秋もいい感じに深まってきた、とある日の午後。
イギリス代表候補生セシリア・オルコットは、一大決心をしていた。
セシリア(今日こそ…今日こそは!一夏さんをデートに誘うのですわ!)
今まで幾度となくチャンスはあったものの、諸般の事情によりことごとくそれをフイにしていた。
だからこそ、今日は絶対に成功させなければならない。
彼女は織斑一夏の部屋の前までやって来ると、深呼吸をし、脳内でシミュレーションを行った。
時間にして1分ほどであるが、この間誰にも見つからなかったのは、幸いといえる。
コンコンと軽くノックをすると、中から意中の人が姿を現した。
一夏「ん?セシリアか。どうした?」
セシリア「い、一夏さん!実は、その…」
一夏「もしかしてアレか、またマッサージをして欲しいのか?」
セシリア「マ、マッサージもいいですけど…!そうではなくて、その、あの」
一夏「?」
セシリア「もし、よろしければ、その…今度の日曜日わたくしとデ、デ…」
一夏「デ?」
セシリア「デ…デ…デンマーク料理を食べに行きませんか!?」
一夏「」
セシリア(や、やってしまいましたわ────────!)
セシリア・オルコット一生の不覚。なぜここでデンマークが出てくるのか、自分でもわからない。
しかし意外な反応が返ってきた。
一夏「デンマーク料理って聞いたことないな…面白そうだ。日曜日だな、いいぞ」
セシリア「へっ」
一夏「待ち合わせは駅前のモニュメントで良いか?」
セシリア「え、ええ」
一夏「時間はどうする?その店って遠いのか?」
セシリア「い、いえそんなに遠くはないですわ…」←適当
一夏「じゃあ11時に駅前で。デンマーク料理かー、どんなんだろうな」
バタム
セシリア(キ、キ、キ…キマシタワー!!)
まさに結果オーライ。二人きりで出かけるということは実質デートのようなものである。
ただ一つ気がかりがあった。
セシリア(デンマーク料理の店が近くにあるんでしょうか…)
彼女は携帯電話を取り出し、幼なじみのメイドに調べてもらうことにした。
しばし待つ事、数十分。
チェルシー『お嬢様、先程の件ですが』
チェルシー『駅前のショッピングモールの地下に【コペンハーゲン】という名前のデンマーク料理専門店がございます』
あった。しかも何か妙にわかりやすい名前。
チェルシー『あ、それとお嬢様』
セシリア「なんですの?」
チェルシー『当日はやはりあのレースの下着を身に着けられるのでしょうか?私としましては』
セシリア「う、うるさいですわ!///」カアア
ピッ ツーツーツー
セシリア「まったく、もう…」
とりあえずレストランが存在していたのは幸運だった。最後のチェルシーの気遣いは余計だったが。
そんなこんなで日曜日。
天気はさわやか過ぎるほどの秋晴れ。
もしかしたらこれは、ある少女が天に向かって祈り続けた結果なのかも知れない。
そんな中、織斑一夏は駅前に向かって走っていた。
約束の時間までまだ余裕はあるが、待ち合わせの相手を考えるともう既に随分待たせている可能性もある。
一夏(えーっとセシリアは、と…。お、いたいた)
その相手を雑踏の中から探し出すのは簡単だった。
日の光を受けてキラキラと輝く美しいブロンドのロングヘアー。
特徴的な青いヘッドドレス。
何より彼女が漂わせている、高貴さとでもいうべきか一種の独特な雰囲気が周りから存在を際立たせていた。
一夏「よっ、セシリア!すまん、だいぶ待たせたか?」
セシリア「そ、そんなことありませんわ!わたくしも先程来たところですの」
…というのは大嘘で、実は1時間前には既にここに着いていた。
セシリア(今日は待ちに待った一夏さんとのデート…気合が入らないわけがありませんわ!)
と、いつものISの模擬戦闘時よりも張り切り具合が凄いセシリアの一方で。
一夏はというと、そんなセシリアをじっと眺めていた。
一夏(にしても、私服姿というのはこれほどイメージが変わるもんなのか)
気品が感じられる茶色の高級そうなロングジャケット。
白いフリルのついた清楚なブラウス。
少し長めのプリーツスカート。黒のブーツ。
一夏(なんつーか…可愛いな、普通に)
彼女の元々のビジュアルの良さも相まってか、一夏はしばらくセシリアに見入っていた。
セシリア「…一夏さん?」
一夏「…あ、すまん。よし、じゃ行くか」
セシリア「ええ♪」
ショッピングモール内。日曜で尚且つ晴天ということもあり、人で溢れている。
一夏「へぇ。ショッピングモールの地下にそのデンマーク料理屋があるのか」
セシリア「ええ。最近できたばかりらしいですわ(チェルシーの報告によると)」
一夏「どんな料理なんだろうなぁ」
セシリア「系統的にはドイツ料理に近いらしいですわ(チェルシーの報告によると)」
一夏「そうか。しかしまだ昼飯の時間には早いな…ちょっとブラブラするか」
こうしてショッピングモールを見て回ることに。
このときセシリアの頭の中ではチェルシーのアドバイスが思い返されていた。
チェルシー『お嬢様、デートというからにはやはり手をつなぐ事が肝要になると思われます』
セシリア(て、手をつなぐなんて…どうやって切り出したものか…。でも迷っていても始まりませんわ!)
セシリア「い、一夏さん…あ、あのよろしければ手、手を、手を…」
一夏「てお?」
セシリア「テオ…ドリック大王はご存知ですか?」
一夏「」
セシリア(ま、またやってしまいましたわ────────!)ガーン
ちなみにテオドリック大王とは東ゴート王国という国をつくったえらい人である。
セシリア「そ、そうではなくて手をつ、つな、つなぎ…」
一夏「手をつなぎたいのか?ほら」
セシリア「ひゃぁ!?///」
いきなり手を握られ動揺するセシリア。
一夏(セシリアの手冷たいな。確か手が冷たい人は心があったかいんだっけか)
セシリア「い、一夏さん…」ドキドキ
一夏「はぐれたら大変だもんな。さ、行こうぜ」
セシリア「は、はい(何か微妙に意味合いが違う…)」
それでも胸の高まりは正直さを物語っているのだった。
二人はまずCDショップへ。
セシリア「色んなジャンルのCDが並んでいますわね。新鮮ですわ」
一夏「もしかしてこういう場所に来るのは初めてか?」
セシリア「生まれてこの方、自分でCDを買ったことがありませんわ」
一夏「マジか」
一夏(確かに、貴族のお嬢様がCDを買うというのもそれはそれでシュールだな…)
セシリア「ところで、このヘッドホンは何ですの?」
一夏「ああ、それは試聴ができるんだ。最新の曲から未発売のやつまで色々あるぞ」
セシリア「では…」
ヘッドホンを装着するセシリア。
ヘッドドレスと被っており、一夏にはなんだかそれがおかしかった。
セシリア「…音が小さいですわね」
一夏「そういう時は、そのツマミを回すんだ」
セシリア「こうですの?」カチッ
ドギャーン!
セシリア「きゃああああああ!」
どうやら最大までボリュームを上げてしまったらしい。しかも運悪く流れていたのはヘビーメタル。
一夏「だ、大丈夫か?」
セシリア「はぁ…なんて危ない機械ですの」
一夏「…プフッ」
セシリア「あ、今笑いましたわね!ひどいですわ!」ポカポカ
一夏「いてて…すまん、つい」
セシリア「まったく…」
一夏「そういや、セシリアって普段どんな音楽聴いてるんだ?」
セシリア「主にクラシックですわね。ロックとかポップミュージックはどうも好きになれませんわ」
なるほど、と一夏は納得した。
確か前にバイオリンとピアノをやっていたのを聞いたことがあるし、ある意味イメージ通りと言える。
一夏「どんなクラシックの曲が好きなんだ?」
セシリア「ヴィヴァルディの『四季』の春と夏…バッハの『主よ、人の望みの喜びよ』辺りが良いですわね」
一夏「主の人の望みの喜びの?」
セシリア「主よ、人の望みの喜びよ、ですわ」
一夏「あ、主の人の望みよ喜びを?」
セシリア「…」
一夏(正直クラシックは全然知らないんだよな…)
このとき彼の脳内では運動会の定番であるテンポの速い数曲がリピートされていた。
ただ残念なことに、その数曲も名前がわからない。
セシリア「一夏さんは、クラシックにあまり興味はなくて?」
一夏「そうだなー。何か堅苦しいイメージがあるんだよな」
セシリア「G線上のアリアも聴いたことはありませんの?」
一夏「えーと…どんな感じだったっけ?」
セシリア「ラ~ララララ~♪こんな感じですわ」
一夏「あ、それは聴いたことあるな…たぶん」
セシリア「凄く癒されますわよ。よろしければ今度CDをお貸ししますわ」
一夏「おう、サンキュー」
そうこうして、CDショップを後にする。
本屋にて。
セシリア「広いですわね~」
キョロキョロと辺りを見回すセシリア。遠くの方まで無数の本棚が並んでいる。
一夏「いろんなジャンルの本があるぞ。漫画、小説、参考書その他諸々」
漫画やライトノベルも立ち読みし放題。太っ腹な本屋である。
一夏「セシリアはマンガとか読まないのか?」
セシリア「普段は…小説くらいしか読まないですわね」
漫画の魅力を全く知らないとはなんて勿体無い話だろうか。
そう思い、一夏は一冊のバトル漫画を手渡した。
セシリア「…」パラパラ
一夏「どうだ?」
セシリア「何が面白いのかわかりませんわ」
バトル漫画はお嬢様のお気に召さなかったらしい。だが彼はそう簡単に諦めるつもりはない。
一夏「じゃあこれは?」
セシリア「表紙からしてインパクトがありますわね…」
一夏がチョイスしたのは有名なギャグ漫画だった。
セシリア「…」パラパラ
一夏「どうだ?」
セシリア「…くすっ」
一夏(お、いい反応だ。これはきたか?)
セシリア「ふふ、ふふ…ふ、あはははははは!」
一夏「」
大声で笑い出すセシリアお嬢様。周りの人々が一斉にこちらを振り向く。
一夏「(どんだけツボにはまったんだ…)セ、セシリア!」
セシリア「あははは、はぁ、ひぃ…。ご、ごめんなさい」
一夏「そんなに面白かったのか?」
セシリア「あまりにもく、くだらなすぎて…ふふっ、ふふふ」
一夏「そ、そうか」
ギャグマンガに異常に反応を示す…セシリアの新たな一面の発見であった。
そして本屋を後にする。
一夏「セシリア、そろそろ昼飯にしようぜ」
時計を見るとちょうど12時を回ったところだった。
二人はショッピングモールの地階へ向かった。
地下はフードエリアとなっており、様々な飲食店が軒を連ねている。
セシリア「えっと…あそこですわね」
目的のデンマーク料理店があった。看板にはわかりやすく英語で【Copenhagen】と書かれている。
早速店へ入る。
室内は全体的に照明の明るさが抑えられ、木造のつくりも相まって落ち着いた雰囲気を醸し出している。
一夏「な、なんか結構本格的な感じだな」
近所のファミリーレストランのようなものを予想していた一夏にとって、この店の雰囲気は想像の範囲外だった。
一方セシリアは、メニューを凝視しながら悩んでいた。
セシリア(どんな料理なのかさっぱりな単語ばかりですわ…)
しかも写真がついていない。単にわからなければ店員に聞いてみればいいだけなのだが、彼女のプライドとして気が引けた。
すると、セシリアの目に一つの単語が目に飛び込んだ。コース料理である。
セシリア「い、一夏さん!せっかくですのでコース料理はいかがですか?」
一夏「うーん、デンマーク料理なんて全然知らないし…そうするか」
こうして二人は同じものを注文。
まず前菜として出てきたのは燻製された鴨肉のサラダ。
一夏(うまい…けど量が少ないな)
メインディッシュは豚肉のミートボール。
一夏「普通の肉団子だな、これ」
セシリア「ですわね…」
意外と地味なものであった。
後からわかったが、某メイドの情報によるとこれはフリッカデーラといってデンマークでは伝統的な料理らしい。
そして豚肉のローストもついてきた。
セシリア(デンマーク料理は豚肉をよく使うのかしら…)
食事を済ませ、レジへ。
セシリア「支払いは一括でお願いしますわ」
いかにも高級そうな財布から金色のカードを取り出すセシリア。
一夏「っていやいや!俺自分の分払うから!」
正直一夏としてはこっちがセシリアの分も払いたい気分だったが、たぶん彼女のプライド的に無理だろうと思った。
一夏「思ったよりも普通だったな、デンマーク料理」
セシリア「でも、店の雰囲気は素敵でしたわ」
二人で手をつなぎながら先程の店の感想を述べ合う。傍から見ればカップルと見間違えてもおかしくない。
セシリア(一夏さんの手、凄くあたたかい…もう今日はずっとこのまま…)
一夏「ん?どした?」
セシリア「い、いえなんでもないですわ!///」
一夏「そうだ。確かシアターもあるんだよな、ここ。セシリア、見に行くか?」
セシリア「も、勿論ですわ!」
エスカレーターで最上階まで移動する。
案内板を見ると、今日は4本の映画が上映されているようだった。
『七人のLAST SAMURAI』
『北部戦線異状なし』
『GHOST ROOM』
『永遠の約束』
一夏(時代劇と戦争映画はどうでもいいな…やっぱりここはホラー映画か。面白そうだし)
10代の男女が楽しめるものとしては、彼の選択はまさに最適と言えた。だが。
セシリア「『永遠の約束』がいいですわ!」
一夏「お、おい…。うーん恋愛モノよりはホラー映画の方が」
セシリア「うぅ~…」ウルウル
目尻の下がったその大きな瞳を潤ませて必死に懇願してくる、の図。
一夏(ぐっ…これは反則だろ!)
サッカーで言えば手を使ってゴールするくらいの反則、というと分かりやすいかもしれない。
一夏「…わかった。チケット買ってくるよ」
セシリアの顔がぱっと明るくなる。
一夏(わかりやすいな…)
しかしまんざらでもない一夏であった。
シアタールーム内。
一夏「セシリアもポップコーン食うか?」
セシリア「い、いただきますわ!(一夏さんと一緒に映画を見られるなんて…幸せですわ)」
一夏「お、始まるぞ」
映画のストーリーは…あるカップルが平凡な日常を送っていたが、彼女の方が突然不治の病にかかってしまう。
彼女はどうしても死ぬまでに一度二人で行きたい場所があるといい、彼氏の方は彼女を連れ出すために奮闘し、
最後は、死の間際に永遠の愛を誓い合う…というものだ。
いかにも感動を呼び起こすことを狙っているような作り。
一夏(ま、でもひょっとしたら面白いかも知れないしな…。とりあえず見るか)
そして。
一夏「…」
セシリア(理想のカップルですわ…)
一夏「…」
セシリア(病気が治せないなんて!酷いですわ…)
一夏「…zz」
セシリア(愛の力があれば、ここまで頑張れるんですのね…)
一夏「zzz」
セシリア(二人の愛は永遠ですわ…)グスッ
上映終了。
セシリア「いい映画でしたわね…ぐすっ」
一夏「…ん、はっ!そ、そうだな」
セシリア「一夏さんあの…よだれが」
一夏「あ」
セシリア「…もう」ムー
今度から女の子と映画を観るときは気を付けよう…そう心に誓う一夏だった。
ちょっと時間がアレなんで、続きはまた明日、で…
ゴメンナサイ。
保守ありがとうございます
続き投下します
一夏「ところでセシリアって、ゲーセンは行った事ないよな?」
セシリア「ゲーセン?なんですのそれは」
一夏「いろんな種類のゲームがあって、遊べるところ」
セシリア「面白そうですわね♪」
そんなこんなでゲーセンへ。
日曜だからか、親子連れやカップルで溢れかえっていた。
セシリア「これはなんですの?」
一夏「UFOキャッチャーだ。ゲーセンの定番だな」
コインを入れる。
一夏「こうやってボタンを押してクレーンを操作して…プライズを取るんだ」
手馴れた手つきでプライズをつかみ取る。しかしクレーンの移動途中でこぼれ落ちてしまった。
一夏「結構難しいけど…セシリアもやってみるか?」
うなずくセシリア。
セシリア「あ、お金…」
一夏「別にいいって。流石にゲーセンでクレジットカードは無理だからな」
セシリア「感謝しますわ。ではお言葉に甘えて…」
クレーンが下りてくる。ポロッ。あっさりと落ちた。
セシリア「…え?もう終わりですの?」
一夏「終わりだな」
ワンコインで2回プレイできるものもあるが、これは1回しかできない仕様になっている。
セシリア「く、くやしいですわ…」ムー
一夏「まぁまぁ、仇はとってやるから」
ポロッ。
ポロッ。
しかし最後がなかなか上手くいかない。
一夏「くそっ、今度こそ!」
慎重にクレーンを操作し、狙いを定める。
一夏「それっ」
ストーン!やっと成功した。
一夏「よし、取れた!」
セシリア「す、凄いですわ!」
一夏「ほら、セシリア。あげるよ」
取れたのはピンク色のウサギのぬいぐるみ。
バッテンマークの口がいかにもかわいらしい感じだ。
セシリア「一夏さん…嬉しいですわ」
まるで子供のように喜ぶセシリア。その姿に思わずドキッとしてしまう。
一夏「こ、今度はこれなんてどうだ?」
指を差した先にあるのは、いわゆるガンシューティングゲーム。
これも同じくゲーセンでは定番のアトラクションで、2人プレイはかなり盛り上がる…が。
セシリア「な、なんですの!?気持ち悪いのがわらわらと…」
一夏「ゾンビだ。どんどん撃って行かないとあっという間にやられるぞ」
セシリア「いやあああああ!」
一夏「…って一般人を撃ってどうする!?」
GAME OVER。
セシリア「こ、怖かったですわ…」ブルブル
一夏「とりあえず、ちょっと見ててくれ」
今度は一人プレイモード。一夏は慣れた手つきでゾンビの群れを打ち倒していく。
ガンシューティングに関していえば、彼はなかなかの腕前である。
セシリアはゲームなどそっちのけで一夏の姿に心を奪われていた。
セシリア(かっこいいですわ…まるでジェームズ・ボンドのよう…)ウットリ
一夏「よし、スコアもいい感じだ!…ちょっと疲れたな」
何か座ってゆっくりできるゲームはないだろうか、とゲーセン内を見て回る。
一夏「お?あれは…」
オンライン対戦式のクイズゲーム。
広い層に人気があり、カードを作ってやり込む人も多いらしい。
セシリア「これは?」
一夏「クイズゲーム。結構面白いぞ」
早速コインを投入する。テンションの高いBGMが流れ、まずはキャラクターを選択する。
一夏「…なんか知らない間にえらい増えてるな」
それもそのはず、このクイズゲームはもう何年にもわたってバージョンアップを繰り返していた。
セシリア「あら?このコ…」
画面をタッチすると、金髪のキャラが出てきた。
セシリア「わたくしとそっくりですわね」
一夏「た、たしかに…」
容姿だけじゃなくて言動まで似ている。
一夏「セシリアみたいでかわいいな。コイツにしよう」ポチッ
セシリア(い、今一夏さんがかわいいと!か、か、かわいいなんて///)ドキドキ
そして、ゲーム開始。
Q.天下分け目の戦いといわれる関が原の戦いは西暦何年?
一夏「1600…だっけ?」
ISに関する勉強だけでも精一杯である一夏にとっては、一般的な学問知識ですら曖昧な部分があった。
Q.旧約聖書に登場する、神の怒りに触れたことで滅ぼされたとされる都市の名前はソドムと何?
一夏「都市?ニューヨークか?」
セシリア「そんな昔から存在しませんわ…。ゴモラ、ですわね」
正解!
一夏「おお!すげー」
セシリア「当然ですわ!」
キャラクター『当然ですわ!』
セシリア「」
一夏「そっくりだな…」
Q.料理でいうさしすせそ。『せ』は何を表している?
一夏「しょうゆ、だな。こういう問題なら大丈夫だ」
セシリア「納得がいきませんわ!」
一夏「へ?」
セシリア「なぜしょうゆなのに『せ』ですの?意味がわかりませんわ」
一夏「それは昔しょう油はせうゆと呼ばれて…って次の問題始まってるぞ」
セシリア(謎ですわ…)
Q.イギリスのプレミアリーグでアーセナルFCがホームとして使用しているスタジアムの名前は?
一夏「うわ…むず。あ、でも」
一夏(イギリスはサッカーで有名だよな…そして横にはまさにそのイギリス人がいるじゃないか!)
セシリア「…」
時間切れ。
一夏「あれ?」
セシリア(サッカーなんて大衆のスポーツは全く縁がありませんし…)ショボン
気を取り直して次の問題。
Q.黒澤明監督の映画『用心棒』の主演は誰?
一夏「芸能か…さっぱりだ」
セシリア「三船敏郎、ですわ」
一夏「えっ」
セシリア「えっ」
一夏「なんでセシリアが知ってんの?」
セシリア「いえ…その、あの、昔とある知り合いが言っていたのを思い出しまして、おほほ」
一夏「へぇー」
セシリア(一時期ジャパニーズサムライにハマッていたなんて言えませんわね…)
Q.徳川幕府の将軍を時系列順に並べ替えなさい。
家茂
吉宗
家治
秀忠
一夏「全然わからない…」
時間切れ。
セシリア「自分の国の歴史くらい知ってないとダメですわよ、一夏さん」
一夏「スイマセン」
Q.イギリスのテューダー朝の君主を時系列順に並べ替えなさい。
メアリー1世
エリザベス1世
エドワード6世
ヘンリー7世
セシリア「こう、こう、こう…ですわ!」
ブブー!不正解。
セシリア「あ、あら…?」
一夏「さっき自分の国の歴史ぐらい云々って」
セシリア「い、今のはちょっとしたミスですわ!」ムキー
一夏(その割には自信満々で画面をタッチしてたように見えたけど…)
真剣な眼差しでパネルとにらめっこをするセシリア。
同じパネルを覗いているが故に、二人の距離はかなり、というか相当近い。
一夏は意識せずにはいられなかった。
鼻をくすぐるフローラルな香水の匂い。
唇を色っぽく彩るピンクのルージュ。
宝石のように綺麗な青く透き通った瞳。
普段は意識することもないのに、自然と鼓動が早くなっている。
一夏「セシリアって…綺麗だよな」
ふと思いがけず言葉が出てしまう。
セシリア「え」
彼女が振り向く。そして静止すること15秒。
セシリア「い、今なんと…」
一夏「いや、綺麗だなって」
セシリア「~~!!///」カアア
みるみるうちに顔を紅潮させていくセシリア。
セシリア(い、一夏さんからまさかそんな言葉をきけるなんて!最高の幸せですわ!)
ブブー!GAMEOVER。
一夏・セシリア「あ」
クイズゲームを堪能しゲーセンを出ようとする二人。
ふと一台の機械がセシリアの目に止まった。ピンク色のハートマークが数多くついており、かなりインパクトがある。
チェルシー『お嬢様、日本には“プリクラ”というものがありまして、カップルはそれで写真を撮ったりして楽しむようです』
セシリア『プリクラ?聞いたことありませんわ』
チェルシー『なんでも証明写真を撮る機械を派手にしたような感じとか』
セシリア(もしかしてこれがチェルシーの言っていた…)
一夏「どうした?セシリア」
セシリア「一夏さん、あれは…」
一夏「あぁ、プリクラか。ちょっとやってみるか?」
カーテンを開けて中へ入る。
セシリア「い、意外と狭いですわね…」
一夏「そ、そうだな」
セシリア「…///」ドキドキ
一夏(なんつーか…香水とはまた違う女の子独特の甘い香りが…っていかんいかん)
一夏「えーっとまず硬貨を入れてモードを選択して、次が背景で…」
覚束ない手つきでパネルをタッチしていく。しかしどの組み合わせがベストか、なんて頭を働かせる余裕はない。
そしてカウントダウン。
3…2…1…カシャッ!
一夏「なぜにセクシーポーズ…」
セシリア「ご、ごめんなさいっ!わたくしこういうのは初めてで…どういう風にすればいいか…」
一夏「うーん、普通にピースしてればいいんじゃないか?」←適当
TAKE2
カシャッ!
一夏「顔が見切れてる…」
セシリア「これはちょっと…」
一夏「もう少し近づいてみるか」グイ
セシリア(い、一夏さんの顔がこんなに近く…)ドキドキ
一夏(セシリアの髪ふわっとしててすげー綺麗だな…これは意識するなっていうほうが無理だろ…)
TAKE3
カシャッ!
一夏「…いまいち地味だな」
一夏(どうせなら楽しそうな写真にしたいしな…よし)
ギュッ
セシリア「きゃあ!?」
セシリアを後ろから抱きしめる一夏。プリクラでは馴染みのあるポーズだが、全くその辺に疎いセシリアにとっては衝撃的だった。
セシリア「い、いち、一夏さん!な、な、なにを…///」
一夏「いや、ど、どうせなら面白い感じにしたいなと思って」
一夏自身が動揺しているこの状況では、セシリアはというと想像に難くない。
彼女の頭は完全に熱を帯びていて、漫画的な表現を借りるならば目がまさに渦巻状になっていた。
TAKE4
3…2…1…カシャッ!
一夏「お、いい感じだ」
セシリア「な、な…///」カアア
一夏「お、おい大丈夫か?セシリア?」
しばし次の客を待たせてしまう二人だった。
ショッピングモール内の時計塔の鐘が5時を告げる。
日の入りが早くなったせいか、空はもうほとんど闇に染まっている。
そろそろ戻らないといけない…が、俺は最後にどうしても寄りたいところがあった。
疑問に思うセシリアの手を取り、俺は目的の店へ向かう。
そこは人目から離れた場所にある1軒の楽器屋だった。
よくある若者向けの店とは違ってどこかシックな雰囲気を漂わせている。
どうやら俺達以外に客はいないようだ。
俺はカウンターで年代物らしい古びたギターを手入れしている店員に声をかけた。
一夏「あの、すみません。よかったら…」
店員「…ああ、それでしたら結構ですよ。どうぞどうぞ」
交渉成立。さてあとは問題はセシリアだ。
今日一日俺はずっと彼女の手を握っていた。
その手はまるで白磁のように透き通っていて…。
あの美しい細い指によって奏でられるピアノの音を…是非聴いてみたいと思った。
一夏「セシリア、一つお願いがあるんだ」
セシリア「なんですの?」
一夏「その…ピアノを弾いてくれないか?」
セシリア「えっ…」
困惑の表情を浮かべるセシリア。
セシリア「き、急に言われましても…」
一夏「頼む。聴きたいんだ…セシリアのピアノを」
ワガママなのは十分すぎるほどわかっている。…それでも。
セシリアは少し考えた後。
セシリア「…わかりましたわ」
一夏「ありがとう」
セシリア「ブーツでペダルを踏むのは結構難しいんですのよ」
そう言いながら彼女は店の中央に置かれているグランドピアノの前に座った。
セシリア「何を弾けばよろしいですか?リクエストがありましたら…」
一夏「セシリアの好きな曲でいいよ」
セシリア「では…亡き王女のためのパヴァーヌ、を」
そして彼女は徐に演奏を始めた。
ゆったりとしたピアノの調べ。
優しく、綺麗で…初めて聴くはずなのに、どこか懐かしさを感じさせる旋律。
そこには、俺の知らないセシリア・オルコットという少女が居た。
彼女はとても優雅に…穏やかな表情で演奏を続ける。
それは普段学園で見る姿とは全く異なるものだった。
俺はセシリアのことを知りたいと思った。
もっともっと彼女の知らない一面を知りたい。その為にもっと一緒に時間を過ごしたい。
心地良いメロディーの海に浸りながら、俺はそう強く願っていた。
そうか…これが惚れる、ということなのか。
セシリア「ご清聴ありがとうございました」
スカートの端をつまんでちょこんと一礼するセシリア。
一夏は、まるで巻いたネジが止まってしまったブリキ人形のように静止していた。
いや、正確には彼女に見惚れていたと言うべきか。
セシリア「一夏さん…?」
心配そうに覗き込む。数秒のラグを経たのちに、彼はゆっくりと言葉を発した。
一夏「…とても良かったよ。セシリアの演奏」
セシリア「お褒めに預かり光栄ですわ♪」
一夏「よかったら、今度また聴かせてくれないか?」
セシリア「えっ」
一夏「セシリアがピアノ弾いてるところ、その、えっと…凄く綺麗だし…可愛かった」
セシリア「…///」カアア
本心とはいえ、こういう事をさらりと言ってのけられるのは、ある意味彼の才能かも知れない。
その言葉は真っ直ぐで、偽りはない。
そして寮まで再び手をつないで帰る二人。
一夏「…もうすっかり夜だな」
セシリア「ふふっ、まだまだ大丈夫ですわ」
その姿は、至福の時間を共有する恋人同士のようでいて。
もう誰かに見られたとしても、何も気にする必要は無かった。
~次の日~
セシリア「部屋にグランドピアノを置くのもアリですわね」
ルームメイト「それはやめて…(割とマジで)」
おわり。
以上です。
恋愛的にはたいして進んでないっていう…機会があれば続きのお話も書きたいと思ってます。
タイトルはround table好きなので、何となく爽やかでちょっと甘ったるい雰囲気出せればいいかなーと思ってつけました。
こんな拙文ですが、読んでくださったみなさんありがとうございました。
それではまた。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません