和「そうなんだ。じゃあ私、仕事やめてくるね」(172)


唯「……」

お姉ちゃんは、今日もお家でぼーっとしています

憂「……お姉ちゃん、私仕事行ってくるね」
唯「うん、いってらっしゃい」

頑なに病院にかかるのを拒むけれど、……正直素人の私でもわかる

典型的な、うつ


積極的に話しかけたりすればよいのか、静かに見守るのがよいのか。
私にはわかりません


軽音部のみなさんとは連絡を取り合ってはいるみたい。
遊びに誘われると毎回喜んで出かけていくけれど、帰ってくる時にはひどく疲れた顔をしています。

周りがちゃんと働いているのに自分は……という思いがあるのかもしれません。

律さんたちもお姉ちゃんの状態には気付いてはいるようで
私と同じように、積極的に行くか、見守るかなどなど散々議論はしたようで

何も気付いていないフリをして、いつも通り誘おうという結論に達したようです

正しいかどうかは分からないけれど、正直、ありがたい。


ある日、和ちゃんが家に来ました

大学卒業後、大手の弁護士法人に就職。
スーツもぴしっと着こなして、立派な、立派過ぎる社会人

和「久しぶり。唯いるかしら」
憂「あ、え、えぇと……うん……」

和「?」

会わせていいのか、迷いました
和ちゃんは何にも悪くない

けど、今一番、会いたくない相手かもしれません


和ちゃんは、お姉ちゃんの現状をおそらく知りません
律さん達も、あまり言いふらして良いような話じゃないからと、軽音部の中だけに留めてくれています。

憂「…・あ、あの」

和「ごめん、一回実家に戻って着替えてくるわね」
憂「は、はい」

戻ってきた和ちゃんはスーツ姿ではなく、
Tシャツ一枚にデニムのスカートというラフな格好でした。


和「私スーツ好きじゃないのよね、動きづらいし。
上がっていい?」

憂「は、はい」


和「唯、久しぶり」
唯「あ……の、和ちゃん……」

やっぱり、お姉ちゃんは少し気まずそう


和「……。唯、明日暇?」


唯「え?え、えと……」

明日は木曜
普通の社会人なら仕事があって当然の平日

唯「の、和ちゃんは……その……」

お姉ちゃんが、自分から仕事の話を切り出すことはありません
聞いて、自分に帰ってきたら困るから
だから、軽音部のみなさんの仕事についてもたぶん知らない


和「私?休み。明日はさぼる事にしたから」


唯「え……?」  憂「……え?」

驚きました。
あの和ちゃんが、中高皆勤賞の和ちゃんが
仕事をさぼると言い出すなんて

唯「さ、さぼっちゃうの?大丈夫なの……?」

和「さあ?」
唯「さ、さあって……」


和「ダルければさぼるわよ。
別に仕事ズル休みしたところで、死ぬわけじゃないもの」


唯「っ!!」

泣きそうになりました。
お姉ちゃんは、泣いていました。

周りのみんなはまじめに働いていて、
なんとかしたくて、でもどうすることもできなくて

唯「わ、わたし……っ」
和「なに?」

唯「大学出てっ……就職して……」
和「うん」

唯「ぜんぜんっ……しごと、できなくて……」
和「うん」

唯「周りのみんなもっ、冷たくなって……かいしゃ行くのっ、嫌になって……」
和「うん」

唯「ズル休みする、……勇気もなくてっ……」


和「そう」
唯「うぅ……ひっく………・」

和「ちなみに、何の仕事していたの?」
唯「ひっく……じ、じむ……ふつうの……」

和「事務?全く……、事務仕事なんて一番唯に向かない職業じゃない」

唯「うぇ……し、しどい……」

和「ふふ。で、どうするの、明日は。
旅行でも行きたいっていうなら金曜も土曜も付き合ってあげるけど」


唯「……うぅん。いい」
和「そう?」

唯「さぼっちゃダメだよ。ダルいなんて嘘なんでしょ?」
和「いえ、仕事はダルいわ。私、怠け者だもの」

唯「へへ……私と一緒だね」
和「そうね」

唯「……しごと、」
和「?」


唯「……私、何ならできるのかなぁ」

俺「もう仕事やりたくない・・・」

和「そうなんだ、じゃあ死んで」


翌日、和ちゃんは仕事をさぼりました。
お姉ちゃんは「悪いから」と断っていたけれど、やっぱり心配だったのかもしれません。

和ちゃんに連れられてお姉ちゃんが向かった先は、大きい本屋。

和「すみません、このリストにある作家の本、全て1冊ずつ」

店員「……は、これ、全部ですか」
唯「……へ?」


和「全部です。量が量なんで郵送で」

――

唯「の、和ちゃん……さっきの何?」
和「唯、あなたまともに活字読んだことなんてないでしょ」

唯「え?うーん、年1、2冊……かな」
和「本当に?」

唯「し、生涯1、2冊でした……」

和「さっきの大体100冊あるの。全部読み終わったら就職先世話してあげる」

唯「え……100冊!?」

和「歴史小説とかそういう小難しいのはないから安心して。
ミステリーとファンタジー物がほとんどよ」

唯「で、でも100冊なんて無理だよ……」
和「読み始めたら案外すぐよ。毎日何をどこまで読んだか報告しなさい」

唯「は、はい……」

――

元々好きな事には時間を忘れるタイプだからか、
それとも和ちゃんの選び方が良かったのか、

お姉ちゃんが全てを読み終えるまで、2ヶ月かかりませんでした。


和「ほら、案外すぐだったでしょ」
唯「えへへ……何せ毎日暇ですから」

和「はいこれ。明日10時にこの会社行きなさい。一応形だけ面接するみたいだから」

唯「面接?何の?」
和「何って……読み終わったら就職先世話してあげるって言ったでしょ」


唯「あ、そうだった!どどどうしよう和ちゃん!」

和「……だから、面接に行きなさい」


あら残ってますか……
遅いけど書きます。鬱ENDは書けないのでなんとか社会復帰させる方向で


――

唯「あああの私、のど……、真鍋さんの紹介で来ました平沢という者ですが!」

「ああ、ちょっと待ってくださいね。社長ー、平沢さんいらっしゃいましたよ」
「はーい、今行きます」

唯(女の人ばっかりだ……というか仕事内容さえ教えてもらってないんだけど……)

社長「こんにちは、平沢さん。私の事覚えてる?」

唯「え……あ……せ、生徒会長……?」
曽我部「うれしい、覚えててくれて。ちょっと早いけど、ご飯食べ行きましょうか」


唯「え、面接は……」


曽我部「どう?ここのお料理。結構有名なお店なの」

唯(う、うーん……普通?いや正直あんまりおいしくない……
でも正直に言っていいのかな……)

曽我部「どう?」
唯「え、えと……お、おいしいです」

曽我部「本当?」
唯「……!」


唯「……ごめんなさい。正直あんまりおいしくないです」


店員「!」

曽我部「ふふ、そうでしょ、私もそう思う」
唯「え……」

曽我部「内装だけはいいんだけどね。まぁ雰囲気で誤魔化すのも料理人の腕かしら」
店員「……」

唯「あ、あのっ……店員さんが」


曽我部「どう?簡単に言えば、こういうお仕事なんだけど」


唯「……?」
曽我部「いろんな物や店を試して、評価して、文章に書き出して、読んでもらうお仕事」

唯「き、記者?」

曽我部「そんなに堅苦しいものじゃないわ。
平沢さんはこういう飲食店を担当してもらおうと思ってるの。
会社のお金でご飯を食べて、感想を書いてお金をもらうお仕事。どう?」

唯「そ、そんなおいしい仕事があるんですか……?」

曽我部「もちろん、お金をもらう以上はおいしいことばっかりじゃないわ。
いえ、大変なことの方が多いでしょうね。でも、」

唯「……」

曽我部「1日中机に座って、キーボードをカタカタ叩く様な仕事よりは、あなたには向いている気がするの」


――

唯「憂、私先に行くね~」
憂「うん、いってらっしゃい」

お姉ちゃんが曽我部さんの会社で働くようになって4ヶ月ほど経ちました。
最近、一人で取材に出かける許可が出たみたい。

仕事以外でも自費でいろんな店に食べに行ってしまうので、……体重も順調に増えています
私が何とかしないと……。


ちなみに、お姉ちゃんの記事が載った後、爆発的にお客さんが増えた、
……なんて話は一切ないみたい。

でも、

普通です!
あんまりおいしくないですね!


笑顔でばっさり切り捨てる、ほわほわした童顔の女の子
飲食店の方達の中で、ちょっとした有名人のようです


それからまた半年程経ち

和「あの子、案外舌肥えてるのよ」
憂「そう、なのかな」

最近、お姉ちゃんの記事はそこそこ評判がいいらしい
それもこれも、今までレストランなどを中心に書いていたお姉ちゃんが、

スイーツや紅茶の専門店の担当をする様になってから

ムギのティータイムのおかげか


和「それはそうよね。
高校3年間ほぼ毎日、最高級の紅茶とケーキを食べ続けたんだもの」

憂「それはそうと……あれからお姉ちゃんまた2キロ増えたんです」

和「頑張って、管理栄養士さん」


憂「えぇ……和ちゃんからも一言言ってよ~!」


――

唯「……はあ」

最近お姉ちゃんは、ため息が多いです。
仕事は楽しそうにやっているので、何か他の原因……?

和「……ふー」

和ちゃんも何だか悩んでいます
弁護士の仕事はストレスも多そう


唯「和ちゃん、何かお悩みかね?」

和「悩みって程じゃないけど。まぁ心が荒むわね、この仕事」


唯「すさんでるの?」
和「荒んでるわ」

唯「……そっかぁ。さぼっちゃいなよ!」
和「そうね。さぼっちゃおうかしら」

唯「えへへ」
和「ふふ」


お姉ちゃんは、和ちゃんに何か相談したい事があったみたい


お姉ちゃんは、曽我部先輩の許可を取って、フリーの仕事を受けるようになったみたい。
家で仕事をする姿を、たびたび見かけるようになりました。

あのお姉ちゃんがブラインドタッチで文字を打つ姿に、訳も分からず感動してしまいます。

憂「……お姉ちゃん、最近働きすぎじゃない?大丈夫?」


唯「大丈夫だよ~。ちょっと思うところがありまして……お金貯めたいんだ」

憂「……そっか」


最近のお姉ちゃんは何だか立派で、少し寂しくなりました


――

唯「和ちゃん、これ」
和「なに……お金?」

唯「5年前の本の代金。本当にありがとう」
和「あぁ……いいのに、あんなの」


唯「……和ちゃん、私ね、」


和「……。ふふ、独立でもする?」

和「そうなんだ、じゃあ私唯のところに永久就職するわね」


ごめんものすんごい寝てた
あと数レスなのにほんとごめん……


唯「え……な、なんで……」
和「いいんじゃない。やってみたら?」

唯「うん、ありがとう和ちゃん。それでご相談なのですが、」
和「なに?」

唯「会社作るのって、まず何すればいいの?」

和「……」
唯「?」

和「……会社?」
唯「うん。まず資本金ってなに?」


和「……独立って、フリーで独立するって事じゃなくて?」


唯「?そうだよ?」
和「……曽我部先輩には話した?」

唯「うん。応援してるわって!」

和「……それだけ?」
唯「うん」


和(……投げたわね、私に)

和ちゃんは振られて嬉しいよね
全部恵がやってたらガッカリしたに違いない


和「会社の先輩には?憂には?誰かに相談したの?」
唯「今和ちゃんにしたよ?」

和「……」
唯「?」

和「……呆れた。ここまで考えなしの子だったなんて……」
唯「えへへ……照れますなぁ」

和「褒めてないわよ。さっきも言ったけど、フリーランスじゃ駄目なの?会社作るの?」

唯「え?違うの?……よくわかんないけど会社がいい。響きが!」 



和「……はぁ、もういいわ。決めちゃったのね?」
唯「うん!」

和「そう。……なら唯、私を雇いなさい」
唯「え……手伝ってくれるの!?」

和「死ぬほど高いわよ、言っておくけど」

唯「う……お、おいくらで」
和「秘密」

唯「うぅー…………お、お願いします」

和「そう。じゃあ唯は社名でも決めておきなさい。私は、」


和「仕事辞めてくるわ」


実際には、和ちゃんが仕事をやめるまで3ヶ月ほどかかりました。
それでも相当バタバタしたみたい。

和「25……いえ、22万でいいわ」

和ちゃんが要求してきたのは、ごくごく普通のお給料
設立したてでは厳しい金額ですが、現役の弁護士を雇うにしてはそれこそ、
死ぬほど安い金額

ちなみに今までいくらもらってたの
ビクビクしながら聞いたお姉ちゃんの質問に

和「ぎりぎり1000いかないくらい」

あっさり答えた和先輩にお姉ちゃんは

唯「なんかもうほんとすみません……」


泣きながら、笑顔で謝りました

和ちゃん愛してる。

和ちゃんと憂が協力してくれるならなんでもできる。
しかし憂はどうなってんだ?


――

少しして、お姉ちゃんの会社は、新人さんを一人雇いました。

採用活動のほとんどを和ちゃんが仕切りました
3人が食べて行く分には困らない程度には稼げているようです

少し前、軽音部のみんなも誘おうか、と言い出したお姉ちゃんに対して、
友達と仕事で付き合うのはやめなさい、と厳しい意見を言ったのも和ちゃん。

和「もし仕事で拗れたら、プライベートまで影響出るでしょう」

確かにそうかも
お姉ちゃんにとって和ちゃんを引き入れたのは本当に幸運だったと思います

憂は社員になってないのか…

ダウンタウンみたいなもんだな
照れ隠しに「金づるですからね」と言い合う関係

プロのミュージシャンになってたら律たちとそういう関係になってた

仕事のために、お客さんのために、嘘を付き合ったり我を通したり互いの私情を無視させたり


――

和「唯あなた……今何キロ?」
唯「えっ?……あ、あぁぁーじゅう1キロ」

和「その、あぁーじゅうの部分を聞いてるの」
唯「うぅ……」

和「前に、私の前職の年収話したわよね」
唯「え?う、うん」

和「今はまだいいけど……そうね、あと3年。
3年以内にあの半分いかないようなら、」

唯「よ、ようなら……?」


和「ふふ、どうしようかしら?」


おわり

ちょっと中途半端だけどおわり
まぁ読んでて分かると思いますが私は梓派です

いや、わかんなかったなw
乙!

乙!
文の節々から梓への愛を感じ取れたぜ

>>145
おおお、お前すげえな
おれも文庫百冊読んで読解力身につけねば

海苔とかケーキのイチゴとか、和ちゃんは唯と出会って保護者として覚醒してなかったら
天然のゆるキャラに育ってたのかもなー

月で1000近く稼いでて、しかも心が荒む内容だったらしいからな。
和ちゃんにしてもいつまでも続けてられなかったんだろうな。

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