ペトラ父「自慢の娘」(35)
※ねつ造99%
『リヴァイ兵長に私の全てを捧げるつもりです』
卒倒しかけた。
カラランッ
店主「おう、おやっさん!今日は早いじゃねえか!らっしゃい」
ペトラ父「よう……とりあえず……店で一番きつい酒を頼む」ドサッ
店主「おいおいどうしたってんだ?随分顔色が悪いようだが」
ペトラ父「これがよぉ、これが飲まずにいられるかってんだ!!」グス
店主「な、なに泣いてんだ!?とりあえずほら、ぐいっとこれ飲み干せ!そんで落ち着け!!」
ペトラ父「泣いてなんかねえ!ちょっと汗がにじんだだけだ!」
ペトラ父「でよぉ、久しぶりにきた手紙になんて書いてあったと思う?『私の全てを捧げます』だぞ!?おいそりゃどういう意味だってんだ畜生っ!」
ペトラ父「まだ…まだあいつは20年生きたか生きてねえかの娘っ子なんだぞ!?親父、こんなのありなのかよぉ、俺ぁ……俺ぁ……」
店主「ペトラちゃんもそんな年か~~ でもあの人類最強の男を相手にとるたぁ、やるじゃねえか!」
店主「親父としちゃあ複雑だろうがよ、祝福してやれって。ほら 今日は呑んで思う存分泣きやがれ」
ペトラ父「しゅ 祝福なんかしてたまるかぁ…ヒック。俺ぁよお、あいつを男手ひとつで手塩にかけて大事に大事に育ててきたんだ!」
ペトラ父「それをあんなどこの馬の骨かもわからん男に……!!認めん、認めんぞ!!ペトラ!」ダンッ
店主「おやっさん、あの子がどんな男連れてきてもそう言うでしょうに」
ペトラ父「嫁になんてやらんからな!少なくともまだ5年は早え!!」ダンダン
店主「あああっ、ちょっと。カウンター壊れちまうよ…」
ペトラ父「あの手紙を受け取ってからよぉ、ペトラが花嫁衣装を着てる夢を見ちまって……」
店主「へえ、さぞかわいらしいだろうな。あの子は器量よしだから。おやっさんに似ず」
ペトラ父「うるせえな!もうその姿を見てからいても経ってもいられなくてな。今日は仕事が手につかなかった……ヒック。うい…」
店主「あんたも大概親ばかだなぁ」
ペトラ父「親ばかでなにが悪いってんだぁ 俺はな、俺は…手塩にかけてあいつを育てて……まだ…まだ……嫁になんかなぁ…!!」
店主「はいはい、また同じ話し始めちまってるからな。そろそろ水に切り替えたほうがよさそうだぜ」
ペトラ父「だめだ!まだ呑むんだ、今日はもう死ぬまで呑む!付き合えよ店主!!」
店主「えええーっ あんたもう年なんだから無茶はよした方が…」
ペトラ父「いいんだよっ どうせ妻もいなくなって…娘も嫁にいって……俺はひとりぼっちになるんだよぉぉぉ うぅぅ…っ」
店主「ああああもう、こりゃ相当酔っ払ってるなぁ」
家
バタン
ペトラ父「うぅ……おえ、気持ち悪ぃ」ヨロ
ペトラ父「さすがに呑みすぎたか…」
ペトラ父「……」
ペトラ父「……」カサ
ペトラ父「『リヴァイ兵長に特別班のメンバーに指名されました。とっても嬉しい。精一杯頑張るつもりです』」
ペトラ父「……あいつ、頑張ってんだな」
ペトラ父「調査兵団に入団するって言われたときゃ、どうしたもんかと思ったが……」
ペトラ父「一度決めたことは絶対譲らないのは、母さん譲りだな。あの頑固さはどうにもならん」
ペトラ父「でもなかなかどうして逞しく育ってくれたよ。あの死亡率の高い兵団で、何度も生きのびて帰ってきてくれるんだ」
ペトラ父「……俺があの子をあの兵団に行かせたこと、お前はどう思ってるんだろうなぁ……。お前のかわいいかわいい娘を、戦場に向かわせちまってよ」
ペトラ父「……」
ペトラ父「ほんとは頭ごなしに否定したかったんだがな。あの子のあの時の目を見たら、強く言えなくなっちまったよ。ありゃなに言っても無駄な目だ」
ペトラ父「……似なくていいところばっかり似やがってなぁ」
ペトラ父「…………グスッ」
ペトラ父「いかん、酒のせいで涙もろくなってらぁ。…ペトラたちが壁の外に行くのは、確か明後日だったかな」
ペトラ父「ちゃんと忘れずに出迎えに行かねえとな」
ざわざわざわ
カランカラーン
調査兵団が帰ってきたぞー!
随分数が減ってねえか…?
ペトラ父(人が多いな……いつもこの瞬間だけは肝が冷える)
ペトラ父(あいつはどこだ?特別班ってどこにいるんだよ…)
酒場の店主「おう、おやっさん。ペトラちゃんにはもう会えたかい?」スタスタ
ペトラ父「いや。今日は随分後ろの方にいるな……」
ペトラ父「…って、毎回散々、親を心配させといて後からひょっこり現れるんだ、あいつ」ハハハ
店主「ペトラちゃんらしいなぁ。ほら、娘より未来の旦那の方が先にお出ましじゃないのか?」
ペトラ父「ん? お…リヴァイ兵長殿」
リヴァイ「……」スタスタ
ペトラ父「ペトラは……まだ現れないようだし……ちょっくら先に兵長殿に話してくるかな」
ペトラ父「……なあに、最後尾にでもいるんだろ……」
店主「…ああ、そうに決まってるさ」
ペトラ父「だよな。あいつが帰ってこなかったことなんて一度もねぇんだ。なかなか骨のある子でよ」
ペトラ父「……」
ペトラ父「……」
ペトラ父「…リヴァイ兵士長殿ー!」
タタタッ
――――――――――――――
1
「お……おい!お前!こっち来い!」
「なあに?……あら」
「ペトラが立ったぞ!初めて立って歩いた!」
「あらあら。すごいわねえ。この子天才かも」
「ああ天才だ!これは将来が楽しみだなぁ!ほーらこっちおいで、ペトラ」
「パパじゃなくてこっちにおいでなさい、ペトラ」
「お、おい。なんでそこで張り合うんだ。こっち来いペトラ!」
「ペトラちゃん、こっちよー」
7
「……」
「お父さん?」
「……ん?」
「お母さん、どこに行っちゃったの?もう帰ってこないの…?」
「……。母さんは、病で体が壊れちゃったんだ。だからもう会えねぇんだ」
「……」
「でもな、心はお星様になって、いつでもペトラを見まもってんだ。だから寂しくねえんだぞ」
「……うん」
「…………ごめんな、ごめんなぁ…」
「お父さんは、どこにも行かないでね」
「…ああ、絶対どこにもいかないからな。絶対ペトラをおいてどこかに行ったりしないから」
「母さんいなくなって悲しいけど、二人で頑張って生きてこうな」
「うん。お父さんいるから、寂しくないよ」
12
「お父さん、久しぶり。元気にしてた?」
「おう、ペトラ!しばらく見ねえうちに背が伸びたなぁ。訓練兵団はどうだ?大変じゃねえのか?」
「大変だけど、だんだん慣れてきたよ。成績も結構いい方なんだから」
「そうか。さすが俺の自慢の娘だ」
「……もう。お父さん、何かっていうとその口癖言うんだから。まさか街の人にも言ってないでしょうね?」
「いけねぇのか?」
「言ってるの!?恥ずかしいからやめてよっ!」
「そう思ってるんだから仕方ねぇだろうが。嘘ついてるわけじゃあるまいし」
「そんなんだから親ばかとか言われるんだよ……もー、なんで私が恥ずかしい思いしなくちゃいけないのよ」
「ハハ、細かいこと気にすんな!それより今日は飯食ってくんだろ?なににする?」
15
「…………本気か?」
「うん。本気。私、調査兵団に入る」
「……お前……それがどういうことか分かって」
「分かってるよ。ちゃんと。でももう決めたの」
「よせ!俺は…俺はな!犬死させるつもりで、お前をここまで育てたわけじゃねえんだぞ!」
「戦死する兵士は、犬死なんかじゃないよ。例えどんなにみじめに死んでも、その死は人類の反撃に繋がるんだもの」
「ペトラ……お前……」
「ていうか、犬死するつもりないし!」ニコッ
「これでも私成績いいって言ったでしょ?みすみす巨人の餌になってなんかやらないんだから!」
「お前、手が震えてんじゃねぇか」
「え? あ、ああっ! ……えっと」
「震えるくらい怖ぇのに、ほんとに調査兵団に入るつもりなのか?」
「……うん、入る」キッ
「…はぁぁぁ。その目、やめてくれ。お前の母さんが強情貫きとおす時の目を思い出す」
「お母さんも私みたく頑固だったの?」
「そうだよ…お前は母さんそっくりだ。本当に……な」
「絶対死ぬんじゃねぇぞ。それだけ約束してくれよ、ペトラ」
「……うん!絶対死なない。約束するよ、お父さん」
「お前、手が震えてんじゃねぇか」
「え? あ、ああっ! ……えっと」
「震えるくらい怖ぇのに、ほんとに調査兵団に入るつもりなのか?」
「……うん、入る」キッ
「…はぁぁぁ。その目、やめてくれ。お前の母さんが強情貫きとおす時の目を思い出す」
「お母さんも私みたく頑固だったの?」
「そうだよ…お前は母さんそっくりだ。本当に……な」
「絶対死ぬんじゃねぇぞ。それだけ約束してくれよ、ペトラ」
「……うん!絶対死なない。約束するよ、お父さん」
そうだ。
あいつが約束を破ったことなんか一度もなかった。
ペトラ父「それで…………」
ペトラ父「あいつは、どこに?」
一度もなかったんだ。
リヴァイ「……」
リヴァイ「…………ペトラは、」
え?
ペトラ父「 ……ペトラ」
酒場店主「おやっさん!しっかり…!」
ペトラ父「ペトラ……俺の娘が……そんな、まさか…」
ペトラ父「う 嘘ですよね?兵士長殿?」
ペトラ父「あの子は……あんたの班に指名されて、本当にうれしいって手紙に書いてて…」
リヴァイ「…………すまない。……俺を恨んでくれ」
ペトラ父「な……!?」
ペトラ父「なに言ってんだあんたっ!!正気か!?」
酒場店主「おい、落ち着けって…」
ペトラ父「あの子は、あの子は本当にあんたを慕っててなぁ!!あんたのためなら何でもできるって……!」
ペトラ父「そもそも……!あんたが!!ペトラを特別班だかなんだかに入れなきゃあ!!」
ペトラ父「あの子は死なずにすんだんじゃねぇのかっ!!まだ……まだ10代だぞ!!」
リヴァイ「……」
ペトラ父「これからいっぱい……あの子には楽しいことが待ってたんだよぉ!!」
ペトラ父「嫁に出すのは親として癪だったがなぁ、花嫁姿もこちとら楽しみにしてたんだっ!!!それを!!この野郎っ!!」
酒場店主「おやっさん、やめろって」
ペトラ父「放せ、放せよ畜生……っ!!」
ペトラ父「娘を………返してくださいよ…………」
ペトラ父「大事な娘なんですよ……親思いのいい子なんですよ…………うぅぅ…」
リヴァイ「…ペトラ・ラルは最期まで勇敢に戦った。大事な娘を、守れずに……すまない」
ペトラ父「謝らないでくださいよ……謝られたら俺ぁどうしたらいいですか……っ」
ペトラ父「ペトラ……」
ペトラ父「約束、したじゃねぇかよぉ……」
――――――――――――――
父「……ゴホン」
父「あー、ペトラ?入るぞ?」
娘「どうぞー」
自分の身なりを確認してから、目の前の扉をゆっくり開ける。
柄にもなく緊張しているようだ。指が強張る。
高窓から降り注ぐ柔らかい光の中
純白のドレスを身にまとった娘が、静かにたたずんでいた。
少し照れたようにはにかみながら「どうかな?」と尋ねてくる。
しかし次の瞬間に、父が涙ぐんでるのに気づくと、ぎょっとしてハンカチを手にとった。
娘「ちょっと!なんでいきなり泣いてるのお父さん!?」
父「すまん……」
娘「もう、しっかりしてよね」
父「……よく、似合ってるよ。きれいだ。昔の母さんよりもきれいだぞ」
娘「そんなこと言ったら、お母さん怒って夢にでてくるよ」
いつもよりよく笑う。
娘も父に負けず劣らず緊張しているようだ。
父「母さんにも見せてやりたかった。お前の花嫁姿を」
娘「お母さんの分まで目に焼き付けて。それでいつか会ったときに伝えてあげればいいじゃない」
父「そうだなぁ」
娘が笑うたびにドレスの裾が静かに舞う。
彼女の母が手縫いで作って、自分の結婚式でも着たドレス。
決して真新しいものでも豪華なものでもないけれど
ドレスを着た娘は本当に美しかった。
でもその言葉は、自分が言うよりこれから来る新郎に言ってもらった方が娘も喜ぶだろう。
きっと彼も自分と同じ感想を抱くだろうから。
こういうところが親ばかと言われてしまうのだろうか?
父は少しだけ眉を寄せた。
コンコン。二回のノックが親子の会話に割り込んだ。
父「あ」
娘「あ」
父「……来たな」
娘「お父さん、私変じゃない?化粧落ちてるところない?」
父「おう、かわいいぞ!」
娘「ほんと?大丈夫?…………えっと」
娘「……どうぞ!」
扉が開く。
かわいいかわいいうちの一人娘をやるんだ。
泣かせたりなんかしたら許さんからな。
幸せにしてあげてくれよ。
ずっと笑っていられるように。
娘「ほら、お父さん。バージンロードのエスコート、お願いね」
父「お、おう」
娘「右手を右足一緒にでてるよ。ていうかまた泣いてるし!だから早いって!!」
父「わわわ分かってらぁ!出ちまうもんはしかたねぇだろ!」
まさか、娘を嫁にだすのがこんなに泣けるものなんて思ってなかった。
父親ってみんなこんな思いをしてるのだろうか。
父「しっかりしねぇとな。母さんにお前の花嫁姿伝えられるように目にしっかり焼きつけとかねえと」
娘「そうよ」
この道を歩き終われば、この子はもう彼のものだ。
道は暖かい言葉と祝福の光に満たされている。
きっとこの子のこれからの人生だって同じはずだ。
娘「お父さん」
父「ん?」
娘「私、彼と幸せになるから」
父「ああ」
娘「世界中のどの花嫁より、幸せにしてもらうから」
父「おう」
娘「いままで……ありがとうね。これからも、よろしく」
父「……」
娘「大好きだよ、お父さん」
父「…………ばっかやろ……んなこと言うと」
父「また泣けてきちまうだろうがよぉ……」
娘「えへへ、ごめんごめん」
父「……これから先は、新郎にいっぱい言ってやれよ」
娘「わ、わ、分かってるよ」
父「そろそろ行くか」
娘「うん、いこう」
白く輝く未来がその先に待っている。
二人は光のなかへと、足を踏み出した。
おわり
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