セイバー「問おう、貴女が私のマスターか?」禁書目録「え?」 (1000)

このSSはfate×禁書のクロス作品です
内容設定的にすり合わせでとんでもな部分が多々あります
ドご都合主義なども見られると思いますので、ご容赦ください
それでは、よろしくお願いいたします



「問おう、貴女が私のマスターか?」

割れたベランダのガラス、その向こうに立つ魔槍の騎士と私を隔たるように立つ少女。
夜の濡れたような闇を貫く凛と響いたその言葉。
私はきっと特殊な記憶能力なんかなくても。
例え記憶を失ったとしても。
この声と、目の前にいる少女を忘れないだろう。
―――そんな風に思った。


時を遡ること12時間前

「まったく! とうまは勝手だよ! また一人でどっか行っちゃうなんて!」

とうまと私の暮らす部屋で、猫のスフィンクスを抱きながら消えた同居人に憤慨していた。
消えた、と言うのは同居人の悪癖の一つで問題事に自動的に首を突っ込みに行ったことだ。

「しかも私に内緒でさ……まったく!」

頬を膨らませて、消えた同居人を睨んだ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1340350566(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)

「とうまはいつもいつも勝手なんだよ! もうっ!」

頬を膨らませていても何も解決することはない。
置いて行かれたのは彼なりの私への愛であることはしっかり理解している。

「………………」

……やっぱりは愛は訂正。恥ずかしいから優しさにしておこう。
だけどもやっぱり不満はある、だって彼はいくら幾度の事件を解決していても素人である事実は消せないのだから。
でも、彼が私の為に頑張っているのもまた事実には違いなかった。
それを考えると頬をゆっくり熱くなって来るのだけど。

「だめ、やっぱり駄目だよ……とうまは素人なんだから」

今からでも追いかけようか、でもどうやって?

「…………お腹が空いたんだよ」

考えることはお腹が空く。
それが無力である自分の逃避であることは解っていても、逃げるしか出来ないのかも知れない。
彼が、とうまが私の為に戦っているのに、私は逃げている。
それは私の戦いだ、なんて割り切れるほど私は大人じゃなかった。
もとはるが昨日私の家に来てとうまに何か話していたのは知っていた。
それが何に繋がるかは薄っすら解っていたけれど、それを止めることは出来なかった。
その間、私は隣の部屋でまいかと漫然と遊んでいるだけ。
守られたくないのに、ずっと私は守られるだけ。

「ふぅうう……お腹いっぱいなんだよ!」

とうまが残して行ってくれたお金で、苦手だけど出前を頼んで心行くまで食べた私はゴロンとその場に転がってみた。
普段よりずっと広く高い天井を見つめながら、夕日に陰る部屋をゆっくり追っていく。
一人でいることに苦痛はない。
だけど、二人だったのが一人になるのはとても苦しい。

「とうまー」

無意味にいない同居人の名前を呼んでも帰ってくるものはなくて。
ただ、空しく響いていくだけだった。
そして、その空しい寂しさのままいつしか私は眠りについていた。

「…………ん?」

目が覚めたとき、既に部屋は真っ暗で、周囲からも喧騒は消えていた。
時計は見えないけれどもうかなりの夜で、随分と寝てしまっていたらしい。

「ふわぁ…………夜かぁ」

あくび一つで身体を起こして、寝汗かいた身体をどうしようか迷っていたとき。

「……なに、この感じ?」

背骨に走る冷や水。
言葉で表すならそんな感覚。
そして、しっかり表現するならば危機的状況の接近!
それを裏付けるように壁が抜かれ崩れたのと、私が横に転がるのは同時だった。

「くっ!!」

ガラガラと飛んでくる瓦礫に少々身体を痛めながら、一目散に玄関に走ろうとして―――。

「出来れば動かねぇでくれるかな、嬢ちゃん」

冷や水なんてもんじゃない。
沸騰しそうな液体窒素を背骨に感じた。

酷く原始的に部屋に入り込んできたのは、背の高い、どこか豹じみたしなやかな男性らしかった。
まだ闇に慣れていない目ではあるけれど、周囲の明りで薄っすらとその姿は見て取れた。
青、ないし紺、もしくは黒であろうボディースーツの各所に防御の為の金属をつけている、動きやすさ重視のその服装。
そして、まるで軽く肩にかけている赤い、間違いようもなく紅い槍。
それらを身に纏っているその獣臭い精悍な顔をした男性。
今まで私が相対して来たそのどれよりも獰猛で―――。

―――強い。

ただ立っているだけでそれを解らされてしまった。
つまりそれは逃げられないということだった。
必死に頭の中を探っても、一秒に満たない先の未来で私が殺されるのは明白だった。

「…………とう、ま」

震える声で、いない彼に助けを求めてしまう。
普段なら絶対に彼に助けなんか求めない、私が助けてやると思っているのに。
結局私は彼に守られるだけの存在でしかなかったのかも知れない。
そう思うとこんな状況なのに涙が溢れてしまう。
死の恐怖を上回る情けない自分。
そしてここで死んでしまうと、彼は自分を責めるだろう。
弱い私のせいで彼が苦しんでしまう。
そんなことは、そんなことは、そんなことは―――。
―――出来ない。
私は、目に一杯の涙を浮かべて顔をあげた。
目線を合わせるだけ死ねそうな男を睨んだ。

「あ、あなたは誰なの!? なに勝手に私の家に入ってきてるんだよ!!」

状況が解らない、けど十中八九私の頭の中の原典狙いだろう。
だとしたらそこに付け入る隙があるハズ。
原典が狙いなら直ぐに殺されることはない、つまりそれだけチャンスがあるんだ。
そこを、そのか細いチャンスを掴むしかない。
いつもそうやって戦ってきた彼のように!

「ん、ん~、誰ってもなぁ、聞かれてはいそうですかって答える訳にもいかねーんだよ、立場上、悪いな」

男は面倒臭そうに頭をかいて、こちらの質問に言葉を返してきた。
名乗ってくれたら何よりだったけど、問答無用に殺されなかっただけ重畳。
さっきの言葉から彼を探る―――。
―――言語は?
日本語―――。
訛りは?
無し―――。
―――声質は?
20代、26歳、ないし27歳―――。
―――性格は?
律儀、とまではいかなくても一定のルールを重んじている―――。
―――雇い主は?
間違いなくいる―――。
―――雇い主との関係は?
そこまで良好じゃない―――。
他にも他にも他にも他にも――――――。
思いつけることをどんどんあげて行く。
そこに活路があるハズだから。

思考を一瞬の内に何十回何百回も巡らせながら、綱渡りの慎重さをそのまま口を開く。

「あなたの、目的は、何?」

「ん? 何って、まぁこの糞みてぇな聖杯戦争に勝つことだってよ」

聖杯戦争?
彼の言葉に含まれたその単語には聞き覚えがあった。
この日本でかつて行われていた聖杯を巡る戦争。
しかし、それは……。

「う、嘘だよ! だって冬木の聖杯は壊されてもう起動しないハズなんだよ!」

そうなのだ、冬木の霊地で行われていた驚天動地の聖杯を巡る魔術師合戦は五回目の終了と共に二度と行われないように、そのシステム自体を壊されたハズなのだ。
その際には結構なゴタゴタがあった為、一部ではかなり有名な事件とされていたので私の中にも重要情報として刻まれていた。
それなのに聖杯戦争とはどういうことなのかと男を見やるが。

「冬木? 冬木、冬木…………何だっけなぁ、冬木って」

槍を担いだ彼は、首をひねって何かを思い出そうとしているようだった。
冬木の地名に聞き覚えがあったのか、その単語を何回も繰り返して頭を悩ませている紅い槍の騎士。
………………紅い槍の騎士?

「え?」

一つの事実に一気に全ての記憶事実資料が回転していく。
関連する全ての項目が一気に開かれ開かれ開かれ回って廻る。
冬木。聖杯戦争。第五次をもって解体。根源の渦への一時到達。ゼルレッチ翁の干渉。
遠坂の魔術師。英霊召還システム。参加英霊は7柱。内槍を持つクラスは一つ。紅い槍。
紅い槍。紅い槍。紅い槍。紅い槍。紅い槍―――――――――血色の魔槍!!!!

「く、く、く……」

「ん? どうした嬢ちゃん?」

驚愕、そして再びの恐怖に震え出した私にまるで異常なことに当たり前だからこそ以上に男は不思議そうに視線を送ってきた。
それだけで本当に死にそうになりながら、小さく息を吐くように言葉を漏らした。

「クー・フーリン………………」

私の言葉を聞いて、さっきまでそこに濃密に存在していか男の気配が一気に死んだ。
否。
男の気配、存在感、人知を超えた神域の空気が、肩にかけられた槍が発する洗練された死の気配に塗り替えられた。

「お前、何でそれを知っている?」

「ひっ…………!」

男、さっきまでとはまるで違う気配を出す彼はクー・フーリン。
アイルランドの光の御子と呼ばれた槍の名手。最大の戦士。
ケルト神話最強の英雄。
魔槍ゲイ・ボルグを担う英霊。
最後の聖杯戦争において現出したとされる英霊だった。

「もう一度だけ聞いてやる何故俺の名前を知っている」

その正に神話クラスそのものな男が私を文字通り射殺さんがかりの目で見つめてきていた。
恐怖にガタガタ震える足に力を込めようとしても、どこにいても殺されると解ってしまい上手く身体は働かない。
それでもどうにか活路を見出そうとするけれど、圧倒的なまでに暴力的な死の臭いに動けないでいた。

「まぁ、良い……ここで殺せば済む話だ、目覚める前にマスターを潰すってのはどうにも俺のやり方じゃないけどな」

男は槍を始めて構えた。
長い、紅い槍。ゲイ・ボルグ。
まさか神話クラスのものをこんな間近で拝めるとはと内心どこか感動していた。
この後に死ぬんだ、と解っていても感動はあった。
そして約束された様に私に向かって槍が突き出された。

「ぐぅっ!?!」

刺された、痛みが全身に波のように広がっていく。
私に刺さっている真っ赤な槍は、こと無げに突き出さしたクー・フーリンが持っていて、その彼は苦々しそうに私じゃない誰かを睨んでいた。

「何のつもりだ!? 痛み無く殺してやるつもりだったのに手元が狂ったじゃねぇか!!」

「く、う…………」

ギリギリ心臓を外れているおかげで即死はま逃れたけれど、死はどんどん這いよってくる。
薄れる視界で必死に彼が誰に向かって喋っているのかを確認しようと首を動かした先には。

「まー、悪いけどそいつを殺して貰っちゃ困るんだにゃー」

「もと、はる?」

隣人にしてとうまの友人の土御門元春その人が立っていた。
長身金髪アロハにサングラスの怪しい出で立ちそのままに。

「はぁ? 殺して貰っちゃ困るって何を―――ちっ!」

「インデックス! それを持ってサーヴァント召還を行え! お前なら出来る! お前でしか出来ない!」

もとはるが私に向かって何かを投げてきた。
布に包まれた随分と重たいそれを抱えながら、私は朦朧とする意識の中で記憶に刻まれている情報を読み込んでいく。

「ちっ! させるか!!」

「それはこっちのせり、ぐぼっ!?」

クー・フーリンが槍を引き抜いて再び私を刺そうとする。
抜かれる痛みで意識が飛びそうになったけれど、無理にでも脳みそを動かした。
もとはるが無謀にも英霊相手に素手で立ち向かったけど一秒に満たないで開けられた穴の向こうに吹き飛ばされたいった。
でも―――。
それだけの時間で十分だった。
私は手にずっしりくる渡されたそれを手にして、流れ出る血を触媒に英霊を召還した。
再び突き出された槍、それを遮るように一瞬の淡く青い光の後に彼女は現れた。
暴風のようなクー・フーリンの槍を容易くいなして、彼をベランダに引かせた。
彼女の存在感だけで、あのケルト神話の英雄を後退させた。
その事実に驚愕しながら、私は目の前の少女に目を奪われた。
いつの間にか刺された傷が癒えているのも、吹き飛ばされたもとはるのことも意識から吹き飛んでただ彼女に見ほれた。
室内を照らす人工の小さな光に身体を洗われながら彼女は、金糸の髪を小さく揺らして口を開いた。
物語は冒頭に戻り―――。
―――夜は今、始まった。

「問おう、貴女が私のマスターか?」

とりあえず今日はここまでで

ちょいテスト

魔翌力

ふらふら更新していきますから、何とかお付き合いお願いしますね








魔 力

パスが繋がってたら食事する必要は無いだろ

sagaを使わないのは>>1の拘りか何か?

魔力

>>18
セイバーさんの楽しみですから

>>19
サゲとは同居出来ないんですね

デブなドラえもんが魔力放出して蚊を殺した

ちょろっと書けたので投下します

「問おう、貴女が私のマスターか?」

割れたガラス、その向こうに立つ魔槍の騎士と私を隔てるように立つ少女。
夜の濡れたような闇を貫く凛と響いたその言葉。
私はきっと特殊な記憶能力なんかなくても。
記憶を失ったとしても。
この声と、目の前にいる少女を忘れないだろう。
―――そんな風に思った。
それくらい彼女の存在感は圧倒的で圧巻だった。

「ちっ、ここで召還とはな、しかもセイバーか……」

ベランダに退いた男、クー・フーリンは抜かりなく槍を構えたまま私の前に現れた少女を睨みつけ「セイバー」そう呼んだ。
あの男が恐れ退くほどの実力を彼女は秘めているのだろう。
それは私にも感じ取れたけれど、男ほどの凶暴な気配が無いためにどこか安心しきっていた。
私とそう年の変わらない見た目をした彼女から伝わる絶対的なまでの安心感。
それは強制力すら感じてしまう強い強い強い安心だった。

「ぁ、あの……」

「私の召還したのは貴女ですね? サーヴァント・セイバー貴女の呼びかけに応じて参上しました」

恐る恐る声をかけた私に、青い鎧を鳴らしながら振り向いた彼女はそう告げた。
サーヴァント・セイバー。
冬木の聖杯戦争において最優と呼ばれるサーヴァントのクラスだ。
私はそれを引き当てたらしい。
それがどれほどのことかとかはまだ全く解らない。
今の状況でさえ把握しきれていないのだから。
解るのはこの場を制しているのが彼女と言うことだけ。

「マスター…………ご指示を」

彼女は迷いの無い瞳で私を見つめると、剣を構えるような仕草をしながらベランダの男に振り向いた。

「っ!」

相対した男は明らかに警戒を露にして、私に向けた気配が子供だましに思えるような凶悪な殺気をぶつけ出して来た。
私は、おしっこが漏れ出すのを感じながらそこを動けずにただ見ていた。
槍を構えて、少女を見つめる男。
見えない剣を構える仕草をしながら、男に相対する少女。
篭められた濃密な気配に気を失いそうになった瞬間。

「はぁ?! おい、何の話だ!? 退けって、おい! てめぇ!」

男は憤慨したように声を荒らげていた。
多分だけど、通信系の魔術により指示を受けているようだった。

「はぁ? 命呪って…………くそっ!」

「何のつもりだランサー!」

一気に殺気を消した男に、今度は少女が憤慨して睨みつけていた。
男は、少しだけ名残惜しそうに少女を見やると。

「俺だってやり合いたかったっつの、じゃーなセイバー、俺と会うまで負けんなよっ」

「なっ!? 貴様! 逃げる気か!!!」

あれだけ濃密な気配を出していた男はあっけなくベランダからその身を空に投げ出した。
少女、セイバーは後を追うようにベランダに駆け出したけれど。

「くっ……逃げられたか」

どうやら追跡は不可能らしく、セイバーは口惜しそうに歯噛みしていた。

「マスター、ご無事ですか?」

そして思い出したように私に近寄ってきた。
私の記憶はそこまでだった、気が抜けて意識がふわっと何処かに抜けてしまったみたいだった。

「ふぅん、聖杯戦争なんだ、やっぱりこれは」

「ええ、私達はその名目で呼び出された英霊です」

軽く掃除をした部屋で、私とセイバーは向かい合って座っていた。
もとはるは壁に近くに立って、私とセイバーの動向見守っている。
汚れてしまったからパジャマに着替えた私は、セイバーから聞いた情報を整理していくことにした。

「もう一回聞くね? 面倒とらせてごめんね?」

「いえ、大丈夫です。むしろ情報の重要性を理解して頂けているようで安心しました」

そう応えた彼女は変わらず青い布に軽鎧が組み合わされたもので、この部屋には少々似つかわしくない気がする。
まぁ、そこはそんなに重要じゃないから私は無視をしておく。
もとはるが「にゃー、服が必要かにゃー」とか言っていたのは何だか不穏な臭いがしたのでそれも無視して会話を戻す。

「まずは、この学園都市では聖杯をめぐって魔術師同士の戦争が行われているんだよね?」

「はい、そうです。より正確には魔術師と、それに従うサーヴァントのでもありますが」

「うん、解った。それで、参加する魔術師は7人、それに従うサーヴァントも7人、だよね?」

「ええ、その通りです。セイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーの7種」

「ふんふん、それで貴女はセイバーに当たるんだよね?」

ゆっくりクドイくらいに私は確認していくけれど、セイバーは嫌な顔一つしないで応えてくれる。
敵に睨まれておしっこ漏らすような私にも一定の敬意を払ってくれているみたいで少し恥ずかしい。

「はい、私のクラスはセイバー、剣の英霊です」

「剣……てことはさっきのクー・フーリンはランサーに当たるのかな?」

「っ!」

私の言葉に、セイバーは目を見開いていた。

「ま、マスター、さっきのランサー、英霊の真名を看破したのですか!?」

「え? え? え?」

ガバッと身を乗り出してくるセイバー、綺麗な、とんでもなく整った顔を目の前に突きだされると同性でもドキドキしてしまう。
けど、何とか息を整えて、手を出して落ち着くように制して。

「か、看破ってほどじゃないよ……前情報があったから推測出来ただけだよ」

「ご謙遜を、我等英霊は真名の隠匿は最優先事項、それだというのに僅かな時間でそれを見破るとは……」

何だか、私に凄く感心してくれているようでどうにもこそばゆい。

「どうやら私は優秀なマスターに当たったようですね、この幸運身に余る想いです!」

「そ、そんなに持ち上げられても困るんだけど……」

だけど、悪い気はそんなにしない。
何だから頼られてるようでほっこりする。
しかし、真名の隠匿を最優先にする、それはつまり英霊であるが故の弱点なのだろう。
既に決定してしまっている英霊たちは、既に死んでいる。つまり死を与えた原因を刻まれているのだ。
それを上手く利用すれば、戦いは有利に進められるのだろう。
って、戦うって何を考えているのだろうか。
確かに私はこの少女に命を助けてもらったけれど、聖杯を巡る戦いに参加しようなんて気はないのだ。
私は現状に十分に満足している、わざわざ外部の力で叶えたい願いもない。
恩人の為に参加する、それも良いかも知れないけれどそれは私の周囲を危険に晒すことになるんだ。
悪いけれど……断ろう。そう決めた。

「あ、あのさ、セイバー、私ね―――」

切り出そうとしたとき、軽い電子音が響いた。
その音源の向きに首を向けると。

「悪いにゃー、ちょっと電話ぜよ……」

それはどうやた土御門の携帯電話の着信音らしく、彼は私達に軽く手を上げて見せるとそれを耳に当てた。
しばらく頷いたり、小さな声で相槌を打っていた。
私には関係ない話と断じて、再びセイバーに伝えようと目線を合わせたとき。

「なっ!? かみやんが行方不明? それは、マジなのか?」

「!!」

聞き流せない言葉が土御門から流れてきた。

「あぁ、うん、わかった………………ふぅ、悪かったな」

話し終えて、もとはるは携帯電話をポケットに仕舞い直した。
そして、私には何も言わずにまた壁に寄りかかって立つ。

「ねぇ…………とうまが行方不明、って?」

「………………」

説明なしに満足出来る訳もなく、もとはるを見つめ、ほとんど睨みながら質問をした。

「聞いた通りだにゃー、上やんは出先で事件に巻き込まれて……行方不明だ」

「っっ!!」

行方不明。
とうまの行方が不明。そのまんまだ。
つまり、とうまが危機的状況に陥っていると言う事だ。
心臓が早鐘を打ち、もとはるは申し訳なさそうに目を伏せ、セイバーは怪訝そうに私を見てきた。

今すぐ彼を助けに行きたい衝動に駆られた。
こんな訳の解らない戦争に参加しているんじゃなくて、少しでも何かの役に立ちたい。
彼を迎えに行きたい!

「も、もとはる! 私―――」

「行くな」

「え?」

断っ! と音がするようにくらい端的に切って落とされた否定の言葉。
最後まで言わせて貰うことも出来ずに、言葉を折られた。

「なん、で……?」

「何でも何もない、上やんはお前の為の戦いに行ってるんだよ……そこでお前が危険な目に合ってみろ」

―――それであいつがどれだけ苦しむと思う?
突きつけられた言葉。
それは深く私を抉って傷をつけた。

「っっ!!」

また、また私の為なのか。
誰かの為じゃなくて 私 の 為 に彼は傷つく世界に飛び込んで行ったらしい。
知らなかった。
知らなかったでは済まない気づけなかったこと。
彼はいつも私に気づかせずに私を救う。
私はいつも彼に気づけずに彼に救われる。
歪み切った一方的な共存関係。
仕方ないと割り切れる訳がない。
助けられるだけの、愛されるだけで満足出来るなら私は迷わない。
迷っているのはそこに満足出来ないからだ!
でも、どうしたら…………。

「マスター、先ほどから話が止まっていますが、どうしましたか?」

「え?」

悩み呻いていたら、一人かやの外状態だったセイバーが心配そうな顔をして見て来ていた。

「何か戦略上に不都合があるならそちらを優先しても問題はないです。戦は万全で向かってそれでやっとスタートですから」

声をかけられて、彼女の麗しいほどに美しい顔を見つめた。
目の前の美貌の少女、セイバー。
サーヴァント、人智を越えた英霊。
――――――。
そうだ!!

「ねぇ! セイバー! とうまを、とうまを助けてよ!」

「はい?」

また誰かに頼るのは苦しいけれど、私にどうにか出来ないなら。
私が無力感に震えてとうまが助かるなら。
そう思ってセイバーに事情を説明していく。
ぺらぺら必要のないことも、必死に必死に。
とうまがどんな人で、どれだけ私を守ってくれていて、どれだけ傷ついているか。
それらを身振り手振りで話した。

「申し訳ないのですが、それは了承できません」

「え?」

何を言ったか思い出せないくらい色々話しきって一息ついた私に、セイバーは真っ直ぐな瞳でそう告げてきた。

「な、なんで!? どうして!?」

「どうして、と言われてもマスター、今は聖杯戦争中なのです」

「っ! で、でも……!」

「落ち着いて下さい、私は別に聖杯戦争があるからトウマを助けられないと言っているのではありません」

興奮する私をセイバーは手で制する。
その目は理知的であり、怖いくらい公平の色を染めていた。
そんな目で見られてしまえば、私は黙るしかなく。
しゅんっと、下を向いてセイバーの言葉を待つ。

「私は聖杯のあるこの地から離れられないのです」

「え? …………あっ!!」

「わかっていただけましたか? マスター」

セイバーの端的な言葉、それを脳内で反響させて直ぐに思い至る。
聖杯戦争の情報、そしてサーヴァントの存在。存在の起因結因。
そう、サーヴァント、英霊の召還なんてとんでもないことを実現させているのは聖杯の力であって、それは聖杯の効力内での話しなのだ。
ここにセイバーがいること自体が奇跡であり、それを外部へとふらふら持ち出すことは出来ない。
私は興奮し過ぎてそんなことも忘れてしまっていた。

「そっか、そうだよね……ごめん、セイバー」

「いえ、私の方こそマスターの夫を助けにいけずに申し訳ないです」

「うん……………………うん?」

意気消沈していた私にどうにも理解しがたい言葉がかけられた。
おっと? おっと? オットット?
何だっけおっとって?
ん? おっと? あぁ夫か、うんうん。
随分遠回りな思考の末に私は答えに辿りついて。

「ち、ぁ、ちっ!」

「マスター?」

「ちっがぁぁぁぁあぁぁあぁああああああああああああう!!!!」

全力に全力をかけて私は反論を開始して。
色々なものを失った代わりに、セイバーもうろたえることがあるという事実を得た。

「はぁ……はぁ、わ、わかってくれた?」

「え、ええ、存分に……」

何とかセイバーに私ととうまの関係を説明しきって一息をつく。
もとはるが何だから必死に笑いを堪えているの軽く睨んでおく。
そして、改めてどうしようかと気持ちが沈みかけたときに、セイバーが口を開いた。

「マスター、一つよろしいですか?」

「うん、何?」

「その、トウマは魔術的概念を打ち消す存在自体が宝具のような存在と聞きましたが」

「うん、そうだけど……」

それがどうしたのかと思い浮かべる私に、セイバーは少し躊躇いがちに告げた。

「聖杯の力も打ち消すのでしょうか?」

「!!」

彼女の言いたいことを一気に理解した。
そうだ、私は今願望器を巡る戦争に身を投じてしまっているのだ。
何でも願いを叶える聖杯を手にする戦争に!!

「そっか……それがあったんだね、うん」

聖杯の力。それがあれば直接間接的でなくともとうまを救えるかも知れない。
やってみる価値はある。
さっきまで断ろうとしていたこの戦いに初めて意欲が湧いた。
自分でもとうまの為に何か出来るかも知れない。
何度も何度も頷いて何度も何度も考えていく。
聖杯戦争は確かに第五次をもって解体された。
しかし現在確かに学園都市では聖杯戦争が行われている。
それはサーヴァントの存在が確かに証明しているから。
つまり、この街のどこかには願望器たる聖杯があるのだ。
それを手にすることが出来れば―――!
私は人知れず手を握り締めて顔をあげた。
この聖杯戦争を勝ち抜くことを決めて。

「じゃあ話を戻すね? 英霊はそれぞれ願いを持っていて、その願いを叶える為に聖杯を狙うんだよね?」

改めて聖杯戦争の確認を再開する。
さっきまでの自分が巻き込まれた確認ではなくて、これより戦争を開始する為の状況確認を、である。

「…………えぇ、そうです。その利害の一致で我等はマスターに従っているのです」

「なるほど…………」

聞いた話、と言うかさっきのセイバー、ランサーを見て確信したけれど。
英霊は人間と比べて圧倒的に強い、多分かおりでも勝てないくらいには。
そんな存在がどうして自分より弱い魔術師に従うかと言うのは英霊は聖杯に願いを託しているのだ。
魔術師がそうであるように、英霊も叶えたい絶対の望みを持って戦いに挑んでいる。
つまり、セイバーにもそんな願いがあるのだろう……。

「? どうかしましたか? マスター」

「ううん、何でもないよ……」

私の視線に気づいた彼女、その真っ直ぐな目を少しだけ覗きこんだけれど、何が解るはずもなく首を振った。

「参加している魔術師は不明、イレギュラーな事態もあり得る、そして願いを聖杯、かぁ……」

内容の確認を終えて一息をつく。
思った以上にこの戦いが熾烈を極めることを再確認した。
人智を越えた英霊に、そのマスターたる魔術師たち。
それらを全て打破してやっとたどり着ける。
そう、願いを叶えられる。
それは大変大事なこと。
この戦争に勝ち抜くことが出来れば私の願いは叶う。
願い……私の願い。
とうまを助ける。
今彼がどうなっているかも解らない。
生きているのか…………死んでいるのか。
それでも、何もしないで待つなんて出来ない。

「あ、そーだ、命呪って何処にあるの? それが無いと私はマスターじゃなくなるんでしょ?」

「命呪、ですか……大体どちらかの腕に発現することが多いようですが」

「腕、腕かぁ……あっ! あったこれだね!」

パジャマの袖をまくって確認したら、右手の肘近くの微妙に見えにくい場所に刻印されていた。
何でこんなところに? と思ったけれど口にはしないで、そのどこか剣のような命呪を指先で撫でてみた。
いつの間にか現れていたそれは違和感もなく刻まれていて、いくら触っても何の感慨もなかった。
だけどこれが私の生命線なのだ。
命呪は、マスターがマスターたす証だけではなく。
サーヴァントを御するものであり、聖杯の魔力ブーストのトリガーでもある。
これがあれば一時的にサーヴァントを強化したり、遠く離れた場所から呼び寄せることも可能らしい。
その回数は三回。マスターとしての証を残すなら二回しか使えない訳だ。

「使うべき瞬間は考えなくちゃね……」

命呪を睨みながらそう呟いた。

「…………ねぇ、もとはる」

セイバーに周囲の巡回をお願いして、私は部屋にもとはるといた。
彼と少し話をしたかったからだ。

「なんぜよ?」

「聖杯戦争は解体されたんだよね?」

「そうぜよ」

真剣な私の言葉に彼は軽く答えを返す。
それに別に何も思わず私自身思考を巡らせる。
聖杯戦争。
冬木での聖杯戦争は確かに解体された。
聖杯は確かに珍しいけれど真贋あって世界各地に存在している。
それが学園都市にあったとしても不思議ではない。
だけど、聖杯戦争になれば別だ。
聖杯戦争は冬木の地で遠坂・マキリ・アインツベルンの三家が作り出した英知だ。
おいそれと再現できるものではないハズ。
なのになんでそれが。
そしてセイバーには話さなかったし、裏情報扱いだから極一部の人間しか知らない第五次聖杯戦争の召還サーヴァント。
私が知っているのは……。
ランサー『クー・フーリン』
バーサーカー『ヘラクレス』
そして……。

「セイバー、アーサー王…………」

彼女がそのセイバーなのだろうか?
ランサーは前回の聖杯戦争に召還されたランサーで間違いはないだろうけれど、同じ英霊が何度も召還されることはあり得るのだろうか?
その辺りについては詳しく知らないけれど、数ある英霊の中から同じ英霊が何度も選択されるのか?
何か作為的な不安が上ってきたけれど、今は目の前に戦いに専念するしかないと諦めて、私は溜息をついた。
戦いはまだ始まったばかりなのだから。

「ふわあ、おはよう……」

「おはようございますインデックス」

次の日の朝、私より先に目を覚ましていたセイバーに挨拶をする。
部屋には私とセイバーしかいないで、もとはるは私に貸してくれた召還の補助具という霊装を回収すると何処かに消えた。
彼も彼でとうまの為に情報を集めると言っていたので、そちらにも期待をする。
ちなみに、寝る前にセイバーとは話をして私を「マスター」ではなく「インデックス」と呼んで貰うようにお願いしてあった。

「セイバー、とうまのジャージで大丈夫だった?」

「えぇ、問題ありません、私の為にわざわざ用意していただきありがとうございました」

律儀に頭を下げるセイバーが着ているのはとうまのジャージだった。
彼女は鎧を脱ぐとその下に何も着ていないようだったので、それでは流石にまずいと思い、急遽用意したものだ。
身長的にちょっとぶかぶかだったけれどしょうがない。
まいかがいれば彼女に何か借りたのだけど、部屋に穴が開いてしまっていて、もとはる共々しばらく戻ってこないだろう。

「では、インデックス、いざ聖杯戦争を始めましょう」

「うん、でもその前に……」

「え?」

「ご飯食べなきゃ、もぐもぐ、だよね? んぐんぐ」

「そうでひゅね、もぐもぐ、ひょうろーは、もぐもぐ、戦の基本です」

もとはるが置いていってくれたカードを使って私とセイバーは朝の栄養補給を済ませた。
出前に来てくれた人が「あれ? 二人?」みたいな顔をしてたけど、何のことかは解らない。
食事を終えた私達は、昨夜のように向かい合って座り、今後の方針を決めることにした。

「とりあえず、私は昨日の聖杯戦争の情報を集めるだけ集めといたから、そこから決めていこうと思うんだよ!」

「私はマスターの指示に従いますよインデックス」

集めた、と言っても頭の中の情報を整理しただけなのであんまり偉そうには言えない。
だけど、セイバーはそんな私に関心をしてくれているようだった。

「まずは、何だけど……セイバー、セイバーの真名を教えて欲しいんだよ、それと戦法、得意な状況、苦手な状況とか」

「なるほど、確かに重要な部分ですね戦略を組む以上……しかし」

「しかし?」

私の考えに頷いたセイバーだったけれど、顔を曇らせて申し訳なさそうにこちらを見てきた。

「真名は秘匿にさせていただけないでしょうか?」

「ん~…………………………良いよ」

「良いのですか?」

こちらの答えに自分から言い出しておいてセイバーは驚愕しているようだった。

「うん、それが必要かも知れないからね、真名を隠すのは戦略上上等だし、私が漏らす心配もなくなるから」

「ありがとうございます、インデックス、不忠の私にお気遣いをして頂けるなんて」

「そんな、気にしないでよ……」

相変わらず律儀な彼女にちょっと困りながら話を続けていく。
それに、隠し事は私もしているのだからお相子だ。

「じゃあ、昼は探索、戦闘はなるべく夜にが良さそうだね」

「そうですね、特にこの学園都市は夜は人目につき難いですし、やり易いです」

セイバーの性質、戦闘技能、出来ること出来ないことを詰め合わせて、いくつかの戦場のピックアップなどを終わらせ一息ついた。
そこで私はふと思い出して。

「そうだ……これがあったんだっけ」

「インデックス?」

「ん、聖杯戦争のマスターにはサーヴァントのステータスを独自観念で認識出来るんだって、それをまだ開いてなかったんだよ」

脳内の情報から拾い上げ、意識を繋ぐ様に目じゃない目でセイバーを認識した。

クラス  『セイバー』
マスター 『インデックス』
真名   『不明』
属性   『秩序・善』
筋力 『C』
魔力 『C』
耐久 『B』
幸運 『B』
敏捷 『C』
宝具 『C』

「…………へぇ、便利」

彼女を認識し終えた私は被さる様に開いていた目じゃない目を閉じて、軽く呼吸を一つ。

「何か収穫はありましたか?」

「そこそこ、かな……昨日のランサーのと合わせてまだ二人だから、どれだけ作用するか解らないけど」

「情報あって困ることは少な、っ!!」

うんうんと頷いていたセイバーが急に立ち上がり、そして鎧を装着した。
それを見て私も直ぐにセイバーの背側に移動をする。

「セイバー……どうしたの?」

「サーヴァントの気配です……!」

「っ! …………え?」

昨日の今日で再びか、と身構えていると外から聞いたことある声が聞こえてきた。

「ちょろっとーー!! いるんでしょーー!! 出てきないってばーーー!!!」

セイバーの伺うような視線に頷いて、掃除したベランダに出て下を見るとそこには。

「あ、やっと出てきた……」

「た、短髪!? な、なにしてるのここは危ないから早くどっかいって欲しいかも!」

私が短髪と呼ぶ、この学園都市屈指の超能力者がそこにいてブンブンと手を振っていた。
サーヴァントが近づいていると言うのに暢気なその姿に呆れながら、追い払おうとして……気づいた。

「短髪…………それ、誰?」

「ん? あー、こいつ?」

彼女の隣に立つ長身で、白髪で肌の黒い赤套の青年。
その青年から出る異物感ある圧力に、目を見開き。

「こいつは私のサーヴァント…………ねぇ、出てきなさいよ、インデックス」

短髪は首につけたチョーカーのようなものを触りながら、私を睨んでいた。

とりあえず今日はここまでー!
ステータスについては、マスターが違うからと若干改変してあります
まぁ、原作のようにあんまり関係ないっちゃないんですけどねステータス

魔術回路が無い人間がなぜサーヴァントを使役できるか謎だけどこれからの設定に期待だわ

イレギュラーは出たりしますん?

>>48
そんなに深い設定はないですけど、理由付けくらいはします

>>49
今んとこは予定ないです

ここのは令呪じゃないん?

御坂の首にチョーカー?

とあるでチョーカーと言えば真っ先にアレを思い出すわけだが……
美琴+ミサカ×10000(=一方)の演算能力なんて洒落にならんぞw


イギリス清教は何をやってるんだ
自分たちの最終兵器がフラグメーカーの管理下から外れて危険な目に合ってるのにヤニ厨噛ませ犬すら派遣しないなんて……
っていつものことか

作者曰く「上条がいればとりあえず全員助かる」つまり、上条がいなかったら全員死ぬってことになる。・・・かなりまずいだろ

生前ならまだしも英霊状態なら神裂さんと似たようなものじゃないかな、宝具使われたら別だけど
インデックスって魔翌力どうだっけ

御坂がアーチャーとかぁ・・・・しかも敵対くさい?
絶対仲間と思ってたのに、何かすっげぇwktwするんだけど、壮大な物語になりげ

>>55
上条さんが英霊化したらどれくらい強いんだろ

つか相応しいクラスがない

>>51
oh
ありがとうございます

>>52
ファッションかも知れません

>>53
後手に回るのが組織だと私の8歳になる姪が言っていました

>>54
上条さん最強

>>55
神裂さん強いからなぁ……

>>56
長くはなるかも知れないですがお付き合いくだされば幸いです

>>58
ぼくのかんがえたさーう゛ぁんと系だと、当てはまらないのは大抵アサシンになっていましたね

投下します


「短髪、それで、何のようなのかな? 教えて欲しいかも」

降りてこなければ部屋ごと壊すと言わんばかりの眼で睨んできた短髪の前に私とセイバーはいた。
セイバーは一歩私の後ろにいて、いつでも迎撃出来るようにしていた。
それは私は短髪の異様な戦闘能力を教えてからであり、そしてその彼女がサーヴァントと一緒にいたからもである。
それにしても、超能力者である彼女が何故サーヴァントを従えているのだろうか?
それを不思議に思いながら、ギラギラと鈍い色を見せる彼女に相対した。
短髪の隣にいるサーヴァントだという赤い外套の男はセイバーを一瞥すると興味を失ったのかつまらなそうに立っているだけになった。
ここで戦闘する意思がないアピールなのかも知れない、だとしたら私もセイバーにあまり 「ごほっ! げほぉお!!」 え?

「げほっ! がっ、あ、おえぇええええ!!!!」

「た、短髪!? いきなりどうしたの!?」

私が思考をめぐらせていたら、短髪は急に身体を丸めてそして気持ち悪い色の液体を口から大量に撒き散らした。
その飛沫が私の方まで飛んできて、「ひっ」と呟き咄嗟に逃げてしまう。
短髪はそのまましばらく荒い息のまま口から液体をポタポタ垂らすと顔をあげた。

「っ!」

「わ、悪かったわね、ちょっと体調悪いのよ、今……」

短髪はそう言って、口についた液体を手で拭った。
そこに来て初めて彼女を私は正面から見た。
さっきまでは短髪がマスターということと、隣のサーヴァントに思考が流れていたから解らなかった彼女の異常を真正面から見つめることになった。

「短髪…………」

「……なによ」

相変わらず強い瞳で私を睨んでいるけど、その顔は蒼白を通り越して作り物みたいな色をしていて。
何回も噛んだせいなのか、血が滲んでいくつも瘡蓋の出来た唇。
いつも綺麗に手入れされていたのにボサボサの髪。
爪を噛んでしまうのかボロボロになっている指先。
そして今にも倒れそうなフラフラの身体。
その中で異様に光る瞳。
どう考えても普通じゃない。
明らかなまでの異常な状態だった。

「だい、じょうぶなの?」

「大丈夫に見えるわけ?」

短髪は首につけている、チョーカーを指を掻くように、どちらかと言うと首を掻く仕草をしながら睨んできた。
チョーカーは一見して何の変哲もないものだけど、左側の一部が円形に少しだけ盛り上がっていてそこに小さな穴が開いていた。
そのチョーカーを短髪はイライラしているようで、足を小刻みに揺らしながら指で弄る。
どうしてだか不安にしかならない仕草を私の前でずっとしている彼女。
しばらくの沈黙の後に。

「マスター、用件は良いのか? だとしたら敵の顔を把握したとしてそろそろ撤退が無難だと思うのだが?」

ざっきからずっと微動だにせずに立ち尽くしていた赤套のサーヴァントが口を開いた。
腕を組んだまま、片目だけを開いて、私達を―――敵。と言った。

「て、敵って……そこの赤いの! 私は敵じゃな―――」

「敵よ」

「え? た、んぱつ? 何言って」

否定する言葉を強く否定する言葉。
短髪の、血が、汁が流れる口から発せられた拒絶の言葉。

「敵よ、あんたは私の敵よ、そうでしょ?」

「そう、って、なんで―――」

「これは聖杯戦争だ、自分以外は全て敵、それくらいの状況把握は出来ていると踏んだのだがな」

「っ」

会話に割り込むように短髪のサーヴァントが、私を見下ろし見下し鼻で笑った。
どこか好きになれないその態度にちょっとムッとしてしまう。
だけど、今は噛み付くよりも短髪のついてが大切と思って、改めて彼女を見る。
睨む目にだけ力が入っていて、それ以外の身体の部位には生きる力が感じられないその異様。
どうしてこんな姿に、と痛ましさに唇を噛んだときにふと気がついた。
―――彼女は超能力者のはず。
そして、超能力者は魔術は使えない。
より正確には、発動させると身体が両極の負荷に耐え切れずに崩壊しだすのだ。
異能者、その最たる学園都市最高位のLevel5がマスターという一番の異常に、私はやっと気がついてしまった。
短髪の身体の異常――――――。
それはつまり。
自分の身体の破壊をしながらも、彼女は聖杯戦争に参加しているのだ。

「な、なんで…………」

「は?」

「なんで、そんな身体になってまでこんなことやってるの!!?」

ボロボロの身体、使えない魔術をどんな方法でか知らないけど無理矢理使ってまで聖杯戦争に参加している彼女を私は非難した。
心の底から非難をした。
彼女のその姿が、私が遠くで見るしかなかった彼の姿に重なって見えたから。
他人の為に自分の傷を省みない彼の姿に見えて仕方がなかったから。
だけど、私の叫びは彼女の瞳を更に強く光らせるだけでしかなかった。

「何でって……じゃあ、何であんたは参加してんのよ? あんたの願いは何よ?」

「なにって…………」

私の願いはとうまを見つける、助けること。
そうなのだけど、今の不安定な彼女にとうまが行方不明であることを言って良いのか迷う。
彼女は私と同じでとうまを支えにしているから。
理由は解らないけど、ここまでボロボロの彼女にそれ以上のダメージは与えられない。
そう判断して、彼女の強い瞳を避けるようになるべく明るく口を開いた。

「あ、あ、えっと、ほら、ご飯沢山食べたいなー…………なんて」

冗談めかして、少しでも短髪が笑ってくれるかな、なんて期待しながらの言葉だったのだけど。

「へぇ………………」

短髪は小さく吐息だけのような言葉を呟いて、さっきまで忙しなくチョーカーに触れていた指を自分のスカートのポケットに向けた。
私の少し後ろでセイバーの鎧がカチャリと小さく音を立てて、短髪の隣のサーヴァントが両目を開いてつまらなそうに息を吐いた。

「マスター、今日は顔見せだけじゃなかったのか?」

「それ、変更よアーチャー…………」

「ふむ…………して、変更内容は?」

短髪は、ポケットから取り出した一軒してタバコみたいな細い棒をチョーカーの膨らみに押し当てた。
そして「しゅこん」と軽い音がすると同時に、彼女は「ぐっ!」と呻き、身体を折った。
だけど、そこまでになっても強い瞳を変えずに、彼女はアーチャーと呼んだ己のサーヴァントに命じる。

「こいつらを、あがぁああ!! ここで、ここでリタイアさせるわ!!」

「承知した…………投影開始(トレース・オン)」

胃液を吐きながら命ずる彼女に、サーヴァントは忠実に応える。
彼の呟きに合わせて、その両手には一対の双剣が握られた、主の命を果たす為に。
そして、その主は歯を食いしばり、そこから血を流し、全身の細胞の痛みに耐えながた血走った目で眼前の敵―――私達を見つめていた。

「あんたは、あんたはぁああああ!!!」

彼女の叫びは、既に人のものではなく。
見知ったはずの彼女の顔に、見知らぬ表情が上書きされ、私は無意識に一歩下がっていた。
何が彼女をそこまでさせているのか、それを知らぬ私には追いすがる恐怖に足を震わせるしか出来ない。
彼女は、なぜ聖杯を求めるのは、それは私の知らない決意――――――。
ここで、私の物語から一旦彼女、短髪、御坂美琴の物語に移し変えてみよう。
私の知らない彼女の物語へ――――――。

「理事長ね…………その理事長のが何のようなのかしら」

私は学園都市の中心部にある「窓のないビル」を眼前に見ながら首を捻った。
今日、ここに理事長直々から呼び出しを受けたのだ。
学園都市に来て以来一度も見たことのない理事長に、直々に、だ。
怪しむ、と言うほどでもないけれど疑問は覚える。
何せ、一度も会ったことがないのだから。
言っては何だけど、私は学園都市の三本指に入っている能力者だ。
そんな私が一度も会ったこと無い相手に、今更呼び出される何てなんだろうか?

「まさか、自販機のあれバレてるとか?」

思い当たる節に頭を悩ませながら、ゆっくりと歩き出した。
私が呼び出されたのは窓のないビルだけど、指定された場所はそこから少し離れた場所にあるマンションの地下駐車場だった。
そこから繋がっているエレベーターでもあるのかと思いながら、そこに進入してはみたけれど。

「普通の駐車場よね…………」

仮にも発電能力のトップである私だ、例え絶縁処理されていてもエレベーターが隠されていれば解る。
だからこそ、ここが普通の駐車場だと解ってしまうのだ。

「いたずら? ってことはないわよ、ねぇ!!」

気配を感じた方向を振り向きながら、全身に帯電させ戦闘準備を取る。
いつでも、どこからでも攻撃に対応できるように電気レーダーを張りながら、振り向いた先には……。

「あんたは…………」

「初めまして御坂美琴さん、どうも統括理事長より貴女をビルに案内するように申し付けられたものです」

顔に趣味の悪い、仮面と言うか、穴も何もないのっぺら坊みたいなお面をつけた人が立っていた。
声からして私とそう変わらない男だということだけが解った。
私は念の為にレーダーは働かせたまま帯電状態を解く。

「案内って、あんた……んん、あなたがしてくれるんですか?」

ついタメ口を利きそうになったけど、咄嗟に矯正をする。
そんな私に興味もないのか、怪しい男はゆっくり近づいてくる。
咄嗟に身構えてしまうけれど、いきなり攻撃する訳にもいかない。
どこぞの誰かみたいに私を簡単に圧することが出来る人間なんて少ないのだから。
だけど、私の警戒を他所に、彼は友好的に手を差し出してきた。

「ぁ、ど、どうも―――ぇ?」

出された手を無視するのも失礼かと思い握った瞬間に、脳が浮き上がるような感覚と共に私はさっきとはまるで違う場所にいた。

「え? なに、ここ、え?」

「統括理事長がお待ちです、あちらへどうぞ?」

「へ?」

まだ理解の追いつかない私を置いて、手を握っていた彼は優しく解くと奥を指し示した。
そこに来てやっと私はここが「窓のないビル」内部で、彼が案内人としてのテレポーターだと理解した。
テレポートなら後輩で慣れているはずなのに、取り乱してしまった恥ずかしさにちょっと頬を掻いてから言われて方に進んでいく。

「…………変な場所」

室内は暗い、と言うより黒い。
壁面には血管みたいにチューブが張り巡っていて、忙しなく何かが行きかいしていた。
ここは何の為の施設なのか考えている内に私は大きなビーカーの前に出た。
そして、そのビーカーの中に満たされた液体に天地逆さに浮く人物と対面した。

「――――――」

対面して即座に解ったことは二つ。
この人が私をここに呼んだ人物で。
―――この人は危ない。

「いきなり呼びつけてすまなかったね」

「ぃ、いえ…………」

ビーカーと中の液体越しのはずなのに、まるで耳元で囁かれているように鮮明に聞こえてくる声。
それはまるで、老人のようで若者のようで女性のようで男性のような為政者のようで支配者のようで罪人のようで聖人の様で、どこまでも人間の声だった。
人間の声のはずなのに私は畏れを感じて仕方がなかった。
するはずだった挨拶も忘れて、立っているだけでの精一杯さを感じている。
そんな私を見抜いてか見抜かずか、人間は口を開いた。

「御坂美琴くん、君は聖杯と言うものを知っているかね?」

告げられたのは聖杯というワード。
聖杯、聞き覚えはあった。
と、言っても私だから漫画からの知識なのだけれど。

「せ、せいはい、ですか? それって、アーサー王とかの……?」

「そう、その聖杯だ。神の子の血を受けたとされる無辜の器」

漫画知識そのままに告げた私の言葉に人間は肯定して、話を続けた。
それはとても荒唐無稽な話だった。
詳細は省くけれど、その聖杯は何でも願いを叶えてくれるものらしく、それがこの学園都市に現れるらしい。
しかも、それを手に入れる為には7人の魔術師で争うことになるとか。
途中からどうしたら良いか解らずに、ただ相槌を打つだけになっていた私だった。
科学の最先端、学園都市の理事長からそんなファンタジーな話を聞かされるとは思ってもみなかったので、本当に反応に困ってしまった。
だけど、それはそこまで、疑い呆れはそこまでだった。
「前回の聖杯戦争」の映像と言うものを見せられて行くにつれて、私の目を驚愕に見開かれた。
法則解明の出来ない能力、そしてあの学園都市最強でも太刀打ちできるかというレベルの能力。
それらを見せられて行くにつれて、私は言葉を失っていた。

「これが聖杯戦争なのだよ」

「聖杯、戦争…………こんなのが、ここで起こるんですか?」

見せられた聖杯戦争。
とんでもない力のぶつかり合い。
そんなものがこの学園都市で起こる?
学園都市であのレベルに対抗できる人間はそうはいないだろう。
だけれども、なまじ力がある分抵抗しようとしてしまうから被害は大きくなるだろう。
最悪の事態に唾を飲み込みながらも、もし何かあっても「アイツ」が何とかするかも知れないとかも考えてしまっていた。
そして、私はここに呼ばれたのは、もしもの時の防衛についてなんだろうかと思い至った。しかし……。

「そう、学園都市で発現する。そして君にはその戦争に参加する権利があるのだよ」

「え?」

言われたのは予想もしていなかったことだった。
私に聖杯戦争とやらに参加の権利があるという、行き成りな話。

「あの、え?」

「困惑は解るだろうけど、君には資格があるのだよ、参加に値する、ね」

そう言われてもまったくピンとはこない。
魔術師とやらの戦争になんで私に参加資格があるのだろうか?
実は私に隠された力があって、なんて言われても正直困ってしまう。
そんな私に人間は小さく笑いかけて来た。

「君には叶えたい願いはないのかね?」

「叶えたい、願い…………?」

言われて考えるけれど、大して思い浮かばない。
欲しいものは自分の力で手に入れる人生を歩んできたのだ、今更ずるはしたくない。
いや、聖杯戦争だって戦い手に入れるだからそれは努力なのかも知れないけど、何でも叶うなんて私にはズルに感じてしまう。
そんなのに託す願いなんてない――――――はずだったのに。

「何か願いはあるんじゃないか? あるのだとしたら、その願いを託してみようとは思わないのかね?」

「そう言われましても…………」

「願いはないと?」

「はい……すみません」

確認してくる言葉に頷く。
その肯定に人間は考え込むような仕草を見せてから。

「本当に何でも叶うのだが?」

くどいくらいに確認をして来た。
それに私が同じ答えを返そうとしたとき―――。

「例えば上条当麻の記憶を蘇らせることも出来るかも知れないのだが? それでも?」

「っっっっっっっ!!!!!」

人間は私の隠した秘密にそっと触れてきた。
カミジョウトウマのことについて。
隠し通す、否私と本人しか知らないだろうと思っていた秘密がここで出てくる何て思いもしなかった。

「彼の記憶の復活を君は望むものと思っていたのだけれどね、だからこそ君に資格を有することを伝えたのだ」

願いがあるのだろう? ―――聞こえてくる、いや入り込んでくる声。
私の中に染みて行くようなその声。
口の中は乾いていき、待ち遠しい唾も直ぐに消費され行く。

「君が聖杯を手に入れれば、それも可能だろう」

記憶を失っても尚誰かの為に傷つく彼。
自分自身を亡くしてしまっている彼を助ける機会が私に巡ってきた瞬間だった。
かつで私を何度も助けてくれた彼を助けるチャンスが私の目の前に転がってきた。

「君には聖杯戦争参加の資格があるんだ、どうする?」

「――――――」

絶対に毒のある、その希望の果実に私は歯を立てた。

その後はどんどん話は進んでいった。
あいつと同い年くらいの魔術師という青年、そして医者による私の魔術師の改造が行われた。
何でも成体電気を操り、内部に擬似魔術回路を生成して、そこに魔力の代わりになるナノマシンを走らせるというものらしい。
そして私の体内には魔力の代わりを担うナノマシンの生成回路が埋め込まれた。
ナノマシンは脆く常に消費されるので、首につけたチョーカーで制御しつつ魔力を消費するときには活性剤を打ち込むことになるらしい。
リスクはあると聞いていた、だけど私は参加することを止めなかった。
目標の為の痛みは私にとって基礎代謝と代わらないから。
しかし手術に痛みはなかったし、擬似魔術回路の生成も上手くいった。
そこまでは本当に拍子抜けしてしまし、これで魔術か使えるのかといぶかしんだけれど、初めて魔力を回路に通したとき私の身体は簡単に破壊された。
吐き気? そんなもんじゃない。
筋肉痛? そんなもんじゃない。
激痛?  そんなもんじゃない。
全身の細胞一つ一つを捻られているような途方の無い痛みが私の身体を襲った。
そこに来て私は、実感した。
この行為が目標に向かっていることを。
この先に私の目的が転がっていると私はそう実感した。
サーヴァントの召還も苦痛の極みだった。
痛みのあまり何度もの失神を繰り返した。
痛みを伴って召還したサーヴァントを私は全力で信頼した。
そして聖杯戦争に望む前夜、私は今現在解っているマスターに見知った顔がいるのを見た。
だからまずは私はそいつらの本に向かうことにした、どうしてこの戦争に参加しているのかを知りたくて。
そうして私の聖杯戦争は始まった、アーチャーという赤套のサーヴァントと共に―――。

「ぐが、あああああああああああああ!!!!」

「短髪に、魔力、なんで?」

短髪の身体で生成されている膨大な魔力が、アーチャーに流れていくのが見える。
超能力者のはずの彼女からは確かに魔力が生み出されて、それがサーヴァントを支えていた。
そして彼女の魔力に背中を押されながら迫りくるアーチャー、その両手には黒白の双剣。

「マスター、行きます!」

「せ、セイバー!?」

後ずさった私に代わるように、セイバーがスッと前に出た。
不可視の剣を構えたまま、グッと力を込めて。

「インデックス、彼について解る事はありますか?」

「え? あ、えっと…………」

彼女に聞かれて慌てながら私はもう一つの眼を開いてアーチャーを確認する。

クラス 『アーチャー』
マスター『御坂 美琴』
真名  『不明』
所属  『不明』
筋力 『C』
魔力 『D』
耐久 『B』
幸運 『C』
敏捷 『B』
宝具 『??』

能力的にはセイバーのほうが上回っているけれど、まだ未知数な部分が多い。
だったら!
今度はアーチャー自身を確認しようとしすが。

「っ!」

その前に、二人は激突を開始した。
昨夜のイレギュラーな衝突とは違い、今初めて私の聖杯戦争はその火蓋を切って落とすことになった。
青い騎士と、赤い弓兵。
三本の剣が交差し、打ち交わされていく。
人智を越えた能力、英霊達の宴が今堂々と始まった!

今日はここまでです

>>74
乙ー!

何この超大作

事情を知らないとはいえ、そりゃ美琴もブチ切れるわなぁ……

アーチャーがどの、というか、どうなってるアーチャーなのかが気になる

乙です
美琴おおおおおおお…

細部は流したりしますが、長くなりそうです
これからもよろしくお願いいたします

>>75
ありがとうございます
コメントあるとテンションあがります

>>76
美琴さんはちょっと単純ですからね

アーチャーは、まぁ、基本的には変わらずですね

>>77
美琴さんは現在ぼろぼろで頑張ってます

>>1にいくつか質問

Q1,原作では確か学園都市のトップは表では統括理事会になっていて、統括理事長という役職を知ってるのは裏の人間だけという設定
だったと思うんだけど、ここでは公の役職?

Q2,学園都市のトップにあまり警戒せずに出会ったということは時系列は絶対能力進化(レベル6シフト)計画前?

Q3,御坂は“他人を犠牲にするくらいなら自分の命を捧げる。自分の命を捧げるくらいなら可能性がある限り死ぬ間際まで抵抗し続ける”
って印象なのですが、ここでは多少自己中補正が掛かったキャラということでおkでしょうか

Q4,>>1はどちらの原作も熟知しているという認識で大丈夫でしょうか

>>79
A1,あくまで御坂個人として知っている、程度にしてあります
LVEVL5なら全員認知しているくらいで

A2,時系列的にはかなりアバウトではあります、大戦の辺りを絡めると収集つかなくなりますが、ある意味パラレル、ある意味新訳くらいでしょうか
理事会に警戒なしだったのは、少し軽率でした


A3,状態による、感じですね
あくまで今は肉体的にボロボロで、諸事情ありきな感じですから
痛みなくして成長は無い思考をメインにさせてます

A4,熟知、とまでは行きませんが
一応、fateはstay night、hollow、アニメ、アンリミ、たいころ、エクストラ、zero、ついでにプリヤあたりを
とあるは、原作、アニメ、レールガン、新約あたりを
それらをざっと、くらいです
現在はwikiを見たりしながら、考えていますが不備はかなりあると思いますが
なるべく頑張っていきたいです

Zero見た後だからこの美琴が雁夜に見えてくる

面白いな、これ
大作過ぎる



つか、あそこの>>1かよwwww
器用すぎるw

アーチャーはやっぱ真名エミヤのアーチャーだよな?つうことはU・B・Wが使えるのか

>>81
魔術回路的にはかなりかぶりです
非魔術師が魔術を使う形としては

>>82
ありがとうございます
あちらも応援ありがとうございます

>>83
はい、エミヤさんですよ
使うかも知れませんね

上条さんご登場の予定は?
上条さんが御坂が聖杯戦争参加した理由をきいたらかなりキレるだろうなぁ。

そうなると
御坂→雁夜
上条→桜
になるな

ならインry→切嗣になるのか?
他のマスターが気になるがみこっちゃんがこうなると黒子がでそうだ

投下します



「っ!!」

「ぬっ!!」

ぶつかり合う不可視の剣と、黒白の双剣。
最初はどうなることか不安だったけれど、今の状況から見てセイバーが圧倒していた。
直撃こそ無いものの、アーチャーは防戦一方、たまに自分から仕掛けても数合の内に押し返されていた。

「すごい…………」

昨夜のランサーとの戦いではしっかりと見ることはなかった彼女の実力。
最も優れていると評価されるセイバーの戦いに私は見ほれていた。
見ほれると言っても、英霊同士の神速の攻防は目にしっかり映ってはおらず、ただ闘争が起きているという事実のみを認識していた。
剣と剣のぶつかり合う鈍い音、互いの刃が空気を切る音、そして小さく聞こえる息遣い。
ここが学生寮の目の前だというのを忘れるような圧倒的なまでの桁違いの戦いが起こっていた。
青と赤の二人がぶつかり合い、その度に鋭い気迫のような衝撃が私の肌を叩いていた。
戦うというものがこうも心に響くものだとは私は初めて知った。
見ているだけで圧倒されてしまうような力と力のぶつかり合い。
―――これが聖杯戦争なのだ。

「ぐぅっ! …………ふぅ、流石に分が悪いか」

「アーチャー…………!」

何度目かの激突の後に、今まで様々な角度から攻撃を繰り返していたアーチャーは大きく距離をとった。
いつの間にか非難していた短髪の少し前に立って、手にした双剣を交差して構えながらこちらを油断無く見つめる。
セイバーは、まったく消耗の兆しすら見せずに変わらずアーチャーを正面に構えていつでも飛び出させる準備をしていた。
セイバーの持つスキルの一つ『魔力放出』
それにより彼女は戦闘を圧倒的優位に進めていた。
力は同程度でも、このスキルにより彼女はブースターがついているように魔力の放出を可能として、魔力そのものを攻撃に転用出来るのだ。
その威力は数回の打ち込みでアーチャーを後退させるほどで、ただ受けに回っているだけの彼を追い詰めるほどだった。
しかも、アーチャーを追い詰めながら彼女自身は微塵の消耗も見せてはいない。
それだけお互いの能力に差があるということなのだろう。
改めて英霊の力に、セイバーの力に感服しているとアーチャーが双剣を交差するように構えだした。
こちらを見ながら、その双剣に魔力を通していくのが見える。

「…………っ!」

「まだ来ますか……!」

こちらに再び走り出したアーチャーに迎えるセイバー。
アーチャーは双剣を構えて、小さく何かを呟いきゆっくりと両手を広げ、構えた。

「何をしてこようと無駄です! 全て打ち破ってみせましょう!」

セイバーはスッと身を沈み込ませると、再び不可視の剣を下段に構えた。
何度目かの激突を予感しながら、私の脳内では検索を終えていた。

「セイバー! 多分アーチャーはその剣を投擲するかも! 投擲した剣は引き寄せられるように戻ってくると思うから気をつけて!!」

「なっ!?」

私の言葉に冷静な顔を保っていたアーチャーの表情が大きく驚愕に歪んだ。
脳内に埋め篭められたデータの内から、彼の持つ双剣の情報を引き出したのだ。
おそらく形状、色合い、魔力パターンからそれを『莫耶・干将』と判断した。
干将・莫耶―――呉越春秋や捜神記に名を残す夫婦剣。
由来曰く復讐を成す双剣。
殺された父の仇を時を経て完了する、咎戻りの性質を持っているとされる。
そして形状能力から、干将を投擲の後に手元の残った莫耶をで引き寄せる力を持つ。
そのときには威力は飛躍的に向上するとされているが、投げるのは必ず干将でなくてはならない。
莫耶は手元に残して置かなくては、その咎戻しの力も発揮されないのだ。
つまり彼はこれから干将を投擲、後に莫耶で切りかかりそして投擲した干将を引き戻して挟み撃ちにする連撃を繰り出す可能性が高い。

「それに干将莫耶なら退魔能力が強いから、セイバーの鎧も少し危ないかも!」

「承知しました!!」

私の助言を真っ直ぐに聞いてくれたセイバーは、一瞬動きの止まったアーチャーに一気に詰め寄った。

「はぁあああ!!」

「くっ!!」

投擲しようとしたけれど一瞬躊躇したらしいアーチャーは一気に間合いを詰めて来たセイバーの一撃を受け損ない体勢を崩した。
地面を転がり、その勢いのまま距離を取って立ち上がると私を見ながら不敵な笑みを見せる。

「なるほど、良いマスターだな」

「褒められても嬉しくないかも」

「嫌われたものだな……」

私を認めたのか、笑みを浮かべたまま彼は声をかけてきた。
そして、スッと両手を下げると合わせるように握られた双剣は消えた。
……さっきのは?
消えたのかしまったのか、それは解らなかったけれど私は現在違うところが気がかりで仕方なかった。
彼はどこのどんな英霊なのか、その点について。
アーチャーという名から弓兵、弓がメインのハズなのに彼は双剣を使っている。
しかも、その双剣は中国の宝具。
その点から鑑みるに彼は中国の英霊ということになるのだろう。
弓を使い、莫耶干将を操る英霊。
私の中にその情報にヒットする人物インプットされていない。
一体彼は何処のどの時代のどんな英霊なのか?
この聖杯戦争において正体不明という利点を実際に感じながら、私は少しでも情報を集めようと注意深く彼を観察していく。

「どうするマスター? この二人は結構な難敵のようだが」

「おぇ、ごぼっ……あ? あー、んぼぉっ?! はぁ、こ、ここでリタイアさせるって、言った、でしょ?」

どうにも気取った印象のアーチャーは、背後で今尚体液を吐き散らしている短髪に振り返らず問う。
それに彼女は本当に変わらない強い眼のまま応えていた。

「短髪……」

「マスター、辛いとは思いますがご決断を…………これは聖杯戦争なんですから」

セイバーは油断無く構えながら私にこの二人の処遇を求める。
彼女にはもうアーチャーを打開する絵が見えてしまっているらしい。
いつでもアーチャーの身を切り裂ける、そう判断したようだった。
つまり、私の決断一つで短髪はリタイアすることになるのだ。
彼女の願いはここで潰えてしまうかも知れない。
でも、まるで幽鬼みたいになってしまった彼女を救えるのはここしかないのかも知れない。
どうしたら良いか迷い、私は唇を小さく噛んだ。

「マスター……」

「うん、わかった…………セイバー」

私は未だに不敵な態度を崩さないアーチャーと、その奥で苦しむ短髪を見据えながらセイバーにお願いする。

「アーチャーを、倒して!」

「承知しました!!」

彼女は走り出した、さっきまで異常の速さで赤い弓兵に迫っていった。
魔力による加速、そして振りかぶる剣もそれ異常の魔力を籠めて一撃で打ち砕こうと全力を傾けているのが私にも解った。
彼女は私のお願い―――命令―――に殉じてその力を解放しているのに、迷ったままの私は目を閉じて小さく祈っていた。
そして――――――。

「がっ?!」

「え?」

閉じた瞼の上を光が撫でた、そして聞こえる予定の無かった女性の呻き声が私の耳に届いた。
予想外の音に私が眼を開けた先では―――。

「せ、セイバー!?」

「ぐ、く、何故、何故貴様がそれを!!」

私からは背中しか見えないけれど、膝をついて大量の血を流している彼女がそこにはいた。
そして、彼女の前には煌びやかな装飾の施された両刃の剣を構えたアーチャーが立っていた。

「自分を王にした剣で切られた気持ちはどうかな? 騎士王殿」

「貴様っ! 何故、何故、それを!!」

自分を王にした? アーチャーの言葉から私は直ぐにその剣の正体を看破した。

「選定の瑚剣、カリバーン…………!?」

彼が手にしているのは、かのアーサー王が齢15のときに引き抜いて王の運命を引き寄せたと言われる、失われた選定の剣・カリバーンだった。
私の脳には一気に疑問が並んでいく。
何故彼がそんなものを?
彼は中国の英霊ではないのか?
どうして私しか、否私も知らないハズのセイバーの正体を?
失われたとされる剣をどうやって?
どの疑問にも仮定以上の答えは生まれない。
そうしている間にも、アーチャーは再びその剣を構えた。
狙うはセイバーの首か。

「相手が悪かったなセイバー」

「ぐ、き、貴様…………」

セイバーは受けた傷が深いのか、アーチャーを、その剣を睨みながら動こうともしない。
そして構えられた剣が、今動き出そうとした。
しかし―――。

「と、言ってもこれをもう一度使うのは難しいようだな」

そう言うと彼が手にしたカリバーンは響く音を立てて光の塵になった。

「貴様! 騎士に情けをかけるつもりか!」

「そうではない、少しマスターに負担がかかってしまっているようでね」

「ぁ、た、短髪!!?」

そう言う彼の背後では、短髪が蹲り痙攣するように身体を揺らしてはまた吐いていた。
さっきの剣をアーチャーが使ったことで、引き出される魔力負荷が彼女の身体を襲ったのだろう。
彼が剣を消したことでどこか「戦いは終わった」そう感じた私は、セイバーと、そして短髪の元に駆け寄ろうとした。
だけど。

「なので、使い慣れたこちらで首を刈らせて貰うとするか」

「な、え、なんで?!」

アーチャーは再び黒白の双剣を取り出すと、大きく構えた。
咄嗟に足を止めて声をあげた私に見向きもしないで、その剣を振り下ろした。


アーチャーからすれば初恋の相手を斬りつけてるんだよな……
てかレベル5一人を使い物にならなくするとか☆どんだけテンパって……まさかの用済み?

特別製の妹達だったりして

むしろそれは聖杯用だろ



つか、実際そうだよなぁ
不意打ちならアーチャー強いよな
面白くなりそうだ

>>85
まだ決まってないですね

>>86
そうなるかも知れない

>>88
黒子はどうなることか

>>97
アーチャーさんはやるときはやりますからねぇ

>>98
妹達は考え中です

>>99
聖杯調整型妹達

>>100
アーチャーさんは強いですから

いろんな所が完全に雁夜状態やな
これがバーサーカーなら確実に死んでる

上条「お前なんか!人を好きになったことも無いくせに!!」

御坂「URYYYYYYYYYYYYYYYYY !!!」

アレイ☆「愉☆悦」

「わりーな、まだこいつをここで落とさせる訳にはいかないらしいんでな」

「むっ!」

アーチャーの剣がセイバーの首に落ちる瞬間、横合いから赤い閃光がそれを打ち落とした。

「え? ら、らんさー?」

「よぉ、嬢ちゃん昨日は痛がらせて悪かったな」

私の前に飄々と姿を見せたの青い影、昨晩合間見えたランサーがそこにはいた。
アーチャーの振り下ろした剣を打ち払い、セイバーとの間を割るように立つ背中を見ながら、行方を見守る。
正直な話、ランサーの行動が理解できずに放心していたのだ。
昨日は私を襲って、否殺しに来た彼が何で今度は助けに来ているのかが解らない。
それでも、彼のおかげでセイバーの首は文字通り繋がったのだ。

「嬢ちゃん! さっさとここから退きな、そこのセイバーを連れてな!」

「え…………う、うん!」

ランサーの声にハッとして、セイバーの元に駆け寄っていく。
その私の前に赤い影が滑り込もうとする。

「させるとおもうかね?」

「きゃ!?」

両手に黒白の双剣を構えたアーチャーが苦々しい表情のまま迫り―――。

「そりゃこっちの台詞だな、弓兵風情が騎士の真似事か?」

「ちっ…………」

―――セイバーを守ったときのようにランサーが私の前に割り込み、その血色の槍で彼の剣を打った。

それからも続けて聞こえてくる鉄のぶつかり合う音に押されながらセイバーの元に駆け寄る。

「大丈夫!? セイバー!」

「ま、マスター……くっ! 申し訳ありません、不覚を取りました……」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ! ……凄い怪我、は、早く治療しなくちゃ!」

近寄って確認したセイバーの傷は思ったように深く、激しいものだった。
彼女の鎧を砕き、青い布が深く赤く染まっていた。
アスファルトの地面にも、夥しい量の血がぶちまけられている。
マスターとして回復の魔術で、治療をしてあげたいけれど、私は私の魔力を上手く指向性にすることが上手く出来ない。
しっかり陣を張ってならまだしも、こんな場所状況でするのは無理がある。
だから、まずはここを離れなきゃ―――!

「セイバー、肩を貸すから、まずは逃げ―――」

「どこ、に、いこうっての、よ……」

「え? た、短髪……」

セイバーの手甲のついた手を掴んで、立ち上がらせようとしたらいつの間にか短髪が近づいてきていた。
ボロボロ、本当にボロボロで、綺麗だった手足には内出血の痕がいくつも出来て、口からはダラダラ汚らしく液が毀れている。
そんな姿なのに、もう立てないほどだろうに短髪はそこに立っていた。
どこか反神々しい、悪魔的な姿で彼女は私の目の前に。

「言った、で、えぼっぁ!? あ、あ、言ったでしょ? あんたは、ここで、リタイア、さ、さぇるって……」

「短髪!」

強い目、強すぎで何かが壊れたような瞳で睨む短髪は、当たり前のように液を吐き漏らす。
その姿に駆け寄りたくなるけれど、セイバーの手を放すわけにもいかないので、その場を動けないでいた。
それに、今の私は彼女に近づくのが怖かった。
その壊れた瞳が寒気がするほど怖かった。

「あっちの、はっ、あ、あっちのは、アーチャーが止めて、くれてるみたい、だし……あ、あんたのサーヴァントは、は、はは、動けないみたい、ね……」

「短髪…………」

彼女のボロボロの身体に紫電が纏わりついていき、髪が逆立っていく。
彼女が、学園都市に7人しかいないLEVEL5、230万人の能力者の頂点の彼女がその力を発現させた。
発電能力者、電力磁力電流電圧電子に至るまでを悉く操るのが彼女能力。
最大10億V、本物の雷さえ招来し、大戦燗電磁砲すら生身で再現するのが彼女、御坂美琴だ。
その彼女が私に向かって能力を使うことの意味。
きっと私なんか一瞬で黒焦げになってしまうだろう。
私の命にはとうまの命がかかっているし、セイバーの願いが乗っかっている。
命を捨てることは出来ない、けれど今の状態で逃げるのは不可能に近い。
以前見た彼女の能力から察するに、御坂美琴の代名詞たる超電磁砲の射程は47.7mほど。
余波でさえアスファルトを抉るその威力を生身の私が耐えられる訳がない。
もしかしたら、セイバーですら倒れるかも知れない一撃。
そしてその射程を逃げ切れる訳もない。
助けに入ってくれたランサーも今はアーチャーとの戦いに身を任せているようだし。
つまる所は絶対絶命―――。

「はぁあ、ぜはぁっ! いま、リタイア……いや、殺してあげるわっ!!」

「マスター! 私が盾になります! その隙に逃げてください!」

短髪の目か、それとも紫電か、危険を感じ取ったのかセイバーはボロボロの身体で私の前に出ようとするけど。

「ぐっ…………!」

「駄目だよ、セイバー……そんな身体じゃ、自分で立てないんだよ!?」

彼女の傷は深く、私の肩を借りなければ立つこともままならないほどだった。
そんな彼女を盾にするなんて、出きるはずもない。
でも、このままじゃ……。
また、また私は都合の良いヒーローを求めてる。
危機に直面する度に、私は自分の無力さを感じてしまう。
それが嫌で嫌で仕方ないけれど、自分では何も出来ない。
目から零れる涙、噛んだ唇から溢れる血。
それらが今の状況に何一つ役に立たないのに止まることはない。

「じゃあね、インデックス…………ばいばい」

「っ!」

短髪はその手に乗せたコインを高く跳ね上げた。
彼女の代名詞超電磁砲を撃つ時の準備姿勢。
私の目にゆっくり見えるコインが再び彼女の指に乗ったとき、そこから想像を絶する一撃が放たれ私を絶するだろう。
でも、何も出来ない。

「ごめん、とーま…………」

「しばらく会わない間に随分と諦めが良くなったもんだね」

え―――。
音にしたら『業』
色にしたら『紅』
意にしたら『火』
否――――『炎』!!
赤く紅くアカク。
血すら燃やし尽くして骨すら灰に変える。
そんな炎が降り立った。
人間の視認速度限界を遥かに超えた一撃を、その赤は容易く溶かした。
そして、私たちと短髪を分かつ様に巨躯の神父がそこに立っていた。

「す、ステイル!!?」

「やあ、遅くなったけど間に合ったようで何よりだ、すまないね人払いのルーンを刻むのに時間がかかってね」

咥えタバコに、少し離れていても鼻につく香水の匂い。
赤髪、2mを越える巨体を持つ教皇級の魔術を操る世界屈指のルーン魔術師がそこに立っていた。

「君の危機だというのに上条当麻は一体どこで何をしているんだか」

「っ…………」

彼の呟きに、更に私は唇を強く噛んでしまう。
それを見た彼は失言と判断したのか、少しだけ戸惑いの表情を浮かべて短髪に視線を合わせた。

「まぁいいさ、彼がいないなら僕が君を守るだけさ、それが僕の近いだからね」

彼の手に握られたルーン符。
力ある文字の刻まれたそれらから爆発するように火柱が立った。

「彼女を傷つけるものを悉く排除するのが僕だ」

「いきなり出てきて、何よあんた、ごほっ?! 死に、たいわけ?」

割って入ってきたステイルに面食らっているのか、短髪は少し後ずさり、そしてその分瞳に力を篭めて睨みつけていた。
ステイルの炎に警戒しているのか、片手で胸を押さえながらバチバチと紫電を迸らせていつでも攻撃へ転移出来るようにしているようだった。

「ふん、能力者による拒否反応か……僕らの領分に入ってくるからそうなると言うのが解らないのかな」

そんな彼女をステイルは一瞥すると、あっさり状態を見抜いたのか小さく鼻を鳴らすとつまらなそうにタバコを揺らすと。
振り返らず私に声をかけてきた。

「どうやら厄介なことに巻き込まれているみたいだね、ここは僕に任せて君は逃げたまえ」

「え、でも……」

「きつい言い方になるけれど君がここにいては僕は全力で戦えない」

ただ助けられる状況につい躊躇をしてしまうけれど、ステイルは優しい言葉のままそれを拒否する。
私に退けと逃げろと失せろと消えろと。
戦場からの離脱を優しく促してくれた。

「相手は魔術師のなりそこないみたいだけど、それでも君に被害が及ぶ可能性は0じゃないからね」

そう言うと、彼は口に咥えたタバコを放り投げ、それを焔滅させ。

「そこのサーヴァント、最低限でも彼女の身を守る盾くらいになってくれよ? じゃないと―――意味がないからね」

そうセイバーに告げると両手に構えた炎剣を交差させるように短髪にたたき付けた。

「今だ! いけ! どこかでサーヴァントの傷が癒えるまで隠れているんだ!」

「っ! セイバー、行くよ!」

「ええ…………メイガス、その命しかと承りました」

爆音を背に、私はセイバーに肩を貸すようにその場を逃げていく。
ステイルがルーンを刻んでくれているからか、人の影もないそこを二人で歪な二人三脚をしながら進む。
誰かが追ってきている気配はないけれど、焦燥感に駆られながら私は必死に先を急ぐ。
早く早く逃げなくちゃ。
死が追ってくる。
身を滅ぼしながらも睨む彼女の強い瞳が脳裏に焼きついてしまっている。
狂想に追われるように、重い足を運び続ける。

「スター――マ――――マスター!」

「ど、どうしたの?」

不意に耳元で声をかけられて、ビクッと動きを止めてしまう。
足を止めると途端に重さに似た疲労が、グッと圧し掛かってくる。
このまま倒れたいのを我慢しながらセイバーを支えて彼女を見る。

「無様を晒した身で申し訳ないのですが、少し落ち着いてください」

「え、あ、でも、でも……」

「私ならば大丈夫です、見てください既に表面の蘇生は終わっています」

―――内部のダメージについてはまだかかりますが。
と付け加えて、彼女はいつの間にか血すら消え去り、砕けていた鎧も元に戻っているのを見せてきた。

「すごい―――」

英霊が改めて人間とは違うことを思い知って眼を丸くする。
彼女は少しふら付きながらも私から身体を離すと。

「以前のマスターと違い貴女からは十分に魔力供給を受けていますからこれくらいは簡単です」

そう言うと彼女は鎧を仕舞い込んだのか、とうまのジャージ姿になると笑顔を見せてくれた。

「私も連戦は難しいですかが今はある程度回復しました、だからこそ落ち着いてください」

「う、うん、ごめん……」

「マスターが謝る必要はないです、頭を下げるなら私です不甲斐無い戦いをしてしまい誠に申し開きもありません」

彼女はそう言うとしっかり頭を下げてきた。
その堅苦しさに私はどうにもこそばゆさを感じてしまう。

「じゃ、じゃあ、うん、今回は二人とも悪かったことにしよう? 私がちゃんとした魔術師ならセイバーを補助したり出来たんだし」

「そう言って頂けるなら幸いです…………」

私の一言に安心したのかセイバーは一息つくと、少しだけだけど綺麗な笑顔を見せてくれた。
でも、それh一瞬で直ぐに戦闘時の顔に戻る。

「闇雲の移動は避けましょうマスター、どこか身を隠せる場所を探してそこを拠点としましょう」

「う、うん、そうだね…………」

彼女の言葉に頷くけれど、私にとうまの部屋以外に身を隠せる場所なんて、それこそ路地裏くらいのものだ。
落ち着いたは良いけど答えが浮かばない思考に足が完全に止まってしまった。
それでも必死にどこか、しばらくでも良いから身を隠せる場所を考えていたら。

「あれー? シスターちゃんじゃないですか、こんなところでどうかしたんですか?」

着慣れた、優しい響きの声がかけられた。

今日はここまでです

誤字は気を付けます
つい書き上がったらテンションあがってそのまま投下してしまう癖がありまして
これからはずっと少なくなるようにしますので、どうか見守ってやってください

>>118
インデックスの記憶してる魔術書10万3000冊と一切パターンが合致しない全く異なる未発見魔術が相手なら、強制詠唱は無理だと思うよ

>>1
イギリス清教と魔術協会はどういう関係ですか?ネタバレにならない範囲でお願いします。
それと、感想以外のコメは控えた方がよろしいでしょうか?

>>119
魔術協会は組合
各魔術陣営は派閥みたいな感じですかね

そうですね、予想考察はちょっと控えていただきたいのが本音ですね
展開が被ると困るので
あと、こちらからも返せるものがない場合が多いので

まぁ
軽い予想ならありがたいのですが
深く予想されたり考察されたりすると、それが当たりそうで怖かったりはしてます
出た設定に対して以外の質問だと、使おうとしてたネタと被りそうだったりもしますし
なるべく抑え目にして欲しかったりは本音ですね

投下します

「やっぱりシスターちゃんには海外のお友達がいるんですねー」

相変わらずの小萌のアパートに招かれた私とセイバー。
小萌はニコニコ笑って、私たちにコーヒーを入れてくれた。
セイバーを「私の昔の知り合い」と紹介すると快く受け入れてくれたみたいだった。
この柔軟性にたまに困るときもあるけれど、今は本当に助かっていた。
少しばかり気になることもあるけれど、今は身体を休めることに専念しよう。
そう決めて、まったりと手足を投げ出した。
考えることは山ほどあるし、さっきの戦いで感じたことも多々ある。
考えることはアーチャーの正体だったり、ランサー陣営の思惑だったり。
何より短髪のあの異常だったりだ。

「あれは…………」

あれは―――おかし過ぎる。
精神(ココロ)が壊れてしまっているようだった。
あの状況でそう見えただけで、実際にあれが精神の崩壊を起こしていたかは解らない。
でも。

「普通じゃないよ、あんなの……」

あの強い、強すぎて壊れた瞳を思い出すだけで身体が震えてしまいそうになる。
超能力者である短髪が自力で聖杯戦争を知って、自力で魔術を使えるようになったとは考えにくい。
そうなると手引きしている人がいるのは間違いないだろう。
ステイルが出てきたことも考察の一部に入れれば、学園都市だけでは収まらない組織の動きがある可能性が高い。

「考えることばっかりだよ……」

パタリと後ろに倒れ込んだ私を小萌はニコニコ笑って見ていた。
いつも通りの笑顔で「お疲れなんですねー」と、優しく。
それをボーっと見て、次にコーヒーを興味深そうに飲んでいるセイバーに視線を向けた。
少しだけ身体を近づけて、小萌に聞こえないように声を潜める。

「ねぇ、セイバー大丈夫なの? 外見は治ったって言ってたけど……」

「……えぇ、あのときの一撃はあくまで物理的一撃で概念能力の上乗せはされていませんでしたから」

「じゃあ、大丈夫なんだ」

「はい、このまま魔力供給を受けて無駄な消費をしなければさほど苦もなく傷です」

そう言って彼女は気品のある笑みを見せた。
だけど、私は彼女の眼にある迷いに気付いていた。
アーチャーがセイバーに一撃を入れた剣についてだろう。
セイバーに縁在るという意味では最高の位にある剣だろう。
彼女は私が自分の真名を知らないと思っているから、そのことには触れないのだろうけれど。
アーチャーについては私も考えをいくつか巡らせて、解答はいくつか出ていた。
まだ確実な解答ではないけれど、あと少し情報が集まれば容易く正解になるだろう。

「…………マスターは、アーチャーが使用した剣の正体を看破しましたか?」

「え?」

また考えに没頭していたら、静かな声でセイバーが尋ねて来た。
その質問を脳内で何回か反芻してから、そっと唇を動かす。

「多分だけど伝承、情報、形態、魔力範囲、霊数パターンから―――」

言って良いか少しだけ迷うけれど。

「―――カリバーン、アーサー王を生み出した運命分岐を動かす剣だと思う」

「……………………そう、ですか」

私の答え。
カリバーン。
彼女が何より知っているのだろうけれど、少しだけ悲しそうな顔をしてから。

「随分と高名な剣に傷をつけられたものですね……名誉に思えますよ」

そっと、今はもう痕も残らない傷跡を手で押えてそう告げてきた。
私は何も言わずにそのまま、また思考に心を向けていく。

「そう言えばあのメイガスは我等の友軍ということで良いのですか?」

「あの、メイガス? ……あぁ、ステイルのこと?」

しばらくしてまた声がかかった。
正座を崩さない彼女は、笑顔の小萌と対面するようにしながら私に質問をしてきた。
寝転がったまま私は、それに答える。

「友軍、味方かどうかは解らない、かな……」

「そうなのですか? あの者はかなりの術者と見受けましたが、彼が手助けをしてくれるならば戦は優位に進められると思いますが……」

「…………」

まだ会って間もないけれど、『彼女らしくない』発言だなぁと思いながら目を開く。
実際セイバーの言う通りルーンを究めるステイルの協力があれば聖杯戦争は優位どころか勝利に手が掛かると思うけれど。

「良く解らないんだよね、仲間なのか敵なのか……」

「敵意は見られませんでしたが複雑な間柄のようですね」

「複雑、なのかな……」

複雑なのは間柄か、それとも私と彼の関係か。
どこか捻れたままの関係を思い返すけれど、そこはお互いに触れたくない部分だ。

「彼が施した人払いのルーンの効力範囲から見るに、魔術に見識が浅い私でも解るクラスの実力者のようですからね」

「うん、ステイルは強いよ、凄く…………」

強いのは解る解っている。
私と変わらない年でどうしてあんな高みにいるのか解らないけれど、彼は強い。
でも、私は彼が苦手だ。
いっつもとうまを危ない場所に導いていくから。
だから―――彼とは手を組みたくは無い。
セイバーが『らしさ』を失って自信を亡くしている理由は解るけれど、彼への助力は避けたい。
それに、出来ることなら私だけの力でとうまを助ける手立てを作りたいのだ。

「難しいけれど、私たちだけでどうにかしないとね……」

「………………そうですね、マスター」

彼女の提案を暗に拒否をする。
私たちだけで戦っていくと。

「だから、頑張ろうセイバー」

「えぇ、私はマスターの意志に従います」

小さな声で、何とか戦争を続ける意志を確認しあう。
聖杯のためにここに召還されているセイバーは、そのモチベーションをそう簡単には失わないだろう。
でも、私は別だ。
とうまの為と言ってもどこで心が折れるか解らない。
自分では何も出来ない辛さが心に罅を入れる。
まるで土壁にゆっくり水をかけて砕くように、徐々に心が侵食されてしまう気配。
それが肩の後ろから来るのを感じていたのだ。
払拭する為に、決意をわざと口に出してからゆっくり身体を起こす。

「さっきの話だけど、ステイルの助力はなるべく避けたいけれど、この学園都市で戦う以上は人払いのルーン、もしくはそれに似通った術式が欲しいところだよね」

「そうですね、ここには無力な子供が多いようですから、何かあってからでは侘びることも出来ません」

私の言葉にセイバーは素直に頷いてくれた。
それに私は少しだけ安心する。
彼女が他者を踏み台にして願いを欲するタイプでないと確信できたから。

「その点で言えば、やはりあのメイガスの技量は捨てがたいですね」

「そう、なんだよね…………」

ステイルが施した人払いの範囲は、戦闘中心地からこもえに会ったところを含めて恐らく1km近くは続いていた。
それだけの範囲に効力を持たせれば安心して戦闘が出来る。
今でも効力は続いているところを見ても、桁外れの技量だ。

だけど彼に頼ってしまえば、多分頼りきりになってしまう気がする。
それでは駄目だ、今までと何も変わらない待っているだけの自分だ。
だから出来ることをする。
セイバーが戦ってくれるなら、私は必死に考える。
何も出来ないけれど、考える。
役に立たないかも知れないけれど、必死に考えて考えて考えて。
少しでもセイバーが有利に戦えるようにしなくちゃ。
その為には変なプライドは捨てなくちゃいけないのかも知れない。
血を流して伏せるセイバーの姿を思い浮かべると心が苦しくなる。
私の我侭で、これからも彼女のあんな思いをさせることになるかも知れないなんて。
だったからプライドも何もなく、ステイルに助けを求めてしまえば良いのかも知れないけれど―――。

「マスター………………私はサーヴァントである前に騎士です」

「セイバー…………」

「私は貴女の剣であり、この身は貴女を守る盾です―――」

彼女の声に聞き入る。
少し離れた場所で笑う小萌が凄く遠くに感じられて。

「主の信頼に堪える戦果をと、主の信頼に対する忠誠を持って戦います」

迷う惑う私に対して、自身も動揺しているのに疲弊しているのに、言葉自身が意志を持っているかのような音を届けてくれた。
どんな優美な音楽より私の心にそれは深く刺さり、そして不安を切り裂いた。
それは、あの少年が見せる気高き拳に似ている尊さだった。
私は無言で頷くと、笑顔を見せる。

「ありがとう」

と、万感の謝辞を一言に籠めた。

「何だか良く解らないですけど、お二人が仲良しみたいで先生はハッピーです♪」

「ありがとう、こもえ」

見慣れた笑顔のままこもえは立ち上がり。

「ではー、先生はちょっとお夕飯のお買い物でもしてきますねー、二人はゆっくりしててださい」

財布を持ち上げて見せて、私とセイバーに変わらぬ笑顔を見せた。

「ありがとー、こもえ」

「感謝します」

「いえいえ~」

腹が減っては戦が出来ぬ、まさにその通りだとおもうから小萌の申し出ありがたかった。
でも、その前に一つだけ聞いて置かないといけないことがある。

「そうだ、こもえ……ちょっと良い?」

「なんですか、シスターちゃん?」

お財布片手に玄関に向かったこもえが振り返る。
そこには変わらぬ笑顔が張り付いて―――。




「何でこもえは、人払いされた地域にいれたのかな? おかしいよね?」




―――顔に張り付いて離れないようだった。

張り付いた笑顔を見据えて、私は言葉を続ける。

「あれはね、何の訓練も耐性もない一般人が潜り抜けられるレベルの術じゃないんだよ」

……ううん、例え耐性があってもそう簡単に抜けれれるものじゃない。
そんなレベルの人払いが施された場所にひょっこり現れたこもえ。
どう考えてもおかしい。
言ってしまえば偶然奇跡もあるかも知れないけれど。
今この状況でそんな現象を期待する訳にもいかないだろう。
つまり彼女は、月詠小萌は必然意思でそこにいた。
一般人ならば、どうあっても入り込めない人払いの結界内に彼女はいた。
見逃しきれない事実を真正面から突きつける私。
突きつけられながらも笑顔を崩さないこもえ。
私の横で、いつでも動けるように座するセイバー。
空気が凍るような静けさの中で動いたのは、こもえだった。

「おっきなひとが悲しむんですよ」

「え?」

笑顔のまま、彼女は口を開いた。
その眼から涙を流しながら。

「私が悲しい顔をするとおっきな人が凄く悲しんで、悲しんで…………」

「こも、え?」

短髪のときに感じた寒気に似た何かが私の背中に纏わりつく。
それに対抗するようにセイバーは、いつの間にか鎧を装着して不可視の剣を携えて前に出た。
笑顔のまま涙を流すこもえの姿に何を感じるのか、セイバーは無言のまま。

「だから笑顔でいるんですけど、でも、それでも、駄目なんです、おっきな人は守りたいみたいなんです…………」

何を言っているか解らないけれど、この寒気は何なのだろうか。
こもえは一般人、能力者でも魔術師でもないハズの一般人なのに。
どうして―――。

「どうして、こもえから魔力が…………」

彼女の小さな身体から漏れ出してくる魔力。
それは濃厚で濃密で、これほどの濃度ならばルーンの人払いにも力技で対抗出来そうなくらい禍々しい。
そんな物が滲むように漏れ出して漏れ出して漏れ出して漏れ出して漏れ出して漏れ出して漏れ出して漏れ出して漏れ出して漏れ出して。
漏れ出した魔力がサーキットを巡って行く。
ただの指向性を持たない魔力の塊が、研ぎ澄まされ世界を塗り替えていく。
冷や汗すら出ない緊張に一歩も動けないでいる私も前でこもえは、ゆっくり両手で顔を覆った。
その手の間から涙を零しながら――――――。

「守りたい守りたい守りたい守りたい守りたい守りたい守りたい守りたい守りたい守りたい守りたい守りたいって!!!!!!」

叫ぶ声に獣の呻きが混じり込む。

「守りたいって! 守れなかった人をもう一度守りたいって叫ぶんですよっっっっっっっっっっっ!!!!!!」

「マスター!! 危ないっ!!!」

「え?」

どかん。
そんな陳腐な擬音でこもえが背にする壁が吹き飛んだ。
吹き飛んだ先からは、こもえの言った『おっきな人』が入ってきた。
真っ黒い肌に左右移植の眼。
2mを越す巨躯に、鍛え抜かれた肉体が携えるは斧剣。
力の塊がそこにはいた。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!!」

獣叫びと共に振り上げられた斧剣。
そして、再び耳を疑いたくなるように破砕音が響いた。

「大丈夫、大丈夫ですから、私は泣いてませんから、悲しんでませんから、だから大丈夫ですよ―――バーサーカーちゃん」

嘘みたいな破砕音に紛れて、こもえのそんな呟きが聞こえて来た気がした。

今回はここまでです



まさか小萌のサーヴァントがバーサーカーとは…

小萌「バーサーカー!やっちゃえ!」



何か笑えたww

>>88
インちゃん「見ていてくれたかな。とうま。今度また殺したよ。短髪と同じように殺したよ
 短髪の時のようなへまはしなかった。私は大勢の人を救ったよ。」

俺「ふざけるな!ふざけるな!馬鹿野郎ー!」

続きマダー?
半端なく期待してます

時間が開きましたが投下します

「■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」

セイバーに抱えて貰いながら、アパートの前の地面に私は着地した。
その直ぐ後に地面を食い破るような叫びが響き渡った。
さっきまで私たちがいたこもえのアパート、そこを跡形もなくなるくらいに破壊して立っている巨人。

「あれが、バーサーカー…………」

燃え立つように逆立つ髪、そして見下ろす異色の瞳。
屈強さを形にしたような巨躯。
おそらく今まで会ってきたランサー、アーチャーとはまた異質の存在。
そして―――最強の存在。
情報の通りならバーサーカーその真名はギリシャ神話最大の英雄『ヘラクレス』
神の息子たる偉大にして巨大なその魂。
知名度、崇拝度、畏敬度。
どれをとってもセイバーを上回るだろう。
とりわけその出自は更に。
あくまで人の身に王たる運命を詰め込んだアーサー王。
それに対して神たる身のまま神話の世界を戦い抜いたヘラクレス。
基準となる元が違い過ぎる。
しかも、それがバーサーカーとなるともはや―――。

「うそ、なにこれ……こんな、こんなのっっ!?」

「インデックス、どうかしましたか?!」

こちらを見下ろしている黒い巨人、バーサーカーを聖杯戦争のマスターとして確認して私は悲鳴を上げそうになった。
それを心配そうに覗き込んでくるセイバーの顔にも余裕はない。
武装してはいるが、まだどこかぎこちないのは、さっきの傷が当たり前に癒えていないからだろう。
だけど、今の私はそのことに気を配る余裕なんてなかった。

聖杯戦争において、マスターは目視したサーヴァントの実力を認識出来る。
それには個人差があり、動物に例える者、色に例える者、とそれぞれが一番認識し易い形として見せる。
そして私の認識方法はアルファベットによる降順表記だ。
私のサーヴァントたるセイバーのステータスはこれ。
筋力 C 魔力 C
耐久 B 幸運 B
敏捷 C 宝具 C

そして、昨夜に私を襲ったランサーが、これ。
筋力 B 魔力 B
耐久 B 幸運 E
敏捷 A 宝具 B

先ほど戦闘をしてきたばかりのアーチャーはこれだ。
筋力 C 魔力 D
耐久 B 幸運 C
敏捷 B 宝具 ??

皆それぞれ得意分野不得意分野があるのが解る。
これが全てではないけれど、戦闘の重要なファクターには変わりない。
ランサーは抜きん出る部分もある。
アーチャーはどこか不気味さが抜けない。
セイバーはバランスよく、優秀なのが解る。
それぞれを表すステータス。
そして、今新たに私の中にサーヴァントのステータスが刻まれた。
大きく強く猛々しいサーヴァント。
ヘラクレス―――バーサーカー。


クラス 『バーサーカー』
マスター『月詠 小萌』
真名  『ヘラクレス』
筋力 『A+』
魔力 『B』
耐久 『A』
幸運 『B』
敏捷 『A』
宝具 『A』

「こんな、バケモノ……どうやって」

突き抜けているとか強いとかそんなレベルじゃない。
巨大すぎる戦力。
セイバーならばきっと、どんな敵にも太刀打ち出来る、相対出来ると思っていたのに。
なんなんだ? この桁違いの力は…………。
どうやってこの化け物に太刀打ちできるのだろうか?
策を練る―――。
―――策が通じる相手か?
逃げる?―――。
―――逃がしてくれる相手か?
正面戦闘―――。
―――相手になるのか?
目の前にそそり立つ壁と表現すべき敵と相対して。
私は慄き。
セイバーは戦いた。
剣を下段に構える彼女の基本姿勢のまま、セイバー自身もバーサーカーの危険度を感じ取れるのか、かつてない緊張をその顔に浮かべていた。
こちらを見下ろしたまま動かないバーサーカー。
その眼は確かに私たちを捉えていた。
否、文字通り捕らえているのだ。
もし、今不用意に動いたら一瞬で肉塊にされる予感。
それを感じ取っているからこそセイバーは動けないのだろう。
それに、彼女はさっきの戦闘で負った傷すら完治には程遠い状態なのだ。
満身創痍、とまでは行かないけれど、渾身の全力で当たらなくてはいけない相手にそのハンデは大きすぎる。
それでも彼女は逃げる素振りは見せずに、ただバーサーカーの吐いた息すら凍りそうな冷たい圧力に対していた。

「マスター…………」

「な、なに、セイバー?」

ステイルのルーンの効力はまだ続いているらしく、人影物音しないこの区画では呟き声すら良く通る。
セイバーの小さな呟きになるべく控えた声で反応をする。
その間も私たちはバーサーカーからは一秒も目を離さないでいる。
一瞬でも視界からアイツを外したら胴を両断されるか、正中線で真っ二つか。
どちらにしろ殺されることになる、そんな気がするから口だけを動かす。

「こちらから一気に勝負をかけます、私が突撃すると同時にマスターは安全圏まで退避してください」

「っ!」

セイバーからの予想通りの提案。
そうなるだろうと予想予測していた私への配慮と逃走の補助。
今この状況で私は足手まといでしかない。
ここでセイバーに「私も残る」そう言っても負担にしかならないのは解っている。
解っているのに私は即答が出来ずに、乾いた口の中で舌を少し動かしてからやっと小さく息を吐くように答えた。

「うん、わかった…………気をつけて、セイバー」

「はい、お任せください…………」

ここでも私は逃げる側、守る側。
隣にいる誰かの為に戦えない存在。
いては足を引っ張り。
いては無力な置物で。
いてはいけない。
逃げることだけならそれなりに自信があるので役割にしたら合っているのだろうけれど、悔しい気持ちは拭えない。
無力は罪じゃないけれど。
無力にあまんじることは罪だろう。
手をギュッと握り締めて、せめて後方からでもセイバーの助けになろうと言い訳をする。
そして、そのときを待つ。

動かない世界。
見下ろす巨躯―――。
―――見上げる矮躯。
ただ握っているだけの破壊の斧剣―――。
―――しかと構えられた不可視の剣。
いるだけでその場を制圧するような瞳―――。
―――強く気高く戦に殉じる瞳。
二人のサーヴァントは強く強く相対し、そしてそのときは来た!

「はあああぁぁああああ!!!!」

「っ!」

気合一銭。
渾身、振り絞った様な叫びの尾を引かせながらセイバーは魔力のブースターを利用して飛び上がった。
まるで弾丸。
それは砲弾のような速度で、青い影を引きながら彼女はバーサーカーに飛び掛った。
それを視界の端に乗せながら私は走り出す。
安全圏に、セイバーの邪魔にならない位置に。
それでいて二人の戦いが見える場所まで。

「はああああ!!!」

「■■■■■■■■!!!」

「っ!!」

背後では戦闘が始まったらしく、金属のぶつかり合う鈍い音とセイバーとバーサーカーの叫びが聞こえてくる。
周囲をビリビリと振動させるような戦闘は着実に破壊を振りまいているようで、建物が崩壊するような音が聞こえる。
振り返りたくなる衝動に耐えながら、震える足を叱咤して私は近くのビルに駆け込んだ。

「はっはぁ! はっ!! はぁああ!!」

ビルの中にいても聞こえてくる破砕音。
二体の英霊の大げさではない戦争の音。
私は必死に階段を駆け上って、ビルの屋上に出た。

「はぁ、はぁ……っし、ここ、なら」

広い屋上、何のビルかは知らないけれど、人払いのルーンがここにも刻まれているようで人の誰もいない。
私は汗を流しながら、よろよろとビルの淵に近づいていき、下を眺める。

「はぁ、はぁ…………すごい」

そこは本当に戦場だった。
ぶつかり合う二つの剣。
その度に響く耳に残る金属音。
セイバーという小さな敵を押しつぶそうと暴れるバーサーカーに対して。
セイバーは大きな敵を翻弄するように―――ではなく、正面から打ち合いそして互角の勝負をしていた!

「ぜぁああああああ!!!」

「■■■■■■■■■■!!」

離れてみている私でも息を呑むような裂帛の気合。
セイバーが構えた不可視の剣が、バーサーカーの斧剣を弾き飛ばす。
そのまま懐に潜り込み、振り下ろす!
が、バーサーカーはその巨体であり得ない身軽さを見せ、一瞬早く後ろに飛びのいた。
ガードレールを踏み潰し、アスファルトを砕きながら着地して地面に手を着いた黒い巨人。
そこに一拍の停止もなくセイバーは大上段に構えて飛び掛る。

「あああああぁああああああ!!!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」

落下速度、そしてセイバーの魔力放出により速度威力共に果てしなく増加された一撃をバーサーカーは防ぎ、そのままになぎ払った。
吹き飛ばされたセイバーは空中で器用に身を捻ると、悠々と近くの自販機の上に着地をしてみせた。

一秒に満たない対峙を終えて両者同時に弾け飛ぶ。
セイバーは自販機をへこませる踏み込みのまま、下段に剣を構え。
バーサーカーはアスファルトを弾けさせながら、斧剣を上段に構えた。

「でぁぁぁああああああああああ!!!」

「■■■■■■■■■■■■■■!!!」

再び、何度目かのぶつかり合いを果たす。
上からその重さ、力を利用して押しつぶそうとする斧剣の一撃を、セイバーは下から掬い上げるような剣撃で弾き飛ばした。
眩い火花を散らして、一瞬だけ距離を取るが瞬きの刹那にそれは0に変わる。
一撃で家さえ崩壊させそうな斧剣の威力、それをバーサーカーは風のような速さで奮う。
それはまさに台風のようで、近寄っただけで全て飲み込まれそうだった。
そんな台風にセイバーは真っ向から斬り進んでいく。
卓越した技術、そしてそれを裏付ける自信、それらを統括する勇気。
三合果たして、バーサーカーの強烈な攻撃を全て防ぎ、さらに追撃を―――!
横薙ぎに振るわれた斧剣をセイバーは正面から弾き飛ばし、体勢を崩した巨体に踏み込む。
そのまま下段の構えから繰り出すは逆袈裟の一撃!

「終わりだぁぁぁあああああ!!!」

防ぎ様の無い一撃をバーサーカーは無防備なその身に正面からくらった。

「凄い、セイバー……凄い!!」

崩れ行くバーサーカーを見ながら私は感動に打ち震えた。
どうやって勝てば良いのかと不安になったような相手に、セイバーは小細工も何もなく正面から勝ちきった。
あのギリシャの英雄ヘラクレスを、アーサーが討ち取ったのだ。
しかも、セイバーは手負いの状態で、である。
思考を回してセイバーをアシストする暇もないような、それほど激しい戦禍で戦火で戦渦だった。
無力さを感じなくは無いが、今はこの意味ある大勝に歓喜しようと私は入り口に走り寄り。

「まだ、終わってないのです、シスターちゃん……」

「え? こ、もえ…………?」

戸口に寄りかかるように立った小萌。
その眼は普段の様に優しく細められて、小さな身体でフラフラと近づいてきた。
何か、短髪のときに似た恐怖を感じて後ずさるけれど、こもえは止まることは無く、私の横を通り過ぎて、さっきまで私が観戦をしていた場所まで進んだ。

「ほら、見てくださいシスターちゃん」

「え?」

こもえは、優しい笑顔のまま振り返って、下を指差した。
子供に優しく教えるようなその仕草につられて、フラフラ近づいてこもえの隣に立って下を見た。

「な?!」

見た先、荒れ果てた一角。
先ほどセイバーがバーサーカーを討ち取ったそこでは―――。

「ぐ、が! 貴様、何故! ぐぅううう!!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」

―――バーサーカーが傷の一つもない身体で立ち上がり、セイバーの身体をまるで玩具のように掴んでいた。

「な、なんで!? さっきやっつけたのに!? あっ…………」

理解できない状態に声をあげたけれど、私は直ぐに隣にいるこもえを見た。
そうだ彼女はマスターだ。
マスターということは曲りなりにも魔術師の一端。
それに、彼女はかつて手ほどきを受けながら私の傷を癒してくれた回復の魔術を行使できた人間だ。
まさか、こもえにそこまでの技量が?!

「違いますよシスターちゃん」

「え?」

私の予想を否定する声。
彼女が考えをどこまで読んだかは解らないけれど、優しい声で否定をすると。

「何にもしてないんです、ただバーサーカーちゃんが強いだけなんです♪」

そう、どこか誇らしそうに告げてきた。

バーサーカーが強い、そんなことは知っている。
だけれど、これは以上だ。
バーサーカーの一撃にも匹敵するセイバーの一撃をまともにくらったハズなのに未だ悠々と動いていて、しかも傷すらない。
そんなことがありえるのか?
私は停止仕掛けた脳みそをどうにか回転させる。
バーサーカー―――ヘラクレスの生涯に絞ってその原因を探った。

「……………………ネメアの獅子の毛皮?」

たどり着いた答えはそれだ。
かつてヘラクレスが生前に行った『十二の難事』と言われる行の最初の一つ。
ネメアに住んでいる剣も矢も通さない人食いの獅子を退治したという出来事だ。
そして、ヘラクレスは殺した獅子の毛皮を剥ぎ取り身に纏っていたという。
剣も矢通さない強固な守りの毛皮。
それの効力だろうか?
いや、それにしてはそれらしき物が見あたら無い。
常時展開されている宝具なのか?
考えても思いつかない答えに、私は縋る様にこもえを見た。
私のそんな視線にも笑顔のまま彼女は、片手の人差し指を立てて、教師が教えを授けるように振る舞い。

「バーサーカーちゃんの身体はとっても硬いんです♪」

「か、硬いって…………」

簡単な言葉、だけどその通りなんだろう。
セイバーのランクCの宝具の一撃を受けても傷がつかないところを見ても、それがバーサーカーなのだろう。
こもえは詳しく理解はしていないようだけれど、深くは理解しているようだった。
バーサーカーの特性宝具、その存在を。

「が、あああああああああ!!!」

私がこもえに集中している間に、セイバーは何とか腕から逃れて様だ。
息を荒らげながら距離を取り、打ち倒したハズの相手を強く睨みつけた。
彼女の剣は普段の下段構えではなく、まるで怯えるように正眼に構えていた。
正体不明に切りかかる愚を行わずに、努めて冷静に対処を考えているようだったけれど。
相手は斬ってもしなない大巨人。
そんなものに攻略の糸口はあるのか?
それと、今は思考の端で切り離しているけれど、こもえの存在も理解できない。
一教師であった彼女が何故この聖杯戦争に参加しているのか?
彼女とそう長い間ではないが付き合ってきたけれど、魔術師の一端も匂うことはなかったのに、何故?
どこかにこの状況を打破する基点はないかと必死に考える。
さっきのように都合良い増援を待つ訳にはいかない。
今あるこの場の自分とサーヴァントだけで切り抜ける他にはない。

勿論一番簡単は方法は解っている。
それは、私の隣にいるこもえを止めることだ。
彼女がマスターで、バーサーカーがサーヴァントである限り、元を断てば自然と流れは終わるだろう。
他の有用な策が浮かばない私は直ぐに、それを実行に移した。

「こもえ! やめさせて! バーサーカーを止めて!」

下を笑顔で見つめる彼女の肩を掴んで叫ぶ。
バーサーカーを退かせて欲しいと。
だけど、彼女は―――。

「バーサーカーちゃんは強いですね……本当に」

「こもえ!!」

「あんなに強いバーサーカーちゃんが守れなかった人って誰なんでしょうね?」

「こもえ! 聞いて! お願いだから!!」

肩を揺すっても、こもえは私の話を聞いてはくれないで、ただボンヤリ優しそうに笑っていた。
短髪だけじゃなくて、こもえまで。
異変的な魔術行使による精神汚染なのか?
彼女を正気に戻す術を考えなくては!

「無駄ぜよ…………インデックス」

「え? あ、もとはる……」

声のした先を見れば、もとはるが立っていた。
ランサーに向かっていったときのものか、お腹には包帯を巻いているようだった。

「あ、土御門ちゃん、その説はどうもです」

「先生の為ならお安いごようだにゃー」

もとはるは軽い、普段のように近づいてきてビルから身を乗り出して下を確認する。
そこで戦うセイバーの姿をしばらく眺めて。

「これは、上手くない状況だな……」

そう呟いて、こもえの方に身体を向けた。

「小萌先生、ちーっとお願いがあるぜよ」

「? なんですか? 土御門ちゃん」

「あの黒いの、バーサーカーを止めるとかってのは―――」

「無理ですよ♪」

もとはるの言葉に被せる様に食い気味に否定をしたこもえ。
笑顔なのに、短髪より怖い何かを私を感じてしまう。
もとはるもそれは同じなのか、僅かに身体を引いて汗を流していた。

「インデックス、ここは全力で逃げる以外ないぜよ」

「でも、どうやって?」

こもえの説得を諦めて、もとはるは私に向き直った。
逃げる、それには賛成だけれど、どうするかが問題だ。

「バーサーカーは速いから直ぐに追いつかれちゃうよ」

バーサーカーのスピードはセイバーを上回る。
いくら逃げてもいずれは捕まってしまうだろう。
不安がる私にもとはるは自信ありげに笑うと。

「簡単ぜよ、横に逃げずに縦に逃げれば良いんだにゃー」

「縦? …………あ、縦」

「そう、セイバーのブーストと小回り、そして逃げることならお前の得意分野だろ?」

「うん…………うん!」

もとはるの言葉に強く頷く。
そうだ、戦うことは出来ないけれど、私には逃走の技術経験がある。
そこを生かすべきは今しかない!
身を乗り出しビルの下で激しい戦いを繰り広げるセイバーを見据える。
フェンスを越えて、ビルの淵に立った。

「もとはる、ありがとう……」

「どういたしまいてだにゃー」

「それと、こもえ」

「なんですか?」

肩越しに振り返り、こもえの笑顔を見つめた。

「絶対、止めに来るから」

「…………そうですか」

それだけ告げると、私はビルから身を投げた。

「セイバぁぁっぁあぁあああああああ!!!!」

今日はここまでです

>>137
色々迷った結果ですね
イリヤっぽいかなと

>>138
一瞬ねーちんでもありかなとか思いました

かんざきさん「やってしまいなさい! バーサーカー!」

>>140
ありがとうございます
頑張っていきますね

今後の展開にワクワクする

ライダーさんは……「望まずしてバケモノになった薄幸の女性」と考えると、やっぱあの人なんやろか

バーサーカーステータス高杉わろた

>>155
ありがとうございます

ライダーさんは結構迷ってますね

>>156
原作と似たようなもんですよ……確か

ヤバい、ナニコレ面白い
もっと投下スピードあげてくれたら嬉しいな

あとは、ライダーとキャスターだけ?出てないの

>>158

とりあえずsageれ、アサシン出たか?

インデックス セイバー

美琴 アーチャー

ランサー

小萌 バーサーカー

ライダー キャスター アサシン

>>158
投下スピードについてはご容赦ください
しかし、ありがとうございます

>>159
ええ、そんな感じです
配役はまだ決まりきってはいませんが

投下します



「インデックス!? なにを!!?」

「飛んで!」

バーサーカーと距離を取っていたセイバーは、私のあまりにもな無謀に口をあんぐり開けて驚いていた。
その顔が面白くてちょっと笑いながら私は彼女に命令をする。

「っ!」

その言葉にセイバーは足元の瓦礫をバーサーカーに蹴り飛ばすと、飛翔そのままに空中の私に向かい身体を抱きとめてくれた。

「インデックス! 貴女は何を!?」

「話は後! 正面に剣を構えたまま少し体を右に捻って!」

「え? ぐっ?!」

混乱というより困惑、そして怒りを滲ませた表情のセイバーは強い口調で私を問い詰めようとしたけれど、今はそれどころじゃない。
魔力放出で飛び上がったセイバーを追うように、事実追跡してバーサーカーが迫っていた。
一足飛びで跳ね上がった巨体は、私とセイバー諸共断とうと横薙ぎに斧剣を構えている。
だけど―――。
―――それは遅い。

「■■■■■■■■■!!!」

「ぐ、くぅ!!」

雄たけびと共に放たれた一撃を、セイバーは私の指示通りに剣を構えていた為に何とか受けきる。

「力に逆らわないで! そのまま受け流してその勢いで左斜め後方に飛んで! そしたら電灯があるからそれを蹴って上方に飛んで!!」

「っ! 了解しましたマスター!!」

ここに来て何とか冷静さを取り戻してくれたセイバーは、私の指示に外れることなく、バーサーカーの力を受け流してそのまま後ろに飛んだ。
私を片手で抱えたままの不安定な姿勢のままで、彼女は指示に従う。
私の言葉を疑うことなく信じて飛んでくれている。
彼女は私の思いに応えて自分の想いを託して飛んでくれている!!
だとしたら―――私もそれに応えるしかないだろう!!!

魔力の放出により、直線的にだけだけれども敏捷Aに迫る速度を可能にしているセイバー。
一介のサーヴァント相手なら十分に、見通しの良い直線でも逃げ切れるだろう。
だけど、相手はバーサーカー。
そう簡単ではない。

「■■■■■■■■■■■■■!!」

獰叫一声。
バーサーカーは自分の攻撃を利用して大きく離れようとしているセイバーと私に迫り来る。

「セイバー! バーサーカーを引き付けたら外灯を蹴って斜め左下に抜けて!!」

「了解しました!!」

セイバーが機動を担って、私が舵を取る。
私が逃げる道を考えるんじゃなくて、セイバーの能力で効率よく逃げることを考えていく。
場所を記憶して、バーサーカーの行動を記憶して、逃げる手順を脳から引っ張り出す!!

「セイバーーーー!!!」

「心得ています!!!」

私が叫んでその2秒後、黒い巨体が斧剣を振りかぶり突撃してきた。
セイバーは私を抱えたまま、ギリギリまでバーサーカーを引き付けて―――。

「■■■■■■■■■■!!!」

「ぐ、ぅ!!」

―――一秒に満たない前に私とセイバーがいた場所を斧剣が一撃で大地を割るように弾けさせた。
飛び散るアスファルトの破片をその身に受けながらセイバーはギリギリでかわすと背後の電柱の中腹ほどにグッと着地をする。

「■■■■■■■■■!!!」

しかし、バーサーカーは一撃必殺の破撃を繰り出したと言うのに硬直もなくその巨体にあるまじき身軽さで飛び上がった。

だけど―――。

「ふっ!!」

―――セイバーは、中空で斧剣を掲げてこちらに突撃するバーサーカーの横を斜めに抜き去った!
着地した電柱を蹴る反動と、こちらに迫り来るバーサーカーの加速。
二つの要素で軽々と抜き去り、背後では電柱を砕く音が響いてくるけど振り向くことはしない。
脇に抱えらたままの体勢で、少々気持ち悪くなりながらも私は舵を取っていく。

「また電柱に向かって! その根元を軽く斬って! そしたらそれをバーサーカーに蹴り倒して!!」

「っく、了解ですマスター!」

片手のままセイバーは不可視の剣で電柱の根元を斬った。
硬いコンクリートの柱は容易く断たれて、不安定に一瞬揺れた。

「っ、もう来ましたか! 本当に速い!」

そして、直ぐにバーサーカーはこちらに迫る!
ギリギリの逃亡戦!
単調な獣さながらの動きなのに、黒い巨人はかくも俊敏(はや)い!
変わらず風を大地を全てを破壊する斧剣を構えて猛追。

「セイバー!」

「ええ!!」

数秒先、今にも訪れそうなその瞬間より先にと私は叫ぶ。
セイバーは焦りながらも行為の是非を問わないで、私の言葉を信頼してくれている。
だからこそ、この逃げ戦。
私たちの勝ちでしかない。
私はセイバーを信頼しているし、セイバーも私を信頼してくれている。
負けるはずがない!
私の中に足りなかった何かがはまりこんだ、そんな気がした。
理想の実現に必要だった力が、セイバーというエンジンが私に積み込まれた瞬間だった。

セイバーは、襲い来るバーサーカーに向かって先ほど根元を断った電柱を蹴り飛ばした。
ゆっくりと斜めに傾いて、電柱は狂戦士に向かって倒れていく。
それに気づいたバーサーカーは斧剣を水平に構えていた。
一薙ぎに砕くつもりが丸見えだ。
電柱がもう少しでバーサーカーの間合いに入る瞬間に私は抱えられたまま叫んだ。

「セイバー!」

速度刺激に耐え切れないで震える手を上げて、倒れ行く電柱を指差した。

「あの上を走って!!」

「了解ですマスター!!」

私の言葉に彼女は一息で期待に応えて駆け出した。
丸太のような電柱を一気に駆け上がり、バーサーカーは構えた斧剣を振るおうと力を込めて―――。

「くっ!?」

「そのまま走って!!」

―――そして、大きく空振りをした。
電柱から他の電柱に伸びる電線、それが倒れる一瞬のブレーキになったのだ。
ほんの一瞬だけのブレーキだけどそれで十分。
再びバーサーカーが斧剣を振るったときには、セイバーと私は電柱をジャンプ台にビルの上に飛び乗っていた。

「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」

下からはバーサーカーの怒り―なのかも知れない―の叫びが響いていた。
純粋な身体能力での移動しか方式を持たないバーサーカーがここまで来るにはかなりの時間を有するだろう。
その間にも私とセイバーは、ビルの上を、電柱を、地面を。
彼女の機動力に任せて縦横無尽に逃げ回った。
いつしか人々の活気ある地域に出ていたので、セイバーに提案して人目につかない場所に降り立ってもらい。

「ここまで来れば安心、だね」

「そのようですね……」

セイバーも安全を確認したのか、武装を解いてジャージ姿に戻って一息。
少し向こうから聞こえてくる雑踏に安心を感じると。

「あ、あれ? あし、足が……あえ?」

「インデックス!?」

「こ、腰、腰抜けちゃった……あ、あはは」

私は下を気にせずその場にへたりこんでしまった。
震える足は自分も意思が届かない部位になってしまい、ただそこにあるだけ。
小さめのお尻も、普段気にしてないのに今は随分と重い。
地面にぺたんと落としたまま、くっついて離れてくれそうもなかった。

「インデックス……」

セイバーは小さな笑みを浮かべて、私にそっと手を差し伸べてくれた。
その綺麗な、バーサーカーと互角に渡り合ったとは思えない綺麗な手を掴んだ。

「インデックス、本当に貴女がマスターで良かった」

「よっと…………私もだよ、セイバーが私のサーヴァントで良かったよ」

震える足に力を込めて、何とかだけど立ち上がった。
暴風のようなバーサーカーを潜り抜けた恐怖もあり、しばらくはまともに動かない気がしたけど、何とかセイバーに肩を借りた。

「貴女が私のマスターでなければ先ほどの戦で私はこの身ならず、マスターまで失っていたでしょう」

「そ、そんなこと―――」

「事実です」

私に肩を貸してくれながら、セイバーは強い瞳で、決意の瞳でそう言い切った。
彼女の目には悲しみ失意諦めはなく、ただ何かを強く理解して決意しきった色をしていた。

「今回、いえアーチャーとの戦いでの不覚も私の力不足の招いた結果です」

「…………」

彼女の瞳は強い。
敗北に酔うでなく、逃走を言い訳にするでもなく。
ただただ強い。
どこかたんぱつを思い出す、強すぎて強すぎて―――。
―――でも、きっと壊れはしない瞳。
きっと彼女の臣下たちも、この強い瞳と横顔を見続けたのだろう。
正面から見る人がいなかった、それが悲運であったと知る人はいなかったのだろう、彼女自身でさえも。
在りし日の民が、臣下が、友が見た横顔を私もジッと見つめる。
私の願いはとうまを助けること。
だけど、彼女が聖杯に託した願いはなんなのだろうか?
この強い瞳で彼女は何を見据えたのだろうか。

「貴女がいなければ、この逃走すらありえなかった、貴女のお陰で繋げた今です」

瞳はそのまま彼女の口だけが動く。
ジャージ姿で路地裏で、私に肩を貸している。
そんな状況でも彼女の言葉はまるで神託のように響いて消える。
言葉が消える空しさに、彼女は慣れているようだった。
彼女の言葉に誰も答えない、沈黙にして肯となす。
それが彼女の日常だったのだろう。

「だから、私ここに誓います、貴女を守る剣になると真に」

彼女の言葉は強く正しく重い想い。
だけど、こうも空しく響く。
本物であり過ぎる彼女の言葉は誰にも届かない。
それに気づく人は誰もいなかったのだろう。
だから、私だけは彼女に応えよう。
彼女の言葉に嘘はない。
彼女の想いに嘘はない。
彼女の本物に、私だけは本物で応えよう。
悲しい悲しい王様を一人にさせてはいけない。
彼女はきっととうまの行き着く未来の一つ、そんな気がするから。

「うん、よろしくセイバー」

肯定に合わせた私の笑みに、彼女は強く優しく微笑んでくれた。




「三文芝居は終わりましたか? とミサカは内心の溜息を隠さずに告げます」

路地の向こう。
雑踏から覗き込む光の下。
そこには、私がクールビューティと呼ぶ、たんぱつの妹が立っていた。
たんぱつと同じ格好、同じ服装。
だけど表情がまるで違う彼女が、大きなゴーグルを額にあげて―――。
―――片手に無造作に銃を携えてそこにいた。

「く、クールビューティ、どうした、の?」

「インデックス…………」

私も馬鹿じゃない。
彼女から感じる敵意と、そして銃の意味くらい理解している。
セイバーも彼女の不穏を感じたのか、すっと鎧を纏って一歩前に出た。
それを制止しようとした。
いくらクールビューティが敵意を持っていても、セイバーが相手じゃそんな敵意は意味がない。
彼女とまともに戦える人間なんてこの世に存在しないに等しいのだから。
だから、まずは話を聞こうとそんな余裕を見せたのが間違いだった。
ぽひゅん。
そんなどこか間抜けな音が路地に響いた。

「ぐっ!」

「セイバー!?」

音がして直ぐにセイバーは一瞬体勢を崩した。
ダメージはないみたいだけど、彼女の顔には驚愕と戸惑いが見て取れた。
私は慌ててクールビューティを見たけれど、彼女は銃を持っているだけで何もしていない。
では、誰がどこから何を?
その思考から一秒もしたら答えに辿りついたのに。
疲れと油断と余裕がその一秒も与えてくれなかった。
ぽひゅん。ぽひゅん。ぽひゅん。ぽひゅん。
重なり合うように追うように、連続で同時で音が鳴り響く。

「くっ、飛び道具とは卑怯な!!」

セイバーは音に反応して不可視の剣で顔を覆うようにしていた。
ダメージはないまでも衝撃はあるのか、彼女の身体がグラグラと揺れていた。

「これは…………」

私は足元に転がってきた小さなもので、彼女を襲うものの正体に気づいた―――しかし、もう遅い。
苛立ちながら剣を振るって、遅い来る小さなものをいくつか払い落とした彼女の右死角に、私に背を向けるように黒い、紫色の女性がすっと降りてきて。

「………………」

「ぐ、がっぁ!?!?!?!?」

無言のままセイバーを殴り飛ばした。

「せ、セイバー?!」

いきなりのことに思考はついていけない。
それでも吹き飛んでビルの壁を突き破って消えたセイバーのことが心配で直ぐに駆け出そうとしたけれど。

「………………」

私の前に、セイバーを殴り飛ばした女性が立ちはだかった。
かおりくらい背が高い、紫の長い髪に、黒いドレス、そして瞳を隠した女性がそこに立ちふさがる。
私の足元に転がるいくつも弾頭。
セイバーの気をそらしていた物体だ。
これに気を取られていたとしても容易くセイバーを吹き飛ばした怪物が目の前にいた。
その身から漏れる不吉な気配は人のそれじゃない。
恐らく、いや間違いなくサーヴァントだ。
しかもとびっきり凶悪な。
限界だった足は更にガタガタと震えだしてしまうけれど、どうにかその場で立つことだけは出来る機能は残っていた。
だけど、それだけ。逃げる機能はまだ回復していない。
いや、例え万全でもこの不吉な相手から逃げられるものか。
恐怖の端々から思考が零れ漏れていく。
そんな私に言うことはないのか、サーヴァントは無言。
無言のサーヴァントにクールビューティは初めてあったときのようなクールな声で告げた。

「ライダー、殺してください」
















今日はここまでです。

ああ、なるほど
ライダーのマスターには■■さんが来るとばっかり思ってた


逃亡がかっけぇな
マジ乙

二人目のギリシャの有名人がいらっしゃいました
たしかにライダーのマスターはアーチャーのマスターの「妹」だww
ましてクローン体で速成っていう「体を弄られて」る事実
能力者である御坂妹が吐血しないのは…書いたら当たり外れを問わず駄目言われそうで残念

にしても美琴、いくら好きな男の記憶のためとはいえそこまでするかよ?
小萌先生も聖杯を求める望みって何さ…
いっそ初期の木山先生とかなら余裕で想像できるけれど

>>172
これから頑張ります、多分

>>173
吸血繋がりで考えましたが、なるべくメイン? キャラを配置しようと思いまして

>>173
ありがとうございます
インデックスなら逃げるが得意かと思いまして

>>174
おやおや、色々突っ込んできましたが秘密、でお願いします
前述ですが、メインのキャラを使いたかったのと、思い付かなかったとかで本編キャラが前に来ますね
木山先生だと、インデックスとかと辛味がないのでちょっと
小萌先生は小萌先生ですから

また間が空きましたが、投下します

「させるかぁぁああああ!!!」

「ぐっ!?」

闇から出てきたような黒いサーヴァントが私めがけて、セイバーを一撃で吹き飛ばした豪腕を振るおうとしたとき真横から青い影が飛び出した。

「せ、セイバー!?」

「無事ですか!? インデックス!」

凄まじい勢いで吹き飛ばされて、ビルを突き破って消えたハズの騎士は息を少し荒らげながら私の前に立った。
見たところ傷も怪我もないようだけれども、ここまで連戦、そしてさっきの一撃がダメージになっていないハズがない。
彼女の顔色は明らかに悪い、消耗をしているようだ。

「はっ、はぁ……ふっ、く」

「せ、セイバー、大丈夫? 大丈夫、なの?」

彼女は剣を正眼に構えながら息を荒くして、肩を揺ら姿で私の前に立っている。
距離をとった敵サーヴァントから視線を一秒も逸らさずに、私と戦場を遮る為にその身を盾にした。
その盾になっている背中を見て、私は不意にとうまの背中を思い出していた。
私の為に、誰かの為に常に前に立っていた、ただの少年の背中を。

「ふぅぅぅ…………インデックス、敵の戦力は何か解りますか?」

「え? あ、ちょ、ちょっと待ってね!」

ボーっとセイバーの背中を見ていた私に声がかかる。
驚きの連続で不覚にもまだ敵サーヴァントの実力もクラスも確認していなかった。
なので、言われて慌てながらももう一つの目を開くように集中していき、セイバー越しに見える黒衣長髪の女性サーヴァントを見た。
「…………見えた」

彼女の纏う不吉な雰囲気に反してステータスは簡単に見ることが出来た。
世にはステータス、素性の解析を不明にする宝具も存在するらしいけれど、彼女にそれは無いらしい。

「それで、敵の戦力は……?」

「えっと…………」

セイバーに問われて、今見たステータスを認識し直した。
真名 『不明』
クラス『ライダー』
筋力 『C』
魔力 『E』
耐久 『C』
幸運 『E』
敏捷 『B』
宝具 『A+』

セイバーのステータスと比較して考えていく。
筋力 『C』
魔力 『C』
耐久 『B』
幸運 『B』
敏捷 『C』
宝具 『C』

ステータス、基礎能力としての差はほぼない、むしろセイバーの方がやや有利であるだろう。
でも―――。

「―――Aランク越えの宝具……!!」

「え?」

私の歯軋りにも似た呟きにセイバーは微かに反応をした。
聞こえなかったのか、それとも聞こえた上で聞き返したかったのか。
それを確認しないで私は今度はしっかり告げた。

「基礎戦闘なら多分セイバーが勝つと思うけど―――」

怯えを含ませた視線を不吉なサーヴァント―――ライダー―――に向けながら。

「宝具の出し合いになったら、多分勝負にならない―――」

あくまで、今のままなら。
セイバーがその『剣』を真に抜かないのなら、という条件をつけるけれど。
ステータスは絶対ではないけれど正直だ。
軒並みAの近いバーサーカーとセイバーは真正面から打ち合えたのは魔力放出というスキルがあってこそのブースターだ。
例えてセイバーが筋力・敏捷をA近くまで瞬間的に引き上げても宝具の威力の前では意味が無い。
いくら身体能力が上がっても、ミサイルに勝てる訳が無い。
理屈としてはそんな所なのだけれど……。

「でも、Aランク越えの宝具なんてそうおいそれと使える代物じゃないと思うんだよ」

そう、宝具はミサイル。
その火力が強ければ強いほど反動消費も高く大きくなっていくのは自明の理。
強力な宝具があっても、それには使いどころ、使うべき瞬間がある。
ならば、私にも―――私たちにも勝機はある!

「そう、ですね、インデックス…………その通りですね!」

一瞬だけ揺らいだ彼女の剣が再び真っ直ぐ敵を拝んだ。

「…………」

「…………コードD-23へ変更と、ミサカは告げます」

セイバーの不可視の剣にライダーは短剣のような、どちらかと言うと大きな縫い針が二本鎖で繋がれた武器を手にして、クールビューティは銃を構えて小さく呟いた。
それを見ながら、私はこのビルで囲まれた学園都市小さな隙間、その四方を見る。
さっきのセイバーを狙った狙撃がどこから来ているか、それを見極めてどうにか中止させなくては!
彼女の大したダメージもないだろうけれど、集中を一瞬乱されるのが戦闘では命取りになるのは間違いない。
セイバーが安心して、全力で戦えるようにサポートするのが私の役目だろう。

「っ!」

三人、ひいては私たちを囲むだろうクールビューティの仲間たちからの戦気が場を支配していく。
私は手を強く握って、その瞬間を待った。

「…………」

セイバーは身じろぎ一つしないで、微かに吹く風に綺麗な髪を揺らして―――。

「…………」

ライダーは手にした鎖付の双鋲をゆらゆらと揺らし―――。

「…………」

クールビューティは銃の装弾を終えたのか、こちらを見据えながら身を低くさせていた―――。
―――そして、何が起因になったかは解らないけれど、その場の空気を弾く様に三者動き出した!!

「「「っっっ!!!!」」」

「きゃっ!?」

三人が動き出したそれだけで狭い空間の空気が全てかき回されたような錯覚にすら陥るほどの突風。
開戦された戦いの凄まじさを讃えるかのようなうねる空気。
「ぜぁぁぁぁあぁぁぁああ!!!」

―――セイバーは不可視の剣を下段に構えて、ライダーに疾駆する!

「くっ!?」

―――ライダーは双鋲を構えはするけれど、魔力放出によりブーストがかかっているセイバーに対応出来ないのか、後退していき。

「予定値、希望値を大きく上回る速力、侮れませんとミサカは無駄と知りながら銃での応射をします

―――クールビューティーは着かづ離れづの位置からセイバーに向かって銃を撃っていく。

「はぁぁあああ!!」

「く、ぐぅっ!?」

銃の牽制なんか気にすることもなく、セイバーは真っ直ぐライダーに斬りかかって行った。
あのバーサーカーとすら互角に打ち合った一撃を、ライダーは交差させた双鋲で何とか受け止めるけれど、反動で大きく後退していく。
しかし、後退ばかりも出来ない。
ここは狭い空間、ライダーは剣を受けながら直ぐに壁に、ビルに追い詰めらていった。

「あああああああっ!!」

「っつ!!」

セイバーの不可視の剣をライダーは細く短い得物で上手く受けていく。
その度に火花が散っていき、それに混ざるようにアスファルトに銃弾が打ち込まれいている。
”ちゅいん”
そんな安っぽい音と共にアスファルトが削られていくけれど、セイバーにはほとんど当たっていなかった。
狙撃手たちは、激しく、そして速く動くセイバーに上手く狙いを定められないでいるようだった。
それもそうだろう―――。

「はぁぁああああ!!」

「っつぁ!?」

セイバーの一撃を受けて、身体を下がらせながらも狭い空間を上手く利用して跳ねる様に、どこか蜘蛛を思わせる動きで逃げるライダー。
そんな高速で予測不能な動きをする彼女をセイバーは無駄のない直線軌道。
ライダーの高速を易々上回る速さで動いて追いついているのだ。
そんな動きをする相手をそう簡単に打ち抜ける訳が無い。
また、セイバーの一撃を受けてライダーは後方に退いた。
そして、退くだけではなく!

「くらいなさいっ!!」

凛とした声と共に双鋲の片方をセイバーに向かって音を切る速さで投げた。
が、しかし…………!

「この程度! 止まる理由にもならないぞ騎兵!!」

「ちっ…………」

弾丸をも越えるような速度で向かってきたものをセイバーはその不可視の剣で簡単に打ち落として見せた。
そして、打ち落とすだけではなく、相手が繋がっている鎖を引き戻すよりも速く踏み込んだ!

「遅い!!」

「ぐぅっ!」

セイバーが振るった神速の一撃をライダーは双鋲を繋ぐ鎖で受けた。
撓みを利用して、上手くは防いだけれど完全ではなく、再び後方に大きく跳ぶ。
そして、背後に壁が迫っているのを察知してか、やや斜めに前に前進しながら引き戻した鋲を再び投擲!
”しゅぃん!”
耳を掠めるような切り裂き音を置き去りに、真っ直ぐにセイバーを狙った一撃。
だけれども、それをセイバーは同じように迎撃しようと身を少しだけ屈め―――。

「通じるとでも思ったか!!」

―――軽々と打ち落とした、ハズだった!

「なっ!?」

しかし、鋲はセイバーに到達する一瞬手前で減速した。
その鎖の先を持つライダーが自分の方に引いたのだった!

「スペックはあっても、おつむの方は残念のようですね」

それにより、セイバーが迎撃の為に振った剣は空を切るだけになってしまい、微かにバランスを崩してその場で停止を余儀なくされた。

「くっ! だが、これがどうだと言うのだ!!」

嘲る様な、どこか人間味ある声でセイバーを挑発してきたが、彼女の言うように一回すかしただけで何の意味があるのか?
魔力放出により、筋力・敏捷が実質A相当のセイバーにライダーは防戦一方なのだ。
一度してやっただけでひっくり返るようなことは起きない。
それは向こうも解っているハズだけれど―――”チカ”
思考の外から聞こえた小さな音、今まで二人の戦いが凄過ぎて忘れていた第三者の当事者!

「せい――― ”ぱしゅんぱしゅんぱしゅんぱしゅんぱしゅんぱしゅん!!!”

「くっ!? またか!」

軽い音の連続も連続が狭い空間に響き渡った。

「力ある者の油断とは利用しやすいものですね、とミサカは漫画のようにダブルハンドで連射しながら嘲ります」

囲んだビルの窓から窓から、そしてセイバーの死角に入り込んでいたクールビューティーが。
最初にセイバーの隙を作り出したように、いやそれよりも力技で銃の連射を行ってきた。
狙いもつけていないのか、銃弾のいくつかはセイバー周囲の地面を削っていく。

「くっ! この程度―――」

「―――この程度が重要なんですよ、セイバー」

「セイバー!!! 左後ほ―――」

再び作ってしまったどうしょうもない隙。
そこに入り込むように、ライダーがセイバーの後方斜め上空から襲い掛かる!
双鋲を手にした腕を交差させ、二本の牙で獣が獲物を狙うように!!
―――ライダーの位置を私が叫ぼうとした。
ライダーが上空から接近する―――。
―――クールビューティがその場から大きく退避する。
セイバーがライダーが前にいた場所を見て驚愕する―――。
―――その驚愕をつくようにライダーの双鋲が閃いた!!!!!

「ぐっ!!!」

「―――う斜め上からきてる!!」

私の声が届くよりも速く、セイバーはその場を大きく右に飛びのいた。
それにより、ライダーの一撃は完全に空を切ることになった。

「―――中々すばしっこいようですね」

「卑怯な手をっ!!」

弾痕で荒れたアスファルトにライダーは降り立って、空を切った得物を確かめるように二度三度振ってみせる。
セイバーは再び使われた卑怯な手に歯を軋ませ怒りの声をあげた。

「せ、セイバー、だいじょうぶ、なの?」

「ええ、大丈夫です、貴女の声のおかげです」

振り返らず彼女はそう告げてくれた。

「そ、そんな…………私の声は、セイバーが逃げる後だよ」

だけど、私はその気遣いが嫌で否定をするが。

「いえ、貴女の左後方、という声で最低限の当たりをつけられました、それが無ければ策の餌食になっていたでしょう……」

そう告げた彼女は、再び強く剣を構えた。
目の前の敵を圧倒せんという闘志をむき出しに。

「貴女の助けに報いる為に、私は―――!」

彼女の基本スタイル。
剣の下段構えをすると、そのまま身を沈みこませて。

「―――こんな者達には負けはしません!!!」

意味どおりの、人ならざる速度で踏み込んでいった。

そして幾激かの火花の末、セイバーの一撃を受けたライダーがその身をビルの壁に叩き付けられた。
さしもの英霊、大したダメージもないようだけれど、響いてはいるようで咄嗟の動きが一瞬遅れた。
その遅れを見逃すセイバーではない!!

「でやぁぁああああああ!!!」

下段に構え魔力のブーストで、セイバーはライダーの懐に一足で飛び込んだ―――!

「終わりだぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」

突進の加速と、剣を振るう加速。
二重の加速を施された一撃が、無防備なライダーの身体を逆袈裟に斬った!

「やった!? やったの!?」

狙撃手の攻略も忘れて見入ってしまった三人の、否二人の英霊の戦闘。
その興奮に当てられたのか、ついはしゃいだ声を出してしまった。
本当なら恥ずべきことなのだけれど、熱気の中の私はそれに気付かないで勝利に歓喜している。
歓喜の声の中、セイバーは剣を納めると私の方にゆっくりと戻ってきた。
壁際で倒れているライダーには大きな裂傷があり、ゆっくりではあるけれど、消えだしていた。

「どうやら伏兵も退いたようですね」

「え? あ、そ、そうなの? …………ごめん」

「何故謝るのですか?」

こちらに向かってきたセイバーは、視線を軽く動かしただけで狙撃してきた連中が撤退したのを感じ取ったらしく、それをこともなげに伝えて着たけれど。
私としては、自分が何も役に立てなかったことが惨めで、俯いて謝罪をしたが。
彼女にとってはその謝罪が理解出来ないのか不思議そうにしながら、私の横に立った。
私の横、だけれども少しだけ前。
当然のように私を守る位置に。
それが、やっぱり悔しい。

「ライダーのマスターよ、勝負はつきました」

私の悔しさ惨めさをそのままに、セイバーは少し離れた位置で立ち尽くすクールビューティに声を投げた。
騎士である彼女としての情けであり、ルールなのかも知れない。
自分より明らかに格下の相手に手を出さないという心で、彼女を見つめた。

「………………」

だけど、その言葉にも視線にも反応をしないクールビューティは―――
――――――ゆっくりと崩れ落ちた。

「え?」

”どさっ”そんな軽いような重いような音を立てて、クールビューティはアスファルトの地面に倒れこんだ。

「な?!」

予想外の事態にセイバーも驚き動揺していた。
それは私もだけれど、驚きながらも私は駆け出す。
彼女の元に一秒でも速くつけば何かがどうにかなるのかも知れない、そんなことも思わずただただ駆け寄った。

「く、クールビューティ!? どうしたの!? どこか怪我をしたの!?」

近寄ってしゃがみ込むと、私は彼女の細い肩を掴んで揺するけれど反応は無い。

「ごめんね!」

一度謝ってから、服の下までも検分していくけれど、外傷、それに相応するものは一切見当たらない。
だけれども――――――。

「インデックス! 彼女は一体どうしたと言うのですか?!」

遅れてきたセイバーにも微かな焦りが見える。
だけど、そんなことはどうでも良くて私を震える声で告げた。

「――――――死んでる、クールビューティ、死んでるよ」

今日はここまでです


すげえ気になるところで終わったああああああ

途中で「狙撃手たち」ってなってるけど、シスターズ複数来てるのか?

英霊に対しては神秘を持たないただの銃撃は無効化されるんじゃね

>>189
なるべく早くに書き上げますね

>>190
そうですね、大量に

>>191
衝撃くらいはある感じでやってみてます

投下します

「死んでいる? 死んでいるとは、インデックスどういうことですか!?」

セイバーの焦りを含んだ声を聞きながら、私も汗をダラダラ流してクールビューティの身体を調べていく。
大きな怪我は見当たらない。
少しばかりの怪我は見つかる。
さっきの戦闘での傷なのか、微かな傷、火傷らしきものは見当たるのだけれども。
死に至る、致命の傷は見つけることは出来ない。
なのに、なのに、なのに―――!!

「―――死んでる、死んでるんだよ、クールビューティは!」

「っ!!」

あまりにもあっけない知人の、数少ない友人の死。
喜劇的でも悲劇的でもない、ただただ死んだようなその瞬間。
電池が切れたような彼女の死。
それが認められない私は必死に彼女の身体を調べていく。
路地裏で女の子の服を脱がせて触っている姿は、他人から見たら怪しいこと極まりないだろうけど、私は真剣だ。
友人の死を目の前にして落ち着ける訳もないし、落ち着く気もない。
調べてもどうにかなるかは解らないけれど、それでも『もう死んでるんだし』なんて割り切ることはできなかった。

だけど―――。

「なんで? なんでどこにも無いの!?」

彼女の身体にはその命を奪ったと考えられる傷がまったくないのだ。
小さな傷、裂傷、擦過傷、火傷、打ち身。
それくらいがちょっとあるだけ、それなのに彼女は生きていない。

「っ!」

「インデックス、気持ちは解りますが、あまりここに長居するのは得策ではないように思えます」

「…………わかって、るよ」

無力をかみ締めている私に、少し気遣うようにセイバーが声をかけてきてくれた。
だけど、私はその言葉に素直には頷けない。
セイバーにとっては敵のマスターが倒れた、それだけなのかも知れない。
もしかしたら、喜んですらいるのかも知れない。
でも、私にとっては愛する友人が敵で、理由も解らないままに死んでしまったのだ。
否―――。
もしかしたら。
―――私が殺してしまったのかも知れないのだ。

そう、そうなのだ。
セイバーとライダーの戦闘。
そして、セイバーの勝利。
純粋な魔術師ではない、むしろ魔の側面すら有していないマスターのクールビューティ。
何らかの外法によりマスターになった可能性は高い。
思い出すのは彼女の姉たる短髪だ。
血を吐き、身体を蝕まれながらも私の前に立ちはだかった彼女の姿。
あれはどう考えてもまっとうなそれではない。
もし、彼女が似たような外法に身を堕していたとしたら?
それによる対価は通常の術式の非ではない。
命を、もしかしたら魂さえ対価に持ち去られてしまったのかも知れない。

「っ」

その想像に寒気が背中を駆け上って行った。
命をとられる、それは即ち死だ。
しかし魂を取られる、それは死ですらない。
魂というエネルギー、意思、心、意識、それらを尽きるまで人間が地獄と称する場所で遊ばれ続けるのだ。
それは死よりも恐ろしい。
そして最後に迎えるのは無だ。
何もかもなくなってしまい、輪廻の輪から強制的に廃除される。
そんな終わりを迎えてしまう。
死んだ後すら安らぎの無い場所に連れ去られてしまったのかも知れない。
そう考えると―――震えは止まらない。

「インデックス、大丈夫ですか? 顔色が優れませんが?」

「…………うん、大丈夫、大丈夫、だよ」

クールビューティの死体をそのままに、私とセイバーは人の少ない公園に来ていた。
閑散としたそこのベンチに私は座り込んで、震えそうになる身体をどうにか抑え込んでいる。
セイバーにとってはもう終わった話。
敵のマスターを死を持って脱落されただけの話なのかも知れない。
だけど、私にはそんな割り切りかたは出来ない、したくない。
友人を殺してしまったかも知れない事実は私の心に深く深く沈んでいった。
まるで枷のように深く、刻むように深く―――。
―――杭―――悔い―――のように深く深く深く深く不快に。

「ぅっ!?」

「インデックス!?」

クールビューティの死に顔が頭に浮かんだ瞬間。
抑えてきた震えが限界を超えて、同時に胃が捻じれる様な熱を孕んだ。
最後に何か食べたのはいつだったか?
そんなことを思い浮かべる変な余裕はあったけれど、胃の捻じれを止める余裕はなくて。

「おぶぇげっぉああっぁああ!!」

「い、インデックス…………」

私はその場に、服の裾を汚しながら胃の中身を吐き出した。
気持ち悪かった。
心に沈んでいった何かを吐き出したくて、でもどうやら口から出せるものではないみたいで、いくら吐いても気分は晴れずにいた。
静かな公園に悪臭と、無様な声が響いて消えていった。

「では、インデックス、周囲を巡回してきますので身体を休めていてください」

「うん…………わかった」

ライダーとの戦闘に勝利を収めて二日。
一応と言うことで私とセイバーは荒れたとうまの部屋に戻ってきていた。
他に行く場所がなかったから、まら短髪が来るかも知れないけど―――。

「ぅっ、あ…………ぅ」

短髪の顔が頭に浮かんだ瞬間、一ミリの狂いもなく記憶しているクールビューティの死に顔がフラッシュバックした。
それにより吐き気を催した私は、ふらふらとトイレに向かい、空っぽの胃から胃液を吐き出した。

「…………」

チラッと見た鏡には真っ青なかおで、虚ろな目をした自分の姿が映っていた。
私はあれ以来完全に気力を失いきっていた。
度重なる親しい者との決別、そして友人の死。
もう訳が解らなくなっていた。
こんなものが聖杯戦争なのか?
見知ったもの同士が殺しあう醜悪な戦争の先にあるそれに希望はあるのか?
そんな考えをしていても、私はとうまを救わなくちゃいけない。
とうまが今もどこかで救いを求めているのではないか?
そう考えるといても立ってもいられないけれど、直ぐにこの戦争への嫌悪、恐怖が湧き上る。

「ライダーが墜ちて、あと6人のサーヴァント、私は後5人倒さなくちゃいけない…………」

一人を倒しても終わらない戦争。
自分以外が全員消えなくては終わりにならない戦争だ。
それが私の参加している聖杯戦争。
醜悪でしかない蟲毒のような儀式だ。
私も壷の中の蟲の一匹なのだろうか?
互いに食い合い、そして最後には最悪の毒になり果てる。
それがこの戦争の決着か。

「短髪、こもえ……クールビューティ、なんで?」

何でこんな戦争の彼女たちが参加しているのだろうか?
誰もが不幸になるような戦争に参加する理由。
それが理解できない私は、汚れた床で目を閉じた。

「首尾はどんなもんなんだ?」

暗い部屋、互いの位置も解らないようなそこで声が交わされて行く。
反響のせいで、どこにいるかも知れないそんな状況でも気にする風もなく。

「まぁまぁ、と言ったところだな……今のところ大筋の乱れは無い」

「大筋の乱れ、か」

声と声のやり取り。
むしろ、声しか存在していないような空間。

「つまり、現在の聖杯戦争は順調、と言うことか?」

「もちろんだ、このまま進めていけば再現率は93%から97%で落ち着くだろう」

「100じゃなくて良いのか?」

「100の再現は不可能だ、それなりでさえあれば良い、あとは自ずとどうにかなるように修正される」

「世界の修正力に期待する訳か」

「期待じゃない、最初から修正も組み込んでの計算だよ」

「世界すらプランに?」

「違う、プランの一部には必然的に求められただけだよ―――」


「―――全てが1になる渦の中心に飛び込むためにはどうしても、ね」


どちらの言葉のなのか、それさえ解らない暗闇に響く声。
声自体の圧力がその場を支配していった。
そして数瞬か数秒か数分か数時間か数日か数年か数世紀かの沈黙の後に最後の言葉が乗せられた。

「傲慢だな、その為に貴重な人材も、稀有な英霊も食い物にするか」

とだけ。
それ以降その部屋から言葉は抜け落ちたように消えていった。

「ん、んん? …………もう夕方?」

目を開けた瞬間に飛び込んで来た赤い景色。
割れた窓の向こうに広がる空は夕焼け。
綺麗な空をボーっと見つめていく。

「結構、寝ちゃったの、かな?」

「インデックス、起きましたか?」

「セイバー…………?」

ふと呟いた言葉に反応して、綺麗な声が返ってきた。
思考も何も無く反射でそちらを見ると、とうまのジャージを着たセイバーが立っていた。
夕焼けの日に、それより眩い金髪を濡らしながら、一枚の絵画のようにそこに佇む彼女を見ていると心が洗われて行くようだった。
悩みや思いや想いがスッと流れて消えていく。
今この瞬間だけは頭の中が真っ白になれた。
だけど―――。

「っ!?」

「インデックス! やはり、体調が芳しくないようですね…………」

―――直ぐに思い出してしまう今までの聖杯戦争。
綺麗になった心に汚いヘドロが流れ込んで流れ込んで。
私の『なか』をいっぱいに満たしてしまった。
胃が熱い、頭が白熱する、喉が焼ける。
内側から満たされる苦しみに、私は身体を丸めて何とか耐えていた。
そんな私の姿を見ながらセイバーは優しく背中を撫でてくれて。

「今日も休養に当てた方が良さそうですね」

「ごめん、セイバー…………」

セイバーがそう言ってくれた。
これで私は丸二日聖杯戦争から離れることになる。
とうまを助けると誓った私だけど、あの戦争に再び参加して見知った者を殺すことに私は恐怖していた。
身体は震えて、吐きすぎた喉は痛い。
足にまともに力は入らず、脳の回転は至極遅い。
今の私は、最悪の状態だ。

「大丈夫ですインデックス、ゆっくりじっくりと進んで行きましょう」

「うん…………ありがとう」

謝る私を励ますように綺麗な笑顔を見せてくれたセイバー。
だけど、私はその笑顔を直視出来ない。
だって、彼女は当然のように聖杯戦争を続けようとしているから。
いや、それは当たり前だろう。
彼女がここにいる
理由の全ては聖杯戦争にあるのだから。
彼女も目的は聖杯、私の目的は聖杯。
利害の一致であり目標の同一によりこの戦争に参加したと言うのに、私はこの戦争から手を引きたくなりつつあった。
だけど、それを押し止める理由があるのだ。
聖杯に、こんな戦争の結末に託さなくてはいけない願いがあるから。
その為にも戦わなくてはいけないのだけど私は―――。

「じっくりも良いんだけど、そうもいかないみたいなんだにゃー」

「何者だ!?」

「!?」

もう一度目を瞑って、意識を手放そうとしたとき不意に声が部屋に響いた。
軽い調子の、どこか人の心に入り込むような声が。
その声に反応して、セイバーは瞬時に武装を完了していて私もヨロヨロ立ち上がった。

「もと、はる?」

「よっ、辛そうだにゃー」

夕焼けの中から出でたように影の中に立っているのはもとはるだった。
相変わらずの格好で、軽くこちらに手を上げて見せていた。
目をパチクリされていると、彼はその手を下げて笑みを消した。

「辛そうなとこ悪いんだが、囲まれてるぞ、ここ」

そう冷たい一言を放り投げてきた。

「な!?」

「囲まれている!? そんなバカなサーヴァントの気配なんて感じません!」

私もセイバーもそれぞれ驚愕して、もとはるを見つめる。
そう、セイバーの感知に引っかからずにこの部屋を囲まれるなんて、そんなことがあるのかと。
もとはるに説明を求めるよりも早く、それを肯定する音が響いた。

”がしゃぁぁぁあああん!!”

「!?」

「早いな…………」

部屋のドアが音を立てて蹴り開けられ、その先から―――。

「な、なに、あれ?」

―――人のシルエットはしているけれど、どこかズングリとした形をした何かが進入してきた。

「あれは……パワードスーツの一種だな」

それを見てもとはるは冷静にそう告げた。
だけど、私もセイバーも聞き覚えのない単語に首を捻るばかりだ。

「パワードスーツ?」

疑問をそのまま口にする。

「着る事により運動能力耐久性を引き上げるものだ、簡単に言うなら纏式魔術の科学版だな」

「!」

「つまり、ただの人間ではない、ということですね」

その説明で私とセイバーは事態を理解した。
だけど、今ひとつ理解が出来ないのはこの状況だった。
何故そんな装備をした奴等がここを狙っているのか?
これは聖杯戦争とは別の何かなのだろうか?

「敵のマスターには学園都市で権力を持つ、もしくはそれに相当するものがいるってことだな」

私の疑問を察したのか、もとはるはゆっくり後退しながらそう告げて着た。
つまり、これは聖杯戦争なのだろう。

「っ!」

あの戦争の渦中に巻き込まれた、そう感じた瞬間に胃が軋みを上げた。
また嫌な吐き気が上ってくるが、それをどうにか飲み込みチラリとセイバーを見た。

「………………」

既に戦気充実な様子の彼女は、不可視の剣を下段に構えて目の前の敵を見つめていた。

「インデックス、どうしますか?」

「…………」

おそらく、いくら人間が身体能力を強化しよとセイバーの敵ではないだろう。
だからこそセイバーは私に指示を仰いだ。

”殺してしまっても良いのか?”

と。
否、違う。
彼女は”どうやって殺すか”を聞いてきたのだ。
ああ。
また胃が裏返る。
胃から上ってくる熱いもの。
喉を駆ける熱いもの。
それを開放する前に言わなくてはいけないことがある。
だけど――――――。
私の言葉が出る前に、侵入者が動き出して。

「来るか! ならば容赦はしない!」

すっと身を低くしたセイバーが駆け出した。

「ゃ、やめ―――」

「ぜあぁぁああああああ!!!」

そして、軽々と侵入者を人間を切り裂いた。

「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


この叫びが私のものか、それとも切り裂かれた敵のものか解らなかった。

今日はここまでです。

辛いな、インデックス・・・・

辛いな、インデックス・・・・

まだかな? まだかな?

投下します

「インデックス!?」

「どうしたぜよ!? おい、大丈夫か?!」


「あ、あああ、ああああああああああああああ!!!」

喉をかけ上ってきた熱いそれの重さに負けて私は膝を折り、身体を曲げた。
そして、耐えることなく熱い熱い胃液を部屋の床に撒き散らす。
目の前が真っ赤、それは精神的にかそれとも物理的にか?
視界の端では真っ二つにされた人間が転がっていた。
内臓をはみ出させ、白い骨、黄色い脂肪、赤黒い中身を撒き散らしてホカホカとそこに倒れているのだ。
人一人がそっと肉に変わってそこに転がっている。
それが私には耐え切れない。
名前も顔も知らないし、私に敵意を抱いていた可能性が高い相手だけれども、そこに死が絡むと話が別だ。
そう”殺さなくても良いじゃない!”だ。
こっちが強者側だからこそ吐ける言葉なのは解っている。
セイバーの上位に来れる様な相手はそうはいない。
つまり、相対する敵の大半の生殺与奪はこちらの自由。
殺すも生かすも気分次第。
その立場からの言葉だけれども、私は言いたい殺すなと。
だけど、脆弱な私の精神は心を締め付けて吐き気と嗚咽で言葉にならない。
ただただ潤んだ歪んだ視界の中にセイバーを納めるのが精一杯だった。

「インデックス、気を確かに…………」

彼女が先ほど人を斬り殺した手で優しく私の背中を撫でた。
その声は仕草は慈愛に溢れて、慈しみ心の発露には間違いがない。
だけれども、彼女の背後では肉の塊になり、二度と動くことなく二つに分かたれた人が転がっている。
そんな異様で異常で異形以上な空間は私の心を休ませてくれることはない。
逆流した胃液が鼻にも向かったのが幸いで、濃い血の匂いを嗅がずに済んで私は何とか意識を保っていた。
セイバーに背中を擦られながら、ゆっくり息を整える。

「かひゅっ…………ぜふぃっぁ…………」

「辛そうだぜぃ……インデックス、どうした?」

「数日前から少し体調が芳しくないのです」

二人が心配そうに私を見て、気を遣うように優しい言葉を投げ交わしているのを聞く。
死体の傍で交わされる優しい言葉の応酬。
それがまた私の胃を捻じ曲げる圧力へと変わる。
だけど、胃液を吐く前に吐かなきゃいけない言葉がある。
グッと手を床についた。
吐いた胃液がにちゃっと音を立てて、服の裾にも染みこんだ。
鼻から垂れる胃液のすっぱさ、吐きすぎて喉を切ったのか微かに感じる血の味。
それらマイナスを糧に力をこめきる。

「インデックス? 無理はしないで下さい」

「そうぜよ、まだ戦闘は終わらないんだから体力の回復に努めるんだ」

「ら、い、らいじょうぶ…………ん゛ん゛、げほっ!」

顔を上げようとする、それだけの行為に精一杯な私に二人は止めるように声をかけてくれた。
だけど、ここで私が動かないとこの先に起こることは戦闘ではなく虐殺で終わる。
それは間違いが無い。
サーヴァントに対抗できる人間なんて存在はしないのだから。
この科学の街の力の方向を全て向けてもどうにかなるかは不明。
そんなレベルの戦闘力を有するセイバーに、たかだ最新鋭の装備で立ち向かうなんて無謀も良いとこだろう。
だからこそ止めなくちゃ。
自分に敵意ある者を救うなんて、誰が聞いてもおかしいと思うだろう。
だけど、私が尊敬する少年なら間違いなくそうする。
だから、私だってそうしなくてはいけない。
誰を裏切っても利用しても尊敬は裏切れないから。
だから、ここで私が止めなくてはとうまに顔向けできない。
そんな気がする。

「せい、ばー…………」

「はい? どうかしましたか、インデックス?」

見上げた先の澄んだ泉のように綺麗な騎士。
その姿は本当に見ほれてしまうような美しさを見せてくる。
鎧に微かについた返り血さえその姿を一枚の絵画へ落し込む一因になっていた。
だからこその、そんな憧れにも似た美しさを持つ彼女を虐殺者に堕としたくはない。
その思いを必死に言葉に変換しようと口を開いた。

「お願いだから、誰もこ―――」

”ぽひゅぅん!!”

私が言葉を告げる前に、妙な軽い、どこか間抜けな音が響いて、近くの床が弾けた。
突然のことに口を開いたまま固まってしまう。
何が起きたかを理解する前に、私以外の二人は動き出していた。

「っ! また狙撃だ!」

「くっ、遠方から卑怯な!」

もとはるは私を庇う様に抱きかかえて、部屋の入り口付近に退避。
セイバーは不可視の剣を構え、狙撃してくるだろう窓の前に陣取った。

「ぅっ…………おぇっぇ!」

「インデックス!? どうしたぜよ!?」

もとはるが私を避難させてくれたはくれたのだけれど、その場所が問題だった。
窓から離れた入り口付近、そこは確かに窓からの狙撃から逃げる意味では良い場所なんだけれど―――。

「おぶっぇ、あ、ぐくぅっ…………」

「インデックス!? 大丈夫なのか!?」

―――玄関には真っ二つになった肉があるのだ。
やっと少し効くようになった鼻に強烈な血の臭いが刺さる。
もう出ないくらい吐いたつもりだったのに、再び胃液が漏れそうになるのを必死に耐えて、必死に前を見据えながら小さな違和感を頭の隅に抱えていた。
どこの何が引っかかっているのかは解らないけど、何か違和感を覚えたのは確かだ。
だけど、それを探求しようと頭を整理する余裕もないので、その小さな違和感は『誤差』として流されていってしまった。
でも、それは流してはいけない誤差だったのかも知れない。
もとはるに肩を抱かれながら、震える身体でそう思った。
ゆっくりと息を整えて、横に転がっている肉を見ないようにしながら肩を揺らす。
見なくても解るくらい青い顔をしているけれど、呼吸法を様々絡めながらゆっくりとした回復を促していった。
セイバーは私を庇うように、ベランダに続く窓の前に立って、どこから撃たれても対応できるように構えている。
敵を切り裂き私を守るために、だ。

「ふっぅ、は、は…………く、あ」

どうにかインデックスに意思を伝えるように、気道に空気を通していく。
乱暴に運ばれたせいで、再び動き出した胃の暑さを飲み込んで、声を出す状態に持って行こうとする。

「インデックス、無理はするな、ゆっくり呼吸を整えろ…………水、持ってくるから」

私が肩で息をするのを見て、もとはるはチラッと台所を見てゆっくりと立ち上がった。
急な動きをして狙撃手を挑発しないようにだろう。
見事なくらい滑るような体技でもとはるは台所に滑りこむと、同時に前回のように物量射撃が開始された。

”派しゅぱぱしゅしゅぱしゅぅぱしゅん!!”

「ぐくぅっ!?」

サイレンサーなのか、間抜けな音が重なり合うように響いていく。
街中でやる以上、最低限の目撃で済ませたいのだろうか?
相手の思考、その先、流れを読もうとするけれど、着弾の振動によりまた額に脂汗が浮いて寒気と熱が競演する。

「セイバー!!」

「ここは任されました! 貴方はインデックスをお願いします」

「りょーかいぜよっ! いくぞ、インデックス!!」

「え? え? あぐっ!!」

吐き気に耐えるだけの装置になっていた私の思考の外で、セイバーともとはるは会話を終えたのか、それぞれの役割を持って動き出した。

「この道は一歩も通さない!!」

その身を持って銃弾の盾になったセイバーは、無数の弾丸を全て叩き落して行く。
床に死んだ弾丸がいくつもいくつも転がって、その上に彼女は立ち構える。
もとはるは私の手を引いて、身を低くしながら学生寮の廊下をひた走る。
どこまでも慣れた歩方、私というお荷物を抱えながら見事な遁を見せ瞬く間に寮の外に出た。

「も、げほっ、もとはりゅ、ここだと、危な、ぐぅっ……」

出た場所は狙撃されたベランダ側の反対側ではあるけれど、周囲に高い建物はなく、少し開けている。
敵の詳しい位置の逆算は出来ていないけれど、ここでは危ない。
一秒に先にも蜂の巣にされる可能性がある。
それを進言するけれど、もとはるは私の手を握ったまま微動だにしない。

「もと、はる?」

「すまない…………インデックス」

「え?」

「少し、逃げ方を間違った、な…………」

少しだけ焦りを秘めた彼の声。
その言葉に疑問を覚えて、夕暮れから夕闇に変わりつつある街中を見た。

「え?」

「街中、そしてサイレンサー、単機突破兵のこの三点から部分的戦略を想定していたんだけど…………な」

寮の前、そこに集合するように左右からセイバーが切り裂いたスーツ、装備を携えた人間が数限りなく集まってきていた。

「も、もと、も、おぇっ!」

「気張れよ、インデックス…………こりゃマジでやばいかもにゃー」

軽い調子に戻った彼の言葉。
だけど、状況は一向に軽い方向に向かう様子は無い。

無骨な武装をして兵士たちは、それぞれ銃やナイフを無言で構えた。
遠くではまだセイバーが弾丸を弾く音が微かに聞こえてきた。
この戦争開始から何回目かのピンチ。
しかも、魔術的な戦闘の神秘によるピンチではなく。
純粋な物量戦力によるピンチだ。
ざっと見ただけで46人の兵士。
そしてこっちは怪我人に、半病人の女の二人。
冗談ではすまない戦力の溝がそこには広がっている。
どうにしても勝てないだろう、だから私は―――。

「もと、はる、逃げてよ…………」

―――握られた手を乱暴に振りほどいた。
それだけで倒れそうになってしまうのに。
支えを、人肌の温もりを失っただけで体温が氷点下になったような幻想をしながら、震える足で彼の前に立った。

「は?」

私の発言の真意を汲み取れないのか、彼は呆けた声を出したので、そこに更に重ねる。

「逃げて、二人でバラバラにいけば逃げれる確立はもっと、あがるし……」

「何を言ってる、お前がそんな体調で逃げれるかよ」

もとはるは強い口調で、ガタガタ震える私にそう言った。
だから、安心させるように口だけ笑みの形を作ると。

「大丈夫、令呪あるから、ぅ、いざと、なったら、セイバー、喚ぶ、から……」

これは嘘だ。
もし追われている状態でセイバーを喚んだりしたら、そこには血の海が広がるだけ。
だから、喚ぶことは出来ない。
だけど、そう言わなければもとはるは納得しないだろう。
私はぎこちない笑みで彼にこの場からの離脱を促した。
その間にも死を運ぶ兵士たちは、距離を食うように詰めて行た。

「インデックス、本当に逃げれるのか?」

「もちろん、だよ…………」

彼は確認を取り、私が頷いたら何も言わずに、振り返りもしないでその身を消した。
兵士たちは彼の見事な逃走に賞賛も驚嘆もなく、機械のように近づいてくる。
いや、彼らの武装は殆どが機械統括なのだから、機械そのものなのかも知れない。
魔術に携わる私が機械に潰される。
それは神秘の薄れるこの世界では正しい流れなのかも。
そうは考えるけれど、ここで殺され潰され肉になる訳にいかない。

「ふぅっ、ふ…………ふぅ」

近づく足音。
     私は逃げなくていけない。
向けられる照準。
     この敵を生かすために。
磨かれた殺意。
     そして死なない為に。

「くっ………………ふっ!!!!!!!」

”派ぱぱぱぱしゅぱしゅしゅぱしゅん!!!!!!”

ギリギリまで引きつけ、無理に魔力を身体に通した私は吐き気以上の不快感に目を血走らせアスファルトを蹴った。
そして一秒より短い前に私がいたその場にいくつもの銃弾が襲った。
まるでアスファルトを耕すように銃撃はそこを削っていく。
タイミングを誤っていたら耕されていたのは私だったろう。
寒気と興奮。
恐怖と動悸。
二律を胸に押し込んで私は駆ける。
一歩ごとに身体がバラバラになりそうになりながら、それでも―――。
―――走る!!

「くっ、は、ぜは、あっ、あぶっぁ!!」

汚らしく口から血交じりの泡を吹き出しながら、私は狭い路地を、道無き場所を駆け巡る。
追われ、待ち構えられ、撃たれ斬られ、回り込まれながら必死に足を動かす。
追い来る私の命を狙う兵士を助ける為に。
彼らが誰の命令で、どのサーヴァントに関わりがあるかなんて考えることもなく。
ただただ逃げることにだけ私の全てを注いだ。
命を狙うには軽い銃声を何度も何度も耳に刻み込み。
硬い足音を繰り返される幻聴のように刻んだ。
その音から逃れたいのに、耳からその音は離れない。
双方にとって死を運ぶ音が離れない!

”ぱしゅん!”

また銃弾の音がして、地面が弾けた。
当たらなかったから良かったけれど、もし足に当たっていたら私は8秒後には死んでいたかも知れない。
数秒後の死を常に意識しながら逃げる。
路地を曲がる、ビルに入る。
それでも後ろから音は途切れない。

「は、ぜ、はやぅ、あきら、め…………」

切れ切れ、むしろ呼吸不全のまま私は願いを口にする。
『早く諦めて』と。
だけど、それは叶わない願いのようだ。
そしてまた銃弾が私の肩を掠った。

「ぐっ!?!」

痛みに衝撃にバランスを崩してしまう。
地面に転がりながら胃液を吐き、鼻水を垂らす。
後ろからの靴音に死を感じていても、そのまま起き上がることはしないで、転倒の勢いのままに地面を転がって移動した。
そして、転がる力を利用して立ち上がると、さっきまで私がいた場所に銃弾の雨が降った。
それに恐怖をもう感じる心は磨り減っていて何も感じない。
ただただ目から涙、鼻から鼻水、口から血と胃液、尿道から小便、肛門から軟便、汗腺から汗を。
ありとあらゆる穴から汁を吐き出して吐き出して。
少しでも身体を軽くしようとしているのか、それとも身体の限界か。
そんな状態でも走り走る走れ。
歯を食いしばって血を流して。
握り締めた手の平に爪が刺さっても。
それでも逃げるしかないから逃げる。
希望は必ずその先にあると信じて。
形のない、具体的じゃないゴールを目指す命をベットしたマラソンを続けるしかない。
絶望は私の命か、はたまた敵の命か?
それとも両方か。
失われる命をどうにか救いたい。
それだけを目標に走る私にまた銃撃が襲う。
何とか回避をしているけれど、限界はもうとっくに超えている。
あと何メートル逃げれるのか?
そして、殺される寸前に私はセイバーを喚んでしまわないのか?
未来は不安で、過ぎた過去だけに栄光はある。
この先の未来を過ぎた栄光にするために、私は走った。

「あああああああああああああああっ!!!!!」

体力も気力もないのに叫び、無駄な力をロスしながら足を動かしていく。
無駄なエネルギーと知りながら叫び続け、喉を裂いて響く痛みに生を感じる。
歪んだ生存の確認をして、生きてる実感を糧に走った。
そうまでしなくては、私は今がどうなっているのかも理解出来ない状態になってしまっていたのだ。
足の感覚なんかない、目の前も真っ暗。
手がどうなってるか知らない、下腹部が気持ち悪い。
それでも逃げて逃げて逃げて彼らを生かして私も生きなくてはいけない。
それだけ、たったそれだけは理解、記憶していた。
だけど――――――。

「あ」

――――――そんな希望なんか、直ぐに死んでしまう。

「ぜあああああああああ!! 一人の少女を多量の兵が追い詰める、それが兵のすることか!!」

私の足が
動きを―――希望を―――
止めた―――失った―――
真っ暗な視界に青い騎士と、赤い血だけがはっきり見えた。
私を追う兵士が次々と肉へと移り変わるのを、ただただ呆然と見ているしか出来なかった。

空中から弾道ミサイルのように降り立ったセイバー。
その目には怒りを滲ませ、その身体は暴風と化した。
撃ち込まれた複数の弾丸を払い退けると、一足で敵の正面に立ち、相手が近接戦に切り替える暇も与えず二つに断った。
下から袈裟に切り裂き、その肉を踏み後ろの兵士に踊りかかると返す刃で再び両断。
左右にいた兵士は片方が銃を構え、片方はナイフを構えた。
だけど―――。

「ああああああ!!! ふっ!! ぜあああああ!!」

”ぞぶしゅっ!”

”ふぉん!!”

”ぶちゅるっ!!”

音にしたらそんな三連。
セイバーは銃を構えた兵士の胸に不可視の剣を突き刺したら、そのまま持ち上げて、反対側のナイフを構えていた兵士に叩き付けた。
二人の身体はスーツも肉も一緒くたの塊になり、微かな痙攣をするだけのものになった。
それでも彼女は止まらない。

「ふっ! あああああああ!!」

横薙ぎの一閃で二人の身体を分かつと、深く踏み込んで返しの刃でもう一人。

「逃がすものか!!」

距離を取ろうとした相手には、今まさに上半身下半身に分かれた肉を掴んでぶん投げた。
肉と人の衝突で、肉は二つになった。

「そんなもので我が剣を防げるか!!」

ナイフを構えて一撃受けようとした兵士はナイフごと斬られた。
近づいただけで相手を肉にし。
近づかなくても自分から相手を肉にしていく暴風。
セイバーと言う戦力の前に、兵士はそれこそ玩具のように壊されきった。
私がどれだけ逃げたか知らないけれど、セイバーが兵士45名を肉に変えた時間は56秒だった。
繋ぎたかった希望は、1分に満たずにゴミに成り代わる。
私は、ただただ血の海を肉の陸を見続けた。

「酷いことになっていますね? とミサカは呆れながら尋ねます」

聞き覚えのある声。
最後尾にいた、これから肉に変わる兵士から発せられた死んだはずの友の言葉。
そして、そこらに転がっている肉、その頭部から見え隠れする綺麗な茶色の短い髪。
どうやら、まだ絶望は続くようだ。

今日はここまでです

容赦なくミサカが減っていく……

さすが学園都市、えげつねぇ

>>207>>208
原作より死を絡めようとしてしまい、インデックスには辛い状況になっています

>>211
毎度遅くてすみません
しかし、期待して頂けると嬉しいです

>>227
御坂妹は消耗品だと教わりましたから

>>228
学園都市の裏は暗いみたいですから、つい

敵は御坂妹軍団か、つらい戦いになるな
ってか、話が黒くて良いな、原作より好きかも

原作通りの人数なら
残り10030人
どこぞの脳筋よりライフがあるな

>>231
PC版で唯一フルボイスだった方になんて呼び方しやがる!

……しかしあれだな、お姉様の怒りが天元突破しそうだな

いろいろ追い詰められすぎだろwwwwww




………………インデックス(´;ω;`)

上条さんが聖杯そげぶで解決

ここまでインちゃんがボロボロになったSSがあっただろうか



>>230
ついつい調子に乗ってしまっていますが
楽しんでいただけてるなら幸いです

>>231
しかし無双出来ますがね

>>232
お姉さまがぶちギレたら家電製品が全部死にますね

>>233
インさんは頑張ってます

>>234
対聖杯最終兵器は行方不明です

>>235
……………………私はインデックスさん好きですよ? はい

「襲撃」と「殺戮」ッ!!
ここまでインさんがボロボロなssがあるだろうかッ!!!

とてもリアルで引き込まれる、が、

ダップソはやめてくれ…


俺はそんな属性、持ってないんだよorz…

敵も味方も誰も殺さずに救えるヒーローなんて上条さん以外におらんかったんや…

どこぞの脳筋は12人しか残機ないけど旦那は2万越えるからな!!

投下します

「…………」

「まっ、て…………ぇいばー」

最後に残った兵士、死んだ友と同じ声をした相手にセイバーは無言で剣を構えた。
それを私は声になるかならないかギリギリの音を絞り出し制止を促す。
そして、血と痰の塊をアスファルトに吐き出し、肩で息をするのも限界な状態で、前見た。
黒い機械外装を纏った兵士を。
私の絞り出した声を聞き入れてくれたのか、セイバーは斬りかかることはしないでその場で待機をしてくれていた。
それにどうにか感謝しながら、ふらふら一歩二歩と汚れた身体で進み。

「くーぅ、びゅーひー、なんだ、ょね?」

またも上手く声にならない。
喉の奥からは泡だった血が上って来て、尿道は壊れてしまっているのかチョロチョロ小便を漏らしていた。
無理に体内に魔力を通しての逃走の後遺症なのだろうけれど、ここで倒れる訳にはいかない。
霞む目を必死に凝らして、手のひらから流れる血で生を確認する。
そして、たっぷり時間をかけて喉に空気を通したら次の言葉を告げた。

「かぉ、みひぇ、て?」

「………………了解しました、とミサカは同意します」

私の”お願い”に数秒の沈黙を取り、彼女は自分の頭部を守るヘルメットらしきものに手をかけた。
どこかカエルを思わせる平たいヘルメットの左右にあるスイッチを押し、いくつか手動作業をすると、”かしゅっ”と音をさせてそれは前後に広がった。
着脱可能になったそれを、彼女はゆっくり、焦らす様に取り払いその下から現れたのは―――。

「くーゅひゅーてぃ」

―――私の願う友人の顔ではなかった。

「……………………じゃ、ないんぁね」

歯の抜けたようなだらしない声でそう告げて、落胆の中に感謝を込めた息を吐いた。
ヘルメットの下から出てきたのは短髪そっくりの顔で、表情のない、どこを見ているか解らない深い目をした私の友人―――。
―――に、そっくりな誰かだった。

「ほう? 何故そう思いますかと、ミサカは意地の悪い笑みを浮かべます」

クールビューティにそっくり彼女は、無表情のままそう告げた。

「らっへ…………にへるけろ、ちがぅ、から」

「似てるけど違う…………ふふ、ミサカたちの違いに気付いたのは貴女が初めてですね、とミサカは驚きます」

彼女は本当に素直に驚愕したのか、微かに目を大きく開いて、少しだけ嬉しそうにしていた。
そう、私の目に映る彼女は確かにクールビューティとは違うのだ。
普段なら違和感で済ませたかも知れないけれど、一度彼女の死体を見ている以上普段より注意深く観察してしまった結果だ。
顔はそっくりだけど肌のあれ、少しの輪郭の違い、髪の伸びてる部分の違いなど。
私の記憶能力があっても見逃してしまうような微々たる違いがいくつもあった。
こいつは、私が殺してしまったあいつじゃない。
そう、あのとき私がクールビューティと呼んだ彼女ももしかしたら私が思っていたクールビューティじゃなかったのかも知れない。
友人と言いながら、私は友人が本当に本人なのか解っていなかったのだ。
その事実に内心自嘲して、虚ろな目を向けた。
友人に似た、もしかしたら友人なのかも知れない彼女を見ながら。

「あなた、だぇなの?」

そう質問した。

舌たらずな口調での私の質問。
まともに口の筋肉が動かず、涎を垂らして、断続的に小便軟便を漏らす私はある意味赤ちゃんみたいな状態だ。
だけど、そんな状態を気にするような余裕はなくその場にいることに全力を投じてた。
それでも聞きたい聞かなければならない、今私の周りに散乱する肉たちの正体にも通じるのだろうから。
怖いし知りたくない事柄なのは解っているけど、もう聞いてしまった。
私唾すら出ない口を、喉から溢れた血で潤しながらそのときを待っていた。
そして、少しの間を置いてクールビューティのそっくりさんは口を開く。

「ミサカは―――固体番号14550、学園都市LEVEL5第三位”超電磁砲”御坂美琴の成長サンプル細胞より精製された軍用クローン―――通称シスターズです」

「ぅんよ、う、くおーん…………」

彼女の言葉には良く解らない部分もあったけれど、回らない脳内をどうにか回転させて理解、構築していく。
私だって科学の知識がない訳じゃない、むしろこの街に来て急速に増えていた。
その知識を総動員させて、そしてあっさりい答えにたどり着いた。

「っ」

血で潤した舌を動かして、口に溜まった血液を痛みと共に飲み込んだ。
そして、私は涙を流さずに質問をした。

「わたしが、クールビューティって呼んでいた人は、どこに?」

絞り出した、声を最後の一滴まで絞り出した。
それくらいの気持ちで出した声。
目の前の彼女にどうしても届かせたかったその声。
しっかりと届いたようで、彼女は無表情のまま片手を水平に上げて―――。

「固体番号10032なら、”それ”ですよ、とミサカは事も無げに告げます」

―――私のやや後方にある、両断された肉を指差した。
スーツごと腰の辺りで切り裂かれ、少し離れた場所にある下半身はセイバーが踏み込んだときにか、太ももの辺りが陥没していた。
そんな肉が私の友人らしい。

「…………」

チラっとセイバーを見たけれど、彼女は変わらず目の前の”敵”を睨め付けていた。
何かしらの感情を求めた訳ではないけれど、彼女は敵を、自分の敵を、私の敵を排除しただけだったのだろう。
そこに悪感情はなかったはずだ。
だって、私を助けようとしたのだから。
向かってくる脅威を取り除いただけなのだから。
それでも、割り切れない部分はある。
そんな汗に血に胃液に糞尿に塗れた私が口にしたのは―――。

「そっか」

叫びだしそう崩れ落ちそう死にそう。
―――そんな感情が篭った言葉。
それがポロッと口から落ちた。

その言葉が引き金だったのか、それとも時間だったのか。
目の前の兵士は肉を指差した手をそのまま自分の腰に持って行き銃を手にした。

「っ!」

生きてるかも怪しい私と違い、セイバーはそれにコンマで反応をすると剣を深く構え私の前に出てくれた。
だけど、そんな必要はなかった。

”ぱしゅぅん!”

「は?」

「ぇ…………」

ミサカ、自分をそう呼称する兵士は何気ない動作で自分の頭に銃を押し当てるとそのままに引き金を引いた。
さっきまで私を狙ってきていた軽い音が響いて、そして彼女はどこを見ているか解らない目で最後に私を視て―――肉になった。
セイバーすらいきなりのことに唖然として、小さく口を開けていたほどの衝撃。
私は、もう心が擦り切れそうになっていた。
私の友人は肉になってて、友人の血を分けて肉を同にした存在は周りで肉になってて、それを教えてくれた相手も今肉に。
感情が死にきり狂いそうになっていた。
暴れる感情がないのに、心が端から躍りだす。
口の形が笑みを作りそうになったとき―――。

「第二陣の全滅を確認、第三陣投入を開始しますと、ミサカは偉そうに宣言します」

聞き覚えのあるそんな言葉とともに、さっき以上の数のパワードスーツを着た兵士が湧き出るように出現した。
きっと、そのカエルみたいに平たい仮面の下は皆似たような顔なのだろう。
いや違うか、同じ人間なんだろう。
そして、忘れていた、忘れそうになっていたけどこれは聖杯戦争なんだ。

「……………………」

パワードスーツの兵士の後ろに、そいつはしっかりと存在した。
黒衣のサーヴァント。
短鋲を携え、目を隠した長髪の死がそこに。

あのときセイバーが断じたはずのライダー。
その姿を確認して、青い騎士は少しだけ目を見開き直ぐに冷静な顔になると深く剣を構えた。
彼女の目はライダーを見据えていて、その前にいる兵士たちは障害と判断しているようだった。
またクールビューティと同じ存在が殺される。
そう思うと死にそうになっていた感情が動き出した。
そして、さきほど肉になった彼女が教えてくれた、私の友人の亡骸をチラッと見た。
二つに分かたれ、腸を撒き散らしている彼女を。
胃液は今回は出なかったけれど、身体がガクガク震えだした。
目の前にいる兵士はざっとさっきの倍以上、それがまたここで肉になる。
セイバーにかかれば簡単な話だろう。
ライダーと戦いながらでもそう時間はかからず、ここは今以上に血が広がることになる。
セイバーは王だ、騎士だ。
無抵抗なものは斬らない、下り首もしないだろう。
だけれども向かって来る敵に容赦をすることはない。

「インデックス、下がっていてください、直ぐに終わらせます」

ほら、既にもう殺すつもりだ。
今さっき殺した以上を今から殺すつもりだ。
彼女の中ではもう殺しきっているのだろう。
それに気付いた私の身体は震えていた、また、また、また、また、また友人が目の前で沢山殺される。
そして、追い討ちをかけるように、彼女たちは一糸乱れぬ動きでヘルメットを外した。
その下からは予想した通り、同じ、似た顔が現れた。
短髪にそっくりだけど、感情がない、どこを見ているか解らない目でこちらを視ていた。
その異様さに私は後ずさるように一歩引いたけれど。

「…………顔を晒すその潔さは良し」

セイバーは騎士として応えていた。
彼女らの行動を自分なりに解釈してより一層闘志を燃やしたのか、グッと身構えて気を充実させているようだった。
兵士の奥の本丸を見据えて、これより戦争を開始するために。
そして、彼女は大きく沈み込み兵の壁に突撃を開始した。

文字通り「あっ」っと私が言う前に二人の兵士が斬り殺された。
一太刀で二人、軽々障子紙を破るように簡単に殺された。
彼女らはセイバーを中心に距離を取り銃を構えようとしたけれど、暴風・セイバーはそれを許さない。

「ふっぅ! はぁああああああ!!」

剣を片手持ちに返ると、自分の周囲を大きく薙いだ。
そこにいた3人の兵士は抵抗もなく、みな同じ場所で身体を切り裂かれた。

「ゃ、ゃ、え…………」

友人と同じ顔の兵士が次々セイバーに殺されていく。
ライダーは兵士を盾に上手く移動しながら、セイバーに攻撃をするが。

「甘い! でゃああああああ!!」

”きぃん!”

”じゅしゅぅ!”

セイバーは投げられた短鋲を払いのけると、ついでのように兵士を一人斬った。
作業のように一人斬った、また一人斬った。
ライダーとの距離を詰めるときに邪魔だから斬った。
攻撃を避けた先にいたので斬った。
流れるようにどんどん肉が増えていく。

「ぇ、やめ、て…………やめて」

見知った顔が友人が私の前で何回も何十回も殺されていく。
その光景が頭に刻み込まれてガクガクと身体が震えていた。
何回も何回も壊れたラジオが繰り返すように、友人が殺されていく。
斬られ潰され肉になり、血を流して腸を撒き散らす。
死んでいく友人の目が全員ワタシヲミテイル。

「やめ、て、せいばー、やめて…………」

「はぁああああ!! ふっ! ぜゃあああ!!」

私の声は届かない。
届かない内に、また一人。
腰から逆袈裟に切り上げられ―――ワタシヲミテイル。

「せいばー…………おねがぃ、もう、もう」

「遅い! この程度!!」

私の声は届かない。
届かない内に、また一人。
右肩からやや斜めに股まで切り裂かれ―――ワタシヲミテイル。

「みたく、ないよ、おねがい、おね、がい…………」

「甘い!」

私の声は届かない。
届かない内に、また一人。
首を綺麗に切り取れて―――ワタシヲミテイル。

「やめて、やめて、やめて、やめて」

「ふっ! む、逃がすかぁぁあああ!!」

私の声は届かない。
届かない内にまた一人。
左から逆袈裟に一撃、浅いそれを返す刃でトドメをさし―――ワタシヲミテイル。

「もう、みたく、ないよ、やめて、セイバー、おねがい、おねがい、おねがいっ!!」

―――ワタシヲミテイル。―――ワタシヲミテイル。―――ワタシヲミテイル。―――ワタシヲミテイル。
―――ワタシヲミテイル。―――ワタシヲミテイル。―――ワタシヲミテイル。―――ワタシヲミテイル。
―――ワタシヲミテイル。―――ワタシヲミテイル。―――ワタシヲミテイル。―――ワタシヲミテイル。
―――ワタシヲミテイル。―――ワタシヲミテイル。―――ワタシヲミテイル。―――ワタシヲミテイル。
―――ワタシヲミテイル。―――ワタシヲミテイル。―――ワタシヲミテイル。―――ワタシヲミテイル。
―――ワタシヲミテイル。―――ワタシヲミテイル。―――ワタシヲミテイル。―――ワタシヲミテイル。
―――ワタシヲミテイル。―――ワタシヲミテイル。―――ワタシヲミテイル。―――ワタシヲミテイル。

「あ、あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

狂ったように、いや私は狂ってしまったのかも知れない。
そんな叫びを吐き出して、再び喉が裂けた。
それでも気にせず声をあげてあげてあげた。
血が詰まった指で自分の令呪をかきむしり、潰れても良い気持ちで叫んだ。

「やめてセイバー! その人達を殺さないでぇぇえええええええぇぇぇぇぇぇええええ!!!!!!!!」

私の令呪が一際輝くと、構築される三画の一画が消えた。
どこか近くで遠くで。

「作戦の成功を確認と、ミサカは勝ち誇ります」

と聞こえたけれど、直ぐに肉になったようだ。

「なっ!? 身体が、重い!?」

兵士に切りかかろうとしたセイバーが急激に動きを止めた。
私はその理由を理解出来ないでいたけれど、直ぐに思考は思い至った。
血を口から流し、自分の血で汚れた手で令呪を確認した。
そこには三画だった令呪が一画消費されたのか輝きを失っているのが見えた。
令呪、それはマスターとしての証だけではなくサーヴァントを補助する聖杯による魔力ブーストのトリガーなのだ。
私はそれを”敵を殺すな”として消費してしまった。
本来ならば、大まか過ぎる命令はサーヴァント自信が跳ね除けるのだが、今回この命令は不完全ながら承諾されてしまったようだ。
セイバーは兵士を斬ろうとする度に急激な失速をするようになっていた。
それでも、着実に斬り殺しているのは最優のサーヴァント故か。
ただ、彼女はさっきの令呪の縛りにより私の願いにより、この兵士、シスターズを攻撃しようとすると一気にステータスが下がるようになってしまっているようだった。
セイバーは自分の状況を理解していないようで戸惑いながらも剣を振るっていた。
相手がシスターズだけならばそれでも問題はなかったのだが、敵にはいるのだサーヴァントが、双鋲の牙を持つライダーが!!

「拘束術式か? 卑怯な!! しかし、私はこの程度で――――――!!」

身体の不調を敵の攻撃と判断したのか、セイバーは顔を歪めながらも剣を構え力任せに切り裂いた。
さっきまでに比べてあまりに遅いその動き、そんな隙を見逃す訳もなく。

「捉えましたよセイバー―――!!」

「なっ!?」

斬られた兵士の影から飛び出たライダーが、セイバーの胸部を蹴り飛ばした!!

セイバーの身体は大げさに吹き飛んだけれど、令呪の縛りはシスターズに対してだけなのか大したダメージもないようで直ぐに体勢を整えて飛び込んでいった。
彼女に早く令呪による誓約を伝えなければいけないのだけれど、私の喉は上手く声を出させてくれない。
そうこうする内に、彼女は再び兵士に剣を振り上げ、その瞬間に失速してライダーの一撃を貰っていた。

「ぐっ!? な、なんなのだこれは!」

着地をして、セイバーは腹立たしげに自分の不調に声を荒らげた。
シスターズに攻撃するときだけ制限がかかることを完全に理解しきっていないのか、前方を睨み再び飛び込んだ。

「ぜぁぁあああああああ!!」

それはまた繰り返し、急激な失速、そして一人を斬り殺したと思ったらライダーに一撃入れられる。
ライダーは段々タイミングを理解しだいたのか、セイバーのステータスが下がりきった瞬間を狙って攻撃を入れだした。

「ぐっ!? くそっ、また身体が…………」

攻撃をする度に傷つくその身。
それでもセイバーは直ぐに剣を構えた。
私のせいでそんなことになっているのに、私を守ろうと背中を見せて。
周囲にはまだまだ兵士はいる、セイバーもなんとなく理解してきたのか無闇な突撃はしないが、向こうは待つ気は無い。
一気に襲い掛かり、セイバーの動きを遅くしてそこにライダーが攻撃をぶちこむ。
徹底された作戦。

「なめるなぁあああ!!! くっ―――」

ナイフを構えた兵士に上段から斬りかかった瞬間剣は失速して、次の瞬間横合いから投擲された鋲が彼女の肌を切り裂く。

「ぐぁああああ!?!」

それでも直ぐに剣を構えなおし、ライダーを探すが彼女は雲のように壁を這い、跳ね回り予測不能な場所からセイバーを襲う。
何度も何度も何度も何度も何度もだ。
攻撃の度に傷つき、セイバーはついに―――膝を折った。

「はぁ、はぁはぁ…………くっ、私がこのような手にかかるとは」

都合23度目の攻撃でセイバーは動きを止めた。
私はよろよろとセイバーに駆け寄り、その肩を抱きしめ。

「ぉぇんぇ……ごぇんぇ」

「インデックス…………謝ることはありません、これは私の力不足の招いたものなのですから」

令呪の強制と知らない彼女は、謝る私に綺麗な笑顔を見せてくれた。
私のわがままが今の状況を招いてしまったことを悔いていると。

「お別れの準備はすみましたか? とミサカは声をかけます」

「終わりにしましょう」

兵士が壁をつくり、その後ろでライダーが潜む陣形で迫ってきていた。
ある意味現在の必勝の方法だろう。
シスターズを攻撃しようとすると一気にステータスが軒並み2ランクは下がってしまうセイバーを落とすにはもってこいだ。
兵士を盾に、ライダーの矛が獲物を狙う、完璧に冷酷な陣形だ。
シスターズが一人二人死ぬこと前提の、それでも勝ちを得るための陣形。
膝をつき限界のセイバー、そして声すらまともに出ない私。
勝ち目は完全に消えていた、否私が消したのだ。
声をあげて謝りたいのにそれすら叶わず、私はここで死ぬのだろう。
せめてセイバーだけでも逃がせないかと令呪に触れようとしたとき。
黒衣のサーヴァントが鎖に繋がれた大きな杭のような双鋲を構え―――。

「せめて安らかに―――しっ!」

「っ!!」

「くっ!!」

―――私とセイバーを貫き殺す為に投擲した。














しかし――――――。
















「なンだ、なンだよ、なンなンですァ、こりゃァ一体全体なンの騒ぎなンですかァ?」

”きぃいん!!”

―――――――投擲された双鋲は私とセイバーを貫くことは無かった。
代わりにこの世を嘲り憎むような声が鼓膜を貫いた。

「ぇ?」

「よォ、見たことあるよォな奴と見たこともねェ奴がなァに俺の側の遊びやってんだよ」

目を開いた先には細いシルエット、スタイリッシュな杖を付いたどこか頼りない姿。
そんな人物が、私たちと兵士の間に立っていた。
その足元には双鋲がアスファルトに突き刺さり、まるで周囲の肉への墓標のようだった。
私は呆然としながら、その見知った人物を見つめていた。
そこには悪魔のように白く―――。
―――救世主のように黒く。

「ガキどもがちっとばっかはしゃぎ過ぎじゃァねェか? ア゛ア゛?」

―――最強が立っていた。

今日はここまでです


はたして一方さんはこの状況をどう判断するのか
妹達を殺ったのがセイバーだと知ったら逆ギレして襲い掛かってきそうな予感

八つ当たりなんだけどッ
セイバーに悪気はないんだけどッ
とりあえずセイバーをGOBで串刺しにしたい

乙!
最強議論で禁書厨と型月厨って二大害悪扱いなんだよな……

一方さんだけが頼りだな…

>>237
きっと…………ありました、よ?

>>238
緊張すると出ちゃうんですよね

>>239
死にたくないのに敵も殺したくないは主人公特権ですから

>>240
質が上ってことで

>>257
まだ考え中なんですよね
一方通行の傾きは

>>258
やめてください
彼女は頑張ってますよ

>>259
ファンの分母大きいからですよ
みんな自分の好きな作品が最強であって欲しいですから

>>260
頼りがいありますから

間が空いてしまいましたが投下します

「ぁぇぇぁ?」

「ああ? なに言ってんだお前?」

私たちの前に現れた学園都市最強。
学園都市第一位LEVEL5の隔絶した頂点、量子加速器の名を冠する『一方通行』その人。
その背中に私は声をかけたつもりだったけれど、声は言葉にならないノイズにしかならない。
そんな私の言葉に彼、は億劫そうに首を傾けた。

「あー、喉やられてんのかァ……ちっ、めんどくせェ」

「ぇぅ?」

一方通行は面倒くさそうに私に近づくと―――。

「ぇぐぼ?!」

「!? 貴様! インデックスに何をする!」

―――私の口に指を突っ込んできた。
いきなりのその行動にセイバーは傷だらけの身体で激昂したけれど、一方通行は面倒臭そうにため息をつくだけだった。

「っせェんだよ、ちっと喉を整備してやっただけだよ、ほれ」

「げほっ、んごっほ!」

乱暴に指を引き抜かれて、私は血交じりの痰を地面に吐き出した。
最初は激しく痛んでいたけれど、咳が止む頃にはその痛みもなくなり、喉に風が通った。

「あ、あれ? ん、っつ!」

「無理すんじゃねェよ、治癒なンて前向きな使い方してねェんだからよォ」

彼の言葉は乱暴でそっけないけれど、私の喉は痛みこそあるものもの、声を発するには問題ないレベルに戻っていた。
私には彼がどんな能力を使用したかは解らないけれど、改めて目の前の少年と呼べる年齢の最強の底知れなさを微かに感じ取った。

「インデックス、大丈夫ですか?」

「ん、大丈夫…………それより、ごめん」

「はい? 謝るならば私の方です、またも不甲斐ないばかりで……」

声が通るようになり、私はまずはセイバーに謝罪をした。
何よりも優先してしたかったそれを。
しかし、セイバーは何故私が謝るのか理解出来ていないみたいで不思議そうにしていた。
彼女はまだ、私は令呪を使用してセイバーが不利になるような状況を作ったと知らないのだから。
しっかり説明して頭を下げたい、でも、そんな時間は無いだろう。

「そンで、こりゃどォいう遊びなんだ? 答えろよそこのクローンども」

「………………」

学園都市最強が動き出したから。
彼は周囲に散らばる肉が誰であるかを認識しているかは解らないけれど、一方通行は足元の血をつまらなそうに踏みにじっていた。
その彼をシスターズ、そしてライダーが身動きしないで見つめていた。
急な乱入者に隊列を組み切れていないようで、微かな同様が見える。
それを彼はつまらなそうに杖に体重をかけたまま、空いてる手指で耳をかいていた。

「ンで、答えはなンですかァ?」

「……………………」

苛立ちなのか、それとも他の何かなのか、一方通行は杖で散らばる肉をぐちゅぐちゅと潰していた。
その行為に何だか私は怒りに似たような何かを感じていた。
その肉を作り出した原因は私たちに―――私にあるのに。

「一方通行、これは貴方には直接関係のない話です、とミサカは努めて冷静に答えます」

沈黙の後に、シスターズの一人がそう告げる。
迷い動揺緊張などが織り交ぜられた言葉。
それに対して一方通行は―――。

「誰がそンな答え聞いたよ、ア゛ア゛?」

―――怒りと不機嫌で答えた。
怒り、不機嫌。
それらは確かに攻撃的な感情だ。
他者から向けられたら身構えもする。
しかし、その程度だ。
だけど、その向けてる相手が一方通行ならば話は別だ。
彼は文字通り『学園都市最強』
一線級の魔術師を遥かに凌駕するような能力者がいるこの学園都市の隔絶した頂点!!
その彼から向けられる怒りはシスターズたちを半歩近く後退させた。

「―――ンン? なンだ、お前」

「………………」

後退するシスターズ、その中にいるライダー。
彼女だけは一方通行の恫喝に退く事はせずに、その場に立っていた。


”しゃいん”

「………………」

彼女は無言のまま、一方通行の足元に刺さっていてた双鋲の鎖を持つ引き抜いた。
抜いたそれを両手に構えてライダーはシスターズの前で踏み出し、一方通行に相対した。

凍る空気―――。
―――流れる風。
圧力―――。
―――殺気。

「…………」

「………………」

相対する二人の間に見えない圧力、そして何らかのものが高まっているように見えた。
セイバーでさえも、不可視の剣を握ったまま二人の動向を伺っていた。
私は喉の痛み、身体の脱力、下半身の気持ち悪さを感じながらそれらを観察する。
今この状況は私の、私たちの命を繋ぐ為の過程になるだろうから。
だけど、逆に私たちの死に繋がる可能性もある。
だって―――私たちはクールビューティたちを殺害しきったのだから。
彼が救ったシスターズという器の一部といえ、それを破壊していのだから。
沈黙は怖く痛い。
その怖くて痛い沈黙は一方通行は気にすることもなく破っていく。

「ンだァ? このデカイ女は」

「…………」

ライダーに対して事も無げに言い放った一言。
その言葉を聞いて私は今まで気にもしなかったけれど、彼女の身長が高いということをぼんやり考えていた。
言われたライダーからは少しだけ怒気に似た色合いが見えたけれど、直ぐにそれも収まり、また金属が擦れるような静寂に戻った。
静寂には戻ったけれど、一方通行はその怒気からライダーの脅威を感じ取ったのか杖で肉を潰すのをやめて、興味深そうに見つめる。

「ふゥン、こいつがお前らの自信の拠り所なわけかァ」

「………………」

「一方通行、退いてはいただけないのでしょうか、とミサカは最後になりそうな通告をします」

何が楽しいのか微かな笑みを見せた一方通行に、シスターズは平和な提案をした。
彼女たちにとってこの状況での脅威は彼だけなのだ。
彼を排除すれば残るのは半病人の私と、まともな戦闘を見込めないセイバーだけ。
ある程度の被害は出れど、簡単に勝負は終わる。
だけど、彼が方通行―――学園都市最強―――がそこに立ちはだかるならば話はまったく変わってくる。
彼だったら英霊にも対抗出来る可能性もあるのだから。

「く、クカッ! クケカカカカ!!」

「ぁ、あくせられー、た?」

シスターズの言葉に、どうしてか一方通行は笑い出した。
喉から絞り出すような不吉な声で笑い、彼は自分の額を髪ごと掴む。
彼の突然の、理解の出来ない行動に私もセイバーもシスターズも固まってしまっていた。

「あのバカに誘われてたまには出てくるもんだなァ―――」

「え?」

笑い声をとめて、それでもまだ尚ニヤニヤ笑う彼は裂けた様に広がった口から牙のような犬歯を覗かせた。
これから獲物を狩り取るとアピールするような攻撃的な笑顔。
読めない彼の行動に不安を微かに覚える。
彼はどこの立場としてここにいるのか?
私たちへの攻撃を逸らしてくれはしたけど、だからと言って味方とも決まっていない。
むしろシスターズを殺害した私たちの方が敵と認識される可能性はある。

「インデックス?」

「………………」

もしものことを考えて、私はセイバーの手を掴んで接触階梯から魔力を流し逃走の、もしくは闘争の準備をしておく。
一方通行相手に逃げられるのか、戦えるのは不明だけれども逃げることならば私に分があると信じて。
しかし、私の不安は杞憂だったのか一方通行は笑みという恫喝を携えたままライダー、そしてシスターズを見つめて。

「―――狩られる側の豚どもが俺に最後通告だァ?」

”かちり”

何かのスイッチを入れる音がそのばに響き―――。

「冗談にしても笑えねェぞ!?!?」

”どんっっっっ!!!!”

―――爆発するような音を立てて彼の細い足が踏みしめたアスファルトがまるで薄い氷のように砕けた。

「ちっとばっか遊んでやンよ、こいよ三下以下どもが」

銃声、爆音、破砕音、怒声、悲鳴、笑い声。

「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!! まさかこの程度で俺に相対した訳じゃァねェよなァ? ア゛ア゛!?」

「ぐっ!?」

一方通行の力は圧倒的だった。
圧倒的に無敵で最強。
彼の手の一振りで起きた暴風はシスターズを吹き飛ばし。
地面を踏みしめればそこから隆起して彼女らを蹴散らす。
銃で撃たれたらそれらを反射し、撃った銃を壊す。
後方に抜けて私たちを狙おうとしたシスターズを蹴散らし。
距離を取れば1秒以下でつめ。
壊し叩き潰し削り穿った。
学園都市第一位『一方通行』
詳しくは知らないけれど、彼の能力はベクトル操作と呼ばれる分野ものらしい。
ベクトル、方向性の操作。
この世のものは全てに方向性が付属している。
地面に生えている草でさえ重力、そして自転による未鍍空間風力を持つ。
それらを彼は全てどのようにでも操り、自分のものと出来る。
それはナイフを素手で掴み、そのまま粉砕することも出来るし。
銃弾の反射、突風の発生、地面の粉砕。
その全てを軽々と行使する。
理論上この世界のものである限り、彼に防げない攻撃は無く。
また、彼に壊せないものはない。
それが学園都市の頂点の能力!
上の上!!
隔絶された一位!!!
それが最強なのだ。

「こちとらまだ50%も能力使っちゃいねェぞ?」

そして―――。

「彼は、何者なのですか?」

圧倒的に圧倒しつくし、倒れるシスターズの前で大声で笑う彼にセイバーは呆然としていた。
彼女もこれくらいの戦力、枷が付いている今でも問題なく壊せるだろう。
だけど、彼女が驚いているのはそこではない。

「ぐっ、流石は学園都市最強ですね、とミサカは感嘆の声を漏らします」

―――彼はシスターズを圧倒して尚その一人も殺していないのだ。
そう、彼は私たちの向かう兵すらカバーしつつこうも大量のシスターズ全てを打ち倒し、尚且つ誰も殺さず、目だった怪我すらさせていない。
そのとんでもない能力にその場にいた全員私も、シスターズも、セイバーも目を見張っていた。
唯一ライダーを除いて。

「ア゛ア゛?」

「………………」

倒れ付すシスターズ、その彼女たちの前に出るように黒い英霊は最強の前に立った。
私たちの前に立つ一方通行と対になるように、その長身を威圧的な空気に包みながら。

「そろそろ詳しい話を聞かせて貰いてェンだが―――」

彼はまたつまらなそうに耳を小指でかくと、一旦顔を伏せてから―――。

「―――そうもいかねェよォだなァ!!!!」

硬く握った拳をライダー目掛けて突き出した。
そのまま風を切るような音と共に拳が進み、彼の足元が大きく陥没した。
能力による威力の増加をしたのだろう、余波でアスファルトを陥没させるような運動エネルギーを持った拳がライダーの細い身体に突き刺さった!

”ぼぐんっ!!”

何かが何かを殴ってなるような音ではない、打撃音とは到底思えない音が響いた。
ただ巨大な何かの衝突音のような。
単一の人間から決して生まれない、そんな歪な音。
そして、その音を威力として受け止めた黒い英霊はその身を遥か後方に弾け飛ばし、消えた。

「むちゃくちゃ、なんだよ…………」

まさか、拳一発で英霊を場外ノックアウトさせるなんて。
信じられない気持ちで彼を見つめる。

「これでお前らのその自信の後ろ立ても消えた訳だァ、ンじゃあこの糞みてェな遊びの首謀者を教えて貰うとするかァ」

英霊を殴り飛ばした彼はコキリと、一仕事終えたように首を鳴らすと杖に体重を預けてシスターズを見下ろした。

「…………」

「…………」

「…………」

一方通行に質問をされた彼女たちは一様に口を噤み、次の作戦を練っているようでもあった。
無言の時間が少しだけ過ぎると、一方通行は大きくため息をついた。

「はァァ……ったく面倒なことになってやがンなァ」

わしわしと白い髪を乱暴にかいて、私とセイバーの方を少しだけ見やる。

「どうせまた上層部の実験かなンかなんだろ、言えよ」

再びシスターズに視線を向けると、足元に散らばる肉を下らないものを見るように見た。
彼の内部でどんな感情が渦巻いているいるのは知らないけれど、決して穏やかではないだろう。

「糞くだらねェ実験は全部ぶっ潰してやっからよ、てめェらも折角拾った命無駄にしてっとあの三下が暴れンぞ」

「…………」

彼の優しさなのか、それとも贖罪なのか。
一方通行は嘲る様な声をかけるが、シスターズはそれには答えない。
ただ彼は何度も何度も足元に散らばる、元シスターズだった、私の友人だったかも知れない肉踏みつけていた。

「………………」

それを見ながら、私はセイバーの手を強く強く、実際には力の入らない身体なので微かに強い程度に握っていた。
そこにいた、私の友人を思って。
そして殺してしまったことを想って。

「ちッ、話が進まねェな…………おい、シスター」

「ぇ、あ、な、なに?」

いきなり声をかけられて少し慌ててしまうけれど、微かな喉の痛みに耐えて声を返す。
こちらを向いた彼の目は本当に何もかもつまらないと想っているような、どこか悲しい目をしていた。
私はその目をどこかで見たことがあるような気がしてしまった。

「お前が知ってること説明しろ、横の金髪も関係者なンだろ? そのコスプレ女」

「こすぷれ?」

顎で指し示され『コスプレ女』と言われたセイバーは不思議そうに首を傾げていた。
どうやら聖杯からの知識補助に『コスプレ』という語彙は含まれていないらしい。

「えっと、うん、そうなんだよ……」

「ちゃっちゃと説明しろ、今夜は暇だからぶっ潰して来てやンよ」

「………………」

頼もしい彼の言葉。
英霊すら打倒した彼だ、それも可能なのかも知れない。
だけど、それでは駄目だ。
これは聖杯を巡る戦争なのだから。
彼は参加者ではない、そんな彼が参加してもこのシステムには届かない。
彼がいくら強くても参加出来なくては成立しないのだ。

「………………」

「ちっ、お前もだンまりかよ…………よっぽど面倒なことになってるってわけかァ?」

彼は本当につまらなそうだ。
何もかも諦めた様な目をしている。
それでも、諦めた様な目でも彼は諦めてはいないのだろう。
私たちが話さなくても、この惨状を見てしまった彼は自分で動き出す。
彼の細い背中に、私の敬愛する少年が重なって見えたような気がした。

「まァ、いい…………ただ、一つだけ聞かせろシスター」

無言の私に赤い瞳を向け、彼は肉をつま先で蹴った。
蹴られた肉は少しだけ跳ねると、血溜まりに落ちて少しだけ飛沫を飛び散らせる。
その行為に何の意味があったのかは解らない。
もしかしたら意味などないのかも知れない。
だけど、次の言葉は意味が深かった。
私を、セイバーを、シスターズを。
その場にいる全員を凍らせるような熱い感情と共に言葉は放たれた。



「―――先に手ェ出したのはどっちだ?」



「っ!!」

「なっ!?」

「あ、あ…………」

地面に伏していたシスターズが起き上がり、セイバーは汚物に塗れている私を抱え彼から距離をとった。
彼の感情に最優のサーヴァントたるセイバーが大きな後退を余儀なくされたのだ。
その感情の発信源を中心から逃げるように私たちとシスターズは退いた。
それほどまでの大きく強い感情。
彼はそれほどまでに怒っていた。
殺されたシスターズ、死んだ彼女たちについて、大いに怒っていた。
多分、私たちから攻撃したと言えばこの場で彼はこちらに攻撃を開始するだろう。
そう感じさせる怒気に、私は震えながらシスターズを指差した。
事実を告げる行為だけれど、見方を変えれば友人を売るようなことだと気付いたのは指してしまった後だった。

「…………ふゥン」

私の答えに納得いったのか、いかなかったのか、彼は小さく鼻を鳴らすと大きすぎる怒気を消し去り、また足元の肉を踏んだ。

「バッカなやつらァ」

嘲るでも諦めるでも罵倒するでもなく、一方通行はそう告げると私とシスターズを一度づつ見た
そして、さっきまでのつまらなそうな目で撫で付け口を開く。

「お前らはもう帰れ、これは俺が今晩の内に終わらせとくからよォ」

そう告げた声を追う様に、新たな乱入者がこの場に現れた。

「それは困るかもってミサカはミサカは抱っこされながら言ってみたり」

「ア゛ア゛?」

「打ち止め?」

乱入者は小さな少女。
打ち止め(ラストオーダー)と呼ばれる彼女。
その彼女がライダーに抱かれながらやってきた。
彼女の首には短髪がしていたようなチョーカーをしていて、小さな手には深く深く令呪が刻まれていた。

「なァにしてんですかァ、このクソガキはァ」

水色の可愛らしいワンピースに身を包んだ打ち止めは笑顔のままライダーの腕の中にいる。
その彼女を一方通行は苦々しく見つめていた。
表情からは『予感が当たった』という感情が読み取れる。
だけど、私にはそれがどうにも理解の外にあった。
この時点での私の知識には打ち止めという少女は短髪の妹、一方通行の友人という認識しかない。
しかし、彼女はシスターズを統括する為に造られた固体。
それ即ち、彼女たちを操るのに必要不可欠な人物なのだ。
故に、一方通行はこの大規模なシスターズの導入から予想をしていたのだろう。
それを知らない私からしたらかなり面食らってしまっていた。
まさか、ここで打ち止めまで聖杯戦争に関わっていたとは、と。
しかし、私が驚いていても事態が止まる訳はない。
打ち止めは先ほど一方通行に吹き飛ばされた筈なのに、傷一つ無いライダーの腕から降りると可愛らしい笑みを携えゆっくり一方通行に近づいていった。

「ねぇ、出来たら何も見なかったことにして帰って欲しいんだけどってミサカはミサカは可愛く小首を傾げてみたり」

「………………お前が命じたことなのか?」

「うン、ってミサカはミサカはあなたの真似をしてみたり」

「なンでだ?」

「目的があってするだけの理由があったからってミサカはミサカは格好つけてみたり」

二人の間で交わされるどこか穏やかな会話。
互いに互いを理解しているもの同士の優しい会話。
それが血と肉の海の真ん中で交わされている異様。
打ち止めは明るい笑顔で。
一方通行はつまらなそうに。
平和な温度に見える会話は続いていくが、それももう終わり。
打ち止めの後ろのライダー、その背後に生き残ったシスターズが隊列を組みだし、彼はそれを見つめながら最後の質問を口にする。

「もう、手遅れって訳ですかァ?」

「もう、手遅れってことってミサカはミサカは振り下ろされる檄鉄の気分」

”かちり”

再び一方通行は首につけられたチョーカーのスイッチを入れた。
これにより彼は歩行すらままならない半病人から最強に移り変わる。

「クソガキ、そのケツ引っぱたいてやっから覚悟しとけよ」

「ふふ♪ それは楽しみだけど―――」

「え?」

一方通行は一歩踏み出すことなくその場に倒れ伏した。
そして、手足を痙攣させるようにでたらめに動かす、どこか壊れた人形を思わせる動きを繰り返していた。
その姿を打ち止めは愛おしそうに見つめると、甘く甘く笑いかけて。

「―――ミサカは貴方の為に戦うんだから、貴方とは争いたくないのってミサカはミサカは大人の女の風格を漂わせてみたり♪ ――――――さて」


いきなり目のまで倒れた彼に驚愕していると、さっきまでの甘く可愛らしい雰囲気を打ち消すような無表情で打ち止めが私たちを見ていた。
その間にシスターズによって一方通行はどこかに運ばれていった。
急な出来事の連続に、硬直をしている私とセイバー。
その前にゆっくりとライダーが進み出る。

「っ!」

それに取り、セイバーもスッと一歩前に出て相対する。
これで都合三度目になるだろう睨み合い。
状況はこちらに至極不利。
それもマスターたる私のせいで、だ。
シスターズへの攻撃をするとステータスが軒並みダウンしてしまうセイバーに、そのシスターズを上手く利用してくるライダー。
どうあっても今の状況では勝ち目は薄すぎる。
それでも彼女は前に進んでいく。
不可視の剣を手に、心には誇りを。
目には闘志を携え、黒衣の英霊の前に。
私がまだ説明をしていないから、セイバーはどうしてステータスがダウンするかをしっかり理解していないけれど、先ほどの戦いで微かな理解はしているようで、離れた位置に控えるシスターズを警戒しているようだった。

「騎兵よ、今回は兵を捨て駒にはしないのか?」

互いの距離は5m前後、彼女らならば一瞬で詰められるその場所でにらみ合いながらセイバーはそう切り出した。

「………………」

しかし、ライダーは無言でただそこに立っていた。
構えるでも何をするでもなく、ただただそこに立つ。
それを挑発を受け取ったのかセイバーの身が少しだけ沈み込み、戦闘の開始を思わせたがそれをせき止めるように陽気な声が響いた。

「はいはーい、ストップストップってミサカはミサカは自分の存在をアピールしてみたり」

「………………」

手を上げて、売る相手もいないだろうに媚を売るように小さく跳ねる少女を私とセイバーは注視する。
そう、まだ彼女が未知数だからだ。
しかし、これまでの言動行動から警戒に値する存在なのは理解出来ていた。
何故なら彼女は令呪を持つマスター、おそらくはライダーの正式なマスターなのだろうから。
それはつまり、この状況を作り出した張本人が彼女なのだろう。
この命を使い捨てるような策を考えたのが、目の前の小さな少女だということ。
殺害したのはこちらだろ、そう言われて仕方ないだろう、でも、それでも私は大きな怒りを覚えていた。
そんな私の怒りの視線など気にならないようにしている打ち止めはライダーに微笑みかけてから、背後に控える50人ほどのシスターズを指差し―――。

「ライダー、あれ食べちゃって良いよ」

―――笑顔のままそう告げた。

「食べ?」

言葉の意味を理解出来ないでいる内に、”どさ” ”どさどさ”

「え?」

”どさ” ”どささ” ”どさどさ” ”どどさ”

「え? え? な、なに? え? なに!?」

次々とシスターズが倒れていく。
それは、最初に死んでしまったシスターズを思い出すようなあっけない死に様。
電池が切れるような死。
苦悶の表情も何も無くただただ死に絶えた。
何かに何かを、生きるといために大切な何かを飲み込まれたように。

「どう? ライダー、いけそうってミサカはミサカは伺ってみたり」

「ええ、問題なく」

震える私の前でそんな会話が繰り広げられ、私すっと理解した。
彼女たちがしたことを、今までのことから推察して答えにした。

「ねぇ…………」

「ん? どうかしたってミサカはミサカは―――」

「どうして魂を食べさせたりしたの!?!?!?!?!?」

「―――ふぅん、わかるんだ」

打ち止めからまた笑顔が消えた。
それは私の答えを認めたから、だろう。
彼女たちがやったことは英霊を簡単に強化する方法。
他者の、生きた人間の魂を食わせたのだ。
霊体である英霊にとっては生きた人間の魂は高密度のエネルギー。
それを摂取させ、サーヴァントを強化させる手法、外法だ。
おそらく、シスターズに魂喰の呪痕を植えつけてあったのだろう。
擬似的なマスター権との併用で、役目を終えたら魂ごと回収して喰わせる為に。
それを裏付けるようにライダーのステータスが上昇していく。
50人分の魂を飲み込み、彼女は強化されたのだ。
シスターズ、クローン兵士の魂の吸収。
少し前の会話、固体番号10032、クローン。
多分彼女たちはまだまだ足りない魔力を補おうとシスターズを喰わせるのだろう。
聖杯戦争のために、もっともっと、最終的には何人いるか知らないけれど全て喰わせる。
とてつもなく醜悪な戦法を彼女たちは実行するだろう、躊躇無く遠慮なく。
まるで蟲みたいに統制されたシスターズはその魂を差し出すことの何の感慨もないようだ。
ここで止めなければ、もっと多くの人が魂を喰われて死ぬ。
それは、それは、それは、それは!

―――そんなことは許せない!!!!

彼女たちを殺しておいて都合の良い怒りかも知れない。
それでも、私はその行為を許すことが出来なかった。

「ふふ、人間の魂を喰わせれば強化できるってことはさ―――」

私の怒りの視線を気にする風もなく打ち止めは可愛く笑う。
そしてゆっくりと、既に魂を喰われて死んでしまったシスターズの死体の山に近づき、彼女たちを見つめた。

「―――ミサカたちは人間で良いんだね、嬉しくなっちゃうよ♪」

その言葉にどんな重さがあったかは知らない。
でも、止めなくちゃいけないことは解る。

「っぇぺっぇ!!」

地面に血交じりの痰を吐いて、汚れた口を修道服の裾で乱暴に拭い、セイバーに向かって叫ぶ。

「セイバー!!! そいつらだけはそいつらだけは倒して、お願い!!!!」

「――――――承知しました、マスター!」

深く沈みこんだセイバーと―――。
筋力 C
魔力 C
耐久 B
幸運 B
敏捷 C
宝具 C


「ライダー、必要なら設置してある鮮血結界は全て発動して大丈夫、待機させてある122人の魂は全て食べちゃって」

「了解しました」

―――両手に持った双鋲を交差させるライダー。
筋力 C
魔力 D
耐久 C
幸運 E
敏捷 B
宝具 A+

英霊たちはその身に全身全霊をかけて戦闘を開始した。

今日はここまでです
あまり進まずにすみません

……何があった、打ち止め
望みは何となく予想できるけど、ここまで下位個体を消費するとは……

魂食は確かに……ライダー有利過ぎんぞ、これ。


やっぱり打ち止めだったか…

この使用法は思いつかなかった

頼みの一方さんも打ち止めが主犯じゃ演算オフでただの呻く肉塊に……
シスターズ半分も注げばライダーがパネェ事になりそうだな……


「……ちっ! 食い物に罪はねーからな……」

 掴んでいた零の胸倉を突き放し、反動で椅子に戻る。
 いや、折れたという表現は杏子が認めないだろう。ここで暴れれば、自身の言葉が確実に嘘になる。
それを嫌ったのだ。

 杏子はフォークを手に取ると、ケーキに突き刺して丸ごと口に運ぶ。
その瞬間の口元の綻びようは、普段の刺々しさや強かさ、素っ気なさを微塵も感じさせない年相応の少女。
 不覚にも隠し切れずに笑みがこぼれてしまった杏子はキッと零を睨むが、零の視線は外れていた。

 気を回した訳ではない。
 特に関心がなかった。
 安堵して手当たり次第に手を伸ばす杏子にも構わず、零の注意が向いているのは店内のある一席のみ。
 一時、子供に戻った少女を微笑ましく思うこともない。
 休息の時間は終わり。その眼、その思考は、既に獲物を追う狩人に切り替わっていた。

これは超作の予感ですね。素晴らしいでつ。
別の板でFateクロス物書いてるけどフルボッコサンドバッグの俺とは雲泥の差でワロタwwwwwwwwワロタ……。
応援してます。頑張ってください。

あ、番外個体はどうしたんだ?

面白いねこれ。
でも無理だ、どう頑張って読んでも頭ん中でインデックスにならない。

>>289
戦争を基本にしてますから
誰もが幸せな禁書世界とはややずれていっています

喰わせる相手は万に近くいますからね

>>290
ええ、原作のように擬似マスターを絡めたくて

>>291
少し外道でしたね

>>292
一方通行さんはややバランスが危なくなるので、早めに出して早めに退場していただきました
ライダーはまだまだ強化できますからね

>>293-295
他のSS書きの方に見ていただけるとはこちらこそ光栄です
ただ、自分で言うのもあれですが独特な文章なので参考になるかは甚だ不安ではありますが
ありがとうございます
そちらのも後で見つけて、拝見させていただきます
お互いに頑張って行きましょう

>>296
ありがとうございます、励みになります
ペースは遅いですが投げ出さずに行きたいと思います

>>297
出場予定は今のところ無いですね
絡め出すと御坂色が強くなりそうなので

>>298
地の文のインデックスがかなり解離していますが、一応はインデックスです

は、早く続きを
御坂妹から打ち止めでパワーアップは想像してたけど、まさかここまでやるとは
面白い面白すぎて困るんだが

あと、打ち止めの台詞が重い、、、おまえ等も人間だよ

投下します

「はぁぁあああああああ!!!」

瓦礫、血、肉の戦場を青い騎士が駆ける。
小柄な身体を沈みこませて、人ならざる速度で黒衣のサーヴァントへ接近していった。
深く構えられた不可視の剣を、肩越しに振りかぶるように持ち帰ると突進の威力をそのままに振りぬいた!

”ぎきぃんん!!!”

「むっ!?」

「くっ!!」

前の戦いでは一撃を受け大きく後退していたライダーであったが、今回は下がりこそしたももの、セイバーの筋力A相当の一撃を受けた。
その変化にセイバーも感じ取ったのか、表情には驚愕が見て取れた。
セイバーの持つスキル魔力放出、そしてライダーには怪力というスキルが確認出来た。
それは前回の戦いではなかったもの、おそらく少ない魔力の運用の為に封じていたものなのだろう。
そのスキルにより、彼女の筋力は大きく向上しているようだ。
セイバーの魔力放出が瞬間であるに対してライダーの怪力は一時付与だ。
瞬間最大風速ではまだ分があっても、継続的に負けていては隙が生まれかねない。
しかし、魔力放出は攻撃だけでなく移動にも使えるのだ!

”しゃいん!!”

鋲が閃き、セイバーの足を狙うが―――。

「なっ!?」

「遅いぞ騎兵!!」

―――セイバーはそれを退いてかわすのではなく前に出ることで鋲とすれ違った!!

魔力放出のブーストで一瞬すら生ぬるい速度で間合いを詰めていく。

”どしゅっ!!”

セイバーを狙った鋲は、彼女がライダーとの間合いをほぼ潰したときにやっとアスファルトに突き刺さった。
驚愕に後退しようとしたライダーだったが―――。

”がきっ!”

「なっ!?」

―――セイバーはそれを許さない。
彼女は本来攻撃に使うべき不可視の剣を、双鋲を繋ぐ鎖の上に突き刺した。
それによりライダーは繋ぎとめられ、ガクッと動きを止めることになった!

「甘いぞ騎兵がっ!!」

セイバーはそのまま棒飛びの要領で突き刺した剣を軸に身体を回転させ、魔力放出により速度・威力を高めた蹴りをライダーの腹に叩き込んだ。

”どがっ!!”

「ぐくぅっ!?!?」

セイバーのとんでもない威力の蹴りを受け、鈍い音を連れるように吹き飛んだ彼女はそれでも鋲を手放さず、むしろそれにより吹き飛ぶことを拒否して、鎖を張り詰めさせた状態で着地をした。
ひび割れたアスファルトの上を、砂埃を立てながら接地したライダーは、不可視の剣で繋ぎとめられた鎖を強く引いた。

「ふっ…………」

「…………」

セイバーはそれに逆らうことなく剣を引き抜き、ライダーの手には双鋲が戻ることになった。
騎士として彼女は相手に無手を強要することはしないのだろう。

「すごい…………」

セイバーの技量、戦闘能力は凄まじかった。
王道でありながら柔軟。
極地の技量を保持しているからこそ出来る発展能力。
技量と言う意味ではセイバーはライダーを圧倒していた。

「ふぅん、結構強いんだセイバーってミサカはミサカは感心してみたり」

「!?」

少し離れた位置で戦闘を見入っていた私の横に気付けば打ち止めがいた。
可愛いワンピースを来て、彼女が『お姉さま』と慕う少女のように苦しそうに顔中に汗を浮かべながら。

「…………」

私はその苦しそうなのに、どこか幸せそうな狂った希望を追う少女を見つめる。
彼女がどんな願いをもってこの戦争に参加をしたのかを少しだけ考える。
でも、直ぐにやめた。

「なに?」

「別に何もないよ」

そっけなく顔を逸らして、私はまたセイバーとライダーの戦闘を見ることにする。
だって、彼女の希望を聞いても仕方が無い。
だって、私はこの聖杯戦争で初めて彼女を敵と認識したんだから。
だった、敵の願いを聞いてそれでどうにかなる訳じゃないんだから。
そう考える私の思考に、他者は『冷たい』『非道』であると言うかも知れない。
でも、忘れてはいけない。
私は修道女。
布教者ではないけれど、世界最大宗教の一員。
世界最大の宗教が何を意味するか。
それは簡単な話――――――。

『…………セイバー』

少し離れた位置にいるサーヴァントに私は拙い念話のパスを飛ばす。
さっきまでの戦闘、ライダーがどの行動にどう反応してその後どうするか、それらを私は目に焼き付けた。
その前の戦闘も、その前の戦闘も。
私はライダーの動きを脳に刻んであり、出来ること出来ないことは元より癖、そして行動の基準を全て記憶し分解しつくしていた。
それは英霊であれど、思考を刻んでいる以上仕方ないパターン。
それらを漏らさず資料として記録、記憶してある。
私はもう一度だけ打ち止めを見た。
かつては友人だと思っていた彼女。
目の前にぶら下げられた希望に正気を奪われた彼女を見て、目を閉じた。

『セイバー、ライダーの行動パターン、思考順路はほぼ確定出来たから、多分もう負けはないかも』

――――――世界最大の宗教、それは。

     世 界 最 大 の 蹂 躙 組 織

私はその一員なのだ。
友には愛を、無知には愛を。
そして異教徒―――敵―――には剣を持って応える。
そうして永らえてきたのだから

「むっ!?」

「ふっ!!」

ライダーが距離を取り再び鋲を投げた。
しかし、セイバーはそれを投げられる前に回避をした。
その行動にライダーは表情の読み取れない目隠しの顔でも驚愕を見せる。
当たり前だろう、攻撃が起こり、それから回避するのが当然のこと。
しかし、今のセイバーは攻撃が起こる前に動き回避し次の行動を起こしている異常。
相手の行動の起こりからの先読みとは別、起こりの前に行動を開始しているのだ。

『セイバー、次は鋲を引き戻しながら鎖で横薙ぎに狙ってくるからしゃがんで!』

「ふっ!」

「またっっ!!」

念話で指示を送ると、その通りにライダーは地面に刺さった鋲を戻そうと引き、そのままセイバーを鎖で狙うように薙いだ。
無表情冷静だったライダーもどんどん困惑と焦りが出てきているようだった。
どうしても攻撃が当たらない、文字通り掠りもしない。
それどころか、行動する前にそれに対応されてしまっているのだ。
私の予測が上々に働いている結果だ。
ライダーの行動を記憶したものから引っ張り出し、今までの行動から未知の行動まで予測する!

「くっ! ならばっ!!」

行動を読まれていると感じたのかライダーは今までしてこなかった行動を起こした。
今までは双鋲を投擲するのは必ずどちらか片方であり、片方は手元に残していたのに彼女は両方同時に投げた―――。
―――否投げようとした!
何故彼女が行動を完遂しなかったのか?
それは簡単な理屈だ投げようとしたときには既にセイバーが投擲目標地点から外れ、ライダーへの間合いを詰めていたから。
今まで見せなかった行動でも、それを取る前には既存の起こりがある。
それさえあれば読むのは容易い。
投擲の姿勢のまま一瞬硬直したライダーの間合いに神速を持って踏み込むセイバー。

『右手の鋲を斜めから振り下ろすから、それを小手でいなしたら斬って、斬ったら直ぐに三歩後退して、もう片方を投擲してくるから』

「はぁぁああああ!!」

「くっ!?」

硬直状態のライダーの隙をついて、セイバーは彼女の左側に踏み込んだ!
そのときに彼女は下段に構えていた剣より左手を離していた。
そして、私の予測通りにライダーは半歩さがりながら距離を取ろうと右手の鋲を振り下ろした。
怪力のスキルを発動したときの彼女の筋力はB相当。
セイバーの基礎ステータスを上回る力を持って彼女の肩口を狙った!!

”ひゅいんっ!!”

鈍い銀が空気を裂き騎士の狙う!

”ぎきぃん!!”

「なっ!?」

「甘いぞ騎兵よ!」

だけど、彼女のその行動は既に予測されきっている。
ライダーの振り下ろした鋲を、セイバーは小手でいなしそのまま左手を引く勢いと魔力放出を乗せ剣を振るった。

「ぐっがぁあああ!!」

振るわれた不可視の剣はライダーの脇腹から深く食い込み、乳房を分かちながら切り抜ける!
鮮血と、それを汚すような濁った叫びを響かせながらライダーは左手の持った鋲を苦し紛れに投擲したが。

「ふんっ…………他愛ないな」

「くっ…………」

既に後退していたセイバーは、それを難なく避けると再び剣を構えて次なる行動に備える。。
それに対して苦し紛れの攻撃を外したライダーは傷を手で押さえながら大きく距離を取っていった。
魂喰いされたシスターズが眠る場所まで大きく退くと、ライダーは鋲を構えた。

「ぐっく…………ぅ」

「………………辛いの? 打ち止め」

私の隣で首につけたチョーカーを押さえながら、少女は蹲った。
彼女も短髪と同じく、無理に魔術回路を精製してその反動なのだろう。
それでも普段は魂喰いによる高密度魔力吸収をライダーにさせて負担を軽くしているのだろうけれど、大きな傷、それも英霊として
現界に関わるレベルのダメージを受けたらマスターから少なからず魔力を搾ってしまうものだ。
それにより苦痛を彼女は今受けていた。
その地べたに這い蹲る姿を私は冷めた目で見ていた。
本来ならば、これよりずっと大きな苦痛を受けるところを彼女はシスターズの魂を喰わせて減らしているのだから。
魂を喰われて死ぬというのは界からの消滅を意味する。
それは神の齎す救済の日すら訪れない完全な消滅を意味する。
そんな死に様を強要した彼女を私は許すことは出来ない。
敵には―――打ち止めには。
剣を持って―――セイバーを持って。
私は打ち倒す。
まずはそこからだ。
言葉に答えずに蹲り、体液を吐き出す彼女からセイバーに視線を戻す。
そして念話で指示送った、ライダーを倒すように。
これ以上放置すれば彼女たちは更に魂喰いをして強化するだろう。
それを許すことは出来ない。

『セイバー、右側から踏み込んでライダーを斬って、迅速に』

「承知しました」

多分私のこの思考は正しくはないと思う。
とうまは絶対に許してくれないと思う。
だけど、私はとうまの為に、とうまに叱って貰うためにこの戦争を潜り抜けなくてはいけない。
それに、何より私は打ち止めを許せそうにない。

「ふっ!!」

セイバーは真っ直ぐ、魔力放出のスキルによるブーストを利用してライダーを斬りにかかる。
フラフラの彼女がこの後している行動はいくつか上げられ、その全てへの対処をセイバーに伝えてある。
だけど、一つだけ不安で不確定なことがある。

それは彼女の宝具だ。
ライダーはランクA+の最上級クラスの宝具を有している。
最初はマスターの魔力不足による開放の不可を考えていたけれど、魂喰いをした今ならならばA+の宝具と言えど使うことは可能だろう。
しかし、それを使う様子はない。
宝具の開帳による真名の表面化を避けているのか?
それについては正しい戦略なのだろうけれど、ここまで来てしまえば使わざる得ないはず。
だけど―――。

「終わりだぁぁあああああ!!」

―――彼女は動かない。
       ”彼女は”
セイバーの不可視の剣が閃く!
上段から体重、力、そして魔力のブーストを持ってライダーを断とうと!!

”ずぶしゅっ!!”

剣は肉を裂き、骨を絶ち、肩口から太ももまで一直線に斬り切った!

「ぐっく…………と、ミサカは、がっぁ!!」

「な!? さきほどの…………ぁ」

斬ったは斬った、しかしその刃が斬ったのはライダーではなくパワードスーツを着たシスターズの一人。
華奢な彼女の身体を見事に斬り裂いていた。

「な?! なんで、さっきシスターズは魂喰いで…………」

まさかの事態、予測にも入れていなかったことに私は目を見開いた。
死んだものと思っていたシスターズが一人、おそらくこの事態の為に一人だけ残されていたなんて。
彼女は魂喰いにより倒れたときに、一緒に倒れ気を、一瞬のこの時を待っていたのだ!
ライダーの盾になったその彼女は既に事切れているようだったが、それで十分なんだろう。
私が犯してしまったミスがここに来て大きく響くから。
令呪による強制で、セイバーはシスターズを攻撃するときにステータスが大きく下がる。
それに加算させ、予想外の事態にセイバーは二秒は遅れてしまった。
英霊同士の二秒は私たちの二秒とはまるで違う。
セイバーのほんの少し前、シスターズの死体を挟んだ向こうにいるライダーは構えた双鋲を振りかぶり―――!!

”ざしゅっ”

―――自分の喉を切り裂いた。

「え? …………ぁ!!!」

そのまま攻撃してくると思っていたのに、まさかの自傷行為。
それの理由がわからず私は間抜けな声をあげてしまったけれど、そこで繋がった。
自傷行為とは魔術呪術においてとても大きな意味を持つ。
生贄などとは一線を画す、自身の奉納。
それは大きな対価を生むのだ。
彼女、ライダーが何をしようとしているのかまでは推測出来なかったけれど、何かをしようとしているのだけは理解出来た。

「セ――――――」

「もう遅いって、ミサカはミサカは勝ち誇ってみたり♪」

念話するのも億劫で叫ぼうとした私に激痛と共に痺れる衝撃が走った。
それが電気による感電痙攣だと気付いたときには既に遅く、微かな電気を纏った打ち止めが苦しそうに狂った笑顔で私を見ていた。
私が指示を出そうとしたのは察知して、彼女がそれを事前に潰したのだろう。
さっきまで私たちがしていたのと同じようなことだ。
呻きながらアスファルトに転がる私から少し離れた戦場では―――光が走った。
美しく尊く気高い。
そんな光が。

「なっ!? ライダー、貴様、それは!!!」

「行きなさいっっっっっっっ!!!!」

”しゅじゅごぉおおおおおおおおおお!!!!!!”

セイバーの驚愕の声を押しのけて、空気を斬る、そんなレベルではない―――
―――大気を殺すような音が響いた。

「…………綺麗」

打ち止めの見た目相応な声を聞きながら私が見上げた空には光輝く天馬に乗った美しい女神がいた。

「鮮、血……胤伏の天馬…………そっか、ライダー、貴方は―――」

          ”メデューサ”         

どうやら私たちは女神様と喧嘩をしているみたい。
それでも、それでも負ける訳にはいかない。
痺れる体に力を込めながら、私は強く唇を噛んだ。

今日はここまでです

打ち止め・・・・

これ以上、死ぬ訳にはいかないとか言っていたのにソレを破るとか・・・

まるで救いが見えねぇ…

欝過ぎるわ……

だが、それがいい


ガチ戦争だよな、これ
主人公不在だからか、ガチのガチですやん
にしても戦闘と表現が格好良いな一々、ぞくぞくしてくる

宗教についてが凄く良かった、宗教キャラは博愛過ぎるのばっかだけど、そうだよな宗教って押し付けと蹂躙だから


更新楽しみにしてます

マジ乙
おもすれー


ってか、SS書きに人気あるんだな

投下します。

念話は場合によって何度の変化する魔術だ。
初歩の上級程度での習得も可能だけれど、上級に届くレベルの使用状況もありえる。
難しい話を差っ引いて科学よりの解釈をするならば携帯電話だ。
知ってる番号にかけるのは簡単だろう。
しかし、知らない番号に狙ってかけたり、着信拒否をされていたらかけるのは難しい。
あまり科学に造詣は深くない私の弁だけれど、概ねそんな感じだ。
念話のパスを双方合意で結んだ場合ならば、お互いの意思疎通はとてもスムーズかつ簡単に出来る。
しかし、現在私はセイバーとの念話のパスを結んでいないのだ。
これは純粋に私の怠慢でしかない。
聖杯戦争が始まり直ぐにしなければいけなかったことだろうに、私はそれを怠り、さっきは集中に集中を重ねて何とか急ごしらえで結んだのだけれども。
それも切れてしまった、大きな感情の揺らぎ、そして集中力の欠如により拙いパスは消え去り、今の私にセイバーとの念話は不可能だ。
だからこそ集中する。
身体は痛むし、排泄器官はバカになって糞尿垂れ流しだ。
くらった電撃で今までの疲れが全て噴出して今にも目を閉じてしまいたい。
それでも、集中しなくてはならない。

「あと一発で終わりかなぁ」

打ち止めの楽しそうに狂った声。
彼女の言うとおりかも知れない。
震える視界の果てでは青い騎士が、不可視の剣を杖に何とか立ち上がっているけれど、どう見ても限界のようだ。
鎧はひび割れ、ところどころに血が滲んでいる。
いや、それでも良く耐えたほうだろう。
大地を削り取るような天馬の一撃を不完全とはいえ受けて、まだ現界してられるのだから。
だけど、このままではそれももう終わりだろう。
それでも、私は終わりにする訳にはいかない。
だから、必死に必死に脳内の処理を起こしていく。
今の私にはそれしか出来ないから。

ここで少し私の知らない物語に視点を向けてみよう。
それは私の敵、打ち止めについてだ。
彼女はシスターズと呼ばれる軍用クローンたちに指示命令を出す統括命令指示用上位固体製造番号20001だ。
通称『打ち止め(ラストオーダー)』
過去に軍用クローンによる大規模テロ的行為をしようとした男に利用されそうになったところを、学園都市最強たる一方通行に助けられその庇護下に入った。
彼女は他のクローンたちと違いとても活発無邪気な性格をしていた。
オリジナル・御坂美琴を彷彿とさせるような人に愛される少女。
それは、彼女が受けるべき『調整』と呼ばれる処置を受けることなく世に出たからだ。
しかし、それだけではクローンたる彼女が無邪気な童女の性格を得た理由にはならない。
無垢なる状況、そして彼女たちミサカ・シスターズが構築する共振脳電波ネットワークによる知識の供給により造られた性格なのだ。
自らの肉体年齢に最も適し、かつ他者の庇護を受けやすい性格・性質を生きるために彼女は取得していた。
彼女はミサカシスターズ全ての知識経験情報を統括する存在。
故に彼女の自我は他のシスターズに比べて極端に薄い。
知識としては理解していても、感情全てどこか他人事でありながら自分事。
大きな矛盾を彼女は孕んだまま生きていた。
感情の理解は出来るので、拾った知識そのまま嬉しいと感じる場面では笑い、悲しいと感じる場面では泣く。
教本通りの感情しか持たない故に彼女は無邪気で無垢なのだ。
そして彼女はその知識、感情の発展によりある人物にある感情を入手した。
それは『報恩』だ。
受けた恩を返すという、人間らしくとても綺麗な感情を入手した。
いや、入手してしまった。
報恩とはとても難しい行為であり感情なのだ。
して貰った行為の恩を受け取り量り、それと同等に返すか? それとも倍で返すか? もしくは減らして返すか。
それらを考えながら相手がどうしたら喜ぶのかも考えなくてはならない。
それは知識としてしか感情を知らない打ち止めには大きすぎる量りだった。
しかし、それでも彼女は人間でいたいと思い―――それも知識故の感情だったのかも知れないが―――命を賭して自分を守ってくれた少年に、命を賭して恩を返すことに決めたのだった。
そして、自我の薄い彼女にとって命とは自分だけのことに非ず。
自分と繋がるシスターズたちもその感情に入っていた。
それを誰かに見抜かれたのか?
はたまた自分で嗅ぎつけたのか、彼女はその身を持って聖杯戦争に参加をした。
命の恩人に報いる為に。
命に対して命で返す。
歪みに歪んでいながら至極全うな等価交換を果たすために。

「はっぁ、はっ、ぐ、くっ…………」

「…………」

傷を負った騎士を見下ろす天馬の女神。
愚かな反逆に大いなる力で応える、どこか神話のような光景だ。
セイバーは必死に剣を構えているけれど、最初のダメージは丸で抜けていない。
息は荒々しく、足が震えているのが遠目にも見えている。
もう少し私の位置が近ければ治療の魔術を少しでも施せるのに、彼女との距離は絶望的に離れている。
そもそも魔術の行使は私の専門外、治療にしたって接触使用が精一杯。
3mも離れたら効果はなくなってしまうだろう。
だから今の私は役立たずだ。
出来ることは必死に集中して念話のパスを繋ぐこと。
いや、いざとなったら令呪の使用も考えなくてはならない。
先ほどの無様に姦計にはまり一画使用してしまったけれど、まだ二画残っている。
一画はマスターの証として残しておかなければならないけれど、一画は使えるのだ。
念話が繋がらなかった場合はそれも視野に入れておかねばならない。
そう考えて必死に肉体を休め、必死に精神と脳をクリーンにしていく。
視界にはセイバーを納めながら。

「いきますよ…………ペガサス!」

「くっ! …………来いっ!!」

そして、ライダーは二度目の攻撃を開始した。
天馬の輝く羽が広がり、周囲が嘘みたいに明るくなる。
セイバーは、ふらつく足を引き締め剣を正眼に構えると迎え撃つ様子を見せる。
彼女自身それが無理だと理解はしているのだろう、迷いが表情から見て取れた。
それでも彼女は退かないのだろう。
彼女は騎士だから。
神々しき天馬を駆り、反逆の騎士を粛清しようとする女神。
その美しく高貴で、それでいて神話的な戦い。
多くの犠牲、そして多くの苦労を乗り越えてのこの戦い。
だけどもう終わりだ。
結末はもう直ぐ。
だって私は言った『負けはないかも』って。
彼女の行動は全て理解しきっている。
不確定要素だった宝具もこの目でしっかり確認した。
兵装が変わったからって、その操り手まで変わる訳じゃない。
だからもう終わり。
拙い念話のパスがセイバーに繋がってしまったから。

『セイバー――――――』

私はこの戦いを終わらせることに決めた。

念話のパスを繋いで、直ぐに指示を出した。
セイバーがそれに同意した瞬間、天馬が微かな後退を助走に彼女目掛けて光の奔流のような疾走を開始する!

”じゅしゅごごぉおおぉおおおおお!!!!”

先ほどのを遥かに上回る、音と振動に離れた位置にいる私たちでさえ震える。
大きな光の塊、まるで太陽ようが振り落ちるようなその突撃!

「はぁぁあああああああ!!!」

「ぜぁぁあぁあああああ!!!」

女神と騎士の声が重なり、そして勝負はあっけなくついた。

「な、んで…………ぐっく、くあっぁああ、ぐぅっ!?」

「はぁっ、はぁっあぁ…………終わりです、騎兵よ」

光の消えた闇の世界で、女神が平伏し騎士が見下ろす。
さきほどとは真逆の光景が映し出されていた。
天馬は消え、ライダーの手には切り裂かれた手綱が残るのみだった。
私がした指示はとても簡単、だけど難しいこと。
突進してくる天馬の手綱を狙い斬って貰ったのだ。
天馬を従えるにはあの手綱が必要不可欠であるのは伝承より理解していた。
セイバーにはライダーの突進のタイミング、位置、威力、範囲を細かく伝えて魔力ブースト、そして彼女の剣を不可視とする宝具のもう一つの利用方を使わせて貰った。
彼女の剣が見えないのは『風王結界(インビジブルエア)』と呼ばれる宝具が大気を圧縮し光の屈折を操っているからだ。
その為、剣の周囲には風が圧縮されているのだ、それを開放して貰い魔力放出の推力に圧縮された風の放出を加算して天馬の突進を切り抜けて貰ったのだ。
本当に言うは易し、動くに難しな捨て身に近い攻撃。
事実彼女の身体には突進の余波でさっきより傷が増えていた。
もし彼女が私の指示を信じないで、恐怖して動きを少しでも違えたら消し飛んでいただろう。
だけど、セイバーは私の言葉に身体と命を賭けてくれたのだ。
騎士としての忠誠の極みを見せて貰った気分だ。
私はセイバーの能力、そしてかつての戦いでの前情報もあり彼女を信じていた。
かの戦車の車輪を破壊した彼女の能力を。
そしてそのセイバーに手綱を斬られると、天馬はその身を荒ぶらせ消滅した。
それでライダーも消滅するハズだったのだけれど、彼女の身には多くの魂による魔力が補充されていた為に生き永らえているようだった。
あの天馬は彼女の死体、その血から生まれた存在。
彼女と同時に存在は許されないのだ。
それを実現させていたのが望外の宝具だったのだけれども、それが破壊されては存在同士がぶつかり合い対消滅を起こすのだ。
これが英霊が真名を隠す理由の大きな一つ。
そう、英霊は既に死んでいるのだ。
彼ら彼女らは既に決定された死因を持っている。
それを引き起こせば、英霊は簡単に消滅する。
そしてその死因は擬似的まもので良いのだ、魔術とは代用で全てが行われている。
似たようなものを用意すれば近い結果を見合っただけ引き出せる、それが魔術なのだ。
そして私も魔術師。
情報と、それを実行してくれる仲間さえいればこの程度容易いのだ。
そうこうしている内に、セイバーの剣にまた風が戻り、不可視になると同時にライダーの首が跳ねられた。
これもかつてと同じ、確実な死因。
私の隣でも、まるで添い寝をするように敵が一人倒れた。
大規模な戦いは闇の中でひっそりと幕引きされ、私はゆっくり目を閉じた。

今日はここまでです。

乙……ここまで一気読みしてしまった

>>1乙 すごくおもしろい

インデックス含め、みんな願いがささいなものだけど、
代償の大きさといったら…

いい加減、上条さんは何してはるんですか!!


なんか、原作より由来とか色々絡めてて面白いね

あと最近更新早くてありがたいなぁ
セイバーSのも楽しみに読んでます

>>300
ありがとうございます
面白いと言って頂けると励みになります

シスターズの利用法を考えた結果です

>>311
少々過激になりましたね

>>312
きっとこれからですよ

>>313
少し暗めになっていますが、お付き合いください

>>314
ありがとうございます
まぁ、戦争ですから

ちょっとキャラから解離しますが、宗教は博愛ではないですから
殴って良いのは異教徒と化け物だけです

>>315
そうなんでしょうか?

>>322
これからもお付き合いお願いいたします

>>323
ありがとうございます

原作だと聖杯入手が目的になっていましたから、なるべく願いに飢えさせたく思いまして

>>324
なるべく色々と絡めていきます

ちょっとギャップありますが、両方よろしくお願いいたします

勘違いする人多いけど令呪使い切ってもマスター権は失われないよー
現世に英霊繋ぎ止めたり魔翌力供給する役目がある。

原作ちゃんと知らないからアレだが令呪使い切ると万一の時に反逆防止が出来ないくらいだと認識してる
この主人公ペアなら反逆の心配も無さそうだ

エロ姐さん退場だと……しくしく


追いついたー
セイバーさんとインさんの食費で上条さんの不幸がマッハなSSと思って来たからビックリしたけど、これはこれですごくおもしろい
続きが楽しみ

わずか3戦で行動パターンを丸裸にされるライダーさんェ……
まぁ、生前は狩りみたいなものでマトモな相手との戦闘経験は少なそうだし仕方無いのかな

本編であまり活きてなかった真名を知られる事のデメリットが活きてて良いね
こうなると、心眼(偽)的に行動パターン読めなさそうで、
なおかつ真名難易度MAXな某赤い英霊がインさんの天敵かのぅ

fateの出逢いは劇場版アンリミデッドブレイドワークスだったんだけど
ライダーこの人なんで出てきたん?って感じで最後の方存在完全に忘れてたな

そしてやっと大活躍する桜√はメディア化望み薄

>>326
そう言えばそうでしたね
セイバーと再契約した凛には令呪が再分配されていましたし
すっかり令呪=マスター権だと思っていました

>>327
仲良しな二人ですからある意味

>>328
ほのぼのな方では生きてますから大丈夫です

>>329
機会があったらそんな幸せなSSも書きたいですね
ありがとうございます

>>330
インデックスは未知の魔術を推測したり思考演算能力が高いみたいでしたので、せっかくバトルなんだからと利用してみました
基本的にライダーは強者ですからね

そうですね、せっかくのクロスですから色々していきたいです
アーチャーはかなりの難敵になりますね
一度真っ向から負けていますし

>>331
桜√は少々隠しきれませんからね
原作で補完するしか

投下します。

「…………」

ライダーとの戦闘、あっけない幕引きから3日。
私とセイバーはもとはるの手配で紹介してもらったマンションにいた。
もとはるからは沢山感謝をされ、後の処理は任せてくれと言われた。
セイバーには令呪の使用を詫び、逆に謝られそして感謝された。

「あなたのようなマスターに出会えて感謝の極みです」

と。
そして私は、何をするでもなく部屋のベッドの上で丸まっていた。

「………………」

「インデックス、体調はどうですか?」

周囲の見回りを終えたセイバーが部屋に戻ってきた。
彼女はもとはるが用意してくれた、現代の可愛らしい服を着て、片手には近くにコンビニで買ったらしい食事を持っていた。
セイバーを含め英霊は召喚されたときに現代の知識をインプットされるので、不便はないだろうけれど、少し馴染み過ぎているようにも思えた。
そんな風なことをどことなく他人事に見ている私。
ライダーを討伐し、聖杯戦争は一歩深みに近づいていくことになった。
喜ばしいことなのかも知れないけれど、私は疲れ切ってしまった。
脳内には友人を殺しつくした映像がフラッシュバックし続けているから。
肉に成り下がって、散らばっていく映像が、そして打ち止めの狂った笑顔が思い返されて、私を削っていく。
殺してしまったのだ、その決断をして、相手が死ぬと解ってセイバーに命じた。
サーヴァントという弾丸を私は友人に撃ち込んだのだ。
戦闘の興奮が冷めて、直ぐに私は罪の意識に心を砕かれかけた。
それをどうにか支えてくれたのは、単にとうまへの思いだけだった。
とうまに会いたい、そして嫌われてても良いから叱られたい。
その感情だけだった、それだけが私の心を今支えている。

「インデックス、あまり後手に回るのはよろしくないでしょうから、次はこちらから攻めますか?」

「!」

セイバーが買って着てくれたコンビニのお弁当を食べていたときに、セイバーがこう切り出した。

「現在確認出来ているのはアーチャー、ランサー、そしてバーサーカー、どれも難敵ですが、いずれが打破しなくてはいけない相手ですから」

「そう、だね…………」

手が震える。
足が震える、排泄器官に痛みが走り、頭痛が起こる。
思い返すは死んでいく友人たち。
殺してしまった友人たち。
ワタシヲミテイタ。
戦闘による興奮狂気の中では感じなくなってしまった大きな感情が私の心を押しつぶす。
でも―――。

「…………まずは、ふ、不確定なアサシン、キャスターを見つけた方が良いかも、ね」

―――もう退けないのだ。
だって私は既に大量の命を奪ってしまった。
そして、それでも願いを叶えようと決めてしまったのだから。
今退くならば、自ら命を断って強制的にこの戦争から身を消すしかない。
だけど、私にそれは出来ない。
死にたくない、とうまに会いたい。
私はとても利己的で醜い女なのだろう。
だから、もう止まれない。

「なるほど、確かに戦力の確認は重要ですね」

「うん、特にアサシンは怖いよ」

「そうですね、しかしアサシンなどと言う騎士道の真逆にいるような存在を許す訳にはいきません!」

アサシンという単語に反応して、セイバーは眉をキッと上げた。
騎士である彼女の生き様に反する相手なのだろう。
アサシン、暗殺者。
気配遮断というスキルを持ち、敵に気付かれることなく殺害をするサーヴァントのクラスらしい。
つまり、今ここ、この瞬間にも狙われている可能性があるのだ。

「つまりですね、騎士道とは自分そのものが生きてきた存在をぶつけ合うことであり!」

セイバーの騎士道についての講演を聞き流しながら考えていく。
もし、ここを狙われていたとした場合、狙うなら私であろう。
暗殺を旨とする以上、正面切手の戦闘能力は三騎士、セイバー、ランサー、アーチャーには劣るだろう。
その中でも最優のサーヴァントと称されるセイバーと真っ向から戦っても勝機は薄い。
ならば、この状況で狙うべきは私の方。
いくらアサシンが戦闘能力が低いといっても現代の人間では太刀打ち出来ないだろう。
ここにもしアサシンが現れ私の首を跳ねて、そして戦線離脱すれば、単独行動のスキルを持たないセイバーは既に現界出来ずに消えてしまう。
そうなれば、それだけで私たちは敗退だ。
…………だとしたら、攻撃される前に○○なくてはならない。
○す。○す。○さなくてはならない。
○される前に○す。

「―――ックス」

○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。
○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。
○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。
○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。
○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。○す。

「イン―――ッス」

もうここまで来たのだから止まれない。
坂道を転げ落ちるトラックだ。
とっくに止まるつもりはない。
ここで止まったら意味が無い、ゴールは一番した。
止まるにはコースから出るしかない。
ブレーキなんて最初からないのだから。
だから、だから、だから、だから―――。
――――――ころ。

「インデックス!!」

「え?」

清廉な、私の思考を切り裂くように鋭い声が響いた。
咄嗟にどこか自分の中に埋没してしまっていた私を引き上げたら、目の前には心配そうなセイバーの顔があった。

「ど、あ、どうか、した?」

「それはこっちの台詞ですよインデックス、どうしたのですか?」

「え?」

心配そうな、どこか咎めて来る顔をするセイバー。
それに慌てながら私は自分の身体を見回すけれど、異常はないように思えた。
ただ、何か、さっきまで、恐ろしい、思考を―――○す―――していたような。
考えていけない、何かを考えていたような、そんな気がする。

「さっきから思いつめたような…………その」

「…………ありがとう」

言いよどむセイバー、それから私がさっきまで酷い顔をしていたのが解る。
多分、自分でも認識で出来ていないけれど、薄暗い思考と感情が薄皮一枚下を渦巻いてるのを感じれた。
何か、考えてはいけないものを深く深く深く深くドロドロの感情が漏れ出しそうになった。
それを、どうにかセイバーが引き戻してくれた、そんな気がする。
だから、私は今出来る笑顔を彼女に礼として返した。
それでも―――○す―――なにか、私とはかけ離れた感情が湧き上ってくるのを感じてしまう。
きっとこれは、私の中に巣食っているのだ。
いや、もしかしたら今まで気付かなかっただけで、ずっと私の中にいたのかも知れない。
深く暗く重く嫌な熱い感情が下腹部で湧いて行く。
一度生まれてしまったこれは、止まらない止められない。
これは私の身を滅ぼすものなのだろう。
だけど、これがこの戦争を勝ち残る為に必要な何か、そう感じた。

「大丈夫ならば良いのですが…………」

「うん、大丈夫、まだちょっと疲れが抜けてないだけだから」

必要だけど、これは私の身に余るものだ。
だから、この感情にスッと軽い蓋をした。
見えなくなるだけ、ちょっとしたことで外れてしまうような、そんな蓋をして私は笑った。

場面は移り変わる。
そこは私の知らない場所。
イキタイ。イキタイ。いきたい。生きたい。
どこかほの暗い場所で、そんな言葉が紡がれた。
人間として、いや生き物として必要な生存願望。
小さな今にも消えそうな声。
そんな願いが延々と垂れ流されている。
もう”彼”を助けるものがおらず。
既に”彼”という個もない状態でも、それでも生きたいと願う純粋な願い。
人に頼れず自分も頼れず、そんなとき人間は手を合わせる。
どうにもならなくなったとき、人は自分たちとはかけ離れた何かにすがる。
”彼”も願っていた、自分を生きさせてくれる何かを。
そこまで深い思考なんかない、ただ生きたいという願いを溢れさせていた。
そして、その純粋な願いにこそ願望器は反応してしまうのかも知れない。
薄暗い、暗色の光と共に何かが存在した。
存在させられた”彼女”はしばらく薄暗い周囲を見渡してから、自分を呼んだ”彼”に気が付いた。

「ふぅん、貴方が私のマスターな訳ね…………へぇ」

黒いローブを纏った彼女は、細い指先で自分の唇をなぞった。
今自分が何処にいて、何をすべきか、そして”彼”の願いを理解して、形の良い唇を笑みの形に歪めた。
そして―――囁いた。

「素敵」

と。
そして彼女は動き出した、動き出してしまった。
戦争に乗り出すことを決めた。
自分の願いの為に、そして素敵なマスターの願いを叶える為に。
セイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、バーサーカーに次ぐ6人目のサーヴァント。
キャスターはその身を戦場に投じた。
そのことに気付いたマスターはこの時点ではただ一人もいない

…………。
……………………。
食事を終えた私は、正座をするセイバーを見ながら今後を考えていた。
セイバーに言った「アサシン、キャスターの捜索」これは確かに大切だけれども時間稼ぎでもあった。
今の私にはどうにも、何か良く解らない感情を持て余している。
それを自分で認識したら、今まで築いてきた私が壊れそうだから目を逸らして見ないでいる。
だけど、一度また戦争になればその感情が起きてしまうかも知れない。
無慈悲無感情に引き金に指をかけてしまう。
それが怖くて仕方ないと同時に。
”それは仕方が無いこと”と納得しようとする自分もいるのだ。
その感情こそ私は怖いのだ。
このままでは私はまた友人を殺すことになってしまう。
いや、多分そうなる、それは何となく解っていた。
それでも、その結果から私は逃げたいのだ。
誰も殺さない戦争をしたい、既に100に届く人間を、友人を殺しているのに、私はそんな都合良いことを考えていた。
そんな私を遠くから見つめる影があるのに私は気付かない。
それもそうだ遠くと言っても程が在るほどの遠くからの視線だから。
その遠くでは当然私には聞こえない歯軋りと、聞こえない声を漏らしていた。
長身、長髪、スタイルの良い身体の女性は、自分の背丈より長い刀を握り締めながら歯軋りをして―――。

「誰が、誰があの子にあんな死の、戦の匂いを纏わせたのですか!!」

―――怒気と言うには生ぬるい、彼女の持つ剣のような感情を溢れさせていた。
それに気付くことなく、私はまた思考の海に沈んでいった。

今日はここまでです。

乙ー
魔術師でない小萌のバーサーカーはイリヤと同じステータスで
魔翌力は十分供給できてるらしいインデックスのセイバーが士郎と同じステータスだった理由が知りたいけど
それは物語の根幹に関わる部分なのか

それと打ち止めと出会った後の一方通行が妹達に暴力を振るうってのがどうにも違和感

セイバーはインデックスの様子に気が付かないのか?
それとも……

インさんに『漆黒の意志」が宿りつつあるな

それも上条さんのような「黄金の精神」とは遠くかけ離れた

相対すらしてないのに存在即効大否定されるアサシン(怒)

ただのジョジョネタに厨二病云々言い出す奴が居るなんて……
まさか中国四国はジョジョ一つ売ってない第二のグンマーだって言うのか

ネタにマジレスしてんじゃねぇぞ!!

このクサレ脳ミソがァ――――――ッ!!!!!!

そして私は>>1に敬意を表するッ!!!!!

おいおい…何もしなかった代償が上条さんその他禁書キャラよりヤバいぞ…

後打ち止め…司令塔だからっでミサガは絶対に死なせないんじゃなかったのかよ

おおお、面白い・・!!
続きまだ?

ふと、思ったけど御坂が回想で言ってた、見知った顔って、インデックスだけじゃなくて御坂妹の伏線だったり?
だとしたら、御坂は打ち止めをどう思ってたんだろ

二次だった一方と御坂仲良しだけど、原作はどうなってん?


極限状態だと正気失いやすいわな

>352
原作では新約3巻まで接点なし
一言ずつ現状認識のみでけっこう肩透かし

そういや愉悦の立ち位置は誰なんだ?

まさか土御門じゃあるまいな…

このSSはもう違和感なんてレベルじゃないだろ
でも>>1にちゃんと書いてあるんだし無問題

コレどう考えても最後上条さん発狂しそうなんだが

そこはまあ禁書お得意のご都合主義展開でなんとかなるさ


なるよね?

なんとかなると思いましたか?
ところがどっこい!なんとかなりません!!

面白ければ何を書いても良い理論なら、この1は何をしても許される

色々議論したいが、議論禁止か
続き早く!

投下します

「さて、まずは何処から捜索しましょうか?」

「うん…………とりあえずは結界、陣、工房でもあれば解りやすいんだけどね」

何とか気持ちの整理をつけた私はセイバーと二人で街中を歩いていた。
もとはるが用意してくれた妙に可愛い服を着たセイバーは目立つようで、周囲からは随分視線が集まっている。
外国人というだけで、それなりに珍しいのかも知れないし、金と銀の髪が並んでいるからかも知れない。
それは在り難いことだと思う。
昼間であること、そして人目につく場所、これならば急な襲撃もないだろう……いや、そう信じたい。
これが正規の聖杯戦争だったならば、目に付くことを嫌う魔術師は攻撃を仕掛けてはこないだろうけれど、今回のこれは異端であり異常な状況だ。
上手くはまるかは解らない、むしろ無駄に被害を広げることになるかも知れない。
そんなことを考えながら、セイバーに言った様に街のどこかに魔術的異常がないかを探す。
アサシンは解らないけれど、キャスターはその性質上、魔術師としての拠点たる工房か、下手したら大規模な陣を仕掛けている可能性がある。
それを見つけることが出来れば、何かの手がかりになるかも知れない。
場合によっては先に見つけておかないと、とんでもないことになる可能性もある。
解体されたハズの第五次聖杯戦争ではかなり大掛かりな陣が作られたらしいから、下手をしたら街が飲み込まれる可能性も考えなくてはいけない。
だから、それを未然に防ぐ意味も持ち、かつこちらが聖杯戦争を続ける上で優位になる探索はそれなりに意味がある。
そこから得た情報、それは時にして値千金になるから。

「工房ですか、正直魔術は専門外なのですか、作られやすい場所などはあるのですか?」

「うーん、まぁ、魔術師からしたらマナが多い場所、もしくは地理的に意味がある場所に立てたいだろうね」

「マナが多い場所は解りますが、地理的に意味がある、とは?」

「ん~、魔術において方角と角度は意味があるからね、魔術の特性によっては方角の魔は大きな意味を持つんだよ、北で儀式を行った場合と西で儀式を行った場合では意味に大きな違いが現れるから」

「ほ、ほう…………」

流す様に説明したけれど、セイバーはあんまり理解出来ていないようだった。
だから、適度に話を終わらせて周囲の異常に目を配っていく。

通常ならば聖杯戦争は魔術師同士の戦いの為に、その地にまずは簡易的でも工房を設置するハズ。
魔術においては前準備が全てに近い。
戦いまでにどれだけの石を積めるか、それが戦況を大きく動かす。
その為には工房は必要不可欠な拠点だ。
しかし、今回のこの戦いでは正規の魔術師が私以外にいるかどうか、私にしたって魔術師といっても執行能力は低い。
大規模な術など使えない、あくまで補助的魔術の行使しかしないので工房の準備などしていないし、何よりいきなりであったのでそんな暇なんかなかった。
してある準備など高がしれている、今現在はセイバーとのパス、そしていくつかの人払いの簡易護符、それと少々の護身に使えるものだけだ。
と、言うかそれくらいしか準備が出来なかった。
その場で魔術を行使するには私では難しいし、かと言って事前に行使した魔術を封じるにはそれ相応の器、宝石であったり、輝石であったりが必要だ。
それを準備する手立てもない私は、簡易のものしか用意できない。
だけど、それを上手く利用すれば勝ちへの布石にはなる。
特に超能力者、彼ら彼女らには有効な武器になり得る可能性もある。
やれる準備は何でもしておいて損にはならないハズ。
そう信じて警戒しつつ街を散策していくが。

「中々見つからないね」

「そうですね、普通の街、と言った感じで異変は無いように見受けられますね」

セイバーの言葉の通り、異変は見当たらない。
見当たらな過ぎる、と言っても過言ではない。
数日前に大きな破壊が起きていたのに、それに対する報道や騒ぎは特にないようだ。
それはつまり、この戦争には学園都市の上層部も関わっているということなのかも知れない。
大規模な情報操作、そして封鎖を可能にする程度の立場の人間が。
…………科学の街でそんなバカげたことする人間はいるの?
考えても答えは見つからない。
私は学園都市の上層情報なんか持っていないのだから、推測すら立て難い。

だけど、考えておくことも必要ようだ。
もしかしたらこの周りにいる学園都市の人間全てが敵に回る可能性もあるのだから。
そうなった場合に○すのは何処からが―――。

”ごんっ!”

「インデックス!?」

「い、たた…………」

思考が妙な方向に流れようとしたのを止めようと、私は自分の顔面を思い切り叩いた。
唇が切れて少し血の味がするけれど、それで良かった。
心配そうにするセイバーに軽く手を振って大丈夫と伝えて私は息を整える。
私は聖杯戦争に勝つだけで良いんだ。
それだけ、それだけ、それだけなんだ。
そう言い聞かせて何とか頭をフラットな状態に戻していく。
何か頭に妙なものが巣食っている気がするけれど、それから目を逸らすことが今の正解だと思う。
だから、私はその『妙なもの』を追求しない。
何となく解っていたから。
その『妙なもの』がこの聖杯戦争に必要な要素になるだろうから。
私に足りない、要らない、欲しくなかった何か。
それが多分芽生えつつあった。
大まかに言う決断力。
そして切り捨てる力。
とうまの元にいる限り必要ではなったその力が私の中で芽吹きつつあった。
私はそれから目を逸らす。
それが、いつの間にか見過ごせなくなるくらい大きくなってしまうことを知っていたのに。
それでも、私は綺麗な振りをしてそれを見逃してしまった。

そして、見過ごせない相手に出会った。

「おや、奇遇ですねとミサカは手を上げて挨拶をします」

「っっっっっっっっっ!!!!!!!」

街角、何の準備もなくふと出会ってしまった見過ごせない相手。
それはシスターズ、私の友人と同じ姿を持ったその人。
少し前に戦った相手、その一員に、だった。
もっとも、ここに生きて存在していると言うことは相対はしてなかった、燃料として扱われていた内の一人なのだろうけれど、それでも私は動揺しない訳にはいかなかった。

「貴様は!」

動揺する私の前にセイバーがグッと前に出て、守るように手を伸ばしてくれた。

「インデックス?」

「いいの、セイバー…………大丈夫」

だけど、私はその庇護を拒否するように前に出る。
シスターズと、彼女と、クールビューティの姉妹と真っ直ぐに向き合う為に。

「…………少し、話さない? 時間、あるかな」

「? ええ、問題ないですとミサカは頷きます」

私は自分が何をしたいのか解らない。
謝りたいのか怒りたいのか。
だけど、それでもこの場でただ擦れ違い、あのときを無かったようには扱えなかった。
無かったことには出来ないあの時、もしかしたら私はそれを再認識したいだけなのかも知れない。

「それで、話とはなんでしょうか? とミサカはベンチに踏ん反り返りながら聞きます」

「ふんぞり返ってないよね、普通に座ってるよね、それ」

少し歩いた場所にあった公園のベンチ、そこにシスターズの彼女は座っていて、その前に私とセイバーが立つ。
彼女自身は緊張感も何もないようだけど、私は今緊張していた。
だって、彼女の姉妹を私は殺しまくったのだから。
正直何を言われても仕方ないだろう。
セイバーは無言を保ちながらも、その手には不可視の剣が握られていた。
もし、何かあったら敵として排除するつもりなのだろう。

「あの、さ…………ご―――」

「謝罪ならば受け取るつもりはありませんとミサカはNOと言える日本人」

「―――え?」

硬く、くっついてしまったような唇を開いて『ごめん』と今更意味のない謝罪をしようとした私の言葉を彼女はスッと止めた。
そのまま何処か焦点の合ってない目でこちらを見つめて、今度は彼女が口開けた。

「先日の件についての非は襲い掛かったこちらにありますとミサカは冷静に物事を判断します」

「で、でも…………」

「デモもストもありません、貴女は自分を殺そうとする集団から身を守っただけですとミサカは判断します」

冷静に、まるで他人事のように彼女は物事を裁いた。
鼻を少しだけ鳴らして「それにミサカの姉妹を殺したのはそちらの騎士気取りの方ではないですか」とどこか挑発する発言をセイバーにしていた。
挑発にセイバーは無反応のままだったけれど。
冷静な物言い、彼女の言うとおりのことかも知れないけれど、それでも私はどうにも納得出来ない。
確かに襲われたけれど、彼女たちをああまで殺すこともなかった、そう思ってしまうのだ。
罪悪感、多分そう言うもの。
謝罪するくらいならば私が死ねば良かったのかも知れない。
それも出来ない、でも

――――――殺して

ごめんなさい――――――

なんて意味のない謝罪なのだろう。
私は強く唇を噛んだ。

そのまましばらくの無言。
ベンチの彼女は自分から話すことはないようで、セイバーも私を守るだけ。
そして、私は何も言えずに地面を見ていた。
本当に自分が何をしたいのか解らない。
意味の謝罪は受け取りを拒否されて、被害者―――と私が思う相手―――からは非を認められる。
この先何をしたら良いか解らない。
むしろ、何でこの場を設けたのかすら解らずにいた。
そこに、新たな声が放り込まれた。

「よォ、ちょーど、あつまって、ンじゃ、ねェ、か…………」

「あくせら、れーた?」

声の先、声の主。
無音に近いモーターにより駆動する車椅子に座った一方通行がゆっくりとこちらに向かってきていた。

「ど、どうしたの!? どこか怪我したの!?」

「あァ? なんで、もねェよ、ちっと、ばっかシステムが、変更に、な、っただけだよ」

「しすてむ?」

「あァ」

理解不能な発言に首を傾げる私に、彼は小さく応えた。
その彼の口調も何か、どこかぶつ切りの妙な感じになっていて、それにも首を傾げてしまう。
だけど、彼はそれを詳しく説明するつもりはないようだった。
ただ、彼はゆっくりこちらに近づいて来る。

「…………」

私の近くに来ると億劫そうに首を上げて彼は顔を覗き込んできた。
しばらく、そのまま見つめてくる。
その目からは何の感情も見つけられなかった。
どこかクールビューティ、シスターズと似てるような目だった。
浅い虚無。
その色はとても暗い。
彼はその暗い目のままゆっくりと、口を開いた。
その口の端からは微かに涎が垂れて、身体も微妙に震えている。
それでも、彼は必死に言葉を出すことにしたようだった。

「なァ、あいつは、どう、死んだ?」

震えるようなその質問に、私は答えられなかった。

答えられない。
言葉につまった―――のではなく。
知らないから。
彼女が、打ち止めが死んだとき、そのときに私は地面に倒れていたから。
その隣で死んでいく彼女を私も、誰も見ていなかった。
真の意味で打ち止めの死を看取った人間は誰もいない。
私の隣で、殺そうとした相手の隣でただ死んだ。
それが彼女の最後。

「わからない、ごめん…………見て、なかった」

それを私はそのまま伝えた。
それにベンチに座る彼女も、車椅子に座る彼も無言で応えた。
元より無言のセイバーは興味はないようで、そのままいつでも二人を斬れるように構えを崩さない。

「そ、っかァ」

「まぁ、特に興味もないですけどねとミサカは適当に流します」

それぞれどうにも思っていなそうな言葉。
絶対そんなことはないのだけれど、彼らはそう処理した。
処理できていないのは私だけなのかも知れない。
私たちの間に流れる空気は重いのに、どこか希薄。
薄く伸ばされたようなどうでも良い空気感がその場を埋めていく。
その空気を破ったのは以外にもベンチの彼女、シスターズの一人だった。
彼女は軽く一方通行に目をやり。

「一方通行、どうですか代理統括システムの調子は? とミサカは世間話をしてみます」

「まァまァ、だな」

私の知らない言葉、彼女と彼の間だけにまた妙は空気が纏わり付いていく。
それに首をかしげると、シスターズはそれを目ざとく見つけると。

「一方通行、脳にダメージを負い、歩行すら不可能だった貴方の演算を手助けするためにシスターズの脳電波ネットワークリンクを利用していて、私たちが並列に演算することにより歩行は元より、一時的な能力の使用も可能にしていたのですが、それを統括する最終信号の死により貴方の演算を補助することが不可能になると思われていましたが、死を見越してか彼女が用意した自分の代理となる統括システムの調子はまぁまぁですか、とミサカは説明口調で言い切ります」

「…………まァまァ、だよ」

彼女が告げたのは私の知らない事実だった。
私のしてしまったことの余波が一方通行にも関係していたことを知り、直ぐに彼に謝ろうとしたけれど、彼はそれを震える手を前に出すことで止めた。
また、私の意味のない謝罪は止められる。

「あの、ガキが、やった、こ、とだ、お前がどうこう、の話、じゃ、ねェ」

「…………」

彼もだった。
彼も彼女もだった。
自分の身内を大切な人を殺されたのに。
誰も私を責めない。
赦しが欲しいのかも知れない私にそれは辛い。
他者に赦しを求めるしか出来ない―――。
―――自分で自分を裁かない弱い私には、辛い。
私は結局、誰にも罪を咎められず。
ただただ贖罪の念だけを胸に押し込んだ。
誰も彼も私を責めない。
その状況に、私は強く強くとうまを求めた。
彼ならば、彼ならば私を叱ってくれる。
彼だったら、私を―――。
きっと、そう彼だったら。
まだ見ぬ幻想だけが私の頼りだった。
在りし日の彼の手、それだけを思い浮かべ。
私はまた夜に身を投じた。
聖杯戦争を続ける為に。
自分の願望を叶える為に、他人を蹴落とすその場に。

今日はここまでです

>>341
ちょっとだけ関係がありますね
根幹ってほとじゃないですけど、そんなに深い理由はないです
今回のは聖杯戦争の再現みたいな感じなので

ちょっとした躾みたいなイメージでやりました

>>343
王は人の心が解らない、ですね

>>345
黄金に向かう魂が金なのだ! ですね

>>347
騎士としては許せない相手かなと

>>349
群馬県民ですみません
入国にはパスポートか小麦粉が必要です

>>350
ありがとうございます
敬意には頑張りで返します

>>351
主人公不在ですから、悲劇が色々と

決意と結果は食い違うことはままあります

>>352
ありがとうございます

そのつもりは少しだけありました
他にもいくつか挟んでみてますが、活用されるかはまだ不明です

二人の仲は、まだまだ、ですね
深い何もない感じで

>>353
戦争ですから

>>354
言峰のたち位置は出るか微妙ですね

>>355
ちょっとインデックスが頑張りすぎましたね

きっと大丈夫ですよ

>>356
まぁ、多分

>>357
ハッピーエンドは大切です

>>358
ありがとうございます

まぁ、書き出した頃は過敏になっていましたが
今は大丈夫ですので、ある程度はお好きに

諸君、私は聖杯戦争が大好きだ

上条さんさえいれば、どんな状況になっても上条さんが来ればハッピーエンドになるはず
鎌地だってそう言ってたし

10月の禁書が楽しみ
最近質が下がったとか言われているが素晴らしい発想に毎回驚かされてます

今のまま妥協していても問題なかったのに、それ以上を求めて犠牲を増やす。欲って怖いね

投下します。

夜の街。
生徒たちの街である学園都市では、最終下校時刻が設定されている為に、街中にはほとんど人がいない。
そんな無音に近い、風の音に耳を傾けるような夜。
音が色が飲み込まれるような夜。
実験に使用されるという広々とした空間で、私は、私たちは赤いサーヴァントと対峙していた。
ドラマ性も奇跡もなく、ただただ普通に会い。
普通にこの場に招かれ。
そして、この場でこれより戦いが始まる。
ただ単に始まった戦争をただ単に終わらせよう。

「…………アーチャー、短髪は?」

「マスターなら不在だ、どうにも彼女は魔力汚染が酷いようでね、この場にはこられない。幸い私には単独行動のスキルがあるので問題もないのだがね」

「そう」

私の前には武装したセイバー。
その前、距離にして10mほど遠くに立つアーチャーは、御坂美琴のサーヴァントは質問に対して妙に長くペラペラと返してくれた。
それが決して律儀さや、礼儀ではないのはまるで嘲る様な語り口で理解出来る。
彼の語り口、どこか芝居がかった口調は誰かを嘲っているのだ。
それが目の前にいる相手なのか、それともまったく関係ない相手なのか、もしくはその両方なのかは知らないけれど、彼は誰かを嘲っている。
腕を組み、やや斜に構えるようなポーズのアーチャーは自分から言うこと聞くことはないようで、片目だけを開いてこちらを伺っていた。

「…………」

「セイバー、待って」

その態度、口調が勘に触るのか、それとも前回の敗北の借りを返したいのか。
セイバーは無言のまま一歩進もうとしたけれど、私はそれを止めた。
彼女は一瞬何か言いたげな顔をしたけれど、直ぐに頷いてくれる。
それを確認してから、再びアーチャーに向かって口を開く。
この質問だけ終われば、正直もうやることは戦争だけ。
言葉を選ぶつもりも気もなく、放るように軽く言葉を出した。

「アーチャー、貴方は聖杯戦争に何度目の参加?」

「二度だね」

「そう…………そう」

投げるような質問に返ってきたのは、投げるような答え。
少し私を振り返りながらセイバーは不思議な顔をしていたけれど、もうこれ以上質問は無い。
ただ単に戦争を始めよう。
しっかりとセイバーに念話のパスを繋ぎ、しっかりと敵を見据えた。

「おや、始めるのか? まぁ、夜は短い、目に付きたくなければ迅速に始めるのが賢い選択だろうね」

敵は赤い弓兵。
筋力 C
魔力 D
耐久 B
幸運 C
敏捷 B
宝具 ??


迎えるは青い騎士。
筋力 C
魔力 B
耐久 C
幸運 B
敏捷 C
宝具 C

弓兵がその手に黒白の双剣を手にする。
黒く白くそして硬く堅く光るその剣を交差するように構え、セイバーに向かって走る!!

「インデックス、行きます!!! はぁぁあああああああ!!!」

それに応え様と騎士は疾走を開始した。




その戦闘を遠くから見つめる影があることに私は気付けなかった。
影は、自分の身の丈よりある細長い何かを傍らに、唇を強く強くかみ締めていた。

戦闘は激しく、そして荒々しいものになっていく。

「ふっ!」

「ぬるい! ぬるいぞアーチャー!!」

”ぎきぃんっ!!”

かなりの広さがある場を二つの影は縦横無尽に駆け回る。
赤い影、アーチャーが投擲した双剣の一振り干将をセイバーは難なく打ち落とす。
―――これが既に24回。

「     」

剣を打ち落とされたアーチャーは、接近しよと神速を尊ぶセイバーにもう一方の剣を投擲すると後退して何かを呟き、再びその両手に干将・莫耶を存在させる。
そして、距離を取りつつ投擲による牽制を繰り広げる。
それは正しい判断に思えた。
アーチャーの白兵戦技能はそこまで高くなさそうだし、セイバーはあのバーサーカーと正面きって打ち合えるほどだ。
元より弓兵の性分は遠距離戦、接近戦主体のセイバーとは勝負にもならないだろう。
だからこそアーチャーは上手く距離をとりつつ、積極的には攻めないがセイバーにも攻めさせないでいた。
彼は恐らく格上との戦闘経験がかなり豊富なのだろう。
隙を伺い、相手の動きを予測して、リズムを逐一変えながら自分の動きは読ませない。
大よそ物語の主役を担う英霊らしからぬ、どこか泥臭い戦い方だった。
堂々と正面。
王道に直進。
そんなセイバーの戦とはまるで違う。
隙を作るために、勝つために全てを捨てうる、そんな危うさを私は感じていた。
彼のそんな戦い方を頭に刻み込んでいく。
ライダーのときほど簡単ではないけれど、ゆっくりゆっくりと彼の動きも把握出来て来た。
そして彼の特性も―――。

「ぜっ! あああああああああ!!!」

「ぐっ!? 力押しか騎士王!!」

セイバーの不可視の剣が双剣のガードを弾き飛ばした!
アーチャーの赤い外套がはためき、その身体が大きくバランスを崩して、慌てるように距離を開けるがセイバーはそれを逃さず前に出る!!
魔力放出のスキルにより加速で、アーチャーが後退しきる前に肉薄!
そして振るう刃が風と、肉を斬る!!

「…………逃げ足は本当に上等の様ですね、弓兵よ」

「武名高い騎士王に誉められるとは光栄だな」

一斬を浅く受けたアーチャーは、傷の深さを確かめ、それが問題ないと判断したのかまた余裕そうに笑っていた。
……やっぱりアーチャーはセイバーの真名を知ってる。
そして、前回の戦闘時に見せたあの剣。
    
    ”カリバーン”

アーサー王に王の運命全てを引き寄せたとされる剣。
何故彼がそれを持っていたかは解らない。
最初は私は彼を、彼の使う双剣から中華の英霊かと思ったが、それは間違いだった。
彼が黄金の剣をアーサー伝説に連なる剣を使用したからだ。
私はその矛盾を必死に考えたけれど答えが見つからずにいた、だけどその謎・矛盾も今回で大分氷解した。
今回私は前回みたいなことがないように万全を期すために見に回った。
そしてセイバーに『アーチャーが剣の投擲と、それによる距離の取り方が重要になるように戦闘するように』頼んでおいた。
彼の動き、そして位置を判断して逐一セイバーに指示を出して、アーチャーが気付かないように戦い方の選択肢を絞り込んだのだ。
アーチャーは莫耶を右手に、干将を左手に持つ癖がある。
この双剣を投擲して引き寄せるときは、常に莫耶を手元に置くのが重要なポイントになるので、セイバーにはアーチャーの左側から斬る様に、踏み込むように指示を出した。
常に、ではなく意識的にやや多く、そちら側から責めて行くように。
そうすることによって投擲をし難く、行動選択を削いで言ったのだ。
干将投擲をして挟み込むように斬りかかりたいアーチャーではあるが、セイバーがそちらからやや多めに斬りかかることで干将をメインに接近戦をせざる得ない。
そんな若干の嫌な感じ、上手く戦闘が運ばない状況に彼は後退するようになり、後退したときはセイバーに微かに速度を落とすように指示をした。
それにより彼に投擲を隙を作らせる。
大まかに言えばそんな指示を数度挟み込むだけで、彼の動きはゆっくりとパターン化されていったのだ。
その結果彼は大よそ予想通りに動いてくれるようになる。
無論、そこまでが彼の策であり演技である可能性は十分ある。
だからこそ慎重を期すしかない。
攻め込んで、前回みたいに大反撃を喰らってしまうことも十分にありえるのだから。
セイバーが戦ってくれるなら、私は彼女に最大限の援助をしなくてはならない。
エンジンと操舵手。
どちらが偉いではなく、二つ揃わないと目的地につけない。
だからこそ、私は出来ることを全てするしかない。


「ふっ、やはり君を殺すのはこれであるべきなのかな?」

少しの沈黙。
傷の箇所に当てていた手を仰々しく、どこかの演劇の騎士のように掲げると唇を小さく動かした。
その手に魔力が集中し、その場、その空間、そこが変質する。

「I am the bone of m  『The sowrd rustu and is long(その剣は錆びて久しい)』 なっ!?」

私は、割り込むようにして一節を呟きに混ぜ込んだ。
たったそれだけで彼の手に集中し、そこに溜まっていた、これより形作られる魔力が方向を変えた。
アーチャーがこれより生み出そうとしていた、ある種時空を歪める、無いものを存在させようとした魔術、それを私を割り込み、無効化した。
彼の手には絢爛豪華、優美にして無敵な宝剣ではなくどこか歪んだ剣に見えなくもない棒が握られるだけだった。
錆びて、これ以上何も斬れそうにない墓場のような剣が、その手に。

「あなたのそれは投影魔術、だよね」

「…………本当に有能なマスターのようだ」

苦々しく私を見つめるアーチャー。
彼はその手に生まれた墓場の剣を投げ捨てると、読み取らせない為にか口内での詠唱を終えて両手に双剣を存在させた。
そう、彼の持つ、振るう宝具は彼のモノではない。
そこに存在させているだけに過ぎないのだ。
『投影魔術』それは本物が生み出した影を顕現させる魔術だ。
理論上ならば遥かか彼方に消滅されてはずの宝具すら現代に蘇らせることが出来る魔術。
そう聞くと万能かつ有用に聞こえるが、勿論のようにマイナスもある。
一つに、存在しないものを存在させることにより、その存在させられたものは世界の修正力に耐えられず直ぐに崩壊してしまうのだ。
そして、もう一つ無いもの、かつて存在しえた宝具を投影するには、それを目の前で見るか、それに匹敵する資料、そして材料が必要なのだ。
そこまでして投影したものも、修正りょくにより直ぐに崩壊を迎える。
だったら現代のものを投影すれば良いかと言えばそうではない。
そんな無駄なことをするなら、本物を手に入れた方がましだから。
それ故に使い手の極端に少ない魔術なのだけれど、目の前の英霊はそれを使用して尚且つ『投影魔術の境地に立ち極地を占めている』と言っても過言ではない。
存在しない宝具の投影、しかも能力までも引き出し、そして連続投影に、投影時間、投影速度、代償なしの施行。
上げればきりが無いほどのことを目の前の英霊はしているのだ。
生前はどんなレベルの魔術師だったかなんて想像するのも怖いくらいだ。

さっきは『強制詠唱(スペルインターセプト)』で彼の詠唱に割り込み、失敗させることに成功したが、毎度出来る訳ではない。
一部門の極地にいるような魔術師にそれがいつまで効果があるかは甚だ疑問ではあるが、警戒くらいはさせることが出来たはずだ。

「…………」

双剣を再び構えたアーチャー。
それに呼応するようにセイバーも剣を深く構えなおした。
そして私は髪をかき上げるようにして、修道服のフードに隠れた耳辺りに『聡耳の兎』の札を貼り付けた。
ただ一定時間聴力をあげるだけの効果なのだけれど、それも今の戦いでは重要になるはず。
アーチャーが投影をしたときにそこに割り込めれば、勝負は簡単に決するはずだから。
……一回やってみせたのは失敗だったかな?
警戒をさせ、カリバーン、もしくはそれ以外の何かを投影させにくくはしたものの、それらをし難くなったことにより決定的な隙を作れなくなってしまったかも知れない。
それはそれで良い、セイバーが基礎性能で上回れば良いだけの話だから。
でも、少しだけ失策した感は拭えない。
さきほどよりずっと大量の音を耳から取り込みながら、私はそんな思考を巡らせた。
警戒させることに成功したけれど、それにより隙を作れなくなった可能性。
天秤にかけて見た結果としては、セイバーの安全の観点から見るに成功ではある。
そう納得して、修道服のあちこちにしこんだ様々な魔術の始動式を確認する。
英霊同士の戦いに何が出来るか解らないけれど、全ては使い方しだいだから。

「…………」

「…………」

睨み合う二人。
真っ向から切り裂こうとしているセイバーに、活路を探そうと鬼気迫るアーチャー。
二人の中心では空気が圧縮されていくような錯覚すら覚える気迫のぶつかり合い!
おそらく決着は近いことを確信して、勝負の開始を待ち、唾を飲んだ。
そして、まるでその音が合図になってように両者一斉に動き出した!!

「「はぁぁああああああああああああああああああああ!!!!!」」

不可視の剣と―――。

―――黒白の双剣。

今決死にて双方が衝突する!!

今日はここまでです。


スペルが間違ってるのはわざとなのか、意味があるのか…

swordだね
わざとならゴメン

>>370
私も好きです
士郎が固有結界を使ったときなど胸がスク思いでした

>>371
そうなることを願います

>>373
ペース早いですよね

>>374
それが人間ということで
原作では聖杯による願望成就ではなく、聖杯の入手が目的でしたから、そんなにどろどろしませんでしたね

>>383>>384
純粋なミスです
最初はスペルロジックにしようかと思いましたが、語学力に不備があったので止めました



「強制詠唱」は、「黄金錬成」とか全く未知の魔術は妨害不可のはず
なんてかインデックスさんが使えるのは、それ相応の知識の裏付けがあるわけで、
その知識を活用して相手の魔術を解析するわけで…つまり、解析不可能の未知の魔術は妨害不可なわけで…

通常の投影であればいざしらず、アチャ男の投影は固有結界からこぼれ落ちた別物
固有結界なんて個々人それぞれ、そもそも詠唱に意味なんて無い「黄金練成」以上の全く未知、
と言うか他人が理解出来るわけもなく、妨害不可の類かと……
あるいは、妨害可能と勘違いさせるアチャ男の名演技が光っているというのか

とりあえず、言葉尻を合わせておけば妨害できる、とかだと色々困るだろ、とある世界の魔術師もさ


……ここまで書いて、自分で「…うわぁ」って思った……ごめんよ

まあクロスなんだしそこらへんは深く考えなくていいんじゃない?
そもそも禁書世界の魔術と型月世界の魔術じゃ根本から異なってるし

目的を叶える為の手段がどういう結果を生み出すのか
それをイメージできなければ確実に破滅する
破滅への道は良心で鋪装されているのだ。

騎士王の言葉を借りるなら誰もが正しくあろうとしたがゆえの悲劇だこれは

それでも上条さんなら・・・

上条当麻がいなければ救われない世界ってのも間違っていると思うがな


これやばい面白いなぁ
あと、ステータス原作とちょっと違うんだな
やっぱりマスターが違うからか

まとめに載らないかなこれ
一気に読みたい

容赦なくキャラが死んでいくな、面白いが
あと、描写が上手すぎて生々しい

だがそれがいい

まだー?
セイバーたちのは更新されてんのになぁ

少々時間が空きましたが投下します。

「ぜっぁああああああああ!!!」

先に動いたのはセイバー!
その小柄な体躯を沈み込ませて、一挙動でアーチャーとの距離を潰す!
彼女自身が砲弾になったかのような圧倒的な速度、かつ圧倒的な威力!
一歩目の踏み込みで足元が爆発した!
踏み込みの勢いだけで風が生まれ大気が避けていく。

”ぎっきぃいん!!”

「ちっ!! くっっ!!」

不可視の剣の打ち込みを黒白の双剣が受ける。
散る火花に漏れるは苦悶の声。
アーチャーはセイバーの一撃を正面から受けきれず、双剣を上手く使っていなすけれど―――。

「はああああぁぁあああ!!」

”きぃいん! ぎっきぃん!”

「ぬっ!! く、があぁぁあああ!!!」

―――受けれるのは一撃。
続けざまの剣戟に堪えることは出来ずに、アーチャーは両手の双剣を弾き飛ばされた。

「凄まじいものだな騎士王!」

「ふっ! まだまだ! まだまだぁぁぁああ!!」

双剣を飛ばされると直ぐにアーチャーは新たな双剣を投影させた。
やはりこの双剣の投影には無詠唱のレベルに至っているらしく、タイムラグも無く存在させた。
…………凄い、割り込む隙が無いんだよ。
そこにあってはならない過去の宝具を、当然のようにそこに存在させる。
時空を歪めるに等しい行為を簡単に実現させる技量に唾を飲んだ。
聡耳の術式により微かな呼吸音は聞こえてくるけれど詠唱の片鱗も見つけられないでいた。

詠唱に割り込む、それは既存の魔術ならある程度可能だ。
だけど、目の前で繰り広げられる魔術は時代こそ不明だけれど人の理の外に近しいレベルの魔術。
おいそれと割り込むことは出来ない。
だけど、推測と予測は出来る。
見た限り彼の、アーチャーの投影魔術は剣に特化しているようだ。
詠唱にも剣を意味する言葉が散りばめられていたし、彼の投影魔術は多分一つに特化することで他のモノを捨てた結晶。
剣以外の投影も出来るかも知れないけれど、難度はあがるはず。
煮詰めきった純粋なもの。
そこに付け入る隙はあるか?
―――多分、ないだろう。
彼、アーチャーはあれほどのレベルの投影魔術を自分の手段の一つくらいにしか思っていない。
極めた道を誇るでもなく、ただの要素として扱っている、ほら、今だって―――。

「ふっ! ずぁぁあああ!!!」

アーチャーはセイバーの一撃をギリギリでいなし、その身にダメージを蓄積しながらもいなした回転を利用して蹴りを放った。

「くっ! 姑息な!」

突然の蹴撃にセイバーは一瞬動きを鈍らせたけれど、片手でそれを受けて大きく剣を振るった。
走る剣は赤い外套の一部を切り裂くだけに留まり、その身を断つまでには至らない。
大きく距離を取った彼は再び双剣を投影して構える。
一秒に満たぬ停止を終えて彼は駆け出す駆け抜ける!
構えた手を広げて片方を投擲、そして更にセイバーに接近!
近づき駆け抜ける!

”きぃんっ!”

天性の直感を持つセイバーは投擲された短剣を容易く打ち落とす。
そのコンマ数秒のタイムラグを経て突きだされたもう一方の剣!
セイバー自身の腕を影にするように狙われた闇突き!

「っ! 甘いっっ!!」

それもセイバーは容易く紙一重でかわして見せた。
そして当然のように剣で返す!
風斬る一撃がアーチャーの肌に微かだけど届いて鮮血が散り、アスファルトの地面に黒い染みになった。

「さすがにやるな、騎士王」

何度避けられ、その度に反撃を受けようとアーチャーは止まらない。
今出来ることを、今あるもので、今だかつて無いくらいに勝ってみせる。
出来ることを出来るだけ。
あるもので出来るだけ。
ボロボロになっているのに彼の目は一ミリも死んでいない。
何を使ってでも勝つ。
その意志が彼には強く宿っている。
私は、その姿勢に酷く親近感を覚えた。

繰り返されるチグハグな剣劇。
セイバーの剣は真っ直ぐで王道。
その存在が後押しするかのように、濁り無く真っ直ぐ真っ直ぐ全てを切り伏せる。
彼女の瞳は常に前を見る。
常に正面の敵を正面から斬る。
これから自分が斬る相手の瞳を真っ直ぐに見つめて。

「はっぁあああああああ!!」

それに対してアーチャーの剣は変幻自在で邪道。
彼の今までの生き方戦い方がそうさせているのだろう。
セイバーのように強者で王者に生まれなかった弱者故の戦い方。
常に乏しい状況で、常に勝ちに固執することでしか勝利を呼び込めなかった。
勝つことを運命付けられた王たるセイバーとは真逆。
手が届かない場所にある勝利の為に、何でもしてきたのだろう。
彼の戦い方にはそんな執念が垣間見えた。

「………………」

そう垣間見えてしまった。
戦闘の動き、目線、戦術、反応、そして思想。
そこまで推測推察が出来つつあった。
まだ不明な点は多くあるけれど、それを差し引いてもどうにか出来る程度に、私の読みは完成しつつあった。
あとはその一瞬を待つだけ。
勝負を決められる一瞬を。
でも――――――。

「ぐっお! おっおおおおおおお!!!!!」

「甘い! 甘いぞ弓兵! その程度で我が守りを崩せると思う―――なぁぁあああああ!!!」

双剣を共に大上段に構え、身長差と体重を利用した一撃。
やや斜めに刃を傾け、交差するようにセイバーを狙ったが、彼女の剣は横に構えられ容易くそれを受け止めた!

”きっぃいいんっ!!”

飛び散る火花!
体中に刻まれた傷よりアーチャーの鮮血が噴き出す!

「ぜっぁああああああ!!」

セイバーは横に倒し双剣を受け止めた自らの剣を魔力放出のスキルで力任せに振り払った!
その膂力にアーチャーは耐え切れず、容易く剣を弾かれ後退した。
その一歩の後退をセイバーは見逃すことはなく斬りかかる!
不可視の剣が風を裂き、その先にある弓兵を切り裂きにかかった!

「っ!!!」

振るわれた一撃はアーチャーの肩から胸の半ばを切り裂いた。
さっきまでとは比べ物にならないほどの血がそこから溢れ出していく。

「ふっ、正に最優のサーヴァント、その名に恥じぬな、セイバー」

「…………」

距離を取り、双剣を再び構えたアーチャーは相変わらずの不敵な笑みを浮かべてセイバーに向かい断つ。
セイバーは無言で剣を構えなおし、相対する彼を睨む。
視線だけで圧殺してしまいそうな気迫を含ませたその眼力を受けても。
全身に傷を刻まれ、どんな攻めも全てかわされ圧倒的なまでに追い詰められても。
彼は少しも諦めていない。
どこかにあるはずの一手を探しているのだ。
その姿に―――。
―――私は。

    ああ。なんと気高い人なのだろうか。

心の底から尊敬してしまっていた。
諦めない絶対に折れない。
どれだけ傷ついても決して折れない。
砕かれるまで、否砕かれてでも戦うこの人を。
その象徴たる剣の様なこの人を。
――――――殺したくはなかった。
今更。
友人、その姉妹を延々虐殺した私が言うには重みも無い言葉だけど、そう思ってしまった。
私はこの人を尊敬してしまっている。
この人を殺したくは無い。
そう感じている。
それでも私は進むと決めた以上この人を殺すのだ。
聡耳の札により聞こえてくる彼の心音、荒い呼吸音、全てが愛おしい。
それを止める自分が恨めしく―――。
―――羨ましい。

『セイバー、大体動きは読めて来たから…………決めよう』

「…………」

念話による私の指示にセイバーは、微かに身を沈みこませて応えてくれた。
完璧では無い読みだけれど、大体は読めている。
隠し玉もあるだろうけれど、予備動作はそれなりに情報が揃っている、そう大きな読み間違えもしないだろう。
だから、私は彼を殺すのだろう。
何でか、まったく知らない、現代の生者でもない彼を殺すことについて、打ち止めや、クールビューティのときより抵抗を感じている私がいた。
それでもそれでも。
勝負が始まった以上は決着が必要だかた。
思考が黒く暗く染まっていく、そんな高揚感を胸に私は指示を出す。

『多分あと三手で決するかも、まずは4秒後アーチャーは双剣を投影するから、その投影に合わせて踏み込んで』

「承知っ!!」

1秒。
アーチャーが両手を交差させる。
2秒。
変わらない不敵な笑みで少しだけ肩を沈ませる。
3秒。
指を何かを握りこむように曲げる。
4秒。
その手に投影魔術により双剣が姿を現し始め―――セイバーが踏み込む!
地面を削るような突進突撃!
それを受けてアーチャーは双剣を構えた!

『双剣を両方投擲して新たに双剣を投影すると思うから一瞬立ち止まって!』

「っ!?」

私の指示の通りセイバーはその神速の踏み込みを、目標半ばで急にブレーキをかけた。
対してアーチャーは翼を広げるように構えたまま目を見開き一瞬だけ動きが鈍る。
予定が狂い彼の判断に少しの隙間を開けさせた。

『今! さっきより少し遅めに踏み込んで欲しいかも!』

投擲をしようか迷っているその迷いに付け込むようにセイバーを遅めに進撃させる。
進撃を受けアーチャーが取るのはプランの変更か、それとも続行か?

「っ!」

彼がとったのは続行だった。
両手から双剣を投げだし、直ぐに新たな双剣を手にした。

”きぃん! きぃいん!!”

セイバーは投げつけられた二本を容易く打ち落とす。

「ふっ!!」

それは既に読んでいたと言わんばかりにアーチャーは前に出ると、左手を上段に、右手を下段に構え、やや曲線を描くような軌道を描くように斬りかかった!

『一歩だけ退いて、そしたらアーチャーはそれをまた投擲して直ぐに次の双剣で斬ってくるから低く構えて突き刺して…………それで終わる、かも』

そう、多分これで終わる。
これで―――殺す。
指示に対してセイバーは素直に実直に。
疑いなく殺すだろう。
青い外套をはためかせながら一歩退いた彼女。
避けることを読んでいた、というようにアーチャーは躊躇わず迅速に剣を投擲し新たな双剣を投影し大きく踏み込んだ!
が。
それは指示の内。
セイバーは双剣の軌道を避ける位置に沈み、引き構えた剣を神速で突き出した!
これで終わり。
打ち止めの例を考えるなら、アーチャーの死を持って短髪も死んでしまうのかも知れない。
でも、それでも止まれない戦争。
セイバーの不可視の剣が、アーチャーの双剣が届く前に貫く!!

”ぎっきぃいいいんんんん!!!”

”みしっ!”

金属の擦れる音、そして何かが軋む音が響いた。
剣が肉を貫き、内臓を破壊し、骨を砕く音でも。
死の苦痛に歪んだ声でもない、無機質な音がした。

「え?」

「なっ?」

「む!?」

予想外に私たち三人は動きを止めて”乱入者”を見つめた。
黒い長い髪を後ろで結び、片足だけ大胆に露出したジーンズ。
シャツの片側を縛り、くびれた腰を見せた彼女は―――。

「戦闘行為を今すぐに停止することを要求、しますっ!」

―――身の丈より長い刀で、セイバーとアーチャー双方の剣を受け止めていた。

「か、おり?」

いきなり現れた、恐らく空より来襲した彼女を見つめながら、ゆくゆく乱入の多い戦争だと、そんなことを考えていた。
私以外の二人は、自分の剣を受け止めた”人間”に驚愕の表情を浮かべている。

「「っ!!」」

一瞬の停止をもって二人はかおりを中心に大きく飛びのいた。
彼女は、剣を受け止めたときに一部砕けた鞘の破片を零しながら私を見つめてくる。
深い悲しみと怒りを込めた目で。
その目を受けて私は何を言ったら良いか解らず、その場に立ち尽くすだけだった。

「インデックス、貴方は――――――っ!!?」

一歩私に向かい踏み出そうとした彼女は目を見開き身体をずらした。
その急な動きの意味を理解出来たのは一瞬の後だった。
そう、彼女の身体から鮮血が散った時になって、私を守ろうとしたと気付いた。
急展開の連続に脳みそは真っ白になっていく。
乱入して、英霊の一撃を受け止めた彼女が左胸に赤い穴を開けて倒れ―――ない!

「っっっっっっっ!!!」

血を、大量の血を流しても彼女は踏みとどまり遥か遠くを睨み、その方向と私の間に立ちはだかり―――。
―――その身にいくつもの穴を刻まれ、そして倒れた。

「      」

女性にしては長身の、スタイル良い身体を自分の流した血で染まるアスファルトに投げ出したかおり。
ステイルの同僚であり、世界に10人といない聖人で、私の友達、彼女はあっけなく倒れた。

「な、ん…………なの?」

訳が解らない連続に完全に頭の中は真っ白。
急に現れ急に死んだ。
本当にそうとしか言えない状況。
それの答えを教えてくれる者は―――。

「ふむ、凄いものだな、我々英霊でも反応が難しい最新鋭誘導電磁砲から彼女を守りきるか」

―――直ぐ傍にいた。

「え?」

「乱入者を好機と読んだのまでは良かったが、私のマスターは随分と短気のようだ、まさか関係ない相手に全て撃ち切るとはね」

子供の悪戯をやれやれと嗜める様に笑うアーチャー。
そのどこか平和な姿。
だけど、その言葉に込められた意味から私は大体の状況を理解出来た。
狙撃だ。
狙撃により私の殺害をプランにしていたのだろう、そしてその凶弾から私を守りかおりは死んだ。
狙撃手はアーチャーの言葉から察するに短髪だろう。
勝つために何でもする。
その言葉を体現するように彼らは私を殺しにかかったのだ。
セイバーを正面から攻略するでもなく、私を直接殺しに。
混じりっ気無い殺意。
流石は打ち止めの姉だと妙に感心してしまう。

”ぱぁん!”

「え?」

感心したのも束の間。
軽い音を聞き、衝撃を脇腹に感じた。
呆然としたまま衝撃を受けた部位に目を向けると、そこにはかおりがそうだっように赤い血が一点から湧き出ていた。

「っち、あんた魔力使い過ぎなのよ、ふらふらして外しちゃったじゃない!」

「そう言われてもね、これでも抑えたほうなんだがな」

「こっちは少しでも持ってかれると体中痛くて死にそうになるんだから気をつかないなさいよ!」

愚痴るように声はどこからか?
それを気にする暇なく私は寒気を感じる痛みに膝を折った。

「インデックス!!!」

焦るセイバーの声に応える余裕もなく、私は目を閉じた。

今日はここまでです。
色々ぶっ飛びました

もう容赦無さすぎで、ワクワクですよ



バッドエンド回避できるのかこれ



おーっと、御坂・M・キリツグ選手の容赦無い狙撃攻撃だーっ!?
神裂選手は惜しくも退場、腹部を撃たれたインデックス選手の安否が気遣われますね。

サーヴァントに前線を張らせてマスターが狙撃スタイルだと、
アーチャーのクラス的にはミスマッチだけど、性格的にはマッチしてそう。
クラス的にはマッチしてるけど、性格的にミスマッチだった切嗣とは正反対だけど
果たして幸と出るのか不幸と出るのか……今後も楽しみにしてます。

そしてマッハ20の狙撃すら防ぐサーヴァントを持ってして反応が難しいって……
それ、最新鋭誘導電磁砲って書いてホーミングレーザーって読むんじゃなかろうな

なんてこったい\(^o^)/

力の50%近くを取られて、天使用の術式をかけてたとはいえ、大天使の攻撃を防ぐねーちん、銃弾を避ける速度と反射神経を持つ聖人全般。あたりを跡形も無く消し飛ばず爆発で無傷のねーちん。美琴ってなんか対策したの?アーチャーと組んでるからか。

>>386
そうですね
あまり定められた詠唱に乗っとる魔術が両作品共になかったので
このSSではその者の目指すべき象徴を推察して
そこを乱すことにより介入する形にしました
インデックスの戦力の一部に、既存の知識から未知を推察するのがありますから
戦時中としまして、それを特化したのと
投影魔術という形ある技術から読み解いたことにしてあります
基本的にはとんでもなとこは多々ありますが、見守ってください

>>387
そこなんですよね
設定がかなり違いますから、どちらに寄せるか迷います

>>391
今回は願望を求めすぎてる聖杯戦争ですから、自分の正しさを競ってる形かも知れませんね

>>392
何とかしてくれますかね

>>393
主人公は重要ですから

>>394
ステータスはマスターによってかなり変わるみたいですから
それぞれをイメージして決めました

まとめに載れたら嬉しいですが、まずは完結ですね

>>395
ちょっと調子に乗ってやり過ぎてる気もしますが
このままいきます

>>396
ありがとうございます

>>397
あちらはなるべく毎日を心がけていますから

>>408
ありがとうございます
どんどん行けたらと思います

>>409
…………………………多分

>>410
イメージしたらそれが近いですね
やはりアーチャーは正義の味方ですから、切嗣を目指したような、容赦なく
まぁ、速度はすみません

>>411
神裂さん好きにはすみません

>>412
物理結界と魔術結界、みたいなイメージです
魔術の100を受けきれるから、科学の100も大丈夫みたいな感じではなく
属性が違うような、イメージ

!?
バッドエンド回避予定だったのか!?
 
一番の衝撃だ。バッドエンドに猛進してると思ってた

みこっちゃんもう只の外道だな

切嗣とは何かが違う

1巻の上条さんの影響受ける前の美琴って感じするな、ただし超電磁砲は考慮せず

みこっちゃん
「私の目的はあくまでも聖杯!あくまでも願いを叶える事!
インデックスのように綺麗事を吐くつもりもなければセイバーのようなロマンチストでもない
どんな手を使おうが最終的に……勝てばよかろうなのだァァァァァァァ!!!!」

インさんは美琴からの聖杯への願いの問いに対する回答を誤った感があるしなぁ
美琴を気遣っての回答だったけどBAD ENDに直行な感じになってしまった
まともに上条さんのためと言えばここまで敵視はされんかったとは思うが・・・

投下します。

「っか…………!!」

熱い。
脇腹が熱い。
撃たれた場所が熱い!!!
痛いんじゃなくて熱い。
吐き出したくなる熱が腹部に留まって私を責める。
まともに呼吸が出来ずに、真っ暗な視界なのにどこか赤い。

「『【[{インデックス! インデックス!!}]】』」

「『【[{いかせると思うかね?}]】』」

「『【[{くっ! そこをどけアーチャー!!!!!!}]】』」

私の名前を呼ぶセイバーの声がどこか遠い。
アーチャーの声も、そして剣がぶつかり合う音も何もかもが遠い。
いくつもの壁を挟んだ向こう側みたいで、真っ直ぐ届かない。
届かない届かない、痛みに似た熱さに苛まれ何も届かない。
届かない届けない私を、彼女は見下ろす。
熱くて熱くて燃えそうな瞳で。

「じゃあ、死になさい、改めて」

その声ははっきりしっかり私に届いた。
ああ終わる。
ここで終わるの?
それは嫌だな、そう思った。
ここで終わったらとうまが助からないかも知れない。
ここで終わったら私に従ってくれたセイバーが可哀想。
ああ、ここでは終わりたくない終わない。
終わる―――終わりたくない―――終わる―――終わりたくない―――終わる―――終わりたくない―――。
終わる―――終わりたくない―――終わる―――終わりたくない―――終わる―――終わりたくない―――。
終わる―――終わりたくない―――終わる―――終わりたくない―――終わる―――終わりたくない―――。
終わる―――終わりたくない―――終わる―――終わりたくない―――終わる―――終わりたくない―――。
終わる―――終わりたくない―――終わる―――終わりたくない―――終わる―――終わりたくない―――。
終わる―――終わりたくない―――終わる―――終わりたくない―――終わる―――終わりたくない―――。
終わる―――終わりたくない―――終わる―――終わりたくない―――終わる―――終わりたくない―――。
終わる―――終わりたくない―――終わる―――終わりたくない―――終わる―――終わりたくない―――。



       誰がこんな場所で終わるかっっっっっっっっっっ!!!!!!

”ぱぁんっ!!”

何処か、遠い場所。
そして暗い場所でのはっきりした会話が交わされている。
二人の影の会話。

「剣が死にそうだけが、それは良いのか?」

「死んだら死んだまで、だな」

「おいおい、最終的には剣が全てを閉じるんじゃないのか?」

「因子の問題だよ、大筋がその通りなら起こったことは”ただ起こる”」

「そんなもんか」

「そんなもんだよ、それにここで弓が残ろうと、彼の者にも因子はある」

「なるほどそう言う考えか」

「そう言う考えさ」

「魔と狂の処理は? あれは剣の役目だろう?」

「最終的には駆逐されるさ、そうなるように出来ている」

「解らんな、それも剣の役目だろ? ここで剣が落ちてどうしてそうなる」

「なるようになるから、とした言えないが―――」

一方の影がそう言葉を切った。
何かを楽しむように、組んだ玩具のレールの上を電車が思い通りに動いたように笑い。

「―――それにまだ剣が落ちるとは決まっていない、あれはあれで捨てたものではないぞ?」

そう言葉を締めた。

「っ!!」

「ぐっこっぉおお…………!!」

ギリギリ、本当に紙一重!
短髪が放った弾丸を避けることに成功した!
避けた、と言ってもゴロンとただ転がったに過ぎない。
それでも私はあまりの激痛に失禁していた。
聖杯戦争開始してから何回失禁すれば私は気が済むのだろうか?
無理に身体を起こせば、腹から流れる血と尿が混ざり合い実に気持ち悪いけれど―――!!
―――こんなとこじゃ終われない!!!!!

「かっ!!! かぁあっっあ!!!」

痛いけど、動く。
動くなら無理をさせろ。
自分の身体に本当に鞭打つ気持ちで立ち上がった。
それだけで内臓全部を口から吐き出しそうになる。

「インデックス!! 無事でしたか!?」

「ぁ、お…………ごっぁ」

少し離れた場所でセイバーが弓兵と鍔迫り合いをしているのを確認出来た。
アーチャーでもセイバー相手に攻め気ではなく時間を稼ごうとすればかなり良い戦いをするだろう。
となるとセイバーの支援は直ぐには期待できない。
だから、目の前の障害は私がどうにかしなくてはならない!!

「っとにしぶといわね、腹撃たれてそこまで動く? あんたのお友達もだったけど、なんなの? 気持ち悪いんだけど……」

「くっか……おごっぉ…………っ!!!」

短髪の目が、も二度と動かないかおりを侮蔑の色で見た。
何も何もしてなかったかおりを殺しておいてその上!!!!
そんな目で私の友達を見させる訳にはいかない!!

「ぐっぎぃいいい!!!」

普段どう動かしているか思い出せないほどの苦痛のまま立ち上がり、一歩二歩と身体を揺らすように動く。
撃たれた傷からはまだ血が流れ出ていた。
……貫通したのが幸い、なんだよ、多分。
内部に弾丸が残っていないようだ、それだけが救い。
だけど、今も私の身体が死に向かっているのには変わらない。
血の出すぎで手足がしびれて、微かな寒気も感じ出していた。
このままでは私は時期に出血多量で死ぬだろう。
こんな状況では、短髪相手に立ち回ることは難しい。
……まずは、止血からなんだよ。
そう、まずは流れ出る私の命を止めなくてはいけない。
部位的に内臓に深い損傷無く抜けているので、手っ取り早く塞ぐのが吉だ。
幸い、短髪もさっきの発砲で足に来ているようで、フラフラして片手を首につけたチョーカーに当てて苦しそうな顔をしていた。
手は震えて、まともに引き金は引けない状態だろうけれど、彼女は超能力者だ。
もしここに遮蔽物があれば即座に隠れたけれど、残念ながら私の周りには壁にも盾にもなるものはない。
しかたなく、ずりずりと後ずさりながら修道服の下に各所に仕込んだマジックアイテムから一つの札を取り出した。
原初的な「τ」の符を一枚。
大した利用は出来ないけれど、火を起こす事は出来るそれ。

「なに、それ?」

「…………っっっっ!!」

短髪はそれが何か当たり前に解っていないみたいで眉をしかめた。
まだ体力は解決していないみたいで、銃を持った手をだらんと下げて荒く息を吐いている。
その向こうでは英霊同士の鍔迫り合い。
響き合う剣戟だけで私の傷はじくじく痛む。
踏ん張りが利かない足に力を込めると、肛門からはドロドロの便が吹き出る。
口からは涎、そして鼻水が零れ、みっともないほど汚い顔になっているだろう。
でも、今はそんなのを気にしている暇は無い!!

「なんの、つもりよ、それ?」

「がっ、ごぉお…………こひっぁ!」

震える手で無理矢理に服を、元よりボロボロの修道服を脱ぎ捨てた。
下腹部周りは汚物で、白い布地が汚れていたそれを脱ぐと私の裸体が露になる。
服の下にはホルダーをいくつか忍ばせていたから、どこか卑猥な店の服のように見えるけれど、脇腹から血を流して糞尿を垂れ流す姿からは性的なイメージは伝わらないだろう。

「インデックス!? なにを…………ぐっ!」

「余所見とは余裕だな!! 騎士王!!!!」

いきなり服を脱いだ私は短髪は困惑、セイバーも焦っているようだった。
その中で私は焦らず、血に汚れた符に本来の役目を持たせる。

”τ”

一瞬の光が、周囲の空気を飲み込み大きな火になる。
手の平よりやや大きい火の塊。
魔術的攻撃にも防御にも使えない、ただの火だ。

「!? なによ…………それ」

それでも超能力者であり、魔術に疎い短髪を退かせることは可能だった。
これは思考の外にあった嬉しい誤算だ。
だけど、この火は威嚇の為に用意したんじゃない。


これは―――。


「ぐっく、くあ。あああああああああああああ!!!!!!!」

”じゅぅうう!!”

肉の焦げる匂い、血の蒸発する匂い。
それらが周囲に一気に広がる。


―――私の傷を焼きふさぐ為に用意した火だ。

今日はここまでです。

美琴もう完全無欠の悪役やな

みこっちゃん…胸がいたい

この激痛を飲み込んだ応酬が、脳内で高遠るいの作画で再生されてしまう

本編の美琴見ててもちょっとこんな感じになりそうなところある気がするわ
上条さんのためならなんでもしそうな

ペンデックスモードはそういや破壊されてたっけな

投下します。

「ぐああっぁぁああああああああああ!!!!!!!」

腹の肉を火が焼いていく。
音を立てて嫌な臭いを発しながら。
制御する術式は組み込んでいないので、私の手も一緒に焼いていく。
気絶したいほどの苦痛を受けて、落ちかける意識が覚醒、そしてまた気絶したいほどの苦痛の繰り返し。
きっとこれが地獄なんだろう。
地獄の中で、私は立ち上がる。
力む度に糞尿を漏らし、軟便には血も混じりだしていた。
それもまた良い気付になる。
食いしばった歯が軋み、歯茎から血が流れていく。
戯れでかみ締めた口の内壁は磨り潰され、舌には血の味がはっきり広がった。

「ぁ、あんた、なに、頭、おかし……おぇええっ!?」


うろたえている短髪が一歩二歩と下がり、嘔吐した。
それを見ている私には歪んだ笑みが浮かんでいた。
だって、まだこれで終わりじゃない。
銃弾は貫通したんだ、穴はまだある。

”じじゅぅうううう!!!”

「うぎょがぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!!!!」

「…………うぇっ」

弾の抜けた方の穴もしっかりきっちり焼き塞ぐ。
短髪は私の行為にか、それとも肉を焼く臭いにか。
そのどちらかか、もしくはまた別の何かに吐き気を催したみたいで、無理な魔力精製でフラフラの身体を更に揺らしていた。
予期しない部分で相手の体力を削れたと、私は内心笑ってしまっていた。
痛すぎて痛くない、麻痺した痛みによる多幸感でそんな余裕も出たくらいだけど、それも一時のことだろう。
麻痺が終われば地獄みたいな火傷の痛みが私を苛むのは目に見えている。
それくらい知っている。
それでも私はこんな手段しか取れなかったし、取らなかった。
焼け爛れ変色した脇腹、自分の一部とは思いたくないその気持ち悪い火傷。
涙と鼻水に塗れた顔、口の周りには血と泡。
下腹部から足にかけては尿と便で汚れている。
そんな汚らしい姿でも私は立っていた。
まだ戦える、これからも戦えるから。

「…………っ!」

そんな私の姿は短髪の目には異物に見えるのか異形に見えるのか汚物に見えるのか、彼女は口元を押さえて一歩、二歩と退いていた。
今までは彼女の鬼気迫る意志。
そして狂ったような気迫に押されていたけど、ここに来て私は初めて彼女を気圧した。
つまり、私も狂っているのだろう。
いや、聖杯戦争、こんな戦争に参加している事態、最初から狂っていた。
それが表に出ないだけだったのだろう。
私の内部はもうとっくに狂敗していた。

「イン、デックス…………」

遠くからセイバーの声が聞こえてきた。
彼女の呆然とする声、その目が捉えているのは私だ。
私の行い、今の状況に彼女は、彼女でさえ呆然としていた。
相対する弓兵も同じようで、戦闘の手を一時収めて―――。

「凄まじいものだな、君のマスターは…………」

―――呆れたような感服したような、どこか尊敬の混じった声を漏らしていた。
英霊に尊敬されるなんて光栄なことなのだろうけれど、彼は残念ながら打ち倒すべき敵でしかない。
私が立てる限り、セイバーも立ってくれる。
私が死んだら終わってしまう。
終わらせる訳にはいかない!!

「ぁ、が、ぐっ――――――」

痛みに、怒りに、闘志に脳みそが焼けていく。
思考が熱に焼かれ、冷やされ、叩かれ研ぎ澄まされていく。

「がっ――――――■■■■■■■■■■!!!!」

思考の果てに私は吼えた。
かの狂戦士のように。

そして時同じくして別の場所。
そこでも戦いは行われていた。
広い敷地、暗い闇を落としたようなそこで対峙するのは二つの影。
片方は闇から抜け出したような黒い巨人―――バーサーカー。
そしてもう一方はそれとは逆に白い、白い学ランを着た―――。

「やいデカブツ! こんな夜更けに女の追いかけ回すなんて根性ねぇ真似してんじゃねぇよ!!!」

―――学園都市が誇るLEVEL5、その第七位、世界最大の原石、通称『ナンバーセブン』
削板軍覇。
そんな彼が黒いローブを着た女性を庇うように立っていた。
ある意味単純で、ある意味行動の読めない彼はそこに正義としてバーサーカーと対峙していた。
バーサーカーの肩の上では、月詠小萌が聞き取れないくらい小さな声で何かを呟いている。
それを見て彼は更に目に怒りの炎を灯していた。

「そんなちっちゃい娘まで誘拐しようとしてやがるのか!」

削板軍覇、聖杯戦争に関係ないはずの彼はその拳を強く強く握り締め、ゆっくり歩いて巨人との距離を詰めていった。
その足取りには自身の能力に対する自信ではなく、自分を支える意志への信頼が見て取れた。
それほどまで雄弁な足取りを見せる彼の後ろでは、黒衣のローブを着た女が不敵に微笑んでいる。

「…………」

「――――――」

睨みあう両雄。
二人から発せられる力と力が擦り合わされ、まるで空気が熱を帯びているように熱くなっていた。
そして戦いは自然に静かにそして流れるように開始された。

「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!」

そして、二つは衝突した。

場面は戻り、私たちの元へ。

「?」

私の耳、性格には聡耳の符が遠くて何かと何かがぶつかり会う微かな音を捉えた。
時間があれば一考の余地あるものだったけれど、今の私には時間が無い。
無理な治療とも言えない処置をした私の命だけど、いつ尽きるかも解らない。
だとしたら動くしかない!!
まずはセイバーに念話を飛ばす。

『セイバー、私は大丈夫だからそっちに専念して欲しいんだよ!』

「っ!」『承知しました、しかし危機となれば駆けつけます』

彼女はボロボロの私の言葉を信じてくれた。
糞尿を漏らしている小汚い小娘の言葉を信頼してくれた。
だとしたらそれには報いるしかないだろう。
思考を深めろ、脳を回せ。
目の前の相手を攻略しろ乗り越えろ。
出来ないことなんてない。
出来ることと、いずれ出来ることしかこの世にはないのだから。
ボロボロの私でも目の前の超能力者を倒すことくらい出来るんだ。
信じろ、まずは自分を信じきれ。
自分だけは疑うな。
相手の行動は全て疑え。
それでも!!!!

        自分だけは信じろ!!!

「ぅっぐっっっぃっ!!!」

口の中に広がる血の味を確かめ、まだ生きている実感を得る。
その実感を糧に私は動き出した。

「な、なんなのよ…………」

やはり、彼女は私に怯えているようだ。
得体の知れない何かの存在に気付いたように。
ならば、臆した状態のまま押し切る!!

「基本骨子。かぃ、めい…………」

口から出た血液、自分の一番正解な情報を腕に足になすりつけ馴染ませる。
そこに微々たる魔力を通して、自分の身体を把握していく。
血を身体に塗る行為も短髪には恐怖の対象になりえるのか、彼女はまた一歩下がった。
そのお陰で私は自分の身体をしっかり把握、そして理解出来た。
……専門じゃないけど、四の五の言ってられないんだよっ!
血を目印、媒介にして魔力を手足に通していく。
自分の身体の骨子を解明して、その能力の働きかける!

「強化、開始っ!!」

「ひっ!?」

手足に強化の魔術をかけ、その足で痛みを無視して全速全身!
強化とは基本的な魔術の一つ、そのモノの働きを強くさせる効力を持っている。
足にかければそのまま脚力の上昇に繋がる!

”だっ!”

地面を削るほどではない疾走で一気に短髪との距離を潰す!

「え? へ…………おぎょっ?!」

そして私の動きに呆気にとられている彼女の顔面に、技術も何もない、ただ私の理想を真似た拳を叩き込んだ!
容赦ないその一撃。
強化の魔術により働きを挙げた拳。
それを喰らった短髪は大きくのけぞり、拳銃を手から離してしまっていた。
カラカラ音を立てて暗い地面を拳銃は転がって、私の視界から消えていった。
残ったのは、アスファルトの地面の上で顔を抑えて私を見上げる短髪だけ。

「マスター!!」

流石の事態にアーチャーにも焦りが見えてきているようだ。
自分のマスターの能力値にそれなりの信頼を置いていたのだろうに、その彼女は私の前倒れている。
焦るのは勝手だけれど、忘れてはいけない―――。

「余所見とは余裕だな、弓兵!!」

”ぎっぎっぃん!!”

「ぐっ!!! くそっ! くそぉおおっ!!!」

―――自分が相手にしているのが彼の騎士王だと。
決して忘れてはいけない。
セイバーの踏み込みからの一撃をアーチャーは凌ぎ切れずに、手にした双剣の片方を弾き飛ばされていた。
冷静で、どこか皮肉屋なスタイルを見せていた彼らしくない熱い咆哮を見せてアーチャーはセイバーに圧されて行った。
きっと数合の果てに、彼は斬り倒されるだろう。
だったら、私の番だ。

「…………」

それをしっかり確認してから、短髪に、御坂美琴に視線を向ける。

「なんな、の、なんなの、なんなのよ、あんたっ!」

尻餅をついたまま彼女は後ずさっていく、顔を腫らし鼻血を垂らし、目に怯えを滲ませながら。
その姿を私は見下ろしていた。
多分、狂ったような目で。
狂ったような感情を押し込んだ目で見ている。
方向性は違えど、御坂美琴がしていたような強すぎて狂った瞳で見下す。

「あんた、あんた何がしたいのよっっっ! 大した願いもないくせにっ!!」

怯えた彼女を見下す見下す。
叫びを聞こえているけれど、脳まで届かせず。
この場で処理をするのだからと心を冷やして尖らせる。

「私の妹達を殺してまで叶えたい願いってなによ!!?」

聞こえているけど、脳まで届かず。

「言いなさいよ!? 言ってみなさいよ!?!」

聞こえているけど、心はもう冷え切っていた。
一歩、踏み出す。

「ひっ!? く、くるなっ! くるなっ!!!」

彼女の怯えよう、やっぱり今私は酷い顔、酷い眼をしているんだろう。
きっと、とうまには見せられないような。

「…………っ」

火傷がじくじく痛む。
無理に強化した手足から悲鳴が聞こえる。
下腹部にも痛みを感じる。

「助けて、助けて、助けてよっ!!」

声は全て無視をする。
自分の痛みも、相手の痛みも。
その場にある全ての声を、音を無視する。
耳には符の効果で様々な音が届いてくるけど、全ては無かったことに。

「やめて、やめっ、こないで、や、やめっ!!」

きっとセイバーはもう勝利をした。
だったら私も勝利しなくてはこの戦が終わらない終われない。
どんどん後ずさりしていく彼女を追い詰めていく。
私は彼女から徹底的に奪うことになる。
彼女の妹を奪い、そして今彼女自身を奪う。
その命を奪う。
私は彼女を   ”ぱぁんっ!!” 

「え?」

乾いた音、最近聞きなれた音。
そして熱く焼ける痛み。
どうやら私はまた銃で撃たれたようだ。

「え、へ、は。っはは、やった、やった、やった!!!!」

撃ったのは目の前の御坂美琴。
さっき彼女がどこかに転がしたはずのそれが手の中に納められていて、煙が銃口より昇っていた。

「あ、あんた私が超能力者って忘れてない!? この程度引き寄せるの簡単なのよ私にはっ!」


急に雄弁になった彼女の身体には一瞬静電気のようにパリっと電流が走った。
私は、撃たれた場所に手を当てようとして―――止めた。

「インデックス!!!!! 無事ですかインデックス!!!」

戦闘を終えたのだろう、神速で駆け寄ってきたセイバー。
彼女は直ぐに状況を把握して険しい表情を作ると、不可視の剣を構えた。

「マスター、ここは私が片付けます―――え?」

御坂美琴を斬ろうとしたセイバーを手で制し前に出る。
今私がすることは傷の確認じゃない。
セイバーに後を任せることじゃない。
私がすべきは目の前の相手を○すこと。

「は? な、なによ、あんた、死になさい、死になさいよ! 何であんた死なないのよ! 妹も皆死んだのに、なんであんたはっぐぅっっ?!!」

再び銃を構えようとした彼女の首を、強化された手で掴んだ。
今すべきなのは?
傷の確認―――。
―――後回し。
現状確認―――。
―――後回し。
周囲警戒―――。
―――後回し。
治療行為―――。
―――後回し。
殺害以外―――――――――。
        全て後回し。

「ゃべで、ひぬ……しんゃ………………っ!」

「…………」

御坂美琴の首を掴む手に力を込めていく。
強化した私の腕力なら、このまま首をへし折れるだろう。
苦しむ彼女は、尿を漏らしているようで、アスファルトに染みが広がっていた。
臭いからして便も漏らしているかも知れない。
私とお揃いだ。

「ほんひょに、し、、んじゃ、ぅ…………っ!!」

口から血の混じった泡を吹く彼女を、私は正面から見据えた。

「っっ!!!!!」

それだけで彼女は大人しくなった。
私の目に何を見たのか、私が何に見えたのか。
その眼には明確な怯えを浮かべていた。
さぁ○そう。

「バイバイ、みこと」

”ごきぃっ”

首の骨を砕き、ねじった。
これでお仕舞い。
私は御坂美琴を○しました。
私は。     
          人を。
 殺した。

今日はここまでです。


相変わらず生々しいくてリアルな描写だな

イノケンティウスのBGMをかけながら読もうぜ

……根性さんに死亡フラグが立ってるような気が……泣


でも英霊ってだいたい戦闘機一機分の強さなんでしょ?
それだけで考えたら根性さん負けようがないと思うけど、レールガンを歯で止めるほどだから

根性さんはそうそう死にそうにないと思うがなぁ
ギャグ漫画クラスのデタラメな頑丈さと身体能力持ってるし、一方さんの反射をも突破できるという噂もあるし

根性さんのアレはいわば常時ギャグ補正がかかってるようなもんだから、ギャグ要素がないこのSSでは果たしてどうなるのか・・・

>>414
物語は全てハッピーエンドが美しい派です
確かにややバッドよりですが

>>415
強すぎて狂った結果、です多分

>>416
目的のためにはあまり周囲は考慮しないキャラでしたね

>>417
正論ですよね

>>418
微かな擦れ違いが時にして大きなミスに繋がりますから
きっと選択肢があれば共闘もあったでしょう
セイバー組アーチャー組の共闘は原作よりですから

>>427
色々欠けてはいますがね

>>428
彼女も必死にもがいたんです、もがいていて、こうなった

>>429
製作はブロッコリーで

>>430
戦争の渦中に飛び込みますからね
盲信が少々

>>431
首輪がぶっ壊れたので、多分は

>>443
たまに行きすぎますが、戦争ですから

>>444
ステイルさん、きっとまた出ますよ、はい、多分、きっと

>>445
他のレベル5勢は迷ったのですが、彼は出したくて

>>446
レベル5勢は単体で軍との戦闘可能ですからね
ある意味存在が対軍宝具ですよね
しかし、多分英霊も軍とは戦えますから
霊体云々はなしで戦闘力として
たしか攻撃能力は戦闘機クラスで、各自宝具というミサイルを保持している、という認識ですから
案外距離感は計りやすい気もしますが、それは最強スレに任せましょう

>>447
あの豪快さは大好きなんですがね
オッレルスにも「能力を自覚してたら勝負は解らなかった」と評されていましたし

>>448
もしかしたら、漫画のように歪める能力なのかも知れませんね
黄金錬成みたいな

現実を歪めるというより根性で物理法則を凌駕するスキルだと自己解釈している

あいつ能力を自覚せずに色々応用してんだから逆にすげぇわ
身体能力の異常なまでの強化だけじゃないもんな

これはアニメ化できへんな

出血はともかく女の子の脱糞見て喜ぶ奴なんざ一人もいるか

投下します。

私は考えていた。
自分が何をしているかをぼんやりと。
聖杯戦争の中で私は自分の手で友人をしっかり殺した。
手で。
首を。
捻り。
殺す。
あのときの自分は何をしたかったのだろうか。
殺す必要があったのか。
私は何をしているのだろうか。
友人を何人も殺して、そこまでして何がしたいのか。
殺す必要はあったのか。
殺さなくても他に手はあったのではないか。
あての無い疑問が脳内を巡り巡る。
真っ暗な視界の中では何かを考えなくては狂ってしまいそうだったから。
考える、インプットが私の本分。
内面で全てぐちゃぐちゃにしていき、最終的な1を見つける。
それが私に出来ること。
だから脳みそ思考回して回して考え抜いていく。
自分が何をしているのか。
何をしたいのか。
それを虚しく脳みその中で回しまくっていた。
意味の無いに等しい自問自答。
答えは出ないのではなく出さない。
解っているけど目を背ける。
狂っているけど狂っていない。
そうするしか私は私を保つことが出来ない。
だって私は殺人者なんだから。











「どうですか、インデックス? 具合の方は」

横合いから声をかけられ、思考を中断する。
擬似的な暗闇たる

「どうですか、インデックス? 具合の方は」

横合いから声をかけられ、思考を中断する。
擬似的な暗闇たる瞼を押し上げて、光に目を細めた。
見えるのは見慣れぬ天井、私の担ぎこまれた病院の病んでるように白い天井だ。
声をかけられた方を見れば、現代の服に身を包んだセイバーがいてくれた。
その姿に安心する自分と、恐怖する自分がいた。
彼女の清廉な姿、空気は私の心を浄化してくれる。
だけど、同時に私の戦争がまだ続いていることを証明しているから。
責任を彼女に無理矢理押し付けるように思考を閉じて身体を起こした。

「もう、っ! だい、じょうぶだよ…………」

腹筋に力を入れると、無理矢理に焼き塞いだ傷が引き攣れて痛む。
ジクジクと私を責めるようにその傷はそこにある。
服の上から指を這わせると、硬くなった火傷痕がしっかりと感じ取れた。
その触る指にも火傷は残っている、焼き塞ぐときについたそれがしっかりと。
この手で殺したことを忘れないように、そう訓告しているように。

「…………」

もう吐き気も気持ち悪さすら感じない。
慣れたのか狂ったのか。
私の心は磨耗しきってしまったのか。
クールビューティのときほどの感情の揺らぎはない。
この手で友人を縊り殺したというのに。
まるで鶏をしめる様に、あの首を捻った。
その感触、その顔、その音、その暖かさ。
全て覚えているし、今も手に残っている。
それでも私はどうにもなっていない。
罪悪感はある贖罪の念もある。
だけど、それだけ。
後悔だってしてるし悲しいし取り返しつかないことをしたとも思っている。
だけど、それだけ。
ただそれだけの感情しか持っていない。

出された食事はしっかり食べた。
人を殺したのに。
おしっこする時に傷着いた尿道が痛んで辛かった。
人を殺したのに。
眠くなった瞬間に眠ったときは幸せだった。
人を殺したのに。
もちはるが置いていたマンガを読んで笑った。
人を殺したのに。
そう、人を殺した。
この手で殺した友人を殺した。
そして目の前でもう一人死んだ殺された。
二人の友人をいいっぺんに失った。
なのに私は別にフラットなまま。
自分でも自分が少し解らない。
でも、ただそれだけ。
解らないからって暴れるでも自棄になるでもなく、私は少しお腹が減ってきたことの方に思考を回していた。
そっちの方が絶対に重要ではないのに。

「インデックス?」

「ん、大丈夫、ちょっと傷が痛かっただけ」

心配さを隠さずに声をかけてくれるセイバーに笑顔を向ける。

「イン、デックス…………?」

その笑顔に何を思ったか感じたか、セイバーは不安そうな顔をしていた。
私の顔は、私の笑顔は今どうなっているのだろうか?
それとも、この瞬間での笑顔が不気味だったのかも知れない。

「大丈夫、大丈夫だから――――――」

痛みを無視して火傷の痕を掴んだ。

「――――――聖杯戦争を続けよう」

笑顔のままそう宣言した。

時間はあの戦いの日に戻る。
剣と弓の戦いとは別の場所で行われていた力と力の戦いへと―――。

「うっ! おっ! らぁぁぁああぁぁあぁぁああああ!!!!!!!!」

熱い、否暑苦しいとも表現できるほどの声をあげて白い学ランをたなびかせて削板軍覇は飛び出した。
地面を、アスファルトを一歩ごとに削り砕き、大よそ人間が出せる速度を遥かに越えての突撃!
握った拳を振りかぶると、2mを優に超す黒い巨人に踊りかかった。

「ッつらぁぁぁぁあぁあああああああああああああああああああ!!!!!」

”ばごぅっ!!”

叫びと共に突き出された拳により、何か大きなモノがぶつかり合う様な音が響いた。
人体から出るとは大よそ思われないほどの衝撃音!
そんな一撃! 車でさえ一撃で大破させるほどのそれ!
しかし―――

「■■■■■■■■■■!!!」

「ぬぉっ!?」

―――そんな一撃であってもバーサーカーは1mほど後退をしただけで留めた。
自分の一撃を受けてもたったそれだけしか動かせなかったことに軍覇は驚愕をしたけれど、直ぐに顔を引き締めその口元に笑みを作った。

「へっ! 中々根性があるようじゃねぇか!!」

目の前の相手を勝手に好敵手に認定したのか、戦闘好きな笑みを浮かべ一歩下がった。
再び強く拳を握ると、周囲から空気がまるで圧縮させるように集まっていく。
彼より代表される『説明不可能な力』原石能力の発露。
さっきまで以上の、ただの人体から発することはあり得ない異常な力が発現している。

「今度は! さっきより根性込めて耐えろよっ!!」

”びきぃっ!!”

そう言う彼の足元のアスファルトに大きくヒビが入った。

「おっらぁぁぁああああああ!!!」

ボッと足元を爆ぜさせ、さっきまで以上に振りかぶった拳を叩き付けた!!

「■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッ!!!!」

それに呼応するように、バーサーカーも拳を振りかぶり叩き付けた!!!

”ごっぎぃいっ!!!!”

大きさの違う二つの拳が空中で衝突をした!

「ぐっ! くぉおおっ!!」

「■■■■■■■■■■っ!!!」

上から体重をかけて押しつぶそうとするバーサーカー。
下から脚力全てを込めて弾き飛ばそうとする削板軍覇。
力と力のせめぎ合いに周囲が歪んでいく。

”みきみぃぃっ!!”

「うおっ!!! おおおおおおおおおおお!!!」

グッと圧力が増し軍覇の足がまるで雪を踏むように押し込まれていった。
人一人をアスファルトに押し込むバーサーカーも脅威だけれども、それを受けて骨も身体も無事な軍覇もまた脅威。
しかも、その圧力を跳ね返そうと歯を食いしばり足から腰から肩から拳に力を集約させている。
そのまま数秒の硬直の末に―――。

「おらぁぁぁぁあああああ!!」

「■■■■■■■■■■!!!!!!!」

―――軍覇の拳の圧力、下からの押し上げに負けてバーサーカーの身体が大きく揺らいだ。
体重差身長差も弾き飛ばして、彼は「ふしゅぅうううう」と獣染みた息を吐く。
その息も寒くもないのに白く染まり、その目には比喩ではなく闘志に燃えていた。

「どうだっ! デカブツ!」

アスファルトから足を引き抜くと、堂々威風に腕を組み削板軍覇は吼えた!!
力と力の戦いはまだまだ終わらない。
その後ろでは魔女が一人微笑んでいた。

一部ミスりましたが今日はここまでです。

乙なんだよ!

もちはるェ・・・

乙、もちはるで笑ってしまった

アーチャーの霊圧が…消えた…?

もちはる(笑)

まだかなまだかな

いくぞ学園都市最強!!バッテリーの貯蔵は十分か!!

バッテリーの貯蔵ってのも変だろ
行くぞ第一位!バッテリーの残量は十分か?

かなりお久しぶりです投下します
誤字脱字は本当にすみません

「おおおおおおおおおおおっっっっらっぁああああああああああああああああ!!!!!!!」

”ぶぉぅんっっ!!!”

おおよそ人間が拳を振る音とは思えない怪音が響き、削板軍覇の拳が空気を切り裂く―――否押しつぶす。
白い学ランを靡かせ、渾身そのもの、アスファルトを踏み砕き放った一撃!!
その一撃が肩に月詠小萌を乗せた黒き巨人バーサーカーに迫る!!

「■■■■■■■■■■■■!!!!」

「おおおおっぁあああああああ!!!」

”ぼっぐぅっ!!”

振りぬかれた軍覇の拳をバーサーカーはその巨大な手を持って易々受け止める!!
が!!

「おおっ!! まだ!! まだぁぁああああ!!」

「■■■■■■■■!!!!!」

体重差、そのなものなど無いかのように軍覇はその巨体をジリジリと後退させ押していく。
自分が立つ地を踏み砕き、自身より倍はありそうな巨人、英霊、その身に引くことなく―――。

「んっだらぁぁああああ!!! こんっじょぉおおおおおお!!!」

「■■■■!!?」

”ずずっぅんっ!!”

―――かつて剣の英霊セイバーでさえ成し遂げることはなかった、巨魁バーサーカーに膝をつかせてみせたっ!!
この科学の頂学園都市でさえ解明できない能力者!
それが削板軍覇だ!!!

「女を襲うような根性ねぇやつに―――」

振り切った拳を戻し、月を背にその身を立てる。

「―――俺が負けるかっっっっ!!!!」

「       」

「なんだ? もう終わりか? 本当に根性ねぇな…………」

軍覇の拳を受け、膝をついたバーサーカーは目の前のいる少年を、人間を値踏みするように見ていた。
理性を失い狂化している彼にはありえない、どこか理知的な動き。
それに対して軍覇は「根性ねぇ」と言い切った。
彼の眼には、少しやられただけで戦意を失っているように見えたのだろう。
しかし、それが間違いだと数秒も待たずに気が付くことになる。

「バーサーカーちゃん…………」

「嬢ちゃん! 待ってろよ直ぐに助けてやるから―――」

”ふぉぅうんっ!!!”

バーサーカーがしゃがんだことにより、距離が近くなった月詠小萌に手を伸ばそうと軍覇が一歩踏み出したそのとき。
彼の筋肉質ながらしなやかな身体は宙を舞っていた。
普段彼が『修行』と称して高層ビルの屋上から飛び降りたり、橋の欄干から落下したりとはまるで違う。
縦ではない横移動。
そう、削板軍覇、彼は今中空を横に、正確には斜め上方向に滑るように舞っていた。
そして、さらに正確に描写するならば、彼は舞っているではなく―――

「なっぐが!? な、んだ―――」

―――バーサーカーの怪腕、その一振りで紙屑のように吹き飛ばされたのだ。

”どぐしゃっ!!”

「――――――かっっっっっっ!!!!!!!」

優に50mは吹き飛ばされた彼は、その身をビルの壁面に深々と突き刺し、内部奥深くまで叩き込まれたいた。
その状態でも尚人体の形を保っているのは一重の彼の頑強さ故だろう。
普通ならばビルの壁にぶつかった時点ではじけてトマトのように中身をぶちまけられていたハズだ。
しかし、そうはならなかったことが幸いだろう。

「…………バーサーカーちゃん」

削板軍覇が消えた先、深い穴の穿たれたビルの壁面。
ここからは肉眼では確認できないその穴、それは深く暗い。
黄泉の穴を思わせるそこに軍覇は放り込まれてしまった。

「あら、こんなもん?」

自分の前に立っていた軍覇が吹っ飛ばされたのを、何か面白いものでも見るように見ていた黒いローブの女はそう呟いた。
目深に被られたフードから微かに覗くその唇は綺麗な形でありながら、蛇か何か、深く、人間とは深い場所で違うことを思わせるそれだった。
彼女の前に立ち彼女を守っていた騎士が無慈悲な一撃で黄泉の穴に放り込まれたのに、その姫はただただ妖しく笑う。
そして狂戦士はゆっくり目標を次へ、第一目標へシフトしたようだった。

「■■■■■■■■!!!!」

「凄い声ねぇ…………品のない雄叫び」

その身を震わせる黒い巨怪。
震えるは筋肉であり空気でありそして世界。
彼の叫びにはそれだけの何かがあり、それほどの何かが詰まっていた。
その声を叫びを前にしても女は不敵に笑い、その場を動けない。
このままでは先の軍覇のように、バーサーカーの腕の一振りでその身を宙に舞わせることは必須だろう。
しかし、動かない、動かない動かない動かない。
なのに、動かないのに―――。

「あなたみたいのが最後までいると色々面倒なのよね――――――」

―――周囲の空気が無理矢理に変わっていく。
バーサーカーの叫びのような無理にも矢理にも震わせるのではない。
ゆっくりとそして徐々に、だけど確実に核心に彼女の周囲の空気が塗りつぶされていく。
魔術師ならばその周囲に漂う濃密過ぎる魔力に気づき、敏感なものは吐き気すら覚えたことだろう。
しかし、ここは科学の街、そしてこの場には魔術師はいない。
その為その事実に気づくものはいなかった。
気付くものがいないままに事態は深刻な方向に進んでしまう。
それほどの力をフードの女はその身に宿している。

「――――――だから、ここで駆除されて貰うわ」

その力が染み出るっっっっっ!!!!

「っ!! バーサーカーちゃんっっっっ!!!!!!!」

”ずごぅんっっっ!!!”

フードの女から染み出たそれが周囲を悉く塗りつぶし黒く黒く黒く黒くしていく。
その奔流はバーサーカーの力、それ自体を飲み込もうとして――――――。
――――――その巨体は吹き飛んだ。

「え? は?」

誰の声だったか、そんな間抜けな吐息に似た言葉が暗い夜に漏れた。
暗い天蓋の下、暗い女から染み出だしたクロイなにかが包み込もうとしたバーサーカーはその場から数メートルほど横に音を立てて滑った。

「きゃぁああ!!」

その肩に乗っていた月詠小萌は慣性に逆らおうと太い首に抱き着いて声をあげる。
その声に、その事態を引き起こした本人は素早く反応して見せた。

「ぬっ!! お嬢ちゃん!! 今助けてやるからなっ!!」

「え?」

言葉そのものに力が籠ったようなその台詞。
その台詞を放ったのは誰であろう削板軍覇。
白い学ランをボロボロにして、身体にいくつか『掠り傷』をつけた彼は握った拳でバーサーカーを殴り飛ばした。
数十mも吹っ飛ばされた彼はさっきと変わらぬその身で、さっきと変わらぬ心でそこに立っていた。

「…………呆れた坊やね、頑丈過ぎるわ」

周囲の空気を根こそぎ台無しに塗り替えようとしていたフードの女も目の前にいる存在が理解出来ないのか、形よい口をポカンと開けて棒立ちしていた。
その女性の前に削板軍覇は背を向けて、守るがために立ちふさがる。
自分の矜持の為に倒れない。

「どうやらお前を倒さない訳にはいかねぇみたいだな…………」

未だにバーサーカーから離れない月詠小萌を見て悲しそうに彼は眼を細めた。
彼の眼には彼女が囚われの姫に見えているようで、それが心に火をつける。

”ばっ!!”

そんな音を響かせ、彼はボロ布状態の学ランを脱ぎ捨てた。
ひらひらと風のない夜を舞った布が合図だったのか、それとも彼の中のスイッチが撃鉄だったのか。
学ランが地面に触れた瞬間、彼はまだ膝をついたままのバーサーカーに地を砕き突進した。

「いくぞぉおおぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

”がっごっぉ!!!”

「っだらぁぁああああああ!!!」

「■■■■■■■■■■■■!!!!!!」

吹き飛ばされ、ビルを貫通するようなダメージを負ってもさっきまでと変わらず―――。
―――いや、さっきよりも力強くその身体は動いていた。
身体はもちろん、心にだってダメージを受けているはずなのに。
受けていて当然、易々飛ばされて力の差を沁みつけられたはずなのに彼は―――。

「ああああああぁぁああああっぁああああああ!!!!!」

―――さっきまでより力強く、さっきまでも猛々しく向かっていく!!!

「■■■■■■■■■■■■!!!!」

軍覇の何の捻りもないベアナックルに近い拳、それをバーサーカーの大きな掌が受ける。

「それがっっっっっ!!」

それに驚愕も恐怖もなく、躊躇なく逆の拳を振るう。
風を大気を斬り押しつぶし押し殺し。
人の身を裕に超えるその力を――――――!!

「どうしたぁぁぁああああああああ!!!!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

――――――叩き付けた!!!!

”ずしゃぁぁああ!!!!”

彼の拳を受けた狂戦士は大きくバランスを崩して尻もちをついた。
アスファルトを軋ませるようにその場に倒れこみながらも、肩に乗った大切な者だけは離さないでいる。
その姿は騎士を思わせるが、獣は騎士にはなれない。
それは獣自身が良くしっているのだろう。
黒い狂戦士は何の言葉もなく、ただ戦うべき相手を見つめる。
自分を屈っさせた小さな小さな『化け物』を。

「バーサーカー、ちゃん…………」

巨怪を案じる小さき女性の声。
震えるその声に何を感じたのか。
感じる心など持ち合わせていないのか、バーサーカーはただ前の敵を見つめていた。

「       」

「なんだ? またちょっと転ばされた位で戦意喪失か?」

彼は呆れた声を出すと何の策も警戒もなくバーサーカーに歩み寄る。
そして―――。

「立てないなら手を貸してやる、だからもうその嬢ちゃんと後ろの女にちょっかい出すんじゃねぇぞ?」

―――彼はその手を、バーサーカーより遥かに小さな手を差し出した。
異形の人外に、この手を頼れと諭すように。

「凄い坊やがいるのね…………この街には」

誰に聞かせるでもないような呆れ声と共に、ローブの女はいかなる技術科、その身を闇に溶かし込むように消えた。
それに軍覇は気づくことなく、バーサーカーに手を差し伸べる。
それに対して黒い巨怪は―――。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」

「っ!! まだやる気かこのデカブツ!!!」

―――拳で撃って返した。
その身その声には理性を失っているバーサーカーには有るまじき怒りが渦巻いているように見えた。
彼の脳には既に感情のスイッチは消え去っているはずなのに、どうしてかバーサーカーは怒っていた。
怒りの方向性は大まか過ぎて判断はつかないだろう。
しかし、それでも彼は屈辱に怒っていた。
戦士として、勇猛の名に、既に理解さえ出来ない名誉に。
彼を彼たらしめている何かが汚されたことについて怒っていた。

「……………………バーサーカーちゃん、悔しいんですね?」

それに気づいた気づけたのは彼女、月詠小萌。
彼女は小さく囁くと、まだ腰を下ろしたままのバーサーカーからふらつきながらも降りた。
彼を彼の心を察した彼女は、自分がいては彼の気を晴らせないと判断したのだった。
一歩二歩、三歩。
ふらふら頼りなく歩いて彼女はバーサーカーの背中を見守る位置に立つと笑顔を向けた。

「バーサーカーちゃん、したいことがあるときは遠慮しちゃダメですよ♪」

その言葉が発火点だったのか。
理性無きバーサーカーが言葉を理解できるハズはないのに、狂戦士は立ち上がった。
その巨体を月の下に惜しげもなく晒し、その手、その足、その心には目には見えないエネルギーがチャージされていく。

「へっ、さっきまでは手を抜いてた訳か?」

それが軍覇にも理解出来たのか、それともあまりにも暴力的なそれに理解『させられた』のか。
彼には珍しくほんの数ミリだけれども足を下がらせていた。
目の前の相手にそれだけの何かを感じ取っていたのだ。
彼の目的は元は月詠小萌とフードの女の守備だったはず。
本当ならば今にも小萌を抱きしめ逃げるのが最善なのだろうけれど。
彼にはその気はなくて、相手もそれを許すつもりはまったくない。
両者の間に不可視の圧力が渦巻く。
不安定で不可思議でただただ力強い何かが行き場をなくし暴れ出しそうになっていた。
グラスに無理に満たされた水は今や零れ落ちる一秒前。

「……………………」

グッと拳を握り、グッと足に力を込めるは世界最大の原石。

「        」

その身に滾る力をふつふつ沸かせるは黒い狂戦士。
解りやすいまでの力と力がぶつかり合おうとしていた。
満ちに満ちたグラスの水は今その一滴が零れ――――――。

「っがぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」

―――落ちた!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ここで引くのか、軍覇くん流石の強さやね

>>450
内面に働いてる力なのかも知れませんね

>>451
手足を何となく使ってるのレベルなのかも、ですね
自覚するのは力学を学ぶような

>>452
内臓くらいはセーフかと

>>454
きっと世界は広いですから、どこかには

>>464
ありがとうございます

>>465>>466>>468
見なかったことに

>>467
ブリーチなら砕蜂が好きです

>>469
大変お待たせしました

>>470->>472
一方通行には早々に退場していただきましたが、好きなキャラです
毎度バッテリーにやきもきします

>>481
スパロボならスーパーロボット系ですから彼は
精神コマンドは
魂 熱血 鉄壁
ド根性 根性 加速

ソギーがさすがというかアホほど頑張るなww
ソギー単体で倒せる英霊って結構いそう

ランサー(クーフーリン)と対したら、二人とも大喜びで延々と戦い続けそうだなw

投下します。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

削板軍覇、固く固く、現在の格闘理論で言えばインパクトの瞬間までは優しく握った方が良いとされる拳を石より固く握った彼は、技術も何もなく地面を砕く踏込と共に繰り出した。
遠間から見てもその威力の高さ、恐ろしさ、そして強さは確認出来る。

”びしりっ!!”

人間が、その足で、踏み込む。
それだけでアスファルトはその存在意義を捨ててるように簡単に砕き、あおの足が易々めり込んだ。
その威力を存分に吸収した拳にて狙うは巨怪バーサーカー。
固く大きく何より雄々しい彼に、軍覇の拳が迫る!!

「っだらぁぁあああああああ!!!」

暗い闇広がる舞台でもはっきり見えるような存在感を持つ彼の拳が振るわれる!!

”ごっ!!”

「■■■■■■■■■■■■!!!」

「ぬっ!!!」

風斬る拳、当たればどんな相手でもぶっ飛ばすそれを狂戦士は大きな掌で受け止めた!
ぶつかり合う激しい音が響き、その巨体はアスファルトを微かに滑るように後退する。

「俺の拳をっっっ―――」

自身の全力、手加減なんか思考の隅にもない一撃、それを止められた軍覇はそれでも、いや、だからこそ笑う。
犬歯を剥き出しに、拳を引くことはせずにそのまま押し込む押し通る押し通す!!

”ずざざざざっっ!!”

「■■■■■■■■■■■■!!!!!!!」

その圧力、突進力、進む力、前を目指す力にバーサーカー筋骨隆々とした巨体が音を立てて後退していく。
二人の足元はもはや当然のように削れ砕け、その場にいたことを穿つように壊れていた。

「■■■■■■■■!!!」

「おっ!?」

数mの後退の末にバーサーカーは足に力を込めて軍覇の突進の威力を止めた。
『フシューーーッッ!!』と湯気立つ獣息を吐き、自らを押す軍覇の力に拮抗すると―――!!

”ふぉんっ!!”

―――拳を受けているのとは逆の手を握り、その巨大な拳を自分より遥かに小さな相手に向かって押しつぶすように叩き付けた!!

”がごっ!!!!!”

振り下ろされた拳、大きく雄々しく協力無比な一撃!
それを軍覇はバーサーカーがそうしたように受け止めた!!

「っらぁぁああ!!!」

『ずしっ』と来る圧力にそのまま押しつぶされそうになるが、軍覇の肉体、精神はそれに立ち向かう。
バーサーカーの拳をがっちり受け止め、犬歯を剥き出しに吠えた。

「■■■■■■■■■■■■!!!」

それに呼応するようにバーサーカーも雄叫び獣声をあげ、拳に力を籠めるっ!!

「ぐっぅ!? おおっ!!!!!!」

”ずざざざざざざざ!!!!”

さっきの焼回し、しかし立場が逆だ。
軍覇の身体はバーサーカーの圧力に押され、アスファルトの地面を削るように下がっていく。
その足を守るスニーカーは摩擦で底が擦り切れ、現在彼は素足で固く荒いアスファルトを擦っているのに血の一滴も出ていない。
バーサーカー共々彼もまた化け物なのだろう。
それを証明するように―――。

”ぐっっ!!”

「■■■■■■■■!?」

「あっ、あ、ああああああああ!!!!!」

―――軍覇は押される身体を、押してくる強大な力を受け止めて見せた!
足をアスファルトに沈み込ませ、根を張ったようにそれ以上一歩も押されないように渾身を込める!
それに対してバーサーカーもアスファルトを踏み砕くように力を籠め、軍覇の身体を圧しようと力を滾らせる!
お互いにお互いの拳を掴み、握り合う!
両手で組み合った状況で一歩も引かぬ!
今、この瞬間二人の力は完全に拮抗していた!!

「おっおおおおおおおおおおおお!! こんっじょぉおおおおおおおおお!!!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」

恐らく有史以前からあったであろうこのポーズ。
お互いの手と手を掴み、どちらの力が上か競うそれ。
純粋単純そして明快な力比べ!!
声を上げ筋肉を脈動させ血を滾らせる!!!!
軍覇の拳をバーサーカーの大きな掌が常人ならば余裕で砕けてる力で握りしめ。
バーサーカーの拳を軍覇の掌がこれまた常人ならば余裕で砕けてる力で握りしめる!
二人の間では純粋な力が渦を巻き、その場に知覚できない風が巻き起こっていた!

”みしっ! びきぃっ!!”

アスファルトは踏みしめられ当然のように砕かれる。
彼らの前では、普段は幾万の人間を支える地面であるそれも薄氷に過ぎない。
互いが互いを圧しようとその足から力を呼び込み腕に回していく。
二人とも足はあくまで進行の手段であり力の入り口と考え、力を排出するのはその腕と決めていた。
削板軍覇はその心に―――。
―――バーサーカーはその本能に。

『こいつはこの腕でぶっ潰す!!!!』

そう魂に刻み込み、消えないくらい深く深く深く果てまで流し込んでいた。
その刻まれた誓いに答えるように、男二人月明かりを舞台にその生き様を燃やしていく。

「おっおっおおおっおおおおおおおおおお!!!!」

巨怪バーサーカーの拳を”みしりっ”と音を立てる力で握り閉め、彼に掴まれている拳に力を込めてそのままビルでも押せそうな力で巨体を押すっ!
2mを超える黒い狂戦士はその猛々しい力に徐々に押され、アスファルトに後退の跡を刻み込んで行く。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

「おっ?! ぐっ!!!!」

1mに満たない後退を強いられたバーサーカーはその屈辱を跳ね返すように、軍覇の拳を握りしめ、相手の頭ほどもある握り拳を力の限り突き出した。
バーサーカーに比べて小さな軍覇の身体は当然のようにアスファルトを削りながら後退していく。
それもまた1mにも満たない後退ではあった。

「あああっあああああああっぁあああああああ!!!!!」

押され下った自分を恥じるように軍覇はあたかも今初めてのように全身に力を籠めなおす。
今まで全力だった、それは紛れもない事実だ。
それでも、再び全力を初めてという矛盾。
彼は今全力を籠めなおしたのだ。
押された!
下らされた!!
相手に負けた!!!
それは自分の全力が純粋ではなったからだ!
そう彼は判断して初めての全力をまた繰り出した。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」

その強大な力を受け止めるは巨怪。
狂った心の奥にある自尊心。
獣程度のプライド。
バーサーカーの重要な精神の中心が自分より小さき者に負けることを良しとはしなかった。
自分の後ろには守るべき『小さき者』もいるのだから。
負けない!
敗けない!!
まけない!!!
嘘偽りない濁り無い気持ち。
狂い狂った故に純粋な感情で彼はその力を吐き出す。
二人は組み合ったまま、お互いに筋肉を軋ませ、心を燃え上がらせる!
互角。
共に全力、共に勝つつもりでの勝負。
その状況で二人の足は前にも後ろにも一歩も動くことない。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」

叫び、魂からの咆哮。
これ以上ないほどの力を持って向かっているのに、相手を圧することが出来ない自分を鼓舞するように二人は叫ぶ。
勝てる! 負けない! 自分が勝てないはずがない!
慢心でも自惚れでもないそう信仰のように信じて彼らは戦う。
自分という神を絶対なまでに信じ切ってどこまでの疑わず、神々しいまでの力を発揮してた。
純粋、磨けば光るような、これ以上ないくらい装飾のない『力』のぶつかり合い。
まるで神話のような一幕は長く続く。
拮抗した力は円周率のように割り切れず、延々延々答えを、勝ち負けの答えを求めて続く。

「っ!」

「■■■■ッ!」

そのどこまでも続くような組み合いも終わるときは一瞬!
二人はまったくの同時に掴んでいる相手の拳を話離した。
軍覇腰だめに構え、一瞬のチャージを終えると身体全体のエネルギーを持って発射するロケットのように斜め上に一撃を―――。
―――バーサーカーは背面に大きく振りかぶった拳を隕石が落ちるように斜め下に一撃を。

―――――――――放った!!!!!

”ごぐぅんっっっ!!!”

二人が同時に打ち込んだ拳を空中での正面衝突を起こした!
上から降り落ちるバーサーカーの拳と、下から噴上げる軍覇の拳。
その二つの衝突は風を起こし大地を揺るがせていく。
とんでもないエネルギーが生み出されたけれど、二人にはそんなことは重要ではない。
いくら風が起きようが、いくら大地が揺れようと、どれだけのエネルギーが生み出されても―――。

「まっだまだぁぁぁあぁああああああああああ!!!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」

―――目の前の相手が倒れていないならそんなもの何の意味もないっっっっ!!
そう言うように二人は止まらない!
黒い巨体は逆の手を固く握り、一撃で軍覇を
宙に舞わせたように、横から襲う一撃、フックの軌道にも似たそれを繰り出した!!

”ぶぅぉっんっ!!”

「おぐっっっっ!!!!!?」

横からダンプカーでも突っ込んできたようなその一撃を何とか受け止めた軍覇。
ずしりと響くなんてもんじゃない威力、普通ならば一撃必殺のそれを歯を食いしばり耐えると、今度は自分の番とばかりに握った拳をバーサーカーの腹に思い切り叩き付けた!!

「これでっ! どうだぁぁああああああああああ!!!!」

”ぼごぉっ!!!”

「■■■■■■■■―――ッ!!」

自身の肉体に刺さるかつてないほどの強力な一撃にバーサーカーはその叫びを詰まらせた。
容赦なく強力な一発。
それに耐え一歩も押されず狂戦士は再び拳を振り上げた!!

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!」

「よっしゃぁぁああぁあぁぁぁぁあぁぁあああ!!!!!!!!!」

それに呼応するように軍覇も拳を握りしめ、さっきと同じく腰だめに構えた。
彼は今不思議な昂揚感に包まれていた。
自分の、自分の振るう力、その方向性を少しづつであるが理解しだしていた。
自分が何であるかを理解する、そんな不思議な昂揚感。
この世界の『理』その本質に近い部分に位置する力。
言葉ではまったく理解などしてはいないけれど、軍覇は感覚を掴みかけている。
バーサーカー、この規格外の相手と戦いながら、巨怪の世界から供給されている力をその身は敏感に感じ取っていた。
そう、彼の力の根源は人の世とは違う段階から引き出されている、人の身には過ぎた代物だった。
バーサーカーの拳で叩かれ。
バーサーカーの肌を叩く内に、ゆっくりであるが確実に彼は答えに近づいていく。
まだまだおぼろげで、それが正しいかも解らない。
それでも彼は自分の力、自分というものを理解しだしているのだ。
英霊との戦いにより、同種と乱暴なふれあいをしていく内に理解は深まる。

「らっ! らっ! らっぁあああああああああああ!!!」

鋭く重い拳の連撃。
固く大きい狂戦士の肌を何度も何度も叩いていく。
その一撃一撃が必殺。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

大きく激しい拳の一撃。
小さくしなやかな軍覇の肌を骨を砕くように叩く。
その一撃はまさに必倒。
二人は互いの攻撃を避けるつもりは毛頭なく。
戦略も技術もなく、ただただ真正面から。
ただただぶん殴る!!

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!」

”ごぎぃんっ!!”

大きな拳が、その拳より小さな軍覇の頭を、顔面を完全に捉えた。
常人なら頭が弾けるか、そのまま首だけ飛んでいきそうな一撃!
普通ならばこれで勝負ありだが―――。

「きっく! かあぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁあぁあああああ!!!!!!!!」

―――相手は削板軍覇!
吹き出す鼻血をもろともせず、全力全開のフルスロットルな拳をバーサーカーの顔面に叩き込んだ!!
頭が砕け散ってしまうような一撃!
しかし、バーサーカーも止まらない!!

「だっしゃあぁっぁぁぁあぁぁああああああああああああああぁぁぁぁあぁあああ!!!!!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」

狭いお立ち台の上で戦っているかのように、二人は一歩も引かず顔面を殴り合う!
人が人を叩いてるとは思えない爆撃音が延々響き続けた!
彼らの勝負はまだまだ終わる気配もないのに、常に終了10分前のような死闘!
獣のような叫びが世界を震わせていった。

今日はここまでです。

暑苦しすぎワロタ、この二人に終わりが見えねぇww
ところでこの二人がはた迷惑な喧嘩始めた理由なんだっけと思って読み返したらソギーの勘違い?だった
不毛過ぎるww

軍覇くんが小萌を助けようと勘違いの死闘を繰り広げる中
漁夫の利を狙うキャスターが置いてけぼりにされるの図だな

セイバーズスレとのこの差はなんなんだ
すごいな

感動した

投下します。

削板軍覇は戸惑い喜んでいた。
彼は以前より自分の身に宿るこの力、その意味を知りたかった。
そう意味が知りたかったのだ。
どんなことが出来るか、どれほど強いかではなく彼は、どうしてこの身にこんな力があるのか、その理由を知りたかった。

「おっらぁぁああぁあぁぁああああああああああ!!!!!」

”どぐぼっ!!”

「■■■■■■■■■■■■ッッッッ!!!!」

魂から漏れ出しているような叫びと共に繰り出された拳は、バーサーカーの厚い腹筋に刺さり、内部にまでダメージを残した。
削板軍覇の拳は確かに霊長の守護者たる英霊の肉体を破壊しているのだ。
それに彼は戸惑う。

『俺のこの力は結局破壊する力なのか?』

と、その身を駆け巡りいつも以上に迸り、自分を押すこの力に喜びながら戸惑っていた
力の発露、どれほどか予想も出来ないくらい大きな力を得て喜ぶ心。
それが破壊に向いていた、ただそれだけなのかも知れない、それはそれで良いのかも、と。
―――しかし、間違ってはいけない、先走ってはいけない。

「■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

”ごしゃっ!!”

「おごぼっがぁぁあ!!!」

拳が軍覇の腹筋を貫く。
鍛えられた固い筋肉も、バーサーカー―――英霊―――の一撃には容易く決壊してしまう。
それでも彼は止まらない。
霊長の守護者相手に張り合う立ち向かう。
自分の能力、自分の力、それと同じ匂いを持つ狂戦士に一歩も引かない。
そう、先走ってはいけない。
軍覇が感じ取った同類、それは英霊。
世界の理に近い場所に存在する純なる魂。
それは如何なる力を有していても、どれだけの破壊を振りまこうと、役目は守護者。
破壊してでも守る者。
それが英霊なのだから。
英霊の存在を知らない軍覇はそこに戸惑う。
自分の力は破壊にしか向かないのかと戸惑う。
戸惑いながらも、もがく様に拳を振った。
しかし、あくまで近い匂いであるだけで、彼の力の本質はどこか、それは未だに解らないまま。

バーサーカーは戸惑っていた。
理性無き彼ではあったが、それは間違いなく戸惑いの感情であった。
目の前の『小さき者』の強さ、力に戸惑っていた。
この者はどうあっても小さく弱い存在のはずなのに―――。

「■■■■■■■■■■■■ッッッッ!!!!!」

”ふぉおんっっ!!!!”

大きく雄々しい自分の拳。
この世界の全てを粉砕可能なそれを思い切り、容赦なく小さく者に向けて振りかぶった。

”ごじぃんっ!!”

「おっぐぅうう!!!!」

その強大過ぎる一撃を受けて、削板軍覇の身体は宙を舞い数mほど先の地面に叩き付けられた。

「随分、根性ある、一撃…………じゃねぇかっ!」

そう、叩き付けられて、たった数m飛んだだけで。
しかも、背中が罅割れたアスファルトに触れるか触れないかで直ぐに立ち上がりまた獰猛な笑みを浮かべて拳を握っていた。
その姿にバーサーカーは戸惑う。
―――何故こんなにも強いのか?
どうしてここまで強大なのか?
自分に比べて小さく弱いはずの相手。
なのに、この小さき者はどこまでも強い。
自分の掛け値なし本気の一撃を正面から受け止め―――。

「こんだぁ! 俺の番だぁぁぁぁあぁあぁらっしゃぁぁぁあああああ!!!!」

”どずぅんっ!!”

―――更にこちらに拳を叩き付けてくるその威力たるや自身に迫るほど。
今度は逆に大きな体を数mも宙に舞わせられた。
あまりにも強い、強すぎる。
弱く儚いはずなのにこんなにも強い。
そのことにバーサーカーは戸惑っていた。
戸惑いながらも戦いは待った無しに、一秒ごとに深く速く激しく進化していく。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

握った拳を武器に深く深く踏み込んだ軍覇は―――。

”どずんっ!!!”

―――凄まじい踏込の音を響かせると、力任せに! 能力(ちから)任せにそれを振りかぶった。

”がっごぉっ!!”

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッ!!!!」

「らっあぁぁぁぁっぁあぁぁぁあぁぁあああぁぁっぁあああああああぁぁぁあああ!!!!」

バーサーカーの鳩尾に突き刺さった拳を更に更に力を込めて、その身を貫く様に突き出す!

”みしみしぃっ!”

地面の砕ける音か、はたまたバーサーカーの身体が軋む音か、それとも軍覇の拳か、そんな音が響く。
そして、そんな音をなんか掻き消すように二匹の獣は雄叫びを上げた!!

「■■■■■■■■■■■■!!!!!」

「むっ!!?」

拳を打ち込まれ、アスファルトを削りながら押し切られるバーサーカー。
しかし、そのまま甘んじる訳もなく押されながらも拳を振り上げた!!
押されるまま、押されながら、狂戦士は狂ったほど強い一撃を軍覇の胸部に叩き込む!!

”ずごぐぅっ!!!”

「おっおおおおお?!!!?」

自身の中心を抉り取るような一撃!
この上ない破壊の象徴を受けて尚軍覇は倒れない!
倒れないどころか歩みを止めない!

「おっ! おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!」

”ずざざざざざざざざざ!!!”

拳を突き刺したまま、黒い巨怪を押し切る!

「■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」

「きっくっ! かぁぁぁああああああ!!!」

何度も振るわれる破壊の一撃を顔に身体に受けながらも、一歩の歩みに曇りを見せず!

”ずごぉんっ!!”

バーサーカーの背中をビル壁に叩き付け、内部にぶっ飛ばすっ!

「っしゃぁぁぁあ!!」

雄叫びと共に拳を月に自慢するように突き上げると、彼は追い打ちをかけるつもりはないらしく、壁に開いた大穴の前に立ち尽くす。
もうボロボロの学ランをマントのように夜風に流し、腕組み一つ威風堂々―――。

「この程度じゃ終わらないだろ!? 終われねぇよなぁ!! おい!!」

―――打ち倒すべき相手を叱咤激励する。
それが削板軍覇その人なのだ。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッ!!!」

その声に魂を叩かれ、鞭をぶち込まれたのか、狂戦士はがれきを吹き飛ばし立ち上がった。
湯気が立ちそうな程の熱で巨体を高ぶらせ、咆哮一閃―――。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!」

「おっしゃ! 続きだぁああ!!!」

―――駆け出した!!!

黒い拳が、小さく儚い軍覇を狙い―――。
―――小さい拳が、黒く大きなバーサーカーを狙う!!

”ぢっ!”

二人の腕が微かに擦っただけで、火が付きそうな摩擦音が響き―――。

”ごしゃぁぁあ!!”

―――同時に顔面にて火種は爆発した!!
クロスカウンターのように二人の腕はすれ違い、お互いの顔を見事に打ち抜きあった。
威力はほぼ互角ではあるもの、やはり体重差身長差故に大きく吹き飛ばされたのは軍覇だった。

”すしゃっぁ!!”

「おおおおおおおおおおおおおお!!?」

荒れ果てたアスファルトの上をカーリングの用に数mも滑った彼は、手を突っ張りゆっくり身体を起こした。

「っ! てめぇ…………」

身体を起こした先、その向こうに見た。
先ほどの自分のように腕を組み、こちらを見据える狂戦士。
倒れた者に追い打ちをかけず、あくまで正面から戦う意志をはっきりと見せつける。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッッッ!!!!!」

倒れた相手を、強敵を、削板軍覇を―――!!

早く立ち上がれ、また終わらない、終わるものか!
これからまだまだだろう? まだまだ続くのだろうこの時間は!
圧縮されたような今はまだまだ『今』のまま!!
『過去』にならず『未来』も来ない!
『今』この場の『現在』は終わらない!!!
そんな風に―――。

―――叱咤激励する咆哮!!!!

「お、お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!」

それの答えるように彼は吼えた。
文明人らしからぬ言葉ならぬ意志をぶつけ合うように。
同類にしか解らないシンパシーによる会話!
言葉ではないしかし伝え合う!
肌を叩く叫びは心を揺らす魂に刻まれる!!

”どずぅんっ!!”

地面を揺らし再び削板軍覇は身を立てた!!

「上っっっっっ等!!! まだまだまだまだまだ!! こんなくらいで終わるような根性無しじゃねぇぞ! 俺はぁああああ!!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!」

軍覇の期待通りの『答え』に応えんとするように巨怪はその身を再び走らせた。
握った拳に嘘はない、狙った場所をただ狙う。

「来ぉおぉおおおおぉおおぉぉぉぉいっっっ!!!」

それを避ける気は更々ないのか軍覇は両足を開き、正面から受け止めようと両手を広げた。
一撃で自身を数十mも吹き飛ばす一撃を前にまさに自殺行為。
だけど彼は動かない! 拳を待つ! 自分を壊そうとするような『根性ある』一撃を待つ!!

”どぼぐっっっ!!!”

「っっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!」

誰が耐えられるだろうか、英霊、その中でも最強に近い雄者の拳だ。
手加減なんか無い、そんな昨日は最初から備わっていない。
そんな一撃を顔面にて受け止めた軍覇の両手は、受け入れるように開かれていたのにゆっくりと下がっていく。
地面に根を張るように力強かった足、膝がゆっくり折れる。
誰もが彼を称賛するだろう。
この巨怪と戦い、その身に何発もの『一撃必殺』を受けて尚五体満足。
十分過ぎる偉業だ。
最後には無抵抗に最強の一撃を受けて尚、やはりその身は欠けていない。
それだけでこれ以上ない戦果を上げている。
このまま倒れても世界の誰もが拍手するだろう。

”がしっ”

しかし、だけど、やはり―――

「■■■■■■■■ッッッッ!?」

―――この男だけはそれに満足しない。

「っつぅ~、きいたぜぇ、お前の根性入った一撃!!」

自分の顔面に刺さったバーサーカーの拳を掴み、砕けそうになる足を奮い立たせ獰猛に笑う。

「お前の応えを避ける訳にはいかねぇからな」

言葉も交わせぬ猛獣の応え。
そんなものの為に彼は自らの身を差し出したのだ。
どうしてそこまでという位に真っ直ぐ。
何故そうまでしてという程に愚直の極―――。

「お前がまだ終わらねぇなら、俺も終われねぇよっ!!!」

―――それが削板軍覇、そこまで削板軍覇、そうまでも削板軍覇!!!
彼の咆哮に、バーサーカーは初めて一歩その身を引いた。
そのときに彼の、バーサーカーの戸惑いは消え去っていた。
目の前にいるのは『小さき者』なんかではない。
純然たるこの世が作り出した偉業―――異形であると。

「っ!!」

「ッ!!」

軍覇が握った手を放すと同時、お互い拳を握り技術もなにもなく振りかぶる!!
まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ――――――!!
まだ終わらない!
まだ終われない!
まだ終われる訳がない!!!!!

今日はここまでです。


こいつら一体何レス分戦うつもりだww

え、ここって削板スレだろ?



あのドロドロでギリギリなバトルも良いけど、今のも熱くて好きだなぁ
ぐんはくんの能力気になる


熱すぎワロタ

根性さえあれば無限ループじゃねぇか…

投下します。

”がっ! かっごっぉ!! ぎぃぃいんっ!! ごぎぃいいい!!”

「らっぉおおああぁぁあああああああ!!!!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

鉄を鋼で打つような硬質な音が世界を支配する。
まるで大きな時計の内部に入ってしまったようにどこか規則的。
一打てば一返す。
彼の拳が彼の肌を殴り。
彼の肌が彼の拳を迎える。
どちらも休まずどちらも諦めず。
今、軍覇のしなやかな拳、今は最早一撃でビルをも倒壊させるようなその拳がバーサーカーの胸板にぶつかる!

”ごぃんっ!!”

ぶつかった瞬間の衝撃波が目に見えそうな一撃を受けて尚巨怪朽ちず。
それどころかその一撃に返すようにバーサーカーは巨大かつ堅固な拳を軍覇の顔面に叩き込む。

”ごぎりぃっ!!”

その一撃は軍覇と同等の破壊力。
ビルであれ何であれ破壊し砕く。
並みの英霊であればまともにくらえばそれだけで核を破壊されかねないほどの威力。
そんな威力は二つの怪物は遠慮なく容赦なく出し惜しみせず繰り出し続ける。
延々延々終わりなく終われなく――――――。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

――――――終わらせる気もない。

続き続く終わらないドツキ合い!!
交互に交互に交互に交互に交互に交互に交互に――――――!!
拳と拳が幾度となく行きかい、どんどんその感覚が狭くなる!

”どごっ!”     ”どごっ”
   ”どごぉっ!”  ”どごぉっ!”
 どぐっ!” ”どぐっ!”
      ”ごぐぅんっ!!””ごぐぅんっ!!”
     ”どど”ごっぅ!”
         ””どごぉっ!!””

協奏曲、合唱、輪唱、響きあう。
どこか劇術的なほどの殴り合い。
二人の拳はついには同時に当たるほどになっていた。
二人で同時に拳を振りかぶり、同時に突出し、同時にぶつかる。
そして休むことなく、一瞬でも相手に早く拳を打ち込もうと再び全身を滾らせていく。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」

言葉もないほどの殴り合い。
それだけで完成されていた。
この場は力でのみ完成され、出来上がっている。
しかし完成完璧とはそのときその瞬間のみの存在でしかない。
どんなものも完成したときのみ完璧。
それ以降はただの劣化を辿る、ただ終わり行くのみ。
英霊と未だ人の身。
二人の狂奏による完成は歪むしかない。

”ごぎぃいいっ!!!!”

最後の和音は鍵盤を叩く様に乱れ終えた。

叩き込まれた巨大な鎚の如く一撃。
それは軍覇の肩をピンポイントに爆撃し、そこを破壊した。
そして彼の身体は優に10mは吹き飛ばされ、そして見事なまでに着地をして見せた。
立ち上がった、それは見事の一言だけれども、破壊された事実は消えはしない。

「っづぁぁああああああ!?!?」

壊された、破壊された痛みにさしもの彼もガクッとその身を揺らした。
破壊、と言っても脱臼程度のもの。
普通ならばそこ、その部分が消えてなくなってもおかしくない一撃だったのに、それでも脱臼。
しかし、その程度と言っても脱臼は脱臼だ。
今までお互いに砲弾のような拳を繰り出し合い、それでも決定打はなかった。
それもここまで、ここが英霊と人間の限界の壁なのだろう。
軍覇の拳は確かにバーサーカーにダメージを与えたが、それでも破壊にまでは至らなかった。

「ぐっく、お…………いってぇ…………」

ブランと垂れ下がった腕を掴み、軍覇は呻く。
痛みに、そして何より自身の、この程度で破壊される情けなさに!
自分はこの程度なのか?
           たかがこのくらいの痛みで壊れるような人間なのか?
何も出来ず朽ちるのか?
           何一つ誰一人守れないような意味のない人間なのか?

           
           
           いや、違うだろ? そんなことじゃないだろ? 俺が今考えているのは。





「…………………………………………」

この戦い始まって初めての沈黙、そして静寂。
腕を掴んで動かない軍覇に、それを見据えるバーサーカー、そして遠巻きにそれを見守る小萌。
破壊に破壊されつくされた場所、地面すら無事じゃないそこは今完全に凪いでいた。
いや、凪がざる得ないのかも知れない。
削板軍覇、世界最大の原石、彼から発せられる異様なまでの威圧感。
それがこの場を、下手したらこの世界を黙らせていた。
狂戦士は今や完全に沈黙。
いつ爆発するか知れない爆弾を前にしたように、動きたくても動けない、そんな状況にいた。

そう、軍覇は、削板軍覇、学園都市の最高位の能力者である彼は自分の能力を、ついに、ついにその一端を捉えようとしていた。
圧倒的なまでの強者であり同類である英霊との触れ合いにより、奥底に眠っていた力が脈を打ち出す。
ずっと眠っていたまま、眠ったまま力を漏れ出すだけだった能力が微かに動いた、動く、動こうとしていた。
彼が、軍覇が初めて自分の『弱さ』を痛感して『強さ』を求めたことにより、彼の一部である能力も動かざる得なくなったのだ。
削板軍覇、彼は自分という『今』を信じ、どんなモノにも立ち向かってきた。
能力に腰かけた訳でなく、自分を信じ、信じぬく限り何物も自分の敵ではないと心に刻んで立ってきた。
それだけの高い意識を持ち、彼は私利私欲に拳を振るわず正義の旗本に能力を行使してきた。
常に誰かの為に、常に弱き者の前に立つ。
それが彼だ、それがナンバーセブン、それが削板軍覇。
そのあり方こそが彼の強大過ぎる能力を繋ぎ止める鎖だった。

「………………………………………………………………」

もしかしたら彼自身能力を理解していたのかも知れない。
あまりの強すぎる能力故にそれに封をしていたのかも知れない。
世界最大の原石。
彼はそう呼ばれる、そう原石なのだ。
原石、そう、磨く、磨かれ、そして価値を、真の輝きを得る存在。
削板軍覇、彼の能力は未だくすんだ石の中に眠る。
そのくすみを取る手段は既に目の前。

自身の為に力を望むこと―――。

簡単故に彼には決して出来なかった。
簡単な道を避けに避ける人生を進んできた彼にとっては初めての体験だ。
そう、今彼が考えているのは。


              目の前のこいつに負けたくない。
こいつをこの手でぶっ潰したい。
              理由なんてない、ただそれだけ。
だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、
だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、
だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、
だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、だから、


”どくんっ”

何かがついにその身を動かした。
原石の中の輝きが、磨かれたことにより光を取り戻す。
今彼は問われた自分に問われた。
自分自身に問われた。





               力が欲しいか?

今日はここまでです。

やべえ、ソギーがARMSに目覚める……

あけましておめでとうございます
なるべく早くに更新して完結させたいと思うのでよろしくお願い致します

ARMSから力が逆流する・・・!

年内に投下しろよ

凄くお久しぶりですが投下します。

「ああ、これが―――」

自分が何をしているか解らなかった、ただバーサーカーは消し飛んでいた。
削板軍覇、彼はその手に握った初めての力を一瞬だけ振るい、それを再び見なかったように封じ込めた。
何が起こったか?
        何も起こってない。
何かが起きてはいけない、ただバーサーカーは消し飛んだ。
この力はあってはいけない、まだ早すぎる。
いや、遅すぎるのかも知れない。
何にせよさっきは何も起きなかったのだ。
そう何も起きてない、何の能力も要素も発動してなんかいない。
削板軍覇が手の中に視た力はここにあってはいけないもの。
世界の理、それすら大きく歪めるナニカ。
ただ一瞬、刹那の60分の1の時間だけ存在して、その端も端の出力で狂戦士を吹き飛ばしたのだ。
そうだけど、何も起きていない、何の力も、何の神秘も起きていない。
ただただただただ決着がついただけ、そう、ただ決着がついただけ。
ただただただただ巨怪がかっ消えただけの話。
無駄なまでに肉体をぶつけ合い削り合い、血で血を蒸発させる熱い鉄の打ち合い。
熱く長く大地をぶち壊し空気を圧縮し時間を縮めた戦いも終わり。
それはあっけなく、何でもなく、それでいて後味もなく煙のように消えた。
残されたのは削板軍覇、そして月詠小萌。
あとは破壊に破壊されつくした大地だけだった。

「……………………」

「…………ばーさーかーちゃん」

呆然と立ち尽くす男は小さな声に一瞬だけ目を向けると、彼には有るまじきことにその小さな存在に手を差し伸べることなくその場を後にした。

「……………………」

残された一人のマスターは、ただただ虚空を見つめる。
どこかに消えてしまった自分の従者を待つように。
その手に深く残る令呪は主の証を失うことはない。
色褪せぬその深くに刻まれた証明。
それに背くことはない。
巨怪、理性無き獣であったとしても自分の帰るべき場所は理解しているのだろう。

「ばーさーかーちゃん―――」

この世の理を超える力にて掻き消されたハズの狂戦士は小萌の背後でゆっくりと、全身から湯気を立ち上らせながら帰還した。
その眼に爛々と戦いの色を宿して。
自分が叩くうえで一番の障害になるだろう相手を心に刻み。

「―――お帰りなさい」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!」

獣の咆哮は地を揺らし大地を割り、空を突く。
夜を打ち抜く様な声、断末魔に似た叫びはただ一人ために。
有ってはならないもので自信を7度瞬殺した雄々しき戦士の為に。

「ふふ、嬉しそう…………ばーさーかーちゃんも男の子ですね♪」

その咆哮を耳にして、月詠小萌は理性無き言葉無き戦士の内情を理解したのか優しく笑う。
弓と剣の決着がつくのはその3分12秒後だった。

…………。
……………………。


「それで、インデックス、こちらは既に騎兵と弓兵を屠っています、しばらく様子見でも問題ないと思いますが?」

「そうだね…………でも、それじゃあダメなんだよ」

まだ痛む身体、少しの身体の捻りで火傷が引きつり、その激痛に唇を噛んでしまう。
だけど、その痛みが口に広がる血の味が私に生きていることをしっかり実感させてくるのだ。
病院の廊下、隣を歩くセイバーの言葉にそっけなく返して、洗濯して貰った修道服をたなびかせて歩いていく。
入院して数日、まだまだ退院の指示は出ていないけれど、私はベッドで身体を休めることに我慢が出来ずにいた。
ただただ意識を休めていると心の奥から声が聞こえてくる音が響いてくる。
ラストオーダーの倒れる軽い音―――私が殺した。
かおりが撃たれ溢れる血の音―――私が殺した。
短髪の首が折れる鈍い音―――私が殺した。
瞼の闇には光景がやきついて、耳の奥ではいつでも音が響く。
それから私は逃げたい。
内部から削られる心はいつ破たんしてもおかしくないから。
だったらそんな光景にも音にも気にならないくらい私は目的を持たなくてはいけない。
全ては愛する尊敬するただ一人の為に。
私の戦いに関係して死んでいった沢山の友人の為に。
私の戦いで殺していった多くの友人の為に。
擦り減る私の心を守るために。
戦いに向かう。
休んでいられない、何よりも自分の為に。
知らず知らずに責任の所在を自分以外に投げた私は、奥底の暗く重い快感に蓋をして次の戦いを求めた。
押しつぶされそうになる空気を肩に乗せたまま。

「…………私は騎士です、マスターの命令に従います」

「ありがとうなんだよ」

そんな私の何を察したのか、セイバーは目を伏せ頷いてくれた。
目を伏せ、私から目を逸らし、自分の役割を『剣』だと逃げてくれた。
剣にすら諦められた私は、その柄に手をかける。
次の戦い、どうしてもやるしかないあの人の―――自分の―――為の戦いを求め。

「怖い顔してるにゃー」

「もとはる…………」

病院から抜け出そうとする私の前に、アロハ金髪の少年が現れた。
逆光によって表情は窺い知れないけれど、その声は変わらず軽い。
自分の、私の友人が死んだと言うのに。

「どうしたの? 何かあった」

「んにゃー、ちょいと忠告にな」

「忠告?」

軽い軽い言葉。
軽いからこそ容易く心に入り込む。

「…………ステイルからの連絡が耐えた」

「!」

心に入り込んだ軽い言葉が一気に重みを増した。
火傷が痛み、胃が捩じくれだす。

「気をつけろ、やつはキャスターを追っていた、あのステイルがそう簡単に死ぬとは思えないが…………ねーちんの件もあるしな」

「………………………………何も言わないんだね、もとはるは」

「にゃー?」

私の重みを持たせた言葉は彼の心に入り込めない。
彼の心の入り口に詰まってしまう。

「責めないんだねもとはるは」

「責められたいのか?」

「……………………」

「……………………」

また彼の言葉が一瞬重くなった。
その重さは私の脚を止めようとしたけれど、止まる訳にはいかない。
セイバーに目配せして、もとはるの横を通り抜ける。
笑みを浮かべた彼に重なる瞬間、私は小さく答えを返した。

「…………別に」

「……………………」

見はしなかったけれど、もとはる満足そうに笑ったそんな気がした。
数日の休憩を挟み、私とセイバーは再び戦場に帰還することになった。
甘さのない、苦く苦く苦く苦く苦しいそんな戦争に。

「インデックス、気付いていますか?」

街中、少年少女の行きかう明るく活気ある学園都市を進んでいると隣から小さな声があがった。
私はそれに無言で応えてから、すっと狭い路地に入った。
ビルとビルの隙間、人一人が通る限界の細い路地の奥、そこには魔法陣が描かれていた。

「やはり…………これは、陣、いや、結界か?」

「うん、多分…………さっきからこれと同じ魔力だまりがいくつもあるから、かなり大がかりなものだね」

セイバーが声をかけた理由はこれだ。
病院を出てから直ぐに感じた違和感であり空気。
詳しい範囲は解らないけれど、街中に結界のようなものが張り巡らされていた。
いくつもの魔法陣を繋ぎあわせて強固かつ強力なそれを作り出しているようで、これほどのものを作れるのは―――。

「―――キャスター、だね」

「やはりそうですか…………姑息な」

苦々しい思い出でもあるのか、眉を顰めたセイバーの横でしゃがみこむ。
…………目的は、ライン、念話のパス?
堂々と描かかれた魔法陣の目的、どういった用途で組まれたものかを読み取っていく。
これだけ広い範囲に張っているのだから、吸精、下手したら吸魂などの結界だと踏んだのだけれど、この陣からは私も使っている念話の仕組みに近い何かしか見受けられない。
と、言っても私であっても全てを理解出来ない部分も勿論ある。
どうにも古く、神秘性の高い陣らしく推測は出来ても確実な答えは出ないだろう。

「一応、使えないようにしておこうか…………」

念話であったとしても相手がこれを描く以上何か理由があるのだろう、そう判断して私はその陣に手を伸ばした。

「セイバー、一応周囲を警戒しといて欲しいんだよ」

「了解しました…………インデックスは?」

「この陣を使えないようにしておくんだよ…………」

陣を読み取り、使えないように導いていく。
知恵の輪、と言うよりかはパズルに近い。
組まれたパズルの全容を理解した上で、違う絵に組み替える。
魔法陣と言うものを破壊するのは実は容易ではないのだ。
既に組まれた陣を破壊するには、その陣を形成する魔力を一気に吹き飛ばし押し流すほどの魔力をこちらから流すか、術者に破棄させるしかない。
簡単は小さな陣であればそれなりの魔力さえあれば消せるだろうけれど、今私の対している陣の魔力は凄まじいものだった。
そんな陣を破壊する魔力は私にはない、だから使えないようにするのだ。
組み替え、意味を変え、役割を変えていく。
繊細で集中力のいる作業ではあるけれど、地道にやっていけば何とかなるものなのだ。
ただ、今回については私の知識でも意味が理解出来ない、神秘の高い部分も多いので少しばかり面倒だ。
だから、なるべく理解出来ない部分には触れず、解りやすい部分から組み替えて行き―――。

「…………よしっ、出来た」

「お疲れ様です」

―――10分ばかりの奮闘の末に使用できないように組み替えることに成功した。
その間無防備になるのでセイバーに周囲の警戒をお願いしたけれど、問題はなかったようだ。
…………何かしらトラップでもあるかと思ったけど何もなかったんだね。
この手の陣は侵入者用のトラップでも仕掛けてあるのが相場だけれど、その様子はなかった。
すんなりいったことに一抹の不安を感じていたが―――。

「え? 嘘、なんで!?」

組み替え使用不可能にしたはずの陣が一人でに動き、私の行為を全て無為にしだした。

「自動修復機構!? そんなっ!」

咄嗟に魔法陣にかけよろうとした私、その背中に声が叩き付けられる。

「っ!? インデックス!!!」

「にゃっ!?」

”ずがんっっっ!!!!!”

―――不安は予感となりしっかり的中した。
私が向かおうとした魔法陣のある横の壁、コンクリートのビルが打ち砕けその破片をまき散らした。
セイバーに抱き寄せられなんとか初撃を躱すことが出来たが、安心にはまだまだ早いし遅過ぎる。

「ここここんなときに超侵入者なんんんててて面倒なんでででですけどぉぉぉぉぉぉ」

「インデックス、下がっていてください」

破壊されたコンクリートに粉塵の向こうからまだ幼い甘い声が聞こえる。
甘い声のはずなのに、どこかおかしい。
壊れたCDのような変な声。

「セイバー、気を付けて欲しいんだよ」

「……………………」

私の言葉に鎧姿の騎士は、剣を深く構えて応えた。
不可視の剣は一撃で相手を斬る気迫に満ちている。
魔法陣を背後に隠すような位置に立つ敵。
ビルを容易く破壊する相手はゆっくり煙が張れると同時にその姿を見せた。

「女の子…………?」

「…………」

ビルの破壊とは到底結びつかない短い髪の、まだまだ幼い顔をした女の子が姿を見せた。
私と同じくらい、もしかしたらもう少し年齢は下かも知れないそんな相手は好戦的な笑みを浮かべ、立ちはだかる。

「面倒でででですけど――――――超排除させていただきますっ!!」

「来るかっ!!」

名も知らぬ、少女がこちらに砲弾のように躍りかかった。

今日はここまでです。

乙、やっと動いたと思ったら一気に動いたな

待ってました!
次はアイテムたちかぁ、期待してます

>>483
パワーAくらいありそうですからね

>>484
血みどろの戦いになります、きっと

>>493
勘違いから生まれる死闘もあります、きっと

>>494
図にしたら簡単です

>>495
ノリの差です、向こうはまったりで

>>496
ありがとうございます

>>506
ついつい楽しくてやり過ぎました

>>507
一時期乗っ取られかけました

>>508
セイバーたちは若干泥臭いですね、軍覇は少年漫画で

>>509
暑苦しいのも大好きです

>>510
負けないかぎりつづきます

>>517
あれは名作ですよね

>>520
共振します

>>521
がんばります

>>531
テンポ良くいけたらなと

>>532
ありがとうございます、アイテム戦になる予定です

百合的な展開はあったりするのだろうか?話に関わるならスルーで


ぐんはくん再登場ある?
あのバトル良かった

もあいは俺の嫁

投下します。

「ぜっっやぁぁぁああああああああ!!!」

”ひゅんっ!”

「っっ!! 超ははは早いいいででですね!」

一足間合いからの踏込、続けざまの神速の剣を相手はギリギリで躱した。
セイバーの、英霊の一撃を躱す相手に少なからず驚愕する。
この街には確かに英霊に匹敵するような能力を持っている人間は存在するけれど、それはあくまで能力で、だ。
魔力放出によるセイバーの速度は既に人間のそれを遥かに上回っている、それなのに回避するなんて。
身体能力を強化しているのか、それとも?

「ふっ! せぇぇええええ!!!」

「がっ!?」

相手の戦力を見極めていれば、そんなのは必要なかったのかセイバーの不可視の剣が少女の胴に入った。
これで終わりだ。
胴で二つに分かれた死体の完成。
既に人が死ぬ―――殺す―――ことに抵抗がなくなり出している私は取り乱しもせず一息つき。

「セイバー、だいじょう―――」

「マスター、まだです」

「―――え?」

労いの声をかけようとして、それを止められた。
その時に気付いた、血の臭いがしないことに。

「ったぁ…………びびびびっくりするくらい超強いででででですね」

「! 無傷!?」

確かに間違いなくセイバーの剣を腹に受けた少女は何事もなかったかのように立ち上がった。
その身体には傷一つなく、相変わらず壊れたような声を漏らしている。

「…………」

セイバーは改めて剣を構えて、私を庇う様に軸をずらした。
未知の敵にその顔は険しくなっている。
初撃で無傷ということはそれなりの覚悟をしなければ勝利を取れない。
そのことを騎士王は覚悟したのか、かつて英霊と相対したときと変わらない気迫を滾らせていく。

「インデックス…………離れていて下さい」

「う、うん…………」

言われるままにゆっくり下ろうとすれば、それが合図だったのか―――。

「超ううううう行きます!!!!」

「来い!!!!」

―――少女は再びセイバーに小細工なしに正面から突撃した。

「英霊の攻撃を受けても無傷なんて…………」

セイバーと少女の戦い、それは打ち合い、というか一方的にセイバーが攻撃するだけに近い。
相手も攻撃を繰り出してはいるが、それをセイバーは避けいなし、自身に掠らせることすらしない。
そうして相手を崩して打ち込んではいくけれど―――。

”ぎぃんっ!”

「むっ!!」

―――少女の身体に剣は通らない。

「皮膚の硬化? いや、でもそれじゃあ服は切れるハズ」

戦いを見ながら突破口を見出そうと脳みそを回転させる。
超能力について詳しい見識はないけれど、それなりの知識はあるから、そこからどうにか考えていく。
だけど、魔術と違って超能力には解決法が少ないのだ。
阻害は出来ても『これ』と言った解決法を見つけることは難しい。
それでも考えるしか出来ない私は考えるしかない。

「くっそっ! 超強いですねねねねね!!」

「はぁぁああああ!!!」

”がぃんっ!!”

また何度目か一撃少女に入るが、相手は吹き飛ぶだけだ。
その後ビル壁に激突しても大したダメージはなさそう。
見えない鎧、そうセイバーの不可視の剣のような何か、見えない鎧を着ているように見える。
鎧を着ていて、攻撃を受けて踏ん張りが利かなければ飛ばされる。
攻撃についてはコンクリートを粉砕する程度は容易い。
攻守ともにバランスの良い能力だろう。
だけど、それが解っても明確な攻略法は思い浮かばない。
…………科学の勉強ももっとしてくべきだったかも。
歯噛みしたくはなるけれど、今は後悔よりも前を向くしかない。

”ぎぃんっ!! がぃんっ!!”

「ぐっくううう!! かはっ!!!」

「本当に固いな貴様は…………」

剣で斬る、いや叩く度に衝撃は伝わっているらしい。
しかしダメージにはならない、それでも繰り返せば相手は昏倒くらいはするだろうけれど、あまりここでの戦闘継続は望ましくない。
昼まで通りに近い場所であるし、かなり大きい音が響いているのでいつ誰が来てもおかしくない。
不必要に人を巻き込みたくない気持ちは最低限私にはまだ残っているから。
となると勝負を決める必要がある。
そっともう慣れた念話のパスを繋ぐ。

『相手を吹き飛ばさない程度に二回斬りつけてみて』

「…………」

無言での肯定を、勝ち得てしまった信頼。
人を殺す行為の信頼を感じて胸の奥に蓋した何かが疼いた。
だけど、その疼きから目を逸らしてセイバーの動きに注視する。
推測が正しいかどうかを確かめる為に。

「はぁぁああああ!!!」

”かぎぃんっ! ぎぃんっ!!”

「かっ! ああ!!」

神速二連。
しかし、さっきまでのように少女を吹き飛ばさない程度の圧力での攻撃。
それによって起きた現象を目に焼き付けた私は―――。

『セイバー』

―――そっと、勝つことを決めた。

『単撃じゃなくて連撃、容赦なく斬りつけ続けて…………多分それで終わるから。』

と、簡単に言葉を飛ばして、あとは『私』が『少女』を『殺す』とこを瞬きせずに見つめる。
さっきまでの戦闘を見ていて解ったけれど、あの少女の見えない鎧はかなりの強度を誇っているけれど無敵では間違いなくない。
良く吹き飛ばされていたのは小柄故の踏ん張りの無さではなく、連撃を受けない為の回避行動なのだろう。
連撃を受けた時に刃の止まる位置が一回目より近くなっていた。
セイバーの剣も、相手の鎧も目に見えないので目測は難しかったけれど、そこだけを注目して視れば違いは見極められた。
つまり、彼女の鎧は攻撃を受ければ減少するのだろう。
それも直ぐに回復して変わらぬ厚さに戻るようだけど、連続で受け続ければ終わるのは間違いない。
消耗限界のある鎧だけれど、彼女の上手い避け方で気付くのに遅れてしまった。
しかしタネが割れたらそこまで。

「ふっ!! ぜゃぁぁぁああああああああ!!!」

「!」

これで終わり。
どこだろうか解らないだろうけど、あの可愛らしい少女も真っ赤になって終わ―――。

”ばじゅうぅうううう!!!!!”

「!?!?!!」

「な、なに!?」

―――るハズだったのに。

「本当に聖杯戦争って闇討ちと奇襲が多いんだよ…………」

衝撃を逃がさず頭頂部から両断しようと振り上げられた不可視の剣を、なんと言ったら良いか光の槍が弾き飛ばした。
英霊であるセイバーでさえ剣に受けた衝撃で大きく吹き飛んだ。

「くっ! どこから―――」

”ぼじゅうぅうううう!!!”

「きゃああああああああああああああ!!!」

「インデックス!!!!!」

崩れた体勢を直ぐに戻したセイバーだったけれど、再び降ってきた光の槍で吹き飛び、私も破壊の余波でアスファルトを転がる。
あまりにもあまりな、圧倒的なまでの破壊力。
それに圧倒的なまでの速度に新たな敵の位置も把握出来ずに地面を転がっていけばセイバーと少し距離開きすぎてしまった。
もし、私が狙わればそれだけで終わってしまうだろう。
微かに痛む身体、火傷の傷の激痛に歯茎から血を流すほど噛み締めて立ち上がる。
砂ぼこりの向こうでは影が二つ。
セイバーと、例の少女だろう。
戦いの再開予感される空気に前にでるべきか、それとも引くべきかを考える。
セイバーが近距離相手に戦うなら遠距離攻撃を潰すのは私の役目か?
だけど、あまりの威力に背中に嫌な汗がじっとり広がりだしていた。
間違いなく食らえば拳銃の日じゃない、生きていられるかも微妙な強大な攻撃だ。
私の手に余る敵だろう、だとしたらセイバーが即座に少女を殺し、そのまま遠距離を潰して貰うのが―――。

「ちょ、ちょっと、これは一体なんですな?! そこの御三方、少しお話を聞かせていただけます?」

「な!?」

戦闘の急激な悪化に背後を忘れていた、騒ぎを見つけた一般人がここまでやってきてしまった。
振り返った先には小柄な、ツインテールの女の子が決意と意志を秘めた目で立っていた。
そして、腕章に指をひっかけ、それをこちらに見せると。

「風紀委員(ジャッジメント)ですの」

誇りを感じさせる声を告げていた。
だけど、私はその言葉を聞く余裕なんてない。
振り返りだしたとき、多分私は油断していた、油断してしまった。
遠距離攻撃の相手に背中を向けてしまったのだ、きっと。
背中にさっきまでとは比べものにならない汗が噴き出す。
私は狙われている、それだけでなく、このままだと目の前の女の子まで殺される。

「っ!!」

迷う暇なく飛んだ。
ふらつく足に力を込めて、瓦礫散らばる地面を。
女の子に体当たりするように抱き着き、そのまま―――。

”ぼじゅぅううぅうううううう!!!!!!!”

三度光の槍が降り注いだ。

今日はここまでです。

乙です

いったい光の槍の正体はだれなんだ

投下します。

「ぐっく、ぅうううぅう…………!」

光の槍を何とか避けた。
乱入者のツインテールを突き飛ばす感じになったから、そのせいで少し身体を強く打ってしまった。

「…………!」

背後を見れば瓦礫の山、そして立ち込める粉塵と何かが焼き切れた匂いが鼻に刺さる。
肺から空気が押し出されたせいもあり、乾いた咳が喉を擦っていく。
微かな痛みに苛立ちを感じて直ぐに念話のパスをセイバーにつなげる。

『こっちは無事なんだよ、そっちは?』

『マスター、無事で何よりです…………こちらは、くっ! 目下交戦中です!』

耳を澄ませば遠くから鈍い剣戟、そして瓦礫の大地をかける靴音が聞こだし、そこで念話を一方的に切断された。
どうやらお互い一応は無事のようだ。
さっきの大軍魔術のような攻撃は直撃しなかったことが何よりと考える。
そして次だ。

「…………」

「い、いったいこれは何が起きてるんですの!?」

見た目は私より幼そうなのに妙にオバサン臭い声で驚いている彼女に視線を向けた。
周囲を見渡す彼女の身に大きな怪我がないことを確認したら、服を叩く暇も惜しんで駆け寄る。

「ここは危ないから早く逃げて!」

「は? きゃっ!?」

細い腕を乱暴に掴み、来た道を引き返すように指さす。
この娘はさっき風紀委員(ジャッジメント)と名乗っていた、記憶にある知識ならばこの街の治安維持機関の一員のはず。

「逃げて! ここに誰にも近づかないように言って欲しいんだよ! 早く!!」

彼女に頼めば、ここの封鎖をして、無駄な被害、犠牲者は減らせる可能性がある。

「に、逃げるって何をおっしゃいます! 逃げるのはあなたの方です!」

「っ」

言葉に対して予想していた答えが返ってきた。
彼女のさっきの誇りのある声、責務に立場に身を置いていて、持て余していない者の声だった。
だから、ここで逃げろと言ってもそれを聞くことはないとは思っていた。
それでも逃がさない訳にはいかない。
ここから先は学園都市の高位能力者でも割り込むことが出来ない戦場。
使命に燃えるこの女の子は間違いなくその戦場に踏み込むだろう。
そうなれば、答えは見えている。
戦場に転がる赤いゴミが増えるだけ。

「っっっ」

思い返すのはクールビューティの死に姿。
ほかほかの内臓をぶちまけた姿、ゴミになってしまった友人の顔。
また胃がねじれそうになるけれど、そんな人間的な優しい感情は私には勿体ない。

「お願いなんだよ…………ここから先は危ないんだよ、本当に」

「危ないって、だからこそ私が行くんですの! あなたは早く安全な場所に避難してください」

搾り出すように出した声も届かない。
彼女と私の間の事情と温度差。
どこまでも深い隔たりがそこにある。
でも、でも、彼女を、こんなに輝く様な目をしている強い目をした女の子をゴミにはしたくない。

「…………」

ぐっと身体に力を込める、相手はこっちにまったく警戒はしていない、どうにか気絶させることは出来ないだろうかと考えた。
呪符や術式紋様、簡単な魔術の組み合わせをいくつも考えては消していく。
不必要な怪我をさせずに気絶させる方法を模索する。

…………。
……………………。

「…………インデックスは無事ですか」

念話による無事を確認して一息つく。
吐いただけで安心はまだ出来ない。

「…………」

一瞬だけ周囲に気を配り、こちらの無事を伝える。
先ほどの光による攻撃により周囲には粉塵立ち込めている為先ほどの―――。

”ごっ!!”

「ぐっ!!!」

「まままままだ! 超おおおおお終わりませんよよよよよ!!!」

―――敵が拳を振りかぶり砂埃の壁をぶち抜いて突撃してきた!
念話を切断して、脳の警戒レベルを一気に戦闘配備にまで引き上げた。
相変わらず動きは直線的だけど、威力はとてつもない拳を避けつつ、さっきの光にも気を配る。
剣を狙われた一撃により腕にはまだ痺れに似た痛みが残っているけれど、この程度なら問題はない。

”ぼっ! ぶぉっ! ふぉっ!!”

「っ! ふっ! っっ!」

問題はないけれど、やはり大きくは踏み込めない。
先ほどの光の一撃は私の身体を貫くに等しい威力は間違いなくあった。
その命中精度も振り上げた剣を狙う程のものだった。
それを考えれば不用意に大きな動きをすれば狙い撃ちになることは間違いないだろう。
…………避けつつ、狙撃手も潰さねばインデックスも危険でしょう。
目の前の少女が生きている限り、ここら一体を焼き払うような攻撃はしてこないハズ。
ならば、泳がせつつ敵の位置を確認せねば。

「…………インデックスならば敵の位置の索敵は容易いのでしょうが、くっ!!」

「超ッ隙ありィッッ!!」

どんどん激しくなる拳撃をいなしかわし、自分の無能さに歯噛みする。

…………。
……………………。
セイバーはがれきの向こうで戦っている。
しかも二人の敵に、だ。
片方は姿を見せてない殲滅級の攻撃を行う相手。
それを一人で相手にするのはセイバーと言えど難しい。
だからこそ早く駆けつけなくては!

「ふぅう…………っ!」

呼吸を整える。
狙うのは顎か、首か、鳩尾か。
硬化の魔術で拳の骨と皮膚を一時的に固くして、それを一気に振り下ろせば少女を失神させることは可能のハズ!

「わ、わかったんだよ、じゃあ、私も逃げるんだよ…………」

「そうして下さいまし、ここから先は私たちの領域ですので」

意識を集中して、目線を下げ、少女の脇をすり抜ける。
大通りに抜けるために移動するふりをして―――!!

”すっ!”

拳を振り上げ、無防備な首に、鉄のように固まった拳を容赦なく振り落す。
後遺症を与えないようにと遠慮しては気絶まで至れない可能性があるので、一切の容赦なく!

「っっっっ!!!!!」

―――振り下ろした私は気づけば空を見ていた。

「え? え?」

拳には微かに当たった感触はあった。
本当に微かに、肌に触れたか触れないかくらいの感触はあった。
だけど、それだけ気付けば私は青い空を見てしまっていた。

「ど、こ?」

青い広く見える空。
さっきの粉塵の立ち込める瓦礫の戦場ではない。
広く広く見える空。
この街ではどこにいてもビルがありこんなに大きく空を見てなかったので、ただただ見入ってしまう。
小さく、身体の中に溜まった何かを追い出すように息を吐き出した。
背中に感じる固い感触と、張り付けられるような重力に自分が寝転がっているのを遅れながら理解する。

「っ…………どこ?」

呆然とする時間を過ごし身体を起こして周りを見回せば、そこは高い場所だった。

「ビル…………の屋上?」

遠くに見える入り口らしき場所、それと大きな給水タンクだがあるフェンスに囲まれた区画。
ビルに屋上、どこにビルかは解らないけれど間違いなく屋上であるそこにどうしているのかが全く理解出来ない。
あまりにも唐突の出来事で、さっきまで何をしていたか―――。

”ずがごぉおぉおおおお!!!”

―――何かが崩れる壊れる音と振動で直ぐに思い出した。

「セイバー!!!」

さっきの音はきっと光の槍、あの大規模魔術のような攻撃による破壊音だろう。
咄嗟に立ち上がり、フェンスに駆け寄る。

が。

”ざくっ!!”

「ぐっく、ぅ!?」

数歩と進まぬ前に右足に激痛が走った。
ガクッと、体勢を崩し、転ばぬまでもその場で動くことが出来なくなる。

「なんな、の!?」

咄嗟に負傷した、痛みの走った場所に手と目を向ければ修道服の下で何かがある膨らみが見えた。
服ごと刺さっているのではなくて、その下の脚に直接何かが刺さっている。

「くっっっ!!」

新しいサーヴァント? それとも敵の魔術師?
修道服の裾を捲りながら思考を回す。

「針?」

捲った先に一瞬見えた白い足には太い針のような、小さな杭が刺さっていた。
それだけを確認して、出血量、傷の範囲を確認したら直ぐに身体を起こした。
いつまでも負った傷を気にしてはいられない、ここももう『戦場』なんだ!

「おや、さすがは殺人者ですね、自分の傷より新たに殺す相手を直ぐに探すなんて―――」

「…………あなた、が?」

意識を切り替え心を落とそうとした先に聞こえた艶のある声。
幼い身体の割に大人びた落ち着いた声。
決意に燃えた―――強い―――強すぎる。
誰か―――を思い出す瞳。
両手に、私の脚に刺さったものと同一規格の針を携えた彼女はどこか妖艶に笑った。

「―――気持ち悪い、本当に気持ち悪いですの、あな「―――」「た」

「え?」

言葉の途中、急に目の前にいた少女は姿を消し、一瞬程度の間の後に後ろから声が来た。

”ごっ!”

「ぁぐっ!?」

声を認識して、振り返ろうと身体に指令を出す直前、背面に激しい衝撃を受けて吹き飛ばされた。
ゴロゴロとコンクリートの床を足から血を流しながら転がる。
刺さった針が更に深く刺さり、痛みに歯を食いしばり、何とか身体を起こした視界には誰もいない。

「あなたのような気持ち悪い殺人者に縊り殺されたお姉さまの苦しみ、その万分の一でも味わってから死んで下さいまし」

「はっ、おごぉおお!?」

また聞こえて来た声の方向は背後。
どこでそうして、いつの間にそこに回り込まれた判断も出来ないまま、今度は側頭部に衝撃を受けた。

「ぐっが!!?」

微かに見えた視界の端では、少女のはためくスカートと、持ち上げられた膝があった。
膝蹴りを食らったのだろうと理解するけれど、状況は理解が追いつかない。
―――お姉さま? お姉さまって?
彼女も魔術師―――?
―――これも聖杯戦争の一部か?
それとも何か勘違―――あ。
回す思考回っていく考え。
どこかに転がっていきそうな脳みその中で、彼女の着ている制服と私の良く知る相手の着ていた制服が合致した。
あれは―――確か―――常盤台中学の―――制服。
短髪の―――クールビューティの―――着ていた。

「あ、なた 「耳が汚れますの」 おがっぁ!?」

思考が追いつき、声がそれを更に追いかけようと身体を起こした瞬間、靴の裏が私の顔面を捉えた。
意識の飛びそうな一撃を受け、後ろに妙な体勢のまま吹き飛びながら―――。


ああ、私は恨まれているのか。

―――これが聖杯戦争とは関係ない私に対する全うな断罪だと理解した。

今日はここまでです。

黒子にボコられるのはちょっぴりご褒美風味

しかし、いたぶりは負けフラグなので悲しい

さっそく黒子に死亡フラグが・・

ていうか絹旗のしゃべり方がおかしいのは体晶でも使ってんのかね

誰かに操られてるとか
具体的にはみさきち
絹旗の能力だと精神防御は無に等しかろう

死亡フラグ!立てずにはいられない!

あと出てないのはアサシンだけか
アサ次郎とハサン先生のどっちだろ?
ハサン先生なら土御門あたりと相性が良さそうだな

>>535
多分、ないかなぁ、と思います
魔力切れは無いので

>>536
一応あります
自分のあの乗り好きなので

>>537
フレンダ派です

>>546
ありがとうございます

>>547
バレバレでしたよね、さすがに

>>558
ボコり方がかなり激しいですが

負けかどうかは後に

>>559
まだ死んではいませんから大丈夫です

>>560
体晶ではないですね

>>561
ぶっちゃけそんな雰囲気ですよね

>>562
死亡フラグを踏み越えましょう

投下します。

”ずざぁあぁあああ!!”

「やややややややりますねえええええええ!!!」

「ふっ…………せぁあああああ!!!」

瓦礫の戦場、一皮むこうでは平和な世界が広がる路地裏での戦い。
肉体に不可視の鎧を纏った少女相手に私は不可視の剣で迎え撃っていた。
攻略法は既に十二分に発見出来ている。
やろうと思えばこの場で二つに身体を分けることは可能なのだけれど、それが出来ない理由もまたあった。

”ばしゅぅううううう!!!”

「ぐっ! またか!!!」

数合の切り結びの最中、この一帯を瓦礫に変えた原因たる光の槍がまた降り注いだ。

”ずがぁぁあああん!!!”

世界を切り崩すかのような激しい一撃。
今のところ、最初に剣に当てられた以外は掠りすらしていないけれど、その威力には肝を冷やす。
周囲のビルがどんどん瓦礫に変わっていき、徐々に戦場の範囲は広がりつつあった。
微かに遠くからザワメキや悲鳴が聞こえてくるに、既にここの戦闘は外部に知られているのだろう。
密にされるべき聖杯戦争が公になるのはまずいだろうし、何より我がマスターがそれを望まない。

「…………やはり、長引かせる訳にはいかないか」

グッと剣を握りしめ、襲い来る少女ではなく、どこにいるかも定かではない光の槍を扱うものを睨みつける。
インデックスが狙われる前に、ここを掃除せねば!!

「はぁぁああああああ!!!」

「超かかかかかかかかカモンですっ!!」

”がぃいいんんんっ!!!”

”どぐっぅっ!!”

「おごっ!?」

騎士がもどかしい戦いをしている上空。
ビルの屋上で私は何度目かの地面との再会を果たしていた。
死角からの蹴りを脇腹にくらい、完治しきっていない火傷の引き攣れに苦痛を感じる暇もなくコンクリートの上を転げまわる。
足に刺さった杭は何度も何度も擦れて、もう感覚すら危うくなりつつあった。


「ああ、お姉さま…………お姉さま、嘆かわしいですの…………こんな、こんな!」

”ごすっ!”

「ぃぎっ!?!?」

転がったまま息を少しでも整えようとしたけれど、そんな時間さえ許されない。
無防備に晒していた背中を体重かけて踏みつけられた。
彼女は軽いだろうけれど、私も言ってもそうは体重はない。
多分彼女とそこまで差はないだろう。
そんな重さの相手に踏まれたら、苦しむ程度には痛い。
しかもこの少女はどうにも格闘術の心得があるのか、乱暴な踏みつけであっても内部に響く様に痛む。

”ごりぃいっ!!”

「あがっ、ごぉおおお!!?」

踏みつけられ、骨を削られる痛みに手足をでたらめに動かす。
少しでも痛みを和らげたくて、不自由な手足を、コンクリートにぶつかるのも構わず動かしまくる。

「醜い、まるでゴキブリですね…………こんな醜い女に、お姉さまがっっっ!!!」

”ごぎぃい!!”

「おごごぉおおおお!!!」

さらに圧力が強まり、目を見開き、泡を微かに吹き出しながら痛みで意識が遠くなっていく。

”ふわっ”

「おごっ、え?」

激しい痛みによる視界の明滅。
赤く染まっていきそうな視界。
痛みに飲まれていきそうに身体が震えていたのが一気に解放された。
それも足をどかされた、とかではなく急に全てから解放されたのだ。
さっきまで地を這う虫のような視点だったのに、今は何もない青空が広がっている。

「え? え? ごっ!?」

状況の理解に瞬きしようとした瞬間、背中から固いコンクリートの地面に叩き付けられた。
受け身も何もなく、ただただその場に打ちつけられ、肺から空気が押し出された。

「かっは!!!」

後頭部を打たなかったのは幸いだけど、そんな幸運に感謝することもなく、理解の外の出来事に目を瞬かせる。
…………さっきから、何が、起きてるの?
まずはこのビルにいきなり移動させられ、次にこれだ。
寝ていた状況から一気に落とされる。
投げられたとかではない、そんな感じはまったくなかった。

「薬か…………なに、か?」

眠らさせていたのかも知れない、そうも考えたけれど、それは直ぐに打ち消した。
記憶の中にある空、雲の位置がさっきと秒変化しかしていないところから眠らされて動かされた形跡はない。
と、言うことは―――。

「ぐっ、く、あ…………はぁ、っぁ、はぁ」

痛みすぎる身体に力を込めて、くらくらしそうになる頭を振り身体を起こした。
まだ少し揺れる視界、そこに写る少女。
制服姿の彼女はどこか物憂げに、私に興味ないように空を見ている。

「はぁぁ、はぁ…………はぁ」

空を見る彼女。
目に写る色は青、なのか。
色の意味は何なのだろう。
じっと空を見る彼女を、じっと見る。

「ぐっ、く…………」

見ながら、プルプル震える足を叱咤激励して立ち上がった。
それでも少女は私を見ない。
さっきまでの強すぎて、強すぎて壊れてしまったような目じゃなくて、何もない、空っぽの目で空を見る。
何も入ってない、全て出し尽くした瞳に何かを注ごうとしているように、ただ空を見ていた。

「はぁ、はぁはぁ、はっぁ、はぁ…………んぐ、べっ!」

少し血の混じった痰を吐く。
乾いた唇を、唾液の少ない舌で舐める。
息をゆっくり整える。
そして―――そこで立ち尽くす。
どうしたら良いのか解らないから。

「……………………」

「……………………」

無言で空を見る空っぽな彼女。
無言で少女を見る黒い何かの詰まった私。
無言で何も共有できない時間は過ぎる。
ただただ数メートルの空間を挟んで、動けずに動かずに。

「お姉さまは―――」

「え?」

何秒か、何分か挟んだ時間の先。
空っぽの彼女はぽつりと呟いた。

少女の中に残っている数少ない何かを零したような囁き。
何か凄く大切な言葉だったのかも知れない。
本当にどうでも良い言葉だったのかも知れない。
何にしても私には価値のない、関係のない言葉だったと思う。
きっとさっきの呟きは、私なんかが貰えるものじゃない。
彼女の大切な人に与えられる言葉だった気がする。

”ごっ!!”

「ぶっ!!!?」

間違いなく目を一瞬でも逸らしはしなかった。
だけど、少女は一気にその場から消え去り、それに驚く前に腰に衝撃を感じた。
痛みと認識する前に衝撃を知覚し、そのまま、またコンクリートを転がっていく。
その衝撃で、もう感覚のない足から杭が抜け、コンクリートを転がっていく。
ドロドロの血がついた杭が転がり、地面に血がポタポタ垂れて、溜まった血液が逃げ出す。

「ああ、お姉さま、お姉さま! お姉さま…………お姉さま、おねえ、さま! お姉さま! お姉さまお姉さ、ま! おねえ、さまぁあ! お姉さまお姉さまお姉さまお姉さま!!!」

”ざしゅっ!” ”ぶしゅっ!” ”どっしゅ!”

「あっ! ああ! あがが! ああああああああああああ!!!?!!?」

抜けた杭の埋め合わせをするように手に足に、新しい杭が刺さっていく。
声を追うように何本も何本も刺さっていく。

”ざしゅっ! ざしゅ!” ”ごしゅっ! どしゅぅ!”

「あっああ! ああが! ごがあああああああああ!! ぎぃいいいい!!?!?!」

指に、手の甲に、骨に足の甲に、足の裏に、太ももに!!
絶え間なく降る雨のように杭が穿たれ続ける。
痛いなんて感覚を飛び越して行き、おしっこが漏れ出す。
食いしばった歯の隙間から血の混じった泡が零れた。
目から涙、左目からは少し血色の涙も出ていく。
喉が裂けそうになるほど声をあげる。
人の声では間違いなくない。
獣の叫びですらない。
そんな音を喉から無理矢理押し出して押し出して押し出し尽くす。
本当は手足も痛みに関わらず動かしたい。
だけど、手足に刺さった杭の何本かはコンクリートにも食い込み、その場に標本のように貼り付けにされているので叶わない。

「おねえぇえさまぁぁああああ!!! お姉さまぁぁああ! どうじで! どうじで黒子をおいて、ぇええええええ!!!!」

「ぁっがぎっぃ!!!! ごぎああああああ!!! いがっぁおい!! おおごっかぁぁあああああああ!!!! ぎ!!!」

狂った二人の叫びが輪唱するように重なり混ざっていく。
一方は空に叫び、一方は地面に叫ぶ。
手足、足は確認できていないけれど、手には剣山の様に杭が刺さっている。
血も垂れだし、徐々に命が削られていく。
コンクリートに薄く薄く私の命が広がっていくのを目の写しながら叫ぶ。
少女は髪を振り乱し、地面に杭を取りこぼしながら、何を写したいのかそこら中に視線を走らせ叫ぶ。
もう手に入らない何かを求めて、狂った彼女は叫び尽くす。
私の手足を剣山をしても、それでも満たされない何かがあるのだろう。
失禁しがら、赤みがかった視界で少女を見上げる。
通り越した痛みによりややクリアになった思考。
狂い叫ぶ少女。
自分の半身をもぎ取られたかのように身悶えする彼女。
血を零すように涙を溢れさせ、薄く広がる私の命に混ざっていく。

「あああああ!!!!!!! なんで! おねえざぁぁああああまああああああああ!!」

”ごっ!!!”

「ごべっっぁ!!?」

悶え苦しむ辛さの限界だったのか、綺麗な髪を掻き毟りながら顔を蹴り飛ばして来た。
横っ面を蹴られ、その威力に身体を転げそうになるが―――。

「ぎっぃいいいいい?!?!?!」

―――杭がコンクリートに食い込んでいるのでその場で無理矢理繋ぎ止められる。
それにより傷痕が広げられる激痛に一瞬白目を剥いた。

「お姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまあああああぁっぁぁぁああああああああ!!!!!」

白目を剥いたけれど、そこで意識は手放すことなく、狂った叫びに招かれるように覚醒してしまう。

そして、剣山になっている手足に更に杭が穿たれ。
顔を何度も何度も蹴られ、ついは何本かの杭を乱暴に抜く様に地面を転がっていった。
コンクリートに血まみれの杭を何本か残し、肉片を巻きながら転がり、それにより杭が動き痛みにもう声も出せないでいた。

「あああ!!! お姉さま! 教えて下さいまし!! 黒子は黒子はぁぁああ!!!! おねええぁぁああああああああ!!!」

”ごっ! がっ! ごぎぃ!!”

「ぁ…………っぁ、が…………おぐっ!!」

馬乗りになられ、何度も何度も顔を潰すように殴られる。
片目は既に腫れた肉に潰され視界は失われていた。
それでも彼女は拳を止めない。
どうして殴っているかも目的定めぬまま、戸惑い拳を振り下ろす。
何度も何度も何度でも。
答えが解るまで振り下ろす。
反応する体力すらない私の顔を醜く彩、血化粧をする。
そこまでされても、この状況の打破の仕方に答えを見つけられないでいた。
彼女は多分聖杯戦争にまったく関係ないのだろう。
ただ、自分の『大切』を汚した者に復讐しに来たのだろう。
大切な愛する尊敬できる人物を縊り殺した相手をぶち殺したくて今ここにいる。
そんな彼女に何をして良いのだろうか?
このまま殺される―――訳にはいかない。
だけれども、彼女を打破する―――殺す―――訳にはいかない。
だって、彼女は何も悪くないんだから。
だって、彼女の行為は正当なのだから。
だって、私だってそうするだろうから。
だって、だって、だって、だって、だって――――――。

「おねえ、さまっ…………んぐっ! あ、ひぐ…………あああ!!!」

――――――彼女は泣いているから。

今日はここまでです。


もののみごとに発狂してるな

ところでインさん、この場を切り抜けても再起不能に近いんじゃ無かろうか
ここのセイバーは、アヴァロン持ってたっけ?

きついな・・・

>>563
どちらがどう出るかはまだ未定に近いですね

>>574
何となくこうなってしまうかなぁといった感じですね

>>575
アヴァロンは残念ながら保持していませんね

>>576
すみません、毎度こんなノリで
もう一方のスレで癒せればと

インデックスの致命率が半端ない

とりあえずおねしょパンツでもはいとけ

正直リョナ好きにはたまらんわ

あ?あまたもらしたよこの子

いくらなんでも、そんなには出ないんじゃと思う時もあるが……
ぶっちゃけ下の描写は>>1さんの性癖なんじゃないかとか疑いたくなるかも
いや、そうでも一向に構いませんが

いや、ガチの話し出るよ、おしっこ
痛みとか恐怖を引き金に簡単に
女性はとくにその気が強いらしいよ


危機的状況に陥ると身体を軽くしようと出すって話とか、恐怖で身体のコントロールがバカになって出るらしい
何にせよ更新待ってます

女って歳とるとくしゃみでちょっと漏れるからな

投下します。

”どじゅうぅうううううう!!!!”

何度目かの光の槍。
破壊は広がり、既に私の周囲は瓦礫の山となっていた。
その瓦礫の戦場の中で不可視の鎧を纏った少女と対峙し続ける。

「……………………」

繰り返すようだけれど、この少女、この敵を打ち倒すのはさほど難しい話ではない。
インデックスが授けてくれた戦法をすれば苦も無く胴と首を泣き別れさせることが出来るだろう。
だけれども―――。

”どじゅっずがががががががががが!!!”

「っ! またか!」

こちらの戦闘を邪魔するように降り注ぐ光の槍。
これがどうにも厄介だ。
その一撃の威力もさることながら、それ故の威圧感。
制圧感がとてつもない。
さらに、さっきから放たれる位置が常に変わっていて術者の場所を掴めないでいた。
私の読みでは、この頑強な少女がいる以上直接の砲撃はないと踏んでいる。
おそらく狙撃で意識を攪乱しつつ、この少女が責める形なのだろう。
もしくは少女の一撃で私を昏倒させ、そこに光の槍か。
どちらにしろ二人そろっての戦法を組み込んでいるに違いない。
それが今までの戦闘で弾き出した私なりの結論だ。
そして解決法、攻略法はある。
二人揃っての戦法ならば、それを崩してやれば良いだけの話。
だけど、崩すにしても最初に光の槍の術者を崩さなくてはならない。
何故なら、今はこの少女のおかげで直接の砲撃はないけれど、もし撃破してしまえば次に直接狙ってくることは想像に難くない。
位置の解らない移動砲台のからの狙撃、考えるだけで恐怖を感じる。
しかもその一撃は致命の一撃になりえる威力を秘めているのだ。

「厄介な組み合わせだ…………」

倒すのに時間のかかる鎧と、移動砲台。
鎧だけなら十分倒せるが、それを許さない砲台。
それに、さっきから連撃で少女を斬ろうとはしているが、タイミング良い砲撃で上手いこと逃げられてしまっていた。
気付けば周囲は瓦礫、一般人のざわめきや、それを止める警邏の声が聞こえだしてもいる。
ここは無理に戦闘を長引かせず、インデックスと合流して逃げるのも吉と考えてはいるけれど―――。

”ぼっ! どじゅううぅううううぅうううぅうう!!”

「っ!」

―――この容赦のない光の槍。
これがそれを許さない。
距離の取り方、少しでも退く様な動きを見せるとその退路近辺を破壊してくるのだ。
それは言外に逃がさないというアピールには違いない。
これは間違いなく挑発であり挑戦だ。
そうこいつらは私に「逃げるな」と言ってきている。
冷静に考えればそんな挑発に乗るのは愚策と解っている。
ここにインデックス、マスターがいれば間違いなくその愚策を否定するだろ。
そして否定して貰えるならばそれに従うことも可能だ。
だがしかし、今この場にマスターは不在。
その上でのこの挑発―――。

「っふ!」

「ままままままままだまだぁぁぁぁああああ!!!!」

”がぎぃっん!!”

「ぜっはぁぁぁあああああ!!!」

―――受けない訳にはいかない!
騎士として、自分の意地ではなく。
私は剣、この身は騎士、主に仕えた騎士なのだ!
その騎士が挑発に背を向けるなど恥の極みだ!!!

突撃してきた少女の腹部に一閃。
当然のように不可視の鎧で防がれ、そのまま威力を殺すように彼女は吹き飛び距離を開けた。
この距離をそのままにしていては狙撃される可能性は高い。
そう判断して咄嗟に距離を詰める!

”ばっ!”

瓦礫を弾き飛ばしながら剣を下段に構え突撃していく中で、周囲に意識を分散させていく。
今どこに術者がいるのか、その位置を探ろうと、微かな気配の揺らぎを読み取ろうと、自分と言う意識を薄く薄く伸ばし広げる。

「すすすすすす隙超ありですすすすすすすすすす!」

「っ!」

”ぎぃんっ!”

気配を探るのに集中しようとしても、目の前にはこの敵がいる。
遅れを取るような相手ではまったくと言って良いほど無い。
不可視の鎧は実に珍妙で強固であったとしても、それを所持する少女の戦闘技量は低い。
その能力を生かす術はそれなりに心得てはいるようだけれど、戦士としての練度はまだまだだ。
だけれども、周囲に気を配りながら相手するのは難しい。
かといって術者を倒す前に切り捨てるのもまた危険。

「厄介であることは、間違いないな!!」

相手と言うより状況がやっかり極まりない。
せめてもの助けはインデックスがこの場にいないことだろう。
もし、ここに彼女がいれば光の槍の餌食になってしまうこともありえた。
それだけを掬いと思っておこう。
剣を再び構え直し、安直な突進を繰り返すだけの少女と向き合った。

「ふっ! ぜっぁああああ!!」

大地を駆け、私も私で何回目かの愚直な突進を開始した。

…………。
……………………。
………………………………。

「あ…………あ…………が、あ」

「おえねぇざまぁあ! おねえざまぁあああ!!!」

”ごすっ! がすっ! ごぎぃっ! ぼごっ!”

「あっ…………が…………あ…………」

青い空の下。
綺麗な白い雲の流れる場所。
地面より遥かに空に近く、だけどそこはまだ空じゃない。
そんな広くて心地良い場所で、大の字に熱転がったままツインテールの少女の拳をその顔に受け続けていた。
何発目か数えてすらいないけれど思い出せる回数。
鼻水を垂らしながら泣く少女の小さな拳を受け続けた私の顔は赤黒く変色していた。
瞼は碌に開かなくて、頬も大きく腫れ、多分頬骨が折れている。
鼻は血で詰まり、痛みから察するに曲がり折れていて。前歯も数本折れているみたいで、口の中でカラカラ転がっていた。
もう全身どこもかしこも動かない。
手足は杭がいくつも穿たれ痛みすら薄くなっているし、手に至っては片方の小指が千切れかかっている。
満身創痍ってきっとこんなことを言うんだと思う。
満身創痍、ここまでされたら後は自然に死を迎えるしかない、だけど彼女は拳を止めない。

”ごっ!”

「おごっ…………」

「おえね、えざぁまぁ!!」

小さくて綺麗だった彼女の拳は血に塗れて、拳頭は白い骨が見えている。
両手共々そんな状況で、多分砕けている。
もう拳にすらなりえない、そんなものを泣きながら何度も何度も私の顔に押し付けてくる。
痛みなんか吹き飛んでいるんだろう。
苦しみなんか問題じゃないんだろう。
どうしたら良いか解らないんだろう。
出来ることがそれしかないんだろう。
だから彼女は泣きながら拳を振るい続ける。

「はっぁ! はぁはぁはぁ…………はぁ…………はぁ! くっ!」

”ごすっ!”

「おっ…………」

「はぁ…………はぁ…………はぁ…………はぁはぁ」

最後の一撃なのか、休みなく拳を振るい続けた彼女は拳振るうとフラフラと私の上から退いた。
狭まり、片方は赤く染まった視界で微かに捉えた彼女の顔は真っ青だった。
休みの無い運動による酸欠か、それとも過呼吸か、そんな心配をする程度の思考力は私にあった。
いや、今の私にはそれくらいしか出来ない。
思考の果て、思考の先、思考の東端。
立ち上がった彼女は何を思い何を見る?
空しさか、それとも飽きか。
見つからない答えの解答欄か。
殴り終えて、自分の大事な人を殺した私を殺さず彼女は何を思う。
手足が動かず目もほとんど見えていないし、口もきけない。
こんな状況でも動いてくれるのは脳みそだけ。
その脳みそも思考を回すのを億劫に思っているのか、妙に眠い。

「……………………」

”ごりぃっ!!”

「がっ!!」

その眠気を吹き飛ばすようにさっきまでの単調なメトロノームのような拳ではない重く固い何かが鳩尾に落とされた。
肺から空気が漏れ、咄嗟に痛みの先を目で追えば、そこには細い足があった。
細い足の持ち主は、さっきまでの拳を振ることだけが全てだった少女。
潰れた両手をだらんとさせてまま、真っ青な顔で再び足を上げ―――。

”ごずぅん!!”

「おごぉっ!!」

―――叩き込んだ!!

もう痛みなんかとっくにどこか違う世界に吹き飛ばしたと思っていたのに、新しい苦痛はそれを呼び起こす。
彼女が立ち上がったのは満足や、空しさではなく、潰れた拳では満足に私にダメージを与えられないから、足に切り替えただけの話だった。
実に正しく実に合理的な判断だ。
新しい苦痛は慣れを忘れさえ、より新鮮な苦痛を与えることが出来る。
つまり彼女の思考は最初から、どれだけ狂い乱れても変わらず私殺すことなのだろう。
しかも、出来るだけ苦しめじわじわと、端から寸刻みにするように。
そんな殺害を望んでいるんだろう。

”どずっ!”

「ぶっ! はっぁ!」

「ああ、何で、お姉さまはこのような豚の手に…………」

つま先が脇腹に刺さり、苦痛に身体が揺れた。
彼女のいない誰かに語る一人語りを聞くこともせず、痛みに脳みそを明滅させる。
明滅させる思考で私はやっと現状の打破を考えだしていた。
彼女が私を痛めつけるのが目的であればそれは問題はない。
この身で良ければ差し出すことくらいは何でもない。
だけれども、私を殺すとなるとまた違う問題だ。
私を殺すということは、とうまを殺すに繋がる。
今のどこかで私の助けを求めているかも知れない彼を助けられなくなる。
それだけはどうしても譲れない、こんな汚物みたいな汚い私の最後の一線だ。
それを守るためな―――。

”ごりっ!!”

「ひぐあっぁ!!」

―――ら、彼女を殺そう。
みことをそうしたように、ただそのままま処理してしまおう。
振り下ろされる足、引き起こされる痛みに血混じりの泡を吐きつつ、そっと、勝手に殺すと、思考が吠えだしていた。

今日はここまでです。

縺翫▽

嗚呼・・・

インデックスやばいだろこれ・・・

むぎのんと絹旗のコンビって案外やっかいなんだな、アイテムはむぎのん最強感があったから、ちょっと意外
相変わらず乙

絹旗の様子と黒子の状態からして、今の黒幕というか、表に出てきてない連中ってあいつらか? 
と思ってんだけど、どうなんだろ……

投下します。

お姉さまが死んだ。
そう告げられとき、私はその言葉の意味がまったく理解出来なかった。
聞いたことのある日本語の組み合わせ。
『お姉さま』と『死んだ』この二つが脳内でまったく融合しなかった。
もはや私の中でその二語は一生出会うことなく、存在同士が銀河寸法で乖離していたからだ。
故に、その言葉を何とか理解して最初に行ったことは、そのようなあり得ない嘘を告げてきた親友を殴り飛ばすことだった。
嘘である冗談である、そう思ったとしても許せないことはある。
だから、信頼している友であり相棒である彼女、初春飾利の顔に固めた拳をぶつけた。
それくらいしないと言葉を否定できなかったから。
それほどここ最近のお姉さま異常だった。
かつても何度か危ない事柄に自分から向かい、私を心配させることはあったけれど、今回のそれは桁が違った。
今までなら披露していても何処かにまだ余裕があった。
腹立たしいことではあるけれど、お姉さまが思いを寄せる類人猿が助けの手を伸ばしていたから。
だけど、今回はそれが無かった。
助けの手―――止める腕―――が無かったから、お姉さまはどこまでもどこまでも、自分の能力の枠を超えるまで行動をしてしまっていた。
碌に寮にも帰らず、ボロボロの身体で独り言を延々呟くお姉さまの眼は濁っていた。
濁っていても、それでも強い何かが奥で光っていた。
強い意志、それを持って今回も無事黒子の元に戻ってきてくれる、そう信じていた。
信じなければやっていけなかった。
でも、それは裏切られた。
最悪も最悪。
お姉さまと言う∞が0になった。
怯える親友の顔を殴り続けていた頃にやってきた先輩に止められ、そこで再びお姉さまの死を知らされた。
絶望ともまた違う。

足元が崩れる―――。

―――そんなもんじゃない。

目の前が真っ暗に―――。

―――その程度の訳がない。

死にたくなる―――。

―――勝手に死ね。

一瞬にして語感が全て暴力的に潰されたような感覚に、私は気絶した。
私はここまで弱かったのか、風紀委員として研鑽を積み、火急の事態にはお姉さまでさえ捕縛する腹積もりでいたというのに。
私はどこまでも小さく、小さく、そして虫のように弱かった。

目が覚めたときは、正確は正気を取り戻したときには病院で、私はベッドにベルトで括られ眠らされていた。
医者が言うには、私はここ数日気絶と暴走を繰り返し、お見舞いに来た友人らに暴力を振るい、この隔離病室に移されたのだという。
その話を聞いても「申し訳ない」とか「なんてことをしてしまった」なんて普通の感情は湧いてこなかった。
だってこの世界にはもうお姉さまがいないのだから。
そのまま私は抜け殻のように過ごした。
二度ほどお見舞いに誰か来ていたけれど、そんなの何の意味もない。
ただ日がな呆然と、ただ漫然と何もない日々を過ごした。
食事も取らず、点滴によって意味なく生かさせる日々を享受していたある日。
病室に一人の男が入ってきた。
まったく面識なんかない男だったけれど、警戒することも気にすることもなく受け入れた。
いや、受け入れたと言うより意識の外だった。
私の世界、意識は壊れきってしまっていたから、多分あのときはゆっくり刃物で心臓を刺されても抵抗なく死んだことだろう。
それくらいもうどうでも良かった私に、その男はそっと告げてきた。

「御坂美琴の死について知りたくないか?」

壊れきったはずの世界。
私の中にあった明るい世界、もう壊れたその世界。
そこに闇がそっと影を伸ばした。
彼はニヤリと笑ったそんな気がした。
その男はまだ高校生くらいに見えたけれど、服装や髪形のせいで詳しい年齢は計りかねた。
だけど、そんあことは重要ではない。
私が知りたいのは男のことではない、お姉さまもこと。
彼が語る言葉を真剣に脳に刻んだ。
お姉さまが参加していた荒唐無稽だけども確かな戦争。
そして、その戦争に参加していた相手。
お姉さまの死、否!!!
お姉さまを殺したクソ豚の存在を!!!!
その日の内に病院を抜け出した私は風紀委員の詰所に走った。
食事もまともに取っていなかったので、目の前がクラクラしたけれど、回復を待つような悠長なことは出来ない。
だって、今日まで何もしなかったのだから。
お姉さまを殺したクズの存在を数日も見過ごしたいたなんて許しがたい!!

詰所にいたのは可愛らしい顔をガーゼで覆った友人。
私の姿に驚き、怯える彼女に『お願い』をした。
ここ数日の学園都市で起きた以上についての調査を。
かなり違法な手口ではあるけれど親友は『快く』引き受けてくれた。
持つべきものは友だとそう実感した。
親友から得た情報を元に、学園都市を飛び回った。
隅から隅へ。
時に聞き込み調査をしながらどうにかクソ豚の存在を追い回して数日。
私はついに見つけた。
お姉さまをどうしょうもないくらいにブチ殺してくれた豚を。
その豚を私は今―――。

”ごりぃっ!”

「ぅごぉっぇぇえ!!!」

―――踏みつけている。

「醜い声ですの」

手足に刺してあげた金属矢のせいか、まともに動けもしない豚は、デコボコで醜い顔面を化け物みたいに揺らして汚い口からドブみたいな血反吐を垂れ流していた。
見ているだけで不快になる。
汚物を殴ったせいで潰れた拳の痛みも合わさって立っていられない不快感。
そして、いくら痛めつけても晴れない私の心。
この行為の無意味さは始める前から理解していた、だけど―――。

「この豚に殺されたお姉さまの痛み苦しみ無念おぞましさ少しでも味わっていただきたいですのっっっ!!!」

”ごっぁ!”

「んぶっぁ!?」

踵を使って精一杯体重を込めた踏みつけて外も内部もグチャグチャにして行く。
死にたいと思っても死なない程度にじっくりじっくり命を端から刻み殺す。
それが私の出来る唯一のお姉さまへの手向け―――。

―――そう信じて。
……………………。
…………・
……。

……。
…………。
……………………。

「あっ! がっぁ! おっぁ! うげぇぇええええ!!!」

内臓を直接踏みつけられているような痛みに血混じりの泡を吹きながら考える。
この少女を、この敵を私の手で●す方法を。
セイバーを呼び、排除するのではなく。
みことを●したように、この手で。
手は―――。

―――動かない。

杭がいくつも刺さり、痛みすらどこかに消えてしまっている。
ただ身体から生えているに過ぎない。

足は―――。

―――動かない。

こちらも杭が刺さりに刺さり、まともな動きは期待できないけれど、それでも手よりまし。
痛みの脈を感じることが出来るから、上手くすれば動かすことも可能だろう。
身体の各部位を非常に冷静な頭でチェックしていく。
相変わらずジリ貧状態。
ギリギリの瀬戸際の戦い。
たまには華麗に勝ってみたい。
いや、泥臭くても誰かが認めてくれる、そう、とうまみたいな華のある勝利を納めてみたい。
誰かの為に血を流し、その血で誰かを導く。
光り輝く英血の勝利を私の手に欲しい。

”ごずっぅ!”

「んっぶっぼがぁぁあ!!!」

「まだまだ元気は有り余ってらっしゃるようですの」

だけど、多分そんな栄光の勝利は私には似合わないのだろう。
だから、どこまでもギリギリで。
地べたを這いずるように、ドブから拾うように!!

――――――勝利をこの手に!!!!!。

決意は一瞬。
行動に移れば決意はその瞬間に過去の分岐点に。

「おっぁ…………ふぅぅぅう…………」

痛む喉を無理にこじ開ける。
四神八卦の呼吸に従い無理矢理体内に気を取り込む。
潰れかけた目で少女が足を持ち上げ、再び振り下ろすタイミングを見極める。
ボロボロの身体、動く場所を限界まで、使える場所を擦り切れるまで。
どこまで行っても肉体はひとつ。
それがどこまで傷つき動かなかったとしても、それは一個の命。
燃え尽き、輪廻の流れに飲まれるまで常世の謳う鳥。

生きているのだから不可能なんかない!!!

”すっ!!”

「ふっっっっっっ!!!!!」

呼吸を整え、急ごしらえの丹田気。
さっきから狙ってくるのは鳩尾、そこが一番的確にダメージを与えられる場所だからだろう。
そこにしか攻撃が来ないと言うのなら、それを防ぐのは簡単極まりない!!

”ごっ!!”

「は、な、きゃ?!」

「ぐふっ!! かはっぁ!!」

溜めた気を一気に放出、踏みつけに対抗する勢いで、私の”内部”から衝撃を加えた。
無論急ごしらえの気と物理的な踏みつけでは、相殺は不可能だったけれど、相手は不意をつかれバランスを崩した。
気の放出、しかも比較的簡単な掌ではなく水月付近からの発勁に体内の気流乱れ口から血が噴き出た。
だけどそのおかげで血反吐が詰まった喉が完全開いた。
相手は少しバランスを崩しただけ、数秒の猶予もない、痛みを振り切る。
気流の荒れ狂う身体を無理に動かす。

「基本骨子、解明、媒体接続、強化開始!」

幸いにも血を流しに流したおかげで触媒には事足りない。
何とか動く指先でまずは片手の強化。
骨軋み、筋肉が震えだす。
その手で手早く手足にも同じく強化を施していく。
骨の強度を引き上げ、筋肉の動きを無理に倍化。
関節強度も強化して、死にかけの身体を無理に戦闘仕様にまで拵えた。
ここまでざっと4秒。
それでもまだ身体は横たえたままだ。

「こっのっ!! 死にかけの豚が何をしたんですのっっっ!!!!」

やられるだけの弱者の反撃に激昂した彼女はさっきまで以上に足を高く上げた。
多分踵落としをぶち込むつもりなのだろうけれど、それは失策だ。
さっきまでの踏みつけより断然攻撃予兆が大きく、予備動作に時間がかかる技なんて見切る以前の問題だ。

”ずしゅっ!”

強化された手、指が千切れかけている汚らしい手で反対の腕に刺さった杭を引き抜いた。

「なっ!? ま!」

それを私に向かってくる足に突出し―――。

”ざしゅっ!!”

「ぎゃぉぁぁああああ!?!?!?!」

「―――反撃、開始、なんだよ」

悶える敵の前に、血を滴らせ立ち上がった。
命と命のぶつけ合いを始める為に。

今日はここまでです。

乙ですの


しっかし、出るキャラ出るキャラやべぇな
血み泥バトルが巧すぎでしょ

鮮やかな反撃過ぎてなぜここまでボロボロにされたのかが謎に思えるレベル

泥臭く熱い展開… この戦争の後インちゃんどうなってまうん…?

投下します。

「あっぁ、ああああぁぁああ!! ぐっか!? ご、この、豚ぁぁああ!!」

「ふっ! ふぅぅううううう!!」

振り下ろされた足にカウンターで杭を刺してその場から一気に距離を取る。
強化の魔術で無理矢理動かしている手足は軋みを上げ、骨が端から削れていく。
その痛みを呼吸で何とか緩和して、ギリギリのラインで倒れることを踏みとどまる。
自分の杭を足に貫通する勢いで刺された少女は出血部位を抑えて、獣さながらの目で蹲りながら睨みを利かせる。
その眼に純粋に恐怖を覚えたけれど、それだからと言って止まる訳にはいかない。
止まれない止まらない止まる気なんてない。
みことを殺したときににじみ出た黒い黒い何かが出てきたから。
私の身体のどこかで蓋をして見ないようにしてきた黒くてドロドロして熱くて、それでいて大きな何かが湧き出た湧き出た。
もう蓋は無い。
蓋を閉められない何も出来ない、きっとこの黒いものは私を覆い尽くす。
それでも良いんだ。
この戦いを勝つためには、聖杯戦争を終結させる為にはこの黒いモノが多分必要だから。
身を任せよう黒い流れに。
押さえつけるのは止めよう、蓋もいらない。
これは私が生み出した私―――いや、私の中にあったものだ。
この黒いものは私だ。
だとしたら、文句なんかない。
全身全霊を持って戦う以上、これも使わなくてはいけない。

”がりっ”

「!? あなた、な、にを?」

”ぐちゅ、んぐ、ごりっ、がり、もぐ、んが”

「ごくんっ」

片手、一本の千切れかけの指を齧り、噛み砕き飲み込んだ。
意味なんてない、威嚇でもない、ただ何かに牙を立てたかった。
鬨の声、スタートホイッスル、よーいどん。
ただ、それだけ。
動き出すための最初の一歩、それが牙を立てること。
飲み込んだ自分の指。
長さが半分ほどになってしまった残った指。
気味が悪い物を見るようにこちらを見る敵。
ああ、何かが回っていく世界が回っていく。

戦争だ戦争だ戦争をしよう戦争だ。
意志のぶつけ合いなら決闘で。
命の削り合いなら殺し合い。
戦うことに意義があるなら闘争で。
大義があるならそれは戦争だ。
私にはその大義がある
誰より大事なあの人を救うための大義がある。
何より大事なこの思いが胸にしっかりとある。
だからこれは戦争だ。
そして敵にも大義はある。
大事な人を殺された復讐。
十分だ、十分以上の大義だ。
十分以上の戦争だ。
これまでに無いくらい純粋な戦争だ。
大きさじゃない規模じゃない、これが戦争だ!!

「べっ! ふっ!」

”びちゃっ!”

地面に血と痰と肉のカクテル吐き出すと同時に駆け出す!
強化された、金属の杭がこれでも可と刺さりまくった手足を全力駆動!
血を撒き、滴らせながら短い距離を一気に詰める。

「っ!」

敵は急激な反撃にまだ迎撃の準備が整わないのか、杭の刺さった足を庇いながら一歩引いた。
その動きを見ながら、等速で進む世界を置き去りにする速度をで脳内を回す。
今までの少女の動き、そして何より転移魔術のような動き。
その場から一瞬で消え去り、瞬きの間に違う方向より現れる、おそらく超能力の一種。
それを読み切らねば勝利は難しいだろう。
さて、どうする、さてどう読む?
体調万全ならば、実験的な行為も可能だったけれど、自業自得に現在満身創痍。
多分長引けば普通に死ぬ状態だ。
下手な衝撃はその時間を縮めかねない。
と、なると推測予測考え未来計算。
少ない、少なすぎるデータをもとに彼女の能力、行動パターン、思考ルートを読み切るしかない。
難しかろうがやるしかない、殺るしかない、殺るんだ。

今までの行動データから、能力の詳細を予測。
彼女が起こしてきた減少、それは転移、瞬間移動、そう呼ばれる類の能力だろう。
その最大移動距離は、おそらく30m以上だ。
このビルまで一瞬で私を運んだことを考えれば、そのくらいが妥当。
重量に関しては私の体重より上、もしくは制限などないのかも知れない。
そして限度回数はおそらくある、だけど、それはかなり多い数値だろう。
転移なんて言う秘匿神秘でも届かない奇跡のような行為を繰り返しながら、彼女には目に見えた疲労はない。
だけど、繰り返す度にほんの、ほんの微かだけれど疲労が蓄積されているように見える。
肉体的な疲労と言うよりかは連続的な思考回転の末の疲労という感じだ。
それ故に読みにくく、なにより限度の予測が難しい。
次に能力の発動に必要な距離は、おそらく接触だろう。
彼女自身の転移以外、私と手足に刺さる杭だけれど、それぞれ触れた、手に触れた状態から転移させられた。
これが手、なのか、それとも肌に触れた場合によるのかの読みはまだ不明だ。
だけど、おそらく手が一番やり易い、やり慣れているのだろう。
超能力は、個人の能力の延長と言う話をこもえに聞いたことがある。
それはつまり一定のルールと縛りがあるはず。
彼女の場合は『手で触れる』これがそのルールに当たるのではないかと予測できる。
と、なれば、警戒すべきはその両手だ。
そして重要なのは集中を乱すこと。
彼女ら、超能力者の能力行使は事象演算によるもにらしい。
だとしたらその演算には集中力を要するだろう。
私は学園都市の開発を受けていないから、その集中の練度が読み切れていない。
能力を起こす為の集中が、少し考える程度、もしくは無意識化の公式的数式のように、掛け算九九の答えの用に計算する間もなく弾きだされるのか。
それとも、難解な問題を紐解く様に、頭をひねり、頭脳を総動員させるものなのかはまだ知らない。
これもまた勉強不足、幸せな、守られる位置に甘えていたからこそ胡坐をかいたツケだ。
この街で戦う、この街で生き抜く為には必要なハズの知識。
それらを私はあまりにも知らない。
だから、変わろう。
この体内を踊る黒い流れに乗って変わろう、どこまでも。

――――――以上思考終了。

以下行動開始――――――。

「ふっ!」

接近。
まずは接敵!
こちらに有効な遠距離攻撃能力はなく、相手には30m以上の遠距離攻撃がある。
だとしたらまずはどこまでも近づいていくしかない。
腕力や脚力ならば、強化魔術を施しているこちらに部があるだろう。
技術、格闘の知識ならば頭の中にいくつもある!

「っぁ!!」

「なっ!?」

”びちゃっ!”

まずは腕を大きく振るい、流れ出る血液を顔に飛ばす。
それと同時に一気に体勢を低く、獣のように這いつくばり―――。

「ぉっ、こっ、目つぶしなどっ!」

「ふっ!!」

”ごっ!”

―――手を床につき、そこを軸にした水面蹴り!

「ぎっぁ!?」

目つぶしで視界を奪い、即座に予想外の位置からの蹴り。
これにより相手の集中力思考力を削ぐ―――しかも!

”ずぶっ!”

「ぎぃいい!?」

「ぐぅうう…………!!!」

私の足は現在杭のせいでスパイク状態。
威力は減少しても苦痛は倍増以上!
一本の杭を相手の足に移し替え、そのまま転がるように後退をする。

「ふぅぅうううぅう……………………っ」

杭の抜けた部分からの出血は少ない。
良くない傾向だ。
血液全体の量が減り、圧力が低くなってきている。
呼吸も浅く速くなっている、だけど肺が苦しい。
酸素が回っていないんだ。
やっぱり時間がない、どこまでも時間が無さすぎる。

「こっ……………………」

足に二本目の杭を刺された相手は蹲り、血液の付着した目元を拭っている。
この距離感、再び接近!
震える足でさっきと同じように距離を詰める。
血が落ちるより早く。
地面に紋を刻むより前に!

「…………基本骨子解析・強化開始」

血に塗れた腕を振りかぶり、血液を飛ばす。
狙うのはさっきと同じく顔だ。

「っ! 何度も同じ手が―――」

向こうもそれなりに心得はあるようで、直ぐに顔をの前に手を配置した。
血液、液体の防御、としては十分だろう。
『液体』の防御としては。

”ざくぅ!”

「―――は、ぎ?! ああああああああ!!」

血液の強化、硬化凝固作用の強化により、血は液体から固体、礫に変わる。
それを高速で振りぬけば、女の子の柔肌には十分以上に刺る。
だけど死ぬほどじゃない、命に係わるほどじゃない。
ただ一瞬思考の邪魔が出来ればそれで十分だ。
相手の能力は強大だ、でも、それを行使されないように戦えば―――。

「it is the same as ascarecrow」

―――案山子と一緒だ。

強化した拳、凝固した血液を纏わせたそれが少女の鳩尾を打貫いた!!

今日はここまでです。

>>578
中々華々しい勝ちは難しいですね
格好よくびしっと勝ったりも好きなんですけど

おむつは好きです

>>579
ああ、そう言う需要もあったんですね

>>580
結構漏れます

>>582
これくらいは結構漏れるそうですね
自動車事故、軽いものでも結構な確率で出ると聞きましたし
私も出ました

>>583
なるほど、そんな側面もあるんですね

>>584
若い内からそれなら素敵ですね

>>594
しめ鯖


>>595
少しハード路線に行ってます

>>596
ありがとうございます、励みになります

>>597
そうですね、結構とあるもfateも一体一だったり、順番に戦うことが多いので組み合わせてみました
level5と、それ以下の開きが有りすぎるから仕方ないんでしょうね

>>598
今の所はそこは悩みどこですね、直で出すか、一枚挟むか、みたいに

>>607
ありがとうございます、レスがつくと嬉しいです

>>608
少し、ノーマルな方が少ない状況ですね
血みどろは、趣味です

>>609
悩んでいた状態ですね
関係ない相手をやってしまって良いのか、って

>>610
どうにかなってしまうかも知れないですね


サーヴァントはstaynightキャラなのに
話はzeroみたいにどろどろしてるな

ウェイバーたんポジの人がいないからzeroよりきつい

サーヴァントよりインデックスの戦いっぷりが読んでて楽しい
fate本編だとマスターvsマスターとかあんまりなかったから

投下します。

「ごっぁがっ…………」

「…………ふぅうう」

敵の鳩尾を的確に付いた拳。
強化で筋力を底上げ、そして凝固させた血液のグローブをしての一撃。
それは細く小柄な女の子の戦闘能力を補ってあまりある一撃だ。

「おえぇえおぶげぇぇえっ!!!」

”びちゃっ! びちゃびちゃっ!”

吐き出される胃液。
内容物の無さから、数日食事も採っていなかったことが予測できる。
だけど、それは何の感慨も私に与えてくれない。
私は与えなくてはいけないから――――――。

「じゃあ、殺すね」

――――――確実な死を。

”べきぃっ!”

「ごっぁ!? ぎぃいい!?」

蹴り。
強化した足、血が流れに流れ、穴だらけの足で相手の脛を容赦なく砕く。
それに伴い、こちらの足も同じく砕ける。
相手は跪き―――。

―――私は立っている。
骨が砕けても立てる。
意志の力?
違う。
これは欲望の成したことだ。
この戦いに戦争に勝ちたいという欲望の表れだ。
欲望があれば人は、人体は、簡単には屈しない!

屈しない折れない曲がらない。
自分がその域に達していれば。
相手を屈させ心を折り骨を曲げる程度簡単だ。

”ごぎぃ!!”

「ぎゃっがっぁあ!??!!??!」

蹲ってる相手の足を踏みつぶす―――。

”ごぎりぃっ!”

―――念入りに。
この少女の瞬間移動能力を侮る訳にはいかない。
だから死の淵ギリギリまで油断せず、油断のないまま殺す。
嬲るような形になってしまっていることには凄く詫びたい気持ちはあるけれど、それも今やどこか遠い感情。
私の中に渦巻く黒い何か以外は全てが遠い。
暴力的な感情ではない。
相手を痛めつけてそれに快感を得るとか、人を壊す言い訳の感覚ではない。
ただ、黒い。
ひたすらに黒い何かが私の中に存在して、今やそれは毛先にまで通ってしまっている。
感覚のない指先にもその黒さはめぐっていた。
冷静に冷静に、感情を遠くへどこかへ。

”ごっ!”

「あぶっ!?」

後頭部に蹴りを入れ思考を鈍らせる。
続けて踵で側頭部を斜めから蹴り、脳みそを揺らす。
どんな人間でも脳が揺れてる状況で思考なんか出来やしない。
考えることが出来なければ超能力の発動は起きない。
その瞬間を狙い、肩を踏み抜く!

”ごぎぃ!!”

「ぁっ! おごぉおおお?!?!」

容赦なく体重をかけ踏み抜くと、足に刺さっていた杭が一本抜け落ちた。
そして容赦なくグリっ! と回転をかけ、関節破壊!
こいつの能力の発動形式から考えて腕の破壊は迅速に!

「ふっ! ぐっ!」

掴まれる訳にはいかない、もし彼女の能力で中空に瞬間移動させられたら間違いなく必殺の一撃になるだろうから。
その為には―――!!

”ずりゅっ!”

「ぐっ!」

―――手から一本杭を引き抜く!
それを強化した腕力で微かに曲げて、彼女の細い腕に振り下ろす!

”ざくっ!”

「ぎぃっ!?」

腕に刺すと同時に捻り、曲がった杭をフック代わりに腕を持ち上げ、肌に、腕に触れないように気をつけながら―――。

”べきぃっ!”

「あっぁがががががががああ!!!」

―――肘を破壊する!
痛みで脳を麻痺停止させている間に両足と腕一本の破壊。

「ふぅ…………」

ここまでやれば相手は芋虫。
だけど同時に、ここまでやってしまえば相手はもう引っ込むことはなくなる。
この時点で戦意の喪失が無ければ一番危険な状態。

「あがっか、かはっ! い、たぃっ、腕が、足が、ぁぁあああ!!!」

「……………………」

うつ伏せのまま碌に動かない手足をジタバタさせながら泣く姿を観察する。
彼女の次の行動を予測、そして最後の一撃の為に。

「痛いっ、いたいぃっ、お姉さまっぁ! おねえさまぁ…………」

嘆く小さな少女を見下し、震える小さな背中を見つめる。
復讐の為に削りに削った心が折れたかのように、涙を流し続ける哀れな姿。

「っ」

その背中に、そっと手を伸ばした。
……………………。
…………。

足を折られた、足を折られた。
頭を蹴られた、頭を蹴られた。
手を刺され、更に腕を壊された。
念入りに執拗に、白い修道服を着ているのに黒く見える豚女に壊された。
お姉さまを奪われた復讐に来たはずが、気付けば地面を這いつくばる。
しかも、しかも、しかも、一度は殺す寸前までいった相手に、だ。
友を殴り、使い捨て、矜持すら唾を吐きかけやってきた先でこの滑稽さ。
涙はいくら出ても足りない。
泣いても泣いても心はまったく晴れず、ただ涙の分だけ空しさが蓄積していく。
この胸の苦しみ、もし転げまわれたら少しは軽くなるのだろうけれど、手足がこれではそれも出来ない。
そんな私に何を感じたのか、豚はそっと優しげですらある所作で手を伸ばしてきた。
最初私に殺されようとした、投げ出すような優しさの手を―――――――――。


―――――――――狙うっっっ!!!

残ったのは片腕だけ?
それで十分!!
演算は既に終了している、この醜い豚足を掴み、上空80mまで空間移動させる!
嬲り殺せないのが心残りではあるけれど。


          殺す。
……………………。
…………。

「っ!」

”すっ!”

ノールックで迫る手。
折っていない片方の手が血で湿る私の手に迫る!

「くっ!」

だけど不意打ち気味とは言え、手を後ろに回す動き、どうしても遅くなるのは必然だ。
こちらの身体も万全とは言えなくても強化魔術は施してある。
感覚は途切れていても思考の内側で動かせる。
この速度なら―――。

―――躱せる!!

手首辺りを狙って伸ばされた手を、間一髪で躱す!
もし掴まれていたら今頃私はトマトのように潰れる準備をしていたころだろう。
でも、躱せた! 躱すことが出来た!
相手の一撃、必殺を躱す!
と、言っても伸ばした手を引っ込めただけではあるけれど。
躱したは躱した! これで―――。

”すっ”

「っか、つかまえましたわっ!!!!」

折った、壊した方の腕があり得ない角度から足へ伸びてきた。
最初の腕はフェイク、こっちが本命だったのだろう。
躱した瞬間の油断、一瞬の隙をつく必殺。
鎧の隙間を通す針の一撃!!
心の油断をつく毒蛇のような一撃!!




「これでガス欠だよね」

「え? あ…………」

”すかっ”

伸ばされた必殺は私の服にすら掠らない。

―――これでこれでガス欠、終了、おしまい、幕引き。
隙を狙っての攻撃、最後の最後を躱しきれば、今度は相手の心が隙だらけ。

「基本骨子解明―――」

絶望の淵をのぞく様な目でこちらを見てくる、もう何も残っていない少女。

「あ、ああ、おねえさ――――――」

「―――強化、開始」

その少女の首めがけて、自分の肉体崩壊も顧みない強化を施した足を―――。

”ごぎぃっん!”

「――――――まっ!!!」

―――振りぬいた。

”ごどっ!”

少女の首があらぬ方向に曲がる。

      ”ぼぎぃっ!”

それから数秒置いて、私の足もあらぬ方向に曲がる。
だけど、それでも、何でも、どんなでも。
立っているのは私だけ。

「殺されて上げれなくてごめんね」

大義のある戦い。
戦争はそうやって一つ終わった。

今日はここまでです。


とうとう黒子もやられたか・・・
こりゃ上条さんが見たら発狂ものだな

インデックスは「ヨハネのペン」は発動出来ない設定なの?
死にかけたりした時は自動で発動じゃなかったっけ

ふと思ったけど、これもしかして、初春死んでね?

>>619
とあるの空気感がないですが、個人的に好きなノリなんです

>>620
ウェイバーポジションは、いないかもですね
インデックスの孤軍奮闘になってますから

>>621
そうですね、あんまりマスターvsマスターは……
士郎vs慎司
士郎vs葛木
くらいでしたっけ

>>629
上条さんがいないとぐちゃぐちゃですしね

>>630
首輪が破壊されてるから、発動はないのかなぁ、と個人的に
覚醒パワーアップとしてやろうかなとも最初は考えたりしてました

>>631
ノーコメントで

ギャップで行けば行けるんじゃないでしょうか?
血みどろな彼女の弱い瞬間とか、彼女の帰る場所に

「ぼかぁ、あの娘の鞘になってあげたいんよ」

みたいなの格好良いですし

投下します。

「ぜっはっ、あっ、あ…………」

名も知らぬ少女の首を蹴り折った直後。
強化の魔術の効果切れと同時にコンクリートの床に倒れこんだ。
全身に損傷はもはや数えるのもバカらしいレベルだ。
何より血の流し過ぎで、命の揺らめきすら危ない。
呼吸は乱れすぎて、空気の吸い方さえ曖昧になっていく。
目の前はとっくに暗く、だけど少し赤く、これが地獄と言われれば信じそうな色をしていた。

「じご。く…………色」

―――地獄色。

その色を瞼に写したまま、動けずにいる。
聞こえてくる音はおそらくセイバーの戦闘音。
破壊の音、鳴り響く中、動けず動けず、このまま命が燃え尽きる寸前を彷徨う。
人一人殺した後だというのに、心に波は立っていない。
これから自分自身が死ぬというのに、心は何も動じていない。
ただただ私の内面には黒い海が広がっている。
その海に一人どこまでも沈んで行く。
このまま沈み[ピーーー]ば、少しは罪を贖えるのだろうか?
欲望の為に踏み台にした者たちに許しを乞えるのだろうか?

「ぁ……………………ぁあ……………………」

声も出ない。
出ているのは漏れてる呼吸音。
身体の感覚もなくなった。
目には地獄色。
ゆっくり沈み、沈み死する。
内面の海にどこまでもダイブしていく。

ああ。ごめんね、とうま…………。

とうまを助けたくて、私、人を殺したのに。

ごめんね、ごめんね、あなたに人殺しの理由を押し付けて―――。

―――ごめんね。

……………………。
…………。

…………。
……………………。
「ソレ」が召喚されて初めて見た光景は血に伏したゴミ寸前の少女だった。
元は白かった修道服をどす黒く染め、足をあらぬ方向に曲げて、異臭を漂わせ血の海で寝ている少女。
少女はほとんど死んでいた。
生きているというより、死んでいないだけ、その程度。
それを無感動に見ているうちに、どうしてか身体は自然に動いていた。
この誰からも見捨てられた救いようのないゴミのような少女を抱き上げ、まだ意識と目的がはっきりしないまま、飛んだ。
血が流れ出たせいか、それとも元から軽いのか、塵ほどの重さを腕に、何よりも速く動いていた。
多分、これが最初で最後の自由な意志であるのは存在した瞬間から理解していた。
他の使い道もあったと思う、だけど。
どうしてか―――どうしても。

この少女を死なせてはいけない。そんな気がした。

……………………。
…………。

「はぁっぁあぁああああ!!」

”ぎぃいん!!”

「ぎゃっか!?」

不可視の剣で少女の腹を斬りつける。
しかし、その一撃は同じく不可視の鎧によって防がれる。
何度も繰り返した攻防。
大げさに吹き飛んだ彼女は直ぐに小柄の身体を立て直し、光の槍との連携に備える―――。

「む………………?」

―――はずなのに。
彼女は倒れたまま動かない。
さきほどまではどれほど斬りつけようが、その”自慢の鎧”を以て立ち上がってきたのに、ピクリも動かない。

「…………どうした、終わりではないのだろう?」

それでも構えの油断は解かない、解けない。
今この瞬間にもバネ仕掛けのように立ち上がってこないとも限らない。
次の瞬間にも光の槍が広域を焼き尽くさないとも限らない。
だから緊張の糸は少しも緩めない。
下段に構えた剣。
やや前傾姿勢。
死線はどこを見るともなく見渡す。
いつどの瞬間、どの方角から、どこからでも対応できるように。

「…………………………………………」

動かない。
少女は動かない。
あれから呼吸にして45は置いた。
だけれども、少女は倒れたまま動く気配も見せない。
いくら緊張を解かないにしても限度はある。
それでも、もし解く瞬間を狙っている、そう考えれば警戒体勢は解けない。

「…………………………………………」

呼吸は深く、視線は彷徨わず。
肌で風を感じ、瓦礫の崩れる些細な音と、通りから聞こえる喧噪の隙間の音に耳を澄ませていく。
攻撃を仕掛けようとする予兆。
その隙間の音を必死に探していく。
幾度の戦場を乗り越えたが故に手に入れた第六感とも言える”耳”

来る、来るはず、どこから狙っている?

「……………………………………………………」

”耳”を澄ましていく。
遠くの一かけらの音を掬おうと、どこまでも耳を伸ばすが。

「……………………」

聞こえてこない。
倒れた少女は倒れたまま、あれだけ執拗に降り注いだ光の槍も無い。

「ふぅぅううう……………………」

一息。
深き深い呼吸。
そして剣握り手を緩める。
前傾だった身体も直立に戻す。

「……………………」

それでも何も聞こえてこない。

「終わったのか、これで?」

戦場の耳はゆっくりと普段の耳へ戻っていく。
聞こえてくるのはこの戦闘に騒ぐ者たちの甲高い声。
既に空気は戦場ではなかった。
あまりに呆気ない幕引きに戸惑いは覚えるが、戦場に拘っている訳にもいかない。

「…………」

敵が退いたのか、それともインデックス光の槍を対処してくれたのか、それは不明。
それでも―――。

「処置はしておきましょう…………」

―――することはしておかねば戦いは終わらない。
倒れた少女の元に歩み寄る。
その間は再び緊張を纏う。

「……………………これは?」

「ぁ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。ぁ」

仰向けに倒れた少女は左右の目をそれぞれ有らぬ方に向け、呆けたように開いた口からはヨダレを垂らしていた。
異臭から、排泄物を垂れ流しているのも感じられた。
さっきまで勇猛果敢に戦っていた少女とはまるで重ならない姿に流石に面食らってしまう。
打ち所が悪かったか、それともまた別の理由か。
インデックスがいれば推測もしただろうけれど、今ここに彼女はおらず、そしてこのまま敵を放置する訳にもいかない。
だから―――。


「良い戦いでした、あなたの名誉は私が果てまで持って行くことを誓いましょう」

”ざしゅっ!”

―――何一つ躊躇うことはなくその首を刎ねた。
既に不可視の鎧は消えてなくなっていたようで、抵抗なく可憐な顔は転がった。

「…………」

剣を振るい、血を飛ばす。
最後に祈りを捧げ、彼女の魂の在り方を慮った。
それだけでもう彼女のことは終わった。
戦い、勝利し、止めをさし、そして弔った。
これ以上のことは線上にはない。
だから後は振り返ることなく、その場を去るだけだ。

「インデックス、今どちらへ? インデックス? インデックス!?」

終わった戦いよりも重要なことは既に起こったのだから。

…………。
……………………。

「骨折、打撲、失血、意識不明…………重体だにゃー」

「…………くっ! 私が、あのような相手に手間取っていたから!!」

病室。
いくつもの点滴やチューブが取り付けられた銀髪の少女は生きてるのかどうかすら判別不可能なくらい生気がない。
機械によって刻まれる鼓動だけが彼女が生きている証明。
包帯だらけの身体、可憐な顔はガーゼで覆われ歪に歪んでいるのは見て取れる。
誰かと戦い誰かがここに運んで来た半死半生の少女。
その少女の左右にはジャージ姿の少女と、アロハシャツの少年。
一人は悔しさに拳を握りしめ、一人は口元にだけ笑みを浮かべ瞳の色は恐れるほど深い。

「戦い終われば病院、どーにもかみやんに似てきちまったにゃー…………まったく」

「かみやん…………それがインデックスが”ここまで”する方、でしたか」

「ああ、そうだ」

「その方は、まだ見つからないのですか?」

「ああ」

二人の会話は短い。
それぞれの思惑を言葉にせず、口の内に留めているから。
セイバーは迷っていた。
あの朗らかな少女がボロクズのようになるまで戦うことに、迷っていた。

願いの為に全てを擲つ。

それは言葉だ。
言葉でしかない。
だというのに、この少女、インデックスは狂ってるかのようにそれを実行している。
呼べば良い、自分を呼べばここまで傷つくことはなかったのに。
なのに、彼女は”擲った”のだ。
その事実にセイバーは歯を食いしばった。

歯を食いしばり、後悔と自責の念に囚われているセイバーを見ながら元春は天井に視線を向けた。

「かみやん、やっぱりお前は凄かったんだにゃー」

ここにいない、少女の”ヒーロー”を想う。
学園都市の外、どこともしれない場所で生きてるのかすら不明の上条当麻。
彼がいればきっとこの戦争がこんなことにはなっていない。
それはきっと間違いではない。
きっとこんな戦争なんか起きてすらいなかっただろう。
でも、起きてしまった。
そしてそこに投げ込まれた少女がこれだ。
一歩、半歩の差で生きているだけの少女。

「ここまでやってもまだ終わらない、んだよな」

願いの為の道はまだ続く。
まだまだまだ、終わるまで続いていく。
戦争はまだ終わらない。

「嫌なもんだにゃー」

今日はここまでです。


いったいナニが召喚されたんだろ?


容赦なく最愛ちゃんを(;_;)

おもすれー、一気に読んでしまったwwwwww
これ償還されたのはアサシン?
まだ出てないのはそれだけだよね


絶対まとめ乗るわ、これ

投下します。

「それで今後の方針は決まってるのかにゃー?」

「方針、ですか…………」

病院の外、コーヒーとサンドイッチとおにぎりと焼きそばパンとアンパンを買って貰った私はベンチに座り、街灯に背を預けるモトハルに視線を向けた。
…………この者の思惑が今一読めません。
マスターの知己であるようなのだけれども、彼女が傷つくことを止めようとする素振りは見えない。
友の意志を尊重しているかとも思ったけれど、どうにもそういう感じでもないようだ。
どこか暗い色の少年、そのサングラスの向こうの目を覗きこむが、何も得ることはなかった。

「…………インデックスが行動可能になりしだい、キャスターを討つべきと私は思います」

おにぎりを一口頬張り、視線を外し思考を会話に切り替える。
ここで彼の人となりを確認しても意味はない。

「まぁ、残るサーヴァントはランサー、キャスター、アサシン、バーサーカー、確認出来ていないのはアサシンのみ、となるとこの中で討つとすれば、キャスター、か」

「ええ、キャスターは時間があればあるほど策を厚くしていくでしょうから」

そう、他のサーヴァントと違いキャスターの厄介さは戦力ではなく知略にある。
陣を敷かれ、神殿を建てられでもしたらそれは詰みに近い。
どんな英霊が召喚されたかにもよるけれど、準備の完全に整ったキャスターを崩すのは容易ではないのだ。
今回、私が人間相手に苦戦をしたように、キャスターの暗躍は脅威だ。
それにこの街には能力を持った人間が多数存在しているから、それらを手ごまにされれば更に脅威は増す。
キャスターは街中に魔法陣を描いているようで、空気が明らかに変わりだしていた。
敏感な者なら魔術の素養なくても違和感を覚える程度には空気が淀んでいた。

「手早く頭を叩き潰し、策ごと葬るのが手っ取り早いと思います」

「確かににゃー、この空気が尋常じゃないからな」

そう言うと彼は街灯から背を離し、匂いを嗅ぐように鼻をヒクつかせた。

「きな臭い事件が起きてるみたいだにゃー」

「…………あれは」

彼の見上げた先を私も見れば、巨大な飛行船の腹にかけられた電光掲示板に。

『集団衰弱死事件発生 柵川中学校の生徒103名が―――』

と、事件発生の報せが流されていた。

「集団衰弱死……………………キャスター、でしょうか?」

「だろう、な」

魂悔い、ライダーが行ったのと同じもの、似た方向性のものなのだろう。
戦争が、戦火が広がっている、それを感じた。
聖杯戦争という火が、ゆっくり学園都市に燃え広がっていく、そんな感覚。
今までとは違う、完全に無関係な人間の死がそれを報せてくれた。

「さて、俺はそろそろ行くかな、インデックスによろしくにゃー」

「……………………ご武運を」

話すことがなくなったのか手をヒラヒラ振りながらモトハルは去っていく。
その背中、これから何かを成そうとしている気配に、ひっそり武運を祈った。
何を考えているか解らない者ではあるけれど、彼はインデックスのことを気にかけている、それだけは解ったから。

「………………………………食べてしまいましょう」

見えなくなるまで背中を見送ってから、食事を再開した。
次なる戦いに備えて。

…………。
……………………。
………………………………。

「なんだぁ! こいつは、本当に人間か!?」

「おっらぁぁぁあああああああああ!!!!!」

”がいぃんっ!!”

固いものと硬いものがぶつかり合う、芯に響く音が舞う。
夜の帳が十分なまでに落ち、月の明かりも期待できない操車場。
そこで踊るは魅惑的なダンサーでも、寂しいシンガーでもなく二人の男。
一人はボロボロの白い学生服を纏った超能力者、削板軍覇。
彼の拳が空気を押し切り、その踏み込みが大地を揺らしていく。
爆ぜるように砂利を撒き散らし、もう一人の男、赤い槍を構える痩身の英霊に立ち向かう。
その砲弾のような人域を遥かに超えた勢いをランサーは捌き、受け、そして―――。

「っ! あんまり調子に乗んなよ坊主っ!!」

「っ!!」

”ずぁぁあああ!!!”

―――攻撃に転じる。
赤い槍、彼を象徴するその魔槍が音を抜き去る速度で伸びる!
その速さは槍がブレて見えるなんていうレベルではなく、赤い閃光が走ったが如く。
周囲の空気が摩擦で焦げ付く様なその一撃は、槍の軌跡の下の砂利を数メートル先まで巻き上げた。

「っ!!!」

肝を冷やすような槍撃。
恐らく削板軍覇が今まで経験した中で最速にして最善の一撃。
それを彼はなんとか身を捻り躱していた。

「っがああああああああ!!」

躱した捻りを返すように拳を振りかぶる!
避けた瞬間の隙を突くは拳。
真っ直ぐ真っ直ぐ、狂戦士の肉体すら破壊した拳が迫る―――!!

「おいおい、槍が一撃の訳ねーだろ」

――――――が。

「!?」

”しゅざざざざざざっ!!!!”

踏み込もう踏み出そうとしたその一歩が地面に着く微かな間。
瞬き以下の一瞬であるのに、ランサーの青い身体から繰り出される赤い閃光が無数に繰り出された。
幾条もの赤い軌跡が軍覇の視界を埋め尽くす。
そのどれでが最速で、そのどれもが必殺!

「ぐっ!!!」

”ざざっ!”

「はっ…………随分大仰に退いたもんだな」

必殺の槍。
一本の槍が繰り出した結界のような赤い戦線から逃れる為に後方に跳んだ軍覇を面白そうに、嘲る色はなく槍兵は笑う。
槍を肩にかけ、一見リラックスしているような態勢でありながらその身から滲む闘気に陰りは一片も見当たらない。
それを肌で感じているのか軍覇も相手から視線を外すことは出来ず、ただただ立ち尽くす。

「お前が誰でどんな目的で俺に戦いを挑んだかは知らないが―――」

立ち尽くす少年を前に、獣のように体勢を低くしてランサーは再び槍を構えた。
獣の様でありながらもその気配は、その手にある槍のように研ぎ澄まされていく。

「―――お前が戦士である以上、俺は容赦の出来るような男じゃねぇ」

「っっっっ!!!!」

”じりっ”

静かな声。
脅すようでも圧するようでもない宣告。
だけれども、その身から伸びた槍のような闘気は確実に軍覇を貫いた。
相手は動いていない、槍も構えたまま、だというのに彼の足は更に半歩退く。

「っ! すげぇ、な…………」

「あん?」

半歩、歴戦の英霊の闘気に貫かれ、それでも半歩しか退かなかった彼は足を震わせながら呟いた。
新しい玩具を手にした子供のように無邪気な目で。
自分の世界が広がった実感に踊る少年の目で。
その拳を強く強く強く固く握り、目の前にいる強大な存在を見つめる。

「この前の黒い奴も凄かった、あんたもすげぇ…………」

「……………………こいつ」

ぶつぶつと呟く姿にランサーは微かにだけれども穂先を震わせた。
軍覇から感じる異質さ、自分たちと似ているけれど違う、ずれた感覚に緊張していた。
相手は人間、そのハズなのに、何故? という疑問を胸に奥にしまい槍の先を固める。
それにより強くなる闘気は再び軍覇を貫くが、今度は半歩さえ退くことはなかった。
ただただ喜びを押え切れずに震えているだけ。

「すげぇ、すげぇ…………こんなにすげぇ奴らが世界にはいたんだな」

溢れだしそうなモノを必死に抑え込もうとしているのか、震えは更に強くなっていた。
だけど、彼の押さえつける『それ』は既に彼の器を超えようとしているのか長くは持たないだろう。

一度扉の開いてしまった削板軍覇の力はもう世界に溢れだそうとしている。

「……………………」

その気配。
人間から感じるにはあまりに大きな空気に槍兵は静かに槍を深く構えた。
決して人間相手にするとは思えない最大級の警戒の表れ。
それでもランサー自身「これでも足りないかも知れない」と微かに冷や汗をかいていた。
それほどまでに目の前の少年は異様だった。

「かっ、かかかっ!」

そう異様。
そう巨大。
そう強大。
だからこそ青い槍兵の口からは笑みが零れる。
強き者との戦い、それのみが彼の求めているモノ。
それが十二分に満たされる予感に恐れではなく喜びで穂先が震える。
歓喜に身体が咆えている。
手も足も全てが今にも訪れる戦を待ち望んでいる!

「……………………」

「……………………」

向かい合う二人。
暗い舞台で開演の瞬間を待つ。
お互いに身に満ちた力の行き場を前にしか向けられず、心臓が早鐘を打ち、血液が高速で駆け巡る。

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………ぅ」

「……………………」

「ぅお、うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

”ばっ!!!”

兎にも角にも。

一頭が駆け出した!!

………………………………。
……………………。
…………。

「セイバー、おはよう」

「インデックス…………もう、大丈夫なのですか?」

嫌になるくらい白い病室で目を覚ました。
身体中が痒くて痛い。
顔を覆うガーゼによって視界は半分奪われてはいるけど、眼球自体はあるようだ。
片手の指の一本は第二関節付近から失われていて、手足は震える。

――――――でも生きてる。

目の奥を燃やしながら、とても可愛い服を着たセイバーに声をかけたら、状況把握を開始する。
生きてる限りは戦争が続く。
まだ私は生きている。
だったらこれからも戦争だ。
勝ち残るしかないのだから。
人の恨みを買い、悲しい復讐者すら容赦なく殺した私に、もうリタイアなんてありえない。
とうまを助けると言う大義名分を掲げ、突き進むしかない。
あやふやで、周りに責任を求めるのはもうやめよう。
私自身の意志で、絶対的に相手を殺そう。

「っ!」

「インデックス! まだ無理はしないでください! 死ぬところだったんですよ?!」

痛む身体に力を入れる。
それだけでバラバラになりそうな苦痛。
セイバーの優しい手で触れられている場所すら痛い。
そんな苦痛。
地獄のような苦痛だけど、それが良いんだ。
さぁ再び戦火に身を投じよう。
残る敵は4体。
大丈夫。
大丈夫大丈夫。
大丈夫なんだよインデックス。
もう覚悟は決まった。



次はもっと上手くやってみせる。

だから大丈夫なんだよ。

「インデック、ス?」

まるで不気味な物を見るようなそんな目でセイバーは私を見ていた。

今日はここまでです。

インさんもあれだけど、ソギーも別の意味で日常に戻れなくなるんじゃないか、これ

英霊相手のバトルの高翌揚感を覚えてしまったソギーはもう並の相手との闘いじゃ満足出来なくなりそう



柵川って、佐天さんとかの中学、だよな

その点は考えたくないところだな…

投下します。

”ばしゅぅぅううううぅうううう!!!”

「ふっ!」

暗い、嫌になるほど暗い夜の人気がない区画を走り抜け、降り注ぐ光の槍を難なく躱す。
いや、これを躱すと言うのだろうか?
相手が攻撃をする前の前にそれを避けることを躱すなんて言葉で片付けて良いのだろうか?

『右に二歩、そのまま前進、1.2秒静止して、さっきまでの75%その速度で左斜め78度方向に走って』

「………………………………了解」

マスターの言葉、敷かれたレールをそのままに走る。
言われたように、言われたまま戦場の流れてゆく。
ただそれだけで―――。

”ばしゅっ! ずがぁぁぁあ!!!”

「……………………」

―――攻撃の端すら私に掠ることはない。
あれほど恐ろしく強大な一撃もこれでは雨に劣る。
私の駆ける先の障害になることはなく、ただ通り過ぎていくような一撃一撃一撃。
一撃で大地を破壊する光の槍、そして隙を狙う兵士の数々、その全てを簡単に抜き去る。

「しししししし侵入者ははははは発見!」

「はははははははは排除かかかかかか開始!」

「っ! インデックス!」

左斜めに走り抜ける中、こちらの視界の一番よく見えるラインからまだ少年少女が複数現れた。
おそらく前回のときと同じ敵であろう。
見た目は少年少女であっても能力を持ち、こちらに害をなそうとしている敵。
この存在の出現すらマスターは予測していたのかと言うくらい見事な位置取りを走っていた。
そして私は指示を仰ぐ、今どこにいるかも知れないマスターへ。
私とは別行動を取りながら、移動している彼女へ。

もしこれが私一人であれば間違いなく殺していた、と思う。
敵に操られし兵士であっても、大願の為には切り捨てていた。
事実そうしてきたのが我が生き方。
だけど、マスターは、インデックスは人の死をそんな風に扱う人ではない。
自分の為に、願いの為と言い訳して切り捨てるそんな少女ではなかった。
だからこそこの聖杯戦争であそこまで傷つき、それでも立ち上がって来たんだ。
そんな彼女ならばこれを退ける術を策を持っているだろう。
そう信じて指示を仰いだ。
祈るように願う様に媚びるように。
マスターの底知れ無さに怯えながら、指示を待った。

「マスター……………………っ!」

…………。
……………………。
………………………………。
「インデックス!? まだ無理です! 寝ていて下さい!」

「ん、大丈夫なんだよ、もう、大丈夫なんだよ」

今からほんの数時間前の話。
数日間の意識不明を乗り越え、意識が戻って1日と少しだというのに、インデックスはベッドから下りようとしていた。
普通ならば三か月はこのまま入院が必要な怪我をしているのに、だ。

「大丈夫、骨も全部繋いだし、仮想骨子で補強もしてあるから」

彼女はそれから優しく微笑み「少し寿命削ったけどね」と言うと、何も言えない私を尻目に準備を始めた。
そう準備を、再び戦の準備をし始めた。
目を爛々と輝かせているその眼は、獣かなにかのようでありながら、夢を忘れぬ少年の光でもあった。
心に何か大きな火が灯ってしまったマスターを止めることが出来なかった私は、地図を数分観ただけでキャスターの場所を推測したインデックスの背中を追った。
彼女を守る騎士であるのなら、その前を歩き、如何なる困難から守る盾にならなくてはいけないのに、どうしてか前に出ることを躊躇ってしまった。
背中に恐怖を感じたまま進むことを無意識に拒否したのかも知れない。
英霊であり王であり騎士である私ではあるけれど、初めてただの人間にここまでの恐怖を感じた。
人は怖い、恐ろしい、未知であるとは解っている、解っていた。
何かきっかけさえあれば人は狂ってしまえることも知っていた。
だけど、その”知っていた”ことと照らし合わせてもインデックスは底知れなかった。
深い穴を覗き込んだような言い知れない恐怖を覚えた。

不器用ながら苦悩しながら、それでも立ち上がり進む。
その姿勢に共感し、その強さを尊敬した。
小さな身体のどこにそんな強さがあるのかと敬意を表したことすらあった。
人の死に苦しみ、何度も何度も自分を責める彼女を見て、何もしてやれない自分を悔いた。
そんな彼女のことを私は好きだった、敬愛していた。
守りたい、共に進みたい、間違いを正すことだけが目的の私ではあるけれど、彼女の夢に一助したい、そう考えてきた。
だけど、今の彼女はただただ恐ろしい。
危うさは以前もあった、自分の行動決断時に、とても強い意志、誰かに押されたかのように進む危うい瞬間は何度もあった。
だけど、その後に待ち受けるのは後悔であり、危うい自分に対する怒りと恐怖。
自分の中に抑えきれない部分に震える少女が彼女の本質だった、そう思っていた。
しかし今のインデックスはその危うさを安定させてしまった。
危うさを安定させるという矛盾。
だけど、その通りなのだ。
抑えきれない感情、それを必死にコントロールしようと苦しんでいたのに、今の彼女は全て受け入れた。
心の中にあった、それを飲み込み自分のモノとした。
かつて私が民草の住む村を戦の為に焼いたように。
黒く重い何かを、彼女は乗りこなしてしまった。
その姿は私に似ているのかも知れない。
だからこそ、彼女を止められなかった。
血で濡れ、ボロ雑巾のようになった白い修道服を捨てた彼女は黒い外套に身を包んだ。
その身に満ちる黒い何かを表すように。
外も、中も黒いのに無邪気な笑みを浮かべ、インデックスは踏み出した。

「行こう、もう、大丈夫だから」

「……………………ええ、わかりました、マスター」

………………………………。
……………………。
…………。

インデックスの指示を待つ。
彼女の言葉を。
それが例えどんな言葉であっても従う覚悟は当に出来ている。
それでも願ってしまう、彼女は変わっていない、彼女は私の様にはならないって。
黒い外套に身を包み、ボロボロの身体でどこかを疾走(はし)る彼女は、優しい少女のままだと―――。

『まずは奥の敵の斜め前に踏み込んで、おそらくそっちが遠距離の能力を保持しているから』

              
              ああ。
              

『防御系能力の保有確率は低いんだよ、だからそのまま斬って、返す刃でもう一人の足を斬ったらそのまま、一気に左に飛んで、猶予は0.2秒くらいだから気を付けて欲しいんだよ、遅れるとまた光の矢が来るから』

「了解です」

―――思うのは勝手、しかし現実は止まらない。
少女は成長している、成長してしまった。
この短い期間での戦闘の連続で、彼女は成長してしまっているんだ。

「っ!」

”ばっ!”

覚悟を決めきってしまったのだろう。
私と言う剣を振るう覚悟、以前は躊躇いがちに振るい、時に自らの手で決着を納めようと足掻いていたけれど。
今はもうその躊躇いが、消えている。

「っふっ! はぁぁあああ!!!」

言われたようにやや奥にいる敵、まだ少女の面影を残す黒髪の少女に迫る。

「!?」

”しゅうぅう―――”

”ざっ、しゅっっ!!”

一瞬彼女の長い髪が揺らめき、大気の震えを感じたけれどそれがことを起こす前にその細い身体を両断した。
以前戦った電気を操る少女らと同じ可愛らしい制服が血に染まる。

「っ!」

そのまま止まることはせず、返す刃で斜め後ろに位置する少年の足を斬り、一気に横に跳ぶ!

”ばしゅぅううううううう!!!!”

一瞬後、私とその少年がいた場所に光の矢が降り注ぎ、爆発音と同時に地面、そしてそこにいたはずの敵も世界から削られた。
それを確認することもなく、ただ只管走る、

インデックスから下される指示はどこまでも的確で、そしてどこまでも容赦がない。
走り抜ける中、おそらくキャスターに操られている少年少女ら32名を一人残らず斬り捨てた。
正しい判断、私もそうするとは思うけれど、それがマスター、インデックスからの指示となると重さは変わる。
この夜闇のようにどこまでも暗く、どこまでも苦しい判断。
それを淡々と下すインデックスの精神は、きっとこの闇より黒い。

「…………っ」

構えた剣を深く握り直し、また光の矢を放たれる前に回避し、そして大きく開けた場所に出た。

「ここは…………」

月のない夜、光は街灯と、破壊をもたらす一撃のみ。
走り抜けた先、この学園都市では多々見られる実験利用の広い空間。
敵の気配はない。
人の気配すらない、それでもさっきまでの光の矢がどこから来るか解らない以上気は抜けない。

「…………インデックス、どうしますか? 次は?」

念話のパスを繋ぎ、別行動中の彼女に指示を仰いだ。

『待ってて、こっち仕留めたら直ぐ行くから』

「……………………かしこまりました」

インデックスはインデックスでどこかで戦っているようだ。
ボロボロの身体を無理矢理魔術で起こし、命を削りながら。
やり切れない現状に歯噛みし、一瞬の緩みを引き締めなおす。
ここはまだ戦場なのだから。

…………。
……………………。

「ふぅっ、はぁ!」

黒い外套、もとはるが置いて行ってくれた学園都市製のそれは軽くそれでいて丈夫で、戦うには持って来いのそれだった。
それでも軽い重さがボロボロの身体を大きく蝕む。
痛みは全身内外問わず走り回り、少しでも身体を動かすだけでバラバラになりそうなほど痛い。
けれど、その程度を理由に止まる訳もなくひた走る。
セイバーとの一方的な視覚共有、そして3匹飛ばした使い魔から情報を得ながら、走り、付近にある魔法陣に少し手を加え、また走る。
組み替えても組み替えなおされることは解っているし、それがキーになり魔術の発動の可能性も考え、10秒ほどでどうでも良い事象を付け加えていく。
この魔法陣は恐らく、人を操り、その意識を操作する為のものなのだろう。
念話の式に似た形状をしているようだけど、それは軍隊行動を上手く機能させるための感覚共有システム。
複数の人間の脳を強制的に共有させている。
そこを少しだけいらない式を追加して、一瞬の乱れを生じさせれば上手いこと同士討ち、光の矢の餌食にさせることには成功している。
しかし、セイバーに直接向かってくるような敵はきっと雑兵なのだろう。
このシステムは多分、光の矢を放つ能力者用にカスタムされている。
あの光の矢は直線的攻撃のハズなのに、様々な角度からセイバーを狙っている、これは何か仕掛けがあるはず。
攻撃を曲げる、もしくはズラス能力を持った敵がもう一人はいて、光の矢の着弾位置を操作している。
その二人のコンビネーションを上手く機能させる為にこの魔法陣は起動している。

「と、すれば…………私は攻撃を操作するアシスト役を倒さなきゃいけないんだよ」

光の矢、あの一撃は私では受けきれない、満足に避けきれない。
だとしたら、そのアシスト役を潰すのが私の役目だろう。
作業分担は必要だ。
セイバーが正面切って走ってくれるなら、私は―――。

「しししししん侵入者、ね、あなた」

「……………………」

―――考え事の最中、そろそろ来るだろうと思っていたらその通りに私の方にも雑兵が回された。
薄暗いどころじゃない路地裏、壊れかけの街灯から垂れこむ光に照らされ敵がやってきた。
メガネをかけた理知的な少女、私よりいくらか年上なのだろうか?
落ちついた雰囲気、そして大きな胸と腕の腕章。

「……………………待ってて、こっち仕留めたら直ぐ行くから」

セイバーからの念話に簡潔に応えたら、拳を握る、動きを把握する。
自分の出来ることそれを最大限に。
もう大丈夫。
躊躇いは何もない。
私の聖杯戦争は改めてここから始まる!!!!

今日はここまでです。

乙、インデックスがマジやばいな
相手は武蔵野牛乳先輩?違うか?

インデックスバトルは期待させてもらいますリョナリョナリョナリョナ

嗚呼・・・貴重なおっぱ(ry

セイバーとインデックスで食費マッハなのを想像して開いたら、とんでもなかった・・・しかし引き込まれてしまった、くっ、面白い

投下します。

脳みその戦闘準備、と同時に身体機能強化の枷を外す。
魔術による強化のレベルを自己の肉体崩壊も厭わない程度までに引き上げていく。
身体のギアが段とばしに上がっていき、鼓動脈拍体温が通常のそれを大きく上回っていく。
私の中のエンジンが暴れだし、目の前のメガネの少女を破壊する為のそれに切り替わった。

「ししししししし侵入者は排除、すべききききき?」

「……………………」

壊れたカセットのような擦り切れた声。
脳の一部を壊されているのだろう。
魔術、それも精神に働きかけるそれは人間の弱い部分を狙い、そして容赦なく破壊する。
そして、壊された部分はもう治らない。

「侵入者、排除、するのよ、ね、だって、それが、風紀委員として、でも、もう、177には、誰も、いない」

「…………可哀想」

虚ろな目で何かを呟く彼女の心は空虚。
何かを失った、何かを無くしたその心は壊れ、その弱さを利用して更に脳みそまで壊され今や操り人形。
きっと同情すべきなんだろうけど、そんな余裕は私にはないんだよ。
相手を気遣い涙を流して救う方法を考える余裕なんかない。
きっと間違いなく間違っているけど、それを正してくれるあの人はいない。
私は、私は、あの人に、とうまに叱って貰いたいから、だからこの戦いを続ける。

「……………………っっっ!!!」

とうまの為に、とうまに会うために、とうまにまた叱って欲しいから。





この目の前の女は





コロシテシマオウ。

「っ! っっっぐ!!!」

身体が軋む。
だけど大丈夫大丈夫。
もう肉体強化のこつは掴んだ。
無理をさせない程度で、かつ人体が崩壊しないレベルの強化を今まで行っていた。
まず骨を固め、筋肉を強化し、そして駆動させる。

それが間違いだった。

「おげっぁぅぶっぉ!!!」

胃液の逆流。
体温の上昇。
筋肉の痙攣。
骨格の軋み。

そうここからここから。

身体の機能を必要以上に引き出していくと、まるで血が逆流しながら血管を鑢で擦られる感覚に陥っていく。
逆流していく血液が返しのついた針みたいに血管を引き裂く。

「おっおあああ! うっぅぷぁ!!」

苦しくて苦しくて苦しくて苦しくて苦しくて苦しくて苦しくて苦しくて苦しくて―――。

「ぎっぁ! ぎぎぎぎぎっ!!!」

―――壊れそうになって、そのまま崩落していく身体。
崩れていく身体を繋ぎ止める苦痛。
その苦痛が。
ある一線を。
超えると。


プツン。


「………………………………」

濁った視界がクリアになった。
深海から浮上した気分。
森の中での深呼吸。
何はともあれ、準備は終了。
苦痛のその向こう、その向こうの向こうまで強化を高めると、その一線で安定する。
身体中を苛む苦痛はもう当然と化して、麻痺したように感覚は消える。
手足に力を込めれば、このまま空でも飛べそうな万能感がこの身を包んだ。

「行くよっ」

”とっ”

軽い音を立てて敵に接近する。
音は軽く、だけど力強く。
路地裏、隠れる場所もない。
だから真っ直ぐ。
小さな体で真っ直ぐ真っ直ぐ真っ直ぐ真っ直ぐ!!!

”ごっ!!”

「ぁがっ!?」

まずは一撃。
鉄より固く強化した拳が相手の乳房を潰す。
相手は―――。

”どっ! ごっ! がっ!”

「ぐぶっぁんべ!?」

「ふっ! しぃっ!!」

―――私の速さに固さに強さにまったくついてこれていない!
小さな体を回転させながらの拳を脇腹に、そして反対の手は肩を、そして膝裏狙っての蹴り!
相手はそれなりに格闘技、ないし戦い方を知っている重心ではあるようだけど、私の知識の前に、そして身体の崩壊を顧みない強化の前には意味がない。

”ふっ!”

「!」

連撃の中での反撃、それは意志かそれとも植えつけられた攻撃反応なのかはわからないけれど、相手は親指以外を揃えた貫手のような攻撃を繰り出してきた。
しかし、これは恐らく私のこの黒い外套を掴むための布石だろう。
彼女の拳に使い込まれた後は見て取れないけれど、指の腹が微かに固くなっている。
たぶん、掴み、投げる柔術ないし捕縛の技を身に着けている可能性がある。
だから、この貫手に対しての正解は避けるでも受けるでもなく―――。

”がしぃっ!”

「!?」

「ふっ!」

―――掴む!。

暗い路地裏、微かな明りを頼りに右の貫手を左手で掴む。
相手の表情に微かな驚愕が見えた。
その驚愕が緊張に転じる前に、左手を思い切り引きながら、その動きを利用して右手を振るう!

”ごっ!”

「しっ!!」

横顔を思い切り殴り、更に手を引き回転する。
左足のつま先を軸に靴が焼けた匂いをさせるくらい、バレリーナのように回転して―――。

「ぜっ!!!!」

”ごぎぃっ!!”

「ぅごっ!? がっ…………!」

―――相手のバランスを崩させたところに肘を鳩尾にぶちこむ。

「げぇぇええええ!?」

「ぉげっぇええ!!」

相手の胃液が頭にかかり、それと同時に肉体の悲鳴により私の口からも反吐が噴き出る。
キャスターの魔術による催眠、思考制御は完全にその人間のコントロールを操るものではない。
いや、そういう機能もあるのだろうけれど、それは少数の場合のみ、今の様に広く街中に根を張っている場合は、指定した条件下において起動するようにしてあるのだろう。
この街の人間は超能力と言う武器を持っているから、催眠では魔術と理の違うそれを利用しきれない、だから、自我を残したまま操っている。
それならば痛みで動きは止まる!

「っふ!」

「なっ!?」

肘をめり込ませ、右手を掴んだまま相手の重心の下に入り込む。
強い一撃を喰らわせたからといって、そこで動きを止める訳にはいかない。
彼女もなんらかの能力を持っている可能性があるからだ。
だけど、その能力、超能力も完全に無敵万能ではない。
それは能力者の頂点である短髪がそうであったように、彼ら彼女らは能力行使に一定の『溜め』が必要。
あくせられーたみたいな常時展開でもない限り、その溜めがあり、その溜めさえ行わせないようにしてしまえば良いんだ。
それは普段の私では不可能だけど、肉体の崩壊を度外視した強化を施した今なら行える!
重心の下に入り込み、カブトムシのように肘を支点に相手の身体を持ち上げ、そして―――。

「っはあっぁあああ!!!」

”どごっ!”

―――掴んでいた左手で胸倉を掴み、変則背負い投げの要領で近くの外壁に叩き付ける!

「まっだぁぁあ!!!!」

叩き付けられ、一瞬壁に張り付く様に静止した上下逆さまの彼女の顔面に跳び膝蹴りをぶち込む!

”ごぎぃ!”

「っんぶっ!??!?!」

鉄より固い膝とコンクリートの挟撃!
容赦する気のない一撃。
相手の反撃を許さず―――。

「ぁ」

”べごっ!”

―――相手の頭蓋骨を叩き潰した。

「……………………」

”ずる…………ずるずる…………どしゃ”

地面に落ちた死体一個。
それにもう興味はない。

「ぐっ!!!!」

呼吸を落ち着け、身体強化の段階を下げて行けば先ほどまでの負荷が襲い掛かる。
くの字に身体を折り曲げ、口に酸味と、鉄の味が広がり、手足が震える、いや痙攣する。
筋繊維が千切れ、骨が軋み、立っているのもままならない。
それでも、前に進む。
その先に待っているのが地獄であっても。
主人公のいない物語なんだ、早くページを進めて主人公を、とうまを舞台に登場させなきゃいけないから。

「くっぇ、えおぉおお…………」

胃液と血の混じった汚物を吐きながら、セイバーの元に急ぐ。
既に先ほど潰した女の子となんか頭にはなくて、黒い何かが身体中を這いずり回っていた。
這いずる黒い物に快感を覚え、胃液で汚れた口元に笑みを浮かべ、生ごみが流動するように歩いた先は、地獄だった。








「あなたは、イン、デックス?」

「なん、で…………?」

「マスター、あれは―――」

いつか見たような月光の下。
濡れたような月明かり。
いつ強大な光の槍が雨の様に降るか解らない大舞台。
長い、長い、そして細い、だけど固い日本刀を手にした女性と相対した。

「―――アサシンのサーヴァントです」

声を聴いた瞬間私は地獄に落ちたと錯覚した。


クラス  『アサシン』
マスター 『不明』
属性   『秩序・善』
筋力 『A++』
魔力 『A』
耐久 『B+』
幸運 『EX』
敏捷 『A』
宝具 『??』

保有スキル・聖人

真名―――。

「かお、り?」

―――神裂火織。

今日はここまでです。

なんか死んだと思ったねーちんがサーヴァントになった・・・

この戦いは人が死にすぎた。聖杯が汚染されていないのなら何とか出来そうだけど・・・

スレ最初のほう見直したら、ねーちんは生身で英霊に対抗しうるとか色々言われてて、>>1さんの答え方が……

見事だわ

アサシンのステータスじゃねえww
枠が埋まってなきゃセイバーになってたんだろうか

いろいろやべぇじゃんか・・・

>>643
あの方が召喚されました
アサシンはやはり場に縁あるキャラ

>>644
レールガンでの活躍が楽しみですね

>>645
まずは完結させなければ、ですがありがとうございます
細々やっていきますので

>>655
戦いの高ぶりに囚われまくりですね
Level5は皆好戦的ですし

>>656
バーサーカーとの戦いが楽しくて仕方なかった感じですね
ランサーもきっと楽しませてくれるでしょうね

>>657
そうですね、はい

>>658
想像にお任せします

>>669
一応固法先輩でしたが、あまりリョナにはなりませんでした、すみません

>>670
小さくともおっぱいです

>>671
バトルものでやらしていただいてます

>>680
ドラゴンボール的に全員復活もあり、なんでしょうか

>>681
前から考えてたので、極力スルーした名残ですが、ちょっと恥ずかしいです
でも、ありがとうございます

>>682
セイバー、キャスター、アサシンのクラスに相当しそうですね

>>683
インデックスが黒くなってきたので、少し障害を出してみました

投下します。

「インデックス…………」

目の前にいる少女。
黒い外套に小さな身を包んだ少女。
私が守ってきた少女。
私が守れなかった少女。
その少女が目の前にいる。

     敵として。

     敵として?

青い騎士の後ろで目を見開いている彼女を私は何でか敵と認識していた。
あれほどまでに守りたいと願い、あれほどまでに幸せを願い、あれほどまでに尊んだ彼女を敵と認識していた。
だけど、どうしてかそれは正しい。
私はここに『道具』として存在している以上、持ち主の意向に添うしかないのだから。
ここに召喚され、この場所を、ここより先にあるモノを守るために召喚された以上、私の役目は近づくものの排除だ。
召喚されて直ぐは混乱から持ち場を離れたけれど、今は違う、私はサーヴァントとして、従者としてここにいる。
だから戦わなくてはいけない。
そして何よりも、どんな目的よりも、彼女を救わなくてはいけない。
彼女をこの戦争から離脱させる為には、彼女を倒さなくてはならない。
どこまでも深みに嵌り救われない彼女を救い出す為に私は戦わなくてはいけない。
救われる聖女を救う為に剣を振おう。
それが私が心に刻んだ戦う理由だから。
それはいくら時が経っても変わらぬ誓い・

       salevere000
     救われぬ者に救いの手を

…………。
……………………。

「なるほどねぇ、面白いことになってるわね♪」

何者かがこちらの拠点に急速に近づいてきているようなので、遠見の魔術で確認をしていればセイバーのサーヴァントと、そのマスターがうちのアサシンと接触をしたようだった。
うちのアサシン。
この学園都市と言う戦場で拾った思わぬ落し物。
まだ英霊の座に招致されていない『無名の英霊』の魂を無理矢理この世界に留め、そしてアサシンの器を与えた。
まだ生きている常世の魂、力強いそれを聖杯にアクセスする形でこの世に顕現させたのだ。
本来なら西洋絡みの英霊、聖杯の認識に引っ掛かるモノしか呼べないのだけれど、まだ魂が圏内にあるのであれば話は別だ。
しかもその死因が聖杯絡みであるならば、それを引っ張るのは容易い、訳ではないけれど、その価値は十分見込める。
と、言っても最初は身体能力とその特異な才能頼みの捨て駒程度に考えていた。
あくまで足止め役であり、もし何かあれば諸共消しとばす程度、使えなくなれば次を考える、そのくらいのつもりだったのだけれど。

「随分と強い娘になっちゃったわねぇ♪」

そう、予想外なほど強力なサーヴァントになってしまったのだ。
カンザキカオリ、聖人であり、対神術式を使う魔術師。
アサシンでの召喚と言う形を取ったので、大仰な魔術は使えないが、神性に対する能力は高い。
そして何よりも卓越したステータスが彼女の武器!
                       
                       ではない。

彼女の武器は対神能力でも、ステータスでもない。
彼女の一番の武器は、現在進行形で多数の人間から強く信仰され畏敬の念を集めているところにある。
そもそも英霊で重要なのは知名度。
どれだけ多くに人間に知られ、畏れられ、そして信仰されているか、それが大きな力になる。
そして彼女はこの時代に生きていた、否生きている英霊。
信仰の深さは並みの英霊とは桁が違う。
遠い昔のお伽噺ではなく、今現在生きている英霊としての知名度は量ではなく質。
しかも、彼女はどうやら一宗教の教皇ですらあるのだという、そこまで来れば出来過ぎなくらいの優秀な英霊だろう。
そして追加をするのであれば、聖人の身体的特徴を持っていることによる、二次的な信仰も得ている。
聖人自身に対する信仰の一部が彼女にも注がれているのだ。
ここまで揃えば十分過ぎる優秀な英霊となる。
もう100年もたてば彼女はこれほどの強さな得られないだろうけれど、今を生きている英霊である彼女はこの瞬間誰よりも強い!

「期待出来そうね、そう思うでしょ? マスター?」

ニヤリとルージュに光る唇を吊り上げ、背後に控える私のマスターを見る。
自信に満ちた表情

「そうねぇ★ でもぉ…………何より―――」

少女は髪をかき上げながら自分の唇を柔らかくなぞり。

「―――面白い茶番が見れそうなのが楽しそうよねぇ★」

全てを受け入れ、全てを見下す笑みを浮かべた。
誰よりも人間の黒い部分を見てきた彼女らしい、とても純粋な笑みを。
……………………。
…………。

「インデックス…………指示を」

「……………………っ」

セイバーの声に久しぶりに身体を動かした気がした。
さっきまで彫像のように固まり、目を開いてるはずなのにどこも見ていない。
かと言って何かを考えていたわけじゃない。
さっきまで私は身体だけここに置いて精神がこの世のどこでもない場所に飛んでしまっていた。
此の世を構成する六要素の関わらないそんな場所に。
それくらい目の前の状況は心に脳に強く響いていた。

「インデックス!」

声は聞こえている。
私に指示を求める騎士の声は聞こえる。
夜の世界は静かだからとても良く聞こえている。
聞こえているのに動けない、身体はただ震えていて、脳みそは意味のない思考を巡らせるだけだ。

「あ…………あ…………」

何かを言いたい何かを伝えたい何かを叫びたい。
だけど、言葉を発する機能は身体から奪われていて、どうにもならない。
どうにも、どうにもならない、のに―――。

「インデックス! 指示を…………敵が、来ます!!」

”ずぁっ!”

―――かおりはもう戦う準備に移っている。
女性にしては長身で、美しい髪、凛々しさのある美貌、そしてしなやかな身体。
その全てが私と、私たちと戦う為の準備へと移っていた。

「すみませんインデックス、セイバーを戦闘不能にさせるだけですので、下がっていて下さい」

こちらを慮る優しい声。
だけど、その威圧感はバーサーカーに匹敵する。
多分、今回の聖杯戦争最強のサーヴァントだろう。
それを前にセイバーですら冷や汗をかいていた。

「…………行きます」

「っっっ!」

「あ」

律儀な一言と同時にかおりは、アサシンは動いた!

”すっ”

静かな音。
風を斬るのではなく、風の隙間に入り込むような滑らかな動き。
見とれてしまうような美しさをありながら、機能美に満ち溢れた強さ。
動く、進む、踏み出す、前に出る、それだけで十分に理解させられた。
剣を構えるセイバーの顔には決死。
彼女の直観が悉く現状の不利を囁いているのだろう。
自分では勝てないかも知れないと。
それだけの強さをアサシンは備えていて―――。

クラス 『アサシン』
筋力  『A++』
魔力  『A』
耐久  『B+』
幸運  『EX』
敏捷  『A』
宝具  『??』

―――セイバーの保有する強さを大きく上回っている。

クラス 『セイバー』
筋力  『C』
魔力  『C』
耐久  『B』
幸運  『B』
敏捷  『C』
宝具  『C』

絶望的とも言える戦力差。
勝てる見込みは薄い。
自分を過信する訳ではないけど、私が戦いに参加しなくては薄い見込みすらない。
セイバーだけでは勝てない。

彼女だけではかおりに勝てないのは理解出来ている。
だけど、だけど、だけど、動くことが出来ない。

「っ」

滑る様に総べる様に向かってくるかおりと、それを迎えようと構えるセイバー。
二人を眺めたまま口を半開きにして黒衣を痛いほど掴んだまま固まっている。
指示を出さなくてはいけないのに、念話を繋ぐこともせず、自分の兵を投げ出した。

「七閃」

”すっぁあああ”

刀を抜かないままにかおりから風の音が流れてきた。
それが鋼糸による攻撃と私は知っている。
かおりの動きからどの方向からセイバーを狙うか理解出来ていた。
それを伝えなければいけないのに解っているのに、動けない。

「っ!?」

”きぃいん!”

直観か、それとも経験か、セイバーは鋼糸を剣で防いだ―――。

「なっ!?」

―――防げたのは七本の内の一本。
残りの六本は―――。

”ざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅっ!!”

「ぐっぁあああああああああああああああああああああ!!!!」

―――セイバーの身体を切り裂いた。

「あ、あああ、せ、せいば、ああ…………」

闇に舞う鮮血、崩れ落ちる青い騎士、その向こうに立つは武人。
優しい目で彼女は語る。

     もう休め。


と。
語られた優しさに涙が出ると同時に、微かに、ほんの微かにだけど黒いなにかが私の中でうごめき出した。
戦わなくては生き残れない、と。

今日はここまでです。

投下します。

”ぎぃいいん!”

    ”ぎぃん!”
    
             ”がぎぃい!”

       ”ぎんっ!”
       
「くっ! くっぁ! ぐぅううう!!!」

降りかかる七本の斬撃。
来るのは解っている、だけど見えない。
見えないそれを経験と直感で弾いていく。
自分の流した血に濡れた身体を必死に動かし、こちらも見えない剣を振るい、弾く、弾く、弾く、弾く。
だけど―――。

「良く防ぎますね、しかしそれだけです…………」

”ざしゅっ!”
      
      ”ざしゅぅっ!”
   
   ”ざくっ!”

「っ!ぐっ、あがぁぁああああああ!!!」

―――斬られる、斬られる、斬られた。
今回落とせた斬撃は四。
前回も四。
その前は二。
その前は零。
つまり受けた斬撃は合計十八。
身体が刻まれて行きながらも反撃は出来ていない。
だけど戦わなくてはならない。
私の後ろには主がいる。
今はまだ戦う準備が整っていないだけ。
戦の支度が揃うまでは―――。

「っっっ!! はぁぁあぁぁあああああ!!!」

―――敵は私が止める!!

「気合いは十分、闘志も素晴らしいです、が―――」

アサシンは長い日本刀を構えるが抜く様子は見られない、しかし斬撃は来る。
それが魔術の類か宝具かはまだ解らない。
ただ、七本の斬撃がこちらを狙っているのだけは解っている。
だから、それを弾く、弾く、弾く、弾く、弾く。

「―――しかし、それだけで差は埋まらない」

「ぐぅうう!!!」

斬られる、斬られた。
今回は二回斬られた。
何とか二回に抑えた、でも、それじゃあダメだ。

「はっ、はぁ、はぁ…………ふぅぅう」

鎧は着られていないが、服の部分はそうはいかない。
相手の斬撃は鎧で覆われていない場所を的確に狙い、切り裂いていく。
このままざと刻まれる。
私では相手の斬撃を全て見切れない。
そして何よりも大きく横たわる性能の差、それが今の状況を作り出している。
私の筋力はCだが、魔力放出により瞬間A相当まで引き上げられる。
これによる爆発力、緩急でバーサーカー相手にも打ち会えたが、アサシンの筋力はA++だ。
常時Aそして瞬間的にその力は3倍まで引き上げられる。
そんな相手とはまともに剣をぶつけあうことすら出来ない。
だから、インデックスを背に置いたまま彼女に斬りかかれず、ただ刻まれるのを待っているだけになっていた。

「……………………ふぅぅうう」

「闘志の衰えはまるでないのですね」

アサシンはインデックスの友人だった人間だけあって、彼女を狙うつもりはないようだ。
しかし―――。

「ふっ」

「っ!!」

―――私に対する容赦はまるでない。

彼女の一呼吸で見舞われる見えない斬撃。
それは一本の刀で行われているものではないのは解っている。
抜き身も見せぬ連続の斬撃かと最初は考えたが、どうやらそうではなく、複数の刃が存在している。
連続、同時、そして多角的に七本の刃が一斉に襲い掛かる。
しかもその姿は私の目に移らない。
空気の音、気配、そして直観と経験で致命傷だけは避けているけれど、受けた傷は決して浅くない。
このままでは寸刻みにされ、じわじわと死んでいくことになるだろう。

”がきぃん!”

    ”ぎんっ!”
    
   ”じゃりぃんっ!”
        
        ”ぎきぃんっ!”

見えない斬撃を辛うじて弾く、剣に残る重みはほとんどない。
まるで空気を受けているようだけれど、たしかにその鋭い刃は存在している。
  
     ”ざしゅっ!”
     
   ”ざくっ!”

           ”きぃんっ!”

「はぁはぁっ! はぁ、はっぁ、は…………!」

空気のような斬撃を弾いたのは四。
この身に受けたのは二。
偶然的に籠手で受けたのが一。
やはり斬撃は七。
七が限界なのか、定数なのかは解らない。
しかし、この状況で情報はあるにこしたことはない。
考えろ、考えろ、考えろ。
普段インデックスが考えるように私自身も考えるんだ。

見えない斬撃。
能力差。
現状。
どうやって勝ちをもぎ取るか考えるんだ。
戦場での思考は短く、速くそして―――。

「はぁぁぁぁあああ!!」

「む」

―――動きの中で組み立てろ!

”だっ!”

魔力を放出して一気に距離を詰める。
流れ星のように血の尾を引きながら下段に構えた剣で相手を狙う。
A相当の速度で相手の懐に潜り込み、剣を振るう!

「ぜっ! はぁぁあ!!」

「…………」

”ふぉんっ!”

最善の速度で振るった剣は相手に躱されたが、即時踏込、即時二刃。

「やぁぁぁああああぁ!!」

返す刃で相手の胴を狙い斬るが。

「良い速さです」

「っ!」

当たることは叶わない。

「くっ!」

「…………」

無言のままにまた見えない斬撃が襲う。
見えない、距離を測れない、間合いの理解すら薄い。
彼女の一挙動もいらない鋭い斬撃―――。

「セイバー! 一瞬だけ風王結界を解放、後に左斜め後ろに二歩半後退、一拍置いて駆けて!」

「!!」

―――それは、私に届かない!!

”ふぅううううう!!!!”

「これはっ、風!? なっ!」

我が剣を隠す風の結界を一瞬だけ緩め、圧縮した大気を押し出し、背中を押してくれた言葉と共に駆ける。
奥へ奥へ奥へ!
相手の懐、命が届く距離まで!

「ぁあああああああああああああああ!!!」

「なっ!?」

初めて見せるアサシンの驚愕、焦り。
それとは対照的に私の顔には自信、そして忠誠の念がどこまでも満ちている!
インデックスの声、それが私の進む道を照らしてくれるから!
……………………。
…………。

「っ!」

叫んでしまった。
迷う、いや、迷うことすらしないでタダイタズラに傷つくセイバーを見ながら保留していた私。
目の前にいる相手を敵と断ずることが出来ず、かといって仲間とも見ることはできない。
そんな状況で答えを保留している中でセイバーは一人戦っていた。
彼女の直観を以ても回避の難しい七閃、生前の彼女の知識で言えば鋼糸を使った斬撃。
見えず同時で多角な、おそらくセイバーが初めて出会う斬撃に彼女は必死に食らいついていた。
一歩も後退せず、私に背中を晒し、その身を血に染めながらも騎士は戦うことをやめなかった。
さっきまで無関係な人間すら虫みたいに殺して進んで、変な万能感酔っていた癖に、かおりの姿を見ただけで停止してしまった私の為に彼女は前に出て、そして戦った。
いくら斬られようと弱音を吐かず、その身体を一本の剣のようにしてアサシンの牙城に立ち向かう姿。
その姿はどんな夜明けより眩しくて、眩しくて―――。

「       」

―――私に深く黒い濃い影を落とした。
何度決意し直せば気が済むんだろうか私は。
本当に、本当に弱い人間だ。
だから、もう良い。
弱い自分はいらない。
このクロイナニカに全部明け渡す。
とうま、私はあなたを助ける為と言う言い訳で、また友達を殺すね。
本当にごめん。
私の指示、言葉、全てを正確にトレースするセイバー、彼女の剣がアサシンを切り分ける。
その瞬間を待ってる。
…………。
……………………。

「あああああああああああああ!!」

「っっっ!? 回避が!」

相手の動きは一歩遅い。
アサシンの敏捷性はA、魔力放出による私の敏捷もA相当。
完全に一歩先を動いたこちらの攻撃に彼女は対応できない。
刀を抜くも、魔術を使うも、何にしても届かない。
これで終わる、マスターを困惑させる難敵もここで消し去る!

「終わりだっぁぁあぁああああああああ!!!」

”こ”

「え?」

アサシンの息の根を止めようと、駆けて行った私の身体はバランスを崩していく。
見開く目には原因は写らないが、感覚で何が起こったかは理解した。
私はこの土壇場で「つまづいた」のだ。

「え?」

後ろからインデックスの短い声も聞こえる。
聞こえている、だけど、全てが遅い、転ぶまいと体勢を整えようとするその一歩で相手は既に圏内より離れていた。
そして失態に焦る頭が、何も考えずに一歩踏み出したとき―――。

”ばしゅぅううううう!!!”

「なっ!?」

”きぃいいん!!”

最初、剣に当たった以外は命中精度が著しく落ちていた光の槍が、不可視の剣を打貫いた。
それだけで飽き足らず、傷のせいか血のせいか、緩んでいた手から剣は離れていった。
理解出来ないほどの失態に口を半開きにして動きが止まる、いや、留まる。
次の一歩も踏み出せない、回避の一歩も踏み出せないまま―――。

「七閃」

―――私は再び切り刻まれた。



アサシン。

      幸運 『EX』

今日はここまでです。

投下します。

「ぐぅうううう!!」

「…………」

この程度ですか、そう思った内心の言葉を飲み込む。
いくら現在セイバーが私の足元に平伏していると言っても、彼女は戦士であり騎士であり、何より現在のインデックスのパートナー。
非礼な扱いは出来ない。
だけど、それとは別に、彼女を、インデックスをここまで、戻れないくらい死の道に堕とした報いだけは受けて貰わねばならない。
私の魔法名を汚すことになってもそれは絶対だ。
恩はある、この騎士に敬意も持てる、だけど、それとはまた話が違う。
弱きことは責めない、万物はそこまで強さを求めてはいないから。
戦うことは責めない、何かを求めることは何らかとの衝突なのだから。
しかし、それは全て一人で完結出来ることについて、だ。
そこに誰かを巻き込み、そして歪めてしまうことを許せるほど私は寛容ではない。
いや、寛容であろうとしていた、その記憶はある。

「…………」

心に刻んだ記憶であり誓いは既に効力を失っていた。
足元で、全身を七閃にて切り刻まれたセイバーが呻いているのを見下ろし刀を構える。
あいにくアサシンとして召喚されてしまった為に、この七天七刀を十二分に発揮することは難しいけれど、問題はないだろう。
七本の斬撃で綺麗にその身を分ってやろう。
そうすれば、最低でもインデックスはこの狂った世界から抜け出られるだろう。
それさえ出来れば後は何もいらない。

「七閃」

刀を振り、鋼糸を操る。
鎧の騎士を切り裂く為に!
……………………。
…………。

「くっぐ…………くっ! 」

動かない身体。
切り裂かれただけ、それだけなのに私の身体からは力が抜け落ちてしまっていた。
あの瞬間、まさかのミスの連続、その心の隙、覚悟が0になっていた所を捉えられ、気力を根こそぎ持って行かれら。
剣すら手元を離れ、見下され、アサシンの足元に這いつくばっているのに、次を考えることすら出来ないでいた。
足を取られ転び、その上剣を投げ出し、切り刻まれる。
インデックスを、マスターを守るどころじゃない失態をし、肉体的なダメージは元より心に大きな傷を与えられてしまった。
そう理解していても、手に、足に、力が入らない。
せめてもう少し時間があれば心の回復も行えるだろうけれど、相手はそれを待つ気はないようだ。

「……………………」

長い、槍の様に長い刀を鞘に納めたままそれを振るう。

「七閃」

”しゃぃんっ!!”

「っ…………うご、け…………!!」

冷たい声、何かを割り切り全てを覚悟したその声は刃のように鋭い。
そして、その鋭い声の次には真に鋭い刃、七本の斬撃が襲い掛かる。
だけど身体は動かない、拒否している、戦うことを、立ち向かうことを、そして守ることさえも。
これで何が騎士か、何が誇りか!
噛み締めた唇から流れる血の味。
痛む身体を包む血のベール。
暗く成りゆく視界。


―――そこに割り込む黒い影。

”びゅぅうううう!!”

「なっ!? 風、これは…………」

強い風が吹いた。
それは自然の風ではなく魔術による風。
と、言ってもただ風を、強い風を起こすだけの術だったようでアサシンは少し驚くだけでダメージはないようだった。
しかし、斬撃はやってこなかった。

「…………セイバー、立って」

暗く成りゆく視界より尚黒く。
闇の色をそのまま纏ったような少女は突風を携え私の前、乃ちアサシンの前に立った。

「いん、でっくす」

そう、私のマスター。
死した友人との再会に動きを止めていた彼女が、また共に戦ってくれる。

「セイバー、立って」

名前を呼ばれる、ただそれだけなのに、失われた気力が満ちて行く。
マスターの声、その響きが手に、足に活力を取り戻させていく。
魔力ではない、説明できないエネルギーの供給。
説明できずとも何より重要な燃料が私と言う存在を動かす。

「セイバー、貴女の力が私には必要なんだよ」

頼られている。
求められている。
弱く、小さく、だけど強く賢明な彼女に。
傷を厭わず。
だけど鈍くない。
共に戦場を駆け。
共に命を賭ける。
そんな彼女が私の力を求めている!!

”ぐっ!”

身体に力を込めて行く。
守るべき主を前に置き、守られていると言う騎士にあるまじき状況。
それを一刻でも打破する為に!

「インデックス、退いて下さい」

”しゅぃんっ、しゅぃんっ”

未だに地面を転がる私の前の前、インデックスの前に立つアサシンは妙な風切り音を鳴らしながら警告、もしくは進言をしていた。
私を殺すために、インデックスに退く様に指示をしている。

「…………セイバー、立って」

「インデックス!! もう戦うのは止めてください!」

アサシンの声、言葉、友人のそれを無視して彼女は私の声をかける。
その声で、言葉にまた身体に力が戻る。

”ぐっ! ぐっ!”

「インデックス、これ以上貴女が傷つく必要はないのです、お願いです、退いて下さい」

懇願にも似た言葉。
アサシンは本気でインデックスを案じている。
とてもとても強い意志で彼女を守りたい、そう願っている。
でも―――。

「セイバー…………立って」

―――彼女はその言葉を願いを聞き入れようとはしない。

「インデックス…………貴女は…………っ!」

悔しそうな、悲しそうな声、そしてこちらを睨む目には怒り、そして戸惑い。
彼女を、インデックスをこの戦争に引き込んだことに対する怒りなのだろう。
その怒りはもっともだとは思う、だけど、だけれども―――。

「セイバー…………もう、私の為には立てない?」

「!!」

―――彼女は巻き込まれ引き込まれて、そして自らの戦争を始めているのだ!
それはもう止まらない、止まることはない!
勝つか―――生か!
        
         死か―――負けるか!
      
      決着がつかない限り自分で始めた戦争は終わらない!

”ばっ!”

「立ちます、あなたの、マスターの為であるならば、何度でも立ちましょう」

身体についたいくつも切り傷から血を流し、身体を血で汚しながら立つ。
この足で、常に戦場を駆けてきた足で立つ。

「ありがとう、セイバー」

「…………」

感謝の言葉には無言で応える。

”ざっざっ”

そして彼女の前に踏み出した。
本来の騎士と主の立ち位置に!

「…………」

剣を手に呼び寄せ、離さぬように深く強く握る。
無言で応えた感謝の言葉。
本当に感謝したいのはこちらの方だけれども、それを言葉で返すことはしない。
私は騎士だ、剣だ、守り手だ。
ならば働きで応えよう、剣で報恩しよう。

「怪我人と言えど容赦はしませんよ?」

「……………………」

相手がどれほどの強敵であるとしても、私がどれほど弱くても関係ない。
この剣は主の為にある。
主の願いを阻む輩を斬り伏せる為に存在している。
それ以外の機能はひとつとして備えていない。

「……………………行くぞアサシンっ!」

「いつでも!」

”ばっ!”

主の前で身体を横たえる、そんな恥を二度と晒さぬように心に誓い、再び戦場を駆ける!
今回はインデックスと共に!
乗り越えるべき壁を乗り越える為に!

「ぜっぁあああああああああああああああああああ!!!!」

”ぎぃいいいんっ!!”

今日はここまでです。

投下します。

「ああっぁああああああ!! ぜっぁあああああああああ!!」

”ぎぃんっ!”
       
       ”がきっ!”
  
  ”じゃりぃぃんっ!”
             
             ”ぎきぃいんっ!!”
             
「っ…………勢いだけ、ですか」

「勢いだけかどうかは地に伏してから判断しろっ!」

騎士の不可視の剣がアサシンを連続して襲う。
速く、重く、鋭く、激しく。
そして様々な角度からセイバーは休むことなく斬り続ける。
私に情報を少しでも多く与えてくれる為に、格上相手に無謀な情報収集をしかけてくれている。
上段からの一撃にどう反応するか?
下段からの繋ぎにどう対処するか?
斬りつけたら。
切り払ったら。
薙いだら。
突いたら。
どの攻撃にどんな風に反応し、どのように対処するか、その情報を私に教えてくれる。
今まで見てきたかおりの動きの記憶をどんどん更新する。
情報の更新をしながら私は―――。

「くっ! しつこいっ! 七せ―――っ!」

「どうしたアサシンっ! 動きが鈍いぞっ!!」

「っ!!」

―――常にセイバーの後方を位置取り、かおりの七閃、鋼糸による斬撃の間合いにギリギリはいるように移動する。

「ちっ!」

かおりは私に危害を加える気はまったくない。
そこを念入りに利用させて貰おう、貴女を殺すために。
舌打ちと共に彼女は初めて大きく後退した。

「どうしたアサシン、臆したか? それともその位置が貴様本来の間合いか?」

「…………」

挑発する言葉を向けるが、セイバーはそこで飛びかかることはしなかった。
相手との力の差は戦っている彼女自身が何より理解しているのだろう。
だからこそさっきまでの勢いでの攻めを中断されては、動きを止める他なかったのだろう。
力押しで行ける相手でもない、少し冷静になられたら不利なのはこちらだ。

「っ…………」

七閃を警戒してギリギリの距離までセイバーに近づきながらかおりを観察する。
刀を手にしてはいるけれど抜く様子は見られない、ただセイバー越しに悲しそうに私を見つめている。
何が悲しいか、何に悔いているかを考える暇はこちらにはない。
今考えるべきは目の前の相手の効率良い排除のみ。
それにはまだ情報が足りないし、またいつ光の槍がこちらを狙うかも解らない。
どうあがいても状況は不利で不利で不利だ。
情報をもう少しセイバーに稼いで貰えれば、ほんの少しだけど勝率が上がる。
難敵を倒すためには犠牲はもちろん必要。
そう、犠牲はどうしても必要になってくる。

「……………………」

「!」

セイバーを犠牲に勝率が上がるなら、迷わず投じよう。
アイコンタクトも何もなく、ただ一方的に念話のパスを繋ぎ指示を出した。
とても簡単簡潔に―――。

           飛び込め
           
―――とだけ。

「……………………了解しました」

微かな沈黙、その後。
こちらの思考を読み取ってくれたか、それともただ実直に指示に従ってくれたかは知らない。
だけどセイバーは頷いてくれた。
かおりの攻撃パターンの情報もなしに、ただただ飛び込めと言う指示。
指示とも言えない突撃命令に彼女は文句もなく、ただ前を見た。
ここでセイバーに今までで収集した情報から導き出されるかおりの動きの予測を教えてしまえば、動きが変わってしまうだろう。
セイバーの動きにどう動くかが重要な所なのに、私の予測をねじ込めば、答えは変わっていく。
それを避けるためには、何も知らず、何も持たず。
ただただ危険な地帯に飛び込めと命令し、それに騎士は承諾してくれた。

「行くぞ! っぜっぁあああああああああああああああああ!!!」

「…………」

”だっ!”

いつものように、普段通り、何の策もなく。
ただただセイバーはその身を戦場に投げ出した。
真っ直ぐ王道ただそのまま。
地面をかけ、地を砕き、血の線を空に描き、かおりの攻撃圏内に易々踏み込んだ!

”ばっ!”

「っ! はぁぁぁぁぁああ!!!」

「ほう、上からですか」

踏み込むと同時に地面を強く蹴り、その身を高く舞わせた。
そのまま落下に身を任せるのではなく、急激な魔力放出で落ちるのではなく、突撃する!

”ぎぃいいんっ!!”

「っ!」

「…………」

しかし、その上空からの一撃もかおりの刀、少しだけ見せた刃に止められてしまう。

「くっ! くお、おおおおおお!!」

止められ、地に足がついても尚セイバーは力を込める!
渾身は今ここにこそと言わんばかりに、歯を食いしばり、1mmを押し込むために!

「その小柄な体躯で中々の圧力ではありますが―――」

だが、その力も絶対的上位の力の壁を崩すには至らない。

「―――弱い、ですね」

”ぎぃんっ!”

「ぐっ!?」

”ずざざざ!!”

軽く、かおりにとってはほんの軽く力を込めて振り払っただけでセイバーの身は後退を余儀なくされた。

「筋力A+…………基礎値の差は大きいんだね」

「それは解っています…………が―――」

地力の差、どうにも埋めがたい能力差。
それを埋めるために私たちは二人で戦う。
だけど、現状ではまだセイバー一人で戦っているに過ぎない。
それでも―――。

「―――戦わない、立ち向かわない理由にはならないっ!」

「まだ、来ますか」

―――セイバーは立ち止まることを自分に許さない!

「っふっ!」

一拍の呼吸。
血に塗れた身体に熱い闘志を秘め、呼吸で圧縮すると再びセイバーは跳んだ。
真っ直ぐではなく、やや弧を描く様に角度を変え、かおりに迫る。
新たな情報を私に届ける為に。

「…………」

そしてかおりは悲しそうに私を見つめる。
自分に迫る青い騎士よりも私をただただ見つめ、悲しそうに、深い色の瞳で。
その瞳を覗き込むことはしない。
これから殺す相手の内情に肩入れしても仕方ないそれに―――。

「ああああああああああああああああ!!!」

”ぎぃんっ! ぎっきぃんっ!”

「単調な…………」

―――かおりの内情なんてとっくに知っている。
重いハズの剣を軽く受ける彼女を冷たく見る。
今必要なのは私に対する同情心でも、彼女の優しさでもない。
どうやったら確実に勝てるか殺せるか。
ただそれだけ、それ以外は既に不要。
死んだ彼女をどうしようかなんて考えは最初から頭にない。
徹頭徹尾勝つため殺すために考え考え脳みそを回す。
その為の情報は既に揃いつつある。
あとはかおりだけ。

「インデックス、私ばかりを見ていて良いんですか?」

「貴様! 戦いの最中になにを!?」

投げかけられた言葉。
自分を観察して、これから殺そうとする私に対しての質問。
戦っているというのに自分を眼中にないように捌くその態度はセイバーを激昂させる。
剣は荒くなり、何度もかおりの刀を叩くけれど、それも気にせず彼女は私を悲しそうに見る。
その眼の、さっきの言葉の意味―――。

”かっ!”

「っ!」

―――思考を回す一瞬。
そこを突く様に空気の焼ける感覚が身を包んだ。
これから迫るのは光の槍。
直撃すればセイバーでさえ致命傷になるかも知れないそれが降り落ちる空気。
かおり一人も攻略できないところにそんなものが!

”じゅしゅごぉおおおおおお!!!”

「なっ!?」

文字通り光の速さ、そのまま高速で降る光の槍。
空気を焼き殺し進む進む。
騎士を背中から貫こうと―――。

『セイバー、言った通りのタイミング、多分もう誤差ないんだよ』

「了解しました、マスターっ!!」

「なっ、え?」

―――した瞬間、セイバーは反応してからではなく事前に知っていたタイミングで飛んだ。

「なっぐっ?!」

その結果、背後からの一撃はその正面、かおりの身を焼いた。
さしもの規格外のサーヴァントでも、その一撃は響いたようで大きく、大きく後方に吹き飛んで行った。

「今必要なのはかおりの戦闘情報だけなんだよ? 言ってなくてごめんね」

「貴様我がマスターを軽んじたか?」

珍しく、セイバーにしては珍しく憤慨したように不可視の剣をバットみたいに肩に担ぐと、瓦礫を巻き上げたときの砂ぼこりの向こうにいるかおりに鼻息を荒くした。
そう、必要なのはかおりの情報のみ。
道中何度も何度も経験した光の槍なんて、もう攻略完了だ。

「マスターは、インデックスは貴様の手の中でもがく小鳥ではない!」

一言で断じて剣を向ける。
その言葉その態度、私に対する信頼。
それが私をもっともっと強く強く作り変えてくれる。

「かおり、直ぐ殺してあげるんだよ」

私『達』は卑怯にも二人で戦っている。
でも、勝てばそれで良いんだ。

今日はここまでです。

投下します。

正面から斬りかかると?
           こう動く。
右側から斬りかかると?
           こう動く。
左側から斬りかかると?
           こう動く。
回り込みながら斬ると?
           こう動く。
突くと?
    払うと?
        薙ぐと?
            
     どう動く?

「ああああああああああああああっ!!」

「……………………」

”ぎぃんっ!”

私の騎士が戦ってくれている間、私の友人の情報をどんどん集め、脳内で分解し、そして組み立てて行く。
不可視の剣が不器用ながら、見えない斬撃を弾き、そしてついでのようにその身を裂かれる。
青い外套は血で染まり、既にドス黒い。
国を守るために戦い抜いた、清廉な騎士とは思えないほど黒い彼女。
何度も斬られ倒され、今もまた見えない斬撃を直感だけで打ち落とし、間合いに踏込また引き離される。
時折狙ってくる光の槍は私の指示で防げても、その直後を狙われてまた血を流す。
観察していて解るくらいの満身創痍。
時を刻む度に動きは鈍くなり、力は身体から失われている。
それでも。

”だっ!”

それでも!

「懲りない…………」

それでも!!

「勝つまで止まらんっ!!」

それでも!!!
それでも彼女は私の命令に従い、大きすぎる強敵に立ち向かう!

繰り返される攻撃をギリギリ、命の限界のギリギリで情報を与え続けてくれる。
命尽きる瞬間が先か、それとも私の予測の完成が先か。
どちらが先か解らない命を賭けたマラソン。
普通なら心折れ、手を、足を止めて命消されるのを良しとしてしまうだろう。
だけど、セイバーは折れない。
どこまでも私を信じて、どこまでも自分の命を絞りきる。

「っぜっ! ゃああああああああああああああ!!」

”ぎぃんっ!”

下段からの切り上げ、そのまま切り返す。
地面を砕き、自らの身体から出る血の線を中空に引き、全てを打ち砕くような一撃!

「っふ」

”きいっぃんっ!”

「くっ!」

そんな一撃もかおりは容易く鞘で受ける。
並みのサーヴァントなら防御していても吹き飛ぶような斬撃を、そよ風のように受けきればそのまま鞘に入ったままの刀を揺らす。
刀を振るのではなく、揺らす。
それにより発生する見えない斬撃、実に七。
襲い掛かるに差はなく、同時に多方向より、まるで檻が迫る様に斬撃が閉じる。
心眼(偽)というスキルを持つ、予知に近い直観力のセイバーでさえ捌き切れない、斬撃。

「七閃」

呟く様な送り言葉。
それが始まりの合図で終わりの合図。

「セイバー、ありがとう」

「インデックス…………!」

そしてこちらも始まりの合図で終わりの合図。

「? なにを?」

一瞬の疑問をかおりは浮かべたけれど、それより先にセイバーを排除しようと彼女は斬撃を放った。

『半歩後ろに下がって右半身になり、左斜め上に剣を構え一瞬受けたらそのまま袈裟に滑らせそれと同時に半身のまま前に飛んで!』

「! 了解っ!」

”だっ!”

完成した読み。
完結した予測。
それはそれはとても綺麗でそして、相手からしたらとても理解出来ないだろう。

「な、え、抜けた?!」

アサシンとして私の前に現れたかおりが見せる初めての表情。
それは、驚愕。
自分が放った回避不能、斬撃の檻、雨降るような攻撃。
それをセイバーは”ぬるり”と避け、そして一歩踏み込んだ。
さっきまで受けられ弾かれはしていたけれども、滑る様に流されることなんてなかった、だからこその驚愕で動きが止まる。
一秒、一瞬でも動きが止まれば、セイバーの一歩は相手の間合いを即座に潰す!
挙動静止しているかおりの胸元、まだ刀は防御に間に合わない!
魔力放出のスキルで弾けるような接近。
血を流す赤黒い流星となった彼女は、下段に構えた剣に力を込める。

「くっ! なっ!?」

既に接敵、完全にセイバーの間合い。
このまま剣を振りぬけばきつい一撃がかおりを斬り裂く。

ワタシヲミテイル。

「っ!!!」

コマ送りに見える景色。
これから友達だった、もう死んでしまったかおりが血に塗れるだろう一瞬前。
どうしてかクールビューティの死に顔が浮かんだ。
私が殺した私の友達の顔が、瞼に焼き付いて、どうにも離れないあの顔が浮かんだ。
何人も何人も何人も何人も何人も何人も。
数えるのもバカらしいくらい殺しに殺した友人の顔が浮かんだ。
浮かんだと言うか割り込んだ、私の脳みそに無理矢理。
…………。
……………………。

「さぁて、ああああのちっちゃい娘はお友達をまた殺しちゃうのかなぁ? あはっ☆」

外で起きてる戦い、それを高みの見物。
野蛮は争いは野蛮な人たちにやって貰いましょう、それが私の考え。
私みたいなお淑やかな女の子は、そう、ほんの少し戦いに手を添えてあげるだけ★
ほんのちょっぴり、かつて殺したお友達のお顔を脳みそに刻んであげる、それだけ。
お友達が忘れられたら悲しいだろうから、優しい私の優しいサービス。
そのサービスの行方は―――。

……………………。
…………。

「    」

セイバーがかおりを斬る瞬間、今一瞬。
浮かんだクールビューティの感情の死んだ顔。
斬りに斬って、殺しに殺したあの顔。
浮かんだその顔は、ワタシヲミテイル。
それが今繰り返さる!!!












から、どうしたの?
うん、繰り返される、また私は友達を殺す。
そうだね、そうなるね、悲しいね、涙が出るね。


だから?

それが?

どうか?

したの?

うん、そう、どうもしないんだよ。
今から私は友達を殺すけどそれはどうもしないことなんだよ。
セイバーを止めることなんかしない。
する訳がない!

「ぜぁぁぁああああああああああああああああ!!!」

”ざしゅっ!!”

「がっはっっっ!!!」

限界突破、城門さえ破りそうな極地の斬撃がかおりを斬り裂いた!!

「ぐっ!?」

溢れる鮮血、歪む表情、崩れる体勢。
圧倒的な性能差を見せていた彼女が崩れる一瞬!

「インデックス、あ、あなた、はっ!」

かおりもワタシヲミテイル、から笑いかけてあげた、にっこりと。
そして―――。

「セイバー! 止まらないで!」

「! はっ!」

―――情けはかけてあげない。
崩れゆくかおりにセイバーを向かわせる!

”ざっ!”

「がっ!!!?」

魂を削るような剣撃が、深く腕を抉る。

『セイバー! まだ!』

「まだまだぁあっぁぁあ!!!」

”ざっしゅっ!”

止まることなく剣を振るう!
途中、足を縺れさせ、セイバー自身体勢を崩していくけれど、それでも止まらない! 止まらせない!
鋭い暴風となり、敵を細切れにするように、まだまだまだまだ!!
命尽きるまで容赦はしない!!
…………。
……………………。

「あああら、あらあら? あらあらあらぁ?」

―――失敗。
私のサービスに彼女は迷いも戸惑いもなかったみた。
友達を殺すことに対する躊躇いなんかなくて、感情を燃やすでも凍らせるでもなく。

「フラットのままお友達をころころできちゃうわけぇ?」

自分のしたことを理解したまま人を、お友達を殺せる。
見た目は可愛らしい小さい女の子なのに。

「ここの娘…………人間なのぉ?」

今日はここまでです。

投下します。

「ぜっぁあっぁっぁああああああ!!!」

「ちぃいいいっっ!! な―――七閃っ!!!!!!」

剣撃をその身に受け体勢を崩しながらもかおりは技を繰り出す。
焦り怒りそして、悲しみの混ざり合った顔で私を見ながらセイバーに立ち向かう。
死んだはずの友人が生きている。
死んだはずの彼女が生きて戦っている。
死んだはずの大切な人が生きてまた死のうとしている。

『光の槍射出まで3.2秒、一旦後ろに引いて、それからもういっかい、今度は二股で狙ってくるから』

「っ!」

指示、予測の通りそれに従いセイバーは動き、そして予定通りに光の槍が落ちる。
それを簡単に、ボールを避けるようにセイバーは回避し、再びかおりに迫る。

「っふっ!」

「さっきからっ! 動きがっ!! がぁぁあああ!!」

数度目の斬撃、かおりの身体はその度に血に塗れて行く。
いくら圧倒的な能力があっても、それが予測できるのなら意味はない。
ただ―――。

「ちっ! 上手く躱すな、アサシンっ!」

―――セイバーの剣が後一歩届き切らない。
肉を裂き、血を噴出させてはいても、死には至らない。

「逃げる技術だけは人並み以上だなっ!!」

恐らく幸運EXがもたらしている奇跡。
セイバーの何十もの剣が致命傷に届かない。
ほんの数ミリの世界で、風で、足場で、音で、空気で。
様々な要素が絡み合い、かおりの命をギリギリの位置で守る。
だけどそれは―――。

「無駄な足掻きは苦しみを長めるだけだぞっっっ!!」

「ぁがっ!?」

―――その通り。
私の読みは動きが進む度に精度は上がっていく。
リアルタイムでセイバーには既に3秒先の未来を伝えてある。
繰り出される攻撃の技撃線も読み切っている。

”ざしゅっ!”

「ぁっがぁぁあ!!」

セイバーの剣はかおりの肉を裂くが―――。

「なっなせんっ!!!」

「ふっっっ!!」

”するっ”

―――かおりの攻撃はセイバーに掠ることすらしない。
気まぐれに降る光の槍も読み切り、後は持久戦のようにじっくり端から殺していくだけで終わる。
かおりを殺し、次にこの面倒な光の槍を撃ってくる相手を殺す。
そしてやっとキャスターだ。
中々面倒で長い道のりだけど、一歩づつ丁寧に殺して行けばやがて刃は相手の喉を掻っ切るだろう。

だから、少し手順を短縮しよう。

「インデックス?! なにを…………」

そっと踏み出し、そっとセイバーの前に出る。
その行為に彼女は驚愕の表情を浮かべるが、止めようとはしない。
血で黒く染まった騎士の前に、黒衣の私が出る。

「インデックス、何の真似ですか?」

息荒く、そこら中に血をにじませ、セイバーと良い勝負のかおりの前に立つ。
拳を握る、構える、前を見る。
戦う者としてアサシンの前に立つ。
かおりからは怒りの感情が伝わる。
セイバーの驚愕と、かおりの怒りに挟まれ、それでも構えを解かない。

「インデックス、退いて下さい」

「そうですマスター、今はふざけている場合ではありませんっ!」

二人は解っている。
これから私が何をしようとしているのか理解している。
だけど、理解できていないふりをして制止する。
まさかそんなことにはならないと願って止めている。
だから私はその二人の願いに止めを刺す。

「構えろアサシン、私が相手なんだよ」

手順短縮。
セイバーには狙撃してくる光の槍を破壊して貰おう。
それで私はここで友人を破壊しよう。

構えはそのままに念話で簡潔に作戦をセイバーに伝える。

「っ! ……………………了解しましたマスター」

「なっ?! セイバー!! 騎士は敵前逃亡を良しとするのか?! 主を怨敵の前に放り出し、逃げるのですか!?」

「っっっっ!!」

その場を離れようとしたセイバーをかおりは必死に引きとめる。
状況、これから何をしようとしていて、何が起こるかを彼女は理解していたから。
だから、声を荒げて騎士を自分の元へ留めようとする。
その言葉にセイバーは身体を硬直させるが―――。

「行って」

「……………………っ! あ、主の命なればっ!」

「なっ!?」

―――私の言葉に押され、指示した方向に駆けた。
唇を噛み切り、新たに血を流しながら彼女は一瞬でも早くこの場に戻ろうと神速を持った。

「バカなっ、これでは、これでは…………私は」

その背を震えながら見つめる愚か者のアサシン。
そう、目の前に敵がいるのに目を離す愚か者。
その愚か者に向かい、迷わず踏み込んだ

”ごっ!”

「……………………インデックス、本気ですか?」

「本気なんだよ、正気じゃないかも知れないけど」

踏込、腰を回転させ、理想的に力を拳に伝達させ振り切った。
強化の魔術で煉瓦のように固くした拳はかおりに届かず、彼女の刀の鞘に受け止められた。
そして投げかけられた問い。
それに正直に答える。
三歩下がり、再び構える私を前に、かおりは刀を握り締め震えていた。

「どうして、こんなことが起こるのでしょうか?」

「…………」

彼女の嗚咽に似た言葉に私は答えない。

「どうしても守りたいものが、どうして守れないのでしょうか?」

私は答えない・

「あなたは何を考えているのですか?」

答えない。
言葉で答えない代わりに拳で応える。

”だっ!”

バカ正直に真っ直ぐに、さっきのように踏込、さっきのように拳を突きだす!
黒衣をはためかせ、弱い拳が奔るっ!

”ごっ!”

「…………インデックス、私はあなたとは戦いたくはない」

「…………」

答えない。

代わりに―――。

        ―――あなたを殺してそれを答えにしてやるっ!
涙を流す英霊に向かい、私は三度拳を振った。

今日はここまでです。

投下します。

”ごっ!”

「ひゅっ!」

「っ! インデックス! 拳を引いて下さい!!」

拳を構えたまま小さく踏込む。
左足をやや前に踏み込んだら、前方に投げ出しそうになる身体を引きとめながら腰を回して拳を振りぬく。
ここしばらくの間に映像で、書籍で集めてきた格闘技術を脳内で再現し、それを肉体に下ろす。
一種の降霊術に近い技術のダウンロード。
それは勿論私の身体にかなりの無理を強いる。
見たこと、書かれている理論、それを鍛えていない身体で無理に再現しているのだから当然だ。
本当なら自分の体格、手足の長さ、体重にゆっくり馴染ませ技術を身体に埋め込むのが正しいやり方だ。
でも、それじゃあ間に合わない。
この戦争を戦う為には私を無力過ぎるから。
今まで守られるだけに徹していたそのつけだと思えばこの苦痛も報いだと受け入れられる。

”びきぃっ!”

「…………っ!」

突き出した拳の勢いに右腕の筋が嫌な音が響いた。
教本通りのフォームから繰り出した拳撃は身体の耐久能力を超えていく。

「インデックス! もう止めてください!」

「やめ、ないっ!」

その身体能力を超えた拳もアサシンの鞘に容易く防がれる。
この程度の拳では人は殺せても英霊にはまったく届かないことは解っている。
でも、一瞬たりとも動きを止めない。

悲しい顔をして、肉体の痛みに蝕まれる私より何倍も辛そうな顔でかおりは拳を受ける。
最初は長い刀の鞘で、それが掌になり、今は―――。

”ごっ! がっ! どずっ!”

「っは! はぁ! あ! …………っ!!」

「やめて下さい、インデックス…………何になるんですか、こんなことっ!」

―――彼女はその場を動かず身体で拳を受け止めていた。
それは私の拳が傷つくのを恐れてか、それとも他の理由か。
既に拳頭からは流れ出ている血が、彼女の服を汚す。
私の渾身は彼女をぐらつかせることも出来ず、それでも拳を繰り出し続ける。

「ふっっ!」

左足をやや斜めに踏み込んだら、腰だめに構えた拳を捻りながら突き上げる。

”どっ!”

「…………」

魔力で強化された拳に加えて、理想的なフォームで繰り出された拳は、以前の様に肉体強化をせずとも人を壊すことの出来る威力を秘めていた。
それでも英霊には、アサシンには届かない。
でも、それで良い、それでも拳を止めない。止める気はまったくない。

「インデックス、止めてください! あなたの願いなら私が叶える」

止めない。

「上条当麻の捜索及び救出ならば、英霊として私が授かれる聖杯の願いで必ず実行します!」

止めない。

「もう止めて下さい、あなたの在り方は…………おかしいです」

止めない。
何度も何度も拳を振るい、必死に語りかけてくるアサシンを無視する。
降り落ちる月光の海の中をもがく様に暴れ続ける。

「インデックス、なにがあなたをそこまで変えたんですかっ…………!」

止めない。

…………。
……………………。

「…………! 速く、速く!!」

インデックスを置いて、狙撃者に向かう私の胸中は焦りに満ちていた。
今の彼女は危険すぎる。
その彼女の前に現れた、友人である敵。
既に死して、英霊として使役されている相手。
そんなものと戦うなんて危険すぎる。

「一刻も早く戻らねばっ!」

空を駆けるようにビルの壁を飛び、インデックスより指示されたポイントに走る。
彼女の指示は的確で、そこに向かうまでの攻撃の有無まで指示には入っていた。

「6、5、4、3、2、1…………来るっ!」

”ばしゅぅうううう!!!”

「っっっ!!」

進行方向からの光の槍。
まるで大質量の物体が高速で飛ぶようなそれに剣を向ける。
地面で止まっているときならいざ知らず!

「加速している今ならばっ!! あああああああああああああ!!!」

”ずじゃぁあぁぁぁああぁああ!!!!”

魔力により加速の生んだ突破力で不可視の剣が光の槍を斬り裂くことも可能だ。
それもインデックスの読みがあってこそなのは間違いないけれど。

「お、おおおおおお!!!!」

光を斬り、月夜を旬魚のように真っ直ぐ突き進む。
この先に狙撃手がいる!
それをいち速く斬り、いち早く戻る!

「いたっ!」

ビルの屋上、その背の高い手すりの向こうに人影を発見。
手に細長い何かを持っている。
近づくごとに見えてくるフォルム。

「女か…………しかしっ!」

容赦をする気は毛の先ほどもない。
友人の死を目にし、友人を殺し、自分を守るために死んだ友と戦っているマスターの為に。
不安定なままこの戦争に投げ込まれて、必死に目標の為に自分を誤魔化す戦う主の為に。
そして―――。

目標地点のビルの二つ手前の壁を陥没させる勢いで蹴り、その力をもって更に加速をする。

「ああああああああああああ!!!」

「っ!?」

こちらに気付き、その手に持った何かを動かす前に接敵。
風を切り裂き、瞬きの間に時間を奪った様に彼女の目の前に接近し―――。

”ざしゅっ!”

「…………」

―――討ち取った。
細い女性らしい体つきの、髪を二つに分けた狙撃手を斬り殺し、呼吸を一拍。
足元にはガラスで出来た三角柱のようなものがいくつも転がっていて、いくつかは焦げているようだった。

「こいつは能力者か、それともこの…………何といったか」

右肩からばっさりと両断した死体を確認する。
死者の身体を物色するような行為は不義ではあるが、今は不安の目を詰むことが大事だ。
彼女のもっていた細長い物体を手に取り、知識と照合する。

「かいちゅうでんとう、に似た物体があの光の槍を作り出していたのか?」

科学と言う宝具に匹敵する知識はそこまでの英知を作り上げているのか、そう考えると悍ましい何かを感じないでもない。
しかし、それを今考えることも問うことも私には必要ない。
私は剣だ、主の目の前を切り開く為だけの道具。

「行こう」

”ばきんっ!”

手にしたそれを砕き、再びビルを足場に跳躍、そして飛翔。
狙撃手は倒した、それを直ぐにインデックスに伝える。

『指示通り狙撃手は殺しました、直ぐに戻ります、無理をなさらずに』

『直ぐに左斜め下に飛んで』

『え? ―――あ』

念話を送り、これから戻ろうとしたとき、インデックスから冷静な指示が送られた。
慣れてしまった私はその言葉に身体が自然に動き、そのさっきまで私がいた場所を何度も何度も避け、そして最後には斬り裂いた光の槍が、大質量のそれが通り抜けて行った。

「なっ!?」

振り返った先、そこにはさっき殺したのとは別の女が立っていて、こちらに掌を剥けていた。
…………狙撃手は二人いたのか!?
インデックスの読みが外れた? いや、その前にやつを殺さねば!
光の槍とすれ違うように身体を無理に反転させ、狙撃手を!

「あ…………」

そこで気付いた。

さっき私と光の槍はすれ違った。
それはつまり、私の進行方向に向かっていったということだ。
その方向にいるのはインデックス!

「くっ…………!」

一瞬だけ動きが止まるけれど、直ぐに思い直す。
さっき、どうしてだか二人目の狙撃手を知っていたインデックスは私に回避指示を出した。
その彼女が当たるハズがない、そう信じ、信頼して目の前に専念する。

「ここここここ来いよ経血くせぇしみったれた売女ぁぁぁああああああ!!」

「っ!?」

獣の様に髪の長い狙撃手が咆えた。
手を前に突出し、その前方に光の玉が生まれる。

「あれが光の槍か…………!」

威力、速さ共に如何ともしがたいが、この距離なら避けてそのまま斬りかかることも可能だ。
インデックス! 待っていて下さい!
直ぐに、直ぐに戻りますから!
剣を握り直し、身をかがめ、空を駆った。

今日はここまでです。

投下します。

一撃の元にとる。
改めて全身に力を込め、剣に意を乗せる。
狙うは一人、狙撃手のみ。
距離は短い、こちらに部がある。

「っ!」

「さささささささっさと飛び込んで来いよ腐れ穴ボコがっ!」

音に勝る速度で突撃する私相手に”人間”でしかない狙撃手は恐れない。
それがキャスターのより思考の変化によるものなのか、それとも彼女の本来の気概なのかは解らない。
ただ、その純粋な戦欲は私の剣を震わせる。

”きゅぃいいいいいっ――――――!!”

灼熱する光の玉、そこにあるだけで周囲の空気を燃やし、威嚇するように音を響かせている。
その光の玉が弾け、光の槍になる前に人知の枠より向こうの速度で荒れ狂う狙撃手に接近。

「ぜぁぁぁあああああ!!」

魔力放出の速度に乗せ、突進の威力をそのまま剣撃に切り替える。

「ちちちちちちっとばっか速ぇだけでチョーシに乗れんなら世は早漏ども天下だっつーの!!!!」

女はこの速度にも、圧力にもまったく恐れていない。
20代程度に見える女だというのに、平和な時代に生まれているハズなのに、まるで戦士のような気迫を持っている。
その気迫、獣のような圧力に私の剣も共鳴するように震える。

「っ……………………っづぁぁぁあああああああああああああ!!!」

”ざしゅっっっっ!!!”

「……………………が、っ、あ。が」

気迫の研がれるように震えた剣で、狙撃手の光の槍が弾ける前に相手を両断した。
一撃必殺。
胸を右から左に一文字。
何の間違いのないように心臓を斬り裂いた。

「このようなことはしたくはないが、念のために…………」

”ざぐっ!”

不可視の剣を振るい、転がる頭部に剣を突き刺した。
心臓を潰しい頭を潰す。
ここまで念入りにやる必要はないかも知れないが、もしもがある。
相手はキャスター、反魂、もしくは死肉を操作することもあり得る。
だとしたらその可能性は潰しておかなくてはならない。
もしそれを怠れば、またインデックスが深く深く落ちて行く。

「いや、もうインデックスは……………………っ」

思考を無理矢理に引き戻す。
今は戻ることを優先しよう。

「…………」

頭部に突き刺した剣を引き抜き、一振りで血を流し足に魔力を込めた。
一足飛びに、最短距離を一気に駆け詰め、インデックスの元に向かった。
そこでは既に決着がついていた。
……………………。
…………。

「ふっ!」

”どすっ!”

「はぁっ!!」

”がっ!”

セイバーが飛び立ち、アサシンと一対一での戦い。
私が殴りかかり、彼女は一歩も動かずただ拳を受け続ける。

「インデックス、止めてください」

拳を受け、ただただ止めるように促す。
それには答えず拳をぶつけ続ける。
技術を模倣し、拳を強化しても彼女に何のダメージも与えられず、むしろこちらが傷ついていく。
それに彼女は心を痛めている様で、歯を食い縛り微かに血が流れでていた。

「インデックスっ! あなたはこんな戦いに身を落とす必要はない!」

「ふっぅっ!」

一瞬左手を前に出し、その手で存在しない棒を掴むように自分の身体を引きつけ、スイッチをするように右の縦拳でかおりの鉄みたいな腹筋を穿つ。

”どっっ!!”

「…………止めて下さい、あなたが拳を握る必要なんかないのです」

体重を乗せた渾身の一撃であっても、何のダメージも与えられない。
それでも何度も繰り返し殴り続ける。
鉄を叩く様な音を闇の舞台に響かせ、筋肉を、骨を軋ませ何度も繰り返していく。

「ステイルもここにいます、先日私が捕えました」

”ごっ!”

「二人で逃げて、聖杯戦争から離脱して下さい」

”がっ!”

「その間に私がこの戦争を終結させ、上条当麻を救います、元はこちらのミスですから」

”どっ!”

「インデックスっ!!!」

かおりは私を救おうと、この戦争からどうには助け出そうとしてくれている。
一度死に、再びこの世に使役されているそんな状態でも生前の心をまったく失っていない。
とてもとても美しい心を持っている。
全てを手に入れられるほどの能力を持っているのに、生前その能力を全て救世に傾けた真の意味での聖人。
その彼女に拳をぶつけ、自分の身体を軋ませていく。

「やめて下さい…………インデックスっ!」

この行為、私が自分の身体を傷つける行為にこそ彼女は悲しみ、悔しそうに歯噛みしている。
私を救えないことに悔しそうに身体を震わせている。

「インデックス…………どうして?」

そして涙を流す彼女を前に、私はついに動きを止めた。
手は痺れ、拳は砕け、歪な膨らみになっていた。
無理に教本通りのフォームを続けたせいで下半身にはだるい疲れが蝕み、肺は機能していないように息苦しい。

「かおり、私…………ぁ」

俯き、黒衣に包んだ私の身体を彼女は優しく包み込んだ。
そっと、岩石を破壊できる腕力で信じられないくらい優しく。
全てを包み込み、全部許し、何でも受け入れるように、そっと、そっと。

「良いのです、インデックス…………後は私に任せて休んでく、あ」

「かおり、私、私っ!」

その優しい腕に身体ごと飛び込んだ。
さっきまでどれほど殴っても揺れもしなかった身体は簡単に揺れ、一歩、二歩と後退した。

「……………………インデックス、辛かったですね」

「うっぐ、ひっぐ、うぅううう…………」

涙を流し顔を埋め、体重をかけていく。
かおりのしなやかな身体に全てを預けるように、この身を捧げ、そっと―――。

『指示通り狙撃手は殺しました、直ぐに戻ります、無理をなさらずに』

―――彼女の身体を突き飛ばした。

”ばしゅぅううううううう!!!!!!!”

一瞬の閃光。そして灼熱。
セイバーには狙撃手の嘘の位置を教え、協力者、おそらく光の槍をサポートしていた相手に向かわせた。
それにより最後に狙撃、英霊すら直撃で死に至らしめる光の槍は私の想定通りの場所を貫いてくれた。
優しく抱きしめ、そして素直に後退してくれた友人の頭部を。

「イン、ッ―――ス、無事、で、す…………か」

「…………無事なんだよ、ありがとう」

彼女の死因は目の前でしっかり目に焼き付けていた。
頭部への狙撃による死。
それを再現させて貰った。
だけど、普通なら彼女の規格外の幸運で光の槍は外れただろう。
しかし、それも封じさせて貰った。
私が彼女を頼り、縋り付いたことでかおりは『インデックスを守りたい』そう強く願ってくれたから。
つまり彼女の幸運は私を守ることになっていた。
だから、こうも容易くバーサーカーとも正面から戦えるだろう英霊は死する。
私を守れたという満足感を抱いて、二度死ぬ。

「無事、なら、良かっ、た…………あ―――あ」

「うん、ありがとう…………アサシン」

盾になって死んでくれた彼女の身体が光の塵となる。
その光景をしっかり目に焼き付ける後ろで鎧の音が響いた。

「討ち取ったのですか?」

「うん」

肩越しに振り返りながら答える。

「さすがは我がマスターです」

「それほどでも無いんだよ、伝説具象されてない分読みやすかったし」

筋肉、そして骨の軋みに軽く肩を鳴らす。
深い夜の中、聖人がついに光の一片すら残さず消えた。
月の明かりしか無い世界、そこに躊躇わず踏み出す。

「さ、セイバー、行こう」

「……………………はい」

……………………。
…………。

「……………………はい」

主の声に頷き、その後ろに付き従う。
どんな方法を用いたか、彼女は生身で、神秘も帯びぬまま英霊を打ち倒した。
それは誉めるべきであり、称賛に値いし、何より尊敬すべき行為なのだろう。
なのだけれど、それを素直に歓声で迎え入れることが出来ない。
…………インデックス、あなたは一体どうしてしまったのですか?
目の前で死んだ友人を、その手で再び死に戻す。
そんなことをしているのに、何故貴女は落ちつている?
そう、落ち着いているのだ、不安定じゃない。
不安定なまま戦場に投げ出され、深い闇の中でもがいていた彼女は今はもう静かに安定してしまっている。
友の死を見て震え、その手で殺した苦しみに囚われ、これからまた友人を殺すことに葛藤していた彼女。
まだ少女であるが故の不安定、人間であるからこそあり得る不安定さ、それが今の彼女にはまるでない。
心を壊した訳でも、強がっている訳でも、逃避している訳でもなく、彼女の心はしっかり安定している。
友人を殺した今もこれ以上ないほど安定している。

「……………………」

それが私には恐ろしくてたまらない。
かつて国の為に村を焼き払ったことも私にはある、言い訳にはなるが、そこには葛藤と苦悩が確かにあった。
それを臣下に見せることはしなかったけれど、何度も何度も何度も苦しそうなくらい自問自答をした。
だけど、インデックスにはそれがなくなってしまっていた。
心を失った訳ではない。
しっかりと意志を持ったまま、彼女の心は戦場に適応してしまっている。

「……………………」

恐らく、予想ではあるけれど、インデックス、彼女は今聖杯戦争最強のマスターだろう。
主の背中を見て歩いているのに、私の背には嫌な汗が滲んでしまった。
とても、とても恐ろしいものを目の前にしたように。

今日はここまでです。







それと、セイバーズスレを読んでくれていた皆さん本当にありがとうございました。

インさん、もしかして、中身というか、内部から別物が現れてきてなかろうか

>>781
乙です
えっあれも>>1だったんか…!?

乙です!

セイバーズスレもよかったですよ!

同じ作者とは思って無かったけど……。

そうだったのかよ・・・(;´Д`)

アッチとは空気がまるで違ったからビックリしたぜ

もうインさんは狂っただけでなく心まで踏みにじる邪悪になったか・・・

>>782
どんどんインデックスからは離れてしまっていますね

>>783
はい、平行でだらだらやっていましたが先日完結させました

>>784
楽しんで貰えたなら何よりです

>>785
少し雰囲気が違いますよね

>>786
不安定が最悪の方向で安定した、みたいな状況です

投下します。

「凄い魔力濃度…………普通の人なら立ってるのもやっとなんだよ」

「これほどとは…………もはや神殿クラスですね」

インデックスが魔力の濃い場所や魔法陣の配置を読み取り、あるビルの内部に侵入していた。
そこは魔力の濃度が異様なまでに濃く、一部は異界と化しているのか魔物の息づきを感じることさえ出来た。
いくらキャスターのサーヴァントだとしても、異様なまでの造りだった。
剣士であり、騎士である私はそこまで魔術には詳しくはないけれど魔術師が己が魔術を練磨するには工房と呼ばれる陣地の作成が必要らしい。
そしてこのビルを元に作られた陣地、それは工房の上、大規模魔術や神霊級の召喚、道具の生成を可能とする神殿だ。
凄まじいまでの魔力貯蔵量に唾を飲む。
普通に見えるビル、その廊下を歩いているだけで感じる魔力の総量は小聖杯であれば満たせるほどの量だった。
これだけの魔力を一騎のサーヴァントに注げばどれほどのことになるか想像もつかない。
それにここまでの敵の数、多くの少年少女、能力者を操り、そしてあのアサシンも恐らく。
それほどまでに大量の魔力、そして複雑な術をこなす魔術師、キャスターの神殿の内部に現在私たちはいる。
ほとんど胃袋の中、これから消化されるのを待つしかない、そんな状況、私でも解る状況でもインデックスは揺るがない。
小柄な身体を黒衣に包み、震える手足を迷わず動かす。
微かな月明かりでまるで海のようなビルの廊下を、魔力の残滓、魔術の指向性を読み取り、確信を持って進んでいく。

「……………………」

その背中を見ながら考えに耽る。
本来なら騎士である私が前を歩くべきなのだけれど、インデックスの前に出ることを何かが拒否していた。
不安定な感情の塊だったのにいつしか安定しきったインデックスは、私には人間には見えなかった。
アサシンを倒し、これで残る英霊は4体、倒すべき数は3。
ついに半分まで上り詰めた聖杯戦争。
このまま進めば間違いなく私のマスターであるインデックスが勝利を治める。
そのことの予想は簡単についた、ついてしまった。
この学園都市における聖杯戦争にて、彼女ほど強いマスターはいないだろう。
それは魔術師の力量や、魔力量などではなく、戦うこと、そして勝ち抜くこと、この二点においてインデックスの能力値は桁外れだ。
そこで疑問が生まれた。

…………彼女を勝たせて良いのか?

「この魔力、魔法陣の術式から考えて…………神代文字の一種なのは解るんだけど、うーん」

「……………………」

ビルの内部、その壁や床、天井に至るまでびっしり書き込まれた魔法陣の一部を見て悩む姿は普通の女の子だ、内容はともかくとして。
そう、普通、普通の女の子。
友達を一人殺した後だと言うのに普通の女の子だ。
ぶれることない、狂っていない、それなのにこの安定した精神。
安定しているマスターを見て、私はとても不安になる。
だから、少しでも不安を減らそうと、その不安を口から吐き出すことにした。

「インデックス」

「なに?」

「何故、狙撃手の位置を間違え―――」

彼女の真意を確認する為にも言葉を隠さない。

「―――狙撃手の、嘘の位置を私に教えたのですか?」

「アサシンを殺すために必要だったから、ごめんね」

吐き出した不安は一息で消し飛ばされた。
彼女に真意も何もない、そうだ、さっき認識したばかりだったのに忘れてしまっていた。
インデックスは勝つ為の数値が桁外れなんだ。
全てのことは勝利への布石。
私に対する嘘も、友人を殺すことも、殺した上で何一つ揺るがないことも。
彼女にとっては勝利への道具なのかも知れない。

「……………………」

でも、だからこそもう一度思う。
勝つことだけに特化した彼女、このまま勝利させて良いのか?
勝利した後、彼女は、上条当麻相手にどんな顔をするのだろうか。

「……………………どんな顔を」

「ん? 何か言った?」

「いえ、何でもないです…………先を急ぎましょう」

主の考えに異を唱えてはいきない、私の家臣たちはそうしてくれていた。
そんな風に言葉を押し込み思考を停止した。

…………。
……………………。
神代文字の書かれた壁ばかり続くビルを進んでいく。
既に迷宮、魔城とかした魔術師の神殿にはいたる場所に異界の口があり、複雑怪奇に入り組む迷路になっていた。
あるはず無い道があり、あったハズの扉が消える。
奥に進めば進むほどその怪奇異様さは際立って行き、天井に通路が開き、そこを朧な人影が歩く。
ビル内に似合わない洋風の扉が大きく設置され、手足が煙のように揺らめく犬が足元を駆け抜けた。
窓の外に見える空は何も変わらない海のような夜ではあっても、ビル内は泥のような異界になりはてていた。

「…………インデックス、このまま進んで大丈夫なのですか?」

「……………………一応、道は何本か用意されてるみたいだから大丈夫なんだよ」

「道?」

後ろをついてくるセイバーが不安そうに声をあげた。
このあまりに異様な、人間界ではありえないようなビルの中を不用意に歩いて良いのかと。
まるで捩じれた異次元のような道をこのまま歩けば、私たちもそこらを不透明に揺らめく”はざまのもの”になってしまうだろう。
だけどしっかりとした道さえ理解出来ればその心配はない。

「うん、道、人工的に異界を作るためにはその骨格が必要なんだよ」

そう、骨格が必要。
元となるもの、出来れば封鎖された場所が良い。
その建物を骨格にして異界を張り付けて作るのだ。
何もない場所にいきなり何かを作ることは難しいけれど、元からあったものを作りかえることは可能だ。
そうなるとどうしても元からあった道が残る、それは一本だけかはたまたいくつかあるのか解らないけれど、その内の一つを選び歩いていた。
そしてその正しい道の各所には、それなりに重要なものが配置されているハズ。
だから私はそれを探しつつ、深部に向かっていた。
私の言葉の少ない説明でも納得してくれたのかセイバーは何も言わず、遅れることなく付き従ってくれる。

「…………ここ」

「! この先にキャスターが!?」

もうビルの中だとも解らなくなってしまい、上下の感覚も薄くなったそこで立ち止まった。
全てが捩じれて、異界の深部のようなそこで立ち止まり、大きな門に手をかけた。

「…………インデックス、私が先に」

「大丈夫なんだよ、まだここじゃないから」

剣を構え、前に出ようとする彼女を留めて中に入る。
そこは監獄のような部屋、左右に牢がいくつか並び、不定型な影や、さっきまで見てきた”はざまのもの”が面白半分に入っていた。
ただ、一つだけ実体が入っている牢屋があった、その前に立つ。

「まさか、君にこんな情けない姿を見せることになるとはね」

「インデックス、彼は」

さすがにこの状況では余裕もないのか、普段彼から香るタバコの匂いもなりを顰めていた。
忠誠の牢屋を思わせるそこで、傷ついた身体を横たわらせていたのは―――。

「ステイル、助けに来たんだよ」

「その黒い服は僕へのリスペクトかい?」

―――炎を専門とする若きルーンの魔術師、ステイル・マグヌス。
以前もとはるから「キャスターの捜索の末に消息不明」と言われている彼がそこにいた。
かおりが捕えたと言う彼を見つけることが出来た。

「セイバー、檻を壊して」

「了解しました」

”ぎんっ!”

「…………ありがとう、助かったよ」

セイバーの剣により壊された檻からステイルはその大きな身体を揺らしながら出てきた。
かおりが捕えたと言ってたことからそれほど乱暴はされてはいないだろうけれど、この異界に長時間いた為に精神が擦り減っているのだろう。

「ちっ…………」

ふらふら揺らすと、癖の様に棟ポケットに手を向けてそこに普段ならあるそれがないことを思い出して彼は舌打ちをした。

「どちらか、タバコを持っていたりは…………しないよね」

「しないんだよ」

「そうか、それは残念だけど仕方ないね」

髪をかき上げ、彼は2mの長身から私を見つめる。
その瞳の色はかおりのそれと良く似ていた。
彼も知っているのだろう、私の戦争を全て。

「ふぅ……………………インデックス、じゃあ、ありがとう後は僕がどうにかしておくから君は帰るんだ」

「うん、そうするんだよ」

「インデックス!?」

ステイルの言葉に何の躊躇いもなく頷いた私を見て、セイバーは驚愕の表情で声をあげた。
それに対して無言のまま背を向け、牢獄から出ていく。

「くっ…………」

「……………………」

私の背中を直ぐにセイバーは追いかけてくれた、そしてステイルは悲しい目の色でないタバコを探しながら私の背中を見つめていた。
それを感じながら、再びこのビルの深部に向かう。
この先にいるキャスターを倒す為に。
きっとステイルはそれを分っているのだろう。
だけど、それでも私を止めないということは―――。

「解ってくれてるんだね」

―――変わりきった私を理解してしまったのだろう。
時間の進みすら不確かな異界を一歩一歩進んで行った。
この戦争の終わりを目指すように、ゆっくりと。

今日はここまでです。

【セイバー】
マスター『インデックス』
 真名 『不明』
 属性 『秩序・善』
 筋力 『C』
 魔翌力 『C』
 耐久 『B』
 幸運 『B』
 敏捷 『C』
 宝具 『C』

【ランサー】
マスター『不明』
 真名 『クー・フーリン』
 属性 『不明』
 筋力 『B』
 魔翌力 『B』
 耐久 『B』
 幸運 『E』
 敏捷 『A』
 宝具 『B』

【アーチャー】
マスター『御坂 美琴』
 真名『不明』
 属性 『不明』
 筋力 『C』
 魔翌力 『D』
 耐久 『B』
 幸運 『C』
 敏捷 『B』
 宝具 『??』

【バーサーカー】
マスター『月詠 小萌』
 真名 『ヘラクレス』
 筋力 『A+』
 魔翌力 『B』
 耐久 『A』
 幸運 『B』
 敏捷 『A』
 宝具 『A』

【ライダー】
マスター『打ち止め』
 真名 『メデューサ』
 筋力 『C』
 魔翌力 『E』
 耐久 『C』
 幸運 『E』
 敏捷 『B』
 宝具 『A+』

【アサシン】
マスター『不明』
 真名 『神裂火織』
 属性 『秩序・善』
 筋力 『A++』
 魔翌力 『A』
 耐久 『B+』
 幸運 『EX』
 敏捷 『A』
 宝具 『??』

【キャスター】
マスター『不明』
 真名 『 』
 属性 『 』
 筋力 『 』
 魔翌力 『 』
 耐久 『 』
 幸運 『 』
 敏捷 『 』
 宝具 『 』

であってる?

投下します。

「インデックス、彼はあのままで良いのですか? 戦力になりそうな魔術師ではないですか」

ステイルと別れ、帰ると宣言はしたけれど私は迷わず深部を目指した。
元からステイルの救出が目的じゃないのだから当たり前だ。
その間、セイバーはステイルのことを気にかけている。
いや、気にかけているのじゃない、ステイル、ステイルじゃなくとも第三者を欲している。
私の後ろを歩く彼女との距離、それが少し広がっている。

「……………………」

「彼を戦力として引き入れることが出来れば、この先も十分優位に戦えると思います」

戦術的な理由を盾に、彼女は必死に言葉を並べる。
足音も響かない異形の空間、キャスターにより喰われた人間の影のみが通り過ぎて行った。

「魔術師が一人加わるだけで戦況は大きく変わると思います」

私の言葉が返ってこないのに、彼女は言い訳のように繰り返す。
言葉には焦りと、恐怖の色がしっかり滲んでいる。
その色が向いている場所は―――。

「まずは彼の魔術による遠距離からの―――」

「セイバー」

「―――!!」

何の気持ちも込めていない、ただの人間の、私の一言で英英であるセイバーが震えた。

―――私だ。

剣の英霊セイバー、彼女は私が怖くて堪らないみたいだ。

…………。
……………………。

「ふぅぅう…………ちっ」

インデックスが去った牢獄。
気がおかしくなりそうな異界の空気の満ちたそこで、壁を背に息を吐く。
赤い髪をかき上げ、タバコがない苛立ちに舌打ちをし、少女の黒い背中を思いだした。

「君は…………何をそこまで思い詰める」

彼女がいつでも身に着けていた白い修道服。
元の魔術的障壁効果を失っても、それが自分を表す記号、自分であるための楔であるようにそれを着ていた。
白く、何ものにも汚されていないその姿を。
この薄汚れた世界で何より目立つ白を彼女は着ていた。
きっと無意識的に、彼女が大切に思っているあいつが見つけやすように。
その為に着ていた白く穢れない服だったハズなのに。

「今のあの娘は黒く染まっている…………のかな」

この学園都市で行われている聖杯戦争。
それに偶然巻き込まれた彼女は、偶然にも願い持ってしまい、偶然にも勝ち進んでいく。

「出来の悪い映画だな」

自分なりにこの戦争を調べて、出来ることなら破壊してやりたかった。
それも間に合いそうもないし、僕自身の能力では不可能だと見切りはついていた。
それでも僕は彼女の為に動くことを止められない。
死した神裂がそうであるように、今もどこかでしぶとく生きているだろう上条当麻がそうであるように。
僕はインデックスの為に動き続ける。
言い切るならば、僕は彼女の為に死ねる。
例えもう報われない、奇跡の先にある夢のような恋心だったとしても、それを秘めて彼女を守ろう。

「…………やぁ、遅かったね」

目を閉じ、誓いをもう一度繰り返したとき異界の牢獄が再び開いた。
そこにいた男に目線だけを向けると髪をかき上げ―――。

「とりあえずタバコ、持ってないかな?」

―――そう聞いた。

……………………。
…………。

「……………………」

「……………………」

無言の行軍。
セイバーはあれ以来口を開かない。
ただ一言私が名前を呼んだ、それだけで彼女は恐怖に囚われた。
それでも私を守る、私に仕えてくれている彼女には感謝してもしきれない。
彼女は原動力、私が動く為の、戦争に勝ち抜くためのエンジンだ。
エンジンがなくなってはもう破綻しかない。
そのエンジンは今必死に恐怖を押し殺し、胸の奥に秘め、剣になりきろうとしてくれていた。
何も考えず、担い手が相手を斬る為だけの剣に。
彼女はそうすることで自分を保とうとしているみたいだった。
心を殺し、抑え込み、ただ一本の剣であれと、私に全てを投げ出した。
それは少し寂しいことだ。
二人で戦ってきた、協力し合った、信頼はあったハズだ。
それはお互いに能力に対する信頼であったかも知れない、だけど確かにそれはあった。
でも、その眼に見えない要素は消え去った。
セイバーの私に対する信頼は恐怖で消し飛び。
私のセイバーに対する信頼はまだあるのに。

「ここだね」

「っ! ………………………………この先にキャスターが?」

異界の最深部。
もう、上下も左右も関係なくなった世界、そこに設置されていた扉の一つの前で止まる。
久しぶりに声を出したからか、少しかすれたような音をセイバーは響かせグッと前に出た。
勇敢に前には出るものに、恐怖はそう簡単には消えないのか目は合わせてくれない。
それでも声は聞いてくれている。
目はいくら合わせてくれなくても耳は聞こえている。
なら、きっと大丈夫。
行く前に枷を解こう。
それなら負けることはないから。
異界の闇ですらない深い影の中、そこに溶け込むくらいの黒衣を纏い微笑んだ。
セイバーが見ていなくて良かったと思う、多分私の笑みは人のそれではなかったと思うから。
ああ、自分が変わっていく。
いや、もう変わりきっている。
だって私、インデックスという人格はあの日記憶の崩落を上条当麻に救われて以来、彼と共にあったのだから。
彼がいない今、私の笑みはもう彼の知っているインデックスの笑みじゃない。
その笑みを携えたまま閉じていた錠前を―――。

「セイバー……………………ううん、アーサー王、聞いて」

「インデックス!?」

―――落とす。

…………。
……………………。

「んん~? さぁてそろそろかしらぁん☆」

異界の城、異常を孕んだ深部。
そこの王座に座り、今後を考える。
私の能力とキャスターの能力、これらを交えれば聖杯戦争なんて”小さな”ものでは及びもつかないことが出来る。

「御坂さんも死んじゃったみたいだしぃ…………ん~、まずはこの街から壊してみようかしらぁ★」

柔らかい髪をかき上げ、楽しさを滲ませた笑みを浮かべる。
常盤台中の制服から伸ばした肉付き良い足を組み替え、このままどこまでも世界を覆えそうな感覚にヨダレが出そうになる。

「あの黒い娘はちょっと怖いけどぉ、かるーくお脳みそに挨拶すれば手駒になるでしょ」

今こっちに向かってきている少女、私の敵。
この聖杯戦争で最も好戦的なマスター。
学園都市のランクで私の上を行く御坂美琴をくびり殺した女。

「っ」

考えと身体が震えるのは嘘じゃない。
能力の方向性の差異は確かにあった、私と御坂さんでは確かに。
それでも判定上は名門常盤台の女王とまで呼ばれる私の上を行っていた彼女。
それを殺した相手。

「少し、興味でちゃうかも☆」

震えるほどの期待、笑みが浮かぶほどの恐怖。
自分でも理由知らずに気分が高ぶっていくのを感じられる。
そんな娘の脳みそをくちゅくちゅ♥出来る興奮に舌なめず―――。

「さぁ、楽しく遊びま」

―――空を斬り裂く様な光に全て飲み込まれた。

”ずがぁあっぁっぁぁぁあぁああああああああああ!!!!!”

異界となったそこを、玉座に納まり待っていた私ごと光は斬り裂いた。

……………………。
…………。


「インデックス…………本当に、このような戦いはありえるのでしょうか?」

「はっ、はぁ…………はぁ、あるんだよ、ほら、今ここに」

崩落し、今にも異界が弾けそうになっている部屋、既に面影もない瓦礫の山に踏み入れた。
息を乱すインデックスの後ろを取り、不可視ではない星の煌めきと謳われた剣を携え続く。
そう、風王結界を鞘代わりに納めていた、私の剣を抜いたのだ。
この聖杯戦争にて初めて”絶対勝利の剣”と呼ばれた、私の宝具を。
しかし、その使用方法は不意打ち、ただのそれだった。
かつては国を守るために大軍に向かい抜いた剣、それが不意打ちの道具にまで成り下がった。
その悔しさに歯噛みする。

「それにこれで良いんだよ、セイバー」

「…………何が良いのですか?」

「宝具が何で切り札か、解る?」

「なんで、と言われても…………」

インデックスの質問の意図が解らず、やや困惑をするけれど彼女はそれを気にしない。

「宝具から簡単に英霊の正体が見抜かれるから、そして英霊は死因さえ解っていれば簡単に死んでしまうから、なんだよ」

エクスカリバーの斬撃が斬り裂いた先、その脇には足と手が一本づつ残っていた。
これが敵のマスターなのだろうかと、話を聞きながら思う。

「だから宝具は極力切り札に置いて置くしかないんだよ、でもね」

自分の指示でまた人が死んだのに、宝具使用の急激な魔力枯渇での荒い息以外自分を崩さないマスターを見ていると、やはり怖い。

「もし最初の一撃で綺麗に殺しきれるなら、それは宝具使用しても良いんだよ、それも人間の方を狙えば簡単に話を済むから」

彼女の言葉、彼女の考えは私の生きてきた道とは大きく異なる。
戦いに何かを見出すなんてものじゃない、彼女は戦いすら計算に入れていない。
インデックスは勝つことしか考えていない。

底冷えするような思考回路に手が震える。

「特にここは準備万端だったし、正面からキャスターとやり合うより、さきに人間を潰しておけば楽なんだよ」

「……………………そう、ですか」

被害の少ない勝利を願う彼女の策は、部屋の外から宝具を打ち込み、サーヴァントではなくマスターを狙うこと、だった。
魔術師の威信を問う聖杯戦争でここまで直接的な手を使う少女。
彼女の背中には魔物が巣食っているようにすら見えた。
しかし、これでまた一つ勝利が近づいたのなら、そう納得しようとしたとき、インデックスは思いもかけないことを言った。

「うん、これでキャスターとの戦いが楽になるね、この魔力タンクのビルは潰したし、あとはどうにでもなるんだよ」

「は?」

まるでキャスター戦がまだ終わってないかなのような発言に面食らってしまう。

「あの、インデックス? キャスターマスターが死亡した以上、彼女が現界出来る時間はほぼ無いと思われるのですが…………」

そう、単独行動のスキルでもない限り、マスターという魔力の供給源を失ったサーヴァントは直ぐにその身を英霊の座に戻すことになる。
だから、マスターが死んだ以上は、もう終わりに等しいハズだ。

「あ、うん、私も最初はここが本命だと思ったんだけど、さっき言った様にここは魔力タンクだよ」

「魔力、タンク?」

「うん、集めた魔力を集積させておく為だけの異界、と、言うか容量未曾有の魔力を保存させるために異界を作った感じなんだよ」

彼女の言葉に、やっと、遅ればせながら私は理解した。

「では、キャスターはまだ…………」

「うん、現界してるしまだ終わってないよ」

「っ! …………そう、ですか」

まだ終わっていない、そう頷く彼女の顔に笑みが浮かんでいたことを私は忘れない。

…………。
……………………。

どことも知れない暗い闇。
学園都市の暗部を示すような目も凝らせない世界で声は響く。

「世界を構成する要素、その実六つ、方向性、未知、閃き、直進、限界、操作」

「それがどうした今更」

「これに誤りがあるんだよ」

「誤り?」

「そう世界の構成にはまだ一つ足りない、見えない何かが足りない」

「それがお前の求めるものか?」

「先日まではな」

「今は?」

「半ば手の内、と言ったところ」

「この戦争はお前にとって色々有益のようだな」

「だからこそ起こしているのだよ、聖杯戦争を」

「それももう大詰めか」

「いや、まだ、まだまだ煮詰まっていく、この戦争は」

「世界の構成なんざ知らないが、お前には七つの大罪の方が似合うな」

「ほぅ、私は強欲かね?」

「いや……………………全部だ」

闇の淵での会話は加速する。
どこまでもどこまでも中心に向かって圧縮するように加速する。

今日はここまでです。

投下します。

キャスターの戦力を削ぐ戦を終了させて4日。
あれから私とインデックスは3つの魔力タンクを破壊していた。
最初に壊したほどの魔力貯蔵な無いものの、それでも一つ一つが中堅魔術結社の保存魔力程度の量があるそれらを壊しに壊した。
しかも理由は解らないけれど、以前の様にこの学園都市の少年少女が操作されて襲い掛かってくることはなかった。
インデックスは「多分、最初のタンクに重要な術式、もしくは依り代があったんじゃないかな」と告げていた。
それだけで他に何か言うことはないようだった。
彼女にとっては既に済んだことに思考を裂くことはせずに、この先のみを考えているらしい。

「……………………ふぅ」

相手の意識に介入する幻術初歩の魔術を利用して潜り込んだホテルの一室。
インデックスは現在睡眠をとっている。
寝る前に簡易的な治療をしたけれど彼女の身体はボロボロだった。
強化の魔術で筋肉を骨を無理に動かし、彼女の筋量技量では不可能な動きを無理にトレースしたことによる負荷。
何より命の端を削っていくような戦いの連続にもう限界は見えていた。
それなのに尚彼女は鋭く、そして猛々しく戦う。
戦闘時にそれがサーヴァントではない限り前に出て壊し殺していく。
もっとも、異端のザーヴァンとたるあのアサシンを倒した以上キャスターの戦力には自身以外のザーヴァンとなどいる訳もなく、それはつまり後ろに控えてしかるべしのマスターが兵より前で戦っていたことを意味する。
それは私にとっては恥でしかないはずだった。
剣に誓った主を危機に晒すなどあってはならぬ不忠。
で、あるはずなのに私はそれを止めることが出来ずにいた。

「カミジョウトウマ……………………あなたは今どこに?」

インデックスが戦う唯一の理由である男性。
あなたの伴侶はいまあなたの為に命も何もかもを投げ出している。


どうか、どうか――――――。



「ん………………………………3時間12分ってとこなんだよ」

祈る私の前でインデックスは痛みくすんだ髪をかき上げ時計を確認すると身体を起こした。
短い睡眠で回復しきっていないのに、彼女は素早く黒衣を傷だらけの、火傷が目立つ身にまとった。

「じゃあ、セイバー…………行こうか、そろそろキャスターを討ちに」

「ええ、行きましょう」

祈りは届かずにどこかに飲み込まれて消えた。



―――――――――彼女を止めて欲しい。

…………。
……………………。

「…………面白ぇ街、だよなぁ、マスターよぉ」

「……………………」

ビルの屋上に佇む蒼い槍兵は、広がる街並みを見下ろす。
そこには多くの少年少女が暮らしている。
そして、その中には英霊に匹敵するような戦力が存在している。
平和そうに見える街、そして何の神秘も持たぬ子供が、だ。

「この間の小僧は特に凄かったよなぁ…………」

「……………………」

彼が思いだすのは数日前に戦った一人の少年。
どこからどう見ても普通の男であったの、彼は槍の名手、英霊・ランサーと4時間22分の激闘を繰り広げた。
宝具出さないまでも音速を遥かに越える槍撃、一撃でビルを倒壊させるような一撃を何度も何度も繰り出した。
そして何度も何度も躱され避けられ、あまつさえ反撃された。

「はっ……………………あの小僧、良い戦士になるよなぁ」

その愛より深く濃いような戦いを思い出すだけで身体が震えているようだった。
目を閉じればそのときの戦いはいつでも思い出せる。
それだけ濃い時間を彼は過ごしていた。

「っ……………………」

今にも暴れ出したいほどの衝動が体内に灯る。
宝具を解放して魔力の奔流を爆ぜさせたいという欲望を必死に抑え込んでいた。

「暴れないでくれよ」

「……………………ああ」

「君が暴れると…………色々困る」

「わかってるよ、ああ…………わかってる」

今にも暴れ出しそうに犬歯を剥き出したランサーに傍らに立つマスターが制止した。
千切れそうな理性の鎖を必死に抑え込み、槍兵は下ではなく上を、空に挑む様に顔をあげ―――。

「がっ!!!」

「……………………」

「がっぁぁあああああああああああああああああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁああああああああ!!!!」

―――我慢しきれないエネルギーを空に叫んだ。

「それじゃ、行こうか」

「ああっ!!」

……………………。
…………。

「一応初めまして、なんだよ」

「そうねぇ私はずっと見ていたけどね」

異界の淵。
ビルの内部のはずなのにまるでその常識の通用しない広い空間に私とセイバー、そしてキャスターがいた。
そこか中世の神殿を思わせる作りのそこで非常識に、当たり前のように中空に制止するキャスター。
そしてその後ろには神殿には似合わないこの学園都市の技術品であろう中の見えないカプセルタイプのベッドが安置されていた。
魔術師のサーヴァントはそれを守る様に立ちふさがり、無風の中ローブをはためかせていた。

「……………………」

キャスターを見つめながら頭の中で戦略を練る、脳みそを回転させる。
おそらくセイバーの正体はバレている可能性が高い。
しかしだからと言って然したる警戒は必要ない。
むしろ相手がエクスカリバーに警戒してくれるなら誘導はグッと簡単になる。

「…………」

小さく唇を舐め、黒衣の中に仕込んだマジックアイテムを確認する。
相手のマスターが見えない以上、私の戦力は見込めないけれど何かに使う可能性はある。
魔力タンクも破壊してあるのでそれなりに戦力は削ってある。
しかし、私はまだキャスターの戦闘法を見ていない不安がある。
今までは人を操っての戦闘、それだけしか見てない。
得ている情報は神代文字の使用、現代では解析不能の未知の魔術を納めていて、さらに英霊をイレギュラーに顕現させるほどの知識と魔力運用能力。
攻撃的な面は確認できていないけれど、現代の魔術師のそれではあり得ないことは理解出来ていた。
これまでの推測から危険度はあの逃げるしかなかったバーサーカーを上回る可能性もある。

「……………………それでも戦うんだよ」

「それでも戦うんですね」

これから死に向かう戦いの始まりは二人の小さな会話。
否、会話でもないような確認。
小さな小さな確認。
セイバーは私を見ることなく駆けだし―――。


クラス 『セイバー』

筋力 C
魔力 C
耐久 B
幸運 B
敏捷 C
宝具 C


―――キャスターは悠然と迎えた。

クラス 『キャスター』
 
筋力 E
魔力 A+
耐久 E
幸運 D
敏捷 E
宝具 C

「っ!」

まずは様子見、何てことはなくまだ指示も定まらないままセイバーは跳んだ。
魔力放出による直線の突撃、その速さは人外のそれであるのは間違いないけれど―――。

「この程度じゃねぇ」

「くっ!」

―――直線的過ぎる動きは容易く躱される。
能力においてはセイバーの圧勝でも、こと空中戦になれば勝負は解らなくなる。
セイバーは基本的には地で戦うべき存在だ、それが空中で自由にとはいかない。
かつてライダーの天馬にも苦戦を強いられたこともあるが、それでも勝利は出来た。
だけどそれはライダーが攻撃の為に突進してきたからだ。
もしそれがなく空中より遠距離から攻撃をされたら―――。

「             」

「高速詠唱、しかも神言!?」

―――ひとたまりもな ”ばしゅぅううぅうう! ばしゅっ! ばしゅっ!!”

「ぐっぉおおおおおおおおおおお!!!!??!?」

予想通り、ギリギリ範囲内の魔術の攻撃。
先日大した光の槍に匹敵、それを超える威力の魔力砲がセイバーを襲う。
空中で自在に動けぬ彼女は落下を加速させながら不可視の剣でそれらを弾き、叩き付けられることなく着地。
そして見上げた先に広がるは―――。

「なん…………と」

「魔法陣、いったいいくつあるの?」

―――異界の空を埋め尽くす魔法陣の数々。
重なり合う様に設置されたそれは―――。

「連鎖術式…………っ!」

―――現代ではまずお目にかかれない代物だった。

歯噛みするしかない状況、全身にかいた嫌な汗を感じながらなんとか思考を組み立てる。
空を重なり合いながら埋め尽くし連鎖術式の魔法陣。
それは多数の魔法陣を一つを起点に全部ほぼ同時に発動させるものだ。
魔法陣は描いてもそれを発動させなければならない、一つづつ起動させ魔術にする必要がある。
と、言っても現代では同時に複数の魔法陣を操れる魔術師は存在していない。
出来ても3つ、その程度ならば単発起動で問題はないだろう。
しかしこれだけ大量、空を埋める魔法陣は一個づつ起動しては間に合わない。
だからこそ連鎖術式を使用しているのだろう。
どこの魔法陣を発動させても、そこを始点として一気に全魔法陣が起動する仕掛けになっているのだろう。
そうなれば地上は焼き尽くされる、爆発的な魔力の奔流から逃れる策はあまりに少ない。

「………………………………」

口を半開きに脳みそを吐くほど回転させる。
空中の魔法陣を読み取り、距離を測り、セイバーのスペックを再確認。

「セイバーは貰って新しい門番に据えてあげるから安心なさい…………安心して―――」

状況の確認、指示の作製が間に合わぬままキャスターは動き出した。
一瞬にも満たない詠唱で魔法陣が起動し、起動した魔法陣と接する魔法陣が起動し、その魔法陣と接した魔法陣が起動する。
光が奔るような連鎖により、地上を焼き尽くす光の槍はセットされた。
キャスターは嬲るつもりも話つもりもないみたいで一瞬だけセイバーを見れば、私など眼中になく杖を揺らした。

「―――消し飛びなさい」

”ずばばばばばばばばばばばじゅぅうぅうううううう!!!!!!”

千を超える砲撃が容赦なく一糸乱れず放たれた。

そして光を光が斬り裂いた。

”ばじゅぅううううううううううううううううううううう!!!!!”

「!?」

私たちを一瞬にして消し飛ばそうとした砲撃、それを真正面から斬り裂き”絶対勝利の剣”はその美を顕現させた。

「ぜっ!」 ぜはっぁ! かひゅっ!」

セイバーの後ろに隠れ、唐突な魔力の消耗に呼吸が定まらない。
一息つき、再び宝剣は風の鞘に納められ、切り札を張ったセイバーは強い瞳で見上げた。
それに倣いキャスターを見るが、残念なことにエクスカリバーの剣撃は届きはしなかったらしい。
それでも、砲撃の雨を無傷で潜り抜けられたことをまずは喜ぶ。
いきなり切った札ではあるが、セイバーの真名は既に知られているところだろうからデメリットはある意味少ない。
それでも魔力の消費は大きく、本来攻撃のそれを防御に使わされた事実は重くのしかかる。

「……………………げほっ」

この防御法は考えていたそれではあるが、こうも速く使用に至るとは思っていなかった。
戦力は見誤らなかったが、戦術は大きく誤差があるようだ。
それを脳内で修正しつつ、キャスターを見る。
自分で直接攻撃してこず、さらに魔術も大量放出の彼女の行動は読むに読み切れない。
予想はある程度していたけれど戦いづらい。

「でも」

付け入る隙はどこにでもある。

”ごぎり”

と指の骨を鳴らした私は魔力の減少に軋む身体を揺らし、勝つ準備を開始した。

今日はここまでです。

お、更新来てた乙
キャスターのマスター誰だ?

ステ下がりまくりとはいえセイバー弱すぎね?
さすがに設定と剥離しすぎ
インデックス活躍させたいんだろうけどその分セイバーが割食ってる

魔弾をいくら掃射したところでカリバーの足下にも及ばないし対魔翌力のおかげでキャスターの魔術は効かないだろ

リミッター外されて竜種並みの防御突破してライダーを消滅し雲を斬りさいたり、残骸を一掃、200mの瞬間再生怪獣を未遠川ごと蒸発させる威力のカリバーを相殺できるならキャスター不遇なんて言えないな
バビロン掃射を普通に上回ってる

キャスターの魔術ってセイバーに効かないの?
確か一つとっても魔法の域って説明あったような

カリバーン入刀始めそういう所は原作にもあるけど明らかにキャスター>>セイバーはやり過ぎだと思うな
対魔翌力スキルが意味ないし最高クラスの宝具が全く役に立たないという酷い描写

単独でヘラクレス殺せるだろ

>>822
直ぐに出ますのでお待ちを

>>823
対魔力をどうするか迷った結果と、防御の意味合いが強いですね
セイバーは大丈夫でもインデックスは当たれば死ぬのでさすがに

>>824
そこまで効果的ではないにしてもそこそこくらいに考えてます

>>827
契約破棄、ルールブレイカーが出る流れではないので戦いの部分を書きたいがための犠牲です、すみません

投下します。

”ばしゅっ!”
      ”ばじゅっ!”
   ”ばしゅぅっ!”
           ”ぼっ!”
           
「遅いっ! この程度…………っ!!」

…………うん、良い感じ、良い感じなんだよ。
最初の一斉掃射以来、キャスターは高密度の弾幕を張らなくなった。
視界を遮る、自身でさえ見えなくなるような攻撃は宝具の餌食になるとの判断を下してくれたらしい。
それは私にとってはとてもありがたい。
最初の一手から貴重なエースを切ったかいがあった。
もし、それをしなければ私は魔力砲の掃射によって間違いなく殺されていたから。
セイバーはその身を守るスキル、そして自身のスペックで乗り越えることは可能だろうけれど、私では耐えられない。
だからこそ今の状況がありがたい。
キャスターの単発から複数発程度の魔力砲をセイバーがギリギリで躱し、責め切れずにいる今が。

「ちょこまか動いて可愛いわねぇ、良いわぁ…………とてもそそるわ、あなた」

「っ!! 気色の悪いっ!」

「……………………」

うん、問題ない。
セイバーの速度にキャスターは対応しきれず、私に関心は向いていない。
だから今の内に、いつものように行動を脳に焼き付ける。
それと同時に現状の詳しい把握を優先。
現在のこちらの最大戦力宝具の使用、私の魔力とセイバーの高度の魔力炉によって一戦闘に二回から三回の使用が見込める。
既に一度使用しているので、残りは一回、多くて二回。
宝具のスペックからしたら破格の回数だろう、セイバーの魔力炉なくしては使えなかったのは確かだ。

「…………それにしても」

セイバーの戦闘、一見一進一退のそれを見つつ周囲の魔力を観測する。
以前の魔力タンクのように混沌として異次元でなく、しっかり天地が定められているこの場所。
ここには異様なまで澄んだ魔力、高密度でありながら何にでも利用できるそれで満ちていた。

「これを利用できれば…………」

淀んだオイルを分離させ濾した様な澄んだ魔力、これをどうにか転用することが可能ならばセイバーの大きな力になるだろう。
だけど―――。

「なんで、こんなに純度の高い魔力が?」

―――この魔力は不自然でもあった。
ただ魔力を集めれば、それは淀み、歪み、捩じれていく。
それを一つの場所に保管すればそこは異界と成り果ててしまう。
そうして出来上がったのが魔力タンクにあった異界だ。
と、言うかそうなって仕方ないものなのだ。
魔力は世界に存在してはいるけれど、薄く広くあるもの。
それは一か所に無理に集められれば、世界が歪み、その歪みが崩壊につながる前に異界になり崩壊を防ぐものなのだ。
異界は世界崩壊の壁でもある、世界の自浄作用ともいえるけれど。
それがここでは起きていない。
それはどういうことなのか?
現在必要のない思考かも知れないけれど、瞬時に脳みそを回転させていく。
セイバーが攻めきれず、キャスターが攻めきれない今の時間を使って。
もしこの魔力を転用できれば今この戦いだけじゃなくて、後に控えるランサー、そしてバーサーカーとも有利に戦えるハズだから。
その為に思考を回していく。

大量の魔力、自然ではあり得ない純粋な何にでも使える魔力。
魔力とは色がある、使う魔術に適した魔力と言うものが存在している。
だからこそそれぞれの魔術師に適合する魔術が存在している。
どんな人間にも大なり小なり流れる魔力、それには色がついている。
その色に適した魔術を使えば効果は高まるのだ。
例えば赤い魔力なら燃焼理解の魔術、と言った様に。
色のあったものなら術の効果、速度、消費、どれも高まるが、合わない魔力と魔術では反発し合い発動すらままならないことがある。
色はいくつにも分かれていて細分化が激しい。
10人いたら10人違う色が流れていると言っても過言でもないくらいに。
赤は赤でも純粋な赤など1000年を超える魔術師の家系でも生まれるかどうかなのだ。
それほどの魔力の色は多く存在している、それを一つの場所に集めれば色が混ざり合い、歪んだ色になってしまうのだ。
いくつもの絵具を混ぜれば気色の悪い色になるように。
だからこそこの無色の魔力は不自然。
どんな魔術にも転用できる、つまり何でも出来る魔力――――――。

「何でも……………………出来る?」

――――――思考が引っ掛かった。
何でも出来るとは、何だっけ?
セイバーが戦ったくれている間に私の時間が止まった。

何でも
    
    出来る

どんなことも
      
      叶えられる
   
   願いを

     
     
     
     
     
     
     実現できる?

大量の魔力、自然ではあり得ない純粋な何にでも使える魔力。
魔力とは色がある、使う魔術に適した魔力と言うものが存在している。
だからこそそれぞれの魔術師に適合する魔術が存在している。
どんな人間にも大なり小なり流れる魔力、それには色がついている。
その色に適した魔術を使えば効果は高まるのだ。
例えば赤い魔力なら燃焼理解の魔術、と言った様に。
色のあったものなら術の効果、速度、消費、どれも高まるが、合わない魔力と魔術では反発し合い発動すらままならないことがある。
色はいくつにも分かれていて細分化が激しい。
10人いたら10人違う色が流れていると言っても過言でもないくらいに。
赤は赤でも純粋な赤など1000年を超える魔術師の家系でも生まれるかどうかなのだ。
それほどの魔力の色は多く存在している、それを一つの場所に集めれば色が混ざり合い、歪んだ色になってしまうのだ。
いくつもの絵具を混ぜれば気色の悪い色になるように。
だからこそこの無色の魔力は不自然。
どんな魔術にも転用できる、つまり何でも出来る魔力――――――。

「何でも……………………出来る?」

――――――思考が引っ掛かった。
何でも出来るとは、何だっけ?
セイバーが戦ったくれている間に私の時間が止まった。

何でも
    
    出来る

どんなことも
      
      叶えられる
   
   願いを

     
     
     
     
     
     
     実現できる?


「あ」

理解が出来たときには遅かったのかも知れない。
この魔力を手にしようと宝具を見せ玉に使ったミス。
硬直状態を作り出していい気になっていたミス。
キャスターは所詮直接戦闘になれば私の思考から逃げることなん出来ないと思いあがったミス。
セイバーとは相性悪くても私がいれば、そんな勘違いをしたミス。
あのとき最初の一手でキャスターを宝具で消し去ること、それが一番の手だったハズなのに。
それをしなかった、その大きすぎるミスに気づき、セイバーに指示を込めようとした、そのとき―――。

「おおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」

”だっ!!”

―――セイバーは最高速の突撃を以て、その身を守る対魔力で魔力砲を弾きキャスターに剣を突き刺した。

”ざしゅぅう”

「ぅっぐっぁおおおおお!!!」

「!?」

まるで受け入れるように障壁も張らずにキャスターはその身に剣を受けた。
そのとき彼女の『願い』は叶ったのだろう。
血の飛沫を口から出しながら彼女は深く笑った。

「これが…………最後の、一滴、よ」

その言葉。
今この現状。
この世界に溜められた『何でも出来る魔力』
そこに英霊の魂、その魔力が注がれた。
しかも事前に打ち込んでしまったセイバーのエクスカリバーの魔力まで含めて!
キャスターが途方もない魔力を集め、濾し、純粋な魔力のみ集めためたこの場所!
ここはまさに―――。

「な、んだ、この魔力の鳴動は…………これではまるで」

―――。

「聖杯」


「あ」

理解が出来たときには遅かったのかも知れない。
この魔力を手にしようと宝具を見せ玉に使ったミス。
硬直状態を作り出していい気になっていたミス。
キャスターは所詮直接戦闘になれば私の思考から逃げることなん出来ないと思いあがったミス。
セイバーとは相性悪くても私がいれば、そんな勘違いをしたミス。
あのとき最初の一手でキャスターを宝具で消し去ること、それが一番の手だったハズなのに。
それをしなかった、その大きすぎるミスに気づき、セイバーに指示を込めようとした、そのとき―――。

「おおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」

”だっ!!”

―――セイバーは最高速の突撃を以て、その身を守る対魔力で魔力砲を弾きキャスターに剣を突き刺した。

”ざしゅぅう”

「ぅっぐっぁおおおおお!!!」

「!?」

まるで受け入れるように障壁も張らずにキャスターはその身に剣を受けた。
そのとき彼女の『願い』は叶ったのだろう。
血の飛沫を口から出しながら彼女は深く笑った。

「これが…………最後の、一滴、よ」

その言葉。
今この現状。
この世界に溜められた『何でも出来る魔力』
そこに英霊の魂、その魔力が注がれた。
しかも事前に打ち込んでしまったセイバーのエクスカリバーの魔力まで含めて!
キャスターが途方もない魔力を集め、濾し、純粋な魔力のみ集めためたこの場所!
ここはまさに―――。

「な、んだ、この魔力の鳴動は…………これではまるで」

―――。

「聖杯」

…………。
……………………。
暗い畔で私は目を覚ました。
そこが日本でこれが聖杯戦争でそして何をなすべきかは直ぐに情報を得た。
キャスターと言うクラスで召喚され、そしてマスターと共に戦うことを理解した。
それについては私はどうでも良かった。
私は何にも希望なんてもっていなかったから。
神の力の元全てを男に捧げ、そして全て失った私に叶えたい願いなんて―――。

「無い訳、ないじゃない…………」

―――願うならば人を愛したい。
自分のこの身を燃やし尽くすような愛を誰かに捧げ注ぎたい。
そして出来ることならば誰かに愛したい。
英霊という形を以てしても所詮は女。
その女のとしての欲望は実現と言う魔力を前に鎌首を上げた。
この聖杯戦争を勝ち抜き、そしてこの世界で生きていけるならば私も普通に誰かと愛し愛せるのでは。
そう、遠すぎる願いに目を向けた。
そして直ぐにその願いは向きを変えた。
自分のマスターを目にし、直ぐに、だ。

「これが私の…………マスター」

彼は自分の意志すら所有出来る状態ではなかった。
渇望も何もないのだろう、その肉体、その精神、全てがもうほとんど原型を保っていなかった。
その身を切り開かれ、脳みそを露出させられ、骨格も解剖され、標本以下の状態、それでも彼は生きていた。
彼の意志ではなく神が作りたもう人体の性として生にしがみついていた。
その姿はとてもとても美しく思えた。
原型なんてまるでない、このまま生きても元の生活なんてありえない状態でも生きている。
身体に機械を埋め込まれ、電気刺激によって反応することだけが全てのマスター。
とてもとても見ていられないほど可哀想なその姿。
その姿に私は―――。

「マスター」

―――愛を注ぐことにした。
かつてこの手で八つ裂きにした弟を思い出すように、切り開かれたそのマスターの身体をガラス越しに撫でた。
……………………。
…………。

「くっ!!! くぅうう!! インデックス!!」

「!!!」

世界に魔力の嵐が吹き荒れる。
上下のハッキリした人造の異界、そこが崩壊していく。
さっきまでここを満タンにまで満たしてた魔力が染まり、そしてキャスターの後方にあった機械に注がれていく。
そして自分の血を流して最後の魔力を注いだキャスターの身体にも、途方もない魔力が集まっていく。
学園都市の人間から集めた様々な色の魔力を蒸留して集めた純粋な魔力に加え、おそらくアサシンの魂、そこにエクスカリバーの魔力の塊、そして自分の魔力。
それらを全て利用してキャスターは何かの願いをかなえようとしていた。
その身に宿る知識を総動員して作られた聖杯を利用して。
この異界は魔力を溜めるものではなく、魔力を逃がさない為のものだっただろう。
ここでセイバーに魔力を使わせ、それさえも利用する為に!
侮っていた、戦闘には向かないと侮っていた!
きっとキャスターは私の戦い方を見ていた、宝具を使いだしたことを知っていた!
だからこそ使わせたのだろう、宝具を!
私がこの魔力に目を付けると予想して、その為には異界の創造者である自分を簡単には倒さないだろうと予想して!

「っ!!」

人の考えを読んだ気になって思い上がっていた。
その代償は――――――白い翼と共に現れた。

「……………………理解はあんまり出来てねぇ」

「…………あ、れは」

白い翼をもった人間がそこにいた。
吹き荒れる魔力、それが止んだとき、中空に不自然に制止するように全裸の男がいた。
髪を茶色に染めた、まだ少年らしき人物が空気を踏みつけるように立っていた。

「ただ、何となく解ってることはある」

彼はゆっくりと、羽根を利用しているのかいないのか羽ばたく様な見せかけをしながら地に下り、倒れているキャスターに近寄り抱き上げた。

「あ、あ、ます、たー」

「この美人さんが俺の為に尽力してくれたことは、何となく理解出来たんだよな理由なんか知らねーけど」

「あ。あ。ああああ、ああああああああああ!!」

その言葉、優しい眼差しに感極まったのか、私には知りえないドラマを抱えているだろうキャスターは涙を流していた。

「インデックス…………これは?」

「私にも、まだ」

目の前で繰り広げられているドラマに理解がまだ及ばない。
だけどセイバーは一瞬の油断なく剣を構える。
それだけの理由を、全裸の、白い翼の男から感じているのだろう。

こいつは危険だ

と。

「話は後で聞くとして、今は少し動きてぇな」

彼は私たちなんかいないように振る舞い、そっとキャスターを下ろすと自分の背中にある翼に軽く触れ何かを思い出すように目を閉じた。

「さて久しぶりの運動だ……………………少しは楽しませてくれるんだよなぁ、御嬢さん方?」

「!!」

再び目を開いたときに彼は私たちを強く見つめていた。
口元には抑えきれない喜びで歪んだ笑みが零れ、何度も確かめるように、まるで身体をあることが嬉しいかのように手を握る。
情報はまったく解らない、何が起きてるのかも予想でしかない。
ただ目の前の全裸の男が強いことだけは嫌でも理解出来てしまった。

「まぁ、とりあえず、なんだぁ…………あれだ」

彼はさっと髪をかき上げると左手をこちらに突出し。

「かっ消えろ」

魔力砲とも、銃とも違う、今まで経験したことない大きな力がセイバーを吹き飛ばした。

「がっ!?」

「セイバー!?!?」

見えない、何も見えなかった、何も映らなかったのにセイバーは後方に大きく吹き飛んでいく。
その姿を目で追う私の後ろで彼は口を開いた。

「一応名乗ってはおくぜ?」


      学園都市LEVEL5第2位。
      
         「垣根帝督だ」

その名前を耳に入れた瞬間、私も吹き飛んだ。

今日はここまでです。

一応インデックスとセイバーはパスだけはつながっている形ではあります
ステータスの低さは、別の話と言いますか、そんな感じです

投下します。

「っっっっっがっ!!!!!」

疑問も何もなく吹き飛んでいく。
もちろんただ飛んだのではなく、正面から透明なダンプに轢かれたようなそんな衝撃を身に受け吹き飛んだ。
広い異界の神殿、その床から数メートルの場所を距離にして20m以上滑る様に滑空して地面に叩き付けられた。

”ずしゃぁぁぁぁぁぁああああ!!!!”

「かはっ! あ、あ、あ、あああ、あっっっ!!!!!」

地面に身体が触れても勢いは死なずにそのまま数メートルすべり、まるでボールみたいに跳ねて、何とか止まることが出来た。
そして止まると同時に全身に耐えがたい、動くことさえ、もがくことさえ許されないほどの激痛が走った。
黒い修道服の下には念の為に対物理の結界にも似た符を張ってはあったけれど、そんなもの最初の接触で全ておしゃかになっていた。
だから人体ではそうはあり得ない遠距離の滑空と、その運動エネルギーそのままの落下はその身で受け止めるしかなかった。

「ぐっ! ぐぅ、ぅううっぅぅぅぅぅうっっっっ!!!!」

軽減したとは言えセイバーすた一撃で吹き飛ばした謎の衝撃は体内をぐちゃぐちゃにしているみたいで、意識はあるのに手足が動かせない。
自分の意志とは関係なく死にかけた虫みたいに手足を震わせるのが精一杯。
口は半開きで、鼻の奥からは鉄の匂いがしてきていた。
全身が痛すぎて解らないけれど骨も何本かは折れているのだろう。

「はっぁ。は。はぁ、がっ…………」

追撃がこないことに感謝する余裕もなく、目を見開いて石畳の異界の神殿の床の一点をただただ見つめる。
血混じりの泡を垂らし、どうにか身体のコントロールを正常に戻そうとしても上手くいかない。
ただただ激痛に痙攣するしか出来ない。

「いん、デックス…………無事、ではないようですね」

「…………っか、こぶっぁ」

動けず悶える私の視界に青い外套と鎧が映りこんだ。
それは先に吹き飛ばされたセイバーに他ならず、彼女は籠手の一部や胸鎧に皹を入れた姿ながらしっかりとした足取りをしていた。
吹き飛ばされはしたものの、私ほどのダメージは残っていないようだ。
彼女は英霊、この程度の耐久性は驚くには値しないもかも知れない。
それでも、それでもだ、急に現れた全裸の男、垣根帝督と名乗った彼は英霊を吹き飛ばしその身にダメージを負わせたのだ。
一介の人間であることは間違いないのに、と痛みでまともに働かない思考の中でまた間違いに気付いた。
そう、アサシン、彼女を殺したのもまた人間が持ち得る能力だったことを思い出したのだ。
そして彼は言った「学園都市第二位」と。
あくせられーたが一位である以上、彼はその二番手、つまりアサシンを殺した超能力者よりも、雷を落とせる短髪よりも目の前の彼は強いのだ。
その事実に今に至る。
しかも彼はキャスターの用意した疑似聖杯の力をその身に取り込んでいるのだ。
魔術と超能力の反発、それ以上に恐ろしい何かを秘めている可能性がある。
学園都市第二位、その能力は未だ不明。
見えているのは白い翼のみ、それだけ。
そこから何も読めない、何も考えられない。
何も思い浮かばない。
痛みに押しのけ思考を組もうとしても、疑似聖杯の作製を行ったキャスター、それにより蘇った超能力者。
その二つの脅威に私の身体は震えてしまっていた。
答えをだそうにも恐怖が思考を途中で止め、思考が止まれば痛みが暴れ出す。
血の泡を吹きながらもどうにか、どうにかしなくてはこのまま虫のように殺されると頭の中でもがくけれど。
もう頭の身体も動くことを拒否しようとしていた。
目の前で起こった『思考の追いつけない事象』と『肉体が追いつけない痛み』二つのそれに心身ともに折れていた。

「なんだぁ…………一発でそっちは壊れちまったわけか…………ちっ」

折れた姿をつまらなそうに見つめていた翼の男、垣根提督は「慣らしにもならねぇか」と肩を回していた。
そしてもう一度、多分私を完全に殺そうと冷たい、射抜く様な目を向け、直ぐにその眼を少し開いた。

「……………………ふっ」

「せい、ばー?」

彼の眼は壊れかけの私ではなく、私の『前』に立ったセイバーに向けられていた。
壊れかけた鎧を身に纏い不可視の剣を手に、前に立つ。
その小さくも大きい、かつては一国を背負った背中を見ながら「セイバーの背中、久しぶりにしっかり見た気がするんだよ」と考えていた。
いつからか私の前にあまり立たなくなった彼女の背中を痛む思考の中で見つめ、そして何か言うべきかと迷っていたら。

「インデックス、戦の準備をお願いします」

”ざっ”

「え」

彼女は足を大きく開き真っ直ぐ前を見た。
いつしか私に向けることはなくなったその真っ直ぐな眼差しで。
私がもう投げ出しそうになっている状況でも彼女は剣を構えた。
その姿を眩しく見つめた。

…………。
……………………。
キャスターとの戦いのさなか突如現れた男に私とインデックスは易々と吹き飛ばされてしまった。
英霊でもない、ただの人間に、だ。
騎士として守るべき相手と共に無様にもその身を宙に舞わせてしまった。
しかし、私はその身を直ぐに起こし、改めて男を敵と認識、再び戦おうと心に決めた。
直ぐにインデックスと連携を図り、どうにかこの戦を優位に運ばねば! と身体に力を込めた。
そのときに見てしまった、小さな身体を横たえる主の姿を。
それは私にとってはどうしてか衝撃的だった。
理由はなんとなく解っていた。
いつからか私はインデックスを恐れていた。
彼女の身に孕む異常性を恐怖していた。
そして彼女を人間ではない何かだと勝手に思い込んでいた。
かつてはその願いの在り方、純粋さを眩しく思っていたのにも関わらず、あまりにも暗く強烈な意志にそれを見失っていた。
だけど、倒れて血を吐く彼女を見て改めて実感した。
インデックスは血の通った人間であると言う当たり前のことを。

身をよじり、血の泡を吹き出し、理解不明に怯える彼女。
その姿はかつて私が救いたかった民の姿。
救えなかったあの国を、救えなかったあのときの私を。
その両方を救うために私は前に出た。
正体不明の敵相手でも一歩も引く気はなく、インデックスを守る為、当然の行為を再び意識して。
今でも彼女の奥にあるモノは怖い。
全てを躊躇いなく投げ出すようなあれは怖い。
正直人外よりもよほど人外にインデックスを恐れる。
それでもやはり彼女はか弱く小さな少女だ。
だとすれば守る以外に選択肢はどこにあるというのだ!
眼前の強大な敵二人を睨み、身を沈み込ませる。
いついつでも斬り捨てられるようにと!

「インデックス、戦の準備をお願いします」

……………………。
…………。

「戦の…………準備」

セイバーの言葉を噛み締めるように反芻する。
噛み締め、噛み砕き、粉にして、脳に浸透させる。
折れかけた心を思考を立て直す。
ボロボロになった身体を無理に、本当に無理に立ち上がらせた。

「ぁっ、あ! あがっ! ああああああああああああ!!!!」

黒い血を吐き出し、今にも倒れそうな足に力を込める。
この聖杯戦争始まって以来何回もあった瀕死の状況でも立つ。
そうたかが瀕死、一押しで死にそうなそれがどうした!
立てる考えられる動けるつまり―――!

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!! べっ!」

”びちゃっ!”

―――戦える!

喉に溜まりだしていた血反吐を吐き捨て、青白い顔で仁王立ち。
黒い袖で口を拭い、骨の何か所化折れていて内臓も傷ついている身体をチェック、そして把握。

「……………………よし」

自分の身体の破壊状況、その深刻さを理解して上で視線はただ前に。
半分死んでいる様な身体に強い意志の目で垣根提督を見据える。

「へぇ…………まだ壊れた訳じゃねーんだな」

立ち上がり戦意を見せれば電池切れの玩具がまた動いたような喜びを彼は見せた。
正体不明の能力を操る学園都市の超能力者。
難敵だろう強敵だろうしかし常敵。
今までの相手もそうだったそうだった。
一撃で理解不能のまま追い詰められたことで思考を止めた自分を恥じる。
私がここに立っている理由はとうまのため。
その大義名分を盾に人を殺してきたんだ。
こんなとこで止まってなるものか、こんなところで諦めてなるものか!

「セイバー!!!」

「はっ!!」

一声出すだけでも激痛に意識を持っていかれそうになりながらも声を上げる。
痛みで活を、今まで通りの戦の準備。

「戦って! 情報集めて!」

「はいっ!」

剣を構えるセイバーの背中に言葉を叩き付ける。

「私を勝たせて!」

「はいっ! あなたを勝たせます! だから!」

”だっ!!”

声に押されるようにセイバーは砲弾の速度で駆け出した。
蒼い残像を残しながら、強敵に向かって堂々と、難敵に向かって獰猛に!

「必勝の策を用意してください!!! っぜっぁあぁぁぁああああああ!!!!」

久しぶりの信頼を強く受け止め、私は戦を開始した。

今日はここまでです。

投下します。

”だっ!”

「っっっっ!!!!」

インデックスが策を考えてくれている間に出来ること、それは立ち向かうことのみ。
剣を構えて最初から最後まで徹頭徹尾手を抜かず、ただただ全力を振るう。
相手は未知の能力を使う男、彼の攻撃は私には見ることも出来ない何かだった。
見えない攻撃理解出来ない攻撃、それに立ち向かうのは恐怖だ。
だけど、恐ろしいからと言って戦わない訳にもいかない!

「ぜっやぁぁぁぁぁあっぁあああああ!!!」

「おお…………早ぇな」

背中に翼を生やした全裸の男、異界に満ちた魔力を全て吸い込み生まれたような魔の申し子ではあるが、彼からは魔力は感じられない。
それだからこそ不安が強い。
魔力側の人間である私としては、魔術師が術を使うときには魔力の波が大なり小なり起こるものだけどこの学園都市の能力者にはそれがない。
気配と言うか、私には読めないだけなのかそれがない。
私が剣士である以上呼び動作の少ないモノには対処がどうしても遅れる。
かつてのアサシン戦でも動作の読みにくく見えない斬撃にはこの身を幾度となく斬り裂かれた。
それでも勝つためには前進しかなく、接敵しかありえない!

「はぁぁぁぁぁああああぁぁああ!!!」

剣を強く握り、一足で接敵!
下段構えから半月を切る様に上段に振りかぶり、そのまま潰すように振り切る!!

”ぎぃいんっ!!”

渾身を持って振り下ろした剣は白い翼の一つ防がれる。
しかし、それは余裕を持っての防御で無いことは全裸の男の表情から読み取れた。

「ぐっ!!! 何だ、こいつ!! 本当に女か? 肉体操作の能力か!?」

男は驚愕の表情のまま何事かと声を荒立て、そのまま数歩後退をしてみせた。
キャスターはこちらに手出しする気はないのか、いつの間にか空に魔力の足場を組みそこでこちらを見ていた。

「…………」

一瞬キャスターにも意識を配るが、手出ししないならば捨て置いて問題はないだろう。
今は確固撃破が先決、この目の前の情報不足過ぎる相手をどうにか攻略せねばキャスターに辿りつくことも出来ないようだから。
その為に前に前に前に!!

「まだまだぁぁぁぁぁっぁぁああ!!!」

「ちっ!!!」

…………。
……………………。

「……………………」

セイバーが戦ってくれている間に思考を回す。
目の前の全てに思考を向け続ける。
目を閉じず、眼球が乾いて血走っても全てを脳みそに焼き付けていく。
キャスターが作り出した疑似聖杯のようなものの魔力を吸って生み出された翼の男について。
まずはあの男の存在について。
名前は―――?

―――垣根帝督。

能力者―――?

―――LEVEL5の能力者。

能力は―――?

―――不明。

マスター―――?

―――不明。

聖杯の恩恵は―――?

―――不明。

思考を回しても不明が大半占めるのが現状。
その不明に予測と予想を絡めていく。

おそらくではあるが彼はキャスターのマスターである可能性が高い。
そしておそらく、キャスターは怪我を負ったマスターの治療、ないし蘇生の為に疑似聖杯の精製を行ったのだろう。
しかし彼がマスターにしては魔力との拒絶が見られない、というか英霊の召喚に対する魔力行使の様子が全く見えない。
聖杯戦争のマスターに選ばれ、英霊を召喚すれば、英霊が現界している以上常に魔力は消費されていくものだ。
そうなればこの学園都市の存在する能力者たちは全て、魔力と能力の拒絶反応に苦しむハズなのだ。
それはかつて戦った二人の能力者マスターたちを見て理解している。
なのに、垣根帝督に拒絶反応はないようでその理由は私には読み切れない。
マスターではないのか、魔力と能力を同時に保持出来る存在なのか、キャスターが何かを施しているのか、またはほかの理由か。
もし拒絶反応を起こせるならば、戦力を一気に半減させることが出来るだろう。
キャスターは垣根帝督を守りつつ戦わねばならないだろうから、そうなれば勝負は即座に決まる。
思考/分割。
思考/並列。
垣根提督の能力とは何なのだろうか。
少なくとも魔力は感じられなかったことと、彼が超能力者と名乗る以上、魔術ではないハズだ。
吹き飛ばされたときに感じたのは衝撃だ。
翼による風ではなく、固い何かに思い切り殴られたような、そんな一撃を感じた。
だけど、その固い何かを私は目撃することは出来なかった。
見えない、だけど固い何かに思い切り打ち据えられた。
翼と能力の関係性はあるのだろうか?
あの翼自体もセイバーの攻撃を受けた以上見せかけではないのは確かだろう。
一方通行の様に反射、見えない力場などを操作する能力?
思考/分割。
思考/並列。
キャスターの作った疑似聖杯。
この世界を構成する六要素の純粋な零。
根源に近い、何にでもなる魔力の塊。
方向性 未知 閃き 直進 限界 操作。
これらを内包しつつ、均等に何故か七等分。
それを注ぎ込まれた超能力者。
相反する二つの融合が何を生み出すのか?
謎、及び不明が多すぎる。
思考/分割。
思考/直列。

―――――――――。

頭の中でいくつにも分けた思考を全て統一していく。
未完成な部分を思考の予測で埋めていき、不完全ながら答えを予想する。
不明なら不明なりに答えをつぎはぎで埋めて足して。

「よし」

小さく頷い。

思考/終了。

ほとんどがまだ不明で予測の域は出すらしない。
考えない方が時間を食わなかったかも知れない、そう思っても間違いじゃない思考。
それでも私にはこれくらいしか出来ないので、セイバーが作ってくれている時間を活用する。

『セイバー、行くよ』

目を開き、念話のパスを繋ぐ。
不明の領域に足を踏み入れた。

…………。
……………………。

「!」

何度目かの打ち込みの後に、インデックスからの念話が届いた。
まずは彼女が集め予測した大量の情報に一時脳がパンクしかけるけれどそれは直ぐに馴染んだ。
その情報を元に指示が送られてきた。

「…………了解です」

ほんの一瞬だけ動きを止めただけで、直ぐに命令を実行に移す。

「っふ!!」

身を屈め突進しながら、インデックスがさっきまでの私の動き、相手の動きから判断した『能力の射程ギリギリ』を滑るように狙っていく。

”ちぃいいいいいいい!!”

「っ!!!」

ギリギリの位置だからか、見えない何かと私の鎧が擦れる甲高い音が響く。
が、ダメージはならない。
インデックスの読みは当たっているようだった。
それを感覚をリンクさせているだろう彼女も理解しているようで、更に指示が飛ぶ。

『翼を狙っての攻撃をして欲しいんだよ、反応速度、耐久性を見たいの!』

念話の指示に従い、剣を振るう。
彼の白い、天使を思わせる翼に向かい、不可視の剣を振りかぶり―――。

”ぎっきぃいんっ!”

―――振り下ろす。

「速いな…………!」

翼の防御し易い範囲を意図的に狙っては見たものの、その防御反射速度かなりのものだった。
防御できると言うことは剣の英霊である私の攻撃に反応できる、それだけで十分驚嘆に値する。
そしてその驚嘆は何度も剣を振う度に、更新されていく。
さっきより早く、強く、的確に、受けにくい位置を!
狙って攻撃を与えているのに、防御を掻い潜れない、さらに言うならば翼を破壊することが出来ない。
以前、防壁を張る能力者と対峙したことはあったが、そのときの防壁とは桁違いの硬度を誇っているようだ。
何度やっても何度やっても防がれ、相手に剣を掠らせることも出来ない。
このままではまずい、ジリジリ追い詰められていくことになる予感に足を止める。

「ん? もう終わりか御嬢さん」

「…………っ!」

私の斬撃を受けた、避けたではなく受けたハズなのに何の問題もない敵の軽口に歯噛みする。
魔力放出のスキルによって強化された斬撃を受けた相手を前に再び剣を構える。
迅速に飛んできた檄にも似た指示に従い、構えた。

「っっ!! でゃぁぁぁぁあああああ!!」

構え、一瞬沈み込むと何度目にかに爆発するような突進。
構えた剣で風を斬りながら進む先にいる男は、片手を付きだした。
さっきから放たれている不可視の攻撃を放つために。
今ならばその射程。効果範囲も解る、が―――。

「っああああああああああああああああああ!!!」

―――あえて、その攻撃に身を投げ込む。
鎧のまま、そこに飛び込み、その身を以て受け止める。

「!?」

避けようともしない私の行動、むしろ攻撃を迎え入れる動きに相手は眉を顰めた。
一撃の威力をしっているハズの相手が、望んで攻撃を受けてくれるその異様に相手が凍る。
その凍結をインデックスが解凍する!

「っっがっぁ!!」

血を吐くほどの状態のインデックスが身体を顧みず肉体を強化し、飛び込んだ!

「はっ! 死にぞこないが何をしに来てんだよ!」

敵は既に攻撃を当てた私から視線を切り、新たに表れた相手としてインデックスに目を向けた。
既に満身創痍、それでも動く少女に警戒を裂いた一瞬!

「っっっっっ!!!」

攻撃を受けながら私は剣を構えた!
魔力放出で空気の壁を蹴り、一気に距離を詰める!
狙うは敵の首一つ!
攻撃を食らいながらの無理な脱出に身体を痛めるも、インデックスが作ってくれた一瞬の隙を狙う!!
相手の翼の動きは自動ではなく人間の反応反射によるものだとインデックス読んだ以上。
反応できない位置から、反応させない速さで狙い、首を刈り取る!!

「あああああああああああああああああ!!!!」

今日はここまでです。

投下します。

「っ!!」

寒気を感じた。
しかもそれは覚えのある寒気だ。
かつて吐き気を催すほどムカつく第一位との戦闘のときに感じた寒気。
それは『死』への間違いない恐怖。
今ここにいる以外で一番新しい記憶、俺の死の瞬間。
それと同じ空気を全身が察知した。
一度死んだからこそなのか、その気配に限りなく敏感になっていた。

「っぁ」

強襲気味に現れた黒衣の女に視線を固めたまま現状を脳にインプットする。
極力速く、一瞬、瞬きより速く全てを脳に叩き込み答えを探し出す。
それが出来るだけの脳みそを俺は所持している。
学園都市第二位。
開発に次ぐ開発により研ぎ澄まされた最先端。
枠組みの外の能力だ。
あの蛆より悍ましい第一位も同じく。
あいつと俺、それ以外との差はあまりにも大きい。
あの訳解らない第七位もそうかも知れないけれど、確実に第三位、第四位、第五位、第六位とはステージが違う。
超能力とは、如何に世界の仕組みを理解してそれを操作できるかが優劣を決める。
第三位の電力操作が解りやすい例だ。
あいつの能力は下位電気能力者の全てをカバーする。
磁力を操作するもの、電気を放出するもの、電磁波を感じ取れるもの等、細分化された能力を全て『電気が操れる』ということでカバーしている。
どうしてそこで差が出るのかというと、世界に対する認識の違いだろう。
磁力しか操れないやつは、磁力というものしか認識出来ていない、その磁力がどういった働きで起きているかに目を向けていない。
だから『自分だけの現実』に磁力操作しか書き込むことが出来ていない。
だけど第三位は電気がどういったものか、果ては分子運動レベルまで認識し、それを操作できると書き込んでいる。
だからこそ電気であれば全てに応用を可能としている。

だけど、それはあくまで『電気を応用的に使える』だけだ。
分子単位で把握してもそれは狭い枠の中だ。
その程度じゃあ壁は越えられない。
枠は越えられない。
俺たちのステージに上るには役者が不足している。
第一位の能力の重要点は反射やベクトルの操作なんかではない。
それは世界の絶対的な観測であり知覚だ。
あいつはどこまでも世界を観測し、計算し、知覚認識、そして理解する。
その結果二次的に零れ落ちた能力がベクトル操作だ。
観測であり知覚、それが第一位が『自分だけの現実』に書き込んだもの。
世界をあるがままにどこまでも認識する、それがあいつだ。
そして俺は、俺の能力は未現物質の生成。
この世界に存在しえない物質の生産、それが俺の能力だ。
この能力の根本も同じく世界の知覚であり観測だ。
世界を認識し、その世界に存在しない物質の作る。
あいつが世界のあるものをあるがままに認識するように、俺は世界にないものを生産する。
向かう角度は違うが、方向性は一緒だ。
大別して俺とあいつの能力は世界の認識だ。
あいつが世界の流れを認識するなら、俺は世界の形を理解する。
ただ、俺は世界にないものから世界を認識する、その一手の遅れが第一位と第二位と言う差を生み出してしまったのだろう。
そのままに世界を認識するに比べて、世界にないものからの理解、その遅れの結果が死だ。
だから俺はもう二度と遅れてはいけない。
あのときの遅れはもう俺の魂染み付いてしまっている。
死への恐怖は染み付いてしまっているが、それと同じくして染み付いているモノがある。
それは俺を死から救ってくれた認識外の力だ。
この世界に俺を再び存在させてくれた力。
ローブを着た美人さんが注ぎ込んでくれた、俺に納まりきらない力。
それは力であり知識であった。
大きな力、同時に深い知識。
それを注ぎ込まれ持て余していたけれど、少しだけ理解できた。
死の恐怖により思い出した、第一位のベクトル操作の向こうの能力。
それと近い何かによって俺は今ここに生かされている。
そして、その力は俺の未元物質を更に上に昇華させてくれる。
今にも死にそうな状況を打破する程度には!!

ここまで凡そ六徳に満たない時間。
そして自分に出来たこと、そして今から出来ることを信じぬく。
『自分だけの現実』とか理解だけではなく、それを出来ると信じること。
俺は、俺の能力は――――――!!

時間が制止したような集中により、現状全てを脳に押し込んだ。
黒衣の女の位置、死を感じる寒気の位置。
それらを脳の中で処理し、気付けば自分を横視点で見ていた。
第三者の視点、自分では見えないはずの位置も脳内では完全に補完された。
それを見るに俺の首には後110cmもすれば届く位置に刃が迫っていた。
速度計算、重量測定、角度算出。
そこに俺の反射係数、肉体速度、反応計算を加えると―――。

      死

―――答えなんて一発で出る。
だけど、それは今までの俺なら、の話だ。
第一位にぶっ殺された俺ならの話だ。
今の俺なら――――――。

     天上に至る道―――未知

――――――何の障害にもなりえない。

現状認識―――。

―――解読成功。

常識変換―――。

―――能力昇華。

未元物質―――。

―――能力使用。



___LEVEL5system⇒『     』



脳が焼き切れる。
今まで気づいてきた全てが崩壊する。
自己の精神領域が侵される。
自分だけの現実に新たな常識が書き込まれる。
科学の世界では知りえない知識が。
科学の世界でしか手に入らない能力を磨く。

能力が体内で暴れる暴れる。
世界は止まっているのに俺だけ、能力だけが暴れ回り、身体を内から食い破ろうとしている。
俺の元から持っていた未元物質が、新たに注がれた力と混じり合い別の何かになろうとしている。
それは耐えがたい苦痛。
言葉にできない激痛。
それが脳みそを焼いて焼いて燃やして焼いて焼き尽くす。
それでも俺は能力を発動させる。
そして超能力と言う大きな波と―――。

―――名の知らぬ、魔術という領域の波が。

ぶつかりあった。

その瞬間全てが崩壊し、そして再構築され、静寂が生まれた。
波と波がぶつかり、どこまでも高く飛沫があがり天に届き、そして凪いだ。
世界が止まったような思考の中、能力を発動させた。

…………。
……………………。

どこかの闇の淵。
雨水が垂れるように滔々と言葉が流れる。

「ふむ、また門が開いたか」

「また?」

「ああ、七要素の一つがまた開いたようだよ」

「七要素…………」

「世界構築の七要素だよ、その一つ」

「…………」

「期待はしていなかったのだけど嬉しい誤算だ」

「またプランが短縮か?」

「いや、未知が先に出る分、方向性が遅れるから一概に短縮とは言えないよ」

「そうか…………しかし良いのか? 剣はさすがにここで折れるんじゃないか?」

「前も言ったハズさ――――――」

……………………。
…………。

”ふわっ”

「なっ!?」

渾身の力で叩き込んだ剣が、男の首元で止まった、否受け止められた。
見えない角度、インデックスが身体を張って作ってくれた完全な死角から打ち込んだはずの剣が見えない何かに受け止められた。
そう、受け止められたのだ。
その受け止めたナニカがゆっくりとこの世界に実現する。

「なっ、は、な、これ、は、は!?」

見えなかった、この世界に存在しなかった、存在しえなかったそれが実現していく。
不可視の剣、私の剣を受け止める手、腕、爪、龍麟の生えた腕!!
私にもその因子があるからこそ解るその存在感。

「セイバー!!!!!!!!!!」

インデックスの叫びが遠くから聞こえる。
それに何を応えることも出来ず目の前の異常に身体を固めていた。
そうこうしている内に、その存在は此の世に完全に実現した。
存在してはいけない存在が当たり前のようにこの世界に!!

「な、ぜ、龍種、いや、龍が…………」

龍種等と分類することもおこがましいほど純然たる龍がこの世界に姿を現した。
剣を掴まれたまま呆然と震え、目を見開く。
遠くからインデックスの声が聞こえた。

「聖人、ゲオルギオスが討ち倒した竜」

その声と重なる様に私の身体はゴミを放る様に宙に投げられ。

「やれ」

「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAH!!!!!!」

咆哮一閃、強大な腕で殴り飛ばされた。

「聖ジョージ・ドラゴン」

その言葉を最後に私の意識は消えた。

…………。
……………………。

「はは…………こりゃ、すげぇな」

能力を発動させて見て自分でも冷や汗をかいた。
俺が望んだのは死への恐怖の回避、それだけだったハズなのに、目の前には竜が現れた。
そのままファンタジー映画に出れそうな強大な竜、その腕が俺を守った。
此の世に存在しない竜を生み出してしまったのだ。
竜が存在しているだけで世界が音を立てて軋んでいるのが感じられた。
強すぎる大きすぎる桁が違い過ぎる竜と言うモノを世界は受け止めきれていない。

「なんだよ…………これ」

自分でも把握できていない能力。
その強大さに身体は無意識に震えて行く。
もう見えないほど遠くに吹き飛ばした金髪の女のことなんか思考の片隅にもなく、ただただ自分の能力の解析を急ぐ。
此の世に存在しない物質がつくる未元物質が何がどうしてこうなったかを把握しようと思考しようとした、が―――。

「おっと…………良く動けるなお嬢ちゃん」

「がっ…………げぉ…………」

―――黒衣銀髪のお嬢ちゃん、最初に吹き飛ばしてやり、さっきも攻撃を加えたハズのそいつは迷わず、竜に目もくれず殴りかかってきた。
小さい癖に鋭い拳をかわし距離を取る。
そうすれば今も口から濁った血を吐いてるそいつは動きを止めると思ったが、そうはいかなかった。

「が…………あ、あああああああああああああ!!!!」

竜の咆哮のような叫びを上げながら勢い良く突進してきた。
よくもまぁそこまで動けるもんだと感心したとき、見えた。
彼女の身体を動かしている力、とでもいうのかそれが。

「骨子…………解明…………強化…………」

少女の身体を強化しているそれを俺の目は読み取れた。
見えないハズの何かを目は正確に読み取っていく。
そしてその見えないそれを、読み解いていく、パズルを崩すように簡単にポロポロと。

「え? …………あ」

少女を動かす何かを消し去れば、ガクっと身体から力を抜き、二歩三歩と歩いて膝をついた。
彼女は何が起きているか理解出来ずに、自分の手足を確認し、そして怯えるような目を俺に向けた。
その視線を受けながら、俺は自分の目に見える光景に恐怖してた。
全てが見える。
この世にあるもの、見えないものが全て俺の目に映った。
この世界の成り立ち、力の動き、流れ、見えないハズの全てを俺は読み取り、そして飲み込んでいく。
俺の能力。
未元物質はこの世に存在しない物質を作る。
その行き着いた先はこの世に存在してはいけないモノの製作。
そしてこの世に存在しているモノ全てへの理解だった。

「なんだこりゃ…………はは」

乾いた笑いが漏れる。
見上げた先には強大な竜、俺が作り出した名も知らぬ存在。
だけど、俺の目にはその竜すら崩壊させることが出来る情報が映る。
世界をも滅ぼせる能力でありながら、世界でさえ製作出来る能力。

「無敵じゃねーか」

”ざくっ!!”

そう、感想を述べたとき俺の胸を赤い槍が貫いた。
これでもう何も怖くはない、第一位でさえ殺せる、そう思った矢先。

「無敵な奴なんざいねーよ……………………無敵だったのはお前の『能力』だけだ」

「あ」

死の恐怖への克服は、傲慢と言う隙を生み出してしまった。
その教訓を胸に俺の意識は消えた。
最後に見たのは消えゆく竜、俺の命の様に儚く消えた巨大な能力の結果だった。
だけど、それでも一瞬でも味わえた頂点の感覚は悪くなかった。

今日はここまでです。

投下します。

「……………………どういうつもり」

ほんの瞬きひとつ前まで絶大な力で猛威を振るっていた垣根提督は、その心臓を槍で貫かれあっさりと倒れた。
その槍の持ち主は―――。

「槍使いだけあって横槍が好きなの?」

―――ランサー、青いボディスーツを身を包んだ獣のような槍兵だった。
突如現れ風より速くこの戦いを終わらせた彼はつまらなそうな顔をして槍を肩にかけた。
もしかしたらこれは彼自身も不本意だったのかも知れないけれど、それはどうでも良い。

「基本骨子解明―――強化開始」

「ほー、強化魔術か」

所在不明、マスター不明のサーヴァントが現れたのだ、ここで仕留めない訳にはいかない。
さっきかきねに消し去られた強化魔術を再び肉体にかける。
軋みだす筋肉、削れていく骨の苦痛、歪む内臓、それらを乗り越え立ち上がり、構えた。

「おいおい、まさかやるってのかよお嬢ちゃん?」

もちろんそんなつもりはない。
呆れたように肩を竦める彼の前で、ただ構えるだけ。
それに対する彼の反応を見極める。
彼の目的が何なのか、どうしてここに来たのか、何故あのタイミングで割り込んだのかを。
もし聖杯戦争の勝利が目的ならば私もこの時点で殺されているハズ、もしくは私が殺されてから、かきねが油断した瞬間を狙うハズ。
それなのに彼は私が生きているタイミングで割り込み、そしてまだ殺そうとはしない。
つまり現時点でランサーに戦闘の意志はなく、目的はかきねの殺害だけ、なのだろうか。
と、そこまで考えたところで―――。

「あ、あ、あああ、あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

―――遠くから絶望を孕んだ声があがった。

「…………キャスター」

「んだぁ、まだ現界してやがったのか?」

ランサーから視線を切らないまま確認すると、自分の顔に爪を立てながらキャスターが咆えていた。
絶望色の深い悲しみの声、それはマスターが死んだだけにしては濃い響きを持っていた。
私の知るところではないけれど、彼女はマスターを大事にしていたのだろう。
その彼が死んだ悲しみが彼女を包んでいる。
そしてその悲しみに包まれたままキャスターは時期に消えるだろう。
如何に優れた英霊でもマスターの魔力供給なしに現界し続けることは難しい。
魔力の蓄えはあるだろうけれど、戦闘するレベルの魔力はない、そう判断して彼女から視線を切った。
彼女にどんな悲劇があり、どんな苦悩があったかなんてどうでも良い。
解っていることはまた聖杯戦争が終結に近づいた、それだけ。

「…………」

「そんな目で見られると照れるぜ?」

ランサーも壊れたように声を上げ続けるキャスターに興味はなくなったのか、構えを取る私を正面に見据える。
彼の戦士としての習性なのか、どうあがいても自分に勝てない子虫のような私であっても構えている以上警戒はしているようだった。つまりは油断した部分を、とか。
こちらを甘く見ている内に、とか。
そんなことは通用しない。
だからこそ構える、構えている限り相手は警戒してくれるんだから、構える。
その姿に槍兵は溜息をつくと威嚇するように槍を構えた。
真紅の魔槍・ゲイボルグを。

「あのよぉ、何のつもりか知らねーけど構えて向かってくる以上手加減できる男じゃねーぞ俺は」


強まる圧力。
アイルランドの光の神子、ケルト神話最大の英雄。
私だけではどう策を練っても勝てる相手ではない。
今の一秒後にも殺される、抵抗も出来ずに殺される、それほどの相手だ。

「勝てるつもりじゃねーよな」

視線が突き刺さる。
現実的な痛みを感じるほどに。
あまりに差があり過ぎて怖いと言う感情すら生まれない。
蟻が人に踏まれるような当然の摂理すら感じてしまう。
だけど構える構える構える!
私だけじゃ勝てないけど―――!!

”だっ!!!!!”

「何をしているランサぁぁぁぁぁあああぁぁあぁあああ!!!」

―――私を勝たせてくれる原動力がいる!

「!! ちっ! セイバーか!!」

”ごっ!”

「な?」

一瞬、ほんの一瞬だけランサーが背後から迫るセイバーにのみ意識を持って行った。
相手がセイバーだからこそ、一度戦い強さを理解している相手だからこそ、私みたいな蟻よりそちらに意識を完全に集中させた。
その瞬間に一騎に踏み込み、前進の筋肉を破壊する勢いでランサーの腹を殴った。
意識のない場所からの打撃、それは集中した意識を崩すのには十分過ぎる。

「蟻に噛まれたら痛いんだよ」

「ぜぁぁぁぁぁあああああ!!!」

”ざしゅぅうううう!!!”

今日はここまでです。

投下します。

「ぐっぉ!! おおおおっ!!」

「ふぅううううっ…………インデックス、お怪我はありませんか!?」

ランサーを斬りつけ、私と彼の間に割り込む様にセイバーが降り立った。
吹き飛ばされた傷は目立つものの戦闘にそこまでの問題はないようだった。
私は彼女の問いに頷くと四歩下がり、さっきランサーを殴ったことで骨を痛めた手を庇いながら周囲を確認する。
遠くでは未だに絶望の声をあげるキャスターがいあるが、それは排除。
何かに使える可能性はあっても、現状での必要性は低い。
だとしたらそこを無理に認識しておくより完全に排除した方が脳の効率は上がる。
と、言っても手負いのランサー相手ではそこまで思考は必要ないだろう。
ステータスの差はあれど、備えている性能でセイバーは圧倒できるだろう。
セイバーに対して―――

筋力 C
魔力 C
耐久 B
幸運 B
敏捷 C
宝具 C

―――ランサーがこれだ。

筋力 B
魔力 B
耐久 B
幸運 E
敏捷 A
宝具 B

基礎的ステータスで負けてはいても、それをセイバーは魔力放出と直観で補える。
となれば負けることはほとんどない、問題は宝具であるのだけれど、最初に傷を与えた為に急激な魔力消費は避けるだろうから、発動の可能性は低い。
現状負けはない状況であることを認識し、セイバーに戦闘を任せると私は私の戦いを始める。
この異界にランサー一人で来た可能性は低い、近くに彼のマスターがいるだろうから。

”きいいぃん!”

…………始まったみたいなんだよ。
私が思考―――戦いを始めたと同時に、向こうも戦いを始めたようだ。

「ふっ! はぁぁあああ!!!」

”ぎぃいん! きぃいいん!”

気合いの声と共にセイバーは不可視の剣を振るう。
それをランサーは槍で上手くいなしてはいるけれど、魔力放出にて上乗せされた一撃は手負いのまま受けるには重すぎるようで―――。

「ぐっ! くぉお! 奇襲からの戦いなんざ、お利口な騎士様が出来るとは知らなかったぜ!」

―――一撃ごとに身体を大きく揺らし、体勢を崩していた。
その顔には苦悶の色が濃く、まるで負け惜しみのような言葉を吐きながら槍を操っていた。
大きく背中を斬り裂かれているので動きは大分制限されているだろうに、彼は良く持ちこたえているようだった。
しかし、それも時間の問題でしかない。

「ぜぁぁあああああああ!!!」

”ぎぃん!”

「ぅお!?」

踏込と同時に下方からの剣撃。
救い上げるような一撃を槍で受けたランサーではあったが、痛みからか大きくのけぞってしまう。
その大きな隙をセイバーは逃さず、容赦なく剣を振り上げた。

「ぁあああああああああああああぁぁああ!!!!!」

”ざしゅっぅ!!”

「ぐぉおおぉおおおぉおぉぉぉ!??!」

槍がかち上げられ無防備に晒された正面を不可視の剣は深く斬り裂いた。
さらに追撃すればそのままランサーを倒すことも可能、まだマスターは把握できてはいないけれど、それもありだろうと静観していた。
が。

”轟!!”

「……………………やっぱり」

さっきのセイバーのように、二人の間に何かが割り込んだ。
それと同時に上空から見覚えのあるものが何枚、何百、何千枚と雪の様に降り注ぐ。

「出来れば君とは顔を合わせず終わらせたかったんだけどね」

セイバーとランサーの間に割り込んだものは―――。

「あなたは…………」

「うん? ああ、一度会ったことあったっけ」

―――ステイル・マグヌス。
今の私のように黒衣の神父。
その彼がランサーを守る様に立ちはだかった。
顔見知りのその姿を私は、しっかり予想していた。
セイバーにはその予想を伝えていなかったので、彼女は少し動揺しているようだった。
赤毛の神父、ステイルはこちらに視線を向けて咥えたタバコを揺らした。
その視線には以前は無かったもの、あるモノが感じられる。

「君は動揺していないみたいだね」

彼は視線に潜めたものを隠す気はないのか、まっすぐ見つめながら愉快そうに唇を吊り上げた。
そのどこか彼らしく、どこも彼らしくない笑みを見ながら小さく頷く。

「ケルトの英霊とルーンの魔術師、相性なんて考えるべくもないんだよ」

私がそう一言返すと、彼は「アーチャー戦の助太刀は露骨だったかな」と肩を竦めていた。
一度彼が助けてくれたときを思い出し、それを脳に仕舞いこむ。
そして真っ直ぐ彼を見つめ、小さく呟く。

「セイバー」

「はっ!」

その一言で微かな動揺を全て流しきり、セイバーはステイルに向かって飛んだ。

…………。
……………………。

僕、ステイル・マグヌスが聖杯戦争に参加したのは彼女、インデックスが参加していたから、それを助ける為―――ではない。
何故なら僕は彼女より先に聖杯戦争にマスターとして参加していた。
目的の為に、目標の為に、願いの為に、欲望のままに参加した。
出来ればインデックスには聖杯戦争に関わらずに過ごして欲しかった、だが手違いで彼女を聖杯戦争、その渦中に招くことになってしまった。
彼女の守護者である上条当麻を排除し、イギリスに送還させることを目的としてランサーに「マスター候補を排除しろ」と嘘を告げて送り込んだのだが、何故だか彼は僕の知らない理由で留守にしていた為に、間違ってインデックスに怪我を負わせてしまった。
その場に居合わせた土御門のおかげでインデックスの命こそ救うことが出来たけれど、その代償は大きかった。
インデックスの聖杯戦争への参加、それは彼女を危機に晒すことであり、それは僕の願うところではなかった。
それでも願いの為に僕は進むことに決めた。
彼女をサポートしながら、自分の目的の為に陰に動く日々。
そして戦争を経て変わっていくインデックスの姿に苦悩した。
それでこの戦争さえ勝ち残れば『全部元通りだ』そう思えば苦悩も払拭出来た。
そう、全て元通り。
全て、全て、全て、全て、全て、全て、全て!

――――――全てが元通りになる。

そう、全て、彼女がインデックスが僕の手の中にいたあの頃に戻る為に!!!!
彼女が幸せならばと殺してきた願望が芽生えてしまった。
種のままだったそれは成長しだせば止まらない、養分(欲望)を吸って大きく育っていく。
そこまで来たらもう止められない。
願望は欲望を吸って育ち過ぎた、開花―――成就するまで止まらない!
どんな犠牲を払ってでも、僕はインデックスを手に入れたい!!!!
心を支配する欲望に身を苛まれながら、黒衣を纏ったインデックスを見つめる。
熱い、火のように熱い視線で彼女の全てを見つめた。
その視線を遮る様に、インデックスの一言でセイバーが動きだしこちらに向かってきた・

「ランサー…………動け」

「…………ちっ」

セイバーの後ろ、少し進めば彼女がそこにいる。
その事実に笑みを浮かべながら手負いの槍兵に命じる。
短い命令に浅くない傷を負った彼は槍を構え直し前に出て、セイバーを迎え撃った。。

「ステイル…………」

彼女が、インデックスが僕の名前を呼ぶ。
それだけのことで射精しそうなほどの快感だ。
このまま果ててしまっても構わないと思える。
いつもいつだって見つめてきた彼女が僕を見ている。
それだけで世界が輝いて見える。
叫びだしたい気持ちを押えながら、すっと手を差し出す。

「君の願いは僕が叶える、だから戦争から手を引いてはくれないか?」

抑えきれない欲望で作った笑顔。
彼女の願い? ああ、叶えるよ大きい意味ではね。
彼女が求めるのは上条当麻だ。
そして、その位置にかつて座っていたのは僕だ。
その座を取り戻すことにより彼女は満たされる。
かつてアウレオウスがそれをしようとしたとき僕は「救われた人間をもう一度救うことは出来ない」そう斬り捨てた。
だってそうしなければ、彼女が奪われてしまうから。
救われた人間は救えない? だったら救われる前に戻せば良いだけじゃないか。
そうだから僕は取り戻す『全て』元に戻して、あの頃を取り戻す。
その為なら神にも唾吐くし、彼女を謀る。
それが覚悟だ。

「はぁぁぁああああ!!!!」

「うっぉおおおおおお!!!」

槍と剣が交差する向こうでは彼女が僕を見つめている。
手が届く位置にいる彼女。
そういつだってインデックスは手の届く位置にいた、そこに僕が手を伸ばさなかっただけ。
だから、今回は手を伸ばそう精一杯目一杯。

「…………返答はなし、か」

「……………………」

インデックスは僕の提案には答えず、ただ濁った暗い瞳で返すのみだった。
その瞳を一度だけ奥まで覗き込み、直ぐに昔のような君に戻すと近い、タバコを投げ捨てた。

”とんっ”

くるくると回転しながら煙草は飛んで、ランサーとセイバーの近くに落下した。

「魔女狩りの王」

”轟!!!!”

落下したタバコが火の粉を散らし、それが一気に膨れ上がり、酸素を吸い込み炎の巨人の姿を作る。
周囲に展開したルーンを元に生まれた『魔女狩りの王』

「!!?」

ランサーとの戦いに集中していたセイバーはその巨人に目を見開く。
その隙だらけの姿に口元を歪め、二人のサーヴァントに命じた。


「やれ」

今日はここまでです。

【セイバー】
マスター『インデックス』
真名『アルトリア・ペンドラゴン(アーサー王)』
筋力『C』
魔翌力『C』
耐久『B』
幸運『B』
敏捷『C』
宝具『C』

【ランサー】
マスター『ステイル=マグヌス』
真名『クー・フーリン』
筋力『B』
魔翌力『B』
耐久『B』
幸運『E』
敏捷『A』
宝具『B』

【アーチャー】
マスター『御坂 美琴』
真名『不明』
筋力『C』
魔翌力『D』
耐久『B』
幸運『C』
敏捷『B』
宝具『??』

【バーサーカー】
マスター『月詠 小萌』
真名『ヘラクレス』
筋力『A+』
魔翌力『B』
耐久『A』
幸運『B』
敏捷『A』
宝具『A』

【ライダー】
マスター『打ち止め』
真名『メデューサ』
筋力『C』
魔翌力『E』
耐久『C』
幸運『E』
敏捷『B』
宝具『A+』

【アサシン】
マスター『  』
真名『神裂 火織』
筋力『A++』
魔翌力『A』
耐久『B+』
幸運『EX』
敏捷『A』
宝具『??』

【キャスター】
マスター『垣根 帝督』
筋力 『E』
魔翌力 『A+』
耐久 『E』
幸運 『D』
敏捷 『E』
宝具 『C』

全員そろったので貼り直し
アサシンのマスターはみさきちでいいんですかね

投下します。

「おっ、おおおぉおおおぉおおお!!!!」

”轟!!” ”ぎぃいんっ!!”

ステイルと名乗る魔術師、インデックスとの旧知の中であったようで、かつて手助けしてくれた彼ではあったが、今は敵。
ランサーのマスターと解ってしまえば、片付けるしかないだろう。
インデックスが躊躇わない以上、剣である私もそれに従うほかない、そう思い再び戦場の気を満たそうとしたときにそれは現れた。
そう、炎の巨人。
火を纏った人ではない、炎そのものが固まって出来上がった巨人だ。
それが突如現れ、周囲の空気を焦がしながら私に襲い掛かった。
その行動に面食らってしまい半歩下がったところに深手を負わせたはずのランサーの槍が迫る――――――が。

「それがどうした?」

迫りくる炎の巨人。
触れたものを骨まで灰にする火の魔術。
そのレベルは確かに高い。
攻撃性、持続性、範囲。
どれをとっても現代の魔術師ではかなりの高位、Aランクに属するのは間違いない、しかし―――。

”だっ!”

「突撃かい? イノケンティウスの身体をただの火の塊と思わない方が良いよ」

―――そんなことお構いなしに剣を構えて加速した私を彼はあざ笑う。
無知を嘲り、蛮勇を滑稽だと評するように。
だが、それも直ぐに凍りつく。

”ぼぅっ!”
      ”きっぃいいんっ!!”

「なっ!? あ、な!?」

炎の巨人に体当たりするようにぶつかり、そのまま朱色の槍を剣でいなし槍兵の体勢を崩させる。
触れたものを全て灰に還す様な火でも、私の対魔力のスキルの前では意味を為さない!

「ちっ! 対魔力のスキルか! ランサー!」

「わかってらぁっ!」

イノケンティウス、炎の巨人を対魔力のスキルで押しのけるように前に出て、そのまま敵マスターに迫ろうとすると当然のようにランサーが追いついてきた。
傷を感じさせない鋭い動きで槍を振るい私の道を遮る。
その後ろでは巨人が再び形を取り戻すが、向かってくることはないようだ。
そのまま向かってきてもさっきの二の舞になると判断したようだった。
だけどそれではなんの解決にもなっていない!

「はぁぁぁああああ!!!」

”ぎぃいいぃんっ!!”

「がっ! あああっぁあ!!」

ただ前に進む様に剣を振り、手負いのランサーの槍をはねのける。
技術もタイミングもなく、ただ剣を振るうことの繰り返しで相手は体勢を崩し続けていた。

「ふっ! せっぁああ!!!」

”がぃいんっ!”

「くっそがぁぁぁあああ!!」

”ぎぃいん!”

       ”がぎぃっ!”
       
   ”がっご!”
叫び声を上げる槍兵は、槍の構えが既に攻撃ではなく防御を前提になっていた。
隙あらば攻撃に転じる前向きな槍捌きではなく、今一撃を持ちこたえる為の無様な防御。

その滑稽極まりない、アイルランドの光の神子とまで呼ばれた彼の槍使いをあざ笑う様に剣を振るう。
一撃ごとに彼の顔色は悪くなっていき、反応もどんどん遅れている。
下段から切り上げれば―――。

”ぎりぃいん!!”

「おおっご!!!」

―――両手で鉄棒を掴む様に構えた槍をかち上げられ、背中から鮮血を滴らせ苦悶の表情を浮かべる。
そして半歩退き、また槍を構えようとする姿勢は立派ではあるものの、その動きはやはり防御だ。

”ひゅっ!”

「っ!」

深く踏込み、わざと動作を見せつけながら剣を振るう。
横なぎに、さっきまでより遅めに振るうが、それでもランサーの動きは防御だ。

”がぃいんっ!”

「がっぁああああ!!!」

不意打ちでつけた傷で上手く立ち回れない相手を責めることに私は何の感慨も抱かなくなっていた。
日々掲げた騎士道であったとしても、それはあくまで勝利を前提にした言葉。
勝つためには何でもしよう、それが道から逸れようとも!

「くっ! い、イノケンティウス!!!」

防戦一方のサーヴァントを目の当たりにしてか、ステイルは効果がないと知りながら炎の巨人を差し向けてきた。

”轟!!”

音だけは大層に、空気を飲み込みながらランサーの前に立ちはだかる。
確かにこれでは彼の姿が見えず、体勢の立て直し、もしくは巨人の身体を陰に攻撃も可能だろう。
効果ないと言え動きを確かに止めてしまった。

「どうやら隠し布程度には使えるようだな」

剣を構え直し、相手が動く前に動く!!

”だっ!!”
      ”ぼぅっ!”
      
一足で炎の巨人を貫く。
対魔力の膜は存分にこの身を守り、キャスターほどの魔術ではない巨人はまた霧散する。
剣を構え、火の壁を抜けた先の物を斬ろうと力を込める!!

「な…………?」

巨人の身体を超えて見た先にまた動きを止める。

「よぉ、遅かったな」

「…………幻術、いや、これは」

そこには火の海があり、ランサーが複数いた、否複数いるように見えた。
魔術によるものなのは間違いなく、全員が同じ動きをする槍兵が3体。
もし全て実体ならば脅威であることは間違いないが、実態はひとつだろう。
目を凝らせば見間違えることはないのだろうが、大量の火が像を歪ませる。

「…………」

少し考えたが、全てを相手にするつもりで斬り倒せばよいと身を沈ませる。
この身の怪我は少なくはない、倒せる相手に時間をかけるつもりはないのだ。

「もうちっと驚いてくれてもいーんだぜ?」

軽口を叩くランサーを見つめ、剣を強く握り―――。

”だっ!!!”

―――駆け出した。

「躊躇なしか!!!」

「ふっ!」

”ぶぉんっ!”

迷わず踏込み、まずは左端の一体に剣を振るう!

”がぃいっ!!”

「いきなり当たりか」

「どーゆー勘をしてんだよ騎士王様はよ!」

衝撃の手ごたえを感じ、そのまま剣を振るえばさっきの焼回しだ。
他の幻のランサーたちも実態と同じ苦悶の顔のまま踊る。
おそらく蜃気楼を利用した幻術なのだろうが捕えてしまえば同じだ。
幻術を一瞬で破られた焦りからかランサーの動きには更に歪みが見えていた。

「ちぃっ!!」

”だっ!”

剣撃から逃れるように槍兵は火の壁をくぐりまたその身を隠した。
次はどんな策かと警戒しつつ周りを見れば、幻術は既に消えていて、炎の巨人だけが空しく立っていた。

”ぼぅう!”

「!」

数秒の間を置いて、周囲にあった火が風が吹いたように消えた。
そして消えた先にはランサーと、そのマスターが並び立っていた。

「どうした、かくれんぼは終わりか?」

「……………………」

何気なしに投げた挑発に近い問いには無言で返される。
無論返事を期待していた訳でもないので、改めて剣を構えなおす。
下段に構え、いつものように突撃そして斬り殺す準備だ。

”だっ!!!”

「っ!」

ランサーに向かい突撃と同時に彼らの顔に緊張が走る。
何かしらの策を用意してあるのだろうが、まずは砲弾そのままに突撃。

”轟!”

「また目くらましか!」

呼び戻された炎の巨人が立ちはだかるが、一瞬も速度を落とさずその身を突き破る!

「!」

巨人の向こうにはランサーはおらず、マスターであるステイルがそこにはいた。
恐らくランサーはどこかに身を隠しこちらを狙っているのだろう。
しかし、ここでマスターを斬り捨てれば勝ちだ。
迷うことなく深く沈み込み、赤毛の神父に向かい思い切り剣を振るう!

”がぃいいんっ!!”

「!?」

人間の肉を斬ったにしては鈍い音。
それが意味することは―――。

”ゆら”

目の前のステイルの像が歪み、そこに現れたのはランサー。
血を流し過ぎたのか血の気の引いた顔で汗を流し、何とか最後の一撃を受けきった彼。

”かちゃっ”

「ふむ、この手のものは初めて扱うが、あいつが言うのは簡単なものらしいね」

崩れるように膝をついたランサーを見守ることもなく、後ろから聞きなれない音、いや、この戦争がはじまり何回か聞いた音が響いた。

「例え英霊と言えど、実体化して触れられる以上有効だろう? これは魔術じゃないしね」

「――――――」

振り向こうとした瞬間―――。

”ぱぁんっ!”

―――慣れない痛みが身体に走り、血が流れた。

今日はここまでです。

お久しぶりです投下します。

「……………………」

短い時間ではあったけれど練ったのは最善の策。
今の手札で出来る最高のカード捌きは、最優のサーヴァントにもその牙を届かせた。
魔術師としての矜持に反した”ジョーカー(銃火器)”まで切って、だ。

「…………」

ぼくの手の中にある不細工な鉄の塊。
痺れるような反動、それが僕が魔術師の禁忌を踏んだことを告げてくる。
超えてはいけないライン、それが世界にはある。
魔術師の領分、科学の領分、それぞれ区切られているには意味がある。
二つが合わさる部分、そこは酷く危険で不安定でそれでいて強大な力を得てしまうからだ。
それこそ上条当麻が世界中から監視される理由だった。
その領域に僕は少しながら足を踏み込んでしまった。
その結果が目の前だ。

「ぐっぁ、う…………これは、銃、か」

「ああ…………そう呼ばれるものだよ」

脇腹、腕、足より血を流し苦痛に顔を歪ませる騎士。
現代の魔術では傷も負わせられないセイバーがただの科学、その中でもランクのそう高くない物体で膝をつく。
矛盾のような、そうではないような状況に僕は戸惑っていた。
自分でしたにも関わらず指が震え、そして堕ちる。
心に湧いてしまった微かな優越感。
銃を使うという行為が人の心に産み落とす一瞬によって強者に自分を伸し上げる快感。

「……………………」

自分の手の中で黒く光る暴力に羨望の視線を向けた。

「魔術師としての…………矜持は、ないのか…………ぐっ…………あ…………」

かつては幻想の世界に生きた英霊が呻く姿に僕は勃起しそうな興奮を覚えた。
覚えてはいけない暴力のエグイ興奮が僕の心を揺らす。
少し離れた場所で息を切らせるランサーも、既に魔力枯渇で存在が消えかけているキャスターも何もかにも僕を動かさない。
ただただ目の前で呻く騎士と、それを実行した鉄の塊のみが僕を突き動かす。

「…………笑って、いるのか? 貴様」

「笑って…………る?」

セイバーの声を気付かされたけれど僕は、今笑っているようだ。
銃を片手に笑みを浮かべているようだ。
目の前の英霊に対してのアドバンテージを元に快楽に酔っているようだ!
既に満身創痍のセイバー、そこに止めともいえる銃撃を加えた、強き者を落とした快感に心が震える。
その震えのまま、銃をもう一度セイバーに向ける。
何の変哲もない、10万円程度で手に入る不細工な鉄の凶器を。
僕と相対する前に既に満身創痍、そこに来て更に満身創痍をかけたような騎士に向かって銃を向け―――!!

”だっ!”

「来たね」

―――トリガーを引く前に聞こえてきた踏込音。
強く地面を蹴った音。
軽い体重音、だけど無理に重く打ったような響き。
怪我の為かあまり足運びは美しくはない。
小さく息切れも聞こえてくる。
これを、それらを僕は知っている、ずっとずっと知っている。

上条当麻が
     彼女を知る以前から
              僕はあの娘を知っているんだ。

だから、このタイミングで彼女が向かってくることなんてとっくに読めている。

…………。
……………………。
セイバーが撃たれた。
読み切れていなかった事態。
ステイルがここに参戦する可能性は考えていた。
だけど、そこで彼が、私の知るステイル=マグヌスという魔術師が近代武器に手を出すとはまったく考えていなかった。
魔術師と言う生き物は自分の領分を死の間際まで守る生き物、それを名前に刻み魔法名として生きるから。
それなのに彼はその領域を踏込破った。
銃を用いセイバーを撃った。
Aランクの対魔力を持つセイバーを現代の魔術で打ち倒すことが出来ないから、現代の武器で、神秘を帯びない現実で打ち倒す。
とても合理的判断だとは思う、正しい思考だ。
だけど、それは魔術師がして良い考えじゃない。
神秘を求め、根源に達することを願う魔術師がやって良いことじゃない。
私に魔術師の矜持なんかないけれど、それで踏み込んで良い場所とそうじゃない場所くらい解る。
例え嘲笑されようが、虚仮にされようが、何をされようが―――。

     ―――殺されようが。

最後まで魔術師として生きる、それが魔を進む者たちの命の在り方のハズだ。
今まで出会った魔術師は皆それに準じた、かおりも!
魔法名の元に自分という魔術に準じるのが魔術師じゃないのか?
軋み軋み軋み続ける身体を無理に動かし何とか何とか戦場まで追いつく。
ランサーが戦闘不能になり、ステイルのみになったこの瞬間に戦場に滑り込む。
本当ならセイバーが撃たれる前に駆けつけたかったけれど、私の身体はそれを許さなかった。
何より銃の存在を考慮していなかったから。
だから一歩、いや三歩近く出遅れた。
私を信じて戦ってくれたセイバーの前でなんたる無様!
セイバーがランサーを下してくれたなら、私がマスターを下!

”だっ!”

「ぉぉぉ…………!!!!」

身体に無理をかけ続けるような強化の魔術で補助しても、既にボロボロの身体は十全には動かない。
それでも動かないなりに身体を動かし、ステイルの背後に迫る。

拳を握り、構え、踏み込むと同時に体重を移動させ―――振るう!

”ひゅっ!”

「おっと! …………君は体術なんか覚える必要なんかなかったのに」

突きだした拳は躱され、微かに彼のローブに触れるだけ。
それと同時に悲しそうな、どこか独りよがりな声が響く。

”びぎぃぃ!!”

「お……………………」

拳を突きだしただけで激痛が全身を襲う。
繰り返してきた強化の代償であり、何より先ほどの垣根帝督との戦いでのダメージだ。
呼吸一つで目の前がチカチカするような痛みに一瞬動きは止まってしまう。
その一瞬を埋めるように、がむしゃらに身体を動かすしかない。

「がっぁああああああ!!!」

踏込、回転、そして打突。

”しゅっ!”

風斬る拳はステイルの身体に届かない。
だけどそれで良い、必死さを見せることが重要な一つだから。
彼はかおり同様、私を大切に考えてくれている。
ならばそれを利用しよう、徹底的に利用しよう、骨の髄まで利用してしゃぶりつくして、そして私の願いの糧にしよう。
私が好きなら大切なら、私の為に養分になって、ね。
黒い何かが私の中で相変わらず蠢く。
出口を求めて、とうまを求めて欲望が―――走る。

今日はここまでです。

独自解釈ってほどじゃないですが、文章でも書いたように
「触れられるってことは当たる」程度のことですね
禁書とのクロスなので、科学による打倒も入れておきたかったってのもあります
それとfate本編でも葛木先生の打撃をセイバーは受けていましたし、打撃はありで銃はなしってことはないのかな、と思ったまでです
葛木先生の場合は魔術で強化していたという感じでしたが、それだとセイバーの対魔力スキルはどうなんだろうか、とか思うところありましたが、クロスSSですのでそのあたりは擦り合わせです

お久しぶりです投下します。

”だっ!”

拳を突きだし、その勢いを利用して身体を回転させていく。
強化魔術の代償で全身は既に死に体に近い、けれどまだ動く以上は動かす。

「ぁあああぁぁああああ!!!」

”しゅっ!”

「君は本当に…………どうして、ここまで…………変化…………変わって」

鋭く突きだした拳を闘牛士のように避けるステイルは、悦楽の色を見せる瞳を潤ませ、ぶつぶつと何かを呟いていた。
その手には拳銃。
科学の暴力が秘められている。
セイバーという幻想を打ち倒した、ただの現実を持つ魔術師。
魔術と科学の二律に触れて、禁忌の存在となったステイルは恍惚の表情を見せながら私の拳を踊る様に避ける。
彼はそんなに敏捷性は高くないだろうけれど、まるで動きを読めるように拳をかわしていく。
普段ならば決して口から離さないタバコを落としても、それを気にするそぶりもみせず、ヨダレを垂らし幸せそうに踊る。
きっと彼は私を大事に思ってくれている、それはとてもとても利用できる。
彼の優しさ思いやりそれらはじっくりしゃぶりねぶり、私の願いへの養分になってくれるだろう。
ここで彼を打ち倒せば残る英霊はバーサーカーのみ、あと一歩なんだ。

”ぱんっ”

「え?」

「インデックス!!!!!!!」

音が聞こえた、そして二度目になる熱が腹部を襲った。
そして私を強く呼ぶ声がした。
痛みと熱に足が動かなくなり、歯を食い縛りながら見上げた”私を大事に思ってくれてる男”の顔は穏やかに歪んでいた。
そのときにやっと気づけた、魔術師としての矜持も捨てて歪んでいる男がまともな訳がない、と。
彼は私を殺すのだろう、そのことにやっと気づいた。

「インデックス…………君は…………変わってしまったよ…………僕は…………あの頃の君を…………取り戻す」

…………。
……………………。
僕は考えるどこで間違ったのだろうかと?
インデックスを彼女を守る、彼女の幸せを守るそう誓って、自己を滅する覚悟もしてきた。
だけど、だけど、だけど、僕が知っている彼女が会う度に失われていく姿を見ると心が痛んだ。
ズキズキ痛み、僕の知らない彼女の姿が心にズカズカ上り込んできた。
知っている、彼女のことは誰よりも知っているつもりだった、仕草も口調も心も何でも。
だけど、彼女が救われて―――救われてしまって、上条当麻の惹かれて行く彼女は変わっていった。
日々の暮らし積み重ねで彼との仲を深め、新しい経験をするたびに彼女は成長する。
かつてのように記憶の積み重ねが無かったころではありえない精神の成熟を見せていた。
それは僕が見たかったものであり、僕が知りえなかった彼女。
それでも彼女が幸せなら良い、そう思っていた。

          そう諦めてしまっていた。

諦めていたからこそ、彼女を守るんだ、彼女の今の幸せを守るんだと誓えた。
だけど、かつての彼女を、僕が一番知っていた頃の彼女を取り戻せる機会が目の前に落ちて来てしまった。
最初はその機会を蹴り飛ばそうとして、どうせこの機会は上条当麻が破壊するだろうから。
彼は世界の終着点、世界を揺るがす事柄、それを破壊する為にいるような存在だ。
この世界に置いてすべての中心になるように義務付けられた、今代の主役、それが彼だ。
その彼が自分の拠点、学園都市に落ちた聖杯戦争という大がかりな仕掛けを見過ごすハズがない。
だから、今回も僕は見に回り、陰からインデックスを守ろう、そう思ってたのに。

「っ! 何をやっている上条当麻……………………!」

目の前で血を流し蹲る少女を見ながら、血が流れるほど手を強く握り締めた。
そう、自分を止めなかった、この機会に飛びつかせた上条当麻に怒りを感謝を向けながら。
ある男によってもたらされた情報、上条当麻の不在。
それによる聖杯戦争の狂走。
物語を終着させる主役の不在は脇役であるハズ、陰にしかいられない僕をここまで連れ出した。
何よりこんな戦闘に参加するハズないインデックスを連れ出した。
あまつさえ、彼女が上条当麻の代理を勤めることになっている。
もし上条当麻がいればこんなことには間違いなくならなかったのに!!

彼がいなかった、それだけで世界と言う物語は破綻していく。
彼の周囲からこそ破綻していく世界、それだけ上条当麻という存在の与える影響は大きかった。
僕とはまるで違う今代の主役、それが彼だった。
その彼の知らぬ場所だ走り出した物語は誰も止められない。

――――――だってもう、上条当麻は。。。。。。。。。。。。。

そのことに怒り、感謝して僕は泣きながら銃を構える。
魔術師として道を外れた僕は、ステイル・マグヌスという人間からも外れようとしていた。
生涯を通して守ろうと違った存在を殺そうと、殺意を指に込めた。

「インデックス!!!! 避けて下さい! インデックス!! 今行きますから!!」

少し離れた場所から聞こえてくるセイバーの声。
怪我も関係なくこちらに向かってくるだろう彼女、だけど―――。


”ぎぃいんっ!!!”

「いかせると思うか? 邪魔すんなよっっっ!!!」

「っ! どけぇぇぇぇぇぇええぇぇええええええ!!!!」

―――満身創痍ながら立ち上がったランサーがそれを阻止した。
そのことに僕は興味を払わず、改めて彼女を見る。
白かった彼女は今は黒い。
その身から滲みだした黒に染まったような外套を着た彼女、僕が知らないインデックスに銃を向け―――。

「ばいばい…………また、直ぐ会えるよインデックス」

「インデックス、インデックス!!! どけ、槍兵、どいてくれぇぇぇええ!!!」

「っ!!!!!」

―――響く慟哭も今やどこか遠い。
銃の重みもまったく感じず、どこか絶頂するような気持ちで引き金を引いた。

”かちん”

「…………え?」

引き金は殺意で引いた、だけど発射されたのは殺意ではなく間抜けな音。

”かちん”

繰り返し引いても音は変わらずだった。

「弾切れ…………?」

下から聞こえた苦しそうな声で僕はやっと理解した。

「何故…………だ? あいつは、全部で8発、そう言って僕をこれに…………上条当麻も、これでって」

呆然と銃を見つめる、入っているハズの弾丸が切れた事実に心の緊張の着れていた。
ただただ、呆然と黒い暴力を撫でていたら―――。

「っ! ステイル!!!!!」

「え?」

”ざくっ”

「いやー、危機一髪だねぃ♪」

―――その背中に痛みと熱さが走った。
振り返るまでもなく誰か理解出来る軽薄な声に僕は理解した。

「そうか…………君か」

「………………………………ご苦労さん、腕だけ貰う」

その言葉を最後に僕は退場することになった。
守りたい、守ると決めた彼女を傷つけるだけ傷つけ、何も得られず、ただ退場する。
それが脇役である僕に課せられた終着点だった。

今日はここまでです。

テンポ悪くてすみません、投下します。

どこか深く暗い場所。
そこでまた声が響く。
誰とも知れない声が。
誰にも届かない声が。

「手順は前後したがこれで一応揃ったな」

「英霊の召喚、聖杯戦争の再現、世界の六要素の七つ目の解放、LEVEL5の能力回収」

「剣による英霊の多数撃破、弓の撃破は必要外ではあったが今のところ問題はない」

「そして今現在槍を持ち主から奪取、これにより求めていた、”再現”に必要な駒は揃った」

「これで根源の渦、原初の一つが呼び寄せられるだろう」

「条件を整えてやればそれをは形を成す、それが魔術だ」

「これだけか条件を揃えたのだ、そろそろ動き出すだろう」

”どくん”
     ”どくん”
     
  ”どくん”
          ”どくん”
          
「言ったそばからか、せわしないな」

「しかし、剣の持ち主はの器とどちらが上かな―――」

「―――英雄王よ」


”どくん”

「もとはる…………話を聞かせて貰える?」

「なんのはなしかにゃー? 出来ればこっちが終わってからにしてほしいぜよ」

「…………インデックス、あの男は、何を?」

よろよろとまだダメージの抜けてないセイバーが前に出ながら質問する。
それはもとはるのやっている行為。
知人、場合によっては仲間でもあったハズのステイルの腕、それを切り離そうとしているのだった。
まず、その前にもとはるはステイルを銃で撃っているのだ。
絶命させるだけなら十分なダメージを与えたうえで、彼は更にその肉体に手を加える。
サングラスで瞳を隠し、何事もないように、日常で出会った様に、街中で世間話をするような気楽さで彼は答えるが、していることは完全な異常の領域。
それを前に私は納得した。
かつて覚えた違和感、その正体、全ての後ろで奔っている影の正体を。

「……………………もとはる、なんであの時『また狙撃か』って言ったの?」

「ん?」

「クールビューティとの戦いの時なんだよ、もとはるはそう言ったんだよ」

「?」

その場にいる全員が疑問の表情を浮かべた。
何故急に私がそんな話をするのか、むしろ何のはなしかと首を傾げる。
それは私しか気付かず、私しか覚えていない。
だけど、クールビューティの集団に部屋を強襲されたとき”最初の狙撃”でもとはるは『また狙撃か』そう言っていた。
確かに私はその以前に同じく狙撃を受けていた、だけどそれをもとはるには言っていない。
状況説明も気が動転して出来ていなかった。
聖杯戦争、魔術師の戦争に銃器が用いられる可能性は低く、考えにくい、だけどそれを直ぐにもとはるは狙撃と断じた。
だから、もとはるは狙撃を、狙撃する敵がいること、そして私が狙撃されたことを知っていた。
思えば最初から、私の聖杯戦争を導いたのはこの男だった。

「……………………そっか」

セイバーの召喚時もそう、とうまの消息不明の情報もそう、ステイルの行方不明のときも、全て全て全て全て全て全て。

「この聖杯戦争を再現したのはもとはるなの?」

「再現、そこまで見抜いているとは流石だにゃー、でも違うぜい、こんな大それたこと出来る訳がない」

「ふぅん」

まるで世間話のように私たちは自分の位置を確認していく。
どうやらもとはるは敵で、障害であるらしい。
かつての戦友の腕を奇妙な石器ナイフみたいなもので刻む異常を続けるもとはるをただ見つめる。

「おい、お前…………なんのつもりだ」

その異常を前に、ランサーが傷だらけの身体を無理に起こした。
目に怒りを溜め、手足に力が入らなくても決して槍を杖にはせず、堂々と立ち上がりもとはるを見つめる。

「ランサーか、少し待ってろ…………お前はまだ使えるからな」

怒りを持った英霊を前にしても、もとはるは居住まいを正さない、ただ作業を続ける。

「何のつもりだって聞いているんだよ俺は!」

「インデックス、私の後ろへ」

「うん」

槍を構えた姿に、標的はこちらでないと解っていてもセイバーは傷ついた身体で前に出てくれた。
私に怯える雰囲気はそのままに、それでも主を守ろうと、ボロボロの身を盾にしてくれた。
その影でそっと今の状況を読み込んでいく。
おそらくもとはるのやっていることはステイルからの令呪の移植。
自分自身がマスターになろうとしている、聖杯戦争に参加しようとしているのだろう。
だとしたら今ここで斬り捨ててしまえばそれで決着だろう。
ステイルというマスターが死に、魔力が枯渇していくランサーは既に敵ではないのだから。
でも、どうしてか、攻撃を躊躇する。
連戦の為の疲れか、セイバーの疲労を感じてか。
どうしてか躊躇をしてしまう。

「最初からお前は胡散臭かったぜ…………」

「随分鼻が利くようだな、それ、合ってるぞ」

躊躇いの中、二人を観察する。
既にキャスターは魔力の枯渇で存在を失せていて、ゆっくり異界は崩壊に向かっていた。

「あのときもそうだ、お前に言われてマスターの部屋を、嬢ちゃんの部屋を襲撃させ、その上で召喚までさせたな」

「あの時点ではこの街に魔術師が少なくてな、効率良くマスターを埋めるにはそれしかなかった」

もう隠す気もない会話。
もとはるはあのとき既にランサー、ステイルと話をつけていたんだろう。

『まー、悪いけどそいつを殺して貰っちゃ困るんだにゃー』

『はぁ? 殺して貰っちゃ困るって何を―――ちっ!』

この会話だ。
記憶の中に残る二人の会話。
ランサーはもとはるに言われマスターを殺しに来ていたはずなのに、彼自身がそれを否定するような演技をしてみせたのだろう。
そして私をセイバーのマスターとして配置した。

「うちのマスターが巻き込むなって言ってた嬢ちゃんを巻き込んで、そして今度は裏切りだぁ?」

「……………………」

もう魔力も枯渇、遠からず消える運命にある槍兵ではあるが、彼は思い足を引きずりながらもとはるに向かっていく。

「さすがに許されねぇだろ、そりゃよ…………」

槍を構え、怒り、ではなく悲しそうな顔で彼は進む。

「マスターがよ狂いかけてるのは解っていたさ、でも…………思いは汚れてはいなかった」

最期の一撃を下すために。

「だから俺は気が乗らないなりに手を貸してたんだよ」

紅い槍をもとはるに向ける。

「俺は聖杯に託す願いなんかないからな、別にどうでも良かったさ、面白い奴らと戦えたし」

そして―――。

「だから、俺はこれで消える、思い残さず、お前を殺して、だ!」

―――その槍をもとはるに向けて、彼の怒りは動きを止めてしまった。
彼が槍を向ける一瞬前、小さな声、そして魔力が弾ける音がした。

「令呪を以て命ずる、ランサー、俺に従え」

今日はここまでです。

しばらく私事で放置してしまいましたが、完結を目指して再び書かせていただきます
また、よろしくお願いします

お久しぶりです投下します。

許してはいけない。
そう思った、だから俺は槍を手にモトハルと名乗るいけ好かない小僧に迫った。
人の意志を思いを無視し、それを利用するだけ利用するような男を生かしておいてはいけない!
倫理観でも正義感でもない、ただ俺の生きてきた人生感そのものが行動になった。
マスターが死に、単独行動スキルの無い俺はそのまま消え失せる運命だろう。
だから、せめてその前に意見の合わないマスターではあったが、主君であった以上、敵くらいとってやる。
いや、取ってやるなんて恩着せがましい言葉じゃない、敵を取る、それだけだ。
その言葉のみを最後の血潮とし、槍を片手に消えそうな身体で奔る。
視界に掠った青い騎士の姿、そして脳に掠ったあの日戦った人間とは思えない小僧、決着つけられなかったのが心残りではあるが、勝ち逃げさせて貰うことにする。
動かない身体だが、一突き分くらいは動く!

「ああああああああああああああああああああ!!!!!」

渾身、過去現在未来、どれをとっても比類ない一突き―――。

「令呪を以て命ずる、ランサー、俺に従え」

「がっ!?」

―――は、ただの幻想と成り果てた。

…………。
……………………。

”ぶしゅっ!!”

「ぐっ、か、さすがに、この量の魔力を使うと、身体がぶっ壊れるにゃー」

「てっめ、え…………」

令呪の移植を終え、ギリギリのところでランサーに指示を出せた、が。
令呪に効力はあまり大雑把な命令には響かない、ただ一瞬の硬直を起こせれば良い方ではあるが、そこに俺は自前の魔術を流し込んだ。
西洋の術式とそれを形作る聖杯の大きな魔力に、東洋魔術を流し込み、無理矢理形を成させた。
人の経絡、気と呼ばれるものの操作を可能とする魔術でランサーの肉体を掌握した。
ただ、それにより俺の肉体は一気に崩壊しかけることになり、全身から血が噴き出した。
魔術と超能力の反発、そこに西洋と東洋の魔術同士の反発。
身体が破裂しなかっただけ俺は運が良い。

「しばらくはそのまま固まってろ、ランサー」

「て…………めぇ」

「ほぼっ…………ぺっ」

”びちゃっ”

血の塊を吐きだし、ふら付く足でインデックスに歩み寄る。
その前にいる騎士なんかまるで目にも入れず、数歩近づいた。
それだけでも身体は崩壊しそうになる、身体中の骨が今にも全て折れそうなほどの痛み。
だけど、それを踏み越えて前に進む、進むしかない。
俺の聖杯戦争がやっと始まったのだから、アレイスターのお膳立てではあるが、利用出来るなら利用してやる。
聖杯をもぎ取る、再現である聖杯戦争の枠を超えて、ランサーを使役し聖杯を奪う。
願いを叶えるとはそういうことだ。
獰猛な笑みをサングラスで隠し、俺は聖杯戦争に遅ればせながら参加した。

……………………。
…………。

「インデックス…………指示を」

「……………………」

血を流し近づいてきたもとはるを前にセイバーは剣を構えた。
傷だらけの身体でも一瞬で彼を斬り殺すことは可能だろう。
だけど、私はその指示をしない。いや、出来ないと言うべきかも知れない。
このもとはるという男、とうまの友人で隣人で、それでいて魔術師。
魔術師でありながら科学の街に溶け込む、当たり前な人間としての資質を高く持っている彼。
その彼から今は威容は圧力を感じてしまっていた。
それは圧力と言うのが正しいのか、理解の出来ない感覚が行動を縛る。
このまま斬り殺してそれで話は済むのか?

「っ、口は動くか…………おいっ、嬢ちゃん! その男をさっさと殺しとけ! 碌なことになねーぞ!」

「ランサー…………」

思考を回していると、行動を縛られ槍を構えたまま動けないでいるランサーが叫んだ。
怒りの表情のまま令呪の縛りに抵抗しているのか身体を小刻みに震わせ、怒りをそのままにもとはるを殺せと。
そうしたら現在のマスターがいなくなり、彼は現界出来なくなるだろうに、そんなことは関係ないとばかりに。
きっと彼は聖杯に託す願いなんかないのだろう、彼はそういう戦士なんだろう。
その言葉を聞きながら考える、確かにこの場でもとはるを殺しておけば残るはバーサーカーのみだ。
そうなれば戦争は即時終結の兆しを見せる。
現在私もセイバーも傷を負っている、ランサー、バーサーカーの三竦みよりかバーサーカーのみ場合の方が休息も取り易い。
何より、このもとはると言う男、野放しにしていてきっと脅威になる、それだけはしっかりと理解出来ていた。
ならば殺すしかないだろう、と当然の様に友人だと認識していた相手を殺害することを決めた。
そのことに最早何も思わない、罪悪感も後悔も何もない、本当に何もないんだ、殺すと言うことが当然に行為になっていた。
願望の邪魔になる以上殺すことは当然のこと、仕方ないという言い訳すらしない。
それほどまでに深く深く深く私の中に黒い物が染み込んでしまっていた。

「インデックス、聖杯戦争に巻き込んじまって悪かったにゃー、かみやんにも悪いことしちまったし」

「……………………とうま」

セイバーに指示を出そうとしたとき、いつもと変わらない、一緒に遊んだ頃そのままのもとはるの言葉が被さった。
そして、そこに含まれていた私の戦う理由に反応して目線をもとはるに向けた。

「もとはるは…………とうまがどこにいるか知ってるんだよね?」

「ん~? なんでそう思うのかにゃ~」

本当に変わらない、血を垂れ流し、今にも倒れそうで、そしてステイルを殺した後なのに、まるで以前と変わらないその姿。
それはまさに恐怖であり異常であり脅威だった。
土御門元春という存在、その根源はどこにあるのだろうか判断も出来ないほど暗く深いものが彼の中にはあるのだろう。
その彼に問う、私を聖杯戦争に導いた彼に、だ。
ランサーの発言、今までの彼の行動からみるに私を聖杯戦争に投げ込んだのは彼だ。
その最初の一手、とうまの消息不明がこの男と無関係とはとても思えない。
だけど、彼は笑顔を浮かべたまま答えはしない。
それは、つまり―――。

「とうまは生きてるの?」

「……………………」

―――そういうことなんだろう。
もとはるの笑みが固まる、笑みの形に口を歪めたまま、彼は今切り替えようと迷っているのだろう。
表の自分と裏の自分を、今見せている笑顔の絶えない表の自分から、きっと暗くて重い裏の自分へと。
そしてその切り替えは済んでしまったようだ、それに反応したのは私より先にセイバーだった。
彼女は無言のまま、傷ついた身体で剣を構えると一歩前に出た。
目の前のもとはるを完全に敵とみなした雰囲気。
それを私は止めることはしない、だって私も既に彼を敵とみなしていたから。

「セイバー―――」

「―――はい」

声に反応してすっと騎士の重心が低くなる。
今にも襲い掛かり、斬り捨てる為の体勢。

「殺そう」

自分のとは思えないほど黒い声。
しかし。自分の中を渦巻く黒い何か、その衝動に突き動かされた発言ではない。
その黒い何かを全て受け入れ、そして自分の意志でその黒さを友達にぶつける為の声だ。

「かしこまりました」

”だっ!”

声を引き金にセイバーという弾丸は迷わず真っ直ぐ最適最速に発射された。
秒に満たない一瞬でもとはるとの間合いを詰める。
もとはるは肉体戦闘技術に長けてはいるようだけれども、それは人間の域をまるで出ていない。
英霊の最速を以てすれば殺害とは呼吸をするより簡単だろう。
だけど、私は既にこの殺害が失敗に終わることは理解出来ていた。
この聖杯戦争は前聖杯戦争の再現だ。
もちろん細部は違うし、間違った大筋もある、だがそれでも再現は再現。
起こりうる可能性と帰結は元を辿るしかない。
そうなればここまで起きたイベントを並び立てて行けば、今何が起こるか予測は立てられてしまう。

今まで起きてきた出来事―――。

[第五次聖杯戦争]⇒[再現・仮想第五次聖杯戦争]

・ランサーのマスター権の移動
 ⇒成立

・ランサーとアーチャーの戦闘
 ⇒非成立

・選定外れのマスターのセイバー召喚
 ⇒成立

・セイバーとアーチャーの戦闘
 ⇒成立

・セイバー陣営及びアーチャー陣営の共闘
 ⇒非成立

・ライダーのマスター権の分譲
 ⇒成立

・セイバーによるライダーの撃破
 ⇒成立

・キャスターによるアサシンの強制召喚
 ⇒成立

・セイバーのよるキャスターの撃破
 ⇒成立

他幾つものイベント、出来事が成立し、そしてまた成立しなかった。
だけれども、今この聖杯戦争が成立し続けている以上再現は終わっていない。
終わっていないならば起こるハズだ、起きたことは起こる。
当然のように、そう―――。

「ふははははははははははは」

”しゅざざざざざざっ!!!”

「なっ、これは!!?」

驚愕、だけれども理解しているセイバーの声。

「…………なるほど、これが根源の一つ、か」

冷静、そのままに理解しているもとはるの声。

―――黄金を纏った英雄王がこの場に下りたつ。
いくつもの宝具を矢の用に射出し容易くセイバーの足を止めた彼は鷹揚に、全てを許し全てを見下す笑みを浮かべた。

「ふむ、この空気この感覚、我様の鼻孔を汚す穢れた臭い―――」

”がしゃんっ”

鎧の音を響かせ、王たる威厳そのままに彼は立つ。

「―――聖杯戦争か」

夜がまた深まっていく。

今日はここまでです。

セイバー「問おう、貴女が私のマスターか?」禁書目録「え?」2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1397389496/)
次です
長い話ですがここまでお付き合いありがとうございました
これからもよろしくお願いします

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