モバP「一人酒でもするか」 (58)
今日の仕事も終了
明日は休みときたもんだ
休日の前夜が、一番楽しみと言っても過言ではない
こんな時は酒を飲もう
そう、誰にも邪魔されずに一人でゆっくりと……
仕事終わりの一杯。良い響きだな
さてさて、それではみなさんお疲れ様でしたっと
帰り支度をして、行き着けの居酒屋へ向かうとしよう
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「……良い飲みっぷりですね。もう一献どうですか?」
しばらく飲んでいた時に不意にそんな声をかけられた
初めての経験にとまどっていたが
「やや、これはどうも」
素直に応じることにする
白くて綺麗な手がお酌をしてくれた
手がこんなに綺麗なら、相当な美人に違いない
「ありがとうございま……え?」
顔を上げてお礼を言おうと思ったが、最後まで言えなかった
「高垣さん?」
「はい、高垣楓ですよ。プロデューサー」
俺の担当のアイドル、高垣楓がそこにいた
「なんでここに?」
「プロデューサーを偶然見つけて、どこに行くのかなーと」
「はぁ……そうですか」
高垣さんはにこにことしている
比べて、俺は微妙な顔をしているのだろう
「あ、不満そうな顔をしてますね……私のお酌はお気に召しませんか?」
「え? いや、そういう訳では……」
別に不満というわけではない
色々と聞きたいことが顔に出てしまったようだ
「すみませんでした」
高垣さんの悲しそうな、そして申し訳なさそうな声
にこにことした表情から一転、泣きそうな顔になって
「……そうですよね、年上のアイドルのお酌なんて嫌ですよね」
「そんなことないですよ、って高垣さん?」
顔を隠すようにして俯いてしまった
「う……うぅ……」
困ったな
こんな居酒屋で泣かれたら、目立ってしまうじゃないか
知名度は高いとは言えないけれど、片やアイドル、片やプロデューサー
人前で変に目立つのはよろしくない
変に期待してた自分にも非はあるだろうし
「高垣さん、泣かないでください。俺は高垣さんにお酌してもらって嬉しかったですよ」
「……」
沈黙
何か喋ってくれないだろうか、とても気まずい
「楓、です……」
「はい?」
「名前で呼んでください。いつも他人行儀すぎます」
「はぁ……」
「何なら、あだ名でも良いですよ」
何を言い出すんだろう
と言うか、この人泣いてないだろ
「やっぱり私のことなんて……ぐすっ……」
女の嘘泣きは怖いと聞くけれど
それに騙されるのも、男の甲斐性ってやつなのかね
「はぁ……楓、さん」
「……」
ちらりとこちらを窺っている
もうひと押しか
「楓さんにお酌してほしいなー、なんて思うのですが」
にこりと、営業スマイルをやってみる
「……もう、最初からそう言ってくれれば良いのに」
一呼吸おいて、やっと返事が返ってきた
とびっきりの笑顔とともに
「では、早速どうぞ」
ささっとお銚子を持つと
「ありがとうございます」
「いえいえ」
薄く微笑んでお酌をしてくれた
「頂きます」
「はい」
ぐいっと飲み干す
「おー、やっぱりいい飲みっぷりですね」
ぱちぱちと、小さく拍手をする楓さん
「美人さんがお酌をしてくれたからですよ」
うん、これは本音だ
俺が自信を持ってプロデュースできる女性だからな
……言いすぎか?
「プロデューサー、お上手ですね」
ふふふっと笑いながら、照れたような仕草をしている
「せっかくの酒の席ですから」
当初の予定と違ってしまったけれど
気持ちを切り替えて、楽しむとしようじゃないか
「さぁさぁ、楓さんもどうぞ」
「ありがとうございます」
お猪口を両手で持ち、くいっと傾けた
「ふぅ……美味しい」
美味そうに飲んでもらえると、こちらとしてもありがたい
「楓さんも良い飲みっぷりですね」
「プロデューサーにお酌してもらったお酒ですから」
「それはどうも」
随分とまぁ上機嫌だなこの人は
「プロデューサー、どうぞ」
とくとくと注がれる酒
「お酒が注がれる音って何か良いと思いませんか?」
ああ、わかる気がする
「わかります。いかにも酒を注いでるって感じですよね」
うんうんと頷く楓さん
「プロデューサー。今日はとことん飲みましょう」
これは宣戦布告かな?
「望むところです楓さん」
男として負けるわけにはいかない
「ふふふっ」
かくしてプロデューサーとアイドルの二人だけの飲みが始まった
まぁ、特に変わったことはないのだが
「あ、お酒なくなっちゃいましたね」
なかなかペースが速いな
「楓さんはどうします?」
「このお酒美味しかったので、もう一本つけてもらえますか?」
ついでに肴も何品か頼んでおくとしよう
「わかりました。楓さん、何か食べたいものありますか?」
「焼きイカなんていかがですか、ふふっ」
「あとは冷ややっこと塩辛でいいですね」
親父的なギャグはあえてスルーした
お銚子を何本空けたのだろう
十本以降は数えるをやめた
髄分と良い気分になってき……
「ぷろでゅうさぁ?」
青と緑の瞳にじっと見つめられる
「はい、ここにいます」
目が潤んで、頬がほんのり赤くなって……
一言でいうと、凄く色っぽい
「ふふふっ。目が逢いましたね」
さっきの雰囲気とは違う
大人の楓さん
「どうしたんです、ぷろでゅうさぁ? そんな表情をして」
どこか期待をしているような
そんな視線
「なんでもないですよ、なんでも」
思わず視線をそらせてしまった
「ふふふっ。目が逢いましたね」
さっきの雰囲気とは違う
大人の楓さん
「どうしたんです、ぷろでゅうさぁ? そんな表情をして」
どこか期待をしているような
そんな視線
「なんでもないですよ、なんでも」
思わず視線をそらせてしまった
「会計を済ましてきますから、待っててくださいね」
逃げるように席を立つ
「あっ……」
背中から聞こえたかぼそい声は、聞こえないふりをした
しっかりしろ俺
担当アイドルにどぎまぎしてどうするんだ
ぴしゃりと頬を叩く
「よし! 後は楓さんを送って行くだけだな」
「むぅ……」
席に戻ってみれば、不機嫌な楓さんが待っていた
「さて楓さん、そろそろ行きましょうか」
「おいくらですか?」
「今日は俺の奢りで良いです」
ぱぱっと帰り仕度をする
何かを言われる前に行動してしまえば良い
「……でも」
「いいですって」
このSSまとめへのコメント
・・・続きはっ!?