朝倉「キョンくん起きて、はやく服着ないと妹ちゃん来ちゃうよ」(682)

 

キョン「俺の眠りを邪魔したな!」ドガァ!

朝倉「ずひゅっ!!」

キョン「この雌豚がァ!調子にのるなよ!」ドカバキゲシ

キョン「ホアチャアッー!」

朝倉「ホゲベンベー!」

キョン「何言ってんだお前」

朝倉「///」

キョンと朝倉の情事の描写を詳しく

キョンのベッドにはまだ青みがかった縮れ毛が…



っつーか生えてんのか?年齢的に

まあ見た目相応に造られてるなら生えているだろうな常考

でも三歳だしなあ…

キョンと付き合ったのもはにかむ様子も全部演技だったってオチは嫌だな

キョン「どうしてお前がここに居やがる!」

朝倉「嬉しいわキョン君、また、会えるなんて。また、殺せるなんて!」

キョン「朝倉、お前!」

朝倉「さあ、やろうか、キョン君!」

朝倉「あなたに純情を捧げて涼宮ハルヒの出方を見るわ」

キョン「俺も純情を奪われる側なんだが」

朝倉「そうとも言う」

---教室---
朝倉「はぁ…」

キョン(俺の前でこれ見よがしにため息なんぞ…)

キョン「何だよ朝倉。」

朝倉「りょーこって呼んでくれないのよねぇ…」

キョン「そりゃしょうがないだろ。仲良くなったとやらの2週間の記憶が無いんだからな」

キョン「俺に取っちゃお前は変わらず天敵だよ」

朝倉「判ってるわよ。仲良く手をつないだ事も、たっぷり中に出したことも覚えて無いんでしょ」

キョン「」






ガ タ ン !

ハルヒ「キョーンー…」(ゴゴゴゴゴゴ

キョン「ま、待てハルヒ!話せばわk」

ハルヒ「わかるわけ無いでしょ!アホ!」

キョン「時に待て、落ち着けって。その机を置け!」

ハルヒ「言い訳はあの世にいってからにしなさい!よりにもよってな…な…中に出すとか何考えてるのよ!」

キョン「潔白だ!落ち着け!!朝倉!お前も何とか言えよ」

朝倉「んー…そうね、あと3ヶ月位したら判るんじゃない?」

朝倉「危険日だったし」

キョン「」

ハルヒ「」

ハルヒ「キョン」

キョン「は、はい?!」

ハルヒ「正座。朝倉も」

朝倉「あたしも?何d」

ハルヒ「正座ッ!!」

キョン・朝倉「は、はいっ!」





岡部「ホームルームやるぞー…って何やってんだ?アレ」

谷口「痴話喧嘩でーす」



ハルヒ「付き合うなとは言わないわよ?ただね、高校生でしょあんたら」

ハルヒ「計画もなしに子作りとか、生活だって…で。ちょっと、聞いてるの?!」

キョン「ハイ、オッシャルトオリデ」

朝倉「マッタクモッテモウシワケナイ」

---放課後---
ハルヒ「さっきは岡部に中断されちゃったけど、本当どうするのよ」

朝倉「どうするって言われても…」

ハルヒ「あんた達の問題とは言えどほおって置けないわ」

ハルヒ「産むにしろ、降ろすにしろ」

ハルヒ「ま、アタシなら産むと思うけど…いくらダメな男の子だとしてもね」






みくる「何であんなに活き活きしてるんですか?涼宮さん」

古泉「ショックすぎて吹っ切れたのではないかと…閉鎖空間も崩壊ではなく消失しましたし」

みくる「で、その当人は??」

古泉「岡部先生が連れて行ったとか…」

てっきり


朝倉「キョンくん起きて、はやく服着ないと妹ちゃん来ちゃうよ」

キョン「もう少し、このままいさせてくれ」

朝倉「もう…甘えん坊さんね…んっ」

キョン「温かくて、いい匂いだ…とても」

朝倉「わたしも…キョンくんの匂い、好きよ」


みたいなスレだと思ってたのに

思ってたのに

>>373
続けてくれたまへ

>>375
もしもしに無茶言わないで

もう絶望的なのか

ええええええ
なんで残ってんの

俺たちが来るまで朝比奈さんと古泉はそれぞれの私事に没頭していたらしい。
古泉の前には理系科目の参考書が積まれ、その横に広がったノートの上には、
古泉の人となりをそのまま反映したかのような繊細で尖った文字が横罫と横罫の間を埋め尽くしている。
朝比奈さんのパイプ椅子の上にはティーン向けのファッション誌が開いた状態で乗っていて、
ふわふわした感じのモデルがこれまたふわふわした感じの服を着ている写真が掲載されていた。

「すみません」

と古泉がちっとも申し訳なさそうな声で言った。

「あなたが来るまでに終わらせようと思っていたのですが。
 今日追加された課題も含めて、提出物が山積しているんですよ」
「悪いが、俺にはお前がなんのことを話しているのかいっこうにわからん」
「僕が先日の雪辱を晴らすべく、
 今日はオセロの十番勝負をすると約束していたのをお忘れですか」
「その……先日というのは?」
「一昨日だったと思います」

ああ、それなら覚えていなくて当然だ。

「俺には二週間分の記憶がない。オセロの約束も知らん。
 だからお前に謝られる謂れもない。
 それよりもこの記憶喪失について、何か心当たりがあるなら教えてくれ」

古泉は笑顔を引き攣らせ気が動転した拍子にパイプ椅子から転げ落ちた――ということもなく、
爽やかな笑顔はそのまま、ノートにペンを走らせながらこう言った。

「記憶喪失、ですか。……ふむ。
 あなたがこういった冗句を好む性格ではないことを承知で訊きますが、事実なんですね?」

「お前が承知している俺がどんなだか知らないが、
 だいたいの人間は大真面目な顔で自分が記憶喪失にかかったなんて嘘はつかないと思うぜ」
「確かにそうですね。
 僕も本心からあなたが嘘をついていると疑っていたわけではありませんよ。
 でも、だからこそ、僕は驚いているんです」

古泉は小さく唇の端を吊り上げ、

「記憶を喪ったというのに、あなたは"不自然なほど"落ち着いている。
 これも経験則の成せる業、といったところでしょうか」

まあ、わたしは誰ここはどこ状態に陥ったわけでもないからな。
俺は自分の名前を言えるし、自分の家がどこにあるのかも分かる。
ただ、ここ二週間――長門が海外留学することになってから今朝まで――の記憶がすっぽり抜け落ちているだけだ。

「初めに言っておきますが、この件と機関は無関係です。
 あなたの記憶を消去する意味がありませんし、
 なにより、現代の人類は、
 記憶を選択的に消去する科学力を持ちえません」

窓際の空席と、ハルヒに弄り倒されている朝比奈さんを流し見し、

「未来人、あるいは宇宙人には、可能かもしれませんが」

と微笑する。
本心で言っているのか、冗談で言っているのか分からないところに腹が立つ。
生憎、俺が細やかな機微を読み取れるのは、相手が長門のときだけなのだ。

「それにしても、あなたが誰かの手によって記憶喪失にされたと仮定すると、これは非常に由々しき事態です。
 我々が第一に重きをおいているものは、涼宮さんの心の平安です。
 あなたの記憶喪失は、彼女にとって格好の不思議となりうる。
 どうかこのことは、くれぐれも内密にお願いしますよ」

俺はべらべら喋る古泉に嫌気がさしてきたので、

「別に俺は犯人探しをしているわけじゃねえし、
 ハルヒの奴に喋って話をややこしくするつもりもねえ。
 心当たりがないなら、黙って首を横に振ればよかったんだ」
「これは失礼。しかし、あと一つだけ、あなたに忠告しておきます。
 あなたの記憶が消されたということからは、ふたつの理由が考えられます。
 ひとつはあなたの記憶を消去することによって、間接的に涼宮さんの動向を探ろうとした可能性。
 ひとつはあなたがここ二週間に見知ったものに、下手人にとって都合の悪いものが含まれていたという可能性」

前者はハルヒの気分を掻き乱す方法としては、あまりに婉曲すぎる。
俺がこうして普段どおり登校し、普段どおりハルヒと接することができている以上、失敗したも同じだしな。
ありえるとすれば後者だ。

「ええ、僕も同じ考えです。
 あなたはあなたの与り知らぬところで、もしくは意図的に、
 知ってはならないことを知ってしまった。及んではいけない行為に及んでしまった。
 それを無かったことにするために、誰かがあなたの記憶を抹消した」

秘密を知った組織の下っ端が、口封じのために殺される。
それのマイルド版が俺の身に起こったのだろうか。

「こんなことはもう起こらないだろうが、いちおう用心する」

古泉は満足気に頷いた。
もしも本気で超常能力を持つ誰かに襲われたら、
同じく超常能力を持つ誰かに守ってもらうしか術はないのが、
これまでも、そしてこれからも変わらない一般人の俺ではあるが、
警戒しないことに越したことはないだろう。

「ところで、お前に頼みごとがあるんだが」
「何でしょう?」
「ここ二週間、俺がどこで何をしていたか、調べてくれないか」
「いいでしょう。言われずとも、そうする気でした。
 機関は僕やあなたを含めた涼宮さんの周囲にいるすべての動向を把握するよう努めています。
 プライバシーに直接関わることを除けば、
 ここ二週間のあなたの行動は、これまでと同様に、
 ほぼ全てが記録されていると言っても過言ではありません。
 こんなことを聞かせても、いい気分はしないでしょうが」
「助かる」
「お安い御用です」

古泉はそこで並列作業をやめ、携帯を少し弄ると、課題を解くのに没頭しはじめた。
特進クラスの宿題の多さには同情するよ。
手伝ってやる気はさらさら起こらないがな。

さて、これといったノルマも自主的に勉強する気もない俺は、
茫洋と横たわる余暇を潰すべく、本棚に近づいた。
長門からのメッセージを探すためじゃない。
純粋に読書するためだ。
ハイペリオン、鋼鉄都市、しあわせの理由と重厚なSFが続く中、
上弦の月を喰べる獅子を見つけて、それを手に取る。

『海外のSFばかりじゃなくて、たまには和製SFも読んでみないか』
『………あなたが選んで』
『これなんかどうだ?
 いつも読んでるのと趣向が違ってて面白いかもしれないぜ。
 借りてみたらどうだ』

森閑な図書館の一角。
長門は擦り切れた表紙を捲り、数頁に目を通し、

『いい』

と首を横にふった。

『そうか……』
『購入する』

それから俺達は書店を巡り、とある古本屋で同じものを見つけたのだった。
喫茶店に戻る頃には、主に俺がへとへとになっていた。
忘れられない、長門との思い出のひとつだ。
パイプ椅子に楽な姿勢で座ったそのとき、ハルヒが出し抜けに時計を見て「遅いわ!」と叫んだ。
特に大きな声でもないのに、霹靂神のごとき大音声で俺の気を引くのはなぜだろう。
神の機嫌に敏感な超能力者に感化されつつあるのか、俺は?

いったいどうしたんだと尋ねる俺の思いやりを華麗にシカトし、
それまで弄っていた朝比奈さんをもほっぽり出して、ハルヒはのしのしと
文芸部室と廊下を分かつドアに近づき、

「ちょっと職員室行ってくるから!」

と言って出ていってしまった。
何か不始末をしでかしいつ呼び出しをくらうともしれない時を悶々と過ごしていたハルヒが、
緊張感にたえきれなくなり自首したというストーリーが浮かんだが、
そもそもあいつの悪戯に後悔が伴ったためしはなく、(躊躇するような悪戯は最初からしない主義なのだ)
ましてや自首などするわけがないという結論に落ち着いたそのとき、朝比奈さんが隣のパイプ椅子に座り込んだ。

「ふぇえ、疲れましたぁ~」

ハルヒにさんざん胸を揉まれたり脇腹を撫で回されたりしたせいで、
仄かに上気した朝比奈さんは普段の十倍増しに妖艶で、
メイド服の胸元を締め付けるボタンを二つ外せば
MySweetAngelからMyFallenAngelになること請け合いだ。

「ハルヒと一緒に何をしてたんですか?」
「えっとぉ、今度一緒に服を買いに行くことになって、雑誌で下見してたんです。
 わたし、欲しい服には予めチェックを入れていたんですけど、
 涼宮さんが、わたしの体にきちんと合うか調べるって言って……」

寸法、図られちゃいましたと舌を出す朝比奈さん。
扇情的な仕草に脳みそがやられそうになるが、なんとか堪え、

「ハルヒがいない間に少し話があるんですが、聞いてもらえませんか」

「そのぅ、古泉くんには?」

朝比奈さんが対面を伺う。
気を遣ったのか偶然かは知らないが、
古泉は両の耳穴にイヤホンを差し込み、
音漏れ上等の大音量で英会話を聞いていた。
シャーペンは間断なく筆記体のアルファベットをノートに書き付けている。

「こいつにはさっき話しました。
 ……実は、俺にはここ二週間の記憶がないんです。
 何か心当たりがあれば、何でもいいんです、言ってください」

朝比奈さんの反応は、予想どおりだった。
残念だが、仕方ないと自分を納得させる。
もしも朝比奈さんが関係しているとしたら、それは現代の朝比奈さんではなく、
もっと未来の、大人版朝比奈さんである可能性が高い。


だが、朝比奈さんは独自の感性で、
記憶消滅の不審点を洗い出してくれた。

「古泉くんの言うとおり、キョンくんの記憶が消えたのには、
 その犯人にとって都合がよかったからだと思います。
 でも、それならそれで、どうして二週間まるごと消そうと思ったのかなぁ……。
 もしもわたしがキョンくんに恥ずかしいところを見られて、
 キョンくんの記憶の一部だけ消せる力があったら、
 恥ずかしいところを見られた一瞬だけ消すと思うんです。
 そうしたら、キョンくんもこうして記憶を消されたことに気がつかないかもしれないでしょ?」

確かにそうだ。
鈍い俺は「ぼーっとしていた」程度の言い訳で自分を納得させてしまうことだろう。
朝比奈さんは続けてこうも言った。

「キョンくんは、今朝記憶をなくしたことに気づいたんですよね。
 詳しくいうと、どの時点で気づいたんですか。
 新聞を見たとき?TVを見たとき?それとも、家族と話したとき?」

言葉に詰まった。
目の前に全裸の朝倉が寝ていたとき、と正直に打ち明けられたらどんなに気が楽だろう。
無垢な小動物みたいな双眸をこちらに向ける朝比奈さんにそんなことが言えるはずもなく、
しかし適当な言い訳が思い浮かばないまま刻々と時が過ぎ……。

「たっだいまー!!」

ハルヒが帰ってきた。傍らには同じ背ほどの女生徒を連れている。
やれやれ新しい依頼人か、と顔を注視した俺が馬鹿だった。
口に含んだお茶を噴出し、古泉のノートにドでかい染みを作ってしまったからだ。
俺に一日で三個の肝を潰させた女、朝倉涼子がそこにいた。

「だ、大丈夫ですか、キョンくん!?」

すかさず朝比奈さんが背中を摩ってくれる。
古泉は何事かとノート、俺、ドア付近へと視線を移し、
すべてを悟ったような神妙な顔になった。
ハルヒは団長席に座り、無様に咳き込む俺を睥睨し、

「驚きすぎよ。古泉くんはもっと怒っていいのよ?ノートが台無しじゃない」
「いいんですよ。わざとではなさそうですし、ノートは換えが利きますから」

俄に喧騒に満ちた文芸部室に、朝倉は悠々と足を踏み入れる。
中央のテーブルを通り過ぎ、さらには団長席を通りすぎて、窓際のパイプ椅子へ。
俺の気管がお茶を吐き出し終えた頃、皆が挨拶を交わした。

「こんにちわ」と古泉。
「どうして遅くなったんですか?」と朝比奈さん。
「定期試験をどうするか、先生と相談していたの。
 あっちとこっちでは授業の進み方が違うから……」と困り顔の朝倉。
「朝倉さんは、最初からみんなと同じ内容のテストでいいって言ってたのに、
 あいつら、細かいところでうるさくてね。
 あんまりしつこかったから、あたしが引っ張ってきたのよ」と誇らしげなハルヒ。
「それはそれは。災難でしたね」と朝倉を労う古泉。
「涼宮さんらしいです」と苦笑する朝比奈さん。

俺は談笑の輪には加わらず、朝倉が相談事を切り出す瞬間を待っていた。
だが、待てども待てどもその時は訪れない。
朝比奈さんが朝倉の分のお茶を用意し始めたあたりで、いてもたってもいられなくなり、

「朝倉はどうして文芸部室に来たんだ?
 何か俺たちに頼みたいことがあったんじゃないのか?」

ハルヒと朝比奈さんは、ぽかんとした顔で俺を見ていた。
朝倉と古泉は俺が何をいわんとしているのか察しているようだった。
俺は止めの一言を口にした。

「朝倉は、依頼人だろ?」

ハルヒはぱちくりと瞬きし、"記憶喪失した人間を見るような目"でこう言った。

「あんた何言ってんの?
 朝倉さんは、SOS団の仲間じゃない」

奇妙な沈黙が部屋に降りた。
やっとのことで声を絞り出す。

「いつから?」
「半月ほど前からよ。
 留学した有希と入れ替わりに朝倉さんがカナダから帰ってきて、
 欠員補充のために、あたしが誘ったのよ。
 そのとき、あんたも隣にいたじゃない。本気で忘れたの?」
「………は、はは。そうだよな。
 いや、悪い。悪い冗談だった」

停止していた時間が動き出す。
ハルヒは憮然として「朝のときみたいに、いきなり変なこと言わないで」と言い、興味をパソコンに移した。
古泉は俺を慮ってか、何も言わずにイヤホンを耳に挿し直し、
今更俺の失言の意味に気づいた朝比奈さんは、急に落ち着きをなくし、
当の朝倉は鞄を椅子の隣に置いて、本棚の近くをうろつきはじめた。

ハルヒが優しい声音で訊いた。

「何を探してるの?」
「読みかけの本が見当たらないの。
 帰るときには必ず本棚に直すようにしていたんだけど」
「ああ、あの古めかしい本ね。
 あたしも一緒に探してあげる。
 直しただいたいの位置は憶えてる?」
「右端の棚の、上のあたりだったはずよ」
「念のために聞くけど、本の名前は?」
「上弦の月を喰べる獅子」

どきりとした。それを察したのか、

「あっ!」

素っ頓狂な声をあげて、ハルヒがすっ飛んでくる。
ハルヒは本を取り上げ、その角で俺の頭をべちべち叩きながら、

「あんたが読んでたなら、さっさと言いなさいよ!
 朝倉さんが困ってるのを見て、楽しんでたわけ?」
「違うんだ。そういうわけじゃ……」
「そういうわけもこういうわけもないでしょ?
 昨日も、その前の日も、朝倉さんがこの本を読んでたことは知ってるはずじゃない」

その台詞を聞いた瞬間、ありふれた比喩だが、頭の中が真っ白になったのを覚えている。
我に帰ると、帰路の中程を、呼吸困難に喘ぎながら全力疾走している自分がいた。

『うるさい!俺は知らないんだ。
 朝倉がSOS団に入ったことも、この本を読んでたことも、今初めて聞かされたんだよ!』
『キョ、キョン……?』
『朝倉、お前もお前だ。
 SOS団に入って、何のつもりなんだ?
 窓際の席は元々は長門の席だったんだ。
 そこに座って、本を読んで、長門になったつもりか?』
『キョンくん、わたしは……』

朝倉が何かを言いかけ、それを聞く前に、俺は部室を飛び出していた。
やっちまった、という後悔に、
言いたいことを後さき考えずにぶちまけた爽快感が優った。
ハルヒの機嫌取り?糞食らえだ。
そんなもんは古泉に任せときゃなんとかなる。
誰が俺を責められる?
二週間分の記憶をなくし、天敵と遭遇し、
そいつと学校にいるあいだ四六時中同じ空間にいることを強要され、
あげく耐え切れず爆発したことに何の罪があるってんだ。

………………。
…………。
……。

人間の怒りは二、三十分が限度だ。
家に到着するころには、頭が冷え、決して実を付けることのない後悔が根を張り始めていた。

ハルヒは朝のHR前の時点で、何かしらの不信感を俺に感じているはずだ。
そこに放課後の一件が上塗りされれば、
今頃は閉鎖空間がそこかしこに発生し、
古泉ら超能力者が神人狩りに駆り出されているに違いない。
味のしない晩飯を食べ終え、自室に篭る。
何も考えたくなかった。
ベッドを見ると、朝方の光景を思い出し、さらに気が滅入った。

「キョーンーくんっ」

薄く目を開ける。
三味線の両脚をつかんだ妹が、満面の笑顔でそこにいた。

「あーそーぼ?」
「悪いが、お兄ちゃんは今そんな気分じゃねえんだ」

我ながら大人気ない対応だ、と思う。

「ええーそんな気分じゃないって、じゃあキョンくんは今、どんな気分なの~?」
「最低な気分だ」
「わかんない。あたしやシャミにもわかるように説明して?」
「シャミにはどんなに分かりやすい説明でも伝わらねえよ」
「そんなことないよぉ~。ねぇ、シャミ?」

三毛猫は知的とは程遠い不細工な顔であくびする。
俺は笑った。妹も笑った。
そのときふいに、俺は妹が俺を慰めにきたのだということに気がついた。

「お前は、学校に嫌な奴とかいないのか?」

いると答えられたらどうしようかと思ったが、

「いないよ~。みんないい子だもん。
 たまにちょっかいかけてくる男の子はいるけど……」
「いるけど?」
「おはなしをきいたら、あたしと遊びたくてちょっかいをかけたんだって~」

妹は天使の――ゆくゆくは魔性の――笑みを浮かべた。

「キョンくんは、学校にいやな子がいるの?」
「まあな。別に喧嘩してるわけじゃないんだぜ。
 俺が一方的に、苦手に感じてるだけなんだ」
「キョンくんは、どうしてその子が苦手なの~?」
「あることが切欠で……俺がそいつに、嫌な思いをさせられてさ。
 しかもそんなことが二回も続いて、
 俺はいよいよそいつに、拒絶反応が出るようになっちまったんだ」

妹は思案するように人差し指を顎に当て、
シャミセンは俺の相談など何処吹く風というように、ベッドの上で眠り始めた。
俄に、顔が熱くなる。
何を大マジになって妹にお悩み相談してんだよ、俺は。
階下に妹とシャミセンを送り返す決心を固めたそのとき、

「その人はねぇ、ほんとうにキョンくんのことが嫌いで、そんなことをしたのかな?」

妹は神妙な顔つきになって言った。

「あたまの中で思ってることと、することがちがっちゃうことって、けっこうあるよ?
 学校の男の子たちといっしょだよ。
 その子だって、ほんとうはキョンくんとなかよくなりたかったのに、キョンくんに嫌われるようなことをしちゃったのかも……」

ハッとさせられた。
妹の体験談ほど単純ではないが、
朝倉と俺の関係に置換すると、こうなる。
朝倉涼子というヒューマノイドインターフェイスは急進派の意思決定を反映する一端末に過ぎない。
"俺を殺す"という究極的選択に朝倉個人の意志は介在していなかった。
だが二度目はどうだ、と俺の裡の誰かが囁く。
改変後の世界、情報統合思念体が消滅した世界で、俺は朝倉に刺されたんだぞ。
しかし、と裡なる別の誰かが反論する。
あの世界は長門が望んだ世界だ。
それを破壊しようとする因子を排除する抗体が朝倉で、
朝倉は抗体としての役割に縛られていたのだとしたら……。
階下からおふくろの声がする。

「はぁーい。あたし、さきにお風呂入ってくるね」
「……その、なんだ」
「なぁに?」
「ありがとな」
「いいよいいよ。だってあたしは、キョンくんの妹なんだよ~?」

情けなさよりも、感謝の思いが募る。
いつか近いうちに「俺はお前のお兄ちゃんなんだからな」なんて台詞を言いたいもんだ。
とてとてと部屋を出て行く妹を見送っていると、携帯のバイブが震える音がした。
ついでに、シャミセンが奮闘する音も。

「おいこら、俺の携帯で遊ぶのはやめろ」

新たな傷を加えられた携帯を開くと、ハルヒの名前が目に飛び込んできた。
ボタンを押す。あいつを待たせて事態が好転したためしはない。

風呂

ハルヒはほとんど囁きに近い小さな声で言った。

「明日、団活に来る?」
「ああ」
「そ」

通話が切れそうな気配がして、

「おい待て、話はそれで終わりか?」

たった三言ですむような会話ならメールですませろと言いたい。

「…………」

衣擦れの音や、何かを言おうとして躊躇するような息遣いが聞こえる他は、
沈黙の時がたっぷり三十秒は続き、

「あたしがいつもあんたのことを平団員って言ってるのは、ポーズだから」
「はぁ?」
「つまり、あたしはあんたのことを、
 SOS団の最初から一緒にやってきたって意味では、
 副団長よりも評価してるって言ってんの!」
「ああ、そうかい」
「なによ、これでもまだ不満なわけ?」

どうにもハルヒの意図がつかめない。
今朝や放課後に見せてしまった、朝倉に関する記憶の歯抜けに言及されないのはありがたいが。

「確かに最近のあたしがあんたに厳しくしてたのは認めるわよ。
 でも、それもこれもキョンが悪いんだからね。
 団活中はぼーっとしてるし、あたしが話しかけても上の空だし、
 今日は今日で、いきなり怒鳴りだすし……」

今日以前のことには、触れられても反応できない。
普段から熱心な団員とは言い難かった俺だが、
ここ最近の俺は、ハルヒに対しても適当に振舞うほど気が抜けていたのだろうか。

「ねえ、あんた、本当に疲れてるの?
 どうしてもっていうなら、一日くらいは団活休んでもいいのよ?」
「……ありがとな」
「な、なによ急に」
「団長にこんなに心配されて、平団員その一は幸せだ」
「ばっ、ばっかじゃないの。
 とにかく、来るって行ったからには、明日も絶対団活に来ること!
 今日みたいに勝手に帰っちゃったら、罰金じゃすまさないんだからね。
 私刑よ、私刑!」
「分かったよ。肝に銘じとく」

がちゃり。
名残惜しさを微塵も感じない清々しい切り方だった。実にハルヒらしい。

寝る
保守は嬉しいですが落としてもらっていいです
こんなに長いあいだ残るとは思ってなかったので

朝倉「あなたがキョンくんね」

キョン「…違います。人違いです」

さて、携帯を震えて光る玩具か何かと信じて疑わない三毛猫を部屋から移動させようと奮闘していると、
またしても着信音が鳴り始めた。さっきと同じ攻防の果てに携帯を取り戻し、

「もしもし」
「古泉です。いくつかお話があるのですが」

ハルヒの機嫌を思い切り損ねたことへの説教か?

「まさか」

古泉は大袈裟な声で言った。
首を竦めている様子が透けて見える。

「あなたが部室を飛び出した直後は閉鎖空間の発生が3件観測されましたが、
 いずれも規模は比較的小さく、20分以内に全て収束しています。
 僕があなたに電話した理由のひとつは、あなたに謝罪するためです。
 僕はあなたの記憶喪失を知らされた時点で、
 あなたがSOS団の新しい団員についての記憶も喪っていると、類推しなければならなかった。
 予備知識のあるなしは人の心理に多大な影響を及ぼします。
 もしもあのとき、僕があなたに朝倉さんのことを予め伝えていたら、」
「俺がお前のノートにお茶をぶっかけることもなかった」
「ええ、そのとおりです」
「ノート、ダメにしちまって悪かったな」
「気にしないでください。部室でも言いましたが、あれはもともと復習用でしたから」

波風を立てるのを嫌う古泉なら、
たとえ志望大学の願書を引き裂かれてもにこやかに許してくれることだろう。
いつか大損こくと思うぜ、お前の性格は。

「電話の理由はそれだけか?」

「いえ、あとひとつ……。
 突然ですが、あなたの携帯は新しい方ですか?
 夏の初めに機種を変更したと言っていましたが」
「最新じゃあないが、結構新しいモデルだ」
「それならきっと大丈夫でしょう。電話を切った後で、
 ここ二週間のあなたの足跡を記録したファイルをメールに添付して送信します。
 思ったよりも時間がかかってしまって、すみません。
 あなたの情報を外部に持ち出すとなると、煩雑な手続きが必要でして」

俺の情報を機密扱いにするのは勝手だが、
お前の上司は何の目的で俺を重要人物扱いしてるんだ。

「さあ、末端の僕には何も知らされていませんので」

お前の常套句は聴き飽きたよ。
古泉は軽妙な笑い声で答え、唐突に通話を切った。
しばらくして、メールが届く。
添付されていたのはかなり大きなpdfファイルで、
二週間前の日付から昨日の日付まで、
俺の行動が客観的に記録されていた。
それを主観的に描写しなおすと、以下のようになる。


一日目。
長門が海外留学し、朝倉がカナダから帰国。
実際には長門から朝倉へハルヒの監視任務が委任された。
俺は事前に長門から事情を聞かされていた。
二日目。
放課後、クラスで歓迎会が執り行なわれる。
ハルヒと俺は団活を休み歓迎会に出席。

三日目。
ハルヒが朝倉をSOS団に勧誘。
朝倉は返答を保留。
俺はそれを静観。
朝倉とは義務的な会話に終始。
四日目。
朝倉が団活に初めて参加する。
SOS団のメンバーの反応は良好。
朝比奈さんが朝倉に対し若干の拒絶反応、時間経過に伴い軟化。
朝倉との会話頻度が上昇。
五日目。
朝倉との会話頻度が上昇。
六日目。
朝倉が入団してから、初めての学外での団活。
指定時間に遅刻した俺と朝倉が強制的に班を組まされる。
会話頻度が上昇。
和やかな雰囲気。
七日目。
朝倉の個人的な買い物に同行した。
会話頻度がさらに上昇。
八日目。
登校時、下駄箱にて手紙らしきものを発見する。
16時27分、朝比奈さんと古泉に断りを入れて文芸部室を退室。



――監視対象をロスト。

機関の監視員が右往左往している間に何が起こっていたか、俺は知っている。
記憶はないが、朝倉が教えてくれた。
俺は朝倉に告白されて、首を縦に振ったのだ。

ベッドに倒れこむ。
シャミセンは軽い身熟しで俺を躱し、
「なーう!」と寝床を奪われたことに抗議し、どこかに去っていった。

溜息もでねえ。
これで証明されちまったわけだ。
会話の頻度が上昇?
朝倉の私的な買い物に同行?はっ。
虚無感と諦観が混じり合うと、笑気ガスと同じ効果を発揮するらしい。
俺は一人で小さく笑いながら、
俺が「自分の意志」で朝倉と恋人になったという忌々しい事実を噛み締めていた。

朝倉「ねぇーあの夜が忘れられないのよぉ」

翌日。

「それでよぉー八組の駒田が、」
「あのね谷口、ちょっと静かにしてくれないかな」

昼食時、国木田は谷口の舌鋒をやんわりと退けつつ訊いてきた。

「キョン、先週末に朝倉さんと喧嘩でもしたの?
 昨日から全然喋ってないみたいだけど」

一口餃子が食道に詰まる。

「………」
「僕たちには言いにくいことなの?」

朝倉曰く、俺と朝倉は秘密裏に交際していた。
SOS団でも、クラスでも、俺たちはただの"お友達"だった。
しかし"お友達"を演じていながらも、
俺と朝倉の親密さは傍目に感じ取れるレベルだったらしい。
それはこの前のハルヒの発言や、
今しがたの質問から容易に推測できる。

「確かに昨日の朝はキョンの様子おかしかったしな」

谷口はぐいと肩を寄せてきて、

「お前まさか……もしかすると…………あれか、コクっちまったのか?」

「た、谷口!」
「だってそれしか考えられねえじゃんかよ。
 朝倉の優しさを好意と受け取ったおめでた頭のキョンは、
 週末に盛大にコクって玉砕、友達でいようと言われたものの、
 朝倉に合わせる顔なんてなく、無愛想に振る舞っちまう……」
「あのな」
「いい!いいんだぜ、キョン!
 みなまで言うな。女にフラれる悲しさは俺もよーく知ってる」
「お前と一緒にしないでくれ」

谷口を押しのける。
俺は半ば自棄になって言った。

「俺と朝倉のあいだには……何もない!」
「その微妙な間と、ムキになって否定するところがまた怪しいよね」
「キョーンー俺たち親友だろ?
 隠し事なんてらしくねえよ。全部吐いちまえ。な?」

谷口の酔漢のごとき鬱陶しい絡みと、
国木田の冷静で的確な指弾に押され、いよいよ俺が教室から退避しようとしたとき、

「ふふっ、大丈夫、キョンくん?」

空の弁当包みを携えた朝倉が、
谷口と取っ組み合う俺を、可笑しそうに見つめていた。
何か言わなきゃならない。
こいつらを納得させるような台詞。
別に気が利いてなくてもいい。
俺と朝倉の関係が、先週と変わらない"お友達"のままであると錯覚させる台詞。

「あ、朝倉」

顔面の筋肉が引き攣らないように祈りつつ、

「今日の放課後は、そのまま部室に行けそうか?」
「ええ。涼宮さんのおかげで、先生たちも納得してくれたみたい。
 涼宮さん、強引だけど頼りになるよね。
 あっ、そうそう。
 キョンくん、今日は部室で一緒に現国の課題をしない?
 わたし、ウトウトしてきちんと授業を聞いてなくって……キョンくんは起きてた?」
「俺も寝てた」

朝倉は顔を綻ばせて、

「じゃあ、涼宮さんが先生役で、わたしとキョンくんが生徒役ね。
 涼宮さん、授業中に課題を終わらしちゃったんですって」
 

わたし三組の友達に呼ばれてるから、と言って去っていく朝倉。
谷口と国木田はスカートから伸びる肉付きの良い太股を眺めながら、

「僕たちの勘違いだったみたいだね」
「キョン、俺も現国の課題一緒にやりにいっていいか?」
「ハルヒが認めたらな」

こいつらの疑念を晴らせたのは喜ぶべきことだが、
いちどこうした態度をとっちまったからには、
これからも積極的に、少なくとも不自然に思われない程度には、朝倉と会話しなくちゃならない。

時は移り放課後。
右手にハルヒ、左手に朝倉という両手に花状態で文芸部室にたどり着いた俺は、
予告通りにハルヒの教授の下、朝倉と並んで課題を終わらせ、
昨日果たすことのできなかったオセロ十番勝負に興じていた。
ちなみに谷口の特別参加はハルヒによって却下された。

「参りました」

俺は自分の名前の隣に、五つめの白星を書き記す。
これでお前の勝ちはなくなり、残り五戦を全勝しての引き分けしか目指せなくなったわけだが。

「勝負には時の運が絡みますからね。
 特にオセロのような二元性のゲームでは」

つまり俺が勝ってお前が負けたのは偶然の結果に過ぎない、と言いたいわけか。
言い訳にしちゃ二流だな。
どうせなら腹痛でまともに思考力が働かないとでも言ったらどうだ。

「実は先日から慢性的な頭痛に悩まされているんですよ」

呆れて物も言えないね。

「じゃあ、わたしが代わってもいい?」

盤面を片付けていた手が止まる。
面をあげると、朝倉が古泉の隣に立ち、好奇心に富んだ瞳で盤面を見つめていた。

「これはこれは。
 心強い助っ人の登場ですね。
 残りの勝負は、朝倉さんにお任せするとしましょう」

古泉はさっと席を譲り、朝倉が座る。対面に座った朝倉はにっこりと微笑んだ。

「お手柔らかにね、キョンくん」

ぱちり。
……ぱちり。

セオリーに従って淡々とゲームを進める俺と違い、
朝倉は一手一手を吟味して指してきている。
表情は真剣そのものだ。
長考に入ると、太り気味の眉がへの字に曲がった。

ぱちり。
……ぱちり。

――朝倉とオセロをしている。
現実感が、ぽろぽろと剥離していく。
たまらず、朝倉から窓の外に視線を逸らした。
残暑の去った秋空は高く澄み渡り、斑雲に遮られた陽光は微温く、寂しげな風籟は秋の深まりを予感させる。

ぱちり。
……ぱちり。

朝倉は記憶を失う以前の交際期間について触れてこない。
朝倉は言った。「また一からやりなおさなくちゃ」と。
それは好意的に解釈するなら、朝倉に対する俺の苦手意識を矯正する、という決意の表れだ。
では俺は朝倉に対し、どんな態度を取るべきなのだろう。
表面上は友達のフリを続けながら、心の裡では残酷な殺人鬼のレッテルを張り続けるのか。
それとも二週間前の俺が辿ったように、徐々に態度を軟化させていくのか。

ぱちり。
……………ぱちり。

妹の言葉が蘇る。
行動と情動が同じとは限らない。
朝倉が俺を殺そうとしたのは、朝倉の意志によるものだったのか、それとも強制によるものだったのか。
二週間前の俺はどんな風に折り合いをつけたんだ。
直接朝倉に尋ねたのか。

ぱちり。
……………………ぱちり。

「やった。わたしの勝ちよ!」

気づけば、盤面のほとんどは黒に塗り替えられていた。
朝倉の圧勝だ。
上の空で打っていたとはいえ、実力差は歴然だった。

「敵わねえな」
「謙遜。キョンくん、何か考え事しながら打ってたでしょう。
 やり直しよ。でも、勝ち星は記録させてもらうわね?」

朝倉は嬉々として古泉の名前の隣に白星を書き記す。
二戦目、三戦目、四戦目と、俺の名前の隣には黒星ばかりが増えていった。
確かに朝倉は強い。
が、二人零和有限確定完全情報ゲームに特化したスーパーコンピュータを相手にしているような、理不尽な強さじゃない。
朝倉は一般的なオセロが得意な女子高生の脳みそをトレースしているのだろうか。
それとも、朝倉の知能は元々セーブされていて、
その中で全力を出した結果がこれなのか。
長門とオセロをしていたときは気にならなかったことが、気になる。

「これで終わりよ」

朝倉の子供っぽさの残る指が、一枚一枚、盤面の白を反転させていく。
結局、五戦目も俺は負けた。あっさりと。

「ふふっ、手加減したほうが良かったかしら?」
「手心を加えられるくらいなら、全力で打ちのめされるほうがマシだ」

それまで朝倉の背後で腕組みしていた古泉が、

「そうですか?
 僕は勝利の喜びを知ってこそ人は意欲を滾らせるものだと思いますが」
「万年初心者のお前が言っても説得力がねえ」
「万年だなんて、古泉くんに失礼よ。好きこそ物の上手なれって言葉があるわ」
「下手の横好きって言葉もあるぜ」

「言いたい放題ですね」と溜息をつきつつ古泉。

朝倉と俺は顔を見合わせた。
笑った。自然に、
無意識に、喉の奥から笑い声がこみ上げてきたのだ。
朝倉が唇の三日月はそのまま、目だけを見開いた。
何がおかしい?
少し遅れて、気づいた。
朝倉との関係が初期化されて二日目、
俺は早くも、朝倉の前で無防備に笑っていた。

帰り道。

「ファイルを見た感想はいかがです」

前方を歩く三人娘に配慮したのか、古泉の歩調が落ちる。

「他人の日記帳を見てるような気分になった」
「心中お察ししますよ」
「口だけの同情はいい」
「機関の観察員の記録は、お役に立てたでしょうか?」

「記憶を補う分にはな……。
 記憶を取り戻す手がかりにはなりそうにない」

結局、俺は八日目までの記録にしか目を通していない。
朝倉との交際が始まってからの記録に、一読の価値が見出せなかったからだ。
俺は朝倉に心を許すまでの過程に、劇的な"何か"を期待していた。
そして喪った記憶の中の自分から、酷い裏切りにあった。

「俺と朝倉が付き合うことは、古泉や朝比奈さんに反対されなかったのか」
「機関も朝比奈さんの組織も、念頭にあるのは常に涼宮さんのことです。
 あなたと朝倉さんの間に交際に関して、僕の上司も、朝比奈さんの上司も、静観するということで合意に達したようです。
 あなたたちが節操無く睦言を語らう中高生カップルの例に倣っていれば、話は別でしたでしょうがね。
 事実、学校生活を営む上で、北高生の誰かがあなたたちの交際に勘づいたという報告は上がっていません。
 涼宮さんを含めて」
「朝倉の親玉も、交際を認めていたのか?」

恋愛を精神病の一種と貶していたハルヒに付き合っていたことがバレれば、
俺と朝倉は一発で除名処分を受けていたのではなかろうか。
そんなリスクを情報統合思念体が受け入れたとは到底信じられないんだが。

「さあ、それは僕の与り知るところではありませんから、どうとも。
 なんなら、彼女に直接尋ねてみてはいかがです?」

前を見る。
ハルヒの左隣、元は長門のポジションで、
朝倉は長い後ろ髪を揺らせ、整った横顔に上品な微笑を浮かべている。

「………」

魅入りそうになる自分がいた。

首を横に振り、目頭を押さえる。
古泉、今すぐその気色悪いニヤつきをやめろ。殴るぞ。

「失礼」

古泉はちっとも悪びれた様子もなく、首を竦めた。

土曜。
携帯のメモリに記録されていた(喪った記憶のどこかで交換していたのだろう)朝倉のアドレスを呼び出し、メールを送る。
『情報操作で俺と同じ班になるようにしろ』
返事はすぐに帰ってきた。理由は聞かずに、承諾の旨が書かれてある。
勘違いされそうなので言っておくが、俺は何も朝倉とデートしたくてこんな仕込みをしているわけじゃない。

朝倉との関係が初期化されてから三日目。
朝登校したとき、朝倉が教室にいることに違和感を覚えなかった。
四日目。
休み時間に朝倉と会話することに、抵抗を感じ無くなっていた。
五日目。
下校時、分岐路に差し掛かった朝倉に、自然に手を振っていた。

純粋な好意を目に宿して近づいてくる人間、否、ヒューマノイドインターフェイスに、
邪険に接することができなくなっていく自分がいた。
かつて俺は朝倉に殺されかけた。
だが復活した朝倉は、見れば見るほど、刃傷沙汰とは無縁の女子高生だった。
どちらが本物で、どちらが贋物の朝倉なんだ?
痛痒感にも似たもどかしさが募っていった。
どうすればいいかは分かっている。
最初に妹が教えてくれた。
訊けばいいのだ。
朝倉に。

「おっそーい! 罰金よ罰金」
「ここでの飲み食いは全部俺の奢り。それでいいだろ?」

システマティックに罰則を甘受し、古泉の隣に座る。
ハルヒは「反省の態度が見られないわ」とぶぅぶぅ文句を垂れた後、くじを用意し、皆の前に差し出した。
朝倉は俺にしか見えない角度でウインクした。
その一瞬のうちに、情報操作は終わったらしい。
喫茶店前でハルヒ、古泉、朝比奈さんの三人と別れ、
その姿が駅構内に消えた頃、

「朝のメールの理由を聞いてもいい?」
「訊きたいことがある。人気のないところまで歩こう」

朝倉はコクリと頷き、黙って俺の後ろを着いてきた。
人気のないところの候補はいくつかあったが、
最終的に喫茶店からそう遠くない河川敷沿いの散歩コースを選んだ。
春に花弁を吹雪かせていた桜並木も、早熟ながら、黄と橙の秋色を纏っている。

ちょっとようじ

「お前は、俺を殺そうとしたときのことを憶えてるか?」

それまで距離を置いていた朝倉が、隣に並ぶ。

「憶えてるわ。
 夕暮れの教室と、改変直後の真冬の夜、わたしはキョンくんを殺そうとした。
 一度目は、あなたを殺して涼宮さんの出方を見るため。
 二度目は、改変された世界を、長門さんを守るために」
「朝倉がああした理由は知ってる。
 俺が訊きたいのは、俺が本当に訊きたいのは……」

歩みを止める。
クソッタレな矜持は捨ててきた。

「お前が俺を殺そうとしたのは、お前の本心からの行為だったのかどうかだ」

朝倉が目を丸くし、息を飲む気配が伝わってきた。
言っちまった。顔が熱を帯びてくるのが分かる。
俺はきっと記憶を喪う前にも、朝倉にまったく同じことを訊いていたはずだ。
そして求めていた答えを得て、朝倉を許し、交際に至った。
いうなれば、これは赦免の儀式だ。
こうして今質問していること自体が、
朝倉を許す準備ができていると言ってるようなもんだからな。

「わたしが、キョンくんを本心から殺そうとした?」

朝倉の声は奇妙に震えていた。
三流のお涙頂戴ドラマのクライマックスを見てハンカチを噛んでいるおふくろの声の震え方と似ていなくもなかった。

「そんなわけ、ないよ……!」

おそるおそる隣を見る。朝倉は円な瞳を潤ませ、

「できることなら、キョンくんと普通に……普通に仲良くなりたかった。
 あなたにナイフを向けたとき、わたしがどんなに苦しかったか……」

おい泣くのはやめろ。
このイベントはお前にとって二度目の経験で、焼き直しもいいとこだろ。

「それはそうだけど……でも……」
「お前に悪意が無かったことはよく分かったから、泣きやんでくれ」

人目が気になるのも理由の一つだが、
朝倉に泣かれるというシチュエーションが精神的に辛い。
涙腺の弱い朝比奈さんとは違い、『泣かせている』感が強いからだろうか。

「キョンくん、勘違いしてる。
 わたしが泣いてるのは、嬉しいからよ。
 キョンくんが訊いてきてくれて、本当に嬉しかったの」
「どうして最初に、お前のほうから言わなかったんだ」
「わたしに免疫ができていないキョンくんに、
 いきなりわたしがキョンくんを殺そうとしたのは仕方なくだったと弁解しても、信じてもらえなかったと思うわ。
 だから今こうやって、キョンくんの誤解が解けて……」
「待った」

俺はまだお前に、完全に心を許したわけじゃないぜ。

「一度目の例をとって考えてみれば、
 朝倉は思念体の急進派の命令に従って俺を殺そうとしたわけだよな」

こくり、と頷く朝倉。

「じゃあ、また思念体から『俺を殺せ』と命令されたら、そのときお前はどうするつもりなんだ?」
「あの件以来、急進派は粛清されて規模を縮小したわ」
「それでも、絶対にないとは言い切れない」

朝倉は涙を拭い、きっぱりと宣言した。

「その時は、自分で自分の情報連結を解除する。
 情報統合思念体は代替手段を使うかもしれないけれど、
 少なくともあなたの前に現れるのは、わたしとは別の誰かよ」

「信じていいか」

ここで媚びた態度で「信じて?」と言われたら、
俺は朝倉に対する意識を翻してたかもしれない。

「それはわたしの決めることじゃないから」

朝倉はどこまでも真っ直ぐな眼差しで俺の答えを待っている。
視線を交錯させること十秒。

「俺の負けだ。信じるよ」
「よかったぁ……」

朝倉が破顔する。
そのとき初めて、俺は目の前の女の子がとんでもなく可愛いことに気がついた。
谷口のAAA評価に+を付け加えたくなるほど、魅力的な女の子だ、とも。

それから俺たちは他愛のない会話をしながら、
ハルヒに指定された時間まで、河川敷沿いの道を歩き続けた。
不思議は見つからなかったが、その代わりに、朝倉に対する蟠りがいくつか溶けた。
曰く、朝倉の知能は平均的な女子高生よりも賢く周りから引かれない程度に設定されており、
性向に至っては「明るく親しみやすい」という基本方針の他は、
離散的計算モデルのごとき自由を与えられているそうだ。

「たまに『朝倉さんは何でも上手くこなしそう』って言われることがあるけど、
 そんなの、大間違い。わたしだってドジるときはドジるし、ポカるときはポカる。
 完璧な人がいないように、完璧なインターフェイスなんて存在しないわ」

そういう朝倉はどこか誇らしげだった。





寝る
脳みそ圧搾してオチ考えたけど書き終えるまでにスレ落ちるんじゃねえのコレ

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