ベルトルト「ユミルさま」(398)
※ユミベル 逆転なし
※ぬるいエロ・SM描写有
※多分キャラ崩壊
………………………………………
最初は、なんでもない同期生だった。
ライナーの気にしている小柄な女の子、の隣にいつもいる子。
そんな印象しか抱いていなかった。
……入団後一年位して、大体成績も固定化されてきた頃の対人格闘訓練。
あの些細な事故がきっと分かれ道だったのだと思う。
ユミル「よう、ベルトルさん。ペア組もうぜ」
ペアが見つからずうろついていたら突然背後から声をかけられた。
僕を独特なあだ名で呼ぶ女の子。ユミルだ。
ベルトルト「……あれ、クリスタは」
ユミル「アンタの相方に取られちまったよ」
この日、珍しくライナーとクリスタは対人格闘でペアを組んでいた。
その可憐な見た目によらず強い向上心を持った彼女が、より大きく強い相手との訓練を望んだ結果だ。
そうして、自分は余ってしまった――
ユミルは笑いながら、でも少しだけ面白くなさそうにそう言った。
ベルトルト「いいよ、僕もペアの人見つからないし」
ユミル「そりゃよかった、あのゴリラ見張るにはサボるより訓練してるふりする方がやり易いからな」
ベルトルト「ライナーなら大丈夫だよ、クリスタ相手に乱暴にはしないさ」
ユミル「あー、そうじゃなくてさぁ」
ベルトルト「?」
ユミル「私が心配してんのは、あいつがドサクサ紛れに妙な所触るかもしれない、ってことだよ」
ベルトルト「……大丈夫だと思うよ、それも。ライナー結構純情だし」
正直な話、僕はユミルのこういうところがちょっとだけ馴染めなかった。
明け透けというか、少しがさつな感じというか。
食事の時間などでライナーがクリスタに話しかける時、彼女がそういう面を見せる度に僕は少し面食らって、反応が遅れてしまう。
ユミル「……アンタも冗談とか言うんだな」
ベルトルト「本当のことだよ」
ユミル「ふぅん……まぁいいや、やるか。いつまでも喋ってて教官様に目をつけられても面倒だしな。」
ベルトルト「……そうだね、死ぬ寸前まで走るのも嫌だし。じゃあ僕がならず者をやるよ」
ユミル「よし、適当に始めるぞ」
訓練場に派手な打音が響いた。
僕の持っている木剣をはたき落とそうとしたユミルの平手打ちが逸れて、僕の頬を強かに打った音だった。
別にわざとではないと思う。僕の防御の仕方も少しまずかった。それで狙いが逸れたのだ。
ただ、当たり前だけどそんなこと周りの人達は知らない。
打撃技や間接技が主流の対人格闘訓練ではあまり出ないような音の発生源になった僕らは、ちょっとだけ注目の的になってしまった。
訓練の終了間際、大半の訓練兵がだれてきていて、訓練場が少し静かになっていたのも良くなかった。
モブ「なんだあいつら、痴話喧嘩?」
モブ「えー、やだ訓練中に?」
ベルトルト「……………」
ユミル「チッ、うるせぇな外野は……うげ」
ユミルの視線を追う。軽口を叩く彼らを横目で睨み付け黙らせながら、教官がやってきた。
キース「貴様ら、随分と注目されているようだが……心当たりはあるのか?」
ユミル「ハッ!私の攻撃が逸れてフーバー訓練兵の頬を打ったのが原因かと」
キース「フーバー訓練兵、それは本当か?」
ベルトルト「ハッ!しかしユミル訓練兵も意図したものではなく、双方のミスによるものです!」
キース「そうか、故意ではないのならよい……しかし頬への平手打ちは鼓膜が破れる可能性がある……
並びに頭部への攻撃全般は後遺症を残す危険性が大きい。なるべく避けろ」
「「ハッ!」」
キース「貴様等もだらけている暇はないぞ!訓練を続行しろ!」
最後に全体を一喝して教官は去っていった。行き先はきっと、独特なポーズで闘うサシャとコニーのところだ。
単なる事故であるのが判明したことと、なにより教官の一喝を喰らったことで訓練場はいつもの音を取り戻していた。
もう誰も僕らの方なんて見ていない。
ベルトルト「ごめんね、ユミル。次から気をつける――」
ユミルの方を向き直ると、手のひらを頬にそっと当てられた。
ユミル「悪かったな、ベルトルさん」
目を見て謝られた。がさつだと思っていた彼女の手つきは、とても柔らかで優しい。
まだ少しひりつく頬に、ユミルの体温が少しずつ浸み込む感じがする。
ユミル「もうすぐ終わりの鐘だ、もし腫れるようなら医務室行けよ」
そう言ったユミルの手はほんのわずかな動きで二、三度頬を撫でて、離れていった。
ベルトルト「あっ……」
消えていく温もりが名残惜しいような気持ちになって、思わず声をあげてしまう。
ユミル「ん?どうした?」
ベルトルト「なっ、なんでもないよ。心配してくれてありがとう」
ユミル「まあ、私のやったことだからな……
ああほら、整列だとよ。行こうぜベルトルさん」
ベルトルト「うん……」
言い切ると同時に背中を向けて歩きだす彼女の後ろについていきながら、胸がざわつくのを感じていた。
とても嬉しいような、泣き出したいような、変な気持ちが胸に燻っている。
頬を打たれたときに初めて感じたその感覚は、優しく撫でられてからもっと強くなったようだった。
書き溜め一旦ここまで
16時位から再投下
>>1です。
46話出てちょっとした位に思いついた話が今頃できて投下しているのと、
ぼんやり読んでたせいで伏線に気づけなかったのでアニへの想い成分は練りこめてないです、ごめんなさい。
同郷三人は兄妹みたいに見えて、CPにするのもちょっと辛い派なので(近親ぽくて)
期待していただいてるぶん余計不快な思いをさせてしまうかもしれません。
ベルがアニに恋をしなかった世界線の話だとでも思ってやってください。
余談ですがこの話ベルトルさんがソフトMに目覚めたりユミルが同じくソフトSになったりする話なので
このあとも原作からはどんどんかけ離れると思います・・・・・・
投下始めます
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いつもの固いパンと薄いスープの昼食を終えて、部屋で午後の座学の用意をしていた。
「そろそろ行くぞ」とライナーが言うので、教科書と筆記用具を掴んで立ち上がる。廊下を並んで歩いていると、心配げに話しかけられた。
ライナー「お前大丈夫か?なんだか上の空というか」
ベルトルト「そうかな」
ライナー「そうだ。昼食も心ここにあらずって感じで食ってたぞ、遠い目をしながら。エレンやアルミンが話しかけてるのにも気づかず」
ああ、それにいつもよりパンくずをよくこぼしていた、なんて笑いながら続ける。そんなに注意力散漫だったのか、僕は。
ベルトルト「……悪いことしちゃったな、気をつけるよ」
ライナー「そうしろ。その状態で立体機動訓練なんぞしてみろ、えらい目に遭うぞ」
ベルトルト「それだけは避けたいね」
上の空、とライナーの言うとおりだと思う。
昼食の間、近くのパンやスープがぼけて見えるかわりに、少し遠い席にピントがあって見えたのを憶えている。
なぜだかずっとそこにいるユミルの姿を見つめてしまった。幸い本人はクリスタをかまうのに夢中で僕の視線には気づかなかったけど。
僕の頬を優しく撫でたあの手で、クリスタのほっぺをつついたり、髪をクシャクシャに撫でて怒られたりしていた。
つまみ食いしようとしたサシャの首根っこを親猫みたいにつかんだり、コニーをからかいながら坊主頭を撫で回してもいたな。
ユミルの手は、意外となにかを慈しむことが多いんだな。と思いながら食事をしていた。ライナー曰く、上の空でパンくずをこぼしながら。
食堂の風景を思い出したら無性にクリスタやサシャ、コニーが羨ましくなってしまった。
できることなら、僕ももう一度撫でてもらいたい。
不意にそんなことを考えてしまって顔が熱くなる。
頬の痛みはもう消えたけれど、胸に燻る妙な感覚は消えないままだった。
Mトルトだと思うと気持ち悪いなw良い意味でw
期待レスありがとうございます。
次回投下は今日の20時くらいでいけると思います。
SM、エロ展開はもしかしたらラスト付近になるかもしれないです。
>>36 多分もうしばらくユミル好きすぎて気持ち悪いベルトルトのターンです
投下再開します
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座学の教室では、背の高い僕とライナーは後ろの席を選んで座る。
初日に二人して何にも考えずに真ん中あたりに座ってしまって、席交換のお願いをたくさん受けてしまったからだ。
ここに座っていると、訓練兵はほとんど後ろ頭しか見えない。
顔が見えるのは教官と、隣のライナー。あとは同じ列にまばらに座る知らない同期。
それでもやっぱり普段仲良くしているメンバーは目立つ人が多くて、大体の居場所が分かる。
前のほうに座って、一言一句聞き逃さない姿勢のアルミン。隣にいるのがエレンとミカサ。
ジャンが隣のマルコに何かをひっそり訊いている。
端っこで興味なさそうにしてるアニと、隣はミーナ。
眠気でグラグラ揺れるポニーテールと坊主頭はサシャとコニーだ。
ベルトルト(それでもやっぱり、今日一番に見つけたのは君だったな)
小さいクリスタに合わせたんだろう、女の子にしては背の高いユミルは比較的前のほうにいる。
当てられにくいように、目立たない位置の席に座ってる。
頭の位置が少し低く見えるのは頬杖をついているのかな。
臙脂色の髪留めが、僕の目には一際鮮やかに見える。
ベルトルト(いけない、これじゃまた「上の空」だ)
ライナーに注意されたばかりじゃないか。
臙脂色に吸い込まれそうになる視線を強引にそらして、教壇に意識を集中する。
眼鏡をかけた教官とアルミンが、何か難しい話をしている最中だった。
途中からの難しい話はさっぱり分からないし、視界の端に臙脂色はちらつき続ける。
今日の座学は散々だ。
~~~~~~~~~~~
座学を終えて部屋へ帰る途中、エレンとアルミンと合流する形になった。
ベルトルト「昼食のとき、無視したみたいになっちゃって。ごめんね二人とも」
エレン「いや、それは気にしてないけどよ……」
アルミン「ベルトルト、今日なんだか調子悪そうだよね。大丈夫?」
ベルトルト「うん、体調は問題ないよ」
エレン「朝は普通だったよな、今も顔色はいいし」
いつもより血の気があって、いいくらいだよな、と呟くエレンにかぶせるようにアルミンが囁く。
アルミン「……対人格闘」
ベルトルト「えっ」
対人格闘。
アルミンの声で感覚が甦った気がして、頬に手を重ねる。
打たれた頬の痛みと、ユミルの優しい手の温度を鮮明に思い出す。
つい半日前のことなのに、ずいぶん前からあったようなとても心地いい記憶。
ベルトルト(な、何考えてるんだ僕は、痛みが心地いいなんて、そんな)
アルミン「そう、そうだ、対人格闘の最後の整列あたりからベルトルトは様子が変わったよ。なんだかポーっとして」
ベルトルト「あっ……ライナーにも言われたよ、上の空だって。しっかりしなきゃいけないね」
ライナー「対人格闘か。そういえばお前、災難だったな」
ベルトルト「も、もう大丈夫だよ!腫れもないしね!」
記憶の中であの手の感覚に浸っていたのがライナーにばれた気がして、少し動揺してしまった。
ライナー「お、おお、そうか。なら良かったな」
エレン「しかし、普段ならライナーが降ってきても誰も騒がないのに、ビンタ一発であんな騒ぎになるなんてな」
少し憮然としながらエレンが言う。エレンはいつも訓練に全力だから、なにか思うところがあるのかもしれない。
アルミン「はは、今日はライナーが降ってこなかったから、じゃないかな」
ライナー「なんだその理屈は……ふっ、今日の俺はクリスタとペアを組んでいたからな、投げ飛ばされるはずがないだろう」
エレン「ライナーこそなんだよその理屈……」
呆れ顔のライナーが、クリスタのことを思い出したとたん満足げな顔をする。
まあ、あんなに想っている相手と一緒にいられたんだ。満足だろうと思う。
……想っている相手と一緒、か。
そもそもライナーが降る原因だってミカサがエレンを想っているからだし、
エレンとジャンが喧嘩するのだってジャンがミカサに恋しているからだ。
フランツとハンナなんてお互いがいればいつだって幸せそうな顔をしている。
みんな生き生きしていて、ああやって誰かを想うことはなんとなく心の満ち足りたことなんだろうと想う。
……ユミル。
誰にも聞こえないように、声量を絞って小さく呟いてみる。
ライナーやアルミンの発言から振り返ると、対人格闘のあの出来事以来
僕はずっと彼女のことを目で追って、考えている気がする。
ジャンやミカサ、フランツたちのように、僕も君のことを想っているのだろうか。
君に心を支配されているのに、全く満ち足りていないこの僕が。
支援レスありがとうございます。
本日中の投下は終了です。
展開が遅くて申し訳ないです…。
明日はユミルといちゃいちゃするパート(非エロ)投下できそうですので、
よろしければ明日もまたお願いします。
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もやもやした気持ちを抱えたまま、就寝時間を迎えた。
部屋の明かりは落とされ、みんな静かにしている。
エレンとアルミンのベッドからは、早々と寝息が聞こえる。
ライナーも、半分寝ているんだろう。
時折身じろぎする以外は静かなものだ。
僕はといえば、目ばかりが冴えていた。頭はもやがかかったように考えがまとまらないのに。
ベルトルト(今日は眠れそうにないな……明日休暇だからいいけど)
明日も訓練があるなら無理やりにでも眠る努力をするところだけど、
そうではないからこのまま起きていてしまおう。
気持ちの整理にも丁度いい。
ライナー「zz……んん……ふぐ……」
ベルトルト(……ライナー)
ライナーに相談してみようか。思えば、僕はいつだって彼に決断してもらいながら生きてきた。
ライナーなら、答えを持っているんじゃないか。
僕のこの想いの答えも、ユミルに感じるものの正体も。
ベルトルト「ライナー、起きてる?」
背中をつつきながら、囁き声で彼を呼ぶ。
ライナー「……z……んお……なんだ、まだ起きてたのか」
少し寝ぼけ声だけど、返事が返ってきた。
ライナーがこちらを向く。
ベルトルト「うん、眠れなくて。……あのねライナー」
ライナー「ああ」
ベルトルト「僕は、何かおかしいみたいだ。今日のあの出来事から、ユミルのことばかり見て、考えてしまう」
ライナー「……そうか」
ベルトルト「うん、今までそんなことなかったのにね。どんな人混みからだって、すぐ見つけ出せるんだ」
ライナー「……恋じゃないか……お前、それは」
ライナーが少し笑う。こちらを優しい目で見ている。
ベルトルト「そうなのかな、したことないから分からないよ」
ライナー「……結論はお前に任せる」
ベルトルト「え」
ライナー「俺が言ったら、お前はそれを結論にする気がするからな……自分の気持ちなんだ、自分で考えてみろ」
結論を自分で出して、自分の意志で決断する。僕が一番苦手なことだ。
けれど、確かにライナーの言うようにこの問題はそれが必要なことだと感じた。
ベルトルト「うん……そうだね、そうする。
……起こしてごめんねライナー、おやすみなさい」
ライナー「おやすみ、早く寝ろよ。」
僕の頭にポンと手を置いて、再び眠る体勢に入ったライナーを見ながら、彼の言葉を反芻する。
ベルトルト(恋、か)
(僕はユミルのことが好きなのかな)
思い返せば、彼女を意識するようになったのは対人格闘のあの事故からだ。
ベルトルト(恋か。よく、胸の締め付けられるような感じなんて本には書いてるけど)
恋愛小説なんてあまり読まないけど、たしかそんな描写があった気がする。
胸の締め付けられるような、内側から圧迫されているような感覚には覚えがある。
その感覚を初めて感じたのは、確か……
ベルトルト(頬を撫でてもらったときだっけ……いや、違うな)
(それよりもっと前だ、そう)
(頬を叩かれたあの瞬間だ)
(……何で?)
意味が分からなかった。何故僕は痛い目に遭ってときめいているのか。
ベルトルト(でも、そういえば廊下でアルミン達と話した時だって、
僕はあの痛みとユミルの優しさをセットで思い出してた。心地よい記憶として。)
(何だよこれ……どうしろっていうんだ、こんなの)
人を虐げたり虐げられたりして快感を得る種類の人間がいるのは、知識として知ってはいたけれど。
まさか自分がそうかもしれないなんて思わないし思えなかった。
しかし一方、彼女に虐げられたあと優しく扱われるのを想像するとどうしようもなく胸が高鳴るのも事実だ。
今も心臓は早鐘を打っているし、心なしか息も荒い。
ベルトルト(……これ以上考えると変になりそうだ、もう寝ちゃおう)
そう決意して目を閉じるけれど、一向に眠気は訪れない。
どんどん目は冴えてくるし、頭は思考の沼にはまったようで、妄想から抜け出せなかった。
待ってましたよ!パンツは脱ぎました
投下分、改行ミスって詰まってますね。読みにくかったらすいません。
あとちょっとだけ投下したら、休憩して20~21時ごろ再開予定です。
>>69 パンツはまだ履いててくださいwww
今日はデコピンされて興奮する気持ちの悪いベルトルさんの予定です
これから投下するSSの内容を言うもんじゃない、楽しみが減る
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「痛ってぇぇぇ!」
「ダハハハハ!」
結局、結論が出ないまま朝を迎えた。
明け方近くにやっと眠気がやってきて、そのまますぐ意識を無くすように寝ついた。
起きたのはいつもよりうんと遅くて、朝食を食べ損ねてしまった。
変な姿勢で寝ていたようで、首と肩が少し痛い。
本当に、今日が休暇で助かった。
とは言ってもライナーは当番でいないし、街に出かけて買いたいものもない。
図書室で過ごそうかなと思っていたけど、通りかかった食堂からコニーの絶叫とユミルの笑い声が聞こえてきたものだから、
引き寄せられるように入ってしまった。
コニー「おっ、お前!昨日教官の言ってたの忘れたのかよぉ!トーブへのダメージはダメなんだぞっ!」
サシャ「そうですよぉ!野生動物でも眉間を割られて無事なものはいないくらい眉間というのはぁぁァァ!!」
コニー「サシャーッ!死ぬなー!」
ユミル「お前らの頭にはちょうどいい刺激だろー?ん?」
状況がつかめない。
三人をハラハラと見ているクリスタに話しかけることにした。
ベルトルト「……クリスタ、アレ何してるの?」
クリスタ「あ、ベルトルト。あのね、前の休暇に街でゲーム用のカードを買ってきたの。今それで遊んでたんだ」
「それで、勝った人から抜けていくんだけど……
いつのまにか抜けるときにデコピンをするルールになっちゃって。ユミルのデコピンすごく痛いの……」
ベルトルト「……そっか、痛いんだ。ユミルの」
彼女から痛みを与えられることを想像して、思わず声が少しうわずる。
受けてみたい。今二人にしたみたいに、楽しそうに笑いながら僕の眉間を打ってみてほしい。
そしてそのあと、そっと撫でてもらえたら。
ベルトルト(……昨日からおかしいぞ、僕は……こんなの、まるっきり変態じゃないか)
自分の思考に愕然とする。
幸い僕の変態じみた願望には気づかないまま、クリスタは無邪気に続ける。
クリスタ「うん、ほんとに痛いんだから!女子寮で遊んでたときなんかね、アニやミカサだってちょっとたじろいだ位だよ」
そんなに強い痛みなのか。
それでも遺恨を残さないのは、ユミルのやり方が上手いのかな。フォローがしっかりしているとか。
ユミルは本当は優しい人だから。僕の頬を気遣ってくれたあの時だって。
ユミル「クリスタちゃんのがあんまり優しいから、私がバランス取ってるんだろぉ」
ベルトルト「ユミル」
ユミルがこっちに歩いてきた
クリスタの首に背後から片腕を絡めて、彼女をからかう。
もう、とクリスタが軽くむくれる。
ユミル「お、ベルトルさんも来たのか」
ベルトルト「今さっき来たところだよ」
クリスタ「ユミル、二人は大丈夫なの?」
ユミル「見てみろ、そろそろ芋女も復活する頃合いだ」
ユミルが示す方を見ると、
悶絶していたサシャがよろよろと復活してコニーとゲームを再開するところだった。
二人ともとても真剣な顔で、自分の手札を凝視している。
座学もあれくらい真剣にやれば、きっともっと成績が上がるのにな、と思ったけど
昨日あの様だった僕が言えたことでもないなと反省する。
原因の彼女は、クリスタの頭に顎を置き、二人をニヤニヤしながら眺めている。
投下一旦ここまで
再開は21時頃予定です
>>72 アドバイスありがとうございます。
ほんとにそうですよね、気をつけます。楽しみと言っていただいて嬉しいです。
~~~~~~~~~~~~~~~
サシャ「やったー!上がりですよコニー!」
コニー「また最下位オレかよ!ちぇ、今度はいけると思ったんだけどなー」
サシャが最後のカードを振り上げて、高らかに宣言した。
どうやら勝者はサシャのようだ。
コニーは机に残りの手札を置いて、目を固く閉じている。
サシャ「フッフッフ、いきますよぉ……」
コニー「おう、どっからでも来やがれ!」
サシャが怪しい笑い声を出しながら、じわじわにじりよる。
コニーが叫んだその直後、デコピンが命中した。
コニー「痛ってぇ……やっぱお前のも結構痛てぇよ、ユミルほどじゃねぇけど」
サシャ「このメンバーで痛くないデコピンなんてクリスタしかないですよ」
コニー「まあなー……ん、ベルトルトじゃん」
サシャ「あ、ベルトルト!どうしたんですか?」
ベルトルト「コニーが絶叫してたから、気になって。ちょっと見てたんだ」
サシャ「ああ、コニーの……フーッ」
コニー「お前も叫んでただろ!」
サシャの「あの表情」に挑発されたコニーが声をあげる。この二人はとても仲がいいな。見ていてすこし和む。
クリスタ「そうだ、ベルトルトも一緒にやる?」
クリスタが首を精一杯上に向けて話しかけてきた。
この子はいつも他人を気にかけられる。ライナーもそういうところが好きなのかもしれない。
ベルトルト「え、いいのかな……僕ルール知らないし、迷惑じゃない?」
嬉しい誘いだったけど、少し迷う。
この良い雰囲気に水を差してしまうんじゃないかと心配になったから。
クリスタ「フフ、そんなこと全然ないよ」
コニー「なんで迷惑なんだよ?」
サシャ「これは大勢で遊んだ方が楽しいですよ!」
ユミル「ルールなら教えてやる、あの馬鹿二人にだって覚えられる位簡単なものだから」
ベルトルト「……ありがとう」
皆の好意に甘えることにする。
それになにより、ユミルが僕の為に何かしてくれるのがとても嬉しかった。やっぱりユミルは優しい人だ。
ユミル「じゃあそこに座れ」
すぐそばの椅子にカーディガンの袖を掴んで座らされる。
その強引な仕草にもときめいてしまう。
馬鹿呼ばわりされた二人が後ろで異議あり!と騒いでいた。
~~~~~~~~~~~~
さっきまでゲームをしていたテーブルに、ユミルと向かい合わせで座る。
僕が教えてもらっている間、クリスタ達は隣のテーブルに座っておしゃべりをするようだ。さっきの一戦の感想でも言い合うのかな。
ユミル「……で、基本は場札と同じ色か数字のカードを出し続ける。特殊なカードの使い方はさっき言ったとおりだ」
ベルトルト「なるほど、あとは手札が無くなるまで繰り返すんだね」
ユミル「そうだ。ただ最後の一枚は数字札のみ、上がり宣言を忘れると無効、手札二枚追加だ」
ベルトルト「さっきサシャのやってたやつだね」
ユミル「あんなに派手じゃなくていいけどな、一言で十分だ」
ベルトルト「よかった」
ユミル「アレが必要だったら、ベルトルさんずっと上がれないな」
ベルトルト「そうだね」
二人でクスクス笑う。確かに僕にはできそうもないことだ。
ユミル「あとは罰ゲーム、残ってるやつにデコピンして抜けるだけだ。理解してないところはあるか?」
ベルトルト「ううん、大丈夫」
ユミル「じゃあやるか、カード配るぞ。」
言葉の後ろの方は隣に向けて、ユミルが言う。三人が集まってくる。
ベルトルト「……あ、待って」
ユミル「ん?」
ベルトルト「その、先に一回してみてくれないかな。ユミルのデコピン」
クリスタと話していた時から感じていたものが抑えきれなくなっていた。
今でなければ逃してしまう気がして、カードを纏めるユミルに言ってしまった。
自ら痛い目に遭いたい、なんて変に決まってるのに。
衝動に任せて言葉を口走るなんて、初めてした。
クリスタ「えっ……?」
コニー「お、お前っ、正気か!?」
サシャ「わざわざ一回余分に味わうなんて……やめておいた方がいいですよ」
ユミル「……こいつらの言うことももっともだな、理由はあるのか?」
ベルトルト「えっ……と、」
ユミル「まさか、いじめられるのが好き、とか?」
ベルトルト「、っ」
ユミルはなんの気なしに、いつものからかいの調子で言ったのだろうが
その言葉は僕の歪んだ想いをを見透かしたようだった。
微笑を湛えた鋭い目付きに射竦められて、呼吸がうまくできなくなる。
顔に血液が集まる。心臓がうるさい。
クリスタ「も、もう!ユミルはそんなこと言って!きっとなにか、ちゃんとした理由があるんだよ」
ね?とクリスタがこっちを見る。
サシャとコニーも返事をじっと待っている。
なにか、何か言わなきゃ。
ベルトルト「いや、あの……先に一回受けておけば、
覚悟ができるんじゃないかなって。僕結構臆病者だから」
クリスタ「なるほど、一回訓練しておくんだね……」
コニー「おお……」
サシャ「頭のいい人は流石ですね……」
苦しい言い訳だった。三人は信じてくれたみたいだけど、ユミルは相変わらず僕を見ている。
やっぱり無理だったんだ、こんな。
ベルトルト「ごめん、変なこと言ったね。忘れて――」
ユミル「いいぜ、やってやるよ」
ベルトルト「ふぇっ?」
ユミル「なんだよ、してほしいんだろ?やめとくか?」
承諾されるとは思わず、予想外の答えに変な声が出た。
挑発的な言葉づかいと目つきに、体の芯がゾクッとする。
ベルトルト「う、ううん!お願いします!」
ユミル「……そんなに期待するものでもないけどな」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
さっきまでとは逆に、テーブルを背にして座る。前にはユミルが立っている。僕らの身長差を埋めるためだ。
ユミル「後で痛かった、って怒るのは無しだぞ」
ベルトルト「お願いした身でそんなことしないよ」
ユミルの右手は僕の顎を固定していて、左手は構えられて狙いをつけている。
獲物を捕らえた猫みたいな目が、鋭く僕を見下す。
ユミル「いくぞ、目閉じてろ」
顎に添えられていた手が離れて、頭に移動した。額を出させるために前髪を上げているんだ。
目を閉じた瞬間パシッ、と音がして、中指の爪が額を打つ。
確かに痛い。固いものがぶつかった痛さだ。
ユミルの指はしなやかだから、鞭みたいによくしなるんだろうな。
じんじんとした痛みは皮膚を通り抜けて、奥の方に浸みていく。
痛いはずなのに、なんだか頭がぼうっとする。幸せな感じだ。
ユミル「どうだった、ベルトルさん」
ベルトルト「……は、ぁ」
温かい手が前髪をくしゃっと撫でる。
昨日と同じ感覚が胸を襲う。
自覚してしまったからだろうか、締め付けられる感じがずっと強くてうまく話せない。
幸福感が大きくなる。体が熱い。
クリスタ「大丈夫?ベルトルト……」
クリスタの声がして、三人の心配そうな視線に気づく。
ユミルにも、純粋に心配してくれている彼らにも、こんなこと気づかれちゃいけない。
痛い目に遭って興奮しているなんて。
荒くなりそうな息を必死に整える。鼓動が聞こえてしまわないか心配だ。
ベルトルト「う、うん!やっぱり痛いね。ありがとうユミル。」
ユミル「ああ、負けたらまたしてやるよ」
精一杯体裁を取り繕って返事をする。
僕と目を合わせて笑ったユミルは
最後に前髪を戻すように一撫でして、自分の席に戻っていった。各自にカードを配っていく。
サシャ「今からならあと2、3回はできますね!ユミル覚悟!」
コニー「よっしゃ!ベルトルト覚悟!」
配られた手札を持って、二人がはしゃぐ。
僕の暗い欲望を覆い隠すような快活さがひどくありがたかった。
変態やなww
支援ありがとうございます。今日の投下はここまでです。
明日は用事があるので、投下量が少し減ると思います。
>>91 変態ですね。自分でも書いてて少し引きました。
投下再開します。
書き溜めがはかどったので、いつもどおりの量投下できそうです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
もうすぐ昼食の時間になる。
外出者が多いとはいえ食堂はそれなりに混雑するだろうし
ゲームはサシャの予想したように、この三回目で一旦お開きになるだろう。
僕が入って一回目は一位がサシャ、二位が僕。
二回目は一位がクリスタで、僕はまた二位だった。
「負けたらまたしてやるよ」という彼女の言葉に期待感を抱きながら参加していたけれど
僕が喰らったのはサシャのそれなりに痛いデコピンと、クリスタの痛くない一撃だけで
未だにユミルからはしてもらっていない。
ベルトルト(もしかしたら、もう無理かも)
何しろ今ゲームを続行しているのは僕とユミル二人で、僕の手札はあと一枚。
さっきまでユミルもあと一枚だったんだけど、出せない札らしくて山札から一枚引いたから今は二枚。
僕の持っているのは場にあるのと同じ数字の札だから、これを出すだけで簡単に勝ててしまう。
ベルトルト(……いや、待てよ)
ふと、打算が頭をもたげる。
あるじゃないか。上がりを無効にする手段が、一つだけ。
これまでちゃんとこなしていたのにいきなり忘れるっていうのも妙な話だけど。
ベルトルト(……どれだけユミルにしてほしいんだ、我ながら卑しいぞ)
呆れ果てた考えだけれど、もう一回受けて確かめたいことがあった。
彼女は僕の特別なのか。それとも。
体のいい言い訳を見つけて、僕はそれを実行することにした。
ベルトルト「……」
無言で札を置く。ユミルの持っているのが二枚とも出せないものなら意味はないけど、
さっき山札から一枚引いた彼女の目はまだ勝負を捨てていなかったから。
僕はそれに賭けることにした。
クリスタ「あっ」
コニー「ああ!」
サシャ「ベルトルト……」
先に上がった三人が驚いている。
さっきまで難なくこなした上がり宣言を、今忘れていたことに対してだろう。
あんなに素直な彼らを騙したような感じで少し心は痛むけど、もう退けない。
ユミル「ベルトルさん、宣言」
ベルトルト「あっ、忘れてたよ。手札二枚追加だよね」
参ったな、なんて呟いたけどわざとらしかっただろうか。
ユミル「……悪いな、あんたの手番をとばして」
場と同じ色の特殊札を置く。これを最後に残してしまったのか。
頭の回るユミルらしくない凡ミスだ。
ユミル「これで上がり、残念だったなベルトルさん」
続けて後から引いた数字札を場札に載せて、ゲームは終わった。
ユミルが手をヒラヒラさせながら笑っている。その表情に、仕草に釘付けになる。
ベルトルト「うん……そうだね」
無言も怪しいと思って、かろうじてそれだけを返した。
クリスタ「ね、ほんとに」
片付けに協力しにきたクリスタが微笑む。
ほぼ同時に、昼食の時刻を告げる鐘が鳴った。
サシャ「あ、もうお昼ですね!今日は芋の匂いがします!」
コニー「芋がつくのかぁ、ちょっといいな」
サシャ「コニー、お裾分けなどは!」
コニー「ねぇよ!」
二人はもう昼食のことで頭がいっぱいのようだ。
片付けを終えたユミルがカードを箱にしまって、クリスタに話しかける。
ユミル「クリスタ、私はコレを寮に置いてくる。先に席とっといてくれるか」
クリスタ「うん、ありがとうユミル。……ベルトルトも一緒に食べない?」
ベルトルト「えっ、」
クリスタ「……嫌かな?」
ベルトルト「ううん、びっくりしただけ……あっ、ライナーも一緒でいいかな」
クリスタ「うん、もちろん」
ベルトルト「ありがとう」
クリスタと昼食なんて、ライナーもきっと喜ぶだろう。今日は一日当番だから、暇だろうし。
ユミル「なんだ、あいつも来るのかよ」
クリスタ「ユミルったら」
不満そうなユミルに、プクッとクリスタの頬が膨らむ。怒ったときの癖だろうか。
ユミル「冗談だよ……それじゃ私は行くから」
ユミルが食堂の入口へ向かう。
昨日から見ていて気づいたけど、けっこう歩くのが早い。
ベルトルト「僕も、ライナー呼んで来るよ」
見失ってしまいそうになって、急いで後を追った。二人で話したいことがある。
量が多いので、一旦投下終了です。
再開は0時頃予定です。
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食堂へと急ぐ人の流れに逆らって歩く背中に、早足で歩いて追いつく。
ベルトルト「ユミル」
呼びかけると、立ち止まってくれた。並んで歩きだす。
ベルトルト「途中まで一緒にいいかな」
ユミル「どうぞ」
ベルトルト「……最後のゲームだけど、珍しいね。君があんなミスするなんて」
ユミル「……ちょっと考え事しててな、そっちに気をとられた。
ベルトルさんこそ珍しいな、なんでもそつなくこなすアンタが」
ベルトルト「僕も同じようなものだよ。考え事してた」
ユミル「ふぅん」
ユミルの考え事ってなんだろう。
こうして単に話をするだけでもなんだか緊張するのに、ライナーのいるであろう教官室と、
女子寮との別れ道にもうすぐ差し掛かってしまうのが無性に寂しい。
もっと二人で話していたい。一緒にいたい。変だな、どうせすぐ食堂で会うのに。
ベルトルト「……ところでさ、ユミル」
ユミル「ん」
ベルトルト「最後の罰、僕まだ受けてなかったよね」
ユミル「律儀だな、うやむやにしてもよかったのに」
ベルトルト「なんか気になっちゃって……」
ユミル「してやろうか、今ここで」
今この廊下に人通りは全くない。隅には何かの木箱が放置されている。
あつらえたように具合のいい場所だった。期待に胸がざわつきだす。
ベルトルト「……うん」
ユミル「……やっぱり律儀だな。よし、そこ座れ」
木箱に座って、食堂でやったのと同じように顎を固定されてから前髪を捲られる。
言われる前に自分から目を閉じて、ユミルの指を待つ。
ユミル「すっかり慣れた感じだな、二回目なのに」
ベルトルト「そう?」
ユミル「ああ、あいつらなんて未だに抵抗する」
コニー達のことかな。確かにすごい抵抗ぶりで、思い出して少し笑った。
ユミル「まあそれはいいか、やるぞ」
ベルトルト「いいよ」
返事から一拍おいて、ユミルが中指を弾く。
今回も上手く当たっている。痛い。そして幸せだ。
僕がわざと負けてまで確かめたかったこと。
僕にとってユミルは、やっぱり特別な人らしかった。
サシャやクリスタのものでは微塵も感じなかった、心が満たされる感覚がする。
急にひどく気恥ずかしくなって、それをユミルに感づかれないように下を向いた。
ユミル「……やっぱりなんかベルトルさん、嬉しそうじゃないか?」
ベルトルト「……っ、そんなこと」
ユミルがしゃがみこんで僕の顔を覗きこむ。予想外の行動だった。
言えるわけがない。単に君のことが特別なんだ、ならまだしも。
君に痛みを与えられるのが嬉しい、なんて。こんなことを知られて、嫌われたくない。
もっと何十倍も嫌われ蔑まれるような秘密を抱えているくせに、そう思った。僕は馬鹿だ。
ユミル「そうか?なんだか――」
いつのまにか添えられた手で額を引っ張るようにして、ユミルに上を向かされる。
ベルトルト(あ、)
また幸福感に襲われて焦る。
駄目だユミル、これ以上されたら。
「お前ら……何してるんだ、そんなところで」
ベルトルト「ラ、ライナー」
ユミル「別に、只の罰ゲームだよ。……じゃあな、私は寮いくから」
ベルトルト「……うん、また食堂でね」
ユミルはスルッとあっけなく離れて、女子寮への曲がり角を曲がっていった。あっという間に見えなくなる。
ライナーが来てくれて助かったけれど、反面ちょっとだけ恨めしかった。
ライナー「罰ゲームって、遊んでたのか。珍しいな」
ベルトルト「うん、色々あってね……あっ、クリスタが一緒にご飯食べないかって。来るだろ」
ライナー「断る理由がないだろう」
ライナーが嬉しそうにニヤつく。
よかった。少しは彼にとって良い休暇になっただろうか。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
昼食の後も、僕はなんだかんだでユミル達と一緒にいた。
サシャとコニーが座学のレポートの再提出を命じられていたのをすっかり忘れていて泣きつかれたので、協力していたのだ。
その時ユミルが「協力してやれよ、暫定三位様」なんて言ったせいで、二人にもしばらく「暫定三位様」なんて呼ばれる羽目になった。
終わる頃には飽きたのか、元通りになっていたからよかった。
「暫定三位様」には困ったものだけど、ユミルに「ベルトルさん」と呼ばれるのが僕は密かに好きだった。
あだ名なんてつけられたのは、小さい頃にアニとライナーに「ベル」と呼ばれていた以来だったので最初は驚いたけれど。
ここ二日間はもっと好きになった。なんだか彼女の特別になれたような、そんな自惚れを僕に感じさせてくれた。
ベルトルト(……そういえば、この後ユミルに呼び出されていたっけ)
夕食後解散してそれぞれの寮に別れる間際、素早く引っぱり寄せられて囁かれたのだ。
ベルトルト(入浴後自由時間、第二資料室横空き教室)
(今は倉庫みたいになってる教室だよな……鍵空いてるのかな。何を話すんだろう)
本日の投下ここまでです。
展開の遅さのせいで注意書きが嘘みたいになってて申し訳ないです。
週末にはなんとかSMパート入れるようにしたいと思っています。
投下再開
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「ムぎゃっ!?」
ベルトルト「わっ!」
背中に誰かがぶつかったのにびっくりして振り向くと、ジャンが鼻を押さえて立っていた。
ジャン「ベルトルトお前……脱衣場の入口でつっ立ってるのはやめろよ……」
ベルトルト「ご、ごめんねジャン……怪我はない?」
ジャン「そんなに柔じゃねぇよ、平気だ」
マルコ「ジャン、ちゃんと前を見てなかっただろう。気をつけなよ」
ライナー「なんだ、ベルトルトはまた上の空か」
後ろからマルコと、ライナーが顔を出す。風呂場へ来る途中で二人と会ったんだろうか。
ベルトルト「ライナー、当番終わったんだね」
ライナー「ああ、少し長引いたが」
マルコ「上の空、って…ベルトルト悩みごと?」
ベルトルト「うん、悩みっていうか……そうだ、ジャンはミカサに片想いしてたよね」
ジャン「……まあな」
片想い歴の長いジャンなら、何か分かるかな。入浴の準備をしながら話してみようか。
ベルトルト「……もし、もしだよ。絶対に受け入れてもらえそうになくても、言ったら軽蔑されそうでも。
どうしてもミカサに想いを伝えたくなったらどうする?」
ジャン「ハッ。なんだ、お前誰かに片想いしてんのかぁ?」
マルコ「ジャン、君ってやつは……」
ベルトルト「……まあ、うん。それはそうとしてさ、ジャンならどうするか聞かせてよ」
ジャンは最初こそからかい半分だったけど、二回目の問いかけをすると真剣な顔になって考えはじめた。
ジャン「……言うな、俺なら」
ベルトルト「そっか、どうしてか聞いてもいい?」
ジャン「俺は元々正直者だしな、言いたいことは全部言う質だ。それに、」
ベルトルト「それに?」
ジャン「どうしても伝えたい、とまで思ってることを押し込めておくなんて器用なこと出来ねぇよ、俺はな。」
お前はどうか知らねぇけど、と言ってジャンは言葉を切った。
マルコ「そうだね、ジャンはそういう人だ。けどベルトルト……君とジャンは性格が違いすぎる。参考になるかな」
ジャン「マルコ、何だよそれは」
冷静な意見を述べるマルコを、ジャンがジロリと見る。僕自身、マルコの意見をもっともだと思う。でも。
ベルトルト「はは、確かにね。……ありがとうジャン」
ジャン「ああ……もう終わりなら、俺は風呂に行くぞ」
ベルトルト「うん、もう大丈夫。」
ジャン「そうか、まあ頑張れよ」
マルコ「応援してるよ、頑張ってね」
二人を見送った後、話に夢中になってほとんど準備が済んでなかったことに気づいてはっとした。
横を見るともうすっかり準備万端のライナーが待ってくれている。
ベルトルト「ごめんライナー、すぐに済ませる」
ライナー「ああ、それはいいんだが……結論は出たのか」
ベルトルト「……うん、やっぱり僕はユミルが好きみたいだ。彼女のことが特別に見える」
「言うだけ言うよ、伝えるっていうより、吐き出すだけになりそうだけど」
ライナー「そうか、初恋まで長かったなぁ、お前」
カラカラとライナーが笑う。
初恋がこんな形なんて、とんでもないことだ。もっときれいなものだと思っていた。
ベルトルト「でもライナー、言ってしまっても僕は戦士でいられるだろうか。……やっぱり」
ライナー「まあ、いいんじゃないか」
軽い調子で返されて、ちょっとムッとする。
ベルトルト「そんな簡単なもの?」
ライナー「お前は溜め込む質だからな……放っとくとこじらせて悪化しそうだ。そんなにでかい想いなら尚更」
ベルトルト「……」
何も言えない。想いをこじらせて駄目になった自分の姿が見えるようだったからだ。
ベルトルト「……やっぱりライナーは僕のことをよく知ってるね。きっと末路はその通りだよ」
ライナー「ハハハ、何年お前とアニの兄貴分やってると思ってるんだ」
「……OKされるにしろ断られるにしろ、なった方に次の手を打てばいいんじゃないか。
臨機応変に動けるのも優秀なやつの条件だ」
ベルトルト「そうかな」
ライナー「そうだ。……さ、俺達も行くぞ」
なんだかライナーに上手く丸めこまれた気がするけど、今はこれ以上の結論なんて見えない。
事態がどう転ぶか怖いけど、早めに入浴を済ませて空き教室に向かおう。ユミルが待ってる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
言われたように空き教室の前で待っていると、ユミルが来た。
鍵を針金か何かで器用に開けて、僕を先に押し込めた後、自分も入ってくる。
ベルトルト「意外な特技だね」
ユミル「……昔色々、な」
詮索されたくなさそうな話題だと感じたので、それ以上は聞かないことにしよう。
暗いのでカーテンを開く。月明かりで教室が僅かに照らされた。
ユミル「なあ、ベルトルさん」
「恐らく、アンタもでかい秘密を持っているんだろ?決してばらす訳にはいかないものを」
開口一番、とんでもない発言に心臓を掴まれた気分になる。ばれたのか。僕の最大の秘密。
ユミル「それは言わなくていい、私にも同じような秘密はあるからな」
そう言われて息をついたものの、気になる言葉だった。ユミルにもあるのか。
ばれてしまったら、自分の根幹が崩れるような秘密が。
ユミル「まあ、それは置いとくとして、だ……」
「この際だ。お互い全部ぶちまけようぜ」
ベルトルト「え……お互い?」
ユミル「ああ……ここのところ、ちょっと変だからさ」
彼女は誰が、とは言わなかった。
ベルトルト「どっちから話すの」
ユミル「話したくなった方からでいいだろ」
ユミルが床の埃を払って座る。僕もそれにならって、背中合わせになるように座った。カーテンの開いた窓から星が見える。
十五分くらいそのままでいただろうか。
僕にはこの時間が一番よかった。
肯定も否定もされない、二人でいる曖昧な時間。
ただ、消灯時刻の都合もある。いつまでも決断しないわけにはいかない。
この時間が長引くと傷が深くなる、と感じたらもう、さっさと話してしまいたくなった。
この想いだけ吐き出して、何もなかったことにしたい。
早く否定されて、楽になりたい。
一旦投下終了です。なんだかむさくるしいパートでしたね。
再開は23時~0時頃予定です。
寝落ちしてました、ごめんなさい。
投下再開です。
ベルトルト「……じゃあ言うよ」
「ユミル、僕は。僕は君が好きだ。」
ユミル「……それだけか?普通の告白に聞こえるけど」
拍子抜けしたようなユミルの声が返ってくる。それだけ、だったらどんなによかっただろう。
ベルトルト「……君に軽蔑されるような形で好きになってしまったから。ずっと黙ってようと思ってた。」
「ただ、今日は少しやりすぎた」
「君に近づけると思ったら止まらなかった。柄にもなく自分から行動していた」
今日してしまったことを思い出して、少し照れる。
ベルトルト「……一つお願いがあるんだ」
「この先を聞いたら、答えがほしい。否定でも肯定でも。そのまま受け入れるから」
「答えだけは返す、って誓ってくれないか」
ユミル「……ああ、誓ってやるよ。だから話してくれ、ベルトルさんの腹の内を」
ベルトルト「……対人格闘の事故から、君のことを好きになった」
「君が僕を気遣ってくれた時、なんだか嬉しくて、すごく胸が苦しくて」
「それからずっと見てた」
「今日も一緒にいて、すごく楽しかったよ。ずっと傍にいたいと思った」
ユミル「…………」
ベルトルト「でも、そんなきれいなことばっかりじゃなくて」
「……昨日の夜いっぱい考えて、僕は君に痛いことをされるのが好きなんだって気づいた」
「そして今日、君にしてもらったデコピンで確信した。叩かれた後撫でてもらうと、心が満たされる感じがした」
ユミル「……わざと負けてたもんな」
ベルトルト「あ、ばれてたんだ……恥ずかしいな。どうしても確かめたくて。君だけが特別なのかどうかを」
「……やっぱり、君じゃなきゃ駄目だったよ、ユミル」
「これが僕の隠し事だ。……答えをくれないか」
ユミル「……ベルトルさんよぉ……」
ベルトルト「やっぱり、こんな気持ち悪い奴駄目かな」
ユミル「人の話を聞けよ……私の隠し事だけどな」
ベルトルト「何?」
ユミル「まず、告白の返事はOKだ。それを頭において聞けよ」
ベルトルト「えっ!?う、うん……」
サラリと受け入れられて驚愕した。いいのかユミル、ついさっきあんなに気持ち悪い欲求をさらけ出したのに。
「私も、あの日の対人格闘が頭から離れないんだ。叩いちまった頬の感触も、撫でてやったときの安心した目も。」
「決定打はあの名残惜しそうな声だった。あれを聞いて、何かが目覚めた」
「……言っとくが、あれ自体は完全に事故だった。撫でたのも本当に心配だったからだ。」
「でも私はベルトルさんをもう一回、今度はわざと叩きたいと思ってるし、その後でまた撫でてやりたい。
いじめて泣かせてその目を涙でいっぱいにした後、思いっきり甘やかしてやりたい」
ベルトルト「え、ユミ、ル?」
頭を殴られたような衝撃があった。ユミルも、そうだったって?
僕のことをいじめてやりたいって、ユミルが?
僕と同じような嗜好を持っているのか?思考が追いついていかない。
ユミル「アンタが「そう」なんじゃないかとは薄々感じていた。わざわざ痛い目に遭いたがってたし、
デコピン食らわした後の目だって、熱っぽくて物欲しそうだった。褒美を欲しがる奴隷の目だ」
今日の一連の行為は、分かっててしてたのか。僕が本当は何を求めていたのか。
ベルトルト「試してたの、僕のこと」
ユミル「人聞きが悪いな。ベルトルさんがやってたみたいに、私なりに折り合いつけて発散してたんだ。
万一「そっち」じゃなかったら、私のやりたいことはただの傷害だからな……あれならまだ、遊びで済むラインだろ」
ベルトルト「つまり、あの、僕たちって」
ユミル「~~両思いだっていうのに腹の内探り合ってた馬鹿共だよ!」
ユミルが叫ぶ。僕たちはなんだか、ひどく回り道をしていたみたいだ。
ベルトルト「……そうだね、馬鹿だったかもね」
ユミル「ともかく、私は条件を飲んだ上で了承した。そっちもだろ?」
ベルトルト「もちろんだよ」
ユミル「じゃあ、今から私の奴隷になるか?」
ユミルがもたれかかってくる。
ベルトルト「……犬がいいな」
ユミル「……人ですらないのかよ、ベルトルさん重症だな」
ベルトルト「そうじゃなくてさ、犬ならいっぱい撫でてもらえそうだし。
痛いの好きだけど、撫でてもらうのも好きなんだ、僕」
ユミル「そうかよ。じゃあ私の犬になるか」
ベルトルト「うん。ユミル、僕は君の犬だ」
ユミル「よし」
ユミルの重みが離れる。立ち上がって、僕の前に回りこむ。
ユミル「手ほどいて、足も平らにして座れ」
癖になっている縮こまるような座り方を解くように命令される。
従うと、腿の上に向かい合うように座られた。腕を首に絡められて、頭を引き寄せられる。
ベルトルト「んっ、む、ぅ」
ユミル「ん・・・・・・っぷは」
キスされた。少しだけど、舌も入ってきた。
こんなことするのは初めてで混乱していると、額にもキスされる。
ちゅ、ちゅと音を立てて、何回も。片方の手は髪の毛をクシャクシャ撫でてる。
可愛がってくれてるのかな、なんだか安心する。ユミルはいいご主人様だな。
ユミル「これからもっと、色々してやる。しっかり躾けるから覚悟しとけよ」
ベルトルト「よろしくね、ユミルさま」
ユミル「その呼び方はやめろ。「ユミル」だ」
そう言いながら、ユミルが軽く僕の頭をはたく。
ご主人様なんだし、様付けで呼ぶのがいいよねと思ったんだけど駄目みたいだ。
ベルトルト「わかったよ……改めてよろしく、ユミル」
ユミル「よし、よくできました。」
言うとおりにすると、ユミルはちゃんとはたいたところを撫でてくれる。
その手はやっぱりとても心地よくて、僕にとっては最上級のご褒美だった。
感想レスなどありがとうございます。投下ここまでです。
土日は多分少し投下量減ります。
投下再開します
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「あれ、ベルトルトにユミル?」
「どうしたの、そんな所から……そこっていつも鍵かかってなかった?」
教室を出た途端、後ろから声がかかって肩が跳ねる。
振り返ると、マルコとアルミンが隣の資料室から出てくる所だった。
ベルトルト「マルコ、アルミン……君たちこそなんで」
最近二人が熱心に調べものをしているのは知っていたけど、いつもは図書室にいるんじゃなかったか。
大量の本を抱えて部屋に帰ってくるアルミンを何度か見た覚えがある。
マルコ「今日はここにある資料が必要だったんだけど、第二資料室のものって持ち出し禁止なんだ。」
アルミン「だからこもりっきりになるしかなくて……夢中になって調べものしてたらこんな時間に」
アハハ、とアルミンが笑う。 こんな真面目な二人がいる隣の部屋で、僕はなんてことを言っていたんだ。
羞恥心が刺激されて顔が熱くなる。きっと今、ひどい顔してるんだろうな。
ユミルが僕の顔を見上げてニヤニヤしている。
マルコ「それにしても二人は……あ、そうか。ベルトルト、言ったんだ」
アルミン「マルコ……?ああ、そうか!」
マルコ「今日のジャンはすごいなあ……あ、二人とも!もうすぐ消灯だから、早く寮に戻ったほうがいいぞ」
アルミン「また部屋でね!そうだ、ベルトルト元気になったよって、エレンにも言っていいかな?結構気にしてたからさ」
ベルトルト「あ、うん……よろしく……」
最初の質問に戻ったものの、僕達の目的を聡い二人はすぐに感づいたようで、じゃあね、なんて手を振って行ってしまった。
ベルトルト「……消灯もうすぐなんだね。寮まで送るよ」
ユミル「ああ、任せる。私の犬だもんな、ちゃんと送れよ」
ベルトルト「うん、任せて!」
頼ってもらえたのが嬉しくて、声のトーンが上がった。
後ろからシャツの襟を持たれる。ユミルに連れられて散歩しているみたいだ。
ユミル「しかし、男も結構お節介焼きなもんだな」
ベルトルト「ふふ、その様子だと女子もあんな感じなのかな」
ユミル「……まあな」
ユミルがげんなりしている。
女の子は恋の話が好きだっていうし、今日彼女は寝かせてもらえないかもしれない。
ベルトルト「今日はお互い大変かもね」
ユミル「ああ、どうやってクリスタとミーナ誤魔化すかなぁ……あいつらにばれると近しいやつらにはまず広まるな……」
ベルトルト「あはは……あ、ついたよ女子寮」
ユミル「よし、ここまででいい。おやすみ」
ベルトルト「おやすみ、また明日」
別れ際に頭を撫でてもらった。ちゃんと送れたご褒美だろうか。
ユミルはまだ歩きながら色々計算しているようだけど、結局どうしたってばれちゃうんじゃないかな。
なんだかそんな気がした。
エレン「ベルトルト、元気になったんだってな!よかった」
ベルトルト「お、おかげさまで……」
エレン「うんうん、なんか吹っ切れた顔してるぞ」
部屋に帰ってくると、エレンが嬉しそうに言ってきた。僕が元気になったのを本当に喜んでくれている。
アルミンもニコニコ笑っている。僕の想いが純粋に叶ったと思っているんだろう。二人にはなんだか申し訳ない気持ちだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ライナー「で、どうなったんだ?ユミルとは」
消灯時刻になって、ベッドに横になった途端にライナーにヒソヒソと訊かれた。
色々協力してもらったし、彼には洗いざらい話そうか。
ベルトルト「……ライナーになら言ってもいいかな……彼女の犬になったよ」
ライナー「はぁ!?」
ベルトルト「声が大きいよライナー……僕はユミルにいじめられたいし、
ユミルは僕をいじめたかったんだって。お互いあの対人格闘が引き金だったみたい」
ライナー「そうか……いや、犬ってお前……それでいいのか……」
ライナーがポカンとしている。
ベルトルト「表向きは普通に付き合ってるだけだから、内緒にしててくれよ、ライナー。」
ライナー「……分かった。お前も……あんまり外でそれ言うなよ」
ベルトルト「言わないよ。ユミルとそう決めたし」
ライナー「それならそうでいいんだが……」
ベルトルト「訓練兵としての残りの期間はそうやってすごそうかなぁ、って。……僕もう眠いから寝るね、おやすみライナー」
ライナー「ああ、おやすみ……変な方に吹っ切れたな、お前の初恋……」
ライナーが最後に何か言っていたけど事実だし、聞き流して寝ることにした。
明日ユミルはどうなっているのかな。
どうであっても、せめて「その日」までは。
君の犬で、恋人でいたい。
できることなら、壁を壊さなくても済む、君とずっと一緒にいられる方法を探したい。
叶いそうにない夢物語にすぎないけれど、それが今のところ、僕の願いだった。
投下一旦ここまでです。
再開は0時~1時くらいを予定しています。
巨人とか戦士とかの落としどころを探っていくととても長い暗い話になってしまいそうで
このあとのいちゃいちゃSMに支障が出たのでこんな形になってしまいました。
ちょっと恋愛に比重の重いベルトルトになってしまって、そういうの嫌いな方には申し訳ないです。
投下再開します
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
やっぱりというか、僕とユミルが付き合うことになったのは翌日には近しい人達全員にばれていた。
敗因はユミルがクリスタとミーナの質問責めに思わぬぼろを出したことと、僕の様子が普段と違うとサシャに感づかれたことだと思う。
彼女の勘を甘く見ていた。あと関係ないけど、ライナーもなんだか挙動不審だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ユミル「ベルトルさん、今度の休暇は空いてるか」
僕達が一緒にいるのにも皆が慣れてきたころの夕食後、ユミルから誘いを受けた。
ベルトルト「あ……ごめん、その日は当番で」
前回ライナーのやっていた当番が、二日後の休暇には僕に回ってくるのだ。
前から決まっていたことだけど、よりによって今か、と少し落胆する。
ベルトルト「本当にごめんね、折角君が誘ってくれているのに」
こんなに急なら、誰かに代わってもらうのも難しいだろう。少なくとも知っている人は皆、予定がありそうだ。
ユミル「そんなに落ち込むなよ、当番は兵団の都合だ。私も急だったな。」
ベルトルト「うん……でも、君と出かけたかった」
ユミル「仕方ないだろ、私はクリスタと芋女と出かけることにするから。そっちも当番ちゃんとやれよ」
未練がましく落ち込むと、あやすように背中を叩かれる。子供扱いされたみたいで照れくさい。
ベルトルト「外出、楽しんできてね」
ユミル「ああ。なにかいいもの買ってきてやるから、いい子で待ってろよ」
後頭部を一回撫でてから、ユミルは去っていく。
彼女が最後の一言に怪しい含みを持たせたように思えて、なんだか落ち着かなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
休暇日の朝は、皆落ち着かない様子で朝食を食べている。やりたいことが沢山あるんだろう、いつもより早く食堂は空になる。
ベルトルト「失礼します」
静かな兵舎の入口近く、小さな部屋に入っていく。
今日僕が担当するのは、外出許可書の受付補佐だ。人の出入りを確認したり、書類や名簿をまとめたり。
厩舎の掃除や馬の世話をしていたライナーよりはうんと楽だろうな。
窓口は教官がするので、主な仕事は書類相手だろう。大分ましになったとはいえ、人見知りの気がある僕にはありがたい。
教官「ああ、フーバーが担当か。君は真面目だからな、頼りになりそうだ」
ベルトルト「いえ、そんな」
教官「まあ、一日よろしく頼む」
今日の窓口担当教官は、座学の眼鏡をかけた教官だ。
僕を高く評価してくれているようで、この前上の空でいたのがなんだか申し訳ない。
罪滅ぼしといったら大げさだけど、せめて今日はできるだけ真面目にやろうと決めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
午後になって、教官は遅い昼食を食べに行った。
部屋に一人で残されてぼんやりしていると、出入口の開く音がする。
(あっ、ユミル達帰ってきた)
彼女の姿をみとめて、ちょっと気分が高揚する。聞き分けのいいふりをして、やっぱり僕は寂しかったのかもしれない。
サシャ「あぁー、ベルトルトは愛されてますねぇ。幸せ者ですよ」
ベルトルト「お帰り。……どうしたのいきなり」
と喜んだのも束の間、帰るなりサシャが絡んでくる。
クリスタ「もうサシャ……」
ユミル「昼飯についてたパンやっただろうが」
サシャ「へへ……そうですけどぉ……」
ベルトルト「お帰りなさい、サシャは一体どうしたの?」
サシャ「ユミルのプレゼント、楽しみにするといいですよ。なんたって――ムグ」
ユミル「あー、芋女はもう黙れ」
ユミルがニタッと笑うサシャの口を塞ぐ。そういえばなにかいいものをくれるってユミルが言ってたな。それのことだろうか。
ユミル「これだよ、一人の時に開けろ」
サシャを捕まえているのと逆の手から、コトッ、と白い紙箱が置かれた。大きさは両手に載るくらい。
ベルトルト「ありがとう、後で開けるね」
ユミル「そうしてくれ」
ユミルが僕のために選んでくれたものだと思うと、心の暖まる感じがする。なんだって嬉しく思える。
クリスタ「ふふふ……あ、ベルトルト。私達のチェック大丈夫かな?」
ベルトルト「うん、三人とももう行って大丈夫だよ」
ユミル「じゃあ一回部屋行くか」
サシャ「く、苦しかったです……」
僕達のやりとりを笑顔で見ていたクリスタが問いかける。大丈夫、と言ったら三人とも寮の方に行くようだった。
ユミル「ああ、そうだベルトルさん」
去り際にユミルが近寄ってきた。窓越しに、あの時と同じように僕を引っ張り、素早く囁く。
ユミル「今夜の自由時間、あの教室だ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
帰ってくる人への応対も一段落ついて暇ができたので、ユミルにもらった箱を開けてみることにした。
シンプルな無地のハンカチと、野菜を薄切りにして干したお菓子。サシャはこれが欲しかったのかな。
ベルトルト(女の子のおみやげって感じだ。かわいいなぁ)
ユミルもやっぱり女の子なんだな、と思って顔が綻ぶ。
ただ、入っていたものに対して箱が重かったのが気になった。
(あれ、この箱二重底になってる?)
ハンカチとお菓子の包みをどかして底になっている厚紙を揺すると、カタカタと僅かにずれる。
(なんだろ、まだ何か入ってるのかな)
底の一辺に爪を引っかけて持ち上げた。
次の瞬間、中に入っていたものに体が強ばる。
(……えっ、何これ!?)
首輪だ。赤色の革を縫い合わせてある。鎖もついた、犬につけるようなもの。
(……僕の、だよね。これ)
彼女の犬になったのは僕も合意の上だけど、こうして形にして見せられるとすごく恥ずかしいことのように思えた。
首輪を見た瞬間、驚きはしたけどそれより大きく期待をした自分がいることも含めて。
今夜、あの教室で僕は何をされるんだろう。期待と不安が入り交じって落ち着かない。
心臓を握られているような感覚がして、妄想ばかりが大きくなっていく。早く鎮めないと、人が来たらどう思われるか。
「フーバー」
ベルトルト「は、はいっ!」
扉が開いて、眼鏡の教官が入ってくる。
びっくりした拍子に手を離したので、二重底はパタンと元の場所に収まった。
教官「……君が大声を出すのは珍しいな。」
ベルトルト「申し訳ありません」
教官「いや、咎めたわけではないよ。窓口は私が代わろう。君は今までまとめた書類をキース教官に提出したまえ。」
ベルトルト「ハッ」
教官「それで本日の君の仕事は終了だ。報告が済んだら夕食に向かいなさい」
ベルトルト「ハッ、失礼します」
真っ赤になっているだろう顔を見られないように、急ぎ足で部屋を出る。
キース教官に会うまでには、普段通りにふるまえるようにならないと。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
何事もなく報告が済んでから向かった食堂には、もうほとんど人がいなかった。
当番をしていた訓練兵と、相当遅れて来た人くらい。
話し相手もいないのでさっさと食べてしまって、部屋に戻る。
ベルトルト(入浴も、早く済ませないとな)
今夜の約束を思い出した。ユミルを待たせてはいけない。
歩くたび、右手に持った箱がカタカタ鳴っている。二重底の下の首輪が揺れる音だ。
(そうだ、これ持っていかないといけないよね)
さっき鎮めたはずの妄想がまた噴き出してくる。首輪をつけた自分がユミルに犬のように扱われるのを想像して、
頑張って冷ました顔がまた赤面した。もう寮の部屋の前まで来てしまっている。
(誰もいませんように)
エレン「おっ、ベルトルトも今帰ったのか」
願いながらドアを開けるも、現実は無情だった。
ベルトルト「エ、エレン。アルミンは一緒じゃないんだね」
エレン「アルミンとライナーなら先に風呂に行ったぞ。俺は自主練してたから、ちょっと遅くなった」
ベルトルト「そうか、僕は当番で。エレンは今からお風呂?」
エレン「ああ。お前は?」
ベルトルト「僕もだよ」
喋りながら着替えやタオルを取り出して、最後に箱をベッドの上に置くとエレンが関心を示した。
エレン「ん、なんだ?それ」
ベルトルト「……ユミルからのおみやげ」
エレン「ユミル……?ああ、そっか。お前ら」
ベルトルト「うん、まあね……行こっか」
中身に興味を持たれる前に出てしまおう。
はぐらかされたのも気にせず、エレンもすぐについてきた。部屋にいたのが彼でまだよかったのかもしれないな。
エレン「ところでさ、ベルトルト」
ベルトルト「ん?」
エレン「なんでさっきからそんなに顔赤いんだ?プレゼントもらっただけにしちゃちょっと……」
ベルトルト「……な、慣れてないから、こういうの……」
エレン「ふーん」
体調悪かったら言えよ、とエレンが下から見上げてくる。
隠そうとうつむいても意味がない、自分の長身が少しだけ恨めしい。
この前も僕の顔色に言及したことといい、彼は意外に人の感情の機微に敏感なのかもしれない。そう感じた。
本日の投下はここまでです。
明日の深夜投下分で、やっとぬるいSM編できると思います。
投下再開です
今回割りと本気で気持ち悪いかもしれないので気をつけてください
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入浴後すぐ箱を持って空き教室に行くと、既にユミルは中で待っていた。よくわからない戸棚に背をもたれさせて立っている。
ここは倉庫として使われている割には埃っぽい感じがしない。普通の部屋より頻度は落ちるだろうけど、清掃が入っているのかな。
ベルトルト「待たせてごめんね」
ユミル「全くだよ……犬のくせしてご主人様を待たせるなんてな、生意気だ」
ユミルが怒ったふりをする。
ふりだっていうのは分かっているんだけど、やっぱり待たせてしまったのは申し訳なかった。
ベルトルト「……ごめんなさい」
ユミル「よし。素直なやつは好きだぞ、私」
頬をポフポフ、と軽くはたかれた。
これだけでも結構充足感はあるけど、今日これからすることはこんな可愛らしいことだけじゃないんだろう。
ユミル「ベルトルさんにな、もう一つプレゼントがあるんだ」
ユミルが後ろ手に持っていた物をかざした。
受け取ってみると、口の広い小瓶に入った何かだ。暗くてよくみえない。
カーテンを開けて入ってきた月明かりで読んだラベルには「蜂蜜」の文字があった。
ベルトルト「蜂蜜……よくサシャに狙われなかったね」
ユミル「けっこうな貴重品だからな。アイツも流石に空気読んだらしい」
甘いものが貴重な今、こんな小瓶でもかなり値が張るはずだ。なんでユミルはこんな高価なものを僕にくれるんだろう。
ベルトルト「そうか、だからサシャはあんなこと」
サシャの羨ましそうな姿を思い出す。
普段の固いパンにでさえ執着する彼女が、蜂蜜ときたらあんなふうになるのももっともだ。
ベルトルト「僕はお菓子が欲しいんだと思ってた」
ユミル「うん、そう思ってほしかったからな。入れておいたんだ」
どうせあの芋は口を滑らすからな、とユミルが悪戯っぽく笑った。策がうまくいったときの笑い方だ。
僕はまんまと彼女の仕掛けたミスリードにはまったらしい。
ベルトルト「箱が不自然に重かったのも、わざとだね」
ユミル「びっくりしただろ」
ベルトルト「うん……すごく。」
そこまで話して、ふとある可能性が思い当たる。
ベルトルト「ねえ、ユミル」
ユミル「なんだ?」
ベルトルト「サシャとクリスタって、これのこと知ってるの」
箱を開けて首輪を取り出す。もし知られていたら、明日から僕はまともに会話ができない。顔を見ることだって難しいかも、
ユミル「そんなわけないだろ……まだ社会的に死ぬ気も、殺す気もない」
最悪の可能性は即座に否定された。そうだ、僕達は訓練兵で、集団生活をしている。
社会的に死ぬような事態は極力避けたい。
ベルトルト「よかった……」
ユミル「私のことを何だと思ってたんだ……そうだ、ベルトルさん。着けてやるよ、それ」
それ、と首輪を指差したので、着けやすいように床に座った。
金具が外れて、首に革が巻きつく。
ユミルが真剣な顔で、径を少しずつ締めていく。
ユミル「苦しくないか」
ベルトルト「うん、平気」
小さな穴に金具を通して、余った端を輪になった部分で留める。これで装着は完了だ。
ユミル「やっぱり赤色にして正解だったな。よく似合ってる」
鎖を軽く引っ張りながら、ユミルはとても満足そうだ。
指先で首輪をなぞられると、存在感が増す気がした。
完全に彼女の犬になったんだ、と思うと嬉しさと恥ずかしさで体が熱くなる。
モジモジと手を動かしていると、蜂蜜の瓶を持ったままだったことに気づく。
首輪もこれも、ユミルのお金で買ったものだ。もちろん表向きのおみやげだって。
……全部与えられっぱなしというのはよくない。
ベルトルト「……ユミル、蜂蜜のお金払うよ。君にばっかり使わせちゃ駄目だ」
ユミル「今それ言うのかよ、無粋もいいとこだな」
ベルトルト「でも高かっただろ、蜂蜜も、これも。」
これ、と首輪に指をかけながら言ったら、頭を撫でられた。
ユミル「いいんだ。私が与えた、っていうのが重要なんだよ。こういうのは」
蜂蜜は私も食べるしな、と小さく呟く。
それは良かったけど、やっぱり金銭のことは甘えきれない。
ご主人様だから、そういうものなんだろうか。でも女の子にばかり負担をかけるのは。
ユミル「じゃあさ、今度一緒に出かけよう。その時に私に何か買うなりすればいい」
釈然としない様子の僕を見かねたのか、ユミルが提案してきた。
ベルトルト「……うん、そうしようか。楽しみだな」
思わぬところからデートの約束ができて嬉しい。
浮かれる僕を尻目に、ユミルはひょいっと動いて椅子を引いてくる。鎖が引っ張られて体が傾いた。
ユミル「お喋りも楽しいが時間が惜しい、そろそろ始めるか」
僕の手から蜂蜜を取りながら椅子に座ったユミルの目が、カードで遊んだあの時と同じ目をしていた。
獲物を捕らえた猫のような目。ゾクリと背中が粟立つ。
ユミル「まあそんなに心配するな……初めてだからな、優しくするよ」
ベルトルト「心配はしてないよ、君のこと信用してる」
僕達はこれから、ばれたら社会的に死ぬようなことをする。
それでも、もう胸を占めるのは不安より期待のほうが大きかった。
瓶についていた木のへらで蜂蜜をすくったユミルが、それを自分の人差し指に垂らしはじめる。
しなやかで形のいい指が、黄金色の蜂蜜に覆われていく。
たっぷり塗り終わったところで、その指は僕の前に差し出された。
ベルトルト「えっと」
ユミル「早く。垂れる」
ベルトルト「ん、」
その一言でするべきことが分かったので、指を口に含んだ。
まとわりつく蜂蜜を少しずつ舐めとっていく。粘度の高い蜂蜜は、意外にとれにくい。
ユミル「あんまり歯立てないようにな」
ベルトルト「ぅ、ん」
ユミル「もっと舌使って」
ベルトルト「、は」
鎖を引きながら指示される。
言われたように舌を積極的に動かすと、蜂蜜がさっきよりよくはがれた。
甘い衣がとれて、だんだんユミルの指が露出する。
(ユミルの味だ)
そう思ったらもっと味わいたくて、夢中になって舐めていた。口に残る蜂蜜の味がどんどん薄まっていく。
ユミル「ん……よし、いいぞ」
ベルトルト「あ……」
ちゅぷ、と音がして口から指が引き抜かれる。唾液でテラテラ光って、なんだかいやらしい。
ユミル「ハッ、そんな目するなよ。まだ終わりじゃない」
ベルトルト「……よかった」
失敗したわけじゃないと知って安心する。
今度は中指を加えた二本の指に蜂蜜を塗りつけたユミルが、手を差し出す。
今度は指が上を向いていたけど、躊躇わずに口に入れた。
ユミル「あんまり奥に入れるとえづくぞ、吐かれるのは勘弁だ」
ベルトルト「ふ、ぅ……っ」
苦しくなるギリギリまで入れて、舌を動かす。
たまにユミルが指先で舌や上顎を触ってくるのがくすぐったくて、声が漏れる。
根元にも蜂蜜が残っているのに気づいた。手のひらを包むように持って、指の又を舐める。
さっき舐めとれなかった側面の蜂蜜も取っていると、ユミルの肩がピクリと跳ねた。
右手に握られた鎖がジャラ、と鳴る。
ベルトルト「ん、ユミル」
ユミル「……なんだよ」
ベルトルト「横側、いっぱい舐めたほうがいい?」
ユミル「さぁな……好きにしろ」
そうは言っても、一度気になってしまうと自然と側面を舐める回数が増えていく。
再び指を口の中に含む。蜂蜜なんてどこにもついていなかったけど、もうそんなこと関係ない。
(ユミルは気持ちいいのかな、これ)
さっき少し反応していた様子からすると、全くなんともないわけではなさそうだけど。
僕が楽しいだけだったらどうしようか、と不安だったのでよかった。
(あ、指先ちょっと甘い)
まだ薄く甘味の残っている指先を吸ってみると、頭に手を置かれる。
ベルトルト「ふ?」
ユミル「そのまま吸ってろ」
ユミルの言うようにしていると、突然指を奥に動かされた。
そのまま往復させられて、ジュブジュブと音が立つ。
口の中を犯されているような気分になって、なんだかとても恥ずかしい。
ベルトルト「んっ、ぐ、ぅ」
ユミル「はは、上手いぞベルトルさん」
ちょっと苦しいけど、上目遣いに見上げたユミルが満足気に笑って僕を撫でるので気にならなくなる。
見下ろす彼女の目をみると、慈愛と嗜虐の入り交じった色をしている。
もっといじめてほしい。君の好きにしてほしい。そう思わせる色だった。
ベルトルト「、ぁ」
また指が引き抜かれる。唾液が口端からツゥ、と垂れた。
ユミルはまた蜂蜜を塗っている。指はまた一本に減るようだった。
ベルトルト「……指、減らすんだ」
ユミル「今からのは、こっちのが勝手がいいんだ」
「ほら、今度は舌動かさなくていい。なにもせずに咥えるだけだ」
差し出された指を口におさめる。
何もしなくていいって、どういうことだろう。
ちゃんと回らない頭で考えていると、ユミルが上顎を弄りだす。
撫でたり、軽く引っかいたり。くすぐたっい。指についた蜂蜜が塗りつけられていく。
そうされているうち、別の感覚が混ざるのを憶えた。
(あれ、なんか)
気持ちいいような、落ち着かないような。
僕は上顎を弄られて感じているのだろうか。否定したいけど、指が滑るたびに頭がぽぅっとする。思考が繋がらない。
ベルトルト「わっ」
首輪が引っ張られる。目を見開くと、ユミルが椅子を降りて目の前に座っている。
ベルトルト「ユミル?……んっ」
鎖を引かれて、顔が近づく。名前を呼び終わらないうちに口づけられる。
侵入してきた舌は、さっきのように上顎をくすぐりだす。
ベルトルト「ぅ、ふぁっ」
ユミル「……は、ぁ」
薄い舌に舐められて、声が出てしまう。
指にしたように舌を絡めると、ユミルも少し吐息をこぼした。
ユミル「……久しぶりに食べたな、蜂蜜なんて」
ひとしきり口内を舐めきって、唇が離れた。
息の上がったユミルが、僕の首筋を撫でながら言う。
さっき蜂蜜を口の中に塗りつけたのは、これが目的だったんだろう。
「私も食べる」って、こういうことだったのか。
ユミルは経験積むとかしなくても最初っからこれくらいやりそうだから怖い子だ
ユミル「……なあベルトルさん」
ベルトルト「……なに?」
ユミル「そろそろ限界じゃないか?……私も、アンタも」
お互いやっと息が整ってきたころ、そう問いかけられた。
ベルトルト「……うん……もう、我慢できない、かも」
羞恥に押し潰されそうになりながら答える。
ユミルはそのまま、僕の目を見据えていた。相変わらず首筋を撫でたまま。
本日の投下ここまでです。この後が上手く書けていないので練り直しです。
中途半端ですみません、明日深夜には投下できると思います。
感想レスなどいつもありがとうございます。
>>212
余裕のあるユミル様素敵ですよね。キース教官の「狡猾」評価に萌えています。
投下再開です。今日で一回話を締めるつもりです。
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ユミル「ズボン脱いで、そこ座っとけ」
最初にユミルがもたれていた戸棚に背を預けるようにして座った。
この間と同じように、首に手を回してユミルが腿の上に乗る。顔が近い。
今回は右足を跨ぐように座ったので、僕の脚の間に右膝が入っている。
ベルトルト(ほんとに限界なんだな、ユミルも)
露出した太腿に湿った感触を感じた。
僕の頭を抱えるようにして、眉間や唇に触れるだけのキスを繰り返すユミルは未だ一糸乱れぬ姿ではあったけど、
静かに息を荒げているのが伝わった。頬や目尻も僅かに赤く染まっている。
(僕で興奮してくれたんだ)
ずっと余裕に見えたのに、内心では彼女も高ぶっていたんだ。
自分がそうさせたんだと思ったら、奇妙な満足感があった。
ユミル「……ベルトルさん」
ベルトルト「え?……ぁ、ユミ、ルっ」
浸っているところに、不意打ちのように与えられた刺激に声が裏返りそうになる。
ユミルが右膝をグリグリと動かして、股関を弄っている。
ベルトルト「……ひぁ、な、何してっ」
ユミル「……限界だって言っただろ」
力加減をしてくれているから痛くはないけど、押したり擦ったりされる度に腰の奥が疼く。
ユミルも腰を揺らして、僕の太腿に股関を擦りつけていた。
彼女も快感を得ようとしていることに気づいて、とても淫らな行為をしているのだと再認識する。
ベルトルト「……ぅく、ん」
ユミル「……はぁ、可愛いなぁ、ベルトルさん」
円を描くように擦られて、抑えられずに声を漏らすと気を良くしたのか膝の動きが早まる。
押しつけたまま小刻みに震わせるように動かされると、おかしくなってしまいそうだった。
頭が蕩けたように何も考えられない。縋るようにユミルを抱きしめる。
ベルトルト「も、駄目だよ、ユミル 出ちゃ」
ユミル「我慢しなくていいからさ、出しちゃえよ……下着着たまま」
肩口に顔を埋めながら、うわごとのように呟いた言葉に優しく囁かれた。現実に引き戻されて背筋が凍る。
思わず顔を離してユミルを見ると、今日一番の嗜虐的な表情をしている。
微笑んでいるのに、声色も慈愛に溢れているのに。これは命令なんだ、とほとんど本能的に理解した。
隠しきれない加虐の喜びに高揚しているのがわかる。僕には一切、逃げ道がなかった。彼女の命令に従うことしか許されていない。
ベルトルト「っ、着替えが」
ユミル「いいじゃん、履いてない状態で帰れば」
ベルトルト「だって、人がいたら、んっ」
ユミル「どうせこんなことされて気持ちいい変態なんだから、今さら変わらないだろ。運が良ければばれずに済むしな」
それでもせめてもの抵抗を試みようとしたら、呆けている間は止められていた膝の動きが再開された。
鎖を引いて、強引に離れた体を密着させられる。
柔らかな胸を押しつけながらなじられて、いろんな感情がない交ぜになる。
目からは涙が流れるし、体は快感に反応するのを止めてくれない。
ベルトルト「お願いだ、離して、ユミル」
ユミル「――駄目だって言ってるだろ」
ベルトルト「うぁ、そんなことしたらっ……あっ」
みっともなく泣きながら縋りつく。
ユミルは懇願するように発した言葉をきっぱり否定した後、耳を甘噛みしながら舐める。
同時に膝で強めに擦り上げられて、呆気なく達してしまった。
僕を抱きしめる力が強くなったように感じたのは、彼女もそうだったからだろうか。
ユミル「ははっ……よくできたな、えらいぞ」
ベルトルト「うぅ……」
満足そうにユミルが僕を優しく撫でる。こんな時でも喜んでしまう自分の浅ましさが情けなかった。
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ベルトルト「……優しくするって言ったのに」
ユミル「そんなに拗ねるなって……気持ちよかったんだろ?」
ベルトルト「……そうだけど……」
しばらくそんな会話をしながら撫でられたりキスしたりしていたけど、濡れた下着が気持ち悪くなってきた。
一刻も早くこれを脱いでしまいたい。
ベルトルト「ユミル、下着脱いできていいかな」
ユミル「履かずに帰るのか?」
ベルトルト「もうそれしかないだろ……」
ユミル「……このまま待ってろ」
投げやりに答えるとユミルが僕の上から退いて、乱雑に置かれた備品の陰に消える。
ユミル「ほら」
戻ってきたユミルの手には、紙袋と水の入った手桶があった。
ベルトルト「え、なに?これ」
ユミル「替えの下着と、洗濯用の石鹸水だけど」
ベルトルト「えっ?」
理解が追いつかない。こんなに様々なものをポンポン取り出してみせるなんて、ユミルは魔法使いなんだろうか。
ユミル「私がこういうことしたかったんだからな、後始末まで用意は万全だ」
先に来ていたのは、これを準備して隠しておくためだったんだな。
つまり僕はこの前の休暇だけでなく、今もまたユミルの手のひらで転がされていたのか。
頭の切れる人だとは思ってたけど、ここまで用意周到だとは思ってなかった。
ユミル「言っただろ、社会的には殺さないって……早く着替えてこい」
ベルトルト「あ……」
行為を始める前に彼女が言っていたことだ。熱に浮かされてすっかり忘れていた。
手桶と紙袋を受け取って、物陰に行く。
ベルトルト「……君がしっかりしたご主人様でよかった」
ユミル「犬の後始末は飼い主の当然の責任だからな」
服装を整えて、汚した下着を洗いながら戸棚の前にいるユミルに話しかけると、何事もなかったようにそう答える。
ベルトルト「僕、君のそういうところ好きだな。素っ気なく見えて優しいところ」
ユミル「……私もベルトルさんの従順なところと、思慮深いところは好きだ。好きだから早く終わらせろ。消灯時間が来る」
ベルトルト「あはは……分かった」
最後は冗談めかしてユミルが言う。彼女なりの照れ隠しだ。
ユミル「出るぞ、忘れ物はないか」
ベルトルト「うん、いいよ」
ユミルに首輪を外してもらって、箱に入れる。
水は途中でトイレに流して、下着は濯いで自分の洗濯物と一緒に干してしまえばいいか。
洗濯の済んだ下着を紙袋に入れて、手桶を持って教室を出た。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
事の始末が済んだ後は、首輪の変わりに襟を持たれて歩く。
ユミル「首輪をつけて散歩するのも楽しいだろうけど、当面無理だろうな」
ベルトルト「そうだね……ちょっとしてみたいけど」
ユミル「ベルトルさん、順調に躾られてきたな」
ベルトルト「う……」
サラッと変態発言をしてしまったことを指摘されて、冷や汗が出る。
そうだ、散歩といえば。
ベルトルト「ユミル」
ユミル「うん?」
ベルトルト「今度出かけるの、楽しみにしててね。今日は最後まで君に与えられっぱなしだったから」
ユミル「……ああ、楽しみにしておいてやる。ベルトルさんの行動範囲って気になるしな」
ベルトルト「そんなに変わったところはないけど……頑張るよ」
街に一緒に行くのなんてライナーくらいだから、僕の行動範囲はそのままライナーの行動範囲なんだけど。
でもユミルとなら、なにか新たな楽しみが沢山ありそうな予感がした。ただ一緒にいるだけでこんなに幸せなんだから。
街では首輪なんて着けられないから、手を繋いで歩きたい。女子寮までもうすぐだし、今からお願いしてみようか。
終
毎日感想レスありがとうございます。ダラダラ書いてしまいそうなので、本筋は終了です。
最後のほうベルトルトが喘いでるだけの気持ちの悪い話ですみません。
明日以降もおまけのような感じで組み込めなかった話とかを投下するので、よかったら読んでやってください。
ダラダラ書いてくださってかまわないのよ?
初デート、初sex、同期にSMバレまで書いてくださって、かまわないのよ…?
感想ありがとうございます。おまけ編投下です。
日常パートとエロパートでいくつか書けなかったのがあるので、
これからちょっとずつ投下したいです。
アニ「幼馴染みがM野郎」
※ユミベル前提 同郷仲よし話
※同郷が幼馴染み、その他捏造設定
※104期も仲よし
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アニ(あー、眠い)
昨日の夜は散々だった。
なんでも昨日、休暇の晩にユミルとベルトルトが付き合いだしたとかで。
ミーナがそれをクリスタから聞きつけて、やたらとはしゃいでいた。
それを「明日は訓練だから寝な」ってやっと寝かせたのはいいんだけど、
あんまりはしゃぐもんだから私達と同室のミカサとハンナにも知れる結果になった。
ミカサのやつは興味ないかと思ってたけど、「後学のために」とか言って聞いていた。なんだそれ。
アニ(にしてもベルトルトとユミル、ねぇ。あのユミルの相手が、あいつに務まるのかな)
頭がまだ目覚めていない。ぼーっとしながら食堂に歩く。
それで、今は朝食の時間。
知ってる奴らと知らない奴らとがうまく合流したものだから、ユミルは災難だね。
クリスタ「うふふ、恋人かぁ……素敵だね、ユミル」
ミーナ「ねぇユミル、後でいっぱい話聞かせてね!」
ユミル「あーはいはい、気が向いたらな」
クリスタはユミルに恋人ができたのが嬉しいみたいだし、ミーナは普通の女の子ってものなんだろう。恋の話が大好きだし。
げんなりしたユミルは多分「気が向かないからなしだ」ってあしらう算段だろうけど、多分その策は失敗するよ。
ミーナの隣で話に参加することなく静かに食事をしていると、周りがよく見える。
サシャはなんかドヤ顔して、ベルトルトに絡んでいた。
サシャ「んふふ、やっぱりそうでしたか!なんだか私の勘が騒いだんですよ!昨日の昼間――」
ベルトルト「……ちょ、サシャ、声が大きいよ」
サシャ「ムグ……パンですね!ありがとうございます!」
そんな風にして、結果的にパンを半分巻き上げることに成功していた。おめでとう。
ベルトルトと同じ席だったライナーは笑ってたから、多分知ってるんだろう。
サシャが去ってからちょっと挙動不審だったのが変だけど。
ハンナとフランツは……まあいいや。
ミカサ「だからエレン、私達もそろそろ気持ちを」
エレン「なんであいつらの話からそうなるんだよ。……っていうかお前も恋の話とか興味あったんだな」
ミカサ「うん。人並みには」
アルミン「あれ、その話もうミカサまで知ってるんだ……大変だなぁ、あの二人」
あの三人組は相変わらずってところか。
アルミンは二人より早く、何か知ってたのかな。侮れないよ。
ジャン「くっそ、死に急ぎ野郎……もう告白だろあれ!うらやましい……」
マルコ「はいはい、早く朝食取りにいかないと」
コニー「……ふぁー」
ジャン達が珍しく遅く食堂に入ってきた。
真面目人間のマルコがいるのに遅れたってことは、ジャンかコニーが寝坊したな。
朝食を取りにくるときに近づいてきて、会話が聞こえる。
ジャン「……そういやマルコ、死に急ぎ野郎の言うあの二人って」
マルコ「……君には隠せないよね。考えてる通りの人だよ」
ジャン「そうか。……いや、あと一人がわからねぇ……まぁいいか」
マルコは何でか知ってるみたいだ。ジャン……こいつは視野が広い上に状況判断に長けるから、
すぐ「あと一人」とやらも見つけるだろうね。なんで一人断定済みかは知らないけど。
サシャ「コニー、おはようございます!」
コニー「おー……お前また人のパンもらったのか」
サシャ「このパン、ベルトルトにいただいたんです!」
サシャが両手に一個(かじりかけ)と半分のパンを持ってコニーに挨拶してる。食べながらじゃなかっただけましな方か。
この後、パンの入手経路からコニーにも知れるんだろう。
……あ、ほら。「昨日ベルトルトが――」まで言って、ユミルに怒られてる。
首根っこつかまれてるよ。叱られるいたずら猫みたいだね。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そんなことがあってから少し経った日のことだ。
四日前の休暇はミーナと街を歩いてて、途中でクリスタ達を見かけた。
クリスタ「ベルトルトは当番で、ユミルとお出かけできないの……私が代わるって言ったんだけど」
アニ「休暇なんてまた来るでしょ。今日はクリスタが楽しみなよ」
ミーナ「えへへ、アニってばさりげなく優しいね!……あいたっ」
サシャ「……む?クリスタ、そのユミルはどこですか?」
クリスタ「どこかにお買い物だよ。すぐ戻るって」
そんなことを話して別れた。今思えばあの「お買い物」がそうだったのか。
一旦ここまでです。再投下は0時ごろです。
>>240-243 初デートとか違うプレイとかは書くつもりでいます。
なんか同期の中でそういうの目撃しちゃう人はジャンみたいなイメージです。
投下再開です。このアニの話は今日でお終いです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アニ(ん、あいつら――)
夕食後、フラフラ外を散歩してたら木の陰にライナーとベルトルトがいた。
なにかひそひそ話してるけど、二人の距離がすごく近い。そんなんだからホモ疑惑がかかるんじゃないの。
ライナー「すまなかった――大切な――」
ベルトルト「いいよ、気にしないで――壊したわけじゃ――」
ライナーがしきりに謝っている。ベルトルトがちょっと恐縮するくらいに。
アニ(……なんか不穏な会話だな)
気になる。ちょっと立ち聞きしてみよう。近くの草むらに身を潜める。
ライナー「ユミルからの大切なプレゼントなんだろう、その……あの首輪は」
ベルトルト「うん、そうだけど……箱の角がちょっと潰れただけだからそんなに気にしないで」
アニ(は?首輪?)
恋人にそんなもの贈る?普通。
(……ああ、アクセサリーかな)
でも、あまりにもベルトルトのイメージじゃない。アクセサリーも、チョーカーも。
絶対似合わない。賭けてもいい。
人をよく見るユミルがそんなもの贈るだろうか。
ライナー「いや、でも見られたら困るだろう」
ベルトルト「うん、ライナーが箱につまづいて蹴っ飛ばして、飛び出たときはちょっと焦ったかな」
ライナー「あいつらに気づかれなくて助かったな」
見られたら困る、隠しておかなきゃいけない首輪? ……やっぱりなにか変なものじゃないの?
ライナー「……その、使っているのか?やっぱり」
ベルトルト「うん、四日前に初めて……犬になった実感がね」
ライナー「い、いい、言わなくていい!人が来ないとも限らないんだぞ!」
ベルトルト「あ、ごめんね……浮かれてたみたいだ」
「……あのさ」
ライナー「アニ!?」
黙っていられなくなってつい出ていってしまった。でもこんな会話されたら、仕方ないと思う。
アニ「……犬だの首輪だの……あんたら普通に付き合ってるんじゃなかったの?
なんでこんなとこで変態性癖告白してるの?」
ライナー「いや、アニ。これはだな」
ベルトルト「いいよライナー。アニ、どこから聞いてたの?」
アニ「ライナーが謝ってた所から。てっきり任務の話かと思ってさ」
ベルトルト「実際はこんな話だよ。……怒ってる?」
アニ「なんで」
ベルトルト「戦士らしくないって」
アニ「……いや。あんたのことだからなんとか折り合いつけたんでしょ」
ベルトルト「まあね。完璧ではないけど」
ライナー「それじゃ、お前はどうして」
アニ「心配だっただけだよ……幼馴染みが妙な趣味身につけて。
でも、お互い合意ならいいんじゃない。一方的にいじめられてるんじゃないんでしょ?」
ベルトルト「うん、合意の上だよ」
アニ「それならいいや。じゃあね」
ライナー「おい、アニ……」
アニ「心配しなくても喋ったりしないよ」
それだけ言って、立ち去った。
皆に秘密の関係でも、ライナーにだけは話してあるのがあいつらしいと思った。
私に言わなかったのは、女の私に一応気を使ったんだろう。こっちもあいつらしい。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アニ(……それにしても)
一体いつ、あんな性癖が芽生えたんだろう。寮に帰る道で疑問が生まれる。
小さい頃からよく遊んだけど、そんな素振りは見せなかった。
(……ああいうのって、幼少期の体験が結構関係あるんだっけ)
この前読んだ心理の本に、そんなことが書いてあったのを思い出す。
親に体罰で躾られた子供が、SだかMだかに転びやすいとか。
(でも、ベルトルトの両親って優しかったような……とても体罰なんてなかったんじゃないかな)
何回か会ったことがあるけど、すごく優しい人たちだった。本人も大人しくて、そんなに叱られるような子供じゃなかったし。
そう、でかいくせに大人しくて気弱だから、ちょっといじめられっ子で……
(……あ)
そうだ、いじめられっ子。近所の意地悪な奴らに絡まれて泣かされては、私やライナーが助けてやってた。それかな。
いつもある程度いじめられてからしか発見できなかったんだ。あいつら一緒にいたら最初から絡んでこなかったし。
私達がもうちょっと早く、泣かされる前に助けてやってれば、今ごろユミルとまともなお付き合いができてたんじゃないの?
(……あれ、私達のせい?)
幼少期に限らず、思い当たる節が沢山ある。
訓練兵になってから、泣き虫は治ったけど精神に余裕ができたのか私を子供扱いするもんだから何回か尻を蹴ったし。
わざとじゃないんだけど、ライナーの巻き添えにしちゃったこともある。
痛めつけた回数はそんなに多くないはずだけど……。
(……でもまあ、よく考えたら。お互い合意ってことは、ユミルもSってことでしょ)
需要と供給が、二人の間で成り立っている。それならなんの問題もないよね。よかったじゃないか。
もともとあった素養が、ユミルにされた何かで開花したのかもしれないし。
(今まで無駄なこと考えちゃったな)
本当に無駄な時間を過ごしたことにちょっとうんざりして顔を上げたら、ミーナが向こうで手を振っていた。
ミーナ「アニー!一緒にお風呂行こうよ!」
アニ「うん」
軽く手を上げて答える。
並んで部屋に戻りながらどうでもいいことを喋っていると、ベルトルトの性癖もどうでもいいことに思えた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アニ「……ねぇ、そういえばさ」
ベルトルト「何かな」
ある日たまたま備品の片付けを三人で命じられたときに、どうでもよかったんだけど気になったことを聞いてみた。
倉庫の中で誰もいないし、いい機会だろう。
アニ「やっぱり、「この豚野郎!」とか言われてるの?」
ベルトルト「豚じゃなくて犬だよ」
アニ「ああそう……そうだね、豚は首輪着けないもんね」
当然みたいな顔して答えられた。でも納得する。犬としての実感がどうとか言ってたしね。
ガシャン、と大きい音がしたから見たら、ライナーが対人格闘用の木剣が入った箱をぶちまけていた。
ベルトルト「わっ、どうしたのライナー?」
アニ「何やってんのあんた」
ライナー「……スルッと答えすぎだろう、ベルトルト」
ベルトルト「アニもライナーも知ってるからいいと思って。……他の人には言ってないよ」
ライナー「そういうことじゃなくてな……アニ、お前も順応早いな」
アニ「あんたこそ遅いんじゃないの。私より早く知ってたくせに。
……それより、それ早く拾わなきゃいけないよ。紛失したら大事だからね。」
普段は兄貴面してドッシリ構えてるくせに、ライナーが一番動揺してるのがなんだかおかしい。
アニ「私はベルトルトが犬なくらいで付き合い変えるつもりもないけど」
ライナー「それは、俺だってそうだぞ。お前達がどんな趣味を持っていようが」
ベルトルト「うん、僕もそのつもりだよ」
なんか改めて誓いあった、みたいな形になってしまってむずがゆいけど、
それでも私が兄弟みたいな感情をこいつらに感じているのは確かなことだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あちこち散らばった木剣を拾い集めると、昔三人で遊んだことを思い出した。
柄にもなく楽しくなって、ついいらないことを喋ってしまう。
アニ「私の弟みたいなものかもね、ベルは」
ベルトルト「ははは、その呼び方懐かしいね。……あれ、僕はアニを妹みたいに思ってたけど」
アニ「え、どう考えてもそっちが弟でしょ。どんだけ助けてやったと思ってるの」
ベルトルト「アニだって、迷子になって泣いてたときおんぶしてあげただろう」
ライナー「お前らは……二人とも俺の弟妹だ、それでいいだろ」
ベルトルト「……うん、そうだねライナー」
アニ「……ふん」
まあそれでいいか。兄貴面って言ったけど、やっぱりこうしてみるとライナーはお兄ちゃんみたいだ。
……絶対に本人には言ってやらないけど。
アニ「幼馴染みがM野郎」 終
今日の投下終了です。
明日深夜位にユミベルのデート編始めるくらいはしたいと思っています。
お互いにこっちが兄、こっちが姉、って思いあってる関係ってかわいいね。
エレンとミカサもそんな感じがするけど。
同郷組が仲良しでほっこりした。続きにも期待。
序盤もいいとこですが、デート話投下です。
ベルトルト「ユミルと出かける」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ベルトルト「…………」
異様に早く目が覚めてしまった。
空は明けはじめたばかりで、夜の気配がまだ残っている。同室の皆は当然まだ寝ていて、寝息だけが聞こえてくる。
(……どうしよう)
静かすぎる部屋にいると、悩みが増幅されるようだった。
なんの解決にもならないけど、布団の中でゴロゴロ寝返りをうつ。
なんであんな大口叩いちゃったんだろう。今度の休暇楽しみにしててね、なんて。
昨日の夜までは待ち遠しかったのに、寝つくころになって急に不安感に襲われた。
(楽しんでもらえなかったらどうしよう……愛想尽かされちゃうかな)
白けた顔のユミルがいやにリアルに浮かんできて、寒気がした。
彼女が懐の広い人だっていうのは、よく知ってるのに。
想像が悪い方にばかり広がっていく。
(……でも、手を繋いで出かけるのは楽しみだな)
あの後すぐに、出かける時は手を繋いで歩きたい、とねだってみたら「いいよ」とあっさり許可されて拍子抜けした。
てっきり嫌がられると思っていたから。
(手を繋いで街を歩く、なんて。デートみたいだ)
みたい、というかそうなんだろう。
デート、だなんて改めて言うと本当に恋人なんだなと思って照れる。お互い愛情表現はちょっと変わっているけど。
(……ユミルの手、か)
ユミルの手で撫でてもらうのが、僕はとても好きだ。優しく撫でてもらう度に満ち足りた気持ちになる。
そういえば、手を繋ぐのは初めてだ。
皆の前ではユミルがベタベタしたがらないし、僕も恥ずかしい。二人きりの時だって、手を繋ぐことはなかった。
それ以上のことだってしたのに、おかしな話かもしれない。
(とにかく、もうやるしかないんだよね……)
ユミルに与えられっぱなしにならないように、楽しんでもらう努力をしよう。
出かける約束したあの日だってそう決めたじゃないか。
考え込んでいる間に夜は明けていた。朝日が射し込んできて、皆モゾモゾ動き出している。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ベルトルト「おはよう、ライナー」
ライナーが完全に目覚めるのを見計らって、声をかけた。
エレンとアルミンも起きだしたようで、ゴソゴソ布団の音がする。
ライナー「うおっ、早いなベルトルト……寝てないのか?」
ベルトルト「いや、眠れたよ。すごく早く目が覚めただけ」
ライナー「初めてのデートだからな。緊張するのも分かる」
ベルトルト「……そうだね」
自分で言うのも照れるけど、他の人にデート、と言われると尚更照れくさい。
ライナー「予定はあるのか?」
ベルトルト「特に決めてない……何が良いのか分からなくなって。ユミルは僕の行動範囲に興味があるらしいけど」
ライナー「お前、珍しい動物みたいな扱いだな」
ベルトルト「あはは、何それ」
ライナーが変な喩えをするから、少し笑った。心なしか、緊張が取れた気がする。
ベルトルト「……ありがとう、ライナー」
ライナー「ああ、良かったな。……よく分からんが」
疑問符を浮かべるライナーをそのままにして、着替えることにした。
早めに朝食を食べてしまってユミルを待っていたい。
デートに行くのに、女の子を待たせるなんてよくないから。
投下ここまでです。ユミルに会ってすらいない……
明日はもう少し沢山投下したいです。
>>271
そういう関係かわいいですよね。二人の保護者兼被保護者のアルミンと、
絶対的にお兄さんなライナーの存在がそれぞれまた素敵だと思います。
投下再開
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ベルトルト「お願いします」
教官「……よし。定刻は厳守するように」
朝食の後、準備を整えてから兵舎の入口へ向かった。
外出届をチェックしてもらって、玄関を出たところの壁に背中を預ける。
(食堂にユミルいなかったな)
食事が終わるまで、姿を見かけなかった。僕達は相当早い時間に行ったし、当然かもしれない。
待ち合わせ前に出会ってしまっても気まずいから、よかったのかな。
(……会えなくて安心するなんて変なの)
玄関先で何人かの同期生を見送っていると、後ろで最近聞きなれた声がする。
「―――外出届です」
「――定刻は厳守するように――」
さっきまで会えないことに安心してたくせに、弾かれたように振り向いた。
ユミルがいる。
ベルトルト「ユミル、おはよう」
ユミル「おはようさん。早いな」
ベルトルト「この前は待たせちゃったから」
僕もだけど、ユミルもいつもと同じような服装をしていた。でも気にならない。
細身のパンツと、襟まわりの開いた鎖骨の見える服。この格好は、スラッとしたユミルにとても似合ってる。
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歩き出してからは、隣で揺れるユミルの手ばかり見てしまう。
ベルトルト「あの……手、繋いでもいいかな」
ユミル「まだだ、待て」
訓練所の門を出てすぐに切り出してみたら、犬に餌を待たせるように鼻先に手を出された。
ユミル「訓練所を離れて……街の入口につくまでお預けだ」
ユミルが周囲をチラチラ見る。僕も見渡してみたら、門の辺りには街に行く訓練兵がちらほらいる。
ベルトルト「そうか、ばれたくないって言ってたもんね」
ユミル「広める必要性がないだろ……ここじゃ、街中よりも誤魔化せないからな」
街中なら人波にまぎれることができるけど、まばらに訓練兵がいるだけのここでは無理だ。
大人しく「待て」が解かれるまで待とうと思う。ユミルの命令だから。
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市街地に入る頃には、辺りに人がどっと増えた。多くの市民に混じって、僕らのような訓練兵らしい姿も見える。
ユミル「ほら」
ベルトルト「え」
ユミル「手、繋ぐんだろ。いらないのか」
ベルトルト「……繋ぎたいです」
ユミル「ハハッ、時々敬語になるよな。なんでだよ」
街の入口に差し掛かったところで手を繋いでくれた。
暖かくて形のいい、きれいな手。僕の手に比べると随分小さく見えてかわいい。
ベルトルト「今日はいつもより人が多いね」
ユミル「はぐれてもベルトルさんでかいから、すぐ見つかりそうで便利だ」
ベルトルト「……でも、はぐれるのは嫌だな」
ここからでも、混雑した様子がわかる。
はぐれてしまうのが怖くて、思わず手を強く握ったら握り返してくれた。受け入れてもらえてる感じがして幸せだ。
ユミル「しっかし混んでる……広場の方で何かやってるのかもな」
ベルトルト「見に行く?」
ユミル「それもいいが、まずはベルトルさんの行動範囲だな。いつもはどんなとこ行くんだ?」
ベルトルト「ライナーと一緒だから、女の子の好きそうなところは行かないな……
本屋を見たり、日用品買ったり。市場もちょっとだけ見るかも」
ユミル「小ぢんまりしてるな」
ベルトルト「ご、ごめんね……」
僕は私物を増やすほうではないから、あんまり買い物を楽しんだことはないかもしれない。
精々本を買うくらいか。普段からもう少し、色々見ておけばよかった。
ユミル「昼はどうする?」
ベルトルト「あそこ、いつもライナーと行くお店でよかったら」
少し離れた看板を指さす。入団して少し経ったくらいの休暇にライナーと入ったお店だ。
入口近くで場所も分かりやすいし、値段も手頃で利用することが多かった。
ユミル「喫茶店か。味はいいのか?」
ベルトルト「うん。サンドイッチがね、ライナーがおいしいって――」
ユミル「……ベルトルさん」
ベルトルト「どうしたの?」
ユミル「その、ライナーライナー言うのは今日はなしだ。……私はあいつとデートしにきたわけじゃない」
ベルトルト「……うわぁ……ごめんね……」
悲しくなって俯く。つくづく自分が嫌になる。
ユミルと楽しく過ごそうって決めたのに、結局いつもみたいにライナー頼りなんて。
朝だってライナーに助けてもらってたし、こんなのじゃ駄目だ。
自分に意思がないのは自覚しているところだけど、今日くらいは。
ユミル「ああ、そんなにしょげるな。……私もクリスタからの受け売りなんだ」
ベルトルト「クリスタ?」
確かに僕にとってのライナーと同じくらい、ユミルはクリスタと一緒にいるけど。
励ますように、肩に手を置きながらユミルが続ける。
ユミル「昨日構いたおしてたらな、今日の予定を聞かれて。
私も今のベルトルさんみたいにクリスタクリスタ言ってたらしい。そしたら」
ユミル「……だと」
ベルトルト「クリスタがそんなことを……」
普段からユミルは彼女に軽く怒られてるけど、ここまではっきり言うタイプとは思ってなかった。
温和に見えて、結構気が強いんだろうか。
ユミル「私はあいつのお人好しをあんまり良く思わないが、これはもっともだと思った」
ベルトルト「……だね」
ユミル「だから、二人の時はベルトルさんだけ見といてやる」
少し見上げるようにして、まっすぐ顔を見ながらユミルが言った。
皆の前では照れてるけど、二人きりの時のユミルはこういうときでも目を反らさない。
ベルトルト「ユミル……僕もそうするよ、君だけ見てる」
ユミル「ん、よし」
彼女に応えようと精一杯目を見るようにして言ったら、喜んでくれたみたいだ。
手を伸ばして頭を撫でてくれようとしていたから、やりやすいように頭を下げる。
軽く何度か撫でた後、繋いでいる方の手をグッと引かれた。
ユミル「中の方行くか、ここでいつまでも話してても埒があかない」
ベルトルト「そうだね。折角君と出かけてるんだから」
忘れてた、ここはまだ街の入口だった。
ユミルと話すのは楽しいけど、中に入ってもお喋りはできるし。そろそろ行こうか。
本日投下分終了です。おまけだというのにちょっと長い話になりそうです。
デートが終わってもまだ書きたいネタがあるので、しばらく投下が続きますがよかったらお付き合いください。
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いつもの行動をなぞるように街を歩く。
ユミルが切らしているものがある、というので日用品を買った後、本屋へ向かっていた。
ベルトルト「荷物持つよ」
ユミル「軽いからいいぞ、別に」
ベルトルト「ううん、今日は僕が君になんでもする番だから……この前与えられっぱなしだったお返し」
ユミル「……そうだったな、じゃあ頼んだ」
空いている方の右手で紙袋を受けとる。中身は歯みがき粉や石鹸だから、本当に軽い。
あんまり振ったら飛んでいってしまいそうだ。
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もうすぐ本屋の看板が見えるよ、と言ったらユミルに質問をされた。
ユミル「ベルトルさんって、どんな本読むんだ」
ベルトルト「いろんなジャンルを読むけど……最近は動物記録の本を読んでるよ」
ユミル「なんだそれ」
ベルトルト「学者が書いたシリーズ物なんだけどね。野生のウサギを追いかけて生態を記録したりとか、
僕らの乗ってる馬がどのように品種改良されてきたか、とか」
ユミル「へぇ……面白いのか」
ベルトルト「小説仕立てにしてあるから堅苦しくないし、面白いよ。
図書室にあるけど途中までしか入ってないから、一巻から少しずつ買ってるんだ」
途中から買ってもよかったけど、読み返したい時に不便だから結局最初から買った。
ユミル「ベルトルさんがそこまでするなら、面白いんだろうな。よかったら今度貸してくれ」
ベルトルト「うん、是非。明日にでも渡すよ」
我ながら分かりやすいくらいに声が弾む。
ユミルと読んでる本を共有できるなんて、すごく素敵なことじゃないか。
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本屋の店内、目当ての棚の前であることが頭をよぎる。
ベルトルト「……ユミル、さっきの本。今日買って渡そうか?」
折角なら新品の方がいいだろう。それに、ユミルに何か買ってあげたい。
ユミル「じゃあ、一巻だけ貸してくれ。二巻は買ってもらうから」
ベルトルト「え、なんで?一巻も買うよ」
ユミル「……変な事を言うようだが」
ベルトルト「うん」
ユミル「読みグセが見たいんだ、ベルトルさんの」
ベルトルト「読みグセ?」
ユミル「癖がついてるページとか、あれば書き込みや汚れなんかも。人によって違うから面白いぞ」
ベルトルト「へえ……そんな楽しみ方もあるんだね。文章じゃなくて本そのものを読むのか」
ユミルは僕より一つだけ年上なはずだけど、こういう時はうんと大人びて見える。
同年代にはちょっといない感じ。そういうところも魅力的だ。
「じゃあ、一巻だけ貸すよ。僕のクセはそんなに面白くなさそうだけど……これ、買ってくるね」
「ああ、ありがとう。先行ってる」
二巻と、最新巻の五巻を持って会計に行く。その間、ユミルは店内を見ているようだった。
会計を済ませて、本屋を出る。本は日用品の紙袋にまとめて入れた。兵舎で分かれるときに自分の分だけもらおう。
ユミル「混んでたな、本屋も」
ベルトルト「人が多いからね……広場はもっと混んでるだろうね」
ユミル「だろうな。少し早いが、昼飯食べたら行くか」
ベルトルト「うん、そうしよう。この道を戻ってお店まで行こうか」
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街の入口近くの喫茶店に入って、昼食を食べている。
いつもの休暇と同じことなのに、目の前にいるのがライナーじゃなくてユミルだからか緊張する。
「…………」
ベルトルト(うう……気まずい……)
僕達はろくに会話もせずに黙々と食事をしていた。
黙っているのは得意だったのに今は気まずくて、サンドイッチの皿に目を落とす。
野菜の入ったのと、薄く焼いたオムレツの入ったものを頼んで、半分ずつ分けあって食べている。
彼女とこうして何かを共有できるのは嬉しい。本や食事、時間でも。
でも今は沢山のものを共有しているのに、途切れた会話が繋がらない。
サンドイッチが運ばれてきて、食べはじめてから変な沈黙ができてしまった。会話を始めるタイミングがつかめない。
ユミル「……美味いな、これ」
沈黙を破って、ユミルがポツリと口を開いた。
ベルトルト「あっ……よかった。好きじゃなかったかと思った……何も言わないから」
ユミル「何か言おうとは思ってたが、タイミングがつかめなかったんだ、あんまり真剣に食ってるから」
ベルトルト「え、そうだった?」
全く意識していなかった。気まずくて食事に集中していたのがそう映ったのか。
ユミル「ああ。いつもと違って、なんかガキっぽく見えた……一生懸命食ってたな。そんなに好きか?これ」
私のも一つやろうか、とオムレツの方をユミルが差し出してくる。
ベルトルト「いや、僕は……ううん、ありがとう。いただくよ」
遠慮しようと思ったけど、気持ちを無下にしてしまうのが嫌で受け取った。
ちょっとだけ楽しそうにするユミルの様子に、緊張がほぐれる。
さっきまでは味もわからないまま食べていたけど、ようやくちゃんと味わえた。卵がおいしい。
ベルトルト「君といると、なんだかよく子供扱いされる気がするよ」
この前の休暇、一緒に出かけられなくて落ち込んでいたときのことを思い出した。
あの時も、子供をあやすように説得されたっけ。
ユミル「不愉快か?」
ベルトルト「そんなことないよ。あまりされないし」
ユミル「違いないな。同期じゃ私か、ライナーぐらいだろ」
ベルトルト「そうだね」
アニもだけど、それは伏せておく。
ユミル「……好きなんだ、ベルトルさんを甘やかすの。最初に言ったはずだけどな」
ベルトルト「そうだった、ね。……いじめてからじゃなかったっけ」
後の一言は極力小さく、ユミルにしか聞こえないように囁いた。
ユミル「それがあれば最高だ。……けど、甘やかすのだけやってもそれなりに満足してる」
僕がいじめられるのを飛ばして、撫でられるだけでもそれなりに満足なのと同じだろうか。
大きな満足感や快感は無いけど、心が暖かくなるには十分というか。
ユミル「……さて、食べきったな。出るか。広場行くんだろ」
最後に水を一口飲んで、ユミルが席を立った。
皿はすっかり空になっている。おいしかったから、半分無意識で食べたのはもったいなかったな。
今日の投下終了です。あと一回か二回でデートは終わらせたいです。
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広場へ向かう道の途中、小物を売っている店があった。
髪留めやアクセサリーが沢山ある、女の子の好きそうなお店だ。
(あ、あれ……)
店先に置いてあった白い髪留めが目に留まる。小さな花のついた、可憐な作りのもの。
(ユミルに似合うんじゃないかな)
横顔を見ながら想像してみる。
いつもの臙脂色も好きだけど、白い花を着けたユミルはきっとすごく素敵な女の子だろう。
ベルトルト「あの、ユミル」
ユミル「どうしたよ」
繋いだ手を軽く引くと立ち止まってくれた。
ベルトルト「あのお店に入ってもいいかな」
ユミル「……別にいいけど、あんな可愛らしい店に用があるのか?」
怪訝そうなユミルの手をとって、髪留めの前まで連れて行く。
ベルトルト「これ、君に似合うと思って」
ユミル「乙女趣味だな。どこをどう見てそう思ったんだ」
ベルトルト「後ろ向いてくれるかな」
ユミル「おい、ベルトルさんっ」
ちょっと強引だけど、肩を軽く持ちながらユミルの体を回して、背中を向けてもらった。
臙脂色の髪留めの上から、白い髪留めを当ててみる。
やっぱりよく似合う。予想が当たって笑ったら、爪先を踵で軽く踏まれた。
ベルトルト「いたっ」
ユミル「何笑ってんだ」
ベルトルト「思った通り似合ってたから。すごく可愛いよ」
ユミル「……もういいだろ、行くぞ」
ベルトルト「これ買ってくるから、待っててくれるかな」
ユミル「は……」
ベルトルト「君に着けてほしいんだ、これ」
ユミル「私には到底似合わないと思うんだが――」
ベルトルト「大丈夫、可愛かったよ」
言い逃げするように会計に持っていく。あのままだとユミルはずっと遠慮しているだろうから。
こんな強引な行動ができるなんて、自分でもびっくりだ。
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ユミル「……買ってもらっておいてなんだが」
ベルトルト「うん?」
ユミル「いつ使えばいいんだ?これは」
ベルトルト「んー……訓練中はちょっと無理そうだよね、結構華奢な作りだし。今日みたいな休日に使うとか」
ユミル「休日ね……まあそんなとこか。訓練中に壊したとかつまらない事は御免だし」
手の中で髪留めを弄びながら呟かれた言葉に、気に入ってもらえたと思えて胸がいっぱいになる。
ベルトルト「……ねえ、今着けてみてくれないかな」
ユミル「……ここまで来たら仕方ないな、やってやるよ」
強引ついでにお願いしてみたら、しぶしぶだけど了承してもらえた。
そばにあったベンチに座って、髪留めを取り替える。
パチン、と留め金を外して、手で髪を整えて。いつもの髪留めは小物屋の袋に入れて、日用品の紙袋の中だ。
ユミル「……よし」
白い髪留めを着け終えて、横目で出来を確認するユミルが少し照れているように見えて顔が緩んだ。
ベルトルト「! っユミル、いひゃい」
ユミル「デ、デレデレしやがって……!」
顔をほんのり赤くしたユミルに、右の頬を引っ張られた。痛い。
ベルトルト「えへへ、だってユミル可愛いから……うぐっ」
ユミル「このまま引きちぎってやろうか」
ベルトルト「ひゃめてぇ……」
一回は離してもらえたものの、今度は左右に引っ張られる。やっぱり痛い。
ユミルは二人きりのときはあんまり照れないけど、照れ隠しはその分過激なのかもしれない。
ユミル「ほら立て、広場に行く」
ベルトルト「ほっぺたがジンジンする……」
ユミル「はいはい、撫でてやるから」
頬を離して一足先に立ったユミルに、猫みたいに襟を後ろから持たれて立ちあがる。
痛みが残ることを訴えたら、グシグシと乱暴にだけど撫でてくれた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ユミル「うわっ……」
ベルトルト「混んでるね……」
広場では、何かのお祭りをしているみたいだった。露店が出ていて、大道芸人も来ている。
人でごった返していて、歩くにも一苦労しそうだ。
ユミル「はぐれるなよ」
ベルトルト「!?」
ユミルが握った手を離したかと思ったら、指を組むようにして握りなおす。いわゆる恋人繋ぎ、というやつだ。これは。
ベルトルト「こ、ここ、これって、恋人のする」
ユミル「一応は恋人じゃないのか、私達」
ベルトルト「……そうだね、うん。そうだ」
ユミル「なんでこれが今更恥ずかしいんだよ……ベルトルさんの価値観がわからねえ」
ユミルが呆れたように言う通りだ。今日の早朝も考えたことだけど、これより恥ずかしい事なんて沢山しているのに。
(……ユミルの手が好きだからかな、こんなに照れくさいのは。
そういえば、彼女を好きになったきっかけも手だったな)
ユミル「どうした、黙りこんで。前見て歩かねえと転ぶぞ」
ベルトルト「ごめん……ん、冷たい」
深く握った手を見つめていたら注意されて、慌てて視線を前にやる。鼻に何か冷たいものが当たった。水飛沫だ。
ベルトルト「たまに水飛沫が飛んでくるね、なんだろ」
ユミル「あれからだろうな」
ユミルが広場の中央を指さす。
初夏になって暑さが出てきたからだろうか、真ん中に設置された噴水の出力が上げられているみたいだ。付近の路面がびしょ濡れになっている。
ユミル「打ち水か、この量じゃ噴水からじゃなくてわざわざ撒いてあるんだな」
ベルトルト「暑くなってきたからね。気をつけて歩かないと滑りそうだ」
昼を少し過ぎて、太陽はまだ高い位置にある。最近日射しが強くなってきた。
ユミル「暑くないのか、カーディガン着てて」
ベルトルト「夏用の薄いのだから平気だよ」
ユミル「そうか。カーディガン好きだよな、ベルトルさん」
ベルトルト「好きなのかな……」
ユミル「いつも着てるから好きだと思ってたけど、違うのか?」
ベルトルト「寒暖の調節に便利だし、着てるとなんとなく安心するけど」
ユミル「いつも着てる上に、そんだけ理由があれば好きなんだろ」
ベルトルト「そっか、好きなんだ……教えてくれてありがとう」
ユミル「プハッ、あんたは変わり者だな」
自分では今一分からなかったことを知れたのでお礼をしたら、ユミルが噴き出した。
ずっと笑っているので、相当ずれたことを言ったのかと心配になる。
ユミル「……そんなとぼけたこと言う奴には見えなかった……フフッ」
ベルトルト「変だったかな」
ユミル「いや、今日は色んな顔を知れて楽しいよ。好きな本とか、食い物とか。
今までお互い交流はあったのに、よく考えたら知らないことが多すぎた」
ベルトルト「……そうだね。僕ももっと、君のことが知りたい」
僕もユミルも、触れられたくない大きな秘密を抱えている。
けれど、それ以外だったら色々知りたいし、知ってもらいたい。そうしたらきっと、彼女と過ごすのがもっと楽しくなる。
今日の投下終了です。
あと1,2回の投下でエロパートと締めをやって、デートはお終いです。
デート中二人ともデレデレでキャラ崩壊すみません。
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露店を見ながら広場の外周をぐるりと回っていると、隅の方が騒がしくなった。
ユミル「うるせえな、なんだ一体」
ベルトルト「何か揉めているみたいだね」
ちょっと背伸びして、人混みの上から覗いてみる。
柄の悪そうな人達に、女の子が絡まれていた。隣にいる男の人は彼氏かな。
必死に守ろうとしているけど、分が悪そうだ。あのままじゃ殴られるんじゃないか。
ベルトルト「……チンピラに絡まれてる人がいる」
ユミル「ハッ、どうしようもない奴ってのはどこにでもいるな」
ベルトルト「どうしたら……あ、駐屯兵だ……」
薔薇を背負ったジャケットが見えた。お祭りは人が沢山来るから三兵団が合同で警備に当たっていて、
ここは駐屯兵団の担当区域だったらしい。すぐに来てくれて、ホッと胸を撫で下ろした。
ベルトルト「暴力沙汰になる前に来てくれてよかった」
ユミル「全くだ、訓練兵の身じゃ揉め事にホイホイ首突っ込む訳にもいかない」
もう少し規模の大きい催しだと僕達訓練兵も警備を手伝うことがあるけど、
そういった時以外で市民に対して力を振るうのはいけないことだと教えられた。
市民の税金で食べさせてもらっているんだから当然だろう。
今みたいな暴漢を制圧するにはいいらしいけど、それも他に兵士がいない場合の最後の手段らしいし。
ユミル「まだ喚いてるのか、意外と粘るな」
ベルトルト「しばらくかかるだろうね……嫌だな」
駐屯兵が来てからも、彼らは抵抗していた。解決したと思ったのに、性質が悪い。
絡まれていた人達は逃げられたようだけど、騒ぎは余計に大きくなっている。揉め事の横はあまり通りたくない。
ユミル「面倒事には遇わないに限るが……どうする、このまま進めばぶつかるぞ」
ベルトルト「……別の道から抜けようか、こっちに横道があるよ」
ユミル「、おい、ベルトルさん。そっちは……まあいいか」
裏路地に入る道を見つけて、そっちへ向かう。
後ろでユミルが何かを言いかけてやめてしまったのが気にかかった。
でも立ち止まっては迷惑だし、抜けてから聞こうと思って足を進めた。
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・
・
・
僕は今、後悔しかしていない。
ユミル「……本当に知らなかったんだな……」
ベルトルト「…………うん」
なんでさっき、ユミルの言うことを聞き流してしまったんだろう。
ベルトルト「ごめんね……まさかこんな所に出るなんて……」
僕らがいるのは、連れ込み宿や酒場、その他いかがわしい店が立ち並ぶいわゆる色街という所だった。
裏道へ入ってからはとにかくどこかへ抜けたくて、ろくに周りを見ずにどんどん歩いていたらこんな所に来てしまっていて。
ユミルに立ち止まらされて初めて気がついた時には、恥ずかしいし申し訳ないしで消えたくなった。
ユミル「知らなかったんだろ?宿なんか訓練兵でも来てる奴はいるし、そんなに落ち込むなよ……」
さっき「ベルトルさんも案外助平だな」なんてからかわれてちょっと涙目になったのを気にしているのか、ユミルが珍しく動揺している。
ベルトルト「……でも、女の子をこんな場所に連れてきちゃったなんて」
ユミル「来ちまったものは仕方ないだろ。私は気にしてないから、落ち込むのはやめろ」
ベルトルト「うん……ありがと……」
恋人繋ぎのままの手を引かれて、表の道を目指して歩く。
小さい頃も、よくこうして涙目で手を引かれて歩いたな。相手はアニやライナーで、手の繋ぎ方も涙目の理由も違ったけど。
ベルトルト「うわっ」
場違いな思い出に浸っていたら、いきなり止まったユミルにぶつかりかけた。
ベルトルト「どうしたの?道が分からないなら誰かに……」
ユミル「いや、ここを真っ直ぐ行けば出られる」
ベルトルト「そうなんだ、なら――」
ユミル「その前にさ、入ってみないか?ここ」
ベルトルト「ここっ、て。ユミル、このお店は」
僕達が立ち止まったのは、連れ込み宿の前だった。外装は普通の宿みたいに見えるけど、歴としたいかがわしい店だ。
ユミル「わかってるよ、ここが何するところかなんて。私とそういうことは、したくないか?」
ベルトルト「……えっと、あ、う……」
目を見ながらストレートに誘われて、何か言いたいけど、何も言えない。意味のない声が出るし、顔も熱くなる一方だ。
なんでユミルは髪留めで照れて、これは照れないんだろう。
ユミル「ベルトルさん。手、強く握りすぎだ。ちょっと痛い」
ベルトルト「あっ、ごめんね……。……っその……」
緊張して握り締めていた手を緩めた。やっと絞り出した言葉が震える。
ユミル「ん?」
ベルトルト「……したい、です……ユミルと……」
ユミル「うん、じゃあ入るか。緊張しながらお願いする時に敬語になりがちなんだな、ベルトルさんは」
ベルトルト「そうみたいだね……」
ユミルが笑いながら僕の背中を叩く。街の入口で手を繋ぐときに指摘されたことを思い返して苦笑いする。
ユミル「今日は何をするかな……また色々知らない顔が知れそうだ」
ベルトルト「あはは、お手柔らかに頼むよ……」
品定めするような鋭い目に、背中がゾクゾクした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
受付で手続きを済ませて、部屋の鍵を受け取った。中も一見普通の宿屋と変わらない作りに見えるけど、
「そういう目的」の場所だからだろうか、街の表側とは違う空気が溜まっているみたいに感じる。
ベルトルト「訓練兵も来てる、って言ってたよね……鉢合わせたらどうしよう」
ユミル「平気だろ、気まずいのはお互い様だ」
……それもそうか。わざわざ言い触らすのは自分達にもリスクが高いし、誰かが僕達と会ったとしてもやらないだろう。
曲がり角の多い廊下を歩いて、鍵と同じ番号の部屋についた。
室内には簡素なベッド、その横に三つ引きだしのあるチェストだけで、目立った特徴はない。すりガラスの扉の向こうは風呂場だろうか。
何をしていいか分からず、とりあえずベッドの足側の端に腰かけてみた。兵舎のものよりはフカフカしている。
ユミルは頭側に置いてあるチェストの中身を見ている。
ユミル「タオルにゴムと……やっぱり無いよな」
ベルトルト「どうしたの」
ユミル「いや、ちょっとな……これでいいか」
そう呟いてユミルがポケットから取り出したのは、大判のハンカチだった。
紺色の生地に山吹色の花が刺繍されている。四辺はレースみたいに波形になっていてかわいらしい。
ベルトルト「綺麗だね、それ」
ユミル「……まあな」
ハンカチを帯状に折り畳むユミルに声をかけると、なにか思うところがあるのか一拍置いて返された。
出来上がった帯を持って、僕の背後に回り込む。
ベルトルト「ん?うわっ……」
いきなり視界が塞がる。濃い色の布に覆われて何も見えない。
ユミル「白と迷ったが、紺色の方を持ってきといてよかったな」
ハンカチの端を結びながら、機嫌よく言っている。
小物の色で迷うなんて、女の子っぽくて可愛いなと思ったけど、そんな呑気なことを考えている場合じゃなかった。
ユミル「よし、できた」
目隠しをし終わったユミルが後ろ側から抱きつく。
ベルトルト「ユ、ユミルッ……?」
膝立ちになっているので、後頭部に胸が押し付けられる。
フニフニ柔らかい感触と一緒に、鼓動まで伝わりそうなくらいに密着されている。
ユミル「大丈夫だ、怖いことはしないから」
ベルトルト「……うん」
宥めるように優しく言われて、好きにされることにした。ほんの少しだけ、後ろに体重を預けてみる。
ユミル「首輪がなくても、ベルトルさんは従順だな。ほんとに犬っぽい」
ベルトルト「ユミルは猫っぽいね。見た目とか、奔放なところとか」
犬を撫でるようにして、ユミルが喉や額を撫でている。僕を落ち着かせて、目隠しに慣れるようにしているんだろうか。
感想などありがとうございます。今日の投下終了です。
デート編あと1,2回投下って言っておきながら少しだけ伸びてしまいそうです。
喉を撫でていた手がそのまま体を撫でながら下がっていって、カーディガンのボタンを外しはじめる。
一回腕を解かれて、カーディガンを脱いだ。
ユミルの体も離れて、シーツと編み地の擦れる音が聞こえる。目隠しをされて聴覚が敏感になっているみたいだ。
ベルトルト「畳んでくれてるんだ、ありがとう」
ユミル「聞こえるのか……やっぱり敏感になるんだな」
なんだか高揚した響きが感じとれた。彼女の意図はこれだったんだろうか。
ベルトリト「目隠しした意味って、そういうことだったの?」
また後ろから抱かれて、今度はシャツのボタンが外されていく。
全部外して、肩を露出させたところで一旦動きが止まった。
袖が殆どないくらい短いものだからか、インナーには触れないようだ。
ユミル「まあそれもあるし……次何されるか分からない、ってのがいいんじゃないか。ベルトルさんみたいなのには」
僕みたいなの、と揶揄されるように言われてドキリとした。
ベッド横の引きだしが空いて、中を探る音。また体が離れている。視界がゼロなので、一人ぼっちみたいで不安だ。
目当てのものはすぐ見つかったらしくて、ユミルが戻ってきた。
ベルトルト「……っ!」
抱かれて安心した次の瞬間、両手首が掴まれて後ろに回る。
「あ、」
シャツの余った袖で手首が縛られていく。
その上からさらにもう一度、何かで縛るようだ。端が手のひらに触れて、タオルだと分かった。
ベルトルト「二重に縛るなんて、結構きついね」
ユミル「途中で抜けたら萎えるだろ」
縛り終えたら、ゆるく抱き締められた。
ユミル「この間読んだ雑誌にな、変なところにある性感帯の話が載ってて」
ベルトルト「どんな雑誌読んでるんだい、君……」
ユミル「普通の女向け雑誌だよ。大きい記事は服だ雑貨だ華やかなもんだが、小さい記事は意外とえぐいぞ、ああいうの」
いきなり切り出された話に驚くと、更に知らない世界の話をされる。
そしてそれが今の僕達にどう関係してくるのか、うっすら理解した。
ベルトルト「もしかして、今から君は」
ユミル「うん、ベルトルさんを開発してやろうかと」
ベルトルト「……開発」
ユミル「素質はあると思うんだよな、上顎の時も反応よかったし」
相変わらず胸が後頭部に密着しているので、微かに笑った時の振動も話し声の響きも全部伝わる。
今のユミルはとても愉しそうだった。どうやって僕を弄ろうか考えてるんだろう。
ユミル「例えば、眉間とか、肩とか」
言われた場所を手が滑っていく。真っ暗な視界と相まって、まるで暗示をかけられているような気分になる。
ユミル「耳とか首筋……うなじもまあよくあるか」
ベルトルト「ひっ」
密着していた体が少しずれて、うなじに口づけられた。
いきなりの刺激に対応できない間にも、舐めたり噛んだりされている。
くすぐったいような感覚がだんだん変質してきて、体の奥がムズムズする。
ベルトルト「……は、」
しばらくして、唇が離れた。責めから解放されて息をつくけど、それも少しの間だけで、またうなじに口づけられる。
今度は動かず、一箇所をずっと吸っていた。チリッとした痛み。キスマークをつけられたらしい。
ユミル「……ん、きれいについた」
さっきまで吸っていたところを指先で撫でて、うっとりとユミルが呟く。
ユミル「この前はつけられなかったからな……ここならそう見られないだろ」
ベルトルト「……そうだね、僕のうなじ見る人はあまりいないよ」
ユミル「キスマークっていいよな。私のもの、って感じで」
姿勢は元に戻ったけど、ユミルの指はずっとそこを撫でていた。
ベルトルト「独占欲強いんだ、意外だな……拘らない方だと思ってた」
ユミル「好きなように生きたいから、欲しいものは手に入れることにしてるんだ」
「欲しいもの」だと言われて、体が熱くなった。
言葉一つで、手を繋ぐことも比じゃないくらい照れてしまっている。耳や首筋まで赤くなっているんだろう。
ベルトルト「……今、ユミルすごく熱烈な告白してるよ。気づいてる?」
ユミル「知ってる……次は眉間触るか」
うなじを撫でていた方の手で顎を持ち上げられて、上を向いた。
最初よりもっと胸がくっついて、少し早くなった鼓動がよく伝わる。
目隠しで顔は見えないけど、ユミルの顔も赤いんだろうか。
今日の投下お終いです。ここからちょっと投下量が落ちますが続けてはいきます。
文の書き方褒めていただいて嬉しいです、ありがとうございます。
ユミル「どうだ?」
ベルトルト「ん、ちょっとくすぐったい……」
顔を上にした姿勢を保ったまま、指の腹を使って細かく掻くような動きで眉間をくすぐられていた。
ベルトルト「うわ、今、ゾワッて」
ユミル「何回も擦られて敏感になってきたんだな、順調だよ」
ベルトルト「んっ」
擦られていた場所に口づけられて反応したのを境に、指での刺激から唇や舌を使ったものへ切り替えられる。
うなじと同じように、吸ったり舐めたりされる度にゾクゾクする感覚が走る。
唇で眉間を食むようにされる時が一番強くそれを感じた。
ユミル「これ、好きなのか?」
反応がいいのはユミルにも伝わっていたようで、からかうように言われる。
「……大分よくなってきたな」
しかしそれっきり唇は離れて、指での刺激も再開されない。どうしたんだろう。
ベルトルト「痛、った」
不思議に思っていたら、いきなり痛みが与えられる。速くて固いものがぶつかる痛さ。デコピンされたんだ。
刺激に敏感になっているからか、痛みが長く残っている。
ユミル「懐かしいだろ、この痛さも」
すぐさま口づけが降ってきた。痛むところをいたわるように舐め、食んでいる。
ベルトルト「君に告白した日だったね……うぁっ」
あの日、遊びの延長でしたはずの行為から発展して、眉間を触られて感じるようになるなんて。
快感から逃れるように少しだけ体を捩ってみたけど、それも大した抵抗にはならなかった。
目にはいつの間にか涙が滲んでいて、紺色のハンカチに染み込んでいく。
ユミル「いや、眉間でこんなにいい反応してくれるなんて思わなかった」
ベルトルト「自分でも思わなかったよ。……こんなとこで」
ユミル「知ってたら開発にならないだろ。……耳はなあ、この前触ったし……」
ユミルが急に黙りこむ。真っ暗な視界の中、息遣いだけが感じとれた。
耳をクニクニ触りながら、次はどこに触れるかを選んでいる。
ユミル「……」
首の近くに指先が触れた。インナーの襟に指を掛けて引っ張り、肌を露出させているみたいだ。
首筋に顔を埋めるようにして、肩の平らな所、鎖骨の上あたりを甘噛みされた。
軽く歯形がつくくらいの力加減だ。髪の毛がサラサラと首筋に当たってむずがゆい。
短いですが、今日の投下終了です。
ベルトルト「んっ……」
ユミルはしばらくずっと甘噛みを繰り返して、浅い歯形をつけていた。
噛む場所を変えるために頭を少し動かされる度に、首筋に髪が擦れる。くすぐったくて身動ぎした。
ユミル「なあ、もう少し強く噛んでもいいか?」
気分が昂ってきたのか、嗜虐的な色を隠そうともせずに聞いてくる。
ベルトルト「いいよ。大怪我するとか、命の危険がなければ君の好きにしてほしい」
ユミル「……死ぬのは怖いもんな」
ベルトルト「すごく怖いよ」
ユミルも僕と同じで、死ぬのが怖いのか。
好きなように生きたいと言っていたから、人生を満喫しきるまで死にたくないのかもしれない。
ユミル「……なんか湿っぽくしちまったな、噛むぞ」
ベルトルト「!……あっ、ぐ」
ユミルが寸前まで噛んでいた場所に歯を立てた。ぐぐっ、と徐々に食い込んでくる。
締めつけられるように段々力を込められて、痛みが強くなっていく。
甘噛みしていた時の力加減を忘れてしまったのかと思うくらいに強く噛まれて、悲鳴みたいな声が漏れる。
ベルトルト「……はぁっ……」
口が離れた後も、痛みはひかない。そこに痛みの素が埋まっているみたいだ。
ユミル「痛くしすぎたか?」
ベルトルト「……いや、まだ大丈夫。っ、痛かった、けど……平気」
気遣うように言いながら歯形に指を這わされて、乱れる息を整えながら答えた。
ユミル「そうか、ならもうちょっと噛んでもいいだろ」
ベルトルト「うん」
もう、僕が拒否しないのを知っている問いかけ方だった。
こういうのも一種の信頼関係なんだろうか。
また同じ場所に歯を立てて、力を込めてゆく。さっきよりも深く歯が入っていく感じがする。
繰り返されたら食いちぎられてしまうんじゃないか。
ユミル「……ふぅ」
口を離したユミルの吐息がかかった。歯形のつきかたを確認しているみたいに、指を這わせている。
噛まれた場所がジクジク痛んで、熱を持ちはじめていた。
ベルトルト「ひ、ぁ!ユミル、それ駄目だっ、」
いきなり歯形の溝を舐められる。
まだ痛むそこを舌先で抉るようにされるのが気持ちよくて、抑えたいのに声が出ていく。
ベルトルト「――っ」
ユミル「もっと声聞かせてよ、ベルトルさん。
……こんな所なんだから、声がしたって誰も気にしない。」
手が使えないから歯を噛んで声を抑えることにしたら、とっくに見抜いていたみたいに甘く囁いて頬擦りされた。
ベルトルト「……ふ……」
ユミル「これもしばらく消えないな、赤く痕になってる」
ユミルの顔が肩に戻る。手当てするように、優しく唇や舌が触れている。
食いちぎられてしまいそうなくらいに激しく噛んでいたのが嘘みたいだ。
内出血しているのか触れられただけでヒリつくけど、舌が触れる度に痛みを舐めとられているような感じさえした。
今日の投下終わりです。
こんなところでなんですが、明日は用事で投下できそうにないです。すみません。
明後日、土曜日深夜には投下再開できるのでよかったらまたお願いします。
ユミル「ほんとに、こんなことされても感じるんだな」
ベルトルト「!!」
上半身に触れていた手が脚の間に滑り込む。ゆるく勃ちあがったそこをやわやわと刺激されて息が詰まった。
舌はまだ肩の歯形を舐めている。
ユミル「触るとこ全部反応してたし……ベルトルさんやらしい」
ベルトルト「ひっ、う、ぅえっ」
手での刺激に、罵倒が加わった。口端を歪めながら発せられただろうそれにまで体が反応して、涙が溢れる。
ユミル「こっちもいいんだっけ?こんなにいろんなとこ性感帯で大変だなあ」
今度は優しい声色を作って、ユミルが嘲る。
片手で眉間や耳を触っていく。もう片方はまだ脚の間でうごめくまま、もどかしい刺激を与え続けていた。
ベルトルト「ふっ、ぐ!うぐっ……」
ユミル「ここも好きだったろ?……噛んだら怒るぞ」
乱暴に口に指を突っ込まれ、そのまま上顎を擦られる。奥のほうまで指が入って、くぐもった声しか出せない。
歯が当たりそうになって口を大きくあけると、それをいいことに指の動きが激しくなった。
ベルトルト「はぁ、あっ……ユミル、手、ほどいて」
ユミル「なんで」
ベルトルト「下、もう、脱ぎたい」
指が引き抜かれたのを機に懇願する。
体全体を弄られつづけて、すっかり勃ちあがってしまったそこが服の中で押し込められていた。
服を脱いでしまうために一回両手を開放してほしい。
ユミル「駄目」
ベルトルト「じゃあどうする、っん」
前にお願いしたときのように即座に断られる。会話しながらでもユミルは手を休めてくれない。
ユミル「私がやってやるから」
ベルトルト「~~~っ!?」
金具の擦れる音がした。ベルトを外して、本当に脱がそうとしている。
ベルトルト「自分でする、から!それはやめてくれっ」
ユミル「こら、暴れるな」
ガチャン、とベルトが床に落ちた。
肩の違うところを噛みながらユミルが服を脱がせていく。
情けないし恥ずかしいのに、嬉しいと思ってしまう。頭がぐちゃぐちゃしてよく分からない。
大量の涙で目隠しが濡れてひんやりする。
ベルトルト「……っく、ひう」
ユミル「……ベルトルさん、あんまり本気で泣かれると無理矢理してるみたいなんだけど」
ベルトルト「あっ、ごめんねっ、そういうのじゃなく、て」
ユミル「大丈夫なのか?マジで嫌ならやめるけど」
泣いたせいで不愉快にさせてしまって焦ると、ユミルの指が目隠しの上からまぶたにそっと触れる。
ベルトルト「大丈夫だけど、ごめん。自分でも、よく分からなくて」
ユミル「……」
ベルトルト「ユミル?」
ユミル「もうちょっと奥に座ってくれ」
ベッドの端ギリギリにいたのを、腰を浮かせて少し奥にずれた。
両手が体から離れて、頭の後ろでなにかしている。
目隠しが数回引っ張られて、最後には解けた。視界が急に明るくなる。急に開けた視界が眩しい。
明るさに慣れてきたころに、自分が今している姿を知覚して顔が赤らんだ。
今日の投下終了です。
明日は投下できるか怪しいです。待たせてばかりでごめんなさい。
昨日投下できずにごめんなさい、ラスト付近が書けずに詰まってました。
投下再開です。
明るいままの室内に水音がしている。
ユミル「あ、ん……っう」
いつのまにか下半身の衣服が下着だけになったユミルが、
上に跨り股間を僕のそれに擦り付けて、腰を振って喘いでいた。
ユミル「大人しい顔して、こっちは凶悪だよな」
太腿で圧迫されながら下着のツルツルした生地に擦りあげられる。
からかいながら先端を触られて、体がビクッと震えた。
ベルトルト「……そういうこと言うのは」
羞恥心を煽られて視線を落とすと、注意を引き戻そうとするかのように腰の動きが早まった。
布が押し込まれるたびにジュクッという音がして、粘液のジュプジュプ泡立つ感触が伝わる。
下着の表にまでそれが浸みて、滑りをよくしていた。
ベルトルト「はぁ、」
ユミル「ぷぁ……ベルトルさん、目トロンとしてきてる。可愛い」
舌を絡ますキスの後、目尻を染めたユミルが頭を撫でる。
グチャグチャだった頭の中と一緒に、目つきまで蕩けてしまったんだろうか。
また口付けて唇を軽く吸った後、フッと重みがなくなった。
ベルトルト「え、なんで降りて」
ユミル「……直接したいから」
ベルトルト「ちょくせつ?」
咄嗟に理解できず間の抜けた反応を返しているうちに、ユミルはベッド横の引き出しから避妊具を出してきている。
ユミル「まだ開拓地に行くわけにはいかないからな、じっとしてろよ」
ベルトルト「っ、流石に、それは」
ユミル「自分でやる、か?その状態で?」
手が使えないので脚を軽くばたつかせてみたら、膝の上にのしかかるようにして押さえ込まれる。
封を破って、着ける用意を進めていく。
ベルトルト「これ、解いてくれたら」
ユミル「それはしないって言った」
ベルトルト「う……」
直視したら恥ずかしさで死んでしまいそうで、固く目を瞑っておくことにした。
しばらくごそごそやっていたユミルが退いて、再び跨る。
押し当てられるそこの感触が、柔らかくなったように感じた。
ユミル「……もういいから、目開けろよ」
ベルトルト「ごめん……っ!?」
ユミル「動いていいか?」
答えを待たずに腰の動きが再開される。
ユミルの下着は取り払われて、ゴムの薄い膜越しに粘膜が触れ合う。
見た目の淫猥さも与えられる刺激も、さっきまでよりずっと強くなった。
ベルトルト「あ、挿入っちゃうよ、これ、こんな」
ユミル「ふぁ、ん……それはまだ……ベルトルさんのはじめて、もらってからだな」
擦れ合うそこを濡らす液の量も増えて、動く度にグチュグチュいっている。
滑りが増して、ユミルの胎内に入ってしまうんじゃないかと思うくらいだった。
ベルトルト「んっ、……ユミ、ル」
ユミル「あっ、ベルトルさん、すきっ」
縋るように名前を呼ぶと、ベッドについていた手を首に回してくる。
普段なら絶対聞けないような、甘ったるい声。
ベルトルト「くぅ、んっ、う」
ユミル「はぁ、ん……顔、見せて」
限界が近くなって顔をユミルの肩口に埋めるようにしたら、頭を掴まれて上を向かされた。
追い詰めるように激しく動かされて、水音の間隔が短くなる。
ユミル「、この前、見れなかったから……いっちゃう時の顔見たい」
ベルトルト「っ、そんなの……! あ、ひっ、うぁ、」
ユミル「ん、ビクビクってしてるな、あはっ、」
眉間を撫でられながら語りかけるように言われて、膜の中に出してしまう。
痙攣するように動くそこに一際強く押し当てるようにしたあと、
ユミルも達したらしく太腿がフルフル震えたのを虚ろな頭で感じた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ユミル「ベルトルさん。風呂あがったぞ」
ベルトルト「ん……」
ユミル「眠いのか?まだちょっと時間あるし、添い寝してやろうか」
ベルトルト「いやいいよ、僕寝相悪いから」
行為が終わって風呂を使った後、ベッドの上でユミルを待っていたら眠くなってしまって
ウトウトとうたた寝をしていたら風呂からあがったユミルに起こされる。
添い寝は嬉しいけど、彼女を蹴っ飛ばしてしまったら大変だから断った。
ユミル「寝相悪いのか。全然見えないけど」
ベルトルト「男子寮で言われてるよ。占いができるとかって……ユミル、その格好は?」
ユミルはいつもの服を着ていたけど、下はタオルをスカートのように巻いたままだった。
ユミル「洗った下着が乾くまではこれだろうな、誰かさんがグチャグチャにするから」
ベルトルト「……ごめんね」
光景が蘇って、思わず目を逸らす。
ユミル「いいよ、私も結構派手にやっちゃったしな」
ベルトルト「ああ、これだよね。うなじはいいとして、肩のはうまく隠せるかな」
まだ赤いままの歯形に触れる。何かの拍子で見られたときにうまく言い訳できるか不安だ。
風呂場はまとまって利用することが多いから、ばれた場合一気に広まるんじゃないか。
ベルトルト「お風呂の時間ずらそうかな……」
ユミル「絶対そっちのほうが怪しまれるだろ」
ベルトルト「……そうだね」
いつもの日常のような会話をしていると、熱に浮かされた頭では深く考えられなかったことが気になってきた。
肩に掛けたタオルで髪の水分を取っているユミルに聞いてみる。
ベルトルト「ところでユミル」
ユミル「ん?」
ベルトルト「さっき、してるときに「僕のはじめてもらってから」って言ってたけど。あれ、何のこと?」
ユミル「ああ、こっちのことだけど」
事も無げに手を伸ばして尻を撫でられた。薄々感づいてはいたけれど、ほとんど反射的に後ろに飛びのく。
ベルトルト「……つまりそれは」
ユミル「ベルトルさんの処女もらってから、私も」
ベルトルト「わ、分かった、もういいよ!言わなくていい!」
信じられなくて目を合わせると、平然ととんでもないことを言われそうになって慌てて遮る。
次こういうことをした時、何をされるのかが分かった気がして今から不安になった。
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ユミル「これ返すよ、面白かった」
あの日から一週間した朝食の時間、ユミルに貸していた本が返ってきた。
ベルトルト「好みに合ったんだ、よかったよ」
ユミル「うん、馬の話なんか特に」
ベルトルト「僕も好きだな。やっぱり身近だからか、よく分かる気がするよね」
ユミル「ああ、そこの辺りよく開いた感じだったな」
ベルトルト「……読みグセってやつだね。この間言ってた」
ユミル「うん、それが目立つだけであとはキレイなもんだけどな。ベルトルトっぽい」
ベルトルト「そうだね、僕のはあんまり面白くないと思うよ。……何で今「ベルトルト」って」
ユミル「気まぐれだよ、たまには本名で呼んでみようかなと思っただけだ。ここんとこ「ベルトルさん」って呼びすぎたし」
確かにあの日は、僕だけを見ててくれると言ったとおりに沢山名前を呼ばれたけど。
急に呼び方を変えられたのは、なにか嫌われることをしてしまったんだろうか。
ベルトルト「ベルトルさん、って呼ぶの嫌になった?」
ユミル「いや、そういうわけじゃない。本当に気まぐれなんだ」
ベルトルト「じゃあ、ベルトルさんって呼んでほしい。好きなんだ、君にそう呼ばれるの……君の特別になれた感じがして」
ユミル「……朝から恥ずかしいやつだな、ベルトルさんは。すぐへこむし」
ベルトルト「あはは、ごめん……でも、本当のことだよ」
頭を人差し指で小突かれる。そういえば、あの日もこうして「ベルトルさん」と声を掛けられたのが始まりだった。
普通ならすぐに忘れてしまうような些細な事故から始まった関係だけど、僕らは普通じゃなかったからここまで発展した。
時間の許す限り、できるだけ長くこのままでいたいと思う。
終
寝ちゃったんかなぁ
乙
この話で終わりです。
寝相悪いベルトルトとか、急な「ベルトルト」呼びとか48話要素を急に入れたくなってこんな締め方になりました。
長いことお付き合いありがとうございます、感想レスが活力でした。
>>390 ごめんなさい、お茶飲んでました。
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