照「せめて、胡蝶の夢」 (120)

代行: ID:V7tj5Ur/0

――――――――――
咲「お姉ちゃん、起きて」

照「う……ん………………咲……?」

咲「うなされてたみたいだけど、大丈夫?悪い夢でも見たの?」

照「うん…………なんだか、ひどい夢を見てた気がする」

咲「そっか。じゃあ、気分転換にどこかに出かけよ?今日は連休終わりの前日なんだし」

照「本音は?」

咲「お姉ちゃんと遊びに行きたい」

照「いいよ、朝ごはんを食べたら出かけようか。本屋にでも行こう」

咲「本当っ!?やったぁ!じゃあじゃあ、朝御飯の用意は出来てるから、早く下りてきてね!」

照「うん、分かった。ところで咲、首の包帯はどうしたの?」

咲「えっと…実は、カッターの刃を折るのに失敗しちゃって、刃が跳ねて首に…」

照「大丈夫なの?痛むんじゃない?」

咲「だ、大丈夫だよ。血も殆ど出てなかったし全然、平気だからそんな顔しないで」

照「そう…?」

咲「そうだよ。それよりも、早く下りてきてバタバタ

照「すぐ行くよ…………ふふ、あんなにはしゃいで」

―――――
照「ごちそうさまでした」

咲「お粗末様でした」

照「おいしかった。やっぱり咲の手料理はいい」

咲「ありがとう、お姉ちゃん」

照「本当に、どうやったらこんなにおいしい料理が出来るの?」

咲「え?うーん……やっぱり、お姉ちゃんにおいしい料理を食べてほしいって思いながら作ったからだよ」

咲「ありきたりだけど、食べる人のことを考えて、愛情を込めて作るとおいしくなると思うよ」

照「そうなんだ。じゃあきっと、お姉ちゃんは特別幸せなお姉ちゃんなんだろうね」

照「こんなにいい妹の愛情をたっぷりと味わったんだから」

咲「もう、お姉ちゃんったら…もっと撫でて」

照「はいはい」

照「準備できた?」

咲「うん。お待たせ」

照「恋人と出かけるんじゃないし、そんなにお洒落しなくても」

咲「だって、久しぶりに二人で出かけるんだしそれに…」

照「それに?」

咲「…………ううん、なんでもない」

照「?変な咲」

咲「さあ行こう、お姉ちゃん」

照「準備できた?」

咲「うん。お待たせ」

照「恋人と出かけるんじゃないし、そんなにお洒落しなくても」

咲「だって、久しぶりに二人で出かけるんだしそれに…」

照「それに?」

咲「…………ううん、なんでもない」

照「?変な咲」

咲「さあ行こう、お姉ちゃん」

―――――
照「どう?何かあった?」

咲「うん。そろそろ行こうか」

照「じゃあ、久しぶりだしお姉ちゃんが買ってあげる」

咲「そんな、いいよ」

照「いいよ、遠慮しないで。たまにはお姉ちゃんらしいところを見せないと。だから、ね」

咲「うん…じゃ、じゃあちょっと待ってて」

照「?」

咲「買ってくれるなら、こっちがいい」

照「いいけど……本当にこんなのでいいの?」

咲「いいの…小さい頃、お姉ちゃんに貰ったのが嬉しくて読み返してたら、ボロボロになっちゃったから」

照「そうだっけ…うん、買ってくるよ」

咲「ありがとうお姉ちゃん」

―――――
照「あ、これ…似合うと思うよ」

咲「チョーカーかあ……」

咲「どう?似合う?」

照「うん。似合ってるよ」

咲「そうかな。じゃあ買っちゃおうっと」

咲「ん……あれ」

照「どうしたの?」

咲「チョ、チョーカーが外れないよ…」

照「どれどれ……はい、取れたよ」

咲「ありがとう…大丈夫かな」

照「大丈夫。ごめんね、サイズの一つ上のを買おうか」

咲「うん」

―――――
照「お昼だね」

咲「ご飯はどうしよっか」

照「折角だから、このまま外食しよう。いい店があるから」

咲「うん、案内お願い。それでね、迷子になっちゃうかもしれないから…手、繋いでもいい…かな…?」

照「勿論。ほら、手、出して」

咲「ありがとう……えへへ」

照「……」

咲「……なんだか」

照「……?」

咲「なんだかね、こういうのって、いいなあ……って、そう思うの」

咲「二人でこうして手を繋いだり、一緒にお出かけしたり…とにかく仲が良くって…」

照「咲……」

咲「二人で笑い合えるって……すごく幸せなんだって、こういう日常が素敵だな、って…」

照「……うん…そうだね……」

―――――
咲「おいしかったね」

照「うん。私のお気に入りなんだ」

咲「そうなんだ。さすがお姉ちゃんだね」

照「ふふ……それで、この後はどうする?」

咲「うーん……特に行きたいところも無いし、帰ろうか」

照「じゃあ、のんびり散歩しながら帰ろう」

咲「そうだね」

咲「お姉ちゃん」

照「何?」

咲「この先、どうするの?進路は…お姉ちゃんなら大学もいいとこに行けるし、プロも」

照「……そうだね…大学に行くか、プロになるか……まだ決めてない、かな」

咲「そうなんだ。でも、早く決めないとどっちにもなれないで卒業しちゃうよ」

照「まあ、まだ時間があるから……咲はどう?何か考えてる?」

咲「うーん……私はお姉ちゃんと一緒にいられたらそれでいいから」

照「一生側にいるつもりなの?」

咲「嫌?」

照「そんなことはないよ。私も、咲がいてくれたら嬉しい」

咲「えへへ…じゃあずっと一緒だね」

照「うん」

―――――
咲「いたた…」

照「大丈夫?」

咲「足捻っちゃって……正直、歩くのも」

照「……しょうがない」

照「ほら、おんぶするから背中につかまって」

咲「い、いいよ、恥ずかしいし、お姉ちゃんが大変でしょ」

照「大丈夫だから、ほら。それにそんなこと言って、いつまでも道端にいるわけにもいかないから」

咲「うう……じゃあ、お願い」

照「うん……よいしょ、っと」

咲「重くない?」

照「軽い。ちゃんと食べてるの?」

咲「食べてるよ。それより、ごめんね」

照「咲は悪くない。あんな速度で歩道を走る自転車が悪い」

咲「で、でも」

照「いいから、お姉ちゃんを頼って」

―――――
照「何年ぶりかな、咲をおんぶするのも」

咲「うん。もう随分昔のことみたいに思える」

照「十年も経ってないのにね」

咲「でも、今でも思い出せるよ。お姉ちゃんの背中の感触も、歩いた時の揺れも」

咲「あんまり気持ち良いから、途中で寝ちゃうんだよね」

照「落ちそうになる咲を必死で支えながら歩いたのはよく覚えてる」

咲「そうだったんだ」

照「今寝られると、もうお手上げかな」

咲「今はもう大丈夫だよ…………たぶん」

照「頑張って」


咲「ねえ、そこの公園で休んでいこうよ」

照「ん、そうだね」

―――――
照「はい、ミルクティー」

咲「ありがとう」

照「…………咲は」

咲「?」

照「咲は、連休の間ずっとこっちにいて良かったの?」

咲「うん、いいんだよ」

照「皆と遊んだり、部活は無かったの?」

咲「いいんだって。なんならずっとこっちでもいいって言われたぐらい」

照「もしかして、嫌われてるの?」

咲「ううん。皆よくしてくれてるよ」

照「なら良かった」

咲「ね、お姉ちゃん」

照「どうしたの、咲」

咲「今日は楽しかったよ」

照「そう、良かった。私も楽しかったよ」

咲「良かったあ……お姉ちゃん」

咲「抱きついてもいい?」

照「聞かなくてもいいよ」

咲「頭撫でて」

照「甘えん坊」

咲「……ねえ、お姉ちゃん」

照「なに?咲」

咲「私ね、お姉ちゃんのこと大好きだよ」

照「……ありがとう」

咲「お姉ちゃんは?」

照「……私は…………うん、私も、咲のこと…」

――――――――――
照「……」パチ

照(ここは……それに、今のは……夢…………?)

「お前は別に来る必要はないぞ」

「……行くよ」

照(菫と淡か…)

―――――
菫「…………早すぎたな」

淡「……うん」

菫「明日はどうするんだ」

淡「……私は」

菫「疲れてるだろう、無理するな」

淡「でも……菫…先輩は、どうするの……ですか?」

菫「行かないわけにはいかないさ」

菫「これでも、照とは無二の親友だ…と私は思っている。浅い付き合いじゃない…それに」ナデナデ

淡「……っ」

菫「淡、お前はまだ…なんていうかな、幼いというか、未熟なんだ。良くも悪くも」

菫「お前の純なところは勿論長所だ。だがお前の短所はな、淡」

菫「自分は出来るつもりでも出来ないことがある点だ。遊び回った子供が熟睡するように、」

菫「自分が疲れていることに気付いてないんだよ…今のお前は」

菫「疲れてるのは、何も体だけじゃない。心も疲れてるんだ」

菫「恐らくこの後は、とてもじゃないが耐えられないだろう。だから明日」

菫「お前は別に来る必要はないぞ」ガチャ

淡「……行くよ」

照「菫…淡…」

菫「照!?」

淡「テルー!テルー!」ダッ

菫「ようやく目を覚ましたか……いや、とりあえずはほっとした」

淡「テルー……テルー……」ボロボロ

照「どうしたの、淡」ナデナデ

菫「……?」

菫「照、お前……本当に照か?」

照「…?何を言ってるの?」

菫「いつものお前らしくないというか、何か違う人間に思えてな…悪い、変な事を聞いた」

照「……うん。私も変な感じ。なんだかスッキリしてるような…清々しい感じ」

菫「そうか……」

菫「体は動くか?大丈夫だとは思うが、念のために検査を受けておいた方がいいだろう」

菫「体が動かせるなら、せめて明日の式ぐらいには来てやれ」

照「式…………?菫……どういうこと……?」

菫「…………そう、か……覚えてないか…まあ無理もない。どのくらいの記憶が無いんだ?」

淡「テル…?」

照「ごめん……一週間ぐらい」

菫「一週間……」

照「どうして……淡は泣いてるの?それに式って……ここはどこ…?」

菫「まず、お前は二日間寝ていたんだ。淡はたいそう心配していたぞ」

菫「そしてここは長野の病院だ」

照「長野?」

菫「次に式のことだが……動けるか?」

照「ん……フラフラするけど、なんとか」

菫「そうか……おい淡、帰れ」

淡「え…?」

菫「見せるのが手っ取り早い。だからもう帰れ。それとも、もう一回行くか?」

淡「……帰る。だけど、明日は行くから」

菫「そうか……気を付けて帰れよ」

淡「分かってるよ…………菫も気を付けて…寝てないんでしょ?」

菫「心配するな。出来が違うんだよ……また明日な」

淡「また明日……テルー……あんまりだよ…それは…………」

菫「……照。着替えたら外で待っていろ。淡を送るついでに色々用事を済ませてくる」

―――――
照「菫、どこに向かってるの」

菫「……なあ、照。私のことをどう思ってる?私はお前のこと親友だと思っているんだ、これでもな」

照「私も、菫は大切な友人だと思ってる。それが

菫「どのくらいだ?……私は、お前のことを理解してる、つもりだった。嘘をついたことも無い、筈だ」

菫「それが、ここ最近自信が無くなってきた。お前のことを理解しているようで、全く理解出来ない」

照「……?」

菫「……お前は、どのくらい私の事が大切なんだ?ちょっと数値で表してみろよ、大体でいいから」

照「数値って……」

菫「言い表しにくいのは分かる。しかしそこを何とか」

菫「百を上限として…どうだ?」

照「……七十…いや、八十くらい、かな」

菫「そうか…ありがとう。嬉しいよ。安心したよ………その一割でも分けてやれば…いや」

照「……?」

菫「実はずっと不安だったんだ。しかし、分かった。ありがとう…………さて」

菫「着いたぞ」

照「ここって……」

菫「本当は分かっているんじゃないか?…………そうか、じゃあ言ってやろう」

菫「いいか、よく聞けよ……お前の妹さん、咲は……彼女は二日前に亡くなった」

―――――
菫「やっぱり入るのは無理だな……清澄は勿論風越に鶴賀、龍門淵と阿知賀まで……それにあの中学生か」

菫「とにかく、今お前が見つかったら袋叩きだ……もう少し待つか、それとも……」

照「菫……本当なの?」

菫「嘘をついてどうする。詳しくは、そうだな…あっちの公園で話そう。思い出したくないが、仕方ない」


菫「ほら、ミルクティーで良かったよな」

照「うん…ありがとう」

菫「なに……それで、詳細だが」

菫「どこから話したものかな……記憶が無くなった約一週間前がいいか。連休の最初の方だ、彼女が来た」

菫「用件は、お前に会って話をする事だ。しかし見事に無視されてな…過去に何があったのか分からないが…」

菫「衝動的にかどうか、カッターで自殺を図った。頸動脈をすっぱりとな」

菫「すぐに救急車を呼んで包帯と点滴だか輸血だか…検査入院、その日はそれで帰った」

菫「翌日、容体を見ようと見舞いに行ったらな……首を吊っていたよ」

菫「どこから持ってきたのか、ベルトを使って……あと数分遅れていたら……」

菫「まあ、結局同じだったんだが……」

菫「窒息寸前だったが幸い後遺症も残らず無事だった……らしい。痕が今でも残ってるぞ」

菫「回復したら精神病棟に移って、それからは鎮静剤と点滴漬けだった……」

菫「ところで、どっちも、お前も見ていたぞ…お前の精神疲労も並々ではなかっただろう」

照「……」

菫「それで、一昨日のことだ。この日、外出許可を申請した」

菫「私が毎日見舞いに行っていたからだろうな。私が同伴する条件で許可が下りた」

菫「それで、なんとか説得して…………最後の賭けだったんだ。正直、後悔もしてる。私は……」

菫「お前に会わせた………失敗だった。適当に観光でもして慰めてやった方がマシだった」

菫「最初からだが…とんだお節介もあったもんだ…………なあ、照………………」

照「菫……」

菫「お前は……徹頭徹尾無言で黙殺して…………そして咲は…」

照「それで……私の目の前で自殺を」

菫「違う……違うんだよ、照…………」

菫「いいか。宮永照、よく聞け。耳を塞ぐな。記憶にしっかりと残せ…!」

――――――――――
菫「照、おい照!」

咲「お姉ちゃん……ごめんなさい……謝るから、何度でも謝るから……」

咲「お願い……します…………無視しないで………………ください……お願いします……」

照「……」

菫「おい照、待てよ」

照「……」

菫「待てって、照!」ガシッ

照「……」ググッ

照「菫、放して」

菫「駄目だ」

照「……」ジッ

菫「……」ジー

照「……」クルッ

菫「…?」

照「……放せ!」ブン

菫「ぐあっ!」ゴスン

菫「っ!」バタッ

照「!」

菫「っ痛……」

照「…………っ!」ダッ

菫「!おい馬鹿止まれっ!」

菫「赤だぞっ!!」

照「えっ……」

照「あ…………」

咲「お姉ちゃんっ!」

――――――――――
照「……」

菫「咲は……お前を助けた…それで、死んだ……」

照「そう、なんだ……夢じゃないの…?」

菫「私も、夢であってほしいよ……でも、事実なんだ」

照「菫……」

菫「それから……傷を縫ったりして整えて…装束に着替えさせたりしたのは母親だ」

菫「年頃の女の子だから、と……そしてこっちに…な。長野の方が落ち着くだろうって」

菫「ああ…お前はあの直後気絶したから知らないだろうが、打ち所は悪かったが即死じゃなかったんだ」

菫「お前に伝言…遺言がある」

照「……」

――――――――――
菫「咲っ!しっかりしろ!今救急車を呼んだからな!」

咲「……もう……いいんです」

菫「何を言っているんだ!諦めるんじゃない、生きろ!」

咲「……」フルフル

咲「それより……お姉ちゃんは……」

菫「大丈夫だ、怪我ひとつ無い」

咲「良かった……お願いがあります…」

菫「何だ、何でもいいぞ!」

咲「…伝えてほしい……」

咲「『私は、それでもお姉ちゃんのことが大好き』それと……皆に『ありがとう、ごめんなさい』って」

菫「何を…生きて自分で伝えるんだ!だから……頼むから……!」

咲「お願いします……弘世さん……」

菫「………………くっ…分かった。必ず伝えよう」

咲「お世話に……なって…ばかりで……」

菫「気にするな、好きでやってることだ……他にはないか?」

咲「じゃあ……頭、撫でてほしい……」

菫「……甘えたがり…」

咲「……はあ…おちつく……」

咲「ひろせさん…………ありがとう……おねえちゃんのこと……おねがい…します……」

菫「……っ!」

咲「………………あ………………ごめん……ね…………うん……ひさ…し……ぶり……」

――――――――――
照「……そう」

菫「照」

照「信じられない。本当に嘘じゃないの?菫」

菫「……」

菫「こんな悪趣味な嘘は嫌いなんだ…嘘だったとしたら、私はここにはいない」

照「……いきなり言われても、現実感が無い…覚えてないし…」

菫「……」

照「嘘じゃないんだよね?」

菫「…いい…加減に……っしろ!」バシン

菫「人を馬鹿にしているのか!ふざけているのか、なあ!」グイ

照「すみ…」

菫「お前のその言葉がどれだけの人を、悼む心を蔑にしていると思っているんだ!」

菫「強引についてきた淡を!最後まで来ると言って聞かなかったあいつらを!」

菫「彼女のチームメイトを!彼女と繋がりを持った人達!彼女のために涙を流す人達を!」

菫「何より彼女を!」

菫「覚えていなければならないことを忘れて人の想いも存在も何もかも否定してなかったことにして!」

菫「嘘だの何だのと現実を見ないで!大概にしろっ!宮永照!!」

菫「…………すまない…熱くなり過ぎた」

照「ううん……本当…なんだ…………」

菫「……ああ」

照「………………夢を見たんだ」

照「咲と仲が良くて……咲が甘えてきて、私もそれが嬉しくて…とにかく仲が良くて」

照「二人で本を買いに行って、アクセサリーを買ったり、ご飯を食べて……」

菫「照……」

照「帰り道、咲が怪我して、おんぶして歩いて……そうしたら昔を思い出して」

照「仲が良かった昔を思い出して……………………」

照「…そうか」

照「起きた時からスッキリしてるのは……全部忘れてるからなんだ」

照「一週間だけじゃなくて、咲のことさえも殆ど……顔も声も」

照「咲に対する憎しみとか、嫌悪感とか……多分あった感情なんだろうけど、それも全部」

照「無視してきたことも、何をしたのか何を言ったのかも……全部」

菫「照……」

照「菫…………もしかしたら、やり直せたのかな……」

菫「彼女は最後までお前のことが好きで、自分よりお前のことを心配していた」

菫「私にも分かるぐらい大好きだった……お前から歩み寄って……いや、過ぎた話だ」

照「仲直りして…………仲良く出来た……のかな」

菫「知らん。咲は仲直りしたかった、しかし出来なかった事実があるだけだ」

照「菫……私は…………」

菫「もう遅い…遅いよ……」

菫「これももう遅いが……なあ、照」

菫「あの日、何故お前は私の誘いに乗ったんだろうな。用件なんて見当が付いていた筈だ」

菫「断ろうと思えば…………それに、あの時もだ…私はお前を見舞いに連れ出したが…」

菫「お前はどうしても嫌だったら意地でも来ようとしない頑固な性格だったのにな……」

菫「本当は……心のどこかでは……仲直り、したかったんじゃないか?」

照「…分からない。その私と今の私は…多分違うんだと思う。けど…今になって思うと…」

菫「……」

照「咲……」

菫「先に言うが、泣くなよ。お前はそれをしちゃいけないんだ……お前の選択の結果だ」

菫「たとえ今までのお前と今のお前が違っても……お前が選び続けてきた結果なんだ」

照「私はなんで…………………………こんなことに………………」

菫「言うな」

照「あの夢が現実で、これが夢だったら……」

菫「胡蝶の夢、か…意味の無いことだよ。これが夢だったとしても同じことだ」

菫「すべてを受け入れて、生きろ。死ぬことは私と咲が許さない」

照「私は……」

菫「大丈夫だ、私も背負ってやるよ。安心しろ、私と咲だけはいつどんな時でもお前のそばにいる味方だ」

照「菫……」

菫「勘違いするなよ。友人として、また彼女の遺言を守るため、だ。それに…お前一人で背負わないといけない物もある」

照「うん……分かってる。それでも、ありがとう……」

菫「ああ……」

照「ねえ菫」

菫「どうした?」

照「夢の中の二人は…幸せなのかな」

菫「どうだろうな……いや、考えるまでもないか」

照「そうかな……それなら少しは……良かった、のかな」

照「せめて、夢の中だけでも幸せなら……咲を幸せにしてあげられたなら……」

菫「そうだな……」

菫「ところで、照。これからどうする?」

菫「折角抜け出せたんだ、どこかに寄って行くか?」

照「ううん……真っすぐ帰る」

菫「そうか。じゃあ行くか」

照「その前に、式場に行きたい」

菫「照……いいのか?」

照「葬式の前にやっておかないといけないと思うから」

菫「そうか……よし、行くか」

照「うん……菫、ありがとう」

菫「気にするな、親友」

―――――
照「ごめんなさい」

和「ッ!よくも抜け抜けと…!」

照「ごめんなさい」

菫「私の責任もある…ごめんなさい」

和「どうして……どうしてっ!」

照「ごめんなさい」

菫「ごめんなさい」

和「……今から殴りますから、立って下さい」

照「…」

菫「…」

和「…この…ッ!」

久「やめなさい、和」ググッ

和「放して下さいっ!」

久「やめなさい」

和「どうしてですか!」

久「もう遅いのよ……怒りに任せて殴っても、咲は……」

和「そんなの……分かってます…………でもっ!私は許せません!」

久「私もよ……でも、もうどうしようもないの……!」ギリギリ

和「ッ……すいません」

久「いえ、私も…ごめんなさい、和」

和「…頭を冷やしてきます」バタン

久「……ねえ」

照「……はい」

久「和にはああ言ったけれど、私も怒ってるの。私達…私は貴女を許すことが出来ない」

久「多分一生……」

照「分かってます」

久「……ねえ、反省してる?」

照「……口でならどうとでも」

久「ええ、そうね…上辺だけの言葉を吐いてたら、今頃頭を踏み抜いてたわ……」

久「ねえ……もしも反省してるなら…………明日の葬式には来ないで」

照「!!」

菫「なっ……そ、それだけは許してやってくれ!この通り、頼む!」

久「ごめんなさい、弘世さん、それは無理よ。こうでもしないと……個人的な感情だけれど」

菫「こいつも後悔しているんだ!最期の顔も声も知らないんだ、せめて、葬式にだけは!」

照「いいよ、菫……分かりました、今日の通夜、明日の葬式に参加しません」

菫「照……」

照「本当にごめんなさい」

久「謝る相手は私達じゃないでしょう…………皆」

照「ごめんなさい」

照「菫、帰ろう」

菫「……いいのか?」

照「仕方無い」

菫「本当にいいのか?良くないだろう。お前だって本当は」

照「菫!」

菫「……」

照「全部私が悪いから……多分、これも私が背負うべきことなんだと思う。だから……」

照「菫は葬儀に出席して、私の代わりに見てきてほしい」

照「どんな人が来て…どんな人が咲のために泣いて…どんな人が咲を送り出してくれて…」

照「どんな風に咲が旅立ったか……」

照「それを教えてほしい」

菫「そうか…分かった」

照「帰ろう」

菫「待て……最後の別れだ、顔ぐらい見ていけよ」

照「でも」

菫「竹井も、これぐらい許してくれるだろう…わざわざ全員連れて席を外してくれたんだ」

照「……優しいね」

菫「そうだな……」

菫(恐らく、葬式に参加させないのも別の理由もあるんだろう……)

照「咲…………なんだか随分久しぶりに見た気がする。本当はこの間顔を見たのに」

照「声も聞けない…殆ど思い出せない…口調も、どんな仕草で…どんな子だったのかも…全部昔の記憶だけ」

菫「……」

照「首……これが言ってた…痕…………苦しかったね。辛かったね……ごめんね、そんな思いをさせて」

菫「肌、白いだろう?化粧のせいだけじゃないんだろうな……」

照「……」

菫「体の方は……」

照「……………うっ……咲…私のために……こんな…」

菫「照……上を向くんだ…そういう時はな」

照「うん…泣いちゃ……いけないから」

菫「照……」

照「菫……咲の顔」

菫「ああ……お前が無事だと聞いてからずっとだ」

照「そう…なんだ」

照「冷たい……」

菫「そうだな……」

照「ごめんね……遅すぎてもう届かないけど……今になって言うけど」

照「咲……私の妹咲……ありがとう…ごめんなさい」

照「勝手が良くて……でもこんなお姉ちゃんを…それでも……………ありがとう、咲」

菫「…………」

照「……ぐっ…ああああああああああああああああああっ!!」

照「ふー……ふー………………菫、帰ろう」

菫「…………ああ、行こう」

――――――――――
菫「照、入るぞ」

照「どうぞ」

菫「寝てないのか?」

照「うん。私なりのお通夜とお葬式。せめてこのぐらいしなくちゃって思って……」

菫「ああ、そうだな。咲もさぞ喜んでることだろう」

照「どうだった?」

菫「参加者は、親族や学友を除いたらあまり多い方ではなかったな。だが、来ていた人は皆泣いていたよ」

菫「清澄…風越の福路…龍門渕の天江と龍門渕…鶴賀の加治木と東横…各校の代表だ」

菫「中学生の夢乃と室橋…平滝の南浦…阿知賀…それに淡と……」

菫「弔電は永水、姫松、宮守…臨海…有珠山…麻雀を通して多くの人と縁を持ったんだな」

照「……」

菫「花は沢山あったよ。種類も豊富で…写真によく合っていたよ」

菫「百合を盛大に飾り付けて…菊に蘭に薔薇や霞草、桔梗にカーネーションなんかも」

照「…そう」

菫「遺影はインハイの時の集合写真を使ったらしい。最近のが少なくて笑顔のはもっと少なかったとか」

照「そう…なんだ………そうだろうね……」

菫「それでも、もし最近の笑っている写真があってもインハイのを使っていただろうと言っていた」

菫「それぐらい嬉しかった…麻雀が楽しかったんだろう」

照「そっか…………」

菫「副葬品も多くなかった。それで、手元にお前の特集雑誌とぼろぼろの本が置かれて…」

菫「思い出の本で、何度も読み返してページが取れて、その度に直したとか」

照「うん」

菫「向こうでも麻雀が出来るように、って、紙で作った牌やらが添えられてあった」

菫「長野県大会の決勝メンバー皆で作ったらしい……」

照「そう…」

菫「一通り済ませて出棺…これがまたな」

菫「家族や親族で棺を運ぶんだが、見ているだけでも軽さが伝わってくるんだ」

菫「最後に顔を見て皆泣いて……送り出した」

照「うん……」

菫「お前の代わりに、納骨もしたぞ」

菫「本当は見せてもらうだけだったが、竹井と一緒に特別に、って……」

菫「竹井は式前から泣き通しで……最後の最後まで泣いて離れようとしないで」

菫「ようやく別れを済ませたかと思ったら、骨になった姿を見てまた泣いてた」

菫「若かったからほとんどの骨が残ってて……でも下半身の骨はボロボロでさ」

菫「誰かが『骨壷に入れやすくていいな』なん……て……はは…お、おかしいよな」

菫「もう面影なんてなくて、でも分かるんだ……確かに、咲なんだって」ジワ

菫「それがまた悲しくて……頭の骨なんか鑿と金槌で小さく割ってさ……」

菫「もう、咲はいないんだ…って思い知らされるのが悲しくて……辛く…って」

菫「自分の家族でもないのに…………柄にもなく……」ポロ

菫「……たった数日だけ……でも…妹が出来たみたいで…………」ポロポロ

菫「…………悪い、照…これ以上は………無理だ……」ポロポロ

照「うん」

照(ありがとう……菫……ありがとう)

菫「うっ……グスッ…咲……咲ぃ……死んだら意味無いだろう…ヒグ……咲……」

―――――
照「落ち着いた…?」

菫「……ああ、大丈夫……多分」

菫「一緒に背負ってやるなんて言いながら……恥ずかしいかぎりだ」

照「ううん……ありがとう」

菫「ああ……ところで、これ」スッ

照「これは……お守り?中身は……菫、もしかして」

菫「ん、まあな……少しちょろ…貰ってきた」

照「菫……」

菫「その、なんだ……お守りであり、杭みたいな…そういう、何かそういうのだよ」

照「杭……そうだね」ギュゥ

菫「杭と悔いをかけたわけじゃないけどな……背負っていくもののひとつの形、とかな」

照「うん……菫、ありがとう」

菫「よせよ、今更…………これから大変だぞ」

照「……なんとか、するよ」

――――――――――
その後の話をしよう。あの後あいつは両親と話し合って、何を話したのかは分からないが…白糸台で学生をしている。

しばらくは様々に噂が立ったが現在では沈静化している。

卒業後はプロ行きを中断、しばらく長野で過ごすらしい。また家族一緒に暮らすのだとか。

地元では今より酷い状況に置かれるだろうが、それでも、と言っていた。

後輩達は変わらず接してくれる。しかしそれが逆に働くのか、時折泣きそうな顔になる。

その度に上を向き堪える姿は見ていて辛い。どうしようもないとは分かっているが。

彼女の死については、一面とはいかないが、こちらでもそれなりには取り上げられた。

当然ながら、二人の関係も、過去の発言と併せて世間の知るところとなった。

そのことで邪推(この場合は核心だが)して、まさしく好き放題に書き立てたものもあった。

出鱈目を真に受けて誹謗中傷を行う輩もいたが、それでもあいつは生きている。生かされている。

それが義務であり、責任でもあり、しかし同時に選択の結果でもあるからだ。

ふと考える時がある。あいつはずっとこの調子で生きていくのか、自分を許せる日が来るのだろうか、と。

一生来やしないだろう、分かっている。いるが、それでも。厚かましくも考えてしまう。

今ではないいつか…誰からも赦されて、幸せを享受してもいいのではないか…と、そう。

――――――――――
菫「なあ、久しぶりにどこか寄り道していかないか」

私は照と同じ大学に進学した。あの日決めたからだ。遺言を守り、この親友と共に歩くと。

照「ごめん、今日は大切な日だから……誕生日なんだ」

菫「誕生日?…………ああ、成程。そういえば今日だったな」

妹の誕生日だ。それも、今日は特別大事な誕生日。

照「うん。だから、今日は家で…ごめん」

菫「いや……なあ、私も行っていいか?」

照「え?」

菫「ほら、確か今日で二十歳だったろう。だから私も祝いたい……駄目か?」

特別何かをするわけじゃない。家族で外食もしないし、夕飯が一人分増えたりも豪華にもならない。

照「ううん……ありがとう、咲も喜ぶと思う」

両親は割合すぐに吹っ切れたらしく、今では昔を思い返して懐かしむに留まっているとか。

菫「そうかな。だといいが……夕飯を食べてから行こう」

こいつだけが今でもこうして一人で祝い続けている。良いことなのかどうか。

照「分かった」

菫「ケーキはどうする」

照「いいよ、私が買っておくから」

菫「そうか」

照「うん。それじゃ、後で」

菫「ああ」

今日は何かが起こりそうな、不思議な予感がした。

―――――
菫「といって来たものの、特にやることもないんだよな」

照「うん。部屋でゆっくりして、食後にデザートを食べるだけ」

理由は知らないが、喪に服する意味でもあるのかもしれない。

照「でも今日は二十歳の誕生日だから」

そう言って缶のカクテルを取り出す。

菫「日本酒やら焼酎は無いのか?」

特段好きでも愛飲するわけでもない。興味本位で聞いてみる。

照「菫じゃあるまいし、飲んだらすぐに酔っちゃう」

菫「失礼な、私だって飲み過ぎたら酔う。飲み過ぎたことが無いだけだ。お、悪い」

酌を受ける。ちなみに泡盛の古酒を三合程飲んで酔わなかったことは伏せておく。

菫「それに、ああ見えてとんでもないザルかもしれないぞ」

照「少し想像出来ない…かな」

久「お邪魔しまーす。お、やってるわね」

菫「久」

照「いらっしゃい、来てくれてありがとう」

久「来ないわけないでしょう」

奇妙な縁で、同じ大学になっていた。二人も最初こそ気まずかったものの、徐々に打解けて今では友人と呼ぶに至る。

菫「よく覚えていたな」

照「私が呼んだ。どうしてもお願い、って」

久「呼ばれなくても来ていたけどね」

菫「それもそうか。お前が忘れるわけがない」

久「当たり前じゃない、老いとはまだ無縁よ」

照「どうぞ」トクトク

久「ありがとう…………それにしても、早いわねえ」

菫「ああ、そうだな」

照「うん……」

久「……もし」

照「もし?」

久「生きてたら……どんな姿に成長してたかしらね」

菫「そうだな……それこそ想像も出来ないが、まあ………あー…」

照「仲直りしてたら…きっと明るくて……もっと可愛くて………うん…………」

そう言って、上を向く。それを見た久は傍らから一升瓶を取り出し、

久「あー…………ウザい!」

照の口にぶち込んだ。あまりのことに目を白黒させつつもがく。しかし一升瓶の中身が減るばかり。

菫「お、おいやめてやれよ」

久「チッ……まあいいわ」

照「ゲホッゴホッ……うぅ」

菫「大丈夫か?いくらなんでも日本酒を水みたいに飲ませるのは…」

久「一升瓶に日本酒のラベルが貼ってあるからといって、入っているのは日本酒とは限らないわよ……?」

菫「意味有り気に余韻を持たせるなよ…じゃあ中身は何なんだ?」

久「スピ…焼酎よ、焼酎」

菫「本当だろうな?」

今こいつスピリタスと言いかけなかったか。中身を確認してみると本当に焼酎だった。

久「まーまー辛気臭い雰囲気になりそうだったから用意したけど……案の定ね、まったく」

そもそも話題が出た時点でそんな雰囲気だったと思うが。

照「……お返し」

瓶をひったくって同じようにする。なんとなく頭が痛くなってくるのは酒の所為ではないだろう。

菫「はあ…二人とも何をやっているんだ、酔ってるんじゃないのかお前ら…ゴボッ!?」

巻き添えを食らった。二人がかりの手によって。

―――――
久「だぁーかーらー、私はぁ!あなたのことは嫌いじゃないの!」

久「お葬式のこともぉ、ちょっとは……悪いと思ってるわ…」

照「で、でもぉ…」

何本か大小様々な瓶を空けた。一体どのくらい持ってきていたのか。重かっただろうに。

久「そりゃあたしかにぃ?許せないわよ。せないけどそれでも!友達だしぃ、幸せになるのは…否定しないのよ……?」

菫(これは一体何上戸なんだろうか…)

久「あなたはいい人だからぁ……今では……もう、いいと思うのね?」

照「……どーも…でも、やっぱり…」

久「だあーっ!こぉのガンコ者!」

久「あんたたちに何があったか知らない!あの子が悪かったかもしれない!でも存在を否定するほどじゃなかった!オーケー?」

照「いえす…」

久「だけどそれぐらいおこってた!まさかあんたのせいで死ぬと思わなかった!アーハン?」

照「いえあ…」

久「じゃーもーしょうがないじゃん!じぶんをせめてもしかたないじゃん!ゆるしてやりなよ!じぶんを!」

照「あいきゃんと……」

久「なんでよぉ!こんのバカチンがぁ!」

菫(どこの生まれだこいつ……?)

久「なんであのこがからだはってたすけたか!あんたがそんなくらーくいきるためじゃないでしょおが!」

照「……!」

久「もっとあかるく!げんきに!あのこがみていてたのしくなるぐらい!」

久「あんたが幸せになって咲を喜ばせてあげなさいよ!!」

照「わたしは……いいのかな……しあわせで」

久「いいわよ!」

菫「彼女が一番望んでること…だと思うぞ」

照「ありがとう…………やっぱりゆるせないけど……」

照「咲を喜ばせてみる…お姉ちゃんとして」

久「えらい!てるえらい!だからあ…………もう、ないちゃっていいよ」

照「いい……の……?」

久「……」コクン

菫「そうだな……もう…いいのかもな」

照「そっか……もう…いいんだ……」

そう言うと、堰を切ったように大声で泣き始めた。今まで耐えてきた分の涙を一度に流す。

その姿を見て、久も私も年甲斐もなく声をあげて泣き出した。三人でずっと泣いた。

泣きながらしかし私は、どこかで少し、ほんの少しだけ、こうしていられることを喜んだ。

そしてまた、どうやら、一生とはいとも簡単に過ぎ去ってしまうものらしいとも分かった。

――――――――――
照「ん……ここは………?」

咲「あ、お姉ちゃんおはよう」

照「咲!?」

咲「?どうしたの?」

照「え、ああ…いや、なんでもないよ。ただ、なんだか懐かしくて」

咲「そうかな?私はいつもお姉ちゃんと一緒にいるけど…夢でも見たんじゃない?」

照「ねえ、咲」

咲「ん、何?」

照「えっと……なんて言ったらいいか、うまく言葉に出来ないけど……」

咲「うん?」

照「その……ありがとう」

照「咲が妹……じゃなくて…妹が咲で……いや…咲が咲で良かった…って思ってる」

咲「どういたしまして。私も、お姉ちゃんがお姉ちゃんで良かったよ」

咲「ありがとう、お姉ちゃん。大好きだよ」

照「ありがとう……本当に、こんなお姉ちゃんを…………」

咲「そんなことないよ。大好きな、私の最高のお姉ちゃん」

咲「お姉ちゃんは…………どう、かな…………?」

照「……うん。私も、大好きだよ。さっきも言ったけど…咲で良かったよ、咲。ありがとう」

咲「…うんっ!」

照「ふふ、これからどうしようか」

咲「そうだね……迷っちゃうね」

照「まあ、焦ることもないよ」

咲「そうだね。時間はまだまだあるし……何より、ずっと一緒だもんね」

照「うん………これからもよろしくね、咲」

咲「よろしくね、お姉ちゃん」

おわり

お疲れさまでした。もろみ酢のドライタイプが不味かったです皆さんは混ぜものして飲みましょう

咲と照に何があったのか
そして金角ちゃんは何者なのか・・・

>>96
すごく気になるよね

そろそろ大丈夫かな

――――――――――
菫「今更になるが、一つ聞いていいか?」

久「ええ、何かしら?」

菫「お前にとって咲はなんだったんだ?」

菫「ただの後輩にしては肩入れというか、感情移入し過ぎじゃないか?もしかして…」

久「そうね……なんと言ったらいいか分からないけど……ただの後輩では無かったわね」

久「私の夢に中身を与えてくれて…そして叶えてくれた。恩人というのはあるわ」

久「家庭の事情で悩んでいた同士…共感もしたし、同情もしたし…傷も舐めあった」

久「初めてだったわ…私の心を深く感じ取ってくれた人なんて…だから、肩入れした」

久「それに、私とあの子って似てるのよ…意外かもしれないけど」

久「周りに取り繕って、本心を隠してなんでもないみたいに振舞って、一人で抱え込んで」

久「昔の私を見ているみたいだったし、今の私とあんまり変わらないし…妹みたいだった」

久「実は私も人付き合いは得意な方じゃなくて、知り合いはいるけど友達は少ないの」

久「すぐに分かったわ、『私と同じタイプだ』って」

久「なんだか見ていられなくて、お節介を焼こうかと思ったこともあったわね」

久「こういう気持ちはあなたも理解できるでしょう?」

菫「…そうだな。ああ、そうだ」

久「そういうこともあって、何かと気にかけていたし、気になっていたわ」

久「つまり、恩人で、妹で、私自身……それだけ…でもない……と思う」

久「………………そうね、確かに…………私はあの子に特別な感情を抱いていたかも」

久「まあ結局私にとって咲は、つまりそういう存在だったのよ」

菫「成程な……よし、そろそろ行くか」

久「ちょっと待ちなさい。今度はあなたの番よ」

菫「ちっ……どんな存在かと聞かれても、私はそもそも関わった時間が短いからな」

菫「妹みたいなもの、ぐらいで、人生最大の余計なお世話も大した理由はない」

菫「精々、そうだな……シリーズものの本を番号順に並べる、とかそういう感じだ」

菫「ただ単に家族や姉妹は仲良くあるべき、なんて押しつけがましい考えだっただけだよ」

久「なるほどね…………ねえ、そう自分を責めなくてもいいんじゃないかしら」

菫「……私が殺した様なものだ。私がむやみに関わらなければ、今頃……」

久「もう仕方無いわ。それに、咲はきっと誰も恨んでないし、あなたに感謝しているわよ」

菫「…何を根拠に」

久「話を聞いて、あんな満足そうな顔を見たら、ね……」

久「結果的に仲直り出来て、最期にお願いも叶えてもらって……」

久「さぞ満足だったと思うわ。そうでもないと、あんな顔していられないもの」

菫「しかし…」

久「あなたはよくやったと思うわよ。なんなら私もお礼を言ってもいいぐらい」

菫「…」

久「咲のこと、ありがとう。あなたがいてくれたおかげで咲は心から笑えて逝けた」

久「咲も、誰も責任なんか感じてほしくないし、一人も暗い顔なんてしてもらいたくない」

久「そう思ってるんじゃないかしら。なんなら賭けてもいいわよ」

菫「………………ふぅ…その賭けは不成立だ」

菫「ありがとう。楽になった」

久「どういたしまして。そろそろ帰りましょうか」

菫「ああ、そうだな」

今度こそ終わり

本当は照がこの会話を聞いてる部分もあったけど、まあいらないかなと

引っ越して変わったサーバは長らく規制されており、次は永久規制の可能性もあるとかいうらしいし
本当は他にも書き上げた、書いているSSはあるけど速報でもいいし
でもこれだけはなんとかここで投下したいと思っていたので良かったです

ありがとうございました。おやすみなさい。

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