友人「例えば、突然空から美少女が降ってきたとする」(220)

友人「それも、お前の目の前でな。
言葉通りの自由落下だ。
もちろん、そのまま地面に頭を打ち付けたら、その美少女は死ぬ。
お前が受け止めるとするならば、もしかしたら死は免れるかもしれないが、二人とも無傷ではすまないだろう。
もしもの話しだ。
そんな時お前はどうする?」
俺「>>5

*1,受け止める
*2,受け止めない
*3,あり得ないだろ、そんなの

4そんなことよりおまえが好きだと友の唇を奪う

1

俺「受け止める…だろうな。
なぜなら…」
友人「ふうん、そうかい」
俺「お前から聞いておいて、なんだよその反応は」
友人「お前のそれは、時々なら面白いけれど、あまりに長すぎて飽きが来るのが早いからね」
友人「まあ、兎も角」
友人「頑張っておいで」

彼の足下から、世界の色が変わっていく。
そうとしか表現しようのない何かが起きた。
俺はその変化に耐えきれなかったようで、現状を理解する間もなく、あっさりと意識を手放してしまう。

書き貯めて無いんで、暇な時に覗きにくるくらいで、ちょうどいいと思う
もう一つ載せたら、風呂入ってきます

母「……ん………くん…朝ご飯出来てるわよ」
目覚めたばかりのぬぼーっとした頭を必死に動かし、さっきまで見ていた夢の内容を思い出そうとする。
……だめだ、完全に忘れてしまった。
なにか、誰かに大切な事を言われた気がするのだけれど、はて、なんだったっけ?
まあいいか、時間も無いし。
僕は適当に着替えを済ませて、いい匂いのする方へと足を進める。

すれ違う高校生2人組が、何かを指差して笑い合う。
指を指された方に、目を動かしてみると、別に面白くともなんともない、ごく普通のサラリーマンがアクビをしていた。
僕と大して年もかわらない彼らが、何を考えて笑っているのか、わかるはずも無いし、これから先一緒に笑い合うことなんて無いのかもしれない。
わざわざそんなことで悲しいとは思わないけれど、不思議だなと、曖昧な感想を持った。
そんな事を考えながら、ふと空を見上げてみた時だった。
人だ。
はっきりとそうわかった。
一瞬見ただけで、そう判断できるほど、それは近くに迫っていた。
何も考えられなかった。
ただ、腕に強烈な痛みが走ったのと、ゴツンという嫌な音がしたのを意識の隅に捉えて、僕は気を失った。

>>2
実はそれに近い選択肢もあった
勿論頭を抱えながら削った

その後、僕はこの町で一番大きな病院の個室で目を覚ました。
なんでも、あの面白くもなんともないサラリーマンが、救急車を呼んでくれたそうだ。
目を覚まして、まず体をベッドから起こせないことに違和感を感じた。
案の定、僕の両腕は無くなっていた。
ああ、やっぱりな。
そんな淡白な感想を覚えただけで、別に悲しくともなんともなかった。

思ったよりも母親が僕の個室に入ってきたのは遅かった。
大丈夫?とも、かわいそうに、とも言わずに、母親は僕が読みかけていた本を迫真の演技で朗読した。
全部読み終わる頃には、もう窓から見える景色が真っ暗になっていた。
やはり何も言わずに、母親は帰っていった。
家の母親はそういう母親だとよくわかっているし、それが凄くありがたかった。
目が真っ赤に充血していたのは、見なかったことにしておく。
僕は朝の姿勢のまま、そのまま眠った。

いつも通りの朝だ。
早く起きないと遅刻してしまう。
腕で体を支えて、ベッドから起き上がろうとした時、ようやく気が付く。
ああそっか、腕無いんだった。
間抜けだな。
少しニヤリとしてしまった。

そういえば、僕が受け止めようとした人はどうなったのだろうか?
ゴツンという嫌な音が、頭の中でリピートし始める。
ゴツン、ゴツン、ゴツン、ゴツン。
サッカーでも、バスケットボールでも、ボールがコートの外に出た場合は、コートの中で最後にボールを触った人が、コートの外にボールを出したという扱いになる。
もし、あの人が死んでいたら、僕が殺したようなものなのだろうか?
……我ながらどうかしている。
僕は、心の中で、自分の頬を思いっきり殴った。
パァン。
鼻から血が吹き飛ぶ。
ちょうど、その血がかかってしまいそうな位置に、車椅子に座った女の子がいた。

そろそろ眠い
明日の6時辺りから、じわじわと再開します

ごめん、もう今日になってた
お休み

女の子と目が合った。
慌てたような素振りで、女の子が目を逸らす。
ここでようやく、女の子は、僕の体に腕がついていないことに気が付いたようで、サアっと顔色を悪くして、俯いてしまった。
俯いた姿勢のまま、女の子が呟く。
女の子「へえ………あんた…なの?」
慎重に言葉を選んだ末に、結局素っ気ない言い方になってしまったかのような、間の空き方だった。
また沈黙が始まった。
僕はその間に、首を横に倒して女の子の膝の辺りを見る。
やっぱりそうなのか。
女の子の履いている長いスカートは、本来膝があるべき場所の少し上の辺りから、不自然に平べったく潰れていた。
女の子「やっぱり、あんたなんでしょ?」
女の子が、さっきよりも語気を強めて喋る。
女の子「どうして、あんなことしたの?
あのまま私が落ちれば、誰も傷つけずに死ねたのに。
なんで生きてるの、私?
どうしてあんたの腕が無いの!?
ねえ……答えて…………よ」
女の子は泣き出してしまった。
僕「>>26

*1 何も考えていなかった。
*2 君に死んでほしくなかった。
*3 君は、優しい人だね。

1

これは期待

名前抜き忘れてた
すまそ

僕「ごめん、実は何も考えていなかったんだ。
気が付いたら手が伸びてた」
正直に言う以外に、回答が思いつかなかった。
女の子がなにやら、クツクツと涙を零しながら笑い始める。
ギリギリ聞き取れるくらいの小さな音量で、「なによそれ……馬鹿みたい」という言葉が、僕の耳に届いた。
きっと、自分が笑っていたのを、僕に気づかれていないと思ったのだろう。
突然女の子は無表情になって、
女の子「…あっそ」
と、この上なく素っ気ない返事を返してくれた。
ここで終わっておけばよかったのかもしれない。
僕「それと、もう一つ、ごめん」
女の子「?」
僕「君をちゃんと受け止められなかった。
君の体に、今脚がないのは僕のせいだ。
ごめん」
女の子は俯いたまま、首を横に振った。
女の子「……私は、死にたかった」
僕「?」
女の子「私が今生きていることに対しては、謝ってくれないの?って聞いてるの」
僕「それをしたら、誰も幸せになれないよ」
女の子「どういう、意味よ」
僕「君は死のうとした。
僕は、動機はなかったけれど、結果としてそれを止めてしまった。
事実、君は今、生きている。
だったらさ、死にたかったって考えるよりも、生きててよかったって考えた方が幸せだと思わない?
脚に関しては、本当に悪かったとしか言いようがないけれど」
女の子「だったら、明日死ぬわ」
それでも死んでほしくない。
もうここまでくれば、ただのエゴだ。
それでも、構わない。
あくまで自分勝手な言葉が口から漏れ出す。
僕「それなら、どうして昨日死ななかったんだい?」
女の子「………」
僕「ねえ、僕にいい考えがあるんだ。
そのために、一応どうして君が死のうとしたのかを確認したい。
詳しく教えてくれとは言わない、だいたい伝わればいい。
教えてくれないかい?」

あの女の子が落ちてきた辺りは、マンションなどが建ち並ぶ住宅街だった。
詳しくは確認していないけれど、あの辺りである程度の高さから飛び降りるのなら、まず、マンションのベランダや屋上から飛び降りるしか無いと思う。
わざわざ、人の家の敷地にまで入ってまで、あの場所で飛び降りをするというのはおかしい。
きっと、女の子は自分の家ないし、家があるマンションから飛び降りているはずだ。
その予想があっての、さっきのセリフだ。

案外女の子は、あっさりと事のあらましを話した。
だいたい僕が予想した通り、家族とのトラブルが原因らしい。
女の子「そうよ、あいつさえいなければ……あいつさえ………あいつさえ…」
僕「ああっと、ごめん。
嫌なこと思い出せちゃったみたいで」
女の子「……あんた、ちょっとした事で謝り過ぎよ」
僕「でも、死のうと思うくらい、嫌なことだったんでしょう?」
女の子「だから、そういうところが、配慮が足らないって言ってんの。
余計にイライラしてくる。
たかだか死のうと思うくらいで、なんなのよあんたは。
自殺防止センターにでも務めてるの?」
僕「今日だけやってもいいくらいだ。
僕は君に死んでほしくないし、死にたいだなんて思ってほしくない」
女の子「なんでよ?
私が死のうが何しようが、あんたにはなんの関係も無いじゃない」
関係は、これから作ろう。
そのために、言わなくちゃいけないことが沢山ある。
僕「君が笑ったから」
女の子「は?」
僕「さっき、笑ってたでしょ?
僕が何も考えてなかったって言ったとき。
…実は今日の朝、僕も少し笑ってしまったんだ。
ベッドから起き上がろうとして、でも起き上がれなくて、そしたら腕がない事に気がついて、それで間抜けだなと思って笑ってしまった。
正直に言うと、少し自分が気持ち悪かった。
だって、そうでしょう?
こんな状況で、そんな自虐的なことで笑えるやつなんて、そうそういていいはずがないじゃないか。
けれど君が笑ってくれた。
その時思ったんだ。
ああ、笑い飛ばしちゃってもいいんだって。
笑えるやつが、いてもいいんだって。
だから、そんなふうに笑ってくれた君に死んでほしくないし、不幸にもなってほしくない」
女の子「………あんたって…どうかしてる」
僕「ふふ、よく言われる」
僕が笑うのに釣られて、彼女の口が少し歪んだ………ような気がする。
僕「これから話すことは、あくまで僕の私利私欲の為の、これからの人生プランだ。
…ねえ、うちに来ないかい?」

僕「君が僕たちの家に来るんだ。
それで、僕が君の脚になるから、君は僕の手になる。
とりあえず、生きてて良かったって思えるような理由を見つけるまで、一緒に暮らすんだ。
そうすれば、君が死にたくなるようなことからも逃げられるし、きっと僕も楽しい。
父さんや母さんなら問題無い。
僕だって、そうやって引き取られたようなもんだし、金銭的余裕も、場所的な余裕もある。
僕達同士が助け合えば、母さんの手を煩わせることもないしね。
…どうかな、悪い話じゃないと思うんだけれど」
プロポーズの返事を待つ気分って、多分こんな感じなんだと思う。
失敗すれば、一生で二度と顔を合わせることはなくなるだろうし、成功すれば、一生お互いを見つめ合うことになる。
少しくらくらしてきた。
嫌な沈黙が続く。
彼女は床を睨んだまま、ずっと視線を動かさない。
ようやく言葉を口にしても、彼女は俯いたままだった。
女の子「無理ね」
僕「ああ、やっぱり?
でしゃばり過ぎたかな?ごめん」
女の子「そうじゃなくて、私の脚になるっていうのが、無理。
想像すれば簡単なことじゃない。
あんた、私を何処かへ運べると思う?」
頭の中で、腕の無い僕が、脚のない彼女を運ぼうとする。
……………どうやって?
腕がないから、彼女を抱えることはできない。
背中に背負おうとしても、僕には腕がないので、直ぐに彼女は落ちてしまう。
彼女は、その細い腕だけで、自分の全体重を支えなければいけないからだ。
……ほら、また落ちた。
………………………………。
……今度は、僕がバランスをとれずに、二人同時に地面に頭を打ちつけた。
これなら、彼女が一人で車椅子に乗ればいい。
…他は、他はどうだ?
何か他に、彼女を助けられそうなことは………!
………………………。
…………。
ない。
一つもない。
腕が人間の体のパーツの中で、いかに重要かを思い知らされた。
脚だけじゃなにもできない。
腕がなくちゃ、誰も助けられない。

女の子「ね、わかったでしょ?
私達が助け合うのなんて、無理よ」
…………………。
僕「その通りみたいだね。
ごめん。
本当にごめん」
そういえば、僕はこの短い間に、どれだけ彼女を傷つけたのだろう。
また一つ、傷を増やしてしまった。
女の子「そ、そんな顔しないでよ。
気色悪いわ。
…そ、その、あんなこと言ったけど、あんたの家に住むのは、別に、悪くない、かな。
………………!
そうだ、私があんたの面倒見てあげる!
とりあえず、あんたのお世話をすることを、暫くの生きる理由にするわ。
そうすれば、全部解決でしょう?
……だから」
彼女の言葉を遮る。
僕「もう大丈夫。
ありがとう。
………………今日はもう、帰った方がいいよ。
また僕は、なにか余計なことを言ってしまうだろうから」
女の子「……………」
もう一度、彼女と目があった。
すごく、すごく彼女が綺麗に見えた。
…彼女の脚を奪ったのは、僕だ。
……きっと脚があったら、もっと綺麗に見えるのだろう。
二人同時に目を逸らした。
女の子「それじゃ、その、帰らせていただくわ。
あんたの家に住まわしてもらう件、本気なのよね。
…ちゃんと、ちゃんと考えておくから。
本当に考えておくから!
………だから、その、また」
彼女が細い腕で、車椅子の車輪をぎこちなく動かして九十度反転する。
左肘の辺りに、変な形の傷跡が見えた。
彼女が部屋から出たのを確認すると、まだかなり早いけど、僕は眠る為に目蓋を落とした。

…………………………………………。
白い。
真っ白だ。
ただひたすら真っ白が続いていて、他にはなにもない。
友人「やあ、いらっしゃい」
声と同時に、突然真っ白な空間に、背の高い青年があらわれる。
友人「そんなところに立っていないで、こっちに来なよ」
いつの間にか青年は、何処かの国の王様の城の庭にでもおいてあるかのような、豪奢な椅子に座って、その前の丸型のテーブルの上で紅茶を煎れていた。
その向かいに、空席が一つ。
僕は躊躇うことなく、椅子に座った。
友人「ふうん、こっちのお前はやけに素直だね。
そして、物静かだ。
俺としては、やりやすくていいんだけどね」
紅茶が入ったティーカップを手渡される。
やはり疑うこともなく、カップに口をつける。
………甘い。
それも、喉が焼けそうなくらいに。
紅茶を飲みながら、青年は何事かを一人でしゃべり続ける。
それを僕は、ひたすら黙って聞く。
何故僕は、この青年から逃げるどころか、怪しいとすら思わないのだろう?
友人「何故って、俺は君の友人じゃないか。
…そうだ、そんなことより、今日はお前にプレゼントがあるんだ」
パチン。
彼が指を鳴らすと、ティーセットが大きなジェラルミンケースに変わる。
友人「開けてご覧」
ジェラルミンケースには、鍵がついていなかった。
言われた通り、ケースを開く。
腕だ。
腕が二本、つまり一組入っていた。
どこか、見覚えのある腕だった。
肘の辺りに変な形の傷跡があるのが気になる。
友人「さあ、受け取っておくれ」
これがあれば、彼女を助けることができるだろう。
………彼女って、だれだっけ?

僕「>>41

*1 こんなもの、受け取れない
*2 ありがたく頂く
*3 これは、一体誰のものなんだい?

3

やっぱりそれで来るか

…今なら選びなおせるけれども、どうする?
>>44

選びなおす場合は>>45から>>50の間で一番多かったものに決定します。

どちらにせよ、今日はもう寝ます
また明日の6時頃に再開するよ

げんふうけいか

3

げんふうけい?マジ?期待値跳ね上がるぞ!

あの人の影響を受けてスレを立てた、ただの素人です
読みにくさについては謝るしかないです
すいません
努力はしますが、なにぶん行き当たりばったりで書いているもんで、なかなか難しい

*1を選択したということで、再開します

いろいろトラブってしまったので、再開は9時頃になりそうです
ごゆるりと、お待ち下され

僕「こんなもの、受け取れないよ」
友人「そうかい、それは残念」
僕「理由は聞かないの?」
友人「お前のそれは、時々なら面白いけれど、あまりに長すぎて飽きが来るのが早いからね」
そう言って、彼はジェラルミンケースを閉じた。
友人「それじゃ、そろそろお別れだ」
友人「頑張っておいで」

彼の足下から、世界の色が変わっていく。
そうとしか表現しようのない何かが起きた。
僕はその変化に耐えきれなかったようで、現状を理解する間もなく、あっさりと意識を手放してしまう。

なにか、不思議な夢を見ていた気がする。
淡い記憶を探りながらベッドから起き上がろうとして、腕が生えていないことに気がつく。
僕「く、ふふ、あははははっ!!」
今度は声を出して笑った。

退院した僕は、母親に頼んで、真っ先に彼女の家へと向かった。
彼女から聞き出した部屋番号は、空室になっていた。
おまけに、彼女の私物も全部捨てられてしまったようだ。
…案外、彼女以外の家族も、彼女から逃げる機会を待ち望んでいたのかもしれない。
彼女にそのことを報告すると、苦虫を噛み潰したような顔で、
女の子「馬鹿らしくなってきた」
と、吐き捨てられた。
いいことだ。

思った通り、母親も父親も彼女のことをすんなりと受け入れてくれた。
彼女には、何故かあらかじめ用意されていた、僕の自室より大きい部屋を充てがわれ、何故かあらかじめ用意されていた女の子物の洋服を、母親に取っ替え引っ換え着せられていた。
彼女の容姿もあいまって、まるで脚が二本壊れて取れてしまった、着せ替え人形のようだ。
母親「…次はこれなんてどうかしら?
ふふ、凄く似合うと思うのだけれど」
女の子「……あの」
こうなってしまうと、うちの母親はなかなか止まらない。
南無三。
母親「はぁーい、手をあげて。
そのまま脱がしちゃうから」
女の子「…………はあ。
…あんた、こっち見ないでよ。
もしちらりとでも、視界にいれたりしたら、あんたの脚、容赦無くもぎ取るから」
僕「……御意」
本当にやりかねないから怖い。
母親「ふふ、あらまあ。
仲が良いのは美しきことね」
女の子「良くない!!」
あえて僕のほうからは、なにも言わないでおこう。

着々と着せ替えは進む。
母親「まあまあ! すっっごく可愛いじゃない。
もう……食べちゃいたいくらい」
母親「ねっ、どう思う?」
母親が車椅子を回して、僕と彼女を向かい合わせる。
女の子「自分で動かすのに……」
かすかな声で、彼女が呟いたが、どうやら母親には聞こえなかったようだ。
それはそうとして、さすがうちの母親なだけはある。
病院にいたころの地味な服装とは大違いだ。
多少少女趣味だけれど、この子にはそのくらいの方が似合う。
母親「可愛いでしょ」
母親は、まるで自分のことのように胸を張るし、彼女は、顔を真っ赤にして目を逸らすし、僕は一体どうすれば良いのかわからなくなって、とりあえず鉄製の義手をカチカチと軽く打ち合わせて、拍手の真似事をした。
母親「あっ、そうだ。
確かあそこにリボンが…」
そう言い残して、母親はたたたっと何処かへ走っていってしまった。
少し心配なくらい、元気だ。
女の子「ねえ」
僕「どうしたの?」
女の子「私、いいのかな?
…居場所とか、家族とか、服とか、ご飯とか、他にもいっぱい貰っちゃって。
迷惑じゃ、ない、かな?
…って、あんたに聞いても仕方ないか、ごめん」
そういえば、この子に謝られたのは、始めてな気がする。
僕「さっきの母さんの顔を思い出してもみなよ。
凄い嬉しそうだった。
昔から、女の子が欲しいってことあるごとに呟いて、正直鬱陶しくて仕方がなかったんだ。
もちろん、僕だって君がいてくれると楽しいし、嬉しい」
女の子「…………………………………うん」
そんな彼女に、僕は服すら着せてあげることもできない。
……何か。
何かを………何かが………………。
何も。

今日は休ましてけれ宣言
の、

女の子「ふふふ、さあ、その汚らしい口を開きなさい。
……そうよ、いい子ね。
あはは、光栄に思いなさい。
自分一人じゃ食事を摂ることもできない駄目なあんたに、この私がわざわざ……」
女の子「…って」
女の子「なんなのよ、これ」
父親「息子に対して自己投影をすることで、性的快感を得ているのだが、それが何か?」
女の子「気持ち悪っ!?」
彼女が全速力で後退する。
僕を挟んで、その彼女の前方にいる、長々とした台詞が書かれたカンペを高く掲げている父親は、たいそうご満悦のようだった。
ああ、ご褒美になっちゃったか。
南無三。
大企業の社長というものは、全体的に変人が多いそうなのだが、うちの父親も例外に漏れない。
正直、親として見るとどうなんだろうと思ってしまう部分もあるが、息子が気にしているであろうコンプレックスを、こうして冗談交じり(冗談ではない可能性も考えられなくもないが)に的確に突いてくるあたり、ある意味父親らしい父親な気がしなくもない。
…やっぱり、しない。

女の子「なんなのよこいつ!
同じ人間だと思いたくないわ」
震える指先で、彼女がうちの父親を指す。
対してその父親は、余程お気に召したようで、仮面のような無表情のまま小躍りをしている。
それも、文字通り。
それを見て、彼女は顔をさらに青ざめさせる。
さらにそれを見て父親が…。
さらにさらにそれを見て……。
さらにさらにさらに……………。
だめだ、この人ら。
早くなんとかしないと。
僕は彼女に、必殺の呪文を囁く。
彼女はコクリと頷いて、
女の子「ハウスッ!」
隣にいる僕の肩が竦むくらいに、鋭く言葉を飛ばした。
父親「ワンッ!」
まだ食事の途中だというのに、父親は犬のように四足歩行(というよりは、四足疾走)で、自室に飛んでいってしまう。
女の子「なんだったのよ、一体」
僕「知っての通り、うちの父親だよ。
あれで父親らしいところもあるんだ、きっと、多分、おそらく」
女の子「ふうん………。
ま、いいわ、そのうち慣れる。
きっと、多分、おそらく」
やっぱりこの人は強いな。
女の子「そんなことよりも」
女の子「食事を再開しましょう。
ほら」
今日のところは、父親の教えに従って、吹っ切れて彼女の介護を受けることにしよう。

女の子「ふう、出来た」
画面を見ると、脚があること以外は彼女にそっくりのキャラクターが、四角い枠の中で直立していた。
このゲームで彼女のような、可愛らしいキャラクターを作るのには、相当なセンスと熟練を要するが、彼女はそれを十分でやってのけた。
そもそも、ゲームというものに始めて触っている人間だとは、到底思えない。
僕「そしたら、決定ってところにカーソルを…」
女の子「そのくらい、わかるわよ」
彼女は僕の自室で、僕が一番好きだったゲームをプレイしている。
もうハードも含めて、これは彼女のものだ。
出来ない者が持っているよりも遥かにいいし、何より、驚いたり喜んだりする彼女を見るのは、ゲームをプレイするよりも楽しい。
導入部分のムービーが終わって、彼女が唖然とする。
女の子「わ、わたしが、ゾンビに……」
そうだった。
いきなり導入部分で、主人公が死ぬんだよなこのゲーム。
自分に似たキャラクターを作らない方がいいと忠告しておくべきだった。

僕「そうそう、そこでボタンを押して」
……。
僕「うん、拠点みたいなもので、倒されたらここに戻ってくる」
………。
僕「奥に進んでご覧」
…………!
女の子「!!?!?」
僕「あははははっ!」
………。
……………。
僕「え?あ、いや、そこは倒すんじゃなくて」
………。
僕「ちょっ、まさか、おい」
女の子「パターンは掴んだ」
……………………………………………。
人畜性×1
デマンの大鎚×1
女の子「よし」
この場面ではまだ装備が整っていないので、本来注意書きに従って逃げ道を探すべきなのだが、彼女は約30分の死闘の末、それを倒してしまった。
しかも、一回も死なずに。
やはり初心者だとは思えない。
いや、思いたくない。
女の子「楽しいわね、これ」
彼女にあげて正解だった。

こうして僕は、行動ではどうしようもないので、せめて物で彼女に奉仕をしようと試みた。
でも、その結果僕は、彼女に精神を満たしてもらうこととなった。
物と心のレートなんてものは、僕にはわからない。
だが、これだけはわかる。
僕は彼女から貰い過ぎている。
一人になる時間があると、僕はこの借金をどうやったら返済できるのか、しきりに考えた。
もちろん、答えは浮かばなかった。

その日の夜、僕は彼女の秘密を知ることになる。

その夜、僕は唐突に目を覚ます。
音が聞こえたからだ。
ざ、ざ、ざ、ざ、ざ。
耳元にまとわりつくような、不気味で湿っぽい音。
音は、近くから聞こえた。
ざ、ざ、ざ、ざ、ざ。
少しずつ、音が近づいてきているようだ。
腕を失ってからは、自室の扉は常に開けっ放しにしている。
つまり……何かがいる。
急に怖くなってきて明かりをつけようとしたが、電灯から伸びる紐は使えないし、壁に取り付けられたスイッチを押そうとすると、その何かの近くを通らなければならない。
………そうだ、携帯電話があった。
最新式のスマートフォンを、口に咥えて、上部のスイッチを壁に押し付ける。
少し唾液がついたが、そんなの気にしている場合じゃない。
画面から光が発せられて、視界がある程度明瞭になる。
口に咥えたまま、僕は何かがいる方へ、光を向けた。

女の子「……………」
なんだ。
僕「驚かさないでよ」
彼女は腕だけで、僕のベッドの方へ這って進んでいる。
やけに動きが遅いのが、気になった。
僕「どうしたんだい?」
女の子「………あ…」
…様子がおかしい。
彼女は、口をパクパクと動かして、何かを喋っているようだ。
ズルズルと、僕も脚を這わせて、苦労の末ベッドから降りる。
そのまま、ゆっくりとしゃがんで軽く後ろに重心を持っていくと、勝手に体が倒れた。
ちょうど、彼女の口の辺りに僕の耳がある状態だ。
彼女は、
女の子「あいつさえいなければ、あいつさえいなければ、あいつさえいなければ、あいつさえいなければ、
あいつさえいなければ、あいつさえいなければ、あいつさえいなければあいつさえいなければ、
あいつさえ…」
何度も何度も、そう繰り返していた。
その夜は、彼女が勝手にへやから出て行くまで、眠ることも動くことも出来なかった。

…………………………………………。
白い。
何もかもが白い。
少し前に似たような光景を見たような気がして、ようやく気がつく。
また、あの夢か。
あんなことがあった後でも、僕は眠れてしまうんだな、と、少し呆れる。
「例えば」
友人「例えばお前の目の前で美少女が苦しんでいたとする。
彼女は助けを求めることはしない。
なぜなら、助けられることを望んじゃいないからだ。
彼女は助けを求めてしまったら、誰かを傷つけてしまうと考えている。
だったら自分一人が傷つけばいい。
そんな寂しい考えに至り、彼女は苦しみを一人で抱え込んでしまった。
今、苦しみのせいで、彼女はおかしくなり始めている」
友人「おっと、長々と喋り過ぎてしまったな。
これじゃ、向こうのお前といい勝負だ」
友人「で、だ」
友人「どうする?」
いつの間にかそこにいた彼に、今現在の僕自身を答える。
僕「彼女を助ける。
それが無理だとしても、せめて苦しみを共有する」
友人「彼女が望んでいなくても?」
僕「ああ。
……これは僕のエゴだ。
彼女のために彼女を助けるんじゃない、彼女を助けたいから、彼女を助けるんだ」
しん、と辺りが静まりかえる。
まるで、この空間そのものが、僕の言葉を分析して解析して吟味しているかのような、そんな時間。
…………………。
友人「ふうん、そうかい」
彼がようやく結論を出す。
友人「…くく、僕が君の友人であることを誇りに思うよ」
僕「買いかぶり過ぎだ」
友人「そうかい?」
彼が地面を二回蹴る。
コツ、コツ。
彼の足下から、世界の色が変わっていく。
そうとしか表現しようのない何かが起きた。
友人「ここから先は、彼女の世界だ」
友人「さあ、頑張っておいで」
僕はその変化に飲みこまれ、意識の在り処をそこに移していく。

ドアノブ回して寝癖落とすだと
手ないんじゃないっけ

主人公がこのスレッドの影響を受けました
>>102

通常より早く、違和感に気がつきます。

時間消費-2 →-1
現在 10/10

今日くらいは、自分で朝食を作ろうか。
ついでに親の分も作っておこう。
僕はキッチンへと向かった。

卵を冷蔵庫から三つ取り出そうとしたところ、何故か一つ多くシンクの上に並べてしまった。
どうやら、まだ寝ぼけているらしい。
………まてよ。
寝ぼけているどころか、僕はまだ寝ているんじゃないか?
夢から覚めたと思ったら、そこはまた夢だった。
そんな話を聞いたことがある。
………僕はどうやって、自分の部屋から出たんだ?
ドアノブを確かに回した。
その後、顔を洗って……
一人で、どうやって?
ついさっきもそうだ。
どうやって冷蔵庫から卵を取り出した?
腕を、手を、使っていた気がする。
僕は、本来なら腕があるべき部位を睨む。
いや、あった。
ある筈がないものが、そこにあった。
いやいや、ある筈がない筈がない。
そうだ、今迄は全部夢だ。
僕は腕を失ってなんかいない。
そんなの、普通じゃない。
それに、そうだ、どうして僕は腕を失ったんだ?
何処で、どうして?
思い出せない。
ほら、思い出せないなら、それは全部夢だ。
夢なんて、隅から隅まで覚えているわけがないからね。
そうだ、夢だ。
夢だから、全部嘘で、僕にはまだ腕があって、それで…………。
…なんてこと、信じ込めるわけがない。
僕の十七年と数ヶ月を全部嘘にすることなんて、出来ない。
僕は確かに、何らかの理由で腕を失った。
僕「あああぁぁぁぁぁ!!!」
腕を、腕を、腕を。
もう一人で自分の部屋から出ることすら出来ない。
そうだ、僕が生きている限り、僕は誰かに迷惑をかけ続けるのだ。

友人「それは肯定出来ないな。
この夜に、何故あんな状態の彼女がお前の部屋に入って来れたのか?
それは、君の部屋の扉が開けっ放しになっていたからだ。
君が誰の力も借りずに、自分で部屋を出るために、そうだろ?」
いつの間にかそこにいた友人が、錯乱状態の僕を宥めるように、ゆっくりとした口調で語りかける。
僕「それは、確かにそうだけれど、でも………」
そこで、おかしなことに気がつく。
僕「待った、彼女って誰?」
友人「はは、食いついたな。
…お前の腕に関する問題は、ちと難しいからな。
一生かけて、じっくり考えればいいだろう。
今はこっちの方が重要だ」
友人「ここは、お前が薄々感づいている通り、現実の世界ではない。
かといって、ただの夢や妄想かと言うと、そうでもない。
まあ、そうだと言えばそうなるんだが、そこの話は長くなるので、今回はこの世界のことを、彼女の世界と定義することにする」
友人「彼女の世界は、彼女本人の記憶や精神の影響を強く受ける。
お前が彼女のことを忘れていたり、お前の腕が元通りになっているのは、恐らく彼女がそうなって欲しいと願っているからだろう」
友人「彼女もお前と同じで、随分献身的な性格をしているようだな。
流石に腕を預けられた時には、どうしようかと思った。
あの時は、お前が受け取ってくれなくて良かったよ」
友人「で、現在はそのあまりに献身的な性格が仇となって、彼女は様々な負の要素を一人で背負い込んでしまっている、と」
友人「まあ、長々と話してしまったが、取り敢えず彼女の部屋……じゃ駄目か、ややこしいな…お前の部屋の隣の空き部屋に行ってみるといい。
そこに行けば、彼女のことを思い出せるだろう。
所詮願いは願いだ。
現実の事象には勝てやしない。
まあ、ここはそもそも現実ではないんだが」
喋り疲れたのか、彼はふう、とため息をつく。
友人「そうだ、これを持って行くといい」
彼は腕時計を僕に差し出す。
受け取って文字盤を見てみると、何故か1から12ではなく、1から10の数字が、円を取り囲むように並んでいた。
長くて黒い針が一本、9を指していて、短くて赤いはりが、1と2を行ったり来たりしていた。
友人「その、悪いが、腕時計型しか調達出来なかったんだ」
彼がなんのことを言っているのか、少しの間理解できなかった。
理解出来なかったことが、答えとも言えるだろう。
僕「君の話が、あんまり長いもんだから、その間に吹っ切れちゃったよ。
それに、今はこっちの方が重要、なんでしょ?
この時計について教えてよ、ただの時計じゃなさそうだけど」
友人「……そうかい」
友人「何にだって終わりがある。
この彼女の世界にだって、そのうち終わりが来る。
この時計は、この世界の終わりまで、どのくらいの時間が残っているのかを知らせてくれる時計だ。
黒い針が残り時間、赤い方は、今お前が取ろうとしている行動を実際に行うと、どのくらい時間を消費するかを指している」
友人「まあ、時間を無駄に使って、何も出来ないままこの世界が終わったとしても、またここに来ればいい。
手遅れにならない限り、ここには戻ってこられるだろう」
友人「まあ、兎に角空き部屋に行くといい」
友人「それじゃ、頑張っておいで」
そう言い残して、彼は去って行った。
彼が去った後に、
友人「それにしても、彼女は凄いな。
まだ、お前の家に来て、二、三日だろう?
ここまで、正確に再現出来ているとはな…」
どこからか、そんな声が聞こえた。
わざとらしいにも程がある。
何かのヒントだろうか?
僕は

*1 空き部屋へと向かう 時間消費 -1
*2 彼女とやらが、三日間住む程度では入れそうにない場所を探す 時間消費 -2
現在 9/10

1

すいません、アンカー出し忘れました。
>>109~112でお願いします。

何だこの楽しさは…!
分岐のシナリオが既に用意されてるなら終わった後にでもサラッとで良いからあらすじ教えて欲しいな。

>>114
こんなに大量の分岐があるのに、全部書いてたら死ぬw
全部行き当たりばったりで、スレの反応見てから書いてるので、俺もこの話しがどう転がっていくのかさっぱりわかりません
まあ、大筋みたいなものはあるんだけど
その通りにならないことを願う

楽しんでくれてるなら、何より

それじゃ、書いてくる

彼に言われた通り、素直に空き部屋へと向かうことにした。
それにしても、あんな部屋に何があるというのか?
彼女とやらに関係があるんだろうけど。

まさか、その彼女本人がそこに居るとは思わなかった。
女の子「あら、遅かったわね」
ドアを開けた途端、もう懐かしいとすら感じられる声が耳に突き刺さった。
聞こえた、や、入った、ではなく、突き刺さった。
まるで、僕の頭の中に、彼女という存在がそのまま入ってくるような、そんな感覚。
そうだ、完全に思い出した。
あの日、突然落ちて来て、泣いて、笑って、話して、同じ家に住んで、一緒にご飯を食べて、ゲームをして、僕の部屋まで這いずって来た、あの彼女だ。
混乱だとか、驚きだとか、悲しみだとか、よくわからない感情がごちゃ混ぜになって、言葉という形で排出される。
僕「どうして」
僕「どうして、僕に君のことを忘れて欲しいだなんて、願ったりしたんだ!?」
忘れたくなんてなかったし、忘れてほしくもなかった。
確かに、彼女がいなければ、僕は腕を失わなかったかもしれない。
こうして彼女本人を前にして、彼女のことを思い出さなければ、きっと僕は、知りもしない彼女のことを憎んでいただろう。
けれど、僕は彼女が笑うのを見てしまった。
そして、それを思い出してしまった。
……僕が一番理不尽で、矛盾しているということはわかっている。
自分のエゴを押し通して、こうして彼女の世界に、土足で足を踏み入れたのに、僕は彼女のエゴを許そうとしない。
わかっている。
でも、わかっていてやめられる程、僕は完成された人間ではないし、そんなふうに完成したくもない。

…複雑で、熱量の高い僕に対して、彼女はいたって冷淡で、素っ気ない返事を返した。
女の子「知らないわよ、そんなの」
私に当たらないでよ、といった調子で、彼女が自分の説明をする。
女の子「私はあの子とそっくりかもしれないけれど、私はあくまであの子の一部分、それも端っこの方を少し千切ったみたいなものよ」
女の子「知りたければ、この世界そのものに聞くべきね。
きっと…」
彼女は部屋の突き当たりまで車椅子を進めると、コンコンコン、と控えめな音で壁をノックをする。
女の子「答えてくれるわよ。
あなた、相当好かれているもの。
あの子は素直じゃないから、わかりずらいかもしれないけれど」
ノックが返って来る代わりに、壁がズズズと地面に沈んで、ぽっかりと空間が空いた。
そこから先は真っ暗で、何もわからない。
女の子「ほら」
僕は何も言うことも、ある一つのこと以外を考えることもせずに、ただ、その穴へと入って行った。

暗闇を抜けると、そこは洞窟だった。
壁面に松明が金具で固定されていて、洞窟といえども、それなりに先を見通すことができる。
後ろを振り返ってみると、そこに彼女の部屋はなく、ただゴツゴツとした岩石の壁がそこから先を塞いでいた。
どうやら、先へ進むしかないらしい。
普段なら、パニック状態になっていてもいいくらいの状況だが、今は何が起ころうと、ピクリともしない自信があった。

特に分かれ道もなく、ひたすら石と松明があるだけの、単調な道を進む。
もう体感では三時間くらい歩きっぱなしなのだが、不思議と疲れはなかった。
腕時計を確認してみると、長い針は8を指していた。
赤くて短い方は常に10を指している。
流石に、一気に10も減ることはないだろうから、きっと歩くだけでは時間は減らないのだろう。
どうやら、まだまだ時間は残されているようだ。
そこからさらに暫く進むと、壁に白い糸のようなものがへばりついていた。
触ってみると、見た目に反して糸は岩のように硬い。
試しに、たまたま固定が甘かった松明を壁から取り外して、糸に火を当ててみると、糸がチリチリと音をたてて小さく燃えた。
糸を燃やした部分だけ、岩肌が露出する。
…これは、何かに使えるかもしれない。
僕は松明を持っていくことにした。

突然、行き止まりにぶつかった。
行き止まりの壁に松明を近づけて、近くで観察すると、どうやら細かいヒビが入っているようだ。
僕は手頃な大きさの石を拾って、壁から距離をとって、思いっきり石を投げつけた。
ガギャゲグダデズン。
どうも、言葉では説明出来そうもない轟音が鳴り響いて、壁が崩れる。
僕「ストライク」
壁の奥には、ひたすらに広い空間が広がっていた。
上方に小さな明かりが幾つも揺らめいていることから、上にも相当な広さがあることがわかる。
丁度、この広間の入り口辺りに、人の形をした糸の塊があったような気がしたが、とくに気にすることもなく、僕は広間の中を進んだ。
丁度中程まで進んだところで、何か、松明の明かりとは異質な赤い光が8つ、二列に並んでいることに気がついた。
なんだろう?
光に誘われるように、近づいてみる。

ギシャー!!

そいつは巨大な上体を起こして、僕を威嚇する。
姿形は蜘蛛そのものだったが、大きさがおかしい。
ゆうに、この空間の三分の一はこいつが占めているんじゃないかと思うくらいの、馬鹿げた巨体だ。
けれど、不思議と恐怖心は湧いて来なかった。
僕「僕が会いたかったのは、お前じゃないんだけどな」
蜘蛛のくせに人間の言葉を理解できるのか、そいつはさらに大きくシャーッ!と鳴いてみせた。
それが合図だった。
蜘蛛の口から、巨大な糸の塊が吐き出される。
巨大すぎるせいか、あまり速さは感じられなかった。
僕は、>>124~129

*自由安下
文章が繋がるように、自由に文字列を書き込んで下さい

自由安下の場合は、作者が独断と偏見で、複数のレスから一つを選び、物語に影響させます
何分捻くれた性格をしていますので、レスに対して捻った解釈をしてしまう場合も御座います
予めご了承下さい

火を近づけながら突破口を探す

僕は自分の足に付着した糸に、火を当てた。
熱い。
疲れは感じなくても、痛みや熱は感じるらしい。
熱い、痛い、わけがわからなくなる。
だが、わけがわからなくなっている場合ではない。
地面から足を思いっきり引き剥がす。
よし、抜けた!
と、思った時には、また糸に絡め取られた。
無我夢中で、足を炙る。
痛い、熱い。
逃げる。
糸が足を捕まえる。
頭を地面に打ち付ける。
痛い。
炙る。
熱い。
痛い。
痛い。
捕まる。
打つ。
痛い。
炙る。
焼く。
とける。
転ぶ。
痛い。
僕「うわああああぁぁぁぁぁああっっ!!」
ついに感覚が僕の頭の許容量を超えて、僕はわけがわからなくなった。
…どうやら、体が完全に地面に固定されてしまったようだ。
もう駄目だ。
僕はついに松明を放り投げた。
その松明が向かう先は、>>139

*1 僕がつまづいた何か 時間消費-2
*2 化け蜘蛛 時間消費-3

現在 6/10

蜘蛛に松明が当たったようだが、どうやらびくともしていないようだ。
ジュッという、おそらく松明が踏み消された音がした。
ついに、全ての抵抗手段を失った僕に、蜘蛛は執拗に糸を吐きかけた。
視界が完全に潰れる。

あれから、どれだけの時間がたっただろうか?
何故か、彼が言っていた彼女の世界の終わりとやらが、いつまでも訪れない。
そういえば、洞窟の中を歩いていた時には、全く時間が減っていなかったな。
何か行動を起こさなければ、時間が過ぎない仕組みなのだろうか?

そこからさらに時間がたった、はずだ。
時間の感覚というものが、なくなってきた。
当然だ。
朝も昼もない。
ただ、視界が黒く塗りつぶされているだけなのだから。
…そういえば、何故洞窟で蜘蛛なのだろうか?
彼女は、蜘蛛に対してなにか特別な思いを抱いているのだろうか?

もう、彼女への怒りや興味すら消え、僕はただ、何も考えることもせずに、ただただ時間が過ぎ去るのを待った。
ただただ、ずっと待ち続けた。

end

バッドエンドです

強制的に、>>137の選択肢2をプレイします

僕が放り投げてしまった松明は、どこへ行ってしまったのだろうか?
ついに、全ての抵抗手段失った僕に、蜘蛛が慎重ににじり寄ってくる。
彼女の世界で死んだら、現実の僕はどうなるのだろうか?
やっぱり、死ぬのだろうか?
ふつふつと、後悔が湧いてきた時、
?「あ、あっつ!
うわ、あ、熱いですってば、あうちっ!!」
聞きなれない声が、唐突に洞窟の中に響いた。
?「……おや?
ここは、どこでしょうか?」
?「ああ、ああ!
思い出しました、思い出しましたとも!
うっかりアレを落としてしまったところを、糸で、こう、しゅーっと………何でしたっけ?」
山高帽を被った、中年男性が緊張感の無い表情で、辛うじて首から上を動かせるだけの僕を覗き込む。
僕「いや、知りませんよ」
釣られて、僕の緊張感や絶望まで、何処かへ吹っ飛んで行ってしまった。

…どうやら、あの糸の塊の中身は本当に人間で、しかもまだ生きていたようだ。
正直不満だが、もうこの人に頼るしか、僕が生き残る道は無い。
何故かいつまでも僕の顔を覗き込んでいる、何一つわからないこの男に、僕は自分の生死を託す。
僕「あの、悪いんですけど、あの蜘蛛どうにかしてくださいませんか?
ちょっと、僕ではどうしようも無いみたいで」
?「私ではどうしようもあると?」
僕「ないんですか?」
?「あるんですよ、実は。
ただ、ちょっとその前に」
僕「?」
?「ちょっと、一服してもいいですかね?
あ、良ければあなたも、いかがです?」

男はところどころ焦げ跡が残っているスーツの胸ポケットから、『ココアシガレット』と書かれた紙製の小さな箱を取り出した。
何と無く、この人のキャラクターが掴めてきた気がする。
?「さあさあ、どうぞ」
僕「あ、どうも」
男が僕の口にココアシガレットを差し込む。
小さいころは、駄菓子屋でしょっちゅう買ってたっけな。
懐かしい味が、口の中に広がる。
…ふと、疑問に思ったことがあって、僕はココアシガレットを中指と人差し指の間に挟んだ男に尋ねる。
僕「そういえば、どうしてあの蜘蛛はこの隙に襲ってこないんでしょうね?」
?「ふふん、私に怯えているのでしょう。
私も昔は、蜘蛛叩きの名人だなんて通り名で、近所の子供達によく知られていました」
僕「その蜘蛛叩きの名人さんが、どうしてさっきまで蜘蛛に捕まっていたので?」
?「名人だったのは、昔の話しです。
ですが…」
ガリっと、男は奥歯でココアシガレットを噛み砕いた。
?「今から復帰というのも、悪くはないでしょう。
松明、借りてもいいですかね?」
僕「もともと、僕のものじゃないんで」
?「それでは、遠慮なく」
男は、僕の視界から外れると、
?「おおっと、慎重に、慎重に……
あぶっ!?燃える燃えるぅ!!」
何やら何かを燃やしているようだった。
再び、男は僕の前を通り過ぎ、蜘蛛の方へと向かう。
男は手に、端が焦げた新聞紙を、丸めて手に持っているようだった。
……まさか、あの化け物を本当に叩くつもりじゃ………。
………
…………ぺちん。
………薄っぺらい音が、洞窟の中で反響する。
……………どうやら、そのまさかだったようだ。
男は悠々とした足取りで、僕の前に三度戻ってくると、自慢げに、丸めた新聞紙を見せつけた。
?「ふははははっ!
これでもう安心です。
今日から私の事は、蜘蛛叩きの鉄人と読んで頂きたい!!」
どういうわけか、新聞紙にはあの化け物蜘蛛にそっくりの、いや、恐らくあの蜘蛛そのものが、どこにでもいるような小蜘蛛のサイズになって、新聞紙にべったりとへばりついていた。
もう、なんの感想も生まれてこない。

その時、誰かに背中を引っ張られたような気がして、僕の意識は何処かへ連れ去られていく。

………………
……………
…………
……


私はあいつがこわい。
カサカサカサカサ、六本の足で動くあいつがこわい。
あいつにかまれると、どくで死んじゃうし、あいつが出す糸はダイヤモンドよりも固いって言ってた。
きっとあの子が言ったんだから、本当にそうだ。
だから、私はあいつがこわい。
ぴょんと、あいつが跳ねる。
私「っや!」
こわいあいつがだんだん近づいてくる。
こわい、こわい、こわい。
少しづつ私も下がるけれど、もうすぐにかべにぶつかってしまう。
こわいあいつがもっと近づいてくる。
私「っ!いやっ!!」
もうだめだ。
おいつめられた。
それでも私は、こわくて後ろに下がる。
…そしたら、ふにゅっとした。
やわらかいかべだ。
パパ「おやおや、どうしたんですか?
何かこわいものでも?」
パパの声だ。
少し、安心する。
私「こわい!くも、こわいの!」
たすけて。
パパ「おやおや、これはこれは。
…ようし!それならこのくも叩きの名人におまかせあれ!
……と、その前に」
パパ「いっしょにイップク、どうです?」
パパは、スーツのポッケから、いつもの甘いたばこを取り出す。
私「それはあとでもらう。
……はやく、あいつたおして!」
パパ「しかたありませんね。
…それでは、とくとごらんあれ!
ひっさつ!しんぶんし!!」
パシンとくもをつぶすパパはかっこよかった。
とうぜんだ。
パパは私のヒーローだから。
私のヒーローがかっこいいのは、あたりまえなのだ!
パパのヤマタカボーがふわりとおちた。


……
…………
……………


パパ「もしもーし」
パパ?「ああ、一体どうしてしまったのだろう!? だれか、救急車をっ!
ああ、だめだ、だれもいないんでしたね」
目を開けると、落ちた筈の山高帽子は、その男の頭の上にちゃんと乗ったままだった。
?「おや、良かった。目が覚めたようですね」
まだ、状況が飲み込めていない。
僕は、夢を見ていたのだろうか?
夢の中で?
おかしな話しだ。
どうにも、ただの夢ではないような気がする。
僕は、あの瞬間、確かに幼い頃の彼女そのもので、この山高帽子の男は、その父親だった。
彼女の世界は、彼女本人の記憶や精神の影響を強く受ける。
僕の友人を名乗る彼は、確かにそう言っていた。
あれは、もしかすると、彼女の記憶そのものだったのではないか?
?「いやあ、安心しましたよ。
突然気を失なわれてしまった時は、どうしたものかと、いやはや。
あ、そうだ、この糸をどうにかしないといけませんね。
これでは、あなたが動けません。
…しかし」
僕「あの、ところで」
?「あ、はい、なんでごさいましょ」
どう口にするべきか、いろいろと言葉を照らし合わせてみたが、結局のところ単刀直入な聞き方になってしまう。
僕「あなたは、彼女の父親なんですか?」
彼は山高帽子を深く被り直し、うつむきながら呟いた。
?「もう、昔の話です」
それ以上何かを聞くのは、やめにしておいた。

彼女と始めて出会った日、正確には、彼女にどうして飛び降りをしたのか、理由を聞こうとした時、具体的なことは一つも答えてくれなかったが、直接的には決して口にしなかったものの、家族への恨みを、彼女の言動や表情から感じとることが出来た。
あの目つきは、そういうお年頃だから、だとか、そんな無責任な言葉で片付けてよいものではない。
少なくとも、僕にはそう感じられた。
…ところが、さっきの幼い頃の彼女の記憶や、彼と実際に会話をしてみて、少しずつ垣間見えてきた彼の人格から考えても、自分の娘に恨まれるようなことをする人間だとは思えない。
……まだ、彼や彼女について、詳しく知る必要がある。
僕は、この男と暫く行動を共にすることを決意した。

>>141について

実際には存在しない選択肢をプレイしてしまったようです。
申し訳ない。
>>137に選択肢3 人の形をした何か 時間消費-2 を付け加えてプレイしたということで、ご容赦下さい。
現在 4/10

彼に頼んで糸を焼いてもらい、僕達は蜘蛛が邪魔をしていて通れなかった洞窟の先へと進んだ。
?「痛かったり、しませんか?
良ければ私があなたを背負わせて頂いても…」
僕「結構です」
彼は、何かと僕のことを気にかけてくれる。
特に僕にまとわりついた糸を払うため、僕のことを松明で焼いてからは、鬱陶しく感じるほどに。
自分だって、不慮の事故とはいえ、僕に火傷を負わされているのに、そもそも、僕と彼は赤の他人もいいところなのに、なぜそこまで献身的になれる?
善人。
そうとしか彼を表現できそうになかった。
それが、なんとも、気持ち悪い。
善人であっていい筈がない。
人を、それも自分の娘を自殺へと追い込むような人間が、善人であっていい筈がない。
?「無理はしないで下さいね。
大変な怪我を負われているようですから。
辛くなったら言って下さいね。
私は医者でもなんでもありませんが、きっとなんとかしてみせますよ」
だったら、自分をなんとかしてからにしろ。
つい、そんな言葉が口からでかかる。
そのくらいに、彼の様子も酷いのだ。
だのに、彼は苦しそうな顔一つせず、紳士的な笑顔のまま、真っ直ぐ道を歩く。
その笑顔の下には、何が隠されているのだろう?
…なんとか、化けの皮を剥がせないものか。
僕「あの…ええっと」
そういえば、彼のことはなんと呼べばいいのだろう?
?「ああそうそう、私のことは、そうですね、山高紳士とでも呼んでいただけると…」
こちらの意図を嗅ぎ取ったのか、それともたまたまタイミングが良かったのか、なんとも判別できない口ぶりだ。
山高紳士「…嬉しいのですけれど」
彼がおどけた仕草で、帽子を脱ぎながらお辞儀をした。
露わになった、髪には、意外なほど多く白いものが交じっていた。
僕「それでは、山高……紳士、さん?」
自分を紳士と呼ばせるとは、普通の男がやれば、傲慢だったり、偽善的だったり、悪い印象をもたせるのだろうが、山高紳士の場合は、何故かそれがしっくりとはまっていた。
山高紳士「いえ、山高紳士さんではなく、山高紳士です。
…あはは、すいません、一度やってみたかったんですよね、このくだり」
人の良さそうな笑顔に、ついつい僕もつられて笑ってしまう。
僕「それでは、山高紳士?」
?「はい、なんでございましょ」
彼の内側を覗き込んでみたい。
いつの間にか、それは純粋な興味へと変わっていた。
僕「 >>158

*1 どうして、僕について来てくれたんです? 時間消費 -2
*2 あなたが一番大切にしているものって、なんです? 時間消費 -1

現在4/10

1

僕「どうして、僕について来てくれたんですか?」
…糸から抜け出した後、僕は彼に頼んだのだった。

~大蜘蛛がいた空洞にて~
僕「彼女…いえ、あなたの娘の真意を、僕は知りたいのです。
しかし、また今回のようなことがあっては、僕一人では先へ進めないかもしれない。
あなたがいると、心強い。
…無理にとは言いません。
きっと、危険な目にも合う筈です。
僕には、この世界のことは、まださっぱりわからないけれど。
…僕の助けに、なってくださいませんか?」
白々しいのにも、程がある。
しかし、決して嘘はついていない。
ただ、そこにもう一つ目的が隠されているだけで、決して、何一つ嘘はついていない。
…そんなことをする自分が、なにか得体のしれない、ドロドロに溶けた醜い怪奇生物のように思えてきて、僕は山高紳士に気づかれないよう、小さく身震いした。

~現在~
彼は二つ返事で僕について来てくれた。
普通ではない。
赤の他人たった一人のために、恐らく命をかけてまで、こんな旅に同行するなんて、普通の人間ができていいことではない。
やはり、彼は善人だ。
気持ちが悪いくらいに。
また、同様に、気持ちが悪いと感じてしまう自分に対しても、気持ちが悪かった。

…山高紳士は、僕の質問になかなか返事を返さない。
暫く歩いた後、
山高紳士「……そうですね、どうしてあなたとこうして同行しているのか。
ズバリ、とは言えませんが……うーん、なんと言ったらいいのやら」
山高紳士「あ、そうだ」
僕「?」
山高紳士「突然ですが、私がこの人生で一番大切にしてきたものって、なんだと思います?」
小さい頃の彼女の記憶と、現在の彼女の言葉と表情を照らし合わせる。
前者のみで考えるなら、答えは家族となるだろう。
しかし、後者のことを考えると、家族以外のなにかでないとおかしい。
ところが彼は、
山高紳士「これは、ズバリと言えます。
家族です」
淀みなく言い切った。
この世で一番自信に溢れた二つの眼球が、僕に向けられる。
山高紳士「こんなことを言うと、大抵の方は、笑いながら自然体を装って去っていくのでしょうけれどね。
きっと、あなたは違うでしょう」
僕だけではない筈だ。
いや、何人たりともこのらんらんと輝く瞳からは、逃れることが出来ないだろう。
山高紳士「おや、話しがそれてしまいました。
それでですね、なぜ私があなたのお供をさせて頂いているのかというと、」
山高紳士「先ほど言った通り、私が何より大切にしてきたものは、家族です。
ことは、単純な話です。
あの子は…私の娘はもちろん」
僕「あなたの家族?」
山高紳士「そうです、その通り、ピンポンです。
それでですね、今は向こうの世界で、あなたがたがあの子の家族をしている。
これに関しては、本当に申し訳ない。
…おっと、また話しが逸れてしまいそうですね。
結論を言いましょう」

山高紳士「あなたがたは、もちろん…」
これを言ってしまって、本当に良いのだろうか?
僕「あなたの………家族」
家族の家族は、つまり家族?
とんでもない理論だ。
山高紳士「ピンポンパンポン!
その通ぉりいぃぃ!!
つまり、あなたがたも、私が人生で一番大切にしてきた人達なのです。
そんな大切な人達の頼みを、聞けないわけがないでしょう!」
やはり、この男はイカれている。
善人だというのに。
山高紳士「あ、でも」
まだあるのか。
正直に言うと、自分で聞いておいて少しうんざりしてきている。
山高紳士「実は…下心も………あるんですよ…ぐふふ」
!?
山高紳士がぐふふふふと、さっきまでの紳士ぶりをかなぐり捨てたかのような、気味の悪い笑みを浮かべる。
急激にあの日のステージでの出来事がフラッシュバックする。
あの文化祭があった日、僕は、ステージの上で……スカートを…………。
駄目だ、それ以上思い出すな!
あいつらの鼻息を脳内で再生するんじゃない!
そっちか、そっちなのか!?
こいつもそっちなのかっ!!?
山高紳士「まあまあ、そんなに怖い顔をしなくても。
…私も知りたいんですよ、娘の真意ってやつを」
………………。
それきり彼は、沈黙してしまった。

歩きながら僕は考える。
山高紳士は、一体なんなんだろう。
家族思いのただの善人なのか。
現実での彼女の口ぶりが、そう結論づけるのを躊躇わせていた。
小さい頃の彼女の記憶と、現在の彼女の言葉と表情をもう一度照らし合わせる。
それに付け加えて、山高紳士の気になる発言も、それぞれピックアップしてみる。
私も昔は……もう、昔の話しです……私が人生で一番大切にしてきたのは………。
彼の発言には、過去を指し示すものが多かった。
前者なら………家族…。
後者なら………それ以外…。
…ここで、僕は一つの仮説を打ち出す。
彼は、山高紳士は、彼女の記憶の中にいる、小さい頃の彼女の父親の再現なのではないかと。
しかも、彼は現在の彼女の様子を知っている。
完全に過去の存在では無いということだ。
山高紳士「おや?」
僕は一旦思考を休めて、山高紳士が指差す方へ目を向ける。
洞窟の先が、二手に別れていた。
山高紳士「よくある展開、ですね。
あの子が好きだったアニメにも、こんなシーンが登場していました。
この探検隊のリーダーは、あなたです。
さあ、どうします?」
>>165

*1 二人でどちらかの別れ道を行く
*2 二人で別々の道を行く

*1の時間消費は、-2
*2の時間消費は、-1でお願いします。

現在 2/10

ここは1で
ところで蜘蛛の足の数は6じゃなくて8じゃないか?

>>165
じゃあ、間をとって7で
………すいません、ミスです、はい

時間消費に関しては、基本的には0になったとしても、一旦調査が中止されるだけで、前回中止した場面から、また再回することができます
…基本的には

気にせず消費しまくっちゃって大丈夫です
ただ、そのぶん結末は遠のきます

って事は消費しまくった方が、長く楽しめてお得って事ですね?


ごめん

>>169
君はもう一度、一つ上のレスの6行目、それも三点リーダーの点と点の間辺りを良く読み直そうか

…いえ、ね、冗談です

呆れる程長い話しになると思われますので、長引かせる場合、ご利用は計画的に

僕「それでは、そうですね、左へ行きましょう」
そしてまた、僕たちは気が遠くなる程に道を歩く。

洞窟の先にようやく、松明のものとは異質な光が見えてきた。
自然と僕たちは足が早くなってしまって、最後には二人揃ってかけ出してしまっていた。
山高紳士は特に、はやる気持ちを抑えきれないといった様子だった。
それはそうだろう。
一体彼はどれほどの間、あの蜘蛛によって洞窟の中に閉じ込められていたのだろうか?
洞窟の外に出て、まず真っ先に視界に飛び込んできたのは、ギラリと夜の街を照らす、騒々しいネオンの明かりだった。
薄暗闇に慣れていた僕らの目には、少し眩し過ぎる。
目を閉じて、視界情報をシャットアウトした。
夜だというのに、なんでこんなに眩しいのだろう?
山高紳士が呟く。
山高紳士「ああ、この街は」
何か知っているような口ぶりに、僕は思わず薄目を開ける。
僕「何か覚えが?」
山高紳士「いえね、あの子が…うちの娘が、映画を見た帰りに迷子になってしまいまして、それで、その時の街の風景そのまんまなんですよね、これ」

……ピピピピッ!…ピピピピッ!
突然辺りに甲高い電子音が鳴り響く。
腕時計を覗き込むと、長い針が一周して12を指していた。
……ピピピピッ!!…ピピピピッ!!!
少しずつ電子音の音量が上がっていく。
僕は音に飲み込まれ、意識を手放した。

………………
……………
…………
………


ピピピピッ!ピピピピッ!
……うるさい。
必ず毎朝鳴るように設定しておいた目覚まし時計を止めようと、僕は腕を伸ばす。
ここで、ようやく気がつく。
あ、そうだ、腕無いんだった。

母親「だ~めっ。今日は私がするの」
女の子「…でも、いろいろして貰ってばっかりだから、何かお礼を」
母親「そんなこと言って、うちの子を攫っていくつもりでしょ?
私知ってるもの、男はまず胃袋から惚れるって」
女の子「そ、そういうんじゃなくって、ちがくって!」
母親「ふふーん、その慌てっぷり……怪しいなぁ~。
ねーえ?」
母親がちょんっと僕の肩を軽く突く。
僕「?」
母親「私に、食べさせて貰いたいのよ、ね?」
女の子「わ、私だって!
……わ、わ、私の方が、一回やってるから、上手に出来る……筈」
母親「ねえ」
母親と女の子「「どっちがいい?」」
一体何の言い争いをしているのかというと、他でも無いこの僕に誰が朝食を食べさせるのかという、僕としては非常に回答に困る難問についてだった。
正直な気持ち、母親よりも彼女に食べさせて貰いたい。
別に、前回のような珍妙なプレイを繰り返したいというわけではないけれど。
しかし、ここで母親を選ばなければ、母親が拗ねて後々面倒なことになる……。
やはり、ここは……!
僕「父さん!」
父親「いいだろう、こっちに来い」
…食卓の空気が固まった。
まあ、修羅場を迎えるよりは遥かにマシだろう。

父親「あーん」
僕「お願いしますから、そんな渋い声でそんなことを言わないで下さい。
気色悪い」
父親「…おい、今の、もう一度言ってみろ」
目が蘭々と輝いている。
駄目だ、この人、男でもいける口だった。
今更ながら、父親に食事を頼んだことを後悔し始める。
女の子「どうしてこうなった?」
母親「さあ?」
半分放心状態の二人は、虚ろな目で食事を口に運んでいた。
…その時僕の視界の隅に、小さくて黒い生き物が入り込む。
僕「あ、クモ」
あの夢(?)でのことを、突然鮮明に思い出した。
つい、身構えてしまう。
女の子「っい!?」
しまった。
そういえば、彼女は蜘蛛が怖いんだったな。
なぜわざわざ口に出してしまったのだろう?
女の子「………や?」
女の子「あれ、怖くない…むしろ、ちょっと可愛い……かも」
きっと誰にも聞こえてないつもりだったのだろうが、独り言にしては大きい音量であった。
母親「あら、どうしたの?」
放心状態から立ち直った母親が、何やら彼女の異変に気がつく。
女の子「いや、その……こほん。
クモって気持ち悪くって苦手だったんだけれど、何故か今見ると、あまり悪い気はしない、というかなんというか」
彼女は手の甲に蜘蛛を乗せたりなんかしてしまっている。
……トドメを刺したのは、山高紳士だったけれど、結果的に僕があそこにいたから、あの化け蜘蛛を倒せたわけで……。
僕は子供っぽいとはわかっていながらも、心の中で小さくガッツポーズをした。

父親「行ってくる」
母親「行ってらっしゃい」
いつも通りのやり取りの後、父親は自分が設立した会社に出勤する。
株式会社guelnila。
父親の会社だ。

この家にあるものの殆どには、guelnila社が何かしら関係している。
僕が着けている義手や、彼女の車椅子だって、guelnilaの子会社が制作したものだし、歯ブラシやテレビ、さらにはソーラーパネルまで、guelnila社が関わってきた商品は数しれない。
そんな中、一体本社の方では何を作っているのかというと、今僕が恨めしそうに睨んでいるペンなんかがそうだ。

僕が腕を失ってから、僕はまだ一度も学校へ登校していない。
彼女も同様だ。
一応は、出席停止という扱いになっているけれど、腕を持たない僕が学校へ行ったところで、何も得るものは無いどころか人の迷惑になるだけなのは目に見えてわかる。
もう、あそこに行くことは無いのだろう。
………………。
…………………………………。
……………………………………………………………………………………………………………………。
………。
暇だ!
学校に行かないことで、膨大な暇が生み出されてしまった!
何か、脚だけでも出来るような内職でも探してみようか?
……あるのか、そんなもの?
急に将来が心配になってきた。
内職すら出来ない僕は、どうやって生きていけばいいのだろう?
一生彼女や両親の世話になり続けるのだろうか?
……………ああ、駄目だ。
暇だといろいろなことを考え過ぎてしまう。
三点リーダーの多さがその駄目さを見事に物語っている。
ああ、そうだ、こんな時には……。
僕は、>>178>>179

*自由安下

ああ、しまった、更新し忘れてました

自由安下>>180>>182

筋トレ

足か口で絵や文字を書く練習

昔、テレビ番組か何かで、口や足を使って絵を描く画家が紹介されていた気がする。
…流石に、絵なんて複雑なものは描けやしないだろうけれど、もしかしたら、文字ぐらいなら……。
まあ、取り敢えずやってみようか。
こうして、ただ睨んでいるだけよりは、遥かにマシだろう。
僕はペンを口に咥え、あの日以来からずっと開きっぱなしのノートにペン先を触れさせた。

僕「ふぐ……ふいふい」
なかなか難しい。
なんとか自分で読める程度には書けるようになったものの、流石に手で書くようにはいかない。
まるでミミズがのまうちまわっているかのような文字列が乱造される。
…どうしたもんか。
ペンを咥えたまま、しばし考え込む。
………………。
………………。
…………………。
しばし考え込むこと、数十分。
コンコン、と、開けっ放しのドアが控えめにノックされた。
律儀だなぁ。
開いてるんだから、そのまま入ってくればいいのに。
女の子「あの、さ」
僕「?」
女の子「おばさんから、アイス貰っちゃったんだけど、食べても、いいのかな?」
随分下手くそなお誘いだ。
僕「いいんじゃない?」
僕「ただし、僕にも一本分けること」
女の子「……うん」
僕は一旦思考を放棄して、休憩をとることにした。

女の子「はいっ、て、これじゃ駄目か」
彼女がパ○コを半分に割って、僕にそのまま手渡そうとしたが、それじゃあ僕では食べられないということに気がついて、慌てて手を引っ込める。
彼女は細い指でパキっと飲み口の部分を開け、僕の口のところまで持っていく。
女の子「私が持ってるから、食べて」
……なんか、違うな。
パ○コって、そうやって食べるものじゃない気がする。
こうやって分けて食べる時は、誰かが損をするような食べ方ではなく、あくまで平等に、二人同時に食べるべき……だと思う。
まあ実は、誰かと分けて食べたのなんて始めてなんだけれど。
僕「持ってなくていいよ。
取り敢えず、口に咥えさせてくれたら、食べられると思うから。
それに、こういうのって、一緒に食べてこそだと思う」
女の子「…………」
ズブッ!
僕「へぶっ!」
…なぜだ?
怨念がかった勢いで、思いっきりアイスを口の中におし込められた。
彼女は、そっぽを向いて、しゃくしゃくやり始めている。
少しいつもよりも耳が赤いような気がしたが、気のせいだろう。
負けじと僕も、口だけでしゃくしゃくした。
やってみると、結構難しいものだ。
バランスを崩して、アイスを零しそうになる。
その度に口全体の力加減を変えて、バランスを取り戻す。
…そうだ………そんな感じ。
…なんとか完食し終えた。
最初こそ彼女の力を借りたものの、自分の力で食べきったんだという、変な満足感が、僕のお腹と心を満たした。

自室に戻って、もう一度ノートと向き合って見る。
歯の間にペンを挟んで、そーっと紙にペン先をつける。
………よし、いける。
さっきのアイスの一件がいい経験になったのか、今までよりもずっとしっかりとした字を書くことが出来た。

ひとしきり、いろいろな事を書いてみた。
今日の彼女の様子とか、昨日の夢のような何かのこととか。
……今更だけれど、やっぱりアレはただの夢だったのではないかと、彼女の世界での事を逐一思い出しながら、脳内議論を進める。
今朝の蜘蛛のことはたまたまの偶然で、僕は自分の夢の中で、勝手に四苦八苦していただけなんじゃないのか?
確かなことは、何一つ無い。

何か、極僅かでも構わない。
ただ、証拠が欲しかった。
僕は確かに、彼女の為に何かをしているという証拠が。

確かめる方法は簡単だ。
彼女に聞けばいい。
貴方の父親は、山高帽子を被っていましたか?と。
でも、確かめた後は大変だ。
彼女の家族は、彼女の自殺未遂の原因。
それについて尋ねるのは、危険な気がした。
彼女の部屋の扉の前で、今にも不恰好なノックをしようとする義手を止める。
そうだ、今日のところはやめよう。
また明日、聞くかどうかを考えればいい。
僕は、彼女の部屋の前から、立ち去…
僕「へゔっ!!」
バアーンという大きな音と共に、すごい勢いで彼女の部屋の扉が内側から開かれた。
当然、その扉の前に立っていた僕は、只事ではすまない。
そのまま衝撃で吹き飛ばされ、廊下の壁に背中を打ち付けた。
女の子どころか、人間の力だとは思えない怪力だ。
頭の打ち所が悪かったのか、そのままスローモーションで、世界が反転したり逆転したり、流転したり流動したりして、僕は意識を保てなくなった。
完全に意識を手放す直前に、耳元で彼女の言葉をやけにはっきりと聞き取った。
女の子「あいつさえいなければ」

…………………………………………。
白い。
何もかもが白い。
少し前に似たような光景を見たような気がして、ようやく気がつく。
また、あの夢か。
友人「それじゃあ俺は三番でっ、と」
カタカタカタカタ。
彼は、おしゃれな丸テーブルに置いたノートパソコンのキーを、何やらカタカタと叩いていた。
タンっ。
僕「何をしているんだい?」
友人「たまにはこういうのも必要だろう?
そうだ、それにしても今日は眠るのが随分と早いな。
まだ五時にもなってないぞ?」
パソコンに向かっていた顔を起こして、彼は心配そうな表情を僕に向ける。
僕「ちょいと、気絶を少々」
友人「少々なんかじゃ、ここには来れない筈だ」
僕「じゃあ、気絶を中々」
友人「何があった?」
僕「さあ、わけがわからないよ。
彼女の部屋の前に立っていたら、物凄い勢いで扉が開いて、僕は吹き飛ばされて気を失ってしまった。
とても女の子一人の力だとは思えなかったんだけれど、一体彼女はどうしてしまったんだい?」
友人「人間には、というか殆どの動物には、自分の能力を百パーセント発揮させない為のリミッターのような物が存在している…らしいよ。
それで、たまにふとした拍子でそのリミッターが外れてしまうことがある…らしい。
ほら、火事場の馬鹿力なんてよく言うだろう? 一番わかりやすいのがあれだ。
つまり、今、彼女は火事場の真っ只中に立たされているというわけさ」
友人「そしてお前には、彼女と一緒にその火事場の中に立つ権利がある。
どうだい、今日もやっていくかい?」
僕「もちろん」
友人「…聞いておいてなんだけれど、無理はするなよ。
疲れたら休めばいい」
僕「彼女は休もうにも休めないんでしょう?」
友人「はあ、全く。
恐れ入るよ。
どうしてそこまで彼女に対して献身的になれるんだい?」
僕「病室の中で、唯一笑ってくれたのが彼女だったから、かな。
あの時から僕は、彼女と同じ場所に立っていたくて仕方がないんだ」
山高紳士のことを、もう気持ち悪いと言えなくなってしまったかもしれない。
僕「それに、これは献身なんかじゃないさ。
僕がやりたいからやってる、僕のエゴだ。
…って、前の時にも言ったっけ?」
暫く考え込んだようなポーズをとって、彼はようやくこっちに向き直った。
結局、心配そうな表情は変わらないまま、
友人「ふうん、そうかい」
と、いつも通りのようでいて、そうではない台詞を彼は返した。
友人「引き止めて悪かった。
でも、無理だけは絶対にするなよ」
僕「わかった」
友人「それじゃ、前回の時の最後の場面を思い返してくれ。
お前をそこに飛ばす」
目を瞑ると、あの矢鱈に眩しい夜の街と、山高紳士の声が浮かぶ。
いえね、あの子が…うちの娘が、映画を見た帰りに迷子になってしまいまして、それで、その時の街の風景そのまんまなんですよね、これ

コンコン。
彼が地面を足でノックする。
あれには一体どういった意味があるのだろう?
友人「それじゃ」
友人「頑張っておいで」
彼の足下から、世界の色が変わっていく。
そうとしか表現しようのない何かが起きた。
僕はその変化に飲みこまれ、意識の在り処をそこに移していく。

最近放置気味でスマヌ
いろいろあったけど、大体具体的な大筋が出来上がって来たから、取り敢えず完結は出来ると思う
安心して待っててくださいな

あ、もしコメントが邪魔だったら、お手数ですがNGにでもぶち込んどいて下さい

それでは、そろそろ始めます

山高紳士「おや、来ましたね」
矢鱈ネオンが煩い夜の街をバックに、山高紳士がひょろりと棒立ちしていた。
僕「お久しぶり、ってほどでもないか。
ずっとここで待ってたんですか?」
山高紳士ならやりかねない。
山高紳士「いいえ、ここでまた生まれたというか、なんというか。
なんと表現すればいいんでしょうかね?
貴方なくしては、この世界はありえないんですよ。
…ふふ、愛ですね」
僕「なにを言っているのか、さっぱり…」
山高紳士「そのうちわかりますよ。
そうだ、それもあの子に聞けばいいじゃないですか。
さあ、いい加減そろそろ探しに行ってあげましょう」
僕「迷い子、ですか」
山高紳士が街の方へ向き直って呟く。
山高紳士「きっとあの時と同じ場所であの子が迷い子になっている筈です。
この街に辿り着いたということは、きっとそうでしょう。
場所は私が知っています。
さあ、行きましょう」

山高紳士「ああれ? おかしいな」
僕らは、真ん中に大きな時計塔が建っている小綺麗な広場で、途方に暮れていた。
山高紳士によると、この場所で迷い子になった彼女を見つけたのだそうだが、どうにも彼女が見当たらない。
山高紳士「確かに、ここだったんですけどね」
突然、誰かに背中を引っ張られたような気がして、僕の意識は何処かへ連れ去られていく。

………………
……………
…………
……


あれ?
ここ、どこ?
さっきまで私はどこにいたの?
大っきな時計を見て、私はなっとくする。
ここには来たことがある!
前は短い方のハリが7と8の真ん中ぐらいにあった。
今度はどうだろう?
私はでっかい時計を見上げた。
これなら全部読める!
ええと、短いのが8と9のあいだくらいで、長いのが4のところにあるから…。
…5×4…うん、8時20分だ。
ママ「あんた、どこにいたのさ?」
ママの声だ!
後ろからママのうでにぎゅっとされる。
ママ「ほんと…しんぱい……させるなよ…ばかぁ」
ママ、泣いてる?
私「…ごめんなさい」
ママが泣いてると、私も泣いてしまう。
二人で泣いてたら、パパが来た。
パパ「おやおや、こまった子たちですね。
少しおそくなってしまいましたが、泣き止んだらお夕はんにしましょう」
ママ「ぐすっ……あたし、ショーリュー軒の夏げんていの塩のやつが食べたい」
私「ぐすん……私はたつまきがせんぷうきしてるやつ食べたい」
パパ「それじゃあ、決まりですね。
あ、ほら、ハンカチ使ってください」


……
…………
……………


山高紳士「おーい、大丈夫ですか?」
最近気を失うことが多い僕です。
気を失っている最中に気を失うところまで来てしまいました。
山高紳士「何か、遠い目をしてましたけれど、何かあったんですか?」
僕「いえ、何でも………なくないかもしれない」
>>201

*1 時計塔を確認する 時間消費-1
*2 ショーリュー軒とやらに案内してもらう 時間消費-3

現在時間 10/10

1!

もしやと思い、彼女のように時計塔を見上げてみる。
…19:45。
やっぱりだ!
僕「山高紳士、どうにもここには彼女はいないと思いますよ」
山高紳士が首を傾げる。
僕「何故それがわかったのかは、上手く説明できませんが」
幼い頃の彼女の追体験をしたなどと言っても、現実味が無い。
僕「この時間には、彼女はここ以外の場所に居た筈なんです。
ほら、時計塔が指している時間を見て下さい」
自分で調べて納得してもらうのが、一番早いだろう。
やはり山高紳士は、彼女と再会を果たした時間を律儀に覚えていたようで、あっ、と声を挙げて頭を抱える。
山高紳士「ええ、確かに。
あの子をここで見つけはしましたが、見つけたのはこの時間ではありませんでした。
はて、困りましたね」
僕「ここで待ってみます?」
再度時計塔を確認すると、19:45を指したまま、針は全く動いていなかった。
会話の間に、一分くらいはたっていてもいいと思ったのだが。
相変わらず、この世界の時間の流れかたは良くわからない。
山高紳士「あの、すいません……ええ、そうです。
そんな感じの女の子を見ませんでしたか?
………ああ、そうですか、いえ、どうも有り難う御座いました」
山高紳士は、いつの間にか広場にいた、暑そうな制服を着た恐らく学生であろう男子生徒に、彼女の特徴を伝えて聞き込みをしていた。

そういえば、この街で僕ら以外に始めて人間を見た気がする。
…いや、おかしい。
なぜ、こんなにも人が溢れかえっているんだ?
さっきまで誰もいなかった筈の広場には、それどころかこの街は、何処の誰ともわからない人間たちで溢れかえっていた。
今まで僕が気がつかなかったのか、それとも突然湧いたように彼らが表れたのか?
何れにせよ気味の悪いことだった。
山高紳士が言い訳をするかのように、僕に行動の理由を説明する。
山高紳士「いえ、ね、あの時もこうして人に聞いて回ったんです。
ちょうどこれを始めたのは今くらいの時間なんです。
もしかしたら、あの日の行動を順に追っていけば、彼女に辿り着けるやもしれません」
成る程。
こうして突然人が表れたのも、山高紳士が聞き込みを始めたからなのかもしれない。
聞き込みをしなければ、エキストラがいる必要も無い。
ここは、彼女の記憶を元にした世界だ。
必要が無かったものは、覚えてすらいないというのは、人間としてごく当たり前のように思える。
…ここで、一つの違和感に気がつく。
ここは、彼女の記憶を元にした世界の筈だ。
それなら、なぜこの場には彼女がいないのに、彼女には山高紳士が聞き込みをしたという記憶がある?
…後から、山高紳士が彼女に、自分が人に尋ねて彼女を見つけたと、口にでもしたのだろうか?
確かに、それならあり得なくもないかもしれない。
しかし、それにしても、鮮明過ぎやしないか?
エキストラ達は、カップルでベンチに座って談笑する者、スケートボードに乗り、フードを深く被った者、鳥の糞を頭につけ、糞が糞がと連呼する者、
色々な人々が、クッキリと特徴付られてそれぞれ思い思いの行動をとっているように見えた。
…ある結論に思い至ったが、今はそれについて考えるべきではないだろう。
時計塔をもう一度確認すると、今度は2分進んで19:47になっていた。
山高紳士の言う通り、ここは行動を一つづつ順に追っていくべきかもしれない。
僕の方からも、エキストラ達への聞き込みを始めた。

広場にいる人々に、片っ端から思いつく限りの彼女の特徴を伝え、彼女を見なかったかと聞く。
しかし、まともに使えそうな情報は一つも手に入らなかった。
山高紳士も、相変わらず闇雲に人に聞き回っているようだが、何かが進展する様子は無い。
時計を確認すると、やはり19:47のまま、一分も進んでいる様子は無かった。
…何か、何かをしなければならない筈だ。
きっと、ただ人に聞くだけじゃ駄目なのだろう。
山高紳士に、彼女が迷い子になった日について、もっと詳しく聞くべきだろうか?
山高紳士を探していると、エキストラ達の中、明らかに存在感が違う人物の存在に気がついた。
その女性は、山高紳士に次第に近づいていき、そしてその前で口を開く。
女性「…あんたの方はどう?」
そして突然、抽象的な問いを山高紳士に吹っかけた。
山高紳士「駄目ですね。
あの子の居場所を知っている人どころか、あの子を見たという人すらいないようです」
お互い面識があるようなやり取りをしている。
そこで、ようやく気がつく。
あの女性はエキストラなんかじゃない。
彼女が迷い子になった時の記憶の中に出てきた、彼女の母親だ。
彼母「そろそろ違う場所に移りましょう?
ここでいくら人に聞いたって、埒があかないわ」
山高紳士「それもそうですね」
二人は僕になんの説明もせぬまま、広場を抜け出す。
…不自然だ。
山高紳士にとっては、僕と彼女の母親は初対面だということになる。
何らかの紹介があっても良いはずだ。
しかしそれどころか、二人はどんどん先へと進んで行ってしまう。
まるで、僕なんて最初からそこにいなかったかのように。
僕は慌てて彼らを追いかけた。

が、ここで空気を読まず敬遠

二人は道行く人々に、彼女について尋ねながら、言葉を頼りに少しずつ進んでいく。
僕は、ただそれを後ろから見ていることしか出来なかった。
山高紳士にも声をかけたのだ。
かけたのだが、返事は無かった。
ちょっとした悪戯心と多大なイラつきで、山高帽子の淵を掴んで引っ張ってもみたのだが、何故か淵に触れることすら出来なかった。
僕がいなくなった途端に、調査は捗りだしたようで、二人は迷いなく進み続けて、薄暗い路地裏にまでさしかかった。
……迷子になった子供が、見知らぬ夜の街で、果たしてこんなところに入り込もうとするものなのだろうか?
僕「ねえ、ちょっと?」
山高紳士に声をかけてみたが、当然のごとく反応が無い。
困ったな、これじゃ何かを伝えたくても何も伝えられない。
「その通り」
友人「お前は彼ら二人、どころかこの世界自体に干渉することが出来なくなってしまった。
まあ、それがどういうことかは、身を持って分かっているだろう?」
僕が彼らに何かをしても反応が返ってこない、いや、恐らくは、僕が何かをしたと彼らに認識されないことを言っているのだろう。
どうやら、友人の言い分によると、彼女の両親以外の全てにも、僕は何かをすることが出来なくなってしまったらしい。
僕「ああ、うん。
何となく理解してはいる。
じゃあ、わからないことを聞こう。
どうしてこうなった?」
友人「俺にわかるとでも?」
僕「わかるから出てきたんじゃないの?」
友人「…まあ、そうなんだけどね」
友人「お前はきっと、一度は疑問を持っただろう。
彼女から聞いているよりも、彼女の両親はずっとまともな……まともなのか?…まあ、いいか、まともな人間だということにだ。
ここは彼女の世界。
つまり彼女がこの世界の全てでこの世界はかの…」
僕「君が出てくると、随分会話文が長くなってしまうね」
友人「はいはい、わかりましたよ。
簡潔に言う。
…あの二人は彼女が作り出した幻想だ。
本当の彼女の両親はあんな人間じゃない。
ただし、あくまで君から見れば、だけれどね。
ここは彼女の世界。
彼女にとっては、幻想にも現実にも大した違いはないってことさ。
それで、だ。
ここからが本題。
今の彼女は幻想に大変満足してしまっている。
両親が自分のために自分を必死で探そうとしてくれている。
そりゃ、まあ、憧れのシチュエーションだろうね。
そして、そのシチュエーションに酔いしれる彼女にとって君は」
友人「邪魔者でしかない」

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom