咲「姉の帰省」 (30)

本編から2年後
咲ちゃんが高校3年生
インターハイが終わって8月下旬くらい?

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咲「ん……」

夏休み。
残り少ない日数だからこそ、大切にしなければ。

そう思いつつも畳に寝そべり、まどろみながらテレビを眺めていた。

照『──』

プロとしてテレビに映る姉を見るのは、なんとも妙な気分だ。

相変わらずの愛想笑いで、柄にもないことを話している。

咲(そういえば、今日帰ってくるんだっけ)

仕事が忙がしく、お盆に帰ってこれなかったらしい。

咲「社会人は大変だね……」

適当なことをつぶやいてみる。
別に、来年の自分に思いをはせているわけではない。

咲「……」

暑さも落ち着いてきて、陽気が心地いい。

咲はいつの間にか、眠りに落ちていた。

「咲」

咲「ん……」

聞き覚えのある声に目を覚ます。
顔を上げると、先ほどまでテレビで見ていた顔がそこにあった。

照「久しぶり」

咲「うん」

咲「何日くらいいれるの?」

照「明後日まで」

咲「ふーん」

照「もっといてほしい?」

咲「別に」

照「ふふっ」

え、そんな反応?

夕飯を済ませ、風呂に入り、自分の部屋に戻る。

咲「なーんかなー……」

去年の照はプロ1年目で、いつもどこかあわただしい印象があった。

もちろんそれは実際に会ったときだけで、テレビでは一切そんな素振りは見せなかったのだけど。

仕事に慣れて、落ち着いてきたのだろうか。

本当にそれだけ?

コンコン

照「咲、入っていい?」

咲「うん」

家のパジャマを着た姉を見ると、少しほっとした。

照「ちょっと咲と話がしたくて」

咲「そうだね。私もプロでの話とか聞きたいかな」

照「……」

んん?

咲「お姉ちゃん?」

照「あのね、咲……驚かないで聞いてほしいの」

どきり。

胸騒ぎがする。
姉がこういう切り口で話してきたときは、大抵予想を飛び越えてくる。

咲「うん……何?」

照「……」

すごく言いづらそう。
いったいなんだというのだ。

咲「……お姉ちゃん?」

照「ごめん、やっぱりいいや。忘れて」

咲「え?」

立ち上がり、自分の部屋へ戻ろうとした姉だが──

咲「待ってよお姉ちゃん!」

……思わず、呼び止めてしまった。

だってしょうがない。
このまま聞けなかったら、気になって眠れない。

咲「いいよ、話して。私なら大丈夫だから」

照「咲……」

何が大丈夫なのやら。
全く根拠のない私のことばに、なぜか姉は感動していた。

照「ありがとう。そうだよね、やっぱり咲にならなんでも話せるよ」

やめてください。

咲「……で、何?」

どうか私の乏しいキャパシティで処理できる内容でありますように。

照「うん、あのね……」




照「私、妊娠しちゃった」

はい、キャパシティオーバー。


咲「え……えぇ!?」

照「ごめん、驚くよね」

そりゃそうだろ!

咲「ちょ、ちょっと待って……」

あまりの衝撃にめまいがした。

ある程度覚悟はしていたが、まさかそこまで予想の斜め上をいくとは。

さすがお姉ちゃん。

照「……大丈夫?」

まったくもって!

落ち着けー、落ち着けー。

……ふう。

咲「うん、大丈夫だよ」

照「ならよかった」

よくないけどね!

咲「……順番にいこうか。相手は誰なの?」

照「誰って言われても、咲の知らない人なんだけど……えっと」

照「マネージャーの知り合いで、前から私のファンだったらしくて。あ、同年代なんだけど」

照「それでマネージャーの紹介で会うことになったんだけど、結構気が合って、それで何回か会って、付き合うことになって」

照「やっぱりお互い忙がしくてなかなか会えなかったんだけど、その分会えたときは嬉しくて、ずっと一緒にいたりして」

照「ちゃんとしてはいたんだけど、ほら、あれってしてても完璧ではないっていうでしょ?」

照「彼、結構情熱的というか、激しいから……もしかしたらそれで……」

咲「わ、わかったから!」

そこまで聞いてないよ!
ていうか聞きたくないよ!

私はそういうのまだなんだから……って何言わせるの!?

照「そういえば、咲はそういう相手はいないの?」

突然ぶちこんでこないでよ!

咲「……いないよ」

照「ふーん」

聞いておいて興味なさげ!?

咲「今は私の話はいいでしょ!」

照「そうだった」

くっ、なんだろうこの敗北感……

咲「それで、妊娠って……間違いないの?」

この姉のことだから、勘違いしている可能性は十分にある。

照「うん、間違いないよ。検査薬を試したあと、病院にも行って診てもらったから」

咲「……そう」

それなら間違いないか。

咲「それで、お姉ちゃんはどうしたいの?」

照「どうって?」

わかるだろ!
あまり直接言いたくないのに……

咲「その……う、産みたいの?」

照「……」

な、なんで無言?
迷ってるの?

なんでこっちを見るの?
そんな目で見られても私にそんなアドバイスなんて……

照「うん、産みたい」

そ、そうなんだ。

……本当に?

咲「それなら、なんですぐにそう答えなかったのさ」

聞かないわけにはいかない。

もし少しでも迷ってるんだったら、そう易々と背中を押すようなことは言えない。

照「それは……」

咲「……それは?」

照「咲が照れてるのを見て、こんな話を咲とすることになるなんて……って思って」

咲「…………」

あ、そうなんだ、なるほどねー。

咲「お姉ちゃん!!」

こんな重大なことを聞いているタイミングでそんな物思いにふけないでくれるかな!?

ていうか照れてないし!
ついでにこんな話を私とすることを選んだのはお姉ちゃんだよ!

照「ごめんね」

咲「いいよ……ええと、このことは、他には誰かに話したの?」

照「ううん、咲だけだよ」

咲「そう……あれ? 相手の人には!?」

照「あ、彼にはもちろん伝えたよ」

咲「そ、それならよかった」

照「うん」

じゃなくて!

咲「……それで、彼はなんて?」

よくある話だ。
女が産みたくても、男がそれを許さなくて……
ってドラマでしか知らないけど。

照「嬉しいって」

あ、うん。

照「結婚しようって」

……うん。

咲「……何か問題が?」

照「別に?」

別にと言い切るのもどうかと思うが。

咲「……え? それでお姉ちゃんは、私に何を相談したかったの?」

照「私、相談したいなんて言ってないよ?」

……は?

照「ただ、咲に話したかっただけ」

咲「……」

ああ、確かにそう言ってたような……

咲「……なんで?」

照「さあ?」

さあって。

でも、そう思ってくれてるのは嬉しいかな。

咲「まあいいや。お父さんとお母さんにはいつ話すの?」

照「お母さんには向こうに帰ってから。お父さんには来週またこっちにきたときにね。ちょっと予定が合わなくて」

咲「……ふむ」

照「彼とお母さんを連れてくるよ。負い目もあるだろうし、反対はされないでしょ」

なんてこと言うんだ。

咲「あれ、でもお姉ちゃんまだプロ2年目で、大会とか出られなくなるんじゃ……」

照「少し試合には出られなくなるだろうけど、たぶん時期的にそこまで影響はないはず」

咲「な、なるほど」

世間からの評価なんかは気にしてないんだろうな。
そこは少し心配だけど……

照「結婚式楽しみにしててね」

咲「……うん」

すでにそこまで考えてたのか。
本当に、私の出る幕はなかったな。

なんか、お姉ちゃんが遠く感じるな……

照「……咲は」

咲「え?」

照「咲は、卒業したらどうするの?」

咲「……」

迷っていた。

プロへの誘いはあったけど、どうも乗りきれず、どちらかといえば進学を考えていた。

でも……

咲「決めたよ」

そんなに遠くない。

私とお姉ちゃんは、2歳しか違わないんだ。

自分が2年後お姉ちゃんのようになっているとは思えないけど(特に恋愛面では)……だけど!

咲「私もプロになる。必ずお姉ちゃんに追いついてみせる!」

照「……」

咲「……」

照「……そう」

なんだその淡白な反応は!?

咲「何さ」

照「いや、あんなにやる気なさそうだったのに急に燃えてるから、どうしたのかと思って」

咲「うぐっ」

お姉ちゃんのせいだよ!とは言えない。
さすがにそれは恥ずかしい。

咲「別にいいでしょ。そんな気分になることもあるよ」

照「そっか」

笑ってる?
どことなく満足げなような……

もしかしてはめられた?

照「ありがと。じゃあおやすみ」

咲「うん、おやすみ」

咲「ふう」

なんかどっと疲れたけど、久しぶりに話ができてよかったかな。

まさかあんな話をするとは思ってなかったけど。

咲「……ふあぁ」

寝よう。
なんか本当にいろいろと疲れちゃった。

ガチャ

照「言い忘れてた」

咲「うわ! 驚かさないでよ」

照「咲に伝えなきゃいけない大事なことがあるんだった」

え?もしかして私がプロになるって言ったから?
そのためのここだけの秘密の話……とか!?

咲「な、何?」

照「えーと、私もいろいろ調べてみたんだけど……」

ごくり。





照「使用期限を確認すること」

……ん?

照「入れる前につけておくこと」

照「裏表を確認してつけること」

照「つけ損ねたときは新しいものを使うこと」

照「つけるときに空気が入らないようにすること」

照「出したら根本を押さえて早めに抜くこと。まあこれは相手の話だけど……」

照「とりあえずこんなところかな」

んん……?

咲「お姉ちゃん、いったい何の話を……」

照「何って……ゴムだよ」

……??

ゴム……?

ゴム……ゴム!?

咲「な、な……」

照「咲は気を付けてね」

咲「お姉ちゃんのばかあああああああああ!!」



結局その日は、あまり眠れませんでした。



カン!

おしまい!
読んでくれた人ありがとね

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