律「バンドミーティング」(617)

立ったら投下します。
書き溜めあり

律「わるいわるい、店長との話が長引いちゃってさ」

私は、ライブハウスのブッキングを終え、いつもの気分でスタジオに脚を踏み入れる。
ちょっとした違和感。

唯はソファーでだらだらしながらギターをいじっている。
ああ、口の周りにチョコが…。

袖口で拭って…。

あーあー…。

唯はびっくりするぐらいいつも通り。

澪は、ベースをケースから出しもせず椅子にすわっている。

いつもと同じように見えるけど、ちょっと緊張した面持ち。

他の奴なら見逃しちゃうかも知れないけど、私は見逃さない。

長い付き合いだしね。

律「あれぇ?澪ちゃん、なんか心配ごとかーい?」

わざとおどけて。

2人きりの時を選んでって、感じでも無いだろ。

だって、こっちから話かけて欲しいって顔してたし。

良く分かってるさ。

これも長い友情の賜物。

ふふ、緊張してる。

澪は緊張しいだからなあ。

澪「な、なぁ、律、唯」

唯「なぁにぃ?」

律「んー?」

私はちょっとだけ嫌な予感。

澪「バンドミーティングしないか?」

唯「えぇぇっ!!バンドミーティング?!」

私も唯と同じぐらいに驚いている。

まあ、唯ほどは表に出ないけど。

バンドミーティングって言葉ほど、ロックンロールの世界で恐れられている言葉があるか?

私は「バンドミーティングしたい」ほどロックンロールの世界で恐れられている言葉は無いと思う。

唯「んで、バンドミーティングって何?りっちゃん?」

律「って、知らないで言ってたのかよ?!」

私は、まさかそう言うバンドミーティングでは無いだろう、と言う期待もこめて、おどけてみせる。
勿論ショックを隠すためってのもある。

律「バンドミーティングってのはロックンロールの世界で最もシットな言葉だよ、なぁ澪?」

澪からは返事が帰って来ない。

唯「シット?嫉妬に狂うって事?んー?」

律、よしよし唯はそう言う次元だよな。

もっと悩むと良い。

その間に私は澪と話をしなきゃいけない。

律「ミーティングってどう言う事だよ」

澪「こ、言葉通りの意味だよ」

律「なんだよ、それ」

澪「だから、お祭りもそろそろお終いにする時期じゃないかと思って」

律「最近は、ライブだってやっと埋められるようになって来たじゃん。物販のCDだって、それなりに出るようになったしさ。今がその時期ってのはおかしい。大事な時期の間違いだろ」

澪は私が強調したライブの下りを鼻で笑う。

澪「そんなバンドが全国にどれだけいると思ってるんだよ」

そう言う言い方に理屈で反論出来る言葉は無いよ?

でもさ…。

律「はぁ?約束したじゃん。2人で約束したじゃん。目指せ武道館って」

澪「どうやって武道館でやるクラスのバンドになんの?そのためのタイムスケジュールはきっちり出来てんの?デモテープ送っても無しのつぶて。オーディション番組も一次審査で落選。恥ずかしいの堪えて動画サイトにアップしたのだって…」

あれは失敗だった。

叩かれて炎上するならまだましで、閲覧数が三桁ってのは悲しすぎた。

澪「まさか、今度のライブにいきなり大物プロデューサーがお忍びで来てて、それでデビュー決定とか?あり得ないよね」

律「要するに、HTT捨てたいって事かよ」

澪「捨てる?何で私にだけそう言う言い方するんだよ?ムギの時は何も言わなかっただろ。梓の時は?」

律「あ、あれは…。だって、ムギは留学だし、梓は東京の大学に進学するから…」

澪「それと同じ。私はただ、それが就職って言うだけで」

律「だ、だったら、別に辞めなくても…」

澪「律はプロになりたいんじゃないのか?プロって本業持ちが趣味でやっててなれるようなもんなの?」

私は今度こそ、言葉が出ない。

唯「澪ちゃん…?」

唯はようやく、言葉の意味が分かったらしくおろおろしている。

澪「それに…、私なんかいなくても…」

律「澪?」

澪「そう言うことだから」

律「あ、おい待てよ!澪!」

足が出ない。

追いついても澪にかける言葉が無い事を私の気持より身体の方がずっと理解してるからだ。

扉がゆっくりしまる。

くそ、防音扉ってなんであんなにゆっくり閉まるんだよ。

ガチャンって勢い良く閉まってくれれば、私の気持ちだって軽く断ち切ってくれる感じがするのにさ。

何で、こんな時に限って三時間パックで取っちゃったんだろな。

つーか、澪の奴、三時間パックの時に言い出さなくったって良いだろうにさ。

律「さて…、っと。こうしてても練習する訳じゃないし、取り合えず出ようぜ、唯」

唯「あ、うん…」

放心状態の唯に声かける。

泣く余裕も無いって感じだな。

律「あ…」

澪の座ってた椅子を見ると、足元にベースのケースが置きっぱなしになっている。

律「ははは、ベース置きっぱじゃん。冷静に見えたけど澪も随分テンパってたんだろうなー…」

これ、どうしたもんかね?

家に届けてやるって?

私だってそんな図太い訳じゃない。

せめて3日は間を置きたい。

唯「あ、それ私届けるよ…」

気が利くな。

唯、やっぱお前、最高だぜ。

律「そっか…」

唯「澪ちゃんもそっちの方が良いと思うし…」

律「ありがとな」

唯「うん」

律「じゃ、替わりといっちゃなんだけど、片付けとかは私がやっとくよ」

唯、その笑顔は苦笑なのか、作り笑いなのか?

唯「お言葉に甘えましてー」

律「おう、任せとけ」

いつもなら、唯が食べ散らかしたスナックの食べかす紙くずやらが結構あるんだけどな。

今日はほとんど無くて楽勝だ。

毎回今日みたいだったら、澪も片付け楽だったろうな…、ふふ…。

澪、どうして…。

どうして?

数時間前まではそんな事考える必要無かった。

十数年に及ぶ友人関係によって、そう言う自信を育んで来ていたから。

澪はこう考えてるだろう、こうしたらこう反応するよな、だから私に任せておけば大丈夫だって…。

ただ、どうやらその自信は脆い地盤の上に立っているものでしか無かったみたいだ。

律「うぅ…、澪ぉ…、どうしてだよぉ…」

希望や夢も時には眠りに就く。

私の希望と夢は眠りに就いた。

その時初めて知ったのだが、人生は常にこう言う危険と隣り合わせらしい。

引き籠ってから何時の間にか一週間がたっていた。

一日の終わりにバイト先のレコード屋と唯からの電話が何回あったかと言う着信履歴を数えるだけの生活。

どれだけ着信があったかと言うのを知っているのに、電話に出ないでいると言うのは時にとても疲れる。

分かりやすく言うと、ある種の精神力を要求される。

そう言うときは我慢するべきでない。

すぐ、唯からの電話に出るべきだ。

律「唯か?」

唯「あ、りっちゃん?やっと出た…」

律「何か用…」

唯「あ、あのさ!その…、スタジオ取ったんだけど…」

正気?

3ピースバンドでメンバーが一人抜けて、デユオになっちまって?そんでバンドを続けてくかどうかって言う状況なのに?

練習?

何のために?

唯「ライブハウス予約入れちゃったでしょ?今からじゃキャンセル料発生するでしょ…?だから、それ用の練習を一応、ね?」

律「あ…」

すっかり忘れてた。

律「で、でも…」

唯「とにかく、来てね!」

律「あ、唯、待てよ!」

唯の奴、なに考えてんだ…。

良いさ、どうせキャンセル料を払うんなら、唯の考えってのを聞かせて貰ってからでも一緒だ。

スタジオレンタル料が余計に増えるのは気にしないでおけ。

膝の抜けたスキニーデニムと毛玉だらけのパーカー。

髪は寝癖も直さずヘアバンドで上げただけ。

私はまだロックスターなどではないのだから、身なりよりも友の元へ駆けつける方を優先するのさ。

律「おぃーっす」

唯「あ、りっちゃん!」

律「一週間振り」

唯「うん」

律「ベース届けた時、澪、なんか言ってた…?」

唯「いや、あ…、うん…」

唯は言い淀む。

ん?

律「まぁ、良いや。少ししたらどうか分からないけど、すぐ意見を覆すような奴でも無いし…」

あれ?唯、ギター変えたのか…?

違う、ベースだ。

律「唯?」

唯「ああ、これ?リズムセクションの方を固めた方が良いでしょ?だから」

唯はちょっと拙いながらも私達の曲のベースラインをちょっとだけ弾いてみせる。

唯「どう?ちょっとは弾けてるかなあ…」

律「ちょっとって…。凄ぇじゃん!!」

唯「えへへ…、あ、あれ…、涙…」

唯、照れるのか泣くのかどっちかにしろよ。

唯「あれ…、りっちゃん…」

なんだよ。

唯「りっちゃんも涙…」

うるせー。

澪がいなくたって、The show must go on。

人生は続いていくんだぜ、ベイベー。

唯「ギターソロのところはオミットしちゃって…、いや、今思いついた!そこだけキーボードを私が弾いて代替させるの。ギターとベースを持ち替えるのは難しいけど、ベース首に掛けながらでも、キーボード押さえるぐらいは出来るし」

律「そ、それで?」

私は音楽を始めたばかりの頃みたいに少しドキドキする。

唯「一応、うわモノは打ち込みを入れれば厚みが出せると思うんだ。ただ、それだけだと弱いから…」

唯は高音部を押さえて、ベースでメロディラインを奏でる。

唯「ね?ね?ちょっと、良いでしょ?」

律「ああ、うん」

私は唯のアイデアにうっとりとする。

私の夢はもう一度蘇る。

この場合は三日後じゃなくて、七日後だったけど。

ここで言いたいのは宗教が生まれた時の話じゃない。

単純に禍福は糾える縄の如しで、つまりは物事は流転するという話。

私は楽天的な方だけど、でもああ言う事が有ったあとで手放しで喜んでいたらただの馬鹿だ。

そう、もっと重要な事があった。

律「そこまでして私達バンド続けていくべきなのか?」

梓もムギもいない、澪もいなくなって…

唯「当たり前だよ!」

律「だ、だって、もう2人しかいないんだぞ?みんないなくなっちゃって…」

唯「そうしないと、皆が戻って来る場所が無いじゃん!ここでライブしなかったら、本当にHTT無くなっちゃうよ!」

唯、凄いな、お前…。

律「あ…、あぁ、そうだな…。もしかしたら、澪も戻って来るかも知れない…しな」

唯「うん…、澪ちゃんも…ね」

ん?

まあな、澪だって何時かは戻って来るかも知れないよな。

律「今回は色々唯に教えられたなー?」

唯「あはは…、あ、バイトの時間だ!じゃあまた次の練習日にね!」

律「お、おう」

ははは、慌ただしいね。

また、戻って来る。

そう、あの夢を追いかける日々が戻って来るのだ。

律「唯の奴すげーな…。いきなりあれだけ弾けるなんて。絶対音感のたまものってやつか?」

いや、違う。そんな事じゃないんだ。

音に新鮮さを与えるのはテクニックじゃない。

アイデアと衝動。

ノせられるなら何でも良い。

ベースでメロディーラインを弾くなんて見渡せばそこそこあるスタイルだ。

でも、澪が中心を取っていた今までは出て来なかったスタイルでもある事も事実だ。

まだ私達が軽音部だった頃、今よりも皆稚拙で、特に唯なんか、3コードを押さえる事すら怪しかったころ、あいつが掻き鳴らしただけで風景が大きく変化したのは何故だ?

私は、ちょっと怖い想像に辿り着く。

律「澪は…、この事に気付いてた…?」

私の意気込みとは反対にと言うか、残念ながらライブの入りは散々だった。

澪の手売り分が丸々無くなったのが痛いし、ましてそれがVoもやるメンバーの分なのだから尚更だ。

フロントメンバーが脱退しました!残り2人で活動していきます!

これには数少ない固定ファンもがっかりしてしまう。

唯「良いライブだったよね?人、少なかったけど…」

律「でも、最高だったろ?」

唯「うん、良かった」

律「歴史に残るよ、きっと」

さて、こう言うポジティビイティはどうだろう?

伝説のライブはしばしば観客が少なくて、観客もまた後々担い手として共犯関係になるなんて話。

つまり、こう言う事だ。

人数が少なければ少ないほど、歴史的な意味が増す。

最後の晩餐は12人。

私たちの方が勝っている。

大事な事だから、もう一回言うね。

律「歴史に残るよ、きっと」

唯「ね、りっちゃん、ドリンクバー取って来るけど、何が良い?」

律「そだなー、コーラかなー」


さて、これからだ。

どうしたら、良いんだろう。

澪に指摘されたように、私は漠然とし過ぎていた。

そんな怠惰な楽園がずっと続くと思い込んでいた。

私はライブの打ち上げだと言うのに、今日の事よりも次の事ばかりを見ている。

ここにいない澪との過去よりも未来ばかりを考えている。

どうしたら良いか。

澪が出て行ってしまった事で気付かされた。

そう、もう気付いている。

気付いて…。

律「おい、唯…。人が考え事してる時にジュースブクブクするのは止めろよ」

唯「だってぇ、りっちゃん、ドリンク持って来たのに全然反応してくれないからさ」

そりゃーなー…。

律「なぁ、唯。これからどうやって活動していく?」

唯「え、なに、急に…」

律「だからさ、今までみたいに漠然としてたんじゃ駄目かなって…」

唯「まあねー」

律「おい、そこはちょっと否定しろよ。私のリーダーとしての資質がって話になっちゃうだろ?」

いや、五人が二人になってる時点で資質はもう疑問符どころでは無いのも事実だけどさ。

唯「えへへ…」

律「でさ、ちょっと考えたのは、ライブを休止してデモテープ作りに本格的にシフトして見ようと思うんだよ」

唯「デモテープ?」

律「あからさまにがっかりした顔するなよ…」

唯「え、私、そんな顔してた?」

分かりやすい奴。

ま、それが唯の良いとこなんだ。

律「そりゃあ、ライブは楽しいよ。客と私達。気の合ったメンバー。そこにケミストリーが生まれて、バーンっと…。でもさ、今のままじゃ次に繋がらないって言うか…」


そうだ。

今までは、今が続く事ばかり願っていた。

でも、何時の間にか次の事ばかり考えるようになっている。

夢が続くとはそう言う事だ。

唯「うー」

律「だよなあ?だから、さ…」

唯「うん」

律「取り合えず、2人でやって行くならその方向性も決めなきゃいけないだろ?ただ、漠然とスタジオに入っても時間とお金が、さ」

唯「仕方無いかぁ…」

律「つー訳で、明日うちに12:00に集合な。遅刻すんなよ?」

唯「ぶー、残念でした。あたし一人暮らし始めてからもバイトに遅刻した事無いんだからね!凄い?」

ははは、そりゃあ凄いな。

唯にしちゃあ大進歩だよな。

でも、私は唯がもっと凄いって事に気付いてしまった。

律「10分遅刻とは上出来上出来」

扉を開けると、そこにはどや顔の唯。

唯「えっへん」

ま、遅刻はしてるんだけどな。

唯「おぉー、りっちゃん凄い!片付いてるー!もっと汚いかと思ってたよー」

律「唯んとこに比べたらか?」

唯「そんな事無いよ!私の部屋綺麗だよー?憂が二月に一度は掃除に来てくれるもんね」

唯はフンスと胸を張る。

何で自慢げなんだ?

まあ、この部屋の綺麗さも澪が手伝ってくれてたからなんだけどな…。

…。

ああ、もうっ!!

澪、ごめんな。

裏切るのは私の方も一緒かも知れない。

でも、私はお前みたいに考えられないよ。

唯だって友達だし、それに…。

唯「あ、これリマスタリング版再発されたんだー。ねぇ借りてって良い?良いよね。借りてっちゃお。あ、このEPってレアでプレ値付いてるやつだよね?どこで手に入れたの?」

律「あー、それはバイト先で…って、おい!何やってるんだー!」

唯「ぺヤング探しだよ!りっちゃん!」

律「こらー、今日は遊びじゃないんだぞー」

唯「だよね!」

律「新しい曲はさ、澪が途中まで作ってた奴があるじゃん?それを完成させる形で取り合えず、一曲やるのが良いと思うんだよ」

唯「うんうん」

律「でさ、アレンジとかリフ作りとかさ諸々、今まで澪がやってくれてた部分は唯にやって欲しいんだわ」

唯「うんうん…、って、えぇっ?!」

律「だから、アレンジとかさ…」

唯「一度言えばわかるよ。で、でも、そんなの私やった事無いし…」

律「大丈夫だって」

唯「ふぇ?」

律「この前みたいにさ、思いついたアイデアを形にして見てくれたら良いんだよ。私も色々するからさ」

唯「でも…」

迷ってんじゃねーよ。

律「澪だけじゃなくて、ムギや梓にも見えるようなおっきな塔を建てなきゃいけないんだぞ?」

唯「ん?」

律「大丈夫だって、唯なら出来るって」

唯「うん…」

もう、決心は出来てるんだ。

今までと違ってしまうかも知れない。

でも、それでも構わないんだ。

澪は逃げ出したくなったかも知れないけど、私は逃げない。

だって、唯がどこまで行けるか見てみたくないか?

それに、高いところまで行ければ、澪だけじゃなくて、ムギ、梓からだって見えるようになる。

戻って来る場所があるのは良いもんだぜ?なあ、澪。

唯に色々な事をさせてみると言うのは我ながら良いアイデアだったと思う。

今まで、楽をし過ぎてた反動だろうか、最初こそブーブー言う事が多かったが、どんどん新しいアイデアを出して来るようになる。

唯「ねえ、りっちゃん。こう言うのはどう?」


唯「りっちゃん、アレンジのここ変えてみたんだけど」


唯「ねー、このワウを効かせたイントロどう?爆発って感じだよね?」


私は唯の提案を聞きながらいちいちニヤニヤする。


唯「ね?これ良いでしょ?身体揺れちゃうでしょ?踊れるでしょ?」

今まで唯はほんの少ししか音楽に手を入れてこなかった。

ちょっとジャムってる時やライブの時に魔法を一つまみ。

そのちょっとした魔法にやられて入部した梓や、その凄さに気付いてしまった澪ってのは、それこそ今になってやっと分かった私なんかよりもずっと音楽の神様に愛されてるんだろうな。

でも、これからの魔法は純度100%だ。

きっと、凄い事になる。

唯「スネアをさ、もうちょい高音にチューニングして、で、もっと…、マーチ的に…」

律「あー、っと…?」

唯「だから、こうタタタタって」

律「手がつっちまうよ…」

唯「だからさ、ちょっと貸して。こう言う感じにして…。んで、リムショットでこうカカカカって…。分かった?」

ふふふ。

律「唯と音楽やれて良かったよ。凄くそう思う」

唯「りっちゃん、突然なに言い出すの」

律「まあまあ、急に感謝したくなったんだよ」

唯「変なりっちゃん」

律「そうかな?」

唯「そうだよ」

大義ってのは良いものだと思う。

HTTは、いや平沢唯はそれに値するアーティストだ。

つまり、こう言う事だ。

20年近くに及んだ友情の終焉。

退屈なレコード屋のバイト。

先が見えないアマチュアバンド生活。

そう言う諸々の苦痛の解消法を私田井中律は見つけたって事だ

デモテープは完成する。

澪の残したのを作りかけを完成させた曲。

私が鼻歌で歌ったのを、唯が起こして完成させた曲。

これはちょっと稚拙な曲だ。

これまでの曲、例えば昔にムギが作ってくれた曲のAメロBメロ、フック、フレーズを引っ張ってきて再構成させたみたいな曲だからだ。

才能の無い私にはこれが精一杯。

でも、逆に今までのHTTに一番近いかも知れない。

この二曲に唯のアイデア、アレンジを大量に盛り込んだ結果、作りも作ったりバージョン違いが6つずつ。

こんなデモテープを取り合えずどうぞ。

『放課後ティータイム』
Vo:平沢唯
G :平沢唯
B :平沢唯
Key:平沢唯
Dr:田井中律

ふはっ、女の子2人バンド。

送られてくる山ほどのデモテープの中、少しはフックになってない?

おまけに一人はマルチプレイヤー。

レコード会社のお偉いさんはまだテクニック信奉なんて言う間抜けさを持ち合わせてるに違いない。

だったら、それを利用しない手は無い。

皆が才能に背を向けないで済むように。

デモテープを送ってから一月。

連絡は来ない。

私はちょっとがっかりする。

さて、ここで問題。

唯が才能が無いのか。

私に見る目が無いのか。

メジャーのA&Rマンに見る目が無いのか。

チャンネルはそのままで。

メール着信。

律「ん?唯から?」

すぐ来ての文字。

唯のアパートに来るのって引っ越し手伝って以来だな。

いや、魔窟になってそうだから遠慮してたんだ。

唯「りっぢゃ~ん」

うぉ、玄関開けて0.1秒かよ。

律「ど、どうしたんだよ、鼻水垂らして」

唯「だっでぇ、だっでぇ…」

あっちゃー、やっぱ魔窟になってたか。

こう足の踏み場も無いと、唯一の生活スペースであろうベッドまで行くのも…。

あぁ、貴重な盤をこんな積み方をしやがって。

後でちゃんと言い聞かせなくては…。

唯「りっちゃん、早く早く…」

律「あ、うん。ほいほいっと…」

私は何とか孤島であるベッドに上陸して唯と共にノートPCを覗きこむ。

要するに、才能溢れる唯とだけ契約したいって事か。

唯「どうしたら良い…。こんなの私…」

しょうがねーなー。

律「契約するしかないだろ」

唯「で、でも…」

律「だって、私のせいで唯が先に進めないのって辛いしな。引き上げるんじゃなくて、自分のとこまで引きずり下ろそうってするようなのは友達じゃないだろ?」

もう一回言うぜ。

迷ってんじゃねーよ!

唯「りっちゃん…」

律「おいおい、抱きついてくるなよ」

唯「だって…」

律「唯がさ、武道館でやってくれればそれは私達の夢を実現してくれたって思えるからさ。ただ乗りなんて図々しいかも知れないけど、友達だと思ってくれてるなら、な?」

唯「う、うん…」

唯は最後まで渋ってたが、契約する事にした。

向こうの提示した条件はあまり良いものでは無かった。

アマ活動でも大した実績が無かったので、当たり前だが高額でも長期の契約でも無い。

1stアルバムの時点で契約の見直し、再検討。

全く、問題無い。

私には勝算がある。

唯の作りだすアートに自信がある。

条件闘争が出来るような評価でも無かったが、
それでも契約に当たって一つだけのお願い。

律「ほーら、唯早くしないと」

唯「ま、待ってよ、りっちゃ~ん」

律「インストアイベント15:00からだぞ?今何ん時だと思ってんだよ」

唯「13:00です、えへへ…」

まったく、モーニングコールのあと二度寝するとは。

いや、予測可能ではあったけどさ。

私は唯のマネージャーになった。

それはこの世界に唯を放り込んだ私なりの責任の果たし方だ。

本当はバンドのメンバーとして見て行きたかったけど、でもそれが出来なかったんだから仕方が無いだろ?

A Dream Goes On Forever.

そのために自分に出来る事は何か?と言う単純な話で。

律「あ、渋谷のタワレコまでどんぐらいかかります?」

タクシー「そうですね~、この時間だと40分ぐらいですかね」

律「あー、やばいな…。リハ間に合わないかなー。…首都高入ったら少し早くなります?」

タクシー「あー、どうですかねー、でも、気持ちってとこですよ?」

律「構いません、それでよろしくお願いします」

それまで神妙な顔をしていた唯は、私とタクシー運転手の会話を聞いて元気を取り戻す。

少しは反省しろ。

唯「なんだ、楽々間に合いそうじゃん。りっちゃん、大袈裟だよー」

バカ野郎。

律「スタッフへの挨拶とかあるだろ?」

唯「そーだけどさー」

律「それにリハだって」

唯「でも、リハなんていらないよー。すぐに弾けるし…。それにあんな曲…」

おいおい、自分の曲、おまけに初登場オリコン一桁のスマッシュヒットをあんな曲扱いかよ…。

唯「私は『YUI』じゃないよ。平沢唯だもん…」

律「そう言うなよ」

唯「だってぇー…」

まあ、唯の気持ちも分からないでは無いけどな。

律「あ、クマ…。唯、あんま最近眠れて無いのか?」

唯「あー、うん…。ちょっと寝付き悪いかも…」

律「そっか。じゃあ着くまでちょっとでも寝ときな。着いたら起こしてやっから」

唯「うん、そうさせて…」

※現実のYUIには何の思うところも無いです。
ただ、このSS中では芸名として付けられていると言う事です。

唯の気持ちは分かる。

何しろ、このシングルで唯のやってる事は楽器を弾いてるだけだ。

しかも指定されたように。

曲の出来が悪いって訳じゃない。

とても良く出来たポップミュージックだし、私だって嫌いじゃないし、唯だって言うほど嫌ってはいないだろう。

PVも悪い出来じゃなかった。

天真爛漫にピアノ、ギター、ベース、ドラムととっかえひっかえ演奏する姿を撮ったPVは中々にキュートだし、そこに唯の才能の閃きってのを見出せるようにもつくられてる。

ただ、それもこれも唯のものじゃない。

周りが思う才気あふれる若手女性歌手ってのをシミュレートさせてるだけだ。

「平沢唯」とレコード会社の作り上げ、デビューさせた「YUI」と言う歌手は別物だ。

蛸壺屋的展開かと思ったのに

>>86
あれの影響もあるのは否定しないです。
でも、他のキャラがあそこまで唯に対して距離をとるかな、
と言うのがあったので…。


・・・

それでも、良いとこまで行く事は出来るかも知れない。

薄めて、能動的には音楽を聴かない人達に売る。

ダウンロード数を稼ぐ。カラオケで歌われる。

良いプロダクトだ。

そのかわり、天才の才能は失われる。

つまり、こう言う事だ。

鳥は翼を失い地面に墜落し、そして最後には出血多量で息絶える。

律「お疲れさまでした」

スタッフ「お疲れしたー」

まったく、唯の奴。

本番でアレンジをいきなりいじって来るか?

今日は必要の無いはずのギターを背負って出て来た時点で気付くべきだったんだが…。

でもでも、あんな遅刻寸前の入りって状況でそんな事にまで気付けってのは無理だろ?

今日はキーボードってのが唯のやるように言われた楽器だった。

キーボード弾き語り。

レコード会社が唯をどう売り出したいか分かるやり方だ。

バックバンド有りでってのが悪い方向に作用した。

スタッフの目を盗んでバンドメンバーと打ち合わせ。

少しでも音楽を齧ってる奴は唯の言い出す事の面白さが分かってしまう。

結果、録音されたものとはまるで別のものになる。

唯「りっちゃん、疲れたー。早く帰ろー。行ってるよー?」

律「ああ、今日は私も直帰だから…、ん?」

スタッフ「田井中さん」

律「あ、はい、何か?あー、唯行ってて?」

唯「ほいほーい」

律「えーっと…?」

スタッフ「あ、あの、今日の唯さん、CDとは全然違う感じでしたけど、凄く良かったです…」

律「あ、ありがとうございます…」

あー、唯?私達は自信を持って良いみたいだぜ?

スタッフ「それで、このバージョンで今度出るアルバムとかに収録されたりするんですか?」

さてと…。

律「あー…、それはですね…、あはは…」

ちょっと気まずいね、色々と。

スタッフ「そうなんですか…。いや、CDのバージョンより全然良かったから、惜しいなって…。あ、CDの方も良いと思いますけど、個人的には今日の方が好みかなって」

律「あはは、良いですよ。アフレコにしときます」

スタッフ「…すいません」

唯「りっちゃん、店側の人と何話してたの?」

タクシーが走りだすまでは、硬い表情。

2人きりと言う事でやっと口を開く。

唯は唯なりに気を使ってんだよな。

だから、外では不満を口に出さない。

レコード会社にも事務所にも、きっとメジャーデビューを勧めたり、マネージャーを買って出た私にも、不満はあるんだろうけど。

今日みたいなのは…。

まあ、耐えられないよな、全てをコントロールされるってのは。

だから、少しぐらいは発散したくなるよな。

律「いや、大した事無いよ」

唯「なら話してよ」

律「あー、そだなー…」

唯「気になるよー」

律「えっとな、今日やったアレンジの方がCDの奴より良かったってよ」

唯「あー…、そっか…」

おーおー、嬉しそうな顔しちゃって。

気持ちは分かるけどな。

唯「何かさ、りっちゃんとデモ作ってた時の方が楽しかったんだよね」

律「今は?」

唯「どうかなー?」

律「冗談はそんぐらいにしとけー?」

唯「冗談なんかじゃないよ」

唯の表情も声も見ない振り聞こえない振り。

だから返事もしない。

律「ほら、着いたぞ」

唯「りっちゃん…」

律「明日からまたアルバムの作業だからな。遅れんなよ…、いや、明日は不安だから迎えに来る。12:00に来るからちゃんと起きて顔洗うぐらいはやっとけよ」

律「ん?どうかしたか?」

唯「りっちゃん…、あのさ…」

律「ん?」

唯「何でも無い…」

律「今日は早く寝つけると良いな。じゃな」



私達はほんの少しだけ夢を見て、その夢が長く続く事を祈ってた。

その夢はいつの間にか悪夢になって、私達の中の一番才能ある一人を浸食しつつある。

律「おはよございまーす!」

スタッフ達「あ、おはようございます!」

唯は昔のような陽気さは無くボソリと

唯「おはようございます…」

プロデューサー「唯ちゃんおはよー。今日もよろしくねー」

律「おはようございます」

プロデューサー「りっちゃんもおはよう」

プロデューサー「はーい、OK」

唯「はい…、ありがとうございます」

プロデューサー「じゃ、少し休憩しよっか?」

唯はすっかり不機嫌そうなオーラを纏うミュージシャンと言う感じになってしまっている。

だから、その本当の感情に周りが気付かなくても無理は無い。

プロデューサーもミキサーもスタッフの全員に罪は無い。

ここに連れて来てしまった私に、そして一人唯の苦痛に気付いてしまう私には罪はある。

P「りっちゃん、ここ良い?」

律「あ、はい」

プロデューサーは私の横に腰を下ろし、コーヒーを啜る。

唯は休憩だと言うのにブースの中に入ったままギターをいじっている。

最近ではスタジオに入る日に笑顔を見せる事は無い。

差し入れのお菓子を口に頬張る事も無い。

唯らしく無いその姿に私の心は痛む。

P「僕らはさ」

律「あ、はい」

P「僕らはさ、楽で良いし、それにまあクオリティコントロールの面でも問題無いんけどさ…」

律「はい」

P「いや、こんなに楽な子って初めてだなと思ってね」

?!

P「いや、悪い意味じゃなくてさ、何となくね」

そうしてプロデューサーはまたコンソールの方へ戻って行く。

なあ、唯。

お前の衝動が周りを傷つける程に育つのと、お前が擦り切れてしまうのとどっちが早いんだろうな?

ほとんどのバンドが音楽業界に入りたいからステージに立つ。

ロックスターになりたいから、と言い換えても良い。

そう言うバンドは周りを傷つけない。

ただ、私は唯に気付かせてしまった。

平沢唯はアーティストで有ると言う事に。

あるのは表現衝動だ。

だが、その衝動の正しさ、尊大さは時に人々を傷つける。

例えば、それを抑えてしまうとしよう。

だが、それは太平洋を跳ねるマグロの泳ぎを止めるようなもので、窒息してすぐにも死んでしまうだろう。

私はどっちを選ぶべき?

「YUI」のファーストアルバムはそこそこ売れた。

業界全体でパッケージが売れない時代だからと言うのもあるが、初登場オリコン10位以内にも入った。

シングルの時よりは唯のアイデアも生かされたのも事実だ。

でも、やっぱりこれは唯の作品じゃない。

CDが売れた事が、唯にとっても、そして私にとっても思い描いていた喜びを与えてくれるものじゃないってのは、不幸過ぎる話だ。

私達は唯のアパートで2人だけの打ち上げをする。

六本木の創作料理店の個室で?

柄じゃないだろ?

スタッフ全員で?

一生懸命にやってくれている彼らにどんな顔を見せたら良い?

幸い、事務所の契約してくれた唯の部屋は部屋数が多くてさすがの唯も汚しきれないので、居間で飲むには問題ない。

唯・律「乾杯」

律「オリコン7位だってさ」

唯「…うん、良かったよね…」

私達はお互いに次の言葉に詰まる。

2人ともこのアルバムに、と言うか全てに満足してない事が分かり過ぎるほどに分かっているからだ。

それでも、酔いが回ってくればそれなりに本音は出てくる。

唯「だからさぁ、遠まわしに糞だよ、fuckin’だって言ってるのにさぁ…、ホント分かって無いのかなぁ」

律「ばっか、分かっててもそこは見ない振りってのは、やつらの一つのやり方でさ…」

唯「ちょっと待ってて」

スタッフの悪口にも飽きが来た頃、唯が隣の部屋に駆け込む。

唯「じゃーん。な~んだこれ?」

小袋を持って戻って来る。

「芸能界」に足を突っ込んだ中で良かった唯一の事は、こう言うものを比較的自由に使えるようになった事だ。

唯「ねえ、りっちゃん。こう言うのってさ、もしも対処出来るなら素晴らしいものだと思うんだよね。その事を理解して…、信じてさえくれれば、ベローナベラドンナってさ、アハハ…」

律「なんだよ、アイスじゃなくて良いのか?アハハ…」

唯「私の好きなアイスはアイスだけだよぉ、ウフフ…。りっちゃんはマリファナ派なんでしょ?私は俄然ハイブリッドだね。何でもありっでって…」

律「ばっか、その決めつけだと、私がヤリマンみたいだろ?パンツの中のコンドーム詰めにされたものが、太平洋を渡ってくるのを待ちわびてましたって?ハハ…」

ただひたすらに酩酊感に酔う。

唯も私も。

取り合えず、バッドトリップのような日々とさようなら。

窓から光が差し込んでいる。

目が覚めると、日が昇る所だった。

私は目を細めて太陽を見る。

ここにいたら喉がつまりそうなる。

そうだ、どっか別の場所に行く事にしよう。

ファーストアルバムの売上を考えれば会社は契約の延長を提示してくるだろう。

だが、そんなものは糞喰らえだ。

マーケティング?パッケージ?クオリティ?そんなものはくれてやる。

良く分かってる連中がやれば良い。

お前らの仕事だ。

でも、素晴らしい曲を書いて、人々を魅了するアートはミュージシャンのものだ。

それはお前らの仕事じゃない。

唯が眠そうに目を擦りながら、起きて来る。

唯「もう、朝?」

律「あぁ」

唯「朝だね、りっちゃん」

律「朝だな、唯」

唯「新しい朝かなぁ?」

そうさ、新しい日々の始まりだぜ。

律「なぁ、唯?」

唯「ん?」

律「止めちまうか?」

唯「りっちゃんに任せるよ」

らしく無かったってことだ。

私は唯の才能を皆に届ける手伝いをしてやるんだ、と粋がっていたけど、
実際には何の力も無い雇われ監督で、ただ唯を間違った方向へ進ませる事に協力して来ただけだった。

独立騒動?芸能界を干される?

勝手にすれば良い。

最後までやる事に決めたんだ。

くたばれショウビズ。

中指でも喰らえ。

面白い

さるってました。
今は後30分ぐらい投下したら、寝落ちします。
そして昼前ぐらいに起きて仕事行くまで出来るだけ投下して行きます。
会社は規制で投稿出来ないと思うので、
(残しておいて頂ければ)夜23:00ぐらいから投下するような形になると思います。

・・・

「『YUI』と言う名称は使わせないぞ」

どうぞ、それはあんた達のものだ。

私達と、少し大袈裟な言い方をすると時代に必要なのはアートであって。

その貴方がたが作り上げた名前は、貴方がたにお返ししよう。

>>121
ありがとうございます。

・・・
律「他のとこのA&Rを待つか?それとも…」

唯はあからさまに嫌悪の表情を示す。

唯「上手くしてくれるなら良いけどなぁ…」

律「ですよね~」

これは高校時代からの口癖だ。

別に唯がアーティストだからへりくだってる訳じゃない。

私は、あのスタジオでの事や高校時代の出会いの事を思い返す。

その選択の基準はどこから来たか。

有りがちな話なのだけど、きっと言葉よりもっと深いところ。

言語化は出来ない。

だが、それでも自信がある。

それに続く言葉はこうだ。

なるほど、それならやって見たまえ。

そうしよう。

パンクが世界にもたらしたもっとも素晴らしい発明品は何だったか?

DIY精神。

つまり、手前でやってみろって事なのだ。

律「自分達で出そう!」

唯「うん、私もそう思ったところだよ!」



その夢がもう少しだけ長く続くように。

いや、終わらないようにとしておこう

律「唯が曲を作る」

唯「私がアーティスト」

律「そして私がそれを売る」

律、唯「ギャラは?」

律「5:5で」

七三じゃないよな。

唯「レーベル名はどうするの?」

唯がニヤニヤする。

きっと、同じ事を考えてる。

律「いっせーのせで言おうぜ」

律、唯「HTTレコード!」

爆発!

良い感じじゃないか?

私たちはこうでないといけない。

レコード会社との取り決め通り、「YUI」の名前は出さない。

まったくの別人だから。

彼女は死んだ。

そして平沢唯は蘇る。

良い音楽ほど売れない。

こう言う決まり事は時に覆される。

売れたのだ。

「YUI」程では無いが、ちょっとした話題になるような売れ方をした。



マキシシングル。

一枚につき、ワンアイデアツーアイデアスリー…、無数のバージョン違い。

こう言うやり方も一役買った。

何枚プレスしますか?

唯「2万枚で!」

それは素晴らしすぎるアイデアだ。

凡人の頭からは出て来ない。

よし、やってみよう。

唯が自信があるのなら、私は反対しない。

それがHTTレコードのやり方だからだ。

レーベル立ち上げ、レコーディング、プレス、プロモーションその他諸々。

唯がメジャーで稼いだ金は全て注ぎ込まれた。

私の稼ぎも注ぎ込まれた。

家族に頭を下げて借金した。

そして、その結実として目の前に積まれた2万枚のCDケース。

唯「冒険し過ぎだったかも知れないねー」

今更?!

馬鹿ヤロー!!

保守ありがとうございました。

・・・


私と唯のオフィス兼自宅(唯は事務所からあてがわれたマンションを追い出されたし、私も金が無かったんだ。ルームシェアってのもオフィス兼てのもごくごく真っ当なアイデアじゃないか?)
であるところの築三十年の一軒家に2万枚が運び込まれる様子を見た時には、自分達の決定のアホ臭さに失神しそうになる。

その二万枚分の重さは床を歪ませ続け、ついには三十年物の床はその重さに耐え切れず抜けてしまう。

そんな様をその一瞬に想像してしまい、私も唯もその場で嘔吐しそうになる。

しかし、そんな崩落の心配は杞憂に終わった。

目に見えて箱は掃けていったからだ。

雑誌媒体に無視される?

そんなら、動画サイトに上げてやる。

リエディットしたロングバージョン、ダブバージョン、リミックスをレコード屋で配れ。

「これ『YUI』じゃないか?」

「売名乙」

「あれより全然格好良いじゃん!」

「何で名前変えてんの?」

以前の悲しすぎる経験とは大違い。

あれやこれやでカルトヒットと言う奴だ。

全てが上手く行き過ぎた。

こうなると家内制手工業的なやり方を脱皮しなければいけなくなる。

少なくともそう言うプレッシャーは掛かる。

オフィスは住宅街から、駅の近くのビルの一フロアに。

唯の部屋はマンションに。

営業車兼機材車は役割分担出来るように、私の自家用車兼営業車のアッパーミドルセダンと小型バスに。

社長の私とローディとマネージャーも役割分担。

私も唯もただやりたかったからやって来ただけだが、
新しく増えた船員たちはそれでは満足しない。

こんな事があった。
マネージャー「メジャーから傘下に入らないかって話が来てるんですけど。

つまり、A&R部門として有る程度の独立性を保ちつつみたいな…」

拒否だ。

こいつは私達のやり方をもう少し学んだ方が良い。

時にはこんな事もあった。

M「メジャーの流通経路を使わせて貰うと言う話はどうっスかね?勿論、幾許かのお金は入れないといけないと思いますけど、完全独立の関係なんで前の話とは違いますよ。検討する価値あると思いますよ?うちに取っても悪い話じゃないと思うんですけど」

なるほど、こいつは有能な奴だ。

普通なら良いニュースだと飛び付くところだろう。

律「そうだなー」
次に続く言葉は驚く事に「拒否」だ。
理由?
感覚的なものだ。

納得しろ。

それが私と唯のやり方だ。

つまり、私達の活動はある種狂信的な信念に支えられていると言う訳だ。

そして最終的にはこう言うこんな感じだ。

M「プロモーションの専門家をいれましょう。そうしないと、例え今度のアルバムが売れても次は頭打ちですよ。それぐらいの金をけちるのはどうかと思いますよ。昔から言われてる損して得取れってやつですよ。」

律「そうして金儲けしてどうするんだよ。いや、私はお金を儲けるのが嫌だって言ってるんじゃないよ?お金があれば、質の良い…だって吸い放題だからね。でもさぁ、まず売るためにってのは違うんじゃないか?」

M「でも、律さん、分かってますか?それじゃ成功はあり得ないんですよ?」

律「それだよ。成功ってなら『YUI』だって成功してた。でも、それじゃ嫌だから私達はここを始めたんだよ。もし、もっと成功したいって言うなら…」

お前がここじゃ無い場所で頑張るしかないよな?

律「取り合えず、次のは半年後発売を目指してるって状況で良かったよ。体制を立て直す余裕があるってことだからな。唯には伝えておくから」

マネージャーの呆然とした表情ったら無かったな。

でも、彼は私達のやり方の学び方が少し甘かったんだから仕方が無い。

取り合えず、速やかにしなければならない事は新たなマネージャーを見つける事だ。

良いマネージャーの条件に、アーティストと同じ方向を見ていると言うのがある。

アーティストと同じオーラを纏う事が出来れば完璧だ。

そう言う人材を探さなければならなくなった。

バイト「律さん、デモテープ今日の分です」

律「置いといて」

バイト「はい」

唯の成功を見て多くのインディーズミュージシャンがデモテープを送りつけてくる。

最初は真面目に。

一週間後には?

音は聞かずに売り込み文だけを見る。

そして見込みがありそうなものだけ。

収穫ゼロ。

二、三ヵ月後には?

机の上に届けられたデモテープの山を見もせずにバーンと。

ん?だからこう言う事だ。

まとめて机の脇のシュレッダーに放り込む。

機密保持の強い味方。

CD-Rも問題なくバリバリにする。

ああ、こんな風に私たちのデモも「バリバリ」されていたのか。

人間立場が変われば昔のことは忘れると言う事だ。

出社してまず最初にやるデモテープ「チェック」。

その日、私は机の上無造作に広げられた山の頂上に懐かしい名前を発見する。

一つ、閃く。

律「よし」

一芝居打つ事に決めた。

後輩のよしみだ。

一応、音も聞いておいてやろう。

一人編成。

ドラムマシンが揺らぎの無い四つ打ちのリズムを刻む。

最初は爪弾くように、それから流れるように。

悪くない。

ギターの感じとか…、あーなんだっけか、確かなんちゃら言うフュージョンギタリストっぽいな(あとで、思い出したけどパット・メセニーのことだ)。

四つ打ちなんだけど手触りがって言うか…。

うん、何度か聞けばより好きになる感じもある。

取り合えず、今すぐ会うんだ。

大柄なフレームのサングラス。

ヴィンテージスタッズ使いの一点ものカスタムレザージャケットにサテンのトップス。

デザイナーズブランドのスキニーデニムをフリンジブーツにイン。

勿論、カチューシャは付けない。

最初に驚かす事が肝心だ。

身長が足りないのは悔しいが、心意気だけは本場セレブにも負けない女社長のお出ましだ。

律「初めまして。私がHTTレーベルオーナー田中です」

偽名です。

日系三世リッチー田中ってのが私だ。

それっぽくない?

革張りソファーに緊張気味の我が後輩。

梓「あ、はい、中野梓です。初めまして…」

律「ああ、座ったままで良いよ。私は音楽を売る、君は音楽を作る。うちでは対等の関係だから」

梓「そうなんですか…」

律「うん。だからもっとリラックスしてよ」

さるくらうまで連続投下して仕事行って来ます。
一応最後まで終わらせてあるんで、
何とかラストまで行きたいので、23:00ぐらいまで保守して頂けると嬉しいです。

・・・


梓「は、はい」

視線があっちいったりこっちいったり。

前髪で隠れ気味の私の表情を覗こうとしたり。

ぷぷぷ。

なんだよ、あの緊張した表情。

梓「あ、あのコーヒー飲んでも良いでしょうか」

律「良いよ良いよ。飲んで?それとも紅茶の方が良かったかな?あ、冷めちゃってるでしょ?入れ直させようか?」

梓「い、いえ大丈夫です。そんなお気遣いは…」

そう言うと、今まで手をつけずにいた冷めたコーヒーを一気に流し込む。

少し落ち着いた?

ふふ、梓は相変わらず『あずにゃん』だな。

梓「あ、あの…」

律「ん?何?」

梓「リッチーさんって、女の方だったんですね」

律「意外?」

梓「い、いえ…」

律「まあねー。いきなりレーベル立ち上げてってのは、日本だとあんま無いかも知れないよね」

梓「リッチーさん、凄いですね」

律「それだけ、唯に惚れ込んでたって事だよ」

あ、ちょっと傷ついた表情。

『私たちより仲良さそうにしないでー』って嫉妬してんのかな。

梓可愛い。超可愛い。

律「そうそう、デモテープ聞かせて貰ったよ。中々良いと思った」

梓「ありがとうございます!」

律「でもさ、何でうちに送って来たの?私はこう言うのもそこそこ聞くからより疑問に思うんだけど、うちみたいなとこよりもっと良いとこあるでしょ?このクオリティならこう言う音を専門にしてる老舗でもって思っちゃうんだ」

私も大概意地悪いねー。

でも、梓と話すのも久々だし、種明かしはもうちょっとだけ先延ばし。

梓「そ、それは…」

律「あ、ごめんね。中野さんを責めてるとかでは無くて、正直な話少し疑問に思っちゃってさ」

梓「あの、二枚目に出した奴の三曲目ってリズムを四つ打ちに完全に差し替えてたじゃないですか。で、キックにもリバーーブかけてたり。それで、そう言う自由さが許されてるなら、今回私が送ったみたいのも許されるかなって…」

律「なるほど…」

梓「その…、あとは新しいレーベルってのが良いなって。メジャー傘下の形だけインディーズじゃなくて完全にインディーズと言うのも良いなって」

まだまだ、本心隠すね。

良いよ?
もう少しこう言うのを続けよう。

律「それと…、送ってくれた曲ってギターは生演奏じゃない?あれだけ弾けるのにバンドとかやってなかったの?」

梓「あー…」

律「言いにくい?出来れば言いたく無い?」

ちょっと、表情が硬い。

意地悪が過ぎたかな。

梓「いえ、構わないです」

律「気を悪くしたら、ごめんね?でも、うちでこう言う風にデモ送ってくれた人と話すの中野さんが初めてだから。うん。突っ込んだ話がしてみたいってのもあるんだ?」

梓「構わないです。それにそんな大した事でも無いんです。どこにでもある話って言うか」
律「うん」

梓「少し前にちょっとバンドで揉めちゃって、あの、そのバンドは本当にオーセンティックなジャズをやろうって感じだったんだけど、私はそれがつまらないからって、もっと色々な事やって見れば良いのにって思ってて、それで…」

律「ぶつかっちゃったって訳だ?」

梓「結局、ザッパが言った通りだと思うんですよ」

律「ああ、死んじゃいないけど、ただ変な臭いがするって奴?」

梓「それです。他のメンバーはそれが分からなかったんですよ」

律「それで自由にやってみたって訳だ。でもさ?」

梓「何です?」

律「そんなバンドをやるぐらいだし、元々ジャズっぽいのが好きなんじゃ無かったの?」

さあ、こっからが本題。

梓「ええ、親がそう言う感じだったんで…。気が付いたらって感じですよね。でも、音楽的に衝撃を受けたのは高校の時でした」

律「ちょっと興味ある」

梓「私、高校時代にも部活でバンド組んでたんですよ」

律「へー、それもジャズ系?」

梓「いえ、それが違うんですよ。全然普通のガールズポップバンド」

律「良く分からないな」

梓「実際、最初はジャズ研に入ろうと思ってたんです。
でもそれまでの好みとか、ポップスって言うネガティブさとか、そんなの吹っ飛んじゃうような、それ以上の衝撃があったって言うか。
テクニックとか全然大した事無かったんですけど、その先輩が弾くと凄いんですよ。
一言で言うとノれたんですよね」

私はまだその時には気付かなかったんだよな。

私はまだその時には気付かなかったんだよな。

気付けなくてごめんな?

それで、きっと澪の事も傷付けてたんだよな。

律「その先輩に衝撃を受けたんだ?」

梓「ええ。凄くその先輩に影響受けてると思います、音楽をやる上で。だから、大学入ってからバンド組んだんですけど、その時みたいなワクワク感が感じられなくて…、だから、ちょっと揉めちゃったって言うか…」

律「その先輩は今どうしてるの?」

梓「それは…」

クスッ、どう答えるかな。

律「その先輩と一緒に音楽をした方が良いんじゃないの?」

梓の性格なら、ファンだったり、増えすぎた親戚みたいな扱いをされる事を嫌うはず。

さあ、どう答える。

梓「…」

律「…」

梓は一つ息を吸い込む。

準備OK?

梓「あ、あの、こう言う言い方は傲慢かも知れないですけど、CD一枚も出してないような、自分の力で何も出来ないような状況じゃ、あの人と一緒にやる資格無いと思うんです。
だから、そう言う事もあって、あの頃の自分とは違う音を作って送ったつもりです」

律「そっか」

梓「はい…」

さあ、面接が終わって自分がどう評価されたかが気になってるね。

まあ、私の答えは決まってるんだけどさ。

律「うん。取り合えず検討するよ」

梓「あ、はい。お願いします」

律「まったく、評価して無かったらここに来て貰って無い。でも一応、唯と相談してね。あいつは一応共同オーナーみたいなもんだからさ」

また、嫉妬の表情。

可愛い超可愛い。

律「今回はこんな感じだけど、何か聞いておく事ある?」

梓「あ、えっと…」

律「ん、何?」

梓「HTTレコードってのは誰の命名で、どんな意味があるんですか?」

保守ありがとうございます。
帰って来たら規制喰らってた…。
・・・

絡め手で来たねえ。

さて、最後にちょっとだけからかわせて貰おうかしらん?

律「Hang Tumb Tumbって分かる?」

期待してた答と違うでしょ?

唯がいてHTTならって、期待してたでしょ?

梓「…」

律「イタリア未来派の詩人マリネッテイの詩のタイトルで、機関銃の発射音を表して…」

梓「嘘ですよね?」

あれ?

何か睨んでる…。

梓「それZung Tumb TumbでZTTレコードの由来じゃないですか」

あはは…、良く知ってたなー…。

梓「それに…」

梓、その目つきちょっと怖いぜ…。

あ、サングラス取られた!

梓「律先輩!!」

ばれた…。

律「あはは…」

梓「途中から、何かおかしいと思ったんですよね」

律「でも、最初のあの緊張の仕方と来たら…」

梓「あ、あれは!?」

律「『唯に惚れこんで~』の下りでのあの表情と言ったら!『唯先輩を取られちゃう~』って表情だったよなぁ?」

梓「律先輩!!」

律「『ザッパが~』」

梓「勘弁して下さい…」

もうちょい、引っ張ろうかと思ったけど、いじれたからまあ良いか。

律「じゃ、行こうぜ?」

梓「え、どこに…?あ!」

律「そ、唯の家に。久々の再開パーティ、いやティータイムか?それをしようって話」

梓「で、でも、あ、えっと、良いのかな…。大丈夫ですか?」

律「Fuck off!」

梓「えっと…、良くない…ですかね、やっぱり」

律「ばっか、このときのFuck offはOf course you fuckin’ canって事でさ。
ロックンローラーの定番的言い回しだろ?」

律「どうした?早く乗れよ」

梓「律先輩…、凄い車乗ってますね?」

律「へへ、格好良い?最新のキャデラックだぜ?内装は特注でりっちゃんのイメージカラー黄色にしてみました。
あとエンジンもルーツ式ブロワー付けてノーマルに100hp上乗せで400hp以上出してんだぜ?ホイールは22インチ。24でも良かったんだけど、あんまハイトが低いと乗り心地悪くなんだろ?」

梓「はぁ~」

ため息つきやがった。

この野郎。

ビビらせてやる。

アクセル一踏みで、一気に加速。

梓「うぁ!?」

油断しててシートに後頭部をぶつける梓が面白すぎる。

梓「…」

梓、何こっち睨んでんだよ。

梓「こんなのにお金突っ込んで馬鹿じゃないですか?」

もう一発。

今度は急ブレーキ。

イタリア製モノブロック8ポッドの威力を見せてやろう。

シートベルトが伸びきって頭がガックン。

わはは、舌噛まなくて良かったな。

律「梓良い事を教えてやる。セレブたるもの乗り物にも気を使わなければならんのよ?」

梓「今のハリウッドセレブはハイブリッドに乗ってますが?」

律「いやいや、ロックンロールの文脈ではMy baby up in a brand new caddilac♪ってのが正解だろ?」

梓「クラッシュですか?随分な分かりやすさですね」

律「な!?違ぇし!ヴィンス・テイラーだし。大体、その言い方ジョーに失礼だろ」

梓「同じ曲じゃないですか。それに、そんな外交官の息子の事なんか知りませんよ」

律「な?!」

梓「…」

律「なんだよ…」

梓「あははは」

律「なんなんだよ!」

梓「律先輩変わらないですね」

律「へへ、梓も変わらないな。性格もだけど、ルックスもさ」

梓「む…。これでも身長少し伸びたんですよ?」

律「何ミリ?」

梓「もう、知りません!」

律「へへ、わりいわりい」

変わらないよ。

やっぱり、お前は可愛い後輩だ。

律「And now, the end is near

And so I face the final curtain

You cunt, I´m not a queer

I´ll state my case, of which I´m certain

I´ve lived a life that´s full

I've traveled each and every highway

And more, much more than this

I did it my way♪」

私は良い気分で鼻歌。

梓はさっきまでと打って変わって真剣な表情。

梓「ねえ、律先輩」

律「んー?」

梓「私の曲リリースするつもりですか?」

律「それはどう言う意味で?」

梓「いや、知り合いだからって言うか、コネでって言うのは、ちょっと…」

律「梓はどうしたいんだよ?」

梓「…」

ああ、そうか。

わざわざ、うちにデモを送って来たのは唯がいるからだもんな。

自分の存在を唯に知らせたかったからだもんな?

律「梓はさ、また音楽を唯とやりたいんだろ?」

梓「?!」

そんなびっくりした顔するなよ。

私だって、色々経験したからこうしてレーベル運営なんてしてるんだぜ?

経験は人を鋭くさせるものだろ?

梓「正直な希望を言えば…、でも…」

律「自分はそのレベルに無いんじゃないか、と」

梓「はい、いや、ちょっと違うかな…、いえ、それもあるかも知れないですけど…」

律「さっき言ったけど、梓の作ってきたやつあれは演技とかでは無く、正直な感覚として悪く無かったと思うけど?」

梓「最初唯先輩の曲聞いた時に、バンドの事もあったし、『私こんな事してる場合じゃない』って思って、すぐデモ作って…。
で、律先輩から、と言うかその時はそうだと知りませんでしたけど、レーベルから連絡が来た時は本当に嬉しかったんですよ。
唯先輩の出してるレーベルから評価されたんだ、私にも資格があるんだって。でも…、でもですよ…」

律「その評価を求めた相手が友達だと、その評価が本当か自信が持てない、と」

梓「ええ、そうです…。それにその作ろうと思った自分も信頼出来なくなっちゃって…」

風呂入ってました。
・・・
律「どうして?」

梓「また唯先輩とやりたいとか、横に並びたいからとかそう言う事なのかも知れないって思っちゃって」

律「それの何が問題なんだ?」

梓「だって、それってロックスターになりたいからプロを目指すって言うのと同じじゃないですか。不純ですよ。そんなんじゃ資格無いですよ」

律「梓、お前複雑に考えすぎだよ。お前の中にあった何らかの衝動に火をつけたのは唯の曲。で、その凄い唯と何かやってみたい。そして、表現するための方法論やその内容は取り合えず梓の中にあった。それで良いじゃん」

梓「律先輩…」

律「何だよ?」

梓「律先輩の考え方ってちょっと普通じゃないですよね」

うわっ、ストレートに失礼っぽい言い方されたぞ?

律「どう言う意味だよ」

梓「凄いって事です。私、律先輩のこと舐めてました」

わはは、私は凄いんだぜ?

ん…?

どっちにしろ、あんまり評価してなかったって事じゃねーか。

この野郎。

梓「でも、そうですよね。律先輩はあの唯先輩の横にずっといたんですもんね…」

梓…。

私こそ、中野梓と言う人間を舐めてたな。

唯の名前を見て寄って来たんだから、マネージャーをやらせておけば満足するだろうってのは随分と相手を馬鹿にした考え方だ。

梓「唯先輩の、あ『YUI』の方じゃなくてですよ?曲凄いですよね。メロディーがとか、テクニックがって言う言葉だと、薄っぺらい捉え方しか出来ない感じ…」

そりゃ、そのどっちもがアティチュードを伴わなければ薄っぺらいもんだからな。

梓「その、なんて言うか…、凄いって一言で済ますのが一番しっくり来ると思うんですよ」

律「ああ、唯は凄いやつだよな」

梓「律先輩?」

律「何?」

梓「何で最初の曲を録音する時にドラム叩かなかったんですか?その…、叩きたいって思わなかったですか?」

律「唯がメジャーでやった時、私は何をしてたと思う?」

梓「?」

律「唯のマネージャーをしてたんだよ」

梓「そ…、う…、なんですか…」

律「だからさ、もうそこら辺は随分前にな…。はは、大体私より唯の方が上手く叩けるんだぜ?」

そんな言いにくい事言わせたような表情するなよ…。

私はそこら辺に関しちゃもう吹っ切れてるんだぜ?

律「たださ、私はそう言う感覚よりも、唯が作る音楽を世に出したいってのが強かったからさ」

梓「そう…、ですよね…、でも…」

梓、泣いてるのか…。

ふふ、やっぱりこいつは可愛い後輩だ。

柄じゃないけど、頭撫でてやるぐらいのことはしてやるよ。

梓「律先輩…」

律「うん?」

梓「ちゃんと前見て運転して下さいね」

律「お前なぁ…」

梓「あ、ありがとうございます…」

でも、ぼそりと呟くのが聞こえたから許してやる。



梓「そう言えば、ムギ先輩や澪先輩とは連絡取り合ってるんですか?」

律「ムギからはちょい前にメールあったよ。イギリスの輸入盤屋で唯のCDを見つけたって。
へへ、そんで『なんで、教えてくれないの?ヒドイわ』って怒られちったよ」

梓「へー、ムギ先輩らしい反応ですね」

律「だよな」

梓「ムギ先輩はまだイギリスなんですか?」

律「あ、いや、向こうの支社に勤務で、もう日本には『来る』って感覚なんだってさ」

梓「はー、凄いですね…」

律「なあ、でもさ?向こうに住んでるムギにも、唯の事が届いたってのは、凄いと思わない?」

梓「良く考えれば、そうですよね」

律「だろ?『YUI』をいくらやってたって、ムギには届かなかったと思うぜ?それ考えたら、私たちの感覚は間違ってなかったって思うだろ?」

梓は改めて、感心したような表情で私を見る。

よせよ、照れるぜ。

でも、もっと褒めてくれ。

I Wanna Be Adored.って感じ?

梓「あ、えっと…、澪先輩は…?澪先輩もレーベルスタッフだったり?」

律「いや…、えっと…、澪とはもうずっと連絡取って無いんだよ…」

梓「どうして…、あ、すいません…、その詮索する気は無いんですけど…」

その表情からは聞きたいって感情しか読み取れないなあ。

良いさ。

隠すつもりも無いんだ。

梓は他人じゃないしな。

律「梓が大学のために東京行ってから、ずっと3ピースでやってたんだよ。ライブもそこそこ埋められてたし、物販のCDもちょこちょことは売れるようになってたんだ。
私はそれに満足してたし、唯は…、まあ何も考えて無かったと思うけど、澪もそれなりに満足してたんだと思ってた」

でも、そうじゃなかった。

律「そんな時、澪が辞めたいって言い出してさ。あとは、唯を頼りにデモ作ったら、それがメジャーのセレクトに引っ掛かって、デビューして、嫌になって今に至る、と」

満足して無い表情だな。

梓「そう言うもんですか?」

律「あー、分かったよ。私が思ってるだけだから、澪が実際どうだったかは分からないんだけどさ、恐らくこう言う事だと思う」

ある種の突出した存在は、他を抑圧し後退りさせる。

良くある、そう本当に良くあるバンドが悪くなる時の典型例でしか無いんだが、まあそんな感じだったのだと思う。

お決まりの言葉で繋げてみる。

「つまり、こう言う事だ」

唯の存在は澪にずっとプレッシャーを掛け続けていて、最後には消滅させてしまったと言う事だ。

本当はもう少し複雑で、唯の才能の片鱗をプレッシャーに感じながら、またそれを表出させない唯に苛立ちも感じていた。

さらに言うと、そう言うアーティスト的な嫉妬心と、それを大事な友人である唯に抱いていると言う事に対する罪の意識。

それに耐えられなかったのでは無いか、と言う事だ。

律「と言うのが、私達と澪に関して私に話せる全て。勿論、澪の話を聞ければまた違うのかも知れないけど…、恐らくはこう言うことだと思う」

梓「…」

律「そんな顔するなよ」

梓「それはそうですけど…」

律「そりゃあ、その時は怒り…、いや絶望の方が強かったかな。
だって、そうだろ?一緒にやって行くもんだとばかり思ってて、それ以外の可能性なんてこれっぱかしも考えてなかったんだからさ。
それを一人途中下車ってどう言う事なんだ、ってさ」

梓「すいません…」

律「いや、梓は謝る必要無いだろ」

梓「最初に抜けたのは…」

私はもうツインテールはやめている梓の毛先に手を伸ばしていじる。

梓「止めて下さいよ…」

へへへ…。

それと同じだよ。

何か、不愉快に近いけど、そうとも言い切れなくてくすぐったい。

律「もう、この話はやめようぜ。澪には澪の人生がある。ムギだって今こっちに戻って来て一緒に出来る訳じゃない」

梓「はい…」

律「さっき言った様に理由はいくらだってあるんだ。でも、それだけで説明が付く訳じゃない。だからこれでおしまい」

梓「合鍵なんか持ってるんですか?」

律「例えば、どうしても遅れてはならない時」

梓「はぁ」

律「モーニングコールを鳴らす」

梓「はぁ」

律「唯が電話だけで起きると思うか?」

梓「思わないです」

律「そう言う事だよ」

相変わらず、散らかしっぱなしの玄関だな。

見ろ、梓が呆れてるじゃないか。

大体、スニーカーばかりと言うのが良くない。

あ、勿論高校時代に好評だったマーチンのチェリレもある訳だが、あまり女らしいとは言いがたい。



私がプレゼントした、ジミー・チューは…。

ちっ、箱から出してもいねえ。

ま、まあ、良いさ。

ナスティーな風体ってのもロックスターの必要条件だ。

律「おーっす、唯~、いるかー?」

返事は返って来ない。

また、奥の部屋か…。

律「上がるぞー」

あー、くそ、脱ぎ辛いな。

誰だ、今日はブーツでって考えたのは?

私だー。

梓に見栄張るためにルブタンのフリンジを…。

律「あ、梓も上がって良いぞ」

梓「で、でも…」

律「気にすんな。唯も気にしやしないよ」

梓「そ、そうですか…」

まず、居間。

脱ぎ散らかされたTシャツやパンツ、下着を拾い集めながら進む。

律「梓、これ隅にまとめといて。帰る時にクリーニングに出してこう」

梓「は、はい…」

ソファの上には食べかけのスナックの袋。

好物のアイスの袋を床にポイ。

やっぱり、この部屋か…。

奥の部屋の扉を開ける。

部屋中に広げられたCDやレコード。

そして、ノートPC、ヴィンテージを含む数台のシンセや録音機器、ターンテーブル、ミキサーetcそして高校時代からの相棒ギブソン・レスポール。

そして、他の物に比べれば申し訳程度の量かもしれないが、それなりの量と言える酒瓶や破り捨てられた小包。

注射器が無ければ良いさ。

私は唯の言うように60年代の大流行したそれが一番だったが、唯は何でもありだった。

ここは、音楽と自身の身体に関する唯のラボラトリー(パレルモ研究所みたいなもんかな?)
で、勿論実験の材料となるのは唯自身の身体だ。

発明した音楽を自分の精神で試し、薬は自分の身体で試す。

アイマスクとヘッドフォンで完全に外界から遮断された唯が座ったまま身体を揺らしている。

梓は…。

梓「…」

まあ、当たり前か。

律「ほら、憧れの唯先輩だぞー」

梓「はぁ…」

しゃあねえ。

色々踏み潰さないようにつま先で抜き足差し足。

アイマスクもヘッドフォンも一気に…。

律「よぉ」

唯「あ、りっちゃん…」

律「こう言うのはよせって言ったろー。ヘッドフォンだけにするとか、ノイズキャンセリング機能のは無しにするとか。
火が出たりしても気付けないだろうよ」

唯「大丈夫だよぉ…」

律「大丈夫じゃねーから」

唯「むー…、ところで、何か用?」

律「客連れて来た」

唯「お客さん?誰?」

私は部屋の入り口で固まっている梓を指差す。

梓は照れたような顔で、小さく手を振っている。

何だよ、抱きついてやりゃあ唯も喜ぶのによ…、って、

律「あれ?」

唯「わぁ!あずにゃんだぁ!!」

速っ!

しかも、何も踏み潰さずにあの距離を一気に!?

私は、梓に抱きつき頬を擦り付ける唯を見て、一瞬高校時代に帰ったかのような錯覚に陥る。

しかし、部屋中に落ちている小包は既に高校時代がはるか昔である事を示していて、私を高校時代は連れ戻し切らない。

唯「あずにゃ~ん」

梓「ちょっと、唯先輩…。もういい歳なんですから…」

唯「あずにゃんはあずにゃんだよぉ~」

おっと、梓こっちを見ても私は助け舟なんか出さないぜ?

アーティストに気持ち良く仕事をさせるのも社長の仕事だ。

看板アーティストと後輩を天秤に掛けたら針はアーティストの方に振り切るのは避けられない。

・・・

梓「もう、律先輩も助けてくれれば…」

律「ばっか、せっかくのサプライズゲストなんだから、しっかり唯に楽しんで貰わないと、なぁ唯」

唯「そうそう、久々のあずにゃん分をしっかり補給させて頂きました」

唯は後部座席に座り梓の身体に手を回したまま上機嫌に答える。

梓「唯先輩…、そうやって舌でペロリと口の周り舐めながら言うの止めて下さいよ」

唯「え、何で?」

梓「何だか、汚された気分になるからです」

唯「ひ、ひどいよ、あずにゃん…」

律「へへ、良いじゃないの、本当に久々で唯だってそう言う気分だったんだよ」

梓「そ、そりゃあ、私だって懐かしかったですけど、ものには限度ってものが…」

唯「ひどいよ、あずにゃんはもう私のこと何とも思ってないわけぇ?」

梓「そんな事無いですけど…」

唯「じゃあ、こうしても良いんだ!」

梓「あっ?!」

律「おい、あんま暴れんなよ。大体、唯はシートベルト締めてないじゃんよ」

唯「大丈夫大丈夫」

律「駄目だろ」

唯「いやあ、コンソールボックスの中のもの見つかる方が駄目でしょ!」

律「うっせ」

唯「大丈夫だよねー、あずにゃん!!」

また、唯はギューと梓を抱きしめシートに押し倒す。

梓「ゆ、唯せんぱい?!あっ…」

律「お前ら、人の言う事を聞けよ…」

・・・

唯のこのテンションは飲み屋に行っても続いていた。

梓は何度唇を奪われたか分からないし、私もおでこにキスを浴びた。

精神(音楽)と身体(薬)の研究者としての唯では無く、高校時代と地続きの唯な感じで。

人はあらゆるものになれる。

人は完全に変わってしまう事は無く、ちょっと別の姿になる方法と言うのを見つけるのだ。

唯「ねえ、りっちゃん」

酒は随分回っているようだったが、意識ははっきりしていたし、酒が回って意識がスローになっている分だけ落ち着いているように見えた。

唯も梓も。

そして、私も。

律「何だー?」

唯「私さー、一体、いつになったらあずにゃん、連れて来てくれるんだろうって、すっと思ってたんだよー?」


梓「どういう事です?」

唯「だからぁ、あずにゃんがテープ送って来てくれたでしょ?」



律「あー、えっと?何でデモテープの事、唯が知ってんだ?」

唯はしまった、と言う顔をする。

唯「えーっと…、えへへ、もう、いいよね…。言っちゃうね」

梓「え?え?」

梓のテンパりを見てて私は少し落ち着く。

唯「あのね、デモね、いつもりっちゃんのとこに持ってくよりも先に私のとこに持って来て貰ってたんだ」

律「あー…」

唯「ごめんね?だって、りっちゃん、最近ちゃんと聞いて無かったみたいだし」

律「いや、私は構わないけどさ…」

唯「だから、あずにゃんがデモもいち早く聞かせてもらっていたのでした」

律「梓がさ…」

梓は酔いがすっかり醒めた様子で悶えている。

唯「あずにゃん、可愛いー」

梓「唯先輩、悪趣味ですよ」

唯「何で~?だって、聞かせたかったから送って来たんでしょ?」

梓「それはそうですけど…」

唯「結構良かったよね、あの曲。身体動いちゃうもんね?」

梓「あ、ありがとうございます…」

唯「あ、でもね、フュージョンぽいギターを乗っけるアイデアは良かったと思うけど、普通のポップスみたいにAメロBメロサビって構成作っちゃってるでしょ?
そうじゃなくて、ベースとドラムは一小節ループで作って、その上に乗っけるような感じでやった方がもっと良かったかな」

梓は酔いも醒めたような表情で言葉を失っている。

唯「展開の無さって言うか、何だろ…、ミニマルさの美学?を生かすようなフラットな形にした方が良いと思うんだ。
勿論、転調とかも無し。上モノ自体には展開あるし十分でしょ。
だって、あんまり展開が多いとリラックス出来ないからね…、って、あれ?どうしたの二人とも」

律「あ、いや、ちょっとな」

唯「ふーん、変なのぉ」

律「あ、そこのマンションの地下駐車場に入れてください」

私は、運転代行に指示を出す。

唯は後部座席で酔い潰れている。

梓も当然あまり良くない酔い方をして、ドアにもたれていた。

律「ほら、唯、着いたぞ…」

唯「あぅ…、足…、利かない…」

律「ばっか、お前ちゃんぽんに飲みすぎだよ…」

唯「だってぇ…」

律「梓、ちょっと肩貸して…」

梓「は、はい…」

私と梓はやっとの事で、唯を部屋まで連れ帰るとソファに横たえる。

律「あー、すっかり酔いが醒めちまったよ」

梓「私は…、う」

梓はトイレに駆け込む。

仲間なんだから、そんな重く受け止める必要なんて無い。

勿論、唯には悪意なんかある訳無いし、梓の作ってきた曲だってあれが完成形だったと言う訳でも無い。

まあ、そこら辺は実際には梓にしか分からない訳だけどさ。

私はベランダに出ていつものようにジョイント(レバノン産の上物だ)に火を着ける。

律「もう朝か…、ん?」

梓か。

律「もう、ゲロは大丈夫なのかぁ?」

梓「はい、何とか…」

まだ、あんまり大丈夫そうには見えないけどな。。

律「あんまさ、重く受け止める必要ないと思うけど?」

梓「そうですかね」

律「そうだろ」

梓「私、傲慢ですよね。天才でも無いのに」

私は梓の頭をはたく。

人間慰めて欲しいし、形としてちょっと責めて欲しい時はある。

律「そう言う態度の方が傲慢だろ」

梓「そうですかね」

律「ああ」

梓「ねえ、律先輩」

律「んー」

梓「ここで私に何か出来ることありますか?」

さて、どうしたもんだろう。

今はA&Rなんて碌に行う気も無い。

レーベルの金融的義務なんてものを考えてもいない。

やっぱりマネージャーか?

でも、それも梓のあんな告白を聞いた後では有り得ない。

律「なあ、梓がさテープ送って来てくれたじゃん?」

梓「え、あ、はい…」

律「あの時さ、丁度唯のマネージャーやってた奴を止めさせた時だったんだ」

梓「えっと…」

律「いや、仕事も出来たし、色々考えてた奴だったんだけどさ、ちょっと私の考えるレーベルってのとは考え方が違ったって言うか…。
だからさ、梓がテープ送って来た時に、『しめた!』って思ったんだよ」

こう言う時に隠し事をしたり、騙したりって言う手口は使いたくない。

律「随分梓のこと舐めてたって言うかさ…、特に梓のああ言う心情を聞いちゃった後だとな。
だから、『私に出来る事』って言われても、私からは…」

梓「…」

律「だからさ…、ん?」

梓?

何で笑ってるんだ?

梓「律先輩、何で私がやれる事がマネージャーしかないって決め付けてるんですか?」

律「いや、だって、お前…」

梓「それに、スケジュールを管理したりってそれこそ本当にマネージャーってだけなら、バイトみたいなのでも良い訳じゃないですか」

律「そりゃあ、まあ…な…」

梓「でも、その新顔のマネージャーがどう言う人間だったか知らないですけど、会社のやり方に大きく関わるようなアイデアを勝手に実行しようとするなんてのは、
その人間が相当に傲慢か、それか律先輩が怠け病を患ってるって事を簡単に見抜けられ過ぎるって事ですよ」

澪は以前Don’t Say Lazyと歌った。

それで私はLazyitisってか?

律「ちょ、梓、お前なぁ…」

梓「私なら律先輩がどう言うつもりでこのレーベルをやってるかって事も良く分かってるし、それにずっと前から仲間じゃないですか」

ああ、そうだな…。

梓が手を差し出す。

律「梓…」

梓「肩書きはクリエイティブマネージャーで良いですから」

私は笑って答える。

律「言ってろよ」

私は手を握ろうとして、でも引っ込めて

梓「律先輩?」

律「へへ、こう言う時は唯も含めて、だろ?」

梓に気付かされたのだけど、私がやりたかったのはレコード会社じゃない。

そう、ある種の理想主義的に支えられた共同体って奴だ。

だから、これは凄く良い流れだ。



・・・
切りの良いところで寝落ちします。
一応、これで丁度3/2ぐらいです。
宜しければ、保守お願いしますします。

最後まで終わらせてあるけどのんびり貼ったから終わらなくて保守よろしくってのはどうなの
面白いから保守するんだけどさ

眠れないので、ちょっとだけ投下します。

>>341
申し訳ない。
さる喰らわないように、5分は開けて投下するようにしてた、

・・・

梓の加入は色々良い影響を与えた。

まず、親がセミプロで、自身もまたプロ志向が強かった梓は私達とは違う方面で色々な人脈を持っていたし(例えば地方のそれなりに力のあるライブハウスオーナーと知り合いだったり)、
他にも大学時代のサークルの仲間には売り出し中のDJがいたりした。

梓はそんな連中を唯に会わせては、ちょっとしたシンパみたいなものを増やしていった。

また、唯に取っても梓に連れられて外出する事はそれなりに刺激を得る経験のようだった。

梓「ねえ、そろそろライブをやって見ませんか。結構引き手あるんですよ」

唯「うんうん、やるよ!やりたい!」

律「そうだな、面白いかもなー」

梓「まずは主要都市で」

律「その内に全国48箇所で」

三人が三人ともキョトンとして、それから爆発。

梓「実際、そう言う日も遠く無いと思いますよ?」

律「キャパはどれぐらいで行く?」

唯「箱よりもPAの方が重要だよ。でっかくて地面からドンドン響くような奴じゃないと」

律「地面にスピーカーが埋め込んであってか?」

唯「そうそう、そんなのがあったら、うっとりしちゃう」

梓「じゃあ、どちらかと言うと低音が出せるような…、クラブとかの方が良いですかね」

律「そもそもロックンロールだって踊るための音楽だからな、身体が揺れないとな」

梓「じゃあ、そう言う感じのとこを押さえますよ」

律「編成はどうする?」

唯「一人で出来るようにもしとくけど…。あ、でもギター、ベース、シンセオペレーターとドラム、あとパーカッションを用意して欲しいかな」

律「オッケ。前やってくれた人達で唯が良い感じって言ってた人らにまず声掛けてみるよ」

自分に出来る事を補い合いながらする。

注文が来た分だけCDを追加プレスをするのなんて、誰にでも出来る事だ。

自分が一番既存の形に囚われていたとはお笑いだ。

唯が意見を求められれば感想も言うし、アイデアも出す。

昔みたいな感じで、ちょっとジャムってる中「お、今のリフ良くね?もう一度」なんて感じで。

まあ、私にも梓にも出せるものなんてそれほど無いのだけど。

特に梓はジャズを通して古典的な音楽理論も知っていたが、それもあまり関係が無い。

凡人は天才の作品をあるがままに世間に出す。

それ以外の方法があるかと言う話。

ああ、そうそうライブの話だったね。

凄かった。

前に私と唯がヘロヘロな音でやったライブなんかより数倍凄かった。

あれを私は「歴史に残る」と強がった。

あれは歴史に残らないかも知れないけど、今回のは歴史に残る。

唯は覚醒したままステージに上がり、ギターを弾いて、キーボードを弾いて、ドラムを叩いて、
そして身震いするように歌い踊った。

スイッチを入れると電気はパッと点く。

切るとパッと消える。

それを繰り返すみたいにパパパッと動く。

その都度、音も変化する。

観客は唯の生み出すバイブに飲まれていた。

いや、ずっと側で見てきた筈の私も梓もだ。

この凄さを分かりやすく伝えようとすると…。

そうだな、「凄ぇ!私達の前にイギー・ポップがいる」と言う感じ。

唯の入れ込み様も度が過ぎるぐらいで、アンコールのラストの曲の時ちょっとだけ怖い思いをした。

曲自体は終わろうとしていて、でも唯が最後にPCを操作しないので、
打ち込みのリズムパートは延々リズムを刻んだままで、唯はそれに合わせてハミングして踊り続けてしまっていた。

唯の踊りは獣みたいに段々動きを激しくしていって、遂にはステージ上で転倒してしまう。

私と梓はやっとそこで問題に気が付いて唯をステージ上から引きずり下ろす。

幸いにも、曲が丁度リエディットされたような形になっていたので、客は踊ることに熱中していて気付かない。

私達は曲を徐々にフェイドアウトさせて、ステージの照明をバーンと消す。

客はそれがいかにもなアーティストらしい演出だと勘違いし、ちょっとした混乱を起しつつ退場していった。

律「おい、大丈夫か?!」

梓「唯先輩!」

唯は、むくりと上半身を起して

唯「えへへ、決まってる時に足上げて踊るとやっぱり駄目だね…。あんまり気持ち良かったから、そこんところ忘れちゃってた…」

律「ばーか…」

私と梓は胸を撫で下ろして苦笑する。

唯もニヤニヤと笑っていた。

皮肉な言い方になってしまうけど、
こんなちょっと良い話を実演してる時でも、私は見逃さない。

唯の口角に乾いた大量の泡が付いていた事を。

次の会場からは、唯もマナー(何の?なんて無粋な事は聞かないでくれ)を覚えたのか特にアクシデントも無く過ぎた。

ライブの出来はまた別の話で、「特」別に凄かった。

まず、同じ曲でも、同じ様には演奏しない。

それと、何時作ったのか私達も知らない曲を一つか二つ持ち込んでいて(データをHDで持ち込んでそれをPCでリアルタイムに操作しながらシームレスで繋ぐんだから、分からないんだ。正確には3曲かも知れないし、4曲かも知れない)、
いくらセットを決めるのは、私や梓があまり手の出せない仕事とは言え、ちょっとその時の驚きと言ったら無かった。

本当にエクスペリメンタルで、でも同時にパワフルでエモーショナルだった。

私達はレコード会社じゃないから、私も梓も一緒に一つのツアーバスで三都市を巡った。

まず最初に私達は友達だし、唯は天才ではあるけれど、気難しい自惚れ屋って訳でも無かったから(勿論他の外の連中に対しては分からないけどさ)、
「私はロックスターだし、50席以上のプライベートジェットにしか乗らないから」と言う事も無いからね。

私達は既に貧乏バンドと言う訳でも無かったからのんびりしたもんで、色んな寄り道をしながら…。

初SSです。


・・・
ああ、そうだ。

性的なシーンと言うのは、挿入すべきでないよね。

特にそれが、そこら辺の男の子やファンの子を何人か札束で引っ叩いて買って、バスに連れ込んでドラッグ塗れのセックスをしたなんて言う感じの話だったら。

でも、例えばこれが男のロックスターだったら、そう言うサービスをしてる女の人(グルーピーの女の子でも良いんだけどさ)を買ってバスでセックスしながら移動するなんてのは良く聞く話で、
じゃあ私達が女の子だったら、どうしてそれをしちゃいけないって言うんだい?


詳しくは書かないけど、この経験で一番びっくりしたのは、
男だってあまりにハッピーになると、
アナルに双頭バイブ突っ込んで二人一緒に絶頂に至るって事もあるって事だな。

別に、札束で頬引っ叩いて「お前ら二人で気持ちよくなって見ろ!」なんて酷いセリフを吐いた訳じゃないよ?

嘘じゃないよ?

でも、そもそもの話、ここで書いた事の全てが私達のロックンロールライフを誇張するための嘘かも知れないしね。

虚構と現実とでそれを聞いた人々が面白いと思った方がいつか本当の事になっていく。

ロックンロールに纏わる逸話と言うのはそう言うものだよね。

私達のライブツアーに関しては、ある日の会話だけをここでは記しておくけど、
これだってロックンロールの世界に生きる人間ならドラッグぐらい任せておけって言う、姿勢を匂わせてるだけかも知れないしね。

唯「ねえ、あずにゃんはコカインはやらないの?」

梓「私はEだけで十分ですねー」

律「唯、コークは止めときな」

唯「何で?」

律「コカインはスーツ族御用達の薬で、才能を枯渇させるって言うし」

唯「あはは、それじゃあ私はやっても大丈夫だね」

律「ばっか、そんな事ねーだろ」

梓「そうですよ」

唯「あはは、攻撃的になってみました!みたいな感じが駄目とか?」

律「だから、周りからすれば止めろって話さ」

梓「まあ、過去のロックスターの凋落もコカインが原因て言い回しは、定着してますしね」

唯「攻撃的になって見ました!自信過剰になって見ました!」

律「だからぁ、ハードドラッグん中でもそうなるのが良く無いって話なんだろ?」

唯「あはは」

このライブツアー終了後、唯はちょっと有り得ないぐらいのペースで曲を作り始めた。


唯「ねえ、りっちゃん?」

律「んー?」

唯「何枚か変名で出したいんだけど」

律「良いんじゃね?」

即決。

これが、私達のやり方だからだ。

律「でも、どうして?」

唯「んー、ちょっと違うスタイルでやってみたいから?」

律「どんな感じで」

唯「一つは普通にちょっと変わった感じで。もう一個はあずにゃんにメインでやってもらって、私はエンジニアを主にやる感じで」

律「面白そうだな」

唯「ね?良いでしょ?それとさ?」

律「まだ何かあるのかぁ?」

唯「りっちゃん、一曲歌って?」

ブフゥッ!

コーヒー噴いた。

律「おいおい…」

唯「カラオケでボーカルトレーニング積んどいてね」

律「私はアーティストじゃないんだぞ」

唯「今回はそう言う感じでやりたいんだってば」

…。

そう言う感じってヘタウマ感とかそう言う感じか?

…まったく。

このプロジェクト。

自分名義。

変名。

同時三枚リリース。

シングルじゃなくて、アルバムをね。

そこから、何枚かシングルカット。

セルフリミックス。

梓によるリミックス。

梓が連れて来た知り合いによるリミックス。

この前のツアーとこのリリースラッシュで私達はさらに有名になった。

楽曲提供、リミックス。プロデュース、フューチャーリングの依頼がひっきりなしだ。

スポークスマンは私が勤めて、唯自身はインタビューなどには顔を見せ無かったので、
平沢唯は複数名によるプロジェクト説が飛び出したりしたのが面白い。

結果、私も『平沢唯』の一員と言う風に捉えられているらしい。

肯定も否定もしない。

神秘のベールは人をより大きく見せる。

インタビュアー「では『平沢唯』は個人名では無いと」

律「そこら辺は私の口からは何とも言えないなあ。大体、あなた方だってライブは見てる訳でしょ?」

イ「でも、これまで出したリリース全てに名前が出てますよね」

律「それが?」

イ「量的、ジャンル的に一個人の仕事とは考えづらくて」

律「ふふん」

イ「…」

少しだけ、私達の身の回りも騒がしくなる。

いわゆる、セレブ社会へのお誘いと言う奴だ。

唯と梓はあまり気乗りせず。

私は半分ぐらい足を突っ込む感じで。

梓「えー、私はいいですよ。遠慮しときます」

律「唯は?」

唯「私もあんまり気乗りしないかなあ」

律「あっそ…」

梓「大体、その手のパーティってプライベートだって言っても、半分パブリックじゃないですか。
あとで友達面した人らとの集合写真が雑誌に出たりするの嫌なんですよ。
私はこんなに交友関係が広いんですってアピールのためって感じだし」

唯「私も、別にあんま興味無いかなあ」

律「だぁー、分かったよ。私一人で行って来るよ」

梓「拗ねちゃった」

唯「ごめんね、りっちゃん?」

律「うるせ」

梓「ねえ、律先輩」

律「うん?」

梓「今度、水曜日にレギュラーでDJ頼まれたんですけど」

律「面白いじゃん」

梓「いや、唯先輩じゃなくて、私が…」

律「いやいや、別に問題ないだろ」

梓「そ、そうですか」

律「拍子抜け?」

梓「別に…」

律「拗ねた?」

梓「うるさいです!」

私達は順調だった。

少なくとも私達の中ではそうだった。

唯の出すものは、最初ほどでは無いがコンスタントに売れていたし、梓も自分だけの活動を行うようになり、
それはまたHTTレーベルに新たな力を与えていた。

私はさらに何か出来ないかと考えていた。

唯は唯でもっと先を考えていた。

梓にも色々考えがあっただろう。

私は何だって出来る気分になっていた。

限界って何?と言う気分だ。

唯「ねえ、スタジオ作りたい。36トラックで良いから、ね?」

律「奇遇だ。私もビルを買おうと思ってた。そこの地下一階をスタジオにしよう」

唯「わーい!」

梓「は?!」

律「だからさ、でっかいビル買ってさ…」

梓「いやいや」

律「大丈夫、銀行からそのビル担保に金借りるから」

梓「…」

律「私が聞いた話では、借り入れてもビルの価値が上がれば、貸借対照表も上がってお金も儲かる」

梓「でも…」

律「私は何も不動産投機のためにビルを買う訳じゃない。ちゃんとオフィスだったり唯のスタジオって言う目的もある」

つまりね、建物は創造性を集中させる。

例としてはルネッサンス時代のフィレンツェだ。

そう、人の意識を変革させた時代。

唯「私達はここまでこれた。これからだってこの調子で行けるよ」

律「そう言う事。そして、このHTTビルもまたその起爆剤になる」

梓「…」

実際、その時点では何の兆候も無かった訳だし、私の決断を後だしで責められても困る。



・・・
律「向こうのバンドから、一緒にツアー回らないか?ってオファーが来ました」

唯「面白そう」

梓「良いじゃないですか」

律「こういう言い方ってありがちだけど、ちょっと感慨深いよな」

梓「ええ、そうですね」

最初は面白そうだと思ったんだ。

でも、失敗だった側面の方が大きいかも知れない。

つまりね、前のライブツアーなんてのは本当に規模が小さいから、自分達で何でも出来たし、それで自信も持てたんだ。

でも、今回は数台のトレーラーと向こうのプロモーターが用意したクルー。

よそよそしく振舞ったつもりは無いけど、どうも向こうのバンドにもプロモーターにも、私達が仲間以外と交わらない気難しがり屋だと思わせてしまった。

それにちょっと、その事(私達がホテルでも閉じこもりがちになっていたって事だけど)は私達自身をも侵食してしまったんだ。

私や梓のイメージだと海外のバンドってのは、例えばグレイトフルデッドのイメージだけど、凄いドラッグをやると言うイメージがあった。

でも、実際は閉じこもりがちになってしまって、その退屈や鬱屈をはらすためか、唯の方が全然大量に使用してた。

そう言うものに関しては、勿論日本にいた時だってそれなりに使っていた。

それらの事に関して、
唯は以前「これって、もしも対処出来るなら素晴らしいものだと思うんだ。
その事を理解して、自分自身を信じられるなら、ちゃんと対処出来るものでもあって…。
だから、やっぱり素晴らしいものだよね」
なんて言う安っぽいニューエイジャー(ティモシー・リアリーとかジョン・C・リリーみたいな?)みたいな事を言っていた。

だけど、やっぱり良くありがちな事だけど、唯のそれは今や対処出来ないレベルに足を突っ込みつつあったんだ。

ツアーを終えて日本に帰ってきた私達は、取り合えずその対策を練らないといけない状態になっていた。

私も梓も日本の更正施設に入れるのは反対だった。

まだ、それほど禁断症状が出てもいなかった事もあるけど、
それは私達の前進を止める事と同義だったし、兎に角唯が好奇の目に晒されるってのが嫌だった。

梓「取り合えず、海外レコーディングって事で連れ出しましょう。私が付き添います」

律「ああ、そうだな」

梓「実際に、レコーディングもさせるつもりですけどね」

律「一石二鳥だ」

梓「ええ。綺麗な身体の唯先輩と新作を持って帰ってきますよ」

これで、一安心だと思った。

唯がこれ以上ドラッグを使用しなくなる根拠なんてものはまったく無かったのに、
なぜ一安心出来ると思ったんだろう。

唯達が海外に脱出して一つが落ち着いたと思ったら、今度は別のトラブルが襲って来る。

この世の大体のものは双曲線的な図を描くのだ。

お金を借り入れる際、会計士は私達のビルの資産価値は~~円と言った。

唯達を空港で送り出した週の週末に、会計士から電話が掛かってきた。

ビルの資産価値が下がっています。

今現在だと、××円です。

素人の私には言ってる事が分からない。

つまり、私達は知らない間に借金を増やしていたらしい。

それも数千万とか、現物を実際には見たことの無い単位で。

・・・
たびたびすいません。
仕事に行ってきます。
23:00ぐらいに帰宅します。
会社が規制解除されていたら、そこから投稿しようと思いますが…
残りは1/5です。

仕事中なので、ペース落ちるかも知れませんが少しづつ。
・・・


いや、別にビルを処分特価で売る気は無いし、
そりゃあ数値上でも借金が増えるのは面白く無いが、でもまあこんなものだと自分を落ち着ける事は出来る。

ただ、貸した方はそうでも無かった。

実際に借りたのは~~円で、貸した方の銀行はいつでも言う事が出来た。

すぐ返して下さいと。

銀行が不安を感じた時にはいつでもだ。

私はさっきこの世の大体のものは双曲線だと言った。

でも、トラブルに関してはそうでは無いらしい。

金融的トラブルでレーベルは下降線を辿っている。

それと同時に、私達の看板アーティストは薬物トラブルで下降線を辿っているそうだ。

私の知っている理論からは随分かけ離れた事態じゃないか?




律「んー、何…?」

梓「律先輩、今大丈夫ですか?」

この夜更けに…。

いや向こうでは時差の関係で昼なのか。

梓「駄目です。とにかくこっちにいても話になりません」

この二言だけでも、緊急性とそこから滲み出してくるような疲れが分かった。

律「ちょっと、話が見えないよ。最初から話してくれよ」

梓「とにかく、こっちのドラッグディーラーが性質が悪い上に、唯先輩も唯先輩でコントロールが利かない状況になっちゃってて…。
お金が無いって言ったら、楽器とかも売ろうとしちゃって…。
だって、ギターまで売ろうとしてたんですよ!あのギー太を!!」

律「梓、落ち着けよ」

梓「律先輩はここにいないから!」
律「梓!」

梓「…はい、すいません…」

律「お金は取り合えず送るようにする。ただ、ハードドラッグだけはもう使わせないように…。
そうだ、メタドンプログラム!そう言うのを受けさせろ。かかるお金はすぐ用意するから」

梓「…。分かりました。出来るだけ早くお願いします。もう、私じゃ全然押さえられないんで…」

律「分かった…」

根拠はまったく無かった。

ただ、軽く考えていたと言うだけなんだろう。

唯は、プログラムとカウンセリングを受け出して半年、取り合えず落ち着きを見せているらしい。

梓が言うには、もう少ししたら帰国も出来るような状況にもなると言うことだった。

唯の件は何とかなるかも知れない。

何とかなら無いのはお金の問題だ。

唯の治療に少なからぬお金を吐き出した。

当然の事ながら、新作は出ていない。

リミックス盤や梓が連れて来た人らのものを出したが、それで入って来るお金ではレーベルを維持するのは難しくなっていた。

借金の返済、借金の返済&借金の返済。

首が回らないとはこの事だ。

ただ前だけを向いている理由が出来て良いのかも知れない。

でも、唯が帰ってくれば、取り合えず何とかなるはずだ。

何とかなるはずなのだ。

唯は明らかに他の客とは違うテンションを見せて、空港職員の注意を良くない方に引いていた。

唯「おー、りっちゃ~ん!綺麗な身体になって帰ってきたよー!!」

唯は私を見つけると、手を振って駆けだす。

梓はやれやれと言った様子で唯の後ろから付いて来る。

唯「いぇーい、カムバックトゥジャパーン!」

唯は片手に大きなショッパー、もう片方の手でトランクを押していて、肩には…。

良かった、ギー太は持って帰って来てるみたいだな。

律「二人ともお疲れ…」

唯は勢い良く飛び跳ねて、そして…






こけた。

ショッパーの中に入っていたのか、壜が砕け散る音がする。

私は壜の砕け散る音に一瞬目を背け、そしてまた視線を戻すと、そこには床に這って、
割れた壜の中に入っていたであろう粘性の液体を一滴だろうと無駄にしたくないと言う様子で、
床に口を近づけて吸おうとしている唯の姿があった。

唯「あ、あぁメタドンが、私のメタドンがぁ…、うわぁ!!」

梓は駆け寄って、他の搭乗客の好奇の目が向かないように、唯を必死で宥めようとしていた。

私は、足から力が抜けてしまってそこで立っているのが精一杯だった。

梓「唯先輩、大丈夫ですから、まだたくさんありますから」

唯「あずにゃーん!!だってだってぇ!!」

空港職員が多数駆け寄ってくる。

梓は医者の処方箋なのか、紙束をこれ見よがしに振り回していた。

梓「処方箋貰ってますから!処方箋はありますから!」

馬鹿!!国内じゃメタドンは未承認だよ!

私は立ち眩みで目の前が真っ暗になるのを耐えながら、心の中で梓に必死で突っ込んだ。

唯は逮捕された。

メタドンだけで無く、
梓にも隠して向こうで併用していた医療用ヘロインを持ち帰って来てたってのが致命的だったらしい。

それでも、初犯であること。

国外のものとは言え、処方箋を持っていた事。

また、治療をしようと言う意思があった事等が考慮されて、執行猶予が付いた。



とは言え、お金の問題はより悪い方向に傾いた。

保釈金400万円。

裁判費用…。

入って来るお金と出て行くお金が釣り合わない。

貸借対照表も釣り合わない。


・・・
帰宅まで、二時間ほど保守お願いします。

保守ありがとうございます。
もうラストまですぐです。

・・・


律「くそ、取り合えずCDを出せば…」

梓「そのためのお金はどっから調達するんですか。大体、そんなすぐに出せるんですか」

律「ほらっ、スタジオ代はいらないだろ?エンジニアも唯自身で…」

梓「もう、止めましょうよ…」

律「何言ってんだよ!」

梓「律先輩知ってました?唯先輩あのヨーロッパツアー以降スタジオに入ってないんですよ?」

…。

梓「律先輩はあれ以降唯先輩とあんまり一緒に過ごして無いから知らないんですよ。唯先輩だって、海外レコーディングに行った時も最初からあんなラリパッパだった訳じゃなくて…。
ホテルでも、ビーチでも『曲が出て来ない、出来ない』って言って、すっごい悩んでたんですよ?
頭から血が出るぐらい鏡に額打ち付けたりして…、部屋の姿見を割っちゃったり、スタジオのガラス割っちゃったり…」

律「でも…」

梓「じゃあ、奇跡的にアイデアが浮かんで、曲がまた書けるようになって、
ミキシングやって、マスタリングやってって、リリースに行くまでどれだけ掛かると思ってるんですか?
そこまで時間は持つんですか?資金は?」

律「それは、前話が来てたメジャーの…」

メジャー?

私は何を言ってるんだろう…。

それを拒否するために、自分達でやって来たんじゃ無かったのか?

大体、今まで唯が作った曲は誰のものだ?

私はそれを勝手に売り飛ばそうとしてたのか?

梓「律先輩…?」

あ…?

梓が心配そうに覗き込んでいる。

梓「大丈夫ですか?突然喋るのを止めたかと思ったら…、そのままピクリとも動かなくなっちゃったから…」

律「あ、うん。大丈夫」

大丈夫だ。

もうお終いって事は理解した。

最後の日の前日、私と唯と梓はスタジオでジャムった。

私は久し振りに、本当に久し振りにドラムを叩いた。

梓はギターを弾き、唯は何故かベースを弾いた。

梓も合わせるようにギターを弾くのは久し振りだったらしい。

梓「こう言うのって、やっぱり楽しいですね」

唯「だよねー」

律「まあな」

梓「律先輩、久々の割りに以外とちゃんとしてましたね」

律「中野、お前うっさいよ。ところで、唯は何でベース弾いてるんだよ?」

唯「え?だって、3ピースだし」

律「そりゃそうだけどさ」

そうだな。

ベースが無いとバンドってのは、結局上手くいかない。

梓「あ…」

律「ん?」

梓「そろそろ日の出の時間ですね…」

私達は黙り込む。

本当に最後の日だ。

私達はいままでと同じようにジョイントを回し吸いする。

HTTレーベル的なアフェアーって奴?

私達はベランダに出て日が昇るのを見ていた。

そう言えば、自分達でやろうって決めた時もこんな風に朝日を眺めながらだった。

光がパァーって、ビルの間から差し込んでさ。

光が当たってる部分と影の部分のコントラストを見てたらさ?

な?

律「何か、あっけなかったな…」

梓「ええ、なんか全てが夢だった感じですよね」

唯「ねえ、りっちゃん」

律「ん?」

唯「こんなことになっちゃってごめんね?」

律「良いよ、気にしてない。私は大丈夫だよ、全然。」

梓がまぜっかえす。

梓「そうですよ、こうなったのだって律先輩の無駄遣いが原因なんですから、唯先輩が謝る事なんて無いですよ」

律「おぅい!」

梓「大体、あの会議室に飾ってある不気味なウサギの絵がいくらか知ってます?」

唯「えー、あれ可愛いじゃん」

梓「そう言う事じゃなくてー…」

唯「えへへ。えーと、3000円ぐらい?」

梓「あれ、確か20万ぐらいしたんですよ、ね?律先輩」

唯「えぇ!!たっかーい!!」

梓「馬鹿ですよね」

律「ばっか、あれはロウブロウアート界で有名な…」

梓「それがどうしたんですか?」

律「返す言葉も無い…」

もう少ししたら、弁護士が来て、全てがお終いになる。

私の最後の仕事は原盤権は唯の元にあるのであって会社が所有してる訳では無いと言う事を管財人に理解させることだ。

そうすれば唯の元には曲の権利が残るし、あとはまだまだその才能がある。

もう一度再起する事も可能だろう。

その時、傍にいるのは私では無いかも知れないけど。

梓も名前に傷が付く訳では無いし、私の替わり(傲慢な言い方だね、これ)唯の事を手伝ってやって欲しいと思う。

下を見下ろしていた梓が車の音を聞き付ける。

梓「来たみたいですよ?」

私は、最後のジョイントの煙を肺の奥まで吸い込む。

律「じゃあ、出迎えて来ますか」

唯「りっちゃん、大丈夫?」

律「唯ー、そんな目で見るなよ。取って食われやしないさ。梓もさ」

梓「わ、私は心配なんかしてませんから」

律「あ、そ。ま、最後のお勤めに行って来るよ」

律「Game is over 悲しいけれど~♪終わりにしよう きりがないから~♪」

ビル外壁に据え付けられた非常階段は何時だって風が強い。

私は足元が覚束なくて風に煽られて少しだけ怖い思いをする。

意図せざるポストモダンなサビ止め塗装しただけの灰色の手すりに肘をかけて一息つく。

私は、何となく段飛ばしをしたくなって、段数を数える。

一階まで、階段の残りは、1、2、3、…、十段か。

微妙だな…。

一気に行けるか?

迷った時は…?

飛んでみろ!

私は床を思い切り蹴って、踏み切る。

ラメ入りのロングカーディガンを靡かせてジャンプ。

あれ…?

律「管財人…、を引き受けてくれる弁護士の方ですよね?」

そんな訳無い。

どっからどう見ても違う雰囲気を漂わせている。

良く言えばインテリヤクザ。

悪く言えばヤクザ。

ヤ「そんな訳ねーだろ」

律「ですよね~」

ヤ「来い」

律「はい?」

ヤの人は私を、連れ出そうとする。

あれ?

まずい。

沈められる?

ソープ?

それとも東京湾?

律「あ、あのー、でも、自分人を待たないといけないので…」

睨まれた。

私はカエルの様。

ヤの人の後ろに付いてビルを出る。

そうするしか無い。

でかっ!

ムギの送り迎えの時に見たリムジンと同じぐらい長いオールドメルセデスのストレッチリムジン。

ヤの人は私に乗るように促す。

ヤバイ…。

本当に死ぬかも…。

私は、心を落ち着けてくるクスリが無いかとカーディガンの、ジーンズのポケットを探る。

無い。

マジ何も無い。

フリスクすら無い。

ヤ「早く乗ってくんねーかな、田井中さぁん!こっちも先が詰まってるんだよ」

私は半分押し込まれるようにリムジンに乗り込む。

私の向かいのシートにはロングヘアーのサテン襟のスーツスタイルの女。

サングラスなんか掛けてスカしやがって

秘書とか?

情婦?

ああ、それっぽい。

女「何笑ってるんだ?」

律「い、いや、笑ってる訳じゃ…」

女「そう。なら良いけど」

くそ、いけ好かない女だな。

女「ええっと、ちゃんと法人登記してるんだ?内実は滅茶苦茶なのにね」

律「それがどうしたんだよ」

女「代表者だ」

律「私は名前を出してるだけさ」

女「ふーん。原盤権は?」

律「それは会社のもんじゃない。唯のもんだよ」

女「高級車、ブランド品、遊興費、随分贅沢してたようだけど?」

律「売り上げは次の制作費用に少し内部留保。残りは梓も含めて三人で折半さ。それが私達のやり方だからね」

女「その言い草が専門家に通じると思ってるのか?」

律「どう言う意味だよ」

女「原盤権はHTTレコーズ、つまりお前が所有してるって事にされて当然換価財としてみなされ…」

律「は?」

女「借金も全てひっくるめて2000万で買ってやるよ」

律「ふっざけんな!」

私は立ち上がって女の胸倉を掴む。

こいつがインテリヤクザの秘書で、私は酷い目に合わされるかも知れないが知った事か。

痛ってぇ!

私は女に手首を捻られてふかふかのフロアマットに転がされる。

女「まあ、落ち着いて聞けよ、律」

律「あん?」

女「あれだけ大手レコード会社を敵に回すような独立の仕方をしたのに、暴力的な方法も含めてだけど、排除されなかったのはどうしてだと思う?
まあ、これは売り上げ規模の問題もあるし、無視されたと言う可能性もありだ。
じゃあ、これはどうだ?お前達の能天気なドラッグパーティが報道されなかったのはどうしてだと思う?」

律「どう言う事だよ…」

女「少しは想像力を働かせろよ、律」

私は相手の顔を良く見る。

は?

は?

はぁ?

律「み…、お…?」

澪はサングラスを取って、

澪「やっと気付いたか、馬鹿律!」

な、何で、ここに…?

澪「何で私がここにいるとかそんな説明してる暇は無い。良いから、書類の一切合財を持って来い。私を信じろ」

律「だ、だけど…」

澪「ここは私やムギの戻ってくる場所じゃないのか!」

律「あ、ああ…、分かった…」

私は、すぐビルに引き返し応接室のソファでぼんやりしていた唯と梓にも手伝わせ、書類をかき集める。

澪「良いか?これから私のやる事は表面的には整理屋と変わらない。
信じてくれとしか言えない。確実に原盤権だけは守るつもりだけど…。
いや最悪、債権は全部私とムギで買い取るようにするから」

私は、澪の言葉をどこか遠くに聞いていた。

澪がそんな私の様子に気付いて、肩に手を置いて

澪「大丈夫。任せておけって」

律「あ、ああ…」

そういって、澪は私達の隠れ家にと宛がってくれたホテルの部屋を出て行く。

梓は、まだ澪を信用し切れていないのか、
窓際のテーブルに腰掛けてスマートフォンで「倒産に乗じて~」なんて言葉で検索して状況を確認している。

私は…。

ん、唯?

唯「澪ちゃんの親類が興行系のヤの人だってのは驚いたねー」

律「あー、そうだな…。私も今初めて知ったよ」

唯「雑誌とかにも手を回してくれてたんだね」

律「裏からサポートなんて回りくどいよな、どうせなら最初から…」

唯「ん?」

律「いや、いつも見ててくれたんなら連絡の一つぐらいよこしてくれれば良いのにな」

唯「澪ちゃんもさ、やっとだったんじゃないかな」

律「やっと?」

唯「だから、私達の前に顔を見せられるようになるのって」

律「あー、あいつは恥ずかしがり屋だからなー」

唯はクスリと笑って私の手をギュっと握る。

唯「心配?」

律「いや、そう言うんじゃなくて、現実感が、な…」

唯「大丈夫だよ」

律「おー、自信たっぷりだなー」

唯「あのさ、澪ちゃんがスタジオ出てっちゃった日さ?」

忘れもしない、全ての始まりの日だ。

唯「あの日、私がベースを澪ちゃんの家に届けに言ったじゃない?」

律「ああ」

唯「あの時ね、澪ちゃんがね『唯には才能があるよ。
そして、律がきっとその才能を生かす道を作ってくれるからさ』って言ってくれたんだよ」

律「澪が…」

唯「うん」

なんだよ…、それ…。

今になってって、ちょっとズルイだろ。

唯「そんな澪ちゃんだもん。きっと良い様にしてくれるよ」

律「あ、ああ、そうだな…」

唯「あ、りっちゃん、泣いてる?。いい歳してぇー」

律「ちげーし、べ、別に泣いてねーし。
大体、唯だって裁判の時『憂、憂ぃ~、ごべんなざ~い、もうじにゃいがら~、裁判官ざんぼゆるじでぐだじゃ~い』って大泣きしてたじゃねーか」

唯「べっつに~」

律「別に、なんだよ」

唯「あれは嘘泣きだもんねー」

嘘くせ!

律「じゃ、じゃあ、私だって…」

唯「いーや、私には分かるねー、りっちゃん、泣いてる。
大好きな澪ちゃんとまた一緒にやれると思って泣いてるよぅ」

当たりだよ、大当たり。

紬「りっちゃん、唯ちゃん、梓ちゃん、お久し振り」

唯「おお、ムギちゃーん」

梓「ムギ先輩、お久し振りです」

私は長い海外暮らしで、すっかりそのライフスタイルに馴染んでしまっているであろうムギに合わせてハグで挨拶。

律「ムギ、元気そうだな」

紬「ええ…」

律「いや、別にそんな深刻そうな顔しなくても、大丈夫だから」

紬「深刻そう?違うわ、りっちゃん達がいざって言う時に連絡くれなかったのが寂しかったからよ」

律「ごめん…」

紬「ふふ、冗談よ。でも、本当に大丈夫?」

律「大丈夫だよ」

そう、私は大丈夫だ。

何一つ無駄な事は無かった。

勿論、唯の作品群を世に送り出せた(勿論これからもだ)と言う事もあるし、
またこうして皆が一箇所に集まって何かをやれるんだからね。(そしてその場所を作ったのは私だ)

紬「あ、澪ちゃん」

澪が入って来る。

澪「ムギ、久し振り」

紬「澪ちゃんもお久し振り」

律「澪、それで上手く行きそうなのか?」

澪「おー、原因作った奴が偉そう」

律「うっせ」

梓「拗ねちゃいました?」

律「うるさいよ、中野」

唯「あはは」

一瞬、私達が隠れてる(実際問題、そんなやばい状況なのだな)ホテルの一室がまるであの部室のように思える。

そうだ、全ては無駄じゃなかったって事だ…。

今私がこう考えてるのは別に、さっきまで吸ってたジョイントの力じゃないよ?

嘘じゃない。

つまりこう言う事だ。

全てが上手くいって最後はこう言う形になるに決まっているんだ。

HTTレコーズ

オーナー:秋山澪、琴吹紬

社長:田井中律

役員:中野梓、平沢唯

最高だろ?

Good Good Good Double good ,… and good ending?

・・・
保守、支援、御清覧ありがとうございました。
最初は早朝のくだりで終わりのつもりでしたけど、
けいおんなんで御都合主義でも皆が集まってと言う方が
「らしい」かと思いそうしました。

おまけ
参考にした映像とかイメージ曲とか

ワウを効かせたイントロの曲
http://www.youtube.com/watch?v=SWawEndwdM8
唯が律に提案しているリズム
http://www.youtube.com/watch?v=ysCKBXCrYAU&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=buKURFzYHDw
ベースでメロディーライン
http://www.youtube.com/watch?v=8ahU-x-4Gxw&feature=related
『A Dream Goes On Forever』
http://www.youtube.com/watch?v=0c-XuIxFFk8
信じてさえくれれば、ベローナベラドンナ
http://www.youtube.com/watch?v=hdnZsSl0szg&feature=related
なんちゃら言うフュージョンギタリスト
http://www.youtube.com/watch?v=15FqJRc8nh4&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=XyOLSy1RtpI
ロックンロールの文脈における車のセレクション
http://www.youtube.com/watch?v=j9cf3Hjx9BE

これは律視点なので分かりづらかったかも知れませんが、
あまり良い人ではありません。
上手く出来て無いかも知れませんが、
一応、後に律が自伝を書いた体で書きました。
だから、自分(律)に都合の悪い話は書いて無いと言う。


ただ、友達を裏切るとかはしないと言うだけで、
ブランド大好きの見栄っ張りだし、お金にはだらしないし、
大麻も止められない。


その辺りは(すぐでは無いけど)他のキャラ視点で書いた時に書いていくつもりなので、
また、見かけたらよろしくお願いします。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom