ハルヒ「キョンく~ん♪」(212)
キョン「えっ」
ハルヒ「会いたかったんですよぉ…」
ハルヒ「すっごく寂しかったです。」
キョン「お…おい…ハルヒ?」
ハルヒ「キョンくん…あたしのこと、今名前で呼んでくれました?」
キョン「い…いや、いつもそう呼んでるし…」
ハルヒ「何か…うれしい…です」
キョン「???」
キョン「ハルヒ、お前一体どうしちゃったんだよ?」
キョン「なんか変だぞ。」
ハルヒ「変っていつも通りですけど…」
キョン「もしかして…俺をからかってるのか?」
キョン「その手には乗らんぞ」
ハルヒ「そんな………」
キョン「大体そんなブリッ子しても気持ち悪いだけだ。朝比奈さんならともかく…」
ハルヒ「………」
ハルヒ「……ごめんなさい」ダッ
キョン「えっ……ハルヒ?」
キョン(あのハルヒが…泣きながら走り去っていっただと?)
キョン(一体全体…なんなんだよこりゃ)
谷口「おいキョン」
キョン「なんだよ谷口。お前妙に不機嫌そうだが」
谷口「当たり前だろ?何でお前、涼宮さんにあんな酷い口聞いたんだよ」
キョン(………涼宮『さん』?)
キョン「そんなこと言ったらお前だってハルヒのことボロクソに言ってたじゃねえか」
谷口「人聞きの悪いこと言うなよ!俺が…」
谷口(小声で)「俺が…憧れの涼宮さんのこと…ボロクソに言うわけないだろ」
キョン「谷口、お前いきなりどうしたんだよ…変だぞ?ハルヒ共々頭でも打ったか?」
谷口「それはお前の方だ。周りの視線が何よりの証拠だぞ」
男子「………」ジーッ
キョン「……………」
キョン(ハルヒと言い谷口と言い…)
キョン(一体何だってんだ)
みくる「あっ、キョン君?」
キョン「ああ、朝比奈さん。1年の教室に来るなんて…珍しいですね」
みくる「ちょっと、いいですか?」
キョン(あれ?怒ってる?)
―廊下―
みくる「キョン君、どうして涼宮さんにあんな酷いことを言ったんですか?」
キョン「えっ」
みくる「涼宮さんが気が弱くて言い返せないからって酷いです。」
キョン「い…いや、ハルヒはいつもと何だかおかしいですし…」
みくる「涼宮さんはいつもと同じです。おかしいのはキョン君の方です。」
みくる「ちゃんと放課後、謝って下さいね。」
キョン「………」
キョン(朝比奈さんまで……)
放課後
キョン(一体全体どうなってるってんだ…)
キョン「よお、古泉」
古泉「やあ。今日は大変でしたね」
キョン「全くだよ…ハルヒはおかしいわ、クラスの奴らの視線が痛いわ、朝比奈さんには叱られるわ」
キョン「一体どうなってるってんだか」
古泉「おや、僕は嫌味のつもりだったんですがね。」
キョン「………」
古泉「いくらなんでもあんまりだと思いますよ。」
古泉「しかしあなたは…自分が発言した事自体にはあまり気にも止めていない様ですので」
キョン「あからさまな嫌味とはお前にしちゃ珍しいな」
古泉「ははっ……」
キョン「…………」
キョン「…………」
古泉「…………」
長門「…………」
…やっぱり変だ。何かが変だ。
ガチャッ
みくる「こんにちはぁ~」
みくる「あれ?涼宮さんは?」
キョン「まだみたいです。今日は日直でしたし」
みくる「そうなんですか…」
みくる「…キョン君。」
キョン「はい?」
みくる「涼宮さんが来たらちゃんと謝って下さいね。」
キョン「いや、でも………」
みくる「ね」
朝比奈さんの目が妙に真剣だった。
キョン「…………」
キョン「はい」
みくる「じゃ、私着替えてお茶、入れますね。」
そう言って朝比奈さんはメイド服に着替え出した。
バタン
ハルヒ「…………」
みくる「あれ?涼宮さん、来てたんですか?」
ハルヒ「………はい。」
みくる「今、お茶入れますからね。待っててください」
ハルヒ「すいません。今日は私だったのに…」
みくる「気にしないで。さあ、座って?」
そう言って朝比奈さんは、俺の隣の椅子を引いた。
ハルヒは黙りこくったままそこへ座る。
ハルヒ「…………」
キョン「…………」
ハルヒの顔は暗い。葬式の真っ最中か、いやそんなもんじゃない。
今日にも世界が終わるかのような面をしていた。
さっきから古泉と朝比奈さんの視線が突き刺さる。
早くあやまれと言うこと何だろうが、どうも納得がいかん。
今までのハルヒは…俺にだって朝比奈さんにだって、長門や…とりあえず古泉にも
散々俺の発言以上に酷いことをしてきた訳だ。
ハルヒは一度だってきちんと謝ったこともないのに
なぜこの程度で俺が謝らなければならないんだ。
ハルヒ「あの………」
キョン「………どうした」
ハルヒ「さっきは……ごめんなさい」
ハルヒ?なぜお前が謝る?
ハルヒ「キョン君は多分…冗談か何か言ったつもりなんですよね。」
ハルヒ「なのに私が…変な意味にとって事を大きくしちゃって…」
どうした?一体どうしたんだハルヒ?
今までだって、これからだってお前がこんなことを口にするなんて万にひとつもあるわけがない。
…現に口にしてしまってる訳だが
しかし俺は…俺は騙されないぞ
何に?……もちろんハルヒに、だ。
ハルヒ「今日一日…キョン君に肩身の狭い思いを…」
終いにハルヒは泣き出した。
人前で、特に俺の前で涙をながすことなど消してしないだろう女が。
悪い夢なら覚めてくれと思いっきり自分の足を踏みつけたが
どうにも事態は好転しなかった。
キョン「……悪かった」
ハルヒ「……へっ」
キョン「俺が悪かった。すまない。」
女の笑顔は卑怯だ。
謝るしかないじゃないか。
その後さらに卑怯なことに、ハルヒはいきなりパアッと明るくなった。
しかし、ギラギラとやかましい明るさではない。
ポカポカとか…そう言う類いの柔かな明るさだった。
みくる「さあ、仲直り出来たところでお茶が入りましたよ。」
古泉「許して貰えて良かったですね?」
朝比奈さんと古泉の笑いが今の俺にはどうにもこうにも痛い。
長門がいつにも変わらず無表情に本を読んでいてくれたことが救いか。
>>19
ごめん
春日しかでてこなかった
キョン「……悪かった」
春日「……へっ」
キョン「俺が悪かった。すまない。」
女の笑顔は卑怯だ。
謝るしかないじゃないか。
その後さらに卑怯なことに、春日はいきなりパアッと明るくなった。
しかし、ギラギラとやかましい明るさではない。
ポカポカとか…そう言う類いの柔かな明るさだった。
みくる「さあ、仲直り出来たところでお茶が入りましたよ。」
古泉「許して貰えて良かったですね?」
朝比奈さんと古泉の笑いが今の俺にはどうにもこうにも痛い。
長門がいつにも変わらず無表情に本を読んでいてくれたことが救いか。
朝比奈印の甘露を俺とハルヒはほぼ同時にすすった。
……やはり変だ。
違和感は覚えていたがこれで揺るぎないものとなってしまった。
ハルヒは俺をからかってはいない…と思う。
きっと元々ハルヒは「ああ」なのだろう。
谷口達と朝比奈さんと古泉…
彼らの反応とさっきのハルヒが何よりの証拠である。
一体どうしたもんかな…と溜め息を付きそうになると
ふいにハルヒが俺に話しかけて来た。
ハルヒ「あの…キョン君」
キョン「なんだ」
ハルヒ「その…今日、一緒に帰りませんか」
キョン「え?」
まずい。この後…皆が帰った後に長門に色々と話を聞くつもりが…
しかし断るにも断れない。
何故なら…朝比奈さんと古泉が無言の何かを俺に叩き付けているからである。
ハルヒ「………だめ?」
決定的瞬間だった。
ハルヒよ。その顔と言い方は反則だろう。
大変な事になってるかも知れないってのに
俺はまるで反射のように即座にオーケーを出してしまった。
>>20
ワロタ
みくる「じゃ、後片付けとか鍵締めとかは私達がやっておくんで」
みくる「二人はもう帰って下さい。ね?」
ね?の後に続く言葉は…何だったのだろうか。
ハルヒ「じゃあ…お先に失礼します」
ハルヒ「あの…キョンくん……」
キョン「…ああ。行こうか。」
まあ長門には夜にでも連絡すればいいか…とオレンジよりブルーの比率の方が高い空を見つめながら思った。
外に出るとマフラー、コート、手袋、おまけにホカロンまでしょっていたがやはり寒かった。
マフラーを忘れたハルヒにいたっては…身を縮ませ、プルプル子犬のようにふるえている。
キョン「ほら、風邪引くぞ」
と、お決まりのセリフを言いながら俺はハルヒに自分のマフラーを首に巻いてやった。
ハルヒ「…………!」
ハルヒ「あ……ありがとうございます」
ニッコリと穏やかな笑顔だった。
不覚にも可愛いと感じてしまった自分が憎い。
ハルヒ「じゃあ、いきましょうか」
自転車を引っ張る俺の後ろをちょこちょこハルヒは着いてきていた。
いつもならズンズン前を歩く女が、だ。
どうも気色悪いが、慣れてきてしまっている自分もいた。
ハルヒ「あの…キョンくん?」
キョン「どうした?」
ハルヒ「……早いです」
キョン「……ごめんな」
ハルヒ「いえ…歩くの遅くてごめんなさい。」
何を話したら良いか分からない俺に対しハルヒは…ご丁寧にも
俺とハルヒ(今の)に関して色々喋ってくれた。
ハルヒ「私ね、初めて出来た友達がキョンくんだったんですよ?」
初耳だ。……当たり前だが。
ハルヒ「中学生の時ね、女の子から嫌われちゃってて…お友達、いなかったんです」
今日に限った事ではないがハルヒの顔は絶妙なパーツとバランスで出来てるんだなぁ…などと
妙なことを思ってしまったがまあいい。
ハルヒ「でもね入学した日に話しかけてくれた人がいて…あたし嬉しかったなぁ」
ハルヒ「変な自己紹介しちゃった後だったんで…余計に」
そういってハルヒは少しうつ向いた。
ハルヒ「宇宙人さん、未来人さん、超能力者さんがいたら
お友達になりたいので私のところに来てください」
ハルヒ「なんて…今考えたら恥ずかしくなっちゃいます」
てへへと笑うハルヒ。
…どうにもこうにも調子が狂う。
ハルヒ「そのあとキョンくんが部活を作ってくれて…」
ハルヒ「長門さんや朝比奈さん古泉くん…友達が一気に四人も増えちゃいました。」
キョン「…よかったな」
特に掛けてやれる言葉もなく、俺は笑いながらそう言ってやる事しか出来なかった。
そういや、元のハルヒも孤独っちゃ孤独だったな。
向こうは気にも止めて無かった様だが。
そんな俺達に、二人のヤンキーが絡んできた。
ヤンキー1「よお、よお、そこのにーちゃん」
ヤンキー2「ヒューヒューお熱いねー」
ヤンキー1「可愛いカノジョ連れちゃって生意気だな~」
どうにも…面倒なことになった。
この手の人間は嫌いだが俺の力ではどうにもならない。
いつものハルヒなら「うるさい」とか何とか言って返り討ちにするところ何だろうが…
どうも俺の後ろでプルプル震えていた。
ヤンキー1「よーよ、いい日にデートだなぁ」
ヤンキー2「これから彼氏んちでペッティングかー?」
ハルヒの顔がボンッ!と真っ赤になる。
それにしてもペッティングなんて言葉、久々に聞いたな。
ヤンキー1「ねーねーお姉ちゃん、兄ちゃんより俺達楽しませてあげるよ?」
ヤンキー2「一緒に遊ぼ?ね?」
そう言われたハルヒはフルフル頭を振った。
そりゃそうだ。ここで頷く人間など居るわけがない。
ヤンキー1「いいじゃん!」
ヤンキー2「じゃないと彼氏、怪我しちゃうかもよ?」
これは本格的にまずい方向になってきた。
しかしハルヒが頼りにならない以上、俺がなんとかしなけりゃならない。
………やれやれ
バッ!とわざと大きく自転車の方向を切り替える。
キョン「ハルヒ!乗れ!」
ハルヒ「…………えっ」
ハルヒはぼーっと突っ立っている。
…ダメだ、こりゃ。
と思ったものの何故かヤンキー達がフリーズしたように動かない。
その間ハルヒは俺の後ろに乗り、…自転車を走らせた。
(注:この世界では二人乗りは合法です)
ハルヒは見た目とは裏腹に結構体重はあるんだなと、
決して口には出さなかったが思った。
下り坂は寒いが気持ちがいい。
街も一望できて一石二鳥だな。
しかしハルヒは…怖いのかギュッと俺に抱きついていた。
役得と言えば役得か。
ハルヒ「キョンくん…助けてくれてありがとう」
俺が助けた…と言えるのか。あれは。
確実に別の力が働いて居ただろうに…。
ハルヒ「ねえ、キョンくん…」
ハルヒ「私のこと、どう思う」
ボソッと呟くように言った。
が、俺は聞かない振りをしてしまった。
そうやっているうちに、例の踏み切りまで来てしまっていた。
ハルヒはとんっと地面に降りた。
キョン「じゃあな。気をつけて帰れよ。」
手をふって別れようとするとハルヒは俺のコートの裾をちょこんと引っ張った。
ハルヒ「あの…キョンくん。待ってください。」
何やらハルヒはゴソゴソ鞄の中から何かを取り出そうとしていた。
ハルヒ「…あれっ?ない?ない?」
鞄を道路へ置き、ひっくり返し中身を調べていたようだがどうも見つからない様だ。
ハルヒ「どうしよう……」
今にも泣きそうな面構えだ。
キョン「どうしたんだ?何が無いのか言ってみろ。」
ハルヒ「それは……」
ハルヒ「言えないです……」
似合わずしょんぼりしている。
どうにかしてやりたいとは思うが、
無いものが分からないんじゃどうにも出来ない。
いや、薄々ではあるがハルヒが何を無くしたのか…薄々分かっていた。
というかバレバレだった。
何故なら今日は俺の…
ハルヒ「あのう…キョンくん?」
キョン「大丈夫か?」
ハルヒ「あの……」
ハルヒ「ごめんなさい…今のは忘れてくださいっ」ダッ
キョン「あ…ああ…じゃあな。」
非常にしょんぼりしながらもハルヒはもの凄いスピードで走っていった。
その直後、携帯の着信音が鳴った。
表示を見ると…長門だ。
キョン「もしもし。長門か。丁度いい。話があったんだ。」
長門「そう。」
長門「確認するが、あなたはもう、気がついてる?」
キョン「………ああ。」
何が?とは敢えて聞き返さなかった。
…とにもかくにも長門は頼りになりそうで良かった。
長門「話がある。私の部屋へ来て。」
キョン「分かった。今から行く。」
ピッと電話を切ったところで、さっきのヤンキーのセリフが思い出される。
俺は顔が熱くなるのを覚えたが構わず自転車を長門のマンションの方向へ回した。
長門の部屋は相も変わらず無機質だったが
それが逆に変なことを意識させず助かると言えば助かる。
いつもの通り長門印のほうじ茶が振る舞われ
俺はそれをチビチビ飲んでいた。
キョン「で…、長門。話って何だ。」
分かっていたが一応念のため尋ねて置いた。
長門「涼宮ハルヒの異変について。」
キョン「…そうか。」
長門「涼宮ハルヒの性格が突然変化した。
しかしそれに対して私とあなた以外全員の記憶が操作された為に
それが日常的なものとこの世界では認識されている。」
キョン「つまり…ハルヒが願いを具現化する能力で世界をいじくったって訳か。」
長門「違う。」
………違う?しかし長門、どうみたってこれは…
長門「正確にはまだ涼宮ハルヒによる願望の具現化は完了していない。」
キョン「どう言うことだよ?」
長門「つまり涼宮ハルヒは性格を改変し、かつ周りがそれを受け入れることを願った」
長門「しかし私とあなただけはオリジナルの涼宮ハルヒに関しての記憶を保持し続けている。」
キョン「つまりハルヒは…わざと俺達を残したってことか」
長門「そう」
キョン「……しかし何でだ。」
長門「彼女はあなたが選ぶことを望んだ。」
長門「オリジナルの涼宮ハルヒか、改変された涼宮ハルヒか、を。」
長門「ヤンキーがフリーズしたのも彼女が忘れ物をしたのも予定の内」
「………んなアホな」
と、言いたかったがいつものことだ。
しかし…
キョン「何だってんだ…」
キョン「しかし、今回はそう深刻な問題でも無さそうだぞ」
長門「我々にも、古泉一樹にも、多分朝比奈みくるにも影響はないと思われる」
キョン「なら、あのままでいいんじゃないのか?」
キョン「他人に迷惑かけるわけでもなく、何より俺は楽だ。」
長門「…………そう」
長門「オリジナルの涼宮ハルヒと改変された涼宮ハルヒが完全に入れ替わるのは明日の日没」
長門「そうなれば私もあなたも記憶を改変される」
キョン「なら、明日には妙な違和感を覚えなくても済むんだな。」
長門「そう」
長門「でもそれまで『オリジナルの涼宮ハルヒ』を選択すれば」
長門「…全て元に戻る」
長門「全てはあなた次第。」
長門「私はあなたにこの事を話すことによって役目は終えた。」
長門「私は………」
長門は一度、考えたようなそぶりを見せたあと言った。
長門「私はあなたを信じてる。」
どうしてそんな自殺行為同然のことをせにゃいかんのか。
ハルヒは楽しそうだし、朝比奈さんが困るわけでもないなら
今のままがハルヒにとっても皆にとっても俺にとっても良いじゃないか。
いっそ俺の記憶も最初から改変してくれれば良かったのにな…
と、俺は帰り道を自転車でひた走った。
翌朝。
教室に入るとハルヒが落ち着かなさげな表情で俺を出迎えた。
ハルヒ「キョンくん…!」
俺を見るや否やパアッと笑顔になり、駆け寄ってきた。
ハルヒ「今日、休んだらどうしようって思ってて…」
ハルヒ「でも…良かった」
一度も学校を休んだことのない俺が休む訳もないのだが
本当にハルヒは嬉しそうな顔をしていた。
なんだかムズムズするが、これも今日でおさらばである。
谷口「おうおうっ!今日もお熱いね~」
国木田「喧嘩の後は一番燃えるッていうしね」
どうもこの二人に似た人間を昨日見たような気がする。
その後のハルヒもずっとこんな調子だった。
ニコニコしたと思いきや、はぁと溜め息をついたり
オリジナルと同様情緒不安定なのだろうか。
しかし…決定的に違うのは『優しい』のである。
俺が授業中寝ていれば起こしてくれるし
それでもおきなければノートを写させてくれるし
いや、いつもと変わらないと言えば変わらないのだが
気分が良いのである。のと同時にやっぱりムズムズした。
そんなこんなで放課後になった。
ブリリアントハルヒ(俺命名)はスペックはオリジナルハルヒとは全く変わらないが
結局女子ともうまく行っている様だったし、
先生にも可愛がられていたし
今日も男子に呼び出された様だが上手く交わしてきた様だし
他のクラスからもハルヒを見にわざわざ男子がやってきたり
一緒に昼飯を食えば俺は羨まれるし
ほとんど完璧と言うか朝比奈さん以上にパーフェクトと言うか…パーペキな人間だった。
しかし何故だろうか。俺は朝比奈さんの方が魅力的に見えてしまうのは。
放課後、日直の仕事を終えて部室に入るとメイド姿の
ブリリアントな朝比奈さんとブリリアントなハルヒが俺を出迎えた。
ごめんなさい中途半端ですが明日早いので寝ます。
本当にごめんなさい
何ともキャラかぶりが激しい気もするが…
みくる「あっキョンくん、終わったんですか?」
キョン「ええ……ってあれ……」
机の上を見ると今日は甘露と…シフォンケーキが置かれていた。
キョン「これは……」
みくる「あたしが今日…焼いてきたんです。」
みくる「キョンくんの誕生日、きのうだったんですよね?ごめんなさい…」
いえいえ。なんとも朝比奈さん特製シフォンケーキが食べられるなんて夢にも思ってませんでした。
寝たんじゃなかったのか
>>86
眠いのに寝れないです。
仲良く二人でお茶を入れる姿はどうもなかよさげな姉妹の様で
ほほえましくもあったが物足りない気もした。
フワッと膨らんだケーキを口に入れると
レモンの良い香りが口の中に広がった。
今日はハルヒが茶を入れたようだが
しかしやはり…なんというか変だ。
どうも朝比奈さんの入れた茶に似てはいるが
パチモンにしか思えないのである
やたらと濃いお茶も悪くは無かったのだが。
ハルヒ「おいしい…ですか?」
キョン「ああ。うまいよ。」
そんな顔で聞かれたらそう答えるしかないじゃないか。
今のハルヒは可愛げがあって良いが
何と言うか俺自身の一部が欠けた様な気がしてならなかった。
しかしこんな思いをするのは今日だけ。
日が暮れれば記憶なんて…
ハルヒ「キョンくん、浮かない顔しますけど…」
ハルヒ「大丈夫ですか?」
いや…記憶をハルヒに勝手に掻き回されるのである。
それってどうなんだ?記憶を掻き回すのは『オリジナル』のハルヒだ。
みくる「シフォンケーキ…お口に合いませんでしたか?」
すでに朝比奈さんも
古泉「こんなに美味しいものを食べながらそんな顔なさるなんて…何かありました?」
古泉も
ハルヒ「私のお茶に何かあったんでしょうか…?」
この可愛げのあるハルヒも
またハルヒによって掻き回されている。
なによりこのハルヒが一番不憫な気がする。
ハルヒにとって都合の良い存在であり、無理矢理代わりにされている。
そう思うとなんだか怒りにも似た
良く分からない感情が込み上げてきた。
全くもって…馬鹿げたことしやがる。アイツは。
長門「おかわり」
長門は5回目のおかわりコールを唱えていた。
みくる「嬉しいです。長門さんがこんなにたくさん食べてくれるなんて。」
キョン「いや、本当にうまいですよ。」
みくる「キョンくんにそう言ってもらえて早起きした甲斐があったなあ」
ハルヒ「朝比奈さんってお料理上手ですよね。今度私にも教えてください。」
みくる「ええ。ぜひ。それとちょっと涼宮さん…」
ハルヒ「えっ…?」
朝比奈さんはハルヒを部屋の外へ連れ出した。
古泉「ふふっ。何をしにいったんでしょうね。」
キョン「さあな。女の考えることは分からん。」
古泉「僕は貴方がうらやましいです。」
キョン「………どこがだ」
古泉「全てです。涼宮さんにあんなにも好かれている。」
キョン「馬鹿なこというな。」
古泉「僕もそんなセリフ、言ってみたいものです。」
キョン「……お前、ハルヒのどこが好きなんだ?」
そう言えばこの男、オリジナルも好きだなんだといってたな。
今のハルヒなら…なんとなく理解できなくもないが。
古泉「涼宮さんだから…ですかね。」
キョン「ハルヒだから?」
キョン「………理由になってないぞ」
古泉「つまり僕は涼宮さんが涼宮ハルヒであるから…好意を寄せているんです。」
相も変わらず全く説明にもなっていない。
古泉のこの回りくどい話し方と顔を近づける癖を誰か何とかしてくれないか。
古泉「好意を寄せることにあまり理由はありません」
古泉「例えもしも、です。涼宮さんが今とは違って破天荒な性格であったとしても」
古泉「僕の気持ちは変わらないでしょう。」
古泉「涼宮さんの性格が変わったからと言って僕は彼女を毛嫌いはしません。」
古泉「根底にある部分は同じでしょうし。」
古泉「…少々神人の出現が多くなりそうな気もしますがね。」
苦笑いをしながら古泉はそう答えた。
キョン「結局フィーリングじゃねえか。そんなもん」
古泉「あれこれ理由を付けても仕方がありません。」
そっくりそのままお前に返してやりたいが…
確かに理由なんてないのかも知れない。
原因はあるんだろうけどな。
ハルヒが自分の性格を改変した理由なんてないのかも知れないが
原因はあるのかも知れない。
分かってはいたがそう考えると腑に落ちるような気がした。
別に俺はハルヒが嫌いな訳じゃない。前も。今も。
そりゃオリジナルハルヒはどうしようもない『バカ』ではあるが
嫌いなら関わろうともしなかったし、とっくにSOS団なんて辞めているだろう。
朝比奈さんも古泉も長門もきっと…いや、絶対にそうだ。
しかし、約一名意外な人間がハルヒ自身を嫌っていたのかもしれない。
だから彼女は「辞めた」のだろう。
しかしそんなのは改変後のハルヒが可哀想だとは思わないか?
オリジナルハルヒは意思をもって性格を改変したが
彼女はある意味、理由も知らずに強制的に「元からあるもの」として此処に置かれている訳だ。
そこに意思もクソもない。
朝比奈さんだって古泉だって…他の人間全部もいい迷惑だ。
強制的に知ってることを知らないこととされ
知らないことを知っていることにされる
直に俺も長門も…だ。
誰が「誰にも迷惑が掛からない」…だ。
悪いが俺は可愛いハルヒの為にも自分の為にも断じてこんなことは許さないぞ。
可愛いハルヒは自分の意思をもって可愛いハルヒであるべきだ。
何を言っているのか…段々わからなくなって来た。
ガチャッ
みくる「キョンくん、お待たせしましたぁ~」
ドアの向こうからメイド姿の朝比奈さんと
制服に着替えたポニーテールの…ハルヒがやって来た
反則的に似合う。どうしてこうもポニーテールっていいんだろうな。
馬の尻尾を見ても興奮しないのに。
ハルヒ「ど……どうですか」
照れながらチラチラこちらを見てくるハルヒは…認めよう。
反則的に可愛いかった。
ああ、もうこのハルヒは反則的に可愛い。
キョン「似合ってるぞ」
ハルヒ「そ…そうですか?よかったぁ…」
てへっと笑う姿はきっと男性の95%が何かしらの感情を抱いてしまうであろう程素晴らしかった。
ハルヒ「朝比奈さんにやってもらったんです。」
みくる「やっぱり涼宮さんは似合いますね。」
ハルヒ「で…キョンくん…今日も一緒に帰って貰えませんか?」
ハルヒの申し出に対して長門をチラリと見るが…反応がない。困った。
ええい。どちらにせよ俺は一緒に帰るべきだろう。
キョン「分かった。行くぞ。」
ハルヒ「………は、はい!」
外へでると昨日同様ブルーまじりの夕焼け空が広がっていた。
外へ出てもやっぱりハルヒは可愛い。
どうにも調子が狂う。
ハルヒ「昨日は……その…」
ハルヒ「ごめんなさい…」
キョン「何で謝るんだ?」
ハルヒ「最後わたわたしちゃって…」
やはりどうも調子が狂う。
元のハルヒを選ぶことはある意味彼女を拒絶したと受け取られてしまうし
今のハルヒを選べばハルヒ自身を拒絶してしまう。
もうこんな時間だと言うのに…どうにもこうにも頭の整理がつかない。
…どうすればいいのかは分かっていたのだが
公園の辺りまできたところでハルヒは話を切り出してきた。
ハルヒ「あの……」
ハルヒ「キョン君に…渡したいものがあるんです。」
キョン「……渡したい、もの?」
ハルヒはがさごそと鞄の中から何か四角い物体を取り出した。
ハルヒ「誕生日……プレゼントです。」
四角い箱の中身を開けてみると、中にはオルゴールが入っていた。
ハルヒ「…朝比奈さんと一緒に選んだんです。」
どうにもハルヒらしくないプレゼントである。
どちらかといえば朝比奈さんが選びそうな…そんなプレゼントであった。
キョン「なあ…ハルヒ」
ハルヒ「何ですか?」
キョン「悪いが俺は受け取れない。」
ハルヒ「……………!」
ハルヒ「なんで………ですか?」
キョン「受け取れない。」
俺はハルヒに…箱を突き返した。
どうして?と言った表情だった。
ハルヒ「朝比奈さんのケーキは食べた……のに?」
キョン「美味かったな」
ハルヒ「私のは…受け取って貰えないんですか」
キョン「………ああ。」
はたから見ればアホな行動であったうえに背中を刺されても仕方がないだろう。
しかしこれは『俺にしては』十分な行動だと思ったのだが…ハルヒにとってはそうでなかったらしい。
ハルヒ「あたしは……朝比奈さんより…」
ハルヒ「キョンくんは……」
キョン「別にそう言う訳じゃない。」
キョン「俺は……」
この先がどうもこっ恥ずかしくて言葉が詰まってしまった。
ハルヒ「キョンくんは朝比奈さんを選んで…」
ハルヒ「あたしは…キョンくんに」
ハルヒ「拒絶された…んですね?」
キョン「いや…そう言う訳じゃ…」
そんな俺の言葉も虚しくハルヒの目付きが変わってしまった。
俺にとっての十分は『ハルヒ』にとっての不十分だったらしい。
俺はハルヒ自身を選んだつもりだったのだがどうもハルヒは
自分が拒絶されたのだと思っているようだ。
ハルヒ「朝比奈さん……なんだ」
ハルヒ「私じゃダメ…なんですね」
キョン「いや、ハルヒ!聞いてくれよ…俺は…!」
ハルヒ「分かりました」
何が分かったんだか?
一ミリたりとも分かってなんかないだろう。こいつは
ハルヒ「キョンくんが…」
ハルヒ「キョンくんが…」
しかしそんな言葉も虚しくハルヒの目は光を無くしていった。
ハルヒ「……………」
ハルヒ「!」
キョン「ちょ……ハルヒ!」
ハルヒは俺に飛び掛かってきた。
流石はハルヒと言うべきか物凄いスピードである。
手には何処から出したのか知らないが先ほど朝比奈さんがケーキを切り分けたナイフを持っている。
………待て。待て。
何だってんだこの状況は?
俺はハルヒをこれっぽっちも拒絶するつもりもないし、
ましてや刺される様な事を言ったつもりもない。
夕日。ナイフ。女子生徒。
例のシチュエーションが思い浮かばれる。
なんて悠長な事を言ってる場合じゃないぞ。
相手は朝倉のような宇宙人ではないとはいえ化け物だ。
一言だけ言わせて頂きたい。
どうしてこうなった
ナイフがオレンジ色に輝く。
こんな経験、人生に一度あるかないかだろう。普通は。
ハルヒ「キョン……くん…」
ハルヒ「キョン……く…」
ハルヒは壊れた人形のようになんども俺の名前を呼ぶ。
朝倉以上の恐怖だ。
女ってのは本当にこわい生き物だな。
とりあえず逃げてはみるがどうも逃げ切れそうにもない。
突進してくるハルヒを交わす自身もない。
ある意味こいつは朝倉以上のスペックの持ち主なのかもしれない。
ハルヒはとうとう、ナイフを構えた。
次いでに俺に向かって突進してきた。
俺の出来ることと言えば目をつむることしかなく、抵抗することさえ身体が許さなかった。
もう一度言わせてくれ
……どうしてこうなった
身体の震えが止まらない。
気配と風でハルヒがこっちへ向かってくるのが分かる。
とりあえず歯を食い縛ろうか…。
なんて事を考えているうちにドスッという鈍い音が聞こえてきた。
ああ、死んじゃうのかな…と思いつつも
痛みがない。
生ぬるい感触もない。
一体全体どうなってるってんだと目を開けると俺は
刺されていなかった。
じゃあどうしたんだと前を見ると…
ショートヘアーの女子高生が血をポタポタ垂れ流しているのが見えた。
ハルヒ「な…がとさん?」
ハルヒはいきなりのことに目をひんむかせた。
無論、俺もである。
キョン「長門!」
キョン「大丈夫か…?」
長門の近くに駆け寄ると
もうすでに彼女の腹の傷は塞がっていたようで
平気な顔をしながらむくっと立ち上がった。
長門「………へいき」
一方のハルヒはと言うとわなわな震えながら座り込んでいた。何が起きたのか未だに理解が出来ない。
キョン「一体どうなってるってんだよこりゃ…」
長門「あなたが涼宮ハルヒに対して想定外の返答をしたため」
長門「世界のバランスが崩れはじめた。」
長門「だから…一度だけ私が割り込んだ。」
想定外の返答ってお前…そりゃあ若干回りくどかったろうけれど…
長門「きちんと、彼女が納得する様に話すべき」
と言いながらいつぞやの朝倉のように長門はサラサラ消えていく。
長門「しかし、先程の発言はきっかけにしか過ぎない。」
長門「始めからこの世界には歪みがあった。…涼宮ハルヒ自身にも。」
キョン「……歪み?」
長門「彼女は彼女でなくなる事を願った」
長門「同時に彼女は彼女である事も願った」
長門「あなたに答えを託しているようで結果はある意味見えていた。」
長門「今…この世界は矛盾に満ち、遂には涼宮ハルヒ自身でもバランスを保つことが出来ない。」
長門は淡々と喋り続けるがその間にも長門の身体は消失して行く。
キョン「長門!おまえ…」
長門「大丈夫。介入が出来なくなっただけ。」
長門は平気な面をしているが、
今俺の目の前にはとんでもないことが繰り広げられている訳で。
長門「………頑張って」
そう言い残してパアッと消えていってしまった。
いつかどこかでみた空間。
無機質な空間が気がつけば広がっていた。
………自分を誤魔化すのが得意な訳で
しかし、曖昧な表現は通用しないようだった。
いつもこうだった。俺は。ハルヒのことも言えねえじゃねえか。
……追い詰められないと素直になれない。
座り込んでいるハルヒの肩を持った。
肩を持つや否や、泣き出してしまった。
キョン「いいか、ハルヒ良く聞けよ。」
ハルヒ「ひっく…………」
キョン「俺がお前にプレゼントを返したのはだな…」
キョン「なんて言うか…」
キョン「俺はちゃんとお前から貰いたかったからなんだよ。」
ハルヒ「…………?」
キョン「ああ、ええとだな、上手くは言えないが」
キョン「お前はお前で良いと思う」
ハルヒ「あたし………で?」
ハルヒ「でも…キョンくんは…朝比奈さんの事が…」
キョン「朝比奈さんも好きだ。でもお前も嫌いじゃない。」
キョン「…何より、今のお前が可哀想そうだろう?」
ハルヒ「あたし…が?」
キョン「そうだ。前のハルヒはお前選択する事ができた。」
キョン「でもお前にはない。…それってあんまりだとは思わないか?」
ハルヒ「前の私?私はずっと私で…」
キョン「違う。ややこしいがお前はお前だが同時にお前じゃない。」
ハルヒ「私は………」
ハルヒは言葉を詰まらせた。
俺は周りを見渡す。
いつぞやのように灰色に染められ、ひとっこ一人いやしない。…のはずなのだが辺りにはなにかが崩れていく音が響き渡っていた。
…はなから疑ってはいなかったが長門の言っていたことは
どうやら本当だったようだ。
ハルヒ「私は……朝比奈さんに……」
ハルヒ「朝比奈さんに…なりたかったんだと思うんです。」
何となく分かってはいた。
行動も言動も朝比奈さんそっくりだったからな。
ハルヒ「朝比奈さんは可愛くて、お姉さんで、いつもあたしを引っ張ってくれて…」
どうもこっちの朝比奈さんも記憶だけでなく性格も多少改変されていたようだ。
>>142
×お前 ○お前を
誤字すいません…
ハルヒ「だからいつか…朝比奈さんが…」
ハルヒ「だからあたし…」
朝比奈さんが何だ。述語がないぞ。述語が。
ハルヒ「それは……」
キョン「とにかくよ、はっきり言って今のお前は可愛い」
ハルヒ「えっ」
顔をハッとさせたあと真っ赤になるのもまた可愛い。
キョン「しかしな、SOS団的に考えてな。これは由々しき事態なんだよ。」
ハルヒ「ゆ…ゆ…?」
キョン「よく考えてみろ。古泉が二人もいるか?長門が二人もいるか?俺が二人もいるか?」キョン「朝比奈さんが二人もいるか?」
ハルヒ「………」
キョン「みんなそれぞれ…まあ悪いところもあるだろうど、皆で補完しあってる。」
キョン「それで良かったんじゃないのか?」
ハルヒ「でも………」
キョン「朝比奈さんは必要な人材だ。が、二人もいらん。」
朝比奈さん(大)、朝比奈さん(みちる)ごめんなさい。
キョン「今の団には大切な人間が欠けてる。」
ハルヒ「大切な…人間?」
キョン「完全無敵の団長様が、だよ」
キョン「いきなりお前はお前じゃない…と言われて何が何だか分からないだろうが」
キョン「好きか嫌いかは置いておいてだな…」
キョン「俺は今のお前より、前のお前が必要だ。」
もう一度どこかからかナイフを取り出して刺されるんじゃないかと思ったが
ハルヒはどうも落ち着いてくれたのか特に変わった様子を見せる訳でもなかった。
キョン「…ただ、だ。」
ハルヒ「?」
キョン「これはお前の問題だ。お前が俺に託したものを俺はお前に託す。」
キョン「お前に選択権がないなんて、おかしな話だからな。」
ハルヒ「私が……昔の私に戻るか…」
ハルヒ「今の私のままでいるか?」
キョン「そうだ。どうせもうじきに記憶は消えるんだ。」
キョン「お前がちゃんと考えて決めたのなら、俺はそれを受け入れる」
一見するとこれは賭けのようだが賭けではなく
逆に賭けではないないようで賭けでもある訳で…
ハルヒ「キョン……くん。」
ハルヒ「私は…」
キョン「ハルヒよ、いつも通り『くん』は付けなくていい。」
ハルヒ「じゃあ…」
ハルヒ「キョン、私は…!」
つまり、俺は信じていたんだと思う。
二人のハルヒのことを
少し考えた後、突然ハルヒは顔をキリっとさせた。
ハルヒ「私をキョンが必要だというならば…」
ハルヒ「SOS団に私が必要ならば」
ハルヒ「…私も『その私』が必要なんだと思います。」
ハルヒ「私はSOS団もキョンも大好きです。」
ハルヒ「だから…」
ハルヒはそういって、またまた顔を真っ赤にさせる。可愛いやつめ。
ハルヒ「それに私はさっきみたいに、このままでいたら私が望んだ私でも」
ハルヒ「私であった私にも慣れなくなっちゃう気がするんです。」
確かにさっきのハルヒはハルヒらしくは無かった。
ハルヒ「…だから私は、前の私を選びます。」
何故だかその瞬間安堵したと共に
物凄く惜しいことをしたような気もしたが…まあいい。
ハルヒ「でも……私、どうしたら元の世界に戻れるんですか?」
そりゃそうだろう。ハルヒの能力の言葉をハルヒ自身には知らされていないんだからな。
俺はここで何と言うべきか迷ったが…
ええい。ここはもう一か八かだ。
キョン「ハルヒよ、お前がちゃんと願えばそれでいい。」
キョン「ここはお前が作り出した世界だ。お前が何とか出来るはずだろ。」
ハルヒ「へっ…」
ハルヒ「最後の方が一体何なのか理解できないんですが…」
キョン「理解しなくていい。」
キョン「ただお前が、自分を改変した時と同じように…つまりは真剣に願えばいいんだ。」
ハルヒ「あの……」
キョン「ハルヒ。俺はお前を信じてる。」
キョン「だからお前も俺を信じてくれ。」
そう言った瞬間またもや顔を赤くする。
……やめてくれ。下手すりゃまた迷ってしまいそうだ。
ハルヒ「わかりました。」
ハルヒ「私もキョンを…信じます。」
ハルヒ「じゃあ、行きますね。」
キョン「……ああ。頼んだ。」
ハルヒは大きく息を吸ったあと…
目を閉じ、胸の前に手を組んだ。
……しかし特に何も変化はなかった。
きっと朝比奈さんあたりには時空間の振動だかなんだかが見えるんだろうが。
しかし事態は一瞬で、ガラリと変わった。
どうにもこうにも目の前の景色が薄らいで行くのである。
目眩とも違った感覚の、まるで…眠りにつく数十秒前の様な感覚だった。
どうやらハルヒが力を使ったようなので…安心したが、
どうにもこのハルヒと別れるのはやはり惜しいものがある。
数時間同じ場所にいると、もしかしたらずっと前から俺は此処にいたんじゃないのか?
と錯覚してしまう現象と似ている。
…俺だけかもしれんが。
ハルヒ「キョンくん…最後に!」
全てが闇に覆われる正に五秒前、ハルヒの口が僅かに動いたのが見えた。
ハルヒ「く……し…」
く…し?串?
ここから先の記憶は、もうない。
…………………
………………
…………
………
「ョン…ん…」
…誰だ?
「キョンく……」
……まだ俺は
みくる「キョンくん?」
その声の主を認識するや否や俺は光の早さで飛びあがった。
キョン「朝比奈さん…!」
みくる「良かったぁ…起こしても起こしても、キョンくんと涼宮さん全然起きなくって」
てへへ、と笑う彼女の姿はやらり愛らしかった。
みくる「何か皆でお昼寝しちゃってたみたいで…」
みくる「目覚ましに温かいお茶、入れますね。」
朝比奈さんはそう言うと、てってってと水をくみに走り出した
のだが、ドアの付近で盛大に転けていた。
……朝比奈さんは朝比奈さんらしい。
どうやら「改変の改変」は成功したようだ。
ふと、隣を見るとハルヒはいつの間にやら俺のマフラーを首に巻き、まだグースカ寝息を立てていた。
苦しそうだったのでマフラーを取ってやろうとするが
顔をしかめながらそれを拒絶する。
古泉「おはようございます。目覚めはいかがですか?」
朝比奈さんが起こしてくれたんだ。悪いわけなかろうに。
古泉「…どうにも不思議なんですよ」
古泉が例のごとく顔を近付けてきた。鬱陶しい。
古泉「SOS団全員が同時にうたた寝をする、と言うのは勿論」
古泉「長門さん、朝比奈さんに確認したところ
あまりにも似通った夢を見ていたんです。」
……答えは一つしかなかろうに。
古泉「僕も今回、やっと貴重な体験が出来た様です。」
古泉「いつも仲間外れでしたからね。」
やけに嬉しそうな表情に腹がたつ。
俺はともかく、長門なんか刺されたんだぜ。
インターフェースとは言え、気持ちの良いことではなかろうに。
古泉「あの様な涼宮さんも魅力的だと感じますが」
古泉「…何だか物足りなかった、ですかね。」
そんなことをペラペラ喋る古泉のことは無視しつつ
いつもと変わらず本を読み耽っている長門に話し掛けた。
キョン「…ありがとうな、長門」
キョン「痛くなかったか?」
長門「別に」
長門「へいき」
キョン「そうか。」
キョン「良かった。」
長門「良かった。」
キョン「お前が彼処で助けてくれなかったら…」
長門「違う」
……違う?何がだ?
長門「多分、私の行動は余計だった。」
キョン「だ、としてもだ。」
キョン「いや、なら余計にか」
キョン「ありがとうな。」
長門「………そう。」
他人からすれば、実に奇怪な会話なのかも知れないが
俺達にとってはそれが自然であり、俺にとっては『安心』そのものであった。
朝比奈さんの入れてくれた甘露を飲みつつハルヒの寝顔を眺める。
こいつはこいつで思うこともあったんだな…と、ハルヒの意外な一面を知った様な気がする。
やり方は…どうも、こいつらしいといえばこいつらしいが。
しかし、やっぱり今になって惜しいことをしたんだと染々思ってしまう。
まあ、あのハルヒが今の世界を願ったんだからこれで良いのだろうが。
しかし
くし……
とは一体何なんだったのだろう?
串?櫛?句誌?KUSI?
なんてことを考えていると、ハルヒ嬢が漸くお目覚めになった。
ハルヒ「くし刺しにしてやる」
ザクッ
ハルヒはむくっと無言のまま起き上がる。
いつもより眠たそうな目をしていた。
キョン「よお。お目覚めか?」
ハルヒ「…………」
まだ眠たいのかハルヒは無反応だ。
キョン「眠たそうだな。」
と、ふいにハルヒは鞄の中身をゴソゴソ探り始めた。
ハルヒ「……………」
キョン「え?」
ハルヒは例の…オルゴールを取り出しながら言った。
ハルヒ「………贈呈。」
おしまい
終わり?くしってなに?
>>184
あの時は半分オリジナルハルヒ、半分改変ハルヒ
改変ハルヒはキョンに好意を伝えようとしたが
オリジナルハルヒがそれを許さなかった。
だから決定的にKUSIって言葉になった。
簡単な並べ変えです。
時々中断してしまいましたが保守、ありがとうございました。
色々荒削りな部分がありますが補完していただけるとうれしいです。
最後までお付き合いありがとうございました。
またどこかでっ
乙
「くし」は「わたしにやさしくしてあげて」とかそんなだと思った
最後は今度は長門みたいになっちゃったというオチでおk?
>>202
かもしれないし、寝た振りしてたハルヒのいたずらかもしれない。
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