エレン「最終兵器彼女」 (12)

・最終兵器彼女パロです。対巨人なのは変わりませんが、エレンは巨人化しません。
・元ネタわからない場合は雰囲気で読んでください。
・ほとんど原作沿いですが、削ってあるシーンも多いです。つまり、原作通りではないところもあるってことです。
・台詞はほぼ抜粋です。
・一日コミックス一巻を目指しています。

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エレン


エレン

エレミカです。

瓦礫の山、薄れた土煙の先に、ミカサが立っていた。
いつもの団服、いつもの装備。でも、その背中には機械の、翼。
珍しく泣きそうな顔をしたミカサと目が合う。

「ミカ…サ…?」

「…ごめんね、エレン……私…こんな体になっちゃった……」

飛んできた何かの破片で擦った、左の額が熱い。脈も大分早い。
でも、俺の足は自然とミカサに向かっていった。
顔が近づく。腕を回した。

抱きしめた 彼女の心臓は、
音が しなかった。





「おはよう、エレン」

俺の幼なじみ、ミカサ。
『あの日』から彼女はーー

あいかわらず クールだった。
訓練中も、食事中も、自由時間もいつも通り、ほとんど無表情だった。

「エレン」

ミカサの口癖だ。一日20回はゆうに超える。今朝も言っていた。

今朝と言えば、おはようと声をかけたら、アルミンが大声で返事をくれた。
彼は『あの日』以来、耳が遠くなった。巨人の殆ど音波のような奇声を、近距離で食らってしまったからだ。俺たちは、そのことをあまり気にしていない。いつも通りだ。それが一番だと、口にこそ出さないが、皆そう思っている。

ただ、俺とミカサは『あの日』以来、こうして一緒にいることが多くなった。
今日も昼飯の後、2人でこっそり屋根の上で話をする。

「私、最終兵器になったんだけど、自分でもよく解らない」
「そーか…いや、いーんだけどさーー、俺は」

というか、

「……それ、……治るんだろ?」

「聞くの忘れてた。今度聞いてみる」

「教えてくれんのかな」

「わりと皆親切だから、多分教えてくれると思う」

自分の言ったことに納得したようで、うんうんと小さく頷き確かめるミカサ。本当に大丈夫なのか、少し心配だ。

ピーピーピーピーピー

ミカサのポケットから笛のような音がする。取り出したのは、木製の小さな笛だった。

「何だそれ」

「有事のときに鳴る笛。特殊な周波で震わせているらしい」

「有事っていつ?」

「なるべく訓練中は鳴らないようにすると言っていたから、大丈夫」

自慢気にキリッとするミカサ。元々表情が読み辛いやつだから、彼女の言っている事の重大性があまり伝わってこない。わざと隠しているのか?実はのんびりしているのか?付き合いが長くても解らないことは多い。本当はもっと……

「ちょっと行ってくる」

……『ちょっと』
何をしてくるのだろう。

「心配しないで」

少しだけ目を細めてミカサが笑う。どうすれば『心配しない』でいることができるのだろう。

今日、『ウォールローゼ突破』から一週間がたった。
死者、行方不明者数 不明。
対巨人戦闘のまきぞえで、亡くなった人の数はどのくらいになるか、見当はつかない。

そのほとんどは、ミカサが討った。

俺以外誰も知らない。あとおそらく軍の偉い人と、兵団の一部の人と……。

この一週間、『ウォールローゼ突破』のニュースが、聞こえてこない日はなかった。でも、聞けば聞くほど、当事者である俺たちにとっては、逆に現実感が薄れていった。

噂がどんどんすべての事実を、フィクションにしてしまう。そんな気がして俺も同期の奴らも、もう噂はしないし、聞かないようにしている。

二日前、その噂がぱったりとなくなった。いつの間にかウォールマリアへの兵の派遣が、すんなりと決まっていたらしい。
ミカサはもうすでに何度か派兵で行ったという。

「忘れてた。エレン、これ、手紙。後で読んで」

現実…なのだと思う。
俺の周りでも、一度話したことがある同期が亡くなった。
皆も暗黙の了解で『あの日』に触れるのはやめた。アルミンのことや、知らないうちに誰かをキズつけたり、キズつけられたりするかもしれなかったし、話をしても現実には、何一つ変わらないと思ったから。

そう…俺に何ができる?

「家族」として「彼女」に対して
まぬけに笑って手を振る以外に。

「じゃ、行ってきます」

…どこに?


夜、宿舎が静まってから、封筒を開ける。月明かりが文字を照らす。

『こんにちは、エレン。

最近、心配してくれてありがとう。エレンは考えていることが顔に出やすいから、助かります。

最終兵器のことを、誰にも相談できないので、話を聞いてくれるだけで、すごく、うれしいです。

あの日、エレンが抱きしめてくれてほっとしました。それたけで、十分です。

私、強くなる。もっともっと、強く。だから、大丈夫。

今まで、家族でいてくれて ありがとう』

読み終えたとき、いや、読んでいるときから、ミカサがもう帰って来ないような気がした。俺の唯一の家族が、もう戦場から帰ってこないと思った。
気付いたら俺は裸足で外に出ていて……ミカサを見つけた。

とり肌が立った。
背中から突き出ている金属の刃。遙か頭上から、無音で降りてくることのできる、高性能のなにか。
それらすべてが、ミカサの背を裂いて『生えて』いた。

そうして俺は思い知った。『あの日』のミカサが、夢でないこと。俺はそれを夢だと思い込もうとしていたこと。
そうする俺が一番彼女をキズつけていたこと。

地面に降りたって、ゆっくりと瞼を開いて、泣きそうな顔でミカサは言った。

「ただいま、エレン」

やっぱり珍しい顔だと、俺は思った。でも、それが良いとも思った。

「おかえり、ミカサ」

『エレン、私 成長してる』

ミカサは背が高い。体力もあるし、身体能力も人並みどころではない。ちなみに、胸も、そこそこ、ある……と、思う。筋肉かもしれないが。

だけど、手紙の意味が分からなかった。取り留めのない話題の最後に、追伸として書かれたその言葉の意味が。


ーー大切なことは、後になって気付くという。けれど、それが本当だということも、後になってから気付く。

俺は、あの日のことを、一生後悔し続けるに違いない。
あの日が、最後のチャンスだったから。


あの言葉の意味をミカサに尋ねた。いつもの屋根の上で。この時気付いたが、多分教官は事情を知っているのだろう。そうでないなら、この状況を黙って見過ごしているはずはないから。

ミカサが言うには、兵器として成長しているそうだ。

「人を殺さない兵器なんてないから」

それはつまり、ヒトゴロシとして成長していることだ。
これが、毎日のようにミカサを襲う、理不尽の結果だった。そしてこれは、これからも変わらない。

「ねぇ、エレン」
「私、もう死んだほうが いいのかなぁ……」

何も言えなかった。口にしたら、それが何であっても、ミカサをキズつけるということだけは、分かっていたから。
ただ、俺は、自分の大切な人が、こんなことを思って、ずっと思って、遂にいま、俺の前で、吐いてしまったのに、何もできない自分を腹立たしく思うだけだった。

また、ミカサが泣きそうな顔をしている。小さく俺の名前を呼んで、シャツを捲り上げて、その胸を見せた。
谷間を這う、根のようなキズが大きくついていた。そこだけ別の生き物のように見えた。少し触ってみると、ミミズ腫れみたいに、皮膚の下を何かが浸食している感じがした。

たぶん、これを剥がすことは、もう、できない。

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