真「諦めないで、正直に」 (13)
『ボクの事…舐めて貰っちゃ、困るんだよね!』
『何だと…馬鹿にするんじゃねえよ!』
『!』
『ぐあっ!』
「さーっすが真クンなの」
「真さん、恰好良いですねー」
「も、もうっ、美希、やよい、止めてよ」
「だって、ホントに恰好いーよ?」
「はい!」
「うう…」
美希とやよいが、ボクの出ているドラマの宣伝を見ている。
ボクも、初めて見るかもしれない。
初めての、ドラマの主演。
学園ドラマの主人公で…男装の女の子という設定だ。
…ボクだって、セーラー服を着て、女の子の役をやりたかった…
けど、今は満足してるよ。
ドラマの視聴率もどんどん上がってるし、皆からも褒められて…
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「でも、アクションも演技も上手いって、監督さん褒めてたわよ」
「律子、戻ってたんだ」
「さっきねー。仕事が多いったらありゃしないわー」
去年の765プロオールスターズライブは大盛況。
そのお蔭か今年に入ってから、ボク達の仕事は去年の倍以上にまで増えていた。
律子も、彼方此方への影響で忙しいみたい。
「あれ?今日はアンタ達は終わり?」
「はいっ、真さんと美希さんと料理番組の収録でした!」
「あー、お料理さしすせそ、か」
「やよいのお料理、とーっても美味しかったの!」
「うんうん、良いなぁ…やよい、今度ボクにも教えてよ」
「はいっ!」
そんな会話をしていると、事務所の玄関から聞きなれた声がした。
「帰ったぞー」
その声を聴くと、ボクは緊張と、安心感と、それと…いろんな気持ちが混ぜこぜになって…
「あっ、プロデューサー、お帰りなさい」
「ああ、只今やよい。お、真も居たのか」
「ハニー、ミキも居るの!」
「ああ、はいはい。今日は三人とも、お料理さしすせその収録だったな。お疲れさん」
「はい!…あ、律子さん、今日お母さんがパートで遅いので…」
「あ?もう帰るのね、分かった、送るわ」
「すまない律子、頼む」
「はいはい」
そう言うと、プロデューサーは自分の机に戻って仕事を始めた。
「…真クン?」
「…」
「真クンってば」
「…」
「…まーこーとークーン!」
「ふぇっ!?な、なに?!」
美希が、ボクに話しかけていた。
全然気づかなかった…
「…どうしたの?」
「…何でも、無い」
「…何でも無くないの。何でも無いならハニーが来たとき、何で顔を逸らしたの?」
美希には、バレているんだ…。
「…正直じゃない真クンは、ミキ、嫌いだな」
「…」
「自分の気持ちを、伝えなきゃダメだぅて思うな。駄目なら、何度でも、分かってくれるまで伝えないと…自分に嘘を吐くなんて、ミキだったら、絶対嫌なの」
「…」
「じゃーね、真クン。諦めちゃ駄目だよ!」
「これで、良いんだよね…ミキ…」
『プロデューサー…ボク…プロデューサーの事が!』
『駄目だ…俺は…俺も…いや…俺は、ダメなんだ…!』
『そんな…』
去年の終わりのライブの後、ボクはプロデューサーに…告白した。
でも、やっぱりプロデューサーは…
ボクじゃ…駄目なのかな?
あれ以来、少しプロデューサーとも距離を置く様になっているし、プロデューサーもボクに必要以上に接してくれない。
(はぁ…)
「真ちゃん…?」
「…」
「真ちゃん?」
「あ、ああ、雪歩。どうしたの?」
ボーっと考え事をしていたら、雪歩が心配そうな表情で、ボクの前に立っていた。
「…今日、この後、時間あるかな?」
「おじゃましまーす」
「どうぞ」
雪歩は、去年の終わりから一人暮らしを始めていた。
良く、あのお父さんが許したねって言ったら。
『うん、でもたまにマンションの下に見た事のある黒いセダンが止まってるんだ』
だって。
雪歩らしい、和モダン?って言うのかな。落ち着いた雰囲気の部屋に入ると、何だか心が落ち着くなぁ…来るたびに、テーブルの上の花は変えられてるし、おこうか何かを焚いてるみたいで、良い匂いがする。
「はい、お茶…真ちゃんは、ゆっくりしててね」
そう言うと、雪歩は手早くキッチンに立って、晩御飯の支度を始める。
包丁が野菜を刻む音、鍋がぐつぐつ煮える音。
お味噌汁と…何だろう、炒め物かな…?
暫くして、雪歩がお盆に乗せて、料理を運んできた。
「あ、ゴーヤチャンプルーだ」
「うん、響ちゃんからもらったんだ。沖縄から凄い量が届いちゃって、食べ切れないからって」
「あははっ、響らしいや。いただきまーす!」
雪歩の作ってくれた料理は、物凄くおいしい。
お味噌汁なんかは、飲むとホッとする味だ。
こういうのが、男の人は好きなのかな…
「美味しいね」
「ふふっ、良かった」
暫く、他愛も無い話をしていたけど、ボクは本題に入る事にした。
「ねえ、雪歩」
「なに?真ちゃん」
「…どうしたの?何かあったの?」
「それは、私の台詞だよ?」
え?
どういう事?
「…真ちゃん、去年のライブのあとから、様子が変だもん…私は、原因も分かってる」
「…」
「美希ちゃんにも、今日言われたの…真ちゃんの様子が、変って」
「…雪歩には、関係ないだろ」
「関係あるよ!」
突然、雪歩の声が大きくなる。
「えっ…」
「私…真ちゃんの事が好き」
「ボ…ボクだって雪歩の事」
そう、ボク達は…
でも、違うんだ、分かってるんだ。
ボク達の「好き」は、あくまで…友達としての「好き」であって、恋愛じゃないんだ。
「違うの、そういう事じゃ無いの…真ちゃんが、本当に好きなのは…やっぱり、プロデューサーだよ」
「雪歩…」
「真ちゃんは、いつも通りに、プロデューサーに接してあげて…それが、プロデューサーも一番うれしい事だと思う…の」
「…」
もしかして、雪歩はずっとこの事を気にして…ボクが、ハッキリしないから…
「…ご、ごめんね、私なんかが…」
「…雪歩」
ボクは、思わず雪歩の事を抱きしめてた。
「…ありがとう…ボク、プロデューサーの事が好きだ…!今度、もう一度…」
「…頑張ってね、真ちゃん…応援、してるから」
「…うん」
雪歩を抱きしめたまま、ボクは頷いた。
雪歩や、美希の言った通り、ボクはプロデューサーの事が、好きなんだ…
「プロデューサー!」
次の日、ボクは事務所に入るなり、プロデューサーに話しかけていた。
「お、おう、真、どうした」
「好きです…!」
「なっ…」
「ボク、プロデューサーのことが好きなんです!あの時、ライブが終わったら、ボクの王子様になってくださいって言おうと思ってたんです!でも、どんどん仕事が増えて、皆のランクも上がって、だから…その…!プロデューサーとアイドルで、だから!その…」
どうしよう、何を言ったらいいか全然分からない!
プロデューサーに、伝えたい事があるのに…!
「…真、俺…」
「プロデューサーとアイドルっていう関係だって事は分かってます!だけどボク…あなたの事が、好きなんです!」
「俺も…俺は、お前の王子様だよ?」
「…っ…はははっ、プロデューサー、自分で言って結構恥ずかしそうじゃないですか」
「ばっ、お前、ヒトがだいぶ悩んだ末の回答をそんなこと言うのか!」
「でも…プロデューサー、本当に…だって、ボク」
「俺は、かわいい真が好きだ、かわいくなろうと努力する真が好きだ。自分の思ってる菊地真とファンが思っている菊地真が違うと悩む真が好きだ。いつも元気で、そこらの男以上に運動できて格好良い真が好きだ!とにかくお前のことが全部好きなんだよ!俺だって今まで言いたくてもいえなかったんだ!」
「…朝からお腹いっぱいなの。…あふぅ」
「美希ちゃん、よかったの?」
「良いも何も、ハニーが好きなのは真クンなの」
「ふぅん…」
「プロデューサー…!」
「…真」
「「好きだーっ!」」
そう言う訳で、ボクとプロデューサーは、晴れて事務所内公認となった訳で。
勿論、外部には絶対言えないから、恋人らしいことは全然できていないけれど。
それでも…
「プロデューサ~!何で今度のモデル撮影、こっちの特集のほうにしてくれなかったんですかぁっ!」
「そっちは貴音や美希の仕事だろうが、お前はこっちのアウトドア雑誌の取材」
「ボクだってああいうフリフリな奴着たいですよ~」
「まだお前はそんな事言うのか!フリフリなのはショーツとブラだけで十分だ!」
「あああっ!セクハラだ、プロデューサーのセクハラ魔!セクハラで訴えてやる!」
「おー、セクハラプロデューサーだぞー!なんなら揉んだる撫でたるぐりぐりしたる」
「きゃーっ!プロデューサーのエッチー!」
「大体なー、そういうかわいい格好は俺の前だけって言ってるだろう!」
「だって、皆にも見てもらいたいじゃないですか!ボクのプリティーでマコマコリンなところ!」
「それは俺だけで良い!もったいない!」
「真ちゃん…良かったね」
「雪歩」
「…何?美希ちゃん」
「ハイグンのショーは潔く、なの」
「分かってる…それに、負けたわけじゃないよ?」
「え?」
「美希ちゃんの事も、私の事も、765プロの皆の事を、真ちゃんは大好きなんだもん」
「…それもそうなの」
「分かった分かった、次の仕事ではウェディングドレスの試着かなんか取ってくるから」
「本当ですか?!やーりぃっ!」
「俺と着る時の、予行練習な」
「!」
「ははっ、冗談だ冗談」
「あーっ!そう言う嘘はいけないって、ボク思うな!」
「美希みたいな口調で言うな!」
「…でも、いつか…」
「え?」
「何でも無いですよ!ほら、行きましょう!」
「ああ…!でも、真…俺も、こうなったら真剣だぞ?」
「…!?…はいっ!」
正直に、諦めず、素直な気持ちを伝えれば。
相手にも、きっと伝わる…
ボクの気持ちも、届いたように…ね。
終
以上です、お粗末さまでした。
真、誕生日おめでとう!
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