女「うぇっ……吐きそう……」(711)
男「…………」
初冬を感じさせるような、肌寒いある日の夜刻。
見知らぬ小娘が俺の家の前で──
女「グェェェーーーーッ!」
ゲロっていた……。
女「あー、すっきりしたぁ……」
男「う、嘘だろ……」
女「……ん?」
女「あっ、センセーじゃ~ん」
この酔っぱらいめ。
親御さんが泣いてるぞ、って……
男「……せ、せんせい?」
女「うへへ、こんばぁんわぁ~」
男「…………」
あれ? なんか見覚えが。
男「……ま、まさか」
女「うははは~」
男「……女?」
……………。
……………。
時は経過して……。
おんぼろアパート一室のソファーの上で、
酒臭い一人の小娘が寝転んでいた。
俺はコップを片手に彼女の元へ。
男「ほれ」
女「……え?」
男「水だ。少しは楽になるぞ」
女「どうも……」
今だ目をとろ~んさせ、顔を仄かに赤く染めていた。
明るい所で見ればよく分かる。
間違えるはずもない。この娘は俺の教え子だった。
男「……聞きたいことは山ほどある」
女「…………」
男「頭は少しは冴えてきたか?」
女「……まぁ、多少は」
コップに口を付けながら、彼女は上目遣いで俺を見る。
まだ酔いはかなりありそうだ。
喋りながら少しずつ改善してくれればいいが……。
男「まず初めに」
女「……はい」
男「どうやって、俺の家の住所を知った?」
女「……ええと」
男「このご時世だ。住所の名簿は渡されていないはずだが」
女「……見たんです」
男「ん?」
女「この通りを歩いていた時に偶然……」
男「俺がここに入るのを?」
女「……はい。……あ~……頭いたっ……」
男「……そうか」
女「すみません。もう一杯水貰えます?」
男「おう……」
流し台にいき、水道水をコップに注ぐ。
すると、ソファーの方から声が聞こえた。
女「……えっ。水道水なんすか?」
女「ちょっとそれ嫌なんですけど……」
意外とずうずうしかった。
男「水道水なめんなよ。殺菌されてるから心配ない」
女「いや、逆にそれが不安というか……」
男「わがまま言うな。俺の家には、水に金を払う余裕などない」
女「そんな自慢げに言われても……」
男「ほれ」
女「……ありがとです」
文句を言いながらも水を飲み始める少女。
相当、自分の酔いを自覚しているようだ。
男「続けて良いか?」
女「あ、はい」
男「俺の家を知っていた理由は分かった」
男「じゃあ次。どうして、そんな状態なんだ?」
女「…………」
男「未成年の飲酒は法律で禁止されてる」
女「う……」
男「今すぐ、ご両親に連絡してもいいが……」
男「教え子を易々売るのも気分がいいもんじゃない」
女「……すみません」
男「いやいや、まだそう決まったわけじゃないぞ」
男「きちんと俺に説明してくれてからな?」
女「…………」
俯いて黙りこくる少女。
少し厳しめにいこうか……。
男「黙ってちゃ分からん」
男「これだと連絡せざるを得ないぞ」
男「尋常じゃない飲酒量だ。問題ないというほうがおかしい」
女「…………」
男「ご両親もかなり心配しているはずだぞ」
女「……ッ」
少し反応があった。
男「…………」
目の前にいる少女は確か二年B組。
ちなみに俺は、彼女の担任ではない。
数学の科目を担当しているだけで、週に三回ほど会うだけだ。
そんな彼女のことを鮮明に記憶している理由は単純で、
それはつまり、彼女の容姿が一際目立つからに他ならない。
教師の間でも然ることながら、生徒の間だと最早芸能人扱いだ。
聞いた話ではそれもあながち間違いではなく、
時にはモデルとして、ファッション雑誌に載っているらしい。
性格は良。成績も良。
悪い噂はあまり聞かないし、教師受けも悪くない。
そんな彼女が目の前で、泥酔していた。
何かただならぬ訳があるのだろうと初めは考えていたが……。
男「違うな」
女「……え?」
男「こうやって酔うのは初めてじゃないだろう?」
女「……っ」
男「……常習犯か。どこで飲んでるのかしらんが、かなり問題だな」
女「……ぅ」
男「両親はこのことを知ってるのか?」
知らないはずはない。だが、敢えて聞いた。
それが恐らく彼女の弱みだと思うから。
女「…………」
男「悲しむと思うぞ。いいのか?」
女「くっ……」
男「こんなことばかりして、ご両親が可哀想だと……」
女「あん……に……な……わかる……」
男「そんな小さな声じゃ聞こえん」
女「くっ──」
近づくと女の様子がおかしい事に気が付いた。
男「どうしたんだ?」
女「・・・」
男「?」
反応のない女を尻目に教室に入ろうとしたその時
男の目に映ったのは、
首のない彼女の両親だった
男が慌てて振り返ろうとすると頭部に強い衝撃を受けた。
薄れ行く意識の中で俺は全てを理解した。
(ああ、あんただったのか)
女「あんたに何が分かるんだって言ったんだよ!!」
男「…………」
唐突に彼女の感情が暴発した。
女「親、親、親って、私の親が心配してるわけねぇだろっ!」
男「…………」
女「ちょっと教師だからって良いヤツぶりやがって……」
女「分かってんだよ、お前らの視線が私の体に向かってることぐらいよ!」
男「…………」
女「ちっ……どいつもこいつも……」
いつもの様子からは想像もつかなかった。
言葉遣いは荒く、目つきは険しい。
だが、俺は疑問だった。
男「なぁ……」
女「……なんだよっ! 何か文句でもあるのかっ!」
男「その不良ぶった言い方さ……」
男「正直、疲れるだろ?」
女「…………」
男「普通に喋れよ普通に」
男「お前慣れてないだろ? わざわざ悪ぶろうとするな」
女「……っ」
先ほどの威勢はどこにいったことやら。
悔しそうに唇を噛み締めている。
少し沈黙の間が続いた。
先に口を開いたのは少女の方。
女「ど、どうして……?」
男「ん? 何のことだ?」
女「……口調のこと……」
男「ああ、別に簡単だ。今時、あんな言い方するのはヤンキー崩れだけ」
男「レディースなんてのが存在してたときは、ああいう娘も少なからずいたけど」
男「今はそう見ないな」
女「…………」
男「分かった?」
女「……うん」
男「…………」
あれ? これはこれで違う気が……。
彼女の口調に違和感を覚える。正直、馴れ馴れしい……。
女「普通に喋れって言ったのはそっちでしょ?」
男「まあ、そうだが……」
女「私もこっちのほうが楽だから」
男「…………」
女「それで?」
男「は? それで、とは?」
女「これからどうすんの? 私の親に連絡するの?」
男「……それも一つの選択肢だ。お前はどっちがいい?」
女「私はどちらでもいいよ。今更あいつは何も言わないと思うし」
男「あいつ?」
女「母親のことだよ……。父親はいないから」
男「そうか……」
母子家庭か……。少々複雑のようだった。
おもしろい
男「分かった……。連絡はやめよう」
女「そう」
男「……嬉しそうでもないな」
女「別に……」
男「まあ、いい。それで、酔いは冷めたか?」
女「普通に歩けて、軽く冗談を言えるぐらいは」
男「ならオーケーだ。今度からは飲んだとしても軽めに抑えとけ」
女「冗談を聞いてくれる……てわけでもないのね」
男「当たり前だ。急いで家に戻れ。もうすぐ零時を回るぞ」
女「…………」
しかし、女はその場から全く動こうとしなかった。
俺は再度促す。
男「夜道が怖いなら送ってくぞ」
女「…………」
男「何も言わないんじゃ、こっちも分からん」
女「…………」
女「帰りたくない」
帰りたくないって……。
ここは俺の家だぞ……。
女「もう何日もあの家には戻ってないし」
男「……ちょっ、ちょっと待て」
聞き捨てならなかった。
男「なら、今までどうしてたんだ? 野宿か?」
女「そんなわけないでしょ。昨日までは女友達の家に泊まってた」
男「……はぁ」
色々大変だな……。
男「家庭の問題はひとそれぞれだから、あまり余計なことは言えんが」
男「その女友達の家に今日も泊めて貰えば……」
女「それは無理」
彼女の綺麗な瞳は、確実に俺を捕らえていた。
自然と目を逸らしてしまう。
男「ど、どうして……?」
女「今日の朝に、喧嘩した」
男「それだけじゃ、分からん」
女「あんまり言いたくはないけど……聞きたい?」
男「ああ、簡潔に頼む……」
女「分かった。簡潔に説明すればいいのね」
男「……おう」
女「その娘には二年ほど付き合ってる彼氏がいたんだけど……」
女「私に惚れちゃった。おしまい」
男「…………」
驚きのあまり声が出なかった。
俺は急いで次の案を探る。
男「じゃ、じゃあ、他の女友達んとこに──」
女「他はほとんど上辺だけの友達だから無理」
男「…………」
そんな寂しいことを平然とした顔で言うな……。
そうやって諭したいところを、何とか抑える。
男「ふーむ……」
足りない頭では妙案が思いつきそうもなかった。
しばし黙って熟考していると、
目の前の彼女は少し気分を害しているようだった。
女「ちょっといい?」
男「むー……ん? 何だ? 良い案でも見つかったか?」
女「良い案って……。聞くけど、そんなに私を泊めるの嫌なわけ?」
男「好みの問題ではない。教師としての倫理がな」
女「じゃあ、それを抜きにして考えてよ」
男「抜きにしてって……」
女「私は泊めるに値する? しない?」
男「…………」
正直、男としては確実に前者だった。
それだけ彼女は女として魅力的だ。
スタイルもいいし……って……。
女「で、どっちなの?」
男「…………」
男「……し、しない」
女「…………」
周りの温度が二三度下がった気がする……。
女「……そう、ならもういい」
男「お、おい……もしかして素直に家に帰るのか?」
女「はっ? 帰るわけないでしょ?」
男「野宿するつもりなら、それはダメだ」
女「はいはい違いますから。てかもう関係ないんだから干渉しないでよ」
男「そういうわけにはいかない」
男「お前の担任ではないが、教師としては最後まで見届ける必要がある」
女「ふん、大人ってホント綺麗事ばかり」
男「ああ、綺麗事で結構。で、どこに泊まるんだ?」
女「だから、きちんとした住まいだって。もう、おせっかいは十分です」
男「いいから言え。どこだ?」
すると、彼女はここにはもう用が無いといわんばかりに立ち上がり、
俺を見下ろしてこう言った。
期待はするが…。
女「ほかの男んとこ」
男「な……」
女「先生と違って、他のみんなは喜んで泊めてくれると思うし」
自信の顕われか、彼女の右の口元が上がっていた。
しかし、どう考えたって……
男「ダメに決まってんだろっ!」
自然と立ち上がり、俺は怒声を挙げた。
胸の内では怒りがむらむらと沸き上がる。
男「相手がどういう意図で泊めるか分かって言ってるのか!」
女「わかってるわよ。私の好意目当てでしょ?」
男「それだけじゃない。運良ければ身体も、なんて考えてるんだぞ!」
女「べ、別にそんなの承知の上よっ!」
女「せ、SEXの一度や、二度くらい、減るもんじゃないわよっ」
こ、こいつぅ……。
女「てかそんなことでピリピリしちゃって、先生まさか童貞?」
男「なっ……」
女「はっ、もしかしてマジだったり? うわ、その歳で童貞とか……」
男「ち、違う、俺は童貞ではない」
女「いいえ、童貞ですから。態度でバレバレよ」
女「しかもそれなら今までの怖じ気づきぶりも理解できるし」
男「ご、誤解だっ!」
女「はん? チェリー君が何言っても無駄ですから」
男「くっ……」
女「ほんと大人のクセしてガキ臭い」
何故かいつのまにか、俺が童貞か否かの問題に……。
色んな意味でマズかった。
(・∀・)ニヤニヤ
男「てか、そんなことはどうでもいいっ!」
女「あ、ついに認めたんだ」
男「そのことじゃないっ!」
女「じゃあ、何?」
男「お前が男んとこに泊まるって言い出した話だ!」
女「いいじゃん、私の勝手でしょ?」
男「勝手じゃない。俺は許可しないからな」
女「何の権利をもってそんなこと言ってるわけ? ただのバカ?」
女「教師でも、プライベートまで干渉していいはずないんですけど」
男「くそ、あーいえば、こーいいやがって……」
女「しかも許可って……先生の許しなんて何の価値もないから」
確かに彼女の言い分は正しい。
教師だからといって、そこまで口出す権利はない。
一応、止めたのだから、後は本人の自己責任だ。
ただ──
男「俺は認めんぞ」
女「……はぁ……まだそんなこと言って……」
正直な話、ここが彼女にとっての分岐点のような気がするのだ。
選択を間違えれば、全てが悪い方向へ言ってしまうような。
そんな嫌な予感が付きまとって仕様がない。
だから……
1.男の恐ろしさを分からせる。
2.家に泊まらせる。
3.もう干渉しない。
>>50
4しかない
2
|ω・`)・・・。
選択 2.家に泊まらせる。
男「…………」
女「もう言うことがないなら、さよなら」
彼女は扉の方へ向かって歩いて行く。
ドアノブに手が触れようとした、その時──
女「……電話しないでくれたことは……感謝してる……」
そう小さな声が、……聞こえたような気がした。
男「……ッ」
男「お、おいっ!」
俺は無意識のうちに彼女を呼び止める。
その後に何を続けるつもりなのか。
その言葉が自らの教師生活を棒に振ることになるかもしれない。
恐怖、不安、将来……
いろんなものが頭の中で交錯する中、
意外にもすんなりと次の言葉が出た。
男「泊まっていきなさい」
女「……え……」
覚悟はもう決めた。
……………。
……………。
【申し訳ありませんが、ここから書き溜めます】
【暫しの間、他スレにて楽しんでいて下さい】
>>59
おk
でも11:00までにしてくれ、明日仕事早いから(5:00~
dat落ちしねえだろうな・・・
MADAか?
保守時間目安表 (休日用)
00:00-02:00 40分以内
02:00-04:00 90分以内
04:00-09:00 180分以内
09:00-16:00 80分以内
16:00-19:00 60分以内
19:00-00:00 30分以内
保守時間の目安 (平日用)
00:00-02:00 60分以内
02:00-04:00 120分以内
04:00-09:00 210分以内
09:00-16:00 120分以内
16:00-19:00 60分以内
19:00-00:00 30分以内
永延と続く夜空の中に、ぽつんと小さな一つの星があった。
小さいながらも他を寄せ付けないほどの綺麗な赤。
ただし、周りに釣り合うほどの星は見えず。
星座の一つに数えられることもなく。
ただ、そんなことにめげず、今日も必死に輝き続ける。
誰かに気付かれようが、気付かれまいが。
ただ一つで、輝き続ける。
そんな夜空が。
そんな星が。
地上の誰かの目にトまるなら。
その時。
もしかしたら、新たな物語が始まるのかもしれない。
それは、星と星の物語ではなく──
その星と、それを見つけた誰かの。
越えることの出来ない狭間での、果敢ないお話なのだと。
……………。
……………。
>>74
_ノ乙(、ン、)_
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
男「んと……確かこの辺の……」
男「よし、あった」
女「えっと何を……」
男「んじゃ、お前にも協力してもらうかな」
女「えっ……きょ、協力って……」
男「なんだ? 人の家に泊まるんだろ。なら家主の命令には逆らわない」
男「ん、分かったか?」
女「……う、うん」
ゴソゴソ。
エロ?
男「よし、じゃあ立たせてくれ」
女「……えっ」
男「ほら、分かるだろ。立たせて」
女「わ、わかったわよっ……だけど」
男「ん? だからそっちにある棒を立たせてくれと」
女「そ、その……ま、まだ心の準備が……」
男「一体、何の準備がいるっていうんだ?」
女「……ッ」
エロはいらんぞー
てのはまぁ嘘なんだけどね☆
女「は、傍からは遊び慣れてるって思われてるのかもしれないけど」
女「それは第三者からの勝手な目で……うぅ……」
男「……えっと」
男「なんか勘違いしてない?」
女「私も普通の……って、え?」
男「だから、ここに仕切りを作りたいんで」
男「向こうに倒れてる棒を立ててくれ、ということなんですが」
女「…………」
男「まあ、勘違いは誰にでもあることだから気にするな」
女「………くっ、し、死にたい……」
……………。
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
マダァ-?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
死 亡 確 認
>>90
Σ(゜Д゜;エーッ!
Σ(゜д゜lll)
ならおれも寝ようかなー…
おやすみー
dat落ちしないことを祈るー。
色々勘違い?もあったわけだが、無事仕切りも出来て。
零時をとうに過ぎていることから、すぐさま寝ることに。
だがここにきてまた問題が──
男「風呂は明日にしろ」
女「ちょっと信じられないんだけど」
男「信じられるとか信じられないとかそういうことじゃない」
女「不潔でしょ、不潔。風呂入らないで寝るとか……」
男「そんなこと言ったって仕方ないだろ」
女「何が?」
男「俺は明日休日出勤なんだ」
女「はぁ、それが?」
小馬鹿にしたような声が仕切りの向こう側から聞こえる。
男「早く寝たいんだよ!」
女「だったら寝ればいいじゃん。私は入らせてもらうけど」
男「それが問題なんだ」
女「意味がわからない」
男「お前は男というものを理解していない」
女「さらに一層意味がわからない」
女「きちんと分かるように説明してくれないと、私勝手に入るよ?」
男「むむむ……」
説明するといっても……正直どうしていいことやら。
ここははっきりと男の生態を説明してやる必要があるのかもしれない。
男「いいか……」
女「うん」
男「お、男ってのはな……」
男「女性が浴びているシャワーの音を聞いたりすると……」
女「すると?」
男「…………」
女「その続きは?」
男「……元気になる」
女「……よく分からない。何が?」
男「ナニガだ……」
女「はっ? ごまかさないで、具体的に言ってよ」
男「………くっ……」
……完敗だ。
しかし、なんなんだこの娘は。
ピュアなのか、はたまた天然なだけなのか……。
起きてたのかー
男「くそっ! こうなったら!」
女「な、何よ……」
男「お前が風呂に今から入るっていうなら、俺も入るぞ」
女「何を言うと思ったら……。先生の家なんだから勝手にすればいいじゃん」
男「分かってないみたいだな。いいか……」
男「女が浴びてる最中に、俺も同伴するってことだよ」
女「なっ!?」
女「し、信じられないっ! 一体なんでそんなことになるわけっ!?」
はっ、その問いは既に予測済みだ。
男「俺だって入りたいんだ、お前だけ入るのはずるい」
女「だからって別々に入ればいいじゃんっ!」
男「水がもったいない」
女「…………」
女「う、嘘だよね?」
男「いいから、明日にしろ。これは家主命令だ」
女「くっ……こんなことなら、他の家に行けば良かった……」
男「まあ、俺が寝てからならいいからさ。今は止めてくれよ」
女「……はぁ……」
……………。
ザザッ。
女「……先生、もう寝た?」
男「…………」
男「……う、うっす」
女「あ、あああぁぁっ!!」
女「もう三時なのに、一向に眠る気配ないじゃんっ!」
男「す、すまん……眼が冴えてしまって……」
女「ああ……こんなことなら無理矢理にでも入っとけば良かった……」
男「『後悔先に立たず』」
男「はは、数学教師なのに俺、意外と博識だろ?」
女「…………」
初めて現実で怒りマークをみた……気がする。
男「す、すみませーん……ネマース……」
女「ふんっ」
ザッ!!
……………。
そして……しばらくの後、俺はやって寝ることが出来た。
後から聞いた話だが、四時近かったそうな……。
南無南無。
……………。
……………。
早朝。俺は自然と目を覚ます。
時計を見ると、時刻は六時。いつもと同じだ。
男「ふわぁぁぁ……」
大きな欠伸を一つする。これもいつもと同じ。
背を伸ばして、独り言を呟く。
男「……今日も一日頑張ろう」
変わらない、いつもの繰り返し。
いや、変わらないはずだった……──
男「あれ……? なんだ? この仕切り……」
ザザッ。
女「すぅ……すぅ……」
男「……あ……」
腕で両目を擦るが、目の前の状況は一向に変わらない。
敷き布団に一人の少女。所々、衣服は乱れ……以下略。
女「すぅ……すぅ……」
……………。
──『■の目□ 時■ な て』
……………。
男「ッ……」
気を取り直せ。自らのペースを崩すな。
そう心の中で言い聞かせる。
男「さあ、朝飯の準備かな」
一人呟き、俺は台所へ向かった。
そう、また新しい一日が始まるのだ。
……………。
女「……ん……」
女「あ……れ……?」
女「ここ……ああ、そうか……」
女「先生は?って、もう出たよね……」
女「今、何時ぐらいだろ……あれ、携帯の電池切れてる……」
女「時計、時計っと」
女「おっ、目覚まし時計はっけーん」
女「さてさて…………」
女「………って、えっ?」
女「──────」
女「まあいいや、今日は休みだし……」
女「もうちょっと……寝よう……」
バサッ……。
……………。
……………。
保守
溜っていた仕事を一つ一つこなしていく。
今の場合は、こないだ行った定期考査の採点だった。
何枚もの解答用紙を束にして、
一問目、二問目と一気に丸付けをする。
男「………よし」
やっと、最後の問題まで丸付けが終わる。
次にやるのが、そう、点数計算だ。
男「……木下……6、5、5、6……で、引いて78点」
この作業は意外と疲れる。
間違えてしまえば、とばっちりをくらうのは生徒。
出来るだけミスはないようにするのだが……。
男「いかんせん……量がな……」
数百枚と扱っていると、頭がおかしくなってくる。
けれども、それが教師の役目であり……
生徒が試験で頑張った証を、丁寧に評価していかねばなるまい。
男「学生時代は教師って楽だと思ってたんだけどな」
見えるものだけが全てではないと。
なぜあの頃、そんな単純なことに気付けなかったのだろうか。
男「……考えても答えは出ない……か」
それが大人になったということだと。
ただ漠然とそう、理解した。
………………。
男「よぉぉぉし、終わったぁーー」
最後の採点が終わり、あとは片付けをして帰るだけだ。
時刻は……。
男「午後三時か……」
日が暮れるまでには少し時間がありそうだ。
もう一つの野暮用を済ましていくか……。
そう思い、立ち上がった矢先……
……とんとん。
ふいに右肩を優しく叩かれる。
男「んっ?」
すぐに振り向く。
すると……
女教師「男先生、採点終わりました?」
すぐ後ろで、柔和な笑みを浮かべているのは、
自分より二つ下の同僚だった。
男「ああ、今終わったとこ。もしかして、君も採点してた? 」
そうは言うものの、先ほどまで職員室には、
俺と老教師の二人しかいなかったはずだが。
女教師「いえ、今までクラブで指導をしてたんです」
男「確かバレー部だっけ?」
女教師「はい。朝から始めて、今終わったところです」
男「はぁー、よく頑張るなぁ」
女教師「別に私は疲れませんよ。大変なのは生徒達です」
男「こないだいいとこまで行ったんだよな。何位だっけ?」
女教師「県で、ベスト4」
男「おお、ならあと二つで全国か」
女教師「そうですけど、そこからのレベルは跳ね上がりますから」
女教師「うちの学校なんかは、スポ薦がほとんどありませんし……」
男「いやいや、だから凄いんだ」
純粋に、そう思う。
女教師「あ、はい、生徒達も喜ぶと思います」
男「悔いがないように」
女教師「そうですね……」
そう言った彼女は、少し思い詰めるような表情をしていた。
心底、教え子達が心配なのだろう。
悔いがないようにといっても、言葉通りにいくのは非常に難しい。
誰もが過去の一瞬を後悔し、嘆き、時には変えたいと願う。
だが、現実の時は立ち止まることを知らない。
男「……ん、そうだ」
女教師「あ、はい」
男「確か君の受け持ちのクラスって……」
女教師「二年B組ですよ。でもそれが一体?」
………………。
………………。
>>1復活
ガチャ。
我が家に到着。
靴を脱いで、まずはシャワーか、って……。
男「…………おい」
玄関には見覚えのある女靴が一組。
まさしくそれは……。
女「おおっ! 遅かったじゃん!」
男「…………」
女「お腹が減っちゃって……早く何か食べようよ」
男「…………」
女「そういえば、朝ごはんありがとね」
女「先生が自炊できるなんて思ってもみなかった」
女「でも、昼ごはんは用意されてなかったら、少し減点」
男「…………」
女「味はぼちぼちってとこかな。まあ、あれぐらいなら許容範囲かも」
男「……ッ」
黙って聞いてればいい気になって……。
ここははっきりと言ってやる必要が、大いにある。
男「おいっ!」
女「何? 急に大きな声出して……」
男「分かるだろ、なんでまだここにいるんだって話だ!」
女「なんでって、行くとこないからじゃん」
男「家に帰れ、家に」
女「いやだ」
男「家でお母さんが待ってるぞ」
女「い・や」
男「……強引に追い出したら?」
女「街中で声かけられるの待つ」
男「…………」
女「そんなに嫌なら私は別に構わないよ」
女「先生を困らせたいのが本意なわけじゃないし」
男「くぅ……」
こちらの弱みを分かってやがる。
とりあえず、妥協案でも探すか……。
男「……まあ、しばらくはいい」
女「え、ほんと? 先生、気が利く~」
女「じゃあ、話は終わりだね。ご飯にしようよ」
男「いやいや、問題は山積みだ。まず初めに……いつまでいるつもりだ」
女「んー、未来のことは私にも……」
男「お前のさじ加減一つだよ、お前の!」
女「あーもううっさいなぁー、んじゃ、四ヶ月」
男「よ、四ヶ月!? ダメだダメだ!」
女「えー、それなら二ヶ月」
男「長い」
女「むー、一ヶ月半」
男「もう一声」
女「仕方ない……じゃあ、一ヶ月で」
男「…………」
女「もうダメだよ。これ以上はまけられないから」
男「あぁそうだな……ありが──」
あれ? 俺が感謝するの?
男「って! なんで俺がお願いする側なんだよっ! 逆だよ逆っ!」
女「もう細かいことばかり気にするから、今だ童貞なんでしょ」
男「だから、童貞じゃなーーいっ!!」
波乱はまだ続きそうだった……。
………………。
………………。
☆ゅ
保守時間目安表 (休日用)
00:00-02:00 40分以内
02:00-04:00 90分以内
04:00-09:00 180分以内
09:00-16:00 80分以内
16:00-19:00 60分以内
19:00-00:00 30分以内
保守時間の目安 (平日用)
00:00-02:00 60分以内
02:00-04:00 120分以内
04:00-09:00 210分以内
09:00-16:00 120分以内
16:00-19:00 60分以内
19:00-00:00 30分以内
というか、今日は休日?平日?
春厨が湧いてるのでどうなのかと。
男「それで、いつになったら話してくれるんだ」
女「えっ?」
遅めの夕飯時。
俺は野菜炒めを口で咀嚼しながら、何げなく問う。
男「家に帰らない、本当の理由だよ」
女「……わけわかんない……」
少女はふて腐れたように、そっぽを向く。
身体は大人びていても、年相応の幼さが滲み出る。
男「分かるだろ、ほら」
彼女の触れたくないことだって。
既にわかっていたことだけど。
それを話さない限り、前には進めないはずだから。
女「…………」
男「お母さん、バーのママやってんのな」
女「……ッ」
女「ま、まさか」
男「ちょうど、仕事が早めに終わったもんだから」
男「無駄話を少々」
あの後、同僚から女の家の連絡先を聞き、
日が暮れるまで少しの間、保護者面談擬きをしていた。
まあ、同僚には多少怪しまれたけれど。
女「ちょっ、ちょっと信じらんないっ!」
女「連絡はしないって言ってたのに! 嘘つきっ!」
男「嘘つきで結構です。嘘も方便っていうしな」
バンッ!
女「最悪っ! もう私、出てくっ!」
よほど母親と会われたのが腹に立ったのだろう。
貸した箸をテーブルに叩き付けて、席を立つ。
男「まあ、そう怒るな」
女「ちょっと信頼しかけてたのに……ホント最低」
男「……まあいいから座れ」
女「いやですっ! もうあんたと同じ空気を吸うのも嫌よ」
意外にやっかいだった。
仕方ない……。
男「特にお前のことを話してきたわけじゃないよ」
女「はっ? また得意の嘘?」
男「違う違う。さっきも言ったろ、『無駄話』だって」
女「……じゃあ」
男「ん?」
女「何を話して来たって言うの?」
男「とりあえず、座れ。話はそれから」
女「…………」
ガタン。
多少、音は立てたが、席に座ってはくれた。
ただまだ顔に残るのは猜疑心のみ。
ちょっと話の出始めを間違えたかな。
警戒心を解くのは時間がかかりそうだった。
塾帰ってきてみたら…
キテタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
>>214
高校のゆとり君、お帰り
男「教師ということは隠していった」
女「……どういうこと?」
男「ただの客として行ったってことだよ」
男「最近の世間話とか、ママの生い立ちとか……」
男「まあ、娘の話も多少はね」
女「……最低」
男「まあ、そう言うなよ」
女「結局、聞いてるわけじゃん」
男「別にお前のことばかり話してたわけじゃない」
男「今日の本題はな」
男「お前が嫌っているその母親が、どういう人となりかってことだよ」
女「…………」
さきほどの怒りはどこにいったのやら。
今は下を向いて口を閉じ……
この後、何を言われるか、分かりきっているように。
男「はっきり言うぞ」
男「娘思いのいいお母さんじゃないか」
女「……ッ」
普通に喋ってみれば、ある程度の性格は分かる。
たとえそれが猫かぶりであったとしても。
本当に娘のことを邪魔に思っているのならば、
あんな、笑顔……娘の話の最中に、するわけないじゃないか。
男「自慢の娘だってよ」
女「…………」
男「時々、モデルもやってるって言ってな」
男「頼んでもいないのに、その写真も見せてもらった」
女「……変態」
侮蔑の言葉にもキレがない。
ということは、自覚しているってことか。
なら……
男「お前さ、俺に昨日言ったよな」
男「『あの母親が心配するわけない』みたいなこと」
女「………う……」
男「心配しない? そんな親じゃない?」
男「いいや、違うな」
男「心配しないわけがない。そんな親なわけがない」
男「お前自身が一番、分かってるんだろ?」
女「…………」
その沈黙は肯定だ。
男「どうしてだ?」
男「一人でお前を育ててきたんだろ?」
男「女の身一つで養っていくのがどれだけ大変か」
男「お前だって……」
女「──分かってるっ」
急に声を張り上げる。
女「そんなこと……言われなくても分かってる……」
男「それなら何でなんだ?」
純粋に疑問だった。
しかし──
女「…………」
……少女は答えてはくれない。
男「ふーむ……黙ってちゃわからんのだが……」
正直、埒が開かない。
恐らく彼女の中で、
俺が話すに値するのか、計りかねているのだろう。
女「…………」
よし、なら俺の話でもするか。
最悪、彼女の気分転換にはなるだろう。
まあ、ちょっと重い話ではあるけど。
男「実はな、俺も片親なんだよ」
女「……へっ?」
男「ただお前と違うのは、それが父親だったってこと」
男「でも、血は繋がっていない」
女「それって……」
男「父親代わりをしてくれたってことだよ」
女「…………」
男「赤ん坊の頃に両親が死んで、母親の弟、つまり叔父か」
男「その独身だったあんちゃんが俺を引き取って……」
男「一応、育ててくれたったわけ」
女「……じゃあ、両親の顔は覚えてるの?」
少し喰いついてきた。
俺は彼女の疑問に答える。
男「覚えていない。いや、正確には覚えていなかった」
男「後で写真を見せてもらったからな」
男「その時に、初めて知った」
女「…………」
少女は思い詰めるような表情で。
喉まででかかっていた言葉を……やっと、吐き出す。
女「わ、私……」
男「……ん?」
女「お父さんの顔……みたことないんだ……」
男「…………」
俺は黙って彼女の言葉に耳を傾ける。
女「母さんは……」
何この、最初からは全く想像のつかない展開。
あの時の選択肢が違ったらどうなってたの?
女「お父さんのこと、何一つ話してはくれない」
女「こないだもそうよ……」
女「私が、お父さんの写真を見せてって言ったら……」
女「『そんなのはどこにもない』って」
女「『もう、父親のことは忘れなさい』って」
男「…………」
女「だから私……母さんと喧嘩しちゃって……」
男「……そうか」
そういう事情があったわけか。
女「で、でもっ! 普通なことでしょっ!」
男「ん?」
女「父親の顔を一度でも見てみたいって、思うことは……」
女「……当然、だよねっ?」
男「…………」
……………。
君は気付いているのか。
……意識しているのだろうか。
……………。
父の存在を何故か隠そうとする母。
それに反抗し、父の影を追い求める娘。
何かがまだ、欠けているような気がした。
“お”父さん……か。
……………。
……………。
お前らはよくやった。ここからは俺たちが行k(ry
し
一瞬、このスレがdat落ち扱いになったんだが俺だけ?
保守
ほ
そろそろ貼っとく
保守時間目安表 (休日用)
00:00-02:00 40分以内
02:00-04:00 90分以内
04:00-09:00 180分以内
09:00-16:00 80分以内
16:00-19:00 60分以内
19:00-00:00 30分以内
保守時間の目安 (平日用)
00:00-02:00 60分以内
02:00-04:00 120分以内
04:00-09:00 210分以内
09:00-16:00 120分以内
16:00-19:00 60分以内
19:00-00:00 30分以内
男「というわけで……」
女「うん」
男「分かっているとは思うけど、明日からは平日だ」
胸の内を吐き出したせいか、
少女の表情には、安堵の色が見られ。
夕飯を片付け、くだらないバラエティで笑い、
湯の浸かった風呂に入った。
……勿論、最後は時間をずらしてだが。
彼女の家の問題だとか。
同僚の女教師に預けさせたほうが得策か、とか。
色々、問題は尽きないけれど、
ひとまずは彼女を我が家で預かることにする。
すぐにでも解決できる話ならば良かったのだが、
今回の件は意外に複雑そうで。
とりあえず……
男「見つかる訳にはいかんっ」
女「あー、そういうこと」
学校側に事が知られれば、
彼女は停学。俺は最悪、懲戒免職……。
同性ならば大きな問題にはならないはずが、
異性となれば週刊雑誌を賑わすほどに。
男「出る時間をずらすことはまず第一に必要だし」
男「特に、お前は出入りする時に一番、気をつけろ」
女「まあ、バレちゃまずいよね」
男「マズいなんてもんじゃないっ」
男「近所じゃ俺が教師ってことは知られてないと思うが」
男「毎日、女子高生を連れ込んでいると思われた日には……」
考えただけで、ゾッとする……。
女「でも誰にも見られないでってのは、かなり無理があるよ」
男「それは分かってる」
男「だが、できるだけ注意してくれ」
女「んー……まあ、私の生活もかかってることだし」
女「一応、協力します」
そう言って、彼女はニヤッっと笑った。
男「なんだ……その笑みは」
女「べっつにー」
男「頼むぞ、俺の今後の人生がかかってるんだ……」
女「ふふふ」
男「…………」
女「……ねぇ? 先生」
男「……なんだ」
女「これってさ」
女「私が先生の『生殺与奪』を握ってるってことだよね」
男「……………」
男「……え?」
……激しく不安だった。
………………。
………………。
学校。職員室。
授業開始を告げるチャイムの音がする。
男教師「……はっ」
さきほどまで隣で熟睡していた男教師が目を覚ます。
まだぼぉーっとした顔で、こちらを向き……
男教師「今、何限っ!?」
男「二限目です」
男教師「はぁーっ……セーフだ」
男「ぐっすり寝てましたね。昨日、かなり飲んだんですか?」
彼は苦笑したような……
或いは、少し嬉しそうな顔で、こう言った。
男教師「いやな、実は昨日、昔の友達に偶然会ってさ」
男教師「初めのうちは早めに切り上げようと思ってたんだが」
男教師「話が進み進んで……」
コップの形を作った右手を持ち上げる。
男「ぐいっといっちゃったわけですか」
男教師「そうなんだよ。……あ、男君」
男「はい」
男教師「君はこの時間、空きなのかい?」
男「はい、大丈夫です」
男教師「そうか……ならちょっと俺の話を聞いてくれ」
顔色も悪いし、息も酒臭い。
酔いはまだ抜け切れていないようだ。
俺は黙って、彼が続ける言葉を聞く。
男教師「それで、自然と仕事の話になったんだが……」
彼は一呼吸おいて……
男教師「──今は医者だってよ」
男「旧友の方がですね。ほぉー凄いですね」
男教師「羨ましいだろ。で、俺も褒めちぎったわけよ」
男教師「だけど、アイツは『教師のほうがいいだろ』って言うんだ」
男「ふむ、それは一体?」
俺がそう聞くと、彼は辺りをちらりと見回し……
小さな声でこう言った。
男教師「……『教え子と色々出来るだろ』ってさ」
男「…………」
男教師「か、勘違いすんなよっ」
男教師「俺が言ったことじゃねえ、ソイツがそう言ったんだよ」
男「はぁ……」
男教師「でもよ……俺達は分かるよな」
男「え?」
男教師「そんなの無理だってことがだよ」
男教師「俺は二十年この職だけど、恋の『こ』文字も出ねえよ」
男「あ……」
男教師「初めの頃は、そんな余裕なんて無くてさ……」
男教師「しかも、新米だって理由で、ガキどもに舐められて……」
男教師「気が付けばこの歳だよ」
男「……は、はは」
男教師「今はもう、完全にこの仕事に馴れはしたが」
男教師「今度はあのガキども。口を開けば、ハゲハゲと」
そう言った彼の頭は、
照明の明かりを見事に反射させていて。
男教師「戻りてーな」
男教師「まだ、入った当時の頃によ」
男「…………」
男教師「それなら、もしかしたら……ってな」
言いたいことは分かる。
やり直しがきくのなら、誰だって過去を変えたいのだ。
今の人生に満足していないわけではない。
ただ、あの時、あの瞬間、あの場所で。
違った選択肢はなかったのかと……思ってしまうのだ。
男教師「まあ、年寄りの戯れ言よ」
そうやって、一人自嘲する。
男教師「ん、話に付き合わせちゃって悪かったな」
男「いえいえ、そんな」
男教師「そうか、わりぃな」
彼は席を立ち、職員室の扉の方へ向かっていく。
男教師「俺はちょっくら、顔でも洗ってくるわ」
男教師「次の授業で、この顔はまずいしな」
少し後ろ姿がかっこ良いな、と思った。
……………。
……………。
授業中。
四限を終える鐘の声が聞こえた。
男「ん……では、ここまで」
男「明日は小テスト行う予定だから……」
言い終わる前に、生徒たちの悲鳴が聞こえ始める。
俺はそれを遮るように、出席簿で教壇を叩いた。
男「やかましい、きちんと復習しとけよ」
捨て台詞を吐いて、
俺は逃げるように教室から出る。
そういえば、もう昼か。
自分は空き時間に学食を済ませていたが、
男「あいつは昼飯どうするんだろうな」
ちょっと気になった。
男「まあ……何とかなるか」
そう思い、また廊下を歩き出す。
すると……──
ドンッ。
男「うおっ……」
突然後ろから衝撃を受けた。
誰かと思って振り返ると……
女「何とかならないわよっ」
腰に手を当て、胸元を突き出すポーズ。
正直、ちょっとエロかった。
男「……お、お前か」
しかし、一体何の用事で……。
女「お金頂戴」
男「はっ?」
女「お・か・ね、よ」
男「な、なんで……?」
女「昼飯食べるために決まってるじゃん。バカ?」
男「それは分かってる。なんで、俺が払わないかん」
女「生徒を助けるのが、教師の役目でしょ」
腰に手を当て、胸元を突き出すポーズ。
正直、ちょっとエロかった。
男「……お、お前か」
しかし、一体何の用事で……。
女「お金頂戴」
男「はっ?」
女「お・か・ね、よ」
男「な、なんで……?」
女「昼飯食べるために決まってるじゃん。バカ?」
男「それは分かってる。なんで、俺が払わないかん」
女「生徒を助けるのが、教師の役目でしょ」
>>333-334
あ、あれ?ミス?
男「自分の金はどうした?」
女「もうほとんど使っちゃって、今は……」
女「二十三円」
男「…………」
えっと……こういうときは……
男「う、うまい棒が二本買え……」
女「──却下」
男「………はぁ」
女「ほら溜め息なんてついてないでさ、お金」
男「はいはい、もう分かったよ……」
これじゃあ、体のいいパシリじゃないか……。
まあ、一ヶ月……いや、二週間ぐらいの辛抱と我慢しよう。
男「ほれ」
辺りに誰もいないことを確認し、
彼女の掌に五百円玉を握らせる。
女「……すくなっ」
男「文句を言うな、文句を」
女「先生って意外にケチンボなんだね」
男「……それ以上言うと、返してもらうぞ」
女「いやですぅー。ベーっだ」
そう言って、舌を出す。
腹が立ってもおかしくないのに、何故か……
男「ふっ、ガキだな」
女「……ッ」
男「まあ、その五百円で良いもんでも食えよ」
女「何よその言い方……」
男「でもいいのか?」
男「早く購買いかないと、売れ残りしかねぇぞ」
女「……はっ!」
女「ちょ、ちょっと、そういうことは早めに言ってよねっ!」
女「あーもう、急がないとっ」
すぐさま駆け足で廊下を走っていく。
俺はその様子を何となく、ただじっと眺めていた。
……………。
……………。
放課後、全ての授業が終わった後も、
明日の小テストを作り、雑務を終わらせ……
気が付けば、既に日は暮れて。
同僚達からの飲み会の誘いを断り、
寄り道一つせずに我が家へ帰る。
玄関に入れば、すでに見慣れた光景。
たったったっと、リビングから誰かが駆ける音。
女「おかえりっ」
だから思う。
男「…………」
この環境に一番満足しているのは、
俺自身なのではないかと。
彼女に寝床を与えるという名目で、
一番、利を得ているのは俺なのではないかと。
そして、この温もりが……
当然のものだと錯覚してしまうこと……。
それが俺は……
男「……ただいま」
──……本当に恐ろしいのだ。
……………。
……………。
それから、何事もなく数日が経った。
奇妙な形から始まった、この同居生活。
彼女の母親は今も尚、娘の帰りを心待ちにしているのだろう。
ここでふと、疑問が生まれる。
警察沙汰にならないのは何故か。
恐らく、彼女は母親に対して、たびたび連絡を行っているのだろう。
自分はまだ他所にいる、けれど、心配しないで、と。
しかし、だからこそ分からない。
そうやって母親に気遣う心を持っている癖して、
いつまでも父親の影を追い続ける理由だ。
そして、この家に留まり続けたい、と思う理由だ。
彼女は既に、俺の生活に順応し始めている。
彼女特有の親しみ易い性格がもたらしたものか。
或いは俺が、孤独の餓えに苦しんでいたせいなのか。
分からない。けれども、分かることもある。
一人で暮らしている時よりも、
会話があり、笑いがあり……
そしてなによりも……人の温もりがある。
それは、確かに俺が求めていたもので。
逆に言えば、既に失ってしまったもので。
そろそろ何とかしなければならない。
……それも、取り返しがつかなくなる前に、だ。
既に疑問は、ある程度の予測がついていた。
あとは、きっかけだけだった。
……………。
……………。
これは是非ともまとめサイトに載せて欲しい
俺は自分のブログにのせるぜ
絶対
>>348
俺も載せようかな。
全くブログの趣旨と正反対だけど。
/__ _ / 、、 _|__
_/_/___ / . .─/─┐\ __|__
/ヽ/ノ/ _ / / / ノ ___|
/フフこ/ (/ ̄ ̄ノ ̄ / 、/ (__
. ̄ ̄
/\___/ヽ
(.`ヽ(`> 、 /'''''' '''''':::::\
`'<`ゝr'フ\ + |(●), 、(●)、.:| +
⊂コ二Lフ^´ ノ, /⌒) | ,,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
⊂l二L7_ / -ゝ-')´ .+ | `-=ニ=- ' .::::::| + .
\_ 、__,.イ\ + \ `ニニ´ .:::/ +
(T__ノ Tヽ , -r'⌒! ̄ `":::7ヽ.`- 、 ./| .
ヽ¬. / ノ`ー-、ヘ<ー1´| ヽ | :::::::::::::ト、 \ ( ./ヽ
\l__,./ i l.ヽ! | .| ::::::::::::::l ヽ `7ー.、‐'´ |\-、
._______
|_______|
| |
.| , |
| Biore. |
|  ̄ ̄ ̄ .|
| |
| |
| ._ .|
 ̄ |_|  ̄
/、
||||||||||||_____________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
POS
携帯から失礼します。
今日から新しい住まいへの引っ越しだったもので、進めることが出来ませんでした。
明日以降はかならず投稿しますので、大変恐縮ですがそれまで待って頂けるとありがたいです。
最後の部分はすでに出来ています。
今後の展開(終わりまで)も、今、細かいところまで設定が終了しましたので、あとはひたすら書くのみです。
どうか最後までお付き合い下さい。
今後の投稿は携帯から行います(ネット環境が調っていないため)。
何とぞよろしくお願い致します。
本当に今日は申し訳ありませんでした。
女「先生、先生っ」
男「あーもう……ちょっと待て」
女「何よ、その迷惑そうな言い方」
女「学園のアイドルが話しかけてるって言うのに……」
男「『迷惑そうな』ではない」
女「だったら何なの」
男「いいか……俺は今、二人分の夕飯を作ってる」
男「正直、他に神経を使う余裕はない」
男「つまり、現に迷惑してるんだっ」
女「…………」
男「後で構ってやるから、後にしろ後に」
女「……ふんっ、なら、もういいよ」
男「おいおい、むくれんな……」
キッチン越しに何度も話しかけてくる彼女を、
俺は軽くあしったが、少女はその態度に気を悪くしたようだ。
彼女の身体の向こうには、
見慣れた家具やら寝具やら。
だが、それに加えて……
男「……で、またその……増えたわけか」
結局は、構ってしまうのは男心の悲しいところで。
むくれた少女の顔を見ただけで、胸の中が罪悪感で埋め尽くされる。
俺のかけ声を聞いた少女は、
さきほどまでの不機嫌な表情がまるで嘘かのように、
華やかな、そして、綺麗な笑顔をこちらに向けて……。
女「ねっ、可愛いでしょっ?」
彼女が胸に抱えているのは、ピンク色の何か。
それは正しく……
男「イルカ……か?」
女「うんっ」
いつの間にか、俺の家の中は、
日に日にぬいぐるみやら、赤やピンクの柄物やら。
少女の生活そのものが、
馴染み始めてきた……証拠だった。
………………。
女「ねぇ、先生」
男「ん……何だ」
飯を口に頬ばりながら、彼女の方をちらっと見る。
女「ちょっと、先生の昔の話を聞きたいな」
男「……なんだ唐突に」
女「いいじゃん、今、思いついたの」
男「んーー……昔の話ねぇ……」
女「話したくないなら無理には聞かないけど……」
男「いや、そういうことじゃなくてな」
男「ちょっと漠然としてて、何から話したらいいものか」
女「だったら、学生時代のことがいいなっ」
男「学生時代?」
女「うん、私と同じ年齢の時の話とか」
男「ああ……そういうことね……」
その頃の話で、何か、食事中の暇つぶしに
なるようなものがあっただろうか。
俺は頭の中で、過去の記憶を辿る。
男「……十七歳……」
そういえば……確か……あれは……
男「ん……いいのがあった」
女「聞かせてっ」
男「そこまで面白い話ってわけじゃなく……」
男「ちょっとした、何ていうか……その……」
女「前置きはいいから、早く進めてよ」
男「う、うるさいぞ君っ」
男「こういうのは形から入るのが大事なんだよ」
女「えっー」
男「まっ、端的に言えば、自虐話だ」
女「ふむふむ」
男「……失恋話だ」
女「ふむ」
男「間違えて、男に告ってしまったという……」
女「……………」
茶の間は静まりかえったそうな。
……………。
……………。
早朝。職員室。
定例の職員会議が、あと五分で始まるという時に、
俺は二年の学年主任に呼び出される。
男「…………」
もしかして、女との同居生活がバレたか……。
……と、ふとそんな不安が頭を過ったが、
それもすぐに間違いだと気付く。
それが仮に公沙汰になったのなら、
校長室に呼び出されるだけでは済まされないわけで。
だが、俺の心の中には、
漠然としたわだかまりが未だ残っており……
それを抱えながら、老教師の元へ向かった。
老教師「……ああ、男君、おはよう」
男「先生、お早うございます」
彼は俺が数十年前……
まだこの学園の生徒の一人だった頃からいる、
熟練の教師の一人だった。
しかも、一度、クラスの担任になったこともあり、
或る程度は、互いを知った仲だった。
昔に比べて皺が一層増えた老齢の顔で、
彼は俺に向かって言葉を続ける。
老教師「実はさっき、女教師クンから電話があって」
老教師「熱があるので休みたいとのことだったんだよ」
男「あー……そうなんですか」
予想だにしなかった話の入り方だったので、
俺は戸惑いの色を隠せない。
そんな俺を知ってか……或いは、知らずか、
彼はすぐさま本題に入った。
老教師「で、そこで頼みなんだが……」
老教師「今日だけ二年B組の担任をお願い出来ないだろうか?」
男「はぁ……」
男「別に構いませんが、副担任は?」
老教師「彼は今日出張でね」
そういうことか……。
男「分かりました」
男「では今日、自分が代わりを務めさせてもらいます」
特に断る理由もなかった。
加えて、老教師のお願いとあっては……。
老教師「そうか、ありがとう」
男「いえいえ」
いつまでも変わらない……
その腰の低さに、俺はただただ恐縮するばかりで。
男「あーそういえば……」
後になってから……
二年B組というのが女がいるクラスだと、
気付くことになる。
……………。
……………。
教室の前で、少し気合いを入れて……
男「……よしっ」
その高まった気持ちを維持したまま、
ドアを勢いよく開ける。
ガラッ。
男「席につけー」
生徒たちは各々席を離れており、
教室の至る所から視線を受ける。
生徒A「あれ……? なんで男先生が?」
生徒B「女教師ちゃんはどうしちゃったの?」
入ってくるのがいつもと違う教師だと言うことに
すぐさま気付いているようだった。
次々と声をかけてくる生徒たち。
大体は、このクラス担任を心配するような内容で、
彼女が彼らから信頼を受けていることが伺える。
だが、俺はそれには答えないで。
男「いいから、座れ」
文句の声を聞き流す。
まずは彼らの出席を取ることが先決だ。
…………。
男「おし、最後。渡辺」
渡辺「うひっ」
男「ふむ……全員出席だな」
出席確認も全て終わり、
次に連絡事項を伝えなければならないのだが……
そろそろ彼らが一番に聞きたがっている内容に答えねば。
男「女教師先生は、今日はお休みだ」
すぐさま一列目の男子が声を上げる。
生徒A「え? 大丈夫なんですか?」
男「熱が高いらしいが、多分、ただの風邪だろう」
生徒A「はぁー……なら良かったわ」
生徒A「事故だったらホントどうしようかと思ったよなあ」
生徒C「男先生が勿体ぶるから心配しただろうが」
生徒B「そうだよねぇ」
男「うるせぇぞ、お前ら」
糞生意気だった。
生徒C「でも、じゃあなんで先生が?」
生徒A「そうだよ、副担は男先生じゃないじゃん」
男「副担任も休みだったので、俺が代理」
生徒B「へぇ、そんな偶然もあるんだぁ」
生徒C「ハゲが来なかっただけ、ましか」
生徒E「ハハハ、言える言えるー」
男教師先生……。
俺が、助太刀しときますっ!
男「そういうことを言うんじゃないっ」
男「お前らだって将来どうなるか分からないんだからな」
生徒A「えーそれはヤダなぁ」
生徒C「アイツみたいなハゲになるくらいだったら死んだ方がマシ」
男「……そ、そんなことっ」
すぐさま否定しようとしたが、
無意識のうちにどもってしまう。
すると、生徒はすぐに切り返してきた。
生徒C「いいや、あるね」
生徒C「先生だって、明日からハゲになるって言われたら嫌だろっ」
男「……う」
生徒C「朝、鏡見て、『うわっ……死にたい……』って思うって」
男「……そ、そんなことは……」
生徒A「なんだっ、先生も俺たちの仲間じゃん」
生徒E「そりゃ、先生だってあの頭はね?」
生徒C「ムリムリ百パー有り得ないって」
男「…………」
俺は心の中の男教師先生に語りかける。
先生っ、す、すみません……助太刀どころか……
先生の背中にロケランをぶっ放してしまいました……。
でもごめんなさいっ……。
お、俺も、日光を綺麗に反射させる頭(ハゲ)は……
う、うぅ……正直……無理なんですぅ……。
仲間への裏切りに心を痛めながら、
俺が胸の内で悲しみの涙を流していると……
教室後方から……
もの凄い圧力を感じた。
女「…………」
あ、あいつ……。
なんて目で見てやがる……。
男「くっ……」
本能的に、あちらに向いてはいけないと
頭が俺に訴えかける。
あれは……肉食の動物だ。
獲物を見つけた、女彪の目だ……。
担任の代理と言っても、
後はあってもないような連絡事項を簡単に伝えて、
教室を出てしまえば、六限の終わりまでは担任の仕事はない。
加えて幸いにも、本日はこの教室での授業はないし、
そこまで未知なる恐怖に怯える必要はないのだが……。
女「………ふっ」
何だ……何だあの笑みは……。
久しぶりの武者震い。
あれは確か、幼少の頃の動物園で、
眠っていた猿に声をかけた以来のものだ。
もの凄いスピードで面前に飛んでくるウ●コを見たのは、
あれが最初で最後のことだった。
あれ以降、今でもあの時の恐怖がしばしば蘇る。
最悪にも五年生の修学旅行で夢に出てきて、
寝小便をしてしまったのは、思い出したくない記憶の一つだ。
そう……恐怖を前にした時の、
あの震え……これはまさしく同一のものだった。
男「……れ、連絡事項は……」
早く、出来るだけ早く済まそう。
あのハンターが、まだ余裕を見せている間に。
生徒A「あれ……どうした先生?」
生徒B「冬なのに……汗びっしょり……」
男「ええと……連絡、連絡事項は……」
男「…………」
男「なんだっけ?」
うおおおおおおおおーーー。
こんな時に物忘れなのかぁぁぁぁー。
女「……フフフ」
既に猛獣は爪を研ぎ始めている。
急げっ! これは一刻の猶予もないぞっ!
俺は職員会議での話を必死に思い出す。
瞬間、頭の中に教頭の発言が思い出された。
……………。
教頭『そういえば、私の湯のみが割れてたんだが……』
教頭『誰か、知っている人はおらんかね?』
……………。
出て来たの違ぇぇぇぇぇっ!
アンタの湯のみなら、男教師先生が、
ゴルフの素振りの練習やってて壊したんだよっ!
しかも初めは直すと豪語してたのに、
途中でめんどくさくなって……
……………。
男教師『百均の湯のみ買って、すり替えておいたら』
男教師『案外、教頭バカだから気付かれないんじゃね?』
……………。
とか、言ってました。
一応、確実にバレるので止めはしたが。
生徒E「先生マジでどうしたんだ?」
生徒A「もしかして先生も熱あんじゃないの?」
表情がコロコロ変わるのを見てか、
次第に生徒たちは俺のことを心配し始めた。
そうじゃない……そうじゃないんだよ。
問題はすぐそこさ。
君たちも振り返ればすぐさま分かる。
アイツの──
女「ニヤッ」
……………。
彼女はさきほどとは違った、
『既にゲームは終了したぜ』と言わんばかりの……
要は、人を完全に見下した笑みを浮かべていた。
そうか、タイムリミットを越えてしまったか……。
現実は本当に厳しかった。
俺は出来るだけ彼女を見ないようにする。
彼女が天にも突き刺さるのではないかと思えるほど、
腕をびしっと高く上げていたのは……見えていないはず。
男「…………」
無視だ無視。
俺は崖があったからといって飛び降りるような、
度胸……いや、無謀さは持ち合わせていない。
男「……んまっ、そんなに大事な連絡は無かったよ」
男「んじゃ、そういうことで……」
そう言って……逃げ出そうとすると……
女「──先生っ!」
…………。
終わった。あー終わっちゃったよー。
声かけられちゃったよー。無視できないよー。
俺はもうすっかり諦めて、
死の宣告を受ける患者のような気持ちで、
彼女の名前を呼んだ。
男「……なんだね、女くん……」
女「やっと、先生気付いてくれましたねっ」
傍から見れば、美少女が可憐に笑っているように映るだろう。
だが、俺にはそれが獲物を捕らえた獣の笑みにしか見えなかった。
女「先生は、もしかして気付いてないのかもしれないですけど」
女「今日は、四限にHRがありますよ」
男「あれっ?」
その程度……?
他に何かあったから呼んだんじゃないの?
色々読み違いがあったわけだが、
確かにHRのことは失念していたのは事実。
男「ああ、そうだったか」
男「教えてくれて、ありがとうなっ」
素直に教えてくれたことは感謝したい。
なんだ、良い娘じゃないか。
俺の野生の本能もまったく当てにならないものだ。
女彪ではなく、天使。
彼女は俺のエンジェルだっ!
安堵のせいで、少し電波的な考えをしてしまう。
こうなってしまうと教師的にはマズいので、
「じゃあ、四限目になっ!」
そう言って、俺は教室から出ようとした……
──が。
女「それで、先生、お話があるんですが……」
男「……へっ?」
お話っ? まだ、何かあるの……?
女「今月の終わりには文化祭ありますよね」
女「それで私たちのクラスは演劇をやることになっているんですが」
男「あ、ああ」
話が全く読めなかった。
女「女教師先生にも今回、役をもって貰っていて」
女「でも先生が休んでしまったので……練習が」
男「……進まないのか?」
女「はいっ、そうなんですっ」
つまり、彼女が言いたいのは、
女教師の代わりにその練習に付き合えってことか。
……むむ? 別にそれぐらい問題ないのだが……?
男「ん、良ければ彼女の代わりに俺が練習に付き合うよ」
女「ほんとですかっ! ありがとうございますっ」
男子E「うおお、先生かっけぇー」
渡辺「せ、先生……すす、凄過ぎるぜ、そこに痺れる憧れるっ!」
男子C「キモオタは黙ってろよ」
生徒たちからも賞賛の声が。
少し俺は気分を良くしていた。
男「演技は下手だが、羞恥心はないから練習には付き合えるだろう」
男「まあ、よろしく頼むよっ」
ちょっと上から言ってしまったのは、調子にのったせいか。
女「ほんとうにありがとう、先生っ!」
男「それで、女教師はどんな役なんだいっ?」
男「まさか、木の役とかじゃなよな? もしかして村人AかBか?」
ハハハっと一人笑う。
すると、そんな俺に彼女は笑いながら……
女「──王子です」
男「……おうじ?」
女「うちのクラスは白雪姫をやるんです」
女「で、先生が王子役、私が姫役」
男「…………」
生徒E「そういえば、今日ってどのシーンの練習だっけ?」
生徒A「あー、たしか姫様が毒リンゴ食べちゃったぐらいのとこ」
生徒B「それってキスシーンのとこだよね」
渡辺「フェイトちゃんとちゅっちゅっしたいよぉーっ」
生徒C「ほんと黙んねえと殺すぞ、なぁ?」
俺は既に周りの会話に興味をなくした。
さきほど聞いた一単語を復唱する。
男「……キスシーン?」
女「毒リンゴを食べたお姫様を、王子様がキスして眠りから救う」
女「……って、場面です」
やられた……完全にやられた。
女「お願いしますねっ!」
彼女はそう言って、満面の笑みを浮かべる。
……ああ、これは天使なんかじゃない。
悪魔だ……黒い尻尾のついた……小悪魔に違いなかった。
……………。
……………。
これまでの渡辺
渡辺「うひっ」
渡辺「せ、先生……すす、凄過ぎるぜ、そこに痺れる憧れるっ!」
渡辺「フェイトちゃんとちゅっちゅっしたいよぉーっ」
うひっ
そりゃぁ、フェイトちゃんとちゅっちゅっしたいよぉーのフェイトですよ。
放課後の教室。
六限終わりのSHRが終わると、
待ってましたと言わんばかりに彼女は席を立った。
そして、教壇で生徒たちを見送っている俺の元へ、
すぐさま駆け寄ってきた。
女「先生ほんと酷かったよねっ、ふふっ」
男「……おい、他の生徒たちがいるぞ」
口調が家での時と同じになっている。
学校での俺と彼女はそこまで親しい関係ではない。
これを聞いた周りの生徒たちからどう思われるか、少し不安だ。
女「別にいいって。誰も気付かないからさ」
男「念には念を入れないと……」
しかし、そんな俺の気持ちを彼女が考慮してくれるわけもなく。
既に少女の頭の中には、ある一つのことしかないようで。
女「そんなことよりっ」
女「ふふっ、四限のあれ何? 何なのっ?」
やはり、俺の四限での奇行が気になるようだ……。
俺はそれを思い出しただけで、胃が痛くなる。
男「な、何って……」
女「練習始まる前から、そわそわそわそわ」
男「…………」
女「あれだけ羞恥心がないと豪語してた演技も……」
女「──有り得ないくらいガチガチ」
男「……それは悪かった……」
その時の俺は、次にくるであろう、
あるシーンのことで頭が一杯で。
それはつまり──
女「で、王子のキスのシーンが始まった」
…………。
女「いつまで待っても顔は近づいてこないし」
女「なんか予期せぬ問題が起きたのかなーって」
女「それで、半目でそっちのほう見ると……」
男「……うぅ……」
女「ちょっと顔下げたところで……ふふっ」
その時の俺の様子を思い出したのだろうか。
少女は会話の途中にもかかわらず、笑い出す。
ああ、盛大に笑ってやってくれ……。
せめて、笑い話で片付けてくれるほうが楽だ。
女「石、みたいに、かた、固まってっ……」
必死に笑いをかみ殺しているせいで、
彼女はうまいように喋れない。
俺は、ただ俯いて……
男「……それ以上は……」
次にくるであろう言葉を……
聞きたくない一心だった……。
けれど──
女「た、タコ唇で固まるとかっ、ふ、ふふっ」
女「ふはははははっ」
男「……泣きたい……」
いつかこれも、
思い出せばすぐに笑えるような、
そんな思い出になるのだろうか。
そんなことを頭の片隅で少し考えたのだった。
………………。
………………。
ガチャッ。
男「これでよし」
戸締まりを全て確認したので、大丈夫だろう。
誰もいなくなった教室に鍵をかけた。
夕陽が窓から廊下に差し込み、
俺は空を眺めながら、職員室までの道のりを歩く。
思い出すのは、四限目のHRでの出来事。
思わぬ醜態を教え子たちに見せてしまったが、
今、考えるのはそのことではない。
白雪姫と王子様のキスシーン。
お話が最高潮に盛り上がる、そんな場面。
一度命を失った一人の女性が、
彼女に想いを寄せる男性の愛の力によって生き返る。
あまりにもご都合主義的だ。
でも、だからこそ、見る人の心を打つ。
現実では起こり得ない奇跡に、
何か心弾ませるものを覚えてしまう。
そんな感動的なシーンで……
男「…………」
──どうしてなのだろうか。
俺が見るに耐えない格好をしてしまったことではない。
一瞬そのせいで、教室が静まり返ってしまったことでもない。
白雪姫のことだ。
偶然、我が家に転がり込んできた家出娘のことだ。
俺は疑問だった。
男「……あの時」
それは恐らく、彼女の心を紐解く鍵の欠片で。
欠けてしまったバズルの1ピースで。
男「どうしてアイツは……」
だからこそ、不思議だった。
あの後、俺をからかって笑顔を見せていた少女が、
何を思っているのかが、その深意が、分からない。
そう。
どうして、彼女はあのシーンで……
──微かに震えていたのだろうか……。
………………。
?「あのっ、男先生っ!」
階段を降りていると、ふと後ろから声をかけられる。
聞き覚えの無い声。一体誰だろうか。
振り返った先にいたのは、
夕陽を背に浴びた、一人の男子生徒。
顔は凛々しい顔立ち。
一瞬で、スポーツをやっていると分かるような、
絞られた身体が制服越しからも見て取れる。
男「君は……」
俺は頭の中で彼のことを思い出そうとする。
見た記憶は確かにある。では一体どこで──
男「ああー……」
そうだ、思い出した。
彼は……
男「君は、二年B組の……」
男子生徒「はい」
そういえば、視界の隅に捉えた記憶がある。
授業中は真面目なタイプなので、
そこまで強い印象は受けなかったが……
男子生徒「先生にお話したいことがあるんですが」
よく見ると、とても整った顔立ちをしている。
俺にはないものを多くもっていそうだ。
正直、彼と話しているだけで、
男の尊厳が削げられている気がしてならないが、
教師としては断る訳にもいかず。
男「ん、なんだ?」
男「でもクラスの話なら、明日、女教師先生に話した方がいいぞ」
男子生徒「違います。少し、個人的な話で……」
男子生徒「男先生にご相談したいんです」
男「……ふむ」
何やら真剣な様子。
俺とは全く縁のない彼だが、
そこまで言うほどの用とは一体何なのだろうか。
男子生徒「実は……」
俺は彼の言葉を待つ。
そして、それが……思いがけないものなのだと……
男子生徒「同じクラスの女さんのことで……」
男子生徒「──ご相談があるんです」
男「…………」
何となく、気付いていた。
………………。
………………。
部活動の指導やら、早めの帰宅やらで、
数人ほどしか残っていない職員室を俺は彼を連れて歩く。
教頭のデスクの前までくると、
その後ろにかかっている鍵を一つ取る。
男子生徒「……先生、それは?」
男「会議室の鍵だ」
男子生徒「……なんか迷惑をかけてすみません……」
頭を下げ、すぐに謝罪を述べる。
そんな彼を、俺はじっと見つめ……
男「そんなこと気にするな」
君が気にすることではない。
何故ならそれは、俺にとっても都合のいいことだから。
彼が何の話をするのかは分からないが、
それが彼女のことである以上、万全を期したい。
男「こっちだ」
職員室を出て、角を曲がる。
普段は学年会議などで使う教師専用の部屋だが、
使用していない場合は、こうやって面談にも使える。
会議室の前に着くと、
俺は鍵を入れて、ドアノブを回した。
男「そっち側に座ってくれ」
男子生徒「……あ、はい」
二人着席した後、一つ深呼吸をして、
彼に話を切り出した。
男「……それで、相談というのは?」
初めから直球に。
余計な遠回りはいらない。
男子生徒「はい……女さんのことで」
それは分かっている。
既に聞いたことだ。
心の中で、彼を急かす自分がいる。
そんな気持ちを押さえつけて、
ゆっくりとした口調で、彼に合わせる。
男「同じクラスの女のことだな」
男「その彼女のことで、どういった相談なんだ?」
すると男子生徒は、顔を俯けてしまい……
次の言葉が中々出てこない。
何を躊躇っているのだろうか。
男「…………」
そして気付く。
俺と彼女の同居についての話ではないのか?
もしや……俺の考えていることは完全な思い違いか?
まさか。
いや、ならば話もつく。
彼は……
男「お前……女が好きなのか?」
男子生徒「────」
黙っていても、その反応だけで理解する。
そうか、彼はその相談をしにきたのか。
俯いていた彼は顔を上げ、
少し情けないような笑みを浮かべて、
やっと口を開いた。
男子生徒「先生……よく分かりましたね……」
男子生徒「僕、態度に出てましたか?」
男「態度っていうか……」
男「まあ、男の感だな」
高校生の男子がそんな真剣な顔で、
加えて話づらいとなれば、それは恋の話に違いない。
何て言ったって学生生活の重要なイベントは、
第一に恋愛なのだから。
男子生徒「今日、先生がクラスで劇の練習に加わってるのを見て」
男「あれは……情けない姿だったな」
男子生徒「いえ、僕はそんな風には感じませんでした」
男子生徒「普段は週に数回授業をやるだけのクラスで」
男子生徒「急にその中に入って、あれだけ生徒たちと馴染めるのは……」
男子生徒「正直、凄いなと思いました」
男「…………」
考えてもみなかった褒め言葉に、
俺は少し背中がむずかゆかった。
気を取り直して、話を戻す。
男「……そう言ってくれるのは、嬉しいな」
男「しかし、相談相手は本当に俺でいいのか?」
男「君の中でも、まあ今日のことで印象は悪くないのかもしれないが」
男「こんな話をするほど、信頼されているとは思えない」
男子生徒「ほら、先生」
男「ん?」
男子生徒「授業後の時に……」
男「ああ……」
それだけ大体、理解できた。
恐らく……。
男子生徒「女さんと親しげに話してたじゃないですか」
男子生徒「それで、先生に相談するのが相応しいなと……」
男「そういうことね」
男子生徒「すみません、信頼してないみたいに聞こえちゃいましたか?」
男「んや、そうじゃなくて謎が解けたって感じだ」
ここにきてあの時の心配が……
形を変えて降り掛かってくるとは、全く想像もつかなかった。
仮に、彼女が親しげに声をかけてこなかったら。
俺が練習の誘いを断っていたら。女教師が風邪をひかなかったら。
果てしなく続く、偶然の連鎖。
その終着点が今の状況だと考えると、
不思議と人生というものが些細なきっかけで大きく変わるのだとわかる。
──それは俺が常に感じていることで。
……一時も、忘れたことはなくて。
彼は本題に入る。
男子生徒「もうお分かりだと思うんですが」
男子生徒「僕は、彼女のことが好きなんです……」
男「そうか」
男子生徒「去年も同じクラスだったんですが」
男子生徒「声をかける勇気もなくて……」
男子生徒「他の女子となら普通に話せるんですが」
男子生徒「彼女と話すと……やっぱり他の子とは違って」
男「……そういうもんか」
男子生徒「きっかけを待ってたんでしょうね」
男子生徒「受け身でいても何も始まらないって分かってたのに」
男子生徒「何となく、運命みたいのを信じてたみたいです」
男「…………」
男子生徒「でも最近、これじゃ駄目だなって」
男子生徒「来年、同じクラスになれる保証なんてないし」
男子生徒「……色々考えてしまって」
男「それで……君はどうしようと思う?」
俺はできるだけ優しい口調で問いかける。
男子生徒「告白しようと思うんです」
男子生徒「しかも、できるだけ早くに……明日にでも」
男「……ほう」
それは思い切ったな。
彼がこの決断をするのに、どれくらい悩んだのか。
ある程度は予想もつく。
男子生徒「先生、どう思いますか?」
男「告白のことか」
男子生徒「はい……」
男子生徒「先生は……女さんと仲がいいんですよね?」
男「まあな」
男子生徒「じゃあ、彼女に好きな人がいるかどうかは……」
男「…………」
俺は考える。
アイツの好きな男か……。
思い出すのは、今日の劇の時の彼女の様子。
そして、一人震えていた少女。
男「いない」
俺は確信していた。
男子生徒「ほんとですかっ」
それを聞いた彼は、一瞬うれしそうな声を挙げる。
だが、すぐに……
男子生徒「でも……僕の告白が成功しなきゃ何の意味もないですね」
一人呟いて、落ち込んでいる。
そんな彼に俺は伝えなければならない。
彼にとっては酷な事実だとは思うが、
相談を受けた以上は、答えてやらねばならない。
男「はっきり言おう」
男子生徒「えっ?」
男「告白はやめとけ」
男子生徒「…………」
確実なことは言えないが、
恐らく彼女は彼が望む返事をしないだろう。
根拠は何か。
そう判断できる理由は何故か。
勿論、それはただの推測にしかすぎず。
けれども、俺はその確率が高いと確信している。
会議室の中は静まり返った。
少し経った後、彼はおもむろに口を開く。
男子生徒「それでも……」
男子生徒「それでも自分は、挑戦してみようと思います……」
男「…………」
男子生徒「女さんと親しい男先生だから、その忠告は正しいと分かってるんですが」
男子生徒「ここで諦めたら……あとで一生後悔するじゃないかって……」
男「……そうか」
そうだよな。
どうせ失敗するのなら、できるだけ納得の出来る形がいい。
しかもまだ、告白がうまくいく可能性だってあるのだ。
人生で一度も後悔をしない人間なんていない。
誰もが必ずどこかで失敗をし、悔しいと感じる。
あとはその加減だ。
どれだけ自分がその悔いを認められるかだ。
男「頑張れよ」
男子生徒「はいっ」
男子正当「先生、相談に乗って頂き……」
男子生徒「本当にありがとうございました」
……まっすぐな瞳でこちらを射抜く。
そんな彼を見て、その想いが本気なのだと。
想像以上に、この男子は良い奴なのだと。
最後になって気付いたのだった。
……………。
……………。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません