まどか「ほんとはもっと、一緒にいたかった」(207)

一日なんてあっという間で、いつの間にか過ぎていってしまう。

ぼーっとしていたって、時間は無情。待ってはくれない。
だから私はいつも笑っているし、笑っていたい。
誰の涙も見たくないし、私だって泣きたくない。

大好きな人たちと、ずっとずっと一緒にいたい。

私はきっと、魔法少女になってから。
死ぬことを恐れて、生きることを諦めて。だからこんなことを考えてしまうんだと思う。
早くいっぱい笑って、ちゃんと生きて、それで誰かと遊んで誰かに恋して。
普通の女の子の生活をめいいっぱい楽しみたくて。


初めてその子を見てから、私はピンと来た。
あ、この子だ、なんて。
焦っていただけなんだと思う。私の焦りで、魔法少女の輪廻に巻き込んでしまった。
後悔していないとか、そんなことを言ったら嘘になる。

でも――

まどか「今日はどこ寄って帰ろうか、ほむらちゃん?」

ほむら「え……また今日もどこか寄るんですか?」

まどか「へへっ、だってさ、まだ明るいし」

おどおどしたようにその子は――ほむらちゃんは、辺りを見回す。
そんな仕草まで可愛い。

まどか「大丈夫、誰にも見付からなかったら平気だよ?」

ほむら「でも……」

先輩の姿を気にしているらしい。
確かに私も最初はそのことを気にしていたけれど、最近ではそれも気にならなくなった。
放課後、誰かとどこか寄り道していくのが癖になってしまって。

まどか「ね、それじゃあ今日は私の奢り!」

ほむら「えぇ!?」

もしかしたら、私と一緒にいたくないだけなのかも知れないけど。
もしそうだとしても、私のわがままに付き合ってくれるのはきっとこの子だけだから。
ほむらちゃんは長いおさげを尻尾のように大きく振って驚いたように私を見る。

まどか「それならいい?」

ほむら「そんな……鹿目さんに悪い、です」

まどか「いいって。私こそ毎日付き合ってもらってるんだから」

ほむら「……私も、楽しいから」

まどか「……」

どくん、と心臓が大きく跳ねて。
嬉しい気持ちが胸いっぱいに広がって。

まどか「へへっ、私も楽しいよ!」

自然と笑顔が浮かび、私はほむらちゃんの冷たい手を掴んだ。
「鹿目さん?」と困惑したようなほむらちゃんの声を無視して、走り出す。
今日は私のとびっきりお薦めの場所へ連れて行ってあげよう、なんて考えながら。

―――――
 ―――――

辿り着いたのは寂れた商店街だった。
ほむらちゃんは息を切らせながら「……ここは?」と珍しそうに辺りを見回した。

まどか「最近大型のショッピングモールができちゃったから、ここ、あんまり人が来ないんだけどね」

ほむら「だからさっき走ってるとき穴場って……」

まどか「うん、そういうこと!」

お客さんを大手の店に盗られたとしても、売っているものは変わりないし女子中学生には
珍しく、私はショッピングセンターよりもここのほうがお気に入りだった。
それでもやっぱり人は減っているし、もうそろそろ潰れてしまうという噂があるのだけど。

ほむら「こんなところ、あったんですね……」

まどか「ほむらちゃん、こういうところって好き?」

ほむら「……はい、とっても」

その答えにほっとする、と同時に、ほむらちゃんと同じところが、同じものが好きだと
わかってやっぱりまた嬉しくなって。

まどか「良かった、ただもうどのお店も閉まっちゃってるんだけどね」

目に付く限り全ての店が閉店しているように見えた。
今日は金曜日だから、というのもあるのかも知れないけど。

ほむら「本当ですね……」

まどか「けどまだ開いてるお店、あるはずなの」

ほむら「そこを探すんですか?」

まどか「というより、そのお店目当てでここに来た感じ。ほむらちゃんは甘いものとかって食べられる?」

ほむら「えぇ……」

まどか「すっごい美味しいアイスクリーム屋さんがあるんだけど、そこどうかなって」

もうすぐ秋で少し肌寒いけれど。
そこももう閉まってしまうと誰かに聞いて、食べに来なくちゃと思っていたところだった。
けれど一人で来るのには寂しすぎるし、誰かと一緒に来たかったけれどその誰かがどうしても
見付からなかった。こういうところは、本当に信じられる人とじゃなきゃ――なんておかしな拘りがあったから。

昔からそうだった。
好きなものは否定されたくないし、どれだけおかしくても突き通す――なんてところがあった。
そこがパパにもママにも、長所であり短所でもある、と言われて。

だけど好きなものを否定されるのは悲しいし、辛いから。
ほむらちゃんのように、同じように好きだと頷いてくれる子を無意識のうちに探していたのかも知れない。

ほむら「アイスクリーム?」

まどか「嫌いかな?」

ほむら「いえ、そういうわけじゃなくって……!私、ずっと病院生活だったから、食べたこと、ないんです」

もじもじと手を動かしながらほむらちゃんが言う。
「変ですよね」なんて呟き泣きそうな顔をするほむらちゃん。
私は大きく首を振ると、「なら私がほむらちゃんの初めて記念!」と言って笑ってみせる。

ほむら「初めて、記念?」

まどか「そう、初めて記念!ほむらちゃんの初めてに私がいたこと、その記念だよ」

ほむら「……初めて記念」ホム、

まどか「それじゃあ行こっか?」

ほむら「……はい」

―――――

店主「お?お嬢ちゃん、また来てくれたの?」

まどか「えへへ、お久し振りです」

ぺこっと頭を下げる。
ほむらちゃんは私の隣で気まずそうにもじもじしていて。

まどか「友達、連れてきちゃった。可愛いでしょ?」

ほむら「へっ!?」

私が言うと、アイスクリーム屋の少し頭の薄いおじさんが目を細めて笑った。
「可愛い子が二人なんて、こりゃあ嬉しいね」と言って私達にメニューを差し出す。

ほむら「あ……、ありがとうございます」

店主「もう終わっちまうってのに君たちみたいな子が来てくれたらやめられないじゃないか」

まどか「やめなきゃいいのに」

店主「そうもいかないからなあ」

少し寂しそうに微笑むおじさんに、私も笑い返すしかない。
いくら魔法少女でも、店の存続まで助けられるわけではないから。
いっそ、何でも助けられる力だったら良かったのに――なんて思ってしまう。
これもたぶん、私の悪いところ。

まどか「ほむらちゃん、何頼むか決まった?」

ほむら「あ……」

まどか「何頼むか決まらなかったら私のおすすめ!」

店主「バニラアイスかい?お嬢ちゃん好きだねえ」

まどか「美味しいんだもん!」

ほむらちゃんは少し迷う素振を見せてから、「それなら私、それにします」と。
「……鹿目さんの好きなものなら、きっと私も好きだから」
小さな声で、だけどそんな言葉を。

店主「おぉ、こりゃあラブラブだ」

ほむら「ら、らぶらぶ!?」ホムッ

おじさんの言葉に顔を真っ赤にしてしまうほむらちゃんが可愛くて、
私もついついからかいたくなってしまう。

まどか「うん、そうでしょ!だからおじさんにはほむらちゃん渡さないよ!」

ほむら「か、鹿目さん!?」

店主「こりゃあ参ったなあ」

はっはっはと大きなお腹を震わせて笑うおじさん。
ほむらちゃんも、その大きな声に釣られたように笑い出す。

私は、ほむらちゃんの笑顔が好きだった。
なぜかはよくわからないけど、とりあえず好き。
ほむらちゃんの笑っているところを見れば、自然と私も憂鬱な気分さえ吹き飛んでしまう。

店主「で、お嬢ちゃんは何にするんだい?こっちの子は君の好きなバニラだそうだけど」

まどか「あ、えっと……」

私はそこまで言って、はっとした。
財布の中身を頭の中に思い浮かべる。

まどか「……」

ほむらちゃんには奢ると言ってしまったし、それを今更変えることなんて出来ないわけで。
昨日、忘れてしまったのだ、折角パパに貰ったお金を財布に詰めるのを。

きっと今頃、机の上に寂しく置いてあるはずだ、というよりも掃除に入ってきたパパが
持って行ってしまったかも知れない、今月分のお小遣い。

まどか「……あ、はは。私、やっぱりいらないや」

店主「ん?」

ほむら「鹿目さん?」

まどか「ほら、私ほむらちゃんに食べさせてあげたかっただけで!私はちょっと今日お腹の調子悪くて!」

慌てて誤魔化す。
変に思われるだろうけど仕方無い。ほむらちゃんの頼んだ分くらいなら買えるだろうけど、
自分の分も買ってしまうと帰り、ちゃんと家に着けるかどうかわからない。

まどか「おじさん、だからほむらちゃんの分、一つ!」

店主「ほんとにいいのかい?」

まどか「うん、構わないよ!」

いや、全然構わないわけでは無いんだけど。
おじさんが取り出したアイスクリームのおいしそうな色が目に写り、私は慌てて
逸らした。

ほむら「でも……」

まどか「いいよ、ほむらちゃん!食べて食べて!」

自業自得、とそう思うしかない。
ほむらちゃんと一緒に食べたかったけど、お金が無いんじゃどうしようもないわけだし。

店主「……ふん」

と。
突然、おじさんがほむらちゃんに差し出しかけたアイスを引っ込めた。
その上にもう一個、一回り小さいアイスを乗せて、もう一度私たちの前に。

まどか「おじさん?」

店主「どうせもう潰れちゃうからなあ」

まどか「けど!」

いいからいいから、そう言うようにおじさんは困惑するほむらちゃんの手に
アイスのカップを持たせた。

店主「持ってけ泥棒」

そう言って笑いながら手を振るおじさんに。
私たちはただ頭を下げて。

やっぱりここは、この街は私にとって大切な街なんだな、なんて。
そんなことをぼんやり思った。

――――― ――

近くにあったベンチに腰掛ける。
アイスは肌寒いとは言っても、もう溶けかけていた。

ほむら「……どうします?」

まどか「いいよ、ほむらちゃん食べちゃって」

ほむら「でも、鹿目さんのお金なんだし……」

まどか「平気だよ、私のことは気にしないで。ほら、もう溶けちゃう」

ぽとり
一粒、二粒、冷たい雫が足元に落ちていく。けれど。

ほむら「……鹿目さんが食べなきゃ私も食べません」

まどか「えぇ!?」

ほむら「だって、私一人だけ食べるなんて、そんな……」

あ、また泣きそうになってる。
ほむらちゃんを泣かせるつもりなんて、なかったのに。

まどか「……じゃあ、貰って、いいかな?」

ほむら「……はい」

控えめに訊ねると、ほむらちゃんはやっぱりまだ泣きそうなまま、だけど
嬉しそうに笑ってくれた。ほっとする。

まどか「いただきます」

「食べていいよ」なんて言ってはいたものの、やっぱり食べたかったこともあり。
私はすぐにほむらちゃんからアイスを受取って口をつけた。
舌先でそれを舐めると、とても冷たくて甘い味がした。

まどか「へへっ、やっぱり美味しいや」

ほむら「そう、ですか。良かったです」

まどか「あ、ほむらちゃんも食べるよね!ごめん、私ばっかり……!」

ほむらちゃんが見ているだけなのに気付き、私は慌ててカップをほむらちゃんに
差し出した。
けれどほむらちゃんは、真っ赤な顔をして受取ろうとしない。

まどか「どうかしたの、ほむらちゃん?」

ほむら「あう……」

まどか「……あ」

私は持っていたプラスチックのスプーンを見て。
ついいつもの癖で、そのまま舐めてしまったのだ。

間接、キス。
ほむらちゃんはきっとこのことを気にしてる。可愛いなあ、なんて、思ってしまう。

まどか「私とじゃ、いや?」

ほむら「へっ!?」

だからつい、こんな聞き方。
ほむらちゃんが耳まで真っ赤になっていちいち反応するのが可愛くてかわいくて仕方無い。
その度に揺れるおさげも、その奥で困った色を灯す瞳も。

ほむら「……そんな、こと」

まどか「あ、でもほむらちゃん誰かと一緒に食べたりするのも初めて、だったりするのかな?」

ほむら「……はい」

まどか「なら今日は初めて記念ばっかりだ!」

小さく笑い、ほむらちゃんに使っていないスプーンとアイスを差し出した。
「下のはまだ舐めてないから大丈夫だよ」と言葉を添えて。

ほむら「え……」

まどか「間接キスはハードル高いもんね」

ほむら「か、間接……キス」

どうやらその言葉だけでほむらちゃんは爆発寸前らしい。
やっぱり、可愛い。本気でそう思ってしまうんだから、私はどうかしてる。
いや、ほむらちゃんの可愛さがきっとどうかしてるんだ。

まどか「はい、どうぞ食べて」

アイスはもう既に完全に溶けかけている。
早くしなければスプーンですくって食べるのが難しいくらいになってしまう。

ほむら「……はい」

小さく頷いたほむらちゃんにほっとする。
けれど、ほむらちゃんはスプーンを受取らずに。

ほむら「……」ペロッ

まどか「ほむらちゃん!?」

私のしていたように、舌を出してその先で。
すくって、食べて。
その姿につい、ドキドキと心臓が高鳴ってしまう。

ほむら「鹿目さんがこうして、いつも食べてるなら……」

こくり、と飲み込みほむらちゃんが顔を上げる。
まだ頬は少し赤いけれど。

ほむら「……美味しかった、です」

まどか「……良かった」

そう言って笑う。上手く笑えている自信はないけど。
ほむらちゃんの様子があまりにも可愛くて。

ふと空を見上げると、もうそろそろ暗くなりかけていた。
ここ最近、日が沈むのが早くなっている。季節の変わり目。

まどか「……そろそろ、帰ろっか」

アイスはもう完全に溶けてしまっていた。
まるで私たちの頬の熱さに反応したように。

まどか「それ、飲んじゃう?」

ほむら「飲む、んですか?」

まどか「だってもったいないもん。ぐいって行っちゃえ!」

ほむら「鹿目さんは?」

まどか「私はよくやるし。ほむらちゃんは初めてでしょ?もう今日はいっぱい初めて体験しちゃおうよ!」

ほむらちゃんは「はい」と頷き、カップを傾け、小さく口を開ける。
白い喉がこくりこくりと動く。

それを見ていると私は何だかおかしな気分になってしまいそうで、そっと目を逸らした。
ほむらちゃんが「ふう」とカップを元に戻す。

ほむら「……頭が、きーんってします」

まどか「まだ冷たいのは冷たいからね。カキ氷だってそうでしょ?」

ほむら「カキ氷?」

まどか「もしかして、カキ氷もまだ?」

ほむら「……はい」

まどか「なら、明日はカキ氷、食べに行こう!」

ほむら「え」

まどか「もう季節は終わっちゃったけど、でも」

私はそう言って立ち上がる。
ベンチに置いていた鞄が、がたっと横に傾いた。ほむらちゃんの鞄に凭れ掛るように。

ほむら「でも?」

……でも。
後何回、あなたと一緒に歩けるかわからないから。
あなたと一緒に、こうしていられるかわからないから。

まどか「ほむらちゃんと一緒に食べたいから、カキ氷」

ほむらちゃんの初めてに、私がいること。
少しでもほむらちゃんの新しい記憶に私が刻まれること。
――ほむらちゃんが、私が消えてしまっても私を覚えてくれているように。

ほむら「……」

ほむら「それじゃあ、また明日、一緒に行きましょう」

ほむらちゃんは不思議そうな顔をして首を傾げた後。
ふんわりと笑って。そう言ってくれた。


帰り道。
もうすぐで、ほむらちゃんの家が見えそうだった。
このままずっと見えなくていいのに、と思う。

帰りたくなかった。
違う、帰したくなかった、ほむらちゃんを。

けれど。

ほむら「鹿目さん……もう、この辺りで大丈夫です」

まどか「え、あ……うん」

ほむらちゃんは申し訳なさそうに立ち止まって、私を振り向いた。
暗闇の中でも、ほむらちゃんの尻尾のような三つ編みはよく見える。
ぴょんっと跳ねてほむらちゃんの背後に納まる。

ほむら「いつも遠いのに、すいません」

まどか「ううん?私が勝手にあなたを送ってるだけだからほむらちゃんは気にしなくていいよ!」

ほむら「……鹿目さん」

まどか「それに魔女に襲われて、欲しくないから」

本当はこれもただの理由、ただの言い訳。
ほむらちゃんと一緒に居るための。
そんなことは言えないから、そう言って少しでもほむらちゃんを安心させるように。

ほむら「……魔女」

まどか「あ、思い出したくなかったかな?ごめんね、私……」

ほむら「いえ、そうじゃなくって……」

ほむらちゃんが慌てたように首を横に振った。
けれど、本当はきっと酷く怖いに違いない。私だって思いだすだけでぞっとするのだから。
もし、あのとき私とマミさんが間に合わなかったら――と、そう思うだけで。

まどか「そろそろ帰らなきゃいけないよね、またね、ほむらちゃん」

私はほむらちゃんの声を遮るように踵を返して。
けれど何も返事がないから、私は首だけを後ろに向けて。不安げなほむらちゃんと、目が合う。

まどか「……ほむらちゃん?」

ほむら「……鹿目さん、その」

まどか「どうしたの?」

出来るだけ優しい声で、そう訊ねる。
ほむらちゃんは私から目を逸らすと、ふるふると頭を振り。
でも、いつのまにか私の手は、ほむらちゃんの冷たい手に掴まれていて。

ほむら「……」

まどか「ほむらちゃん」

ほむら「……何か、あったんですか?……それとも、何かあるんですか?」

思わず、ほむらちゃんの手を振り払っていた。
「ごめん」と謝り、それでもまだ私は目頭が熱くなってしまうのを止められずに。

ほむら「鹿目さん……」

まどか「……ごめん、ごめんね?」

何でもないと安心させてあげなきゃいけないのに。
ほむらちゃんには、何も知らせずにいなきゃいけないのに。
ほむらちゃんの言葉が、私を驚かせて。私の心を、叩いて壊して。

ほんとはもっと、一緒にいたいと。
そう言って、ほむらちゃんを困らせてしまいそうになる。

ワルプルギスの夜が、近付いていた。
覚悟していたはずなのに、怖くて怖くて仕方なくて。
私は、不安の渦に巻き込まれそうになっていた。

だからいつも以上に焦っていて。
何がいけなかったんだろう。もういっそ、ほむらちゃんと出会わなきゃ良かったんじゃ。
不意にそんな考えが頭を擡げ。

まどか「……ごめん」

力なく、呟いて。
ほむらちゃんに出会ってから、毎日がやっぱり楽しくなって。嬉しくなって。
あ、生きてる……なんて。
だからと言って、ほむらちゃんに出会わなきゃ良かったなんて、そんなこと――

心の中で自問自答を繰り返す。
もう、自分のことがよくわからなくなってぐちゃぐちゃになって。

私は随分と疲れていたのだと、そんなことに気付いた。
たった一言、ほむらちゃんの問い掛けがこんなにも私を無茶苦茶にしてしまうほどに。

ほむら「鹿目さん……」

魔法少女になったって、私は弱いまま。
少しは一人に慣れたはずなのに、結局誰かに傍にいてほしいと思ってしまっている。
誰かの傍を離れたくない、死にたくない……と思ってしまっている。

ほむら「鹿目さん、私、帰りたくない」

不意に

>>35
魔法少女になったって、私は弱いまま。
少しは一人に慣れたはずなのに、結局誰かに傍にいてほしいと思ってしまっている。
誰かの傍を離れたくない、死にたくない……と思ってしまっている。

ほむら「鹿目さん、私、帰りたくない」

不意に ほむらちゃんがいつもよりも強い声でそう言って。
え?と顔を上げる。
その瞬間、目の淵に溜まっていた涙が一つ、ぽとりと落ちた。

暗くてよかった、なんて思って私は慌てて目を擦る。
ほむらちゃんは気が付いていないようだった。
ただ、気が付いていない振りをしているだけなのかも知れなかったけど、今の私には
そうしてくれるほうが有り難かった。

まどか「帰りたくないって……ほむらちゃん?」

ほむら「……だって」

まどか「だめだよ、お母さん達も心配するでしょ?」

ほむら「今日は、いないから……誰も」

目を伏せるほむらちゃん。
私は言葉に詰まった。

ほむら「……どうせ家に帰っても帰らなくても、同じなんです」

そう言ってほむらちゃんは笑う。
悲しそうに、寂しそうに。けれど、嘘なんだと、すぐにわかった。
家に誰もいないことは本当かも知れないけど、ほむらちゃんが家族に愛されて無いなんて事、絶対ない。

ほむら「だから私、帰りたくない。鹿目さん」

まどか「……ほむらちゃん」

もしかして、ほむらちゃんは私の為にそんなことを言ってくれてるのかも知れない、なんて。
自意識過剰なんだろう、でも。それでも私が頷くには充分で。

私がきっと、自然にあなたと離れないように。
自然に、あなたを頼れるように。

まどか「……家に、来る?」

今日だけは、ほむらちゃんに甘えてもいいのかな?
そんなことを心の中で訊ねつつも、けれど私はほむらちゃんの手を握っていた。

まどか「明日、学校休みだし……家に、泊まりに来る?」

ちょい離席

ほむら「……はい」

ほむらちゃんはこくり、と頷き。
私の手を、優しく握り返してくれた。

―――――
 ―――――

まどか「ただいまー」

結局元来た道を辿り自分の家へと着いたのはもうすっかり暗闇が濃くなった頃だった。
パパ、心配してただろうなあ、なんて思いながら扉を開ける。
案の定、パパは「まどか!」と大声で私の名前を呼んで玄関へと駆けて来た。

知久「遅かった……あれ?その子は?」

パパはお決まりの文句を言いかけて、はたと口を閉じた。
私の後ろに立っていたほむらちゃんが慌てて頭を下げる。

ほむら「あの、お邪魔します……」

まどか「私の友達。暁美ほむらちゃん」

知久「あぁ、お友達か。暁美さん?いつもうちの娘がお世話になってます」

まるで友達じゃなくって恋人を紹介したような気分だ。
ほむらちゃんが「い、いえ、そんな!」とぱたぱたと首を振る。
「そんなに固くならなくてもいいよ」と私は笑い、ほむらちゃんの手を引いて
家に上がる。

まどか「今日、ほむらちゃんを泊めていい?」

知久「突然だね」

ほむら「す、すいません……」

まどか「私が無理矢理連れてきたようなものなんだからほむらちゃんは気にしなくていいよ」

肩を竦めて謝るほむらちゃんにそう声を掛ける。
リビングへと繋がるドアの隙間から、タツヤが覗いているのが見えた。
手を振ると、タツヤは「まろかーあ」と駆け寄ってくる。

知久「僕らは構わないけど……暁美さんのお家は大丈夫なのかい?」

ほむら「あ、はい」

知久「なら、すぐに晩御飯の支度、増やさなきゃね」

ほむら「ありがとう、ございます……!」

やっぱり緊張したようにほむらちゃんは大きな仕草で頭を下げる。
と、そんなほむらちゃんの三つ編みを私に駆け寄ってきたはずのタツヤが立ち止まり、むんずと掴んだ。

ほむら「ひっ」

知久「あ、こら、タツヤ!女の人の髪で遊んじゃだめって言ってるだろ!」

パパが慌てたようにタツヤを抱き上げた。
「えぇう?」と首を傾げるタツヤ。

まどか「ご、ごめんね、ほむらちゃん!」

ほむら「あ、いえ……ちょっと驚いただけで……」

私はその返事を聞いて、とりあえずほっとする。
それからパパに抱き上げられたタツヤの頭を撫で、「もうしちゃだめだよ?」と
怒った顔をしてみせて。

タツヤ「えーあー?」

ほむら「……可愛い」

まどか「へへっ、でしょ?」

ほむら「私も、撫でてみて、いいですか……?」

もちろんだよ、と頷くと、ほむらちゃんは恐る恐るタツヤの頭に手を伸ばした。
こんな小さい子を相手にするのも初めてなのかも知れない。
また一つ、初めて記念。

タツヤ「あーうー?」

ほむら「……あ、髪、柔らかい」

知久「まだ小さいからね」

パパがタツヤを抱きながらそう言って笑う。
ほむらちゃんの手つきがあまりにも優しいのか、タツヤがうとうとし始めた。

まどか「あ、寝ちゃった」

ほむら「ほんとです、ね……」

知久「それじゃあタツヤは少し寝かせてくるよ、ついでに晩御飯の支度も」

まどか「うん、わかった」

知久「暁美さんの布団はどこへ持って行こうか?まどかの部屋でいい?」

ほむら「あ、はい」

知久「じゃあまた呼びに来るついでに持って来よう。ご飯が出来るまではまどかの部屋でゆっくりして」

パパはそう言い置くと、がっくりと眠って項垂れるタツヤを抱いてリビングへと
戻っていった。
ほむらちゃんが、「優しいお父さん、ですね」と。

まどか「……うん、そうだね」

突然こうやって誰かを連れてきても決して断らないし怒らない。
優しすぎるくらい優しいお父さん。それに可愛い弟に少し怖いけどかっこいいママ。
私はきっと、家族に恵まれている。たぶん、友達にも。

平凡だけど、何よりも楽しい、幸せな毎日。

きっと、魔法少女にならなければ気付かなかったこと。
でも、魔法少女になってからじゃ気付いても遅いこと。

もうすぐ終わってしまうこの生活が、愛しくてたまらない。
こんな毎日を失うことが、怖くてたまらない。

ほむら「鹿目さん?」

まどか「……ん、ごめん。ぼーっとしちゃってた」

やっぱり今日の私はだめなようだ。
くたくたに疲れきったような心が、ちゃんと嘘をついてくれない。
誰かに――ほむらちゃんに甘えたいと思ってしまう自分を、許してしまう。

まどか「私の部屋、行こっか?」

ほむら「……はい」

今日は良くID変わるな……>>1

――――― ――

ほむらちゃんを私の部屋へ招き入れると、ほむらちゃんはきょろきょろと物珍しそうに
辺りを見回した。

まどか「何も珍しいもの、置いてないと思うんだけど」

下から取ってきたお茶とコップを折りたたみのテーブルに並べながら私が笑うと、
「鹿目さんの部屋、なんだなって」
ほむらちゃんは少し嬉しそうにはにかんだ。

まどか「……へへっ、汚いけどね?」

またどきどきと鳴り始める心臓を無視しながら、私はベッドの上に腰掛けた。
朝起きたままの状態だったから少し恥ずかしい。
パジャマも脱ぎっぱなしだったのに気付き、慌ててベッドの下に隠した。

まどか「ほむらちゃんも、どこでもいいから座って」

ほむら「あ、はい」

頷くと、ほむらちゃんはドアの付近に腰を下ろそうとして。
「そんなとこ冷たいよ!?」と言うと、不思議そうに私を見る。

ほむら「でも……」

まどか「遠慮なんかしなくていいのに。じゃあほむらちゃん、こっち来て」

そんなところに座っていたら風邪を引くかもしれないしお腹も冷やしてしまう。
だから私はほむらちゃんを手招いた。
ほむらちゃんが近付いてくると、私はほむらちゃんの肩に手を乗せベッドのすぐ下に
座らせた。ベッドの上じゃほむらちゃんはすぐに立ち上がってしまいそうだったから。
ここならカーペットが敷いてあるし、冷えることはないはずだ。

ほむら「鹿目さん……」

まどか「へへっ、まだここのほうが温かいでしょ?」

そう言って笑いかけると、「すいません」と言ってほむらちゃんは目を逸らし赤くなった。
それに釣られて、どうしてか私まで気恥ずかしくなってしまった。

小さな、沈黙。

私はベッドの上を前を向いたほむらちゃんのちょうど後ろにそろそろと移動した。
恥ずかしそうに俯いていたほむらちゃんが、気配に気付いたのか顔を上げて私を見た。

ほむら「鹿目さん?」

まどか「ちょっと前、向いておいて」

ほむら「え……はい」

そっと、綺麗に垂れたほむらちゃんの髪に触れる。
二本の三つ編みのうち、一本をゆっくりゆっくり指で、解いてゆく。

ほむら「鹿目、さん?」

まどか「あ、痛い?」

ほむら「そうじゃ、なくって……」

ほむらちゃんの髪はとても真っ黒で、タツヤの髪に負けないくらい柔らかかった。
そっと指を入れるだけでさらさらと解けてゆく髪が気持ちいい。
いつまでも触っていたいくらいさらさらで、優しい香りがした。

まどか「……いいなあ、ほむらちゃんの髪、綺麗」

ほむら「そんなこと、ないです……」

まどか「でも私の髪なんて、すっごい痛んでるよ?毎日お手入れ頑張ってるんだけどなあ」

ほむら「私鹿目さんの髪……好き、です」

小さなほむらちゃんの声。
私はふふっとつい、笑ってしまった。嬉しくて、こそばゆくて。

まどか「ありがと。ほむらちゃんにそう言ってもらえると嬉しいな」

ほむら「……本当のことです」

少し拗ねたような。
可愛いなあ、やっぱりそう思って、私はぎゅっと。後ろからほむらちゃんの身体を
抱き締めてみた。

ほむら「!」

まどか「……ほむらちゃんはもう」

ほむら「……鹿目さん」

抱き締めた格好そのまま、ほむらちゃんの三つ編みを一房解いて。
さらっとした感触が頬に当たる。

ほむら「……あ、髪」

まどか「へへっ」

私は笑うと、もう一つ残っているほむらちゃんの三つ編みに手を伸ばす。
そっと、指を下へ下へ。
さらさらと音をたてながら髪が流れてゆく。

ほむら「鹿目さ……」

やがて、到達点。
長くて真っ黒な髪が私の身体をくすぐって。

ほむら「……恥ずかしい、です」

まどか「大丈夫、可愛いよ」

目おかしい離席
治ったら戻る、ごめん

ほむらちゃんの身体が縮こまる。
髪、下ろせばいいのに、と呟く声が少し掠れてしまった。
ほむらちゃんから香る甘く優しい匂いが私を酔わせる。

ほむら「……鹿目さん」

まどか「……ねえ、ほむらちゃん」

ほむらちゃんの髪に顔を埋め、名前を呼ぶ。
忙しなく動いていたほむらちゃんの手が、止まった。

ほむら「……はい」

まどか「名前で、呼んで欲しいなって」

ほむら「……名前?」

まどか「だってほむらちゃん、ずっと“鹿目さん”って」

それじゃあパパやママのことかも知れないし、何だか遠い気がするの。
そう言うと、ほむらちゃんは「でも……」と。

まどか「……だめ?」

ほむら「私、今までずっと、誰のことも名前で、呼んだ事がなくって……」

目を開けると、やっぱりまた指をいじいじと動かすほむらちゃんの姿が目に入った。
私は笑う。「じゃあまた私がほむらちゃんの初めてだ」

ほむら「……うぅ」

まどか「名前で呼ぶのなんて、簡単だよ?」

ふるふると。
私の下で、ほむらちゃんが首を振る。

ほむら「簡単なんかじゃ、ないです……」

まどか「……そんなことないよ?」

ほむら「だって、名前で呼ぶなんて……」

また、泣きそうな声になって。
ぎゅっと、ほむらちゃんに抱きつく腕の力を強くする。
ほむらちゃんの手が、私の手に重なって。

まどか「でも私、ほむらちゃんに名前で呼んで欲しいよ。それともほむらちゃんは、私の名前嫌い?」

「そんな!」と。
ほむらちゃんが慌てたように振り返った。手が、離れる。

ほむら「そんなこと、ないです……鹿目さんのこと、嫌いだなんてそんな」

まどか「……じゃあ」

そう言うと、ほむらちゃんは目を伏せた。
ずっと抱きついていたから、私たちの距離はいつもより近くて。
今にもキス、できそうなくらい近くの距離に、ほむらちゃんがいる。

ほむら「……」

ほむらちゃんの唇が、小さく震えて。
もう少し、ほむらちゃんの近くに顔を寄せて。

まどか「……聞こえない」

ほむら「……うっ」

びくっと、ほむらちゃんが身体を震わせる。
それから小さなか細い声で。

ほむら「……まどか」

自分で言い出したことだとはいえ。
ひどく、照れ臭い。

まどか「……へへっ、ありがと」

ほむら「いえ……」

顔を逸らしたほむらちゃんの顔も、きっと私の顔も真っ赤。
名前を呼ばれるだけでこんなにくすぐったい気持ちになるなんて思わなかった。

まどか「ねえほむらちゃん……」

もう一回。
そう言おうとしたとき。

タツヤ「ごーはあーんん!」

―――――
 ―――――

知久「口に合うかわからないけど、どうぞ沢山食べて」

ほむら「あ、あの、いただきます……」

きちんと手を合わせ、ほむらちゃんがお箸を持つ。
昔私の使っていたお箸。
まだ置いてあったんだ、と少し意外に思う。

まどか「どうかな?」

パパの作った肉じゃがが、ほむらちゃんの口に運ばれていく。
もぐもぐと少し口を動かした後、こくりと飲み込みほむらちゃんは。

ほむら「……とっても、美味しいです」

まどか「へへっ、でしょ?パパの作った料理、何でも美味しいの!」

ほむら「はい……あれ?弟さんは」

知久「あぁ、タツヤなら寝かしたよ。もうそろそろ小さい子にとっては遅いからね」

ほむら「あ……私、すいません。やっぱりあの時間から来ちゃって」

知久「いや、それは構わないよ。どちらにしても最近は夕食の時間が遅いから。
   まどか、遅くなる日は遅くなるって言いなさいと言っただろう?」

まどか「てへへ……」

パパに話を振られ、私は慌ててご飯を飲み込むと苦笑する。
ほむらちゃんとパパが和やかに話しているところをもっと見ていたいような、そんな気分。
もしもほむらちゃんが私の家族なら――きっと、もっともっと楽しくなるんだろうな。
そんなことを考える。

例えばそう。
私が居なくなった後、ほむらちゃんが私の代わりにここに座っていたって――

やっぱり、そんなのやだ。
唐突に泣きそうになり。私はその考えを頭から追い払うように首を振った。

ほむら「鹿目さん?」

まどか「パパのご飯が美味しくて……つい」

知久「なんだいそれ」

パパが笑う。私も、笑って。ほむらちゃんも釣られたように笑い出す。
いつまでもみんなで笑える。そんな日々が続けばいいのに。
初めて、自分の気持ちに素直になった。初めて、そんなことを思ってしまった。

――――― ――

ガチャッ
ドアが開く。ほむらちゃんの恥ずかしそうな顔が覗いた。

まどか「お風呂、気持ちよかった?」

訊ねると、ほむらちゃんは「はい」と頷いて部屋に入ってきた。
濡れた黒髪が揺れる。

髪を下ろしたほむらちゃんは――やっぱり可愛くて、それでいて濡れているからいつもよりもひどく、
大人びたように見えて。

つい、どきっとしてしまう。

さっきパパが持って来てくれた布団は、もう敷いてある。
ほむらちゃんがそれを見つけ、「私がやろうと思ってたのに……」と申し訳なさそうに
呟いた。

まどか「いいよ、ほむらちゃんは」

私はそう言って笑うと、ほむらちゃんの手を引っ張り布団の上に。
「はい、座って」
すとん……とほむらちゃんの身体が着地に失敗して、私のほうへ倒れ掛かってきた。

まどか「わっ」

ほむら「あっ……すい、ません」

肩と肩がぶつかって。
目が合う。息のかかるほど近くで。

気まずくなって、私たちは目を逸らした。
足にかかっていたほむらちゃんの体重が小さくなる。
温もりが、離れていく。

まどか「じゃ、じゃあ次私、お風呂入ってくるね」

ほむら「……はい」

まどか「先に寝ちゃっててもいいから」

そう言い置いて、私は慌てて立ち上がると部屋を出た。
バタン、とドアを閉めて。
大きく大きく、息を吐く。ようやく息をするのが、楽になった。

もう少しで私は――

まどか「……お風呂、入らなきゃ」

その先を考えるのをやめ、私は一人、呟いた。
いつも恐い真っ暗な廊下が、今日は有り難かった。

――――― ――

私はいつも、大切なことに気付くのが遅い。
自分でもわかっているし、人に言われたこともある。
例えばクラスメイトのさやかちゃんや、例えばマミさんや。

けれど、気付かないで終わらせる方がいいことだってある。
例えば、ほむらちゃんのこと。

熱いシャワーが私の身体の奥までを熱くしていくようだった。

まどか「……」

恋に憧れていた。
きっと、だからこれもその類だと思っていた、随分前までは。
このことに関しては、気付くのが早すぎたんだと思う。ずっと気付かずにいれば。

今だって。

『――鹿目さん』

はっとする。
慌てて蛇口を閉めて、シャワーを止めた。それと同時に、今までの思考も。

まどか『マミさん?』

マミ『ごめんなさい、今もしかしてお風呂でも入ってた?』

まどか『あ、はは……』

マミ『何だかあなたの裸を覗いてるような気分だわ』

まどか『もうマミさんったら……』

マミ『ふふっ』

マミさんの柔らかな声が頭の中に響く。マミさんと話していると、不思議と心は
落ち着いた。いつもそうだ。マミさんも、家族やほむらちゃんとは違った意味で大切な人。
改めてそう思う。

まどか『……それで、どうかしたんですか?突然』

テレパシーが届く範囲は限られている。たとえキュゥべえがいてもいなくても。
だからきっと、マミさんはこの近くにいるのだろう。
今まで魔女を倒していたのかもしれない。そう思うと少し申し訳なくなる。

マミ『……えぇ』

珍しく、マミさんは少し躊躇っているように言葉を濁した。
それで、全てを悟ってしまえる。

まどか「……いつ、なんですか」

声に、出していた。
ワルプルギスの夜。それがもうすぐ私たちの前に現れる。
そう思うとつい、声が出て。

マミ『明後日』

驚いた。
けれど、不思議と心も頭も冷静で。

まどか『……わかりました』

とは言っても、少しだけ声が震えてしまったのか『大丈夫?』とマミさんの心配そうな声。
大丈夫です、と私は答える。
恐い。恐いと思う。震えてしまうくらいに恐い。折角温まった身体が冷えてしまうほど。

それでも私は。
守りたいものを、守りたい人を、ちゃんと、わかってしまっているから。

マミ『……私たち魔法少女の、最後になるかも知れない仕事。でもまだ最後って決まったわけじゃないわ』

まどか『はい……』

マミ『だから……』

だけど。
今はただ、精一杯生きようと。
今はまだ、笑えるんだから。今はまだ、大好きな人に触れられる今はまだ。

>>128訂正
テレパシーが届く範囲は限られている。たとえキュゥべえがいてもいなくても。
だからきっと、マミさんはこの近くにいるのだろう。
今まで魔女を倒していたのかもしれない。そう思うと少し申し訳なくなる。

マミ『……えぇ』

珍しく、マミさんは少し躊躇っているように言葉を濁した。
それで、全てを悟ってしまえる。

まどか「……いつ、なんですか」

声に、出していた。
ワルプルギスの夜。それがもうすぐ私たちの前に現れる。
そう思うとつい、声が出て。

マミ『三日後』


もう一度シャワーを浴びてきちんとパジャマを着ると、私は鏡の中の自分と向き合った。
泣きそうな顔をしてないか、不安そうな顔をしてないか。
ほむらちゃんを……悲しませてしまうような表情を、してないか。

口角を上げ、笑顔を作る。
大丈夫、笑える。

それを確認すると、私はほむらちゃんの待つ部屋に戻った。
扉を開けると、寝てもいないのに電気も点けていないことに驚く。

まどか「ほむらちゃん?どうしたの?」

           \ー─────/ .:      |  -┘   ̄ ̄       .,       __
           \        〃   . . : /              \   /  \
             ⌒>: : : : : | ー=彡                   \/ : : ./⌒\  
              ⌒'ー─: : |  /                     ‘,.:/     i
                _ノ: : : :八/ /  /         ,/|  l          V       |ニ=-  _
              ̄ ̄厂 ̄⌒¨/   /     /// |  |   |     |     r‐   / ,'       =‐-
              / : :    イ    /-/─-/   |  |   | |  |     }: : :  / /──  <
              ⌒\: : : : :|/ | ://斗=ミ.    |:. 八‐-ミ. |:.  |/  |: :  /: : : . . . .    \
───-    ....... ___廴__/ /i/'〃ん/ハ     ∨ x=ミ、\:../  |::.八__/\ : : \__   \
           ̄ ̄   ───‐〃.::::::::|  Vしソ         んrv;ヾ ∨  |/: : \:.  /廴_ \ ̄ ̄ ̄⌒ヽ
                    i ::::::|::{  :::::::       {::rjノリ i}/  / :|: : :  \ノ    ̄ ̄
                  /| :::/|::|\      `     :::::::´ /  / 八: : .   \
                  / 八/ :乂::::::::...   ` ー     ー=彡 / /:  V⌒ヽ_ノ⌒
─────────‐=彡. : : : : : : : :::::::::::::::> .. ___   -/  / /: : . ‘,

  ─-  .... __      ,. -=ニ  ̄ ̄〉ー─ヘ ` ー--/:::: : :ムィノ}/:\: :   ,
          ̄ ̄ ̄ '"    . :     ) _ r 「{  ̄ ̄{::::::: : : : :´  |   \  ′
         __/         /    (\\ヽ\   \:::... : : : |    \  \
───‐=二厂/        / /    :(\ `  ` }    厂⌒\  |         \   \
       ノ廴{⌒\/. : /  /   / \     |⌒⌒     ゚:,八        \  
. . . . : : :<_    (  /    /,, '"     ヽ.   { 0    . :   i   :、              ____
__: : : : :\`ヽ、__⌒\ ≠⌒     ,x‐=ニ}ノ   ‘, .::/     ,  \           ─────
   ̄ ̄ ̄⌒廴_::::::/⌒<___/ . : /: )   |    ゚,..::/     ‘,     \
      ─=彡⌒//    / . : :./: : 廴_ノノ |  |, ∨     |:   ,      \
 ̄ ̄ ̄ ̄      i      / / / : : : : : :〃 ∧ | \|      |:   ′      \
              |     /{/〈_/        |/ |∨   廴__  |     i::...        \

VIP列島@魔法少女まどか☆マギカ ーVIPPERで魔法少女を作るー
http://vipquality.sakura.ne.jp/town/start.htm
【列島Wiki】http://www21.atwiki.jp/viprettou/pages/1.html
【紹介フラッシュ】http://vipquality.sakura.ne.jp/town/flash/viprettou.swf

ほむらちゃんは私のベッドに凭れ掛るようにして。
虚ろな目ではっと私を見た。

それから電気を点けようと手を伸ばした私に「だめ!」と叫んで。

まどか「ほむらちゃん……?」

ほむら「……今、電気点けられたら私、恥ずかしくて」

声が、いつもよりも頼りなかった。
いつもよりも消えそうで、いつもよりも辛そうで悲しそうでか細くて。

まどか「……なら、電気点けないね。もうこのまま寝ちゃおっか?」

ほむら「……はい」

私はほむらちゃんの近くまで歩くと、掌一つ分開けて、ほむらちゃんの隣に座った。
ほむらちゃんがほっと息を吐いたのがわかった。

レベル1でまた水遁とかwwwてす

まどか「……どうかしたの?」

ほむら「……なんでも、ないです」

まどか「そう」

暗闇に慣れてきた目が、部屋の中を映す。
何一つ変わり無い部屋なのに、月に照らされて違う部屋のように見えた。
ほむらちゃんが隣で、膝に顔を埋める気配がした。
その背中が震えていることに気付いても、私は何も言わなかった。

まどか「ねえ、ほむらちゃん」

暫くの沈黙の後。
私はほむらちゃんの名前を呼んで。

何か言うべきことが見付かったわけでも、伝えなきゃいけないことがあったわけでもない。
でも、ほむらちゃんの名前を口にしたくて。
どうしてか唐突に、何度も「ほむらちゃん」と呼びたくなって。

心の中で、「ほむらちゃん」を繰り返す。

ほむら「……鹿目さん?」

ほむらちゃんは暫く顔を上げなかった。
けれど、不意にそう言って私を見て。

光った瞳が、痛かった。

まどか「……ん、やっぱり何でもないや」

ほむら「……そうですか」

まどか「……うん」

ほむら「……」

まどか「ねえ、明日はどうしようか」

ほむら「明日?」

まどか「そう、明日」

ほむら「……晴れたら、またどこかへ遊びにいけますよね」

まどか「うん、そうだね。カキ氷、食べに行こっか」

ほむら「……はい」

まどか「それからもっともっと違うところもいっぱい行って」

ほむら「……えぇ」

まどか「……それでね、ほむらちゃん」

その次は――
もう、そう言える勇気がなかった。

だけど、ほむらちゃんはそれだけで安心したように笑顔を見せてくれた。
やっと、涙じゃなくって笑顔を。

ほむら「……楽しみ、ですね」

まどか「……うん、すっごく楽しみ」

嘘になるかも知れないのに。
守れない約束なのかも知れないのに。

まどか「……またこうやってお泊りしたり、こんなことできたらいいな、ほむらちゃんと」

ほむら「……私もです」

掌一つ分の距離がもどかしいと思った。
このまま距離を詰めて、ほむらちゃんを抱き締めたいと。
けれど、そんなこと出来ないのはわかっているから。

不意に、冷たいものが手に触れた。
ほむらちゃんの手だった。

ほむらちゃんが、私の手とほむらちゃんの手を、重ねていてくれた。
火照った身体に、ほむらちゃんの手の冷たさが心地よかった。

まどか「……」

ほむら「……」

まどか「そろそろ寝よっか」

ほむら「……」

まどか「ほむらちゃん?」

ほむらちゃんは何も答えなかった。
かくん、とほむらちゃんの身体が傾いて、私は慌てて受け止める。
床にぶつからなくてほっとして。

まどか「……もう、寝ちゃったんだね」

小さく笑う。
今日沢山連れまわしてしまったせいで疲れていたのかも知れない。

まどか「……」

さらり、とほむらちゃんの前髪が額にかかる。
それをそっと払い、耳に掛けてやる。

ほむらちゃんの唇がすぐ近くにあって。
私を誘うように、薄く開き。

まどか「……」

私以外、部屋には誰もいない。
小さく開いた窓から冷たい風が吹き込んでくる以外。

支援

どくん、と脈打つ心臓がうるさい。
そっと。
人差し指で、ほむらちゃんの唇をなぞり。

くすぐったそうに小さく身動ぎするほむらちゃんに、私は「ごめんね」と。

最後の、私だけの秘密――
ほむらちゃんの柔らかな唇に、自分のそれを重ねて。何度も何度も。

今だけは、泣くことを許して欲しくて。
ほむらちゃんの優しい温もりに、身を委ねていたくて。

韻のために体言止めしたいよね
語感のために文法を崩したいよね

~て。
~で。
~り。
~と。

気持ちは凄く分かるけど多用は禁物

>>160
よく言われるが直し難いんだ、ありがとう
とりあえず気をつけてみる

◆エピローグという名のプロローグ

「それじゃまたね」
そう言った後「また明日」と返って来た声が、未だに耳から離れない。

ワルプルギスの夜はもう、見滝原の上空まで来ていてこのままじゃ危なかった。
それなのにマミさんはもう、この世にはいない。
私はもう、動けなかった。身体も心も、ぼろぼろで。

まどか「……っ」

このままじゃ、結局何も守れない――
誰も、大好きな人も、ほむらちゃんさえも――!

目を瞑って、ぎゅっと拳を握り締める。
地面に拳を打ち付けて、私は油断したら溢れそうになる涙を止めて。

戦わなきゃ、戦わなきゃいけない……。
せめて、このワルプルギスの夜を食い止めなきゃ――

なのに。
マミさんの死に様を見て、私はまた恐怖に戦慄した。

今更恐い、なんて。
震えてしまい、攻撃さえ当たらない。マミさんもいないのに、勝ち目なんてあるはずもなかった。

まどか「……」

もういっそ、このまま皆死んでしまえば――
そんな最低なことを、考えて。

アハハハハハッ!
アハハハハハハッ!

ワルプルギスの夜の不気味な笑い声が暗い空に響く。
もう、だめだ。
そう諦めかけたときだった。

「鹿目さん!」

夢か何かだと思った。
それか、私の死ぬ前の最期の幻、最期の希望。

降り頻る雨の中、ほむらちゃんがいたから。

まどか「……どうして」

ほむらちゃんは私の姿を見つけると、走りよってきた。
慌てて身体を起こす。マミさんの死体がすぐ傍にあった。

ほむら「鹿目さん……これ、一体……それに巴、さん」

まどか「……死んじゃった」

ほむらちゃんは私の近くまでやってくると、小さく悲鳴を上げて立ち止まった。
走りにくい道のせいで、普段よりも息が上がっている。
私は小さな声で、呟いた。優しいマミさんの笑顔は、もう見ることが出来ない。

ほむら「……そんな」

ほむらちゃんが愕然とした様子でその場にぺたり、と座り込んだ。
雨は、だんだんきつくなってくる。身体が痛いほどに。

まどか「……ほむらちゃん」

だけどまだ。
ほむらちゃんは生きてる。それが、私の力になって。

ほむら「……鹿目さん?」

まどか「……私、行くね」

マミさんも言っていた。
ワルプルギスの夜の中心部に攻撃を当てれば勝てるかも知れないと。
ただし、それは命と引き換えに。

今ならそれが、出来るような。
違う、出来なきゃいけない。私が、しなきゃいけないんだ――

こんなにも私は、ほむらちゃんが大切だったんだと、やっぱり今になって気付く。
いつのまにか情けない震えも止まっていて、それくらいにほむらちゃんが。

ほむら「……そんな。巴さん、死んじゃって……」

まどか「だからだよ。もうこの街に、私以外にワルプルギスの夜を止められる魔法少女はいない」

ほむら「でも……!逃げようよ!逃げたって誰も鹿目さんを責めないよ!」

私はほむらちゃんを安心させるように微笑んだ。
だってほむらちゃん。
私はあなたを守りたいから。あなたも、あなたがいるこの世界も全部。

ほむら「鹿目さんまで……」

まどか「わかってるよ」

わかってる。だからこそ私は行く。
ほむらちゃんが、私の背中を押してくれた。

ずっ。
一歩、足を後ろにずらす。ほむらちゃんがはっとしたように私を見て。

今なら、言える気がした。
何でも、言える気がした。

まどか「ねえ、ほむらちゃん」

けれど。

まどか「私ね、あなたと出会えて本当に良かった。あなたが魔女に襲われたとき、間に合ってよかったって。
    今でもそれが誇りなの」

ほむら「……鹿目さん」

だからお願い、泣かないで。
私はあなたが笑顔でいられる明日を見たいから。明日を、守りたいから。

大好きだったよ、を心の中に閉まって。
ほんとはもっと、一緒にいたかった。ほむらちゃんと、皆と。
だけど、私は魔法少女で魔女と戦う運命を背負ってしまったから。

誰かを守れる力を、手に入れたから。

まどか「ごめんね――」

ほむら「鹿目さ……」

ほむらちゃんの手が伸びてくる。
私はそれを振りきって。

ほむら「鹿目さん、行かないで……鹿目さん!」

まどか「元気でね、ほむらちゃん――」

ワルプルギスの夜へ向かって、私は飛び出す。
「鹿目さああああああああああああああああんんん!」
ほむらちゃんの、絶叫。

ごめんね、大好き。
心の中で、交互に繰り返す。

もし次に生まれ変わることがあるとすれば、やっぱり“鹿目まどか”になれたらいいな。
それでもう一度、やり直して。
魔法少女じゃなくても素敵な人生を送れることに、ちゃんと気付いて。

いっぱい笑って、ちゃんと生きて、それで誰かと遊んで誰かに恋して。
普通の女の子の生活をめいいっぱい楽しめればそれでいい。

そして、もう一度ほむらちゃんと出会っても私はきっとほむらちゃんに恋するんだろう。
きっと何度も何度も。
それは絶対、変わらない。

それでもしもまた会えるなら。
今度こそちゃんと、ほむらちゃんに伝えられればいい。「大好きだよ」って。






これは一人の魔法少女の終わりの物語。
これは一人の魔法少女の始まりの物語。






終わり

              .,-'''''~~~ ̄ ̄~~''' - 、
 \      ,へ.人ゝ __,,.--──--.、_/              _,,..-一" ̄
   \  £. CO/ ̄            \       _,,..-" ̄   __,,,...--
      ∫  /         ,、.,、       |,,-¬ ̄   _...-¬ ̄
 乙   イ /    /   ._//ノ \丿    ..|__,,..-¬ ̄     __,.-一
      .人 | / ../-" ̄   ||   | 丿 /  ).  _,,..-─" ̄   ._,,,
 マ    .ゝ∨ / ||        " 丿/ノ--冖 ̄ __,,,,....-─¬ ̄
        ( \∨| "  t-¬,,...-一" ̄ __--¬ ̄
 ミ  ⊂-)\_)` -一二 ̄,,..=¬厂~~ (_,,/")

     .⊂--一'''''""|=|( 干. |=| |_      (/
   /  ( /      ∪.冫 干∪ 人 ` 、    `
 /      )         ノ '`--一`ヽ  冫
                 く..          /
                .  ト─-----イ |
                  ∪       ∪



昨日は途中で落としてしまい申し訳なかった
とりあえず最後まで書ききれてほっとしてる、一周目のまどほむでした
最後まで見てくださった方ありがとうございました、それでは

まどかの守った明日を見失ったほむほむ

>>190
ほむらは自分の明日よりまどかの明日が欲しかった
まあまどかも同じようなことしてるしね

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom