メイド「あのウロボロスの蛇のように」(616)

「・・・入り、ましょう」

「・・・そうね。もしかしたら、鍵をかけ忘れて寝てしまった・・・の、かも」



「「・・・!!!!!」」



「う・・・嘘、でしょう? なんで・・・?」

「・・・・・・あ・・・あ・・・・・・」

「・・・と、とりあえず! 下ろしてあげよ!! 手伝って!!」

「・・・あ、は、はい」

「嘘よ・・・こんなの・・・・・・」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 ―――the 1st week

メイド「は、初めまして! こちらで働かせてもらうことになったメイドといいます!」

チーフ「あら・・・お話は聞いてるわ。ようこそ。元気で可愛らしい娘だと聞いてたけど本当ね」

メイド「え、いやぁ・・・」

チーフ「ふふ、若いわねぇ。あなたいくつ?」

メイド「えっと・・・16になります」

チーフ「・・・ほんと、若いわねぇ。・・・さて、まずあなたの部屋に案内するからついてきてくれるかしら?」

メイド「はい! お願いします!」

チーフ「こっちよ」

チーフ「ここの部屋ね」

メイド「はいっ」

チーフ「・・・先輩? 入るわね」

「どうぞ」

チーフ「突然ごめんなさい。今大丈夫かしら?」

先輩「お疲れさまです。大丈夫ですよ」

チーフ「・・・この子が、メイドさんよ」

メイド「初めまして! メイドといいます!」

先輩「あぁ! この前から聞いてた新人の子ね!」

メイド「は、はい! 一生懸命頑張ります!」

先輩「うんうん、よろしくね」

先輩「ね、あなたいくつ?」

メイド「あの、16になります」

先輩「若いわねぇ、良いわぁ」

チーフ「あなたとほとんど変わらないじゃないの」

先輩「何言ってるんですか! 3つは大きな差ですよ!」

メイド「ということは・・・」

先輩「えぇ、もうあと半年で花の10代も卒業ねぇ・・・」

チーフ「・・・なに言ってるのよ、まったく」

先輩「何言ってるんですか、チーフさんだってまだお若いじゃないですかぁ」

チーフ「そんなことないわ。・・・さて、私は用事があるからこの後の事、任せて良いかしら?」

先輩「あ、大丈夫ですよ。どうぞお任せを」

チーフ「ごめんなさいね。お願いね」

先輩「はいはーい」

 バタン

メイド「あの、どういう・・・」

先輩「ん? 聞いてないかしら。あなたをこの館の案内する事と、あと仕事の説明ね」

メイド「な、なるほど」

先輩「本当ならチーフさんの役目なんだけど・・・チーフさんお忙しいから。私が代わりでやるわ」

メイド「分かりました! よろしくお願いします!」

先輩「元気があってよろしい。じゃ、早速いくけど・・・大丈夫?」

メイド「はい!」

先輩「分かったわ。あ、そういえば私の自己紹介がまだだったわね」

先輩「"先輩"と言うわ。ここで勤め始めて3年になるかしら? さっきも言ったけど、年はあなたの3つ上ね」

先輩「分からない事とか、なんでも聞いてくれて大丈夫よ。部屋も一緒だし・・・」

メイド「は、はい! よろしくお願いします!」

先輩「私の前でぐらいそんな硬くなくて良いのよ? 私はもうね、かわいい後輩ができて凄い嬉しいの。よろしくね」

メイド「はい! ありがとうございます!」

先輩「まぁー、こんなところね。もっと聞きたいことあるけど・・・また後でね。じゃあ私についてきて。案内するから」

メイド「はいっ」

メイド「このお屋敷・・・けっこう大きいですよね」

先輩「まあね。でもまぁ、迷うほど広いというわけじゃないわ。でも慣れるまでは大変かもね」

メイド「なるほど・・・」

先輩「1階は私たち・・・住み込みで働いてる人たちの部屋ね。他にも色々あるけど・・・
   いちいち全部説明してたら日が暮れるわ。とりあえず、よく行く機会があるところだけ案内するから」

メイド「分かりました! ・・・ところで、先輩さんは大丈夫なんですか?」

先輩「? 何が??」

メイド「チーフさんはお仕事があるって言ってたのに、先輩さんは・・・?」

先輩「あーあー、それなら心配いらないわ。一応私は、今日は休みを取らせてもらってるから。良いのよ」

メイド「そ、そうでしたか。・・・で、でもっ、折角のお休みを私なんかに・・・」

先輩「大丈夫よ。仕事してる他の子にやらせるわけにいかないし。
何より私が案内したり説明してあげたいの! だから良いの。分かった?」

メイド「は・・・はい!」

先輩「それで・・・1階が私たちの部屋だったり、食事を作ったり食べたりは1階ね」

先輩「2階はご主人様と奥様、それからお子さんたちの部屋ね」

メイド「何人兄弟でいらっしゃるんですか?」

先輩「えっとね、3人いらっしゃるわ。娘さんが2人、息子さんが1人」

メイド「3人姉弟・・・」

先輩「癖のある人ばかりだけど・・・皆、良い方たちばかりだから。安心して」

メイド「分かりました!」

先輩「そういえばまだあなた、ご主人様や奥様には挨拶していないんでしょう?」

メイド「はい、そうなんです・・・」

先輩「だったら、行かなきゃ。私も付いていくから行きましょ」

メイド「はい!」

「ぴかぴかにー、きれいきれいしましょう~♪」

「こら、そこまだ箒で掃いてない」

「え、そうなの」

「ちゃんと良く見て。ほこりが落ちてるでしょう」

「・・・ほんとだ」

「・・・・・・はぁ」

先輩「あなたたち、ちゃんとやってる?」

「あっ・・・先輩さん」

「・・・すみません。先輩さん、あの」

先輩「まぁ、私語とかはなるべく慎むように。それより・・・」

「あれ、その子、誰ですか?」

「・・・ここで働いてる人ではないですね」

先輩「この子は新入りで、正式には明日からここで働くんだけど・・・、ほらほら」

メイド「は、はいっ! ・・・あの、"メイド"といいます。よろしくお願いします!」

「初めまして! 私は、"そばかす"。そばかすがちゃーむぽいんと? です! よろしくね」

「自分でチャームポイントとか・・・こほん。私は、"色白"っていいます。こちらこそよろしく」

メイド「そばかすさんに、色白さん・・・よろしくお願いします!」

そばかす「メイドちゃんって、いくつ? 私たちと同じくらいだけど・・・」

メイド「えっと、16になります」

色白「なら、私とそばかすの1つ下ね。私とそばかすは同じ歳だから」

そばかす「えへへ、なら私たち先輩だね! 後輩ができるって、なんか嬉しい!」

色白「・・・あいかわらず単純ねぇ」

先輩「まぁ、それがこの子の良い所でもあるし」

そばかす「何かあったら、私たちにも遠慮なく聞いてね! 大歓迎だから!」

色白「聞くのは恥ずかしいかもしれないけど・・・私たちに関しては
そういうのは全然気にしなくて大丈夫。歳も1つしか違わないしね」

メイド「は、はい! よろしくお願いします!」

そばかす「うん。よろしくね!」

色白「こちらこそよろしく」

「・・・あなた達、こんなところでぞろぞろ何してるの? 仕事中のはずでしょう」

「集まって雑談など関心しないことね」

そばかす「あ・・・え、えと」

先輩「すみません。ただ、私は新人の子を紹介していただけですので」

「・・・・・・そう。なら、さっさと再開しなさい。先輩、あなたは休みのはずだけど」

先輩「だから新人の子を紹介したり、案内してるんですけどねぇ」

「・・・・・・・・・」

「あ、あなたねぇ・・・この人を・・・」

「よしなさい。行きましょう」

「あ・・・はい」

そばかす「・・・・・・はぁぁ・・・」

色白「・・・・・・」

先輩「ふう」

メイド「・・・あの、今の人たちは」

先輩「"お局"さんと"メガネ"さんね。どちらもここで住み込みで働いてる人」

そばかす「けっこうベテランさんなんだけど・・・それを鼻にかけてるのか、ちょっと偉そうだったり」

色白「ちょっとどころじゃないと思うけど・・・」

先輩「まあ私たちにとってはどちらも職場の上司だから、下手なことは言い返せないけどね」

メイド「そ、そうですか」

そばかす「最近特になんか偉そうっていうか・・・そんな気しません?」

先輩「・・・気持ちは分かるけど、無駄口はここまで。あなたたちも仕事再開してね」

そばかす「あ、はい!」

色白「分かりました」

先輩「次に行くわよメイド」

メイド「はい!」

先輩「ここは食事を取るところね」

メイド「食事は誰が作るんですか?」

先輩「私たち全員でよ。交代制でね」

メイド「そ、そうですか・・・」

先輩「あら、もしかして苦手かしら?」

メイド「・・・あんまりやったことないです」

先輩「大丈夫大丈夫、そんな心配しなくてもちゃんと教えてあげるから」

メイド「はい・・・」

先輩「ここは中庭よ」

メイド「わぁ・・・すごいです」

先輩「毎日しっかり手入れされてるからね」

メイド「なるほど・・・」

「おや、見ない顔がいるね」

「あら、ほんと」

メイド「あ・・・」

先輩「あなたたちがここに居たの。ちょうど良かった」

メイド「新人のメイドです! よろしくお願いします!」

「元気だねぇ。良いよ、私はそういうの嫌いじゃない」

「"姉御"だ。みんなの頼りの綱だ! よろしくなメイド」

「"長髪"っていうわ。よろしくね」

メイド「姉御さんに長髪さん・・・よろしくお願いします!」

先輩「今日から、正式には明日からだけど、働くことになった子よ」

姉御「前に少し聞いたな・・・それにしても、今時珍しいなぁ、おい?」

長髪「・・・確かにね」

メイド「?? 何がですか?」

姉御「あんたのことだよ。今時、こんないかにも真面目で清楚な女の子! って感じだよな」

メイド「そ、そうですか・・・?」

先輩「言われてみれば、そうかもしれないわね・・・いや、ほんと」

長髪「ここではかなり貴重なキャラね」

姉御「はは、楽しみだな。よろしくなメイド!」

長髪「私からもよろしく」

メイド「はい! よろしくお願いします!」

先輩「さて、そろそろご主人様にも挨拶にいかなくちゃ」

メイド「そ、そうですね・・・まだでした・・・」

姉御「ここの主にまだ挨拶も終わってなかったのか? 私たちのことはいいから、早く行って来い」

長髪「本来なら、一番にでも行くべきよ。行って来なさい。先輩さんもついてるし」

先輩「じゃ、お言葉に甘えて・・・行くわよメイド」

メイド「は、はい!」



姉御「やれやれ、いろいろ世話が焼けそうなやつだな」

長髪「ふふ、確かにね」

先輩「ここがご主人様の私室ね。今の時間帯ならいるはずだから・・・さ、ノックして」

メイド「は、はい・・・!」

 こんこん

「入りなさい」

先輩「・・・入って、メイド」

メイド「はい。・・・失礼します」


「・・・おや」

メイド「は、初めまして! 新人のメイドです! よろしくお願いします!」

「おお、君がメイドくんか。会いたかったよ」

「まあ、かわいらしいお嬢さんね」

「"主人"だよ。"執事"からいろいろ話は聞いているよ」

執事「よくぞ来たねメイドさん」

メイド「あ・・・ここに来る時はありがとうございました執事さん!」

主人「ほら、お前からも」

「言われなくても・・・"夫人"よ。この人の妻よ」

メイド「一生懸命頑張ります! よろしくお願いします!」

主人「ふむふむ・・・執事に聞いていた通り、この上なく明るく素直な子だね」

夫人「ええ、ぜひ頑張って欲しいわ」

メイド「ありがとうございます!」

主人「さて、私の子供たちには会ったかな?」

メイド「実はまだでして・・・」

主人「ふむ、まあ会ったら適当に挨拶しておいてくれていいよ」

主人「本当にこんな人里離れたところまでよく来てくれたね。もう今日はゆっくりして、明日に備えなさい」

メイド「わ、分かりました」

主人「うむ。では、明日からしっかり頼むぞ!」

メイド「はい! 失礼します!」

メイド「・・・ふう」

先輩「・・・どうだった?」

メイド「ご主人様も奥様も、それから執事さんも・・・凄く良い人でした!」

先輩「・・・ちゃんと挨拶できたみたいで何より」

メイド「緊張しました・・・」

先輩「その内慣れてくるわ。それじゃあ、あとは・・・部屋に帰って明日の準備の荷物の整理とかしてもらおうかしら」

メイド「分かりました!」

先輩「うん、じゃあ戻ろうか」

メイド「はいっ」

メイド(こんなものですかね)

先輩「メイド、明日の準備とか整理とかできた?」

メイド「はい、大丈夫です!」

先輩「なら良かった。忙しくなるわよ。頑張ってね」

メイド「はいっ!」

先輩「じゃあ、もう寝よう。これからたぶんずっと私と同じ部屋だろうから・・・まあ仲良くしていこうね」

メイド「はい、ぜひ!」

先輩「ほんと、元気いっぱいで羨ましいわ・・・いいわねぇ、若いって」

メイド「な、何言ってるんですか先輩さんだってまだまだ・・・」

先輩「はいはい、ありがとう。・・・それじゃあ、もう寝よう。ここの消灯は10時になってるからね」

メイド「なるほど。分かりました」

先輩「少なくとも、10時までには部屋に戻ること。
その後、寝るか起きてるかは自由だけど・・・明日に支障をきたさない程度にね」

メイド「はい!」

先輩「うん、それじゃあ・・・おやすみ」

メイド「おやすみなさい・・・」

メイド(スースー)

先輩「・・・見事に寝てるわねぇ。ほら、メイドっ」ゆさゆさ

メイド「・・・う・・・ん・・・」

先輩「ほらほら、朝よ」

メイド「・・・・・・おはよう、ございます」

先輩「はいおはよう。さっさと着替えて支度して」

メイド「・・・・・・あ、そうでした。はい」

先輩「寝ぼけてるの? 新人なんだから、一番に起きるぐらいじゃないと! 急いで急いで!」

メイド「あ、は、は、はいっ!」

22
先輩「私と一緒に食事を作るのを手伝って。今週は私達が当番なの」

メイド「ということは、他にも誰か?」

先輩「そうよ。おっと、噂をすれば・・・」

そばかす「おはようございます先輩さんっ!」

先輩「おはよう、そばかす」

そばかす「あっ、メイドちゃんもおはよう!」

メイド「おはようございます、そばかすさん!」

そばかす「今日からだったっけ? よろしくね。頑張ってね!」

メイド「はいっ」

先輩「・・・色白は?」

そばかす「うーん、なんかまだ髪をいじってるみたいで」

先輩「もう、仕方ないわねぇ」

色白「・・・すみません、先輩さん。手伝ってもらって」

先輩「はいはい。良いから、行くわよ」

色白「はい。・・・あら、メイドさん、だったかな。おはよう」

メイド「はい、おはようございますっ」

色白「そっか、先輩さんと部屋一緒だし、メイドさんも一緒にやるのね」

メイド「そうなんです」

色白「分かった。よろしくねメイドさん」

メイド「はい、よろしくお願いしますっ。・・・あとあの、色白さん」

色白「? なあに?」

メイド「私のことは、呼び捨ててもらって良いですから」

色白「・・・分かった。よろしくね、メイド」

メイド「・・・はいっ」

そばかす「ふふっ、私達、すぐ仲良くなれそう!」

先輩「そうね。・・・じゃあ、行きましょっか」

メイド「これで・・・全部OKですか?」

先輩「そうね・・・全員分用意できた。食器もお料理も大丈夫」

そばかす「メイドちゃん、思ったよりできるね。ちょっとドジが多いけど」

メイド「あはは・・・すみません」

色白「ちょっとなのか、多いのか、どっちよ。・・・まぁ、新人にしてはできる方じゃない?」

先輩「家で手伝いとかやってたの?」

メイド「はい、といってもほんの少しですけど・・・」

そばかす「大丈夫大丈夫。色白ちゃんなんて、ぜんっぜんできなかったから!」

色白「ちょ、ちょっと・・・!」

先輩「そうねー、あれは酷かったわ。対して、そばかすは上出来だったけど。意外なものねぇ」

メイド「そうですね、そばかすさんっておっとりした人だと思ってたんですけど・・・」

そばかす「あ、メイドちゃんバカにしたな? んふふー、家事くらい女の子ならできて当たり前よ!」

色白「はいはい、私はどうせできてませんでしたよ・・・」

先輩「もう昔のことだし良いじゃない。今はしっかりできるしね」

執事「やぁ、おはよう」

チーフ「みんな、おはよう」

4人「おはようございますっ」

執事「朝食の準備は既にできているようだね。ご苦労様」

チーフ「メイドさんは初日から手伝ってくれたのね。ありがとう」

メイド「いえいえ! 新人ですから」

チーフ「ふふ、そうね」

先輩「ささ、もう時間だし皆さんを呼んできましょう」

メイド「あ、は、はい」

先輩「メイドはいいわ。ここにいなさい。そばかすと色白。行きましょう」

そばかす・色白「「はーい」」

主人「・・・みんな、集まったようだね。では、頂こう」

主人「・・・と、その前に。今日はまず嬉しい知らせがある」

主人「今日から働いてくれることになった、メイドさんだ」

メイド「あ、あ、メイドです! よろしくお願いします!!」

主人「うむ、よろしく。彼女は知らないことだらけだから、みんな助けてあげてほしい」

メイド「お願いしますっ」

「・・・挨拶がまだだったわ。"長女"よ」

メイド「長女お嬢様、ですね。よろしくお願いします」

長女「・・・よろしくね」

「・・・よろしくー」

「自分の名前くらい名乗れ、姉さん。この人は"次女"。僕は"長男"という。よろしく」

メイド「え、えっと、次女お嬢様に、長男様・・・」

長男「様はいらないよ。・・・ちなみに、僕がこの姉弟の一番下だ」

メイド「分かりました。よろしくお願いします!」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――
先輩「さてさて、朝食が終わったら、まずお皿洗いね。私たち4人で済ませましょう」

長髪「よろしくお願いします」

姉御「さーて、あたしも皿洗いっと」

長髪「・・・あなたは私と洗濯物の回収でしょ。行くわよ」

姉御「ちっ。しょうがないなぁ、長髪は。あたしがいないと何にもできねえなぁ」

長髪「その言葉、そっくりそのまま返してあげるわ。行くわよほら」

姉御「あぁー! メイド助けて! ていうか、代わってくれ!」

メイド「え、え、えっと」

長髪「代わらなくて良いわメイドちゃん。これの為にならないから」

メイド「・・・は、はい」

先輩「さ、私たちも始めるわよ」

そばかす「はーい」

色白「・・・メイド? いきましょ」

メイド「あ、は、はい!」

そばかす「割らないように気を付けてねー」

メイド「はい!」

色白「お皿洗いやったことある?」

メイド「ありますよー」

そばかす「誰かさんじゃないんだから、大丈夫だよ。そんな心配しなくても」

色白「・・・うるさいわね」

先輩「まあとにかく気を付けてよね。みんな」

3人「「はーい」」

そばかす「メイドちゃん、ここまで来るの大変だったでしょ?」

メイド「・・・大変でした。馬車に揺られてはるばると・・・」

そばかす「お疲れ様。町に行くのも一苦労だよ」

色白「そこんとこは不便よね。なんでこんなところにお屋敷を」

先輩「まあそこはご主人様と奥様の趣味だから仕方ないでしょ」

そばかす「ですね~」

色白「まあその代わり、ここでの暮らしは不便ないしね。お給料も良いし」

先輩「ふふ、そうね」

そばかす「うんうん。あ、そうだメイドちゃん」

メイド「?? なんですか?」

そばかす「このお屋敷ねぇ・・・出るんだよ」

メイド「・・・な、なにがですか」

そばかす「もーう、分かってるくせにい。幽霊よ、ゆ・う・れ・い」

メイド「ほ・・・ほんとですか・・・?」

先輩「こらこら、おどろかさないの」

色白「いや、でも・・・出るのは本当なんですよ。ね、そばかす」

そばかす「うんうん」

先輩「幽霊ねぇ・・・私は信じられないけどな」

そばかす「先輩だって見たことあるでしょ?」

先輩「見たっていうかー・・・軽く寝ぼけてたし。よくわかんないのよ」

メイド「え、え、そんなにみなさん見てるんですか・・・??」

色白「けっこう見ちゃった人多いわよ? 私も見たし」

メイド「・・・そう、なんですか」

そばかす「大丈夫大丈夫! そんなに怖がらなくっても。危害を加えてくるわけじゃないから」

先輩「そうね。気にしすぎない方がいいわ」

色白「でもでも・・・目が合ったって人もいるし」

メイド「目が合う!!??」

先輩「こらこら、そんなに怖がらせないの。ここに来たばかりなのよ」

色白「あ、あ、ご、ごめんねメイド」

メイド「だ・・・大丈夫です」

そばかす「そうだよー、もうちょっと手加減してあげなきゃ」

色白「そもそもあんたが発端でしょうが・・・」

そばかす「そうだったね!」

先輩「ほらほら、無駄口はこれぐらいにして仕事! 口じゃなくて手を動かす!」

3人「「はーい」」

先輩「よーし、終わり」

メイド「ふぅ・・・」

そばかす「メイドちゃん。お皿洗いは終わったけど、次のお仕事があるよ!」

メイド「は、はいっ」

先輩「その通りよ。そばかすと色白はそれぞれの仕事に入って」

そばかす・色白「「はいっ」」

先輩「メイドは私についてきて」

メイド「はいっ」

姉御「・・・そいやっ」

先輩「やってるわね」

姉御「先輩さんですか。おっ、メイドもいるのか」

メイド「今は何やってるんですか?」

姉御「ん? 見りゃ分かるだろ。薪割りだよ」

メイド「へぇ・・・すごいです」

姉御「誰でもできるって。メイドもやってみな」

メイド「え、そ、そうですか。じゃ、じゃあ・・・」

先輩「気を付けてよね」

メイド「は、はい。・・・えいっ」

 すかっ

先輩「あらら」

メイド「うぅ・・・難しいです」

姉御「まぁ初めてだからなー。きちっと教えてやるから」

メイド「あ、ありがとうございます」

「先輩さーん。チーフさんが呼んでまーす」

先輩「あら。ちょっと行ってくるわね。姉御、この子頼むわね」

姉御「任せて下さいって!」


姉御「んじゃ、もっかいやるか。構えて」

メイド「は、はいっ」

姉御「・・・構えからしてちょいとダメだな。えっとだな、こう、こう構えんだよ」

メイド「は、はいっ」

姉御「狙いつけて。あとは、あんまり力を入れすぎんな。軽く振り下ろすだけで割れる」

メイド「なるほど・・・」

姉御「ほら、やってみ」

メイド「・・・はっ」

 ぱきっ

姉御「まだちっとぎこちないが・・・まあまあ良いんじゃないか」

メイド「あ、ありがとうございます!」

姉御「よしどんどんやってくぞ」

メイド「はいっ」

姉御「これからはこういう力仕事もやってもらうんだからな。体力ないとやってらんないぞ」

メイド「そうですね・・・」

姉御「・・・そういや、ここに来る前はどうしてたんだ?」

メイド「えっと・・・町で母と暮らしてました。でも、母が体調を崩して・・・」

姉御「ははーん。それで代わりに自分が働きにねぇ」

メイド「そういうことです」

姉御「ご苦労さんだね。親父は?」

メイド「・・・いなくって」

姉御「・・・なんか悪いこと聞いたかもしれないな。すまん」

メイド「いえいえ! 大丈夫です」

姉御「そっか。・・・なら良いけど」

姉御「・・・ちょっと座って休憩でもするか」

メイド「い、良いんですか?」

姉御「大丈夫大丈夫。メイドだって疲れたろ。ちょっと一休み」

メイド「分かりました」

姉御「先輩さんもちょっと遅いしな。10分くらい。ほら行くぞ」

メイド「はいっ。・・・きゃっ」

姉御「おいおい・・・何もないところでこけんな。大丈夫か?」

メイド「だ、大丈夫です・・・すみません」

姉御「危なっかしいなぁ」

姉御「メイドは今年で16だったか?」

メイド「はい。そうです」

姉御「ふむ。じゃあ私の二つ下だな。いやぁ、妹ができたみたいな」

メイド「・・・先輩さんも同じようなこと言ってました」

姉御「ふふっ、だろうなぁ」

メイド「でも、みんな頼りがいがあって頼もしいです」

姉御「そうだな。いつでも頼ってくればいい」

メイド「はいっ。ここに来て良かった・・・」

姉御「ははは、そりゃ大げさだよ。・・・んん?」

メイド「・・・??」

姉御「怪我してるぞ」

メイド「え、えっ」

姉御「さっき転んだとこだろ。・・・大丈夫か?」

姉御「ハンカチとかもってるか?」

メイド「は、ハンカチ。持ってます。え、えっと・・・あ、あれ・・・?」

姉御「ないのか?」

メイド「確かに朝は・・・あれっ・・・」

姉御「落としたのか? ・・・しょうがないな、ほら、少しじっとしとけ」

メイド「は、はい・・・」

姉御「・・・・・・ほらっ、これで良いだろ」

メイド「あ、ありがとうございます」

姉御「しっかりしろよー」

メイド「はい・・・。それにしても、どこでハンカチ落としてしまったんでしょう・・・」

姉御「朝の内はあったんだろ。だったら今日行ったとこ探してみろ。もう誰かが拾ってるかもしれないけど」

メイド「・・・そうですね。すみませんお手間を」

姉御「気にすんな。さっ、薪割りは一通り終わった。次はーっと」

先輩「―――メイド! ごめんごめん長いこと」

姉御「お、帰ってきたな先輩さん」

メイド「お、おかえりなさい」

先輩「姉御もごめんなさいね」

姉御「いえいえ。仕事も手伝ってもらったし、助かりましたよ」

先輩「そっか・・・。ほんと、悪いわね」

メイド「ありがとうございました姉御さん」

先輩「・・・よし、じゃあ次行こうかメイド」

メイド「はい!」

姉御「またなーメイド」

先輩「姉御と何してたの?」

メイド「薪割りさせてもらってましたよ」

先輩「そっか。ちゃんとできた?」

メイド「・・・まずまず、ですかね」

先輩「ま、最初はそんなもんよ。徐々に慣れていければ良いわ」

メイド「そうですね・・・はい!」

長髪「あら・・・先輩さんに、メイドちゃん」

メイド「あ、長髪さん」

先輩「ご苦労様、長髪」

長髪「こちらこそ、お疲れ様ですね」

長髪「・・・お二人とも、姉御は見なかった?」

メイド「さっきまでわたしと一緒にお仕事してました。たぶんまだ中庭にいますよ」

長髪「そうなんだ。わざわざ手伝ってくれたの・・・ありがとうね」

メイド「いえいえ、わたしなんてまだ入りたてですから・・・どんどんこき使ってください!」

長髪「ふふ、元気があって良いわね。心得たわ。またね」

メイド「・・・長髪さんって、姉御さんはまた違った年上ぶりっていうか、なんというか」

先輩「そうね。見た目以上にかなりしっかりしてる子よね」

メイド「それにすごい美人さんですし・・・うーん」

先輩「なに? 嫉妬?」

メイド「いやあ羨ましいなあって」

先輩「あんたも十分もかわいいから安心しなって」

メイド「・・・ありがとうございます」

先輩「でもまぁ・・・あの子も美人だと思うけど、長女お嬢様はまた段違いでしょ?」

メイド「・・・はい。もう、すごいです。きれいで、そしてかっこいい・・・」

先輩「ね、そうでしょ。年々きれいになっちゃっていって、将来はとんでもない美女になりそう」

メイド「ほんとですね。はぁ、羨ましいです」

先輩「そうねー」

メイド「・・・あ、いや、あの先輩さんもとってもきれいですよ?」

先輩「ふふふ、はいはいありがと」

先輩「・・・でも、ここだけの話、悪い意味じゃなく・・・この姉弟あんまり似てないでしょ?」

メイド「・・・はい、確かに」

先輩「性格もけっこう3人で違ったり。まあ、割とそんなものかもしれないけど。・・・まあ良いわ、次行くわよ」

メイド「はいっ!」

―――――夜

メイド「はぁぁ・・・もう9時半ですかぁ」

先輩「もう寝る時間ねぇ。片づけも終わってるし、あとは寝るだけね」

メイド「疲れちゃいました・・・」

先輩「ふふ、お疲れ。でも、これがずっと続くんだからね? がんばれ」

メイド「はいっ」

先輩「私は先に部屋に戻るわ。メイドは?」

メイド「あ、わたしお手洗いに」

先輩「そっか。行っておいで。待ってるよ」

メイド「だ、大丈夫ですよ。お先に部屋で待っててください」

先輩「そう? 分かった。じゃあね」

メイド「はいっ」


メイド「さて、お手洗いは、っと」

メイド「えっと・・・確かあそこの階段上がって・・・」

長男「・・・メイドさん?」

メイド「あっ・・・長男さん」

長男「・・・どうかしたかい?」

メイド「あの、お手洗いに行こうと思って・・・」

長男「トイレなら・・・二階まで上がらなくても、メイドさんの部屋の近くにもあるよ」

メイド「え、え、そうなんですか?」

長男「ああ。メイドさんの部屋を出て、右手の方向に真っ直ぐ行けばあるよ」

メイド「そ、そうでしたか。ありがとうございます!」

長男「どういたしまして。それから、おやすみ」

メイド「はい、おやすみなさい!」

メイド「・・・ふう、こんなに近くにあったなんて助かった・・・」

姉御「お、メイドか」

メイド「あ、姉御さん。長髪さんも」

姉御「なんだ、ちゃんと一人でトイレ行けるんだな」

メイド「・・・ば、バカにしないでくださいよ! ト、トイレぐらい・・・」

長髪「そうよ、姉御。ねぇ、メイドちゃん」

姉御「いやー、悪い悪い! 冗談半分だよ」

長髪「半分は本気なのね」

メイド「うぅ、ひどいです」

姉御「ほらほら、悪かったって。・・・おっと、そうだメイド」

メイド「・・・? なんでしょう」

姉御「メイドが落としたかもって言ってたハンカチ。あったぞ」

メイド「えっ・・・ほ、本当ですか?」

姉御「ああ。大事なハンカチなんじゃないのか? あの後よく探してみたら見つかったぞ」

メイド「そ、そうでしたか・・・」

姉御「ついつい渡しそびれてたけど。ほらっ」

メイド「わぁ・・・あ、ありがとうございます!」

長髪「良かったわね、メイドちゃん」

メイド「はい・・・助かりました。本当に、助かりました」

姉御「おっ、そうなのか。なら、なおさらだな。気を付けろよ」

メイド「はい・・・本当にありがとうございます」

姉御「良いってことよ。しかし、おっちょこちょいだな、メイド」

メイド「あはは・・・すみません」

長髪「女の子なら、これぐらいが可愛いんじゃない? 完璧すぎたらちょっと、ねぇ」

姉御「はは、かもな」

長髪「でも、仕事ではきちんとしなきゃダメよ?」

メイド「はいっ、分かりました」

長髪「・・・あなた、眠そうな顔してるわね」

メイド「はい・・・確かに眠たいです」

姉御「初日からけっこう頑張ったなあ。お疲れ。ゆっくり寝なよ」

メイド「はい・・・おやすみなさい」

姉御「おやすみ!」

長髪「おやすみなさい」

メイド「本当に・・・眠い・・・ふぁあ」

長女「・・・あら・・・メイドさん」

メイド「あ・・・長女お嬢様に次女お嬢様」

次女「メイドちゃんか。もう寝るの?」

メイド「はい・・・」

長女「初日だものね。ご苦労様。ゆっくり休んでね」

メイド「はい。ありがとうございます。おやすみなさ・・・」

次女「じゃあ私から命令! 私たちの部屋まで付き合いなさい!」

メイド「えっ・・・?」

長女「・・・どういうこと? 次女」

次女「ギョウム命令ってやつよ! 大丈夫大丈夫、私たちの部屋までついてきてくれるだけだけで良いから」

長女「そういう無駄でどうでもいい命令を・・・お手伝いさんだからって、そういうことを押し付けないで」

メイド「だ、大丈夫ですよ? お付き合いします!」

次女「ほら、メイドちゃんもそう言ってるから良いでしょ。大した用事じゃないんだし。あったま固いなぁ、お姉ちゃんは」

長女「・・・大した用事じゃないからこそ、やめなさいって言ってるんだけど・・・。本当に良いの? メイドさん」

メイド「はいっ!」

次女「ほらほら、行こっ」

次女「メイドちゃん仕事はどう?」

メイド「えっと・・・思ってたより大変です。でも、皆さん良い方ばっかりで・・・良かったです!」

次女「そうだね、ここの人たちって良い人ばっかりだよ。悪い人いない」

メイド「はい。すごく安心しました」

長女「そうやって助け合って、仕事を続けていければ、怖いものなんてないわ。メイドさんならやれると思う」

メイド「・・・ありがとうございます」

次女「うんうん。・・・おっと、ここが私の部屋。付き合ってくれてありがとうメイドちゃん!」

メイド「ふふ、どういたしまして」

次女「じゃー、おやすみ!」

メイド「おやすみなさい!」

長女「おやすみ」

メイド「・・・明るい方ですね」

長女「そうね。でも、ちょっとお転婆だけどね。妹が変なお願いしてしまって・・・ごめんなさいね」

メイド「いえいえ。大丈夫ですよ」

長女「そう・・・ありがとうね。じゃあ、もう部屋に帰ってゆっくり寝て。明日も早い明後日も、ずーっと早いんだから」

メイド「いえ、まだ長女お嬢様のお部屋まではお付き合いしないと」

長女「・・・次女の頼みだったんだから。私は良いわよ。これ以上は迷惑」

メイド「大丈夫です。きちんと最後まで"ギョウム命令"に従います。次女お嬢様は"私たちの部屋"とおっしゃられましたから」

長女「・・・あなた・・・・・・。ありがとう。そこまで言ってくれるなら、甘えることにするわ」

メイド「はいっ」

長女「・・・と、言ってもここの隣なんだけどね。良いかしら?」

メイド「ぜひ、お付き合いします!」

長女「・・・メイドさんが良ければ・・・私の部屋の中まで入ってきてくれるかしら?」

メイド「はいっ」

長女「・・・どうぞ」

メイド「・・・お邪魔します」

メイド「わぁ・・・・・・」

長女「女の部屋にしては質素かもしれないわね」

メイド「そんなことないです。とっても素敵だと思います」

長女「ふふ、ありがとう。・・・あっと、そうだ」ゴソゴソ

メイド「・・・・・・?」

長女「・・・これ。ここまで付き合ってくれたお礼よ」

メイド「・・・こ、これって」

長女「・・・美しいでしょう? "プリムラ"よ。この館内じゃあ私の部屋ぐらいしかないと思うけど・・・」

メイド「・・・キレイです・・・これをわたしに?」

長女「少ないけれど・・・部屋に飾ったら、良いと思う」

メイド「わ、分かりました! 嬉しいです・・・!」

長女「メイドさんも花は好き?」

メイド「はい。癒されますよね・・・」

長女「あなたとは趣味が合いそうね・・・。それから、これも」

54
メイド「これは・・・ブローチ? こ、こんな高価そうなもの受け取れないです!」

長女「良いわ。受け取ってちょうだい。付き合ってくれたお礼よ。付けれくれれば、なお嬉しいわ」

メイド「ありがとうございます! 毎日付けます!」

長女「ふふ、ありがとう。プレゼントしがいがあるものね」

メイド「キレイです・・・嬉しい」

長女「あなたならきっと似合うわ。それじゃあ・・・そろそろ私も寝るわね」

メイド「あ、はいっ」

長女「今日はありがとう。明日からも頑張ってね」

メイド「はいっ、ありがとうございます!」

長女「じゃあ・・・おやすみなさい」

メイド「おやすみなさい!」

メイド「・・・ふう」

先輩「あら・・・随分と遅かったわね」

メイド「あ・・・先輩さんすみません。実は・・・長女お嬢様のお部屋まで行ってて」

先輩「長女お嬢様の・・・?」

メイド「えへへ、色々ありまして。・・・見てください、これ」

先輩「・・・それは・・・花・・・? キレイね」

メイド「なんていう名前か分かりますか?」

先輩「いや・・・ごめん。分からない」

メイド「ふふ、"プリムラ"です。長女お嬢様から頂きました。わたし好きになりました」

先輩「ふうん。・・・そのブローチは? それも貰ったの?」

メイド「実はそうなんです。これも気に入っちゃいました・・・!」

先輩「・・・ふふふ」

メイド「・・・先輩さん・・・?」

先輩「ふふ、いやいや。あの長女お嬢様と初日から仲良くなるなんて。中々できることじゃないな、と思って」

メイド「え・・・・・・。た、確かにそうかもしれないです。・・・やっぱり図々しかったでしょうか」

先輩「そんなことないわ。あの方は少しとっつきにくいけど、とても心が綺麗で優しい方よ」

メイド「そう・・・ですね。はい」

先輩「だからね、これからも親しくしたら良いと思う。喜ばれると思うわよ?」

メイド「そうですか・・・良かった・・・」

先輩「うんうん。・・・さっ、今日は疲れたでしょ? もう寝よう」

メイド「はい。安心したら・・・なんだか急に眠くなってきちゃいました」

先輩「ふふ、メイドらしいかも。ほらほら、ちゃんと着替えて寝なさいよ」

メイド「はいっ」

先輩「じゃあ、明日も頑張ろう。思いっきり私に頼って良いから。なんでも言ってきなさいよ」

メイド「はい、ありがとうございます!」

先輩「さーて、寝よ寝よ。おやすみ!」

メイド「おやすみなさい!」

after one week.
―――――the 1days of the tragedy

メイド「先輩さん、起きてくださいっ」

先輩「うーん・・・・・・あ、朝、か」

メイド「そうですよっ、おはようございます」

先輩「ん、おはよう。・・・支度しなくっちゃ」

先輩「それにしても、だいぶ早く起きられるようになったみたいね。関心関心」

メイド「そうですか? えへへ、ありがとうございます」

先輩「その調子でがんばんなよ」

メイド「はい!」

メイド・先輩「おはようございますっ」

主人「やぁ、おはよう」

夫人「おはよう」

メイド「長女お嬢様、おはようございます」

長女「ええ、おはよう」

メイド「・・・次女お嬢様は?」

主人「きっと、寝坊だろう。いつものことだよ」

メイド「ふふ、そうですね」

先輩「・・・あと集まってないのは?」

メイド「えーっと、もう全員・・・・・・いえ」

先輩「チーフさんがまだね」

メイド「チーフさんが寝坊なんて・・・あるんですか?」

先輩「・・・今までそんなの一度もないわ。お手洗いじゃないかしら」

メイド「あっ・・・そうですね」

主人「ふむ、では待つとしようか」

 数十分後・・・

次女「はぁはぁっ」

メイド一同「おはようございますっ」

次女「お、おはよう・・・」

主人「遅いぞ次女」

次女「ご、ごめんなさい」

メイド「・・・チーフさん、遅いです。お手洗いだったら、もう戻ってきても・・・」

先輩「確かにね。貴方たち、今朝はチーフさん見た?」

そばかす「・・・今朝は見てないです。いっつも一番に起きてるのに・・・」

色白「私もです。チーフさんに限って、寝坊なんてありえないと思うんですけど・・・」

姉御「そういえば私も見てないなー」

長髪「・・・同じくです」

先輩「お局さんと眼鏡さんは?」

お局「・・・見てないわ」

眼鏡「・・・私も」

主人「ふむ・・・私達も見てないな?」

夫人「ええ、見てないですわ」

主人「お前たちも?」

長女「・・・見てない」

次女「み、見てないよ。私は、さっき起きてここにすっ飛んできたし・・・」

長男「・・・見てないな」


一同「・・・・・・・・・」


先輩「私、チーフさんの部屋に行ってきます」

主人「・・・分かった。頼むよ」

メイド「・・・・・・」

先輩「・・・・・・」

メイド「先輩さんっ!」

先輩「!!」びくっ

メイド「はぁ・・・はぁ・・・」

先輩「び、びっくりした。・・・あんたも来たの」

メイド「はい・・・なんだか心配なので」

先輩「一人で十分なのに・・・まぁ良いか」

先輩「・・・・・・チーフさーん!! 起きてますかー!!?」



先輩「・・・・・・やっぱり・・・まだ寝てるのかなぁ・・・?」

メイド「・・・鍵、かかってますよね」

先輩「そりゃあ、もちろんね」

 ガチャ ギィ・・・

メイド・先輩「「!!」」

メイド・先輩「「あ・・・開いてる・・・!」」

メイド「・・・入り、ましょう」

先輩「・・・そうね。もしかしたら、鍵をかけ忘れて寝てしまった・・・の、かも」


メイド・先輩「「・・・!!!!!」」


先輩「う・・・嘘、でしょう? なんで・・・?」

メイド「・・・・・・あ・・・あ・・・・・・」

先輩「・・・と、とりあえず! 下ろしてあげよ!! 手伝って!!」

メイド「・・・あ、は、はい」

先輩「嘘よ・・・こんなの・・・・・・」

そばかす・色白「「チーフさんが自殺・・・!?」」

姉御「う、嘘だろ!? メイド、お前、言って良い事と悪い事があんぞ!!?」

メイド「・・・・・・」

長髪「ちょっと、落ち着いて。この場でそんな嘘をついて、この子が何になるというの」

姉御「だけど・・・!」

主人「・・・本当、なんだね?」

メイド「・・・はい」

夫人「・・・まぁ・・・」

一同「・・・・・・・・・」

先輩「・・・それで、チーフさんのご遺体なんですけど。どうしたら・・・?」

主人「そうだな・・・そのままにしておくのも・・・」

長男「・・・今のままだとね。部屋にそのままなのも、彼女には悪いが、不気味だろうから」

先輩「・・・きちんと葬ってあげないと。町に行って、やってもらうしか」

次女「はぁ~、なんで自殺なんか・・・もうこのままその辺に埋めちゃえば?」

夫人「・・・次女!」

長男「ご家族だっていらっしゃるだろう。こんなところで葬るわけにはいかない。やっぱり町まで行かないとダメだ」

主人「そうだろうな。執事、馬車に乗せて連れていってもらえるか」

執事「・・・それは・・・構いませんが・・・」

主人「決まりだな。面倒かと思うが頼むよ」

執事「・・・はい。分かりました」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

メイド「・・・・・・」

先輩「・・・あんたがそんな静かだと、なんか調子狂うわね」

メイド「・・・さすがに・・・」

先輩「・・・まあね」

メイド「・・・みんな、朝ごはん食べてないんでしょうか」

先輩「・・・たぶんね。正直、私も食べる気分にはなれないから・・・」

メイド「です・・・ね・・・」

先輩「・・・・・・チーフさんなんで・・・自殺なんか・・・」

メイド「そうですよね・・・なんで・・・」

先輩「何か悩んでたり、辛そうにはしてなかったように思う・・・けど・・・」

先輩「もし、相談してくれたら、絶対、力になるのに・・・」

メイド「何も言わずに・・・・・・チーフさんは・・・」

先輩「・・・うん・・・」

先輩「メイド、私ね」

メイド「はい・・・?」

先輩「チーフさんのこと、すっごい尊敬してたのよ」

メイド「・・・・・・私もです」

先輩「人間としても、一人の女性としても、これ以上立派な人は私知らないわ。それぐらいにね」

メイド「・・・はい」

先輩「仕事の内容は一流だと思うし、ミスなんて聞いたことが無い」

先輩「私の相談にも、よく親身になって乗ってくれた。本当に感謝してる」

メイド「・・・・・・」

先輩「・・・・・・どうして・・・」

先輩「きっと・・・深い、事情があったの、かな・・・」

メイド「・・・先輩さん・・・」

先輩「・・・うっ、ぅぅ・・・」ポロポロ

メイド「せ、先輩さん・・・」

先輩「・・・ごめんね、私が年上なのに。逆じゃない」

メイド「・・・そんなことないですよ」

先輩「・・・ごめんね・・・。チーフさんもごめんなさい」

先輩「私が何か気づいてあげてれば・・・」

メイド「先輩さん・・・」ギュッ

先輩「・・・ありがとう。だいぶ落ち着いたから」

メイド「えへへ、良かったです」

先輩「メイドも、そうやってチーフさんみたいに、包容力ある女性になってね」

メイド「・・・頑張ります!」

先輩「私も、頑張る。あの人の域に行くのは難しいけど・・・ね」

メイド「・・・ところで、先輩さん。朝ごはん食べてないですよね」

先輩「う、うん。食べてないよ」

メイド「お昼は絶対何か口にした方が良いです。軽いものでも何か」

先輩「・・・うん、そうね。確かに。・・・なんていうか、あんたやっぱり食い意地は張ってるわね」

メイド「な・・・え、えっと・・・///」

先輩「ふふ、褒めてるのよ今のは。メイドの言う通り、お昼はさすがに何か食べないとね・・・」

メイド「そ、そうですよね。わたし、今でもお腹なりそうで・・・」

先輩「あはは、そっか。こんな状況だと当番なんかあってないようなものね・・・二人で作りましょう」

メイド「はいっ!」

―――――――――

――――――

―――

長男「・・・・・・・・・」

執事「・・・・・・・・・」

長男「・・・なるほど、首を吊ったわけか」

執事「・・・そのようです」

長男「・・・僕の、僕らの乳母だった人だ。さすがに悲しいな・・・」

執事「はい・・・」

長男「・・・運ぼうか」

執事「はい・・・」

長男「・・・行こう」

執事「はい・・・」

長男「・・・・・・・・・ふむ」

―――――――――

――――――

―――

長女「・・・・・・・・・」

次女「どうしたんだろうね、チーフさん」

長女「・・・そうね」

次女「人が死んでるところなんて、初めて見た。案外、冷静かな」

長女「そうかもしれないわね」

次女「お姉ちゃんも?」

長女「ええ」

次女「そっかぁ・・・。まあ、身内じゃないし、ただのお手伝いさんだしね」

次女「でも、こんなこと言ったら悪いかもしれないけど、不気味だなー」

長女「・・・私たちの育ての親の一人でもあるんだから。後で黙祷ぐらいしておきなさい」

次女「ん。はーい」

―――――――――

――――――

―――
そばかす「・・・すん・・・ひっく」

色白「・・・・・・いつまで泣いてるのよ」

そばかす「・・・だってぇ・・・・・・。色白ちゃんは、悲しくないの? チーフさん、わたしたちのこと娘みたいにかわいがってくれて」

色白「私だって悲しいわよ、バカ! 悲しくないわけがないじゃない!」

そばかす「あっ・・・ご、ごめ」

色白「そばかすは私をそんな冷たい人だと思ったの? 私のことそんな風に思ってたんだ!!」

そばかす「ち、違うよ、ご、ごめん・・・」

色白「・・・・・・・・・ごめん。まただね。ごめん」

そばかす「・・・ううん。大丈夫。色白ちゃんも辛かったよね。ごめん」

色白「・・・酷いこと言っちゃった。ごめん・・・」

そばかす「・・・じゃ、仲直りしよっ。ねっ」

色白「うん・・・ありがとう」

―――――――――

――――――

―――

お局「・・・・・・」

眼鏡「・・・・・・」

お局「まさか、こんなことになっちゃうとはね」

眼鏡「・・・は、はい」

お局「・・・・・・・・・」

眼鏡「・・・どうするんですか?」

お局「・・・どうするもなにも。もう起ったことよ。しょうがないじゃない・・・」

眼鏡「そう、ですけど・・・」

お局「・・・そういえば、遺書とかが見つかってないみたいね」

眼鏡「も、もし遺書に・・・・・・"あの事"が書かれていたら!」

お局「あの人のことだから・・・"あの事"については触れていない可能性が高いわ。・・・まあ、分からないけれど」

眼鏡「・・・・・・・・・はぁ」

―――――――――

――――――

―――

主人「・・・しかし・・・びっくりしたな・・・」

夫人「えぇ・・・そうね・・・」

主人「・・・ふーむ・・・」

夫人「・・・なに?」

主人「・・・やはり、働かせ過ぎただろうか」

夫人「・・・かもしれないわね」

主人「・・・まあ、起ってしまったことだ。とにかく、街まで遺体を運ばないとな」

夫人「・・・そうね・・・」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

執事「・・・・・・ばっ、ばかなっ・・・!」

長男「・・・・・・これは・・・。少々どころか、ビッグサプライズだな・・・」

執事「ど、どうしますが坊ちゃん・・・山を下りて町に行くには・・・この橋を通るしか・・・!」

長男「分かっている・・・でも、どうしようもないだろ」



長男「なぜ、橋が崩れているんだ・・・?」




執事「・・・ど、どうされますか・・・?」

長男「・・・しょうがない。戻ろう・・・・・・」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

姉御・長髪「「橋が崩れていた・・・!?」」

長男「そうなんだ・・・」

メイド「・・・・・・・・・」

主人「あの橋がなければ・・・山を下りるどころか・・・」

執事「・・・えぇ。街へも行けません」

先輩「ど、どうするんですか? チーフさんのご遺体も・・・」

長女「・・・とりあえずは、街へ連絡を入れて応援を呼ぶべき。遺体は・・・そうね・・・」

執事「呼ぶのは構いませんが、それでもかなりかかります・・・」

長男「・・・しょうがないだろう。待つしかない。遺体は・・・地下倉庫に入れておこうか」

主人「・・・そうだな。地下倉庫なら良いかもしれない。執事、早速運んでくれ」

執事「はい、分かりました」

執事「・・・坊ちゃん、お手数ですが手伝って頂けますか・・・?」

長男「分かった。行こうか」

執事「・・・失礼いたします」


姉御「・・・急に呼ばれたと思ったら、何かと思ったら・・・」

長髪「・・・急に色々ありすぎて、もう・・・。姉御、部屋に戻りましょう」

姉御「あ、ああ。そうだな・・・」


そばかす「・・・色白ちゃん大丈夫? 私たちも戻ろう」

色白「そう・・・ね・・・」


お局「・・・私たちも失礼します」

眼鏡「・・・失礼します」

夫人「・・・あなた、戻りましょう」

主人「・・・そうだな。後の事は執事たちに任せたほうが良さそうだ」

夫人「メイドさんに先輩さんも・・・部屋に戻りなさいね」

先輩「あ・・・はい。ありがとうございます」

メイド「・・・・・・・・・」

先輩「・・・メイド? 大丈夫・・・?」

メイド「・・・・・・先輩さん、先に部屋に戻っててください」

先輩「え、え、どういうこと?」

メイド「すぐにわたしも戻りますから!」ダッ

先輩「ちょ、ちょっとメイドどこ行くの!?」

メイド「・・・・・・・・・」

メイド(・・・この橋・・・木製とはいえ、馬車が走れるくらいには頑丈なはず)

メイド(少々なことでは、びくともしない・・・)

メイド(かといって・・・老朽化で崩れたとは、とても考えられない・・・)


メイド「!!」


メイド(これは・・・火で燃えた痕。周りに火の気配は一切なし。この付近に建物は・・・たった一つ)

メイド(・・・・・・明らかに人為的なものによる原因)

メイド(なぜ橋を崩す必要が・・・? チーフさんの自殺と何か理由が・・・?)

メイド(・・・思えば遺書も見つかっていない。部屋に鍵がかかっていなかった。そして唐突な自殺行為。考えればおかしいところがたくさんある・・・)

メイド(・・・・・・考えすぎ・・・でしょうか・・・)

先輩「―――ちょっと、メイド! いきなりどうしたの!」

メイド「せ・・・先輩さん。来ちゃったんですか・・・」

先輩「突然飛び出すからじゃない。・・・どうしたの?」

メイド「・・・いえ。橋の様子を見に・・・」

先輩「・・・見事に崩れてるわねぇ。これじゃぁ・・・」

メイド「・・・はい」

先輩「とにかく、戻ろう? 一人で危ないよ」

メイド「・・・分かりました」

メイド(・・・チーフさんの部屋に・・・行ってみよう)

 ギィ・・・

長男「む・・・」

メイド「あっ・・・長男、さん」

長男「・・・・・・メイドさんか。どうしたんだい、こんなところに」

メイド「い、いえ・・・。長男さんは?」

長男「・・・本当に遺書がないか探している。が・・・やはりないな」

メイド「そ、そうでしたか・・・」

長男「・・・メイドさんも遺書を探しに来たんだろ」

メイド「・・・え・・・」

長男「隠さなくても良い。ここに来た理由はだいたい分かる」

メイド「・・・はい。長男さんのおっしゃる通りです」

長男「・・・ふむ。さっきも言った通り、やはり無いんだよ。不思議だな・・・」

メイド「自殺なのに遺書がないのは、やはりおかしい、ということですか」

長男「それもあるが・・・・・・君たちの証言では鍵がかかっていなかったんだろう? それも引っかかっていてね」

メイド「・・・・・・・・・」

長男「・・・もう一つ腑に落ちないのが・・・"あるもの"がないんだ」

メイド「・・・"あるもの"・・・?」

長男「・・・"日記"だよ。僕は前から、彼女が1日1日のできごとや感想を日記に書いてる、というのを聞いたことがある」

メイド「・・・それが・・・ないと」

長男「そうなんだ。日記があれば・・・そこに遺言だの、自殺の理由だのが書かれているんじゃないか、と思ったんだけど・・・」

メイド「・・・・・・なるほど」

長男「・・・自分で捨ててしまったんだろうか。まぁ、取り立てておかしな話ではないけど・・・」

執事「・・・坊ちゃん、失礼します」

長男「執事か。連絡は取れた?」

執事「はい、問題なく。ただ、やはり時間が相当かかるかと・・・」

長男「・・・無理もない、こんな山奥だからね。待つしかない」

執事「しょうがない、ですね。・・・おや、メイドさん」

メイド「執事さん・・・」

執事「・・・あなたも不幸なことだな・・・。働き始めの職場でこんな・・・」

メイド「い、いえ。お気になさらないでください・・・」

長男「それは僕からも謝ろう。せっかく、良い人が入ってきてくれたというのに・・・すまなかったね」

メイド「あ、謝らないでください! 長男さんや執事さんのせいじゃ・・・」

長男「それでも、だよ。申し訳ない」

メイド「・・・はい・・・」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

そばかす「いやぁ、メイドちゃんと先輩さんには助かっちゃったなぁ」

色白「そうねー・・・御馳走様、二人とも」

メイド「とんでもないです」

先輩「メイドのアイデアなのよ。みんな沈んでるだろうから、二人でみんなの食事作ろうって」

そばかす「新人の癖に、中々やるなぁ、このこのっ」

色白「良い気遣いだね。簡単にできることじゃないと思う。すごいよ」

メイド「あはは・・・」

色白「・・・元気ないね。やっぱり・・・」

メイド「だ、大丈夫ですよー? ほらほら、元気いっぱいです!!」

そばかす「ふふふ、そうだよ。いつものメイドちゃんだよ?」

色白「・・・いや、あんた・・・」

そばかす「・・・いいからっ」ぼそっ

色白「・・・ん・・・」

そばかす「じゃ、じゃあ、もうこんな時間だから! 先輩さん、私たちもう寝ちゃいますっ」

先輩「ん、そう? そうね、もう寝る時間ね・・・」

そばかす「おやすみなさーい!」

色白「・・・おやすみなさい」

先輩「はい、おやすみ」

メイド「おやすみなさい!」

先輩「メイド、私たちも寝ましょう」

メイド「はいっ」

 バタン・・・

そばかす「さーて、寝よっと」

色白「・・・ねえ、なんでさっき・・・あんなこと」

そばかす「んー・・・? ・・・ああ」

そばかす「・・・私だって、メイドちゃんが元気ないことぐらい分かる」

色白「じゃあ、なんで」

そばかす「・・・私たちに気を遣って、無理してるんだよ。きっとね。ああいう子なんだよ」

色白「・・・そっか」

そばかす「そんな彼女の気遣いを、私たちが無駄にしちゃダメ。私たち年上がしっかりしてるぐらいじゃなきゃねっ」

色白「・・・そうだね。そばかすの言う通りだね・・・」

そばかす「そういうことっ、じゃあおやすみ!」

色白「うん、おやすみ」

 ―――――the 2days of the nightmare

メイド「・・・ふぁあ・・・もう、朝ですね」



メイド「・・・なんだか、廊下が・・・騒がしいような」

先輩「・・・うーん・・・」

メイド「・・・せ、先輩さん、起きてくださいっ」

先輩「・・・・・・ん、おはよう」

メイド「はい、おはようございます」

先輩「んあー、よく寝たー。・・・・・・なんか、廊下が騒がしいような」

メイド「そうなんですよ・・・」

先輩「・・・メイドも着替えて。行ってみよ」

メイド「・・・はいっ」

メイド「・・・・・・」

先輩「・・・・・・」


眼鏡「―――――――!!」

メイド「あ、あ、眼鏡さん! おはようございます!」

先輩「おはようございます」

眼鏡「・・・おはよう」

メイド「・・・どうかしましたか? なんだか焦ってるような・・・」

眼鏡「・・・・・・・・・」

先輩「どうかしたんですか」

眼鏡「・・・・・・」


眼鏡「・・・お局さんが、いないの。・・・朝起きたら・・・部屋にいなくって・・・!」

メイド・先輩「「えっ・・・!?」」

眼鏡「・・・昨日、寝る前に・・・一人お手洗いに行かれて・・・でも全然帰ってこなくて!!」

眼鏡「私は・・・うっかり寝てしまった。・・・でも、朝になったら部屋にいない・・・部屋に帰ってきた様子も・・・ないのよ」

メイド「・・・・・・・・・」

先輩「・・・それは・・・おかしいですね」

眼鏡「・・・今・・・みんなに探してもらってる。でも、ぜんぜん・・・見つからない」

メイド「わたしたちも探しましょう!」

先輩「ええ、そうね!」

眼鏡「・・・お願い・・・!」

メイド(・・・姿が見当たらない・・・? そして、部屋に帰ってきた様子もない・・・か・・・)

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

先輩「見つかった!?」

そばかす「いえ・・・ダメです」

色白「・・・私も・・・」

先輩「メイドは・・・?」

メイド「・・・いいえ」

長男「・・・こっちもダメだ。2階はおそらく違う」

長女「あと、探してないところは?」

眼鏡「え・・・えっと・・・」

メイド「・・・トイレ・・・わたしたちの部屋の近くのトイレは?」

先輩「いや・・・見てるはずよ」

そばかす「私たち・・・見たよね?」

色白「う・・・うん・・・」

メイド(・・・お局さんは、お手洗いに行くと言っていた。だったら、一番近くのトイレに行くはず)

メイド(それで、帰ってきていないのだから・・・もう、そこしか)

メイド「もう一度、行ってみましょう」

先輩「・・・分かった。みんな、行ってみましょう」

主人「うむ、行ってみよう」

メイド(・・・ただの勘だけど・・・でも、嫌な予感がする・・・)

眼鏡「・・・お局さーん・・・」


 ・・・・・・・・・


先輩「・・・いないんじゃない、やっぱり」

メイド「・・・・・・」

メイド(・・・生きていれば、ですけどね)

眼鏡「・・・もう、朝ですよー・・・朝ごはん始まっちゃいま・・・」

 ガチャ

眼鏡「・・・・・・!!!!」

先輩「・・・ど、どうしたんですか眼鏡さ・・・」



眼鏡「イヤアアアアアッ!!!!!」

先輩「・・・う・・・うそ・・・・・・」

メイド(・・・なるほど、個室に隠してしまえば・・・)

長男「・・・首を絞められているな。凶器は・・・おそらく彼女のネックレスだろう」

長女「・・・本当ね。ちょうどその痕が首に残っているわ」

そばかす「な、な、なんで・・・!? なんで、お局さんが殺されちゃうの!!?」

色白「ま、まさか、誰かがこの屋敷に侵入して・・・殺したとか・・・橋を崩したのも私たちを逃がさないため・・・」

そばかす「こ・・・怖いこと言わないでよお!」

メイド(私たち以外の誰か・・・つまり侵入者がいる? いや、これは・・・)

メイド(侵入者がいたとして、なぜお局さんから殺したのか。しかも一夜に一人だけ)

長男「・・・何はともあれ、この遺体は・・・場所を移さないとな。執事、手伝ってくれるかい」

執事「は、はい・・・」

長男「地下倉庫だ。行くよ」

執事「・・・はい」


姉御「・・・ほんと、びっくりした・・・」

長髪「・・・びっくしたなんてもんじゃないわよ・・・」

姉御「そ、そうだな・・・」

メイド「み、皆さんお食事は・・・?」

長髪「・・・どうする?」

姉御「・・・お局さんには悪いけど・・・朝から死体見たんだぞ? あるわけないだろ・・・」

メイド「・・・す、すみません・・・」

先輩「ちょっと姉御。そんな言い方ないでしょう?」

姉御「・・・すみません」

>>95
×姉御「・・・お局さんには悪いけど・・・朝から死体見たんだぞ? あるわけないだろ・・・」
○姉御「・・・お局さんには悪いけど・・・朝から死体見たんだぞ? 食べられるわけないだろ・・・」



先輩「謝るならメイドに言いなさい」

姉御「・・・すまん、メイド」

メイド「・・・い、いえ・・・。わたしの気遣いが足りなかったんです」

先輩「・・・・・・」

姉御「・・・でも・・・悪いけど、食欲ないのはほんとだから・・・部屋に帰る」

長髪「・・・私も。部屋に帰るわ」

メイド「あ・・・」

先輩「・・・メイド、いいわ。あの子たちの言い分も分かるから」

メイド「・・・はい・・・」

次女「・・・私も、今日も朝ごはんいいや。じゃあ」

メイド「あ・・・はい・・・」

長男・長女「「・・・・・・」」

主人「・・・どうする?」

夫人「・・・うーん・・・」

長男「・・・僕は食べたいな」

メイド「・・・え?」

長女「ええ、私も食べたいわ」

主人「・・・お前たち」

メイド「で、でも・・・作るのは、まだまだこれからで」

長男「いいよ。待つよ」

長女「昨晩も、あなたが作ってくれたんでしょう? とても感心したわ。ぜひお願いしたい」

メイド「・・・長男さん・・・長女お嬢様・・・」

主人「だったら、私も食べていこう」

夫人「なら、私も食べましょう。朝食べないと元気出ないしね」

メイド「ご主人様・・・奥様・・・」

先輩「・・・良かったね、メイド」

メイド「・・・はいっ!」

先輩「そばかすと色白は? どうするの?」

そばかす「御馳走になりますっ。色白ちゃんも食べるよねっ?」

色白「うん。食べるよ。私からもお願いするよ、メイド」

メイド「・・・ありがとうございますっ」

先輩「・・・ふふっ、まとまったみたいで何より。さっ、メイド一緒に作りましょう」

メイド「はいっ」

主人「私たちは一旦部屋に戻る。できたら呼んでくれ」

メイド「分かりました!」


そばかす「私はメイドちゃんたち手伝おうかな・・・」

色白「・・・あんたも戻りなさい。寝ぐせとかそのままよ。私もちゃんと治ってないし・・・」

そばかす「あ、そうなんだ」

色白「そうなんだ、じゃないわよ・・・。ほら、帰るわよ」

そばかす「はーい・・・。メイドちゃん、できたら呼んでね!」

メイド「はい!」


長男「・・・執事はどうする?」

執事「・・・せっかくですので・・・食べていきます」

長男「そうか。・・・まずはお局さんを運ばないとな・・・」

メイド「・・・はい。お気を付けて」

長男「ありがとう」

メイド「長女お嬢様はどうされますか?」

長女「・・・手伝うわ。あなたたちの足手まといにならなければ良いけど」

メイド「・・・え・・・そんなのダメです! ね、ねえ先輩さん」

先輩「そうですよー・・・ものすごく悪いです」

長女「気にしないで。たまには私も給仕の仕事ぐらいしなくちゃ、将来大変だから」

メイド「・・・うーん・・・」

長女「・・・一緒に、させてもらいたいわ。ダメかしら?」

先輩「・・・そこまで言って頂けるのなら・・・。メイド、手伝って頂きましょう?」

メイド「・・・分かりました。よろしくお願いします!」

長女「ふふ、ありがとう」

眼鏡「・・・・・・・・・」

メイド「・・・あ、眼鏡さん。眼鏡さんも・・・食べますか?」

先輩「・・・・・・眼鏡さん? どうかしましたか・・・」

眼鏡「・・・こ・・・る・・・」

メイド「・・・・・・??」

眼鏡「・・・ろ、され・・・・・・」ブルブル

先輩「ど、どうしたんですか? お体震えてますよ・・・?」

メイド「ぐ、具合でも悪いですか? お部屋で休まれたら・・・」


眼鏡「・・・される! 殺される!!!」


先輩「!!?」

メイド「・・・・・・え・・・」

長女「・・・・・・・・・どうしたんですか、わけを」

 ダダダッ!

メイド「眼鏡さんっ!!」

先輩「・・・ど、どうしたんだろう・・・眼鏡さん」

長女「そういえば、ずっと震えていたわ。・・・お局さんの遺体を見た時から」

メイド「・・・お、追いかけましょう!!」

先輩「そ、そうね!」


 ガチャッ バタン

メイド「眼鏡さん!!」

 ガチャガチャッ

メイド「・・・か、鍵が・・・」

先輩「眼鏡さん!! どうしたんですか!!」

メイド「お願いです! 出てきてください!」

長女「・・・あの様子じゃあ・・・難しいかもしれないわね」

メイド「・・・・・・そう、ですね」

メイド(あの台詞に・・・あの、怯えよう・・・。尋常じゃない・・・)

メイド(・・・眼鏡さん・・・もしかしたら、今回の事件で何か知っている?)

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

メイド「・・・眼鏡さん、結局、来ませんでしたね」

先輩「・・・あの様子なら、難しいと思うわ。しょうがないわよ・・・」

そばかす「どうしたの? 眼鏡さんがどうかした?」

色白「・・・確かに来てないけど」

先輩「いや、なんでもないわよ。ちょっと、気分が悪いんだって」

そばかす「そっかぁ・・・無理もないですね。同じ部屋だし・・・」

色白「・・・・・・そうだね。食欲とかないのが普通かも」

長男「・・・さて、御馳走様。ありがとう」

メイド「あっ、いえいえ」

長男「お昼も楽しみにしてる」

メイド「ありがとうございますっ」

そばかす「さーて・・・何しよっかな・・・これから・・・」

色白「お掃除・・・する?」

長男「こんな時だし・・・無理しなくても良いと思うよ。自分の部屋でゆっくりしたらいい」

そばかす「そ・・・そうですかぁ・・・」

長女「遠慮しないで。チーフさんの時と違って・・・これは間違いなく殺されているわ」

長男「・・・そうだね。僕たちと関係ない部外犯がいるかもしれないし」

そばかす「そ、そういえば殺人事件が起きてるんでしたよね・・・ちょっと抜けてたかも」

色白「あんたはいつもでしょ・・・。でも、怖いですよね・・・」

長男「うん・・・。もっと緊張した方がいいかもね」

そばかす「あはは・・・。そうですね、はい・・・」

長男「・・・それから。これからはいつも二人以上で行動した方が良いだろう」

長女「・・・そうね。それならば、一人で行動してるよりは犯人もやりにくいだろうし・・・」

メイド「だったら、このこと・・・長髪さんと姉御さんにも教えないと・・・」

長男「そうだな。それから、父さんと母さんにも・・・この二人には僕が伝えよう。その二人にはメイドさんに任せても良いかい?」

メイド「分かりました! わたしから伝えておきます」

長男「頼むよ。執事、ついてきてくれるかい?」

執事「はい、分かりました」

メイド「先輩さん、ついてきてくれますか?」

先輩「もちろん。行こっか」

そばかす「私たちどうしよっか・・・お皿洗いでもする? 色白ちゃん」

色白「そうねえ」

メイド「あ・・・そういえば、まだでした・・・」

先輩「悪いけど、二人に頼んでいい? 私たちもすぐに戻ってくるから」

そばかす「大丈夫です!」

メイド「すみません、お願いします・・・」

そばかす「良いから良いから」

色白「そうそう、こういう時こそ助け合いよ」

次女「・・・お姉ちゃんどうするの?」

長女「・・・部屋で読書でもするわ」

次女「ふーん、真面目だねぇ」

長女「あなたも一緒に部屋に来てくれるわね」

次女「へー? お姉ちゃん怖いんだ。しょうがないなぁ」

長女「・・・あなたの心配してるのよ。行くわよ」

次女「はいはーい」


先輩「よし、メイド行こうか」

メイド「あ、はいっ。そばかすさん、色白さんお願いします」

そばかす「任されました!」

色白「・・・気を付けてね」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

メイド「・・・というわけなので・・・なるべく2人以上で行動するようにしてください」

姉御「・・・なるほどな」

長髪「確かに、1人よりは2人一緒にいれば相手はやりにくいでしょうね」

メイド「そうなんです。なので・・・」

姉御「あいよ。分かった分かった」

先輩「そういうことだから、気を付けてね」

姉御「・・・おっと、メイド」

メイド「? はい?」

姉御「・・・朝はすまなかった。昼は食べようと思うから・・・呼んでくれよ!」

長髪「私もお願いするわ」

メイド「・・・分かりました!」

先輩(・・・ふふ、この子って不思議ねぇ)

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

メイド「そばかすさん、色白さん、遅くなりました」

そばかす「ん、ご苦労様。あ、お皿洗い終わってるから」

メイド「え・・・そ、そうなんですか。早いですね・・・ありがとうございます!」

色白「メイドがちょっとマイペースなのよ」

メイド「あはは・・・そうですね」

先輩「それも、良いところだと思うわよ。もちろん、仕事は早い方が良いけどね」

そばかす「そうですね。ね、色白ちゃん」

色白「そうね。まあ、そばかすも大概マイペースだと思うけど」

先輩「ふふ、確かに」

メイド「・・・みなさん、この後、どうしますか? お昼までやること・・・ないですよね」

先輩「んー、そうねぇ。中庭にでも行きましょうか。お手入れでもしましょう」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

先輩「そばかすと色白は分かるわね」

そばかす・色白「「はいっ」」

先輩「メイドは・・・そうね。お花に水やりでもやってもらいましょうか」

メイド「水やり・・・」

先輩「いちいち言わなくっても分かると思うけど・・・やりすぎたらダメなんだからね?」

メイド「はいっ」

先輩「難しい命令かもしれないけど、ほどほどに、たっぷりよ」

メイド「分かりました!」

先輩「じゃあ、お願いね。中庭の中央に井戸があるからそこから水は汲んでね」

メイド「なるほど、分かりました」

メイド「・・・みんな、キレイな花ですね・・・これは大切にしないと」

メイド「・・・・・・・・・」

メイド(それにしても・・・分からない)

メイド(なぜお局さんが殺されたのか・・・。チーフさんの時とは違う、ハッキリと他殺されたと分かる、殺し方)

メイド(みなさんは自殺だと思っているけど・・・・・・殺されたのでは)

メイド(わたしたちと全く関係ない侵入者という話も出ていたけど、正直、とても考えにくい)

メイド(でも、2人とも殺される動機というのが分からない・・・)

メイド(特に、チーフさんはみんなから人望が厚くて尊敬されていた存在なのに・・・)

メイド(やっぱり自殺? では理由は? 疲労が原因とか・・・でもお仕事は楽しそうにされてた)

メイド(お局さんの場合は? 周りからの評価はあまり良いものは聞いてない・・・けれど)

メイド(それでも、殺してしまうほどの動機は・・・なかったのでは)

メイド(・・・わたしが知らないだけかもしれない。わたしなんて、ここに来てまだ1週間ちょっとだし・・・)

メイド(そういえば、朝の眼鏡さんのあのセリフと態度・・・普通じゃない)

メイド(やっぱり眼鏡さんは何か知っている・・・犯人に心当たりがある・・・かどうかはともかく)

メイド(そうでなければ・・・・・・あんな態度できないはず)

メイド(話をしてみたいけど、今の状態だととてもじゃないけど・・・)

メイド(・・・うーん・・・・・・)ぼーっ

そばかす「・・・メイドちゃん? メイドちゃん!」

メイド「・・・・・・あ、はっ、はいっ!」

そばかす「・・・大丈夫? さっきからずっと同じお花に水あげてるけど・・・」

メイド「えっ、えっ、あっ」

そばかす「・・・メイドちゃん、あまり無理しないでね。辛かったら休んでても良いし・・・」

メイド「だ、大丈夫ですっ。ちょっとぼーっとしてただけですから!」

そばかす「なら、良いけど。頑張ってね」

メイド「はい、ありがとうございますっ」

メイド(・・・水やり、しっかりやらなくちゃ)



メイド「先輩さん、一通り終わりました」

先輩「あら、ほんと? お疲れ様。ところで、そばかすから聞いたけど・・・大丈夫なの?」

メイド「だ、大丈夫ですよ? 元気いっぱいです!」

先輩「・・・なら良いけどね。さて、ちょっと休憩しよっか。お茶でも入れて」

メイド「分かりました!」



先輩「・・・ふうう、良いお天気ね」

そばかす「ふふ、そうですね。これで、お菓子とかもあれば・・・」

色白「相変わらず食い意地はってるわね、太るわよ」

そばかす「大丈夫だもん。色白ちゃんは細いから良いねー」

色白「別に・・・」

メイド「・・・あの」

先輩「・・・うん? どうしたの?」

メイド「・・・・・・・・・」

そばかす「・・・メイドちゃんどうかしたの? お腹すいた?」

色白「あんたじゃあるまいし・・・。どうかした?」

メイド「や、やっぱりいいです。ごめんなさい」

先輩「・・・良いのよ、遠慮しなくて。言ってごらん」

メイド「・・・・・・えっと」

先輩「・・・・・・」

メイド「・・・・・・チーフさんのこと・・・少し聞いていいですか?」

そばかす・色白「「・・・・・・・・・」」

先輩「・・・うん。良いよ。何が聞きたいの?」

メイド「大したことじゃないです。・・・良いですか?」

先輩「うん。なんでも言ってみて」

メイド「・・・チーフさんって、ご結婚はされてたんですか?」

先輩「・・・ううん。ご結婚はされてなかったわ。本人も言ってたし、間違いないわね」

メイド「・・・そうでしたか」

先輩「・・・それがどうかした?」

メイド「・・・いえ。あんな美人さんなのに、って思って」

先輩「まあ、確かにね」

色白「チーフさんって、ほんとキレイでしたよね。おいくつなんでしょう・・・?」

先輩「うーん? 確か30代半ばくらいだったと思うけど」

そばかす「え・・・それで、あの若々しさっていうか、見た目でっていうか」

先輩「そうでしょ。若い頃なんて絶対モテたよね。縁談は1つ2つどころじゃなかったでしょうに・・・」

色白「若い頃どころか、私が男だったら今の歳でもぜんぜんアリですね。いつまでも若々しいなんて」

メイド「・・・なんでご結婚されなかったんでしょう?」

先輩「・・・それは分からない。まあきっと事情があったんだろうとは思うけど・・・」

色白「若い頃からずっとここで働かれたんですよね?」

先輩「うん、そうなの。今のメイドと同じ歳で入ったみたいよ?」

メイド「そうでしたか・・・」

先輩「・・・なんでこんなこと聞くの?」

メイド「あ・・・す、すみません。やっぱり変な質問で・・・」

先輩「いやいや、その辺は気にしてないから大丈夫よ。なんとなく、なんでかな、って思っただけ」

メイド「・・・えっと・・・長男さんおっしゃってましたよね。ご家族もいるだろうから、って」

先輩「・・・あー・・・」

メイド「親御さんとか、ご兄弟でしょうか」

先輩「・・・分からないわね。そういえば、家族の話はまったく聞いたことないわ。でも、結婚してないのは確かよ」

メイド「・・・そうですか。分かりました。ありがとうございますっ」

メイド(・・・結婚はしていない、か)

そばかす「・・・それにしても、なんでチーフさん・・・あんなことに」

先輩「・・・そうね。・・・きっと深い深い事情があったのよ」

そばかす「・・・納得いかないです。私や色白ちゃんのことすごくかわいがってくれて」

先輩「・・・それは、私もよ。みんなそうじゃないかしら?」

色白「・・・はい・・・そうだと思います」

そばかす「なんでだろう・・・色白ちゃん、何か知ってる?」

色白「・・・・・・・・・」

そばかす「・・・色白ちゃん?」

色白「・・・え? ・・・ああ、ごめん。分かんないよ」

そばかす「だよねー・・・」

先輩「私もさっぱり分からない・・・」

色白「はい・・・・・・・・・」

メイド(・・・・・・・・・色白さん?)

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

メイド(そしてあの悪夢から・・・・何事もなく時は夜に)

メイド(色白さん・・・あの時、少し様子がおかしかった。気のせいかも・・・しれないけれど)

そばかす「あの・・・どうします? 眼鏡さん結局お部屋から出てきませんよ」

先輩「そうねぇ、朝から何も食べてないはずだし・・・さすがにお腹空いてると思うんだけど)

色白「・・・部屋の前に置いておいたらどうですか? 一声かけておけば、もしかしたら食べるかも」

先輩「・・・そうね。そうしておきましょうか」

色白「私、持っていきます」

先輩「分かった。お願いね」

そばかす「色白ちゃん、私も行こうか」

色白「良いわよ、別に。すぐそこだし・・・」

そばかす「良くないよ。もし何かあったら・・・」

色白「何か、ってナニよ? ・・・小さい子供じゃないんだからさ」

メイド(眼鏡さんは、夕飯にもまた声をかけた。でも、出てこなかった)

メイド(いったい何に怯えているのか・・・やはり、犯人?)

メイド(犯人に心当たりがあるなら、なおさら問い質したい・・・でも、今のままなら・・・)

先輩「確かにすぐそこだけど心配ねえ」

そばかす「はい・・・メイドちゃんも心配だよね?」

メイド「・・・はい」

そばかす「そうだよね。ううん・・・」


色白「・・・ただいま」

そばかす「・・・おかえり! 良かった!」ぎゅう

色白「・・・な、なによっ。・・・大げさね」

そばかす「・・・心配だったから」

色白「・・・・・・ありがとう」

先輩「ふふっ、何よりね」

メイド「・・・あの、どうでしたか?」

色白「・・・うん。えっとね、やっぱり、何も反応してくれなかった」

先輩「・・・そっか」

色白「とりあえず・・・部屋の前に置いてきましたけど」

先輩「うん、それで良いよ。ありがとう」

色白「・・・いえ・・・」

先輩「さっ、もうみんな寝ようか」

そばかす「そうですね、はー、疲れましたー」

色白「あんた、休んでばっかりじゃない」

そばかす「そんなことないもん。ね、メイドちゃん?」

メイド「うふふ、そうですね」

先輩「それは良いけど、そばかす、色白。戸締りはしっかりしなさいよ」

そばかす・色白「「分かりましたっ」」

先輩「よろしい。それじゃあ、おやすみ」

長女「ふう・・・少し早いけど、私たちも寝ましょうか」

長男「そうだな、執事、行こう」

執事「はい、分かりました」

次女「しょうがないかー」

メイド「あ・・・長女お嬢様、お部屋までお付き合いします」

長女「あら・・・大丈夫よ。私一人じゃないし」

長男「ありがとうメイドさん。話し合ったんだけど、僕らは姉弟三人と執事の四人で同じ部屋に寝ることにしたんだ」

メイド「そ、そうでしたか」

長女「だから、心配ご無用よ。・・・でも、ありがとう」

メイド「分かりました!」

長女「・・・そうだ、メイドさん。お水を注いできてもらっても良いかしら?」

長女「ええ。コップ一杯で大丈夫だから」

メイド「分かりました! お待ちください」

先輩「・・・もう少し待ってようか」

メイド「あ、すみません先輩さん。もうお先に行ってくれてても・・・」

先輩「ダメよ。メイド一人になっちゃうでしょ」

長女「大丈夫よ。私たちがメイドさんの部屋まで送っていくから」

先輩「え・・・そ、そうですか?」

長男「そうだね。それぐらいはお安い御用だ。ついでといったら、悪いかもしれないけど」

先輩「・・・ありがとうございます。メイドのことお願いします」

長男「分かった。三人とも、おやすみ」

先輩・そばかす・色白「「おやすみなさい!」」

長女「メイドさん、悪いわね。頼むわ」

メイド「分かりました、お待ちください!」

メイド「・・・お待たせしましたっ」

長女「ありがとう」

メイド「喉でもかわきましたか?」

長女「いいえ。薬を飲むためにね」

メイド「え・・・な、何かご病気なんですか?」

長女「ふふふ、大丈夫よぜんぜん大したことないの」

長男「長女姉さんは、寝つけ難い体質というか、そういう感じなんだ。本当に大したことないよ」

長女「そうそう。ただの睡眠薬よ」

メイド「そ、そうでしたか・・・びっくりしました」

長女「ごめんなさいね。・・・・・・うん、もう大丈夫。行きましょうか」

メイド「はいっ」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

メイド「わたしの部屋はここです。ありがとうございました!」

長女「いいえ。私に付き合ってくれて、こちらこそありがとう」

メイド「いえいえ。では、わたしはここで」

執事「・・・なんだか、疲れた顔をしているね」

メイド「・・・そ、そうでしょうか」

執事「まだ働き始めたばかりでもある・・・それにこんな状況だ。無理もないよ」

長男「うん、そうだね。ゆっくり休むと良い」

メイド「はい・・・ありがとうございます」

長女「おやすみなさい」

メイド「はい、おやすみなさいっ」

 ―――――the 3days of the chain

メイド「・・・ん・・・」

メイド(昨日とは違って・・・静かな朝)

メイド(・・・・・・何事もなければ・・・良いけど・・・)

先輩「・・・んー・・・メイド、起きてたんだ」

メイド「あっ・・・おはようございますっ」

先輩「うん、おはよう」

メイド「・・・眠れましたか?」

先輩「・・・正直なところ、ぐっすりとは寝れなかったわね」

メイド「そうですよね・・・」

先輩「メイドもか。まあ・・・しょうがないよね」

メイド「はい・・・」

先輩「・・・さっ、支度しよっか」

メイド「・・・はいっ」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

そばかす「あ、メイドちゃんおはよう!」

メイド「おはようございます、そばかすさん!」

色白「おはよう。寝れた?」

メイド「その、あんまり」

色白「そうだよねー・・・」

先輩「色白もか。そばかすは?」

そばかす「え? 寝れましたよ」

色白「・・・この子は神経が図太いので」

先輩「ははは、そうだね」

そばかす「えへへ、ありがとうございますっ」

先輩・色白((褒めた覚えはないんだけど・・・))

姉御「おっ、メイドおはよう」

長髪「おはよう。みんな、揃ってるわね」

メイド「姉御さん、長髪さん、おはようございますっ」

姉御「昨日の飯は美味しかったな! こんなことなら、昨日の朝も食べときゃ良かったよ」

メイド「そ、そうですか? ありがとうございます!」

長髪「ええ、今日も楽しみね」

メイド「・・・ありがとうございますっ」

そばかす「じゃ、じゃあ今日は私たちで作りませんか?」

先輩「ふむ。良いかもしれないわね」

色白「みんなでやれば早いし楽しいし・・・」

メイド「はい、良いと思います。みなさんで作りましょう!」

姉御「よっし、そうと決まったら行くか!」

長髪「当番とか囚われず、たまには良いかもしれないわね」

先輩「ええ、行きましょう」

メイド(あ・・・眼鏡さんの部屋の前におかれてた食事・・・なくなってる)

メイド(食べてくれたのかな・・・今日は来てくれるかも)

先輩「メイドどうしたの? 行くよ!」

メイド「あっ、はーい!」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

主人「ほお、今日は君たち全員が協力して」

先輩「はい、そうなんです」

夫人「ふふふ、仲が良くてけっこうね」

姉御「団結力なら負けませんよ!」

主人「とても良いことだね。さて、冷めない内に食べ始めようか」

長男「・・・待って。眼鏡さんがまだだよ」

色白「・・・来るんでしょうか?」

長女「・・・昨日の様子からして、難しいんじゃないかしら。でも、丸一日食事をしていないんじゃないの?」

先輩「ええ、そうなんです。さすがに心配ですよね・・・」

メイド「・・・あ、あの! わたし見てきます!」

先輩「あっ、ちょっと! ・・・す、すみません私も付いて行ってきます!」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

メイド「眼鏡さん! 眼鏡さん!!」

メイド(ダメ・・・まったく反応がない・・・)

メイド(まさかまだ寝てるなんてこと・・・)

メイド(昨日の状態からみても・・・憶測だけど、とても安眠できるような様子では・・・)

先輩「メイド! 眼鏡さんは!?」

メイド「せ、先輩さん・・・だ、ダメで・・・」

先輩「・・・鍵がかかってるわね・・・」

メイド「ど・・・どうすれば・・・!」


長男「―――君たち!」

執事「坊ちゃん、そんなに走ると危険です!」

メイド・先輩「「長男さん!?」」

長男「どうしたんだ・・・鍵がかかってるのかい?」

メイド「は、はい・・・」

執事「・・・開けましょうか? マスターキーなら持ってます」

長男「・・・ああ。頼む」

執事「・・・了解しました。お待ちを」

 ガチャガチャ・・・カチャン

執事「開きました・・・」

長男「・・・僕が開ける」

 ギィ・・・



メイド(・・・・・・やっぱり・・・)

先輩「・・・め、眼鏡さん!!!」

執事「・・・・・・・・・ま、まさか」

長男「眼鏡さん! 大丈夫か!?」

メイド「・・・どうでしょうか」

長男「・・・・・・ダメだ、もう手遅れだ」

先輩「・・・う・・・うそ・・・」

執事「これはいったい・・・!?」

長男「・・・・・・おそらく、毒殺だ」

先輩「ど・・・毒!?」

長男「・・・机の上に食事があるね。たぶん、一口か二口程度を口にしただけだと思われる」

先輩「確かに・・・ぜんぜん減ってない」

長男「・・・その通り」

先輩「・・・じ、自殺とかではないんでしょうか」

長男「おそらく違う。彼女、ドアに向かって倒れているだろう? たぶん、助けを求めるため外に出ようとしたためだ」

執事「・・・自殺なら、そういう抵抗などはしない、ということですね」

長男「・・・そういうことだ」

メイド(毒殺・・・・・・確かに)

メイド(長男さんがおっしゃる通り、自殺ではない・・・)

メイド(部屋の前の食事がなくなっていたことから、それまでは生きていた、ということに)

メイド(やはり、昨日は犯人に怯えていた・・・?)

メイド(いや、だったら部屋に隠れずにすぐにみんなに知らせれば良いのでは)

メイド(おそらくお局さんが殺されたことと関係がある・・・)

メイド(眼鏡さんは犯人には心当たりはなかった。何かに気付いていたわけでもない)

メイド(お局さんと秘密にしていたことが露見されたから・・・だから、自分も殺されるかもしれないと思った)

メイド(まさに連鎖のように殺された・・・これが二人が殺された理由)

メイド(でも、その秘密は・・・? 殺してしまうほどの理由って・・・いったい)

メイド(・・・分からない)

メイド(でも・・・まだ嫌な予感がする。これで終わりじゃない・・・!)

支援・読んでくれる人に感謝
展開が遅めで、話がかなり長めなので気長に読んで欲しい

何か疑問や質問があれば受け付ける
言うまでもなく話の核心に触れる事には答えられない
ヒントはまだ少ないけど犯人を推測してみると良いかも
スレタイは気にしすぎたら負け

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

姉御・長髪「「眼鏡さんが殺されてた・・・!?」」

メイド「はい・・・・・・」

主人「・・・・・・ふむ」

夫人「なんてこと・・・」

長男「・・・毒殺されていた。おそらく食事に毒が混ぜられていたんだ」

長女「・・・なるほどね」

長髪「・・・ちょ、ちょっと待って。あの人、昨日はずっと食事をしてなかったんじゃないの?」

姉御「そ、そうだよな。部屋に元々あったもん食って、毒殺されたって?」

メイド「違うんです。朝とお昼は食べてなかったんですけど、夜は・・・」

先輩「・・・夜は彼女の部屋の前に食事を置いておきました。ずっと食べてなかったので・・・」

次女「・・・ね、ねぇ、誰が運んだの?」

一同「「・・・・・・・・・」」



色白「・・・・・・私、ですけど」



長男「・・・・・・・・・」

姉御「・・・お、おい、まさか」

色白「違います!! 何もしてません!」

長髪「・・・でも、ねぇ」

色白「違います! そ、そばかすっ、私運んだだけでしょ!!?」

そばかす「う・・・うん。で、でも・・・一人で・・・行ったよね」

色白「そ・・・それは・・・!!」

姉御「・・・つまり、誰も無実を証明できない、と」

色白「あ、姉御さんっ!! 私そんなこと・・・!」

長男「色白さん落ち着いて」

色白「・・・で、でも・・・私、本当に何も・・・!」

メイド(・・・確かに、色白さんは怪しい。けれど・・・)

長男「確かに、運んだの色白さんが一人でやってくれたんだろう」

姉御「だったら・・・」

長男「・・・だからといって、色白さんがやったとまでは断言できない。色白さんが運ぶ前に毒を入れた可能性もあるし・・・」

長女「もし調理中に入れることもできる。でも、それだと」

長男「それだと、関係のない僕たちまで巻き込んでしまう。誰でも良かった、とかなら分からないけど、おそらく違う」

長女「眼鏡さんの部屋の前に運んだ食事だけに毒が入っていた、ということが重要ね。"犯人はピンポイントで眼鏡さんを殺したかった"」

姉御「・・・な、なるほど・・・」

長男「姉さんの言う通り。そして・・・肝心の毒を入れたタイミングだけど、こんなのは色白さんが運んだあとでもできることだ」

メイド(長男さんと長女お嬢様の言う通り・・・これは、少しの隙さえあれば誰にでもできる・・・)

メイド(色白さんが怪しいのは確かだけど、状況証拠だけで何の根拠もない)

メイド(・・・色白さんに罪をなすりつけるために、色白さんが運んだ後で毒を入れたとも考えれる、か・・・)

次女「・・・誰だか知らないけど・・・この中に犯人いるんでしょ!? 出てきなさいよ!!」

長女「・・・次女、落ち着きなさい」

夫人「長女の言う通りよ、ちょっと、ね」

次女「そんなの無理よ! この中に3人も殺したやつがいるんだよ!!」

長女「・・・・・・」

長男「・・・僕たちの中に犯人がいるとは限らないよ。だから・・・」

次女「・・・じゃあ、誰なの!? 何の為にこんなこと!!!」

長女「次女、落ち着いて。こんなの騒いでも犯人はまず名乗り出るわけがないし、犯人の思う壺よ」

主人「そうだ次女。静かにしなさい」

次女「で、でも・・・」

長女「皆で一緒にいれば、犯人は簡単には手が出せないわ。一緒にいれば安心よね? だから、ね?」

次女「・・・・・・・・・うん・・・分かった・・・」

長女「・・・良い子ね」

メイド(長男さんの言う通り、この中に犯人がいるとも限らないけど・・・)

メイド(・・・考えたくないけど、おそらく、この中にいる・・・)

メイド(長男さんもたぶん分かっているはず・・・不安を煽るだけだから、あえてそうとは言わないだけで)

メイド(本当に・・・・・・いったい誰が・・・)

長男「とりあえず遺体を運ぼうか。執事頼むよ」

執事「・・・分かりました」

先輩「・・・私たち、どうしよっか」

メイド「・・・そうですね」

次女「・・・お姉ちゃん、部屋に行こう」

長女「・・・良いけど、皆と一緒にいないの?」

次女「・・・色白さんとはいたくないもん」

色白「・・・・・・・・・」

長女「次女、勝手に決めつけないで」

次女「だって、一番怪しいでしょ!」

長女「彼女がやったという根拠はなにもないわ。犯人じゃないという根拠もないけど」

次女「そうでしょ。だったらさ」

長女「でも、それは皆に言えることなのよ。私は、あなたの無実どころか自分の無実も完璧に証明はできないわよ?」

次女「・・・・・・・・・」

長女「・・・私と部屋に行くのは構わないわ。でも、大した根拠もないのに犯人と決め付けないであげて」

次女「・・・・・・・・・」

長女「・・・分かった?」

次女「・・・・・・・・・うん」

長女「それで良いわ。・・・さぁ、次女の行きたいところに行けば良いわ。一緒にいてあげるから」

次女「・・・お姉ちゃんの部屋、行こう」

長女「・・・分かった。行きましょう」

主人「私も付いて行って良いかい?」

夫人「私も良いかしら?」

次女「お父さんとお母さんも?」

主人「・・・2人より4人の方が安心だろ?」

夫人「大事な娘だもの、一緒にいて守ってあげなくちゃね」

次女「・・・分かった。お姉ちゃんも、良いよね」

長女「良いわ。じゃあ、行きましょう」

色白「あっ、あのっ、長女お嬢様っ!」

長女「・・・何かしら」

色白「・・・ありがとうございます」

長女「・・・いいえ」


メイド(長女お嬢様・・・優しくて、かっこいい)

メイド(しかも、長男さんと同じく賢い人・・・いや、長男さん以上かも)

先輩「さて・・・私たちどうしよっか」

そばかす「・・・そう、ですねぇ」

姉御「皿洗いでもするか、長髪」

長髪「そうね・・・」

先輩「とりあえず無難かもね」

そばかす「私もします、皆でやれば早いですしっ」

色白「じゃ、じゃあ私も」

姉御「・・・じゃあ色白に任せるか。長髪、廊下でも掃こうぜ」

色白「・・・え・・・」

長髪「そうね。じゃ、頼んだわよ」

そばかす「・・・せ、先輩さん、一緒に中庭に行きましょうっ」

先輩「え? 良いけど・・・ちょっとちょっと、引っ張らないで」

色白「・・・そ、そばかす・・・・・・?」

そばかす「・・・・・・ごめん・・・・・・」

色白「・・・・・・・・・」

メイド(・・・長女お嬢様は、あんなふうに言ってくれたけど・・・やっぱり、みんな色白さんを疑ってる)

メイド(・・・・・・無理もない・・・・・・)

色白「・・・・・・」

メイド「・・・色白さんっ、お皿洗いしましょう」

色白「・・・え・・・・・・?」

メイド「わたしと一緒にしましょう」

色白「・・・怖くないの?」

メイド「わたしも長女お嬢様と同じ意見ですから」

色白「・・・・・・ありがとう」

色白「・・・ありがとうメイド。手伝ってくれて」

メイド「どういたしまして。早く終わって良かったですねっ」

色白「ありがとう・・・・・・ほんとにありがとう・・・・・・うぅ、ぐす・・・」

メイド「だ、大丈夫ですか?」

色白「・・・ごめんね。そばかすから・・・嫌われたのかな、私」

メイド「・・・・・・・・・」

色白「私、なんにも、やってないよ。なんで・・・こんな・・・」

メイド「・・・色白さん・・・」

色白「なんで私が人を殺さなきゃいけないの? なんで好きなチーフさん殺さなきゃいけないの? ・・・ねぇなんで・・・・・・」

メイド「・・・・・・・・・・・・」

色白「メイドだけだよ・・・信じてくれるの・・・」

メイド「・・・そんなことないですよ。そのうち、疑いなんて晴れます」

色白「・・・だと、良いけど・・・」

色白「・・・・・・・・・」

メイド「・・・あの、一つ聞いて良いですか?」

色白「・・・なに?」

メイド「・・・・・・なんで、お一人で眼鏡さんのお食事を・・・届けたのでしょう?」

色白「・・・・・・・・・」

メイド「・・・あの、色白さん、すみません変なこと」

色白「・・・やっぱり、メイドも私のこと疑ってるんだ」

メイド「ち、違いますよ? わたし、単に気になって・・・」

色白「嘘つき!! どうせ私の事疑ってるんでしょだからそんなこと聞くんでしょっ!!」

メイド「ち・・・ちがっ・・・! いっ色白さん落ち着いてっ・・・ごほっごほっ」

色白「・・・・・・あ・・・・・・」

メイド「・・・い、色白さん・・・だ、大丈夫ですか?」

色白「・・・それは、私の台詞・・・。ごめんね、大丈夫?」

メイド「はい。・・・落ち着きましたか?」

色白「うん・・・」

メイド「・・・良かったです。すみません、変なこと聞いてしまったばかりに・・・」

色白「・・・ううん。気になるのは当り前よ。・・・ご、ごめんね、ごめん、ごめん・・・許して・・・」

メイド「もう、大丈夫ですから。ねっ」

色白「・・・本当にごめんなさいね。ありがとう・・・」

メイド「いえいえ。わたしのことは本当に大丈夫なので、お気になさらず」

色白「・・・・・・・・・一人で運んだのはね」

メイド「え・・・?」

色白「・・・そばかす、あの子いっつも私を子供扱いするのよ。だから、お使いくらい一人でいける、って意地はっただけなの」

メイド「・・・・・・・・・」

メイド(前から少し思っていたけど、色白さんってかなり感情の波が激しいというか・・・)

メイド(この数分間で喜怒哀楽とハッキリ次々と変わってしまった)

メイド(・・・それに・・・)


色白『なんで私が人を殺さなきゃいけないの? なんで好きなチーフさん殺さなきゃいけないの? ・・・ねぇなんで・・・・・・』


メイド(・・・・・・色白さんの中ではチーフさんは殺されたことになっている)

メイド(・・・これだけ人の死が続けば、そう思うかもしれないけど、あれはおそらく自殺に見せかけた他殺だし)

メイド(わたし以外の他の誰かがそれに気付いている様子も、今のところなさそう)

メイド(食事を一人で運んだ理由はそれほど不自然じゃないかもしれないけど・・・でも・・・)

メイド(・・・でも、だって・・・色白さんが犯人・・・? そんなまさか・・・・・・)

メイド(・・・でも、そういう思い込みや先入観は危険・・・わたしはここの人たちと知り合って、まだ間もないんだから・・・)

なんか飛んだ
>>152の前にこれ

メイド「・・・へぇ、あのそばかすさんが」

色白「そうなのよ。お姉さんぶっちゃって。同じ年のくせに」

メイド「うふふ、そうですね」

色白「でしょう? メイドもそう思うよね。普段はドジってばっかりの天然なくせに」

メイド「確かに、ちょっと天然さんですよね」

色白「そうよー、そうなのよ困ったものよ」

メイド「そうかもしれませんね。・・・じゃあ、お皿洗いも終わってますし、先輩さんたちと合流しましょう」

色白「うん、そうね。そばかすのやつ、友達を疑うなんて、あとでしっかりおしおきね」

メイド「ふふっ、では行きましょう」

色白「うん、行こう」

メイド(もし色白さんだとして・・・カッとなってやってしまったとしても、それはそれで不自然)

メイド(そんな一時の感情だけで続けて3人も殺してしまうだろうか)

メイド(この一連の事件・・・おそらく突発的ではなく計画的なもの・・・)

メイド(行き当たりばったりの行動で、ここまではできないはず・・・)

メイド(それに何より動機というのが、さっぱり分からないし・・・・・・)

メイド(・・・決めつけてしまうのは、まだまだ早すぎる)


色白「メイドどうしたの?」

メイド「あっ、はーい! すぐ行きますっ」

メイド(先輩さんやそばかすさんにも、色白さんのこといろいろ聞いてみよう・・・)

メイド(・・・そうだ、昨日の色白さんの少しおかしい態度が気になる・・・)

メイド(・・・また今度の機会で、かな)

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

メイド「先輩さん!」

先輩「メイド? どうしたの?」

メイド「いやぁ・・・お皿洗いも終わってしまって、次は何をしようかなと」

先輩「そっか。そうねぇ・・・」

色白「あの・・・姉御さんと長髪さんは?」

先輩「あの2人なら床掃除してるみたいね。けっこう気合い入れてやってるみたいだし、邪魔しない方が良いわよ」

色白「そ、そうですか」

先輩「何やってもらおっか・・・・・・あ、そうだ。外回りの掃き掃除しよっか」

メイド「分かりました!」

先輩「ペアはどうしようかな。私とメイ・・・」

そばかす「メイドちゃん一緒にしようっ、先輩さんは玄関前お願いします」

メイド「え、は、はい」

先輩「え、ちょっと・・・別に良いけど。じゃあ、色白、私としようか」

色白「・・・はい」

先輩「・・・気を付けていきなさいよー!」

そばかす「はい! 行こう、メイドちゃん。お屋敷の裏の方だよ」

メイド「は・・・はい」

そばかす「ここ、ずいぶんとやってなかったからねぇ。気合い入れてやらなきゃ」

メイド「そうですね。けっこう前やってから時間が経ってる気がします」

そばかす「そうそう、そうなの。目立たないところだから・・・あんまり行き届いてないんだよね」

メイド「でも、キレイなお屋敷ですし、こういうところもしっかりお手入れしないと」

そばかす「だねぇ、良いこと言うなあメイドちゃんはっ」

メイド「あはは・・・」

そばかす「さーて、始めようか」

メイド「はいっ」

そばかす「ふんふふーん」

メイド「・・・・・・・・・」

そばかす「Move on! Move on!」

メイド(・・・なんか、常に喋ってなきゃ気がすまない人かもしれない)

そばかす「Hurry up! Hurry up!」

メイド「・・・あの」

そばかす「はりぃ・・・うん?」

メイド「色白さんと・・・ケンカでも、しましたか?」

そばかす「・・・・・・ん・・・・・・」

メイド「・・・それか・・・色白さんのこと、疑ってます、よね?」

そばかす「・・・・・・・・・」

メイド「・・・今は、わたしたち二人きりですから。正直に答えて欲しい・・・です」

そばかす「・・・メイドちゃんにはかなわないなぁ」

メイド「・・・と、いうと・・・」

そばかす「うん。ちょっと・・・疑ってる」

メイド「・・・そう、ですか」

そばかす「・・・ダメダメだよね。私が、色白ちゃん支えてあげるぐらいじゃないと」

メイド「そばかすさん・・・」

そばかす「でもね、やっぱりちょっと不安だし怖い。今だから言うけど・・・」

メイド「・・・?」

そばかす「色白ちゃんね、お局さんと眼鏡さんのこと嫌いみたいなのよ」

メイド「え・・・・・・」

そばかす「私もよく分からないんだけどさ・・・ちょっと嫌いとかそんな程度じゃないの」

メイド「・・・・・・・・・」

そばかす「部屋で二人きりの時は、事あるごとにお二人の悪口ばっかり・・・だったし」

メイド「そ、そうだったんですか・・・」

そばかす「うん・・・。確かに、私もあの二人はあんまり好きじゃなかったよ? でも、あんなにまでは・・・」

メイド「そうですね。あのお二人、何かにつけてはわたしたちに文句を・・・」

そばかす「そうそう、まるで小言言うお姑さんみたいでしょ? あ、もう亡くなった人にこんなこと言うのよくないけど・・・」

メイド「そこまで嫌いなのは、そういう理由以外にあるとは思いますが・・・」

そばかす「うん、私もそう思う。でも・・・分からないの。一回だけ聞いたことあるんだけど・・・」

そばかす「嫌いなものは嫌いなの。なに、そばかすはあの二人の肩もつの!?」

そばかす「っていわれて、ものすっごい機嫌損ねちゃって・・・まあ諦めたんだけど」

メイド「な、なるほど・・・」

そばかす「そうなんだよー・・・」

そばかす「それで・・・お局さんが殺された時は、なんとも思わなかったけど・・・」

メイド「・・・はい・・・」

そばかす「眼鏡さんが殺されたと知ったとき・・・まさか、って思った」

メイド「・・・・・・」

そばかす「二日連続で、色白ちゃんが嫌いだった二人が殺された・・・疑わない方が不自然じゃない?」

メイド「そう・・・ですね・・・」

そばかす「・・・信じられないよね。私だって信じたくない。人殺しなんかする子じゃないってことも・・・よく知ってるはず、なんだけど」

メイド「・・・・・・」

そばかす「・・・実は色白ちゃんね、実家がかなりのお金持ちなの」

メイド「そ、そうなんですか?」

そばかす「うん。でも・・・その生活が嫌になって家出してきたとか・・・詳しい事情までは知らないんだけど」

メイド(確かに、庶民ではなく良い育ち方をされてきたような雰囲気ではあったけど・・・)

そばかす「なんでか分かんないけど、私と気が合っちゃって。それで友達になって・・・今、ここにいる、のかなっ」

メイド「そうでしたか・・・色々ありそうですね。あんまり触れられたくないかもしれません」

そばかす「私もそう思う。だから家族のことは全然喋らないし・・・だからこそ、チーフさんのこと本当のお母さんみたいに慕ってたし」

メイド「・・・・・・・・・」

そばかす「あ、私のうちは全然お金持ちじゃないよ! もう一般市民代表! みたいな感じの生活!」

メイド「あはは・・・私もですよ」

そばかす「そっか、確かにメイドちゃんからはそんな感じがする。私と同じ匂いがする」

メイド「・・・ど、どういう意味ですか!」

そばかす「あはは、ごめんごめん。変な意味でもないし、バカにした覚えもないから大丈夫。単に私たち似た者同士だね、って言いたかったの」

メイド「大丈夫ですよ。それくらい分かってますって」

そばかす「ふふ、メイドちゃんもなかなか面白いね」

メイド「・・・そばかすさんにはかなわないです」

そばかす・メイド「「あはははっ」」

そばかす「さーって、お仕事お仕事っと」

メイド「ふふ、そうですね」

そばかす「早く終わらせるぞーっ」

メイド「はいっ」


メイド(・・・なんとか、最後は良い雰囲気で会話が終わって良かった)

メイド(そばかすさんからは、かなり話が聞けた・・・)

メイド(やはり、色白さんがお局さんと眼鏡さんが嫌い、だったという話が気になる。でも・・・)

メイド(チーフさんのことは実の母親のように慕っていた、と・・・)

メイド(そんな人を、どういう理由で手にかけることができるのか・・・)

メイド(それに、あの二人を尋常でなく嫌っていたという、その理由も・・・よく分かっていないし)

メイド(なにか・・・深い理由があるはず。いったい・・・?)

支援・読んでくれる人に感謝
>>159のmove onの使い方は間違っているかもしれない 

ちなみに何気ない雑談のなかにもヒントは隠されている
犯人や動機を現段階で特定するのは、今のところかなり厳しいけど
勘が良い人なら、あることに気付く、かもしれない

姉御「おっ、二人とも頑張ってるな」

メイド「あっ・・・姉御さん」

長髪「ご苦労様。熱心ね」

メイド「そんな・・・それはお二人だって」

姉御「はは、私たちは適度にさぼりながらやってるよ。二人には感心だな」

そばかす「そんなぁ、私たちだってずっと張りつめてやってるわけじゃないので」

長髪「こんな時だから、余計そうよねぇ」

メイド「そうですね・・・」

姉御「・・・先輩さんは?」

メイド「先輩さんは、お屋敷の玄関辺りで色白さんと一緒にいます」

姉御「・・・大丈夫なのか?」

メイド「・・・えっと・・・・・・どういう意味ですか・・・?」

姉御「いや・・・」

メイド「・・・・・・・・・あ・・・・・・」

そばかす「・・・・・・・・・」

メイド「・・・そんな、大丈夫ですよ。大丈夫、というか・・・いや、あの」

姉御「そりゃ、今やればいかにも自分がやりましたって言ってるようなもんだしな」

メイド「・・・・・・あっ、あの、ですから」

長髪「・・・あなたは疑っていないの?」

メイド「・・・・・・・・・」

長髪「そうよね。あなたもよね」

メイド「ち、違います・・・」

姉御「すぐに否定できなかったよな。つまり、そういうことだろ」

メイド「・・・・・・それは・・・」

長髪「大丈夫よ。普通なら、あの子を疑うもの」

メイド「・・・じゃあ、お二人は」

姉御「ああ、そうだな」

メイド「そんな・・・」

姉御「メイドだって疑ってるだろ。お互いさまだって。気にすんな」

メイド「・・・そんな、私は・・・!」

姉御「そばかすは? そばかす、色白といつも一緒にいたけど、今は違うよな。やっぱり、そばかすもだろ?」

そばかす「・・・わ、私は・・・」

長髪「ショックでしょうね。親友が殺人犯だったなんて・・・」

メイド「・・・・・・・・・」

姉御「もう一緒に寝れないだろ。私たちの部屋に来るか? 歓迎するぞ。いつでも」

そばかす「わっ、私っ!!!」

姉御「!!」

そばかす「・・・私は疑ってないです。色白ちゃんを信じてます。だから・・・」

メイド(そばかすさん・・・?)

そばかす「色白ちゃんの悪口はやめてください。疑うのは良いけど、悪口は、やめてください」

姉御「わ、悪口を言った覚えは・・・」

そばかす「やめて、ください」

姉御「・・・・・・あのなぁ、そばかす」

長髪「やめなさい。私たちも言いすぎたのは確かよ。ごめんなさいね」

姉御「・・・・・・」

長髪「あなたも」

姉御「・・・悪かったよ」

そばかす「・・・・・・・・・」

メイド(・・・そばかすさん、やっぱり・・・)


主人「・・・ちょっと良いかな?」

メイド「ご、ご主人さま!? な、なんでしょうか?」

主人「ちょっとね。長髪くんを借りたいんだが」

姉御「・・・長髪を、ですか」

長髪「・・・大丈夫ですけど」

主人「すぐ済む。来てくれないか」

長髪「分かりました」


メイド「・・・びっくりしました」

姉御「・・・だな。しかし、またかよ」

メイド「・・・また?」

姉御「なーんか、ご主人様って長髪がお気に入りなのか知らないけど、よく手伝いみたいなの頼まれてるだよな」

メイド「そ、そうなんですか。まぁ、美人さんですからね」

姉御「はぁ、私じゃダメなんだなー」

メイド「あはは、そんな、姉御さんだって負けてないですよっ」

姉御「そう言ってくれんのはメイドだけだよ。ありがとうな」

メイド「そんなことないですよ」

姉御「いやいや・・・実際そうなんだって。おっと、それより・・・」

メイド「・・・?」

姉御「・・・そばかす、さっきはすまん。やっぱり、言い過ぎた」

そばかす「・・・あ・・・い、いえ。私こそ、熱くなってしまって」

姉御「目の前で友達の悪口言われたら、腹も立つよ。悪かったよ」

そばかす「い、いえ・・・」

姉御「・・・さて、そろそろ昼食の時間だ。準備しないとな」

メイド「・・・そうですね。そばかすさん、行きましょうっ」

そばかす「う、うんっ。な、なんかお腹空いてきた」

メイド「うふふ、行きましょう」

そばかす「うんっ!」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

先輩「ふう、今度は夕食までちょっと暇ね」

メイド「そうですね・・・何しましょうか」

そばかす「なーんか、普段よりお仕事した気分」

先輩「分かるかも・・・」

長男「・・・前にも言ったかもしれないけど、ずっと仕事しなくても大丈夫だよ」

先輩「あ・・・い、いえ、ですが・・・」

長女「こんな時だからこそ、無理はして欲しくはないわ。今は、自分たちの安全が第一だもの」

主人「二人の言う通りだよ。皆でずっと遊んだり、雑談してたって構わない。もちろん、給料は下げないよ」

先輩「ですが・・・」

長男「雇い主の父さんの言うことだ。真面目なのはとても良いことだけど、過労や心労で倒れてもらっても困る」

先輩「・・・分かりました」

姉御「もちろん私も」

長髪「私もね。メイドは?」

メイド「やりますっ」

次女「ねぇ、私も良い?」

先輩「大丈夫ですよ。長女お嬢様はどうされますか?」

長女「そうね、せっかくだし参加するわ」

先輩「決まりねー、よし早速」

そばかす「あ、あの、お手洗い行ってきても良いですか?」

メイド「わ、わたしも・・・」

先輩「はいはい行ってきなさい。待ってるから」

飛んだ
>>173の前に

主人「さて・・・私は部屋に戻るよ」

夫人「では、私も付き合いますかね」

主人「ふむ、頼む」


執事「・・・坊ちゃん、どうされますか?」

長男「少し付き合ってもらいたい。ちょっと、一緒についてきてくれるか?」

執事「分かりました」


先輩「さーて、どうする?」

姉御「ここにトランプありますよ。やりません?」

長髪「良いわね。人数もいるし」

先輩「参加する人ー?」

そばかす「はいっ」

色白「・・・はい」

>>175

173じゃなくて174で

そばかす「・・・はぁ、メイドちゃん大丈夫?」

メイド「大丈夫です。皆さん待ってますから、行きましょう」

そばかす「うん、行こうっ」

メイド「・・・そばかすさんっ」

そばかす「うん?」

メイド「・・・お昼の前の・・・こと。やっぱり色白さんを・・・」

そばかす「・・・うん。色白ちゃんの友達は私一人だから。信じることにしたんだ」

メイド「・・・そうでしたか」

そばかす「私がいなくなったら一人ぼっちだからね。臆病で寂しがり屋で、いつも強がってるんだから」

メイド「・・・うふふ」

そばかす「・・・どうしたの?」

メイド「・・・色白さん言ってたんです。同い年のくせに、いつもいつもお姉さんぶってるって」

そばかす「ふふ、確かにそうかも。だって、ほうっておけないもんね」

166
そばかす「色白ちゃんは・・・何にもやってないよ。きっとね。特に根拠はないけど。女の勘ってやつ? それ以上に、親友として信じてる」

メイド「ふふ、なるほど。本当に・・・仲が良いんですね。羨ましいです」

そばかす「ケンカもよくするけどね」

メイド「ケンカするほど仲が良いって言いますものね」

そばかす「やりすぎも考え物だけどね」

メイド「ふふ、そうですね」

そばかす「さっ、皆のところ戻ろうっ」

メイド「はいっ」


メイド(そばかすさん、すごく良い顔になった。本当に羨ましい仲)

メイド(・・・でも、色白さんが少し怪しいのは・・・変わらない)

メイド(色白さんに聞き出さなきゃ、いけないことがある・・・)

メイド(また二人きりになれる時があれば・・・)

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

長女「・・・はい」

先輩「うわぁ・・・凄過ぎです、長女お嬢様」

メイド「強すぎですよ・・・」

そばかす「勝てる気がしないです・・・」

長女「大袈裟よ。ただの運勝負じゃない」

姉御「それにしては勝ち過ぎですけどね・・・」

次女「ふふん、お姉ちゃんは天才だからしょうがないね」

長女「なんであなたが偉そうなの・・・というか、本当に単に運が良いだけよ」

メイド「それでも、運の良さだけではないですよ。頭の使い方が、きっとお上手なんですね」

先輩「そうねー、さっすがです」

長女「もう、皆・・・おだてても何も出ないわよ」

先輩「いえいえ、皆本心ですよ」

長女「・・・ありがとう」

メイド(本当に賢い方で・・・長女お嬢様と協力すれば、もしかすれば)

先輩「さーて、次は何しましょうか?」

長女「・・・ごめんなさい、お手洗い良いかしら?」

先輩「ああ、どうぞどうぞ。ごゆっくり」

長女「一人だと・・・行けれないのよね。誰か付き合ってもらえないかしら?」

次女「えー、お姉ちゃんトイレも一人で行けないの?」

長女「・・・あなた、わざとでしょう」

次女「ぷぷっ、ごめんなさーい」

メイド「わ、わたしお付き合いします!」

長女「あら・・・ごめんなさい。助かるわ」

メイド「いえいえ、行きましょう」

長女「・・・申し訳ないわね。メイドさんは、別に大丈夫なんでしょう?」

メイド「はい。どうぞ、ごゆっくり」

長女「ありがとう。ちょっと、待っていてね」

メイド「はいっ」


長女「・・・お待たせ。あら、ここで待っていてくれたの?」

メイド「はい。もしかしたら、犯人がトイレの中に隠れているかもしれませんから」

長女「・・・なるほどね。外で待っていたら、すぐに駆けつけられないものね。だから、中で待っていてくれた」

メイド「そういうことです。さすが、長女お嬢様です。あらゆることに聡明です」

長女「ありがとう。さて・・・本当に待たせたわね。行きましょう」

メイド「・・・その、聡明な長女お嬢様に、お願いしたいことがあります」

長女「・・・何かしら?」

メイド「・・・わたしがわざわざ言わなくても・・・分かるはずです」

長女「・・・そうね。じゃあ、その通りなのかしら」

メイド「はい・・・おそらく」

長女「・・・・・・・・・」

メイド「・・・この一連の事件について、意見が聞きたいです」

長女「・・・・・・・・・」

メイド「・・・ずばり、犯人に、心当たりはありますか?」

長女「・・・そうね」

メイド「・・・・・・・・・」

長女「・・・心当たりは、ないわ。ただ、怪しい人ならいる。それは」

メイド「色白さん、ですよね」

長女「・・・彼女には、悪いけど、その通りね」

メイド「・・・そう、ですよね」

長女「でも、彼女を疑っているのは、私だけではないわ。メイドさんも、そして他の人も」

メイド「はい、そうです・・・」

長女「・・・ただ、私は怪しいと思っているだけで、疑ってはいないわ」

メイド「え・・・ど、どういうことですか」

長女「殺人など犯す人格でないということ。さらに感情論以前の問題として、まず動機のこと。あの三人を殺害する理由が見当たらないわね」

メイド「・・・さ、三人・・・」

長女「・・・あら? メイドさんは、チーフさんが自殺だと思っていたの?」

メイド「い、いえ・・・」

長女「チーフさんが自殺だと考えるのは、自然でもあり、また不自然でもあるの。肝心の自殺理由が全くの不明よね」

メイド「はい・・・」

長女「加えて、連続する殺人事件。同じように巻き込まれたと考える方が、自然だと私は思うわ」

メイド「はい・・・わたしも同じことを思いました」

長女「今のところ・・・なぜ殺されてしまったのかは、分からないけれど」

メイド「はい・・・わたしもそこが一番の謎です。でも、何か・・・思いつきませんか・・・?」

長女「そうね・・・・・・悪いけれど、さっぱり分からないわ」

メイド「そ・・・そうですか・・・」

長女「ごめんなさいね」

メイド「い、いえいえっ、あ、そうだ。色白さんは・・・お局さんと眼鏡さんを殺せる動機が、あるんです」

長女「・・・どういうもの?」

メイド「あの・・・色白さんはあのお二人を、尋常でなく嫌っていたそうなんです」

長女「・・・なるほど。・・・それで?」

メイド「え・・・え、えっと・・・・・・」

長女「・・・これだけなら、曖昧すぎるとは思わないかしら? あの二人のことなら、私だってあまり好きとは言えないわ」

メイド「は、はい・・・わたしもです」

長女「そうでしょう? いわゆる証拠不十分というやつよ、メイドさん」

メイド「は・・・はい・・・」

メイド(・・・長女お嬢様の言う通りだ・・・は、恥ずかしい)

長女「・・・まだまだ、証拠といえるものは出てきていないわ。焦らないことよ」

メイド「はい・・・すみません」

長女「・・・それから、もう一つだけ、注意ね」

メイド「? なんでしょう?」

長女「・・・・・・私が犯人だったら、メイドさん、殺されるわよ」

メイド「・・・・・・・・・え・・・・・・?」

長女「・・・・・・・・・」

メイド「・・・・・・・・・い、いや、でも」

長女「・・・メイドさん、これは冗談ではないわ。だって、そうでしょう?」

メイド「で、でも、そんな、長女お嬢様が犯人だなんて、微塵もっ」

長女「メイドさん、今の論点はそこではないわ。もし、私が犯人と仮定した話をしてみましょう」

メイド「・・・・・・・・・」

長女「メイドさんが・・・犯人にこの話をしたとして、そのまま何もしないかしら? 黙って、帰すかしら?」

メイド「そ、それは・・・」

長女「・・・私なら帰さない。口封じの為に、事に及ぶわね。例え、核心に辿り着いていないとしても・・・」

メイド「・・・そう・・・ですね・・・」

長女「賢いあなたのことだから、分かるはず。自分に身に及ぶ可能性のある芽は早々に摘むわ」

メイド「はい・・・」

長女「・・・これからは、こういう話は迂闊に人には話さないこと。良いわね?」

メイド「はい・・・分かりました」

長女「メイドさん。あのね、私はあなたを脅すために、こんな話をしたわけではないわ」

メイド「・・・・・・?」

長女「きっとあなたは・・・私を信頼してくれて、絶対犯人でないという確信から、私に話してくれたんだと思う」

長女「そこは嬉しいわ。大切なチーフさんの敵を取るために、勇敢に推理するのも素敵だと思うし、よく分かるわ」

長女「でもね・・・私は、もう少し自分の命を大切にしてもらいたいわ」

メイド「・・・はい・・・」

長女「これが、メイドさんが犯人捜しをしている衝動よね。チーフさんの死が」

メイド「はい・・・・・・」ぽろぽろ

長女「私も許せないわ。チーフさんは・・・私たち姉弟を育ててくれた乳母なの。親みたいなものなの」

メイド「はい・・・」

長女「だから・・・私で良ければ、協力もするわ。これが、最終的に言いたかったんでしょう?」

メイド「も、もう・・・なんでもお見通しなんですね・・・」

長女「ふふ、ほら、皆のところに戻る前に涙ぐらい拭いていきなさい」

メイド「あっ・・・はい」

長女「ハンカチ持ってる?」

メイド「は、はい」

長女「・・・これで大丈夫。さぁ、行きましょう」

メイド「・・・はいっ」


メイド(長女お嬢様・・・賢くて、美しくて、優しくて、そして強い・・・チーフさんみたいな方だ。憧れる)

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

先輩「んー、もう寝る時間ねえ」

そばかす「そうですね、今日はけっこうゆっくりと過ごせたかも」

色白「・・・あんたはいっつもそうでしょうが」

そばかす「ふふ、ばれたか」

色白「ふん、当ったり前でしょ」

メイド(色白さんとそばかすさん・・・前までと変わらない話し方になってる。良かった)

長男「ちょっと早いけど、もう寝てしまったら良いと思う」

長女「そうね。その方が安全だし・・・それから、メイドさんたちはもうまとめて一部屋で寝たら良いと思うわ」

メイド「あ・・・なるほど」

先輩「大勢いた方が安心ですもんね。良いと思います」

姉御「よーし、そうと決まったら、メイドの部屋だ。もう寝ようぜ」

長髪「私はちょっと自分の部屋に行ってくるわ」

先輩「え、いやでもね」

長髪「大丈夫です。ちょっと用事があるだけで、終わったらそちらで寝ますから」

姉御「・・・そういうことなら、良いけど。心配だな、一緒にいてやろうか」

長髪「大丈夫よ、そんなに心配しなくても。部屋だってすぐそこだし」

先輩「・・・分かった。鍵はかけておくわよ? 準備が出来たらノックしてちょうだい」

長髪「分かりました。では」

長女「長男、私たちももう戻りましょう」

長男「分かったよ姉さん。次女姉さん、行くよ」

次女「はいはーい、あーねむっ」

メイド「・・・先輩さん、わたしたちも」

先輩「うん、そうね。そばかす、色白。行くわよ」

そばかす・色白「「はいっ」」

 ―――the 4th day of sense of incongruity

メイド「んん・・・ふあぁ。朝・・・」

メイド(そうか・・・昨日は、わたしたち一緒に・・・・・・!?)

メイド(・・・・・・いない! 長髪さんが・・・いない)

メイド(あれから・・・この部屋に来ていないのか)

メイド「先輩さん! 先輩さん!」

先輩「うーん・・・ん、おはようメイド」

メイド「おはようございます! 先輩さん大変です!」

先輩「んんん? 何が?」

メイド「長髪さん・・・いないんです!」

先輩「えっ・・・分かった。メイドもすぐ着替えて。あと、この部屋の皆を起こして!」

メイド「はいっ!」

姉御「くそっ、だから言ったんだ! 一緒について行ってやるって!」

先輩「今更言ってもしょうがないわ・・・とりあえず探しましょう!」

そばかす「先輩さん! 長髪さんと姉御さんの部屋・・・鍵がかかってます!」

先輩「じゃあ・・・そこに・・・?」

色白「わ、分からないです・・・でも、入ってみる価値は!」

先輩「そうね! メイド! 一緒に長男さんたち呼びに行くよ!」

メイド「わ、分かりました!」

先輩「そばかすと色白・・・あと姉御はここで待機! 動かないでよ!」

そばかす・色白「「分かりました!」」

姉御「・・・くそっ」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

長男「執事! 鍵を開けてくれ!」

執事「はい、ただいま!」

ガチャガチャ・・・カチャン

執事「開きました!」

長男「入るぞ!」

 ギィ・・・

一同「「・・・・・・」」

長髪「―――――――――」

メイド「・・・長髪さん・・・?」

姉御「おい、長髪! 朝だぞ、起きろっ!」

長男「・・・明らかに様子がおかしすぎる。ちょっと待って・・・」

そばかす「長髪さん・・・?」

メイド(ベッドの上に倒れている長髪さん・・・そして衣服の乱れ。これはもう・・・)

色白「・・・・・・・・・・・・」

主人「これは・・・」

長男「・・・・・・ダメだ。事切れている」

姉御「そ、そんな・・・うそだろおいっ!」

メイド(首筋に・・・絞められた痕。間違いなく殺されて・・・。・・・え・・・・・・・・・?)

そばかす「ね、ねぇ。長髪さん・・・下着穿いてないよ? しかも、お、お、おも」

色白「・・・そばかす、違うよ。見れば、分かるでしょ。こ、これは・・・」

長男「・・・・・・男の射精だよ」

一同「「・・・・・・・・・」」

メイド(強姦されて殺された・・・? なんで、そんなこと・・・。でも、そうとしか・・・)

夫人「・・・い、いくらなんでも・・・酷過ぎるわよ・・・」

主人「・・・・・・うむ」

長女「・・・むごすぎるわね」

メイド「だ、大丈夫ですか長女お嬢様」

長女「・・・大丈夫よ。ありがとう」

長男「誰がこんな・・・こんな残酷なこと」

メイド(・・・しかもこの部屋・・・鍵がかかっていた。この部屋の鍵は・・・)

次女「とりあえず・・・どうするの」

メイド(・・・ある。わたしたちの部屋と同じ造りで、壁にかけられるようになっている。そして部屋の鍵は一つの部屋に原則一つのみ)

長男「地下倉庫に運ぶしか・・・ないだろ」

メイド(マスターキーを持っている執事さん、かつ男性にしか、できない・・・)

執事「お手伝い致します、坊ちゃん」

メイド(・・・もし執事さんでないとするならばこれは・・・)

長男「頼むよ」

メイド(・・・・・・密室殺人・・・・・・)

支援・読んでくれる人に感謝

今更かもしれないけど、ショッキングな内容や鬱気味な話が苦手な人は
あまり読まない方が良いかもしれない
言うほど過激な内容にはするつもりはないけど

最初は長男が真ん中で次女が一番下な設定だったから
長男の方が年上っぽく見えてしまうのは、仕方ないかもね
確かに、16歳の少年には見えないかもしれないが

以上チラ裏 以下続き

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

長男「・・・とりあえず、長髪さんは運んできた」

長女「・・・ご苦労様。それで、この後どうするの?」

長男「自由にすれば良いと思うけど、必ず二人以上で行動する事」

先輩「・・・分かりました」

執事「坊ちゃん、どうされますか・・・?」

長男「僕はこの部屋を調べる。悪いけど、少し付き合ってくれ」

執事「分かりました」

次女「調べてどうするの?」

長男「どう・・・って」

次女「調べなくたって、もうハッキリしてるでしょ!」

メイド「・・・・・・」

長男「・・・どういうことだい、次女姉さん」

次女「分かってるでしょ。長髪さん殺すのは執事さんしかできないことぐらい!」

執事「・・・・・・」

長女「・・・あのね」

次女「お姉ちゃん、私だってそこまでバカじゃないんだからね。これは確実みたいなものだもん」

執事「・・・次女お嬢様、私は何も・・・」

次女「うるさい! 殺人鬼! 色情魔! あんたしかマスターキー持ってないことぐらい知ってるんだから!」

長女「・・・いくらなんでも言い過ぎよ。謝りなさい」

次女「じゃあ、他に誰ができるの!? この部屋、鍵がかかってたんだよ、そういうことでしょ!!」

一同「「・・・・・・・・・」」

メイド(次女お嬢様の言う通りだけど・・・)

メイド(今までの犯人が、すぐに誰か特定されるような後始末をするだろうか)

メイド(そう、ここが今回の最大の疑問。執事さんに罪を被せるために、この方法を選んだ・・・)

メイド(・・・でも、この部屋は密室だった。あれから窓も調べてみたけど、しっかり鍵がかかっていた)

メイド(他に出入りするところなんてない・・・執事さん以外ではできない。不可能犯罪だ・・・)

メイド(執事さん以外・・・だとしても・・・二人しか、いない。これは、男性にしかできない)

長男「・・・僕は執事がやったとは思えない。だから、調べるんだ」

次女「じゃあ他に誰がいるの? そんなの、男は他に長男とお父さんだけだよ」

長男「・・・・・・・・・」

主人「ふふ、まさか自分の子供たちから疑われることがあるとは」

長男「父さん、僕はそういう意味で言ったんじゃ・・・」

主人「じゃあ、なんだい? 執事ではない、私でもない、ということはもう長男しか残っていない。自分がやったと言いたいのか?」

夫人「も、もう、あなたたち・・・! やめてよ、もう」

主人「・・・すまない。・・・私はもう部屋に帰らせてもらう。夫人、行くぞ」

夫人「・・・はい」


長男「・・・・・・・・・ふう」

執事「・・・ぼ、坊ちゃん、大丈夫ですか」

長男「・・・僕なら大丈夫。執事こそ、大丈夫か」

執事「えぇ・・・はい」

長男「・・・・・・僕は、執事も疑っていないし、父さんも疑っていない。かといって、自分もこんなことやらない。誰がやるか」

長男「・・・でもね、長髪さんの股から流れていたのは、間違いなく男のそれだ」

長男「僕ら三人でないとするなら・・・僕らと全く関係ない部外者だ。誰も疑いたくはない・・・・・・・・・けどね」

執事「・・・・・・」

長男「この部屋は鍵がかかっていた、という覆せない事実がある」

メイド「・・・・・・・・・」

長男「悪いけど・・・・・・執事。マスターキーは没収、身柄は拘束させてもらうよ」

執事「・・・・・・坊ちゃん」

長男「拘束といっても、紐で縛るわけじゃない。部屋に一人でいてもらい、鍵をかけ、軟禁状態で過ごしてもらう」

執事「・・・・・・・・・」

長男「・・・良いね、執事。しばらくの間だけだ。そうでもしなければ・・・皆も納得しないだろうからね」

執事「・・・・・・はい」

長男「・・・すまない。次女姉さんも、とりあえずこれで良いだろう」

次女「・・・分かった。でも、ここの皆でそれを見届けるまでは・・・」

長男「分かっている。行こうか」

執事「・・・はい」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

長男「これで良いだろう」

次女「・・・うん、そうね」

長女「・・・これで良かったの?」

長男「・・・意味が分からないな。姉さんたちが望んだことだ。そんなことより、このマスターキーだけど・・・どうするか」

次女「もう、捨てれば? そうすれば悪用もできないし」

メイド「それは・・・できないと思います。もし何かあった時に困りますから・・・今朝みたいに」

長男「メイドさんの言う通りだよ。捨てることはできない」

次女「・・・じゃあどうするの?」

先輩「誰かが、責任を持って保管してもらう・・・とか・・・」

長男「・・・それしかないだろうね。なら、父さんに預けるしかなさそうだ」

長女「・・・そうね、それが一番良いかもしれないわ」

長男「・・・ということなんだ。預かっておいて欲しい」

主人「・・・そうか。執事をね。分かった、責任を持って預かる」

長男「ありがとう。頼むよ」

主人「うむ」


長男「間違いなく、父さんに預けたよ」

次女「さぁーって、この後何しよっかな。そういえば、朝ごはん食べてない」

長男「・・・僕は今日はいい。長髪さんの部屋を調べる」

次女「ふーん? どうせ、犯人はあの人だよ」

長男「・・・僕は行く。他の人たちも自由にすればいい」

長女「・・・なら、私も長髪さんの部屋に行こうかしら。一人じゃ行動できないでしょう」

次女「えー、じゃあ私も付いて行こう」

長女「・・・別に良いわよ。メイドさんたちと一緒にいれば」

メイド「あの・・・わたしも長髪さんの部屋に行きたいです」

長男「・・・メイドさんも? ・・・別に構わないけど・・・」

先輩「・・・私たち、どうしよっか」

そばかす「う、うーん・・・」

色白「ばらばらになるのも、良くないですし・・・一緒にいませんか?」

先輩「確かにそうねぇ・・・」

姉御「・・・私は、一応あいつと同じ部屋だし、勝手に家探しされても気分悪い。一緒に長髪の部屋行きます」

長男「・・・決まりだね。とりあえずは、僕らで長髪さんの部屋に行こう」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

次女「・・・こんなとこ調べたって、何も分かりっこないよ。だって」

長男「犯人が執事だから、かい。つまらないと思うなら、一人でどこか行けば良い。執事は捕まえてるんだから」

次女「・・・はいはーい、大人しくしてますぅー」

メイド(・・・ベッドが荒れている以外は、特に違和感などないように見える・・・けど・・・)

ベッド(部屋の出入りは、入口のドアのみ。窓からも出入りはできないことはないけど・・・)

メイド(いずれにしても鍵がかかっていた。侵入も脱出も不可能。でも、念のため)

メイド「あの・・・入口のドアの鍵、本当にかかっていたんでしょうか?」

長男「・・・かかっていたよ。間違いないと思うけど」

メイド「大変失礼ですが・・・混乱して・・・よく分からなかったとか、ではなく」

長男「それもないと思うな。間違いないよ」

メイド「・・・そうですか。分かりました。ありがとうございます」

姉御「・・・それにしても、眠い。犯人のせいで、ろくに眠れてないよ・・・」

次女「だよねー。でも昨日は割とぐっすり眠れたかも」

そばかす「へー? わたしも最近眠れないです・・・すごいですね!」

色白「私も・・・二度寝したい気分です」

長男「次女姉さんなら、いつもぐっすり眠れてるだろ。毎日いびきが聞こえるよ」

次女「こら、言わない約束よ!」

長男「・・・まあ、昨日なら僕も割と眠れたかな。今日は目が冴えてる」

次女「なんだ、私と同じじゃん」

長男「一緒にしないでくれ」

先輩「ふふふ、お仲が良いですね」

メイド(・・・ドアも窓も無理なら、他に出入りできるところが・・・?)

メイド(いや、そんなのなさそうだ・・・・・・やはり密室なのは間違い・・・)

メイド(もしかして、あらかじめ部屋に隠れていたとか・・・ベッドの下とかに・・・。実は鍵を閉め忘れていて、だから侵入できた)

メイド(・・・・・・いやいやいや、出る時が困る。鍵は一つのみで、部屋にしっかりあったんだから。それに確実じゃない・・・)

メイド(・・・・・・ベッドの下か。なーんか、秘密があったり・・・)

メイド「ん・・・・・・」

メイド(・・・・・・あれ・・・何か、ある)

長女「・・・メイドさん、どうかしたの?」

メイド「あ・・・いえ、あの。ベッドの下に何かあって・・・」

長男「・・・何か? なんだい、それは」

メイド「あの・・・箱っぽいような・・・」

長男「・・・ちょっと、どけてくれるかい」

長男「・・・・・・・・・これか」

メイド「は、はい、これです」

長女「・・・あんな場所にあった割には埃が被っていないわ。頻繁に出し入れしていたみたいね」

長男「だろうな。それに・・・鍵がかかっているな。これは・・・二つ三つじゃきかないぞ・・・倍はある」

姉御「ふむふむ・・・六個も鍵がかけられてますよ」

長男「そんなにか・・・何が入っているんだ」

次女「あ、開けれないの?」

長男「開けたいが鍵がな・・・」

先輩「・・・どうしても気になりますね」

そばかす「こんなの開けて見てくださいって言ってるようなものだよね」

色白「それは飛躍しすぎだと思うけど・・・でも、凄く気になる」

長男「鍵か・・・ちょっと皆で探してみようか」

長女「そうね。探しましょう」

メイド「・・・分かりました」


そばかす「・・・ないですねー」

色白「・・・ないです」

長男「・・・ないね。ふむ・・・」

長女「姉御さん、何か心当たりはないかしら?」

姉御「・・・さぁ。確かに、こそこそとしていたのは知ってましたけど・・・」

長男「・・・なるほどね」

先輩「もう一通り見ましたよね・・・」

長男「うん。この部屋にないんだろうか・・・」

次女「・・・本人が隠し持ってるとか?」

長男「そんな大事なものを身に付けたら、余計危ない。やっぱり、自分の部屋のどこかに隠すしかないと思うけど・・・」

長女「これだけ探してないというのなら、普通に探しても見つからないところよ。勘だけど、あるとすればこの部屋にあると思う」

長男「・・・僕もそう思う。しかし・・・どこにあるんだ」

先輩「あんたたち、ちゃんと探した?」

そばかす「さ、探しましたよー」

色白「もちろん・・・でも、ないですよ」

先輩「引き出しの隅から隅まででしょうね?」

そばかす「はいぃ・・・なかったです・・・」

メイド(引き出しか・・・・・・引き出し。もしかしたら)

先輩「・・・メイド? そこもう探したよ」

メイド「はい・・・大丈夫です。知ってます」

メイド(引き出しの・・・一番の上の段。入っているものや底の方ばかり目が行くけど)

メイド(底じゃない。逆だ。上に張り付けてある可能性が・・・)

メイド「・・・・・・!!」

長女「・・・メイドさん?」

メイド(・・・あった・・・!)

メイド「・・・ありました! これじゃないでしょうか?」

長男「鍵がたくさんついているな・・・・・・うん、ちょうど六個ある。間違いないだろう」

先輩「・・・す、凄いわねメイド」

メイド「いえ・・・それより、開けてみましょう」

長男「・・・そうだね」

 ガチャガチャ・・・

そばかす「な、何が入ってるんだろ」

色白「・・・さあね。けっこう重たそうだよね、これ」

長男「・・・やれやれ、こんなに鍵をつけてあるんだ。普通の物は保管しないだろう」

次女「・・・爆弾?」

長男「爆弾よりは、もう少し現実的なものだろうな」

 ガチャガチャ・・・

姉御「あいつ・・・いったい何を隠してたんだ」

先輩「・・・想像もつかないわね」

長男「・・・もうすぐで全て開く」

 ガチャガチャ・・・カチャン

長男「・・・全て開いた。開けるよ」

メイド(・・・いったい何が・・・)



長男「・・・・・・なっ・・・」

長女「これは・・・・・・」

次女「・・・す、すごっ・・・」

メイド(・・・・・・・・・そんな、まさか)

そばかす・色白「・・・・・・・・・」

姉御「・・・おいおい・・・冗談、じゃないのか・・・」

長男「・・・爆弾ほどじゃなかったけど・・・相当なものだな、これは」

メイド(・・・・・・お金だ。鞄いっぱいに・・・・・・詰められている)

長女「・・・こんな大金・・・ちょっとやそっとの額じゃないわよ、これは」

長男「うん・・・最低でも7千ポンドは下らないと思うが・・・」

そばかす「そっ、そんなに!?」

色白「こんなたくさんの現金、初めて見たかも・・・」

先輩「わ、私もよ・・・すごい・・・」

姉御「あいつこんなに溜めこんでたのか・・・?」

そばかす「こ、これお給料・・・? 長髪さんってこんなに貰ってたんだ・・・」

姉御「・・・御主人様は長髪がお気に入りだからな」

先輩「それにしても、多すぎると思うけど・・・」

色白「長髪さんだって、私たちと同じくらいお金使ってたと思いますから・・・やっぱり、おかしいかなって」

長男「・・・こんなに厳重に大量に隠すくらいだ。普通のお金じゃないかもね」

先輩「え・・・どういうことですか?」

長男「・・・それは、分からない。とにかく、この大金は父さんに預けないとな」

長女「そうね・・・」

次女「皆で山分けすればいいじゃん」

長男「ダメに決まってるだろ。どこから出てきたかも分からないんだ・・・怖すぎるよ」

メイド(・・・犯人はこれが目当て? でも、部屋は荒らされた形跡はないし・・・)

メイド(同じ部屋の姉御さんですら、知りなかった事実だ。他の人は知る由もないかもしれない)

メイド(長髪さんが殺された事とは無関係・・・なんだろうか)

メイド(・・・・・・分からない)

先輩「・・・な、なんか朝から疲れちゃいました・・・」

長男「そうだね・・・これ以上、この部屋を調べても何も出てこなさそうだ。この後は各人自由にすれば良い」

次女「さんせーい。お姉ちゃん、部屋に帰ろう」

長女「・・・そうね。私もゆっくりしたいし」

そばかす「色白ちゃんも・・・一旦私たちの部屋帰ろうか」

色白「うん・・・そうしよう」

姉御「私も・・・一緒に行って良いか? なるべくこの部屋にはいたくないんだ・・・」

そばかす「どうぞどうぞっ」

長男「・・・皆、くれぐれも気を付けるように。僕は、姉さんたちと一緒にいるから、何かあれば僕らに」

先輩「分かりました。・・・じゃあ、メイド。帰りましょう」

メイド「・・・はいっ」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

メイド(あの大金はいったい・・・やはり、気になる)

メイド(それに・・・密室だったことは覆らない)

メイド(やっぱり・・・執事さんが・・・?)

先輩「・・・メイド、あんた大丈夫?」

メイド「・・・え? あ、はい」

先輩「大丈夫じゃないでしょ・・・顔色悪いよ?」

メイド「ん・・・」

先輩「まあ、無理もないけど・・・ね」

メイド「・・・はい・・・」

先輩「なんであの子が・・・」

メイド「・・・・・・・・・」

先輩「・・・やっぱり、執事さん、なのかなぁ・・・でも、こんなことできる人じゃないのよ、あの人は」

メイド「・・・はい。それはわたしも・・・分かってるつもりです」

先輩「だよね。でも、たぶん・・・みんな、執事さんを疑ってる」

メイド「そうですね・・・」

先輩「しかも、強姦だなんて・・・なんで・・・?」

メイド「・・・・・・・」

先輩「・・・密室だ、って言ってたわよね」

メイド「??・・・はい」

先輩「それ以外に、おかしい点に気付いた?」

メイド「・・・どういう・・・ことですか・・・?」

先輩「・・・分かんないか。えっとね・・・」

メイド「・・・・・・」

先輩「・・・・・・・・・」

メイド「・・・ど、どうしたんですか、先輩さん」

先輩「本当に・・・言っていいのかな・・・」

メイド「先輩さん、教えてください。わたし、さっぱりで・・・」

先輩「・・・・・・うーん・・・」

メイド「・・・・・・お願いしますっ」

先輩「・・・・・・・・・長髪の、股は見た?」

メイド「・・・み、見ました・・・けど・・・」

先輩「・・・そう。じゃあ、思い出して欲しいんだけど・・・」

メイド「・・・はい」

先輩「・・・・・・"血は、出てた?"」
        
メイド「・・・・・・え・・・・・・?」

先輩「・・・どう、だった?」

メイド「・・・出てなかったと思います・・・けど・・・」

先輩「そう。出てなかった。おかしいと思わない?」

メイド「・・・??」

先輩「・・・分からない?」

メイド「は、はい・・・。どうして血が出てなかったらおかし・・・・・・」

先輩「・・・・・・・・・」

メイド(そ・・・そうか・・・おかしい。血が出ていないと、おかしい)

先輩「・・・分かったようね」

メイド「・・・はい」

先輩「理由も分かるわね。なぜなら・・・」

メイド「"私たちは、クリスチャンです"」

先輩「・・・その通りよ」

メイド「・・・はい」

先輩「あの子は・・・長髪は、私よりも年下。といっても一個下なだけだけど・・・」

メイド「はい。でも、長髪さんは確か」

先輩「うん。まだ結婚してない」

メイド「この地方の人たち・・・皆クリスチャンですよね。婚前交渉は厳禁であるはずです・・・」

先輩「結婚はしていない。なのに、彼女は強姦されたにも関わらず、あそこから血が出ていなかった・・・」

メイド「・・・外国、もしくは、別の地方の方だったんでしょうか」

先輩「・・・それはわからないわ。この地方だって、少なからず、クリスチャンでない人もいるし・・・」

メイド「それでも、普通に考えておかしいです。だって・・・だって」

先輩「大丈夫。メイドが言おうとしてることは・・・分かる。分かるからね。口にしなくても大丈夫だから」

メイド「はい・・・」

先輩「・・・・・・あんなこと言っておいて、あれだけど・・・事件の本質とは、関係ないと思うわ。分からないけど」

メイド「・・・大丈夫です。わたしに教えてくれて、ありがとうございますっ」

メイド(先輩さんの言う通り、このことは事件の本質とは関係がないかもしれない・・・)

メイド(・・・今回の事件・・・違和感だらけだ。さっぱり分からない)

メイド(さっきの大金のこともそうだし・・・)

メイド(ただの勘だけど・・・・・・執事さんが犯人だとはとても思えない・・・)

メイド(なにか・・・密室を暴く方法は・・・もしくは、誤魔化せる方法が・・・ないだろうか)

メイド(・・・・・・ダメだ・・・・・・もう、ぜんぜん、分からない・・・・・・・・・)

支援・読んでくれる人に感謝
なんか途中でベッドが話してるところがあるけど、気にしないで欲しい
ちなみに>>222は現在の為替で計算してしまったので、
日本円にしてだいたい100万ぐらいだと思ってくれたら

風呂敷広げすぎな気もするけど、たぶん大丈夫なんとかなる
でも、この先の細かい展開を考えたいので、1週間程度はお休み
質問とかには答えられる

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

先輩「・・・なんだか、お昼もそんなに食べられなかったね・・・」

そばかす「そうですねぇ・・・」

色白「・・・しょうがないと思います」

先輩「そうね・・・たくさん作らなくて良かったね。残ったら大変」

メイド(あれからずっと考えているけど、何も分からない・・・食事もあんまり喉を通らないし)

そばかす「・・・メイドちゃん、大丈夫?」

メイド「え・・・?」

色白「元気なさそうだし、食事もあんまり食べてないしね。まあ・・・しょうがないか」

先輩「こんなこと続いてるしね・・・それに一番年下でもある。私たちがしっかり支えてあげないとね」

そばかす・色白「「はいっ」」

メイド「・・・ありがとうございます。元気出しますっ」

メイド(とは言っても・・・難しい。いろんな意味で・・・)

メイド(今日だけでも・・・密室の謎。大金の謎。そして、長髪さんの貞操の真相だ)

メイド(本当に・・・男性の物だったかのか、怪しいところであるけど)

メイド(特に密室の謎・・・これが、一番大きい。小細工など無い。執事さんに決めつけてしまっても良いのだろうか)

長男「また、夕飯だね。念のため、くれぐれも気を付けるように」

次女「だーから、犯人はあいつだって」

長男「はいはい。解散」

長女「・・・・・・さて。部屋に戻ろうかしら」

メイド「あっ、あの、長女お嬢様っ」

長女「何かしら?」

メイド「ちょっと・・・お話、よろしいですか?」

長女「・・・分かった。大丈夫よ」

メイド「あ、ありがとうございます」

長女「私の部屋に行きましょう」

メイド「はいっ」

次女「お姉ちゃん、私も良い?」

長女「悪いけど、メイドさんと二人にしてくれるかしら?」

次女「ちぇっ、はいはーい」


メイド「すみません、ありがとうございます」

長女「いいえ・・・行きましょうか」

メイド「はい」

メイド(もう長女お嬢様の知恵を借りるしか・・・)

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

長女「どうぞ」

メイド「失礼しますっ」

長女「あまり固くならなくても大丈夫だから。座って、ゆっくりして」

メイド「は、はい」

長女「・・・それで、話というのは? やっぱり、今朝からの件かしら」

メイド「はい・・・・・・わたし、もうぜんぜん分からなくて・・・」

長女「・・・そうね・・・」

メイド「どう・・・でしょうか。やっぱり、執事さんなんでしょうか・・・」

長女「メイドさんと同じく、彼がやったとは思いにくいわね。でも、現実的には執事さんにしかできない」

メイド「はい・・・そこが一番の問題なんです。なんとか、他の人でもできるやり方とかは・・・ないでしょうか?」

長女「・・・残念だけど・・・見当もつかないわね。他にヒントや証拠と呼べるものも何一つ出てきていないし・・・」

メイド「そう・・・ですよね・・・」

長女「えぇ・・・申し訳ないわね」

メイド「いえいえっ、ありがとうございます。あ、そうだ、先輩さんがこんなこと言っていたんです」

長女「なに?」

メイド「・・・あの・・・股から血が出ていないのはおかしい・・・・・・って・・・」

長女「・・・・・・なるほど。そういえば不自然かもしれないわね」

メイド「そうなんです。わたしたちは・・・」

長女「クリスチャンだから、ね。確かにこの地方では、キリスト教徒が大多数を占めているけれど・・・」

長女「でも、そうでない人も少なからずいるわ。本人がそう言っていたのかしら?」

メイド「それは・・・分からないですけど」

長女「分からないわね。ただ・・・・・・」

メイド「・・・ただ・・・?」

長女「この場合、二つの仮定が考えられるわ。"本当に強姦されてしまった場合"、"そして、何もされていなかった場合"」

メイド「な、何もされていなかった・・・?」

長女「えぇ。メイドさんの言い分では、何もされていなければおかしいことになる」

メイド「そうです・・・けど・・・」

長女「何もされていない。つまり、単純に殺されただけだとすれば・・・女性でも犯行が可能になる」

メイド「はい・・・その通りです。で、でも・・・」

長女「分かっているわ。一番重要なことは彼女の部屋が密室だったということ。そして、男性にしかできないということ」

メイド「マスターキーを持っている・・・かつ、男性である執事さんにしかできないですよね」

長女「普通に考えればそうね。ただし、彼女の部屋の鍵が本当に一つとは限らないはずよ」

メイド「そ、それは・・・」

長女「・・・そのことが考えにくいのも分かる。何より、現物がなければ証明できないもの。犯人が隠し持てば誰にも分からない」

メイド「・・・はい・・・」

長女「そしてもう一つ疑問。事件に疑問というより、メイドさん個人に質問なのだけど・・・良いかしら?」

メイド「え、は、はい、大丈夫です」

長女「・・・仮に強姦されたとするわ。普通被害者としてはどういう行動をとる?」

メイド「え・・・・・・それは・・・・・・」

長女「・・・メイドさんならどうする? 男性に襲われたとするわ。どうする?」

メイド「それは・・・・・・い、嫌がります。好きでもない人に・・・そんな・・・」

長女「そうよね。そこが聞きたかったところよ」

メイド「・・・??」

長女「女性としては、抵抗するのが普通のはず。メイドさん、長髪さんの部屋とは隣同士のはず。激しい物音とか聞こえなかったかしら?」

メイド「・・・・・・あ・・・・・・」

長女「・・・どうかしら?」

メイド「・・・そ、そういえば・・・・・・き、聞こえなかったです」

長女「そう・・・それが何を意味するか、もう分かるわよね?」

メイド「はい・・・!」


メイド・長女「「"何もされていなかった。もしくは・・・合意の上だった"」」

長女「・・・その通りよ」

メイド「はい・・・!」

長女「強姦されるとなれば、激しい抵抗には間違いなくあう。叫び声だって聞こえていいはずよね」

メイド「はい・・・何も、聞こえませんでした。他にも部屋で数人で寝てましたけど・・・そんな物音とかは・・・」

長女「でしょうね。激しい抵抗にあえば、必然と何らかの物音は聞こえて然るべき」

メイド「あ・・・でも、長髪さんの股から流れていたっていう・・・」

長女「強引だけれど、偽装も考えられる。長男は本物だと言っていたけど・・・信じるか信じないかは、メイドさん次第よ」

長女「それに・・・合意の上での可能性もある」

メイド「じゃ、じゃあ・・・その相手って・・・いったい・・・」

長女「そうね・・・確実にこの人という、証拠はないけど」

メイド「・・・・・・・・・」

長女「長男は私と同じくクリスチャンよ。おそらく違う。執事さんは分からない」

長女「父も、分からないわね。正直なところ」

メイド「・・・そんな・・・」

長女「そして・・・長髪さんは結婚していない、ということ。特定の恋人も聞いたことがないのでしょう?」

メイド「は、はい・・・・・・えっと、それが・・・何か」

長女「相手は夫ではない、恋人でもない。と、すれば? 他に考えられる相手は?」

メイド「・・・他に・・・? ・・・・・・・・・あ・・・」

メイド「・・・・・・愛人・・・・・?」

長女「・・・長髪さんの部屋にあった大金と照らし合わせれば、そういう関係があった可能性としては、十分だと考えるわ」

メイド「な・・・なるほど」

長女「そして・・・そんな大金を渡せられる人間は、この屋敷内ではおそらく一人」

メイド「・・・そんな・・・まさか・・・」

長女「もちろん、一回であの大金を渡したとは考えにくい。数回、数十回と関係があった可能性の方が高いわね」

メイド「・・・・・・・・・」

長女「・・・メイドさん、このことはくれぐれも内密に。犯人が聞いたとき、刺激させないように」

長女「それから・・・他の関係のない人たちに、不必要に恐怖を植え付けないことも大切よ」

メイド「・・・はい。分かりました」

長女「・・・保険をかけるようで、こんな言い方はあまりしたくないけれどね」

長女「これらは全て根拠はない。全て私の推測に過ぎないということ。覚えておいてもらいたいわ」

メイド「はい・・・分かりました。とても参考になりました。・・・ありがとうございます」

長女「・・・どういたしまして。ああ、あとそれから・・・」

長女「・・・密室は依然も謎のままよ。密室が覆せなければ、今までの推測は何の意味も持たない」

メイド「・・・はい」

長女「・・・もっとも、父なら、合鍵を作るくらい、造作もないでしょうけどね」

メイド「・・・・・・・・・」

長女「・・・まあ、これも特に根拠はないわ。ただ・・・疑う理由としては十分ということよ」

メイド「・・・はい。分かりました」

長女「話は、これで終わりかしら?」

メイド「はい、ありがとうございます」

長女「・・・メイドさんさん良ければ、だけれど・・・この後、少しお茶しないかしら?」

メイド「わ、わたしとですか?」

長女「えぇ。あなたとは、事件ばかり・・・たまには他愛もない会話で女らしい話もしてみたいもの」

メイド「わたしで良ければ、ぜひ!」

長女「そう、良かった。あなたとは、趣味も合うみたいだし・・・一度ゆっくり話してみたかったの」

メイド「ふふ、実はわたしもなんです。嬉しいです、ぜひ、楽しくお話しましょう!」

長女「ありがとう。ちょっと待ってね、飲み物を入れてくるから」

メイド「あ、だ、大丈夫です! わたしが・・・」

長女「良いのよ。今は、メイドさんがお客さんなんだから。ゆっくりしてて」

メイド「・・・分かりました。お願いしますっ」

メイド(長女お嬢様にはお世話になりっぱなしだし、それに、一度ゆっくり話してみたかったのも確か)

メイド(しかし・・・密室は相変わらず、謎のまま。それに、ご主人様が。そんな、まさか・・・・・・)

支援・読んでくれる人に感謝
一週間とか言いながら、早くなってしまった
矛盾とかはないようにはしているけど、あったら申し訳ない

8月中には終わらせたいけど、微妙なところ

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

長男「さて・・・ちょっと早いけど、寝ようかな」

次女「私もー。ほんっと疲れたー」

長男「次女姉さんは何もしてないのに疲れたのか。よく言うよ」

次女「いいから疲れたの! 長男も眠いんでしょ、早く帰ろうよ」

長男「分かったよ・・・確かに眠いしね。長女姉さんも、行こう」

長女「えぇ、分かったわ」

先輩「・・・私たちも寝よっかぁ」

そばかす「そうですねぇ・・・」

姉御「もう寝よう・・・色々ありすぎだよ・・・ほんと」

先輩「・・・メイドも行こう?」

メイド「あ・・・は、はいっ」

長女「おやすみなさい、メイドさん」

メイド「はい、おやすみなさいっ」

先輩「行きましょう」

メイド「・・・あ、あの、長男さんっ」

先輩「・・・メイド?」

長男「・・・僕? なんだい?」

メイド「・・・執事さん・・・どうなるんでしょうか」

長男「・・・・・・・・・」

次女「・・・どうもこうも、犯人なんだからさ。逮捕だよ逮捕」

長女「・・・まだ彼だと決まったわけではないわ」

次女「皆、そんなに信じたくないの?」

長男「・・・・・・・・・」

次女「長男が信じたくないのは分かるけどさー、けっこう仲良さそうにしてたし? でもさぁ」

次女「・・・今朝の事件は、執事さんしかできないんだよ?」

長男「・・・でも」

次女「でも、じゃないじゃん。ジジツムコンってやつ? しかも、か弱い女性をあんな・・・うー、きもちわるっ」

長男「・・・執事を悪く言うなっ! あんなことやるわけがないんだ!」

次女「でもねぇ、あんた」

長女「・・・やめなさい。こんなところで、姉弟喧嘩なんて・・・皆見てるじゃない」

次女「・・・ふんっ」

長男「・・・・・・・・・」

長女「・・・ごめんなさいね、みっともないところを」

先輩「い、いえ・・・」

メイド「・・・すみません。わたしが変なこと聞いたばっかりに・・・」

長女「メイドさんのせいじゃないわ。気になるのは当然の事だもの」

長女「・・・彼の処遇については、このまま何もなければ、犯人として扱われることは免れないわ」

長女「もう二、三日で街からの応援もくる・・・それまで彼が犯人じゃないという証拠、あるいは・・・」

長女「他に真犯人が見つからなければ・・・次女の言う通り、逮捕されてしまうでしょう」

メイド「・・・そう・・・ですよね・・・」

そばかす「やっぱり・・・執事さんが。残念です・・・」

姉御「大人しい性格だと思ってたのになぁ、まあ三十も過ぎて独身だし、長髪にムラっときたのかもな」

色白「・・・そうなのかなぁ。そういう人じゃないと思いますけど」

次女「ぜーったい、そうだって。長髪さんって妙に大人っぽいしねー」

長男「・・・・・・・・・」

長女「・・・行きましょう長男。次女も。眠いんじゃなかったの?」

次女「そうだった。寝よう寝よう」

長女「・・・長男? ね、行こう」

長男「・・・・・・うん。ありがとう」

主人「・・・やれやれ。飼い犬に噛まれた気分だよ。夫人、私たちも寝るぞ」

夫人「・・・そうね」

メイド「・・・・・・・・・」

先輩「メイド? 寝るわよ」

メイド「あ、は、はいっ」

先輩「あなたたちも行くわよ」

そばかす「あ、はーい」

色白「あ、私お手洗い行ってきます」

そばかす「あ、じゃあ私も行く」

姉御「私も一緒に行く。多い方が良いだろ」

そばかす「ありがとうございますっ、行きましょう」

先輩「気を付けてよー?」

そばかす・色白「「はーいっ」」

姉御「すぐに済ませてきますんで」

先輩「良いよ、ゆっくりしておいでよ」

姉御「じゃー、お言葉に甘えて」


先輩「・・・さっ、メイド行こうか。メイドはお手洗い大丈夫?」

メイド「はい、大丈夫です。行きましょうっ」

先輩「よっし、行こう」

メイド(・・・・・・・・・)

メイド(・・・・・・ご主人様、ああいう性格だった・・・・・・?)

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

先輩「・・・はーっ、今日も疲れたね」

メイド「はい・・・大変です」

先輩「ふふっ、確かに」

メイド「・・・・・・・・・」

先輩「・・・なんだか、寝るのが怖いね」

メイド「・・・??」

先輩「・・・今までさ。寝て起きて、それで・・・誰かが死んでて・・・」

メイド「・・・・・・」

先輩「また寝て起きて、それでまた誰かが死んでるなんて・・・嫌だよ、もう・・・」

メイド「・・・先輩さん・・・」

先輩「・・・誰も言わないけど・・・チーフさんも殺されちゃったんでしょ・・・?」

メイド「・・・え・・・」

先輩「・・・もう皆思ってるよ。これだけ人の死が続いてるんだもの。というか、チーフさんの死から全部始まったしね・・・」

メイド「・・・・・・・・・はい」

先輩「なんで、チーフさんが殺されなきゃいけないの? あんな素晴らしい女性、私は他に知らない」

先輩「人生の鑑だって本気で思ってた。憎まれるような人じゃないのに・・・」

メイド「・・・はい。分かります」

先輩「本当に執事さんなのかな・・・おかしいよ。人殺したり・・・女の人を・・・あんなふうにできる人じゃないもん」

メイド「わたしもそう思います・・・」

先輩「メイドでもそう思うよね」

メイド「はい・・・短い間ですけど、本当に良くしてもらって・・・」

先輩「うん・・・」

メイド「女性に・・・あんなことできる人では・・・ない、と思ってます」

先輩「そうだよね・・・うん」

先輩「でもね・・・もう、執事さんがやってもおかしくないな、って思ってきちゃってる」

メイド「え・・・?」

先輩「執事さんね、チーフさんのこと好きだったんだよ」

メイド「・・・・・・・・・」


メイド「・・・え」

先輩「・・・あれ? メイド知らなかった?」

メイド「は・・・はい。初耳です」

先輩「そうだったっけ・・・けっこう有名なんだけど」

メイド「そ、そうなんですか・・・ぜんぜん知らなかったです」

先輩「そうなのよ。噂だと、もうデキてるっていう話もあるけど、これは間違いね」

先輩「私ね、見ちゃったんだ。執事さんがチーフさんにプロポーズしてるところ」

メイド「ほ・・・本当ですかっ?」

先輩「ほんとほんと。でもね、ふられちゃってた。私はお似合いだと思ってたんだけどなぁ」

メイド「・・・・・・・・・」

先輩「けっこう仲良さそうにしてるところは、皆見てるらしいよ。でも、チーフさんは断ったみたい。理由はよく分からないけど」

先輩「それに、プロポーズしてるのも、一回二回どころじゃないらしいし・・・」

メイド「そう・・・なんですか・・・ぜんぜん知らない・・・」

先輩「そっか。まあ、ここ来たばっかりだしね」

先輩「・・・でも、今言ったことは全部本当。そばかすや、色白にも聞いてみて?」

メイド「は、はい。大丈夫です」

先輩「そう? さっきも言ったけど、私はお似合いだと思うんだけど、なんでかチーフさんは断っちゃうんだよね」

先輩「きっとチーフさんもふかーい事情があるんだろうと思うけど・・・」

先輩「ま、当人たちの事だし・・・私たちが勝手に立ち入っちゃいけないことよ。だから皆知らないふりしてる」

メイド「確かに・・・そうですね・・・・・・」

メイド(どういう・・・ことだろう。やっぱり執事さんが? いや、でも・・・)

メイド(フラれてしまったことを根に持って、殺してしまった・・・これは分からなくも、ないけど)

メイド(でも、その後にお局さんや眼鏡さん、長髪さんまで殺す必要は全くないはず)

メイド(でもこれは・・・他に人にも言えること。色白さんにしても・・・ご主人様にしても)

メイド(そういえば、チーフさんの死も、詳しいことは何も分かっていないんだ)

メイド(それどころか、殺された人の中で一番謎が多い・・・)

メイド(チーフさんが殺される理由だけは全く分からなかったけれど、ようやく一つだけ浮上してきた・・・・・・でも・・・)

 コンコン

先輩「はーい?」

そばかす・色白「「開けてくださーいっ」」

先輩「はいはーい。ちょっと待ってて」

 ガチャン

先輩「どうぞー」

そばかす・色白「「ありがとうございますっ」」

メイド(・・・何かが、おかしい・・・・・・)

姉御「さーっ、もう寝よう寝よう」

そばかす「寝ましょうっ、うわ、まだこんな時間」

色白「早いよね・・・でも、しょうがないよ」

先輩「そうそう、寝る子は育つ、っていうでしょ」

そばかす「ふふっ、確かに。さぁさぁ、おやすみっ」

先輩「うん、おやすみ」

色白「おやすみなさーい」

メイド「・・・おやすみなさい」


メイド(・・・わたし、なにか、とんでもない勘違いをしている・・・?)

メイド(執事さんにも・・・しっかり話を聞いてみないと・・・)

メイド(でも・・・今はもう・・・寝てしまいたい・・・)

 ―――――the 5days of the chaos

メイド「ん・・・」

メイド(朝・・・みたい。今日は・・・良かった。この部屋の皆はみんないる)

先輩「お、メイド起きた? おはよう」

メイド「あ・・・おはようございます。今日は早いんですね」

先輩「後輩にいつも起こしてもらってちゃあね」

メイド「ふふっ、そうかもしれません」

先輩「でしょ? あ、ところでさメイド」

メイド「??」

先輩「私の・・・ネックレス知らない?」

メイド「先輩さんの? いつもしてるのですよね」

先輩「そうそう、ないのよ」

メイド「・・・枕元に置いてませんでした?」

先輩「そう思ってたんだけど、ないのよ。んー、寝てるときにどっかにやったのかな」

メイド「だとしたら、床に転がってるかもしれませんね。どうですか?」

先輩「床も探したけど・・・ないのよ」

メイド「うーん・・・だったら、私も分からないです・・・」

先輩「だよねぇ・・・大事なものなのよ。もう、どこいったんだろう・・・」

メイド「そ、そんなに大事なものですか・・・わたしも探します」

先輩「あ、いいよ別に。ありがとう。私もとりあえず諦めて、着替える。メイドも着替えて」

メイド「わ、分かりました・・・また時間が空いたら、一緒に探しますね」

先輩「そうしてくれると助かるな・・・本当に大事なものなのよ」

メイド「そうみたいですね・・・分かりましたっ」

色白「おはようございます」

姉御「おはようございますっと・・・今日も・・・一日が始まるのかぁ・・・」

先輩「二人ともおはよう。そばかすは・・・まだか」

色白「・・・こら、そばかす、起きろっ」ゆさゆさ

そばかす「うーん・・・私を食べても美味しくないよお」

先輩「・・・どんな夢見てんのよ・・・」

姉御「はははっ、そばかすらしいな」

色白「・・・いっつもこんなんですから。もう、私も恥ずかしいじゃない。ほら、起きなさいっ」

そばかす「う、うーん・・・・・・あ、おはよう、皆」

先輩「はいはいおはよう。早く起きて。ついでに支度も早く」

メイド「ふふ、おはようございます、そばかすさん」

そばかす「おはようっ、今日もメイドちゃん可愛いね」

色白「・・・おいてくわよー」

そばかす「あ、ま、待ってよー」

メイド「ふふふ・・・・・・あれっ」

メイド(・・・ない。長女お嬢様からもらったブローチ・・・ど、どうしよう。どこにしまったっけ・・・)

メイド(ま、まずい・・・・・・でも、探す時間なんてない。しょうがない・・・)

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

先輩「・・・食事作ったのは良いけど、誰もこないね」

色白「ですねぇ」

そばかす「・・・お寝坊してるのかな」

先輩・姉御「「それはない」」

そばかす「違いますかぁ」

メイド(そばかすさん、さっきのは嫌味・・・)

メイド「・・・でも、ちょっと様子を見に行った方が良いと思います」

先輩「そうね・・・もしかしたら、声がかかるのを待ってるかもしれないしね」

メイド「わたし、行ってきます。先輩さん、一緒にきてくれますか?」

先輩「お安い御用よ。行きましょう。あなたたちはここで待っててね」

三人「「はーい」」

長男「・・・・・・」

メイド「・・・あ・・・長男さん、朝ごはんの用意が・・・」

長男「メイドさん」

メイド「は、はい」

長男「・・・これで執事をここまで連れてきて欲しい」

メイド「え・・・これは」

先輩「執事さんの部屋の鍵・・・?」

長男「そうだ。頼むよ」

メイド「わ、分かりました・・・」

先輩「あの・・・どうしたんでしょうか?」

長男「・・・執事を連れてきて欲しい。頼む」

メイド・先輩「「・・・・・・」」

 コンコン

「・・・はい」

メイド「おはようございますっ、執事さん」

「メイドさん? おはよう。どうしたんだい」

先輩「長男さんが呼ばれています。今開けますので・・・」

「・・・分かった。頼むよ」

 ガチャガチャ・・・カチャン

執事「・・・おはよう、二人とも」

メイド・先輩「「・・・おはようございます」」

執事「・・・坊ちゃんが私を呼んでいるんだね? 行こう」

メイド「・・・こちらです・・・」

メイド「・・・長男さん。執事さん・・・連れてきました」

長男「・・・ああ、ありがとう」

執事「・・・おはようございます、坊ちゃん」

長男「おはよう。頼みたいことがある」

執事「了解しました」

メイド「あ、あの・・・私たちは・・・?」

長男「・・・メイドさんたちは、姉さんたちを下まで連れて行って欲しい。先に食事してくれてても良い」

先輩「わ、分かりました・・・」

長男「頼むよ。あと、それから・・・」

長男「・・・僕らが下に降りてくるまでは、必ず部屋を動かないでくれ。皆で同じ部屋にいて欲しい」

メイド「・・・分かりました」

長男「・・・頼んだよ」

長女「・・・長男?」

長男「・・・姉さん、先に食事をしててくれ」

次女「・・・むにゅむにゅ」

長男「なんだ、寝ぼけてるのか・・・まあ都合が良いけど。長女姉さん頼むよ」

長女「・・・分かったわ」

メイド「行きましょう、長女お嬢様」

長女「えぇ」

次女「うーん・・・」ふらふら


執事「・・・坊ちゃん?」

長男「ちょっと大変な用事を押し付けることになる。でも手伝って欲しい」

執事「・・・かしこまりました」

長男「・・・・・・・・・」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

メイド(・・・何があったんだろう。あの雰囲気・・・尋常じゃない)

メイド(今ここにいないのは・・・長男さん。執事さん。そして・・・ご主人様、奥様)

メイド(・・・まさか・・・!?)

長男「・・・・・・お待たせ」

メイド「ちょ、長男さん・・・!」

執事「・・・・・・・・・」

メイド「・・・し、執事さんも・・・ど、どうされたんですか・・・?」

長男「・・・・・・・・・」

執事「・・・・・・・・・坊ちゃん」

長男「・・・死んでいた。父さんも、母さんも」

先輩「えっ!!?」

そばかす「そ、そんな・・・」

色白「・・・う、嘘ですよねっ?」

長男「・・・本当なんだ」

姉御「・・・おいおい・・・」

メイド「・・・連れて行ってください、ご主人様の部屋へ」

先輩「え・・・ちょっと、あんた」

長男「遺体はもう地下室に運んだけど・・・やめた方が良い」

メイド「・・・お願いします」

長男「・・・食べたものを戻しても、知らないよ」

メイド「・・・ありがとうございます」

先輩「メイド・・・あんた、わざわざ見に行かなくても・・・」

メイド「先輩さんたちはここに残っていてください。・・・では、お願いします」

長男「・・・執事も来てくれるかな」

執事「・・・わ、分かりました・・・」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

長男「・・・これで満足かい」

執事「・・・くっ」

メイド「・・・うっ・・・うぅ・・・おぇっ」

長男「無理もない・・・だからやめた方が良いって言ったんだ。・・・大丈夫かい?」

メイド「う・・・うぅっ・・・」

長男「執事、何か・・・なんでもいい。袋か何かを・・・」

執事「・・・はっ、はいっ」


メイド(・・・これは・・・酷い。酷過ぎる)

メイド(ベッドが・・・真っ赤に染まっている・・・・・・これはおそらく・・・)

長男「・・・大丈夫かい?」

メイド「・・・は、はい。なんとか」

長男「やれやれ・・・女性なのに、恐れ入るよ」

メイド「あはは・・・・・・す、すみません・・・ご無理を言って」

長男「・・・二人は殺されていた。母さんは・・・心臓を刃物で一突きだった」

メイド「・・・・・・・・・」

長男「父さんは・・・・・・全身を刃物で滅多刺しだ。酷いなんてもんじゃない・・・」

長男「おまけに・・・首と胴が引き離されていたしね・・・」

メイド「え・・・・・・?」

執事「・・・ここまでする理由が分からない・・・いったい何考えてるんだ・・・」

長男「全くだね・・・人間じゃないよ。悪魔すら生温い。死神だよ」

メイド(・・・なんなんだ・・・これは・・・)

メイド(このお二人の惨殺死体・・・・・・怨恨が理由なのは間違いないと思うけど)

メイド(・・・ここまで・・・やる・・・?)

メイド(しかも・・・マスターキーがなくなっている? 確かに犯人が持ち出したと考えるのが自然だけど)

メイド(部屋に入る時は・・・? いったいどうやって・・・?)

メイド(しかし、ご主人様が犯人だというのは・・・なくなった。殺されてしまった)

メイド(長髪さんの相手はご主人様じゃない・・・? だとしたら、他の男性が執事さんか、長男さん、ということに・・・)

メイド(・・・・・・そんな・・・ばかな・・・)

メイド(長男さんはマスターキーを持っておらず、長髪さんを殺すことは不可能)

メイド(でも、執事さんは今回部屋で軟禁されていた。わたしが迎えに行くまで、ちゃんと部屋にいた。出られないんだから)

メイド(ご主人様が長髪さんを殺したとしても・・・まさか、それぞれの事件が犯人が全て違うなんて・・・こと・・・・・・)

メイド(・・・あ、ありえない・・・・・・ぜったい何かがおかしい・・・)

メイド(・・・・・・もう、これまでの全ての事件と、繋がりが全く見当たらない! ばらばらすぎる!)

メイド(も、もう・・・わけがわからない・・・・・・・・・)

支援・読んでくれる人に感謝
次の続きまではちょっと期間が空く、かも 分からない
ここからは割と急展開続きかもねぎ


かゆい
うま

>>278の前が抜けていた

執事「・・・坊ちゃん、あの事は言わないので?」

長男「・・・あの事?」

メイド「・・・・・・?」

執事「・・・あれですよ」

長男「・・・ああ。あれか。そうだな・・・」

メイド「えっと・・・?」

長男「・・・・・・預けていたマスターキーが無くなっているんだ」

メイド「・・・えっ・・・?」

長男「・・・普通に考えて、犯人が持っているんだろうけど・・・」

執事「・・・女性たちが聞けば、恐怖で発狂してしまいそうです・・・」

長男「聞かせられないね・・・でも、黙ってたら、僕らが疑われてしまう。言うしかないだろう・・・」

メイド「・・・・・・・・・」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

先輩「あ、め、メイド・・・あんた大丈夫?」

メイド「・・・はい。大丈夫です」

先輩「・・・・・・」

そばかす「・・・あっ、あのっ、どうなっていたんですか・・・」

一同「「・・・・・・・・・」」

長男「父さんと母さんが殺されていた・・・ハッキリ言って、今残っている人の中で実行できる人はいない」

長男「・・・マスターキーは父さんが保管していたんだ。普通に考えて、寝る時は部屋に鍵をかけるだろうから・・・」

長女「・・・またもや、密室殺人というわけね」

長男「・・・そうなる」

先輩「ということは・・・やっぱり、私たち以外の誰か・・・ってことになるんですか?」

長男「・・・そうだね。ただ・・・今回は本当に寝る時に部屋に鍵がかかっていたかどうかは、分からない」

長男「僕が最初に駆け付けた時・・・部屋は鍵がかかっていなかったからね」

長女「それが、長髪さんの時との違いね。ところで、マスターキーはどこにあるの?」

長男「・・・・・・・・・」

色白「・・・も、もしかして」

長男「・・・無くなっていた。おそらく、犯人が持ち去った可能性が高いだろう」

次女「なっ、何よそれっ!! もう私たち、夜どころか昼間でも安心できる場所ないじゃん!! どうすんの!!」

長男「・・・僕に文句を言われても困る。そんなの、どうしようもないじゃないか・・・」

次女「・・・もうやだっ!! 誰なのよ犯人はっ!! 何の為にこんなことするのよ、白状しなさいよ!!」

長女「・・・やめなさい。白状するわけがないし、犯人を挑発するだけよ」

次女「だって、お姉ちゃん! 私たちいつ殺されるか分からないんだよ!!?」

長女「騒ぎ立てたところで、皆の心がばらばらになるだけ。そうなれば、犯人の思う壺なのよ」

次女「でっ、でも・・・!!」

長男「長女姉さんの言う通りだ・・・静かに頼むよ」

次女「・・・うーっ・・・!!」

先輩「・・・私たちだって、怖いし不安です。でも、こういう時だからこそ、団結しないと・・・」

次女「でも、私たちの中に犯人がいるかもしれないんだよ? 犯人と団結しろって?」

先輩「そ、そんな・・・!」

長男「・・・そんなこと、一言も言ってないだろう。次女姉さん、一旦落ち着いてくれ」

次女「そうは言ってもねぇ・・・!」

姉御「・・・そういえば、執事さんはもう軟禁は解かれてるんですね」

次女「・・・本当だ」

執事「・・・・・・・・・」

次女「・・・ねぇ、やっぱりアンタなんでしょ? いい加減、認めたら?」

長男「次女姉さん、執事は今朝まで軟禁していたんだ。鍵は僕が持っていた。今朝の犯行は不可能だよ」

次女「あっそ。だから? 私、知ってるんだから!! アンタ、ここを辞めたがってたでしょ!!」

執事「・・・それは・・・・・・」

長男「・・・・・・・・・」

長女「・・・だから、何なの? 何が言いたいの?」

次女「賢いお姉ちゃんなら、これだけ言えば分かるでしょ。辞めたがってた理由、それはね」

次女「お父さんたちに、嫌気がさしてたみたいなのよ」

執事「・・・・・・・・・」

長男「それが本当かどうかはともかく・・・なぜそういった理由で執事が犯人にさせられるんだ?」

次女「・・・だから、最後に殺して・・・そ、それで・・・財産でも奪って逃げる・・・とか!」

一同「「・・・・・・・・・」」

長男「・・・こじつけにもほどがあるよ。真面目に聞いて損した」

次女「な、なんですって!!?」

長男「うるさいな・・・口は災いの元って、まさに次女姉さんの為にある言葉だね」

長女「やめなさい・・・・・・また姉弟喧嘩なんて、二人だけの時にやって」

長男「・・・ごめん」

次女「・・・ふんっ」

次女「とにかく! 私は執事さんをずっと疑うから! 近寄りたくもない!」

長男「・・・好きにすれば。執事、次女姉さんがさっき言ったことは気にしないで良いよ」

執事「・・・・・・すみません」

長男「・・・謝らなくていい」

執事「・・・・・・・・・」

メイド(・・・執事さんがここを辞めたがっていた、か・・・)

メイド(御主人様に嫌気がさしていて、最後に殺害して財産を強奪する・・・)

メイド(・・・理屈は通っている。だけど、同時に新しく疑問を増える)

メイド(御主人様に嫌気がさしていた理由は? 今までの殺した人たちは何だったのか?)

メイド(それに執事さんが今朝の犯行を行うためには、鍵がかかった自分の部屋を脱出しなければいけな・・・)

メイド(・・・待って。・・・鍵がかかった自分の部屋)

メイド(・・・つまり、独力のみでは脱出不可。でも、協力者もしくは共犯者がいたら・・・?)

メイド(共犯者・・・執事さんの部屋の鍵を持っていた人は・・・長男さんだ)

メイド(長男さんが、執事さんの部屋を鍵を開ける。二人で、御主人様と奥様を殺害する・・・)

メイド(ということは・・・長髪さんの愛人、もしくは・・・恋人は・・・この二人のどちらか、ということに)

メイド(・・・執事さんはチーフさんに何度もプロポーズするくらい好きだったんだ)

メイド(だから・・・執事さんはない。長男さんか・・・)

メイド(いや・・・何もしていない、つまり、単に殺害しただけの可能性も・・・)

メイド(でも、そうなると、なぜ強姦されたようにみせかけなければならなかったのか)

メイド(・・・疑問や矛盾が増えるばっかりだ。長女お嬢様にも・・・意見を聞いてみないと)

メイド(・・・長男さんと執事さんが犯人か・・・・・・とても考えられない・・・)

メイド(・・・しかし・・・思えば、長男さんは昨日から執拗に執事さんを庇うような発言をしている)

メイド(・・・こんなことも考えられる・・・・・・)

メイド(執事さんを軟禁状態にさせることを最初に提案したのは長男さんだ)

メイド(そこで、皆を納得させて・・・いや、まずは納得させるような状況を作るんだ)

メイド(・・・それが、執事さんによる長髪さんを殺害、とする。同時に強姦されたように見せかける)

メイド(いかにも執事さん以外では犯行不可能な状況で殺害する・・・そして・・・その翌日に、二人で御主人様と奥様を殺害する)

メイド(しかし、他の人から見れば、軟禁されていた執事さんではこの二人を殺害することは不可能な状態に見える)

メイド(こうして・・・執事さんの無罪を主張する。現に執事さんは軟禁状態が溶けている)

メイド(・・・執事さん、いや、自分たちの無罪を主張するためだけに・・・長髪さんと夫妻の三人を殺害した・・・ことになる)

メイド(・・・・・・・・・)

メイド(・・・なんて・・・恐ろしい考えだ・・・・・・もう、ろくでもない考えばかりが頭に・・・)

メイド(だいたい、御主人様の部屋に鍵がかかっていれば、長男さんでも執事さんでも部屋に入ることは不可能だ・・・)

メイド(長女お嬢様に・・・・・・意見を聞いてみないと・・・こんな考え、否定してほしい・・・)

先輩「・・・メイド? ちょっと、ちょっと」

メイド「・・・え?」

先輩「・・・大丈夫? 顔色、良くないよ」

メイド「あ・・・すみません。大丈夫です」

先輩「ほんと? なら良いけどさ・・・あ、そうだ。ちょっとお手洗い一緒に来てくれない?」

メイド「お手洗いですか? 良いですよ、わたしもちょうど行きたかったところです」

先輩「そっか。じゃあ行こう」

メイド「はいっ」

先輩「え、もしかして私の・・・じゃあないな。違う違う」

メイド「ですよね。これ、どう見ても素人さんが作った手作りみたいな感じですよ」

先輩「だね。でも、その割にはけっこうな仕上がりだと思うけど?」

メイド「・・・確かに。でも、これ壊れてます」

先輩「・・・思い出した。これ、少し前からここに捨てられてあったんだよね」

メイド「え・・・そうなんですか?」

先輩「そうそう。しかも、これ、チーフさんがつけてたものなんだよね」

メイド「チーフさんが? ・・・確かに、つけてたような」

先輩「でしょ? なんでこんなところに捨ててあるんだろ・・・」

メイド「・・・・・・」

先輩「まあ捨ててあるものだから、どうでもいいんだろうけど・・・」

メイド「・・・これ、ちゃんとチーフさんの遺体のところにおいておきましょう」

先輩「え? これを? 壊れてるのに? いや、まあ、別に良いけどね」

メイド「数少ない遺品ですから・・・それに、もしかしたら、大事にされてたかもしれません」

先輩「・・・メイドがそこまで言うんだったら、好きにしたら良いよ。ただし、後でちゃんと手を洗いなさいよ?」

メイド「ふふっ、分かりました。ありがとうございます」

先輩「はいはい。じゃあ、行こっか」

メイド「はいっ」

支援・読んでくれる人に感謝
話の内容的にはあと2日程度で終わる
現実的には時間では9月頭くらいで終わりそう
ちなみに現時点で誰が犯人かは断定できないけど、
だいたい誰が犯人かとか、動機は予測できる たぶん

申し訳ない 確かに抜けていた ありがとう
>>294の前

先輩「ふぅーっ、メイドももう大丈夫?」

メイド「はいっ、大丈夫です」

先輩「よし、戻ろうか」

メイド「はいっ。・・・あれ?」

先輩「?? どうかした?」

メイド「・・・ゴミ箱に・・・」

先輩「こらこら、手洗った後でしょ。やめときなさいよ」

メイド「・・・もう取っちゃいました。すみません」

先輩「もうっ・・・で、何それ」

メイド「えっと・・・・・・ネックレスみたいですね」

先輩「さてさて、お昼まで何しましょっかねえ」

メイド「・・・・・・」きょろきょろ

先輩「・・・どうしたの?」

メイド「あ・・・い、いえ、別に」

先輩「ふーん?」

メイド「!・・・・・・あっ、あの、長女お嬢様っ」

長女「メイドさん? 何かしら」

メイド「あの・・・ちょっと・・・よろしいですか・・・?」

長女「・・・・・・大丈夫よ。ついてきて」

メイド「あ、ありがとうございます」

次女「どこ行くの? 私も良い?」

長女「あなたはここで皆といて」

次女「・・・お姉ちゃん最近冷たーい」

長女「気のせいよ。・・・メイドさん、行きましょう」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

長女「・・・・・・・・・」

メイド「・・・・・・・・・」

長女「・・・・・・・・・」

メイド「・・・・・・あ、あの、どうでしょうか・・・」

長女「・・・そうね」

メイド「・・・・・・・・・」

長女「・・・ところどころ、無理な点もあるし、難しいわね」

メイド「そ、そうですよね・・・」

長女「・・・だけど・・・筋は通っている。全くの的外れではないわ」

メイド「・・・・・・・・・」

長女「・・・自分の弟を疑いたくはないけれど・・・確かに、朝の対応は不自然だった」

メイド「と、いうと・・・?」

長女「まず、軟禁されている執事さんを呼び出す。ここは特に不自然な点は感じないけれど」

長女「その後ね・・・自分たち以外を別の部屋で待機させる」

メイド「それは・・・おそらく凄惨な現場を女性には見せたくなかったのでは」

長女「それは表向きの理由。こういうことも考えられる」

長女「本当は・・・まだ父と母は生きていた」

メイド「え・・・・・・!!?」

長女「・・・この際、朝の時点で生きていたかどうかはあまり問題ではない」

長女「私たちを別の部屋で待機させ、その時に堂々と証拠隠滅を図っていた可能性もある・・・ということよ」

メイド「・・・・・・そ、そんな・・・・・・」

長女「・・・そういう考え方だってできるはずよ。だって、今までと違って誰も父と母の遺体だけは見ていないもの」

メイド「・・・確かに・・・」

長女「遺体を見せろ、と言われればおしまいだから、さすがにまだ生きている可能性はないでしょうけれどね」

メイド「はい・・・そうですね・・・」

長女「・・・それから、それ以前に動機の問題だけど・・・二人の無罪を主張する為に三人を殺害というのは、中々面白いわ」

長女「そして、それ以前の三人は・・・チーフさんだけは殺される理由がある、と」

メイド「はい・・・」

長女「・・・私もチーフさんに対する執事さんの気持ちは知っていたわ。そんな理由で人を殺してしまうなんて、あまり考えられないけれど・・・」

メイド「はい・・・少し、無理がありますか」

長女「・・・・・・この世には、本当に色々な人間がいるから。・・・それは、分からないわ。本人じゃないもの」

メイド「・・・・・・・・・」

メイド「・・・あ、あと・・・普通に考えて、御主人様の部屋はきちんと鍵はかかっていたと思うんですけど」

長女「そうね・・・・・・メイドさんは・・・というか、皆知らないと思うけれど・・・あの部屋は"隠し通路"があってね」

メイド「え・・・・・・!?」

長女「・・・そこを通った可能性があるわ。あの二人なら、知っていてもおかしくはないわ」

メイド「・・・な、なんでそんな隠し通路なんてものが・・・?」

長女「・・・さぁ、なんでかしらね。父の趣味だとは思うけれど。もしくは、緊急事態のための脱出路のための通路」

メイド「な、なるほど・・・・・・どこに繋がっているとか、分かりますか?」

長女「・・・ごめんなさい。そこまでは分からないわ」

メイド「そうですか・・・」

メイド(隠し通路か・・・気になる。また、確認してみないと)

長女「・・・そろそろかしらね」

メイド「え? 何がですか?」

長女「・・・ああ、ごめんなさい。そろそろお昼だと思ってね」

メイド「ああ・・・確かに、そうですね」

長女「皆のところに戻りましょう。今回は私も手伝わせてちょうだい」

メイド「え・・・ほ、本当ですか? 素直に嬉しいですけど・・・」

長女「決まりね。メイドさんと一緒に料理なんて初めて」

メイド「お料理とか、なさるんですか?」

長女「それが、あんまりやったことなくてね。色々教えてくれるかしら?」

メイド「はい! 分かりました!」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

先輩「長女お嬢様、手伝って頂いて・・・すみません。ありがとうございます!」

長女「足手纏いでなければ良かったけれど」

メイド「とんでもないですよ! お上手でしたよ」

色白「きっと、良いお嫁さんになれますよ!」

長女「ふふ、ありがとう皆」

次女「お姉ちゃんは天才だから、なんでもすぐに覚えるし、そんなのできて当たり前でしょ」

長女「そんなことないわ。あなたも将来のことを考えて、料理くらいできるようになりなさい」

次女「いいもーん、お嫁はまだ先だもん」

長女「あなたもう18でしょう。悠長にしている暇なんてないわよ」

次女「お姉ちゃんだって、まだじゃん。人の事言えないよ。あっ、お姉ちゃんはもう相手いるんだった!」

メイド「え、そうなんですか?」

長女「・・・やめてよその話は。私はそんな気は」

メイド「あ・・・す、すみません」

長女「・・・メイドさんは気にしなくて良いわ」

次女「親がすんごい金持ちの御曹司でさぁー、玉の輿だね」

長女「やめて、って言ってるでしょ」

次女「はいはーい」

メイド(そういえば、長女お嬢様も19歳・・・結婚しててもおかしくない。というより、ちょっと遅いぐらいかな?)

メイド(・・・幸せになって欲しいなぁ)

長男「そろそろ食事といきたいところだけど・・・まだ揃っていないのかな?」

先輩「あ・・・姉御とそばかすがいないみたいですね。すみません」

メイド「・・・お二人とも、どこに行ったんでしょう?」

色白「お手洗いに行く、って言ってましたよ」

長男「・・・・・・それにしては遅い気がするけど」

先輩「・・・呼びに行ってきます。メイド、ついてきてくれる?」

メイド「わ、分かりました」

長男「いや、あんまりばらけたり、少人数で行かない方が良いだろう。皆でひと塊になって探しに行こう」

長女「そうね、それが良いわ」

メイド(・・・・・・なんだろう・・・この胸騒ぎは・・・・・・)

支援・読んでくれる人に感謝
あまり更新できずに申し訳ない

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 ――――――

 ―――

先輩「・・・姉御ー。そばかす?」

色白「・・・いないみたいですね」

先輩「・・・そうみたいね」

メイド(ここが一番近いトイレだ。わざわざ別の遠い場所まで足を運ぶ必要はない・・・どこだろう?)

長男「・・・他のところに用でもあったのかな」

先輩「そうなんでしょうか・・・」

長女「ともかく、ここにはいないことは確かよ。他を当たりましょう」

長男「・・・そうだね」

次女「じゃあ、どうするの?」

長男「彼女たちの部屋に行ってみよう。そこにいるかもしれない」

先輩「・・・そうですね」

メイド(・・・二人同時にいなくなってしまうなんて・・・)

メイド(もしかすれば、最悪・・・・・・)

メイド(・・・でも・・・なぜ、この二人なんだろう?)

メイド(この二人を狙う理由・・・そして、こんな明るい時に、同時に二人なんて・・・こと・・・)

メイド(・・・・・・いや・・・同時に二人では、なく・・・・・・)

メイド(どちらかが、どちらかを手にかける確率の方が・・・高い)

メイド(でも、その場合は、自分が犯人だとすぐに発覚する。あの二人が一緒にトイレに行ったところを、見ている人だっている)

メイド(・・・・・・まだだ。まだ、分からない)

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

先輩「・・・姉御の部屋、鍵がかかってない」

長男「・・・入ってみよう」

先輩「・・・はい」

 ギィ・・・

メイド(・・・・・・・・・?)

先輩「・・・いない・・・ですね」

長男「・・・・・・うん」

次女「・・・もう戻ってるんじゃないの?」

メイド(・・・・・・なんだか、昨日より、部屋がすっきりしているような)

メイド(すっきりしている、というか・・・なんだろう)

メイド(・・・なんともいえない違和感が・・・ある・・・なんだろう)

メイド(・・・・・・・・・)

長男「・・・かもしれないね。もしかしたら、行き違いかもしれない」

次女「そうでしょ。わざわざ、皆引き連れて行かなくても良かったのにー」

長男「・・・まあ、とりあえず一旦戻ろうか」

メイド「あの、長男さん」

長男「・・・なんだい?」

メイド「・・・・・・・・・」

メイド「御主人様に預けていた大金は、どうなっていましたか?」

先輩「メイド?」

長男「・・・聞いて、どうするんだい?」

メイド「・・・いえ。ふと、気になってしまって。執事さんでも良いです」

執事「・・・坊ちゃん」

長男「・・・僕が答える。大金は・・・何事もなかったよ。今も、父さんと母さんの部屋にあるはずだ」

メイド「・・・分かりました。ありがとうございます」

長男「例の大金が・・・どうしたんだい?」

メイド「いえ。先ほども言ったように・・・少し気になっただけなので」

長男「・・・・・・そうか」

先輩「・・・さっ、みんな戻ってみましょう」

長男「・・・そうだね」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

先輩「・・・・・・」

長男「・・・いない、ね」

長女「いったい、どこに・・・」

色白「・・・もう、どこ行ったのよ・・・」

先輩「・・・やっぱり、おかしいです。私、探しに・・・!」

長男「待って・・・気持ちは分かるけど、危険だ」

先輩「で、でも・・・」

長女「・・・長男の言う通りよ。一人は一番危険だし、少数でバラけて探すより・・・まとまった方が良いわ」

色白「・・・一度、皆でお屋敷を見て回りましょうよ。他に用事があって、それで・・・かもしれないですし」

先輩「それはそうかも・・・しれないけど。でも・・・いやな予感が・・・する・・・」

一同「「・・・・・・・・・」」

長男「・・・よし、皆で探してみようか」

次女「はぁー、また行くの。せめて、私たちだけでも食事してからでもさ」

長男「じゃあ、次女姉さん一人で食べてたら良い。僕らは探しに行く」

次女「・・・はいはい、分かりましたよーっと」

長女「・・・行きましょう」



 タッタッタッタッ・・・



メイド(・・・・・・? 遠くから何か・・・聞こえる・・・? 走る音?)

 カツカツカツカツ・・・ ダダダダダンッ


次女「・・・ねえ、なんか聞こえない?」

長男「・・・誰かが走る音だ」

一同「「・・・・・・・・・」」

メイド(さっきのは・・・階段を降りる音か。その後に聞こえたのは・・・走る音だ。さっきと違って、かなり早い)

メイド(・・・・・・いや、これは二人分の足音だ! まさか、追いかけられている・・・!?)

色白「・・・な、なに・・・!?」

長男「・・・・・・音がどんどんこちらが近づいている」

次女「ちょ、ちょっとやばいんじゃ・・・」


 バンッ!


一同「「!!!!」」

そばかす「・・・はぁ・・・はぁ・・・」

色白「そばかす!! あんたっ・・・今までどこで」

そばかす「みっ、みんな、た、たすっ」

色白「えっ・・・!?」

「動くな色白」

一同「「!!!?」」

 ギラン・・・

姉御「・・・動いたら、そばかすを殺す」

色白「・・・え・・・」

先輩「姉御っ!! あんた、何やってるの!? 正気!?」

そばかす「たっ、助け、助けてっ・・・」

色白「はっ、離して! そばかすを離してくださいっ!」

姉御「うるさいっ。そばかす、お前もちょっと黙れ・・・これ以上喋ったら・・・傷物になるぞ」

そばかす「うっ・・・うう・・・!!」

長男「・・・姉御さん、あなた、何のつもりだ」

姉御「色白とそばかすだけじゃない、皆黙れ! こんなところ、さっさと脱出するんだ!」

長男「・・・なに・・・?」

姉御「こいつは人質だ・・・良いな。誰も付いてくるな!」

長男「待て。脱出だって? 橋が崩れているのは知っているだろう。あの橋を通らなければ、屋敷は出れても下山は不可能だ」

長女「おまけに・・・人里までは走っても、半日はかかる。やめたほうが賢明よ」

姉御「うるさいうるさい! 良いか、絶対に邪魔するな! 邪魔したら・・・そばかすの首が飛ぶ」

そばかす「ひっ・・・!!!」

姉御「行くぞ!! 黙って付いてこい!!」

そばかす「う、うぅ・・・・・・」


 タッタッタッタッ・・・


次女「・・・ど、どうなってんの・・・?」

先輩「い、今はとにかくそばかすの命が・・・!」

長男「追いかけるよ! 皆、絶対にばらけないで!」

メイド(・・・・・・姉御さんが、犯人?)

メイド(・・・・・・・・・今はそばかすさんの方が大事だ)

長男「・・・どこに行ったんだ・・・!?」

次女「げ、玄関の方じゃないの?」

長女「いいえ、玄関の方じゃなかったわよ。足音からして・・・反対方向」

長男「うん、玄関じゃないね。いったい、どこから逃げようと・・・?」

色白「そばかすぅ・・・無事でいて・・・!」

先輩「・・・こ、このままじゃ、そばかすが・・・! 手分けした方が・・・!」

長女「いや、ダメね。手分けするのは良いけど、連絡の取りようがないわ。見つけたところで、少数で取り押さえるのは無理ね」

長男「長女姉さんの言う通りなんだ・・・悪いけどね、先輩さん」

先輩「・・・分かりました」

 タッタッタッタッ・・・

メイド「・・・皆さん、あっちです! あっちで、足音が!」

長男「分かった。急ごう!」

一同「「・・・・・・」」

先輩「・・・あ、あの、この先って」

長男「ああ・・・地下倉庫だ」

一同「「・・・・・・」

長男「・・・行き止まりだぞ・・・しかも、ちゃんと鍵をかけておいたはずなんだけど・・・鍵も僕が持っている・・・」

執事「・・・坊ちゃん、もしかしたら」

長男「え・・・? ・・・・・・いや、そんなはずは・・・」

メイド「・・・?」

長男「・・・ともかく・・・中に入ってみよう」


「キャアアアァァァッ!!!!!」


一同「「!!!!?」」

色白「そっ、そばかすの声がっ!!」

長男「くっ、入るよ!!」

先輩「そばかすっ!!」

そばかす「・・・・・・・・・」

色白「・・・そばかす?」

長男「・・・姉御さんの姿が見当たらない・・・」

色白「そばかす? 大丈夫?」

そばかす「・・・・・・・・・」ぶるぶるぶる

先輩「・・・今はそっとしておいてあげて。それより・・・」

長女「えぇ・・・姉御さんがいない」

執事「・・・あ、あの通路は・・・!?」

長男「・・・・・・やっぱり、なのか」

メイド(・・・あんな通路、前来た時は・・・なかったはず)

先輩「こ、これっていったい・・・」

長男「・・・これはね。ずっと前に・・・父さんが秘密の脱出用通路として作らせたんだけど・・・」

執事「・・・途中なのです」

先輩「・・・え?」

長男「この通路、"途中までしかできていない"んだ。予算の関係で・・・断念せざるをえなかった」

色白「・・・なのに、姉御さんはここを通って行った・・・」

長男「その可能性が高いだろう・・・けど・・・」

執事「・・・こ、こんな薄暗い中を・・・無茶にもほどが・・・」

長男「・・・進んでみようか」

執事「・・・とても薄暗く、足場も悪いです。気を付けて」

長男「大丈夫だ、一回だけ階段を下りてみたことは・・・ん?」

次女「・・・ど、どうしたの?」

長男「・・・階段の下の方・・・誰か、倒れている。姉御さん・・・か?」

先輩「えっ・・・?」




長男「・・・間違いない。しかも・・・、死んでいる、ね」

先輩「そっ、そんな・・・!」

次女「なんで・・・?」

長男「・・・焦って足をつまずかせて、こけたんじゃないか。しかも、この悪路だ。周りは固い岩盤だし、階段から転げ落ちて、打ち所が悪ければ・・・」

長女「・・・頭から血を流しているし、そうだと思うわ」

先輩「と・・・いうことは・・・事故?」

色白「・・・そばかすが悲鳴をあげたのは、階段から転げ落ちたのを見た、から・・・」

長男「・・・そうなる」

メイド(・・・事故死・・・?)

メイド(・・・・・・焦っているのは分かるけど・・・だからといって・・・)

メイド(・・・まさか、まさかだけど・・・そばかすさんが突き落とした可能性も・・・)

メイド(・・・・・・・・・)

メイド(・・・いや、そばかすさんが犯人だとするなら、色々無理がある)

メイド(まず、"人質に自分が選ばれなければいけない")

メイド(ここからして、相当無理がある・・・そばかすさんは、単に巻き込まれてしまっただけだ)

メイド(・・・かといって、姉御さんがうっかりこけて、それで・・・死んでしまうなんて)

メイド(しかし、仮に他殺だとして・・・・・・)

メイド(そばかすさん以外は、皆一緒にいたんだ。直接手を下すことは不可能)

メイド(しかも・・・どうやってこの地下倉庫の隠し通路に誘導するか、だ)

メイド(直接手を下さず、特定の場所に誘導して、事故死に見せかける・・・そんな魔法見たいこと、可能なのか・・・?)

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

長男「・・・とりあえず、遺体は処置した。執事、ありがとう」

執事「い、いえ・・・お疲れ様でした」

色白「・・・そばかす、大丈夫?」

そばかす「・・・・・・・・・」

先輩「・・・しばらく、そっとしておいてあげよう?」

色白「・・・はい。そうですね・・・」

長男「・・・姉御さんの荷物から、こんなものが出てきたよ」

先輩「・・・あっ、これ、私のネックレス」

色白「・・・私のアクセサリーまで」

先輩「ねぇ、メイド。これ、あんたのでしょ?」

メイド「え? ・・・あっ、これ・・・わたしのブローチ」

先輩「と・・・とりあえず、皆さん、上に戻りましょう・・・?」

長男「・・・そうだね。こんなところ、一秒もいたくないよ」

次女「戻ろう、戻ろうっ」


メイド(・・・あ、そうだ)

先輩「メイド? 戻るよ?」

メイド「ちょ、ちょっと待っててください」

メイド(チーフさんのネックレス・・・ちゃんと返しておかなくちゃ)


メイド「・・・・・・・・・チーフさん」

メイド「・・・安らかに。・・・・・・あれ・・・?」

メイド「・・・・・・・・・」

メイド(・・・おかしい・・・・・・)

メイド(・・・・・・なんで、全く同じものが首に・・・?)

メイド(・・・・・・・・・・・・・・・)

支援・読んでくれる人に感謝
9月頭で完結とか言ってたけど、中旬くらいになりそう
謎ばっかり増えてあれだけど、もうすぐラストスパート

>>229>>330の間が抜けてる
たびたび申し訳ない

長男「・・・長髪さんの部屋で見つかった、大金もこの通りだ」

先輩「えっ・・・?」

長男「・・・彼女が火事場泥棒をしていたのは間違いないだろう」

色白「・・・信じられない。人殺して、おまけに、盗みまで・・・」

長男「おまけにマスターキーも持っていた。もう、間違いないだろう」

次女「・・・ね、ねぇ、この人が犯人なわけ?」

長男「・・・そうだね。死んでしまったけど・・・」

長女「・・・自業自得というものね」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

長男「しかし、彼女が泥棒を働いていたとはね・・・」

執事「最近、妙に色々なものがなくなっていましたが・・・彼女の仕業だとは」

メイド「え、そうなんですか?」

長男「・・・そうみたいだよ。メイドさんも、私物を盗まれていただろう」

メイド「・・・はい」

先輩「・・・強盗や殺人なんて、するような子じゃないと・・・思ってたんだけどなぁ・・・」

長男「・・・でも事実だよ」

メイド(・・・姉御さんの部屋がすっきりしたように見えたのは、これか・・・)

メイド(屋敷から抜け出すために、必要な物だけを持って出る為に・・・)

次女「はぁー、なんかあっけなかったね」

長男「・・・次女姉さんは色々謝らないといけない人がいるだろう」

次女「んー? 別に良いじゃん、終わり良ければ全て良し、って言うでしょ」

長男「良くないよ、まったく・・・」

メイド(・・・何か、しっくりこない。本当に姉御さんが今まで・・・?)

メイド(何の為に、これまでの人たちを殺してきたんだろう)

メイド(しかも、なぜこのタイミングで抜け出そうとしたんだろう)

メイド(しかし、最大の謎は・・・"地下倉庫の秘密通路を知っていたことだ")

メイド(長女お嬢様曰く・・・ごくごく一部の人しか知らない。わたしたち、雇われた身ではまず知らされないはずだし)

メイド(・・・どこかで嗅ぎ付けたのか・・・? でも、途中までしかできていないのは知らなかった・・・)

メイド(知っていれば・・・まず通らない)

長男「・・・皆、見てくれ」

メイド「・・・・・・?」

先輩「・・・ゴミ箱?」

長女「・・・・・・なるほどね」

色白「うっ・・・」

メイド(・・・血染めの・・・布か。それに・・・針金?)

長男「・・・これで鍵を開けていたのか。・・・大したものだ」

長女「中々信じられないわね・・・針金で鍵を開けるなんて」

長男「僕だって・・・・・・そうだけど」

メイド(・・・御主人様は滅多刺しにされていたらしい。それなら・・・とんでもない量の返り血を浴びたはずだ)

メイド(これを被って・・・御主人様と奥様を・・・・・・)

メイド(そして針金で、鍵を開ける・・・・・・・・・)

メイド(・・・・・・やっぱり、おかしい!)

メイド(他人の私物を盗んで持ち出したのに、肝心ともいえる重要証拠を持ち出さないなんて)

メイド(もう・・・屋敷を抜け出すから、バレたところで差支えないと思ったのか・・・)

メイド(でも、盗むのが目的なら御主人様をあんな殺し方をする必要は・・・)

メイド(それに・・・屋敷を抜け出すなら、なぜこの時だったのか・・・・・・夜にこっそり抜け出せば良かったはず・・・)

メイド(何らかの方法を使って・・・姉御さんを触発させたんだ。おそらく、姉御さんの本性を知っていた)

メイド(・・・・・・姉御さんの事故は仕組まれたんだ。間違いない・・・!)

メイド(・・・・・・でも、どうやって? それに・・・姉御さんを殺す理由は? ・・・・・・)

次女「ねぇー、これからどうするの?」

長男「今まで通り自由で良いんじゃないか。この通り・・・犯人は彼女だったわけだし、もう複数で行動をする必要は・・・」

次女「無い、ってことね! よしっ」

長男「・・・やけに嬉しそうだね」

次女「そりゃそうでしょ」

長男「・・・・・・朝から色々あって疲れた。僕は自分の部屋に戻る。執事も好きにすれば良いよ」

執事「はっ、はい」

先輩「・・・私も疲れちゃった。部屋でゆっくりしよ・・・」

色白「・・・そばかす、私たちも部屋に戻ろう」

そばかす「・・・・・・うん」

メイド「・・・・・・・・・」

メイド(姉御さんは事故じゃない・・・こんなこと、今言ったところで)

メイド(ただのわたしの推測に過ぎないし・・・確たる証拠があるわけでもない)

メイド(それに・・・不安もまた煽ってしまうだけだ)

先輩「・・・メイド? どうしたの?」

メイド「え? ・・・あ、あの」

先輩「トイレ?」

メイド「い、いえっ・・・大丈夫です」

先輩「ふーん? 部屋に戻ろう?」

メイド「・・・後で行くので、先に行っててください」

先輩「・・・分かった。先行くよ」

メイド「はいっ」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

執事「・・・さて」

メイド「・・・・・・・・・」

執事「・・・珍しいね、メイドさんからだなんて」

メイド「・・・そう、ですね」

執事「・・・・・・・・・」

メイド「・・・・・・姉御さんの件は本当に残念でした。まさか、盗みを働いたうえに殺人を・・・なんて」

執事「・・・私もだよ。まさか、彼女だとは」

メイド「・・・はい・・・わたしも大事なものを盗られてしまっていました」

執事「そうらしいね・・・」

メイド「・・・今まで、そんなことをするなんて夢にも思っていませんでした・・・」

メイド「死んでいった人たちを・・・特に長髪さんの不幸を悔やんでいた様子だったのに」

執事「・・・そうだね。・・・こうなってしまったのは、私のせいだと言われても、言い返せないな」

メイド「・・・・・・どういうことですか?」

執事「ん? ・・・ああ、彼女を雇おうと御主人様に紹介したのは私だからね」

メイド「そ、そんな、執事さんは何も・・・」

執事「いいや・・・彼女の人間性にも・・・気付いていたかも、しれないのにな」

メイド「・・・・・・?」

執事「・・・彼女は、スラム出身だそうでね。身よりもない・・・裸一貫に衣服を加えただけの出で立ちで最初に出会った」

メイド「・・・・・・・・・」

執事「小さい頃から悪事に手を染めていたとしても不思議はない。そうしなければ、今日も生きていけるかどうかの環境なんだから」

執事「私に、仕事を紹介させてくれ、と。あまりにも必死で懇願するものだから、私が負けて、紹介はするとだけ約束してしまった」

メイド「・・・・・・そして、今に至る、と」

執事「・・・そういうことだね」

メイド「そんなことが・・・・・・」

執事「・・・だから、今回の事件の一因は私にもある。・・・申し訳なかったね」

メイド「そ、そんな、謝らないでください!」

執事「良いんだよ・・・魔が差したのか、あるいは、計画を立てていたのかどうかは今ではもう分からないけど・・・」

メイド「・・・・・・・・・」

執事「・・・・・・・・・」

メイド「・・・一つ、お聞きします」

執事「・・・なんだい?」

メイド「・・・先輩さんから聞いた話なんですけど」

執事「・・・うん」

メイド「・・・チーフさんを好きだったのは本当ですか?」

執事「・・・・・・・・・」

メイド「・・・・・・・・・」

執事「・・・それはもちろん、私が、だよね」

メイド「はい、その通りです」

執事「・・・・・・・・・」

執事「・・・ああ、その通りだよ。プロポーズだって・・・やったし」

メイド「はい、それも聞きました」

執事「・・・ふふ、けっこう広まってしまっているみたいだな・・・」

メイド「・・・そうみたいですよ?」

メイド・執事「「はははっ」」

執事「・・・ずっと昔から・・・好きでね」

メイド「・・・はい」

執事「ここに働き始めてきた頃から・・・すぐに惹かれてしまったよ。こんなに美しい女性がいるなんて、ってね」

メイド「やっぱり、昔から美人さんだったんですか?」

執事「美人なんて言葉に収まりきらないくらいの容姿だったね。歳をとっても、それは変わらなかった」

執事「私みたいな男には振り向きもしないだろうと思っていた。あんな女性、周りが放っておかないだろうしね」

メイド「でも、結婚はしてなかったんですよね。した経験も」

執事「そうだね。不思議なことに恋人の噂はおろか、縁談の話すら全く聞かない。事実、彼女は・・・最後まで独身を貫いていた」

メイド「街に出かけることも・・・なかったんでしょうか」

執事「食材などの買い出しに一緒に行ったことは何度もあるけど、私用で行ったことは一度もなかったんじゃないかな」

メイド「・・・そうなんですか・・・」

執事「うん。・・・ああ、いや」

執事「・・・一度だけ・・・あるかな。いや、でもあれは」

メイド「・・・?」

執事「・・・一度だけあるんだよ。私用というか、医者にかかるために街に行ったんだとかね」

メイド「・・・医者に・・・・・・?」

執事「ああ。それも半年以上帰ってこなかった。あまり体調が悪そうにはしていなかった気がするけどね」

メイド「・・・・・・・・・」

執事「それから、帰ってきたのは良いんだが・・・帰ってきた時の方が体調が悪そうに、私は見えた」

執事「いくら体調が悪くてもそれを周りには気付かせない、我慢強く、芯の強い性格だったはずなんだけどね」

執事「私がいつも気にかけて、言葉をかけていたよ。次第に前のような状態に戻っていってくれたね」

執事「それで、その当時生まれた長女お嬢様の乳母として新たに仕事が増えることになった」

執事「帰ってきた時とは別人と思うくらい、楽しそうにしていたよ。子供が好きなんだろうね」

メイド「・・・でも・・・結婚はやっぱりしなかった」

執事「・・・みたいだね」

メイド「・・・・・・今でも・・・好きですか?」

執事「・・・そうだね」

メイド「・・・ふふ、一途で素敵ですね」

執事「はは、未練がましいだけさ・・・・・・」

メイド「そんなことないです。わたしは、そんな男性とお付き合いがしたいです」

執事「そうか・・・メイドさんなら大丈夫だ。きっと良い男に恵まれる。夫に尽くせる、良い奥さんになれるよ」

メイド「ふふ、ありがとうございますっ」

執事「・・・さて、坊ちゃんも気になるし、私はそろそろお暇させてもらうけど・・・大丈夫かい?」

メイド「あっ、大丈夫です。すみません、貴重なお時間を」

執事「大丈夫だよ。むしろ、メイドさんと話せて良かったよ。またね」

メイド「はいっ」

メイド(執事さんがチーフさんに想いを寄せていたのは事実・・・)

メイド(それもかなり長くだ・・・そして、ちょっとやそっとの気持ちではないくらい)

メイド(・・・そんな人を、例えどんな理由でも・・・手にかけることなんて)

メイド(・・・・・・・・・)

メイド(・・・まだ、なんともいえない)

メイド(でも、調べれば調べるほど、チーフさんを憎むような人なんて・・・)

メイド(・・・そういえばこの事件、突発的だったのか、計画的だったのか)

メイド(・・・分からないけれど、いずれにしても、動機と・・・あときっかけもあるはずだ)

メイド(・・・・・・何かあったはずなんだ。決定的な・・・何かが)

支援・読んでくれる人に感謝

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

先輩「・・・あっ、メイド、どこ行ってたの?」

メイド「あ・・・その、執事さんとちょっと」

先輩「ふーん?」

色白「・・・執事さん良かったですよね、疑いが晴れて」

先輩「・・・確かに」

メイド「そうですね・・・とてもじゃないですが、執事さんがやったとは」

先輩「うんうん・・・そばかすもそう思うよね」

そばかす「はい・・・」

色白「・・・もうっ、いつまでしょげてるの、あんたらしくない」

そばかす「でもっ・・・」

先輩「そばかすの気持ちも分かるけどね、元気出した方が良いよ。もう怖がる必要なんてないんだから」

色白「先輩さんの言う通り、元気だけがそばかすの取り柄なんだから」

先輩「それはちょっとひどいって」

そばかす「・・・・・・・・・」

色白「・・・そばかす? ご、ごめん、さっきのはあれだよ。冗談みたいなもので・・・」

そばかす「・・・ううん。二人の言う通りだよ。・・・ありがとう」

先輩「がんばれ。助けが来るのももうすぐだから。それに、犯人はもういないし。ねっ、メイド」

メイド「・・・・・・」

色白「・・・メイド?」

メイド「・・・あ・・・ごめんなさい。そうですね、もうちょっとです」

そばかす「うん・・・本当にありがとう」

色白「いつものそばかすがもっと明るくて元気だよ。ほらほら、なんか面白い話してよ」

そばかす「えっ、う、うん」

先輩「さっきはあんなこと言ったけど、無理はしなくて良いからね」

そばかす「だ、大丈夫ですよ! そっ、そういえばっ」

先輩・色白「「・・・・・・??」」

そばかす「最近、幽霊見なくなったよねっ」

先輩「・・・え?」

色白「・・・・・・」

メイド「・・・・・・幽霊」

色白「・・・面白い話って言ったでしょ。というか、このタイミングで幽霊の話する?」

先輩「ま・・・まあまあ。幽霊ね。たしかに見たっていう話聞かないね」

色白「・・・皆部屋から外に出ないからでは? 特に消灯後に」

先輩「最近はあんな感じだったからねぇ・・・」

そばかす「でも、ちょっと変、っていうか。前は頻繁に見たっていう話聞いたのに」

先輩「だいたいいつ見ることが多いんだっけ?」

色白「夜明け前とか、日付変わる前後辺りとか・・・」

そばかす「うんうん、特に夜明け前とかに見るかも」

メイド「・・・皆さん、そんなに幽霊を見てるんですか・・・?」

先輩「うん。ここの人なら、みーんな見てるんじゃないかな?」

色白「だと思いますよ」

そばかす「まぁ、見なくなったのなら良いことだけど」

先輩「ふふ、違いないわね。幽霊なんて、なるべく見たくないわ」

そばかす「・・・うっ、色白ちゃんお手洗いついてきてくれる?」

色白「良いよ。ちょうど私も行こうかなって思ってた」

そばかす「ありがとう、行こうっ」

先輩「行ってらっしゃい」


メイド「・・・・・・」

先輩「さーて、何しっよかな」

メイド「・・・先輩さん、ちょっと付き合ってくれないでしょうか」

先輩「うん? 良いけど、何に?」

メイド「地下倉庫についてきて欲しいんです」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

メイド「・・・ありがとうございます。少しだけ、お借りします」

長男「・・・何を見たいのかは分からないけど、あそこは死者が眠る場所だ。いちいち言わなくても分かるだろうけど、騒ぎ立てないように」

メイド「はい、分かりました」

長男「要件が終わったら、忘れずに返してくれよ。では」

メイド「はい、ありがとうございます」

メイド「・・・行きましょう、先輩さん」

先輩「う、うん」


長男「・・・・・・」

執事「・・・・・・坊ちゃん?」

長男「・・・なんでもないよ。やっぱり、気になるよな・・・」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

先輩「・・・ねぇ、要件ってこんなところに何の用よ?」

メイド「大丈夫です・・・怪しいことするわけじゃありません。すぐに終わります」

先輩「・・・あんたを信じるけどさぁ」

メイド「・・・ありがとうございます。開けます」

 ギィ・・・

メイド「・・・・・・」

メイド(・・・まずは)


メイド「・・・・・・」

先輩「・・・チーフさん」

メイド(・・・亡くなられても・・・相変わらずお美しいんですね)

メイド(少しだけ、失礼します)

メイド「・・・・・・」

先輩「チーフさんの遺体が・・・どうしたの?」

メイド「・・・やっぱり・・・」

先輩「な、何がやっぱりなの?」

メイド「・・・いえ」

メイド(・・・やっぱり・・・この二つのネックレス・・・全く同じものだ)

メイド(なぜ、全く同じものが・・・同じ。いや、お揃い・・・?)

メイド(とにかく、チーフさんの他にこのネックレスをしていた人がいたということだ)

メイド(・・・あれ・・・チーフさんの方は、何か彫られている)

メイド(これは・・・・・・" C "か)

メイド(・・・壊れている方は・・・・・・?)

メイド(・・・え・・・・・・)

メイド(・・・・・・・・・こっちも・・・・・・" C "だ)

メイド(一つを除いて全く同じ・・・違うのは、壊れているか壊れていないか)

メイド「先輩さん、このネックレス・・・チーフさん以外で誰かつけていた人知りませんか?」

先輩「え? ・・・いやぁ、分かんないな。チーフさんしかつけてなかったと思うけど」

メイド「・・・そうですか」

先輩「ね、ねぇ、ここに何しに来たの?」

メイド「・・・・・・すみません、もうちょっとだけ付き合ってください」

先輩「・・・良いけど」

メイド(・・・次は・・・)


先輩「姉御の遺体・・・」

メイド(体中が傷だらけだ・・・おそらく階段の手前でこけて・・・体中を強打し続けた)

メイド(なぜ、こけたのか。急いでいたから? 焦っていたから? ・・・違う)

メイド(・・・仕組まれたんだ。何らかの方法を使って)

メイド(あんまり・・・触りたくはないけど)

先輩「・・・・・・よくやるわねぇ」

メイド「・・・好きでやってるわけじゃないです」

先輩「・・・・・・」

メイド(・・・これは・・・)

メイド(足に・・・細長いような跡が)

メイド(・・・そうか・・・紐か何かにつまづいたんだ。そして、それはあらかじめ用意されていた)

メイド(もう・・・仕掛けは回収されているだろうけど・・・)

メイド(あんな騒ぎもあったし、どさくさに紛れて回収するのはそれほど難しいことじゃない・・・)

メイド(やはり、姉御さんは事故じゃない、殺されたんだ)

メイド(殺害方法は分かった。でも・・・どうやって、ここに誘導するか、だ)

メイド(あの時は誰かが姉御さんに教えるような時間なんてなかった。いや、ただ一人を除いて)

メイド(そばかすさんなら・・・誘導できる。でも、その前に人質に選ばれなければいけない)

メイド(しかも、人質の言うことをわざわざ聞く耳を立てる必要はない)

先輩「・・・メイド? 大丈夫?」

メイド「あ、すみません。大丈夫です。・・・もう出ましょうか。わたしとしても、ここに長居はしたくありません」

先輩「私だってそうよ・・・」

メイド「ふふ、そうですね。では、出ましょ・・・」

先輩「メイドは誰を疑ってるの?」

メイド「え・・・?」

先輩「・・・犯人は、姉御。それで、良いじゃない。なんで、なんで?」

メイド「・・・・・・えっと・・・」

先輩「・・・ごめん。こんなこと急に言ったって・・・混乱するよね」

メイド「・・・・・・・・・」

先輩「前から思ってた。メイド、ずっと犯人を捜してる」

メイド「・・・・・・・・・」

先輩「でも、もう大丈夫だよ。犯人は・・・姉御だったんだから。もう誰も死なないよ」

メイド「・・・そう、だと良いんですが」

先輩「きっとそうだよ。ようやく安心できる。私も、メイドも、殺される理由なんてないもの」

メイド「・・・はい・・・」

先輩「・・・私ってわがままなのかな。勝手にそう思い込んで、明日朝起きたら、また誰かが死んでたら・・・それで」

メイド「・・・・・・・・・」

先輩「・・・なんか、もう、うまくしゃべれないや」

メイド「・・・疲れてるんですよ。みんなそうです。もうちょっと、もうちょっとだけ、頑張りましょう」

先輩「・・・うん。そうだね・・・うん」

メイド「・・・戻りましょう。こんなところに付き合わせてしまって、すみませんでした」

先輩「ううん・・・大丈夫。戻ろうか」

メイド「はい」


メイド(・・・間違いない。真犯人は別にいる。そしてこれは・・・無差別殺人じゃない。何かの規則性・・・)

メイド(殺された人たちは・・・間違いなく理由がある。それは・・・きっと同じものだ)

支援・読んでくれるに感謝
今月中に終わるのかすら怪しくなってきた
あんまり長くなり過ぎないようにしているけど
省いちゃいけないものを省くわけにもいかないので・・・
終わりが近いのは確か

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

メイド「・・・ありがとうございました。お返しします」

長男「・・・ご苦労様。・・・何をしていたのか気になるけど、不問にしておくよ」

メイド「・・・すみません。変なお願いをしてしまって」

長男「勘違いさせてしまったかもしれないけど・・・悪く言った覚えはないよ。気にしないで欲しい」

先輩「・・・なかなか人がやらないようなことをしますからねー、この子は」

メイド「あはは・・・」

執事「それは中々良いこと私は思うよ。もちろん、場合にもよるけれどね」

長男「・・・そうだね」

先輩「・・・ところで応援はいつ来るんでしょうか」

長男「・・・もう来ると思うけど」

執事「確かに、少し遅いようには思いますね・・・まあこんな人里離れた山中ではしょうがありませんが・・・」

長男「まったく、不便なところにこんな豪邸を建てたものだね。不便を通り越して悪趣味だ」

執事「ま、まあ・・・もう明日か明後日の朝には来てくれるはずだ。もう少しの辛抱だね」

先輩「・・・はーい」

メイド「・・・あの・・・」

長男「うん?」

メイド「・・・亡くなった方のお葬式、どうするんでしょうか」

長男「・・・面倒、と言ったら亡くなった人に申し訳ないけど・・・まあ、ちゃんと火葬はしてあげないとね」

長男「・・・もちろん、ここじゃあできないし、遺族の元に返してあげなければ」

メイド「・・・そうですよね」

執事「全員の実家の場所は分かります。少し時間はかかりますが」

長男「うん・・・最後の最後まできちんとしなければね。ただ、遺族になんと説明すれば良いのか困るところだ」

先輩「うーん・・・確かに」

メイド「やっぱり長男さんはしっかりされてて、御立派ですね」

長男「一家の長男、後継ぎとしては当然のことだ。次女姉さんなら『その辺に埋めればいい』とか言いかねない。とてもじゃないが、任せられないよ」

執事「それでも坊ちゃんは御立派です。坊ちゃんに仕えて私は幸せですよ」

長男「・・・恥ずかしいな・・・やめてくれよ」

メイド「・・・あ・・・そういえば、チーフさんはどうされるんですか? 御家族って、いらっしゃないんですよね?」

長男「・・・チーフさんか。僕は・・・聞いたことがないな。執事、どうなんだ?」

執事「・・・私も存じていません。遠い田舎町の出身とはありますが・・・詳しい事は何も」

先輩「チーフさんの家族の話って、不思議なくらい何も聞きませんよね・・・」

メイド「家族、というか、人間関係の話を全く聞いたことがないのでは・・・?」

長男「・・・ふむ・・・」

執事「・・・人間関係、か・・・」

メイド「今出ていたご家族のこと・・・恋人のこと。このお屋敷にいる人以外の話を・・・全く知らないのでは」

先輩「・・・メイドの言う通りだね。けっこう親しくさせてもらったけど・・・」

長男「・・・困ったね。チーフさんの遺体か・・・どうしようか」

執事「・・・私が何か手を考えておきます」

長男「うん・・・頼むよ」

先輩「・・・色々知ってたつもりなんですけれど、こう考えてみると、何も知らないのかもしれないです・・・」

執事「本当にそうかもしれないね・・・美人薄命とはこの通りだな・・・」

長男「僕は父さんに誘われてパーティに色々参加したけど、チーフさんより上を行くような女性は見たことがないな」

先輩「・・・やっぱり、チーフさんって色々すごいんですねぇ・・・」

長男「うん。容姿はもちろん、性格も。ああいう女性に妻になってもらいたいよ」

先輩「結婚もすれば良かったのに。子供好きみたいだし」

長男「・・・結婚で思い出したけど、こんな状況になってしまった以上、長女姉さんの縁談は破綻になりそうだな」

メイド「・・・??」

先輩「・・・どういうことですか?」

長男「長女姉さんに縁談相手がいるのは知っているだろう。最近はチーフさんが長女姉さんの結婚相手を探していたんだ」

執事「探すというより、相手からの一方的なアプローチでしたが・・・」

長男「・・・そうかもね。長女姉さんは誰に似たのか、素晴らしい美貌の持ち主だし、長女姉さんと結婚したいっていう相手はたくさんいたんだよね」

執事「パーティに参加したときは、それはもうすごかったですね」

先輩「それはそうでしょうねぇ・・・」

長男「それで、相手からの誘いは全て断ったらしい。らしいけど・・・今の相手は、なんかそういう流れになったな」

先輩「でも、さっきは相当嫌そうな顔をしていましたけど・・・」

長男「その通り。ハッキリと口で『嫌だ』とは言わないけど、長女姉さんは今の人とは間違いなく結婚したくないはずだよ」

執事「・・・でも、かなり話が進んでいるとか」

長男「・・・そうみたいだね」

先輩「・・・そんなに嫌がるって、相手の人っていったい」

長男「この国では、五本の指に入るほどの大富豪の跡取り息子だ。ただ、まあ、親子共々あまり良くない噂も多いから敬遠している御令嬢は多い」

先輩「・・・あんまり聞きたくないですね・・・」

長男「・・・僕も口では言いたくない。だから、長女姉さんは嫌がってるんだろう。でも、さっきも言った通り、縁談の話はかなり進んでいる、らしい」

先輩「それに積極的チーフさんが絡んでて・・・破綻になりそう、ってことですか」

長男「・・・そういうことだね」

メイド「・・・なんで・・・チーフさんは縁談の話を進めてしまったんでしょうか」

長男「・・・それは分からない。チーフさんは知っていたはずなんだ。長女姉さんが嫌がっている様子くらいね・・・」

執事「・・・・・・・・・」

先輩「それくらい聡い女性ですもんね・・・チーフさんって」

長男「いくら婚期が迫っているとはいえ、結婚は急ぐものではないよ。生涯の伴侶になるんだから、きちんと見定めたいね」

先輩「そうですよねぇ・・・自分が結婚できなかったから、長女お嬢様にはして欲しかったのかな」

長男「・・・それはあるかもしれないね」

執事「そういえば、亡くなる数日前に『私に何かあれば、長女お嬢様のことはお願いします』と言われました」

長男「・・・ふーん?」

執事「何かとは何だろう、と思いましたが、その時は深く考えませんでしたが・・・」

メイド「・・・・・・」

執事「こうなった以上は、私が責任を持って長女お嬢様が幸せな結婚ができるようにしなければ」

長男「・・・僕にも同じようなことを言われたよ。執事にも言われていたんだな・・・」

執事「ぼ、坊ちゃんもですか?」

長男「・・・まさか、その『何かが』こんなに早く、というか、そういう事態になってしまうなんて、ね・・・」

メイド「もしかしたら、他の人も言われていたかもしれませんね・・・」

執事「・・・かもしれないね」

先輩「うーん・・・私は聞かなかったなぁ・・・そんな話」

長男「・・・まあ、こんな事件があったし、さすがに向こうもどう言ってくるか分からないな・・・どのみち、今の人は断らせてもうらけどね」

執事「・・・そうですね」

先輩「ぜーったい、もっと良い人いますって! 幸せになって欲しいです・・・切実に」

メイド「・・・わたしもそう思います・・・」

先輩「メイドもそう思うよねー」

執事「・・・善処するよ」

長男「・・・さてさて、こんな話で君たちを引き留めてしまったな。そろそろ夕飯の準備はしないといけないんじゃないかな」

先輩「・・・あっ、本当ですね。メイド、行こう」

メイド「はい。分かりました」

執事「今晩の食事も楽しみにしているよ」

メイド・先輩「「ありがとうございますっ」」

支援・読んでくれる人に感謝
期間が空いた割にあまり更新できずに申し訳ない

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

次女「あー、食べた食べた。あとはもう寝るだけっと」

長男「食べてすぐ寝たら太るよ」

次女「うるっさいなー、良いでしょ私の勝手。ようやく事件は解決して、自分の部屋でゆっくり寝られるようになったし」

長男「・・・はいはい、好きにしたら。まったく、一つ言えば倍以上で返してくるんだから」

先輩「私たちも、お皿洗いして、ちょっとゆっくりしたら寝ましょう」

色白「そうですねー・・・今日もいろいろあって疲れました」

そばかす「そうしましょうっ」

長女「・・・長男、お手洗いに行ってくるわ」

長男「ん、分かった」

メイド「・・・あの、長女お嬢様っ」

長女「・・・なに?」

メイド「わたしも・・・ご一緒させてもらっても良いですか?」

長女「・・・大丈夫かしら?」

メイド「・・・はい。すみません、なんだか待ってもらう形になってしまって」

長女「気にしていないわ。女の子は時間かかるもの」

メイド「・・・ありがとうございます」

長女「さぁ、戻りましょうか」

メイド「・・・あっ、あのっ」

長女「・・・なにかしら」

メイド「・・・・・・・・・」

メイド「長女お嬢様は・・・姉御さんがこれまでの犯人だと思いますか」

長女「・・・・・・・・・」

メイド「・・・どう、お考えですか?」

長女「・・・不自然なところはあるわ。でも、決定的な証拠も出てきた。私としては、疑わない理由がないわ」

メイド「・・・・・・なるほど」

長女「・・・メイドさんは納得いかないようね」

メイド「はい。だって・・・おかしいと思うんです。なぜ、チーフさんを始め、六人もの人を殺さなければならなかったのか」

メイド「理由がまったく分かりません。御主人様と奥様、それから、長髪さんはまだ分かります。金品の強奪のために殺害した・・・」

メイド「この三人は分かります。でも、最初の三人は」

長女「殺害理由ね・・・そんなのもう、死んでしまった姉御さんしか分からないことじゃないかしら。いくら考えても不毛な気がするわ」

メイド「そ・・・れは・・・」

メイド「でっ、でも・・・では、なぜ姉御さんは夫妻を殺害した時にここを脱出しなかったんでしょうか」

メイド「わざわざ朝まで待って、遺体を発見させて・・・真昼間にあんな堂々と抜け出す必要は・・・」

長女「そこも、彼女なりの考えがあったかもしれないわ。ああだからこうと、決めつけてしまうと、狭い視野しか見ることができない」

長女「少し前にも言ったけれど・・・この世の中には、いろんな考えの人間がいるわ」

メイド「・・・・・・・・・」

長女「・・・もはや死人に口なし。これ以上追及したところで、何もないのではないかしら」

長女「・・・メイドさんは他に真犯人がいると考えている・・・では、それが誰だか分かったのかしら?」

メイド「・・・・・・・・・」

長女「・・・分からないのでしょう? ついさっきも言ったけど、私としては彼女を疑わない理由がないわ。今のところね」

メイド「・・・はい・・・」

長女「他に何か重要なヒントが出てきたら、教えてちょうだい。その時は私も一緒に考えるわ」

メイド「・・・わかり・・・ました」

長女「・・・・・・ちょっときつい口調でいろいろ言ってしまったけど・・・メイドさんを責めているわけじゃないのよ」

長女「ケンカ別れみたいな感じで明日を迎えたくないから・・・・・・」

メイド「・・・どうして、わたしにここまで・・・?」

長女「・・・・・・あなたは・・・私の初めての友達だから」

メイド「えっ・・・?」

長女「・・・私はね・・・昔から次女みたいにお喋りなんて得意じゃないし、それほど好きじゃなかったの」

長女「ずーっと・・・勉強しているか、読書をするか・・・お花をいじったりするぐらいだったの」

長女「だからと言ってはなんだけど・・・友達なんて一人もいたことがなかったの」

メイド「・・・・・・」

長女「・・・でも、あなたと会えて・・・とても嬉しかった。お茶をしたり、趣味の話で盛り上がったり・・・楽しかった」

長女「ずうずうしいと思うかもしれないけど、勝手にあなたを友達だと思ってたのよね・・・・・・迷惑な話よね」

メイド「・・・そ、そんなこと、ないです。ずうずうしくなんかないです。わたしも嬉しかったです、長女お嬢様と会えて」

長女「・・・なら・・・良かった。ごめんなさいね、突然こんなこと・・・」

メイド「い、いえっ・・・そもそもわたしがあんな話をしなければ・・・」

長女「気になるのは当然のことよね・・・今まで私に意見を聞いてくれていたし」

長女「私も少し・・・強引に意見を押し通してしまったかもしれないわ」

長女「その点は・・・ごめんなさいね」

メイド「い、いえ・・・大丈夫です。長女お嬢様のおっしゃることも一理ありますから」

メイド「長女お嬢様のあらゆる目線で見た意見はとても参考になります」

長女「・・・優しいわね、メイドさんは」

メイド「え・・・?」

長女「誰に対しても、話す相手の顔を立てられる、あなたこそ私より親切だし賢い女性だと思うわ」

メイド「そんな・・・・・・長女お嬢様には負けます」

長女「そういう謙遜する気持ちも大切ね。あなた、良いお嫁さんになれると思うわ」

メイド「・・・それ、執事さんにも言われてしまいました」

長女「あら・・・そうなの。でも、本当よ」

メイド「・・・ありがとうございます」

長女「・・・メイドさんはこの後どうするのかしら?」

メイド「わたしは、もう寝てしまおうと思います」

長女「そうね・・・私も今日は疲れてしまったわ。早いけど寝ようと思う」

メイド「そうですね・・・それが良いと思います」

長女「えぇ・・・ではまた明日。おやすみなさい」

メイド「はい。おやすみなさい」


メイド「わたしも・・・早めに寝よう」

メイド「・・・そうだ・・・その前にあの部屋に行こう」


メイド(・・・ご主人様の部屋へ)

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

メイド「・・・・・・・・・」

メイド(鍵がかかっていないか心配だったけど、杞憂だった。開いていた・・・)

メイド(一人で来るのは少し怖いけど・・・でも、他に誘える人もいない)

メイド(隠し通路を一度・・・見ておきたい)

メイド(あ・・・でも、肝心の場所を知らない)

メイド(・・・・・・あまり長居はできない。手あたり次第探してみるしかない・・・)


メイド(ベッドの下・・・とか)

メイド(・・・違う)

メイド(・・・高そうなベッドなのに・・・・・・少しもったいないかも)

メイド(御主人様と奥様は・・・ほぼ同時に殺されたとみていい)

メイド(長男さんによれば、御主人様は全身を滅多刺し。奥様は心臓を一突きで)

メイド(奥様はともかく、御主人様は間違いなく怨恨目的としか・・・)

メイド(御主人様を恨んでいた人・・・・・・)

メイド(・・・分からない。基本的に紳士的で優しい方・・・だと思うけど)

メイド(・・・・・・でも・・・・・・)

メイド(なんとなく・・・・・・裏の顔が・・・あるような気がする)

メイド(執事さんがここを辞めたがっていたという話だけど、これが関係しているのでは)

メイド(・・・まだ憶測に過ぎない。まだ決定的なものがあるはず)

メイド(それにしても、他と比べて豪勢な部屋)

メイド(相当な資産家だったんだろう・・・)

メイド(長女お嬢様の相手の方は、ここよりきっと上をいくんだろう)

メイド(・・・・・・しかし、見つからない。別の部屋を探してみよう)

メイド(隠し通路と言われるくらいだから、それは普通に探しても見つからないだろうけど)

メイド(・・・あ、これは・・・」

メイド(・・・・・・金庫、か。鍵はかかっていないみたい)

メイド(姉御さんが金目のものはほとんど持ち出してしまったからだろう・・・何もないのに鍵をかけても、ね)

メイド(もっとも、あの時に、長男さんが見つけ出して保管していると思うけど)

メイド(・・・・・・・・・・・・)

メイド(・・・・・・あれ、まだ何かある。これは・・・?)

メイド(・・・何かのメモ?)

メイド(・・・・・・・・・)

メイド(・・・・・・なるほど)

メイド(・・・これは地下倉庫の隠し通路の設計図だ。おそらく完成予想図)

メイド(しかし・・・実際には途中のまま工事は終わってしまっている)

メイド(これを姉御さんの目に届くように仕掛ける。何も知らない姉御さんはそこで・・・・・・)

メイド(これが、姉御さん殺害の手段。多少強引だけど、これしか思いつかない)

メイド(あとは・・・隠し通路を探すのみ)

メイド(時間がない・・・早く)

メイド(どこだろう・・・)

メイド(聞いておけば良かった・・・)

メイド(・・・・・・いや、知らないかもしれないし、何より聞きにくい)

メイド(なんとか探し当てるしかない・・・)

メイド(・・・・・・・・・)

メイド(・・・厳しいな、やっぱり・・・)

メイド(・・・・・・あ、暖炉)

メイド(もうすぐお世話になる季節か・・・・・・)

メイド(・・・この暖炉、ほとんど使っていないのかな・・・焦げ付いた痕が見受けられない)

メイド(・・・・・・・・・)

メイド(・・・もしかしたら)

メイド(・・・!!)

メイド(・・・当たりだ・・・ここだったのか)

メイド(早速中を通って・・・・・・)



メイド(・・・ほ、埃がすごい・・・)

メイド(真っ暗だし・・・)

メイド(あれ? この白いのなんだろう・・・・・・あ)

メイド「きゃ、きゃあっ」


メイド(・・・・・・蜘蛛の巣だ・・・いっぱい・・・。おうち壊してごめんなさい)

メイド(・・・・・・・・・蜘蛛の巣がいっぱい。しかも埃まみれ・・・)

メイド(・・・・・・)キョロキョロ

メイド(・・・そうか、なるほど・・・)

メイド(この隠し通路・・・当分使われていない・・・最近通った形跡がない)

メイド(犯人はこの隠し通路は通っていない、ということになる・・・)

メイド(どういうことだろう・・・)

メイド(そもそもあの夜は・・・元々持っていた執事さんは自室で軟禁されていた)

メイド(そして、マスターキーは御主人様が預かっていた)

メイド(御主人様の部屋が完全に施錠されていれば、部屋に侵入することはまず不可能)

メイド(・・・やっぱり、姉御さんが針金を使ってこじ開けた、ということ・・・?)

メイド(・・・それとも、他にも隠し通路があるのか・・・・・・?)

メイド(・・・・・・・・・)

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

メイド(・・・・・・・・・)

メイド(・・・結局、あの後もう少し部屋を調べたけど・・・)

メイド(他に隠し通路らしきものはなかった・・・)

メイド(・・・・・・はぁ、もう帰って寝よう)

「あれぇ?」

メイド「 !? 」ビクッ

次女「ぷぷっ、面白い反応するねメイドちゃんって」

メイド「じ、次女お嬢様でしたか・・・」

次女「どうしたのこんなとこに何か用?」

メイド「あ、あの・・・長女お嬢様に挨拶を」

次女「ふーん。律儀だなぁ、メイドちゃんって」

メイド「いえ・・・」

メイド「次女お嬢様は何を?」

次女「んー? 特に何も」

メイド「・・・そ、そうですか。早くおやすみになられた方が」

次女「・・・メイドちゃんもそれ言うのかー」

メイド「・・・?」

次女「早く寝ろだの、勉強しろだの、おしとやかにしろって、うっとうしいんだよねー正直」

メイド「・・・えっと・・・」

次女「・・・チーフさんのこと。小うるさいのいなくなって清々したと思ったのに」

次女「最近は長男も色々言ってくるし、私の方が年上なのにね。二人とも、そういうところだけ似なくて良いよ」

メイド「・・・・・・・・・」

次女「・・・おっと、ちょっと言い過ぎたかも。ごめんごめん。でもさ、何しようが私の自由じゃない?」

メイド「・・・・・・はい」

次女「ねー。というわけで私は寝ません。見たかった雑誌たくさんあるの。それじゃあ」

メイド「・・・は、はい・・・おやすみなさい」

次女「ばいばーい」


メイド「・・・はぁ」

メイド(思わず溜息が・・・ものすごい言われようだった)

メイド(・・・制限された生活の中で、お互い疲れてたんだ・・・・・・早く寝よう)

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

メイド「・・・・・・あれっ」

色白「・・・ん? メイド、おかえり」

メイド「た、ただいま・・・? あ、あの、色白さんお一人ですか?」

色白「うん。先輩さんとそばかすはお手洗い。トイレ近すぎ」

メイド「あぁ・・・そうでしたか」

色白「喉乾きやすくて、ついつい飲み過ぎちゃうみたい。それで、一人は怖いから誰かついてきてーって」

メイド「そばかすさんらしいですね・・・」

色白「でしょ。まったく、いっつもこうなんだから・・・」

メイド(・・・そういえば今まで聞くに聞けなかった・・・)

メイド(・・・今なら・・・聞ける。今しかない)

メイド「あの、色白さん」

色白「うん?」

メイド「・・・・・・チーフさんの死のことなんですけど・・・」

色白「!! ・・・・・・」

メイド「・・・本当は何か、知っていませんか?」

色白「・・・・・・・・・」

メイド「・・・・・・色白さん」

色白「・・・・・・こっち来て」

メイド「・・・えっ」

 バタン

メイド「あ、あ、あの・・・色白さん」

色白「・・・聞きたいんでしょ?」

メイド「・・・知っているんですか?」

色白「・・・そう思ってくれていい」

メイド「・・・・・・・・・」

色白「あまり人に聞かれたくないから・・・・・・メイドさんもこれから言うこと、軽い気持ちで他の人に言わないで」

メイド「・・・分かりました」

色白「・・・・・・チーフさんは・・・」





色白「・・・いじめられていたの」

メイド「えっ・・・・・・!!?」

色白「・・・・・・」

メイド「・・・本当、なんですか」

色白「・・・・・・そうでなけば、話さない」

メイド「・・・な・・・なんで・・・?」

色白「・・・チーフさんって、完璧すぎるから。そして、あまりにも・・・美しいから」

メイド「・・・・・・それを妬んでってこと、ですか?」

色白「・・・詳しいことは何も分からない」

色白「ただ・・・他の人にバレないように巧妙な、かつ悪質ないたずらだったの」

色白「私は・・・・・・それをたまたま目撃してしまった」

色白「最初は、ただの偶然のような不運も、だんだんとエスカレートしていき、悪質なものになっていった」

色白「チーフさんは、その人に何も言わなかった。言えなかった。絶対に気付いていたと思う」

色白「でも・・・とても・・・人が良い人だから。良すぎたから」

メイド「・・・・・・・・・その相手の方はもしかして」

色白「・・・お局さんと眼鏡さん」

メイド(・・・・・・やっぱり)

色白「あの二人は徒党を組んで・・・チーフさんを」

色白「元々何か理由があったんだろうけど・・・でも、そんなのどうでもいい」

色白「私は知っていたのに・・・・・・あの二人を止めなかったし、チーフさんの死も止められなかった」

色白「・・・私がチーフさんを殺してしまったようなもんなんだよ・・・!」

メイド「それは、違います! 色白さんは何も悪くは・・・」

色白「・・・ありがとう。でも・・・私はものすごく後悔してる」

色白「私ね・・・・・・実は御主人様と同じくらいの資産家の娘だったの」

メイド「・・・・・・」

色白「でも・・・・ものすごく厳しい家庭で・・・とてもついていけなかった」

色白「そんな中・・・両親が勝手に婚約したの。会ったこともない人とね・・・」

メイド「・・・・・・それは、あんまりな話ですね」

色白「それで・・・家出した。・・・そして、そばかすに会ったの」

色白「私とは対照的な人生を送ってきた彼女だけど、不思議なことにすぐ仲良くなれた」

色白「・・・それから・・・・・・ここで働くことになった」

色白「お嬢様育ちだから、給仕や家事の仕事なんてさっぱりなの。でも、チーフさんが全部丁寧に教えてくれた」

色白「何回も逃げ出したくなったけど、チーフさんのおかげで今もここで働けている」

色白「私にとってチーフさんは、人生の恩人であり・・・母親であるわ。だから・・・・・・」

色白「・・・チーフさんはいじめたあの人たちと、殺した犯人は・・・・・・絶対に許さない」


メイド「・・・・・・・・・」

メイド「・・・色白さんの他に、このことを知っている人は?」

色白「・・・いないと思う。いたら・・・ほっておかないでしょ」

メイド「・・・そうでしょうね」

色白「私がお金持ちの家の出身だとか、さっきのことはチーフさんとそばかすしか知らないよ」

色白「・・・・・・今まで隠してて、ごめんね。とくにチーフさんのことは怖くて・・・言い出せなかった」

メイド「・・・大丈夫ですよ。色白さんの気持ち、とても分かりますから」

色白「そう言ってくれたら・・・嬉しいな」

メイド「ふふ・・・さぁ、先輩さんも色白さんももう戻っているかもしれません。部屋の外に出てみましょう?」

色白「そうね・・・うん」


メイド「・・・・・・・・・」

メイド(チーフさんが・・・いじめられていた・・・)

メイド(にわかに信じがたい・・・けど)

メイド(眼鏡さんが恐れ慄いていたのは、これだ。自分も加担していたから、殺されるかもしれないと思った・・・)

メイド(でも、犯人はよく分からなかった。いじめられていたチーフさんに殺されるのは分かる)

メイド(しかし、チーフさんはお局さんより先に死んでいる)

メイド(いったい誰が・・・どんな理由で、どんな方法で・・・・・・)

メイド(・・・・・・この一連の事件、ただの連続殺人ではない・・・・・・もっともっと、奥深い何がある)

>>408
× メイド(・・・・・・この一連の事件、ただの連続殺人ではない・・・・・・もっともっと、奥深い何がある)
○ メイド(・・・・・・この一連の事件、ただの連続殺人ではない・・・・・・もっともっと、奥深い何かがある)

支援・読んでくれる人に感謝
もうすぐ終わる終わる詐欺ばかりで申し訳ないが、かなり終盤まできてるのは確か

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

先輩「お待たせ―。あ、メイド帰ってたのね」

メイド「はい。もう、眠くなってきましたので」

そばかす「今日からはそれぞれの部屋か。ちょっと寂しいかも」

色白「確かにね」

先輩「さてさて、色白。鍵返してくれる?」

色白「あ、はい。えーっと・・・・・・あれ、どっちだったっけ」

先輩「私等の部屋の鍵、ほとんど一緒だもんね」

色白「そうなんですよー」

メイド(・・・・・・・・・)

メイド「・・・・・・あ・・・!」

先輩「・・・ん? どうかした?」

メイド「・・・あ、ごめんなさい。なんでもないです」

色白「・・・きっとこれです」

先輩「うん、そうっぽいみたいね」

そばかす「早く寝よー、疲れたし」

色白「はいはい」

先輩「おやすみー」

色白・そばかす「「おやすみなさい」」

メイド「・・・おやすみなさい」

 バタン

先輩「・・・さっ、私たちも寝よう。メイド、おやすみ」

メイド「はい、おやすみなさい」

先輩「・・・Zzz」

メイド「・・・・・・・・・」

色白『あ、はい。えーっと・・・・・・あれ、どっちだったっけ』
先輩『私等の部屋の鍵、ほとんど一緒だもんね』

メイド(・・・そうだ)

メイド(あの時の長髪さんの部屋にあった鍵は・・・)

メイド(長髪さんたちの部屋の鍵とは限らない)

メイド(わたしたちの部屋の鍵は遠目で見れば、ほぼ判別不可能だし、あの時は遺体のことに皆、目がいっていた)

メイド(確認もしていないし。・・・全ての部屋の鍵が同じ感じではないだろうけど、でも)

メイド(長髪さんを殺害後、長髪さんたちの部屋の鍵を自分で持つ。代わりに別の部屋の鍵を置いておく)

メイド(そして、部屋に鍵をかける・・・そして、部屋に入る時に皆で同時に入れば)

メイド(大胆だけど、あの時は犯人自らが持っていた可能性がある。いや、そうとしか思えない)

メイド(ありうる・・・これなら、密室だという錯覚を思わせることができる)

メイド(しかし、問題は・・・・・・どうやって、部屋に入ったか)

メイド(そういえば、色白さんは・・・)


色白『・・・チーフさんはいじめたあの人たちと、殺した犯人は・・・・・・絶対に許さない』


メイド(色白さんは・・・いじめた人たちとこの連続殺人の犯人は別々だと思っているのか)

メイド(・・・いや・・・普通に考えればそうだけど、こうとも考えられる)

メイド(お局さんと眼鏡さん以外に他にもいじめていた人が・・・?)

メイド(もしくは・・・陰に隠れている主犯がいる、かもしれない)

メイド(あるいは、両方・・・・・・)

メイド(犯人はその人か、それか・・・その人たち・・・か・・・?)

メイド(でも、誰かをいじめたりするような人なんて、今残っている人の中でそんな人なんて、いな・・・・・・・・・)

メイド(・・・・・・・・・・・・・・・)

メイド(・・・もう、明日にしよう・・・・・・今日は三人も殺された・・・)

メイド(もう・・・誰も殺されませんように)

 ―――――the 6days of the true

メイド「・・・うーん」

メイド「・・・・・・先輩さん、朝ですっ」

先輩「んっ・・・お、おはよう」

メイド「はい、おはようございます」

先輩「よく眠れたかも・・・メイドは?」

メイド「はい、わたしもです」

先輩「そっか。・・・よし、支度しよう」

メイド「はいっ」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

長男「・・・みんな揃ったかな」

先輩「・・・次女お嬢様がいないようですが」

長男「次女姉さんが寝坊するのはいつものことだよ」

メイド「よ、呼びに行ってきましょうか」

長男「・・・そうだね。まったく・・・・・・」

メイド「行ってきます」

長女「・・・私も行くわ」

メイド「え?」

長女「寝起きは機嫌が悪いから、あなただけじゃ不安なの。良いかしら?」

メイド「わ、分かりました。お願いします」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 コンコンッ

メイド「長女お嬢様? 起きていらっしゃいますか?」

 ・・・・・・

メイド「・・・まだ寝ていらっしゃるんでしょうか」

長女「だと思うわ。起こしましょう」

メイド「そうですね。マスターキーも借りてきましたし・・・」

長女「えぇ、開けてちょうだい」

メイド「はいっ」

 カチャカチャ

メイド(・・・あれ?)

長女「メイドさん、どうかした?」

メイド「・・・どうやら、最初から鍵はかかっていなかったようですね」

長女「まぁ・・・・・・いくらなんでも不用心ね」

メイド「はい・・・ま、まあ、そういうことなので。入りましょう」

長女「次女は、鍵をかけずに寝ることが多いのよ。そろそろ注意しないと」

メイド「そ、そうなんですか・・・。ふふ、でも、やっぱりお姉さんなんですね」

長女「・・・まあね。・・・さぁ、早く起こしましょう。みんな待っているわ」

 ガチャ・・・

メイド「次女お嬢様ーっ、朝です・・・・・・!?」

長女「・・・・・・・・・・・・」

メイド「・・・・・・・・・・・・」

長女「・・・・・・・・・・・・」

メイド「こ、これは・・・」

長女「・・・・・・そんな・・・」

メイド「次女お嬢様、大丈夫ですかっ!!?」

長女「・・・・・・・・・」

メイド「・・・・・・・・・」

メイド「・・・・・・ダメです・・・これはもう・・・・・・」

長女「・・・そう・・・」

メイド(次女お嬢様が・・・殺された)

メイド(びっくりした・・・なんといっても)

メイド(ドアの目の前で、息絶えていた・・・)

メイド(・・・昨日の姉御さんを事故死に見せかけたのは、この為か)

メイド(犯人は死んだと思わせて、安心させる為に・・・)

メイド(しかし・・・この状況、色々不自然だ)

長女「こんなところで・・・いったい誰が」

メイド「鍵はかかっていませんでした・・・正直なところ、今回は誰でも犯行が可能です」

長女「そのようね・・・」

メイド「ただ・・・本当は鍵はかかっていて、部屋を出る時はあえて、鍵をかけなかった可能性もあります」

長女「・・・確かにね。・・・それで、マスターキーは誰が?」

メイド「・・・長男さんです」

長女・メイド「「・・・・・・・・・」」

メイド「わたし、昨日寝る前に次女お嬢様に会っているんです。殺されたのはその後・・・」

長女「つまり、消灯後の犯行は間違いないわけね」

メイド「・・・そうなります」

長女「・・・・・・・・・」

メイド(それにしても・・・奇妙な死に方だ。どういう状況だったんだろう)

メイド(ドアに向かって倒れている・・・まるで助けを求めるように)

メイド(眼鏡さんもそうだった・・・けど、次女お嬢様は刃物で刺されている)

メイド(背中から心臓めがけて一突き・・・)

メイド(・・・・・・背中から・・・?)

メイド(背中から不意打ち・・・・・・? それにしては、かなり正確に心臓部に突き刺さっているようだ)

メイド(奥様もそうだったけど・・・じっくり見てやらなければ、無理だ。そして、相応の知識も)

メイド(この事が、意味することは・・・・・・)

メイド(・・・・・・・・・・・・)

長女「・・・メイドさん? 大丈夫かしら?」

メイド「・・・あっ、すみません。大丈夫です」

長女「なら、良いけれど。とりあえず・・・長男と執事さんを呼んでこないといけないわね」

メイド「・・・・・・そうですね。しかし、さすが長女お嬢様ですね」

長女「・・・何が?」

メイド「冷静に物事が判断できているな、と。わたしたち二人だけではどうしようもありませんから」

長女「・・・このくらい、なんでもないわ。・・・呼びに行きましょうか」

メイド「・・・御姉妹が亡くなって、その上こんな話をするのは無粋かもしれませんが・・・一つだけ聞かせてください」

長女「・・・・・・何かしら」

メイド「この次女お嬢様を殺害によって・・・姉御さんは犯人ではない、もしくは真犯人がいることになるはずです」

メイド「率直に聞きます。犯人に心当たりはありますか」

長女「・・・・・・・・・」

長女「・・・さっきも言ったけど、次女は鍵をかけずに寝てしまうのは、別にいつものこと。おかしいことはないわ」

長女「犯人が死んだことによる安心もあったと思うわ」

長女「でも、こうなった以上はメイドさんの言う通り、姉御さんより別に犯人がいることになるわ」

メイド「はい。誰だと思いますか」

長女「・・・分からないわ。長男と言いたいところだけど・・・実の弟を疑いたくはない」

長女「・・・・・・いいえ、誰も、疑いたくは、ないわ・・・・・・」

メイド「・・・わたしもです。でも・・・」

メイド「今、生き残っている中で、確実に犯人はいます。わたしは必ず・・・」

メイド「・・・見つけ出します」

長女「・・・そうね。必ず、見つけ出しましょう」

メイド「・・・はいっ」

支援・読んでくれる人に感謝
分からない人の為にヒントを言うなら
あまり難しく考えすぎないこと
内容は複雑そうにそうに思えて実は単純 たぶん

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

長男「・・・・・・・・・次女姉さんが・・・」

執事「・・・なんと・・・」

先輩「・・・お、おかしいよ・・・だって、犯人は・・・!」

長男「・・・姉御さんだと思っていた。でも・・・次女姉さんが殺された。別に犯人がいる、ということになる」

一同「「・・・・・・・・・」」

色白「・・・自殺では、ないんだよね・・・メイド」

メイド「明らかに殺されたと・・・思います。それに・・・自殺するような人では・・・」

長男「・・・それもそうだ」

執事「・・・とにかく、遺体を・・・運ばなければ」

長男「そうだね・・・執事、一緒に」

執事「はい・・・」

メイド「あ、あのっ」

長男「・・・なんだい?」

メイド「わたしも、お手伝いさせてもらっても・・・良いですか?」

長男「・・・・・・・・・」

執事「坊ちゃん? どうします・・・?」

長男「・・・別に断る理由もない。といっても、手伝ってもらうようなことは・・・ほとんどないよ。それでも良いなら」

メイド「はい。お願いします」

長男「決まりだね・・・僕ら三人は地下倉庫に行く。あとの人たちは・・・先に食事をしていてくれ」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

長男「・・・安らかに」

執事「・・・・・・・・・残念です」

長男「そうだね・・・・・・これで、犠牲者は何人だ・・・?」

メイド「・・・八人です」

長男「・・・多いな。もう半分以下になっているじゃないか・・・」

執事「いったい、犯人は何が目的なんだ・・・」

長男「分からないけど・・・普通の精神じゃない。こんなの、死神の所業だ」

執事「・・・なぜ、次女お嬢様が・・・」

長男「・・・正直なところ、次女姉さんを快く思わない人は多いだろう。かといって、殺してしまう程のものかと思うけれど」

メイド(・・・そう・・・次女お嬢様の殺害理由だ)

メイド(無差別ではなく・・・おそらく何らかの目的と理由があるはず)

メイド(・・・・・・・・・)

長男「しかし遅いな・・・まだ応援は来ないのか?」

執事「・・・遅いですね。もうとっくに来ていても遅くはないんですが」

長男「・・・場所が場所なだけにしょうがないか・・・」

メイド(今朝の遺体の状況・・・・・・)

メイド(・・・犯人は、焦っている?)

メイド(もう少し・・・調べてみよう)

メイド(背中に刃物で一撃、他に刺された箇所はなし)

メイド(おそらく・・・長女お嬢様の言う通り、鍵はかかっていなかった)

メイド(だから、部屋に入ること自体は容易)

メイド(しかし・・・消灯後という時間帯を考えると・・・)

メイド(・・・もしかしたら、鍵がかかっていたとしても・・・)

メイド(入れてくれるように頼めば良いだけだ)

メイド(・・・・・・だったら、なおさら深夜に部屋に入れてくれる人なんて限られてくる)

メイド(・・・・・・・・・)

メイド(・・・・・・・・・そうか)

メイド(長髪さんと夫妻の部屋に入ったやり方は・・・これだ)

メイド(鍵がかかっていようが、いまいが・・・堂々と部屋に入る許可を得れば良い話)

メイド(それには、まず・・・当人たちが信頼できる人物でなければいけない)

メイド(でも長髪さんは少し違うだろう。長髪さんはあの状況と時間帯で、他人を部屋に入れるとは思えない)

メイド(いや・・・そもそも、普通に考えて深夜に他人の部屋に訪問なんて、ありえない)

メイド(でもあの夜は、理由があって訪れた人がいた。つまり・・・・・・)

メイド(犯人は、自分以外の訪問者を予期していたか、そうでないかは分からない・・・けど、好都合だった)

メイド(おそらく・・・長髪さんと寝た人と殺害した人は・・・)

メイド(・・・全く別の人間の可能性が高い)

メイド(長髪さんの殺害理由は、おそらく・・・"相手"との関係のこと)

メイド(もしかしたら・・・最初は殺すつもりはなかったかもしれない)

メイド(・・・・・・・・・)

メイド(もう少し、調べてみよう・・・)


メイド(・・・・・・・・・)

メイド(そういえば、衣服の乱れがまったくない)

メイド(やはり、というか、もめたような形跡はない)

メイド(・・・きれいなネグリジェ・・・血で濡れて、もったいない)

メイド(・・・・・・あれ・・・これは・・・?)

メイド(血の痕でもない・・・模様でも・・・ない。これは・・・・・・)

メイド(・・・えっ・・・)

メイド(・・・・・・花粉・・・・・・?)

メイド(これは・・・・・・・・・・・・・・・)

長男「・・・メイドさん? 大丈夫かい?」

メイド「・・・・・・あっ、はい・・・大丈夫です」

執事「・・・顔色が悪いようだけど、大丈夫かい?」

メイド「だ、大丈夫です・・・ありがとうございます」

長男「・・・さて・・・そろそろ出ようか。あまり長居したい場所じゃない」

執事「そうですね・・・行きましょう」

長男「メイドさん、行こう」

メイド「あ、ちょ、ちょっと待ってください!」

長男「・・・どうしたんだい?」

メイド「・・・ほんの少しだけです」

メイド「・・・・・・・・・」

メイド(・・・チーフさん)

メイド(二つのネックレスと二つの" C "・・・・・・)

メイド(一つは何事もなく、もう一つは壊れている・・・)

メイド(これは、きっと・・・単に同じだけの代物ではない)

メイド(そして、もう一方は壊れて捨てられていた)

メイド(つまり・・・"一旦、持ち主の手から離れたということ"だ)

メイド(・・・・・・なるほど・・・)

メイド(これが、姉御さんの殺害理由か・・・)

メイド(・・・・・・・・・)

メイド(チーフさんは自室で首を吊られていた)

メイド(遺書の類はなし。あまりにも突然すぎる、謎の死を遂げた)

メイド(ここで最初からの最大の疑問)

メイド(犯人はなぜ、"自殺したように見せかけなければならなかったのか")

メイド(・・・・・・でも、答えは・・・もう簡単だ)

メイド(・・・・・・・・・)

メイド(あれ・・・・・・チーフさん、指輪・・・していたのか)

メイド(気付かなかった・・・)

メイド(あれ、この指輪・・・・・・)

メイド(・・・薬指にある)

メイド(・・・・・・なるほど)

長男「・・・メイドさん、もう良いかい?」

メイド「あ・・・はい。大丈夫です。すみません、引き留めてしまって」

長男「いや、構わないけど・・・・・・チーフさんに何か?」

メイド「・・・チーフさんは最後、どういう思いだったんだろう、って」

長男「・・・ふむ・・・」

執事「・・・無念だったろうに。なぜ・・・こんな目に・・・・・・」

メイド「・・・まったくです」

長男「・・・出ようか。二人とも、行くよ」

執事・メイド「「はいっ」」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

先輩「あっ・・・戻ってきた」

メイド「・・・はい」

長女「・・・ご苦労様。もう、ゆっくりしてねメイドさん」

メイド「・・・ありがとうございます」

執事「・・・坊ちゃん、これから・・・どうします・・・?」

長男「応援はまだこないけど、じきに来るだろう。・・・じっと待つしかないね」

執事「・・・ですね」

色白「・・・・・・」

そばかす「・・・・・・」

先輩「・・・どうしたの、なんか喋ってよ二人とも」

そばかす「・・・あ、はい・・・」

色白「・・・・・・・・・」

メイド(口には出さないけど・・・二人とも、怖くて仕方ないだろう)

メイド(・・・犯人は、間違いなく、今のこの部屋の中にいる七人の内の誰かだから・・・)

メイド(・・・いや、それはもう全員が・・・感じていることか)

メイド(・・・・・・でも・・・おそらく、これ以上の被害者は出ない)

メイド(殺された人たちには、ある共通点があるから・・・)

メイド(わたしの思い違いでなければ・・・だけど)

メイド(それにしても、まだ分からないのは・・・犯人はどうやって、皆の目を盗んで犯行に及んだか)

メイド(姉御さんを除けば、全員消灯後の深夜に殺されたのは、間違いない)

メイド(だからといって、誰も目撃者がいないのは・・・・・・どうなんだろう)

メイド(ここ最近は寝る時は完全に部屋を閉め切って寝ていたはずなんだ)

メイド(おまけに複数で一つの部屋で寝ていた)

メイド(部屋の出入りを誰も見ていないのだろうか・・・?)

メイド(・・・・・・・・・)

メイド(・・・そういえば、あの時・・・・・・)

メイド(・・・・・・皆が揃っているこの場では言えない)

先輩「・・・そばかす、色白、私たちでお皿洗いしよっか。まだしてないでしょ?」

色白「は・・・はい」

先輩「じゃあ、決まり。片づけてしまうわよ。そばかすもほらっ」

そばかす「はっはい」

執事「・・・坊ちゃん、どうされますか?」

長男「・・・じっと待つ以外、ないよ」

執事「・・・そうですね」

メイド「執事さん」

執事「・・・なんだい?」

メイド「・・・少しだけ、お話がしたいです。お時間良いですか?」

執事「・・・分かった。良いよ」

メイド「長男さん、長女お嬢様をよろしくお願いします」

長男「・・・? ああ、分かった」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

執事「・・・話とは、なんだい?」

メイド「・・・とりあえず、部屋に入りましょうか」

執事「あ、ああ。・・・え、この部屋」

メイド「はい・・・」

メイド「チーフさんの部屋です」


執事「・・・無念だった。本当に・・・」

メイド「ええ・・・まったくです」

執事「・・・あの人の死から全て始まった」

執事「なぜ・・・死ななければならなかったんだ・・・」

メイド「・・・・・・・・・」

執事「・・・他人から恨まれるような人ではなかった。とてもきれいな・・・人だったのに」

メイド「・・・はい・・・」

執事「・・・・・・もっと、私がしっかりしていれば・・・こんなことにならなかったはずなのに」

メイド「・・・・・・・・・」

執事「・・・すまない。少し、愚痴ってしまったね」

メイド「・・・いえ、大丈夫です」

執事「・・・ところで・・・話とはなんだろう」

メイド「・・・・・・少々、奇妙な質問をさせてもらいます」


メイド「"三日前の夜・・・いつもよりよく眠れませんでしたか?"」

執事「・・・三日前の夜・・・というと・・・」

メイド「翌日が、長髪さんの遺体が発見された日になります」

執事「・・・ああ。確かに、不思議なくらいよく眠れたかもしれないな」

執事「就寝前は最近の疲れが溜まっていたのか・・・かなり眠かったしね」

メイド(・・・・・・やはり)

執事「・・・それで・・・・・・?」

メイド「い、いえ、大丈夫です。分かりました」

執事「・・・良いのかい? これで・・・」

メイド「はい、ありがとうございます」

メイド「ついでにもう一つだけ聞かせてください」

執事「うん?」

メイド「チーフさんが亡くなる前日の夜・・・チーフさんと会ってますよね?」

執事「・・・ああ、会ったよ」

メイド「・・・おまけにプロポーズもしちゃいましたよね」

執事「・・・なんでもお見通しだな、メイドさんは・・・」

執事「ははっ、確かにその通りだよ」

メイド「ふふ、ただの勘です。実は、ほとんど毎晩寝る前は会っていたのではありませんか?」

執事「・・・その通りだよ」

メイド「・・・一途でとても素敵ですね」

執事「・・・そんなことない。まさか、あの翌日・・・こんなことに、なってしまうとは・・・」

メイド「・・・悲しいですね」

執事「・・・ああ・・・私はこの先・・・どう生きていけば良いのか」

メイド「お、大袈裟ですよっ」

執事「・・・そうだろうか・・・そうだろうなぁ・・・はは」

メイド「・・・変な質問に時間取らせてしまって、すみませんでした。もう大丈夫です」

執事「そうかい? じゃあ、皆の元に戻ろうか」

メイド「はいっ」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

長男「おっ、戻ってきたか」

執事「戻ってまいりました。坊ちゃん、何か飲み物を入れましょうか?」

長男「そうだな・・・紅茶を頼むよ」

執事「かしこまりました」

長女「執事さん、だったら、私にももらえるかしら?」

執事「分かりました。すぐに用意します」

先輩「・・・あんた、どこ行ってたの?」

メイド「・・・ちょっと」

先輩「ふーん」

メイド「・・・もうあとは応援を待つだけですね」

先輩「そうね。あー、早く来ないかな、そうすれば一安心」

そばかす「そうですよー・・・早く来てほしい」

色白「・・・もうすぐ・・・もうすぐ・・・頑張れ」

メイド「・・・・・・・・・」

メイド(・・・皆、あえて事件の話はしないでいる)

メイド(皆が皆・・・犯人だと疑いたくないんだ。わたしだって、そうだ。だけど・・・)

メイド(・・・・・・・・・)

メイド(・・・チーフさんは・・・結婚しなかったんじゃない)

メイド(・・・"できなかったんだ")

メイド(その理由は・・・・・・・・・)

メイド(・・・・・・・・・)

メイド(・・・分かってしまった)

メイド(バラバラにも思えた、一つ一つの事件。これらは全て一本の線で繋がっている)

メイド(分かった。全て分かった・・・この一連の事件の犯人。そして、動機)

メイド(全ての鍵は、チーフさん。あなただ)

メイド(犯人がついた優しい嘘、隠したかった辛い事実)

メイド(わたしが・・・真実を暴く)


メイド(犯人は、あなただ)

支援・読んでくれる人に感謝
ちょっと駆け足気味になってしまって申し訳ない
次回の更新で犯人が確定するので、まだ自分で推理したい人はこの先は読まないことを推奨
重要なヒントは割と最初から出ているので、分からない人は読み返せば気付くことも多いかも

偽物なんて現れないと思うけど、念の為にトリップ

>>454でも言っているけどもう一度忠告
まだ分からない・続きが見たくない人は引き返そう

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

先輩「・・・来ないねー」

そばかす「そうですね・・・」

色白「もう夜になっちゃいましたよ。もう明日になるんじゃ・・・」

長男「・・・そうだろうね」

先輩「こっちは大変なのに、すぐにでも来てほしい・・・」

長男「・・・向こうはこっちの詳しい事情などは知らないからね」

先輩「そ、そうなんですか。言ってなかったんですね・・・」

執事「・・・連続殺人が起きているようなところに来たがるような人、いると思うかい?」

先輩「・・・そうもそうですね」


メイド(・・・あれからもう夜。何も起こっていない)

メイド(もう・・・全てのことは終えてしまったんだろう)

長女「・・・食事も済ましてしまったわ。もう寝てしまえば良いんじゃないかしら?」

長男「・・・そう・・・だね・・・」

執事「・・・・・・眠れるだろうか・・・」

先輩「・・・まったく眠くないけど・・・しょうがないか。やることも・・・ないし」

そばかす「・・・色白ちゃん、寝よっか」

色白「・・・・・・うん・・・」

メイド(・・・今のこの時以外にはない。もう何も起こらないのだとしても・・・)

メイド(わたしは・・・伝えなければいけない。・・・真実を)

長男「・・・行こうか」



メイド「皆さん、お待ちください」

長男「・・・メイドさん?」

執事「なんだい・・・?」

先輩「ど、どうかした?」

そばかす「お手洗い? い、一緒に行こうか?」

色白「・・・私も一緒についていくよ」

長女「・・・・・・・・・」

メイド「ご就寝前に・・・どうか、少しだけ、わたしのお話に付き合って下さい」

先輩「・・・いったい何? めずらしい・・・別に良いけど」

長男「・・・・・・・・・・・・」

執事「・・・・・・え、えっと・・・」

長男「・・・良いよ。付き合おうじゃないか」

長女「・・・・・・そうね」

執事「・・・では、私も」

そばかす「・・・私も」

色白「・・・うん」

先輩「・・・皆、大丈夫みたいよ」

メイド「ありがとうございます」

メイド「今からわたしが話すことは・・・」


メイド「今までの一連の事件の個人的見解です」


長男「・・・・・・」

先輩「・・・えっと・・・それは・・・」

執事「・・・犯人が分かったという、ことかい?」

メイド「はい」

そばかす「・・・は、犯人なんて、この中にいないよ」

色白「・・・・・・・・・」

先輩「そ、そうよ・・・いるわけない、じゃない・・・」

メイド「・・・いいえ」

一同「「・・・・・・・・・」」

メイド「話させて下さい・・・いいえ、話さなくては、いけません」

メイド「わたしは・・・今まで個人的に、時には誰かに協力などしてもらって、この連続殺人事件を考察してきました」

メイド「その結果・・・早い話が、犯人を断定できました」

メイド「はっきり言って、過ぎた行為だというのは重々承知しています」

メイド「ですが・・・・・・とても、ほうっておけませんでした」

メイド「これから言うことは、わたしの個人的解釈なので、はっきりとした根拠がない部分もあります」

メイド「しかし・・・十分に考え抜いた結果で話している、ということを、理解してもらいたいです」


一同「「・・・・・・・・・」」


メイド「一番最初から順を追って、ゆっくりと説明していきます」

メイド「全ての始まりは・・・チーフさんの死からです。"悲劇"が起こります」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

メイド「一番初めにチーフさんの死から始まりました」

メイド「朝食時に、チーフさんだけが来ていなかったため・・・先輩さんとわたしが様子を見に行きました」

メイド「部屋の鍵が開いていたため・・・そのまま二人で部屋に入りました」

メイド「すると・・・チーフさんが首を吊って、亡くなっていました」

メイド「その場では自殺という考えが皆さんの考えだったと思いますが・・・」

メイド「翌日からの連続殺人を受けて、わたしを始め、事件に巻き込まれてしまった、ということになりました」

先輩「・・・なんで殺されたのか、分かったの?」

メイド「・・・・・・・・・」

メイド「チーフさんに関しては、また後で語らせて下さい」

先輩「・・・分かった」

メイド「その翌日です・・・お局さんが絞殺遺体で発見されました」

メイド「・・・"絶望"の始まりです」

メイド「眼鏡さんの証言では、就寝前にお手洗いの為に自室を出られたとのことでした」

メイド「確かに、遺体は自室近くの場所で見つかりました」

メイド「お局さんは、当時長男さんがおっしゃっていたように、本人が首にかけていたネックレスが凶器だと思います」

メイド「犯人が何らかの形で呼び出したのだと思います」

メイド「そして、隙を見て後ろから首を絞めます」

先輩「隙を見て・・・」

メイド「さっき呼び出したとは言いましたが、お局さんは誰が来るかは分からなかったのではないかと思います」

メイド「もしかすれば、行く前に○○と会ってくると言われてしまうおそれがあります・・・」

そばかす「そっか・・・言っちゃうと、翌日すぐにばれちゃう可能性もあるし」

メイド「そういうことです」

メイド「・・・遺体を発見した後、眼鏡さんが突然恐怖に煽られてしまいます」

先輩「殺されるーって言ってたもんね・・・」

メイド「はい、あの時の事です」

メイド「眼鏡さんは自室に飛び出していってしまい・・・部屋に閉じこもってしまいました」

メイド「食事にも一切手を付けず・・・です。それほどにまで部屋を出てこなかった理由は・・・」

メイド「・・・お局さんが殺された事と関係しています」

メイド「その翌日・・・朝食に出てこなかった為、眼鏡さんの様子を見に行きました」

メイド「その前の日に、彼女の部屋の前に夕食を色白さんが運んでくれていることは、覚えていると思います」

メイド「わたしが朝起きた時・・・おいてあったはずの食事が無くなっていることに気付きました」

メイド「わたしは、食べてくれたんだな、と思って安心していたんですが・・・」

メイド「・・・彼女の部屋を開けた時、眼鏡さんは亡くなっていました」

メイド「食事に毒が混ぜられており・・・それが原因です」

先輩「あの場には私もいた・・・助けを求めようとしたけど」

執事「・・・その前に力尽きてしまったんだね」

メイド「その通りです」

長男「鍵がかけられていたのは、それでも用心していたから、だね。でも、関係なかったわけだ・・・」

メイド「・・・はい。いつ亡くなったかまでは分かりませんが、消灯後の深夜なのは確かだと思います」

色白「さすがに深夜に自分の部屋の前で誰かががいるとは思わないものね・・・」

メイド「はい。その必要もありませんでした。隙を見て毒をいれるだけですから」

メイド「そして・・・次からが問題です」

長男「長髪さんの密室殺人か・・・・・・」

メイド「はい」

執事「・・・・・・・・・」

メイド「・・・当時は、執事さんが相当なまでに怪しまれました」

メイド「そう考えるのは・・・致し方ないことだと思います。現実的には執事さんしか不可能だった」

先輩「部屋は鍵がかかっていた。マスターキーを持っている執事さんにしか・・・できない」

メイド「普通に考えればそうですね。そうとしか考えられません」

長男「・・・・・・」

メイド「・・・しかし」

メイド「多すぎた"違和感"から・・・」

メイド「あの部屋は、本当は密室ではなかったとわたしは考えます」

そばかす「え・・・?」

長男「・・・どういうことだい。鍵がかかっていなかったと言いたいのかい? 僕が嘘をついたって?」

メイド「・・・いいえ。違います」

色白「じゃ、じゃあ・・・・・・どういうこと?」

メイド「わたしたちの部屋の鍵って、ほとんど一緒なのです。ましてや、遠目で見れば・・・どうだと思いますか?」

先輩「・・・同じに見える・・・というか、さっぱり分からない・・・かも」

メイド「・・・そうなんです。あの時は、犯人は大胆にも鍵を自分で隠し持っていたんです」

メイド「・・・あの時に長髪さんの部屋にあったのは、別の部屋の鍵だと思います」

メイド「今では証明はできませんが・・・その可能性は高いです」

長男「・・・そのやり方なら・・・執事ではなくてもできる。いや、全員できる・・・」

メイド「・・・そういうことになります」

先輩「・・・ま、待ってよ! じゃ、じゃあさ・・・長髪の・・・あれはどう説明するのよ・・・?」

メイド「・・・あれですね。あれは・・・確かめていないので証明できませんが、長男さんの言葉を信じれば」

メイド「・・・間違いなく、男性のものだと思います」

先輩「だ、だったら・・・男の人じゃないと・・・できない」

メイド「そうですね。単に寝るだけなら」
          """"""""""""""""
長男「・・・・・・・・・まさか」

執事「・・・・・・・・・」

色白・そばかす「「・・・・・・??」」

メイド「長男さんと・・・執事さんは察しがついたようですが・・・」

メイド「わたしは、長髪さんと寝た人と一連の事件の犯人は全く別の人間だと考えます」

先輩「えっ・・・!? えっと・・・・・・」

先輩「・・・・・・だ、れ・・・?」

メイド「その人は・・・ずばり、御主人様です」

長男・執事「「・・・・・・・・・」」

メイド「長髪さんの部屋から見つかった、例の大金・・・あれは"報酬"もしくは・・・単なる"おこづかい"ではないかと思います」

先輩「・・・報酬・・・? おこづかい・・・? なんのこと・・・?」

長男「・・・・・・長髪さんは父さんの愛人かなにかだったわけか」

メイド「・・・・・・はい」

先輩「・・・・・・・・・・・・奥様が、いるでしょ」

長男「・・・だからこそ、愛人なんだろう。執事は・・・よく知っているんじゃないか」

先輩「・・・えっ・・・?」

執事「・・・御主人様の女癖の悪さは今に始まったことではありません」

執事「街に行けば娼館に入りびたり、他にも大金を餌に何人か釣っていたのは、確かです」

執事「・・・私が、ここを離れたかった理由です」

一同「「・・・・・・・・・」」

メイド「・・・そういうこと、なのです」

メイド「よって・・・長髪さん殺害は誰にでも犯行が可能なのです」

先輩「・・・・・・・・・」

色白・そばかす「「・・・・・・・・・」」

メイド「・・・わたしの推測では、犯人は最初、御主人様と長髪さんの関係は知らなかったのだと思います」

メイド「そして、長髪さんを殺す気も・・・なかった」

メイド「あの夜はおそらく・・・"本来は夫妻を殺害する予定だった"と推測します」
               
メイド「しかし・・・夜な夜な部屋を出る御主人様の後をつけると・・・そこは長髪さんの部屋」

メイド「・・・・・・行為に及んでいる二人を見てしまったんだと思います」

メイド「詳しい理由までは分かりませんが・・・そこでまず長髪さんを殺害しようと考えます」

メイド「さすがに二対一では厳しいので、行為が終わるのを待った。終わって、御主人様が部屋を出た後に・・・」

メイド「・・・長髪さんの部屋に入ります。御主人様を装って。何も言わずにドアをノックすればいいだけのことです・・・」

メイド「・・・何か忘れ物か、用事があったのかと思わせ・・・開けてもらう。一気に襲い掛かり、息の根を止める」

メイド「衣服は乱れ、服装はそのまま。なにも知らなければ・・・強姦されたように見えるでしょう」


メイド「・・・これが、長髪さん殺害の真相だと思います」

一同「「・・・・・・・・・」」

メイド「・・・そして、部屋の鍵を使って、部屋を閉め切ります」

メイド「翌朝、みんなと同時に部屋に入る。隙を見て、鍵をすり替える・・・」

メイド「あの時は、皆さん遺体の方に目がいっていましたから。誰も鍵本体の確認なんてしていませんしね」

メイド「・・・これで、密室殺人にみせかけられます」

メイド「・・・それから、翌日・・・夫妻の遺体が発見されます」

メイド「わたしたちは遺体を見ていません。見たのは、長男さんと執事さんだけです」

メイド「ですが・・・そのことは特に問題ではありません」

メイド「夫妻の部屋も密室だったと考えられます」

メイド「・・・しかし・・・密室だったというのが、どう考えてもおかしすぎるのです」

メイド「様々な要素がごちゃごちゃになり、真実を隠した"混沌"の一日でした」

長男「・・・ふむ・・・なるほどね」

先輩「・・・??」

メイド「前日に・・・執事さんはマスターキーを没収の上、軟禁されているんです」

メイド「そのマスターキーを受け持ったのは・・・御主人様です」

長男「・・・鍵がかかっていれば、侵入するのは誰であっても不可能なわけだ」

メイド「・・・そういうことになります」

先輩「・・・じゃ、じゃあ・・・誰がやったって・・・いうの・・・?」

メイド「答えは実は簡単です」

メイド「部屋に入れてくれるように、許可をもらっただけです」

メイド「わざわざ・・・強引に侵入する必要はなかったんです」

執事「・・・しかし、そのためには・・・」

長男「ああ・・・時間帯と状況を考えて・・・入れてくれる人なんて」

メイド「・・・はい」

メイド「そんな人は、かなり限られてきます」

メイド「夫妻が信頼している人物・・・つまり」

メイド「"犯人だとは微塵も思っていない人物です"」
   
一同「「・・・・・・・・・」」

メイド「そうでなければ、部屋に入れたうえ、安心はできないでしょう」

先輩「安心・・・?」

メイド「奥様は心臓を一突きで殺害されています」

メイド「おまけに一度に二人も相手にするなんて、かなり厳しいでしょう」

メイド「そして心臓部を正確に狙う、その為には・・・」

メイド「相手が静止している状況・・・つまり、夫妻が寝ている時に狙ったのではないかと推測します」

そばかす「寝ている時、って・・・じゃ、じゃあ、お二人が寝る前に部屋に入って・・・」

色白「お二人が寝ても、自分もまだ部屋にいたまま、ってこと・・・?」

メイド「・・・そうですね」

先輩「ど、どういう状況よ・・・それって」

長男「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

執事「・・・坊ちゃん?」

長男「・・・・・・・・・」

長男「・・・なんでも、ない、よ」

執事「・・・・・・・・・??」

先輩「・・・どういうこと? 部屋に隠れてた、ってこと?」

メイド「その事も・・・また後で説明させてもらいます」

メイド「・・・わたしの推測では、先に奥様を殺害しています」

メイド「その次に、御主人様を殺害します」

メイド「御主人様は・・・全身を刃物で滅多刺しにされています」

メイド「これは・・・凄まじいほどの恨みを持った、怨恨目的だと思います」

メイド「その後です・・・」

メイド「犯人は、御主人様が預かっていたマスターキーを持ち出します」

メイド「そしてあることをします・・・」

先輩「あること・・・?」

メイド「長髪さんの部屋にあった大金・・・これを金庫の中に保管する、ことです」

執事「・・・そのまま持ち出さずに・・・保管するのかい?」

メイド「はい。これが、大事です」

メイド「犯人は大金が欲しかったわけではありません」

メイド「ある人物のために利用したのです」

メイド「それが、姉御さんです」

先輩「ここで・・・姉御が絡んでくるの」

メイド「はい・・・金庫の中にあったのは、大金の他に、宝石などの金品、貴重品がたくさん入っていたと思われます」

メイド「犯人が目をつけたのは・・・これらの財産ではありません」

メイド「地下倉庫にあった、隠し通路の設計図です」

執事「隠し通路の・・・設計図?」

長男「・・・これを姉御さんに見つけさせ、誘導したわけか」

メイド「・・・その通りです」

メイド「犯人は、おそらく姉御さんの盗み癖を知っており、それを利用しました」

メイド「これはただの勘ですが、持ち出したマスターキーを何らかの方法で姉御さんの手に渡るように仕組んだ」

メイド「そうして、夫妻の部屋に誘導します」

メイド「その前に、自分の部屋を他の部屋にも入ったかもしれませんね」

メイド「もちろん、一人では行動できないことになっていたので、途中で見つかった時の為に、そばかすさんを人質に利用します」

メイド「しかし、途中でそばかすさんを逃がしてしまいます。そこで、そばかすさんが慌てて、わたしたちの前に現れます」

色白「・・・そうだったんだ」

そばかす「・・・・・・・・・」

メイド「残念ながら、また捕まってしまいますが・・・」

メイド「・・・そして、地下倉庫に向かいます。夫妻の部屋で見つけた、大金その他金品を手に・・・」

メイド「設計図を頼りに、本当は未完成の隠し通路に足を運びます」

メイド「・・・その後は皆さんも知っての通り、姉御さんは亡くなっています」

メイド「しかし、それは、焦って階段を踏み外したわけではありません」

メイド「犯人がそうなるように仕掛けをしていたからです」

長男「仕掛け、か」

メイド「はい・・・おそらく、あの時の騒動の陰で回収したのだと思いますが」

長男「・・・だろうな」

先輩「で、でも、これ・・・姉御が犯人の思惑通り動くとは限らないじゃない・・・」

メイド「そのために、保険として、彼女の部屋のゴミ箱に、夫妻殺害と部屋に侵入したと思わせる重要証拠を・・・」

メイド「入れておくわけです」

メイド「そうすれば、強引だけど、皆が彼女が犯人だったと思わせることができる」

メイド「執事さんの時のように・・・・・・疑わないわけにはいかなくなるのではないでしょうか」

一同「「・・・・・・・・・」」

メイド「姉御さんを執事さんのように軟禁した後は、どうやって殺害するかまでは、さすが予想もつきませんが」

メイド「・・・そして、最後の犠牲者・・・次女お嬢様です」

メイド「夫妻と違って、次女お嬢様は部屋に鍵をかけていなかったのだと思います」

メイド「ですが、もはや鍵がかかっているかいないかは、どうでもいいことです」

メイド「犯人は最初から強引に侵入するつもりはありませんでした」

メイド「よく考えれば、危険な上にリスクも高すぎます」

メイド「・・・さて、ここまで説明していれば、次女お嬢様は夫妻と同じやり方で部屋に入ったことは分かると思います」

メイド「でも、次女お嬢様は寝ている時にやったわけではないです」

メイド「遺体が、ドアに頭を向けて発見されました」

メイド「次女お嬢様は、背中から心臓部目がけて刃物で刺されていました」

メイド「背中から刺したのに・・・次女お嬢様はドアに向かって倒れていました」

先輩「・・・な、何が・・・良いたいの?」

メイド「心臓部めがけて刺されているんです」

メイド「そこまで、長くはもっていないでしょう」

メイド「振り返って追いかける体力はないと思います」

メイド「ですが、次女お嬢様はまるで助けを求めるように、亡くなっていました」

メイド「犯人は、単に背中から刺したわけではないと思います」

メイド「わたしの予想では・・・"向かい合う状況から、背中に刺したんです"」
               
先輩「・・・えっ・・・」

そばかす「・・・それって・・・」

色白「すごい、密着しないと・・・・・・無理、だよね」

メイド「・・・はい」

長男「・・・つまり、抱き合うような形なんじゃない、かな」

執事「・・・抱き合う・・・?」

メイド「・・・そうですね」

メイド「だからこそ、心臓部をめがけて背中から正確に刺すことができた」

メイド「次女お嬢様が犯人ともめたような様子も見つかりませんでした」

メイド「つまり夫妻と同様に、犯人とは微塵も思わせない・・・おまけに犯人だと思わせている姉御さんは亡くなっています」

先輩「そ、そっか・・・」

メイド「そして・・・次女お嬢様のネグリジェから、あるものを見つけます」

メイド「・・・花粉です」

先輩「・・・花粉・・・?」

長男「・・・・・・・・・・・・・・・」

執事「・・・坊ちゃん?」

メイド「・・・こうして、わたしは"真実"にたどりつきました」

メイド「・・・これで一通り、殺害方法などの詳細は説明できたと思います」

先輩「・・・ま、待って・・・! チーフさんが・・・まだよ」

メイド「・・・そうでしたね」

メイド「でも、その前に・・・結局誰が犯人なのか・・・言ってしまいたいと思います」

先輩「えっ・・・・・・」

メイド「気付いている人もいるかもしれませんが・・・」

メイド「この一連の事件、誰でもできるようで、実はごくごく限られた人にしかできません」

メイド「犯人は・・・・・・・・・」









メイド「"長女お嬢様"、あなたですね」
    








長女「・・・・・・・・・・・・」

長男「・・・・・・・・・」

先輩「・・・冗談よね?」

色白・そばかす「「・・・・・・・・・」」

執事「・・・長女お嬢様が・・・?」

先輩「・・・な、なんで・・・長女お嬢様が・・・」

先輩「おかしいよ・・・」

メイド「・・・長女お嬢様の殺害動機は・・・母親の死による復讐です」

先輩「・・・意味わかんないよ、長女お嬢様が犯人なら、自分で殺したことになるでしょ」

メイド「・・・違うんですよ」

先輩「どういうこと? 奥様だけは別の人ってこと?」

メイド「・・・いいえ」

メイド「・・・母親の復讐・・・いえ」















メイド「"死に追い込まれた母親の復讐"です」

先輩「・・・死に、追い込まれた・・・?」

長男「・・・・・・そうか」

メイド「最初のチーフさんの話に戻ります」

メイド「・・・チーフさんは殺されたのではないんです」

メイド「見たままの通り・・・"本当に自殺だった"んです」
              
執事「そ、そんな・・・・・・」

先輩「死に追い込まれた、って・・・どうして・・・?」

メイド「・・・あまり信じられない話しだとは思いますが・・・」

メイド「チーフさんは実は、いじめられていました」

先輩「・・・うそよ」

長男「それで、か・・・・・・」

執事「・・・・・・そんな・・・」

メイド「・・・・・・・・・」

先輩「殺された人が、みんなチーフさんを・・・いじめてたって・・・?」

メイド「全員ではないと思います」

先輩「中心になっていたのは・・・お局さんと眼鏡さんです」

そばかす「あ、あの二人が・・・・・・」

メイド「色白さんから聞いたことですが・・・皆には分からないような陰湿なやり方のようでした」

長男「・・・まったく知らなかったな」

執事「・・・私もです」

メイド「チーフさんも、周りに打ち明けたことはなかったでしょう」

メイド「・・・そういう人でした」

メイド「しかし、長女お嬢様は知っていました」

メイド「・・・いや、知ってしまったんだと思います」

先輩「知ってしまった・・・?」

先輩「そ、そんなことより・・・チーフさんが長女お嬢様の本当の・・・お母さん、ってこと、よね」

メイド「・・・はい」

長男「・・・・・・どうりで、美人なわけだよ」

執事「・・・・・・・・・」

メイド「執事さん、思い出してみて下さい。若い頃のチーフさんを。おそらく、そっくりなはずなんです」

執事「・・・・・・ああ・・・・・・・・・そう、かもしれない」

色白「それで・・・チーフさんは自分から・・・」

そばかす「・・・長女お嬢様は許せなかったんだ。お母さんを苦しめた人たちが」

メイド「・・・簡単に言えば、そういうことです」

先輩「じゃ、じゃあ・・・父親は?」

メイド「執事さんの話では・・・チーフさんは私情で外出などはなかったと聞きました」

メイド「しかし・・・一回だけ医者にかかるために外出しています。それも・・・半年以上」

メイド「チーフさんがこちらに帰ってくるとほぼ同時に長女お嬢様誕生という話です」

メイド「・・・おそらく、この時に長女お嬢様を身籠っていました」

メイド「体調が悪いと言っていたのは、これが原因だと思います」

メイド「チーフさんには婚約者がいたということも、恋人がいたということも聞いたことがありませんでした」

メイド「・・・わたしの予想では・・・父親は御主人様だと思います」

先輩「・・・・・・・・・」

執事「しかし・・・当時はまだ奥様はまだこの屋敷に住んでなかったとはいえ、あの二人は結婚していたはずだ」

執事「・・・彼女が、不倫の類などするわけないと思っている・・・けど・・・・・・」

メイド「・・・そこは、もう長女お嬢様しか知りえない事実かもしれません」

メイド「・・・でも、きっと計り知れない裏事情があったのでしょう」

メイド「・・・そして・・・事件以前から見られていたという、件の幽霊は・・・」

メイド「長女お嬢様のことだと思います」

先輩「えっ・・・?」

メイド「・・・きっと、チーフさんに会いにいくために」

そばかす「昼間ではダメだったの?」

メイド「あくまで主従関係の一つとしては、会っていますし、会話も交わしているでしょう」

メイド「長女お嬢様は"娘として、チーフさんに会う"には・・・深夜しかなかったのです」
         
メイド「誰にも知られたくないから・・・・・・いや、"知られてはいけないから"」
                        
メイド「・・・そうではありませんか? 長女お嬢様・・・」

長女「・・・・・・そうね」

長男「・・・姉さん、認めるのか」

長女「・・・・・・・・・」

メイド「・・・長女お嬢様はまずチーフさんの遺体を朝方見つけてしまいます」

メイド「いつものように・・・会いにいく為に」

メイド「よって第一発見者はわたしたちではなく・・・本当は長女お嬢様だったのではないかと思います」

メイド「そこで長女お嬢様はあるものを持ち出したんです」

先輩「・・・あるもの?」

メイド「それが、おそらくチーフさんの日記です」

メイド「きっと・・・重要なことが書かれていたから。自分が犯人だとばれてしまうような、秘密があったのだと思います」

メイド「こうして・・・この連続殺人を計画した」

メイド「自分の母を死に追い込んだ人たちが許せなかった」

メイド「・・・・・・・・・」

メイド「お局さんと眼鏡さんは、チーフさんをいじめていた為です」

メイド「次に、長髪さん・・・さっきも言いましたが、彼女は最初は殺害する予定はなかったんじゃないかと思います」

メイド「でも、例の行為を見てしまったかどうかは・・・分かりません、が・・・」

メイド「御主人様に対する、見せしめの為に殺した可能性もあります」

メイド「ですが、一番大きな理由は・・・自分の父親が不貞行為に及んでいた相手だったから、というのが理由かもしれません」

メイド「次に・・・夫妻です」

メイド「長女お嬢様は知ってしまいました。自分の本当の母親がチーフさんだということ」

メイド「父親は・・・御主人様だったこと」

メイド「ただの勘ですが・・・おそらく御主人様はチーフさんの弱みを握っていたんです」

メイド「生まれた長女お嬢様を自分たちの子供ということにした・・・」

メイド「執事さんが話してくれました。医者にかかる前より、帰ってきた時の方が具合が悪そうに見えた、と」

メイド「・・・長女お嬢様を、自分の子供をとられてしまった。これが理由だと思います」

メイド「その上、そのまま元のお屋敷に戻して仕事をさせるのは、全く理解に苦しみますが・・・」

メイド「それは弱みを握っていたからこそ、暴露されるおそれはない、と思ったかもしれません」

メイド「・・・・・・この事から、御主人様とチーフさんは最初から不倫や恋愛関係の類では、なく・・・・・・」

メイド「・・・・・・・・・・・・わたしの口からは、言えません」

メイド「・・・一言だけ言っておくと、チーフさんは今も昔も変わらず、とても美しかったということだけです」

メイド「・・・こういう経緯から・・・御主人様と奥様を殺害しようと決意しました」

メイド「・・・奥様が殺されたのは、その事実を知りながら、なんの手助け等もしなかったからだと思います」

メイド「長女お嬢様が、自分がお腹を痛めて産んだ子供ではないことぐらいは、まず分かっていることですから」

メイド「部屋に入った方法は、さっきも言った通り、堂々と許可を取ったから」

メイド「深夜に人を部屋に入れるのは・・・親類以外にはないと思いました」

メイド「そして、部屋に居続けたました。隠れたわけではありません、怖いから一緒に寝たいとでも言ったのでしょう」

メイド「・・・こうして、二人が寝ているところを襲ったのでしょう」


メイド「次に・・・姉御さん」

メイド「姉御さんの殺害理由、それは自分の私物を盗まれ、壊されてしまったから」

メイド「チーフさんの遺体にはネックレスがかけられていました」

メイド「そして、全く同じものがトイレのゴミ箱から発見しました」

メイド「この二つのネックレスには・・・" C "が刻まれていました。・・・この二人のことを指しています」

メイド「長女お嬢様も実はこのネックレスを持っていたんです。わたしたちが見ていないだけで」

メイド「姉御さんは、長女お嬢様の方を盗んだのです。でも、手作りで別に高価でもなんでもないと気付いた姉御さんは・・・」

メイド「・・・トイレに捨てました。捨てられていたのを、長女お嬢様が見つけてしまいます」

メイド「そうして、姉御さんに殺意が湧いた。大切なチーフさんからのプレゼントを・・・壊されたから」



メイド「最後に・・・次女お嬢様です」

メイド「次女お嬢様は・・・お局さんと眼鏡さんと同じ理由です」

メイド「同じですが・・・少し違います」

メイド「そもそもお局さんと眼鏡さんがチーフさんをいじめるようになったのは、次女お嬢様が指示したからだと思います」

メイド「次女お嬢様はチーフさんのことを疎ましく思っているようでした」

メイド「彼女がそもそもの元凶だったと知り・・・殺害しようとした」

メイド「姉御さんは、長女お嬢様の方を盗んだのです。でも、手作りで別に高価でもなんでもないと気付いた姉御さんは・・・」

メイド「・・・トイレに捨てました。捨てられていたのを、長女お嬢様が見つけてしまいます」

メイド「そうして、姉御さんに殺意が湧いた。大切なチーフさんからのプレゼントを・・・壊されたから」



メイド「最後に・・・次女お嬢様です」

メイド「次女お嬢様は・・・お局さんと眼鏡さんと同じ理由です」

メイド「同じですが・・・少し違います」

メイド「そもそもお局さんと眼鏡さんがチーフさんをいじめるようになったのは、次女お嬢様が指示したからだと思います」

メイド「次女お嬢様はチーフさんのことを疎ましく思っているようでした」

メイド「彼女がそもそもの元凶だったと知り・・・殺害しようとした」

メイド「しかし、こう毎回深夜に犯行を行うとして、誰も部屋から出ていたという話を聞きませんでした」

メイド「これには理由があります。長女お嬢様は、自分の睡眠薬を利用したんです」

メイド「この方法を使ったのは、眼鏡さんの遺体を発見した日から」

メイド「長髪さんの遺体を発見した時に、長男さんと次女お嬢様がよく眠れたとおっしゃっていました」

メイド「執事さんに聞けば・・・執事さんも同じ日によく眠れたそうです」

メイド「この三人に・・・分からないように服用させた」

メイド「そして、その日以降も・・・」

メイド「・・・・・・・・・長女お嬢様が犯人だと気付いたのは、今朝からです」

メイド「次女お嬢様の遺体の状況を見て・・・ふと気づきました」

メイド「応援を呼ばれて日にちもかなり経っていましたし、焦っていたんでしょう」

メイド「今までと違って、かなり雑だと感じました」

メイド「思えば、昨日の姉御さん犯人説から真っ向から反対されたのも、不自然でした」

メイド「今までは、合理的な判断で推理してくれていたのに、"あの時はまるで推理する気がなかった"」
                                
メイド「・・・あれは、"犯人をとにかく姉御さんに被せたかったから"」
          
メイド「今まで自分の意見を尊重してくれていたから、なおさら信じるだろうと、あなたは思った」

メイド「長女お嬢様は・・・これまでわたしにかなり助言してきてくれましたよね」

メイド「でも、あなたは・・・本当は助言していたんじゃない」



メイド「"たくさんの事実の中に、少ない嘘の証言でもって、真実を巧妙に隠ぺいしながら、話していた"」



メイド「・・・わたしを、核心にたどりつかせないために!!」



メイド「事件の見解を自分以外には話すな、と言ったのも・・・このため。わざわざおどしをかけて・・・」

メイド「・・・あなたの言っていたことをよくよく思い返せば・・・」

メイド「実は、殺す予定人間以外の人たちはかばっていましたね」

メイド「しかし、それ以外の人たちのことは、積極的に疑うように仕向けてわたしに話していたことも」

メイド「・・・気付いてしまいました」

メイド「色白さんや長男さん執事さんは、疑いたくないと言って、かばっているのに」

メイド「御主人様や姉御さんのことになると、一切庇うような発言は見受けられなかった」

メイド「・・・偶然だとは思えません」

メイド「そして、確信してしまったのは、次女お嬢様のネグリジェに付着していた"花粉"」

メイド「あれは・・・"プリムラ"でした」

メイド「プリムラは・・・長女お嬢様が、この屋敷には私の部屋以外にはない、と」

メイド「・・・・・・そうですよね、長女お嬢様」








長女「えぇ、そうね」

メイド「・・・・・・認めるんですね」

長女「・・・・・・・・・」

長男「・・・・・・そんな・・・」

執事「・・・長女お嬢様・・・」

先輩「・・・・・・うそだって・・・」

色白・そばかす「「・・・・・・・・・・・・」





長女「あの人が、私のお母さんだと気付いたのは、今から半年前」

メイド「・・・・・・・・・」

長女「洋服が少し破けてしまって、チーフさんにお願いして、直してもらおうと思った」

長女「時間はもう消灯直前・・・迷惑だと思ったけど、大事な洋服だった。そう、これもあの人に編んでもらったものだから」

長女「あの人は・・・事あるごとに、私の手編みの衣服をプレゼントしてくれていた」

長女「なんとなく・・・あの人は、ただの乳母ではない、ということは薄々感じていた」

長女「・・・・・・消灯直前、部屋に行った。ノックをしたけど・・・返事がなかった」

長女「・・・もう寝てしまったのかと思ったけど、ドアを引いてみたら・・・開いていたわ」

長女「・・・・・・誰もいなかった。ただ一つ、机に書きかけの日記を残して」

長女「他人の日記なんて覗くものではない・・・分かっていた。分かっていたわ」

長女「・・・でも・・・これが、全ての始まった」

長女「そこに書かれていたのは・・・日記というには、少し違う。それは日記というより・・・・・・・・・」









長女「私の成長記録だった」

一同「「・・・・・・・・・」」

長女「私が生まれた日から・・・毎日一ページ、事細かに書かれていた」

長女「なぜ、この人が私の成長記録を・・・と、最初に思った」

長女「乳母だから、夫妻の代わりに書いているだけだ、と・・・・・・いいえ」

長女「読めば読むほど・・・まるで自分自身が産んだかのような書き方だった」

長女「色んなことが書かれていた・・・・・・」

長女「"初めてハイハイした"。"初めて喋った"。"初めて一人で立った"。"初めてお母さんと呼んだ"」

長女「・・・"でも、このお母さんは私のことじゃないんだね"。・・・・・・」

長女「・・・他にも、色々・・・あった」

長女「毎日毎日・・・かかさず、書かれていた。私への愛情が、文章から節々と伝わってきた」

長女「なぜなら私は・・・"あっち"の母から、心の底から愛情を感じたことがひとかけらもなかった」

長女「・・・ページを進めるのが、止められなかった。私はきっと、親からの愛情に飢えていたから」

長女「・・・・・・そうしているうちに・・・あの人が、部屋に来た」

支援・読んでくれる人に感謝
もう少し続けたかったけど、ここで一旦中断 いいところかもしれないけど
というわけで犯人はこの人 割と予測できてた人が多いんじゃなかろうか
多少強引なところもあるけど、割と分かりやすくはしたつもり

作中で主人公に分かりやすく説明させているけど
分からないところがあれば質問などは受け付ける

ちなみに物語はもうちょっとだけ続く
回収していない伏線がまだ残っている(意図的に)ので
暇な人は考えてみると良いかも

 ―――☆――――――――☆

 ☆――――――☆

 ―――☆

 ☆


チーフ「・・・びっくりしました。どうされましたか、こんなお時間に・・・私に何か・・・」

 ぎゅう・・・

チーフ「・・・・・・えっ・・・・・・?」

長女「・・・・・・」

チーフ「・・・・・・長女お嬢様?」

長女「・・・お母さん」

チーフ「 !!! ・・・・・・」

長女「私の・・・本当の・・・」

チーフ「・・・見た、のね」

長女「・・・うん」

チーフ「・・・・・・・・・」

長女「・・・お父さんは? お父さんは、誰なの・・・?」

チーフ「・・・・・・・・・」

長女「・・・・・・・・・」

チーフ「・・・あなたは、知らなくても良い事」

長女「・・・・・・・・・」

チーフ「・・・さぁ、お部屋に戻りましょう」

チーフ「・・・あなたのお父さんとお母さんは・・・あの人たちだから。私じゃないから」

チーフ「・・・・・・ね、長女お嬢様」

長女「・・・やだ・・・」

チーフ「・・・・・・・・・」

長女「・・・やだよ・・・やっと、やっと・・・」

チーフ「・・・・・・・・・」

長女「一人で寝れなくて・・・泣きじゃくってた私を、寝られるまでずっとそばにいてくれた」

長女「寒くて、暗くて、怖くて・・・寂しかった」

長女「あの時みたいに・・・一緒に寝てよ。私・・・あの時の事が、いまだに忘れられない」

長女「おかげで、もう薬なしでは寝られなくなっちゃった」

チーフ「・・・・・・・・・」

長女「ねぇ・・・お願い・・・」

チーフ「・・・・・・・・・」

長女「・・・嫌、なの? お母さんは、私の事、嫌い?」

チーフ「・・・・・・・・・」

長女「・・・嫌いなんだ。嫌いだから、私なんか、いらなかったんだ」

チーフ「・・・・・・・・・」

長女「嫌いだから・・・私なんか捨てられたんだ」

チーフ「・・・・・・・・・」


長女「・・・・・・なにか、言ってよお・・・・・・」

チーフ「・・・・・・・・・」

長女「・・・・・・こんな時間に・・・ごめんなさい。・・・おやすみなさ」

チーフ「嫌いなわけないでしょ!!」

長女「・・・・・・あ」

チーフ「・・・嫌いなわけ・・・ないじゃない」

チーフ「・・・世界で一番・・・愛してる」

長女「・・・ありがとう、お母さん」

チーフ「ずっと・・・こうした、かった、けど、ご、ごめん、ね・・・」

チーフ「ひどいお母さんで・・・ごめんね・・・」

長女「・・・そんなことない・・・」

長女「・・・嬉しい」

 ―――☆――――――――☆

 ☆――――――☆

 ―――☆

 ☆

長女「最初はすぐに認めなかったわ」

長女「でも・・・私が諦めて、帰ろうとしたとき・・・後ろから抱きすくめられた」

長女「今まで打ち明けられなかったことを謝ってくれた」

長女「その日は遅くまで色んなことを話した・・・」

長女「全てを話してくれた」

長女「私の母親は本当は自分だったこと」

長女「私を夫妻に取られたこと」

長女「脅迫されていたこと」

長女「父親は・・・あの男だということ」

長女「どういう関係なのか聞いたけれど、答えてはくれなかった」

長女「でも・・・なんとなく分かっていた。脅迫されていたことから・・・普通の関係ではないことぐらいは」

長女「少なくとも・・・お互いが、少しもそういう気持ちはないだろうということはおおよそ分かっていた」

長女「それに、執事さんとの噂もたっていたのも、知っていた」

長女「・・・だから、今日のこの事は・・・誰にも言ってはいけないと言われた」

長女「特に夫妻には気付かれないようにと・・・」

長女「それでもお母さんに会いたかった私は・・・消灯後の遅い時間や、夜明け前の時間に会いに行っていた」

長女「お母さんは最初は反対したけれど、私の押しに負けたようだった」

長女「・・・それからというのも、毎日のように会いに行っていた」

長女「今までと打って変わって、とても満ち足りた日々だった」

長女「昼間は今まで通りの関係でなければいけなかったけど・・・深夜になれば毎日のように会いに行っていた・・・ひっそりと」

長女「・・・まるで、逢瀬を楽しみにしているかのように」

長女「でも、そんな日々は長くは続いてくれなかった」

長女「ある日、私がお母さんが理不尽ないじめにあっていることを知ったわ」

長女「お母さんになんで、この事を私や周りに言わないのかって」

長女「でもお母さんは皆に迷惑がかかるからって、放っておいてくれと言われた。私は別になんともない、と」

長女「・・・我慢なんかする必要はない。あの人に言って、やめさせればいい、と私が言ったけど・・・なぜか必死に止められた」

長女「・・・そして、お母さんの最後の夜・・・」

 ―――☆――――――――☆

 ☆――――――☆

 ―――☆

 ☆

長女「・・・・・・ねぇ」

チーフ「・・・どうしたの?」

長女「・・・なにか良い事でもあったの?」

チーフ「・・・そうねえ、そうかもしれないわ」

長女「なによ、そうかも、って」

チーフ「うーん・・・だって、そうとしか言えないもの」

長女「・・・?? 変なお母さん」

チーフ「・・・教えてあげるね」

長女「・・・うん?」

チーフ「あなた、最近お友達ができたでしょう」

長女「・・・お友達? ・・・ああ、メイドさんかしら」

チーフ「そうよ。とっても素直で優しい子ね」

長女「そうね・・・・・・うん」

チーフ「これでもう、大丈夫ね」

長女「・・・なにが?」

チーフ「私なんかいなくても、あなたはとても強い子よ」

長女「・・・・・・・・・」

チーフ「メイドさんみたいなお友達もできた。私にはいなかったから・・・」

チーフ「きっと、これからあなたの力になってくれる。そんな気がするわ」

長女「・・・突然なにを言い出すのかと思ったら・・・」

長女「・・・でも、そうね。メイドさんとはもっと深い仲になれそうな気がするもの」

チーフ「きっとなれるわ。・・・きっとね」

長女「・・・なんか今日のお母さん、変ね。いつもはこんなこと」

チーフ「・・・言いたいことは、言える時に言っておかなきゃね」

長女「・・・そうかもしれないわね」

長女「・・・さて、今日はもうこれぐらいで帰るわ」

チーフ「そう・・・うん」

長女「・・・おやすみ」


チーフ「長女」

長女「・・・なあに?」

チーフ「メイドさんと、仲良くしてあげてね」

チーフ「あの子ね・・・あなたと同じ匂いがするわ」

チーフ「でも、大丈夫。ずっと私が、見守ってるから」

チーフ「・・・ずーっとね」

長女「・・・うん。同じ匂いって良く分からないけど・・・ありがとう」

チーフ「・・・・・・それだけよ。おやすみなさい」

長女「おやすみ」

チーフ「・・・おやすみ、長女」

 バタン・・・

チーフ「・・・・・・・・・」

チーフ「―――――――――」

 ―――☆――――――――☆

 ☆――――――☆

 ―――☆

 ☆

長女「扉を閉めた後・・・何かが聞こえた気がした」

長女「気のせいだと思ったし、私自身早く寝たかったから・・・」

長女「・・・今思えば、あの時既にお母さんは決意を固めた後だったのだと思うわ」

長女「あの時感じた違和感・・・今でもひっかかる」

長女「そして、その翌朝・・・夜明け前に会いに行った」

長女「・・・・・・ここから先は、メイドさんが推理した通り」

長女「・・・お母さんは部屋で首を吊っていた。日記を残して・・・」

長女「最後のページには・・・"ごめんなさい"とだけ」

長女「日記を見てみたけど、ところどころに、悪質ないたずらにあっている、という事実が書かれていた」

長女「・・・お母さんはきっと、いじめられていることに耐えられなかった」

長女「なぜ、私に相談してくれなかったのかという気持ちと哀しみの感情もあった・・・けれど」

長女「・・・不思議と涙は出なかったわ」

長女「そんな感情より・・・怒りや憎しみといった激情の方が溢れていた」


メイド「・・・・・・・・・」

長女「日記をずっと遡って読み返した・・・」

長女「・・・許せなかった。どうしてもね」

長女「お母さんをいじめたお局さんも眼鏡さんも」

長女「・・・次女に言われるがまま、ストレス発散ついでにやったことを知った」

長女「お母さんをバカにした長髪さんも・・・」

長女「・・・あの男に便乗して一緒になって笑っていたのを知った」

長女「お母さんを捨てたあの男も・・・」

長女「・・・お母さんに愛情のひとかけらもなく、単に自分の劣情を向けただけだったということを知った」

長女「お母さんを見捨てたあの女も・・・」

長女「・・・自分の幸せしか考えていなかったことを知った」

長女「お母さんとの思い出を踏みにじった姉御さんも・・・」

長女「・・・平気で他人の思い出を踏みにじる人だったことを知った」

長女「そして・・・お母さんを誰よりも煙たがっていた次女も」

長女「みんなみんな、憎い・・・・・・この手で必ず・・・お母さんが味わった苦しみを、一片でも良い・・・」

長女「なぜお母さんが死ななければならなかったのか・・・」


長女「なぜお母さんは幸せになれなかったのか・・・」


長女「なぜ・・・私たちは離れ離れになったのか・・・」


長女「失ってしまったものを探すように・・・私は"獲物"を探し始めた」


長女「まるで私は・・・タガが外れた蛇のように・・・"獲物"を丸呑みし続けた。・・・無心にね」


長女「途中何度も挫けそうになった・・・あの男と同じ血が私の中にも流れていると思うと、発狂しそうだった」


長女「でも、それも、始末してしまえば感じなくなった・・・残りの二人も迷いなく手にかけられた」


長女「その結果がこれよ・・・・・・ふふ、この手で、七人も殺した」


長女「でも、後悔はしていないわ。次女を葬った時・・・この上ない達成感が沸き上がったのよ」


長女「抱き締めたら、このまま寝ようとかほざいたところを一撃食らわせた・・・永遠におやすみって言ってあげたわ」

長男「・・・姉さん・・・」

執事「・・・・・・・・・これが、長女お嬢様なのか・・・」

先輩「・・・・・・・・・・・・」

色白・そばかす「「・・・・・・・・・」」





メイド「長女お嬢様のお気持ちはよく分かりました」

メイド「わたしも・・・大切なお母さんがいます」

メイド「しかし・・・長女お嬢様。あなたは、一つだけ大きな勘違いをしています」

長女「・・・何ですって?」






メイド「チーフさんはいじめられていたことや過去の事を苦にして自殺したのではありません」

長女「・・・・・・・・・・・・え?」

メイド「・・・思いませんでしたか? "なぜ、このタイミングだったのか"、ということを」

長女「・・・そ、れは・・・」

メイド「チーフさんがいつからそういう対象になっていたかは分かりませんが・・・」

メイド「ご本人はいじめられていたこと自体は、ほとんど気にしていなかったと思います」

長女「え・・・・・・?」

メイド「それは、さっきご自分でも言っていたではありませんか」

メイド「それに・・・そんなことを理由に自ら命を絶つような人ではないということを・・・知っているはずです」

メイド「少なくともわたしはそう思っています。そんな弱い女性ではなかった」

メイド「よく考えれば、そのことを理由にして自殺するには、少し違和感があります」

長女「・・・・・・・・・じゃ、じゃあ・・・どうして・・・」



メイド「チーフさんは」



メイド「長女お嬢様の幸せを願って、自ら命を断ちました」

長女「・・・え・・・・・・?」

長女「・・・どういう・・・こと・・・?」

メイド「・・・長女お嬢様、あなたはある男性とかなりのところまで婚約の話が進んでいたと思います」

長女「・・・・・・えぇ」

メイド「・・・長女お嬢様はそれが嫌だった」

長女「・・・そうね」

メイド「・・・・・・・・・」

長女「・・・・・・・・・」

メイド「・・・まだ、分かりませんか?」

長女「・・・・・・・・・」

メイド「では質問します。チーフさんは、長女お嬢様がそのことに嫌がっていることに気付いていたと思いますか?」

長女「・・・・・・分から、ない」

メイド「・・・チーフさんは気付いていました。真っ先に。わたしはそう思っています」

メイド「・・・そういう場合、チーフさんはどういった行動をとるでしょうか?」

長女「・・・解消させたいと思うのではないかしら」

メイド「そうですよね」

メイド「でも、しなかった」

メイド「いいえ、できなかった」

メイド「なぜなら」


メイド「この婚約話自体が、御主人様からのチーフさんへの指示だったから」

長女「・・・・・・え・・・・・・あ・・・」

メイド「・・・ここからは、あくまで推測です」

メイド「執事さんと長男さんの話では、向こうの一方的なアプローチだったと聞いていますが」

メイド「そもそもは、御主人様が長女お嬢様を紹介したのです」

メイド「御主人様からの指示なら・・・解消などできないし、何よりチーフさんは御主人様に脅迫されています」

メイド「話は聞いてもらえないでしょう」

メイド「自分からの提案では何を言っても無駄・・・そう感じたチーフさんは、自分ではない違う誰かに提案してもらおうと考えた」

メイド「それが、長男さんと執事さん」

メイド「この二人なら、自分のように弱みを握られているわけでもない、発言力も持っている」

メイド「自分が生きている間に、この二人に言ってもらうこともできた」

メイド「しかし、そうはしなかったのは・・・自分が生きている限りは、二人に言ってもらっても効果が薄いと考えたから」

メイド「なぜなら、チーフさんは何があっても、御主人様には逆らえないから・・・」

メイド「そうした背景があり・・・このお二人に長女お嬢様の未来を託した」

メイド「自分が生きていたら、不幸になってしまう・・・・・・そう思ったのではないかと思います」

メイド「自分のようには・・・なって欲しくなかったから」

メイド「本当はチーフさんは、執事さんと二人でここから逃げることもできた」

メイド「亡くなっているチーフさんの薬指には指輪がはめられていました」

メイド「執事さんからの渡されたものだと思います・・・結婚指輪でした」

メイド「つまり、お二人は両思いでした・・・しかし・・・」


メイド「チーフさんは、自分の幸せより・・・・・・長女お嬢様の幸せを選んだのです」


メイド「これが、チーフさんの死の"真実"です」


メイド「・・・お分かりになりましたか?」





長女「・・・・・・・・・・・・」

メイド「・・・チーフさんは復讐など全く望んでいません」

メイド「何よりあなたに幸せになって欲しかった」

メイド「その為に自分の命を投げ打って・・・叶えようとしました」

長女「私が・・・私がお母さんの想いを踏みにじった・・・の・・・?」

メイド「・・・・・・」


チーフ『でも、大丈夫。ずっと私が、見守ってるから』


長女「・・・うそばっかり」

メイド「・・・今でも見守っているはずですよ、遠い遠いところから」

メイド「ここからは、手が届かないくらい遠いところからですけど・・・」

メイド「確かに、見守っていると思います」

長女「ばかみたい・・・」

長女「死んじゃったら、何も残らないじゃない」

長女「死んじゃったら・・・もう会えないじゃない」

長女「死んじゃったら・・・また一人になる」




長女「結婚がしたかったわけじゃない!!」


長女「そんなことどうでもよかったのに!!」


長女「私はただ・・・もっとお母さんと一緒に・・・過ごしたかった、だけ、なのに・・・・・・」


長女「なんで・・・・・・」


長女「う・・・うっ・・・・・・あああぁ」

メイド「・・・・・・長女お嬢様」

長女「・・・会いたい・・・」

長女「・・・・・・会いたい・・・」

メイド「・・・・・・・・・」

長女「・・・お母さん・・・どこお・・・?」

メイド「長女お嬢様・・・」

長女「メイドさん・・・一緒に探してよ・・・お母さん探してよ」

メイド「長女お嬢様・・・」

メイド「長女お嬢様のお母さんは、今は遠くもあり、近くでもある場所にいます」

メイド「だから、いつでも長女お嬢様のこと見守っていらっしゃいますから・・・」

メイド「寒くもないし、暗くもないし、怖くもないし・・・寂しくもありません」

メイド「ですから・・・・・・どうか、この真実を受け止めて下さい」

長女「・・・あ・・・あ・・・・・・うぅ・・・」

 ぼろぼろ・・・

長女「・・・どうして」

長女「・・・・・・涙なんて・・・お母さんが死んだ時でも出なかったのに・・・」

長女「あの日以来・・・涙なんて流したことなかったのに・・・」

メイド「長女お嬢様・・・」

 ぎゅう・・・

長女「あ・・・・・・」

メイド「もう大丈夫。お母さんの代わりにはなれませんが、わたしで良ければ、好きなだけ胸を貸します」

メイド「きっと・・・また、立ち直れます」

メイド「今まで本当に・・・辛かったですね」

長女「・・・・・・うっ・・・うわああぁぁ・・・」

先輩「・・・メイド」

長男「メイドさん・・・」

メイド「・・・長女お嬢様はもう大丈夫です」

執事「・・・・・・・・・」

メイド「・・・執事さんもショックが大きいと思いますが・・・決して、チーフさんと同じ道は辿らないで欲しいです」

長男「そうだよ・・・執事。僕にできることなら、なんでもやるよ」

執事「私なら、大丈夫です。ありがとう・・・ございます」

先輩「・・・これから、どうするの?」

メイド「・・・皆さん、もう遅いので・・・それぞれお休みになった方が良いと思います」

メイド「わたしは・・・長女お嬢様と二人きりにさせてください」

メイド「とても、ほうっておけませんから」

先輩「・・・だ、大丈夫なの?」

メイド「何が大丈夫じゃないのかよく分かりませんが・・・」

メイド「先輩さんは、申し訳ないんですけど、色白さんたちの部屋で寝てもらえたらと思います」

先輩「それは別に良いけど・・・良いよね?」

色白「・・・は、はい」

そばかす「・・・長女お嬢様、心配だな」

メイド「長女お嬢様はわたしが責任を持って、面倒を見させてもらいますから」

長男「・・・分かった。姉さんを・・・頼む」

メイド「任せてください」

長男「・・・行こう、執事」

執事「・・・・・・はい」


メイド「・・・さぁ、わたしたちも」

支援・読んでくれる人に感謝
二人の行き違いで起きた悲劇だったというお話
次回の更新でおそらく最後 年内中に終われば良いな

ちなみに>>535の台詞に見覚えある人は軌跡シリーズファン

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 ―――

メイド「・・・大丈夫ですか?」

長女「・・・えぇ」

メイド「落ち着いたみたいです。・・・良かった」

長女「・・・・・・メイドさん」

メイド「・・・はい?」

長女「・・・どうして・・・ここまでしてくれるの・・・?」

長女「・・・私、殺人犯よ。一人、二人どころじゃない。七人よ」

長女「みんなを恐怖に陥れた張本人よ・・・・・・どう、して・・・」


メイド「・・・友達だから」

長女「・・・・・・・・・」

メイド「わたしの大切な・・・友達だからです」

長女「・・・・・・あなた、本当に・・・優しいのね」

メイド「・・・ただのお人好しなだけです。それに・・・」

メイド「今のあなたは・・・とても、ほうっておけません」

長女「・・・そうかもしれないわね」

メイド「・・・そういう意味ではありません」

長女「・・・・・・?」

メイド「・・・まあ、それはともかく・・・」

メイド「もう、夜も遅いです。一緒に寝ましょう」

長女「・・・・・・知っていると思うけど、私は・・・」

メイド「はい。長女お嬢様が眠りにつくまで、お付き合いします」

長女「・・・本当に眠れないのよ、私」

メイド「・・・大丈夫です」

長女「朝までずっと起きているかもしれないわよ」

メイド「それでも構いません」

メイド「長女お嬢様が眠れるまで・・・お話しましょう」

メイド「・・・その内、きっと、眠れます」

長女「・・・メイドさんには負けるわね」

メイド「お互い様ですよ」

長女「・・・・・・そう、ね」

メイド「さぁ、寝る支度をしましょう」

長女「その前に・・・お願いが一つだけあるわ」

メイド「・・・なんでしょう?」

長女「・・・お母さんの顔を見たいわ」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

長女「・・・・・・」

メイド「満足でしょうか」

長女「・・・えぇ・・・」

メイド「長男さんたちなら、ゆっくりお別れしてくれば良い、って言ってくれました」

メイド「お好きなだけ・・・わたしなら、いくらでも待ちますから」

長女「・・・・・・ありがとう」

長女「・・・でも、もう大丈夫よ」

メイド「そうですか? わたしに気を遣わなくても・・・」

長女「・・・大丈夫よ。戻りましょう」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

長女「・・・ありがとう、メイドさん」

メイド「本当に良かったんですか?」

長女「えぇ・・・満足よ」

メイド「・・・なら、良いんですけど」

メイド「でも、また顔が見たくなったら、いつでもおっしゃってください。鍵は持ってますから」

長女「・・・そうなの。分かったわ」

メイド「・・・さぁ、もう遅い時間です。寝ましょう」

長女「・・・えぇ」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

メイド「・・・・・・」

長女「・・・・・・」

メイド「・・・どうですか?」

長女「・・・・・・眠れないわ」

メイド「・・・そうですか」

長女「・・・でも・・・不思議ね」

メイド「・・・??」

長女「・・・少し前までとても不安定な気持ちだったけれど・・・今は落ち着いているわ」

メイド「そうですか・・・良かった」

長女「・・・あなたのおかげね」

メイド「大したことはしていませんよ」

長女「・・・でも、お礼を言わせて。・・・ありがとう」

メイド「・・・どういたしまして」

長女「・・・・・・ところで・・・今、眠いかしら?」

メイド「・・・あんまり」

長女「あら、そう・・・きっと私のせいね」

メイド「大丈夫です。おあいこだと思えば、なんでもありません」

長女「・・・本当に眠くない?」

メイド「・・・はい」

長女「・・・・・・聞きたかったことがあるの。聞いても良いかしら」

メイド「どうぞ」

長女「・・・メイドさんはどこから来たの? どうしてここで働こうと思ったの?」

メイド「・・・そうですね」

メイド「・・・わたしは街から来ました。でも、その前は少し離れた小さな村に住んでいました」

メイド「・・・・・・色々あって、街に行くことになって・・・」

メイド「お母さんと二人で暮らしていました」

長女「・・・お父さんは?」

メイド「・・・いません。街に行く前に亡くなりました」

長女「・・・そうなの」

メイド「・・・はい。街に行くことになった理由はそれなんですけど・・・」

メイド「それで、お母さんは一人で働いていて・・・」

メイド「大雑把かもしれませんけど、それで、わたしも働かなきゃな、って思い立ったんです」

長女「・・・十分よ。ありがとう」

メイド「・・・いえ」

長女「・・・立派なのね。あなたはまだ遊びたい盛な年頃でしょう。恋愛だってしたかったでしょう」

メイド「・・・そういうことがあまりよく分からなくて。ただ、お母さんの為になりたいなと思って」

長女「そうなのね・・・・・・」

長女「・・・・・・どんな人なの?」

メイド「・・・そうですね」

メイド「・・・チーフさんに似てると思います」

長女「・・・・・・」

メイド「・・・チーフさんにお世話になってる時・・・お母さんみたいな人だなって」

メイド「・・・・・・長女お嬢様もそうでしたよね。同じような感覚だと思います」

メイド「不思議なものです・・・どの人も、こういう感情があるんでしょうか」

長女「・・・そうね・・・そうかもしれない」

メイド「・・・いつから、チーフさんをそういう意識をするようになったんですか?」

長女「・・・・・・そういう感覚自体は、かなり前からあったのよ」

長女「・・・そうね・・・十年くらい前、かしら・・・」

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 ☆

 ―――10 years ago

主人「おめでとう、長女」

夫人「ほら、父さんと母さんから誕生日プレゼントよ」

長女「・・・ありがとう」



長女『私の十歳の誕生日・・・毎年のように、私はたくさんの人たちから誕生日プレゼントをもらっていた』

長女『それはそれは山のように・・・』

長女『新しい洋服や、アクセサリー。幼いなりにも、高価なものだというのはすぐ分かった』

長女『でも、不思議と魅力に感じるものをもらった覚えがなかったのよね』

長女『・・・私は、そんな形あるものが欲しかったんじゃなかった』

長女『私は・・・両親からの愛情が欲しかった』

長女『自分でもわがままだと思った。その頃からだった。姉弟で愛情に差を感じていたのは・・・』

長女『でも、姉弟でプレゼントに差があるとか、態度に違いがあるとか、そんなものではなかった』

長女『確たる根拠はなかった。今でもよく分からないわ』

長女『・・・ただ・・・なんとなく、寂しかった。なぜだか、この上ないほどの寂寥感があった』

長女『でも、たった一人だけそれを埋めてくれる人がいたのよ』

       チーフ
長女『・・・お母さんだった』

長女『あの人は、誕生日になると私に手作りの編み物を作ってくれた』

長女『仕事が忙しいはずなのに・・・思いがけないほど手間がかけられているのが分かった』

長女『他の誰かからもらうプレゼントより嬉しかった。毎日着ていた。季節が過ぎ去っても』

長女『でも・・・あの人から編んでもらったものを着けると、あの夫婦は良い気がしないようだった』



主人「・・・そのマフラーはどうしたんだい?」

長女「これは・・・」

夫人「誰かからもらったの?」

長女「・・・・・・チーフさんが編んでくれた」

夫人「・・・・・・そう」

主人「マフラーだったら、この前買ってあげただろう。気に入らないのかい?」

長女「そ、そんなことは」

夫人「あなたには、そんな庶民臭いものより、私たちが買ってきてあげたもののほうが似合うわ。付け替えなさい」

長女「・・・・・・・・・」

主人「・・・長女? いいね?」

長女「・・・うん」

夫人「返事する時は、"はい"でしょ? もう一回」

長女「・・・・・・はい」



長女『冷静に考えれば、これらの教育は何も行き過ぎたことはない。でも、当時の私はそう割り切れなかった』

長女『どうしても、冷たい態度だと受け取ってしまうし、強引に押し付けられた感じがした』

長女『・・・そうして、お母さんに作ってもらったのは、人前で着るのは御法度になった』

長女『でも・・・でも、私は、どうしても、どうしても、どうしても、捨てられなかった』

長女『自分でも不思議に思った。なぜ、乳母からもらったものが捨てられないのだろう。なんということもないはずだ』

長女『何度も何度もあの夫婦は私に尋ねてくる。捨てたのか、捨てたのか、と』

長女『もう既に自分だけの部屋を与えられていた私にとって、それを隠すのは難しいことではなかった』

長女『部屋に一人きりの時に・・・鏡の前でたった一人のファッションショー。何度も何度もやった』

長女『・・・やはり、自分には両親からのプレゼントより、チーフさんからのプレゼントの方が似合ってしまうのよ』

長女『・・・いいえ、似合う似合わない以前に・・・二つのものに温度差を感じていた』

長女『おかしな話よね・・・ただの洋服よ。でも、不思議なことに本当のことなのよ』

長女『本当に不思議だけど・・・ね・・・・・・当時から私は普通の人よりずれていたかもしれないわね』

長女『ちょっと前にも話したけれど、ちょうどその頃から自分の部屋を与えられていたの』

長女『私はまだまだ一人で寝られなくて・・・他の二人は夫妻と一緒だったのよ』

長女『被害妄想でしょうけれど、まるで私だけ追い出されるように、自分の部屋を与えられた』

長女『それからというのも、夜が訪れるのが怖かった。ろくに眠れない日が続いたわ』

長女『誰にもそれが言えず、一人ぼっちで夜をいつも越えていた』

長女『でも、まだまだ幼い当時は私は・・・ついに耐え切れずに、夫妻たちが眠る部屋へと足を運んだわ』

長女『その日は確か、ちょうど次女とケンカしていてね・・・』

長女『真夜中、泣きながら廊下に出て・・・部屋を扉を叩いた』

長女『・・・最初は何も反応してくれなかった。単に寝ていただけかもしれない』

長女『でも、数分後に彼女の方が出てきた。私はようやく部屋にいれくれるんだと思ったけど・・・』

長女『・・・そうじゃなかった。扉が開いて、先に出てきたのは慰めの言葉ではなかった』

長女『それは、涙ぐむ私をよそに、真冬の風より冷たい暴力的な手のひらだった』

夫人「・・・こんな時間になに? 早く寝なさい」

長女「・・・・・・えっ・・・あ・・・ぅ・・・」

夫人「・・・みんなに迷惑でしょ。あなたお姉ちゃんなんだからしっかりしなさい」

長女「・・・・・・・・・」

夫人「良いわね、もう寝なさい」

長女「・・・・・・・・・」

夫人「・・・もう、もし誰かに聞かれたら恥ずかしいじゃない・・・・・・」



長女『・・・静かに、無慈悲に扉は閉められた』

長女『・・・こんなにも冷たいものなのか。親というものが・・・』

長女『・・・・・・それから、その夜は二度と扉は開くことはなかった』

長女『・・・私はまた涙が溢れてくる。全てのものが冷たく感じた』

長女『泣きながら部屋へと戻る・・・そんな時に彼女が来てくれた』

長女『・・・お母さんが』

チーフ「・・・どうしましたか」

長女「・・・チーフさん」

チーフ「・・・寒いでしょう。早くお布団に入りましょう?」

長女「・・・・・・はい・・・」

チーフ「案内いたします。お手をつなぎましょうね」

長女「・・・ん・・・・・・」



長女『私の手をとって部屋まで案内してくれた・・・』

長女『・・・どうやら、私の泣き声が聞こえて、来てくれたらしい』

長女『お母さんの手はとても温かくて・・・』

長女『・・・その温もりも少しの間だけ。私をベッドに寝かしつけてくれるまで』

チーフ「・・・では、おやすみなさい。良い夢を」

長女「・・・・・・・・・」

チーフ「・・・・・・どうかしましたか?」

長女「・・・眠れない・・・」

チーフ「・・・・・・」

長女「・・・寒い・・・暗い・・・怖い・・・」

長女「・・・寂しいよ・・・・・・お母さん」

チーフ「・・・・・・・・・」

チーフ「奥様の代わりにはとてもなれませんが」

チーフ「あなたが無事に眠りにつくまで、少々の無礼をお許しください」

長女「・・・・・・?」

長女『そう言うとお母さんは・・・私のベッドに潜り込んできて・・・』

長女『私を抱き締めてくれたの』



長女「・・・・・・あ・・・」

チーフ「・・・もう、大丈夫。あなたは強い子だから、きっと大丈夫」

チーフ「・・・私が一番よく知っている・・・」

長女「・・・・・・ん・・・・・・」

チーフ「・・・おやすみなさい」

チーフ「・・・大切な、大切な・・・・・・」

長女『それから眠りにつくまではそれほど時間はかからなかったと思うわ』

長女『もう・・・寒くもないし、暗くもないし、怖くもないし・・・寂しくもなかったから』

長女『とても満たされた気分で眠りに落ちていく・・・』

長女『・・・起きた時、お母さんの姿はなかった』

長女『・・・当然の事ね。自分でも言っていたし、何より、乳母が主人の娘と添い寝など許されない事』

長女『私の満たされた気持ちはまた、満月が欠けるように萎んで、沈んでいく・・・』

長女『でも、あの温もりは本物だった。あの気持ち、絶対に忘れないようにしようと・・・』

長女『・・・そうして・・・月日は流れていくわ。私は彼女の正体などいざ知らず・・・』

 ―――☆――――――――☆

 ☆――――――☆

 ―――☆

 ☆

支援・読んでくれる人に感謝
中々思うようにいかないので長引いてしまっている 申し訳ない

10才で自分の部屋持ってるって珍しくないかもしれないが
気にしないでくれ 特に深い意味はない

メイド「・・・そんなことが」

長女「・・・えぇ」

メイド「・・・・・・その、色々、あったんですね」

長女「・・・そうね。たくさん、ありすぎた」

長女「・・・その頃からね、特に強く意識し始めたのは」

メイド「・・・そうでしたか」

長女「だから、彼女が本当の母親だと知った時・・・とても嬉しかった」

長女「・・・あの日からずっと思っていた。この人がお母さんだったら良かったのに、って」

メイド「・・・・・・」

長女「私って・・・本当にわがままで、身勝手な人間なのね・・・」

長女「小さい頃から・・・」

長女「辛かったのは私だけじゃない。お母さんの方がもっと辛く、寂しかったに違いない」

長女「お母さんにとって、私は・・・」



長女「世界で一番近くにいたのに、世界で一番触れられない存在だった・・・」




メイド「・・・・・・・・・」



長女「そして私は独り善がりな正義を振りかざして、七人も人を殺してしまったわ」

長女「とても・・・救えない。・・・・・・後悔がないのは、むしろお母さんの方だったのね」

長女「自分の分の幸せを私に譲ってくれたのに・・・」

長女「・・・メイドさん、私、これから・・・どうしたら良いのかしら」

長女「私、また一人ぼっちになってしまったわ」

メイド「・・・一人ぼっちなんかじゃありません」

長女「・・・・・・」

メイド「・・・わたしがいます。それに・・・チーフさんだって・・・」

メイド「あなたの心の中に居続けています」

長女「・・・・・・・・・そうね」

長女「・・・そうよね・・・」

メイド「・・・だから、これから一人で抱え込まないで。わたしも力になりたいです」

長女「・・・ありがとう」

長女「・・・本当にありがとう」

長女「あなたに・・・」

メイド「・・・??」

長女「・・・もっと、早く会えていれば・・・良かったのに」

長女「そうしたら・・・こんなことにはならなかったかもしれないのに」

メイド「・・・・・・」

長女「・・・ふふ、こんなことを言っても仕方がないわね・・・」

長女「いつか、お母さんが教えてくれたわ」

長女「人生は、戻ってやり直すことはできない」

長女「時間を進めて、辛い現実から逃げ出すこともできない」

長女「・・・ただ、いまこの瞬間を生きるしか、ない・・・」

メイド「・・・その通りだと思います」

長女「・・・えぇ・・・」

長女「でもね、あなたともっと早く出会えていれば、きっと違う運命が私たちを変えていたと思うわ」

長女「もう、何もかも終わってしまった後だけれど・・・」

長女「あなたとこうやって出会えてお話できた。それだけで、私はなんだか最後の最後に救われたかもしれない・・・」

長女「・・・あなたの優しさと包容力、お母さんととても似ている」

長女「・・・おかげで、ちゃんとお別れできるわ」

メイド「・・・そう言って下さるなら、わたしも光栄です」

メイド「・・・・・・」

長女「・・・寝ましょう。私ね、ようやく眠れそうになってきたから」

メイド「・・・良かったです。本当に」

長女「本当にありがとう。・・・・・・おやすみなさい」

メイド「・・・おやすみなさい」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

「・・・・・・・・・」


 ゴソゴソ・・・


「・・・・・・・・・」


 ギィ・・・

 パタン


「・・・・・・・・・」


 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 ―――――the 7days of eternity

メイド「・・・ん・・・ふぁぁ」

メイド「・・・朝・・・」

メイド「・・・・・・・・・・あれ?」

メイド「長女お嬢様が・・・いない・・・?」

メイド「・・・・・・・・・」

メイド「・・・・・・どちらに行かれたんだろう」



メイド「・・・鍵が開いている」

メイド「・・・当然、か」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 コンコン

「どうぞー」

メイド「・・・失礼します」

先輩「あら、メイドじゃん」

メイド「おはようございます」

先輩「おはよう。・・・どうしたの?」

メイド「・・・長女お嬢様、来ていませんか?」

先輩「・・・いや、来てないけど。・・・どうか、した?」

そばかす「あ、おはようメイドちゃん」

色白「おはよう」

メイド「・・・おはようございます」

メイド「・・・来ていないのなら、大丈夫です。朝早くから失礼しました」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

メイド「・・・・・・」

長男「・・・やあ、メイドさん。おはよう」

メイド「あ・・・おはようございます」

執事「おはよう、メイドさん」

長男「・・・どうかしたかい? ・・・それに、姉さんは?」

メイド「・・・長男さんたちも、知らない、ですよね・・・」

執事「・・・どうしたんだい?」

長男「・・・姉さんがどうかしたのかい?」

メイド「・・・・・・えっと・・・」

長男「・・・いなくなったのか? ・・・・・・」

メイド「・・・・・・・・・」

長男「・・・一緒に探そう。執事も頼む」

執事「か、かしこまりました」

メイド「・・・すみません」

長男「気にしないでくれ。・・・それにしても心配だな」

執事「・・・そうですね」

長男「・・・同じに部屋で寝たんだろう? 朝起きた時にもういなかったのかい?」

メイド「・・・寝るまでは確かにいました。起きた時は・・・」

長男「・・・いなかったんだな」

執事「・・・探しましょう」

長男「そうだな・・・」

メイド「・・・・・・・・・」



長女『でもね、あなたともっと早く出会えていれば、きっと違う運命が私たちを変えていたと思うわ』

長女『もう、何もかも終わってしまった後だけれど・・・』

長女『あなたとこうやって出会えてお話できた。それだけで、私はなんだか最後の最後に救われたかもしれない・・・』

長女『・・・あなたの優しさと包容力、お母さんととても似ている』

長女『・・・おかげで、ちゃんとお別れできるわ』

長女『・・・寝ましょう。私ね、ようやく眠れそうになってきたから』

長女『本当にありがとう。・・・・・・おやすみなさい』



メイド(・・・・・・まさか・・・・・・)

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

長男「・・・見つかったかい?」

執事「・・・い、いえ・・・」

長男「こっちもだ・・・」

先輩「・・・こちらにもいませんよ」

そばかす「どこに行っちゃったんでしょう・・・」

色白「・・・心配です」

メイド「・・・・・・」

長男「・・・まだ、探していない場所はあるかな・・・?」

先輩「・・・そ、外はどうなんですか?」

執事「・・・この屋敷から外に出た気配がない。断定はできないけど・・・屋内だと思うけどな」

長男「ふーむ・・・」

そばかす「長女お嬢様のお部屋は・・・?」

長男「・・・見てきたけど、何の変りもなかったよ」

色白「お手洗いとかも全部見てきましたけど・・・いませんでした」

執事「他に探していない場所は・・・?」

メイド「・・・・・・・・・」




メイド「地下倉庫・・・まだですよね」




長男「あ・・・そうか」

 タッタッタッ・・・

先輩「ちょ、ちょっとメイド、そんなに走ったら危ないって・・・!」

メイド「・・・・・・・・・」



長女『でもね、あなたともっと早く出会えていれば、きっと違う運命が私たちを変えていたと思うわ』

長女『もう、何もかも終わってしまった後だけれど・・・』

長女『あなたとこうやって出会えてお話できた。それだけで、私はなんだか最後の最後に救われたかもしれない・・・』

長女『・・・あなたの優しさと包容力、お母さんととても似ている』

長女『・・・おかげで、ちゃんとお別れできるわ』

長女『・・・寝ましょう。私ね、ようやく眠れそうになってきたから』

長女『本当にありがとう。・・・・・・おやすみなさい』



メイド(・・・・・・きっと、ただの、思い違い・・・・・・)

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 ギィ・・・

メイド「・・・・・・・・・」




長女「―――――――――」




メイド「・・・・・・・・・」

メイド「・・・長女お嬢様のばか・・・」

先輩「・・・メイド? ・・・・・・えっ」

長男「姉さん・・・?」

執事「そ、そんな・・・」

そばかす「・・・あ・・・」

色白「・・・・・・」

長男「・・・・・・ばかだなぁ」

長男「・・・姉さんらしくない」

執事「・・・・・・くっ」

先輩「・・・これって、もう・・・」

メイド「・・・・・・・・・」

長男「・・・起きてくれよ・・・」

執事「坊ちゃん・・・・・・」

長男「・・・・・・罪の償い方なら、他にもあったはずだ」

長男「・・・ばかだな本当に・・・」

メイド「・・・・・・・・・」

メイド(・・・違う)

メイド(そんなことを思って長女お嬢様はこんな結末を選んだわけじゃない)

メイド(長女お嬢様は、ただ・・・・・・)

メイド(お母さんと一緒にいたかっただけだ)

メイド(そう・・・ずっと一緒に・・・)

 ―――☆――――――――☆

 ☆――――――☆

 ―――☆

 ☆

メイド『そこから先のことはあまりよく覚えていない』

メイド『地下倉庫に駆け付けた時・・・』

メイド『長女お嬢様の体は既に冷たくなっていた』

メイド『チーフさんの胸に抱かれながら・・・』

メイド『とても満足そうな笑みを浮かべて・・・』

メイド『死因は急性アルコール中毒による自殺』

メイド『長女お嬢様の近くには大量の睡眠薬とかなり度の強いアルコール』

メイド『御主人様の嗜みだろう』

メイド『長女お嬢様はおそらくわたしが寝た後に部屋を抜け出し・・・』

メイド『その時にわたしが持っていたマスターキーを持ち去った』

メイド『そこから、キッチンへいきお酒を持ち出す』

メイド『次に自分の部屋へ行き睡眠薬を持ち出す』

メイド『そして、地下倉庫へ・・・』

メイド『・・・・・・・・・』

メイド『わたしは結局誰も救えなかったのか』

メイド『どう言えば、救ってあげられることができたのだろうか』

メイド『わたしが犯人探しなどしなければ良かったのか』

メイド『誰もかれも真実など知らないままの方が幸せだったのか』

メイド『長女お嬢様は・・・これが望んだ結末だったのか』

メイド『残されてしまったわたしは・・・こんな思考がまるで蛇のとぐろのように・・・ぐるぐると』

メイド『そして何も考えられなくなってくる・・・』

メイド『膝が崩れて無言を貫くわたしを、周りの人たちが次々と声をかけてくるけれど』

メイド『何も返事ができないまま・・・動じないわたしと、正反対に忙しそうに動いている人たち』

メイド『先輩さんがなにかを差し出してくる。わたし宛ての手紙だった。長女お嬢様の遺書らしい』

メイド『・・・いったい何が書かれているのだろうか・・・』

メイド『考えている内に、先輩さんの手に引かれて、ずるずると引きずられるようにあの場所を去った』

メイド『地下倉庫から出ると何やら騒がしかった』

メイド『気が付いて辿り着いた場所は、わたしの部屋』

メイド『あれから、何時間か経ったけれど・・・』

メイド『・・・わたしは未だに、手紙を読むことができないままでいる・・・』

 ―――☆――――――――☆

 ☆――――――☆

 ―――☆

 ☆

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

 コンコン

「・・・・・・・・・」

「入るよ」

 ギィ・・・

メイド「・・・・・・・・・」

先輩「・・・もうお昼よ。ごはん食べない?」

メイド「・・・・・・・・・」

先輩「・・・いつまで、こうしてても長女お嬢様は帰ってこないよ」

メイド「・・・分かって、います」

先輩「分かっているなら話は早いわね。あんた朝ごはんも食べてないでしょ。お腹空いているでしょ」

メイド「・・・食べたくないです」

先輩「そっか。じゃあ無理に食べなくて良いから。みんなに顔見せるだけ見せて。みんな凄く心配してるのよ」

メイド「・・・すみません」

先輩「こういう時は謝るんじゃなくて、ありがとうの方が皆は嬉しい」

メイド「・・・・・・」

先輩「さぁ、一緒に行こう。みんな待ってくれてる」

メイド「・・・はい」

先輩「・・・よろしい。行きましょう」

メイド「・・・・・・・・・」

先輩「はー、お腹空いたー」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

先輩「お待たせしました」

メイド「・・・・・・・・・」

長男「・・・メイドさん。いらっしゃい」

執事「よく来てくれたね。さぁ、どうぞ」

そばかす「お腹空いたね。隣おいでおいで」

色白「・・・ちょっと顔色良くなったね」

先輩「ほら、みんな待ってたでしょ」

メイド「・・・ありがとう、ございます」

長男「・・・話を蒸し返すようかもしれないけど」

長男「・・・姉さんがあんな結末になってしまったのは・・・決してメイドさんのせいじゃない」

メイド「・・・・・・・・・」

長男「たぶんね。・・・僕たちが何を言っても・・・もう手遅れだったかもしれない」

長男「僕の予想に過ぎないが、最後は自分で命を断つつもりだったのだと思う」

長男「賢い姉さんのことだ、おそらくそれも計算の内だった可能性は高い」

長男「・・・だから、決して、自分を責めないで欲しい。メイドさんは本当によくやってくれた」

長男「むしろお礼が言いたいくらいなんだ。・・・本当にありがとう」

メイド「・・・いえ・・・お礼を言われるほどでは・・・」

執事「私からもお礼を言わせて欲しい。ありがとう」

メイド「・・・・・・いえ」

長男「・・・辛気臭い話はこれまで。さぁ、食事にしよう」

先輩「さっ、頂きましょう」

そばかす「メイドちゃん何食べる? 私の分けてあげるね」

色白「珍しいね、そばかす」

そばかす「べっつにー。ね、どれ食べたい?」

先輩「好きな物食べてよ。私たち頑張って作ったからさ」

執事「遠慮はいらない。足りなければ作れる」

メイド「・・・・・・・・・」

先輩「・・・メイド?」

 ぽろぽろ

メイド「・・・ありがとうございます。ありがとうございます」

先輩「・・・今まで我慢してたの? しょうがないなぁ、もう」

メイド「・・・すみません」

先輩「気にしてない。もうメイドは私の妹みたいなもんだし」

長男「メイドさんは一人じゃない。僕らみんな・・・メイドさんの友達だからね」

執事「・・・そうですね」

そばかす「ふふ、一緒に寝た仲だしね!」

色白「その言い方は語弊があるからやめなさい」

先輩「ふふ・・・楽しいね」

メイド「・・・はいっ」

長男「・・・気を取り直して・・・食事といこうか」

メイド「はい・・・いただきますっ」

メイド(・・・わたしは一人じゃない。長女お嬢様はずっと一人だったのか)

メイド(こんなに辛い事だなんて・・・わたしは、長女お嬢様の気持ちなんて一つも分かっていなかったのかもしれない)

メイド(でも長女お嬢様も最後は・・・今のわたしみたいな気持ちだったのだろうか)

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

長男「・・・ふう、さてさてこれからどうするか・・・」

先輩「・・・どうするか、ですか」

長男「うん。父さんはもういない。なんとか引き継がなければいけないだろう」

先輩「そっか・・・大変ですよね」

長男「・・・いっそ、放棄してしまっても良いと思った。でも、やはり放っておけないな」

そばかす「さすがですねぇ、かっこいいです」

長男「・・・それで、この屋敷はもう使わないことにしようと思う」

先輩「・・・こんな大変な事件が起きてしまいましたもんね」

長男「それもあるけど・・・最初は取り壊してしまおうかと思ったんだ」

長男「・・・でも、ここはあの二人の思い出の場所だからね」

メイド「・・・そうですね」

長男「・・・そうなんだ。だから、建物はそのまま。人は住まない。でも、定期的に掃除は必要だね」

執事「そうですね・・・」

長男「二人のお墓も創ろうと思う。他の人たちは・・・街で」

長男「そうしないと、怒って夢に出てきそうだからな」

先輩「ふふふっ・・・」

長男「ここは・・・二人だけの場所にしたい」

メイド「・・・賛成です。ぜひ、お願いします」

長男「引き受けたよ。任せてくれ」

先輩「執事さんはどうされるんですか?」

執事「無論、坊ちゃんについていくよ。しっかりされているとはいえ、まだ年齢的に幼い」

執事「むしろ、それだけしかできないんだよ私は」

長男「・・・頼りにしてるよ、執事」

執事「・・・はい」

先輩「そばかすと色白はどうするの?」

そばかす「んー、とりあえず街に戻って・・・お母さんの顔見たいかな」

先輩「なるほど、あんたらしい」

そばかす「それでお仕事も探さないといけないけど・・・どうしようかなぁ」

先輩「・・・色白は?」

色白「そばかすについていきます。良い人がいれば、結婚したいんですけど、そんな人いないので・・・」

先輩「・・・そっか。そうだよね、あなたたちもう良い歳だし」

色白「そうなんです」

そばかす「むっ・・・そういう先輩さんこそ、どうなんですか!」

先輩「・・・あー、私は・・・・・・結婚するの」



メイド・そばかす・色白「「えっ」」

長男「へぇ・・・おめでとう」

執事「おめでとう」

そばかす「えっ、えっ?」

色白「・・・一人だけ抜け駆け・・・」

先輩「悪く思わないでよ・・・・・・執事さんは知ってますよね」

執事「うん」

メイド「・・・そうなんですか・・・恋人、いらしたんですね」

先輩「・・・まあね。黙ってたのは悪かったと思う。ごめん」

先輩「でもね、前から20歳になったら、ここを出ていくことは決めてた。執事さんたちにもそう約束してもらったし」

先輩「彼にもけっこう長い間待ってもらってるから・・・愛想尽かされちゃう」

メイド「そうだったんですね・・・おめでとうございますっ」

先輩「ふふ、ありがとう」

色白「おめでとうございます。お幸せに」

長男「うん・・・お幸せに」

先輩「・・・ありがとうございます」

先輩「・・・メイドは、どうするの?」

メイド「わたしは・・・・・・」

メイド「・・・とりあえず、家に帰ろうかなと思います」

メイド「予想よりもかなり早く帰ってしまうので、お母さんに言う言い訳考えておかないと・・・あはは」

先輩「・・・そっか。家はどこなの?」

メイド「えっと・・・街といっても、郊外の方なので・・・」

先輩「・・・あとで詳しく教えてね。手紙とかやり取りしたいし、中々行けないと思うけど、遊びにも行きたいな」

メイド「・・・はい、喜んで!」

そばかす「良いな、私にも教えて!」

メイド「はい、みなさん来てくださいっ」

長男「・・・メイドさん、すっかり元通りみたいで良かった」

執事「・・・はい、そうですね」

執事「ところで、坊ちゃん。彼女にはまだあれが・・・」

長男「・・・ああ、そうだったね」



長男「盛り上がっているところ申し訳ない。そろそろ続きをしてくれ。連絡先の交換はまた後で頼む」

先輩「あー、そうですね」

メイド「・・・続き?」

長男「あと、メイドさんはちょっとこっちに来てくれ」

メイド「・・・はい」

長男「・・・すまないね」

メイド「・・・えっと、なんでしょうか」

長男「・・・これを渡したかった」

メイド「・・・?」

メイド「・・・こ、これって・・・!」

メイド「・・・う、受け取れません! こ、こんな・・・」

長男「そんなにうろたえなくても大丈夫だよ。給料だ」

メイド「で、でも・・・こ、これ、一か月どころか、半年分でもきかないくらい・・・」

執事「・・・それだけの働きをしてくれたと私たちは思っている」

長男「うん。それに、僕の家族が迷惑をかけた。その中には迷惑料も入っていると思ってくれ」

メイド「そ、そんな・・・」

長男「元を辿れば、事の元凶は全て僕の家族にあるしな。謝っても謝り切れないくらい、申し訳ないことをしたと思っている」

長男「・・・本当に申し訳ない」

メイド「・・・・・・・・・」

長男「・・・本当は姉さんが犯人なんじゃないかと、数日前から思っていた」

長男「メイドさんのように根拠があるわけじゃなかったんだけど」

長男「・・・あんな完璧な計画ができるのは姉さん以外にできないだろうと思ったんだ」

長男「・・・ただ、それだけ。勘みたいなものだよ。当たってしまったけれどね・・・」

長男「疑いたくなかったんだ。あんな真面目で心優しい姉さんが・・・」

メイド「・・・わたしも疑いたくありませんでした。気持ちはとても分かります」

長男「・・・みんなそうかもしれないね」

長男「・・・そういうわけなんだ。受け取って欲しい」

メイド「・・・分かりました。ありがとうございます」

長男「それから、続き、というのは・・・」

執事「・・・ここからは私が。今朝、ようやく街から応援が来たんだ」

メイド「あ・・・そ、そうなんですか」

執事「みんな、自分の荷物をまとめる準備をしている。メイドさんもやって欲しいんだ」

メイド「分かりました。そうか、それでなんだか騒がしかったんですね」

執事「・・・そういうことなんだ」

長男「僕らも荷物をまとめなければ。行こう執事」

執事「はい、かしこまりました」

メイド「・・・わたしもやらなきゃ」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

メイド「・・・よいしょ」

メイド「元々持ってきた荷物なんてしれてるし・・・割と早く終わった」

メイド「・・・・・・・・・」

メイド「・・・何もかもが・・・終わった」

メイド「これで・・・全部・・・」

メイド「・・・・・・・・・」

メイド「そういえば・・・まだ、手紙を読んでない」

メイド「・・・・・・・・・」

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

   メイドさんへ

  今まで本当にありがとう。それから、ごめんなさい。

  私がこのような決断をしたのは決してあなたのせいではないことを、まず断言しておく。

 あなたは私の為に、言葉や文章では表現できないほど尽くしてくれた。

 そのことに、ありがとう。

  あなたと過ごす人生はとても楽しいと思う。心からそう思う。

 でも、私は・・・きっと迷惑をかけてしまうから。お母さんみたいに。

 とても悩んだけれど、私は、お母さんのそばに居続けようと思う。

 きっと怒られると思う。お母さんの想いを無駄にしてしまうから。

 それでも、私はお母さんのそばにいたい。どんな形でも・・・


 生まれ変わっても、お母さんの娘でいたいから・・・。


 だから、あなたの隣にはいられない。そのことに、ごめんなさい。

  最後に、私と友達になってくれて本当にありがとう。本当に楽しかった。最後の最後に私は救われた。

 そして・・・さようなら。どうか、どうか、あなたに幸せな人生を祈る。

 ―――――――――

 ――――――

 ―――

メイド(わたしだって・・・わたしだって、友達なんて、あなたが初めてでした)

メイド(本当に嬉しかった。あの言葉に嘘は・・・なかったでしょう。でも・・・・・・)

メイド(長女お嬢様はわたしより、お母さんを選んだ。賢い長女お嬢様らしい、自分で正解を見つけただけのこと)

メイド(それがあなたの一番の幸せなら・・・わたしは止める理由はない)

メイド(わたしはチーフさんも想いは同じ。・・・何より、あなたに幸せになって欲しかった。これで良い。これで良かったんだ)

メイド(長女お嬢様はついに手に入れたんだ。永遠を。母親という永遠を)

メイド(もはや誰にも壊せはしない・・・永遠と夢幻の桃源郷へと・・・旅立った)

メイド(永遠を求めたその姿は、それは、まるで・・・)



メイド「あのウロボロスの蛇のように」



 おわり

これで終わり 長い間支援・読んでくれた人に超感謝
最後少し駆け足気味になったけど、言いたいことは全て言わせたつもり
犯人による殺害シーンと自殺シーンは書こうと思ったけど、
今後の展開のために特に必要ないと判断したので省いた

犯人は分かった人は多いと思うが、そのすぐ後の本当の自殺理由に気付けた人は
どれくらいいただろうか そこが一番の本命だったりする

ちなみに犯人を長男もしくは生き残った姉弟だと予想した人は
まるきり的外れというわけではない
途中までは実行犯は長女だけど、真の黒幕は長男にして最後締めようと思っていたから
長男が長女がこうなるよう仕向けたということになる
狙いは父親の遺産と立場、長女含む邪魔な人間の排除
しかも、長男だけ生き残ってしまうと、長男だけあの一家の中で唯一の真人間になることを
不自然に思った人がいれば大したものだと思う

他に何か質問や分からないところがあれば受け付ける

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