綾「私と、付き合って」 (8)
綾「す、好きなの……」
蚊の鳴くようなか細い声。
放課後の、私と陽子しかいないこのひっそりとした教室で、だけど雨の音に紛れてしまったんじゃないかと思うほどに。
ううん、そうだったらどんなに良いだろう。
一度口にした言葉は戻らない。
覚悟を決めたはずなのに、私はすでに後悔の念に囚われそうだった。
陽子「綾……?」
綾「陽子」
それでも、もう後になんて引けない。
私は陽子の顔を見ることもできずに、ただ、震える声で、言った。
綾「私と、付き合って」
陽子「綾、それってさ」
どれだけの時間が経ったかなんて分からない。
私の中ではとてつもなく長く、実際にはきっとほんのわずかな時間が流れた頃、
陽子の声がした。
いつもの陽子の声より、少しだけ上擦っているようだった。
陽子「それって、私を、その、そういう意味で、好きってこと?」
言葉を選ぶように、陽子は私に訊ねた。
そういう答えが返ってくるのは予想していたけれど、やっぱり少しだけ、辛い。
私は、「そう」と頷いた。
陽子は「そっか」と、それだけ言うと。
陽子「あのさ、綾」
綾「な、なに!」
陽子「もうちょっとあとで、決めていい?」
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