ミカサ「それだけ」(33)
会話のみでフワッとしたエレミカです
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―――
ミカサ「目に異物感が…」
エレン「何だよ、ゴミでも入ったか?ほら、顔上げてみろ」
ミカサ「ん…」
エレン「あんま瞬きすんなって…あ、抜けた睫毛が入ってるぞ」
ミカサ「…本来なら異物が目の中に入るのを防ぐ役割のはず…これは謀反?」
エレン「睫毛にそこまでの意思はねぇよ。そのまま涙で押し出せないか?」
ミカサ「ん……無理そう、水で洗い流してくる」フラッ
エレン「おい、ぶつかるぞ。引っ張って行くから掴まれ」
ミカサ「うん、ありがとうエレン」
――――
―――
ミカサ「エレン…」
エレン「何だよ、指を差すなよ」
ミカサ「木に触れただけで指にトゲが刺さってしまった、明らかに意思を持った攻撃。あなたも気を付けて」
エレン「いいから早く抜けよ」
ミカサ「手があともう一本生えていれば可能なんだけれど」
エレン「はぁ…しょーがねぇな、見せてみろ」
ミカサ「うん…人差し指のこの辺り」
エレン「うーんと…あ、これか…取るぞ?」
ミカサ「……痛くなくなった」
エレン「ちゃんと取れたみたいだな」
ミカサ「うん、ありがとうエレン」
――――
―――
ミカサ「……」チュー
エレン「ぷっ…何だよその顔、鳥の真似か?」
ミカサ「違う、さっきの兵法講義の時のエレン」
エレン「俺そんな顔してねぇよ」
ミカサ「してた、唇をこう尖らせながら教本を睨んでた」
エレン「そういや、あんま理解できなかったんだよな今日…」
ミカサ「一緒に分からなかった所の復習をしよう」
エレン「ああ、アルミンにも頼みに行くか」
ミカサ「……」チュー
エレン「鼻から上の無表情さが面白ぇな」
ミカサ「うん、面白かった、エレンの顔」
エレン「いや、お前の顔がな」
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―――
ミカサ「エレン、花が」
エレン「何だよ、花なんか別に珍しくないだろ」
ミカサ「違う、誰かに踏み潰されてる」
エレン「ふーん…花に八つ当たりでもしたのか、しょーもねぇ奴だなそりゃ」
ミカサ「私もたまに花を摘んだりするけど……勿体ない」
エレン「これなんかまだ蕾だしな」
ミカサ「…これは咲くと思う」
エレン「でも折れてるぞ?」
ミカサ「根元が潰れてるだけだから、水の中で茎を少し切ってから生けてやれば、元気になって…咲くと思う」
エレン「そういや母さんが花瓶の水を変える時にそんな事やってたような…」
ミカサ「普通に咲いた花よりは、枯れるのも早いかもしれないけど」
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―――
ミカサ「エレン、これ…」
エレン「昨日の花か?本当にちゃんと咲いたんだな」
ミカサ「うん、エレンにあげる」
エレン「は?お前が持ってろよ、俺は別に花なんか貰っても…」
ミカサ「きれいに咲いたので」
エレン「そんなに気に入ったんなら押し花にでもして持ってろよ」
ミカサ「それはダメ、このままエレンに貰って欲しい」
エレン「…俺、多分すぐに枯らしちまうぞ?」
ミカサ「構わない、その時までそばに置いてくれればいい」
エレン「たまに妙なワガママ言うよなお前…」
ミカサ「ごめんなさい」
エレン「…別にいいけどよ」
ミカサ「…いい天気」
エレン「おお、今日は雲が少ないな」
ミカサ「うん、秋晴れ」
エレン「秋か…そういや風が涼しくなったよな。…にしてもマフラー巻くには早過ぎねぇか?」
ミカサ「丁度いい、朝は少し寒いぐらい」
エレン「俺はもうちょっと涼しい方がいいけどな、つーか暑いだろ、まだ」
ミカサ「エレン、暑くてもお腹を出して寝てはいけない」
エレン「…何でそんな話になるんだよ」
ミカサ「暑いと言ってお腹を出して寝るせいで、よく風邪を引いていたでしょ?」
エレン「ガキの頃の話だろ…ったく、油断するとすぐお節介焼きやがって」
ミカサ「エレン、でも…」
エレン「そんなマヌケな理由で風邪なんか引いてたまるかよ。俺達は兵士になったんだぞ」
ミカサ「そうだけど…」
エレン「俺の事より、お前の方こそどうなんだよ」
ミカサ「?私はお腹を出して風邪を引いた事は」
エレン「違ぇよ、もうマフラー巻くほど寒いんだろ?風邪引いてんじゃねぇのか?」
ミカサ「体調は悪くない」
エレン「……そうかよ」
ポツ…ポツ…
エレン「っと、雨か?いきなり崩れたな…」
ミカサ「秋の天気は移ろいやすいから」
エレン「知ってるよ、兵舎まで走るぞ」
ミカサ「うん」
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―――
夜 男子宿舎
エレン「…ずっと雨続きだな」
アルミン「うん、涼しくなればいいなとは思ってたけど…五日目ともなると、さすがにちょっと寒いね」
エレン「訓練で泥だらけにもなるしな…」
アルミン「着替えようにも、生乾きの冷たいやつを着なきゃいけなくなるのがね…」
エレン「まぁ、寒いっつっても開拓地で冬を越した時よりはずっとマシだけどよ」
アルミン「ああ、うん…それもそうだね」
エレン「隙間風は入らねぇし、ベッドもあるしな」
アルミン「味は薄いけど食いっぱぐれはしないね」
エレン「それに…強くなるための時間も道具もあるし、技術も学べる」
エレン「……でもよ、アルミン…」
アルミン「うん、何だい?」
エレン「俺…アイツをここに連れて来ちまって良かったのかな…」
アルミン「…エレン、もう二年目の秋だよ?ミカサは今や首席候補にまでなったし」
エレン「今更だってのは分かってるよ。…いや、今からでも」
アルミン「開拓地にって?ミカサを一人ぼっちにするつもりなの?」
エレン「アイツ、わりと冗談とか言うようになったろ…。俺を介さないで仲良いやつも出来たみたいだし、何とかやっていけんじゃないかって…」
アルミン「ミカサはそんな事望んでないよ。エレンの居るところにミカサも居たいんだから」
エレン「……分かってるよ」
アルミン「ここに来て、良かったと思う。ミカサも…それに、僕も」
エレン「…………」
アルミン「……あの頃はさ、僕達の中でミカサが一番寒がりだったね」
エレン「…今もだろ、アイツ暑い時以外はいつもマフラーしてるし」
アルミン「うん。だから寒いのは苦手だけど、嫌いってわけでも無いらしい」
エレン「…意味が分からん」
アルミン「ほら、寒ければ人目を気にせず堂々とマフラーが巻けるじゃないか」
エレン「アイツは元から気にしてないだろ、そんな事」
アルミン「んー…まぁ、『他人』の目にどう映るかは気にしないだろうけどさ」
エレン「昔からだ、どこに行くにも何をするにも絶対外さないで……アレは大事にしてんのかしてないのか、どっちなんだよ」
アルミン「ずっと肌身離さずにいたんだから大事に決まってるだろ?」
エレン「いや、分かってるけどよ」
アルミン「……その花、とうとう枯れちゃったね」
エレン「ああ…でも、しょーがねぇだろ、明日にでも捨てる」
アルミン「ちょっと勿体ないな…ちゃんと水も替えたりしてたのにね」
エレン「……ああ」
――――
―――
翌朝
ミカサ「おはよう、エレン」
エレン「お前…マフラーはどうしたんだ?」
ミカサ「洗って、宿舎で干してる」
エレン「曇りだぞ今日。寒いんじゃないのかよ」
ミカサ「耐えられない程では無い」
エレン「やっぱ寒いんじゃねぇか。洗うにしても、もっと晴れた日にすればいいだろうが」
ミカサ「昨日の訓練で泥がはねてしまったから…寒いけど、汚れたままにしておく方が耐えられない」
エレン「そんな大事にしてんなら訓練中は外しとけよ…」
ミカサ「お守りみたいなものだから」
エレン「……あの花…昨日、枯れちまった」
ミカサ「意外、五日も持つなんて」
エレン「どっちに対してだ。花か?俺か?」
ミカサ「エレン」
エレン「馬鹿にすんな、花の世話ぐらい出来る」
ミカサ「馬鹿にしてない。本当に枯れるまで持っていてくれて嬉しい」
エレン「…何か捨て辛くなっちまった」
ミカサ「じゃあ……埋める?」
エレン「…土に還すって言わねぇか?」
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―――
エレン「持ってきたぞ」
ミカサ「エレン、ここ」
エレン「ああ…元の場所じゃなくていいのか?」
ミカサ「うん、今度は踏み潰されないように」
エレン「そっか…まぁ、何だ、その…こうしておけば来年また咲くかもしれないしな」
ミカサ「うん」
ミカサ「…最後までそばに置いてくれてありがとう、って言ってる」
エレン「花にそこまでの意思はねぇよ」
ミカサ「きっとそう言ってる」
エレン「……そうかよ」
ミカサ「……ねぇ、エレン」
エレン「…何だよ」
ミカサ「…晴れた」
エレン「ん?おお、久しぶりの日向だ」
ミカサ「うん…あったかい」
エレン「これなら今日はマフラー無しでも大丈夫そうだな」
ミカサ「?マフラーは別格」
エレン「…アレ、そんなに温かいか?だいぶボロになってるだろ」
ミカサ「そんな事ない、あったかい」
エレン「まぁ、お前がそう言うんなら…」
ミカサ「でも……」
ミカサ「エレンが一番あったかい」
エレン「…………そうかよ」
おわり
大事にしてるはずのマフラーが汚いわけないって話を書くつもりだった。
ありがとうございました。
おまけ
ミカサ「あ…また、目に異物感が…」
エレン「またかよ?ほら、見せてみろ」
ミカサ「ん…」
エレン「また抜けた睫毛が入ってるな」
ミカサ「…やはり謀反?」
エレン「だから睫毛にそこまでの意思はねぇって。ほら、洗いに行くぞ」
ミカサ「うん、ありがとうエレン」
(自ら眼球に身を投じ!)
(例え主に謀反の疑いをかけられようとも!)
(至近距離で見つめ合うシチュエーションロマンの為に!)
(心臓を捧げよ!)
アルミン(…なんちゃって)
おわり
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