える「さて、今日も職安に行きますか・・・」 (71)

える「いい仕事しょうかいしてもらえるといいですね・・・。」

担当「56番の方~4番へどうぞ~」

える(あっ、呼ばれました!)

担当「千反田さんこんにちは。前回に聞いた希望職でこちらでいくつかピックアップしました。一つづつ説明していきますね。」

える「はい!よろしくお願いします!」

担当「第一希望が農業関係ということでひしたが、こちらで登録されている仕事は繁忙期のみの期間社員のみでした。」

える「そうですか・・・どんな仕事ですか?」

担当「果樹園を営んでいる方で、商品の収穫、梱包でした。」

える(これは少し違う気がします。)
える「そうですか・・・。他にはどんな仕事がありましたか?

担当「そうですねぇ、家畜業を営んでいる方で正社員を募集している業者があります。ニワトリの飼育、卵の収穫が主な業務のようです。」

千反田(なるほど・・・少し気になります!!)

千反田(でも、父の昔の知り合いの農場ですね・・・少し行きづらいです・・・)

~~~~~~~~~~~~

奉太郎(豪農千反田家が自己破産したらしい。詳しくは分からないが、千反田が言うには父親の知り合いの事業を始めるにあたって、連帯保証人になってしまったそうだ。)

奉太郎(事業は失敗し、その知り合いに逃げられ、千反田家は大金を背負わされてしまった。)

奉太郎(なんとも世知辛い世の中だな・・・)

える(そもそも農業関係は、知り合いがたくさん居ます。他の仕事を紹介してもらいましょう。)

える「他にはどんな業種がありますか?」

担当「んー、事務関係も希望されているので、いくつか。」

担当「電子機械のテレフォンオペレーターはどうでしょう。会社の商品の相談や苦情を受ける仕事で、後々正社員へ登用もありますよ?」

える「こーるせんたーと同じですか?」

担当「(どっちも同じだろバカ)そうですね、そのようにも呼びますね。」

える(うーん、私はあまり相談事は得意でないので、難しいかもしれません。)

~~~~~~~~~~~~~

奉太郎(だが高校を中退することは無かろうに・・・)

奉太郎(千反田が古典部にも来れなくなり、古典部としての交流は疎遠になってしまった。)

える「はぁ、中々いい仕事が見つかりませんでした。世間は厳しいものです。」

える「気を落としてばかりはいられません!今日も頑張ってこんびにのバイトです!」

~~~~~~~~~~~~~

える「おはようございます!」

える(今日は17時~22時までの勤務です。正直、この時間のしふとは高校の同級生に会ってしまうので正直苦手です・・・)

える(いえ!めげてはいけません!やっと見付かったお仕事なので、頑張らなきゃ!)

ウィーーン

える「ッシャイマセー」

奉太郎(たまには千反田の顔でも見に行くか。)

奉太郎「里志、今日空いているか?」

里志「うん!空けようと思えば空けられるよ?どうしてだい?」

奉太郎「いや、千反田に顔でも出そうと思ってだな。」

里志「・・・奉太郎・・・、それはとても酷な話だよ・・・。」

える(こんびにのお仕事は、大変ですがとてもやりがいがあります!品出し、レジ打ち、お掃除にファーストフードの調理。

える(私は今まで仕事というのを知りませんでした。)

える(高校を辞めてしまったのは痛手ですが、生活のためです!仕方がありません!)

奉太郎「そうか・・・そうかもしれんな。」

里志「じゃあ行かなくていいのかい?それなら僕は手芸部に行くよ!奉太郎は古典部かい?」

奉太郎「いや、今日は帰る。あまり気も進まん。(気も進まないが、伊原でも誘ってみるか。)」

える(父はあの日を境に蒸発してしまいました・・・。母も参ってしまい、入院中です・・・。)

える(今、千反田家を守れるのは私しか居ません!)

ウィーーン

える「ッシャーセー」

奉太郎「伊原ー、居るか?」

摩耶花「折木?何よ?」

奉太郎「今日の放課後、千反田の様子を見に行かないか?」

摩耶花「遠慮しとくわ。私たちが制服で会いに行っても、失礼な話よ。それにちーちゃんはあんたが見に行かなくても十分やっているわ。」

奉太郎「そうか。そうだろうな。」

える(お菓子の品出しです!)

える(これは・・・ウイスキーボンボン・・・)

える(何故かあの頃が懐かしいように思えてきます・・・。)

学生A「ほら、あの子・・・」チラッ

学生B「ああ、元お嬢様の・・・」チラッ、チラッ

える(・・・悲しくなんか、ありません!)

える(・・・悔しくなんか、ありません・・・)

える(・・・辛くなんか・・・・・・。)

える(折木さん・・・。)

奉太郎(結局一人で来てしまった・・・。)

奉太郎(果たして。これはやるべき事なのか。やらなくてもいいことなのか。)

奉太郎(とりあえず外から様子を見よう。)

える(ゴミだし完了です!いくつか取り扱っていない商品のゴミがありました。別のお店で買った商品のゴミでしょうか?私、気になります!)

える(あれ・・・折木さん・・・?)

える(とても挙動不審です。何か探しているのでしょうか?でしたら、お店の中まで入って行けばいいと思います。)

奉太郎(居ると思ったんだが、今日は休みなのか?)チラッ

える(外からお店を覗きこんでいる様は、まるで強盗の下見のようです。。。)

える(知り合いじゃなかったら通報するレベルです。。。)

える「あのー、いらっしゃいませ。何かご用でしょうか・・・?」

奉太郎「千反田ッッ・・・!!」

える「・・・?」

奉太郎「いや、何でもない。少しコンビニに用があっただけだ。」

える「そうですか・・・。ゆっくり見ていって下さいね!」

奉太郎「あっ、ああ。」

える「すみません、私は今、仕事中なので・・・」

奉太郎(とりあえず店に入ってしまった。正直今コンビニで買うものが無い。)

奉太郎(里志がなんこつつくね棒がおいしいと言っていたな。)

奉太郎(いや、そんなことより!)

奉太郎「あの、店員さん。」

千反田「はい?」

奉太郎「バイト終わったら・・・・・・時間・・・ありますか?」

える「今日は10時までなのですが・・・」

奉太郎「分かりました。待ちます。」

える「いえ!そんな遅くまで待たせる訳には・・・」

奉太郎「なんこつつくね棒くださいっ!」

える「はいっ!」ビクッ

える「120円です・・・」

奉太郎「はい、ではまた後で。」

~~~~~~~~~~~~~

える(さて、今日の仕事はこれで終わりです。残りを夜勤の方にお願いしましょう。)

店長「千反田さん。これ、持っていきなよ。」スッ

える「・・・?」
える「これは、何ですか?」

店長「今日の売れ残りだよ。廃棄しちゃうから、持っていきなよ!」

える「いえ、お店の商品を持っていくだなんて・・・。」

店長「いいからいいから!ほら!」
店長「どうせ捨てちゃうんだからさー。」

える「ありがとうございます!」

える「では、お疲れさまです!」

ウィーーン

える「折木さん!待っていてくれたんですね!お待たせしました。」

奉太郎「いや、俺が待つと行ったんだ。」

奉太郎「そのコンビニ袋は何だ?」

える「店長がくれました、廃棄するお弁当です。」

奉太郎「そうか・・・。」

える「とても助かります!」

奉太郎「少し、河原を歩かないか?」

える「はい・・・。」

~~~~~~~~~~~~~

奉太郎「千反田、上手くやっているか?」

える「はい。毎日大変ですが、お仕事は大変ですが楽しいです。」

奉太郎「学校に戻ろうとは思わないのか? 」

える「今は学校に行っている場合で無いので・・・。」

奉太郎「辛くは・・・無いのか・・・?」

える「正直に言いますと、地位も名誉も無くなった私たちは毎日その日その日がいっぱいです。」

える「父は、あの日から家には帰ってきていません。」

える「母も、体調を崩し、入須さんの病院でお世話になっています。」

える「借金さえ残りませんでしたが、それでも私は、充実していると思っています。」

奉太郎「それは本心なのか?」

える「本心・・・だと思います。」

える「でも私は、私自身。自分が何を考えて思っているのかうまくまとまりません。」

える「今は目先の事で手一杯で他の事に手を回す余裕が無いんです・・・」

える「本当は皆さんと学校に通っていたかったのかもしれません。」

える「古典部としてまた文集を作りたかったのかもしれません。」

える「でも!」

える「でも・・・もう無理なんです・・・。」

える「今の私は、何も持っていない、ただの人間なんです。」

える「何も出来ない、一人の人間なんです・・・。」

奉太郎(千反田・・・)

奉太郎「そんなことは、ない。」

千反田「・・・?」

奉太郎「そんなこと、無いだろう・・・。」

える「折木・・・さん・・・?」

奉太郎「以前言ってくれただろう。お前は、お前にとって、俺たちが特別な人間だって。」

奉太郎「俺たちも、俺たちとって、お前が特別な人間なんだ。」

奉太郎「今のお前がどんなに弱く、ちっぽけな人間でも、俺たちはお前が必要だ。」

える「折木さん・・・。」

奉太郎「俺の中では、特別以上に・・・千反田。お前の事が必要だ。」

える「折木さん。それって・・・?」

奉太郎「千反田。なんだ、その・・・。」

奉太郎「俺と付き合ってくれないか?」

える「!?」

奉太郎「今のお前は、見ていると辛くなる。」

奉太郎「俺は、俺自身。お前の事を守ってやりたいと思った。」

奉太郎「金銭面とか精神面とか、そんな話でなく。」

奉太郎「お前を一人の女として、守っていきたいと思った。」

奉太郎「どう受け取ってもらっても構わない。俺は、ありのままの感情で話している。」

える「折木さん・・・。」

える「・・・今、私は、折木さんの言う通り
、ちっぽけで何も出来ない人間かもしれません。高校も卒業出来なかった、無力な人間かもしれません。」

える「でも、もし折木さんとまた一緒になれら、少しづつ変わっていけるような気がします。」

える「今、折木さんと話して、私の中で変わっていくような気がしています。」

える「折木さん。何も無い私ですが、これから一緒に歩んでくれますか?」

奉太郎「ああ。」

える「私に何かがあったら、また手助けしてくれるんですか?」

奉太郎「勿論だ・・・。」

える「私が気になることがあったら、また説いてくれますか?」

奉太郎「初めからそのつもりだ。」

える「折木さんっ!!」

奉太郎「千反田っ!!」

~~~~~~~~~~~~~

それから俺もアルバイトを始めた。

入須が千反田と学校を説得し、1年後輩になってしまうが、復学することに決まった。

入須の勧めで、病院の臨時職員として三月まで働く事になった。

奉太郎「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことは手短に。か・・・。」

える「折木さん!そろそろ行きましょう!」

奉太郎「ああ、そうだな。」

奉太郎「俺の信モットーは崩れてしまったが、」

奉太郎「まあ、悪くは無い。かな。」

終わり

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom