シロ「潜り込む宮守SS」 (82)
宮守短編一本投下
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私はダルかった。
生まれてこの方、ダルくなかったことなんてなかった。
倦怠感に支配され続け、常に重い体を引きずって生きてきた。
幼稚園の頃も、小学生の頃も、中学生の頃も。
きっとこの先も変わらず、ダルいまま生きていくのだと思う。
そんな確信を抱くほど、私はいつもいつでもダルかった。
ダルいのがデフォルト。
ダルくない時なんて、ほぼ無いといっていい。
歩くのがダルい。
喋るのがダルい。
生きるのがダル————
…………。
生きるのがダルいは、ちょっと大袈裟かな……。
言い過ぎかも。
しかしまぁ、そんな風に思うほど、私は常にダルかった。
原因不明、生まれ持った性質としか思えないこのダルさは、麻雀の公式戦、部内の練習中にかろうじて忘れられるくらいで、私にとっては至極当たり前の感覚になっていた。
今にして思えば私、よく高校3年の今までドロップアウトせずに生きて来れたな……。
幼稚園中退でそのまま引きこもりになっててもおかしくなかったよな……。
今だって、ここから一歩も動きたくないもんな……。
心地良い……。
まさか、冬場の炬燵より居心地の良い場所がこの世に存在するなんてなぁ……。
豊音「シロー、出てきてよー」
シロ「……豊音」
豊音の声がする。
すぐ近くだ。
まぁ、この場所にいる限り、豊音の近くに居続けることになるから、それも当然か。
こんなに居心地が良い上に豊音がいつも傍にいる……。
うん……いいね。
ますますここから出たくなくなってきた。
シロ「やだ。ダルい」
豊音「困るよー、シロが出てくれないと私も起きられないよー」
シロ「寝てればいいんじゃないかな……私と一緒に」
豊音「シロと一緒に寝るのはいいけど、この体勢はちょっといやだよー」
シロ「なんで……?」
豊音「恥ずかしいよー……私とシロ、これじゃあ変態さんみたいに見えちゃうよー」
シロ「そう思いたい奴には、思わせておけばいい」
豊音「でも、もうすぐみんな来ちゃうよー、やっぱり恥ずかしいよー」
シロ「大丈夫。他の人ならともかく、皆ならわかってくれる」
豊音「えー……」
シロ「塞、胡桃、エイスリン……皆なら、皆ならきっと……」
豊音「そうかなー……」
シロ「そうだよ、皆を信じよう」
豊音「うーん……」
シロ「はぁ、それにしても……本当に居心地いいよ」
豊音「やめてよー、やっぱり恥ずかしいよー」
シロ「いい匂いがするし。もうここから一歩も動きたくない」
豊音「うう……シロが気に入ってくれたのは嬉しいけどー、一歩も動かないってのは困るよー、家に帰れない よー」
シロ「んん……眠くなってきた」
豊音「もー、いい加減に出てきてよー……私の————」
シロ「…………」
豊音「スカートの中からー……」
……そう、私は今、豊音のロングスカートの中にいた。
仰向けに横になった豊音のスカートの中に、同じく仰向けになり、上半身を丸ごとすっぽりと突っ込んでいた。
豊音の股間の辺りに頭を置き、開いた足の間に体を横たえ、まどろんでいた。
シロ「……もうちょっとだけ」
やばい、気持ちいい……ほんとに寝ちゃいそう……。
豊音「シロー……」
困り果てはてた様子の豊音。
ちょっと嫌そう。
それでもやはり、豊音は優しい。
無理にでも起き上がり私をどかそうとしないあたり、本当に人が良いというかなんというか……。
スカートの中に侵入されて、気に入ってくれて嬉しいとか言っちゃう天使なんて、豊音の他にはこの世に存在しないだろう。
シロ「……あ」
ああ、いたわ。
エイスリンとか、これくらいのことなら笑って許してくれそう。
塞とかも、怒りながらも結局スカートの中にいさせてくれそう。
胡桃は……無理かな。
許す許さない以前に、小さくて入りにくそう。
でも許してはくれそう。
みんな、ぷりぷり怒りながらも許してくれそうな気がする。
ウチの部、天使ばっかりだなぁ……。
私は幸せ者だ。
まぁ、私の場合、体格的に入れるのは豊音のスカートくらいだろうけど。
他の部員だと、エイスリンのロンスカには肩くらいま で、塞のミニスカにはせいぜい頭を埋めるくらいしかでき ない。
胡桃は……うん、やっぱり小さくて無理だ。
つまり、私がこうもすっぽりとスカートの中に入れるのは、豊音だけ……。
シロ「豊音、私には豊音だけだよ」
豊音「い、いきなり何を言い出すのかなー」
シロ「唯一無二」
たぶん。
豊音「照れるよー」
シロ「ふふ……」
照れた顔が見えないのが残念。
でも、豊音の照れ顔を見ることが外に出るためのモチベーションにならないほど、豊音のスカートの中は居心地 が良かった。
豊音「でもー、こんな状況でそんなこと言われても嬉しさ半減だよー。お願いだから出てきてお顔見せてよー」
シロ「ことわる」
豊音「もー、大体さー、ちょーびっくりしたんだからねー? 部室に来てお昼寝して起きたら股の間から足が生えててー」
シロ「だろうね」
ホラーだね。
豊音「下半身全体に違和感があってー、私なにか変な病気にでも罹っちゃったのかと思ったよー」
シロ「ふむ」
たしかに、無許可は良くなかったかな……。
豊音「そんでスカートの中に人がいるって気づいた時は大声上げそうになったよー」
シロ「よく叫ばなかったよね」
ホラー、病気、性犯罪者ときて、豊音のようなか弱い天使がよく声を上げなかったものだ。
豊音「女子の足だって気づいたからー。部員の誰かかと思ってー」
シロ「案外冷静だね、豊音」
まぁ、部員の誰かだと思ったからって、声を上げないのはおかしいけどね。
豊音「まぁ、部員っていうかー、十中八九シロだと思ったんだけどー」
シロ「それはなんで?」
豊音「他にこんなことしそうな人に心当たりがなかったしー、なんか太腿のあたりがふわふわしたからー。シロの ほわほわヘアーが真っ先に思い浮かんだよー」
シロ「なるほど」
豊音「それにしてもー、なんでそんな所に入ろうと思った のー? シロは基本よくわかんないけどー、過去最高の訳 わかんなさだよー」
シロ「なんで……?」
そんなこと言われてもな……。
なんで……うーん……。
言ってみればこれは、飼い猫が家の中でベストプレイスを探して、飼い主のベッドのど真ん中に陣取ったり、廊下 のど真ん中で寝そべるような、そういう自分勝手で感覚的なものだからな……。
説明しろと言われても困ってしまう。
自分勝手だという自覚もあるから弁解するのもダルいし。
半ば開き直ってやってることだからなぁ。
部室に来て、豊音がソファで昼寝していて、横になるとより一層大きく感じるなーとか、ていうか長いなー、部室 のソファ占領しちゃってるもんなー……とか。
身長が高いだけじゃなくて手足も長いんだよなーとか。
これ豊音のロンスカ、私の上半身くらい全部収まっちゃうんじゃね?
なんてことを考えて……。
試してみようと思ったのだ。
常にダルい私が、珍しく探究心を発揮して……。
豊音のスカートに潜ってみようと。
豊音「うう……訳もなくスカートに潜るとかやめて欲しいよー」
シロ「でも仕方なかった。あんな気持ち久しぶりだったんだ。豊音のスカートに潜ろうって。自分から何かをしよ うっていう、強い気持ちが芽生えたのは」
豊音「そんな所でなけなしの積極性発揮しないで欲しいよー」
シロ「今にしてみれば、潜る前から察知していたのかもしれない。豊音のスカートの中がこんなにも居心地がいいってこと」
豊音「ああー……塞や胡桃に聞いたことあるよー。シロはだらけるための労力なら惜しまないってー。リヤカーでコタツを運んできたとかー」
シロ「そう、これもそんな感じ」
豊音「なるほどなー」
シロ「…………」
あんまり理由になってないけど。
豊音が納得したならこれでいいか。
豊音「とにかくー、やっぱりこのままは困るからー」
シロ「!」
豊音が私をスカートの中にいれたまま、上体を起こした。
私は咄嗟に太腿の下に腕を回し、豊音の下半身を固定した。
横になったまま、私が豊音を肩車したような体勢になった。
豊音「うわわ! シロー! 足掴まないでよ—!」
ゴロッ————
—————ドサッ
豊音「うう、痛いよ—」
シロ「大丈夫?」
起き上がろうとした瞬間に足を捕まれバランスを崩し、 豊音は私ごと床に転げ落ちた。
豊音「大丈夫? じゃないよー。急に足掴まないでよー、 もー」
シロ「ごめん……どうしても出たくなくて、つい」
豊音「いいから離してよー、いい加減にしないと怒るよー」
シロ「うーん……」
怒った豊音というのも見てみたい気はする……。
だがしかし、今の私はもっと別の欲求に支配されていた。
シロ「豊音、提案がある」
豊音「? なにかなー?」
シロ「タイツを脱いでみない? いま私、豊音の太腿に顔を挟まれてとっても幸せ」
足を掴んだことで、豊音のスカート内の魅力にまた一つ気づけた。
タイツ越しの感触も悪くはないが、生足豊音のスカート内は、今よりもさらに魅惑の空間となるだろう。
豊音「…………シロー……」
シロ「ご一考願いたい」
豊音「……ほんとに怒るよー?」
シロ「お願い豊音。最強の安らぎ空間が誕生するかもしれないんだ」
豊音「…………わかったよー」
シロ「! いいの?」
豊音「じゃあ、一回外に出てね。でないとタイツ脱げないからー」
シロ「……ことわる」
豊音「なんでー!?」
シロ「一度私を外に出して、もう入れない気だね?」
策士。
豊音、策士。
豊音「ううー……バレたかー」
シロ「その手には乗らない」
豊音「もー、じゃあどうすれば出てきてくれるー? トイレ行く時とか困るよー。練習もできないしー」
シロ「トイレ行きたい?」
豊音「今は平気だけどー」
シロ「そう、ならよかった。練習の時は卓に着いた豊音のスカートに座って潜り込むよ」
豊音の下半身にすがりつく形で。
豊音「そっかー、でもそれだと私とシロ、同卓できなくなるねー」
シロ「うーん……」
それはたしかに、ちょっと困るな。
豊音と麻雀打てなくなるのは嫌だな……。
でもなー……。
ああ、駄目だ。
この中にいると正常な判断力が保てなくなる……。
気持ちいい……出たくない……。
豊音「ああー、シロと麻雀打ちたいなー」
……白々しい。
白々可愛い。
シロ「豊音、ごめん。私、麻雀より、豊音のスカートの中をとるよ」
豊音「……シロー、なんだか私、悲しくなってきたよー」
シロ「辛いだろうけど耐えて、豊音。私も豊音と麻雀打てなくなるのは辛い」
豊音「うわぁぁん! だったら出てきてよー! シロと麻雀打ちたいよー!」
シロ「豊音……!」
泣いたって駄目だ!
私だって辛いんだ……!
豊音のスカートの中に入ったままじゃ豊音と麻雀は打てない……。
スカートの中か、麻雀か。
どちらか一方を選ぶしかないのなら、私はスカートを選ぶ……!
豊音「うわぁぁん!」
シロ「…………」
ごめんね、豊音。
本当は豊音が悲しむことなんてしたくないんだけど。
こればっかりは仕方がない。
豊音「うわぁぁぁん! 汗かいてきちゃったよー! 恥ずかしいから出てよシロー!」
シロ「安心して。発汗の件ならとっくに気づいてる。豊音の汗は凄くいい匂いだから平気だよ」
うーん……しっとりと発汗した豊音の太腿か……。
これはますますタイツを脱がせたくなってきた。
豊音「うわぁぁん! そういう問題じゃないよー!」
シロ「ああ、豊音、泣かないで……」
困ったな……これは一体どうしたら……。
エイスリン「オクレマシター」ガチャ
シロ・豊音「「あ」」
エイスリン「…………」
シロ・豊音「「…………」」
エイスリン「エット……トヨネ……ト、ナカミ、ダレ?」
シロ「私だよ、エイスリン。日直お疲れ様」
エイスリン「オツカレデス…………ッテ、ソウジャナクテ! シロ! ナニシテルノ!」
シロ「エイスリンも大分日本に馴染んできたね。ノリツッコミとか誰に教わったの?」
動作や表情が見れないのが残念だよ。
シロ「豊音、エイスリンのノリツッコミどうだった? 可愛かった? ビシッてやった?」
豊音「うわぁぁん! ちょー可愛かったよー! 天使かと思ったよー! ちゃんと裏手でビシッてやってたよー!」
シロ「そっかー……見たかったなぁ……」
豊音「じゃあ出てくればいいよー! そんな所にいるから見逃すんだよー!」
シロ「それは違うよ。私が豊音のスカートの中にいたからこそ、エイスリンのノリツッコミを引き出すことが出来たんだよ」
豊音「うわぁぁぁん! そりゃそうだけどー!」
エイスリン「エト、ナニシテルノ? トヨネ、シロ、フタリハ、ント……スゴク、ナカヨシ?」
豊音「ナカヨシだけどー! たぶんエイスリンさん誤解してるよー!」
うん、そうだね。
たぶんエイスリンは、私と豊音がセクシャルな関係(スゴクナカヨシ)なのかを聞きたかったんだろうけど、適切な日本語が出てこなかったんだろうね。
でもまぁ、誤解を解く必要も特に感じないな。
間違ってはいないもんね。
シロ「そうだよ、エイスリン。私と豊音はすごく仲良し」
エイスリン「Oh……ヤハリ……ソウデシタカ……」
豊音「うわぁぁん! そうだけどそうじゃないよー!」
エイスリン「? シロ、トヨネ、ナイテル。イヤガッテル?」
豊音「うわぁぁん! 嫌だよー、シロがどんなに頼んでも出てくれないんだよー!」
エイスリン「シロ……?」
シロ「……エイスリン、あのね、これは私としても不本意な事態なんだ」
エイスリン「フホンイ? ホントハ、ヤリタクナイ……?」
シロ「そう。スカートの中には入りたくて入ってるんだけどね、豊音を泣かせたくてやってるわけじゃあないんだ」
エイスリン「フム……」
シロ「でもね、どうしてもやめずにはいられない。それくらい、豊音のスカートの中には魅力があるんだ」
エイスリン「デモ、トヨネ、ナイテル……」
豊音「ヒック……グス……」
エイスリン「ガンナキ……」
シロ「そうだね、ガン泣きだね……」
豊音「もうエイスリンさん、シロを引っこ抜いてよー ……」
エイスリン「……ワカッタ、マカセテ、トヨネ」
シロ「エイスリン……」
エイスリン「シロ、ゴメンネ? ヤッパリ、トヨネ、ナカセルノ、ヨクナイ」
シロ「エイスリン……」
君って奴は……。
エイスリン「デモ、ソノマエニ、チョットシツレイシテ……」ピラッ
豊音「うわわ! エイスリンさん、なにめくってるのー!」
エイスリン「イヤ、ナカハドウナッテイルノカト、オモッテ……Wao!」
シロ「やぁ、エイスリン」
スカートの裾をめくったエイスリンとご対面。
エイスリン「シロ……! コレハ……!」
目を見開くエイスリン。
エイスリン「トヨネノアシ、シロノオカオニ、ムギューシテマス!」
シロ「いいでしょ、すごく気持ちいいんだよ」
エイスリン「Fantastic! Amazing! シロ、コータイ!」
豊音「え、え? エイスリンさん!? ダメだよー、助けてよー!」
シロ「エイスリン、悪いけど、この場は譲れない」
エイスリン「シロ、ズルイ!」
シロ「でも……代わりになるかはわからないけど……」
エイスリン「?」
シロ「私のスカートの中になら入っても構わない」
エイスリン「!?」
豊音「何言ってるのー!?」
シロ「エイスリンなら、スカートの中に迎え入れても構わない」
エイスリン「ホント……? オジャマシテモ……?」
シロ「ウェルカムだよ、エイスリン。おいで」
エイスリン「シロ……」フラリ
豊音「ちょっとちょっとー!」
エイスリン「ヨイショット……」
シロ「どう……?」
エイスリンin私のスカート。
エイスリン「ステキデス……コレハ……コノカンカクハ……オカア、サン……? Mammy……?」
シロ「ふふ、よかった。気に入ってくれたみたいだね」
わかるよ、エイスリン。
スカートの中って、まるでお母さんのお腹の中に還ったみたいな安息感があるよね。
豊音「よくないよー!」
シロ「豊音、豊音」
豊音「……?」
エイスリン「Mammy……シロ……」スヤスヤ
シロ「エイスリン、寝ちゃったみたいだから。静かにしよう?」
豊音「うう……変だよー、2人ともー。どうして人のスカートの中でそんなに落ち着いてられるのー……」
シロ「こればっかりはなぁ、豊音も誰かのスカートの中に入ってみないといとわかんないだろうね」
豊音「私は遠慮しておくよー……」
胡桃「ごめん遅れたー……って————」
シロ「おつかれー」
豊音「うう……胡桃ー……」
エイスリン「クゥ……スゥ……」ムニャ
胡桃「な、なな何してるの! そこぉッ!」
エイスリン「!」ビクッ
豊音「胡桃ー! シロとエイスリンさんがおかしくなっちゃったよ—!」
胡桃「中身はシロとエイちゃん!? 何やってるの2人ともー! 破廉恥だよ!」
シロ「胡桃、これは破廉恥な意味でやってることじゃないよ」
エイスリン「クルミ? クルミキタ?」
シロ「ほらー、胡桃が叫ぶからエイスリンが起きちゃったじゃない」
胡桃「寝てたの!? シロのスカートの中で!?」
エイスリン「ワタシ、ナンジカンクライネテタ?」
シロ「んー……二十秒くらい?」
数時間の睡眠に匹敵するほど、深く安らかな眠りだったんだろうね。
私のスカートの中も捨てたもんじゃないなぁ。
エイスリン「スカートノナカ、スゴイ! グッスリ!」
シロ「よかったね」
エイスリン「ウン!」
胡桃「そこ! そこそこ! スカートの中でまったりしない!」
シロ「そうは言うけど胡桃、スカートの中はまったりする場所だよ」
エイスリン「クルミ、オコッテル?」
胡桃「そもそもスカートの中に入ったりしない! 普通は!」
シロ「そう、普通は入らない。だけど私とエイスリンは入った。そして楽園の存在を知った」
胡桃「何言ってるの……ていうかシロ、なんか今日はよく喋るね……」
シロ「私だって、自分の正当性をアピールするためなら口数も多くなる」
豊音「正当性なんてないよ—! 胡桃からも言ってやってよ—!」
胡桃「……シロ、豊音はどう見ても嫌がってるけど……?」
シロ「仕方ない。豊音は入る側じゃなくて入れる側の人間だから……体が大きいから……私くらいだと入れるのも入るのも出来るんだけど……」
豊音「うわぁぁん! こんな形でコンプレックス刺激されるとは思わなかったよー! 背ぇ高いの気にしてるのにー!」
シロ「ああ、豊音、違うんだよ。私も女としてはでかい方だから、すっぽり入るには豊音くらい大きくないといけな いんだ。だから……」
豊音「……もしかして、さっきの『私には豊音だけ』ってー……」
シロ「? うん、私がスカートに入れるのは豊音だけって意味だよ?」
豊音「…………うわぁぁぁぁん! シロのバカ—! アホ —!」
胡桃「……シロ、最初からわかりきってたことだけど、シロに正当性なんて欠片もないよ。変態さんにしか見えな い……豊音、泣き過ぎて声かれてきちゃってるし」
シロ「……胡桃なら、わかってくれると思ってたのに」
胡桃「萎れてみせたって駄目なものは駄目! 上半身は豊音のスカートの中に突っ込んで、下半身はスカートの中に エイちゃん囲い込んで! いくらシロでも許されないよ! こんな変態ハーレム」
シロ「むぅ……」
豊音「胡桃ぃー……」グスッ
エイスリン「ワタシタチ、ヘンタイサン?」
シロ「違うよ。だから安心しておやすみ……」
エイスリン「ハイ……」ムニャ
胡桃「違わない! エイちゃんまでたぶらかして! もうさっさと出てくる! 四人揃ったんだから麻雀やるよ!」
シロ「……わかった。でも、その前に胡桃、一つだけやって欲しいことがある」
胡桃「なに?」
シロ「私のスカートをめくって、中のエイスリンを見てみて……」
豊音「あっ、あっ、胡桃————」
胡桃「……? スカートの中……? 別にいいけど……そしたらすぐ練習だから————」ピラッ
私のスカートをめくり、中のエイスリンとご対面する胡桃。
胡桃「——こ、これは……!? え、エイちゃん!! なんて顔してるの! はしたない!」
エイスリン「クルミー……コニチワー……」
エイスリンの蕩けた声。
胡桃「うわー! うわー! ダメダメ! エイちゃん! 女の子がそんな顔しちゃ!」
豊音「なにー!? なにー!? どうなってるのエイスリンさん、シロのスカートの中でどうなちゃってる のー!?」
エイスリン「……」
胡桃「そんな……そんな、ありえない……! 私たちの天使が……! エイちゃんが、シロの股間でこんな顔をするなんて……!」
豊音「どんなー!? どんな顔なのー!?」
シロ「胡桃……わかってくれた? これがスカートの中の魔力。エイスリンのその表情が全て……ここは一つ、胡桃 も……」
胡桃「……入れと? エイちゃんのスカートの中に……?」
シロ「そう。そうすれば私たちが変態だっていう誤解は解けると思う」
エイスリン「クルミ……オイデ……?」
胡桃「う……でも……」
豊音「胡桃ー! 騙されないでー!」
シロ「同じ部活の仲間に変態扱いされたままは辛い……胡桃、ここは相互理解に務めるべき」
胡桃「……一理ある」
豊音「ないよ—!胡桃ー!」
胡桃「では、失礼して……」
エイスリン「Come on クルミ」
豊音「うわぁぁん!」
胡桃「……! これは……!」
エイスリン「ドウ……デスカ……?」
胡桃「はふぅ……気持ちいい……」
シロ「ね?」
豊音「ヒック 胡桃も秒殺だなんてー……スカートの中すごすぎるよー……グスッ」
胡桃「エイちゃん、エイちゃん」スリスリ
エイスリン「フフっ、クルミ、フトモモスリスリ!」
シロ「いいなぁ、胡桃。エイスリン、今度私もエイスリンのスカートに入れてね?」
エイスリン「ドントコイ!」
豊音「シロの浮気者—……」
シロ「安心して、私にとってのベストスカートは豊音だから。それは変わらない」
豊音「ちっとも嬉しくないよ—……」
塞「おつかれー……って—————」ガチャ
シロ「おつかれー」
豊音「塞ー……」
胡桃「ふぅ……」スリスリ
エイスリン「フフフ……」ナデナデ
塞「…………どういう状況……?」
豊音「見ての通りだよー……」グスッ
シロ「見ての通り。皆でスカートの中に入ってる」
塞「私がいない間に一体なにがあったの……」
豊音「寝てる間にシロにスカートの中に侵入されてー、あとから来た2人がシロに洗脳されてー……」
塞「エイちゃん……胡桃……なにやってるの……」
豊音「塞だけが頼りだよー……ヒック 皆を正気に戻してよ —……」
塞「うん……? よくわかんないけど……まぁ、これじゃ練習できないし……とりあえず胡桃から引っこ抜くね?」
胡桃「!」ギュ
エイスリン「サエ、コワイ……!」
塞「エ、エイちゃん? なに言って……ほら、胡桃、馬鹿なことやってないで練習するよ」
胡桃「や!」ギュ
塞「!?」
胡桃「や! まだエイちゃんの中にいる!」
塞「く、胡桃がダダをこねて……!? 外見にはハマる振る舞いではあるけど……!?」
シロ「塞、これがスカートの中の力。あの胡桃を幼児退行させるほどの圧倒的母性が、エイスリンのスカートの中にはあるということ」
塞「なに言ってるの……」
シロ「もう説明するのダルいから、エイスリンのスカートをめくって見て。そうすれば私の言いたいことが塞にも理 解できるはず」
塞「もう……なんだってのよ……」ピラッ
胡桃「あー、塞だー」
エイスリンのスカートをめくり、中の胡桃とご対面する塞。
塞「…………お嬢ちゃん、どこの娘……? 勝手に学校に……お姉さんのスカートの中に入っちゃ駄目だよ?」
豊音「なに言ってるの—!? その娘は胡桃だよー!?」
塞「え? はは、冗談キツイな豊音。この娘は胡桃にそっくりだけど、胡桃じゃないよ? はは、だって胡桃がこんな……あははは……」
豊音「だからー! 2人ともスカートの中でどうなっちゃってるの—!? こんなってどんなー!?」
シロ「塞、信じられないだろうけどそれは胡桃」
塞「シロまで……なに言ってるのかな、はは……」
エイスリン「サエモ、オイデ? ミンナデ、ヒトツナロ?」
シロ「そうだね、それがいい。塞モスカートの中に入ってみればわかるよ」
塞「わかるってなにが……?」
エイスリン「スベテ」
シロ「そう、全てが。それに、塞だけ仲間外れなんて嫌だし」
塞「全て……仲間外れ……」フラリ
豊音「塞ー! 駄目ー!」
塞「胡桃入るね?」
胡桃「さえ、おいでー」
塞「よいしょっと」
塞in胡桃のスカート。
塞「これは————!?」
胡桃「塞、私の中、気持ちいい?」
塞「うん……胡桃の中、狭くてあったかっくて……すごく気持ちいいよ……」
シロ「よかったね」
塞「うん……胡桃ぃ……」ギュ
豊音「うわぁぁぁん! みんながおかしくなっちゃったよー!」
シロ「…………」
これで—————
宮守女子高校麻雀部の5人は、スカートを介して一つになった。
豊音のスカートに私、小瀬川白望。
私のスカートにエイスリン。
エイスリンのスカートに胡桃。
胡桃のスカートに塞。
塞はミニスカで中に入れないから、最後に来てくれてよかった。
おかげで誰一人あぶれることなく、私たちは一つになることができた。
トシ「はいはいおつかれー、皆揃ってるかね————って」
シロ「お疲れ様です」
豊音「う……グスッ ヒック……」
エイ・胡桃・塞「「「お疲れ様です」」」
トシ「あんたたち……」
豊音「助けてー……」
シロ「…………」
……潮時かな。
さすがに先生の前では続けられないよね。
豊音、泣き疲れて大人しくなってきちゃってるし。
怒られちゃうよね。
残念だけど仕方ない。
スカートの中はまた今度————
トシ「懐かしいねぇ……」
シロ「?」
豊音「トシさん……?」
トシ「私も学生の頃はよくやったねぇ……それ」
シロ「先生も、若い頃はスカートの中に……?」
トシ「ああ、よく部の結束を高めるためのレクリエーションとしてやったもんさ」
シロ「ほう……」
豊音「……そんなー、先生までー……?」
トシ「ああ、しかし、それじゃあ今日の部活はお休みだね」
シロ「それは、どうして?」
ラッキー。
トシ「いやね、スカートの中に入るのはリラックスする方法としては最適なんだけどね。ちょっとリラックスしすぎ てしまうというか……その日一日は使い物にならないレベ ルでだらけちゃうんだよね」
エイスリン「タシカニ、イマダッタラ、チョンボ、レンパツデス……シロのオマタトフトモモニユメヲエガキマ ス……」ウトウト
胡桃「ピンフってなんだっけ……まぁいいや、わかんなかったらリーチかけちゃえば……」
塞「今は胡桃のスカートの中しか塞ぎたくない……」
シロ「私も普通の手作りしか出来ない感じだなぁ……」
豊音「みんなー!?」
トシ「ホラね? こういうわけだから、今日はお休み」
豊音「そんなー!? 皆、正気に戻ってよ—! 部活しようよ—!」
シロ・エイ・胡・塞「ダルい」
豊音「ああ……まさかその台詞をみんながハモる日が来るなんて—……」
トシ「豊音、あんたはスカートの中に入ってないからわかんないだろうけどね。こればっかりはしかたないことなん だよ。諦めるんだね」
豊音「うう……何でこんなことに……」
トシ「それじゃ、あたしは帰るけど、ほどほどにしておくんだよ?」ガチャ
豊音「待って—! 私だけでも助けてー!」
トシ「戸締りはちゃんとするんだよー」
シロ・エイ・胡・塞「はーい」
バタン
豊音「…………」
シロ「行っちゃったね」
豊音「うわぁぁぁぁん! うわぁぁあん! シロ離してよー!」
シロ「ことわる」
豊音「うわぁぁぁん! 嫌だって言ってるのにー!」
シロ「だって、これで離しちゃったら豊音だけ仲間はずれにすることになっちゃう……私にはそんなこと出来な い……」
豊音「うわぁぁん! この件に関しては仲間はずれでいいよー!」
シロ「おお、よしよし。怖くないよー」スリスリ
豊音「太腿に頬ずりしないでー!」
エイスリン「トヨネ、カワイソウ……」グスッ
胡桃「とよね……」グスッ
塞「豊音、一緒に気持ちよくなろ……?」
豊音「うわぁぁぁん! 嫌だよー! みんななんか怖いよー!」
シロ「豊音……」
—————
————
———
——
—
その後————
シロ「…………ん?」パチ
私は、暗くなった部室で目覚めた。
どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
シロ「……豊音?」
目覚めた私は、外界にいた。
豊音のスカートの中ではなかった。
既に日は落ち、部室は暗闇に包まれていた。
シロ「みんな……」
エイスリンは変わらず私のスカートの中にいた。
エイスリンのスカートの中には胡桃、胡桃のスカートの中には塞。
みんな安らかに寝息を立てていた。
豊音だけが、いなくなっていた。
私が寝ている間に拘束を解き、一人帰宅したのだろう。
先ほどの泣きっぷりを思うと少し胸が痛んだが、私はそれほど悪いとは思っていなかった。
明日———
明日、豊音を私のスカートの中に入れてあげれば————
豊音もきっと、わかってくれる。
スカートの中の安らぎを。
エイスリン「シロ……」ムニャ
胡桃「おかーさん……」スゥ
塞「ん……あ……だめ……」ムギュ
シロ「ふふふ……」
スカートの中に、大切な人を迎え入れる悦びを……。
—————
————
———
——
—
翌日。
拗ねて口を聞いてくれない豊音を説得し、私のスカートの中に迎え入れた。
豊音は————
豊音「クゥ……スゥ……」
三秒で眠りに落ちた。
豊音「シロー……」ムニャ
シロ「おやすみ、豊音……」ナデ
やはり、私のスカートの中も捨てたものではない。
槓!
以上で終了です
ありがとうございました
レスありがとうございます
眉間にシワ寄せて頑張って書いた甲斐がありました
阿知賀編か宮守の続きどちらか一本だけ書けそうなので全部書けたらまた来ます
憧「潜り込む阿知賀SS」
深夜。
阿知賀の闇夜を駆ける女豹が一匹。
そう、私、新子憧よ。
服装は通販で買った黒のライダースーツ。
今夜のスニーキングミッションのためにお小遣いはたいて買った逸品よ。
3980円もしたんだから。
送料込みで4000円オーバーの出費は痛かったけど、 ちょうどいい衣装が無かったから仕方ないわ……。
灼さんにも闇夜に紛れるために黒い服を着てくる様に言っておいたけど、どんな服を着てくるのかしら。
ちょっと楽しみ。
待ち合わせ場所に到着。
外灯の下に佇む小さな黒い人影。
灼さんだ。
灼「憧」
憧「灼さん、やっハロー」
灼「憧、最近そればっかりね。こんばんわ」
憧「灼さん、ノリ悪い。やっハロー」
灼「はいはい、やっハロー」
憧「ふふ、ちゃんと黒い服着てきたみたいだね」
灼「憧があんまりうるさいから……でも黒の上下ってこれしか持ってない……」
灼さんの服装は上下黒のジャージだった。
胸元に狸のアップリケ。
いつもの可愛い灼さんなのだが、なぜか恥ずかしそうにモジモジとしている。
憧「なんでモジモジしてるの?」
灼「い、いや、憧、スゴイ格好してるなって……」
憧「ふふん、いいでしょ! このために買ったんだから! ライダースーツだよ!」
灼「なんでこのためにライダースーツ……ていうか憧 、それたぶん本格的なツーリング用の奴じゃなくて……コ スプレ用のやつなんじゃ……」
憧「? コスプレ用だとなにかまずいの?」
灼「え、いや、まずくはないけど……なんかそれすごいテカテカしてて……いかがわしい」
憧「? 格好良くない?」
たしかに皮のやつは高かったから、なんか、ビニールみたいなやつにしたんだけど。
いかがわしい?
私、いかがわしい格好してるの?
憧「か、格好よくない……? いかがわしい……?」ジワッ
灼「あ、ちが、違うよ、憧! いかがわしいっていうか、 えと、そう! 大人っぽい! 大人っぽいなぁ!」
憧「大人っぽい……? 本当?」
灼「う、うん、さすがだよ憧! 私じゃあそういうのはちょっと着れないなぁ! すごく格好いいや!」
憧「えへへ、そうかな?」グシュ
灼「でも、ちょっと胸元のジッパー開けすぎだから上げておこうね。エッチだからね」ジーッ
憧「へへ、うん!」
灼さんにジッパーを上げて貰う。
恥ずかしいの我慢してジッパーを大きく開けてたんだけど、灼さんにはちょっと刺激が強すぎたみたいね。
灼「はい、これでよし。じゃあ行こうか」
そう言って、灼さんは振り返る。
その背中を見て、私は吼えた。
憧「がおー!」
灼「? ああ、これ?」
憧「格好いい! ライオンじゃん!」
灼さんのジャージの背中には、ものすごく手の込んだライオンの刺繍が施されていた。
灼「ふふ、でしょ? 私のとっておき」
憧「でも、前は狸なのになんで後はライオンなの?」
灼「前の狸は自分でつけた。元々このジャージはライオンジャージ」
憧「やるぅ! 狸とライオンとか最高じゃん!」
灼「そんなに言われると照れる。ていうか、服のことはもういいから、早く行こう」
憧「うん、そうだね、しずを待たせるのも悪いし」
灼「穏乃は私たちが来るの知らないけどね」
憧「知らなくても待ってるの!」
灼「ふふ、憧は穏乃のことになるとお馬鹿さんになるね」
憧「失礼しちゃう! ホントのこと言っただけなの に!」
灼「はいはい、それじゃ行くよー」
憧「もう!」
大迫力のライオンを背に先を行く灼さん。
私は慌ててその後を追った。
夜の野外に一人にされるのは御免だ。
ここまで来るのだって本当は怖かったんだから。
灼「憧、時間浅いけど、本当に大丈夫? まだ10時だけど」
憧「へ? あ、うん。しずはこの時間はもう寝てるはず」
10時って深夜じゃないの?
私すごく眠いんだけど。
しずだって、この時間なら確実に寝てると思ったんだけど……。
灼「そう、明日は休みだし、この時間じゃ確実に起きてると思ったんだけど、憧が言うなら間違いないね。言われてみれば穏乃って早く寝そうだし」
憧「う、うん……だよねー……」
灼さん、いつもこの時間まで起きてるのかな?
大人だなぁ。
伊達に私たちより一年長く高校生やってるわけじゃないんだね。
しずなんてたぶん、8時には寝てるんじゃないかな。
きっと今頃は夢の中だよ。
夢の中で私といちゃいちゃしてるに決まってるよ。
灼「憧、そういや私、穏乃の家行ったことないから先に行って」
憧「うん……」
怖いから先に行って欲しいけど仕方ないね。
灼「成功するといいけど……ていうか、通報されなきゃいいけど」
憧「大丈夫! この私が練った策なんだから! きっと成功する!」
灼「策って……不安だなぁ……でも一人で行かせる訳にはいかないし……」
憧「感謝してるよ! 一人じゃ心細かったし、頼りにしてるね!」
灼「しょうがないなぁ……」
憧「さぁ行くわよ! 高鴨家へ! レッツスニーキング!」
灼「しょうがない、腹括るしかないね」
私たちは外灯の明かりを離れ、再び夜の闇に紛れた。
目指すはしずの家。
目的は、潜入。
無許可でしずの家に潜り込むのだ。
*
何故、私と灼さんがしずの家に潜入することになったのか。
その理由を説明するには少し時間を遡る必要がある。
私と灼さんが夜の路上で待ち合わせた日の3日前。
水曜日の夕方。
部活を終えた私たちは、いつも通り部室に居残ってイチャコラ遊んでいた。
おもちの成長を確認するという名目で私にセクハラする玄、その玄を叱る宥姉、宥姉のマフラーをハードスプレー で固めて昭和のヒーローみたく常時はためいてるような状態にしたいと不穏な願望を口にするしず、それをたしなめる灼さん。
いつも通りの楽しい部活終わり。
私たちは時間を忘れ夢中でお喋りし、お菓子をむさぼり食い、おっぱいをつついたり、つつかれたりしていた。
玄「むぅ……」
憧「うう、宥姉ぇ……玄がまた獣の目でこっちを見てるよぉ……」ブルッ
宥「玄ちゃん、めっだからね?」
玄「大丈夫だよ……お姉ちゃん。わかっているのです。もう憧ちゃんのおもちを揉んだりしないのです」
宥「ならいいけど……」
玄「その代わりに……」チラッ
灼「……!」ゾクッ
玄「灼ちゃん、なんか最近、おもち大きくなってきてるような……? ちょっと私が測ってあげるよ……」
灼「ひっ……! いいよ、玄、気のせいだから、残念ながら私のおもちは成長の兆しを全く見せてないから!」
玄「ううん、そんなことないよ? 灼ちゃんもしずちゃんも、ほんのちょっとだけど成長してるよ?」
穏乃「マジですか!? 玄さん!」
玄「マジだよ〜。微妙な成長だからまだ傍から見ただけじゃ判り辛いけど、確実に成長してるよ」
穏乃「うひょー! やったぁぁぁ!」ピョイーン
灼「待って落ち着いて穏乃。喜ぶのはまだ早い。玄、玄にはなんでその微妙な成長がわかるの? メジャーで測った わけでもないのに……」
玄「私くらいになると目測だけでほぼ正確におもちのサイズを測れるのです。目測で誤差2センチ以内で言い当てる ことができます」
穏乃「すっげー!」キラキラ
憧「玄ならハッタリってわけでも無さそうだから怖いわ……」
宥「どうしてこんな娘に育っちゃったんだろう……」
玄「そして手で触れば完全にメジャーいらず。誤差数ミリ単位でおもちのサイズを測ることができます……なの で……」ワキワキ
灼「だから! いいって! 家で普通に測るよぉ!」
玄「そう言わずに……お友達の成長具合を知っておきたいという私なりの愛なのです……」
灼「ひ! ゆ、宥さん助けて!」
宥「コラッ、玄ちゃんダメでしょ? ターゲットを灼ちゃんに変えたってダメなものはダメ。ね?」
玄「はーい……」ムス
宥「もう……」
穏乃「ホラホラ、憧! 見た!?」
憧「? なんのこと?」
穏乃「今の宥さんのマフラー! こう玄さんを叱った時にブワッて! カッコイイよなぁ!」
憧「まだ言ってるのそれ?」
穏乃「やっぱりハードスプレーでさぁ! こう、固めちゃってさぁ!」ウキウキ
憧「はぁ、しずはなんにもわかってないわね。いい? あれはね、有姉が格好いい時だけブワサッてなるから格好いいんであって、常時はためいてたら格好よくならないのよ」
穏乃「!」
憧「それにね、スプレーで固めてはためかせようと思ったら、垂れ下がってる部分だけじゃなくて首に巻いてる部分も固めないと安定しないよ? 宥姉マフラー外せなくなっちゃうよ」
穏乃「そっかー……私が甘かったよ憧……宥さん昭和のヒー ロー化計画は諦めるよ……」
憧「ほんとにしずは考え無しなんだから。そういうのは計画じゃなくて願望っていうの」
穏乃「へへ……そうだね」
憧「もう……」クスッ
いつ今でも子供みたいなことばっかり考えてるんだから。
しずは可愛いなぁ。
穏乃「あーあ、それじゃあレッドマフラーACHIGAは幻に終わるのかぁ……」
憧「……名前まで考えてたのね。ていうかレッドじゃなくてピンクじゃん」
ダサいわね。
しず的にはダサ格好いいとか思ってそうだけど。
玄「じゃあ、誰のおもちならいいのですか!」ガタッ!
憧・しず「!」ビクッ
玄「憧ちゃんはダメ灼ちゃんもダメしずちゃんのもダメ! お姉ちゃんはダメダメばっかり!」
宥「玄ちゃん落ち着いて! 誰のならいいとか、そういう問題じゃないでしょ!?」
玄「最近お風呂でのおもちタイムも短くなってるし! もう私、どうしたらいいかわかんないよ!」
灼「おもちタイム……?」
宥「うわわ、玄ちゃんみんなの前でそれ言っちゃダメ〜!」
おもちタイム……宥姉の慌てぶりから察するに、きっとお風呂で宥姉が玄の劣情を鎮めてあげているのね……。
玄「ほんとは灼ちゃんや穏乃ちゃんのちっぱいおもちは触るだけじゃなくて、ペロペロしたりスリスリしたりしないと満足できないのに、そこを曲げてせめて触らせてくれってお願いしてるのに!」
灼・穏乃「」
宥「玄ちゃんいい加減にしないとお姉ちゃん怒るよ……? 灼ちゃんや穏乃ちゃんのおもちをそんな風に言うなん て……」ブワサッ
玄「ひえっ! お姉ちゃんがマフラーをはためかせて荒 ぶっているのです! 逃げるが吉!」ダッ
宥「く〜ろ〜ちゃ〜ん」タッ
ガラッ
ウワーン、オネエチャンゴメンナサーイ!
マチナサイクロチャン! オシオキダヨ!
憧「…………」
灼「行っちゃったね」
穏乃「玄さん、今日は一段とおもちに執着してたなぁ。それに怒りのレッドマフラーやっぱり格好いいや」
灼「玄、最近全国に向けて、他県の出場校の方予選の映像を見てたみたいなんだけど……」
憧「それがなんであんなことに?ストレス?」
灼「いや、それがね、鹿児島の永水女子の試合を見てたらしい」
憧「永水……ああ、あの巫女さんの。ということは先鋒、 中堅、大将の3人が気に入っちゃったんだね」
灼「そう。ほら、巫女さんって袴を腰の高い位置で履くでしょ? 胸の下あたりで。それで、あの大きなおもちが強調されて大変なことになってるって……『胸の大きな人に は和服は似合わない? そんなオカルトありえないので す!』って……昨日、興奮気味に語ってた」
憧「そっかー……それで。有姉も大変だなぁ……」
灼「さすがに怒ってたね」
穏乃「私は別に気にしてないけどなぁ」
憧「…………」
嘘ばっかり。
前に服貸してあげるって言ったらサイズのこと気にしてしょんぼりしてたじゃない。
灼「2人も行っちゃったし、私たちも帰ろうか」
穏乃「! えー、もう帰るんですか? もうちょっと遊んでいきましょうよー」
憧「だーめ。全国近いんだからちゃんと休まないと」
穏乃「私は全然平気だよー」
灼「ふふ、穏乃は体力あるからね。でもダメだよ? 自覚 できなくても疲れって溜まってるもんだし。今日は解散」
穏乃「ちぇー……」
灼「また明日も学校なんだから、いつでも遊べるよ」
穏乃「はーい……」
憧「まったく、大体しずの無駄体力に付き合ってたらこっちの身がもたないっての」
穏乃「…………」
憧「? しず?」
穏乃「うん?」
憧「どうかしたの? 黙り込んじゃって」
なによ、らしくもなくションボリしちゃって……。
どんだけ遊びたいのよ……。
この私と!
この私をどんだけ愛してんのよ!
心配しなくても全国終わったら一杯遊んであげるわよ!
しずのほうが音を上げるまで遊んであげるんだから!
穏乃「いや、はは……なんでもない。帰ろっか」
憧「?」
灼「じゃあ私、部室の鍵職員室に返してくるから。2人は宥さんと玄の荷物持って部屋出てて」
憧「はは、ホントだあの2人荷物ほったらかしじゃん」
穏乃「しょうがないなぁー」
憧「ふふふ……」
私たちはこの後、廊下でお仕置きタイムに入ろうとしていた宥姉と涙目で青い顔をした玄を見つけて皆で帰宅し た。
みんなで校門をくぐり、挨拶をしてそれぞれの下校路に別れた。
私としずは途中まで一緒だったが、この時からなんだかしずはおかしかった。
やたらとゆっくり歩いたり、道端で急に虫採りを始めたり、コンビニや駄菓子屋が目に入るたび寄り道したがった り……。
今にして思えば、この時のしずは……。
穏乃「あこー、見ろよーあれー」
憧「……何よ」
家に帰るのを、嫌がっていたのだ。
でも、この時の私は練習の疲れもあって、しずが持て余した無駄体力を発散したがっているだけだと思っていた。
まだ遊び足りないのかと。
まだ私と遊びたいのかと。
そんなに私が好きなのかと。
私だってしずが大好きよ! と。
穏乃「あこー————」
憧「もー……! いい加減にしてよ、しず。これじゃあいつまで経っても家に帰れないじゃない!」
穏乃「あ、そうだね……ごめんあこー……」
憧「もう、ほら行くよ?」
穏乃「うんあこー……」
私はの時、気付くべきだったのだ。
何故か帰宅を遅らせようとするしずが、一際しつこく粘ったあの場所は……私がしずを叱り帰宅を急かしたあの場所は……。
私たちが帰り道、いつも別れる場所のすぐ近くだったということに。
いくら疲れていたとはいえ、言い訳にはならない。
察してやるべきだった。
しずの寂しそうな様子を見て、もっと色々と考えてあげるべきだったのだ。
*
その翌日。
木曜日の放課後。
部室に向かう途中、廊下で晴絵と灼さんと一緒になった。
晴絵「おーす、憧。おつかれ—」
灼「おつかれー」
憧「おつかれー」
晴絵「昨日はあのあと何時頃まで残ってたんだ?」
灼「昨日は少しお喋りしてすぐ帰ったよ」
晴絵「そっか。感心感心。憧は昨日は穏乃の家?」
憧「へ? なんで?」
晴絵「あれ? 聞いてないのか?」
憧「どういうこと?」
晴絵「しずの親御さん、昨日から月曜まで用事で県外に行ってるんだってさ」
憧「…………」
それでか……。
昨日グズグズしてたのは……。
一人になるのが寂しかったのね。
晴絵「しずは学校あるし全国も近いから、一人でお留守番なんだって。聞いてない?」
憧「聞いてない……」
晴絵「そっか。一人じゃ心配だし、憧にでも泊まりに来て もらえばって言っておいたんだけど」
灼「それで昨日帰りたくなさそうにしてたんだね」
憧「うん……」
あー……あれだ。
きっと言い出せなかったんだろうなぁ……。
しずは案外、周りに気ぃ遣うタイプだから。
灼さんが真面目なこと言ったり、私が疲れたって言ってるのを見て、泊まりに来てってお願いできなくなっちゃったんだね。
それでグズグズ帰宅を……この私との別れを引き伸ばして……。
ばかしず!
灼「どうする? 穏乃の家でお泊り会する?」
晴絵「おー、それがいいよ。みんなで行ってあげなよ」
憧「いや……」
いや、私たちのほうから「行ってあげる」なんて言えば、きっと気遣い屋さんのしずは遠慮して「いやぁ、いい よぉ……みんな家でゆっくり休みたいだろうし……」なんて言うに違いないのだ。
私たちの気遣いが、かえってしずの心に負担をかけてしまうことになる。
ならば。
ならば、しずを家で一人にさせず、尚且つしずに気を遣わせないようにするには……。
そう…………潜入だ。
私たちに非がある状況を作り出した上でしずの家に上がり込めば、しずに気を遣わせずに一緒にいてあげることができる。
如何に気遣い屋さんのしずでも、勝手に自宅に侵入した相手に遠慮なんてしないだろう。
完璧な案だわ……。
もう潜入するしかないじゃない!
憧「灼さん……私に考えがあるわ……」
灼「?」
あと一日だけ待ってなさいしず……!
明日……金曜の夜、アンタをあっこあこにしてあげるんだから!
*
そして時間は金曜日の夜に戻る。
あす楽配送でゲットしたライダースーツに身を包んだ私と狸ライオン黒ジャージの灼さんは闇夜に紛れ、 高鴨家の前に佇んでいた。
灼「こうして暗闇の中に立っていると改めて思う……なんで普通にお泊り会じゃいけないのかと……」
憧「だめよ。しずに気を使わせないようにするにはこれしかないの」
灼「私んちとか、憧の家に穏乃を呼ぶんじゃだめなの?」
憧「……だめ、よ。付き合いの短い先輩の家なんて、しずは恐縮しちゃってくつろげないわ、きっと。玄たちの家な んて論外ね、いくら親しいからって旅館で友達同士のお泊り会なんてしずは遠慮するに決まってる。第一、発情気味の玄とお泊りなんてしずの身が危ういわ!」
灼「憧んちは……? 憧なら幼馴染だし……」
憧「…………とにかく」
灼「憧……?」
憧「行くわよ。もう私たちは引き返せない所まで来てるの。行くしかないのよ……!」
灼「考えてなかったんだね……」
憧「うるさい! ほら灼さん! 手筈通りに頼むわよ!」
灼「はいはい……」
私たちは高鴨家の裏手に回り、ある小窓の前に立った。
灼「ここから入るの……?」
憧「そうよ。この窓のサイズじゃ灼さんくらいしか入れないだろうから、ここから灼さんが侵入して、玄関の鍵を開 けてきて欲しいの」
灼「……聞いてはいたけど、この作戦、憧はほとんど何もしないよね……」
憧「仕方ないじゃない。私の体格じゃこの窓入れないんだもん」
灼「そうだけどさ。どうせやるならネットでピッキングツールとか買って玄関の鍵開けちゃうとか……」
憧「!? ぴ、ピッキング!? 灼さん、なに怖いこと言ってるの! いくら友達の家だからって超えちゃいけな いラインあるでしょ!」
灼「超えちゃいけないラインはもう超えちゃってるんだよ、憧……」
憧「?」
灼「……もういいよ、わかった。憧の言う通りにするから」
憧「?? うん、お願いね」
ガラッ
灼「ホントに開いてる……いくら小さい窓だからって不用心だなぁ……」
憧「体が小さかった頃はよくこの窓から侵入して、しずと添い寝したもんよ」
灼「常習犯だったんだね……ていうか、潜入はやりたかっただけか……」
憧「へへへ」
灼「でもまぁ、前歴があるなら怒られる心配はないか…… ちょっと行ってくるよ。玄関の前で待っててね」
憧「うん! 行ってらっしゃい!」
灼「よいしょっと」
それから私は玄関の前に移動して灼さんの解錠を待った。
しばらくして、玄関の鍵がカチリと開く音。
続いて、音を立てないようにそろりとドアを開け、灼さんが現れた。
灼「ふー……なんか緊張したよ」
憧「お疲れさま、それじゃ行きましょうか。目指すは二階のしずの部屋よ」
灼「あんまり聞きたくないんだけど、行ってどうするの?」
憧「寝てるしずを私と灼さんで挟んで、明日の朝起きたら 『うわー!? なんで憧と灼さんがいるんだー!?』っ て」
灼「それだけ……?」
憧「それだけ」
灼「安心したよ、夜に人の家に侵入するなんて言うから、 どんな変態行為を働くのかと思ってたから……」
憧「はは、やだなー、変態行為って! 私がしずにそんなことするわけないじゃない! せいぜい寝間着代わりにしずのジャージを借りてそのまま来て帰っちゃうくらいだって!」
灼「ん?」
憧「いやー、ほんと、灼さんのおかげだよ。体が大きくなってあの窓から侵入できなくなって以来、しずのジャー ジコレクションが増やせなくて困ってたんだよね! 3年ぶりに新しいしずジャージゲットのチャンスがものにできそうで、ほんと感謝してる!」
灼「憧……まさか、そのライダースーツ、少しサイズが大きめなのって……」
憧「お、さすがに察しがいいね。そうだよ、この中にしず ジャージを着て帰るためよ」
灼「そんな……ちょっとサイズ大きめなのに胸元開けちゃって乳首見えちゃってるうっかり憧ちゃん可愛いとか思ってたのに……そのサイズはそんな理由だったなんて……」
憧「やだ、灼さん可愛いとか/// よしてよ、照れるじゃない///」
灼「もう可愛くないよ、憧」
憧「? んじゃ、行きましょうか!」
灼「うん、穏乃は私が守るよ……」
そして私たちは、忍び足で二階のしずの部屋に向かった。
しずの部屋のドアからは灯りが漏れていた。
憧「……!」
そんな……しずってば、こんな時間なのにまだ起きてるの……!?
そんな馬鹿な……!
夜の10時過ぎなんて私ですら起きてるのが辛い深夜なのに……!
しずみたいなお子様が起きていられるはずが……!
! そうか……!
しずの奴、一人が怖くて眠れないのね……!?
ということは一昨日も昨日もしずはあまり眠れていない……!?
大変! しずが寝不足になっちゃう!
すぐに添い寝して安眠させてあげないと!
憧「しず————」
灼「待った」ガシ
憧「灼さん、離して! しずがしずが……!」
灼「やっぱり起きてたね。まぁ、いくら穏乃が早寝でも、10時じゃ起きてる可能性もあるよ」
憧「……大人は黙ってて」
灼「憧?」
憧「しずみたいな子供は早く寝ないと死んじゃうの! こんな時間まで起きてちゃダメなの!」
灼「なに言ってるの……」
憧「離して! すぐにしずの所に行ってあげないと!」
灼「いや、私は別にそれでもいいんだけどさ。寝てる穏乃のベッドに潜り込むんじゃないの? それはもういい の?」
憧「! そうだった……私としたことが……ごめん灼さん、 私ちょっと冷静さを欠いていたみたい……」
灼「いやね、私としてはもう潜入はいいじゃないかなって思うんだけど……」
憧「仕方ないわね……心苦しいけどしずが寝るまでここで 少し待機ね。息を殺して」
灼「はぁ、わかったよ。もう憧の好きにすればいい」ソーッ
憧「ちょっと! なにドア開けてんの!」
灼「え? いや、中の様子を覗っておこうかと……」
憧「バレちゃったらどうすんのよ! 閉めて閉めて!」
灼「大丈夫だよ、このくらい。それに穏乃の私生活ってちょっと興味あるし。部屋で一人の時に何してるのか全く想像つかないよ」
憧「そんなの私のこと考えてニヤニヤしてるに決まってるでしょ! 開けるまでもないわよ!」
灼「決まってるの……? まぁ、憧の中ではそうなんだろうね。でも実際はどうかな……」
憧「なに言ってるの……灼さん、しずが部屋に一人でいるのよ? そんなの、妄想の翼を広げて、空想の中で私とキャッキャッウフフしてるに決まって……」
灼「それって憧の部屋での過ごし方なんじゃ……まぁいいや、開けるよ」キィ
憧「あ、灼さん————!」
穏乃「ふーんふふーん」カキカキ
灼「……鼻歌歌ってるね……歌いながら……あれは何か書いてる……?」
憧「しずー私よー結婚して頂戴ー」
ドアを少しだけ開き、私と灼さんは隙間から中を覗いた。
しずは勉強机に向かい、夢中になって何かを書いていた。
なんだろう……私へのラブレターかしら?
穏乃「あーはアーコチャのあー、ふーんふふふふふーん」 カキカキ
灼「あれは……ドレミの歌の替え歌……?」
憧「ふふ、ほら、しずったら替え歌の歌詞にしちゃうくらい私のこと考えちゃってるじゃない」
灼「いや、あれは憧みたいに不純な想いが込められたものじゃないと思う……穏乃可愛い」
憧「どういう意味よ!」
灼「ちょっと静かに……あれ、書いてるやつ、出来たみたい」
憧「私へのラブレターが!?」
灼「違うと思うよ……」
穏乃「出来たー!」バッ
灼「! あれは……!」
憧「まぁ……!」
穏乃「憧の似顔絵! 上手に描けたぞ!」
灼「穏乃、絵ぇうま!」
憧「素敵よしず……そんなに綺麗に私を描いてくれて……」
しずが夢中になって描いていたのは私の似顔絵だった。
異様にリアルな……写実的な絵だった。
阿知賀の制服を着た私のバストアップ。
「もうしょうがないわね、しず」顔の私だった。
穏乃「よーしまずは一枚、これはここに貼ってー」ピタ
憧「しずったら……どんだけ私のこと愛してんのよ……」
灼「まずは一枚って言ってたし、皆の似顔絵もかっくんじゃないかな……」
憧「もう一枚、私のって可能性もあるわよ」
灼「はいはい……」
穏乃「くーはクロちゃのくー」カキカキ
灼「次は玄みたいだね」
憧「そ、そんな……しず……?」
穏乃「出来たー!」
灼「はや、うま……」
憧「まるで写真ね……しかもこの短時間で……」
続いて完成したのはエプロンを着けて箒を持った玄だった。
玄のいつものお掃除スタイルだ。
やはり凄まじい完成度……。
しずが私以外の絵を描いたショックも忘れて見入ってしまう。
そして、しずは————
穏乃「ゆーは宥さーんゆ〜」カキカキ
その後、異様なハイペースで————
穏乃「あーは灼もあ〜」カキカキ
異様にリアルなみんなの似顔絵を————
穏乃「レーはレジェンドれ〜」カキカキ
描いていったのだった。
穏乃「よーし! あと一枚!」
穏乃は勉強机の前に描いたイラストを並べて貼っていき、ふんすと鼻息も荒く腕まくり。
灼「あと一枚……? もう全員分描いたんじゃ……」
憧「いや……あの気合の入りようは……」クスッ
そうだね、しず。
まだ大事な一枚が描けてないもんね。
穏乃「のーは————」
灼「ああ……」
憧「…………」
穏乃「和のの〜」カキカキ
憧「しず……」
灼「……」
和を忘れちゃいけないよね。
楽しみだね、全国。
絶対に……絶対にまたみんなで————
穏乃「遊ぶんだ! みんなと! 和と!」
憧・灼「…………」
そうして出来上がったイラストの中で、和は優しく微笑んでいた。
*
その後——
異常なクオリティのイラストを立て続けに六枚描いた疲れからか、しずはフラフラとベッドに倒れ込み、そのまま眠りに落ちた。
私と灼さんは当初の予定通り部屋に忍び込んだ。
ジャージを物色する私を止めようとした灼さんを当て身で昏倒させ、私は無事に3年ぶりのしずジャージをゲットすることができた。
灼さんをしずの隣に寝かせ、私もライダースーツからしずジャージに着替えてベッドに潜り込んだ。
穏乃「うぅん……あこぉ……」
憧「ふふ。おやすみ、しず……」チュッ
灼「…………」グッタリ
—————
————
———
——
—
翌朝。
添い寝する私と灼さんに驚きながらも喜びを隠せないしずを、灼さんと2人でそっと抱きしめた。
穏乃「ちょーびっくりしたよ2人ともー……」
灼「ふふ、だろうね」
憧「月曜まで泊まってくからね、しず」
穏乃「憧……ありがと」
憧「ふふ」
灼「これなら最初から普通に泊りに来ればよかったんじゃ ……」
穏乃「?」
憧「ふふ、これでいいの!」スリスリ
灼「はぁ……もう、わずらわし……」
もう、しずを一人になんてさせない……だから————
穏乃「なんの話? ていうか憧、スゴイ格好してるね」
憧「でしょ、通販で買ったのよ!」
だから、私も寂しくないようにしずのジャージ……貰っていくね?
灼「なんか首の後痛い……それに、なんか忘れてるよう な……?」
穏乃「寝違えたんですか?」
憧「…………」ニヤリ
しずのジャージ、ライダースーツの下に着て持って帰るね……?
ずっと一緒だよ、しず……。
カン!
以上で終了です
ありがとございました
このSSまとめへのコメント
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