『大臣がいるかぎり、これからも我が国は安泰だ!』
~
勇者「さあ、勝負──」チャキッ
大臣「うおおおおお……っ!」ガクッ
勇者「え?」
大臣「陛下……私は目が覚めました。やはり私は陛下を裏切れません……!」
大臣「どうか……お許しを!」
国王「おお、大臣! おぬしの正体がなんであろうと、かまうものか!」ガシッ
大臣「陛下……!」ガシッ
勇者「…………」サラサラ…
勇者『 友情に 人も魔物も 無関係 』
<城下町>
国王からもらった資金で、旅の準備を整える勇者。
店員「ありがとうございましたーっ!」
勇者(装備も買って、アイテムも買って、準備万端)
勇者(“備えあれば憂いなし”だからな)
勇者(……だけど、やっぱり一人ぐらい仲間が欲しいな)
勇者(“旅は道連れ、世は情け”っていうしな)
勇者(こんな危険な旅についてくる物好きが簡単に見つかるとも思えないけど)
勇者(とりあえず酒場に寄ってみるとするか)
<酒場>
ワイワイ…… ガヤガヤ……
ギィィ……
主人「やぁ、いらっしゃ──おお、勇者様!」
勇者「景気よさそうだね」
勇者「さて酒場にいるみんな、話がある!」
ザワッ……! ザワザワ…… ドヨドヨ……
勇者「俺はこれから魔王討伐の旅に出発する」
勇者「誰か……ついてきてくれる者はいるか?」
シ~ン……
勇者(やっぱりな……)
勇者(今や魔王軍の勢力は絶大だ。こうなるとは思っていた……)
すると──
戦士「ボクが付き合ってもかまいませんよ」バサッ
勇者「!?」
勇者(鎧の上に白衣って、どういうファッションセンスだよ!)
戦士「ボクは戦士です」
戦士「魔王退治の資金集めのため」
戦士「計算が得意なのでここで経理として雇われていましたが──」
戦士「それも終わりの時が来たようです」
勇者「……だけど、アンタ戦えるのか?」
主人「勇者様、彼の腕前はワシが保証します」
主人「ここでケンカ騒ぎが起きたら、いつも彼が冷静に止めてくれましたから」
勇者「へぇ……」
勇者(“人は見かけによらぬもの”ってことか)
勇者に近づく戦士。
戦士「ほぉう、あなたが勇者ですか」
戦士「なるほど、なるほど」ジロジロ…
戦士「現在のところ、あなたが魔王を打倒する可能性は、ほんの数パーセントですが」
戦士「今後の成長を加味すると、どうなるかは分からない、といったところですか」
戦士「ボクは将来的には剣術をもっと科学的なものにしたいと考えているのですが」
戦士「あなたに同行すれば、新鮮なデータがいっぱい取れそうだ」
勇者「モルモット扱いされるのは気に食わないが──」
勇者「その実験に命を賭ける気概があるんなら、ひとつよろしく頼むよ」
戦士「フフフ、こちらこそよろしく」
勇者「では、ここで一句」
戦士「一句?」
勇者『 計算が 得意な戦士 仲間入り 』
勇者&戦士(なんだか妙な奴と一緒に旅に出ることになってしまった……)
ドゴォンッ!
勇者「な、なんだ!?」
戦士「外からですね」
ザワザワ…… ドヨドヨ……
戦士「音から推測すると、建物が破壊されたものと思われます」
勇者「よし、行くぞ!」ダッ
戦士「距離はおよそ500メートル、といったところでしょう」
戦士「ボクたちならば、一分以内にたどり着けます」ダッ
酒場を飛び出る二人。
<城下町>
ワーワー…… キャーキャー……
ガーゴイル「勇者はどこだァ~!?」
勇者「ここだ!」ザッ
戦士「ボクは戦士です」ザッ
ガーゴイル「ヒヒッ、探す手間がはぶけたなァ。ついてるゥ!」
ガーゴイル「ついさっき、送り込んでた“スパイ”が失敗したって連絡が入ってなァ」
ガーゴイル「この地方を任されてる魔族であるこの俺様に、役目が回ってきたワケだ」
勇者(スパイ……大臣のことか)
ガーゴイル「勝負といこうかァ、勇者!」
勇者「いいだろう。ではまずは──」
勇者「一句詠もう」
戦士「いや、計算が先です」
勇者「計算?」
戦士「はい、まずはあの魔物を観察し、どういう性質かを見極めるべきかと」
ガーゴイル「なにをブツブツしゃべってんだァ!?」ブオンッ
ズギャアッ!
ガーゴイルの爪が、地面をえぐる。
勇者「あっぶねえ!」
戦士「くっ……」
勇者「オイ、早く計算してくれよ!」
戦士「今はまだ、計算に必要な検証材料が足りません」
戦士「というわけで勇者さん、頑張って下さい」
勇者「ようするに俺一人で戦えってか……」
勇者とガーゴイルの一騎打ち。
キィンッ! ギィンッ! キンッ!
勇者「くっ……!」
ガーゴイル「ぬうっ……!」
ザシッ!
ガーゴイル「ぐおっ!」ヨロッ…
ズバッ!
勇者「ぐっ……!」ガクッ…
キンッ! ガキンッ! キィンッ!
戦士「ふむふむ……」
戦士「なるほど……計算完了です」ニヤッ
戦士「勇者さん、お喜び下さい。必勝法を編み出しましたよ」
勇者「本当か!?」
戦士「まずガーゴイルが11m/sの速度で突っ込んできたら」
勇者「うん」
戦士「距離2.25mまでひきつけ、そこで3m/sの速度でゆるりと回り込みます」
勇者「うん……?」
戦士「その後、ガーゴイルの背面に回り込んでから1.7秒後──」
勇者「う、ん……」
戦士「重力加速度と遠心力を味方につけた剣でもって」
戦士「26度の角度にて斬り込むのです」
勇者「ちょ、ちょっと待ってくれ。もうちょっと分かりやすくいってくれ」
戦士「これでもだいぶ噛み砕いたつもりですが」
勇者(マジかよ……)
ガーゴイル「ヒヒッ、どうしたァ、勇者!?」ダダダッ
勇者「わっ、来た!」
勇者「だったら戦士、自分で今の必勝法をやってみせろ!」
勇者「“言うは易く、行うは難し”っていうだろ?」
戦士「今の必勝法は勇者さんの身体能力で計算した結果なのですが──」
戦士「仕方ありませんね」
ガーゴイル「切り裂いてやるっ!」ブオンッ
戦士「はっ!」サッ
ガーゴイル(回り込まれた!?)
戦士「でいぃっ!」シュバッ
ザシュッ!
ガーゴイル「ギャッ!?」
勇者(おおっ、すごい! 本当に一撃浴びせた!)
ガーゴイル「ぐはっ……! ぐぐっ……!」ヨロヨロッ…
戦士(やはりボクの筋力では倒すまでには至らなかったか……)
ガーゴイル「ヒヒッ……。く、悔しいが、ここはひとまず退散だァ……」バッ
勇者「あっ、逃げた!」
戦士「逃走速度は60km/hというところですか……追いつけませんね」
勇者「いや……だけどよくやってくれた」
勇者「あそこまで精密な動きができる剣の使い手なんて、初めて見たよ」
ワァー……! ワァー……!
「二人とも、ありがとう!」 「よくやった!」 「すごかったぞぉ!」
ワァー……! ワァー……!
勇者「今後ともよろしく頼む」ニコッ
戦士「フッ……こちらこそ」ニッ
勇者「ここで一句」
勇者『 頼もしき 仲間とともに 故郷発つ 』
城下町を出た二人──
勇者「さて、戦士。君の計算ではまずどうすべきだと考える?」
戦士「やはり、もう二人は仲間が欲しいですね」
戦士「魔法での攻撃のエキスパートと……あとは回復役といったところですか」
戦士「魔王軍との戦いは、物理攻撃だけで乗り切るには厳しすぎますからね」
勇者「攻撃魔法と……回復役か」
勇者「そういえば、東の町には大きい修道院があるな」
勇者「もしかしたら、仲間になってくれる回復魔法の使い手がいるかもしれない」
勇者「行ってみよう!」
<東の町>
勇者「お尋ねします」
町民「おや、なんだね?」
勇者「この町には修道院があると聞きましたが、どこにあるんでしょうか?」
町民「ああ、あっちにあるよ」スッ
戦士「ずいぶんアバウトですね。ちゃんと方角と距離を正確にお願いします」
戦士「例えば北北西に315mとか……」
勇者「お、おい……」
町民「ああ、ここから西南西に817.5mってとこかな」
戦士「ありがとうございます」
勇者(この町民も理系か……)
<修道院>
勇者「こんにちは」
院長「ようこそいらっしゃいました」
勇者「実は俺たち、魔王退治の旅をしておりまして」
勇者「回復魔法を使える人を探しているんです」
勇者「こちらの修道院で、どなたか旅に出られるような方はいませんか?」
院長「そうですねえ……」
院長「回復魔法は使えても、過酷な旅路に耐えられる娘、となると──」
勇者(そりゃそうだよな……)
勇者(死ぬかもしれない旅だ。“可愛い子には旅をさせよ”というわけにはいかない)
戦士(該当者がいる可能性は、2%といったところですかね)
院長「一人だけおりますわ」
勇者&戦士「え!?」
院長「こちらへどうぞ」スッ…
<礼拝室>
院長「ちょうど今、お祈りの時間ですのよ」
勇者「へぇ……みんな静かに──」
「神よ……」 「神よ……」 「神よッ!!!」
「救いを与えたまえ……」 「救いを与えたまえ……」 「救いを与えたまえッ!!!」
戦士「……一人だけ100デシベル以上の声を張り上げている女性がいるんですけど」
戦士「ジャージのような材質のローブで、下はスニーカーですし……」
院長「はい……彼女こそ、我が修道院が誇る」
院長「“体育会系僧侶”です」
勇者(た、体育会系僧侶……!?)ゴクッ
院長「僧侶さん、祈りを中断してこちらにいらして」
僧侶「オスッ! 院長ッ!」ダダダッ
戦士(速い! すごい瞬発力だ……!)
僧侶「──えぇっ!? アタシが魔王退治の旅に!?」
勇者「……どうだろうか?」
僧侶「もちろん、お供させて下さいッス! こういう機会を待ってたんッスから!」
僧侶「うおおおお、燃えてきたッ! 体が太陽みたいになってるッス!」
勇者(なんだか、すごいのが入っちゃったなぁ)
戦士(体温はそんなに上がらないっての……。ボク、この人苦手だ……)
すると──
修道女「院長、大変です!」ハァハァ…
院長「どうしました?」
修道女「町にモンスターが攻め込んできました!」
院長「なんですって!?」
勇者「よし、戦士と僧侶さん! こういう時こそ、俺たちの出番だ!」
戦士「分かりました」
僧侶「おっしゃあああああっ! 分かったッス、先輩!」
<東の町>
町中で暴れ回るゴーレム。
ワー……! キャー……!
ズガァンッ! ドゴォンッ!
ゴーレム「ハカイスル……ハカイスル……」
勇者「そこまでだ! ここからは俺たち勇者パーティーが相手をする!」チャキッ
戦士「かなりの破壊力ですね。腕力は軽く数トンはあるでしょう」チャキッ
ゴーレム「ユウシャ……? ハカイスルッ!」グオオッ
勇者「はっ!」シュバッ
戦士「せやっ!」シュバッ
ガギギィンッ!
勇者「硬い……! “歯が立たない”とはまさにこのことだな」ザッ
戦士「この感触……。彼の体は原子番号26……鉄でできているようですね」ザッ
勇者「でも、いくら硬くても“雨だれ石をうがつ”ように根気強く攻撃すれば──」
ゴーレム「ハカイスルゥッ!」ブオンッ
バキィッ! ドガァッ!
勇者「ぐわっ……!」ドザァッ
戦士「ぐっ……! このパワー、長期戦をするには危険すぎますね……!」
勇者「かといって他に手はない! 僧侶、俺たちを回復──」
僧侶「うおおおおっ! キレちまったッス!」メラメラ…
僧侶「アタシの町や、先輩たちに何しやがるぅぅぅっ!」ズドドドドッ
勇者「ちょっ、俺たちを回復──」
ドゴォッ! ベキィッ! バキィッ!
僧侶とゴーレムが、豪快に殴り合う。
ゴーレム「ウゴォッ……!」ヨロッ…
戦士「女性が素手でゴーレムと殴り合う……!? なんて非科学的な……!」
勇者「職業間違えてないか、この女……」
ガシィッ……!
ゴーレム「グオオオ……ッ!」グググ…
僧侶「ぐぎぎ……!」グググ…
町民「がっぷり四つの体勢になった!」
院長「これでもう、僧侶さんの勝ちですね」ニッコリ
勇者「ええっ!?」
僧侶「うおお……っ!」ググッ…
ゴーレム「!?」
僧侶「おっしゃあああああっ!!!」ブオンッ
ズガァンッ!!!
頭から地面に叩きつけられるゴーレム。
ゴーレム「コウドウフノウ……コウドウフノウ……」プシュウウ…
戦士(ゴーレムを投げ飛ばすなんて……! 信じられない……!)
勇者「い、いやぁ~すごかった……。助かったよ……」
僧侶「アハハッ! アタシも役に立ててよかったッス!」
勇者「あれ、戦士は……?」
戦士「ありえない……ありえない……」ブツブツ…
戦士「人間、まして女性の骨格でゴーレムに打ち勝つなんて……」ブツブツ…
戦士「またデータを追加しなくては……」ブツブツ…
勇者「どうもエラーを起こしてるらしいな」
勇者「……ま、とにかく、俺たちは君を歓迎するよ。よろしく!」
僧侶「オッス!」
戦士「特殊なタンパク質……? あるいは遺伝子レベルの突然変異……」ブツブツ…
勇者「ここで一句」
勇者『 心身が 燃えてる僧侶 歓迎す 』
東の町を出発した一行──
僧侶「これからどうするんスか、先輩たち!」
勇者「あとは……攻撃魔法のエキスパートが欲しい」
戦士「となると、北の町の魔法学校に向かうのがベストでしょうね」
戦士「しかし、ここから北の町に向かうには、大平原を通らなければなりません」
戦士「どこかで馬を調達──」
僧侶「なぁにいってんスか! 自分の足で行きましょうよ!」
勇者&戦士「へ!?」
僧侶「さあ、出発ッスよ!」ダダダッ
勇者「しかも、徒歩じゃなく走るのかよ!」タタタッ
戦士「参りましたね、これは……」タッタッタ…
<大平原>
勇者「いい景色だ……。こういう場所では是非一句──」スッ…
戦士「勇者さん、なにやってるんですか! 前方10メートルに敵がきてますよ、敵!」
僧侶「うおおおおっ! アタシが戦うんで、フォローお願いしますッス!」
~
戦士「おお、これは珍しい植物ですね! 標本として持って帰りましょう!」ブチッ
勇者「お~い、いちいち立ち止まるな。日が暮れちゃうよ」
僧侶「戦士先輩って、変わった人ッスねぇ……」
~
勇者「いだだっ……回復してくれ、回復!」ヨロヨロ…
僧侶「運動中に水を飲んじゃいけないように、戦闘中は回復しちゃダメッス!」
戦士「そんなの非科学的だァ!」ヨタヨタ…
どうにか大平原を抜けた三人──
勇者「いやぁ~……どうにかなったな」
戦士「ええ、何度も死にかけましたけどね」
僧侶「アハハッ! アタシはまだまだ平気ッスよ!」
戦士「タフですね……いずれあなたの体を本格的に研究したいですよ」
僧侶「研究!? アタシはいつでもオッケーッスよ! 戦士先輩!」
戦士「ほぉう、じゃあさっそく服を脱いで──」
勇者「オイやめろ」
勇者「あれが北の町だ。“善は急げ”というし、さっそく向かおう」
<北の町>
北の町は、人間界でもっとも魔法研究が進んでいる町である。
僧侶「魔法が盛んな町ってだけあって、町の人も妙にお上品な雰囲気ッスねえ」キョロキョロ
僧侶「アタシにはあまり合わないッスね」
勇者「君は本来、彼ら側の人間だからね? 分かってるかい?」
戦士「なにをキョロキョロしてるんです、二人とも。頸椎をいためますよ」
戦士「聞き込みで、魔法学校の座標が分かりました」
戦士「魔法の使い手をスカウトに行きましょう」
勇者「ああ!」
勇者(いい魔法使いがいるといいが……)
<魔法学校>
校長「──そういうことでしたら、うってつけの人物がいますよ」
校長「我が校を首席で卒業予定の生徒を紹介しましょう」
勇者「本当ですか!?」
校長「今テレパシー魔法で伝えたので、すぐテレポート魔法で飛んできますよ」
シュンッ!
三人の前に、いかにも利発そうな青年が現れた。
魔術師「はじめまして、勇者様。このボクがあなたの仲間となりましょう」
勇者「おお、すごい! まさしく“神出鬼没”だ!」
戦士「これは期待できそうな方ですね」
僧侶「アタシは僧侶! どうぞよろしくッス!」
魔術師「よろしくお願いします」ニコッ
同時刻──
北の町の遥か上空を、一頭のドラゴンが羽ばたいていた。
バサッ…… バサッ……
ドラゴン「フン……あのデカイ建物が魔法学校か」
ドラゴン「あれを破壊すりゃあいいわけだな」
ドラゴン「こんなつまらん仕事にオレを駆り出すとは、魔王様も人が悪い」
ドラゴン「まあいい、すぐに終わらせてやる!」
ギュンッ!
ドゴォンッ!!!
グラグラ……!
勇者「な、なんだ!?」
戦士「すごい揺れだ! しかし、震源地は地中ではないようです!」
僧侶「あ、あそこにドラゴンがいるッス!」ビシッ
バサッ…… バサッ……
ドラゴン「グハハッ……お前はまさか勇者か?」ドスンッ…
ドラゴン「スパイにガーゴイルに、ゴーレムと」
ドラゴン「魔王軍でも名だたる魔族を次々に撃退したそうだが」
ドラゴン「それも今日までだ! このオレがバラバラにひきちぎってやる!」
勇者「……くっ!」チャキッ
勇者「校長先生は生徒たちを避難させて下さい! 他の三人は俺に続いてくれ!」
勇者と僧侶が、ドラゴンに立ち向かう。
勇者「だああっ!」シュバッ
僧侶「いくッスよおっ!」ブオンッ
ガキンッ! ドゴォッ!
ドラゴン「小賢しい!」ブワオンッ
バチンッ!!!
尻尾でふっ飛ばされる勇者と僧侶。
勇者「ぐうっ……! さすがに強い……!」ザザッ…
僧侶「あうぅ……っ! 今までの魔物とは別格ッスね……!」ザッ
戦士(ドラゴンは爬虫類に近い魔物と文献で読んだ……寒さには多少弱いハズ!)
戦士「魔術師君、氷魔法でサポートして下さい!」
魔術師「ひぃぃ……あわわぁ……こ、怖いよぉ……」ガタガタ…
戦士(呼吸の乱れに極度の発汗……眼球も泳いでいる)
戦士(ダメだ、とても魔法を撃てるコンディションじゃない!)
戦士(かといって、学校中がパニックで他に魔法を使えるような人は──)キョロキョロ
魔法使い「破壊の美という言葉もあるけれど、この破壊はあまり美しくないわね……」
戦士「!?」
戦士(この騒ぎの中で、あの女魔法使いだけやたら落ちついてる!?)
戦士(ベレー帽を被る魔法使いなんて珍しいが、気にしてる場合じゃありませんね)
戦士「そこの魔法使いさん、氷魔法でサポートをお願いします!」
魔法使い「? ……分かったわ」
魔法使い「この私の芸術的な魔法で、ドラゴンを仕留めてあげましょう」パァァ…
魔法使いが呪文を唱えると、ドラゴンの体に氷がまとわりついた。
パキィンッ!
ドラゴン「ぐおおっ……!?」ガクッ…
勇者「おおっ!」
僧侶「すごいッス! 効いてるッス!」
ドラゴン「なんのこれしきぃっ!」バキバキッ
ドラゴン(やりやがったな、先にあの魔法使いを八つ裂きにしてやる!)グオオッ
僧侶「うわぁっ!?」ドサッ
戦士「あの巨体で、なんて速度だっ!」
勇者「ま、まずい! 魔法使いさん、逃げるんだっ!」
ドラゴンの爪が魔法使いに迫る。
ドラゴン「くたばれぇっ!」
魔法使い「あなたの造形──」
ドラゴン「?」
魔法使い「デッサン狂ってるわね」
ドラゴン「!?」
ドラゴン「なっ……」
ドラゴン「他人に向かってデッサン狂ってるって……失礼にも程があるだろ、それ!」
ドラゴン「オレほどドラゴンらしいドラゴンはこの世にいねえって自負してるぜ!?」
魔法使い「う~ん……」
魔法使い「体色はいたって平凡だし、首と体のバランスはおかしいし」
魔法使い「なんていうか、チープなのよねあなた」
ドラゴン「チープ!?」
魔法使い「強さは申し分ないけど、芸術的観点から見たら、あなたの価値は──」
魔法使い「トカゲ以下ね」
ドラゴン「!!!」
ガーン! ガーン! ガーン!
ドラゴン「うっ……」ウルッ…
勇者「あっ、泣いた。“鬼の目にも涙”ならぬ“竜の目にも涙”か」
戦士「ちなみに涙はもとは血液です。よほど魔法使いさんの言葉が効いたんでしょうね」
僧侶「男はそう簡単に泣いちゃいけないッスよ!」
ドラゴン「うるせええっ!!!」
ドラゴン「…………」ゴシゴシ…
ドラゴン「ちくしょう、もうやってられねえや!」バッ
バサッ…… バサッ……
ドラゴンは飛び去っていった。
魔法使い「逃げ方まで下品で美しくないわね」
勇者(手段はどうあれ、ドラゴンを追い返すとは……!)
勇者(さっきの魔術師君には悪いが、ぜひ彼女を仲間にしたい!)
勇者「ところで、君は……?」
魔法使い「私は魔法使い、魔法学校での成績は四位よ」
魔法使い「将来は魔法芸術家を目指してるの」
勇者(なんだよ、魔法芸術家って。いやそれより──)
勇者「ドラゴンが襲ってきたのに、よくあんなに落ちついていられたね」
魔法使い「あの程度で驚いていたら、美を追い求めるなんて不可能だもの」
魔法使い「竜なんて珍しいから期待したけど、期待外れもいいところだったわ」
勇者「なるほど……大した度胸だ。ところで本題なんだが──」
勇者「魔王退治の旅に、加わってくれないか?」
魔法使い「魔王退治……」
魔法使い「もう卒業も確定してるし、かまわないわ。ただし──」
魔法使い「あなたがた三人の“美しさ”を示してもらうわ」
魔法使い「美しくない人に付き従う理由はないから」
勇者「……分かった。みんな、準備はいいか?」
戦士「ではボクから」
戦士「これは“黄金比”で作られた、ボクの盾です」スッ…
魔法使い「ああっ、美しい! 文句なしだわ!」
僧侶「次はアタシッスか? アタシの自慢できるものといったら──」
僧侶「ローブを脱ぐッス!」バサッ…
勇者&戦士「!?」
僧侶「どうッスか!?」ボインッ
魔法使い「サラシに巻かれた滑らかに鍛えられた肉体! これも美しいわ!」
僧侶「アハハッ! どもありがとうッス!」
勇者「最後は俺か」
勇者「それじゃあ──」サラサラッ
魔法使い(筆で壁に字を……!?)
勇者「できた」サラッ
美
魔法使い「毛筆による“美”一文字……! う、美しい……! 見事だわ……!」ゴクッ…
魔法使い「分かったわ……合格よ」
魔法使い「私の芸術をさらに高めるため、あなたたちに同行させてもらうわ」
勇者「ありがとう!」
戦士「性格はともかく、いい戦力になりそうですね」
僧侶「やったッス! アタシにも後輩ができたッス!」
魔法使い(素晴らしい字だったわ……まさか私が嫉妬を覚えるだなんて……)ウズウズ…
校長「それでは勇者様、魔法使いさんをよろしくお願いします」
勇者「はい、お任せ下さい」
魔術師「ボクは学校を守るため、校舎に結界を張ることにします」
勇者「ああ、頼む。君の魔法の才能はピカイチだからね」
魔法学校を出発する四人。
勇者「……これで、戦力は整った!」
勇者「いよいよ本格的に魔王軍との戦いに入るぞ!」
戦士「ボクの計算の出番ですね」
僧侶「アタシのど根性、見せてやるッス!」
魔法使い「私の芸術的魔法で、敵を倒してみせるわ」
勇者「ここで一句」
勇者『 時は来た 四人で目指せ 魔王城 』
こうして四人の旅が始まった。
勇者「みんな、風流に戦うんだ!」ヒュッ
ザンッ!
戦士「いやいや、理詰めで戦うべきですね」ビュンッ
ズバッ!
僧侶「理屈じゃなく、努力と根性で戦うべきッス!」ブオンッ
ドゴンッ!
魔法使い「なにいってるのよ、芸術的センスで戦うべきよ」パァァ…
ボワァッ!
魔族A「コイツら、なんてバラバラなんだ!」
魔族B「でも、メチャクチャつええ……!」
勇者「道に迷った!」
勇者「たしか、あの有名な小説では東が正解だったはず」
戦士「ボクの計算によると、西に向かうべきですね」
僧侶「アタシの勘によると、南で間違いないッスよ!」
魔法使い「北に向かって歩くのが、一番絵になると思うわ」
~
勇者「まさか全部ハズレで、地下に隠し通路があったとは……」
戦士「やれやれ、計算外でしたよ。また研究材料が増えました」
僧侶「いやぁ~、してやられたッスね! アハハッ!」
魔法使い「……私の芸術的センスもまだまだね」
苦労を重ねつつも、四人は成長し──
着実に魔王軍を追い詰めていった。
勇者「激戦の末、ようやく魔王軍の中核基地であるデビルタワーを攻略できた!」
勇者「“酒は百薬の長”ともいうし、今日は大いに飲もう! カンパーイッ!」カチンッ
戦士「ではボクはビーカーで飲むとしましょう」カチンッ
僧侶「うおおおお、飲むッス!」カチンッ
魔法使い「芸術家には愛飲家も多いのよね」カチンッ
~
僧侶「やっぱ酒は、コールとイッキに限るッスね!」ガブガブ…
勇者「も、もう無理……“過ぎたるはなお及ばざるが如し”だ……」オエッ
戦士「ボクの体内にアセトアルデヒドが蓄積されてゆく……」ウゲッ
僧侶「二人とも、だらしないッスねえ」ガブガブ…
魔法使い「泥酔する勇者、いいモチーフになりそうね」グビッ
勇者「おええええっ……!」ビチャビチャ…
<魔王城>
魔王「……また我が配下が勇者どもにやられたというのか!」
側近「はっ……!」
側近「勇者たちの勢いはとどまることを知らず……」
側近「この魔王城にも迫る勢いです……!」
魔王「ふむ……」
魔王「ふざけた四人組だとあなどったのが誤りだったか……」
魔王「ならば、こちらも最強の四人を出すまでだ」
魔王「側近よ」
魔王「四天王全員に、魔平原にて勇者たちを迎え撃たせろ!」
側近「四天王を……全員ですか!?」
魔王「うむ! 全力で勇者どもを葬り去るのだ!」
側近「はっ! かしこまりました!」
<魔平原>
勇者「ここが魔平原か……ここを突っ切るのは“薄氷を踏むが如し”だな」
戦士「ですが、この薄暗い平原を越えれば、魔王城はもう目の前です」
僧侶「いよいよッスね! アタシもますます燃えてきたッス!」
魔法使い「この暗い景色……なかなかいいわね。スケッチしようかしら」
魔法使い「!」ピクッ
勇者「どうした?」
魔法使い「大きな魔力が四つほど……この平原にいるわ」
戦士「大きい魔力が四つ……まさか魔王軍の四天王では?」
僧侶「マジッスか!」
勇者「魔王軍最強といわれる四天王……ついに来たか……!」
勇者「みんな! あそこに俺たちと同じ四人組がいる!」
戦士「あれが……四天王ですか」
僧侶「どいつもこいつも強そうッスねえ! ウズウズしてきたッス!」
魔法使い「四対四の戦い……勇ましい絵が描けそうな題材だわ」
四天王(雷)「来ましたこれ、来ましたこれ、神の予言通りですよ、これ」
四天王(炎)「あァ!? あんなのに苦戦してんのか、ウチの軍はよ! 訴えてやる!」
四天王(水)「ぐえへへへ、すっげーケツかゆいんだけど」ボリボリ…
四天王(地)「眠い……」ボソッ
戦士「乱戦になると、チームワークに難のあるボクたちが不利かもしれませんね」
勇者「なら俺たちは四人ともだいぶ成長したし、ここはあえて各自一対一に持ち込もう」
勇者「いくぞっ!」ダッ
勇者パーティーと四天王の戦いが始まろうとしていた。
勇者「お前は俺が相手をするっ!」チャキッ
四天王(炎)「初対面の相手にお前呼ばわりだと!? どういう教育受けてんだ!?」
~
戦士「あなたの相手は、このボクです」チャッ
四天王(雷)「おお、来ましたこれ! 神からのお告げ来ました、これ!」
~
僧侶「アンタの相手はこのアタシッス! よろしくっ!」
四天王(地)「うるっさいな……」ボソッ
~
魔法使い「あなたの相手が私が──ってなにこのニオイ!?」
四天王(水)「オイラ、生まれてこのかた、風呂入ったことねえんだ」プ~ン
<魔王城>
側近「ところで、魔王様。ついに四天王を動かされましたが……」
側近「いったいなぜ、これまで四天王を温存していたのですか?」
魔王「……ヤツらは強いだけで、兵隊の指揮には向いていないからだ」
側近「え?」
魔王「ヤツらはそれぞれ口うるさく、意味不明で、心を閉ざしており、汚いのだ」
魔王「いうなれば──」
魔王「“クレーマー系”“電波系”“ヒッキー系”“不潔系”の四人組なのだ」
側近(そりゃあ、たしかに指揮なんかできないな……)
~
<魔平原>
四天王(炎)「さっさとかかってこいよ! モタモタしてっと投書しちまうぞコラ!」
四天王(雷)「神がおっしゃってます! 私が1000%勝つと! おお、神よ!」
四天王(地)「めんどくさい……」ボソッ
四天王(水)「爪でほじくった歯垢をなめると、うまいんだなァ~」チュパチュパ
勇者(心を落ちつかせるために、まずは一句だ!)
勇者「よし、戦闘前に一句詠ませてくれ」
四天王(炎)「ハァ~!? グダグダいってんじゃねえ!」
四天王(炎)「責任者呼びやがれ! クレームファイヤーッ!!!」
ボワァァァッ!
勇者「ぐわあああああっ!」
四天王(炎)「ギャハハハハッ! 炎上しやがれえっ!」
~
戦士「なんなんだこの魔族は……行動がまるで予測できない!」
四天王(雷)「ああ、神からの電波来てます、これ!」
四天王(雷)「神は私に宇宙の代表となって、人類に罰を与えよといっています!」
戦士「なにをいってるんですか!? もっと理論的に話して下さいよ!」
四天王(雷)「神の電波で攻撃です! ウェーブサンダー!」
ピッシャァンッ!
戦士「ぐがあっ!」
僧侶「ちくしょう、ずっと自分の硬い殻にこもって……ずるいッスよ!」
四天王(地)「だって、外嫌いなんだもん……」ボソッ
四天王(地)「床ドンするね……。インドアアースクエイク……」ボソッ
ズドォンッ!
僧侶「うわぁっ!」
僧侶(あの魔族が地面を叩いたら、地面が爆発したッス!)
四天王(地)「早くやられてよ……めんどいなあ……」ボソッ
~
魔法使い「あ~もう無理! 私の美意識が耐えられないわ!」
魔法使い「こんな醜い生き物、見たことがないわよ!」オエッ
四天王(水)「ぐえへへへ……」
四天王(水)「下水召喚魔法……ダーティーウォーター!」
ジャバァァァッ!
魔法使い「いやぁぁぁぁぁっ! きたないぃぃぃっ!」
四天王(水)「ぐえへへへ……オイラって汚いだろォ?」
四天王(炎)「オラオラァッ! 勇者ってのはこんなに弱いのかよ!」ボワァッ
四天王(炎)「あとで魔王様に苦情の手紙書いてやらぁ!」ボワァッ
勇者(なんて理不尽で激しい攻撃だ! コイツには文学のわびさびが通用しない!)
~
四天王(雷)「おお、神が怒っています!」ピシャンッ
四天王(雷)「あ、やっぱり神は笑っています! 私も笑います!」ゴロゴロ…
戦士(計算不能、計算不能! この世にボクが計算できない相手がいたなんて!)
~
四天王(地)「頑丈な女だな……」ボソッ
四天王(地)「嫌いだよ、アンタみたいなの……」ドゴォンッ
僧侶(うぐぅ……あの殻にこもられてたら、アタシに勝ち目はないッス!)
~
四天王(水)「ぐえへへへ……」ジャバァッ
四天王(水)「鼻くそと目くそと耳くそを水で練ったぞぉ~」ジャバァッ
魔法使い(もうイヤ……吐き気が止まらないわ……!)
勇者(ま、まずい……このままじゃ全滅だ!)
勇者(なにか……なにか逆転する方法はないか!?)
勇者(どうにか俺の一句で、皆を奮起させて──)
勇者(いや、待てよ!)
勇者(“岡目八目”という言葉がある……)
勇者(一度、第三者になったつもりになって、今の状況を考えるんだ!)
勇者(今、俺たちは……一対一で苦戦している!)
勇者(なんで苦戦しているんだ? ──決まってる!)
勇者(相性が悪いからだ!)
勇者(今の状況はカエルがヘビに、ヘビがナメクジに)
勇者(そしてナメクジがカエルに挑んでいるようなものだ!)
勇者「──みんな! ここは思い切って対戦相手を変えよう!」
勇者「お前の相手は俺だ!」スチャッ
四天王(地)「同じことだって……」ボソッ
~
戦士「じゃあ、あなたの相手はボクです!」チャキッ
四天王(水)「ぐえへへへ……無駄なあがきってやつだなあ」
~
僧侶「アンタの相手はアタシッス!」ザンッ
四天王(炎)「あぁ!? 対戦相手チェンジとか許されねーだろォ!?」
~
魔法使い「やっとあの汚らしい生物から解放されたわ……」スッ
四天王(雷)「お、神からメッセージが届きました! ピロリロリン!」
四天王(雷)「おお、神よ! ウェーブサンダー!」
魔法使い「あら、私もいい芸術が浮かんできたわ! アートサンダー!」
バリバリバリッ!
四天王(雷)「神と互角!? 大宇宙意志なのに!?」
魔法使い「自分の中に神がいるのが自分だけと、思わないことね!」
~
四天王(炎)「スニーカー履いた僧侶とかナメてんのかァ!?」
僧侶「いいッスね、いいッスね、アンタみたいなヤツ大好きッスよ!」
四天王(炎)「骨まで炎上させてやらぁ! クレームファイヤー!」ボァァッ
僧侶「うおおおおっ! 燃えてきたッス!」メラメラ…
四天王(炎)「なんだコイツは……!? うぜぇぇぇ!」
四天王(水)「ぐえへへへ……かかってこいよ」
戦士「ふむ、これは素晴らしい素材だ」
四天王(水)「オイラが素晴らしいだって!?」
戦士「この刺激臭、未知の雑菌の数々……実に興味深い」
戦士「単に意味不明なのは苦手ですが、あなたの相手は大歓迎ですよ」ニィ…
四天王(水)「き、気持ち悪いヤツだなあ……」ゾクッ
~
四天王(地)「……インドアアースクエイク」ドンッ
ドゴォンッ!
勇者「おっと! でやっ!」ブンッ
ガキンッ!
勇者「俺の剣でも斬れない、か……」
四天王(地)「無駄だよ……。この殻にこもってる限りね……」ボソッ
勇者「そうか、なら──」
勇者「昔話をしよう」
四天王(地)「?」
勇者「“殻にこもった男の話”」
勇者「むかしむかし、あるところにずっと殻にこもっている男がいました」
勇者「殻の中はとても快適で、男は幸せに暮らしていました」
勇者「しかし、ある時、体が熱いことに気づきました」
勇者「初めは放っておいたのですが──」
勇者「ある日、男は気づきます」
勇者「この熱は、殻からにじみ出ている液体によるものだと」
勇者「男は殻にいいました。なぜこんなことをするのか、と」
勇者「すると殻はいいました……」
四天王(地)「…………」ゴクッ
勇者「お前を食べるためさァァァァァッ!!!」
四天王(地)「うわぁぁぁぁぁっ!!!」バババッ
地の四天王は、殻から飛び出してしまっていた。
勇者「やっと出てきてくれたな……」
四天王(地)「し、しまった!」
勇者「殻から出てこないのなら、出たいようにすればいい……」
勇者「“押してダメなら引いてみろ”というやつだな」
四天王(地)「き、汚いぞ!」
四天王(地)「ところで、さっきの話はなんなんだ!? どこに伝わってるんだ!?」
勇者「あぁ、適当に作っただけ。あんな昔話ないよ」
四天王(地)「なんてヤツだ……! 即座にあんな話を思いつくなんて……!」
勇者「なにしろ、俺は文系だからな!」チャキッ
四天王(水)「ダーティーウォーター!」
ザバァァァンッ!
戦士「ぶほっ……!」ゴボッ…
戦士「ふむふむ、貴重な汚水サンプルを提供いただき、ありがとうございます」
四天王(水)「なんなんだよう、コイツ……」
四天王(水)「オイラのこと、不潔だとか思わないのかよ!?」
戦士「不潔? とんでもない!」
戦士「もちろん、実験などの際は無菌などを考慮せねばならない場面もありますが──」
戦士「なにをもって清潔か不潔など、簡単には決められません」
戦士「人間に益をもたらすと思われた物質や習慣が、実は害になるものだった……」
戦士「あるいはその逆……」
戦士「などというのはよくある話ですしね」
四天王(水)「ア、アンタ……」ジ~ン…
僧侶「おりゃあっ! うりゃあっ! どりゃあっ!」
四天王(炎)「いてぇだろうがァ! 責任者呼べやァ! ざけんなァ!」
ドゴンッ! バゴンッ! ズガンッ!
僧侶「いいッスねぇ~……アンタ、最高ッスよ! さあもっとやり合うッス!」
四天王(炎)「この俺が殴り負けるだとォ……信じられねぇ……!」ヨロッ…
四天王(炎)(まさかこの世に俺のクレーム以上に熱い奴が存在したなんて……!)
~
四天王(雷)「神の声カムヒアしました、これ! ウェーブサンダー!」
ピッシャァンッ!
魔法使い「いだだっ! ……効いたわ!」
魔法使い「でも……雷に撃たれる女……いいモチーフになりそうね!」
四天王(雷)(ああ、意味が分からない! この女、意味が分からない!)
四天王(雷)(この女のせいで、神の声が聞こえにくくなってるぅ!)
戦士「あなたとの戦いは、ボクが必ずや生物学の進歩の礎にしてみせます!」
四天王(水)(オイラを不潔呼ばわりしなかったのはアンタが初めてだ……)
四天王(水)(アンタに斬られるなら、悔いはないっ……!)
ザンッ……!
~
僧侶「アタシの全身全霊の拳ッス! アンタに受けられるッスか!?」
僧侶「うおおおおおおおおおっ!!!」
ドゴォンッ!!!
四天王(炎)「ぐはぁっ……! あ、熱すぎんだよ、苦情、出して、や、る……」ドサッ
~
四天王(雷)「ああ、神の声聞こえない! ああ、私に天罰来ます、これ!」
四天王(雷)「あああああ~~~~~っ!!!」バリバリバリ
ピッシャァァァンッ!!!
魔法使い「まさか……自滅するなんてね。いいモチーフになりそうな魔族だったわ……」
四天王(地)「殻がなくったって……殻がなくったって……」
四天王(地)「お前如きィ!」
四天王(地)「アウトドアアースクエイクッ!!!」ズドンッ
ズドゴォンッ!!!
勇者「ぐおおっ……!」ガクガク…
勇者「い、今までの一撃で、一番強かったぞ……!」ヨロッ…
勇者「だったら俺も一句!」
勇者『 インドア派 たまには外に 出てみよう 』
ズバァッ!
四天王(地)「ふ……いい句をもらった、よ……。あ、りがと……」グラッ…
ドサァッ……!
勇者パーティーVS四天王、勇者パーティーの勝利。
<魔王城>
側近「魔王様、魔平原において四天王が敗れ去りました!」
魔王「……なんだと?」
側近「詳しくは、こちらの水晶をご覧ください」スッ…
魔王「ふむ……」
魔王「“ヒッキー系”は“文系”に誘い出され──」
魔王「“不潔系”は“理系”には通用せず」
魔王「“クレーマー系”は“体育会系”に熱量対決で敗れ」
魔王「“電波系”以上に“芸術系”とは常人には理解しがたい、ということか」
側近「はっ……」
魔王「……やむをえまい。こうなれば総力戦だ」
魔王「今城にいる全軍で、勇者たちを叩き潰すのだ!」
側近「はっ!」
魔平原を抜け、魔王城近くまでたどり着いた勇者たち。
勇者「みんな、ここまでよくついてきてくれた」
勇者「しかし、最後の最後、魔王に敗れてしまってはなんにもならない!」
勇者「“画竜点睛を欠く”というからな! 気を引き締めていこう!」
戦士「ボクの計算と理論を駆使して、魔王を倒してみせますよ」
僧侶「うおおおおっ! 燃えたぎるッス!」
魔法使い「あれが魔王城……」
魔法使い「おどろおどろしさはよく出てるけど、全体のバランスはイマイチね」
魔法使い「私が改装してあげたいくらいだわ」
勇者「ここで一句」
勇者『 ついに来た 魔王の根城 魔王城 』
すると──
ザザザッ……!
おびただしい数の魔族が、勇者たちを包囲していた。
側近「歓迎するぞ、勇者ども!」
魔法使い「あら、すごい数の魔物だわ。囲まれているわね」
僧侶「数えきれないくらいいるッスよ!」
戦士「ふむ……ざっと1027体といったところですか」
勇者「誤算だ……まだこれほどの数の魔物がいたなんて!」
側近「あの四天王を倒し、この城までたどり着いたのは大したものだ、が……」
側近「キサマらの旅はここで終わりだ!」
側近「皆の者、かかれえっ!!!」ババッ
ウオオォォォォォ……!
勇者「くそっ……ここまで来て……みんな固まって迎え撃つんだ!」チャキッ
ザンッ! ザシュッ! ズバッ!
勇者「数が多すぎる! “多勢に無勢”だ!」
シュバッ! サクッ! ビシュッ!
戦士「仮にここを突破できても、魔王を倒せる確率は極めて──……」
ドゴォッ! バキィッ! バゴォッ!
僧侶「みんな諦めちゃダメッス! フレーフレー!」
ボワァッ! ピシャァンッ! パキィンッ!
魔法使い「数に任せて力押しで攻めてくるなんて……美しくないわね」
側近「さすがによく粘る……」
側近「だが、いかに勇者パーティーといえども、この数には勝てまい!」
その時であった──
「クックック……助太刀しますよ、勇者たち!」
側近「だ、だれだ!?」
現れたのは、四天王に勝るとも劣らない実力を誇る四体の魔物であった。
大臣「ここは我々にお任せ下さい」ザッ
ガーゴイル「ヒヒッ、科学があればなんでもできるゥ!」ザンッ
ゴーレム「オス……ドコンジョウ……」ドスンッ
ドラゴン「美しく煌びやかに生まれ変わったオレの実力、見せてやる!」キラキラッ…
勇者「!?」
勇者「なんでお前たちが!?」
大臣「我々はあなたがたに敗れたことで、それぞれ大切なものを学びました……」
大臣「その借りを返したくやってきたのです」
大臣「“昨日の敵は、今日の友”というやつですよ」
勇者「まるで俺みたいなこといいやがって……。でも、ありがとう!」
側近「おのれえ、裏切り者どもが! ジャマをするか!」
側近「ならばお前たちから血祭りにあげてやる! かかれぇっ!!!」ババッ
ウオオォォォォォ……!
ガーゴイル「位置エネルギーを利用して、敵をえぐるゥ!」ザシュッ
ゴーレム「ファイトーイッパァーツゥ!」ドゴンッ
ドラゴン「喰らえ! オレの新アート、七色のブレス!」ボワァァァッ
大臣「私は国王陛下のために、王国の歴史を書にまとめると決めたのです!」ブオッ
僧侶「よく来てくれたッス! あとは頼んだッスよ!」
戦士「これは計算外の助っ人です。こういうこともあるんですね……」
魔法使い「フフ……あの竜も少しは芸術ってものが分かったようね」
勇者「みんな、今のうちに城に突入するぞ!」ダダダッ
<魔王城>
城内に敵はほとんど残っていなかったが、多くの罠があった。
勇者「この石碑を斜めに読むと、正解の道筋が分かる仕組みになっている!」
~
戦士「ふむふむ、この程度の暗号の解読、ボクなら6.18秒で終わります」
~
僧侶「閉じ込められたッス! だったらアタシのパンチでぶっ壊すッス!」
ドゴォンッ!
~
魔法使い「この石像だけ彫られ方が違うわ。つまりこれを押せばいいの」ズズ…
四人は長所を生かし、迷宮を順調に突破していった。
そしてついに──
<魔王の部屋>
魔王「よくぞ来た」
魔王「キサマらは憎き敵だが、それに関しては素直に称賛させてもらおう」
勇者「魔王! 俺たちが今日こそお前を風流に倒す!」
戦士「ボクの計算では、今のボクたちなら72.15%の確率であなたを倒せます」
僧侶「魔王、覚悟ッ! うおおおおっ! 燃えすぎて、燃え尽きちまいそうッス!」
魔法使い「あなたを倒して……私は魔法芸術家になるのよ!」
魔王「ふん……よくもまあ好き勝手にほざきよる」
魔王「よかろう……死ぬ前にワシの恐ろしさをとくと味わうがよいわ!」
勇者パーティーと魔王による、最終決戦が始まった。
勇者がパーティーの先頭となって、魔王へ挑む。
勇者「行くぞっ!」ダダッ
勇者『 受けてみよ 我が全力の 一撃を 』
ガキンッ!
魔王「ふん、この程度か?」
勇者「なにっ!?」
魔王「返してやろう」
魔王『 通じぬわ ガッカリしたぞ 勇者たち 』
ズガァンッ!!!
魔王の爆破呪文が勇者を直撃した。
勇者「ぐわぁぁぁぁぁっ!!!」
戦士「な、なんてことだ! 魔王の強さはボクの予測数値を遥かに上回っています!」
魔法使い「今の呪文……敵ながらとても芸術的だったわ……」ドキドキ…
僧侶「よくも、勇者先輩をォ!」ダダダッ
ガシィッ!
僧侶「アンタなんかアタシが投げ飛ばして──」グググ…
魔王「ぬおおおおっ!!!」ブンッ
僧侶「うわぁっ!?」ドサァッ
戦士「くそっ! しかし、1.84秒以内に魔王の側面に回り込めば──」ダダダッ
魔法使い「火と水と雷を組み合わせた、私の芸術魔法を見せてあげるわ!」ボワァッ
魔王「戦士! キサマの動きは、ワシの予測通りよ!」
ドゴォッ!
戦士「げはっ……!」ドサッ
魔王「そして、魔法使い! キサマの魔法は美しくはあるが──」
魔王「表面的な美ばかりを思い求めて、心が足りん!」ブンッ
ブワオォッ!
魔法使い「私の魔法が……かき消された……!?」
僧侶「なんてヤツ……!」
僧侶「アタシらの得意分野を、全て同じ土俵で破るなんて……!」ググッ…
魔王「そう驚くことではあるまい」
魔王「世の中にはなんでもこなせる人種というものが、僅かであるが存在する」
魔王「文系? 理系? 体育会系? 芸術系? 下らぬッ!」
魔王「所詮、ある一分野でしか活躍できぬ、凡人どもの作った下らぬ枠組みよ!」
魔王「ワシには、そんな小さな枠組みなど意味をなさぬ!」
勇者「ま、まさかお前は──」
魔王「そう、ワシは昔から何でもこなせた。だからこそ魔族の王となれた」
魔王「つまり──ワシは“万能系”なのだッ!!!」
勇者&戦士&僧侶&魔法使い「!!!」
ガーン! ガーン! ガーン!
魔王「ワシは魔界文芸賞を受賞し、魔界一の科学者と称えられ──」
魔王「さらには魔界オリンピックではほとんどの競技で闇メダル!」
魔王「自ら個展を開くほどの芸術家でもある!」
勇者「俺でさえ文芸賞なんて取ったことないのに……!」ゴクッ…
戦士「魔王なのに科学を勉強とは……やりますね」グッ…
僧侶「闇メダルってなんなんスか!? すっげえ欲しいッス!」メラメラ…
魔法使い「私だって個展ぐらいすぐ開いてみせるわ……」ギリッ…
魔王「それに引き換え、キサマらは一芸に秀でただけの烏合の衆よ!」
魔王「困難を解決する長所が、たまたま四人のうちの誰かに備わっていたり──」
魔王「あるいは四天王の時のように相性勝ちしてきただけに過ぎん!」
魔王「本当の実力者の前では、通用せんのだッ!」ブオッ
ズガガガガァンッ!!!
魔王の強力な魔法が、四人を包み込む。
勇者&戦士&僧侶&魔法使い「わぁぁぁぁ……!!!」
勇者「起、承、転、結!」
魔王「序、破、急!」
ギィンッ!
勇者「くっ、この四連斬も通用しないなんて!」
戦士「ならば水の四天王との戦いで、身につけたこのダーティーソードで!」
ザシュッ!
魔王「効かんな……雑菌は全て中和させてもらった」
戦士「あの一瞬で……!」
僧侶「だったらァ、特攻あるのみッス!」ダダダッ
魔王「この程度で特攻だと? 笑わせるなッ!」ドゴンッ
僧侶「うぁ……!」
魔法使い「火と水と氷と雷と土を組み合わせた、究極芸術魔法!」ズガガガッ
魔王「ぬるい! 所詮見せかけだけの美よ!」
バババババッ!
魔法使い「きゃああああっ!」
満身創痍になる勇者たち。
勇者「ぐ……強い……! ただでさえ強いのに、あらゆる知識も豊富……」
勇者「“鬼に金棒”とは、このことか……!」
戦士「ボクたちの勝率……5.26%で、す……」
僧侶「ち、ちくしょう……正直いって……無理な気がしてきたッス……」
魔法使い「うぅ……冒険で磨き上げた私の芸術センスが通用しないなんて……」
魔王「ここまでのようだな」
魔王「さあ、トドメを刺してやろう。愚かな虫ケラどもめ」
魔王「その後、外で粘る裏切り者にトドメを刺し、この戦いは終わりだ!」
魔王「そして、ワシは魔界と人間界を支配する、万能なる王となるのだ!」
魔王「グワァッハッハッハッハッハ……!」
勇者「…………」
勇者「ま、まだだ!」グッ…
勇者「みんな……諦めるな……!」
勇者「“一寸の虫にも五分の魂”という……」
勇者「ムシケラなら、ムシケラなりの意地を見せてやろう!」
戦士「精神論……ボクとしては否定したいところですが」
戦士「ポジティブな言葉が生み出すプラシーボ効果は決してバカにはできません」
魔法使い「そうね、私の芸術はまだまだこんなものじゃないわ」
僧侶「よぉーし、全体回復呪文ッス!」パァァ…
戦士「戦闘中の回復は厳禁じゃなかったんですか?」
僧侶「今は休憩中だからいいッス!」
僧侶「それにアタシ、この旅で……理論や理屈の大切さってのも学んだッスからね!」
戦士「ボクも、根性というものが決して机上の空論でないことを学びましたよ」
勇者「よし……! 今こそみんなの力を合わせるんだ!」
魔王「フン、しぶといヤツらめが……」
戦士「僧侶さん、ボクをおぶって下さい。そしてボクのいうとおり、動いて下さい!」
戦士「理論と根性が協力すれば、きっとすごい一撃になります!」
僧侶「分かったッス、先輩!」ヒョイッ
戦士「まず、下肢を駆動させて反復横跳びを繰り返し──」
戦士「網膜と視神経を通じて、魔王の脳の処理を遅らせることに成功したら」
戦士「すぐさま10m/s以上の高速で魔王の背面に回り込み」
戦士「掌を握り、中手骨の部位を叩き込んで下さい!」
僧侶「すんません、全然分からないッス!」
戦士「仕方ない人ですね。よ~するに……」
戦士「左右に跳ねて魔王を混乱させたら、全速で後ろに回り込んで全力で殴れ!」
戦士「──ってことですよ!」
僧侶「分かったッス!」バババババッ
魔王「むっ!?」
僧侶「(回り込んで──)うおおおおっ!!!」ブオンッ
ドゴォンッ!!!
魔王「ぐおおっ……!?」ヨロヨロ…
勇者「効いてる! よし、俺たちも協力し合おう!」
魔法使い「協力って……どうすればいいの?」
勇者「君の魔法……たしかに美しいが、詠唱文そのものは平凡だ」
勇者「だから俺がその呪文詠唱を手伝う! できるかい?」
魔法使い「私とあなたが手を繋げば、可能だけど……」
勇者「よし!」ガシッ
勇者「じゃあ炎の魔法を出そう! 俺が詠唱したら、君は魔法を撃ってくれ!」
魔法使い「分かったわ!」
勇者『 大火事で たまねぎハウス 燃え尽きる 』
魔法使い(まあなんて熱そうな一句……)
ボワァァァッ!!!
魔王「ぬおあっ……!」
魔法使い「すごい、本当に威力が上がったわ!」
勇者「やはり……詠唱文次第で同じ魔法でもだいぶ威力が変わるんだ!」
ザシュッ! ザンッ! ドゴォッ! パァァ……
四人は力を合わせることで、魔王と互角以上の戦いを演じる。
魔王「ぐわっ……ぐぐっ! おのれぇ~!」
勇者「よし、盛り返してきたぞ!」
戦士「複合的な戦術によって、ボクの計算以上の力が出ていますね」
僧侶「これッス! これぞ、結束の力ってやつッス!」
魔法使い「結束の力……なかなか美しいわね」
魔王「なるほど……どうやらワシはキサマらを甘く見ていたようだ」
ドォンッ!
魔王は天井に穴を開けると、魔力で上空に飛んでいく。
勇者「この期に及んで逃げる気か! “三十六計逃げるに如かず”というしな!」
魔王「まさか……ワシの大魔法でキサマらを城ごとふっ飛ばしてやるのよ!」バチバチ…
勇者「なにっ!?」
魔王「グワァッハッハ……城一つでキサマらを葬れれば安いものよ!」バチバチ…
勇者「ま、まずい……!」
魔法使い「この距離じゃ、魔法を撃ってもかわされてしまうわね……」
僧侶「いくらアタシでも、あそこまでジャンプできないッスよ!」
戦士(あそこまで飛ぶ方法……)
戦士「魔法使いさん、氷でシーソーを作って下さい!」
魔法使い「シーソーを!? ──分かったわ! 勇者さん、手伝って!」ガシッ
勇者『 水の字に 点をつけると 氷だよ 』
魔法使い「──できたわ!」パアァァ…
戦士「上出来です! “てこの原理”で、勇者さんを上空に飛ばしましょう!」
戦士「僧侶さん、勇者さんを上へ飛ばす役目は任せましたよ!」
僧侶「分かったッス!」
シーソーに乗る勇者。
勇者「いつでもいいぞ!」ギシッ…
僧侶「いくッスよ! うおりゃあああああっ!!!」
ブオンッ!!!
ギュゥゥゥゥ……ン……!
魔王「なんだとぉっ!?」
魔王「お、おのれ……吹き飛ばしてくれる──」
勇者「魔王……これが俺から送る会心の一句だ!」
勇者『 受けてみよ これが勇者の 一撃だ 』
ザシュッ……!!!
勇者の剣は、魔王を深々と切り裂いていた。
魔王「ぐおおっ……!」
魔王「万能なる、このワシが……やられるとは……」
魔王「文系、理系、体育会系、芸術系が結束したゆえの……」
魔王「奇跡、ということか……」
魔王「今回の……ところはキサマらの勝ちに、しておいてやろう……」
魔王「だが……忘れるな……」
魔王「人間同士ですら……文系だの……理系だの……対立が起こる……」
魔王「ワシが、消えた……ところで……」
魔王「真の平和など……訪れはしない……というこ、とを……」
魔王「グワッハッハッハッハ……!!!」
ボシュゥゥゥゥゥ……
勇者(魔王……)
勇者(恐ろしく、そして敵ながら尊敬に値する強さを持つ男だった……!)
<魔王城城門>
側近「!」ピクッ
側近(魔王様が倒れられた!? ……くっ、無念だ!)
側近(魔王様亡き今、もはや我々魔族に人間界へ侵攻する戦力は残っていない……)
側近「皆の者……魔界へ引き上げだ! 我々の負けだ……!」
ワアァァァァァ……!
側近は魔王軍を率いて、魔界へと撤退した。
大臣「ふぅ……どうやら彼らがやってくれたようですね」
ガーゴイル「ヒヒッ、俺たちももう少しでやられてたなァ……」
ゴーレム「ワレワレノショウリ……ワレワレノショウリ……!」
ドラゴン「グハハハ、オレより美しいアイツらなら、必ずやると信じてたぜ!」
─────
───
─
そして──
<王国城>
国王「よくやってくれた、勇者と偉大な仲間たちよ」
国王(正直いって、最初はどうなることかと思ったがな……)
国王「なお戦後処理については──」
国王「大臣を始めとした四体の魔族が、魔界との調停役になってくれるそうだ」
国王「もしかすると、人間界と魔界の和平も可能かもしれん」
国王「──ところで、おぬしたちはこれからどうするつもりなのだ?」
勇者「俺は今回の冒険について、手記をまとめたいと思っています」
戦士「ボクは冒険で得たデータで、さらに剣と科学を発達させてみせますよ」
僧侶「アタシはトレーニングを続けるッス!」
魔法使い「私はもちろん、長年の夢だった魔法芸術家を目指すわ」
国王「うむ、そうか!」
国王「では各自、己の道をまい進してくれい!」
報酬と名誉を得て、城を出た勇者たち。
勇者「さて、これで俺たちの旅はオシマイだ。ここで解散……」
勇者「──といいたいところなんだけど」
勇者「俺は、君たちに興味が湧いた!」
勇者「魔王は違う分野を学ぶ者同士は対立するといっていたけれど……」
勇者「“理系”のことも、“体育会系”のことも、“芸術系”のことももっと知りたい」
勇者「せっかく平和になった今の世界で、一緒にもっと学びたい!」
勇者「それは必ず、俺の目指すものにとって役立つと思うから……」
戦士「ふむ、一理ありますね」
戦士「ここであなたがたと別れてしまうと、研究が停滞する恐れがあります」
僧侶「四人一緒でもトレーニングはできるッス!」
魔法使い「どうしてもというのなら……かまわないわよ。製作の時間さえくれればね」
勇者「ありがとう!」
魔法使い「ところで……勇者さん?」
勇者「ん?」
魔法使い「私にも、文学ってものを教えてもらえる?」
魔法使い「あなたの文字の美しさ、旅の間もずっと惹かれていたのよ」
勇者「もちろん!」
僧侶「戦士先輩! もっとアタシに理科を教えて下さいッス!」
戦士「かまいませんよ。ボクもあなたの心と体に興味がありますからね」ニィ…
勇者「さあ、行こう」
勇者「俺たち四人が力を合わせれば、きっと世の中はよりよいものになるはずだ!」
勇者「さて、最後の一句」
勇者『 俺たちの 旅はまだまだ 終わらない 』
─ 完 ─
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