炎竜 「我は、竜だ」 (205)

炎竜 「このような微々たる傷など、放っておけば直に消える」

炎竜 「故に、治療など不要だ」

女の子 「ダメ、小さくても傷ついてることには変わりない」

女の子 「だから、傷見せて」 テクテク

炎竜 「我は軟ではないと言っているのだ」

女の子 「……傷口、少し広がっているみたい」 ヌリヌリ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1378665099

炎竜 「不要だと言っている」

女の子 「傷がつかなかったり、すぐに塞がるならわたしも心配しない」

女の子 「けど、そういうわけじゃなさそうだから」

炎竜 「……この程度の傷など、傷の内に入らんと何度言えば」

女の子 「小さな傷でも、甘く見たらいけない」 ジィー

炎竜 「……ふん、好きにしろ」 グルル

炎竜 「……ニンゲンよ」

女の子 「……?」

炎竜 「貴様のような脆いニンゲン一人で、よく生きていられるものだ」

女の子 「……確かにここはもう廃墟同然」

女の子 「けれど、隣の森は食糧も水も薬草も豊富だから」

女の子 「だから……大丈夫」

炎竜 「それらが尽きれば、貴様は飢えて死ぬことになるぞ」

女の子 「……その時は、その時」

女の子 「今さら、人の手なんて借りたくない」

炎竜 「……そうも一人で居たがるとはな、ニンゲン」

女の子 「人なんて、嫌い」

炎竜 「……」

炎竜 (生きるためだが何だか知らんが、醜く争い続けるニンゲン……)

炎竜 (売られた喧嘩を買ってばかりの、明確な文化を持たんらしい魔族……)

炎竜 (彼らに対して、確かに我は良い感情を抱いてはおらん……)

炎竜 (だが、仮に彼らがこの世から消えた時、我は一体どう変わる……?)

女の子 「……炎竜?」

炎竜 「……時間の無駄にしかならんか」

女の子 「……?」

女の子 「……うん」

女の子 「薬、塗り終えた」

炎竜 「不要だと言ったはずだが……」

女の子 「せめてもの、恩返し」

炎竜 「貴様に恩を売った覚えはない」

女の子 「わたしにとっては、そうじゃない」

女の子 「……傷の具合、また見せに来てね?」

炎竜 「……ふん」 バサッ

区切り

このssはよくある魔王勇者な世界観をベースに、竜の要素を混ぜたものとなります

どこかの洞窟-

人間A 「この洞窟に住む魔族共、焼き討ちにしてくれる!」

人間B 「奴らを放っておけば街が侵略されるやもしれぬ……」

人間C 「やられる前に、やってしまうのだ!」

人間D 「人間を脅かす奴らを生かしておくものか!」

その他大勢 「オオッー!」

ゴブリンA 「……ちっ、きやがった」

ゴブリンB 「あいつらニンゲンのせいで、俺の友ゴブリンは……!」

ゴブリンC 「先に手を出してきたのはあいつらニンゲンだろうが!」

ゴブリンD 「子ゴブリンの仇……」

バキ、ボキ、グサッ

ドカッ、ボアァ、カキンッ

ゲホッ、アガァッ




「……騒がしい」 バサッ


人間C 「……赤い竜!?」

ゴブリンA 「……!」

ゴブリンB 「待て、俺たちは……!」

炎竜 「弁解は聞き入れん」

炎竜 「貴様らには恨みはないが……」

炎竜 「これが我の役目だ、悪く思うな」

人間B 「熱い……熱すぎる……!」

ゴブリンC 「や、やめろ……ギャッ!」

人間C 「く、来るな……頭を―――」

ゴブリンA 「ば、化け物め……!」

炎竜 「理由はどうあれ、貴様らはこの場で争い始めた、故に」

炎竜 「燃え尽きよ、引き裂かれよ」

人間F 「……せめて、一矢報いる……!」 グサッ

炎竜 「……む?」 ポタッ

人間F 「う、嘘だろ……」

人間F 「魔族を斬るための剣でも、あんな小さな傷しか与えられないってのか!?」

炎竜 「それだけか……?」

人間F 「あ……」

炎竜 「ならば……」

炎竜 「……さて」

人間たち 「」

ゴブリンたち 「」



炎竜 「……次だ」 バサッ

―――――

-廃墟-

炎竜 「……」 バサッ

女の子 「……炎竜」

炎竜 「傷の具合を見せろ……貴様はまたそういうのだろう?」

女の子 「うん」

炎竜 「……」

女の子 「首の傷、大分塞がってきたみたい」

炎竜 「言ったであろう、傷など放っておけば塞がると」

女の子 「ううん、この傷は薬を塗っておいた所」

炎竜 「……そうであったか?」

女の子 「うん」 コクリ

これにて区切り

過ぎてしまったことは仕方ない、故にこのままコツコツ積み重ねる

女の子 「……大変、だね」

炎竜 「何がだ」

女の子 「使命」

炎竜 「使命、か」

女の子 「うん」

炎竜 「……ニンゲンと魔族の争いが争いを始めた時」

炎竜 「我のような竜が、力によってそれを制裁する」

炎竜 「それが竜に与えられた使命であり、存在理由だ」

炎竜 「我にはそれしかない以上、そうは思わん」

女の子 「使命を放棄して、別のなにかを探したい……」

女の子 「そう、思ったことはないの……?」

炎竜 「何故、我が存在する理由を好んで捨てねばならぬのだ」

女の子 「……その使命は、沢山の人や魔族を殺すことになるもの」

女の子 「そして、それは結果的に恨みや憎しみを沢山買うことになるだろうから……」

炎竜 「ニンゲンや魔族が我を恨もうとも、憎もうとも……」

炎竜 「我を憎むだけだというならば、その行為は無意味だ」

女の子 「……確かに、炎竜の身体は傷つけられないかもしれない」

女の子 「けど、そういった感情の矛先が炎竜に向くとは限らない、と思う」

炎竜 「……複雑なのだな、ニンゲンとやらは」

女の子 「……うん」


女の子 「それに」

女の子 「炎竜のやっていることは、結果論として人と魔族の争いを抑えてることになる」

炎竜 「……そのようだな」

女の子 「でも、そのことが誰にも理解されない」

炎竜 「……だからどうだというのだ」

女の子 「それどころか憎まれるなんて、わたし……」

炎竜 「我はニンゲンのように、脆くできてはおらん」 グルル

女の子 「……」


炎竜 「そもそも、貴様のその言葉」

炎竜 「あれは本心からニンゲンや魔族を思っての言葉ではなかろう?」

女の子 「……うん」

炎竜 「……我のことを思ってだと言うならば、余計なお世話だ」

女の子 「……え?」

炎竜 「貴様がなにを言おうとも、ニンゲンや魔族が我を憎もうとも」

炎竜 「我にあるのは使命だけなのだからな」

女の子 「……なら、使命以外のなにかを見つければ、炎竜は変わる?」

炎竜 「……?」

とりあえず区切り

あらゆるレスはすべて>>1の燃料になります

女の子 「……」ジィー

炎竜 「……なんのつもりだ」

女の子 「炎竜を見てると、なんだか胸がどきどきする……」

炎竜 「我に対し抱いた恐怖が、貴様の心を絡め取っただけであろう?」

女の子 「……別に炎竜のことは怖くない」

炎竜 「……なら、何故そうなる」

女の子 「……恋、これはきっと恋……」

炎竜 「……恋?」

女の子 「もしかして……知らない?」

炎竜 「友情だの愛情だのは、我ら竜には不要な感情だ」

女の子 「……」 ジィー

炎竜 「……そのような目で我を見つめるな」

女の子 「……大丈夫、少しぐらいならわたしが教えてあげられる」 ジィー

炎竜 「そのような気遣いは不要だ」

炎竜 「……おい、聞いているのか、ニンゲン」

女の子 「それじゃ……」

女の子 「炎竜は、雄……? それとも雌……?」

炎竜 「……なんだ、それは」

女の子 「炎竜、自分の性別も知らないの……?」

炎竜 「使命を果たす分には問題なかろう」

女の子「……」 ジィー

炎竜 「そのようなまなざしを我に向けるなと何度言えばわかる」

女の子 「……これあげる」 っリンゴ

炎竜 「なんなのだ、これは」

女の子 「リンゴ、森になってたの」

女の子 「食べてみて……?」

炎竜 「……我に食事は不要だ」

女の子 「でも、味覚はあるでしょう?」

炎竜 「……」

炎竜 「……」

炎竜 「……」 ガブッ

女の子 「……」 ジィー

炎竜 「……悪くは、ないな」

女の子 「人は、そういう時美味しいっていうの」

炎竜 「……美味しい、か」

炎竜 「……時間だ」

女の子 「もう少しだけ」

女の子 「……ダメ?」

炎竜 「……少しだけ、だ」

女の子 「……ありがと」

言って、ニンゲンの娘は我の鱗に触れてくる

娘の伸ばした腕は、骨が見えそうなほど細い

どうやら、肉があまりついていないようだ

そしてそれは、娘のほかの部位にも同じことが言えた

よく、枯れ木のような細い足で全身を支えられるものだ

女の子 「……暖かくて、硬い」サワサワ

炎竜 「鱗に触れているからであろう」

女の子 「うん……」

女の子 「鱗、赤いね……」

炎竜 「……」

炎竜 「……時間切れだ」

女の子 「……残念」 サッ

女の子 「また、来てくれる……?」

炎竜 「傷の具合を見せるためにか?」

女の子 「それも、確かにあるけど」

女の子 「わたしも、一人は寂しいから」

炎竜 「……なぜ、我が貴様の寂しさを紛らわせなければならんのだ」

女の子 「薬のお礼……じゃあだめ?」

炎竜 「貴様が勝手にしたことであろう」

女の子 「……そう、だった?」

炎竜 「……」

炎竜 「……リンゴを用意しておけ」

女の子 「……うん!」

竜 (……リンゴをもう一度食し、知識を蓄えるためにここを訪れるのだ)

炎竜 (断じて、このニンゲンに会うためにこの場所を訪れるわけではない)

炎竜 (……)

炎竜(……嘘ではないぞ)

女の子 「……炎竜?」

炎竜 「……」 バサッ

×竜→炎竜

これにて区切り

ほのぼのふわふわ

-遥か空の上、人や魔族からは見えない大陸-

炎竜 「……」

「遅かったですね、炎竜」

炎竜 「ここに帰還する義務はないはずだ」

炎竜 「……冷竜」

冷竜 「確かに白竜から命じられたことではありません」

冷竜 「が、互いの生存や無事を確かめるために……」

炎竜 「竜が人や魔族に狩られるとは、到底思えん」

冷竜 「万が一ということもあります」

冷竜 「それに、風竜のように姿をくらまされても困りますから」

炎竜 「……風竜か」

冷竜 「使命を放棄してどこかへ消えるとは……」

冷竜 「同じ竜として、恥です」

炎竜 「……」

炎竜 「……冷竜」

冷竜 「何か?」

炎竜 「ニンゲンは、海の親を同じくする者達を、兄弟と一括りにしているらしい」

冷竜 「……それが何か?」

炎竜 「我らも、似たようなものではないのか?」

冷竜 「確かに、私達は白竜様から生み出された存在……」

冷竜 「ある意味、兄弟と呼べるかもしれませんね」

炎竜 「兄弟は、生まれた順で上下関係を作り上げるようだが……」

冷竜 「……何を言っているのですか」

冷竜 「私達は、生まれる時を同じくして生まれた存在ですよ?」

炎竜 「……そうだったな」

炎竜 「相変わらず、冷たい奴だ」

冷竜 「冷たいのは当然でしょう」

冷竜 「なにせ、鱗が氷で覆われているわけですから」

炎竜 「……」

「炎竜、冷竜」

冷竜 「……お呼びでしょうか、白竜様」

炎竜 「……」

白竜 「使命を果たす上で、なにか問題が生じたりはしましたか?」

冷竜 「いえ、なにも問題はありません」

炎竜 「……片方の種族を消滅させてはならんのか」

白竜 「……それはなりません」

白竜 「種族一つを消し去るということは、世界のバランスを壊すこと」

白竜 「私達の行動は、常に世界の均衡を保つためのものでなくてはなりません」

炎竜 「……なぜ、世界の均衡とやらを守らねばならんのだ」

白竜 「この世界の存続のためです」

炎竜 「……」

白竜 「それを放棄してしまえば、竜が存在する意味はなくなります」

炎竜 「……ふん」

冷竜 「不遜ですよ、炎竜」

炎竜 「……む」

白竜 「わたくしは気にしてませんよ、冷竜」

白竜 「……風竜の捜索は、進んでいますか?」

冷竜 「……」

炎竜 「魔力も気配も感じられんのは、妙だ」

白竜 「そうですか……」

白竜 「姿をくらました、風を司る竜」

白竜 「どうにか、取り押さえたいものですが……」

我が白竜の手で生まれ落とされた時から、すでに世界が広がっていた

そして、その世界には、さも当然のようにニンゲンと魔族が存在していた

二つの種族は宿命付けられたかのように、互いに争い傷つけあっていた

その種族間の争いを力づくで沈めること……

それが、炎を操る力と、それに由来する炎竜という名と共に、白竜によって与えられた使命だ

我はその『使命』を果たす

世界の在り方も、使命の意味も

ニンゲンや魔族の心も

我にしてみれば、些細な問題でしかない……

……その、はずだった

これにて区切り

気付けば一か月……だと……

あの『ニンゲン』との馴れ初めにも、使命が絡んだ

街人A 「魔族だ、魔族が攻めてきたぞ!」

街人B 「長引くと竜が舞い降りる、速攻で決着をつけろ!」

ゴブリンA 「グへへ、野郎ども!」

ゴブリンB 「へへへ、ここから資源を奪えば魔界が潤うぜ」

ゴブリンC 「へへへ、魔界は作物があまり育たないからな」

「……貴様らも懲りんな」

炎竜 (ニンゲンと魔族も、よくも飽きずに争いを続けるものだ)

炎竜 (……む、身体が思うよう動かん)

炎竜 (これが、毒か)

炎竜 (使命を果たす行為に関してのみいえば、さして影響を及ぼさぬはずだが……ふむ)

炎竜 (街までは、消し飛ばせんか……)

「……嘘」

「街が、ボロボロ……」

「人が一人も……いなくなってる」


炎竜 「……む?」

炎竜 (頭巾を被ったニンゲンの子か)

炎竜 (……そうか、隣の森に……)

女の子 「……」

炎竜 (……先の争いには姿を見せなかった)

炎竜 (あまり力を消耗するのも得策とはいえん、ここは見逃すとしよう……)

炎竜 「……ニンゲン、我の前から失せるがいい」

女の子 「……ひどい傷」

女の子 「すぐ、手当てしないと……」 サワッ

炎竜 「我に触れるなッ!」 グルル

女の子 「……どうして?」

女の子 「貴方はこんなにも傷ついているのに」

炎竜 「不愉快だ」

女の子 「……嫌なら、わたしを殺して」

炎竜 「……なんだと?」

女の子 「……できれば、優しくね?」

炎竜 「……」

炎竜 (死を自ら望む、か)

女の子 「……矢、刺さってる」

炎竜 「……毒の矢か」

女の子 「うん、そうみたい」

女の子 「この街特製の、猛毒」

女の子 「並みの動物ならこれだけで仕留められる、そんな猛毒」

女の子 「……」 ヌリヌリ

炎竜 「……我に何を塗っている」

女の子 「薬草から作った塗り薬、人が怪我をした時に使うの」

女の子 「毒にも効くよ?」

炎竜 「……我は竜だ」

女の子 「竜にだって、効くかもしれないよ……?」

炎竜 「……ニンゲンよ」

女の子 「……?」

炎竜 「貴様は、我を恐れぬのか」

女の子 「……突然、どうしたの?」

炎竜 「ニンゲンは、我をひどく恐れる」

炎竜 「憎み、怒り、嫌悪する……」

炎竜 「だが、貴様はそのような素振りを見せん」

の子 「……炎竜は、ある意味恩人だから」

炎竜 「……我は竜だ」

女の子 「……じゃあ、恩竜?」

炎竜 「……」

女の子 「……寂しい?」

炎竜 「……なんの話だ」

女の子 「炎竜が、誰にも理解されないこと……」

炎竜 「ニンゲンや魔族に理解されずともよい、我はただ与えられた使命を全うするだけだ」

女の子 「……本当に、虚しくならないの?」

炎竜 「虚しい、や悲しいといった感情を感じたことは一度もない」

女の子 「……自分自身の感情を、ちゃんと理解していないだけかもしれないよ?」 ナデナデ

炎竜 「……なにをしている」

女の子 「悲しそうな人がいたなら、優しく撫でてあげればいい」

女の子 「無言で抱きしめてあげたらいい……と思う」

炎竜 「……我は竜だ、ニンゲンなどではない」

女の子 「何かの役に立つかもしれないから……、ね?」

炎竜 「……ふん」

女の子 「……ねぇ」

炎竜 「……まだなにかあるのか」

女の子 「名前……あるの?」

炎竜 「……炎竜」

女の子 「炎竜……炎竜か」

女の子 「よろしくね、炎竜」 ニコッ

炎竜 「短い付き合いになるかもしれんぞ?」

女の子 「そうならないことを祈ってる」

我によって街を焼かれ、身内や親しい者を失くしたニンゲンは大抵我を憎むものだ

だが、この娘はそうではないらしい

……この変わり者の娘に付き合ってみるのも、案外悪くないかもしれん

いつしか、そう思い始めていた

これにて区切り

こつこつ更新

炎竜 「……ニンゲンは脆い」

女の子 「確かに、炎竜に比べれば人間の身体なんてあまりに脆い」

女の子 「……でも、心は炎竜にだって負けない……と思う」

炎竜 「心……?」

女の子 「人は心の在り方次第でいくらでも魔法を強化できる」

女の子 「……それは、時に人間の限界を越えた力だって引きだせる」

女の子 「そんなようなことを、本で読んだことがあるの」

炎竜 「……それでも、我ら竜には遠く及ばまい」

女の子 「……炎竜」

炎竜 「……む」

女の子 「傲慢はダメだよ、絶対」

炎竜 「……ふん」

炎竜 「心の脆いニンゲンが、こんなところで一人とはな」

女の子 「炎竜がいる」

炎竜 「我がここを訪れるのは、ただの気まぐれであることを忘れるな」

女の子 「……炎竜が居なくなったら、寂しさで死んじゃう」

炎竜 「そうか」

女の子 「軽く、流すんだね」

炎竜 「ニンゲン一人が息絶えたところで、我はなにも感じん」

女の子 「本当に?」

炎竜 「……ふん」 グルッ

女の子 「でも、なんだかんだ言っても炎竜は会いに来てくれる」

炎竜 「……暇だからだ」

女の子 「……嬉しい」 ギュッ

炎竜 「……なにをする」

女の子 「ありがと、炎竜」

炎竜 「……少しだけ、だ」

ニンゲンを知ろうと、魔族を知ろうと、

我は使命を果たし続けた

女の子 「人はね、心で感じたりしたことを」

女の子 「言葉にしたり、手振り身振りで表現するの」

女の子 「そしてそれをなんらかの形で人に伝えるの」

炎竜 「……面倒だ」

女の子 「うん……、そうだね」

女の子 「でも、できなかったらすれ違う」

女の子 「そのすれ違いは溜まりに溜まっていつか爆発して、大参事になる」

炎竜 「……」

女の子 「表現は、時に暴力や暴言にもなる」

女の子 「……きっとそれは、人間として見てくれてないってことなんだと思う」

女の子 「……わたしは、そう感じた」

炎竜 「……」 ナデナデ

女の子 「……え、炎竜?」

炎竜 「暗い表情をしているニンゲンがいれば撫でてやれ……」

炎竜 「貴様は、そういった」

女の子 「……爪立てちゃいや、痛いから」

炎竜 「……む」

あの娘を言葉を交わしていると

不意に、娘の表情が曇る

そして、そんな娘に危うさを感じている我がいるらしい

我のあの娘に対する感情に、変化がもたらされているとでも……

……だが、優先すべきは変わらん

「夫を、夫を返して!」

炎竜「一人に耐えられぬのなら、貴様も同じ場所へと送ってやろう」

「竜を狩れば、魔界での俺の地位も一気に……!」

炎竜「私欲に塗れた者を相手にするのは楽だ」

「俺、この竜を倒したら結婚するんだ……」

炎竜「……我に敵うはずなかろう」

「お前の攻撃の巻沿いを喰らった友の仇、取らせてもらう!」

炎竜「別の友を作ればよいものを」

「お前は誰の味方なんだ!」

炎竜「争い事を好まぬ者の味方……とでも言っておこうか」

それを繰り返すうち、ニンゲンと魔族が争うことは目に見えて減った

代わりに、空を飛ぶ我に攻撃を仕掛け、あろうことか無益な戦いを挑む愚か者が増えた

それを返り討ちにしただけで殺戮呼ばわりとは

ニンゲンも魔族も、わからんものだ

-天空の大陸-

冷竜 「……ニンゲンも魔族も、竜を倒そうなどと愚かなり」

冷竜 「そうは思いませんか? 炎竜」

炎竜 「限りある命をわざわざ縮めなくともよいのは、確かだ」

冷竜 「命、ですか、バカバカしい」

炎竜 「……ほう」

冷竜 「あのような下等種族の命の重みを説くなど」

炎竜 「……ニンゲンも魔族も、複雑な思考と心の持ち主だ」

炎竜 「それらだけを見ていえば、我らにも引けを取らんかもしれんな」

冷竜 「だとしても、力において我々に勝るとは思えませんが」

炎竜 「確かに、ニンゲンは魔力の質においては魔族に劣る」

炎竜 「だが、ニンゲンはその弱点を補うために道具を作り始めた」

冷竜 「ああ、ガラクタのことですか」

炎竜 「……傲慢は身を滅ぼすぞ」

冷竜 「……なぜ、そこまでニンゲンを気に掛けるのですか?」

炎竜 「……何故だろうな」

冷竜 「風竜のように、どこかへ行くつもりではないでしょうね」

炎竜 「使命以外の存在意義が見つからん以上は、それを放棄することなどありえん」

冷竜 「……そうですか」

炎竜 「用がないならば、我は行くぞ」 バサッ

冷竜 「……」

冷竜 (……何を考えている、私は)

冷竜 (炎竜がニンゲンを語っただけではないか……)

冷竜 「……なのになぜ、私はこうも不安に襲われる」

ニンゲンも魔族も、着実に力を付けてきているらしい

だとしても、その刃は我には届かん

我は、尚も使命を果たし続けた

そして、数年が過ぎ去った

あるときまでは、白竜の言う通り世界は均衡を保っていた

―――

女の子 「……今日も来てくれたんだ、炎竜」

炎竜 「……見違えたな、ニンゲン」

女の子 「……気付く?」

炎竜 「……見ていてそう感じただけだ」

女の子 「……少しは、女の子っぽくなれたと思う?」

炎竜 「……他のニンゲンに聞け」

女の子 「……ここには、ほかの人はいない」

炎竜 「ならば、ここから南の街にでも行けばよかろう」

女の子 「ううん……、別にいい」

炎竜 「……そうか」

女の子 「……炎竜だって、凄く丸くなった」

炎竜 「そうは思えん」

女の子 「ううん、だってわたしが触っても嫌な顔をしなくなった」

炎竜 「……慣れただけだ」

女の子 「ほかにもあるけど……聞く?」

炎竜 「……調子に乗るな」 グルッ

炎竜 「……変化、か」

女の子 「今なら、炎竜も使命以外の生きがいも見つけられるかも」

炎竜 「……それは叶わんだろう」

女の子 「……どうして?」

炎竜 「ニンゲン、貴様はどうなのだ?」

女の子 「……?」

炎竜 「何故、貴様は生きている」

女の子 「わたしは……」

女の子 「……炎竜と話すため、だと思う」

炎竜 「……我にとってのそれが、使命なのだ」

-天空の大陸-

冷竜 「……炎竜」

炎竜 「……む」

冷竜 「少し、いいですか?」

炎竜 「……ああ」

冷竜 「炎竜、最近はここにいる時間よりも、地上にいる時間のほうが長いのでは?」

炎竜 「意図したわけではないのだが」

冷竜 「……ニンゲンに魅了されましたか?」

炎竜 「……安心するがいい、我は使命を放棄したりはせん」

冷竜 「質問に答えてください」

冷竜 「なら、なぜ危険を冒してまで地上に留まろうとするのですか?」

冷竜 「それも、使命以外で」

炎竜 「……冷竜に逐一報告する義務はない」

冷竜 「……風竜は、そうして姿を消しました」

炎竜 「……そうまでして、我を引き留めたいか?」

冷竜 「ええ、私だけというのは些か辛いですから」

炎竜 「……お前が辛い、か」

冷竜 「まあ、その辛さにも慣れてしまうのでしょうけど」

冷竜 「……それが、竜という存在なのですから」

炎竜 「……そうかもしれんな」

冷竜 「けれども、そうならないに越したことはない……と私は思います」

炎竜 「……もう少し冷徹なヤツだと、思っていたのだがな」

冷竜 「貴方に影響されたのかもしれませんね」

炎竜 「……ふん」

―――

魔族とニンゲンの争いを制裁していた時にだ

魔族共が妙なことを口にしていた

「魔王様……風竜様……」

「風竜に一矢報いることもできなんだか……」

風竜……行方不明になっていた我らの同族

……白竜に報告する必要があるかもしれん

-天空の大陸-

白竜 「まさか、風竜が……」

冷竜 「どこに姿を消したのかと思えば、魔族に味方しているとは」

炎竜 「北の魔界から感じられる魔力は、恐らく竜のものだ」

白竜 「……風竜は世界のバランスを破壊するつもりのようですね」

白竜 「……炎竜、冷竜、すぐさま風竜を殺しに向かいなさい」

冷竜 「……仰せのままに」

炎竜 「……暫し、時間を貰えぬか」

白竜 「……」

炎竜 「案ずるな、我もすぐに追う」

冷竜 「……白竜様、私一人でも、風竜は抑えられます」

白竜 「……炎竜、許可します」

炎竜 「……恩に着る」

―――――

女の子 「……行かないで」

炎竜 「何故だ」

女の子 「……死んじゃうかも、しれないんでしょう?」

炎竜 「風竜を相手取るのだからな……、それもありうる」

女の子 「せめて、一緒に……」

炎竜 「ニンゲン、貴様を死なせることはできん」

女の子 「どうして……!」

女の子 「小娘一人死んだって、なにも感じないって……」

女の子 「炎竜は、言ったじゃない……!」

ちょっくら飯食ってくる

長々とやってもあれだから駆け足気味でいく

炎竜 「……そのはずだったのだがな」

炎竜 「なぜかは知らんが、こうして我を慕うニンゲンは貴様だけであった」

炎竜 「我に数え切れぬほどの知識を与えたのも、貴様だ」

炎竜 「……情の一つも湧く」

女の子 「でも……一人ぼっちはいや!」

炎竜 「……同族のニンゲンと仲良くすればよかろう」

女の子 「嫌……」

女の子 「お願い、いかないで……」 ギュウウ

炎竜 「……」 ナデナデ゙

女の子 「……?」 グスン

炎竜 「……泣くな」

女の子 「……でも」

炎竜 「……竜を、甘く見るな」

女の子 「信じても、いいの?」

炎竜 「誰に向かって物を言っている」





炎竜 「我は、竜だ」 



            

使命を果たすことだけが、我の生きる道標

目覚めた時より、我はそれを宿命付けられていた

だが、それ以外の生き方を模索するのも

案外、悪くはないのかもしれん

-魔王城-

冷竜 (このあたりに強大な魔力を感じました)

冷竜 (恐らく、風竜)

冷竜 (ニンゲン側は優秀な兵を集めて勇者とし)

冷竜 (魔族側の精鋭に立ち向かうと聞きました)

冷竜 (今回の目的は使命を果たすことではなく)

冷竜 (世界を脅かしかねない脅威である風竜を始末すること)

?? 「よう」

冷竜 「……風竜!」

風竜 「何年ぶりだ? 冷竜」

冷竜 「……関係のないことでしょう」

風竜 「相変わらず生真面目なヤツ」

風竜 「俺は、冷竜のそこが嫌いなんだよ」

冷竜 「……私は、貴方のその軽さが嫌いです」

風竜 「そうかいッ!」 ガァッ

冷竜 「……ッ!」

竜は、強烈な風のブレスを吐きだしてきました

浴びればこの氷に覆われた体はたちまち傷だらけとなることでしょう

ブレスにはブレスを……

……氷のブレスを!

冷竜 「……!」

風竜 「……冷竜もブレスを吐いてきやがったか」

冷竜 「……」

風竜 「ブレスが相殺されやがったか、たく」

冷竜 「……私もまだまだ、捨てた物じゃありませんね」

風竜 「俺はな、冷竜」

冷竜 「……?」

風竜 「白竜のやり方が気に食わないんだよ」

冷竜 「……なぜですか」

風竜 「あいつのやり方じゃあ、種族間の争いしか止められない」

喋りながらも切れ味を持った風を放ってくるあたり、やはりあなどれない相手です

氷で壁を作れば防げる程度の威力なのが幸いでしょうか

冷竜 「種族が滅ぼうとどうしようと、私たち竜には関係のない話でしょう」

風竜 「それが気に食わないんだよ!」

若草色の翼をばたつかせて加速し、私に向かってきます

噛みつく気なのか、爪で切り刻む気なのか……

私は魔力を集中させて、氷の壁を作り出します

そして、その攻撃を防ぎます

風竜 「やるな、冷竜……」

冷竜 「……」

風竜 「しっかし、あの悪魔の少年に物を教えて、俺の身体も訛ったか……?」

冷竜 「……魔族に毒されましたか、風竜」

風竜 「毒されたってのは心外だな」

風竜 「この世界に根付いている種族との交流は、いい刺激になるぜ?」

ひとたび集中を途切れさせれば、氷の障壁は崩壊し

風竜の放っている風を浴びることになる……

口と手を同時に動かせるとは感心しますよ、風竜

風竜 「……それとも、心当たりでもあったか?」

冷竜 「……!」

風竜 「隙あり」

炎竜が脳裏に浮んだことで集中力が乱され、結果生じた一瞬の隙を、相手は的確についてきました

一瞬で距離を詰め、氷の障壁を引き裂いて……

そのまま、爪で私の翼に傷をつけました

冷竜 「……ッ!」

風竜 「とっさに距離を取ったか」

風竜 「けど、その身体で戦えるのか?」

冷竜 「……ここで引くと、竜の存在意義を否定することに繋がります」

風竜 「生まれた時から押し付けられただけの使命を否定して、何が悪いんだ」

冷竜 「竜の身勝手が世界にどれほどの影響を及ぼすのか、貴方は考えたことがありますか?」

風竜 「その『世界』は、俺たちになにかをもたらしたか?」

冷竜 「……」

風竜 「それに、誰も俺たちの助けなんてのを必要としてないだろ」

風竜 「使命なんてのは、自己満足でしかないんだ」

冷竜 「……」

確かに、どの種族にも共通して言えることがありました

竜に敵意を向けていることです

しかし……だからなんだというのです

冷竜 「……否定されるから、下々の者に必要とされないからなんだというのです」

風竜 「……な」

冷竜 「竜は高貴な存在、影から世界を見守り、広い世界を保つための存在」

冷竜 「なぜ、勝手に湧いて出た下々の者達まで考慮しなければならないのです」

風竜 「……開き直りやがったな」

冷竜 「長い目で見て、世界の平穏が保たれるのならば……」

冷竜 「種族がいくら潰えようと、私の知ったことではありません」

風竜 「……住む者がいなくなった世界に、存在する価値はあるのか?」

冷竜 「その世界には、きっと私がいます」

冷竜 「……きっと、炎竜もいます」

風竜が言葉に詰まったその隙をついて、私は魔力によって槍状の氷を作り出し、

それを風竜に向けて放ちました

槍は見事、風竜の翼を貫きました

風竜 「痛ッ……、不意打ちか!」

冷竜 「戦術を真似てみただけですよ」


そう、なにを迷う必要があるというのでしょうか

私は、竜です――

―遠い過去の話

風竜 「……炎竜よぉ」

炎竜 「何だ」

風竜 「俺たちの使命って、何なんだろうな」

炎竜 「生れ落ちた頃より定められた役目、それだけであろう」

風竜 「……それに、意味はあるのか?」

炎竜 「逆に聞こう、それを否定することに意味はあるのか?」

風竜 「……お前も」

炎竜 「……?」

―――

炎竜 (……) バサッ

炎竜 (かつて風竜が抱いていたあの迷い)

炎竜 (……不思議なものだ)

炎竜 (我もかつては、理解できぬ感情であった)

炎竜 (……今でもすべて理解しているわけではないが)

炎竜 (……急ぐか)

冷竜 「……風竜、貴方はどこまで……ッ!」

風竜 「互いに身体はボロボロ、あとブレス一発で限界が来るか?」

冷竜 「……」

風竜 「……なら、決めさせてもらうか」

冷竜 「私欲に走る貴方に負けるつもりはありません……!」

「……間に合ったらしい」

風竜 「……な」

グサッ

炎竜 「遅くなってすまんな、冷竜」

冷竜 「炎竜……遅すぎますよ……」

炎竜 「……済まなかった」

冷竜 「貴方が謝るなんて……、明日は槍でも降ってくるのでしょうか」

炎竜 「……ふん」

風竜 「」

炎竜 「……我が、後始末をしよう」

風竜 「……」 ニヤリ

シュン

冷竜 「炎竜!」 グサッ

炎竜 「……!」


風竜は翼をもがれて、全身から血を垂れ流し、腕が凍っていた

冷竜は尾を切り取られて、全身の至る所に傷が見られた

風竜は、放っておいても死ぬことだろう

問題は、冷竜だ

風竜の最後のブレスをまともに貰ったらしい

炎竜 「掴まれ、冷竜」

冷竜 「私を抱えて……飛べますか……?

炎竜 「さあ、な」

冷竜 「置いて、行かないんですね」

炎竜 「同族を失うことは、辛いことだ」

冷竜 「……貴方、変わりましたね」

炎竜 「軽蔑するならすればいい……行くぞ」

冷竜 「軽蔑もなにも、貴方は使命を果たしているでしょう……」

炎竜 「……ふん」 バサッ

-魔王城-

魔王 「……風竜」

風竜 「ぐッ……その声……魔王、か」

魔王 「……何故、傷だらけになってまで僕を手伝う?」

風竜 「俺なりのやり方で、平和を手にするためだ」

魔王 「あの時は、まだ小鬼だった僕を育てたのも」

風竜 「……そのために必要な才能をお前から感じたから、他意はない」

魔王 「……嬉しいよ」


風竜 「死にかけてる身でいうのも、なんだが……」

風竜 「俺は……、お前を道具として見ていただけかもしれないんだぜ?」

魔王 「風竜と出会わなければ、僕は永遠に魔族の落ちこぼれだったろうからね」

魔王 「感謝してもしきれないよ」

風竜 「……なるほどなぁ」

風竜 「……こんな俺でも生まれ変われるなら、今度は何事にも縛られず好き勝手してみたいぜ」

風竜 「一人の友にすらなにも返せない竜なんて……」

風竜 「もう……懲り懲り……だ……」

魔王 「友……?」

魔王 「……風竜」

これにて区切り

-天空の大陸-

炎竜 「……治せそうか?」

白竜 「……」

炎竜 「そうか……」

冷竜 「なら、私はもう……」

炎竜 「……すまない」

冷竜 「謝って済むような話じゃ、ありませんよ……」

冷竜 「……まあ、過ぎたこと、です」

冷竜 「……白竜様」

白竜 「……?」

冷竜 「少し、席を外していただけませんか?」

冷竜 「このような無様な姿を、白竜様に晒したくはないのです」

白竜 「……わかりました」

白竜 「……安らかな眠りを」 バサッ

冷竜 「……私はずっと、竜として使命を忠実に全うしてきました……」

炎竜 「……」

冷竜 「少なくとも、貴方や風竜よりは」

炎竜 「……誇り高き存在でもあった」

冷竜 「ええ、私は竜として、与えられた使命と共に生きてきた……」

冷竜 「私は、なにも間違ってませんよね……?」

炎竜 「……さあ、な」

冷竜 「……不思議です、ね」

炎竜 「……む」

冷竜 「使命を果たすだけの存在にも感情が備わっていることが、です」

冷竜 「私達は、あくまでも道具でなければならないはずなのに」

炎竜 「……そうでなくては、ならんからだろう」

冷竜 「なぜ、ですか……?」

炎竜 「真偽は確かでないのだが……」

炎竜 「魔法を唱えられるのは、心があるお陰らしい」

冷竜 「……初耳、ですね」

炎竜 「お前が、心を語るか」

冷竜 「……怖いから、かもしれませんね」

炎竜 「……」

冷竜 「使命も果たせなくなり、不要な存在となったことが」

冷竜 「手の届く場所に、竜ですら抗えない死が近づいていることが」

炎竜 「……」

冷竜 「それはゆっくりと、足音を立てずに」

冷竜 「私の身体を蝕んでいる……」

冷竜 「目の前が、徐々に徐々に、黒く塗りつぶされていく……」

冷竜 「……未知の体験です、だから、怖いです」

炎竜 「……」 ナデナデ

冷竜 「……なんのつもりですか?」 ギロッ

炎竜 「ニンゲンは、こうしてやると心が安らぐそうだ」

冷竜 「……私は竜です」

冷竜 「まあ……悪い気はしませんけど」

炎竜 「……そうか」

冷竜 「……もう少しだけ、ここに居てくれますか?」

炎竜 「……ああ」

冷竜 「……ッ!」

炎竜 「冷竜!」

冷竜 「もう、限界のようです……」

炎竜 「……喋るな」

冷竜 「……死骸は、海にでも沈めておいてください」

炎竜 「……」

冷竜 「……手間を、掛けさせます」


炎竜 「……冷竜」 ギュッ

冷竜 「……ふふ」

冷竜 「手、暖かい」

炎竜 「お前の手は冷えすぎだ」

冷竜 「……ほんの少しだけ、理解できた気がします」

冷竜 「……貴方が、そして……」

炎竜 「……」

ニンゲンは、親しき者が死を迎えると普通涙を流すという

だが、我は涙を流さなかった

……声が、聞こえなくなった

冷竜がこの世を去っても、我はまだ生きている

世界も、今だに続いている

……空は突き抜けるような青空だ

使命に殉じた竜とも、使命を拒絶した竜とも

二度と言葉を交わすことはなかろう

この世界に残された竜は、我を生み落した白竜と

今だ現実を咀嚼できずにいる、愚かな竜の二体だけだ

-いつもの廃墟-

女の子 「……すごく、苦しそう」

炎竜 「そう、見えるか」

女の子 「うん……」 ギュッ

炎竜 「……生暖かいな」

女の子 「……炎竜は、ちょっと熱い」 ナデナデ

炎竜 「……そうか、もう触れられんのか」

女の子 「……?」

炎竜 「……奴は、もう海の底か」

炎竜 「……ニンゲン」

女の子 「……?」

炎竜 「なんなのだ、その簡素な作りの首飾りは」

女の子 「このペンダント……? 炎竜をモデルに作ってみたの」

女の子 「……祈りを込めて、ね」

炎竜 「祈り、だと?」

女の子 「真に願ったら、強くなれる祈り」

女の子 「身を削って、魂を削って、魔力を削って、一瞬だけ強くなれる祈り」

女の子 「そんな祈りを込めた、ペンダント」

炎竜 「……最悪、死ぬのではないのか?

女の子 「……かもしれない」

炎竜 「……」

「こんな廃墟に隠れてやがったのか!」

女の子 「……!?」

炎竜 「ニンゲンや魔族……我に恨みを抱く者達か」

「竜がいなきゃ、こんなにも多くの血が流れるがはずなかったんだ!」

「殺戮者め!」

「残る竜はお前だけだ、赤き竜!」

女の子 「……ひどい」

炎竜 「異種族同士が手を取り合い、強大な敵に立ち向かうか」

炎竜 「……敵が我だというのだから、笑えん」

女の子 「……うん」

「さあかかれ! ニンゲンの意地を見せてやれ!」

「竜に僕のように扱われてきた魔族の意地を見せてやれ!」

炎竜 「……ふん、貴様らなど取るに足りん」

炎竜 「下がっていろ、ニンゲン」

女の子 「……」

廃墟と化した街を埋め尽くす勢いで、ニンゲンや魔族は集まってきているらしい

彼らは我らのいる廃墟に押しかけ、我を殺さんと刃を向ける

殺しても殺しても、次から次へと絶え間なく彼らは押し寄せる……

……まったく、数だけは多い

オーク 「お前を殺したら、あの竜も止まるかもな!」

女の子 「……」

炎竜 「……余所見をするな」 ボアッ

オーク 「ウアッ」 バタン

女の子 「……オークが丸焦げになった」

炎竜 「……気をつけろ、ニンゲン」

―――――

「これだけの数を……一人で」 バタン

炎竜 「……これで、最後か」

女の子 「みんな、殺した……」

炎竜 「……恐ろしいか?」

女の子 「ううん」

炎竜 「……そうか」

女の子 「……流石に、疲れてる」

炎竜 「ああ……、少し、休ませてもら――」

「貰った!」 グサッ

女の子 「……え?」 ポタッ

炎竜 「……!」

男の子 「見てたぜ、お前の動き」

男の子 「……奪われるほうの身に、なってみろ!」

男の子 「俺の、俺の両親の仇……!」

女の子 「……いた、い……」 ポタッ ポタッ

炎竜 「……いつから、ここにいた」

男の子 「最初からだ!」

炎竜 「……そうか、死ね」 ギロッ

女の子 「……ゲホッ!」 ポタッ

炎竜 「……ニンゲン、治療を……」

女の子 「炎竜には、できっこない……」

炎竜 「ならば、近くの街まで乗せて行ってやる」

女の子 「炎竜に連れられたニンゲンなんて、みんな気味悪がって見てくれないと思う……」

の子 「それに……、わたしはもう、助からない……」

炎竜 「……なぜだ」

女の子 「この一撃、確実に急所をついてる……、忍者みたいに」

女の子 「あの男の子、よっぽど炎竜のことを憎んでたのかも……」

炎竜 「……もういい、話すな」 グルル

女の子 「……これ、あげる……」 カチャ

炎竜 「……首飾りか」

女の子 「大切に、してね……?」

炎竜 「死ぬことを前提に話すな、手はあるはずだ」

女の子 「……さよう、なら、えん、竜……」

女の子 「楽し……かった……よ?」 コク

炎竜 「……むす、め」


別れはあまりに突然だった

ほんの少し前までは、確かに娘の鼓動が感じられたはず

にも関わらず、今はもう何も感じない

触れても冷たいだけだ

笑わない、泣かない

周囲に転がる無惨な死体と、何も変わらない

……いや、これらを生んだのは我か

布切れ同然の服がはだけている

服で隠されていた無数の痣が、露わになる

……この娘とは、よく下らない話をした

だが、我はこの娘の名を知らん

……我が知らんのは、それだけか?

これだけの生命が死に絶えても、娘が命を落としても

空は雲一つない、青空だ

白竜 「……炎竜ですか」

炎竜 「白竜」

炎竜 「確かに、魔族とニンゲンは、我を前にして団結した」

炎竜 「結果的に、争いも目に見えて減った」

白竜 「それはそうでしょう……、なにせ」

白竜 「魔族からすれば、竜はかつて自分達を力づくで支配した憎き存在」

白竜 「ニンゲン達からすれば、竜は同族を虐殺した憎むべき存在なのですから」

炎竜 「……この形が、白竜の望んだ形なのか」

白竜 「ええ」

白竜 「あらゆる種族の共存のための、必要悪です」

炎竜 「なぜ、そうまでして種族同士の共存を望む?」

白竜 「……種族が潰えるのは、面白くありません」

炎竜 「……なんだと?」

白竜 「この世界はこれからも形を変えるでしょう、様々な種族の手によって」

白竜 「生き物のように姿を変化させる世界そのものを、私は楽しみたいのです」

白竜 「ですが……、その過程で種族が互いに争い合い、潰えれば潰えるほど」

白竜 「変化の多様性は失われていきます……」

炎竜 「平和のため……ではなく、私欲のためだと言いたいのか?」

白竜 「聞き捨てなりませんね、現に争いは目に見えて減っていると感じたのでしょう?」

白竜 「これからも、私と世界のために、その身を捧げてくれますね?」

白竜 「……炎竜」

炎竜 「……」


使命のせいで、我は失った

炎竜 「……断る」

白竜 「……今、なんとおっしゃいましたか?」


使命に殉じた誇り高き青き竜を、魔族や世界を憂い行動した若葉色の竜を

炎竜 「これが、親離れか」

白竜 「……馬鹿馬鹿しいことを言いますね」


そして、我に何も求めず、ただただ我を慕い続けた、あのニンゲンを

炎竜 「馬鹿馬鹿しいのは、貴様のほうだ」

白竜 「……なんて口の利き方ですか」

炎竜 「貴様の娯楽や世界とやらの平和のために、我が身をすり減らす理由はどこにもない」

炎竜 「……我も、変化するのだ」

白竜 「生みの親に楯突こうとは」

炎竜 「親らしいことをされた覚えはないがな」

冷竜? 「……」

風竜? 「……」

白竜 「わたくしに歯向かうとおっしゃるのでしたら……」

白竜 「わたくしが貴方を喰らい、それで得た魔力でまた新たな竜を生み出すだけです」

炎竜 「……冷竜、風竜」

炎竜 (……白竜の力によって生み出された、偽物か)

冷竜? 「……凍りつけ」 フシャー

風竜? 「……吹き飛べ」 フシャー

炎竜 「氷や風のブレスか……」

炎竜 「……だが」

我に向けられたブレス

本物さながらで、まともに受けようものなら致命傷は間逃れんだろう

だが、偽りのブレスで我を止められると思うな

今、それを教えてやろう

炎竜 「……娘よ、力を貸せ」

首飾り 「……」

ピカーン

炎竜 「……燃えろ!」 ボアッ

白竜 「……わたくしも、ただで負けるわけには参りません……!」

魔法を掛けられた首飾り

持ち主の魔力を高める祈り込められしそれに、我の怒りを乗せ……

紅蓮のブレスを、貴様らにお見舞いしよう

白竜 「……あなたは……、世界を……滅ぼす気ですか……」

炎竜 「例え竜がすべて滅びようとも、ニンゲンが滅びようとも、魔族が滅びようとも」

炎竜 「この世界は、変わらず廻り続けるであろう」

白竜 「何故、そう言い切れるのですか……」

白竜 「わたくしは……、神に等しき……」

炎竜 「……我もお前も、所詮竜でしかないのだ」

グサッ

我は白竜を殺し、使命を放棄した

奴の身体の一部を喰らったことで、奴に似た力が備わった

白竜が消えても、やはり世界は廻り続けるらしい

-廃墟-

炎竜 「……ここは、やはりそのままか」

女の子だったモノ 「」

炎竜 「……」 ナデナデ

炎竜 「……炎竜という名も、もう意味を成さんか」

炎竜 「なにせ、我以外の竜はもういない」

炎竜 「我は、それ以上でもそれ以下でもない」


炎竜 「……ただの竜だ」


end

色々とすっ飛ばしてとりあえず完結

でももう少しだけ続く……予定

エピローグ

-竜の里・長老の家-

長老 「ああ、竜や……」

長老 「魔族を沈めて、争いを根絶してはくださらぬか……」

「長老、大変です!」

長老 「なんじゃ、騒がしい」

「里に、竜が、竜が!」

長老 「……なんじゃと!?」

-竜の里-

「あれが……竜」

「恐い……、けどカッコいい……」

「……?」

炎竜 「……竜を崇める里、か」

長老 「ついに降り立ってくださいましたか! 竜神様!」

炎竜 「……竜は、神などではない」

長老 「何を申しますか、かつてこのあたりで猛威を振るっていた魔族を焼き払うそのお力……」

長老 「我らにとっては、救いの神!」

炎竜 「……」

炎竜 「……なんだ、その娘は」

? 「……竜神様?」

長老 「この娘は竜の里の巫女……」

長老 「竜神様に奉仕するための存在でございます」

巫女 「……」

炎竜 「……」 ギロッ

巫女 「……」 ビクッ

炎竜 「……」 サワッ

巫女 「……!」 ビクッ

巫女 「……いたいっ」

炎竜 「我の力を少し、この娘に注ぎ込んだ」

炎竜 「……この娘の子は、竜の力を持って生まれることになるだろう」

長老 「な、なんと……!?」

炎竜 「……自分の身は自分で守るがいい」 チャリン

長老 「……この、首飾りは……?」

炎竜 「その巫女にでも渡せ、今の我には不要なものだ」

長老 「……良いのでございましょうか……」

炎竜 「構わん」

炎竜 「それを見るたび、胸が痛む」

―――

「……」

白竜を殺して得た力を用いて

我はあの廃墟の隣の森の空間の一部を切り取り、作り替えた

竜やそれに通じる存在を除けば、誰も目視できぬ空間として

そして、我はその空間の中央の丘の、一本の大樹に横たわった

白竜との戦いで受けた傷を癒すためだ

傷を癒すべく、我は長い眠りについた

どれほどの時を眠って過ごしただろうか

そして、悪夢に苛まれただろうか

眠りと共に、我自身の記憶も次第に薄れていく

……次に我が鮮明に記憶しているのは、『彼女』との出会いだ

「……あはは、あたし、死んじゃったのかな?」

声が、聞こえてきた

何人たりともこの空間には立ち寄れないにも関わらず、だ

……いや

かつて我が与えた首飾りの所持者か……

あるいは、我が竜の里に与えた加護を受けたニンゲンの子孫は、この空間に立ち寄れる

ある意味、竜に近しい存在だからだ

「……竜」

そのニンゲンは、確かにそういった

たった一言ではあるが、その一言は憎しみに満ちていた

……あの時、我が殺した者達の仲間が、あの首飾りを奪い取りでもしたか

……復讐のために我と対峙する気ならば、我も容赦はせん

……だが、我の目の前に現れたのは屈強な男でもなければ鎧を着込んだニンゲンでもなく

……貧弱そうな、ニンゲンの娘であった

ブロンドの髪に、見覚えのある首飾り……

……その姿はどことなく、あの娘に似ていた


「竜の里の、ニンゲンか」

ニンゲンは、こくりと頷いた

……竜の里のニンゲンが、竜に増悪を抱いているか……

我は、探りを入れようと問いかける

「……暗い目を、しているな」

「……竜のせいだよ、竜のせいで……」

竜の里のニンゲンでありながら、竜を憎むか……

……いや、竜の里のニンゲン達は、ある意味異端だ

ニンゲンにしろ魔族にしろ、竜に対して抱く感情は決して明るいものではない

このニンゲンがあの里から出たのだとすれば、だ

まともなニンゲンや魔族からはどういった扱いを受けるか……

……だとすると、彼女の目が暗いのは

「……すまない」

「……謝るなら、あたしの街を壊してきてよ」

「人をみんな、焼き殺してきてよ」

「この世界を壊してよ!」

「みんなみんな殺してよ!!」

「あたしを……一人ぼっちにしてよ……」

溜めこんでいた増悪のすべてを、ニンゲンは我にぶつけてきた

……ニンゲンを嫌うところは、あの娘にそっくりだ

我は、あの娘がどういった人生を歩んできたのかは知らん

だが、あの娘もこの娘ほどではないにしてもニンゲンを嫌っていた

竜の里の者達には、あの娘の首飾りを預かってもらった恩もある

……その願いを、聞き入れてやろう

「……やっぱり、いい」

そういった少女の目は、諦観に満ちていた

……我にとって、この娘の願いを叶えるなど造作もないことなのだが

我も随分と見くびられたものだ

不要だというのならば、我は手出しせん

だが、娘の表情は変わらず暗い

……このような時は、どうするべきであったか

――悲しそうな人がいたなら、優しく撫でてあげればいい

――無言で抱きしめてあげたらいい……と思う

……ほかに取るべき行動は、何も思いつかんか


このニンゲンが、どことなくあの娘に似ていたからか

それとも、あの娘になにも返してやれなかったことへの後悔か

……我は、このニンゲンに『優しく』接していた

いや、その行動が優しいのかどうかは我にはわからん

なにせ、こういった行動はどれも娘の受け売りなのだから

ニンゲンの名は少女

少女は、かつては竜の里の生まれであった

だが、少女は訳あって竜の里を離れた

その訳というのは、少女もよくは知らないらしい

少女が住むことになった街は、竜を忌み嫌う街であった

故に竜の里の生まれだった彼女は、街で迫害を受けた

少女は、そう語った

経緯はさておき、竜という存在が一人のニンゲンの人生を狂わせたのは確かだ

我が淡々と使命を果たしていた頃は、世界は表向きには平和だった

だが、使命によって多数の生命の運命を我が捻じ曲げてしまったことは、変えようのない事実だ

……このニンゲンもまた、使命の犠牲者か

してやることといえば、たかが知れてはいるが……

――ザワザワ

―――

少女 「ドラゴン、ドラゴン!」 タッタッタ

竜 「……何度も呼ぶな、聞こえている」

少女 「……だって、また寝てるんだもん」

竜 「……やけに嬉しそうだな、少女よ」

少女 「うん、あたしの住んでる街に引っ越してきた人たちがいるんだけどね」

少女 「その人たちがね、あたしに対する苛めを無くしてくれたの!」

竜 「……そうか」

少女 「むっ、もっと嬉しくしてくれたっていいじゃん」

竜 「我の笑顔を想像できるか? 少女よ」

少女 「……」 プッ

竜 「……笑うな」

少女 「少年って面白いよ」

竜 「……男か」

少女 「付き合ってるとかそんなんじゃないよ」

少女 「他人のために怒ってくれる人なんて、初めてみたよ」

竜 「……時折少女が話している友は、そうではないのか?」

竜 「共に生活しているのだろう?」

少女 「あの子は誰に対しても等しく優しいの」

竜 「……中立を保っているのか?」

少女 「うん、学校ではあたしが苛められてても、いっつも見て見ぬ振りだもん」

竜 「……我が身が大切なだけではないのか?」

少女 「そうだとして、もしあの子がほかの子に交じってあたしを苛めるようになったりでもしたら」

少女 「あたしは、あの子を心の底から軽蔑する」

竜 「……手を差し伸べんのは、苛めには入らんのか」

少女 「……ギリギリ」

少女 「でも、一緒になってあたしを苛めないだけまだマシなほうだよ」

少女 「まあ、家でのあの子の振る舞いを見てたらね」

少女 「あの子は、あたしが嫌いなわけじゃないんだってことが、なんとなくわかるの」

少女 「だからあたしは、かろうじであの子を好きでいられる」

竜 「……それは、少女の本心か?」

少女 「だって、人の世では自然に猫を被れるように努力しないと苛められるじゃん」

少女 「……ああもう、ドラゴンー」

竜 「……どうかしたのか」

少女 「人と話したくないよー」

竜 「猫を被れば、少女はまともなコミュニケーションが取れるのだろう?」

少女 「そうだけど、そうだけどね……」

少女 「猫被るのって、疲れるもん」

竜 「……だが、ニンゲンの世で生きるというのならば」

竜 「ニンゲンと話すことは必要だろう?」

少女 「わかってる、わかってるけどね……」

少女 「……ああ、何も食べなくても生きていられる体ならいいのに」

竜 「……何故だ」

少女 「ずっとここで、ドラゴンと居られる」

竜 「……リンゴならば用意できるぞ」

少女 「リンゴだけじゃ死んじゃうよ、はぁ……」

それからというもの、少女はよく我の元を訪れた

少女と他愛のない話をすることもあれば、悩みの相談に乗ったりもした

我と話している時の少女は、いつもにこにことしている

だが、時折そんな少女の表情が曇ることがあった


―――

少女 「ドラゴン……」

竜 「……悩みか?」

少女 「……うん」

少女 「魔法と心は深い関わりがあるんだよね」

竜 「……ああ」

少女 「……苛めも減ってさ、環境は大分改善されたと思うの」

竜 「……そうか」

少女 「……でも魔法が使えないの!」

竜 「だとすれば……修練が足りんだけではないのか?」

少女 「……なら、ドラゴンが教えてよ」

竜 「……」

少女 「さぞ、わかりやすい教え方をしてくれるんだろうねー」 チラッ

竜 「……よく見ておけ」

少女 「……え?」

ボワッ

少女 「……ブレスを吐いたね」

竜 「……炎の魔法を唱えるのならば、今少女に見せたこのブレスをイメージしろ」

少女 「……それだけ?」

竜 「ああ」

少女 「特訓は?」

竜 「……我が教えることはなにもない」

少女 「……ケチ」

竜 「……」

少女 「いいよ、もう、意地悪」 プイッ

今日も今日とて、少女は我の元を訪れる

我はいつも無心を装う

そうでもしなければ、ふとした拍子に漏らしてしまいそうになるからだ

かつて我が辿ってきた道を

あの娘と共に過ごした時間も、今となってはもうあやふやだ

だが、例えあやふやでも、我自身の話は少女の笑顔を奪いかねない

……今日も地を蹴る音が聞こえてくる

地に咲く花が散っていく

散った花びらは天に舞う

その花びらは我の鼻先を掠めたかと思うと

そのまま風に乗って、どこかに飛んでいく

聞いて聞いてドラゴン、と声がした

……今日も、少女がやってきたのか

今日はどのような話題を引っさげてきたのか

どんな話題であれ、我はそれを聞こう

……今は、それだけが我の生きがいだ





「……む?」




おしまい

このエピローグはおまけ。これにておしまい。

このssを最後まで読んでくれた方々、ならびに
燃料となるレスを付けてくれた皆様に心からの感謝を、ではノシッ

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