後輩「先輩と後輩と先輩と後輩」 (34)
後輩「おはようございます、先輩」
先輩「おはよう。それじゃ、また」
後輩「待ってください。あまりにも粗雑な扱いです」
先輩「だってクラスどころか学年も違うんだよ」
後輩「私は1-Aで先輩は2-Aです。ちょうど私の席の上は先輩の席です」
先輩「そうだけど」
後輩「天高くから見下ろせば私たちは一つの存在です」
先輩「分からないでもないかな」
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先輩「そうは言っても横から見れば僕たちは離れ離れなわけでしょ」
後輩「無理に横から見なくてもいいのです」
先輩「はい」
後輩「あっ、また対応が粗雑になりました」
先輩「そろそろ予鈴なるんだから行こうよ」
後輩「それもそうです。それではまた後で」
先輩「お昼は食堂にいるよ」
後輩「お昼です先輩。愛妻弁当を作ってきました」
先輩「愛妻ではないと思う。美味しそうなお弁当だ」
後輩「ええ。愛がたっぷりです。栄養バランスは最悪」
先輩「蓋を開けると肉しか詰まってない。野菜が食べたい」
後輩「草食系男子ですか」
先輩「うるせえよ」
後輩「でも、味は保証しますよ。料理は得意なので」
先輩「本当だ。美味しい。でも胃がもたれる」
先輩「こう、何ていうかさ。緑色も欲しくない?」
後輩「私は茶色で十分です。緑色は苦手なので」
先輩「赤いのはクズですぞ」
後輩「そういう問題ではなかったのですが」
先輩「はい」
後輩「美味しくいただいてくれましたか」
先輩「美味しかった。黒烏龍茶が欲しくなったよ」
先輩「僕たちってもうちょっと賢そうな話とかできないかな」
後輩「例えばどんなものでしょうか」
先輩「特に思い浮かんだわけじゃないんだけどさ。うん」
後輩「結局のところ私たちには無理なのです」
先輩「そうかも」
後輩「帰り、どうしましょうか。本屋にでも寄りますか」
先輩「そうしよっか。僕の一日は読書なしでは終われないし」
後輩「了解です」
後輩「私はやはり恋愛小説が好きなのです」
先輩「僕はミステリかな。推理するのが面白いんだ」
後輩「ドラマで見る方が好きです、ミステリなら」
先輩「活字に触れたいって感じかな。読んでると惹き込まれるんだ」
後輩「アリバイ崩しだとか、結末が意外な展開だと驚きます」
先輩「それはある。ネタバレされたら僕のやる気はしばらく無くなる」
後輩「それは恋愛小説とて然りです」
先輩「君は恋愛小説の何が面白いって思うの?」
後輩「こう、ロマンティックな恋をしたいのですよ」
先輩「恋に焦がれるって感じであってるかな?」
後輩「そうとも言えます。憧れをお金で買っています」
先輩「すごく嫌な言い方だ」
後輩「先輩も興奮をお金で買っています」
先輩「今度は誤解を招きそうな言い方だよ」
後輩「けれど、実際に恋をするなら普通の恋でいいのです」
先輩「そうなの? 君のことだから、何て言うんだろうか」
後輩「好きな人と結ばれるのなら、私は何でも構いません」
先輩「そっか」
後輩「身の丈に合った恋をしなければ破綻します」
先輩「たまには、夢を見たっていいと思うけどな、僕は」
後輩「身の丈に合った、と言うのは語弊がありました」
先輩「うん?」
後輩「私は私らしい恋がしたいのです」
先輩「あ、それは僕も賛成だ」
後輩「そうでしょう」
先輩「うん」
後輩「そろそろ帰りましょうか」
先輩「そうしよう」
先輩「おはよう」
後輩「今日は粗雑な扱いの日ではないのですか」
先輩「挨拶しただけなんだけど」
後輩「今日は授業中に先輩と会える日です」
先輩「うん。とは言っても一緒には居られないけど」
後輩「ぼんやり眺めながら先生に叱られることにします」
先輩「ほどほどに。三時間目だっけ、体育」
後輩「はい。ブルマでなくて恐縮です」
先輩「恐縮の意味分かってる?」
先輩「疲れた」
後輩「先輩ふぁいとー」
先輩「しばらく光合成するよ」
後輩「バッグの中に私のブルマねじこんどきますよ」
先輩「さて、走らないとな」
後輩「先輩ふぁいとー」
後輩「先輩ふぁいとー」
女先生「先輩ふぁいとーもいいんですが私の話を聞いてください」
後輩「先輩ふぁいとー」
女先生「あの……」
後輩「先輩ふぁいとー」
女先生「…………」
後輩「先輩ふぁいとー」
男先生「僕からも頼むから女先生の話も聞いてあげてよ」
後輩「すみません」
先輩「ほら怒られた」
後輩「応援していただけなのです」
先輩「はい」
男先生「サボっちゃダメだよ、走って」
先輩「後輩ふぁいとー」
男先生「速度落ちてるよー」
先輩「後輩ふぁいとー」
後輩「先生が鬼です先輩、先輩も先生を止めて下さい、先輩が先生を先輩」
先輩「もうわけ分かんなくなってるよ」
女先生「ほら、先輩が応援していますよ」
後輩「先輩ふぁいとー」
先輩「ふぁいとするのは君なんだけどな」
後輩「後輩ふぁいとー」
女先生「先生も後輩を応援する先輩のように先生らしく応援してください」
先輩「文章に起こすとゲシュタルト崩壊しそう」
男先生「僕もそう思う。赴任して一年経ってるんだけど」
先輩「お互い大変な気がします」
男先生「うん」
先輩「男先生はここで二年目でしたっけ」
男先生「そうだよ」
先輩「教師って憧れます」
男先生「僕は体育教師だから、何というかあまり教えられないけど」
先輩「でも、運動は好きになってきました」
男先生「やりがい出るよ。ありがとう」
先輩「いえいえ」
後輩「死にます」
女先生「先輩の応援で頑張れたじゃないですか」
後輩「先輩成分が足りません」
女先生「そうなのですか」
後輩「そうなのです」
女先生「……何というか、お互い頑張りましょう」
後輩「……はい」
女先生「……」
後輩「……」
男先生「はい、授業はこれで終わりだよ、解散」
先輩「お疲れ様でした」
男先生「お疲れ様、お腹すいたな。がっつり食べたい」
先輩「男先生みたいに食べたら線も太くなるんでしょうか」
男先生「多分。今でもそんな食事ばっかりだけど」
後輩「先輩はここに居ましたか。お疲れ様です」
女先生「ああ、そうそう、せん、先生。次の授業なんですけど」
男先生「息上がってるの? 休んだほうがいいんじゃない? じゃ、僕は戻るよ」
先輩「お疲れ様です」
後輩「お疲れ様です」
後輩「四時間目も終わって食堂にて食事がはじまりました」
先輩「どこに向かって話してるの? こっちを見てこっちを」
後輩「すみません。少々宇宙と交信していた感じです」
先輩「はい」
後輩「とりあえず、頑張るのです。私は。誓いです。これは誓いです」
先輩「君はちょっと近いな。もう少し離れてもらえるかな」
後輩「はい」
後輩「……というわけで、何というか、その。一歩を踏み出そうと思うのです」
先輩「…………」
後輩「ああ。ええと。その。先輩と後輩ではなく、何と言えばよろしいのやら」
先輩「えーっと」
後輩「別に。別に私は、そう。何と言われようとも傷つかないのです」
先輩「あのさ」
後輩「いえいえ。今すぐでなくともいいのです。ええ。はい」
先輩「……よし、帰ろう。今日はこれで帰ろう」
後輩「や。ええと。手が。手が温かいです先輩」
先輩「割と恥ずかしいから今のところはここまでで」
後輩「これにて先輩と後輩の物語は終わりを告げる」
先輩「何というか機が熟したら言うよ。ちゃんと」
後輩「ちなみに後日談は一切ありません」
先輩「はい」
後輩「……帰りましょうか」
先輩「そうしようか」
後輩「そうしましょう」
先輩「という訳で僕らも出会って一年になるわけでしょ」
後輩「そうなります」
先輩「この学校にはもう慣れた?」
後輩「さすがに慣れました。いいところです」
先輩「よし、帰ろうか」
後輩「そうしましょうか」
先輩「そうしよう」
先輩「何というか、未だに校内で会うのが昼食と体育の時間だけなのは寂しいな」
後輩「いいじゃないですか。お昼は屋上で二人で食べればいいのです」
先輩「そうなんだけどさ。夏場とか絶対暑いよあそこ」
後輩「もう少し涼しいところとか探した方がいいんでしょうか」
先輩「あればいいと思うんだけどな。うん」
後輩「やっぱりベターに食堂というのがいいのでは」
先輩「でも色々と都合悪いよ。やっぱり屋上で食べようか」
後輩「よし」
先輩「よし?」
後輩「愛妻弁当です。さてどうぞ」
先輩「まさかの草原ごとく敷き詰められたコールスロー」
後輩「健康にはいいですよ」
先輩「ここまで来ると肉食べたくない? 僕お肉食べたいよ」
後輩「ケチャップはここですよ」
先輩「そういう問題じゃないんだけどな」
後輩「マヨネーズはダメですよ」
先輩「聞いてないよ」
後輩「さて今日はどうしましょうか。帰りに本屋に寄りますか」
先輩「そうしようか。新刊出てるかな」
後輩「漫画もたまにはいいと思えるようになりました」
先輩「普段恋愛小説ばっか読んでると、何となく読みたくなってさ」
後輩「先輩は影響を受けないのですか」
先輩「ミステリはいいかな」
後輩「そして誰もいなくなった」
先輩「何の伏線?」
後輩「ロマンティックな恋がしたいのです」
先輩「そう? 僕は普通の恋でいいけどさ」
後輩「夢がありません。今絶賛恋愛中ですが」
先輩「そうだけどさ。現状ロマンティックじゃない?」
後輩「隠れて恋愛ってところでしょうか」
先輩「そうそう。君、すごく人気あるんだもんな」
後輩「先輩は女性陣の黄色い声を聞いてないんですか?」
先輩「知らないよ」
後輩「やだ、たくましい……とか」
先輩「何だろうこの気持ち」
後輩「明日からランニングですよランニング」
先輩「みなの不平不満の声が簡単に想像できるよ」
後輩「走る走る俺たち」
先輩「僕は走らないけど」
後輩「私も走りません」
先輩「走った方がいいのかな」
後輩「どちらでもいいんじゃないでしょうか」
先輩「応援だけに回るよ」
後輩「賛成です」
先輩「君さ、さっきの時間僕のこと呼び間違えそうだったでしょ」
後輩「何という観察眼でしょうか。愛のなせる技でしょうか」
先輩「僕としては誤魔化すので精一杯だったけど」
後輩「すみません。もしかしたらバレてしまったかもしれません」
先輩「そっか。ま、僕の予想だと大丈夫だと思うけど」
後輩「私もそう思います。お互い頑張りましょう」
先輩「誰に言ってるの?」
後輩「さて、そろそろさらにもう一歩踏み出してみる気はありませんか」
先輩「僕はありだと思う。隠れてってのも嫌だ」
後輩「……」
先輩「僕たちはやましいことしてるわけじゃないんだしさ」
後輩「はい」
先輩「学校でも普通に手を繋いだっていいわけなんだよ」
後輩「はい」
先輩「ま、ちょっと冷やかされることにはなると思うけどさ」
後輩「どうして先輩はこう、一つ上なだけでこうも頼りがいがあるのでしょう」
先輩「一応先輩だから。うん。というか、僕のこと先輩って呼ぶのもう止めない?」
後輩「はい。でも、先輩は先輩ですから」
先輩「そうだけど」
後輩「でも、冷やかされることになると、あまり落ち着けません」
先輩「それはそうかな」
後輩「だから……もう少しだけ、このままでいようと思います」
先輩「うん」
後輩「あ、見て下さい。学校でもあのように熱いカップルが」
先輩「僕らもああいうことが出来たらいいんだけどな」
後輩「知ってます? もうラブラブすぎてすごいらしいですよ」
先輩「そっか。なら僕らも負けてられないな。あの後ろ姿、ええと」
後輩「そうですよ。よくご存知のはずでしょう」
先輩「うん。何というか熱々すぎて陽炎ができてて分かんなかった」
後輩「ええ。……学外でなら、お名前で呼ぶことにします」
先輩「僕もそうするよ。じゃ、校内ならちょっと余所余所しくなるな」
後輩「彼らのようなカップルに私はなりたい」
先輩「1-Aと2-Aの先輩後輩。彼ら、本当に熱いな」
後輩「ええ。じゃ、授業はじまりますよ。行きましょう」
先輩「そうしようか、女先生」
後輩「そうしましょう、男先生」
おわり。
修正
先輩「赤いのはクズですぞ」を
先輩「緑はクズですぞ」で。
おわり。
あ、暇つぶしで書いたので転載はご遠慮願います。
では。
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