一方「だが上条、オマエには……『一方通行』と呼んでほしい」 (232)

※一方さんは百合子(IF女子設定)
※上条さん×百合子(予定)
※通行止め(家族)
※御坂遺伝子&一方通行
※ミサカネットワークネタ

前スレ
上条「なぁ。教えてくれよ。名前」一方「……忘れたっつってンだろ」
上条「なぁ。教えてくれよ。名前」一方「……忘れたっつってンだろ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1317996143/)

前々スレ
打ち止め「あなたはヒーローさんが好きなんでしょって(ry」一方「はァ?」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1377864369

ローカルルール的には問題なかったはずなんですけど、
何故だか過去ログ化されていたので立て直しました

前スレに書き込んでくださった方ごめんなさい
自分で保存しておきます

※このスレ的登場人物紹介※


【一方通行】
打ち止めや『妹達』を守るため、上条と一緒に戦う約束をした。
男とか女とか全然気にしてないが、上条には女だと知られたくないと気付く。
何でかは全然わからないのですごく戸惑っている。

【上条当麻】
一方通行が一人で戦うのが嫌なので、一緒に戦えて嬉しい。
インデックスが大事で、打ち止めへの一方通行の想いに共感している。
一方通行が女であることは普段そんなに気にしてないけど、たまにものすごく意識して超焦る。
でも本人が隠したがってるっぽいので、女だって知ってることは言わないつもり。

【打ち止め】
一方通行の小さな光。打ち止めマジ聖母。
だんだん上条に気を許していく一方通行を見て、やっぱり私の目は間違ってなかったと得意げ。
でも最近あんまり一方通行に会えなくて寂しい。

【インデックス】
上条さんの大事な子。インデックスたんマジシスター。
一方通行や打ち止め、10032号と仲が良い。
将来はイギリスで女王陛下の役に立ちたい。上条が一緒に来る約束をしてくれて幸せ。

【10032号】
御坂妹。上条さんのことが大好き。
でも最近は一方通行や打ち止めやインデックスやみんないる方が楽しい。
番外個体とは仲が悪い。

【19090号】
天然。残念なミサカ。一方通行にかなり過保護にされている。
一方通行のことはちょっと怖いけど、いざというときはすごく頼りにする。

【番外個体】
最近一方通行が全然家に寄りつかないのでちょっと憮然としてる。
でもたまに「飯とかちゃんと食ってんのか」とかメール来るので、それには「うるさいバカ」とか返す。

【御坂美琴】
最近一方通行に再会して、今は怖くなくなった。持ち前の健全さでごく普通に接している。
しかし上条のことを巡っては「絶対負けないんだから!」とひとりで意気込んでいる。

【垣根帝督】
脳味噌プカプカ状態から肉体を再生され復活。
美琴と一方通行を殺そうとするが、ぶん殴られて毒気が抜けた。
最近は同じ年の奴らと一緒に話したりするのが楽しい。打ち止めと「一方通行と上条を守る」と約束した。

【黄泉川&芳川】
一方通行の家族。お母さんでありお姉さん。

【土御門元春】
グループのリーダー的存在。土御門さんマジクール。
最近すげー魔術師が侵入して来るので内心イライラしている。

【結標淡希】
一方通行のJK仲間。
学園都市の平和を守るのが自分のためでもあるので、元グループメンバーと協力している。

【海原(偽)】
エツァリ。出番ないけど色々頑張ってる。

【前スレまでのあらすじ】

・打ち止めはある日「あの人にふさわしいのは上条当麻!」とピコーンした
・上条と偶然再会し、打ち止めとかの尽力もあってなんか仲良くなってきた
・その流れで10032号と一方通行も和解した
・ミサカネットワークでは毎日楽しい祭りが開催されている

・インデックスと一方通行はチェス仲間になり、結構気が合うことが判明
・ある日インデックスが魔術師に襲われ、居合わせた一方通行が守るけどケガをさせてしまう
・守れなかったことと上条に何か言われることが怖くて逃亡するけど、結局捕まってぎゅっとされる

・それ以来単発で魔術師の襲撃が続く
・一方通行が上条の家に寄りつかなくなり、心配した上条が「俺を頼れ」と言うが一方通行は完全拒否
・諦めない上条がくじけず追い掛け回し、体調崩してピンチのところを助ける
・一方通行は初潮だったが、上条はそれを知らないフリ
・というか基本的に皆一方通行が女だと気付いている、もしくは知っている
・他の誰に知られても気にしない(というかそもそも隠していない)が上条には何となく絶対知られたくない

・昔、一方通行と木原はしばらく一緒に過ごしていた
・ある日それを夢に見て、上条にうっかり話す
・一人で何ともならない事態もあることに気付き、一方通行は上条と共同戦線を張ることにした

・土御門を初めとする元グループは、魔術師の襲撃の裏を探ろうと動いているが進捗状況はあんまり

・結標と買い物をしている途中で打ち止めや10032号と合流したところに、美琴と再会する
・美琴は激怒するが、一方通行は逃げる
・打ち止めは美琴を足止めして逃げるが、結局美琴と10032号に追いつかれる
・美琴が自分を殺しに来たと思っていた一方通行はそれを否定されて戸惑う
・急に19090号がピンチに陥り、一方通行が飛んで行って助ける姿を見て美琴は大混乱する
・だが美琴は、以前に上条が言っていた「あいつは変わったよ」という言葉を思い出し、一方通行のことを見守ることにした

・10032号とも一方通行のことについて色々話し、吹っ切れかけていたところに美琴と垣根が遭遇
・復活した垣根と美琴の戦闘→途中で一方通行が乱入
・一方通行は垣根をプラズマで焼き尽くそうとするが、美琴が庇う
・逆切れした垣根に一方通行も美琴も殺されかけるが、上条が現れて一件落着

・垣根はもう一方通行を狙う理由がないのでしばらく病院でぼんやり
・打ち止めとか19090号と話して、一方通行と上条を守る約束をする

・上条の寮を魔術師が襲撃
・一方通行が駆けつけて事なきを得る
・一方通行は将来打ち止め達のために研究者になると聞き、上条は将来インデックスとイギリスに行く約束をする

そんなこんなで3スレ目です
(正確には3スレ目ver.2だけど)
このスレで完結すると思う
もうちょっとなので、お付き合いいただけると嬉しいです

良かったー。
急に落ちたからビビッタヨ

俺も投下しようとしたら何故かなかったのですげービビりました
立て直したけど良かったのかなー

まぁいいや、投下します














PM 1:20 ミサカネットワーク内


1.【勝ち組】セロリたんの隠れ家見つけたから今からprprしに行く(32)

2. 今日の上条363(821)

3.【求む戦友】オレらVS白シスターpart8【チェス楽しい】(178)

4.【イケメンと一緒】垣根とキャッチボール2(30)



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【勝ち組】セロリたんの隠れ家見つけたから今からprprしに行く(382)



1 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

 ヤッター学園都市に来れたよ~\(^o^)/

 待ってろよセロリたぁああああああああんんんんん!!!!


2 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10100

 !?

3 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14776

 >>1
 >>1
 >>1

 >>1

4 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

 どういうこと?>>1
 20000号が今いるのパリじゃなかったっけ
 元々ロシアだったけど転籍になったとか言ってたよね?

5 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13557

 だな>>4
 どうでもいいけどパリって優雅過ぎて変態に似合わな過ぎワロタ

6 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17812

 バーカ
 フランスこそ変態の国だぞ、むしろあれにピッタリだろ
 とイギリス在住のミサカが補足します


7 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13224

 何アピールだよwww>>6

 つかどうやって来た変態wwww

8 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka16547

 つか何しに来たwwwww

9 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14510

 バカか!!!!!!!!!
 ナニしに来たに決まってんだろアホか!!!!
 うわぁあああ一方通行さぁああああん!!!!!!!

 運営ぃいいいい!!!!

10 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

 あっやめろよ運営は反則だろ?>>9
 せめてあと1時間待ってくれれば終わるから冷静になれよ

11 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14510

 なれるかぁあああああ終わるって何がぁああああ!?!?
 お前のその冷静なテンションが怖いわ!!!
 どこまでやらかす気だよ!!!!!!!

12 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

 いやーもうすぐ生セロリたんprprできるのかと思うと……

 ふぅ……

13 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12477

 賢者タイム乙wwwwww早漏wwwww

14 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

 下品だぞ>>13

 しかし一方通行のことよく見付けられたな
 最近スネークでも捕捉出来ねーのに

15 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

 はッ、このミサカのことを舐めて貰っちゃ困るな!
 一体俺を誰だと思ってるんだ?

16 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12334

 変態

17 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14628

 変態

18 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10465

 変態

19 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

 変態じゃないよ!
 仮に変態だとしても変態と言う名の紳士ミサカだよデュフフフ

20 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10147

 その笑い方やめろwwwww


21 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17444

 紳士ミサカって何だ変態wwwwww

22 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka16547

 よう変態紳士>>19

23 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13544

 そんで結局変態はどうやって白モヤシ見つけたん?

24 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

 ふっ このミサカくらいになるとな
 セロリたんの方からprprされに来るわけよ

 ああああ待っててねセロリたぁああああん今すぐ行くよぉおおお

25 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889



 ……つまりは偶然見かけたってことでFA?




26 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000



 運命だと思いました\(^o^)/>>25



27 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14879

 wwwwwwwwwwww

28 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka11345

 ワロタwww

29 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14510

 笑えねぇえええよ!!!!
 ひとっつも笑えねぇえええええよ!!!!!

30 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14315

 ある意味すげぇwwww


31 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka11346

 まぁどうせ運営にあぼんされんだから、せいぜい余生を楽しめよwww

32 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17658

 それ言っちゃこのスレ終わりだろwwww>>31

33 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14510


 だ……だよな……>>31-32

 ざまぁああああああああああああああm9(^Д^)



34 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka18554

 春厨さっきから必死すぎwwwwwwwwwww

35 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14510

 必死にもなるわ!!
 必死にもなるわ!!!!!

36 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka11224

 だから落ち着けって
 運営がこんなん見逃すワケないじゃん

37 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12255

 だよなー>>36
 
 20000号……
 思えば本当に変態なヤツだった……

38 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10335

 ご冥福をお祈りいたしますwwwwwwww

39 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889



 つか俺嫌なこと思い出したんだけど……





 今日運営調整日じゃね


40 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14510



41 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14776



42 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17812



43 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000




 勝った!!!!!!!!!!!!!









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 ごく普通の住宅街の、ありふれたマンションの廊下。

 上条はインデックスを伴い、慣れぬ場所をきょろきょろ見渡しながら歩いていた。

「そろそろ一時間経ったし、行ってもいいんだよな?」

「いいんじゃない?ダメなら連絡くれてるんだよ」

「そだな、えーと何号室だっけ……」

「303。ところでとうま、何であくせられーたは先に行っちゃったのかな?」

「ちゃんと言ってただろ?っつってもお前メシに夢中で聞いてなかったか……」

 腹が減ったと騒ぐインデックスのために、ファミレスに立ち寄っての移動だった。
 さっさと食べ終わった一方通行が「先に行って確認するから一時間後に来い」と告げて立ち去ったのが、一時間前。

 その時一番小さいクセに一番食べる少女は、ハンバーグを口一杯に頬張るのに夢中だった。

「しょ、しょうがないでしょ、お腹減ってたんだもん!!」

 年頃の女の子としてさすがに恥ずかしかったのか、インデックスは頬を染めて拗ねたように目を逸らす。

 上条は「はいはい」と頭を軽く叩いた。

「最近使ってなかったから部屋に異常ないか確認したいってさ」

「異常って?」

「盗聴器とか監視カメラとかじゃねーの。アイツなら簡単に見つけられるけど、
 俺達が一緒に行って映ったりしたら困るってことっしょ」

「ふーん」

 こくこくと相槌を打ちながらも、あからさまに頭の上に「?」が沢山並んでいる。
 上条は浅く溜息をついた。

「わかってねぇだろお前……」

「とうまがわかってるんなら問題ないかも!」

「お前はホントに機械弱いな」

 薄い胸を得意げに張るので、思わず吹き出してしまう。

「うー、いいもん!ねぇ早く行こ、とうま!あくせられーたが待ってるよ」

 拗ねたようなインデックスに「はいはい」と相槌を打つと、「ムッ」と大げさなほど眉を寄せられる。
 本当に表情豊かだ。見ていて飽きない。


「そんなよゆうぶっちゃって。わかってるのとうま?これからあくせられーたと一緒に暮らすんだよ?」

「…………」

 ニヤリと笑われた途端、ぶわっと冷や汗が吹き出す。
 それを見て、インデックスは「してやったり」とばかりにニヤニヤした。

「とうま冷や汗すごい」

(うぅ、インデックスのヤツ、考えないようにしてたのに……!)

 思わず廊下に立ち止まり、頭を抱え込んでしまう。

 一方通行と一緒に暮らす。
 一方通行と一緒にご飯を食べ、一緒の部屋で過ごし、一緒の風呂に入り、一緒の屋根の下で眠る。

 何だそれ、やばい。

 何がやばいってすべてがやばい。

 少しでも想像しようとすると、心臓が変な風な勢いで高鳴っていく。

「とうまはさー、そろそろちゃんと考えた方がいいんだよ」

 冷や汗の止まらぬ上条を見て、インデックスは今度は呆れたような優しい顔で微笑む。
 年の離れた姉が、小さい弟でも慰めるような調子だった。

 普段は保護者のつもりでいるのに、時々こうして、この小さな子にすべて守られているような気持ちになる。
 これを例えば、安堵とも安らぎとも言うのだろう。

「……垣根さんにもおんなじこと言われた」

「あらら。私としたことが二番煎じかも」

 鈴を転がすように楽しげに笑う。

「私だけじゃなくて他の人にも言われるんだったら、その意味を考えてみたらどうかな?」

「意味を考える?ってどういういことだ?」



「…………」

 そう、ってどういうことだろう?

 考えたことが顔に出たのか、インデックスは柔らかく苦笑した。
 何もかもわかっているような表情で、ゆっくり首を傾げる。

「ねぇとうま。とうまはこの世で誰かひとりだけしか手を掴んで助けられないとしたら、誰を助ける?」

 唐突な質問だった。
 上条は頭を抱えていた手を離し、隣の大事な少女を見下ろす。

 きれいな碧眼が、まっすぐにこちらを見上げていた。

「お前に決まってるだろ、インデックス」

 迷わずに答えれば、目の前の大事な少女は嬉しげで、少し心配そうな顔をした。

「あくせられーたは?」

 いつも賑やかな弾む声が、今はひどく静かだ。
 どうして急に一方通行の話になったのかわからず、上条はマジマジと大きな目を眺める。

「一方通行は打ち止めを助けるだろ」

 考えるまでもない、と不思議に思う。
 するとインデックスは、仕方ないなぁとでも言いたげに苦笑した。

「だから、そうじゃなくて。その手で私を助けたら、あくせられーたは一緒には居られないよ。
 それでもいいの?」

「何言ってるんだよインデックス。んなことねぇだろ」

 納得いかずに軽く眉を顰めれば、苦笑いがすっと静まって、ただ透明な眼差しが光る。

「そんなことあるよ。人はひとつのものしか掴めない。
 何かを掴めば、他のものは捨てなきゃいけない。私の手を取るのなら……」

 急に碧眼が揺らいで、囁くようであっても明晰だった声がくぐもる。

 この優しい少女が何を気にしているのかようやく理解して、上条は笑った。


「インデックス……」

 さっきは喜んでくれていたみたいだったのに、どうしたのかと思ったけれど。

 インデックスは能天気に見えて、時にとても思慮深い。
 少し遠い未来、自分が陥るのだろう苦悩を探し当て、案じてくれているのだろう。

 きっと的外れではない。けれど上条は笑顔のままだった。

「一方通行はさ、何があっても打ち止めの手を取るよ。俺が手を差し出しても、鼻で笑って無視されるぜ?」

「でも」

「一方通行は俺が手を引かなくても、俺の隣に立ってくれるよ。一緒に前を向いて行ける」

 俺の隣で、同じ方を向いて、二人で歩いて行ける気がするんだ。

 いつだったか、そう思った時のことを手元に返す。

 一方通行が初めて上条に手を伸ばしてくれた時のこと。
 どんなに強い意志と能力を持っていても、ただの女の子なんだと知った時のこと。

 遥か昔にも思えたし、つい昨日のような気もした。ひどく鮮明に思い出せる。

「とうま……」

 呆れたような、しかし嬉しそうな顔でインデックスは溜息をついた。

「そうだね。その方が、とうまらしいかも。でも、世界は時々残酷だから。
 あくせられーたが一人じゃどうにもならない時に、私がピンチになっちゃったりするかもだよ?」

「インデックス、そんなの」

「だからね」

 そんなの俺が何とかしてやる、という言葉を優しい笑顔で遮って、インデックスが弾むような声で言った。

「私、頑張るんだよ。とうまがちょっとだけ、手を離してもいいようにね」

「へ……?」


 ポカン、と思わず足を止めて見下ろす。大きな丸い目が、ぴかぴか光ってこちらを見上げていた。

「ふふふん。私だってやれば出来るかも!」

「え、えー……?」

 正直不安しか感じない。
 いや確かに、イザと言う時には皆を助けてくれる。こともある。たまには。

 うろんげな顔になってしまったのだろう、見下ろした少女がムッと膨れっ面になった。

「なーにとうま、その顔。私が何も出来ないって思ったら大間違いなんだからね!?」

「いや別に何も出来ないとは思ってねーけどよ……。お前自身は魔術使えねーんだろ?」

 細かい理屈はさっぱりだが、十万三千冊の魔道書の知識があっても、自身では魔術を行使することは出来ないと聞いている。

 するとインデックスはふんと鼻で笑って薄い胸を張った。

「魔術を使えないからって、役に立たないってことにはならないんだよ!
 私にはこの知識があるんだからね!」

「けどなー」

「例えば、陛下が使ってた『カーテナ=セカンド』のことは覚えてるかな?」

「あー?あったな、何かすげーやつ」

 何だか懐かしい響きだ、と上条は首を傾げた。

 カーテナ=セカンド。
 英国王室に代々伝わる、王の戴冠に使う儀礼用の剣。
 切っ先はなく、刃もついていないが、魔術的霊装としての威力は測り知れない。
 これを持つ英国王室の者は、その国内に限り天使長「神の如き者」と同質の力を持つ、とされる。
 実際に、カーテナを携えたエリザベスやキャーリサは、人知を超えた凄まじい力を発揮した。

「それから、同じく陛下が行使した『連合の意義』、ユニオンジャック」

 『連合の意義』もカーテナと同じく、英国王室のみに許された国家クラスの魔術の一つだ。
 本来カーテナの使用者が扱うべき『力』を、英国民全てに等しく分け与える大規模魔術。
 発動にはイングランド・アイルランド・スコットランド・ウェールズの四地域を束ねた、大英博物館所有の国旗を用意しなければならない。


「あの二つに代表されるように、歴史的な意義や意味を持つ骨董品は、大きな魔力を秘める。
 私が知っている神話級の威力を持つ霊装は基本的に、人々に良く知られたものかも」
 
 霊装だけでなく、魔術そのものにおいても変わらない。
 聖書であれ神話であれ、何らかの「根拠」に基づく技、それが魔術というものだ。
 科学の世界の超能力と最も異なる部分だとインデックスは説明した。

「あれ?何で超能力の話になるんだ?ってかそもそもお前に能力の話したことあったっけ」

 あったような気もするが、理解していた素振りはゼロだったような。
 上条は首を傾げる。

「超能力のことはあくせられーたに説明して貰ったんだよ。
 とうまの理解してるようなしてないような話より、ずっとわかりやすかったかも」

「へいへいそりゃ悪かったな……」

 つい憮然とすると、苦笑が返った。

「あくせられーたは魔術のことも少し理解してたから、余計に私にも理解しやすかったんだよ」

「ふーん?そんで?」

「超能力の源は『自分だけの現実』って言うんでしょ?
 人間一人の意志の力で世界に干渉するなんて、やっぱりすごい才能なんだよ。
 これに対し、魔術は才能の無い人間が、世界に干渉するための方法論」

 インデックスは思い出したように歩き出しながら、小さな指先で円を描き、滔々と語る。

「これはまだ仮説だけれど、魔術は自分だけじゃない誰かと世界への観測を『共有』することで、
 能力者と同程度の干渉力を生み出すものなんじゃないかな」

「共有……?何言ってんだかわかんねーぞ」

 突如として担任の幼女教諭のような講義が始まったことに、上条はちょっと辟易した。
 だいたい、魔術と科学の世界は全く異なるもののはずだ。
 同列に語ろうとしているインデックスがちょっと信じがたい。


 そんな思いを表情で察したのか、魔術側の象徴のような少女は、しかつめらしい顔で頷く。

「うん、そうだね。例えば『カーテナ』が戴冠式用の国宝だってことを英国国民全員が知っている。
 その『認識』が信仰という形に昇華され、あの凄まじい力となっているんじゃないかなってこと。
 同じく、十字教に根差した魔術は『神の御業を信じる者達』の信仰に働き掛けるものかも」

「ふ、ふーん……??」

 うろんげな反応しか出来ないこちらのことなどもはや一顧だにせず、インデックスは宙を見据えながら顎を撫でる。

「超能力者が『自分だけの現実』で持つような干渉力に達するには、千・万・億の無能力者の意志を束ねる必要がある。
 そのための方法が、共通認識であり、その象徴たる神話や聖書、歴史的遺物。つまり、信仰とは無数の人々の集合無意識。
 皆が『そう信じている』ことを利用し、宗教的意味のある儀式を経ることで、世界に干渉する」

 上条に説明するというよりは、説明を試みることで自らの考えを纏めているような印象を受けた。

「よって、信仰が多数であるほど強力な魔術を使用可能ということ。
 十字教の魔術が強大無比であるのも、全世界で二十億人の信徒を有するからなのかも」

 常にない真剣な横顔は、思っていたよりもずっと思慮深く見える。

「ただし、歴史や国家に依存した信仰であれば、その対象から離れることは出来ない。
 だから、カーテナも英国本国から出ては効力を発揮しない。
 信仰する国民がいない土地では、世界に干渉できないんだよ」

 澄んだ碧眼が、千里先を見渡すような輝きを帯びた。

「超能力の干渉力をPersonal Reality……『自分だけの現実』と呼ぶのなら。
 魔術の干渉力は『共同体幻想』……Public Realityとでも言えるかもしれないね」

「パブリック……?さっきから何の話なんだインデックス?」

 置いてけぼりにされるのがちょっと悔しくて食い下がってみると、インデックスは邪険にするでもなく微笑んだ。


「言葉自体はどうでもいいんだよ。便宜上ってこと。ね、とうま。
 らすとおーだーに聞いたんだけど、能力者の人達は魔術を使うとダメージを受けるんだってね?」

「あ、ああ。らしいな」

 話がコロコロ変わるところに付いて行けなくなりつつも、何とか頷く。

 記憶に新しいのは、普段は胡散臭い、けれどイザという時は頼りになる級友の姿。
 土御門は能力開発を受けた身で魔術を行使し、死にかけるほどのダメージを負っていた。

「能力者が『自分だけの現実』を有するなら、魔術の『共同体幻想』とはほぼ相反する性質。
 能力者が魔術を使おうとすると、世界に干渉しようとする前に、反作用で自分を傷付けちゃうんじゃないかな?」

「お、おう????」

 つまり、どういうことだってばよ。
 目の前の英国人は多分日本語で喋ってくれているはずだが、いつの間にか英語で話しているのだろうか。
 というくらいに全く意味がわからない。

「つまり、私がこの十万三千冊の魔道書の知識を使って『うまく』反作用を取り除いてやれば。
 能力者でもノーダメージで魔術を使えるんじゃないかって話なんだよ」

「え!?」

 急に理解できる話に落ちて来て、ただただ瞠目する。

「魔術側と科学側が互いを忌避するのは、互いの力を理解出来ないからかも。
 理解できないものは怖い、不安。だけど、私はその架け橋になれる可能性を持っている」

 愛らしく笑う小さな女の子が、急に大人になってしまったような顔をして、上条を見上げた。
 誇り高くすら感じる碧眼は、眩しいものに思える。

 そんなことが可能なら、インデックスは現在の『魔道図書館』という位置から、更に他と比較にならない重要な存在になるのではないだろうか。

「……うーん。よくわかんねーけど、危ないことはすんなよ?」

 何がどうなろうと、インデックスが大切な存在であることには変わりない。
 上条は自分の想像できる範囲を超えた話だと認識しながら、ただ案じる気持ちを口にした。


「うん!ありがと、とうま!」

 科学と魔術の狭間でいつも翻弄される少女は、いつも通り、過酷な背景など感じさせない明るい顔で笑った。

 そろそろ三階に差し掛かる。
 
 エレベーターは使うなと一方通行に言われていたから階段を使っているが、三階くらいならたいした疲労もない。
 階段は廊下の端に据えられていて、ちょうど正面が301号室。

 こちら側から奥に向かい、部屋番号が増していく形式のようだ。

 すぐそこだな、と奥側に目をやって、上条はピシリと硬直した。

「……………」

「……………」

 すぐ隣の少女も無言で固まっている気配を感じる。

 打ちっ放しのコンクリートの、何の変哲もない廊下だ。
 上条が住む寮にも良く似ている、人が二人擦れ違える程度の幅。

 そのど真ん中に、見慣れた常盤台中学の制服の少女が、微動だにせず這い蹲っていた。

「えーっと………」

 茶髪の後頭部しか見えないが、黒いゴーグルのベルトが存在を主張している。

「み、御坂妹……か?」

 こんなところに10032号がいて何をしているのか皆目検討も付かないが、いつまでも黙っているのも果てしなく気まずいので、恐る恐る声を掛けた。


「おや?あなたは上条当麻。こんなところで奇遇ですね。 と、ミサカ20000号はとりあえず立ち上がります」


 すっくと機敏の動作で立ち上がった無表情は見慣れたものだが、どうやら初めて会う個体のようだ。


「20000号?へぇ、初めて会うよな。知ってるかもしんねーけど、俺は上条当麻。
 こっちはインデックスだよ」

「こんにちは!」

 上条はインデックスと共にとりあえず自己紹介しつつ、

「ところで……何してたんだ?」

 と、最も気になっていたことに言及してみる。

 ミサカ20000号と名乗った少女は、相変わらずの無表情のまま一つ頷いた。

「匍匐前進を一時停止中でした。セロリたんは警戒心旺盛ですからね」

「せろりたん?」

「ああ、一方通行のことです。愛称のようなものですのでお気になさらず、とミサカは適当に誤魔化します」

「はぁ……」

 すごい気になる、と思いつつ、とりあえず曖昧な相槌を打っておく。

「一方通行に用なのか?」

「はい、とミサカは力強く頷きます」

「どんな?」



「ペロペロしに来ました」



「えっ?」



「ペロペロしに来ました」

















PM 1:55 ミサカネットワーク内


1.【勝ち組】セロリたんの隠れ家見つけたから今からprprしに行く(898)

2.今日の上条365(120)

3.楽しい趣味を紹介しあうスレ2(109)

4.【ご当地自慢】地元の名産物紹介しろください(621)



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【勝ち組】セロリたんの隠れ家見つけたから今からprprしに行く(899)


798 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

 上条と遭遇したwwwww
 俺の変態開運法始まったなwwwwww

799 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10293

 上条キターーーーーー!!!(・∀・)

800 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10038

 上条キターーーーーー!!!!!(゚∀゚)(゚∀゚)(゚∀゚)

801 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10801

 ミサカとしては上条×一方通行も捨てがたい……
 そんな風に思っていた時期もありました
 と華麗に801をゲット

802 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10809

 空気読めやwwwwww

 まさかの上条登場に上条派大歓喜
 かくいう私も上条派でね

 感覚共有させてください変態神様


803 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

 苦しゅうないぞよ>>802

804 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12903

 上条うわああああああ!!!
 元気そうだな!!うれしいな!!!!
 感覚共有俺も俺も!

805 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19821

 上条ぉおおおおおおおおおおおおお

806 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka16111

 一気に勢い加速したなwwww

807 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14510

 その開運法を速やかにこのミサカにも教えなさい>>798

808 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17999

 落ち着けよwwwwwwww>>807

809 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka110928

 つか上条に何言ってんだコラwww
 ミサカのイメージが\(^o^)/

810 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

 上条「どういうことなんだよ」
 http://misaloda.jp/kamijo01.jpg1

 意外と真顔で怖いんですけど

811 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka15511

 wwwwwwww

812 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17118

 ざまぁwwwwwwwww

813 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka18012

 上条の正義感にかかれば変態の陰謀など……!


814 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14510

 さすが上条さんやでぇ!!!
 そこに痺れる憧れるゥ!!!!!

815 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14789

 おちけつ
 キャラ崩壊してんぞ>>814

816 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14510

 キャラとかにこだわってる場合か!
 一方通行さんの貞操の危機だぞ!!!

817 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka11201

 あっさり阻止されそうだから落ち着けwwww

818 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

 俺「いえ、ちょっとミサカ様子を見に来ただけですので。
   ここで待っててください。
   あ、モニタリングしてくださってかまいませんので、とミサカは小型モニターを手渡します」

 上条「ん?そうなのか。わかった」

 誤魔化せたぞ(ドヤ

819 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13811


820 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka18011


821 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17722

 さ、さすが上条素直
 めっちゃいいやつ上条

822 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14510

 上条さぁあああああああん!!!!!!\(^o^)/

823 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13811

 てかそのモニター何なんだよwwwww


824 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

 こんなこともあろうかと!
 ミサカはゴーグルに小型カメラを搭載しておいた!
 ついでにハエ型潜入カメラも持ってきたお

825 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka18416

 うぇっっwっwww
 なんでそんなの持ってんのwwwwww

826 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

 見られながらの方が興奮するだろうが言わせんな恥ずかしい

827 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka16229



828 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12819



829 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13819



830 :以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14819

 
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   ム ヒ       /::::l/l::::lニ‐-、``        / /;;;;;;;;;;;;;ヽ!   i::::l::::l:::::::::::l:
   月 ヒ      /i::/  l::l;;;;;ヽ \             i;;;;;;;;;;;;;;;;;;;l   l::l::::l:::::::::::::
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「ということで、ここでしばらくお待ちください。
 とミサカはしばし待てのポーズを取ります」

 303、という無個性なプレートが張り付けられた、何の変哲もないドアの前。

 薄い小型モニターを手渡したまま片手を上げると、上条は不思議そうな顔のまま頷いた。

「うん?てか俺たちも一方通行に来いって言われてんだけどなー」

「早く行かないと怒られちゃうかも」

 インデックスも興味深げにモニターを見詰めながら首を傾げる。

「まぁそう堅いこと言いなさんな。とミサカは肩を竦めます。
 わざわざ遠方から会いに来たのですから、ちょっとだけ二人でアレですよ」

「アレって何だよ?」

「ふ……ミサカと一方通行の事情と言えば……。
 おわかりですよね、とミサカは神妙な表情になります」

「あ、ああ……」

 ちょっと目を伏せてみると、途端に上条は気遣わしげに眉を寄せた。

 ちょろい。大丈夫かこのヒーロー。
 という軽い呆れは顔に出ない。能面ヅラもたまには便利だ。

 とりあえずセロリたんのくつろぎ姿でも激写するべしハァハァ、などとスレに書き込みつつ涎を拭う。

「先に少し様子を見てみましょう。とミサカは潜入カメラを起動します」

 所属の研究所からチョロまかしてきたハエ型潜入カメラ。
 見た目はただのハエだが、超高性能の小型カメラを搭載している。本来は国家諜報部などで使用される高価なものだ。
 付属のリモコンを操作すると、ハエそのものの動きで風呂場の換気扇と思われる場所から中に入って行った。


「ふむふむ。感度良好です、とミサカは満足します」

 上条が手にした小型モニターを一緒に覗き込むと、ごく一般的なユニットバスが映し出されている。
 ドアは開いていたので、そのまま廊下に出るよう操作すると、右手が目の前の玄関。
 左手がリビングダイニングに繋がっているようだ。

「何か部屋の中、暗くないか?締め切ってんのかな」

 ごく普通にモニターを眺める上条が、少し不思議そうに呟く。

 友人、らしき者をスパイ道具で盗撮しようという状況下にあって、何という順応性の高さ。
 ミサカ20000号は内心舌を巻いた。いや、状況を理解していないのかもしれないが。

「外から見られることを警戒しているのでしょう。とミサカは潜伏下の基本について説明します」

「ふーん、なるほどな。電気もつけないの?」

「これじゃ何もできなくて暇なんだよ」

「睡眠を取っている可能性が高いですね。セロリたんの寝顔ハァハァ!!」

「は?」

「はーはー。深呼吸です」

「え?」

「あ、やっぱり寝てますね。ソファに寝そべっているようです。
 とミサカは実況中継をします」

「おー、ホントだ。何か上に掛けないと風邪引きそうだな」

 雑な誤魔化しにもあっさり流され、上条はごく一般的な洋間が映し出されたモニターを覗き込む。

 白っぽい床板と白っぽい壁、ほぼ正方形の作りで、端にはキッチン。
 玄関から見て正面奥が窓だ。今はカーテンが引かれているが、遮光性のものではないらしく、室内は薄明るい。
 家具は茶色のソファ、ガラスのローテーブル、薄型テレビくらいで少なかった。


 ソファの上には、白く華奢な姿が無造作に横たわっている。

 小さな白い顔。細い髪も長い睫毛も白く、目を閉じた表情は整ってあどけない。

「あ、やっぱ眠ってるか?」

「寝顔かわいいんだよ」

「はぁああああぅ……」

 思わず感嘆だか興奮だかのため息が漏れたのとほぼ同時。

 静かに薄青い瞼が上がり、真紅の視線がこちらを見た。

「あっ、とミサカは慌てます」

 細く白い指が首元のチョーカーに触れた瞬間、画面の中は砂嵐に見舞われた。

「あ、ああああ…………」

 思わずガックリと崩れ落ちる。

「あれ?見えなくなっちまったぞ?」

「故障かなー?」

「い、いえ、せろりた……一方通行が気付いて、カメラを破壊したのでしょう。
 とミサカはごく当然の見解を示します」

「マジか。さすが一方通行」

「寝たフリだったってこと?」

 インデックスがきょとんと首を傾げるのに、20000号は軽く頭を振ってようよう立ち上がる。

「いえ……。せろ、一方通行は、眠っていても他者の気配を感じると、目を覚ましてしまうので」

「え……」

 質問したシスターよりもその隣の上条が、驚いたように目を見開いた。
 真っ黒い澄んだ目に、自分の無表情が映し出される。


「それって、ほとんど、ね、寝てないってことか?」

「眠ってはいるようです。ただ、近くに他人の気配がすると、自動的に目が覚めてしまうようですね」

「…………そう、なのか」

「ええ、とミサカはこともなげに肯定します。
 と言っても、このミサカも上位個体の受け売りに過ぎませんが」

「打ち止めの?」

「木原数多という研究者に遭遇してから、そのように変わったようだ、と言っていました」

「…………」

 上条は今度こそ黙り込んでしまった。インデックスも同じだ。
 深刻な表情に、20000号は軽く首を傾げる。

「どうしたのですか、上条当麻。とミサカは問いただします」

「……それってさ。一方通行が、安心して熟睡してないってことだよな」

「え?」

 思ってもいなかったことを言われて、20000号はついポカンと口を開けてしまった。

 そんな風に思ったことなど、一度もなかった。

 元々『妹達』は軍用クローン。判断基準も軍人に近い。
 睡眠時は人が最も無防備になる時間だ。
 他者の気配で睡眠を打ち切ることが出来る一方通行を賞賛する者はいても、それを嫌がっている風の上位個体に賛同する者などほぼ皆無だった。

(なるほど、これが『普通』の人間の反応、というものですか)

 上位個体がこだわり、10032号が触れ、他の数え切れない姉妹達が獲得しつつあるもの。
 当たり前の人の感情。
 目の前の二人はいかに特殊な立ち位置と能力を有していても、やはり普通の人間なのだと、改めて認識させられた。
 ミサカ達や、このミサカとは、違うのだ。

 20000号は内心でそう感嘆しつつ、ゆっくり目伏せた。





 そしてそれはそれとして、作戦を次の段階に移行する。



「というわけで、ミサカ侵入します!!!!」

「えっ」

「大声で何言ってんだ」

「ミサカ!侵☆入☆ とうっ!!」


 やっと会える!やっと一方通行に会える!!やっとやっとやっと!!!!!


 身体中を駆け巡る歓喜と興奮と激情に涎を垂らしながら、それでも一応コソコソカサカサとドアを開け。
 忍び足で中に入る20000号を、上条とインデックスは口を開けたまま見送った。















ちょっと中途半端ですが今日はここまでで

明日は通行止め記念日ですね!!
本当に二人が出会えてよかった
でも今年は何もアップできそうにないかもすんません

そんではまたそのうちに

流石変態…歪みねぇ

いつも遅くなってすいません
今月末か来月初めには投稿できると思います
また気が向かれたら読んでやってください

遅くなってすんません
投下します











 ミサカ20000号が「物心ついた」時には、既に件の実験は終わっていた。

 製造された日付は実験中の頃ではあったが、学習装置に入って保存されている間に、全ての前提が覆っていたのだった。

 実験が凍結された時点で破棄される可能性が高かったものを、今こうして生きて動いているのは僥倖と言えるだろう。
 それが学園都市の思惑の上にあったとしても、今のミサカ達にはあまり関係のないことだ。

 世界中の研究所に割り当てられ、日々の実験の協力や雑用をこなしながら、それぞれの生活を送る。
 新鮮な日々。ミサカ達の周りは概ね平和だ。
 たまにはクソ野郎もいるけれど、大概は自分でどうにかできる。

 心細いミサカは、ミサカネットワークに接続して、9969人の同胞たちと色々な話をすればいい。
 「生まれて」「各地に配置された」直後の頃は、御坂美琴や上条当麻の話題で持ちきりだった。

 ミサカ達の生のきっかけをくれた少女。
 ミサカ達を助けてくれたヒーロー。

 そうして、ミサカ達の存在のきっかけとなった、一方通行。

 ミサカ20000号自身は、最初はその誰にも興味を持たなかった。
 当然全ての記憶は持ち合わせており、上条や美琴に感謝するべきだという共通認識はあるけれど、「直接」会ったことなどない。
 20000号にとっては、過去の記憶よりも、たった今周りにいる人達の方が、ずっとずっと影響力が大きかった。

 記憶と、直接的な刺激。
 知識として、人間の認知については理解していたが、これほどに異なるのかと驚いたものだ。
 自分と目を合わせ、自分を自分自身と認識して微笑んで、叱って、触れる温かな体温。
 五感に訴える刺激に比べれば、いかに鮮明な記憶と言えど、実験は儚い夢のように思えた。

 他のミサカ達も20000号と大差ないようで、ミサカネットワークに接続する人数は徐々に減少していく傾向にある。

 あの日、上位個体が立てたスレを覗いてみたのは、単なる気まぐれだ。
 基本的にあの少女は、ミサカ達に対して何ら強制など行わない。
 20000号のような学園都市から遠く離れた場所にいるミサカにとっては、本当に知人程度の存在だった。

 その知人からの、他愛ない世間話。

『ねぇねぇ、あの人があなた達に「頼むから番外個体の影響だけは受けてくれンなよ」だってー!伝言!
 ってミサカはミサカは写真も添付してみたり!』

 表示されていた写真は、記憶にあるものとは全く違う、ただの年相応のしかめっ面。
 真っ白の変わった見た目だけれど、荒んだ影も歪んだ闇も見当たらない。

 衝撃を受けた。
 ミサカ達が10031回……いや、10032回殺そうとして、10032回返り討ちに合った時とは、まるで異なる顔だと思った。

 そうか、これが人間なのか。
 感情と表情で、違う個体にすら思える。これが、人間。

 胸の辺りに込み上げる熱いようなものは、初めての手触りだった。

 それに、他のミサカと同列とはいえ、「ミサカ達に」という言葉が届けられたことにも驚いた。
 一方通行がミサカ達を気にしているのは知っていたけれど、ミサカ達自身はあまり興味を持っていないからだ。
 ただ、そんなことは一方通行にとってどうでもいいことなのだろう。 


 後に、正確には伝言というよりも「頼むから影響受けてくれンなよ……」という独り言を上位個体が独断で伝えた、
ということを知ったけれど、20000号にはそれこそどうでもいいことだった。

 この世に、ミサカがミサカであることだけで、気に掛けてくれる人がいる。
 それは不思議な気持ちだった。

 上条も美琴も、20000号にとっては遠い存在だ。

 とても尊敬しているし、恩人だけれど、日々身近に感じたりはしない。

 「ヒーロー」とはそんなものだろう。
 一番のピンチに颯爽と現れて、悪を倒したら去って行く。

 太陽のようにミサカ達を照らしてくれる。だが、手を伸ばそうとは思わない。そういう存在だった。

 けれど、一方通行はヒーローではない。
 ヒーローに倒された「悪」だけれど、20000号にとっては身近に思えた。
 単純に、上位個体のスレに行けば、毎日違う顔や言葉を見ることができたからだ。

 真っ白い肌、真っ白い髪。ミサカ達を見つめる、赤い眼差し。
 20000号自身を含め、周りに似た人など誰一人いない。

 あの髪に触れたら、どんな感じなのだろう。
 少し前に担当の研究者に髪を撫でられて、戸惑ったけれど、そんなに嫌ではなかった。
 一方通行も撫でたなら、あんな気持ちになるのかな。

 スレに「触ってみたいなー」と書き込んだのは、そんな思いからだった。
 しかし反応は全く予想していなかったもので。

『変態かwwwwwwwww』
『おいwwwwwww』
『何言ってんだwwwwwwwww』
『運営!!運営はいるかー!!!』
『おい一方通行さんに触んじゃねーぞ』
『俺は上条に触ってみたいんですけど!!』
『聞いてねーよwww』
『俺も俺も!!』
『俺は一方通行の肌のツルツルさに言及したい』

 一気に数百近くのレスが集中し、あれほどスレが盛り上がったのを見たのは初めてで、本当に驚いた。
 いや、正確には、「自分のレスで盛り上がったのを見たのが」初めて、だった。

 何と言えばいいのか、あの時の高揚を。
 目立つこと、他のミサカ達から個を認知されることの歓喜。
 常に同胞たちが意識しつづける、個性の獲得が為ったかのような。

 もちろん「変態」という言葉はポジティブな評価ではない。
 ただ、そんなことはどうでもよかった。

 色々調べ、変態という評価にふさわしい言動をしているうちに、すっかり楽しくなってしまった。
 元々素質があったのかもしれないし、自分に役割を規定することで、無意識にそうコントロールしたのかもしれない。
 どちらでも構わないし、現状も変わらない。

 一方通行に触れてみたいのも、会ってみたいのも、紛れもない本心だ。


 しかしフランスから日本は遠い。
 元々配属されていたロシアからフランスに転籍になり、今の研究所に迷惑を掛けたくはなかった。

 ロシアには美琴と遭遇したことのある10777号など、幾人かの個体が配属されていたが、第三次世界大戦を経てバラバラになっている。

 20000号も学園都市協力機関の一員として、第三次世界大戦には少しだけ関わっていた。
 しかし大概は、撤退戦に多少協力した程度。あまり積極的に戦闘に加わることはなかった。

 あの寒い寒い土地では、科学と魔術が日本や欧州ほど明確に区別されていない。
 例えばロシア成教内には心霊現象を分析するための科学者がいるし、学園都市の協力機関内に実験協力のための魔術師がいたりする。
 表向きは科学側、魔術側にそれぞれ与していても、実情はそれほどシンプルではない。
 中枢の目的だけ死守し、あとはバラバラ。
 あれがあの国の戦略であり、やり方だったのだろう。

 戦争の中心でもない場所では、魔術側と科学側がそれぞれの面目を保つため、ぬるい戦闘を繰り返していた。
 その終盤、そこで20000号が見た、白い光。
 空を一角で太陽が爆発したような、「光あれ」という最初の言葉を思わせるような、あの光。

 一方通行が打ち止めを守るために、大陸全土を吹き飛ばすような力を受け止めたのだと、後から知った。

(あれが一方通行の色)

 初めて五感に触れた、一方通行の光。

 見上げた空が白くて眩しくて、目の奥まで射られた。 










 ミサカ20000号は、震える手足を抑えながら、廊下を忍び足で進んでいた。

 学園都市、とあるマンション。303号室。
 何の変哲もない一般的な真っ直ぐの廊下。研究所暮らしが通常の20000号には物珍しい。

 ただ、今はそれどころではない。

(うぐぐぐぐ、この先に一方通行が)

 心臓がバクバクとうるさい。こんなのは初めてで、感覚共有した個体達からは散々に笑われてしまっている。

『変態興奮しすぎwwwww』
『おい何考えてる、すごい心拍だぞwww』
『おちけつwwwww』
『一方通行さんに変なことしたら絶許』

 レスを返している余裕はなかった。

 廊下は数メートルしかなくて、すぐにドアに突き当たってしまう。

 白いドア。真ん中に擦りガラスガラスが嵌め込まれた、ごく一般的なものだ。
 ガラス越しに、自分の姿は見えてしまっているだろう。

『少しの間、この場を離れていてくれるかしら?』

 パリの担当研究者からそう言われたのは、三日前のこと。
 三十過ぎの少し褪せた金髪の、優しくて研究熱心な女性だ。

『ここ最近、ちょっと怪しい奴がこの辺りで目撃されているの。産業スパイかもしれないわ』

『またですか。とミサカはちょっと顔をしかめます』

『そう、またよ。ま、ウチは欧州には珍しく学園都市と提携してるからねぇ。無理もないのかもしれないけれど』

『何を納得しているのですか』

『それだけ学園都市が注目されているということよ』

『そういえば、他のミサカも研究所の周りにそういうのがウロつくことがあるって言ってました……』

『でしょう?』

『でしょう?じゃないです。ミサカとっちめて来ましょうか?とファイティングポーズを取ります』

『こらこら。女の子が何を言っているの』

 彼女はしかつめらしい顔で咎めて、20000号の頭を優しくこづいた。全然痛くない。

 女の子、と。
 学園都市の超能力者のクローンであることを知りながら、彼女は20000号をただの女の子のように扱う。

 ロシアのただ事務的だった研究者とは、あまりにも違う。
 それがいかに稀有であるか、20000号は徐々に理解し始めていた。

 そして、彼女のために何かしたい、という気持ちも。

 上条や美琴や他の妹達や、一方通行に向けるものとは違う。
 ごく普通の、身近な、もしかしたら、人間らしい感情なのかもしれない。

『あなたはどこかに避難していなさい。上の決定よ』

 彼女はごく当たり前のように言って笑った。
 何を言っても聞き入れてくれなくて不満だったけれど、「どこに行って来てもいいわよ」という言葉に、現金に反応してしまった。

 どこに行ってもいい。日本でも?学園都市でも?

 間髪入れずに言ってしまったら、「里帰りね」と微笑ましげに快諾されて、三日後には日本へ発っていた。
 そうして、驚くほどの僥倖に恵まれ、ここにいる。

 きっと一生に一度のチャンスだ。

 ミサカ達9969人は世界中に散らばっていて、その状態をどうやら維持しようとされている。
 今後、里帰りなどそうそうは許されない。




「おい。いい加減入って来い」



 ぼんやりと感慨に耽っていた20000号は、低い声に飛び上がった。

「え、うぇええ!?とミサカはビビりまくります!!」

 自分でも聞いたことのないような素っ頓狂な悲鳴に、呆れたような溜息が返る。

「はァ?何か用でもあるンじゃねェのか。つゥかどうやってこの場所突き止めた」

「ぐ、偶然……見掛けて」

「マジかよ……」

 再度溜息が聞こえて、「いいから入って来い。鬱陶しい」と促されて、おずおずとドアを開けた。

「………ッ」

 小さくて白い顔、赤い目が、こちらを見ていた。
 思わず息をのんで、固まってしまう。

(これが、一方通行)

 思ったよりも小さくて、細い。
 自分でも意外な第一印象だ。

 10032回戦った記憶の中の一方通行はひどく禍々しく、暴虐の王のように強大無比に思えていた。
 上位個体からもたらされた写真も映像も、弱々しさとは無縁の、最強の第一位に見えていた。
 男だろうが女だろうが、関係ないと、思っていた。

(全然強そうじゃないです)

 覇気は強く、目付きも鋭い。タダモノではない硬質な雰囲気は、稀有な色味だけのものじゃない。

 けれど、ソファに横になったまま顔だけこちらに向けて来る白い肢体は、頼りなく思えた。
 倒れたような姿勢だからだろうか。少女だと知っているからだろうか。

 ただ、こんなにも頼りなさげな少女が、血反吐に塗れながら戦ってきたのだと思うと、不思議な感慨が湧きあがる。

「……オマエ、会ったことねェ個体だな?」

 いつまでも黙っている20000号に痺れを切らしたのか、囁くような小さな声音が零れる。

「あ、は、はい。とミサカは言い当てられたことに驚きながらも肯定します」

 思わず目を見張る。すると赤い目が少々眇められ、渋々といった調子で口を開いた。

「学園都市にいる個体には何度も会ってるからな。多少のクセや違いでわかンだよ」

「そ、そうですか……」

 何とか相槌を打つと、一方通行は促すようにジッとこちらを見つめる。
 ばくん、と心臓が変な音を立てた。
 カーッと顔が熱くなり、緊張が限界に達する。

「そォですか、じゃねェだろ。何でこンなとこまで来た」

 低い声は冷たく響いて、サァッと血の気が引いた。やはり、迷惑だっただろうか。

「あの。ミサカはパリにいたのですが、最近研究所の周りに変なのがいて、えっと多分産業スパイで、
 ミサカの担当者の人が、危ないからちょっと避難してろって言うのでせっかくだから学園都市にって、それで」

 しどろもどろに要領を得ない説明をすると、一方通行は寝そべった姿勢のままガリガリと頭を掻いた。

「産業スパイだァ?ッたく情けねェな……」

「す、すいません。とミサカは肩を落とします」

 思わず視線を落として、小さくなる。


「バカが。別にオマエが謝るこっちゃねェだろ」

 長い溜息が聞こえて、ますます肩を縮めてしまう。

「パリにいたってこたァ、オマエ20000号か?」

「へぁ!?は、は、は、はい!?」

 驚愕のあまりまた妙な声を上げてしまった。もうダメだ。
 何がダメなのか自分でもわからなかったが、とにかくダメだと思った。

「ふゥン……。打ち止めから聞いてた様子とは随分違うなァ」

「は!?き、き、き、聞いて、とは!?」

「あのガキ全体的に何言ってンだかわかンねェンだが、変態だから気を付けろとか何とか……。
 何に気を付けるンかわかンねェし」

 相変わらずソファに寝そべったまま、一方通行は軽い欠伸を漏らした。
 先ほどまで眠っていたせいで、まだ少し眠いのかもしれない。
 だが二度瞬きをして、ゆっくりと赤い目がこちらを向いた。

「何か用なンだろ。どォした、20000号」

 睨み据えても、殺気に歪んでもいない、ごく普通の眼差し。
 凄んでも嘲笑ってもいない、少し掠れた中音。
 しかめっ面で無愛想で、真っ白な見た目は稀有だけれど、ただそれだけだ。

 これが一方通行。

 一方通行が自分を見て、認識して、話しかけている。
 ようやっと理解すると、喉奥まで漣のように温かなものが込み上げて来た。

「前々から、学園都市にいる奴らにだけ何か買ってやるのはどォかと思ってたンだ。
 何か望みがあるンんなら聞いてやる」

 面白くもなさそうな顔で、子沢山の父親のようなことを言う。

 恐らくは笑うような台詞だった気がするが、自分を受け入れてくれようとする一方通行に、胸がいっぱいになった。

 そして同時に、これは多くの個体が憧れる、恋愛感情という奴ではないと理解する。
 少し似ているかもしれないが、憧れと執着と思い込みが適当に混ざった幼稚なものだ。
 恋愛感情にあるような慈しみも独占欲も思いやりも激情も、そのような複雑な二律背反を維持できるほど、人間になれてはいない。

 しかし、20000号にとっては自分の中で一番大切にしたい気持ちだった。

「…………」

 白くて柔らかそうな髪。真っ白で冷たそうな肌。
 浮き上がるように白く光って見えて、誘蛾灯に引き寄せられるように、20000号はフラフラと歩み寄る。

 いつもやぶ睨みの目が、丸く見開かれてこちらを見上げていた。

 自分の言葉を待っているのだ、と気が付いて、早く何か言わなければ、と口を開ける。

(ええと、何だっけ)

 何か早く言わなければ。せっかく一方通行が。こんなことはもう二度とないだろう。早く。

 早く、早く、何か。


「ぺ」

「ぺ?」



「ペロペロさせてください」



 部屋の空気が凍りついた。ような気がした。








(ああああああああ何を言ってるんだミサカァアアアア!!!とミサカは頭を抱えます!!!!)

 ガクリと床に膝をつき、力一杯床を殴る。
 鈍い音が響いて、拳が傷んだ。

 つい普段から毎度毎度挨拶代りに使っている言い回しが出て来てしまった。
 これじゃ完全に変態だ、いや変態だけど、変態って思われてもいいんだけど、あれ?何が失敗だっけ?
 いやいやいやいやいや、嫌がられちゃうだろ、不快にさせるのは本意じゃない。

 イェスセロリたんノータッチ!

 謎のキャッチフレーズを脳内で高らかに宣言し、ミサカ20000号はよろよろと顔を上げた。

(………あれ?)

 変態発言をぶつけられた一方通行は、さぞや嫌そうな顔になっているだろう。
 と思いきや、さきほどと特に変わりない表情で、ごく普通にこちらを眺めている。
 小さな欠伸を漏らし、ガリガリと頭を掻いた。
 
「何ぼさっとしてンだよ」

「いや、何、と言われましても!!とミサカは何もわかってなさげなあなたに驚愕です!」

「はァ?わかってないって何がァ?」

 思わずテンパった奇声をあげるが、またしても面倒そうに欠伸を返された。

 これは、と20000号は盛大に顔をしかめたつもりになる。

 一方通行は年頃の少女だし、見た目も整っていると言って良い、はずだ。贔屓目はあるにしても。
 しかしあまりに少女らしい、と言うより人間らしい性的経験や衝動に触れたことがないのでは。

 だからこれほど直接的な言葉にも無反応なのだろう。
 確かに戦闘力は最強に近いかもしれないが、女子なのであるからして、それなりの警戒心は持つべきだ。

 そこまで考えて、それが自分の担当研究者の口癖だと気付く。

 少し、じわりと胸底が熱くなった。
 人に影響を受ける、ということ。自分達はこれを繰り返し、人に近づいて行くはずだ。

 皆周りから影響を受け、徐々に個性を得ていく。
 ロシアにいた時ですら、それぞれ担当研究者の個性に影響され、少しずつ異なる価値観を形成しつつあったものだ。

(このままでは一方通行が危険です、とミサカは意気込みます!)

「あのですね一方通行」

「あ?」

「ペロペロしたいっていうのは、その……舐め回したいって意味なのですよ?」

「あー」

「あー、じゃありませんよ。嫌なんだったらミサカは」

「別に嫌じゃねェけど?」

「でしょう?嫌なら嫌と…………え?」

 ポカン、と口を開けて白い顔を見下ろす。

 呆気に取られるこちらを、向こうも呆れたように見上げて来た。

「何でンなことしてェのか知ンねェが、好きにしろよ」

「えっ」

 ミサカ20000号は、驚愕、という言葉の意味を、心の底から理解する。


「別に舐めたってうまくはねェぞ」

「えっ………」

「……………」

 驚愕を引きずっていると、一方通行が急に苦虫を噛み潰したような顔になった。

「あっ、もしかして今の笑うところだったのでしょうか」

「……………」

 更に仏頂面になり、それはそれは凶悪な顔つきになる。
 余人が見れば悲鳴を上げて逃げ出しそうな表情も、ただ気まずいだけだと20000号には理解出来た。
 伊達に毎日上位個体の一方通行画像をコレクションしているわけじゃないのだ。

「それにしたってぜんぜん面白くありませんよ、とミサカは容赦なく断言します。だがそれがいいペロペロ」

「ッせェな、そンなンじゃねェよ……」

 本人も失敗したと思っているのが丸わかりの態度で、ぐしゃぐしゃと自分の髪を掻き回す。

 冗談、なんか。上手なはずがない。
 使う相手も使う状況も、皆無に近かったのだから。
 それでも一方通行が一方通行なりに自分を気遣ったことがわかり、20000号はただ、嬉しかった。

 すぐ近くの、一方通行。
 ミサカ達に甘くて、自身のことにやたらと無頓着で、冗談は下手な。
 思わず一歩近づけば、もう手の届く場所だった。

「ペロペロ、してもいいんですか……?とミサカは再度確認します」

「……勝手にしろ」

 長い溜息と一緒に吐き捨てられるが、赤い目がちらりとこちらを向く。

 そして、手が差し伸べられた。

 白い手が、伸びてくる。

 20000号は何か考えるより先に、その腕の中に飛び込んでいた。





「ちょ、ちょっと待ったーーー!!!!」




 と、ほぼ同時に、ツンツン頭の少年が飛び込んで来る。

 上条当麻だとわかっていたけれど、20000号はとりあえず顔をスベスベした首筋にぐりぐり擦り寄せる。
 いい匂いがする。ほうほう、これがあの。いつも上位個体が自慢してるやつ。

「こらこらこらこら!何やってんだよ!!」

 唐突に首根っこをひっつかまれて、強く引き起こされる。
 べりっと音でもしそうなほど勢いよく引き剥がされ、20000号は不満たらたら振り返った。

「突然何をするのですか、上条当麻。
 とミサカはイイトコで邪魔しやがって、という苛立ちを隠しつつ振り返ります」

「あーあーそりゃどうもすみませんね!」

 上条は怒ったような気まずそうな顔で、口先ばかりの謝罪をする。
 日に焼けた顔は贔屓目でカッコよく見えるけれど、精悍と言うには少しばかり情けなく眉毛が下がっていた。

「けどなぁ、こ、こういうのはどうかと思うぞ俺は!
 一方通行も何をおとなしく押し倒されてんだよ!?」

「こォいうって、どォいう?」

 上条とインデックスの乱入にも毛ほども動揺しないまま、一方通行はきょとりと目を瞬かせた。
 ソファに寝そべったままこちらを見上げれば、自然と上目遣いになるというものだ。
 不思議そうではあるが不審げではない、険のない表情は珍しい。やぶ睨みをしていなければ、大きな目をしている。

(これはかわいらしい、●RECしなければ)

 20000号は内心大喜びしながら、慌てず騒がずミサカネットワークに動画を保存する。

「ど、どういうってだな、さっき20000号が言ってただろ、ぺ……ぺろぺろって……」

 一方の上条当麻は、やたらと気まずそうに言い募り、中途半端なところで口を噤んでしまう。
 少し重いような、奇妙な沈黙が落ちた。

「上条?」

 一方通行は首を傾げて、20000号もマジマジとミサカ達のヒーローを凝視する。

 上条は不機嫌そうなのだ、と今更気づく。
 眉を寄せ、黒い目は眇められ、普段のふざけているんだか軽薄なんだか微妙な明るさも、なりを潜め。

「とうま、どうしたの?何か怒ってる?」

 インデックスは躊躇うことなく直球で尋ねた。
 どことなく及び腰だった20000号は、これが無邪気さというものか、と感心する。

「べ、別に怒ってねぇよ!」

「えー?怒ってるよ。とうま、怒るとちょっとだけ黙るクセあるもん。
 その後吹っ切れたら怒濤の勢いだけど」

「怒ってねぇし!ぜんっぜん怒ってねぇし!」

「どうしてそんなにムキになってるのかなぁ」

「ムキになんかなってねぇよ!ただ俺はなぁ、えーと……。
 俺はただ、こう、一方通行とみだりに接触するのはよくなくない?な、なんて」

「何言ってるのとうま?」

 何を言っているのだろう上条当麻は。


 奇しくもインデックスと同じことを胸中で呟いた20000号は、居心地悪そうにする上条をマジマジと観察する。

「あー、そォか」

 ちょっとポカンとする二人を余所に、一方通行が得たりと言わんばかりに頷く。

(え、そうか、ってワケわかったんですか?)

 ビックリして、さすが学園都市随一の頭脳、とソファの上の第一位に視線を移した。

「オマエ、オレがこのガキに手ェ出すンじゃねェかって心配してンだろ?
 バカじゃねェの、オレはガキには興味ねェよ」

「え?」

「え?」

「え?」

「………え?」

 何言ってんだこの人、という三者同様の声に、一方通行はゆっくり首を傾げた。

「あ、あー…………そ、そーいうんじゃ、ねぇよ。
 お前がそんな奴じゃないって、俺はちゃんとわかってるし」

 三拍ほど置いて、上条がようよう返答する。ぎこちないが、ヒーローらしい真摯な表情だ。

 そこでようやく20000号は、自分が性別を上条には知られていないと一方通行が思っているのだということを思い出す。

 年頃の少年と少女が必要以上に接近すれば、まぁ、常識的にはそういう心配もあるだろう。
 一方通行がそう誤解されたと判断するのも、わからないではない。
 しかしこの状況においては、これ以上ないほど的外れだ。何しろ、本人を除くこの場の全員が一方通行の性別を正確に認識している。

 ただ、上条はそのことを本人に告げていない。

『一方通行は隠したがってるみたいだから』と10032号に告げたという話を、もう遠くに思えるところから手元に返した。

(なんだか話がややこしくなっている気配がします、とミサカは成り行きを見守ります)

「ふン……」

 一方通行は面白くもなさそうに小さく鼻を鳴らすと、こちらに向かってちょいと手招きした。

 考えるより前にその腕の中に飛び込んで、思い切り深呼吸する。

「すーはーすーはーセロリたんいい匂い」

 柔らかい良い匂いこれはたまらん、と蕩けるような甘い温かさにうっとりしていると、またしても勢いよく引き剥がされた。

「だッ……から、やめろっつってんだろ!!」

「何もしねェよ、するわけねェだろが!」

 今度はあからさまにムッとして、一方通行が20000号を腕の中に奪い返す。

「そういうこと言ってんじゃねぇよ!」

 また上条に引き剥がされる。

「はァ!?じゃあ何なンですかァー?」

 再び一方通行に奪い返される。

「何でそんなにくっつきたがるんだよ、お前こういうの好きじゃねぇだろ!?」

「オマエが意味わかンねェこと言いやがるからだっつゥの!
 こンなクソガキに手ェ出すほど困っちゃいねェよ!」




「ああッ!?じゃあ誰か他に相手いんのかよ!!」



 ビリビリ、と怒気が床を叩いた気がした。

 20000号は思わず目を見開いて、上条の無理に歪ませたような顔を凝視する。
 初めて見る顔だった。

 義憤に燃える顔や、大切を脅かす敵に立ち向かう顔とは、全然違っている。
 子供っぽいような、けれど子供にはありえない熱く薄暗い激情を孕んだ顔。

 一方通行もインデックスも、同じように大きな目を丸くしてポカンとしている。

 三つの視線に晒され、上条はハッと我に返ったように目を瞬いた。

「あ、あー……。えと、ごめん」

 見る間に怒気が萎んで、今度はバツが悪そうに俯く。

「……20000号もごめんな、痛かったか?」

 手持ち無沙汰を誤魔化すように頭を撫でられた。
 乾いた熱い掌だった。

「いえ、特には。とミサカはむしろ役得でありましたと感謝します。
 上条と一方通行に取り合いされるなんて、一部のミサカのドリームすぎワロタ」

「はァ?あンま妙な趣味持ってンじゃねェぞ……」

 今度は一方通行がぎこちなく頬を撫でる。
 赤い目はすぐ傍らの少年を見ないままで、先ほどと同じような、気まずい誤魔化しの空気。

 上条が不可解で、どうしたらいいのかわからないのだろう。

 よくわからない、しかし同質の気まずさを纏わせた二人を、20000号はただただ興味深く見詰めた。

「とうまはあくせられーたが20000号とか他の人と性的行為をするのがイヤなのかな?」

 そこへ、今の今まで黙って成り行きを見守っていたインデックスが、にこやかに笑った。

「………ッ、な、な、な、何てこと言うんですかインデックスさん!!」

 途端に上条が泡を食って飛び上がり、インデックスの方に駆け寄る。

「嫁入り前の女の子がそんなこと言っちゃいけません!!」

「嫁入り前って……私は既に父なる神と結婚した身だよ?
 言わば人妻なんだよ。あだるでぃーだよ?」

「何がアダルティだこの幼児体型」

「むっ、それだけは言っちゃいけないことなんだよー!?
 わ、私はこれからなんだからね!!」

 十字教のシスターは白く輝く歯を剥き出しにして、保護者兼被保護者のような少年に噛みつこうとする。
 馴染んだような悲鳴も響いて、20000号は思わず溜息をついた。

(さっきの言葉へのツッコミはナシですか、とミサカは生殺しな気持ちを持て余します……)

 ずいぶん衝撃的な発言だったし、現にミサカネットワーク内では大変な騒ぎになっている。

 しかし傍らの一方通行も一言「……アホらし」とだけ呟いて、小さく欠伸を漏らした。


(オイオイ、それで終わりかよ)

 上条からもインデックスからも聞き捨てならなすぎる発言の連続だったというのに、どうでもいいのか、気にしていないフリか、関係ないと思い込んでいるのか。

「そうやって、いつまでも知らないフリができる人だと思えませんけどね……」

 真っ黒の目には、見たこともないような、熱くて薄暗い激情が溢れそうになっていた。

 小さく漏らせば、きれいな赤い目に一瞥される。
 訝しげで、けれどそれだけだ。
 すぐに閉じられて、薄青い瞼が露わになる。

 すると、その細い肢体の上に、ばさりとやや乱暴にコートが放られた。
 温かそうな茶色のダッフルコート。上条のものだ。

「寝るんならそれ着てろよ。何もないと寒いだろ」

「……いらねェ。そンなヤワじゃねェよ」

 一方通行は一瞬驚いた顔をしてから、すぐに忌々しげに目を眇める。
 真っ白い手でコートを掴んで、寝そべったまま上条の方に突き出した。

「ヤワとかヤワじゃねぇとかそういう話じゃねーよ。
 風邪でもひいたらどうすんだ」

「風邪ってなァ……。オマエ俺のこと何だと思ってやがる」

「今は常に能力使ってるわけじゃねぇんだろ?なら風邪くらいひくじゃん。
 いいから着てろ、ッて……!?」

 再び歩み寄って、コートを押しつけようとしたのだろうか。
 勢いよく伸ばされた日焼けた手を白い手が掴んだと思ったら、少年の身体が宙を舞っていた。

「おぅわァ!?」

 焦った悲鳴に続いての騒音へ身構えるが、響いたのはドスンという少々鈍い音だけだ。

 どういう力加減なのだか、一方通行は上条をソファ越しに器用に投げ飛ばし、そのまま尻から着地させたようだった。

「イッててて……」

「ふン、あンま舐めてンじゃねェぞ」

「だから舐めてねーって……。しつけーぞ一方通行」


 投げ飛ばすために掴んだ手は、そのままだ。
 すぐに離れようとする白い指先を、浅黒い手が掴んだ。
 上条はソファの背にもたれ掛かって座り、腕を上に伸ばして、一方通行の指先に触れている。
 慄くように微かに震えるのを、宥めるように、逃がさないとでもいうように、握りしめる。

「……離せよ」

「なぁ一方通行。他人がいると眠れないってホントか?」

 背中越しに顔を見ないまま、上条が尋ねた。
 一方通行はひたすら天井を睨んでいる。

「はァ?」

「打ち止めが言ってたって、さっき20000号から聞いたんだ。ホントなんだろ?」

「……バカ言ってンじゃねェよ。敵が来たら察知できるってだけだ」

「敵ィ?お前こそバカ言ってんじゃねぇぞ。20000号が敵だってのかよ」

「…………」

「なぁ、一方通行」

 上条は座り込んだまま、静かに呟いた。

 視線は合っていないのに、二人が全身でお互いの挙動を感じ取ろうとしているように、20000号には思えた。

「俺は、お前のことゆっくり眠らせてやりたいよ」

 そう広くもない部屋に、優しい声音が落ちる。

 一方通行は天井を睨んでいた眦をキツく釣り上げ、何度か唇を開け閉めして、ようやく声を出す。

「……余計な世話だ」

「お前はすーぐそういうこと言うよな~」

 呻くような言葉に、今度は軽い笑い混じりの返事。

 インデックスはずっと黙って、静謐なほど温かな表情で二人を見つめていた。


(独占欲も、慈しみも、激情も、思いやりも)


 ミサカ20000号は、つい先ほど考えた、人間特有の感情について、手元に返す。

 白く細い少女と黒い髪の少年は、目を合わさないままだった。

 けれど、自分が口を挟んではならないのだろうと、微かに痛む胸の奥で、理解した。 




今日はここまでで
ではまたそのうちに

相変わらず更新遅くてすいません
いちいち報告するのも恐縮ですが、しばらく更新は無理そうです
年末か年明けかなぁ
また気が向いたら見てやってください

お待たせしてすんません
投下します









 土御門元春は不機嫌に目を細めた。

「やりたい放題やってくれたな……」
 
 第七学区、裏路地の一角。
 上条と禁書目録が魔術師に襲撃され、最後に一方通行が魔術を反射した場所だ。
 設置されていた魔術と着地の衝撃派で滅茶苦茶に破壊された路地。ビルの室外機や窓ガラスも吹き飛び、散々な有様である。

 穏便に済ますという発想など持たないあの第一位は、このところ定期的に学園都市内で戦闘行動を繰り返していた。
 騒ぎにならないよう揉み消すのも楽ではないのだが、一方通行が好きでやっていることでもないので、抗議するつもりはない。

 土御門を不機嫌にさせるのは、事態があまりにも不可解であること。

(これだけ派手に動いて、アレイスターが全く反応しないってのはやはりおかしい)

 学園都市のすべては、『帯空回線』によって監視されている。
 例え路地裏だろうと人の気配がなかろうと、空気中を無数に漂う極小のカメラから逃れることはできない。

 だがこの二ヶ月、魔術師がいくら禁書目録や一方通行を襲撃しようが、垣根と一方通行が戦おうが、何の手出しもすることはなかった。
 アンチスキルや警備ロボすら来ないのだ、ただの一人も。
 どこか上層部が動きを抑えているとしか思えない。

 以前なら、アレイスターが真っ先に動かしていた。
 十字教の魔術師が一人でも乗り込んでこようものなら事細かに状況を把握し、必要なら対処していたというのに。

 ロシアから上条と一方通行が帰還して以来、あの統括理事長はずっと沈黙を守っている。
 『窓のないビル』に様子を伺いに行ったこともあるが、入ることすらできなかった。

 自分だけではない。
 暗部のすべてが開店休業状態、言うなれば「自由の身」だ。

 何より大切な妹から監視の目が外れ、最初は歓喜した。ようやく、と。
 だが永続的に続く保障など、どこにもないと気付いた。
 棚ボタで得た幸運に縋ることなく、自らの手で掴み取らなければ。

 行動を起こしたのは、『グループ』内でも恐らく自分が最初だ。

 アレイスターのことは置いておき、まずは周辺から探ることにした。
 上層部を一人一人探ってみたが、アレイスターが沈黙を守っているのは彼らに対しても同じらしい。
 焦っている者、チャンスと捉える者、慎重に身を固める者、それぞれだ。
 だがそのうち幾人かに不審な動きが見られた。
 外部と接触している痕跡があったのだ。

 『グループ』を収集したのはそのタイミングだった。
 一方通行、結標、海原それぞれと現状維持のための協力を取り付けた直後、最初の魔術師襲撃が起きた。

 あれから単発の襲撃は続いているが、全貌はわからないまま。
 どれほど厳しく詰問しようが、捕らえられた魔術師達は口を割らない。隙を突いて自ら命を絶つ者も多い。

 魔術師達の狙いは何なのか。
 禁書目録が狙われるのは仕方ないとしても、何故一方通行までが襲われるのか。
 そもそも魔術師達の目的は同じなのか、果たして「黒幕」が存在するのか。

 海原や結標の話だと、海外を含めた魔術師達の流れに不審なものが見られるらしい。
 曰く、組織を抜けて行方知れずになる魔術師が頻発しているとか。
 行方不明になる前、どこからか大金を得ていたこともあったらしい。
 魔術師達はそれぞれ系統の違いはあるものの、大部分が十字教の人間だ。


 新たな、しかも大きな十字教の魔術結社が出来たのではないか、と裏の世界ではもっぱらの噂だった。
 この新たな組織と一方通行・禁書目録への襲撃に、関連性があるかは不明。

 更に一方通行によれば、学園都市の兵器開発は新たなステージに進んでいるという。
 これは自分でも裏付け調査を行った。
 新たな兵器、上層部の外との接触。新たな魔術結社。

 タイミングから考えても、あまりに襲撃者の素性が割れないこと鑑みても、これらが無関係だとは思えなかった。

 また、色々上層部に探りを入れたが、アレイスターの意図も結局わからないまま。
 『プラン』とやらに影響がない、もしくは好影響だから静観しているのか。
 もしくは、イギリス清教の最大主教ローラ=スチュアートと同じように、密約でも交わして不可侵を保っているのか。

 何にせよ、土御門は「黒幕」がいると踏んで行動していた。
 いないならいないで構わない。
 無駄な労力を気にするほど、怠惰ではいられなかった人生だ。

(黒幕がアレイスターと繋がっていたら、最悪だな)

 一番の懸念に、土御門は目を眇めた。

 「表」のアンチスキルや警備ロボ、「裏」の暗部、それら両方を押さえられたなら、自分達は本当に独力で戦うしかない。
 元より他人をアテにする性質ではないが、手駒を奪われるのは痛かった。

「……やれやれ」

 状況は良くはないが、自分の仕事をするべく溜息をつく。
 冷たい風が吹いて、土埃を巻き上げた。
 アスファルトが剥がれ、焼け焦げた地の臭いが鼻につく。

 上条と禁書目録への襲撃があって、既に二時間が経過している。
 そろそろ手配した業者が到着する頃だ。その前に現場を検証するつもりだった。

 だがこう破壊しつくされた状態ではどうしようもない、としゃがみ込んでから、ふと片眉を上げる。

「ん……?」

 粉々になったアスファルトの破片。その中の、たまたま大きめに残ったカケラに、何か文字のようなものが焼きつけてある。


 土御門は慎重に拾い上げ、しげしげと検分した。

「ヘブライ語……。魔法陣の一部か?」

 旧約聖書を記していることで知られる、古代の言語。
 自分達魔術師にとっては、やや珍しい形態の魔術を使用する際に用いられることで有名だ。
 元々自分の専門は陰陽術で、あまりにマイナーな術の詳細はわからない。

 しかし何にせよ、先ほどの一方通行からの報告によれば、襲撃者が使用していた魔術はルーン文字によるもののはず。
 実際にビル壁などに目につくのはルーン文字で、ブラフでないことは発動した炎の魔術からも明らかだ。

(文字が焼き付けられた面に、土が付着している。裏面に描かれていた……?)

 すべて吹き飛ばされて見る影もない現場を見回し、土御門は通路の端に歩み寄った。
 かろうじてアスファルトが残った辺りにしゃがみ込み、ナイフを土との境目に刺し込んで引っくり返す。
 上を向いたカケラには、やはりヘブライ文字が焼き付けられていた。

 ルーン文字とは違う、魔法陣。
 魔術師が罠を張った場所に、隠すように、いや、これは隠されていたのだ。
 禁書目録や一方通行は、この場所に誘い出し、炎の罠に嵌めることが目的だったと言っていた。

 だが、本当にそうだったのか?

「これは……」

 ぞわり、と背筋が泡立った。
 嫌な予感がする。土御門はヘブライ語の描かれた面を携帯電話で撮影し、急いで一方通行にメールを送った。
 そのまま電話も掛ける。

『何だ』

 コール一回で、いつも通りの不機嫌そうな声が返った。

「メールは見たか」

『見た。ヘブライ語だな。これがどうかしたのか』

「禁書目録がその場にいるだろう。見せて、意見を聞いてくれ」

 理由も話さず要求を突き付けると、半瞬不満げな沈黙が返るが、結局「わかった」という素っ気ない了承が返った。
 一方通行のこういう、見かけに寄らず合理的なところは好感が持てる。

『おいインデックス、これ見ろ』

『何かなあくせられーた?……ヘブライ語だね、十字教では旧約聖書を記した言葉として知られているよ』

 二人の声が聞こえてきた。どうやらスピーカーにして通話をしてくれているようだ。


「禁書目録、俺には魔法陣の一部に見えるが、どうだ?」

『……そうだね。ヨブ、と書いてあるかも。ヨブ記は旧約聖書の中でも重要な意味を持つんだよ』

「効力は予測できるか?」

 沈黙は数秒だった。

『これだけでは難しいけど、いくつか術の候補があるね』

 いつもふわふわと甘く柔らかい声音とは裏腹の、ひどく落ち着いた響き。
 十万三千冊の魔道所を収めたという少女は、時折同じ人間とは思えぬ顔をする。
 上条に言えば、きっと激怒されるだろうけれど。

『一つは「全天災禍」。ヨブに与えられた様々な禍を再現し、対象を呪い殺す術。
 一つは「簒奪術式」。サタンに全てを奪われたヨブの運命を再現し、対象から指定したものを奪う術。
 あとは、「白の断罪」。潔白でありながら重い試練と冤罪を課せられた生を再現し、対象から自白させる術』

「自白させる……?何だ、一つだけ毛色が違うな」

 土御門は引っ掛かりを覚え、顎をゆっくりと撫でた。

『私に言われても困るんだよ。造った魔術師に言ってくれるかな?』

「簒奪術式、とやらでお前の『魔導書』が奪われた可能性は?」

『うーん。大規模霊装があればともかく、ただの魔法陣でそんなことは難しいかも』

「……なら、この三つの中でどの術が使われたか予想はつくか?」
 
『それはわからないんだよ。これだけじゃ判断できない』

「すぐに調べさせる。何かわかったら連絡するぞ」

 言いながら、二台目の携帯電話でこの場所の解析を依頼する。
 学園都市の技術を以てすれば、吹き飛んだ魔法陣を再現できる可能性があった。

(嫌な予感がする)

 再び気味の悪い冷気が腹の底を冷やし、土御門はしばし沈黙した。

『……無理をしないでほしいんだよ』

 耳元で響いた静かな声に、思わず瞠目する。

「は?」


『あなたが、とうまと私を守るために頑張ってくれているって、とうまから聞いてる』

 いつもは自らの過酷な運命を少しも感じさせない明るい少女が、だからこそと言いたくなるような、優しい響きで囁く。

『あまり、危ないことはしないで。私ととうまなら、きっと大丈夫なんだよ!』

「………」

 自分としたことが、少し言葉を失ってしまった。

『……意外だな。君は俺を嫌っていると思っていた』

 とうまをいつも危ない目に合わせる、と激しく詰られたこともあったし、優しく接したことは一度もない。
 あくまでイギリス清教と学園都市の間のバランスを保つための「秘密兵器」として扱ってきた。

 例え、ただの明るくて優しい女の子なのだと知っていても。

『そ、そんなことないかも』

「かも、か?」
 
 思わず笑い混じりに返せば、今度は友人の声がする。

『意地悪言ってやるなよ土御門。インデックスの口癖なんだ、知ってるだろ?』

『つゥかオマエ、ヘマして死んだりすンなよ』

「はァああ?」

 続いて聞こえた第一位の声に、今度は間違いなく素っ頓狂な悲鳴が出てしまう。

「な~に言ってんだにゃー、らしくないぜよ!」

『そのクソウッゼェ喋り方やめろ殺すぞ!
 オマエが死んだら俺が自分で色々後始末なきゃだろ、ンな面倒くせェことごめンだからな』

『相変わらず素直じゃないなぁ、お前』

『その顔うぜェんだよクソが。
 今は手駒が少ねェンだ、勝手に俺の持ち駒減らすなって話だ』

「ククッ、誰がお前の駒だよ」

 自分と同じような考え方に、また笑いが出てしまう。妙な気分だ。

『捻くれた言い方すんなって。要するに仲間だってことだろ?』

『いちいちウゼェな、お前は黙ってろ。土御門……お前の目的は現状維持だろォが。
 俺達の敵の動きが、必ずしもお前の「現状」を壊すという証拠はないぞ』

「……驚いた。ずいぶん優しくなったな、一方通行」

 鼻白んで驚きを表せば、「はァああ!?」という憤懣やる方ないという叫び声。

「そんなに嫌そうにするなよ、イヤミのつもりはない。
 カミやんの影響か?それはそれで良いことだろうな」

 少し考えて、ひとりごとのように呟いた。


 たった一人で「最強」を維持する一方通行。
 あの『グループ』の戦略兵器が誰かの助けを必要とするなど、夢にも思わなかった。

 そんな自分に、上条は見たことのないような顔で怒ったのだ、と手元に返す。

 一方通行が何者かに狙われているから、居場所を教えろと言ってきた友人の表情。

 何でお前が居場所知ってるのに、俺は知らないんだよ!

 「部外者」には教えられないとごく当たり前に断れば、そんな風に激怒した。

 この自称「普通」の友人は、いつも他人のために怒っている。
 だがあの時ばかりは、少しばかり理不尽な怒り方だったように思う。
 その理由が他にない特別な気持ちにあったなら、一方通行が変わるのも頷ける話だ。

 上条は、世界すべてが諦めるような絶望を、いつも熱意だけでひっくり返してきたのだから。

『……話を逸らすな。今回はそこまで踏み込まなくてもいいって話だ』

「今回って言われてもな……どこまでが「今回」なんだ?」
 
 魔術師の襲撃は、連続する異変の中のひとつに過ぎない。
 線引きは困難だろうし、その意味もないだろう。
 一方通行なら、指摘されずともわかっているはずだ。

『………』

『あ、困った顔になったぞ土御門』

『報告すンな!』

『はは、いいじゃんか。あのなぁ土御門、さっきインデックスと相談してたんだけど、敵は魔術師だろ?
 ってことはさ、お前も魔術で対抗しなきゃなんないかもしれないじゃん。
 けどさ、お前って魔術使うと死にそうになるからさ』

「何だ今更」

 とっくに知っていたはずの事実に、土御門は首を傾げた。

『一方通行がそれ聞いて、ビックリしてたぞ。言ってなかったのか?』

「ん?ああ……別に言う必要もないしな」

 互いにフォローし合う関係でもない。それぞれ、死んだらそれまでの仲だ。

『必要あるだろ!?何言ってんだ!
 それなら他の人に調査とか任せた方がいいこともあるじゃねーか!』


「それも一方通行が言ったのか?」

 意外過ぎる。なんか気持ち悪い。

『勘違いすンな、効率の問題だ』

「ふぅ~~~ん………」

 普段通りの取り付く島もない声音だが、上条に真っ向から反論することもない。

 土御門はサングラスを外して、空を見た。

 ひび割れて焼け焦げたビルの間に、澄んだ青空。
 差し込む陽光は明るく、無惨な路地にあっても少しは温かい。
 自分の生き方に似ていると思った。

「気持ちはありがたいがな、カミやん、一方通行。
 仮に俺への直接的な害がなくても、手は打つべきだと思っている」

 真面目に語る己が少しおかしくて、口元が歪んだ。

「状況が動いている以上、こちらも動いていなければ現状を維持することすらできない。
 お前ならわかるはずだぞ、一方通行」

 自らが動かなければ、状況は悪くなるだけ。

 魔術と科学が交差する、激動の時代だ。
 情勢は一秒たりとも停滞せず、少しずつ重なる影響を見過ごせば、いつかすべてを奪い去る嵐と化すだろう。

「それにな、俺には影響がないとわかっても、俺は必ず動く。そう決めている」

『……何でだ』

「自分に関係ないからって知らんぷりするような男じゃ、格好悪いからにゃー」

 たったひとり大切な妹のため、矜持を守ると決めている。
























「お、ここだな」

 垣根帝督は、何の変哲もないマンションのベランダにひらりと飛び降りた。

 羽をしまったあたりで、正面の窓が勢い良く開く。
 半瞬後、頬を掠めたナイフに、

「おわぁあああ俺俺俺!!」

 と渾身の悲鳴をあげれば、小さな舌打ちが返った。

「あれ、何だ垣根さん。どうしてここがわかったんだ?」

 舌打ちの主の隣に並んだ少年が、大きく振りかぶっていた右手を降ろす。

「何こいつら怖い。何でちょっとベランダに降りただけで攻撃する気満々なの?常識ないの?」

「常識ある扱いしてほしかったら俺の不意を突こうとするな」

 ナイフを背中の方にしまいながら、一方通行が赤い目を眇めた。

「ゴルゴかお前は!ったくよー……」

 最近読んだ漫画のキャラで例えて浅い溜息を零すと、上条が中に促してくれた。
 遠慮なく靴を脱いであがり込む。

「オマエ、まさかフラフラ飛ンで来たンじゃねェだろォな?」

「飛んで来たけど、ちゃんと周りからは見えないようにカムフラしたから大丈夫。
 んな心配すんなって。お邪魔しまーすっと」

 警戒剥き出しの言葉をいなして、興味深く部屋を見回した。ごく普通のマンションの一室だ。
 強いて言えば、以前『スクール』で使っていた隠れ家に似ているかもしれない。

「ふーん。ここがお前と上条の愛の巣かぁ」

「はァ……?」

 胡乱げな視線が後頭部に突き刺さるので、振り返って苦笑する。

「打ち止めと10032号に頼まれたんだよ。
 お前と上条が二人で暮らすっつーから、様子見て来いってな」

「情報早すぎンだろアイツら……」

 チッ20000号の奴、と苦虫を噛み潰したような顔になる一方通行の隣で、上条が反応出来ずに固まっている。

「その20000号ちゃんは?」

「ンなもンさっさと帰したっつーの」

「あーあーかわいそうに。だいたいお前らが隠し事多いから、打ち止めも10032号も必死になっちゃうんだろ?
 もうちょっと連絡してやれよ。寂しそうだぞ、二人とも。あと19090号もな」

 垣根は現在も病院に滞在中だ。
 怪我は概ね良いのだが、行くところがないと蛙顔の医者に言ったら、気が済むまで居て良いと許可をくれた。

 毎日時間がありあまっていて、暇なはずなのに、退屈じゃない。
 朝起きて19090号や10032号に挨拶をして、時々一緒にご飯を食べて、やって来る打ち止めと遊ぶ。
 体重が増えたとか減ったとか、新しいクレープがどうとか、上条や一方通行がどうしたとか、他愛ない話は楽しかった。
 何の意味もない話とは楽しいものだと、あの少女達が教えてくれたのだった。

 上条と一方通行を守る。
 約束はもちろん本心の情と罪滅ぼしからだったけれど、次第に血肉となって来ている。


「何なンだオマエ、あのクソガキ共の言うこと聞いてやる義理なンかねェだろ」

「ひどいこと言うなぁ?友達だもん、俺ら」

「はァああ?」

 血色の目がギラリと吊り上がる。
 悪寒すら覚えさせる本気の殺気に、垣根は肩を竦めて笑った。

「いーでしょ、お父さん?だってあの子ら、みんなすごく良い子じゃん。
 何かしてあげたくなっちゃうんだよ。わかるだろ?」

 一番否定できそうにない相手に言えば、火が消えるように殺気が薄れる。
 ただ憮然と押し黙った表情は、ありふれた照れ隠しにも見えた。

「つゥかよォ、オマエどうやってここ突き止めたンだよ。20000号には口止めしといただろ」

「ん?あー、それね」

 あからさまに話題を逸らしたのにも突っ込まず、垣根は苦笑する。
 かわいいものだ。20000号との口約束を、少しも疑っていない。

「これ」

 固まった名残のように口数が少ない上条の、髪の中に手を入れる。
 全く無警戒の少年に、笑ってしまった。

 いつも、手を伸ばせば怯えられた。
 当然のことだ。自分の創り出す『未現物質』は簡単に人の命を奪う。

 本当は悲しかったし寂しかったのだと自覚したのは、ほんの最近。
 生まれて初めて、この手に怯えない人達に出会ってからだ。

「俺の『未現物質』製の発信機みたいなもん。もちろん発信してんのも『未現物質』だから、俺しか受信できねぇの」

「マジか!すげぇな垣根さん」

 流石第二位、と目を丸くして右手を伸ばすが、その指先に触れた途端、澄んだ音を立てて霧散した。

「あああああ!?」

「あ、ですよねー」

 悲鳴をあげる上条を余所に、垣根はさもありあんと頷く。

「受信できてたってことは、右手に触れなきゃ大丈夫なんだな」

「ああ、あ、そ、そうかも?
 回復系は右手に繋がってるからか大概ダメだけど、攻撃系は当たったら怪我するし」


「ふーん、そっか」

 マジマジと右手を見つめていると、背中に軽い衝撃がある。

「って、何だよ一方通行」

「何じゃねェよ。邪魔だ、さっさと帰れ」

 真っ白の手をヒラヒラ振りながら、一方通行がわずらわしそうに顔をしかめる。
 垣根は溜息をついた。

「お前ねぇ……。お前も上条もホント水くさいっていうかさぁ……」

「何が言いたい」

「打ち止めの気持ちもわかるって話」

「オマエにあのガキの何が」

「誰にでもわかるだろ。もちろんお前にもさ」

 赤い目は鋭さを増すが、溜息が再度漏れるばかりだ。
 薄々はわかっていたことだけれど、驚くほど伝わっていないのだと思い知らされる。

「俺さぁ、今はお前のことも上条のことも、好きなんだぜ」

「はァ?気持ち悪ッ」

 本気で嫌そうに顔を歪める一方通行の肩を、「おいこら」と上条が叩いた。

「そんな言い方やめろよなぁ。心配してくれてるってことだろ?
 ありがとう垣根さん、でも俺達」

「はいはい大丈夫だって言いてーんだろ?でもさ、俺打ち止めと約束しちゃったし。
 お前達を守るってさ」

 頬が自然と緩んで、微笑む。笑み崩れた表情は、少し情けなかったかもしれない。
 上条が、一方通行さえ驚いた顔をしたのは、きっとそのせいだろう。


「……とうまとあくせられーたを、守ってくれるの?」


 ふと、ずっと上条の後ろに庇われるようにしていた少女が、ひょこりと顔を出した。

 まだあどけない顔立ちの、とても澄んだ碧眼と銀髪が印象的だった。
 どことなく打ち止めとイメージが重なるのは、「おい無茶言うなよ」と窘める上条の表情のせいかもしれない。
 もしくは、白くて小さな顔に浮かぶ、安堵と慈愛の色が似ているからかもしれない。

「ありがとう、嬉しいな。私はインデックスって言うんだよ。あなたは誰?」

「俺は垣根帝督。よろしくな、インデックス」

 ああ、この子か、と思った。
 
 このあまりにごく普通の、だからこそ強靭な心を持つ少年が、どんな子を守っているのか。
 一度は見てみたかったのだ。




















「お姉さま、ご機嫌ですのね」

 自分も機嫌良さげな後輩の声に、美琴は振り返った。
 風呂から出てきた白井黒子が、髪を拭きながら笑っている。

「そう?そんなことないけど。あ、黒子もアイス食べる?」

 最近発売されたヤシの実サイダーアイスを差し出せば、「遠慮いたしますわ」と苦笑が返った。

「もう三月とはいえ、随分冷えますのに……。お腹を冷やすのは感心しませんわよ」

「いーじゃない、おいしいんだもん」

「しょうがありませんわねぇ、お姉さまったら。食べ終わったら紅茶でもいかが?」

 黒子は隣のベッドに腰掛け、品の良い仕草で髪を拭う。

「いいわねぇ!そうだ、前にニーマンマーカスのクッキーお土産に貰ったでしょ?
 あれ開けちゃおっかー」

 アメリカの有名デパートのお菓子を思い出し、鼻歌を口ずさみながら立ち上がる。
 三歩で机に歩み寄る間にアイスを食べ終え、鮮やかな赤い箱を取り出して、美琴はにっこりわらった。

「やっぱり……何か良いことがあったんですの?」

 控えめに黒子が繰り返す。
 振り返れば、あまり見ないような優しい微笑みを浮かべていた。

 いつもは突拍子もない言動の多い後輩だけれど、自分のことを本当に想ってくれている。
 目標だと、誇りに思っていると、真っ直ぐに向けられる目。
 黒子の前に立つと、背筋が自然と伸びる。

「んー、そだね。ずっと気になってたことに、決着ついたから」

 クッキーの箱を、勢い良く開けた。





 少し前、一方通行が美琴の元にやって来た。

 病院で打ち止めや垣根と過ごしていたら、唐突に顔を見せたのだった。
 ただ目が合っただけで、打ち止めは「向こうに行ってるね」とゆっくり呟き、垣根と共に去った。

 一方通行の意図を察したのだろう。
 相変わらず、あの小さな妹の一番は、この凶悪面した少年のような少女なのだ。

 春先の昼下がり。
 人のない病院の廊下は静まり返り、窓からの陽が白い髪と肌を照らす。

『約束を果たしに来た』

 明るい陽射しに不似合いに顔を苦々しく歪めて、これ以上ないほど不本意そうに呟く。

 どうしてあんな実験に参加したのか。
 参加したのに、今はどうしてこの子達を守っているのか。
 理由を話す、と。
 三人の妹達の前で誓った、細い背中。

 あの約束を違えられるとは思っていなかったが、思ったよりも早かった。

『思ったより早いわね』

 率直に口に出せば、浅い溜息が返る。

『もったいぶるような話じゃねェよ』

 真っ白い睫毛を伏せると、赤い色の目が桃色に煙る。
 そうすれば、途端に強靱な覇気が薄れて思えた。

 そうして淡々と「絶対能力進化実験」被験者、一方通行は語り出した。
 実験に参加した理由。幼い頃の経験。
 話は数分もかからなかった。

 最強になりたかった、という過去系の告白。

『思ったより、ずっとくだらないわね』

 思わず俯きたくなるような凄惨な内容も、背筋を伸ばしたまま聞き終えて、美琴は吐き捨てた。

 一方通行は黙っている。
 怒った風でも、傷ついた風でもない。
 仮にその両方だったとしても、顔に出すほどのかわいげはないだろう。

『幼稚で、臆病で、バカみたい。そんなことで、そんなことで……!!』

 脳裏に9982号の無表情が閃く。
 マグマのように吹き上げてくる怒りは、以前のような胸の悪くなる憎悪ではなく、ただ熱かった。

 一方通行の決意も、研究者達の意図も、学園都市の在り方そのものも、すべてに腸が煮えそうだ。


『バカみたい、アンタも、実験も、学園都市も!!』

 美琴は拳を握りしめた。

 これが科学の最先端、教育の最高峰と呼ばれる学園都市の裏側。
 自分がDNAマップを提供した頃と何も変わっていない。

 正義も道理も、子供の戯言と一笑に付される。それが許せなかった。

『……そォだな』

 静かな相槌に、ハッと我に返る。

 一方通行は佇んだまま、真っ直ぐにこちらを向いていた。
 嫌そうですらない無表情は、それだけだと溶けて消えそうに頼りなく見える。

 不意によくわからない焦燥が湧いて、唾を?み込んだ。

『もう一つよ。どうして打ち止めを助けたのか、教えて』

『……オマエ、知ってたのか』

 赤い目が驚いたように見開かれる。

『垣根さんに聞いたの。あ、言っとくけどあの人を責めないでよね。
 向こうは私が知ってるって思ってたみたいだし』

 途端に不快そうに目を眇められ、慌ててフォローすれば、渋々といった呈で浅く頷かれた。

『知ってたンなら、もォ聞くことはねェだろ』

『何言ってるの?聞きたいのは事実じゃなくて理由よ。事実も知りたかったけど、もう聞いた。
 だからあとは理由。アンタが実験に参加した動機じゃ打ち止めを助ける理由にはならないでしょ』

 最強になりたかった、だから実験に参加した。
 それと、自分が殺しに殺し尽くした顔を助けるのは、全く異なる話だ。

 むしろ、今までの自分を否定することに繋がるのではないだろうか。
 今まで殺していた存在を、助けるという行為は。

『……そっちは、考えたが、別に深い理由はない』

『へ?』


 自分で予想を付けた理由に狼狽していたところに、あっさりと投げ出されて、間抜けた声が漏れた。

『理由がないって……そんなわけないじゃない!』

『ねェもンはねェンだよ』

 一方通行はごく自然な、普段の不遜な顔つきに戻っていた。

 ポーズなのかもしれないし、単に感傷を表に出していないのかもしれない。
 美琴にはわからない。

『そんなんじゃ納得できないわよ!もっとよく思い出してよ!』

『別にオマエを納得させるために来たンじゃねェし……』

 我ながら理不尽な言い方をしたと思うが、目の前の最強は思ったよりも気分を害した様子はなかった。

 それどころか、言葉通り考え込むような素振りをする。

『そォだな……』

 素直と言っても良い反応に愕然とするが、一方通行は気にした様子はなく、少しして口を開いた。

『朝、目が覚めたら目の前にいたし、一緒に飯食ったから』

『うん、それで』

『それだけだ』

『え……?』

 美琴はポカンと口を開いた。たったそれだけのことで、命を懸けたというのだろうか。

『それだけ?たった?』

 呆れた風に伝わってしまったのか、一方通行がじわりと顔を顰める。

『それだけだ。まァあン時は色々考えもしたが、今から考えればそンなもンだな』

 そのまま後ろを振り返ると、角から見えていた茶色い髪が慌てたように隠れた。

『あのクソガキ……』

 あれで隠れてるつもりだから、これだからガキは、と悪態をついている。
 ついているつもりなのだろうが、その表情は穏やかだった。

 あれほどまでに残虐で残酷で悪逆非道に思えた第一位が、まるで父親だか母親だかのような顔をして。


『…………』

 朝、目が覚めて目の前にいた。
 一緒に食事をした。

 たったそれだけのことで、命を懸けた。

 ということはつまり、たったそれだけのことが、一方通行にとっては僥倖だったということなのだろうか。

 たった一人で眠り、目を覚まし、実験をこなし、一人で食事をしていたのかもしれない。

 小さな白い子供がそうしている姿は、容易に想像ができた。

『わかったわ』

 美琴は再び拳を握り締める。

 自分の中に長く続いた憎悪と悔恨に、白刃を振り下ろすように区切りをつけた。

 もう消えかけていた痛みの名残を、しかし忘れることだけはないのだ。

『一方通行。私はアンタを許さない』

 決然と告げれば、白い顔が浅く頷く。

『あァ』

『だから、ずっと見てるわ』

 続けた言葉に、赤い目が見開かれる。

 ミサカにとって『許さない』は、『ずっと見てるよ』って意味なの……。
 『ずっと側で見てるよ』っていう、約束なの。

 打ち止めからそう聞いたのは、随分昔に思える。

 あの時は理解不能だった言葉が、今は呆れ気味にも腑に落ちた。

『アンタがどう生きるのか、ずっと見てる。みっともない真似をしたら、承知しないわよ』

 だから、美琴も『約束』をする。

 最後まで許さないのが打ち止めと、自分。

 考えるまでもなく、なかなか妥当なラインナップだろう。
 打ち止めにだけ全てを背負わせるよりも、この方が自分らしい。

『…………』


 一方通行は、痛ましいような眩しいような顔でこちらを見る。
 以前憎悪をぶつけた時とは違う表情だった。

 自分の言葉の意図を察したのだろう。

 しばらく黙ったまま、遠くから病院の喧噪が響いてくる。
 さわさわと入り混じる人の声は漣のようだった。

『……とンだお人好しもいたもンだな』

 しばらく考えあぐねた後で、ようやく出て来たようなのがそういう憎まれ口だ。


『おい一方通行、そういう言い方ないだろ?』


 突然背後から軽い調子の声がして、美琴は飛び上がった。
 驚いたからではない、 その声の主にはいつだって平気ではいられない。

『上条……。オマエには関係ねェだろ、いっつもしゃしゃり出て来やがって』

 一方通行が急に生気を取り戻したように顔を顰め、これみよがしの溜息をつく。

『はは、偶然だって。でもホントよく居合わせるよなぁ、そういう縁かなぁ?』

 上条が現れて、一方通行の雰囲気は明らかに弛緩した。
 安堵、と言い換えることもできるかもしれない。

『そういうってどういう縁よゴラァ!!』

 込み上げる焦燥というか、美琴が思わず怒鳴ると、上条は少し不思議そうに首を傾げる。

『どういう……って?うーん、どうだろうなぁ』

『どォもこォもねェし、深く考えンなバカが。だいたいオマエ入って来ンなよ、空気読めよ』

 相変わらずツンツンの頭を掻きながら、ごく自然に一方通行の正面に立つ。

『ごめん。いやーお前は入って来てほしくないだろうなぁって思ったけど、俺気になっちゃってさ』

『なってさ、じゃねェよバカ死ね』

『御坂もごめん。やっぱ邪魔だったか?』

 上条の笑顔がこちらを見て、再度「べ、べべ別に!」と飛び上がる。 


 何も飛び上がることはないと自分でもわかっているのだが、この何の変哲もない、いや少しは精悍なんじゃないか、
正直言うと格好いいのではないか、という顔に見詰められるとどうしても心臓が跳ね上がってしまうのだった。

 それに今の表情は、あまり見たことのないものだった。
 いつも飄々と明るいんだか軽薄なんだか、そういう笑顔だけれど、今は。

 特別に優しい顔に見えた。

 見ているとどんどん頬が熱くなって来るので、ふらふらと視線を外す。

『別に、もう、いいわ。話は終わったもの』

 これ以上何も話すことはない。言いたいことは十分言った。
 伝わったという実感もある。

『だからって入って来ンなっつゥの。向こうに打ち止めいただろ、大人しく一緒に待ってらンねェのか』

『えー?いやだぜそんなの。ずっと立ち聞きとか何か悪いじゃん』

『オマエはァ……』

 一方通行はげっそりとした風の溜息を漏らした。

 美琴すら一方通行の困惑がわかるのに、上条は一顧だにした様子もなく笑っている。
 気持ちをわかっていて、敢えて無視したような形は、この少年らしいような気もしたし、そうでないような気もした。

 打ち止めは、決してしないことだろう。
 あの小さな少女は、決して一方通行の望まぬことをしない。
 それがあの子の愛情と優しさの形だ。

 けれど上条は違う。上条の優しさと情はおそらく、必ずしも一方通行の望んだ形ではない。

 だが、だからといって、その形を拒むわけでもないのだろう。
 誰しも、自分が一番欲しいものを自覚しているわけじゃないから。

 禍々しさも絶望も狂気も憤怒もない、ただ年相応のような顔の第一位を見て、美琴はぼんやりと考えた。

『御坂』

『え』

 ふと、どんな時だって聞き逃さない声に呼ばれて、慌てて顔を上げる。

『ありがとな。お前ならきっと、わかってくれるって思ってたぜ』

 上条は先ほどと同じ、特別に優しい笑顔だった。

 途端に治まりかけていた動悸が激しくなり、カッと頬が燃える。

『べべ、別に!?アンタに礼を言われることじゃないわよ!!』

『はは、それもそっか。つか一方通行、思い出しけど。さっきの言い方良くないだろ。
 もっと他に言いたいことあるんじゃないか?』


 先ほどの「とンだお人好し」についての苦言らしい。
 美琴としては一方通行だしそんなものだろうと思っていたが、上条は納得していないようだった。

『御坂はお前にあんなに一生懸命歩み寄ってくれたのに、お前はそれだけで済ますのかよ』

『はァ?オマエには関係ねェことだろ』

 案の定、白い顔が凶悪に歪む。
 もう恐ろしいとは思わないが、やはり「普通」とは掛け離れた殺気に背筋がざわりと泡立った。

『関係ないとかさ、そういう寂しいこと言うなよ……』

 しかし上条は何の痛痒も受けていないようで、それどころかひどく悲しそうに俯く。

 美琴は反射的に自分の胸も痛んだ気がして、けれど直後に小さな違和感を覚えた。
 あれほどまでの殺気を受けて、それが一方通行にとってはささいなものだったとしても、「ごく普通の」高校生に耐えられるようなものではない。

 どんな修羅場を潜り抜けて来たとしても、上条はただの高校生だ。良い意味でも、悪い意味でも。

 一方通行がどんなことをしてきたのか知っていて、受け入れて、あんな顔をする。
 この少年には元々そういうところがあるとわかっていたけれど、何だかちょっと次元が異なるように思えた。

『…………』

『…………』

 上条と一方通行が睨み合っていたのは、ほんの数秒。

 その間、さわさわと漣のような違和感が美琴の胸底を揺らした。

『……わかった』

 意外にも、折れたのは一方通行の方だ。

 死んでも自分の意見を曲げそうにない奴だと思っていたのに、驚愕だ。
 人に言われて言うことを聞くなんて、死んでもごめんだという性質だと思っていた。

 赤い目が、ポカンとしているこちらをチラリと一瞥して、覚悟を決めるように短く息をつく。

『なら、頼ンだ』

 オマエにずっと俺のことを、見ていてほしい、と。















今日はここまでで またそのうちに
更新は遅いですが完結はさせるつもりです

つっても毎度心配していただくのも恐縮なんで、
今後は一か月以内に更新出来ない時にはお知らせとか生存報告するようにします
とりあえず二月中は無理っぽいですすいません

うわっ 鯖復活してたのか
ずっと落ちてたからもうずっとこのままかと思った

ということで月1生存報告です
今月中は多分無理ですすいません
来月の様子見てまた報告しに来ます

こんにちは。生存報告に来ましたすいません。
更新は来月になりそうです。
遅くなってしまって申し訳ありません。
また気が向いたら見てやってください。

あ やばいですね生存報告です
いつも遅くなってすいません
今月中には来れると思うのですが……
気が向いたらまた見てやってください

すいません、間に合わなかった……
もうちょっとかかります
またそのうち覗いてやってください

本当になかなか投下できず、申し訳ありません
書き込んでくださる方、本当にありがとうございます
落ちない程度に保守はしますし、必ず完結させますので、
思い出した時に見ていただければと思います

本当に書けてなくてすいません
自分は忘れてはいないのでスレ落としちゃうことはないと思いますが…(万が一落としても立て直します)
ちょいちょい書いてますがまとまった量にはまだなっていないので
できたら投下しに来ます
時々見てくださる方には本当に申し訳ないです
忘れないでいてくれてありがとう

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