鈴原泉水子「もう一度、やり直すの」 (30)

こちらは荻原規子先生原作の『RDG レッドデータガール』のSSスレッ ドです。

内容は原作・アニメのその後と言った所です。

また申し訳程度ではありますが若干の欝成分を含みますのでご注意ください。

以上が開始前の注意点となります。

そもそも需要が見込めるのか、先行きも不透明な見切り発車ですが、よろしければ暫しの間お付き合いください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1379331336

普通の女の子になりたい。

そんな私の願いとは裏腹に、世界は無遠慮にその 姿を変えていく。

個人としての世界遺産候補から外れた私は、

し相変わらず多くの勢力から姫神の器として付け 狙われる日々が続いていた。

けれども表面上、私の3年間の高校生活は平穏な ものだったと思う。

それはひとえに宗田三姉弟や高柳くん、そして相 良深行くんを筆頭にした多くの友人達の力添えが あってこそのものだった。

きっと彼らにはいくら感謝してもし足りない。

うん、もしかすると感謝することさえ許してもら えないかもしれない。

皆のお陰で私は今日まで生き伸びて、

普通の女の子になる事も、世界を滅亡から救うこ とも叶わなかったのだから。

RDG レッドデータガール ‐夢みる頃を過ぎて も‐

(深行くんは、どこに居るだろう……)

医師も患者も居ない病室。幾重にも絡まって身体 を貫くチューブに埋もれながら、泉水子は久し振 りに彼のことを考えていた。

もう数年もの間、相良深行の行方は知れぬものと なっていた。単独での諜報活動中に命を落とした などと噂されていたが、その真偽は定かではな かった。

(真響さんは……真夏くんと一緒に逝ってしまっ た)

宗田姉弟は追っ手から泉水子を逃がす為に囮とな り、そのまま帰らぬ人となった。それと時を同じ くして、真澄が姿を現すこともなくなった。も う4年も前の出来事だ。

(たくさんの人が死んでしまった。私が殺してし まった)

母の紫子は泉水子が高校を卒業する寸前に命を落 とした。程なくして泉水子は正式に姫神を継承し た。

父の大成は病死だった。泉水子が見取る前で「こ んなはずではなかったんだ」と申し訳なさげに呟 いて息を引き取った。

家族や友人、そして強力な後ろ盾を失した泉水子 は間もなく山伏側の陣営ごととある国家の非正規 部隊によって拿捕・掌握された。

それからの泉水子の人生は彼女が望んだ普通の生 活とはおよそかけ離れたものであった。

始めに連れて来られた研究所では、彼女は数多く存在する研究対象の一人として実験動物の如き扱 いを受けた。

そこで有用性のある能力の持ち主として見出され た彼女は、次の研究所で生体兵器として肉体に改造を加えられ、不要な機能は排除された。

皮膚や体液はサンプルとして収集され、脳には電極が差し込まれた。

その遺伝子をより改良するべく人工的な交配実験が開始されるようになった頃には、彼女の周囲どこを見回しても人の尊厳などと言う物は微塵も見当たらなかった。

戦場では泉水子の血液から抽出された成分を用いて精製された有害毒物が多くの人々の生命を死に追いやり、骨髄液に超音波を当てることで発生した特殊な電波は機械系等全てを狂わせた。

やがて兵器の原料となる泉水子の遺伝子が人工的に培養されるようになると、それらは世界中の戦争で用いられるようになり、それに比例して犠牲者の数も爆発的に増加していった。

彼女が拘束されて5年が経つ頃には、元の全世界の人口の15%が泉水子の一部を取り込んだ兵器たちの力によって命を落としていた。

最早その時点で鈴原泉水子が全世界で最も多くの人間を殺害した女性であることは疑いようもな かった。

最も、混濁した意識の中で世界から隔絶された泉水子当人にとって、そのようなことは知る由もな かっただろう。

今や彼女は真っ白なベッドの上で廃棄処分される のを待つ、死にかけの実験動物でしかないのだから。

(それにしても、今日はやけに気分が良い)

これまでのことを少しずつ思い出しながら、泉水子はぼんやりとそう感じる。

こんな風に物思いに耽ることなどここ数年なかったことだ。

(どうして、今日に限って……)

朗らかな陽光が差し込む窓の方に顔を傾けようと力を込めて、しかし上手くいかずに断念する。

最早彼女の体からは自身の意思を反映させるだけの余力さえも感じられない。

情けない。脳裏に浮かんだそんな思考も、言葉にはならず消えるのみ。

自分の身体から声帯と呼ばれる部位が切除されていたことを、泉水子はこの時初めて知った。一 体、何時からそうなっていたのか。皆目見当も付かない。

何にしてもはっきりとした意識が存在しているということは、今の泉水子には辛いことでしかなかった。

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