「東中学出身、涼宮ハルヒ。前の席の男子生徒に興味があります」 (207)

「自己紹介が終わったら、あたしのところに来なさい。以上」

これは俺の高校生活の初日、入学式の後の教室での自己紹介の場で後ろの席の奴が発した言葉だった。

さすがに振り向いたね。

長くて真っ直ぐな黒い髪にカチューシャつけて、
クラス全員の視線を傲然と受け止める顔はこの上なく整った目鼻立ち、
意志の強そうな大きくて黒い目を異常に長いまつげが縁取り、薄桃色の唇を固く引き結んだ女。

ハルヒの白い喉がやけにまばゆかったのを覚えている。えらい美人がそこにいた。

ハルヒは自分の物よ威嚇するような目つきでゆっくりと教室中を見渡し、
最後に大口開けて見上げている俺をじーっと見つめると、にこりとして着席した。

これってギャグなの?

どういうリアクションをとればいいのか、疑問符が浮かんでいた。

結果から言うと、それはギャグでも笑いどころでもなかった。
涼宮ハルヒは、いつだろうがどこだろうが冗談などは言わない。

常に大マジなのだ。

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ギャグとも本気ともつかなかったので自己紹介の終了後に話しかけなかった。

ギャグで言ったつもりなのに話しかけれても迷惑だろう。

それに来なさいも何も元々席は真ん前なのだ。

用があれば向こうから何か言うはずだ。

数日後、そのハルヒが朝のホームルームの前に「ねえ」と、俺を突いてきた。

俺は振り返った。

「自己紹介のアレ、聞いてたでしょ?」

微笑みとも困惑とも取れる表情の涼宮ハルヒは俺の目を凝視した。

「自己紹介のアレって何だ」

「興味があるから来なさいって」

「お前、気があるのか?」

大まじめな顔で聞いてやった。

「…違うけど」

「違うけど、何なんだ」

「…知らない、何でもないから」

ハルヒは腕組みをして口をへの字に結んでそっぽを向いた。

だったら話かけなければいいだろう。俺はそう思ったね。

こんな感じでハルヒがちょっかいをかけてきてから一週間が経過した。

昼休みになると俺は中学が同じで比較的仲のよかった国木田と、
たまたま席が近かった東中出身の谷口という奴と机を同じくすることにしていた。

涼宮ハルヒの話題が出たのはその時である。

「お前、エライ奴に目をつけられちまったな」

「涼宮のことか?」

谷口はゆで卵の輪切りを口に放り込み、もぐもぐしながら、

「ああ。もしあいつに求めに応じる気なら、悪いことは言わん、やめとけ。涼宮は変人だ」

中学で涼宮と三年間同じクラスだったからよく知ってるんだがな、と前置きし、

「あいつの奇人ぶりは常軌を逸している」

「何か有名なエピソードでもあるの?」

焼き魚の切り身から小骨を細心の注意で取り除いていた国木田が口を挟んだ。


「中学時代にはわけの解らんことを言いながらわけの解らんことを散々やり倒していたな。有名なのが校庭落書き事件」

新聞の地方欄に写真付きで載るような奇行をしていたらしい。

他にもいっぱい奇行をやってたという話しだ。

ただしモテるらしい。

以上、全て谷口の弁。

そんな谷口自身のお勧めは朝倉涼子。

AAランクプラスと評価していた。

もっとも谷口には高嶺の花だと思うが。

谷口が奇行癖を指摘していた涼宮ハルヒだが、髪型が毎日変わる。

曜日が進むごとに髪を結ぶ箇所が増えているのである。
月曜日にリセットされ後は金曜日まで一つずつ増やしていく。

これも奇行の一環だろうか?

谷口の言う通りならあまり構わない方が良さそうなので気が付かない振りをしていた。

そんな俺をハルヒが突いてきた。

振り返った俺にハルヒが聞いてきた。

「あたしの髪型を見て何か言うことはないのかしら?」

「……曜日が進むごとに結び目が増えると言って欲しいのか?」

「そうよ!ちゃんと見てるじゃない!」

ハルヒは嬉しそうに笑った。満足したようだ。

ハルヒは翌日、長かった黒髪をばっさり切って登場した。

腰にまで届こうかと伸ばしていた髪が肩の辺りで切りそろえられていた。

俺と目が合うなり、ハルヒは聞いてきた。

「どう?」

「俺は火曜日にやってたポニーテールが沖田総司の総髪みたいで良かったんだがな」

「え゛!?」

何故か泣きそうな顔になった。確かに失礼な言い方だった。

「それはそれでとても似合ってると思うぞ。今言ったのは俺自身の好みの話だ」

「……そう…」

その日のハルヒのテンションは一日中低かった。可哀想なことをしたのかもしれない。

折りをみてフォローが必要だと思った。

そのチャンスは早くも翌日に訪れた。

朝、俺が教室に着いた時には、ハルヒはすでに座っていた。

何だろうね、あれ。なんとなく不安気に、前を見ているハルヒの後頭部が見えた。

後ろでくくった黒髪がちょんまげみたいに突き出していた。

ポニーテールには無理がある。それ、ただくくっただけじゃないか。

「よう、元気か」

俺は机に鞄を置いた。

「元気じゃないわね。昨日のことがあるから」

ハルヒは平坦な口調で応える。それは奇遇なことがあったもんだ。

「おかげで全然寝れやしなかったのよ。今日ほど休もうと思った日もないわね」

「そうかい」

硬い椅子にどっかりと腰を下ろした。

「ねえ」

「なんだ?」

「これ、どうかしら?」

伏し目がちに俺を見るハルヒに、俺は言ってやった。

「似合ってるぞ」

ハルヒは笑顔になった。満点と言っても良い。

その日は一日中、ハルヒのテンションは高かった。

ゴールデンウィークが明けたある日の休み時間のことだ。

谷口が難しい表情を顔に貼り付けてやって来た。

「お前、どんな魔法を使ったんだ?」

「魔法って何だ?」

「俺、涼宮があんなに殊勝なの初めて見るぞ。お前、どうやったんだ?」

谷口の後ろからひょっこりと国木田が顔を出した。

「昔からキョンは女性にモテるからねぇ」

谷口は納得できない表情で文句を言う。

「キョンなんつーあだ名の奴がモテるはずはないんだがな」

キョンキョン言うな。俺だってこんなマヌケなニックネームで呼ばれるくらいなら本名で呼ばれたほうがいくらかマシだ。せめて妹には「お兄ちゃん」と呼んでもらいたい。

「あたしも興味あるな」

いきなり女の声が降って来た。
軽やかなソプラノ。
見上げると朝倉涼子の作り物でもこうはいかない笑顔が俺に向けられていた。

「あたしが話かけたくても、涼宮さんが唸り声を上げそうな目で睨んでくるんだもの」

谷口の意識が飛んだようだ。

「なかなか、あなたに話しかけるチャンスがなかったの」

朝倉は笑い声を一つ。

「でも良かった。こうやって話せる機会もあるんだもんね」

委員長になったから話しかけてきたという訳ではなさそうだ。ちなみに委員長とは朝倉だ。

「せっかく一緒のクラスになったんだから、仲良くしたいな。よろしくね」

俺は「ああ」とか「うう」とか呻き、それを肯定の意思表示と取ったのか、
朝倉は黄色いチューリップみたいな笑顔を投げかけた。

谷口の意識は休み時間が終わるまで戻らなかった。

席替えは月に一度といつの間にやら決まったようで、委員長朝倉涼子がハトサブレの缶に四つ折にした紙片のクジを回して来たものを引くと俺は中庭に面した窓際後方二番目というなかなかのポジションを獲得した。
その後ろ、ラストグリッドについたのが誰かと言うと、涼宮ハルヒがを喜びをこらえきれずにあふれさせたような笑顔で座っていた。

その放課後のこと。

俺はハルヒに強引に手を引っ張られて連れ出された。

着いた先は、

文芸部。

そのように書かれたプレートが斜めに傾いで貼り付けられている一枚のドアの前だった。

ハルヒはドアを引き、遠慮も何もなく入っていった。なんとなく俺も続く。

意外に広い。長テーブルとパイプ椅子、それにスチール製の本棚くらいしかないせいだろうか。
天井や壁には年代を思わせるヒビ割れが二、三本走っており建物自体の老朽化を如実に物語っている。

そしてこの部屋のオマケのように、一人の少女がパイプ椅子に腰掛けて分厚いハードカバーを読んでいた。

「これからこの部室があたし達の部室よ!」

両手を広げてハルヒが重々しく宣言した。

「ちょっと待て。あたし達なんだよ」

「SOS団の部室棟よ。S好きな O男と S過ごす 団」

そう言ってから、ハルヒは顔を真っ赤にして話を続けた。

「べ…別にあんたのことが好きって言うわけじゃないわよ!その活動にあんたも加えてあげるって言うわけ」

俺もここに好きな人を加えて良いらしい。男限定らしいが。

ハルヒはドアを引き、遠慮も何もなく入っていった。なんとなく俺も続く。

意外に広い。長テーブルとパイプ椅子、それにスチール製の本棚くらいしかないせいだろうか。
天井や壁には年代を思わせるヒビ割れが二、三本走っており建物自体の老朽化を如実に物語っている。

そしてこの部屋のオマケのように、一人の少女がパイプ椅子に腰掛けて分厚いハードカバーを読んでいた。

「これからこの部室があたし達の部室よ!」

両手を広げてハルヒが重々しく宣言した。

「ちょっと待て。あたし達なんだよ」

「SOS団の部室棟よ。S好きな O男と S過ごす 団」

そう言ってから、ハルヒは顔を真っ赤にして話を続けた。

「べ…別にあんたのことが好きって言うわけじゃないわよ!その活動にあんたも加えてあげるって言うわけ」

俺もここに好きな人を加えて良いらしい。男限定らしいが。

>>23 は二重投稿です。

×「ちょっと待て。あたし達なんだよ」

○「ちょっと待て。何であたし達なんだよ」

「だが、ここは文芸部なんだろ」

「別に構わない」

パイプ椅子に腰掛けてた少女が返事をする。

俺はあらためてその文芸部員を観察した。

白い肌に感情の欠落した顔、機械のように動く指。
ボブカットをさらに短くしたような髪がそれなりに整った顔を覆っている。
どこか人形めいた雰囲気が存在感を希薄なものにしていた。
身も蓋もない言い方をすれば、早い話がいわゆる神秘的な無表情系ってやつ。

「長門有希」

と彼女は言った。それが名前らしい。

ハルヒが割り込んできた。こっちの声はやたらに弾んでいる。

「これから放課後、この部室に集合ね。絶対来なさいよ」

桜満開の笑みで言われた。

どうやら俺に拒否権はないらしい。




>>7
沖田総司をググったら月代を剃ってので、近藤勇と訂正します。

>>23
「SOS団の部室棟よ。S好きな O男と S過ごす 団」の
棟も不要でした。

次の日、俺は、仕方がなく部室へと足を運んだ。

通学鞄を肩に引っかけて俺は乗り気のしない足取りで文芸部に向かった。

部室にはすでに長門有希がいて、昨日とまったく同じ姿勢で読書をしておりデジャブを感じさせた。
俺が入ってきてもピクリともしないのも昨日と同じ。
よく知らないのだが、文芸部ってのは本を読むクラブなのか?

沈黙。

二人して黙りこくっていると部室のドアが静かに開いた。

不安気な顔をして部室を覗いたそいつは誰であろうか、ハルヒだった。

俺と目が合うとハルヒはバーゲン会場で掘り出し物でも見つけたかのように目を輝かせ、

「キョン!来てくれたのね!」

と、言ってきた。来いと言ったのはお前だろうに。

ハルヒがやってきたが、状況は先ほどとあまり変わらない。

長門は相変わらず読書中だ。

変わったことと言えば、
椅子に座ったハルヒが一言も発せず俺を見ながら、満足げにニコニコしていることくらいだ。

沈黙。

帰っていいかな?

俺がそう思っているとドアが小さく叩かれる。

文芸部の部室なのにハルヒが勝手に返事をする。

「開いてるわよ」

静々とドアが開く。

胸が大きな少女だった。

「あのー……いいですか?」

「用があるならちゃんと言いなさい」

ハルヒが厳しめに言う。少女はビクッとした後に、自己紹介を始めた。

「二年の朝比奈みくるっていいますー」

小動物の様に震えている。この上級生には見えない朝比奈さんを観察する。

小柄である。ついでに童顔である。なるほど、下手をすれば小学生と間違ってしまいそうでもあった。
微妙にウェーブした栗色の髪が襟元を隠し、
こちらを見上げる潤んだ瞳が守ってください言わんばかりで、半開きの唇からは白い歯を覗かせていた。
ついでに言うと巨乳だ。

その朝比奈さんが意を決した様に言ってきた。

「あの、ここの部活に入れて欲しくってきました」

それを聞いてハルヒは何かを考えるかの様に黙り込んだ。

常識的に考えて文芸部のことだろう。お前が考えることではない。

ハルヒは渋々口を開く。

「二年生ならもう部活に入ってるんじゃない?」

考えた結論がそれかよ。

「書道部に入ってたんですけど、辞めてきました」

「……ここがなに部か知ってるの?」

「えっと……文芸部……」

「残念ね。文芸部はもう無いの」

文芸部は勝手に廃部にされていたようだ。長門はこいつを殴っていいと思う。

「ここはSOS団よ!回れ右して帰ったら?」

ハルヒは追い出しにかかる。さっきから随分と攻撃的だ。

「あ!じゃあ、そっちへの入部希望でお願いします」

朝比奈さんは助かったというような表情になった。

「文芸部は何をする部なのか解らなかったので、丁度いいです」

などと朝比奈さんは意味不明の供述をしている。

ハルヒはむくれっ面で、

「ここに入りたい理由はなんとなく解ったわ」

これで解るこいつは超能力者なんじゃないのか?

「断りたいけど、フェアじゃないものね。仕方が無いわ。入団を許可するわ」

朝比奈さんがピョンピョン飛び上がりながら、ありがとうございますと、喜んでいる。

そんなに跳ねてるとパンツが見えてしまいますよっと。

対するハルヒ憮然とした表情だ。

長門は読書を続けている。

その日の部活は新しい部員を迎えたとは思えない雰囲気で終了した。

ある日、放課後の教室に呼び出された俺は引き戸を開けて固まった。

そこには小五である妹が、何故かハサミを片手に立っていた。

「キョンく~ん」

妹は俺を見ると嬉しそうな声を出した。

なにをしてるんだと教室の中ほどにまで進むと妹はハサミの先端を俺に向けて突進してきた。

「ハサミ~」

俺は辛うじてされを避けた。無様に尻餅をつく俺。

「あ、危ない。よ、よせ!」

と、兄の威厳など全くない声で妹を制止する。

妹はハサミの背で肩をとんとんと叩きながら、

「ハサミ~?」

いや言っている意味が解んないから。

「キョンくん、本当にハサミ~」

倒れている俺の心臓めがけて、妹がハサミで刺そうと飛び込んできた。

俺はもうダメだ!そう覚悟した。

ハルヒから渡された原稿用紙から目を離し、
目の前で自慢げな顔をして腕を組んでるハルヒに、俺は呆れたように話しかけた。

「で、お前とは面識のない俺の妹が狂っている作文を書いて何がしたいんだ?」

「どう?助けて欲しい?」

「どうもこうもないだろ。ここまでしか書いてないじゃないか」

「そうよ!このままバッドエンドでも良いんだけど、
キョンが助けて欲しいお願いするなら助かるストーリーになるわよ!」

「お前の作文だ。勝手にしろ」

「ちょっと、キョン聞きなさいよ!あんたが助けて欲しいって言えば、
この後に、あたしが天井を破って参上して、二人を仲直りさせるの!
そんで、キョンはあたしに抱きつきながらありがとうって言って、
キョンの妹はあたしのことを実の姉の様に慕うハッピーエンドになるのよ」

「その天井は誰が直すんだ?修理代は壊したお前が払えよ」

俺はそう言って、ハルヒに原稿用紙を返した。

ハルヒは面白くなさそうに原稿用紙を受け取ると、
ハルヒがどこからか調達してきた『apple2e』とかいう古いパソコンが置いてある、
団長席とやらに帰っていった。

そのパソコンもそうだがSOS団の設立を宣言して以来、
長テーブルとパイプ椅子それに本棚くらいしかなかった文芸部の部室にはやたらと物が増え始めた。

どこから持ってきたのか、移動式のハンガーラックが部室の片隅に設置され、給湯ポットと急須、人数分の湯飲みも常備、CDラジカセに一層しかない冷蔵庫、カセットコンロ、土鍋、ヤカン、数々の食器は何だろうか、ここで暮らすつもりなんだろうか。

S好きな O男と S過ごす 団らしいから、あり得るのかも知れないな。

ハルヒが席について暫くすると朝比奈さんがやってきた。

掃除当番で遅れたらしい。

ハルヒは、

「みくるちゃん!待ってたのよ!」

と言って、何故か俺を追い出した。

先ほどの作文は、朝比奈さんが来るまでの暇つぶしに書いたものだろう。

まぁ、朝比奈さんが入部したようなギスギスした雰囲気じゃなくて何よりだ。

部室から、

『ええーー!!これを着るんですか~?』

『そうよ!アピールよ!アピール!』

『でもぅ~』

『みくるちゃんが着なくても、あたしは着るわよ!』

『うぅ~、じゃあ着ます』

そんな会話が聞こえる。

それから暫くしたら、ドアが開いた。

そこにはバニーガールの恰好をしたハルヒと朝比奈さんがいた。

ハルヒが自信ありげな表情で俺に聞いてきた。

「どう?」

俺は一言、

「高校生がする格好じゃないな」

と答えてやった。

ハルヒはがっくりと頭をうなだれた。

朝比奈さんは涙目でハルヒに、

「どうなってるんですか~ 着替え損じゃないですか~」

と抗議している。

そんな二人に構わず長門が俺の所にやってきた。

「これ」

文庫本を差し出した。反射的に受け取る。

「われはロボット」

俺は思わず表紙に書いてあった文字を読む。

「貸すから」

どんな本かとパラパラめくる。

栞が一枚落ちた。

花のイラストがプリントしてあるファンシーな栞だ。

なにか書いてある。

「午後七時。光陽園駅前公園で待つ」

声を出して読んだ。

突如ハルヒが顔をあげて、凄い勢いで長門を見てる。

そんなハルヒを無視して長門に聞いた。

来いってことか?

長門は黙ってうなずいた。

その日の部活も妙な空気のまま終わった。

そして午後七時。俺は光陽園駅前公園に行った。

「キョン!遅いわよ!」

何故かハルヒが待っていた。

長門も居たのだが、朝比奈さんもいる。

なんだこれ?

俺は長門に聞いてみた。

「これって部活の集まりなのか?」

「違う」

「あの二人は?」

「勝手にやってきた」

俺と長門が話しているとハルヒが文句を言ってきた。

「なに二人で話してるのよ!私も混ぜなさい!もしくは私と話しなさい!」

長門はハルヒを無視して俺に言う。

「こっち」

歩き出す。足音のしない、まるで忍者みたいな歩き方である。
闇に溶けるように遠ざかる長門の後を、俺は仕方なくついて行く。
ハルヒと朝比奈さんも二人でお喋りをしながら付いてきている。

歩いて数分後、俺たちは駅からほど近い分譲マンションへたどり着いた。

「ここ」

玄関口のロックをテンキーのパスワードで解除してガラス戸を開ける。

「へぇ~有希って結構いい家に住んでるのね」

ハルヒが感心している。

そのまま四人でエレベーターに乗り七階で降りる。

「やっぱり自宅に案内なんですかね?」

とは朝比奈さん。

「まさか、いきなりご両親に紹介だったりして……」

「はぁ!?なによそれ!有希そんなのは絶対だめだからね」

ハルヒが妙な声を出している。

「しかし、思わぬ伏兵ね。完全に油断してたわ。これは早急に対策が必要ね」

ハルヒはなにかブツブツ言っている。

708号室のドアを開けて、長門は俺をじいいっと見た。

「入って」

「家族は?」

「誰もいないから」

「涼宮さん!聞きました?誰も居ない家にキョンくんを呼んだらしいですよ!」

「ぐぬぬ~」

ハルヒは苦虫噛み潰した様な顔をしている。

部屋に入る。ハルヒや朝比奈さんに押しやられる形で中に入っていった。

煌々たる明かりが広々とした部屋を寒々しく照らしている。

3LDKくらい? 駅前という立地を考えると、けっこうな値段なんじゃないだろうか。
先ほどのハルヒの発言と同じ感想を持った。

生活臭のない部屋だった。

通されたリビングにはコタツ机が一つ置いてあるだけで他には何もない。
なんと、カーテンすらかかっていない。
十畳くらいのフローリングにはカーペットも敷かれず茶色の木目をさらしていた。

「座ってて」

台所へ引っ込む間際にそう言い残し、俺達三人はテーブルをコの字で囲む様に座った。

ハルヒと朝比奈さんが呼んだ目的について、あーでもない、こーでもないと言っていると、
長門が盆に急須と湯飲みを載せてカラクリ人形のような動きでテーブルに置き、
制服のまま俺の向かいにちょこんと座った。

一同沈黙。

お茶を注ごうともしない。
眼鏡のレンズを通して俺に突き刺さる無感情な視線が俺の居心地の悪さを加速させる。

何か言ってみよう。

「あー……家の人は?」

「いない」

ハルヒから何かのプレッシャーを感じた。

「いや、いないのは見れば解るんだが……。お出かけ中か?」

「最初から、わたししかいない」

今までに聞いた長門のセリフで一番長い発言だった。

「ひょっとして一人暮らしなのか?」

「そう」

こんな高級マンションに高校生になったばかりの女の子が一人暮らしとは。ワケありなんだろうな。

「それで何の用?」

と、ハルヒが口を挟んだ。お前には用はないんじゃないか?

思い出したように長門は急須の中身を湯飲みに注いで俺達の前に置いた。

「飲んで」

飲むけどさ。ほうじ茶をすする俺を動物園でキリンを見るような目で観察する長門。
自分は湯飲みには手を付けようともしない。

「おいしい?」

初めて疑問形で訊かれたような気がする。

「ああ……」

長門は薄い唇を開いた。

「あなたのこと」

背筋を伸ばした綺麗な正座で、

「それと、わたしのこと」

口をつぐんで一拍置き、

「あなたに教えておく」

と言ってまた黙った。

どうにかならないのか、この話し方。

ハルヒが黙って聞いてるのが不思議だ。

「俺とお前が何だって?」

「うまく言語化できない。情報の伝達に齟齬が発生するかもしれない。でも、聞いて」

そして長門は話し出した。

「あなたとわたしは普通の人間じゃない」

いきなり妙なことを言い出した。

膝の上で揃えた指先を見ながら長門。

「あなたとわたしはこの二人のような大多数の人間と同じは言えない」

意味が解らん。ハルヒがちょっと嫌な顔をした。

「この銀河を統括する情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。
それが、わたし」

「……」

「わたしの仕事はあなたを観察して、入手した情報を統合思念体に報告すること」

「……」

「産み出されてから三年間、わたしはずっとそうやって過ごしてきた。
この三年間は特別な不確定要素がなく、いたって平穏。
でも、最近になって無視出来ないイレギュラー因子が私の中に現れた」

「……」

「それが、恋」

情報統合思念体。

銀河系、それどころか全宇宙にまで広がる情報系の海から発生した肉体を持たない超高度な知性を持つ情報生命体である。

「そして三年前。惑星表面に他では類を見ない異常は情報フレアを観測した。
弓状列島の一地域から噴出した情報爆発は瞬く間に惑星全土を覆い、惑星外空間に拡散した。
その中心にいたのがあなた」

原因も効果も何一つ解らない。情報生命体である彼等にもその情報を分析することは不可能だった。
それは意味をなさない単なるジャンク情報にしか見えなかった。

重要なのは、有機生命としての制約上、限定された情報しか扱えないはずの地球人類の、
そのうちのたった一人の人間でしかないあなたから情報の奔流が発生したことだ。

あなたから発せられる情報の奔流はそれからも間歇的に継続し、またまったくのランダムにそれはおこなわれる。
そしてあなたはそのことを意識していない。

この三年間、あらゆる角度からあなたという固体に対し調査がなされたが、今もってその正体は不明である。
しかし情報統合思念体の一部は、あなたこそ人類の、
ひいては情報生命体である自分たちに自律進化のきっかけを与える存在としてあなたの解析をおこなっている……。

「情報生命体である彼らは有機生命体と直接的にコミュニケートできない。言語を持たないから。
人間は言葉を抜きにして概念を伝達するすべを持たない。
だから情報統合思念体はわたしのような人間用のインターフェースを作った。
統合思念体はわたしを通して人間とコンタクト出来る」

やっと長門は自分の湯飲みに口を付けた。一年分くらいの量を喋って喉がかれたのかもしれない。

「……」

俺達は二の句がつげない。

「あなたは自律進化の可能性を秘めている。
おそらくあなたには自分の都合の良いように周囲の環境情報を操作する力がある。
それが、わたしがここにいる理由。あなたに恋した理由」

「待ってくれ」

混乱したまま俺は言う。

「正直に言おう。お前が何を言っているのか、俺にはさっぱり解らない」

「愛して」

長門は見たこともないほど真摯な顔で、

「返事はいらない。私の気持ちを伝えたかった。理解して欲しい」

付き合いきれん。

俺達はそろそろおいとまさせていただくことにした。

長門は止めなかった。

視線を湯飲みに落としたまま、いつもの無表情に戻っている。ちょっとばかし寂しげに見えたのは俺の錯覚だろう。

帰り道、ハルヒと朝比奈さんは話しあってた。

「まさか、有希がああいうタイプだとは思ってなかったわ」

「でも、ああいうアプローチ方法もあるんですね」

「確かにインパクトは凄かったわね」

ハルヒがチラリと俺を見る。

「どう転ぶか解らないから、やっぱり対策は取っておいた方がいいわね」

そう言って今度は朝比奈さんをチラリとみていた。

翌日の放課後、ハルヒが一人の生徒を部室に連れてきた。

「じゃじゃ~ん!学年で一番ハンサムって噂の古泉君よ!」

ハルヒがそう言って紹介した男子生徒は、

「なんだかすごい紹介のされ方をした古泉一樹です。……よろしく」

さわやかなスポーツ少年のような雰囲気を持つ細身の男だった。
如才のない笑み、柔和な目。
適当なポーズをとらせればモデルにも見える。
実際にモデルになったならそれなりのファンが付きそうなルックス。
学年一というハルヒの紹介も大げさなものではないだろう。
性格が悪かったとしても結構な人気者に違いない。

「SOS団へのお誘いと言うことですが、なにをする部なんです?」

「教えるわ。SOS団の活動内容、それは、」

大きく息を吸い、演出効果のつもりかセリフを溜めに溜めて、そしてハルヒは以前にも聞いた内容を吐いた。

「好きな男と過ごして充実した高校生活を送ることとその予行演習よ!」

古泉は笑顔を引きつらせて、

「……僕に男を好きになって過ごせということですか?」

ハルヒは今更気が付いたのか、『あっ!』とでも言いそうな表情になった。

「僕は男性を愛せないんで、その通りと言うのなら……」

「古泉君は副団長にしてあげるから、特別に女性と過ごしてもいいわよ!」

「そうですか。いわゆる腐女子という奴で僕と彼を付き合わせるのかと思いました」

そう言って古泉は俺の方を見た。

「ダメよ!」

ハルヒが急に大声を出したものだから、流石の古泉も驚いて体をビクッっとさせた。

「な、何がでしょう?」

古泉が明らかな作り笑顔で聞いている。

「……ああ、古泉君は女性が良いんだったわよね」

「勿論そうですよ」

「そうね。好きな人がいたり、今後できたならここに入団させてもいいけど」

ハルヒは歩く。朝比奈さんの後ろに行き、突如両肩を持つ。古泉の方に押し出すようにして言う。

「私のお勧めはこの子!朝比奈みくるちゃん!童顔・小柄・巨乳で小動物系!マスコット好きなら如何?」

あっけにとられる一同を無視してハルヒは再び歩く。

「こんな子もいるわよ!窓辺に佇む儚げな美少女!まさに神秘系!一家に一人と言わずに各部屋にどう?」

ハルヒは家電セールスマンかの様に二人を売り込む。古泉は笑顔のままで聞いた。

「そこに涼宮さんが入っていないのですが?」

「私はダメよ!」

「ダメなんですか?」

「そうよ!」

「そうですか……」

古泉は笑顔崩さぬままで、ハルヒに答えた。

「まぁ、いいでしょう。入ります。今後とも、どうぞよろしく」

白い歯を見せて微笑んだ。

それはそうと俺はハルヒに聞いてみた。

「なぁ、涼宮」

ハルヒは目をキラキラさせて返事をしてきた。

「なに?」

「さっきの副団長は特別って奴」

「ああ、好きな女の子でも良いって奴ね」

「あれは俺にはないのか?」

ハルヒはムッとした顔になって反発した。

「キョンはダメよ!なに言ってるの!」

どうやら俺は古泉ルートが確定してるらしい。

翌日の放課後。

俺以外の四人が揃っていた。

俺が座ると朝比奈さんがお茶を淹れてくれた。

俺がお礼を言う前にハルヒが、

「みくるちゃん!ずるいわよ!」

と何故か怒っていた。ハルヒもお茶が飲みたいのか?

「キョンも早くそれを飲みなさいよ!次はあたしが淹れるんだから!」

お茶を淹れたくて怒ったらしい。どこの小学生だ?

急かされるままにお茶を飲む。

ハルヒが待ってましたと言わんばかりにお茶を淹れた。

「早く飲みなさいよ!」

急かされた所為で舌を火傷した。

そんな俺の怪我を知ってか知らずか笑顔のハルヒは、俺の横に立ったまま、

「おいしい?」

と聞いてきた。長門に感化されすぎだ。

さっさと飲み終わらないとハルヒが席に戻らないだろう。

一気に飲み干す。

ハルヒはすかさず空になった湯呑にお茶を注ぐ。

エンドレスだ。

「ついでに僕にもお茶を淹れて貰えませんか?」

古泉がそう言って湯呑を寄越してきた。

ハルヒは腕を組んで一言、

「嫌よ!」

と言って横を向いた。

仕方がないので、俺が古泉の湯呑にお茶を注いだ。

古泉は、

「すみません」

と恐縮していた。確かにあのハルヒの態度をみたらお茶の一杯でも恐縮するだろう。

ハルヒは急いで湯呑を持ってきて、

「古泉君だけずるいわよ!あたしの湯呑にも淹れなさいよ!」

ときたもんだ。

長門も

「私もあなたが淹れたお茶を所望する」

と続いて、朝比奈さんも

「じゃ、じゃああたしもお願いします」

と言って、湯呑に残ってたお茶を一気に飲み干してた。

古泉は、お茶を注いで回る俺に同情を含んだ視線を送り、

「大人気ですね」

と笑顔のままで言っていた。

お茶を淹れ終わり席に座った俺に対してハルヒが泣きそうな顔をして、

「みくるちゃんの淹れたお茶は飲んだのにあたしのはまだ残ってる」

なんて言っている。急いで飲み干した。

ハルヒのは二杯目とか全部で三杯目などという意見は認められなかっただろう。

部の調和と俺の膀胱を守るために、俺はお茶汲み係りになってしまったようだ。

「ではこれより、第一回SOS団全体ミーティングを開始します!」

お茶問題が解決したと思ったら、団長席の椅子の上に立ってハルヒが藪から棒に大音声を発した。

いきなり何を言い出すんだ。

「SOS団の活動を充実させるには足りないものがあるわ」

好きな男かお前の脳みそだろう。

「経験と知識よ!だから、市内をぶらぶらしてデートの練習と未知のデートスポットさがしをするのよ!」

「次の土曜日!つまり明日!朝九時に北口駅前に集合ね!遅れないように」

土曜日の九時五分前。俺が北口駅に着いた時には、四人は揃っていた。

「キョン!来た来た!ここよ!ここ!」

ハルヒは俺を見つけるや大声で叫びながら、手をブンブン振っている。

道行く人が何事かとハルヒを見ている。

止めろ恥ずかしい。

五人になった俺達は喫茶店へと向かった。

どうやら最後になったからと言って奢らされることはなかったようだ。

まぁ、時間通りにきているんだから、当然と言えば当然なのだが。

喫茶店に着くなりハルヒが、

「デートの練習も兼ねてるのに五人は多すぎるわね。
二組に分けるわよ。流石に一人ってわけにはいかないし」

女女になったらどうするんだ?明らかにSOS団の活動じゃなくなるぞ?

俺がそう思っている時、古泉がハルヒを見て意外そうな顔をしていた。

それに気が付いたハルヒが、

「なによ?」

「いえ、涼宮さんならクジ無しでグループを分けると思ってたのに意外でした」

「そんなのずるいだけじゃない」

ハルヒは卓上の容器から爪楊枝を五本取り出し、店から借りたボールペンでそのうちの二本に印をつけて握り込んだ。頭が飛び出た爪楊枝を俺たちに引かせる。俺は印入り。同じく朝比奈さんも印入り。後の三人が無印。

「ふむ、この組み合わせね……」

なぜかハルヒは俺と朝比奈さんを交互に眺めて鼻を鳴らし、

「キョン、解ってる?これデートじゃないのよ。真面目にやるのよ。いい?」

真面目にデートの練習をしろということらしい。

「それじゃあ、それぞれの担当の地区だけど、キョンとみくるちゃんは駅を中心にして西側。あたし達三人は西に行くからね」

喫茶店を出て、マジ、デートじゃないのよ、遊んでたら後で殺すわよ、と言いハルヒは俺達と同じ方向に歩き出した。

俺たちは近くを流れている川の河川敷を意味もなく北上しながら歩いていた。
一ヶ月前ならまだ花も残っていただろう桜並木は、今はただしょぼくれた川縁の道でしかない。

「わたし、こんなふうに出歩くの初めてなんです」

護岸工事された浅い川のせせらぎを眺めながら朝比奈さんが呟くように言った。

「こんなふうにとは?」

「……男の人と、二人で……」

朝比奈さんがそう言うと、ハルヒが俺たち肩にぶつかりながら間に入ってきた。

ハルヒは、

「邪魔よ!」

とだけ言って通り過ぎた。

ハルヒを無視して会話を続ける。真面目にやれということだからな。

「はなはだしく意外ですね。今まで誰かと付き合ったことはないんですか?」

「ないんです」

朝比奈さんがそう言って俺を見上げると、長門が俺たちとぶつかりながら間を通り過ぎていった。

「……」

しかも無言で。意地でも朝比奈さんとの会話を続ける。

「えー、でも朝比奈さんなら付き合ってくれとか、しょっちゅう言われるでしょ」

「うん……」

朝比奈さんが俯くと、今度は古泉が主に俺にぶつかりながら俺たちの間を通っていた。

いつもの笑顔で、

「失礼します。団長命令なものなので」

そう言って爽やかに去っていった。

「キョンくん」

朝比奈さんが思い詰めたような表情で俺を見つめている。彼女は決然と

「邪魔されずに、お話したいことがあります」

瞳に決意が露わに浮かんでいた。

その直後に、ハルヒに突き飛ばされてよろめかなければ決意が伝わったのに残念だ。

SSLは嫌われる消しとけよSSLを 

桜の下のベンチに俺たちは座る。

左に朝比奈さんが居るのは良いとして、何故か右側にはハルヒが膝の上には長門が座っている。

道行く人が何だろうとジロジロ見ながら通り過ぎている。少なくとも長門はやりすぎだ。

恥ずかしいから降りて欲しい。

すぐ隣のベンチでは古泉が他人の振りをして座っている。

この状態の異常さに文句を言ったのはハルヒだった。

「ちょっと有希!なんで膝の上なのよ!おかしいでしょ!」

ハルヒが珍しくまともなことを言っている。

「場所がない。一番軽い私がここに座るのが合理的」

平坦な発音で長門が応じる。

「向こうのベンチで古泉君と一緒に座ればいいじゃない」

「涼宮ハルヒが向こうのベンチに移動した場合には、私が現在涼宮ハルヒが使用してる場所に移行する」

二人が言い合ってると、朝比奈さんが口を出した。

「クジでは私だったのに二人ともずるいですぅ~」

今にも泣きそうだ。益々衆人の注目を集めてる。朝比奈さん、勘弁してください。

ハルヒは戸惑いながら、

「そ、そうね。有希が膝の上って言うのも納得いかないし、横のベンチで会話を聞いておくわ」

ハルヒはそう言って長門の手を引っ張っていき隣のベンチに行った。

ナイスだハルヒ。初夏にあの人口密度は流石に暑かった。

二人が去ると手始めにこう言われた。

「わたしはこの時代の人間ではありません。もっと、未来から来ました」

朝比奈さんはサンダル履きのつま先を眺めながら、

「わたしがこの時代に来た理由はね……」

引き続き多くのギャラリーがこっちを注視している。

「三年前。大きな時間震動が検出されたの。ああうん、今の時間から数えて三年前ね。
キョンくんや涼宮さんが中学生になった頃の時代。調査するために過去にとんだ我々は驚いた。
どうやってもそれ以上の過去に遡ることが出来なかったから」

長門の話を聞いた影響か?

たぶん俺の所為にするんだろうなと思った。

「原因はあなた」

朝比奈さんは、予想通りの言葉を言った。

「時間の歪みの真ん中にキョンくんがいたの。
どうしてそれが解ったのかは訊かないで。[禁則事項です]から説明出来ないの。
でも確かよ。過去への道を閉ざしたのはキョンくんなのよ」

ギャラリーが『なにかのロケかな?』とか『ドッキリじゃない?』などと話している。

「あなたは自分がそんなことしてるなんて全然自覚してない。
自分が時間を歪曲させている時間震動の源だなんて考えてもいない。
わたしはキョンくんの近くで新しい時間の異変が起きないかどうかを監視するために送られた」

「…………」と俺。

「信じてもらえないでしょうね。こんなこと」

「いや……でも何で俺にそんなことを言うんです?」

「あなたが好きだから」

朝比奈さんは上半身ごと俺のほうへ向き直って、

「返事は聞かせて欲しくない。[禁則事項です]から。でも、あなたは私にとって重要な人」

ギャラリーが『今度は告白を始めたぞ?』などと盛り上がってる。立ち去りたい。

「ごめんなさい。あなたからの返事は聞いちゃいけないんです。今のわたしにはそんな権限がないから」

申し訳なさそうに朝比奈さんは顔を曇らせ、

「返事が聞けなくてもいいの。ただ知っておいて欲しかったんです。あなたには」

この前似たようなセリフを聞いたな。今日からこれを長門病と呼ぼう。

「ごめんね」

黙りこくる俺にどういう感想を抱いたのか、朝比奈さんは切なそうに目を潤ませた。

「急にこんなこと言って」

「それは別にいいんですが……ここを去りましょう」

人が人を呼ぶ状態でギャラリーが酷いことになっていた。

隣のベンチを見るハルヒと長門はいるが古泉は居なかった。

俺たちがそこを去るとハルヒ達もついてきた。

「そういえば、古泉はどこに行ったんだ?」

との俺の問いかけに、

「あたしたちが隣のベンチに行ったら急に立ち上がってどこかに行っちゃったの」

とは、ハルヒの弁。

俺でもそうしただろう。

数百メートル歩くと後ろから古泉の声がした。

「待ってください」

いつもの笑顔で軽く手を振る古泉がそこにはいた。

「どこ行ってたのよ!真面目にやりなさい!真面目に!」

ハルヒが文句を言っている。心配するな。古泉、お前は正しい。

「いや~バイトという訳ではないのですが、ちょっと野暮用が入りまして」

古泉は笑顔のままで答える。仲間と思われたくなくてと言わない辺りいい奴なんだろう。

その後、俺たちはひたすらに街をブラついて過ごした。ハルヒにはデートじゃないんだからと釘を刺されていたが、もうどうでもよくなっていた。俺たち五人はコジャレ系のブティックをウィンドーショッピングして回ったり、ソフトクリームを買って食いながら歩いたり、バッタモノのアクセサリーを往来に広げている露天商を冷やかしたり……つまり普通の若者のようなことをして時間を潰した。

携帯電話が鳴った。発信元は横にいるハルヒ。

「十二時にいったん集合。さっきの駅前のとこ」
『十二時にいったん集合。さっきの駅前のとこ』

切れた。腕時計を見ると十一時五十分。

「間に合うわけがねえだろ」

「やってみないとわかんないじゃない」

「なんで電話をかけたんだ?」

「そうやって、突っ込んでもらえるかな~って」

ハルヒは悪戯っぽく笑った。

>>78

下げ進行ですし、ここまで来て因縁を付けにくる人も居ないでしょう。

面白い
続き待ってる

>>90
寝ます。っていうより、昼から飲んでたから寝ゲロ急に無理です。

では又 ノシ

十分ほど遅れて行くとハルヒが突如走り駅前に一番に到着した。

そして得意満面の笑顔を浮かべて、

「遅い!」

俺たちを一喝した。

こいつは小学生か?

「昼ご飯にして、それから午後の部ね」

まだやるつもりかよ。

ハンバーガーショップで昼飯を食っている最中にハルヒはまたグループ分けをしようと言い出し、
喫茶店で使用した五本の爪楊枝を取り出した。用意のいい奴だ。

無造作に手を一閃させ、古泉が

「また無印ですね」

白い歯を見せて笑いながら言う。

「わたしも」

朝比奈さんがつまんだ楊枝を俺に見せた。

「キョンは?」

「残念ですが、印入りです」

ますます不機嫌な顔で、ハルヒは長門にも引くようにうながした。

クジの結果、今度は俺と長門有希の二人とその他三人という組み合わせになった。

「……」

印の付いていない己の爪楊枝を親の仇敵のような目つきで眺め、
それから俺とチーズバーガーをちまちま食べている長門を順番に見て、
ハルヒはペリカンみたいな口をした。

何が言いたい。

「四時に駅前で落ち合いましょう」

ハルヒはシェイクをチュゴゴゴと飲み干し、

「キョンたちは駅の南。あたしたちは南に行くわね」

意味が無いクジ引きだったようだ。

そして俺たち五人は図書館で過ごし。そのまま解散した。

帰り際、ハルヒが、

「まさかみくるちゃんもあんなことを言うなんてね。この勝負あたしの勝ちだわ」

なんてことを一人つぶやいていた。お前は誰と戦っているんだ。

週明けの放課後、教室前。

国木田「下駄箱に手紙が入ってたけど誰なんだろう」

国木田「まぁ、この教室に居るのがその人だろうし、開ければわかるね」

国木田はそう独り言を言いながら、教室の引き戸を開ける。

朝倉「遅いよ」

国木田「あ、朝倉さん!?」

朝倉「そ。意外だった?」

朝倉「私はキョンくんを観察してるんだけど変化がなくて飽き飽きしてるの」

国木田「何を言ってるの?」

朝倉「だからあなたを殺してキョンくんを観察する」

朝倉はそう言うと軍用ナイフを一振りし国木田の首を薙いだ。

首から鮮血を吹き出しながら国木田は倒れた。

教室に新たな人物が現れる。

谷口「わ、わ、忘れ物~」

自作の歌を口ずさむそいつは谷口だ。

谷口「おわっ!」

教室の惨劇を目にして驚く谷口。

谷口「し、失礼しました~」

谷口はそう言い戸を閉めて逃げようとする。

朝倉「無駄よ。見られた以上は逃がさない」

朝倉は廊下を走って逃げる谷口を背後から刺し殺す。

岡部担任がそれを見て咎める。

岡部「あ、朝倉!何をしているんだ!」

朝倉「あなたも死んで」

岡部は正面から刺殺された。

不幸にもそれを目撃してしまった。誰が?

キョン「う、うわぁ!あ、朝倉何をしてるんだよ」

恐怖のあまり鞄が肩からずり落ちる。

朝倉「あら?あなたも見ちゃったの?仕方がないわね。死んで!」

腰が抜けて座り込むキョン。

キョン「た、助けてくれ~~~!!」

放課後の部室、原稿用紙から顔を上げ、これを寄越してきたハルヒを一睨み、

「なんだ?この同級生を猟奇殺人犯に見立てた悪趣味なお遊戯台本は?」

ハルヒは俺の前で自慢げな顔をして、腕を組みながら答える。

「どう?助かりたい?あんたがお願いするなら助かる話にするけど?」

人の話など聞いちゃいない。

「助かる場合はね、ここであたしが登場して、朝倉を退治するの。あんたは抱きつき大感謝」

「犠牲者は?」

「それは大丈夫。あたしとキョンで不思議な球を七個集めて解決するから」

「朝倉は?」

「そりゃ人を殺したんだから刑務所ね。それか死刑」

「妄想とはいえ同級生だぞ?」

「だって、朝倉はあんたのことを今日は一日中チラチラ見てたのよ?絶対ストーカー気質だって!」

こいつの理屈だと、そこらじゅう猟奇殺人犯だらけだ。

「でも、そうね。刑務所は可哀想ね。学校で刃傷沙汰を起こしたんだし、退学で許してあげるわ」

ハルヒの妄想は止まらない。

「あ!でも朝倉は勉強ができるし、光陽園学院に転校してストーキングを続けそう。やっぱり死刑ね」

「同級生相手によくそんな残酷な妄想をもてるな」

俺が呆れていると長門が口を挟んだ。ちなみに、今部室に居るのは俺たち三人だ。

「涼宮ハルヒに同意する。もし死刑や刑務所がダメなら、彼に近づけない外国がいい」

ハルヒは我が意を得たりと、

「そうね!そうしましょう!殺人を犯してカナダに逃亡!これで決定ね」

「殺人を犯さずに、単に親の都合でカナダに引っ越しじゃダメなのか?」

俺の突込みに対してハルヒは、

「ダメよ!キョンをジロジロ見てたのよ!心証を悪くして去らないと!」

と無茶苦茶なことを言って、時計を見る。

「あ!ちょっと用事があったんだ。今日はもう解散ね。散った!散った」

ハルヒの我がままで長門諸共部室を追い出された。

今日は部室で時間を潰したかったのだが。

実は今朝、下駄箱にノートの切れ端が入っていたのだ。

そこには、

『放課後誰もいなくなったら、一年五組の教室まで来て』

と、書いてあった。

差出人の名前すら書いていないノートの切れ端など無視しても良かったのだが、
一応、行ってみることに決めていた。

放課後ではあるが、まだ誰も居なくなったとは言える時間では無い。

適当に校内をぶらついて時間を潰す。

俺の後ろを長門がちまちまついてくる。

これではいつまで経っても誰も居ないことにはならない。

俺は長門に事情を説明して帰ってもらうことにした。

話しを聞いた長門は小さく頷いて、トボトボと立ち去った。

それからさらに時間を潰し、時刻は五時半。流石にもういいだろうということで教室に向かう。

一年五組の引き戸を開けた。

誰がそこにいようと驚くことはなかったろうが、実際にそこにいた人物を目にして俺はかなり意表をつかれた。
まるでさっきのハルヒの作文の様な人物が黒板の前に立っていたからだ。

「遅いよ」

朝倉涼子が俺に笑いかけていた。

まっすぐの髪を揺らして、朝倉は教壇から降りた。

教室の中程に進んで歩みを止め、朝倉は笑顔をそのままに誘うように手を振った。

「入ったら?」

引き戸に手をかけた状態で止まっていた俺は、その動きに誘われるように朝倉に近寄る。

「朝倉か……」

「そ。意外でしょ」

くったくなく笑う朝倉。

ハルヒ曰く、チラチラ見てたらしいが、俺を呼び出してたからだろう。

「用があることは確かなんだけどね。ちょっと訊きたいことがあるの」

俺の真正面に朝倉の白い顔があった。

「人間はさあ、よく『やらなくて後悔するよりも、やって後悔するほうがいい』って言うよね。これ、どう思う?」

「よく言うかどうかは知らないが、言葉通りの意味だろうよ」

「じゃあさあ、たとえ話なんだけど、現状を維持するままではジリ貧になることは解ってるんだけど、どうすれば良い方向に向かうことが出来るのか解らないとき。あなたならどうする?」

「なんだそりゃ、日本の経済の話か?」

俺の質問返しを朝倉は変わらない笑顔で無視した。

「とりあえず何でもいいから変えてみようと思うんじゃない」

「まあ、そういうこともあるかもしれん」

「でしょ?」

手を後ろで組んで、朝倉は身体をわずかに傾けた。

「手をつかねていたらどんどん良くないことになりそうだから。
だったらもう現場の独断で強硬に告白しちゃてもいいわよね?」

まさかこいつも長門病にかかったのか?

「膨張するあなたを慕う恋心に、あたしはもう耐えきれないのね。だから……」

今のところは只の恋の告白だ。良かった。

「あなたに告白して付き合ってみたい」

後ろ手に隠されていた朝倉の右手が一閃、俺の目の前に手紙を差し出す。

待て。この状況は何だ? なんで俺が朝倉に手紙を突きつけられねばならんのか。
待て待て、朝倉は何と言った。俺と付き合いたい?ホワイ、なぜ?

「冗談はやめろ」

「冗談だと思う?」

朝倉は顔を真っ赤して問いかける。それを見ているとまるで本気に思えてきた。
顔を真っ赤にして手紙を向けてくる女子高生がいたら、それはどう見ても告白シーンだろう。

「ふーん」

朝倉は手紙を引っこめた。

「手紙っていや?渡されたくない?」

「意味が解らない。あんまり話したこともないだろう」

「うん、でも好き」

いわゆる一目ぼれのたぐいだろうか?

「だって、わたしは本当にあなたと付き合いたいんだもの」

俺が明確な返答をしなければならないそう思った。

その時。

引き戸が開いた。

そこにあったのは、長門有希の小柄な姿だった。

「一つ一つの行動が甘い」

長門は平素と変わらない無感動な声で、

「教室でのあなたの行動も、ノートによる呼び出しの情報封鎖も甘い。だからわたしに気づかれる」

「邪魔する気?」

対する朝倉も平然たるものだった。


「わたしはこの人が好き。これ以上は感情を抑えられないし、これしかないのよ」

「あなたはわたしのバックアップのはず」

長門は読経のような平坦な声で、

「独断専行は許可されていない。抜け駆けは認めない」

「いやだと言ったら?」

「情報結合を解除する」

「やってみる?」

と、いうや、朝倉は長門にビンタを一発与える。

長門の眼鏡が床に落ちる。

長門が動いた。

朝倉の顔面を鷲づかみにした。
細っこい指が朝倉の目を覆うように、こめかみに指をめり込ませている。

「あぎゃっ……!」

朝倉には似合わない、まるで朝比奈さんのような声を出す。

構わず長門は大外がりをかけて朝倉を床に押し倒した。朝倉に馬乗りになる長門。
朝倉は負けじと、アイアンクローをかけている長門の顔面を握りかえした。

「へいき」

長門は表情を変えずに感想を言う。

「おい!二人ともやめろよ!」

俺の制止を無視して、アイアンクローの比べ合いをしてる二人は言葉の応酬を始める。

「だいたい、何が抜け駆けは認めないよ!あなたばっかりずるいじゃない!」

「朝倉涼子のクレームの意味が不明」

「何が不明よ。あなただって告白したじゃない」

「気持ちを伝えただけ。朝倉涼子は付き合うことを要求した」

「似たようなものじゃない!」

「全然違う」

「百歩譲って違うとしても、やっぱり不公平だわ!」

アイアンクローを掛け合いながらも二人は饒舌だ。痛くないのかアレ?

自分で自分にかけてみた。痛いよな?やっぱり。

「あなたはSOS団とやらで毎日過ごせてるみたいだから、あたしも入れなさいよ」

「却下」

「ずるいわよ!」

「あなたは彼とクラスメート。教室で一緒に過ごせる。話す機会もある」

「涼宮さんが睨みつけてくるのよ!」

「それはあなたの問題」

「睨む涼宮さんを無視して話しかけるのは、わたしのキャラじゃないのは知ってるでしょ」

「それはSOS団に入団しても同じ話。仮に入団したら、あなたが過ごす時間の方が長くなり不平」

二人を引き離そうと奮闘するが、逆に突き飛ばされ、尻餅をついた。

「ういーす」

ガサツに戸を開けて誰かが入ってきた。

「わっすれーもの、忘れ物ー」

自作の歌を歌いながらやって来たそいつは、谷口だった。

まさか谷口もこんな時間に教室で喧嘩しているとは思わなかっただろう。
俺たちがいるのに気づいてギクリと立ち止まり、
しかるのちに口をアホみたいにパカンと開けた。

「谷口!丁度良い所にきたな!二人を引き離すぞ!協力しろ!」

俺は茫然としている谷口に檄を飛ばす。

「あ、ああ!そうだな」

思考を取り戻した谷口と協力して二人を引きはがした。

谷口が朝倉を羽交い絞めにし、俺は長門を羽交い絞めにした。

長門が朝倉に抑揚のない声で話しかける。

「彼が私を羽交い絞めにしている」

朝倉は答える。

「私が先に抑えられたから、仕方がなく、その魅力に欠ける体を抑えたのよ」

谷口が鼻の下を伸ばしてだらしない顔をしている。

「ちょっと、髪の臭いをかがないで!もう暴れないから離しなさいよ!」

朝倉に怒られ、谷口は慌てて離す。

「私はこのまま羽交い絞めにしてて欲しい」

とは長門。気にせず離す。もう暴れないだろう。

朝倉は一つ溜息をついて、

「この事は後で話し合いましょう?」

と、長門に提案。

「了解」

と、長門は短く答えた。

「そういうことでさっきの返事は言わないで」

と、朝倉はいつもの笑顔に戻り、俺に言ってきた。

俺の返事待たず、朝倉は谷口を見て、

「さっきのことは誰にも言わない方がいいと思うな。
谷口君にどさくさでおっぱいを3回程揉まれたとか、
髪をかがれたことを説明しなきゃいけなくなるし」

谷口は数回程、思いっきり首を縦に振った。

「帰るわ。じゃあね」

と朝倉は出ていった。

長門は眼鏡を拾いながら、

「眼鏡属性?」

と、俺に聞いてきた。

「眼鏡属性って何だ?」

俺が聞き返すと、

「そう」

とだけ言って出ていった。

二人が立ち去ると谷口は、

「AAランクプラスとAマイナーのキャットファイトか…いいもの見れたな」

などとほざいて俺を小突いてきていた。知るか。

翌日の朝、今度は朝比奈さんからの手紙が入っていた。

お昼休みに部室にきて欲しいらしい。

教室では、朝のHRの前に朝倉が俺の前にきて、

「おはよう。昨日は見苦しい所を見せちゃってごめんなさい」

と、軽く頭を下げて自分の席に戻って行った。

ハルヒが不機嫌そうに、

「昨日何があったのよ。言いなさい」

と、俺に言ってきた

「長門と朝倉が取っ組み合いの喧嘩をしてただけだ」

谷口が変態との話が流布されても俺の知ったことではない。

ハルヒに小声で答えてやった。

「なによそれ!お昼休みに有希の教室に行って聞かなきゃ」

とハルヒが興味を持っていた。

さて、そのお昼休みがやってきた。

朝比奈さんの呼び出し通りに部室にやってきた。

なんとなくノック。

「開いてるにょろ~」

にょろ?俺はそう思いながらドアを開けた。

朝比奈さんは居なかった。

代わりに部室に一人、見慣れない女生徒が居た。

校庭に面した窓にもたれるようにしてスレンダーな影が立っている。

腰までかかる長い髪。広いおでこ。八重歯が目立つ笑顔。

笑顔と言っても朝倉や古泉の静かな笑顔じゃなく、今にも声を出しそうな笑顔だ。

「少年がキョンくんだねっ?」

明るい声で開口一番聞いてきた。

とりあえず頷く。

「初めましてっ。あたしはみくるの友達の鶴屋って言うんだっ。
みくるの名前で呼び出したのもあたしさっ」

手紙を思い出す。白封筒に白い紙が折りたたんで入っていた。

文字は毛筆。そして解読が困難なほどに達筆だった。

果たし状かと思ったくらいだった。

確かに朝比奈さんなら可愛らしいレターセットでも使っただろう。

鶴屋さんは「これがキョンくんか。ふぅ~ん、へぇーっ」一通り俺を観察すると、

「みくるの名前で手紙を出したのはねっ、みくるのことで話しがあったからだよっ」

「朝比奈さんのことで?」

「そうっ。みくるだけじゃなくてその他の子を含めてっ、
そろそろ決めといたほうがいいかもにょろよっ!」

「決める?」

「うんっ。色んな女の子に好意を持たれてるのは気が付いてるにょろね?」

俺は頷く。

「あんまり、生殺しもよくないしさっ。無意味にみくるを泣かすような真似はやめて欲しいさっ」

「……」

「あっ!別にみくると付き合えって言ってるんじゃないにょろよっ」

鶴屋さんは一息おいて、

「お姉さんも、生気溌溂で頼りになるお姉さん枠でエントリーしたいけどっ、みくるに悪いからやめとくさっ」

エントリー制だったようだ。

「あたしが言いたかったのはそれだけ、来てくれてありがとねっ。じゃねっ!」

と去っていった。

ここでゲームなら、


誰にしますか?

1 ハルヒ
2 朝比奈さん
3 長門
4 朝倉
5 それでも鶴屋
6 中学からの親友
7 その他
8 誰とも付き合わない


とでも出るのだろうか?

もっともSOS団に従うと俺は古泉エンドらしいが。

まぁ、ハルヒの戯言にそこまで付き合う義理はない。

終業と共に朝倉は急いで俺に駆け寄り、

「じゃあね」

と、一声かけて帰っていった。

ハルヒが、不機嫌な唸り声を上げていた。

唸っているハルヒは放っておいて、俺は部室棟に行った。

部室には一足先に長門と古泉が着ていた。

例によってお茶を淹れて回っていると長門が、

「昼休みに涼宮ハルヒが着た」

そして俺の目をみる。

「読書ができなかった」

悪いことをしたらしい。

古泉にもお茶を淹れようとしたら、

「お茶よりも少々お話ししたいことがあるのですが、いいですか?」

「お茶を飲みながらじゃダメなのか?」

古泉は長門を一瞥する。

「場所を変えましょう」

古泉が俺を伴って訪れた先は食堂の屋外テーブルだった。
途中で自販機のコーヒーを買って手渡し、丸いテーブルに古泉と二人でつく。

最近のパターンで話しの内容はだいたい予想がついているから先に切り出した。

「まさか、お前も愛の告白って言うんじゃないだろうな?」

「まさか!残念ながら、前にも言いましたが僕は至ってノーマルですから、女性しか愛せません」

予想外だった。拍子抜けというか、期待外れだ。表現は間違えてないよな?うん。

「先に重要なことから言いましょう」

古泉は一息おいて、決め台詞を言うかのように言葉を吐いた。

「あなたには願望を実現する能力がある」

長門病の方の可能性が高い。

「いきなり何を言いだすんだ?」

話しに乗ってみることにした俺が答える。

「今から三年前『機関』が発足しました。以来、あなたの監視を最重要事項にして存在しています。
きっぱり言い切ってしまえば、あなたを監視するためだけに発生した組織です。」

あれ?古泉は長門の部屋にきてないし、朝比奈さんの話も聞いてなかったはずだよな?

「『機関』は一つの可能性として、世界が三年前から始まったという仮説を持っています」

古泉はいつの間にかに真顔になっていた。

「『機関』のお偉方は、この世界をある存在が見ている夢のようなものだと考えています。
なにぶん夢ですから、その存在にとって我々が現実と呼ぶ世界を創造したり改変したりすることが可能なはずです。
そして我々はそんなことの出来る存在の名前を知っています」

丁寧語で落ち着いた喋りを続ける。

「世界を自らの意思で創ったり壊したり出来る存在----人間はそのような存在のことを、神と定義しています」

……古泉は俺を神扱いしてるのか?魅上照がキラを思う様に。

「ですから『機関』の者は戦々恐々としているんですよ。
万が一、この世界が神の不興を買ったら、神はあっさり世界を破壊して一から創り直そうとするかもしれません。
砂場に作った山の形が気に入らなかった子供のように。
僕はいくら矛盾に満ちた世の中だとは言え、この世界にそれなりに愛着を抱いています。
ですので、『機関』に協力しているというわけなんです」

「俺に頼んだらどうだ?世界を壊すのはどうかやめて下さいってな」

「勿論、そのつもりであなたに話しているのです。直接聞きたいのならもう一度きちんと言います」

古泉は一呼吸置き、姿勢を直して俺の目を見て言った。

「世界を壊すのはどうかやめて下さい」

「どうして、わざわざ俺に言うんだ?こっそりと観察してる方が安全だろう?」

長門病なら、知っておいて欲しかったとか言うんだろう。

「確かに『機関』の中でもその考えは強かったです。中にはいっそのこと殺してしまおうとかね」

古泉は笑顔に戻り、

「しかしながら、三年間の監視の結果、あなたにはむしろ言った方が良いと結論付けられたのです」

「危険すぎるだろ」

「あなたがストレスを感じるたびに特別な空間が発生します」

ここも十分特別な空間な気がするがな。

「過去最大の空間の発生は一昨日でした」

一昨日と言えば、朝比奈さんのお蔭で赤っ恥をかいた日だな。

「あの時、あなたがストレスを抱えてはいけないと思ったらすぐに逃げていたのではありませんか?」

「……まぁな」

「私たちはそれに期待しているのですよ。
もっとも過去最大と言っても私まで行く必要のないものでしたが」

「それで途中で抜けていたのか?」

「はい。お蔭であそこから逃げることが出来ました」

こいつだけ逃げやがってと思ってたら、その不満を違う様に解釈したのか古泉が口を開いた。

「あなたは何故涼宮ハルヒや、あるいは朝比奈みくるや長門有希のような少女たちがあなたを追いかけ回してると思ってるんですか。あなたがそう願ったからですよ」

俺はあきれ果てて、古泉に言ってやった。

「おいおい、いい加減にしてくれよ。俺は----」
        「あなたは次にこう言います」

「ホモだと」
「ホモだ」

俺の言うべき口癖を取られた気がした。俺の考えを悟ったのか古泉が口を開く。

「孫に真似されたと思ってくださいよ」

お前の様な孫など知らん。

>>166 古泉の口調優先よりジョジョ優先の方が良さそうなのでちょっと訂正。


こいつだけ逃げやがってと思ってたら、その不満を違う様に解釈したのか古泉が口を開いた。

「あなたは何故涼宮ハルヒや、あるいは朝比奈みくるや長門有希のような少女たちがあなたを追いかけ回してると思ってるんですか。あなたがそう願ったからですよ」

俺はあきれ果てて、古泉に言ってやった。

「おいおい、いい加減にしてくれよ。俺は----」
         「あなたは次に----」

「ホモだと言います」
「ホモだ」

俺の言うべき口癖を取られた気がした。俺の考えを悟ったのか古泉が口を開く。

「孫に真似されたと思ってくださいよ」

お前の様な孫など知らん。

「あなたの主張はもっともです。『機関』でも揉めました。
 同性愛者であるはずのあなたが何故ハーレムを望むのか」

古泉は紙コップをゆるゆると振って、

「『機関』の中で二つの仮説が出ました。あなたは本心ではノーマルである。
さもなければ、女性達が自分を求めて争う中で、自分自身は叶わぬ男性への思いを抱き続ける性癖かと」

古泉は冷たくなったコーヒーで唇を湿らせ、

「どちらにしても人類の存亡レベルでは看過できます。『機関』としては無視することになったのです」

古泉の湿った唇に欲情している俺を見て古泉は問いかけた。

「あなたが満足するのならノーマルな僕も我慢しますが如何でしょう?」

「冗談じゃない。俺は心の底から俺を好いてくれる男を求めてるんだ」

「ええ。あなたならそう言うと思ってました」

「お前も俺の求めに応じる気はないんだな?」

「ええ。勿論。もっとも、あなたが本心からそう望めば、僕の意思に関わらずそう変わると思います」

古泉は楽しそうに笑った。

「でも、その日は来ない。僕はそう思っています」

長々と話したりしてすみませんでした、今日はもう帰ります、と言って、古泉はにこやかにテーブルを離れた。

翌日、俺が教室に入ると朝倉の席の周りに人だかりが出来ていた。

朝倉が涙を拭きながら何かを言っている。

「あのね、わたしが六組の長門さんとじゃれあってたら、谷口におっぱいを揉まれたの」

それを聞いた一同は、

「ひっどーい!」

などと声を出している。

俺は後ろの席に居るハルヒに声をかけた。

「あれはなんだ?」

ハルヒは舌打ちをしながら、

「昨日の昼休みに、六組で有希に喧嘩のことを多くの人に聞こえる様に聞いたんだけど、
朝倉ってば責任を全部谷口に押し付けて喧嘩がなかったことにしてるのよ」

つまらなそうにハルヒは説明した。

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