上条「バイトでもしようかな……」(841)
代行
ID:QmEd5G950
原作15巻を基にしています。
『もし上条さんがアイテムに入ったら』
というので書きます。
文章書くのが下手なのでそこんとこはすいません。
では始めます
――――――
「まったくこいつらときたら人使いが荒すぎて『クズども』が足りないじゃないっ」
この女が言う『クズども』とは暗部組織の下部組織である。
下部組織の役割は、『暗部』の雑用などである。
装備品の開発・整備、人員の輸送、証拠隠滅などをこなすために膨大な人員がいる。
しかしその膨大な人員も使い方が荒かったら人員不足にも陥る。
なぜたくさんの人数がいるのになぜ足りなくなるのか。
上条「バイトでもしようかな……」
上条「よし! >>10のバイトをすることにしよう!」
ほぅ・・・
下部組織はいわば使い捨てのようなものである。
たとえば、一箱に200組という大量のティッシュが入っているとしよう。
普通に使えば3~4週間は使えるが、
一度に大量のティッシュを無駄に使うような荒い使い方では、
すぐに200という数字は0になる。
しかし0になればすぐに新しいものを補充すればいい。
つまりこれと同じで人が死んだら死んだで補充すればいい。
人を使い捨てにしていて、下部組織の人間などティッシュのようなものである。
この女が担当している暗部組織『アイテム』の下部組織は、
使い方が荒すぎて底をついたティッシュである。
「誰かいい人材はいないかしら!?」
女はガサゴソと机に広がる資料をあさる。
そしてある一枚の生徒のデータの載っている紙を手にとった。
その紙に書かれている生徒の名前は……
「『上条当麻』……か」
――――――
――――――
10月8日。
今は、ちょうど皆が家で夕食を食べているか、食べ終えているくらいの時間帯である。
とある寮に住んでいる『上条当麻』は、自分の部屋で溜め息をつきながら、
上条「不幸だ……」
上条は通帳に書かれている残高830という数字と、
財布から出てきた100円玉3枚と10円玉5枚、1円玉9枚を見てそう呟いた。
次の奨学金が振り込まれるのはまだ先である。
そのまだ来ない日までこの全額1189円で生き延びなければならない。
なぜ上条がこのような状況に陥ったのかというと……
禁書「と~ま、おなかすいた~」
この食欲旺盛な同居人のおかげである。
少女の名前はインデックスと言って、
記憶喪失の上条には知らないとある出来事がきっかけで、
上条と一緒に住んでいるらしい。
上条「さっき晩飯食ったばっかだろ!」
禁書「あんなもやし炒めともやしの味噌汁じゃ全然足りないんだよ!」
少女は、空になった食器を指さして文句を言う。
上条「上条さんが精一杯作った、低価格もやしフルコースですよ!?」
禁書「足りないっていたら足りないんだよ」
上条「だー、もうわかったから。何か作ってやるから騒ぐんじゃねぇ!」
このようなやりとりがほぼ毎日続けば自然とこうなるだろう。
まして上条は無能力者(レベル0)である。
奨学金は一人で生活するだけの分の金額はあるが、
二人暮らし、まして大食いシスターと一緒に住んでいれば自然と奨学金は底をつく。
上条「(はぁ、バイトでもすっかな……?)」
上条はそんなことを思って求人票を手にとった。
求人票に載っている職は、
コンビニの店員、ファストフードの店員、ファミレスの店員、
など、どれもバイト代は一括払いであり即日払いではない。
この窮地を乗り切るにはどうしても今お金が欲しい。
しかし、そう簡単に即日払いのバイトは見つからない。
上条「はぁ、不幸だ……」
上条はなかば諦めた感じでぼやいた。
そしてあるチラシが目に入った。
そこにはこう書いていた。
―――――――――――――――――――――――――――――
女の子たちの仕事のサポートやりませんか!?
◎仕事内容
・おもに雑用
・ちょっと汚い仕事かも……
◎日給20000円 即日払い
身体に自信があるそこの君→ TEL△△△―×××―□□□
―――――――――――――――――――――――――――――
上条は飛び付いた。
あくまで仕事内容ではなくそのバイト代でにある。
日給二万円という普通にありえない金額。
そしてなにより即日払いという文字にである。
上条(この状況で20000円という大金はのどから手が出るほど欲しいんですが……なんか危ない仕事臭がプンプンするんですけど。仕事内容は雑用か、ええい背に腹は代えられん)
上条はそう思って携帯電話に手を出し、書いてある番号を打ち込んだ。
そのチラシを見つけたこと自体が不幸だとは知らずに。
――――――
――――――
10月9日昼ごろ。ここは、第7学区とあるファミレスである。
今日は学園都市の独立記念日であるので、学園都市内部のみは祝日である。
休日の昼ごろなので、ファミレス内部は昼食をとろうとしている学生でにぎわっている。
浜面(やりたい放題だな……)
浜面仕上は思った。
ここはファミレスである、のにもかかわらず、
外から買ってきたコンビニ弁当を堂々と食べているやつもいれば、
サバの缶詰を開けようとしているやつ、
映画のパンフレット広げているやつに、
さらに食事も手に着けず、だらけているやつもいる。
麦野「あれ? 今日のシャケ弁と昨日のシャケ弁はなんか違う気がするけど……あれ~?」
浜面(変わんねえよ!)
浜面はそう心で突っ込んだ。
この秋物らしい明るい色の半袖コートを着込んでいるふわふわした茶髪が特徴の、
シャケ弁を見て首をかしげている女は『麦野沈利』という。
フレンダ「結局さ、サバ缶がキてる訳よ! カレーね、カレーが最高」
麦野の隣で缶詰をいじくり回している金髪碧眼の女子高生は『フレンダ』。
缶切りがうまく使えないのか、ビニールテープのようなものを巻き付けて、
電気信管を取り付けて爆薬で焼き切っていた。
本来はこういうために使うものではなかったはずだ。
絹旗「香港赤龍電影カンパニーが送るC級ウルトラ問題作……
さまざまな意味で手に汗握りそうで、逆に超気になります。要チェック、と……
滝壺さんはどう思いますか?」
ふわふわしたニットのワンピースを着た、
12歳ぐらいの映画のパンフレットを広げている少女は『絹旗最愛』である。
滝壺「……南南西から信号がきている……」
話を振られたのに独りで訳のわからんことを言っている、
絹旗の隣にいる脱力系の少女は『滝壺理后』。
ソファ状の席でだらっと手足を投げ出したまま、
どことも取れない所に視線をさまよわせている。
―――彼女たちは『アイテム』。
学園都市の非公式組織で、主な業務は統括理事会を含む『上層部』暴走の阻止である。
浜面仕上は『アイテム』の正規メンバーではない。
その下部組織の所属で雑用や運転手などを任されている。
浜面「(……にしても、女ばっかりの中に一人だけ男がいるってのは、何とも居心地が悪いもんだな)」
浜面はここに配属されてから常々そんなことを悩んでいた。
六人がけのテーブルに浜面は一番通路に近い所に座らされていた。
なぜかというと、彼にはドリンクバーを往復するという仕事を彼女たちに押しつけられていたからである。
麦野「そういえば」
シャケ弁を一通り食べ終えた麦野が話を切り出した。
麦野「あの女から下っ端の補充が来るって連絡が来たわ」
あの女とは、いつも『アイテム』に電話などで指令を与える、つまり上司である。
声だけしか聞いたことがなく、名前もどんな顔なのかもわからないので、
彼女たちの間で通称『電話の女』である。
絹旗「また浜面みたいなのが増えるんですか?」
フレンダ「浜面これ以上増えたら今までプラスだったのが一気にマイナスに急降下するって訳よ」
浜面「なっ!? 待て、俺の存在自体マイナスか!? 俺がいないほうがプラスなのか!?」
滝壺「大丈夫だよ、はまづら。私はそんなマイナスなはまづらを応援してる」
麦野「はいはい、静粛に」
彼女たちによる、浜面への集中砲火が収まらず、話が進みそうにないので、
麦野はそう言ってこの場を鎮めた。
そんな麦野は『アイテム』のリーダーである。
麦野「とりあえずその下っ端が使えれば使うし、
使えなければ切り捨てればいいわ」
フレンダ「結局、その下っ端しだいって訳よ」
浜面はそんな会話を聞いて、
なら自分は使える人間なのだろうか?と思っていて少しいい気になっていた。
絹旗「浜面、にやけてて超きもいです」
浜面「なっ!?」
どうやらその思っていることがそのまま顔に出たらしい。
麦野「まあキモい浜面は置いといて、
統括理事会の一人、親船最中が狙撃されかけた事件について、
そろそろこっちも動きたいわけなんだけど……」
ここにいる女子たちによる、ガールズトークとはまた程遠い物騒な会話が始まった。
――――――
――――――
10月9日同時刻、第7学区にあるとあるファミレス周辺を上条当麻は走っていた。
なぜこんなに急いでいるのかというと、
大量の昼食を要求する同居人のために大量の料理を作ってきたからである。
上条「(昼ぐらいまでには来いって話だったけど……間に合うか?)」
ファミレスまであと2キロ強。
上条は普段から不幸でスキルアウトから追われることが多々あるので、
それなりに体力はある。
上条「(頼むから間に合わなかったとかいう不幸は起きないでくれよ~)」
全速力で走ること約12、3分。
ついに目的地であるファミレスに辿り着いた。
上条は「ぜぇ、ぜぇ」と息を切らしながらファミレスのドアに手をかけた。
上条(たしか女の子が4人、男の子が1人とか言ってたっけ?)
上条は店に入り、「何名様ですか?」とウェイトレスに聞かれ、
「待ち合わせてる人がいます」と言い大勢の客がいるテーブル群に足を踏み出した
――――――
――――――
『アイテム』御一行の話は一段落ついたようだ。
なぜかというと麦野が下っ端である浜面に、
「車を準備しろ」
という命令が下ったからである。
浜面「くそっ、俺は百人以上のスキルアウトを束ねていた組織のリーダーなんだぞ……」
浜面は思わず独り言のように言葉が漏れた。
麦野「そうね、だから何?」
浜面「(……ちくしょう)」
今度こそ心の中でそうつぶやいた。
そんなやりとりをして浜面は席を立とうとしながら出入口の方向を見た。
浜面はこちらの席にツンツン頭の見覚えのある少年がこちらに歩いてくるのを確認した。
そしてその少年は立ち止まり
「あの~、『アイテム』の集会場ってここであってますか?」
席に座っている皆の目線が自然とそこに向く。
一番近くにいたフレンダが何者か? と尋ねようとしたその瞬間、
ドンッ!!
とテーブルをたたき、急に浜面が立ち上がり怒鳴った。
浜面「なんでテメェがこんなところにいるんだよ!!」
「てっ、テメェはあのときのスキルアウト!?」
『アイテム』のメンバーが「なに言ってんのコイツ?」的な目線を一斉に向ける。
なぜ浜面がこの少年にこう言ったのかというと、
以前、浜面はスキルアウトのリーダーだった頃。
とある女性を暗殺するように依頼を受け実行しようとした時に、
とある少年に出会い、阻止された過去をもつ。
そう、そのとある少年こそが
麦野「アンタ、名前はなんていうの?」
上条「あ、上条です。『アイテム』の雑用のバイトとしてここに来ました」
浜面は唖然とした、
以前、女のピンチを救った『ヒーロー』が、
俺みたいな下っ端と同じ仕事をしようとしていることについて。
麦野「浜面、とっとと車用意してくれる? 時間ないんだけど」
麦野の命令はようしゃなく浜面へくだされた。
浜面「わっ、わかったよ」
浜面はしぶしぶ納得のいかないような顔で駆け足で店を出た。
――――――
ミス
×『アイテム』のメンバーが「なに言ってんのコイツ?」的な目線を一斉に向ける。
○『アイテム』のメンバーが「なに言ってんのコイツ?」的な視線を一斉に向ける。
――――――
第7学区 路地裏
ピー、ピー、ピーと路地裏に電子音が鳴り響いていた。
音源は麦野のポケットの中の携帯端末からである。
浜面「おい、それ出なくていいのか?」
麦野「良いって良いって。私らがやらなくても別の誰かが対処してるでしょ」
とは言っても端末からの音はその後も止む気配もなく、
あまりのしつこさにああ言った麦野もイライラし、
ついには端末をすごい勢いでつかみ取って噛みつくように怒鳴りあげた。
麦野「ピーピーピーピーやかましいんだよクソ馬鹿!!
応答する気も無いことぐらい分かんないの? 嫌がらせかっ!?」
電話の女『こいつときたら! こっちだって連絡したくてやってるわけじゃないんだっつうの!!』
どうやら新たな仕事の連絡らしい。
なぜかというと、例の『電話の女』からの電話だからである。
会話を聞くなり麦野はその仕事を断るようだ。
電話の女『……ウイルス保管センターは他の部署に頼んでおくから、
とにかく狙撃未遂に関して報告書ちょうだい。せめてそっちは大至急ね』
麦野「悪いそれ無理だわ」
電話の女『何よそれどーなってんのよっ!?」
麦野「何故ならこれからその『スクール』のクソ野郎どもを皆殺しに行ってくるから」
……いきなりの静寂だった。
あれだけ騒いでいた電話の主がめっきり黙ってしまったのだ。
そしてしばらくの沈黙の後、電話の女がまた声を出した。
電話の女『ええと、追加で良い? 最低でも一人に10発は鉛玉をブチ込んであげて?』
浜面「あの~、つかぬことをお聞きしますが」
女の声の後、浜面が二人の会話に割り込んだ。
浜面「管理人のあなた様は止めるべき場面ですよ?」
電話の女『騒ぐな下っ端。『スクール』の連中は前から嫌いだったのよ。
この私の頭を悩ませるものはすべて地球から消えてしまえばいいのだ~!
がはははははは!!』
そんな笑い声とともに通話が切れる。
ほんとにあれが組織のまとめ役で良いのか?
そんな表情で麦野は携帯端末をポケットに戻して、軽くあちこち見回した。
麦野「ところで浜面。本当にアシは手に入るの?」
浜面「軽く流しやがった……ま、その辺はなんとかするけどよ」
と浜面は言いつつ路上駐車してある、
六人くらいは乗れるボックスカーに近づいた。
浜面「今回は上条がいるからこれくらいのやつでいいか?」
麦野「動けばなんでもいいから早くして」
浜面「へいへい……」
上条「……浜面、これお前の車なのか?」
浜面「そんわけねえじゃん。これから盗むんだよ」
上条はとても驚いた顔をしている。
なんか説得の声が聞こえたが浜面は無視をし、
ロック解除用のツールを取り出し見事な手際でロックを外した。
麦野「はー、便利なスキルだね」
そういって麦野は助手席に乗り込んだ。
それに続いて後部座席に絹旗、フレンダ、滝壺の三人が乗り込んだ。
上条はあまりにも自分がいた世界ではまったく見たことのない光景を見て、
唖然と立ち尽くしていた。
それに見かねた浜面が、
浜面「早く乗れよ! 置いて行っちまうぞ?」
上条「これに乗ったら傍観者から共犯者にランクアップしそうなんですが……あれデジャヴ?」
浜面「くだらねえこと言ってねえで早く乗れよ……」
上条(くっ、これもバイト代のためか……)
上条はあきらめて傍観者から共犯者へランクアップした。
浜面「行き先は?」
麦野「第18学区・霧ヶ丘女学院。近くに素粒子工学研究所があるの。
親船の騒ぎに乗って私設警備の人間が緊急招集されたり機材が運ばれたりって混乱があったのはあそこだけ。
それに合わせてガードもかなり手薄になってる。分かりやすい計画犯罪だよね」
浜面「一ヶ所だけって、ずいぶんと簡単な構図だな」
麦野「失礼、言い忘れた。数ある中で有益なポイントは一ヶ所でしたって話」
浜面「そーかい」
そういって浜面は適当に返した。
そして浜面はふと思いついた疑問を口に出した。
浜面「それにしても、素粒子工学? 仮にそこが本当にターゲットだったとして、『スクール』は何を狙っているんだ?」
麦野「さあね。親船最中の命よりも重要な要件なんじゃない?」
そう返答した後、麦野はやる気のなさそうな声で、
麦野「というわけで、クソ野郎どもの尻拭いツアーにしゅっぱ~つ」
そういった瞬間、浜面はエンジンを始動させる。
ふと後部座席から滝壺が声をかけた。
滝壺「はまづら。免許持ってたの?」
浜面「必要なのはカードじゃない。技術だ」
上条「っておいそれ違反じゃねえか!?」
浜面「うるせえなあ。お前なにしに来たんだよ?」
そんなやりとりをしながらもオートマ車は発進し、路地裏から消えていった。
――――――
――――――
車の中では、ファミレスの中で行われなかった自己紹介の質問タイムである。
普通質問タイムは、
『好きな食べ物は?』とか、『得意な教科は?』とか、
そういうベタ質問を転校生にするものだが。
この車内ではそんな普通の質問は一言も発されなかった。
なぜならここは学校ではなく、上条は転校生でもないからである。
絹旗「上条は能力者なんですか? まあこんなところにこんなバイトに来るんだから質問しなくても超分かりますけど」
上条「うっ、わかってんなら聞くなよ。 おっしゃる通り上条さんは無能力者(レベル0)ですよ」
フレンダ「結局、浜面と同レベルの人材だったって訳よ」
滝壺「大丈夫。そんなかみじょうをわたしは応援する」
浜面「滝壺。さりげなくそれは俺にダメージが――」
絹旗「じゃあなにか戦いに使えるスキルとかあるんですか?」
浜面の言葉も絹旗の声にかき消された
絹旗「たとえば銃を使うのが得意とか? それなら浜面よりは使えますね」
上条「生憎ですが上条さんはそんな銃を使う環境で生活しているわけでもないので」
フレンダ「このままじゃ本当に浜面と同レベルって訳よ」
上条「あっ、でも俺の右手にはあらゆる――」
麦野「はいはい、質問タイムは終了~」
上条が何か言いかけたが、
麦野はそう言い、これからどうするのかという議題で話し始めた。
麦野「とりあえず私ら四人が『スクール』をブッ潰しに行くから、
浜面と上条二人は霧ヶ丘女学院の近くで待機してて」
上条「ちょっとまて。女だけでケンカにでも行く気かよ」
麦野「は? なに言ってんの? ケンカなんか行くわけないじゃん」
上条「そうですよね~」
麦野「もちろんクソ野郎どもをブチ殺しに行くのよ☆」
上条「」
上条は思った。
ああバイト先を間違えたな、と
上条(不幸だ~!!!!)
上条は定番のセリフを心の中で叫んだ。
そんなことをしているうちに今は第一八学区だ。
――――――
――――――
第一八学区、霧ヶ丘女学院付近。
浜面「暇だ……」
麦野に待機と言われここで待機してる浜面と上条。
今頃麦野たちは、100メートルほど先には素粒子工学研究所の中で、
強襲する『スクール』の迎撃を行っているだろう。
まあ『アイテム』には超能力者(レベル5)の麦野、
残りのメンバーで大能力者(レベル4)の滝壺と絹旗、
爆発物のスペシャリストのフレンダ、という少数精鋭組織である。
そうそう負けることはないだろと浜面は思っていた。
そんな浜面にとってはどうでもいいことから違う事に思考がシフトし、口を開いた。
浜面「なあ上条。なんでこんなバイト始めたんだ?」
上条「うっ、上条さんにもいろいろと事情があるんですよ」
浜面「レベル0でもそれなりの奨学金は貰えるだろうに……いったい何に金使ってんだ?」
上条「……食費」
浜面「どんだけ食うんだよおまえ!」
上条「違う! 俺じゃねえ。全部インデックスのやつが……あ」
浜面「いんでっくす……? テメェ、もしかして家に外国の女の子を入れてるとかいう、
素敵イベントに巻き込まれてんじゃねえよな?」
上条「……」
浜面「なぜそこで目をそむける。オイこっち見ろよ!! そして否定しろよ!!」
上条「……」
浜面「チクショウっ! リア充爆発しろっ!!!」
ドカーン!!!!
二人「「!?」」
浜面が叫んだ瞬間、研究所がすさまじい爆発を起こした。
上条が冷や汗を垂らしながら、
上条「……あいつらってどういうやつらなの?」
浜面「ああ、あいつら全員化け物だぜ。麦野にいたっては超能力者(レベル5)、しかも第四位ときたもんだ」
上条「へえ、超能力者(レベル5)か、御坂と同じか……」
そんな会話を一気にとぎらせた事態がおこった。
ガシャン!!!
という音がしたと思ったら一台のステーションワゴンが、
ものすごいスピードで通りすぎて行くのが視界に入った。
浜面と上条はポカンとしていると、
次に片手で滝壺の首根っこを掴んでいる麦野が走ってこっちにやってきた。
麦野「浜面!! 早く車を発進させろ! あのワゴンを追うぞ」
そういって麦野は勢いよく車内に飛び乗る。
浜面は麦野に急かされアクセルを踏もうとする。
上条「ちょっと待て! 残りの二人がいないぞ!」
麦野「あいつらはあの程度じゃ死なない。今はあのステーションワゴンが先!」
上条「ふざけんな!! 仲間見捨てんかよ!?」
麦野「うっさいわねえ。ならアンタが捜しに行って後から合流しなさいよ!」
上条「……わかった。浜面、先に行っててくれ。必ず連れ戻して来るからな」
浜面「死ぬなよ。上条」
麦野「浜面ァ、早く追いなさいよー」
浜面「分かったからそう急かすんじゃねえよ」
上条がボックスカーから降りると、即座にそのボックスカーが発進し、
彼の視界からすぐに消え去った。
上条「さてと……まずはあそこから探すか」
上条の視線の先には、半壊した素粒子工学研究所の建物があった。
――――――
――――――
フレンダは路地裏にいた。
先ほどの戦いで『アイテム』のほかのメンバーとバラバラになってしまった。
麦野や滝壺とはぐれてしまい、
さらに、さっきまで一緒にいた絹旗も、
絹旗「ここは二手に超分かれましょう!」
とか言って、どこかに行ってしまった。
今、フレンダは一人である。
現在フレンダは『スクール』の追手に追われている。
追手といっても所詮下部組織のザコ共なのでフレンダの敵ではなかったが、
フレンダ「ハア、ハア。そろそろ残弾が尽きそうな訳よ」
フレンダの耳にはいまだに複数の足音が聞こえる。
おそらく『スクール』のヤツらだろう。
フレンダの主武器は『爆弾』である。
本来フレンダは、地形を利用して、罠を仕掛け、待ち構えて戦う戦法を得意としている。
複雑に入り組んだ地形に、的確に大量の爆弾を仕掛けて、
徐々に相手を追い詰めていく戦法である。
『スクール』と粒子工学研究所で戦ったときに、武器をほとんど使ってしまい、
今、手持ちにある武器は驚くほどに少ない。
しかも、今は逃走中なのであらかじめ仕掛けている爆弾もない。
なので、総合的に今フレンダは絶望的な状況と言えるだろう。
フレンダ(今、銃火器持ちと出会ったら絶望的なのよね)
最初に言ったようにフレンダは路地裏にいる。
学園都市の路地裏はとても入り組んでいる。
さらに路地裏なのでとても狭い。
もし、いくら無能力者(レベル0)の下部組織の敵に出会って、
さらに、そいつらがマシンガンのような火器を持っていたら、
場所が狭いので、銃の扱いがうまい下手関係なく速攻ハチの巣にされてしまう。
フレンダ「足音。せいぜい2~3人ぐらい……」
フレンダは路地の十字路付近にあるレストランのゴミ箱に『ぬいぐるみ』を置く。
もちらんただの『ぬいぐるみ』ではない。中に爆弾入りの特製の『ぬいぐるみ』である。
こういう場所ではいかに早く敵を殺すかである。
十字路にいかにもな男たちが2人現れた。
フレンダはそいつらを確認した瞬間、手元のスイッチを押した。
ドカン!!
という音と共にその男たちは吹き飛び、ただの肉塊となった。
フレンダ「いっちょ上がりってわけよ!」
フレンダはもう足音が聞こえなくなったのを確認し、路地裏から出た。
そこには小さな公園があった。
フレンダ「いったんここで、休憩するかな」
この公園は子供一人とおらず、ブランコが風でギコギコ揺れていた。
見回してみると自動販売機が目に入った。
フレンダは自動販売機に小銭を入れる。
フレンダ「げ、この自販機まともな飲み物ないじゃない!」
学園都市にある飲み物は、実験品として出されているものがある。
なので、いろいろと奇妙な飲み物がコンビニや自動販売機に並んでたりする。
フレンダが小銭を入れた自動販売機はすべて実験品という奇妙なものだった。
フレンダ「何でこの町は変な飲み物ばかりあるのよ――!」
ふとフレンダが、公園の入り口に人がいるのが見えた。
「よお。テメェはたしか、『アイテム』の中にいた外人の……たしかフレンダってやつでいいんだよな?」
フレンダはゾッと寒気がした。
フレンダ「垣根……帝督……!!」
垣根「ちょっと、教えて欲しいことがあるんだけどいいか?」
フレンダは一番のはずれを引いてしまったようだ。
超能力者(レベル5)という、化け物を。
――――――
――――――
上条は町の中を走り回った。
『アイテム』のメンバーである絹旗とフレンダを探すためにだ。
さっき素粒子工学研究所にいたのだが、
その中はいかにもな怪しい人たちがたくさんいた。
研究所の後片付けみたいなことをしていたようだ。
ただ片付けをしているだけの人ならいいのだが、
その人たちは、背中に銃火器を背負っていた。
おそらく『スクール』ってところの下っ端だろう。
飛び出していけば必ず自分は殺される、ということが直感的にわかった。
後片づけをしているということは二人はそこにいない確率が高い。
なので上条は今、研究所周辺の町を探しまわっている。
上条(チクショウ! 一体どこに行きやがった!)
今は昼過ぎぐらいの時間で、しかも今日は休日なので、
町には休日を楽しんでいる学生で溢れている。
その中で特定の人物を探すのは困難なことである。
「ねえ。何やってんのよアンタ?」
上条「!? 何だ御坂か……」
美琴「何だって何よ、何なんだって!」
御坂美琴。
肩まである茶色い髪で、上条より7センチほど背丈の低い少女。
ベージュ色のブレザーに紺系チェック柄のプリーツスカートをはいている。
休日なのに制服を着こんでいるのは、校則で義務付けられているからである。
彼女は常盤台中学の生徒で、学園都市第三位の超能力者(レベル5)であり、、
『超電磁砲(レールガン)』の異名を持つ高位能力者である。
上条「悪い御坂、俺今急いでんだ」
美琴「だから何やってんの、って聞いてるんじゃない?」
上条「人捜してんだよ」
美琴「こんな休日にご苦労なこったねえ」
上条「そうだ。御坂、ニットのワンピース着た小さい女の子か、
帽子かぶった、金髪の外国人の女の子見てないか?」
美琴「……」
上条「あれ? 御坂さん、何をそんなに怒っていられるのでせうか?」
美琴「また女か!? またなのかァああああ!?」
美琴の額から電撃の槍が飛びかかってくる。
あれ一つで10億ボルトという、即死レベルの危険物である。
上条「ギャー!! 何を言っておられるのですか!? 御坂さーん!!」
上条は必死にその場から全速力で離脱する。
上条「不幸だァああああ!!!」
今日もいつも通りのやりとりである。
美琴(あ~。またやっちゃった~、もう!!)
美琴は溜め息を吐いて、消えていった上条の方を見る。
美琴「……あのこと……聞けなかったな」
後悔しても、上条はもう目の前にはいない。
――――――
――――――
フレンダはうずくまっていた。
垣根がおこなった正体不明の攻撃により。
垣根「いい加減教えてくれよ。お前ら『アイテム』の情報をよお」
フレンダ(ハア、ハア。結局、勝てるわけないって訳よ)
フレンダの周りには、武器にしているドアなどを焼き切るツールや、
内部に爆弾を仕込んでいるぬいぐるみが散乱している。
フレンダ(あいつは、超能力者(レベル5)の麦野でも勝てなかった超能力者(レベル5)。
麦野でも勝てなかったヤツに、私が勝てる訳がない)
垣根は溜め息を吐き、めんどくさそうにこう言った。
垣根「強情だな。もう一発攻撃食らっとくか?」
はっきり言って。
フレンダは、垣根がどういう風に攻撃してきているのかわからなかった。
視えない打撃。それを食らってフレンダの体は痣だらけだった。
フレンダ「がっ――ッ!?」
フレンダは大量の血を地面に吐き出した。
蓄積してゆくダメージにもうフレンダに限界が近かった。
垣根「いいから、教えてくれよ。そしたら、見逃してやるから」
フレンダ(も、もう無理。教えてしまおうか。結局、自分の命が惜しい訳よ)
フレンダはかすれた声で、垣根にこう言った。
フレンダ「わ、わかった。は、話すから……」
垣根「ったく。やっとか。手間かけさせんなよ。」
情報をバラすことにより自分は助かるだろう。
しかしバラすことにより、フレンダは『アイテム』におそらく居られなくなる。
最悪、自分を殺すため麦野(リーダー)が地の果てまで追ってくるだろう。
しかし、フレンダはとにかく今自分の命が惜しかったのだ。
フレンダが『アイテム』の情報について口を開きかける。
だが、その口から情報が吐かれることはなかった。
とある少年の叫び声が邪魔をして。
「やめろ!! フレンダ!!!」
自分の命が惜しくなって、
明らかに裏切ろうとしていたフレンダに。
『ヒーロー』が駆け付けた。
――――――
――――――
上条は激怒していた。
あきらかに戦力差があるのに、
自分の目的のために、一方的に攻撃する超能力者(レベル5)に対して。
上条「テメェ。フレンダから離れろよ」
垣根「ああ? 何だテメェ? こいつの仲間か?」
垣根はアリでも見ているような目でそう言った。
垣根「こっちは取引が成立してんだよ。ジャマすんじゃねえよ、ザコが!!」
フレンダ「上条!! 逃げ―――」
フレンダが上条に言葉を伝える前に、垣根が腕を振るう。
ゴウン!!
という音の発生源が、空気を切りながら上条に向かっていく。
上条は防御するために右手を構えた。
バギン!!
という音が、周りに響き渡った。
その音と共に垣根の放った何かが消え去った。
垣根「はあ?」
垣根の目が大きく見開く。
超能力者(レベル5)である垣根にも、
その状況については理解できなかったようだ。
それはフレンダも同じだった。
フレンダ(えっ? 何をやったの!? たしかあのときは無能力者(レベル0)って言ってたのに……)
上条の右手には、『幻想殺し(イマジンブレイカ―)』というチカラが宿っている。
どんな能力でも異能ならば、右手で触れればあらゆるものを打ち消す。
ちなみに、上条が不幸なのは右手が幸運や神のご加護などを打ち消すからである。
上条「大丈夫か!? フレンダ!!」
上条は驚いている垣根を無視してフレンダのもとへ駆け寄った。
フレンダ「上条。なんでこんなところに!?」
上条「お前を探しに来たんだよ」
麦野はこういう命令はしない。
つまり、上条は独断で自分を探しに来たのだと、フレンダは勝手に予想した。
フレンダ「助けに来てくれたのはありがたいんだけど、今すぐ逃げた方が良い訳よ」
上条「はあ? なんで!?」
フレンダ「あいつは超能力者(レベル5)。しかも麦野より上の、第二位。
無能力者(レベル0)の上条じゃあ、歯が立たない訳よ!!」
確かに助けに来てくれたのはうれしい。
しかしフレンダには耐えられなかった。
自分なんかのために目の前にいる少年を殺してしまうかもしれないから。
上条「……うるせえよ。」
フレンダ「!?」
上条「俺がてめえを守ってやるって言ってんだよ。だったらおとなしく守られてろよ!!」
初めだった。そんなセリフを言われたことが。
フレンダは、『暗部』に落ちて長い。
自分のことは自分でやる。他人のことなど考えるな。
そういう状況の中生活してきたフレンダにとって、こういうセリフを言われるなど思わなかった。
垣根「かっこいーじゃねえか。俺が悪者で、お前がヒーローか……」
垣根は笑いながらそう言った。
垣根「ガキの頃あこがれたなー。弱いものを守る、正義のヒーロー。それが今としちゃあ……ムカつくなあテメェ!!」
垣根の右腕が、真横に振るわれる。
それと同時に見えない衝撃波が上条に向かって飛んでいく。
それを上条は身構えて、
上条「じゃまだッ!!」
右手で薙ぎ払う。
さっきまで音を鳴らしながら進んでいた衝撃波は、ただの空気へと戻される。
上条は垣根に向かって走り出す。
垣根との距離が詰る。
垣根は「チィッ!」と舌打ちをした。
垣根の周りに何かが渦巻いた気がする。
次の瞬間、
ゴァ!!
と上条の目の前の地面に正体不明の爆発が起こる。
上条「ぐぅッ!?」
上条は吹き飛ばされそうになりながらも、その爆発の中心と思われる場所を右手で触れる。
爆発は収まり、上条を邪魔していたものは消え去る。
垣根(……どうなってやがる。俺の『未元物質(ダークマター)』が機能してねえのか?)
上条「うォおおおおおおお!!」
距離は2メートル弱。一歩で拳が届く距離。
上条は右手を引き、垣根の顔面に狙いをつける。
垣根(俺の『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』に何か起こっているのか?)
拳が振るわれる。
しかし、その拳は当たらなかった。
垣根が一歩後ろにステップして、上条のパンチを回避したからである。
垣根「気に入らねえ展開だな!!」
垣根は今、上空10メートルくらいに滞空している。
どういう原理かわからないが、とりあえず垣根は空にいる。
垣根「いったんここは、退かせもらうぜ!」
上条「テメェ!! 待ちやがれホスト野郎ッ!!」
垣根「安心しな。あとで絶対テメェを殺してやるからよ」
そう言って、垣根はどこかに消え去った。
残っていたのは、一本の白い羽根だった。
上条が右手で触れると、それは元々何もなかったかのように消え去った。
上条「あれが第二位……か」
フレンダ「上条……」
上条「無事か? フレンダ」
倒れているフレンダがいる方向に顔を向ける上条。
そして、その場所へ速足で駆けつける。
フレンダ「まあ、立てないほどじゃないって訳……ごほっ、ごほっ!!」
やはり垣根からの攻撃によるダメージが蓄積して、
限界を迎えているので立つのも難しい身体となっている。
上条「全然大丈夫じゃねえじゃねえか」
そう言って上条はフレンダ目の前に行き、背を向けてその場で屈んだ。
上条「乗れよ」
フレンダ「へっ!?」
思わず声が裏返る。
いきなり上条がおこなった、よくわからない行動のために。
上条「おぶってやるから、乗れよ」
フレンダ「いやいやいやいやいや! いいってそこまでひどくは」
上条「嘘つけって。いいから乗れって」
ここで断り続けても、おそらく上条は絶対あきらめないであろう。
そんなやりとりを続けて日が暮れたら困るので、
フレンダ「……ここは、お言葉に甘えるって訳よ」
あきれめて上条の言うことを聞くことにする。
頬を赤らめながら、フレンダは全体重を上条の大きな背中に任せる。
仰向けに寝転がって
上条「乗れよ」
フレンダ「」
上条「……よっと。じゃ、病院にでも行きますか」
フレンダ「いや、病院じゃなくて、『アイテム』の隠れ家に連れて行ってほしいんだけど」
上条「いや、お前怪我してんじゃん」
上条は意外そうな顔をしている。
どうやら上条の中にはなぜか、ケガをする→病院へGO、という考え方になっているようだ。
まあ常識的に考えてそれが普通なのだが、ここではそんな常識は通用しない。
フレンダ「この程度でどうこう言えるほど『暗部』は甘くないって訳よ」
上条「ふーん。本当にいいのか?」
フレンダ「しつこい男は嫌われるって訳よ!!」
そういうもんなのか、と上条は思い、
『アイテム』の隠れ家に向かって足を踏み出す。
と思ったが、
上条「そういや絹旗の事すっかり忘れてた」
ふと思い出した中学生くらいの少女。
見た目からしてフレンダより一人にするのが危険な気がする。
フレンダ「絹旗なら多分大丈夫じゃないかな?」
上条「そ、そうか。ならいいんだが……」
おそらく長い付き合いであろうフレンダがそう言うのからいいのだろう。
そう思う上条は再び足を踏み出そうとしたが、
上条「そういや、隠れ家ってどこだ? 俺知らねえんだけど」
フレンダ「…………」
フレンダはうんざりした顔でこう思った。
こいつ浜面より使えねえかも、と
――――――
出会いがファミレスじゃそりゃ知らんわな
――――――
垣根(おかしい?)
垣根は目の前にあるディスプレイに映っているデータを見てそう思う。
ここは『スクール』の隠れ家である。
現在、垣根は自分の『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』の検査を終えた後だ。
先の上条当麻との戦闘で、自分の攻撃がことごとく消え去っていくという事態が起こった。
自分の能力の不発が『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』が狂っていると垣根は推測し
そう思って検査を行ったのだ。
しかし、
その検査用の装置のディスプレイには『異常なし』と出ている。
垣根(いったいどうなってんだ? ムカつくぜ、あのクソ野郎)
などと心の中で文句を言っていると背後から少女の声が聞こえた。
「検査は終わったの?」
垣根は振り返る。
そこには、派手なドレスを着た一四歳くらいの少女が缶コーヒー片手につっ立っていた。
彼女は『スクール』のメンバーで、『心理定規(メジャーハート)』という能力を持つ大能力者(レベル4)である。
垣根「ああ。でもおかしいんだよな。異常が全く見られねえ……」
心理定規「単純にあなたの演算ミスじゃないの?」
垣根はムッっとして、
垣根「殺すぞ」
こう一言だけ放った。
心理定規「ところで、『ピンセット』を使った解析は進んでるの?」
と垣根の言葉を流して別の話題に転換する。
垣根の右手には機械製のグローブがつけられていて、
人差し指と中指の二本には透明な爪が装着されている。
それが『ピンセット』である。
肉眼では確認できないが、爪の中には大気中から採取されたシリコンの塊が収まっているはずだった。
もっとも、塊と言っても70ナノメートル、電子顕微鏡を使わないと確認できないようなものである。
この『ピンセット』が彼ら『スクール』が粒子工学研究所を襲った目的である。
垣根「いつも疑問に思ってた」
垣根は爪をカキカキ鳴らしながら呟いた。
垣根「アレイスターのクソ野郎は、俺たちの動向を知り過ぎているってな。
防犯カメラや警備ロボット、衛星か何かの監視だけじゃねえ。
いったいどうやって情報を集めてるのか不思議なもんだったが」
心理定規「…………」
垣根「正体はなんてことはない。
町中に見えない機械を5000万ほどバラまいて情報収集してたんだ。
そりゃあ隅々まで知り尽くしてても当然だな」
『滞空回線(アンダーライン)』。
その形状は球体上のボディの側面から針金状の繊毛が左右に三対六本飛び出しているものだ。
移動方法は地上を歩くのではなく空気中を漂うといった感覚に近いだろう。
この極小の機械は空気の対流を受けて自家発電を行い、半永久的に情報を収集して、
体内で生産した量子信号を直進型電子ビームを使って『滞空回線(アンダーライン)』間でやり取りし、一種のネットワークを形成している。
『滞空回線(アンダーライン)』は『窓のないビル』と直結する唯一の情報玄関口であり、当然ながら、この中には世界を揺るがすほどの『最暗部』の情報がいくつも隠されているはずである。
垣根「ただ、『滞空回線(アンダーライン)』の存在を知ったところで、電子顕微鏡サイズの機械を見つけることは困難だし、仮に捕まえられたとしても情報を取り出す手段がないんだよな。何しろナノサイズの機体をこじ開けて、端子にコードを接続しなくちゃならないからな」
さらに『滞空回線(アンダーライン)』体内に収められた量子信号は、
外部から不用意に『観察』されるとその情報を変質させてしまうという問題もあった。
そこで必要とされたのが『ピンセット』というわけである。
ナノデバイスがどれだけ小さかろうが、
素粒子そのものを掴むために開発された『ピンセット』なら問題はない。
これなら『滞空回線(アンダーライン)』から情報を抜きとることも十分に可能となる。
ドレスの少女は垣根を見ながらこう言った。
心理定規「解析結果の方は?」
垣根は溜め息をつき、諦めたような顔をして、
垣根「予想通りだよ。ダメだな。
たしかに『滞空回線(アンダーライン)』荷は結構なデータが収められているが、
これだけでアレイスターと対等にやりあえる立場に立てると思えねえ。
このデータにプラスしてもうひと押しする必要がある」
心理定規「なら、やっぱりやるのね」
垣根「……ああ。学園都市の第一位、『一方通行(アクセラレータ)』を殺す」
学園都市第一位の『一方通行(アクセラレータ)』はアレイスターから見て、
『第一候補(メインプラン)』の核になっていて、
第二位の垣根帝督は、『第二候補(サブプラン)』となっている。
なので第一位を殺すことによって、自分が『第一候補(メインプラン)』になることが、
直接交渉権を得るのに近道であると垣根はみている。
垣根「『一方通行』か……」
垣根帝督は『ピンセット』を眺めながら、ゆったりと笑った。
――――――
――――――
上条たちはアイテムの隠れ家に到着していた。
麦野「遅いよー二人とも」
麦野沈利がのんびりした調子で言った。
フレンダ「ご、ごめん麦野」
ボロボロのフレンダが返答する。
ここは第三学区にある高層ビルの一角である。
スポーツジムやプールなど、屋内レジャーだけを集めた施設であって、利用者のグレードはかなり高い。
建物に入るだけで会員証の提示を求められ、
そこから各施設を利用する際、会員証のランクを調べられたりする。
いわゆる上級階級と呼ばれる人々が、ステータスとしてまず手に入れたいものがここの会員証らしい。
上条たちが今いるのはVIP用のサロンである。
年間契約貸し切り個室で、
『二つ星』以上の会員証ランクがなければ借りる資格さえ与えられないという。
まさに最高級な感じの部屋であって、上条には一生縁がないと思ってもいい場所である。
個室と言っても3LDKを超える広さの空間で、麦野はソファに身を沈めていた。
上条がある少女を見て、声を出した。
上条「絹旗。よかった、無事だったのか。」
絹旗「はい。フレンダが『スクール』の主力を超引きつけてくれたおかげで、比較的楽に逃げ切れました。」
フレンダ「まったく、おかげで『スクール』の超能力者(レベル5)に殺されかけたんだから」
フレンダは軽く起こりながら言う。
擬音で言うなら、プンスカだろうか。
麦野「はいはい、わかったから。いい加減そのムカつく第二位をブチ殺しに行きたいんだけど?」
麦野は軽い感じでそう言い滝壺の方を向く。
麦野「滝壺。お願い。」
麦野がそう言うと滝壺は無言でうなずき、ポケットから透明なケースを取り出す。
絹旗は不思議そうな目で透明なケースを見ている。
絹旗「滝壺さんも超難儀していますよね。『体晶』がないと能力を発動できないなんて」
滝壺「別に。私にとっては、こっちの方が普通だったから」
そう答え、そして麦野の方へ向く。
滝壺「検索対象は『未元物質(ダークマター)』でいい?」
麦野「いいから、とっととやっちゃいなさい」
滝壺は白い粉末をほんの少しだけ舐めた。彼女の目が光る。
まるでそちらの方が正常であるかのように、背筋を伸ばして滝壺理后はたたずんでいる。
滝壺理后は、『能力追跡(AIMストーカー)』のという能力を持つ、大能力者(レベル4)である。
一度記憶したAIM拡散力場の持ち主を補足し、たとえ太陽系の外まで逃れても居場所を探知できる能力である。
滝壺「AIM拡散力場による検索を開始。
近似・類似するAIM拡散力場のピックアップは中止。
該当する単一のAIM拡散力場のみを結果報告するものとする。
検索終了まで五秒」
機械のように放たれる声。
そして、正確な答えはやってきた。
滝壺「結果。『未元物質(ダークマター)』は、第七学区にいる」
浜面「第七学区って、結構広いぜ?」
滝壺「大体この位置は喫茶店や、オープンカフェが並ぶところ。
今も絶えず、移動を繰り返している」
麦野「よし、だいたいわかったわ。」
ソファから立ち上がった麦野は軽く背伸びしてから、
麦野「『アイテム』、『スクール』のクソどもをブチ殺しに行くわよ。
浜面。先に行って、車ですぐ出られるようにしてて」
わかった、と軽く返事をし、浜面は入口から出て行った。
麦野「じゃ、頼むわよ。絹旗」
絹旗「了解です」
そう言うと、絹旗は上条の背後に回る。
「なんだよ?」と聞く前に上条の首元に手刀を食らわせる。
ガッ!!
上条「なっ――!?」
上条は地べたに倒れこんでしまう。
意識が遠のき、だんだんと視界がぼやけていく。
麦野「悪いけどここでお別れね。あんたはこれ以上『暗部』にかかわらない方が良いわ」
フレンド「ど、どういう事なの麦野?」
フレンダは心底あせっているのが見て分かる。
麦野「言葉の通りだよ。この『善人』をこれ以上、この道に踏み込ませる訳にはいかないよ」
上条「ふ……ざけん……」
麦野「ああ大丈夫よ。バイト代ならここ置いとくから」
麦野は茶色い封筒をガラステーブルの上に置いた。
おそらくこの中に一万円札が二枚入っているのだろう。
麦野「あんたはこれ以上。ここにはかかわらない方が良いわ」
上条はここまで聞いて、意識が消え去ってしまった。
麦野「フレンダ。あんたもここにいても良いんだよ?
身体もボロボロだし、武器の残りも少ないんでしょ?」
フレンダ「結局、心配ご無用な訳よ! 腐っても『アイテム』だし」
麦野「せいぜい死なないことね」
軽く笑って返答する麦野。
そんな会話をしつつ『アイテム』は、『スクール』のリーダー、
超能力者(レベル5)第二位、垣根帝督の下へ向かう。
『アイテム』と『スクール』の最終決戦の火蓋が切って落とされる。
――――――
――――――
第七学区のとあるオープンカフェの席に、二人の少女が座っていた。
頭に花の髪飾りをしている彼女は『初春飾利』という。彼女は『風紀委員(ジャッジメント)』である。その証拠に風紀委員の証である腕章をつけている。
その目の前で机に突っ伏している、肩まである茶色い髪に、同色の瞳。
空色のキャミソールの上から男物のワイシャツに腕を通して羽織っている、
見た目10歳前後の少女は『打ち止め(ラストオーダー)』という。
なぜこの二人が一緒にいるのかと言うと、
「迷子を捜す!」と息巻いている打ち止めに初春が付き合うかたちで一緒に行動していた。
そして歩きまわっているうちに、歩き疲れたから休もうと言ってこの状況にある。
ちなみに現在初春は大型甘味パフェに挑戦中だ。
初春「ところで迷子はどうなったんですか?
アホ毛のビビっと反応はもう無くなっちゃったんですか?」
打ち止め「……ミサカはアホ毛じゃないもん、ってミサカはミサカは萎れながら答えてみたり」
しかしそうは言っても10歳前後の少女の頭頂部から一部だけ飛び出した髪の毛が、
秋の風を受けてそよそよと左右に揺れている。どこに出しても恥ずかしくない天下無敵のアホ毛だ。
打ち止め「うーん……さっきまで確かにこの辺りをウロウロしていると感じたんだけど、
何だかいつの間にかどっか言っちゃったみたい、ってミサカはミサカはあまりの徒労っぷりにげんなりしてみる。」
と、グニャグニャしていた打ち止めがいきなり顔をあげた。
迷子が見つかったのかな? と初春が思ったのだが、どうも違うらしい。
打ち止めは通りすがりの女子高生たちが持っていた、
チェーン系の喫茶店のセットについてくるキーホルダーを凝視している。
打ち止め「み、ミサカもあれが欲しい、ってミサカはミサカはお財布を持ってないので、
初春のお姉ちゃんの方にキラキラした瞳を向けてみたり!!」
初春「あーもう、迷子を捜すんじゃなかったんですか?」
打ち止め「むむっ! あっちの喫茶店から迷子の反応をミサカは感じ――ッ!!」
初春「真顔で嘘をついちゃダメですよ。
大体、私の大型甘味パフェはまだ序章の生クリームゾーンを終えたばかりであって、
ここで席を立つことなんてありえないんです」
打ち止め「何でそんなのんびりしてるのーっ! ってミサカはミサカはテーブルをバンバン叩いて駄々をこねてみたり!!」
初春「……そういえば、タクシーのお釣りを一杯もらってませんでしたっけ?」
打ち止め「ハッ!! 言われてみれば、ってミサカはミサカはポケットに突っ込んで札を握りしめて手近な喫茶店にダッシュしてみたり!!」
言い終える前に走り出す打ち止め。初春はハンカチを振りながら、
初春「ちゃんと戻ってくるんですよー」
とひとまず忠告だけはしておく。
よし、ここからが本番だ、と意気込んで。
大型甘味パフェのアイスクリームゾーンへ突入した初春だったが、
「失礼、お嬢さん」
不意に横からそんなことを言われた。
ほしゅっ!
おはようございます
保守してくれたみなさんありがとうございました
投下します
アイスクリームをすくおうとした小さなスプーンの動きを止めてそちらを見ると、
何だかガラの悪そうな少年が立っていた。右手には、機械で出来た怪しげな装飾をつけている。
初春「はぁ。どちら様ですが」
「垣根帝督。人を捜しているんだけど」
言いながら、垣根と名乗った少年は一枚の写真を取り出す。
垣根「こう言う子がどこへ行ったか、知らないかな。『最終信号(ラストオーダー)』って呼ばれているんだけど」
初春「……」
初春は数秒間、じっと写真の中の少女に注目した。
垣根と写真を何度か交互に見比べ、それから首を横に振った。
初春「いいえ。残念ですけど、見ていないですね」
垣根「そうか」
初春「どうしても見つけられないなら『警備員(アンチスキル)』の
詰めどころに届け出を出した方が良いと思いますけど」
垣根「そうだね。その前にもう少し自分で捜してみる。ありがとう」
にっこりと垣根は言って、そこから立ち去った。
初春は細いスプーンを大型甘味パフェに突き刺して、
再びアイスクリームゾーンへ突入しようとしかけたが、
垣根「ああそうだ、お嬢さん。言い忘れていたことがあるけど」
初春「はい?」
初春が顔をあげようとする前に次の言葉が出た。
垣根「テメェが『最終信号(ラストオーダー)』と一緒にいたことは分かってんだよ、クソボケ」
殴られた、と気づく前にすでに初春は椅子から転げ落ちてしまった。
ろくに食べていない大型甘味パフェが地面に落ち、あちこちに散らばった。
周囲から通行人の悲鳴が響く。
何が起きたか初春はわからなかった。とにかく起き上がろうとするが、
仰向けに倒れている初春の右肩に、垣根は靴底を思い切り踏みつけた。
垣根「だから俺はこう尋ねたんだぜ。『こう言う子を知りませんか』じゃなくて、
『こういう子がどこへ行ったかわかりませんか?』ってな」
垣根は足に体重をかける。少女の右肩を砕くために。
ダゴギッ!!
という鈍い音と共に、骨と骨をこすりあうわせるような激痛が走り抜けた。関節が外れてしまったのだ。
初春は、あまりの痛みにのたうち回りたくなるが、垣根の鉄柱のように動かない足がそうはさせてくれない。
初春の絶叫が響いたが、垣根の表情は少しも変わらなかった。
垣根「テメェが俺の動きに気付いて『最終信号(ラストオーダー)』を
『逃した』ってわけじゃねえことは予想できる。
俺は外道のクソ野郎だが、それでも極力一般人を巻き込むつもりはねえんだよ。
だから協力してくれりゃ、暴力を振るおうと思わねえ」
周囲にはたくさんの人々が往来している。
しかし、彼らは一斉にその場から距離を取っただけで、
初春のもとへ駆けつけようとする人は一人もいなかった。
無理もない。
初春は、風紀委員の腕章をつけている。
実際に風紀委員は校内の揉め事に対処する組織である。
しかし、その風紀委員の中にもエリートや落ちこぼれがいるのだが、
何も事情を知らない一般の人々から見たら、
『腕章をつけている人は治安維持の人間だ』
ぐらいにしか思えない。
その治安維持を行う人が、いとも簡単にねじ伏せられているのを見て、
それを助けようとなどと考えることはないだろう。
孤立無援の中、垣根の靴底が関節の外れた肩にさらに押し込まれる。
垣根「……ただな、俺は自分の敵には決して容赦はしねえ。
何も知らずに『最終信号(ラストオーダー)』に付き合わされてたのならともかく、
テメェの意思で『最終信号(ラストオーダー)』を庇うってのなら話は別だ」
垣根の足にさらに力が加わっていく。
垣根「頼むぜーお嬢さん。この俺に殺させるんじゃねえよ」
グギギガギゴギガリ!!
鈍い音と強烈な痛みが連続する。堪えようと思ったがすでに初春の瞳から涙があふれていた。
負の感情がグチャグチャに混ざり合い、巨大な重圧となって初春の人格を内側から圧迫する。
垣根「『最終信号(ラストオーダー)』はどこだ?
それだけを教えれば、テメェを解放してやる」
提示された、たった一つの逃げ道。
どこを見回してもゴールが見えない出口に、たった一つ設けられたゴール。
『痛みから解放される』というゴール。
初春の唇がゆっくりと動く。
涙を流しながら、その口が動く。
自分の無様さに歯噛みしながら、初春は最後の言葉を告げる。
初春「――すよ……」
垣根「……なに……?」
初春「聞こえなかったんですか?
『あの子は、あなたが絶対に見つからない場所にいる』って言ったんですよ。
嘘をついた覚えは……ありません」
できるだけ垣根を馬鹿にしたように舌まで出して彼女は言った。
垣根帝督はしばらく無言だった。
垣根「……いいだろう」
溜め息をして初春の方から足をどけた。
しかし、その足は地面には戻らず今度は初春の頭を狙ってピッタリと止まった。
垣根「俺は一般人には手を出さねえが、自分の敵には容赦しねえって言ったはずだぜ。
それを理解したうえで、協力を拒むってんなら、それはもう仕方ねえよな」
垣根は振りあげた足に力を込める。
まるで、空き缶を潰す要領で足を動かす。
垣根「だからここでお別れだ」
ブオ!!
という風圧に初春は涙をためた目をつぶった。
今の彼女にはそれくらいしかできなかった。
「待ってください!!」
垣根の足がピタリと止まる。声がした方へ垣根は首だけ向ける。
そこにはセミロングの黒髪に白梅の花を模した髪飾りをつけた少女がいた。
下にいる風紀委員と一緒の制服なので、友達かなんかかと垣根は思う。
「う、初春を放してください!!」
その少女は声を震わせながらも、悪者である垣根に叫びかける。
初春「だ、ダメです佐天さん!! 逃げてください!!」
初春は残り少ない体力を使って声を出す。
なぜこんなところにいたのか知らないが、
とりあえずこの親友に、この男の毒牙が向かないように。
佐天「で、でも初春……」
初春「いいから早く!!」
戸惑う佐天を早く逃がそうと一生懸命声を荒げる初春。
そんな二人を見て垣根は、
垣根「はあ。泣けてくるねー。親友のために危険を冒してまで助けに来る……」
垣根は足を地面につけ、佐天の方向に身体を向ける。
そして鋭い眼光が、佐天を睨みつける。
垣根「ならテメェも俺の敵ってことだ。なら容赦はしねえよ。
初春「に、逃げてっ!!」
佐天「ひっ!!」
垣根の周りにまがまがしい何かを感じる。
周りの人たちは思っただろう。彼女たちは死んだな、と。
垣根が何かをおこなおうとした瞬間、彼の体が店内に吹っ飛んだ。
「なあに一般人とじゃれてんのよ第二位。私と遊んでちょうだいよ♪」
垣根はゆっくり立ち上がり、その声主の方へ視線を向ける。
そしてダルそうな声で、
垣根「またお前か第四位、麦野沈利さんよお。
見逃してやったのにわざわざ死にに来てんじゃねえよ」
麦野「ほざけ第二位が。今すぐその不似合いな順位から引きずりおろしてやるわよ」
第二位と第四位。
『未元物質(ダークマター)』と『原子崩し(メルトダウナー)』
超能力者(レベル5)という二人の化け物が再び相見える。
――――――
――――――
携帯電話の着信音が鳴り響く。
ここは第七学区のとあるコンビニである。
現代的な杖をついている白い超能力者(レベル5)『一方通行(アクセラレータ)』は、
仕事を終えてすることもないので、適当なコンビニに入って、
左手に持つ籠の中に大量のコーヒーを放り込んでいる最中である。
籠を地面に置いた後、ポケットの中にある携帯電話を取り出して、
ディスプレイに表示されている『登録3』という文字を見る。
実際に電話に出ると、彼が思っていた人物とは別の人物の声がした。
『お疲れ様です、一方通行。ひとまず『ブロック』による
統括理事長暗殺未遂事件は終結しました。これも全てあなたがた『グループ』おかげですよ』
この電話の声に対して一方通行は不機嫌そうな声で、
一方通行「オマエか」
と答える。
先ほどの電話の声から出た、『ブロック』と『グループ』というのは、
『アイテム』や『スクール』らと同等の機密で扱われる暗部組織である。
『有能な部下を持って私も幸せです……』
一方通行「よっぽど殺して欲しいようだなァ」
『いえいえ。私も今回は本当に感謝しているんですよ。
ところで現在『アイテム』と『スクール』が交戦しているのはご存知ですか?』
一方通行は溜め息をつく。呆れながら一方通行は、
一方通行「仕事の感謝の言葉を並べた途端次の仕事の話か?」
『仕事ではありませんが……この情報を聞いてどうするかはあなた次第ですけど……』
一方通行「情報だァ?」
『感謝の気持ちみたいなものですよ。通常の規定報酬のほかに、個人的な謝礼として有用な情報ををお持ちいたしました』
一方通行「……言ってみろ」
『はい。検体番号(シリアルナンバー)20001号『最終信号(ラストオーダー)』の命の危機に関する情報です
――――――
――――――
麦野は一度、粒子工学研究所で垣根と戦っている。
今でも彼の能力を理解することはできない。
しかし、どうせ殺してしまえば一緒だろうと麦野は深くは考えてはいなかった。
麦野「おい、クソガキ共!! 邪魔だからとっととどきなさい!!」
麦野は、明らかに邪魔くさい初春たちを睨みながら怒鳴る。
佐天が初春を連れて行くために、彼女の所へ近づく。
佐天「大丈夫? 初春」
初春「だ、大丈夫です……あいたた!!」
右肩を押さえながら初春は立ち上がろうとする。
それを心配そうに見る佐天の後ろに垣根が立っていた。
初春「さ、佐天さん後ろ!!」
佐天「へっ!?」
初春の声はむなしく、垣根はすでに攻撃の準備を終えていた。
垣根「とりあえず死んどけよ」
麦野「チッ!!」
麦野は電子線を初春たちのいる付近の地面に発射する。
着弾した地面が爆発を起こし、初春たちが10メートルほど転がってゆく。
垣根「へー。ずいぶんと甘くなったもんだな第四位」
麦野「なんのことやら」
その言葉と同時に複数の電子線を垣根に向かって飛ばす。
麦野の能力は『原子崩し(メルトダウナー)』。正式名称粒機波形高速砲。
波も粒子も使わずに電子を操る麦野が発射する電子線は、
どんな障害物も無視し、そのまま貫く強力な能力だ。
しかし、垣根は避けようともしない。
直撃したように見えたが、当たる直前に電子線が消え去っていた。
麦野(ここまであのときと一緒ね……さてどうしたもんか)
第四位の脳をフル回転させる麦野。考えをまとめる暇もなく、
垣根「どうした、もうお終いか? 次はこっちから行くぞ」
そう言って垣根は左腕を振りかざす。その動作と同時に衝撃波が発生して麦野を襲う。
麦野は舌打ちをし、目の前に電子線で出来た障壁を張る。
その障壁は敵の衝撃波を払いのける。
垣根「ほうやるな。だがこれならどうだ?」
再度左腕を横に振る垣根。先ほどと変わりない衝撃波が発生する。
麦野(あァ? なに考えてやが――)
考え終わる前に麦野の体が真後ろに吹っ飛んだ。
麦野「がッ!?」
なぜ? と麦野は思う。目の前には先ほどから障壁が張られていた。
別に障壁をよけて、側面から来たわけではない。
そもそもその場合は体の側面に衝撃が来るはずだ。
それ以前に障壁は直径2,3メートルくらいの巨大なものである。
しかしその衝撃波は正面から堂々と障壁を超えて飛んできた。
麦野「テメェ、いったい何をしやがった?」
垣根「簡単なことだ」
垣根はそう答えた後、突然背中に白い翼が生えた。
垣根「俺の『未元物質(ダークマター)』に常識は通用しねえ。ただそれだけだ」
そう不気味な笑みを浮かべながら宙に浮く垣根。
その姿はまるで天使のようだった。
麦野「チッ!! 似合わねんだよクソメルヘン野郎が」
垣根「心配するな。自覚はある」
早くも超能力者(レベル5)同士の戦いに、差が見え始めてきた。
第二位と第四位という、膨大な差が。
――――――
――――――
麦野以外の『アイテム』のメンバーは、付近に停めてあるボックスカーに乗っていた。
麦野に『私一人で決着つけてくるからあんたら待機ね』
と言われたので四人は待機していた。
待機と言うのは、垣根以外の『スクール』のメンバーが現れたときに、
麦野の邪魔をさせないために対応するという事である。
浜面「ところで麦野は大丈夫なのだろうか……?」
おそらく麦野たちの戦いを眺めてる野次馬の群れを、
フロントガラス越しに見て浜面はそう言った。
時間軸がごちゃ混ぜすぎてわからん
すいませんさるってしまいました
今度こそさるってしまわないように投下ペースを遅くしたいと思います
>>197すいません。構成がへたくそでorz
絹旗「今はそんなこと超気にするときではありません。私たちは麦野の邪魔をするヤツが来ないように見張るときです」
そうはいいながらも絹旗も麦野が気になるのか、ちらちら野次馬の方へ目を向けていた。
フレンダ「結局、麦野なら大丈夫って訳よ……たぶん」
浜面「でも相手は第二位だろ。俺はどんなやつか見たことないけど、やっぱ強いんだろ?」
皆がだまる。正直第二位『垣根帝督』は強い。おそらく麦野以上だろう。
それをわかっていて麦野を止められなかった。
しばらく沈黙が続いた。やはり沈黙は心地いいものではなかった。
そこで、沈黙を破るようにジャージを着た少女は声を出す。
滝壺「大丈夫。もしむぎのがやられそうになったって、私たちで助けよう。もちろんむぎのに恨まれるかもしれない。だけど……」
滝壺の瞳は、『体晶』を使っていないのにもかかわらず輝いているように見えた。
滝壺「私たちは『アイテム』。一人でも欠けたらダメ。もちろん浜面もだよ。
だから麦野が死ぬくらいなら恨まれた方がマシだよ」
浜面はおどろいた。滝壺がこんなに饒舌になっていることと、
下部組織である浜面にも欠けてはならない言ったこと。
絹旗「そうですね。浜面は超どうでもいいですけど」
フレンダ「結局、そういうことになるって訳よ。浜面はどうでもいいけど」
浜面「お前らそんなに俺が嫌いか!?
俺はあの超能力者(化け物)どもの戦場に特攻かけてくればいいのか!?
そうなのか!?」
顔を紅潮させ、そう叫ぶ浜面。
そんな浜面を見てあきれた様子で、
絹旗「冗談ですよ浜面」
フレンダ「まったく。浜面は冗談も通じないアホって訳よ」
浜面「…………」
滝壺「大丈夫。私はそんな冗談の通じないはまづらを応援する」
浜面「……とにかくやることは決まったんだよな?」
今でもハートブレイクしそうな浜面だが、声を出す力は残っているようだ。
皆は目を合わせる。皆の考えていることは一緒だろう。
麦野(リーダー)を助ける。たとえ恨まれたとしても。
そして野次馬がいる方向を見ると、たまたま目に入ったものがあった。
血だらけの麦野がしゃがみ込んでいる。
それを見て彼女たちの決心が固まる。
――――――
――――――
麦野の消えそうな意識の中、自分は今どんな格好だろうと考えていた。
攻撃を受ける度に血が噴き出し、視界を真っ赤にする。
自分の周りには大量の血だまりができていた。
麦野「クソッ……たれが……」
垣根「まだ意識あんのかよ。タフだな第四位」
余裕な笑みを見せながら宙に浮く垣根。
右手に着けているピンセットをカチャカチャして遊んでいる。
垣根「いい加減『最終信号(ラストオーダー)』を捜して、あの第一位(クソ野郎)をおびき出さねえといけねんだ。とっとと出血多量で死にやがれよゴミが」
麦野「生憎だけど……そんなに簡単に死ぬわけにはいかねえんだよ」
麦野は震える足で立ち上がる。おそらく麦野はもう限界であろう。
しかし、ここで倒れるのは彼女のプライドが許さない。
垣根「しかたがねえ。時間の無駄だが自分でとどめを刺すか……」
垣根は左手を構える。
あれが振られることがあれば、あの衝撃波が飛んでくるだろう。
あれを防ごうと電子線の障壁を張る体力も無い。
垣根「さて、とっと楽に―――」
左手を振ろうとする垣根の体に衝撃が走る。
なぜなら、垣根の側頭部には喫茶店で使われているようなテーブルが激突していた。
垣根「痛ってえなあオイ」
垣根はそのテーブルが飛んできた方向を睨みつける。
12歳くらいの少女が、
絹旗最愛が大量のテーブルや椅子を持って立っていた。
絹旗「麦野は超やらせません!!」
そういうと次々と持っているものを垣根に向かって投げ飛ばす。
絹旗最愛は怪力ではない。
『窒素装甲(オフェンスアーマー)』という窒素を自由に操る能力者なのだ。
その力は極めて強大で、圧縮した窒素の塊を制御することで、
自動車を持ちあげ、弾丸を受け止めることすらできる。
しかし、その効果範囲は狭く、手のひらから数センチの位置が限界。
だから、見た目では『手で持ち上げているように』見えてしまうのだ。
しかし垣根にそんなものは通用しない。
垣根が左腕を振りかざす。
それだけで垣根に向かってくるテーブルや椅子を蹴散らしてゆく。
そして、そのままその射線上にいた絹旗を吹き飛ばす。
麦野は最初なにが起こっているのかわからなかった。
しかし、数秒たった後すぐさまに理解した。
麦野「何やってんのあのバカは―――」
そう言おうとした途端、視界の中に見覚えのあるボックスカーが停まった。
浜面「大丈夫か、麦野!?」
ボックスカーの運転席の窓から顔を出す浜面。
麦野「浜面……あんたたち何してんの!? ジャマするなって命令したはずよ」
滝壺「ダメだよむぎの」
ボックスカーから滝壺が下りてくる。
滝壺の顔がいつもと違う気がした。
滝壺「私たちは、みんなで『アイテム』。どんな仕事もみんなでやる。だからそんな命令は聞けないよ」
フレンダ「結局、麦野は無理し過ぎなのよ。少しくらい私たちに頼ってもいいって訳よ」
次に、軽快にボックスカーから降りてきたフレンダがそう言った。
いつもの軽い口調だが彼女の顔は真剣そのものだった。
浜面「生き残ろうぜ麦野。こんなとこで死ぬお前じゃねえだろうしな」
最後にボックスカーから降り、レディース用のピストルを手に持つ浜面がそう言う。
麦野「……」
なにをバカなこと言ってんだこいつらは? と麦野は思う。
しかし彼女は不思議と怒りなどの負の感情はわかなかった。
そして麦野から険しい表情から、いつもの麦野の表情に変わる。
麦野「浜面く~ん。いつからそんなことを言えるくらい偉くなったのかにゃーん?」
浜面「うっ! 今はそんなこと言ってる場合じゃねえだろ」
麦野「さあて。今度こそ行くわよ。絹旗が心配だわ」
麦野は立ち上がり、圧倒的な超能力者(レベル5)のもとへ足を進める。
『アイテム』という仲間と共に。
垣根はうっとおしそうに周りを見る。
目の前には吹き飛ばしたはずの少女が立っている。
視界を90度左に傾けると、
さっきボロボロにしたはずの麦野の周りに『アイテム』のメンバーが集まっていた。
垣根「お前らホントめんどくせえなあ! 勝てねえと分かって何で立ち向かってくるかなあ?」
麦野「あァ!? はなっから勝てねえと思って戦うバカがどこにいるんだよ」
垣根「はあ? まさか俺に勝てると思ってんのか? まったく、脳みそ湧いてんじゃねえのか?」
垣根の目の前にいた少女は、麦野たちと合流する。
浜面「大丈夫か絹旗?」
絹旗「超大丈夫です。この程度でやられる私じゃありませんし」
フレンダ「さて、これで『アイテム』が全員そろった訳よ」
全員、各々の武器を構える。
麦野は粒機波形高速砲の発射準備をした右手。
絹旗は握りしめた窒素をまとった拳。
フレンダは2,3個のぬいぐるみ型爆弾。
浜面は拳銃。
そして、滝壺はポケットから透明なケースを出す。
麦野「滝壺。あんたそろそろ『限界』なんじゃないの?」
滝壺「大丈夫。仲間のためなら」
浜面「おいどういうことだよ『限界』って?」
滝壺「大丈夫、大丈夫だから」
そういうと滝壺は透明なケースの中にある『体晶』を少し舐めた。
その瞬間、滝壺の目に輝きが生まれた。
垣根「おいおい。そんなものを使ってまでなにになるってんだよ」
垣根は滝壺の行動を、頭がイカれた人を見るように見る。
まるで滝壺がどうなっていくのかがわかっているように。
滝壺「あなたには関係ない」
垣根を睨みつける滝壺。
そして、それを見た麦野が声を出す。
麦野「さあて。垣根帝督。とりあえずあんたは……」
勝てるかわからない。そんな相手に麦野は、
勝ちを確信したような笑顔を見せつけ、
「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね!!」
その言葉と同時に『アイテム』は動きだす。
それぞれの役割を果たすために。
麦野は粒機波形高速砲を垣根に飛ばす。やはり垣根には届かない。
なんらかのチカラを使い、電子線を無効にしているのだろう。
電子線を防いだ次の瞬間、垣根は懐に気配を感じる。
そこには、いつの間にか距離を詰めていた絹旗がこちらに飛んで来ていた。
絹旗は、垣根の腹にジャンプした勢いを使いアッパーをした。
垣根の腹に拳が突き刺さる。
垣根「なるほど。窒素か……」
そう呟いたのが絹旗に聞こえた。そして絹旗は気づく。
なぜか手ごたえがない。
そう気づいたら瞬間、絹旗は吹き飛ばされた。
『窒素装甲(オフェンスアーマー)』による窒素の鎧を無視し、
絹旗の体に直接ダメージを与える。
絹旗「がッ!!?」
そのまま吹き飛ばされた絹旗をなんとか体を張って浜面が受けとめた。
その勢いに負けたのか浜面はそのまま尻もちをつく。
浜面「い、生きてるか?」
絹旗「な、なんとか……」
絹旗の口から血がダラリと流れていた。それだけ強力な攻撃を受けたことがわかる。
それを見た浜面は歯を食いしばりながら拳銃を構える。
浜面「クソッたれが!!」
拳銃を2発発射する。
もともと総弾数が少ない拳銃なので、過度に連射するわけにはいかないとみたのだ。
垣根「お呼びじゃねんだよ。下っ端が!!」
垣根に向かう2つの銃弾が、一瞬ですべて薙ぎ払われる。
そして浜面に向かって衝撃波を飛ばそうとする。
だが突然足元でおこった爆発に気を取られ、それができなかった。
フレンダ「文字通り、足元が御留守って訳よ」
手元には、爆弾を爆発させるためのスイッチのようなものを持っている。
おそらくさっき持っていたぬいぐるみが爆発したのだろう。
しかし垣根にはそのようなものは効くはずもない。
垣根「お前、あれだけボロボロにしたのに懲りてねえな」
フレンダ「実の事を言うと、今でもすっごい逃げ出したいんだよね」
麦野「ならとっとと逃げだしなさいよ!!」
粒機波形高速砲を連射する麦野がそう言った。
だが、その粒機波形高速砲は全部垣根に届かない。
フレンダ「何を御冗談を。逃げるつもりなら最初っからここには立ってない訳よ」
懐から2つの手榴弾を取り出すフレンダ。
それを垣根に投げつける。やはり垣根にはそのような普通の兵器は通用しない。
そんな戦いを繰り広げている中、つっ立ってジーと垣根を見つめている少女が、
ブツブツ呟いた後に大声を上げる。
滝壺「『未元物質(ダークマター)』の『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』のパターン分析完了。AIM拡散力場の干渉可能。……麦野!!」
麦野「了解、滝壺。テメェら時間稼ぎは終了だ!!」
そういうと今まで垣根に近づいていたメンバーは、全員、離れていく。
垣根(ああ? どういうことだ。あれだけムカつくくらいちょっかいかけてきて、今さら撤退だ?)
すると、垣根は何かプレッシャーのようなものを感じた。
そして、そのプレッシャーの発信元を特定した。
滝壺理后だ。
なにをしようとしているのかわからないが、
滝壺はこちらを見たままつっ立っていることを確認した。
垣根(何つっ立ってんだあいつ―――)
そう考えた途端、垣根は何か大事なものを奪われた気がした。
その瞬間、垣根の能力が『暴走』し、左腕が吹っ飛んだ。
垣根「があァアアアアアアアアアアアアアア!!」
今まで空に浮いていた垣根だが、暴走によりそれが維持ができなくなり地に落ちた。
それと同時に滝壺も、体中から嫌な汗を流しながら道端に倒れた。
浜面「滝壺ッ!?」
浜面はそう叫び、すぐさまに滝壺のもとへ向かった。
滝壺に触れるととても熱く、身体が異常なことがわかった。
滝壺「ごめん……むぎの。能力の『暴走』が……限界だった」
麦野「十分よ滝壺。後はゆっくり休みなさい」
そう言われると、うん、と言って滝壺はダラッと座り込む。
『能力追跡(AIMストーカー)』は、対象のAIM拡散力場を記録し、
その対象をどこまでも追い続け、検索、補足する能力だが、
これを応用することによって、相手のAIM拡散力場に干渉し、
『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を乱すことで、
能力を暴走させたり、能力を乗っ取ることもできる。
浜面「どういうことなんだよ。これ!」
焦りを見せる浜面。それに対して絹旗がその状況について説明する。
絹旗「これは滝壺さんが使っている『体晶』の副作用ですよ」
浜面「そもそも『体晶』ってなんだよ!? 能力を使うためのものじゃないのかよ!?」
絹旗「元々『体晶』っていうのは、厳密には意図的に拒絶反応を起こして、
能力を暴走させるものなんです。たいていの場合はデメリットしかないはずなんですけど、
ごく稀に『暴走状態の方がいい結果を出せる』っていう人がいるんですけど……それが滝壺さんなんです」
浜面「それがヤバそうなものってのは分かるけど、それが何であんなになってんだよ!?」
絹旗「それも『体晶』の影響です。『体晶』はそれだけ身体に負担が大きいんですよ」
浜面「そ、そんな。そんなことしてまで滝壺は……」
浜面は唖然する。あのいつもボーとしているような少女が、
そんなヤバいものを使って能力を使っていたという事実に。
フレンダ「今はガッカリして時じゃないって。とっととこの戦い終わらせて、医療班のところに直行って訳よ」
浜面「……わかってる。あの垣根のクソ野郎をぶったおして、滝壺を病院に連れていく」
麦野「とは言っても、滝壺のおかげで垣根の能力は『暴走』してくれてるし。これはもう勝ったようなもんね」
そう言いながら麦野は無様な垣根を見つめていた。
垣根は左腕があった場所を押さえ、痛みにこらえているように見えた。
垣根が血眼になりながらもこちらを睨みつける。
おそらく滝壺を睨みつけているのだろう。
垣根「クソがァあああ……『暴走』なんてふざけんじゃねえよ!!」
垣根は『未元物質(ダークマター)』の制御に躍起になっている。
しかし、制御しようとすればするほど能力が自分を攻撃しているような気分になる。
麦野「どうやらここまでのようね」
麦野が垣根に近づき見下ろしながら言う。
麦野「もうあんたはまともに能力を使うことはできない。それは能力者にとってかなり致命的なんじゃなーい?」
挑発的に喋る麦野に垣根の怒りのボルテージが最高潮になっている。
しかし、能力で目の前の女を殺そうとするがやはり身体にダメージが来るだけだった。
垣根「がァあああああ!!!!」
麦野「もうそんなみすぼらしい姿をこれ以上晒させないように今すぐブチ殺してあげるわ」
そういうと麦野は手をかざし、垣根へ粒機波形高速砲を発射する準備をする。
ここでとどめを刺すためにだ。
垣根はその光景を見て何を思ったのだろうか?
ザコの集まりに追い詰められてムカつく?
格下の第四位に殺される自分がムカつく?
能力を使うことができないのがムカつく?
違う、複雑なことではない。いたって単純なことである。
垣根(殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス
コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス)
麦野の粒機波形高速砲が発射された。
ここにいる誰もが垣根の死は確定したと確信した。
しかし、そんな常識は次の瞬間、跡形もなく消え去ることを誰もが予想したか。
垣根「がァァアアアアァアあアアアアァァアアアあアアァアアあア!!!!!!!!!」
もが?
>>280ミスです。ありがとうございました
×誰もが ○誰が
垣根が咆哮する。それだけではない。
背中に生えている数メートルほどの彼に不似合いな翼が、
何十メートルと言う巨大な翼に変貌する。
麦野が発射した粒機波形高速砲ごと、周囲20メートル内にあるすべてのものを吹き飛ばした。
――――――
すいません。これからある用事があるのでいったんここで切ります。
23~24時くらいまでスレが残っていたら続き書きます。
ではではノシ
ぷん太のところに張られたときは俺らのこの12時間保守は0秒なんだよね(´・ω・`)
急いで用事を終わらせて、やっと投下できる環境が整いました。
皆様には大変ご時間を使わせ、迷惑をかけたと思います。
迷惑をかけさせてまでのSSかは分かりませんが、どうか最後までお楽しみください。
投下始めます。
――――――
浜面が目を開けた。
はっきり言ってなにが起こったかは、彼の脳では情報が処理しきれなかったが、
この光景を見てすべて理解した。
浜面「あ……んな化け物……に勝て……る……わけがねえ……」
そこは地獄絵図だった。
周りにいた野次馬たちは垣根の攻撃に巻き込まれたのか、
辺りに人がバタバタと倒れていた。
はっきり言って、人間か肉塊か解らなかった。
周りのアスファルトは割れ、えぐれ、吹き飛ばされて、
道路がただの荒野となっていた。
ふと周りを見てみると、倒れている同僚たちが見えた。
絹旗の下には滝壺がいた。
絹旗が守っていたおかげでこれと言って目立ったケガはなかったが、
『体晶』の影響で、深刻なダメージを受けた身体だったうえで、
さっきの衝撃を受けてしまったようで、動かず気絶していた。
そして、一番垣根の近くにいた麦野は、
身体中が服ごと引き裂かれ、ダラダラと血が流れ、
もはや服か身体か分からない状態になってた。
それだけならまだいい。
それだけならまだいい、というのはおかしいのだろうが。
麦野の左腕が見当たらなかった。
垣根の攻撃により跡形もなく消え去ったのか、
今もどこかに落ちているのか。
いろいろ予想はできるがとにかく麦野の左腕がなかった。
それと、気がかりなことが一つあった。
なぜ自分は意識があるのかである。
あれだけの爆発に巻き込まれ、
能力者の彼女たちは大けがを負っているのに、
無能力者(レベル0)の自分にはとくに重症と言うほどのケガはしてなかった。
せいぜいかすり傷程度である。
運が良かったのか? と浜面は考えた。
とりあえず、何か行動しないとと思い、浜面は立ち上がった。
しかしその瞬間とてつもないプレッシャーに浜面は身体を震わさせる。
周りの砂煙が晴れてきた。
黒い人影が見えた。
完全に砂煙が晴れたとき、
そこには垣根かどうかわからない超能力者(化け物)が立っていたのが見えた。
背中には数十メートルもの大きさの神秘的な白い翼が、3対に空に広げられていた。
漫画やゲームなんかでみたことがある。
そう、まるで、
浜面「……天……使?」
垣根がこちらに気付いたようで、浜面がいる方向に目を向ける。
ビクッ!!っと身体が震える。
さっきまでの戦いが怖くなかった、と言えばウソとなるが、
今まさしく、本当の恐怖が自分を襲っている。
垣根「ああ、テメェ生きてたのか……」
よくよく垣根の姿を見てみると、
さっきまで消え去っていた左腕はいつのまにかもとに戻っていた。
おそらく能力かなんかで腕を新しく生やしたのだろう。
浜面「テメェ。いったい何をしやがったんだ」
震える身体を押さえながら、垣根に問いかける。
垣根「あ? ああ。これは俺も予想外だ」
浜面「は? ふざけんな!! テメェは滝壺に能力が暴走させられて、能力がまともに使えなかったんじゃなかったのかよ!?」
垣根「ああそうだな」
軽かった。あまりにもあっさりとした返答だった。
垣根「その滝壺とかいうやつに代わりに礼を言っといてくれよ。
『お前のおかげで俺は、第一位になった』ってな。こりゃ一方通行なんて余裕だな。
オイオイこれってもしかして俺、『絶対能力者(レベル6)』になっちまったんじゃねえのか?」
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!
聞いたことのない単語を聞いた。
『絶対能力者(レベル6)』。
学園都市は、
無能力者(レベル0)、低能力者(レベル1)、異能力者(レベル2)、
強能力者(レベル3)、大能力者(レベル4)、そして超能力者(レベル5)。
これらの6段階で査定されるはずだ。
そんな常識浜面でも知っている。
能力者の頂上である超能力者(レベル5)。
その上に立つ『絶対能力者(レベル6)』。
そんなものが本当にあるのだろうか?
浜面「……ふざけんなよ。常識的に考えて『絶対能力者(レベル6)』なんてもんあるかよ!!」
垣根「おいおい。言わなかったけなあ……いや、そのときお前はいなかったか?」
垣根はやれやれ、と額に手を当てる動作をして、
不気味な笑顔を浮かべながら口を開けた。
垣根「俺の『未元物質(ダークマター)』に常識は通用しねえんだよ!!」
浜面は全身の力が抜けたのか、尻もちをつき腕をダラッと下げた。
これは安心して気が抜けたのではない。
もう全てがどうでもよくなったのだ。
「ふ……ざけんじゃ……ないわ……よ……」
どこからか声が聞こえた。
その声の持ち主は左腕を失った麦野である。
血だらけの身体を震わせながら、
麦野は垣根を睨みつける。
垣根「よお第四位。いい夢見れたか?」
麦野「テメェなんかが……『絶対能力者(レベル6)』なん……かが、なれるわけ……ねえだろうが」
垣根「まあそうだろうな。こう簡単に『絶対能力者(レベル6)』になれれば苦労はねえよな。まあひとつだけわかったことがある」
垣根は麦野に近づきながらそう喋る。
そして麦野の目の前に立ち、目を大きく見開いた。
垣根「超能力者(テメェら)はもうクズってことがな!!」
垣根は麦野の頭を軽く蹴り飛ばす。
それだけで麦野の身体は5メートルほど浮いた。
麦野「が……は……」
頭を無視して脳みそに直接衝撃を与えられている、そんなようなダメージだった。
意識が飛びそうだった。しかしかろうじて意識はある。
麦「……クソ……が……」
浜面「麦野ッ!!」
垣根「すっげえなおい。軽く蹴飛ばしてこれかよ」
垣根は浜面を無視して歩いていく。
もはや浜面などなんとも思っていないのだろう。
hosu
ピピピピピピピ
いきなり何かの音が鳴った。
その瞬間垣根の足元が爆発した。
垣根は足元が爆破したにもかかわらず、
どうでもよさそうに足元を見ている。
「結局、逃がしは……しないって訳よ」
その足元にあったものを操作していたのは、
頭から血が流れているフレンダだった。
浜面「フレンダ!! よかった生きてたのか」
「私も超無事ですよ」
浜面「絹旗、お前もか」
二人はボロボロの体にムチを打って立ったのだろう。
しかし、この状況で立つことは間違いだろうと、浜面は思っていた。
垣根「あーなんつうか。テメェらそんなに殺して欲しいの?」
垣根の表情は変わらない。
あいかわらずどうでもよさそうだ。
絹旗「死ぬつもりもありませんし、お前を逃がすつもりも超ありません」
フレンダ「なんつうか、ここで逃がしたら麦野に真っ二つにされそうで怖いのよね」
垣根「はあ。せっかく生かしてやろうと思ったのによお。なんだ? この善意を踏みにじられた気分は」
垣根は身体をこちらに向ける。
そして、敵意というより殺意をこちらに向ける。
垣根「そんなに死にてえなら、勝手に死んじまえよ」
絹旗とフレンダは身構える。
垣根のほぼ一撃必殺と思われる攻撃をよけるためだ。
だが化け物はつっ立ったままである。
あくまでつっ立ったままである。
次の瞬間、フレンダたちは体中が切り裂かれた。
距離、装備、能力。
すべてを無視して彼女たちの皮膚を引き裂く。
そしてすべてが倒れ伏す。
反応できなかった。というよりいつ攻撃されたかも、
そもそも攻撃されたかどうかも分からなかった。
それはそのシーンを見ていた浜面もである。
これ上条さんかてんの?
浜面(み、みんな殺される……)
浜面は目の前の光景を見てそう思った。
そう思うしかなかった。
それくらい垣根帝督という化け物は、圧倒的だった。
フレンダ(な……んで?)
不思議と痛みは感じない。
ただただもう自分は死ぬのだろうかと感じるだけだった。
フレンダ(死にたくない……)
指一本動かせない状態で、フレンダは思った。
もはやどうしようもないというのことは分かっている。
これは運命といっても過言ではないだろう。
足音が近づいてくる。おそらく垣根帝督だろう。
その足音が地獄へのカウントダウンに聞こえる。
自分の十数年の人生を振り返った。
『暗部』なんかに入って、ろくな人生ではなかった気がする。
学園都市の闇の住人になってから、こうなることは分かっていたはずだ。
フレンダはふと見上げる。
純白の巨大な翼を広げる垣根が目の前に立っていた。
周りの人から見れば、『天使』などと口から発するだろうが、
フレンダからはどうみても『悪魔』にしか見えなかった。
それを見てフレンダはただただ思うだけだった。
垣根は足を上げる。次にその足の着地地点はフレンダの脳天だ。
フレンダはなぜかあの少年が脳裏に浮かんだ。
自分が過ちを犯そうとしたところに、さっそうと現れて自分を救ってくれた少年が。
今ごろ、絹旗の手刀を食らって隠れ家で寝ているだろう少年が。
自分にとって『ヒーロー』に見えた少年が。
フレンダ(……最後に……もう一度上条に会っておきたかったな)
今下ろされよう足を見て、フレンダは目をつむる。
涙があふれる。
今度こそ死んだと思った。
フレンダ(……死にたくない―――!!!)
く、くるか・・・!
しかし足は振りおろされなかった。
目を開けると垣根はいない。
その代わりに別の人物が立っていた。
本当に会えるとは思わなかった。
もし神様がいるのなら、感謝してもしきれないと思った。
彼女の目の前に『上条当麻(ヒーロー)』が立っていた。
――――――
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!
――――――
浜面はその一部始終を見ていた。
フレンダが踏みつけられそうになるところから、『垣根帝督(化け物)』が上条にブッ飛ばされるところまで。
浜面「あ、ありえねえ……」
浜面は驚愕した。
麦野「ほんとバカよね……わざわざバイト代をテーブルの上に置いといてあげたのに」
麦野はあきれる。
絹旗「ふう。私としたことが超浅かったってことですね」
絹旗は自分のミスを笑う。
フレンダ「あ……ああ……」
『ヒーロー』の参上に安堵したフレンダは
涙を流しながらその名を呼ぶ。
「かみ……じょう……」
上条「はは、よかった。無事だったかフレンダ」
隠れ家からここまで走ってきたのか、
上条は息が荒く、顔に汗が目に見えるほど流れていた。
上条「あとはゆっくり休んでな。後は俺が片をつける」
フレンダ「わ……わかった……」
フレンダは安心したのか、ゆっくりと瞳を閉じていった。
麦野「かーみーじょー。残業代はでないわよ」
上条「いやいやいらねえよ。そもそも何にもしてねえのにバイト代もらうのは気がひけたしな」
麦野「……バカねよえ、まったく」
垣根「おいおいおいおいおい。俺の事を忘れてんじゃねえよ」
上条から笑顔が消える。そして、明確な敵を睨みつける。
上条「また会ったなホスト野郎」
垣根「俺としてはホストみてえな軽い男じゃねえんだけどな」
そんなどうでもいいことを軽く返す垣根だが、
それに反して目はまさしく狩人の目だった。
バカねよえ だった
追いついた私怨
>>455ミス ありがとうございました
×麦野「……バカねよえ、まったく」 ○麦野「……バカよねえ、まったく」
垣根「あのときは、俺の『不幸(アンラッキー)』が、
テメェに『幸運(ラッキー)』を起こしてしまって、
退いてしまったが……今回はそんな『幸運(ラッキー)』はおこらねえぜ」
上条「分かってねえな」
上条は呟くように言う。
そして上条は地面を思い切り蹴り、垣根との距離を詰める。
上条「俺に『幸運(ラッキー)』なんて起こらねえんだよ!!」
上条が右腕を後ろに引く。殴りにかかる姿勢だ。
垣根はそんな姿を見て、
垣根「学園都市最強になった俺にそんなちっぽけな拳が届くわけが―――」
すべて言い終える前に、上条の拳が垣根の顔面に突き刺さった。
バギン!!
という音とともに真後ろに垣根は吹っ飛んだ。
垣根は驚いた顔をした。
バカな!ありえるか?なぜ!?
そんな言葉が脳裏によぎった。
垣根(どうなってやがる。ちゃんと目の前の空気を『侵入する物体を粉々にする』、
という性質にするために『未元物質(ダークマター)』でいじったはずだ!? なぜ!?)
『未元物質(ダークマター)』。
この世に存在しない素粒子を生み出し、操作する能力。
生み出した物質はこの世の物理法則に従わず、独自の物理法則に従って動き出す。
攻撃面でも防御面でも圧倒的な力を誇る能力である。
しかしそんな能力も上条の右手には通用しない。
上条「立てよ!!」
垣根の思考は上条の怒号で阻害された。
上条「テメェにはムカついてんだ!! 人の仲間をこんなにまでしやがって。
さらに無関係の人まで巻き込みやがって、もしかしたら死んでたかもしれねえんだぞ!!」
垣根「チッ、俺だって関係ねえ奴らに危害を加えるつもりはねえよ。
だけどよ、俺は、俺のジャマをするヤツはぶっ殺す、と決めてんだよ」
垣根は口から出る血を拭った後、悪魔のような笑みで、
垣根「でもテメェら『アイテム』は俺のジャマをしてきた。だから攻撃した……それだけだ」
上条「ふざけんじゃねえ!! たしかに麦野たちがお前のジャマをしたのは分かる。
だけど『一般人(周りの人たち)』を傷つけるのは筋違いだろ!!」
垣根「大丈夫だ。ちゃんとジャマをしてたさ、ちゃんとな。
『一般人(あいつら)』がそこに立っているだけで俺のジャマになんだよ!!」
無茶苦茶だ、と上条は思った。
今までいろいろなヤツと戦ってきたが、
こんな歪んだ思考のヤツはいたか?
垣根「無茶苦茶だ、って顔してるな。そりゃそうだ。
俺にテメェらの常識は通用しねえんだからよ!!」
上条「いいぜ。」
上条は思う。こいつをこのまま野放しにはできない。
このままほっといていけば、一般人(みんな)の平穏は一瞬で踏みにじられるだろう。
上条「テメェの常識が、本当にそんなクソッたれなもんでいいと本気で思ってんなら……」
上条は拳を握る。あの歪んだクソ野郎をぶん殴るために。
上条「まずは、そのふざけた幻想をぶち殺す!!」
垣根『やってみろやァあああああ!!! ザコがァあああああああああ!!!』
上条が拳を振りかざす。
垣根はとっさに後ろに回避した。
それと同時に複数の衝撃波を上条に向けて飛ばす。
上条は横に飛びその攻撃を回避した。
なぜ打ち消さなかったのか?
それは防ぎきれなかったからである。
上条の『幻想殺し(イマジンブレイカ―)』の効果は右手のみである。
右手一つでさばききれないほど数の攻撃はどうも相性が悪い。
だからそういう攻撃は避けた方が得策なのである。
垣根はその光景を見て、
『幻想殺し(イマジンブレイカ―)』の弱点に気付いたのか、
先ほどとは比べ物にならないほどの数の衝撃波を、
上条に向かって放った。
上条(や、やべえ!! 避けきれねえ―――)
ドドドドドゴォオオン!!
すさまじい爆音と共に上条がいた場所付近の地面が吹き飛んでいた。
それだけの爆発だったので、たくさんの砂煙が舞っていた。
垣根は邪悪な笑みを浮かべ、
「勝った」と心の中で呟いた。
もう垣根の邪魔をするやつはいない。
後はそこのゴミどもを片付けて、一方通行をぶち殺すだけだ。
垣根「ヒャッハハハッはっはっはっはっ!!」
我慢できず思わず声をあげて笑ってしまった。
こんな喜びは久しぶりだ、と垣根は思った。
しかしその喜びは一瞬で打ち壊された。
上条「……なにがおかしいんだよ?」
垣根「!?」
砂煙の中にひとつの影が。
先ほどぶっ殺したはずの少年の影である。
垣根「はあ!? どうなってやがんだテメェはよお」
上条「そう簡単に死ねるかよ」
ボロボロの姿で上条が立っていた。
垣根「クソが。クソが。……死ねよォおおおおおお!!」
上条「!?」
ザクシュ!!!
上条の全身の皮膚が切り裂かれた。
一瞬でだ。
上条「がっ―――!?」
一瞬で上条の服の色は赤一色に染まった。
上条は、グチャ、と言う音とともに地面に倒れこんだ。
垣根「は。はははは。ざまあねえぜ」
垣根は倒れた上条を見る。周りにはたくさんの赤い液体。
これは絶対死んだな、と垣根は思った。
これで死ななかったら、今度こそアイツは化け物だ。
荒くなっている息を整えながら、
垣根は周りに倒れている人たちを見て、
垣根「あーあ。ムカついた。テメェら皆殺しな」
周りの意識がある人間は、これを聞いて絶望しただろう。
垣根「まずは……そのきったねえ面でビクビク泣いてたテメェからにするか!!」
垣根は倒れているフレンダの方向へ目を向ける。
浜面は、「まずい」、と思って立ち上がろうとしたが、
足が震えて立つことができない。
浜面「ち、ちくしょう……」
垣根は左腕を構える。狙いは意識のないフレンダ。
垣根「まずはひと―――」
上条「……やら……せるかよ……」
後ろから一番聞きたくない声が聞こえた。
バッ、と後ろへ振り向く。
全身ズタボロの少年が、
もう死んでもおかしくない少年が、
息を切らしながら立っていた。
垣根は予想外の事態に陥り、完全に焦りを見せていた。
目は見開き、全身に冷や汗が流れ、身体が震えていた。
垣根「な、なんだってんだよテメェはァアアアアアアアアアアアアアア!!!」
垣根は六つの翼を上条にたたきつける。
0.1秒より早く地面に着きそうな速度。
時速300キロで走る新幹線に正面からぶつかるよりも重い衝撃。
その翼の行きつく先は、すべて上条の脳天。
垣根は今度こそ勝ったと思った。
まず、この速度の攻撃はかわせない。
まず、これを食らって生きている人間はいない。
0.1秒後。
その翼はすべて、跡形もなく消え去った。
上条が頭上に振りかざした右手、
『幻想殺し(イマジンブレイカ―)』によって。
垣根「……は?」
としか言いようがなかった。
実は、今まで垣根は、上条の右手が異質なのを信じてなかった。
信じたくなかったのだ。
『未元物質(ダークマター)』という絶対的なプライドが壊されなくなかったから。
『たまたま』、衝撃波がヤツの目の前で消えてしまった。
『たまたま』、爆発がヤツの目の前で消えてしまった。
『たまたま』、『未元物質(ダークマター)』が働かずにヤツに殴られた。
と『たまたま』でやりすごせるだろう。
そう思って右手の事は信じてなかった。
しかし、今のは『たまたま』では絶対やり過ごせない。
垣根「どうなってんだ!! その右手はァァあああああああああああ!!!!」
垣根は吠える。目の前にある不可解な現象に。
自分はこの世界にないものを作る能力である。
おそらくあの一方通行の絶対的な『反射』でも防ぐことはできないであろう。
しかし、理解できないものを作る垣根でも、目の前にある彼の『右手』は理解できない。
いったいどういう構造で、どういう原理であれは働いているのだろうか。
まったく理解できない。
はっきり言って、自分は自分の事を『化け物』と思っていた。
『最強』だと思っていた。『負けること』はないと思っていた。
しかしその『幻想』はことごとく破壊された。
目の前の『化け物』に。
上条「うおォおおおおおおおおおおおおおお!!!」
上条は精一杯走った。全身ズタボロで、動くこともできるか分からない身体で。
もう上条には痛みなど関係なかった。
ただただ、目の前の垣根帝督(常識知らず)をぶちのめすために。
上条は、軋む足を動かす。
これ以上、仲間たちを傷つけさせないため。
垣根は近づいてくる上条に、とっさに『未元物質(ダークマター)』で衝撃波を形成した。
これ一つで、一つの町は滅ぼせるほどの威力がある。
人など軽く粉々にできる。
上条はその形成されたものが何か分からない。
しかし、仲間を傷つけさせるものだとは分かる。
ならばそんなものは全てぶち壊すだけだ。
衝撃波が発射される。
右手がかざされる。
バキン!!
町を滅ぼす衝撃波はあっさりと消え去った。
それと同時に垣根の戦意も消え去っていく。
上条と垣根の距離は3メートルも無い。
もはや上条の間合いだ。
フレンダという外国人がこう言っていた。
『上条は無能力者(レベル0)』だと。
垣根は無能力者(レベル0)についてこんなことを思い出していた。
垣根(……そういや。心理定規がこんなこと言ってたっけ……)
―
――
―――
心理定規『第一位の一方通行が、どこの馬の骨とも知らない、
無能力者(レベル0)に負けたらしい……って噂を聞いたのよ。本当だと思う?』
垣根『そんなデマに踊らされてんじゃねえよ。
ただの無能力者(レベル0)が、あの第一位(化け物)に勝てるってんなら、
俺でも余裕で一方通行殺せるわ』
心理定規『そう……面白い話題だと思ったんだけど……お気に召さなかったかしら?』
垣根『チッ……』
―――
――
―
垣根(……まさか……コイツが!?)
上条は歯を食いしばる。拳に力を入れる。右腕を引く。
垣根は、クソが、という声とともに後ろに逃げようとする。
しかし上条の拳は彼を逃がさない。
上条「うォおおおおおおおおおッ!!!!」
上条のアッパーが、垣根の顎を貫く。
その勢いで彼の体が2,3メートルくらい吹っ飛び、5,6メートル転がって行く。
上条は垣根を見る。もう動く様子はない。
ぜえ、ぜえと息を荒くしながら、垣根に言った。
上条「もう立つんじゃねえぞ。」
上条は警告する。これ以上自分に殴らせるなと言うように。
上条「もしこれ以上立って、仲間を傷つけようとするなら……もう俺は……これ以上容赦はしねえ!!」
終わった。
終わってみるとあっけなかった。
とあるバイトがきっかけで戦った少年により、
自分の力に溺れていた超能力者(レベル5)と、仲間のために拳を握った無能力者(レベル)の、
『スクール』と『アイテム』の戦いは終結した。
表の世界に多大なダメージを残してから。
――――――
ミス >>566の無能力者(レベル)のところに0が抜けてました。
――――――
上条は座り込んでいた。
真っ先に救急車を呼ばなければならないのだろうが、
今の上条の頭はそこまで回らない。
麦野「かーみじょー。悪いけど『ピンセット』回収してくれる?」
上条「『ピンセット』って。垣根の着けてたやつか?」
そう言いながら垣根の寝てる方向を見る。
右手に機械でできた奇妙な『爪』があった。
上条「あれか……」
上条は立ち上がろうとしたとき、上条の耳に聞き覚えのある声が聞こえた。
「あれー。一体どうなったのー?ってミサカはミサカは起き上がって辺りを見回してみる……って、
なにこの状況、ってミサカはミサカは驚愕してみる」
上条「ら、打ち止め(ラストオーダー)?」
打ち止め「あれ? カミジョー? ってミサカはミサカは意外な再会に衝撃を覚えてみたり」
御坂美琴をそのまま幼児化したような少女が、瓦礫の中から起き上がった。
この騒動に巻き込まれていたのか瓦礫に埋もれていたようだ。
打ち止め「あれー?ミサカは何してたんだっけ……ハッ!! ってミサカはミサカは迷子を捜してたのを思い出してみる」
あの調子ならケガとかはしてなさそうだなと、
そんなことを思いながら上条は垣根のいた方向に頭を向ける。
いない。
さきほどまで、寝転がっていた垣根帝督は既にそこにはいなかった。
上条は辺りを捜す。
上条「どこに。どこに行きやがった―――?」
そんな上条の耳に先ほどと同じ声で悲鳴みたいな声が聞こえた。
打ち止め「きゃー! あなた誰? ミサカに触らないで!!ってミサカはミサカはあなたの腕を振り払って逆らってみたり!」
垣根「うるせえよ。とっととテメェを捕まえて、俺はあのうっとおしい第一位をおびき出して、殺すんだよ」
打ち止め「えっ!? あの人の知り合い? なら逆にあの人の居場所が知りたいかも、ってミサカはミサカはあなたに尋ねてみたり」
上条「そいつから離れろ!! 打ち止めァァあああああああああ!!!」
上条は打ち止めのもとへ駆ける。
距離は40メートル強。
垣根「遅えェんだよ!! のろまがァあああ!!!」
上条の足元が爆発する。
バランスを崩し、上条は転倒してしまう。
垣根は手が打ち止めに向けられる。
おそらくあれが打ち止めに触れたら、
打ち止めは死ぬ、と上条は思った。
死ななくとも必ず打ち止めは傷つくだろう。
上条(くそッ……間に合わねえ……)
上条は拳を握りしめる。
しかし、こんなことをして打ち止めが助かるわけがない。
どんな異能の力も打ち消す右手。
所詮はそれだけのチカラ。
たった40メートル先にいる少女の命すら助けられない。
上条「ちくしょぉぉぉおおおおおおお!!!」
『ヒーロー』は諦めた。
「ったくよォ。『ヒーロー』がこンなとこで諦めていいのかってンだよ」
しかしもう一人『ヒーロー』がいた。
実質『ヒーロー』というより『悪党』であろう。
少女のピンチに『悪党』が駆け付ける。
「そンなくっだらねェことで、ハシャいでンじゃねェよ格下がァ!!」
打ち止めと垣根の間に白い影がさえぎる。
垣根の手が白い影に当たり、『反射』される。
垣根「が……ァアアアアアアアアアアア!!!」
折れた左手を必死に支えながらもだえ苦しむ垣根。
それをゴミのように見ている赤い目を持つ白い人物。
その名は一方通行(アクセラレータ)。学園都市第一位の超能力者(レベル5)。
一方通行「くそ、『スクール』のクソ女が。きたねェ能力使いやがって。ぶち殺すのに時間がかかっちまった」
首をコキコキと鳴らしながら、一方通行はぼやいた。
打ち止め「やっと迷子を見つけた、ってミサカはミサカは感動の再会に涙を浮かべてみる!!」
一方通行「チッ、くだらねェ……」
垣根「アクセラレェェタァアアアアアア!!!」
吠える垣根。いきなり現れた第一位(ターゲット)に向けて衝撃波を放つ。
垣根の本来の目的は第一位を殺して、『第一候補(メインプラン)』になることである。
その目標が目の前にいれば、もはや打ち止めは必要なかった。
その衝撃波は真っ直ぐ一方通行の方へ走っていった。
しかし、その白い能力者は顔色一つ変えずに打ち止めの前に立つ。
その小さな少女を守るために。
衝撃波は文字通り『反射』された。
放った垣根自身に衝撃波が返ってゆく。
垣根「ごォハッ―――!!?」
いつもの垣根ならそのようなことはないだろうが、
今の彼は頭に血が上り、完全に冷静さを失っていた。
自分の放った即死級の攻撃を受けてしまい瀕死状態となった。
うずくまる垣根の前に最強の能力者が立ちはだかる。
右手で現代的な杖をついている彼が、
左手で拳銃を構える。
一方通行「そンなくっだらねェ力に踊らされた時点でてめェは『第二位』なんだよ……」
ズカン!! ズカン!! ズカン!!
垣根の身体に三発の銃弾が撃ち込まれる。
垣根は指一本動かなくなった。
学園都市第二位の超能力者(レベル5)から、ただの肉塊へと変化した。
一方通行は首についているチョーカーのスイッチを左手で触り、
能力使用モードから通常モードへと変更する。
そして呆然と立ち尽くしていた上条の方へ目を向ける。
上条「あ、一方通行?」
一方通行「よォ三下。てめェ、なンでこンなとこに居やがるンだ?」
一方通行は尋ねる。
自分を変えた『ヒーロー』がなぜこんな汚いところにいるのかを。
上条「なんでって、仲間を助けるために―――」
一方通行が、上条の言葉をさえぎる。
一方通行「そンなこと聞いてンじゃねェよ!!」
上条「!?」
上条は硬直する。学園都市第一位の迫力に負けて。
一方通行「てめェの言う仲間ってのは『アイテム』の連中だろうが。
てめェがどンなふうにその『仲間』たちを見てンのか知らねェけどよォ、
所詮は俺たちと同じ『クズ』だ!!」
打ち止め「もうこれ以上は、ってミサ―――」
上条「違うッ!!」
上条の硬直が解ける。それと同時に上条には怒りが満ち溢れる。
一方通行「違わねェな。そこに転がっている垣根は『スクール』、俺は『グループ』、
そこにいるお仲間さンは『アイテム』。全員、学園都市の暗部組織。
いわば闇に住み込むクズどもだ」
上条「おい一方通行!! いくらテメェでもこれ以上言うのは許さねえぞ!!」
一方通行「そういうのも含めてもう一度聞く。上条当麻、てめェなんでこンなクズどもと一緒にに居るンだ?」
上条「一方通行ァあああああああああああああああ!!!」
上条は悲鳴を上げる身体で一方通行に向かって走りだす。
それの叫び声が聞こえた途端、一方通行は首のチョーカーに手を当てる。
一方通行「離れてろ」
一言打ち止めに言い、スイッチを入れる。
ただの運動不足の学生から、学園都市最強の能力者へと変わる。
再び、あの操車場での戦いが繰り返される。
一方通行「あンときの借り、全部まとめてここで返してやるよ三下ァ!!」
上条「うォおおおおおおおお!!」
「やめてよ上条!!」
たった一人の少女の声で上条の動きが止まった。
さっきまで倒れていたフレンダがふらふらと立ちあがりながら、
フレンダ「もうやめて上条!! 一方通行の言っていることは間違ってない!!」
もう立ち上がるだけでも限界な身体で、上条に聞こえるように声をあげる。
上条「で、でも……」
麦野「まあ、たしかに私たちは学園都市の闇の住人。いまさら「クズ」とか言われてもなんでもないんだけど」
左腕を失ってもなお堂々とした振る舞いで麦野は言った。
絹旗「やってる仕事だって、『人殺し』ばっかですから、そう言うことを言われるのは超当然ですね」
全身をズタボロになった絹旗が言った。
浜面「なんつーか。俺は元々スキルアウトだったから今さら「クズ」って言われてもなあ……
まあ、『アイテム』が正しいとは言わねえけど、間違ってるとも言わねえよ」
麦野「浜面、いつあなたは『アイテム』の一員のなったのかにゃーん?」
絹旗「浜面は、『アイテム』じゃなくて、『アイテム』の超下部組織ですね」
浜面「い、いいじゃねえかこんなときぐらい」
滝壺「大丈夫……私は……そんな残念なはまづらを……ゴホッゴホッ」
浜面「滝壺!! 気がついたのか!? っていうかこれ以上言うな。なんか悲しくなるから」
自分が『クズ』だということを、何のためらいもなく言った浜面。
滝壺「かみじょう……」
ぼおっとした目で上条を見つめる。
いつもはどこを見ているか分からない目だが、
今回はちゃんと上条を見ている。
滝壺「それでも……私たちはこの仕事を恥ずかしい……と思ったことは……ないよ」
フレンダ「結局、私は学園都市の闇と言われても、『クズ』の集まりと言われても……」
ボロボロの身体で、痛みをこらえながらも笑顔をつくるフレンダ。
フレンダ「そんな『アイテム』のメンバーで『幸せ』って訳よ!」
振りかざした右腕を下げる上条。
それと同時にチョーカーのスイッチを通常モードに戻した。
上条「『アイテム』であることが『幸せ』っていうなら、俺がどういうことじゃねえな」
一方通行「ふン。良い『悪党』がそろってンじゃねェか。『アイテム』は……」
一方通行は背を向ける。戦いから帰る『ヒーロー』のように。
その後ろに打ち止めが付いて回る。
打ち止め「あなたの住んでいる所が知りたいかもって、ミサカはミサカは己の願望をさらしてみたり」
一方通行「……とっとと黄泉川ンとこへ帰りやがれ」
打ち止め「嫌だ! ってミサカはミサカはバッサリ拒否しみる」
一方通行「クソガキィ……」
そんなやりとりを一方通行している彼らは、
どこかへと消え去って行った。
本当にすべて終わる。
一気に緊張の糸が切れたのか、上条は地べたに座り込み、
そのまま力が抜けて、転がり込んでしまった。
上条(あれ? 意識が……)
フレンダと浜面が駆け付けて何か言っているようだった。
もう意識がほぼない上条には何も聞こえなかった。
――――――
――――――
上条は、気が付いたら目の前に白い空間広がっていた。
上条「ああ。またここに来てしまったのか……」
常連の上条は、ここがすぐに病院の病室であることを瞬時に理解した。
だが、いつもと違うの点が一つあった。
いつもは一人部屋だったのだが、今回は二人部屋らしい。
なぜそうだとわかったのか、
それは、隣のベッドでマジックペン(油性)を隠そうとしている浜面がいるからである。
上条「ごきげんよう、浜面くん」
浜面「ご、ごきげんよう……ってやめろ。その右手を振りかざすのはやめろ!! ここは病院、暴力反対」
はあ、と溜め息した上条。
とりあえず自分の顔に落書きがないのを確認し、
自分たちが今どういう状況にあるのかを聞いた。
浜面「どういう状況って、入院しているとしか……」
上条「まあそりゃそうだけどさ……『アイテム』は、つうかほかのメンバーはどうなってんだ? 同じ病院なのか?」
浜面「ああ多分な。あのカエルっぽい顔した医者がそう言ったんだからそうだろうけども」
やっぱりあの人が担当医か、とふと思う。
上条「多分、って会ってないのか?」
浜面「会う、って俺たちはマシだけど、あいつらは全員重症だぜ。会いに行こうにも病室分からねえし……」
上条「そうか……」
あいつらは元気だろうか、などと思いながら上条は天井を見つめる。
浜面「そんなに心配なら、病室探しだしてちょっかいかけに行こうぜ!」
上条「は?」
浜面「よし、いざ女子どもの部屋にしゅっぱーつ!!」
上条「待て待て。お前は修学旅行中の学生か。そんなことしたらぶっ殺されるぞ。おもに麦野に」
浜面「大丈夫だって。あいつらは俺たちより重症なんだぜ? さすがの麦野も本調子じゃねえだろうし」
そう言うと、浜面は上条を強引に連れて、病室を捜す。
探すほど二十分。
ついに、表札に
『麦野沈利』、『滝壺理后』、『フレンダ=セイヴェルン』、『絹旗最愛』
と書かれた四人部屋を見つけた。
上条「おいやめようぜ浜面。俺ははまだ死にたくねえよ。
上条さんの『幻想殺し(イマジンブレイカ―)』が不幸をガンガン呼び込んでいる気がするんですが」
右手を握ったり開いたりを繰り返しながら上条は言う。
そんな上条を無視して、浜面はドアノブに手をかける。
上条「お、おい。せめてノックしようぜ……」
浜面「ここまで来てなにビビってんだよ、上条隊員。ここで逃げたら男がすたるってもんだ」
そう言うと、ドアノブを勢いよく回しドアを勢いよく開く。
浜面「たのもォおおおお!! 女子ども!! 『アイテム』下部組織二人組が殴りこみでェえええい!!」
よくわからない口調で叫ぶ浜面。
後ろから上条は中の様子を覗いた。
そこには天国と地獄、両方の意味を持つ部屋だった。
なんと『アイテム』女子たちは現在、
俗に言う着替えシーンだった。
絹旗「……なにやってんですか、超バカ面」
上半身裸で、胸をシャツで隠している絹旗が浜面を睨みつける。
フレンダ「はあ。結局、浜面は……って上条!!!?」
下着姿で、麦野の身体を拭いてあげようとしたのか、
濡れタオルもって、麦野を拭こうとしているのを彼女に止められていたフレンダ。
上条の姿を確認した途端、顔を真っ赤にし自分のベッドに飛びこんでいった。
滝壺「……はまづら? 私はそんなドスケベなはまづらは応援できないな」
すでに着替え終えていた滝壺は、『体晶』のリスクの影響なのか顔が真っ赤に火照っていた。
滝壺は、浜面をジト目で見つめている。
麦野「…………」
麦野は器用に右手だけで服をせっせと着て、
こちらへ身体から正面に向ける。
麦野「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね。クソエロ野郎どもがァああああ!!!」
上条・浜面「「ぎゃァあああああああああ!!」」
病院内で麦野と一時間は追跡劇が終わらなかった。
自分たちより重症というのがウソのような常人離れした動きだった。
もともとの身体能力が高いのか、捕まった瞬間、すぐさまボコボコにされた二人。
そのあと浜面と上条は、ナースに一時間説教されたのは『必然』のできごとである。
――――――
――――――
ここは、どこと知れぬ場所。暗部組織『グループ』の隠れ家である。
そこには『グループ』のメンバーである、土御門元春、結標淡希、海原光貴、そして一方通行が集まっていた。
土御門の右手には、以前、垣根帝督が右手に着けていた『ピンセット』を着けてあった。
一方通行が、それ眺めて呟いた。
一方通行「どさくさに紛れて回収してやがったか。どうやったか知らねェが、あそこには『アイテム』の連中がいたはずだぜ」
土御門「まあ、そういうことは後回しだ。
こいつの中には『滞空回線(アンダーライン)』と言うナノデバイスが格納されていたらしい。
『スクール』の連中は、この『滞空回線(アンダーライン)』を採集して、
情報を手に入れるために動いていたみたいだな」
海原「中身のデータとやらは?」
顔色がいつもより悪そうな海原光貴が尋ねた。
土御門「『滞空回線(アンダーライン)』は学園都市でのアレイスターの直接情報網を形成する中核だ。
だから、中の情報も『書庫(バンク)』とはレベルが違う」
結標は退屈そうな表情で、
結標「面倒ね。結局そのナノデバイスにはどんな情報が隠されていたの?」
土御門「ちょっと待て、今出る」
ピッ、という電子音と共に、『ピンセット』の手の甲に当たる部分にある小型モニタに、
文字化けしたような解析結果が高速でスクロールし、それに続いて正しい形式の情報が映し出されていく。
土御門「学園都市暗部にある機密のコード類、だな」
一方通行「そいつが打倒へのヒントになるっつーのか?」
土御門「名前は……『グループ』、『スクール』、『アイテム』、『メンバー』、『ブロック』……
それにこっちは『ピンセット』……これは『ひこぼしⅡ号』のデータか。後は『少年院の見取り図』……そんなとこか」
結標「何が機密コードよ。
結局、上層部が『グループ』の全員の動向を監視するための情報を集めてただけじゃない。
今さらそんなもの見せられても―――」
土御門「それともう一つ……」
そういうと、『グループ』のメンバー全員が『ピンセット』のモニタに注目した。
わざわざ土御門が区別したのだから、それまでの情報とは違うという意味と受け取ったのだ。
新たに得た情報。
それに表示された文字を、土御門元春はゆっくりと読み上げた。
土御門「最後に出たのは―――『ドラゴン』」
戦いの果てに得たのは、小さな小さな突破口。
確かなカギを手に入れた『グループ』の四人が、これより打倒学園都市へと動き出す。
――――――
――――――
上条「じょ、冗談だろ?」
上条は絶望していた。
いろいろとゴチャゴチャしていたが、退院した後一応バイト代の二万円をもらった上条だが、
風に一万円札一枚飛ばされて行方不明になるという不幸が起こり、
大食いシスターの食欲により、上条家は相変わらず金欠だった。
禁書「とうま~。おなか減ったかも。」
上条「嘘だろ。つい三十分前に昼食を終えたばっかりだろ」
禁書「所詮野菜炒めなんかで私の胃袋は満たされないかも」
上条「あーもう」
上条は頭を抱える。
そしてこの後出てくるセリフはもはやお約束だろう。
上条「不幸だァあああああああああああああああああああああああああああ!!!」
今日も少年は不幸である。
――――――
――――――
第七学区。とあるファミレスに今日も彼女たちは集まる。
入って右奥にある、6人がけのテーブルに座っている。
一人はシャケ弁を堂々と食べ、
一人はサバ缶を缶切りで開けるのに苦戦して、
一人は映画のパンフレットを広げている。
いつもは四人座っている席だが、今日は一人いない。
現在、その一人は病院に療養中だ。
その席に両手にドリンクの入ったコップを持っている少年が近づいてくる。
浜面「ほら、持ってきたぞ」
絹旗「……浜面。私はジンジャーエールを頼んだつもりなんですけど」
浜面「へっ?」
絹旗「これ、ウーロン茶ですよ」
ジンジャーエールの割には炭酸が抜けているドリンクが入った、
浜面が持ってきたコップに指を指して絹旗が言った。
浜面「ゲッ! お、俺は間違えた覚えはねえぞ!!」
麦野「現に間違えてるじゃん」
浜面から受け取ったメロンソーダを飲みながら、
目の前の事実を浜面へ叩きつける。
浜面には一切の言い訳もゆるさない。
フレンダ「結局、浜面はドリンクバーへもう一往復って訳よ。私はオレンジジュースね」
あいかわらず缶切りでサバ缶を開けられないのか、
いつものように例のツールでサバ缶を開けようとしている。
今度こそ浜面は間違えなくドリンクを持ってきた。
浜面は滝壺がいない分の席に座る。
これから『アイテム』としてどうするかを話し合う。
話し合う内容にこれから皆は驚くことになる。
麦野「これから決断して欲しいことがあるんだけど……」
麦野は割り箸を置き、真剣な表情になって皆を見回す。
麦野「納得できなかったら、『アイテム』を抜けてもらってもかまわないから」
浜面「な、なんだよそれ」
ゴクリ、とつばを飲む音を出す浜面。
いつもなら「浜面キモイ」という罵声が飛んできそうなものだが、
それだけ真剣なのか誰も罵声の一つも発しない。
麦野「『グループ』って暗部組織のヤツから連絡が来たんだけど、向こうから『手を組まないか?』って誘いがきたんだけど……」
絹旗「つまり、これから超共同戦線しよう! ってことですね」
フレンダ「でも妙だよね。向こうには学園都市第一位がいるのに私たちと手を組もうなんて」
麦野「だよね。だから『ふざけんじゃねえよ!! ブチ殺されてえのか!?』って言ってやったの」
浜面「さすが麦野……」
フレンダ「結局、その後はどうなったの?」
麦野「ああそうそう。そう言ってやった後、向こうになんでウチと組みたいのか問いただしたわけよ」
絹旗「で、どういった理由だったんですか?」
麦野は窓から外を見ながらストローからドリンクを吸う。
中に入っているクリームソーダが空になってから麦野は言った。
麦野「『学園都市にひと泡吹かせる。だから戦力が必要だ』だって」
皆は当然のごとく驚いた顔をする。
しかし落ち着いた声で言う。
絹旗「学園都市に……ひと泡吹かせる、ですか」
浜面「つまり学園都市に喧嘩売るってことか……」
フレンダ「む、無謀じゃんそんなの。……麦野はそんなのおかしいと思ってるよね!?」
皆の視線が自然と麦野のいる方向に向く。
麦野は今までになく真剣に言った。
麦野「私は言ったわ。『いいわよ乗ってあげるわ』ってね」
やはり皆は驚く。自分たちが思っていなかった答えが、
麦野の口から発されたことによって。
絹旗「し、正気ですか麦野!?」
麦野「ええ正気よ。いつまでも学園都市の犬なんて言われたくないじゃない?」
浜面「麦野……」
麦野「私は『グループ』と共同戦線を張る。だから最初に言ったわよね。納得いかない人は『アイテム』から降りてもらっても構わないわ」
しばらく沈黙が続く。この選択はどっちが正解なのかわからない。
なので『麦野についていく』と『アイテムをやめる』と言う選択肢の答えを出すのに迷っている。
学園都市に喧嘩を売る。それがどれだけ無謀かは目に見えている。
もしかしたらその選択をした次の日には死んでいるかもしれない。
それくらい危険なのだ。
そんな悪条件の中、
『アイテム』メンバーの意見は満場一致だった。
絹旗「分かりました麦野。私も超ついていきます」
フレンダ「結局、私も同意見って訳よ」
浜面「今さら行先はねえからな。
……ってことは俺は『アイテム』と『グループ』の下っ端ってことか?
なんか自分で言って悲しくなってきたぜ……」
麦野「みんな……ありがとね」
浜面「そういや滝壺はどうするんだ?」
麦野「ああ。滝壺は最初っから賛成してくれたよ。
本当は彼女に『暗部』に残るべきじゃないからやめときなさいって、止めたんだけどね」
麦野は一息置いた後、ある事柄について話し始める。
麦野「それじゃあ、『グループ』から教えてくれた、打倒学園都市の突破口になりそうな情報をここで発表しまーす」
麦野の口が開かれる。
麦野「―――――-『ドラゴン』」
そんなことで彼女たちの話し合いは終了する。
そこから他愛も無い会話が繰り広げられるのだろう。
今日も『アイテム』は暗躍する。
今までと違って、今度は自分たちのために。
―――FIN―――
最後までこんな駄文に付き合っていただいてありがとうございます
とりあえず、書き溜めした分はこれだけです
初SSですごく緊張しましたw
いろいろご迷惑をおかけしたと思いますが、
みなさんほんとうにありがとうございました
要望があったら続き書いてみたいなあ、なんて思っています
あくまで要望があればですが……
残りの空いたところは自由に使っていただいてかまいません
ではではノシ
代理ありがとうぐらい言えよカス
>>709 すいません。書き忘れていました。
このスレを立ててくださった代理の方ありがとうございました
とりあえず少し書き溜めてみたので、生存確認として投下します。
にやにやしてもらえるほどの文章かはわかりませんが……
――――――
第七学区。とあるファミレスの中。一人の少女が、一人の少年の事について考えていた。
フレンダ(……そういえばあのとき以来、上条と会ってないなあ)
はあ、と溜め息つきながら少女は窓の外の風景を見る。
その行動が異常とみられたのか、周りの人たちは、疑問の表情を浮かべていた。
浜面「……なあ、フレンダのヤツ、なんか様子おかしくないか?」
絹旗「……たしかにそうですね。開けたサバ缶が超減ってないですし」
浜面「あんなフレンダ初めてみたぜ……まだ会って間もないが」
絹旗「私だって超見たことないですよ。フレンダとは付き合いが長いから分かりますけど、あんなおとなしいフレンダ見たことありません」
周りのヒソヒソ話に全く気付かず、はあ、とフレンダはまた溜め息をつく。
フレンダ(そういえば、上条のこと全然知らないんだよね。苗字だけで、名前がわからないって……)
そんな『アイテム』のメンバーが座っている席に、遅れてくる一人の人物がいた。
コンビニ袋を手に持って、おそらくその中身はシャケ弁だろう。
麦野「ごめーん。カスどもボコしてきたからちょっと遅れちゃった~」
軽い口調でとんでもないことを言っている麦野沈利。
その姿を見て浜面が言った。
浜面「おまえ、左腕治ったのか?」
麦野「まあね。義手だけど」
一瞬本物かと思うくらい精巧にできているその義手が、
麦野の左腕として、ついていた。
麦野「とりあえず浜面。メロンソーダ取ってきて」
浜面「いきなりだな……へいへいわかったよ」
よいしょ、と腰をあげて、ドリンクバーのコーナーに足を進める浜面。
麦野の視線はそんな浜面から様子のおかしいフレンダに向けられた。
麦野「なあに一人溜め息なんかついて、似合わないわよフレンダ」
フレンダ「ん? ああ、おはよう麦野」
どうやらフレンダは、麦野がきていたことに今気づいたようだ。
浜面「どうしちまったんだ。おまえ」
ドリンクバーから帰ってきた浜面が、さっきまでフレンダに聞けなかったことを聞いた。
フレンダ「別に……何も変わりはないって訳よ」
そう言った後。すぐに窓の外を見て溜め息をつくフレンダ。
やっぱりおかしいと疑問を持っていた浜面たち。
そこで、その疑問を解消させる一言をフレンダへ麦野が放った。
麦野「なーに? 愛しの上条くんに会えなくてさみしいの~? 乙女だねーフレンダちゃん」
その一言が『アイテム』メンバー全員の耳に届いた瞬間、
フレンダ「べべべべべべべ、別にそんなんじゃないよ!!」
大声で反発するフレンダ。でもその反発する様子がおかしいのは明らかだ。
麦野「隠さなくてもいいのに。この前の仕事帰りの車の中で、
居眠りをしてたアンタが寝言で『かみじょー……えへへ』とか言ってたのを、
お姉さんはきちん聞いてるのよ」
衝撃事実を聞いて顔を真っ赤にするフレンダ。
そんなフレンダの顔を見るのは新鮮だなあ、と浜面は思った。
麦野「とっとと告っちゃえばいいのに」
フレンダ「そ、そんな。そういうのはまだ早い―――」
絹旗「フレンダ……それ自分が上条にきちんと気があるってことを自分でバラしてますよ」
はっ、となるフレンダ。
ニヤニヤする麦野。
今日の『アイテム』は、いつもと違った日常だった。
――――――
――――――
フレンダはブラブラと街の中を歩いていた。
麦野に「とりあえずデートの約束くらいはこぎつけてきなさい」
と言われたので、とりあえず上条を捜していた。
今は、だいたいどこの学校の生徒も下校している時間なので、
運が良かったら会えるかもしれない。
会えたらいいなと消極的な考えで上条を捜していた。
しかし、学園都市は広い。その広い街のなかで、一人の少年を見つけるのは大変困難である。
こんなことなら携帯の番号でも聞いとけばよかったかな、と今さら後悔するフレンダだった。
歩き疲れたのか、フレンダは第七学区にある公園のベンチに腰かけていた。
ぼー、と空を見上げるフレンダ。今日の夕焼けはとてもきれいだ。
そんなことを思いながら空を見ていた彼女の視界に、一人の少年の顔が映る。
上条「何やってんだお前?」
フレンダ「ふぇ!?」
いきなりの捜し人の出現で、驚き、戸惑ってしまって、
ベンチから転げ落ちてしまう。
上条「ほんとなにやってんだよ? ほら」
右手を差し出す上条。
フレンダ「あ、あ、あ、ありがと」
その右手を取り、お礼を言うフレンダだったが、声が完全に裏返っていたのには本人は気づいていない。
上条「こんなところにいるなんてめずらしいな。なんか用事でもあったのか?」
フレンダ「いや、その……」
声が詰る。うまく声が出せない。極度な緊張で、いつもの軽口はここでは発揮されなかった。
フレンダ(早く言え、早く告―――違う違う。デートの約束を―――)
上条「フレンダ……?」
フレンダ「あ、あ、あ、あの!!」
上条「はい!?」
フレンダ「こ、今度の日曜日空いてないかな?」
上条「うーん……まあこれといって用事はないけど」
フレンダ「じゃ、じゃ、じゃあ……」
心臓がバクバクと高鳴る。今ここから全速力で逃げ出したいところだ。
しかし、ここで逃げ出したら何も変わらない。
フレンダは勇気を出して口を開く。
フレンダ「か、買い物に付き合ってくれにゃいかな?」
……………噛んだ。
終わった、とフレンダは思う。
なにこんな大事な場面で舌噛んでんだバカヤローと心の中で自分に言う。
そんなことを思ったところで噛んだ事実は消えることはない。
上条「お安いご用ですよ。その買い物付き合ってあげますよ」
フレンダ「」
上条「あのーフレンダさん。もしもーし」
フレンダ「ハッ、気を失ってたわ」
上条「ほんとに大丈夫かよお前?」
>>750 すいません。全然気づきませんでした。以後気をつけます
フレンダはあまりのうれしさに一瞬気を失っていた。
まさか了承を得られるとは思いもしなかったからである。
この後、待ち合わせ場所、集合時間、どんなことをするのか、などを決め、
ついに念願の上条の携帯電話の番号とアドレスを入手することに成功したのである。
――――――
とりあえず投下できるレベルに書き溜めたのはこれまでです。
また書き溜めるのでちょっと時間をください。
お願いします。
フレンダ以外のルート希望の方はすいません。
上フレ希望が多かったのでこうなっちゃいました。
ここから書くのはデート編ですが
先に言っておきます。
フレンダは告白しません。
告白しろ派の人はどうもすいません
では出来ている所まで投下します。
――――――
第七学区。『セブンスミスト』の入り口の前で一人の少女が立っていた。
いつも以上におめかしをして、待ち合わせ時間の三十分以上前から待っている彼女はフレンダだ。
どんな格好をしているのかは、読者の想像に任せる。
え? なぜかって? なぜなら主はファッションセンスがないからである。
フレンダ(やっぱり早く来すぎたかな?)
そわそわしている彼女は腕時計を何回もチラチラと見ていた。
そんなに何回も見たところで時間の流れが早くなるわけではないのだが、
早く上条に会いたいという気持ちが行動に現れているのであろう。
集合時間十分前。そわそわしている彼女の後ろから声がかかる。
上条「わりー。待たせちまったか?」
フレンダ「ひゃ!?」
突然の出現により、やはりフレンダは驚いてしまう。
フレンダ「い、いや。別に待ってないよ」
上条「そうか。そりゃよかった」
上条はフレンダの服装を見て、
上条「へー。なんだかいつものヤツとは違って新鮮だなー」
フレンダ「え!? に、似合ってない!?」
上条「いや。充分似合ってると思うぞ」
フレンダ「そ、そう。ありがとう」
テレながら礼を言うフレンダ。
しかし、上条はそんな顔は見てなかった。
上条「よし。とっとと店に入ろうぜ!」
フレンダ「う、うん」
二人は店内へと入って行く。
さあ、デートの始まりだ!!
まあ、そう思っているのはフレンダだけで、
上条にはただの買い物としか思っていない。
なぜかというと、それは上条だからである。
――――――
――――――
『セブンスミスト』洋服コーナーに二人はいた。
フレンダ「この服似合うと思う?」
上条「ああ、似合ってると思う」
フレンダ「じゃあこれは?」
上条「うんうん、似合ってる」
フレンダ「……じゃあこれはどう?」
上条「似合っていますよお嬢様」
上条はファッショについてはそこまで詳しくはない。
なので、細かいことが分からないので、
よっぽど似合っていない服ではない限り似合っているとしか言いようがなかった。
しかし、フレンダは、そんな上条の返事が適当に答えている感じがして、
なんだかいい気分ではなかった。
フレンダ「上条。なんか適当に言っていない?」
上条「い、いや。そんなことはないぞ」
フレンダ「……ほんとに?」
上条「ほんとだからさ。……そうだ。試着とかしてみたらどうだ?」
フレンダの気を逸らすために、上条は試着室に指を指す。
フレンダ「……わかった。ちょっと着てくる」
フレンダは自分で選んだ服を持ち、試着室へと歩いていく。
上条(た、たすかった……)
そんな失礼なことを思っている上条。
上条「やっぱファッションとか勉強した方がいいのかなあ……」
そんなことを呟きながら、フレンダが出てくるのを待つ。
待つこと約十分後。試着室から、服を着替えたフレンダが出てくる。
上条はその姿を見る。
上条「…………」
上条は、しばらく言葉が出なかった。
なぜか?
試着室から出てきた少女に見とれてしまったからである。
上条(か、かわいい……)
フレンダ「……どうしたの上条?」
上条「はっ、いやちょっとぼー、としてた」
フレンダ「ふーん。で、どう? この服」
上条「すっげえェーかわいいと思うぞ!! 似合ってる似合ってる!!」
フレンダ「ふぇ!!?」
いきなりの言葉に顔を真っ赤に染めてしまうフレンダ。
フレンダ(い、い、い、い、今、かわいい、って!!)
またあっさりと返されるのを予想しただけに、
予想外の言葉でフレンダは混乱してしまう。
上条「ど、どうしたフレンダ? 顔が赤いぞ!?」
フレンダ「な、な、な、何でもないからああああ!!」
そんなやりとりをしている二人。
それを見ていた周りの人間は必ず彼らを、
恋人か何かに見えているだろう。
――――――
――――――
今は昼ごろ。
「セブンスミスト」で、あらかた用事を終わらせて、
現在、近所のファミレスで二人は昼食を取ろうとしていた。
二人席に、ダラッと二人は座っていた。
上条・フレンダ((……疲れた))
上条はメニューを取って、
上条「なにか食べたいものあるか?」
ダラっとしているフレンダは、
フレンダ「もはやなんでもいいって訳よ」
相当疲れてるんだなあ、と思いながら上条はハンバーグセット(小)を二人分注文した。
十分後。
どっと疲れている二人に、脅威が訪れる。
向こうから一人の影が近づいてくる。
ウェイトレス「お待たせいたしましたー。『特製カップル用ラブラブドリンク』ですー」
はっ!? と二人はその物体を見る。
明らかに一人で飲むには多過ぎる量のドリンク。
二本のストローが交差し、ハート形を形成していた。
デート物の話でよく見るあれである。
上条「……あのー。こんなもの頼んだ覚えはないのですが……」
ウェイトレス「これはカップル様たちのための当店からのサービスでございます」
そう言ってウェイトレスは「ごゆっくりー」と言って立ち去って行った。
上条は、壁に貼られているポスターを見た。
それに書かれていたのは。
『本日はラブラブデー!!』
……………。
どうするよこれ? と二人は目を合わせる。
上条「の、飲むしかねえのか?」
フレンダ「そ、そうみたいね」
上条(いやいやいやいやいやムリだろ!! そもそも俺たちは恋人でも何でもねえぞ!! 飲めるわけねえだろ!!)
フレンダ(ムリムリムリムリムリムリ!! そんな恋人みたいな……いやそれを望んでいるんだけど……やっぱり恥ずかしい!!)
周りの席からひそひそと声が聞こえる。
それだけ上条たちは目立っていたのだろう。
早く飲んでここから出ていきた。でも飲むのは恥ずかしい。
かといって飲まずに放置してたらそれだけでも目立つ。
出ていきた?
>>799 ミスです。たびたびすいません。ありがとうございました
×出ていきた ○出ていきたい
前門の虎、後門の狼。
上条はストローを咥えた。
上条「と、とっとと飲んで、飯食って、ここから出るぞ!!」
そう言ってドリンクを飲む。
フレンダ「わ、わかった!!」
返事をし、その場の勢いでストローを咥えたフレンダ。
フレンダ(か、顔が近い―――)
そんなことに気付いたときにはもう遅い。
今日は二人にとって、今までの人生の中で一番恥ずかしいときだったに違いない。
――――――
こちらの事情で昼の部は省略させていただきます。
大変申し訳ございません。
――――――
恥ずかしい昼食を終えて、二人は街をぶらぶらと歩いた。
ゲームセンターに行って、恥ずかしいプリクラを撮ったり、
クレープを買っているところに、ビリビリ中学生が襲いかかってきたり、
絹旗オススメのB級映画を見て、いつの間にか二人は寝てしまっていたり、
そんなことをしていたら、あっという間に完全下校時刻前である。
ここは、あのときデートの約束をした公園である。
二人はベンチに座って談笑していた。
上条「―――もうこんな時間か……」
上条は公園にある時計を見る。そろそろ学生は寮に帰らなければならない。
フレンダ(え、そんな。もうこんな時間なの?)
楽しい時間ほど早く過ぎる、ということが実感できた瞬間だった。
上条「そろそろお開きとしますか……」
フレンダ(まだ別れたくない……)
上条「送って行こうか?」
フレンダ「!? 私を誰だと思ってるの? 一応『アイテム』の一員って訳よ!」
上条「……そうか」
強がりだ。本当は一緒に帰りたい。
だけど一緒に帰った後の別れに、自分は耐えられるとは思えない。
上条「じゃあ、俺は行くわ……」
フレンダ「あ……」
上条は離れていく。
フレンダの心が張り裂けそうになる。
麦野は言った。
『とっとと告っちゃえばいいのに』と。
無理だ。臆病ものな自分にそんな事出来るわけがない。
上条いた時間はとても楽しかった。
『アイテム』のみんなといた時間とは、別の楽しさだった。
もし告白が失敗したら、
二度とその時間を過ごせなくなる。そんな気がしてならない。
そんなことを考えているうちに、上条は離れていく。
フレンダは声を絞り出した。
告白は無理だ。でも、
フレンダ「また!! 会えるよね!?」
涙目になりながらも声を出す。
今自分はどんなひどい顔になっているのだろうか?
上条は驚いたような顔をしていた。
しかし、すぐさまその顔は笑顔に変わる。
上条「当たり前だろ!!」
そう言って上条は視界からいなくなった。
また次も会えるという『約束』をして。
――――――
すいません。またこりずに猿くらってました。
まだほんの少し続きます。
――――――
麦野「えええ!? そこまでいって告白しなかったの?」
フレンダ「……う、うん」
フレンダが顔を伏せて答えた。
ここは、やはりいつものファミレスである。
現在、フレンダのデートの反省会をしていた。
額に手を当て、やれやれ、というポーズをしながら麦野が言った。
麦野「まったく。ほんとアンタって臆病よねえ」
浜面「まあいいんじゃないか? また会えるって言ってたんだから」
絹旗「わかってませんね浜面。こんな感じのセリフは大体死亡フ―――」
浜面「わっ!! 絹旗、それ以上言うな!!」
絹旗の口をふさごうとする浜面。
絹旗「なにするんですか浜面!?」
その一言とともに窒素パンチを食らう浜面。
浜面は机に伏せてピクピクしていた。
麦野「でも絹旗の言う通りよ。私たちは今死んでもおかしくない立場なんだから。
それに上条だって『暗部』にかかわってしまったんだから、ほかの『暗部』に狙われてもおかしくはないし……」
確かに上条はバイトとしてだが『暗部』の活動にかかわった。
バイトだったのだがその戦果は見上げたものであった。
垣根帝督の仇として動く『暗部』の連中がいてもおかしくはない。
フレンダ「……わかってる」
今まで顔を伏せていたフレンダが顔をあげた。
フレンダ「だから、そんな奴らがいたら『私』が一人残らずぶっ潰すって訳よ。
上条には指一本触れさせないわ」
真剣な表情のフレンダを見た麦野は、溜め息をつく。
麦野「まったく。間違えてんじゃないわよ」
フレンダ「へっ?」
麦野「そこは『私』じゃなくて『私たち』でしょ?」
フレンダは驚く。あの麦野がこんなことを言うなんて。
麦野「なに驚いてるの? もっと仲間を頼れって私に言ったのはアンタたちじゃない。だから、フレンダ。どうしてもってときは、私たちに頼りなさい」
フレンダ「麦野……」
麦野「さあて。真面目っぽい話はしゅうりょー!!
おら浜面、とっとと起きて車用意しやがれ!! 殺し合いに行くぞ!!」
今日も『アイテム』は暗躍する。
その中の一人の少女は、一つ決意をした。
その決意が、後々上条を驚かせることは、また別の話である。
―――FIN―――
後日談はなんかグダグダになってしまいました。
最後まで妄想に付き合っていただいてありがとうございました。
そろそろパソコンが使えなくなってしまう時間なので、
だから昼の部は省略してしまいました。すいません。
別の話と言うのは16巻を基にしようかと妄想しています。
自分でスレが立てられるようにたったらときにまた書きたいと思います。
そのときは、よかったらスレを開いてみてください。
ではではノシ
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません