ID:fin0HYy30
の代行っす
中3、夏の大会前
憩「あーあ、ダイビングキャッチなんかするから痣だらけやん」ナデナデ
絹恵「そやけどキーパーはそれが仕事やで?」
憩「こんな綺麗な足やのになぁ」スリスリ
絹恵「ちょ、もうくすぐったいで」
憩「あはは、ごめんごめん」
絹恵「なぁ、憩ちゃんは進路決めたん?」
憩「あー全然。絹ちゃんは?」
絹恵「私は…私はサッカー続けたいなぁ」
し
憩「ほな三箇牧やなぁ、あそこはインハイ常連やし」
絹恵「あーそやな。施設とかもすごいみたい」
憩「三箇牧かー」
絹恵「どしたん?」
憩「あそこ偏差値高いから、推薦取れそうな絹ちゃんは別として
私はちゃんと勉強せなあかんわー」
絹恵「え、一緒の高校に来てくれるん?」
憩「あかん?」
絹恵「え、ええよ!嬉しい!」
憩「ふふ、そやんなぁ」
絹恵「ほな、サッカーで成績残して推薦取れるように頑張るわ」
憩「うん、今度の試合も応援行くで」
絹恵「あ、テーピングもしてや?」
憩「うんうん。あ、ほな三箇牧へ行ったらサッカー部でマネージャーしよかな?」
絹恵「あ、それええやん!私も心強いし!」
憩「ええなぁ、楽しそうやなぁ」ニコニコ
絹恵「そやなぁ」ニコニコ
全国大会1回戦、試合後
絹恵「うぅっ、ぐすっ」
憩「絹ちゃん、絹ちゃんは頑張ったで。あれはしゃーない」
絹恵「そやけど、でも、ぐすっ、PK戦で負けるなんて、ずずっ、あかんやん」
憩「あんなん運や、いいキーパーやからって絶対止められるわけちゃうやんか」
絹恵「そやけどぉ…うわぁぁぁん」
憩「あぁ、もういっぱい泣いたらええわ。な?」ナデナデ
絹恵「けいちゃぁぁぁん」ギュウ
憩「……絹ちゃん」
きぬたそ~
中3、秋
絹恵「なぁ憩ちゃん、勉強捗ってる?」
憩「んーボチボチやなぁ。こないだの模試は結構よかったけど」
絹恵「そっかぁ」
憩「絹ちゃん推薦は?」
絹恵「あぁ、それはもらえるみたい。期待のキーパーやって言われたで」
憩「すごいやん、さすが絹ちゃんや」
絹恵「うん、ありがとう」
憩「…ん?なんかあったん?」
絹恵「え?」
憩「なんか、あんま嬉しそうとちゃうし…」
絹恵「嬉しいで?」
憩「そう?ならええんやけど」
絹恵「ただ…」
憩「ただ?」
絹恵「憩ちゃん、インハイ見た?麻雀の」
憩「ううん、うちは麻雀できひんし」
絹恵「あぁ、そやった。あんな、お姉ちゃんが…南大阪代表で出場したんや」
憩「姫松やっけ?」
絹恵「うん…そう」
憩「それがどうかしたん?」
絹恵「う、ううん!なんでもないで!」
憩「なんやもう~」
絹恵「あ、そや…憩ちゃん、足首ちょっと見てくれへん?」
憩「え?また捻ったん?」
絹恵「あーうん、癖ついたみたいな感じで」
憩「ちょっと腫れがあるなぁ」サワサワ
絹恵「ガチガチに巻いといてくれへん?」
憩「わかった、任して!」
絹恵「憩ちゃんは頼りになるなぁ」
憩「当たり前やろ~」
憩「(絹ちゃんの足は真っ白で綺麗やなぁ…痣なんかないほうがええのになぁ)」
憩「(でも、キーパーをやってる絹ちゃんは好きや。かっこいいしな)」
憩「(…いつからやっけ。キーパー以外の絹ちゃんも気になるようになったのは…)」
絹恵「おぉ、ありがとう。ガチガチやな!」
憩「気合入れて巻かせてもらったで」
絹恵「これでいっぱい動けそう」ピョンピョン
憩「無理したらあかんよー」
絹恵「うん、わかってるー!」
中3、冬
絹恵「うー寒いなぁ」
憩「手袋忘れるしやん、ほらこれ貸すから」ハイ
絹恵「えーでも憩ちゃん片っぽないやん?」
憩「それはほら、こうしたらええし」ギュッ
絹恵「う、うん…あったかいな」ポカポカ
憩「うち、体温高いねん」
絹恵「羨ましいなぁ」
憩「ええやろー」
憩「絹ちゃんは練習熱心やなぁ、引退してんのに」
絹恵「えーだって推薦で強豪に行くのに練習せんわけには行かへんって」
憩「まーそっか」
絹恵「三箇牧のグラウンドで練習参加させてもらうこともあるねんで」
憩「へー。どう?仲良くやれそう?」
絹恵「うん、それはうん」
憩「そっかぁ、うちも楽しみやなぁ」
絹「…うん、そやな」
別の日
憩「(正直浮かれてた、一緒に高校に行けるってことに)」
憩「(だから、…だからあんなことに)」
絹恵「憩ちゃーん、今日もテーピングお願いします!」
憩「はーい、足出してー」
絹恵「うん…あ、寒っ」
憩「真冬に素足はそら寒いわー」
絹恵「今日もがっつり巻いて」
憩「お任せあれ~」
きぬたそ~
憩「(ちゃんとやった。間違ってない…と思う)」
憩「(いつも通りに足首を固定して…なのに、)」
憩「ふわぁ~眠いなぁ」
憩「けど、この問題集はやってしまわへんと…」カキカキ
憩「これが終わったら入試も何とかいけそうやな」カキカキ
憩「絹ちゃんと同じ高校かぁ、楽しみやなぁ…」
ガラッ
サッカー部A「あ、荒川さん!」
憩「な、なに!?」
サッカー部A「き、き、絹恵が!!」
グラウンド
憩「絹ちゃん!何があった…え…」
絹恵「はは、ははは…やってもうた、かも」
自嘲気味に笑う絹ちゃん
私が固定したはずの足首はぐにゃりとあらぬ方向へ曲がっていた
憩「…あぁ、絹ちゃんの足が…そんな…」
呆然とした。私が巻いたテーピングのせいだ。
私のせいで…
絹恵「憩ちゃん、ちゃうで、これは別に憩ちゃんのせいちゃうで?
憩「で、でも…こんな…」
サッカー部B「絹恵先輩、先生が車まで運べって」
絹恵「あ、うん、肩貸して…よいしょっと…いたた、やっぱ痛いな」
片方の足首がだらしなく垂れている…私のせいで。
きぬたそ~
あの日、あのとき、あの練習で絹ちゃんは靭帯を切ってしまった。
何がどうなって切れたのか説明された気もするけど
罪悪感とか居た堪れない気持ちとかで縮こまっていた私には何も聞こえなかった。
クリスマス
絹恵「憩ちゃん、もうええから笑ってーな」
憩「ううん、笑う資格なんかない」
絹恵「もう、ええって。な?」
憩「……あかん」
絹恵「えぇー」
絹ちゃんは推薦を取り消された。
強豪高に靭帯をやってしまった生徒はいらないらしい。
実際、依然と同じようにサッカーは出来なくなっている。
私のせいで、絹ちゃんはサッカーの夢を諦めた。
絹恵「憩ちゃんが笑ってくれへんかったらクリスマスも台無しやで?」
憩「…ごめん」
絹恵「謝って欲しいわけちゃうで、笑って欲しいの」
憩「…」
絹恵「憩ちゃんが笑ってくれたらプレゼントなんかなんもいらんのになぁ」
絹ちゃんの笑顔がまぶしくて直視できない。
足首はいまでも完治していないから何かがグルグル巻きつけてある。
憩「うちは…取り返しのつかへんことを…」
絹恵「ええの、もうええの。…あんな、言ってへんことあったんよ。聞いてくれる?」
憩「…なに?」
絹恵「うん…実はな、」
あかん眠い…
絹恵「ずっと迷ってた。三箇牧に行くの、迷ってたんや」
憩「なんで?」
絹恵「サッカーもしたい。でももっとしたいことができた」
憩「え?うそ、なに?」
絹恵「麻雀や。お姉ちゃんみたいになりたい」
憩「姫松の?」
絹恵「そう、姫松に行くか三箇牧かでずっと考えてた。
でも憩ちゃんは私と一緒の高校に行くために勉強してる、」
絹恵「そやのに自分だけ止める、なんて言い出せなくて…
ずるずるとそのままきてたんや」
きぬたそ~
絹恵「だからな、ケガはいい機会やったんや。サッカーを諦められたし…」
憩「…なんやそれ」
絹恵「え?」
憩「怪我させてくれてありがとうって聞こえるで、それ」
絹恵「そ、そんなつもりちゃうって!ただいい機会やったってだけで…」
絹恵「それにそもそも、このケガは別に憩ちゃんのせいちゃうで」
憩「そんなん言われても気休めにもならへん…」
絹恵「なぁ憩ちゃん、…一緒に姫松にせぇへん?」
憩「え?」
絹恵「マネージャーにはなれへんし、一緒に麻雀しよう?」
憩「…いや、うちは三箇牧に行く」
絹恵「私、憩ちゃんと一緒がええんや」
憩「今更志望校帰るとかできるわけないやん、必死で勉強してたのに」
絹恵「ごめん、でも…」
憩「姫松やったらこんな勉強せんでもよかったのに…」
憩「なんで、なんでもっと早く言ってくれへんかったん…」
絹ちゃんの葛藤も悩みもわかる。でも話して欲しかった。
親友なら、一番に言って欲しかった。
それが寂しかった。
きぬたそ~
でもこれも全部私が悪い。
浮かれていて絹ちゃんの悩みに気づけなかったのが悪い。
浮かれていてテーピングをちゃんとできなかったのが悪い。
ケガさえなければ悩みながらでも三箇牧に進学したかもしれないのに。
一緒に登校したり、同じ部で助け合うこともできたはずなのに。
絹恵「ごめんな、憩ちゃん…ごめん」
憩「…結局別々かぁ寂しいな」
絹恵「でも、親友なんは変わらへんやんな?」
憩「わからへん…」
素直に、変わらないといえばよかった。
なんて今更、意味ないけれど。
卒業までの3ヶ月間、今までのように仲良く出来なかった。
お互い遠慮してばかりで、気の許せる親友ではなくなってしまった。
私は、三箇牧にトップの成績で入ることになった。
努力は実ったといえそう。もうあまり意味がないけど。
絹ちゃんもお姉さんと同じ姫松高校へ進学が決まった。
「おめでとう」とは言ったけど、やっぱり笑顔にはなれない。
卒業式
絹恵「憩ちゃん、元気でな」
憩「そっちもな」
絹恵「…バイバイ」
憩「バイバイ、絹ちゃん」
この日以来、絹ちゃんとは一度も会っていない。
高1、夏
恒子『さぁ、連日お届けしてきました今大会もついに最後の対局ですっ!』
健夜『楽しみですね』
恒子『1年生の荒川憩は2、3年生相手にどこまで食らいつけるでしょうか!』
健夜『荒川選手は非常に楽しみな選手ですね、優勝もありえると思います』
憩「(なーんでこんなところに来てしまったのか…)」
憩「(興味本位で始めた麻雀、まだ三ヶ月くらいしかやってないんやけどなぁ)」
憩「(絹ちゃん、どっかにおるかなぁ。見てるかなぁ)」
憩「(さて…怖いメガネのお姉さんおるし、ニコっと笑っとこかな)」
なんでこんなところに来てしまったのか。こんなところで何をしているのか。
でも…なんでやろう、あのときの罪悪感は消えずにここにある。
それが強さの秘訣?なんてそんなわけない…よなぁ?
終わり
乙
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