キョン「なぁハルヒ」(1000)

キョン「なぁハルヒ」

ハルヒ「何よ」

キョン「谷口がオールバックやめようかとか言ってたんだが」

ハルヒ「そう、似合ってるのに残念ね」

キョン「だな」

キョン「なぁハルヒ」

ハルヒ「何よ」

キョン「このままでは2年だな」

ハルヒ「そうね」

キョン「長門の熱はいつ治るんだ」

キョン「なぁハルヒ」

ハルヒ「何よ」

キョン「長門の本のツボってなんだろうな」

ハルヒ「意外とアメコミとかじゃない?」

キョン「へぇ……」

キョン「なぁハルヒ」

ハルヒ「何よ」

キョン「朝比奈さんの髪、ピンク色でもいいよな」

ハルヒ「京アニが許さないんじゃない?」

キョン「ふぅん」

あれこれぷん太で見たことが

まさか

>>8
ちがうスレで同じのちょっとだけ書いたからそれかも

キョン「なぁハルヒ」

ハルヒ「何よ」

キョン「古泉が理系に進むそうだ」

ハルヒ「人生設計あるのね」

キョン「さぁな」

キョン「なぁハルヒ」

ハルヒ「何よ」

キョン「今日は祝日らしいな」

ハルヒ「なんだかマイナーな日よね」

キョン「まぁ、おれたちには関係ないが」

「なあハルヒ。俺、SOS団をやめようと思う」
「あっそ」
「本気で言ってる」
「今忙しいから邪魔しないでよね」
「もう一度言う。俺はSOS団をやめる」
「うっさいわね。好きにしたら?辞めたいなら勝手に辞めればいいじゃない」
「そうか」

俺は部室を後にする。
もうここに来ることもないだろう。
団長の允許は得た。次は誰に説明しよう……そう考えていた矢先、

「やあ、あなたも今到着したところですか。奇遇ですね」

古泉の爽やかな笑顔が視界を埋める。

「別に奇遇でもないだろ。俺は部室を出て行くところだったんだからさ」

「所用ですか? 彼女に頼まれて?」

半分正解だったので曖昧に頷いて見せる。
古泉は屈託の欠片もない無垢な表情で言った。

「よければお手伝いしますよ」
「いいんだ。俺は丁度お前に用があったんだ。ここでお前に会えて良かった」
「はあ」

首を傾げる。
俺が"古泉と会えて良かった"なんて台詞を吐く日が来るとは思ってもみなかったのだろう。
かくいう俺も同じ気分だよ。
俺は切り出した。

「SOS団をやめさせてもらう」

古泉の笑みが瞬間的に凍り付き、

「………何を仰るかと思えば」

瞬間的に解凍する。

「笑えない冗談は控えて欲しいものです。
 僕ならまだしも、朝比奈さんが聞いたら真剣に受け止められてしまいますよ」
「冗談じゃねえよ」
「そういえば今日は新しいボードゲームを持参してきたんです。
 オセロ等では連戦連敗を喫してきましたが、このゲームではそうはいきませんよ。
 さあ、早く中に……」
「古泉」

ドアの前に立ちはだかる。
話は終わっちゃいない。古泉はかぶりを振り、

「凉宮さんの精神状態が安定期に入り、
 また彼女を取り巻く勢力の相関関係も比較的良好な今、
 あなたの脱退がどれだけの影響をもたらすかは火を見るより明らかだ。
 どうか諦めて下さい。彼女のためにも。我々の組織のためにも」

あなたがその結論に至った経緯を話してもらえませんか、僕はいつでも力になりますよ、と古泉は付け加えた。
その語り口調に淀みはなかった。
この状況を想定して、予め用意してあったんだろう。

「ハルヒがウザイ」「非日常な出来事に巻き込まれるのが疲れた」
いくつか脳裡に当り障りのない言い訳を思い浮かべてみるが、
即座に反駁されるのは目に見えている。俺は正直に話した。

「普通の生活が恋しくなったんだ。
 こればっかりは、お前も力になれないだろ」

古泉は強張った笑みを浮かべながら、

「あなたにとって、普通の生活の定義とは何です?
 それが世間一般の男子高校生として青春を謳歌することなら、
 あなたは既に充分普通の生活を送っているはずだ。
 友人もいる。あなたに好意を寄せている女性もいる。
 休日は街に遊びに出かけ、連休には海に、山に、遠出する。
 将来のことが不安ですか?確かにあなたの成績は優秀とは言い難いものですが、
 大学進学や就職には困らないと保証しますよ。我々が差配します」

饒舌な古泉の声には、しかし平生湛えられている余裕がまったく感じ取れなかった。

「違うな、古泉」

視線を外し、ドアから身を除ける。

「俺はその"普通な"日常に、非日常の影を見たくないんだ。
 不定期に訪れる厄介事に怯えて暮らすのは、もう嫌なんだよ」

朝比奈さんのクラスがある棟へ向かう。
古泉は追ってこなかった。
文芸部室前で呆然と立ち尽くしていた。

朝比奈さんは授業を受けている最中だった。
真剣な面持ちで板書をとっている。
俺はそれを廊下側の窓から眺めていた。
携帯を眺めて時間を確認すると、三年の終業までにはまだかなり時間があった。
だが、朝比奈さんと会話する機会は意外にもすぐに訪れた。
にわかに教室が慌ただしくなる。
臨時の休み時間がとられたみたいだ。

「キョンくん」

教室から急ぎ足で出てきた朝比奈さんは、辺りをキョロキョロ見渡しながら、

「な、何かあったんですか?」

と聞いてきた。

「朝比奈さんが心配するような緊急事態は何も起ってません」
「よかったぁ。キョンくんがわたしの教室に来るなんて滅多にないことだから」

朝比奈さんの顔が綻ぶ。
それを見ているだけで幸せな気持ちになれる。

「実は朝比奈さんにお話したいことがあるんです」
「何ですか? あ、でも授業があるから、長くなるならまた後で、」
「手短に済ませます。
 俺、SOS団をやめることにしたんです」
「えっ」

とても小さな悲鳴。

素早く二の句を継ぐ。

「嘘じゃありません」

朝比奈さんの瞳が潤み、俺の話を聞けなくなるまでに感情が昂ぶるよりも先に、
必要なことを伝えなければならない。

「俺は普通の生活に戻りたいんです。
 我儘だということは分かってます。
 でも、俺にも俺の人生があるんです。
 このままSOS団に居続ければ、ハルヒに束縛されて一生が終わりそうな気がしてならない。
 それが嫌なんです。朝比奈さんや古泉、長門とは、これまで通り友達として会えたらいいと思ってます。
 ハルヒは難しいかな。あいつが"ただの友達"という関係を認めるとは思えないから」

言い終える頃には、朝比奈さんは瞳の縁に溜めた涙をぽろぽろ零していた。
無声の、静かな涙だった。
罪作りな男だな、俺も。

「みくるー、授業始まるよー」

朝比奈さんの友人と思しき女生徒が、
気に入らないというような視線をこちらによこして、教室に入っていく。

「それじゃあ、まだ長門が残っているので俺は行きます。
 受験勉強、頑張って下さい」
「……キョン……くん……」
「さよなら」

踵を返す。長門の教室の方向へ歩いていると携帯が鳴った。
人気のない静かな廊下に、その音はやけに大きく響いた。

「もしもし」
「屋上で待つ」

切れた。実に無駄のない会話だった。
進路を屋上に切り替える。
長門は怒っている。俺には分かる。
あの二文節からあいつの機微を察することが出来るのは、
世界広しといえども俺だけだという自負がある。

屋上には気持ちのいい風が吹いていた。
殺風景なコンクリートから目線を上に上げれば、
青い絵の具をたっぷりつけた刷毛でさっと刷いたような青空がある。
梅雨の季節を間近に控えてこの景色は貴重だな、と思った。
長門は真四角の屋上の一辺で、フェンス越しに下を眺めていた。
逡巡している自殺志願者に見えないこともない。

「何故あんなことを?」

全てお見通しというわけか。

「会話の内容までは盗聴できなかったのか」
「把握している。でも、」
「でも?」
「直接、あなたの口から聞きたい」

「あいつらに言った通りだよ。
 俺は普通の生活に戻りたい。それだけだ」
「あなたは嘘をついている」
「ついてない。それはお前が一番よく分かってるだろ」
「会話に齟齬が生じている。
 確かにあなたの心拍数や体温には微かな変化も見られない。
 わたしの言っている"嘘"とは、あなたの建前の裏に、
 本当の望みが隠れているという意味」

難解な見解だな。
俺は早々に理解を諦めて言った。

「なあ長門。俺は別にお前を説得するためにここに来たワケじゃないんだ。
 俺がSOS団を辞めるのは、もう決まっていることなんだよ」

既定事項。
ふとそんな言葉を思いついて、朝比奈さんを連想する。
あの後、朝比奈さんはクラスの皆に泣いている理由を、なんと尋ねられたんだろう。
場合によっては、明日は先輩連中から私刑を受けることになるかもしれないね。

「そう」

長門が目を伏せる。視線を辿る。
プールに張った暗緑色の膜が目に入り、気が滅入る。
俺は言った。

「でもさ」

長門が微かに反応を見せる。

「SOS団から離れるのとは別にして、お前等と疎遠になる気はないんだ。
 だから図書館に行くときは、いつでも俺を誘ってくれ」

身勝手なことを言っているのは分かっている。
けど、それが俺の本心だった。
長門が何かを言いかけたその瞬間、突風が屋上を渡る。
スカートが翻り白い肌が露出する。長門がそれを素早く押さえる。
いつの間にか、そんな女の子らしい仕草も出来るようになったんじゃないか。

「じゃあ、またな」

俺は屋上を後にした。結局長門が言いかけた言葉は聞かず終いだった。

教室に戻ると、谷口と国木田を含めたクラスの奴らがワイワイやっていた。

「よおキョン、こんなトコで何やってんだ?」

まず谷口が俺に気づき、

「凉宮さんと一緒じゃないんだね」

国木田が余計なことを言う。
俺は鞄を整理しながら応えた。

「別に四六時中あいつと一緒なワケじゃない。
 そういうお前等は何やってんだ?」
「見てわかんねえか? 今から何処遊びにいくか相談してるんだよ」
「いや、見てわからねえよ」

俺の冷静な突っ込みを谷口は聞こえなかったふりでやり過ごし、

「お前も行くか?」

と言ってきた。俺が応えるよりも早く、谷口の隣の女が言った。

「キョンくんはほら、あのSOS団っていうのがあるから無理なんじゃない?」
「キョンくんを連れてったら、明日凉宮さんに怒られそうだしねー」

含み笑いが広がる。俺はその意味が分からないまま谷口に告げた。

「行くよ」

家に帰ったのは9時過ぎだった。
携帯の電源を入れると、奇跡的にハルヒからの着信は来ていなかった。
てっきり容量をパンクさせるくらいのメールが届いているかと思っていたんだが。
杞憂だったみたいだな。
スウェットに着替えてベッドに横たわり、改めて携帯を握り直す。

to:谷口
また誘ってくれよ
しばらくは暇な日が続きそうなんだ

一件目を事務的に打ち終え、
次に今日アドレスをもらったクラスの女子三人に、今日の感想を兼ねたメールを打つ。
ハルヒとのメールで相手を退屈させない文章の書き方は心得ている。
その三人とのメールは深夜まで続いた。

翌朝。俺は久しぶりに早起きして、身だしなみを整えるのに時間を費やした。
髭を剃り、洗顔料で顔を洗い、整髪料で寝癖を直し、鏡で全体を見る。
しばらくすると妹が起きてきて、俺は交代を余儀なくされた。

「キョンくん、どうしてこんなに早起きなのぉ?」
「目が覚めたんだ」
「答えになってないよぉー。いつもは遅くまで寝てるのに、どうしてぇ?」

寝起きのせいか、普段の舌足らずに磨きがかかっている。
俺は答えた。

「目覚まし時計の偉大さに気付いたのさ」

教室に入ると、始業まで時間があるにも関わらず、
クラスメイトの半数以上が登校していた。
以前は早起きして学校に来る奴の気が知れなかったが、今はなんとなくその気持ちが解る。

「よう、キョン」
「おはよう、今日は早いんだね、キョン」
「キョンくん、おはよう」
「よっす、キョン」

口々に挨拶をよこすクラスメイト。
俺は席に鞄を置いて、昨日遊んだ奴らの輪に入る。

「にしても、キョンがあんなに歌うめーとは思ってなかったぜ」と元東中の一人が言い、
「僕は知ってたよ。キョンは歌が上手い癖に、何故かカラオケに行くのを面倒くさがるんだよねえ」と国木田が言う。

「あ、そうそう、昨日言ってたあれ、持ってきたよ」

昨夜メールを交わしていた女生徒が、自分の席に戻り、
四角く膨らんだ某ブランドの買い物袋を取ってくる。

「ああ、覚えていてくれたのか」
「当たり前じゃん。忘れるわけないしー」
「なんだよキョン、それ」

谷口が女生徒の断りなく、袋の中身を確認する。

「そうがっつくな。ただのCDだよ」
「キョンくんが知ってる歌、古いのばっかだったでしょ?
 折角上手いんだから、流行りの曲知って貰おうと思って、昨日メールで言ってたの」
「それもそうだよな」と元東中の一人が言い、
「わたしも何か貸してあげよっか?」とこれまた元東中の一人が同調する。

俺は丁重に断った。

「いや、いいよ」
「どうして?」
「一度に持ってこられても持って帰れないし、
 まず今日借りた分を聞かなくちゃならないだろ」

女生徒からCDの袋を受け取って、

「ありがとな。出来るだけ早く返すよ」
「い、いつでもいいよ」

そうこうしているうちに岡部がやってきて、俺たちはそれぞれの席に戻った。
いつの間にか登校していたハルヒは、
腕を枕にして机に突っ伏していたが、
俺が座った時の振動を感知したのか、
つと顔を上げ、俺を睨み付け、机の隣に掛かったCD入りの袋を見て、
また元の姿勢に戻った。

「やれやれ」

想像していたよりもずっとマシな反応じゃないか。
昨日ハルヒにSOS団脱退を告げた時は、
本気にしていないような口ぶりだったから、
本当のことを知ったら烈火の如く怒り狂うかと覚悟していたのにな。

時は変わって昼休み。
俺と谷口と国木田の三人はいつものように席を寄せて、
雑談しながらちまちまと昼飯をつついていた。
国木田は卵焼きの境目を箸で割りながらぽつりと言った。

「今日の凉宮さん、大人しいね」
「生理だろ」

俺は無言で谷口の頭を叩く。

「何言ってんだ馬鹿」
「だってそれが一番現実的だろうがよ」
「谷口は少し黙った方がいいよ。
 キョンは凉宮さんが元気ない理由、何か知ってるの?」

「知らないと言えば嘘になる」
「やっぱ生理なんだろ」
「だから生理じゃねえよ。なんで俺があいつの生理周期を知ってなきゃならないんだ」
「キョン、谷口は相手にしないで。
 それで、凉宮さんに元気がない理由はなんなんだい?」

俺は勿体ぶらずに答えた。

「多分、俺がSOS団を辞めたからだ」

身体を逸らす。すると俺の顔があった辺りを、
アスパラガスと思しき緑色の弾丸が通過していった。
谷口が噴飯するのは想像に難くなかった。

「マジかよ!?」
「マジだよ」

国木田が驚きの醒めやらぬ面持ちで尋ねてくる。

「どうして辞めたの?凉宮さんと喧嘩でもしたの?」
「あいつと喧嘩になったとか、他の面子と不仲になったとか、
 そんなんじゃないんだ。ただ単純に、面倒になったんだよ」

だからそんなに深刻そうな顔するな、と付け加える。

「それは無理な話だぜ、キョン。
 お前がSOS団辞めたのと、他のクラスの奴が部活辞めたのとでは、
 話の重みが全然違ってくるんだよ」
「そうだよ。面倒になった、だけじゃ分からないよ」

なおも食い下がる二人に、

「これ以上話すことはない。
 俺はSOS団を辞めて、ハルヒもそれを認めた。それでいいだろ」

と言い切る。

「クラスの奴に話したのは、お前等が初めてだ。
 このことは別に隠すつもりはなかったが、進んで明かそうとも思ってない。
 だからお前等も、今の話を勝手に広めるのはやめてくれ」
「わ、分かったよ」
「う、うん」

放課後。
ハルヒは終礼が終わった途端何も言わずに教室を飛び出し、
SOS団から解放された俺はそれを追うこともなく、昨日の面子と一緒に下校した。
今日はどこにも寄り道せずに帰るようだった。
隣の女が、俺を覗き込むような姿勢で言った。

「ねーねー、キョンくんってさぁ」
「何だ?」
「凉宮さんと付き合ってたんじゃなかったの?」
「まったく……誰がそんな荒唐無稽な噂を流したんだ」
「ぷっ、荒唐無稽って、キョンくん日常会話に難しい言葉使いすぎー。
 その噂は結構前から流れてたよ。知らなかった?」
「薄々は」
「感付いてた?」
「ああ」
「それで真偽のほどはどうなの?」
「嘘偽りだよ」
「ふーん」

だってさ、と女生徒が前の列で谷口の馬鹿話に相槌を打っていた女の子に語りかける。
その子はびくりと肩を振るわせ、一瞬俺の方を向いて、すぐに視線を逸らした。
メールでは元気のいい印象を受けたのに、どうも現実世界では性格が違うみたいだ。

「あの子、大人しいけどいい子だから」

「ああ」と頷く。

丁度そこで分岐路に差し掛かり、
俺の隣を歩いていた女は俺たちとは別の道へ進んでいった。
別れ際、

「今度カラオケ行く時には、今日貸したCDの曲、全部歌ってもらうからねー」

との言葉に、俺は苦笑で答えた。
帰宅するといつものとおり妹が出迎えてくれた。
玄関の扉を開けた瞬間、鳩尾に衝撃が走る。

「キョーンーくんっ、おっかえりー」
「お前なあ、もし帰ってきたのが俺じゃなかったら、どうするつもりだったんだ?」
「あたしにはちゃーんと分かってるんだよっ」

おかしいな。うちの玄関はテレビドアホン式じゃなかったはずなんだが。
着替える暇もなく妹の部屋に連行され、計算ドリルを示される。

「はいっ」
「はい?」
「やって」
「何を」
「けいさんドリルだよー」
「つまり計算ドリルを俺に解いて欲しいと?」
「うんっ」
「自分でやれ」

立ち去ろうとした俺を捕まえて、妹は

「うんしょ、うんしょ」

と無理矢理椅子に座らせた。
抵抗するのは簡単だが、あえてそうしないのは可愛い妹を持つ兄の悲しい性である。

「俺が丸ごとやるのはダメだ」
「えー……キョンくんのいじわるー……」
「でも手伝うならいいぞ」
「ほんとに?」
「ああ、ただし条件付きでな」
「なになに?」
「手伝ってお兄ちゃん、と言え」
「てつだってキョンくん」
「オーケー、お前に俺をお兄ちゃんと呼ばせるのはいい加減諦める」

妹に鉛筆を握らせ、初等数学の問題に目を通す。

古泉からの電話が掛かってきたのは、
夕食が終わり、自室で借りたCDを聞いている最中のことだった。
ポケットが震えているのに気付き、慌ててヘッドホンを取る。

「夜分遅くにすみません」
「いいんだ。何かあったのか」
「経過報告をと思いまして」
「何の経過報告だ?」

数秒の空白。

「あなたがSOS団を脱けた、その後の話です」
「今日一日ハルヒの様子を見ていたが、別段いつもの不機嫌なあいつと変わりないように見えたぞ」
「何かお話は?」
「してない。話かけても無視されたよ。
 他のクラスメイトに対しては普通に話してたけどな」

流石に脱退直後から何事もなかったように話すことはできまい。
俺はそう思い、あえてしつこくハルヒに話しかけようとしなかった。

「あなたは彼女の精神状態についてどう考えているのですか」
「さあな。見当もつかない。
 てっきり俺をやめさせまいと躍起になるかと思っていたんだが、
 存外大人しい猫みたいに振る舞ってるし、俺としては正直なところ、どう接すればいいか困ってる」

無視はしたくなかった。
そんな安直な方法をとってハルヒとの関係を悪化させたくはなかった。

「それで、お前の経過報告とやらを聞かせてくれよ」
「いいでしょう。率直に言うと、彼女はまだあなたが脱退したことを完全に認めたわけではありません」
「何言ってんだ?
 ハルヒは俺が脱けることを認めた。直接話しあったんだ」
「ご冗談を。あなたが一方的に意思を述べ、彼女が適当に相槌を打っただけでしょう。
 その後、あなたの言葉を吟味した彼女は団員を招集し、文芸部室にて緊急ミーティングが行われました。
 朝比奈さんは参加されませんでしたが」

心に一抹の罪悪感が生まれる。
朝比奈さんにはもっと落ち着いた時に話すべきだったな。

「彼女は――凉宮さんの心は乱れているように見受けられました。
 あなたが本当に脱退してしまうという不安を、別の感情、つまりは怒りで塗り潰しているようでした。
 彼女はあなたのことを放置すると言いました。
 あなたを無視することで、どれだけあなたがSOS団に依存していたか、思い知らせてやる、と。
 彼女は深層意識では願っているのでしょう。
 あなたが自発的に彼女に頭を下げ、SOS団に戻ってくることを。しかし、」

接ぎ穂を継ぐ。

「しかし、俺が戻ることはあり得ない」
「分かっています。僕と長門さん、そして恐らくは朝比奈さんも、それを知っている」

小さな溜息が受話器の向こうから聞こえてくる。

「現況は芳しいものではありませんよ。
 彼女の精神はぎりぎりのところで均衡を保っている状態です。
 時間とともにそれは均衡を失い、やがて崩壊する。
 彼女があなたに我慢できなくなった時に何が起こるのかは、誰にも分かりません。
 一部の環境情報が書き換えられるだけで済むのか。
 それとも世界の消滅、改変レベルにまで力が及ぶのか。
 全ては"神のみぞ知る"ですよ」


 

俺が何も答えないでいると、古泉は「また電話します」と言って通話を切った。
携帯を放り投げ、ヘッドホンを付け直す。
好きなジャンルじゃなかった。
むしろ嫌っていたジャンルの音楽だった。
けど、SOS団という縛りから解放された今、
改めて聞いてみると、そう悪くない音楽のように思えた。

次の土曜日、俺は思いきり寝坊した。
カーテンの隙間から零れる日の光が眩しい。
時計を見ると、もう昼前だった。目覚まし時計が鳴った様子はない。
昨晩にセットしていなかったからだ。
これからは不思議探索のために早起きすることもない。
俺は素早く身支度を調え、お袋が用意してくれていた朝食兼昼食を胃袋に詰め込み家を出た。
喫茶店には既に俺以外の全員が集合していた。

「おっせーぞ、キョン」
「まあまあ谷口、五分程度の遅刻は許してあげようよ」

(遅いわよ、キョン。罰金ね!)
(まあまあ凉宮さん、彼も遅刻した訳ではないんですから)

一刹那のデジャヴ。
そこにいるのは谷口を初めとするクラスのメンバーで、
ハルヒを初めとするSOS団のメンバーじゃない。

「キョンは飯はもうすませたの?」
「ああ。みんなは?」
「すませてるよ。それじゃ、行くか」

知り合って間もない人間の私服姿は新鮮で、
俺は谷口が会計を済ませているあいだ、皆を眺めていた。

「何見てんの?」

数日前にCDを貸してくれた子が話しかけてくる。

「あ、もしかしてわたしたちに見とれてたとか?」
「まあ、そんな感じだ」
「そういうキョンくんも格好いいじゃん」
「お世辞はいいよ」

黒のチノクロスに淡いチャコールのダンガリーシャツ。
適当なことこの上ない服装だ。
俺はその子の後ろにいた、メールでは活発、現実では大人しめの子に声をかけた。

「そういやお前、髪切ったのか」
「え、うん。ちょっとだけ……変じゃない?」
「全然。似合ってるよ」
「あ、ありがとう」

カラオケ、ボーリング、ショッピングモール……。
街に散在する娯楽施設に不足はなく、時間は瞬く間に過ぎていった。
夜。それなりに疲れた俺たちは、谷口の先導に従って、とある飲食店に入った。
メニューが豊富で安くて旨い。
でも場所が入り組んだところにあるので、混雑しているわけでもない。
まさに穴場だった。

「カシスソーダ一つ」
「わたし、モスコミュール」
「俺はジン・トニックで」

そのオーダーを咎める者はない。
谷口と店主が知り合いらしく、いつも目を瞑ってくれるのだそうだ。
一杯だけ、という条件で。
谷口の冗長な音頭が終わると、後はみんな好き勝手に騒ぎ始めた。

「キョンー、お前やっぱ歌うめぇな」
「CD貸してもらってから三日経ってないのにねー」
「才能かもな」

ガラにもなく調子に乗って見せると、クラスメイトたちは少し驚いた顔を見せ、すぐに笑った。

「でもボーリングは超絶に下手くそだったよね」
「おい国木田、それは言わない約束だろ」

「僕とスコア何点差だったっけ?」
「あの投球フォームも思い出しただけで笑えるよなあ」

元東中の奴が思い出し笑いし始め、他数名が続く。
けどそこに馬鹿にするような雰囲気はなく、気付けば俺も笑っていた。
しばらくして酒の弱い奴に軽くアルコールがまわってきたころ、
谷口がクジを取り出して声を張り上げた。

「王様ゲームやろうぜ、王様ゲーム!」

俺は隣の元東中の男に小声で言った。

「まるで合コンの乗りだな」
「谷口にとっては合コンなんだよ。狙ってる子がいるんだとさ」

三人の女子を順に見やる。
CDを貸してくれた活発な子。昨日髪を切ったらしい大人しめの子。
他校に彼氏がいるらしくクラスの男子とはあまり喋っていない派手めな子。
最後の奴は違うとして、どっちなんだろうな。
ま、俺が与り知るところじゃないが。


してない

王様ゲームは時には爆笑、時には悲鳴と共に進行したが、
途中、谷口が裏で糸を引いていたことがバレ、
谷口は女性陣からの信頼を失った。
俺を含めた男性陣は笑いながら谷口を慰めた。
俺は盛り上がったところを見計らって席を立った。

「なんだよキョン、大か? 大の方なのか?」

すかさずほろ酔いの谷口が突っ込み、

「谷口サイテー」

との女子からのブーイングを食らう。
俺は「ちょっとな」とだけ言い残して、席を離れた。
店の外に出ると、濡れたアスファルトの匂いがした。
小雨が降ったのかもしれない。

「遅かったね、キョン。
 僕を待たせるとはいい度胸じゃないか」
「何様だよお前は」

左を向くと、俺の頭一つ分下のところに佐々木が立っていた。
語調とは裏腹に、表情は真上の夜空のように晴れている。

「どうしてお前がここにいるんだ」
「それは僕の台詞だよ」
「俺はクラスの連中と一緒に来てる」
「僕もそんなところだい。似たもの同士だね、僕とキョンは」
「何しろ親友だからな」
「親友だからね。とはいっても、親友だから行動が似るとは限らないのだけど」

僕もそんなところだい ×
僕もそんなところだよ ○

温かい沈黙。
佐々木はつと俺を上目遣いに見上げ、

「質問はそれで終わりかい?
 君は僕と久闊を叙すことがあまり喜ばしくないのかな」
「どうしてそうなるんだよ」
「盗み見させてもらったよ。
 随分と楽しそうに女の子達と会話していたじゃないか。
 本当は今すぐ彼女たちの元へ舞い戻りたいんだろう」

妙なことを言う佐々木に、ブラフをかけてみる。

「そういうお前はどうなんだ。
 お前だって楽しそうにお前のクラスの男の相手してたじゃないか。
 今だってそいつらはお前の帰りを今か今かと待ち侘びてるかもしれないぜ」
「彼らはただのクラスメイトさ。遊びに誘われて、乗った。
 それだけの関係だ。発展の兆しは皆無で、
 また交際を迫られたとしても僕がそれに承諾する可能性は万に一つも、」
「嘘だよ」
「なんだって?」
「お前がお前のクラスの男と話してるとろこなんて見てない。
 俺はお前にメールをもらってここに呼び出されるまで、
 同じ店にいることも知らなかったんだからな。
 だからそんなに必死になって否定しなくてもいいぞ」
「まったく、君は相変わらず意地悪な性格をしているな」

むくれる佐々木。

「俺が優しくなっていたら逆に気持ち悪いだろ」
「確かに気持ち悪いだろうが、」
「おいおい」
「まあ話は最後まで聞きたまえよ。
 その気持ち悪さは一過性の物だ。
 周囲は慣れるさ。そして君に好意を抱く人間はさらに増えると思うよ」
「そうかい」

俺は店の看板を見上げて、本題に移る。

「どうして俺を呼び出した」
「近況聴取及び凉宮さんの不在について」
「面倒だな」
「僕には聞く権利がある。君には話す義務がある」
「誰が決めたんだそんなもん」
「僕だよ」
「ああ、知ってたさ」

俺は頭の中で話すことを纏めかけて、やめた。
佐々木は婉曲に話をされることを嫌う。自分のことは棚に上げて。

「SOS団を脱けた」

佐々木は驚きの表現を瞬き数回で済ませて言った。

「本当かい?」
「ああ。ハルヒは認めてるか認めてないか微妙なところだが」

「凉宮さんがいないのはその所為か。
 もし君がSOS団に在籍していたら、
 不特定多数の女性と交流を持つ夜遊びを彼女が認可するわけがないからね」
「あいつは俺の保護者じゃねえよ」
「ならそれに準ずる何かだ。
 どうして君がSOS団を脱けたのか、理由を聞いてもいいかい」
「面倒になったんだ」

俺は正直に話した。
こいつに嘘をついて良い結果に終わった試しはない。

「何もかもな。そりゃあ中学を卒業したての頃は、
 漠然と横たわる高校生活を退屈に感じたりもしたが、
 ハルヒやSOS団の奴らと過ごしてるうちに気付いたんだよ。
 普通に高校生するのも十分楽しいってことにな」
「凉宮さんたちと過ごす時間が楽しくなくなった、というわけではないんだね」
「ああ。俺はただ、距離を置きたいだけだ。
 あいつらの特殊な事情は知ってるが、もうそれに振り回されるのは御免なんだよ」

佐々木は詩想に耽るように目を瞑り、やがて謳うように言った。

「君の心は摩耗し、疲れてしまった。
 誰も彼もを受容する大海のような潤いも、今や茫漠とした砂漠のように枯れ果ててしまった。
 そういうわけか」

俺は頷いて見せる。
佐々木は言った。

「それは身勝手が過ぎないかな、キョン」
「分かってる。お前に言われなくても、」
「いいや、君は分かっていない。
 既に君の聡明な友人から聞かされているとは思うが、
 凉宮さんと対を成す存在である君の行動は、
 彼女に、延いては彼女の背後に席巻する組織に、多大な影響を与えるんだ」





ちょっと飯

佐々木の瞳はいつになく真剣だった。

「今からでも遅くはない。
 君の矜持は許さないだろうが、それでも君は彼女の元に戻るべきだよ、キョン」
「残念だ」
「残念って、何が?」
「お前なら俺の気持ちを少なからずとも理解してくれると思ってたからさ」
「どういうことだい?」

俺は夜の闇をを見渡して、

「ついてるんだろ、監視」
「……まあね」

軽く溜息を吐く。

「僕は凉宮さんと違って能力を抑えることができているが、
 それでも彼らにとっては重要人物であることに変わりはない。
 監視の目はそこかしこにあるよ」
「お前はどうしてそれに耐えられるんだ?」

不思議で仕方がない。

「受け入れているのさ。
 僕は運命を信じていないけど、運命だと考えれば楽だ。
 要するに思考停止だよ、キョン」

「俺はお前ほどうまくは割り切れない」
「おかしなことを言うね。
 君は僕と違って監視対象じゃないだろう」
「いいや、監視対象だ。
 ハルヒの傍にいることによって、俺はいつでも"ハルヒごと"監視されることになるんだ」
「自意識過剰だよ、それは」
「ついさっき俺とハルヒが対を成す存在だと豪語したのはどこのどいつだ?」
「さあね、忘れたよ。
 僕の頭はあまり物覚えがよくないから」
「へえ。じゃあM理論で扱う五つの超弦理論を答えてみてくれ」

佐々木は事も無げに答えた。

「I型、IIA型、IIB型、ヘテロSO(32)、ヘテロE8×E8」

これで物覚えが良くない、か。笑わせてくれるぜ。

「話が横に逸れたね。
 ともかく、君は凉宮さんの元に戻るべきだ」
「だから、それは出来ない」
「強情だな。優柔不断な君らしくない」
「中学時代の俺と思ってもらっちゃ困るね」

互いの携帯が鳴ったのは、その時だった。
顔を見合わせ、同時に通話ボタンを押す。

「キョン、大丈夫か!?
 さっきからお前の入ってる個室のドア叩きまくってるのに返事ねえから、
 てっきりウンコしながら死んじまってるんじゃないかって心配してたんだぞ」
「落ち着け、谷口。
 ちなみにその個室に入ってるやつは赤の他人だ」
「え、マジかよ……」
「店の廊下で知り合いに会って、ちょっと話し込んでたんだ。
 すぐに戻る。みんなには心配かけてすまなかったと言っておいてくれ」

通話を切る。図らずともその動作は佐々木と一緒だった。
ぎこちない雰囲気の中、佐々木は言った。

「よければ明日、時間をとれないかな。君とゆっくり話がしたい」
「奇遇だな。俺もそう思っていたところだ」

柔らかな微笑みを残して、佐々木は店内に戻っていった。
十中八九、あいつは俺を説得するつもりだ。
対する俺は、逆にあいつを言い負かしてやるつもりだった。
冷静な頭で考えれば分かったはずだ。
俺が佐々木とまともに口論して勝った試しはなく、
これからも勝てる見込みはないということが。

翌日。
待ち合わせした場所である駅前に到着した俺は、
中々佐々木の姿を見つけることができなかった。
やっと見つけた時には、約束の時間を15分も過ぎていた。

「遅刻だぞ」
「それはこっちの台詞だよ」
「俺はちゃんと10時にはここについてたぜ」
「僕だってちゃんと10時にはここについていた」

となれば結論は一つだ。

「お前はもっと分かり易い服を着てくるべきだったんだよ」
「む。それは君にしたって同じことが言えるね。
 もうあの無骨なコーディネイトを拝むことはできないのかな」

俺は何か言い返そうとして、佐々木の服装を眺めた。
キャンディホワイトのキャミワンピースに、カーディガンニット。
悪くない。というか、昔の佐々木像を払拭するその衣装は、とても可愛かった。

「なにをじろじろ見ているんだい。気持ちのわるい奴だな」

勝手に歩き出す佐々木に追いつきつつ、

「どこで話をするか決めてあるのか?」
「話なんてどこででも出来るじゃないか。
 並列処理だよ、キョン。
 今日は、君に荷物持ちをお願いしたいんだ」

結果的に俺はそのお願いを聞き入れたことを、激しく後悔することになった。
ショッピングモールの洋品店をいくつか周った頃には、
俺の両手は大きな袋で塞がれ、スムーズに歩くこともままならなくなっていた。

「これは似合うと思うかい?」
「真面目に答えて欲しいな。僕は異性の目から見た意見が聞きたいんだよ?」
「キョン、これよりも一つ大きなサイズの物をとってきてくれ」

着替え室で衣装替えする佐々木は楽しそうで、
SOS団脱退の議論を蒸し返すような雰囲気ではなかった。
いや、そもそもその議論をふっかけてきたの佐々木の方なのだ。
俺が自分から話題を振る必要もないだろう。
ちなみに佐々木は俺の服もいくつか選んでくれた。
俺が試着したジーンズを見て一言。

「少々股下が足りないな。
 もうちょっとローライズな感じの奴がいいんじゃないか」

俺が選んだシャツを見て一言。

「やめたまえやめたまえ、そんなもの。
 僕は断然、このドレープカットソーを推すよ」

服選びに協力してくれる佐々木を新鮮に感じながら、
俺は「佐々木も俗に染まったな」と思わずにはいられなかった。

「それは良い意味で言っているのかな。
 それとも悪い意味で言っているのかな」

どうやら思わず口をついて出てしまっていたらしい。

「俗、という言葉は多義的でね。
 土地の風習、僧ではない一般世間の人、凡庸、卑しいこと、の四つの意味を内包している。
 君はどういう意図でその言葉を使ったんだい?」
「三つ目の凡庸。といっても、悪い意味で使ったんじゃねえよ。
 佐々木は昔から変わったところがあっただろ。
 俗世間を嫌って、中学のクラスメイトとも距離を置いて、
 なんていうか、自分の世界に閉じこもってる印象だった。
 それが久々にこうして一緒に出かけてみると、
 普通の女子高生になってたから、ちょっとびっくりしたんだよ」

「僕だって日々絶え間なく成長しているんだ。
 肉体的な意味ではなく、精神的にね。
 それはキョン、君にとっても同じことが言えると思うよ」
「俺にとっても?」
「昨日、あの飲食店で君を見かけたとき、
 僕は一瞬、君が君だと分からなかったんだ。
 顔の造形が変わったわけじゃない。
 髪型が変わったわけでもない。
 でも、醸す雰囲気一つで、
 人間の印象は面白いように変化する。
 それを作為的に操作できるのが、詐欺師と呼ばれる連中だよ。
 しかし残念ながら、僕たちは常に一つの人格しか持ち得ない。
 二つの人格を用意して、必要に応じてスイッチすることは出来ない。
 一定の自分を保つことは出来ない。
 僕たちは時々刻々と変化していくしかない。
 そしてそれを止める術はなく、ただ受け入れるしかないんだ」
「……おい、佐々木」

佐々木は薄く笑って言った。

「ああ、久しぶりにやってしまったね。
 買い物の最中に語りに填り、君を置いてけぼりにしてしまうとは」

「さっきの発言は訂正するよ。
 やっぱり佐々木は昔のまんまだ」
「………」

佐々木は何も言わずに俺から買い物袋を奪い取った。

「おっとっと」
「無理すんな。全部お前の家まで持ってってやるから」
「いいんだ。僕を舐めないでほしい」

買い物袋の山は今にも佐々木の細腕から落ちそうで、
傍で見ている俺としては、精神衛生上非常によろしくなかった。
が、佐々木はその後も譲らずに「持って帰る」と言い続け、
結局

「来週も楽しみにしているよ」

と言い残し、行ってしまった。
佐々木の後ろ姿を見失ったところで気付く。
来週も、ってなんだ。
そもそも今日佐々木が俺を呼び出した目的である、
SOS団脱退についての説教話はどうなったんだ。

それから数日は何事もない日が続いた。
ハルヒは相も変わらず俺を無視し続け、俺もいつしか話しかけるのをやめた。
一度だけ掛かってきた古泉からの経過報告では、
ハルヒの精神は依然不安定な状態が続いているが、
それも一種の安定と言える、というよく分からないことを告げられた。
放課後はSOS団を脱けた日にカラオケに行ったグループと一緒にどこかに出かけるか、
連れだって帰るかの二択だった。
授業が終わったらすぐに文芸部室に赴いていた日々は、遠い過去であるように感じられた。

家に帰るのが早かった日は、妹の宿題を手伝ってやり、家族揃っての夕食を楽しむ。
風呂に入り、髪を乾かして、軽く明日の予習をしながら溜まっていたメールを処理する。
元東中の男から紹介された何人かの女の子は、みんな同じような顔で同じような髪をしていた。
添付されたプリクラの写真の下に、

"こいつら可愛く見えるけど、化粧とったら結構やばいぜ(笑)"

とコメントが添えられてある。
俺はとりあえずその何人かのアドレスにメールを送ってみる。
食いつきは良かった。
キョンという忌々しいあだ名は社交では便利なもので、人に覚えて貰いやすい。
あとは相手を退屈させないようにこまめに返信していけば、あっという間に人脈が完成する。

しばらくして俺はその子たちとのメールを切り上げ、
俺の所属するグループの女子三人の中で、
この前髪を切ったと言っていた大人しめの子にメールを打つ。

to:
俺も髪切ったんだ
明日見たら反応してくれよな

from:
どんな風にしたの?

to:
いつもと違う感じにして下さい、ってお願いしたら
レイヤー入れて無造作なカンジで、って言われてそのままカットされたよ
これまで髪型とか気にしてなかったから
何言ってるのかさっぱりだった(笑)

from:
写メ送ってくれない?
今すぐ見たいんだけど

to:
写メは恥ずかしいからナシ
明日になったら分かるよ

from:
ええー
どうしても、って言ってもダメ?

携帯の内側カメラを起動し、
さりげなく目を入れて撮影、保存する。

to:
負けた
笑ってもいいぜ

写真を添付して送信。

from:
全然かっこいいじゃん!
見違えたって

to:
サンキュ
実を言うと俺も結構気に入ってるんだ

メールは深夜まで続いた。
話題は尽きなかった。
相槌を打つだけのハルヒとは違い、普通の女の子はあちらかも色々と話を振ってくれる。
元々女というものは話すのが好きで、それをストレス解消にしていることもある。
話題が尽きたときは、「もっと○○のこと教えてくれよ」と言うだけでいい。

翌朝。
寝癖の酷い髪を濡らし、ドライヤーでブローする。
ある程度形が決まったところでワックスを使う。
最後にさっとハードスプレーをかける。
これでよほどの豪雨に打たれない限り、髪型が崩れることはない。
登校すると、クラスの反応は予想通りだった。
昨夜メールで髪を切ったことを一人に教えていたおかげで、
俺の所属しているグループの人間はもちろん、
他の何人かもそのことを知っていて、

「かっこいいじゃん」
「一瞬誰かと思ったぜ」

と言ってくれた。

「キョンは元々素材が良かったからね」

国木田が得意げに言い、

「ま、キョンもやっと俺のレベルに追いついたってカンジだな」

谷口がオールバックの髪を掻き上げて女子から白い視線を受ける。

俺は女子三人が固まっているところに近づき、
CDの入った袋を持ち上げて言った。

「返すよ。全部聞き込んだのは、
 この前のカラオケで証明済みだよな」
「あ、ちょっと得意げになってるー」

女子の一人が笑いながらそれを受け取る。
俺は少し笑った後、一瞬だけ真面目な顔に戻り、
相手の右目を見つめながら、

「ありがとう。また良い曲あったら貸してくれよ」
「あ……、うん、いいよ。
 それよりー、昨日はなんでわたしたちにも報告してくれなかったわけ?
 わたしもキョンくんの写メ欲しかったのに。ねー」
「ねー」

同調する二人。
その真ん中で、昨日メールを交わした大人しめの女の子がはにかんでいる。
俺に一瞬視線を移し、すぐに下げる。髪を弄る。
その仕草の一つ一つに意味があることを俺は知っていた。

HRが終わって授業が始まる。
ここ最近規則正しい生活を続けているおかげか、眠気はほとんどない。
谷口から来る

from:
○○のヤツ二個上の大学生と付き合いだしたんだってよ
信じられねえ

from:
今□□のパンツ見えた!
やったぜ!

などのゴシップ記事の切り抜きよりもくだらないメールを無視しつつ、
俺は真面目に板書を取った。
ハルヒの存在がない授業時間は、自分でも驚くほど勉強に集中できた。
教師の話に耳を傾け、指定された問題を解き、
理解できないところは授業が終わってから、
教師が教室を出る前に尋ねて解決した。

体育の授業は休み時間と同義だ。
俺は谷口のグループに入ってから深く知り合った、
あの何人かの派手な女の子を紹介してくれた男子と一緒に、体育館の端でだべっていた。
ダムダムとボールが弾む音と、キュッキュッとジムシューズが擦れる音がうるさかった。

「なあキョン、お前、バイク持ってねえか?」
「いや」

中型どころか原付の免許すら持っていない俺だった。

「どうしてそんなこと聞くんだ?」
「いや、明日と明後日女の子連れて遊びに行くんだけどさ。
 俺の持ってるバイクが逝っちまって、誰かに貸りなきゃまずいんだよ」

そいつはしばし俺に愚痴り、やがて自分のチームのメンバーに呼ばれて去っていった。
入れ替わりに谷口がやってくる。俺は訊いた。

「原付や中型の免許って、そう簡単にとれるもんなのか」
「なんだよキョン、免許欲しいのか?」
「興味が沸いただけだ」

「原付はちょっと勉強すりゃすぐに取れるぜ。
 中型は段違いに難しいみたいだけどな。
 でもやっぱ、中型は二人乗りできるからいいよなあ。
 ああ、女の子を後ろに乗せてツーリングしてえー」
「キョンー、交代だよー」
「ああ、今いく」
「おいちょっと待てよ、お前が行ったら俺がぼっちになるじゃねえか」
「知らん」

コートに戻ると、うちのチームは6点ビハインドで負けていた。

「キョンくーん、頑張ってー」
「おいキョン、お前無駄に体力あるんだから、ガンガン動けよなー」

男女から声援が飛ぶ。ハルヒと連んでいた頃には、こんなの無かった。
当のハルヒは休憩中なのか、体育館の壁にもたれていた。
視線が合うと、すぐに逸らされた。
パスが飛んでくる。思考からハルヒを追い出し、バスケに集中する。

そんな俺の新しい日常に非日常が割り込んできたのは、
昼飯を食い終わり、いつもの面々で雑談していた時のことだ。

「すみません、ちょっとお話が」

肩に圧力を感じて振り返ると、古泉が立っていた。
それまでの喧噪が水を打ったように静まりかえる。
俺は静かに立ち上がった。

「おい、キョン……」
「授業が始まる前には戻る。
 もし遅れたら、適当に言い訳しといてくれ。行こうぜ、古泉」

廊下を歩いている間に会話らしきものはなかった。
ただ俺が「どこに向かっているんだ」と尋ね、古泉が「文芸部室です」と答えたのみだった。
部室棟に足を踏み入れると、とても懐かしい匂いがした。
日当たりの良い窓から差し込む陽光が埃を照らしている。
棟の裏にある大樹が風にそよぐ音を微かに聞くことができる。
部室にはハルヒを除くSOS団のメンバーが揃っていた。

「長門……朝比奈さん……」
「こんにちわ、キョン、くん」

朝比奈さんは俺を見て、すぐに視線を湯飲みに落とした。
ここ一週間で、俺は朝比奈さんとどうやって温かい会話を築いていたのか忘れてしまっていた。

書き込みミスって文章消えた
10分タイムロス

janeがぶっ壊れた

長門は透き通るような黒の瞳で入り口に立ち尽くす俺を射止め、

「座って」

と言った。パイプ椅子に腰掛ける。
ついこの前の俺なら何か気の利いたことを言えたはずなのに、何も言えない。
言葉が喉で詰まって出てこない。どうしてだ。
この喪失感は何だ。
古泉は言った。

「端的に申し上げます。組織間の連携は昨夜を以て消滅しました」

朝比奈さんが今にも泣きそうな声で言った。

「凉宮さんの精神状態は今現在、中学時代のそれに酷似しているんです。
 わたしや古泉くんや長門さんは、それぞれ上に、
 こんなときだからこそ連携する必要性を訴えました」

長門が無機質な声で続ける。

「しかし凉宮ハルヒの改変能力が制御可能なことは、あなたの功労によって既に証明されている。
 状況は数年前と違う様相を呈している」

古泉が締めくくった。

「それぞれの組織はそれぞれが違う目的を持っています。
 我々は利害の一致という名目で手を取り合っていましたが、
 その目的を細分化したときに、どうしても衝突する部分がいくつか出てくるんです。
 それぞれの組織は躍起になっているんですよ。
 あなたのポストの、自分の組織の意思を反映させる人間を嵌入しようとね」

あなたのポストの ×
あなたのポストの ○

あなたのポストの ×
あなたのポストに ○

ちょっと風呂

(´・ω・`)はいどーもぉー(`・ω・´)
(´・ω・`)ショボ谷です
シャキ腹です(`・ω・´)

(´・ω・`)二人合わせて(`・ω・´)
\(≧ω≦)/シャカシャカチキンです!!わわわわー\(≧ω≦)/

俺は言った。

「それで、結局のところ、俺をここに連れてきた理由は何なんだ」

二度と来るつもりはなかった。
俺がSOS団にいた時の記憶を想起させるものが、ここには余りにも多すぎる。

「やれやれ、わざわざ言わなければ分かりませんか」

古泉は声に失望を滲ませて言った。

「我々はあなたに復帰してもらいたいのですよ。
 とりあえずは形だけでも結構です。
 要は組織の上層部に、あなたのポストを諦めさせればいいんです。
 このままの状況が続けば、これまで手を取り合っていた組織同士が衝突することも有り得ます」

俺は喜緑さん、森さん、大人版の朝比奈さんの三人が、敵対しているところを想像しようとした。
しかしイメージは焦点を結ばず、消えてしまった。

「無理な相談だな」
「キョンくんっ……」

俺は極力みんなの顔を見ないようにして立ち上がった。
視界の端に移った朝比奈さんの目は、誰が見てもわかるほどに濡れていた。

「それがあなたの選択ですか」
「ああ、俺はもうここには戻らないよ」
「次の土曜の夜、僕たちの組織は最後の話し合いを持ちます。
 この意味が分かりますね」

次の土曜の朝、何食わぬ顔で喫茶店に顔を出し、
ハルヒに謝ってSOS団に復帰しろ……古泉が言いたいことは分かる。
俺は聞こえなかったふりをして、文芸部室を出た。

今更な感じだが言わせてもらうと

・俺は>>1の投下が止まったみたいだったので書くことにした
・書く場を譲ってくれた>>1には勿論感謝している
・VIPは良くも悪くも自由なところだと考えている

それだけ

佐々木かわいいけどこんな口調の子リアルにいたらひくわ
かわいかったら別

>>351
男の前だけこの口調で女の前だと普通の女の子なんだぜ

>>362
俺の前だけ?かわえええええ

キョン「娘の名前は泡姫にしよう・・・」

そういう性癖に目覚めればよいのではないだろうか?

俺もひとけりされたい

俺には親友もいない

キョン「佐々木とできないからこいつとやるおwwwww」

やっと追いついたのにもう終盤

キョン「という今までにないほどリアルな夢を見たんだが」

古泉「笑えない冗談は控えて欲しいものです。
   僕ならまだしも、朝比奈さんが聞いたら
   真剣に受け止められてしまいますよ」


以降、無限ループ

キョンって実際イケメンなのか?
雰囲気イケメンなのか

俺なんて家の洗面所の鏡でしかイケメンじゃないというのに・・・


化粧板のツンデレババア共がvipperを呼んでるおwwwwwww
構って欲しいみたいだからみんなで遊びにいくおwwwwwwwww

119 名前:メイク魂ななしさん[] 投稿日:2009/02/11(水) 17:41:13 ID:TvEDj6c/0
糞vipperはもういないねせいせいしたわ

120 名前:メイク魂ななしさん[sage] 投稿日:2009/02/11(水) 17:49:23 ID:Th9tIPqqO
VIPPERほんと迷惑



          ,, '||||||||| ||||||||||||||l
         /|||||||||| l||||||||||||||||||||l
         ||||||||||__ |||||||||||||||||||l  
        ||||||||| .-=;    =-. ||||     < VIPPERほんと迷惑

       r'||(^|||  ,,ノ r 。 。) 、  |||l ̄ヽ
      / ||||`|l U  ,. =三ァ ,.  .||!   \
     /   ,ノ||||||、._   ー- '  _.,ノリト  V  ヽ、
  「) /     Yノ||l|||||l ` ー-‐  ィl|||リト    Y    \ _
  >う⌒rー、 /                        __,{
. └-「)「}「〉}|     化粧ババア       }r‐'⌒ ('く

   丁´´ /\__    -‐ = ‐-       ,イ「)「}_,「|丿
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