長門「彼のためにクッキーを焼いてみた…」(520)

古泉「ほう、長門さんの手作りクッキーですか」

みくる「きっとキョンくん喜びますね」

長門「コクリ」

ハルヒ「みんなお待たせ!」ドン

長門「あっ…!」

ボロッ


長門「そんな……」

みくる「長門さん…」

ハルヒ「んっ?みんなどうしたの?」

ハルヒ「……あっ!ちょっと!なによこのゴミ!」

長門「!?」

ハルヒ「部室はいつもキレイにしなさいって言ってるでしょ!」

ハルヒ「散らかしたならちゃんとゴミ箱に捨てる!」ポイッ

長門「酷い…」

長門「あ、謝って…」

古泉「!!」

みくる「!!」

ハルヒ「えっ?なに?」

長門「私のクッキーを捨てたこと…謝ってほしい」

ハルヒ「はっ?クッキー?なに言ってるの、有希?」

ハルヒ「ああ、もしかしてさっきのゴミのこと?」

長門「……そう、あなたが捨てたゴミは私が作ったモノ」

長門「だから謝ってほしい…」

ハルヒ「ちょっと待ってよ!謝るも何もあんたのクッキー…」

ハルヒ「床に落ちちゃってて食べれないじゃないの…だから捨てたのよ」

長門「そ、その原因を作ったのが…あなた…」

みくる「(長門さん、頑張ってください!)」

ハルヒ「原因って…クッキーが床に落ちたこと?」

長門「そう」

ハルヒ「はぁ~?なんで私が落としたとか言われなきゃいけないのよ!」

ハルヒ「自分のせいなのに人に擦り付けるなんて最低よ!」

長門「……ううっ」

古泉「でも僕たちは見ていましたよ…」

古泉「涼宮さんがぶつかって長門さんがクッキーを落とすのを…ねぇ朝比奈さん?」

みくる「は、はい!私も見てました」

長門「!!」

ハルヒ「で、でも!ボケッと突っ立てる有希が悪いのよ!」

長門「そんな…」

古泉「でもぶつかったのは事実ですよね?」

ハルヒ「ううっ…それは…」

長門「私はあなたが故意でやったとは思っていない…」

長門「確かにあなたを避けれなかった私にも非があるのも確か…」

長門「だからそれについては謝る…ごめんなさい」ペコッ

長門「だ、だからあなたも謝ってほしい。お願い」

古泉「長門さん…」

みくる「涼宮さん!お願いです!長門さんに謝ってください!」

古泉「僕からもお願いします…涼宮さん」

ハルヒ「なっなによ…みんなして」

ハルヒ「あ~分かったわよ!謝ればいいんでしょ!謝れば!」

みくる「涼宮さん」

古泉「良かったですね、長門さん」

長門「コクリ…」

ハルヒ「はい、ごめんなさい!はい、終わり!これでいいのよね!」

みくる「……」

古泉「……」

長門「……」

ハルヒ「この件はもうこれでお終いよ!後でぐちぐち言ったら死刑だからね!」

長門「あ、あう…」

ハルヒ「なによ、有希?なんか言いたそうだけど?」

―ガチャッ―

キョン「ふう~遅れてすまんな…」

ハルヒ「ちょっと!キョン!来るの遅いわよ!」

キョン「ああ、掃除が長引いてな……んっ?みんなどうかしたのか?」

古泉「い、いえ…」

ハルヒ「それよりもキョン!今日は特別にあんたに渡す物があるのよ!」

キョン「えっ?おれに?」

ハルヒ「はい、これ。私が作ったクッキーよ!」

長門「!!」

キョン「おい、これハルヒが作ったのか!?」

ハルヒ「そうよ、あんたのために一生懸命作ったんだから感謝して食べることね!」

長門「そんな……」

キョン「おっ!こいつはなかなか美味いぞ!」

ハルヒ「ほんと?」

キョン「ああ、ほんとだ。こんな美味いクッキー今まで食べたことない」

長門「やめて…」ポロポロ

ハルヒ「他の人が作るクッキーよりも?」

キョン「そうだな。ハルヒのを食べてしまえば他の奴のクッキーはいいかもな」

長門「酷い…」ポロポロ


キョン「それにしてもこのクッキー美味いな…何枚でもいけるぞ」ポリポリ

長門「あっ…あっううっ…」

長門「ダメ…それ以上食べないで」バッ

キョン「あっ!」

ボロッ

長門「しまった…」

キョン「おいっ長門!なんてことするんだ!」

ハルヒ「酷いわ!私が一生懸命作ったクッキーを…」

長門「違う…これはその…」

キョン「長門!ハルヒに謝れ!」

長門「!!」

――という感じで誰か続き書いてくれませんか?


正直、ここまでしか考えてないので、誰かお願いします。

長門「・・・・・・・・・」

キョン「おい、長門!」

長門「・・・ごめんなさい・・・・」

ハルヒ「・・・・ふん!いいわよ、許してやるわ!」

    「私は有希と違って、心が広いからね!」

キョン「もう、こんなことしちゃダメだぞ」

長門「うぅ・・・・」バッ

キョン「おい!どこ行くんだ、長門!」

キョン「おいおい・・・どうしたと言うんだ」

古泉「キョン君、実はですね・・・・」ゴニョゴニョ


キョン「な、長門もクッキーを焼いていたのか!?

    それで、床に落ちてしまったのか・・・・」

古泉「ええ、それで落としてしまった原因は・・・・」ゴニョニョ

ハルヒ「ち、ちょっと古泉くん・・・・!」

キョン「・・・・・ハルヒ!!」

キョン「ハルヒ、事情は聞かせてもらったぞ・・・・」

ハルヒ「あれは事故よ、事故!

     わざとそんなひどいこと、するわけないでしょ!!」

キョン「だが自分の作ったものだけ食わせておいて・・・・

    かたわらにいた長門が、かわいそうだろう!」

ハルヒ「そんな・・・!キョンだって、こんな美味しいクッキー食べたら

     他はいらないって、言ったじゃない!」

キョン「・・・事情を知ったら、もう食う気が失せたさ」

ハルヒ「わ、私だって・・・・キョンにクッキー食べてもらいたかっただけなのに・・・・!」

キョン「・・・・・・・とにかく、俺は長門の方に行ってくる・・・・

    お前はあとで、改めて長門に謝罪しろよ!」ガタンッ

ハルヒ「ううぅ・・・・・グスン」

みくる「涼宮さん・・・・」

そうだバックレて他の人に任せよう

長門「彼に嫌われてしまった・・・・

    もうクッキー作っても、食べてもらえない・・・・」

キョン「おーい、長門ー?」

長門「!彼が・・・来る・・・」

キョン「長門!」

長門「・・・・ごめんなさい・・・」

キョン「いいよ、もう。事情は分かった

    俺の方こそごめんな キツイこと言った」

長門「・・・!」

キョン「さ、部室に帰ろうぜ。こんなとこに座ってないで。

    あいつも勝手なヤツだけど、謝るってさ」

長門「・・・・」コクッ

ハルヒ「有希、ごめんなさい・・・・」

長門「・・・・いい」

キョン「いいってのは、許すってことだよな」

長門「そう」

古泉「ふふっ、これで一件落着ですね」

みくる「そうですね!」

キョン「ハルヒ、あまり意地悪なことするなよ」

ハルヒ「分かったわよ・・・・」

キョン「・・・長門、お前が焼いてくれたクッキーだけど・・・」

長門「あっ・・・・」

キョン「俺のために、焼いてくれたのか・・・?」


長門「・・・・・・・・そう」

キョン「そうか・・・・・ありがとな。」

長門「もし・・・良かったら、また・・・・焼いてあげる・・・」

キョン「ああ。よろしく頼むよ。」

長門「・・・・・・///」


オワリ

だから誰か変わってって言ったのに

俺もだよ!!
だから誰かまた面白いSS書けよ

おうよ

いいぞ頑張れ俺のかたきをうて

ずいぶん支援が少ないけど頑張れ支援

しねしねしねしねしねしねしんじまえ。
しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねハルヒは中古。
しねしねしねしねしねしねハルヒしねしね清志郎のかわりに死ね!
ハルヒしね!

―その後

ガチャ
池沼「このゴミ箱か…」ガサゴソ

池沼「あったあった有希の作ったクッキー。」

池沼「うめぇー」ひしひし

池沼「帰るか…」

バタン

その頃

池沼「有希のクッキーがお腹に入っててしあわせー」

池沼「明日になったら排出しちゃうな…」

池沼「…!」

池沼「排出物を食べればいいんだ!そうすれは有希のクッキーは永遠に僕のお腹の中!」

池沼「明日がたのしみー」

ふむ

保守
ハルヒしね

―放課後

ガチャ

池沼「えーと、ゴミ箱は…」

池沼「あったあった。」

池沼「有希の触ったメロンパンの袋」

池沼「ペロペロ」

池沼「しあわせー」

池沼「かえろー」ルンルン

バタン

うわあパソコン規制された
保守ありがとう






俺と長門は、集合時間ギリギリまでデパートを見て回った。
いつもは図書館で本を読むだけだったせいか、今日の探索は新鮮だった。

長門に似合う服を見てやり、小物なんかも眺め、ペットショップで和む。


「長門、楽しかったか?」

「…とても」

小さな包みを宝物のように指先で抱え、長門ははにかんだ。
包みの中身は指輪だった。
青くて小さな石のついた、銀色の。


「そうか」


俺は、それだけしか、言えなかった。
長門の後ろ髪に手を伸ばしかけて止め、行き場を失った掌を、グッと握り締めた。




「おっそーい!ギリギリよ!」

「間に合ってるだろ、怒るなよ」

「団員たるもの10分前行動を心掛けなさい!」

また無茶苦茶なことを言う奴だ。
俺はそれ以上反論せず、やれやれと肩を竦めた。

「ま、これで全員揃ったから、解散ね!また月曜日に会いましょう!」

腕組みをしてハルヒが言い放つ。
月曜日が憂鬱だぜ。

「うふふ、皆さんさようなら」

ああ、朝比奈さんが行ってしまう。
夕日の中、にこやかに手を降る朝比奈さんは、もはや一枚の絵だった。


「それじゃあ、あたしも帰るわ!じゃあね!」

「さようなら、涼宮さん」

「おう、じゃあな」

「………………」


そして長門と古泉も、それぞれの方向へ歩き出す。
俺も帰ろうと背を向けたが、足が、止まる。

大きく息をついてから、人込みを飛び抜けるその高身長野郎を、足早に追いかけた。


「おい、古泉」

近付いて来る気配で悟ったのか、呼び掛ける前に古泉は振り返った。
詮索も、質問もされたくなかった俺は、矢継ぎ早に問う。

「お前、今日長門と何処行った?」

「長門さん、ですか?ええと…図書館ですよ。長門さんと言えば図書館でしょう。一体どうしたんで、」

「そうか、サンキュな」


俺を呼び止める古泉の声を無視し、紛れるように人の群に隠れた。
誰にも言えはしなかった。
言えるはずも、なかった。


どんなに嫌でも必ず月曜はやって来る。
憂鬱な気分は俺から元気を吸い取り、どんどん膨れ上がっていった。





「あら、キョン、おはよ」

「………よう」

「何よ、萎びた茄子みたいな顔して」

「誰が茄子だ、誰が」

突っ込む声にも力が入らない。
一日中確証のないことを考えていたせいで、寝不足だった。

「もう…シャキッとしなさいよ」

「……ああ」


チャイムと共に岡部が入ってきた。
机に突っ伏して2、3秒もすると、俺は意識を失った。

いかん眠気が

ごめん保守ありがとう





「おいキョン!昼飯食おうぜ!」


全く、無駄に元気な奴だ。
そのテンションの高さが少し羨ましい。

「ああ」

「どうしたの、キョン。今日は朝から元気がないみたいだけど」

何でもないさと答え、弁当を開く。
本日のメインディッシュはハンバーグだ。

「そういえばよお」

おい谷口、飲み込んでから話せよ、唐揚げ見えてるぞ。

「んぐ、おお、悪い悪い」

口の中を空にした谷口が、意気揚々と語り出す。

「そんでさ、お前ら知ってる?3組の山梨と千葉、デキてるらしいぜ」

なんだ色恋話か。


まあ谷口が喜々として持ってくる話といえば、そこの辺りくらいしかないだろう。

「へえ、山梨さんってあの可愛い子?」

「そう!俺的Aランクの貴重な生き残りだよ畜生、狙ってたのによお」

まあ、ご愁傷様だな。

「冷てぇなあ、キョンよ」

「あはは、それにしても谷口、どうして二人が付き合ってるっつ知ってるんだい?」

「ん?ああ、たまたま聞いたんだよ。それに見ちまったし」

見た?何をだ?

「なんとあいつら手作り弁当食ってるんだとよ!」

「手作り弁当?」

「おうよ!…ああ、俺も手作り弁当欲しいぜ畜生」


話をまとめると、何日か前、階段の踊り場で恋人に弁当を渡すAランクの女生徒を見掛けたらしい。

はは、お前望みないな。

「彼女からの手作り弁当だぜ?畜生」

「まあ、料理が上手い子は良いよな」

「そうだねえ。キョンも涼宮さんに作ってもらえば?」

…ったくお前らは必ずその方向に話を持っていくよな。

「キョン!涼宮から弁当貰ったら千円で売ってくれ!」

「阿呆か」


呟いてハンバーグを頬張る。
あいつが自主的に弁当なんか作ってくるか。
まあ、クッキーは、あれだけどな。

「だが確かに、手作り弁当なんてポイント高いよな」





『……………そう』




放課後。

部室の扉を開けると、まず窓辺で本を読む長門が目に入った。
ただ静かに活字を追うその姿にホッとする。

ふ、と目が合う。

「…よう」

長門が薄く笑んだ気がした。


「あ、キョンくん、こんにちは」

メイド姿の朝比奈さんが、スカートをふわりと揺らしながら振り返る。


「こんにちは、朝比奈さん」

「うふっ」

朝比奈さんは意味深に笑うと、俺の為にお茶を注いで下さった。
とりあえず、いつもの席に着く。

「こんにちは」

「おう、ハルヒはまだなのか」

「すぐにいらっしゃいますよ」

古泉が手元のトランプを切り始めた。

「ババ抜きでも如何です?」

「そうだな」


そして古泉が2度負けた後、ハルヒが威勢良く入って来た。

「やっほー!」

そんなに叫んでも、山彦は返ってこないぞ、ハルヒ。





翌日は、雨だった。


薄暗く曇った空に、しとしとと降り落ちる雨水。
坂道の上から下を見渡せば、綺麗に傘の花が咲いていた。

「全くもう…雨の日の傘ほど鬱陶しいものはないわよね」

どうやら他の傘とぶつかって滴の嵐をまともに受けたらしいハルヒが、忌々しそうに空を睨む。

「まあ、場所も取るしな」

「さっさと止めば良いのに!」

お前が本気で望めば、すぐに止まるだろうさ。

肘をついて雨空を見上げるハルヒ。
多分こいつには、空の向こうでも見えてるんだろう。


さて、四限になる前、俺は一通のメールを受け取っていた。

送り主は、長門。

淡々とした文面のはずなのだが、何処か以前と違っているような気がした。
気のせいだろうか。



from 長門
sub (no title)
====================
良ければ、昼休みに部室まで来て欲しい。


――――――――――


俺は二、三度読み返した後、了承の旨を送った。


前と同じく探りを入れて来る谷口をやり過ごし、弁当を持って部室棟へ向かう。

昼休みの校舎は騒がしい。

だがその喧騒も、部室棟まで来てしまえばまるで別世界だった。


文芸部、と書かれた黒いプレートは、黒マジックの「SOS団」という張り紙に消えていた。

「入るぞー」

中にいるだろうと想定して、声を掛ける。
そして、やはり長門は、そこにいた。


「よう、長門」

「来て、くれたの」

「…ああ」

安心したように、嬉しそうに長門が笑う。
俺はその瞬間、もはや衝動にも似た思いを押さえ込んで、長門の隣に座った。

「どうか、したのか?」

俺の問い掛けに長門は、

「…これを、あなたに」

淡い桜色の包みを差し出し、俺の目の前に置く。

大きさや形から判断するに、

「…弁当、箱?」


長門がコクリと頷いた。


それは、正真正銘、手作り弁当だった。


「これは…」

広げると、下段はゆかりご飯、上段は色とりどりのおかずでキッチリ埋まっていた。

「貴方のために、お弁当を作ってきた…」

長門が作ったというお弁当。
どのおかずも、完璧なまでに美味そうだった。

「これ…本当にお前が作ったのか?」

「そう」

「作り方とかは?」

「昨日、朝比奈みくるに教わった」

昨日の朝比奈さんの笑顔を思い出す。
そういうことか。



「なあ、長門。朝比奈さんは、ちゃんと教えてくれたか?」

突然の質問に、僅かに首が傾く。
無垢な瞳が俺を見て、そして小さく頷いた。

「…そうか。古泉は、何か言っていたか?」

「上手に作れると良いですね、と」

「……そう、か」


俺はどうすれば良いのか分からぬまま、とりあえず長門に礼を言った。


「ありがとな、すごく美味そうだ」

「早く、食べてみて」

そして、感想を。


期待に瞳を輝かせて、長門が弁当と俺を交互に見る。
俺は難しく考えることをやめ、箸に手を伸ばした。


「いただきます」


卵焼きを、一口。

「…どう?」

「すごく美味いよ」


喜んだ長門を見て、鼻の奥がツンとした。

うまかった。

押し込むように、黙々と食べた。




昼休みも終わり、教室に戻る。
食えなかった俺の弁当は、長門が代わりに食べてくれた。

腹も胸も足も重い。

しかし、一歩進むごとに、俺の中のもやは形を成していく。
はっきりとした形に。


認めなくてはいけないのかもしれない。
しかし認めて、そこからどうする?

誰かが助けてくれるのか?

朝比奈さんが?ハルヒが?古泉が?


「俺、は……」


なあ、長門。
俺はどうすれば良い?


「キョン、部室に行くわよっ!」

号令の後、開口一番にハルヒが叫んだ。

「悪いが俺は日直だからな、少し遅れるぞ」

「もう、さっさとしなさいよ!愚図キョン!先に行ってるからねっ」

「へいへい」

途端に猛スピードで駆けていくハルヒ。
放課後になってまであんなに元気があり余ってるとはな。
やれやれだぜ。

「おーい、日直ー、誰だー」

「あ、はーい」


「ふう…やっと終わったか」

日誌を書き終え、岡部に提出する。
雨は依然として降り続いていた。

運動部は雨天中止で、今頃校内の何処かで筋トレに励んでいるだろう。
俺は窓をゆっくりと伝う雨筋を見た。





部室の前に着くと、中で誰かが騒いでいるのが聞こえた。

ハルヒだろうか。

「し……じ…ない!!何……のよ!!!」

怒声。
そして、


「きゃあああ!!!!」


俺は慌てて扉を開け、そして中の光景に言葉を失った。




長門が、瞳に涙を滲ませて、ハルヒに馬乗りになっていた。
その細い手はハルヒの制服の胸倉を掴み、


「長、門…?」


逃れようともがくハルヒを、床に押し付けていた。
そばに転がるあの指輪が、場違いな輝きを放っていた。


「長…門、お前、何やってんだ!!!」

長門がゆるりと頭を上げる。
眉を顰めて、今にも泣き出しそうな、


「ごほっ、ごほ、…きょ、ん…」


動けないハルヒが、目線だけで俺を探す。


力の籠っていた長門の腕から、徐々に力が抜けていく。

ああ、俺は、間違っていたのだろうか。


「なあ」


聞きたい事があった。

初めは、小さな。

でも、それは、


笑顔を見る度、大きくなっていって


疑念が、確信に変わる





「なあ、長門……………お前は一体、誰なんだ?」


白い陶器のような頬に、ゆっくりと伝う雨筋のようなそれは、


「大丈夫ですか、涼宮さん!」

我に返った古泉が、長門とハルヒを引き離す。
ぜえぜえと息をするハルヒは、怒りよりも戸惑いの方が大きかったようで、胸元を押さえながら、ただ長門を呆然と見ていた。

「長門……お前は、お前は、」

フラッシュバックする。
俺の記憶が。

はにかむ長門

眼鏡の向こうの瞳

恥ずかしそうな笑み

差し出された手、

指先の、

白い、入部届け




「わた、しは……」


長門が俺を見る。
決して虚ろではなかった。
無感動でも、無感情でもない。

生きていた。


「…私は、私………」

「…………信じて」


私は、私?

お前は、誰なんだ。

俺の知っていた長門有希は、

無口で無表情なあの長門有希は、

お前なのか。


お前の言う「私」は、どの長門有希なんだ。



風のように、長門は部室を飛び出して行った。
部屋に残された俺たちに、激しい雨音が降り注ぐ。


泣きじゃくる朝比奈さん

震えるハルヒと、それを支える古泉

俺はただ、立ち尽くしていた


「とにかく、連絡を…」

「待て、古泉」

「ですがっ…!!」

「…頼むから、時間を、時間をくれないか」


「本当は、気付いてたんだ」


「心の奥で、あいつがあいつでない事に」

「もしかしたら、あの長門なのかもしれないって」


「でも、言わなかった」

「俺は…気付いてたのに、言わなかった、言えなかった」


突然クッキーを作った長門

デパートに行きたいと言った長門

楽しそうな笑顔

笑顔

笑顔


「…このままでも、大丈夫なんじゃないかって、勝手に思ってた」

「蓋をして、認めないフリをしてた。」



「悪いのは……俺なんだよ」





「何、言ってんのよ…」


「なに、何、言ってんの?
有希が、あの有希とかこの有希とか、気付いてたとか気付いてないとか、何なの…?

ねえ、何の話なの…?」

困惑した瞳が、立ち尽くす俺を刺す。
俺は今更ながら自分の無能さを思い知った。

「その、それはだな、ハルヒ…今のは、」

「答えてよ、キョン……答えなさいよ!!!!」

迂闊だった。
動転しすぎて、ついにやってしまった。
俺たちが今まで、必死になって隠していたその片鱗を、ハルヒは今まさに掴もうとしていた。


ハルヒが俺の方へ歩き出そうとする。
しかし、その肩を支えていた古泉が、それを許さなかった。

「いっ…古泉君、離してよ!」

「…落ち着いて下さい、涼宮さん」

「良いから離して!!」

「落ち着いて下さい!!!!」

古泉が、普段は出さないような大声を張り上げた。
ハルヒの動きがびくりと止まる。

「…とにかく、落ち着いて下さい」

唖然とするハルヒを置き去りに、古泉は俺を見た。


「貴方は、自分が何をしたのか、もうお分かりでしょう」

十分すぎる程、それは分かっていた。
何もかもがぐちゃぐちゃだった。
滅裂だ。

「行って下さい」

「だが……」

「恐らくは、これが最後のチャンスです。それが尽きてしまえば、時間も、為す術も、我々には残っていません」

使う単語を最小限に、古泉が語る。
ハルヒの肩を掴むその指には、力が籠っていた。

「僕は彼らに連絡をしません。…最も、彼らならばすぐに気がつくでしょうが」

彼ら、が何を指すのかは分かっていた。

「ふふ、貴方はいつぞやの約束を、覚えているでしょうか」


「古泉、お前…」

「さ、早くして下さい。涼宮さんには、僕と朝比奈さんがついていますから」

俺はこいつを、初めてこんなにも頼もしいと思った。

「キョンくん」

涙目の朝比奈さんは、ハルヒに聞こえないよう、最大限に俺を勇気づける言葉を囁いた。



「…この事は、未来からは何も伝えられてなかったの。この意味、分かるでしょう?」




降りしきる雨の中、俺はひたすら走った。

長門はいない。

人もまばらだった。
何処にいるのだろうと考える余裕もなく、ただ闇雲に走り回る。


近所の公園

商店街

駅前

デパート

長門の家


思い当たる所には行ってみた。
だのに長門は何処にもいなかった。
もう、手遅れなのだろうか。


…いや、違う。

きっと何か、俺は何か忘れているのだ。
思い出せ、思い出せ。

デパート

公園

喫茶店

学校

校庭

閉鎖空間

部室の、


パソコン




YUKI.N> また図書館に…

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