モバP「夢十夜」 (56)

P「おー、文香。元気? シャバドゥビ?」

文香「え……元気ですけど。しゃばどぅび……?」

P「意味はないから気にするな。相変わらず読書か。
 えーっと……夢十夜だな」

文香「わかるんですか?」

P「まぁな」

P(ページの上に書いてあるんだよな)

文香「読書家だったんですね」

P「偶然知ってただけさ。他人の夢の話ほどつまらないものはないとは言うが
 俺は人の夢の話とか好きだしな」

文香「プロデューサーさんは……何か面白い夢の話を知っていますか?」

P「そうだな。俺が高校生の時の友人の話なんだがな。
 まぁ頭が悪いやつでさ。成績なんて赤点上等みたいなやつだったんだ。
 それが祟って三年への進級時だったかな。このままだと進級出来ないぞって言われたんだ。
 さすがのそいつも危機感を持って周りから心配されるほど勉強したんだ。
 で、ある日。試験少し前だったっけな。夢を見たそうだ。
 夢の中でも勉強をしていたのだがノートを使いきってしまった。
 しかし勉強しないといけない。物覚えが悪いから書かないと忘れてしまう。
 そうこうしているうちに耳からぽろりぽろりと何かが落ち始めた。
 拾って見るとそれは英語の単語だとか数式だとか歴史の年号だとか勉強した
 ことなのだ。これはいけないと耳に入れるが溢れてきてしまう。
 そこで友人は手近にあったノコギリで頭を切り落し、脳みそを」

文香「待ってください。もういいです。もういいんです」

P「そうか。まぁこれはちょっと気持ち悪い話だったな。
 もっと面白い話にすればよかった。おさげで空飛ぶ十歳児の話とか」

文香「あ……レッスンの時間。行かないと……」

P「おー、頑張ってこい。暑いから水分補給しっかりなー」

文香「はい。行って来ます……」

P「……夢の話か」

P「アイドルの夢覗きてぇな」

P「……ふむ」

肇「お疲れ様です」

P「おー、丁度いいとこに来た」

肇「どうかしたのですか?」

P「この封筒を今日から枕の下に入れて寝てくれ」

肇「これをですか? 中身は一体なんですか?」

P「なぁに、気にする事はないさ。さてと俺も仕事すっかな!」

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P「……ん、ここは夢の中かな。水路は敷かれているようだ」

「……Pさん」

P「おー、来たか。肇」

肇「あの封筒の中身はPさんの写真ですね」

P「いかにも。こうすれば夢の通い路が出来るかなと思って」

肇「それで夢の中で何の用ですか」

P「いやね。他のアイドルの夢を見てみたいんだ」

肇「趣味が悪いですね……」

P「まぁいいじゃないか。ということで船に乗せてくれ」

肇「Pさんのお願いなら仕方ないですね……行きましょう。
  まさかアイドルになったら他者の夢に渡れるようになるとは
  思いませんでしたよ」

P「ああ。俺もそんな適正を持つ子と出会えるとは思ってなかった」

肇「……誰かの夢に入ったようです」

P「おー、一応肇の知り合いにしか行けないんだよな」

肇「はい。ある程度親しい人だけなので十中八九アイドルかと」

P「ふむふむ。干渉は出来ないが覗けるだけでも十分だ。さぁ誰かな」

肇「風景が見えて来ましたね。これは……本ですか」

P「おー、すごいな。図書館の海……じゃなかった、本の海だぞ」

文香「……」

肇「鷺沢さんの夢のようですね。夢でも読書をするなんて」

P「あれこそ本の虫だろ……。ん? あの本から何か零れてるぞ」

肇「なんでしょう。ちょっと近づいて見ましょう」

P「これは文章だ。本の中身が零れてる」

文香「……いけない。文章が逃げちゃう」

P「瓶を持ってきて……文章を鷲づかみした」

肇「どんどん捕まえてますね」

文香「これで全部かな」

P「知ってるぜ。これで捕まえた文章を見て、元の本に戻していくんだろ」

肇「いえ、蓋をしてますよ」

文香「よし、瓶をよく振って……」ブンブン

P「えっ」

肇「ああ、文章が絡まっていく」

文香「このぐらいでいいかな」

P「なんか黒い水になったぞ」

肇「あ、蓋開けました」

文香「ゴクンゴクンゴクン」

P「飲んでるぞ」

肇「おいしそうに飲んでますね」

文香「ご馳走様。いい物語でした。ゲフッ」

肇「あ、夢が途切れます。今宵はここまでです……」

チュンチュン

P「……最後ゲップしてたな」

文香「おはようございます……」

P「おー、おはよう。調子はどうだ?」

文香「普通ですね」

P「そうか。昨日より顔色も良さそうだな。いい物語でも飲んだか?」

文香「え? 飲む?」

P「そうそう。文章をいてててててて」グイィ

肇「おはようございます。鷺沢さん」

文香「おはよう……ございます」

肇「この人はお気になさらずに。今日も頑張りましょう」

文香「はぁ……」

P「おー、迎えが来たか」

肇「前々から言おうと思ってたのですがそのおーってやめたほうがいいですよ」

P「え、なんで?」

肇「馬鹿に見えます」

P「……」

肇「早く乗ってください。行きますよ」

P「はい……」

P「船漕ぎって結構筋肉使うらしいけど肇は疲れないのか?」

肇「はい。重さを全く感じないですね」

P「ならいいんだ。朝会ったら筋肉ムキムキのマッショマンになってても困るし」

肇「マンじゃなくてウーマンですよね」

P「何か匂うぞ……。花の匂いか?」

肇「バラでしょうか」

P「薔薇の撒かれる水路を往くなんておしゃれだな」

肇「風景が見えて来ました。あれはどこかの庭でしょうか」

P「ああ。ここか」

肇「知っているんですか?」

P「桃華んちの庭だ」

肇「なんで知っているんですか」

P「怪訝そうな眼で見るな。親御さんに挨拶に行った時に見たんだよ」

肇「本当は個人的に……」

P「ないから。絶対ない。そんなスキャンダルになりそうなの」

肇「だってほら、あそこにいるのは桃華ちゃんとPさんですよ」

P「そうだけどさ。……なんで桃華が椅子に座って俺が地面なんだ」

桃華「Pちゃま。このクッキーがほしいですか?」

夢P「はい、ほしいです! たくさんくらしゃい!!」

P「」

肇「」

桃華「うふふ。おかしいですわね。物を頼むときはどうするか教えましたわね?」

夢P「はいい。三回周って垂直飛びぃい!」

P「なんでだよ! ワンじゃねぇのかよ!」

肇「言いたいんですか……?」

P「言わないよ! その目つきやめて!」

桃華「よくできました。はい、クッキー……上げますわよ!」

P「ク、クッキーを持って手を上げた!!」

肇「普段の桃華ちゃんからは考えられない所業ですね」

夢P「ちょうだいちょうだいいいいぃぃ」

桃華「だってほら、上げましたわよ?」

P「すごいドヤ顔だ」

肇「あ、Pさんが立ちましたよ」

夢P「もらったあああ! ハムッ、ハフハフ、ハフッ!!」

肇「うわ、気持ち悪い」

P「傷つくからやめて」

桃華「あらあら、お仕置きが必要みたいですわね……」

P「お、なんか取り出すぞ。鞭か、鞭なのかっ!?」

肇「なんで興奮してるんですか」

夢P「お仕置きだめぇええ死んじゃうううぅ」

桃華「でも悪い子はちゃんと躾けないといけませんよ、ねっ!」ブン

P「モーニングスターだああぁぁぁ!!」

肇「なんですか。あの凶悪な武器は。桃華ちゃんに全く似合わない……」

桃華「ほらほら、お仕置きですわよ!」

夢P「きゃいんげふごげぐげげげんふがはっ」ドゴォドゴォ

肇「あ、夢が終わりのようです。今宵はここまでです……」

チュンチュン

P「……あれ、絶対俺死んでたよ」

桃華「ごきげんよう」

P「おはよう。桃華。機嫌良さそうだな」

桃華「よくわかってらして。いい夢が見れましたのでご機嫌ですのよ」

P「ほ、ほう。どどどどんな夢だったんだ?」

桃華「声が震えてますわよ。Pちゃま。
   そうですわね。夢の中でPちゃまとティータイムを……」

P「モーニングスターはいつものこゲハラッ!?」グシャ

肇「はぁはぁ……おはようございます。桃華ちゃん」

桃華「ご、ごきげんよう。なぜPちゃまに飛び蹴りを?」

肇「おじいちゃん流の挨拶です」

P「」

P「なぁ。俺の夢って覗いたことあるか?」

肇「いえ、自分から夢渡りすることはないですし……。
  たまにPさんと夢の通い路が繋がったときに渡るくらいですね」

P「通い路って確かお互いのことを思いながら寝ると繋がるんだっけ。
 今は俺の写真を使って繋いでるけど」

肇「……」

P「いやー、肇がそんなに俺のことを思ってくれてるなんてな」

肇「落としますね」

P「ストップストオオオォォオプ!! 俺泳げないから!!」

肇「まぁ仕事とかで話すことが多かった日は比較的繋がりますね。
  その日の事を思い返したりするので」

P「冷静な分析だなぁ……。お、見えてきたぞ」

肇「白い靄……。霧ですかね」

P「いや、これは……吹雪だ!」

肇「くっ……。寒くはないし雪が当たることもありませんが」

P「うっとおしく感じるな」

イヴ「ブリッツェン!」

P「あれはイヴか。あの姿はまるでサンタクロースだ」

肇「あの、イブさんは一応サンタクロースなんですが」

イヴ「上空に出て、一度雲を抜けます!!」

P「まるで別人のようだ。あのほにゃららしたイヴには見えん」

肇「私達も追います」

イヴ「……雲を抜けましたね~」

P「雲海ってやつか。天と地の狭間だな」

肇「綺麗ですね」

イブ「ブリッツェン。とりあえずその辺に着陸しましょ~」

P「すっかり口調が戻ってしまった」

イヴ「困りましたね~。とりあえずドラム缶風呂に入りましょ~」

P「ソリの上にさっきまでドラム缶なんてなかったよな」

肇「一瞬で出てきて既に入ってますね」

イヴ「はー、極楽ですね~。空も綺麗ですし~。でもやっぱり露天風呂ではないような……」

P「外で風呂に入れば露天風呂だよな」

肇「うーん……」

イヴ「さてと体を……あぁ!? 石鹸がない~!」

P「あれ、いつの間に水着に着替えたんだ」

肇「そんな残念そうにしないでください。落としたくなるじゃないですか」

イヴ「仕方ないですねぇ~。ちょっと買いにいきましょうかぁ」

P「いきなり事務所の近所のコンビニ前になった!」

肇「服装も水着じゃなくなってますね」

イヴ「すみませ~ん。石鹸ください~」

「醤油とおかかつけますね」

イヴ「ありがとうございます~。いただきま~す」モグモグ

肇「あ、夢が終わります。今宵はここまでです……」

チュンチュン

P「……あれ豆腐じゃねーか」

イヴ「おはようございます~」

P「おはよう。ブリッツェンは元気か?」

イヴ「はい、元気ですよ~。今日はレッスンでしたねぇ」

P「そうだな。どうする? 車で送ってく? ブリッツェンで飛んでく?」

イヴ「飛んで行っていいならいきますよぉ」

P「……いや、よくない。というかブリッツェンは普通に飛べるのか」

イヴ「トナカイですからぁ」

肇(トナカイは普通飛ばないような……)

肇「Pさんは他に私のような力を持ってる人を知っていますか?」

P「憑かれたせいで特定の誰かとだけ夢が繋がったりする人は聞いた事あるが
 ここまで完璧に人の夢に渡れる人間は見たことも聞いた事もないな」

肇「ですよね。私も最初は驚きました」

P「俺だって驚いたよ。夢で肇に会って、現実で会ったら同じ夢を見たと言われてさ」

肇「なぜ私がそんな力を持ったんですかね……」

P「さぁな。神様のサイコロがそうしたんだろう。お、見えてきたな……」

肇「これはどこかの街中でしょうか……」

P「あっちから走ってくるのは……」

夢P「はぁ……はぁ……」

ごろつき「待たんかゴラァ!!」

チンピラ「にげてんじゃねぇぞ!!」

P「なんか絶体絶命なんだけど」

肇「行き止まりに追い詰められましたね」

夢P「はぁ……クソ!」

チンピラ「もう逃げられねぇぞ」

ごろつき「覚悟しろよクソヤロウがよぉ!!」

P「おい、ナイフ取り出したぞ。誰の夢だか知らんが早く助けてくれ」

「待てーい!!」

肇「この声は」

珠美「P殿から離れるのです!」

P「珠美かぁ……」

肇「露骨に落胆してあげないでください」

P「だっていつもの格好で竹刀持ってるだけだしなぁ」

チンピラ「なんだこのチビ」

ごろつき「はいはい子供は家に帰ろうねぇ」

珠美「……忠告します。相手を見て、その力量を測ることも出来ない
   あなたたちが私に勝つことはないです。おとなしく退いて下さい」

P「おお、落ち着き払ってるな」

チンピラ「ハァーン? しかたねぇな……教育してやろう!!」

珠美「では……覚悟してください!」

デーンデーンデーン

P「!?」

肇「なんですか、今のBGM」

チンピラ「」

ごろつき「なっ……一瞬で……」

珠美「おとなしく退いていただけますね?」

ごろつき「……ウッハハハハハ!! 残念だがなぁ! こっちには人質がいるんだよぉ!!」

夢P「ぐっ」

P「俺よえぇ」

珠美「卑劣な……っ!」

ごろつき「オラァ! さっさとその竹刀捨てろよ!
     お前の大切なプロデューサー様に傷がついちうぞ?」

夢P「珠美、逃げるんだ!」

珠美「大丈夫です。必ず助けます」

ごろつき「格好つけてんじゃねぇぞ!!」

珠美「フッ」シュッ

P「一瞬で相手の懐に潜り込んだ!」

ごろつき「なんだとっ!」

珠美「成!!」

デーンデーンデーン

珠美「敗!!」

肇「またどこかで聞き覚えのあるBGMと共に相手が倒れました」

夢P「珠美……」

珠美「P殿……」

P「お、いい雰囲気」

夢P「帰ろうか。事務所へ」

珠美「はい!」

肇「ああ、普通の流れに……」

キラッ

珠美「ハッ!」バシ

夢P「なんだ! いきなり手裏剣が飛んできたぞ!」

P「手裏剣か。なんだろう。すごく誰かを思い出す」

肇「そういえば浜口さんが衣装について話したいそうですよ」

P「夢世界に仕事持ち込まないで!」

「ふふふ、待ちかねてましたよ」

夢P「お、お前は!」

珠美「あやめ殿!!」

P「意外性もへったくれもないな」

あやめ「脇山珠美、そしてP殿。お命貰い受ける!」

珠美「なぜですか! なぜあなたが珠美たちを!」

夢P「そうだ! あれだけみんなと楽しそうにアイドルしていたのに!」

あやめ「忍ドル……あれはしょせんこの世に忍ぶための仮の姿。
    あやめの本当の目的は珠美……さんとP殿の抹殺です」

P「ちゃんとさん付けはするのか」

肇「珠美さんが潜在的に年上だから敬って欲しいという願望を持っているのかもしれません」

あやめ(15ー154-78-55-80)「さぁ安らかに眠るがよい!」ドドド

珠美(16-145-72-53-75)「くっ強い……!」ガガガ

夢P「珠美!」

あやめ「アイドル界一の女剣士もしょせんこの程度ですかっ!」

珠美「珠美はっ、あなたとは戦いたくない!」

あやめ「ならば! ここで散るがいい!」

P「あやめのオーラが変わった!」

肇「大技が来ますっ」

あやめ「忍術! 名刀乱舞! ニン!」スパーン

珠美「ぐぅ」バタリ

夢P「珠美いいいぃいぃ!!」

P「俺まじで役にたたねぇ」

肇「攫われヒロインってあんな感じなんですかね」

あやめ「急所は防御したみたいですね……」

珠美「なぜ……珠美たちを狙うのですか……」

あやめ「ふふふ、全てはニンジャ帝国のために」

夢P「ニンジャ帝国だと! あれは壊滅したはずじゃ!」

あやめ「そうです。三十年前の闘争によりほぼ壊滅しました。
    しかし僅かに生き残ったニンジャたちは再びこの国を
    支配するために機を伺っていました。そのための障害を
    除く為あやめはこの事務所に送られたのです」

珠美「じゃああの日誓った友情も全部……!」

あやめ「……全ては演技です。
    おしゃべりが過ぎましたね。サラバ!」ヒュン

珠美「一閃!」ズバーン

P「珠美が一瞬の隙をついて」

肇「浜口さんに一撃入れました」

あやめ「ぐふっ」バタリ

珠美「はぁはぁ」

夢P「珠美ぃ!」

あやめ「まさか……倒れた状態から起き上がりと共に一撃を入れるなんて……」

珠美「油断、しましたね」

あやめ「……止めを刺してください」

珠美「嫌です」

あやめ「敗北者には死しかありません」

珠美「あやめ殿は先ほど珠美の問いかけに対して……寂しそうな表情をしました」

あやめ「!!」

珠美「止めを刺さない理由はそれで十分です」

あやめ「……珠美さん」

珠美「さぁ立ってください。帰りましょう」

あやめ「……危ない!!」

ドスッ

あやめ「ぐッ」バタリ

P「なに! まさか!」

珠美「あやめ殿! あやめ殿! なぜですか! なぜあなたが……!
   P殿!!」

夢P「……あやめが言っただろ。敗北者には死、だ。
  とは言っても本当の狙いは珠美だったんだけどな」

珠美「!!」

夢P「まぁいい。順番が変わっただけだ。敵を助けた裏切り者と女剣士。
  ニンジャ帝国党首の私自ら相手してやろう」

珠美「そんな……P殿が……」

夢P「残念だったな。珠美」

珠美「あやめ殿。傷は急所から外れています。応急処置も済んでいるので少し
   休んでいてください。珠美は……P殿を切ります」

夢P「くっくっく。再び因縁の時が来たようだな。脇山家の人間め」

肇「いいところですが夢の終わりです。今宵はここまでです……」

チュンチュン

P「……ちょっと先が気になるんだが」

珠美「……」

P「おうっ、なんでそんな物陰にいるんだ」

珠美「……おはようございます」

P「ああ、おはよう。俺の顔に何か付いてるか?」

珠美「いえ……。P殿はいつも珠美たちの味方、ですよね?」

P「そりゃな。自分のアイドルの味方しないでどうするんだ」

珠美「そうですよね。うん、なんか変な質問してすみません」

P「気にする事はない。いざとなれば助けるし助けてくれるよな?」

珠美「はい、任せてください!」

P「他者の夢に渡り、干渉は出来ないものの覗くことが出来、
 特定の相手と夢の中で思い通じればその相手と夢を渡ることが出来る能力か」

肇「思い通じればというのは誤解がありますね。相手のことを思いながら寝ればですよ」

P「似たようなものじゃないか。これって複数人連れ出すことも出来るのかな」

肇「さて。Pさん以外に私が夢渡りの力を持っているのを知っている人はいませんから」

P「だよな。何かもう少し面白い使い方が出来そうなんだが……」

肇「あまり変な事を考えないでください……」

P「まぁまぁメガネどうぞ。お、次の風景が見えてきたぞ」

肇「草原ですね。気持ち良さそうな風が吹いてます」

P「お、あそこに何かがいる……ぞ……」

のあ「はいよーしるばー」

牛「もぉーもぉー」

P「セーラー姿ののあさんが牛に乗ってる」

肇「なぜ馬じゃないんでしょう」

のあ「ほらー、着いたらご褒美上げるから頑張ってー」

牛「もぉーもぉー」

のあ「あーん、このままじゃ学校遅れちゃうよー」

P「通学用牛なのか」

肇「地平線の果てまで草原なんですけど一体どこに学校が」

のあ「まーいいか。今日は学校な気分じゃないしこのままのんびりごろごろ……」

牛「もぉー」

P「なんてのんびりした夢だ。普段ののあさんから考えられない」

肇「これが素の高峯さんなんでしょうか」

「またサボってますね」

P「お、あの子可愛いな。なんかやたらでかい猫に乗ってるけど」

肇「いや、Pさん。あの人は……」

のあ「なんだよ前川。委員長みたいなこと言うなよー」

P「みく……みくなのか! ネコミミ外してメガネつけてたからわからなかったぞ」

肇「Pさんの認識能力の低さに愕然としますね」

みく「みたい、じゃなくてそうなんですよ。この前決まったでしょう?」

のあ「知ーらない」

みく「全く……。ほら、学校行きますよ」

のあ「でも牛太郎が働かないしー」

P「ザ・安直ネーミング」

みく「はい、牛太郎。おいしい牧草だよ」

牛「もぉーもぉー」

みく「じゃあ頑張って学校まで行こうね」

牛「もぉーもぉー」

のあ「ちぇっ、学校行くかー」

肇「場面転じて教室内ですね」

のあ「あー、だるー」

アナスタシア「ダーるいですね」

のあ「だるだるだよー」

みく「授業中寝てるだけだったじゃない。ほら、昼食を食べるよ」

のあ「昼飯か……。持って来てないや」

アナスタシア「ウォッカおいしい」

みく「そんなことだろうと思って……はい」

のあ「ナニコレ」

みく「お弁当」

のあ「前川の?」

みく「あなたの」

のあ「あ……ん?」

P「みくがお世話焼き系ヒロインみたいなキャラに……」

肇「でものあさんも女性ですよね」

アナスタシア「ひゅーひゅー」

のあ「うるさい! えーっと……ありがと」

みく「構わないわ。好きでやってることだし」

アナスタシア「二人は幼馴染でしたっけ」

のあ「うん。家が隣同士だからずっと一緒なんだよ」

P「おさな……なじみ……?」

肇「夢ですから」

みく「昔からやる気のない人間だったけどまさか高校までとはね」

のあ「腐れ縁ってヤツよ。まぁ家が隣同士だから早々切れないけど」

アナスタシア「結婚しないんですか」

みく「イヤよ。そもそも出来ないし」

のあ「ただの友情だからね」

アナスタシア「いいですね。私にはいないので」

みく「アーニャは外国からの転校生だしね。えっとどこだっけ」

アナスタシア「アンドラです」

肇「残念ですが終わりのようです。今宵はここまでです……」

チュンチュン

P「……アンドラってどこだ」

P「おはよう。のあさん」

のあ「おはよう」

P「のあさんの生まれって奈良だっけ」

のあ「ええ、そうよ」

P「鹿煎餅っておいしい?」

のあ「……私は鹿じゃないわ」

P「それもそうだな。えっと今日の予定はね」

のあ「ちなみにまずいわ」

P「!?」

P「文香、桃華、イヴ、珠美、のあさんと来て今日は誰かな」

肇「プロデューサー疲れてないですか?」

P「ん? なんで?」

肇「本来休息時間であるはずの睡眠中にこんなことしているんですから」

P「俺は大丈夫さ。肇だって……大丈夫だな」

肇「まだ何も言ってないんですけど」

P「おいおい、俺はプロデューサーだぞ。自分のアイドルぐらい見ただけで体調なんてわかるさ」

肇「すごいはずなんですけど何か引っかかりますね」

P「落とされそうだからこれ以上は言わないでおく」

肇「……」

P「あ、ほら。風景見えてきたから! この話やめやめ!」

肇「どこかの洋館のようですが」

小春「攫われてしまいました~。ヒョウくんもいないです~」

麗奈「レイナサマにかかれば誘拐なんてお手の物よアーッハッハッハッハー!! ケホッ」

小春「小春をどうするきですか~」

麗奈「そりゃあもう……五時間連続ダンスレッスンよ!」

小春「ひえ~死んじゃいます~。誰か助けてください~」

麗奈「こんな薄暗い森の奥まで誰が来るもんか! アタシだって結構怖いのに……」

小春「きっとヒーローが仲間と一緒に助けに来てくれます~」

麗奈「複数なんて卑怯よ!」

小春「ほら、もうあそこに仲間が~」

麗奈「え、そっちは窓しかな……」

「……」ニタァ

麗奈「ギャアアアアアアアアア!!」

P「ウワアアアアアアアアアア!!」

肇「うるさい……」

麗奈「お化けがいたあ! なんで!」

小春「きっと仲間のお化け使いさんのお化けですよ~。もう近いですね~」

麗奈「なにそのヒーローの仲間っぽくない人」

ドカーン

麗奈「ちっ! 一階に入られたわ! こうなったらふんだんに作っといた罠で」

小春「悪者さんは仲間がいないんですか~?」

麗奈「ウグッ」

P「麗奈が膝から崩れ落ちた」

肇「可愛そうに」

ドコーン ゴロゴロゴロゴロ

麗奈「あっ鉄球の罠に引っかかった音がしたわ! ぺしゃんこになるがいいわ!」

コンナモノー

小春「ヒーローさんが鉄球を外に投げ飛ばしてます~」

麗奈「そんな……高かったのに……」

小春「元気出してください~」

ドコンバキバキズドーン ヒメハドコダー ガラガラガッシャーン コ、コッチ

麗奈「ああ、館が壊されていく……」

小春「足音が聞こえて来ました~」

光「追い詰めたぞ! 姫を返して貰うぞ!」

小梅「か、返してね」

千佳「スーパーラブリーチカにかかれば罠なんて意味ないよ!」

麗奈「クッ……こんな大勢で来るなんて」

光「さぁ観念しろ!」

麗奈「仕方ないわね……なーんて言うと思った!?」カチッ

ドカーン

麗奈「アーッハッハッハ! レイナサマ特製爆弾をしっかりと味わうがいいわ!」

光「うぅ……」ボロボロ

小梅「痛い……」ボロボロ

千佳「みんな……! 大丈夫すぐに治して上げるから!
   ラブリー♪ プリティー♪ Sphinx's Revelation X=7♪」

P「もっと子供っぽいこと言えよぉ!!」

肇「なんですか、今の」

光「ありがとう! 千佳!」

小梅「危なかった……」

麗奈「ぐぬぬ」

光「どうしても観念しないと言うなら……小梅さん!」

小梅「行ってこーい……」

アアァ ヤアァ オオゥ

麗奈「ギャアアアアアアア!! 幽霊が体に纏わりつくー!!」

P「ギャアアアアアコワイコワイー!!」

肇「うるさいなぁ」

光「姫! 捕まって!」

小春「はい~」

小梅「窓を開けて……笛を吹いて……」ピィー

小春「ああ、ヒョウくん~」

ヒョウ「ギャース」バッサバッサ

P「ドラゴンじゃねぇか」

光「よし、みんな乗ったか! 千佳! 止めだ!」

千佳「スーパーラブリーチカにお任せ!
   ラブリー♪ プリティー♪ Worldfire♪」

P「ああ、世界が炎に包まれていく」

麗奈「覚えてなさーい!」ヒューン   キラン

肇「切りのいいところで終わりです。今宵はここまでです……」

チュンチュン

P「……爆発はしてなかったのになんで麗奈吹っ飛んでったんだ」

小春「ヒョウくんぺろぺろ~」

P「なぁ、小春。舌とか痛くないのか?」

小春「大丈夫ですよ~。Pさんもやりますか~?」

P「いや、遠慮しておこう。ヒョウくんだって男に舐められるのは嫌だろう」

小春「そうなんですか~ヒョウくん」

ヒョウ「……」

P「ほらな」

小春「そうですか~。残念です~」

肇(ヒョウくんは微動だにしていないはずなんだけど)

P「今日も夢の通い路を行く。こんばんわ。案内人のPです」

肇「漕ぎ手の藤原肇です。今宵も良い夢を見ましょう」

P「……毎回思うが誰かの夢に着くまでに微妙に時間かかるよな」

肇「一応漕いで路地を通って行きますからね」

P「入った瞬間、既に肇と船の上ですぐに他人の夢に入るくらいでもいいと思う」

肇「私はイヤです」

P「そうなのか? お、路地の先が真っ暗なんだが」

肇「初めて見ますね。でも流れがあちらに向いています」

P「つまり今宵の夢はあの闇の中か」

肇「一応、船の縁とか掴んでてください」

P「おう」

肇「…………暗い」

P「本当に何も見えない。さっき入ってきた場所も」

パッ

P「うお、まぶし」

肇「スポットライトですね。あそこにいるのは」

泰葉「…………」

肇「うつむいてますね。どうしたのでしょう」


P「……なぁ肇。夢から脱出する方法ってあるか?」

肇「いえ、自分から脱出はおそらく出来ないはずです。
  あ、もう一つ光が。あそこにいる男性は……?」

P「……泰葉は俺が他の事務所から引き抜いてきたってのは知ってるな」

肇「はい。詳しい話は知りませんが」

P「あの男はその事務所の泰葉のプロデューサーだ」

肇「あの人が、ですか」

泰葉「またこの夢」

「泰葉。何してるんだ。早く仕事をしろ」

泰葉「もうあなたは他人です」

「何言ってんだ、泰葉。俺はお前のプロデューサーだろ」

泰葉「違います。今は……あの人がいるから」

パッ

夢P「おい、見ろよ泰葉! 俺ブリッジしながら移動出来るんだぜ!」

P「」

肇「なにあれ気持ち悪い」

「お前は俺の言う通りに仕事をすればいい。それだけで最高のアイドルになれるんだ」

泰葉「あなたの言っていることは正しいかもしれない。
   でも今はもうあなたのやり方に賛同は出来ません」

「やり方は問題ではない。結果が重要なんだ。俺の言う通りにすれば売れる。
 そのためにまぁ少しばっかしの生贄が必要なだけだ」

泰葉「そうやって何人の子が志半ばで事務所を去りましたか」

「二束三文のアイドルなんていらないんだよ。今のご時世アイドル志望のヤツは
 腐るほどいる。だがなその中で胸を張ってアイドルだと言えるようになるのは
 ほんの僅かなやつだけだ。才能のないヤツらに使う経費も時間もない」

泰葉「なら最初から切り捨てればいいんです。中途半端な夢を与えなければ……」

「だがなそんなヤツらでも役には立つ。素晴しいアイドルのための踏み台という
 役目だ。自分でわかっているだろう。お前の足元に何人の元アイドル志望の娘
 の夢の残骸があるか」

泰葉「……」

「他者の夢はお前に自信を与えた。お前は目を見張る勢いで成長した。
 あのまま俺の言う事だけを聞いていれば……シンデレラガールになれた」

泰葉「かもしれませんね」

「なのにお前はわざわざ遠回り。
 いや、もしかしたら頂点に辿りつけない道を選んだ。なぜだ。」

泰葉「……私は昔、一人のアイドルに会いました。
   まだ新米だった彼女の演技は私から見ても稚拙でした。
   でもあの時の彼女は輝いてみえた。演技力なら遥かに私のほうが高い
   はずなのに私には彼女の演技のほうが素晴しく見えた。
   それは彼女が楽しみながら努力をしていたからなんです。
   ただ言われた通りにやるだけの私にはない輝き。私はあれに惹かれました。
   それが理由です」

「じゃあなんだ。お前はそんな目にも見えない数字にもでないものを夢見るために
 俺から逃げたのか」

泰葉「私はアイドル。誰かに夢を見せる存在。でも私だって夢ぐらいみたい。
   私は私自身の夢を叶えるためにあなたの人形をやめただけです。
   さようなら。私の呪縛。あなたは私の描く夢の中にはいません。
   もう二度と……現れないで」

「……」スゥ

泰葉「私の夢の隣にいるのは……」

夢P「お、なんだ。泰葉もブリッジするか?」

泰葉「上に乗ってもいいですか?」

夢P「無理かな」

肇「……今宵はここまでです……」

チュンチュン

P「……泰葉」


P「……」

泰葉「……あの、Pさん。見られてると気になるんですけど」

P「あ、ああ。すまん。今日は機嫌が良さそうだな」

泰葉「はい。なんだかとてもすっきりした気分です」

P「それはいいことだ。ついでだからそこの間違いを直してさらにすっきりしよう」

泰葉「え、あれ? どこですか」

P「ここな。これは……」

肇「Pさん。もうやめましょう」

P「……そうだな。確かに言われたとおり悪趣味で軽率な行動だったな」

肇「岡崎さんが前の事務所の話をしない理由はわかりましたが……
  こういったことは勝手に知っていいものではありません」

P「この事務所に来てからもどこか悩んでいる様子だったが
 これほど深く彼女の心に根付いているとは思わなかった」

肇「彼女は既に解決しましたが他のアイドルの秘密にぶつかるかもしれません。
  それを考えると」

P「今日は来てしまった以上は仕方ない。明日からは枕の下に何か
 入れて通い路が出来るのを防ごう」

肇「一応今日もPさんのことを思わないように寝たはずなんですが
  繋がってしまいましたし」

P「川の流れに逆らって、夢に到達しないようにするとか出来ないのか?」

肇「難しいですね。それに流れに逆らったとしてもその後どうなるかわかりませんし」

P「やはり流れに身を任せるしかないのか……あれは」

肇「今日の夢でしょうね。青空でしょうか」

P「ヘリコプターの音が聞こえるぞ」

バババババババ

幸子「行ってきます!」

夢P「鳥になってこい」

幸子「鳥? 違いますよ……ボクは天使になるんです!」バッ

P「懐かしいな。いつだったかのスカイダイビングか」

幸子「あぁ、天が叫んでいます。地が詠っています。
   世界はこのボクのために。全てはこのボクのために。
   宇宙一カワイイボクのために星達が瞬いています。
   そしてこの瞬間。地球に天使が一人舞い降ります。
   その正体は……?」

スタッ

幸子「そう。ボクです」

「「「「幸子ーーーーーーー!!!!」」」」

幸子「みなさん! カワイイボクのためにきてくれてありがとう!
   そしてこんなにカワイくて選ばれし者であるボクに跪いてください!」

「「「「ジャワーーーーーー!!!!」」」」

幸子「ではライブを始めましょう! 一曲目はTo my daring…です!」

「「「「ギャワーーーーーー!!!!」」」」

肇「すごいですね」

P「ああ、すごいな。いつかこんな大舞台で活躍出来るように頑張らないとな」

肇「いや、これは無理でしょう。野外なのに地面が見えませんよ」

P「いけるさ。俺達ならきっとな」

肇「あと観客の顔みんなPさんですよね」

P「やめろよ。ずっと見ないようにしてたのに」

肇「丁度よく夢の終わりのようです。今宵はここまでです……」

チュンチュン

P「……視界いっぱいの俺か」

幸子「おはようござ……うわあああ!! なんですかこの天使は!!
   あ、鏡に映るボクでした」

P「おはよう。幸子」

幸子「Pさんは今日もなんというかそのうん……」

P「おい、やめろ。テンション下げんな。それが一番心抉られる」

幸子「冗談ですよ。カワイイボクに他に言うことあるでしょう?」

P「ああ。今日も髪のハネっぷりがキュートだぞ」

幸子「当然ですよ! ボクの全身から溢れるカワイイ天使オーラが
   Pさんの体を浄化してますからね!!」

P「俺はアンデッドかなにかなのかな……」

「……きてください。起きてください」

P「ん……肇か……」

肇「そうです。私です。ここは夢の中ですよ」

P「……あれ、なんで繋がってるんだ」

肇「私はちゃんと枕の下に写真まで入れて寝たんですよ」

P「俺もだよ。意識しないようにって意識しすぎたってことか」

肇「でも枕の下に写真を入れればそれの夢を見るはずでは?」

P「ああ。本来ならそうなるはずなんだが……」

肇「この夢から強制的に脱出することは出来ません。なので今回も……」

P「なぁ。この水路に飛び込んだらどうなるんだ?」

肇「わかりません。が、最悪の場合沈み続けるかもしれません」

P「この水路にいる限りは夢から覚める事はなく
 他者の夢を覗き、それが終わる事で自分も目を覚ますことが出来る、か」

肇「そうですね。今までの例からするとそれであっているかと」

P「こうなれば仕方ない。とりあえず誰かの夢に入ろう」

肇「あそこから入れそうですね」

P「ここは……ハワイだ」

肇「そういえばこの間までイベントで行ってましたね」

P「ああ。見ての通り海が綺麗だった」

肇「砂浜になぜかアイドルしかいませんが」

P「なんだろう。なんかすごい誰の夢かわかったような」

愛海「ぬへへへへへ」

P「ああ……」

愛海「おっと涎が。いやぁ絶景だねぇ。この山並み。
   誰から行こうかなぁ……ヒョッ」

愛梨「キャッ! あ、愛海ちゃん!」

愛海「ああ、これはシンデレラだよ。間違いないね。内にある輝きが
   手に取るようにわかるよ。次っ!」

蘭子「なっ!? やめてぇ!」

愛海「ふぅむ。これが二代目シンデレラガールの輝きね。初代に比べれば
   小さいけど更なる夢が感じられるね。次っ!」

及川「わわわ。もぉ~やめてください~」

愛海「これが最大級。マキシマムの称号にふさわしいね。エベレスト
   の山頂から見る景色は美しくそして同時に全ての山よりも高い
   場所へとその身を置くことが出来る。次っ!」

菜々「うわー! 不意打ちはやめてー!」

愛海「いろんな山を制覇してきたけどね。他の星の山というのは登った
   ことなかったけどこれは……。小さな大地に築かれた山脈のエネ
   ルギーなのかな。すうと登れるのにほわっとしてて今までの山と
   少し違う感じがする。次っ!」

みく「にゃっ! 破廉恥にゃ!!」

愛海「昼の無邪気な子供のようないたずら好きの元気さと夜の熟しきっ
   た果実の味のような妖艶さを併せ持っているね。成長していく過
   程の中で失われてしまう夏の花火のような美しくも儚い煌き。思
   い出の中でいつまでも輝くそれが今、両手の中にある。次っ!」

藍子「きゃっ、愛海ちゃん。その……」

愛海「……母性。圧倒的な母性を感じる。母なる大地に育まれた自然たち。
   その祝福を受けているような幸福感と母親の膝の上に眠る子供が得
   る安心感。手を通じて全てを感じることが出来る。このあたしの胸
   を揺さぶり、動かす感情。遠い昔から受けてきたこの感情。そう。
   すなわち、これは愛……」

藍子「愛海ちゃん? 大丈夫? 愛海ちゃん?」

肇「今宵はここまでです……」

チュンチュン

P「……ポエマーだったんだな」

P「愛海ー」

愛海「なにー?」

P「ちょっと揉んでくれよ」

愛海「え、なになに。何を揉むの? 肇ちゃん?」

肇「違います」

P「俺の肩」

愛海「……いいよ。あたしの揉みテク見せてあげる」

P「おう。来いよ。ああ、気持ちいい。らめぇあんキモチイイのー」

肇(気持ち悪い……。それよりも夢をどうにかしないと)

P「……」

肇「……」

P「……もうだめだぁ。おしまいだぁ」

肇「諦めないでください。寝る前に確認のメールをしたのがいけなかったのかな」

P「俺なんて熟睡して夢を見ないように睡眠薬まで服用したのに」

肇「とりあえず誰かの夢を探しましょう」

P「外から見て軽そうな夢とかわかればいいのに……いや、あれ軽そうだぞ」

肇「見覚えのあるピンクの人形が手招きしてますね」

P「誘いに乗ろう。あいつならきっと絶対大丈夫だ」

肇「では突入します」

P「すごいな。どこ見てもお菓子しかない世界だぞ。菜帆やかな子が狂喜しそうだ」

杏「はぁ……はぁ……」タッタッタ

P「やっぱり杏の夢か。なぜか走っているが……」

ニョワー……ニョワー……

肇「今何か聞こえたような」

P「あっちのお菓子の山の向こうに何かいないか」

きらり「にょわー?」ヌゥ

P「でけぇ! こえぇ!」

杏「くそっ! 見つかった!」

きらり「にょにょにょにょわーーーー!!」

P「跳んだ!」

肇「一応船の縁に捕まっておきましょう」

ドシーン

杏「ぐっ」

きらり「杏ちゃーん。きらりんルームから逃げられると思っちゃった? うきゃー!!」

杏「食らえ! 飴ダマシンガン!ドドドド

きらり「効かぬわ」

杏「からのチョコ爆弾!!」ポーイ

きらり「ムシャァ」

杏「爆弾食いやがった……逃げよう」

きらり「待て待てー」

カチッ ドゴーン

杏「はっはー! 地雷ガムだ! 足に粘着してはなさ」

きらり「フン!」ブチィ

杏「」

きらり「杏ちゃん、万策尽きちゃったかなー? 連行するよー☆」

杏「う、うわああああああ助けてええええええ!!」

きらり「杏ちゃーん。今日はどんな服着るー? かわいいのかにぃ」

ウワアアァアァ……

肇「あ、夢が終わります。今宵はここまでです……」

チュンチュン

P「……きらりんルームって一体何なんだ」

杏「あづいーあいずーほしいー」

P「扇風機前独占して何言ってんだ」

杏「だってこんなの熱風送風機だよ。ほら、プロデューサーの腕も溶けてるよ」

P「溶けてねぇよ。仕方ないな。昼飯買うついでにアイス買うか」

杏「え、ホント? やったー。プロデューサー大好きー愛してるー」

P「あー、こりゃーもう結婚するしかないなー」

杏「まだお昼じゃないの?」

P「時計見ろよ。まだ十二時になってないだろ」

杏「でもプロデューサーの頭溶けてるよ? アイス買いに行こ?」

P「溶けてねぇっつってんだろ!!」

P「今日は連絡取ってないよね」

肇「それどころか私、オフだったので会ってすらいませんよ」

P「今日は暑いし忙しくてさー。家に帰って来たと同時に倒れるように寝たよ」

肇「シャワーくらいは浴びましょう」

P「だよなー。はっはっは」

肇「……で、そんな具合でも夢は繋がると」

P「昨日の杏じゃないが本当に万策尽きたわ」

肇「このまま二人で誰かの夢を旅し続けるのでしょうか」

P「解除方法がなければおそらくそうなるよな」

肇「困りましたね……あれ?」

P「どうした?」

肇「なんだか……水路が広がっていくような」

P「本当だ。今までは船二隻並べたらいっぱいくらいのスペースだったのに」

肇「他の水路と合流するたびに広がっていきます」

P「町の中の水路だったのにこれじゃ普通の川だ」

肇「Pさん。あれ……海ですか」

P「海だ。おい、このままだと俺達は夢の海を彷徨うことになるんじゃ」

肇「だめです。流れが早過ぎて川岸に行こうにも流されます」

P「二人でやるぞ。いくぞ、せーの!」

肇「……だめです。びくともしません」

P「もうだめだ。海に……いや、光だ。海と川の境目に光があるぞ」

肇「夢の光? いや、でもこんなにまぶしいのは」

P「光が増幅していく……飲み込まれるぞっ! 肇、手を!」

P「……ん」

P「ここは……池か?」

P「あっちには森があるな。夢の中、だよな」

P「そうだ。肇、大丈夫か。肇、起きろ」

肇「ううん……」

P「痛いところとかないか」

肇「大丈夫です……これは夢の中ですか?」

P「いや、何かおかしいんだ。俺達は今まで誰かの夢を第三者視点から覗いていた。
 覗くことは出来ても干渉は出来ない。ずっとそうだったんだ。それなのに今は」

チャプ

P「池の水に触れる。その冷たさを実感できる。これは今までのとは明らかに異なっている」

肇「私達が他人の夢に登場しているということですか」

P「ああ。誰に夢かはわからんが……船から下りてみよう」

肇「大丈夫なんですか?」

P「大丈夫だ。俺がついてる」

肇「ふふ。あまり頼りにならない言葉ですね。でも今は信じますよ」

P「任せとけ。ちょっと待て。船が揺れるから先に俺が降りよう。
 よっと。ほら、肇。手を伸ばして」

肇「はい。ありがとうございます。それにしても美しい世界ですね」

P「ああ。すごく綺麗だ。藍子とかこういう夢を見そうだな」

肇「わかります。そこの坂登って見ますか。景色一望出来そうですし」

P「そうだな。草を踏む感覚もリアルだな」

肇「吹き抜ける風も香る自然の匂いも……。まるで現実みたいです」

P「こうやって登るのも体力使ってるしな。あとちょっとだ」

肇「到着……あれ」

P「なんだと」

ちひろ「おや。誰かが入ってきたと思ったらPさんと肇ちゃんじゃないですか」

P「こんなの美しい世界なのにちひろさんの夢だなんて」

ちひろ「待ってください。なんですかその引っかかる物言いは。
    そもそもなぜあなたたちがここに?」

肇「かくかくしかじか」

ちひろ「なるほど。夢渡りですか。そして解除が出来ないと」

P「助けてちひえもん」

ちひろ「仕方ないなぁP太くんはぁ。って機械とか出しませんので。
    解除は出来ますけど」

肇「本当ですか?」

ちひろ「ええ。その代わり肇さんはもう夢渡りが二度と出来なくなります。
    あと今までPさんとの夢渡りをした記憶も消しておきましょう」

P「ちひろさんってなんでそんなこと出来るの?」

ちひろ「ふふふ。なんででしょうね。私の夢だからかもしれませんね」

肇「ここが他の夢とは違うのも秘密ですか?」

ちひろ「夢というのは人にとって最も身近な異界です。
    ここもまた一つの現実。荘子からすれば人も蝶も現実のお話。
    しかしそれに気付く人はほとんどいません。私が現実として
    この世界を認識しているから肇ちゃんたちも現実として感じ
    ているのかもしれませんね」

P「ということは俺も明日から夢を現実だと思えるのか?」

ちひろ「それはないでしょう。だって今から記憶がなくなるのですから」

肇「あれ、なんだか眠い……」

ちひろ「それにですね。夢とは見るものでも覗くものでもないですよ」

P「俺も……眠い……」

ちひろ「そう、夢は……」

チュンチュン

P「ん~~~~~。いい朝だ!」

P「おはようございます」

ちひろ「おはようございます。今日も暑くなりそうですね」

P「ええ。クーラーとか欲しいですね」

ちひろ「買います? クーラー」

P「買えるんです? クーラー」

ちひろ「ええ。最近みなさんが頑張ってくれたおかげでどうにかなりそうです」

P「よし。じゃあさっそく家電量販店に」

ちひろ「その前に仕事してください」

P「そうだな。今日も頑張るぞ!」

ちひろ「ええ。頑張ってみんなの夢を叶えてください」

以上
夏の空のような夢が見たい

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