トリコ「半額弁当?」 (61)
トリコ「今、半額弁当って言ったのか?」
会長「おう、ちょっくら半額弁当買ってこい」
トリコ「パシリかよ!!」
会長「なんじゃ文句でもあるのか?せっかくワシが、お前のためにわざわざ考えてやった課題に」
トリコ「課題……!?」
トリコ(そうだ、オヤジの言うことがパシリなんて簡単な話なわけがねえ。きっととんでもない弁当に違いない)
トリコ「わかったよ、半額弁当を買ってくればいいんだな」
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トリコ「あれ、でもなんで半額なんだ?普通に買えばいいじゃねえか、それとも、そんなに高い弁当なのか?」
会長「いや、そうじゃない。そうじゃないが、この課題は半額弁当だから意味がある。きっとお前に価値のある光景が広がってるじゃろう」
トリコ「ふーん、じゃあ行ってくるぜ。……あ、小松はどうしよう。今回は食材じゃないしなぁ」
会長「コラコラ、小松くんはコンビじゃろうが。ちゃんと一緒に行動せんか」
トリコ「それもそうだな。じゃあ行ってくるけど、その弁当はどこで売ってるんだ?」
会長「ほれ、この地図を見ろ」ポイッ
トリコ「これは……日本の町か?」
会長「おう、その地図にペンで印が書いてあるじゃろ?そのスーパーで半額弁当買ってこい」
トリコ「やっぱりパシリじゃねえか!!」
スーパー
トリコ「はぁ、なんなんだあのジジイ。強引に押し切りやがって」
小松「ま、まあまあトリコさん。きっと何か意味があるんですよ」
トリコ「そうか?オレはオヤジの気まぐれか悪ふざけだと思うぞ」
小松「あ、あはは……」
トリコ「それにしてもスーパーの弁当か、美味いのか?」
小松「最近はスーパーの弁当も馬鹿にできないですよ。僕も時々食べますけど、よく出来てるな、って思いますし」
トリコ「それでいいのかよ料理人……」
小松「弁当コーナーはこっちですね」
トリコ「確かオヤジが言うには、あと10分くらいで半額シールが貼られるはずだ」
小松「へー。あ、トリコさん見てください『大盛りチーズカツカレー』が残ってますよ」
トリコ「ほお、こいつはなかなか食いがいがありそうだな」
小松「やっぱり最近の弁当はすごいなぁ、ほらこのカツなんて弁当とは思えないぐらい厚みがあります。カレーもたっぷりかかってて、ご飯が見えませんよ」
小松「チーズは…カツの中にはさんであるみたいです。ああ、だからお肉も柔らかそうなんですね」
小松「しかもすぐ食べるレストランの料理と違って、弁当ならではの工夫も感じられますね。作り立ても美味しいんでしょうけど、時間がたつことでカツにカレーが染み込んで味に深みを出してます」
小松「半額弁当だから意味がある、っていうのは本当みたいですよ。分厚いカツと味に深みが増したカレー、それと白いご飯の組み合わせ。そこにトロリとしたチーズが加わって、味をマイルドにまとめるんでしょうね。味付けも濃い目のようですし、店に並べることを考えてるなぁ」
トリコ「……なんか楽しそうだな、小松」
小松「あ、すみません。こういう自分が作ってるのとは違うタイプの料理を見ると、気になっちゃって」
トリコ「料理人の性、ってやつか。…………ん?」
「「「…………」」」
トリコ(これは……)
トリコ「小松、ちょっとここから離れるぞ」スッ
小松「え、もうすぐ10分たちますよ?」
トリコ「さっきから、敵意を込めた視線をたくさん感じるんだ」ヒソヒソ
小松「ええっ!?敵意ですか!?僕ら何かしましたっけ?」ヒソヒソ
トリコ「わからねえ、ただ敵意はあっても殺意は感じない。ここを離れて、少し様子を見よう」ヒソヒソ
小松「は、はい」ヒソヒソ
トリコ(……弁当コーナーから離れたら視線を感じなくなった。いや、まだいくつか感じるが、さっきみたいな強い敵意は感じない)
トリコ(警戒されてる……?まるで野獣の住むジャングルに入ったみたいだ)
小松「…………」ジー
トリコ「…………」ジー
小松「店員さんがシールを貼りはじめましたね」
トリコ「ああ」
トリコ(なんだ?急に店内の空気が変わった……。まるで動物たちが狩りを始める前のような……)
小松「あのー、もう弁当を取りに行っても」
トリコ「ダメだ!何か危険な気がする」
小松「危険、って……半額弁当で大げさな」
トリコ「……とにかく今は待つんだ」
小松「はぁ、急いでるわけでもないですしね。あ、店員さんが帰って……ええっ!?」
「「「おおおおおおぉぉーー!!!!」」」
トリコ「なっ!?」
トリコ(店員が扉を閉めた途端、どこからともなく客が半額弁当に押し寄せただと!!)
小松「ら、乱闘してる……!?」
トリコ「な、なにが起きてるんだ!?」
小松「ああ、トリコさん!!弁当!急がないと、半額弁当なくなっちゃいますよ!!」
トリコ「しまった!行くぞ小松!!」ダッ
小松「はい!!」ダッ
トリコ(見たところこいつらは一般人みたいだ、特に学生がメインのようだな)
トリコ(兵士とか戦士とかじゃねえ。とにかく俺の実力なら負けはしない、他のやつを押しのけて進めるはずだ)
トリコ(小松は……、大丈夫だろ。あいつだって大人だしな。……もう人にまぎれて見えないけど)
トリコ「うおおおお!!」グイグイ
トリコ(よし、弁当に手がとど……)
パシッ
トリコ(なに、払われた!ちっ、もう一度……なにぃ!?)
ガシガシッ
トリコ(互いが組み合って壁を作っただと……。さっきまで殴りあってたのに!?)
トリコ(くっ、これじゃあ手が出せない。……なら)
トリコ「跳び越えればいいだけだ!!」ダンッ
ガシッ
トリコ「えっ!?」
トリコ(足を掴まれた!?振り払って……)
ガシッ ガシッ ガシッ
トリコ(げ、なんだこいつら。振り払う度に別の腕が掴んできて……か、担がれてる!!)
「「「そーーーれっ」」」
ポーーーイ
トリコ「うおっ!!」ドサッ
トリコ「な、投げ出されちまった……」
小松「トリコさーん……」ヨロヨロ
トリコ「うわ、小松どうした。ボロボロだな」
小松「何度も中に入ろうとしてもダメでした……」
トリコ「そ、そうか。それにしてもいったいなんなんだこいつらは?とんでもないコンビネーションだったぞ」
小松「でもまた互いに戦ってますよ……あ、女の子が半額弁当を持って出てきました」
トリコ「すげえな、あの中から弁当を取れたのか……」
トリコ「あれ?なんであいつは攻撃されてないんだ?」
小松「ええと、一度手に入れた人には攻撃しちゃいけない、とか?」
トリコ「ははは、まさかそんなスポーツみたいな」
小松「あはは、ですよねー」
トリコ「……」
小松「……」
トリコ「追うぞ!!」ガタタッ
小松「はい!!」ガタッ
奢莪「さて、あいつは上手くいったかねっと」
トリコ「おい、ちょっといいか?」
奢莪「え?……あ、さっき担がれて投げ出されてた人だ」
トリコ「ぐ……」
小松「ト、トリコさん……」
奢莪「まあしょうがないよ、あんたどうみても強いし。狼たちが全力で警戒するのも当然でしょ」
トリコ「狼……?」
小松「ねえ、僕らはこの町に今日来たところなんだけど、さっきのアレはいったいなんなの?」
奢莪「あれ?何にも知らないで戦ってたの?それにしてはやけに戦闘なれしてると思ったけど……」
トリコ「ああ、俺たちはオヤジ……師匠に半額弁当を買ってこいって言われてきたんだ。それより、ここではいったい何が起きているんだ?なんでお前たちは戦ってるんだ?」
奢莪「なんで戦うか……、なんて決まってるじゃない」
奢莪「食べたいからよ」
とりあえずここまで。
小松「食べたいから、って……。そのためにあんなに派手に争うものなの?それほどみんな貧しいようには見えないけど……」
奢莪「そんなに深刻に争ってるわけじゃないよ。真剣ではあるけど」
奢莪「ここらは学生が多く住んでるからね、そういう育ちざかりな連中が出来るだけ食費を安く抑えようと半額弁当を求めて戦ってるってだけ」
奢莪「とは言っても皆が皆、金が無いから戦ってるわけじゃない。むしろ弁当争奪戦を目的に戦う奴もけっこういるよ」
トリコ「日常に刺激を、ってやつか」
奢莪「うーん、ちょっと違うかな」
奢莪「普通に買って食べる弁当より、戦って得た半額弁当の方が美味しいんだよ」
小松「そ、そういうものなの……?」
奢莪「もちろん!身がふっくらとした『サバの味噌煮』、サクサクとした食感の『かき揚げ丼』、ぎっしり肉の詰まった『焼肉弁当』」
奢莪「そんな弁当を、半額弁当として戦って手に入れる。その勝利の味を求めてあたしたち狼は戦ってるの」
トリコ「そういや、さっきも言ってた狼ってなんだ?」
奢莪「あたし達みたいな半額弁当争奪戦に参加する人間を指す言葉よ。礼儀と誇りを持っていることが条件ね。ちなみにそういう礼儀とかを持ち合わせてない奴は、豚と呼ばれて蔑みの対象となる」
トリコ「ああ、だから弁当を手に入れたあんたには誰も攻撃しなかったのか」
奢莪「そういうこと」
小松「なんかすごいんだね、今の学生って……」
奢莪「今のって、あんたたちも……あれ?」
奢莪「ええと、つかぬことを聞きますけど……何歳?」
トリコ「25」
小松「25」
奢莪「すごい年上だった!?」
トリコ「いやいやいや、見りゃわかんだろ」
小松「僕は背が低いから、子供に間違われることよくありますけどね」
奢莪「てっきり老け顔なだけだと思ってたのに……あ、タメ口」
トリコ「いいって別に。そんなの気にしねえから」
奢莪「あ、そう。よかった」
奢莪「それで、これからどうするつもり?狼として半額弁当を捕りにくるなら、あたしも狼として迎え撃つけど」
トリコ「決まってる、なってやろうじゃねえか狼に」
トリコ「勝利の味の半額弁当、食ってみたくなっちまったぜ」
奢莪「……そう、だったらまた明日。スーパーで会おう」
トリコ「ああ、またな。よーし、じゃあとりあえず夕飯にするか。行くぞ小松!!」テクテク
小松「はい!!」テクテク
トリコ「日本に来たんだから、やっぱりここは寿司か天ぷらにするか」テクテク
小松「そうですねー。あ、あの店『天ぷら寿司』って書いてありますよ」テク
トリコ「なんだそれ!?とにかく入ろうぜ」
小松「はい」
奢莪「…………」
佐藤「おまたせー」
奢莪「遅い」
佐藤「悪い、長引いちゃって」
奢莪「……ふふーん。そんだけやってどん兵衛なんだ」
佐藤「くっ、勝者の上から目線」
奢莪「まぁまぁ、とりあえず座りな」
佐藤「はいはい」
奢莪「さて」
「「いただきます」」
奢莪「ほら、佐藤。チーズカツカレーだぞ……あーん」
佐藤「口であーんと言いながら、もくもくと自分の口にスプーンを運ぶな!!」
奢莪「ほーら柔らかい肉からとろーりチーズが溶けだして、カレーと一体感を…」
佐藤「嬉々としてグルメリポートを始めるな!!」
奢莪「味の宝石箱や!!……違うな、ジェットコースター、いや満員電車……」ブツブツ
佐藤「悩むな!!あの人もそんなに深く考えてないから、たぶん」
奢莪「箸を動かすたびに、つゆの香りが鼻をくすぐる。容器を伝って熱が手に広がって、ほのかに温かい。麺が夜の街灯に照らされて、白く輝き…」
佐藤「飽きたからって、僕のどん兵衛の解説に移るな!!」
奢莪「あはは……ところでさ、今日スーパーにいた二人組、憶えてる?」
佐藤「二人組?ああ、あのすごく強そうな人と小さい人か?」
奢莪「そう、その二人。今日この町に来たばかりで、何も知らないみたいだから色々教えたんだ」
佐藤「なんか変わった人達だったよな」
奢莪「うん。ただ半額弁当の美味しさを語ったら、強そうな人がこう言ったんだよね」
佐藤「……?」
奢莪「食べてみたい、って」
佐藤「……そっか」
奢莪「これ、どう思う?」
佐藤「その人は明日も来るって?」
奢莪「そう言ってたけど」
佐藤「たぶん明日もその人は半額弁当を捕れない、と思う」
奢莪「やっぱり?」
佐藤「あの強そうな人と喧嘩したら、狼が束になってもたぶん敵わない。きっとあの人はそれぐらい強い、けど」
佐藤「でもこれは喧嘩じゃなくて半額弁当を巡る戦いだ。狼じゃない奴に、僕たちは負けない」
ここまで。
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